Cinderella Gilrs Fighter【モバマス】 (37)

※注意

 このお話は、登場するキャラクターがアイドルマスターシンデレラガールズに登場する人物をモチーフに、
見た目は同じですが、名前や性格や職業が元人物が分かる程度にですが若干改変されています。

 コンセプトは『格闘ゲームのストーリーモード』、
全員がなんらかの戦闘能力を有しており、会話と会話の間に戦闘が入っている、
つまり物語は戦闘前会話、勝利後会話のような構成です。

 私事で進行している『モバマスがファンタジーの格ゲーになったら』という妄想と連動しています。
システムだったりコマンド表だったり技の説明だったり、いろいろと設定厨なことをしていますが
この本編には関係ないので、多少お遊び程度におまけで書く程度に留めます。

 アイドルしていないので、そういったコンセプトの二次創作が好みではない、
作者の妄想についていけないという方は申し訳ありませんがご期待に添えるお話を提供できない可能性があります、
その場合はお目汚しになる前にブラウザバックを推奨です。

 ファンタジー、剣と魔法が普通に存在する世界です、抗争も起きます。
具体的な生々しい表現こそ避けますがお亡くなりになる場合もあります。
ただし一度退場すれば二度と出てこないわけではなく、全てはひとつの世界のIFの話です。

 定期的な更新は不可能ですが、長期休載にはならないように努力します、
話の過程で質問や要望にも出来る限り答えていけたらいいと思っています。

 初めての投稿で色々とご指摘や不備があると思いますが、その都度アドバイスも頂けたら幸いです。
ではストーリーを追っていきましょう。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405102041

 険しい山々に囲まれた、外部から孤立している大きな地域があった。
いや、地域というよりも隔離されたひとつの世界といっても差し支えがないほどの大きさ、
さまざまな種族や国、文化や技術が入り乱れた空間ではありとあらゆる意志が生まれ、
それぞれが自身や仲間と共に信念を貫くための行動を起こす。

 全ての意志が、望んだ結果を得られるとは限らない。
実力が足りない、器が足りない、技術が足りない、目標が遠すぎる――――
要因は様々だがとにかく、終着点を迎えられない願いを持つ人物が居た。

 そんな“彼女達”が聞きつけた噂、
『願いが叶う財宝“シンデレラ”』、それを得た者は願いが叶えられる。
自身のため、仲間のため、世界のため――――
それぞれの目的に向かって、彼女達がシンデレラ目指して冒険し、戦い、
ひとつの終着点を迎えた“結果”を追う話。

 全ての出来事は、追う中心人物が『シンデレラの存在を知った』世界線の話。
同時に複数の場所で行われる戦いではない、そのため到達する場所も結果もそれぞれで異なる。
もちろんその時の中心人物が『“シンデレラ”の存在を知る世界線』が
誰かのストーリーの延長線上である可能性も否定できない。

 一人の終着点は一つではない、可能性は無数に存在する。
だが、全ての終着点が大団円というわけにもいかない――――

ストーリーNo.001-A
[笑顔の伝道師]ウヅキ=シマムラ

OP ~ 戦火が迫る村 ~

※全体の説明も兼ねているので、最初の数人はオープニングが長めです。


 隔離された地域は、さらに大きく三つに分かれている。
そのうちの一つ、ここ『旧都区』では名前の通り古き良き中世の技術を用いた街並みが広がる。
『未来区』ほど科学や機械技術の発展は行われておらず『発祥区』ほど密林に囲まれた大自然でもない、
それゆえに人が住むには穏やかで好都合、確認できている人口は三つの区の中で最も多い。

 ただ、人が集まれば争いが起きる、それは回避できない。
権力者や実力者がこの平和な土地を我が物にしようと暴れ回り、ただでさえ分割されているこの地が
統治する人物によってさらに細かく、繋がりを失っていった。
無論、平和を維持する地域も残っているが好戦的な地域は積極的に領地を広げるために侵攻する、
そうして、最も巨大な二大勢力のうち片方の国が、彼女達の住む村のすぐ近くまで戦火を広げていた……



「このまま問題を放っておいたら、ここもそのうち……」


 日に日に迫る争いの音、木々に囲まれたこの村も決して安全ではない。
黙っていることができずに村の入口に立つ、まだ大人にもなっていない少女が一人。


「私だって、それなりに戦えるんです……!」


 百戦錬磨ほどの実力はない、それどころか友人の二人にも敵うかどうか、
でも、自信がないわけじゃない、守りたいもののためには戦える、怖くない。
……覚悟はあっても、どうすればいいか分からないから、こうして村の入口を守っているわけだが。


「ウヅキ、やっぱりここに居たんだ」

「あ、リンちゃんおはよう」


 村から現れたのは先程一瞬話題に上がった友人のうちの一人、名前はリン=シブヤ。
ウヅキが認める村の実力者で、蒼い軌跡を残す蹴りの一撃は……と、説明は省く、
とにかく彼女がここへ来た理由、ウヅキに伝言を告げる。


「村長が呼んでる……私も、ミオも、三人とも」

「えっ?」

「おはよー! ねーねー、なんで呼ばれたか知ってる?」

「私も知らない、怒られるような事はしてないはずだけど」


 先に集合場所に居たのは先に上がった二人のうちのもう一人、ミオ=ホンダ。
三人ともここへ呼ばれた理由はわからない、とにかく三人を呼んだ人物を待つだけ。
少し雑談を経て、新たな人物が訪れた。


「……三人とも居るわね。少し、大事な話があるの」





・・

・・・



「お宝探し?」

「……こんな時にそんな事、余程大事な用件なのかな」


 まさに戦火に晒されようとする村、力ある大人たちは既に警戒のため外に駆り出されている、
そんな状況下でこの三人に話された内容は、この状況に似つかわしくない話題だった。
が、一攫千金を夢見るようなロマン溢れるお宝探しではない、
捜索する理由は、もっと現実的で、危機感に溢れた、打開策のない現在に訪れた小さな希望。


「願いを……」

「叶える……?」

「お宝……?」


 三人は、共に顔を見合わせた。

 確かに、たかが辺境の小さな村が国単位の大戦争を止められる実力を持っているわけがない、
だからといってそんなわけのわからない、願いを叶える財宝を探して戦火を止めるなんて。
しかし否定するにも、何か他にいい案があるかと言われたら押し黙るしかない。


「うん、理由は……わかった、神頼みするより希望を追いかけた方が楽しいし……!」


 いつでも前向きで明るいミオには、この暗い雰囲気でも同じように明るく振舞ってくれる、
その一挙一動に場は和み、夢物語も現実味を帯びてくる、きっと出来る、叶うと。


「私達に声をかけた理由も、村の人はここの防衛で手一杯だからってこと?」


 確かに、今自由に動けてそれなりの実力がある人物といえば彼女ら三人が該当する、
ウヅキも同意し、三人いればどんな困難でも乗り越えられると確信している。
だから、次の言葉に耳を疑った。





 願いを叶える教典“シンデレラ”
どこに存在するのか、どのような見た目なのか、捜査に必要な情報はとことん欠けている。
一方で、初っ端から三人の出鼻を挫く情報だけは明確に揃ってしまっていた。


「シンデレラを手にするのは一人だけ……」

「経典に至る道にたった一人になった時、自ずとたどり着ける……ね」


 村の存続に関わる大仕事に取り掛かれるのはたった一人、
もちろん戦力の三人のうち二人が村に残れば防衛も強化されるだろう、しかし一人だけ、
村の運命を背負って動ける人物は、一人だけ。


「……三人でここに呼ばれた理由は?」

「一人だけ呼ぶわけにもいかなかったから、かな……私が、例えばしぶりんが一人で言っちゃったって聞いたら
 そんな条件があると聞く前に追いかけちゃうだろうし」


 ウヅキも同様、一人で運命を背負った友の話を聞けば問答無用で村を飛び出すだろう。
意見を纏めさせる、話し合いの場を作ったのは賢明で妥当だ、
唯一問題があるとすれば、三人とも譲る気も譲られる気もない、ということ。


「ところで、探す人物が一人になったら見つかるって言ったけど……同じように探してる人ってどうやったら見つかるの?」

「だったら実際に相手が見つかった時にも、どうやって相手にお宝探しを諦めさせればいいの?」


 二人のもっともな疑問は、数少ない情報の中に解決策があった。
目的がなんであれ、到達点がなんであれ、財宝を求める者達に訪れる衝突は、戦いに結びつく。


「シンデレラは、より優れた者に渡るように、追う者同士の抗争に破れた者は永久にたどり着けない……?」

「つまり戦って勝てばいいの?」

「そうなるけど……じゃあつまり――――」

 屋外、あれから数時間経ったが解決策は見つからない、いや、見つけてはいるものの行動に移せない。
早く行動した方がいいに決まっている、戦火の手は待ってくれないのだから。


「……朝もこうやって挨拶したかな」

「リンちゃん……どう思う?」

「どう思う、って、答えは一つだよ」

「私も、しぶりんもしまむーも、村を救いたい気持ちは同じ!」


 覚悟は等しく、その点で優劣は無かった。そして集った三人、そろそろ結論を出さなければ。
運命を背負う覚悟はある、なら、より可能性の高い人物が行くべき、
そして選ばれなかった者は、選ばれた人物の帰りを信じて待つ。


「三人だと、順番になっちゃうかな?」

「じゃあジャンケンで決めよう、負けても勝っても恨みっこなし」

「それがいいね! じゃあ、お宝探しに出るための、一番強い人を決めるジャンケン!」

「戦う順番のことだよね?」



BATTLE-1 ~ 旅立ち・前編 ~



「私の勝ち、じゃあ最初は二人からかな」


 一人勝ちしたリンがその場から少し離れる、広場に残されたのはウヅキとミオの二人。
シンデレラにたどり着けるのは一人、探しに向かうのは最も頼れる人物でなければならない、
だからこそ、戦いは当然の選択だ。


「手の内バレてるからねー……そう簡単に勝てないかもしれないね」

「それはお互い様、私だってミオちゃんもよく知ってる戦い方しかできないんだから」


 三人とも、武器らしい武器は持たない。
リンとミオは身体能力に自信があり、それを活かした戦法を取る、
例えば目の前のミオは家系に伝わる“力を増幅させる”リングを複数装着し、渾身の一撃をもって戦う。
以前ウヅキが試しにひとつ身につけたところ、翌日は全身筋肉痛で動けなかった、
体への負担は大きい、それをいとも容易く操るのが彼女、ミオ。


 ウヅキはそんなこんなでミオのような体力に自信のあるタイプではない。
代わりに優れた魔力適性をもって、知的に――少し疑問符がつくがそうやって――戦うタイプなのだ。


「そうだねー、だから……こっちが先にペース掴ませてもらうよっ!」

「私だって、みんなを守りたい!」



VS [ポジティブスター] ミオ=ホンダ


- WIN -
※戦闘描写は同じ事のや効果音が繰り広げられるだけの単調なものになると予想し、
勝負があって中心人物、今回の場合は島村さんが勝ったルートと思ってください。



「だーっ、負けたー!」

「か、勝った……!」


 激戦を制して立っていたのはウヅキ。まいったと地面に背を預けて、ミオは落としたリングの回収を行っている。
これでウヅキは村の運命を背負って旅立つ資格に一歩近づいた、そう、一歩だけ。
もう一歩踏み出す前に、あと一人だけ残っている。

 最初ということで、とても短くオープニングと一戦目だけ提示させていただきます。
この調子で、更新速度や一回の更新量は多少変動しますが継続できたらなと思っています。

 筆者の妄想世界観と設定にお付き合いしていただける方がいらっしゃれば励みに、
楽しんで読めたという方には感謝を申し上げます。

BATTLE-2 ~ 旅立ち・後編 ~



「連戦だと疲れてるだろうし、ちょっと時間を置いて、最後の一戦をしよう」

「いや、大丈夫、私はいけるから!」


 リンの提案は却下、もちろんこのまま戦うのは体力的にも大幅に不利とは分かっている。
が、ちゃんとした理由があって、リンの提案を却下している。


「外で戦う時、相手は待ってくれないからね……それに、今は少しでも時間が惜しいの!」

「……理屈はわかるけど、いいの?」


 こくりと頷く。その返答を見て、リンは戦闘態勢に入る。
彼女の脚には装飾が施されたブーツ、散りばめられた青い……いや、蒼い宝玉が光りだす。
何度も見ているからウヅキには分かる、彼女の戦闘スタイル、
脚力を増幅させるそのブーツこそが彼女の武器、華麗な動きで相手を攪乱して、
気がつけば重い一撃を叩き込まれる――――もちろん今までは戦いでも遊び、訓練だから、
本気で戦ったことなど一度もない。


「今日は、遊びじゃないからね」

「うん、わかってるよ……!」


 今日が初めての、負けられない一戦。
枯れた木の葉が二人の間を横切った瞬間、蒼い残像がウヅキに迫る。



VS [蒼の双脚] リン=シブヤ


- WIN -



「ぐっ……!」

「あ、だ、大丈夫!?」

「うん、怪我はかすり傷だから大丈夫。……強いて言うなら、有利だったはずなのに負けてショックかな」


 ウヅキは二人を退けた、これで役目は決まった。
まだ姿形もわからぬ希望に向かって、一人で旅立つ。
敗れた二人は希望の帰りを待ち、村を守る。


「絶対、絶対に……私が村を救いますから!」

BATTLE-3 ~ 口は災いの元 ~



 意気揚々と、とは言えぬ。現状、独り寂しく手がかりなしで村を飛び出たウヅキは早速迷っていた。
道にではなく道筋が、目的地到達への道しるべがなさすぎる。


「まさか当てもなく歩いていて、見つかった宝箱に入ってるなんてわけないし……」


 まずは情報、その為にどこへ向かえばいいか?
思い立ったのは区を変えること、すなわち現在地である旧都区を離れて未来区へ足を進めていた、
その手の情報を調べるには情報が集まる場所へ向かえばいい、決定から行動は早かった。


 ようやくたどり着いた頃には陽が天高く、頂点を示していた。
勘違いしてはいけない、決闘した朝から数時間での到着ではない、日付が変わって一日経過の正午だ。


「つ、疲れた……」


 泣き言を言っていられない、時間は有限、目指すは歴史から技術まで、ありとあらゆる資料が集った
未来区の名所のひとつ、巨大図書館、ここならオカルトの類でひたすら本を漁れば
なにか手がかりが見つかるかも知れない、との予想。


「場所は……こっちであってるのかな?」


 慣れない町は地理が怪しい、存在は知っていても場所は知らない、まるで本来探している財宝のように。
地図も持たずに自力で発見は困難と考え、道行く人に声を掛ける。


「あの、すいません、未来区の図書館はどうやって行けばいいかわかります?」

「んー? もしかしておのぼりさん? いやー、アタシもここの人じゃないからわかんないかなー」


 どうやら話しかけた人物も、この地区に詳しくはなかったらしい、そうですかと礼を言ってその場を離れようとするが
その人物はまぁ待ってとウヅキを呼び止める。


「よかったら一緒にどう? アタシも一人だと寂しいからさ、少しの間だけでも!」

 一人は寂しい、その言葉に共感したウヅキは一時でも孤独から逃れるために、彼女と同行した。
まずはそれなりの施設を見つけ、そこにいるであろう地区在住の人に道を聞く、
何度か試すと該当者に遭遇し、場所が判明した。
ただ、かなり距離が離れているらしく“トレイン”という乗り物で移動を勧められた、
そして乗り物に乗車するための施設へ向かい、そこで小さなトラブルを経て現在、車内である。


「すいません! 私、急いで出てきちゃったものでお金が……!」

「いいよいいよ、アタシもたまたまお仕事で手に入ったお金の使い道なんて無いし」


 しばらく続いたウヅキの謝罪が収まり、のんびりと揺られる二人。
互いに落ち着いたところで自己紹介を行う。


「リナさんは鍛冶師、なんですか?」

「そーそー、趣味だけどね。やりたいように旅する自由な職人だよー。で、ウヅキは何のために町に?」


 まだ一日の冒険譚だが、苦労は伝わる。
この旅の理由、そして目的、その為に訪れたい場所、そこが今から向かう図書館。


「なんだか大変な旅だねー、アタシより重みがあるね」

「そんなことないですよ、立派なお仕事じゃないですか」

「私も願いが叶うなら、もっと大きな夢に向かって歩くかなー、例えば……あれ、思いつかないや。
 でも、そんなものがあるならアタシも探してみようかな、面白そうだし」


 きっと見つけられます、リナさんみたいな立派な人なら。
そう言おうとして、自分の発言に違和感を覚えた。
今なんて言おうとした?


「…………あっ」

「どしたの?」


 出発前の、ミオとリン相手に戦った理由は何か?
一人じゃないと、シンデレラにはたどり着けない、だが目の前の人物、リナにウヅキはそれを話した。
つまり、存在を知ってしまった、シンデレラを追う資格があるものになってしまった。


「大丈夫? 酔った? あ、目的地到着したみたいだから降りよ、ほらほら」


 どうやって、話を切り出そう?
突然、今の話はなかったことにしてください、お宝は追わないでくださいなんて通じないだろう。
では次に切ることの出来る、ウヅキの持っている選択肢のカードはたったひとつ。
正直に話す、だ。

VS [創造の冒険者] リナ


- WIN -



「ごめんなさい、本当に……!」

「いや、アタシ死んだみたいじゃん、深く聞かないけどよっぽどなんだねーその話」


 あの後、ウヅキは全て話した。突然も突然、そんな話の切り出し方をされるとリナも対処がわからない、
が、なにか深い訳と理由、制約があるのだろうと追求はしなかった。


「マジックアイテムなんか作る時は、普通じゃ想像できないような変な制約もあるからねー、
 きっとその類のふかーいワケがあるんだろうってことにしておくからヨロシクね」


 ウヅキの失敗は、一人で探すという意味を履き違えてうかつに口を滑らせたこと。
ウヅキの幸運は、その失敗に対して、驚くべき寛容さを持つ人物相手に口を滑らせていたこと。
最初に話しかけたのが彼女ではなかった場合、噂は瞬く間に広がり、希望はあっというまに潰えただろう。


「となると、今はこれ以上アタシが同行すると邪魔?」

「う、そんな事は……いや、えーと……」

「気にしないで気にしないで、問題ナッシングだから、お話楽しかったし?」


 巨大なハンマーを拾って、原理は不明だが明らかに容量が足りないカバンに収納する。
ウヅキの幸い中の小さな不幸は、リナが武闘派だったことも含まれるだろうか?


「じゃ、また会う日までバイバーイ! 旅が終わったらまた話聞かせて欲しいかなー」


 寛容な鍛冶師はウヅキの失敗を全て抱えてその場を去った、
これで彼女は再び一人となる。

BATTLE-4 ~ 衝突 ~



「この近くに調べものするところ、ある?」


 今度は問われる形、図書館へ向かうウヅキに一人の少女が声をかけた。
ウヅキのいた地域でも、この未来区にも馴染まない独特な装いは恐らく発祥区のもの。
さまざまな種族や部族が活動を行っているため文化の違いはよくあること、
とにかくこの少女も向かうべきところは同じだろうと判断して


「私も目的は同じだよ、あっちに図書館があるから行ってみようか?」


 もうこちらから多くは語るまい、そう心に決めて当たり障りのない雑談だけを行う、
ここに来た理由を問われたら、専門的な知識を仕入れるためなど適当にごまかせばいい。


「私はウヅキ、ただの旅人だよ」

「ウチはミレイ、えーっと……経緯は話せないけど、なんだかんだでここにいるんだよ」

 さすがに広い、ここなら目的のものも見つかるだろう。
図書館は入場にお金はかからなかった、その代わりに本を失くしたり汚したり、
とにかく被害を与えた場合の責任は重い。


「じゃ、ウチは調べることがあるから!」

「うん、お話楽しかったよ」


 やはり予想は当たっていた、発祥区出身のいわゆる特殊な部族、
少し気になる点といえばこんな図書館に用事がある人はその地方出身の人には少ないはず。
きっと、特別な事情があったんだろうな、私みたいに――と結論付けた。


「えーっと……あれ?」


 目的の情報がある可能性が高い棚を探し回って、ようやく見つけたエリアには先客が居た。
つい数分前に別れたミレイの姿だ、思わず些細な好奇心から棚の陰に隠れて様子を見る、
いったい何を探してこの場所に来たのか。


「これじゃない、これでもない」


 罰則など知ったことかという勢いで乱暴に本棚から目的ではないらしい本を引き抜く、
そして半分ほどの空の棚が出来上がった頃、ようやく一つの本を手に取った。
机に向かうでもなく、積まれたその他大勢の本を台にその場でページを開くが、
真っ先に口から出た彼女の一言目はなんとも気の抜けた調子で


「…………読めない」


 思わず芸人のようなリアクションでウヅキは倒れこんだ。
もちろん見つかった。

「あれ、さっきの」

「早い再会だったね……ここで何を調べてるの?」

「ちょっと言えない、かなぁ。ウヅキこそ何を調べてるの?」

「えっと、私も言えない……ね」


 じゃあおあいこだねと、ミレイは読めなかったがその本を持ったまま立ち去ろうとする、
普通ならそのままその姿を見送ったが、万が一目的のものがその本に書いてあるならば。


「ちょっと待って! その本、もしかしたら私が調べてる内容が分かるかもしれないの。
 借りていく前に、ちょっとだけ読ませてもらってもいい? 読めないなら私が読むし――」

「ダメだ! これはウチが一人で読むから大丈夫だ!」


 強い拒否、両手で本を抱えて是が非でも離さないといった様子、
ここまで拒絶されてはウヅキも仕方なく諦めようとするが


「見られちゃまずいもの……?」

「そうだ! 私は一人で調べなきゃダメなんだ! じゃないと、お宝は見つからないって聞いたぞ!」

「…………お宝、シンデレラ?」


 どうしてその名前を? ミレイが言葉を紡ぐ前に、頭が理解したらしい。
とにかく、ミレイはこの本で何か手がかりを見つけた――と思われる――からこそ手に取った、
持ち去られてしまうと、ウヅキは困る。


「……渡さない、渡さないからなッ!」



VS [飛び出せ特攻隊] ミレイ

- WIN -



 さすがに館内では暴れない、本をいったん返して屋外へ。
人通りの少ない路地で真剣勝負、どのみち倒さねばシンデレラには届かない、互いに存在を知っているからだ。
特徴的な装束をも武器に戦う彼女に翻弄されながらもウヅキは最後まで立っていた。


「はぁ……はぁ……」

「く、くそー……こんな……ウチは約束したのに……っ!」


 悪意ある者ではない、彼女もまた誰かとの約束のために願いを欲した人物。
だが、ウヅキがそれを絶ってしまった。もちろん、ウヅキも叶えるべき願いがある、負けられなかったが――


「ごめん、なさい……」


 目の前のボロボロの小さな戦士を励ますだけの言葉は思いつかず、
競争に負けた敗者として見捨てるには、彼女は優しすぎた。

BATTLE-5 ~ 目撃 ~



 ミレイの願いを叶えるための動機は、ウヅキと驚くほど酷似していた。
戦火とはまた別の理由により崩壊が迫る集落、それを止めるため。


「…………」


 明るさが取り柄の彼女にも、これには表情が曇る。
あれからミレイと別れたものの、気分を変えるには至らない。
優しいがゆえに、住んでいた環境が良かっただけに、他人と争ったことがなかったのだ。
だからこそ、人の無念を背負った経験がない。


「……あれっ!?」


 再び訪れた図書館、まだ片づけられていない散らかった本棚に唯一直した一冊の本、
ミレイがみつけたそれを今度こそ読もうとした刹那、その本が無くなっていることに気付く。


「あれが唯一の手がかりなのに、いったい誰が……!」


 本を置いてからそれなりに時間が経っている、しかし内容が内容だけに、
しかもこれほど散らかった棚から、普通の人がわざわざ本を調べて持っていくだろうか?
都合が良すぎる。つまりミレイと同じくシンデレラを追う者である可能性が高い。


「探さなきゃ……!」

 緊急時には頭が働くものだとウヅキは自画自賛した。
本の貸し出し履歴を調べ、借りた人物が誰か調べた――実際は匿名で登録されるため調べるのは不可能だが――、
すると履歴には一切動きがない、つまり盗まれていない限りは館内に本を持った人物がいるということ。

 そうと分かれば館内を走り回る、途中で従業員に怒られたことは割愛しよう。
特徴的な表紙は記憶に新しい、数分の大捜索により一人の人物がそれを手にしているのを発見した。


「あのっ! その本!」

「うわっと!? な、何かなぁ急に……」


 他にも抱えた本の中に紛れ込んでいた一冊、まぎれもなくミレイが先に見つけていた本だった。
その中身をいち早く確認するために、本を譲り受けなければならない。


「ちょっと席を外していた時に、読んでいる途中だったんです! 読んだらお返ししますので……」

「読みたいってこと?」


 とにかく、手に入ればそれでいい、この人には迷惑かもしれないが
ウヅキは内容を確認した後、決定的な記述があれば本を処分するつもりだ、
これ以上同じ情報から争いを生みたくない一心で。


「じゃあ……いいよ、持って行って」

「あ、ありがとうございます! すぐに返しますから――」

「いいよ返さなくて。もう読んだから、シンデレラの事は」

「……えっ?」


 またしても空気が凍る、会話を聞いているのは他にいないのが幸いか。
目の前の人物は、既に情報を得ていた。

「いやー、さっきの獣族の子との会話を裏で聞いてて、興味があったから調べさせてもらったよ。
 なかなか面白いお宝探ししてるそうじゃん?」

「……渡しませんよ?」

「私もだよ、こんな面白いもの、見つけて帰ったら褒めてくれるだろうなー……あ、これ借りていきます」


 またしても屋外、数分前にミレイと激闘を繰り広げた空間に戻ってきた、
今度は本も一緒に持ってきたため失う心配はない、この後に処分される可能性はあるが。


「お宝は盗賊が攫うって相場があるじゃん、だからこっそり盗もうと思ってたんだけど……」

「このお宝は存在が知れているだけで、もう手に入らなくなるんです」

「その通り、だからわざわざ一旦は盗んだ本を、君かさっきの子が取りに戻ってくるのを待ってた」


 本を置いて、代わりに懐から取り出されたのは鋭利な刃物、明らかな敵意。
両手に合計八本もの数の武器を構えて、正面に向き合う。


「お宝は借りていくよ、私が」



VS [ロックで騒がしい盗賊] リイナ

- WIN -



「ふぎゃっ!?」

「横から奪うなんて、許しません!」


 数多の武器を全て退けられた、盗賊を名乗る彼女、リイナは壁に衝突した衝撃で気絶していた。
ウヅキはミレイの時とは異なり特に気にかける様子は無く、放置されていた本を手にとってその場を去った。


「……これからは、奪いに来る人にも気をつけなきゃ」

BATTLE-6 ~ 釣り針 ~



「……古文書?」


 よくよく考えれば、この本がシンデレラについて書かれているかどうかの確証は無い、
ただミレイが持ち去ろうとしていただけ。そうして手に入れた本は、見たことのない文字で埋め尽くされていた。


「さすがに写真しか読み取れないね……でも、ミレイちゃんはこの本を持っていこうとしてたし」


 ミレイにも文字は解読できていないはず、だが何かがあったからこそ持ち出そうとしたはず。
さらにお宝の情報をたった今仕入れたリイナすら、この本を読んだだけでシンデレラという名称を知っていた。


「写真に何か情報が……?」


 ページを読み進める、すると風景画や人物の写真に加えて一枚だけ、一冊の本が映された画像があった。
その被写体にはウヅキにも解読できる共通語で、表紙にこう書かれていた。


「シンデレラ……!」


 大きな情報。画像に映された本こそが、ウヅキの求めるシンデレラそのもの。
そして確信する、この本にはシンデレラについての記述がもっと深く書かれているはず、なら次に起こす行動は一つ。


「文字を解読……翻訳」


 ウヅキにそのような専門知識は存在しない、しかしこれでも魔術の心得はある。
文字の法則さえ掴むことができれば解読呪文を生み出すことは理論上可能だ。
その為に必要な知識、言語の正体を探るために再び図書館を巡る。





・・

・・・



「たぶん、この文字で合ってる……形も一緒」


 数時間の懸命な作業により、数百年前のとある文明が用いた言語である事を突き止めたウヅキ、
既に知られた言葉ならば術式は一から考えずに済む、そうして出来上がった解読呪文を本に施す。


「……あれ?」


 本来ならば翻訳の結果が脳内に浮かび上がり、書かれた言葉を理解することができるのだが反応が返ってこない、
いつまでたっても目の前の言葉はウヅキには理解できないままだった。
呪文を間違えたか、言語がそもそも違うのか、いろいろと可能性を考えたが答えは出ず。
思いついた解決策を何度も試してみるが全てうまくいかず、数時間が経過してしまった。

「どういうこと……? この本自体に特殊な力があるのかな」


 ほんの気まぐれで試した別の魔法、それは本に“既に何らかの処置が施されている”かを調べるための術式。
一般人の誰もが手に取ることが出来る本にわざわざ罠を仕掛けることはない、
ここの職員もその手の悪戯防止のために精を出しているはず、だからこそ反応はないはずだったが


「えっ……術式、察知?」


 一件の反応、それは察知。要約すると“媒体に術式が施されたことを知る”ための罠。
直接の危害は無いため職員は探知できなかったのだろうか、などと思案する間に、適当な別の本にも調査を行う。


「こっちの本にも、あの本にも反応なし……この本だけどうして?」


 疑問は他にもある。察知の術式が施されていることは分かったが翻訳を受け付けない理由は何か?
検索魔法に引っかからないほど高度な術式により妨害されているのだろうか?
では、なぜ察知の術式は簡素な検索魔法にも引っかかる単純なもので行われているのか?


「掛けた人が違う?」


 では、翻訳が掛からないと知った本に、恐らく翻訳が後に施されるだろうと予想して、
あらかじめ察知の術式を組んでおいた理由は?


「…………っ!?」


 最初に術式を施してからかなりの時間が経過した、それでもギリギリ気づき、間に合った。
この本に察知の術式を施す理由、それは同じくシンデレラを探す者に違いない。
翻訳妨害の術式を誰かに解かせれば、自身も解読することが可能であると踏んで。

 ウヅキはとっさに身を躱した、無音で飛んできた弾丸を間一髪避ける。
本を端に追いやり、臨戦態勢に入る。弾丸が飛来した軌道の根幹には一人の女性が居た。


「なんだ、解読は出来ていないのね……残念」

「あなたもシンデレラを狙う一人ですか……?」

「そうじゃなきゃ苦手な魔法の罠なんて仕掛けないわ」


 手にしている武器は拳銃、しかし護身用とも言えるサイズの小さなもので決して火力の高い武器ではない。
彼女もそれを主に戦うわけではないらしく、互いに睨み合っている最中にも関わらず銃は懐に収めた。


「何の願いを叶える目的かは知らないけど、私の方が遥かに重要な事項なの。手を引くなら痛い目はしなくて済む」

「私だって、大切なお願いがあるんです!」

「そう、なら……」


 漆黒のライダースーツにゴーグル、日が傾いたこの裏路地の闇に溶け込む彼女はその身一つでウヅキに対峙した。
そしてウヅキが一歩踏み出すと同時に、大きく飛び跳ねて飛来した衝撃波を躱す。


「……今の魔法は身体強化の応用、なかなか珍しいものを使うのね? 見たところ肉体派じゃないにも関わらず
 私に近づこうとした辺り、接近戦を得意としているか、何かの影響を受けてその戦法を使っている。どう?」


 たった一つの挙動でウヅキは手の内を読まれた、驚くべき観察眼とその頭脳。
小さく笑みを浮かべたその女性はゆっくりとウヅキに接近する。


「どこからでも、私は全て読み切ってみせる」



VS [クラッキングスパイ] マキノ=ヤガミ

- WIN -



「想定外……だと言うの?」


 倒れる直前に漏らした言葉が全てを物語った。
実力の不足か、ウヅキの強さか、準備不足か、作戦ミスか?
案外、願いを叶えるという大仕事における重要な情報源を見つけていたにもかかわらず
解読を人任せにしようとしていた段階から既に間違っていたのかもしれない。


「わからない情報は、さっさと処分しておくべきですよ……ところで、この人はどこの誰なんだろう」


 魔術の心得がなさそうで、魔力が反応しない武器を用いるあたり未来区の出身であると予想したのだが、
それ以外の荷物や装束はこの地域に似つかわしくない、どちらかというとウヅキの住む旧都区のものだ。


「ちょっと、漁ってみようかな」


 マキノの荷物、わざわざ対立するやもしれない相手のところにも持ってきているあたり、
目を離すことができない重要な何かを隠している可能性がある、そう考えて物色を開始する。


「ファイル……何かシンデレラに関してメモがあったりしないかな…………えっ?」


 目を疑った。ファイルに書かれていた内容から察すると、国同士の抗争における戦略図、それもかなり綿密な。
つまり彼女はどこかの国に所属する人物であり、戦の詳細を記録する役割を担っているようだ。
そして勝利を繰り返している、間違いなく力ある国であることが推察される。
そんな強力な国の戦果がまとめられたファイルの最後尾、つまり現在の抗争の記録、そこに書かれていた地方。


「村のすぐ近く……!」

BATTLE-7 ~ 常識外れ ~



「落ち着いて……ここで彼女をどうにかしても、戦火は止まらない」


 マキノが村を脅かす国の一員と分かったところでどうにもならない、
所詮観測員であり、実力もあったが人質になる器には見えない。
かといって何もせずに放置するのはシンデレラに関しても村の安全にしても益がない、
また新たな発見があるかもしれないと物色を続ける、が――――


「何をしているんですか!」

「誰――っぐぅ!?」


 瞬間、何かを感じる暇もなくウヅキの体が大きく吹き飛び、壁に衝突する。
痛みを堪えて声のする方へ目を向けると、そこには一人の女性が立っていた。


「もしや野盗ですか!? 倒れている人はあなたがやったんですか?」


 事実だが、ウヅキは正当防衛である。
しかしその後の調査のための物色と、現在の状況から見てそれは簡単に証明はできない。
第三者が見れば明らかにウヅキが悪者だろう、この人物もそう捉えた。


「やったのは私ですけど、これには理由が――」

「む、この人の鞄が荒らされてますね……何か盗んだのでは?」

「いえ……違います! 何も盗んでいません!」

「ふむ。……嘘ですね? 何かは分かりませんが、探しているものを見つけたら盗むつもりだったのでしょう?」


 どういうわけか結論を勝手に導き、話を進める。
とはいえまるで見当違いではない、半分以上当たっているのだ。
事実シンデレラの情報があれば奪って処分することも考えていた、まるで考えが読まれているかのごとく
次々とこちらの思考を言い当ててくる彼女は何者か。


「言葉に嘘が多いですね、それに……人を襲ったのは初めてではない? これは完全にクロです!」

「うっ!? また……!」


 十分に距離もとっている、さらに魔法や武器による攻撃にも最大限警戒しているにもかかわらず、
またしてもウヅキは仕組みが分からないまま体を引っ張られ、目の前に立ち塞がる女性の元へ吸い寄せられる。


「覚悟ぉー!!」

「お断りしますっ……!!」


 振るわれた一撃を強引に突破、ようやく謎の力を振り切り自力で立つ。
詠唱も行われずに、魔力の欠片も感じない目の前の女性は何者なのか?


「魔法ですか」

「そっちも仕組みは分かりませんが、同じ事ですよね?」

「いいえ、私のは魔法ではありません、生まれ持っての力なので!」


 バキバキと音を立てて地面の舗装が剥がれ、宙に浮いたかと思えばウヅキに向かって襲いかかる。
あまりにも乱暴で強力な、予備動作も何も見当たらない常識外れの力。


「野盗よ覚悟! このエスパーユッコが成敗してみせましょう!」



VS [無から生み出す超能力] ユウコ=ホリ

- WIN -



「いくらなんでもやりすぎでしょう!?」


 正体不明の力に正面から挑むのは分が悪すぎる、全速力でその場を去るウヅキだが
逃げても逃げても先々にユウコは先回りし、とんでもないパワーでウヅキを追い詰める。
ようやくひと段落ついたのはずいぶん逃げ回った結果辿り着いた、地区の境界すら超えた発祥区の一角だった。


「……あっ!?」


 無我夢中になると、それしか考えられなくなるというのは当然。
今回は状況も状況だったから仕方ないと言えば仕方がないが、ウヅキは大きなミスを犯した。


「本……どこかで失くしちゃった」

BATTLE-8 ~ 手がかり ~



「私って、本当に最悪」


 発祥区はいわゆる大自然、慣れない者が踏み込めば危険が多い。
例えば今のウヅキのように道が分からず迷子、これはまだマシな方で、
言葉が通じない、それでいて野蛮な部族に遭遇してしまうと生命の危機に陥るなんてことも。


「でも、よく考えたら未踏の地が多いこの地区こそ、隠されたお宝なんて可能性も……」


 一度理不尽なパニックに陥った反動か、驚くほどウヅキの頭は冷静だった。
冷静、というよりかは普段の性格が戻ったというか、とにかく絶望に打ちひしがれているなんてことはない。


「とにかく進んでみよう……あれ、こっちが急に明るく?」


 一方向から光が差し込む。木々に覆われた、空も満足に見えない大自然から光が覗き込んでいるということは、
その一帯が開けているということ。窮屈な木々を隙間を縫ってそちらに歩み寄ると


「わぁ……綺麗な湖」


 光が差し込んでいたのは小さな湖がそこにあったから、その空間は栄えすぎた森林も身を潜めて、
あくまで主役は澄んだ水鏡、美しく輝く光景に思わず感嘆の声を挙げる。


「ちょっとだけ、涼んで行こうかな。走りすぎて喉も乾いちゃったし」


 ゆっくりと近づき、湖に手を浸そうとしたその刹那、
ぐいと体が背後に引っ張られた。もしや……と思い、跳ねるように飛び起きてすかさず魔力を凝縮、
振り向くよりも早く手から放出するが――

「おっと」


 躱されるでもなく、あっさりと弾き飛ばされた。
簡単とはいえ不意に放った自信の一撃が軽くいなされ、困惑するがそれよりも驚いたのは
目の前の人物にまるで心当たりがないことだった。やや赤みがかった髪、ウヅキよりも遥かに高身長の女性。


「さっきの変な能力者じゃない……」

「変な能力? あたしは魔法使いじゃないよ、ただの隠居してるだけの一般人だ」


 手には長い棒……ではなく先に刃物が取り付けれられており、三つに分かれたいわゆる槍。
切っ先はこちらに向いているが害意はないように見える。


「湖に入ろうとした? それ、綺麗に見えるけどね、入ったら後悔するよ」

「それって、どういう――――」


 言われて水面をもう一度目を凝らして見てみると、何やら薄い膜が覆っているように感じる。
例えるならば、未来区で使われている衣服等を洗浄するために使用される洗剤を垂らしたような、
自然には見られない怪しい虹色の光を放っていた。


「なに……これは?」

「それだけじゃないよ、そこの湖の縁とかに散らばってるゴミみたいなもの、何かわかる?」

「落ち葉とかじゃないんですか――――ひっ!?」


 細い針金のような、一見すればただのゴミ、腐って枝のみが残った落ち葉でもない、
紛れもなく硬質の白い物体に紛れてちらほらと見つかる、わずかに面影が残った……


「まさか、人の……」

「いやいや、そんな見栄えの悪いものは放置されてないよ、あれは魚が溶けて打ち上げられた物なんだ」


 見れば、水面にも同じようなものが漂っていた。遠くからでは気付かなかったが、この湖は、危険だと直感した。
環境に適応している魚が骨だけになって死んでいる、これの意味するところは?
……その前に“人の”何かは、放置されていないとだけ言った彼女の発言も気になるが


「……最近は、こんな偏狭の地も狙おうって輩がいてね。おちおち寝てもいられないんだよって」

「まさか、ここにも戦火が……でも、ここはこんなに静かで平和に見えるじゃないですか」

「最低限、私が住んでるからここらへんはね、綺麗にするさ。でもちょっと歩けばすぐに傷跡がある、見るかい?」


 手にした槍で遥か彼方を示す、ただの盛り上がった土があるが……意図は読めた、
ウヅキはそれをやんわりと断り立ち上がる。


「け、結構です。えっと、その戦火のせいで湖が?」

「そうなんだよ、困ったもんだ。あたしにちょっかい出すのは構わないけど環境ごと壊すのはいただけないね」


 元は見た目通り綺麗な普通の湖だったのだろう、この地の侵略のためだけに姿を変えさせた、
触れる物を無残な姿に変える、死の湖へ。

「それで、一人でどうにかするのも疲れてきたから昔の馴染みの力を借りようと思っててね」

「お友達ですか?」


 ふと、数日前に短い別れを告げた二人の顔が思い浮かぶ。
再び会うためにも、なんとしてもお宝を持ち帰らなければ……!


「友達、といえばそうだし、戦友と言えばそうかな。今は何してんだかね、四人とも」

「一緒に住んでないんですか?」

「住んでる方が珍しいと思うけど。ここにはあたし一人しか居ないよ」

「一人……って、どういう事なんです? 他の人達は集落を捨てて逃げたんですか?」

「いや、そもそも集落なんてココにはないよ、あたしの住む小屋がほらそこに、一軒あるだけ」


 少し離れた位置に、小屋と呼ぶには豪華すぎる一軒家が構えられていた。
なるほど、ここに住んでいるというのは間違いではなさそうだが……


「でも、ここは戦火が広がってきたって……」

「その通りだけど? だから湖がこんな調子になって、満足に泳げやしない」

「確かにその通りですけど…………じゃあ……じゃあなんで、あなたはまたここに住む事が出来ているんですか?」


 自身の村と重ね合わせる、大人たちが束になっても時間を稼ぐ程度にしかならない侵略、
それをこの地に住む彼女は一人で守り切っているというのだ。


「あたしが強いから。……なーんて、冗談は置いといて」


 冗談、だろうか? 事実、ウヅキが放った一撃を手にした槍ひとつで弾き飛ばしたし、
それ以前に武器を持って近づいてきた彼女をウヅキは一瞬でも察知することができなかった、
気づいた時には湖から体を引かされた際の、ほぼ密着状態まで接近されていた。


「本当は、その知り合いのうち一人が作った……まぁ理屈とか仕組みはあたしはわかんないんだけど、
 世界単位でこれから起こり得る事象を書き換えるなんて壮大なアイテムを完成させてね」

「……は? え?」

「あたしの周囲でトラブルが起きないようにと書いたんだけど、争いが日常化してきたせいかな?
 最近は効果が薄くなってきたからもう一度ちゃんと書きにいかないと」


 続けた言葉の方が、よっぽど冗談じみていた。
これなら彼女が一騎当千の実力を持っていて、あらゆる賊を一人で片づけていると言われた方が信用できる。
呆気にとられているウヅキが、さらに驚愕したのは彼女が続いて言い放った言葉だった。


「久しぶりにシンデレラに会いに行きますかね…………ん?」


 ここ数日で聞きなれた単語、もちろん聞き逃すはずがない。
しかし一方で、目の前の彼女がウヅキのわずかな反応を見逃さなかった。

「……今ちょっと反応した?」

「な、なんの事ですか……?」

「確かに、こんな場所に賊以外が来る理由は無いし、それなら納得できる……うん」


 一人、思考を進めて結論が出たらしい。
一方でウヅキは状況が掴めない、飛び出した単語は本物か、偽物か。
ただの比喩で用いた語句なのかそれとも、実際に彼女は何か知っているのか……?


「たまには別の相手が欲しかったところと、あいつの手を煩わせるのもなんだか思うところがあるからね」

「だから、いったいなんの話――――」


 ピッ、と風が切れる音……例えでもなんでもない、事実そう聞こえた。
ウヅキの顔面スレスレを通り過ぎた矛先、まったく感じ取れなかった一撃、
殺す気だったなら、容易に首が飛んでいた。


「あたしはシンデレラの場所を知っている」

「……!?」

「知ってるかどうかわからないけど、その本は探している人物が複数人居るとたどり着けない」

「それは、知っています……」

「そっか。じゃあ、探している人同士は自然と巡り合うようになってるってのは?」

「……初耳です」


 ミレイやマキノと遭遇した理由も、これが原因なのかと頭を過る。
そして、この地に蛮族以外の人は滅多に訪れないといった彼女の元へ偶然にも辿り着いたウヅキ、
互いにシンデレラの存在を知り、今まさに必要としているなら、巡り合うのは妥当。


「知り合いの道具が悪用されると困る」

「私は悪用なんて……!」

「そりゃあたしも思ってないよ、今のあんたなら。でも今まで何回か見てきたんだよ、悲しい結末を」


 突き出した槍を構えなおす、その構えから確かな実力者だとウヅキは改めて実感する。
私は勝てるのだろうか? いや、どのみち逃げても、勝たなければ目的は果たせない。


「力不足な者が願いを叶えると、その後すべてのトラブルを願いに頼ってしまう……自分じゃ何もできなくなる。
 だから、最低限の実力がないとあたしは手にする資格はないと思ってるよ」

「……あなたは私の障害ですか?」

「そうなる」


 立ち塞がるならば、実力差は目に見えていても挑まなければならない。
ウヅキにも背負っているものがある、大勢の仲間が帰りを待っている。


「自己紹介が遅れたけど……あたしはカイ、武器はこの槍一つのしがないランサー」

「……ウヅキ=シマムラです。願いの目的は、戦火を止めて私の友と村を救うこと」

「ん、立派だ。でも、誘惑は強烈だからね、堕ちる可能性があるほど弱いなら、あたしがここで食い止める!」


 真っ直ぐ遠慮のない一撃がウヅキに向かって飛来する。
だが、今度は見える。最低限の回避から、今度こそ集中した一撃を、叩き込む!



VS [エンシェントランサー] カイ

- WIN -



「やるねぇ」


 優勢だった、そして確かな一撃を叩き込んで決着はついた。
だが、攻撃を加えたはずのウヅキは疲労困憊でなんとか立っている状態にもかかわらず、
ウヅキの全力をまとも――に見えただけかもしれないが――に受けたはずのカイは
涼しい顔で槍を立てている。


「こんなに強かったら大丈夫だ、落ち着いたらここから北へ向かって歩けばいい」

「はぁ……はぁ……どうして、私に場所を教えて、権利を譲って……」

「久しぶりに、あたしに敵対感情を持たない人を見つけたからね、嬉しかったんだと思うよ」

「思う、って…………でも、ありがとうございます、この先、ですか?」

「そうそう、嘘は言わない。ずっと真っ直ぐね」


 ついに辿り着く、紆余曲折あったが何だかんだでゴールが近いとなれば、
多少の疲労は推して、希望に向かってウヅキは進む。


「……はあぁーっ!」


 その姿が見えなくなってから、カイは地面に倒れこんだ、愛用の槍は地面に刺したまま手を離した。
そうしてウヅキには聞こえない程度の大声で。


「威厳を保つって大変だわー……あー、痛い痛い……」

BATTLE-9 ~ シンデレラの守神 ~



 北へ。普通なら密林で方向感覚など保てないが、魔法というのは便利なものである。
目の前に浮かべた指針が示す方角へ小走りで進むウヅキ。


「もうすぐ、きっともうすぐだから……!」


 嘘の情報を伝えた、ということはないはず。
もしも同じシンデレラを狙う相手なら、わざわざ面と向かって勝負する必要はない。
勝ちこそ拾ったが実力差は明らか、もしも全力でこちらを仕留めようとしていたなら……


「ううん、そうじゃないから私は生きてるし、そうじゃないからこれは本当の情報……!」


 ウヅキの心情とは真逆に、微かに見える空は淀み始める。
気づいた時には陽の光は雲に遮られ、代わりに降り注いだのは冷たい雨。


「ひゃあ、降ってきた……どこかにおっきな葉っぱとかないかな……あれ?」


 周囲を見渡せば、一方向が崖、といっても奈落が広がっているわけではなく垂直に伸びた壁、
つまり崖の底にウヅキがいる形になっていた。そして、その壁に見える横穴……
雨から逃れるには丁度いい空間を見つけたウヅキは足早に洞窟へと向かう。


「あんまり奥深くに行くと先に住んでる生き物か人かに迷惑をかけるかもしれないし、
 入口で雨が止むまで待っててもいいよね……いい、よ……ね……」


 言葉尻がどんどん小さくなっていたのは理由がある、目の前に。
ウヅキの数倍はある大きさの獣が雨に打たれて佇んでいた。
雨の音だけが響く空間、じりじりと獣は近づき、ウヅキは遠ざかる。
遠ざかるといっても、背後は洞窟内部だ。


「わああああああ!?」


 人と獣、相手にするには覚悟が変わる。実力が確かめやすく、対話ができる人の方がいくらかマシなのだ。
さらに旧都区では見たこともない大きさのそれを相手に正面から戦う勇気はなく、
絶対にこの大きさの獣が侵入できない洞窟が背後にあった、ということでウヅキは退却を選んだ。

「はぁ、はぁ……暗いけど、反対側に繋がってる可能性もあるから選択は正しいよね」


 落ち着いたとはいえ道を戻って戦おう、などは考えず、結局は洞窟に入ることになった。
途中、自身の姿すら満足に見えないほどの深みまで到達したが持ち前の魔術は洞窟を明るく照らす。


「こんな時、魔法って便利だけど未来区の人は使いこなせる人が少ないんだっけ。
 いや、そもそも適性がないから使えないんだったかな……」


 先刻、マキノが施した簡易も簡易、基礎の術式はウヅキにとっては朝飯前でも
出で立ちから未来区の出身と思われる彼女が仕掛けるには多大な労力が必要だったはず、
……化学は技術でも、魔法は才能なのだ。そして、その才能が宿る可能性は種族による。


「……明るい? 出口かな?」


 道の先からわずかに漏れる光、ようやく洞窟を抜けて外にたどり着いたかと思ったが、
以前壁は続き、しかし確かに明るい。手元の灯りを消しても空間が見渡せる、
そんな突然現れた部屋とも呼べない場所……何かがあった。


「……いや、そんなわけ。えぇ?」


 洞窟には似つかわしくない、一方でここが財宝の保管庫だとすればまるで違和感のない、
一段高く置かれた台座に見覚えのある物体、洞窟の行き止まりに置いてあったそれは紛れもなく――――


「はは……はははは……見つけた、本当にこんな場所に……まるでゲームみたい」

「ゲームと言えば、そうかもしれません」

「――――誰っ!?」


 姿は見えず、しかしはっきりと聞こえた声。
これまでも唐突に、なし崩しに戦闘を挑まれたことはあったが今回は違う、正真正銘誰の姿も見えない。
警戒は怠らず、ようやくたどり着いた希望を前に最後の戦いだろうか?
いや、宝を守る番人がいるとすれば、問答無用で排除されるはず。

「初めまして、私はアイリ。この祭壇の主の一人です」

「主……やっぱり番人? お宝にはボスがお決まりって事かな……」

「そうとも限らないですよ。あくまで私が主の一人というだけで、他にも守護は存在します」


 つまり、会う人物によって試練が与えられたり、あっさりとお宝を手にしたり?
そんな軽々しく決定される財宝にしては、効果が高すぎる。


「悪い人が経典を手にしたり、叶えるべきではない願いを持った人を排除するためにいるんじゃない……の?」

「あなたがそうなんですか?」

「い、いえ! 滅相もない、私はただ……村を救いたいだけなんです!」

「……立派な望みです。あなたならこの経典、悪用はしないでしょう」

「じゃあ……叶えてくれるんですか!?」

「ここにたどり着いたならば誰にでも資格はあります。……資格はありますが、許可はそれぞれです」


 怪しい単語、許可という言葉がアイリの口から飛び出す。
同時に、周囲の空間が歪曲する、ただの洞窟だった空間が、明るい祭壇に……!


「経典は貴方を認めた、ですが私達は独自の試練を与える、その希望を私から得て下さい!」

「最後の勝負……やっぱり、お宝の目の前にはこんな勝負がないと……!」


 純白の、いかにも神格化されていそうな豪華としかいいようがないドレスに身を包み、
宙から地上へ降り立った目の前の人物、アイリ。
手には目指す希望シンデレラ、彼女にウヅキを認めさせれば……村は救われる!


「絶対に、負けません!!」



VS [災被り姫] アイリ

- WIN -


 パシィン、という軽い音と共に、アイリの手から経典が剥がれ落ちる。


「……お見事です」

「アイリ……さんは、いったい何者なんですか?」

「それが願いですか?」

「へ? あ、いやいや! 違う、違うんです!!」

「ふふ、冗談です。……でも、皆さんよく勘違いされますが、願いは一つじゃなくても構いませんよ」

「え……あの、それって大丈夫なんですか?」

「何も問題ありませんよ、願いはいくつでも叶えたくなるのが心情です。それに個数を制限したところで、
 最近の人間は頭が良くて、願いの個数を増やしたりなんてするものですから」


 考えても、実際に実行に移す人がいるとは予想外だった。
いや、そもそも、ふとウヅキに疑問が沸く。


「その前に、条件をすぐに変えたり、昔にも経典を手にした人が?」

「もちろんです、それぞれ望んだ願いを叶えました」

「……じゃあ、どうしてここに経典が残っているんですか?」


 アイリが押し黙る、こんなに便利な道具を既に先駆者が何人もいるにも関わらず、
そしてこの場所にたどり着き、願いを叶えたにも関わらず、経典は失われていない。
普通なら、願いを叶える道具は手元に置いておきたいはず。


「理由を教えてくれますか……?」

「……あなたは本当に、経典を得るに相応しい人物です」


 どこからともなくアイリの手元に一冊の、シンデレラとは異なる本が現れる。
ページを捲って、目的の項目を発見したアイリがそれを読み上げる。


「シンデレラの経典、その取扱の一部……」

シンデレラは願いを叶えることができる。

シンデレラの発見は、経典が課した試練を突破した者のみが可能である。


「……ここまでは、私達が流した捜索者全員が知る基本の情報」

「情報を流した? ……こんな経典を作って、他人に発見させることに理由があるんですか?」

「知るのが望みなら、お話しますが……?」

「…………いえ、私はたった一つの願いを叶えるためだけに来ましたから」

「素晴らしい、だからこそ私も……授けたくなります。では続けますね――」


シンデレラは死者の命を蘇らせる事は出来ない。

シンデレラは人間、もしくはそれに類似する種族にしか扱えない。

願いを叶える資格を失った時、シンデレラはその手から離れる。


「……ご質問は」

「幸い、願いを叶えられないということはなかったです。私は人間で、望みは死者の復活ではありません」


 ですが、と言葉を続ける。当然、理解が詰まったのは最後の言葉だ。
願いを叶える資格を失う、具体的にはどういうことなのか?


「具体的……そうですね、例えば……人間の枠を越えた時、でしょうか」

 ここでは○○「××」のような台本形式のが主流のようです……
二人目のお話から変更してみる、試してみる可能性があります。

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