魔法少女(19)「貴方のハート、キュンキュンさせちゃうぞっ!」 (165)

公園

「今日どこであそぶー?」

「あついし、家でゲームしようぜー」

「そうだねー」

魔法少女「ちょっとまったぁ!!!」

「なんだぁ?」

「だれぇ?」

魔法少女「確かに夏は暑いよね!! 熱中症とか怖いもんね!! でも、子どもがそんなことでいいのか!! いや、よくないと思うの!!」

魔法少女「この私が魔法で君たちを涼しくしてあげるから!! 外で鬼ごっことかしたらいいよ!!! さぁ、みててね!!!」

魔法少女「闇よ。世界は求む。冷酷な暗黒を。舞い落ちろ、常夜の雪よ……。おっと! いけない、いけない。魔法陣描かなきゃ。私ってホント、ドジなんだから」カキカキ

「いこうぜ」

「うん。あのお姉ちゃん、恥ずかしくないのかな?」

魔法少女「あ、ちょっと!! まだ詠唱中なんだけど!! 5分で終わるからとりあえず最後まで見てってよー!!」

警官「……すみません。ちょっと、いいですか?」

魔法少女「え? あ、はい。なんですか?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405089507

警官「最近、公園で妙な格好の女性が子ども相手に不審なことをしているってことを聞いていたんで、巡回していたところだったんですよ」

魔法少女「大変ですね。こんなに暑いのに」

警官「ええ、まぁ」

魔法少女「妙な女性ですか……。うーん……。もしかして、私のことですか?」

警官「そうじゃないですかね」

魔法少女「やっぱりそうですか。それじゃ、そろそろ次の町に行こうかなぁ」

警官「次の町?」

魔法少女「もう5回目ですから。職務質問受けたの。慣れちゃいました」

警官「他の地域でも同じことをやっていると?」

魔法少女「ええ、はい」

警官「……なんのために?」

魔法少女「長い話なりますけど、いいですか?」

警官「手短にお願いします。私も忙しいので」

魔法少女「わかりました」

警官「はい」

魔法少女「10歳のとき、試験のためにこちらの世界へやってきて、今に至ります。まだ試験がクリアできなくて困ってるんです」

警官「なるほど。詳しい話を聞きたいのでとりあえず交番のほうまで来てもらえますか?」

魔法少女「どうしてですか?」

警官「他でも同じ事をしているとなると見過ごせないし、色々とありそうなんで」

魔法少女「むぅー……」

警官「どうぞ、こちらへ」

魔法少女「いやです!!!」

警官「何?」

魔法少女「これでも私は魔法少女!! 国家権力なんかに屈しない!!」

警官「……」

魔法少女「私を連れていけるものならやってみるがいいです!!!」

警官「魔法でどうにかするって言うんですか?」

魔法少女「いえ!! 任意同行なら拒否してもいいはずです!!!」

警官「……」

魔法少女「さぁ!! かかってこい!! 国家の犬め!! この世界の法律、警察法第79条が私の武器ですよ!!!」

交番

警官「はい。お茶です」

魔法少女「どうも」

警官「国家の犬って言ったらダメですよ。私も怒ります」

魔法少女「すみません。この前、法律のこと少しだけ教えてもらって……」

警官「誰に?」

魔法少女「職務質問してくれた警察官の人にです……」

警官「そうですか」

魔法少女「あ、あの、私、逮捕されるんですか? 逮捕しちゃうんですか?」

警官「いえ。話を聞きたいだけですから」

魔法少女「手短に事情は話しましたけどぉ……」

警官「今度は詳細にお願いします」

魔法少女「うふふっ。いいんですか? 私の秘密を知ってしまうと普通の生活には戻れませんよ?」

警官「……」

魔法少女「……私はこことは違う魔法の世界で生まれました。本当なんです。信じてください」

警官「そうだ。年齢は?」

魔法少女「あ、はい。19歳です。今年の11月で20歳になるんですけど」

警官「なるほど。19歳ですか。続けてください」

魔法少女「はい。魔法の世界の女の子は皆、とある試験を受けないといけないんです」

警官「試験?」

魔法少女「20歳までにその試験に合格できないと魔法学校を卒業できないばかりか……その……」

警官「なんですか?」

魔法少女「魔法の力、魔力を奪われてしまうんです。そうなると、待っているのは地獄のような生活で……」

警官「具体的には?」

魔法少女「一生、奴隷として生きなければいけないんです!! そんなの嫌だから必死になっているんです!!! 必死なんです!!!」

警官「分かりました。落ち着いてください」

魔法少女「もういいですか? 私には時間がないんです。20歳になるまでに、試験をクリアしないといけないんですから!!!」

警官「何故、20歳までなんですか?」

魔法少女「20歳になっちゃったら、魔法少女って言えなくなるからです!!! そんなこともわからないんですかぁ!?」

警官「そうですか?」

魔法少女「そうですかって……? もしかして、25歳までは少女ですよとか思ってる人ですか? きゃー」

警官「少女は18歳までだと思うんですが……」

魔法少女「……」

警官「個人的には16歳かなぁ……。難しいですけど」

魔法少女「はぁー!? なんですか!? お兄さん、ロリコン!?」

警官「……」

魔法少女「どう考えても19歳は少女ですよ!!! 10代なめんなー!!!! がおー!!!」

警官「職業は?」

魔法少女「魔法少女ですけど!? さっきから言ってるじゃないですかぁ!!!」バンバンッ!!!

警官「机を叩くな」

魔法少女「あ、すみません」

警官「あー……。こっちの世界での仮の姿は?」

魔法少女「専門学生です」

警官「なるほど。映画とかアニメとかそういう映像関係の学校ですか?」

魔法少女「おぉ!! なんでわかったんですか!! そうです。あそこだと故郷を思い出せますし、この服でいてもみんな普通に接してくれて、良い場所なんですよね」

警官「家は?」

魔法少女「魔法の世界に」

警官「……今現在は?」

魔法少女「えと、5丁目にあるアパートに」

警官「アルバイトとかしてる?」

魔法少女「はい。メイド喫茶で」

警官「楽しい?」

魔法少女「もっちろん!! みんな良い人ですよぉー」

警官「へぇ。そうですか。充実した毎日を送ってるみたいですね」

魔法少女「そうなんですよぉー」

警官「だったら、もう公園であんなことしたらダメですよ。やめましょうね」

魔法少女「そ、それだけはできません!! 隣町でまたします!!!」

警官「課題の映像を撮るならもっと人気のない場所を選ばないと」

魔法少女「違います!! 試験のためなんです!! 魔法の世界の試験なんです!! 確かに学校でも提出しなきゃいけない課題ありますけどぉ!!!」バンバンッ!!!

警官「こら。机を叩くな」

魔法少女「むぅー……。やっぱり誰も信じてくれない。この世界嫌いっ」

警官「それにしてもおかしいなぁ」

魔法少女「何がですか? この服は私の世界では制服なんですけど」

警官「私が子どものころに見ていたアニメでは、正体がバレると別の生き物にされたり、時には命を奪われるとか、そういう設定があったけど」

魔法少女「はぁ?」

警官「最近のはそういうのないんですね」

魔法少女「なんで急にアニメの話に……。もしかして、お兄さん、オタク……?」

警官「……」

魔法少女「やめてください。私、そういう人、嫌いなんです」

警官「そう。とにかく、もうしないように」

魔法少女「します。一生奴隷なんて絶対に嫌ですから」

警官「指名手配するぞ?」

魔法少女「ひぃ……。怖い……魔法よりも強い、国家権力……」

警官「私との約束です。絶対に今後はしないこと。いいですね?」

魔法少女「約束できません。国家権力には屈しません。だって私は魔法少女ですから」キリッ

警官「……別の警官にも同じこと言ってきているんですか?」

魔法少女「そうですけど、何か?」

警官「1回目、2回目ならまだしも3回目からは簡単に帰すとも思えないんですが」

魔法少女「別の地域でやってるんで。電車代もったいないから、自転車で通ってます」

警官「だから、別の地域だろうと複数回しているなら……」

魔法少女「なるほど。常習犯なのに私がこうして別の町で同じことをしているのが解せないということですか」

警官「君が私に話したように、何度も繰り返して、何度も職務質問を受けているならですけど」

魔法少女「うふふ……。お兄さん、おバカさんですねぇ」

警官「なんだと?」

魔法少女「普通、何度も何度も職務質問を受けるような女が出没するなら、その情報は隣町にだって流れるはず」

警官「まぁ……」

魔法少女「でも、お兄さんは知らなかった。それは何故? 私を捕まえた警官たちはみーんな、私を許しているからですよぉ?」

警官「どういうことだ?」

魔法少女「だって、私が相手を魔法で心も体も魅了しちゃいますから。誰も私を逮捕することはできないんです。うふふふ」

警官「つまり、俺にも魔法をかけるといいたいのか?」

魔法少女「その通り!!!」

警官「本当に魔法を使えるなら、話かけられた段階で魔法をかけないか?」

魔法少女「魔法というのは発動までに時間がかかるんです。だから、すぐには無理。私はただ、貴方に従ったフリをしていただけです!! 素人め!!!」

警官「……」

魔法少女「うふふふ。手のひらで転がされてるとも気が付かないなんて。バカな人ですねぇ」

警官「魔法少女というよりは魔女に近いな、君」

魔法少女「黙ってください!!! とにかく!!! 準備は整いました!! ほら!! 貴方に質問を受けている間、隙を見ては書いていた魔法陣を!!!」ペラッ

警官「そんな小さなメモ帳に……」

魔法少女「あとは詠唱するだけで、貴方は私の虜になるわけですよ」

警官「ほう……。わかった。なら、やってみてくれ」

魔法少女「みんなそういいます。そして見事に私に惚れていく」

警官「いいから、やれ」

魔法少女「後悔してもしりませんよ? いきますっ!!!」

魔法少女「闇よ。彼のものは望む。魂を暗黒の海へと還さんことを。来たれ、そして誘え。黄泉の果てへと」

警官「……それは唱えないといけないのか?」

魔法少女「黙ってください!! まだ途中ですから!!」

警官「そ、そうなのか……」

魔法少女「もう!! ええと……。心を穢せ、身を焦がせ。魔を知る者たちよ、我が魔力を引き換えに、願いをかなえよ!!!」ゴォォォ!!!!

警官「な……!? 風が……!? まさか……本当に……」

魔法少女「貴方のハート、キュンキュンさせちゃうぞっ!」キュピーン

警官「……」

魔法少女「……」

警官「……」

魔法少女「ふぅ。では、さよならです。もう会うこともないでしょう」

警官「……まってください」

魔法少女「やめてください。私を好きになってしまったのはわかりますが、私は魔法の世界の住人。貴方とは決して結ばれることはないんです」

警官「いや、待ってください」

魔法少女「しつこいですよ。これだから私は町を変えなきゃいけないんです。男ってみんなバカですよ」

警官「待たないと逮捕しますよ?」

魔法少女「え?」

警官「とりあえず、もう一度座ってください」

魔法少女「私は帰ります」

警官「いえ、帰らないでください」

魔法少女「私のことが好きだから、拘束したいってわけですか。でも、私は魔法少女。男性なんかと付き合えない。体は清らかなままでないといけないんです」

警官「このままだと貴女の経歴が汚れることになりますけど?」

魔法少女「バツ1ってことですか?」

警官「前科がつくってことです」

魔法少女「……」

警官「まずは家族のかたにも連絡させてもらいます。電話番号を聞かせてください」

魔法少女「ま、待って!! どうして!? 私は魔法少女なんですよ!?」

警官「だって、その魔法も嘘でしたし」

魔法少女「そ、そんな……!! はっ!! まさか!! 20歳が近づいてきてるから魔力が少なくなってきているってこと……!!!」

警官「自宅の電話番号は?」

魔法少女「あぁー!!! そんなぁー!!! やだぁー!!! うぇぇぇぇん!!!!」

警官「ちょっと。こんなところで泣かないでください。それより電話番号を教えてください」

魔法少女「うぐっ……このままじゃ……わたひ……一生奴隷になっちゃう……ううぅ……」

警官「まいったなぁ」

魔法少女「きっと……触手にいろいろ……されちゃうんだぁ……うぅぅ……うぁぁぁん……」

警官「はぁ……」

先輩「おつかれー」

警官「巡回、お疲れ様です」

先輩「こっちは異常なし。そっちは?」

警官「この子を公園で見かけたんですけど」

魔法少女「地下……牢とか、でぇ……きっと……三角、もく、ばぁ……でぇ……」

先輩「誰? なんのコスプレしてんの?」

警官「公園で不審な女性がいるって話があったじゃないですか。なんのコスプレかはわかりませんけど、本人は魔法少女だと」

先輩「その子が?」

警官「はい。自分で認めていましたし、言動からも間違いないかと」

先輩「ふぅーん。魔法少女なんだ。世の中は広いねぇ」

魔法少女「ブタのぉ……かいぶつと、かのこども……うまなきゃいけないのぉ……いやぁ……やだよぉ……」

警官「ほら、いい加減電話番号を……」

魔法少女「うぅ……111……」

警官「111……。それから?」

魔法少女「……050-077-777-777-777-777」

先輩「その番号、どっかできいたことあるな……」

警官「……」ピッピッ

先輩「どうだ?」

警官「ないですね」

先輩「だろうなぁ」

魔法少女「ふん。かかるわけないじゃないですか。私の実家は魔法の世界にあるんですから」

警官「今現在の電話番号は?」

魔法少女「そこまで言う必要があるんですか?」

警官「……言いたくないなら、こっちで調べますけど」

魔法少女「マジカル警察法第79条シールド!!!!」

先輩「おぉ! このシールドは堅いぞ! 俺たちでは突破できないな!」

警官「先輩。遊ばないでください」

先輩「あっはっはっはっは」

警官「笑い事じゃないんですよ」

魔法少女「このシールドがある限り、貴方たちでは私に干渉することができませんよ!!!」

警官「あのなぁ……」

魔法少女「魔法少女は無敵です!! 国家の犬になんて負けない!!!」

先輩「お嬢さん。恥ずかしくないのかい?」

魔法少女「な、なにがですか?」

先輩「お嬢さんが使っている魔法の盾こそ、国家の犬が作ったもんだぜ?」

魔法少女「はっ……!!」

先輩「魔法少女なら、魔法で解決してみな」

魔法少女「うぅ……うぅ……」ガクッ

先輩「ちょっとタバコ吸ってくる」

警官「……電話番号、いい?」

魔法少女「……携帯電話のでいいんですか?」

警官「……」ピッピッ

魔法少女「……」

警官「……お。繋がった」

―おおきなこえでピーリカピリララ~♪―

魔法少女「はい、もしもし」

警官「……」

魔法少女「……なんですか? 古い作品ですけど、私は大好きなんです」

警官「そういうことじゃない。親や家族と連絡がとれる電話番号を教えてくれっていってるんだ」

魔法少女「そんな人はこっちにはいません」

警官「魔法の世界にいるっていいたいのか?」

魔法少女「そうです。信じてくれないでしょうけど」

警官「……君は10歳のときにこっちの世界に来たんだよな?」

魔法少女「ええ、そうです」

警官「10年間、1人で生活してたのか? 小学校や中学校に行きながら」

魔法少女「勿論です。私の世界の女の子はみんなそうしています」

警官「どこの学校を卒業したんだ?」

魔法少女「何故、教えないといけないんですか」

警官「そんなこといえる立場か?」

魔法少女「シールド発動しますよ?」

警官「……警察法第79条か?」

魔法少女「はい!!!」

警官「こっちも我慢の限界ってもんが――」

先輩「もういいだろ。帰してやれよ」

警官「先輩! 何言っているんですか!」

先輩「叩いたってなんもでてきやしねえよ。注意したんならもういいじゃねえか」

警官「いや……でも……」

先輩「お嬢さん」

魔法少女「はい?」

先輩「夜は出歩くなよ。夜の公園は物騒だからな。特にお嬢さんみたいに可愛いとよ」

魔法少女「え? あ、はい。私はいつも土日の朝にしかしませんから。学校もあるし、アルバイトもあるんで」

魔法少女「お世話になりました」

先輩「車に気をつけてな」

魔法少女「はぁーい」

警官「いいんですか? 不審者ですよ、彼女」

先輩「だからってこのまま拘束するわけにもいかねえだろ。子どもが被害にあったわけでもねえしな」

警官「そうですけど。自分のことを魔法少女だとか言ってるし、そもそも家族がいないなんて……」

先輩「あの若さで天涯孤独なんじゃねーの?」

警官「そうですか……?」

先輩「名前は聞いたんだろ? 調べてみればいいじゃねーか」

警官「そうします」

先輩「まぁ、俺の勘が言ってるけどな。あの子は悪いことはしないって」

警官「先輩。立場ってものを考えてから行動してください。警察官なんですよ?」

先輩「バァーカ。そんなこと考えてるなら俺はとっくに交番勤務からは卒業してるぜ」

警官「それもそうですね」

先輩「いったな、このやろぉ」

別の日 公園

警官「……」

「今日は何してあそぶー?」

「プールいかない?」

「おぉー!」

魔法少女「プールっていいよね!!!」

「あ、まただ」

「いこ。おかーさんがこのお姉ちゃんを見かけたらにげなさいって言ってたし」

魔法少女「でも、プールはお金がかかるよね!? 子どものお小遣いではプールに入るのも躊躇ってしまうよね!!」

魔法少女「しかーし!! この私、そう魔法少女ならこの公園をプールに変えることだってできてしまうわけ!!!」

魔法少女「無料でプールだよ!? すごくない!? 今から私のマジカルリリックパワーでプールを――」

警官「……ちょっと」

魔法少女「あ、はい。なんですか?」

警官「もう子どもはプールに行ったぞ」

魔法少女「ちょっとー!! 見てたなら引き止めてくださいよぉー!! プンプン!!」

警官「ほら。お茶でよかったか?」

魔法少女「いいんですか? いただきます」

警官「……」

魔法少女「おいしー。今日は非番ですか?」

警官「当直明けだ」

魔法少女「そうですか。お疲れ様です。私服で職務質問しちゃうんですか?」

警官「君のこと調べた」

魔法少女「エッチっ!」

警官「……」

魔法少女「あ、すみません。ええと、何を調べたんですか?」

警官「君、嘘ついてただろ?」

魔法少女「え? な、なんのことですか……?」

警官「家族、いるじゃないか」

魔法少女「それは、あれです。世を忍ぶために必要な人形でして……」

警官「どうして忍ぶんだ。魔法少女であることは隠してもないのに」

魔法少女「だって!! 両親がいないと公的機関が調査しにきてメンドーなんですよ!?」

警官「魔法で誤魔化せばいいだろ」

魔法少女「だから魔法で両親を用意したんです!! わからない人ですねぇ!!!」

警官「あぁ、なるほど」

魔法少女「ふん。魔法少女なめんなです」

警官「警察官は心を操ろうとするのに、そういうときは人形で誤魔化すのか」

魔法少女「なにか文句でも?」

警官「……」

魔法少女「あ、いえ。なにかあるんですか?」

警官「あまり変なことはするな。こっちも巡回を強化しなくちゃいけなくなるんだから」

魔法少女「それが貴方の仕事じゃないですかぁ」

警官「……怒るぞ」

魔法少女「ひぃ……。制服姿のときはあんなに丁寧に喋ってくれてたのにぃ……」

警官「わかったか?」

魔法少女「約束はできないっていったはずです。こっちだって人生かかってるんですから」

警官「人生か……」

魔法少女「このままじゃ確実に奴隷……!! 分かりますか!? 奴隷ですよ、奴隷!! まぁ、この世界の人に言ってもわかんないでしょうけど!!!」

警官「なんだっけ。試験があるんだったな。内容は?」

魔法少女「聞いてどうするんですか? 事情聴取ですか?」

警官「……そうだよ」

魔法少女「マジカルぅ……!! 警察法第79条バリアー!!!」

警官「好きだな、それ」

魔法少女「これさえ展開していれば無敵ですからね」

警官「そうか。で、試験の内容は?」

魔法少女「魔法を使ってこちらの人のお役にたつことです」

警官「……それだけ?」

魔法少女「はい」

警官「それだけのことを10年かけてもできないのか?」

魔法少女「意外と難しいんですよ? 誰かの役に立つって」

警官「そうか……? 困っている人を助ければそれで終わると思うけどな」

魔法少女「それは貴方が警察官だからですよぉ。一般市民はそういう人に中々出くわせないんです」

警官「……たとえば、借金で困っている人を魔法で助けるのは?」

魔法少女「ダメです。経済に影響でちゃうじゃないですか」

警官「病院に行って、重篤な患者を救うとかは?」

魔法少女「人の寿命を弄るのはダメです」

警官「精神的に疲れている人を魔法で癒すのは?」

魔法少女「その人は疲れているだけで困ってないですからお役には立てないですね」

警官「……」

魔法少女「ま、魔法少女は制限が多いんです!!! その制限の中で試験をこなさないといけないんですぅ!!!」

警官「そうか……」

魔法少女「私だって苦労してるんですからね!!」

警官「なぁ、さっき公園をプールにするとか言ってたけど、本当にできるのか?」

魔法少女「できますよ!! 何っていってるんですか!! ま、別に信じろとは言わないですけどぉ」

警官「それじゃあ、今から――」

魔法少女「あ、アルバイトの時間です。では、失礼します。お茶、ごちそうさまでした」

別の日 交番

先輩「あの魔法少女のお嬢さんとはあれから会ったのか?」

警官「なんですか、いきなり」

先輩「気にはなるだろ。あんな強烈な女の子は初めてだったしなぁ」

警官「先日、公園で会いました。少し話してみましたけど、やっぱりちょっとおかしな子ですね」

先輩「捕まえたほうがいいのか?」

警官「場合によっては」

先輩「そうか。俺はそうは思わなかったが。一応、他にも連絡はいれとく。話した内容は?」

警官「人の役に立ちたいっていってましたけど、何を考えているのかさっぱりで」

先輩「良い子じゃねえか。暑さで頭がやられてるわけでもないんだろ?」

警官「さぁ……。俺にはわからないです」

先輩「人の役に立ちたいかぁ。俺はそんなこと絶対に考えないけどなぁ」

警官「なんで警察官になったんですか」

先輩「悪いことさえしなきゃ解雇がない。だからだ」

警官「そうですか」

公園

警官(あとはこのルートで巡回も終わりだな)

警官「今日は平日だし、流石にいないだろうけど」

魔法少女「――刮目せよ!!! 子どもたち!!!」

警官「……休日だけじゃなかったのか」

魔法少女「このスプーンをよくみて!!! いい!? いくよ!?」

「……」

魔法少女「まがれぇー」グニッ

「おぉー」

魔法少女「これが魔法少女の力だよ!! さぁ、みんな!! 困っていることはない? 私が無料で解決しちゃうよ。勿論、魔法の力でね!!」

「いこうぜ」

「うん」

魔法少女「ちょっと!! 魔法見といてそれはないよぉー!!!」

警官「おい。また嘘ついたのか? なんで平日もいるんだ」

魔法少女「あ、おまわりさん。お疲れさまです。今日は臨時営業です。私にはほら、残された時間が少ないので。11月までに試験をパスしなきゃ奴隷ですから」

警官「逮捕するぞ」

魔法少女「どうしてですか!? 私はただ魔法の力を子どもたちに見せていただけです!!」

警官「手品だろ?」

魔法少女「魔法です!! ほら!!」グニッ

警官「次、見かけたら警告だけじゃ済まないぞ。近隣住民からの声もあるんだからな」

魔法少女「むぅー」

警官「君が不審な行動をしないこと、それが俺の役に立つことなんだ」

魔法少女「魔法使えないじゃないですかぁ!! 試験をパスできないです!!」

警官「はぁ……」

魔法少女「捻ることもできますよ。ほらっ!」グニッ

警官「パフォーマンスがしたいなら公園じゃなくて駅前に行けばいいだろ?」

魔法少女「嫌ですよ。変な男がナンパしてくるんで」

警官「魔法でどうにかしたらいいじゃないか」

魔法少女「魔法を発動させるには時間がかかるんです!! その間に変なことされたら魔法がつかえなくなるんですよ!?」

警官「だからいつも子ども相手なのか?」

魔法少女「ほーんと、男は嫌ですよね。エッチなことしか考えてないですし」

警官「……」

魔法少女「いえ、貴方のことは言ってないですけど」

警官「ともかく、もうやるな。いいな?」

魔法少女「約束はできないと何度も言ってます」

警官「お前……」

魔法少女「私は本気です!! 命がけなんです!!! でもそこまで仰るならこの町ではしません!!!」

警官「別の町に行ってもダメだぞ。君のことはもう連絡しているからな」

魔法少女「えぇ!? ひどい!! 指名手配じゃないですか!!」

警官「ただこういう人には注意してくださいって通達しただけだ。それに君はこれをやめればいい。両親だって心配しているだろ?」

魔法少女「そりゃしますよ!! 普通は5年ぐらいで試験を終えるのが普通なのに、10年もかかってますからね!!!」

警官「いや、そうじゃなくて……」

魔法少女「もうダメ……やっぱり奴隷になっちゃうんだ……私……うぇぇぇん……やだぁ……変態オヤジに弄ばれるだけの人生なんてぇぇ……!!」

警官「……他人の役に立てば、もうこんなことはしないんだな?」

魔法少女「ぐすっ……。しないですよぉ。そこで試験も終わりますから」

交番

先輩「お? いらっしゃい」

魔法少女「お邪魔します。先日は大変お世話になりました」

先輩「気にするな。ゆっくりしてけ」

魔法少女「はい!」

警官「……」ゴソゴソ

先輩「ん? そりゃあ……」

警官「あった。これ」ペラッ

魔法少女「これは……ペット探しですか……」

警官「見つけたら、ここ書いてあるところに連絡する。それで解決だろ?」

魔法少女「……」

警官「駅前なんかでは居なくなったペットを探すためにビラを配っている人だっているぞ」

先輩「行方不明者を探している人もいるなぁ」

警官「そっちを捜索してくれとは警察官は言えないですから。目撃情報は欲しいですけど」

先輩「まぁ、そうだな」

>>41
訂正
魔法少女「そりゃしますよ!! 普通は5年ぐらいで試験を終えるのが普通なのに、10年もかかってますからね!!!」

魔法少女「そりゃしますよ!! 普通は5年ぐらいで試験を終えるのに、10年もかかってますからね!!!」

魔法少女「……ダメです」

警官「え?」

魔法少女「10年間もこっちにいるんですよ? ペット探しぐらいやりました」

警官「……やったのか?」

魔法少女「はい。でも、ダメでした」

警官「他人の役にたったのにか」

魔法少女「魔法の力を使って他人の役に立たないといけないんです」

警官「魔法でペットを見つけたんだろ?」

魔法少女「確かに魔法の力でペットは見つけました。でも、それだと魔法の力を人には使っていないから、ダメなんです」

警官「ペットを探している飼い主に魔法をかけるっていうのは?」

魔法少女「自分のペットだけを探せるようになるなんて都合のいい魔法ないです!!!」

警官「嗅覚を向上させるとかならできるだろ」

魔法少女「嗅覚なんてあげたら人間は悶絶して死んじゃうかもしれないですよ!?」

警官「屁理屈ばっかりだな」

先輩「お嬢さん、必死な割には断る理由が多いな。魔法ってのは万能じゃないのか?」

魔法少女「思っているほど万能じゃないです」

先輩「そうか。そりゃ、大変だな」

魔法少女「大変なんですよ」

警官「……おい」

魔法少女「な、なんですか?」

警官「君の目的はなんだ? ここまでして公園で子どもと遊びたいのか?」

魔法少女「違います!! 口がすっぱくなるほど言ってますけど、私は魔法の世界の試験を――」

警官「いい加減にしろ!!」

魔法少女「ひっ」ビクッ

先輩「おい、やめろ」

警官「す、すみません」

先輩「お嬢さん。こいつも真剣にあんたのことを考えてるんだよ。なぁ?」

魔法少女「そ、そうなんですか?」

警官「……住民が不安になってるからな」

先輩「19歳の女の子が休日の朝っぱらから不審なことしているんだ。心配のひとつぐらいしても罰は当たらないから、だろ?」

警官「今日は平日ですけどね」

先輩「今日もやってたのか?」

警官「やってたから連れて来たんですよ」

先輩「そうなのか。俺はてっきり家から連れ出してきたのかと」

警官「そんなことするわけないでしょう!!!」

先輩「おこんなよ。冗談だろ」

魔法少女「あ、あのぉ……すみません……」

警官「謝るぐらいならもうあんなことは控えてくれ」

魔法少女「……できません」

警官「おい……」

魔法少女「奴隷だけは嫌なんです!!! 何がなんでも合格したいんです!!」

警官「あのな。そんな話を信じてると思うのか?」

魔法少女「あれぇ!? 信じてないんですか!? やけに魔法の話にのってきてくれたのでそうかなって思ってたんですけど……」

警官「話をあわしていただけだ!!」

魔法少女「あぅ……そんなぁ……」

先輩「実際にこの目で魔法を見ないことにはぁ」

魔法少女「魔法は一度、見せたはずですが」

警官「スプーン曲げか?」

魔法少女「はい!! 闇よ。因果を捻じ曲げる力を……」

警官「やらなくていい」

魔法少女「そうですか」

先輩「頭を疑いたくなるけど、ここまでくるとお嬢さんの熱意とか悲壮感とかが伝わってくるからなぁ」

警官「信じるんですか?」

先輩「再三注意してもそれを貫こうとしてんだ。少なくともお嬢さんの中では本当なんだろう」

警官「それを頭がおかしいというんじゃ……」

魔法少女「本当なんです」

先輩「よし。それなら俺たちの役にたってもらうってのはどうだ?」

警官「え? 何をさせるつもりなんですか?」

魔法少女「ま、まさか……エッチなこととか……!!」

先輩「それもいいけど、悪いことだからな。クビになっちまうことはしたくねえよ」

魔法少女「アイスコーヒー淹れましたよー」

先輩「おう。わりぃな」

警官「……」

魔法少女「いえいえ。これぐらいいつもアルバイトでやっていることですから」

先輩「メイド喫茶だっけか。結構な重労働だろ? 変な客もきそうだしな」

魔法少女「そんなことないですよー。お客さんも同僚も良い人ばかりですから」

先輩「そうかそうか。んじゃ、いただきま――」

魔法少女「ちょっとまったぁ!!!」

先輩「どうした?」

魔法少女「まだ美味しくなる魔法をかけていませんから。魔法陣を書いたコースターの上にコップをおいて……」

先輩「ほほう? やったな。ついにお嬢さんの魔法が拝めるぜ? これはいやが上でもテンションがあがるってもんだぜ」

警官「そうですか?」

魔法少女「いきます!! 闇よ。全知全能なる魔の力をここに示せ。邪を持たぬ者に真理を持たせよ……」

魔法少女「めっちゃぁくっちゃぁ!! おいしくぅぅ……なれー!!!」キュピーン

警官「……恥ずかしくないのか?」

魔法少女「でも、詠唱しないと魔法が使えませんから」

警官「いや……」

先輩「いただきます」ゴクッ

魔法少女「どうですか!?」

先輩「うーん。これはうめぇな。ホントにインスタントのやつか? 豆から挽いてねえか? 魔法の力ってすげえなぁ、おい」

魔法少女「とーぜんですよぉ!! 魔法を使えばインスタントコーヒーすらも名店の味にはなるんです!!」

先輩「魔法は本当にあるんだなぁ」

魔法少女「やった。よし。まだ魔法は使える。よしよし」

警官「……」ゴクッ

先輩「うまいだろ?」

警官「確かに美味しいですけど。これはバイトで培われたものでは?」

魔法少女「魔法です!!!」

先輩「だってよ」

警官「……先輩?」

先輩「いいじゃねーか。否定するのは簡単だがつまんねえよ。こういうのは信じたほうが楽しいんだ。人生は楽しんだほうがいい。な?」

魔法少女「交番の前を掃除してきます」

先輩「いいのか? そこまでやってもらうつもりはなかったけど」

魔法少女「魔法でちょちょいのちょいですから」

先輩「なら、頼むわ」

魔法少女「おまかせください!!! マジカルスイーパーとなり、キレイにします!!!」

先輩「いい子だなぁ。娘にほしいぜ」

警官「いいんですか。こんなことさせて」

先輩「いいもなにも他人の役に立ちたいって言ったのはお嬢さんだろ?」

警官「だからって……」

先輩「それに公園にいるより、ここに居たほうが安全だ。子どももお嬢さんもな」

警官「まぁ、見張れはしますけど」

先輩「あと、ここに居れば向こうから困っている人もやってくる。丁度良いだろ」

警官「困っている人って……」

魔法少女「あ、あのぉ、すみませーん。道に迷われたとご年配の女性がきているんですけどぉ」

先輩「早速きたな」

おばあさん「お忙しいところすみませんねぇ。昔、このあたりに住んでいたんですが、様変わりしていて」

警官「いえ。気にしないでください。目的地はどこでしょうか?」

おばあさん「この住所なんですが」

警官「拝見します。ここは……」

先輩「うーむ。歩いていくには少し遠いかもしれませんねぇ」

おばあさん「タクシーを使おうと思ったのですが、どうにも捕まらなくて」

魔法少女「どうぞ。冷たいお茶でも飲んでください」

おばあさん「あぁ、ありがとね」

魔法少女「いえいえ」

警官「先輩、タクシーを手配しますか。この暑さでは途中で倒れてしまうかもしれませんし」

先輩「そうだなぁ……。お嬢、出番だぜ」

魔法少女「え? 私ですか?」

警官「せ、先輩……それは……!!」

先輩「ばかやろう。タクシー会社に電話して、車をもってこさせるぐらい小学生でもできるだろうがよ」

魔法少女「なんの話してるんですか?」

警官「いいか。タクシーを交番の前に来るように頼んでくれ」

魔法少女「魔法の力で?」

警官「電話でだ」

魔法少女「わかりました」

警官「頼むぞ」

魔法少女「……」ピッピッ

おばあさん「変わった服をきてるけど、可愛い子ですね。妹さん?」

先輩「いやぁ。友人なんですよ。色々あって今日はここで掃除とかしてもらっているんです」

おばあさん「そうですかぁ」

魔法少女「もしもし!! 私は天下無敵の魔法少女!!! 今日はわけあって御社に電話をしました!!!」

警官「……」

魔法少女「え? あ、いえ。悪戯じゃないです。あ、はい。そうです。タクシーを……はい、一台……ええ。はい。お願いします」

魔法少女「住所というか……あ、え、はい……交番の前にですね……」

先輩「いい感じだな」

警官「見ている俺のほうがなんか緊張しますよ」

魔法少女「きましたー!! おばあちゃーん!! タクシーきましたよー!!」

おばあさん「わかりました」

魔法少女「今、魔法でタクシーをこちらに誘導するんで!!! いきます!!!」

魔法少女「闇よ。迷いえる者を暗黒の街道へと誘え……」

先輩「魔法陣かいてないぞ?」

魔法少女「あ!? しまったぁ!!」

おばあさん「うふふ。変わった子ねぇ。面白いわ」

警官「ああいう若者には近づかないほうがいいですよ?」

おばあさん「孫が丁度あれぐらいで……」

警官「はぁ……」

「お待たせしました」

魔法少女「あぁ! きちゃった!! あの、こちらの女性をこの住所までお連れしてください!!」

「はい。畏まりました」

おばあさん「ありがとうね。色々してくれて嬉しかったわ」

魔法少女「なんのこれしき。魔法少女にとっては朝飯前ですから。気をつけて行ってきてください」

先輩「どうだ。試験には合格したか?」

魔法少女「ダメですよぉ。魔法、使えてませんから」

先輩「そういえばそうだな」

魔法少女「全くもう! 電話を使わせないでください!!」

警官「素直に電話使ったのは誰だ?」

魔法少女「そ、それは、貴方が怖かったからで……」

警官「は?」

先輩「よせよ。セクハラとかDVで訴えられたら懲戒免職だぜ?」

警官「なんで俺が悪者なんですか!!」

魔法少女「お掃除の続きしてきますね」

先輩「たのむぜ」

警官「……先輩。遺失物等も彼女に任せる気ですか?」

先輩「それはいいな。持ち主にガンガン届けちまえばいい。感謝されほうだいだなぁ」

警官「先輩はあの子をどうしたいんですか?」

先輩「お嬢さんが人の役に立ちたいっていうなら、町のおまわりさんはそっと手を差し出すのみよ」

警官「楽しんでるだけですよね?」

先輩「……わかる?」

警官「分かりますよ」

先輩「まぁまぁ。でも可愛いし、見ていて飽きないタイプの子だ。しばらくは目の保養になっていいじゃねえか。男くせえ職場だしよ」

警官「先輩にはついていけません」

先輩「そういうなよぉ」

「なんか変なかっこうのひとがいるー」

「なんだあれー」

魔法少女「変な格好じゃないよ!!! これは魔法学校の制服なの!!!」

「まほーがっこう?」

魔法少女「そうだよ!! 私は魔法少女だから!!! 箒にのって空を飛ぶことだって私には可能なの!!! すごくない?」

「うそだー。じゃあ、飛んでみてよー」

魔法少女「でも、空を飛ぶのはこの世界では難しいの。いい? この世界には制空権っていうのがあってね……」

警官「いいんですか。交番の前であんなことされても」

先輩「賑やかでいいじゃねえか。むしろ交番の前だから子どももその保護者も不審者とは思わないだろ」

夕方

魔法少女「この道を真っ直ぐ行けば大きな病院が見えてきますから、その辺りにお店はあるはずですよ」

「ありがとうございます」

魔法少女「不安があるのなら、私のマジカルダウジングでご案内をします!!!」

「いえ、結構です。それでは」

魔法少女「あ、そうですか。車には気をつけてくださいねー」

「はい」

魔法少女「はぁ……。また役に立てませんでしたぁ」

警官「お疲れ様でした」

先輩「おう。しっかり休めー」

魔法少女「お疲れ様です!!」ビシッ

警官「お前は敬礼しなくていい。それより、帰るぞ」

魔法少女「え? 私もですか?」

先輩「お嬢ー、ありがとよ。もう夕暮れだし家にかえりな。また、気が向いたらきてくれ」

魔法少女「わっかりました!! それでは今日の任務は終了します!!」

魔法少女「今日はすっごく人助けをしてしまいました!! こんなに充実した一日は初体験です!! でも魔法を使ってお役には立ててないんですよね……」

警官「充実してたならそれでいいんじゃないのか?」

魔法少女「いえ、試験に合格できてませんから」

警官「試験ね……」

魔法少女「またお手伝いさせてくださいね。あそこにいれば合格できそうな気がするんです。いえ、しないほうがおかしい」

警官「その試験は魔法少女ならみんな受けるんだよな?」

魔法少女「はい。そうですよ?」

警官「みんな試験内容は同じなのか?」

魔法少女「はい。魔法の世界3億年の歴史において、試験内容が変更になったことは一度もないとか」

警官「人の役に立つって、他の魔法少女たちはどうやってきたんだ? 君はそれを真似ればいいんじゃないのか」

魔法少女「さぁ……。どうやって合格したのかまでは教えてもらえないので……」

警官「そうか。魔法の世界って随分と窮屈だな。何を聞いても否定されるし」

魔法少女「で、ですから、制限が多いんですよぉ」

警官「……訊こうと思ってたんだが、君自身、人の役に立つってことを具体的に考えているのか?」

魔法少女「もちろんです。だって私は魔法少女ですから」キリッ

警官「本当か?」

魔法少女「はい!!」

警官「なら、君の考える人の役に立つとはどういうことなんだ?」

魔法少女「困っている人を助けること、です」

警官「……」

魔法少女「……あれ? いけませんか?」

警官「いや。いいと思う。でも、10年間、成果がないんだろ?」

魔法少女「そーなんですよ。どうしてですか?」

警官「俺に訊くなよ……」

魔法少女「困っている人を助けるプロである貴方に訊かないで誰に訊けっていうんですかぁ!!!」

警官「プロ……?」

魔法少女「警察官は正義の味方じゃないですか。プロですよ。魔法少女と似てますよね」

警官「似てるか?」

魔法少女「似てますよ!! 魔法少女もヒーローみたいなものですから!!!」

警官「そうだったのか……」

魔法少女「いいですよね。悪者をやっつけるヒーローって。私、大好きですよ。目からビームだす人とか、頭にあるカッターを飛ばす人とか」

警官「あぁ……いるなぁ……」

魔法少女「まぁ、私も魔法少女ですから。それぐらいはできちゃうんですけどね。町中で発動させると危ないんでしませんけど」

警官「君の憧れるヒーローたちって見返りを求めてないよな」

魔法少女「……え?」

警官「俺も子どものときにはアニメとか特撮モノが好きでよく見てた」

魔法少女「私みたいな魔法少女も好きだったんですよね!! 前に聞きました!!」

警官「ああ、そうだったな。でだ、そういう主人公は見返りなんて求めてないよなぁって今ふと思った」

魔法少女「見返りですか?」

警官「誰に頼まれたわけでもないから感謝されないときすらある。でもヒーローは命がけで地球を守る」

魔法少女「確かにそうですね。人知れず悪の組織と戦っている人だっていましたし。そう考えると泣けてきました……」

警官「それなりの報酬を求めているうちはヒーローになんてなれないな」

魔法少女「むぅー。つまり下心なく人の役に立たなければ、この試験には合格できないと?」

警官「いや、君の試験には関係ない。ヒーローの話だからな。でも、点数にはそういう部分も含まれてるんじゃないか?」

魔法少女「そ、それは10年間、気が付かなかった……!! 合格したいという下心があったから何をしても合格できなかったのですね……!!!」

警官「どうだろうな。そんな試験があるのかも疑わしいけど」

魔法少女「わかりました!!! 私、明日から無心で人の役に立ちたいと思うことにします!!!」

警官「無心になってないだろ」

魔法少女「だったらどうすればいいんですかぁ!?」

警官「そうだな……。人助けをさせてくれーとか、人の役に立ちたいんですーとか言わないようにするのが第一歩じゃないか?」

魔法少女「なるほど!! なるほど!!」メモメモ

警官「困ってることないですかー、なんて言っているヒーローはいないだろ?」

魔法少女「確かに!! 確かに!!」メモメモ

警官「普通に生活して、その生活の中で困っている人がいれば、自然と手をとってあげる。これが正しいヒーローのあり方だと思う」

魔法少女「勉強になります!! なりすぎです!! これぇ!! 流石、プロですね!!」メモメモ

警官「君が公園でやっていたことは間違いだったんだろうな」

魔法少女「あぁー!! 私ってどうしてこんなにバカなんでしょうか!! こんなにも大事なことを知らなかったなんて!! 考えもしなかったなんて!!!」

魔法少女「先人の魔法少女やヒーローたちは見本になってくれていたのに!!!」

警官「それじゃ、俺はこっちだから。寄り道しないで帰れよ」

魔法少女「はい!! おつかれさまでしたぁ!!! 本日はまことにありがとうございます!!! 私、生まれ変わります!!!」ビシッ

翌日 公園

警官「ふぅー……暑いな……」

警官(折角の非番だし、今日は好きなことでもしようと思ったけど……)

警官「……いないよな?」

魔法少女「……」

警官(いた……!? 生まれ変わったんじゃないのか……)

魔法少女「……」

警官(動かない……? なにしてるんだ……?)

魔法少女「……あつぃ……」

警官「おい!!」

魔法少女「あれ……? どうしたんですか……?」

警官「こっちのセリフだ。何やってるんだ」

魔法少女「ここで……ずっと……待ってました……。困っている……人が魔法少女を……頼ってくるのを……」

警官「すごい汗だぞ。何か飲んだほうがいい。買って来てやるから、ベンチに座ってろ」

魔法少女「あぁ……そんな……おきになさらずぅ……」

魔法少女「ぷはぁー!!! いきかえったぁ!!!!」

警官「元気そうでよかった」

魔法少女「ありがとうございます! お礼に魔法で貴方の願い事を叶えてさしあげたいところですが、無理なんです。ごめんなさい」

警官「……何時間立ってたんだ?」

魔法少女「えーと、二時間ぐらいですね」

警官「せめて日陰で待てばいいのに」

魔法少女「日陰だと気づいてもらえないような気がして」

警官「あと魔法で暑さを凌げばよかっただろ」

魔法少女「自分のために魔力を使うなんてとんでもないです」

警官「それにこんな炎天下に外で遊ぼうっていう小学生はいない。少し様子を見て家に帰れよ」

魔法少女「別に子どもだけがこの公園を利用しているわけじゃないですから。私は待ちます。困っている人が現れるまで!!!」

警官「どうしてそこまでして……」

魔法少女「また言わなきゃいけないんですか? 試験のためですぅ!!! 魔法少女の試験なんですぅ!! いい加減、覚えてください!!!」

警官「わ、悪い」

魔法少女「物覚えが悪い人ですね!! プンプン!!」

警官(本当に頭がおかしいのか……それとも……)

魔法少女「さて。あと1時間粘りますか」

警官「程々にしないと熱中症になるぞ」

魔法少女「そんなことよりも奴隷にならないようにするほうが大事ですから」

警官「やめないのか」

魔法少女「当たり前です。だって私は魔法少女ですから」キリッ

警官「分かった。なら、スポーツドリンク置いとく。水分補給ぐらいはしておけ」

魔法少女「え? くれるんですか? いいんですか?」

警官「1時間で帰れよ」

魔法少女「はい!! 何から何までありがとうございます!! このお礼は必ず!!」

警官「別にいらない」

魔法少女「ありがとうございましたー!!!」

警官「……」

魔法少女「さぁ!! 待つぞー!!!」

警官(家に帰ろう)

別の日 交番

警官「先輩。報告書です」

先輩「ごっつぁんです」

警官「真面目にしてください」

先輩「なんで真面目にしなきゃいけねえんだ?」

警官「……」

魔法少女「おはよーございまぁーす!!!」

先輩「おう! お嬢さん、来てくれたかぁ! 待ってたぜ。会えなかった数日が数年に思えたぐらいだ」

魔法少女「やだー。恥ずかしいですー」

警官「またアイスコーヒーでもいれてくれるのか?」

魔法少女「それだけじゃないです!! みてください!!」

先輩「またでけぇクーラーボックスだな。わざわざ持ってくれたのか?」

魔法少女「これはマジッククーラーボックスです。24時間ならアイスだってカチコチのままなんです。すごいと思いませんか?」

先輩「そりゃすげえなぁ」

警官「通販番組で似たようなの見たことがある気がしますけど……」

魔法少女「オレンジジュースにアップルジュース、飲むヨーグルトなんかももってきました」

先輩「氷も入ってるじゃねえか。重かっただろ?」

魔法少女「魔法の力を使えば、数トンあるものだって片手で持ち上げられますよ。そんな無駄なことはしないですけど」

先輩「あっはっはっは。そりゃそうだな。する意味がねえ」

警官「持って来すぎだろ。差し入れならこんなに本数はいらないぞ」

魔法少女「先日のお礼も兼ねていますから!!」

警官「魔法でお礼してくれたほうが嬉しいんだけどな」

魔法少女「すみません。私利私欲のために魔法を行使することは禁じられていますので……どうかこれで……」

警官「わかった。ありがたく飲ませてもらうよ」

魔法少女「はいっ!!」

先輩「お前ら、付き合ってんの?」

警官「小学生みたいなこと言わないでくださいよ」

ピリリリ……ピリリリ……

魔法少女「あ、電話鳴ってますよ。もしかして、事件とか!?」

先輩「それは面倒だなぁ」

警官「はい。1丁目で……はい……。すぐに向かいます」

先輩「なんだって?」

警官「1丁目で引ったくりです。30代の女性が軽傷を負ったと」

先輩「そりゃマズい。行くぞ」

警官「はい」

魔法少女「がんばりましょう!!!」

警官「お前は来なくて良い」

魔法少女「そんなぁ!! 魔法でお手伝いもできますよ!! 事件の早期解決なんかもできること間違いなしです!!」

警官「こればっかりはダメだ」

先輩「わりぃな、お嬢さん。留守は任せた」

魔法少女「むぅー」

警官「帰ってもいいぞ。いつ戻ってこられるかわからないからな」

魔法少女「いえ!! ここの番をします!! 魔法の結界で誰の侵入も許しません!!!」

先輩「道案内とかはしてくれると助かる」

魔法少女「わかりました!! 道案内はします!!」ビシッ

数時間後

魔法少女「らんらーん」ザッザッ

警官「……まだ居たのか」

魔法少女「あ、おかえりなさい」

先輩「何かあったか?」

魔法少女「いえ。特に。小学生ぐらいの子にバカにされたぐらいです」

先輩「なんだと。事件じゃねえか。どこのクソガキだよ。しょっ引いてやらないとな」

警官「先輩。書類あるんですから」

先輩「へいへい」

魔法少女「あのぉ、どんな事件だったんですか?」

先輩「よくある引ったくりだ。原付バイクにのった屑野郎が女性が所持していた鞄を引っ手繰った。そのとき女性は転倒して、怪我した。そういう事件だ」

魔法少女「許せませんね!! 早速捜査に行きましょう!!!」

警官「捜査をするのは刑事の仕事だ。俺たちじゃない」

魔法少女「なんでですか!? 事件現場に行ったのにですか!?」

警官「現場への臨場はある。でも、それだけだ。捜査はしない」

魔法少女「なんですか!! 捜査したらいいじゃないですか!! 独自に!!」

警官「勝手なことはできない」

先輩「それが規則だ。そこをやぶるとお給料減っちゃうからな」

魔法少女「なんですか、それぇ。納得できないです」

警官「俺たちは正義のヒーローじゃない。ただの公務員だからな」

魔法少女「……そんなことないと思いますけど」

警官「そうか?」

先輩「メンドーなことは署の連中がやってくれるんだ。それでいいじゃねえか」

魔法少女「犯人が野放しでもいいんですか?」

警官「そんなこと誰が言ったんだ?」

魔法少女「だって、やる気が感じられないというか……」

警官「やる気で犯人は捕まえられない」

魔法少女「あ、そーだ!! お二人がダメなら私が捜査します!! マジカルダウジングを使えば簡単ですよ!!」

警官「やめろ!」

魔法少女「ひっ」ビクッ

警官「……」

魔法少女「あのぉ……」

警官「何もしなくていい」

魔法少女「すみません……」

先輩「お嬢、犯人を追うってのはすげー危険なことなんだ。犯人を追い詰めたとき、何をされるかわからねえからな」

魔法少女「そ、そうなんですか?」

先輩「逮捕するときに殉職したやつを何人も知ってる」

魔法少女「そんなに危険なんですか……?」

先輩「おうよ。なぁ?」

警官「はい」

魔法少女「あの、すみません。でも、魔法ならなんとかなると思うんですけども……」

警官「君に何かあったらどうするんだ。絶対にそんなことはするな」

魔法少女「……」

先輩「そういうことだ。そこまで役に立とうとしなくていいぜ? こんなに飲み物をもらって、掃除までしてもらってんだ。これ以上は罰が当たるぜ」

魔法少女「すみません……よく知りもしないで勝手なこといって……」

警官「先輩、書類できました」

先輩「よぉし拝読するぅ」

警官「先輩の仕事なんですけどね」

先輩「かてぇこというなよ」

魔法少女「はぁ……」

警官「……」

先輩「落ち込んでるな。どーすんだよ」

警官「どうすると言われても」

先輩「元気付けてやれよ」

警官「どうして俺なんですか。そういうのは先輩のほうが得意でしょう」

先輩「そろそろ定時巡回の時間だし、一緒に連れていってやれよ」

警官「そんなことできるわけないですよ!!」

先輩「俺が許す。ほら、いってこい」

警官「ちょっと!! 何言ってるんですか!!!」

魔法少女「はぁ……」

先輩「いいじゃねえか。ついでに食っちまっても」

警官「あなたは……!!!」

魔法少女「あのぉ」

先輩「どうした?」

魔法少女「今日は帰ります」

先輩「そうか? まだ昼過ぎだし、もうちょっとゆっくりしていっても……」

魔法少女「アルバイトもありますから。飲み物は冷蔵庫に入れておきました。飲んでくださいね」

先輩「おう。ありがとよ。また来てくれ」

魔法少女「はいっ!」

警官「……気をつけてな」

魔法少女「ありがとうございます! お邪魔しました!!」

先輩「一服してくっか」

警官「俺は巡回に行ってきます」

先輩「よろしくな」

警官「はい」

公園

警官「ふぅー……。ホント、暑いなぁ……」

「もーいーかーい!?」

「まーだだよー!!」

警官「こんな暑い日に外で遊ぶのか」

警官(親はいないみたいだな……。少し心配だな)

魔法少女「……」

警官「なっ……!?」

魔法少女「あ。パトロールですか?」

警官「アルバイトはどうしたんだ?」

魔法少女「まだ余裕があるのでここで魔法少女の力を借りたいという人を待っていました」

警官「そんな重たそうなクーラーボックス持ってか?」

魔法少女「魔法の力を使えばこんなの羽毛のようですよ!! 今は使ってませんけど!!」

警官「日陰に行こう。ここじゃ倒れるかもしれないからな」

魔法少女「え? あのぉ、お仕事はいいんですか?」

警官「悪かったな。怒鳴ったりして」

魔法少女「あ、え?」

警官「でも、捜査は本当に危険なんだ。だから……」

魔法少女「ま、まってください!! それはちゃんとわかりましたから!!」

警官「捜査できなくて落ち込んでたんじゃないのか?」

魔法少女「違いますよぉ。いくら魔法少女といえども捜査に関しては素人です。きっと魔法だけでは補えない部分もあるんだと思います」

魔法少女「不測の事態もあると考えれば、私が安易に犯人を追ってはいけないことぐらい理解できています」

警官「そうか。なら、どうして元気がなくなってたんだ?」

魔法少女「実は……試験に合格できないんじゃないかって思ってしまって……」

警官「……なんで?」

魔法少女「私は貴方に言われたとおり下心を捨てました。純粋に、ただただ純粋にお手伝いがしたかったんです」

警官「そうか」

魔法少女「でも、お役に立てるどころか、迷惑をかけてしまう始末……。これはきっと魔法の世界の神様が「お前は合格にはさせんぞ」って言っているんです……」

魔法少女「だから、もう私は奴隷確定みたいなものです。将来のことを考えると憂鬱になりますぅ……」

警官「奴隷か。俺にはよく分からないが、逃げられないのか?」

魔法少女「逃げられるわけないですよぉ!!! 魔法の世界のこと甘く考えないでください!!!」

警官「あ、ああ。悪い」

魔法少女「きっと貴族の社交場で裸にされて……。あぁー!!! 想像しただけで寒気がぁ!!!」

警官「今時、そんなことをするのか。なんというか前時代的だな」

魔法少女「どこの世界にも変態はいるんですよ。不合格ならそんな変態たちの慰めものになるんですぅ」

警官「……なんとか、できないのか?」

魔法少女「はい?」

警官「例えば……そうだな……。落し物を届ける……だけでは無理なんだよな……うーん……」

魔法少女「……」

警官「ん? なんだ?」

魔法少女「あれ? なんで真剣に考えてくれてるんですか?」

警官「は?」

魔法少女「ひぃ……おこらないでください……」

警官「お前があまりにも必死で、真剣だからだよ。魔法云々は信じていないけど、人の役に立てるようになるのはいいことだからな」

魔法少女「わぁ……」

警官「しかし、お前には制限が多いからな。これとっていっていい案は……」

魔法少女「あの、あのぉ……」

警官「なんだよ」

魔法少女「ありがとうございますっ。私、すっごく嬉しいんです!!」

警官「嬉しがる前に解決策を考えろ」

魔法少女「はいっ!! やっぱり私、諦めません!! 最後まであがいてやるますよぉ!!! 魔法少女らしく!!!」

警官「それはいいことだな」

魔法少女「えへへへ……」

警官「そろそろ巡回に戻るか。またな」

魔法少女「今日はありがとうございます!!! また差し入れいーっぱい、もっていきますからぁー!!!」

警官「無理はしなくていいぞ」

魔法少女「だいじょーぶです!! 魔法少女にかかれば、100万リットルも運べます!! しませんけど!!」

警官「はいはい」

「やばいって!! どうしよう!!」

警官「なんだ……?」

魔法少女「子どもの声ですね」

警官「どうした?」

「あ、お、おまわりさん!! あの、あの……!!」

男の子「はぁ……はぁ……」

警官「これは……」

「急に倒れて……それで……」

魔法少女「熱中症だね!! まかせて!! 今、魔法でこの公園を真冬にしてあげるから!!」

「おねえちゃん、そんなことできるの!?」

魔法少女「できるよ!! 魔法少女に不可能はないから!!! いくよぉ!!!」

警官「クーラーボックスから氷をだしてくれ」

魔法少女「あ、はい。ちょっと待ってください」

警官「救急車を呼ばないと……」ピッピッ

魔法少女「はい。氷です」

警官「助かる。これで動脈を冷やせば……」

魔法少女「……」

魔法少女「こっちです!! はやくぅ!!」

隊員「はい!!」

警官「到着したみたいだな。よく頑張ったな」

男の子「あ、ありがとう……」

隊員「この子ですか?」

警官「はい。応急処置はしました。よろしくお願いします」

隊員「ありがとうございます。あとのことは任せてください」

警官「みんなも暑い日はきちんと水分補給をすること。いいな?」

「はい!」

警官「よし。これからは気をつけろよ。いつでも助けてはやれないからな」

「ありがとう!! けいじさん!!」

警官「刑事じゃないけどな」

魔法少女「……」

警官「さて。巡回に戻らないと。お前もああならないように気をつけろよ」

魔法少女「あ、はい。わかりました」

交番

警官「すみません。遅くなりました」

先輩「よぉー。子ども助けたんだってな」

警官「偶々ですよ」

先輩「報告書、たのむわ」

警官「了解」

先輩「ふわぁぁ……。暇だなぁー」

警官「なら、仕事を……」

魔法少女「あの!!!」

先輩「おぉ!? ど、どうした?」

警官「アルバイトは?」

魔法少女「かっこよかったです!!」

警官「は?」

魔法少女「それがいいたくて!!! さっきは言えませんでしたから!!!」

警官「そ、そうか。わざわざありがとう」

魔法少女「はぁ……すごいですね……」

警官「どうした?」

魔法少女「貴方は魔法少女でもないのに人の役に立っています。流石、プロです」

警官「あの程度の応急処置は警察官なら誰でもできる」

先輩「俺はできねーぞ」

警官「先輩……」

魔法少女「魔法なんて、この世界には必要ないのかもしれないですね」

警官「……なに?」

魔法少女「それでは失礼します!!」

警官「おい」

先輩「行っちまったな」

警官「なんだったんだ」

先輩「お前に惚れたんじゃねえの? うらやましいねぇ」

警官「仕事してくださいよ」

先輩「はいよぉー」

別の日

魔法少女「アイスコーヒーいれましたよー」

先輩「まってましたぁ!!」

魔法少女「どーぞ」

先輩「いつもすまねえなぁ」

魔法少女「いえいえ。私にできることはこれぐらいですからぁ」

先輩「そんなことねえよ」

魔法少女「はい、どうぞ」

警官「ありがとう」

魔法少女「さてと、お掃除しますね」

先輩「よく働くな。無給で」

警官「そう思うならもう来るなって言ったほうがいいですよ。もう完全に公園からここに拠点を変えてますから」

先輩「お前から言えよ」

警官「言えるわけないでしょう」

魔法少女「らんらーん」ザッザッ

先輩「――おい。2丁目で引ったくりだってよ。いくぞ」

警官「了解」

魔法少女「お気をつけて!!」ビシッ

警官「帰ってもいいからな」

魔法少女「いえ!! 留守番することが私の役目ですから!!!」

先輩「頼もしいなぁ。怪しい奴は魔法で一掃してくれていいからな」

魔法少女「はいっ」

警官「……行ってくる」

魔法少女「がんばってくださいね!!」

警官「ああ」

先輩「帰ったらメシにしようぜ」

魔法少女「いいですね!! 私、しょうゆラーメンがいいです!!」

先輩「オッケー。おごってやる」

魔法少女「わーいっ。たのしみー」

警官「先輩、早くしてください」

魔法少女「ふぅー……。つかれたぁ」

魔法少女「よしっ。ここを守ります」

魔法少女「……」

魔法少女「はぁ……」

おばあさん「すみません」

魔法少女「あー!! おばあちゃん!!」

おばあさん「あら、貴女だけなの?」

魔法少女「事件があったみたいで、今出動しました。ささ、外は暑いですから、中へどうぞ」

おばあさん「ありがとう。それじゃ、失礼します」

魔法少女「今日はどうしたんですか? また道がわからなくなったんですか?」

おばあさん「違うの。前、よくしてくれたお礼がしたくてね」

魔法少女「そんな!! 施しを受けるほどのことはしていませんから!!!」

おばあさん「そういわないで。受け取って」

魔法少女「でもぉ……勝手に受け取ったら怒られそうで……」

おばあさん「これは私が貴女にプレゼントしただけだから」

魔法少女「わかりました。では、私もおばあちゃんに、冷たいお茶をあげます」

おばあさん「あら、いいの?」

魔法少女「帰路の途中で飲んでください。暑いですから」

おばあさん「うれしいわ。ありがとね」

魔法少女「あの、この包み、開けてもいいですか?」

おばあさん「ええ、どうぞ」

魔法少女「それでは、失礼して……」ゴソゴソ

魔法少女「これは……!!」

おばあさん「お守りよ。よく効くって評判のところでもらってきたの」

魔法少女「いいんですか!? こんなゴッドパワーが内包された貴重品を戴いても!!」

おばあさん「当たり前よ。あのお二人の分もあるの。渡しておいてくれる?」

魔法少女「わかっりました!! 責任をもってお預かりします!!」

おばあさん「うふふ、ありがとう」

魔法少女「うれしいなぁ。このような神々しい品をもらったの初めてです」

おばあさん「親切にしてくれた人にお礼をしないとね。罰が当たるもの」

魔法少女「親切なんて……わたしは……」

おばあさん「ただ親切にされたから嬉しかったわけじゃないのよ」

魔法少女「え? どういうことですか?」

おばあさん「貴女があんなにも一生懸命になってくれたことが嬉しいの」

魔法少女「そんなの一生懸命にもなりますよ」

おばあさん「普通はあんなに真剣にはなれないわ。貴女みたいな人は初めてよ」

魔法少女「ど、どうも……」

おばあさん「いつかは警察官になろうと考えているの?」

魔法少女「え? いえ、私はその魔法少女ですから……将来的には魔女に……」

おばあさん「あらあら。魔女? 占い師ってことかしら?」

魔法少女「でも……私……多分、ダメなんです……」

おばあさん「どうして?」

魔法少女「どんなに頑張ってもあの人みたいに他人の役に立てなくて。魔法少女でもないのに、あの人はすごいんです。それこそ魔法のように涼しい顔で助けるんですよ」

おばあさん「おまわりさんのことね?」

魔法少女「はい。魔力を持たない人でもできることなのに、魔法少女の私はできないんです。だから、もう半分は諦めてて……」

おばあさん「よくないわ。諦めちゃダメよ」

魔法少女「でも……」

おばあさん「貴女はなんでも成し遂げることができるわ。大丈夫よ」

魔法少女「そうでしょうかぁ……」

おばあさん「他人のためにあれだけ真剣になれたんだから、自分のためならもっと、もっと真剣になれると思うわ」

魔法少女「自分のため……」

おばあさん「結局ね、人は自分のためだから頑張れるの。守りたいものがあったり、譲れないものがあったりしても、それはやっぱり自分のためだもの」

魔法少女「そうかもしれません。だけど、私に残された時間もわずかです。どう頑張っても……」

おばあさん「それはどういう……」

魔法少女「もう10年です。10年間も頑張ってきました。色んなことをしました。それでも結果は出なかったんです」

おばあさん「貴女……」

魔法少女「そして、あの人の凄さを目の当たりにしました。私ではダメなんですよ」

おばあさん「……」

魔法少女「ごめんなさい。折角励ましてくれたのに……」

おばあさん「それじゃあ、諦めてみるのもいいかもしれないわね」

魔法少女「え!?」

おばあさん「無理なことを続けても仕方ないもの。時間の無駄よ。青春は無限じゃないからね」

魔法少女「は、はい……」

おばあさん「魔女がダメなら、ほかのことを目指してみればいいんじゃないかしら?」

魔法少女「ほ、ほかなんて……」

おばあさん「貴女は若いもの。何度でもやり直せるじゃない」

魔法少女「しかし、何を目指したらいいんですか? 私、他の道なんて考えたこともないんですけど」

おばあさん「それは私には分からないわ。貴女が選ばないと」

魔法少女「難しいですぅ」

おばあさん「うふふ。勿論、このまま諦めない道もあるでしょうけどね」

魔法少女「……そうですね。なんか、まだ道があるって考えたらちょっと楽になりました」

おばあさん「そう。よかったわ」

魔法少女「そうですよね!! 魔女だけを目指すこともないです!! ダメなら違うことを始めればいいんですよね!!!」

おばあさん「そうそう」

魔法少女「よぉーし!!! なんか、吹っ切れました!!! がんばるぞー!!!」

おばあさん「元気になってくれてよかったわ」

魔法少女「おばあちゃん、ありがとうございます。生きる気力をわけてもらった気がします」

おばあさん「こんな老いぼれから生気を奪わないでほしいわ」

魔法少女「しまった!! ちょっと待ってください!! 今、返しますから!! そういう魔法もあるんです!!」

おばあさん「冗談よ。こんな私でも若い人の力になれるなら、喜んでわけちゃうわ」

魔法少女「おばあちゃん……」

おばあさん「そろそろ行くわね。孫と会う約束をしているの」

魔法少女「送ってきますよ」

おばあさん「いいの。お留守番しているんでしょう?」

魔法少女「まぁ、そうですけど」

おばあさん「二人にもよろしくね」

魔法少女「はい!! わかりました!!!」

おばあさん「また、来てもいいかしら?」

魔法少女「いつでもどうぞ!! 待ってます!!!」

おばあさん「嬉しいわ。それじゃ、またね」

先輩「同一犯だろうな。原付の特徴が一致してる」

警官「盗難されたものじゃないんですか?」

先輩「早く屑をとっつかまえて欲しいぜ。今回も女性が怪我しちまったしなぁ」

警官「ですね……」

魔法少女「おかえりなさいませ!!! ご主人様!!!」

警官「な……」

先輩「どうした、やけに元気いっぱいじゃねえか」

魔法少女「第二の人生をメイドに見出そうかと思いまして」

警官「そ、そうか……」

先輩「魔法少女は卒業したのか?」

魔法少女「いえ。20歳になるまでは諦めませんよ。でも、今から準備をしておいてもいいかなと思いまして」

警官「諦めたら奴隷になるんじゃないのか?」

魔法少女「メイドとしてのスキルが高ければ多分、なんか、こう、紳士のところに勤められるかもしれないじゃないですか!!!」

警官「よく分からないけど」

魔法少女「さぁ、ご主人様ぁ!! なんでもおっしゃってください!!! エッチなこと以外はなんでもします!!!」

警官「なんでもしますといわれても、特にないけどな」

魔法少女「そんなこと仰らずにぃ」

先輩「肩でも揉んでくれるかぁ?」

魔法少女「はい! よろこんで!!」

警官「先輩、ふざけるのもいい加減にしてください」

先輩「いいじゃねえかよぉ。この歳でこんな若い娘にマッサージなんて金を払わなきゃ受けられないんだぜ?」

警官「ですから、貴方は立場というものを……!!」

魔法少女「こってますねー」モミモミ

先輩「いいぜぇ。うまいなぁ。これも魔法の力か?」

魔法少女「これは実力です!!」

先輩「そ、そうか」

警官「はぁ……。全く……」

ピリリリ……ピリリリ……

警官「はい。……え? 引ったくりですか? 今度は4丁目……はい……。被害者は60代の女性……名前は……」

魔法少女「……」

警官「……先輩。行きましょう」

先輩「あいよ」

魔法少女「あの……」

警官「なんだ?」

魔法少女「60代の女性って……」

警官「ああ……」

魔法少女「あの……このお守り……もらって……」

先輩「そうなのか。お礼、言っておかないとな」

警官「急ぎましょう」

先輩「おう」

魔法少女「私も行きます」

警官「来るな。邪魔だ」

魔法少女「行きます」

警官「おい……」

先輩「よせ。どうせ勝手についてくる。今は現場に急ぐぞ」

道路

魔法少女「……」

「みろよ。すげー血のあと」

「年配の人だったぜ。頭から血を流してて、すごかった」

警官「下がってください」

先輩「はいはい。見物するのはいいけど、マナーを守りましょう」

魔法少女「はぁ……はぁ……」

「数メートル引き摺られたみたいだな」

「犯行の瞬間を目撃した人がいました。被害者はバッグを中々離そうとしなかったようです」

「それでこんなことに……」

「重傷らしいですよ」

「おい。防犯カメラのほうはどうなんだ? 犯人がばっちり映ってるだろ?」

魔法少女「はぁ……はぁ……はぁ……」

警官「おい。もう見るな。帰れ」

魔法少女「私の……せい……私の……」

警官「なに言ってるんだ。お前の所為じゃない」

魔法少女「私が……お守りをもらって……生気まで奪ったから……」

警官「おい。落ち着け。だから来るなって言ったんだ」

魔法少女「……捜します」

警官「なに?」

魔法少女「犯人……捜してきます……」

警官「待て!!」ガシッ

魔法少女「……」

警官「言ったはずだ。そんなことはさせられない」

魔法少女「……どうしてですか?」

警官「お前の身になにかあったら……」

魔法少女「……私、魔法の世界から来た、魔法少女なんです」

警官「それがどうした?」

魔法少女「私だって魔法少女なんです!!!」

警官「お、おい。良いから、落ち着け。頼む」

「なんだ?」

「おい。どうした?」

先輩「な、なんでもないでぇーす」

魔法少女「確かにもうすぐ20歳です!! 魔力だってもう残り僅かです!!! できないことのほうが多くなってきましたよ!!!」

警官「こら、騒ぐな」

魔法少女「昔だったら時間だって止められました!!! 心を操ることだって簡単にできてました!!! 箒で空を飛ぶことだってできたんです!!!」

魔法少女「でも……でも……!! もうできないことのほうが多いんです!!!! だから、貴方にだって全然信じてもらえません!!!」

警官「お前……」

魔法少女「そんな私でもやれることだってまだ残ってます!!! まだスプーンぐらいは曲げれます!! コーヒーを美味しくすることもできます!!」

魔法少女「親切にしてくれた人を傷つけた犯人を探し出すぐらい簡単です!!!! 行かせてください!!! お願いします!!! ……お願いします」

魔法少女「私に……人を救わせてください……おねがい……します……」

先輩「お嬢……」

「なんの騒ぎだ!?」

警官「いえ、すみません。すぐに落ち着かせます。ほら、こっちこい」グイッ

魔法少女「いかせてください……わたし……でも……できるんです……できるから……」

警官「……」

魔法少女「ぐすっ……どうして……こんな……ことに……」

警官「少しは落ち着いたか?」

魔法少女「す、みません……とりみだして……」

警官「これで顔を拭け」

魔法少女「ありがとうございます……」

警官「……犯人の逃げた方向は向こうだ。あとここに原付バイクの特徴が書いてある」

魔法少女「え……?」

警官「これだけは約束してくれ。絶対に犯人を追い詰めるな。お前の仕事は犯人の居場所を突き止めることだ。いいな?」

魔法少女「い、いいんですか?」

警官「絶対に秘密だからな」

魔法少女「……はいっ!」

警官「頼りにしてる」

魔法少女「がんばります」

警官「行ってくれ」

先輩「おかえり」

警官「いえ」

先輩「お嬢はどこいったんだ?」

警官「家に帰ったんじゃないですか

>>117
投下ミス

先輩「おかえり」

警官「いえ」

先輩「お嬢はどこいったんだ?」

警官「家に帰ったんじゃないですか」

先輩「おいおい。俺に嘘が通じるとでも思ってんのかよ。舐められたもんだぜ」

警官「……すみません」

先輩「いったよなぁ。悪いことはしたくねえんだ。クビになんてなったらシャレにならねえからなぁ」

警官「分かってますよ。もしものときは俺が……」

先輩「だが、まぁ、今回はお嬢を帰すほうが悪だな」

警官「先輩、無理はしないでください。顔、引きつってますよ」

先輩「うるせぇ。男なら誰だって、正義のヒーローにはなりてぇだろ?」

警官「……そうですね」

先輩「かっこいいよなぁ」

警官「ええ」

先輩「お嬢のこと、ちゃんと守れよ。じゃないと容赦しねえからな」

「おい。もういいぞ。戻ってくれ。ご苦労さん」

警官「はい」

先輩「連絡は?」

警官「まだないですね」

先輩「よかったなぁ。電話番号交換しておいて」

警官「交換した覚えはないんですけど」

ピリリリ……ピリリリ……

警官「――見つかったか?」

『はい。見つけました』

警官「流石だな」

『マジカルダウジングは無敵ですから!!!』

警官「現在地を教えてくれ」

『はい!! ええと……』

警官「はやく」

『まってくださいよぉ……。あ、分かりました。いいますね』

住宅街

犯人「あのババア、結構もってたなぁ。しばらく遊べそうだ」

魔法少女「……待って」

犯人「あぁ?」

魔法少女「そのお金、返してください」

犯人「誰だよ」

魔法少女「でないと……」

犯人「殺されたいのかよ?」シャキンッ

魔法少女「ナ、ナイフなんかで……魔法少女を倒せると……でも……?」

犯人「……」

魔法少女「それ以上、近づいたらマジカルキャノンを撃ちますよ!!!」

犯人「……死ね」ダダダッ

魔法少女「マジカルぅぅぅ……!! キャノン!!!」キュピーン

警官「そこまでだ!!」グイッ!!!

犯人「が……ぁ……!? な、なんだてめぇ!!!」

警官「銃刀法違反の現行犯で逮捕する。余罪については署で吐くことになるだろうけどな」

犯人「て、てめぇ……!!」

警官「ふんっ」グイッ

犯人「あががが……!! いてぇ!!」

魔法少女「怖かったぁ……」

先輩「怪我はないか?」

魔法少女「はい! この通り、なんともないです!!」

先輩「一般市民を囮にしたなんてバレたら、大問題だな……」

魔法少女「そんなことにはなりません。私が無理に提案したことですから」

先輩「そんなに役に立ちたかったのか」

魔法少女「はい。どうしても全てをお二人に任せたくはなくて」

先輩「搬送先の病院は、交番の近くのところだ。行くか?」

魔法少女「はい!! 行ってきます!!!」

先輩「病室は603だってよー」

魔法少女「わかりましたぁ!!!!」

刑事「引き渡してもらおうか」

警官「どうぞ」

犯人「けっ……」

先輩「解決してよかったですなぁ」

刑事「……またお前か。こんなことをしているから上にいけないんだぞ」

先輩「うっせぇ。俺は町のおまわりさんが性に合ってんだよ」

刑事「お前とは一緒に仕事をしたかったが。どうやら、無理そうだな」

先輩「はよいけ」

警官「先輩の知り合いですか?」

先輩「同期だ」

警官「そうですか。それより、またって言ってましたけど?」

先輩「あれぇ? 知らないのか? 俺、昔はいつも勝手に捜査して被疑者あげてたんだぜ?」

警官「交番勤務なのにですか……?」

先輩「あっはっはっは。すげぇだろ? 俺にだって、貫きたい正義はあったんだよ」

警官「ええ……。尊敬しますよ」

病院

魔法少女「……あのぉ」

おばあさん「あら。いらっしゃい」

孫「おばあちゃん、もしかして、この人が?」

おばあさん「そうよ」

魔法少女「大丈夫ですかぁ?」

おばあさん「平気よ。命に別状はないって」

魔法少女「よかったぁ。これ、取り戻しました」

おばあさん「お金……。あなた……」

魔法少女「仇はとりました」

おばあさん「すごいわね……」

孫「ありがとうございます。祖母のために」

魔法少女「い、いえ。私がおばあちゃんから生気を取ってしまったのも悪かったんです」

孫「あははは。おばあちゃんの言うとおり、面白い人ですね」

魔法少女「え? あ、そうですか? 魔法少女だからですね、きっと。あははは」

おばあさん「貴女はやっぱり、すごいわ。夢は諦めちゃダメよ」

魔法少女「いえ。諦めました」

おばあさん「え……?」

魔法少女「もういいんです」

おばあさん「どういうこと?」

魔法少女「夢よりももっと大事なことがありましたから」

おばあさん「そ、そうなの」

魔法少女「はい!」

おばあさん「……また、会える?」

魔法少女「勿論です。それでは失礼しますね」

おばあさん「ええ……。体には気をつけるのよ」

魔法少女「はいっ」

孫「不思議な人だね……」

おばあさん「そうでしょう? とっても魅力的で……。あら? 体の調子が……。あら……足が動くわ……」

孫「えぇ!? 骨折してたのに!?」

交番

先輩「始末書おおいなぁ。代筆してくれよ」

警官「は?」

先輩「おこんなよぉ。冗談だろ」

警官「全く」

魔法少女「こんばんはー!!!」

先輩「いらっしゃい。ばぁさんは無事だっただろ?」

魔法少女「はい!! 元気そうでした!!!」

先輩「結構な重傷だって聞いたけど、タフなばぁさんだな」

魔法少女「そうですねー」

警官「……」

魔法少女「では、私はこれで!!」

先輩「今日はありがとよ。あれだけ活躍したなら試験も合格だろ」

魔法少女「はい!! もっちろんです!! 今までありがとうございました!!! さようなら!!!」ビシッ

警官「なに……!? 待て!!」

魔法少女「……なんですか?」

警官「もう会えないのか?」

先輩「……」

魔法少女「……試験は終わりましたから」

警官「冗談だろ?」

魔法少女「……」

警官「俺はまだ魔法なんて信じてない。今日のあれもダウジングだったわけだし、魔法なんかじゃないはずだ」

魔法少女「信じてくれないんですか?」

警官「当たり前だ。魔法も魔法の世界も俺は信じてない」

魔法少女「スプーン曲げたじゃないですか」

警官「あれだって手品の域を出てないだろ」

魔法少女「むぅー」

警官「……合格したのか?」

魔法少女「いえ。ルール違反をしたので、問答無用で不合格です」

警官「ルール違反……? まさか……」

魔法少女「きっとおばあちゃんとそのお孫さん、びっくりしてると思います。完治してますから」

警官「どうして……」

魔法少女「どうしてって、親切にしてくれた人にお礼しなきゃ、罰が当たりますから」

警官「……」

魔法少女「病人の治療は反則ですからね。そんな簡単なら試験にならないです」

警官「いいのか?」

魔法少女「悔いはありません。10年間の結果にしては上出来だと思います」

警官「一生奴隷になるんだろ?」

魔法少女「はい」

警官「それは……」

魔法少女「気にしないでください。私が決めたことですから」

警官「このままこっちには住めないのか?」

魔法少女「そんな選択ができるなら、良かったですね」

警官「行くのか……」

魔法少女「嫌だといっても連れ戻されます。仕方のないことなんです」

警官「俺が……」

魔法少女「ちょっとまったぁ!! やめてくださいよぉー!!! チョー恥ずかしいですよー!! それぇー!!! キャー!!」

警官「なに?」

魔法少女「どこまでヒーローになるつもりですかぁ! やめてください!!」

警官「お前だって嫌なんだろ!?」

魔法少女「嫌ですよ!!! ブタの怪物や触手に体を弄られるなんてぇ!!!」

警官「だったら!!」

魔法少女「……ありがとうございます。貴方は私にとって、最高にかっこいいヒーローです」

警官「……」

魔法少女「だけど無敵のヒーローでも、こればかりはどうにもなりませんから」

警官「そうか……」

魔法少女「……私は貴方にとって、ヒロインになれましたか?」

警官「え……?」

魔法少女「あ!? いえ、なんでもないです!! さようならー!!!」

警官「お、おい!!!」

警官「はぁ……はぁ……」

警官「どうして……どこにもいないんだ……。あいつ、あんなに足が速かったのか……?」

警官「いや……違うか……」

先輩「見つかったかぁ?」

警官「先輩まで出てきたらダメじゃないですか」

先輩「消えたのか」

警官「……みたいです」

先輩「いい子だったなぁ」

警官「謝りたかったです」

先輩「何に対して?」

警官「最初は頭がおかしいだけの痛い女だと思ってましたから」

先輩「あっはっはっは。まぁ、それは俺もだな」

警官「本当に魔法少女だったんですかね」

先輩「さぁな。結局、魔法らしい魔法はみてねえからなぁ。ばぁさんの怪我が完治してるなら、本物だろうけどよ」

警官「……」

数日後 公園

警官「あつぅ……」

警官「……」

警官「もう昼か」

警官「……帰るか」

先輩「よぉ」

警官「先輩。なにしてるんですか。巡回ルートが違うでしょう」

先輩「やっぱりいねえのか」

警官「ええ……。ダメですね。目撃情報もないですし」

先輩「お嬢の自宅も引越し済みだったしなぁ」

警官「……」

先輩「今度の休みに一杯どうだ?」

警官「いいですね。先輩のおごりですか?」

先輩「割り勘にきまってんだろぉ」

警官「そうですか……」

数ヵ月後 11月 公園

警官「すっかり寒くなったな……」

警官(あれから公園を見ることが多くなったなぁ……。もうどこにもいないのは分かってるのに……)

警官「さむ……。帰ろう」

女性「あのぉ……」

警官「はい?」

女性「……あの……おひさしぶりです……」

警官「ええと……。すみません。どちら様ですか?」

女性「わ、私です!! 魔法少女だった!!」

警官「は!? あ……。なんで、そんな普通の服装に……」

女性「満20歳になりまして。正式に奴隷になることが決定したんです」

警官「それを言いにこっちの世界に?」

女性「いえ、それだけじゃないんです……。奴隷になることが決まったので、次はご主人様を探しているんですぅ」

警官「ご、ご主人さま?」

女性「1ヵ月以内にこの奴隷を引き取ってくれる人を見つけないと、私は醜悪なモンスターの奴隷にされてしまうんですぅ……」

警官「……それで?」

女性「一生のお願いです!! 私を貴方の一生の奴隷にしてください!!! 私を助けるとおもって!!!」

警官「お前……。もしかしてただ引っ越しただけなのか? おばあさんの怪我も診察ミスだった可能性もあるのか……?」

女性「ちがいますぅ!! 私、魔法の世界からこっちにきたんですぅ!!!」

警官「あぁ、もう……。信じた俺がバカだったのか……。もう分からない……」

女性「あの!! 奴隷にしてください!! この際ですから、そのぉ……多少、エッチなことも……いいですけどぉ?」

警官「……今から家に帰るところだから」

女性「いいんですか!?」

警官「そういう意味じゃない!!」

女性「あの!! こちらの世界の料理も勉強したんです!! だから奴隷にしてください!! ご主人様ぁ!!!」

警官「奴隷とかいうな!!! 勘違いされたらどうするんだ!!!!」

女性「あーん。おねがいしますぅ」

警官「……勝手にしてくれ」

女性「わーいっ。ご主人様ぁ。これからよろしくおねがいしまーす」ギュッ


おしまい。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom