勇者「全てが終わり、滅び去ったこの世界で」魔王「ボクは君と旅をする」 (79)

勇者「やっぱりここにいたのか」


ボロボロの瓦礫と化した魔王城、壁は吹っ飛んでいるが辛うじて部屋と呼べるその場所で魔王は月を眺めていた

狼の耳と尻尾がゆらりと揺れ、美しい女性の顔が月に照らされて切なげな表情を湛えていた


魔王「君か。いや、君以外にいるわけないものね」


魔王は尚月を眺めたまま返事をした

他に音はない。魔物や人間、小鳥の声も風の音すらない

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405084161

魔王は尚月を眺めたまま返事をした

他に音はない。魔物や人間、小鳥の声も風の音すらない


勇者「そこから何か見えたか?」

魔王「…何も。…なんにも」


眼下に広がるのは木の一本、草の一つも生えていない不毛の地

それもつい最近までは美しい景色が広がっていたものだった

魔界も人間界も変わらない。美しい自然があった場所だった

今は、地平線の先まで赤茶けた大地のみが広がっている


魔王「失ってから初めて気づくなんて皮肉だね。こんな近くにあったのにさ…」

勇者「そんなものさ…何事もな」

魔王「…行こうか。夜も昼も変わらない」

勇者「ああ。いいんだな?」

魔王「うん、もう終わったよ」

勇者「…そうか」

勇者「…町の名残…か」


辛うじて舗装された道や古代遺跡のように崩れた建物が見える


魔王「ここも…昔は活気に溢れていたんだね」

勇者「ああ、つい数日前にはな」


そう言う俺たちの前で家だったものがさらさらと砂になって崩れる

魔王「…やがてここも何も無くなるんだね」

勇者「ああ、人がいた痕跡なんてすぐに薄れるものだ」


既に魔界と人間界の境界は消えていた。滅んでしまえばどちらも同じだ


魔王「ごめん…」

勇者「お前のせいじゃない。俺の罪だ」

魔王「いや、ボクのせいだよ…最初から全て」

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あれから何日も旅をしているが人間どころか魔物も小動物も、虫すら見かけない

いるわけがない。生きていられるわけがないのだ


勇者「冬眠してて助かったとか…」

魔王「だとしても出てきたら死ぬさ。どのみち、そんなものじゃ逃れられないよ」

勇者「…本当に、二人きりか」

魔王「うん、二人きりだ。この広い世界に二人きり…」


魔王が悲しそうに言う


勇者「身勝手なものだな、俺たちも…」


この期に及んで生きているものがいてほしいなんて

今更すぎる

願うには、俺たちの罪は重すぎる

勇者「…この町、原形を留めている」

魔王「毒素がここだけ弱いのかな」

勇者「それでも人間が生き残るには強すぎるな」

魔王「ちょうどいいや、この宿屋まだ使えるよ」

勇者「久々、いや最後のふかふかベッドか」

魔王「寝ていこう。疲れの知らない体でも寝ることはできる」

勇者「ああ」

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魔王「勇者、これでボクたちの戦いは終わる。どちらかが、滅びなければならない」

勇者「何でだよ!他に、他に方法は無いのか!」

魔王「無い。ボクが世界に手をかけるか、君がボクを殺して止めるか。それだけだ!」

勇者「違う!人間と魔物は分かり会えるはずだ!」

勇者「俺とお前がそうしたように!分かり会えたように!」

魔王「ダメだよ、決着はつけなくなちゃならない」

魔王「勇者と魔王の宿命に、君とボクの運命に」

魔王「君との友情に敬意を表して、全力をだそう。君も全力で来い」

勇者「…う、うおおおおおおお!」

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「…ろ」

魔王「起きろ!寝ている場合じゃないぞ」

勇者「え?うわっ」


宿屋が崩れ始めている

逃げなければ

…結局、町は崩れ去った

魔王「…ボクたちが、毒素を運び込んだのかな」

勇者「…だろうな」

魔王「…頑張って保っていたのに、ボクが…」

勇者「…いや、町は最期の役目を終えたんだ」

勇者「俺たちを最後の客として迎え、最期のおもてなしをして役目を全うしたんだ」


「旅人の休息の町、憩いの地アレスへようこそ」


そう書かれた色褪せた立て札がパキッと乾いた音を立てて割れた

ステイア高原


勇者「ここは突破するのに苦労したなあ」

勇者「あの頃はがむしゃらに戦っていた。それだけが唯一の道だと信じてさ」

魔王「今はどうだい?」

勇者「戦う敵も味方もいない今、悲しくもむなしくも感じるよ」

勇者「俺はいったい何をしていたんだ。俺がしていたのはただの殺戮だ」

魔王「…ボクもだ。全てが終わったから気づいた、戦うことの意味の無さを」

魔王「この結果を見て初めて」

魔王「もっと前に気づけたなら、あの時君の言うことを聞いていたなら、変わったのかな。この未来は…」

勇者「…さあな」

花の町「フロリアリーフ」

勇者「…ま、残っちゃいないか」

魔王「ここは?」

勇者「かつては美しく甘いこの世の楽園と言われていた花の都さ」


今となっては花どころかやはり雑草の一本も生えてない不毛の地となっているが


勇者「この辺りに住んでいるものは皆ここで結婚式をあげるんだ。花の飾りをつけて大地の女神と花の精霊の祝福を受ける」

勇者「見ず知らずだろうが外の人だろうが誰が式をあげても町の人たち全員で盛大に祝ってくれる良いところだよ」

魔王「さぞ素晴らしい光景なんだろうね」

勇者「ああ、俺たちが訪れた日も偶然あげててな。両親に反対されたもの同士で友人以外身内のいない式だったけど、その代わりとしても余りあるくらいに町の人たちが盛大に祝福してたよ」

魔王「ここは、そんなに沢山の幸せが詰まった場所なんだね」

勇者「ああ」

___
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勇者「素晴らしい町だな」

僧侶「ええ、ここは本当に沢山の者の祝福と幸福で満ちた素晴らしいところです」

魔法使い「…ここで結婚式をあげてみたいな」

勇者「そうだな、いつかそうなったら町の人にも負けないぐらい祝福してやるよ」

戦士「そうじゃねえだろバカ」

魔法使い「…」

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ごめん皆、ごめん、魔法使い…


魔王「…」

勇者「魔王?何しているんだ?」

魔王「ん、ちょっと待ってて」パアァ


暖かな光が魔王の手から放たれる

次の瞬間、花が咲き乱れた


勇者「あの時の…光景」


花の種類こそ違えど、この花々の美しさと鼻をくすぐる甘い匂いはあの時の情景を思い起こさせる

勇者「…涙、はは、いつぶりだろう…」


色々な感情が俺の中を駆け巡る

感動、後悔、哀しみ、罪悪感、そして

喜び


魔王「完全に毒素をガード出来ればいいんだけど、ボクの魔法じゃ二日間が限界だよ」

勇者「それでもいいんだ。それで…いい」

勇者「二日、見届けよう。この花の都の最期の姿を」

勇者「なあ魔王。お前さ、この旅が終わったらどうする?」

魔王「…生きるよ。殺した皆の分まで」

魔王「罪滅ぼしなんかボクにはする資格すらないのかもしれない。それでも、生き続けなきゃ、歩み続けなきゃいけないんだと思う」

魔王「何万年でも、何億年でも、一生罪を背負って、一生を罪に捧げて」

勇者「付き合うよ。俺も」

魔王「いいの?いつまでも終わらないかもしれないんだよ」

勇者「ああ、何億年でも何兆年でも付き合う」

魔王「…ありがと」

勇者「それに、いくら不死身といっても、いつかきっと朽ちる時が来る」

魔王「それまで二人きりか。世界を滅ぼした魔王と救えなかった勇者、まったくお似合いの二人だよ」

魔王「…ホント、お似合いだ」ギリ

_____
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勇者「くそ!何なんだよこれ!」


それは、全ての魔翌力を吸い上げ、全てを破滅へと導く者


魔王「世界が…終わる。これで…全て…終わり…」

勇者「そんな…こんなことが…こんなことが!」

戦士「勇者、倒せ!そいつを倒せ!」

僧侶「もう彼女はあなたの知っている人ではありません!殺さなければ!」

魔王「もう手はない。滅びのみだ」

勇者「う、うあああああ!」


俺は…出来なかった。殺せなかった。守りたかったんだ

その結果、魔王と俺だけが世界に取り残された

終わった世界に、取り残された

神秘の森


勇者「…悪い、少し寄り道していってもいいか?」

魔王「寄り道?」

勇者「ああ」


ここも、木々が全て枯れて森など微塵も残ってない


勇者「ここは俺が師匠と修行した森だ。思い出が沢山ある、輝かしい日々だった」

魔王「…羨ましいよ。ボクには、そういうものが何も無い…何も」


魔王の幼い頃の記憶は一つしかない

遠い昔、好きだった人と引き離された記憶

それが強すぎて他の物を追いやる

その後は、ずっと魔王として教え込まれ、叩き込まれた

アリス沖海岸


勇者「ダメだな。海も毒素に侵されてる」

魔王「予想はしていたけどね。この様子じゃ生き物も生きてないだろうね」

勇者「でもこの美しさだけは、何者にも汚せない」

魔王「…うん。綺麗だ」


自然と手を繋いでいる二人の前で海がきらめいた

まだ、自然の美しさは残っていた

勇者「なあ魔王、俺たちの旅に意味はあると思うか?」

魔王「ボクはあると思うよ。君と旅をすることに、世界を見ることに」

勇者「いや、そうじゃなくてさ。この旅の終わり、最終目的だよ」

魔王「…分からない。成功したところでただの自己満足で終わるかもしれない」

魔王「むしろその可能性の方が高いと思う」

勇者「そうか。そうだな、ただの自己満足…」


でもやりとげる義務が俺たちにはある

-始まりの町「コルク」-

勇者「…懐かしいなあ、ここは」

魔王「ここにも何か思い入れが?」

勇者「俺が育った故郷だ。あそこを飛び出してこの町に来て、母さんたちに拾われた」

勇者「本当の両親じゃなくても、俺に愛を注いでくれた。いい人たちだった」


その後、墓場にやって来た


勇者「…ここは、俺の幼馴染みの女の子の墓だ。大好きだった女の子の」


死体が眠っているわけではない

それでも

その墓は唯一の彼女がいた証だった

魔王(…この名前…どこかで…)


その墓標に刻まれた名に記憶を揺さぶられる魔王


魔王(確か…確か…)


勇者「…なあ、少し時間をくれないか?両親の墓を作ってあげたいんだ」

魔王「えっ、あ、うん。いいよ」

魔王「あ、いや、ボクも手伝うよ」

勇者「いや、これは俺一人でやりたいんだ」

魔王「…分かった。ボクは待ってるよ」

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拾われたあの日は今も鮮明に思い出せる。忘れるわけがない


「可哀想に、こんなに痩せ干そって。しかも傷だらけで」

勇者「く、来るな!近寄るな!」

「今までずっと大変な思いをしてきたんだね。大丈夫、私たちは味方だよ。何も怖くない」

「もう、誰も恨まなくていい。恐れなくていい。私たちが守ってあげる」


本当にいい人たちだ。あの人たちに拾われなかったら俺はこの勇者の力を人を守ることに使うなどしなかっただろう

恨みを抱いたまま、人間を誤解したまま、全てを破壊していただろう

あの人たちが俺を恐ろしい力を持った化け物から人間へ変えてくれたのだ

だから俺は墓を作る

死体が無くてもいい。意味が無くてもいい

あの人たちがいた証を残すために。感謝を形にするために


声が聞こえた

歌声だった。鈴のように透き通った綺麗な魔王の歌声


勇者「この歌…どこかで…」


そうだ、幼馴染みが口ずさんでいた癒しの歌

魂を癒す鎮魂歌。何故か幼馴染みの耳に残っていたという出所不明な歌

こんな歌詞だったのか

ここに眠る者たちは聞いているだろうか

この癒しの歌を

勇者「父さん、母さん、見守っていてください。俺は必ずやりとげます」


作り終えた墓に向かってそう言う


勇者「もういいよ。ありがとう」

魔王「そうか、それは良かった」

呪われた迷宮・最奥部


勇者「呼んでいたのはお前か」


そこには生き物がいた

初めて見た俺たち以外の生命

だが俺たちは助けに来たわけじゃない


魔王「哀れな君を解放しにきたよ」

「…た、す、けて…」

勇者「ごめんな、それは出来ない。俺たちは」

勇者「殺しに来たんだ」

それは不死身の呪いがかけられていた

そこに固定され、永遠に餓死寸前の苦しみを与えるたちが悪い呪い

しかも今は毒素のせいで尚苦しんでいるだろう


勇者「俺たちが毒素を払えるとしてもその後また食料が採れるようになるまで最低でも何百年もかかるだろう」

勇者「だから、そうなるくらいだったら今すぐに楽にしてやる」

魔王「せめて、最期の時だけは幸せに」


魔王がそいつの手を握る

幻惑呪文だ。今彼は一番幸せだった記憶と一番望んでいたものを見ているだろう

顔が安らぎに満ちる


勇者「ごめんな、"不死殺し"」


完全に命を絶つ技で[ピーーー]

痛みは無いだろう。でも殺されたことは分かっていたはずだ

それでも


「あり…が、とう」


そいつはそう言葉を絞り出した

それは不死身の呪いがかけられていた

そこに固定され、永遠に餓死寸前の苦しみを与えるたちが悪い呪い

しかも今は毒素のせいで尚苦しんでいるだろう


勇者「俺たちが毒素を払えるとしてもその後また食料が採れるようになるまで最低でも何百年もかかるだろう」

勇者「だから、そうなるくらいだったら今すぐに楽にしてやる」

魔王「せめて、最期の時だけは幸せに」


魔王がそいつの手を握る

幻惑呪文だ。今彼は一番幸せだった記憶と一番望んでいたものを見ているだろう

顔が安らぎに満ちる


勇者「ごめんな、"不死殺し"」


完全に命を絶つ技で殺す

痛みは無いだろう。でも殺されたことは分かっていたはずだ

それでも


「ありがとう」


そいつはそう言葉を絞り出した

勇者「あれで良かったのかな」

魔王「…正しいと信じて突き進む。それが君だったはずだよ」

勇者「…今はもう分からねえよ」

-名も無き村-

勇者「ここで魔法使いと出会った」

魔王「…ここでも少し留まっていくかい?」

勇者「いや、いい。ここで思い出すのはあいつの泣き顔だけだ」


魔法使いはこの村で酷い扱いを受けていてそれを俺たちが助けた。それだけだ…それだけ…

思い出すのは燃える村、悲鳴、笑い声

狂気、狂喜

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魔法使い「勇者…私…」

勇者「ごめん、俺には答えることは出来ない」

魔法使い「っ…」

魔法使い「…やはり、魔王ですか…」

勇者「え?」

魔法使い「…はやく魔王を倒して平和を取り戻したいですね」ニコッ

しまった↑のレスは過去だ

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-輝きの洞窟、最深部-


魔王「…すごい」

勇者「そうだろ。ここは地表から行ける場所で一番の最深部、それだけにここの景色は格別なんだ」


一歩前には巨大な穴があり、その下にはマグマ

その上には、それぞれ別々の色をしている巨大な水晶がマグマの明かりに当てられて燦然と輝いていた

さながら、それは水晶の形をしたオーロラ


魔王「…こんなものがあったんだ」

勇者「ああ、もうすぐ旅の終わりだ。その前に見ておきたかった」


大地の女神ユリアナよ、火の神ペレよ。俺に力を、勇気を

そう願うとマグマが答えるかのようにゴポゴポと鳴った

しかし、何も起こりはしなかった

いやはて
-最果ての世界-

海を渡り、船では越えられぬ魔の海域を魔法で越えた先にある孤島、失楽園

その島の地下深くに建てられた謎の遺跡の迷宮の最奥部

そこにあった旅の扉を潜った先にある世界


毒素が他のどこよりも濃く、太陽も星も月も何も無い暗黒の世界


それがここ、最果ての世界

この封じられた世界は何故作られたのか

それは最早明白だった

ここは、奴の世界

奴が住み着き、後に世界ごと切り離されて封じられた空間



邪神、魔神、悪神、生きる破壊因子、災厄そのもの、等様々に呼ばれている化け物

今は封印が解かれ、開いた扉から毒素を世界に撒き散らす奴をむしろ匿っている空間へとなってしまった


魔王「大丈夫かい?ボクが一人でやろうか?」

勇者「いや、俺がやらなきゃいけないんだ。今度こそ、倒す」

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魔王城付近-闇に囚われた町-

宿屋


戦士「ようやくここまで来たな、明日は決戦の時だ」

僧侶「これで、人々が救われる。明日、全てが終わるのですね」

勇者「まあ腹が減っちゃあ戦はできねえし。今夜はいっぱ食え」

魔法使い「…ねえ勇者、少し話があるの。二人きりで」

勇者「ん?」

-勇者一行が旅を始めてそれほど経ってない頃-


闇魔導師「魔王様、勇者たちはかなりの強敵のようですよ。各地を任せた魔物たちが次々とやられています」

魔王「そうか…」

闇魔導師「魔王様、私に任せてください」

魔王「何をだ?」

闇魔導師「勇者たちを一掃する手立てがあるのです」

-勇者一行が旅を始めてそれほど経ってない頃-


闇魔導師「魔王様、勇者たちはかなりの強敵のようですよ。各地を任せた魔物たちが次々とやられています」

魔王「そうか…」

闇魔導師「魔王様、私に任せてください」

魔王「何をだ?」

闇魔導師「勇者たちを一掃する手立てがあるのです」

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魔王「…ということだ。すぐにこの計画は中止しろ」

闇魔導師「…く、くくく、くはははは!知ってしまいましたか。ぬかったなあ、文献は削除するべきだった。計画がバレてしまった!くはははは」

魔王「まさか…最初から全て分かっていて、奴を復活させる気だったのか」

闇魔導師「その通り!奴の力を借りて世界を滅ぼす計画ですよ!」

魔王「止めろ!あれを制御する術は無い!人間界どころか魔界も何も、全て滅びる!」

闇魔導師「それでいいんですよ!全て滅びてしまえばいい。私はそのために生を受けた!そのためだけに動いてきた!そしてそのためだけに死ぬ!」

闇魔導師「私も、この世界と心中する」

魔王「いや、死ぬのは君だけだ。今すぐ!」

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勇者「話って何だ?」

魔法使い「…た、単刀直入に言います」

魔法使い「…好きなんです!この戦いが終わったら一緒に暮らしてください!」

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魔王「勇者?」

勇者「…あぁ、すまん。思い出していたんだ、皆を思い浮かべると勇気が出る気がしてさ」

魔王「…行こう」

勇者「おう」


全てを終わらせるんだ

-最果ての世界、最期の地-


勇者「久しぶりに会ったのに悪いんだけど死んでもらうよ」

勇者「魔法使い」

魔法使い「…勇者」

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魔法使い「…好きなんです!この戦いが終わったら一緒に暮らしてください!」

勇者「…悪いが」

魔法使い「勇者、本当は…私怖いんです。とても…だけど、あなたが好きと言ってくれれば、嘘でもいいんです。嘘でも…」

勇者「…悪い。俺はまだ幼馴染みを愛しているんだ。嘘でも言えないよ」

魔法使い「…」

勇者「ごめんな」

魔法使い「…魔王、ですか」

勇者「え…?」

魔法使い「私、知っているんですよ。あなたが魔王と秘密裏に会っていること」

勇者「…知られていたか」

魔法使い「そうですよね!可愛かったですもんね!」

勇者「違う、俺が愛しているのは…今も昔も変わらない、ずっと幼馴染みただ一人だ!」

魔法使い「…」ギリ

魔法使い「…明日は決戦です。情は捨ててくださいね」

勇者「和平交渉を申し出るつもりだ。でも、いざというときは覚悟している。安心してくれ」

魔法使い「…そうですか」

次の日、魔王城

魔王「クソ、闇魔導師め、どこに逃げた」

側近「魔王様、勇者たちが来ました」

魔王「…ボクが相手をする。早く勇者たちを倒して闇魔導師の方に集中しよう」

・・・

魔王「来たんだね」

勇者「ああ」

勇者「聞いてくれ。俺はお前と戦う気は無い!和平を申し出たい!」

魔王「ダメだ」

勇者「っ、何故だ!俺たちはわかり会えたじゃないか!俺は、俺は…」

魔王「勇者、これでボクたちの戦いは終わる。どちらかが、滅びなければならないんだよ」

勇者「何でだよ!他に、他に方法は無いのか!」

魔王「無い。ボクが世界に手をかけるか、君がボクを殺して止めるか。それだけだ!」

勇者「違う!人間と魔物は分かり会えるはずだ!」

勇者「俺とお前がそうしたように!分かり会えたように!」

魔王「ダメだよ、決着はつけなくなちゃならない」

魔王「勇者と魔王の宿命に、君とボクとの運命に」

魔王「君との友情に敬意を表して、全力をだそう。君も全力で来い」

勇者「…う、うおおおおおおお!」

ガキン、キィン


戦士たちは手を出すなと言われていたわけではない

しかし、勇者の気持ちを察して一対一にしたまま見守っていた

だが、魔法使いは黒い気持ちで心が満ちていっていた

何故私じゃなくてあいつなの

人間ですらないあんな奴に奪われるなんて

私に興味が無いなら何で助けたりなんかしたの

何で優しくなんかしたの

あのまま放っておいてほしかった

あの村の奴等を殺して私も死ぬ。それで良かったのに

愛したくなかった。こんなことになるなら、出会いたくなかった


勇者、勇者勇者勇者勇者勇者勇者
魔王め

魔王め魔王め…

恨む、怨む、自分は幼い頃から全てに忌み嫌われ、恨まれ

そして全てを怨んで来た

ようやく許されたと思ったのに、幸せになれると思ったのに

滅んでしまえばい

魔王も

勇者も

他の奴等も

世界ごと


滅びてしまえば良い

「準備は整った」


不気味なおどろおどろしい声が響く

見上げると人…いや、魔物が空に浮いて立っていた


魔王「闇魔導師!」

勇者「おい、余所見していr」

魔王「いや、一時休戦だ。あいつを倒すのを優先しないと世界が滅ぶ」

勇者「は?え?」

闇魔導師「」ニヤリ

魔王「ヴィア・リストグレイヴ!」


全てを灰にする強力な炎の龍が闇魔導師に向かって高速で放たれる


勇者「ダメージ…零」

闇魔導師「無駄ですよ、これが見えませんか?魔王様」

魔王「闇の八重結界…何故そんな古代の強力な呪術を…そうか、見たのか」

闇魔導師「ええ、図書館の隠し部屋の更に隠し戸の中…封じられた魔導書。すべて覚えました」

闇魔導師「さあ、見ていなさい。世界が滅びる様を!」

勇者「ヴィスト・ギアジーガ!」

魔王「レ・ミストリミック」

闇魔導師「ははは、無理ですよ。古代の魔法にあなた方の魔法は効きっこない!」

魔王「…君は馬鹿か?邪神を復活させるにはまだ足りないものがある。まだボクたちに勝機はあるんだよ」

闇魔導師「いえ、揃っているんですよ。この場に」

闇魔導師「そう、邪神の復活に必要な最後の一つは。強い恨みと憎しみ、心の闇を持つ魔法に長けた者、運の良いことに勇者一行が連れてきてくれた!」

勇者「えっ…そんな奴…まさか、魔法使い!?」

闇魔導師「そうだ!既に全て終わらせた!さあ」

闇魔導師「終わりの始まりだ!」


闇魔導師「魔の凶皇邪神アザトホートよ!いや、人間、魔法使いよ!貴様の思うがままに、全てを滅ぼしてしまえ!」

僧侶「生きて…未来に、繋げて…」

そして、全てが滅んだ。魔王は部下をきちんと把握しきれてなかった自分のせいだと責めた

俺も魔法使いの心の闇を振り払ってやれなかったんだ…

だが、俺たちは生きている。生かされた

世界に毒素が撒かれようと食糧がなくても、生きている

全てはこの時のため

勇者「驚いたか?何故俺たちが生きているかって。お前がこの住み処に戻った後だ、本当は生かされていたんだよ」

勇者「僧侶が、自信の肉から命から、魂までも!魔力に変換して魔法を放ったんだ。全てから守ってくれる究極の防御魔法を」

勇者「お前が垂れ流す毒素も、魔法も、物理さえ、攻撃全て俺たちには効かない!」


僧侶…お前本当にすごかったよ。こんな完璧な魔法、歴史を紐解いても誰も作ることなんて出来てねえぞ

勇者「今度こそ、お前を…倒す!」


魔法使い、今解放してやるからな


邪神「ギョオオオオオ」


槍となった触手がスコールのように勇者に降り注ぐ

避ける必要も振り払う必要も、ガードする必要すらない

全て俺の寸前で止まる


勇者「無駄だよ。お前じゃもう俺たちは殺せない、詰みなんだよ」

勇者「俺がお前の目の前に立った時点でな」

邪神「…」


邪神が姿を変える。この期に及んでまだ何かする気か?


魔法使い「勇者…」

勇者「っ」


邪神は姿を変え、魔法使いを象る

うわ、>>55から現在だった

魔王「勇者!惑わされるな!あの時もそれで倒しきれなかったんだろ!割りきれ!そいつは君の知っている彼女じゃないんだ!」

勇者「大丈夫、分かっている。分かっているから…手を、出さないでくれ…覚悟は、してきたんだ!」


魔法使い「勇者…」

勇者「違う、違う、お前は魔法使いじゃない!」

魔法使い「…何で私を選んでくれないの」

勇者「っ…」

魔法使い「私は、君を愛している。ねえ、お願いだよ。君の幼馴染みは死んだの!」

勇者「…違う…違うんだ」


剣を振りかぶる


魔法使い「過去なんて見ないでよ!私を見てよ!」


勇者「違う!」

そう、違うんだ

思い込んでいただけなんだ

幼馴染みは死んでなんかいなかったんだ


あの日、あいつは連れ去られていたんだ

魔物に


-ボクは昔好きな人から引き離されたんだ-

可愛く美しい女の子、笑顔が素敵で時々切なげな顔をする女の子

両親は無く、気づいたときには一人だったという

覚えているのは唯一、母親らしき人物が歌ってくれたであろううろ覚えの癒しの歌


-この名前、どこかで…-

勇者「違う!俺が見ているのは…」


幼馴染み…


勇者「昔からただ一人っ」


狼の耳と尻尾を生やした不思議な女の子、幼馴染み


勇者「隣にいるこいつだけだあああ!」


邪神のコアをバリアごと強力な一撃で貫く

魔法使いが、最後に口を開く
そこから紡ぎだされる微かな言葉は俺の耳にきちんと入った


魔法使い「……バイ…バイ」





勇者「…じゃあな…」

魔王「…遅いよ」

勇者「お前最初から知っていて黙っていたな」

魔王「さあね」


魔王の狼の耳と尻尾が揺れ動く

魔王「ねえ、見てよ。空が晴れていく。毒素が消えたんだ」

勇者「ああ、これでまた生命が生まれるようになる」

魔王「…それまでにどれだけの時間がかかるだろうね」

勇者「さあな。でも時間は無限にあるさ、俺たちが望むなら」

魔王「いつか朽ちる無限か。それまで、どうしている?」

勇者「言ったろ?俺はお前について行くよ。お前はどうする?」

魔王「生きる。生きて、次の世代に繋げるんだ」

勇者「俺も付き合う。絶対にこの生命の星を再生させよう」

勇者「何千年かかろうと」

世界は創造されたばかりの頃、荒れ、毒が満ち、生命の無い死の世界だった
彼等は長い長い時をかけて世界に緑を芽生えさせ、少しずつ生命が住める環境へと変えていった
そうして彼らは世界に安寧と秩序をもたらすと我等に言った

これからはこの世界の人々が代わりに世界を管理していくのだ。と

その後彼らは砂となり、散りとなり、風に溶けて世界に溶けていった

創世記、第一章、第一編より

勇者と魔王は混沌とした初期の世界を秩序へと導いた神の使徒として次の時代の世界の神話にその存在を残した


命は受け継がれる。例え存在の証拠が消え失せようと、何もかもが塵になろうと何らかの形で確かに存在したと跡を残して、次へと受け継いでいく

これは神話の時代より更に前の時代の物語

まだ魔法が大気に満ち、人間と魔族が世界の支配権を巡って争っていた時代

勇者と魔王が存在した時代

                             オワリ ハジマリ
その時代の最後の勇者と最後の魔王が紡いだ、零から零に至る物語

ここまで読んでいただきありがとうございます
普段は

勇者と魔王♀のほのぼのな日常
勇者と魔王♀のほのぼのな日常 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401794670/)

↑こんな感じの萌えSSを書いており、シリアスはものすごい久々だったりする

>>68->>71が蛇足になってないかちょっと心配である

はあ、現在と過去間違えたり…やっちまった部分も多いな

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