勇者「ダジャレを作ったのは誰じゃ?」(35)

勇者の家──

母「勇者」

母「朝よ、起きなさい」ユサユサ…

勇者「ん……」ムニャ…

勇者「あ……もう手裏剣か……」

母「へ?」

勇者「ようするに、“もう手裏剣”から“もう忍具”で“もうにんぐ”になって──」

勇者「モーニング……つまり朝ってこと」

母(この子はいつもこんなことばかりいって……)

勇者「いただきま~す」

母「今日はいよいよ国王陛下に謁見して、魔王討伐の旅に出る日ね」

父「親としては、お前を旅立たせるのは心苦しいが……」

父「宮廷魔術師様に、勇者の素質があると占われてしまったのだ」

父「なんとか……やり遂げてくれ」

勇者「ついに俺が旅立つ日がやってきたのか……」

勇者「超ショック!」

勇者「朝食時だけにね」モグモグ…

父(本当に大丈夫だろうか……)

母(不安だわ……)

城下町──

町民「やぁ、勇者君!」

町民「いよいよ魔王討伐の旅に出るんだってね。これから城に向かうのかい?」

勇者「ええ、白い城に向かいます」

町民「君は人類希望の星だからね、応援しているよ!」

勇者「人類のスターとして、冒険をスタートしますよ」

勇者「まぁ加勢などいりませんので、任せて下さい!」スタスタ…

町民(どうも彼と話していると、気が抜けてしまうよ……)

城──

国王「おお、よくぞ来てくれた勇者よ」

国王「ここに旅の準備金と装備を用意した」

国王「辛く苦しい旅になるだろうが……どうかよろしく頼む」

勇者「ええ、覚悟しています。五という字を書くのは得意ですし」

勇者「それに……料理王の頼みなら、引き受けないわけにはいきませんしね」

国王「料理王……? ワシのことか?」

勇者「だって、国王陛下は“コック王”ですからね!」

国王「はぁ……」

国王「と、とにかく、武運を祈っておるよ」

勇者「魔王なんかブーンと投げ飛ばしてやりますよ」

大臣「あと私からも一つ」

大臣「王国の兵は各拠点の防衛にかかりっきりで、君に兵を貸すことはできないが……」

大臣「実は、城下町の酒場に『勇者の協力者募集』の貼り紙をしておいた」

大臣「おそらく君の助けになるような、腕自慢が集まっているはずだ」

勇者「酒場ですね? ありがとうございます!」

勇者「さすが大臣、大事んな情報を持っておられる!」

勇者「では!」シュタッ

大臣「…………」

国王「本当に、彼に勇者の素質があるのだろうか……?」

大臣「さぁ……」

酒場──

マスター「おう、待っていたよ、勇者さん」

マスター「三人ほど、あんたに協力したいって腕自慢が集まってるぜ」

勇者「いや、俺が求めているのはむしろ足自慢だ」

マスター「へ?」

勇者「だってここはサッカー場だろう? ……酒場だけに」

マスター「…………」

マスター「あ、え、あの……えぇと」

マスター「と、とにかく、あっちの三人が君の仲間だ」

マスター「いずれも兵100人に勝る価値を持っている」

勇者「ひゃっ、9人!?」

マスター(……めんどくさい奴だな)

戦士「おう、俺は戦士だ!」

戦士「ここらで一気に名を上げるチャンスが欲しくてな!」

戦士「今回アンタに同行させてもらうことにした!」

戦士「剣の腕なら、だれにも負けねえ!」

勇者「ふうん、君は剣を使うのか」

勇者「だったらなるべく慎重に、静かに戦ってくれよ」

戦士「へ? ……なんで?」

勇者「だって、剣はそーっど扱わないと。そーっどね」

戦士(な、なんだこいつ……)

僧侶「私は僧侶。女ですが回復魔法が得意なので、きっと力になれます!」

僧侶「どうぞよろしくお願いします!」

勇者「へえ、回復が得意なんだ」

僧侶「はい!」

勇者「つまり、潮干狩りが得意、と」

僧侶「え……? どうして潮干狩りが出てくるんですか?」

勇者「“貝福”つまり“貝の福”っていえば、潮干狩りで貝を見つけることじゃない!」

僧侶「んん、ん……?」

僧侶(これは……なんとも奇妙な方ですね)

魔法使い「ボクは魔法使い!」

魔法使い「ほとんどの属性の魔法を操れるけど、特に炎魔法が得意だよ!」

勇者「ふうん、炎ねえ……」

勇者「つまり、右下のちょこっと出てる部分を使うわけ?」

魔法使い「へ……?」

勇者「ほら、『ほ』っていう字の右下はシッポみたいになってるじゃない」

魔法使い「え、え……?」

勇者「だって君は“ほのシッポ”……“ほの尾”使いなんでしょ?」

魔法使い「えぇっと……」

魔法使い(意味が分からない……なんなのこの人……)

町の出入口──

勇者「さあ、冒険の始まりだ!」

勇者「苦しい戦いがやってくるし、四人で笑い合っていこう!」

戦士「おう、そうだな!」

僧侶(すばらしい心意気ですね。安心しました)

魔法使い(なんだ、ちゃんと勇者らしく仕切れるんじゃないか)

勇者「フォーフォッフォッフォッフォ!」

戦士「!?」ギョッ

戦士「ちょ、ちょっと待て。なんだよその笑い方は?」

勇者「四人だからね、フォーってね」

僧侶(あらら……)

魔法使い(やっぱり……こういう人なのか)

村──

村長「これはこれは勇者様」

村長「ようこそお越し下さいました」

勇者「……うん」

勇者「なんていうか、性欲を刺激される場所だね、ここは」

村長「……性欲、ですか?」

勇者「うん、ムラムラするよ……村だけに」

村長「……え?」

僧侶「な、何でもありません! さ、村で少し休みましょう!」

戦士「そっ、そうだな!」

魔法使い「そうしよう、そうしよう!」

勇者「休憩時間は九京時間もあればいいかな」

森──

ゴブリン「どりゃあっ!」

ザシッ!

戦士「ぐっ……つええ!」ヨロッ…

勇者「さすが、体の5%がリンでできているだけのことはあるな」

ゴブリン「は……?」

勇者「“5%がリン”……つまり“五分リン”だ」

ゴブリン「……なにそれ」キョトン…

戦士「チャンスッ!」ダッ

魔法使い「炎よ!」ボッ…

ザシュッ! ボワァッ!

ゴブリン「ぐわあああああっ!」

町──

勇者「落ちついた人々と落ちついた町並みが、マッチした町だな~」

町長「ありがとうございます!」

僧侶(本当に褒めてるわけじゃないんでしょうけどね)

勇者「ところで、町長はバタフライが得意らしいね」

町長「バタフライって泳ぎのですか……? なぜ?」

勇者「蝶々、だけにね」

町長「え……?」

戦士「さ、さぁ~て、この町は店も豊富だし、武器でも調達しようぜ!」

魔法使い「そうだね!」

僧侶「そうしましょう!」

勇者「不気味な武器を買おう」

洞窟──

オーク「ブヒヒ、ここは通さんぞ!」ズラッ…

勇者「非常に多くのオークに囲まれたか……」

戦士「どうする、勇者!?」チャキッ

勇者「う~ん……」

勇者「ここは洞窟だし、シューズについて尋ねてみるか」

僧侶「へ?」

勇者「どう? 靴」

オーク「……ブヒ?」

戦士(おおっ、勇者のおかげでスキができた!)

戦士「よし、逃げるぞ!」ダッ

魔法使い「うん!」ダッ

オーク「ああっ、しまった!」

都市──

市長「勇者様、あなたの活躍は存じ上げております!」

市長「我々にできることがあれば、ぜひ協力させて下さい!」

勇者「そんなに俺たちに協力したいのかい?」

市長「はい!」

勇者「そんなに俺たちに協力していのかい?」

市長「(なぜ二回いう?)はい!」

勇者「そんなに俺たちに協力してぃのかい?」

市長「(なぜ三回もいう?)は、はい!」

魔法使い「あ、あのっ! いくらか軍資金を工面していただけると助かります!」

市長「え、あ……分かりました!」

勇者「そんなに俺たちに協力シティのかい?」

古代城──

キィンッ! ──ザシュッ!

戦士「ぐっ……!」

暗黒騎士「我は魔王様の手によって、太古の昔よりよみがえりし暗黒騎士!」

暗黒騎士「今の軟弱な人間では我の相手にはなれぬ!」

勇者「なんじゃ、苦戦してる!」

僧侶「ま、まずいです! このままだと戦士さんが!」

魔法使い「あの特殊な鎧には、魔法も通じないし……どうしよう!」

勇者「う~ん、騎士ってのはこうでナイトな」

暗黒騎士「……なんだそりゃ」ガクッ

勇者「戦士、戦死するなよ!」

戦士「誰がするかあああああっ!」ダッ

暗黒騎士「うわっ!?」

ザシュッ!

暗黒騎士「ぐおおっ!?(気が抜けたところに、強烈な一撃、を……!)」ガクッ…

エルフ村──

エルフ長老「ほう、珍しいこともあるもんじゃ。人間の来客など何十年ぶりか」

エルフ長老「ここはエルフの村ですじゃ。どうぞゆっくりしていって下され」

勇者「ふむ……エルフ」

勇者「つまり──」

勇者「A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、M、N、O、P、Q、R、S」

勇者「T、U、V、W、X、Y、Z」

勇者「ってことか」

エルフ長老「へ?」

戦士「!」ハッ

戦士「えぇと……多分、Lがないので“エル不”ってことかと」

エルフ長老「ああ……そういう……」

勇者「…………」ニヤッ

邪神殿──

ガーゴイル「ギャオォォンッ!」ブオンッ

キィンッ! ギィンッ! キンッ!

戦士「ちいっ!」ザザッ…

魔法使い「雷よ!」バリバリッ

僧侶「凄まじい攻防……近づけないので、遠くから回復魔法を送らないと!」

勇者「無料かい?」

僧侶「僧侶だけに送料ですよね? もちろん無料です!」パァァ…

勇者「…………」ニヤッ

戦士「よっしゃ、回復したぜ!」シャキンッ

戦士「化け物め、覚悟しやがれ!」

ザシュッ! ギャォォン……

勇者「鋭かった戦士の一撃で、勝った」

魔族の村──

魔族「ここは魔王のやり方に納得いかない魔族の集落です」

魔族「あなたがたに敵対するつもりはありません」

勇者「敵じゃないってことは、つまりスリーショルダーか」

魔族「……どういう意味です?」

戦士「つまり、“スリーショルダー”は三つの肩だろ?」

魔法使い「三つの肩は“三肩”で、“みかた”になるよね?」

僧侶「“みかた”……つまり“味方”のことです!」

魔族「な、なるほど……(なにかの暗号……!?)」

勇者「…………」ニヤッ

ダークタワー──

戦士「ちいっ、魔王軍の基地を兼ねた塔だけあって、精鋭揃いだな!」

僧侶「しかし、ここを攻略すればもう残すは魔王城だけです!」

勇者「たわーいない塔と思いきや、大間違いだったな」

勇者「仕方ない、ここは魔法使いに本気を出してもらおう」

魔法使い「“マジック”だけに本気(マジ)になれってことかい?」

勇者「…………」ニヤッ

魔法使い「分かったよ、やってみる!(なんだかやれる気がしてきた!)」

ボワアァァァッ!

ギャオオォォン……!

魔法使い「おお、ボクもこんなにやれるんだ! 我ながらビックリ!」

戦士「おいおい、こんな魔力を秘めてたのかよ! 俺も負けてられねえな!」

僧侶「すごいです!」

勇者「みんな、腸が整ってきたな!」

戦士&僧侶&魔法使い(成長したっていいたいんだな……)

魔王城城門──

四天王(炎)「キサマらが勇者パーティーか」

四天王(炎)「魔王軍最強のチームである、我々四天王がお相手しよう」

勇者「なんで俺たちが勇者パーティーだって、知ってんのう?」

四天王(炎)「へ……?」

四天王(水)「なにいってるのよ、あいつ」

四天王(風)「知ってんのう、だとォ!? どういうこった!?」

四天王(土)「ふ~む、ガクッと気が抜けたでござる」

戦士「今だああああっ! 戦死してたまるか!」ダッ

魔法使い「本気(マジ)でやるよ!」ボウ…

僧侶「補助魔法の送料も無料です!」パァァ…

ザシュッ! ボワァッ! ザシッ! ドカッ! バリバリッ!

四天王「ぐわあああああっ!!!」ボシュゥゥゥ…

魔王城──

僧侶「どうにか四天王をやっつけられましたが……」

僧侶「魔王の城だけあって、内部は大迷宮ですね」

戦士「しかも、城内にもかなりの敵が残ってやがる!」

魔法使い「だけど、ここまで来て負けられないよね!」

勇者「きゃっ!」

勇者「通り抜ける」サッ

勇者「きゃっ!」

勇者「通り抜ける」サッ

戦士「へへっ、分かってるって」

僧侶「“きゃっ!”と“通り抜ける”で“きゃっスルー”ですよね?」

魔法使い「つまり“キャッスル”ってことでしょ?」

戦士&僧侶&魔法使い「魔王の“城”だけに!」

勇者「…………」ニヤッ

魔王の間──

魔王「フハハハハッ!」

魔王「勇者ども……ここまでたどり着いたことだけは褒めてやろう」

魔王「だが、すぐキサマらは向かうことになる……地獄にな!」

勇者「俺たちが地獄に行ったら、人類の数は激減するだろうな……」

勇者「ヘル、だけに」

魔王「……は?」

戦士「今だああああっ! 戦死してたまっかぁ!」ダッ

魔法使い「本気(マジ)でやるよ!」ボワァッ

僧侶「最終決戦では、回復も補助魔法も送料無料!」パァァ…

ザシュッ! ボワァァァッ!

魔王「ぐ、ぐぬっ!」ヨロッ…

魔王(おかしな話術で、気が抜けたところを攻めてくるとは……!)

魔王「舐めるなぁぁぁっ!」

ズガガガガァァンッ!!!

戦士「うおおっ!」

僧侶「きゃあああっ!」

魔法使い「四天王さえ倒した、必勝パターンが通じないなんて……!」

勇者「大丈夫、ひっしょう懸命やれば、勝てるよ!」

戦士「……だな!」チャキッ

僧侶「そうですね!」スクッ

魔法使い「勇者の言葉を聞くと、勇気が湧いてくるよ!」スクッ

魔王「なにいいい!?」

魔王(勇者の話術には、敵の力を削ぎ、味方を鼓舞する力があるのか!?)

魔王(そうか……あの話術があったから、奴らはここまでたどり着けたのだ!)

魔王「ならば、先に勇者を仕留めてやる!」ギロッ

勇者「床や柱に小便はしなくていいのか?」

魔王「は……?」

勇者「“魔王”だから“まキング”……つまり“マーキング”しないのか?」

魔王「うぐぐっ……」ガクッ

魔王(い、いかん! こやつの話術にかかると、どうしても戦意が削がれる!)

戦士「ふん、ずうっと勇者と一緒に旅して戦ってきた俺らじゃなきゃ」

戦士「勇者のセリフを聞いたら力が抜けちまうぜ!」

勇者「血から力が抜ける」

戦士「どりゃあっ! 剣はそーっど扱うもんだ!」

ザシュッ!

僧侶「回復はお任せを! 潮干狩りもお任せを!」

パァァ……

魔法使い「ほのシッポほどじゃないけど、炎魔法も強いんだぞ!」

ボワァッ!



魔王「ぐっ、ぐおおっ……! おのれぇ……!」

魔王「ならば最強の魔法で、まとめて片付けてくれるゥ!」ブゥゥン…

魔法「!」ハッ

魔法使い「まっ、まずい!」

魔法使い(すごい魔力だ……! あれを撃たれたら、全滅するかも!)

勇者「サイが長い間ストライキを起こしてるのか」

魔王「……は?」

勇者「“最強”で“サイ強”で“サイストロング”」

勇者「つまり、サイのストがロング」

魔王「なんだそりゃ……」ボシュッ…

魔王(ゲェッ、今ので集中を欠き、せっかく溜めた魔法が消えてしまった……!)

勇者「今がチャンスだ! みんなっ!」

戦士&僧侶&魔法使い「なに!?」チラッ

勇者「俺を見んな」

戦士&僧侶&魔法使い(やっぱりね……)

戦士&僧侶&魔法使い「うおおおおおおおおおっ!!!」

魔王「な、なんだこの迫力は!?」

魔王(勇者の言葉で、三人の力が結集して──)



ズドォォォォンッ!!!

魔王「ぐ……このワシがやられるとは……」

魔王「戦士の剣技、僧侶の支援魔法、魔法使いの攻撃魔法……」

魔王「それぞれ大したものだったが……」

魔王「やはり真に恐ろしきは……勇者の話術よ……」

魔王「敵ながらみ、ごと……」ボシュゥゥゥ…



戦士「消えた……!」

戦士「やったぜぇ!」

僧侶「ついに魔王を倒したんですね、私たち!」

魔法使い「うん、これで世界は平和になったんだよ!」

勇者「へぇ~、わっ! すかした返事をしてから驚いてみたよ、平和だけにね」

城──

国王「よくやってくれた、勇者」

国王(正直やってくれるとは思わんかったが……)

国王「ワシにできることなら、どんな願いでも叶えよう」

勇者「では、“ね”がいい」

国王「……へ?」

勇者「国王陛下が、“ね”と書いたサインがいいです」

勇者「願い、だけにね」

国王「え、ホントにそんなんでいいのか!?」

国王「金だって、地位だって、名誉だって、できるかぎり与えてやるというのに!」

勇者「“ね”がいい」

国王「いやいや、考え直し──」

勇者「“ね”がいい」

戦士&僧侶&魔法使い(さすが勇者……)

こうして勇者たちの活躍によって、世界に平和が戻った。



後に、味方を鼓舞し、敵を脱力させる勇者の話術は世界中に広まり、

目には見えないが恐るべき効力を発揮する話術として

『Dark Jagged Ray(暗黒なる鋭利な光線)』

と呼ばれ、永く畏怖されることとなった。



なお余談ではあるが、今日に伝わる『ダジャレ』の語源は、

この『Dark Jagged Ray』であることは、いうまでもない。





おわり

>>26
魔法「!」ハッ



魔法使い「!」ハッ

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