戦士「あ? 勇者のふりをしろって?」商人「そうです」(684)

商人「ここに勇者認定証があります」

戦士「ほー」

商人「これは南の国で発行された正式なものでして、ボクが独自のルートで入手しました」

戦士「ふーん」

商人「これを見せびらかして、勇者のフリをしてお金を稼ぐんです!」

戦士「偽勇者ってやつか」

商人「しーっ! ちょっとした商売ってやつですよ!」

戦士「勇者詐欺だな」

商人「商売です!」

戦士「しかし、そんなもん、自分一人で使えばいいじゃねぇか」

商人「さすがに鎧も装備できないやつが勇者は無理がありますよ」

商人「それに、戦士さん、お金に困ってるでしょう?」

戦士「おお、酒のツケが溜まってクビが回らんぞ!」

商人「……。腕が立つことは調べたんですよ」

戦士「照れるな」

商人「だから、ぜひ、勇者のフリをしてですね」

戦士「そうか……おーい、姉ちゃん!」

バニー「はーい♪」

戦士「俺、実は勇者だったんだよ!」

商人「!?」

バニー「そうなんだ~、すごーい!」

戦士「だから、もういっぱい頼むわ!」

バニー「……」ちら

商人「あ、あー、ほら、これが本物です。お金もあります」

バニー「一杯はいりまぁす♪」

戦士「わはは、勇者金額にしといてくれ!」

バニー「いやーん♪」

商人(人選ミスったかな……)

――翌朝。

戦士「ういー」ボリボリ

商人「……おはようございます」

戦士「おう」

商人「昨日はお楽しみでしたね」

戦士「ああ、勇者効果だな。あのバニーちゃん、なかなかガードが硬かったんだぜ」

商人「一晩中パコパコと……」

戦士「はっはっは、その代わり財布まるごと持ってかれた」

商人「アホですか!」

戦士「英雄色を好む」

商人「英雄になってから言ってください」

戦士「で、どうするんだ?」

商人「そ、そうですね。それじゃあ、やっぱり王宮に行くんですよ」

戦士「ほうほう」

商人「で、勇者のフリをして王様に挨拶をする」

戦士「それで?」

商人「で、褒美をもらうわけです」

戦士「ん?」

商人「勇者だし、支度金かなんかもらえるんじゃないかと」

戦士「何もしてないのにもらえるわけねーだろ」

商人「……と、とにかく、勇者のフリをするんですよ!」

商人「まず、カッコイイ鎧とか格好をします」

戦士「モヒカンだな」

商人「それから、なんといっても勇者なら剣!」

戦士「山賊刀でいいか?」

商人「そして、勇者っぽい決め台詞を」

戦士「『血の海に沈めてやるぜ!』」

商人「違うでしょ!」

戦士「うるせーやつだな」

戦士「俺が思うにだな、勇者が救った村とかに行って、そこで飲み食いすりゃいいんじゃねぇか?」

戦士「タダでよ」

商人「!」

戦士「まあ、顔がバレてちゃ意味ないんだけど」

商人「そ、それですよ!」

商人「確か、街道沿いに、勇者が付近の魔物を倒した洞窟があったはず」

戦士「おー」

商人「そこで無銭飲食をするんですよ!」

戦士「食い逃げか何かか?」

商人「商売ですよ!」

――街道沿いの村。

村長「おお! 勇者様!」

村人「勇者さ……ま……?」

商人「はいはい、勇者ですよ、本物ですからね、この認定証がありますからね」

村長「以前よりも体つきが大きくなられたような気が……」

戦士「成長したからな」

村人「それに、お連れは一人だけなんですかい?」

戦士「前にいたやつらには裏切られたんだ」

村長「それはそれは」

村人「大変でしたな」

商人「……勇者さん、ナイス機転です」

戦士「お前って間抜けだよな」

商人「はい?」

戦士「なんでもねぇ」

村長「それで、今日はどのようなご用件で?」

商人「いやー、近くを通りましたからね! それはもう歓待していただこうと!」

村人「はあ……」

戦士「お前アホだろ?」

商人「え?」

村長「……」

戦士「はっはっは、まあ、魔王討伐の途中で寄っただけです」

村長「そ、そうでしたか」

戦士「ですが、どうも路銀が乏しくてですね」

村人「それなら、村の宿屋に言っておきますよ、タダでお泊めします」

戦士「どうもどうも」

村長「……時に、勇者様」

戦士「はい?」

村長「実は、ですな。以前にも救って頂いて申し訳ないのですが……」

商人「ははは、そんな、大したことじゃありませんよ!」

村人「また魔物が洞窟に住み着いたんです!」

商人「!?」

戦士「ああそう」

村長「なんとか倒していただけないでしょうか?」

戦士「いいよ」

商人「!?!?!?」

村長「ありがたい! それではお願いしますぞ!」

戦士「大船に乗ったつもりで任せてください」

村人「ありがてぇ!」

商人「ちょ、ちょちょちょ」

戦士「それで、お礼をせびるようでなんだけど……」

村長「そうですな、村一番の酒とおなごを届けましょう」

戦士「おー」

商人「ちょっ、戦士さん!?」

戦士「勇者な」

商人「勇者さん!?」

商人「何考えてるんですか!?」

戦士「勇者の仕事だろ?」

商人「いやあの……」

戦士「んじゃ、とりあえず宿行ってますよ」

村人「おお、お願いします」

戦士「はーい」

商人「し、失礼します」

――宿屋。

商人「何考えてるんですか!?」

戦士「うるせぇなー。別に請けるだけ請けて、とんずらするって手もあるだろ」

商人「あっ……」

戦士「それをその場で目を白黒させて、お前素人かよ」

商人「そ、そういうことでしたか」

商人「ほいほい言うこと聞いちゃうからびっくりしましたよ」

戦士「まあ、倒しにいくけどな」

商人「はい?」

戦士「倒しにいかねぇと怪しまれるだろ」

商人「そういう問題じゃないでしょ」

商人「たった二人で魔物を倒せるわけないじゃないですか」

戦士「倒しに行くふりをして、そのままとんずらこくって手もあるだろ」

商人「そ、そういうことでしたか」

戦士(まあ、倒しに行くけどな)

商人「……いいですか、勇者さん。勇者のふりをして、楽して儲けるのが大事なんですよ」

商人「楽をしないと」

戦士「どうやって楽をするんだ?」

商人「そりゃあ……」

戦士「ダメだこいつ」

村娘「こんばんはぁ」

戦士「おー、かわいこちゃん」

村娘「あなたが勇者様ですかぁ?」

戦士「おお、そうよ」

村娘「やだー、あまりイケメンじゃない」

戦士「はっきり言うなぁ。俺、はっきり言う娘は好きだぜ」

村娘「え~」

商人「……あのぉ」

戦士「お前は酒でも集めてこいよ。樽で10個くらいな」

商人「ひどい!」

――翌朝。

戦士「ふわぁ」ガリガリ

商人「……おはようございます」

戦士「おう」

商人「昨夜はお楽しみでしたね」

戦士「おお、あの娘、なかなか器用だったからな」

商人「そういう問題じゃないですよ!」

戦士「じゃあなんだよ」

商人「ボクに酒樽を集めさせて置いて!」

戦士「お、マジで集めてきたのか、えらいえらい」

商人「村一番の酒って持ってきてくれたのを、酒樽にしてくださいって言うのめっちゃ恥ずかしかったですよ」

戦士「ついでに油樽も持って来てくれや」

商人「あのですね……」

商人「せ、勇者さん、ちょっといいですか?」

戦士「なんだ?」

商人「こんなにお酒を集めてどうする気なんです?」

戦士「そりゃお前、飲むに決まってるだろ」

商人「え、飲むために? 売るとかじゃなくて?」

戦士「ああ」

商人「ボク、結構お金はたいちゃいましたよ」

戦士「お前、そういう時こそ勇者印を使うべきだろ。売るにしても」

商人「……はっ」

戦士「やっぱアホだろ」

ガラガラガラ。

商人「勇者さん」

戦士「おー」

商人「馬車の中でぐーたらしないでください」

戦士「着いたら言ってくれ」

商人「どこにですか?」

御者「洞窟でしょ」

商人「え、ちょっと」

御者「たった二人で魔物退治とはたまげたもんですワ」

商人「!?」

戦士「実際は俺一人で十分だ」

商人「何言ってるんですか!?」

戦士「お前な、偽勇者だろうと冒険者なら魔物くらい倒すだろ」

商人「いや、その……」

戦士「むしろアレよ、こんだけ飲み食いして女の子をあてがってもらって、格安冒険出来るとか満喫中よ」

商人「そ、そうかもしれませんけど」

戦士「それとももっと悪いことやれってのか?」

商人「だってこれじゃあ、普通の勇者じゃないですか!」

戦士「何かまずいのか、ソレ」

商人「なんかもっと楽できると思ってたんですよ!」

戦士「詐欺師も大変なんだよなぁ」

商人「詐欺じゃなくて商売です」

戦士「商売ならもらったら対価払わんとな」

商人「あ、ああいえばこう言う」

――洞窟。

御者「そんじゃ、荷物はここに置いときますよ」

戦士「おお、ありがとう」

御者「がんばってな」

戦士「ああ、さいなら」

ガラガラガラ。


商人「あの、この酒は……」

戦士「そらお前、定番だよ。酔わせて隙をうかがうのさ」

商人「なーるほど、だまし討ちってやつですね!」

商人「さすが偽勇者らしい、卑怯な戦法です!」

戦士「伝統と言え。神話にもあるんだぞ」

戦士「たのもう」

大蛇『誰だ』

戦士「勇者です」

大蛇『ほう』

戦士「実はある村に頼まれまして、貢ぎ物を……」

大蛇『では、そこに置いていけ』

商人「の、飲まないんですか?」

大蛇『昼間から飲めるか』

大蛇『それとも何か文句でもあるのか?』

商人「い、いえ、味見とかそういう……」

戦士「そういや俺も味見するの忘れてたんだ」ぺろり

商人「」

大蛇『おい!』

大蛇『それはわしへの貢ぎ物だろう』

戦士「せっかくのもらい物を味見もせずに済ませては酒に申し訳ない」ズズ

商人「ゆ、勇者さん……」

戦士「どうした?」

商人「あんた本当に口つけてどーするんです!?」

戦士「お、マジでうまいわこれ」

大蛇『貴様!』バシィ

戦士「文句があるならさっさと飲めよ」さっ

大蛇『おお、飲んでやるとも』

商人(……なるほど、これは高度な作戦!)

戦士「お前も飲んどけ」ごくー

商人「!?」

戦士「うめぇうめぇ」

大蛇『はー、良い酒だあ』

商人「こ、こいつら、本当にただの飲んべぇじゃないですか!」

戦士「何いってんだ?」

商人「あの、せ、勇者さん」

戦士「おお」

商人「魔物を倒す気はあるんですか……?」

戦士「そらお前、大ありだよ」

戦士「けどな? 村一番の酒って言われて、飲まずに済ませるとか、それは冒涜だろ?」

商人「帰ってから飲むのでもいいじゃないですか!」

戦士「おっ、正論」

商人「正論じゃねぇえええええええ!」

大蛇『くくく、貴様ら、目の前でわしを倒す算段とは良い度胸よ』

商人「はっ」

戦士「算段すらしてねぇけどな」

大蛇『だが、甘くみたな』

戦士「ほう」

大蛇『わしは酔えば酔うほど強くなる!』オロロロ

戦士「吐いてる吐いてる」

大蛇『酒は好きなんだが……』

戦士「深呼吸して水でも飲んでこいよ」

商人「水より、果汁がいいとかなんとか」

大蛇『くく、貴様らは健康を心配せんでもいいがな』バッ


大蛇が尾でなぎ払った!


商人「うわあ!」

戦士「ああ! 酒樽が割れてしまった!」

戦士「もったいない!」

商人「そういう問題じゃないですよ!」

大蛇『しまった』

商人「しまったじゃねーよ!」

大蛇『貴様ら、さてはこれを狙って酒樽の近くに……』

戦士「お前が暴れなければいいんだぞ」

大蛇『くっ』

商人「勘弁してくださいよ」

戦士「もう一つ方法がある、こぼれる前に飲み尽くしてしまうのだ」

大蛇『!』

商人「勘弁してください」

戦士「どちらが先に飲みきれるかな?」

大蛇『く、こうなれば頭から飲み尽くしてくれるわー!』

大蛇『ぐばばばっ!』バコンバコン

大蛇『ごぼごぼ』

大蛇『ぐほっ!』

大蛇『な、なんだ、この油くさい酒は』

戦士「油だ」

大蛇『なんだと』

戦士「おい、たいまつ」

商人「あっはい」

戦士はたいまつを投げ込んだ!

――

商人「はあ……」

戦士「洞窟も塞いだし、これでしばらくは魔物も拠点を作れないだろ」

商人「勇者さん、実に卑怯でしたね……」

戦士「はっはっは、自分より強い相手にあれこれ手を尽くすのは当然だろう」

戦士「それとも手を抜いて負けた方が良かったか?」

商人「良くはないですけど」

戦士「ほれ、そしたら次の町いくぞ」

商人「えっ」

戦士「下手に居着いちゃうとボロが出るからな」

商人「いやでも、御礼をもらわないとですね」

戦士「酒と女の子もらったんだから、また次に来たときでいいだろうが」

商人「い、いやでも」

戦士「ふぁー、腹減ったなぁ」

――となり町。

商人「せん、勇者さん」

戦士「どうした?」

商人「わかりましたよ」

戦士「お前もそう思うか」

戦士「あの踊り子……胸に詰め物してるよな」

商人「ち、違いますよ!」

戦士「じゃあなんだ?」

商人「まっとうな偽勇者の商売方法ですよ!」

戦士「まっとうな詐欺?」

商人「そうじゃなくてですね……ほら、このお酒!」

戦士「ああ」

商人「あの村でもらったお酒を、売りだすんです」

商人「勇者が認めた酒として」

戦士「ほう」

商人「どうですか! いいアイデアでしょう」

戦士「勇者が認めたからって売れるかなぁ」

商人「じゃあ、見ていてくださいよ!」

商人「あっ、一緒に宣伝してくださいよ」

戦士「はいはい」

商人「さあさあ皆さん、寄ってらっしゃい見てらっしゃい」

戦士「おお、商人っぽいぞ」

戦士「そういやお前、一応商人だったな」

商人「……ボクのことなんだと思ってたんですか?」

戦士「アホガキ」

商人「ほあっ……! えー、ここに取り出したる無銘の酒は!」

なんだなんだ どうした

商人「かの、南の国に認められた、ここにおわす勇者様!」

商人「世界を旅して見つけ出した、美味で秘密の魔酒でぇございます」

ほー

戦士「うまいぞー」

商人「さあさあ皆さん、どうぞお手に取って!」

商人「本日、この秘酒、たったの三瓶!」

商人「一つ金五千をくだらないところを、格安五百!」

商人「一人一瓶! 一人一瓶でのご販売!」

商人「ここにあるこれっきりだよ!」

戦士「実際安い」

商人「さ、さあ、どうだい、どうだい!」


戦士(うーん、さすがに値が張るかな)

戦士(物珍しく見てはいるが、金を出すには至らんか)


商人「さあ、たったの三つだよ! それ以上は出せと言われても売れないよ!」

戦士(……しかし、こいつもこうしていればまともな商人だな)

金持ち「よし、じゃあ、ワシが一本もらったぞ」

商人「毎度あり~!!」


商人「さあ、一本売れたよ、もう二本しか残ってないよ!」

戦士「俺が認めた」

商人「勇者様の認めた発言でたよ!」

商人「さあ……!」

男「……待ちな」

商人「な、なんだい、あんたは」

男「その酒、ちょっと匂いをかがせてもらおうか」

戦士「おう」さっ

商人「あ、あの~、勇者さん」

男「……」くんくん

男「くっ……やっぱりか」

商人「し、商売の邪魔なら出てっとくれ」

男「こいつは秘密の酒なんかじゃねぇ、となり村の名産酒だ」


なんだと? だましていたのか!


商人「あ、あう……」

戦士「あんた一体何者だ?」

男「俺はそこの酒場のマスターだ。酒に関しちゃ聞き捨てならないからなぁ」

マスター「こいつも確かに秘蔵酒かもしれねぇ」

マスター「だが、この匂い、馴染みのある俺には、魔酒だなんだと持ち上げられるのは許せねぇ」


ザワザワ…… なんてやつらだ……
   勇者だってのも嘘じゃないのか! 金返しやがれ!(払ってない)


商人「い、いやその」

戦士「実際うまいじゃん」

マスター「くっ……! たしかにな」

マスター「だが、俺の酒場には、こいつよりももっとうまい酒を眠らせてある」

マスター「それを飲まないで認めただのなんだの……!」

戦士「えっ、じゃあ、飲ませてくれるのか?」

マスター「なに?」

戦士「だって飲まないとわからないだろ。これより旨いかどうか」

マスター「」

商人「そ、そうですよ! 勇者様が認めたかどうか! それが」

戦士「うるせぇな」

商人「もがもご」

戦士「それとも何か? まさか味比べさせないで信用しろってのか?」

マスター「し、しかし、アレは希少な酒で」

戦士「そんなの、俺が持ってるのだって希少だぜ。あと二本しかない」

マスター「くっ……!」

戦士「おい、商人」

商人「は、はい……?」

戦士「ぼそぼそ」

商人「……! な、なるほど」

マスター「どうするつもりだ」

商人「みなさァん! マスターが持っている秘蔵の酒、飲みたいですよねェ!」

ざわっ

マスター「おい、俺は別に……」

商人「ここにある、勇者が認めた酒と、どっちがおいしいか比べたいですよね!」


おーっ! そうだそうだ! 
  隠し持ってたなんて、ズルいぞマスター!


戦士「ニヤニヤ」

マスター「お前ら……!」

商人「ここに先ほど頂いた金五百があります!」

商人「ですが、本来、このお酒は五千をくだらない値打ちの貴重なお酒!」

商人「この貴重なお酒よりももっとおいしいお酒、ぜひみんなで出し合って飲みませんか!?」


うおおおおおおおおおおおおお!!!


戦士「勇者と一緒に、舌の肥えたマスターのオキニを判定しようぜー!」


うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

戦士「ほれ、商人、金を集めてけ」

商人「はいはい! それじゃこちらは手持ちを全部突っ込みますからねッ!」ジャラジャラ

商人「みなさん、飲みたい方だけ、入れてくださいよ~」


戦士「そーゆーわけだ」

マスター「ちっ……!」

戦士「金が一万くらい集まったところで締め切り、後は折半じゃなくてもどっちも儲かるだろ」

マスター「……」

戦士「それとも、最初から飲ませる気もないのに難癖つけてきたのか?」

マスター「……」

マスター「やるじゃねぇか」

夜。

商人「ひぃ、ふう、みぃ……う、うわあ」

戦士「どうした?」

商人「こんなにお金を数えるのは初めてです!」

戦士「そうか、さっさと数えろよ」

商人「えへ、うへ、うへえへへ」カチャカチャ


戦士「……。いやしかし、ホントにうまかったな、コレ」

マスター「……」

戦士「でも一応、こいつもとびきりのをもらってきたんだぞ」

マスター「ああ、たしかにな。ここまで丁寧に仕上げたやつは初めてだった」

戦士「だろ?」

マスター「お前らには参ったぜ」

戦士「マスターが話の分かるやつで良かったわー」

マスター「ふん、気になったから声をかけただけさ」

戦士「はっはっは」

マスター「しかし……お前ら、本当に勇者なのか?」

戦士「ああ」

マスター「嘘をつけ」

戦士「ちゃんと認定証もある」

マスター「ラベルさえあれば銘酒になるわけじゃねぇ」

戦士「しかしありゃ本物だ」

マスター「……俺は本当の勇者にあったことがある」

戦士「ふーん」

マスター「だが、そいつは剣の腕や見極めは鋭くても、酒に関してはまったく鈍かった」

戦士「成長したんだよ」

マスター「くっ……! お前みたいに老練でもなかったぜ」

戦士「若いつもりなんだけど」

マスター「勇者は死んだという噂も聞く」

戦士「……」

マスター「一時は衰えていた魔物の勢力が、最近になって強まっているのがその証拠だ」

戦士「勇者は死なねぇよ」

マスター「なに?」

戦士「なぜなら、精霊の加護を受けているからな。魔王を倒すまで、殺しても死なねぇんだ」

マスター「……笑い話か?」

戦士「お前が見た勇者ってのは、なんか殺したら死にそうだったか?」

戦士「だとしたらあれだ、そいつは偽物だったのさ」

マスター「……いや、死ななそうだったぜ」

戦士「ふーん」

マスター「俺が勇者だ、とは言わねぇのか」

戦士「俺は殺したら死にそうに見えるか?」

マスター「酒に溺れて死にそうだ」

戦士「はっはっは!」


商人「数え終わりましたよ!」キラー

――翌朝。

商人「どうですか、勇者さん!」

戦士「あー?」

商人「この調子なら、もっと稼げるんじゃないですか!?」

戦士「んー」

商人「ボクたち、いいコンビになりそうじゃないですか!」

戦士「うー」

商人「……どうしたんです?」

戦士「飲み過ぎてアタマいてーわ」

商人「……」

商人「あのですね」

戦士「なんだ」

商人「ツケでクビが回らなくなるくらい酒で身を滅ぼしているのに」

商人「ちょっと儲けたら、アタマ痛くするまでまた飲むってかなりひどいですよ」

戦士「うるせー」

商人「これは苦言ですよ、なにせ……ほら……」

商人「ボクたちは偽勇者一行のベストパーティになるわけですから」

戦士「なるかよ」

商人「な、なに言ってるんですか!」

戦士「あんなん、マスターが好意を示してくれただけで、長引けば無許可露天で捕まってたかもしれねーし」

商人「えっ」

戦士「行き当たりばったりすぎんだよなー」

商人「そ、そうかもしれませんがね」

戦士「偽勇者で儲けるっつったって、基本やることは、勇者を騙って飲み食いするだけだろ」

戦士「そこらの汚い冒険者より、国に認められた勇者ならーってだけだし」

商人「お酒はうまくいったでしょ」

戦士「今度は何売るんだよ。ふんどしとか?」

商人「買わないでしょ、そんな汚いもの」

戦士「勇者ご愛用! 聖なるふんどし!」

商人「いらないですよ!」

戦士「逆にいけそうな気がするんだが……」

商人「そんなら、せん、勇者さんはなにかアイデアがあるんですか!」

戦士「うーん……」

商人「ほら!」

戦士「本物の勇者を探して、その近辺でお礼をもらう」

商人「……ボクと変わらない気がしますけど」

戦士「だってほら、勇者死亡説とか聞いたぞ」

戦士「実際、勇者が活躍してなかったら、儲けにならんのじゃないか?」

商人「そ、それは……」

商人「はっ、でも、本物の近くにいたら……バレるじゃないですか!」

戦士「気づいたか」

商人「そんなのダメですよ、ダメダメ」

戦士「しかし、本物の情報を入手するのは大事だろー?」

商人「えーっと……」

商人「そうですよ! 一発逆転を狙うんです!」

戦士「ん?」

商人「つまり、いっぺんに多額の儲けを上げればいいんです」

商人「それで一生遊んで暮らせる金をゲットすれば、もう偽勇者をやり続けなくてもいいでしょう」

戦士「……そして酒の飲み過ぎで死ぬ」

商人「休肝してください!」

戦士「そしたら、魔王を倒して褒美をもらうのが一番だなあ」

商人「そ、それは無理でしょ?」

戦士「他になにかあるのか?」

商人「えーっと、そしたら、ですね……」

戦士「ふんふん」

商人「こう、何か大量のお金が必要になると言いくるめて……」

戦士「ほうほう」

商人「つまり……」

戦士「なるほど」

戦士「絶対無理だろ」

商人「ど、どうしてですかっ!」

戦士「さすがにそのウソは無理があるって」

商人「ウソじゃないですよ、本気で行くんです」

戦士「まあ、いいけどよ」


――お城。

王様「よくぞ来た! 勇者よ!」

戦士「ははっ」

王様「……本当に勇者か?」

商人「ここに認定証があります!」バッ

王様「どれ……うむ、確かに南の国の正確な刻印」

王様「よくぞ来た! 勇者よ!」

戦士「ははっ」

商人「このやりとり頭からやらないとダメなんですか?」

王様「最近、また隣村の洞窟に住み着いた魔物を倒したとか」

商人「さすがお耳の早い!」

戦士「……」

王様「うむ、して、何用じゃ」

商人「ええ、実はですね、魔王のいる島が判明したのです」

王様「ほう」

商人「ただそこに行くためには特殊な船が必要でして」

王様「ほほう」

商人「船に加えてですね、特殊な加工をするために……」

商人「き、金を三千万ほど、用立てしていただきたいと」

王様「さんぜんまん!」

戦士「そうなんですよ」

商人「も、もちろん一国に全てお願いするというわけではありません」

商人「しかし、ここは海に面した船の国でしょう」

商人「ですので、やはり腕利きのですね……」

王様「……」

戦士「半分とは言わず、三分の一でもなんとかなりませんかね」

王様「ふーむ」

王様「それではその前に、ひとつ頼みたいことがあるのじゃが」

戦士(そらきたぞ)

商人「え、ええ! そりゃもう、なんでもしますよ!」

戦士(何するか聞いてから応えろよ)

王様「真か! では灯台の魔物全討伐、頼んだぞ!」

商人「え」

王様「実は我が国の船舶産業は危機に瀕しておるのじゃ」

王様「灯台を乗っ取られてしまってな」

王様「おぬしらにはぜひともそれを解決してもらいたい」

商人「は、はは、お、お安い御用ですよ……」

王様「すでに送り込んだ部隊は何度も全滅を繰り返しておる」

商人「そ、そうですか」

王様「だが勇者なら間違いないじゃろう、死んでも悔いはあるまい!」

戦士「はっはっは、勇者は死にませんよ」

王様「それは頼もしい!」

商人「ゆ、勇者さん……」

王様「ちなみに、腕に自信がある傭兵団も皆殺しにされたのじゃ」

王様「よほど強い魔物と見ておる」

商人「」

王様「……それとじゃな。最近、勇者の名を騙る盗賊がいるとの噂でな」

戦士「へー、悪い奴がいるもんですね」

王様「監視役というか、先導役をつけさせてもらう」

商人「えっ」

王様「女騎士!」

女騎士「ここに」すっ

王様「全滅と言ったが、誤りがあったな。この女騎士は唯一生き残った強者じゃ」

戦士(んほおして帰されたんじゃ)

女騎士「よろしくお願いします」

戦士「一人だけですか?」

王様「そうじゃ。女騎士に先導してもらい、見事灯台の魔物を倒して見せよ!」

王様「そうしたら褒美を与えてもいいじゃろう」

戦士「いや、一人しかついてこないのかっていう」

王様「そうじゃ」

戦士「それじゃ無理があるんじゃないですかね」

王様「なんでもすると言ったじゃろ」

戦士「ええ、こいつがね」

商人「やばいやばいやばい」

戦士「……ま、いいか。やりますよ」

王様「くくっ、ではゆけい、勇者よ!」

戦士「ははーっ」


王様「ほれ、お前もゆけい、女騎士よ」

女騎士「……かしこまりました」

――城下町。

商人「やばいやばいやばい」

戦士「まだ言ってんのか」

商人「だ、だだだだって、軍隊が出動して皆殺しって……!」

戦士「落ち着け、全員じゃない」ちら

女騎士「……」

商人「余計怖いじゃないですか!」

戦士「そうかぁ?」

商人「しかも、ずーっとついてきますよ、あの人」

戦士「そら監視役だからな、逃げられないぞ」ハハハ

商人「笑ってる場合じゃない!」

女騎士「勇者殿」

商人「う」ビクッ

戦士「おう」

女騎士「失礼だが、私はあなたを疑っている」

戦士「ふーん」

女騎士「手合わせを願いたい……よろしいだろうか?」

戦士「セックス合わせじゃダメなのか?」

女騎士「は?」

商人「ち、ちょっと勇者さん!」

戦士「いやーほら、たくましい体してるけど、そこそこ美人だしさ」

女騎士「……わ、私は女を捨てた身だ!」

戦士(んほお確定)

女騎士「剣を抜け、一手で十分だ!」スラッ

戦士「俺は剣が苦手なんだよ」

女騎士「ふん、行くぞ!」ザッ

戦士「おっと」バチーン


女騎士は戦士の剣をはじき飛ばした!


女騎士「くっ……!」

戦士「はい降参」

女騎士「本気でたたかえ!」

戦士「なんで? 本気を出すのはセックスか魔物を倒すときで十分だろ」

商人「お酒の時は入らないんですか……」

戦士「おお、うまいもの飲み食いするときも本気出さないとな」

女騎士「き、貴様、それでも勇者か!」

商人「勇者さん、もしかして以前別の職業についてました?」

戦士「ああ、遊び人にな」

商人「納得」

女騎士「そんな勇者がいるかっ!」

戦士「ふはは、地元じゃ『夜の勇者』とも呼ばれたもんだぜ!」

商人「それってただのドスケベですよね?」

戦士「タダじゃないぞ。気持ちよかった時は、女の子がいっぱいお金を請求してもちゃんと払ったし」

商人「酒代は?」

戦士「ツケ」

女騎士「……くっ」

女騎士「もういい」

戦士「お?」

女騎士「灯台を占拠している魔物は凶悪だ」

女騎士「私程度に手こずる連中が、討伐できるはずもない」

商人「で、ですよね~」

戦士「そうだな」

女騎士「さっさと逃げるがいい。陛下にはそのように報告させていただく」

商人「!」ヨッシャ

戦士「あんたはどうするんだ? 帰るのか?」

女騎士「私一人でも……討ち取ってみせる」

戦士(陵辱シーン独り占めかよ)

戦士「まあ、別行動するならそれでもいいけど、どんな魔物かくらいは教えてくれよ」

戦士「あと、灯台への経路」

商人「い、いやいや、勇者さん。あの人は心配して逃げろと言ってくださってるわけですからね?」

商人「ここは逃げましょうよ、ね、ね」

戦士「大丈夫だよ」

商人「その根拠のない自信はなんなんですか?」

戦士「勇者は死なないからな」

商人「……いや、あなたは、っていうかどのみちボクは死んじゃいますからね!?」

戦士「お、そうだな」

女騎士「ふざけているのか?」

戦士「何がだ?」

女騎士「私は逃げろと……」

戦士「めんどくせーな、俺は大体分かってるんだから、さっさと魔物の特徴を教えろよ」

女騎士「な、なんの話だ」

戦士「海の国で騎士って珍しいよな~」

女騎士「!」

戦士「ここで魔物を倒せば地位が上がるよな~」

女騎士「お、お前……」

女騎士「しかし、あの魔物は本当に強いのだ! お前の剣の腕では……!」

戦士「ああ。だから罠を仕掛けるから」

商人「勇者さん、また卑怯な手を使う気ですね」

戦士「そりゃお前、自分より強い相手を倒すのになんで正々堂々たたかう必要があるんだ」

商人「じゃあ、勇者っぽく魔物を倒さなくてもいいじゃないですか!?」

戦士「この国で金をせびろうって言ったのはお前じゃんかよ」

女騎士「おい」

――灯台付近の森。

女騎士「……なんだこれは」

戦士「うむ。商人に買い集めさせた」

女騎士「そうじゃなくて、鳥の餌なんだが」

戦士「鳥の魔物だろ?」

女騎士「こ、こんなものに引っ掛かるかっ!」

戦士「おい、商人」

商人「ご安心ください、ただの餌じゃなくて毒入りの餌です」

女騎士「だあああっ」

戦士「うるさいぞ」

女騎士「やつは身の丈が山の程もある怪鳥だぞ!」ヒソヒソ

戦士「量は?」

商人「象もくたばるくらい盛りました」

女騎士「そんなの、ひとくち含んだら吐き出されるだろうが!」ヒソヒソ

戦士「待て」

女騎士「なんだ」

戦士「餌をつつくと、自動的に網が被せられる仕掛けになっている」

女騎士「……」

戦士「勝ったな」

商人「さすが勇者さんですよ。この卑怯勇者め」

女騎士「帰っていいか?」

戦士「お、来たぞ」

商人「騎士様、お静かに」

女騎士「むう……」

女騎士(これで本当に退治できたら、あ、あの惨劇は一体何だったのか)
――
隊長『くっ、女騎士! 君だけでも逃げろ!』

女騎士『そんな、隊長ッ!』

隊長『すまない……』

女騎士『隊長! あの悪王が騎士団だけでたたかえなどと煽るから……!』

隊長『言うな。国に仕える身がそのようなこと。我々が無力だったに過ぎない』

隊長『……行けっ、女騎士。この魔物を倒せる誰かを探せ。うぉおおおおっ!』

女騎士『隊長ォ――!!』
――
商人「あ、騎士様。なんか妄想しているところ悪いんですけど」

女騎士「ど、どうした?」

戦士「こっち見つかったぞ、逃げるぞ」

女騎士「おいお前ら」

怪鳥『ケケケ―ッ! 性懲りもなく!』

戦士「ずいぶん知能の高そうな鳥だな」

商人「だ、大丈夫なんですか!?」

戦士「ああ、あの大きさでは森のなかを自由には飛べないだろう」


怪鳥は真空の刃で木々を切り裂いた!


戦士「うわっと」

女騎士「やつにはこれがあるのだ!」

商人「ひいいい」

戦士「早く言えよ」

商人「あ、あの……ゆ、勇者さん」

戦士「どうした?」

商人「今気づいたんですけど」

戦士「おう」

商人「網で動きを封じても、切り裂かれちゃうんじゃないですかね?」

戦士「はっはっは」

女騎士「笑っている場合かっ!」

戦士「落ち着けって」

女騎士「落ち着いていられるかっ!」

戦士「ふた手にわかれるぞ」

女騎士「ど、どうするつもりだっ」

戦士「商人、囮になれよ」

商人「あああああ、逃げる気ですね!? 絶対逃げる気ですね!?」

戦士「騎士、お前、商人を守りながら灯台に来い」

女騎士「ちっ、信じるぞ!」

戦士「ああ、じゃーな」ダダッ

商人「うわああああ」

怪鳥『ケケッ、二兎に別れたとして、逃げられると思うか?』

怪鳥『わが部下たちが貴様らの目玉を突き殺してくれるわっ』

商人「あああああああ、やっぱこっちが弱そうだからこっち来たああああああああ」

女騎士「商人殿! いかに奴とて真空の刃は連発できない!」

女騎士「森の中を走るのだ!」

商人「あああああ、恨む、恨んでやるぅうううう」ダダダッ

女騎士「よし、こっちだ、こっち」

商人「ひいいいいい」

怪鳥『ケーケッケッ、逃げろ逃げろ』

怪鳥『いつまで逃げ続けられるかな』

女騎士(くっ、力を溜めている……)

女騎士(しかし、灯台まで行けば真空の刃を振るえば、建物が壊れてしまうはずだ!)

女騎士「むっ、見えたぞ、灯台だ」

商人「うおおおおお」ダダダッ

女騎士(そういえば、やつの部下たちの姿が見えない……)

女騎士「!」

女騎士(ど、毒の餌と網の罠に、引っ掛かっている!)

女騎士(まさか、親玉以外を封じるために……)


怪鳥『ケケケ―ッ』

女騎士「どうした、羽根が生えている割には足が遅いな!」

怪鳥『ぬかせ、小娘!』

女騎士(よ、よし、敵を引きつけたぞ!)

女騎士「しかし、勇者殿は?」

商人「逃げたくさい……」

女騎士「くっ、灯台に逃げ込むぞ!」

商人「逃げ道がないんですけど……」

女騎士「しかし、他に道はない!」

商人「ちくしょう、何やってんのあの人!」

怪鳥『逃すかーっ』 バサーッ  バチンッ!!

怪鳥『グエッ』

商人「へ?」ハァハァ

戦士「よし、引っかかった」

女騎士「……門にバネを仕掛けていたのか」ハァハァ

怪鳥『ぐ、グエッグエエエッ』バサバサ

戦士「灯台の入り口なんて大きいもんじゃないからな」

戦士「普段は空から灯台に登ってたんだろう」

戦士「だから、地面に近い方の門の仕掛けには油断があったってわけだ」

怪鳥『グエッ』

商人「はぁはぁ、あ、あのですね」

戦士「おい、商人、毒矢」

商人「はぁはぁ、は、はいはい」ゴソゴソ

女騎士「……どうするつもりだ」

戦士「そら念には念を入れよってことさ」ビュバッ

怪鳥『ケーッ!!』

――

商人「はああああ、疲れた」

女騎士「怪鳥め、毒を食らわせたのになんという体力だったのだ」

商人「ホントですよ! ボクまで殴らされましたよ」

戦士「これけっこうな量の鳥肉取れるよな」

商人「毒打ち込みましたよね?」

戦士「冗談だよ」

商人「けど、これで……よっしゃあ! 大金ゲットー!」

戦士「それはどうかな」

商人「えっ」

女騎士「……」

商人「はっ、こ、これはその」

女騎士「いや……感服した」

女騎士「私では、このような戦法は思いも寄らなかったろう」

女騎士「……こんな簡単に」

戦士「あー、そういうことじゃねぇ」

戦士「あの王は、『褒美を与えてもいい』と言ったんだ」

商人「はあ」

戦士「いくらとは言ってない」

商人「そんな馬鹿な」

女騎士「し、しかし、我が国の騎士団が全滅させられた相手を」

戦士「騎士団が重要じゃなかったんだろ」

女騎士「!」

商人「え? え?」

戦士「普通に考えて、海の国で強いのは海軍だろう」

戦士「それに馬にも乗ってない騎士様ってなんかおかしいし」

商人「言われてみれば……」

女騎士「……くっ」

商人「もしかして、嫌われてるんですか?」

女騎士「ち、違う!」

戦士「昔は陸方面にも領土があったんだろうが、魔物が増えてきただろ?」

商人「まあ、そうですね」

戦士「で、海に強い国が、少ない資源をどこに振り分けると思う?」

商人「まあ……海ですね」

女騎士「わ、我々は、剣の腕を必死に磨いてきた!」

商人「まあ、大砲とかありますからね」

戦士「今回の魔物討伐は、肩身が狭い騎士団の最後のチャンスだったんだろう」

商人「はー、そういうことですか」

女騎士「……」ワナワナ

戦士「まあ、だから、いくら灯台を抑えられていたとはいえ、大金がもらえる可能性は少ないってこった」

商人「そんな~……」

女騎士「わ、私が! 掛け合うから!」

戦士「いや、それよりもだな」

商人「なんですか?」


――
王様「よくぞ魔物を倒してきた!」

戦士「ははっ」

商人「それで、褒美なんですが」

王様「うむ。しかしのう」

商人「な、なんですか」

王様「わしは灯台の『魔物全討伐』と言ったのう」

商人「……言いましたっけ?」

戦士「言いましたな」

王様「しかし、海側から偵察させたところ、まだ生き残りがおったのじゃ」

商人「ええ~?」

王様「首級を上げたとはいえ、約束は約束じゃ」

女騎士「陛下! しかし!」

王様「そう、我が配下の女騎士は、我が国でも随一の剣の使い手じゃった」

王様「つまり、ほぼ我が軍が制圧したようなもの、そうじゃろう?」

商人「いやいやいや!」

戦士「それはさすがに無理がありますな」

王様「ほう」

女騎士「陛下、この者達はもっと強力な敵を討ち倒したのです!」

王様「黙れ」

女騎士「しかし……」

戦士「確かに女騎士殿の功績は高いかと思います」

女騎士(う、来たか……)

戦士「そこで提案なのですが、我々は今後も魔王討伐で戦わなくてはなりません」

王様「ふむ」

戦士「だから褒美に女騎士殿をください」

王様「ほほう」ニヤ

戦士「女騎士殿は自分よりも剣の腕が高いのでね。報奨金よりも価値がある」

王様「しかしのう、先程も言ったように、女騎士は我が国随一の剣の使い手」

商人「びた一文払わない気ですよ、こいつ!」ヒソヒソ

戦士「お前もこういう腕を磨け。駆け引きってやつだ」ヒソヒソ

商人「えーっ」

王様「女騎士はどうじゃ?」

女騎士「……私は」

王様「もう我が国には騎士はその方しか残っておらん」

王様「お主に出て行かれては困るのう」ニヤ

女騎士「あ、出ていきます」

王様「な、なんだと」

女騎士「魔王討伐の大義に殉じます!」

商人「よし!」

戦士「商人、アレが表向きはイイコト言って、相手を言いくるめる話法だ」ヒソヒソ

商人「そのくらい知ってますよ!」ヒソヒソ

戦士「いや、ちょっと形式張った場所では、大義とかそういう言葉が聞くんだ」ヒソヒソ

商人「なるほどな~」

王様「むむ」

王様「ま、まあ、仕方あるまい。その代わり、他に褒美はやらんぞ」

戦士「ははっ」

王様「ではゆけい! 女騎士よ! 世界に平和を取り戻してみせよ!」

女騎士「ははーっ」

――女騎士の部屋。

女騎士「すまないな」

戦士「うん?」

女騎士「もうこの国には私の居場所はない。だから、申し出てくれたのだろう?」

戦士「おい、商人。持てるもの全部詰め込めよ」

商人「もちろんですよ! あ、下着」

女騎士「おい!」

戦士「女騎士以外の褒美はやらないって言ってたけど、持ち物はオッケーだよな?」

商人「そう思います」

女騎士「お前たち、話を聞け!」

――
商人「はふう、すばらしい……」

女騎士「むう」

戦士「どうだった?」

商人「売れましたよ。かっちょいい鎧、剣、エロ下着」

戦士「ほう」

女騎士「し、下着はっ、貰い物だ」

商人「旅に出るのにそんなに荷物は要りませんからね、美術品もなかなか売れましたぜ」

女騎士「……。船を買う金には足りそうなのか?」

商人「船?」

戦士「足りるわけないだろう」

商人「あっ、あー……そ、そそそりゃそうですよ!」

商人「っべー……勇者さん、この人がいたら、何も出来ないじゃないですか……」

戦士「そうか?」

商人「ど、どうしてこんな人を仲間にしようとしたんですか!」

戦士「そりゃエロいし、長旅で女の子が不足しがちだからだろ」

商人「欲望丸出しじゃないですか!」

戦士「むしろ、勇者のふりを押し通せばいい」

商人「絶対バレますよ!」

戦士「主にお前の態度でな」


女騎士(なんとなく聞こえてくるんだが……)

戦士「分かった分かった、俺に任せておけ」

商人「だ、大丈夫なんでしょうね」

戦士「ああ。おい、女騎士」

女騎士「ああ、どうした?」

戦士「ちょっとこっち来い」

女騎士「あ、ああ」

戦士「……実はお前に言わなくちゃならないことがある」

女騎士「うむ」ゴクリ

戦士「俺は、本当の勇者じゃないんだ」

女騎士「そうなの、か?」

戦士「商人の方が勇者なんだ」

女騎士「嘘つけ」

戦士「本当だ! つまりな、本当は勇者で、精霊の加護も受けているんだが……」

戦士「剣の腕も、魔法もからっきしダメでな」

女騎士「……それで?」

戦士「その上、一度パーティーに裏切られたので、疑心暗鬼になってな」

戦士「俺に勇者のふりをさせて、魔王討伐のために金を集めているのさ」

女騎士「……そうか」

戦士「信じてないだろ」

女騎士「当たり前だっ!」


商人(何話しているんだろう……また怒らせてる……)

女騎士「私はっ、お主こそ剣の腕はともかく、知略に長けた勇者殿と思っているのだ」

戦士「そりゃ買いかぶりすぎだ」

女騎士「さては味方から欺くというやつか?」

戦士「いやー、俺は酒と女が好きなだけの元遊び人だ」もみっ

女騎士「きゃー!」バシィ

戦士「かなり巨乳」

女騎士「うるさい黙れ!」

商人「あのぉ……」

女騎士「うるさい! 私は女を捨てた身だ!」

戦士「そういうタイプもそそるな」

商人「あー、いわゆる麗人系ってやつですね」

女騎士「やかましい!」

戦士「……まあ、とにかく、魔王討伐って目的には変わりないぜ」

女騎士「ふーっ! ふーっ!」

戦士「猫かなんかか?」

女騎士「と、とにかくだ、とにかく、私は褒美で貰われたのも確かだ」

女騎士「この剣の腕なら存分に振るうのみだ」

戦士「ベッドの上でも?」

女騎士「剣を振るってほしいのかっ!?」

商人「そこは腰を振るって言わなくちゃ」ハハハ

女騎士「ふんっ!」メゴスー

商人「ぶげぇ」

――
女騎士「馬車か」

戦士「ああ。御者を雇うのもいい加減、飽きてな」

女騎士「ふう、馬の口取りは騎士の仕事ではないのだがな」

戦士「でも、扱いには慣れてるだろう?」

女騎士「うむ。任せてくれ」

戦士「よし、じゃあ、あとはこいつを放り込んで、と」どさっ

商人「きゅう」

女騎士「……」

戦士「こんな本気で殴らなくてもいいじゃねぇかよな」

女騎士「気絶するとは思わなかった」

女騎士「それで、どうするつもりなのだ」

戦士「そりゃもう、金稼ぎよ」

女騎士「金か」

戦士「騎士様には縁がないことかな?」

女騎士「いや、心当たりがないではない」

戦士「ほう?」

女騎士「要は洞窟や塔や、魔物の住処から金品を漁って売りさばけばいいのだろう?」

戦士「それじゃただの冒険者だろ」

女騎士「いや、世界平和の大義がある」

戦士「しかしなぁ、こいつが魔物退治は嫌がるんだよ」

女騎士「……お主、確か彼を勇者と」

戦士「なんか楽して稼げないか?」

女騎士「うむ。エルフの隠れ里を知っているか?」

戦士「お、エルフか」

女騎士「ああ、そこには珍しい魔法の道具があると聞く」

戦士「エロいエルフを捕まえて」

女騎士「は?」

戦士「奴隷市場に売りさばけと」

女騎士「おい」

戦士「どうした?」

女騎士「どうしたじゃないっ!」

戦士「エルフは軒並み高値で売れるって聞くぜ」

女騎士「おまっ……! 世界平和の旅じゃなかったのか!」

戦士「魔王討伐だぜ」

女騎士「同じことだろう!」

女騎士「大体、積極的に平和を乱してどうする!」

戦士「そうか……!」

女騎士「ああ、分かってくれたか?」

戦士「売って他の人間に味わせるなんて勿体無いな」

女騎士「」

商人「なんかお金の話してませんか!?」ガバッ

女騎士「寝ていろ!」ガシッ

商人「どうして……」

戦士「まあ、そんなに冗談で興奮するなよ」

女騎士「お主は本気と嘘の区別がつかない」

戦士「本気で嘘をついている」

女騎士「一番悪いやつだろ、それは」

戦士「はっはっは」

エルフの里。

エルフ「きゃー! 人間よー!」

戦士「おお、逃げていくぞ」

女騎士「エルフは人間嫌いだからな……」

戦士「なら、俺に任せろ」ガチャッ ボロン

女騎士「!?」

商人「あの、勇者さん」

戦士「ここは武器をつけずに敵意を持っていないことを示すべきだ」

商人「♂してたら敵意持ちまくりな気がしますけど」

戦士「装備してても叫んで逃げられるから同じだ」

女騎士「お前それでも勇者か!」

長「……どうやら騒ぎを起こしているのはここウワァー!!」

戦士「ちょっと待ってくれ」カチャカチャ

長「汚らわしい! 葬ってくれる!」

女騎士「長老殿! どうかお待ちいただきたい!」

長「なんだ、お前たちは!」

女騎士「この者はそういう風には見えないかもしれませんが、勇者なのです!」

女騎士「魔王討伐のため日夜たたかっておりまして!」

長「半裸で?」

戦士「夜はな」

長「弓矢を構えよ」

エルフ「はい!」

女騎士「くっ」

戦士「いや、悪い悪い」

戦士「ちょっとツッコミが増えて、芸人魂が湧いてきてしまって」

長「何の話だ」

戦士「商人、アレを見せてやれ」

商人「は、はい! ほら、エルフの皆さん!」ササッ

商人「南の国で正式に発行された、勇者認定証です!」

長「そんな紙切れはしらん」

戦士「ですよね」

商人「ど、どうするんですか」

戦士「そうだな、提案がある」

長「提案だと?」

戦士「ああ。俺達は見ての通り汚らわしい人間どもだ」

長「わかっているようだな」

戦士「そんなわけで、あんた方が触れない汚れた道具を引き取りたい」

戦士「つまり、呪われた装備ってやつだな」

商人「え……」

長「ほう」

商人「ち、ちょっと!」

戦士「どうした?」

商人「の、呪われた装備って全然値段なんか付かないんですよ!」

戦士「うん、そうかもな」

商人「そんなの儲からないじゃないですか!」

戦士「まあ、任せとけ」

戦士「で、もちろんそれもタダとは言わない。ほら、女騎士」

女騎士「は、はい」

長「なんだこれは」

女騎士「我が国に伝わる、エルフが作ったナイフです」

女騎士「元々、これらとあなた方の何か物品を交換したいと思いまして……」

長「ふむ、なるほど」

長「そこまで言うなら交換してやってもよい」

エルフ「長老!」

長「弓矢をおろせ」

エルフ「よろしいのですか?」

長「どうせ我らにとってはゴミのようなものを、わざわざ貢物して引き取りたいとの申し出だ」

長「特に断ることでもないだろう」

戦士「ありがとうございます」ペコリ

女騎士「すみません、こちらになります」

長「……うむ。確かに」

長「では、ゴミ捨て場まで案内してやれ」

エルフ「はあ。分かりました」

戦士「頼むぜ」

女騎士「それでは、失礼します」

長「ふふふ、まあよいまあよい」


商人「……あの、勇者さん」

戦士「おう、どうした」

商人「ボク、勇者さんが何を考えているのか読めないんですけど」

戦士「読まなくていいぞ」

商人「そして嫌な予感がしますね」

戦士「あたりだ」ボソリ

商人「ん?」

エルフ「ほら、ここだ」

戦士「おう」

商人「はあ……」

女騎士「そう気を落とすな、掘り出し物があるかもしれないじゃないか」

商人「ボクはもう少し、スマートにやってほしいなって思っただけですよ」


戦士「あー、エルフのお嬢さん」

エルフ「なんだ、人間」

戦士「この腕輪なんかどうだ?」

エルフ「それか。それはだな……」


商人「う~ん、ろくなものがないですね」

女騎士「根気よく探せ、地道に歩けば道は開ける」


――ドサッ

商人「どうしました?」

戦士「おう、商人。この腕輪、つけると立ちどころに痺れて意識を失うらしいぞ」

商人「はあ」

女騎士「なぜそのエルフにはめた」

戦士「効果を試したんだ」

商人「えーと……」

戦士「アー、コレ腕輪外せないわー」

戦士「汚らわしいからまとめて持っていかないとー」

商人・女騎士『!?』

戦士「よし! 急いで運ぶぞ!」

商人「ちょ、ちょちょちょ勇者さん」

女騎士「お、お主、本気だったのか!?」

戦士「一度警戒を解いた後の方が、逃げやすいからな」

商人「アカン、この人本物だ」

女騎士「お主、本当に勇者か!」

戦士「誰も付属品まで持って行ってはいけないと約束していないじゃねぇか」

商人「……確かに」

女騎士「!?!?!?」

戦士「よっこいせ」がしり

商人「さあ、騎士様も一緒に行きましょう!」

女騎士「おま、これは誘拐だ!」

戦士「女騎士に一つ言いたいことがある」

女騎士「な、なんだ」

戦士「俺はエルフとやったことがないんだ」

女騎士「やかましいわ!」

商人「何事も経験ですよ、さあ、今のうちに!」サササッ

女騎士「おま、これ、わたし、うおおおおおお……!」サササッ

戦士「よーし、森を抜けるぞー」

宿屋。

エルフ「くっ、殺せ!」

女騎士「……」

商人「どうしました?」

女騎士「いや、なんか聞き覚えのあるセリフだなと」

商人「まあ、ありふれてますからね」

女騎士「そうかな……」

戦士「くっくっく、それでは尋問を開始する」

商人「ノリノリですね」

戦士「当たり前だろ」

女騎士「勇者殿、考え直さないか」

戦士「何がだ?」

女騎士「このようなこと、正義に適うことではない」

戦士「とは言うがなぁ」

女騎士「え、エルフの魔法の道具を交換するのではダメだったのか」

戦士「それな」

商人「何かまずいんですか?」

戦士「いや、エルフの魔法というのは古くて難しいからな、道具にしても大金になるようなものはねーんだよ」

商人「え、そうなんですか?」

女騎士「そ、それなら最初から……」

戦士「だが、エルフは未来を占ったり呪いをかけるすることに関しては長けているからな」

商人「なるほど! つまり魔王に呪いをかけてもらうんですね!」

戦士「そんなのがかかったら魔王はとっくにハゲてるだろ」

女騎士「ハゲ……?」

戦士「エルフの呪いと言えば髪の毛にかかるのが定番だ。あと水虫」

商人「なんて恐ろしい」ゴクリ

エルフ「勝手な言いがかりはやめて!」

戦士「まあ、つまり、金になりそうなエルフからの情報を聞き出せばいいってことだ」

商人「それから、奴隷市場に……」

女騎士「ダメに決まっているだろう!」

戦士「ま、とにかく、商人、あれは準備できているだろ?」

商人「もちろんです」

エルフ「何をする気?」

戦士「くくく、穢れた人間たちの麻薬のような食物を無理矢理食わせてやるのさ」

エルフ「そ、そんな……」

女騎士「……」

戦士「これを口にした女性は立ち所にその麻薬性に蝕まれ、月に一回が週に一回となり、挙げ句の果てには、毎夜自分へのご褒美にしてしまうという……」

エルフ「なんてこと……」

女騎士「……」

戦士「そしてそれを続けていく内にいつしか醜い腹を晒してしまうことになるのさー!」

エルフ「いやああああああ!!」もぐもぐ

女騎士「……うん」

商人「ショートケーキだけじゃなく、モンブランもありますからね~」

エルフ「くやしいっ……! でも食べちゃうっ……!」もぐもぐっ

エルフ「ああ、おいしい、これもおいしい」もぐもぐ

戦士「すっかり虜になってしまったようだな」

エルフ「こ、この程度で私を籠絡したなどと思わないことね!」

戦士「まだベリータルトも残っているぞ」

エルフ「あひい!」ビクン

女騎士「かなり買ってきたんだな」

商人「余ったら一緒に食べましょう」

女騎士「う、うむ」

戦士「さーて、それでは順次聞いていくぞ」

商人「じ、じゃあ、まずボクから。金目のものを寄越せと」

女騎士「ただのチンピラではないか!」

エルフ「ふん。人間たちに渡すモノなどない」

戦士「じゃあ、別の質問だ。長老が最近言ってることで気になることはないか?」

エルフ「長老が? そうね」

エルフ「ここのところ魔物が増えて……里を捨て、妖精の国に移住しようという話も聞いたことがある」

商人「へえ、妖精の国なんてあるんですね」

戦士「エルフは長命種というだけでなく、精霊的な属性を持つからな。妖精に近いんだろ」

女騎士「……詳しいな」

戦士「前に妖精でエロいことしようとしたら、怯えていろいろ教えてくれたんだ」

女騎士「この変態野郎!」

商人「けど、エルフが集団移動するのって面白いですね。旅しているエルフなんて見たことがないですけど」

エルフ「ふふん、人間たちが知らないのも無理はない」

エルフ「我々は独自の遠隔地へ移動するワープ空間を知っているのよ」

女騎士「なんだと?」

商人「へー、それはすごい!」

エルフ「穢れた危険な土地を歩くのは大変よ。しかしここを通れば、神聖な森のみを歩くことが出来る」

戦士「森から森へわたれるというわけだ」

エルフ「その通り!」

戦士「それで、それはどこにあるのかな?」

エルフ「う、そ、それは」

戦士「ケーキ」

エルフ「らめぇ! おいしすぎりゅよぉ!」もぐもぐ

戦士「なるほど、あの辺りに三箇所へ飛べる空間があると」

エルフ「ううっ、おいひいよぉ……」もぐもぐ

商人「ほー、これは便利じゃないですか!?」

女騎士「しかし、それが何の役に立つというのだ?」

商人「馬車も通れるなら、物品の大量輸送に役立ちます!」

戦士「森の中だけどな」

商人「うっ、そうか」

女騎士「なるほど……魔王城に近ければ、戦略にも活用できるな」

戦士「攻め込まれる危険もあるけどな」

女騎士「む……」

戦士「だが、俺たちだけが知っていれば、いろいろ使い道はある」

戦士「さて、他に何か言っていなかったか?」

エルフ「ほか……? いや、特にそういうことは……」

戦士「精霊の加護を受けた男のことについては?」

エルフ「うーん、人間の話は聞いたことがない」

戦士「……そうか」

商人「どうしたんですか、勇者さん」

戦士「なんでもねぇよ」

エルフ「けど、そうだな。確か長も言っていた」

エルフ「光っぽいものは失われていないと」

戦士「ボケてるだろそれ」

戦士「よし、エルフのお嬢さん」

エルフ「なんだ、人間」

戦士「あんたは暴れ出した人間を追いかけたが見失ったということにして帰るんだ」

エルフ「う、うん」

戦士「それで、何かあったら俺たちに協力してくれ」

エルフ「どうしてお前たちに協力しなくてはいけないの」

戦士「ケーキ買ってくるから」

エルフ「ゴクリ」

エルフ「ふ、ふふ。エルフの誇りを舐めてもらっては困るわ」

商人「余ったから食べちゃいましょうか」

女騎士「そうだな」

エルフ「らめぇ!」

――
戦士「よし、どうだ?」

女騎士「うーむ、馬車は難しいな、やはり」

商人「ダメですかー……」

戦士「ま、次の土地でちょちょいっと美女を堪能して戻ってくればいいさ」

女騎士「お主は本当に困ったやつだな」

商人「まあまあ! 向こうで珍しいものをゲットして、売りさばけばいいわけですよ!」

商人「あわよくば秘密の交易ルート開拓しちゃったり?」

女騎士「強力な魔物がいるかもしれんからな」

女騎士「困っている世人を助けることは必要だ」

商人「そういうのはいいです」

戦士「よし、飛び込むぞ」ひょいっ

女騎士「う、うむ。とぉっ!」ばっ

商人「ていっ!」ぴょんっ


あたりの景色が歪んでいく――


戦士「……」

女騎士「どうだ?」

商人「お、成功みたいですね?」

戦士「ふう。空が暗いな、こりゃ魔物がいっぱいコーナーに来たのかもな」

商人「うわあ、ちくしょうい」

女騎士「ふむ。なにか瘴気のようなものが渦巻いているように見える」

戦士(とりあえず言ってみたい単語、『瘴気』)

戦士「いやでも、あっちの方に村があるぞ」

女騎士「本当だ。灯りがないようだが」

商人「あ……」

戦士「とりあえず、あそこで泊めてもらうか」

商人「あ、あー。おふたりさん」

戦士「ん?」

女騎士「なんだ」

商人「あそこはおそらく、魔物に乗っ取られた村ですよ」

女騎士「なに!?」

商人「ですから、あそこには近寄らない方がいいと思いますよ!」

戦士「そうか」

女騎士「本当なら、解放しなくては!」

戦士「そうだな。女の子がいるかもしれない」

商人「え!? あ、いやいや」

商人「生きている人間はいないかもしれないですし……」

女騎士「なんだと」

戦士「ゾンビ娘とやったことはなかったな」

女騎士「おい罰当たり」

商人「と、とーにーかーく!」

商人「あそこに行くのは辞めたほうがいいですよ!」

女騎士「なぜ止める? そんなに危険なのか?」

戦士「……」

商人「で、ですからね?」

戦士「騎士、騎士」クイ

女騎士「う、どうした」

戦士「おそらく、あれは商人の故郷に違いない」

女騎士「なに」

戦士「そして、多分商人はあそこで恥ずかしい……全裸で村の広場でオナニーしたとかやらかしたんだ」

女騎士「……」

戦士「それがトラウマになって近づきたくないのさ」

女騎士「おい勇者」

商人「あの……オナニーとかなんとか……」

戦士「すまない、お前のトラウマを刺激してしまったようだな」

商人「ち、ちげーし! トラウマとかじゃねーし!」

女騎士「無理やり性的な話題に結びつけるのはやめろ」

戦士「違うのか?」

商人「何の話か分かりません!」

戦士「じゃあ、とりあえず近づいて」

商人「おうわああああああああ!!!」ぐいぐい

戦士「なんだよ」

商人「別に行かなくてもいいじゃないですかー! あんな辛気臭いところー!」

商人「他にエルフの渡り口二つくらいあるわけですしー!」

戦士「商人」

商人「は、はい?」

戦士「俺は人の嫌がることはしない主義だ」

商人「そ、そうですか」ホッ

戦士「けど嫌よ嫌よも好きのうちって言葉もあってだな」ずんずん

商人「ああああああああ!!!」

女騎士「む、待てっ」

戦士「お?」

商人「ひぃっ」

女騎士「魔物だ、近いぞ」

戦士「よし、森に隠れろ」

商人「うう、怖い……」


魔物A「どうやら、灯台を攻めていた鳥がやられたらしいな」

魔物B「ぐふふ、所詮奴は魔界十二貴族の末席ヨ」

魔物A「貴族がそんなにいるのもどうかと思うが」

魔物B「あと貴族がわざわざ最前線に出るってのもナ」

魔物A「まあ、しかし、勇者とやらを倒したらしいというのに、全然攻めきれんな」

魔物B「今度の侵攻作戦、損害が大きすぎるゾ」


女騎士「……なんて言っている?」ヒソヒソ

戦士「うーん、よく聞こえないな」

商人「……」

戦士「行ってしまったな」

女騎士「うむ」

商人「はあ」

戦士「じゃあ、あの村に」

商人「ち、ちょっと!」

戦士「なんだよ」

商人「だから、あいつらはあの村を住処にしてますよ、きっと!」

女騎士「いや、村とは違う方角に行ったぞ」

女騎士「むしろ、村の様子を見に行くべきでは?」

商人「あ、う、う~」

戦士「大丈夫だ大丈夫」ぽんぽん

商人「な、何がですか」

戦士「いざって時は全力で逃げるから」

商人「……」

女騎士「よし、それじゃあ、暗くなる前に村へ!」

戦士「ほれ、行くぞ」

商人「……はい」

――廃墟の村。

女騎士「む……」

戦士「灯りがないと思ったら、完全に潰れていたのか」

商人「……」

女騎士「これはひどい」

女騎士「おそらく、かなり前に、魔物の襲撃にあったのだろう」

戦士「なるほど」

商人「ええ、まあ。そうでしょうね」

女騎士「まさか商人……」

商人「まあ」

女騎士「い、生き残りなのか? 唯一の」

商人「唯一かは知らないですよ、よく分かんなかったんで」

商人「でも、まあ、多分調べても生きてる人なんていないですよ」

戦士「うん」

商人「あ、あー、そうですね。魔物が取り忘れた財産とか、あるかもしれないですね」

戦士「そうか」

商人「でも、どうせ貧乏な村だったんで」

女騎士「……」

商人「多分探してもなんもないです」

商人「はいはい、終わり! ここでの探索は終了!」

商人「でも、ここは魔物に近いところみたいなんで、魔王に近づいているのかもですね!」

商人「ワープ装置の場所的にはいいのかも……」

戦士「まあ、待て」

商人「な、何を」

戦士「死んだ人達が野ざらしだが、見ろ」

戦士「座ったり寝転んだりしている」

商人「それが……なんなんですか」

戦士「アンデッド化、人によっちゃ魔物化してるってことだ」

商人「!」

戦士「しっかり葬ってやらないとな」

女騎士「そ、そうだな」

女騎士「私は聖職者ではないが、埋葬に聖印を授ける方法くらいは知っている」

女騎士「そうすれば、夜な夜なに魂が彷徨うこともないだろう」

商人「……」

戦士「金にならないけど、どうだ?」

商人「う」

戦士「やらないか?」

商人「……やります」

――
商人「別にね、大したことじゃないですよ」ざっざっ

商人「ボクは小さかったし、よく分かんなかったし」ざくっ

商人「ただ魔物に村が襲われて、母と逃げて」ざくっ、ざくっ

商人「助けを求めたんです」

商人「でも、となり町に行ってもだーれも助けてくれなかった」

商人「みんな金ですよ、金」

商人「……」ざくっ

商人「だから商人やってるとかじゃないですよ」

商人「結局、母は村に引き返すなんてバカなこと言い出して」ざくっざくっ

商人「……」

商人「ま、となり町も全滅したんですけどね!」ハハハ

商人「それで、なんとか食っていこうと思って……」

商人「いろんなもの売りましたよ、土地も何も持ってなかったんで」

商人「体とかも」

戦士「エロいっ!」

女騎士「勇者殿!」バシィ!

商人「……」

商人「そういう時にね、勇者の噂を聞いたんです」

商人「魔王を倒すんだっていう」

商人「笑っちゃいますよ、そんなの本当にいるなら――」



商人「――なんでボクらのことは助けに来てくれなかったんだろう」

.

女騎士「商人殿……」

戦士「……」

商人「あっ、勇者さんのことを批難しているわけじゃないですよ!」

商人「だって別に勇者さんは、ほら……」アセアセ

戦士「悪かったな」

商人「あーっ! 違いますって」

女騎士「その……すまない」

商人「別にいいんですよぉ、嫌な記憶しかない話だし」

商人「だから、その……」

戦士「……勇者認定証とやらを手に入れて、精神的に復讐を果たそうとしたわけだな」ボソリ

商人「……はい」

戦士「まあ、あれが流れているってことは、認定された勇者は死んだか手放したか、ということだからな」ヒソヒソ

商人「……でしょう?」

商人「どうせ、あんな紙切れで認められたやつなんか、大した事ないんですよ」

商人「どこか野垂れ死んだか、重荷になって逃げ出したか……」

戦士「ま、紙切れは紙切れだからな」

商人「……」

戦士「ん?」

商人「うっ、うー」グスグス

戦士「おいおい、泣くなよ」

┌(┌^o^)┐ホモォ…?

戦士「おい、女騎士」

女騎士「な、なんだ」

戦士「ちょっと二人だけにしてくれや」

戦士「泣くところはそんなに、大勢には見られたくないだろ?」

女騎士「うむ、そうだな」

女騎士「他に遺骸がないか、探してこよう」

戦士「おう」

商人「う、ううう」

商人「うああああ……」

戦士「よしよし」ぽんぽん

>>150 ユウジョウ!

――
商人「あー、恥ずかしい……」

戦士「何がだ?」

商人「人前で泣くとか、そんなの金にならないじゃないですか!」

戦士「泣きながら蛇や鳥に追いかけられていたような」

商人「そら恐怖で泣くのとは別ですよ!」

商人「勇者さん、涙代くださいよ! 飾りじゃないんですよ! ほら!」

戦士「うるせーなー」

戦士「むしろ胸を貸してやった分、俺の方が涙代をもらうべきだろ」

商人「ちっ、抜け目ない」

戦士「金じゃなくて酒でいいぞ」

商人「こうなったら徹底的に偽勇者を貫いてやりますよ!」

商人「そしてゆくゆくは金に任せて魔王を倒すんですよ!」

商人「勇者が来たら? 『あいつの方が偽物だ(笑)』 こんなかんじで!」

戦士「ほー、そりゃ結構だ」

商人「どうですか!?」

戦士「ところで、魔王軍ってあの蛇や鳥みたいなのが何体もいるんだが」

商人「う」

戦士「しかも魔王はあいつらよりずっと強いわけだが」

商人「お」

戦士「どうするんだ?」

商人「そ、それじゃあですね、勇者にやらせるんです!」

戦士「ほう」

商人「真の勇者に魔王討伐! だけど報酬はボクらの手に!」

商人「どうです?」

戦士「あの紙切れの勇者は死んだくさいけど?」

商人「ふぎゃー!」

戦士「はっはっは」

商人「笑ってないで考えてくださいよ!」

戦士「ま、本当に精霊の加護を受けた勇者なら、死なないのさ」

商人「はあ」

商人「そういえば、そのう……勇者さんっていうか、戦士さんは」

戦士「ん?」

商人「どうして引き受けてくれたんですか?」

戦士「ツケを払ってくれただろ」

商人「いやいやいや!」

商人「そのためだけに、蛇を倒したりなんだり……」

戦士「実は俺は極度のバトルマニアでな」

商人「アルコールマニアかガールズマニアなら分かりますけどね」

戦士「そいつが手に入るなら、十分だと思うが?」

商人「そうかなぁ」

女騎士「はぁっ、はぁっ! お前たち! 敵襲だ!」

商人「うぇっ」

戦士「そうか、逃げるぞ」

女騎士「い、いや、すぐそこまで迫ってきていて……!」

戦士「何体来ている?」

女騎士「い、一匹だ!」

商人「あの」

戦士「……まあ、アレだ。簡単に人も魔物も死んじまうもんなんだよ」

戦士「俺達はそういうのに引っかからないように、大事なところで気をつければいい」

女騎士「な、何を言っている?」


\プギィーッ/


戦士「落とし穴だ。重量があるやつ用に」

女騎士「なんと、そんなものを……」

戦士「すれ違った魔物は軒並み鎧をつけていたからな」

戦士「踏み抜くと外れないようになっちゃう」

商人「あくどいですね~、勇者さんは本当にあくどい」

戦士「魔物相手ならいいだろ」

女騎士「……エルフにもやってたぞ」

商人「誘拐しましたもんね」

戦士「はっはっは」

女騎士「ああ、たとえコレが世界平和のためだとしても、我々は神には許されまい……」

戦士「そうかな?」

――
商人「さぶっ!」

女騎士「うむ……ここの渡り口は、い、行かなくても良いのではないか?」

戦士「ん? 寒いの苦手なのか?」

女騎士「う、うむ」

戦士「はっはっは、そういう時は酒を飲んで体を温めればいいんだぜ」

女騎士「あのな……」

商人「もしかして……勇者さん、寒いところ出身?」

戦士「さー、結構前からあちこちふらふらしてるからなぁー」

女騎士「む、酒臭い!」

戦士「ぶはあ」

女騎士「勇者殿! その、アルコールは控えては……」

戦士「週一でしか飲んでないのに」

女騎士「そ、そうではない。もっと気を張ってだな」

戦士「商人」

商人「はい、とりあえずコレきりにしてくださいね」さっ

女騎士「おい」

戦士「ああ~、五臓六腑に染み渡るのう」

商人「……勇者さん」

戦士「どうした?」

商人「そのぅ、ボクも飲んでもいいですかね」

戦士「……」

商人「へへへ」

戦士「ダメ」

商人「ひどい!」

商人「勇者さん、ボク、頑張りますよ、ほらほら」

商人「だからいろいろ許して下さいよ」

戦士「え~、だったらお金をもっと稼げ」

商人「任せて下さい!」

戦士「……」

戦士「よし、じゃあ、案を出してみろ」

商人「うーん、こう寒いとですね。温まりたいと思うんですよ」

戦士「ほう」

商人「とくれば、やっぱり、温泉を探すのとかどうでしょう!?」

女騎士「魔王討伐にわずかにもかすってないではないか……」

戦士「温泉、いいね」

商人「そうでしょう!?」

戦士「でも許可がいるよな」

女騎士「なんのだ」

戦士「掘るのに」

女騎士「ほ、掘る? 温泉というのは、地面に埋まっているのか」

戦士「そらそうよ。がっつり掘った土で山ができるくらいいかないと出てこないぜ」

女騎士「何ヶ月かける気だ!」

戦士「だそうだ」

商人「いやいや! 今あるものをゲットすればいいじゃないですか!」

戦士「温泉強奪か」

商人「商売です!」

戦士「まあ、温泉を買うかどうかは置いといて、温泉に入るのはいいかもな」

女騎士「それでいいのか?」

戦士「いい」

商人「ですよ」

戦士「温まるぜ、混浴だと女の子と入れるし」

女騎士「……」

戦士「どのみち長旅の疲れを癒やす意味もある。損はないんじゃないか」


町人「温泉なら魔物に占拠されたよ」

商人「」

女騎士「な、なんだと!」

戦士「ほう」

商人「ちょっと魔物に占拠されすぎですよ!」

戦士「そりゃまあなあ」

女騎士「魔王がいるのだ。無理もない」

町人「だが、気にすることはないよ。お城の兵士たちが魔物退治に派遣されたからな」

町人「強いぞ、ここの兵士は」

女騎士「そうなのか」

商人「な、なんだ。それはしょうがないですね」

戦士「確かに、ここ出身の冒険者は強いよなー」

女騎士「お、詳しいのか?」

戦士「ああ。ほれ、雪に囲まれるから、戦闘訓練くらいしかやることがないんだ」

戦士「あとはセックスだな! 他にやることないし」

商人「はあ」

町人「あ、お兄さん、好き者なのかい?」

戦士「女の子は好きだぞ!」

戦士「ここの女の子は、肌白くてもちもちで、おっぱい大きいし」

町人「よく知ってるねぇ!」

女騎士「まったく勇者殿は……」

町人「実は俺、女の子のサービスやってるんだ。いい娘紹介するぞ」

戦士「いいね」

商人「勇者さん、一つ言っておきます」

戦士「なに?」

商人「お金は出ません!」

商人「お金は出ません!」

戦士「二回言ったぞ」

女騎士「勇者殿。私からも言わせていただく」

戦士「なんだ?」

女騎士「……商人殿の故郷、お主も見たであろう」

戦士「ああ、見たな」

女騎士「アレを見て、その、なんだ、まだ女に溺れていられるのか」

女騎士「私はあえて苦言を呈そう」

戦士「えー、じゃあ、宿を借りるだけでもいいのか?」

町人「いいよ、もちろん」

女騎士「……分かってくれたか?」

戦士「騎士が相手してくれるんだろ」

女騎士「するかっ!」

戦士「分かった。あえて言おう」

商人「な、なんですか」

戦士「俺は女の子と気持よくプレイしたい」

戦士「そして女の子もお金がもらえてうれしい。ウィンウィンだ」

女騎士「……」

商人「あえて言うことでもなんでもないじゃないです」

戦士「いや、つまりよ、俺が仮に騎士とやったとするだろ?」

女騎士「……」

商人「嫌そうな顔しないでください」

戦士「だが、そこで金を払うと言っても嬉しくないだろ、気持ちよくても」

女騎士「……。それで?」

戦士「だが、商売をしている娘なら、厚めに渡されたら嬉しいだろう」

戦士「つまり、俺が気持ちよくても、対価がなければお互い楽しくないだろう」

戦士「俺は嫌がる娘とセックスはしない主義だからな」

女騎士「あああああああああああああああ!!!!」

戦士「なんだよ」

女騎士「散々! 散々じっくり聞いたのに、アホな話しかしてないじゃないかっ!」

商人「騎士様落ち着いて」

女騎士「落ち着いていられるかー!」

戦士「待て」

女騎士「まだあるのか!」

戦士「俺が騎士を買ってるのは、剣の腕だぞ」

女騎士「そ、そうか」

戦士「あと巨乳」

――酒場。

戦士「思いっきり剣で突いてきやがったぞ」

店主「大丈夫かい、あんた」

戦士「ああ。ちょっと傷は出来ちゃったけど、酒と女の子はいる?」

店主「……いや、表で大騒ぎしてたが、控えた方がいいんじゃないか?」

戦士「やれやれ。客の注文も受けねーのか」

店主「代金をトラブルの種で支払われても困るさ」

戦士「仕方ないな、水でももらおう」

店主「はいよ」

戦士「あー、ありがたい」

店主「旅の戦士とお見受けするがね」

戦士「勇者さ」

店主「ふーん、そうは見えないが」

戦士「本当さ、認定証もある……今はないな」

店主「はっはっは、証明書をぶら下げている勇者なんて、聞いたことがないね」

戦士「そりゃそうだよ。だから持ってないと間違っちゃうだろ?」

店主「ふっ」

戦士「……ゴクゴク」

店主「どこを旅してきたんだい?」

戦士「そりゃあ、世界中だ」

店主「へえ」

戦士「ドラゴンも倒したし、悪の大魔法使いも倒したことがあるぜ」

店主「それはそれは」

戦士「なー、だからよー、ちょっと酒をまけてくれよー」

店主「何を言っているんだね」

戦士「温泉の魔物ってどんなやつだい?」

店主「恐ろしく武闘派な、虎の魔物だそうだ」

戦士「ほう」

店主「だが、大丈夫さ、ここの兵隊たちは強い」

戦士「へええ」

店主「あんたも女子どもと旅してドラゴンを倒したくらいだ」

店主「よほど腕前に自信があるんだろうが」

戦士「いやあ、ドラゴンを倒した時は別のメンバーだったよ」

店主「そうなのかい?」

店主「それじゃあ、でも、どうして?」

戦士「うーん、ドラゴンよりも強いのと戦ったからなあ」

店主「それで次は女子どもとかい」

戦士「まあ、あいつらもいいところがあるんだよ」

戦士「ただ、ほら、ちょっと最近やる気を出して、逆に困ってるわ」

店主「ははあ……」

女騎士「ここかっ!?」バン!

戦士「お、来たか」

女騎士「お前、この……!」ツカツカ

店主「ここで騒ぎはご法度だよ」

女騎士「む、うむ。失礼した」

戦士「マスター、それじゃあ、もう一人来るから料理を振る舞っちゃってちょうだい」

女騎士「ゆ、勇者殿!」

女騎士「さすがの私も怒り心頭なのだぞ!」

商人「ここですかぁ!」ギギィ

店主「ご飯ものでいいかい?」

戦士「よろしく」

商人「はぁ、はぁ、そうですね」

戦士「よーし、温泉に入る前に、食べるか!」

商人「女の子も食べる気ですね」ハァハァ

戦士「女の子も一丁!」

女騎士「勇者殿!」

――

「うわあああああああ!!」

「退避しろ! 退避ー!」


戦士「……」

女騎士「……」


虎『ぐははははっ!! この程度か人間よ!』

「ちくしょう! 助けてくれっ」ぶぎゅっ

「死にたくねぇ! 死にたくねぇ!」

虎『くっくっく、他愛のない連中だ』

虎『歯ごたえがなくてつまらん』


商人「……やられてますね」

戦士「そうだな」

商人「ど、どうするんですか?」

戦士「温泉入りにきただけって言ったら入れさせてもらえるんじゃねぇか?」

商人「そんなわけないでしょ」

女騎士「勇者殿! ここはひとつ、助太刀を!」

戦士「えー?」

商人「そうですよ! ボクらの力を見せてやりましょう!」

戦士「主に俺だろ?」

商人「そうですよ!」

戦士「んー」

女騎士「いや、まずいぞ。もう全滅してしまう!」

虎『がっはっは! よし、お前ら、後は好きなように嬲り殺せ』

魔物『ふしゃー!』

虎『よしよし、いっぱい暴れろよ~』


女騎士「勇者殿!」

戦士「パス」

女騎士「な、なぜ?」

戦士「あいつ強いから」

商人「え?」

女騎士「何を言うのだ、黙って見ているつもりか!」

戦士「ちゃんと作戦練らないとダメだと思うぜ?」


「助けてー! お母さん!」

女騎士「くっ……! もう見ておれん!」ダッ

商人「あっ、騎士様!」

戦士「あーあーあー」

商人「ゆ、勇者さん」

戦士「爆発物用意しておけ、煙幕を張るのがまだマシな手だな」

商人「あの……そんなに強いんですか?」

商人「ちょっと大きいですけど、鳥やら蛇やらよりは小さいですし」

戦士「逆なんだよな。速くて強いと、罠を仕掛けても引っかからない」

戦士「強引に突破される」

商人「はあ」

戦士「……まずいな」

商人「あ、あの、でも騎士様頑張ってますよ」

戦士「そうなんだよな~」

戦士「……よし。ま、行くか」

戦士「ちょっとこそこそしながら裏に回って用意しとけ」

商人「はい!」

戦士「んー、あ、ちょっと待て」

商人「はい?」

戦士「我慢できたな、よしよし」なでなで

商人「は?」

戦士「行くぞ」ザッ

――
女騎士「しっかりしろ! 生きて帰るのだ!」

兵士「あ、あなたは?」

女騎士「私は勇者の一行の騎士だ!」

女騎士「助太刀いたす!」

兵士「うぐっ、すまない!」

魔物『ふしゃー!』

女騎士「ふんっ!」 ズバッ

魔物『ぎにゃー!!』

兵士「つ、強い」

女騎士「しかし、この数では相手に仕切れない」

女騎士「中央を突破するぞ!」

女騎士「歩けるものは先頭、楯が残っているものは後方を!」

女騎士「ほか、けが人を抱えて走るのだ!」

兵士「お、おう!」

虎『あ~ん? 何を手こずっている』

女騎士「……くっ!」

虎『ほう、新手か』

虎『いいね、こういうサプライズがないと面白くない』

女騎士「貴様……!」

虎『女か、まあ、力の差は比べるべくもないだろうが』

女騎士「私を狙うというのなら、他のものには手を出すな!」


バキッ!!

痛恨の一撃! 女騎士が吹き飛んだ!!


女騎士「ぐはあっ!」

虎『なんだ、何か話すことでもあったのか?』

虎『俺は最初から強そうなやつを狙って闘いを挑んでいるだけだ』

女騎士「くっ!」チャキ

虎『おー、立った立った』

女騎士(くっ、勇者殿、せめて兵士たちを導いてくれればいいが!)

虎『正拳突きと回し蹴り、どっちの方がいいかな~』

女騎士「……こ、来いっ!」

戦士「俺は正常位か側位で言えば後背位がいいと思うな~」

女騎士「ゆ、勇者殿!」

虎『なんだ、お前は』

女騎士「ふ、不意をつけそうならついてしまえば良かったのに!」

戦士「まあまあ」

戦士「どうも、勇者です」

虎『……勇者?』

戦士「そうだ。よろしく」

虎『はっはっは! 勇者ってやつは何人いるんだ?』

虎『そう名乗るやつらなら、俺は何人も殺してしまったよ』

戦士「ほう。そりゃ、偽物だ」

虎『言うじゃねぇか』

戦士「何故かと言うとだな、真に精霊の加護を受けた勇者は死なないのだ」

戦士「必ず蘇る」

虎『ふーん』

虎(なんだこいつ、妙に隙がないな)

虎『それで? お前は勇者だから、死なないってのか?』

戦士「違う違う。交渉に来たのさ」

虎『交渉だと?』

戦士「俺、疲れてる。温泉入りたい」

戦士「お前、強いやつと戦いたい」

虎『……』

戦士「オーケー?」

虎『知るかボケ』ビュッ

戦士「おっと、やめろ」さっ

虎『それがなんだって言うんだ』

戦士「つまり、俺が温泉を経営していれば、湯治に強い冒険者が訪れる」

戦士「お前はそいつと闘う、ウィンウィンだ」

虎『何も勝ってねぇよ』

虎『大体、俺は強い奴とは戦いたいが、別にそいつが万全じゃなくてもいい』

虎『闘いとはそういうのものだ』

戦士「よく知ってるぜ」

虎『だったらお前が今すぐ俺を打ち負かせ』

虎『力ずくで俺を黙らせれば、お前だけが勝利者だ』

戦士「ノー、今の俺ではお前には敵わないだろう」

虎『ふんっ!』


大虎は正拳突きを繰り出した!


戦士「おっとアブねぇ」

虎『けっ、ちょこまかと』

戦士「これでも昔はダンサーだったんだ」

虎『は?』

戦士「遊び人の修行の一環でな。客からのおさわりを躱す訓練を」

女騎士「やああああああっ!!」ズバッ

虎はひらりとかわすと、女騎士を力任せに殴りつけた!


女騎士「ぐああああああっ!!」

虎『ちっ、うっとうしいぞ』

虎『けっ、そうだ。お前』ふみっ

戦士「ん?」

虎『こいつを人質にする代わりに、お前が殴られろ』

女騎士「ゆ、勇者殿……」

虎『ちょこまか逃げまわる相手は腹立たしいからな』

戦士「よかろう」

女騎士「!?」

虎『よーし、こういう時は人質に限るな』

虎『こないだ殺した連中も、人質に取るとすぐに動きが鈍った』

虎『バカな連中だぜ』

女騎士「や、やめろ……!」

虎『うるせーなー。不意打ちで失敗した時点で、もうお前の力量は底をついたんだよ!』

女騎士「くっ、殺すなら私を先に殺せ!」

虎『……』ぐりぐり

女騎士「ぐあああ!」

戦士「いいから早くしろよ」

虎『……あ、そうだ。なんなら、俺以外のやつに殺させればいいんだな』

戦士「じゃあ先手を打って近づいてやろう」スタスタ

虎『おい待て、近づくな』

戦士「ほら、早く人質を解放しろよ」

戦士「それとも、自分から持ちだした条件も守れないのか? ん?」

虎『ちっ!』ケリっ

女騎士「あうっ」

虎は戦士を思わず鷲掴みにした!


虎『てめぇ、その、不敵な顔、どこかで見たことがあるぜ』ぎゅううう

戦士「ひ、人違いだな」

虎『雑魚のくせに、なぜ堂々としている!?』

戦士「下半身は……今日は堂々としていない……」

虎『あ?』

戦士「温泉が、混浴だから、やる気出して……」

虎『何言ってんだ??』


ドォォォン!!!

――その時、後ろから火柱があがった!!


虎『何!?』

商人「さあ、みなさ、げっほげーっほ!」

商人「今のうちに逃げて、逃げまくって! うえぇっほ!」

商人「喉、入った!」

兵士「うおおおおお、逃げるぞおおおおおお!!!」

「カーチャン! 待ってて!」「ちくしょー! 漏れてるよ、俺!!」


虎『……ちっ、もう一人いたのか!』

虎『おい、お前らぁ!! うろたえるな!!』

戦士「そのとおりだな」パチン

虎『!?』

戦士「うろたえるな。ただ、呪いの効果で痺れて気絶するだけだ」

虎『こ、の、腕輪ああああああああ!!!』

戦士「よし、騎士!」

女騎士「ああ!」

虎『く……』

女騎士「我が剣技を喰らえ!」

戦士(あ……技名とか言うのかな?)

女騎士「はああああああ!!!」

虎『ぐわあああああああ!!!』

戦士「良かった」

女騎士「裁きの雷光(ジャッジメント・スパーク)!!」

戦士「あちゃー」

虎『……く、そ』バンバン

女騎士「い、生きている!」

戦士「今のうちに畳み掛けろ」

虎『ふんっ!』ブチィッ

女騎士「!?」

女騎士「こ、こいつ、手首を腕輪ごと引きちぎった……」

虎『覚えとけよ!』ササーッ

戦士「あ、まずい」

女騎士「ゆ、勇者殿! 追わなくては!」

戦士「いや、俺もガシッと絞られて動けねぇ」

女騎士「何をしておるのだ!」

戦士「待ってくれ、緊張したわ」ぺたん

女騎士「緊張したって……」

戦士「ふう。嵐のような魔物だ、罠を仕掛けてもあんな調子でぶち破られてしまう」

女騎士「……」

戦士「騎士が横槍を入れなければ、もう少し打つ手もあったんだがな」

女騎士「しかし!」

戦士「あー、わかっている」

戦士「それより、一撃食らってそれだけ動けるなら、兵隊たちを指揮したらどうだ?」

女騎士「む……」

戦士「さ、ほら」

女騎士「分かった。しかし、その……」

戦士「分かっているよ。たまたま今回は相手が悪かっただけだ」

女騎士「うむ。すまない」

女騎士「私もアタマに血がのぼってしまった」

商人「……お二人さぁ~ん」

戦士「おーう! 今いくー」


――温泉。

戦士「あ゛ー。いい気持ちじゃー」

商人「あー、そうですねぇー」

女騎士「……」

戦士「どうしたんだ? 湯酒は嫌か?」

女騎士「違う!」

商人「どうしたんですか?」

女騎士「なぜ一緒に風呂に入らねばならないのだ!」

商人「全員水着じゃないですか」

戦士「怪我しているのに、余計血がのぼるぞ」

女騎士「そういう問題じゃない!」

商人「せっかくただで入れるんだからいいじゃないですか」

戦士「そうだそうだ」

女騎士「くっ、しかしだな」

商人「大体、嫌なら一緒に入らなければいいじゃないですか」

戦士「だよなー」

商人「裸の付き合いがしたかったんですねぇ」

戦士「そういうことだなー」

女騎士「お前たちがわざと怒らせるような真似を!」

戦士「待て」ジーッ

商人「はっ」ジーッ

女騎士「な、なんだ……?」

女騎士(くっ、傷だらけの体が珍しいのか!)

商人「この水着、かなり高価ですね」

戦士「騎士、まさかこないだよりも胸が大きくなっている?」

女騎士「……」

商人「い、いつ買ったんですか? 売れますよ、高値で!」

戦士「すげぇなぁ。鍛えていると、その分乗っかるボリュームも桁違いになるんだなぁ」

女騎士「おい」

商人「あ、いやいや、もちろんボクは安物なわけで」

戦士「悪かった、尻も褒めないとな」

女騎士「ちょっとそこに直れ」

――しばらくして。

商人「きゅう……」

戦士「……まあ、さすがに俺たちのものにはならなかったが、温泉にタダで入れてよかったじゃないか」

女騎士「話をそらすんじゃない!」

戦士「そらしてなどいない」

女騎士「だ、大体、屈強と呼ばれた兵士たちがアレほど苦戦した相手を追い払ったのだぞ!」

戦士「退治できなかったけどな」

女騎士「それだ」

戦士「おう」

女騎士「勇者殿の口ぶりでは、まるでやつの力量を初めから知っているかのようだった」

女騎士「まさか……」

戦士「おう、戦ったことがある」

女騎士「やはり!」

戦士「当時、俺は駆け出しの芸人で……」

女騎士「そういう嘘はいい」

戦士(本当なんだが……)

戦士「とにかく奴は、力任せなだけではなく、危ういと見ればさっさと逃げ出す戦況眼も持っている」

戦士「下手に追い詰めても倒しきれず、力不足な相手は、本気を出させる前に踏みつけてしまう」

女騎士「なるほど、宿敵、というわけか」

戦士「だが、やつには決定的な弱点がある」

女騎士「な、なんだ、それは」

戦士「セックスに興味がないことだな」

女騎士「……」

戦士「いやな、性に興味が薄いから、執着心も薄いんだ」

戦士「だから、ビビってすぐ逃げちゃう」

女騎士「あ、ああ。そういう」

戦士「全力でかかってこられたらこちらも勝てるか分からんのになぁ」

女騎士「そこまで分かっているなら、一度成敗してしまえばいいだろう」

戦士「簡単に言うぜ」

女騎士「で、どうする」

戦士「なにがだ?」

女騎士「アレほどの魔物、放置しておくわけにもいくまい」

戦士「執着心の強いやつだな」

女騎士「それほどでもない」

戦士(性欲も強いのかな?)

女騎士「とにかく、いっそのこと、やつらの根城に乗り込んで……」

戦士「全滅するのか?」

女騎士「叩き伏せるにきまっているだろう」

戦士「あーダメダメ。そういう猪突猛進がダメなんだよ」

女騎士「なんだと」

戦士「実際、突撃して全滅しかけただろう」

戦士「人間、逃げ腰が大事なんだよ」

女騎士「そ、それでも勇者か!」

戦士「商人を見習えよ。お前が飛び出しても、我慢して俺と作戦を相談してたぞ」

女騎士「ぬぐ」

商人「……なんか今褒められた気がする」ザバァ

戦士「おー、褒めたぞ」なでなで

商人「へへへ」

戦士「行き当たりばったりのアホから、ちょっと我慢して空気が読めるように……」

商人「ほ、褒めてない!」

女騎士「はい」

戦士「どうした」

女騎士「行き当たりばったりはお主も大概」

戦士「大丈夫だ」

商人「……本当ですか?」

戦士「そら何も考えずに乗っかるわけないだろ」

商人「え? マジのマジで?」

戦士「しかし、アレだな。勇者は死んだと思われているようだな」

女騎士「そうだ、これだけ退治してきた勇者がいるのだ」

女騎士「いっそ、希望の光、ここにあり、と宣伝したらよいではないか」

商人「……目立ち過ぎるとヤバイんじゃないですかね」

戦士「そうだな」

女騎士「あの、私が指揮した部隊も、すっかりお主に惚れ込んでいたぞ」

戦士「同性愛?」

女騎士「違う!」

商人「ボクは騎士様の巨乳に惚れ込んだんだと思います」

戦士「異議なし」

女騎士「お前たち!」

――
商人「良かったんですか?」

女騎士「何がだ」

商人「せっかく騎士様、騎士団を再結成できるチャンスだったのに」

女騎士「ふん、私は勇者殿に貰われた身」

女騎士「いくら兵士たちに請われたとしても、外国に留まるわけにも行かぬ」

戦士「視線がギラついてたなぁ、兵士たち」

商人「女性の、しかも強い団長とかご飯何杯もイケますもんね」

女騎士「な、何を言う」

戦士「副団長が、『よし、団長にご奉仕して差し上げろ』」

商人「ああ、ありそうですね」

女騎士「アホか!」

商人「で、この洞窟を越えると、魔王城にぐっと近づくわけですか……」

戦士「そうだな」

商人「くう~」

戦士「どうした?」

商人「ボク、本当は偽勇者で荒稼ぎするつもりだったのに、すっかり普通の冒険者に……」

戦士「なってるか?」

商人「……お酒を売って、騎士様の持ち物を売って、あとは温泉にタダで入りましたね」

商人「冒険者じゃなくて、観光客なのでは」

戦士「はっはっは、物見遊山で魔王城に行くのもいいな」

商人「よかないですよ!」

女騎士「む、崩落だ」

商人「うわ……」

戦士「なるほどな、これで通れなくなっていたわけか」

商人「これに魔物もいるんじゃあねぇ」

戦士「よし、商人」

商人「掘りませんよ」

戦士「こないだ掘ったろ」

商人「そ、それはその、魂を慰めるためだから……」


………うう


女騎士「なんだかうめき声が聞こえるが」

戦士「魂」

商人「ひいい! 成仏成仏成仏!」

女騎士「いや、これは、本当に人の声なのでは!」ダッ

戦士「ちょっと待て」

女騎士「な、なんだ」

戦士「この崩落、昨日や今日のものじゃないだろ」

女騎士「ど、どういう意味だ」

戦士「いや、マジで魂なんじゃないかな~って」

商人「」ガタガタ

女騎士「不吉なことを……」

戦士「魔物かもしれないが」

女騎士「いずれにせよ、助けを求めている人を放ってはおけぬ!」ダッ

戦士「なぜ反省しないのか」

商人「ゆ、勇者さん」

戦士「ああ、とりあえず悪霊退散用に聖水を用意しておけ」

商人「ま、マジでヤルんですか」

戦士「そりゃあ、悪霊タイプの魔物を相手にすることもあるだろう」

商人「ま、魔物なら、大丈夫ですよね? ね?」

戦士「大概、こういう魔物に物理攻撃は効かないから、魔法で倒すんだ」

商人「……」

商人「全然ダメじゃないですか!」

戦士「そうか?」


女騎士「……おーい! 人だ! 本当に人がいたぞ!」


戦士「人だってよ」

商人「絶対罠ですよ!」

女騎士「手を貸してくれ!」

戦士「おっ、本当だ」

商人「ほっ」

女騎士「何を見ているのだ、早く!」

戦士「うむ、カワイイ、いや、イケメン、かな?」

商人「あ、勇者さんの股間が反応している!」

戦士「よせよ」ハハハ

商人「えへへ」

女騎士「いいかげんにしろ」

?「も、もう、体力が……」

戦士「しょうがないな」

?「ありがとう、助かった」

女騎士「いや、お互い様だ」

商人「なんかいい人みたいですね」

戦士「そうだな」

女騎士「ところで、お主は」

?「……」

戦士「……」

商人「どうしたんですか? あ、お忍びの方だったり」

?「いや、信じてもらえないかもしれないが……」

勇者「私は勇者なんだ」

戦士「ほう」

商人「」

戦士「へー、奇遇だな。実は俺も」

商人「ほげええええええええ!! 違うんですよ!」

戦士「何が違うんだよ」

勇者「実は南の国で認められた勇者なんだが……」

女騎士「南の国で」

商人「そーですかそーですね勇者認定証というのがあるはずですよねッ!」

勇者「仲間に裏切られて、認定証は奪われてしまった」

商人「がふっ」

勇者「そして、こんなところで生き埋めさ」

戦士「よく生きていたな」

勇者「我ながら呆れるよ。食料が手元に残っていたとはいえ……数ヶ月か?」

女騎士「確か勇者殿も認定証とやらを……」

勇者「うん?」

戦士「はっはっは」

商人「いやその騎士様これは違うんですよ決して偽物だとかそういうことではなく裏切ったとかそういうことでもなく!」

戦士「落ち着け」ポカリ

商人「はうっ」

戦士「よし、勇者君」

勇者「ああ。どうした?」

戦士「ちょっとこっち来てくれ」

戦士「……これ」ピラッ

勇者「あっ、これ」

戦士「どうだ、参ったか」

勇者「参らないよ……どういうことなんだ?」

勇者「まさか裏切った連中が転職して、戦士になったとかそういうことじゃないよな」

戦士「そんなわけねーだろ」

勇者「だよな。生き埋めにしたやつを助け出すはずもなし」

戦士「そういうこと。ちょっとした茶目っ気だ」

勇者「茶目っ気ねぇ」

戦士「それで本題だ」

勇者「なに?」

戦士「ああ。お前は裏切られて勇者と名乗りづらいだろう」

勇者「そうだな」

戦士「そして俺達は勇者の名前を利用したい」

勇者「……」

戦士「ウィンウィンだ」

勇者「……うーん、まあ、そうだな」

戦士「よし、じゃあそういう方向でいこう」

勇者「簡単に決めるなぁ。でも、もうお腹空いて頭がまわらないんだ」

勇者「なんでもいいから、もう少し食料がほしいよ」

戦士「よし、商人!」パンパン

商人「……はっ」

戦士「この……『剣士様』に食料を分けてやれ」

戦士「そして女騎士」くるり

女騎士「う、うむ」

戦士「実は俺は勇者じゃなかったんだよ」

女騎士「前にも聞いたぞ」

戦士「俺達は消息を経った勇者の後を追いかけ、探しだす密命を帯びた特使だったのさ!」

女騎士「嘘つけ」

戦士「行く先々で勇者を名乗り、勇者健在のアピールと勇者の捜索を同時に進めていたのだ!」

女騎士「絶対に今考えただろう」

戦士「……これじゃダメだったか?」

女騎士「だあああっ!」

女騎士「そんな取ってつけたようなことを言われて信じるアホがいるか!」

勇者「そうだったのか、君が……」

女騎士「幽霊扱いしていたぞ!?」

女騎士「とにかく! そんな優男よりも、これまで幾度も魔物を撃退してきたお主を信じるにきまっているだろう」

勇者「……やさおとこ」

戦士「優しい男ってことだろうな」

勇者「ちょっと食料足りなくて筋肉落ちてるだけだし……」もぐもぐ

女騎士「……とにかく!」

女騎士「今更、行き倒れを勇者扱いされても困る!」

戦士「だから、剣士ということで」

女騎士「ことで、じゃない!」

商人「……美味しいですか、剣士様」

勇者「あー、うまい。簡易スープとか、こんなの作れるんだ」ズズズッ

勇者「ふー、腹一杯になったら眠くなってきたな」

勇者「すまんが一眠りする。その間に洞窟を掘ってくれればいいだろう」

商人「えっ」

勇者「ぐーすか」

女騎士「ほ、本当に寝てしまったぞ!」

戦士「そら、体力が尽きたらそうなるだろう」

商人「そうかもしれませんけど、この人が裏切られた理由、なんとなく分かる気がします」

戦士「ああ、俺もなんとなく分かる」

女騎士「むう」

戦士「ま、とにかく悩むことはない。騎士はついてきてくれればいいさ」

女騎士「もちろん、それはそうだ。私はお主に貰われた身」

女騎士「だが……」

勇者「すぴー」

勇者「……あっ、そうだ」ぱちり

商人「ど、どうしました?」

勇者「穴を掘るのにいい道具があるのを忘れていたよ」

戦士「ほう」

勇者「ほら、こいつさ。壁を壊す魔法の玉というアイテム」ひょい

商人「壁を壊す……?」

勇者「そう、邪魔な壁をぶっ飛ばしてくれるやつさ」

勇者「こいつを使えば楽に掘れると思うぜ」

女騎士「また崩落させる気かっ!」

商人「っていうか、もしかしてこれを使ったから……」

勇者「大丈夫だって……ほら、壁に仕掛けるだけで……」

商人「ひいいい、なんか光ってますけど!」

戦士「危ない、脱出するぞ!」ダッ

女騎士「ゆ、勇者殿!」

勇者「おお? 眠いから後に……」

女騎士「あああ、お主のことではないっ!」

商人「こんな近くで寝ちゃダメですってば!」ずるずる

戦士「こっちだこっち」


ずどおおおおおおおおんんんんん……――

――街道の村。

商人「疲れましたね」

女騎士「ああ」

戦士「おいおいお前ら、先に行くなよ」

勇者「ぐー」ずるずる

商人「置いて行きたくもなりますよ! こんな迷惑極まりない人!」

女騎士「そうだ! その、剣士殿、自分でやらかしたのに一向に目を覚まさなかったではないか!」

戦士「よく考えてもみろ。先走って何かやらかすのはお前らも一緒だろ?」

女騎士「なんだと」

商人(心当たりがある……)

女騎士「こ、こないだの戦闘を根に持っているのか」

戦士「違う違う」

商人「えーっと、どうせいつも迷惑かけられているから気にならないと……」

戦士「そう」

商人「なんかすみません……」

女騎士「ゆ、勇者殿!」

戦士「大体、生き埋めだったやつに、いきなり起きろ働けというのもな」

女騎士「む、そ、それはそうだが……」

商人「その、勇者さんは……」

戦士「どーした」

商人「本気でこの人のことを本物だと思ってます?」ヒソヒソ

戦士「割りと思っているぞ」

戦士「まあ、こいつが本物かどうか、まずゆっくり休んでから事情を聞いたらいいじゃないか」

商人「うーん……」

戦士「ほら、宿屋で休んでいこうぜ」キィ


「さあ、お集まりの方々! こちらにおわすのが、かの魔王討伐を目指す勇者様でございます!」

「ふははは、その通りだ!」


女騎士「!?」

商人「え、え?」

戦士「ほーう」

勇者「ぐー」

僧侶「どうぞ勇者様ご公認の魔除けの御札を受け取りなさい!」

僧侶「そして浄財を捧げるのです!」

偽勇者「うむ! 聖なる力を込めたありがたい御札であるぞ!」

村人A「本当に効くのか~?」

僧侶「信心が足りないと、その効力は薄れるでしょう」

僧侶「しかし、大蛇やドラゴン、そしてその他大怪獣を倒してきた勇者様のご威光を持ってすれば。たとえ不信心者でもある程度の力は得られます!」

村人B「き、聞いたことがあるぞ! こないだも雪国で温泉街を荒らす魔物を追い払ったとか……」

偽勇者「ふははは、もちろん、俺のおかげだ!」

村人A「はあ~、すごい人なんだな」

僧侶「そう! そして、次なる魔物を防ぐために、この御札がいるのです!」

「おお~」「すごそうだな」


女騎士「あ、あの連中……何を言っているのだ!」

商人「しまったー!」

女騎士「どうした、商人殿!」

商人「御札売るって手は考えてなかった……」

女騎士「おい」

戦士「まあ、僧侶っていう面子がいなかったからな」

商人「考えてみれば脳筋ばっかりじゃないですか!」

商人「うわあ、宗教心をくすぐって売るって作戦があったのに」

戦士「典型的な心霊商法だなあ」

女騎士「し、心霊……?」

戦士「詐欺商売だ」

女騎士「犯罪ではないか!」

商人「詐欺じゃないです。商売です」

女騎士「何をバカな!」

戦士「うーん、でも、あれ、多分本当にわずかでも効くと思うぜ」

戦士「僧侶は清める仕事が得意だからな」

村人B「よし、買うぞ!」

僧侶「はいはい、浄財を捧げるのですよ。はい、大金なら、二つ三つつけますよ!」

偽勇者「はっはっは! 遠慮するなよ」


女騎士「勇者殿!」

戦士「ん?」

女騎士「あのような悪行放っておいてよいのか!」

戦士「別にいーじゃん、害があるわけでなし」

女騎士「風評被害が!」

商人「それに、認定証ならありますよ」さっ

戦士「うーん、しかしな。ほれ、今背中にお疲れ野郎が一匹いるから」

勇者「すぴふー」

女騎士「それこそ、彼の方が偽物かもしれないではないか!」

戦士「いやそういうことではなくてだな」

商人「まあ、休ませた方がいいとは思いますけど」

戦士「そうそう」

女騎士「しかし!」

商人「僕らがゲットできるはずのお金を放置するのは悔しいですよ」

戦士「ゲットはできないだろ?」

女騎士「勇者殿!」

戦士「はっはっは」


「勇者……?」「おい、今、勇者って言ったぞ」


女騎士「ああ。ここにいる方こそ、真の勇者なのだ」

戦士「おいおい」

偽勇者「ああん?」

僧侶「に、偽物です! そいつらは偽物なんです!」

偽勇者「そうだ。俺がしばらく怪我をして動けない時期に、偽勇者が現れたってな」

偽勇者「そいつらはその偽勇者に違いないぜ!」

商人「うっ」

戦士「おお、よく知っているな」

女騎士「戯言を!」

商人「で、ですけど、こっちには南の国で正式に発行された認定証があります!」ひらひら

偽勇者「その紙っきれは奪われたんだよ」

偽勇者「むしろ、そんなものを見せびらかしているやつの方が怪しいぜ!」

商人「うわっ、言われた」

「どういうことだ」「どっちが本物なんだ」ざわざわ


僧侶「私達の方が本物に決まっています!」

女騎士「勝手なことを!」

偽勇者「へっ、見てみろ、この剣の傷を」

偽勇者「切り傷どころか、土で薄汚れている連中が魔物と戦ってきたわけねーだろ」

戦士「お、よく見ているな」

商人「確かに、剣の腕は騎士様くらいですもんね、一線級は」

女騎士「……だったら試してみるか!」

偽勇者「おいおい、こんなところでやりあうつもりかよ」

僧侶「暴力的な……最低な人たちです!」

女騎士「ぬぐぐ……!」

戦士「それより、宿屋の女将さん」

宿屋「はいはい」

戦士「こいつ、疲れてるからとりあえず寝かせてもらっていいかな?」

勇者「ぐーすかー」

宿屋「あいよ」

戦士「勇者料金で頼むぜ」

宿屋「うちにはないよ」

女騎士「勇者殿!」

戦士「なんだよ」

勇者「ふわい?」

女騎士「この、こいつらにナントカ言わないのかっ!」

戦士「人間同士で争っていて、魔王が倒せるのかね?」

女騎士「くっ」

僧侶「女将さん、こんな失礼な人達、叩きだしてやってください!」

宿屋「もうお金もらってるし……」

戦士「だよねー」

偽勇者「まあ、僧侶、そして村の皆さん。まずは彼ら偽物を許してやってくださいよ」

偽勇者「彼らもいい思いをして、いい気になってきたんだろうが」

女騎士「ギリギリ」

商人「大丈夫ですか……?」

偽勇者「けが人もいる集団をそう邪険に扱うこともない」

偽勇者「また勇者だなんだと言い出したら叩きだしてやればいい」

村人A「その通りだ!」

戦士「まあ、放っておけよ」

戦士「じゃ、女将さん。二階借りるぜ~」トントン

宿屋「はいはい」


偽勇者「よーし、それじゃあ、俺のファンにはサインしてやるぜ!」

僧侶「はい、ありがたい勇者様のサインですよ!」


女騎士「ぐぬぬ」

商人「もう放っておきましょうよ。っていうか、放って置かれているのはこっちですけど」

女騎士「勇者殿は何を考えているのだ」

女騎士「いつもならしきりに勇者を名乗っていたのに……」

商人「儲からないからじゃないですかね」

――しばらくして。

勇者「ん」ぱちり

戦士「よう、目が覚めたか」

勇者「腹減ったな」ぐー

戦士「飯でも食うか?」

勇者「お、いいね!」

戦士「だが、その前に質問がある」

勇者「なんだ?」

戦士「あんた、どんなやつと旅をしていた?」

勇者「あ?」

勇者「んー、そうだな。魔法使いと、武闘家と……」

勇者「まあ、それなりに気のいい連中だったよ」

戦士「あんたをおいて行ったのに?」

勇者「そうなんだよな。なんでだろ」

戦士「まっ、愛想が尽きたんじゃねぇか」

勇者「そうかなぁ」ぐー

戦士「ずいぶんと腹ペコだな」

勇者「まあな! 丈夫さがウリの俺でもさすがに堪えたわ」

戦士「もう一つ質問がある」

勇者「おお、いいぞ」

戦士「自分がいつ勇者だと気づいた?」

勇者「妙なことを聞くな。そりゃもう、十六の誕生日よ」

勇者「母さんに言われて、お前は勇者だって」

戦士「なるほど」

戦士「……うん。間違いなさそうだ」

勇者「あー?」

戦士「なんでもねぇ。じゃあ、ちょっくら下で飯食うか」

戦士「はっはっは、女と酒もおごってやるぞ」

勇者「マジで?」

戦士「もちろんだ、もちろん」

勇者「おお、気前がいいな!」

勇者(待てよ、こいつ、なんだか会った時からやけに親切だな……)

勇者(も、もしかして俺の身体を狙って!?)

勇者「おい、一応言っておくぞ」

戦士「なんだよ」

勇者「俺にそっちの趣味はない!」

戦士「そっち……?」

戦士(酒と女が嫌いってことかな?)

戦士「いや、嫌なら別に俺だけ楽しむが」

勇者「一人で楽しめるのか!?」

戦士「別に一人で注文したっていいだろう」

勇者「注文……!?」

商人「あのう、イチャついているところ悪いんですけど」

戦士「おう、どうした?」

商人「ええと、お食事の用意ならもう頼みましたよ」

商人「さすがに、あの、ニセモノのせいで、勇者価格とは行きませんでしたが」

勇者「勇者価格?」

商人「知りませんか? 勇者だし、魔王討伐で頑張ってるから食事代を安くしてくれと――」

勇者「はあ?」

商人「あっ……」

戦士「まじめにお金払ってたっぽいな」

勇者「おい、マジでなんなんだよ」

商人「うーん、この人かなりの大食漢っぽいですよね」ヒソヒソ

戦士「そうだな」

商人「もしかして、毎回大量に食べてるせいで、仲間からウザがられていたのでは……」

戦士「なるほど」

商人「く、空気を読まずに居眠りしますし……」

戦士「確かに」

商人「ボクなら即行で同行お断りですよ!」

勇者「おい、聞こえてるぞ」

商人「あ、け、剣士様のことじゃないですよ」

酒場。

勇者「ほう、このちっこいのが商人か」モグモグ

商人「は、はい!」

戦士「戦闘ではあまり役に立たないんだ」

商人「もっと褒めてくださいよ! 罵倒してないで!」

勇者「なんか得意技とかないのか?」ゴキュゴキュ

戦士「ないな」

商人「ひどい!」

戦士「じゃあ、何かあるのか?」

商人「ど、道具を買うのが得意です……」

勇者「……」パクパク

商人「何か言ってください」

戦士「実は偽勇者をやろうって言い出したのはこいつなんだ」ハハハ

商人「ちょっ」

勇者「へー、すごいじゃん」

商人「シーですよ! シー!」

戦士「だってここじゃ俺達が偽物扱いだろ?」

勇者「ああ。たしかにな」パリパリ

勇者「ごくん。じゃあ、認定証とかも誰からもらった?」

商人「……ま、魔法使いのお姉さんから買いました」

勇者「かーっ、マジかよ。あいつ容赦ないな」

商人「有り金全部、振り落とされました……」

戦士「お前本当に商人向いてなさそうだな」

勇者「おばちゃん、ご飯おかわり!」

宿屋「はいはい。よく食うわね、あんた」

勇者「うへへ、食いっぷりだけは一人前と褒められたもんさ!」

商人「褒められてませんよ」

戦士「他はどうだったんだ?」

勇者「食欲だけで戦っていると」

商人「褒められてませんよ!?」

戦士「なるほど、食欲と睡眠欲の剣士か」

商人「性欲と酒欲にまみれた人もいますよね……」

戦士「金銭欲もな」

勇者「おっ、欲望をコンプリートか?」

勇者「ふー、ひとまず落ち着いたぜ」

商人「なんか丼で8皿くらいぺろりしませんでした!?」

戦士「食後に一杯やるか?」

勇者「いや、寝る。と言いたいところだが」

女騎士「おい、お前たち!」バタン!

勇者「ほら来た」

戦士「よく飛び込んでくるな」

女騎士「何を言っているのだ! それどころではない!」

女騎士「魔物が攻めてきたぞ!」

宿屋「ほ、本当かい?」

女騎士「ああ、ほら、早く避難を!」

勇者「あのユウシャサマに任せればいーじゃん?」

女騎士「そうだ、女将さん、あの連中は……!」

宿屋「や、夜分に出かけていったよ」

女騎士「なんだと!」

戦士「まあ、落ち着けよ」

女騎士「落ち着いていられるか!」

商人「あ! 魔物除けを売りまくっていたじゃないですか」

商人「アレを使えば」

女騎士「それを村に貼り付けて突破されているから、呼びに来たんだ!」

勇者「あちゃー……全然ダメじゃねーか」

戦士「まっ、ろくに信仰心の篤くない神職が作った魔除けなんてそんなもんだ」

戦士「とりあえず飲んでいよう、な?」

女騎士「飲んでる場合かっ!」

戦士「うるせーな。じゃあ、どんな魔物なのか確認してきてくれよ」

女騎士「頼むぞっ! 勇者殿!」バッ

商人「元気ですねぇ」

戦士「溜まってんだろ」

勇者「何? あの人エロいの?」

戦士「ニセ勇者に出会って何も出来ずにやり込められたからカッカきてるのさ」

宿屋「あ、あんたたち、勇者なのかい? 本物の?」

勇者「ああ! ……えーっと、こっちが」

商人「ボクじゃないですよ! こっちの人です!」

戦士「はっはっは」

宿屋「なんでもいいよ、助けておくれ」

戦士「うまい酒を頼むよ」

勇者「よっしゃ、腹ごなしに魔物でも退治すっか」

戦士「おい商人」

商人「な、なんですか」

戦士「これで勇者の真の力が見れるかもしれんぞ」

商人「なるほど!」

勇者「それじゃ、剣、剣……あれ?」

勇者「おい、俺の剣は?」

商人「……」

商人「洞窟に、埋まっているんじゃないですかね」

勇者「おいおい。え?」

戦士「はっはっは、こりゃ剣士でもないな。ただの無職だ」

勇者「おい、やめろよ」

勇者「しようがない。お前、なんか武器になりそうなものはあるか?」

戦士「弓矢ならあるぜ。毒矢を打ち込むための」

勇者「弓か。まあいいだろう」

商人「扱えるんですか!?」

勇者「ふっ、これでも野宿の時はウサギやスライムを捕って食ったもんだぜ」

商人「ゲロゲロ」

戦士「スライム食べて飢えをしのぐとか、やっぱり仲間に逃げられて当然……」

勇者「い、いいだろ、別に」

バン!!

女騎士「猪だぞ! 猪の魔物だ!」

戦士「よし、飛び込まずに戻ってきたな」

戦士「騎士。とりあえずこの酒場兼宿屋まで、魔物を導いてこい」

女騎士「ほ、本気か!?」

宿屋「だ、大丈夫なのかい?」

戦士「大丈夫だ」

勇者「お、なに? 『勇者』サマが仕切るのか」

戦士「ああ、任せてくれよ」

勇者「オッケー、何でも言え」

戦士「よし、商人。とりあえず扉の前に油を撒け」

商人「仕方ないですね」

戦士「猪の魔物で超巨大化する例というのはあまり多くない」

商人「そ、そうなんですか?」パシャパシャ

戦士「そうだ。だから、大抵知能タイプか、突進タイプの中クラスの魔物に落ち着く」

勇者「ほう」

戦士「だが、逆にこの手のタイプは、先日の虎のようにやりにくい」

戦士「端的に言えば、筋肉モリモリの戦士が知能をつけたようなものだ」

戦士「動きも素早いし、機転もきく」

勇者「弱点ないじゃん」

戦士「ところがだ。知能をつけるとくだらない罠に引っ掛かる」

商人「そうなんですか?」

戦士「ああ。鳥もそうだったろう?」

戦士「つまりだな」

女騎士「つ、連れてきたぞおおおおおおお!!!」ダダダッ

商人「あ、騎士様、危ない」

女騎士「ほっ」つるっ


女騎士は油ですっ転んだ! どんがらがっしゃん!


女騎士「ひぎゃー!」

猪『ぐははははっ!』

猪『見よ、どうやら我を罠にハメるつもりだったらしいな……』

戦士「失敗したようだな」バタン

猪『おい、開けろ!』ドンドン

戦士「分かった分かった」ガチャ

猪『おっ』どてっ つるりっ

戦士「射て」

勇者「おう」 ヒュバッ

猪『』 グサアーッ

戦士「こうなる。扉が入り口だと認識してしまうから、引っ掛かる」

商人「こりゃひどい……」

戦士「女将さん、火を点けてもいいかな?」

宿屋「こ、困るよ!」

猪『き、貴様ら、コケにして』

勇者「なら、滅多射ちだ!」ヒュババッ

猪『』 ブスブスブスッ!!

商人「なんかしゃべりかけてましたよ!」

勇者「こいつ、息があるな」

戦士「背骨をねらえ。転んでいる内に容赦をしないのが勇者流だ」

勇者「なるほど。俺はてっきり相手の動きを見ないといけないのかと思っていたぜ」ヒュバッ

猪『ぐふっ』ビスッ

商人「この人達、淡々としすぎてコワイ」

勇者「さて、息の根を止めたところで、いよいよ肉を捌く時間だな!」

商人「なんかイキイキしてる!」

勇者「肉系の魔物は捌くまでが一流のハンターです」

商人「いつからハンターになったんですか!?」

戦士「お前、立派な猟師になれるぜ」

猟師「やっぱりそう思う?」

宿屋「ほっ……とりあえず、なんとかなったのかね」

戦士「ああ。悪いな、血なまぐさくしてしまって」

宿屋「とんでもない、あんたたちは命の恩人だよ」

宿屋「口先だけの勇者なんかよりよっぽどいい男じゃないか」

猟師「複雑な気分だぜ」

商人「ボクはもっと複雑です……」

戦士「まあ、いいじゃねぇか」


女騎士「……よくないぞ」グスッ

――
商人「猟師さん」

勇者「……」

商人「猟師さん」

勇者「あのな、せめて狩人とかにしてくれよ」

商人「え? だけど、剣は得意じゃないんでしょ?」

勇者「得意ではないというだけで、下手だとは言ってねぇ」

商人「騎士様に挑んで負けたじゃないですか」

勇者「うるせぇー! あいつが女のくせに異様に強いだけだ!」

勇者「大体アレだゾ。あいつの上腕筋やべーぞ!」

商人「ボクのアレくらいありますもんねぇ」

勇者「そっちがオドロキだわ」

商人「アレってアレですよ。太もも」

勇者「ああ、そう」

勇者「どちらにせよ、おっぱいのある白いメスゴリラだ」

商人「とにかく、さすがに剣の腕が大したことない人を剣士様と呼ぶわけには」

勇者「お前って自然に人を傷つけるのな」

商人「そんな滅相もない!」

勇者「……」

商人「勇者さんが体がブレないいい射撃だって褒めてましたけど……」

商人「それだけじゃ心配じゃないですか。破壊力的に」

勇者「任せろ。俺、実は魔法も使えるんだ」

商人「へえ。ホントですか?」

勇者「ああ。まず肉を柔らかくする火の魔法だ」 パチッ メラリ

商人「……」

勇者「そして肉を保存する氷の魔法だ」 カキーン

商人「……」

勇者「最後に肉包丁をしっかり研げる土の魔法だ」 ゾリゾリ

商人「……で、威力のほどは?」

勇者「肉がうまい」

商人「料理人に転職すると良さそうですね」

料理人「ははは、何言ってんだ」

商人「では、本当は鉄の弾を火薬で射出する、北の国の武器があったんですが」

料理人「マジで?」

商人「ここは包丁3点セットをお求めやすい価格でご用意させていただきましたッ!」ジャラッ

料理人「おい! 秘密の武器もよこせよ!」

商人「さらに、不思議な錆びない鉄で作られた鍋もセットで、なんと金一万ぽっきり!」

料理人「お前、俺から金を取る気か」

商人「なんか問題があるんですか」

勇者「あと俺を料理人扱いするな!」

商人「じ、じゃあ……やっぱり、猟師さん?」

猟師「そうそう」

勇者「そうじゃない。そうじゃないぞ、俺」

戦士「……仲が良さそうだな」

女騎士「妬いているのか?」

戦士「うーん、どっちもカワイイからなぁ」

女騎士「頼む、お主の性趣向を知りたくはないから、コレ以上はやめてくれ」

戦士「まあ、おっぱいが一番かな」もにゅ

女騎士「ひっ……!」

戦士「お?」

女騎士「……離せ」

戦士「おう」

女騎士「し、失礼な態度を取るんじゃない」

戦士「我慢したのか?」

女騎士「ふん。いつも前のめりだのなんだのうるさいからな」

戦士「何だ、じゃあ、触り放題か」モニュモニュ

女騎士「」   \バシーン!/

戦士「そう怒るなよ」

女騎士「怒るわああああああ!!」

戦士「俺は相手の嫌がることはしない主義だ」

女騎士「そ、それでは私がセクハラを望んでいるとでもいうつもりかっ」

戦士「違うだろ」

女騎士「はあ……?」

戦士「セクハラされてビンタを張るまでが騎士のやりたいことだろ」

戦士「王宮暮らしでは上司には一撃することも出来なかっただろうからな」

女騎士「ま、まさか、あえてツッコミを入れさせることで、私のストレスを発散させようと……?」

戦士「その通り」

女騎士「よーし、じゃあ、セクハラの必要はないから思う存分張り倒してくれよう」

戦士「ついさっき張ったばかりじゃねぇか」   \ズバシーン!/

女騎士「お主は……! 本当に……!」

戦士「ここまでされる覚えはないんだが」

女騎士「やかましい!」

戦士「で、話ってのはなんだ?」

女騎士「う、うむ」

女騎士「……あの男は本当に勇者なのだな?」

戦士「猟師のことか?」

女騎士「猟師!?」

戦士「ああ、剣士ってほど剣の腕前が強くなかったし」

女騎士「それだ」

女騎士「私は、その、勇者というものは、剣は超一流、魔法も得意で、美形の心優しい正義感だと思っていた」

戦士「ハードル高すぎるぞ」

戦士(さすがに乙女すぎる)

女騎士「うるさい! しかし、だ。お主を見て、考えを改めた」

戦士「ほう」

女騎士「勇者、いや真の強者とは、自らの力量を知り尽くした上で、自分よりも凶悪な魔物に対しても冷静に勇気を持って闘う者なのだと」

戦士「ふーん」

女騎士「お主のことだぞ」

戦士「はいはい」

女騎士「褒めているのに、嬉しくないのか」

戦士「俺が冷静に勇気を持って戦っている男に見えるんか?」

女騎士「そうだ」

戦士「買いかぶりとは言わんが、俺は力量を知り尽くしているわけじゃないぞ」

女騎士「じゃあ、なんだと言うのだ?」

戦士「お前らよりもちょっと知識量が豊富なだけだ」

女騎士「そこが重要なのだ」

戦士「……で、それが何だって?」

女騎士「うむ。あの男も、お主が見込んだ以上、私の知らない何かを秘めているのだろう」

戦士「だから、精霊の加護がだな」

女騎士「私には分からん」

戦士「騎士は数ヶ月生き埋めになっても生き残れるの?」

女騎士「いや……まあ、それはなんとも言えないが」

戦士「壁に尻が挟まってレイプされても」

女騎士「は?」

女騎士「とにかく、まあ、あの男を勇者としよう」

戦士「おう」

女騎士「……このメンバーで魔王を倒せるのか?」

戦士「まあ、普通には無理だな」

女騎士「やはりそうか」

戦士「具体的に言うと、お色気が足りないのがキツい」

女騎士「……」

戦士「こう、騎士もおっぱい揉みやすい鎧を着けているところはポイント高いんだけどな」

戦士「もう少しきわどいギリギリを攻めるビキニアーマー的なやつを」

女騎士「いいかげんにしろ!」  \バッシーン!/

戦士「実際に、魔王の傍には人間のエロ衣装に反応する魔物がいてだな」

女騎士「絶対ウソだろう!」

戦士「嘘だけど」

女騎士「嘘じゃないか!」

戦士「怒るなよ。分かってるって」

女騎士「ほ、本当に分かっているんだろうな?」

戦士「ああ。つまり、修行をしろとかそういうことを言うつもりだろう」

女騎士「その通りだ」

戦士「無駄だぞ」

女騎士「だからっ!」

戦士「いや、冗談じゃなくってな」

戦士「魔王軍と本気でやりあうには条件が悪すぎる」

女騎士「どういうことだ?」

戦士「まず圧倒的に物量の差、兵員の差がある」

女騎士「そ、それは」

戦士「それを賄うには金が必要なんだが、なんだかんだでそれも揃っていない」

女騎士「う、うむ」

戦士「ぶっちゃけ個々の肉体を鍛えても金と物量はひっくり返せない」

女騎士「やってみなければわからないだろう!」

戦士「分かるぞ」

女騎士「しかし!」

戦士「あの手のビッグサイズの魔物が10体以上いるとしよう」

女騎士「う……」

戦士「あいつらアホだし、強いから、一体一体バラバラで襲いかかってきているが」

戦士「さすがに何匹もまとめて倒すというのは少人数では無理だろう」

女騎士「じ、じゃあ、どうすればいいのだ!」

戦士「そらもちろん、騙くらかすのさ」

女騎士「だ、騙くらかす?」

戦士「そ」

女騎士「しかしだな」

戦士「大体、騎士が俺たちの中で一番強いんだぞ」

女騎士「そ、そんなことはない」

戦士「いや、身体能力や腕っ節という意味ではな」

戦士(実際メスゴリラ並だと思います)

女騎士「まあ、いい。何か考えがあるならそれに従おう」

戦士「おう、よろしく」

女騎士「……本当に地獄の特訓とかはいいのか?」

戦士「まあ、旅の途中でやるならいいけど」

女騎士「分かった。絶対だぞ!」

戦士「商人にな」

女騎士「……」くるり


商人「ひっ、こっちを見ましたよ!」

勇者「落ち着け、ただ気配を察知しただけだ」

女騎士のおっぱいとは普段堅い鎧に覆われているからこそ
その封印が解き放たれた時に最大の魅力を発揮するものであってだな

勇者「なんだ、猥談してんのかと思ったら魔王討伐の話か」

戦士「真面目だよな」

勇者「な」

女騎士「お主らが不まじめ過ぎるのだ!」

商人「大丈夫です。マジでアタマおかしいだけですから」

女騎士「し、商人殿?」

勇者「しかし、魔王討伐ということなら、俺にいい考えがあるぞ」

女騎士「な、なんだ」

勇者「ああ。魔王の闇の結界を破壊する、光のランプというのがあってだな」

商人「すごい、すごい売れそうですね」

戦士「こらこら商人、それは売れないものだぞ。多分」

商人「ボクなら売ってみせますよ! 何しろ勇者認定証まで買いましたからね!」

女騎士「それは勇者一行でない時だったから買えたのでは……」

勇者「立場的に売れない道具だな」

商人「そんな」

戦士「もう少し売れそうなすごい道具とかないのか?」

勇者「うーん……光のビキニ、とか?」

商人「ほう」

女騎士「……」イライラ

戦士「ああ。アレか」

勇者「お、知っているのか?」

戦士「あれはすごいぞ。魔を払う力が、恥辱によって高められる魔法がかかっているのだ」

勇者「らしいねー!」

商人「なんかこう、見てもお得、着てもお得、売ってもお得ですね!」キャッキャ

女騎士「……誰に着せるつもりだ?」

戦士「そういや騎士ってエロ下着を貯めこんでたんだぜ」

勇者「マジー? 猥褻ー」

女騎士「あれはッ! もらったものなの!」

商人「でも一度は着たんですよね」

商人「それで、とにかくそのエログッズはどこにあるんですか?」

勇者「なんでエロ優先なんだよ」

商人「そ、そうでしたね。その金目の物は」

女騎士「商人殿!」

勇者「ああ。妖精の国に隠されているって、魔法使いが言ってた」

勇者「ただ行き方がどうしても分からないからさー」

戦士「ほう」

商人「妖精の国」

女騎士「……聞いたことがあるな」

>>309 どうせオークにんほおされちゃうから薄くても大丈夫です(剣を振るいやすくするために、胸部が露出しやすい構造になっています)

――
エルフ「こ、これは……」

エルフ「オレンジタルト!」

エルフ「どうやらただの落とし物のようだな……」キョロキョロ

エルフ「いただきま」

戦士「よし、いまだ」

商人「罠作動!」

エルフ「ほぎゃー!!!!」

戦士「拾い食いはやめろってアレほど言ったのになぁ」

エルフ「き、貴様らは!」


勇者「何やってんだアレ」

女騎士「うむ……説明したくない」

エルフ「離せ! 離してください!」

戦士「安心しろ。妖精の国への道を教えてくれれば、解放する」

商人「それだけではありません! 月一のご褒美として、ケーキをホールで買ってきました」

エルフ「ホール……?」

戦士「いつもは何個かにカットしてあるんだ」

戦士「カットする前のまるまる一個ってことだよ」

エルフ「!」

商人「じゃじゃーん」

エルフ「ふぐぅ……! こんなことしたって、喋らないんだからぁ……!」

商人「まず一口」

エルフ「イグゥ!」モグモグ


勇者「何やってんだアレ」

女騎士「うむ……説明したくない」

戦士「しかし、まだ移住してなかったんだな」

エルフ「ふっ、私は腕利きだ。皆が移住して以後も、この辺りの警戒を任されているのよ」モグモグ

商人「へぇー、お強いんですね」

エルフ「まあね。今日とて、このような罠でなければ」モグモグ

戦士「体よく追い出されたんじゃねぇかなぁ」

商人「ああ」

エルフ「そんなことはない」モグモグ

戦士「じゃあ、妖精の国行きを教えてくれるか?」

エルフ「いいだろう、あっ、このもこもこっとしたのも食べたい」

商人「はい。イチゴのムースですね」

エルフ「ふー。それにしてもお前たち、なんだか数が増えたな」

勇者「どうも。勇者です」

戦士「猟師だ」

猟師「そうそう、熊さ退治しに来たんだで」

商人「料理人さんですよね」

料理人「オイラの料理は一級品よォ!」

エルフ「は?」

勇者「……だから初対面のやつには通じねーネタをやらせるなよ」

戦士「やらなきゃいいじゃねぇか」

女騎士「我々の仲間だ」

エルフ「まあ、なんでもいいけれど。こんなにたくさんの人間を近づけるのは嫌だわ」

勇者「だったら、光のランプを持ってきてくれよ」

戦士「ああ。別に無理して国に入るつもりはないしな」

エルフ「お前ら、私を何だと思っているの?」

戦士「ケーキ奴隷かな」

商人「実はアップルパイも用意しておりまして」パカッ

エルフ「んあーっ!」ビクビク

女騎士「バカじゃないのか、こいつ」

エルフ「おい、聞き捨てならない!」ドッキンドッキン

エルフ「それに、光のランプなんて物は私も知らないしな」

勇者「そうなのか? しかし、確かに魔法使いが……」

戦士「じゃあ光のビキニでいいよ」

女騎士「良くない!」

エルフ「光のビキニか……」

女騎士「そっちはあるのか!?」

エルフ「確かにアレは素晴らしい魔力を秘めている」

エルフ「しかし、アレは淫猥というか……伝説の痴女エルフが身につけていたという装備で……」

商人「ますます譲ってもらったほうが(お金に)活用できるじゃないですか!」

女騎士「ええい、それしかないのかお前たちは!」

商人「それ(金)?」

戦士「それ(エロ)?」

勇者「なんでもいいが、持ってきてもらえないなら入れてくれ」

勇者「それがダメなら持ってきてくれ。対価も用意しているんだから悪い話じゃないと思うんだが」

エルフ「だけど、こないだ一人訪問者を入れたばかりだし」

戦士「なに? 人が入ったのか?」

エルフ「ああ。貢物を持ってきたということでね」

女騎士「エルフってバカなのか?」

エルフ「あ?」

商人「まさか、先に取りに来た人がいるんじゃ」

戦士「ああ、ありうるなぁ」

勇者「おい、そりゃ面倒だぞ。どこかに流出したら困る」

戦士「ふむ。エルフ」ずいっ

エルフ「あ、ああ。わかったよ」

エルフ「協力すると約束したしね。その代わり、あまり派手に動いたりしないでほしい」

戦士「よし、頼んだぞ」

商人「うまく行ったらチーズケーキ用意しますよ!」

エルフ「そこまで言うなら案内するしかあるまい!」ニッコニコ

勇者「糖尿病になりそうだな」

女騎士「たまに食べてるからいいんじゃないか……」

――妖精の国。

大妖樹『ゴォォォォォォォォ……』ガッコンガッコン

長「怯むな! 弓を引け!」


エルフ「」

勇者「なんかでっかい木の魔物がお城に組み付いてるな」

エルフ「」

戦士「お城の工事中か。こりゃ人の立ち入りを禁じるわけだ」

エルフ「」

商人「お取り込み中ですね……宝物をゲットするチャンスでは!?」

女騎士「そういうのはこそ泥というのだ!」ポカリ

商人「あ痛」

魔法使い「……」コソコソ

勇者「あ! 魔法使い!」

魔法使い「!? あ、あんた、どうしてここに!」

戦士「知り合い?」

勇者「ああ」

魔法使い「ちぃっ! ずらかるわ!」ダッ

勇者「待て!」ダーン!!!

魔法使い「ひぎゃああああああああ……」バタリ

商人「あっ、それは殺傷能力高いですよ、めちゃくちゃ」

勇者「めちゃくちゃ腹にあたってしまったな」

女騎士「だ、大丈夫かー!」ダッ

魔法使い「ぐふっ」

勇者「死んだ(笑)」

戦士「笑い事じゃないだろ」

女騎士「しっかりしろ! 弾は貫通したようだが……」

戦士「内臓やられてたら、生きててもしばらく動けないぞ」

勇者「すまない、足止めするつもりだったんだが」

商人「足に撃てばよかったですね~」

エルフ「何をしているんだ! そんなのは放っておいて、早くアレを退治せねば!」

商人「エルフってコワイ」

魔法使い「は、はあ、はあ……」

勇者「おい魔法使い、回復だ」ぴかー

魔法使い「あ、あんた…

魔法使い「は、はあ、はあ……」

勇者「おい魔法使い、回復だ」ぴかー

魔法使い「あ、あんた……自分から撃っておいてこんなこと」

勇者「おいおい、俺を生き埋めのまま埋めたのはお前だろ?」

魔法使い「アレは気のせいよ」キリッ

勇者「俺の勇者のしるしまで売っぱらったようだが?」

商人「あっ、その節はありがとうございます」

魔法使い「……」

魔法使い「お腹いたいから、話は後よ」

戦士「こいつ、背中から腹を撃たれたのに余裕あるな」

女騎士「う、うむ」

エルフ「ほげええええ!? 木の化け物が城を崩しかかっているんだが!?」

魔法使い「勇者……あの木の化け物は、火が弱点だわ」

勇者「見りゃ分かる」

魔法使い「けど、辺りは森で囲まれ、城に完全に組み付いている」

戦士「そのようだな」

魔法使い「だったらどうすればいいか分かるわね?」

勇者「城を見捨てるのかな?」

女騎士「な、何を言うのだ!」

女騎士「あそこには大勢のエルフ、そして妖精がいるはず!」

女騎士「それを見捨てると言うのか!?」

商人「……」

(長『人間風情が』 エルフ『ぺっ、犬は去れ』)

商人「まあ、いいんじゃないですかね」

女騎士「商人殿!?」

戦士「まあ、待てよ。魔法使いさん、あんた、持っているんだろ?」

魔法使い「……何のことかしら」

戦士「光のビキニを」

魔法使い「……は?」

商人「勇者さん! 光のランプかもしれませんよ!」

戦士「おお、そうか。いいから光っぽいものを寄越すんだ」

魔法使い「ちょっと勇者、なんとか言ってやってよ?」

勇者「俺のこと?」

魔法使い「そうそう。何このカツアゲ、強盗」

猟師「すまんな。オラァ、女豹を狩る一介のハンターなんだべ」バーン! バーン!

魔法使い(楽しそう)

魔法使い「くっ……いくら言われても、渡さないわ!」

魔法使い「この、光のドレスはね!」

戦士「おい、全然違うぞ」

勇者「おかしいな」

女騎士「光のドレスとは何なのだ?」

商人「光のドレス! すごい売れそう!」

勇者「いいから黙ってくれ」

戦士「ドレスというからには、女性専用なのかな?」

魔法使い「そうよ。これを着たものは立ちどころに幸せな結婚ができるという、伝説の嫁入り道具なのよ!」

戦士「へー」

エルフ「うぎゃあああああああ! 城が! 城が!」

勇者「お前に結婚願望があったとはオドロキだ」

魔法使い「私にもね……冒険に出る前は売名して、きっとイケメンで金持ちの王子と結婚するっていう夢があったのよ」

商人「俗物的ですね?」

女騎士「……」

戦士「どうしたんだ、騎士も結婚したいのか?」

女騎士「違うわ! ただ、商人殿に突っ込みたくて我慢したというか」

商人「そんな、騎士様、存分に突っ込んでください」

勇者「お前らちょっと黙ってろ」

勇者「なんだよ、そんなら適当なところで結婚させてやったのに」

魔法使い「できるわけないでしょう、道中、食って寝て食って寝て、世界を救いそうもないアホについていって」

勇者「そうか? 結構言い寄られてたのにな。魔法使い」

魔法使い「その辺の雑魚に求婚されても意味が無いのよ!」

戦士「すごい傲慢だな、彼女」ヒソヒソ

商人「仲間じゃなくてよかったですね!」ヒソヒソ

女騎士「……私はお主らが仲間で実際後悔も半分している」ヒソヒソ

勇者「うるせぇぞ!」

勇者「……まあ、よく分からんが、満足できないのは分かった」

勇者「だからって俺を埋めなくてもよかっただろ?」

魔法使い「アレはあんたが魔法の玉使ったからじゃない」

エルフ「うばあああああああ・

勇者「しょうがないな。俺が婚姻をセッティングしてやる」

魔法使い「いらない」

勇者「……すまんな、ワガママ女子で」

戦士「そういうやついっぱい知ってるから大丈夫だぞ」

勇者「頼りになるなぁ、さすが勇者だ」

魔法使い「は?」

勇者「ああ。俺は今は一介の猟師でな、今はこの勇者に付いて行ってるんだ」

魔法使い「ああ……そう……」

商人「い、今気が付きました!」

女騎士「どうした、商人殿」

商人「この人……すっごい高い魔法道具をつけてますよ!」

商人「ボクらの中で一番高級かも……」

エルフ「城が……城がぁ……」

大妖樹『ウゴゴゴゴゴ……』 ガシーンガシャーン

長「も、もうダメじゃ……」


勇者「お、さすがにヤバいな」

勇者「おい、魔法使い。なんかいい手はないのか」

魔法使い「火でも放てば?」

エルフ「お前たち……!」

魔法使い「冗談よ。それじゃあコレでも使ったら?」サッ

商人「なんですかね、これ」

魔法使い「除草剤」

エルフ「じ、除草剤!?」

女騎士「こんなもの、効くとは思えんが……」

魔法使い「辺り一帯を百年枯らすわ」

勇者「お前……そんなもの懐に忍ばせてたら自分が死んだだろ……」

魔法使い「いや、もし妖精たちにドレスを取るのを見咎められたら、脅しに使おうかと」

勇者「お前相変わらず最低だなぁ」

商人「どっちもどっちな気がボクはしてきました」

商人「でも、勇者さん、どうするんですか?」

商人「今までに無いくらい大きいですよ、アレ」

戦士「ああ。まあなぁ」

エルフ「た、頼む! 人間よ、これまでの態度からすれば傲慢かもしれないけど……」

エルフ「妖精の国は自然界の要、この世界の安定を守る聖域なのよ!」

エルフ「私に出来る事なら、何でもする!」

エルフ「どうか助けてください!」

戦士「じゃあ、お礼を好きなだけもらおうか」

商人「いいですね!」

戦士「大概、大型の魔物はそれだけで脅威だ。耐久力も攻撃力も高い」

戦士「ただアレはどうも今までの連中より知能が低そうだな」

女騎士「つまり?」

戦士「つまり、行動パターンが決まっているということだ」

勇者「ほう、なるほど。今は城に向かってひたすらぶつかりに行ってるだけって感じかな」

戦士「そういうことだ」

女騎士「それは分かった、ではどうすればいい」

戦士「真正面はエルフたちがひきつけている、俺達は足元に巨大な罠を仕掛けよう」

戦士「ほら、大きな草結びをつくって、足に引っ掛ける」ガサゴソ

エルフ「そ、そんな悠長な!?」

戦士「木の魔物は根が足になっているタイプが多いはずなのだが、あいつは足がちゃんと出来ている」

戦士「木を材料にしたゴーレムに近いのかな?」

戦士「だからコケさせるという手は良い手だ」

商人「穴も掘ればうまくいくんじゃないですかね」

戦士「そうそう、なかなか調子が出てきたな」

商人「へへへ」

女騎士「だが、転がしても、耐久力とやらが……」

戦士「騎士の出番だな。枝のしなりを利用して、巨斧がガツンとぶつかる仕掛けを作っておこう」

戦士「かなりの筋力がいるはずだ」

女騎士「うむ……分かった」

魔法使い「……」

勇者「で、俺はどうする?」

戦士「魔法使い」

魔法使い「はい?」

戦士「除草剤とやらは効果は本当なのか?」

魔法使い「ハッタリだから、さっき言ったほどではないわよ」

魔法使い「まあ、効き目はあるけどね」

戦士「よし、なら、猟師は斧でついた傷に、毒薬を塗った矢を撃ちこんでくれ」

勇者「おーけい」

エルフ「わ、私はどうしたらいい」

戦士「囮になってくれ。わざわざ城を襲っているということは、何かお目当てのものがあると思われる」

戦士「それをこちらに持って走り、やつを引きつけるんだ」

エルフ「……いや、それはちょっと怖いです」

戦士「ケーキ禁止かな」ボソリ

エルフ「命懸けでェェェ!!!」ダダダッ

戦士「ふー、これでよし」

魔法使い「……」

魔法使い「……あんた、いつもこんな調子なの?」

戦士「うん?」

魔法使い「なんというか、あんな巨大な魔物相手に全く取り乱しもせず」

魔法使い「テキパキと指示を出して。失敗するかもなんて疑いもせず」

戦士「いや、知ってるからな」

魔法使い「何を?」

戦士「あの手の魔物は」

魔法使い「知りすぎよ」

戦士「そりゃ、お前に比べればという程度さ」

戦士「それより、うちの連中がだんだん落ち着いて来たのがいいな」

魔法使い(こいつは落ち着きすぎじゃないかしら)

エルフ「……うわああああああああああ!!」

エルフ「ここだああああああああああ!!」

エルフ「光のオーブはここだああああああああああ!!!」ズダダダ

大妖樹『グォォォォォ……?』


戦士「……よし、こっちを向いたぞ」

戦士「全員、準備をしろ。騎士と猟師は同じ位置につけ」

女騎士「ああ」

勇者「任せとけ」

戦士「商人はなるべく離れろ」

商人「は、はい」

戦士「で、俺が出ると」ずいっ

商人「えっ!?」

戦士「はい、エルフパス」

エルフ「はぁっ、はあっ! パース!!」ひょーい

戦士「オッケーだ」ぱしっ

戦士「これで光のオーブは俺のモノだってことかな」

エルフ「!?」

戦士「よーし、化け物、こっちだぜ」

大妖樹『ゴゴゴゴゴゴゴ……』


大妖樹の攻撃!


戦士「ぐふっ」

商人「ゆ、勇者さーん!?」

戦士「大丈夫だ」

大妖樹『!?!?!?』


大妖樹は草結びにつまずいて、思わず転倒した!!

戦士「それいけ」

女騎士「い、いくぞっ!」ぶつっ


女騎士が斧を縛り付けていた弦を断ち切る。
勢い良く、斧が妖樹に振り下ろされた!!


大妖樹『グゴオオオオオオオオオ!!!』

勇者「ほれ、こっちを見ろ」ヒュバッ

大妖樹『!?』

戦士「よし、うまくいったな」

大妖樹『グォォォォォ……』


大妖樹は痛みで暴れだした!
妖精の城の一部が吹き飛んだ!!


エルフ「」

戦士「よし、うまくいったな」

商人「勇者さん!」

戦士「ん?」

商人「何やってるんですか! 急に飛び出して!」

戦士「いや、罠に引っ掛けるために、どうしても角度を調整しておきたくてな」

商人「そういうのはエルフに任せておけばいいんですよ」

女騎士「おい!」

商人「ほら、薬草薬草」

戦士「おう、ありがとう」

戦士「しかし、まだ生命力がある。息の音が止まるまで、体で薪割りしてやろう」スチャ

猟師「薪拾いは大事な仕事だもんな」

――妖精の城(吹き抜け)。

長「まさか人間に助けられるとはのう……」

エルフ「助けてないですよ、全然助けてないですよっ!」

妖精王「助かりました、人間たちよ」

エルフ「ちょっ、妖精の王様まで」

妖精王「壊れた城など、ただのものに過ぎません」

勇者「なんだ、じゃあ、壊し放題だったのか」

戦士「結界の役割も果たしているからボロボロだとヤバいな」

魔法使い「魔物が押し寄せてくるでしょうね」

妖精王「……」ダラダラ

長「まあ、何もかも壊されるよりかはマシじゃ」

長「お主たちには褒美をやらないとな」

商人「来ましたねコレ」

妖精王「そ、そうですね」

商人「どうですか! エルフと言えばオーク奴隷!」

女騎士「おい、黙れ!」

戦士「ここの騎士は、んほおしないんだ。エルフだってしないに決まってるぞ」

女騎士「ん、んほ?」

勇者「ゴリラかな」

女騎士「いいから黙らないか!」

女騎士「妖精の王よ! そしてエルフの長老よ!」

女騎士「我々は魔王を討伐し、世界を救済する大義に闘っている一団なのです」

妖精王「そうでしたか。予言どおりですね」

エルフ「こんな悪辣が来ると予言されていたのですか!?」

長「黙っておけ」

エルフ「あ、はい……」

女騎士「そして、魔王を討伐するための何かが、ここに隠されているのではないですか?」

妖精王「ふふ、よく分かりましたね」


魔法使い「でね、これが妖精の剣。眠らせることができるのよ」

商人「ほー! 睡眠レイプにも使えるわけですね!」

戦士「妖精ってやべぇな。やりたい放題じゃん」

女騎士「と、ともかく、その何かとはつまり……」

妖精王「え、ええ。あなたがのリーダーが手にしている、光のオーブがそれなのです!」

長「この際、互いの非礼は水に流そう」

エルフ「ち、長老」

長「お主も、この際、ついていくがよい」

長「共に闇を打ち払う戦いにゆくのじゃ!」

女騎士「ははーっ!」

エルフ「は、はい!」


魔法使い「それから、エルフのマント。なんと魔力が高いと透明にもなれるのよ」

商人「ははー! 誘拐も窃盗もお手の物じゃないですか!」

戦士「やっぱエルフもこえーな。やりたい放題じゃん」

妖精王「あの……」

戦士「ん? ああ、俺じゃないよ。光のなんとかはあっち」


猟師「妖精ってのは花の蜜とかで暮らしているってほんとけ?」

妖精「チガウワヨ。キノミトカヨ」

猟師「じゃあ、やっぱり肉は食べないんか。がっかりだな」

妖精「オニクトアワセレバイイジャナイ」

料理人「それはいい考えだな。ありがとう」


妖精王「あなた達、世界を救うという自覚は……」

戦士「私欲で戦っているからしょうがないな」

長「まったく、やっぱり人間は汚らわしいではないか」

戦士「おい、騎士よ」

女騎士「……なんだ」

戦士「自分は純潔を守ってますってアピールしてこいよ」

女騎士「アホか! アホか!」

戦士「いやだって、こういう堅苦しい話は好きだろう?」

女騎士「そういうことではない!」

戦士「え? それとも実は処女じゃない……?」

女騎士「しょっ……! だからぁっ!!」


商人「ああ~、夢のようです~。使うだけで商売になりそうだし、売ったらすごいことになりそう~」

魔法使い「で、恨みを買われて眠らされて拷問を受けたりするのよ」

商人「ユルシテ、ユルシテクダサイ」

戦士「とにかく、ありったけ使えそうなものはもらっていくぜ」

戦士「あと魔法使い」

魔法使い「何かしら」

戦士「ドサクサに紛れて持ちだそうとしたものがあるだろう」

魔法使い「……」

戦士「いや、持って行ってもいいから、結界を貼り直す手伝いをしてやったら?」

魔法使い「……まあ、しばらく動けないしね」

魔法使い「エルフと妖精の皆様がそれで良いなら手伝いするわ」

戦士「おう、頼む」

妖精王「と、とにかく、よろしいですか?」

戦士「おう」

妖精王「光のオーブを使うことで、魔王の闇の結界を振り払うことが出来ます」

戦士「おう」

妖精王「この戦いは、私怨私欲だろうと、世界の命運をかけたもの」

妖精王「必ずや勝利するのですよ」

戦士「おう」

妖精王「……」

戦士「おう」

妖精王「ちゃんと聞いているのですか?」

戦士「聞いてるよ、でも何度も同じことを聞いてもな」

妖精王「何度も……?」

妖精王「……あ、待ちなさい」

戦士「ん?」

妖精王「そこの、光を感じるっぽい者も」

勇者「あ?」

妖精王「あなた達は……」

妖精王「いえ、やはり気のせいですかね」

戦士「前から思っていたんだけど、思わせぶりな発言するやつってなんなんだろうな」

勇者「気がつくなら最後まで言ってほしいよな」

妖精王「大したことではありません」

妖精王「ただ、前にもこんなムカつく会見をしたことがあるような気がします」

戦士「失礼なやつがいたもんだな」

勇者「とんでもない話だな」

戦士「さて、それじゃあ、並べてみるか」

商人「おー!」

商人「へへへ、お宝タイムですよ」

女騎士「楽しそうだな」

商人「決まってるじゃないですか、お宝、鑑定、お金、商人の醍醐味ですよ!」

勇者「汚れてんなー」

商人「な、何を言うんですか」

戦士「まあまあ、これを元手に準備しないとな」

商人「そうですよ! 騎士様、大義大義」

女騎士「お主が言うと大義という名の金銭欲に見えるのだ」

商人「それじゃあ、まず、光のオーブ」

戦士「これは売れないな」

商人「光のドレス」

魔法使い「ダメ。それダメ」

勇者「いいだろ別に」

魔法使い「何言っているのよ。じゃあ、イケメン資産家か常識のある王子様連れて来なさいよ」

勇者「ああー?」

商人「……じゃあ、妖精の剣」

女騎士「売るのか? 確か、その、催眠の効果があるとか」

戦士「まあ、効き目のある魔物もいるかもしれないな」

女騎士「それと、そのような危険な代物、世に出すわけにはいかない!」

商人「じゃあ、エルフの……」

女騎士「それも危険で」

商人「あああああああああ!!!」

女騎士「ど、どうした」

商人「なんなんですか! 売れないじゃないですか! どうして邪魔するんですか!」

戦士「そうむくれるなよ」

魔法使い「そうよ、ただ売るだけでいいの?」

商人「はっ、そ、そうですよね!」

女騎士「犯罪はダメだ!」

商人「じゃあ、魔法使いさん、この光のドレスは貸衣装として使います」

魔法使い「は?」

商人「『結婚できるドレス! あなたの幸せをサポートします!』」

戦士「お、いいアイデア」

魔法使い「ゴラァァァァァァ!!! 許すわけねぇだろォォォォォォ!!??」

商人「ち、ちょっと!」

勇者「おいバカ、腹の傷が開くぞー?」

魔法使い「ぐぐぐっ!」

女騎士「商人殿、さすがにそれは」

戦士「うむ、いいとは思うが、さすがに時間がかかりすぎるな」

商人「……そんなことより、あの人鬼のような形相になりましたよ」

魔法使い「当たり前じゃボケェェェェ!!」

勇者「どうしたんだよ、お前ってそんな結婚願望あったっけ?」

魔法使い「あんたのせいでしょ」

勇者「なんで?」くるり

戦士「いや、俺に聞かれても」

魔法使い「あんた、私をパーティーに入れる時なんて言ったか覚えてる?」

勇者「一緒に世界を救おうぜ」

魔法使い「『そうしたら金持ちの男つまみ放題だから』」

女騎士「うわぁ……」

戦士「おい、騎士を引かせるって相当なものだぞ」

女騎士「勇者殿には大概驚かされているぞ……」

勇者「事実じゃん。世界救ったら入れ食いよ」

魔法使い「あんたが食っちゃ寝食っちゃ寝しなければね!」

勇者「言うほどか?」

魔法使い「正確に言うわ。現地調達と称して野宿と狩猟、町についても権力者に挨拶もせずに食ってばっかり」

勇者「うまかったろ」

魔法使い「獣臭いの! お風呂入りたいの! もっと褒美をふんだくってほしいの!」

勇者「これだよ」

商人「欲に塗れてますねー」

戦士「この程度ならかわいいじゃん」

魔法使い「だから、船借りる前に、山の中を掘り進めばタダでいける! とか言い出した時にぶっ殺してやろうと思って」

勇者「これだよ」

商人「……怖いですね」

戦士「実行しちゃうんだもんなぁ」

女騎士「ならば、私が男性を紹介しよう」

魔法使い「!」

戦士「え」

魔法使い「一応言っておくけど、金持ちか権力者よ!」

女騎士「そのような露骨に浅ましい態度では失礼に当たるぞ」

魔法使い「……マジ話なの?」

女騎士「幸いにして、王宮に務めていた経歴はある」

女騎士「ただその、やはり王族ともなればそれに見合った出自が」

魔法使い「王族!? 王子様!?」

女騎士「う、うむ。東の国のな」

戦士「あっ」

魔法使い「紹介して、実は私は魔物に里を滅ぼされた砂漠の民の姫だったのよ!」

勇者「嘘くさっ」

魔法使い(姫なのは嘘だけど、王家に仕えてたからひと通りのことはわかるし)

戦士「……」

商人「うーん、これならドレスも売れそうですね」

戦士「いやまあ、装備しても使えるんだがな」

戦士「これ、結構守備力も高いし」

商人「そうなんですか?」

戦士「それよりな、東の国って言ったろ」

商人「はい」

戦士「そこに独身の王子いるけどな。40のおっさんだぞ」

商人「えっ」

戦士「王様が高齢だからな」

商人「それで独身って相当アレな人じゃないですか……」


魔法使い「ああ、これで王妃間違いなし!」

女騎士「うむ。厳格な方だから、頼むぞ」


――
戦士「ところで、俺から提案がある」

商人「なんですか?」

戦士「これらの道具は売らない」

商人「そ、そんな……勇者さんまで!」

戦士「違うぞ。これ売っぱらったくらいでは大した金額にはならねーだろ」

商人「ボクなら頑張って売れますよ!」

戦士「いくらくらい?」

商人「う。こ、このくらい……」そっ

戦士「んー、それじゃ価値からすると、勿体無いな」

商人「そんなぁ」

勇者「けどどうするんだ。これを元手になんか増やすのか」

戦士「うーん、なんか事業を始めるとなると時間がかかりすぎるよな」

商人「そうですよね……」

戦士「だからこれで強盗しよう」

商人「!?」

勇者「犯罪じゃねぇか」

商人「ゆ、ゆゆゆ、勇者さん!」

戦士「幸いここに透明なマントがあってだな」

勇者「なるほど、警備を眠らせる道具もある」

商人「犯罪はまずいですよ!」

戦士「まあまあ、だから騎士に聞こえないように話そうぜ」

戦士「とはいってもマジでどこかの資産家や王宮を強奪するのはバレたらまずい」

勇者「あ、なーんだ」

商人「ほっ」

戦士「だから魔物に乗っ取られた国を襲う」

商人「そっちのほうが危険じゃないですかあああああああああ!!」

女騎士「な、なんだ?」

戦士「ああ、いいからいいから」


魔法使い「でね、結婚式にもこだわりがあるんだけど、受けてくださるかしら?」

女騎士「うーむ、格式にはそこまで拘らない方だからなぁ」


商人「ど、どうするんですか」

戦士「西の暑い国があってな」

勇者「それ、魔法使いの故郷じゃないのか?」

戦士「ん?」

エルフ「……なに、あ、暑い国だと」

戦士「いやなのか?」

エルフ「砂漠には森がないじゃない……」

戦士「ケーキはないが、伸びるアイスクリームがある」

エルフ「む」ピクッ

勇者「なんだ、甘いのが好きなのか。ならすんげー甘いヨーグルトとかあるぞ」

エルフ「むむむ」ピクピク

商人「魔物から解放したら食べ放題かも」

エルフ「はにゃ~」

エルフ「わかった。私もなんとか近くまで頑張ってみる」キリッ

魔法使い「は? 西の国に行く?」

勇者「おう! 弔合戦よ」

勇者「なんならお前が案内してくれよ」

魔法使い(ヤバい……やっぱり姫じゃなかったのがバレる……)

魔法使い「だ、ダメよ。私には結婚しなくちゃいけないし、結界だって」

女騎士「亡国よりは、魔物が解放された国のほうが信頼度が高まるのでは?」

エルフ「的確な指示で結界の修復作業は順調に行けそうよ」

魔法使い「チッ!」

勇者「おい」

魔法使い「……言っておくけど、今のお城の様子なんてわからないわよ」

戦士「ああ。で、お城の財宝なんだが」

女騎士「だ、ダメだ! 彼女は王位継承者なのだぞ」

魔法使い「い、いや、大したものは残ってないからいいんじゃない?」

戦士「お墨付きが出たな」ニヤリ

商人「そ、そうですね」ニヤリ

勇者「そうか、自分の故郷を滅ぼされたんだもんな」

商人「あ……」

勇者「下手にこちらが奪うってのもどうなんだろうな」

商人「ゆ、勇者さん」

戦士「うーん」ちらり

魔法使い(やべぇーっ、なんか深刻そうな顔になっている)

商人「その、なんとか解放できないですかね」モジモジ

戦士「そうだなぁ」ニヤニヤ

魔法使い(うぐぐ)

――砂漠の村。

魔法使い「……で、地図で言うとここが神殿ね」

魔法使い「お城はこっち。宝物庫は裏から入ったところ」

戦士「オーケーオーケー」

勇者「お前本当にここ出身だったんだなぁ」

魔法使い「……あまりそういうこと言わないでくれる?」

魔法使い「バレたらほら、面倒じゃん」

勇者「お城から逃げたからか」

魔法使い「そうよ。だから丁寧に扱って」

戦士「偉そうだな」

勇者「そうなんだよ、困ったもんだよな」

魔法使い「……」イライラ

勇者「で、どうするつもりだ?」

戦士「ん?」

勇者「作戦だよ、作戦」

戦士「陽動が一番いいだろう。神殿の解放だ、と言って魔物を倒す」

戦士「その隙に手薄になったお城の宝物庫からお宝ゲット」

勇者「そううまくいくかなぁ」

魔法使い「いっちゃなんだけど、神殿もかなり魔物がいるわよ」

戦士「お城にはマントと剣を使って奥まで行く」

戦士「陽動さえうまくいけば、ハサミ撃ちに出来るんだがな」

魔法使い「だからそれが――」


エルフ「暑い……」ハァハァ

エルフ「み、水……」

商人「ミミズ?」

エルフ「ギャグとか……ないわ……」ハァハァ

女騎士「くっ、マッタクだ」

商人「お二人共、暑いのダメなんですねー」

女騎士「商人殿は平気なようだな」

商人「ボクはほら、そこら中歩きまわりましたから」

女騎士「そんなものか……海沿いにいたせいか、これほどまでの暑さは体感したことがない」

エルフ「森が恋しいよ……ケーキが干からびてるよ……」


魔法使い「……で、誰が陽動するのよ?」

戦士「そうだなぁ」

商人「ふっ、ではですね。そんなお二人に特別な商品をご用意しております」

女騎士「う、売るのか?」

商人「じゃーん! 冷感水着セット!」

女騎士「断る」

商人「なして!?」

女騎士「誰がそんな卑猥なものを着るか!」

エルフ「あ~、魔法かかってるぅ~」

エルフ「ひんやりするぅ~」

商人「真夏の日差しを浴びても日焼けしない、冷却の魔法がかかっているのです!」

エルフ「着るわ!」バッ

女騎士「ちょ! 人目が!」


魔法使い「……で、誰が陽動するわけ?」

戦士「水着のおねーちゃんを集めてどんちゃん騒ぎとかどう?」

勇者「そっちがメインじゃねぇか」

戦士「おーい、三人とも」

商人「あ、勇者さん!」

戦士「なんだなんだ? 水着で水浴びでも始めるつもりか?」

女騎士「ち、違うわ!」

エルフ「ああ、何でもいいから、冷えたい……」

勇者「鮮度を保つ保冷剤よ」カキーン!

エルフ「きんもちぃー!」

魔法使い「便利よね、あんたのそれ」

勇者「だろ?」

魔法使い「でもそのアホっぽい呪文は辞めたほうがいい」

勇者「そうかな」

戦士「……つまりだな、水着でウハウハの儀式を行う名目で神殿に入る」

女騎士「……」

商人「はあ、なるほど」

戦士「そして、その隙にありったけの道具をかっぱらってくるんだ」

戦士「この二人がな」

勇者「ん?」

魔法使い「はあ!?」

戦士「体力があり、そしてエロが得意な四人がエロ要素を固める」

戦士「地勢に詳しく、隠密行動が得意な猟師と案内人が宝を探す」

戦士「完璧だな」

女騎士「エロの要素がいらないのだが」

商人「でも、勇者さん。神殿にも魔物がいっぱいいるんでしょ?」

戦士「うん」

商人「さすがにそこで水着で飛び込んでも、あまり見てくれないんじゃないですかね」

戦士「いや、魔物もエロいと思うよ」

女騎士「そういう問題ではない!」

戦士「どういう問題?」

女騎士「この……魔法使い殿の、国の敵を取るのではないのか!?」

魔法使い「あっ、そういうのはいいっす」

戦士「いいらしいぞ」

女騎士「とにかく、いかがわしいのはダメだ!」

勇者「いいと思うよ、俺は」

エルフ「涼みたい」

商人「騎士様のサイズでお作りしてあります」ニッコリ

女騎士「んがあああああああああ!!!」

「さあ、皆さん、勇者ですよ! 世界を救う勇者の登場ですよ!」

「がはははは……」


戦士「ん?」

商人「うわ」

勇者「おー」

女騎士「くっ、こんなところにも出張っているのか!」

魔法使い「何アレ?」

勇者「勇者らしいぞ」

魔法使い「ふーん。なんか勇者っていっぱいいるのね」

戦士「うむ。まー、俺的には猟師が勇者で自分も勇者のフリをした商売人だと思っているが」

猟師「おらが勇者だなんてとんでもないことヅラ」

魔法使い「うるさいわね」

戦士「しかし……いや、待てよ」

僧侶「この御札を買えば、立ちどころに魔物が寄り付かなくなるのです!」

勇者「そうだぞ、ほら、ドンドン持っていけ」

僧侶「そして浄財を……」

村人A「うるせーぞ!」

村人B「こちとら城が滅ぼされとんじゃ!」

村人A「勇者なら国が滅びる前にこいや!」


魔法使い「うわー、荒れてるわね」

戦士「正論だな」

勇者「あ、石投げられてる」


僧侶「ちぃーっ! 不信心もの!」

偽勇者「やれやれ。おら、僧侶、こんなところに長いするこたぁない」

偽勇者「とっとと次行こうぜ」

僧侶「ふん! そんな不信心でいると、この村さえ今に失うことになりますよ!」ぺっ

魔法使い「……」

勇者「そう、コワイ顔するなよ」

魔法使い「してないわよ。ただ、ちょっとムカつくだけ」

勇者「なんだかんだ、お前も愛着あるんだろ? この国」

魔法使い「そりゃあ、故郷だからね」

戦士「……おい、お前ら」

勇者「なになに、なんだよ」

商人「ど、どうしたんですか?」

戦士「騎士もちょっとこい」

女騎士「な、なんだ」

戦士「別のプランを考えたからまあ聞け……いいか……」

偽勇者「じゃあ、後は勝手にしやがれ」

村人A「けっ、二度と来るんじゃねぇ!」

僧侶「私だって来ませんよ! 地獄に落ちろ」

村人B「なんつう言い草だ、あんた」


戦士「……お待ちくださ~い!」ニコニコ

商人「勇者様~~!!!」ニコニコ

勇者「勇者様、探しましたぞ~!」ニコニコ

魔法使い「勇者様ぁ~~!」ニコニコ


偽勇者「……は?」

僧侶「な、なんですか」

僧侶「あ、あなた達は!」

村人A「なんだぁ、こいつらの仲間か」

村人B「何しに来やがった!」

戦士「いやあ~!! お探ししました、勇者様!」

商人「魔王を倒す、唯一の力を持った御方!」

勇者「我々は、各国より勇者様を支援するように言われていた戦士なのです!」

村人A「は、はあ」

村人B「そうですか」

僧侶「な、なんなんです?」

偽勇者「俺達はそんなことは知らんぞ」

戦士「無理もない、我らは秘密裏に結成された部隊」

勇者「各国から特命を受けてやってきたのですから!」

魔法使い「そう、そして、私もその一人」ふぁさ

村人A「あっ、あんたは、魔法使いちゃん!」

村人B「魔法使いちゃん、生きとったのか!」

魔法使い「え、ええ」チラ

戦士(これカンペ)

魔法使い(ありがと)

村人A「今まで何してたの?」

魔法使い「王の最後の命により、魔物を倒し、この国に光をもたらす者を探していたのです」

魔法使い「そして、それこそがこの御方!」さっ

偽勇者「え?」

僧侶「いやあの」

魔法使い「どうか我が国の魔物を打ち払い、この国に光を取り戻してください!」ギュッ

偽勇者「お、おう……」

村人A「そ、そうだったのか……」

村人B「本当なのか……?」

魔法使い「これをご覧ください! この命令書こそ、この者を勇者と認める南の国の王家の証印!」

村人B「おう……本当だ……」

村人A「間違いねぇ……」

村人B「とんでもねぇやつだと思っていたが……」

村人A「そりゃあ、こっちの態度が悪かったからだ」

偽勇者「そ、そうだな」

僧侶「そ、そうですね」

魔法使い「ああ、勇者様! どうかオネガイシマス!」

魔法使い「そして村の皆さん! どうぞ勇者様とともに、この国を魔物の手から取りかえそうではありませんか!」

\う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!/

戦士「さあ、戦の準備と前祝いだ!」

戦士「勇者様をもてなしてやってくれー!」

村人A「おう! 元気が出てきたぞ!」

村人B「魔物を倒すんだ! お城を取り返すぞ!」

偽勇者「お、おい」

僧侶「あ、あのう」

商人「ささ! 勇者様、聖女様! どうぞこちらへ、どうぞ!」

商人「魔物を倒すために、一致団結して頑張りましょう!!」ニコニコ

料理人「腹ごしらえならお任せください!」

戦士「よし、村の皆さん! 皆さんを組織するのは、かの国の王宮騎士団長!」

女騎士「う、うむ」

女騎士「……勇者殿、これはその、詐欺、というやつでは」

戦士「本人が勇者って名乗っているから、それの通りに仕事をしてもらうだけだねぇ」ニヤニヤ

――夜。

戦士「はい。というわけで、ふた手に別れることにした」

猟師「腕が鳴るな」

戦士「お城を支配している魔物はドラゴンだ。倒しがいがあるな?」

魔法使い「うげー」

猟師「竜狩りも久しぶりだな」

戦士「三人目の勇者と聖女サマとやらに、神殿に突っ込んでもらう」

戦士「そして、村人たちを指揮するのが女騎士だ」

女騎士「う、うむ」

女騎士「とにかく、彼らを全面に、突撃すれば良いのだな?」

戦士「ただの突撃じゃなくってお城のある方とは反対側から攻める」

戦士「丁度裏口になってるしな」

戦士「商人は村の連中に武器を売ってやれ」

戦士「で、ついでに武器の使い方を教えてやれ」

商人「ああ~、売るだけじゃダメなんですかねぇ」

魔法使い「国がボロボロになってるところに、格安とは言え巻き上げる? フツー」

商人「ボクはみんなが幸せになるお手伝いをしたいだけです!」

商人「そしてその中には自分も含まれているのでお金儲けが好きです」

魔法使い「言い切りやがった」

戦士「嫌いじゃない」

戦士「で、エルフ、俺、猟師、魔法使いでお城から金目の物を奪う」

魔法使い「やっぱり強盗じゃない」

戦士「成功報酬」

戦士「で、うまくいけば城に残っているドラゴンを暗殺する」

猟師「鉄砲はまかせろー」

魔法使い「はいはい……」

商人「大丈夫なんですか?」

戦士「ドラゴン退治のポイントなら少しは知っている」

戦士「じゃあ、騎士。ユウシャサマの制御は頼むぜ」

女騎士「まあ、いいだろう」

女騎士「だが、勇者殿。私が仕えたいと思ったのは最早お主だけだ」

商人「あ、今の告白じゃないですか?」

女騎士「ば、バカなことを言うなっ!」ポカッ

商人「あいて。ひどい」

魔法使い「で、その肝心の勇者サマは何やってんの?」

偽勇者「……よし、見張りはいないな」

僧侶「まさか、こんなことになるなんて……」

偽勇者「早くトンズラするぞ、こんなところ」

僧侶「そ、そうですね。まったく、悪魔か何かかしら、あいつらは」


ヒュンッ! ドズ!


僧侶「ひいっ!」

偽勇者「だ、誰だぁ!?」

エルフ「……今の矢には、魔物を一撃でコロリできる毒が塗ってある」

僧侶「は、はあ!?」

エルフ「死にたくなければ……逃げ出そうなどと考えないことね……」

偽勇者「に、逃げるわけないだろう、ちょっとトイレを探していたんだ」

エルフ「そう……女性と一緒に……?」

偽勇者「う」

エルフ「見ていてやるから……したければここで用を足せ……」

偽勇者「な、何言ってやがる!」


ヒュバッ!!


僧侶「」ジョー

エルフ「そうそう……それでいい……」

偽勇者「おい、本気かお前……」

エルフ「うるさいな……足りないのよ……」

偽勇者「な、何が」

エルフ「水も、ケーキも……」

エルフ「足りないのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」  ヒュバババッ!!!



戦士「って感じになってる」

魔法使い「……あ、そう」

戦士「じゃあ、行動時間まで散会」

勇者「おう!」

魔法使い「はいはい」

女騎士「了解した」

商人「……」

戦士「ん、どうした?」

商人「勇者さん」

戦士「なんだ」

商人「その、頑張ってくださいね」

戦士「いやぁ、お前のところのほうが危険かもよ?」

商人「え、そういうこと言います?」

戦士「言う。こっちにゃ隠密行動の道具が勢揃いなのに」

商人「まあ、何でもいいですけど」

戦士「そうだ、商人」

商人「は、はい」

戦士「今回の件が成功したら、あいつらを使い倒そう」

商人「あいつらってなんですか?」

戦士「あの偽連中」

商人「え、ええー!?」

戦士「勇者と聖女っていう言い回しがいいよな。勇者と商人じゃ、やっぱりイマイチピンとこなかったけど」

戦士「こいつらを表に出して、実質は俺らが取るっていう手が使えそう」

商人「いやいや、あんな連中と付き合うんですか!?」

戦士「だって、丁度いいじゃん。お飾り」

商人「いや、でも」

戦士「見極めを頼むぞ」

商人「見極め?」

戦士「あいつらが倒れそうなハリボテか」

戦士「それとも使える楯かどうかってことだよ」

商人「勇者さん……」

戦士「ん」

商人「ド外道じゃないですか」

戦士「はっはっは」

戦士「だがこれも商売だ。表の方が楽だって可能性もあるしな」

商人「そりゃそうですね。ボクも切り替えます」

商人「……なんか、最近の勇者さん、変だったんで」

戦士「変? そうかな?」

書けるだけ

――砂漠の城。

魔法使い「……こっちよ、こっち」

戦士「おう」

勇者「んー、まだ結構魔物がいるなぁ」

魔法使い「そりゃそうでしょ」

戦士「神殿を落とされてもそう簡単には動くまいよ」

勇者「おいおい、それじゃあ意味ないんじゃないの?」

魔法使い「どうして?」

勇者「どうしてって」

魔法使い「ふっ、お宝だけ持ち去る当初の予定は遂行出来るじゃない」

戦士「ゲスいなぁ」

戦士「まあ、ドラゴン相手にそう簡単に勝てるわけじゃない。丁寧に殺そう」

勇者「ん。まあな」

魔法使い「ずいぶん竜に詳しいのね」

戦士「一応、やり合ったことはあるしな」

魔法使い「弱点とか知っているの? 寒さに弱いとか、そんなことじゃないでしょうね」

戦士「竜に弱点はないんだよな」

魔法使い「……」

戦士「ポイントになるのは、長期戦を予め想定しておくこと」

戦士「もうひとつは、相手の武器を奪うことだ」

勇者「ほう、爪を切るとか?」

魔法使い「猫じゃないんだからさ……」

戦士「まあ、とりあえず宝物庫はこっちでいいんだよな」

魔法使い「ええ。しっかりマント被って」

勇者「オーケーオーケー」

魔法使い「ちゃんと妖精の剣は構えてある?」

魔法使い「出てきたら即眠らせるのよ」

戦士「大丈夫だ。今のところはな」

魔法使い「……あんたさ」

戦士「なんだ?」

魔法使い「あんたの正体、ホントは魔物だったりしない?」

戦士「んん?」

魔法使い「実は私を罠にハメるための」

戦士「だったら、困ったら後ろからズブっと刺し殺せるだろ?」

魔法使い「そうよねぇ」

勇者「なんかやけに絡むな。一体なんだってんだ」

魔法使い「剣の腕はともかく、これだけ魔物に手広い知識を持っている人間は珍しいじゃない」

魔法使い「もしかしてだけど、魔物に近いやつだからじゃないかと思って」

戦士「経験豊富なんだ」

魔法使い「ふうん」

戦士「そんな目で見るなよ。これでも、今回は真摯にやっているつもりなんだぜ」

魔法使い「今回は?」

戦士「はっはっは、ジョークで竜は倒せないからな」

勇者「そりゃ違いねぇな」

魔法使い「……。さ、ついたわ」

魔法使い「でね、この裏口から、まっすぐ玉座の間に通じるハシゴが付いていると」

戦士「よし、じゃあ、動きを見ながら、まず宝を物色するか」

魔法使い「完全に盗賊よね、私達」

戦士「お、見ろ。こいつは珍しいな」

勇者「なんだそれ」

戦士「魔法陣を書くための専用のインクだ」

戦士「そこらの冒険者には魔法で書かれたバリアは生身では越えられないが、こういうので帳消しにするんだ」

魔法使い「そんなもん、どうするのよ」

戦士「売れるんじゃねーかなぁ」

魔法使い「いや、別にいいけどね」

勇者「うーん、俺はどうするかなぁ」

魔法使い「あんた達、一応、ここ、私の出身国。いい?」

魔法使い「……あと、さっきから一言も発してないけど」

エルフ「ん」チュパチュパ

戦士「水飴なめて落ち着いているんだ。そっとしておいてやれ」

エルフ「失礼な……これでまたしばらく我慢して闘えるわよ」

ドカドカドカ……


魔法使い「しっ、静かに」

勇者「おっ、動きがあったな」

戦士「うん。ここは連中を信用するしかないな」

魔法使い「で、どうやって竜を狩るつもり?」

戦士「そうだな」

戦士「結局、必要なのは、動きを封じることになるだろ」

戦士「竜は硬い、その上、空も飛べるから行動が早い」

戦士「だが、強すぎるから自信がありすぎる」

――玉座の間。

竜『なに、神殿が攻撃されているだと』

トカゲ『はっ、そのため、あちらに居られる悪魔将から援軍の要請が』

竜『捨て置け』

トカゲ『はっ、了解しました』

竜『……待て、あっさり受諾するな』

トカゲ『はい』

竜『うむ。恩を売ることになるかもしれんな』

竜『では部隊長クラスを飛ばさせろ』

トカゲ『こちらが手薄になりますが……』

竜『誰がここを攻めると言うのだ』

トカゲ『了解しました』

蛇『ご報告します、神殿の中心部が落ちたそうです』

竜『……間に合わなかったのか?』

蛇『そうなります』

竜『……部隊を神殿行きに切り替えろ。さすがに無策のままではマズかろう』


戦士「……だってよ」ヒソヒソ

魔法使い「へぇ、あの偽勇者、頑張ってるっぽい?」

戦士「少なくともハリボテではなかったみたいだな」

勇者「待て待てお前ら」

戦士「なんだ?」

勇者「俺らめっちゃ近いだろ。めっちゃ近くにいるだろ」

勇者「これバレるだろ。玉座のすぐ真後ろって」

戦士「大丈夫大丈夫」

勇者「何がだ?」

戦士「まず俺が謁見してくるから」

魔法使い「!?」

戦士「いや、相手の気を引きつけてだな」

魔法使い「いやいや、その前に無力化されるでしょ」

勇者「いやまあ、お前の作戦は分かったけどよ」

竜『何をしておる?』

戦士「ああ、まずはあんたに面会をしてということで」

勇者「おいバカ!」

竜『ふぁっふぁっふぁっ! まさか、ここに忍び込んでくる間抜けがおるとはな』

戦士「捕まったな」

勇者「どうすんのコレ」

竜『どうやら他にもネズミがいるようだが…

竜『ふぁっふぁっふぁっ! まさか、ここに忍び込んでくる間抜けがおるとはな』

戦士「捕まったな」

勇者「どうすんのコレ」

竜『どうやら他にもネズミがいるようだが……透明なネズミではな』

戦士「まあまあ、まずは話し合いと行きましょう」

竜『話し合いの前に、腕の一本でもへし折らんとな』

竜『まさか対等に話し合いが出来るとは思っておらんだろう』

戦士「魔王を倒す方法を知っているんだが……」

竜『!』

勇者「そうだ、俺たちゃ魔王討伐を計る勇者一行なんだ」

戦士「あんたにも協力してもらいたいな」

勇者(あれ、そういう作戦だっけ?)

すみません、明日からちょっと頑張る感じでいきます

戦士「そもそも、強力な力を誇るドラゴンがおとなしく誰かに従っているものかね」

勇者「なるほどなぁ。プライドを曲げているわけか」

竜『……ま、魔王は強いからな。仕方あるまい』

勇者「本気で思ってんの?」

竜『ぐぐぐ』

戦士「一度は敗れたが、覇権を握り直すチャンスを狙っている……そんなところだろ」

戦士「そこで、切り札だ。やつの闇の結界を壊す道具をゲットした」

竜『な、なんだと』

戦士「どうする?」

竜『……』

戦士「こいつで魔王を弱体化し、あんたが前に出てきてさらに弱らせる」

戦士「そして、精霊の力を得た勇者が、後ろからトドメを刺す」

戦士「どうだろうか」

竜『なるほど、挟み撃ちか」

勇者「結構いいアイデアだと思うぜー」

戦士「……」

竜『くだらんっ!!』 ブンッ

戦士「あぶねぇ!」バッ

勇者「うおっと!」


竜の尾撃!! 戦士は勇者をかばった!

戦士「げふっ」

勇者「うおーい! おもいっきりやられるなよ!」

竜『人間ごときと手を組むなど、そちらの方が誇りが傷つくわい!』

竜『ましてや、わしと対等に話が出来ると勘違いしているチビどもに』

勇者「馬鹿野郎! いま薬草を」

戦士「いらねぇよ、いらねぇって」

竜『……あの、聞いてる?』

戦士「思ったより直撃して痛ぇよコレ」

トカゲ『どうしますか』

竜『はあ、そんなもん……』

戦士「……一斉攻撃だ!」


エルフ「喰らえ!」ヒュバッ

魔法使い「ほら、他の魔物は眠れ」ミョミョミョ

蛇『ぐふぅ』


竜『むう、これは、矢に縄をつけて……!』

戦士「ドラゴンの弱点は、尊大なところだ……」

戦士「翼を持ち、高い機動力があるのに穴蔵に潜ったり、城に引きこもったりする」

勇者「よし、おれも!」ヒュババッ

竜『こ、これは、結界か』

戦士「そう、物理的にも身動きが取れなくなっただろ」

戦士「室内で戦闘していりゃ、体がでかいほうが不利ってもんだ」

竜『ぐわっはっは! 愚か者めが!』

竜『こんなちゃちな縄の結界で、わしを封じたつもりか!』

戦士「電気流せる?」

魔法使い「オッケー。やつ翼にビリっとくるわよ」

竜『おいやめろ』

魔法使い「それ、バリバリっと」ビビビッ

竜『ぐはあああああ!!!』

戦士「プライドが高いから、こういう攻撃への危険予測ができない」

竜『ぐぐぐ』

戦士「さて、どうだ。観念するか?」

竜『……』

戦士「あんたが手伝ってくれれば魔王退治はやりやすいぜ?」

竜『バカが!! この程度の魔法など、少し痺れただけにすぎんぞ!』

竜『喰らえ、人間ども!』 がぱあ……

魔法使い「ちょっと! 口から炎を吐き出すつもりよ!」

エルフ「こんな室内ではひとたまりもないぞ!」

戦士「猟師」

勇者「やっぱ抵抗あるわ。その呼び名は」ガチャ

戦士「撃て」

勇者「おう」 ダーン!!

戦士「銃弾を核に、氷の魔法を!」

勇者「冷えて便利なクーラーサイズ!」カキーン!

魔法使い「呪文めちゃくちゃなのになぜ発動するのか」

竜『ガボボッ!?』

エルフ「り、竜の口に氷が!?」

戦士「魔法使い」

魔法使い「オッケー、氷の種よ。溶けない柱となれ……」 ビシビキバキッ

竜『がっ、ごごごっ』

戦士「大体、狭い室内での戦闘になればなるほど、攻撃パターンが決まる」

戦士「縄の結界と、電撃の魔法でさらに動きを狭めた。さあ、その次はどうなる?」

勇者「火を吹くために、口を開けるわけだな」

戦士「大正解」

竜『ごっ、うごがっ……』

戦士「まあ、まともにやり合っても、動きが読めればどうにかなるんだよな」

戦士「だからこいつは予行演習なんだよ。な?」

魔法使い「……」

戦士「……おうエルフ、竜に矢を貫通させられるか?」

エルフ「さすがに竜鱗相手には分からんが、やってみよう」

戦士「今のうちに毒矢を突っ込んでおけ。こうなると体力勝負だからな」

勇者「よっしゃ、俺もバンバン打ち込んでくぜ!」

魔法使い「バカ、貴重な武器なんでしょ、それは」

勇者「ん? ああ、そうか」

竜『ぐはあっ!! げはっ!!』

勇者「ふひゅー……さ、さすがに竜はタフだな」

勇者「全然死にそうにねぇぞ」

戦士「そりゃ、粗方の攻撃は防ぐ鱗に、鋭い爪と牙、そして体力」ガンッガンッ

戦士「さらに上空を自由に飛び回る能力に、火を吹き、叩き潰す尾撃」ベシッ、バキッ

戦士「こんなのに比べたら人間なんて、なぁ?」

魔法使い「……しゃべりながらスコップで殴りつけるのはやめてくんない?」

エルフ「実際怖い」

勇者「うるせーな! 文句あるなら手伝ってくれよ!」

エルフ「さすがに、矢と毒が尽きてしまったよ」

竜『ぐおおおおおおああああああああ……』

戦士「おっ、もうひと息じゃねぇかな?」

竜『はぁ、はぁ……』

戦士「よし、瀕死状態と言っていいだろう」

戦士「後は放っておいても死ぬレベル」

魔法使い「冗談みたいな話ね。こんな、あっさり……」

勇者「あっさりじゃねーだろ! めっちゃ疲れたわー」

エルフ「む、おい、人間よ」

戦士「あん?」

エルフ「お前、怪我がひどいんじゃないの?」

戦士「ああ、さすがに一発もらっちまったからな」

勇者「おいおい、魔王を倒す前にやめてくれよー? ほらさすがに薬草」

戦士「おう、癒える癒える」

戦士「よし、後は魔法使いが眠らせた配下の魔物を掃討しよう」

戦士「神殿が占拠できていれば、そのうち城にも来るだろうからな。こちらの軍勢が」

勇者「ふあ~、しょうがねぇ、やるか」

魔法使い「仕方ないわね」

エルフ「矢がないから、私は」

戦士「ああ、適当に休憩しておいてくれ」

エルフ「わかったわ」


竜『ぐ、ぐぐぐ……き、貴様……』

戦士「ん?」

竜『き、貴様、貴様……』

戦士「しゃべっても死ぬぜ。しゃべらなくても死ぬけどなぁ」

竜『黙れぃ! 思い出したぞ……!』

戦士「……」

竜『貴様、数年前に……!』

戦士「人違いだぞ」

竜『い、生きていたのか……』

戦士「……」

竜『ぐ、ぐはははっ、今度こそ、魔王を倒せる算段がついたのか?』

戦士「そら、勇者のふりをしている真っ最中だからな。魔王くらい倒さないと」

竜『くく、やって見せるがいい……ぐふっ!!』ガクン

戦士「……」

エルフ「……なんだ、どうしたの?」

戦士「なんでもね」

戦士「やっぱり最後はなんかもっともらしいことを言って死ぬのが定番だからな」

エルフ「なんか、数年前とか言っていたような」

戦士「はっはっは」

エルフ「笑って誤魔化さないでよ」

戦士「まあ、俺も昔はいろいろ冒険したもんだよ」

戦士「エロい格好をした武闘家のおねえさんにベリーダンスを仕込もうとして殴られたりな」

エルフ「そういえば、芸人だったわね」

戦士「エロテクだけなら百戦錬磨なのになぁ」

エルフ(魔王と性欲対決でもしたのかしら……)

――
商人「勇者さぁぁぁぁぁぁぁぁぁんん!!!」 ずだだだだ

戦士「おっ、商人」

商人「なんですか神殿て!」

戦士「は?」

商人「何もないじゃないですか! 金目のものが!」

魔法使い「あんた、私がいる前で堂々と……」

商人「あっ、お疲れ様です!」

戦士「ぐふふ、見ろ、このエログッズの数々を」

商人「こ、これは、王家の紋が入った張り型!」

魔法使い「よく見つけたわね……」

魔法使い「それ、魔力を込めるとウィンウィン動くのよ」

商人「魔法ってスゲー!」

戦士「で、どうだった?」

商人「それが意外や意外ですよ!」

戦士「うん?」

商人「彼らは結構戦えて、女騎士さんの突破力と合わさって、あっという間に中心部に駆け上がっちゃったんです!」

戦士「ほうほう」

商人「つまり、あの人達は使えますね」

戦士「なるほど」

商人「勇者さん、ボクにもさすがにわかってきましたよ」

戦士「何がだ?」

商人「あの偽勇者チームで魔王城を正面突破させるつもりでしょ?」

戦士「その通りだ」

商人「だから、あの人達をもっと天まで持ち上げて、討伐隊のリーダーに据えないとですよね?」ニヤリ

戦士「わかってきたなぁ、お前」ニヤニヤ

女騎士「勇者殿! 無事か」

戦士「ん? ああ、まあな」

女騎士「まったく、こちらに竜をおびき寄せて挟み撃ちにするんじゃなかったのか」

戦士「そんなこと言ったっけか」

女騎士「まあ、良い。しかしこれで片はついたわけだな」

戦士「違う違う、これからが本番だ」

女騎士「本番、とは?」

商人「もちろん、『本物の勇者サマ』を盛りたてるんですよねー」

戦士「そうそう」

女騎士「……まだそんなことを言っているのか」

戦士「あれ、気乗りしないのか」

女騎士「当たり前だろう。剣の腕も、戦術指揮も優れているわけでもないぞ、あの男は」

女騎士「せいぜい口がうまい程度だ」

戦士「そりゃいい。口のうまさはこれから必須だからな」

女騎士「あ、あのな……」

商人「騎士様、これは作戦ですよ! 商売じゃなくて」

女騎士「商人殿まで」

戦士「要するに、あいつを首魁扱いして、回りに金を集めさせるんだ」

戦士「亡国を魔物の手から奪い返した勇者として盛り上げる」

女騎士「いやしかしな……」

戦士「幸いにして、ここには盛り上げるのがうまい役者が揃ってやがる」

戦士「それに、勇者の振る舞いを知っている連中もな」

女騎士「だ、だが、私には認められん! 虚言を弄して、人心を操るなど!」

商人「嘘は言いたくないってことですか?」

商人「なら大丈夫、嘘は言わなきゃいいんですよ!」

戦士「おお、それそれ」

女騎士「な、なに……」

――
偽勇者「あー、えらい目にあったわ……」

僧侶「久しぶりに激しい戦闘でしたね……」

偽勇者「さすがに目立ちすぎた感じがするぜ」

戦士「いやあ、勇者様! 此度の活躍、聞きましたよ!」ニッコニコ

僧侶「ひっ」

偽勇者「な、なんだ、てめぇ、なんだってんだ」

僧侶「も、もういいでしょう、私達は……そう、魔王を倒す旅を再開しなくちゃ」

商人「そう! まさに、その話をしたかったのです!」ぴょいん!

偽勇者「はあ?」

戦士「おーい、魔法使い、猟師さん、村人たちを連れてきてくれー」

僧侶「あ、あわわ……」

偽勇者「お、おいやめろ」

魔法使い「……ああ! 勇者様! 我が国をお救いいただき、ありがとうございます!」

「うおおおおおおお!!」

「よくやってくださったー! 勇者様ああああああああ!!!」

偽勇者「う……」

僧侶「い、いえ、これは皆さんのお力で、ですね」

魔法使い「国を追われた私も、ようやく、この国を取り戻すことが出来て、心の底から嬉しく思います」

魔法使い「つきましては、我が国の再出発を各国にご報告いただき、ぜひ、支援のお願いをと、思いまして……」

魔法使い(……これでいい?)

戦士(うまいぞー、ちゃんと出来てるぞ)

「勇者様ー! ぜひお願いします!」

「世界を救うために、俺達もガンバリマス!」

偽勇者「い、いや俺達は」

僧侶「そんな大層なことはしてなくって……」

女騎士「それだけではありません!」

偽勇者「あ、あんたは、昨日の」

女騎士「私はかつて海に面した国に仕える騎士でした」

僧侶「そ、そうですか。道理でお強い」

女騎士「いま、かつてない結束力を感じます! 魔物に支配された国を取り戻すことが出来たのです!」

女騎士「であれば他国にも働きかけ、この機を魔王を倒す一大契機にすべきではないでしょうか!」

偽勇者「え……」

「そうだ! 勇者様がいれば百人力だ!」

猟師「おいらも微力ながらお手伝いしましょう」

商人「かの騎士様は、北の戦士達を率いた経歴もあります」

戦士「声をかければ、屈強な戦士の一団がすぐにでも結成できるでしょうな」

「頼もしいぞ! 魔王を倒すチャンスだ!」

僧侶「いや、ねえ?」

偽勇者「お、おう」

女騎士「勇者殿! あなたが真の勇者であるなら、この際決断すべきです!」

女騎士「今こそ、世界の人々の力を合わせ、魔王を討伐する時だと!」チラ

戦士(イイヨイイヨー、嘘は言ってないよー)

女騎士「……さあ!」

偽勇者「お、おおお?」

僧侶「や、それは、その」

戦士「……いい加減、命かけろや」ボソボソ

偽勇者「!」

戦士「今までうまくやってきたんだろ?」ボソボソ

戦士「今度もうまく行けば『本当に勇者として一生食っていける』ぜ……」ボソボソ

偽勇者「てめぇ……なんなんだよ……」

女騎士「どうぞ、お命じください! 世界を救えと!」

「おおおおおおおおおおおお!!!!」

僧侶「ゆ、勇者様ぁ……」ヒソヒソ

偽勇者「ちっ、し、しょうがねぇ……」ヒソヒソ

偽勇者「ああ、やるぞ! 魔王を倒すぞ!」

\うわあああああああああああああああああ!!!!/

戦士「くくっ」

商人「やりましたね、これ」

戦士「……さあ、それでは、今日は宴会で楽しもうじゃありませんか!」

料理人「酒もたっぷり残っていたんでね」

料理人「ガッツリ振る舞ってやるぜ!」カチーン

魔法使い「剣より包丁が似合う男ね……」

宴会中。

戦士「おー、カワイイねー、きみー」

踊り子「いやーん」

商人「あー、勇者さん?」

戦士「どうした?」

商人「いやその、皆さん呼んでますよ。これからのことで聞きたいって」

戦士「放っておけよ」

戦士「久しぶりに女の子とイチャイチャしたい」

商人「いるじゃないですか、騎士様とか、魔法使いさんとかも」

戦士「あいつらセックスに興味薄そうじゃん」

踊り子「あ、勇者様!」

踊り子「ごめんねぇ、戦士さん。私お酌してくるわぁ」

戦士「あっ」

商人「……」

戦士「やれやれ、しょうがねぇ。せっかく今日くらいハメを外してハメ倒そうと思ってたのに」

商人「まあまあ、それだけ頼られてるわけですから」

戦士「で? 俺と話がしたいってのはどいつ?」

魔法使い「……私よ」

戦士「おー、どうした? する?」

魔法使い「は? 何を?」

戦士「セックス」

魔法使い「こいつぶん殴っていいのよね?」

商人「ちょっと性欲が溜まっているだけなんで許してあげてください」

商人「ひどい時は一晩中パコりますから」

魔法使い「あんたも大概ひどいと思うのは気のせい?」

戦士「で、なんだよ」

魔法使い「金。男」

戦士「うん?」

魔法使い「散々これだけ働かせておいて、私の手にあまり残ってないじゃない?」

戦士「偽勇者とハメてくればいいじゃん」

魔法使い「は?」

戦士「あいつが真の勇者に認定されれば、大金ゲットまちがいなしだろ」

商人「確かに」

魔法使い「んなわけないでしょ!!」

戦士「そもそも、お前、騎士に王子を紹介してもらうんじゃなかったのか」

魔法使い「ええ……そのつもりだったわ」

魔法使い「調べたら40代で子持ちハゲデブだったけどね!!!!」

戦士「独身子持ち…

商人「ウケル」

魔法使い「なんなのマジで? 呪われてるの?」

商人「……この人、自分で設定した砂漠の姫って設定を忘れてませんかね」ヒソヒソ

戦士「まあ、姫っぽくはないしな」ヒソヒソ

魔法使い「だから、あんたたちが責任取るべきでしょ。光のドレスだって結局あんたたちが持ってるじゃない」

戦士「分かった。そういうことなら提案がある」

魔法使い「なに?」

戦士「この国を拠点に各国から金を集めるだろ」

魔法使い「ふんふん」

戦士「その時に、この国の外交官として再デビューするんだ」

魔法使い「それで?」

戦士「そうすると、各国の地雷な男や財産を調べる機会が増えるよな」

商人「あ、確かに。直接会う機会もあるわけですしね」

魔法使い「な、なるほど……」

魔法使い「そ、想定外にうまく答えられてびっくりだわ」

戦士「なんだよ、そんなことか?」

魔法使い「じゃあ、本題よ。あんた、何者?」

戦士「んん?」

商人「勇者さんは勇者さんですよ」

魔法使い「だから、それはフリなんでしょ」

戦士「じゃあ、見たまんまだろ。勇者のふりをしている冒険者」

魔法使い「表面上はね」

戦士「まるで俺が表面以外にもあるみてーな物言いだな」

魔法使い「表面しかない人間なんていない」

魔法使い「豊富な魔物への知識、罠の技術、指揮能力……」

魔法使い「少なくとも、かなり経験を積んできた冒険者でしょ」

商人「そ、それが何か悪いんですか」

魔法使い「隠し事をして、決戦に望まれても困るわ」

魔法使い「あんた、それだけ強いなら、今までどこで燻ってたわけ?」

戦士「そりゃおめぇ、山に篭って修行してたんだよ」

魔法使い「……」

戦士「分かったって。知りたいなら教えてやる」

商人「ご、ごく」

戦士「俺は熟練の旅芸人だったんだ」

魔法使い「ああ?」

戦士「そしてその才能を認められて、いつしか世界中を回ることになり……」

魔法使い「……」

商人「それ、ほんとなんですよね?」

戦士「騎士もそうだった気がするが、なんで信じないんだ?」

魔法使い「で、何? 旅芸人なのに世界を旅する内に、魔物に詳しくなっちゃったんだ」

戦士「その通りだ。英雄譚には魔物の描写が欠かせないからな」

商人「おお、そういうことだったんですか」

魔法使い「だから、あんたはあああああああああ!!!」

戦士「なんで怒るの」

女騎士「……魔法使い殿、もう深く追及しなくてもよい」

魔法使い「あんただって気になるでしょ!?」

女騎士「しかし、大事なことは、今こうして才能を発揮しているということだ」

女騎士「そうだろう?」

戦士「騎士、やたら薄着でエロい格好してるな」

商人「わぁ、似合ってますよ!」

女騎士「おい」

女騎士「ま、まあ。それより勇者殿。今後の作戦だ」

戦士「ああー、そんなの明日でいいと思ったんだけどよー」

女騎士「しかし、我らは、興奮しているのだ。魔王を倒せるかもしれない、とな」

女騎士「そこには、やはり、お主の知恵が一番頼りになるのだからな」

戦士「ふーん」

商人「魔王よりも女の子の方が興奮するんじゃないですかね」

戦士「僧侶ちゃん、いいよな……」

商人「タイツですからね……」

女騎士「……」

魔法使い「こういう連中なのね。本当に腹が立つわ」

戦士「別に大したことはしねーよ。まず騎士がいたあの国で船をせしめるだろ」

女騎士「お、おお」

戦士「それから南の国に行って資金援助要請」

戦士「北の国で武器と戦士たちを調達」

戦士「東の国で物資の確保」

商人「ふんふん」

戦士「そしてそれを展開して魔王城の襲撃を行わせる計画を立てる」

女騎士「そこまですらすら出てくるなら、早く言ってくれ」

魔法使い「こういう連中なのよ」

――厨房。

勇者「ほい、いっちょ上がりィ!」ジャッ

エルフ「おお、うまい」

勇者「お前ちょっと遠慮しろよ、広間に持って行けよ」

エルフ「……いやいや。そもそもなぜお前は料理を」

勇者「多才だからかな」

エルフ「理由になってないわ」

勇者「俺、料理作れる。お前、食べる。何か食べたい、作れ、OK?」

エルフ「そこまでしろとは……」

勇者「やしの実ジュース」

エルフ「ジュルリ」

勇者「まあ、俺もニクを焼くだけの男になっちゃいかんと思っているからな」

エルフ「いやいや、待て」

勇者「うん?」

エルフ「そもそも、アレだ。お前は何者だ?」

料理人「はっはっはっ、勇者だと思うぞ」

エルフ「うっ、肩書が……!」

エルフ「勇者が多すぎて、どれが本物なのかわからないわ。何か証明してよ」

勇者「ふっ、良かろう」

勇者「まずは火の精霊の加護で、一気に強火を」

エルフ「おい」

勇者「焼き上げた料理を一旦風の精霊の加護で冷ましておく」

エルフ「待て」

勇者「そしてさらに土の精霊の加護により野菜を丁寧に揉みほぐしておいしく」

エルフ「あの」

勇者「最後に水の精霊の加護で、冷やしぶっかけうどんの出来上がりだ!」

エルフ「うまいっ!」ズルズルーッ

勇者「この四大元素を自由自在に操る料理人、それが勇者なんだ」

エルフ「いま料理人って言ったわよね?」

勇者「料理の道は勇者に通じる」

エルフ「……つ、つまり、敵を料理する、的な?」

勇者「は?」

エルフ「……」

魔法使い「何をやっているのよ、何を……」

勇者「お前の国ってまともな料理人いないよな」

魔法使い「さいですか」

戦士「お、うまそう」

勇者「俺、魔王倒したら小料理屋開こうかな」

魔法使い「失敗する」

商人「運転資金は?」

勇者「経営はこいつに任せるの、どうかな?」

戦士「拡大路線を取ろうとして味が悪くなるだろう」

商人「な、そ、そんなことはしませんよ!」

勇者「いやちょっと、エルフに見せてやったのよ。精霊の力を」

戦士「ほう、精霊の力をね」

エルフ「ええ、確かに見たぞ」

エルフ「料理の腕をね」

勇者「一番これが使えるんだ」

魔法使い「なんて無駄な使い方を……」

勇者「いや、力の制御にはうってつけなんだぜ!」

勇者「火力の調節、水の使い方」

商人「……勇者さん、この人バカなんですかね」ヒソヒソ

戦士「実際、使いどころが分からないしな。精霊の力って」ヒソヒソ

戦士「ただほら、料理を通じて鍛えられているというか」

勇者「で、盛り上がっているところを、わざわざ厨房に押しかけてどうしたんだ」

魔法使い「今後の作戦よ。あんただって聞いておくべきでしょ」

勇者「なんで?」

魔法使い「……」

勇者「いいか、あいつが考えるだろ」

戦士「俺?」

勇者「おう。そうすると、俺は考えなくていいじゃん」

魔法使い「いいわけないでしょ」

勇者「頭脳労働より、栄養補給を任務としてな」

魔法使い「あああああああああああ!!!!!」イライライライラ

勇者「そんなにイライラするなよ。そんなだから貰い手が出てこないんだ」

魔法使い「あんたに! イライラしないやつが存在するっていうの!?」

勇者「俺ってイライラする?」

戦士「はっはっは」

女騎士「……する」

商人「しますね」

エルフ「こ、このココナッツジュースってやつ、甘いぞ!」アタフタ

魔法使い「燃えろ」ボッ

エルフ「ひぎゃー!!!」

勇者「鮮度を保つクーラーの如く」カキーン

エルフ「ちめたっ!」

魔法使い「だからね? 魔法をそんな滅茶苦茶な呪文で放つな、それで発動させるな」

商人「魔法使いさんと相性が激悪だったんですねぇ」

女騎士「これでよく冒険が出来ていたな」

魔法使い「こいつ、こいつ何も考えてないのよ!!」

魔法使い「ほんっとイライラする!!」

商人「勇者さんも似たようなものだと思いますが……」

魔法使い「まだ、こいつはパッと思考が一貫して働くからいいじゃない!!」

戦士「そうでもねぇけどなぁ」

勇者「一緒にいた時からカリカリしてたんだよ」

戦士「そうだ、とりあえず一緒に女の子と遊ぼうぜ」

勇者「お、いいね! どうせ明日で世界が終わるわけじゃなし」

魔法使い「……」プルプル

商人「魔法使いさんって真面目なんですねぇ」

女騎士「うむ、なんというか、そ、そうだな、女性らしいというか……」

魔法使い「ああー!? ヒステリックだって言いたいのかぁー!?」

女騎士「ひい!?」

――お城。

戦士「うっぷ。飲み過ぎでアタマいてーわ」

勇者「俺も。今日は後頼む」

商人「大丈夫ですかー、酔い止め薬お売りしますよー」テキパキ

女騎士「……」

偽勇者「お、おい。大丈夫なのかよ」

僧侶「こ、この方たち、移動中もずっと飲んでましたね……」

女騎士「だ、大丈夫だ。ここは私が元いた国。私に任せてもらおう」

偽勇者「いや、いいんだけどよ……」

女騎士「陛下、参上いたしました」

王様「う、うむ。何やらその、快進撃を繰り広げているようじゃな」

女騎士「はい! そして、私、魔王討伐に足る勇者を見つけました!」

王様「なんじゃと」

商人「この方こそ、真の勇者なのです」

王様「なんと、この男が」

偽勇者「ははっ」

王様「……こないだと違うようじゃが」

商人「実は我々は真の勇者を探すために、勇者の旗を振り続けていたのですっ!」

王様「うそ臭いのう」

偽勇者「がはは、これがその証です」

僧侶「はい、こちらが勇者の証、精霊の加護を受けた護符になります!」

王様「ふーむ」

女騎士「陛下、この度お伺いしたのは、何もこの者を紹介するためではありません」

女騎士「今こそ魔王討伐の最大の契機! どうぞ力をお貸しください!」

王様「いや、しかしのう」

商人「って言うと思ってましたよ」

魔法使い「……お久しぶりですわ、陛下」

魔法使い「砂漠の国より来た魔法使いです」

王様「ほうほう。これはこれは」

魔法使い「我が国は、一度魔物に支配され、それをこの者達と力を合わせて奪還いたしました」

魔法使い「我が国は全力をあげて魔王討伐隊を支援する所存ですわ」

王様「なるほど」

王様「しかし、それならわしの助力などいらないのではないか?」

魔法使い「とんでもございません。陛下にはぜひとも全力をあげて船と馬をご用意していただきたいのです」

王様「えー……」

偽勇者「この時を逃せば魔王は倒せませんよ!」

王様「いや、しかし」

女騎士「……商人殿」ヒソ

商人「オッケーです、想定内です」ヒソヒソ

商人「……あー、それでは仕方ありませんねぇ」

商人「南の国でお願いするしかないですねぇ」

王様「うむ。そうするがよい」

商人「魔法使いさん」

魔法使い「はい。では仕方ありませんわ。我が国からの産品、南の国とのみ取引を行わせていただきます」

王様「!?」

魔法使い「陛下には、魔王討伐隊の船の、領海内の通行だけを許可していただくだけで結構ですわ」

商人「あーしかたないですね。これは」

女騎士「……くく」

偽勇者「我ら、何としてでも魔王を討伐する所存」

僧侶「協力していただける国との交流を重視するのは当然ですものね」

王様「ま、待った!」

魔法使い「あら、まさか、通航さえ許可いただけませんの?」

王様「ち、違うぞ! 今のはほれ、なんじゃ、南の国も出したがってるじゃろうなっていう、そういう意味じゃ」

商人「大丈夫です! もうすでにここでうまくまとまらなければ、南の国でお願いする旨は伝えてますんで!」

王様「!?」

魔法使い「では、領海内の通航の許可、ありがたく頂戴しましたわ」ペコリ

女騎士「おお、陛下の寛大なるや」

王様「待たんか!」

商人「はい?」

偽勇者「どうかしましたか?」ニヤニヤ

王様「……」ダラダラ

王様「だ、大臣」

大臣「はっ」

王様「見積りを……早く……」

大臣「へ、しかし……」

王様「早くせい! 急いで!」

大臣「は、はっ!!」

商人「お忙しいようですね。申し訳ありません」

王様「……ま、待つのじゃ!」

商人「はい」

王様「見積りを……取らせる……」

王様「何隻必要なのか。申してみよ」

商人(よし!)

魔法使い「あら、陛下、まさか船と馬を出してくださると?」

王様「う、馬もか!?」

偽勇者「最初に申し上げたとおりですなぁ」ニヤニヤ

商人「では、もう一度、申し上げたいと思います……」

女騎士「陛下の寛大なる御心に感謝申し上げます」

魔法使い(すっごい適当に感謝の言葉を言ったわね)

魔法使い(嫌ってるのかしら)

――北の国。

女騎士「勇者殿ー」

商人「あ、騎士様」

女騎士「商人殿か、先ほど、北の戦士たちに話をつけてだな」

商人「あ、静かに」

女騎士「む」

商人「……」

女騎士「……どうしたのだ?」

商人「いや、そろそろ……」

戦士「ここだ」

女騎士「ふいっ」むにゅ

女騎士「だあああああっ!! 勇者殿! 胸を! 触るな!」

戦士「ははは」

勇者「俺もいるぜ!」

女騎士「しかし、まるで気配を感じなかったぞ……一体何があったんだ」

戦士「こないだからゲロ吐くくらい飲んだだろ」

勇者「あれ、妖精酒って言うんだってよー」

戦士「ちょっと酒にうるさいマスターがいてな、都合してもらったんだ」

女騎士「はあ」

商人「すごいんですよ! 魔法の道具の効果がアップするんです!」

女騎士「まさか、透明になるとかいうアレを」

戦士「おお、足音も聞こえないくらいイケてるだろ」

女騎士「た、確かに。これはすごいな」

魔法使い「犯罪にぴったりね」

女騎士「……!」

戦士「待て待て、誤解だ」

勇者「これなら無銭飲食やり放題だぜ」

魔法使い「……」ジーッ

商人「レイプ、誘拐……はっ、いやいや、商売に使えますよね! 商売に!」

女騎士「勇者殿! まさか荒稼ぎするつもりではあるまいな!」

戦士「俺がそんなことをやるような男に見えるか?」

勇者「違うのか?」

商人「ここぞというところで裏切るように見えます」

戦士「はっはっは」

女騎士「いや、まあ、これで魔王本拠に潜入するというのだろうが」

戦士「まあ、ただ飲んでたわけじゃねぇったこった」

戦士「で、北の戦士で一団は作れそうか?」

女騎士「無論だ! 士気も高いぞ。腕に自信がある男たちだからな」

戦士「ふーん。おっぱいでも見せてやったのか?」

女騎士「あ、あのな……」

商人「そりゃあ、やっぱり自分の部隊長がおっぱい見せてくれたら盛り上がりますよね」

勇者「股間が?」

女騎士「……」スラリ

戦士「士気がな」

女騎士「勇者殿、商人殿……この土壇場に来て、冗談はやめてほしい!」

商人「マジで言ってるんですけど……」

戦士「俺もだ」

女騎士「何度も言うが、私は女を捨てた身」

勇者「魔法使い、なんか言ったれよ」

魔法使い「この戦いが終わったら……私結婚するんだ……」

戦士(死亡フラグ)

商人「そんなこと言ってると死にますよ?」

魔法使い「やかましいいいいいい!? このガキがああああああああ!!」ユサユサ

商人「うわあ、やめてくださいよ!」

女騎士「結婚か……」チラ

戦士(おっぱいのついた筋肉ゴリラだけど、顔は美人、かな)

女騎士「う、うむ。私には不要だ」

戦士「そうか?」

偽勇者「楽しそうだな貴様ら……」

勇者「おう、勇者サマ」

商人「あ、勇者サマー」

偽勇者「うるせー! そんなこと微塵も思ってないくせによ」

偽勇者「一体コレ以上、俺に何をさせようってんだ?」

僧侶「そうですよ! もう散々お金やら物品やら締めあげたでしょう!」

僧侶「もう私達を解放してください」

戦士「ああ、世界を救ったらな」

偽勇者「ぐぬぬ」

戦士「商人、物品リスト揃った?」

商人「大丈夫です! 偽さんのおかげで」

偽勇者「貴様ら……」

偽勇者「ほ、本気で魔王を倒せると思ってるのかよ」

戦士「思ってるんじゃなくて倒すんだな」

僧侶「どうやって倒すつもりなんです?」

戦士「大丈夫だって、お前らはただの囮だ」

偽勇者「ふざけるな!」

女騎士「うむ。前回の手だな」

戦士「嫌なら魔王城突撃隊に組み込むけど、いいのか?」

偽勇者「お、囮でやってやるよ……」

戦士「大勢の人間にカリスマ性を見せつけるチャンスだぞ」

偽勇者「命がけじゃねぇか!!」

僧侶「あ、じゃあ、私は後方支援で……」

女騎士「激戦になるんだから、前線で傷を癒してもらうが?」

僧侶「チクショー!」

戦士「騎士」

女騎士「む、なんだ」

戦士「基本の戦闘はあいつ(偽勇者)に任せろ。団の指揮と要所を騎士が担当するんだ」

女騎士「うむ。承知した」

女騎士「というからには、その要所について詳しく説明があるのだな?」

戦士「そういうことだ。まず、魔王城の周辺域の地図」

商人「は、はい!」ピラッ

女騎士「どこでこんなものを……」

戦士「あるところにはあるんだよ」

戦士「で、ここに崖があって、一列になっているだろう」

女騎士「ここで戦闘しろというのか?」

戦士「ああ」

女騎士「そんな無茶な!」

戦士「けど、多分魔王軍に残っている連中を考えると、これがベターだと思うんだけどよ」

戦士「狭いところならまず出てくるのがいるはずだし」

女騎士「……」

商人「どうしたんですか?」

女騎士「勇者殿。もう驚かないから教えてほしい」

戦士「なに?」

女騎士「お主、やはりかつて魔王軍に身を置いていたとか、そういう」

戦士「はっはっは、ないない」

商人「どんな妄想ですか」

女騎士「やかましい! なら、どうして魔王軍の陣容を知っているのだ!」

戦士「かつて、俺は世界中を旅した芸人でな……」

女騎士「もうそれはいい!」

戦士「いいのか? 結構面白い話なんだがな」

商人「はあ。まあ、その話は置いておくにして、騎士様にはこんなところでいいんですか?」

戦士「まさか。うまく相手を倒せる策を十くらい教える」

女騎士「じ、十!?」

戦士「ん。で、それで体力が残っていたら、そのまま魔王のところまで単騎駆けしてきてくれ」

女騎士「……」

商人「騎士様の力が必要だってことですよ!」

戦士「いや、俺らが先に魔王を倒したら、偽者が勇者っぽくないじゃん?」

戦士「まあ、騎士なら格好がつくだろうって話でな」

女騎士「ふう、まあ、いい」

女騎士「大体、少数精鋭で魔王を打ち倒す方が危険なのだろうからな」

女騎士「全力で駆けつけよう」

戦士「頼りにしてるぜ」

戦士「で、おい。魔法使い」

魔法使い「何かしら」

戦士「お前はエルフと一緒に……」

魔法使い「いや、もういいでしょ。私は外交交渉役として務めは果たしたわ」

戦士「ふーん?」

勇者「ここに光のドレスがあります」

魔法使い「!?」

商人「それでそれでー?」

勇者「自分、火の精霊の加護を受けてるっすから」

魔法使い「ごるぁあああああああああああ!!!」

勇者「落ち着けよ」

魔法使い「あんたっ……! いい加減にしろよ、マジで、ふざけんなよ!」

戦士「商人、結婚するならどんなのがいい?」

商人「うーん、ヒステリックなのはちょっと……」

戦士「そうか? 独占欲強そうな娘って俺は好きだな」

商人「え、マジですか?」

戦士「大体、商売で割りきってる娘とばっかり遊んでたから、結構新鮮なんだよ」

商人「比較的クズですね、勇者さん」

戦士「ははは、そうか? 分かってるから、お互い無理せず気持よくなれるんだがな」

商人「ええ? ボクは冷静に判断出来る人の方がいいなぁ」

魔法使い「おい、お前ぇ! あいつ止めろ!」ゼーハー

勇者「ふはは、どうした、俺がドレスを着ちゃうかもしれんぞ!」

戦士「まあ、魔法使い。ここまで来たら付き合ってくれや」

魔法使い「ぜー……ぐっ、仕方ないわ」

魔法使い「ただし、危険な仕事はNGよ!」

戦士「ああ。比較的安全な仕事だ。失敗したら死ぬが」

魔法使い「……」

勇者「まあまあ、いざとなったら俺がなんとかするって」

戦士「いや、お前は俺と一緒にこいよ」

勇者「え、そうなの?」

魔法使い「はっ、なら私が何をやろうと監視役はいないわけね」

商人「エルフさんがいるじゃないですか」

魔法使い「あんな甘党の頭おかしいエルフに監視が務まるのかしら?」

エルフ「甘味は我にあり!」ブンッ

魔法使い「!?」

エルフ「妖精糖で作った茶菓子……素晴らしい」サクサク

戦士「食べ過ぎるなよ」

エルフ「いいえ、これを食べてから体の調子が良すぎてわけがわからないことになっているわ」シュッ

魔法使い「き、消えた」

商人「人間離れしていきますね。人間じゃないですけど」

エルフ『私はいつでも風と森の中で見守っているぞ……』サクサクサク

魔法使い「食ってるじゃねーか!」

戦士「まあ。あいつに刺されたくなければ頑張ってくれ」

魔法使い「……」

商人「妖精糖ってなんですかね」

戦士「妖精酒と同じで、魔法的な力を持っている甘味だろうな。なんか風に溶け込んでしまっているけど」

商人「はえー、売れますかね」

戦士「下手に人間が食うと妖精の世界に溶けてしまうぞ、多分」

魔法使い「まあ、いいわ。良くないけど、仕方ないわね」

戦士「おう、それでな……」

魔法使い「ふむ。結界のね」

戦士「位置が変わっている可能性はあるからな」

魔法使い「大丈夫よ。潜入なら苦手ってほどじゃないわ」

戦士「それじゃあ、よろしく頼むぜ。熟読しとけよ」

魔法使い「……本気で魔王を倒す気なのね」

戦士「当たり前だろ。勇者のふりをするんだからな」

魔法使い「なんなのかしらね、あんた」

戦士「さあな」

勇者「で、俺はいいんだけどよー」

戦士「ん?」

商人「ぼ、ボクはついていきますよ! 今度こそ!」

戦士「ああ。必要必要」

勇者「三人で魔王突撃? 結構厳しくねぇか」

戦士「ま、俺達がやるべきことは、魔王の行動パターンの制限だ」

勇者「マジ? 倒すんじゃねぇのか」

戦士「倒せればな」

勇者「倒せないのかよ」

戦士「鋭意努力はするが、長時間の戦闘になる公算だからな」

商人「な、なるほど」

戦士「ま、一応策はあるが、策を弄してもそうそう勝てないのが魔王ってやつだ」

戦士「分かるだろ?」

勇者「ああ。今回は用意周到だもんな」

戦士「まあな」

商人「あ、あの……」

戦士「ん?」

商人「ボク、その、本当に、大丈夫ですよね?」

戦士「大丈夫だ。勝てなきゃ全員死ぬだけだ」

商人「ひでぇ!」

戦士「ははは。ま、それはそれとして、だ。三部隊に分ける以上、俺達がすべきことは魔王に直接向かうよりも先にある」

勇者「お宝の回収」

戦士「ソノトオリ!」

商人「ですよね!」

商人「冗談じゃなくって、マジなんですよね」

戦士「時間がかかる作戦があるからな。その成功まで少し時間を稼いでおきたい」

勇者「なるほどねぇ」

商人「ボク、信じてますから」

戦士「そういうのは商売人にが言う言葉じゃねぇな~」

商人「へへへ」

勇者「お、それじゃ景気づけにもう一杯いくか?」

商人「え、妖精酒はもういいじゃないですか」

戦士「いいんだいいんだ、これが最後かもしれんしな」

――
商人「もがむが」

戦士「はっはっは、ん? どうした?」

商人「ぶはっ、い、いや、その……」

商人「今日はそんなに多く飲まないんですね」

勇者「まあ、景気づけだからな。景気づけ程度よ!」

商人「他の仲間も呼べばいいのに」

戦士「それぞれ集中すべきことがあるだろうから、いいのさ」

戦士「……結局、こちらの準備の妨害もナシってのは拍子抜けだがな」

勇者「ん? 魔王がこっちを攻撃してくるかってことか?」

商人「ははは、なんか、魔王に攻撃してもらいたかったみたいですけど」

戦士「んー、まあな。戦力が減らせる」

商人「……」

戦士「どうした?」

商人「んー、勇者さんって、その……」

商人「芸人だったんですよね?」

戦士「ああ」

商人「世界中ってのは、どの辺を旅したんです?」

戦士「そらもう、世界中だよ」

勇者「へー」

商人「魔王のところにも行ったりしたんですか?」

戦士「ああ」

勇者「マジ? すごいじゃん」

商人「えー、あー」

商人「そ、それで魔王に詳しいってことなんですか?」

商人「や、やっぱり、勇者さんは……」

戦士「ああ、俺は芸人として腕を磨くために旅をしていたんだ」

勇者「ほうほう」

商人「それは何度も聞きましたけど」

戦士「そこで、魔王討伐と救世を目的に旅をしている一団の仲間に加わったのだ」

戦士「それなりに昔になるな」

商人「……ん?」

勇者「すげーな。結構強かったのか、その連中」

戦士「ああ。その中には勇者と呼ばれる男もいてな」

商人「……んん?」

勇者「へーそんで?」

戦士「魔王をあと一歩のところまで追い詰めたのだ」

商人「……んんん?」

勇者「おっ、なるほど!」

戦士「あの時は俺もずいぶん若かったぜ……酒の味も女の抱き方も教えてもらったし」

戦士「剣の振り方は一向にうまくならなかったけどな!」ハハハ

勇者「あー、そりゃあるよな。やっぱり剣の腕ってのは才能だぜ。才能」

商人「いやあの、ちょっと」

戦士「なんだ?」

商人「数年前に勇者さん以外に勇者がいたんですか?」

戦士「勇者と名乗る男がな」ニヤニヤ

商人「えーっと……」

戦士「ま、少し前の話だ。あの当時は売名行為はあまりやらなかった」

戦士「勇者の噂なんて、魔物を倒して、じわりと広がる程度で――」

商人「いやいやいや!」

戦士「なんだよ」

商人「……勇者が、いたんですか?」

とりあえずここまでで。あともう少し

――翌日。

商人「はい、勇者さん、鎧を磨いて置きましたから」テキパキ

戦士「おう」

商人「それから内側にちゃんと薬草とかこれも仕込んでおきますんで」

戦士「おう」

商人「いいですか、ボクは戦力的にはアテにならないんですからね」

戦士「ん、まあな」

勇者「しょーにーん。弾持っててくれよ」

商人「ダメですよ、そんなに多くはないんですから、ご自分で全部持ってください」

勇者「ちぇー」

商人「それからこの鎧なんですけど……」

戦士「おう」


魔法使い「……どう思う?」

女騎士「何が?」

魔法使い「なんかこう、やけに甲斐甲斐しくなった感じしない? 商人」

女騎士「さてな。仲が良いのは前からだから」

魔法使い「ふん、そんな悠長なこと言ってると、商人に取られるわよ」

女騎士「どういう意味だ」

魔法使い「あんたの片恋慕が」

女騎士「かかか、片恋慕って何がだ!」

女騎士「私は勇者殿を信頼し、仕える、そう、騎士だからな」

魔法使い「どの誰とは言ってないけど」

女騎士「う、ぐぐぐ」

魔法使い「それにしても、何かあったのかしらねー、なんかさらに急接近する何かがあったのかしらねー」

女騎士「……さ、三人で突入するのだ、仲が良くなって当然だ」

魔法使い「騎士サマは一番の激戦にさらされるけどね」

女騎士「当然だろう。それだけ信頼してもらっているということだ」

魔法使い「捨て駒として?」

女騎士「違うわい!」

女騎士「ふ、これを見よ」サッ

魔法使い「ん?」

女騎士「魔王軍の軍勢攻略指南を勇者殿から直筆で頂いている。十以上の策を記したものだ」フフフ

女騎士「見事軍勢を突破した暁には、子々孫々にわたってコレを受け継いでいくのだ」

魔法使い「ふーん、それなら私ももらってるけど」

女騎士「ぬがあああああ!!」

魔法使い「ま、魔王軍についてじゃないけどね」

女騎士「ならどうでも良かろう! 私はそう、胸に思いを秘めて闘うのだ」

女騎士「これこそ騎士道というものだ」

魔法使い「寝取られが騎士道なのね」

女騎士「ねと……っ!」

魔法使い「大体、ブチブチ言ってないで、好きなら離れるまでベタベタしてればいいじゃない」

女騎士「す、好きとかそういうことではない」

魔法使い「あ、商人に肩もみさせてる」

女騎士「……勇者殿! リラックスしすぎですぞ!」ダカダカ

魔法使い「めんどくさい人ね」

戦士「あー、そこそこ」

商人「ここですか?」

戦士「うん、いいぞ」

戦士「あー、健全なマッサージもいいもんだな」

勇者「いつも不健全なマッサージやってんのかよ」

戦士「最終的に腰が疲れるんだ」

商人「あははは」

偽勇者「お前ら、本当に呑気だな」

戦士「よう、世界を救う勇者サマ」

偽勇者「てめぇ、バカにしやがって」

戦士「バカに? 勇者のふりをさせてやっているだけだぜ」

戦士「かくいう俺も、勇者のふりならしばらくやり続けていてな」

偽勇者「だからなんだってんだ」

戦士「詐欺師や騙りなんてのは堂々としてりゃいいんだよ」

戦士「ホンモノの方がよほど立ち居振る舞いに気を使わないといけねぇだろ」

偽勇者「……」

商人「勇者さん、詐欺師ってはっきり言ったらダメですよ。これは商売なんです」

戦士「勇者業?」

商人「えーと、勇者代行業でいいんじゃないですか」

商人「実際、魔物倒して魔王も倒そうっていうんでしょ」

戦士「そうそう、そういうことだ」

偽勇者「気が狂ってるぜ」

偽勇者「いいか、俺だって逃げようがないからいてやるけどな」

偽勇者「魔王ってのを、知ってるのか? 魔王ってのは化け物の親玉なんだぜ」

偽勇者「いくらなんでも、そんなヘラヘラ笑って倒せるような連中とは違うんだ

偽勇者「いいか、俺だって逃げようがないからいてやるけどな」

偽勇者「魔王ってのを、知ってるのか? 魔王ってのは化け物の親玉なんだぜ」

偽勇者「いくらなんでも、そんなヘラヘラ笑って倒せるような連中とは違うんだ!」

戦士「お前こそ魔王をよく知ってるみたいな口ぶりだな」

偽勇者「いや、それは……」

戦士「ははぁ、さては魔王軍にちょいとやられた国の出かな?」

偽勇者「うるせぇ」

商人「……」

戦士「やれやれ、仕方ないやつだな」

戦士「魔王ってのは闇の力を操る悪魔のような存在だ」

戦士「どれだけ殴ったり斬りかかったりしても、この闇の力を払わないことには始まらない」

戦士「まあ、それを除いても強力な化け物であることには違いない」

偽勇者「……なんで知ってるんだ」

戦士「まあ、いいじゃねぇか」

戦士「だが、こっちにはまずこれがある」

商人「はい、光のオーブです!」

戦士「これで闇の力を振り払う」

偽勇者「……はあ」

戦士「それからな、もう一つ、連中の困ったところがある」

偽勇者「困ったところ?」

戦士「頭を使おうとするところだ」

戦士「普通に破壊の限りを尽くせばこっちに勝ち目はないのに、連中はたとえば居城を破壊したりはなかなかしないだろう」

偽勇者「それは普通だろ」

戦士「人間的にはな。すごく頑張らないと建物を破壊したりってことはできないんだ」

戦士「魔物は違う、ちょいと一振りすりゃなんでも壊せる力を持っているのに、なぜか建物の中に居座ったりする」

商人「そりゃあ、やっぱり住み心地がほしいんじゃないですかね」

戦士「魔物向け住宅プランか……」

勇者「売れそうだな!」

商人「どこに売るんですか?」

偽勇者「お前が自信満々に言えば言うほど、不安しか募らねぇ」

戦士「だったら何も考えずに勇者のふりをしてりゃいいんじゃね?」

戦士「俺はその点に関しちゃお前に期待しているよ」

偽勇者「何言ってやがるんだ」

勇者「おう、俺も元勇者として期待するぜ!」

元勇者「いよっ! 大将!」

商人「いつから元勇者になったんですか?」

元勇者「だって誰も俺のこと勇者って呼ばないじゃねーか!」

戦士「カワイソウ」ニヤニヤ

元勇者「笑ってんじゃん!?」

偽勇者「……はあ。まあ、いい」

偽勇者「こうなったらしくじるんじゃねーぞ」

偽勇者「一世一代の大博打ってやつだ。それも無理やり賭場に座らされたようなもんだ」

偽勇者「いや違うなコレ」

商人「掛け金も出目も決まってて後は首を洗って待つだけみたいな」

偽勇者「そう、それだ!」

偽勇者「ちくしょおおおおおおおおお!!」

戦士「愉快なやつだな」

勇者「面白いやつだ」

戦士「まあ、美人のパートナーがいる時点でもう勝ち組だからな、お前」

勇者「これは許されないよー、俺なんか地下道の崩落で見捨てられたんだぜ?」

偽勇者「てめぇらがバイオレンス過ぎるだけだ!」

戦士「さあ、それじゃ、俺達は一足早く潜入することにしよう」

戦士「大所帯が一番手間取るからな」

商人「はい、荷物バッチリです」

戦士「よしよし」

勇者「おーい、エルフちゃん?」

『風の中で飴を舐めている……』チュパチュパ

魔法使い「姿の見えないやつと組まされる私が一番不幸じゃない?」

戦士「はっはっは、じゃ、魔法使い。例のアレ持って行けよ」

魔法使い「はいはい」

戦士「それじゃ行くかなぁ。北の方から回りこむコースになるぞ」

――魔王城。

商人「ドキドキしますね」

戦士「そうか?」

勇者「お前ら緊張感ねぇなぁ。観光じゃねぇんだぞ」

勇者「お、なんか食い物見っけ」

商人「猟師さんの方が緊張感ない気がしますけど」

勇者「まあ、いいじゃねぇか別に」

商人「どっちなんですか……」

戦士「魔王城のマップならだいたい把握してるからなぁ」

戦士「さすがに前回来た時と宝箱の位置とかは変わってるけど」

商人「あ、トラップですよ!」

戦士「よし、外すぞ。今の内にな」

戦士「ふーむ、これで10個は外したか?」

勇者「すげーな。罠だらけかよ」

商人「やはり、一度侵入されているだけあって、いろいろと考えていたわけですね」

商人「無謀に突撃したら、罠にハマっていたでしょうし」

戦士「まあ、でも罠を仕掛ける程度で良かったよ」

勇者「なんでだよ」

戦士「これで魔物が存分に闘えるような空間を作ったりしてたら困るだろ?」

勇者「いやまあ、それはいいんだけどよ」

戦士「どうした」

勇者「俺らって……魔王に突撃する部隊じゃなかったっけ?」

商人「ははは、ご冗談を」

戦士「突撃はする……するが、いつ突撃するかは言ってない」

商人「え、やっぱ突撃するんですか」

勇者「おい、バラバラじゃねーか」

戦士「いや、俺は最初から言ったけどなぁ。魔王城に潜入して、まず宝箱を取りまくると」

勇者「おう。それで?」

戦士「そうすると、正面から魔王軍と堂々と闘う部隊が現れるだろ?」

商人「そうですね」

戦士「その間に、場内を混乱させて、敵の数を減らしていく」

戦士「魔王に一直線に挑んだら、仲間を呼ばれるからな」

勇者「そうだったっけ?」

商人「そうですよ!」

戦士「実は?」

商人「酔っぱらってて覚えてません!」

戦士「ははは」

勇者「しっ、うるさいぞ、お前ら」

魔物1『おい、人間の軍隊が上陸してきたらしいぞ!』

魔物2『マジかよ。もうこの戦争も潮時かなぁ』

魔物隊長『ぐだぐだ言っとらんで、さっさといかんか』

魔物1・2『へーい』

ザッザッザッザッ……


勇者「よし、行ったぜ」

戦士「始まったようだな。じゃ、俺らも全速で行動だ」

商人「は、はい!」

勇者「ほれ、マントマント。透明になるぞ」

商人「は、はい」

戦士「さて、商人。こういう状況だと何が狙い目になる?」

商人「え? えーと」

勇者「扉を開けておく」

戦士「すぐ閉められるだろ」

勇者「じゃあなんだよー」

戦士「戦場はちょっとだけ離れている、全戦力がそっちに行ってるわけじゃない」

商人「うーん、ま、待ってる魔物を狩るんですかね」

戦士「違う。伝令役を狩る」

勇者「ほうほう」

戦士「情報を伝達する上で、長距離間でも連絡が取れる魔物もいないではないがな」

戦士「そんなに離れていなけりゃ個人で移動しながら連絡を取る」

戦士「だから遠くから隠れて狙撃する」

商人「悪どい!」

戦士「ふふふ、悪いだろう」

勇者「どっちが悪か分からんぞ」

戦士「人事みたいに言ってるが、狙撃犯はお前だ」

勇者「ん?」

……――

ダーン!!

\ぐぎゃあああああああ!/

戦士「よし、バレる前に狙撃する位置を変えるぞ」

狙撃兵「おう!」サササ

商人「誰なんですかね……この人は……」

狙撃兵「狙撃のコツは練習することである」フンス

商人「ノリノリ!?」

戦士「透明効果が切れる前に別の部屋に行くぞー」

戦士「む、よし、あの部屋の中で待機している連中は眠らせて皆殺しにしよう」

商人「この人むっちゃ怖い」

爆弾魔「爆弾石転がしとこうぜ! 爆弾石!」

戦士「ちょっとそれは勿体ないな」

戦士「よし、入るぞ」ガチャ

「だ、誰だお前は!」「どこから入ってきた!」

戦士「ここに妖精の剣があってな、これをじーっと見てくれ」

\ZZZ……/

戦士「今のうちに首を落とすぞー」

商人「仕方ないですね、さっさとやりましょう」ザクッ

勇者「地味な作業だな、これ」ガッシ、ボカッ

戦士「これが俺たちのラストバトルだ」

商人「確かにこれでは勇者とは名乗れないですね……」

勇者「お前もビビってないな」

商人「そりゃそうですよ! これだけ色々やってきたらさすがに慣れました」ガンッ

商人「穴を掘るのと魔物の首を落とすのと、作業量は大して変わらないですし」ゴガッ

勇者「だってさ」

戦士「俺は穴を掘る方がツライナー」ハハハ

戦士「ふー。ひとまず血の海の中で安泰だな」

商人「大分、城内もざわついてきましたね」

戦士「伝令役がやられ続けて、結構ピリピリしてるんだろう」

戦士「うまくいってれば、前線でも魔王軍からすれば苦戦を強いられている頃だ」

勇者「そうかい」

戦士「後は魔王の傍にいる側近というか、そういう連中を引っ張りだしてだな」


ドラゴンゾンビ『GRRRRRRRR……』ぬうっ


戦士「あ、やべ」

死竜『GUGYAAAAAAAA!!!!』

戦士「逃げるぞ、全速力」ダッ

商人「な、なんでですか!」

勇者「ほいほい」ダダダッ

戦士「そりゃお前、一番やばい相手だからだよ!」

商人「一番!?」

戦士「魔王を抜いてな」

勇者「確かに、あいつくっせーよ!」

戦士「そこじゃない」

死竜『GAAAAAAAAAA!!!』

勇者「ま、マント使おうぜ!」

戦士「目の前で使っても無駄だ、二階に駆け上がって、一旦やり過ごす!」

商人「あ、あの、やり過ごすって……」


死竜『GRRRRRRR!!!』バキッ、ドカッ、ズガシャー!!


商人「部屋を壊して移動してますけど」

戦士「だからヤバいんだって」

戦士「頭使ってるやつらなら、かえってハメ倒せるけど」

勇者「なるほどねぇ!」

勇者「眠りも効かなそうだし」

魔物3『む、何奴!』

戦士「敵襲だ! ドラゴンゾンビが襲ってきたぞ!」

魔物3『え、それはこっちのみかた』

死竜『GYAAAAAAAAA!!!』

魔物3『ほぎゃあああああああああ!!!』

商人「味方巻き込んでいきましたけど……」

戦士「おう」

勇者「あいつ、空気読めねぇなー」

商人「親近感が湧くんじゃないですか!?」

勇者「なんでだ?」

戦士「よし、二階に上がったら、進行方向から反転するぞ」

勇者「おう!」

商人「はい! あ、あ、ぼ、ボクを囮とかにしないですよね!?」

戦士「ああ、その手が」

商人「!?」

戦士「冗談だ、ほら、二階にも上がってきやがるぞ」

商人「ひぃ、はぁ、ふぅ」

戦士「ほら、あれがあるぞ。アレアレ」

商人「あ、アレですか」

勇者「よし、飛ぶぞおおおおおおおお!」

『落とし穴!』ぴょんっ

戦士「さて、どうだ?」


死竜『GAAAAAARR』ズボッ

商人「ハマった」

勇者「ハマったな」

戦士「人間の一団をハメるサイズで作れば、そりゃあ竜だったらハマるわ」

勇者「へっ! 散々おどかしやがって!」

商人「ちんぴらみたいなセリフですよね、それ」

戦士「よし、商人、ハマっている間に爆弾石のセット」

商人「は、はい!」ゴソゴソ

商人「数はどうしましょう?」

戦士「80……100がいいな」

商人「ひ、100ですか」

戦士「そ。すぐ大騒ぎになって魔物が押し寄せてくるから」

商人「巻き込むんですねっ?」

勇者「抵抗される前に、用意してトンズラかこうぜ」

勇者「よっしゃ、もう一度透明化やっとくか」

商人「爆弾石、四カ所にセットしました!」

戦士「うん」

勇者「導火線も、準備出来たぜ!」

戦士「よし」

勇者「懐かしいな、洞窟の壁を壊したのを思い出すなぁ」

商人「なんかいい思い出みたいに言ってますけど、あの時、死にかけてましたよね……?」

死竜『GRRRRRRR……!!!!』

勇者「やべ、暴れだしそう」

戦士「よし、離脱するぞ」

商人「あい!」

どうした!

   大きな音が

        急いで数を集めろ!

おお、ゾンビが穴にはまって……

     おーい、引っ張りだして――



……――カッ!!

商人「ふう……」

勇者「魔物とはいえ、心が痛むな」

商人「すごく心にもないセリフな気がしますけど」

戦士「本音は?」

勇者「腐りかけの肉って食えるかな」

商人「え……」

戦士「お前、あれ、完全に腐ってるぞ」

勇者「待てよ! 巻き込まれたやつらはいい焼け具合かもしれないじゃないか!」

商人「そういう問題じゃないですよね!?」

戦士「……よし、安心しろ。肉片は吹き飛んでて料理どころじゃない」

料理人「残念だな」

商人「残念な要素一つもないですよ!」

商人「強いて言うならあなたが残念ですよ!」

勇者「落ち着け。いかなる時でも、別の選択肢を考慮に入れているだけだ」

商人「それいらない選択肢ですから!?」

戦士「自由度高いな」

商人「自由すぎるんですよ!」

戦士「まあ、いいから。これで魔王の側近たちも、城内に動き出す可能性がある」

戦士「必殺で仕掛けていくぞ」

商人「ボクら何なんです……?」

勇者「うーん、走るキッチンかな」

――
戦士『つまり、羽根を持っている連中は、すぐにでも空に逃げられるという自信がある』

戦士『だから逆にすぐ地面に降り立ってしまう』

戦士『で、退路を塞ぐために、崖の下に降り立つわけだ』
――
女騎士は退却を指示した! しかし回りこまれてしまった!

鳥悪魔『ゲハハハハ、逃げられると思ったか』

女騎士「いまだッ! 崖上より岩を落とせ!」

鳥悪魔『ブハッ!?』

ごろごろー

女騎士「鳥は死ねッッ!!」
――
戦士『崖に挟まれた一本道なら、横に飛ばれることもない』

戦士『上からどーん、でおしまいだ』

戦士『ただし、これは自分の退路を断つわけだから、速攻で前方に向き直って突進しろ』
――
女騎士「進め! 者共!」

偽勇者「うおおおおおお!!!」

北戦士「団長! 前方に盾を持った魔物が!」

女騎士「何ッ!」

偽勇者「ど、どうする」

女騎士「うろたえるな、確か……」
――
戦士『大盾を持った魔物ってのは要するに壁を作るのが目的だ』

戦士『つまり、侵攻を遅らせて時間を作ることが最大のポイントになる』

戦士『時間さえあれば、態勢を整えられるからな』

戦士『だから、時間をかけずに攻撃する。例えば、正面が防がれるなら……』
――
女騎士「投石機だ!」

偽勇者「おお、上から攻撃するわけだな!」

女騎士「同じタイミングで、私が先陣を斬るッ! 急造の盾はどちらか一方しか受け止められない!」

僧侶「だ、大丈夫ですか……?」

女騎士「放てーッ!!」

城門手前。

戦士「……よし。門扉をこれでバッチリ開けて、と」

商人「……」

勇者「どうしたんだ、ぐったりして」

商人「さすがに……あんな化け物を三匹も四匹も相手にしてれば……」

勇者「まだ魔王も倒してないのになぁ」

戦士「はっはっは」

商人「ぼ、ボクは勇者さんみたいなムキムキマッチョマンとは違うんです!」

戦士「お前も十分ついてきてるじゃないか」

商人「むしろ、よく倒せているというかなんというか……」

戦士「大体のパターンが分かればこんなもんよ」

勇者「お前が最初から俺んところいてくれればよかったのにー」

戦士「逆なんだがな」

勇者「はぁ?」

戦士「さて、まだもう少し時間があるし、魔王のいるところ向かいつつ、飯でも食うか」

商人「タフですね、ホント」ゴソゴソ

勇者「荷物背負いながら走ってついてくるやつに言われてもなぁ」

戦士「分かる。俺も商人でも良かったかな」

商人「な、何を言うんですか!」

商人「ボクはほらぁ、所詮ちょっとだけ商売がうまい、しがない物売りに過ぎませんよ!」

勇者「自慢したぜこいつ」ニヤ

戦士「自慢したなぁ」ニヤニヤ

商人「ちょっ、なぜ、笑うんです?」

あと少しですが今日はこのへんで

商人「ほら、バカなこと言ってないで、さっさと行きましょうよ」カチ

商人「あ」

勇者「うわ、やっちまったな。トラップだぞトラップ」

商人「あわわ、ど、どうしましょう?」

戦士「まあ落ち着け、踏んだくらいじゃ作動しないタイプの……」

商人の姿が消えていく。

戦士「作動するタイプだったな」

商人「うわわわ」スーッ

勇者「なむ」

商人「助けてください!」

戦士「しょうがないな」

戦士「こいつはワープ型のトラップだ。おそらく外に放り出されるか、魔物部屋に行くくらいだろう」

勇者「っしゃ、それならやってやろうじゃねぇか」

戦士「商人、ほら掴まれ」

商人「ひいい、消える……」

勇者「ここにいればワープされんのか?」

戦士「おう」

勇者「おっ、消えるぞ、コレが移動トラップか」

戦士(時間的には、まあ、間に合うか?)

……

魔王『ぐはは、ようやく来たようだな、人間どもよ』

商人「……」

勇者「どーする」

戦士「うーん、まさかラスボス直通トラップとは」

魔王『どうやら外側で暴れまわっておったようだな』

魔王『だが、そのような真似はもはや無駄なこと』

魔王『この場で貴様らをなぶり殺してくれる!』

戦士「タイム」

魔王『む?』

戦士「どうするか」

勇者「出直そうぜ、まだ準備出来てないんだろ?」

戦士「直通があるならいいことなんだけどなー」

商人「ああああの、ぼ、ボク、お役に立てるか分かりませんけど!」

商人「あ、そうだ」

商人「……くっ、禍々しい気を感じます! これが魔王の闇の力なんですね!」

戦士「お、そうだな」

魔王『おい貴様ら』

勇者「お邪魔しました。それじゃ」ギィギィ

商人「ゆ、勇者さん! 扉が開きません!」

戦士「そうだな」

魔王『くっくっく、知らなかったのか。ここには結界が張ってある』

魔王『魔王からは逃げられないのだ!』

戦士「知ってる知ってる」

商人「どうするんですか!」

戦士「そりゃ戦うしかないだろうなぁ」

勇者「えっ、マジで?」

魔王『往生際の悪い連中だ、では、さらに絶望を与えてやることにしよう!』

魔王『いでよ、死者の戦士よ!』

女武闘家?「……」

勇者「死者の戦士だと」

商人「え、誰ですかあのひと」

戦士「うーん、俺が前に来た時の仲間かなー」

商人「えっ」

魔王『ほう、知り合いがおったか。ならば分かるだろう、この者は強い』

戦士「ゾンビ化してるって感じかな?」

死闘家「ちぇいやー!!」ゲシッ

戦士「ぐはっ!」

商人「ゆ、勇者さん!」

勇者「げげっ、早いぞあいつ」

魔王『ふははは、生前よりも闇の力で強化してあるぞ!』

戦士「げほっ、ちょっと、タイムが終わってねぇのに……」

死闘家「ふっ」

勇者「撃っちまうか!」チャキ

戦士「死んでるから、効き目薄いぞ」

戦士「しかし、なるほど、そういうことか」

商人「な、何か分かったんですか?」

戦士「これだけやられたい放題でも、余裕を見せていた理由だ」

戦士「それから、こんな魔王直通トラップなんぞ作った理由もな」

魔王『どうやら気づいたようだな』

魔王『そう、わしは死者を操り、自らの戦士とすることが可能なのだ!』

魔王『貴様らがいくら我が軍を削り取ろうとも、死者の軍として再編することが出来る』

魔王『そして貴様ら自身もな!』

商人「な、なんだってー!」

勇者「そういや、ドラゴンゾンビとかいたなぁ」

戦士「あれも元々は討伐された竜の死骸に術か何かをかけて復活させたものだろう」

商人「えーと、それじゃ、ダメじゃないですか!」

戦士「うん、まずいなー」

勇者「俺ら結構倒してきたけど」

戦士「アレもゾンビ化して復活する」

商人「そんな……!」

勇者「サキュバスとかも?」

戦士「ゾンビ化するんじゃね?」

勇者「ちょっと萎えるわ」

魔王『これが絶望というものだ!』

戦士「魔王に直通のトラップを仕掛けた理由のひとつは、単純に戦力分散することがあるだろうな」

戦士「そして何より最強の魔物は魔王自身だ」

戦士「とりわけ、世界中から集められた屈強な魔王討伐隊をまとめて死者に変えれば、あとは人間の再侵攻など容易い」

戦士「だから、俺達の動きもある程度は放置していたのかな?」

魔王『そこまで見抜くとは、なるほど、面白い敵もいたものよ』

商人「めっちゃ褒められてますよ!」

勇者「そこじゃない」

魔王『どうだ、貴様、魔王軍につかぬか』

魔王『今なら、この女武闘家、貴様の知り合いなのだろう?』

魔王『慰みにつけてやってもよいぞ?』

死闘家「……」

戦士「んー、パス」

魔王『ほう、やはり人間の倫理観というやつか……』

戦士「俺は元旅芸人の遊び人なんだ」

魔王『は?』

戦士「つまり、商売上なんかで合意が得られない娘とはしない、これ基本ね」

商人「合意があればするんですか……」

戦士「まあ、あと、ほら、武闘家さんはちょっと足りないんだな」

死闘家「ふんっ!」めぎゃっ!!

戦士「ごほおっ!!」

商人「ああ! 勇者さんアホ!」

戦士「ひ、久しぶりに受けたぜ……膝ツッコミは……」

勇者「やっぱ冒険者って暴力入るよなー」

魔王『下らぬ冗談で無駄な命を散らすことはあるまい』

戦士「冗談で女が抱けるかよ」

死闘家「コォォォォ……」

商人「な、なんか大技繰り出してきますよ!」

戦士「しょうがないな、商人、アレだせ、アレ」

商人「あれ、あれですね!」

勇者「単語言ってやれよ」

商人「はいっ、光のオーブ!」ピカー

死闘家「ぎゃあああああああっ!」

魔王『ぐ、なにー!!』

商人「や、やった!」

商人「これはボク、役に立ったんじゃないですかね!?」

魔王『や、闇の力が払われてしまう……』

勇者「よし、怯んでいる隙に!」ガバッ

戦士「あ、ちょっとエロい」

勇者「お前、言ってないで手伝えよ」

死闘家「むぐぐ」

武闘家のゾンビを縛り上げた!

勇者「よし、あとは魔王をやるだけだ!」

魔王『ぐっ、このままでは……等と言うとでも思っていたのか』

商人「えっ」

魔王『ゾンビよ、そのオーブを奪い取れ!』

死闘家「はっ!」ブチィ

商人「うぎゃあ!」

勇者「あっ! せっかく縛り上げたのに!」

魔王『くっくっく、この光のオーブ……ん、光のオーブ?』

魔王『前はなんかもっと違うアイテムだったような……まあいい』

魔王『とにかく、闇の力を弱めるために、このようなアイテムに頼ることは分かっておった』

魔王『逆に、このオーブを使って! 闇の力を増幅させる魔法陣を作り上げておいたのだッ!』

商人「ええっ!」

魔王『前回の侵攻では苦汁をなめさせられたからな……』

戦士「まずい、猟師頼む」

勇者「おうっ!」ダーン!

死闘家「はあっ!」

勇者「やべ、阻まれた」

魔王『闇の力を増幅すれば、我が軍の魔物は再び力を取り戻す』

魔王『そうなれば、周りをうろついている者共もひとたまりもあるまい。わしの勝ちよ!』

魔王『さあ闇の力よ、今この光の力を転換して、膨れ上がるがよい』

勇者「なんか知らんが、ヤバいぞ!」

商人「あ、あの……」

戦士「なんだ?」

商人「その、そもそも勝ち負けで言ったらですね」

商人「ボクら、そんな魔王と面と向かって戦う力ないじゃないですか」

戦士「そうだな」

商人「最初から勝ち目なんてなかったんじゃ……?」

戦士「いいところに気がついたな」

商人「ほぎゃあああああああああ!? 今更あああああああっ!?」

戦士「そもそも魔王と直接対決してないのに、ゾンビ化した人間にボコボコに振り回されている時点でなぁ」

戦士「多分その、魔王もちょっとハードル上げ過ぎちゃったんだよ」

戦士「俺が前に来た時の勇者はそりゃ強かったし、それなりにいろんな手は使ったから追い詰められた」

戦士「だから魔王側は、最初から必勝の罠を張って待ってたわけだ」

勇者「おい、そういう分析とか今はいいよ」

勇者「どうすりゃ勝てるんだ?」

魔王『今更仲間割れか! もはや貴様らに勝つ見込みはないぞ!』

魔王『闇の力を増幅すれば、死なずとも貴様らを操ることも出来るだろう!』

勇者「くそっ、体が重くなってきた!」

商人「ゆ、勇者さん……」

戦士「おう」

商人「なにか、手があるんでしょ? 早く、早く……」

戦士「俺にはない」

『エルフです』チュパチュパ


魔王『!?』

戦士「俺以外ならある」

エルフ『エルフです。こちら魔法使いチームです』チュパチュパ

魔王『ど、どこにいる!』

エルフ『これは風の精霊を使った伝達方法で、私が舐めているのは妖精飴のオレンジ味です』チュパチュパ

戦士「要点だけ頼む」

エルフ『魔法陣の書き換えに成功しました』

エルフ『闇の結界は光の結界に変更されます』

エルフ『引き続き、次の行動に移ります』

エルフ『……飴が尽きたの……』

魔王『ぐわああああああああああああ!!』

戦士「商人、ゾンビに聖水をかけまくってくれ!」

商人「は、はい!」

戦士「猟師くん、とりあえず足を狙え」

勇者「おうっ!」ズダダダ!!

魔王『ぐぬぬぬっ!』

戦士「よーし、ここまで弱らせれば勝てちゃうんじゃないかなー」

魔王『貴様、最初からこれを狙っておったな!?』

戦士「狙うも何も、なんでわざわざ時間をかけて魔王をスルーしてきたと思ってるんだよ」

戦士「……待て、商人」

商人「は、はい!?」ビシャビシャー

戦士「武闘家さんは俺が葬っとくよ」

商人「は、はい!」

戦士「武闘家さん、悪いんだけど、眠ってくれや」

死闘家「……ふっ」ニヤ

戦士「ん」

戦士はゾンビの頭を十字に斬り砕いた!

戦士「これでよし」


勇者「おおい!」ダーン! ダーン!

勇者「効いてんのかこれ!」

商人「えーと、えーと、ぼ、ボクはどうしましょう?」

戦士「光の結界とやらで怯んでいる隙にありったけ叩き込んでおけ」

勇者「いいけどよ

魔王『ぐぐぐ、おのれ……』

魔王『貴様ら、容赦せんぞ……』

戦士「お、来るぞ。第二形態」

勇者「なんで知ってんだよ。って、知ってて当然か」

戦士「まあな」

魔王『このような醜い姿を、ここでもう一度晒すことになるとはな……』

商人「い、今のうちに攻撃しておいた方がいいんじゃないですかね!?」

戦士「いや、第二形態の方が魔法が効くんだ」

商人「な、なるほど!」

勇者「そうか……」

戦士「うん」

勇者「魔法使い呼べよ」

魔王『こうなっては容赦できんぞ!』

商人「でかいっすね」

勇者「うん、でかい」

戦士「あいつ、容赦せんぞって言った後に、容赦できんぞって言ったぞ」

商人「悪役が言ってみたいセリフの二パターンですね」

勇者「おい、落ち着いている場合か」

戦士「決定力不足って言ったぞ」

商人「き、騎士様を待たないと」

勇者「おいおい、待てよ。ここに剣も魔法も銃も使える勇者がいるだろ?」

商人「全部中途半端なやつですよね」

勇者「おいー!? こいつの教育どうなってんだ?」

魔王『ごちゃごちゃと……!』

魔王『極大の火炎呪文で灰すら残さず焼きつくしてくれるわっ!』

魔王『くらえい!』


魔王は火炎呪文を唱えた!


戦士「魔法反射呪文」ピカー


戦士は火炎呪文を跳ね返した!


魔王『ぐわあああああああああああああああああ!!!』ドゴォン!!

勇者「は?」

戦士「極大爆発呪文」

魔王『ぬわあああああああああああああああああ!!!』グバァン!!

勇者「おい」

戦士「魔法が効くからな」

勇者「そこじゃない」

商人「勇者さんは元賢者だったんですよ」

商人「遊び人を極めて賢者になって、それでまた戦士に転職して」

勇者「初耳なんだが」

戦士「はっはっは、転職しても呪文は覚えているからな!」

勇者「だったらさっき使えよ、さっき」

戦士「戦士職だと使える魔法に限界があってな」

勇者「お前最初から狙ってたのか?」

戦士「極大氷結呪文」

魔王『うごお!! か、体が……固められて……』カキーン!!

戦士「魔王に報告されたらバレるじゃん」

戦士「それにほら、やっぱり第二形態じゃないと」

魔王『こ、この悪質なやり口……やはり、あの時の……!』

戦士「あー、エルフ、聞こえるかー?」

エルフ『飴がないぃぃぃぃ!!!』

戦士「うるさいぞ」

エルフ『禁断症状が出て切ないの……』

戦士「動きを固めた。魔法使いに伝えてくれ」

エルフ『了解した』

勇者「何する気だ」

戦士「この程度で魔王がやられるわけがない」

戦士「そうだろ?」

魔王『ぐぐぐ!』

戦士「よしみんな、火線を集中させるために、補助の魔法陣を書き足すぞ」

勇者「補助の魔法陣って……」

戦士「魔法使いが光の魔法で魔王を攻撃する。そのための巨大な魔法陣を、魔王城を中心にして描いてもらっていた」

ガリガリ……

商人「こうですか?」

戦士「そうそう」

勇者「冷凍マグロで大輸送」カチーン!

戦士「よし、そのまま冷却呪文で固めといてくれ」

魔王『貴様ら……貴様ら……』

戦士「すまんな。前回やりあった時に、やっぱりマトモに戦ったら勝てないと思ったんだよ」

戦士「こう言っちゃなんだが、前回やった時のパーティは多分ここにいるどんな連中よりも格上だったと思う」

戦士「それでも勝てなかったし、殺された」

魔王『ぐっ!!』

戦士「だから、低レベルでも勝てるように、いろいろと策を講じたわけだ」

戦士「何しろ、ほれ、俺たちゃ勇者ではなくてだな、勇者のふりをしているに過ぎんのだ」

魔王『だからなんだと言うのだ……!』

戦士「マトモに戦う必要がないということだ」

戦士「英雄じみた思想も力も持ってない」

戦士「ただせっかくのチャンスだから、俺も復讐してやろうと思ってね」

商人「ゆ……戦士さん」

戦士「くたばれ。大嫌いなんだよてめー」

戦士「よくも俺の仲間をぶっ殺して、あまつさえゾンビになんぞ仕立ててくれやがったなぁ」

魔王『……そ、その負の心、闇の力こそ相応しい』

戦士「その通りだ。だから倒すのは俺じゃなくて、他の連中の魔法であり、剣なんだな」

戦士「頼む、エルフ、魔法使い」

光が走り、魔王を刺し貫いた!

……――

勇者「終わったか?」

戦士「んー」

商人「あ、あの、勇者さん」

戦士「……」

商人「勇者さん!」

戦士「ん? どうした?」

商人「いやその」

戦士「危ない!」バッ

商人「おっと!?」

魔王『はぁ、はぁ、くくく、ここまで、わしを追い詰めるとはな……』ギュゥゥゥ

戦士「ぐふっ」

商人「ちょ、勇者さん!」

勇者「おいバカ、握りつぶされるぞ!」

戦士「こ、こうも、ありがちな展開されると、弱るな」

魔王『ぐふふ、そう喜ぶな……わしは貴様に、闇の力を引き継ごうと思う』

戦士「ほ、ほう」

魔王『このような負の感情の持ち主、憎悪、の持ち主こそ、次代の魔王になるべきだ』

戦士「そ、それよりもよ」


商人「ど、どうしましょう!?」

勇者「どうするったって、どうなるの? あいつが魔王になるの?」

勇者「今度は魔王のふりかよ?」

商人「そうじゃなくって!」


魔王『恐れることはないぞ、憎悪に塗れれば……』グググ

戦士「いや、かばう練習、しといて、よかったなって」

戦士「やっぱ、戦士は、正解だった」

バターン!!

女騎士「勇者殿ー!!」

偽勇者「お、なんかマズイ状況だぞ」

女騎士「間に合ったか!! おのれ魔王!!」

商人「あ、あの騎士様、ちょっとですね」

女騎士「喰らえ必殺剣! 雷光十字剣(ライトニング・エクスレイター)!!!」ズババッ!!!

魔王『ぐぎゃああああああああああ……』

商人「」

勇者「倒しちまった」

戦士「おうふっ」ドサッ

女騎士「勇者殿ー!!」

戦士「ナイスタイミングだ」

女騎士「勇者殿、最後の一番に間に合わずっ……!」

戦士「いや、間に合ったよ」

商人「……エクスレイター」

女騎士「はっ」

勇者「ライトニング、なんだって?」

商人「エクス、レイター」

女騎士「こ、これはな、違うぞ」

戦士「めっちゃ練習したんだろうなぁ」

女騎士「ち、ちが……」

偽勇者「おい、それよりもよ、俺が討伐宣言出していいのか?」

戦士「ん? ああ、そうだな」

戦士「今回はお前が勇者だ。ちゃんと勇者のふりしやがれ」

偽勇者「がははは、よし、それなら、大勢の前で宣言してくるぜ!」ダッ

僧侶「あ、待ってください!」

戦士「ん」

商人「だ、大丈夫ですか?」

戦士「ヘーキ」

女騎士「しかし、ボロボロではないかっ!」

戦士「そりゃ命をかけるつもりだったからな」

勇者「ま、なんにせよ、これで終わったんだ。帰ろうぜ」

虎『待て待て』

勇者「あ?」

虎『おらっ、くたばれ!』


虎の魔物が襲いかかってきた! 猟師が吹き飛んだ!
連続攻撃! 戦士の頭を踏みつけた!


勇者「うおおおお……誰だよ!」

虎『よっしゃ動くな! 全員だ』

戦士「いてて」

商人「ちょ、いまさら何なんですか……」

女騎士「貴様、北の国にいた!」

虎『へっへっへ、魔王様を倒すとはさすがだな』

虎『しかし、あいにくとお前らはボロボロ、俺はピンピンしてやがる』

女騎士「貴様を倒す力、残ってないと思うか!」

虎『おっと、動くんじゃねぇ、こいつの頭を踏み砕くぞ』

女騎士「くっ!」

虎『さっきも魔王様が言ってたろう』

虎『闇の力ってのは引き継がれるもんなのだ』

虎『だから、そいつを俺がいただく。浄化だのなんだのされる前にな』

虎『そうすりゃ俺が魔王軍の中でナンバーワンだ』

虎『魔界に帰って、自軍を旗揚げできる』

虎『よーく考えてみりゃ、こいつには何度もやられちまったわけだし、ここで復讐しておくのも悪くねぇ』グリグリ

戦士「……」

虎『が、アレだ。多勢に無勢って言葉もある』

虎『闇の力をいただいた時点で、おとなしく帰ってやってもいい』

虎『だから動くんじゃねぇぞ!!』

戦士「お前知ってる?」

虎『ああ?』

戦士「いや、魔力が少なくても簡単に敵を壊せる呪文があってな」

戦士「自爆呪文なんだけどな」

虎『ちょ……!』

女騎士「ゆ、勇者殿!」

勇者「おいバカ」

商人「あ」


戦士は自爆呪文を唱えた!

もう少しだけ続きます。

――
遊び人『ははあ、あなたがあの勇者様でございましたか!』

勇者『ああ、そうだけど?』

遊び人『では不肖ワタクシ、詩吟も少々嗜んでおりまして、ぜひ助けていただいたお礼に一曲』

女武闘家『いらないいらない』

男僧侶『急ぎの旅です。道中お気をつけて行かれなされ』

遊び人『そんなことを言わずに、勇者様ご一行ともなれば、どこでも歓待されますよ!』

遊び人『芸人で御座いますので、宣伝だけなら大の得意ってもんです』

女武闘家『ついてくる気かい?』

勇者『あー、俺らはあまり村人に迷惑をかけたくないんだ』

遊び人『なんと清廉な心意気!』

女武闘家『うるさいね』ケリッ

遊び人『あいて』

>戦士「くたばれ。大嫌いなんだよてめー」
>戦士「よくも俺の仲間をぶっ殺して、あまつさえゾンビになんぞ仕立ててくれやがったなぁ」

初めて敵意剥き出しになったな戦士
あと騎士ちゃんかわいい
続き全裸待機

勇者『もしかして、アレか? 身寄りがないのか?』

遊び人『まあ、旅芸人ですので、空の下はどこでも身寄りでございまして』

男僧侶『なんと! おかわいそうに』

女武闘家『こらこら、そんなかわいそうなやつは世の中いくらでもいるさ!』

勇者『そうだけど、まあ、次の町くらいまでならいいだろう』

遊び人『ありがたき幸せ!』

女武闘家『その芝居がかってるの、どうにかならないのかい』

勇者『ちょっと僧侶のふりをしてみてくれよ』

遊び人『神のお導きに感謝します』サッ

勇者『ははは、うまいうまい』

男僧侶『神の教えはふりでできるものではありませんぞ』

遊び人『しかしながら、習いよりも慣れと申しましてな』

遊び人『心が形をつくるように、形もまた心をつくるのです』

遊び人『神の愛を信じねば、とても僧侶のふりなどできませんぞ』

男僧侶『むう』

勇者『わはは! こいつは面白いや』

女武闘家『ふっ』

勇者『よっしゃ、とりあえず、次の町までな』

遊び人『ありがとうございます!』

遊び人『あ、次の町までは、こっちの道を通るのがまったく近いですよ!』

勇者『え? マジ?』

遊び人『これでも旅芸人でして、このへんの行き交いは慣れたものでございます』サッ

女武闘家『おい、丁寧に言いながら尻を触るな』

遊び人『芸人の真髄、いい尻は素直にさわれ』

女武闘家『おらァ!』ゲシッ

遊び人『ぐはっ!』

男僧侶『嘆かわしい……』

勇者『まあ、そう怒るなよ』

男僧侶『まあ、心根がまっすぐすぎるのでしょうな。彼は』

男僧侶『真剣に役柄に入るというか』

……
遊び人『おお~、竜を倒した勇気ある~♪』

女武闘家『はあ、はあ』

勇者『ひい、お前、戦った後でよく歌が作れるなぁ』

男僧侶『傷を癒やしますぞ』

遊び人『あ、ワタクシは結構です。もう女の子のことを考えると傷が癒えてきまして』

勇者『馬鹿野郎、戦闘で後衛だからって気にするな』

女武闘家『そうそう、あんたにゃ期待してないんだから』

遊び人『そういうわけにも参りません』

男僧侶『遊び人どの、神は平等に信じる者を愛してくださいます』

男僧侶『お分かりかな?』

遊び人『それは僧侶様が平等だからでございますよ』

男僧侶『い、いや、それこそが神の御心なのです』

勇者『ははは、まあ、元気があるならいいけどよ。回復くらいちゃんと受けろ』

勇者『途中で倒れられても困る』

遊び人『まったく、芸人とはかくも不便なものか』

女武闘家『だったら魔物討伐なんかにくっついてくるんじゃないよ、ったく』グリグリ

遊び人『あいたた』

遊び人『ふむ、ではここでお役にたつこと一つ』

勇者『何だ?』

遊び人『あのような大きな魔物で、知恵のある種は、逆に言葉に引っ掛かるのでございます』

女武闘家『言葉……?』

遊び人『そう、ワタクシのちょっとした一発ギャグに受けて心を乱されたでしょう』

勇者『あれは俺も引っ掛かったのだが……』

遊び人『つまり、それだけ話を聞いてしまう、耳に入ってしまうということなのです』

男僧侶『なるほど、魔物も説教して調伏せよと』

女武闘家『それは絶対違う!』

遊び人『ふっふっふ、他にもいろんな魔物と出会ってきましたから!』

遊び人『あの魔物は火に弱い、その魔物は木に引っ掛かる~♪』

勇者『お、いいねぇ』

女武闘家『なるほど、似た魔物には攻略のヒントになるかもしれないってことかい』

遊び人『さようさよう!』

勇者『よし、それじゃ行こうぜ魔王討伐』

「おお!」

……
賢者『とまあ、こういうわけですよ』

女武闘家『信じられない……あんたみたいなのが賢者だって?』

賢者『はっはっは、どうですか』サッ

女武闘家『尻触るな!』ゴリッ

賢者『あいて!』

勇者『尻は変わらないのか……』

賢者『転職してもかつて覚えていたことは役に立つようですね』

賢者『魔物の知識、弱点、総動員して戦いますよ!』

男僧侶『これは頼もしい、よろしくお願いしますぞ』

賢者『ええ、これからも頑張りましょう!』

女武闘家『尻は触るのに好青年になっているのがムカつく』

……
賢者『一歩引きましょう! トラップが仕掛けられているおそれがある』

女武闘家『マジ?』

勇者『なんでだ?』

賢者『悪魔族は知恵が周ります。あえて誘いこむように建物に逃げ込んだのはこのためでしょう』

男僧侶『そういうわけでしたか』

賢者『しかも、おそらくは人質がいる可能性がある……』

賢者『つまりここを攻略するには……』ブツブツ

女武闘家『うーん』

勇者『どうしたよ』

女武闘家『いや、何のかんの言って、あいつが役に立ってるのがね』

勇者『羨ましいか』

女武闘家『ま、まさか』

勇者『なに、俺達はもう四人全員揃って大きな力を発揮できる』

勇者『そもそも武闘家がいなくちゃ切り込み出来ないんだぜ』

女武闘家『分かってるよ! ただ、出会いからすると感慨深いなぁって』

男僧侶『私も思います。ただ、今も彼の心は必死そのもの』

女武闘家『必死ィ!?』

男僧侶『そう、かつて、おそらくかつて居場所を奪われ、放浪していたのでしょう』

男僧侶『今もまた、奪われまいと演じている』

賢者『よし、これがいいでしょう!』

男僧侶『ですが、そう、形が心をつくるのでしょう?』

賢者『は?』

勇者『うん、そうだな。俺達は仲間だ』

勇者『仲間だと思ってれば、それが信頼を生む、そういうことじゃないか?』

賢者『は、はあ』

女武闘家『けっ、くっさいの』

賢者『ま、まあ、その話はともかく、よろしいですか?』

勇者『おう、やろうぜ!』

……
賢者『うっ、ぐっ』

勇者『賢者……』

賢者『ちくしょう! ちくしょう!』

勇者『泣いてんじゃねぇよ、バカ』

賢者『だって! 闇の結界を……ちゃんと打ち払ったんだ!』

賢者『魔王の弱点だって、必死になって!』

勇者『気にするな……』

勇者『力が、及ばなかっただけだ……』

賢者『違う! 俺が、俺の知恵が足りなかったんだ!』

??『俺は賢者なんかじゃねぇよ! 賢者のふりしてただけだ!』

勇者『そんなこと言うなよ……』

??『だってよう! 武闘家さんと僧侶さんが!』

勇者『あいつらは、未来を、託してくれただけだ』

勇者『お前には、知識がある、歌がある、魔物を倒す術もあるし、それを伝えることもできる……』

??『で、出来ねぇよ。あんたがいてくれたから、俺は!』

勇者『大丈夫、大丈夫だ』

??『勇者がいなかったら!』

勇者『勇者ってのはな、死なないんだ……』

勇者『精霊の、加護を受けて、また現れる』

??『なんだそりゃ、転生するってことなのかよ』

勇者『……』

??『おい……おい、しっかりしてくれ』

勇者『お前、そんな顔も出来るんだな』

??『え?』

勇者『ははは、初めて見たよ』

勇者『良かった、それなら……』

勇者『ちゃんと、泣けるなら……』

??『おい、待ってくれ』

待ってくれ

死なないでくれ

勇者は死なないんだろ

やめてくれ

……
神官『これでよろしいか』

戦士『ん、ああ。まーいいんじゃねぇのか』

神官『く、口調がまた随分と変わられたな』

戦士『おう、戦士らしく振る舞わないとな!』

戦士『いざって時に役に立たねぇ』

神官『……かつて覚えられたことは、あなたの血肉になっているだろう』

神官『転職してもなお、魔王の討伐を目指されるのか』

戦士『さーて、どうかなぁ。気ままな戦士だからな』

神官『ふむう』

神官『知っているぞ。あなたがなぜ戦士を選ばれたのか』

戦士『うん?』

神官『お仲間をかばう力を身につけたかった、そうではないか』

戦士『さあなぁ。酒飲んで、女の子抱きたかったからだよ』

神官『……悪い知らせをお伝えしなくてはならないな』

戦士『なに?』

神官『あなたが戦士に転職を試みている間、南国で勇者が旅立ったそうだ』

戦士『なんだと?』

神官『だが、その彼は、今は消息が不明というか……』

戦士『……』

戦士『勇者ってのは死なないらしいぜ』

戦士『だから、本当の勇者なら、生きてんだろ』

神官『し、しかし』

戦士『あー、酒が飲みてぇなぁー』

戦士『それに戦士としてはレベルも下がっちまったしな』

戦士『運動のためにも適当に魔物を倒して慣らしておくか』

神官『戦士殿!』

戦士『なに、勇者がいなかろうと、魔王くらい倒せるかもしれない』

戦士『そうだな、魔王を倒す……勇者のふりでもすりゃあな』

――
勇者『んごー』


商人『そ、そ、それで、どうなったんですか!』

戦士『どうって結局、魔王は倒せなかったのよ』

戦士『あわれ勇者一行は、命を落として消えました……てな感じよ』

商人『そんな……』

戦士『ただ、今回に関しては、だ。俺ぁ三つくらい部隊を作ることにした』

戦士『そうなりゃ、いくつか目を誤魔化して勝てる可能性が増えるってわけさ』

商人『そんなのどうでもいいですよ!』

戦士『どうでもいいか?』

商人『だ、だって、その時の……勇者さ、戦士さんがいたから、今につながっているんでしょう』

戦士『だから今のために命かけるのさ』

戦士『大丈夫大丈夫。突撃するのは危険だが、お前は俺が守ってやっから』

商人『そ、そういうのは、いいです』

戦士『バカにすんな。そのために戦士になったんだよ』

商人『だって、あの魔王を倒しても、な、何が起きるか分からないですよ!』

商人『だから、勇者さんには、いてもらわなきゃ』

戦士『……』

戦士『魔物どもの攻略法なら、いよいよ本に書いてやった』

戦士『騎士や魔法使いに渡したアレが普及すれば、別に俺がいなくてもしばらくは対処できるさ』

戦士『勇者なんかいなくても……いや違うな』

戦士『あいつ見てみろ、あいつ』

商人『はあ、えーと、猟師さん?』

戦士『勇者だ、一応、精霊の加護を受けてる』

商人『あ、ひょっとして! この人がその転生したという……』

戦士『いんや、違う。転生でも何でもねぇ』

戦士『本当に転生してたら俺が旅した勇者はもっと早くに死んでなくちゃいけない』

戦士『あいつが勇者に目覚めた日も確認したが、何も関係なかった』

商人『はあ』

戦士『要するにな。勇者のふりして、立派に魔王を倒せば勇者なのよ』

商人『そんな無茶苦茶な……』

戦士『まあ、あいつにはくそ度胸はあるよ。体力もある』

戦士『それに、魔法使いって人材ともつながりがあったしな』

商人『……』

戦士『それから。そうだな、俺と違って、勇者なんかに拘りがない』

戦士『俺なんか、捨てようと思ってもこのザマなんだもんよ』

商人『……』

戦士『なんかつまんねー話までしちまったな』ハハハ

商人『ボク、ひょっとして、迷惑でしたか』

商人『勇者のふりをしろ、だなんて』

戦士『そんなわけねーだろ』

戦士『楽しかったよ。本当だぞ』

商人『それ、ふり、じゃないですよね』

戦士『ははは、そうだな……』



――

――――――

――
商人「さあさ、お集まりの皆様! これぞ魔王を倒した証!」

商人「闇のオーブでございます!」

「マジか!」「よこせ、俺によこせ!」

商人「お待ちください、これを持っているということはすなわち~?」

商人「ボクは勇者の一行だったというわけで!」

「マジか!」「ぶっ殺して昇進だ!」

商人「え、え、あ、嘘?」

「闇のオーブさえありゃ、次期魔王になれるぞ!」「おら、ぶっ殺せ!」

商人「ひえええええ、騎士様ぁあああああああ!!」

女騎士「言わんこっちゃない……」

銃剣士「だから魔物相手にそんなモノ売ろうたって無茶なんだってよ」

商人「だって、魔界に来たっていったって、やっぱり商魂がうずくじゃないですか!」ダダダッ

女騎士「冷静に考えてみよ」

女騎士「かつて侵略とはいえ、軍の首魁を倒した一行を、許す気分が魔物にあると思うか?」

銃剣士「ま、取引しようって方が無理なんだよ」

商人「ううう、逃げなくちゃ……」

女騎士「そもそも、我らは勇者……殿のかたき討ちに、大魔王を倒すべく潜入した部隊」

銃剣士「そういうこと、そういうこと」

商人「でもですよ、あらかじめ商売で根を張っておけば、有利に成るかもしれないじゃないですか?」

商人「ね、戦士さん」

戦士「ああ、どうかなぁ」


商人「戦士さんまで……」

女騎士「戦士殿。また魔界の酒を買い込んで!」

戦士「騎士、よーく考えてみろ。金出せば人間でも飲ませてくれるんだぜ」

戦士「逆も然りだ」

商人「ですよね!」

銃剣士「でもお前の商売のやり方は下手くそだと思う」

商人「そんな」

女騎士「まったく、戦士殿は……」

商人「ま、まあ、戦士さんはボクに頭が上がらないはずですからね! ね!」

戦士「自爆呪文の死を逃れる道具を括りつけたくらいでなぁ」

商人「機転ってやつですよ! 商人の機転!」

戦士「一回こっきりなのに」

銃剣士「体で返すって言ってやれよ」

女騎士「か、かかか、体!?」

戦士「騎士もなんでついてきてんだ」

女騎士「き、騎士に褒美はいらぬ。必要なのは名誉のみ」

銃剣士「戦士に褒められたいってさ」

女騎士「猟師殿!」

銃剣士「まだ言うか、その名前で」

戦士「まあ、なんでもいいぜ。人間界の方は勇者で商売は出来ないからな」

戦士「もうしばらく、大魔王を倒す勇者のふりをしてやるだけさ」

商人「そうそう、そういうことです!」

商人「あ、でも、戦士さんはもう、ボクの中では戦士さんなんで!」

戦士「はいはい」なでなで

商人「なんですか、もう!」


おわり

超乙
こいつら全員幸せになるべき
エルフと魔法使いは魔界には来なかったのか

じゃあ、おまけを。完結報告しちゃったし、それぞれ一発下ネタなので、すべて蛇足です

――戦士と銃剣士が魔界の飲み屋にて。

銃剣士「お前、どっちが好きなんだ?」

戦士「どっちって?」

銃剣士「商人と女騎士だよ。さすがに抱いてやったりしただろ」

戦士「ああ。商人なら今三ヶ月だ」

銃剣士「」

戦士「冗談だ」

銃剣士(実は男だから産めないとかそういう冗談じゃねーだろうな…)

戦士「魔王倒したらほっとしてなぁ」

銃剣士「介護セックスか」

戦士「うん」

銃剣士「騎士は?」

戦士「俺も商売以外では勃たないって言ったんだけど、聞かなくてなぁ」

銃剣士「そうかい」

戦士「お前こそどうなんだ、魔法使いとか」

銃剣士「はっはっはっはっは」

銃剣士「ない」

戦士「……ああ、そう」

銃剣士「いや、相手が悪い」

戦士「ところで、長い舌で尿道責めもしてくれるラミアフェラがあるらしいんだけど、いかない?」

銃剣士「いいねぇ、がっちりホールドしてほしいわ」ガタッ

戦士「よっしゃ、今から行こう」ガタッ

――二人は魔界の闇に消えていった。

商人と女騎士。

女騎士「む……」

商人「ああ、騎士様」

女騎士「商人殿。今日は私の番だぞ」

商人「番って……? ああ、戦士さんのセックス順番待ちってことですか?」

女騎士「そ、そのようなふしだらなことを堂々と言うのではない!」

商人「つっても別にボクに言わなくてもいいと思いますけどねぇ」

商人「ほら、ボクと戦士さんは商売的な関係ですから」

商人『今なら格安、大安売りでボクとやり放題!』 戦士『買わねぇ』

女騎士「アホか!」

商人「自分を安く売るなと諭されました」

女騎士「そうだろう、当たり前だ」

商人「だから高く売りつけてやりましたよ、ほら、指輪」

女騎士「!?!?!?」

女騎士「ど、どどっどどどどどど」

商人「将来の財産分与に加えて、共有財産分もゲットしましたしね!」ニヤリッ

女騎士「何を言ってるんだ!」

商人「何って……だから商売上の関係ですよ」

女騎士「ええい、こうなれば戦士殿に話をつけてくる!」

商人「今日は魔物ソープに出かけるって言ってましたけど」

女騎士「敵地で何をやってるんだー!!」ダダダッ

魔界行き前のエルフと魔法使いとあいつ。

料理人「つまり、一度火を通して形をつけるんだ」

エルフ「形が大事だと」

料理人「そうだ。味よりも見た目がよければ、過剰に取り過ぎないだろ?」

エルフ「なるほど、素晴らしい」

魔法使い「……何やってんの」

料理人「うむ、パティシエを目指すって言うからさ」

エルフ「自分で作れば一生味わえる!」

魔法使い「材料どうすんの?」

エルフ「……!」

魔法使い「それであんたはどうするわけ?」

料理人「うむ。なんでも、魔界に大魔王がいるらしくてな。そいつが真の元凶だったのだ!」

魔法使い「あっそ」

料理人「どうせ、偽の勇者がホンモノの勇者扱いされてるんだ」

料理人「大魔王を倒すついでに、魔界観光にでも行こうかと思ってね!」

魔法使い「呑気なものね」

料理人「お前こそ、これからどうするんだ? 誰かと結婚するのか」

魔法使い「無理。今のところ金と地位と性格が三拍子そろった物件がなし」

料理人「年齢が高いけど、揃ってるやつがいたじゃないか」

魔法使い「忘れろ。あの話は」

料理人「じゃあいいんじゃねぇの。結婚なんてしなくても」

魔法使い「……ふう」

料理人「なんなら一緒に来るか?」

魔法使い「行かないわよ。もう二度とあんたとは」

魔法使い「そうね。魔界で良さそうな相手がいたら知らせて」

料理人「人外に活路を見出すつもりか」

魔法使い「ほら、せっかくだから、名前もちゃんとしたのを決めなさい」

料理人「名前? ああ、まあな。銃の扱いは慣れたし、剣は得意だし……」

銃剣士「銃剣士、なんてのはどうかな!」

魔法使い「いいんじゃないの、別に」

銃剣士「なんならお前も名前を変えればいいだろう、砂漠の姫でございま~す、みたいなさ」

魔法使い「バカにすんなっての」

銃剣士「へっ、じゃあな。うまいモノ手に入ったら帰るよ」

魔法使い「はいはい」


エルフ「……彼はどのみち、料理人として小料理屋を開く未来が見えるが」

魔法使い「私もそう思う」

数年後に三人の店が繁盛した。

これですべて終了。お疲れ様でした。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年08月30日 (水) 05:16:34   ID: DBCg3lKc

商人かわいい。

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