男「RPGツクールでいじめっ子に復讐してやる……!」(49)

<学校>

朝っぱらから、ため息をつく一人の少年。

男「ハァ……」

男(憂鬱だ……)

男(まだアイツは登校してないみたいだけど……どうせすぐやってくる)

男(で、今日もボクはアイツにいじめられるんだろうなぁ……)

男(ああいやだ……)

彼は同じクラスの茶髪の少年から、いじめの標的にされているのである。

しばらくして──

茶髪「よっ、おはよ」

男「お、おはよう」オドオド…

茶髪「オドオドしてんじゃねーよ!」

ゲシッ!

男「うっ……!」

茶髪「どうしたよ? 悔しかったらやり返してみろよ!」

男(やり返したらもっとひどくなるに決まってるのに、できるわけないだろ!)

茶髪「ケッ、ヘタレが!」

ドカッ!

茶髪「お、お前いいボールペン持ってるじゃん。数百円はするやつだろ」

茶髪「これ、オレがもらうぜ」サッ

男「ダ、ダメ……」

茶髪「あ?」ギロッ

男「ううん、なんでもない……どうぞどうぞ」

茶髪「サンキュー!」クルクル…

茶髪はペン回しをしながら、ボールペンを持ち去ってしまった。

男(ちくしょう……)

男(クラスの中でボクをいじめてくるのは、幸いにも茶髪一人だけ)

男(コイツさえどうにかできれば、ボクの学校生活はずっとよくなるのに……)

男(ちくしょう……コイツさえいなければなぁ……)

授業終了──

茶髪「よぉ~し、終わった終わった! か~えろっと!」

茶髪「これ今日ラストの一発だ! じゃあなっ!」

ガンッ!

男「あだっ!」

男(くっそぉ~、グーで殴りやがって……!)

男(ムカつくったらありゃしない!)

男(こういう日はゲームショップにでも寄って、気を紛らわせるかな……)

<ゲームショップ>

男(お、このゲーム面白そう。こっちのも面白そうだ)

男(こうして色々なゲームのパッケージや説明とかを見てると)

男(別にプレイしたわけじゃないのに、なんだか楽しくなってくるんだよな……)

男(店の人は『買えよ』って思ってるだろうけど)

男「ん、なんだこのゲーム?」スッ…

男「RPGツクール……?」

男「おじさん、これってどういうゲームなの?」

店長「ああ、それかい?」

店長「それは自分でドラクエやFFみたいなRPGを作ることができるゲームさ」

店長「もちろん、色々と制限はあるけどね」

店長「だけどアイディア次第じゃ、かなり面白いゲームも作れるよ」

店長「それこそ市販のゲームにだって負けないようなのもね」

男「へぇ~」

男(こんなゲームがあるなんて、知らなかった)

男(値段もそんなに高くないし、買ってみようかな)

<自宅>

家に帰るなり、さっそく男は説明書を片手に『RPGツクール』をプレイする。

男「ふんふん、なるほど」ペラペラ…

男(主人公や敵キャラはもちろん、ストーリーにイベント)

男(アイテムやマップまで自分で作れるのか!)

男(へぇ~、すごいなぁ)

男(とはいえ覚えることがいっぱいあるし、操作もけっこう大変だし)

男(ヘタに大作を作ろうとしたら途中で息切れしちゃいそうだけど)

男(とりあえず……主人公から作ってみるか!)

男(お、このグラフィックの男はなんだかボクに似てるな)

男(どうせだれかにプレイさせるわけでもないし、ボクが主人公でもいいかも)

男(あ、そうだ!)

男(どうせなら、クラスメイトをRPGに登場させたら面白いかも!)

男(クラスメイトで協力して魔王を倒す、みたいな)

男(……いや待てよ?)

男(もっと面白いことを思いついた!)

男(復讐だ……)

男(RPGツクールでアイツに復讐してやる……!)

男は主人公作りを中断し、先に敵キャラクターを作ることにした。

男(アイツに似てるグラフィックはないかな……?)

男(お、あったあった!)

男(コイツの色を変えると、髪が茶色になってアイツっぽい!)

男(よぉし……もちろん名前は『茶髪』にしてやろう)

男(パラメータはもちろん……)

男(HPは1! 攻撃力も防御力も他全てもみんな最低値だ!)

男(攻撃パターンだって、ものすごく貧弱にしてやる!)

男「うふ、うふふっ……」

続いて、男は主人公を作り始める。

男(主人公はもちろんボク!)

男(グラフィックはさっき見つけた、どことなくボクっぽいのを使う)

男(レベルは最高、HPも最大、他の数値だってもちろんMAXだ!)

男(特技や呪文も全て覚えてるって設定にしよう!)

男(すごいのができた! こんなのだれもかなわない!)

男(それじゃさっそく、敵キャラクターと主人公をフィールドに配置して……)

男(テストプレー開始だ!)ニヤッ…

≪ゲーム画面≫

無敵の主人公がなにもないフィールドをグルグルと歩き回っていると──

『茶髪があらわれた!』

『主人公の攻撃!』ザシュッ

『茶髪は9999のダメージを受けた!』

『茶髪を倒した!』ボシュウ…

『主人公は0の経験値を手に入れた!』チャッチャラチャー

男「ぷっ……」

男「うふふっ、ふふっ……」

男「ア~ッハッハッハッハッハッハッハ!」

男(これいい! これいいぞ!)

男(正直こんなことやっても空しいだけかな、なんて思ったけど)

男(予想以上にスカッとしたぞ!)

男(ボクが作ったゲームの中とはいえ、ボクが茶髪をやっつけたんだから!)

男(しかも経験値はゼロ!)

男(当然だよな、あんな奴スライム以下なんだから!)

味を占めた男は、その後も次々に出てくる茶髪を虐殺しまくった。

男(お、今度は三匹も出てきたぞ!)

男(しかも生意気にも先制してきやがった!)

男(だけどボクにはなんのダメージも与えられないんだよね~)

男(全体攻撃魔法で一気に片付ける!)

男「アハハッ、まとめて死んだ! あっけない!」

男「あ~、こりゃ楽しい!」

男「よし、次は通常攻撃で一匹ずつ仕留めてやる!」

───────

────

──

もちろん、現実はゲームではない。

いくら男がゲーム内で茶髪を倒そうと、いじめがなくなるわけではない。

<学校>

茶髪「オイ、三回回ってワンってやつやれよ」

男「いやだよ……」

茶髪「やれよ!」

ドカッ!

男「わ、分かったよ……!」クルクルクル…

男「ワ、ワン!」

茶髪「アハハッ、ホントにやりやがった! ったくお前ってホントヘタレだな!」

男(くっそ……!)

男(ボクのゲーム内じゃ、ザコのくせに……!)

茶髪「さぁ~て帰ってゲームでもやるか!」

男(ボクもそうしよう……!)

そして、いじめられるたび、男はゲームのボリュームを足していった。

<自宅>

男(ただ倒すだけじゃ飽きてくるから、ストーリー性を持たせよう!)

男(そうだな……)

男(えぇっと、茶髪はこのゲーム内世界では害虫みたいな存在で)

男(主人公であるボクはそれを駆除する勇者、ってのはどうだろう?)

男(それで、各地にのさばる茶髪をやっつけるたび、ボクは人々から感謝されるんだ!)

男(いいぞぉ~、面白くなってきた!)

いじめられてはゲーム内でやっつける、を繰り返す日々──

<学校>

茶髪「昨日マンガで覚えた技を試させろよ」

茶髪「脇腹のここらへんに、親指を回転させながらねじ込むと……」グリグリ…

男「いっだぁ!」

茶髪「マジで効くんだなこれ! すっげぇ!」

茶髪「ハハッ、悔しかったらやり返してみろよ!」

男(くそっ……! やり返してやるよ……家で!)



<自宅>

男(今日アイツにやられた技を、主人公の技に追加してやる!)

男(アイツは自分でやった技で、ボクに倒されることになるんだ!)

男(ふん、ざまあみろ!)

──

────

──────

そして、ついに『茶髪虐殺RPG』は完成した。

男「できた……!」

男(内容は勇者であるボクが、あちこちの村や町を訪ねて)

男(その先々で悪さしてる茶髪を倒しまくるってだけのゲームなんだけど)

男(ボクの執念というか怨念のせいか、それなりの力作に仕上がった気がする)



彼が評する通り、ストーリーや戦闘バランスに評価できる点は全くないが、

主人公が行く先々で起こるイベント等はなかなか凝った作りとなっており、

「力作」といえる出来になっていたのは間違いなかった。

同時に男は──

男(たかがゲームの中とはいえ、あの茶髪相手にここまでやれたんだ……)

男(もしかしてボクって、茶髪より強かったりするんじゃないか?)

男(アクション映画を観て、強くなった気になったような錯覚かもしれないけど)

男(錯覚でもいい!)

男(もうゲーム内だけじゃ満足できない!)

男(茶髪を現実で倒さなきゃ意味がないんだ!)

ついに現実でいじめっ子と戦う決心をした。

翌日──

<学校>

茶髪「ちぃっす」

茶髪「とりあえず、モーニングショットだ!」グルンッ

ドカッ!

腕を回転させ、男の肩に拳を当てる茶髪。

茶髪「へへっ! 悔しいだろ!」

男「…………」ジロッ

茶髪「なんだよ……反抗する気──」

男「でいっ!」

バシッ!

茶髪「ぐわっ!」

ザワッ……

いじめられっ子初めての反撃に、どよめくクラスメイトも現れた。

男(や、やったぞ……初めてやり返した……!)

男(もちろん、ゲームみたいに一撃でやっつけるってわけにはいかないけど……)

男「こ、今度……ボクをいじめてみろ……」

男「絶対許さないからな!」ギロッ

茶髪「う……!」

茶髪「ぐぐぐっ……!」

目を見開き、歯を食いしばり、顔を紅潮させる茶髪。

茶髪「ご、ごめん……」

茶髪「オレが悪かったよぉぉ……」ガクッ

男「……へ?」

初めての反撃は、まさかの大勝利をもたらしたのであった。

それからというもの、男と茶髪は何かとつるむようになった。



一度反撃されてからはすっかり大人しくなった茶髪に対し、

男が主導権を握るという形で、二人の仲は落ちついた。

男「ねえねえ、パン買ってきてよ!」

茶髪「えぇ~?」

男「いいじゃん、もちろん君のおごりでさ」ニヤッ

茶髪「わ、分かったよ。買ってきてやるよ……」

男「ウソウソ、ちゃんとお金は払うよ!」

こうなると、男がRPGツクールで遊ぶこともなくなっていった。

そんなある日──

男「これからボクんちで遊ばない?」

男「新しい対戦ゲーム買ったからさ、相手が欲しかったんだ」

茶髪「うん、いいぜ」

男「よし、行こう!」

男(ボク、昔はコイツのことをあんなに憎んでたけど……)

男(今ではすっかり友だちみたいになっちゃったな)

<自宅>

男「やったぁ、ボクの勝ち!」

茶髪「ちぇっ、強いなぁ~」

男「茶髪はあまり考えず突撃してくるから、対処が楽なんだよ」

男「わざと負けてんじゃないのってくらいの弱さだよ」

茶髪「ふん、悪かったな!」

男「それじゃ他のゲームやろっか」

男「そっちにボクのゲームソフト箱があるから、好きなの選んでいいよ」

茶髪「おう」

茶髪「ん、これって『RPGツクール』じゃん!」

男(RPGツクール……懐かしい名前だな)

茶髪「へえ、お前もこれ持ってたのか……」

茶髪「なぁ、どんなゲーム作ったか、プレイしてもいいか?」

男「ん、いいよ? どうせ大したもんじゃないと思うけど」

男「じゃあボク、台所からお菓子持ってくるよ」

茶髪「サンキュー」

茶髪「じゃあオレは待ってる間、お前が作ったゲームをやってるよ」

男「しょせん素人が作ったゲームだし、期待しないでよ」

男はすっかり忘れてしまっていた。

自分の『RPGツクール』に、どんなデータが入っているかなど。

そして、台所で菓子を探しているうち、思い出す。

男「!」ハッ

男(そ、そうだ……!)

男(あの中には、ボクが作った茶髪虐殺RPGが入ってるんだった!)

男(まずい……!)

男(あんなゲーム見たら、それこそ茶髪は激怒するだろうし)

男(クラスメイトのみんなにあんなの作ってたのをバラされたら──)

男(とんでもないことになる!)

男(アイツがプレイする前に止めないと!)

ダダダッ!

しかし──

茶髪(なんだこのゲーム……)

茶髪(主人公はアイツで、敵キャラクターはオレ、だよな……)

茶髪(でもって、主人公はメチャクチャ強くて、オレはザコキャラクター……)

茶髪(ようするに、アイツがオレを倒しまくるだけのゲームじゃねえか……)

茶髪(どういうことなんだ、これは……)



男(しまった! 遅かった……!)

茶髪「おいっ!」

男「は、はいっ!」ビクッ

茶髪「どういうことなんだ、このゲームは!?」

男「じ、実はね……えぇとね……」

男(ダメだ……言い訳なんか思いつかない!)

男(これで茶髪はまたボクをいじめてくるだろうし……)

男(下手すりゃ、クラス中にボクが根暗なことしてたってバラされる……!)

男(ああ……なんでこんなことになっちゃったんだ……)

男(せっかく全て順調だったのに……もうオシマイだ!)

茶髪「どういうことなんだっ!」

男「ひっ!」

茶髪「なんでお前……」

茶髪「オレと同じことしてるんだ?」

男「……へ?」

男「同じことってどういうこと?」

茶髪「いや、正確には同じじゃないんだけどさ」

茶髪「オレはオレで『RPGツクール』を使って」

茶髪「メチャクチャ弱い主人公であるオレが」

茶髪「メチャクチャ強い敵キャラであるお前にやられまくるゲームを作ってたんだよ」

男「……いったいなんで、そんなゲームを?」

茶髪「ぶっちゃけるとさ」

茶髪「オレさ、ずっとお前にいじめられたかったんだよ」

男「……は?」

茶髪「今だから白状しちまうけど」

茶髪「オレはお前にいじめられたい一心で、お前をいじめてたんだ」

茶髪「いつか怒ったお前が反撃してくることを期待しながら……」

茶髪「だけどオレにビビっちまったのか、お前は全然反撃してこないから」

茶髪「オレ……ゲームの中でその欲望を発散してたんだ」

茶髪「んで、ゲーム内でお前にやられるたび、興奮してた」

男「…………」

茶髪「だけどある日、やっとお前が反撃してくれた!」

茶髪「ようやくオレの夢が叶った瞬間だった!」

茶髪「それをきっかけに、オレたちはオレの理想通りの関係になれた」

茶髪「仲はいいけど、オレはお前に虐げられるって関係にな」

男「ってことは、キミはまさか──」

茶髪「ああ、オレはお前が好きだ」

男「…………」キュンッ

この余りにも衝撃的な真相を、男は不思議と受け入れていた。

いや、受け入れただけではなく、気づいたのだ。

男がゲーム内で茶髪を虐殺し続けてきたのは、

単にいじめっ子である茶髪が憎かったからだけではない。

自分とて圧倒的な力で「茶髪を支配したかった」からなのだと──



需要と供給が完全に調和した、理想的なカップルがここにあった。



茶髪「お前は……どうだ? オレのこと、愛してくれるか?」

男「ボクももちろん、キミが好きだ! 大好きだ!」

茶髪「おおっ!」ギュッ…

男「ああっ!」ギュゥ…

二人は抱き合った。

抱き合いながら、激しく転げ回り“プレイ”に興じる二人。

男「好きだあああああっ!」ゴロゴロ…

茶髪「オレもだあああああっ!」ゴロゴロ…

男「いじめてやる! 支配してやる! キミをボクだけのものにしてやる!」ゴロゴロ…

茶髪「いじめてくれ! 支配してくれ! オレはお前だけのものだ!」ゴロゴロ…

ゴロゴロ…… ゴロゴロ……



賢明なる読者諸君であれば、もうお気づきであろう。

『RPGツクール』とは『ロールプレイングゲーム』ツクールではなく──

『ローリングプレイ・ゲイ』ツクールだったのだと!





                                   ─ 完 ─

※この物語はフィクションです
 実在のRPGツクールシリーズとは一切関係ありません

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