神娘「終」 (28)

二度目です。よろしくお願いします。

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ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ…


男「おう、こんなに朝早くどうした」フワァ

神娘「夫に愛に来るのに理由がいるのか?」キュ

男「いいや、ただ時間を考えて欲しいと思っただけさ。少し眠い」ゴシゴシ

神娘「神に時間など関係ないからな」

男「……ずるいな」クス

神娘「ああ、ずるいな」クス


男「俺以外を愛したことは?」

神娘「いいや、無い。永い時を生きてきて、お前がはじめてだよ。……これからも、な」

男「……そうか」

神娘「ふふ、愛しているよ、旦那様よ」ギュウ

男「……ああ」ナデナデ


神娘「……お前を愛して、何度自分が人間だったら、お前が神だったらと考えたことか」

男「どうにもならないことだ。仕方がないさ」

神娘「まったく自分がふがいない。私はちっぽけだ。そして、神であるが故に無力だ」

男「そんなことはない。お前は農業の女神として、豊かな収穫を与えてきた。昔も今も人々を助けてきたじゃないか」

神娘「農業の神の力など、今のお前の何の役に立つというんだ」

神娘「……農業神という役割が決まっているからこそ、それ以外の一切に何の力もない私。愛する者ひとり救えない私が、無力でないわけがない」

男「いいや、お前には何度だって助けてもらっているさ。お前と話しているだけで、不思議な気持ちになる」

神娘「不思議な気持ち?」

男「ああ。何か欠けていたところに、ぴったりとはまる気持ち。心に火がともるような気持ち。お前といるだけで感じられる」

男「もっとも、それが『愛』であると知るには少し時間がかかってしまったが」

神娘「お前は本当に鈍すぎた。うまく伝わらずお前の中で曲解していく私の気持ちに、何度やきもきしたことか」

男「はは、それは悪かった。今振り返ってみれば、何故あんなにアピールしてくれていたお前の気持ちに気づかなかったのか、それこそ不思議だよ」

神娘「まったくその通りだ。好意を言葉で伝えようが腕を組もうが抱きつこうが、ちっとも気づかないお前だからな」

男「そんなに褒めたら照れる」

神娘「褒めておらん!」ムゥ

神娘「……あのときほど愛の神を羨ましく思ったことはなかっただろうなあ」

男「でも、今はちゃんと伝わっている。想いは届いている。俺の思いだって、ちゃんと伝わっているだろう?」

神娘「もちろ……いや、伝わっておらんな」

男「え?」ポカン

神娘「言葉にしてくれないと分からないな。そういえば、私は殆どお前にそういった言葉を貰ったことがない気がするな。丁度良い、今聞かせてくれ」

男「……言わなきゃだめか?」

神娘「ああ。……しかし何故そんなに渋る? 恋を恥ずかしがる子供でもあるまいて」

男「簡単にそういう言葉を使ってしまうと、何か軽くなってしまう気がするからなんだよな……」

神娘「軽く?」


男「俺の思いは言葉で表せるほどちっぽけなものじゃないってことだよ」


神娘「……ったく、どんな気障な言葉を吐けるというのに……。言葉にしてみるというのも、大切なことだと思うがな」

男「恥ずかしいじゃないか」

神娘「それが本音か。まったく、私は難儀な奴を好きになったものだよ」クス

男「後悔しているか?」

神娘「後悔? まさか。それは絶対にない。今までもこれからもありえない」


神娘「……ただ、一つ。たった一つだけ後悔があるとすれば……繰り返すが、お前を救えないことだけだ」


男「……お前は俺を救ってくれてる。何度も言ってるだろう。何時だって、今だって救われてる」

神娘「……」


男「お前がいてくれるだけで、そこにいてくれるだけで、俺にとっての暖かな光そのものなんだよ。お前という存在は、俺の光であり、幸せなんだ」


神娘「……自分が相当クサい台詞を言っていると、ちゃんと自覚しているか?」

男「知ってる。知った上で、言ってる」

神娘「……ふふ、私もだよ。私だってそうだ。愛しいお前の幸せは私の幸せだし、お前は光そのものだ。私もお前に救われているんだよ」


男「一緒、だな」ニコッ

神娘「ああ、一緒だ」ニコッ


ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ…


男「なあ、『神娘』」

神娘「……! どうした、『男』?」




男「俺を生かすこの機械を、止めて欲しい」



神娘「……どうして」

男「どうせこれが無くとも終の命だ。最期は神娘の手で、神娘の顔を見ながらいきたい」

神娘「……治るかも、しれない」

男「これ以上神娘のつらい顔をみたくない」

神娘「……」

男「……」

神娘「……止めても、無駄か?」


男「……ああ」


神娘「……そうか」


神娘「では、私も」

男「?」



神娘「私もお前と共にゆこう」



男「……」


神娘「神は不老不死だ。老いず、死ぬことはない。力も、ないな。自分に充てられた役割以外のことは」

男「……ああ」


神娘「だが、私は諦めることができる。私は、お前以外の全てを、諦めようではないか」

神娘「不老を、不死を、力を、神を、生を。諦めよう。お前と共に私もゆく」



男「……」

神娘「私たちは『対』だ。お前独りなぞ、断じて行かせるものか!」

男「……止めても、無駄だな」

神娘「お前が死ぬのをやめるのなら」クスッ

男「それは無理だ。どうあがこうと、遅かれ早かれ」


神娘「なら私は止まらないさ。共にゆく。必ず」ニコリ


ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ…


男「そういえば、死ぬときはどんな者でも独りぼっちだ、と何処かで聞いたけれど?」

神娘「さあ、どうだろうなあ。もしかしたら、そうかもしれない」

男「神様にも分からないんだな」

神娘「当たり前だ。私は所詮農業神。黄泉への旅路など知るわけもない。だが、一つだけ分かることはあるぞ」

男「どんな?」


神娘「死ぬときは独りぼっちなどと説いた者でさえ、一度も死んだことなんてないことだよ。一度も死んだことが無い輩が、黄泉への旅路など知るはずも無い」


男「確かにな」ニヤ


神娘「誰が言ったかも分からないことの言うことと、お前を心から愛す妻と共に逝くこと、どちらを信じるかなど決まっておろう」

男「それも、そうか」

神娘「ああ、それもそうだ」



神娘「手をつなごうか」

男「もちろん」



神娘「では、ゆこう」

男「ああ、共にな」



ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……


男「からだ、温かいよ」ナデナデ

神娘「お前の鼓動がきこえるな」スリスリ



男「だんだん寒くなってきたな」

神娘「もっとつよく、だき合おうか」ギュウウ


男「……なあ、神娘?」

神娘「なんだ、おとこ、?」



男「くちづけを、しようか」


神娘「……わたしたちの、これからの旅路、に?」

男「おれたちが対だと、いうあかしに、も」



神娘「……ふふ、きどりおって」チュ

男「……はは、わるかったな……」チュ


ピッ…………ピッ…………ピッ…………


男「なあ、さいごに、ひとつだけ」



男「あいしてる、ぞ」



神娘「はは、やっと、いいおった……」

神娘「ったく、けっきょくかぞえる、ほどだったな」

神娘「これからは、ごくらくでなんどでもいってもらおうか……」


神娘「ふふ、もちろん、わたしも、わたしだって」


神娘「あいしているよ……永久に」


ピーーーーーーーーーーー

END


神娘「終<つい>」 改め
――――神娘「対<つい>」

どうもありがとうございました。
魅力的な台詞回しが書けるよう、もっと精進します。

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