束「あの宇宙へ」 (89)

「一段目燃焼終了」

ピーッ

「続いて一段目が切り離される…切り離される……切り離されない!」

ピーッ

「主機が腐ってるんだ、賢い補機は動いているか?」

ピーッ

「動いてない!あわくって手動でやる。動いてくれよ、兎野郎…!」








注・完全な>>1の趣味で書いていきますのであしからず
・王立宇宙軍オネアミスの翼風味でお送りします

今日の夜から始めます

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1404724183

注 一応ISスレですが、作者の勝手な設定があります

酉をとりかえる(洒落

1990年代、静止軌道上太陽光発電プラントが、ロシア無人補給船の接触事故により崩壊、破片は軌道に散らばり、[ピザ]リとなった。

2000年代、アメリカの往還機が軌道上で通信を途絶。後に[ピザ]リの衝突により外壁に穴が開いたことにより、乗員が死亡したためであると判明する。

現在、宇宙への人類の到達は、不可能となっている。

翼は、もがれたのだ

まさかデブリがデブと認識されるとは

1990年代、静止軌道上太陽光発電プラントが、ロシア無人補給船の接触事故により崩壊、破片は軌道に散らばり、デブリとなった。

2000年代、アメリカの往還機が軌道上で通信を途絶。後にデブリの衝突により外壁に穴が開いたことにより、乗員が死亡したためであると判明する。

現在、宇宙への人類の到達は、不可能となっている。

翼は、もがれたのだ

モスクワか300キロ、ガルーガというロシアの
辺鄙な町の駅に一人の女性が降り立った。

彼女は頭から兎の耳のようなものを生やし、茶
色のコートを纏っている。

彼女が歩いて向かったのはこの町の歴史博物館であった。

モスクワから300キロ、
の誤りでした

ガルーガ歴史博物館。
ロシアでも貴重な宇宙開発のについての資料が、レプリカとして集まっている場所である。何故それらがこんな町にあるのかという理由は、彼女が博物館を素通りした先のところにあった。

博物館から十五分ほど徒歩で歩くと、平屋の古びた建物が見える。彼女の目的はそこであった。

「ここが、彼の家だったところ…」

この家は、ツィオルコフスキーの晩年に過ごした所であった。

ツィオルコフスキー、彼は宇宙ロケットの父と呼ばれる偉人である。世界で初めて液体燃料ロケットを考えた他、多段式ロケットやクラスターロケット、更には宇宙ステーションを発想した人物である。彼は正しく天才であった

彼女、篠ノ之束は博物館となっているその家のなかに入って、ツィオルコフスキーの聴音器を目にする。ツィオルコフスキーは幼い頃にかかった天然痘のせいで、聴力が人より鈍っていた。
それは漏斗のような原始的なものであったが、彼女は目の前の椅子にツィオルコフスキーが座って、その聴音器を耳に当てながら外の小鳥の声を聞く姿を幻視する。

束「ツィオルコフスキー…」

彼もまた天才であった。そんな彼を、束は認め、尊敬していた。こんな辺鄙な町に態々やって来たのはひとえにそのせいでもあった。彼の生きた場所を、束はその目に納めておきたかったのであった。

外では、木に留まった小鳥たちが、さえずりをロシアの空に響かせていた。

同日、モスクワ。
元ロシア宇宙省のオフィスで、職員たちは昼食がわりのピロシキと適当な飲み物を食べながら、雑談をしていた。主に仕事への愚痴である。

「あーあ、俺はこんな[ピザ]リの監視なんかやるために此処に来たんじゃないんだけどなぁ」

「まあまあ、宇宙に関われるだけよしとしようぜ、そうでないとこんなつまらない仕事やってられない」

彼らは元々ロケット打ち上げの際の管制官を勤めていた人々であったが、宇宙への進出が極軌道ぎりぎりまでしかできなくなった今、天文台からの[ピザ]リのデータを解析する仕事を任されていた。しかしながら、彼らは元のように、ロケットを自分達の手で打ち上げたかった。たまの休日におもちゃのロケットを打ち上げて管制官の真似事をすることはあったが、ただむなしいだけだったので、ここ暫くは止めてしまっていた。

申し訳ない…ピザはデブリに脳内変換して下さい

そんな彼らのパソコンに、一通のメールが届く。

「お?なんだこれは…」

「転属のお知らせか?それだったら嬉しいが、解雇のお知らせだったら笑えないな」

「差出人は…………タバネ?」




とりあえずここまで





果たしてこのスレに人はいるのか…
ともかく10時半から投下

こんな場末のスレに来てくれて嬉しい

三日後、モスクワ近郊のコロリョフ、
「エネルギア」本社。
ここは、ロシア宇宙開発の立役者、セルゲイコロリョフの率いた第一設計局が前身の、宇宙船ソユーズ等を開発した企業であった。現在は、生き残ったGPS衛星の運用や、宇宙開発技術を日用品に役立てた商品の開発等を行っていた。


カウンターでタバネの名を出した束は、そのまま社長室へと通される。

エネルギア社長「……今回は、なにかご用でも…」

エネルギアの社長はひどく緊張しているが、無理もない。今や世界でその名を轟かせる束本人が直接きたとあっては、緊張するのも仕方がないことだ。

束「今回束さんは貴方にお願いしたいことがあってきました」

束の、噂と違った誠実さが見える態度に、社長は背筋をただす。

社長「お願いとは…」

束「宇宙に飛ばせるロケットを作るのに、協力してくれないかな?」



社長は目を見開いた。

社長「それは…どういうことですか…」

束は空間投影ディスプレイの画面を呼び出し、ある図面を見せる。

束「これは束さんが前々から考えていた宇宙船の図面だよ。複数個のコアによってロケット全体をシールドで覆い、デブリからロケットを守るような構造にすれば、安全に打ち上げることができる」

社長「そうか、しかし、これだけのコアは調達できないのでは…」

社長はそこまで言って気付いた。目の前の人間は世界で唯一ISコアを作ることができる。
束は本気であった。

社長は暫し回想に入っていた。
1990年代のあの日、わがエネルギア社の社長に自分が着任した二年後のことだった。
エネルギア社誇る無人補給船「プロブレムT」が、ロシア当局の管制の元、当時ロシアが建設中であった太陽光発電プラントに接触事故を起こし、デブリをばら蒔いた事件が起きた。
世界から非難が殺到し、エネルギア社は事後処理のために這いずり回ることとなった。結局社長の任を続けていたが、悔いがあることは間違いなかった。
プロブレムTは、当時最先端だった無人航行システムを搭載していたが、それが仇となったのだ。そして、システムを無人航行にするよう推進したのも、また自分であった。

できることなら、また、宇宙ロケットを打ち上げたい。そして、償いがしたい。
常々そう思っていたところであった。

社長「わかりました。政府に案を提出してみましょう」

束「もう案を送ってあるよ。早ければ1ヶ月くらいで予算が組まれるんじゃないかな」

社長「そんなに早く!?どうやったんです?」

束「ISコアを欲しいだけあげるといったら簡単に首をふってくれたよ」

じゃあね、と言って去っていく彼女を見ながら、社長はある疑問を抱いていた。

社長(なぜ、彼女は突然ロケットの開発なんかを打診してきたのだろう…)

社長は、彼女が、先程一瞬だけ見せた目を思い出して、納得する。

社長(ああ、彼女も星空にとりつかれているのだな、いや、とりつかれているというよりは…純粋な、憧れを………)

夜、束は、モスクワの灯りが全く見えなくなるような所で星空を見上げていた。大気が冷たいロシアの空は、透き通って美しく、星が瞬いていて、束にいつか彼女の友人と見上げた空を思い起こさせた。

束「ちーちゃん、いつかあなたと見た夢が、また動き出したよ」

こんどこそ、本来の目的でISを使うときが来ていた。

今日はここまでー

このスレでのISはブースターでは大気圏突破出来ない仕様となっております
流石に束さんも宇宙ロケットは作れまい…

1ヶ月と一週間後
日本 IS学園 食堂

彼女らと彼はテレビの画面から流れるニュースに呆然としていた。

「……先程もお伝えしましたようにロシア政府はISを利用した宇宙船により二年以内の人類の宇宙空間への到達を目指すと発表し……」

「……このプロジェクトはIS開発者である篠ノ之博士が提案し博士自らも参加すると……」

一夏「束さん……なにやってんだ…」

束はここ暫くは潜伏生活を送っていたと聞いているので、いきなり画面上に現れた彼女の姿を見て、一夏は絶句している。
他の人々も皆一様に画面にかじりつき、驚いていた。

その様子を冷静に見つめる目があった。
束の古くからの友人である織斑千冬その人であった。

時は遡って1ヶ月と一週間前
モスクワ郊外の雪原

束はテレビ電話で千冬へと電話をかけていた。

千冬「………束、いままでどこにいってたぁ!」

千冬は怒りを爆発させる。

束「怒らないでよ、ちーちゃん」

千冬「今どこにいる!」

束「モスクワの星がきれいなところだよ」

そう言って束は画面を星空に向ける。千冬の側の画面には、満点の星空が写し出された。
普通のカメラのセンサーだと星の光は映らないが、そこは束特製品である。

千冬「……確かにきれいだな」

束「……こんどこそ、ちーちゃんとの夢を、叶えるよ」

千冬「……宇宙に、ISを飛ばすのか」

束は微笑む。
千冬は、束の本気を感じ、一言、応援の言葉をかけようとしたが、声はでない。
口を開きかけてやめてしまった。

束「……今度こそ、宇宙にいこうね」

千冬は、ただ微笑んで返した。

とりあえーずここまでで

一週間後
エネルギア社 第二開発センター

束と大きなコンテナが到着したのは、ほぼ同時のことであった。
コンテナの中身はロシアが誇るIS「グストーイ・トゥマン・モスクヴェ(モスクワの深い霧)」。
しかし、これを見るや束はつまらない機体だと一蹴した。
それもそのはずである。束からしたら、第三世代のISなぞ型落ちもいいところであった。

技師「しかし…プロトタイプとしては充分なのでは…」

束「プロトタイプね…」

束の心中に去来するのは、在りし日の白騎士の姿であった。
あの機体は本来純然たる宇宙開発用の機体であった。そして、全てのISのプロトタイプでもあった。

束「確かに、これは戦争をするための機体じゃなかったね」

第1世代から第四世代まで進化を遂げてきたISであったが、いずれも兵器をいかに運用するかと考えられ、利用されてきた。
束は別に兵器を作ることに抵抗はなかった。
宇宙に行くためなら、悪魔ともでさえも手を結んでISを作っただろう。
束はただ、自分達の夢の塊が、人々に誤った使い方をされるのが嫌だったのであった。
自分の綺麗な夢のために使いたかったのであった。

ちょっと投下でした
まだクロエとは出会ってない設定です

日本語おかしいいいい
悪魔とでさえもの間違いでした

束はこの機体を元にして宇宙開発用に再設計、組み立て直しするつもりである。暫くは屋上まで飛んできた移動式ラボに引きこもって図面を引いていた。

二週間前
モスクワ 元宇宙省
現在は新設された宇宙開発局

一ヶ月前に束から偶然にもメールを受け取った元管制官の彼らは、重要案件だったので直ぐに上にまわした。すると、政府がにわかに騒がしくなり、しばらくの休暇を言い渡された後に、再び呼び出しを受けて集まっていた。

「俺たちどうなるんだろう…」

「へまをやらかしてリストラかもしれんな…あるいはあのタバネ博士からのメールがいけなかったのかもしれない」

上司は彼らたちに異動を言い渡すために、彼らを集めていた。

上司「今度メディアに発表されるが、その前に諸君らには伝えておこう」

「勿体ぶらないでください」

上司「驚くなよ…?、今度有人宇宙船の打ち上げをすることになった!諸君!またロケットを打ち上げられるぞ!!」

「なんだって…!」

「それは…本当か」

上司「ああ!本当だ!」



「ば、ばんざぁぁぁああああい!!!!」

その夜、彼らは場末のバーで飲み明かした。
適当なつまみとプロジェクトの資料を囲みながらウォトカを飲んで騒ぐのは、久しぶりであった。
そのままぐでんぐでんになるまで飲んだ帰り道、モスクワの綺麗な星空を見上げながら彼らのうちの一人が呟く。

「おらぁ決めたぞ、今回のプロジェクトは絶対に成功させてやる、プロブレムの二の舞にはさせない」

顔を赤くした彼らはそれぞれの家に帰った後、妻にこっぴどく叱られたのだった。

かっこわるかっこいいおっさんっていいよね…
とりあえずここまで
うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

プロブレムってプログレスの間違いやった……
本当に申し訳ない

>>1の宇宙開発小話』1
?無人補給船プログレス?

無人補給船プログレスとは、ロシアが実際に使っている無人の補給船のことです。外装は黒く、ソユーズ宇宙船とよく似た形です。実はこの船、実際にソ連の宇宙ステーション『ミール』に激突する事故を2回起こしていまして、それぞれで火災を発生させ、部屋を使えなくしています。死人がでなかったのが幸いでした。

3ヶ月後
エネルギア社 第三実験場

まだ雪が残る平原にある実験場の、元々ロケットのエンジンをテストするためのベンチに、完成したISは据え置かれていた。
立ち会っているのは束とエネルギア社の研究者達、新生ロシア宇宙開発局のメンバーと政府関係者であった。まさに今、宇宙に打ち上げられるISの駆動テストが始まろうとしていた。
テストパイロットは白い髪の少女である。彼女は束が直々に選んだパイロットであった。
話は二ヶ月前に遡る。

二ヶ月前
エネルギア社第二研究所

束はこの時既に図面を書き上げ、組み立てに入っていた。しかし問題が起こる。

技師「この部品は宇宙空間だと凍りついて誤作動を起こす恐れがあります!」

束「束さん特製だよ!その事もちゃんと考慮されてるもん!」

技師「しかし、耐真空性や耐熱性、耐冷性をテストし直す必要があります!」

束「その必要はないよ!これだから凡人は…」

長い間人類が宇宙に進出していなかったせいで、宇宙で使える部品と言うのは大抵、何十年前にテストを積んだ旧式のもので、信頼性を高めるためにはそれで機体を構成する必要があった。しかし、束は自らの設計に絶対的な自信を持っていたため、譲らず、議論は平行線になってしまっていた。
宇宙開発に関する新しい基礎研究があまりされていなかったことが障害となって束の前に立ちふさがった。

束はその夜、研究室で久しぶりに寝ようとしていた。

束「まったく、あの石頭めー」

すると、束は研究室のドアの外に気配を感じ取った。なにやら穏やかではない。
すると、男達の野太い声が聞こえた。

「このスパイが!おとなしくしろぉ!」

「親父直伝の格闘技をみろぉ!!」

束は何事かと思いドアを開ける。
そこでは、管制官としてやって来たおっさん達がスパイを張り倒していた。

管制官1「おお、タバネの嬢ちゃんか、心配は要らねえ、物騒な狼さんは俺たちが倒したからな」

管制官2「物騒だな、流石は世界のタバネ博士ってところか」

その時、そう言って笑う男達の頭を、突如背後から銃底が襲った。即座に二人の意識を刈り取ると、そのまま束にトカレフを向ける。

スパイ「好都合だ、タバネ博士、貴方を連行する」

束「そう?できるならやってみるといいよ」

次の瞬間、スパイを束の飛び蹴りが襲った。束はそのまま、銃を手放したスパイに向かって手刀をたたきこみ、スパイの意識を奪った。

駆けつけた警備員にスパイはつれて行かれ、政府当局へと連行された。しかし、その直前に束はスパイから記録媒体を盗みとっていた。
次の日、束は気紛れでそのデータを漁っていた。しかし、その大抵は束が既に把握している軍事施設の位置情報であったが、そのうちのひとつに気になる記述があった。

束「IS用試験管ベビーか…」

束はこの時、先程の論争で苛立っていた。その矢先のこのデータである。ISを平和利用してもらうことを願っている束からしたら、正義感をくすぐられる質ではないにしろ、非常に腹立たしいものに見えた。
束は少女を回収するために、ゴーレムを出動させると、眠りについた、

命令を受けたゴーレムはきちんと少女を束の元に送り届けていた。翌日束が目を覚ますと、毛布をかけられた状態で、白い髪の毛をした少女が寝ていたのであった。

束「ああ…この子拾ってきちゃったけどどうしよう…」

すると少女は起きようとして身じろぎをする。やがて完全に目を醒まし、目の前の束を見つめた。

「ここは…あなたは…」

この瞬間、束の中で何かが動いた。
束は彼女をいとおしく思ったのだ。それは彼女の意識の奥に埋もれていた母性だったかもしれない。

束「私は篠ノ之束、あなたは?」

「タバネ…私は…個体識別番号…」

束「そんな無粋なものじゃなくてさ、自分の名前は?」

「……ないです」

束「そう、じゃあ名無し君、君は」

束は屈んで微笑んだ。

束「これからは束さんの家族だ!」

これが二人の馴れ初めであった。

その後二人はぎこちないながらも同棲を送り、二週間後にはすっかり打ち解けていた。
彼女には「クロエ・クロニクル」という名前が贈られ、彼女はなにかにつけて束の世話を焼くなど、すっかり生活に順応していた。

その夜は、星空が綺麗だったので、クロエは束と一緒に星空の下で紅茶を飲んでいた。紅茶は決して旨いものではなかったが、束はそんなことには頓着せず、クロエと会話をしながら楽しんでいた。

クロエは、この頃には既に星空が好きになっていた。研究所の外の風景はどれも新鮮なものであったが、特に星空が美しいと感じていた。そして、星が綺麗な日に束が、星空の下でいろいろな宇宙の話をしてくれるのを、とても楽しみにしていた。
束の話はいつもクロエを空想の世界に解き放って、宇宙空間を駆け巡らせた。束の話は難しいものであったが、わからないところへの質問には、何時もの他者への態度からは想像ができない程に、詳しく丁寧に教えてくれた。

クロエは束から、束が今やっているプロジェクトについても聞いていた。そして、束が宇宙船のパイロットを探していることも知っていた。
クロエは、その日、意を決して束に話を切り出した。

クロエ「束さま、私に、今度の宇宙飛行用ISのパイロットをさせていただけませんか?」

クロエ「私は宇宙に行ってみたいのです。私は宇宙の魅力を貴方から教わりました。今度は貴方と同じ夢を追い掛けたいのです。」

束は黙ってしまった。そしてゆっくり椅子から立ち上がると、声をあげて延びをして、星空を仰いだ。

束「私の夢は果てしないよ?」

クロエ「果てしない…とは?」

束「宇宙の次は月だ!そして火星だ!更には外宇宙だ!!……着いてこれるかな?」

クロエは微笑む。

クロエ「貴方とならば、行けそうな気がします。」

束はそれを聞いて微笑んだ。

束「……わかった、くーちゃん、君をパイロット候補第一号に任命しよう。」





こうして、宇宙飛行用ISの初パイロットが誕生したのであった

その後、束は設計を1から変更した。よりクロエの体にフィットするように、そして、信頼性の高い旧式の部品を使ったものになっていた。
旧式の部品に取り替えたのは、クロエが乗ることになったからであることは間違いないが、その事を意識するきっかけはまた別にあった。

夜、コーヒーをオフィスで飲んでいた束は、ある男に話しかけられた。
それはこの間の管制官1であった。しかし束は当然ながら彼の名前を覚えていなかった。彼は、まだ頭に包帯を巻いていた。

管制官1「よう、嬢ちゃん。この間は災難だったな」

束「………何の用?」

束は赤の他人にたいしてはひどく冷めたかった。

管制官1「最近技師連中と揉めてるらしいな」

束「そうだよ………」

管制官1「実はな…、プログレスTの事故の事件の時、管制を担当してたのって俺なんだ」

束「……」

管制官1「最新技術に頼ったばかりに、安全性を疎かにしてた。地球を覆う[ピザ]リが広がっていく光景を前にして、俺は思わず目をおおったよ」

管制官1「あんたも、同じ思いをしたくなければ、考えた方がいいぜ?モニターの前では、人間はどうすることもできない。無力だ」

束「………それで?」

管制官1「それだけさ。あんたの場合は大切な人を載せる船を作るんだろう?
………できる限りのことはしてあげな。あんたの腕ならそのくらいのこと簡単にできるだろ?」

束は、その夜、図面をすべて変更し、旧式の部品にすべて交換した。
こうして、原点から二番目の宇宙飛行用ISは完成した。






今日はここまで
おつきあいくださりありがとうございます

再びエネルギア社 第三実験場

束と技師達は、特設テントのなかで機材に埋もれて、ISの動きを見守っていた。このISにはA-1という名前がつけられていた。A-1は世代で分けてみると、第一世代機の類にはいる。機体を信頼性の高い旧式の部品で構成した結果、スペック的にそうなってしまっていた。機体は同乗者を覆う形で装甲が張られており、搭乗スペースは気密性が保たれ、与圧されるようになっている。ハイパーセンサーのリミットは解除され、宇宙空間を見渡すことができるようになっていた。

「稼働試験を開始します。速やかに退避してください。」

スピーカーからロシア語でそう流れると、クロエが乗ったISは起動した。

まずは軽く腕を動かす。その様子を束以下の技師達は食い入るように見つめていた。次に走る動作、ジャンプする動作を行う。轟音が響き渡った。

「IS適性……たかい、Aはいってます!」

束「じゃあくーちゃん、PIC動作テストを開始して」

クロエ「了解、PIC起動します」

宇宙空間では非常に大切になるPICは正常に動作し、ISが中に浮かんで横に滑る。もともと衛星軌道にはロケットエンジンで投入するため、あまり早いスピードは必要なかった。スラスターの役割さえ果たせば十分である。

「PIC制御に問題はありません。出力安定しています」

「96,97,98,99,100……連続稼働に問題ありません」

束「次はコアネットワーク試験にうつるよー」





結局問題は見当たらず、正確にA-1は稼働した。束は何時ものような笑顔であったが、クロエは、その笑顔に、どこか安心したような感じを受けた。

今日は本当にここまでであります

A-1には宇宙船として、そしてISとして動く必要があった。その後も、A-1はエネルギア社の真空チェンバーでの気密性の試験や、耐熱性、耐冷性、耐放射線性などの試験が行われ、それぞれで合格した。同時に、クロエの宇宙飛行士として、IS搭乗者としての、宇宙センターでの訓練も始まった。
クロエはISを楽しんで乗り回し、大空を飛んだ。


同日
エネルギア社 工場

束の前には、巨大な鉄のかたまりが横たわっていた。ソユーズロケット、正式名称11A511型ロケットの本体である。着工したきり放置されていたものを改修しているため、1から作るよりうんと早く完成できる予定であった。そして、このロケットにはある仕組みか備わっていた。

2000年代にアメリカの往還機が、デブリの衝突による乗組員死亡の事故を起こしてからも、人工衛星の打ち上げは暫くは続いた。しかしながら、1990年代のじこいらい、しばしばロケットタンクにデブリが衝突する事故がおこり、その事故がまたデブリを増やした。人々が気づいたときには、ロケットはもう、打ち上げても燃料タンクやエンジンにデブリが衝突し、衛星を軌道に投入することはできなくなっていた。

そこで、束は秘策を持ち出した。束が開発していたゴーレムにも使われている、無人でISのコアを駆動する技術を使用し、ロケット本体に数個コアを配置することで、デブリからロケットを守る機能を付与した。これにより、初めてロケットが宇宙に到達できるようになった。
束の製作したコアとシステムは、ブラックボックスとして慎重に運び込まれ、束の指導のもと設置された。

人間の、二度目の宇宙への挑戦が、始まった。

とりあえずここまで

5ヶ月後
ウクライナ バイコヌール発射場

荒野の真ん中に、それは墓標のようにたっていた。発射台の鉄塔である。
冷戦時代の宇宙開発の輝かしい夢の、巨大な墓標であるとも言えた。

束達は完成して、一旦分解したロケットと共に、バイコヌール発射場に来た。その直後にニューイヤーを迎えた。
クロエのフライトは、非公式なものであった。クロエの経歴上、公にすることはできなかったのだ。公文書上は、ダミーがペイロードに入っていることにされていた。束は、クロエはそれでいいのかと聞いたが、別にクロエは、名誉がほしいわけではないと言っていた。束としては、鮮烈なるデビューを遂げさせてやりたかったが、彼女は、このときばかりはそこまでは天災的ではなかった

束達はロケットの組み立てを指揮した。機密の問題で、組み立ては深夜に行われた。管制センターにも火が入り、パラボナアンテナはきれいに掃除された。暫くは地道な作業が続いた。

ここまでー

二ヶ月後
ウクライナ バイコヌール発射場

ロケット組み立ては完了し、ゆっくりと巨大な溝の上にある発射台へと動いて行く。やがて、台は停止し、鉄塔のようなアームが上がってきてロケットを保持した。ロケットには既に液体酸素とケロシンが充填されている。こうなるとロケットは一気に危険なものとなる。関係者の間に緊張が走った。束たちは、それを見上げながら発射台へと急いだ。皆終始無言であった。

束は発射台の下で、しばらくクロエを待っていた。やがて、バスに乗せられたクロエが、束が新しく設計した宇宙飛行用ISスーツに身を包んでやってきた。クロエは、バスから降りるとバイザーを上げて、束を見る。

クロエ「……いよいよ、私と貴方の夢を叶えるときが来ました」

束「この前もいったよね、私たちの夢は果てしないよ?だから、」

束「必ず、地球に戻ってきてね」

クロエは微笑む。

クロエ「私の乗る機体は世界の大天災、篠ノ之束が直々に作った機体ですよ?………心配せずとも、戻ってきます」

束は、笑いながらエレベーターに乗り込むクロエを見送り、自らもバスで管制室へと急いだ。

「現在点検は30パーセントまで完了。IS周辺は既に完了しました」

束「無線の電源は入ってるね?」

「既に入れてあります、外部から電源供給中」

束「おっけー、そのまま作業を続けて。くーちゃん!こちら管制室!聞こえてる?」

クロエ『聞こえてます、感度良好』

束「何か異常があったら直ぐに緊急脱出ボタンを押すんだよ」

クロエ『わかっています』

束「じゃあISおよびにロケット防護シールド機構を起動するよー」

「シールド機構準備整いました」

クロエ『IS起動準備完了、いつでも行けます』

束「じゃあ、A-1起動!」

A-1に火が入ると同時に、ロケットを見えないシールドがおおって行く。作業員達は驚きをもってそれを迎えた。

「シールド機構、A-1共に正常作動」

クロエ『こちらも問題ありません』

束は一息ついて椅子にどっかりと座った。、

束「第二次点検が終わり次第打ち上げシークエンスに入るよー。皆準備しておいてねー」

打ち上げまで、後二時間に迫っていた。

やがて、第二次点検が終了し、管制センター長が総員退避の命令を発する。輝く旧世代のモニターは、そびえ立つロケットを写し出していた。

束「これから打ち上げシークエンスに入るよ」

「11:25 打ち上げシークエンス開始」

「外部電源から内部電源へと切り替わりました」

ロシアのロケット打ち上げはカウントをしない。黙々と作業が進む。

クロエ『計器すべて正常、異常なし』

「天候は晴れ、無風状態、62ヘクトパスカル」

「データリンク正常、GPS正常、問題ありません」

「油圧その他正常。発射台問題ありません」

束「…………リフトオフ準備」

「リフトオフ準備完了」

「いつでもいけます」

11:36 ついに全工程が完了し、鳥は翼を広げた

奇妙な静寂が管制室を支配する。全員がその時を待っていた。
やがて束は、緊張した面持ちで、口を開いた




束「………メインエンジン点火!!」

大地を震わせる轟音が響き渡る。ロケットエンジンはその体を震わせて火を吹いた。
鳥が驚いて次つぎと逃げて行く。

「注水開始」

注水が開始されると、轟音に白煙が加わり、発射台はこの世離れした雰囲気になった。

まるで、龍が火を吐き、必死に飛び立とうとしているかのようである。

束は言葉を絞り出した。




「…………リフト……オフ」





ロケットは、A-1は、クロエは、空を震わせて、今、飛び立った。

空を裂くように白煙をあげ、ロケットは翔ぶ。
最初に、一段目が燃え尽きた。
もうすっかり暗く、しかし星は見えない空間を、クロエは翔ぶ。

燃え尽きた一段目が分離し、落ちて行く際の振動がクロエを揺さぶる。

やがて、デブリが衝突する音が響くようになる。既にクロエは宇宙に足を踏み入れていた。

二段目、分離。
同時に、ペイロードカバーが割れる。

クロエの目に太陽の光が窓を通して差し込む。クロエは思わずバイザーを下げた。

ロケットはゆっくりと回転しながら加速をする。やがて、三段目も停止し、切り離された。

丸まっていたA-1はクロエの指示で広がり、PICで姿勢を安定させる。時折デブリが衝突する音がした。

クロエはバイザーを上げて、ハイパーセンサーが捉えるそれに向かって体を向けた。






そこには、
青く透き通って輝く、
母なる地球が、
一面の星ぼしの海に、
浮かんでいた。













<Epilogue>



宇宙開発が新たなスタートをきったのは、何時のことであろうか。年表を参照してみると、この話から三年後となっている。そこにクロエ・クロニクルの名はない。

しかし、確かに彼女は、世界初のISでの宇宙再到達を成し遂げた女性は、存在した。

今、巷で話題になっている本を知っているだろうか。そこの本屋でも店頭で平積みされているから読んでみたらいい。あの、大天災と恐れられたIS開発者の、タバネ博士の本だ。彼女の周辺にいた人々の残した証言を元に、新しくかかれた彼女の伝記だ。
そこには、君が知っている「大天災」としてのタバネ博士じゃあなく、「ほし」

「純粋に星空を目指した人間」としてのタバネ博士が書かれている。そして、「本物の世界初の宇宙再到達をしたパイロット」の少女についても触れられている。面白い本だからお勧めするよ。じゃあ僕は明日には月にいかなきゃいけないからここら辺で……。
え?本の題名?
そうだった、いってなかったね。あの本の題名は……………






「あの宇宙(そら)へ」って言うんだ。







おわり

ここまでお付き合いくださりありがとうござ来ます。

蛇足 「帰還、そして新たな旅立ち」

クロエは静止軌道上を数周したのち、束以下の管制官が見守るなか、大気圏に再突入する。
大気圏に再突入する際には、その角度によっては燃え尽きてしまう恐れがあるので、注意と綿密な計算が必要であった。
A-1はその表面を赤熱させ、高度をぐんぐんと落として行く。外装が軋み、窓の外はオレンジ色の炎に包まれた。
やがて、パラシュートが開いて機体は減速する。雲を突き抜け、草原へとゆっくりと降りてきた。

センサーが地平線を感知すると、自動的にPICが作動し、機体はゆっくりと大地に降り立つ。
カザフスタンの平原に、クロエは落ちてきていた。

やがて、一時間もしないうちに管制センターからGPSの信号を元に、回収班が、クロエを回収しに来た。かれらは、誕生した新たなコスモノーツを歓迎した。

三年後、A-1よりもより洗練された、束作のA-2が、公式記録上の宇宙空間再到達を成し遂げた時、クロエと束は砂漠のハイウェイで、ラジオでそのニュースを聞いていた。

束「おっ、成功したね。まあ束さんが直々に作ったんだから当たり前だねー」

クロエはうなずいて視線を砂漠の方にやった。

クロエ「本当にここに作るんですか?港を」

束「そうだよくーちゃん、ここが世界で最も宇宙に近い場所になるんだ」

束達は、アメリカのベンチャーの計画に協力して、テキサスの砂漠の真ん中に宇宙港を作る予定であった。

束「ジェット機で一定高度まで上がってきてそこからロケットを発射してISを軌道にのせる……」

[ピザ]リを取り除くにはISによる地道な清掃活動が必要であったが、三年前のように一々ロケットを使用してはコストがかかりすぎた。そのため、束は新しいプロジェクトをスタートさせていた。

クロエ「次は月……ですか?」

束「あはは、そうだね。その次は火星だ!」

クロエ「まずは一歩ずつ、ですよ」


テキサスの空には、昼の月がうかんでいた。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom