恭子「由子が記憶を失った!?」 (49)

県予選大会の姫松高校で、のよーこと由子ちゃんが記憶喪失になるお話です。

ある程度はまとめて書きます。まとめ分がなくなったら毎日ちょこちょこ書いて行きます。

最後まで読んでもらえたら嬉しいです。
それではどうぞー。




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4月・姫松高校


洋榎「恭子っ!大変や!」ガラッ


恭子「主将…そんなに慌ててどないしたんですか?」


洋榎「由子が…由子が!」


恭子「由子? 由子がなんなん


洋榎「豆腐の角にアタマぶつけて、記憶喪失になってしもうたんや!」


恭子「なんやて!? …は?」


洋榎「いや、だから…由子が豆腐の角にやな!」


恭子「いやそこは分かっとるんですが…豆腐て、あの豆腐ですか?」


洋榎「他にどの豆腐があるっちゅーねん! あのタンパク質の塊みたいなやつや!」


恭子「はぁ…いやいや、ないない! 豆腐の角ゆーたらやわやわやないですか!」


洋榎「いやホンマやねん! 由子は豆腐の角で記憶失っとんねん!」


恭子「もう、いい加減にしてくださいよ? ちょっとトイレ行ってきますわ…」スッ


洋榎「ちょっ!恭子!」

化粧室


恭子「はぁー…なんやそれ! バ◯ボンか!? あいつはバ◯ボンなんか!?」


恭子「てか、県予選どうすんねん!マズイ…非常にマズイわ!」


赤阪「なにがまずいんー? 末原ちゃーん」スッ


恭子「だっ、代行!? どうしてこんなところに…!?」


赤阪「いややわー、ウチだってトイレくらい行くんやでー?」ニヤリ


恭子「そ、そですか…ほな(アカン、さっきの聞かれたんちゃうか!?)」


赤阪「バ◯ボンってなにー?」


恭子「ぎゃっ!」ビクッ

監督室


赤阪「なるほどなー、由子ちゃんが記憶喪失かー」


恭子「えぇ…まぁ主将が言うにはそうらしいんですが…」


赤阪「まだ由子ちゃんには会ってへんのー?」


恭子「今日はまだ…学校も休んでますからね」


赤阪「そうなんやー。まぁ県予選までに何とかせんとなー」


恭子「はい。でも正直、どうしたらええか私には…」


赤阪「千里山になー、そのへん詳しい人がおってんー」


恭子「千里山ですか!?」


赤阪「今日の部活はええからー、洋榎ちゃんと千里山行っといでやー」


恭子「思い立ったら吉日、っちゅうことですか?」


赤阪「そうやねぇー。末原ちゃん、この件は宜しく頼むでー?」


恭子「はいっ! すんません、それでは行ってきます」ガラッ


赤阪「よろしくねー」ヒラヒラ

千里山女子・正門前


洋榎「ひっさしぶりやなー!千里山にくんのも」


恭子「相変わらずごっつい学校ですねぇ…」


洋榎「ほんまやな! んで、誰に会いに行けばいいんや?」


??「お待ちしてましたわー、お二人さん」


恭・洋「この声は…まさか!」


浩子「ご無沙汰やなぁ。末原さん、洋姉さん」


恭子「フナQ!?」
洋榎「浩子!?」


恭・洋「どうしてここに!?」


浩子「その台詞そっくりそのままお返しすしますわ」


浩子「姫松の赤阪さんから電話もろうて、なんや色々大変そうやな」


恭子「代行の言ってた詳しい人て…フナQやったんか!」


洋榎「浩子なら心強いわぁ! 代行から話は聞いとるんやろ?」


浩子「あぁ、真瀬さんが記憶喪失になったんやろ? 原因も聞いとるわ」


恭子「それなら話が早いわ! フナQ、由子を元に戻すにはどないしたらええんや!?」


浩子「まぁまぁ落ち着いてください、実はもう一人会わせたい人がおるんですよ」


恭・洋「会わせたい人?!」


浩子「とりあえず私について来て下さい、案内します」

校内・視聴覚室


浩子「先輩、連れてきましたわ」ガラッ


恭・洋「会わせたい人て…」


怜「お久しぶりやなー、お二人さん」


恭子「怜ちゃん!?」
洋榎「怜!?」


怜「フナQから話は聞いたで。由子ちゃんが大変なんやってな?」


恭子「あぁ、そうなんやけど…なんで怜ちゃん?」


浩子「それはですね…園城寺先輩、お願いできますか?」


怜「おっけー。実はな…」


怜「私も豆腐の角に頭をぶつけたことがあってな…」


恭・洋「はぁ…」


怜「それからな、見えんねん。麻雀しとると一巡先が…!」ドッ


恭・洋「なんやて!?」

怜「それまでの私はな、そりゃあ活発な女子やったんやで?」


怜「ある日な、逆立ちしながら豆腐食べよかー思うてな…」


恭・洋(…アカン、コレ突っ込んだら負けのやつや)


怜「豆腐まであと数センチのところで手が滑ってもうて…そのまま顔面からベッチャァァや!」


恭・洋「は、はぁ…」


怜「気がついたら病院やった。それから身体が弱くなってもうて…」コホコホ


恭子「豆腐の角に頭ぶつけても、怜ちゃんみたいになるパターンもある言うことか?」


怜「そや。恭子は知らんかもやけど、毎年300人くらいは豆腐の角に頭ぶつけて死んどんねん」


恭子「なんやて!?」


浩子「んなわけあるかいな!」


恭子「なんやて!?」


怜「すまんな、話盛ったわ。つまりやな…」

怜「豆腐の角に頭をぶつけると、何かを失う代わりに、何かしら特別な力が手に入るんちゃうかな?」


恭子「えーと…怜ちゃんは一巡先が見える力の代わりに、めっさ病弱になってしもうて」


洋榎「由子は記憶を失った代わりに、何かしらの能力を得とるっちゅーことか?」


浩子「まぁ、そういうことですわ」


怜「そや…由子ちゃんとは今日、麻雀打ったんか?」


恭子「いや…今日は学校も休んどったし」


怜「そやったんか…」


洋榎「でも…由子を元に戻す方法はあるんやろ?」


怜「まぁ、それはフナQから説明頼むわー。私は説明下手やからな」


浩子「わかりました、それでは早速説明させてもらいますわ」

浩子「真瀬さんの記憶を元に戻す方法は…」


恭・洋(ゴクリ…)


浩子「もう一回豆腐の角に頭をぶつけることや」


恭子「…そんなんでええんか?」


洋榎「なんや、意外と簡単やな!」


浩子「甘いですわ!」クワッ


恭・洋「えっ!?」


浩子「最初に豆腐の角に頭をぶつけた時と同等のシチュエーション、時刻や場所、豆腐の種類なんかも同じにせんとアカンみたいですわ」


洋榎「マジでか!? そんなん詳細まで分からんわ…」


恭子「少なくとも昨日であることは間違いないやん? 豆腐の種類やら時間はわからんけど」

浩子「ほんなら、真瀬さんの親御さんに話聞いてみたら手っ取り早いんちゃいます?」ドヤァ


洋榎「それや! さっすが浩子!」


恭子「そうとなったらすぐにでも行きましょう!帝塚山へ!」


洋榎「あぁ! ほんまおおきに! 怜、浩子!」


恭子「ありがとうな、このお礼はいつか必ずさせてや!」


浩子「ほなさいならー…ってもう行ってしもうたわ」


怜「由子ちゃん、無事に記憶が戻るとええな」


浩子「あの二人なら大丈夫でしょう?」


怜「まぁそやけど…今の由子ちゃんと対局してもうたら、ちょっと心配やな」


浩子「…! 記憶を戻すんを躊躇するかも、ゆうことですか?」


怜「うん、まぁでも…それ決めるんはあっちの勝手やしな」


怜「あんたの子やなし孫やなしー♪ いらんお世話やほっちっちー♪ ってか」


浩子「そろそろ部活行きましょか」


怜「なんかリアクションせえや!」泣

帝塚山・真瀬家前


洋榎「由子のオカンに聞いて、詳細まで分かってよかったなー!」


恭子「えぇ、これで由子を元に戻せそうです」


洋榎「由子本人に会えんかったのは残念やけど…まぁ明日は学校来るゆーとるし」


恭子「明日また打ち合わせましょうや、そろそろ帰らんと」


洋榎「せやな! アカン、安心したらお腹減ってもうた…何か食って帰ろうやー」


恭子「ええですね! ほな、どっか適当行きましょか」

翌日・姫松高校


洋榎「今日は由子来るやろな?」


恭子「何もなければ退院して来るはずやけど…」


ガラッ


由子「………」


恭・洋「ゆーこ!!」


恭子「由子、体調は大丈夫か?」


洋榎「パッと見では元気そうやな。髪型変わっとるけど」


由子「……れ?」ボソッ


恭・洋「ん?」


由子「アンタら誰? 私の知り合い?」


恭子「あ、あぁ! 記憶失くしてんやもんな。すまんすまん」


洋榎「ウチは愛宕洋榎、こっちは末原恭子や!」


由子「ふーん…あっそ」


恭子「ウチら三人、姫松高校の麻雀部なんやで?」


由子「まーじゃん…」


恭子「みんな心配しとるし、今日から部活出れるか?」


由子「…嫌よ。 部活とかやる気ないから」


洋榎「はぁ?! 由子は姫松のレギュラーに選ばれてんねん! 来てもらわな困るで!」


由子「そんなの知らないわよ! いきなり何なの!?」


恭子「由子、とりあえず部活来てや? 麻雀も楽しいし、きっと今の由子だって…」


由子「だーかーら! 今の私には関係ないでしょ!」キッ


恭・洋「!!」


由子「話はもう終わり? 前の私のことはもう忘れて」プイッ


恭子「由子…」

昼休み・屋上


恭子「どーしたらええんやろ…」


洋榎「なんや由子のやつ、めっさ性格キツくなっとったなー。金髪やったし、スカート短いし」


恭子「金髪もスカートの短さも前からやん! はぁ…どないしよ」


洋榎「クヨクヨしたってしゃあないやん! …唐翌揚げいただき!」


恭子「あっ! 最後に食べよう思ってたのにー! ひどいわ洋榎!」


洋榎「すまんすまん! 恭子唐翌揚げ嫌いやったかなーって♪」


恭子「余計なお世話や!もうっ!」


洋榎「そないプリプリすんなやー、後でイチゴ牛乳おごったるから!」


恭子「まったく… んで、由子どないしよ? なんやあの後もウチら避けられとったし」


洋榎「あーうん、まぁ最悪は補欠の子をオーダーするしかないやろ」


恭子「洋榎はそれでええんか!? ウチら最後のインハイやねんで?!」


洋榎「落ち着きーや! せやかてしゃあないやん…今のままやと」


恭子「……ウチは諦めんで。絶対に三人揃ってインハイに行くんや」


洋榎「恭子…」


恭子「最後の最後まで諦めへん! そのためなら何だってしたるわ」


洋榎「……」ひょいパク


恭子「あっ!ウチの卵焼き…なに食っとんねん!」スパァン


洋榎「あいたっ!」

放課後


由子「………」スタスタ


恭子「ゆーこ!」


由子「ん?アンタ朝の…」


恭子「アンタやない、恭子や!」


由子「あーはいはい…で、何の用ですか?恭子さん」


恭子「朝はすまんかった。由子も記憶を失っとるのに、勝手に話すすめてもうて」


由子「…別に」


恭子「ウチらな、待っとるから! 由子が麻雀やりたくなるんを。ずっと待っとるからな!」


由子「…勝手にすれば!」スタスタ


恭子「ふぅ…」


洋榎「なー恭子、これで良かったんやろか?」ヒョイ


恭子「まぁ…頭ごなしに言うても聞かんやろし、由子の気持ちを信じるしかないわ」


洋榎「分の悪い賭けやなぁ…恭子らしくもない」


恭子「そうかもしれんわ…部活いこか?」


洋榎「せやな」

目が覚めると、そこは病院だった。


何故自分がここにいるのか?


自分はいったい何者なのか?


何一つ思い出せなかった。


お母さんと名乗る女性が心配そうに私の顔を覗き込んだ。


その女性の両目からポタポタと雫がこぼれ落ち、私の頬を濡らした。


お母さんから色々な話を聞いた。


私の名前が真瀬由子だということ。


大阪の姫松高校に通っていること。


そこで麻雀部に入っていること。


恭子ちゃん、洋榎ちゃんという友達がいるということ。


何一つ思い出す事ができなかった。


微かな頭痛とぽっかり空いた記憶。


医者と名乗る男性が言うには、私は記憶喪失になったらしい。


お母さんは心配そうな顔をしていたけれど、時間だからと病室から出て行った。


薄暗いこの部屋で、私はいつの間にか深い眠りについていた。

目が覚めると朝になっていた。


昨日までの頭痛もすっかり無くなり、とても体が軽かった。


私はベッド脇の机に置いてあった朝食を食べ、カーテンを開けた。


雲ひとつない青空、窓を開けると心地よい風が部屋に入ってくる。


部屋にスーツ姿の一人の男性が入ってきた。


自らをお父さんと名乗り、目線を私に合わせると、今にも泣き出しそうな顔を見せた。


私が困った顔をすると、お父さんは私を優しく抱きしめた。


お父さんから伝わる体温、懐かしい匂い、何故か私も泣きそうになってしまった。


学校まで送ってあげよう、支度が出来たら下へ降りておいでとお父さんは言った。


私は高校の制服へ着替え、髪の毛をセットし、手短かに支度を終えた。


お父さんの車に乗り、私たちは病院を後にした。

高校に到着し、お父さんの車から降りると、同じ格好をした女の子たちが周りにたくさん居た。


お父さんが心配そうな顔をしているから、いってきますと精一杯元気にみせた。


校門をくぐり、下駄箱で上履きに履き替え、教室へ向かった。


お父さんからもらったメモを頼りに、私のいたクラスへ到着した。


扉を開けるとすぐに、二人の女の子が駆け寄ってきた。


記憶がないのに、この二人はなんだかとても懐かしい感じがした。


それと同時に、私の事をすごく心配してくれていたんだなと感じた。


それでも私は彼女たちにどう接していいのか、わからなかった。


気がつくと、心にない言葉で、冷たい言葉で彼女たちから離れていった。

その日の放課後、末原恭子が私に声をかけてきた。


彼女は何も悪くないのに朝のことを謝り、私が麻雀部へ戻ってくるのを待っているから、と言ってくれた。


正直、とても嬉しかった。


しかしそこでも私は素直になれなかった。


そっけない返事で彼女の前を立ち去り、足早に階段を駆け下りた。


私は逃げるように学校を後にし、自宅の場所が書かれたメモを片手に駅まで向かった。

家に帰ると、お母さんが昨夜の話をしてくれた。


恭子と洋榎が家に来て、私の記憶を元に戻す方法を教えてくれた、と。


そう話すお母さんは何処か嬉しそうで、私はその顔を見たらなんだか複雑な気持ちになった。


私は自分の部屋に行き、電気も点けずにベッドに倒れこんだ。


今の私は、由子であって由子じゃない。


みんなが待っているのは、記憶を失う前の由子だって分かってしまった。


目を閉じると、恭子の言葉が頭に浮かんできた。


麻雀部に私が来るのを待ってる、そう言ってたけど…


恭子が待っているのも、きっと今の私じゃなくて、前の由子なはず。

でも…麻雀で、もしも麻雀で強い私を見せる事ができたら。


今の私を恭子たちは受け入れてくれるかもしれない! そうだ、きっとそうだ!


気がつくと私は明かりを点け、麻雀牌を求めて部屋中を探した。


やっと見つけた麻雀牌、ケースを開けて牌に触れた…その瞬間!


!!!!!!!!!!


身体中に電気が走ったような感覚に襲われ、脳内に何かの記憶が入り込み、視界が急に真っ暗になった。


目を覚ますと、朝になっていた。

それから数日間、ネット麻雀を打ったり、雀荘に行って麻雀を打つ機会を多く作った。


早く恭子たちと打ちたい、そして強い私を受け入れてもらいたい…その一心で麻雀を打っていた。


明日、麻雀部に行ってみよう。


今の私を、みんなに見てもらおう!


麻雀部部室


恭子(もうあれから一週間、そろそろ来て欲しいんやけど…)


ガラッ


恭子「!!」


洋榎「おっつかれー♪」


恭子「なんや…主将かいな」


洋榎「なんやとはなんや! 今日はスペシャルゲストも来てんねんで?」


恭子「ゲスト?」


洋榎「入ってきーや、由子!」


由子「…どうも」


恭子「ゆーこ! やっと来てくれたんやな!」


由子「か、勘違いしないでよ!! ただの暇つぶしなんだからっ!」


恭子「う、うん…? まぁほんまに来てくれて嬉しいわ!」ニコ


由子「嬉しいとか…! さっさと打つわよ!麻雀!」プイッ


洋榎「由子、麻雀のルールは覚えとるんか?」


由子「ご心配なく! 私を誰だと思ってるわけ?」ニヤッ


洋榎「ずいぶん強気やんけ? うちに勝てるゆーんか?」ニヤリ


恭子「まぁまぁ二人とも…」


由子「打てば分かるわよ、前の私と今の私…同じだと思ってたら痛い目見るわよ?」


洋榎「ははっ! そいつは楽しみやな! デクやったら許さへんで!?」


漫「すいません遅れましたー!」ガラッ


洋・由「おそい!!」


漫「えぇっ!?」ビクッ

恭子「そしたら始めんで?」


漫「宜しくお願いします」


洋榎「ウチは最初っから全力でいかせてもらうで!」


由子「はっ、言うじゃない! 三人まとめて飛ばしてあげるわ!」


東・漫
南・恭子
西・洋榎
北・由子


漫(ウチが起家か。なんや由子先輩おかしな様子やったけど…)


漫(…にしても! 配牌最悪やな!)


………


恭・洋・漫「ノーテン」スッ


由子「テンパイ」パラッ


恭子「次は私が親やな。サイコロ回すで」ポチ


恭子(さっきの由子の手配…なんか違和感あったけど)


恭子(アカン、今回も配牌悪っ…)

………


恭・洋・漫「ノーテン…」スッ


由子「テンパイ」パラッ


洋榎「由子、なんでその待ちで上がらんかったんや? 」


由子「最初に言ったでしょ!? 三人まとめて倒すって!」キッ


洋榎「ゆーてくれるやんけ! 次はウチの親やから、連荘で削りとったるわ!」


恭子「二人とも落ち着きや!主将、サイコロ回してください」


………


恭・漫「ノーテン」スッ


洋榎「…ノーテンや!」


由子「ようやく私の親番ね。ずいぶん待ちくたびれたわ」ニヤッ


恭子(まさか洋榎まで上がれずに終わるなんて…由子の親番が嫌な予感しかせーへん)

由子・34000点
恭子、洋榎、漫・22000点


………


由子「リーチ!」スッ


漫(この試合始めてのリーチか。しかし待ちが読みにくい…!)スッ


恭子(これも通るやろな…)スッ


洋榎(まだ攻めるわ…!)スッ


由子「…きたわ!」


由子「ツモ! 6000オール!」カッ


洋榎「一発かいな…!」


恭子(子の時はノーテン地獄にするくらいの場の支配力…親になった途端にこの火力かいな!)


恭子(アカン、前の由子とはまるで打ち筋が違いすぎる…)

由子・52000点
恭、洋、漫・16000点


由子「言っておくけど…これは私の優しさよ?」ニヤ


洋榎「はぁ? なに言うとんねん!」


由子「勝つのは私一人だけ…みんな仲良く飛ばしてあげるわ!!」カッ


由子「リーチ!」ドッ


漫(…!! こわいこわい! なんやこのプレッシャー!?)ビクッ


恭子「ダブリーか…鳴くに鳴けへんし」スッ


洋榎「あーもう…!」スッ


由子「チェックメイト…」スッ


由子「ツモっ!16000オール!」ドッ


恭・洋・漫「国士無双!?」ガタッ


由子「あははっ、これで私の一人勝ちね!」


恭子「アカンかった…ウチらの完敗や」


洋榎「むっちゃ悔しいわー! 由子!もういっかい勝負や!」


由子「何回やっても同じよ? まぁ、相手してあげてもいいけど!」ニヤ


漫「ウチもいいですか!?」


恭子「私も! ほな始めんで!!」

帰り道


由子「ふんふんふーん♪」


恭子「なんや上機嫌やな、由子」


由子「まぁね! 結局私の一人勝ちだったわけだし♪」


洋榎「………」ムスッ


恭子「それに対して洋榎は不機嫌やな…」


洋榎「別に不機嫌やないわ」ムスッ


由子「最後まで焼き鳥だったから無理ないわよねー♪」ニヤニヤ


恭子「ちょっ、ゆーこ!」


洋榎「言うてくれるやんけ! まぁ…今日は楽しかったわ」


恭子「せやな、私もや」


由子「私も楽しかった! 麻雀も、もっと好きになりそう!」


由子「あ、私こっちだから…また明日学校で!」


恭子「ゆーこ気ぃ付けてなー!」


洋榎「また明日なー!」

恭子「行ってもうたな…」


洋榎「あぁ、それにしても今日の由子…めっちゃ強かったわ」


恭子「由子の親番以外はずっとノーテン地獄やったしね…」


洋榎「あの調子やったら県予選…全国でも大暴れできんで!」


恭子「まぁな…」


洋榎「どしたん恭子、元気ないやんか?」


恭子「いや、うん…」


洋榎「由子の事か? 正直な、ウチはこのままでええんやないかと思ってん」


恭子「…!! 洋榎、それ本気で言うてんの?」


洋榎「本気や本気。由子は由子やし、ウチは全国優勝したいしな!」


恭子「違うやろ…! あの由子はウチらの知っとる由子やないやろ!」


洋榎「なに熱くなっとんねん、それに…」


恭子「それに、なんや?」


洋榎「恭子も少しは、このままの由子でええんやないかて思ったんちゃか?!」


恭子「そ、それは…」


洋榎「県予選勝つんやろ? 全国優勝するんやろ? 今の由子がおれば…


恭子「うっさいわ! それじゃアカンねん! 前の由子の気持ちはどうなるんや? ウチら最後のインハイなんやで?!」


洋榎「最後のインハイやからこそ、勝ちにいくんやろが! それでも姫松のレギュラーか!?」


恭子「やかましいわ! あんたこそ主将としてどうなん!? 勝つことだけが全てなんか?! 」


洋榎「勝つことが全てやろ! そのためにウチは麻雀やっとんねん!」


恭子「…もうええわ! あんたなんか知らん!」ダッ


洋榎「おい恭子っ! …なんやねんアイツ!」

愛宕家


洋榎「ただいまー」ガチャ


絹恵「お姉ちゃんおかえりー」


洋榎「なんや…オカンはまだ帰ってきてないんか?」


絹恵「部活で遅なるって、ご飯作っといたで。 食べるやろ?」


洋榎「あぁ、すまんな。 でも今日あんまりお腹空いとらんのや…」


絹恵「お姉ちゃんにしては珍しいなぁ? ほんならお風呂入ってきたら?」


洋榎「おおきに、ほな先に入ってくるわ」


………


お風呂


洋榎(なんやねん恭子のやつ…ウチだって前の由子には戻ってほしいんや)


洋榎(記憶が戻って…そん時に全国制覇してたら由子だって嬉しいはずやろ!)


絹恵「お姉ちゃーん?」


洋榎「…ん? なんやー!絹ー」


絹恵「私も入ってえぇかな? たまには一緒入らへんー?」


洋榎「……ええよー! 入ってきー」

絹恵「こうやって一緒に入るんも、久しぶりやねぇ」


洋榎「絹…また胸デカくなったんちゃうか?」ジー


絹恵「ははは、セクハラやなぁ!」


洋榎「セクハラちゃう! 妹の成長記録をやな…」


絹恵「ははは、なんやそれ。 お姉ちゃん…髪の毛降ろしたらええのに」


洋榎「そうか? 髪の毛降ろすと動きにくいしなぁ…」


絹恵「たしかになぁ。でもたまにはええんちゃう?」


洋榎「イメチェンてやつか? いっそのこと髪切ったろかな」


絹恵「インハイ前に気合入れて?ええんやないの!」


洋榎「そしたら絹も道連れや!」


絹恵「えー!? 恭子先輩あたりにしたってやー!」


洋榎「そ、そやな! はー…あっついあっつい! そろそろ上がろかな!」


絹恵「お姉ちゃん?」


洋榎「な、なんや?」


絹恵「恭子先輩と何かあったん? ケンカしたとか…」


洋榎「………ほんま、絹には敵わんなぁー!」


絹恵「お風呂から上がったら話聞くから。なんでも話してや?」


洋榎「あぁ、ほな先に出るわ」

リビング


絹恵「なるほどねぇ…どっちの言い分も分かるけど」


洋榎「絹はどっちが正しい思う?」


絹恵「正しいとかやなく、されたら嫌なんはお姉ちゃんの方かな?」


洋榎「えっ!? ほんまかいな…」


絹恵「もし私が同じようにされたら…一生恨むと思うわぁー」


洋榎「それは困るなぁ…」


絹恵「全国優勝するんは確かに嬉しい事やけど、そこまでの記憶が空っぽだなんて切なすぎるわ」


絹恵「それに、由子先輩だって前のままで十分強いやん! 名門姫松高校のレギュラーやで?」


洋榎「せやな…ウチ、どうかしてたわ。絹と恭子の言うとおりやな」


洋榎「今の由子も強いけど、前の由子も強い! ウチが一番やけどな!」


絹恵「お姉ちゃん…! 最後の一言が余計やで?」


洋榎「ウチは姫松の主将や! 一番強くて、一番偉いんやで!」ドヤァ


絹恵「はいはい! ほんなら明日、恭子先輩に謝るんやで?」


洋榎「わかっとるがな! 朝一番でジャンピング土下座したるわ!」


絹恵「ちょっ!どんだけアグレッシブやねん!」

翌日・教室


洋榎「恭子!ホンマに昨日はすまんかった!」


恭子「なんやいきなり!?」ビクッ


洋榎「いや…あの。昨日の帰り道のことで…ウチが間違ってたわ」


恭子「あぁ…ええよ。洋榎の言い分も分からなくもないしな」


恭子「それにしても今日の洋榎は素直やなぁ? きのう絹ちゃんに叱られたんやろ?」


洋榎「…! そんなんちゃうわ! なに言っとんねん自分!」アセアセ


恭子「どうやろなぁー? まぁええわ、ありがとうね」


洋榎「お、おう…。 それはそうと、由子の事なんやけど」


由子「おっはよー!二人とも! 今日もあっついねー」ガラッ


恭子「おはよう由子」


洋榎「今日もあっついなー!」


由子「あ、今日も麻雀部に行ってもいいかな? 」


恭子「もちろん、てか由子は麻雀部の部員なんやから当たり前やろ?」


由子「そっか! そうだよね、じゃあ今日もたくさん麻雀しようね!」


恭子「あぁ、そやな」


洋榎「今日は負けへんからな!」


由子「受けてたつわ! 今日も美味しい焼き鳥にしてあげるんだから!」


洋榎「もう焼き鳥はええわ! 唐翌揚げにしたってや」


恭子「いや、もう趣旨がわからんわ!」

麻雀部・対局場


由子「ツモ! 4000オールッ!」カッ


モブABC「ありがとうございました…」


恭子「由子はまた3人飛ばして終了か…」


洋榎「あの三人、完全に戦意喪失しとるで?」


恭子「あとでフォローしとくわ」


由子「恭子! 洋榎! さっきの試合見ててくれた!?」


恭子「あぁ、見とったで」


洋榎「相変わらずエグい勝ち方やけどな!」


由子「いーじゃない! 勝てばなんだって!」


モブ「末原先輩すんません、代行が顧問室まで来るようにって」


恭子「ん? わかった、今すぐ行くわ」


恭子「主将、ちょっと代行のところに行ってきます」


洋榎「わかったわ。こっちはウチが見とくから」


由子「恭子!戻ってきたら試合しようね!試合!」


恭子「わかったわかった、ほな行ってきますわ」

顧問室


恭子「代行、話ってなんですか?」


赤阪「末原ちゃーん、待っとったでー♪」


赤阪「由子ちゃん、なんやえらい最近強なってんねー?」


恭子「はぁ、そうですね」


赤阪「どーしたんー? 由子ちゃんが強なってー、嬉しくないんー?」


恭子「うれしい…ですけど、今の由子はウチらの知っとる由子じゃないんで」


赤阪「末原ちゃーん、その言い方はちょっと冷たいでー?」


恭子「さいですか…」


赤阪「ウチとしてはなー、今のままの由子ちゃんで全国大会まで行きたいなーって」


恭子「それ…本気ですか?」


赤阪「本気やでー? 強い選手をレギュラーにするんは、当たり前やんかー」


恭子「それは…そうかもしれないですけど! 前の由子の気持ち


赤阪「末原ちゃーん、前の、前のって言うけどー…今の由子ちゃんの気持ちは無視してええのー?」


恭子「そ、それは…!」


赤阪「今の由子ちゃんもー、みんなと一緒にインターハイに…


ドンドンドン!


洋榎「恭子!大変や! 由子が!」


恭子「ゆーこが…!? すいません代行、この話はまた後で!」バタン


赤阪「あらあら…いってらっしゃーい♪」

部室


恭子「ゆーこ! 大丈夫か!?」


洋榎「対局中、由子の親番でいきなり倒れてもうて…」


恭子「ゆーこ! ゆーこ! 聞こえるか!?」ペシペシ


由子「きょう…こ?」


恭子「大丈夫か? いったい何があったんや?」


由子「いきなり…目の前が真っ暗になって…気がついたらここだった」


恭子「そっか…。あの打ち方、あのせいで倒れたんちゃうか?」


由子「ごめん…」


洋榎「なんでそんな…普通に打ったらええやんか!」


由子「今の私には…麻雀しかないから」


由子「麻雀で強くなれば…今の私の居場所が出来る…」


由子「前の由子じゃなく…今の私を…」


恭子「由子…」


由子「恭子も…洋榎も…前の由子に戻ってきて欲しいんでしょ?」

恭子「…!」


洋榎「いや…! ウチは…


恭子「洋榎! それ以上言うたらアカン!」


由子「洋榎…ありがとうね。 恭子、本当の気持ち聞かせて…よ」


恭子「…私は、前の由子に戻ってきてほしい。どんなに強くても、前の由子じゃなきゃアカンのや!」


由子「…そっか」


恭子「すまんな…由子」


洋榎「ホンマにすまん…」


由子「ううん…なんとなく、わかってたから」


由子「二人と遊べてすっごく楽しかった…前の私がどんなに皆に愛されてるかもわかった…」


由子「今の私は…由子の体を借りてるだけ。 いつかは消えるもの」


由子「恭子…洋榎…私を前の由子に戻して? もう十分よ…」


恭子「…わかった」


洋榎「今日は…ちょうどXデーやな」


由子「よろしく…頼むわね」

由子宅


恭子「もうそろそろ時間やな」


洋榎「由子、あともうちょっとで記憶が入れ替わるけど…」


由子「ありがとう、二人とも。 短い間だったけど楽しかったわ」


恭子「由子、今度は違う形で出会いたいわ」


洋榎「せやな! そん時は負けへんからな!」


由子「ありがとう… 私だって負けないんだから!」ポロポロ


由子ママ「由子…そろそろ豆腐をぶつけるわよ?」


由子「お願いします…」


恭子・洋榎「由子…!」


由子ママ「行くわよ…!」


ベッチャァァア!!!!!!

病院


由子「………ん」


恭子「ゆーこ…大丈夫か?」


由子「んー…? きょうこ?それに洋榎まで…。一体ここはどこなのよー?」キョロキョロ


恭子「戻った…! 由子が戻った!」


洋榎「やったな! 大成功やで!」


由子「なんの話しとるん? いたた…なんや頭痛いわー」


恭子・洋榎「ゆーこー!!」だきっ


由子「わわわ…! なんや二人とも、くすぐったいのよー」


恭子「おかえり! 由子おかえり!」ポロポロ


洋榎「待ちくたびれたわ…! さっさと退院せーや!」グスッ


由子「変な二人やなー、なんで泣いてるのよー?」


恭子「うっ…うっさいわぁ…ボケェ…」ポロポロ


洋榎「人の気も知らんでな…」ポロポロ


由子「…? 変な二人やねー…」

由子の記憶が元に戻って、ウチらはもう一人の由子の話をした。


意地っ張りで負けず嫌いだったこと、優しいくせに強がりだったこと、麻雀が強かったこと。


当の本人はめっちゃ驚いてたけど、それでも最後まで聞いてくれた。


次の日には由子も退院して、以前と変わらない生活が続いていた。


いや、続くはずやったんやけど…


………


教室


由子「おはよー」ガラッ


恭子「おはよう、ゆーこ」


由子「今日もあっついねー、もれなく溶けてしまいそうなのよー」


恭子「はははは!なんやそれ!」


ブーブーブー♪


由子「恭子、ケータイ鳴ってるよー?」


恭子「ホンマや …もしもし。 あぁー絹ちゃん、どないしたん?」


由子「絹ちゃんから?」


絹恵『恭子先輩! 大変です! お姉ちゃんが! お姉ちゃんが!』


恭子「洋榎? 洋榎がどないしたんや?!」


絹恵『タンスの角に小指をぶつけて気絶して! 目が覚めたら…記憶が無くなってもうたんです!』


恭子「なんじゃそりゃぁぁ!!」ガラガラガシャーン


由子「一難去って、また一難なのよー…」ガクッ


終局

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