渋谷凛「私の……相棒」 (38)

―――


とん、とん、とん……


凛「……ふう」

凛(事務所の屋上まで来るなんて初めてだな……)

凛「……ほんとにいるのかな? あの娘」

凛(ちひろさんは『屋上にいると思いますよ♪』なんて言ってたけど)


凛「あ……鍵、開いてるんだ」


がちゃ ぎぃぃ……


凛「……まぶし。さすがにこの季節は日差しが……」

凛「ん、と……」キョロキョロ


凛(あ、あそこ日陰。ってことは――)

凛「……見つけた」



凛「――李衣菜」

李衣菜「あれ……凛ちゃん?」

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凛「お疲れさま。こんなところにいたんだ」

李衣菜「うん、お疲れさまー。もしかして、私探してた?」

凛「ちょっとね。話したいことあってさ。いいかな?」

李衣菜「話したいこと? もちろんいいよ!」

凛「ふふ、良かった。……ここ、けっこう涼しいね」

李衣菜「へへ、でしょ? 出入り口の方は日が当たっちゃってるけど、ここは一日中日陰みたいなんだ」

凛「へぇ……今は夏だから、ここの方がいいね」

李衣菜「そうそう! 反対に冬はあっち側がよさそうだよねっ」

凛「だね。風も気持ちいい……」

李衣菜「ねー。今日は雲もないから空が綺麗だし!」

凛「ふふ、そだね。……李衣菜はいつもここにいるの?」

李衣菜「うーん、たまにね。レッスンで疲れたときとか、一人で音楽聴きたいときとか……」

李衣菜「ここって静かだからさ、色々考え事もできるし」

凛「ふぅん……李衣菜にも考えるような悩み、あるんだね」クスッ

李衣菜「あっ、ひどいよ凛ちゃ~ん! 私だって悩みくらいあるよ!」

凛「ふふふ、ごめんごめん。冗談だから、ね?」

李衣菜「むー。……あ、そうだ。凛ちゃんだって……」

凛「え?」

李衣菜「『ハナコ、ハナコ。ハナコはかわいいね、ハナコー……♪』……だっけ?」

凛「!? そっそれ……!」


李衣菜「ふっふっふ……デレラジ、毎回聴いてるんだよ?」

李衣菜「凛ちゃんの可愛いエピソード、ぜーんぶ聴いてるもんねー♪」ニマニマ

凛「や、やめてよ! 今度からゲスト呼んであげないよ!?」

李衣菜「あはは! ゲスト選んでるのラジオのスタッフさんでしょ?」

凛「うっ、そうだけど……!」


李衣菜「『うふふうふふ、ハナコー、ぎゅー……♪』……えへへ、可愛いなー凛ちゃんも♪」

凛「うぅ、李衣菜ぁ!」

李衣菜「はい、これでおあいこねっ。ふふ、まだネタはラジオ以外にたくさんあるけど!」

凛「な、なんでそんなに……!」

李衣菜「そうだなぁ……大体は未央ちゃん経由かな。あと、美嘉ちゃんから莉嘉が聞いたこととか?」

凛「情報漏れるルート多いよ!」


李衣菜「へへ。未央ちゃんはCDデビュー同期だし、莉嘉はここに入ってからの付き合いだしねっ」

凛「あ、そっか……李衣菜は莉嘉とかな子と、最初にユニット組んだんだっけ」

李衣菜「うん。今もずっと仲良くしてるんだー」

凛「ふふ……莉嘉はよく懐いてるみたいだし、かな子も李衣菜のこと頼りにしてるみたい」

李衣菜「えへへ、そうだと嬉しいな!」

凛「……うん、きっとそうだよ」


凛「…………」

李衣菜「ん、凛ちゃん?」

凛「……李衣菜は、すごいね」


李衣菜「へ? ど、どしたの急に……」

凛「どんなときも前向きでさ。真っ直ぐで、自分に正直で、へこたれない」

李衣菜「そ、そうかな……? 凛ちゃんも、とっても前向きだと思うよ。真面目で、いつもクールだし」

凛「それは……そうかもしれないけど」

李衣菜「かも、じゃないって。私が保証するよ!」

凛「ふふ、ありがと。……それで、さ」

李衣菜「うん、なぁに?」

凛「……ライブ、覚えてる? 私たちの、初めての単独ライブの日のこと」

李衣菜「もちろんっ。アツかったよね、ファンのみんなも最高に盛り上がってた!」

凛「ふふっ、そうだったね。そのときにね……」

凛「李衣菜が、私に勇気をくれたんだよ――」

―――


凛(もうすぐ、私が歌う番……)

凛(しっかりしなきゃ。私たちの初めての単独ライブ……絶対成功させないと……!)


凛「…………」フルッ

凛「っ、なんで……こんなに足が震えるの……!」


凛(ダメだ……声まで震えてる……。これじゃ、レッスン通りになんて……っ)

凛「……っ」ギュゥ…


李衣菜「凛ちゃーん。そろそろ出番だよね? 頑張って!」ヒョコッ

凛「り、いな……」

李衣菜「って、ちょっ……顔色悪いよ!? 待ってて、すぐプロデューサーをっ!」

凛「ま、待って! 大丈夫、大丈夫だからっ」

李衣菜「大丈夫なわけないでしょ!? ステージで倒れたりしたら……!!」


ぎゅっ!


凛「あ……」

李衣菜「――え、こんなに手が震えて……凛ちゃん、緊張してるの……?」

凛「…………そう、かも……」

李衣菜「凛ちゃん……平気だよ。会場のみんな、全員が味方なんだから。ね?」

凛「そうだけど、でも……こんなに大きなステージで、うまく歌えなかったらって思うと……どうしても……」

李衣菜「凛ちゃん……」

凛「……っ」


李衣菜「……ふー。聞いて、凛ちゃん」

凛「……李衣菜?」

李衣菜「確かに、緊張しちゃってうまく歌えないかもしれない」

李衣菜「音を外しちゃったり、歌詞を忘れたりするかもしれない」

李衣菜「でもね」

李衣菜「それでも、ファンのみんなは、喜んでくれるよ。……絶対に!」

李衣菜「だって――」


李衣菜「みんな、凛ちゃんが輝いてる姿が見たいんだから!」

凛「……!」

李衣菜「……だからさ。笑って、ステージに立とう?」

李衣菜「間違ったっていい。凛ちゃんの最高の笑顔、みんなに見せてあげようよ!」

凛「李衣菜……!」


李衣菜「ねっ?」ニッ

凛「…………」


凛「うん……!」ニコ

李衣菜「えへへ、やっと笑ったね」

凛「……ふふ。李衣菜のおかげだよ」

李衣菜「うんうん、顔色も顔つきも、いつもの凛ちゃんだ!」

凛「手足の震えも止まったよ。ありがとう、李衣菜」


凛「それじゃ、行ってくる!」

李衣菜「行ってらっしゃい、凛ちゃん。笑顔で、ねっ!」

凛「うんっ!」


―――

李衣菜「――そんなこともあったねー。えへへ、そんなに印象に残ってた?」

凛「うん。李衣菜の言葉、今も胸にしまってあるよ。……ずっと大事にするから」

李衣菜「そ、そこまで言われると照れちゃうなー……あはは」

凛「ふふっ……♪」


李衣菜「あのあとも、すっごく盛り上がったよね!」

李衣菜「私ね、Nation Blueの演出が最高にテンション上がったよー!」

凛「Nation Blue……あ、もしかして、私と背中合わせで歌った演出?」

李衣菜「そうそれ! あれねー、本当にうっひょーって感じだったなぁ!」

凛「360度、見渡す限りのサイリウムの光……。綺麗だったね……」

李衣菜「うんうん……感動、ってああいうこと言うんだね、きっと」

凛「ふふ、そうだね。李衣菜と一緒で心強かったし」

李衣菜「えへへ、私も同じだよ。背中から凛ちゃんのアツい気持ち、伝わってきてた!」

凛「うん。李衣菜の気持ちも、私に伝わってきてたよ。……またやりたいね、背中合わせで」

李衣菜「プロデューサーに頼んでみよっか?」

凛「だね。二つ返事でオーケーくれそうだけど」クス

李衣菜「あは、確かにねっ」

―――
――



凛「……いつの間にか、もう夕方だね」

李衣菜「うん……こんなに二人でお話したの、初めてじゃない?」

凛「そうだね。……李衣菜、話しやすいから。私、そんなにお喋りじゃないから」

李衣菜「そう? 私としては凛ちゃんくらいクールになりたいかな!」

凛「李衣菜は今のままが一番だって」

李衣菜「ありのーままのー、ってやつ?」

凛「くすっ。もう、李衣菜ったら……」

李衣菜「へへへ……。私ね、凛ちゃんのこと……相棒だって思ってるんだ」

凛「相棒……」

李衣菜「あの日の背中合わせ、本当に心がアツくなったんだ」

李衣菜「凛ちゃんになら、背中を任せられる……ってさ」

凛「……うん。実はね、私も同じ思いだよ」

凛「李衣菜となら、ずっと一緒に走って行けるだろうなって」


李衣菜「へへ。おんなじだね、私たち」

凛「うん、おんなじ。ふふ」

李衣菜「それじゃ、これからは」

凛「相棒、だね。私たち」

李衣菜「うん、相棒だ!」

凛「よろしくね、相棒さん?」

李衣菜「よろしくだぜ!」


凛「……その、だぜ、はやめた方がいいと思う」

李衣菜「そ、そう? かっこいいと思ったんだけど……」

凛「正直、あんまり……李衣菜には合わないよ」

李衣菜「う……相棒が言うなら仕方ないかぁ……」

凛「他のにしない? 例えば……英語使うとか」

李衣菜「英語か……ブルー、ツリー、チャイルド! ……いや、もっと頑張らないとダメだよね……」

凛「あ、あはは。小学生でもできそうな……」

李衣菜「い、言わないでよぉ……」

凛「アズール、とかどうかな。蒼色、って意味だけど」

李衣菜「おお、かっこいいね! 二人のユニットできたら、アズール入れたいかもっ」

凛「うん、これもプロデューサーに相談しよっか」

李衣菜「うん!」

凛「……プロデューサー、か……あの人にも感謝しないとね」

李衣菜「だねー。プロデューサー、いつ休んでるか分かんないんだもん」

凛「肩でも揉んであげようかな?」

李衣菜「ふふ、凛ちゃんにされたら泣いて喜びそう」

凛「お、大げさ……でも、李衣菜にされても同じだよ、きっと」

李衣菜「私たちみんなのこと、大事にしてくれるもんね……」

凛「うん……」

李衣菜「……へへ」

凛「……ふふ。やっぱり」


李衣菜「私たち、ここでもおんなじだ」クス

凛「……いつになるかは、分かんないけど」

李衣菜「……うん。負けないよ」

凛「私だって」


李衣菜「相棒だけど、ライバルだね」

凛「ライバルだけど、相棒だから」

李衣菜「どっちが勝っても」

凛「恨みっこなし、ね?」


李衣菜・凛「ふふふっ♪」



がちゃり


P「えーと……たぶんここだろうけど……」キョロキョロ


李衣菜「あ、プロデューサーだ」

凛「噂をすれば、ってやつかな」

李衣菜「おーい、プロデューサー! こっちですよーっ」

P「あ、李衣菜。やっぱりここに――って、凛もここだったか」

凛「うん。お疲れさま」

李衣菜「お疲れさまですっ」

P「ん、お疲れさま。二人でここでお喋りしてたのか?」

李衣菜「はい。えへへ、すごく盛り上がっちゃって!」

P「はは、そっか」


凛「……あっ!」

P「ん? どした凛?」

凛「り、李衣菜に渡そうと思ってたの、ずっと話してて忘れてた……!」

李衣菜「え、私に?」

凛「今まで二人だったからチャンスだったのに……その……」チラ


P「……ああ、いいぞ、俺は人形か何かかと思ってくれ」ニヤニヤ

凛「ちょ、ちょっと! あっち行ってよプロデューサー!」

李衣菜「あ、プロデューサーそっくりの人形だー。大丈夫凛ちゃん、二人きりだよー?」クスクス

凛「り、李衣菜まで!」

P「ふふ、まぁ下にいるからさ。ちょっとしたミーティングだから、待ってるよ」テクテク

李衣菜「はーいっ」

凛「分かった……」


がちゃ ばたん……


李衣菜「行ったね」

凛「はぁ、もう……李衣菜とプロデューサー、ノリが一緒なんだもん……」

李衣菜「えへ、ごめんごめん。……それで、渡したいものって?」

凛「あ、うん。さっきのライブの話に関係してるんだけどね」

李衣菜「うん……?」

凛「李衣菜には助けてもらったから。それと、ちょっと過ぎちゃったけど……」


凛「誕生日おめでとう、李衣菜」

李衣菜「……お」

李衣菜「おぉー! ありがとう凛ちゃん!」

凛「それで、これ……」ゴソ


凛「……はい。李衣菜の誕生花……スイカズラを押し花にして、栞にしたの」

凛「もらってくれるかな……?」

李衣菜「……えへへ。当たり前だよ。ありがと、絶対大切にする!」

凛「良かった、喜んでくれて……」

李衣菜「今ね、ギターの教本見ながら練習してるんだ。それに使わせてもらうねっ」

凛「ふふ、早速役に立ちそうだね」


李衣菜「あ、ねぇねぇ、この……スイカズラ、だっけ? 花言葉ってなにかな?」

凛「えっと、花言葉って色々あって……李衣菜には、やっぱり『友愛』が似合うかな」

李衣菜「『友愛』か……ヘヘ、じゃあこの栞は、私と凛の友情のしるしだね!」

凛「……うん!」

李衣菜「――っと、そろそろ行かないと。プロデューサー待たせちゃってるし」

凛「そうだね。行こっか、李衣菜」

李衣菜「うん、凛!」


凛「……あれ? 李衣菜、いつの間にか……」

李衣菜「あ、嫌だった? 呼び捨て」

凛「ううん、全然っ……だって」


李衣菜「相棒、だもんね!」

凛「うんっ!」



てくてく

  てくてく……


李衣菜「凛もさ、ギター弾けるんだよね?」

凛「ちょっとだけね。CDジャケットの撮影のときはベースだったけど、興味湧いちゃって」

李衣菜「すごいなぁ、凛ってなんでも出来ちゃうよね」

凛「そんなことないって……」

李衣菜「今度ギター教えてくれない? やっぱり本だけじゃさー」

凛「ん、いいよ。じゃ、事務所にギター持ってこないと」

李衣菜「えへへ、お願いしまーす、凛せんせー♪」

凛「……やっぱりやめた。李衣菜一人で頑張ってね」

李衣菜「ああっ、嘘だって凛ーっ!」


凛「ふふ、もう――」

李衣菜「待ってよー、あはは――」



P(それ以来、窓を開けると……)

P(時々屋上から、二人の楽しげな声が聞こえてくるようになったとさ――)



おわり

というお話だったのさ
新ジャンル「だりーん」、満足満足

だりりんでもおk

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