貝木「どうも、765プロの真木と申します」 (19)

物語シリーズ×アイマス、油と水
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死んだ後の世界がどうなっているか、生きている諸君は考えたことがあるだろうか。
天国地獄。
輪廻転生。
永久の闇。
ただ一つ確実に言えるのは、そこでもやはり大切に扱うべきは金だということだ。

地獄の沙汰も金次第。
阿弥陀の光も金次第。
死にゆく俺、つまり貝木泥舟が手放さなかった唯一無二の信条は
天の果てでさえ地の底でさえ通用するだろうと頑なに信じていた、
というのは嘘である。

そもそも死ぬ前に死んだ後のことを考えていられるほど、生前の俺は暇ではなかったはずだ。
貧乏暇なしだった。
時間を持て余しているなら詐欺の一つでも働いてやろうという健全な勤労者、納税者だった。

省みれば支払うために金を稼いでいるような、してやられた気分にならないではなかったが、
そうやって自らの人生を俯瞰して、斜めに見て、見下して。
最後の最後でつくづくらしくない真似をしたものだ、といささか感傷的な気分になってしまう俺だった。
などというオチをつけられれば、やつにも人間臭い一面があったのだな、と故人を偲ぶ者も一人くらいはいたのかもしれないが。
しかし俺に人間らしい感情を期待するのは、
俺の大親友である忍野メメが道端にガムを吐き捨てるのを観測しようとするくらいに無意味で馬鹿馬鹿しいと忠告しておく。

それくらいには俺は俺を知っていた。知っていたし疑ってもいた。
目下最大の疑問は、今の俺がはたして貝木泥舟のままなのか、ということだ。

アニメの偽物語までしか見てないにわかに教えてくれ
スレタイの「真木」って貝木の偽名か何かなの?


死にゆき生き戻った俺は誰なのか。
見た目が生前の姿で、中身が生後の精神な俺は、さてはて本当に貝木泥舟なのか。
そもそも俺という一人称が実は以前と違っていて、生前の記憶とやらは5秒前にインプットされたデータではないのか。
大いに悩みながらもポッケに手を入れ財布の有無の確認を怠らなかった俺は、本当にここまで金の汚い人間だったのか。

あの瞬間、頭の悪い詐欺に引っかかったガキの鉄パイプによって、後頭部に重篤な損傷を被ったはずが、
こうしてぐだぐだとくどくどと思考を並べられているのは
神がとてつもなく慈悲深かったか、同じくらいに真剣な嫌がらせを画策している結果だろう。
そう考えると、今自分が立っている場所が首都圏を名乗るのも憚られるドがつく田舎でなく首都東京だったのも
それほど大した問題ではないのかも知れない。


そこは古めかしい雑居ビルの階段、より正確に言えば踊り場だった。
ちょうど半階分上、その扉には芸能プロダクションと思しき名前のプレートがある。

765プロ。
なるほど、芸能界とはこの世で一番地獄に近い場所の一つかも知れない。
芸能界には地獄顔負けの魑魅魍魎が所狭しとひしめている。
そんなふうに少し感心してしまったとき、軽快かつおっちょこちょいな足音がドア越しに聞こえてきた。
表現がいささか間抜けなのは、つまづく気配がしたからだ。
勢いよく扉を開き、天真爛漫な笑顔を浮かべた少女を前にして。


「あなたが新しいプロデューサーさんですか!?」

「あー、そうですそれです。新しいプロデューサーの、真木と申します」


財布を持っていなかった俺は皮膚呼吸するように偽名を告げ、ネクタイの結び目の位置を直したのだった。

>>3
このSSでのみの偽名で、恋物語では鈴木を使っています

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