悪魔「自分が死ぬなら、相手も殺してやりたいとは思わない?」(10)

死にたいと考えることはあっても、
死ぬだけの度胸がある奴は少ないと思う。

自我が消えてしまうことの恐怖はいつだって決意を鈍らせ、
僕は無駄に今日まで生き続けてしまった。

男「…………」

バンっ。

男「……っ」

男子a「ストライク」

男子b「ぷ……」

男子c「クハハっ」

男子b「おいおい、なんかあの辺だけ煙たくなってるよー」

男子c「はは、異常現象が突如発生したんじゃね?」

男子b「んじゃあいつが原因か、発生源あそこだし」

男子c「ふははっ、ある意味原因と言えば原因だ」

男子a「あいつの存在自体がな」

男子b「くはは、それ言っちゃダメだって、ははっ」

男「…………」

唐突に背中に浴びせられた衝撃。
次第に立ちこめるのは白い煙霧。

自然と、彼らから黒板消しが投げられたとのだと理解した。

近くの女子たちが咳き込む。

女子1「ちょ、ちょっと、まじ煙いんだけどー」

男子b「あっいや、わりぃわりぃ」

男子c「いやー投擲の練習しててさ。いざってときに必要っしょ?」

女子1「はぁー? 意味わかんねえし」

男子a「俺達に文句言うなよ。原因はあいつにあるんだしさ」

指先がこちらに向けられる。

女子1「…………」

男子a「だろ?」

女子1「私にはどーでもいいけど……ただ周りに迷惑かけんな」

他の女子からも賛同する声が聞こえる。

男子b「はいはい分かりましたよーっと」

男子c「お、そろそろ行かねえと売店のパン売り切れるぜ」

男子b「うっわ、まじじゃん。やべぇな、余りもんしか残ってねぇぞこの時間」

男子c「はー……俺今日カツサンド食いたかったのになー」

次第に遠くなっていく彼らの声。

僕はほっと胸をなで下ろし、白粉が散らばる自分の席を後にした。
今日は昼休みを落ち着いて過ごすことが出来そうだ。

訝しむ視線を、恐らく真っ白に染まった制服の背部に浴びながら。
僕は廊下を俯きながら歩く。若干小走りに。

……………。
……………。

トイレで食べる昼食はいつもよりおいしかった。
あの腐りきった教室よりはどんな薄汚い場所でも許容できた。

口に運ぶのはいつものパサついたバゲット一つ。

登校中、いつものパン屋で買うことが常。
かつてはコンビニでサンドイッチや弁当を買ったこともあったが、
その手のものは席を立ったと同時に消えてなくなる。

ある日から、味があまりしない大きなパンを一つ買うことにした。
ジャムもなし、パターもなし。

それから昼食が消えてなくなることはなくなった。
ぐちゃぐちゃに潰されていた日はたまにあったけれど。

お気に入りは体育館の横にある外付けのトイレ。
昼休みの時間だとここまでやってくる生徒は少数だ。

静かに食事をしたい僕にとっては二つとない絶好の場所だが、
時たま現れる学生は総じて大きい方なので、臭いだけは最悪だった。

加えて、食べるのは味気のないパン。
時には何を食べているのか分からなくなることもあった。
それでも──

……………。
……………。

制服をある程度綺麗にし、時間ぎりぎりに合わせて教室に戻る。

男「…………」

……おかしい。

教室へ入った瞬間、僕は異変を感じた。

何だろう……? 何かがおかしい。

辺りを見渡し、その原因を僕は瞬時に理解した。

視線。教室の四方から浴びせられる視線だ。
下衆じみた嘲笑の目だ。

こちらの反応を横目で楽しんでいる。でも一体──

男「……あ」

机が、僕の机が……
どこにもない。

男子a「汚ねぇから捨てといてやったよ」

耳障りな声が聞こえる。

汚い……? 汚いだと……?

男子a「白い粉が散らばってるしよ。あれフケだろおい」

男子b「うえー洗ってねえのかよ」

男子c「汚ねぇ汚ねぇ」

フケ? 白い粉?

ふざけるな。
ふざけるなよ……。

あれはお前らが投げた黒板消しのチョークの粉だろうがっ!!

男「…………」

僕は黙って唇を噛み締める。
言えたら、そうやって言えたらどれだけ楽か。

このまま、あの同級生たちに殴り掛かって返り討ちにあって。
それでも胸の片隅になるちっぽけな自尊心だけは守りきって。

それで、それで……。

男子a「なんだよ、なにみてんだ? おい」

男子c「へへ、生意気に睨み返してらー。おー怖い怖い」

男子b「プハハッ」

何の解決にもならないことは十分承知の上だった。

男「……机はどこ?」

男子a「あん?」

男「ここにあった僕の机はどこだって聞いてるんだ」

男子a「あー、あのゴミのこと」

男子b「ぷはっ、ゴミってひでぇー」

男子c「でもアレは確かにゴミだわゴミ」

男子a「それで? そのゴミがどうしたんだ?」

男「……どこにやったの?」

男子a「どこって、そりゃーゴミ捨て場でしょ」

くすくす。

どこからか聞こえてくる笑い声。
我慢もすでに限界だった。

男「……一体どこにやったんだっ!」

男子a「……ッ」

相手の胸ぐらを掴む。

男子b「おいおい、その手早く離した方がいいぜ。今なら冗談ですむぞ」

男子c「うわぁー怖いもん知らずもここまでくるとやべぇな」

男子a「いい度胸じゃねえか……。だがな──」

瞬間、一閃の何かが僕の視界に入り……
そのまま地面に尻餅をついてしまった。

くそっ……今……殴られたのか……?

男子a「汚ねぇ手で触んなよ、おい」

男子c「ひょー、えげつねぇパンチ」

男子b「てか速すぎてよく見えなかったわ」

男「………く」

まだ頭が揺れる。
視界がぼやけてはっきりとしない。

男子a「お探しのゴミなら外だ」

外?

男子b「ほらグランドにあるって」

男子c「はは、意外と壊れないもんなんだな、机って」

ま、まさか。
まだ中身も入ってるんだぞ……そんな……。

僕はまだ朦朧とした意識のまま、
おぼつかない足取りで窓際へ向かった。

男「…………ああ」

言葉にならなかった。
ただ、うめき声が漏れただけだった。

男子a「結構重かったんだぜ」

男子a「その窓から落とすの三人がかりだったよ」

その後のことはよく覚えていない。
気が付いた時には体中が傷だらけだった。

……………。
……………。

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