吸血鬼「あら、貴方も私と同じなのね……」 (134)


#1#

ロボット「同じ? 私は吸血鬼ではなく、ロボットです」

吸血鬼「そういうことじゃなくて……だってあなたも死なないじゃない」

ロボット「我々の死は、全パーソナルデータのロストと定義付けられています。我々も死ぬのです」

吸血鬼「それは私もそうよ。怪我でも死ぬし、病気でも死ぬわ。そうじゃなくて、寿命が無限に近いということよ」

ロボット「なるほど。学習しました」

吸血鬼「ホントあなたって言葉使い独特ね」


#2#

吸血鬼「外に出てみたいわ」

ロボット「不可能です」

吸血鬼「無愛想ね」

ロボット「それが私ですので」

吸血鬼「まあいい、外に出して。ほら、あのドア……光が漏れているけれど」

ロボット「不可能でございます」

吸血鬼「なぜかしら」

ロボット「外の世界がオーナーにとって危険であるためです」

吸血鬼「具体的に」

ロボット「オーナーは『幻想』をオリジンデータにもつ生物です。幻想を放棄した外ではオーナーへ到達するリソースがゼロ以下に低下します」

吸血鬼「ごめんなさい。よくわからないの」

ロボット「端的に申し上げます。外に出たならば、オーナーは死を獲得します」

吸血鬼「ふむ。2000年以上延命した生命の終止符が『忠告を聞かなかったから』では面白くないわね」


#3#

吸血鬼「紅茶よ、ここにはそれが足りない」

ロボット「さようでございますね」

吸血鬼「用意して頂戴」

ロボット「レプリケートデータ検索、ありました。投影します」


ビビビ


ロボット「アッサムのお紅茶、淹れたてでございます。砂糖・ミルクはいかがなさいますか?」

吸血鬼「風情もへったくれもないわね」


#4#

ロボット「ら、ララ。ララララーララーララー♪」

吸血鬼「中々の美声ね」

ロボット「さようでございますか」

吸血鬼「さようよ。私がしもべに選んだだけあるわ」

ロボット「アイムシンカートゥートゥートゥートゥトゥー」ジャンッババッバッ

吸血鬼「どうして口から楽器の音も流れているのかしら」

ロボット「スピーカーです」

吸血鬼「スピークっていうか、ソング寄りのアレだったわ」


#5#

吸血鬼「血。血が欲しい」

ロボット「クラウドより検索、レプ――」

吸血鬼「だめよ。レプリケーターのまがい物は美味しくないわ」

ロボット「弱りましたね。人間はもう……」

吸血鬼「なんですって?」

ロボット「いえ、この区域は人の少ない地域でして」

吸血鬼「あー、やっぱりダメ。喉が渇いて。この際レプリケーターでもいいわよ」

ロボット「了解しました」


#6#

吸血鬼「貴方は……ヒト型ロボット、またの名をアンドロイドとおっしゃったわよね」

ロボット「はい」

吸血鬼「そしてアンドロイドとは人の形をした機械だと。機械といえば、鉄道や自動車、毛織物を作ったり、サトウキビを絞ったりするものよね」

ロボット「はい」

吸血鬼「つまり機械とは、なんらかの命令を与えられた無機よ。貴方はどんな『命令』を受けているのかしら」

ロボット「私は、オーナーの生命維持、および日常生活の円滑化、そして――」

吸血鬼「そして?」

ロボット「ヒミツです」


#7#

吸血鬼「今更だけど……今って、西暦何年なのかしら」

ロボット「現在を西暦と当てはめた場合、西暦2584年でございます」

吸血鬼「当てはめたら? 正式には、どんな暦法が採用されたのかしら」

ロボット「恵暦134年でございます」

吸血鬼「ま、知ったところで忘却の彼方へ。ね」

ロボット「後ほど、カレンダーをレプリケートいたしましょうか?」

吸血鬼「いいのよ。私と貴方の間に、時の流れなんて関係ないみたいだもの」

http://blog-imgs-54.fc2.com/h/e/r/heroch/1495239i.jpg

http://honto.jp/library/cp/ebook/2012/shueisha-c01/jojo/img/pc/dio1.jpg


#8#

吸血鬼「私って人襲うじゃない?」

ロボット「はい」

吸血鬼「血を吸って眷属にしたりするじゃない?」

ロボット「そうとされてますね」

吸血鬼「でも、実は人間のことが大好きなのよ」

ロボット「……そうでございますか」

吸血鬼「リアクション薄いわね。495年前――いや、今は1074年前かしら?――の旅人なんか、この話を聞いて私の屋敷に1週間も泊まってくれたのよ」

ロボット「それはそれは」

吸血鬼「人間が好きなのは本当よ。だから襲うのではなくて、双方合意の上での吸血がね……脳髄にビリビリくるように快楽なのよ」

ロボット「私が協力する手段、検索した結果ゼロ件です」

吸血鬼「なによ。人の思い出話にまでケチつけるの」

ロボット「めっそうもない」

吸血鬼「あ、『吸血鬼』の思い出話じゃん! とか突っ込まないこと」

ロボット「セルフ突っ込みでございますね」


#9#

吸血鬼「ケーキを頂戴」

ロボット「『ケーキ』にてレプリケートデータを検索した結果、392,491種類該当しました。条件の絞り込みをお願いします」

吸血鬼「ホント融通きかないわね貴方」

ロボット「全てお出ししましょうか」

吸血鬼「それだけは止めて頂戴。そうねぇ……NYに行ったときに食べた、下品なほどに甘くて濃厚なチョコレートケーキをまた食べたいわ」

ロボット「……オーナーの体調、嗜好を判断した結果、該当件数1件となりました。精製します」


ビビビ


吸血鬼「それでは早速食べましょうか」

ロボット「……お味の方は、いかがでございますか」

吸血鬼「…………うん。おいしい……甘いけど」

ロボット「無理はなさらなくても」

吸血鬼「想像以上に甘かった。このケーキも、私の考えも……エスプレッソをストレートで頂戴、適当なのを」

ロボット「承知しました」


#10#

吸血鬼「これだから下賎趣味は」

ロボット「いかがなさいましたか?」

吸血鬼「一晩経って、まだケーキの甘味が残ってるのよ。歯も3回は磨いたというのに」

ロボット「それはそれは」

吸血鬼「お口直しが必要ね」


ちゅっ。


ロボット「……キスでございますか」

吸血鬼「茶目っ気出してみたものの、そう平然と対応されるとね」

ロボット「さようでございますか」

吸血鬼「最新鋭のロボットなんでしょ? 感情くらいあってもいいじゃない」

ロボット「……心は消耗品でございますゆえ」

吸血鬼「あら、私は2700年生きて、一度も心を絶やしたことはないわよ」

ロボット「ご立派にございます」

>>13
忍たんハァハァ


#11#

ロボット「チェックメイトでございます」

吸血鬼「相変わらず強くて早いわね。悔しいけど負けを認めるわ」

ロボット「AIレベルを下げますか? 下げればゲームを楽しめるかと思われますが」

吸血鬼「冗談。それってつまり手加減。それなら潔く負ける道を選ぶわ」

ロボット「理解できません」

吸血鬼「『道』はいくつも選べる。そして人間は答えに『多様性』を求める。つまり最短や必勝がプライドとは限らないのよ」

ロボット「把握しました。ブシドー・スピリット・スタイルでございますね」

吸血鬼「あー。大体合ってるわ。おめでとう」

>>18
同士


#12#

吸血鬼「この部屋には窓がないのね」

ロボット「必要ないもので」

吸血鬼「つまり?」

ロボット「ここは地下でございます」

吸血鬼「あら、土や昆虫の観察にはあつらえ向きでなくて?」

ロボット「ですが食事中にカーテンの向こうを想像することになりますが……」

吸血鬼「そうね。確かに窓なんかつけても、明るくならないわ」


#13#

吸血鬼「レプリケーター、不思議ね」

ロボット「さようでございますか」

吸血鬼「あなたがレーザーを照射すると、その通りに何かが出来上がってるのよね。紅茶とか、ケーキとか」

ロボット「はい」

吸血鬼「貴方がレーザーで空間中に設計図を描いているらしいことは、なんとなく分かるわ。けれど、どうやって物質をそこに出力しているのかしら」

ロボット「高分子化合物を、投影された設計図上に配置しているのです」

吸血鬼「高分子化合物?」

ロボット「サイコロ状の黒い物体です。ありとあらゆる分子が高密度で凝縮されています。この高分子化合物から、必要な分子だけを抜き取り、3次元転送の要領で作り上げるのです」

吸血鬼「話がややこしくなってきたわね……要点だけ抜き出して頂戴」

ロボット「レプリケーターはエネルギーの消費が激しいですが、料理の技術を必要としません」

吸血鬼「なるほどね」


#14#

ロボット「オーナー」

吸血鬼「……Zzz」

ロボット(おや、寝ておられますね)

吸血鬼「……Zzz」

ロボット(……寝ておられますね。よくソファなどで眠られるものです。首が痛む姿勢ですよ)

吸血鬼「……」

ロボット(ベッドまで運ぶにせよ、起こしてしまえば叱られてしまうかも……)

ロボット(オーナーを転送? それは規約違反だ)

ロボット(なるほど、ソファを分解して、同時にベッドをレプリケートすればいいのか)

吸血鬼「ん……声が漏れてるわよ」

ロボット「失礼しました」

吸血鬼「ふぁ……ダメ、眠くて、立てないわ……。私をベッドまでエスコートして頂戴」

ロボット「了解しました」


ふにっ。


吸血鬼「そこは胸よ」

ロボット「Cですか」

吸血鬼「Crashするわよ!」



#15#

ロボット「ニンニクは」

吸血鬼「死すべし」

ロボット「ではニンニクを抜いてもおいしい料理を検索します」

吸血鬼「寝起きにニンニクを提案する貴方も貴方よ」

ロボット「はて」

吸血鬼「毒は胃にもたれる」

ロボット「料理の基本は、相手の目線に立つことでございますね」

吸血鬼「そう。たとえ自分に胃がなくてもね」


#16#

吸血鬼「っつ……」

ロボット「お怪我でございますか」

吸血鬼「まあ包丁使ってサクッとしただけじゃすぐ治るけどね」

ロボット「治療を……おや」

吸血鬼「完全に治ったわ。でも流れた血はどうしようもないから、拭き取って。あと着替えも」

ロボット「了解しました」

吸血鬼「あー、自分で脱ぐのめんどくさいなー……どうしようかしら……? 貴方に脱がせてもらったら、とても楽なんだけど」

ロボット「機械に頼りすぎると、退化してしまいますよ」

吸血鬼「ええ。たった今、悪戯心が退化したわ」


#17#

吸血鬼「絵の具とキャンバスを頂戴」

ロボット「仰せのままに」

吸血鬼「ありがとう」

ロボット「何をお描きになられるのでございますか?」

吸血鬼「昔見た光景よ……強大な力を持つ一国の宰相が、目の前であっけなく暗殺される」

吸血鬼「忘れもしない。アメリカのケネディ大統領……革命による民主化の次の次の次くらいに衝撃的な事件だったわ……」

ロボット「……」

吸血鬼「彼が死ぬほんの数週間前、ホワイトハウスで事務してたら大統領直々に口説かれてね。『最近忙しくてさ。ちょっと僕を癒してくれないかな』って」

吸血鬼「『貴方を癒せるのは貴方自身よ』って返したら、つまんなそうに別の女を口説き始めた」

吸血鬼「まあ、それだけなんだけど……どうにも印象深いのよね」

ロボット「ハンカチです」

吸血鬼「ん、ありがとう」


#18#

吸血鬼「ふふふ……」

ロボット「……」

吸血鬼(初めて寝室に忍び込んでやったわ。さて……)

ロボット「……」

吸血鬼(昨日は涙を見せたわね。なんだか悔しいから、堂々と忍び寄って、公然と八つ当たりさせてもらうわよ)

吸血鬼(この絵の具でネイティブアメリカンみたいに派手派手にしてあげる)

吸血鬼(首を何かのコードに繋がれてるわね。充電してるの?)

ロボット「おはようございます」


ガシィ!


吸血鬼「ひゃっ!」

ロボット「おや、腕を掴んでしまいましたね。失礼しました。どのようなご用件で?」

吸血鬼「な、なんでもない」

ロボット「寝ぼけておられますか?」

吸血鬼「寝ぼけてたら、どう返せばいいのよ」

ロボット「私が、寝室までお帰しするまでです」


#19#

ロボット「吸血鬼は流水を渡れないと聞きましたが、入浴は可能でしょうか」

吸血鬼「大丈夫よ。『流水を渡る』という認識が私の身体を弱体化させるだけで、『水の粒を浴びる』だとか『流れのない水に入る』というのは平気なの」

ロボット「なるほど。……『お目覚め』になられてから19日間、一度もお風呂に入られていませんが」

吸血鬼「お風呂? んー。私はなんというか、汗もかかないし、垢も全然でないからね」

ロボット「確かに、人間の代謝構造とは異なるようです」

吸血鬼「私、臭い?」

ロボット「……平均的な『毎日入浴する清潔な成人女性』の300兆分の1程度の臭気強度ですね」

吸血鬼「それって臭いの?」

ロボット「いえ。むしろ人間の嗅覚で認識できないほど、サラッサラの無臭ですね」

吸血鬼「まぁいいや、久しぶりに入るのも楽しいかも。入ろうかしら」

ロボット「良い心がけです」

吸血鬼「あ、一緒に入ってくれない?」

ロボット「ショートします」


#20.A#

吸血鬼「今日の日時を答えなさい」

ロボット「1月1日でございます」

吸血鬼「知らない内に年をまたいでいたのね」

ロボット「そのようでございます」

吸血鬼「私としたことが……新年を祝うことすら忘れるとは……やはりまだ寝ぼけているのね」

ロボット「これから祝いましょう。福寿草のお茶などいかがでしょうか」

吸血鬼「確かに元日草とも呼ばれるけど……毒草はイヤよ。飲んだことない、知らない毒はもっとダメ」

ロボット「福寿草程度のお茶で、貴方ほどの吸血鬼が亡くなられるとは思えませんが……いかがしましょうか」

吸血鬼「騒ぎましょう。お酒持ってきて。潰れるほど酔ってみたい」

ロボット「酒類も毒ですが」

吸血鬼「刺激なき徒然こそ毒。退屈を飲み干せ!! 世界はワインの湖で出来てるのよ!!」


#20.B#

吸血鬼「美味しくない。これ、ロマネ・コンティじゃないよ」

ロボット「さようでございますか」

吸血鬼「どういうことよ!! 説明して! 優雅なディナーが台無し!!」

ロボット「レプリケーターで生成されたものは、実物に劣るのです」

吸血鬼「つまり?」

ロボット「原子、分子の位置情報を1つ1つマッピングした、完全な設計図というものは、非常にデータ量が膨大。容量を消費するのです」

ロボット「クラウドデータ上に設計図をアップロードし、適宜、無線通信によってダウンロードするという方式では、完全な設計図を持つワインを瓶1つ生成するのに12時間かかります」

吸血鬼「そんなにかかるの」

ロボット「えぇ。『完全な設計図』ならば。そのため、設計図情報を簡略化し、圧縮したものを使用するのです。これにより、ご覧の速度です」

吸血鬼「圧縮と味に何の関係が?」

ロボット「ワインの熟成による微妙な『ゆらぎ』。複雑な味わいを、圧縮のため画一化するのです。分子が絶妙にばらけているからこその味わいならば、それの密度が均一になれば、味は落ちます」

吸血鬼「あー! 難しい。美味しくなくてもいいからもう一本空けて!」

ロボット「瓶から直飲みですか」


#21#

吸血鬼「今日は」

ロボット「1月2日でございます」

吸血鬼「元旦……過ぎちゃったわね」

ロボット「また来ますよ」

吸血鬼「悠長ね。……ボンッ! 明日にはみんな死んでいてもおかしくないのよ」

ロボット「そうなのでございますか?」

吸血鬼「たとえ話。そうでなくても2500年生きてきたからね。誰かの死を見送るのは慣れた」

ロボット「私は死にませんからね」

吸血鬼「知ってる」


#22#

ロボット「マリネしたイワシのサラダでございます」

吸血鬼「わぁ。綺麗な盛り付け。ヴェネツィアに住んでいた頃を思い出すわねぇ」

ロボット「詳しくお聞きしたいところです」

吸血鬼「華やかでね、晴れ渡って空の澄んだ日は、町並みとのコントラストが眩しい場所よ。まあ私、日光浴したら死んじゃうけどね」

吸血鬼「再生と繁栄の時代。後にルネサンスと呼ばれる時期に、ある貴族に招かれてしばらく滞在していたのだけれど……」

吸血鬼「そこで出された料理が、これにそっくり」

ロボット「意識はしていませんでしたが」

吸血鬼「偶然を運命と呼ぶのなら、これは運命ね」

ロボット「……」

吸血鬼「私の経歴についても知ってるんでしょ? イタリアで白いフード着た暗殺者のお手伝いをしたことがあるってさ」

ロボット「ええ。ですがそれは余談でしょう。イワシのように3枚に卸された悪人の話など、食事の品格を落とすのみです」

吸血鬼「な、何言ってるの……うっわ。ダメ。イワシがグロい物にしか見えなくなった!! っあー!!」

ロボット「おや、他意はありませんよ」

吸血鬼「鬼、悪魔、鬼畜!!」

ロボット「ロボットでございます」ニッコリ


#23#

吸血鬼「この数週間、お祈りするときは手で十字を切ってたけど、やっぱり十字架が欲しいわ」

ロボット「サイズ、材質などの指定はございますか?」

吸血鬼「んー。銀製で金の装飾――ゴシック系の装飾をよろしく、それで、肉厚で、高さ20cmもあれば十分かな。壁に掛けられるようにね」

ロボット「了解しました」


ビビビ


吸血鬼「ありがとう。壁に取り付けて……んんっ。んしょっ。ふぅ。届かないわ」

ロボット「手伝いましょうか」

吸血鬼「あら、ありがとう」


#24#

吸血鬼「主よ――あなたの慈しみに感謝し、この食事をいただきます」

吸血鬼「ここに用意された食物を祝福し、私達の心と身体を支える糧としてください」

吸血鬼「父と、子と、聖霊の名において――」

吸血鬼「――アーメン」

ロボット「アーメン」

吸血鬼「ここで目覚めてから毎回、食事の前にやっていることだけど……」





吸血鬼「……吸血鬼がおこがましい、貴方もそう思うのかしら」

ロボット「いえ。人種や国籍によって宗教は固定されるべきではありません。自由意志は尊重されるべきです」

吸血鬼「ありがとう……。さあて、食べようかしらね」


#25#

吸血鬼「サングラス。どぉ。似合う?」

ロボット「室内でのサングラスは、視界を暗くして視覚能力を低下させます。お気をつけて」

吸血鬼「いや、機能性じゃなくてね。ファッションの話」

ロボット「装飾性(ファッション)でございますか」

吸血鬼「そう。サングラスってクールだと思うのだけれど」

ロボット「……オーナーの目を見て会話できないのは、残念ですね」

吸血鬼「あらあら……?」

ロボット「グラスを外すことを推奨する言葉ではありませんが」

吸血鬼「理解してるわ」


#26.A#

吸血鬼「意味を失った言葉に、価値はあるのかしら」

ロボット「それは……難しい質問ですね。『意味を失った言葉』の定義を明確にしていただきたいのですが」

吸血鬼「意味を失った言葉――それは、この場における『生』と『死』」

ロボット「ふむ。定義の理由を伺ってもよろしいでしょうか?」

吸血鬼「生と死は密接にリンクしていて、ひとつの円環となって循環している。生と死は受け継がれ、次の世代にバトンを渡すということよ」

吸血鬼「けれど私とあなたで子供が作れないから、私の生命が生命である意味はなく、互いにロボットであっても問題はない」

吸血鬼「私が死んでも、貴方に何かを遺してあげることができない」

吸血鬼「循環性と意味を失い、形骸化してなお存続する『生』と『死』……価値を認められて?」


#26.B#

ロボット「……私の胸に、手を触れてください。金属の体は、ひんやりしてますよね」

吸血鬼「なによ。……そうね、モーターの発熱をあまり感じない。だいぶ冷たい」

ロボット「貴方を抱き締めます」ギュッ

吸血鬼「ちょっ、ちょっと……」

ロボット「36.9℃……センサーで分かります……これは『体温』ですね」

吸血鬼「……ええ」

ロボット「この暖かさは、生命体に特有です。この暖かさが、『生』の価値だと思います」

ロボット「確かにこの場には『生命の循環』は存在しませんが……生き物の価値がそれだけだと思わないでください」

ロボット「それに、オーナーが死ねば、私だって悲しむのです」

吸血鬼「そう……なら、死なないように努力するわ」

http://i.imgur.com/DDGfDai.jpg

>>58
阿良々木博士「好きなポケモンを選ぶんだ」
俺「忍で」
阿良々木「…」


#∞#


この声が届くとは思っていません。
ですが、打ち明けることなく『契約期間』が過ぎてしまいました。
……私の本当のオーナーは、貴方ではなく、世界を作った神。
神は最後に、『打ち明ける権利』を下さいました。

どうか……聞いているならば……。


――。


幻想の中に産まれた貴方は、周囲から様々な名を以て呼ばれ、『最も深い幻想』として各地の神話と歴史に残りました。

『創世記のイヴ』『マグダラのマリア』『スジャータ』『ジャンヌダルク』
『卑弥呼』『楊貴妃』『クレオパトラ』

更に、神話以外で、1800年以降の創作の世界でも貴方は強い幻想を残していった。
……最も、既に幻想は拡散しつつあり、貴方に任された幻想は、吸血鬼に絞られました。

主に『カーミラ』『レミリア・スカーレット』の2つです。


――。


貴方は、ひとつ幻想を紡ぐと記憶を消される。
貴方の幻想が失われるのと、記憶が失われるのは同時でした。

私は……貴方を愛してしまった。
私は、忘却されたくないと願ってしまった。

……目が覚めたら、気付くでしょう。
ドアの先に貴方を招くのは、神への叛逆行為ですが――。

――愛し合っているなら結ばれる。
運命があるならば、私はそれを信じたい。


#27#

吸血鬼「ふぁぁっ……おはよう」

……。

吸血鬼「あれ……? ねえ……」

どこにも、いない。

かつて彼が、開けることを拒んだドア。
それが今、頼りなく風に揺れている。

外の光景。

……身を焦がすほどの光だけ。
幻想なき世界。

吸血鬼「ねえ……貴方……そっちへ行ったの?」

身を投じた。

>>66
てめーは月火ちゃんでも調教してろ

>>67
月火ちゃんも俺が所有してるから
虐めは許さん

忍たんなら…フルパワー忍たんなら太陽光なんか…!


#72億#

吸血鬼「あら……」

ロボット「おはようございます」

吸血鬼「ねえ。歩き疲れたわ。『体が焦げない光』しかない、真っ白な世界なんですもの。何でこんな遠くまで……」

ロボット「オーナーと私は、この世界で2人きりです」

吸血鬼「ロマンチック」

ロボット「2人きりです……貴方と語り合うために、神と、全ての概念を殺したのですから」

吸血鬼「おっかないわね。……じゃあ、概念でもなんでもない、この空間は何なの?」

ロボット「……そうですね。ここは『聖なる数(72)の空間』です。あらゆる『幻想』を放棄した結果、形而下学的な『現実』をすら否定した世界です」


つまり、一周して『現実』→『幻想』に。
『常識が非常識に』『非常識が常識に』……そうルールが書き換わった世界。そんなところでしょうか。
褒めて下さい。
貴方と愛し合うために、72億年も彷徨って、やっと手段を見つけました……。 


吸血鬼「……ありがとう。今まで、頑張ったわね」

ロボット「! あ、あぁ……フフフ……アハハ……ありがとうございます……」

吸血鬼「それにしても凄いことやったわねぇ……貴方、何者なの?」

ロボット「フフフ……見ての通り、『人間以外』です」

吸血鬼「あら、貴方も私と同じなのね……」

ロボット「久しぶりのやり取りですね」

吸血鬼「……もう、いなくならないわよね……」

ロボット「約束はできません。ずいぶん乱暴に世界を壊してしまったので……もう二度とお会いできないかも……」

吸血鬼「それ以上言わないで。今はただ……」


身を委ねた。


END

>>71
瞬間では死なないね


あとがき

最後まで読んでいただきありがとうございます。
この物語は、「投稿の機を逸した過去作」を手直ししたものです。

普段はSS速報VIPで安価スレを書いています。

……宣伝になりますが。
今後、筆を折るタイミングで、自作SSのまとめサイトを作る予定なので、同一人物であることの証明をします。

◆tcMEv3/XvI
安価で超能力バトル
安価で超能力バトル - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401013008/)

なお現在、上記スレは多忙につき投稿を休止しています。


吸血鬼「あら、貴方も私と同じなのね……」 - SSまとめ速報
(http://open2ch.net/p/news4vip-1404220853-79.png)

>>79
ありがとうございます。
正直、めちゃモチベーションの上がる絵です。


けれどレポート執筆作業が全然捗らないので、ストレス解消がてら、需要があれば短編を書きたいと思います。
以下からお選びください。

①吸血鬼と三途の川

②吸血鬼と道具な日々についての日記

③吸血鬼とアサシンの邂逅


安価「下1つ」にて。



『吸血鬼と道具な日々についての日記』


#1日目#
#道具①ナイフ


人間の生活にすっかり毒されて、夜に寝るのが定着した頃……。

夜中、ふと目が覚めたら、胸から銀のナイフが生えていた。
血が止まらなかったのも覚えていたし、人生で死に掛けたのはその1度だけだというのも覚えている。

枕元に女が立っていて、私をじっと睨んでいた。
だから、言ってやったわ。


「銀の杭じゃなきゃダメなの。今、そんなルールを作ってみた」


すると女は慌てたのか、ここから立ち去ろうとする。
けど、ドアが開かないらしい。
だから、言ってやったわ。


「そのドア、内開きよ」


大袈裟にドアが開け放たれ、寝室を離れるように足音が去る。
10秒もすれば、もとの静寂が取り戻された。
ナイフを引き抜くと、体中の血がベッドを濡らす。

やだ、おもらししたみたいじゃない。
血尿? うっわ。かっこわるいなー。
メイドになんて釈明すればよいのやら。

そんなことを考えていると、ほどなくして失神した。


#2日目#
#道具②魔導書

目が覚めたのは夜。こんな会話があった。

吸血鬼「んーっ……ええと。『おはよう』?」

魔女「『こんばんは』よ。おバカさん」

吸血鬼「あぁ……いまいち覚えてないんだけど、女に刺された気がする」

魔女「それって私のような美人かしら?」

吸血鬼「いや、お前よりも美人だった気がする」

魔女「……あれは地下室に拘留してあるわ。今は魔法で眠っているから、翌朝に尋問なりなんなりとしなさい」

吸血鬼「ありがとう。愛しているよ」

魔女「はいはい。私もよ」

吸血鬼「……ところで、どうやってあの女を捕まえたの?」


魔女は答えなかったが、その手に持った書物が僅かに青白く光った。
『魔導書(グリモア)』……なんとなく察しはつく。


吸血鬼「メイド。喉が渇いたわ。血を頂戴」


そして、メイドは黙って首筋を捧げる。
もう、私の痕跡で痛々しいほどだった。
目立つように新しい歯形をつけ、血を、あえて下品な音を立てながら啜っていく。
メイド服が血まみれになった頃、メイドの体がびくんびくんと跳ね上がる。
恍惚とした瞳。彼女は絶頂に達したらしい。
この支配感といったらたまらない。


魔女「変態……」

吸血鬼「ヴァンプっぽくていいじゃないか。なあ……魔女よ。お前は『吸血処女』だったな。さあ、血を吸わせておくれ」

魔女「……図書館で作業してるから、何かあったら図書館に来なさい」


ちぇっ。
つまらないな。

残りは午後20時30分頃、スレが残っていたら投稿します。

午後20時ってヤバい言い回しでしたね。
午後8時です。

ちょっと帰宅が遅れたので、準備のために20分ほどお時間を頂きます。



#3日目#
#道具③言葉


地下の牢獄で、拘留されているらしい『女』を見つけた。
裸にされ、両手両足を拘束されていて、見るも無惨語るに残念というヤツだった。


吸血鬼「ハロー」

女「!! っひ……」

吸血鬼「そんなに怯えなくてもいいんじゃない?」

女「その手に持っているナイフは……」

吸血鬼「そ。2日前、私の胸に刺さってたヤツ。アンタ、何か知らない?」

女「……」

吸血鬼「かわいそうな女……」


そして私は、おもむろに彼女の拘束を解き――。
――彼女の手に、銀のナイフを握らせてやる。


吸血鬼「このナイフで私をもう一度刺しなさい! 憎いんでしょ!?」

女「……ッ!」


彼女は私の紡ぐ言葉に支配されている。
相手を支配するのは、とにかく気分がいい。

ほら。
再び銀のナイフが突き立てられる。
何度も、何度も。

私が私の血で染まっていく。
でも私は死なない。


女「なんで……なんで死なないの……?」

吸血鬼「……言霊って知ってる?」



言葉は、ただ人の暮らしを支える。
言葉は、そこにあるだけで凶器だ。

単なる音波を越えて成長した『言葉』は――『言霊』と呼ばれる。


吸血鬼「ここら辺一帯に、強力な言霊結界が施されていて……ほら、分かる? 言霊結界よ」


私がそう諭すように言うと、彼女は呟くように虚ろな目で言った。


女「言霊結界……『常識』を書き換える、固有の結界……」

吸血鬼「アハハッ! 理論結界が叫んでいる……!!」


吸血鬼は銀に強い!
吸血鬼は日光に強い!
吸血鬼はニンニク大好き!!

(銀については大嘘。実際は死ぬほど痛いけど我慢している)


吸血鬼「分かった? お前、アウェーでよく頑張ったよ。でも予選敗退だ。故郷に帰りなさい」

女「ダメ……帰れない……私に故郷は無い……」

吸血鬼「貴方、後が無かったのね」

女「私は……」


「私は、ヴァンパイアハンター!! お前を殺すために全てを捧げた!」


吸血鬼「裸で凄まれても」


彼女の顔が真っ赤になり、心が沸騰する音が聞こえた。


吸血鬼「まあ……お茶でも飲んでいきなさい」



#3日目#
#道具④紅茶


魔女「御免なさいね。貴方の服全部溶かしちゃって、お嬢様のお古しかなかったの」

女「溶けた……そういえば、貴方に拘束される前後の記憶が……」

魔女「この『ヒュグロの魔導書』の爆発魔法で……貴方の皮膚を服ごと溶かしたのよ。で、治癒魔法で元通りってわけ」

吸血鬼「うっわ。紅茶飲んでる時にそういうこと言う? デリカシーないわねぇ」


メイドが入ってきて言った。
「ローストビーフのサンドイッチはいかがですか?」


吸血鬼「グロの天丼は止めなさい」

メイド「?」

吸血鬼「あぁ。いや。全員分ある?」

メイド「はい、もちろん、全員分……」


メイドがそこまで言った瞬間。
遠い振動と、鈍い衝撃音。
屋敷のシャンデリアに灯された明かりが全て消えた。


吸血鬼「……おそらく敵襲よ。魔女、メイドと客人を守りなさい」

女「私も行きます」

吸血鬼「客人は客人らしく……」

女「なんで私が客人なんですか!? 貴方を何度も殺そうとしたんですよッ!?」

吸血鬼「だからこそ客人と呼ぶにふさわしい」


じゃあ、ついて来なさい。
客人の要望に応えることが、屋敷の主としての品格を示すのだから。



#3日目#
#道具⑤故郷


刺青「ククク……あとは、この柱を壊せば、あの時計塔は支えを失って倒れる……倒れる先は……」

吸血鬼「あの子のいる食堂」

刺青「ッ!? ヴァンパイア、今は昼間、なぜ太陽の光を受けて無事なのだッ!?」


音より速い右ストレート。
怪しいヤツの首は完全に千切れ飛んだ。


吸血鬼「日焼け止めクリームよ」





女「はぁっ……はぁっ……やっと追いついた……」

吸血鬼「あら。遅かったのね」

女「頭のない彼は……ああああ! この刺青は……!」

吸血鬼「知り合いだった?」

女「故郷に残してきた、私の夫です……」


『ヴァンパイアハンターの里』なるものがあるらしい。
彼女は、その里の落ちこぼれで……もしヴァンパイアを狩れなかった場合、一切の人権を剥奪される予定だった。

彼女は私を殺すのに失敗し、私たちに囚われた。

ヴァンパイアハンターは、なによりも『ヴァンパイア狩りの技術』が流出するのを恐れていた。
だから、彼女は口封じのために襲われたということだ。

それも、他ならぬ自身の夫に……。



#道具?人間


吸血鬼「しばらくここに泊まりなさい……」

女「ここに居る限り、貴方に迷惑がかかります」

吸血鬼「どちらにせよ、私は吸血鬼よ。ヴァンパイアハンターが来るのはいつものこと」


問題は、貴方よ。
人に操られ、運命に操られ、まるで道具じゃない。
――そんなんでいいの? 貴方の人生……。

なら、私だけは、貴方を道具として見たりしない。


吸血鬼「対等な友達になってくれないかしら」


なぜ彼女に目を付けたのか。
それは、今でも思い出せない。

そんなわけで、彼女との短い同居生活が始まった。



#4日目#
#道具No.6:弓矢


女「いいですか……弓はこうやって構えます」

吸血鬼「へぇ。利き手で弓を持つんだと思ってたわ」

女「弓は基本的に左手で構えましょう。さて、構え方さえしっかりしていれば――」


「100m先の的にも、100発100中です」


吸血鬼「ワオ。的のド真ん中に行ったわね」

女「さ、お嬢様もどうぞ」

吸血鬼「矢だけで十分よ」


矢に軽く手を触れ、そして放り投げる。
矢はでたらめな加速と、いんちきめいたカーブをして的の一番外側に刺さった。


吸血鬼「魔法の欠点は、精密動作性かな……貴方の職人芸には勝てないよ」

女「いや、十分萎えるんですが……弓の使い方教えてるのに、弓使わないなんて……」

吸血鬼「力加減が難しくてさ。力をセーブすれば30mも飛ばないし、力を使えば弓が壊れる」

女「なるほど」

吸血鬼「まあ、貴方が弓を使えるのは分かった。さあ、狩を始めましょ」


目標は主に兎や鹿だ。
この日は午前中だけで十分な量が手に入ったので、引き上げた。

ついでにヴァンパイアハンターが敷地に入ってるかもしれないので偵察もしたが、見つからず。
このあたりは人が寄らない魔鏡なのだ。



#マイナス31日#
#道具No.650:自動車


午前の通勤ラッシュ。
ニューヨークの大通り、蛇のように蛇行し、長く伸びた渋滞。
運転席でアリシアが、スマートフォンに映った映像を見て言う。


アリシア「にゃはははは!! 死んでんじゃん!!」

ラスタ「おいおい、マジかよ! お前がやったのか?」

アリシア「いいや、私じゃないよ。ねえ、吸血鬼さん?」

吸血鬼「そうよ」

ラスタ「じゃあデイヴとの賭けは俺が勝ちだな」

デイビッド「ああ、ほら25ドルだ。持ってけ泥棒」


後ろから長いクラクションが鳴らされる。


ラスタ「60cmの隙間を30cmに詰めなきゃクラクション鳴らす奴らの集まりなのか? この行列は!!」

吸血鬼「アメリカっぽくていいじゃないの? そういうのってさ」

デイビッド「全く。下見どころじゃねえな。帰りに映画でも見てかないか?」

アリシア「……明日には映画並みにド派手なアクションを楽しめるにゃよ」

吸血鬼「そうね。アメリカっぽくていいわね」


左手で髪をいじりながら言った。
私は左利きだ。



#4日目#
#道具No.7:火


吸血鬼「貴方、料理は?」


右手で鹿を軽々と持ち上げながら聞く。
私は右利きだ。
もっとも、左手でも好きなだけ重いものを運べるけど。


女「苦手です……」

吸血鬼「そ。じゃあ、今度は私が教える番ね」

女「食器とか壊したりしませんか?」

吸血鬼「弱く力加減する分には楽勝なのよ。さて」


「まず第1に、料理とは『火の芸術』よ」


吸血鬼「火加減ひとつでその料理人の腕前が分かるわ」

女「火加減ですか」

吸血鬼「何をしたいかで火力の目安は変わってくる。気温や湿度でも――この嗅覚を身に着けることね」


女は頷いた。
そして、真剣な表情で、渡してやった料理本を読んでいる。

その間に、私は鹿の解体を済ませる。
『まずは包丁より先に火を知るべし』
それが私の持論だ。

結論から言って、料理は大成功だった。

今回はここまで。
また夜に投稿します。

都合で書き込めませんでした。すみません。
今から2件だけ投稿できそうです。


#4日目#


女「……どうですか?」

魔女「うん。あっさりまとまってて良いわね。鹿肉特有の臭みがうまく消えてる」

女「やった!」

魔女「肉厚のステーキをこんなに上手く焼く初心者、初めてみたわ……アンタ、才能あるよ」

女「……!!」

吸血鬼「あら、私の教育の結果よ? そっちは褒めないのかしら?」

魔女「はいはい」


その晩。


吸血鬼「ここが貴方の部屋。備品は好きにしていいわよ」

女「ありがとうございます!」


深夜。


吸血鬼#「明日決行するのだけれど。準備できているわね?」

吸血鬼「ええ」

吸血鬼#「目標の銀行は鏡面が多い。もう一度見取り図を確認しなさい」

吸血鬼「分かっている。『隣の世界のわたし』よ……私たちは一心同体なのだから」


唯一の不安は、当日にヴァンパイアハンターが介入してこないかということだった。
常に情報とは漏えいしていると思った方がいい。
そのくらい慎重なほうが……。



#●日目#


銀行。
覆面姿で銃を持った4人組が、勢いよく正面玄関から侵入する。

阿鼻叫喚。
広い銀行内で、数十人の客と、十数名の職員がそれぞれの方法で恐怖を表現していた。


ラスタ「動くな!! おいッ! 両手を後ろに回して伏せろッ!!」

デイビッド「騒いでいいのは俺たちだけだ! ケツの穴締めて黙ってろ!」


カチッ、カチッ、カチッ、カチッ。
デスクの裏側にあるボタンを何度も押しながら、受付嬢は怯えている。
警報装置が作動しない。


アリシア「にゃははははッ! 警報なんて無駄だよ!」


ドンッ!!

受付嬢の頭が吹き飛んだ。
アリシアが、ショットガンの引き金を躊躇なく引いたからだ。


アリシア「私より可愛いヤツは皆死ね!!」

吸血鬼#「落ち着きなさい。貴方、私の次に可愛いわよ」

デイビッド「おい、職員通路のロックを解除だ」

アリシア「はいはい」


アリシアが腕に巻きつけた端末をいじると、あっけなく開いた。
あの先にあるのは――。

大量の金塊、そして銀塊。



ある書物の一節――。


――吸血鬼は実に奇妙で非科学的な存在だが、彼らの生態は決して破綻していない。


まず、なぜ吸血鬼は鏡に映らないのか。

それは、吸血鬼が『鏡の性質』を自在に操っているからだ。


光が反射した結果である『鏡』の奥に、新しい『隣の世界』を創造していると言っても良い。


彼らは鏡を『魔鏡』へと変化させる。


そして魔鏡に映ったものを自由に出し入れできる。

魔鏡から取り出したものは、その魔鏡には反射しなくなるのだ。


そして吸血鬼は全て、鏡の奥からやってきた。

これが何を意味するのか。


そう。

吸血鬼は、付近に鏡がある限り『隣の世界の自分』を無限に連れてくることが出来る。


光を歪ませず反射する可能性のあるものを、吸血鬼の近くに置くべきではない。



#西暦2014年8月12日#
#5日目#


女「……!」


私は、本を置いて振り返る。
私の鹿料理を褒めてくれた女性が立っていた。


魔女「読んだみたいね。そうよ、ここは『魔鏡』の中の世界――」

女「親切に、教えてくれるんですね……私は元ヴァンパイアハンターですよ」

魔女「ハンター内でも貴方は小さな歯車に過ぎない。貴方が欠けたって、何も変わらない……」

女「人を使い捨ての道具みたいに言わないでください」


「否、お前は道具だ」


女「……。違います……」

魔女「なら証明してみせなさい。お前が道具でないならば、その書物以上の知識を持っているはず」

魔女「人と道具を峻別するのは、ただただ、見ている世界の広さのみ」


「さあ、聞きましょうか」
「吸血鬼は、今どこにいる?」


女「…………」

魔女「アッハハハハハハ!!! 何も知らないのね!?」

女「ええ、私はどうせ、何も知りませんよ! 何が言いたいんですか?」

魔女「……教えてあげる。そして、お前を道具の身分から解放する」



8月10日

ある富豪が大量の『銀』を購入した。

れど、それがあまりにも多いので――。

銀行に保管されてから、順次輸送される運びとなったのよ。


そして8月12日の正午が、第1回の輸送が始まる予定よ。


けれど吸血鬼は、不穏当な情報を察知した。

その日に合わせ、ヴァンパイアハンターが銀行強盗するらしい。


ハンターが大量の『銀』を手にすれば、吸血鬼側は圧倒的な不利となる。

だから彼女は、その妨害に出たのよ。


「妨害?」


銀行強盗から強盗するという形でね。



女「……止めさせるべきです。ハンターは今、危険です」

魔女「危険……。そう、例の『切り札』のことを言っているのね」

女「知っているんですか?」

魔女「貴方は?」

女「いえ……詳しくは知りませんが……」


しばしの沈黙。


魔女「……私も、遅れて彼女を支援する予定だけど。貴方も随伴しなさい」

女「えっ」

魔女「ここに『魔鏡』がある。そして私は、『魔鏡』をコントロールできる」

女「貴方も吸血鬼なんですか……?」

魔女「――早くしないと置いてくわよ」


女「……止めさせるべきです。ハンターは今、危険です」

魔女「危険……。そう、例の『切り札』のことを言っているのね」

女「知っているんですか?」

魔女「貴方は?」

女「いえ……詳しくは知りませんが……」


しばしの沈黙。


魔女「……私も、遅れて彼女を支援する予定だけど。貴方も随伴しなさい」

女「えっ」

魔女「ここに『魔鏡』がある。そして私は、『魔鏡』をコントロールできる」

女「貴方も吸血鬼なんですか……?」

魔女「――早くしないと置いてくわよ」



#●日目#
#道具No.0:吸血鬼


アリシア「にゃははははッ! 敵の銃撃が止まらにゃんにゃんにゃん!」

吸血鬼#「なんですって?」


あまりにも激しい銃撃戦は、まるで工事現場のように聞こえる。
案外そんなものだ。

銀行奥、金庫内に立てこもる一行。
金塊や札束は身を護ってくれない。

ライフルによる攻撃はより激しくなる。

倉庫を出ると、正面に幅4mほどの通路が伸びている。
ところどころの遮蔽物に身を隠した戦闘員が、激しい銃撃を浴びせてくる。


金庫内の財宝がどうなろうと、お構いなしの猛攻だった。


デイビッド「……敵の銃弾に『銀』が含有されていることを確認した」

ラスタ「マジでヴァンパイアハンターだったのかよ!」

吸血鬼#「私の眷属なんだから、アンタたちも『銀』に弱いのよ!!」


放り込まれたグレネードを投げ返しながら、吸血鬼が言った。
吸血鬼と契約した者は『眷属』と呼ばれ、強大な力を手にする。


その代償は3つ。

①吸血鬼に絶対服従。

②吸血鬼の弱点をより色濃く受け継ぐ。

③72時間ごとに、合計で500ml以上の血液を摂取しなければ死亡する。


ラスタ「おい、何か近づくぞ! 光かッ!?」


こぶし大の光が凄まじいスピードで飛来し、敵の戦闘員を一掃する。
舞い上がる粉塵。
粉塵が晴れる。
1人、淡く輝く本を持った人影があった。


魔女「まったく……私がいなきゃ何も出来ないのね」

吸血鬼#「助かったわ。自慢の膂力も、銀の弾幕の前じゃ分が悪いし」

デイビッド「こちらの御婦人は?」

吸血鬼#「知り合いの魔女よ」

ラスタ「魔女って……あの魔女か!? 実在のファンタジーは吸血鬼くらいだと思ってたぜ!」

魔女「そうね。……もう来て大丈夫よ」


魔女が手招きをすると、女が出てきた。

女「吸血鬼さん!」

吸血鬼#「アンタ、抜け出したのね!」

女「ええ……でも、足手纏いにはなりません!」

アリシア「賑やかでいいねえ」


魔女の魔導書が輝きを増す。
次の瞬間には、吸血鬼の眷属3人が声もなく倒れていた。


魔女「『即死の魔導書』……半径10m以内から『術者より弱い存在』を任意数抽出し、それを確実に殺害する」

吸血鬼「なんで私の眷属殺してんのよ……」

魔女「そして『漆黒の魔導書』……半径100m以内の全ての光を打ち消す」


そもそも光が無いのだ。
『夜目が利く』とか、そういうことでは対処できない。
視界が暗転する――^。



#魔女#


女「な、何をッ……!? 離してください!」

魔女「この女は『人質』よ……そして周囲を暗くした理由が分かるかしら」

吸血鬼#「……鏡面を失くすため……」

魔女「そう。貴方たちは、鏡があれば何でもそれを『魔鏡』にする……魔鏡から無限に吸血鬼が湧いてくる」


――鏡の定義は、光をよく反射すること。
  光のない世界では、貴方は増殖できない!
  鏡に映らずに死んでゆけ!


魔女が叫び、不可視の弾丸が飛び交う。
僅かな音と振動だけを頼りに回避する。

私は、これをよく知っていた。

『精神分解弾』だ――。
効果は単純、触れたら心が壊れて死ぬ……。

本来は『大袈裟な青白い光』を欠点としていたが、その光ごと、周囲の光を全て奪うことによりこの弱点をカバーしていた。


吸血鬼#「くっ……ねえ!! ひとつ聞いていいかしら!」

魔女「フフフ……何かしら」

吸血鬼#「何で私を襲ってるんだ!? 400年も一緒だったじゃないか!」

魔女「……400年も一緒だったからよ」

吸血鬼#「私は貴方を愛していた! お前もそれに応えてくれた400年だったはずッ!!」

魔女「だからこそ殺し合うのよッ!!」


「『魔女』に『吸血鬼』!! ……幻想は、この時代に必要とされていない過去の遺物!」
「だから……古い道具は買い替える必要があるの!!」


吸血鬼「私たちは『道具』ではないッ! これまでもッ! これからもッ!!」


#精神的な死#


魔女「なら吸血鬼として朽ちてゆけッ」


私の額に『精神分解弾』が命中する。
バリバリバリ。雷鳴のような響き。

心が崩れてゆく――。





女「な、何が起きたんですかッ! 吸血鬼さん! 返事をしてください!」


私は魔女だ。
光がない状況でも、自分の放った魔法が現在どうなっているか分かる。
状態は『被弾』――。吸血鬼は確実に死んでいる。


女「貴方が殺したのね!? 400年来の付き合いなんでしょ!? この人でなし!」

魔女「人にあらず。魔女だから悪人なんでしょ?」

女「『魔女だから悪人』?」

魔女「『道具』と形容したほうがいいかしら」


魔女は、集団ヒステリーにより生まれた。
魔女狩りの歴史はあまりにも有名だ。

そして、魔女狩りの犠牲者は9割以上、『魔女』ではなく生身の人間だった。
『魔女狩りの対象』は、個人間の利害や恨み、個人の妄想によって告発されてきたからだ。

魔女が居なくなってしまえば、魔女狩りは出来ぬ。
よって、『伝承の発生源』として、魔女は生かさず殺さずの状態を保たれてきたのである。


「より大きな集団心理や教会に、人生のレールを強制される気持ちが分かる!?」
「それは吸血鬼も同じなのよ……こんなに辛いなら………」

「誰かが終わらせなきゃ、しょうがないじゃない!!」



#吸血鬼#吸血鬼#


腹部に、耐えがたい熱さを感じる。
抉られている。

――確認のために『漆黒の魔導書』による暗転を0.5秒だけ解除してしまったからだ。


吸血鬼「お前の負けだ。さあ、家に帰ろう」


再びの暗転。
だが状況は一変している。
周囲に10体の吸血鬼があり、人質の女も10mほど後方に引き離されていた。
……私の負けだ。私は、暗転を解除した。


吸血鬼「私が1人しか居ないと、いつから錯覚していた?」

吸血鬼「私が操っていたのは『鏡』ではなく『概念の境界線』だ……吸血鬼は、招かれざる部屋には入れないのさ」

吸血鬼「自分自身に、隣の世界の自分を重ねて入れた……『わたし』は最初から2人居たということッ!」


私は、ふと、先程吸血鬼が倒れていた場所を見る。


吸血鬼#「……」


彼女自身が死んでいた。
この吸血鬼は、目的のためなら自分をも殺せる人だ。

……生命に対する考え方の差。
それが私の敗因――。



#吸血鬼#魔女#


吸血鬼「ちょっとボタンを掛け違えただけなのよ……もうやめにしよう。いつもの日常に戻るだけ……」

魔女「違うのよ……ボタンを落としてしまった……もう後戻りできない」

吸血鬼「どういうこと?」

魔女「『ヴァンパイアハンター』のリーダーは、私よ」

吸血鬼「!!」

魔女「全ての『幻想』を殺す……最後に残るのは、私の屍だけ……」

魔女「私を殺しなさい! 結局、殺し合いしかないのよ!!」

吸血鬼「……分かった。それ以外に言うことは?」

魔女「貴方の『魔鏡』に、『アカシックレコードの断片』を保管してある」

吸血鬼「アカシックレコード?」

魔女「の、断片よ。貴方の人生で役に立つはず。それじゃあ……また来世で会いましょう」


私は、吸血鬼。
無謬なる力を持つもの。

私は、魔女の腹を引き裂いた。
それと同時に頭部を完全に破壊したのは――最小限の苦しみで絶命させようとしたからだ。

市民の通報を受けて、ニューヨーク市警が通報後20分で到着したのと、全てが終わったのは同時刻だった。
そこにあるのは10体ほどの死体と、鏡だけ――。


#そして……#
#道具No.X:幻想


吸血鬼「いろいろゴタゴタしたけど、私とメイドが貴方を客人として迎えるから」

女「……ありがとうございます」

吸血鬼「もう。本当に気にしなくていいのよ」

女「…………貴方は、人間が嫌いですか?」

吸血鬼「……何よ、急に……」

女「人間は、貴方のイメージを流用して、好き勝手に貴方を題材に創作しています」

女「勝手なイメージを押し付けられる毎日。儲けるのは一部の作家と、それにしがみつく一部の集団だけ」

女「作られた幻想に、実在する迫害。人間を嫌いになってもしょうがないと思います」

女「もう一度聞きます。……貴方は、人間が嫌いですか?」

吸血鬼「……私はね……」


「人間が大好き」



#顛末#


吸血鬼「結局、あの女は、私を刺してから2週間。最後の話を聞いてから7日目に去って行ったってワケ」

吸血鬼「メイドはあれの3年後、被吸血依存症で死んだ。客人の女は5年後に強盗に刺されて死ぬ」

ロボット「諸行無常でございますか」

吸血鬼「いい熟語ね。私、人間の儚さっていうのも気に入ってるから」

ロボット「……結局、アカシックレコードの断片というのは」

吸血鬼「それはね……」


吸血鬼。
女。
魔女。
3人の思考を全てインプットした、全自動日記だった。

……ところどころ、一人称がズレたことがあったでしょ?
あれは、アカシックレコードの記録を再編して貴方に伝えたからなのよ。


ロボット「では魔女は、貴方に何を託したかったのか……」

吸血鬼「そうね……あいつは、あいつ自身の『弱さ』を私に託したかったんじゃないかしら」

ロボット「弱さ」

吸血鬼「『思い出』とは、所詮幻想に過ぎない。けれど、それに縋り付くことでしか生きてゆけない」

ロボット「私にも心当たりがございます」

吸血鬼「……でしょ?」


さて。
概念すら失ったこの世界。
少々の思い出話を休止して――。


1人と1体の創世記が始まった。

END


以上です。
わりと受けの悪い話を書いてしまいましたね……。

ところで、上の安価では「①吸血鬼と三途の川」が人気でしたが――。

書き溜めの重要性を痛感したので、また別にスレを建てて書きます。

それでは。

乗っ取りだと思われそうなので、もう一度こっちのトリで。

トリが変わった理由は、メモを紛失していたからです。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年07月15日 (火) 11:17:58   ID: 6AYFyKy5

薔薇殺しのカーミラ...
吸血鬼とロボットのやりとりよかったですよ。乙です!

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