素直ヒート「わたしはぁぁぁぁ!!おとこがぁぁぁぁ!!好きだぁぁぁぁ!!」 (87)

ガチャッバタン


素直ヒート「ついに帰って来たんだな、我が故郷よ」

ヒート(男はあの時の約束をまだ憶えているだろうか?)

ヒート「うぉぉぉぉぉぉ!!明日が待ち遠しいぞぉぉぉぉぉ!!おとこぉぉぉぉぉぉ!!」ジタバタジタバタ


<ヒートー。さっさと荷物運んでくれー。


ヒート「忘れてたぁぁぁぁぁ!!」ズダダダダダダッ!!

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―翌日―


ピーンポーン!ガチャッ!


男友「よっす男!学校行こうぜ学校!」

男「おはよ。男友は朝から元気だな」

男友「そりゃテンションもあがるってもんだぜ!うちのクラスに転校生が来るんだからよ!」

男「それって男子?女子?」

男友「バカか!なんでヤローが来るのをいちいち喜ばなきゃいけねーんだよ!女の子に決まってんだろ。女の子にぃ」ニヤニヤ

男「マジかよ。知らなかった」

男友「ほんとに知らなかったみたいだな。だとしたら遅れてるぜ、おまえ。これ、俺たち二年の間じゃけっこう有名な噂なんだぞ」

男「ふーん」

男友「感心してる場合かよ……」オイオイ

スタスタスタスタ…


男「あ、この公園」


『工事中につき関係者以外の方の立ち入りを禁止します』


男友「ああ、今度ここに新しくアパートができるんだってよ」

男「残念だなー。昔よく遊んだのに」

男友「土管の中で隠れんぼしてよく泥だらけになって帰ったよな!」ニヤ

男「それで親父にゲンコツくらうのはお約束だったな」ニヤ

男友「うっわ、懐かしー!俺んとこも同じだったぜ!」

男「なんだ。どこのうちもやることは一緒なんだな」

男友「だな」ニヤニヤ

男友「なあ、男。嬢ちゃんおぼえてるか?」

男「また懐かしい名前を……」

男友「お嬢様っぽいから嬢ちゃんって、当時の俺は我ながら安直なネーミングセンスだと思うだろ?」ニヤ

男「でも、間違ってはないよな。要領わるいし、おっちょこちょいだし、トロいし、不器用。オマケにすげー泣き虫だし」

男友「おいおい、そりゃいくらなんでも言い過ぎだろ!」ハハハ!

男「よく嬢ちゃんをいろんなところに連れ回してやったよな」

男友「昔の俺たちはとんだクソガキだったな。野良犬に向かってBB弾乱射するわ、近所のじじいの家の窓ガラスをボールで割るわ……」

男「逃げ遅れて説教くらうのは、毎回嬢ちゃんの役だったな」

男友「そうそう!そうだったな!」ガハハ!

男友「なぁ……俺は知ってるんだぜ」ボソ

男「なにを?」

男友「男。おまえ、嬢ちゃんのこと好きだったろ?」

男「……っ!」ドキッ!

男友「図星ってやつだな」ニイー

男「ヤベ。もうこんな時間だ」ダッ!

男友「オイ、こら!逃げんなー!」ダッ!


男(嬢ちゃんか……今頃美人になってんだろうな)タッタッタッ!

男(約束、まだ憶えてんのかな?いや、さすがに忘れてるか)タッタッタッ!

男友「待て―おとこー!てめっ、卑怯だぞー!」タッタッタッ!

ガララララ


ザワザワ…ザワザワ…


男「今日の男子連中はなんか妙に浮き足立ってんなー」ドスッ

男友「性欲と妄想力溢れる高校二年男子、考えることは似たようなもんだ。やっぱみんな女の子が転校して来るのが嬉しいんだよ」ヨッコラセ

男「そういうもんかね」

男友「興味なさそうだな」

男「べつにー」

男友「ま、男にもいずれわかる日が来るさ。童貞の純情さってやつがな!」ポン!


女友「まーたあんたら、朝っぱらから妙な話して……少しは時間帯考えてよね」スタスタ

男「女友」

男友「妙な話じゃねーよ。失礼だな。これはマジメな話なんだぞ」

女友「なんでもいいけど、せめてもうちょっとボリューム下げなさいよ。こっちは聞きたくなくても勝手に耳に入ってくるんだから」

女友「大体こんなくだらないことでいちいち盛り上がるなんて、男子は幼稚なのね。バカみたい」ヤレヤレ

男友「相変わらずこまかいところをネチネチネチネチ……あーやだやだ。これだから口うるさい女って嫌いなんだよなー」ハァー

女友「なによ!」バチバチバチ!

男友「なんだと!」バチバチバチ!

男(この二人、仲がいいのやら悪いのやら……)


・・・・・・


男友「にしても、どんな子が来るんだろうなー。かわいい子だったらいいけど、ブスだったらチェンジするしかないな。チェンジするしか」

男「今のおまえ、何気にひどいこと言ってるぞ」

男友「時と場合によって童貞は紳士みたいに優しくもなるし、悪魔のように非情にもなるのさ」フッ

男「そういうもんかね」

女友「それなら心配ないわよ。さっき職員室に偵察に行った男子が、他校の制服を着たきれいな女の子を見たって。多分それが例の転校生の正体よ」フフン

男友「なんだよ。興味あるなら最初からそう言えよ」

女友「か、勝手に耳に入ってきたのっ!いちいち人の揚げ足とらないでよね!////」カァーッ!

キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーン…


ガヤガヤガヤガヤ


男友「おっと。男、続きは次の休み時間な!せいぜい感想きかせろよー」ヒラヒラ

女友「またね、男くん」スタスタ


ガラララッ!


担任「おや、みなさん。今日は珍しく席に着いているようですね。感心感心。このクラスの担任として私も鼻が高いです」

男友「それも今日限りだけどな……」ボソッ

担任「では、早速ホームルームを始めましょう。……の前に――」

担任「素直さん。入ってきなさい」チラ


<は、はいっ。


男「…………」ボーッ

ヒート「…………」ガシャン!ガシャン!

男「…………」チラ

男(なんだあのロボットみたいな歩き方?)

担任「素直さん。リラックスリラックス」ポンポン

ヒート「ひゃいっ!!」ビシーッ!!

担任「す、素直さん?」

ヒート「ひゃーひょー!!」ビシーッ!!

担任「だめだこりゃ……」ハアーア…

男(今度はドイツ軍の兵隊みたいな動き)


男「…………」

男(でも、たしかに顔はかわいいな。顔は)

担任「えー、これはどうしたものでしょうかね。しょうがない。彼女に代わって私が紹介を――」

ヒート「だいじょぶ……です」カチコチ…

担任「本当に大丈夫ですか素直さん?別に遠慮する必要はないんですよ?」

ヒート「だいじょうぶですからぁぁぁぁぁぁッ!!」キンキンキンキン!!

担任「…………」キーーーン


シーーーーーーーン…


ヒート「はあはあはあはあ……」ゼーハーゼーハー

ヒート「……よし!」ギュッ

男(な、なんだ?次は一体なにをしでかすつもりなんだ?)

ヒート「気合だあああああぁぁぁぁぁ!!」


バシンッ!!バシンッ!!バシンッ!!バシンッ!!


ヒート「うおおおおおおぉぉぉぉッ!!ド根性おおおおおぉぉぉぉぉッ!!」バシンッ!!バシンッ!!バシンッ!!バシンッ!!


女友「あ、あの子……」ポカーン…

男友「自分で自分の頬をぶってる……」ポカーン…

男(試合前の相撲取りかよ……)ポカーン…

ヒート「…………」ヒリヒリ

男(やりすぎだろ……)


ヒート「すぅぅぅぅ……」

ヒート「おどごおおおおぉぉぉぉぉ!!私からおまえに言いたいことがあるうううぅぅぅぅ!!」


男「……は?」

男(まさか俺呼ばれてる?)

ヒート「2年A組出席番号7番おとこおおおおぉぉぉぉ!!おまえに言いたいことがあるううぅぅぅぅ!!男らしく私の前に出てこいぃぃぃぃ!!」

男(幻聴だ。これは幻聴なんだ)ゴロリ

男友「おとこー。呼ばれてんぞー」

男「バカッ!」ガタン!


男「あ」

ヒート「男?男、なのか?」キョトン…

男(しまった……もう言い逃れはできない)

男「ああ、そうだよ。俺が男だ。だけどそれがどうかした?悪いけど、俺はおまえなんか今までに一度も――」

ヒート「会いたかった……」

男「は?」

ヒート「会いたかったぞおおおぉぉぉぉ!!おどぐうおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

男「はあああああああああああ!?」

男(一体俺がなにをしたっていうんだよおおおおお!!)


ヒート「あの時の約束を憶えているか?男はもう憶えていないかもしれないが、私は一度たりとも忘れたことはなかったぞ」

男「あの」

ヒート「あの時の約束を果たすために私は今日まで鍛錬を積み重ね、数々の苦労と困難を乗り越えてきた。その成果をおまえには見て欲しい」

男「ねえ」

ヒート「いくぞおぉおおおぉぉぉおうおおおぉぉぉぉ!!」スッ

男「ちょっと?」



ヒート「破ぁあああああああああああああああッ!!」メメタァッ!!


バコオッ!!

担任「きょ、教卓が……こ、粉々に……」ビクビク

女友「…………」ゴクリ…

男友「かっけぇ……」キラキラ


ウオオオオオ!!キャアアーーー!!スゲーーーゾ!!


ヒート「ふう……」ユラリ…

ヒート「どうだああああぁぁぁぁあああああああッ!!」スッキリ!!

男「いえ、どうだと言われましても……」

ヒート「私はこのとおり強靭な肉体と精神を手に入れた。そして――」


ビシイッ!!


ヒート「今こそ!!おまえに相応しい女になったのだあああああぁぁぁぁあああ!!」

男「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああ!?」


男(ますます意味がわからん……!!なんだ!なんなんだよこいつぅ!?)

ヒート「だからこそ言おおおおおぉぉぉおおうぅぅぅぅぅぅ!!」

ヒート「2年A組出席番号25番、素直ヒートッ!!1○歳ッ!!家族構成は父母と一つ上の姉が一人!!」





ヒート「わたしはぁぁぁぁ!!おとこおううおおおおおぉぉぉぉ!!おまえのことがあああああああぁぁぁぁ!!」




ヒート「すきだあああああぁぁぁぁぁァァアアアアアああああああああッッッッ!!!!」

・・・・・・


ギィーーー…バタン!


男友「やれやれ。わざわざ屋上まで逃げてくることはなかろうに。一応立ち入り禁止になってるんだぜ?」

男「休み時間の惨状を目の当たりにしても、まだそんなことが言えるのか?あの質問攻めの嵐を……」

男友「特に女子の勢いは凄まじかったな。『二人はいつごろから知り合いだったの?』『あの時の約束ってなに?』『挙式はいつにするの?』とかな」ニヤ

男「俺に聞かれてもしらねーよ、って話だよ。まったく」

男友「おまえも大変だな。同情するぜ」ニヤニヤ

男「そう言ってるわりには、ずいぶんと楽しそうだな」ジロ

男友「他人事だからなー」ガハハ!

男「…………」モグモグ

男友「冗談だって!そうふて腐れんなよ」

男「大体あの時の約束ってなんだよ。まったく身に覚えがないんだけど」

男友「本当に憶えてないのか?」

男「憶えてないってさっきから何度も言ってるだろ。大体だなぁ、あんな強烈な個性のやつ一度会ったら忘れるわけないって」

男友「ふーむ……」

男「なんだよ。歯切れ悪いな」

男友「なーんか引っかかるんだよなぁ。あの子……素直さんって、今日初めて会ったって感じじゃないような」

男「ただの気のせいだろ」

男友「男はちょっと鈍いとこがあるからなぁ……」

男「それどういう意味だよ」


ギイイイイ…!


男「………!」

男友「ん?ほかにだれかやって来たみたいだな」

男(嫌な予感がする……)


<おとこおおおぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉッ!!


男(やっぱりかよ!!)

ヒート「見つけた……やっと見つけたずぅおおおぉぉぉぉおおおおお!!おとこおおおおぉぉぉぉおおおおお!!」ズドドドドドッ!!ガシィッ!!

男「う、うおっ!?」ビクゥ!

ヒート「体育館の裏、校長室、中庭にある鯉の池の中に至るまで。それはもう、ありとあらゆる場所を探したさ。探し尽くしたさ」

ヒート「それもすべて……おとこおおおおぉぉぉぉおおおおお!!おまえに会うためになああぁぁぁあああああ!!」ギュゥゥゥウウ!!

男「いだだだだ!わかった!わかったから、まずはこの手の力を緩めろッ!!」

ヒート「……はっ!」パッ!

ヒート「す、すまん。私としたことがつい……男の姿を見ると、どうやら自分でも気づかないうちに暴走してしまうようだ……」

ヒート「許してくれ」シュン…

男「……っ!」ドキッ!

男(なんだよ。さっきまでやかましかったのに、急におとなしくなるんだからなぁ……)

男「…………」ポリポリ

男「まあ、反省してるならいいけどさ……」

ヒート「男……」パアァァ

ヒート「やっぱりおまえは優しいんだなああああああぁぁぁぁぁあああああ!!ますます好きになったぞおおおおぉぉぉぉおおおお!!」ギュゥゥウウウ!!

男「いでででででええぇッ!!」


男友「いやー、愛されてるよなー。おまえも」

男「言ってる場合か!!」

・・・・・・

男「で、わざわざここまで追いかけて来たからには、なにか俺に用事があるんだろ?」

ヒート「それはもちろん……」

男「それはもちろん……?」

ヒート「おとこおおぉぉぉぉおおおお!!おまえに会うためだあああああああぁぁぁぁぁぁああああああああッ!!!!」キンキンキンンキン!!

男「オ、オーケーオーケー。それはもうわかったから。で、他には?」キーーーン

ヒート「他か。ん?待てよ、そういえば……」



ヒート「ああああああぁぁぁぁああああああああああああ!!!!」

男「うおっ!?」ビクッ

ヒート「おとこおおおぉぉぉぉぉおおおおおおお!!おまえは一つ重大なことを忘れているッ!!」

男「重大なこと?」

ヒート「そうだ。ある一つの重大なこと。それは――」


ビシイッ!!


ヒート「私の告白に対するおまえの返事だあああああぁぁぁぁぁああああああああああッッッッ!!!!」


男「…………」

男「あぁ。そういえばそうだった」ポン!

男(今日は朝からいろいろとバタバタしすぎて、告白の返事なんか考える余裕もなかったんだった)

男友「オイオイ、当の本人がそれでいいのかよ?ま、ある意味おまえらしいけど」

ヒート「さあ、答えろおおおおおおぉぉぉぉぉおおおおおお!!おとこおおおおおおぉぉぉぉおおおおおおお!!」ズイッ!!

男「ちょ、ちかっ?」

ヒート「イエスか!!ノーか!!男がどちらを選んだとしても、私は真正面から全力で受け止めるぞおおおおぉぉぉぉおおおおお!!!!」ズズイッ!!

男「だから近いって……!」

ヒート「選べええええぇぇぇぇええええええええええ!!好きか嫌いか!!ただそれだけのことだああああぁぁぁぁぁあああああ!!」

男友「男、ここは男らしく覚悟を決めた方がいいぜ。決断力と勇気がないやつは一生童貞のままだ」

男「黙ってろ!」

ヒート「はやくしろおおおおおぉぉぉぉおおおおおおお!!私の心臓を緊張で破裂させるつもりかああああああぁぁぁぁぁあああああああッ!!」

男「ああ、もう……!」


男(そんなこと言われたら、ますます中途半端な気持ちで答えるわけにはいかなくなったじゃねーか!クソッ!)

男(せめて返事を十分に考える時間があれば……!だが素直のやつは今この瞬間に俺の返事を求めている)

男(どうすればいいんだ……!!)

キーンコーンカーンコーン…


ヒート「む。予鈴か?」チラ

男(……しめた!)

男「走れ!男友!」タッ!

男友「おい、素直さんは置いたままでいいのかよ?」

男「いいから来い!」タッタッタッ!

男友「あーあ、どうなってもしらねーぞ。俺は」タッ!


<おとこおおおおぉぉぉぉおおおおおお!!


男「……っ!」ビクッ!


ヒート「待ってるぞおおおおぉぉぉぉおおおお!!放課後待ってるからなあああぁぁぁぁぁああああ!!」


ギイイイイ…バタン!


男「…………」

男(放課後待ってる、か……)

男友「なぁ、男。もしかして素直さん、昼飯も食わずにおまえのこと探してたんじゃないか?」

男「え?」

男友「いろんなところを探し回ったって言ってたけど、それだったら飯を食う余裕なんかあったと思うか?」

男友「素直さんの場合、弁当を教室に忘れて、しかも昼飯を食うこと自体忘れてた、ってこともないとは言いきれないだろ?彼女、見るからに抜けてそうだもんな」

男「…………」

男友「ま、これはあくまで俺の勝手な想像だけどな。だが、これだけははっきりと言える」

男友「素直さん。彼女、すごくいい子だぜ」

男「…………」


男友「返事。放課後までにちゃんと用意しとけよな」スタスタ

男「…………」

男(放課後。時間はもう残り少ないけど、それまでに果たして決まるんだろうか?いや、決めないといけないんだろうな)

キーンコーンカーンコーン…


担任「今日は私たち2年A組に素直さんが転校してきました。彼女は私たちの大切な仲間です。ですから、困ったことがあったらすぐに助けてあげるように」

担任「HRは以上です。委員長、号令を」

委員長「礼!」


ガヤガヤガヤ


男友「男」

男「…………」ボーッ

男友「おーい、もどってこーい!」ユサユサ!

男「あ、男友か。どうした?」ハッ

男友「どうしたじゃねえよ、まったく。もう放課後だぜ」

男「放課後?って、もうそんな時間かよ!」クルッ

女友「素直さんならもう先に教室出たみたいよ。はやく行かなくていいの?」

男「……ああ。わかってるよ」ガタッ


男友「健闘を祈る!ま、せいぜい頑張れや」ヒラヒラ

女友「素直さんを泣かせるようなマネしたら、わたしを含む女子一同が許しておかないわよー」

男(外野はどこまでも無責任だよな。ったく……)

ガラララッ


男(そういや待ち合わせ場所がどこなのか聞いてなかったな)スタスタ

男(一応靴箱を覗いてみるか。なにか書置きが残してあるかもしれないし)スタスタ


男「……ん?」ガチャッ

男(この丁寧に四つ折りにされた半紙はなんだ?)ヒョイ


ペラ…


『素直ヒート。朝日川沿いの桜並木でおまえを待つ。至急来られたし。今こそあの時の決着をつけよう』


男「果たし状かよ!」

男(待ち合わせ場所は学外を選んできたか。よりによって朝日川なんていう、地元民しか知らないようなマニアックなところを)


男「にしても、朝日川か……」

男(俺の初恋はあの桜並木の中で終わったんだったな。今思い出しても苦い思い出だ)

『約束だよ!約束だからねーっ!』


男「…………」

男(七年前のことをいまだに引きずってるなんて、俺ってバカみたいだな)

男「やめだやめだ」ブンブン…

男(もう終わったことだ。それよりも今は、目の前の現実に目を向けないとな)スタスタ

男(で、来てはみたものの……)

ヒート「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」ガツガツ!!

男(素直のやつ、弁当に思いっきりがっついてやがる)

ヒート「んぐんぐっ……ぷはぁッ!!」ゴキュゴキュ!!

男(風呂上りのオッサンかよ。女らしさのカケラもあったもんじゃないな)

男「しょうがねーな……」

男「よっこらせ」ドスッ

男(食い終わるまで待っておくか)


・・・・・・


男「よっ」スタスタ

ヒート「あ、おとこおおおぉ!!来てくれたんだなああああぁぁぁぁああああああ!!」

男「ほっぺにご飯粒ついてるぞ」

ヒート「なっ!?あ、これはだな!!その……ち、ちがうんだぞ!?////」ワタワタ!!

男「とりあえず落ち着け。じゃないと、話始められないだろ」

ヒート「そうだ!そうだったな!!」ビシッ!!

男「昼休みのあと一旦頭を冷静にして、俺なりの答えを用意してきた」

男「率直に言わせてもらう」

ヒート「…………」ゴクリ…


男「素直。悪いけどおまえとは付き合えない」


ヒート「……え?」

男「勘違いしないで欲しいんだが、俺は別におまえのことが嫌いなわけじゃない。だからと言って、好きなわけでもない」

ヒート「それは……どういうことだ」

男「好きでも嫌いでもない。なぜなら、俺たちは今日初めて会ったんだからな」

男「人違いだ。俺はおまえの約束の相手じゃない」

ヒート「…………」

男「あ……」

男(ちょっと言い方がキツかったか?だけどこれぐらいハッキリ言ってやらないと、素直は俺のことを約束の相手だと勘違いしたままだったかもしれない)

男(そうだ。俺はなにも間違ってない。お互いのことを考えればこれが最善のやり方なんだ)

ヒート「……るな」

男「え?」

ヒート「ふざけるなああああぁぁあぁぁぁぁああああああああッッッッ!!!!」ガシッ!!

男「なっ!?」


ドサァッ!!


男「……つぅ」

ヒート「おまえがここまでの薄情ものだとは思わなかったぞ。男」

男「おまえ、自分でなにやってるかわかってんのか?どけよ」

ヒート「嫌いだと言われた方が……」

男「なに?」

ヒート「嫌いだと言われた方が、まだマシだった」ポタ…

男「素直。おまえ、泣いて……」

ヒート「これじゃあ、なんのために帰ってきたのかわからないな」

ヒート「約束の相手には約束の内容どころか、自分の存在さえも忘れられていた」

ヒート「それが、こんなにも……ぐっ、ひっく、辛いものだった、なんて……!」ポロポロ

ヒート「私は、馬鹿だ……!ぐっ、えぐ、世界一の……!!ひっく、大馬鹿……者だ……!!」ポロポロ

ヒート「帰ってこなければ、よかった……!!ひっぐ……会わなければよかった……!!」ポロポロ

男「…………」

男(今の俺には慰めてやることも、抱きしめてやることもできない。そんな資格はないからだ。仮にそんなことをしたとしても、素直を余計に傷つけてしまうだけだろう)

男(でもだからといって、このまま無言で見つめているだけでいいのか?自分で招いた結果とはいえ、本当に俺にはどうすることもできないのか?)


ヒート「ぐす……」スック…

男「おい、どこに行くつもりだ」

ヒート「帰る……」グス…

男「やめとけ。そんなボロボロの顔で一体どこに行けるってんだよ」

ヒート「ここにいるよりは、マシだ……」ヨロヨロ

ガシッ!!


ヒート「……せ」

男「せめて家まで送らせろ。今のおまえをこのまま放っておけるほど、俺も薄情じゃない」ギュッ

ヒート「放せと言ってるッ!!」ブンッ!!

男「ぐっ!」ギュオン…!!


バシインッ!!


男「ぐぅ……おぉおお……」ジンジン

男(なんて腕力だ。成長期真っ盛りの男の体を、軽々と桜の幹に叩きつけやがった……!さすがに教卓をチョップ一発で叩き割るだけのことはある。だが――)

男「そう簡単には放さねえぞ……!」ギュッ

ヒート「しつこいぞッ!!」ブンッ!!


バシインッ!!

メキャア!!

ボキイッ!!

男「ぐ、はぁはぁ……」ヨロヨロ

ヒート「もうやめろ!!そこまで必死になる必要はないだろうッ!!」

男「この桜並木の中にいると昔のことを思い出したんだ。昔の俺はそのとき死ぬほど後悔したから」

男「だからなのかもしれない。やらないで後悔するよりはやって後悔したほうがいいって思ったのは」

ヒート「意味がわからん!」

男「だろうな。素直に約束の相手がいたように、昔の俺にも約束の相手がいたんだよ。俺の約束の相手は、今はどこでなにをしてるのかさっぱりわかんないんだけどな」

ヒート「嫌いだ……」ジワ…

ヒート「おまえのことなんか……大っ嫌いだああああぁぁぁああああああああああああッッッッ!!!!」グオオオッ!!

男「うおっ!?」グラッ…

男(たしか、デジャヴって言うんだよな。この体勢は……)


ドサアッ!!

男「いっつぅ……」

ヒート「うぐぅぅ……」


キラッ


男「ん?おい、素直。家の鍵かなんか落としたぞ」ヒョイ


チャリンチャリン


男「これ……はッ!?」

男(この不細工な怪獣のキーホルダーは……!!まさか!!)

~回想~


ガラララ…ガチャッ!パカッ!


男「げ、またハズレかよ。200円ムダにしたぜ」


<おとこくーん!


男「この声はいつもの……」クルッ

嬢「おとこくーんっ!おはy……きゃっ!」タッタッタッ…ズデエッ!!

男「……はぁ」

男(なにもないとこでこけるなんて、バカだろこいつ)

嬢「うっく、うぇぇ……」ジワ…

嬢「うわーーーーん!!」


男(めんどくせぇ……)ポリポリ

男「ほら」スッ

嬢「おとこ、くん……?」グス…

男「手、かしてやるから泣くなよ」

嬢「…………」ジーーー

男「な、なんだよ。さっさとしろよな」タジ

嬢「うんっ!」ギュッ!

・・・・・・

嬢「男くん、それなーに?」ジーーー

男「それって、このブサイクな人形のこと?ガチャガチャでハズレたんだよ。別にこんなのいらねーけどな」

嬢「…………」ジーーー

男「なんだよ」

嬢「えっと……ううん、やっぱりいい」ブンブン

男「言いたいことがあるならハッキリ言えよ。きになるだろ」

嬢「おとこくんがいらないなら、わたしそのお人形さんほしいな」

男「え?」

嬢「ダメ?」ジーーー

男「いや、ダメじゃないけど……」

男(こいつ、こんなガラクタが本気でほしいのか?)

男「ま、いいけど」ヒョイ

嬢「ありがとう!わたし、いっしょーのたからものにするね!」ギュッ

男(へんなやつ……)

嬢「えへへ!」ギューーーッ!

男「今日はおとこともをさそって、川づりにいこーぜ」

嬢「…………」ジーーー

男「なんだよ。言いたいことがあるならハッキリ言えって」

嬢「おとこくんと二人きりが……」ボソッ

男「ああ、なんだって?」

嬢「きょ、今日はおとこくんと二人きりがいいのッ!」

男「は?二人きり……?」

嬢「ダメ……?////」チラ


男「……うーん」

男「ま、たまにはいいか」

嬢「やったーっ!」ピョンピョン!!

男「おい、あんまりあばれんな」

嬢「わわっ!」ドテッ!

男(だから言ったのに)

・・・・・・

男(もう夕方だ)

男「今日はだいぶあそんだな。そろそろかえろーぜ」クルッ

嬢「…………」

男「じょーちゃん?はやくかえろーぜ」

嬢「……やだ」

男「わがままいうな。かえるぞ」グイッ

嬢「やだ!やだっ!!」サッ!

嬢「やだ……ひっく、やだもん」ポロポロ


男「な、なんだ?」

男(いつもはわがまま言わないのに、今日にかぎってなんで?)

嬢「う、ひっく、えぐ……」

男「……しょうがねーな」

男「ほら、立てよ」ギュッ

嬢「え?」

男「まだ行きたいとこがあるんだろ?だけど、おまえのワガママに付き合うのは今日だけだからな」

嬢「…………」パアァァ

嬢「うんっ!」ギュッ!


嬢「おとこくんって、やっぱりやさしいんだね!」ニコ

男「……っ!」ドキッ!

男「べつに……!」プイッ

男(もうまっくらだ。家にかえったら、オヤジのげんこつがまってるな)スタスタ

嬢「あ、ついたよ!おとこくん、ついたよー!」ピョンピョン!!

男「そんなのわかってるよ」

男(さいごにサクラを見たいって……女のかんがえることはよくわかんねーな)


嬢「わぁー、キレイだねー」

男「そうか?花なんてどれも同じだろ」

嬢「もぅ、ちがうよー!」ブーブー

男「…………」ボーッ

嬢「ね、ねぇ。おとこくん……」

男「ん?」

嬢「もしも……もしもの話だけどね。もしもわたしが遠くにいっちゃったら、おとこくんはさびしいと思う?」

男「は?いきなりなにいってんだよ」

嬢「あっ!こ、これはもしもの話だからっ!」

男「もしもの話?」

嬢「うん!もしもの話!」

男「うーん……」

嬢「…………」ドキドキ

男「まぁ、いつもうるさいのがいなくなると、ちょっとはさびしいかもな」ポリポリ


嬢「おとこ、くん……」ジワ…

嬢「う、うぇぇ……」ポロ…

男「ああ、泣くな。泣くなって」

・・・・・・

男「落ちついたか?」

嬢「うん……」

男「で、もしもの話はそれでおしまいか?」

嬢「えと……えっと」モジモジ

男「なんだ、まだあるのかよ」

嬢「えっとね……け、けっこけこけ……」ガチガチ

男「は?コケ?」

嬢「ち、ちがうのっ!ちがう、の……」

男「いみわかんねー。もっとハッキリ言えよ」


嬢「わ、たしと……」

嬢「わたしと、結婚してくださいッ!!」

男「…………」

嬢「…………」


シーーーーーーン…


男「ぷっ……」

嬢「え?」

男「ぎゃははははははははははッ!!ありえねーーー!!」

嬢「え?え?」

男「地球がさかさまになってもありえねーーー!!」ゲラゲラ!!

嬢「ひ、ひどいよ……」ジワ…

男「あ、ヤベ……」

男(そうだ!いいこと思いついた!)

男「おれの理想のタイプは泣き虫じゃなくて、ドジでもなくて、思ってることはなんでもハッキリ言う女だ」

嬢「え?」キョトン

男「あとはそうだな……運動神経がいい女がいいな。オリンピックに出られるぐらいの。がんばれば、おまえも不可能じゃないかもな」

嬢「わたしがんばる!わたし、おとこくんのお嫁さんになれるようにがんばるよっ!」パアァァ

男「おう、きたいしてるぞ」

男(よし。とりあえずこれで泣きやんだな)ホッ


<おとこーーー!!どこだーーー!!でてこーーーい!!


男「げ!おやじのこえだ」

嬢「おとこくん、かくれて!」

男「じょーちゃん……?」

嬢「二人だけで遠くににげようよ。わたし、どこまでもついていくから」

男「は?にげるって、どういう意味だよ?それにそんなのどうやって?」

嬢「どうやってって、それはわからないけど……」ゴニョゴニョ

男(なんだ。なにをかんがえてるんだ?今日のじょーちゃんはなんかおかしいぞ)

男父「見つけたぞ、男!こっちへ来なさい!」グイッ!

嬢「おとこくんっ!」

男「あ」ズルズル…

男父「まったく母さんにも心配をかけて!今何時だと思っているんだ!当分は外出禁止だからな!」


嬢「おとこくん!約束わすれないでねーっ!」


男「約束?」

男(約束って、もしかして……さっきの結婚のことか!?)


男「おい、じょーちゃん。おまえ……」ズルズル…


<約束だよ!約束だからねーっ!

一週間後


ピンポーン…ガチャッ!


男友「おとこー!バトミントンしよーぜ!バトミントン!」

男「いいぜ。んで、じょーちゃんに審判させるか」

男友「は?なにいってんだよ。じょーちゃんなら、先週にひっこししただろ」

男「え……?ひっこし?」

男友「おまえ、きいてなかったのか?」

男「…………」

男友「おい、どうした?顔色わるいぞ」


男(そうか。おれはじょーちゃんのことが好きだったんだ……)

男(でも、じょーちゃんはもうこの町にはいない。ひっこししたんだ……)

男「う、あああ……」ポロポロ


~回想終わり~

男「なんで素直がこれを持ってるんだ?いや――」

男「まさか素直が嬢ちゃん、なのか?」

ヒート「お、おとこ……私のことをおぼえていたのか?」

男「おぼえているもなにも、そう簡単に忘れるわけないだろ」

ヒート「嬉しい……」

男「え?」

ヒート「嬉しいぞおおおぉぉぉぉおおおおお!!おとこおおおぉぉぉっぉおおおおおおおッッッッ!!!!」ギュウウウウゥゥゥ!!

男「わかった!わかったから落ち着け!」

ヒート「結婚するぞおおぉぉぉぉおおおおおおお!!今すぐ式場を用意しろおおおおぉぉぉぉおおおおおお!!」

男「だから落ち着けって!なっ!?」

・・・・・・

ヒート「なぜだあああああ!!どうして私と結婚してくれないんだああああぁぁぁぁああああああ!!」

男「バーカ。もう時効がきてんだよ。ガキの頃の約束にいちいち責任持てるかっての」

ヒート「いいだろう。おまえがその気なら――」


ズビシッ!!


ヒート「私が明日からおまえを全力で落としにかかるッ!!そして――」

ヒート「男の口から『愛してる』を絶対に言わせてやるぞおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおッッッッ!!!!」

男「まあ、ほどほどに期待しとくわ」

ヒート「ふっふっふ!覚悟するがいい!!明日からありとあらゆる手を使っておまえを――」

・・・・・・

男「それにしてもおまえ、よくあんなもんを今日まで律儀に持ってたな」

ヒート「あんなもんとはなんだ?」

男「キーホルダーのことだよ。ボロボロのガラクタじゃねえか」

ヒート「ふふっ!なんたって、私の一生の宝物だからな!!」ギュッ!!

男「そういうもんかね」


男(でもあの不細工なキーホルダーのおかげで、俺はあいつのことを思い出した)

男(そう考えると、けっこうご利益があるのかもしれないな)


ヒート「あっ、男!夕陽だ!夕陽が見えるぞ!!」

男「それがどうしたんだよ」

ヒート「どうしただと?それはもちろん決まっている」

ヒート「走るんだあああああぁぁぁぁぁあああああああああああああッ!!!!」ズダダダダダ!!

男「お、おい!……って行っちまったよ」

男(初恋の人は見た目も中身もちょっと変わってしまったけど、七年後になって再び戻ってきた)

男(明日からの学園生活。普段とは一味も二味も違うものになりそうだ)


<おとこおおおぉぉぉおぉぉぉおおお!!


男「ったく、しょうがねーな」ポリポリ

男「すぐに行くから待ってろ!」タッ!

完ッ!!

疲れました
依頼出してこようと思います

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