絵里「浴場欲情禁止令!」 (264)

ラブライブSS

エロ有り

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希「-っ!!」

希「うぅ…。また変な夢や…」

ある夜、一人の少女が目を覚ました。

彼女の名前は東條希。

彼女は最近ある事情に頭を悩まされていた。

希「まだこんな時間…」

寝室においてあるデジタル式の置時計に目をやると、時刻は3時30分。

ある事情というのは、浅い眠りを繰り返すばかりで満足に睡眠ができないことである。

睡眠不足がたたり、彼女が所属するスクールアイドルユニット『μ's』の練習にも満足に打ち込めてはいない。

希は仲間に心配をかけたくない一心で気丈に振舞っていたが、それを彼女の親友を絢瀬絵里は見逃さなかった。

体調が悪いのではないか、悩み事があるのではないか、とどうにか希の力になろうと絵里は様々な意見を述べたのだ。

が、結果はむなしく今もこうして浅い眠りを繰り返している。

毎日全力で練習に打ち込んでいるのだから身体は疲れきっているはずなのだ。

では何故何度も目を覚ましてしまうのか。

希「また下着ベトベトやぁ…」

…彼女は思春期だった。

毎日毎日、親友であり想い人である絢瀬絵里の夢を見る。

毎日学校で絵里と会い、毎日お昼休みには絵里とお弁当をつつき、毎日生徒会室で一緒に仕事をする。

そして毎日一緒に下校をし、家に着けば毎日のように絵里とメールのやり取りをする。

希からして見れば絵里はとても大きな存在であることは否定できないし、毎日顔を合わせていれば夢に出てくることなど普通だ

ろう。

普通の夢ならばいつものように

『今日絵里ちが夢に出てきたんよ。可愛かったなぁ』

と軽口を叩けるはずだ。

それにここまで頭を悩ませることなどきっとなかった。

だがそうではない。

もう一度言う、彼女は思春期なのだ。

彼女は絵里との情事の夢を見ていた。

しかし希は思春期だという自覚はなく、ただただ淫夢が頭の中を駆け巡るという意味不明な事態に陥っている。

毎日毎日抗う術もなく、頭の中で自分と想い人との行為を見せ付けられ、股を濡らす。

そんな生活が続いていた。

希「汗かいてるし、シャワー浴びよ…」

そして希は言い訳をするようにそう呟き、寝室を後にした。

希「はぁーっ…」

浴室にシャワーの音が響く。

彼女は火照った身体の熱を冷ますべく、頭から冷水を浴びていた。

いつもならば濡らした股を拭うだけなのだが、今回は夢の内容が激しすぎたのだろう。

汗をびっしょりかいていたので、特別にシャワーを浴びることにしたのだ。

そして身体の汗を流そうと上半身に冷水を当てる。

彼女の武器である『わがままぼでぃ』は汗をかくと乳房の下に汗が溜まる。

これがなかなかどうして悩ましいもので、蒸れるのだ。

以前絵里とこの話で盛り上がっていたら、どこからともなく現れた悪友の矢澤にこに

にこ「ふんっ、アイドルなのにそんな下世話な話で盛り上がっちゃって!自覚が足りないのよ」

と罵られたので、それ以降そういった会話はしないようにと二人で誓った。

しかし希はただ悩みを共有したかったわけではない。

絵里から対策や解決策を聞き出したかっただけなのだ。

だが、本来71cmであるはずのバストを3cmもさば読んで74cmと記載していた過去を持つ矢澤にこの嫉妬によって、それは叶わぬ

ものとなった。

しかし希はにこのことを恨んでいるわけではない。

どちらかと言えば、そういったコンプレックスを抱えるにこのことを可愛いと感じていた。

希「ま、にこっちにはわからんやろうなぁ…」

独り言を呟きながら勝ち誇った顔をし、乳房の下に溜まった汗を流そうとその豊満なバストを持ち上げ-

希「ひぅっ」ビクンッ

そのとき、希の身体に電流が走った。

乳房を持ち上げようとした手が、乳頭に触れたのだ。

普段は控えめな主張をしている希の乳頭だが、火照りを冷ますための冷水により屹立していた。

そしてそれが火照りを加速させることになるとは、希は知る由もなかった。

希は電流の正体を確かめるべく、今度は乳頭に向かって指を伸ばし

希「んっ…///」

電流が走ると共に、色っぽい声が発せられた。

希にはこれが『おなにぃ』と呼ばれる行為である、ということは知っていた。

そしてこれは、希のハジメテの体験である。

今までも噂に聞き、何度か自慰を行おうとしたこともあった。

しかしそれを初めての経験という恐怖心が邪魔をしていたのだ。

もちろん自慰をすることは決していけないことではない。

だが17歳という若さが、そう思わせてはくれなかったのだ。

希(ダメ…、こんなことしちゃ…)

現に希もこう思っていた。

しかし、精神年齢が高いといわれているとはいえ彼女も年頃の女の子。

一度踏み出してしまえば、いけないとわかっているほど燃える。

そんな17歳の女の子だった。

希(あと、一回、だけ…)

そう自分に言い聞かせるようにして、もう1度乳首に刺激を与える。

希「あっ、…っふぁあっ///」

きっと希の乳首は他人よりも敏感なのだろう。

三度刺激を与えるだけで息が上がり、頬が紅潮しはじめた。

もちろん初めての経験であることや、いけないことをしている背徳感、気分の高揚からくる快感もあったのだろう。

そして頭の中に思い浮かんでくるのは

希(絵里ち…)

親友であり想い人の絢瀬絵里だった。

希(こんなこと知ったら…、絵里ちはうちを軽蔑しちゃうよ…)

そう自分に言い聞かせるようにし、なんとか快楽に打ち勝った。

そしてシャワーを浴び終わった後は短くも深い、充実した睡眠時間を過ごした。

そんなわけで今日はここまででございます。

こんな感じのバカバカしいことを大真面目な文章を織り交ぜつつ書いていくSSです。

支援等、ありがとうございます。

それでは再開いたします。

希「ふわぁ…」

次に希が目を覚ましたのはアラームの音が鳴った5秒後だった。

今までは目覚ましが鳴るまでに度々目を覚ますことがあったが、今回はそれがなかった。

希は寝ぼけた頭で必死に考えをまとめ

希「…あっ///」

深夜のことを思い出し、一人頬を染める。

しかし不眠を解消した理由は『アレ』以外に思い当たらない。

それに絵里と情事に及ぶ夢も見ることがなくなった。

たまたまなのかもしれないが、昨晩までの状態よりは良い方へと向かっている。

はずなのだが、希の心には薄い靄がかかったままである。

昨晩までの悩みは違う形で希の元へと舞い戻ったのである。

希(どうしよう…、うち、絵里ちで…。顔、見れるかなぁ…)

多少の背徳感を抱えて、次に希が抱いた悩みは実に可愛らしいものだった。

希は毎朝、絵里を迎えに行くことを日課としていた。

どちらかが言い出したわけでもなく、誰かが決めたわけでもなく、自然とそうなっていた。

昔からの知り合いというわけでも、似た者同士というわけでもないが、今やツーカーの仲である。

それどころか生徒会の名コンビだのおしどり夫婦だの真しやかに囁かれていることを希は知っている。

表現の仕方に多少の違いはあれど、それはとどのつまり希の絵里の仲の良さを表している言葉に他ならない。

そして希はおしどり夫婦と言われることに関して、むしろ喜びの念さえ抱いていた。

絵里も同じ気持ちでいてくれたら、と思いつつも断られたときのことを考えたくはないので口にはしないのだが。

希は昨晩のことを必死で忘れようと心を無にし、絢瀬の表札の掲げてあるマンションの一室のインターホンを押す。

ドア越しにインターホンの音が響く。

希(こうやってインターホンが聞こえないと、インターホンが壊れてしまってるのかと思うよなぁ…)

などと無駄なことを考えつつ、これから絵里の顔を見るために気持ちを落ち着かせる。

そして-

絵里「おはよう、希」

微笑みながら、金髪の美少女が希の名を呼ぶ。

希も挨拶を返そうとするが

希「おはっ、おっ、おはよ、う…、」

絵里「ふふっ、開口一番から噛んだわね」

絵里で自慰をしたことへの罪悪感からか、ついしどろもどろな対応をしてしまう。

淫夢を見ていた頃は、あくまで夢という認識をしていたために絵里の顔を見てもいつもと変わらぬ想いを抱くだけだった。

今日も可愛いな。今日も素敵だな。好きだよ。と言った具合に、完全にお花畑の思考なのだが。

しかし今日は申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。

それを口に出して謝るわけにもいかず、いつもと変わらぬ様子を装いながら絵里に話を振る。

希「って、絵里ち。髪どうしたん?」

絵里「あははっ、実は昨日髪結んだままお風呂入っちゃって髪留めが乾いてないの…」

ごまかすように笑いながらも、恥ずかしさのあまり次第に小さくなっていく声。

そしてそんな絵里を眺めて希は思う。

希(可愛い…)

相変わらずのお花畑思考だった。

絵里「希こそ、今日はどうなの?」

そう言って絵里は希の顔を覗き込んでくる。

覗き込むという表現が適切なのかどうかわからないほど、近い距離まで顔を近づけてくる絵里。

そんな不意の行動に希は顔を赤らめる。

希「きょっ、今日は大丈夫!しっかり寝れたから!」

これ以上絵里の顔を見ていられないと思った希は顔を背けようとするが-

それも虚しく希の両頬は絵里の両手によってがっちりホールドされていた。

絵里「本当ー?」

絵里はこちらの心を見透かしているかのようにニヤニヤと笑いながら希の顔を眺める。

希「本当だってばぁ!離してよぉ!」

絵里「化粧で誤魔化してる…、ってこともないわね」

おそらく希の目の下に隈がないかを確認したのだろう。

だというのに手を放す様子が全く見られない。

それには理由があった。

どんな浅瀬よりも浅い理由が。

絵里(ああ、恥ずかしがってる希、可愛いわぁ…)

希の想い人、絵里は随分と変態的思考の持ち主だった。

希の想いなど露知らず、絵里は希の全てを堪能し続ける。

絵里(こうすれば希の顔を見ながら希の香りを近くでぇ…!!はぁぁ、幸せぇ…)

変態生徒会長、絢瀬絵里は副会長、東條希の顔面を目の前にして息を荒げていた。

正確に言えば息を荒げていたのではなく、鼻息を荒くしていた。

紅潮している頬、優しそうな瞳、ぽってりした唇。

その全てが絵里には愛おしかった。

そして何よりも、希の香りが好きだった。

絵里は彼女のことを誰にも変えがたい大切な人だと、心からそう言える。

などとロマンチックに語ったところで、絵里が希の髪の匂いをかいで鼻息を荒げていることは変わらない。

希「絵里ちぃ、そろそろ…」

そんな絵里の想いなど露知らず、希は希でこの状況を少しばかり楽しんでいた。

自分では勇気がなくて出来ないことを、相手からとはいえ経験することが出来た。

想い人の顔をこんなに間近で見られるなど、きっと滅多にないことだろう。

とは言え恥ずかしさには勝てず、涙目になりながらも手を離してくれることを絵里に懇願する。

絵里(ああ、涙目の希も可愛…、って泣いてるぅー!!)

いくら変態的な行動を取るとはいえ、想い人を泣かせることは絵里の信条に反していた。

希の頬の手触り、潤んだ瞳、ぽってりした唇、そして香りにさよならを告げ、絵里は名残惜しそうに希の頬から手を離す。

絵里は最愛の人を泣かせてしまったことに心を痛めつつも、いつもの様にクールに振舞う。

クールとは言っても当人はただの変態なので、彼女の心の内を知ればその幻想は打ち砕かれることだろう。

絵里自身も自らのことをクールだと思ったことはないが、周りがそう評価しているのでそれを受け入れている。

そして親友の希からも

『絵里ちはクールな人やね。可愛いところもあるけど♪』

との評価を受けている。

それがたまらなく嬉しくて、部屋で暴れまわったこともある。

部屋で暴れまわっていたところを妹の亜里沙に目撃されたこともある。

しかし彼女はめげなかった。

彼女にとっては希が全てなのだから。

クールと思われたほうが生徒からの人気が…、いやいや、しかし私には愛しの希が…。

などと謎の葛藤を人知れずしていた過去もあった。

そんな彼女は音乃木坂学院生徒会長、絢瀬絵里。

通称『賢い可愛いエリーチカ』、略してKKEである。

絵里(私をこんなダメな女にするなんて、希ってば本当に罪な女…)

見当違いも甚だしい。

希「…なぁ、絵里ち」

絵里「なにかしら?」

希「学校着いたらうちが髪結んだげる」

希(今の絵里ちも魅力的やけど、ライバルが増えても困るし…)

一方で音乃木坂学院生徒会副会長、東條希は実に乙女らしい思考の持ち主だった。

口には出さないものの、こちら側も絵里のことを何事にも変えがたい大切な人だと強く思っていた。

絵里「そう、ね。お願いするわ」

互いが互いに恋愛感情を抱いているのだが、相手の気持ちを考えるとどうしても一歩が踏み出せない。

この気持ちを伝えてしまえば、一緒にいられなくなる可能性も考えられる。

それならば自分の恋心を隠し通し、友達のままでいることを選ぶと決めた。

こうして手を繋いで登校するだけでも十分幸せなのだから。

希「それじゃあ、学校行こっか」

本日はここまで。

なかなかこの形式だと書くのに時間がかかりますね。

それではありがとうございました。

再開しまーす。

希と絵里は学校へ到着するや否や生徒会室へと足を運んだ。

朝から行う生徒会の公務と言えば校門の前に立って行う挨拶活動くらいなもので、音乃木坂学院の長い歴史を辿ったとしてもそれ以外には見当たらないはずなのだが。

では教室にも出向かず、誰もいない生徒会室へと向かった希と絵里はこれからなにをしようというのか。

生徒会室には二人きりで-

希「絵里ち、やっぱり綺麗やね…」

絵里「ふふっ、ありがとう。でも希だって綺麗じゃない」

希「絵里ちには負けるよー」

絵里「そんなことないわよ。私は希の…、好きよ?」

希「あははっ、なんだか恥ずかしいなぁ」

絵里「だって本当のことだもの」

希「…ね、絵里ち。触るね…?」

絵里「…ええ、お願い。…んっ」

希「…ごめん」

絵里「いえ、大丈夫。人に触られるの、慣れてないだけだから…」

希「ん、わかった…。じゃあ、済ませちゃおっか」

絵里の金髪を結わえ始めようとしている希の姿があった。

絵里が髪を下ろしている時はリラックスしている時の状態であり、髪の毛を結わえていないと集中できない、とは絵里の弁。

現に学校行事に際には欠かさず、腰まで伸びた祖母譲りの金髪をポニーテールに結わえている。

元々がタレ目なこともあり、ポニーテールにせねば生徒会長としての威厳が消失してしまうなどと熱く語られたことがある、とは希の弁。

絵里の言っていた意図は未だに判りかねているのだが、緩みきった絵里の顔を独り占めしたい…元い絵里の威厳を守りたい、と髪を結わえることを申し出た。

毎朝自らの手で結っているのだから他人の手を煩わせるほどでもない、と希に告げれば

『絵里ちの役に立ちたいの。…ダメ、かな?』

と潤んだ瞳で言われるのだから絵里としてはお手上げ状態である。

絵里としても、間がな隙がな希に甘えたいと考えながら日々を送っていたのだから願ったり叶ったりではあるのだが。

煩悩にまみれた生活を送っている時点で生徒会長としての威厳は既に薄れている。

しかし賢い可愛い生徒会長はそれに気付くことはなかった。

その一方で副会長は、威厳の消失について少しばかり懸念していた。

のだが、惚れた弱みとでも言うのだろうか。

懸命に精悍な表情を作る絵里の姿が大変愛おしく思えたらしいので伝えることなど出来るはずもなく。

生徒会室には二人の美少女の姿。

一人は笑顔を絶やさず、優しい手つきで髪の毛を結わえる。

そしてもう一人はその後のシチュエーションを妄想し、どのような労いの言葉をかけようか緩みきった表情のまま思案している。

これを傍から見る者がいるならば、毛髪に触れられて恍惚とした表情を浮かべている危険人物が一人、といった具合の感想を抱くのだろう。

実際のところそれが間違ってはいないことは、絵里の思考が如実に物語っていた。

希「よーし、これでおっけー!絵里ち、鏡見てみて!」

絵里「ありがとう。でも別に見なくたって…」

髪を結わえる際は自らの手で結うよりも、人の手を借りたほうが正確である。

人の手を借りるべきなのは絵里も委細承知之助だろう。

しかし手を借りる人物は信頼の置ける人物でなければいけない。

乙女の自慢の髪の毛を信頼たる人物以外に触らせてはならない。

絵里はそう考えていた。

しかし絵里は会長として、親友として、希に全幅の信頼を寄せている。

希が絵里に危害を及ぼすことなどきっとない。

つまり、絵里の望む条件と合致していることとなる。

そもそも二人きりのこの状況に置いて、相手に悟られずに危害を加えることなど困難だ。

故に鏡で己の姿を確認する必要性など、絵里は感じてはいなかった。

しかし想い人から差し伸べられた好意を無碍に出来る絵里ではない。

ここで希の善意を必要ないと振り払うことは簡単だ。

しかしきっとそれでは悲しむ者が現れるだろう。

…それは主に絵里なのだが。

仕方ないと言った表情を作ったつもりで、手鏡を差し出す希の手を必要以上に弄る。

数十秒後に手鏡を受け取り、自らの姿を映すと-

絵里「にっこにっこにー!…って、なんで!?」

絵里の口から飛び出したのは、なんとも対処に困るノリツッコミであった。

事実、先ほどまで微笑んでいた希が少し困惑した表情を見せた。

他人の芸を盗用し、なおかつ空気を凍てつかせるという大罪を絵里は犯した。

そもそもポニーテールとツインテールでは力の作用する点が大きく異なるのだが、蕩けきった絵里がそれに疑念を抱けるはずもなく。

そして彼女が犯したのは大罪だけではない。

希がイタズラ好きな性格であるということを失念するという過ちを犯したのだ。

絵里の眼前での希は『乙女式東條希』となる。

故に絵里がイタズラの標的になることは今までにほぼなかった。

イタズラと言ってもからかわれる程度の可愛いものだと思い込んでいた。

それが過ちだということに気付くには、少々時間がかかりすぎたのだ。

生徒会長、絢瀬絵里の敗因はそこにあった。

…とは言うものの、日常生活において希のイタズラの標的になる人間などほぼ限られてくるのだが。

自らが被害者となる状況があまりにも稀有ゆえに、絵里は失念していたのだ。

愛するべき者の真の姿を。

希「似合ってるよ?やっぱり絵里ちは可愛いからなぁ」

ぎこちない微笑みを浮かべ、絵里を賞賛する希。

愛しの希にそう告げられると、絵里の蕩けた表情はさらに蕩けてゆく。

微笑みがぎこちないことなどどうでも良かったのだ。

ただただ希に賞賛されたことをとても嬉しく感じた。

しかし絵里は考えた。

希に髪の毛を結われ、自称『未来の大銀河宇宙No.1アイドル』と同様の髪型にされ、天使の微笑みで蕩けてしまった脳で、絵里は考えた。

やはりあの髪型は彼女がやってこそ映えるものなのだ。

所詮絵里など紛い物、彼女の輝きには勝てるはずなどない。

偉大なる彼女の真似事などやめて、自分なりのアイデンティティを見つけるべきなのだ。

-などという考えは全く持って頭に浮かばなかったのだが。

役に立たない蕩けきった脳で考え抜き、二つの結論を出した。

二者択一、重要なのはどちらを選択するのか。

絵里(マイスイート希が褒めてくれたこの髪型を取るか…、それとも生徒会長としての威厳を取るべきか…)

即座に生徒会長としての威厳を取らないあたり、彼女はあまり賢くないのかもしれない。

しかし今の彼女にとって、希は絶対的な存在として心の中に君臨している。

なにが起ころうとも希のことをないがしろにするわけにはいかない。

-否、出来るはずがない。

絶対的天使、ノゾミの言葉は絵里にとっては絶対なのだ。

それこそ嬉しさのあまり、自室で狂喜乱舞したところを妹の亜里沙に目撃され、一週間あまりの冷戦状態になるほどに。

それほど絵里にとって希の言葉は…重い。

絵里(ここで結びなおしてもらえば、もう一度希に髪を触ってもらえる…)

絵里(けど、希はきっとがっかりするわよね…)

絵里(『せっかくうちが結んであげたのに…、いやなの?』って涙目で小首をかしげて…)

絵里(良い…。すごく良いじゃない!可愛い!ハラショー!Это было бы прекрасно!あ、ロシア語出ちゃった)

絵里(でも、それじゃあ希を泣かせることになってしまうわね…)

絵里(希を泣かせる者は誰だろうと許さない!私が希を守ってみせる!!)

絵里(私って案外イケてるわね…)

絵里(けど、希のあの嬉しそうな笑顔…。私が生徒会長の威厳を捨てることによって希が微笑んでくれるのならそれもいいかもしれない…)

絵里(私にとって、一番大切なのは希の笑顔だから…)

絵里(私ってやっぱり格好良いんじゃないかしら?ポイント高いわよ、今の!)

絵里にとっては究極の選択-

『えー、にこに憧れてにこと同じ髪型にしちゃったのぉー?』

『でもぉー、髪型だけ真似してもにこの輝きは真似できないっていうかぁー』

『だからごめんねぇっ、にこっ☆』

しばしの静寂の後、絵里は深いため息を漏らす。

無言でツインテールを解くと、自らの手でポニーテールを結わえ、希に呼びかける。

絵里「さ、行きましょう、希」

希のイタズラを叱責しているわけではないことを示すために希の手を握り、生徒会室を後にする。

絵里は生徒会長の威厳のために希をないがしろにしたのではない。

ただ、その髪型のまま人前に出ることは絵里のプライドが許さなかった。

生徒会長としての威厳など関係ない。

ただ一人の人間として、受け入れることなど不可能だった。

突然脳裏に響いた声が絵里に教えを説いたのだ。

彼女はそれに激しく苛立ちを覚えつつも、かろうじて自らのプライドに、誇りに従うことが出来た。

絵里は声の主に心の中で十字を切った。

そして秘密の花園に乱入されたことを憎んだ。

絵里はその人物に対し、2割の感謝と8割の嫌厭の情を抱いた。

つまるところ、矢澤にこはただの被害者である。

希(絵里ちの髪の毛…、良い匂いやったなぁ…)

絵里に手を握られ幸せそうな顔をしている少女が、少し大人の階段を昇った気がした。

少ししか書いてないのにものすごく時間がかかってしまった。

というわけで本日はここまでです。

それではありがとうございました。

再開でございます。

希は部室で一人、微笑んでいた。

正確に言えば、一日中頬を緩ませていた。

絵里の言葉を借りるのなら、乙女式東條希は天使のような微笑みを浮かべ、生きとし生けるもの全てに幸せをもたらした。

しかし彼女とて人の子、腑抜けた顔をするのも全て好きのせいだし悪くないのだ。

愛しの絵里の手に一日で二度も触れ、そのうち一度は引かれる形で手を取られた。

それだけで希の胸の高鳴りは抑えられぬものとなったのだ。

希(絵里ち…、強引なのも格好良いなぁ…)

希は中々にお花畑思考の持ち主である。

恋する乙女東條希は、想い人によって強引に手を引かれることはとても幸福に満ちていると語る。

乙女式東條希の中でも好きな人にしてもらいたいことランキングの上位に位置する、とのことらしい。

なお、この情報は絢瀬絵里調べである。

ちなみに一位は、不意に口付けをされ『希は私のものだから』と告げられる、だそうだ。

相手役は…言うまでもないだろう。

生徒会長が生徒会長ならば、副会長も割とクレイジーな思想の持ち主だった。

音乃木坂学院の存続が危ぶまれる中、この生徒会役員共の選出は少々失敗だったのかもしれない。

仕事が出来ないどころかすこぶる有能なのだが、思考に難がありすぎた。

希(あー、絵里ちの髪の毛、良い手触りやったし…、匂いも…///)

絵里の髪の毛の感触を記憶の底から掘り起こすように、虚空へと手を伸ばし、何度もわしわしを繰り返す。

しかし頭の中に浮かぶのは、にこの平坦な胸の感触ばかり。

初めは微笑みながら虚空を掴み続けていたのだが、やがてそれは憎しみへと変わる。

そして絵里と同様に、にこを憎んだ。

何か危害を加えたわけでもなく、良い迷惑である。

にこが悪運コンテストに出れば、その途端に幸運を掴み、大した結果を残せないことだろう。

それほどまでの悪運の持ち主、矢澤にこ。

何故彼女はここまで不当な扱いを受けるようになってしまったのか。

それはきっと、誰も知らない。

噂をすればなんとやらとはよく言ったもので、希の思考に呼応するかのように、とある人物が部室のドアを開け―

にこ「にっこにっこにー♪」

能天気にポーズを決める。

お気楽なそれが、温和な希を激昂させた。

希「にこっちぃ…、覚悟しいやぁ…」

彼女は指定席からふらりと立ち上がると、おぼつかなくもおどろおどろしい足取りでゆらりゆらりとにこの元に歩み寄った。

にこ「えっ、ちょっ、なんで…、いやあああああああ!!!」

にこに与えられた罰は、わしわしMAX。

いわゆるいつものお約束、である。

唐突に降りかかる災厄に、にこは顔をゆがめた。

しかし現実とはいかなるときも非情なものである。

現実とはいかなるときも理不尽なものである。

社会に出れば、周りの人間が情けをかけてくれることは少ない。

社会に出れば、理不尽な理由により上司からお叱りを受けることもあるだろう。

矢澤にこは学生ながらもそのような貴重な体験をし、成長しているのだ。

彼女は成長し、そして大人へと近づく。

彼女の志すアイドル道にも、そういったものが必要なのはきっと相違ないだろう。

希「あ、ああ…。これや、ないよ…」

にこの揺るぎなき双丘を何度も撫で、ふと彼女はつぶやいた。

そして絶望に満ちた顔をすると、乳房を揉みしだく手を休めることなく、零れそうな涙を堪える。

たとえ自らの求めるものではなかったとしても、中途半端で終わらせてはいけない。

納得がいかないからと、自ら始めたことを投げてはいけない。

南ことりは言っていた。

『どんなにつらいことがあっても泣かずに頑張らなきゃ輝けないね』

希は今、試練と向き合っている。

そして今の希を突き動かしているのはその信念だけである。

すべての乳房に栄光あれ。

願わくば、乳神様の御加護がありますように。

にこ「泣くくらいならやめなさいよぉ!!」

希「やらなきゃ、やらなきゃ…」

希は暴君と化していた。

にこの言葉など、届きはしない。

絵里とのランデブーはにこの手によって阻まれた。

いわば、にこは憎むべき対象なのだ。

しかし実際にはランデブーなど行われておらず、それは全て希の脳内の話なのだが。

きっと希の頭の中を絵里に見せれば、満更でもない顔をするだろう。

にこ「絵里、絵里ぃー!?」

希「絵里ちは帰ったんよ…!!もう、いない…」

そう、絢瀬絵里はもういない。

希の絵里は、にこの手によっておうちへ帰ってしまった。

いや、帰ってしまったのではない。

おうちへ帰らざるを得なかったのだ。

思考を中断させられた希の頭の中には、もはや絵里の姿はない。

それすなわち、おうちへ帰ったことと同等なり。

あるのは憎しみ、ただそれだけである。

とうとう堪えきれなくなった涙が溢れ、希は膝から崩れ落ちた。

希「にこっち、うちは、うちはぁっ…!!」

希の行動は、にこの理解の範疇を超えていた。

最近の希は絵里と行動を共にすることが多いゆえに、暴走する機会は減ったと思っていたのだが、それはにこの思い違いであった。

これ以上災いが降り注いでは身が持たないと思ったのか、どうにかこの状況を打開すべく、にこは自らの持つ情報で勝負に出る。

にこ「いや、帰ってないから…」

希「なんでそんなことわかるの…?」

にこ「昨日『明日は放課後に生徒会の仕事があるから遅れる』って言ってたじゃない…」

途端、希は頬を赤く染めて俯いた。

与えられた職務は完璧に遂行しているつもりだが、業務の有無を亡失することがあるのが悪い癖だ、と希はにこに語ったことがある。

恋する乙女は己が物事を忘れやすいということさえも忘れていた。

しかしそれを差し引いても希は絶対的天使であり、何より可愛い、と鼻息を荒くして絵里は語るだろう。

絵里は過去に何度か希の素晴らしさを説こうとしたが、競合者を増やしたくはないと思い、口を噤んだことがある。

彼女とて、無益な争いはしたくないのだ。

絵里は、希への愛については絶対的自信を持っている。

ゆえに争っても無駄だ、と思っているのだ。

しかし、『一番大事なのは私の意思ではなく希の意思だから』と最もらしいことを言っており、決して想いを伝えることはしなかった。

意気地なしと言えばそれまでなのだが、きっとこれが絵里なりの流儀なのだろう、多分。

今回の騒動の発端は業務の有無を忘却の彼方に追いやり、生徒会室にいるであろう絵里の居場所を見失ったことなのでは、とにこは睨んだ。

そして、『漢』矢澤にこは赤ら顔の希に粋な一言をかける。

にこ「行ってやりなさいよ、あいつのとこ。待ってんでしょ」

希「にこっち…」

にこは希の背中を押すと、早く行けと促す。

嗚呼、美しきかな友情。

希は痛く感動し、にこへの感謝と絵里への気持ちを胸に秘め、涙を堪えて生徒会室へと走った。

そしてにこは心に固く誓った。

にこ(なんかよくわかんないけど、怒らせないようにしよう…)

その後、部室から数m離れた場所で、廊下を走ってはいけないと注意を受ける希の姿があった。

運命の女神は、きっと彼女たちのことを引き裂いているのだろう。

だが、彼女は走ることをやめなかった。

愛しの絵里ちに会うまでは。

というわけで今回はここまで。

思考はぶっ飛んでるけど言動は常識人。

そんなスタンスです。

遅くなりました。

本日も始めていきたいと思います。

少し短めかも。

絢瀬絵里は物思いに耽っていた。

その端正な顔立ちと物憂げな表情はどこか儚さを思わせるようで、まるで一級の芸術品に近い何かを感じさせる。

生徒会室に一人、書類と睨み合いながら考え事をする姿はさぞかし様になっていることだろう。

街中に出て街頭インタビューでもしようものなら、きっと多くの人が理想の上司像だと答えるはずだ。

そんな雰囲気を纏った金髪の美少女は、一体何を思っているのだろうか。

絵里(希は私のこと忘れちゃったの…?寂しいよぉ)

案の定、東條希のことを考えていた。

生徒会の職務があるというのに、役員の姿がない。

その場にいない役員のことを考えるのは至極当然のことであろう。

その感情を言葉で表すのなら、仕事を忘れたことへの憤り、姿を現さないことへの不安。

どちらかと言えば、負に近い感情を抱くのが普通だろう。

しかし我らが生徒会長、絢瀬絵理はやはり違った。

絵里(せっかく希と二人きりになれるかと思ったのに…。けど、呼びに行くのも意識してるみたいだし…)

生徒会長としては異質な思考をしているが、恋煩いをしている者にとってはきっと共感できるはずである。

生徒会に与えられた仕事なのだから、生徒会室にいない副会長を呼びに出るのはいたって自然な行為なのだが、恋は盲目とでも言えば良いのだろうか。

絵里は希を探しに行くことについてひどく懊悩していた。

ただただ理由が欲しかったのだ。

探しにいく理由がなければ、仕事の最中に生徒会室を空けることなど許されない。

理由など、副会長が職務を放棄し校内を徘徊している、とでも言えば十分なのだが、絵里がそれに気づくことはなかった。

そして生徒会室はありふれた悲しみの果てに包まれた。

こうして好きな相手の事を第一に考え、くだらぬことで一喜一憂する。

それが片想いの楽しさと言っても過言ではない。

絵里は今、青春を謳歌しているのだ。

絵里(もし希を探しに行けば私が意識していることがバレて、絶交とか…)

そして相変わらず思考が飛躍していた。

あるべき時に希の姿が見えないというだけで、絵里の心はひどく衰弱している。

結果、絵里は自分の心を押し殺し、責務を全うすることを決めた。

虚ろな目をしながら書類を眺める生徒会長。

病んでいるようにしか見えない。

絵里「希の胸、希の笑顔、希の声、希のおっぱい、希の匂い、希の髪、希の腰、希の脚、希の乳房…」

そして呪文のように愛しの希の愛しい部位を呟く。

今、彼女は確実に病んでいる。

呪文を繰り返していた絵里だが、しばらくすると何かに勘づいたように目を見開いた。

絵里「やはり私は賢い…」

自分に言い聞かせるように力なく呟くと、徐ろにシュシュを外した。

艶やかな金髪が宙になびく。

そして絵里は取り外した希の髪留めの―

絵里「ああ、の、のぞみぃ…」

香りを一心不乱に嗅ぎ始めた。

シュシュを鼻に押し当て、鼻息を荒くしている美少女が一人。

彼女こそが音乃木坂学院生徒会長、絢瀬絵里。

賢い可愛いエリーチカ、通称KKEでお馴染みの絢瀬絵里である。

その外見を見れば、仕事を完璧にこなし、品行方正の美少女のように映るだろう。

しかし一度希が関われば、彼女は己を見失う。

頭の中身を捌かれれば、きっと賢くない部位が世間に露呈されるだろう。

そんなことなどお構いなしに、希の分身の香りを堪能しようと―

絵里「のぞみぃっ!のぞみぃっ!!のぞみ…の匂いがしないっ!!」

手で強く握り締めたシュシュを机上に投げ捨てる。

そのまま全身の力を抜くと、だらりと手足を垂らす。

そしてシュシュを見つめ、こう思うのだ。

絵里(丸まったシュシュって、下着みたいよね…)

彼女の名誉のために言っておくが、これは彼女なりに集中力を高めているだけであり、やましいことを考えているわけではない。

そして閃いた。

机に叩きつけたシュシュをなに食わぬ顔で拾い、徐ろに頬に擦りつけ始めた。

絵里は可能性を感じたのだ。

一日中自分が身につけていたものとはいえ、希の所有物を手にしているのだから。

それに希成分が残っていると信じて。

彼女の目は希望に満ち溢れていた。

こんなところで終わるはずがない、私の愛はこの程度のものではない、と。

絵里の心は燃え滾っている。

世の中愛情だけでは変わらぬことなど、とうの昔から心得ていたはずだ。

しかし絵里は、それを知っていようとも必死でもがく。

シュシュの繊維が己の頬を傷つけようとも、諦めることは決してない。

何が彼女をそうさせるのか。

…全ては絵里ののぞみのために。

やがて―

絵里「希のせいだよー 1,2,Jump!私の理性はーじけるー」

もはや意味がわからない。

1コーラス歌い終わり満足したのか、東條希の登場を望みつつ、深いため息をついた。

どうにか希を堪能しようと試行錯誤を繰り返す絵里の元に、生徒会室の戸を開ける人物が一人。

希「…ごめん」

東條希の登場。

絵里(のぞみぃ!のぞみぃ!!待ってたわ希!!!)

死んだ魚のように濁っていた目は光を取り戻し、絵里は生気に満ち満ちていくのであった。

と言うわけでかなり短いですが本日はここまで…。

日曜日だ!ラブライブだ!!うわあああああ!!!

再開します。

しかし、絵里はいつもと違う様子の希に違和感を覚えた。

希は絵里に告げた。『ごめん』と。

理性がはじけとんだ状態であろうとも、マジカルボイスの持ち主、のんたんの言葉を聞き間違えるほど堕ちてはいない。

希は確かに謝罪の言葉を絵里へと投げかけた。

そしてそれは、確かに絵里の耳に届いた。

しかしいつものようなおどけた様子はなく、どこかしら憂いに満ちた笑顔を浮かべていた。

熱狂的な希信者である絵里にとっては、様子がおかしいことに気づくことなど容易なことである。

絵里(落ち込んでる希も相変わらずの天使っぷりね…。だけど、私が見たいのはそんな笑顔じゃないのよ)

先ほどの緩んだ表情から一転、凛とした表情を作り思考を巡らせる。

憂いに満ちた表情、いつもとは違う張りのない声、伏し目がちな顔、そして無理に隠そうとしている涙。

希が落ち込んでいるのはわかった。

では、何故落ち込んでいるのか。

そんなことは今はさして重要ではない。

重要なのは、どうにかこの状況を打破することである。

全神経を集中させ、やっとの思いで導き出した解。

絵里「待ってたわよ、希」

視界を机の上に戻し、白く細い指先で髪をなびかせる。

絵里が出した結論は、気にしていないことを精一杯アピールすることであった。

いかにも「気にしていないですよ」と言った体を装って、希から視界を外す。

髪をなびかせる必要があったのかはわからないが、こうした方がデキる女に見えるらしい。

実際に絵里はデキる女としてカテゴライズされる人物である。

しかし、その仕草はこの状況において不適切であるかを示すように

希「…」

空気が凍った。

空気を凍らせること、本日二度目。

もしかしたら彼女は感性が他の人間とはずれているのかもしれない。

天才とはいつの時代も総じて変わり者なのだ。

賢い絵里がポンコツなどと囁かれるのも、絵里の賢さが本物だからだろう。

時代に迫害され続ける賢い絵里の必死のフォローに反応を示すことなく、希は無言で接近してくる。

そして

希「ダメな副会長でごめんなぁ…」

椅子に腰を掛けている絵里を後ろから抱きしめる。

絵里の方が身長は高いとは言え、絵里が椅子に座っているのだから二人の間には当然高低差が生ずる。

絵里(あれ、何この感触…)

結果、希の胸が絵里の頭部に当たる形となった。

否、これは乗っかっている形と言った方が適切である。

衣替えの時期であるが故、たわわに実った二つの瑞々しい果実の感触を薄手の布数枚を挟んだところに感じた。

しかし絵里はそれを頑なに認めようとせず、あえて他の可能性を提示する。

絵里の考える可能性とは一体。

絵里(あ、やっぱりおっぱいだぁ、あははっ)

そういって心の中で爽やかに笑う。

希の胸の感触だということを認めざるを得なかった。

絵里では決して手が届くことのなかった、全ての生命の源、おっぱい。

希のいやらしい体つきを形成しているのに一役どころか八役ほどは買っている、おっぱい。

女性ならば誰もが持っている、夢のたっぷり詰まった、おっぱい。

そんな素敵なおっぱいに、絵里は今触れている。

直接というわけではないが、愛して止まない希のおっぱいに、絵里は今触れている。

絵里(落ち着け、落ち着けわたしぃ…)

絵里(おっぱいがなんだおっぱいがなんだおっぱいがなんだおっぱいがなんだおっぱいがなんだおっぱいが)

絵里(おっぱいがおっぱいがおっぱいがおっぱいがおっぱいが、希のおっぱいが…、いっぱい?)

絵里「うおおおああああああああああああああああああーっっっっ!!」

絵里の思考回路は完全に焼切れ、路頭に迷った挙句、とりあえず叫んだ。

希「え、絵里ちぃ…」

そんな絵里の様子に驚いたのか、彼女が抱きしめられている腕の力を強める。

自身の所持している危険物が、絵里を崩壊へと追い込んでいることなど知らずに。

完全に崩壊した絵里は、普段ではしないような大胆な行動に出る。

希の腕を振り払い、叫びながら生徒会室の外へと走り出した。

希「…へ?」

突然の出来事に唖然とする希。

そして即刻我に帰り、絵里の姿を探すために廊下をのぞき込むと。

生徒会室から数m離れた場所で、廊下を走ってはいけないと注意を受ける絵里の姿があった。

さすがはおしどり夫婦と言ったところか。

彼女たちは、似ていた。

教諭に生徒会長の何たるかを説かれ、肩をすぼめて生徒会室へと戻る絵里。

説教を受けるだけならまだしも、心の箍が弾けとんだ瞬間を希に目撃されてしまった。

絵里(ああ、私の生徒会長としての威厳は完全に失われてしまったわ…)

絵里(だって、希のおっぱいよ?理性を抑えるだなんて…、私が出来ると思う…?)

一体誰に語りかけていると言うのか。

希の胸、それは絵里が夢見た桃源郷。

その桃源郷があちらからやってきたのだ。

桃源郷の前に理性など不必要。

彼女はそう判断しただけだ。

とはいえ一度叱られた身。

これ以上失態を世にさらけ出せば、生徒会長としての地位が脅かされる。

絵里(そういえば希の姿が…。ああ、私に失望したのね…)

ひどく落ち込んだ気分のまま、彼女専用の会長席へ腰を下ろすと―

とても柔らかい。

元来ならば会長席の椅子は硬く、ソファが欲しいなどと愚痴を漏らしながら希と仕事をこなしていた。

椅子を変えろと直談判したことなどないし、室外に漏れるような大きな声で話すと言ったような真似をした覚えなどないのだが。

それに先ほどまでは、硬くとも馴染みのあるパイプ椅子に腰をかけていたはずだ。

絵里(一体あの短時間で何が…)

短時間と言いつつも、一度話し始めると長いと噂の教員に捕まってしまったので、有に20分ほどは経っているのだが。

しかし叱られているさなかだろうが、生徒会室周りに異変があれば気づかない筈がない、と自慢げな顔の絵里。

希「えーりち」

不意に背後から声をかけられ、絵里の身体はピクリと揺れる。

パイプ椅子が柔らかな感触に変わっていたのは、絵里が触れていたのが希の身体だからである。

希は絵里の腹部に手を回すと、そのまま絵里の背中へ体重を預けた。

絵里の望んだ桃源郷、再び。

同じ過ちを二度も繰り返すわけにはいかないと、絵里は頭の中で尊敬するお婆様の顔を思い描く。

すると、絵里の気持ちは落ち着いてきた。

絵里(ごめんなさい、お婆様…。だけどおかげで賢さを取り戻したわ)

きっとロシアのお婆様は絵里にKKEの称号を与えたことをひどく後悔しているだろう。

そして絵里は学んだ。

自分を抑えられなくなってしまったら、最愛のお婆様のことを思い出せば良いということを。

最愛のお婆様を侮辱しながらも、絵里はいつもと変わらぬきりりとした表情で希に問いかける。

絵里「…なにをしているの?希」

希「なんだか絵里ちのこと、近くに感じたくて」

にこの二個の乳房をまさぐり、我を忘れていた人間が到底してはいけないような発言。

しかし希は臆することなくそれを口にする。

何故ならば彼女は恋する乙女なのだから。

恋する乙女の前では常識など無意味。

常識には縛られたくない、若い彼女はそう語った。

希「なんだかこうしてると、落ち着くなぁ…」

そう呟いて、絡ませている腕の力を強める。

普段ならば邪な思考をしているであろう絵里も、この状況には口を噤まざるを得なかった。

実際のところ絵里が何を思い、この状況を受け入れているのか希にはわからない。

ただそれでも良かったのだ。

度々仕事を忘れ、生徒会長の負担を重くしている副会長。

普通ならば責められるどころか、クビを宣告されても仕方のないことかもしれない。

いっそ責めてくれたほうが楽なのかもしれない。

だが、希にはこうして受け入れてくれる存在がいる。

それは紛うことなく、彼女の愛する絢瀬絵里であった。

希(絵里ち、あたたかいなぁ…)

そうして彼女は静かに涙を流した。

生徒会室には時の流れを刻む音だけが響いた。

どれほどの時間が経っただろうか。

二人に会話はなく。

会話など必要なく。

言葉を紡がずとも心で、気持ちで通じ合っているのだ。

希「ありがと、絵里ち。おかげで元気、出た…」

絵里から離れることを名残惜しそうに、もう一度だけ腕に軽く力を込める。

しかし絵里からの反応はなかった。

希「絵里ち…?」

恐る恐る絵里の頬をつけば、だらりと頭を垂らし、幸せそうな顔をしたまま白目を剥いていた。

彼女は幸福を感じたまま、天命を全うした。

希「起きて、絵里ち、絵里ちぃー!!!」

訂正、気絶していた。

というわけで今回の更新はここまで。

絵里ちはかしこいなぁ!!!

再開です。

絵里が目を覚ますと、背中に感じたのは硬いパイプ椅子の感触。

覚醒して間もない頭で、ここまでに至った経緯を思い出す。

絵里(希が私を求めていた…!?)

間違ってはいないのだが、聞く者が聞けば誤解を生む回想に一人、顔を赤らめる。

絵里(あれ、希は…)

生徒会室を見渡すと、机に突っ伏す形で天使がすやすやと気持ち良さそうに寝息を立てていた。

以前の絵里ならば、うすら笑いを浮かべながら希の寝顔をカメラに収めていただろう。

しかし、今の絵里は違った。

大人の余裕とでも言えば良いのだろうか。

希が甘えてきたという幸せが、彼女を成長させた。

そして、求められたという事実が彼女を優越感に浸らせる。

煩悩の塊が大した進化である。

二人きりの生徒会室で、時がゆっくりと流れていく。

絵里は一度優しげな表情を作ると、生徒会室の端へと目をやった。

なお、生徒会室の端には備品置き場が設けられている。

そしておもむろに立ち上がると、備品置き場へと足を伸ばす。

生徒会の雑務に必要なものがあるわけではないが、ひたすらに漁る。

それもこれも、全て絵里の私欲を満たすために。

目的のものを探し終えた絵里は、良い仕事をしたと言わんばかりの得意気な顔をして希の前に立つ。

絵里の手には、生徒会の備品であるビデオカメラが握られていた。

そしてニヤニヤと笑いながら希の撮影を開始した。

絵里(すっごく良いわぁ…)

まったく良くはない。

彼女は何も成長していなかった。

いや、成長したと言えば成長したのかもしれない。

しかしそれは褒められるべきことではなく、彼女は真人間の道からさらに遠のいた。

ビデオカメラがしっかりと記録を残していることを確認すると、彼女はそそくさと動画をパソコンへと移した。

絵里(そろそろ溜まってきたわね…)

生徒会室のパソコンには『私ののぞみ』フォルダが存在していた。

普段は隠しフォルダになっており、さらにパスワードがかけられているため、その存在を知っている者は絵里しかいない。

いそいそとパスワードを入力し、その封印を解く。

フォルダの中身は想像の通り、希の写真で埋め尽くされていた。

中には同じ写真が何枚とあるように見えるが、彼女に言わせれば『何枚あっても希は可愛い』とのことらしい。

そのフォルダの中には動画もあるのだが、全てμ'sのPVに映る希を切り出したものばかり。

プライベートなものは今までになく、絵里は自分を見失うほどに興奮していた。

最も希が関わることで彼女が正常な思考を保っていたことなど一度もないのだが。

絵里(ふむ…、とりあえず持って帰ろう)

脳内で私は落ち着いているアピールをし、自前のUSBメモリの中へとデータを収める。

絵里(撮られている希はどんな気持ちなんだろう)

絵里の感情は完全に迷子になっていた。

希が寝息を立てていることを確認し、ビデオカメラの位置を自分へと定める。

そして独り言とは思えぬほど透き通った声で語り始める。

カメラを完全に意識しての行動。

本当に希の気持ちを理解しようとしているのか判りかねる。

絵里「私はね、あなたにすごく感謝してるのよ」

絵里「あなたのおかげで今の私があるの」

絵里「だから忘れっぽいだとか、いたずらが好きだとか、そんなことはどうでもいいのよ」

絵里「そりゃ、もうちょっと覚えててくれると助かるけど…」

絵里「覚えててくれればあなたといる時間が増えるし…、なーんてね、ふふっ」

絵里「だからね、責任を感じる必要なんてないのよ」

絵里「あなたがいてくれるだけで、私は十分なんだから」

絵里「…私はあなたのことが好き」

絵里「なーんてね、驚いた?ふふっ」

軽く笑みを浮かべ、腰を下ろす。

絵里「今日は手伝ってくれてありがとう…」

絵里「いつも感謝してもしきれないわ…」

絵里「そんなあなたに…、ご褒美、あ・げ・る…♪」

優しい眼差しをカメラに向けると、目を瞑り口を尖らせる。

その様子はなんとも言葉にしがたく、もしもこの場を目撃すればこちらが謝罪をしたい気持ちになるほどであった。

しかしそんな状況であろうと、彼女は我を貫き通した。

唇を尖らせたまま数秒静止した後、絵里はビデオカメラを止める。

希は眠っていると、絵里は信じて疑わなかった。

希は既に覚醒状態にあり、身体を起こすタイミングを伺っていただけなのであった。

絵里の告白は全て希の耳へと届いていた。

そんな希に気付くことなく、絵里は鼻歌交じりにビデオを確認する。

希(絵里ち、格好良い…)

希の恋心は次第に大きくなっていく。

たとえどんな状況に陥ろうが、自分は、自分だけは絵里の味方だと、そう胸を張って言える。

絵里の身に何かがあれば、自らの身を呈してでも絵里を救うだろう。

それほどまでに絵里の存在は希の心を支配していた。

惚れる相手を間違ったような気もするが、どっちもどっちと言われればその通りである。

音乃木坂学院生徒会室は、一般人の立ち入れる場所ではなくなってしまった。

音乃木坂学院に存在する魔界、生徒会室。

絵里(今度はもっと良いカメラ買わないと)

その一端を担っている彼女には自覚などなかった。

というわけで本日も終わり。

今更だけどこいつら浴場じゃなくても欲情しまくってる気がします。

今回はだらだらと更新させていただきます。

ので酉をつけます。

今回は何故か二人ともまとも。

愛しの絵里を前に、いつまでも無言のままでいることに耐えかねた希は、とうとう口を開く。

希「んー、うち、寝てたぁ…?」

目が覚めて間もないことを主張すべく、必要以上に身体を伸ばす。

寝起きでなくとも無理やり身体を伸ばせばあくびは出るもので、つい大きなあくびをひとつ。

希「ふぁあ…、あ///」

寝起きだとアピールするための行為は、結果として自分を辱める行為へと変わってしまった。

先程まで色んな告白シチュエーションin生徒会室を撮影していた絵里はと言うと、恥ずかしがる様子もなく希にフォローを入れる。

絵里「おはよう、希。よく眠れた?」

そう言って希に微笑みかける。

希の前では良い格好をしたいと思っている絵里は、先ほど希に見られた痴態を挽回しようと、凛とした態度で望む。

頭の中は希に支配されてはいるが、学校を良くしようと心がけてはいるし、一人でいる時を除けば行動も常識的なものばかりなので、頼れる生徒会長としての地位は揺るぎないものとなっている。

希「絵里ちが仕事してるのに…、ごめんな」

想い人に気を抜いた姿を見られたことが余程重しになってしまったのか、おどおどとした態度で絵里に謝罪の言葉をかける。

かくいう絵里は別段気にした様子もなく、作業の片手間に希に返答をする。

絵里「私だって寝ちゃってたもの、おあいこさまよ。それに希だって、私の仕事を手伝ってくれたでしょう?」

書類を片手に軽く微笑んで見せる絵里。

自らの失敗を責めることはあっても、決して部下を責めることはしない。

まさに生徒会長の鏡である。

しかし、それも恐らく副会長が希だからなのであろう。

希以外の人物が副会長だったならば、彼女は激昂していたかもしれない。

それどころかきっと生徒会長絢瀬絵里は存在していなかったかもしれない。

絵里は常にそう考え、希に対し感謝の意を忘れたことは一度たりともない。

もちろん感謝だけでなく、恋心も同じくではあるのだが。

希「もう、くすぐったいなぁ…。えへへっ」

申し訳なさそうな顔をしていた希に笑顔が戻る。

その笑顔こそが絵里の見たかった、天使の微笑みであった。

希の微笑みを見られたことがよほど嬉しかったのか、らしくもなく絵里は赤面する。

希「あー、絵里ちったら赤くなってるぅー」

絵里「こ、これは夕日よ!!」

絵里「ひゃっ!?な、なにっ?」

突然の出来事に、らしくもなく可愛らしい悲鳴をあげる絵里。

そんな様子を見ながら、希は

希(そういえばこういうのダメやったなぁ)

などとしみじみと思い返していた。

いつまで経ってもなりやまぬ振動に、絵里は電話だと察すると。

絵里「メンバーの誰かでしょ?」

希は軽くうなづくと携帯電話を手に取り、応答する。

にこ「遅い!」

受話ボタンを押すと、にこの不機嫌そうな声が耳に飛び込んでくる。

希「えっと…、ごめん…」

練習に来ないことなのか、はたまた電話を受けることに関してなのかはわからなかったが、勢いに気圧されてつい謝罪をしてしまう。

小さくとも気は強い、それが矢澤にこなのだ。

にこ「もう、調子狂うわね…」

などと愚痴を漏らしつつも、部長らしく部活の活動内容について報告をし始めた。

とは言ってもいつもと変わりなく、基礎体力作りが主な内容だったのだが。

にこ「それじゃあ今日はこれで終わりだから」

希「うん、ありがと。参加できなくてごめんね」

にこ「はぁ、いいわよ。あんたたちはあんたたちで忙しいんでしょ?しっかりわかってるから」

トゲのある言葉遣いながらも気遣いだけは忘れない。

普段はいじられキャラながらも、しっかりと部長をしている姿はどことなく格好良く見えてしまう。

もちろん格好良いとは言っても、大好きな絵里には到底及ばないのだが。

にこ「それじゃ、にこたちは帰るから。頑張んなさいよ」

そう言ってにこは電話を切った。

希の声しか耳に入っておらず、会話の内容が飲み込めない絵里は希に問いかける。

絵里「にこ、なんて?」

絵里にそう聞かれると、希は困ったように

希「今日の練習は終わり、やって」

と伝える。

絵里は目を瞑ると、一呼吸。

絵里「今こっちも終わったところ。なんだかにこたちには悪いことしたわね」

いたずらっぽい笑みを浮かべながら絵里。

絵里「あの子達、今から帰るんでしょ?間に合うけど一緒に帰る?」

そう絵里が問うと。

無言のまま絵里へと近づき、先ほどしたように軽く抱きしめる。

希「もう少しだけ、このままで」

絵里「…仕方ないわね」

夕日色に染まる、少女たちの顔。

絵里「鍵、閉めた?」

絵里の言葉に返答する代わりに、戸が動かないことを見せる希。

絵里「それじゃあ帰りましょうか」

希「うん」

強く手を握り合いながら、仲良く下校する。

普段ならば?’sのメンバーと帰ることが多く、下校時に手を繋ぐ機会はほぼない。

?’sに加入して、初めてなのかもしれない。

決して離れることのないよう、しっかりと握られた手。

まるで二人の気持ちを表すように。

>>123
文字化けしてるので修正

絵里「鍵、閉めた?」

絵里の言葉に返答する代わりに、戸が動かないことを見せる希。

絵里「それじゃあ帰りましょうか」

希「うん」

強く手を握り合いながら、仲良く下校する。

普段ならば μ ’sのメンバーと帰ることが多く、下校時に手を繋ぐ機会はほぼない。

μ ’sに加入して、初めてなのかもしれない。

決して離れることのないよう、しっかりと握られた手。

まるで二人の気持ちを表すように。

絵里「まだ六月なのに暑いわね…」

希「そうやねー。これからもっと暑くなるやろうし」

絵里「夏だけでもロシアに行こうかしら」

希「あ、ずるーい。うちも連れてってよ!!」

などと、いつもと変わりなく中身のない会話に華を咲かす、実に女子校生らしい下校時間だった。

しかしそんな楽しい時間もたった一言で壊れてしまうもので。

絵里「こんなに暑いんだし手、離しちゃう?」

などと冗談めかして希に問えば、希は少し暗い顔を浮かべる。

恋する乙女には、刺激の強すぎたジョークであった。

希「…」

絵里「なーんてね。…希?のぞみー?」

絵里とて希を悲しませるつもりで発言したわけではないのだが、それは希の心に深く突き刺さった。

希「絵里ちは…離したいの?」

絵里「…ごめん」

希「面倒臭くてごめんね…」

互いに好きあってはいるが、決して付き合っているわけではなく。

その曖昧な関係が、希を臆病にさせた。

絵里はどうにか希の機嫌を取ろうとあれこれ考えるが、普段ロクでもないことしか考えないツケが回ってきたのだろうか。

何一つとして良い考えが思い浮かばない。

絵里があれこれ悩んでいると、希が小さな声でつぶやく。

希「…てくれたら許す…」

絵里「…え?ごめん、もう一回…」

絵里は救いの言葉を聞き取ろうと必死に耳を凝らした。

希「チューしてくれたら、許す…」

絵里「…へ?」

希からかけられたのは、救いの言葉などではなかった。

普段から邪な思考を働かせている故に、こういった乙女的な思考にはめっぽう弱い。

希「だから、キス…、しよ?」

肩を震わせ、希はそう呟く。

そして目を瞑り、唇をとがらせる。

絵里「えっと、その…」

希以上に顔を赤らめ、希を見ては視線から外し、それを何度も繰り返す。

そんな絵里などお構いなしに迫ってくる希。

ここが道端だということも忘れて。

絵里(か、かくなるうえは…!!!)

覚悟を決めたのか、希の肩に手を置き、絵里も顔を近づける。

希と絵里、両者とも冷静さなど欠片もなかった。

そして唇が触れ合う一歩手前。

絵里「う、うぅぅ…」

絵里はへたれ、希へと抱きついた。

白い肌は真っ赤に染まり、ろれつも回らないほどの状態にまでなっていた。

絵里「の、のぞびぃ…」

希「絵里ちのへたれ…」

返す言葉もない。

涙は見たくないとあれだけ心に誓っておきながら、いざ責められると何も出来なくなる。

ヘタレと言われても無理はない。

恥ずかしさのあまり、希の顔を見れないでいると。

チュッ

希の唇が絵里の頬に触れた。

希「絵里ちのへたれ!バーカ!!」

子供のような罵声を吐き捨てて、走り去る希。

絵里が何も言えないでいると、希は振り返って

希「また明日ー!!バカ絵里ち!!」

その後、希が振り向くことはなかった。

絵里はと言うと、何もできずにただただ立ち尽くしていた。

そして、唇の感触を思い出しては頬をさするのであった。

てわけで今回はここまでです。

やっと通常運転に戻った気がします。

落ち着いて書かないとダメだね(戒め)

今回もダラダラ始めていきたいと思います。

真面目な(自慰の)話です。

絵里の頬に口づけをした。

その事実が、希の鼓動を加速させた。

希(夢、じゃないんだよね…)

夢ではない。

夢などではない。

唇に残る感覚、それは紛れもなく愛しの絢瀬絵里へとキスをした証明である。

うまく働くはずもない頭で、今日の出来事を想起するも。

頭に浮かぶのは、夕暮れを背に交わした愛する人への愛の証明。

思い出しては顔を赤らめ、己の大胆さを悔いる。

落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせるように、何度も深く息を吸い、何度も深く息を吐いた。

唇に触れては、絵里の顔を思い出す。

希「ん、絵里ち、絵里ちぃ…」

想い人に犯される想像をしながら、右手で乱暴に自身の乳房をまさぐり始めた。

知らず知らずのうちに、彼女は快楽を求めるようになっていたのだ。

ただひたすらに大きくなっていく恋心。

希(絵里ちが悪いんやから…)

頭の中でそう言い訳をし、たどたどしい手つきで自慰を始めた。

一方。

絵里「はぁ…。希ぃ…」

夜、一人の少女は眠れずにいた。

彼女の名前は絢瀬絵里。

彼女は今日起きたある出来事に頭を悩まされていた。

絵里「もうこんな時間…」

寝室においてあるデジタル式の置時計に目をやると、時刻は1時30分。

ある出来事というのは、想い人、東條希の唇の感触を思い出してしまい、床に就くことができないことである。

睡眠不足がたたり、彼女が所属するスクールアイドルユニット『μ ’s』の練習にも満足に打ち込めないとしたら困る。

心を無にして、どうにか身体を休めようとする。

が、結果はむなしく今もこうして眠れぬことを嘆いている。

希との口づけなど、脳内で何度も繰り返したはずだ。

しかし所詮妄想は妄想。

現実とは訳が違うのだ。

絵里「なんかムラムラしてきた…」

…彼女もまた思春期だった。

絵里は眠るとき、ブラジャーは着用しないようにしていた。

余談ではあるが、彼女の胸は希のものほどではないにしろ大きく、それに加えてモデルにスカウトされるほどの容姿を持つ。

将来の胸の形を心配しつつも、ブラジャーを着けてしまえば寝苦しくなってしまう。

故に入浴後はブラジャーを着用しない状態で過ごす、所謂No brassiere girlであった。

流石に修学旅行の際には着用するほどの常識は持ち合わせているが。

胸部は布一枚が覆っているだけの状態のため、絵里の豊満なバストの形がはっきりとわかる。

そして動くことにより、服との摩擦で乳首が主張を始める。

気にしなければどうと言うことはないのだが、一度気に止めてしまうと、ピンと立った乳首を気にせずにはいられない。

意識し始めた頃には何度も指で転がし、股を濡らしたものである。

そして今夜も。

絵里「っ―」ビクッ

声は出ない。

この程度の刺激は何度も経験している。

しかし何度経験したとて、この快感には身体を悶えさせる。

いつもと同じように服の上から乳輪を指でなぞり、精神をより昂らせる。

布地と擦れて既に主張をし始めていた乳首は、絵里の悪戯な手つきにより、さらにぷっくりと膨れ上がる。

ぷっくりと膨れ上がった乳首を指で摘み、刺激を与える。

希にイタズラされているところを想像しながら、指に強い力を込める。

絵里「くあぁっ…///」

刺激に耐えられず、思わず声を漏らしてしまう。

しかしそんなことなどお構いなしに、何度も何度も乳首に刺激を与え続ける。

快感に身悶えさせ呼吸を乱した彼女には、自慰を中断するという選択肢などなかった。

快楽を得るための障害は排除する。

ただその思念だけで行動していた。

絵里(…邪魔)

彼女は徐ろに纏っていた衣類を脱ぎ始めた。

手始めに、洋服から。

洋服を脱ぐと、絵里の白い素肌が外気に晒される。

透き通るほど白い肌に相応しい綺麗なピンク色の乳首。

その乳首はツンと立ち、新しい刺激を今か今かと待ちわびていた。

乳房を掴み人差し指を乳頭に添えると、指の腹で優しく転がす。

それは衣服を通して与えられたものよりも幾分か刺激的であった。

絵里「あっ…、んうぅ…///」

絵里もまた、想い人との行為を想像し、自慰に耽る。

上半身で得られる快感だけでは飽き足らず、さらに絵里は下半身にも手を掛ける。

そしてひと思いにそれをずり下げると、恥部があらわになる。

恥部の周りには、髪色と同じ色をした陰毛が可愛らしく生えている。

陰毛の一本一本は細く色素も薄い為、何もせずとも絵里のそれは丸見えの状態であった。

姿見鏡の前に座り込み、引き締まった脚をMの字に開脚すると、だらしなく紅潮した絵里の顔が映りこんだ。

しかし絵里の目的は自身の顔を見ることではなく。

絵里「んっ…、すっごい濡れてる…」

トロトロに濡れたそれを見ることであった。

自身の乱れた姿が、更に興奮を掻き立てる。

熱を帯び、綺麗な色をしたそれを指で開けば、てらてらと光っていた。

そこから蜜を掬いとって自らの口に運ぶ。

絵里「しょっぱ…」

希のここからはどんな味の蜜が出てくるのだろう。

そんな想像をし、己の恥部を指でなぞる。

しかしそれだけでは刺激が足りなくなったのか、膣内へと指を挿入する。

しかしその道は狭く、絵里の指は入りきるまでに至らなかった。

その結果は絵里にとって不完全燃焼であり、強い刺激を欲して何度も何度も割れ目を指でなぞる。

―とそこで絵里はあることを思い出した。

昨夜、あれだけ行くことを躊躇っておいてもなお、この場にいる。

まるでここに来ることが当然になっているかのように。

それだというのに、彼女はインターホンを押す気配を見せず、ただただ深呼吸を繰り返していた。

何故彼女はここまで躊躇っているのか。

それは昨日の下校時―

希(ああああ!!もうっ!!!)

希はいらぬことを思い出さぬよう、ピシャリと自分の頬を叩いて気を引き締める。

希(全部絵里ちが悪いんやから…!!)

全責任を絵里に押し付け、開き直る希。

彼女とて全て絵里が悪いとは思っていない。

しかしこうして責任を押し付けなければ、まともに顔を見ることもできないだろう。

あくまでもいつもどおり。

昨日は何もなかった。

いつものように手を繋ぎ、二人仲良く登校するのだ。

希は瞳に決意を宿し、絵里への思いをぶつけるようにインターホンを連打する。

その甲斐虚しく、一度だけインターホンの音が聞こえる。

一度腹を決めてしまえば案外あっさりしたもので、いつものように『早く絵里の顔を見たい』とさえ思っていた。

顔を見るのと話すのはまた別問題ではあるのだが。

かれこれ考えているうちに、絢瀬宅の玄関の戸が開く。

絵里「おはよう、希」

絵里はいつもどおりの振る舞いを見せる。

それならばそれで希としても気は楽なのだが、直前でヘタレておいてこの仕打ちとは納得がいかなかったらしく、自ら昨日の話を蒸し返す。

希「む、絵里ちぃ。昨日の」

と、

絵里「さ、行きましょうか」

まるで昨日のことなどなかったかのように絵里は振舞う。

そして希に背を向け一人で歩き出す。

希にはそれが信じられなかった。

否、信じたくはなかった。

自分は、絵里の心の中に住み着いて離れない存在なのだとばかり思っていたが。

希(うちの自惚れやったんかな…、ははっ)

絵里「…どうしたの?」

絵里は心配した様子で希の顔を覗きこむ。

昔から自らにフタをしてきた希は作り笑いを浮かべ、

希「ううん、行こ」

と一声。

いつもどおりだがいつもどおりではない。

違和感の正体は一体。

ふと、自分の両の手を見つめると。

希(手、握ってくれないんや…)

違和感の正体に気付き、下唇を噛み締めた。

希「えーりち」

絵里「次は移動教室よ、行きましょう?」

学校で執拗に話しかけるも、のらりくらりとかわされてしまう。

いつもとは違い、絵里が何を考えているのかがまったくわからない。

そしてそんな絵里を、希は恐れていた。

希「うん…」

自分が犯した過ちなどわかっている。

わかっているが、それが過ちだとは認めたくなくて。

しかしこれ以上に心の距離が開くことを望んではいない。

もしかしたらあの行いひとつで修復など不可能な関係になってしまったのかもしれない。

それほどまでにもろい関係であることを突き付けられたような感覚。

そして希を見る絵里の目は、無感情のそれであった。

それこそあの絢瀬絵里の目なのかと疑いたくなるほどに。

希(ははっ、あんなことしたから嫌われてしまったんかな…)

などと思えば。

絵里「…朝から元気がないわね。保健室行く?」

不意に見せる優しさに、ついドギマギしてしまう。

希「んーん、なんでもない」

そんな優しさが嬉しくて。

そんな優しさが切なくて。

そんな優しさを手放したくなくて。

希(好き、だったよ…)

希は強く拳を握ると、自らの思いを閉じ込めた。

絵里は頭を抱えていた。

希の純粋な好意に、どうすれば良いのかわからずにいた。

絵里(私だって希は好きよ…だけど)

自慰行為に耽る自分の姿を、画面越しに薄目で見つめる希。

その光景がフラッシュバックする。

そして己の行動を振り返ってみれば。

絵里(私は汚れすぎてるのよ…)

希に気付かれないように撮影を繰り返していたことも、眠っているだろうと思って撮影していたことも、全て私欲を満たすための行いであった。

そしてその全てが重しになってのしかかってくる。

もしも自分がもっと綺麗な好きを抱けていたら。

もしもだなんて考えるだけ無駄だと分かっていながらも。

よこしまな気持ちを抱いて希と接していた自分への罰が下ったのかもしれない。

自分自身が傷付くだけならば、それで良かった。

しかしこの現状を見てみれば、希をも傷付けている。

希を傷つけない方法はただひとつ。

絵里が希の思いを受け入れること。

しかしそれは出来ない。

受け入れてしまえば、きっともっと希を傷つけてしまうから。

絵里(希、こんな人間を好きになってくれてありがとう)

絵里(さよなら、私の恋心)

絵里(好き、だったわ…)

それでは本日も更新いたします。

絵里はにこに呼び出され、屋上へと向かった。

にこ「なんで呼ばれたかわかってる?」

にこは真剣な面持ちで絵里に語りかける。

にこがこの表情をするときは、決まってアイドルのこと。

それともうひとつ。

希のこと。

状況から察するにおそらく後者であることは予測できたが、重苦しい空気に耐えかねわざとおどけて見せる。

絵里「さぁ…?告白でもされるのかしら」

にこの冷たい眼差しが突き刺さる。

こうなることは分かっていた。

しかし絵里は道化を演じ続ける。

絵里「まぁ、私ってば案外モテるし気持ちはわからなくないけど…、ごめんね」

いつもは決して叩かない軽口。

それだけでも異常な行為である。

それと同時に、これが深刻な状況であると物語っていた。

にこは深くため息をつくと、絵里の言葉を無視して問いかける。

にこ「希と何があったの?」

絵里「何ってー」

次の言葉に詰まる。

何があった。

説明するのは簡単だ。

しかし色恋沙汰というものは安々と他人に話すべきことでもない。

自分一人が傷つくだけならば良いのだが、希の想いも白昼に曝されることになってしまう。

それだけは避けなくては。

絵里「…」

にこ「今の間、やっぱり何かあったのね」

にこは希から何も聞かされてはいない。

故にカマをかけたのだ。

絵里と希の間に『何かがあった』確証を得るために。

にこ「話しなさいよ。相談に乗ってあげるから」

絵里「別に何も」

にこ「ないわけないでしょ。あんたを見る希の目、いつもと違うのよ」

絵里「そんなのただの言いがかりよ」

真実を突きつけられたのがよほどつらかったのか、つい冷たく言い放ってしまう。

しかしこれでいい。

にこが希を慰めて―

にこ「わかるのよ」

にこ「…部長だから。」

そう言ってにこは寂しく微笑む。

絵里「にこ…」

にこ「話してくれるわよね」

絵里は深呼吸をすると―

決心した。

全て話そうと。

自分が希に抱いている感情。

自分が希にしてきた愚行の数々。

自分が希の想いを受け入れられないこと。

全てを。

絵里の口から語られる言葉に真剣に耳を傾けるにこ。

そして絵里が語り終わると、にこは深いため息をついた。

にこ「はぁ…」

絵里「な、なによぉ…」

にこの反応に思わずたじろぐ絵里。

にこ「あんたばかぁ?」

次に飛んできたのは罵声であった。

にこ「もっと希のこと信じてあげなさいよ」

にこ「あんたが希を盗撮してたからって何よ?」

にこ「あんたが希の寝顔で、その…、したからって何よ?」

にこ「そりゃ、人間的にはダメだけど…」

にこ「けどね、あんたが好きな希はその程度であんたのことを嫌いになんかなったりしないわよ」

絵里「そんなこと…」

にこ「わかるわよ。だってにこは…」

そこまで言いかけて、にこは言いよどむ。

そして軽く咳払いをすると。

にこ「スーパーアイドルだからねっ!にこっ☆」

満面の笑みで、いつものポーズを作ってみせる。

にこ「待ちなさい!」

すると絵里はきょとんとした顔でにこを見つめる。

にこ「魔法をかけてあげるわ。目を瞑って」

にこは絵里に目を瞑らせると。

両の手で絵里の頬を引っぱたいた。

絵里「ったぁ!!なにするの!?」

にこ「気合いを入れてやったのよ」

絵里「だからっていきなり叩かなくても!!」

ヒートアップする絵里の眼前に、にこは人差し指を立てた右手を割り込ませる。

にこ「ほら、いつも通り。もう大丈夫、よね」

そう言ってにこは微笑んだ。

絵里はハッとした顔をし、唇を噛み締めた。

にこ「行ってらっしゃい、早く」

絵里「ええ、本当にありがとう、にこ…!!」

そう言って屋上を走り去る絵里。

屋上にはただ一人、アイドル研究部部長、矢澤にこが残されていた。

目には大粒の涙を浮かべて。

にこ「アイドルってのはね、笑顔を見せる仕事じゃなくてね、笑顔にさせる仕事なのよ…」

にこ「だから絵里、あんたは希のアイドルになりなさいよね」

にこ「泣かせたら、承知しないんだから…!!」

留まることの出来なくなった涙は次々と頬へと伝い、ついには地面へと落ちる。

にこ「けどね、アイドルってのは見えないところで泣いてるものなのよ」

にこ「だから、今だけは…」

にこは空を見上げ、ただただ涙を流した。

本日はここまで!

更新始めます。

余談ですけど、にこの「アイドルは笑顔を見せる仕事じゃなくて笑顔にさせる仕事なの」って台詞が好きです。

にこからの喝を受け、己の学校生活の拠点となる三年生の教室へと足を速める。

一人で昼食を摂ってはいたものの、希の姿を確認する癖がついていた。

もっとも、彼女が自身の机の上で弁当箱を広げることを確認すると、絵里はしょんぼりと自分の席へ座り弁当箱を広げるというのが最近の流れではあるのだが。

しかしそれが、希がクラスルームにいるという確証を持たせた。

教室のドアを勢い良く開け、希の着いている席へと目をやる。

そして絵里は希へと目標を定め、動き出す。

しかしそれに気付いた希はそそくさと立ち上がり、小走りで出ていった。

絵里(私、希に嫌われちゃったのかしら…)

絵里(無理もないわよね…)

以前の絵里ならば『仕方がない、私が悪い』と自らに言い聞かせ、諦めていたことだろう。

しかし今は違う。

にこから檄を飛ばされ、絵里は変わった。

根本的には変わってはいないのかもしれない。

しかし絵里は『自分は変わった』と思い込むことで、自らを成長させようとした。

廊下を覗くと希の姿はない。

おそらく全力で走ったのだろう。

絵里(まったく、副会長なのに…)

絵里(私も希のこと言えない、か)

などと考え、くすりと自嘲気味に笑う。

その様子は以前の絵里とは違い、どことなく余裕を持っているように見えた。

希の姿が見えないとなると、終着点を探し当てる必要がある。

この時間帯の廊下は生徒で溢れている。

おそらく廊下にいることは適切ではないだろう。

では屋上はどうか。

屋上にはおそらくにこがいる。

それに屋上へ向かったとて、出入り口はひとつ、隠れる場所もない。

追い詰められればそこで終わりとなる。

頭の回転の速い希のことだ。

それくらいはすぐに感づいて、選択肢から除外するだろう。

だとすると、恐らく―。

昼休み、恐らく一般生徒とは無縁の生徒会室の戸を開け放つ。

と同時にスチール製の何かが閉まる音がする。

絵里は生徒会室を見渡しスチール製のものを確認すると、目に付いたのは掃除道具入れだった。

生徒会室には二つの掃除用具入れが設置してある。

ひとつは生徒会室を清掃するための真っ当な掃除道具入れ。

もうひとつは壊れた掃除用具を入れておく掃除道具入れ。

絵里(壊れた掃除用具はついこの前廃棄したばかり…)

掃除用具の入ったままでは身を隠すスペースがない。

しかし中身がなければ人間が二人ほど入れるスペースができる。

そのためには抱きつくような形で入らなければならないのだが。

希の居場所を確信し、掃除道具入れの前で深呼吸を繰り返す。

そして覚悟を決め、扉に手を掛ける。

すると中には

希「あ…」

やはり希の姿が。

絵里「麗しい女子高生が隠れる場所じゃないわよ」

と冗談めかして四角い箱から出るように促す。

生徒会室には二人。

椅子に座りながらこうべを垂れている希と、腕を組みながら難しそうな顔をしている絵里。

その二人の間に会話はなかった。

静寂が続く中、希が口火を切る。

希「…どうして追いかけてきたの?」

少し冷たく言い放つ。

その言葉は少し、震えていた。

希は半ば諦めているのだろう。

絵里と元通りになることを。

絵里とそれ以上の関係になることを。

その問に対しての絵里の回答は。

絵里「あなたに話があるの」

答えとも、答えではないとも取れる曖昧なものだった。

希自身追いかけられた理由などどうでも良く、知りたいのは絵里の感情ひとつである。

故にその発言を受け入れた。

希「…ん」

心の氷が、なんとなく溶かされていった気がした。

こうして絵里に話しかけられる日が来るなんて。

こうして絵里と言葉を交わす日が来るなんて。

絵里「時間もないし、端的に言うわね」

その言葉に心を乗せて。

絵里「私はあなたのことが」

希「言わないで」

突如希によって遮られる絵里の声。

自分にとって良い答えはきっと返ってこない。

これ以上傷つきたくない。

ならば逃げてしまおう。

そして、自分の心を偽り続けよう。

そう思った。

絵里「そう。わかったわ」

絵里は深いため息をつくと、希に席を立つよう言い渡す。

希は返答の代わりにゆっくりと立ち上がると、そのまま押し黙った。

そしてそんな絵里の前に、どうしても伏し目がちになってしまう。

一方絵里はというと―

彼女も同様にゆっくりと立ち上がり、希の目の前に立つ。

普段ならば自然と目が合う、そんな存在なのだが。

絵里は何度も深呼吸をすると、希の肩に手を置く。

すると希は目を瞑った。

それほどまでに徹底して絵里と視線を合わせない。

目を合わせてしまえば、きっと涙が止められないだろう。

閉ざした視界の中、眼前に何かの気配を感じる。

だがきっと目を開けてしまえば正面には絵里の顔が。

チュッ

不意に唇に柔らかいものが当たる。

目を開けずとも、何が当たっているのかは想像出来た。

肩に置かれていた手は、腰と背中に回っていた。

その手はとても震えていて。

心の中でくすっと笑うと、希も彼女の背へと腕を伸ばした。

一体どれほどの時間が経っただろうか。

彼女たちの間に言葉はなくとも、心で通じあっていた。

そんな気がした。

絵里「ぷぁっ…」

初めてにしては長すぎるキス。

しかし、彼女たちのこれからの関係の中では短すぎるキス。

そして、初めてのキス。

絵里「…こ、これで…、許してくれる、わよ、ね…」

震える声と荒れた息で希に問えば。

チュッ

熱い口付けが返ってきた。

本日は以上です。

ありがとうございました。

本日も更新していきます。

のぞえりが一段落しまして、今回はにこ編です。

明確な告白をしたわけではないけど、二人はめでたく恋仲になったらしいわ。

どっちから告白したのか、なんて聞けば

希「絵里ちからキスされて、それで…」

絵里「違うでしょ?初めは希が私に迫ってきて…」

希「あれは告白じゃないよ!絵里ちがうちのこと悲しませるから…」

絵里「あー、もう、可愛いわね」ギュッ

なーんて見せつけられて。

まったく、たまったもんじゃないわよ。

こっちの気持ちも考えなさいっての。

にこ「あーはいはい。わかったから惚気んのやめてくんない?」

希「そんなこと言うとわしわしMAXよ?」

恋人の前でそんなこと言っていいわけ?

ほら、絵里がすごい顔してるわよ。

絵里「希」

やっぱり怒られてる。

希「うっ、ごめんなさい…」

やれやれ、こんなんで大丈夫なのかしら…?

にこ「それで、わざわざ人の教室まで来て何の用なのよ。にこは忙しいんだけど」

絵里「ああ、ええと…。あの日の昼休みのことで…」

またそんなこと言うと希が怒るわよ。

希「絵里ちぃ…、昼休みのことってなんなん…?」

ほら。

絵里「違うわよ!?やましいことは何もしてないの!!」

そうやって慌てるから怪しく見えんのよ。

ま、面白そうだから助けないけど。

希「うちはやましいことなんて一言も言ってないんやけどなぁ…」

絵里「あっ、えっと…、それは言葉のあやで…、あっ、のぞっ、待ってぇ…、んっ…」

ちょっ、学校でそんな声出したら…!

やっぱみんな見てるじゃない!!

もう、そういうのはあんたらの教室でやんなさいっての!!

にこ「あんたらねぇ、ここ学校よ?」

希「あっ…、ごめん…」

絵里「ごめんなさい…」

ったく、付き合ってからもこっちに迷惑かけんじゃないっての。

おかげで教室に居づらくなって…。

別にここじゃなくてもいっか。

にこ「はぁ、場所変えるわよ」

空いてそうな場所は…、あそこでいいわね。

んー、生徒会室なんて久々に来たわね。

正直にこは堅苦しいことは苦手だし、予算会議以外でここに立ち入るのはごめんだと思ってたけど…

希「絵里ち、学校で手は…」

絵里「えー、いいじゃない。ロシアでは普通よ?」

にこ「絶対嘘でしょ、それ」

これは連れてきて正解だったわね。

人目がなければこれみよがしにイチャイチャして…。

節操無しもいいところよ、本当に。

にこ「で、昼休みのことって何?」

叩いてやったことでも根に持ってんのかしら?

言っとくけどにこは悪くないからね。

にこ「ってあんた、何赤くなってんのよ…」

希「あはは、あのこと思い出してしまって…」

もうこいつ置いてきた方がいいんじゃないの…?

絵里「も、もう、希ったら…、やめてよぉ…」

あんたもなのね…。

にこ「このままじゃ埒があかないから、一人だけ出てってくれないかしら」

希「えっ…?」

絵里「にこ…」

いや、なんでそんなひどいこと言うの?みたいな顔されても困るんだけど…。

あんたら二人がいちゃついてるからいつまで経っても話が進まないのよ。

にこは悪くないっての。

希「誰か…」

絵里「一人…」

えっ、なんで揃ってにこの方見てんのよ…。

まさかにこに出てけって言うの…?

この状況から解放されるならむしろ喜んで出てくんだけど。

にこ「あんたら、にこに話があるんじゃないの…?」

絵里「そう言われればそうね」

って、忘れてたんかーい!!

希「あはは、ならうちはお暇しようかな」

ま、妥当な判断ね。

希「絵里ち、二人きりだからって変なことしちゃダメやからね」

絵里「そんなことしないわよ。私が好きなのはのぞ」

にこ「早く出てきなさいよ!!」

希「もー、そんなに急かさんとってよー。なら、また後でね」

はぁ、こいつらってこんなに面倒臭いやつらだったかしら…。

もっと常識的な人間だと思ってたわ。

なんだかんだで二人もμ ’sに入って変わったのね。

方向性は別だけど…。

にこ「で、話ってなによ?頬を叩かれたことの報復かしら」

絵里「いや、そんなことしないわよ。確かに痛かったけど…」

ったく、希が居なくなった途端にまともになっちゃって。

あんたは二重人格者かなんかなの?

絵里「にこ、本当にありがとう」

にこ「なによ、急に改まって」

絵里「にこが気付いてくれなかったら、きっと私たちはずっとあのままだったと思う」

絵里「自分の気持ちにフタをして、相手を傷つけて…」

絵里「多分誰にも相談出来ずにいたと思う」

絵里「だから、気付いてくれてありがとう、にこ」

絵里「なんてね、変よね」

…良い顔で笑うようになったわね、本当に。

それはにこのおかげかしら?それともあの子?

ま、どっちでもいいわよね。

もう終わっちゃった事だし。

にこ「別にあんたのためじゃないわよ」

にこ「あんたら二人の雰囲気が悪いと部内の雰囲気も悪くなんでしょ」

にこ「そんだけよ…」

絵里「えー、本当にそれだけぇ?」

ニヤニヤすんじゃないわよ、鬱陶しい…。

それに、今更泣き言言ったってどうしようもないでしょ。

にこはアイドルなんだから、笑顔を届けなきゃいけないのよ。

にこ「だったらなんだって言うのよ?」

絵里「ううん、なんでもないわ。にこは大人よねぇ」

にこ「ならこの手は何よ」

絵里「え?撫でてるんだけど」

にこ「あんた、刺されても知らないわよ」

絵里「あははっ、それもそうね」

惚れられたものの余裕ってやつ?

そのうち愛想つかされても知らないわよ。

希に限ってそんなこと、ないと思うけど。

もしもあったら…、なんて考えちゃダメね。

にこ「話が済んだなら戻るわよ。希、寂しがってんじゃない?」

絵里「そうなのよねぇ。あの子案外寂しがり屋なのよ」

絵里「この前もね、私が少し待ち合わせ時間に遅れちゃったんだけど」

絵里「そしたら希ったら、寂しかったってずっと腕に抱きついてるのよ」

絵里「あの子、寂しいと下向いて服の裾を掴むくせがあるのよねぇ」

絵里「それがまた可愛いんだけど」

絵里「あ、それとね、あの子キスするとき」

にこ「絵里」

あんたに悪気がないのはわかってるわよ。

けどその話、にこは聞きたくないの。

今日はもう…、帰っちゃおうかな…。

にこ「用事思い出したから今日は練習出られないわ。みんなにも伝えといて」

絵里「あ、にこ…」

にこ「また明日ね」

にこ「ただいまー」

こころ「お姉さま、おかえりなさい」

ここあ「おねえちゃんおかえりー!」

虎太郎「おかえりー」

にこ「ただいま、皆。良い子にしてた?」

こころ「勿論ですわ。お姉さまの妹として恥ずかしくないように…」

ここあ「もー、お姉ちゃん疲れてるんだから後にしなよ!」

にこ「ふふっ、心配してくれてありがと。けど、お姉ちゃんはこの通り元気だから!」

もう泣かないって、決めたんだから。

虎太郎「おねーちゃん」

にこ「ん?どうしたの虎太郎」

虎太郎「だいじょーぶー?」

にこ「うん、だいじょ…」

あれ、どうしたんだろ。

こころ「お姉さま、どうしたんですか!?」

ここあ「どこか痛いの!?」

なんで、涙が出てくるの?

この子達の前なのに。

泣いちゃダメなのに。

お姉ちゃんなのに。

にこ「うっ、うぁぁ…、うあぁぁぁぁぁ…」

こんなのダメ、ダメなのに…

にこ「よわい、おねえちゃんで、ごめっ、ごめんねっ…」

こころ「…いいえ、お姉さまは最高のお姉さまです」ギュッ

ここあ「どんなお姉ちゃんでもわたし達は」ギュッ

虎太郎「だいすきー」ギュッ

にこ「うんっ、ありがと…。にこも…好きだよ…」ギュッ

…愛されてるのは絵里だけじゃない。

私だって、こんなに愛されてるんだから。

羨ましいでしょ?

はー、朝からお熱いわね、あの二人は。

ていうかこんなに暑いのに平気なのかしら。

にこ「おはよう」

絵里「おはよう、にこ」

希「おはよ、にこっち」

にこ「あんたらも朝から見せつけてくれるわね…」

絵里「離したら希が寂しがるから…」

希「絵里ちは…、離したいの?」

絵里「あ、いや、その…」

希「ふふっ、冗談や♪」

相変わらずね、あんたたちも…。

けど、変に気を遣われるよりはよっぽどいいか。

あの子達もそれをわかって…るわけないわよね、ふふっ。

絵里「じゃあにこも手を繋いで行こっか?」

にこ「はぁ!?嫌よ、高校生にもなってそんなこと…」

希「ほぉら、恥ずかしがらんと♪」

にこ「…ったく。今日だけだかんね」

絵里「希、私妬いちゃうかもよ?」

希「もー、絵里ちったらぁ。じゃ、うちが真ん中な」ニコッ

にこはあんたの笑ってる顔が好き。

だけどにこじゃきっとその笑顔にさせられない。

にこには希のアイドルになる資格がないのよ。

だから絵里、頼んだわよ。

泣かせたら承知しないんだから。

…希、大好きだったわ。

そしてさよなら、私の恋心。

そんなわけでにこちゃんのお話はお終いです。

そして今日の更新もお終いです。

ありがとうございました。

また更新しようと思いましたがこれ以上書いても蛇足になりそうな感じもあるので、ここで終わりにさせていただきます。
結果のぞえりはエッチしかしなさそうですし…。
最後は切ない感じで終わっておきます。

こんな形での終わりですが、ありがとうございました。

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