魔法少女「人智を超えた拳法、それすなわち“魔法”なりッ!」(125)

<中学校>

少女「はいっ、できたよ!」スッ

女友人「えっ、もうできたの!?」

少女「あれぐらいのほつれなら、なんとかね」

女友人「ありがとう! この服気に入ってたからさ~」

女友人「それにしてもホント、あなたって手先が器用だよね~」

女友人「特に裁縫なんか、もうプロ級っていっていいんじゃない?」

少女「え~、そんなことないって」

少女「でも、そういってもらえるのは嬉しいな」

ワイワイ……

少女&女友人「ん?」



男子生徒A「頼むっ! 野球部に助っ人に来てくれ!」

男子生徒B「いや、我がサッカー部に! 今度の試合は絶対勝ちたいんだ!」

男子生徒C「いやいや、バスケ部に!」

少年「う~ん、参ったなぁ……」



女友人「ハハ……。アイツ、今日もモテモテだね~。さっすがスポーツ万能」

女友人「アイツがチームに加わったら、それだけで勝てちゃうっていわれてるほどだし」

女友人「もちろん、男だけじゃなく女にもモテモテなんだけど」

少女「うん……」

少女(少年君……かっこいいなぁ)

少女(私……少年君が好き)

少女(だけど、スポーツ万能でみんなのヒーローな少年君と)

少女(私みたいな指先の器用さだけが取り柄の女が釣り合うわけない……)

少女(でも、いいんだ)

少女(片思いだって、十分幸せなんだから……)グッ…

女友人「──ねえ、なにボンヤリしてるの?」

少女「うひゃっ!?」ビクッ

女友人「近頃、物騒だしさ。あんまりボヤっとしてちゃダメだよ~!」

少女「物騒……?」

女友人「なんでも最近、この辺りの名のある不良や格闘家たちが」

女友人「次々に勝負を挑まれては倒されてるらしいよ?」

女友人「そいつがいつ、あたしらみたいな一般人に矛先を向けるか分からないしさ」

少女「う、うん……気をつける」

<中学校の外>

小動物(うむむ……ッッ)

小動物(このままでは人間界も『闇格闘組織』に征服されてしまう……!)

小動物(我の故郷はすでに滅ぼされてしまったが……)

小動物(せめてこれ以上、奴らを好きにはさせんぞ……ッ!)

小動物(故郷に伝わっていた『世界を闇が覆う時、魔法少女現る』という伝説……)

小動物(もはや、これにすがるしかあるまいッ!)

小動物(早く“魔法少女”となる素質を持つ女を探し出さねばッッッ!)

シュザッ!

放課後──

<通学路>

少女(今日は女友人ちゃんは部活だし……最近物騒だっていうし、早く帰ろっと)

少女「!」ピクッ

少女「…………」

少女(なんだろう、この感覚……?)

少女(いつも寄り道なんかしないのに……)

少女(なんだか今日は寄り道しないといけないような気がする……)フラッ…

<路地裏>

小動物「…………」ジリッ…

怪人A「…………」ジリ…



少女「!?」

少女(な、なんなの!? なんなのこれ!?)

少女(可愛らしいけどやたらムキムキなちっちゃな生き物と)

少女(特撮番組とかに出てきそうな強くて悪そうな怪物が向き合ってる!)

少女(なんなのこれ!? これは夢なの!?)



怪人A「きええぁっ!!!」ビュアッ

怪人Aが小動物に対し、強烈なローキックを放った。

小動物「鈍速(おそ)いわッ!」ギュアッ

怪人A「なっ!?」

ローキックをかわすと、小動物は怪人Aの軸足へと突撃した。

ベキィッ!

怪人A「ぐああああっ……! ひ、膝を……ッ!」ガクン

さらに──

小動物「咽喉ッ! 水月ッ! ──金的ィッ!」

ズドドドッ!

急所を容赦なく攻める、体当たり三連撃。

怪人A「ぐ、はぁ……」ドサァッ

小動物「未熟者め……」ババッ

“残心”を決める小動物。



少女(す、すごい! 子犬ぐらいの大きさなのに、勝っちゃった!)

怪人A「ぐう……。や、やるな……」

怪人A「だ、だが……」

怪人A「いくらキサマでも『闇格闘組織』全てを相手するのは不可能……」

怪人A「特に……大魔神様や四天王には……絶対勝てぬ……」シュゥゥ…

怪人Aは消滅した。

小動物(たしかにな……)

小動物(我一人では心もとない……)

小動物(なんとしても、魔法少女となる素質を持つ女を見つけねばッッッ!)

小動物「!」ピクッ

小動物「誰だッ! そこにいるのはッ!?」クルッ

少女「あっ……」ビクッ

小動物(ぬうう……あのような小娘に目撃されるとは不覚の極みッ!)

小動物(我はこの世界の住民ではないゆえ、なるべく関わりたくないというに……)

小動物「オイ、小娘ッ!」

少女「は、はいっ!」ビクッ

小動物「このことを他言したら、命はないと思えッッッ!」

少女「い、いいません! 絶対っ!」

小動物「よし、ならばとっとと立ち去──」

小動物(待てよ……。この小娘、なんというキレイな指をしているのだ!)

小動物(まさに“魔法”を身につけるのにうってつけではないかッ!)

小動物「いや待て……」

少女「へ!?」ビクッ

小動物「小娘……。命が惜しくば、魔法少女になるのだッッッ!」

少女「!?」

少女「魔法……少女?」

小動物「うむ」

小動物「キサマには素質がある。魔法少女となる素質がな」

少女「魔法ってつまり……変身したり、テレポートしたりできるってこと?」

小動物「否、魔法とは極限まで鍛え抜いた拳足で敵を打ち砕くことだ」

少女「それは魔法というより、格闘技とか拳法とかいうんじゃ……」

小動物「断じて否ッ!」

少女「!」ビクッ

小動物「もちろん、ただの格闘技や拳法ならば、魔法とは呼べん」

小動物「だがッ! それ以上の領域にたどり着いたなら、話はちがう!」

小動物「人智を超えた拳法、それすなわち“魔法”なりッ!」

少女「!?」

小動物「どうだ、魔法少女になってみんか!? ──いや、なれッ!」

少女「い、いえ私は……」

小動物「なぜ躊躇する!?」

少女「私、運動とか苦手だし……とても拳法なんか……」

小動物「フン……そんなものは修業でどうとでもなるわい」

小動物「それにな、修業を積めば、肉体と精神が鍛えられ女としての魅力も上がる」

小動物「フェロモン分泌も促され、男どもを誘惑することも容易くなるぞ」

少女「!」ピクッ

少女(もし、魔法少女になったら少年君に振り向いてもらえるかも……)

小動物「どうだッ!?」

少女「……やってみる!」

少女「私、魔法少女になる!」

小動物「うむッ!」ニィ…

小動物「よし、さっそく修業を開始するゆえ、キサマの家まで案内しろ」

少女「え、いきなりなの!?」

小動物「コラァッッッ!!!」

少女「!」ビクッ

小動物「今から我はキサマの師なのだ。ちゃんと敬語を使わんかァ!」

少女「は、はいっ!」

少女「えぇ~と師匠、いきなりやるんですか?」

小動物「当然だ。拳法において、迅速(はや)さとは最重要といってもいい要素だ」

小動物「早いに越したことはないッッッ!」

少女「はぁ……」

小動物「はぁ、ではないッ! くびり殺されたいのかッッッ!?」

少女「もっ、申し訳ありませんっ!」

<少女の家>

小動物「ほう、なかなかよい家だな」

少女「ありがとうございます」

小動物「よし、今日からここは道場と呼ぶ」

少女「えええええ!?」

小動物「では入るぞ」ズイッ…

少女(なんだかとんでもないことになっちゃったなぁ……)

<少女の部屋>

小動物「なんだこの部屋は」

小動物「ぬいぐるみと裁縫道具だらけではないか」

少女「ご、ごめんなさいっ! 私……こういうのが好きなので……」

小動物「よいよい、責めておるのではない」

小動物「これらで培った手先の器用さは、拳法を魔法まで極める上で必ず生きるッ!」

少女(とてもそうは思えない……)

小動物「さっそく修業開始といくか」

小動物「まずは腕立て伏せからだ!」

少女「は、はいっ!」

少女「うんしょっ……」ググッ…

小動物「一回もできぬのか!? ええい、根性だ、ガッツだッ!」

少女「は、はいいっ……」ググッ…

小動物「よし……よくやった!」

小動物「一回できれば、あとはそれを繰り返すだけだ」

小動物「つまり何百回、何千回でもできるということだ! さぁ、続きだッ!」

少女「そ、そんな無茶な……」グググッ…

小動物「次は腹筋だ! 足を押さえててやる!」ガシッ…

少女「んしょっ……」グッ

小動物「丹田に力を込めいッ! 肉だけでなく、内臓をも駆動させるのだッ!」



小動物「背筋ッ!」

小動物「最大の死角である背中を徹底的に鍛えることは、自信に繋がるッ!」

少女「うぐぐ……」ググッ…



小動物「スクワァァァァァット! 下半身を強化せよッ!」

少女「太もも、痛い……!」ググッ…

小動物「その痛みを乗り越えた先に、進歩という報酬があるのだッ!」

少女「体中が痛い……」ズキズキ…

少女「これじゃ明日、動けない……ですよ……」ズキズキ…

小動物「心配するな。我の整体術にかかれば──」グイッ

少女「ちょっ、なにを──」

ゴキッ! メキッ! ボキッ! グイッ! ミシッ!

少女「お、お、お……」

少女「あれ、だいぶ楽になった……」

小動物「さらに我が調合したこの漢方薬を飲めば──」

少女「うわっ、すごく苦いです……」ゴクッ…

小動物「これを飲めば回復が早くなる。むろん副作用なしでな」ニヤッ

小動物「つまり……常人より遥かに少ないインターバルで鍛錬可能ということだ」

少女「ひええ……」ガタガタ…

<食卓>

少女「ねえお父さん、お母さん」

父「なんだ?」

母「どうしたの?」

少女「今日から師匠を家に住まわせてもいい?」

父「師匠ってどこにいるんだ?」

小動物「ここだ」ズイッ…

父「うわっ」

母「あらっ」

少女「お願いっ……! ムリだとは思うけど──」

父「かまわないよ」

母「いいわよ」

少女「早っ!」

小動物「迅速(はや)さとは、拳法における最重要要素の一つ!」

小動物「魔法少女の父母、やはり只者ではなかったかッ!」

翌日から型稽古やスパーリングも加えられ、鍛錬はよりハードになった。

小動物「突きだッ!」

少女「えいっ!」ヒュッ

小動物「もっと気合を入れて突かんかァ! 突いて突いて突きまくれいッ!」



小動物「蹴りィィィッ!」

少女「たあっ!」シュッ

小動物「なにを恥じらっておる! 富士にも届くよう、高く高く足を上げんかァ!」



小動物「さァ、この漢方薬を飲めば回復が早まるぞ! 一気に飲み干せッ!」

小動物「キサマのいいとこ見てみたいッ! イッキッ! イッキッ!」

少女「うえぇ~……」グビッ…

筋トレ → 型稽古 → スパーリング → 整体 → 怪しい漢方薬

学校に通いながら、この地獄のようなサイクルを一ヶ月続けた結果──



少女「どうです?」シャキッ

小動物「ふむ、見違えたぞ」

小動物「童女の持つ柔和さと、武術家の持つ頑強さを兼ね備えた、理想的な肉体だ」

少女「よく分からないけど……ありがとうございますッ!」

小動物「そろそろこれを授ける時が来たようだな……」スッ…

少女「これって?」

小動物「拳法家──否、魔法家には欠かせぬ衣装……。道着だッッッ!」

少女「これが道着ですか……?」

少女「なんだかずいぶん可愛らしいんですけど……」

少女「まるで、テレビに出てくる魔女っ子や魔法少女みたいです!」

小動物「当然だ」

小動物「それが古より伝わる、魔法少女の戦闘服なのだからな」

少女「戦闘服……ですか」

小動物「よいか」

小動物「これからキサマには『闇格闘組織』と戦ってもらうことになるッッッ!」

少女「は……?」

少女「『闇格闘組織』……?」

少女「『闇格闘組織』っていったいなんなんですか?」

小動物「大魔神率いる、暗黒格闘技を用いる軍団のことだ」

小動物「奴らを倒さねば、この世は暗黒格闘技に支配されてしまうであろう……」

少女「ちょ、ちょっと待って! 私、そんなの聞いてませんよ!」

小動物「当たり前だ。話してなかったからな」

少女「だいたいなんで私が戦わなきゃいけないんです!?」

小動物「決まっているだろう……。魔法少女だからだッッッ!」

少女(ダ、ダメだ……話にならない)

小動物「この期に及んで、もし戦わないというのなら──」

小動物「我の手で、キサマには絶命してもらうことになるッッッ!」

少女「ぜ、絶命ですかァ~!?」

小動物「まぁ、そう悲観するな」

小動物「キサマもすぐ、戦いの楽しさに目覚めることになるであろう」ニィッ…

少女(絶対ならない……!)

少女(でも、戦いはともかく鍛錬が楽しくなってきたってのはあるかも……)

少女(自分の体が、前よりもずっと充実してるのは分かるし……)

そんなある日──

<中学校>

怪人B「この学校はオレサマが占拠したァ~!」



少女「な、なにあれ!」

小動物「『闇格闘組織』の怪人だ。ついに本格的な活動を始めたか……ッ!」



体育教師「高校と大学でレスリングをやっていたこの俺が相手だ!」ダッ

ガシィッ!

体育教師が怪人Bの腰にタックルを決めるが──

体育教師(動かない……! ビクともしない……ッ!)グググッ…

怪人B「なんだこりゃ? こんなタックルではカカシも倒せんわァ~!」

ドゴォッ!

体育教師「ぐがっ……!」ドサッ…

怪人B「よォ~し、オマエはオレサマのガールフレンドにしてやろう」ガシッ…

女友人「や、やめてえっ!」



少女「ああっ、女友人ちゃんが!」ダッ

小動物「待ていッ! キサマが助けてはならん!」

少女「なんでです!? 私が戦わなきゃいけないっていったのは、師匠でしょう!」

小動物「キサマは魔法少女だ。正体がバレぬよう、変身してから戦え」

少女「変身って……どうやって? 杖を振ったり、呪文を唱えたりするんですか?」

小動物「なにをいっておる」

小動物「手動に決まっているだろう」

小動物「0.01秒以内で道着に着替えろ。今のキサマならできる」

少女(いやいやいや……意味が分からない)

少女(でも、やるしかないッ!)

超スピードで着替える少女。

バババッ!

魔法少女「できたッ!」シャキンッ

小動物「よくやったッ! ついでに知人にバレぬよう顔を少々いじってやるッ!」

ゴキゴキゴキッ……

魔法少女「あだだっ……!(化粧とかじゃなく、骨を直接いじるなんて……)」

小動物「心配するな、あとで戻してやる。さァ……ブチのめしてこいッッッ!」



魔法少女「そこまでよ、『闇格闘組織』の人!」ザッ…

怪人B「むっ……!」

女友人「あ……あなたはだれ?」

魔法少女「私は魔法少女……すぐ助けるからね!」

怪人B「魔法少女……?」

怪人B「そうかオマエが、暗黒格闘が世にはびこる時、現れるという“魔法少女”か!」

怪人B「おもしれえ、魔法とやらを見せてもらおうかァ~!」ササッ

魔法少女「いくわよっ!」ダッ

怪人B「ぬああああっ!」

魔法少女「でやあああっ!」

バチッ! ドカッ! ガッ! バキィッ! ゴッ!

互角の攻防が展開される。



女友人(体育の先生を一発で倒したあの化け物と、あんなに戦えるなんて……!)

小動物(う~む、動きが固い。怪人如きに手こずられては困るのだが……)

怪人B「だりゃああッ!」

ボッ! ボボッ!

怪人Bが、左右の拳から猛ラッシュを繰り出す。

魔法少女「くっ……!」

魔法少女(あっちの方が腕が長いから、リーチでは不利! だったら──)

魔法少女(足の長さで補えばいいッ!)

魔法少女(恥ずかしがらずに──思いっきり足を上げて、蹴るッ!)

シュバッ ──メキィッ!

怪人B「がっ……!?」ヨロッ…

魔法少女のハイキックで、怪人Bがよろめく。

小動物(今だ、決めろッ!)

ズドンッ!

怪人Bのミゾオチに、突きが決まった。

怪人B「うげぇ……」ガクッ

ドサッ……

魔法少女「や、やった……!」ハァハァ…

怪人B「ぐ……強い……! オレサマがやられちまう、とは……!」

怪人B「だが、いったいどこらへんが魔法なんだ……!?」

魔法少女(実に……的確なツッコミッ!)

小動物「オイ、なにをボサッとしておる! 決め台詞をいうのだッッッ!」

魔法少女(決め台詞……!?)

すると、魔法少女は本能的に叫んでいた。

魔法少女「人智を超えた拳法、それすなわち“魔法”なりッ!」

怪人B「そういうこと……か……」シュゥゥ…

怪人Bは消滅した。

しかし、まだ危機が去ったわけではなかった。

男子生徒A「あっちの奴は女の子がやっつけたが、こっちにもいるぞ!」

男子生徒B「本当だ!」

男子生徒C「ひいっ! こっちの奴もとんでもない強さだ!」

怪人C「ぐふふっ、この学校はオレたちのものだよ~ん」



小動物「オイ、出番だぞ」

魔法少女「ウソ……。もうヘトヘトなのに……」ヨロッ…

ところが──

奇妙なコスチュームに身を包んだ助っ人が現れる。

貴公子「ここは通りすがった“格闘貴公子”である、このボクに任せてもらおうか!」

怪人C「むうっ!」



魔法少女「あれはだれですか!?」

小動物「知るかッッッ!」



貴公子「それ、シュートだッ!」シュッ

ズドォッ!

怪人C「ぐげえっ!」

貴公子は強烈なシュートで、怪人Cを蹴り上げる。



魔法少女&小動物(つ、強い……!)

怪人C「ぐぞっ……」ヨロヨロ…

貴公子「トドメだ! ダァーンク、シュゥートッ!」ガシッ…

貴公子は怪人Cを持ち上げると、

ズガァンッ!

床に頭から激突させて、トドメを刺した。



戦いが終わり──

貴公子「やぁ」

魔法少女「ど、どうも」

貴公子「魔法少女……だっけ? さっきの戦いぶりは見せてもらっていたよ」

魔法少女「!」

貴公子「どうにか勝利は収めていたが──」

貴公子「ハッキリいってまだまだスキだらけだ」

貴公子「それに君自身の性質と拳法の性質が、イマイチ合致していないように感じた」

貴公子「つまり……君はボクの敵じゃない」フッ…

魔法少女「なっ!」

貴公子「おっと怒ったかな? それじゃ失敬させてもらうよ、さらば!」ババッ



魔法少女「なんなのあの人!?」

小動物(たしかによく分からない奴だったが……)

小動物(奴の指摘は全て的を射ていた……)

小動物(このままでは怪人は倒せても、その上には到底通用せぬ……)

ワイワイ…… ガヤガヤ……

ピーポー…… ピーポー……

守衛「うぅぅ……」

体育教師「いだい……いだいよぉ……」

救急隊員「急げっ!」タッタッタ…



男子生徒A「よかった、無事だったか! どこにもいないから心配したぞ!」

少年「たまたまトイレに行っててよかったよ」



女友人「なんだったんだろ、さっきの化け物……」

少女「さぁ……」

少女(『闇格闘組織』だっけ……。こんなひどいことするなんて……)

少女(私が……戦わなきゃ!)

怪人たちの非道を目の当たりにしたことで、決意を新たにする少女であった。

以上
今回はここまでとなります
よろしくお願いします

<少女の部屋>

少女「あ~……それにしても、あの格闘貴公子とかいう奴!」

少女「思い出しても腹が立ってくる!」

少女「しかも、スポーツの技術を暴力に使うなんて……」

少女「私が好きな男の子まで侮辱されてるような気分ですよ!」

小動物「だが……奴は強い」

小動物「今のキサマでは奴の相手にはならんだろう」

少女「むむっ……」

小動物「ところでどうだった……初めての実戦は」

少女「最初は少し戸惑いましたけど──」

少女「練習通りに突きも蹴りも出せたし」

少女「戦うのも悪くないな……って思いました!」

小動物「フフ……そうか」

小動物(こやつが魔法少女として大成するか、不安要素は多々あるが──)

小動物(戦うことの楽しさを学んでくれたのは大きな収穫といえよう)

小動物(あとは、我やあの貴公子がこやつに抱いている違和感を払拭させるためにも)

小動物(とにかく実戦経験を積ませまくるしかあるまい!)

………………

…………

……

それからというもの、少女は学校生活を楽しみながらも──



少年「前からずっと思ってたけど、君ってとても器用だよね!」

少女「あ、少年君……!」ドキッ…

女友人「あなたもなにか縫ってもらったら?」

少年「それじゃ……ボクのジャージを縫ってもらえないかな? 破れちゃって……」

少女「それぐらいならすぐ終わるよ!」

少年「ホントかい! ありがとう!」

女友人「なんたってこの子の裁縫の腕前はプロ級なんだから!」

少女(少年君のジャージを縫えるなんて……幸せ)スッスッ…

時には魔法少女として、人々の平和を脅かす怪人たちと戦った。



怪人D「ぐげぇっ……!」ドサッ…

魔法少女「オスッ!」バババッ



貴公子「おっとボクが出るまでもなかったか」

貴公子「少しは成長したみたいだけど、まだまだボクの足元にも及ばないな」

魔法少女「うるさいわね、ほっといて!」

小動物(たしかに成長はしているが……どこか壁を越えきれていない……)



そして、魔法少女はついに“強敵”といえる相手と対峙することになる。

<市役所>

警備員「あぐ、ぅ……」ドサッ…

拳魔人「ふん、人間の分際でオレに向かってくるとは……敵の強さも分からんか!」

職員「ひいぃ……警備員が全滅……!」ジョボボ…

拳魔人「さァ、放送機器がある場所に案内しろッ! オレの声を流すんだッ!」

職員「は、はいっ!」



案内された拳魔人は、マイクに向かって怒鳴りつける。

拳魔人「オレは『闇格闘組織』四天王の一人、拳魔人!」

拳魔人「この近辺によく現れるという“魔法少女”よ! オレは今市役所にいるッ!」

拳魔人「いざ尋常にオレと勝負しろッ!」

拳魔人「でなくば市役所の職員をオレの拳で全員殴り殺すッッッ!」

<町>

もちろん、この放送は少女の耳に入った。

少女「変身ッ!」バババッ

魔法少女「さあ、行かなきゃ!」シャキンッ

小動物「よせい! キサマはまだ、四天王の相手をできる段階ではないッ!」

魔法少女「だけど私が行かなきゃ、みんな殺されちゃう!」グッ…

ギャウッ!

音速に近いスピードで、市役所へ走る魔法少女。



小動物「バカめが……ッ!」

<市役所>

魔法少女「あなたが四天王ね!」ザッ…

拳魔人「!」

拳魔人「よく来たな。その勇気だけは褒めてやろう」

魔法少女「勇気だけじゃなく、実力だってあるわ!」

拳魔人「では見せてもらおうか……。人智を超えた拳法“魔法”とやらをな!」スッ…

スパパパァンッ!

拳魔人のジャブ連打が、魔法少女の顔面を射抜いた。

魔法少女(え……速……ッ!)グラッ…

拳魔人「そぉらッ!」

ボグゥ!

脇腹をえぐるようなボディブロー。

魔法少女「げほっ……!」

魔法少女「でえやあっ!」

ビュオッ! ビュバッ! シュバババッ!

魔法少女も突きや蹴りで反撃するが、全てかわされてしまう。

拳魔人「ふん、ぬるい打撃だ……。こんなもの当たるわけがない」

拳魔人「ジャブ! フック! ストレート! アッパーカットォ!」

ガゴォンッ!

顎を打ち抜かれ、膝をつく魔法少女。

魔法少女(なんて強さなの……! 全然歯が立たないなんて……!)

拳魔人「少しは期待したが……しょせんは女か」

拳魔人「しかし、情けをかけるつもりはない」

拳魔人「このオレの拳を、キサマの血で染めてやろうッ!」

ブオンッ!

バシィッ!

拳魔人「む!?」

貴公子「弱い者いじめはそこまでにしときなよ」

野球のキャッチャーのような構えで、パンチを受け止めた貴公子。

拳魔人(こいつ……デキる!)ゾクッ…

拳魔人「キサマ、魔法少女の仲間か? 助太刀にきたのか?」

貴公子「いや……どっちもハズレだ。ボクは通りすがりの格闘貴公子さ」

拳魔人「仲間でも助太刀でもないのなら、いったいなぜ割って入った?」

貴公子「今から一週間だけ、時間をくれないか」

貴公子「一週間あれば、きっと彼女は君に並ぶくらいの格闘家になるだろう」

拳魔人「一週間で……!?」

拳魔人「フハハハ、バカをいうな!」

拳魔人「たった一週間でなにができる!?」

拳魔人「今の魔法少女では、たとえ一年待ってやったところでオレには勝てん!」

貴公子「たった一つの勝利や敗北が、人を強くすることだってある」

貴公子「彼女にももしかしたら、そんな奇跡が起こせるかもしれないということさ」

拳魔人「なるほど、それこそが“魔法”というわけか」

拳魔人「……よかろう! では、この市役所で待っててやる!」

貴公子「ありがとう」サッ

魔法少女を抱きかかえると、貴公子は市役所から去っていった。



小動物(あの貴公子に助けられたか……)

小動物(しかし、拳魔人のいうとおり、一週間で奴を超えるなど不可能だ……ッ!)

<貴公子の特訓場>

目を覚ます魔法少女。

ガバッ!

魔法少女「ここは……!?」キョロキョロ…

貴公子「ボクの秘密特訓場だよ」

貴公子「本来、誰も入れたくないんだけど、他に場所がなかったからね」

あちこちに散らばる、鍛練用と思われる使い古されたスポーツ用具。

魔法少女「私……負けたの?」

貴公子「そのとおりさ。君はあの魔人に敗北した。大惨敗だった」

魔法少女「…………」ギリッ…

貴公子「市役所の人を救いたければ、君は一週間で奴より強くなるしかない」

魔法少女(たった一週間で……!)

魔法少女「ねえ……一つだけ聞いていい?」

貴公子「なんだい?」

魔法少女「あなたはなぜ戦っているの?」

貴公子「楽しいからさ」

魔法少女「楽しいって……なにが?」

貴公子「もちろん、強い相手と戦うことがさ」

貴公子「だからボクは君と戦うつもりはないよ」

魔法少女「!」

貴公子「だって君は格闘技の本質というものを、まったく理解していないからね」

魔法少女「なんですって……!」

魔法少女「スポーツの技術を格闘技に使うあなたにいわれたくない!」

貴公子「おや? なぜスポーツの技術を格闘技に使ってはいけないんだい?」

魔法少女「だって……私が好きな人もスポーツ大得意だけど」

魔法少女「その人はスポーツで他人を傷つけたりしない!」

魔法少女「逆に……スポーツでみんなを助けてる!」

貴公子「これは手厳しいな」

貴公子「だけどね、格闘技の本質ってのは自分の気質にあった戦い方をすることだ」

貴公子「攻撃的な人が消極的な戦い方をしても結果は出ないし」

貴公子「逆に大人しい人が無理に攻めても決して上手くいかない」

貴公子「その点、ボクはスポーツが好きだし、格闘技はもっともっと好きだから」

貴公子「スポーツの技術を使って戦っているだけのことさ」

魔法少女「なんて人なの……!」

貴公子「さて……君にはないのかい?」

魔法少女「え?」

貴公子「君の好きなこと……例えば、趣味とかさ」

貴公子「今のギクシャクした拳法のままじゃ、アイツには到底勝てないよ」

貴公子「これは他人から教えてもらうんじゃなく、君自身で見出すしかない」

魔法少女(私の好きなこと……趣味……)

貴公子「さて、そろそろボクも特訓を始めたいんでね。出てってもらおう」

魔法少女「いわれなくても出ていくわ!」

貴公子「それにしても、君が好きだっていう男が羨ましいな」

魔法少女「え?」

貴公子「ボクは、君のことを結構気に入ってるんだよ」

貴公子「もっとも、君は二番目だがね。一番好きな女性は他にいる」

貴公子「もしボクがその人にフラれたら、君と交際してやってもいいよ」

魔法少女「ふんっ!」プイッ

<少女の部屋>

少女「…………」

小動物(コイツめ、どうしたのだ?)

小動物(貴公子に連れ去られてから何があったかは知らんが、ずっと考え込んで……)

小動物(まさかもう、魔法少女はイヤだなんていう気ではあるまいな……)

小動物(しかし、あの惨敗ではそれも仕方のないことか──)



少女「…………」

少女(私の趣味、特技……)

少女「ねえ……師匠! 私とスパーリングして下さいッ!」

小動物「……よかろう」

少女(そう……私の得意技は拳法ではなくあくまでもお裁縫!)

少女(師匠に教わった拳法をベースに──自分の特技を取り入れるッ!)

糸のようにしなやかに──

ユル…… ユラ……

小動物(なんだこのフットワークは!?)

小動物(我の教えたものと違うが、しかし今までより少女にしっくりくる動きだ!)

針のように──

少女「突くッッッ!」

バシュッ!!!

小動物「……達したようだな」ニィッ…

少女「ええ、達しました!」



それから一週間、少女は小動物とともに技を練り上げた。

約束の日──

<市役所>

拳魔人「待っていたぞ、魔法少女! 少しはオレを楽しませてくれるのだろうな!?」

魔法少女「ええ、今日はあなたを倒す!」

拳魔人「大きく出たな。それではゆくぞッ!」



シュパパァッ!

一週間前は目視すらできなかった、拳魔人のジャブ。

魔法少女(かわすッ!)ユル…

拳魔人(なんだこの動きは!?)

魔法少女(針のように──突くッ!)

ドズゥッ……!

拳魔人「が、はっ……」

拳魔人(身体能力や拳足の動きが大きく変わったわけではない!)

拳魔人(だが、いったいなんだ!? 今の繊細さは!)

拳魔人(拳法でありながら、まるで手芸のような繊細さ……ッ!)

魔法少女「さあ、どんどんいくわよ!」ジリッ…

拳魔人「ふん、図に乗るなよ! 魔法少女ッ!」ザッ…

ドドッ! ガッ! バシィッ! ベキッ! ドズゥッ!

一週間前とはちがい、五分五分の攻防。

いや、ほんのわずかに魔法少女が押していた。

拳魔人「ぐうっ……!」

拳魔人(ならば、奥の手を使うしかあるまいッッッ!)ジリッ…

魔法少女(構えが変わった!?)

拳魔人「はあああああっ!」

ドガガガガガガガガガッ!

拳魔人が両腕と足腰をフル稼働させ、猛連打を開始する。

魔法少女「きゃああっ!」

拳魔人(キサマの拳法の要である繊細さ──を生かす暇もなくケリをつけるッ!)



小動物(ぬう……ッ! 考えおったな、四天王め!)

小動物(吹き荒れる嵐の前には、いかな可憐な花も空しく散る運命であるように──)

小動物(あのような連打を受けては、いかな繊細さも意味を成さぬ!)

拳魔人の連打に、魔法少女はガードを固めるしかない。

拳魔人「このまま防御を粉砕し、なぶり殺しにしてくれるッ!」

ガガガガガガガガガガッ!

魔法少女「うううっ……!」

魔法少女(すごい連打! まるで台風だわ! このまま受け続けたらマズイ!)

魔法少女(だけど……お裁縫にだって……“連打”はあるんだから!)

魔法少女「ミシンの構え!」シャキンッ

拳魔人「なんだとっ!?」

魔法少女「反撃開始よ!」

魔法少女「ミシン針のように──連打ッ!」

ダダダダダダダダダダダッ!

拳魔人「なにィ~!? 繊細なだけではないというのかァッ!」

ガガガガガガガガガガッ!

ダダダダダダダダダダダッ!

永遠に続くような錯覚を受けるほどの連打合戦だったが、ついに──

バチィッ!

拳魔人(オレの連打を……上回るとは……ッ!)ヨロッ…

魔法少女(ここで呼吸を整え──)コォォ…

魔法少女「針のように──突くッッッ!!!」

ズドォンッ!

渾身の一撃が、拳魔人の胸部をとらえた。

拳魔人「ぐ、は……!」ゲボッ…

拳魔人「『闇格闘組織』四天王である、このオレが……!」

拳魔人「みごと……だ……」

ドザァッ……

魔法少女「オスッ!」ババッ

拳魔人「あの貴公子のいったとおりだった……な」

拳魔人「一週間で……人はこうも強くなれる、のだな……」

拳魔人「“魔法”……堪能させてもらっ、た……」シュゥゥゥ…

どこか満足げに、拳魔人は消滅した。



魔法少女(そうだ……。私が勝てたのはあの貴公子のおかげだったんだ……)

小動物「よくやったぞ、魔法少女よ」

小動物「だが四天王の一角を崩したとあらば、『闇格闘組織』も本気となるであろう」

小動物「心せよッ!」

魔法少女「はいッッッ!」

<『闇格闘組織』アジト>

緊急集会を開く四天王の面々。

極魔人「拳魔人がやられたようだな……」

投魔人「ケッ、だらしねえヤロウだ!」

蹴魔人「魔法少女とかいう小娘……なかなか侮れないようですね」

投魔人「拳魔人はオレたちの中でも最弱だった!」

投魔人「んなヤツが欠けたところで、オレたちゃビクともしねえぜ!」

極魔人「だが……放っておくわけにもいくまい」

極魔人「四天王の一人を倒されたことで、大魔神様は大変ご立腹だ」

蹴魔人「ならば、この私が蹴り殺して参りましょうか」

蹴魔人「なにしろ蹴りの威力は拳の三倍、ですからねえ」ククク…

今回はここまでとなります

<中学校>

少年「!」

少年「ねえ、最近よくケガしてるけど大丈夫かい?」

少女「えっ!? あ、うん、平気……ちょっとこけちゃって」

少年「そう……ならいいんだけど」

少女(ケガしたおかげで少年君に心配されちゃった……ちょっと嬉しい)

少女「あ、ところで少年君ってスポーツ大好きだよね!」

少女「どうしてなの?」

少年「ええっと……体を動かしてると、気分がよくなるからかな!」

少女(やっぱりあの貴公子とは全然ちがう……すっごくかっこいい!)

女友人「さぁて、あたしはイチャイチャを横目にスマホでもいじるとしますか」

少年「学校に持ってきちゃいけないんじゃなかったっけ?」

女友人「固いこといいなさんなって……えぇ~と」スッ…

女友人「!?」ギョッ

女友人「なに、このニュース!?」

<ニュース>

少女が住む町には、『スカイタワー』という高さ967mの塔がある。

その塔が──倒れようとしていた。



蹴魔人「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」

ドゴォッ! ドゴォッ! ドゴォッ!

グラグラ……

蹴魔人「空手などではバットを蹴りでへし折るパフォーマンスがありますが」

蹴魔人「この塔をバットのようにへし折れたらさぞ気持ちいいでしょうねェ~」

蹴魔人「ふんっ!」

メキィッ!

グラグラ……

<中学校>

少女(私が四天王を倒して、塔の倒壊を止めなくちゃ!)

少女「私、気分悪くなったから保健室行ってくる!」スクッ

女友人「え!?」

少年「ボクは……ちょっと早退しよっかな」スクッ

女友人「二人とも、急にどうしたの!?」



バババッ!

魔法少女「よしっ!」シャキンッ

小動物「蹴魔人は強敵だが、今のキサマなら十分勝ち目がある! ゆくぞッッッ!」

<スカイタワー>

スカイタワーはもはや倒壊寸前であった。

ザワザワ…… ドヨドヨ……

「やめてくれぇ~!」 「倒れちまう!」 「もう蹴らないでくれ~!」

蹴魔人「私が人間のいうことなど聞くと思いますか?」

蹴魔人「さぁ~て、そろそろへし折ってしまいましょうかね」スッ…



魔法少女「待ちなさいっ!」バッ

蹴魔人「!」

蹴魔人「おや、あなたが魔法少女ですね?」

蹴魔人「お待ちしていましたよ」

蹴魔人「本当はあの程度の塔、もっと早く倒すこともできたのですが」

蹴魔人「わざとチマチマ蹴っていたかいがありました」

魔法少女「私をおびき寄せるために、騒ぎを起こしてたってわけね」

蹴魔人「そうです。ただし、あなたが私に敗れればあの塔はオシマイですがねえ」



貴公子(おっと、わずかに出遅れたか……)スッ…

貴公子(魔法少女があのニュースを見てるとは限らないし)

貴公子(今日はボクの出番かな、と思ったんだがな)

貴公子(まぁいいや……。ここでお手並み拝見させてもらおう)

小動物「では一緒に見学するか」

貴公子「!?」ビクッ

貴公子(い、いつの間に……! なんだこの生物は……!)

蹴魔人「では、いきますよ!」シュバッ

ベシィッ!

魔法少女「ぐ……!」ビリビリ…

強烈なローキックで、魔法少女の顔が歪む。

魔法少女(なんて威力……! たしかにこれならスカイタワーを倒せるわ!)

魔法少女「だけど私だってッ!」ユラ…

ズドドドッ!

糸の動きから針の突きへと繋ぐ、繊細なコンビネーション。

蹴魔人「ぐほっ……!」ヨロッ…



貴公子「へぇ……だいぶやるようになったね」ウズッ…

小動物「あやつは日々、我と鍛錬しておるからな」

魔法少女「ミシン針のように連打ッッッ!」

ダダダダダダダダダダッ!

蹴魔人(なんという連打! 間合いを確保しなくてはッ!)

蹴魔人「きええっ!」

シュバァッ!

魔法少女「あぶなっ!」ババッ

ミドルキックを強引に放ち、魔法少女を遠ざける蹴魔人。

蹴魔人(これは想像以上に手強い……。拳魔人を倒しただけのことはありますね)

蹴魔人「ならば本気を出しましょう、いきますよ!」キッ

上段、中段、下段、と多彩に変化する蹴り技が、魔法少女を襲う。

バシィッ! ガッ! ドゴォッ!

魔法少女(軌道が読めない……!)

魔法少女「威力があるだけじゃなく、読みにくいだなんて……ッ!」

蹴魔人「私は手のように、いや手以上に足を自在に動かせるのですよ!」ギュアッ

メキィッ!

美しい弧を描くハイキックが、魔法少女の頭部に入った。

魔法少女「ぐっ……」ガクッ

魔法少女(なんとか懐に入らなきゃ!)

蹴魔人「無駄ですよ!」ビュッ

前蹴りを牽制に使い、間合いを巧みに操作する蹴魔人。

蹴りの間合いにされてしまうと、魔法少女に攻撃チャンスはほとんどない。

蹴魔人「はっ!」

バシィッ!

蹴魔人「ふんっ!」

ベシィッ!

魔法少女「あうっ……!」

魔法少女(全然懐に入れない……!)

魔法少女(この人と蹴り勝負ができるほど、私の足技は精度が高くないし……!)



小動物「むう……ッ! このままではじわじわ削られるだけだ……!」

貴公子「……やれやれ、世話の焼けるお嬢さんだ」スクッ

貴公子「魔法少女!」

魔法少女「……貴公子!(来てたなんて!)」

貴公子「足技に自信がないみたいだけど……足技とはなにも蹴り技だけではないよ!」

魔法少女「!」ハッ

蹴魔人「なにをいっているのですか?」

蹴魔人「蹴り技以外の足技など存在しませんよッッッ!」シュバッ

魔法少女「いえ……ある!」バッ

蹴魔人のローキックをかわしつつ、魔法少女は飛び上がった。

蹴魔人(まさか飛び蹴り!? ふん、すぐに迎撃して──)

ガシィッ……!

蹴魔人「!?」

魔法少女の両脚が、蹴魔人の首を挟み込んでいた。

蹴魔人「し、絞め技ァ……!?」メキメキ…

魔法少女「そう……布を裁断するハサミのように──両足を使うッッッ!」ググッ…

ボキィッ!

魔法少女の両脚に挟まれ、蹴魔人の首の骨は圧砕された。

蹴魔人「これが……“魔法”か……」グラッ…

ドサァッ……!

魔法少女「オスッ!」バババッ



小動物「ナイスアドバイスだったぞ、小僧ッ!」

貴公子「フッ、彼女にはもっと強くなってもらいたいからね……」

小動物「……なぜだ?」

貴公子「むろん、ボクに相応しい強敵になってもらうためさ」ニッ…

貴公子「さて、ボクらは倒れかけてるスカイタワーを修復しようか」

小動物「我の開発した接着剤があれば、あの程度の損傷は容易く直る」

<『闇格闘組織』アジト>

大魔神「なんという体たらくだ!」

大魔神「魔法少女とはいえ10代半ばの小娘に、四天王が二人も敗れるとはッ!」

投魔人「フン、しょせんヤツらは四天王の器にはなかったってことですよ!」

投魔人「次はこのオレが、あのガキを投げ殺してやりますよ!」

極魔人「待て、私も行こう」

投魔人「あぁ!? オレだけで十分だ!」

極魔人「別にお前を信用してないわけではない……。念には念を、というやつだ」

投魔人「ケッ、ただしトドメはオレがもらうからな!」

極魔人「かまわん。私は『闇格闘組織』が勝てばそれでよいのだからな」

大魔神「よいか……くれぐれもぬかるでないぞ!」

投魔人&極魔人「はっ!」

今回はここまでとなります

スカイタワー倒壊未遂事件から二週間が経過したある日──

<食卓>

少女(あ、そういえば今日は格闘技のタイトルマッチだっけ!)

少女(なにかの参考になるかもしれないし……見たいなぁ)

少女「お母さん、格闘技見ていい?」

母「いいわよ」

父「お前もそういうのが好きな年頃になったんだな」

小動物「よい心がけだッ!」

少女「えぇ~と、チャンネルはっと」ピッ



すると──

<テレビ>

本日試合を行うはずだったチャンピオンと挑戦者が、リング上で半殺しにされていた。

犯人はもちろん──



投魔人「オラァッ、魔法少女ッ!」

投魔人「よく四天王を二人も倒してのけたもんだ! マグレとはいえよ!」

投魔人「だが、このオレはテメェが倒した二人とは次元がちがうぜ! 次元がよ!」

投魔人「拳法家のテメェのことだ。もちろん、この番組を見てやがるんだろ!」

投魔人「さあ、オレと勝負するためにリングまで──出てこいやッ!」

投魔人「ワァーッハッハッハッハッハ!」

<食卓>

少女「…………!」

小動物(投魔人……四天王の三人目か!)

父「うわぁ~、チャンピオンも挑戦者もボロボロだ! ひどいことするなぁ……」

母「魔法少女ってだれなのかしら?」

少女「行きましょう!」ダッ

小動物「うむッ!」ダッ

父「おいおい、食事中にどこいくんだ?」

母「ダイエットでもしてるのかしら?」

<リング>

投魔人のマイクパフォーマンスから15分で、魔法少女が登場した。

魔法少女「あなたの挑戦、受けて立つわ!」ザッ…

投魔人「ハーッハッハァ! 一時間は待たされると思ったが、さすがに速いな!」

魔法少女「これでも迅速(はや)さには自信があるからね」

投魔人「ほざきやがって……さあリングに上がってこいッ!」

魔法少女「いわれなくても!」スッ…

ところが──

バリバリッ! ガシィッ!

リングの下から伸びてきた手に、魔法少女の足が捕えられた。

魔法少女(え!? もう一人いたの!?)

極魔人「掴んでしまえば、こちらのものだ」グンッ

ブチンッ!

一瞬で、魔法少女の右足アキレス腱が切断された。

魔法少女「あああああああああっ!!!」

小動物「なにい!? まさか二人がかりだったとは……ッッッ!」



魔法少女(し、しまった……ッ!)

投魔人「ハハハッ、そのまま掴んでおけよォ?」

投魔人「オレが投げ殺してやんなきゃなァ!」

極魔人「うむ。受け身を取らせないよう、頭から落とすのだぞ」

投魔人「分かってるって! 潰れたトマトみてえにしてやらァ!」

魔法少女(ぐっ……!)



「おっと、そこまでにしておきなよ」ザッ…

投魔人「だれだテメェは!?」

貴公子「通りすがりの格闘貴公子さ」

投魔人「貴公子だとォ!? キザなヤロウだ!」

貴公子「女の子に二人がかりなんて、情けないと思わないのか?」

貴公子「とはいえ、アキレス腱を切られたのは彼女の油断……」

貴公子「あの二人の試合はもう始まっている。二人を止めるつもりはない」

貴公子「だからボクは、君の相手をすることにしよう」

投魔人「おもしれえ! ──貴公子だかなんだか知らんが、すぐに投げ殺してやるッ!」

貴公子「神聖なリングで二試合以上やるのは無粋だ。ボクたちは外に行こう」スッ…

投魔人「いいぜ!」ズイッ

貴公子と投魔人は会場の外に出ていった。

貴公子のおかげで一対一になったとはいえ、魔法少女のピンチには変わりない。

極め技、絞め技を得意とする極魔人に体を触れられているということは、

すでに将棋でいう“詰み”に等しいのだ。



極魔人「次は右腕をもらう」グイッ

ボグッ!

魔法少女「ああああっ……!」

実況『あーっと、怪人がアームロックで、女の子の右腕をへし折ったァッ!』

実況『これは強烈ゥ!』



小動物(我が拳法では、関節技や寝技の使い手はああなる前に仕留めるのが鉄則……ッ!)

小動物(最悪の相性だ……!)

<会場外>

貴公子「さ、やろうか」スッ…

投魔人「ハァーッハッハ! わざわざ外に出るなんて、テメェはバカだなァ!?」

貴公子「なぜだい?」

投魔人「ここの地面はコンクリだぜ? 投げ技が得意なオレにとっちゃ──」

投魔人「リングよりもよっぽど有利なフィールドなんだよォ!」ガシィッ

ブオンッ!

ドズゥンッ!

凄まじい背負い投げで、背中から叩きつけられる貴公子。

貴公子「が、は……っ!」ゲボッ…

投魔人「ハァーッハッハッハッハァ!」

投魔人「血ヘドすら吐けなくなるまで投げ続けてやっから、覚悟しやがれ!」グイッ

ズドォンッ! ドォンッ!

<リング>

ボキィッ! ベキィッ!

ついに、両手両足全てを折られてしまった魔法少女。

魔法少女「あ、ああ、あ……!」ダラン…

極魔人「では最後に首の骨をいただくとしよう」

極魔人「これでジエンドだ」ガキッ…

グググッ…… メキメキメキ……

実況『完璧に極まっている! これはもう、女の子は万事休すかァッ!』

魔法少女「ううっ……!」メキメキ…

魔法少女(なんて力……とても外せないッ!)ググッ…

極魔人「無駄だ。私の絞め技──特にチョークスリーパーから逃れられた者はいない」



小動物(よもやここまで……我が出るしかあるまい……ッ!)

小動物(少女よ、みすみす死なせはせんぞッッッ!)サッ

小動物「──むッ!?」

魔法少女「…………」ジッ…



小動物(あの目……“手を出すな”といっている!)

小動物(しかし、あそこからどうやって逆転を!? ──不可能だッ!)



次の瞬間──

スルッ……

極魔人「なにィ!?」

小動物「むう!?」

あっさりと魔法少女の首が抜けてしまった。

実況『なんだァ~!? 女の子があっさりとチョークスリーパーから脱出したァ!』

実況『いったいどんな手品を使ったんだ!?』

魔法少女「ふうっ」

極魔人「な、なんだ……今のは!? まるで糸か何かのように……!」

魔法少女「絞め技から脱出するため、“糸”の動きをしてみたの」

魔法少女「やってみたら案外簡単だったけどね」

魔法少女「だって、裁縫糸に極められる関節技も絞め技もないもんねえ」ニタァ…

極魔人「キサマ……ッ!」

極魔人「だが、その満足に動かぬ手足で私を仕留めることはできんぞ!」

魔法少女「たしかにそうね」

魔法少女「なら縫って……動かせるようにすればいい!」

ヒュババババッ!

魔法少女は自らの髪を“糸”代わりにして、折れた骨や切れた腱をくっつけてみせた。

極魔人「なんだとォ……!?」

魔法少女「痛みは当然残るけど、動かすには問題ないわ」クイクイッ

実況『女の子、先ほど折られたはずの腕と足を動かしているッ!』

実況『こ……こんなことがありえるのでしょうか!?』

魔法少女「裁縫……完了」ニィッ…

極魔人「キサマ……本当に人間か!?」

魔法少女「人智を超えた拳法、それすなわち“魔法”なりッ!」

勝利目前から、五分五分のところまで戻されてしまった極魔人。

否、精神的ダメージについては五分五分どころではなかった。

極魔人「うぐぐ……!」

極魔人「お、おのれぇ……!」

極魔人「うおおおおおおおおおおっ!!!」ダダダッ



ドゴォンッ!!!



針のような突きがカウンターで決まった。

極魔人「む、無念……ッ!」ドザァッ…

魔法少女「オスッ!」バババッ

実況『謎の女の子VS謎の怪人、女の子の大逆転勝利だァッッッ!』

ワアァァァ……! ワアァァァ……!



小動物(あやつめ……戦いの中で進化しておるわッッッ!)

<会場外>

執拗に貴公子を地面に叩きつける投魔人。

投魔人「へっ、そろそろくたばったか?」ハァハァ…

貴公子「う~ん……」ムクッ

投魔人「!?」

貴公子「この程度で投げ技が得意とはおめでたいね」コキッ

投魔人(コイツ……どんなタフネスしてやがんだ!?)

貴公子「せっかくだし、ボクが最強の投げ技ってやつを教えてあげるよ」ガシッ…

投魔人「うっ!?(このヤロウ、なんて馬鹿力だ!)」

貴公子「砲丸投げ」グイッ

ブオンッ!!!

砲丸投げのフォームで、五百メートルは投げ飛ばされる投魔人。

ドザァンッ!

投魔人「あ、あがが……」ピクピク…

貴公子「まだまだいくよ」ザッ…

貴公子「円盤投げ」

ブワォンッ!!!

貴公子「ハンマー投げ」

グルグルグル…… ブォンッ!!!

貴公子「ヤリ投げ」

ヒュバァッ!!!

投げ飛ばされては地面に墜落、を繰り返し、投魔人は瞬く間に瀕死になった。

投魔人「こ、これが……最強の投げ技か……!」ピクピク…

投魔人(ちくしょう、オレの柔道技なんかとはケタがちげえ……!)ピクピク…

貴公子「なにいってるんだい。今までのはただのウォーミングアップさ」

貴公子「次にやるのが、“最強の投げ技”だよ」ガシッ

投魔人「マジかよ……!? いったい……どんな技だってんだ!?」ゲホッ…

貴公子「決まってるだろう?」

貴公子「背負い投げだよ」グイッ

投魔人「へ!?」



ズドォォォォンッ!!!



地面に叩きつける、どころではない。

投魔人の全身はコンクリートに埋まってしまっていた。

貴公子「四天王……だっけ。少しは楽しめたよ」

貴公子「どうもありがとう」



格闘貴公子、貫禄の圧勝──

小動物「二人とも、よくやったッ!」

小動物「これで四天王は全滅した……残るは『闇格闘組織』首領である大魔神のみ!」

小動物「傷を癒してから、本拠地に乗り込むことになるが──」

小動物「小僧、キサマも手伝ってくれんか」

貴公子「いいよ」

貴公子「ただし条件がある」

魔法少女「条件って?」

貴公子「全てが終わったら……魔法少女、君と決着をつけたい」

魔法少女「望むところよ!」

貴公子「ボクは君のことを世界で二番目に愛してるよ」

魔法少女「私もよ」

小動物(こやつらもしや……未だに互いの正体に気づいておらんのか?)

小動物(まぁ……別にどうでもいいがな)

最終決戦前、つかの間の休息──



<中学校>

女友人「ちょっとちょっと、手足に包帯巻いてるけど大丈夫なの!?」

少女「うん、ちょっとこけちゃって」

少年「だ、だ、大丈夫かい!? なんなら早退した方が……!」

少女「ありがとう、少年君……」

少女(やだ、また心配してもらっちゃった……)

少女(貴公子もけっこういい男だけど、やっぱり私は少年君が一番好き!)

少年(最近やたらケガをしてるけど)

少年(こんなにドジな娘だったっけな、少女ちゃんって……)

少年(だが……それがいい。それもいい。また好きになる理由が増えた)

<少女の部屋>

少女「えいっ、やっ、たあっ!」

ビュバババッ! バババッ!

小動物「えらく気合が入っておるな」

少女「そりゃそうですよ」

少女「なんたって最終決戦なんですから!」

小動物「では、とっておきのものをくれてやろう」スッ…

少女「この免状は……!?」

小動物「免許皆伝だ……もはや我とキサマは五分」

小動物「これからは我の教えに縛られず、自由に戦えいッッッ!」

少女「ありがとうございます、師匠ッ!」ウルッ…

<食卓>

少女「お父さん、お母さん! 私、絶対世界を救ってみせるからね!」

父「?」

母「?」

父「ゲームの話か?」

母「ゲームの話でしょ?」

少女「そ、試合(ゲーム)の話!」

父「なぁんだ」

母「やっぱりね」

小動物「人生とは、遊戯(ゲーム)なりッ!」



いざ、最終決戦へ!!!

今回はここまでとなります

<『闇格闘組織』アジト>

アジトの入り口には、およそ数百人の怪人が待ち構えていた。

小動物「ぬうう……ッ! 大魔神め、総力戦に出よったか……!」

小動物「この人数を相手していては、消耗が激しすぎる!」

小動物「それに大魔神と戦う前に、手の内を晒すことにもなりかねん……ッ」

貴公子「なら、彼らはボクに任せてもらおうか」

小動物「だが、これを一人で相手するのは大魔神との一騎打ちより苦難やもしれぬッ!」

貴公子「苦難……いい響きだね。退屈よりよっぽどいい」

貴公子「それにボクは大魔神より強い人との試合を控えてるんだ」

貴公子「これぐらいへっちゃらさ」

魔法少女「!」

魔法少女「ありがとう、貴公子……」

魔法少女「じゃあ任せたわ!」ダッ

貴公子「がんばってくれ」ニコッ

アジト内にて、魔法少女と小動物が大魔神と対峙する。

大魔神「待っていたぞ、小娘!」

大魔神「……やはりキサマの手引きだったか、小動物!」

小動物「そのとおりだ……」

魔法少女「師匠の手引きって、どういうこと?」

大魔神「かつてワシは『闇格闘組織』を脅かす芽を摘んでおこうと」

大魔神「人間界とは別次元の世界である“拳法界”を滅ぼした……」

大魔神「その時の生き残りが、この小動物なのだ!」

大魔神「生き残ったコイツは拳法界に伝わる拳法“魔法”を人間界に託すため」

大魔神「小娘……キサマに近づいたのだッ!」

大魔神「ようするにキサマは、まんまとコイツの復讐に利用されたというわけだ!」

小動物「……否定はせん」

魔法少女「…………」

小動物「我は我の復讐のため、一般人だったキサマを拳法家に仕立て上げた……」

小動物「我を恨むがよい、魔法少女……いや少女よッ!」

魔法少女「全然!」

小動物「!」

魔法少女「だって私が魔法少女にならなかったら」

魔法少女「どっちにしろ次のターゲットだった人間界は滅んでたし」

魔法少女「それに私、こんなに強くなれた!」シャキンッ

魔法少女「師匠を恨んだり憎んだりする理由なんかどこにもない!」

小動物「泣かすことをいいおって……」

大魔神「ふん、三文芝居を……ッ!」

大魔神「リングに上がれいッ! ここで小動物もろとも葬り去ってくれるわッッッ!」

<暗黒リング>

カァーンッ!

どこからともなくゴングが鳴った。

大魔神「ぬおおおおんッ!」ダッ

ガッ! ガゴッ! ドゴンッ!

魔法少女「ううっ……!」

一撃受けるごとに全身を蝕むような、大魔神の拳。



小動物(さすが大魔神……ッ!)

小動物(超一流のフィジカル、パワー、スピード、コンビネーション!)

小動物(格闘に必要な要素全てを兼ね備えた、パーフェクトファイターといえる!)

小動物(だがあやつの強さはそれだけではない……ッ!)

魔法少女(打撃じゃ不利かもしれない! だったら組み技で──)サッ

ヌルッ……

魔法少女「え!?」ヌルッ…

大魔神「あいにく、ワシのボディを掴むのは不可能だ」ニタッ

大魔神の全身にはオイルが塗りたくられていた。

大魔神「ぬんっ!」ブオッ

ボゴォッ!

魔法少女「ぐはあっ……!」

さらに──

大魔神「喰らえッ!」ブシュゥゥ…

魔法少女(口から……毒霧ィ!?)

魔法少女(し、しかも……)ジュゥゥ…

魔法少女(これ、苛性ソーダ! 本当に猛毒じゃないッ!)ジュゥゥ…

大魔神「あらかじめ、口の中にカプセルを仕込んでおいたのだ」

大魔神「拳にメリケンサックをつけて、と……メリケンナックルゥ!」

ズドンッ……!



小動物(恵まれた体躯から繰り出される、反則技のオンパレードッ!)

小動物(奴はあれで、正々堂々を重んじる拳法界を滅ぼしたのだ……ッ!)

魔法少女(痛いし、辛いし、苦しいし、気持ち悪い……ッ)

魔法少女(だけど……負けるもんかッ!)

魔法少女「だああああっ!」

ダダダダダダダダダダッ!

大魔神「ぐぬ、ぬ……ッ!」

ミシン針連打から──

魔法少女「だりゃ!」ガシィッ…

ハサミに見立てた両脚で、大魔神の首を挟み込む。

大魔神「ぐぬぬ……ぬんっ!」ブオンッ

魔法少女「くっ……(振りほどかれた!)」スタッ…

大魔神「ワシの首の鍛え方を甘く見るなよ、小娘ッ!」

魔法少女「はああっ!」

ドズッ! ドゴッ! ガッ!

基本に立ち返り、糸のフットワークと針の突きで攻め立てる魔法少女。

大魔神「ぬおおおおっ!」

ドボッ! ズドッ! ドゴォッ!

反則技を交えながら、重い打撃を繰り出す大魔神。



小動物(ふむ……ほぼ互角ッ!)

小動物(ならばこの勝負──)

小動物(より前へ出た者……すなわち、より未来を見据えている方が勝つッッッ!)

魔法少女(『闇格闘組織』の首領だけあって、たしかにこの人は強い)

魔法少女(パワーも、スピードも、テクニックも、スタミナも、申し分なし)

魔法少女(反則技だってえげつない)

魔法少女(だけどね、悪いけど今の私にとって──)

魔法少女(あなたは貴公子の“前座”に過ぎないッッッ!)

ズドンッ!!!

魔法少女の蹴りが、魔神の金的にめり込んだ。

大魔神「おごぉ……!?」グラッ…

大魔神「こ、小娘ぇ……!」ヨタヨタッ…

魔法少女「あれ? いくら魔神でもキンタマを狙われるのはまじぃんですか?」

魔法少女「──なぁ~んてね」

魔法少女「日頃反則ばかりしてる人は、いざ自分がやられると脆いものよね」ニィィ…



小動物(おおっ……!)

魔法少女「ミシン針のように──刺すッ! 刺すッッ! 刺しまくるッッッ!」

ズガガガガガガガガガガッ!

金的のダメージが残る大魔神に、豪雨と化した拳が炸裂する。

大魔神「図に乗るなよォ、魔法少女ォッッッ!」

メキャッ!!!

全体重が乗った、メリケンサック付きの魔神の一撃。

小動物(くっ……あれをまともに顔面に受けてしまっては……ッ)

大魔神「フハハッ、決まっ──」

魔法少女「…………」ニヤァ…

いい一撃だったといいたげに、鼻血まみれで笑う魔法少女。

大魔神「なっ!?」ビクッ

魔法少女「よかったよ、今のパンチ……。じゃあこっちも、すごい技で返さないとね」

魔法少女「リングに縫いつけてあげるッッッ!」

ズボッ!

魔法少女は貫き手で大魔神の腹から腸を引きずり出すと──

魔法少女「おっ、出てきたわ」ズリュリュリュリュ…

大魔神「ぐぎゃああああああああああっ!!?」

右手を針代わりに、腸を糸代わりにして──

魔法少女「ふんふんふ~ん」ヒュバババッ

大魔神をリングに縫いつけてしまった。

魔法少女「魔神アップリケ……完成ッッッ!」



小動物(成長しおって……ッ!)



カンカンカンカンカァーンッ!

どこからともなく鳴り響くゴングとともに──

『闇格闘組織』壊滅!!!

二人がアジトを出ると、貴公子もすでに怪人軍団を全滅させていた。

魔法少女「……待たせたわね」ザッ

貴公子「待ったよ」

魔法少女「ところで……あなたって結局何者なの?」

貴公子「ボクは生まれつき超人的な運動神経を持っていた」

貴公子「色んなスポーツを試みたが、特に気に入ったのは格闘技だった」

貴公子「だから“格闘貴公子”を名乗り、強敵を求めてたんだけど……」

貴公子「これまで、ボクの相手になれる人間はいなかった」

魔法少女「!」

魔法少女「そうか、私の町で不良や格闘家を狩ってたのはあなたね?」

貴公子「そのとおり」

貴公子「ボクの退屈を紛らわせるために、彼らには悪いことをした……」

貴公子「だけど今日……ボクはようやく退屈から解放される!」

貴公子「君という好敵手と戦えるのだから……ッ!」

貴公子「ボクは宣言する!」

貴公子「この戦いが終わったら、ボクは一番好きな人に告白すると!」

魔法少女「じゃあ私もそうする!」

貴公子「フッ、君がボクの一番好きな人でなくてよかったよ」

貴公子「そうでなきゃ、ボクは攻撃すらできず、負けてしまうだろうからね」

魔法少女「フフ、私だってそうよ」

貴公子「じゃあ始めよう」スゥ…

魔法少女「師匠、合図をお願いします!」ザッ…



小動物「うむ……両者、心置きなく死合えい」

小動物「始めッッッ!!!」バッ

魔法少女(先手必勝! 針のように突き刺すッ!)ビュバッ

バチィッ!

貴公子「ぐっ……!」ヨロッ…

貴公子「なんのアメフトタックル!」ガシィッ

魔法少女「うっ!」

貴公子「ダァーンクッ!」

ドゴォンッ!

魔法少女の顔面を地面に叩きつけ──

貴公子「シュート! シュゥーット! シュゥゥゥゥットォッ!」

ガゴッ! ドゴォッ! ズドォンッ!

地面に転がる魔法少女を、右足で蹴りまくる。

だが、魔法少女は針のような突きをスネにぶつけると──

ゴッ!

貴公子「あうっ!」ズキッ…

ミシン針突きで、貴公子のミゾオチを連打。

魔法少女「でやああああっ!」

ズガガガガガガガガガガガガガガガッ!

貴公子「くうっ……!」バババッ

卓球のフットワークに似た動きで、どうにか連打から逃れる貴公子。



貴公子「フッ、やるじゃないか! 胃液ってこんな味だったんだね!」ザッ…

魔法少女「あなたこそ! もう口の中がズタズタだわ!」ザッ…

傷つけ合いながらも、笑い合う二人。



小動物「ふむ……。よき試合だ……」ニィッ…

魔法少女「でやあああっ!」

貴公子「だああああっ!」



バキィッ…… ドゴォッ…… ズガッ…… ベシィッ…… ガッ……

ドズッ…… バシィッ…… ズシャッ…… ドギャッ…… バチッ……




小動物に見守られながら、二人は全力で戦い続けた。

一秒でも早く勝利したいという気持ちと、いつまでもこうしていたいという気持ち。

相反する矛盾した心を抱えながら……。



………………

…………

……

一ヶ月後──

<公園>

少年「やあ、お待たせ!」

少女「ううん、今来たところ!」

少年「じゃあ二人で……少し歩こっか!」

少女「うん!」

少年「せっかくだし……手を繋がない?」スッ…

少女「う、うん!」ギュッ…



少女と少年は、お互いが同時に告白するという珍事を経て、恋人同士になっていた。

少年「……ところで、最近ますます傷が増えたね」

少女「あ、ええとね……。ついつい階段でこけちゃって……」

少年(ああ……ますますドジになったけど、そんなところもステキだ)

少女「少年君こそ……前よりアザが増えたけど……」

少年「あ、これは……スポーツをやってると、どうしてもね……ハハ」

少女「ううん、傷は男の勲章っていうもんね!」



少女(まさか裁縫だけが取り柄の女の子にすぎない私が)

少年(まさかなんの変哲もないスポーツマンであるボクが)

少女&少年(裏では血で血を洗うような格闘技をやってるなんて──)

少女&少年(世界で一番大好きなこの人だけには──)

少女&少年(絶対知られちゃならないッッッ!)

小動物「奴らめ……戦いの時以外では、なんと鈍感(にぶ)いのか」

小動物(まぁよい。奴らは奴らで好きにするがよい)

小動物(もうあの二人に、我は必要ないのだからな……)

小動物(それに我は我で──“拳法界”再興のため、子孫を繁栄させねばならぬ!)クルッ



メス猫「ニャア~ン」

メス犬「クゥ~ン」

メスライオン「ガルルゥ~ン」



小動物「おう、よしよし」

小動物「そう盛るでないわ、我が愛人たちよ」

小動物「すぐに種付けしてくれるわッッッ!」ガバッ

また別の日──

今日も少女と少年は“もう一つの姿”で戦い続ける。



魔法少女「さあ、勝負よ!」

貴公子「望むところさ」

貴公子「今のところボクの178勝177敗だから、今日で差をつけさせてもらうよ」

魔法少女「そうはいかないわ!」

貴公子「フッ……じゃあさっそく始めようか?」スゥ…

魔法少女「ええ!」ザッ…



魔法少女「人智を超えた拳法、それすなわち“魔法”なりッ!」





                                   < 完 >

これにて完結となりますッ!
レスくれた方読んでくれた方ありがとうございましたッ!

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