モヒカン「ヒャッハー! この俺様が来たぞ、男ォ!」 (41)

男「知ってた。モヒカン君のバイク、うるさいんだもん」

モヒカン「それが良いんじゃねぇか。今度お前も乗せてやるよ。んでもって、その良さを知れ」

男「恥ずかしいよ。白い目で見られちゃうし」

モヒカン「一度乗ったら周りなんて気になんねぇよ。な? 乗ろうぜ? いや、乗せる。今決めた。俺が決めた」

男「強引だなぁ、もう」

モヒカン「約束だかんな? 指切りすっか?」

男「大丈夫。そんな事しなくてもちゃんと覚えてるよ」

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数日後


モヒカン「男ォ! またまた俺様だ!」

男「あれ? 今日はバイクの音がしなかったよ?」

モヒカン「……」

男「どしたの?」

モヒカン「……パクられた」

男「あらら。警察に盗難届は出したの?」

モヒカン「もう警察の厄介にはなれねぇよ。少なくともこの一件じゃ」

男「なんで?」

モヒカン「聞いてくれよ!」

男「聞いてる聞いてる」

モヒカン「パチンコして、三十連の大勝ちしたからウハウハ気分で店を出た俺」

男「高校生がパチンコなんかしたらいけません」

モヒカン「駐輪場に行ってみるとどこにもない、俺の愛車」

男「ドンマイ」

モヒカン「仲間に連絡とって、犯人見~っけ」

男「個人のネットワークだけで発見しちゃったんだ」

モヒカン「そいつんとこ行ったらあら大変」

男「なにかあったの?」

モヒカン「俺の単車で事故ってやがったんだよ、そいつ。俺が到着する直前に」

男「犯人さん、怪我はなかったの?」

モヒカン「残念な事にな。すっ転んで投げ出されたらしいけど、うまく受け身を取ったみたいでな」

男「それはなにより」

モヒカン「なによりじゃねぇよ! 俺の愛車は地面滑ったまま用水路に落っこちて大破したってのによ!」

男「その事故ってどの辺で起きたの?」

モヒカン「○○ら辺」

男「あぁ、駄菓子屋さんがある所だね。あそこの用水路か。結構大きくて深いし、本当に大破したんだ」

モヒカン「見るも無残な俺の愛車」

男「仕方ないね」

モヒカン「俺、怒り心頭」

男「あぁ、わかっちゃった。犯人さんをボコボコにしちゃったから、警察のお世話になれないんだね」

モヒカン「だってよぉ、これは不可抗力だぜ? 三ヶ月入院するくらいで済ましてやったんだから、むしろ感謝して貰わねぇとな」

男「三ヶ月の入院って、よっぽどだよ。下手をしなくてもモヒカン君の方が警察に捕まっちゃう」

モヒカン「その点は心配いらねぇ。ちゃんと口止めしてやった」

男「脅したりするのは感心しないなぁ」

モヒカン「その代わり、バイクの一件はチャラにしてやったんだ」

男「それは偉いね……いや、偉くないか。三ヶ月も病院生活送らせるような事したし」

モヒカン「あれ直すの、いくらかかると思ってんだよ……」

男「結構するの?」

モヒカン「旧車の上に色々弄りまくってたからな。元通りにすんの、余裕で三ケタになる」

男「ご愁傷様」

モヒカン「慰めてくれよ!」

男「保険は利かないの?」

モヒカン「……入ってねぇ」

男「自業自得だよ、それ。次はちゃんと入ろうね?」

モヒカン「うん……」

数日後


モヒカン「男ォ! 男はいるかァッ!」

男「目の前にね」

モヒカン「助けてくれ」

男「どしたの?」

モヒカン「算数が……算数がわかんねぇ」

男「数学じゃないんだ。引き算? 足し算?」

モヒカン「分数」

男「ちょっとレベルが高いね」

モヒカン「なんで馬鹿高校通ってんのに、真面目に分数なんて解かなきゃならねぇんだよ!」

男「高校で分数教えてるって事実の方が疑問だけど」

モヒカン「そういうわけで、教えてくれ」

男「いいけど、でもどうしたの? 小学校でも中学校でも、まともに勉強なんてした事がないのに」

モヒカン「義務教育が終わった事の恐ろしさを、身を以って味わうかもしれねぇ」

男「あぁ、留年しそうなんだね」

モヒカン「親父に殺される……」

男「基本放任だけど、そういう所は厳しいからね、モヒカン君のお父さん。最近会ってないけど、元気にしてる?」

モヒカン「昨日、今回の事で喧嘩になっちまったんだけど、見ろよこれ」

男「お腹にバンド巻いてるね」

モヒカン「親父のボディブロー一発であばらが二本折れた」

男「なんと言うか……相変わらずのようで」

モヒカン「そういうわけで、留年したら俺の命がやばいんだ。頼む! 助けてくれ!」

男「じゃあ、教科書を見せてくれる? それを見ながらやってみようよ」

モヒカン「ねぇけど? 教科書なんて捨てたし」

男「僕にどうやって教えて貰うつもりだったの?」

モヒカン「口頭で。俺、鉛筆持つとうんこしたくなるし」

男「前途多難だよ」

数日後


モヒカン「男! 聞いてくれよ男ォ!」

幼馴染「黙れ、殺すわよ」

モヒカン「ひぃ! な、なんで幼馴染が……?」

男「僕と遊んでたんだ。と言うか、その様子だと大分会ってなかったんだね、二人とも」

幼馴染「高校が違うんだもの。そりゃ会わないわよ。男がいなきゃ、こんなのと喋りたくもないし」

モヒカン「……こんなのでごめんなさい」

男「小さい頃からの力関係って変わらないもんだね。それよりモヒカン君、今日はどうしたの?」

モヒカン「えっと……」

幼馴染「男に免じて、用件を話す事を許す」

モヒカン「あ、ありがとうございます……」

男「頭があがらないというか、完全に押さえつけられてるね。踏みつけられてるって言っても過言じゃないくらい」

モヒカン「あ、あのな、男」

男「うん」

モヒカン「……いや、なんでもない」

男「なにかあったの?」

幼馴染「どうせ、あんたが持って来たその紙袋に関係するんでしょ? 私が中身を改めるから」

モヒカン「ま、待ってくれ!」

幼馴染「黙れ。動くな」

モヒカン「……はい」

男「ダメだよ、幼馴染ちゃん。モヒカン君の物を勝手に見たら」

幼馴染「いいのよ、こんなやつの物なんて……って、なによこれ!」

男「あっ、エッチな本だ」

幼馴染「馬鹿なの!? 馬鹿でしょ!? 馬鹿だったわね、あんた! なんで男にこんな物見せようとしてんのよ!」

モヒカン「その……男はこういうの買いに行ける性格じゃないし、俺がすげぇ気に入ったから、男に共感してもらいたくて……」

男「おっぱい大きいね、表紙の人」

幼馴染「男は見なくていいの!」

男「残念」

幼馴染「その……男がどうしても見たいって言うんなら、私が……」

モヒカン「ないじゃん、お前。絶壁じゃん。その辺のガキの方があるだろ」

幼馴染「……ほう?」

モヒカン「しまった! 素で反応しちまった!」

幼馴染「涅槃へ導いてみせよう。今の私は水先案内人。向かう先は血の池か針の山か。選べ」

モヒカン「ひぃっ!」

男「暴力はダメだよ、幼馴染ちゃん」

幼馴染「でも、こいつが……」

男「大丈夫。おっぱいが小さくても僕は気にしないから」

幼馴染「私が気にするんだけど……」

モヒカン「そ、それじゃあ、俺はこれで。ま、待たな、男!」

男「うん、またね」

幼馴染「二度と私の前に現れるな」

数日後


モヒカン「おっす!」

男「おっす」

老人「おっす」

モヒカン「おぉ、今日はじいちゃんもいたのか」

老人「お邪魔させて貰っておるよ」

男「お邪魔なんてそんな。いつも聞かせてくれてるお話、すごくためになります」

老人「男君のためになったとは思えんが、少しでも楽しんでくれたのならなにより」

男「それはもう。最近の楽しみの一つですから」

モヒカン「なんだなんだ? 面白ぇ話しなら、俺にも聞かせてくれよ」

老人「ほっほっほ。私の話はちょいと退屈かもしれんが、それでもいいのなら」

モヒカン「おう、かかってこいや」

男「そういうわけで、お願いします」

老人「じゃあ、さっきの話を最初に戻すよ。あれはな――」

女「やっぱりここにいた。探しましたよ」

老人「おやおや、見つかってしまったみたいだ」

女「男君が庇ってくれるからって、いっつもここに逃げ込んで、全く」

モヒカン「いいじゃねぇか。じいちゃんだって、偶にはのんびりもしたいんだろうぜ」

女「偶になら良いんだけどねぇ。最近は目を逸らした瞬間、ここに来てるのよ」

男「すみません。僕が無理を言って、お話を聞かせて貰っていたんです」

女「男君は気にしなくていいのよ。このサボリ魔ジジイがまともに働いてくれないのがいけないんだから」

男「サボリ魔ジジイって……」

モヒカン「幼馴染に負けず劣らず、この姉ちゃんも大概だよな」

女「ほら、行きますよ」

老人「やれやれ、おいぼれの扱いが酷いもんだ。ではまた後で、男君、モヒカン君」

男「はい」

モヒカン「待ってるぜ」

数日後


モヒカン「よう、元気か?」

男『うん、元気だよ』

モヒカン「聞いてくれよ。今日学校で馬鹿が暴れ出してな」

男『怪我人は出なかった?』

モヒカン「うるさかったから、その場にいた全員、踏み潰してやった」

男『だからダメだって、暴力は。そんな事をしてたら、モヒカン君が悪者になっちゃうんだよ?』

モヒカン「へっ、悪者のレッテルは男の勲章だぜ」

男『就活に響くよ? 何十件も面接に行って、それでも内定が貰えない。そんな事にもなりかねないんだからね』

モヒカン「安心しろ。高校卒業したら、知り合いのバイク屋に世話になるからよ。もう確約済みだ」

男『本当にちゃんとした約束なの? 心配だなぁ。モヒカン君はちょっと抜けてるから』

モヒカン「ほっとけ。そうそう、お前に言っておかなきゃな」

男『うん?』

モヒカン「俺の愛車、今話したバイク屋のおっちゃんが直してくれてよ、あとで取りに行くんだ」

男『そうなんだ。おめでとう。これでモヒカン君が来たかどうか、またすぐにわかるようになるね』

モヒカン「あぁ! お前がどこにいても聞こえるような爆音を鳴り響かせてやんよ!」

男『それは近所迷惑だよ……』

翌日


モヒカン「……よう」

幼馴染「なんだ、あんたか。さっさと帰って。男は寝てるの」

モヒカン「男が起きるまで残る」

幼馴染「……勝手にしなさい」

モヒカン「そうする」

翌日


モヒカン「ヒャッハー! 今日もやって来たぜ、俺の時代!」

男『一日単位で時代が変わるんだ、モヒカン君は』

モヒカン「なぁ、男。もう夏だぜ? 夏と言えば海! 海と言えば沖縄! なっ、一緒に行こうぜ。俺の愛車でよ」

男『それはいいね』

モヒカン「だろ?」

男『でも、途中の海はどうするの?』

モヒカン「そりゃ……単車担いで、ちょっくら遠泳をだな」

男『素直に船に乗ろうよ』

モヒカン「おぉ、その手があったか。そうだな、船にすっか」

男『沖縄に着いたら何をするの?』

モヒカン「決まってんだろ? 海でフィーバーすんだよ。美人な姉ちゃんにも声掛けまくってよ。夏のアバンチュールってやつ? 意味はよくわかんねぇけど」

男『僕、知らない女の人に声かけるのは苦手だなぁ』

モヒカン「男は度胸だぜ。それにお前は小動物的な顔立ちしてっから、女受けはいいと思うぞ」

男『でもやっぱり、モヒカン君と幼馴染ちゃん、二人と遊びたい』

モヒカン「えぇ……幼馴染も一緒なのか……」

男『仲間外れはダメだよ』

モヒカン「仕方ねぇなぁ。それじゃあサイドカーをくっつけておくとすっか。そうすりゃ、三人で行けんだろ」

男『それって、法律的に大丈夫?』

モヒカン「平気平気。知らねぇけど」

男『知らないんだ……』

モヒカン「いつにする? 今から行くか?」

男『……ねぇ、モヒカン君』

モヒカン「おう、どうしたよ?」

男『どうしてそんな髪型にしたの?』

モヒカン「急な質問だな」

男『そうかな? そうかもね』

モヒカン「まぁいいけどよ。単純にカッケーだろ? 手入れが大変なんだぜ。側面なんて、毎日剃らねぇとすぐ生えて来るしよ」

男『正解、当ててもいい?』

モヒカン「……俺が好きでこの頭になったんだ。それだけだよ。他に理由なんてねぇ」

男『本当にモヒカン君は優しいね』

モヒカン「ガキの頃からヤンチャばっかで孤立してた俺に、ずっとそう言ってくれたよな、お前。俺がいくら殴っても、蹴っても、ずっと、ずっと俺の隣で」

男『その時のせいで、幼馴染ちゃんはモヒカン君の事、毛嫌いするようになっちゃったね』

モヒカン「……すまねぇ」

男『気にしないでよ。君は僕の親友なんだ。僕がそう決めた。だからそんな事なんかで謝られたら、寂しいよ』

モヒカン「そっか……なら、もう謝らねぇ」

男『そうそう。それでこそモヒカン君だよ。なにを言われても君は胸を張ってないと、らしくないよ』

モヒカン「……なぁ、また髪が生えたら男もモヒカンにしてみろよ。意外に似合ってるかもしんねぇぞ?」

男『うん。手入れの仕方、教えてね』

モヒカン「任せとけ。……だから、だからな、早くそんな部屋から出て来い。こっちは菌だらけかもしれねぇけど、そこよりずっと居心地がいいぞ」

男『うん、すぐに出るよ。きっと、すぐに』

モヒカン「約束したからな?」

男『うん』

モヒカン「絶対だからな?」

男『うん』

モヒカン「破ったら……そうだな、一生お前を恨んでやる」

男『それは、嫌だなぁ……』

モヒカン「なら、早く出て来い、男……」

男『……うん』

数日後


モヒカン「……」

老人「やはり、君も来ていたんだね。男君のお通夜に」

モヒカン「当たり前だろ」

老人「ご両親には、挨拶をしたのかい?」

モヒカン「……すっげぇ、感謝された。幼馴染のやつにも。あの気の強ぇ女がさ、目に涙なんて浮かべてよ。あいつが笑顔で逝けたのは、俺のおかげだって」

老人「そうか」

モヒカン「あいつが……男が強いだけなのにな。弱音、一つも吐かなかったんだぜ? 少なくとも俺の前じゃ。こうなるってわかってたはずなのによ」

老人「私も、あの子が怯えている姿を一度たりとも見なかった」

モヒカン「本当は怖かったはずなのに、苦しかったはずなのに、それでも俺の馬鹿に笑ってくれたんだよ」

老人「そう、だったね」

モヒカン「……俺、なにもしてねぇのに。なにも……なにも出来なかったってのに! 一方的な約束ばっか押し付けてただけなのにッ!」

老人「それは私も一緒だ。いや、私の方が罪は重い。医者でありながら、結局彼を助けられなかったのだから」

モヒカン「……じいちゃんの話、あいつからよく聞いたよ。すっげぇ、楽しそうに話してた」

老人「私も男君からよく君の話を聞いてたよ。世界で一番かっこいい、僕の友達だって」

モヒカン「やめてくれ。今そんな話されると、泣きそうになる」

老人「泣いてやらんのかね?」

モヒカン「絶対に泣いてやらねぇよ。そんなみっともない姿見せられるか。俺は――俺はな、男にとって世界一かっこいい親友なんだからな」

老人「……これからどうするつもりなんだい?」

モヒカン「そう、だな……男を完全に見送ったら、行きたい所がある」

老人「差し支えがなければ、教えて貰ってもいいかな?」

モヒカン「海だよ、海。沖縄の海。煙になる男と一緒にツーリングに行ってくらぁ。……約束、したからな」

終わり

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