響「はるかさん」 (75)

アイマスSSですが、アイマス以外にも元ネタあり。そちらはSS終了時に一応紹介する予定ですが、知っている方は途中で書いてくれても構いません。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403972854

その日の朝はいつもと大して変わらなかった。
出社時間の二時間前に起きて、退屈なニュース――確か、どこかの県のおえらいさん達がお金をこっそり盗ったとかそんなニュースだった気がする――を眺めながら、てきぱきと支度をする。
そんな自分を眺めるハム蔵たちの様子もどことなく退屈げに感じられた。
それから一時間足らずで支度や朝食なんかを済ませて、ゆったりと家を出る。
そういえばアイドルになりたての頃は毎朝トレーニングを兼ねて走って出社したりもしていたけど、いつからかすっかり乗り物を使うようになっちゃったなぁ。

それからバスを二本乗り継いで、765プロの事務所に到着した。
自分より前に数人のアイドルが到着してたけど、みんな軽く挨拶をした後は台本を読んだり新曲を聴き込んだりしていて忙しく、ただただ無言の空間が広がる。
その日の自分の仕事はグラビア撮影と雑誌のインタビューだったので、自分も軽く脳内でポージングやトークのイメージを固めていた。
765プロに所属するアイドルはみんな今や有名アイドルだ。特に千早と美希なんて、国外にも名を轟かせるほどの有名アイドル/アーティストになっている。もう、自分達には馴れ合うよりも先にすべき事が多すぎる。
そんな事は誰に言われなくても自分達が一番よく分かってるし、お互いの邪魔にならないよう、きちんと仕事とプライベートの線引きはできている。
……ちょっぴりだけ、寂しくないでもないけどね。

それから、自分たちはそれぞれの仕事に向かった。765プロはスタッフが少ないから送迎はタクシーで、現場での活動は基本的に自力で行う。
もうプロデューサーがずっと隣にいなくても、大抵の仕事はしっかりこなせるほどに自分達は成長していた。
だからその日の仕事も何の問題もなく済ませて、事務所に連絡を入れた後いつも通りに現場から直帰する……はずだった。

でもここからがいつもと違った所で、全ての始まりだったんだ。

この日、自分は疲れが溜まっていたのかバスの中で寝てしまった。
自分で言うのも何だけど、もう自分は有名人なんだからこういうところで無防備にしているのは危険だって分かっていたし、普段はもっと気を張っているんだけど……
とにかく降りるべき場所を通過してしまった自分はそのまま終点まで行ってしまい、運転手さんに揺り起こされた。

運転手「お客さん、終点ですよ……って、もしかして我那覇響さんですか!?」

もうこんな反応にも慣れっこだ。
変装していても街中ではサインを求められることなんてままあるし、イヌ美の散歩に行くのですら変装しないといけないくらいだからね。
それはともかく、すぐにアイドルとしての自分モードに切り替えて、営業スマイルで応対した後バスを降りた。

幸いにもバッグの中身などは無事だったし、終点から自分の家もそう遠くない距離だったから徒歩で帰ることにする。
暗くなった街中では、数人とすれ違っても自分に気付く人はいない。

――ああ、夜中なら変装しなくてもばれないんだね。あんまり夜中に出歩くことなかったけど、今度からこれくらいの時間にイヌ美の散歩しようかな――

なんて思っていると、目の前に寂れた雰囲気の地下道が現れた。
こんな時間にそこを通るのはちょっと怖くて嫌だったけど、他の道に行き直すのも面倒だったのでそのまま地下道に足を踏み入れる。

そこには薄暗い蛍光灯の明かりと、飛び回る羽虫の他には特に何もなかった。
自分は何となく安堵の溜息をつき、そのまま歩を進める。そうして地下道の中盤辺りに差し掛かったくらいだったかな。


突然地下道の壁から、にゅっ、と何かが顔を出した。

あまりに唐突な出来事に、自分は情けない悲鳴を上げて尻もちを着く。
壁から生えてきたそれは、そのままずるずると斜め上に伸びてくる。
やがて足首まで壁から出てきた所で、重力を無視するような斜めの体勢で止まったそれは、頭にリボンを付けた女の子だった。
状況が全く掴めず自分はただただ呆然としていたんだけど、数分経ってもその子が微動だにしないので意を決して話しかけてみることにした。


響「ね、ねえ君……」

返事はない。それどころか反応もないし、顔や視線をこちらに向けすらしない。

響「ねえってば……」

全く反応のない彼女を、少し離れた場所から観察してみる。
顔はかなり可愛い、美少女と言っても差し支えない部類に入ると思う。
確か、少しぶかぶかというか……首元とか割とゆるめのファッションで、ニコニコ……というか、ニヤニヤと言う感じの笑みを浮かべていた。
この子が普通に街中を歩いていたらうちの社長はすぐにスカウトしそうだけど、さすがに壁から生えてきた女の子じゃスカウトもしないだろうな。

そんなしょうもないことを考えていると、自分はとんでもないことに気付いてしまった。

彼女の膝の所に、顔が付いていたのだ。

膝の方の顔はソフトボール大くらいで、頭に付いてる方の顔と全く同じ顔をしていた。そして、どういう仕組みなのかは全くわからないけどくるくる回っている。
そのあまりにも不気味な様子に、ヒッと声を上げてしまう。が、それでも彼女はこちらに何の反応もしなかった。

自分が恐怖で逃げるどころかその子から目を離すことすらできずにいると、後ろからカツカツとヒールの音がした。
慌てて振り向くと、自分のすぐ後ろにスーツ姿の女性がいた。
あの女の子に集中し過ぎて、まわりが全く見えてなかったらしい。
その女性は、まるで女の子が見えてないみたいにぶつからない場所を素通りして、そのまま地下道から出て行った。
自分はまたもや呆然としちゃったけど、とにかくここから離れようと思ってそろーりと壁から生えてる女の子の前を通り過ぎて、スーツ姿の女性を追いかけた。

女の子は目の前を通った自分にも当然のように無反応で、地下道を出る直前にちらっと振り向いた時も全く動かずに最初の場所で斜めに生えたままだった。

響「あ、あの!すみません!」

地下道を出た自分は、さっきの女性に追いつき声を掛ける。

女性「……何ですか?」

その人は少しだけ迷惑そうな顔をして自分を見た。
自分は、知らない人に嬉しそうな顔で話しかけられることはあっても嫌な顔をされることなんてしばらくなかったので少し面食らったけど、そんな事どうでもよくなるくらいにさっきのことが気になっていたので、すぐに本題に入る。

響「さっきの女の子なんですけど……あの、膝に顔のある……壁から生えてた……」

そこまで言って、少しだけ後悔する。

響(もしもあれが幽霊で自分にしか見えていなかったら、自分は完全にイタい子だと思われるよな……ていうか、自分で言ってても分かるくらい支離滅裂だぞ……)

でも、そんな考えは杞憂だった。

女性「ああ、はるかさんのことね。あなたあそこ通るの初めてだったんでしょ?驚いてたものね」

響「は、はるかさん……?」

女性はさも当然の事のように説明してくれた。

女性「あの子はね。誰がそう呼び始めたかは知らないけど、はるかさんって呼ばれてるわ。
あの地下道の壁にたまに生えてるの。」

響「た、たまに生えてるってそんな、キノコみたいな……」

女性「キノコねぇ……あながち、間違ってないんじゃない?あの子からこっちに接触してくることはまずないしね。でも、よく分からないものには関わらないほうがいいわよ。あそこを通る人であの子のことを知ってる人は、みんな見ないふりしてるわ。私もそれが賢明だと思う」

響「あの……じ、実は自分、ちょっと話しかけちゃったんですけど……」

なんだか、悪いことをしてしまったことを親に打ち明ける子供に近いような心境でそう言うと、女性は少し驚いた後優しい笑みを浮かべた。

女性「でも、こうして無事に出られたから大丈夫じゃない?それに私も初めて彼女を見た時、触ろうとしちゃったわよ」

響「ええっ!?そ、それでどうなったんですか!?」

女性は自分の驚いた顔を見て可笑しそうに笑った。

女性「霧みたいにすり抜けて触れなかったわ。でもその晩枕元に立ったりも、祟られて体調崩したりもしなかったからきっとあなたも大丈夫よ」

自分がほっと胸を撫で下ろすと、女性は自分の頭を撫でた。

女性「ふふ、よく見るとあなたとっても可愛い顔してるわね。あなたならアイドルにでもなれそう」

響「えっ」

女性「なんてね、じゃあ私はこれで」

そう言って、彼女は自分が呆気にとられているうちにさっさと歩いて行ってしまった。


響「あの、一応自分、アイドルなんだけど……」

そんなひとりごとを言いながらも彼女のお陰で落ち着くことが出来たようで、無事に家まで辿りつけた。
その日はその女の人の言うとおりそれ以降『はるかさん』に会うこともなく、安心したのかぐっすりと深い眠りに落ちて……

……そして、その日を境に自分の日常は少しずつ変わっていったんだ。

とりあえず今日はここまでです。
こんな感じだから需要も薄いと思いますので、のんびりやっていこうと思いますが、最低でも週一回は更新したいと思います。
まあそんなに長編にはならない予定ですが。
それでは。

いまからちょっと投下します。

あと、元ネタ知らなくても問題なく読めるようになってます。響にはるかさんについて教えてくれた女性含め、アイマスのキャラ以外で出てくる人物は全てただのモブです。
専門用語や設定のたぐいもありませんので、安心して読んで下さい。

初めて『はるかさん』を目にした日から数日が経って、自分は次第に『はるかさん』のことを考えなくなってきていた。
もちろん、あんなインパクトの強い存在をそうやすやすと忘れられはしない。
けど、そのことばかり考えていては仕事をしっかりこなすことも出来ない。
なにせ自分はとてつもなく多忙なんだ。
台本や振り付けを覚えたりポーズを取ったりと目まぐるしいアイドルの仕事は、自然にあの不可思議なモノのことを考えずに済む状況を作ってくれた。

でも、そんな誤魔化しが効いていたのもせいぜい数週間程度だった。
その日、自分は有名お笑い芸人と数人のタレント、それに貴音と一緒にグルメリポートに行ってたんだ。
その日のロケ内容は都内にある複数の有名ラーメン店の食べ比べだった。
何件も店を巡るからみんな一口二口程度食べて残してたけど、貴音だけは全部の店で必ず完食してて、周りの人たちを驚かせてたっけ。

……そして、その日最後の店に向かった時に彼女が現れたんだ。

―――
お笑い芸人「本日最後のお店は~、こちらっ!」

お笑い芸人のひょうきんな掛け声と共にカメラマンが店の方へカメラを向け、自分達もそれにつられて店の方を見る。

お笑い芸人「○×亭で~す!えー、こちらはですね!魚介だしをベースに、濃厚な豚骨スープが――」

お笑い芸人はそのままお店の紹介を始めて他の人たちもそれに対して「わぁ~!」とか「おいしそー!」とかそれっぽいリアクションを取ってたけど、自分は一人だけ店の方を凝視していた。

金色の昇り龍が描かれている○×亭の看板。その上に明らかに上記を逸した物があったんだ。
そう、それは間違いなく『はるかさん』だった。

あんな人目につく所に堂々と生えている『はるかさん 』。
ただ、あの日見た『はるかさん』と比べると決定的な違いが一つあった。
それはサイズの違いだ。

その『はるかさん』はあの日見た『はるかさん』を優に超える大きさで、多分自分の三倍以上はあったと思う。
膝に付いてる顔すら、自分の顔より大きかった。

貴音「……き。響。どうしたのですか、響!」

貴音に呼ばれてやっと自分の意識が『はるかさん』から離れた。
慌てて周りを見渡すと店の説明はとっくに終わっており、お笑い芸人がみんなを店内へと誘導しているところだった。

お笑い芸人「ちょっ、響ちゃーん!何ぼーっとしとんねーん!今オレが渾身の紹介しとったのに、聞いてへんかったやろ!」

タレント「え、そんなのしてましたか~?」

お笑い芸人「○○さんまで聞いてへんかったんか~い!」

彼らは番組の進行を妨げないようフォローしつつ、自分に向けて無言の圧力――本番中にボーッとするな、といった至極当然の怒り――を向けける。
しかし、自分にはそんな彼らの心情が理解できなかった。

響「ま、待ってよ!それどころじゃないでしょ!見てアレ、あんなに大きいはるかさんが!」

ディレクター「ちょっとカメラ止めて!……我那覇ちゃん、なに言ってんの?」

自分がはるかさんを指さして叫ぶと、番組のディレクターがカメラを止めて自分に歩み寄ってきた。

ディレクター「あのねぇ……この番組、そういうの求めてないんだわ。悪いけど電波キャラ作りたいなら他所でやってくれない?」

他の出演者たちは、ただただ無言で自分の方を見ている。
やれやれ、コイツのせいで収録が長引くよ……といったような顔をして。
自分はそれがどうしても納得いかなかった。
どうして皆、アレに気づかないの?と、本気で疑問に思った。

響「なんで――」

貴音「響。おやめなさい」

自分が食い下がろうと声を荒らげた時、貴音が自分を諌めた。

貴音「貴女が何を言っているのか、正直に言いますと私には理解できません。しかし、貴方が何を考えていようと、プロとして今は番組に集中すべきです。違いますか?」

最初は、いつも何でもお見通しなあの貴音でさえも『はるかさん』に気付いていないのかと思った。
けど自分は、貴音の目を見て全てを悟る。
あの日……初めてはるかさんを見た日、スーツ姿の女性は何と言ったか。

女性『――あの子のことを知ってる人は、みんな見ないふりしてるわ……』

そして、貴音の目は言葉よりも雄弁に自分へ語り掛けていた。

貴音『それ以上、その話をしてはなりません』

――そうか、みんなはるかさんが見えてるし、知ってるんだね。
だけど、見ないふりしてるんだ。不気味で怖いから。関わりたくないから。

そう気づくと、周りの人の様子はさっきまでとまるで違って見えた。
お笑い芸人は、自分は関係ないですよ、と『はるかさん』に向けてアピールしているかのように無表情でそっぽを向き。
タレントは自分が『はるかさん』について言及したことに対して、信じられないといった具合に眉をひそめ。
そして、ディレクターと貴音は暗にそれ以上はるかさんと関わるなと忠告していたんだ。

みんな、はるかさんを見ないふりしている。
はるかさんはそこにいるのに。干渉してこなくても、触れなくても、確かにいるのに。

……それって、なんだか変だぞ。何かが間違ってる気がする。
でも、今の自分にはそれをうまく伝える術が浮かばなかった。
だから……

響「……ごめん、自分どうかしてたさー」

ここはモヤモヤを飲み込んで、プロに徹することにする。

貴音「それでよいのです。すみません、でぃれくたー殿。もう大丈夫ですので続きを撮っていただけますか」

ディレクター「やれやれ、勘弁してよ?君ら二人には高いギャラ出して来てもらってるんだから……」

そう言って、ディレクターは撮影を再開した。
自分の言った台詞には当然全く触れてこないし、掘り返すようなことは何一つ聞かない。
それはやっぱり、見ないふりをしていることの裏付けのように思えた。

その後食べたラーメンの味は全く覚えていない。いや、食べたかどうかさえ曖昧だ。それくらいに自分はあの大きな『はるかさん』に意識を奪われていた。

どうしてみんな、『はるかさん』を見ないふりするんだろう?
確かに『はるかさん』は訳の分からない存在だし、怖くないわけじゃない……というか、正直不気味だぞ。
膝に回る顔があるし、ニタニタ笑ってるし……
でもそれだけだ。何の害も加えてこないじゃないか。
それに、皆も変だぞ。なにか対策を取るでもなく、危険だと周りに呼びかける訳でもなく、ただただ見ないふりをしている。

どうしてだろう。分からない。自分には分からないよ……

今日はここまでです。

765に『春香』がいなくて、生えている『はるかさん』は「かっか」とか「ヴァーイ」とか鳴かない方のだよね?

『はるかさん』って言われると「かっか」って鳴いて水をかけると殖える方を思い出す…

あっ、話自体は市販のショートショートっぽくて面白いです。乙。

あー、ぷちますの方はあんまり見てないので想定外というかスレタイ見たら普通はそっちのはるかさんを思い浮かべる事に今気づきました。

申し訳ありませんが、このSSにはぷちどるは出てきません。
設定的には>>34の方が最初の方に書いている通りです。
説明不足ですみません。

一週間に一度とか言いながら盛大に遅刻しましたが完結はさせます……
少ないですが投下

モヤモヤした気持ちを抱えながら帰り道を行く途中で、自分はたくさんのはるかさんを見かけた。
民家の壁から生えてるはるかさんとかブティックのショーウィンドウでマネキンと並んでるはるかさんとか、アスファルトから首から上だけ出してるはるかさんとか……でも、それに反応する人は一人もいなかった。

壁からはるかさんが生えてる家の住人ははるかさんなんか見えてないような顔で布団を干してたし、ショーウィンドウを見てる女性達ははるかさんの隣のマネキンが被ってる帽子に夢中だったし、アスファルトからはるかさんが生えてても誰一人足元なんか見ないで携帯をいじりながら歩いてた。
なんだか本当ははるかさんがそこにいないんじゃないかと思うくらい、誰もはるかさんを見やしない。
だけど確かにはるかさんはそこにいるんだ。
民家の住人ははるかさんに被らないように布団を干してるし、ブティックの店員は明確にはるかさんを避けて清掃をしてた。アスファルトから生えてるはるかさんの頭を踏んづける人もいない。
だからやっぱり、みんなはるかさんを見ないふりしてるんだ。

自分がその事に違和感を覚えながら歩いていた時――ついに、『それ』と出くわしたんだ。

『それ』は、何食わぬ顔で人混みの中を歩いていた。
真っ青な制服に身を包んだその人は、少し歳を取った警官。
そして、その肩から見覚えのあるモノが伸びていた。

そう、はるかさんだ。

その人を見て、自分ははるかさんよりもその警官のことが気になった。
警官ははるかさんなんて生えてないかのような顔で辺りを見回しながら歩いている。……でも、見えてないわけ無いよね。
じゃあ彼は、肩から生えるはるかさんのことをどう思ってるんだろう。
あそこまで行って、どうして見ないふりが出来るんだろう。

響「あの……!」

好奇心が自制心に勝り、自分は警官に声を掛けてしまった。

警官「ん?……あれ、君アイドルの我那覇響ちゃん!?」

警官は自分の事を知っていたようだ。そして、それに気付いた周りの人たちも自分に群がってきた。

男「ひひひ響ちゃん!?生響ちゃん!?」
女「さ、サイン下さい!大ファンです!」
ギャル「もしもし、やっべーよ!今生我那覇響と遭遇してんだけど!」
男「この間のグルメ番組見ました!最高でしたよ!」
ギャル「うっせーな!どけよオタク!」

自分の方に集まってきた人たちは、好き勝手に喚きながら自分に触ろうとしたり、写メをとっている。そして当然のように警官になんか――はるかさんになんか、目もくれない。

――ああもう、うるさいぞ。

響「その肩から生えてるはるかさん、どうしたんですか!?」

自分が周りの雑音を掻き消すような大声でそう警官に尋ねると、一気に周囲の空気が凍りついたのを感じた。

警官「っ!」

警官は言葉に詰まり、周囲の人たちは黙って少しずつ離れていった。
はるかさんは、相変わらず中空を見つめてニヤニヤ笑ってる。
なんとなく、はるかさんの笑い顔がまるでその人たちのことを馬鹿にしてるかのように見えた。
ざまあみろ、私を無視するからだとそんな事を言いたげな笑みに。

警官「え、ええと……?」

とぼけようとする警官に、自分はなおも質問する。

響「その肩から生えてる女の子のことです!どうしてそんなものが……」

警官「君」

すると突然、警官は完全な無表情になって自分の言葉を遮った。

警官「そんなものは、生えていない。いい加減なことを言うのはやめなさい。もしかして、最近流行ってる怪しげなハーブにでも手を出してるんじゃないだろうね?」

――ああ、そこで自分はやっと理解した。
この人は、この人達は、はるかさんのことを何も理解していない。むしろ、恐れるあまり理解することをやめてるんだ。
全くはるかさんの意図が掴めないから。
壁から屋根から身体から、何故生えてきて何故笑ってるのか、少し考えて、考えるのをやめたんだ。
なにか大きな恐ろしい出来事に巻き込まれるんじゃないかと勝手に思い込んで、安直な逃避に身を置いたんだ。
そして、そんな人たちが周りに溢れていることに安心して、当然のようにそれに身を任せているんだ。

警官「芸能界はそういう噂多いしね。どうなんだい?ん?」

警官は自分を責めることで自らを守ろうとしてる。さっきまでの無表情は、人を小馬鹿にするような薄ら笑いに変わっていた。
もう自分には、彼は何の価値もないサボテンか何かのように思えた。
もう、これ以上この人と話して得られるものは何もない。

響「あなたは――あなたたちは、本当につまらない人間だね」

自分はそう言って、警官に背を向けた。
でも、そんな酷いことを言った自分を警官が追ってくることはなかった。多分、自分から――降り掛かった災難から逃れられたと、そんなことを考えていたんだろうな。

本当に、くだらない。

今日はここまで。続きは来週中には投下します。
次はもう少しアイマスっぽい雰囲気になる予定……

完結まで書けたので投下します。ビバ連休。

それから三日間くらい、自分は初めて無断で仕事をサボった。
何をしていたわけでもない、ただあちこちをふらふらと歩き回っていただけだ。
そして自分は、あちこちにいるはるかさんに声を掛けた。手を振った。撫でようとしてみた。
でも彼女たちは自分に見向きもしないし、触れることも出来ない。
最初にはるかさんのことを教えてくれた女性の言うとおりだ。

触れようとしても、すり抜けてしまう――

そう考えて、ふと思った。
そういえばあの女性は、見ないふりした方がいいと『教えてくれた』。
基本は見ないふりをしていたとしても、最近自分が見た多くの人たちよりはよっぽどマシだ。
彼女にもう一度合って話したい。
そう思った自分は居ても立ってもいられなくなって、あの日の地下道へ駆け出していた。


――ここだ。ここが、全ての始まり。
あの日この場所ではるかさんと出会ってから、何もかもがおかしくなっていったんだ。

響「……やあ、はるかさん。今日は、生えてる日だったんだね」

衝動的に走ってきたけど、当然女性はいなかった。
そりゃそうだよね。あの日もたまたま通りかかっただけだったし。

でも、あの日と同じ場所にはるかさんが生えていた。
でも、自分が話しかけたところではるかさんは返事をしてくれはしない。
ただひたすら斜めを見てニヤニヤしているだけだ。

響「ねえ、君はいっつも何を見てるの?自分、もっと君のこと知りたいぞ……」

自分はちょっと悲しくなって、はるかさんにそう言った。
どうしてこう、何もかも思い通りに行かないのかな。

「響、アンタ仕事もしないで何下らないことしてるのよ」


突然響いた咎める声に、身を竦めながら振り向く。
そこには不機嫌そうな顔で腕を組み、仁王立ちしている少女がいた。

響「おで……伊織か。びっくりしたぞ」

伊織「ちょっと、今なんて言いかけたのよ。最後まで言ってみなさい、怒ってあげるから」

響「怒らないんじゃないの!?」

伊織「怒るわよ!」

響「……ぷっ、あはははは!!」


何だか、こんな状況でもいつもと変わらない伊織がおかしくてつい笑ってしまった。

伊織「……はぁ。何よ、思ったより元気そうじゃない。でも『そいつ』に話しかけるのはやめなさい。ましてや理解だなんて……ロクなことにならないわよ」

その伊織の言葉を聞いて、自分の笑いはあっという間に引っ込んだ。
『そいつ』?それってはるかさんのこと?


響「い、伊織ははるかさんを見ないふりしないの!?」

伊織「何言ってんのよ。普段は見ないふりしてるに決まってるじゃないそんな薄気味悪く笑ってる奴」

伊織は思いっきり顔を歪めて悪態をついた。

響「……伊織って、すごいまっすぐだよね。ある意味尊敬するぞ」

伊織「はぁ?当たり前でしょ。この私を誰だと思ってるのよ」

伊織が真顔でそんな台詞を吐くから、自分は思わず飛びついてしまった。

響「伊織ーっ!」

伊織「こ、こら!意味分かんなさ過ぎるわよ!離しなさい!」

多分、伊織が思ってることを包み隠さず話してくれるのが自分にとって本当に嬉しかったんだろうな。
そして、そんな伊織は自分の額に思い切りヘッドバットをかましてきた。

伊織「離せってのよ!」

響「うぎゃーっ!」

目の前に火花が飛ぶ。
……い、伊織、石頭すぎるぞ……


響「痛ったー……」

伊織「この馬鹿、本当にしょうもない馬鹿ねアンタは!逆に聞きたいわよ、なんでこんな気持ち悪い奴のこと理解してあげようと思うのか……」

響「……だって、だって……」

伊織「だって、何よ」

伊織は片方の眉を上げて、呆れたように先を促す。

響「……可哀想じゃないか」

伊織「可哀想?」

響「みんなから見ないふりされて、それでもずっとそこにいるはるかさんが、可哀想で……」

伊織はちょっと涙ぐみ始めた自分を見て少し困った顔をした。

伊織「……多分アイツを見てそんなこと考えるのはアンタぐらいのものね。いや、断言するわ。アンタは伊織ちゃんのお墨付き、世界で唯一のアルティメット馬鹿よ」

響「ひ、ひどい……」


伊織は溜息を吐いて自分の頭を軽く叩いた。

響「いてっ」

伊織「でもそんなアンタが皆好きみたいよ。さすがにアンタに続いて仕事サボれはしないけど空いた時間に探し回ってるし、プロデューサーも必死に仕事先に頭を下げて他のアイドルを出すって条件で大事にならないように済ませてくれたもの。アンタ、戻ったら皆に土下座よ、土下座」

響「え、ええ!?皆が……!?」

みんな忙しい中で、心配してくれてたんだ。
自分はとても嬉しくなって、でも皆に迷惑掛けたと思うと無断でサボったことを少し後悔した。


響「……あ、じゃあ伊織も!?」

伊織「はぁ?何言ってんのよ、私がそんなことするわけ無いじゃない。アンタに会ったのはたまたまよ、たまたま!」

伊織は照れた顔でふいっとそっぽを向いた。
相変わらず素直じゃないぞ。


伊織「……でもね、そんな顔してるやつを放っとけるほど薄情でもないわ、私は。だからちょっと着いて来なさい」

伊織は、そう言うと自分の手を握ってどこかへ歩き出した。

響「ど、どこ行くのさ」

少し不安になってそう尋ねる。
急に皆の前に連れて行かれても、まだ心の準備が……
でも、伊織は真面目な顔のまま歩き続ける。

伊織「アンタに見せてあげるわ。あの気味の悪い『はるかさん』の真実をね」

―――


それから伊織は何を尋ねても無視して歩き、黒光りするリムジンに乗り込む。
そしてあっという間に自分を水瀬家の敷地内に連れてきてしまった。

伊織「アレ、飛ばしてちょうだい」

運転手「かしこまりました」

そう言った伊織の視線の先には、ピカピカに磨き上げられたプライベートジェットが。

響「い、伊織!?」

伊織「何よ、高所恐怖症だとか言わないでよ?やよいじゃないんだから」

響「じゃ、じゃなくて自分どこに連れて行かれるのさ!?」

伊織「そんな事、乗れば分かるわよ。ほら来なさい」

響「乗ってからじゃ遅いぞ!?」

自分が必死に訴えかけている間にも使用人達がてきぱきと支度を済ませ、あっという間にジェット機に搭乗させられた。

伊織「これから見るのは相当ショッキングな光景だから覚悟しておきなさい」

響「だから自分は――!」

どこに連れて行かれるんだ、と言い切る前にジェット機が発進し、自分は重力と騒音で言葉を遮られた。


ジェット機の羽根が風を切り、滑るように空を飛ぶ。
そのうちに窓の外には日の光を浴びてきらきらとかがやく海や瑞々しく緑に光る森が見えてきた。

響「うわぁ……!」

伊織は自分にこれを見せたかったのかな。
でも確かにきれいで元気が出るけど、ショッキングな光景ではないよね……?
そう考えていると、目の前に大きな山脈が見えてきた。

伊織「ここは地元では麦わら山脈って呼ばれてるらしいのよ。名前の由来は知らないけど。そして――ほら、見えてきたわ」

伊織が窓の外を指さし、自分は何気なくそちらを見る。
山の向こうに何かある?
雲……から、伸びている……あれは……


響「う、嘘でしょ」

雲の隙間から見える見覚えのある笑い顔。
このジェット機より大きい……というか、もう東京ドームとかと比べるようなレベルの大きさのそれは紛れもなくはるかさんだった。

伊織「気付いてた?あいつには触れられないけど、視界に映るし――影が、出来るのよ」

自分はそれを聞いて背筋を震わせた。
雲の隙間から顔を出すはるかさんの下には、大きな影が落とされている。

伊織「水瀬家の情報網だと、あの辺一体は七年前から毎日ずっと曇りなのよ。
おかげであの辺りは有名な米の産地だったのにすっかり寂れて今じゃ廃墟同然だわ」

響「な、七年……はるかさんの……せいで……?」

伊織「原因は不明ってことになってるわ。誰もアレを公式に記録しようとする人はいないから。
そしてもう一つ……あの影に包まれた一体の中心地には一つの村があるの。
七年前、その村から一人の狂人が精神病院に入れられたそうよ。なんでも、居もしない架空の少女に語りかけ続けていたとか……
『はるかさん』という少女に、ね」


響「そ、それってもしかして……」

伊織「ええ。確証はないけど、アイツに話しかけることはアイツを呼ぶことになるみたい。
もう分かったでしょ?少なくともアイツは、人間のことなんて何とも思っていない。
ただ自分のしたいようにしてるだけの迷惑な奴なのよ」

自分が震えているのを見かねたのか、伊織は自分の手を握った。

伊織「アンタは優しすぎるのよ。でも、その優しさを向けるべき相手は選ばなきゃいけないわ。
例えば、アンタを守ろうとアレを見ないふりするように促した仲間とかね」

響「……!」

伊織の言葉で、ぱっと貴音の顔が浮かんだ。
そっか、貴音ははるかさんから自分を守ろうとしてくれてたんだ。

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