可愛くない魔法少女モノ書いたよ (21)

パー速で書き始めたこちらにご案内されたのでこっちにも立てました
良かったら読んで下さい



 煙草が燃え尽きたと同時に、家を出た。
何つっても今日は5日。職のない人間が1ヶ月余裕で暮らしていける金をお偉い人から恵んでいただける”恵みの日”だ。
近所のコンビニに駆け込み、ATMにカードを突っ込んだ。

―キテる。やる気のなさそうに口から数枚の札を吐き出したのをポケットにねじ込み、店を出て、足早に家とは逆方向に歩き出した。
そのときこちらをじっと見る猫がいたが、そんなことはお構いなし。頭の中はジャラジャラとやかましい音でお祭り騒ぎだ。



 チッ
 自動ドアが開くと名残惜しそうに店の喧騒が少し外に流れるのが、さらに苛立ちを加速させた。
負けた。さんざんヤマはった台に尽く手持ちの札を飲み込まれてしまった。
たった一度きり勝てたのをいいことに、女は毎日のようにこの店に通いつめている。
クソ、捨て台詞とヤニが絡む唾を道に吐き出し家路へ歩き出した。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403943758


 商店街の賑わいも遠く聞こえる橋の上。周りが静かになると怒りも鎮まってくる
にゃお、―さっきの猫だろうか、こちらを見ている―
猫なんか嫌いだ。一人で生きてるくせに、弱い。人の捨てたものを這いつくばって舐めたり持ち帰ったり、そのくせ車に轢かれて死んだりする。
さっきの鳴き声がまるで先程の負けっぷりを馬鹿にしてるように聞こえて、また苛立った。
チッ、足元の石を猫の顔に向けて蹴り飛ばした。
もちろん避けられたが、今の華麗なループシュート、多分前世はラウルのようなサッカー選手に違いないと一人で満足し、また歩き出した。

「君だって、人様からもらった金で今生きてるじゃないか。」

あ?誰だ今人の心を勝手に読み取った奴は。振り返るも、誰もいない。
商店街を出た橋の上には、女と猫しかいない。
幻聴が聞こえたってことは、明日また病院に行かないといけないな、とまた歩き出そうとする。

「弱いフリして働きもせず、人が投げ捨てた金を拾い集めて娯楽に溺れてる。」

誰だ。誰だ、誰だ。気味が悪い。周りに誰も居ないのに声がする。まるで自分を見透かしてる、みたいな。
夕日が、暑い。自然とと吐き出す息が熱くなってくる。
気持ち、悪い。吐き、気が、する。―


「君が、――だね。」

 な、んで、名前を。

「今話しかけてるのがこの僕だ。目に前にいる。」

 目の前、猫しか、いねーだろ。

「そうその猫。僕は君の力を借りたい。君に助けて欲しいんだ。」

バカ言え。うちには、金が無い。一人食っていくのが、やっと。それより、話しかけんな。気分が悪い。
夕陽が射して黒い猫の毛がオレンジに染まってなびいてる。綺麗だが、顔半分は翳ってよく見えない。

「金銭や食料の助けじゃない。君の―」


ざああ、風がいきなり強く唸る。

「来たみたいだ。僕には時間がない。返事はできるだけ早くして欲しい。」
「わ、わかった。メシでも金でもねーんだろ。なにすればいいんだよ。」
「あいつと、戦って。」

猫の視線の先は後ろの商店街。中程にいるあまりにも大きい物体。ゆっくりと歩き出し火を吹いた。
吹いた火はたちまち商店街の店を燃やしていく。まるで、

「なんだあれ!ゴジラとかそういうなんかの撮影かよ!」
「違うとも言えるしそうとも言える。君らで言うところの”怪物”みたいなもんだね。ちなみに撮影とかではないからあの店は実際に燃えてるよ。」

あんなのどうやって戦うんだよ。ビームとか?いやただの人間にゃ何も出来ない。戦えるわけない。

「なんでもいいから叫んでみて!心に浮かんだ言葉を!」

そんなこと言われても困る。いきなり言われたって空っぽの頭には何も浮かばない。

「もう、しょうがないなぁ~!じゃあフィンレーノって叫んでみて。」
「は?ふ、ふぃ?、まぁなんでもいい……ふぃ、ふぃんれー、の…」

猫の目が光り、光線が胸元に当たった。

 体が、暖かい。
あまりの気持ちよさにうとうととしそうになる。これはやっぱり夢だったのか。やな夢だ。病院行って薬もらっておこう。めんどくせぇ。
考えるのもつかの間、目を覚ますと先程の商店街の光景に戻った。
 夢、の続き、か?
「変身できたみたいだね。フィンレーノ。呼びづらいから君の名前はフィンだ。」

 え、

「さっそく戦って欲しい。しかし君のようなタイプの人は初めてだ。どういう戦い方をするのかわからない。」

 え、

見ると体が今まで着たこともねーようなかわいらしい服に纏われてる。

 は?



「なんじゃこりゃああああああああっっ」

昔の刑事ドラマのような叫びがこだまする。

「フィン、そんなこと言ってる場合じゃない。早くあいつを倒すんだ!」
「む、無茶言うなにゃんこ。こういうのってなんか魔法とか、剣とかそういう武器ってもんがついてるもんだろ。てか変身?するときとかもさぁ、めたもるふぉーぜとか、とらんすふぉーむとか…」
「そういうのは自己満足だから好きなようにしたらいい。君の今の姿、もう一人のきみの名を呼ぶことが重要なんだ。それにさっきも言ったように、僕は君みたいなタイプは初めてだ。戦いのヒントはあげられないよ。」

全く意味がわからねぇ。馬鹿にしてるのか。
しかしこんな姿になってからあの気持ち悪さがどっかいっちまった。
なんだ、よくわかんねーけど、わくわくしてる。

「久々におもしろいことが起こりそうだな。」

フリフリの女は、黒い物体に向かって走りだした。

「ちなみにその姿、他の人間にも見えるから素性ばれないように頑張って。」
「先に言えや、バカ猫が!」


 運動神経はもともと悪くなかったような気もするが、こんな生活になってから体なんて動かすこともなかった。
でも今は、早く走れる。気持ちがいい。
3塁ベースを蹴ってホームに戻ってくるときも、こんな気持だろうか。
まぁ戻ってきたところで誰も迎えてくれねーし、刺そうと焦るキャッチャーも、歓喜に声を荒げる観客もいないが。
孤独は嫌いじゃない。

 目の前の黒い物体まであと1メートル、といったところで気付かれた。こちらを睨み―つけたように見えるが相手の顔が曖昧なのでよくわからない―火を吹きかけた。
慌てて右に飛んで避ける。数十センチ避けきれなかったらあわや火達磨になってただろう。
不思議と怖くない。

「ぅおらああああああああああっ」そのまま全力で走り相手の脇腹に向けて飛び蹴りした。
黒い物体が凄まじい音を立てて倒れこむ。今度は顔に向けてもう一度蹴り飛ばした。
効果テキメン。黒い物体は倒れたまま動かなくなった。面白いからもう一発。今度は拳で。

「それ以上は駄目だ。オーバーキルはいけない。」

ボケが、せっかく楽しくなってきた時に止めんじゃねぇ。

(…だ)

猫とは違う、ぼう、とした音が言葉のように聞こえる。

「ほら、なんか言ってる。聞いてみて。」
(…いや、だ…みんな、燃えて、[ピーーー]ば、いい…地獄の炎、で…)

「なんだコイツ。中学生みたいなこと言ってやがる。お前が燃やされて死んじまえよ。」

顔のようなとこを更に一発ぶん殴る。弱いこと言ってる人間は嫌いだ。理解し難い。

「ああ、ダメじゃないか。今ので死んでしまったよ。」
「どうでもいい。さあ、戻してくれ。帰る。」

それにしてもさっきまで戦ってた時は誰もいなかったのにだんだん人が増えてきた。
嬉々としながら写真を撮る者、唖然として陰からじっと見る者、人が集まってくる。
はっとした。まずい、人だかりの中にあのババアがいる。月に一度家に来るクソババアの内の一人。

「おい猫、あのババアにだけは見つかりたくない。今度家に来た時何言われるかわからねぇ。」
「わかった。あいつはなんとかしよう。変身を解くにはいつもの自分を感じるんだ。とりあえず人目のないところに行ってからね。」

嫌だ。囲まれたくない。道を開けろ、ぶん殴るぞ、と見た目に合わない言葉を喚き散らしながら女は去っていった。

黒い物体は小さな火をあげて、だんだん小さくなってカスになり、興味本位で商店街に集まる人の靴に踏みつけられて、消えた。

 翌日

「あーだりぃ。」

 あの後、猫は消えた。
おかげさまで体は筋肉痛。髪の毛は毛先だけ燃えて少しチリチリになった。
こういうのって変身解けたら無傷になってるもんじゃねえのかよ。
テレビをつけたらニュースで高校生が焼身自殺したと読み上げている。
どうやら最近不審火が相次いでおり、たびたびその少年が現場近くにいたのが目撃されているらしい。
つまんねぇ。チャンネルをいくつか変えてテレビを消す。電気代の無駄だった。

 煙草に火をつけたところでピンポーン、と呼び鈴が鳴る。
どうせいつものババアだろと出てみると見知らぬスーツ姿の女がいた。

「はじめまして。これから○○さんの代わりに貴方の監視員になりました。年も近いから、仲良くしてね。」
明らかに年上に見えるコイツが新しいババアか。
「あ、貴方、今私の事ババアって思ったわね!?失礼しちゃう!年2つしか変わらないわよ!」
やかましいババアだ。うるさいのは嫌いだしさっさと帰ってくれ。
「それと、その猫はうちに申請済みなの?書類にはペット飼ってるなんてどこにも書いてないけど?」
えっ、振り返ると黒いふかふかの猫がにゃお、と泣いた。

「はああああああ!?」

普通と違う話の始まり。


動画サイトのランキング。
私の配信の上にいるもの。第1位「魔法少女は実在した!?連続不審火事件に隠された真実」
許せない、私よりも目立つもの、私と同じモノ。
爪をガリガリ噛む内に、肉まで噛んでいたらしい。
鉄の味。血の匂い。はぁ、幸せ。
女はうっとりとしながら猫に名を呼ばれて外に出た。
「るなちゃそ☆、お仕事いってきまぁ~す!!」

お仕事から帰ったので更新します。
3~4年前にパー速で百合なものを書いてましたけどSS速報で書き込んだことはありません。



仕事と言っても、この女もまた、職には就いていない。
することといえばインターネットの上の異性と遊び、お金を援助してもらうことである。
女はその人形のような見た目と類まれなるデスボイスというギャップで異性からの支持が高い。
今日も俗にいう「オフ会」という仕事に行くらしい。

「よし、化粧バッチリ、時間も、5分遅刻、バッチリ♪」

駅のトイレから改札に向かって走るピンクアッシュの髪のツインテールに黒のゴスロリなんて人間は、都会の街でも文句なしで浮く。

「お兄ちゃ~~~ん!おまたせ~~~☆」
「全然待ってないよ、るなちゃそ、それより今日の服は一段とかわいいね!」
「今日はうさぎの仕立て屋さんに特別に発注してもらったにゃ~~♪」

えへ、と女ははにかみながら駅前のカラオケ屋さんに向かった。


「ヴォオオオオオオオオオオアアアアアアアア」
「やっぱ、るなちゃそのノコギリボイスは最高だねぇ。」

一昔前のハードなV系をひとしきり歌って満足したらしい女は頃合いを見て”いつものやつ”をやる。
顔を赤らめて、瞳を潤ませて、おにいちゃん、と呟く。

「るな、なんかお胸が熱いの…おにい、ちゃ…」
「るなちゃそ、それってもしかして……満月のうさうさタイム…」
「にゃ、お兄ちゃ…るなを助けてほしいの…一緒に、うさうさ、して?」
「わかったよ、とりあえず休めるところ、行こっか。」

「ん、はぁ…、お、にぃちゃ、っ…」
「るな、すごく、かわいい…」
「おにいちゃんの、るなの奥、ごりごりって……きゅんきゅん、しちゃう、のぉ…」
夕暮れなのにカーテンを閉めて薄暗い部屋には熱気と水と空気が混ざって弾けるような音が篭っている。
「…、ごめ、そろそろ出そう…」
「いーよ、いっぱい、るなのこと、ぎゅ、ってして…」

ひとしきり盛ったあとで男が女にかわいらしい封筒を差し出す。
女は中身を確認せず、はにかみながらありがとう、と言った。



退屈な毎日だと思う。
帰ってから風呂場にこもり煙草を吹かす。
財布と孤独を埋めるために、適当な単語でキャラを作り体を差し出す毎日。
下らない、でも自分を隠して生活するよりはよっぽどマシ。

手首のグローブを外して自分の手首を見る。自分で切ったもの、誰かに切られたもの、また、それとは違う傷がいくつも斑模様のようにくっついていた。
一番古い、手に一番近い切り傷がジリジリと痛む。
吐き気がする。整った顔が嘘のように歪み、険しい表情のまま、すぐ火が消えてない煙草を押し当てシャワーをあてる。
なんて私は可哀想なの。私は儚い。辛い。苦しい。
だからみんなに愛されたい。可愛がられたい。ずっと可哀想で可愛いままでいたい。

「ルナ…いや――、またいたいことしてるの…?」
「私をその名前で呼ぶなっつってんだろ、ダボが。」
「う、ごめんなさい…それより、ルナ。また奴らの気配がする。今度は敵だけじゃない、別の違うものも感じるよ。」
思い出した。私の動画より上にいたあいつら。私と同じもの。
可哀想で可愛いのは私だけ。私以外はみんな敵。

「行きましょう。みゃー。」
私にはコレしか無い。最近出来た唯一の楽しみ。
「やったぁ!ビデオカメラ持ってくみゃ!」
「らんけーじ☆るなちゃそ出撃しま~す!!」


「なんだよ、クソッタレ。また負けやがってよ~」

監視員のババア―名前なんだっけか、忘れた―がうちに来て早々渡してきたのは野球観戦のチケット。
あれ以来何度か戦いが続き、心身ともに少しずつ疲労が溜まっていた。
かと言っていつものパチンコではどうせ負けて余計に心にストレスが溜まる。そんな時にこれだ。運命に違いない。
今日の先発は両チームとも期待のルーキーである。甲子園以来の投げ合いともなれば、他球団ファンでも気になる試合である。
しかもこちらが応援するチームのルーキーは甲子園で相手に投げ勝っている。プロになれば情報の露出も多いし、俄然有利にも思える。
だが、結果は7-0。初出場にして初の負けがつき、チームは6連敗と痛い結果となった。

「緊張しすぎでコントロール定まってねーし、第一なんだよあの打線と怠慢守備!」

ムカつくから変身して喝入れてやろうかと思ったって言葉はさすがに飲み込んだ。

「まあ、でも初にしては頑張ってたんじゃない?」
「バ、…アン、さん…は野球知ってるわけ?」
「んもーっ、ババアじゃないし!アンでいいって言ったでしょ!野球は、そうね、昔の男が好きで良く一緒に見てたわ。」

といい昔の思い出に浸る女を見て、けっ、くだらねぇ、と呟いた。



アンと別れたところで、家で留守をしているはずの猫が目の前にいた。

「おい、なんで家にいねーんだよ。だから猫ってやつは嫌いなんだ。」
「奴らがいる。さあ、戦うよ。フィンを解き放つんだ。」
「今日は全然そんな気分じゃねーんだよ。帰って酒飲みながら明日の競馬予想するんだっつーの。」
「今日の敵は強い。しかももしかしたら一人じゃないかもしれない。それに、」

「敵を殴ってストレス解消って君にはぴったりじゃないかい?」

「しゃーねーな。今日ボコボコにされた分のイライラをたっぷり味わせてやるか。」

女は単純だ。


うおおおぉ、と咆哮が聞こえる。
今回の黒い物体は人くらいの大きさである。そしてやたらと、体の一部が、でかい。
駅前はやけに閑散しているが、そこに通りかかった若い女に向かって走っていった。捕まえて何をするかはなんとなく察しがつく。

とりあえず、助けるか。まっすぐ走り、追いかけられてる女を突き飛ばした。

敵が勢い余ってぶつかってくる。―いや、違う。これはあえてこちらを狙ってやったんだ。腕を捕まれ、体を密着されて思った。なにより、

「当たってんだよ気持ち悪ぃなああああ!」

敵は黒いだけじゃない、なんか表面が粘着質な液体でベタベタしている。おかげさまで手足が石のようになって動かない。
「畜生、なんなんだよ。きもちわりー。ざけんじゃねぇ。」
猫に助けを求めようとしたが近場にはいない。これだから猫ってのは気まぐれで嫌いなんだ。

なんとなく、痴漢に遭うと声が出ないって言葉を思い出した。
んなもん怯えてるからだろ、わーでも、ぎゃーでも叫んどきゃなんとかなるのに。
安易に考えた自分を恥じる。今はもう喉に栓をされてるみたいに声が出ない。
冷や汗がだらだら流れ、全身の血が頭に集中して熱い、気持ち悪い。
その間にもベタベタの液体が体の中心へ這いつくばってゆるゆる動き出している。
だめだ。たぶん自分は怖がってる。誰か―



「ぐーてんあーべんと、みなさ~~ん☆」

緊迫した雰囲気に似つかわしい、間抜けた声、そしてクラシック音楽

「この世に蔓延る負の感情。そしてつながる犯罪へ。
悪の雑草は根っこから断ち切るべし。このらんけーじ☆るなちゃそが許しません!」
「(みゃー、バラの乙女の次はレスギンカって言ってるでしょ!そろそろ曲切り替えてよ!)」
「ご、ごめんなさいごめんなさいっ!」

なんだ、こいつら…
女の方はピンクの髪の毛に、こちら以上にふりっふりの服に、仮面舞踏会?、みたいなマスク。
しかも手に持ってるのは、ノコギリ?
さっきのセリフが決まったと言わんばかりに、満足気な顔である。
とんでもねぇキ●ガイに遭っちまった…今日はマジで厄日だ。
しかもあいつも猫を連れてる。ビデオを片手にラジカセいじるとはなんて器用なやつだ。(猫だけど)顔面蒼白で泣きそうだが。
のんびり考えてる内に、ルナ―とか言ったっけ―がこちらに近づいてくる。
いきなりノコギリを振り下ろし、敵とフィンを真っ二つに離れさせ、そして蹴りあげた。――フィンを。
宙に上がり近くの噴水に勢い良くダイブした。
「いってーーーな!なにすんだクソアマ!」
「そのベタベタは洗って出なおして頂戴。貴方の相手は後よ。」
バカにしやがって。しかしさっきまでべたべたした液体が嘘のように消えていく。
只者じゃないと認識した。あのルナって女は相当ヤベー奴だ。

曲が変わり、さっきまでの可愛らしい感じの曲からかなり早いテンポの曲に変わった。

「ぬるぬるベタベタプレイの経験は少ないのよね~。この断罪ノコギリがどこまで耐えられるかしら☆」


曲に合わせ、軽い足取りで敵を狙う。
敵も負けじと液体を投げつけるが、遅い。幾度と無く交わされてしまう。

金管楽器の荘厳なメロディーに合わせて体を翻しながらノコギリが確実に体の外側を傷つけていく。ノコギリは引いて使うのではないかという疑問も浮かばないくらい、速い。

ねぇ、とルナは険しい目つきを緩めぬまま、優しい声で言った。

「ノコギリって2つの刃があるんだけどさぁ、すぱっと切れる方と切断面ぐっちゃぐちゃになる方どっちがいいかしら?」

もちろん答えは聞かず、目の粗い方を、敵の肥大化しているものに垂直にあてがった。曲はクライマックスになり。やがて終わった。


遠巻きに見るにはグロテスクすぎた光景だった。

こんなのと戦うのか、今日はなんだか気持ちが前乗りしない。いつもの調子なら戦いの途中で混じってどっちもボコボコにするのに。

ルナはこっちをみる。

「貴方ね、動画に載ってた人。大したこと無いんだ。」

すげー腹立つことを言われた気がする。うぜぇクソビッチだ。

「とりあえず今日は力でなそうだし勘弁しといてあげるわ。風邪ひかれても困るし」

なんか気を使わせたみたいだ。
女と猫は去っていった。

翌日

ぶぇっくしょい、と勢いのいいくしゃみでまた目が覚めた。

「君は一応女性なんだよね?もうちょっと音に気をつけなよ。」

うるせぇ、バカ猫。てめーが変な力とかでなんとかしてくれりゃいいものを。糞が、だから猫は嫌いだ。
ガチャ、鍵閉めたはずなのに勝手に扉が空いた。

「あら、具合平気?」

アンが来た。どうも監視員とやらは人の家の鍵も持ってて勝手に入ることも許されてるらしい。

「あー?ただの風邪だ。今日はチケットないのか?」
「毎度毎度幸せを運ぶほど私は聖人じゃないの。それより、これを見てちょうだい。」

渡してきたのは、あれだ。電気屋の入口で売ってる、――そうだ、タブレットだ。
動画サイトのランキング1位は、すぐ近くの駅の公園で、フリフリの服を着た女が鋸を振り回してる…
これは、ルナだ。しかも画面の端に自分の姿までばっちり映り込んでいる。

「魔法少女ですって、こういうコスプレみたいなの流行ってるのかしらね?それにしても…こっちの女の子、貴方にちょっとだけ似てるわね?」

ぶっふううううぅぅぅ、これは女が飲んでいた缶ハイボールを口から噴き出す音だ。
ちょっと、咳き込むくらいなら酒は辞めなさい、と論点がずれたアンのツッコミ。
風邪がぶり返しそうだから帰れと無理やり追い出して、部屋はやっと静かになる。

「だからいったじゃないか。その姿は他の人に見えるから気を付けて、と。」
「だったら変身してる間くらい周り眠らせろやハゲ!」



まるで夢のようだった。なのに打ち付けた腰の痛みですぐに現実だと悟った。
昨日の夜は友達と女子会してて、次の日は2限からだから早く帰らなきゃって思ってた。
なのに改札を出たとき―

「あぶねえええええええええぇぇぇ!!」

私は黒いものにぶつかりそうになったのに、違う誰かにぶつかった。
日本語がおかしいけど、本当にそんな感じ。
そしたらかばってくれた方の人―女の人だった。ふわふわの可愛い服着た、ぼさぼさ頭の―は黒いものと戦って、
そしたら仮面をつけた黒と赤のふりふりの人が来て…黒い影は消えた。
なんかの撮影かもしれない。でもその二人はすっごくかっこよかった。関わっちゃいけない気がするのに、目が離せない。
浮かぶのは小さいころに見ていたアニメ。ボロボロになりながらも戦っていくかっこいい女の子。
私も、ああなりたい。強くなって、一人の人間として、認められたい。

なんて考えていたら携帯が9時40分のアラームで騒ぎ出した。
まずい、2限に遅刻しちゃう。急いで鞄を持ち、アクセサリーを身につけてアパートを飛び出す。

角を曲がったとこで、猫がいた。お行儀よく座っていて、今日の青空とグレーの毛並みのコントラストが綺麗。
急いでいることも忘れて、鞄からカメラを取り出す。お気に入りの―バイトをして貯金してやっと買ったデジ一ってやつ―カメラで写そうと被写体をレンズ越しに覗く。
ねぇ、
―猫が喋ったような気がした。
あんまり寝れてなかったのかもしれない。頭がぼーっとして、熱い。

貴方も、変身して、みたい?――

「」

2話は終わりです。
最初に書き始めた時より第三の視点でかききれてないのが反省点です。
おやすみなさい。

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