僧侶「死んでも一緒です、ゆーしゃさま」(296)

前スレ 僧侶「死んでも一緒です、ゆーしゃさま」 - SSまとめ速報
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の続きとなっております

読んでくれている方ありがとうございます

では続きをどうぞ


勇者の魔法により救われた中央大陸城だが、人々は浮かれる間もなく事後処理に追われていた。
僧侶職は死傷者を看病し、他の義勇兵や騎士団は交代で見張りと周囲警戒。念のため城に避難している住民に食料を配ったりなど。
人々が落ち着きを取り戻した頃にはすっかり日は傾いていた。

戦士「見張りご苦労さん。これ差し入れ」

魔法使い「ありがと」

戦士「何か動きは?」

魔法使い「もごーもごもごもご(んー今のところはないかな)」

戦士「食うか喋るかどっちかにしろ」

魔法使い「ンググッ……だってお腹減ってたからさ!」

戦士「まああれからずっと張り詰めっぱなしだったからな」

戦士「あの魔法……勇者のだよな」

魔法使い「勇者にしか使えないデイン系の最大呪文だったね」

戦士「また随分と差がついちまったな……」

戦士「……なあ」

魔法使い「んー?」

戦士「これからどうするつもりなんだ? お前は」

魔法使い「どうってー?」

戦士「……勇者のお付きになるのがお前の夢なんだろ?」

魔法使い「まあねー」

戦士「今が勇者について行ける最後のチャンスじゃないのか?」

魔法使い「……」

戦士「あの魔法があれば勇者だって認めてくれるさ」

魔法使い「一回打ったぐらいで目眩してたんじゃ足手まといにしかならないよ」

戦士「でもよ……!」

魔法使い「それに、もうそれはいいの」

魔法使い「もし勇者君達と一緒に魔王を倒したとしても、私にはその後に何もないから」

戦士「何もない?」

魔法使い「私が勇者のお付きになりたかったのは周りを見返したいとか、魔法職の中でも一目置かれたいとか、そんなちっぽけな理由からだったの」

魔法使い「でもね、あんたと旅してて……色々な体験をしたら、何かそんなのどうでも良くなってきちゃった」

戦士「魔法使い……」

魔法使い「ところで次のターゲットなんだけどさ!
勇者君が魔王を倒したらまだ見ぬお宝求めて西の大陸へ! なんてどうかな!?」

戦士「西か、悪くないな」

魔法使い「ふふ、でしょ?」

戦士「ま、勇者が魔王を倒したらだけどな。じゃないと船便も出ないだろうし」

魔法使い「勝つよ、あの二人なら……絶対」

戦士「……そうだな」

魔法使い「さて、ご飯も食べたし一眠りしよっかな。見張りよろしくねー」

戦士「はいはい」

魔法使い「あ、戦士!」

戦士「なんだよ?」

魔法使い「戦士はさ、私のこと好き?」

────

その頃、勇者は──

勇者「流れでここまで来たが……」

天窓から忍び込んだ城の物置でうんうんと唸っていた。

勇者「どんな顔して僧侶に会えばいいんだ……」

勇者「普通に会って謝るか……? いやでも……」

ずっとこの調子だった。

脳裏に焼き付いた、僧侶が横たわる姿が浮かぶ。

勇者「……もう二度と、僧侶をあんな目に合わせるわけには」

勇者「僧侶に会ってはっきり言おう……魔王は俺一人で倒すと」

そう心に決めて、物置を出ようとした時だった。

メイド「何か物音が……あ」

勇者「あ」

メイド「ゆ、ゆ、勇者様!?」

勇者「(ここで騒がれるとまずいっ!)」ダッ

メイド「ムグッ」

勇者「あんまり事を大きくしたくないんだ。俺のことは内緒にしといてくれないか?」

メイド「プハッ。何だか良くわかりませんけど……わかりました」

それから勇者はメイドに今までのことや、僧侶に自分が決めたことを伝える為に今は目立つことをして行動が制限されたくない旨を伝えた。

メイド「そうだったんですか……あれからも随分苦労されたんですね……勇者様」

勇者「ああ。だからあいつまで俺と一緒に辛い思いなんてしなくていいんだって……言いたくてさ。その方があいつの為にも」

メイド「……それはどうでしょうか」

勇者「え?」

メイド「ちょっと偉そうなこと言っちゃいますけど、それは勇者様だけの気持ちじゃないですか」

勇者「……まあな」

メイド「それって自分勝手だと思うんです。自分がこう思うから、こうするのが一番良い、だから諦めろだなんて。
それにそう言われたからって諦めるぐらいならこんなとこまで勇者様を追って来たりしないと思いますよ」

勇者「……」

メイド「私はお二人の関係をそこまで知りません……けど、僧侶さんはそんな弱い人でもないと思うんです」

勇者「……確かにわがままだよ。俺があいつが傷つくのを見たくないから遠ざけようとしてるだけなのかもしれない」

勇者「……でも怖いんだよ、誰かが死ぬことが」

勇者「俺の力が及ばなければ誰かが死ぬ」

勇者「そしてもっともそれに近いのは俺と一緒にいる僧侶だ」

勇者「今までだって何回も死んだ。これまでは運良く蘇生されて来たから良かった……けど」

勇者「もし起きた時……あいつがいなかったらと思うとッ……!」

メイド「……ごめんなさい。勇者様の気持ちも知らずに自分勝手なんて言って」

勇者「いいよ。確かに自分勝手だしな」

メイド「前に会った時とは違う意味で勇者様ってお話に出てくる勇者様と違いますよね」

勇者「違う意味?」

メイド「前に会った時は確かに勇者っぽくなかったけど、自信満々で、俺のやること成すこと上手く行く! って感じで」

メイド「やっぱりどこか普通の人とは違うなぁって思ってました」

メイド「でも今悩んでる勇者様を見たら、私達と同じなんだなって」

勇者「他の勇者はどうか知らないけど俺はみんなと変わらないよ。金ピカの王宮歩くよりこういう埃っぽい部屋に居る方が落ち着くし」

メイド「ふふ」

勇者「じゃあそろそろ行くよ。色々ありがとう、メイド」

メイド「はい。あの時の裏口は開けたままなのでそこから出れば目立たず町へ出られる筈です。僧侶さんなら教会にいると思いますよ」

勇者「サンキュ」

メイド「……勇者様」

勇者「ん?」

メイド「勇者様の気持ちもわかります。けど、僧侶さんの気持ちも含めて答えを出してあげてください」

メイド「話し合わないとわからないこともあります。私と父のように……自分の考えだけで相手を見れば本当の思いは曇ってしまいます」

勇者「……ああ。わかってる」

────

勇者「本当の思い……か」

勇者「あいつは意地でもついて来ようとするだろうな」

勇者「昔から頑固なのは変わってないんだよなあ……ほんと」

勇者「それでも……連れて行くわけにはいかない」

教会──

旅僧侶「おや、久しぶりじゃないか」

勇者「僧侶いる?」

旅僧侶「彼女なら……あ」

勇者「え?」

オカマ「よぅクソガキ……テメーよ、僧侶泣かしたらキンタマ引っこ抜くっつったよな?」

勇者「ひぃぃぃぃぃ」

オカマ「歯ァ喰いしばれや」

ドフッ──

オカマは正拳突きを放った。

勇者は軽々と吹き飛ばされ、なんと教会の壁を突き破り木に叩きつけられた!

オカマ「ちったぁ目覚めたか?」

勇者「お……おかげさまで」

オカマ「僧侶なら奥の部屋で寝てる。ずっと蘇生魔法唱えて疲れてるから起こすなよ」

勇者「……」

オカマ「……何帰ろうとしてんださっさと行けや」

勇者「えぅっ!? どっちなんだよ!」

オカマ「はよいけや」

勇者「はいぃぃぃっ」スタタタッ

旅僧侶「クックック、いやほんとあの二人は面白い」

オカマ「上手く行かなすぎて見てるこっちが歯がゆいわ」

旅僧侶「さて、どうなるか」

オカマ「何もかも押し付けてる私達が言うのもなんだけど……上手く行って欲しいわね」

旅僧侶「ほんとに君はあの二人が好きなんだね」

オカマ「子供が出来たらいつもこんな気持ちになるのかしらね」チラッ

旅僧侶「さ、さあ?」ゾクッ

────

トントン

勇者「僧侶、起きてるか?」

シーン──

勇者「入るぞ」ガチャ

僧侶「くぅ……くぅ……」

勇者「(やっぱり寝てたか)」

静かに隣のベッドに腰を下ろすと、眠っている僧侶を少し眺める。

勇者「(髪、伸びたな。前々から長かったけど)」

僧侶「ん……」

勇者「(背も少し伸びた気がする。……やっぱり気のせいか。なんて言ったら僧侶のやつ顔膨らませて怒るだろうな)」

僧侶「……ゆーしゃ……さま……」

勇者「!!」

僧侶「くぅ……」

勇者「(……寝言か)」

勇者「ごめんな、僧侶」

勇者「昔はどんなことがあってもお前を守れる力があるって思ってた」

勇者「でも……そんなことは全然なくてさ。最初の頃は約束したからって、お前が傷つくのは仕方ない、……死んでもそれは魔王を倒す危険な旅なんだからって思ってた」

勇者「でも神父さんが死んで……お前のことも守れずに死ぬより苦しい思いしていたのを見た時思ったんだ」

勇者「なんで僧侶がこんなにも苦しむ必要があるんだ」

勇者「俺と一緒に居なければあんな苦しい思いはしなくていいのにってな」

勇者「もう見たくないんだ。お前が苦しんでるところを」

勇者「だから魔王は俺一人で倒す」

勇者「なに、初代勇者だって一人で魔王を倒したんだ。同じ勇者ならやれないことはないだろ」

勇者「……だから、待っててくれ。俺達が生まれたあの村で」

勇者「世界が平和になるのを」

僧侶「……」

勇者「なんて寝てる奴に言っても仕方ないよな」

勇者「ちゃんと話してから行こうと思ったけど、決心が揺らぎそうになるからやめとくわ」

勇者「じゃあな、僧侶」

僧侶の頭を軽く撫でると、勇者は静かに部屋を後にした。

僧侶「……(言いたいこといっぱいあったのに……何も言えなかった)」

僧侶「(私がゆーしゃさま様を思っているように、ゆーしゃさまも私のことを思ってくれてる)」

僧侶「(でも本当に私のことを思ってくれるなら……苦しめたくないって言うのは間違ってますよ……ゆーしゃさま)」

夜明け──

勇者「やっぱりこの明るくなる前の暗さがいいよな。そういや初めて死んでからまた旅立つ時もこんな空だったっけ」

勇者「あれから随分遠くに来たな……」

勇者「さて、行きますか」

町の出口──

勇者「ん……」

「……」

勇者「そう……」

旅僧侶「やあ」

勇者「…なんだあんたかよ」

旅僧侶「はは。僧侶帽なんて久しぶりに被ったよ。存外落ち着くものだね」

勇者「何の用だ?」

旅僧侶「伝えるか伝えないか迷ったけど、一応後々同盟関係になる国のピンチだからね。ついでに伝えとこうと思って」

旅僧侶「壁の国、武の国、砂漠の国が空から降るモンスター達の襲撃にあっているそうだ」

勇者「なに!!?」

旅僧侶「どの国もモンスター対策は万全、中でも鉄壁を誇る壁の国だが空から来られちゃ成すすべがないだろうねぇ」

勇者「……助けに行ってこいってわけか?」

旅僧侶「あっちで何があったのかは大体知ってるよ。だから助けに行けなんてことは言わない」

旅僧侶「風説だなんだって不義理を通した向こうが悪い。自分達が危ない時だけ助けてもらおうなんて虫がいい話だしね」

勇者「だったらなんで」

旅僧侶「僧侶はそれを聞いて一目散に向かったよ」

勇者「あいつ……!」

旅僧侶「僕はただこれを届けて欲しいだけさ。彼女にね」

そう言うと旅僧侶はひょいと僧侶帽を渡した。

勇者「僧侶のか。通りで見間違えるわけだ」

旅僧侶「彼女は随分これを気に入ってたみたいだからね。頼んだよ」

勇者「なるほど、これを渡すついでに助けて来いってことか。同盟国の一大事をついで扱いする司教はあんたぐらいなもんだな」

旅僧侶「ははっ、一大事より君達の行く末の方が面白そうだからね」

勇者「おーおー人の気も知らずに楽しみなさる」

勇者「んじゃまあ渡しに行ってきますかね」

旅僧侶「また面白い話があったら頼むよ、勇者」

勇者「へいへい。ルーラ!」ビューンビューン

旅僧侶「……あの二人に神の加護があらんことを。なんて柄にもないこと言うぐらいには、僕もあの二人のことを気に入ってるのかもしれないね」

南の大陸 壁の国──

兵士「クソッ!!! まさか直接空から降ってくるなんて!!!」

兵長「泣き言言ってる場合かっ!!! 住民の避難が完了するまで我々が民を守る壁となるのだ!!!」

兵士「無茶言うぜ……この数だぞ」

兵士「死ぬのかな……俺達」

兵士「もし……こんな時に勇者が居れば」

ガスッ

兵士「いてぇっ」

少年「こんな時にだけ勇者に頼るなっ!!!」

兵士「おいやめっ、石を投げるな!」

兵長「何をしている!!! さっさと避難せんか!!!」

少年「うるさいバカッ!」スタタタッ

兵長「おいどこに行く!!! 町の中は危険だ!!! 戻って来い!!!」

少年「(そうだ。勇者になりたいのなら勇者に頼ってちゃ駄目なんだ!)」

少年「(こんな時だからこそ自分達の力で出来る限りのことをするっ!!!)」

少年「(少しづつでもいい! この大陸の考えを勇者を目指すこの僕が変えてやる!)」

悪ガキa「ひ、ひえええええっ」
悪ガキb「うわああああ逃げろおおおお」
悪ガキ「お前らちょっと待」ガクンッ

モンスター「ギィィィィィ」

悪ガキc「う、ああ……」

少年「!!! なにやってんだ!!! 早く逃げろ!!!」

悪ガキc「こ、腰が……」

少年「くっ、あのバカ!!!」

少年は井戸の近くにあった汲み上げ用の桶をモンスターに投げつけた。

モンスター「ギィ?」

少年「こっちだ!!!」タッタッタ

モンスター「ギィヤァァァァァァ!!!」ズゥンズゥン

悪ガキa「今のうちに逃げようぜ!」
悪ガキb「た、立てるか?」
悪ガキc「……うるせぇ!!! 今更心配してる振りすんじゃねぇよ!」

悪ガキa「だ、だって……なぁ?」
悪ガキb「普通に逃げるって……あれは」

悪ガキc「チッ……(そうだ、普通は逃げる。なのにあいつは俺を庇って……)」

悪ガキc「(勇者もそうだったな……もしかして俺達はとんでもない間違いをしてるのかもしれねぇ)」

──

少年「はあっ……! っはあ……!(駄目だ、追い付かれる!)」

モンスター「キィシャアアアアア」

無我夢中で走った先に待ち構える、壁。

少年「行き止まり!?」

モンスター「ギィヤァァァァァァ」ブゥンッ

少年「くうっ」

来る衝撃に目を背ける、……しかしそれは一向にやってこない。

恐る恐る少年が目を開けると、

そこには肩からバッサリと斬り落とされたモンスターと、空に舞うモンスターの腕、

勇者「悪い、待たせた!」

少年「勇者!!!」

剣を肩に掛けながら、ニヤリと笑う勇者の姿があった。

勇者「大体の住民は城に避難してる。お前も急げよ」

少年「待ってくれ勇者! ……この国は僕が変える!」

勇者「……」

少年「だから勇者は、魔王を倒して世界を変えてくれ!」

勇者「へへっ、言うじゃねぇの!」

勇者「なら尚更こんなところじゃ死ねないなお互い」

少年「うんっ! じゃあ僕は他に逃げ遅れた人がいないか見回ってから城に行くよ!」

勇者「くれぐれも無理すんなよ! もしまたモンスターに襲われたら思いっきり叫べ、いいな?」

少年「わかったっ!!!」

互いの拳をゴツリと合わせ、振り返らずに二人はそれぞれの戦いに赴いた。

壁の国 中央広場──

広場の中心で次々と襲いかかってくるモンスターを迎撃している人影があった。

僧侶「(数が多い……それに民家が死角になっていつ飛び出て来るかわからない!)」

モンスター「グォォォォ」

僧侶「メラミっ」

民家の影から飛びかかって来たモンスターを魔法で一蹴する。

僧侶「ふぅ……ふぅ……」

この中央広場は城へ続く唯一の道だった。僧侶は住民が避難する間ずっとこうしてモンスターを倒し続け、避難路を確保していた。
精神と肉体をギリギリまで磨り減らされても、戦うことをやめない。

僧侶「(なんでこんなになってまで……守ろうとしているんだろう)」

自分ながらに不思議になる。
自分とゆーしゃさまを離ればなれにさせた大嫌いな場所なのに。

僧侶「それでもっ……!」

多分理由なんてない、困ってる人達がいるって聞いて、それを助けたいって思って、

自分にその力が少しでもあるのなら!!!

僧侶「私達は守り続ける!!!」

僧侶「そうですよね、ゆーしゃさま」

勇者「ああ」

まるで最初からそこに居たかのように、勇者は僧侶の後ろに立っていた。

モンスター「グルゥゥゥ」
モンスター「キョキョキョ」
モンスター「グハァ」

モンスターに囲まれ、自然と背中合わせに立つ二人。

勇者「ほら、忘れ物」
僧侶「あっ、僧侶帽!」

勇者から受け取った僧侶帽を目深に被ると、満足気に表情を緩める。

僧侶「やっぱりこれがないと落ち着かないです!」
勇者「それがないと僧侶って感じしないもんな」

勇者「さて、行くか」
僧侶「はい」

短い確認の言葉を交わし、勇者と僧侶が同時に詠唱する。

僧侶「風よ、全てを切り裂く暴風となれ!」

勇者「……ライデイン!」

勇者と僧侶を中心として、暴風と雷(イカズチ)が舞い踊る──

勇者「これが」

僧侶「私達の合体魔法」

勇者・僧侶「「テンペスト!!!」」

僧侶が勇者に寄りかかる様にして背中を預ける。

僧侶「ゆーしゃさま、私は今ゆーしゃさまの隣に立って居られてますか?」

勇者「……ああ。強くなったな、僧侶」

僧侶「ふふっ」

嬉しそうに笑うその笑顔を見ていたら、今まで考えていたことが全部吹き飛びそうになる。

守りたい、何よりも、彼女を。

勇者「(そうか、俺……僧侶のこと)」

だから、色々迷ってたんだ。

ようやく辿り着いた答えを胸にしまい込み、残った敵を一掃する為駆け出した。

「……ここまでは予定通りか」

────

三の月振りに会ったとは思えないコンビネーションの良さで中央広場に居たモンスター達を殲滅した二人。

勇者「住民の避難も終わったっぽいな。後はまたギガデインで空に出来た穴を塞ぐだけだ」

僧侶「詠唱中お守り致します、ゆーしゃさま」

勇者「頼んだ」

地べたに座り込み、瞼を伏せながら詠唱を始める。

僧侶「(ゆーしゃさま……がんばって!)」

僧侶「(気配はないからこの辺りにはモンスターはいないと思うけど、一応警戒しておこう)」

──メダパニ

僧侶「ウッ──あ──(なに、これ、頭の中が、ぐちゃぐちゃに……な───)」

僧侶「メラミ」ブォッ

勇者「っとぉ!?」

真横の地面が魔法で焦げ付いたのを見て反射的に飛び退いた勇者。

勇者「僧侶……?」

僧侶「……(誰、この人は、なに?)」

賢者「お前の最も憎い相手さ。さあ、殺せ!!!」

僧侶「憎い……?(そう、なの? この人は、私が、憎むべき人?)」

僧侶「う、あ……(わからない、頭の中がぐちゃぐちゃになってて……)」

勇者「やっぱりお前か、賢者」

賢者「覚えてもらってるとは光栄だよ、勇者様ァー!」

勇者「僧侶に何をした!? なんで俺に付きまとう!?」

賢者「あんたには死んでもらわないといけないんだよ。…魔王様の為にね」

勇者「賢者ともあろう者が魔王の手に堕ちたか」

賢者「……。この子がこんなにも強くなれたのはこの賢者の悟りのおかげでね」

賢者「その貸しを返してもらう為に以前から仕込ませてもらってたわけさ」

賢者「古代術式のメダパニ。発動までは時間はかかるが一度発動してしまえば……」

賢者「術者が殺したい相手を殺すか自分が死ぬかでしか解けない」

勇者「……」

賢者「さあ僧侶!!! お前の最も憎むべき勇者を殺せ!!!」

僧侶「……(憎、い、そうだ……私は、この人が、憎い)」ボソボソ


勇者「(さすがに不味いな……あれは)」

賢者「いいぞ!!! それなら勇者だろうが殺せる!!!」

僧侶「……ザラ……キ」

賢者「(殺った……! これでみんな救われ)」

僧侶「……」

勇者「僧侶……?」

賢者「何してる!!? 早く呪いの言葉であいつを殺せ!!!」

僧侶「(違う、この人は……)」

勇者「僧侶……」

僧侶「(だって、憎まれている相手に、こんな優しい目、出来ないもの)」

賢者「バカかっ!!? 吐き出さなきゃお前自身が呪い殺されるぞ!!!」

僧侶「(この人を、殺すぐらいなら、自分が死んだ方が、いいんじゃないかって、思える程に)」

勇者「僧侶っ!!! 無理してんじゃねぇよ! 俺のことは気にすんな! だからっ……!」

賢者「勇者の言う通りだ!!! 吐け!」

僧侶「……(ありがとう、優しい目をした、人。さようなら)」ニコリ

僧侶は目を閉じたまま、動かない。

勇者「バカ野郎オオオオオオオオオ!!!」


叫びながら走り寄った勇者が、僧侶を強く抱き締めた──

僧侶「(あっ…た…かい)」

賢者「なっ」

勇者「なんでお前は……いつもそうなんだよ!」

勇者「何でもかんでも我慢して……ほんとはすげぇ辛いのに……苦しいのに……俺の前ではそれを見せようとしない」

勇者「我慢してるのに微笑むお前を見る度に俺も苦しくなるんだよ」

勇者「僧侶には……ずっと笑ってて欲しい。楽しいこととか、嬉しいこととかで」

勇者「生きてたら悲しいこと、辛いこともあるだろう」

勇者「けど、そういう時は悲しんでいいんだよ。泣いていいんだ……」

勇者「我慢して笑う必要なんてない……」

勇者「でも……それをさせているは俺のせいなんだよな。それに気付いて……あの時別れたんだ」

勇者が一言一言、拙い言葉を投げ掛ける度に、僧侶を抱き締める力が強くなる。

勇者「別れてさ、もうこれで僧侶が悲しむ必要がない……産まれ育った村で幸せに暮らしてるだろうなって。これで良かったって思ってたのによ」

勇者「旅を続けてるほど思い出すんだ、僧侶のことを」

勇者「僧侶ならこう言ってただろうな、とか」

勇者「僧侶は寒がりだからいっぱい着込みそうだ、とかさ」

勇者「自分で置いて行ってんのに……バカみたいだろ?」

勇者「それぐらいお前が隣にいるのが当たり前だったんだ……一人になって、ようやくそれにも気がついた」

勇者「お前が強くなって追いかけて来てくれたのを見て、凄く嬉しかった」

勇者「でも嬉しいと同じぐらい怖かった」

勇者「またお前を死なせて……次は魂ごと消えちゃうんじゃないかって」

勇者「どれだけ強くなったって言われても……お前を守り通せる自信がなくて」

勇者「こうしてお前と会うまでどうしたらいいのか迷ってばっかりでさ」

勇者「でも……ようやく気付いた、いや、決めたんだ。今」

勇者「周りの奴らに散々怒られた後だけどさ」

勇者「俺はお前と一緒に居たい。いや、居る」

勇者「辛いこと我慢して笑ってんならこうやって抱き締めてやる!」

勇者「ほんとに楽しくて笑ってる時は俺も隣で笑ってる」

勇者「もし……死んで離ればなれになっても、魂探しだして連れ帰ってやる!!!」

勇者「……お前のことが好きだから」

勇者「俺と一緒に居ろ……僧侶」ギュゥッ

僧侶の腕がそっと伸びて、勇者を抱き締める。

僧侶「死んでも一緒です、ゆーしゃさま」

涙を流しながら、優しく微笑んだ。

賢者は呆然としていた。
目の前の展開にも、僧侶がメダパニを自力で破ってこともそうだが、何より、

僧侶を喋らせる為にマホトーンをかけ、ザラキを打ち消した自分自身に対して。

賢者「なんで……なんでよ」

賢者「なんであんた達はそんなにも他の誰かのためになれるんだ……?」

賢者「勇者だからか……? 自分達の責任を果たす為か?」

勇者「一番最初は違った。でも勇者になってからはそうだったかもしれない」

勇者「でも、今は最初とも勇者になってからとも違う」

勇者「“ 勇者“って力を使って、みんなを守りたい」

勇者「勇者になってからも守りたい人がいっぱい増えたからな」

賢者「わからない……私には」

僧侶「賢者さんだって私達と同じことをしてたじゃないですか、あの村で」

賢者「それは……」

僧侶「私を強くしてくれたのはゆーしゃさまを殺すためだったのかもしれない」

僧侶「でも最後にそれを思い止まったのは、あなたがやっぱり優しい人だからです」

賢者「……あんたにそう言われると……勘違いしそうになるから怖いよ」

賢者「……私は西の大陸生まれでね。産まれた時から周りはモンスターと魔物だらけの村で育った」

勇者「西の大陸に人が住んでるなんて初耳だな…」

賢者「西の大陸は魔王の大陸だからな。魔王がいない時ですら恐れて誰も近づかない。知らなくて当然だ」

賢者「いや……魔王がいない時なんて実際にはないんだ」

僧侶「どういうことですか?」

賢者「魔王は倒されて、肉体が滅んだとしても魂までは消えないって言われてる」

賢者「だからまた何百年もしたら魔王に成りうる者に乗り移って復活しやがるッ!」

勇者「(リノンが言ってたことはこういうことか……)」

賢者「西の大陸に産まれた人間はまず魂に楔を打ち込まれる。もし西の大陸から逃げた場合……その楔が魂を喰らう」

僧侶「魂を……」

賢者「凄いもんだぜ? 体の中にある“何か“が擦り潰されるみてーに消えてくんだ」

賢者「とんでもなく怖いんだよ……自分が消えて行ってるってのを実感しながら生きるのは」

賢者「そのせいで西の大陸でモンスターや魔物の顔色伺いながら過ごさなきゃならなかった」

賢者「考えられるか? あいつら気まぐれで人を殺しやがるんだぜ?」

賢者「ギャンブルに負けただのちょっと飯が不味いだので人がどんどん死んでいく」

賢者「私は家畜みたいに媚びへつらいながら外に出る機会を待った」

賢者「人間でも優秀な奴は新たな魔王を生む為、憎しみを溢れさせる為に人のいる大陸に行っていいって知ってからは夢中で勉強した」

賢者「そして私が十七の歳になった時、魔王の魂に呼ばれた」

賢者「勇者が現れたからそれを殺す為に、魔王は私に賢者の職を与えた」

僧侶「魔王が……職を」

賢者「魔王も魔物の中じゃ神みたいなもんだからな。そうして私は魔王の賢者になった」

賢者「私が昔から言ってたことが叶ったんだ。私が勇者を殺して、魔王に認められれば家族や村のみんなの生活が楽になる」

賢者「そう言うと家族も村のみんなもそれを信じて本や食べ物をいっぱい分けてくれたよ」

賢者「でもそんなのは嘘だ」

賢者「ただ私は外に出て、自分だけ助かりたいだけだったんだ」

賢者「なのに待ってる家族や村の人達、何より自分が消されない為に勇者を殺すって意思だけは持っているように見せてさ……」

賢者「勇者のことは確かに恨んでるよ。西の大陸がああなったのも元はと言えば初代勇者が魔王の魂を消し去らなかったせいだからな」

勇者「初代勇者が?」

賢者「ああ。初代勇者には魔王を魂ごと消し去れるぐらいの力があった。でもそれをしなかった」

賢者「何が生まれが違えば友になれただ……能天気めッ!」

賢者「結局魔王は復活して、魔王が倒されたと思って西の大陸に住んでいた祖先達は楔を打ち込まれて今に至るってわけさ」

賢者「その点に関しては大いに恨んでるさ」

賢者「でもあんたは初代勇者じゃない。最初はそれでも私の体裁の為に殺すかって思ってたけど」

賢者「旅してるあんた達を遠目から見て、実際に僧侶と暮らして……どうでも良くなった」

賢者「楽しかったんだ、あんた達を見てると。それにわくわくした、旅路の途中、過ぎ去る景色に」

賢者「だから、もういいんだ。思い残すことなんて何もない」

僧侶「良くないですよ! だって……」

賢者「ああ。失敗したのが魔王にバレたら私の魂は消される」

僧侶「賢者さん……」

賢者「あんたはほんと優しいね、僧侶。あんたの大好きな勇者を殺そうとした私をまだ心配するなんてさ」

僧侶「こうしてゆーしゃさまと引き合わせてくれたのは賢者さんのおかげです。例え他に理由があっても、その事実は変わりません」ギュッ

賢者「フフ、あんたって子は。さよならだ、バカ弟子」ナデナデ

勇者「なーに勝手に最後の別れ演出してんだよ」

僧侶「だってぇ……」

勇者「そんなもん俺らが明日にでも魔王を倒しちまえば全て解決する話だろ?」

僧侶「!!!」

賢者「お前……」

勇者「元々そうするつもりだったんだ。礼なんていらねぇよ」

賢者「…ふ…、ふふ、あはは、あっはっはっは」

賢者「前々から思ってたけどほんとバカだな」

賢者「勇者」

勇者「なんだよ」

賢者「魔王は強いぜ?」

勇者「そうじゃなきゃ張り合いがねぇよ。こっちは十年も待ってたんだからな。なあ僧侶?」

僧侶「そうですよ!!! ゆーしゃさま!!!」

賢者「餞別だ、持っていけよ」

そう言うと賢者がポケットから何かを取り出し、それを勇者に投げ渡した。

勇者「なんだこれ? 石ころ?」

賢者「お守りみたいなものさ」

賢者「じゃあな、お前ら。私は余生をあの家で費やすことにするよ」

勇者「だから倒すっつってんだろ!」
僧侶「そうですよっ!」

賢者「ははは」

笑いながら後ろ手に手を振り、賢者は去って行った。

勇者「さて、とっとと穴塞いで行くとするか!」

僧侶「はいっ! ゆーしゃさまっ!」

もはや二人の目に、迷いはなかった。

────

グォォォォォ──

なんだあの光は!?

見ろ! 穴がどんどん塞がって行くぞ!!!

砂漠の王「あれは……! 勇者、勇者なのか!?」

勇者「あんたは砂漠の。何でこんな所に?」

砂漠の王「こっちはそこまで被害が出なかったからな。一番被害が大きい壁の国の救援に来たんだ」

砂漠の大臣「国王様ー! いつもいつも先人を切って行くのはやめてくだされと言って……げぇ! 勇者!!!」

砂漠の大臣「さては報復の為にこの地に……!」

「フンッ、あれが報復に見えたのか。砂漠の暑さで頭でもやられたか? 砂漠の国の者は」

砂漠の大臣「無礼な!!! 誰に向かって……なぁあっ!??!」

砂漠の王「あんたまで来るとは珍しいな。武の王」

武の王「ハッ、ご自慢の壁が成す術なく突破されて青ざめておる壁王の奴を見に来たまでよ」

壁の王「外に居る凶暴化したモンスター共を塞き止め、二次被害を防いでいることがわからないとは。脳味噌まで大砲の弾になったか?」

南の王子「勇者さん!」

砂漠の王「クックッ、こうして三人集まるのは何年振りだろうな」

武の王「お主らの顔など見たくもないがな!」

壁の王「それはこちらとて同じよ」

壁の王「さて、懐かしむよりも先にやらなければならないことがあったな」

重苦しい声とは裏腹に、壁の王は深く頭を折った。

南の王子「(初めて見た……父が誰かに頭を下げるのを)」

壁の王「国を代表して礼を言う。迅速な救援感謝する、砂漠の国王、武の国王」

砂漠の王「困った時はお互い様だ。それに俺達が働くのはこれからだしな」

武の王「貴様の礼など背中が痒くなるわ。俺は同じ大陸に住む民を救いに来ただけのこと。
南の王として当然なことをしたまでよ、ガッハッハッ!」

砂漠の王「(ほんと相変わらずだなこのオッサンは)」

壁の王「そして勇者よ」

勇者「っとその前にこれ渡しときます」

南の王子「これは……バジリスクの鱗!」

勇者「後の二つは砂漠の王が証明してくれますよね?」

砂漠の王「勿論だ。オアシスを見つけたのも、砂漠を移動魔法使わず越えたこともこの砂漠の王が証明しよう」

勇者「これであの時の罪はなくなったってわけだ」

壁の王「うむ。それどころか勇者と砂漠に住む民のわだかまりが少しはなくなるであろう」

勇者「俺も僧侶もそういうつもりでやったわけでもここに来たわけでもないので」

武の王「ほぅ」

壁の王「なら何を欲している? この国を救ってくれた礼がしたい」

勇者「そうですね、では魔王を倒した後お祭りでもしてもらいましょうか」

僧侶「またゆーしゃさまはそうやって!」

壁の王「祭り……? 金や領土はいらないと言うのか?」

勇者「はい」

武の王「ぶわっはっは!!! 貴様面白いな!」バシッバシッ

勇者「いてぇ」

武の王「しかし勇の者よ。聞くにお主は代々から関係が悪化している砂漠と勇者の対立を何とかする為に刑を三つも受けたのではないのか?
その関係修復の機会すらもいらぬとは。理由を聞かねば夜な夜な満足に眠れんわい!」

砂漠の王「それは俺も知りたいな。あの時はあんなに拘っていた勇者としての自分をこうもあっさりと変えたきっかけを」

勇者「変えたきっかけ、それはですね……」

勇者「彼女が出来たからです!!!!!!」ダキッ

僧侶「えっ? あ、あの~///」

勇者「って言うは冗談で」
僧侶「ばかばかばかばかゆーしゃさまのばか!///」ポカポカッ!

壁の王「……」
武の王「ぶわっはっは!」
砂漠の王「そいつはめでたいな! 末永く風化しちまえ!」

勇者「もう勇者は俺が最後だからです」

勇者「そして魔王を倒せば俺は勇者じゃなくなる。そうなればもう恨む相手などいなくなるでしょう?」

壁の王「一体どういう……?」

砂漠の王「…なるほど、もう魔王が現れないと言い切れる自信があるんだな?」

勇者「ええ」

武の王「なるほど、それなら合点が行く!!! 今日も良く眠れそうだわい!!!」

壁の王「勇者暦が始まって約千の年……そんなことを成し得た勇者は一人もいないのだぞ?」

僧侶「そうやって過去に囚われるのは砂漠の人達の悪いところだと思います」

武の王「ぬわっはっはっ! 天下の壁の王が小娘に怒られておるわ!」

砂漠の王「しかし真ぐうの音も出ない程正論だな」

壁の王「ぬぅ」

勇者「無理に信じろとは言いません。でも魔王を倒したら……」

僧侶「そろそろ行きますよゆーしゃさま! あまり時間がないんですから!」

勇者「ちょ、待ってください僧侶さん! まだ祭りの約束をキッチリ取り付けてな」ズルズル

僧侶「はいはい行きますよー」

勇者「屋台! 屋台ガー!」

僧侶「では、これより勇者ご一行、魔王討伐へ向かいます!」
勇者「それ俺の台詞だろ普通!?」

僧侶「ゆーしゃさまが屋台屋台うるさいからですよ」

勇者「でも終わった後の楽しみがないと頑張れないだろ!?」

僧侶「中央大陸でもその約束取り付けてたじゃないですか!」

勇者「両方行くっ! 両方行くから! なっ?」

僧侶「駄目ですー」

勇者「そんなあ」

僧侶「では、成功を祈っていてください」ペコリ

勇者「行ってきます! ルーラ!」ビシッ

ビューンビューン……。

砂漠の王「ククッ、あれが魔王を倒しに行く前の空気かよ」

武の王「まったくもって面白い男よのう勇者とやらは!!! 無事帰って来た暁にはうちのお転婆と鞘に収まって欲しいわい!!!」

壁の王「ふん……。復旧作業を急ぐぞ」

南の王子「ハッ!」

壁の王「それと……」

南の王子「?」

壁の王「祭りの準備もな」

南の王子「父上……!」

南の王子「(勇者さん、あなたは今までのどの勇者より、勇者ですよ、きっと。
そしてあなたなら本当に魔王を……)」

霊峰ゼギア 頂上──

ビューン……スタッ

勇者「っとーちゃく。ここにルーラポイントがあって助かったぜ。まーた寒い思いして山登りさせられるかと思った」

僧侶≪い“い“一気に寒くなりましたよゆーしゃさま≫ブルブル

勇者「そういや行き先も告げずに来たんだっけ。砂漠との温度差はざっと60℃ってとこか」

勇者「ほら、これ着とけ」

僧侶「ありがとうございます。暖かい……」クンクン

僧侶「ゆーしゃさまの匂い」

勇者「なんか照れるからやめろ!!!」

僧侶「えへへ」クンクン

リノン「……そろそろいい?」

勇者「連れて来たぜ。これで文句ないだろ!」

リノン「……まさかこんな仲良くなって戻って来るとは、ちょっと思わなかった…」

僧侶「(この人が魔導使いリノンさん……思ったよりずっと可愛らしい人だなぁ)」

リノン「…別に勇者を取ったりしない。安心して」

僧侶「えっ、いやそんなことは全然っ」

リノン「勇者、剣を」

勇者「おうよ!」

勇者「(前にこの剣を握ってから1日ぐらいしか経ってないのに、何だろう)」

勇者「(気持ちが全然違う。不安も、迷いも……一切ない!
いつからここに刺さってるのかは知らないけどよ……)」

勇者「待たせたな」

ズォッ──

勇者「凄いな……材質はオリハルコンなのにこんなにも軽い」ブンブン

リノン「…その剣は初代勇者が魔王を倒した際に、もう二度と使うことはないだろうとこの場所に封印されていたモノ」

リノン「……それを抜けた勇者は今まで一人だけだった」

リノン「三代目勇者…その人だけ」

勇者「じゃあ俺は二人目ってことか」

リノン「初代勇者もきっとさっきのあなたと同じだったのかもしれない…」

勇者「まさか自分の後に十一代も勇者が続くなんて思わないよな」

勇者「ま、俺は初代勇者程魔王を思い遣ってやるつもりは毛頭ないけどな」

勇者「……この剣名前はあるのか?」

リノン「初代勇者の頃はオリハルコンの剣、三代目勇者が持っていた頃は王者の剣と呼ばれていた…」

勇者「ふーむ、なら……」

勇者「勇者の剣だな、こいつは」

リノン「勇者の剣…」

勇者「ああ。こいつは勇者から勇者へ受け継がれて来た剣だからな」

勇者「明日にはお役御免になるかもだがよろしく頼むぜ」

リノン「…本当に明日、魔王を討ちに行くの?」

勇者「約束だからな」

僧侶「約束ですもんね」

リノン「…そう、わかった」

リノン「明日までにはこの子も飛べるようになると思うから…。明日の朝、またここに来て」

僧侶「(この子?)」

勇者「わかった。俺達は近場の町で色々準備をするとしようぜ」

僧侶「はい」

リノン「また、明日…」

勇者「よし、じゃあこないだ立ち寄ったとこに飛ぶぞ」

僧侶「あの、その間リノンさんはずっとここにいらっしゃるんですか?」

リノン「……そうだけど」

僧侶「こんな所にずっと居たら凍え死んじゃいますよ!」

勇者「確かにそうだな。家とかもないっぽいし。一緒に来るか?」

リノン「……私は寒さとかは、感じない。だから、大丈夫」

僧侶「でも……」

リノン「それに……ここが一番落ち着くから」

僧侶「そうですか……」

勇者「まあ魔法を極めた伝説の魔導使いだからな。俺達が心配するだけ失礼ってもんだ」

僧侶「た、確かに」

リノン「でも……気持ちはうれしい。ありがとう…僧侶、勇者」

────

勇者「じゃあまた明日な」
僧侶「では、また」

リノン「また、明日…」

リノンが二人を見送っていると、隣にある卵がガタりと動く。

リノン「早く勇者に会いたいんだね…よしよし」

リノン「彼なら……あなたの願いを……そしてあなたを、助け出せるかもしれない…」

北の大陸 光降る町

勇者「道具の補充もしたし、これで準備万端だな」

僧侶「はい」

勇者「明日は大事な日だから早めに宿屋で休むか」

僧侶「そうですね」

宿屋──

店主「今日も冷えますなー勇者様」

勇者「早く暖かい毛布にくるまりたいよ。ベッド二つの一部屋を頼むわ」

店主「まいど」

僧侶「(そう言えば最初は別々の部屋に寝泊まりしてたっけ……お金が勿体無いからって一緒の部屋に寝泊まりするようになって。懐かしいなぁ)」

店主「あ~……今日はベッド二つの一部屋がいっぱいですね」

勇者「マジか」

店主「ダブルベッド1つの一部屋なら空いてるんですがね」

勇者「うーむ……。じゃあその部屋を二部屋取るか。(ちょっと高くなるけど最後ぐらい贅沢してもいいだろう)」

店主「……お連れさんもそれでよろしいですか?」

僧侶「ダブルベッドの一部屋でいいです」

店主「はいよっ」

勇者「い、いいのか?」

僧侶「最後かもしれいからって無駄遣いはいけませんよ、ゆーしゃさま」ニコッ

勇者「そ、そうだな」ドキドキ

店主「(俺が出来るはここまでです……。後は勇者様次第ですよ!)」グッ

────

勇者「(何をドキドキしてんだ俺は……落ち着け、悟らせるな)」ガチャ

勇者「ちょ(ベッドちっさ!!! えぇっ!? あれ絶対ダブルじゃねぇって!!!
俺のボロベッド並の小ささじゃねぇか!)」

僧侶「綺麗なお部屋ですね~」

勇者「お、おう」

僧侶「あ、雪が降ってる!」

勇者「(僧侶がいつも通りなのに俺が意識してどうする……! 深呼吸だ、深呼吸)」スゥーハースゥーハー

僧侶「綺麗だな~♪」

勇者「(ま、いざとなりゃ床で寝ればいいか)」

その後、いつも通り二人仲良く夕食を食べ、早めに床につくことになった。

僧侶「では、おやすみなさいゆーしゃさま」
勇者「お、おう」

背中を向け合い眠りにつく。

勇者「(ホイミスライムとはスライム科であり名前通りホイミを得意と……)」

ベッドの大きさは二人が背中を密着させてギリギリ収まるぐらいのものだった。

勇者「(また、仲間を呼ぶため優先的に倒す必要が……ってぇぇ眠れん!!!)」

勇者「(仕方ない、やっぱ床で寝るか。魔王討伐戦当日に寝不足なんて笑えんからな……)」

何枚も重ねてある毛布の一枚だけをゆっくりと剥ぎ取ると、それにくるまりながら横になる。

勇者「(……寒い)」

次は寒さと戦いながら睡眠に努めていると、瞼からうっすらと光が入り込んで来る。

勇者「(ん、なんだ?)」

起き上がって見てみると、確かに窓から光が漏れて来ている。

勇者「(今日は月も出てなかったはずだが)」

その正体を確かめる為、窓越しに外を見ると、

勇者「お、おお……!」


僧侶「ん……ゆーしゃ、さま?」

勇者「あ、わりぃ起こしちまったか?」

僧侶「どうかしたんですか?」

勇者「!!!」

窓から差す月の光のような蒼白い光がベッドに横になっている僧侶を照らし、どこか艶かしい雰囲気を醸し出している。

僧侶「ゆーしゃさま?」

可愛く首を傾げる姿に、勇者は更に心を奪われた。

勇者「そ、外!」

僧侶「外?」

耐え負けた勇者が、空気を変える為に咄嗟に外で起こっている異変のことを伝えた。

それを聞いた僧侶は勇者と同じミノムシの様に毛布を纏いながら窓へ近づく。

僧侶「わぁ♪」

勇者「まさか今日見られるなんてな」

小さな雪のような光が降っていた。
一つ一つがしっかりと輝いており、ゆっくりと漂った後、地面については消えていく。

勇者「この町だけでしか見れない光る雪か」

僧侶「凄い綺麗……」

僧侶「でもあれって普通の雪ですよね? どうして光ってるんだろう」

勇者「この辺りは魔力密度が高いらしい。特に濃い時はサインを使った時みたいに光るんだと」

勇者「それが雪に反応して白く光ってるんだろうな」

僧侶「詳しいですねゆーしゃさま」

勇者「ま、まあな(魔法使いから聞いたなんて言ったら怒られそうだから黙ってよう)」

夜の真っ暗な世界と、白く光る雪が交互に重なるのを、二人はずっと眺めていた。

勇者「いよいよ、なんだな」
僧侶「はい」

勇者「どっちにしろ、明日でこの旅も終わりか」
僧侶「絶対大丈夫ですよ。私達二人なら」

勇者「今まで色々あったな……ほんと」
僧侶「そうですね……」

勇者「色々約束破ってごめんな、僧侶」
僧侶「最後にはこうして守ってくれましたから。それに私だって我慢するなって約束ちょっと破ってましたから。おあいこです」

勇者「ははは」
僧侶「ふふふ」

勇者「勇者にわかったことがあるんだ」

勇者「おとぎ話じゃ勇者ってのはなった時からもう完璧で、ただ魔王を倒す存在だって思ってた」

勇者「でもそれは違っててさ。勇者になってからも過去の勇者の像を追い掛けて、より勇者らしくしなきゃならないって……」

勇者「俺自身がそう思うんじゃないんだ。世界が勇者ってのをそう見てるから、そうしなきゃならないって思ってしまう」

勇者「ただ魔王を倒すために創られた存在が勇者。世界は勇者をそうとしか見ていない」

勇者「それが悪いってわけじゃないんだけどな」

勇者「そうなって来ると今度は俺自身としての戦う理由がどんどん薄れて行くんだ」

勇者「昔はみんなを守れたらいい、ただその一心だったけど……ちょっと支えきれなくなってた。無理してたんだな、それがちょうど中央大陸城の一件辺りか」

勇者「勇者し過ぎて疲れてたんだろうな……」

僧侶「あの時は私もゆーしゃさまのこと遠くに見ていたかもしれません……あの時支えてあげて居られたら」

勇者「何言ってんだよ。お前には支えてもらってばかりさ」

勇者「きっと僧侶がいなかったら……俺の心は壊れてた」

勇者「お前だけがいつも俺の側に居てくれて、支えてくれたからここまで来れたんだ」

僧侶「ゆーしゃさま……」

僧侶「それを言えば私だってそうです」

僧侶「お母さんが死んだ時、支えてくれたのはゆーしゃさまでした」

僧侶「空白で何もない私に道を指し示してくれました」

勇者「はは、あの頃は魔王討伐がこんな茨の道だなんて思っても見なかったからな」

勇者「常勝無敗の伝説の勇者が負けるわけない、なっちまえば勝ったも同然だ、なんて思ってたぐらいだし」

勇者「正直今でもちょっと後悔もしてるよ、あんなこと言わなければって」

僧侶「でも……あの言葉から全ては始まったんですよね」

勇者「ああ。言わなかったらきっとまだ村でただ過ぎる日々を過ごしてたろうな」

僧侶「おじいさんや旅僧侶さん……魔法使いさんや戦士さん、ロミオさんやジュリエットさん」

勇者「オカマのおっさんにメイドや南の王子、神父さんにその子供達、砂漠の王、魔導使いリノン……みんな出会うことはなかった」

僧侶「やっぱり言って良かったじゃないですか。後悔することなんて、一つもありませんよ」

勇者「ああ。良かった……本当に」

勇者「俺が勇者で」



僧侶「私が僧侶」



勇者 僧侶「「二人で必ず魔王を討つ」」


この言葉から始まった旅、

それは明日、終わりを告げる──

僧侶「ゆーしゃさま」
勇者「ん?」



僧侶「キス、してください」


勇者「……ん」


僧侶「……もっと」


勇者「……」


僧侶「ゆー……しゃさま……私、あなたのことが大好きで、仕方ないんです」

僧侶「いけないことでしょうか?」

勇者「俺も大好きだから、問題ない」

僧侶「えへへ」

僧侶「んっ……ゆーしゃさまぁ……んんぅ」

────

霊峰ゼギア 頂上

リノン「昨夜はお楽しみでしたね…」

勇者「おまっ、まさかあれで見てたとか!!?」

リノン「冗談」

僧侶「もぅっ!」

勇者「にしてもどうやって西の大陸まで行くんだ?」

リノン「この子に乗って行く…」

僧侶「この子って……その卵のことですか?」
リノン「そう。起きて、……勇者があなたに乗せて欲しいって」

パキ、パキキ……

勇者「た、卵が……!」

ブワァァァッ──

勇者「と、鳥?」

僧侶「蒼の翼……大きな二つの尾……もしかして、精霊ラーミア……ですか?」

リノン「この子はラーミア、の子供」
リノン「ラーミアは十年前、私達が西の大陸に行く際に魔王の手によってその生を終えた…」

「クルルゥゥ……」

僧侶「そうだったんですか」

勇者「じゃあまだ名前がないのかこいつ」

リノン「そう。だから、名前をつけてあげて欲しい…」

勇者「名前か……名前な」

僧侶「いざ付けるとなると難しいですね」

勇者「うーーーん」

──三十分後

勇者「よし、じゃあ俺からはユ!」
リノン「私からノ…」
僧侶「私からはリ」
勇者「そんでお前のかーちゃんのアを足して」

勇者「ユノリアだ! どうだ気に入ったか!? すっげー考えたんだぞ!!!」

ユノリア「クルルルル~♪」

リノン「喜んでるみたい」

ユノリア「クルクルゥ」
リノン「背中に乗れって」

勇者「よしきた!」
僧侶「失礼します」

ユノリア「クルルルゥ~」

勇者「くすぐってぇ! あんま顔すり付けるなよ!」
僧侶「好かれてますねゆーしゃさま」

リノン「……」

バサッバサッバサッ──

勇者「お、おおっ! と、飛んでる!」
僧侶「がんばってユーノちゃん!」

勇者「んじゃ、ちょっくら魔王倒しに行って来るわ!」
僧侶「色々お世話になりました! リノンさん」

リノン「行ってらっしゃい。あなた達なら、きっと大丈夫…」

手を振りながら見送るリノンがどんどん遠ざかって行く。

雲にも届くほど上昇したユノリアは、西の大陸、魔王の城へと飛翔する。

勇者「行くぜ魔王城!!!」
僧侶「はいっ!!!」

今回はここまでで

気づいたら半年も経ってるんですね。
読んでくれている人達がいなかったらここまで書けなかったと思います。
本当にありがとう。

次回が最後のお話となります。
その後で少しエピローグ的なものをつけて終わりの予定です。

がんばって6月入るまでには終わらそうと思います

では、また

僧侶「見てくださいゆーしゃさまっ! 地面があんなにも遠くに!」

僧侶「私達飛んでいるんですよっ!!!」

勇者「んー飛ぶだけならいっつもルーラで飛んでるからなー」

僧侶「……はあ。そういうこと言っちゃいますか」

勇者「な、なんだよ」

僧侶「いいですかゆーしゃさま。こういうものはムードが大切なんです」

勇者「はい…」

僧侶「ゆーしゃさまはもっとそういう所に気を遣ってください。昨日だって……」

勇者「あひょいやそれは」

僧侶「次はちゃんと愛してくださいね?」

勇者「お、おふ(何か昨日からやけに積極的だな)」

長い海を越え、ついに、二人の眼前に霧が深く張った大陸が現れる。

僧侶「あれが、西の大陸」

勇者「如何にも魔王が居わす場所って感じだな」

そのまま霧の中へと奥深く、進んで行く。

勇者「視界が悪いな……ユノリア、もう少し高度を落としてくれ」

ユノリア「クルルゥ」

勇者の言葉に従い、ググっと高度を下げて行く。

勇者「ようやく霧が薄くなって来たな」

僧侶「ゆーしゃさま! あれ!」

僧侶が指差した方向には、今まで見たどんな城よりも大きな古城が在った。

勇者「あれが……魔王城」

接近して見ると、その余りの大きさに圧倒される。

勇者「すげぇな……ここからでも天辺が見えないぞ」

僧侶「どうしましょうゆーしゃさま」

勇者「へっ、こっちにはユノリアがいるんだ。わざわざ下から行ってやることはない」

勇者「いきなりクライマックスと行こうぜ!」

ユノリア「クルル!」バサッバサッ

二人を連れて一気に上昇、城の側面を沿って登って行く。

勇者「これで一気に天辺から……」

ブォォォォ──

勇者「何の音だ……?」

僧侶「上から……?」

ブワッ──

勇者「まずい!!! 避けろユノリア!!!」

ユノリア「クルゥ!!?」ブオォッ

空から霧を裂いて降って来た何かがユノリアに直撃する。

勇者「ぐぅっ」
僧侶「ユーノちゃん大丈夫っ!?」

ユノリア「クルクルゥ……」

ボォォォォ──

勇者「くっ、また来るぞ……!」

僧侶「ふぅぅ……」

僧侶の手のひらに魔力が集中していく──

ブワッ──

僧侶「そこだ! メラゾーマ!!!」

霧を突き抜け、視認出来た瞬間に僧侶はそれをメラゾーマで相殺する。

勇者「でかした僧侶!」
僧侶「どうやってかはわからないけどあっちからはこっちが見えているみたいですね……」
僧侶「上に登る程さっきの魔法との距離も近くなって相殺出来なくなります。それにユーノちゃんも苦しそうだからこれ以上は……」

勇者「やっぱりそう簡単には行かせてくれないか、魔王」
勇者「ユノリア、地上に降りるぞ。もう少しだけ頑張ってくれ」
ユノリア「クルルルゥ」

魔王城 城門前──

ユノリア「クルルゥ……クルルゥ」

勇者「無理させちまったな……ごめんな」

ユノリア「クルルルゥ!」ゴスッ

勇者「ゲフッ!」

ユノリア「クルルルゥ! クルゥクルルルゥ!」

勇者「わかったわかった。悪かった、もう言わないって」

僧侶「言葉がわかるんですかゆーしゃさま?!」

勇者「なんとなーくな。ウラゴエ(あれぐらい全然無理してないです! まだまだ余裕だもん! って言われた気がする」

僧侶「なんで私の声の真似して言うんですかっ」

勇者「頑固なとこが似てるからかな?」

僧侶「そんな頑固じゃないですよーだ!」

僧侶「でーきた」

勇者「さっきから地面に何書いてんだ?」

僧侶「ユーノちゃんがゆっくり休める様にモンスター避けの地法陣を書いてました」

勇者「トヘロスじゃ駄目なのか?」

僧侶「トヘロスだと効果時間が短いのでちょっと心配でしたから」

僧侶「これなら十日は持ちます!」

勇者「そりゃまた過保護なこって」

僧侶「じゃあ私達は行って来るからね。ゆっくり休むんだよ」ナデナデ

ユノリア「クルクルクゥ~」

勇者「頑張れってさ」

僧侶「うんっ! 頑張るね!」

勇者「さて、気を取り直して行くとするか!」

僧侶「はいっ!」

魔王城 城門前 霧の橋

僧侶「下が見えませんよゆーしゃさま」

勇者「如何にも断崖絶壁の上にある古城への道って感じだな。落ちないように注意しろよ」

僧侶「はーい」

霧の中、目の前の道だけを頼りにしばらく歩いていると。

勇者「そろそろ入口が見えそうなもんだが」
僧侶「ここまで遠くが見えないと気が滅入りますね」

グラッ──

勇者「ん、今何か揺れなかったか?」
僧侶「地震……ですかね?」

グラグラッ──

勇者「やっぱり揺れてる……いや、これってもしかして」

グラグラガラグラゴロッ──

勇者「橋が落ちてるんだ!!! 走れえええええええ僧侶ーーーっ!!!」
僧侶「えええっ!?」

二人して懸命に走る、走る、走る──

僧侶「ゆーしゃさまっ! 後ろがどんどんなくなって」

勇者「振り向く暇があったら走れえええええっっっ!!!」

走りに走り、ようやく

僧侶「ゆーしゃさま!!! 門が!!!」

ゴゴゴゴ──

僧侶「閉じて──」

勇者「クッソオオオ!!!」

僧侶「風よ……彼の者に迅速の加護を!」ビュォ──

勇者「うっひょーっ」ビュォッ

加護魔法により一気に加速する──

門番「グァァァ」
門番「ゴフゥゥ」

僧侶「こんな時にっ」
勇者「邪魔だ!!! すっこんでろ!!!」

勇者の剣を翳すと、剣から巻き起こる真空刃が、門番のモンスターを切り刻む。

ゴゴゴゴッ──

勇者「僧侶ォォォォ滑り込めェェェェ!!!」ズサーッ
僧侶「はいぃぃぃぃ」ズコーッ

ズゥゥゥンッ──

勇者「はあっ……はあっ……門前払いにしようったって……そうは行くかよ」

僧侶「ンッ……っはあ……はあ……滑り込みセーフです」

勇者「は……ははは」
僧侶「ふふふ」

勇者「こう来なくちゃな」
僧侶「ですね」

僧侶「あの攻撃をみるにやっぱり魔王はこの城の最上階でしょうね」

勇者「バカと魔王は高いところが好きってことか」

勇者「しかしあの高さを階段で登るのもしんどいな」

僧侶「……ゆーしゃさま、あれなんでしょう」

勇者「んん?」

勇者「……部屋にしては壁もないな。それに天井が吹き抜けになってる」

僧侶「何かボタンのようなものがたくさんありますね」ピッ

勇者「え」

ガシャーン──

僧侶「と、閉じ込められた!?」

勇者「何故押した!!?」

僧侶「動くと思わなくて……えへへ」

勇者「可愛くしても許さん!」

僧侶「でもゆーしゃさま。これ見てください」
勇者「んー?」




勇者「上と下?」

僧侶「これもしかして昇るんじゃないですか?」

勇者「うーむ……押してみるか」ゴクリ

僧侶「」ゴクリ

ポチッ


ゴトッ──
ガガッ──

ウィイーン──

勇者「おおっ! 昇り始めたぞ!」
僧侶「やりましたねゆーしゃさま!」

勇者「しかし凄い技術だなこれ。こんなもの見たことも聞いたこともないぞ」

僧侶「昔は今より遥かに文明が盛んだったらしいですから。その頃に出来たものでしょうか?」

勇者「旅の扉もその名残らしいからな。そうかもしれん」

ガシャーン、ウィイーン

勇者「お、開いた。最上階か」

僧侶「ではないみたいですね。この機械で上れるのはここまでみたいです」

勇者「他にもこの機械があるかもしれないな。乗り換えつつこれを使って登って行けば早く着けそうだ」

────

勇者「お、あったぞ昇るやつ」

僧侶「(あれ、何かここだけ床に変な模様が)」

勇者「行こうぜ僧侶」
僧侶「ゆーしゃさまちょっと待」

勇者がその床に触れた瞬間──

勇者「っておおおおお床がねぇぇぇぇぇ!?」

崖となった地面に何とかしがみつき、事なきを得る。

勇者「僧侶! 床が! 抜けっ」

僧侶「何か書いてあります」

勇者「ってスルーかよ! 助けてっ! ねぇっ!?」

僧侶「『神と魔王は共に世界を支配し合った』」
僧侶「『太陽が出ている時は神が』」
僧侶「『月が出ている時は魔王が』」
僧侶「『そして最後に、魔王が神を倒し、世界を手にした』」

勇者「よっこらしょっ……と。なんだそりゃ、暗号か何かか?」

僧侶「多分ですけど……その床に描かれている絵と何か関係があるんじゃないでしょうか」

勇者「確かに神っぽいのと魔王っぽいのと太陽と月の絵があるな」

勇者「試しにそれ通りに乗ってみるか」

勇者「太陽が出ている時は……っと」

太陽の絵が描かれている床に乗る。

勇者「……大丈夫っぽいな」

勇者「太陽が出てる時は神が、だから次は神を踏めば……って見渡しても神の絵がないぞ!?」

僧侶「『太陽』が出ている時は『神』が」
僧侶「『月』が出ている時は『魔王』が……『世界を取り合う』」

僧侶「」ひょいっ

僧侶「ゆーしゃさまー月の絵の上に乗って見てください」

勇者「よし来た!」ヒョイッ

勇者「お、大丈夫そうだ」

僧侶「やっぱり! これはさっきあった文の通りに、『二人』で交互に踏んで行くんです!」

勇者「なるほどな! さすがだぜ解析班!」ヒョイッ

僧侶「えへへへ」ヒョイッ

勇者「よっ」ヒョイッ
僧侶「はっ」ヒョイッ

勇者「ほっ」ヒョイッ
僧侶「たっ」ヒョイッ

勇者「あらよっと」ヒョイッ
僧侶「よっこいしょっ」ヒョイッ

勇者「はいそこでクルっとターン!」
僧侶「ターン!」クルッ

僧侶「って何させるんですかぁー!」

勇者「ふわっと浮いたスカートが最高だな!」
僧侶「もぅ! ゆーしゃさまったらっ」

勇者「やっと向こう岸が見えて来たぜ」

僧侶「ようやくですね」

勇者「月っと」

僧侶「魔王……(あれ……)」キョロキョロ

僧侶「(魔王の次……神の絵の床が……周りにない。それどころか……)」

勇者「太陽っと」

僧侶「……ゆーしゃさま、そっちの周りに神の絵の床ありませんか?」

勇者「ん、おっ、あるな」ヒョイッ

僧侶「(やっぱり……そうなんだ)」

僧侶の周りにあるのは、鎌を持ったドクロの絵、死神が待つ、床。

勇者「あれ、全部の絵の床があるな」

僧侶「ゆーしゃさま……先に」

勇者「僧侶……?」

僧侶「(そうじゃない、本当に私がして欲しいことは……)」

僧侶「ゆーしゃさま! 助けてください!」

勇者「どうした!!?」

僧侶「周りに4つの絵の床が一枚もなくて……」

勇者「なるほど、もう一人はゴールに辿り着けない仕掛けってことか。いやらしいトラップだなおい」

勇者「でも任せとけ。絶対助ける」

僧侶「はいっ」ニコッ

勇者「いちにのさんしっと。よーし、僧侶。ピオリム頼む」

僧侶「ピオリム!」

勇者「うっし。じゃあ俺がそっち行ったらすぐに昔やってた風の床を頼む」

僧侶「でもあれは凄い集中力がいるので……走りながらだと上手く行かないかもしれません」

勇者「俺が担いで走るから大丈夫だ!」

僧侶「ふふ、さすがゆーしゃさま」

勇者「じゃあ行くぞ!!!」グググッ

僧侶「はいっ!」

勇者「うおおおりゃあああッッッ!!!」

クラウチングスタート気味で一気に飛び出す。
踏めば落ちる床を落ちる前に渡るという荒業を、勇者の身体能力とピオリムでの加速がそれをやってのける。

僧侶「風よ……」

勇者「どっこいしょォォォォォ!!!」

僧侶は勇者が来たのを見計らって少しぴょこんと跳ねる、勇者は勢いそのままに僧侶をお姫様抱っこしたまま思いきり神の絵の床を踏み込み、

中空へと飛び出す──

僧侶「彼の者に大空の加護を!」

勇者「いやっほおおおおお~いっ!」

飛び出した勢いも止まり、いざ風の床に着地した瞬間、二人の体がガクンと沈む。

僧侶「……っ(やっぱり二人分は支えきれない)」

僧侶「(私が一人で残ってればこんなことにならなかったのに……私のせいで)」

勇者「僧侶! 諦めてんじゃねぇ!!!」

僧侶「ゆーしゃさま……」

僧侶「(そうだ……! 私が諦めたら、助けに来てくれたゆーしゃさまの思いまで無駄になる!)」

僧侶「(それだけじゃない、ここに来るまで支えてくれた人達をみんな裏切ることになる!)」

僧侶「(魔王を討つまで……絶対に死ねない!)」

僧侶「ゆーしゃさま! 下の床に着いたら思いきり蹴って壁際に飛んでください!!!」

勇者「あいよ!」

僧侶「(仕掛けはわからないけど踏むまで落ちないだけの浮力がある……ならそれを下から風の加護で補強すれば……!)」

スタンッ──

勇者は躊躇わず魔王の絵の床を踏み込み、

勇者「へっ、最後の一文は訂正だ……なッ!」

壁際に大きく跳ぶ。

僧侶「マヒャド!!!」

中空に現れた巨大な氷矢が次々と壁を穿ち、綺麗な氷の階段が出来上がった。

勇者「最後は勇者と僧侶が魔王を討つ、で決まりィ!」

魔王城 昇降機──

僧侶「さっきはありがとうございます、ゆーしゃさま」

勇者「気にすんな。それによ……」

勇者「スゲー嬉しかった……抱え込まずに頼ってくれて」

僧侶「ふふ、ゆーしゃさまを思って我慢するより、ゆーしゃさまを思って頼った方がゆーしゃさまが苦しまずに済むってわかりましたから」

僧侶「これからはいっぱい守ってくださいね、ゆーしゃさま♪」

勇者「おお、任せとけ!」

僧侶「その代わり、私もゆーしゃさまを守ります。何があっても」

勇者「ここに来てようやく俺達は勇者のパーティーになれたのかもな」

ウィイーン、ガシャーン──

勇者「お、なんかやたら広いとこに出たな」
僧侶「ずっと一直線ですね」

床には赤い絨毯が敷き詰められ、左右には大理石の柱が立ち並んでいる。

勇者「うっすらこれの入り口見えるな。今回は楽に上がれそうだ」

僧侶「そうですね」

石像「」

勇者「でかい石像だな~」

石像「」キランッ

勇者「んんっ!!?」ブンッ

僧侶「どうかしましたかゆーしゃさま?」

勇者「いや、気のせいか……」

石像「……」ススス…
勇者「……」
僧侶「……」

勇者「んん!!??」ブンッ

石像「」

勇者「なあ、この石像……動いてないか?」
僧侶「やだなぁゆーしゃさま。こんな大きな石像が動くわけないじゃないですか」

勇者「だよなぁ」
僧侶「気のせいですよきっと」

勇者「……」
僧侶「……」

石像「」ススス…

勇者「……」チラッ
僧侶「……」コクリ

僧侶「だ~るまさんが~……」

石像「!」ススス…

僧侶「こ~ろ~……」
石像「」ススス…
勇者「んだッ!」シュバッ

石像「!?」ビクゥッ

勇者「やっぱり動いてやがったか!!! 僧侶が言うと思って油断してたなバカめッ!」

僧侶「(ちょっとだけ可哀想……)」

石像「ンガァァァァ!!!」ドスンドスンドスンドスンッ

勇者「ヤバいめっちゃ怒ってる」
僧侶「凄い地団太踏んでますよ!」

石像「ウゴォォォォ」ズンズンズンズン

勇者「こっちに来たああああ逃げろォォォォォ!!!」
僧侶「ゆーしゃさまがズルするからですよー!」

ズンズンズンズン

勇者「あの石像めっちゃはええ!!!」

石像「」ズンズンズンズン

僧侶「このままじゃ追い付かれちゃいますよ!」

勇者「よし、柱に隠れて」ゴニョゴニョ
僧侶「……わかりました!」

勇者「一、二の……三っ!」バッ
僧侶「」バッ

石像「!!!」

石像「ヌゥフゥゥゥ……」チラッチラッ

勇者『(クク、探してる探してる)』
僧侶『(ちょっと可愛いかも……)』

勇者「ってわけで後ろもらったァ! ベギラゴン!」
僧侶「メラゾーマ!」

ズオォォォッ

石像「ヌゥーーーンッ」ドタンッ

勇者「これがほんとのだるまさん転んだ!」
僧侶「今のうちに行きましょう(ごめんね石像さん。ほんとはただ遊びたかっただけかもしれないのに)」

────

勇者「にしても賢者ってのは凄いよな。さっきの消える魔法もそうだが魔法なら何でもござれって感じだし」

僧侶「私なんてまだまだですよ」

僧侶「それに私は賢者じゃなくて賢者の知識を有している僧侶ですからね。賢者さんもそう言ってました」

勇者「……約束の為に僧侶にこだわってんのは嬉しい。けどな、俺は別に僧侶が何になろうが約束を破ったなんて思わないよ」

勇者「なんて言えばいいのかな。何になってもお前はお前だから……うーん上手く言えないな」

僧侶「……わかります。勇者様がゆーしゃさまだからみたいなものですよね?」

勇者「多分そんなんだ!」

僧侶「なら、誇ってもいいんですよね……賢者であることも」

勇者「半分僧侶で半分賢者。それでいいさ」

僧侶「はいっ! ゆーしゃさまの思いと、賢者さんの思いを両方持っているみたいで何だか嬉しいな」

勇者「そういやずっと前から気になってたんだけどさ。みんなが俺ことを勇者って呼ぶのと僧侶が俺のことを『ゆーしゃさま』って何か違うよな」

僧侶「そうですか?」

勇者「これまた上手く言えないんだけど何かこう……懐かしい感じがする」

勇者「親父やお袋もそんな呼び方してた気がする」

僧侶「じゃあその呼び方が移って残ったのかもしれませんね」

勇者「そうかもな」

魔王城 図書の間──

勇者「今度は本がいっぱいの場所か。本当にここ魔王城かよ」

僧侶「魔王や魔物も本を読むんでしょうか」

勇者「何々『魂について』『もう一つの世界』『職を得る十の方法』『美味しい人間の調理法』あいつら読むどころか書いてやがる……!」

僧侶「意外と勤勉何ですね」

勇者「本読んでる暇もないし先を急ぐか」

○□△▽◇

勇者「なんだこりゃ」

勇者「何々、この世界の理を述べよ」

勇者「……」ガチャガチャ

勇者「開かねぇ。よし、壊そう」

僧侶「ゆーしゃさまももうちょっと勤勉さに目覚めてくださいね……」

僧侶「世界の理とはつまり森羅万象。その万物の象徴となるものは何か? と言ってるわけです」

勇者「……ふむふむ」

僧侶「万物は木、火、土、金、水、所謂五行思想から成ると言われてます」

勇者「ほふ……」ウツラウツラ

僧侶「それを象徴とする本を順番に、つまり木は火を生み、火は土を生み、土は金を生み、金は水を生み、そして水は木を生む……」
●■▲▼◆

カチャリ──

僧侶「と言うわけなんです」

勇者「zzz……」

僧侶「って寝てる!」

勇者「んあ……開いた?」

僧侶「もぅゆーしゃさまは興味のないことには全く無関心なんですから!」

勇者「そういう難しいのは僧侶に聞けばいいしな!」

僧侶「もう……ゆーしゃさまったら」フフフ

勇者「んじゃあ行くか!」
僧侶「はい」

───

勇者「もうだいぶ登って来たよなー」

僧侶「そうですねぇ。この昇降機っていう機械一回乗るだけで凄い上に行きますから。もういつ最上階でもおかしくないですね」

勇者「いよいよ、か」
僧侶「はい……」

勇者「魔王ってどれぐらい強いのかな」

僧侶「想像がつきませんね……凄い強いっていうのは間違いないでしょうけど」

勇者「まあ今更悩んでも仕方ねぇけどさ。やるだけやるだけだし」

僧侶「……ゆーしゃさま」

勇者「ん?」

僧侶「魔王はきっと今まで戦って来たどんな敵よりも強いです」

僧侶「だから魔王を倒すためだけに全てを捧げましょう」

勇者「……そうだな。勝たなきゃ、ここまで来た意味ねぇもんな」

魔王城 最上階付近 鏡の間──

勇者「次は鏡張りの部屋かよ。いよいよもって魔王城って感じしねぇな」

僧侶「ゆーしゃさまがいっぱいいます!」

勇者「こういう分身魔法ないのかな。あったら強そうなのに」

僧侶「古い文献だと古の里にそういう魔法があるらしいですよ。何でもニンジャ? と言う職を極めると使えるんだとか」

勇者「魔王倒したら俺無職だし、次はニンジャに転職だな!」

僧侶「魔王を倒したら一緒に探しに行きましょうか!」

勇者「いいな! 次は古の里、ニンジャを目指して冒険か……!」

僧侶「他にも幻の大陸とか世界七大秘宝とか……この世界にはまだまだ私達が知らないもの、見たことないものがたくさんありますよ!」

勇者「そういうの聞くとわくわくするよなぁ!」

勇者「そうだよな。何も俺達の旅がこれで終わりってわけじゃないもんな」

僧侶「当たり前じゃないですか」

勇者「そうと決まればさっさと魔王倒して次の冒険に繰り出すとするか」

僧侶「はいっ! まだまだ楽しいこと、いっぱいありますよ! ゆーしゃさまっ」

────

勇者「しかしこうも鏡だらけだと進みにくいな」

僧侶「そうですねー」

勇者「分かれ道か。こっち行ってみよう」

僧侶「はい」


勇者「また分かれ道か~次はこっちだな!」

僧侶「迷っちゃいそうですね」


━━━━


勇者「また分かれ道かよ! 次は僧侶が選んでいいぞ!」

僧侶「……」

勇者「僧侶?」

僧侶「あっ、すいませんぼーっとしてました。じゃあこっちに行ってみましょう」

────

僧侶「ずっと鏡の中にいると自分がどこに居るのかわからなくなって来てちょっと怖いですね」

勇者「……そうさなぁ。全員同じ動きするから見分けもつかないし」

勇者「よーし次はこっち行くか!」

僧侶「はい」

────

僧侶「次はこっち行ってみましょうか」

勇者「僧侶の勘って奴に任せるぜ」

───

勇者「こうやって手をついていけばいつか出口に着くっていう法則があってだな……!」

僧侶「ほんとですか~?」

────

僧侶「あっ、行き止まり……」

勇者「ハズレかーまあしゃあない。引き返すか」

僧侶「」ニヤリ


────

勇者「お、抜けた!!! 見たかこの法則の力!」

僧侶「あの大きな扉は……」

勇者「恐らくあの扉の先に……魔王が居る! 気締めて行くぞ、僧侶」

僧侶「……」

────

僧侶「きっとここで間違えたんですね。じゃあきっとこっちです!」

勇者「……」

僧侶「どうかしたんですか? 勇者様」

勇者「……誰だよ、お前」

僧侶「!!?」

僧侶「やだなぁ~僧侶ですよ?」

勇者「上手いもんだな。さっきまで違和感しかないぐらいだったよ。いつ入れ替わった? 僧侶はどこだ!!!」

僧侶「……おかしいなぁ、完璧だと思ったんだけど」

僧侶「いつから気がついてたの?」

勇者「最初は僧侶にしては雑だな、ぐらいにしか思わなかった。僧侶ならもし行き止まりになってもいいように目印何かを残しそうだなって、俺が勝手にそう思ってただけだ」

勇者「だが実際に行き止まりになって、戻ってまた来た道を行こうとする程僧侶は間抜けじゃない」

勇者「決定的なのは、俺の呼び方だ」

僧侶「ふ、ふふふ……はっはっは。相方のことは何でも知ってるってわけね。なるほど、さすがにここまで来ただけのことはある」

僧侶「でもあっちはどうかしら? まんまとあなたに化けた私の片割れについて行ったけど」

勇者「ちっ(早く追いかけねぇと)」

僧侶「紹介が遅れたわね。私は魔王の左腕、知恵の側近よ」

勇者「ようやくそれっぽい奴のお出ましってわけか」

僧侶「ふふ、どう? 私の完璧なモシャス。見た目から下着の色まであの子と同じなんだから」

僧侶「いいのよ? めちゃくちゃにしても……」

僧侶「この子こう見えて結構出るところは出てるんだから。着痩せするタイプなのかしら?」んふっ

勇者「けっ、似ても似つかねぇ……よっ!」ブンッ

僧侶「っ……! 随分簡単に斬りつけられるのね。あなたの大好きな僧侶なのに」

勇者「生憎外見だけに惚れたなんて薄っぺらな好きでもないんでな! 僧侶の姿だからって剣を緩める程俺達の関係は浅くねぇよ!」

僧侶「……残念。せっかく久しぶりに気持ちいいこと出来ると思ったのに」

僧侶「でもまだ行かせるわけには行かないの、だから……」

僧侶「魔物の墓……」

勇者の周りが、ドス黒い空間に侵食されて行く。

勇者「なんだ……動けねぇ……!」

僧侶「私の秘術中の秘術……対象が殺した魔物が多ければ多いほどその呪いはあなたを縛り付ける」

「オオオオオオオオユウシャ……ユルサン……!」
「キサマダケハ」
「シネ……シンデシマエオマエナンテ!」

勇者「クッ……ソォォォどけぇぇぇぇ!!!」

勇者がそこから出ようとする程魔物達の怨念がそれを阻む。

僧侶「あなたはしばらくそこでそうしてなさい。あっちが片付くまでね」

勇者「くっ……(僧侶っ……!)」

────

勇者「よし、行くぞ!!!」ギィィィ

僧侶「……メラゾーマ」

ドスッッ──

勇者「ガッ……何を……?」

僧侶「ここまで道案内ご苦労様です、偽の勇者さん」ニコッ

勇者「バカな……! いつ……から?」

僧侶「一目見てからですよ。仕草も何もかもゆーしゃさまと違いすぎますから」

勇者「そんな……筈は」

僧侶「曲がり角を曲がったら何故かあなたとゆーしゃさまが入れ替わっていたので。とりあえず道案内してくれてるみたいだったので騙されている振りをしてついて来たんです」

僧侶「お疲れさまでした」ボォォォォ

僧侶「ゆーしゃさまはまだ中かな。迎えに行かないと」

僧侶「来た道がわかるようにクルミの粉を撒いておこう」

側近「オオオ……行かせん……バシルーラ!」

僧侶「なっ!!!」

バシュッ──

側近「魔王様……申し訳ありません……後は……お任せ……します」

魔王城 最上階 謁見の間

僧侶「ここは……(バシルーラで飛ばされて……)」

「ほう、そなたがあの勇者の付きか」

僧侶「」ビクッ

僧侶「(なに……この心の底まで震わせる声は……)」

僧侶の眼前にはどっしりと玉座に座る、一人の……。

僧侶「人間……!?」

魔王「今まで何人もの魔物を見てきたお主達が今更何を狼狽しておる」

僧侶「でも貴方は……魔王なんでしょう!?」

魔王「如何にも」

僧侶「魔王が魔物だったなんて……」

魔王「フフハハ、肉体など所詮入れ物よ。気にするでない。それより……」

魔王「お主、我の妻にならぬか?」

僧侶「何をっ!」

魔王「より強固な体を手に入れるにはお主の様な魔力の高い人間に子を産ませるのが一番だからな」

僧侶「下衆め……!」

魔王「お前が我の嫁になるなら後100年は地上侵攻を見送ろう。どうだ? 悪い話ではあるまい」

僧侶「断る!!! 神から授かったこの身、貴様何かに捧げるはずがないっ!
それに私とゆーしゃさまはお前を滅却しに来たのであって譲歩しに来たわけじゃない!!!」

僧侶「人々を苦しめた挙句、魔の道に貶めた蛮行……! 決して許されるものではない!
魔王……覚悟!!!」

魔王「ほう、見た目とは裏腹に随分と強気だな。益々気に入ったぞ」

魔王「しかし、我のものとならぬのなら……少々調教してやらんとな」

僧侶「(一人でどこまで出来るかわからないけど……ゆーしゃさまはきっと来てくれる。それまでは……!)」

僧侶「ふぅぅ……ォォォァァアア、アガ、グォォォ……!」

魔王「ほう」

僧侶「初代……勇者様ヲ、追い詰めタ……竜の魔王……その力を一時的に、引き出せる……魔法ッッッ」

僧侶「ドラゴラム!!!!!」

「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」

魔王「フッ、懐かしい姿だな」

魔法「傍目から見ればこれ程にアホ臭いとは」

魔王「まあ、少しは楽しめそうだ」

────

ズオオオォォォォ─

僧侶「始まったみたいね」
勇者「あのバカ……一人でッ!」

僧侶「大丈夫、殺されはしないわ。魔王様は随分あの子を気に入ってたみたいだから」

僧侶「新たな器を生み出す為の苗床にするんじゃないかしら。魔力も沢山ありそうだし」

勇者「ンなこと……させるかよ……!」ギリッ

僧侶「あなたは行っちゃダーメ。本当は言っちゃ駄目なんだけど、あなたのこと気に入っちゃったから特別に教えてあげる。
あの魔王様が唯一恐れてるのはあなた達二人が目覚めることなの」

勇者「何の話だ……!?」

僧侶「ま、そんなことあり得ないからこんな保険を打つ必要もないんだけどね」

僧侶「魔王様は今度こそ地上侵攻を成功させたいらしいから。安全に行きたい気持ちもわかるけどねぇ~」

勇者「ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛こんなものオオオオオッ!」

「オレタチノイノチヲウバッタユウシャ!!!」
「コノヒトゴロシガ!」
「マオウニマモノニサレタダケダッタノニ……ユウシャニコロサレタ!」
「ワレラノウラミ、コノテイドデハハレン!」
「キサマニハシヌヨリモクルシイゼツボウヲアジアワセテヤル!」

勇者「グゥオ゛オ゛オ゛」

僧侶「ほーら、動かないの」

僧侶「勇者、あなた、行ったら死ぬわ」

勇者「あ゛あ゛?」

僧侶「だからね、私が守ってあげる。あの子は魔王様と一緒になるだろうから、勇者とは私が一緒になってあげるね」

勇者「ふざけんな……!」

僧侶「勇者が僧侶っぽさを求めるなら、私、頑張るから」

僧侶「ゆぅしゃさま? ちょっと違うかな?」

勇者「やめろ」

僧侶「ゆうしゃさま……ん~もうちょっとかな?」

勇者「やめろっつってんだろ……」

僧侶「ゆーしゃさま」

勇者「……」

僧侶「あはっ、こうだよね? ゆーしゃさま♪」

勇者「……」

僧侶「いいんだよ、全部私に求めても」ギュッ

僧侶「辛いこと全部忘れて、私と一緒に、大好きな僧侶と一緒に幸せになろ?」

僧侶「ね、ゆーしゃさま……」

悪魔の唇が、近づく──

勇者「……どけ」

僧侶「え──」

勇者の神託の証が、黒く光る──

まとわりついて居た魔物の魂達もその光により溶かされ──

勇者「」ザンッ

僧侶「そ、んな──」

光剣が偽の僧侶を胴体から真っ二つにした。

僧侶「あなたは……本当に、勇者、なの?」

勇者「しゃべるな」グシャリ

──魔王を、殺す

魔王城 最上階 謁見の間

勇者「ッ────」

勇者が目にしたものは、

魔王「勇者か、遅かったな」
僧侶「」

ボロボロになり、魔王に首根を掴み挙げられている僧侶の姿──

魔王「今じゃじゃ馬をしつけたところだ」

勇者「魔王ォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」

魔王「そんな大声を出さずとも聞こえておる。そうそう、お前に言っておかねばな」

魔王「今日からこいつは我のものだ。ほら、勇者にも言ってやれ」

僧侶「……ワタシは、魔王様の……」

勇者「」

僧侶「(ゆー、しゃさま……)」

僧侶「ンッ゛」グシャッ

魔王「こやつ舌を噛みきりおったぞ。あれほど洗脳を掛けたというに。ハッハッハ! ここまで強情とはな!」

勇者「テメェだけは殺す……!!!」

魔王「来るか、勇者よ!」

魔王「お前は後でたっぷり可愛がってやろう。我の僧侶」

僧侶「あが……ッ」ゴキリッ

首の骨を折り、死んだのを確認すると、魔王はまるでゴミのように僧侶を投げ捨てた。

勇者「───」ザンッ──

魔王「ハハッ、焦るな焦るな」

いつの間にか間合いを詰めた勇者一撃、それを笑いながら軽く受け止める。

魔王「光剣とはな! 勇者の武器はいつの時代も変わらんな。ハッハッハ」

勇者「ザオラル」


僧侶「……ゲッホゲホ」

魔王「蘇生魔法か。神の契約に縛られたゾンビ共が」

僧侶「ゆー……(喉が潰れたままで上手く喋れない…)」

勇者「回復するまでそこでじっとしてろ」

勇者「魔王は俺が殺る」

僧侶「(ゆーしゃさま……)」

魔王「来い、勇者。決着をつけようではないか」

魔王「この世界の行く末を賭けて、な」

勇者「……」グググッ

魔王「フンッ……」

勇者「」ダッ──

勇者が一気に距離を詰める。

魔王「ジバリーナ……」

勇者「(何の呪文だろうがもう遅い!!!)」ザシュッ──

魔王「クモノ」

僧侶「(二重魔法……!)」

勇者「(体が、うご──)」

魔王「ほれ、どうした? 我を倒すんじゃないのか? んん?」

勇者「(動け、動けぇぇぇ!)」ブゥンッ

魔王「ほう、動くか。さすがに勇者なだけはある……だが」

地面が、生物の様に暴走し、勇者を喰らう──

勇者「ぐ……ぁっ」

魔王「ここまで魔法知識がないとはな。やれやれ、我がたっぷり教えてやろう」

魔王「さっきのが地の魔法、ジバリーナ。そしてこれが闇の魔法、ドルモーア」

魔王の周りから歪み出る闇が、勇者に絡み付く。

勇者「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

僧侶「(ゆーしゃさまっ……!)」

僧侶「(援護を……!)メラミ……!」ブォッ

魔王「フンッ」

僧侶「な──(片腕でメラミを……)」

魔王「邪魔をするな僧侶。出来ればまたお前を手に掛けたくはない」

僧侶「」ゾクッ

魔王「そう言えばここは地上だったか。ならば知らぬのも仕方ない」

魔王「ジバリーナ、クモノ、ドルモーア。これらはここの世界の魔法ではなくてな」

勇者「はあ……はあ……っ」

魔王「立つのがやっとではないか勇者。勤勉な僧侶にももっとあちらの魔法を見せてやりたいのだ」

魔王「だからまだ倒れてくれるなよ?」

魔王の手の平に魔力が集中する──

魔王「……これがメラガイアー、ここではメラ系最上位がメラゾーマだったか」

魔王「あれの10倍ぐらいだと思ってくれればいい」

放たれた灼熱の豪火弾が、勇者と、その辺り一帯を燃やし飛ばした──

僧侶「ゆっ……ゆーしゃさまあああああ!!!!!!!」

魔王「終わったか。呆気ない」

魔王「邪魔者は消えた、これで気兼ねなく愛し合えるというものだ」

僧侶「よくも、ゆーしゃさまをっ!!!」キッ

魔王「出来れば手を加えずにありのままで愛し合いたかったのだが……」

魔王「また蘇生でもされては面倒だ。肉片が残っているかはともかく、な」

魔王「僧侶、そなたは気高い。そして、美しい」

魔王が、僧侶に近づく。

僧侶「(……もう、これしかないよね)」

杖に祈りを込め、勇者の方に転がす。

僧侶「(ゆーしゃさま、あなたは生きてください)」

僧侶「(生きて、生きて、私のこと、忘れないでください)」

僧侶「」ブルッ

僧侶「(体が震える、本当に自分が死ぬんだって思うと、凄い……怖い)」

僧侶「(昔のお話だと死んだ人達は空の上にあるお城にいけるって書いてたなぁ)」

僧侶「(もしそこに行けたらそこでずっとゆーしゃさまを待とう。何年経っても、ずっと)」

僧侶「(しばらく一人きりだけど……我慢しなきゃ)」

僧侶「(我慢……しなきゃ)」

魔王「そうか、泣くほど嬉しいか」

魔王の手が僧侶の顎を掴み挙げる。

僧侶「……っ!」

魔王「いい目だ。この状況でも死んでいない。ほんとにお前はいい女だな、僧侶よ」

懐から、ロザリオを取り出す──

僧侶「(ゆーしゃさま……)」

魔王「フンッ……」

魔王「全く、懲りんな」

魔王「勇者」


「魔王オオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーー」

僧侶「(ゆーしゃさま……! 無事だったんですね……!)」

壁を蹴り、飛び掛かる様に魔王に斬りかかる。

魔王「なんだその野獣のような様は。これではどちらが魔王かわからんな」

勇者「ウゴアアアアアアアア!!!!!」ギリギリギリッ

神託の証から、ドス黒いオーラが勇者を包む。

魔王「もしや貴様……そうか、そうであったか!」

魔王「随分と久しいな、二代目!」

勇者「貴様だけは許さンンン……魔王オオオオオ!!!!」

魔王「耳元でがなる(喚く)な、煩くてたまらん」

魔王が軽く払いのけるも、勇者は直ぐ様また飛び掛かって来る。

魔王「芸のない……」

振り下ろされた光剣を片手で止める。

魔王「三人が死力を尽くしてようやく勝てたものを貴様一人で勝てるわけがなかろう。それにあの時は器も並だったからな」

勇者「おおおおおおあああああああっ!!」

光剣を左手に、右手を、背中に伸ばし──

ザンッ──

魔王「なっ──」

魔王の頬を掠る一撃。

魔王「その剣は……!」

初めて魔王の顔色が変わる。

魔王「なるほど……いつまでも我の邪魔をするか、初代、三代目よ……」

魔王「いいだろう。この因縁に決着をつけるいい機会だ」

魔王「四代まとめて殺し尽くそう」

勇者「ふぅ……はぁ……っ!」

二刀流となった勇者の攻撃にも動じず、確実に捌いていく。

勇者「うらあああああっ!!!」

更に剣速の回転率を上げて行く──

魔王「ボミオス」

勇者「ぐっ」

魔王「ハハハ、ハエでも止まりそうだな勇者!」

僧侶「ピオリム!」

魔王「!!!」

勇者「はあああっ!!!」ブゥンッ

魔王「ちぃぃっ。あくまでも反抗するか、僧侶!」

僧侶「当たり前です! 私はゆーしゃさまの僧侶! 他の誰にも屈したりしない!!!」

魔王「(見立て通り二人揃うと厄介よな……。だが……)」

勇者「オオオオオオオッ!!!!」ダッ──

僧侶「ゆーしゃさま!!!」

ブンッ、ブンッ、ブォンッ──

魔王「(理性が飛んだ勇者など……)」

ザンッ─

ザンッ──

魔王「ガハッ」

勇者の二連撃がついに魔王を捉える。

勇者「!!!」

魔王「ぐっ……おのれえぇッ!!!」

一瞬魔王がバランスを崩したのを見逃さず、一気に懐まで入り込む。

僧侶「(おかしい……さっきまで掠るのがやっとだったのに。素早さだって今は等倍速なはず……)」

勇者「オオオオオッ!!!」

魔王「ぐわっ」

下から光剣を掬い上げると、魔王の顎先を掠める。
魔王はたまらずたたらを踏みながら仰け反った。

勇者「おおおおおっ受けろ……! 弟と妹の嘆きを!!!」

勇者の手に光が集まる──

魔王「」ニヤリ

僧侶「まさか……ゆーしゃさま!!! ダメッ!」

勇者「ギガデイン!!!」

ほぼ零距離から一点集中したギガデイン、しかし──

魔王「間抜けがァ!!!」キィィン

勇者「なっ──」
僧侶「ゆーしゃさま避けて!!!(やっぱりマホカンタッ!)」

その光は魔王の前で跳ね返り、逆に勇者を襲う。

勇者「ぐぅぅわああ!!!!!」

ギリギリ避けるも体の半分が自らの雷によって焼け焦がされる。

魔王「マヒャデドス」

勇者の直上に巨大な氷塊が無数に現れ──

魔王「終わりだ」

降り注ぐ──

僧侶「あ……あああああ……!」

透き通った青白い氷が真っ赤な血で染まる。

魔王「十一代目には色々と期待していたんだが……」

魔王「二代目の怨念に傀儡として操られるだけとはな。まあ良い」

魔王「僧侶をここまで高みに導いたことだけでも評価出来る」

僧侶「……」

魔王「さあ僧侶よ! 我のものとなれ! お前が望むなら二つの世界の果てすらも見せよう!」

魔王「我は愛に尽くす方でな、お前の為ならこの世界の破滅さえ厭わん」

僧侶「……」コクリ

魔王「やっとわかってくれたか、僧侶よ」

僧侶に近づき、肩を抱く。

僧侶「ようやく決心がつきました。自分が消えてでもあなたを討つ決心が」

魔王「何?」

魔王「体が、動かん……まさか」

僧侶「クモノ。あなたが唱えていた魔法です。全魔力を注ぎ込んで作った陣、いくら魔王でもしばらくは動けない」

魔王「一度見ただけで……ハ、ハハハッ!!!! やはりお前は素晴らしいな!!! 僧侶!!!」

魔王「よかろう、好きなだけ撃ち込んで来い。お前の愛、我が受け止めてやろう」

僧侶「ザオリク……」

魔王「むっ」

遠く離れた杖から発動した蘇生魔法が、勇者を死の淵から呼び戻した。

魔王「懲りんやつだ、お前も」

僧侶「(ゆーしゃさま……お別れです)」

ゆーしゃさまはいつも私のことを守ってくれましたよね。

辛いとき、苦しいとき……ゆーしゃさまが居ない時でさえ、ゆーしゃさまの過去に私は支えられました。

どんな時でも、私は一人じゃなかった。

あなたが側にいてくれたから。

いっぱい、いっぱい、喜びや、楽しさも分けてもらった。

だから、次は私がゆーしゃさまを守る番です。

大好きな人達を守る為にみんなが戦って、守られて来たこの世界

私の大好きな人達がいっぱい住むこの世界

私の……愛しているあなたが住むこの世界

守りたい──

この身の全てを掛けても

















メガンテ────

────

ここは、どこだ。

身体中が、痛くて、全然、動かない。

でも凄く暖かな光が……包んで。

──ゆーしゃさま

勇者「そう……りょ……」


魔王「貴様ァァァァァ魂ごと消えてなくなりたいのか!!?? それを使えば本当に死ぬんだぞ!!!???」

もう、魔王の声など耳に入って来ない。

最後に、

僧侶「ゆーしゃさま」

愛するゆーしゃさまの声を聞いていたい。

勇者「そうりょ……僧侶……!」

勇者「何やってんだ……っ! やめ、ろ……っ!」

僧侶「気がついたんですね」ニコッ

勇者「なんで、笑ってられるんだよ……!」

勇者「自分が消えちまうのに……なんで……」

僧侶「大好きな人達を守る為にこの命を使えるなんて、幸せなことじゃないですか」ニコリ

勇者「俺が……俺が何とかしてやるッ!!!! だから……」

僧侶「……ずっと、守ってくれて、ありがとう」

勇者「僧侶……!」

僧侶「ずっと、側に居てくれて……ありがとう」

勇者「やめろ……やめろよ……!」

僧侶「ずっと、愛しています。ゆーしゃさま」

勇者「行くなあああーーーー!!! 僧侶おおおおおおーーーッッ!!!!!!!」

勇者「やめろおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
魔王「やめろおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


僧侶から光が溢れ、全てを呑み込んで行く──

魔王「ウオオオオオオオオアアアアアァァァァァ……」

魔王さえ呑み込む光、
しかし、その光は逆に勇者を優しく包み込んだ。

勇者「僧侶……」

僧侶「」ニコッ

遅れて来た、眩い閃光と、衝撃が

辺り一帯を轟音と共に吹き飛ばした──

魔王城 最上階 崩壊後──

勇者「ん……生きてんのか……俺は」

勇者が辺りを見渡すと、天井や壁が全て吹き飛んでいることに気づく。

すぐ隣には空の青が広がり、霧も全て晴れていた。

勇者「僧侶……そうだ僧侶はッ!?」

瓦礫を押し退け僧侶の姿を探す。

勇者「これは……僧侶の……日記」

そこにあったのは、僧侶の日記と、以前勇者が僧侶にプレゼントした腕輪だけだった。

勇者「僧侶……っ」

勇者「バカ野郎ッ……我慢すんなって言ったのに……」

勇者「最後まで……笑って……やがった」

勇者「僧侶……僧侶っ……僧侶」

腕輪と日記を抱き締める。もう戻らない僧侶の温もりを確かめるように。

『よもや我の肉体を消し飛ばす程の威力とはな』

勇者「……魔王!? どこだッ!」

『喜べ勇者。世界はまたしばらく救われた。僧侶のおかげでな』

中空に浮かぶ黒い火の玉のようなものから魔王の声が聞こえてくる。

勇者「(あれが魔王の魂か……! なら、あれをやればッ)」

『ではな小僧。我はまた地下の世界で更に力を蓄えるとしよう』

勇者「行かせるかよッッッ!!!」

勇者の剣を抜き出し、何処かへ消えようとする魔王の魂を追撃する。

勇者「(僧侶が命を掛けてまで作ってくれた機会を逃すわけにいくかよ!!!!!)」

勇者「これで終わりだ……魔王!!!!!」

勇者の剣が、魔王の魂を斬り裂いた──

勇者「なっ!!? 確かに当たったはず……!」

しかし、魔王の魂に変化はない。

『無駄だ。貴様では我の魂は斬れん。ただの勇者である貴様にはな』

勇者「なんだよ……それ」

『さらばだ、勇者よ。もっとも、もう会うこともないだろうがな』

勇者「おい……待てよ……」

現れた闇に、黒い魂が溶けて消えていく。

勇者「待てって……なあ……待ってくれよ……」

勇者「僧侶の命まで引き換えにして……何も、変わらなかった」

勇者「変えられなかった……!」


世界は、救われた。
勇者と、勇者のお付きによって。

何代も続いて来たことだ、知らぬ人々にとってはもはや当然の救いなのかもしれない。

そうしてまた、数百年の時を平和に生き、彼らのことも忘れて行く。

そして、全てを知るものだけが──

勇者「うああああああああああああ!!!!!!!!!!」


一時的な平和の無意味さと、

自分の無力さに……嘆いた。

エピローグは書けたら今日の深夜か明日の深夜辺りに

次がほんとに最後です

長かった……

最後まで自分が書きたかったようにやるので良かったら最後まで読んでください

エピローグ 一つの物語の終わり

あれからのことは、余り覚えていない。
世界中の諸国に、魔王討伐の報告をし終わった後、全ての誘いを断って家に帰ってから、ずっとこうしてベッドに横になっている。

せめて宴会で模様された料理だけはと持って来られた物も、一口も手をつけられなかった。

勇者「僧侶……腹減ってないかな」

本当なら二人でこの料理を食べ、他の場所で開催されている祭りにも参加したり……。

勇者「考えるのはやめよう……」

そうだ、もう終わったんだ……俺達の旅は。

──夢を見た

僧侶の夢だった。ここのところ毎日夢に出てきてくれる。

眠れば僧侶に会えると思い、ひたすら惰眠を貪った。

でも、起きた時の苦しさに耐えかねて……寝ることさえ億劫になった。

色々な人達が俺の家を訪れたらしい。

村のみんなは勿論、東の大陸の王様や、中央大陸国王になったロミオ、その妻のジュリエット。
南三国の王までやって来て、村長はだいぶ肝を冷やしたそうな。
魔法使いと戦士も来たようだ。

どうしても会いたいと言っていたが、断ってもらった。

気を遣われたり、心配されるのが何となく嫌だった。

何も、なかった。

これからどうするか、とか。

僧侶が死んだことをちゃんと理解して、少しづつ前に進もう、とか。

僧侶がいない世界なら、死んでしまおう、とか。

そういうの全部、違うんだ。

俺にとって切り替えが効くほど僧侶は小さな存在じゃないし、
無駄死にしていい命でもないと思っている。

だから、これからどうしたらいいのかなんて……わからなかった。

コンコン──

勇者「……」

僧侶姉「入るね、勇者」

勇者「……」

僧侶姉「ルリの実のお粥作って来たから。一口でもいいから食べて」

勇者「……」

僧侶姉「たまには起きて外に出ないと。頭にキノコ生えちゃうわよ? なーんてね」

勇者「……」

僧侶姉「勇者……元気になってよ……」

僧侶姉「あなたまでいなくなったら……私」

僧侶が、居る。

勇者「そう……りょ……?」

僧侶姉「!!!」

勇者「僧侶……!」ギュッ

僧侶姉「勇者……」

僧侶姉「(ここで私が僧侶の代わりになれば……勇者は元に戻るかもしれない)」

僧侶姉「(私が勇者を支えて……何年か経ったら、僧侶のいなくなったこの世界でも受け止めてくれるかもしれない)」

僧侶姉「(けど、けどね……勇者)」

僧侶姉「私は僧侶じゃないの……ごめんね、勇者」

ゆっくりと体を離し、顔を良く見る。

似ている、けど、僧侶じゃない。

当たり前だ、僧侶はもういないんだから……。

勇者「……ごめん。ほんとに、ごめん」

家を出ることにした。

ここにこれ以上居れば僧侶の姉さんにも、みんなにも迷惑が掛かる。

形だけでも前向きに見せられればいいのだが、やっぱり今は無理みたいだ。
空元気さえ出やしない。

さて、何処へ行こうかと思い部屋の出口で立ち止まる。

出来れば俺のことを誰も知らないところに行きたい。

そうすればこんな辛気くさい顔してても、誰も気に止めないだろう。

しかし残念なことに全大陸制覇してしまっている挙句、魔王討伐を報告する際に多くの人達にそれを見られてしまっている。

恐らく今何処へ行っても面が割れるの避けられないだろう。

いっそのこと誰も住んでいない無人島にでも行くか。
しかしそうなると色々生活に困るな。

どこか知らない大陸でもないのだろうか。

勇者「もう一つ世界があればな……」

勇者「もう一つの……世界」

『これらはここの魔法じゃなくてな』

『地下の世界で更に力を蓄えるとしよう』

『もう一つの世界』

勇者「あるのか……こことは違う世界が」

見つかった、生きる目標が──

勇者「そしてそこに、魔王が居る」ギリッ

バタンッ──

僧侶姉「ん、勇者……?」

勇者「今まで色々ありがとう。これ」

僧侶姉「え、なに……こんな大金貰えないよ」

勇者「修練の時のツケ、払ってなかったから」

僧侶姉「そんなのいいのに……。……どこへ行くの?」

勇者「……」

僧侶姉「勇者っ!!!」

勇者「もしかしたら、もう戻って来られないかもしれない」

僧侶姉「どうして……どうしてそんなに自分を追い詰めるの?」

僧侶姉「何で全部自分だけでしょい込もうとするのよ……」

僧侶姉「もういいじゃない……ここでゆっくり暮らしても……僧侶だってきっとそれを望んでるわ!」

バタンッ──

僧侶姉「ん、勇者……?」

勇者「今まで色々ありがとう。これ」

僧侶姉「え、なに……こんな大金貰えないよ」

勇者「修練の時のツケ、払ってなかったから」

僧侶姉「そんなのいいのに……。……どこへ行くの?」

勇者「……」

僧侶姉「勇者っ!!!」

勇者「もしかしたら、もう戻って来られないかもしれない」

僧侶姉「どうして……どうしてそんなに自分を追い詰めるの?」

僧侶姉「何で全部自分だけでしょい込もうとするのよ……」

僧侶姉「もういいじゃない……ここでゆっくり暮らしても……僧侶だってきっとそれを望んでるわ!」

勇者「それでも、僧侶は俺の元へ来てくれた」

僧侶姉「それは……」

勇者「だから、俺も行かなきゃいけない。最後の、本当に最後の約束を果たしに」

勇者「魔王は、まだ生きているから」

僧侶姉「そ、んな……」

勇者「じゃあ」


僧侶姉「……僧侶は」

僧侶姉「僧侶はあなたと旅したことを絶対後悔してない!」

僧侶姉「だってあの子は……旅立つ前から死んででも魔王を討つことを条件に、あなたのお付きになったんだもの」

勇者「な……」

僧侶姉「それだけの覚悟を背負ってあの子はあなたと旅していたのよ!」

勇者「最初から…なんて、あいつ……そんな素振り全然見せなかったじゃねぇか……」

勇者「もっと怖がれよ……死にたくないって俺にすがれよッ!!!!」

勇者「そしたら勇者なんてほっぽりだしてあいつとずっと二人で……」

僧侶姉「あの子言ってたの。もしゆーしゃさまが死んでしまった時は……僧侶職として、自分の役割を果たすって」

僧侶姉「だからあなたが死んでしまった時は、勇者様って……感情を切り替えなきゃって……」

勇者「……もう、おせぇよ……何もかも。お前が死んだら、そうだったのかとか言ってやれないだろ……」

勇者「でも、ありがとう。姉さん」

勇者「それ聞いて益々今自分がやらなきゃいけないことが見えた気がするよ」

僧侶姉「勇者……絶対に、帰って来て」

僧侶姉「あなたを大切に思っているのは僧侶だけじゃない。世界中のみんなそう思っているから」

僧侶姉「だから……自分を蔑ろにしないで、お願い」

勇者「……ありがとう」

勇者「でも、大丈夫」

勇者「どんな時でも俺は一人じゃないさ」

勇者「例えどんなに遠く離れていても」

そうだろ、僧侶──

魔王城 崩壊後 図書の間

勇者「確かこの辺りに……あった!」

『もう一つの世界』

勇者「……この表の世界とは別にもう一つ、裏の世界、または地下の世界と呼ばれる場所が存在する」

勇者「隣り合わせにありながらも、普段は行き来出来ないこの二つの世界だが、たった一つ、表から裏の世界へ繋がっている可能性がある場所がある」

勇者「昔リースという村があった為、ここを『リースの大穴』と銘記」

勇者「リースは大陸の端。ここ、魔王城から北に真っ直ぐ行けば見えてくるはずだ」

勇者「そこにある洞窟の奥に、裏の世界へ繋がる穴がある、かもしれない」

勇者「私の部下を何人かそこへ送ったが、未だに誰も戻ってこない。洞窟の中にそれを守る番人でもいるのだろうか……か」パタン

勇者「……行く価値はありそうだな」


勇者「」ピュ~イ

ユノリア「クルルゥ!」バッサバッサ

勇者「よっと。次はここから真っ直ぐ北に頼むな」

ユノリア「クルクルゥ~」

リースの大穴

勇者「ありがとな、ユノリア」よしよし

ユノリア「クルルゥ……」

勇者「お別れだ」

勇者「……もしまた魔王が現れて、勇者が現れたら。また力を貸してやってくれよな」

ユノリア「クルル……クルルルゥ!」

勇者「おう。元気でな」ニコッ

カツ、カツ、カツ、カツ、

カツ、カツ、カツ、カツ、

カツ、カツ、カツ……


勇者「……」

「……勇者、か?」

勇者「……親父。本当に生きてたんだな」

アガータ「ここでずっとお前を待っていた」

勇者「どういうことだよ」

アガータ「少し長くなるが昔話をしよう……」

アガータ「魔王は表の世界に器を用意させた後、こちらに魂だけを移し、魔王と成り得ていることは知っているな?」

勇者「ああ……」

アガータ「なんでそんなめんどくさいことをしているのか……それにちゃんと理由がある」

アガータ「魔王が初めてこの世界に渡って来たときはちゃんと肉体があり、この穴を通って来たのはほぼ間違いない」

アガータ「そして初代勇者に破れた。肉体を失い、魂だけになったが、初代勇者はそれを見逃した」

アガータ「魔王はそれに激昂した、情けを掛けられたと思ったのだろう」

アガータ「そしてすぐさま魔王になれる器を用意すべく、西の大陸の支配を始めた」

アガータ「そして肉体を得た頃、時を同じくして二代目もまた現界していた」

アガータ「しかし魔王はまたしても破れた。器がまだ体に馴染んでなかったのもあるだろうが、それよりも勇者をバックアップする各国の連携の良さに目を奪われただろう」

アガータ「各国からよりすぐりの鍛冶屋が朝から晩まで打ちつくし、鍛え拵えた武具」

アガータ「飲めば忽ち全てが回復する薬」

アガータ「二代目勇者達にはそれらが瞬時に与えられた」

アガータ「それ故に魔王城まで来る道のりは最短だっただろう」

アガータ「だから魔王は勇者への信頼性を壊しに来た。南の国王に乗り変わり、勇者の大切な弟と妹を殺した」

アガータ「魔王の期待通りに勇者は南の大陸を滅ぼし、世界に勇者も魔王と同じぐらい危険だと示させた」

アガータ「やがて魔王の仕業とわかった時には全ては遅く……二代目勇者は処刑された」

アガータ「それからだろう。神託に二代目の憎しみが入り込み、黒く染まったのは」

勇者「……」

アガータ「そして次こそはと望んだ三回目。しかしまた魔王の予想を大きく上回る出来事が起きる」

アガータ「三代目勇者、その強さは異常だった」

アガータ「その力は初代勇者ですら霞むほどと言われていたらしい」

アガータ「更にルシエル、リノン、俺の先祖アガータと言う考えうる限りでの最強のお付きがついていた」

アガータ「結果は言うまでもなく勇者が魔王を圧倒。そのまま魂ごと斬れば勇者暦は終わっていた」

アガータ「だが、そんな勇者にも一つだけ弱点があった」

勇者「弱点?」

アガータ「心、もっと言えば魂だ。三代目勇者はその力故に孤独だった。そこを魔王に狙われた」

アガータ「魔王に入り込まれた三代目は勇者は、しばらくして突如この世界からいなくなった」

アガータ「そしてここから、裏の世界へ帰ったのだ」

アガータ「魔王は、三代目勇者の体を得て……まずは裏の世界へ侵攻をかけた」

勇者「……裏の世界を侵略しきったからこっちへ来たんじゃないのか?」

アガータ「逆だ。裏の世界じゃ一つの大陸すら得られないからこちらへ来たのだろう。
それほどあっちの世界のモンスターも、魔王と名乗る者の強さもこちらとは段違いらしい」

アガータ「こちらへの扉を見つけた時はさぞ小躍りしただろうな」

アガータ「話を続けるぞ」

アガータ「そしてまた数百年後、魔王による表世界への侵攻が始まった」

アガータ「恐らくは三代目の体を使って裏の世界を統一したのだろう」

アガータ「だがこの扉はリノンが自分の全ての時間を使い、封じた為に肉体の出入りが出来なくなっていた」

アガータ「故に魔王は魂だけをこちらに送り、魔物に魔王の器を作らせ、表の世界に魔王として君臨しては器を倒されることを繰り返した」

アガータ「これが大まかな勇者暦にあった出来事だ」

勇者「で、親父は家族ほったらかしてここで十の年も何やってたんだ?」

アガータ「……すまないとは思っている。だが、俺がここを離れるわけにはいかなかった」

アガータ「十年前に復活した魔王は、こちらからリノンの封印を破ろうとしていたのだ」

アガータ「何とか三人で魔王の肉体を封印するも元々弱まっていた結界は更に弱められてしまった」

アガータ「もし裏の世界に帰った奴が三代目勇者の体を持ってこちらの世界に来れば……三日もかからずこの世界は崩壊するだろう」

アガータ「だから俺はここで待った。もし奴が来たら命にかえても食い止める覚悟を持って」

アガータ「お前達が成長し、いつかここを抜けて魔王の魂を滅しに行くその日を」

勇者「……来なかったらどうするつもりだったんだよ。犬死にだぞ!」

アガータ「必ず来ると信じていた。お前達なら」

勇者「……」

アガータ「だが……」

勇者「……僧侶は死んだよ。魔王の肉体を道連れにして」

アガータ「やはりあの光はメガンテか……」

勇者「俺は親父期待しているような強い人間じゃないんだ。ここに来たのだって半分はみんなから逃げるためだしさ」

アガータ「……」

勇者「親父はどうしてそこまでこの世界の為になれるんだ?」

アガータ「俺が戦士アガータの末裔だから……って言うのはきっかけに過ぎないだろう」

アガータ「俺がそうしたかったからだろうな」

勇者「そうしたかったから……」

アガータ「お前達もこの世界も守りたかった。それだけだ」

勇者「……それで母さんを失っても後悔はしなかったのか?」

アガータ「ああ。俺も母さんも戦いに臨んだ時から覚悟は決まっていた」

勇者「……最後に、母さんなんて言ってた?」

アガータ「……今まで一緒に居てくれてありがとう。お前達のことをよろしく頼むと言われたよ」

勇者「……強えぇよな、親父も母さんも…ほんとに……すげぇよ」

アガータ「ふん、お前の歳でそこまでモノの死を達観出来ていたら逆に怖いわ」

アガータ「今は辛いかもしれない。だが生きていく上でそれはいつか必ず越えなくてはならない。わかるな?」

勇者「わかってる……けど今はまだどうしていいかわからないんだ」

勇者「僧侶がもういないっていうのはわかってるつもりだけど……気持ちが追い付いてこない」

勇者「悲しめばいいのか、それをちゃんと認めて前に行くのか、整理がつかないんだ」

アガータ「今はそれでいい。時が経てば次第に見えてくるだろう」

勇者「今は魔王の魂を追い掛けるって目標もあるしな。気は紛れるよ」

勇者「じゃあそろそろ行くよ、親父」

アガータ「ああ。すまないが俺はついて行ってやれない。まあ行ったところで足手まといにしかならんだろうがな」

アガータ「俺が一瞬だけ封印を斬る、その間を抜けて行け」

勇者「わかった」

アガータ「……最初に言っておく。お前を通した後、ここを崩して穴を塞ぐ。もはやこの結界では役に立たないだろうからな。
故に一度ここを通れば二度とこちらには帰って来れないと思ってくれ」

アガータ「それでも行くんだな?」

勇者「……ああ」

アガータ「そうか……なら止めはしない。行ってこい、勇者」

勇者「……なあ親父。穴はこっちから塞げるんだろ? なのに何でリノンは自分の全ての時間を使ってまで『封印』したんだ?」

アガータ「それは彼女に聞いてみないとわからんな。ただ彼女は俺達と違い実際に三代目勇者と旅をして来たからな」

アガータ「思うところがあるんだろう」

アガータ「もし次に会うことがあれば聞いてみればいい」

勇者「会えるのか? あっちの世界で」

アガータ「彼女はどちらの世界も行き来出来ると聞いたことがある」

勇者「もはや何でもありだな」

アガータ「何百年も生きてるんだ。今更何が出来ても驚かんよ」

勇者「ははっ、それもそうか」

────

アガータ「はあぁぁ……次元斬り!」ズオォッ

勇者「じゃあ行って来るぜ親父!」

アガータ「行ってこい、バカ息子!」



アガータ「勇者!」

勇者「ん?」

アガータ「確かに母さんや僧侶が死んだのは事実で、俺のような普通の人間にはどうしようも出来ないことだ」

アガータ「でもお前には勇者という力がある」

アガータ「勇者なら、例えどんなに不可能と言われていることでも可能に変えられるかもしれない」

勇者「……ああ! やるだけやってみるよ!」

アガータ「おう。達者でな」

アガータ「全てを取り戻して……帰って来いよ、必ず」








そうして勇者が地下の世界に降りてから、


三年が過ぎた──

地下の世界 魔王城

勇者「……」ジャキッ

魔王「久しいな、勇者。まさかここまで追って来るとは思わなんだぞ」

魔王「せっかく来てくれたことだしな。少し遊んでやるか」

魔王「この世界には我の相手になる者がおらんのでな……退屈しておった所──」

ガッッ──

ザンッ──

魔王「で……な……」

ポトリ──

魔王「我の腕があああああ嗚呼ああああッ!!!!」

魔王「ふ、不意打ちとはな……! 勇者の風上にもおけんやつだ」

勇者「フッ」

魔王「……殺す」ビキッ

勇者「」ダッ──

魔王「(くっ……さっきは不意を突かれただけかと思ったが……何という速さだッ!
加速魔法を使ったのか? いや、そんな素振りはなかったはず……!)」

魔王「ジバリーナ!!!」

ゴゴゴゴゴォ──

勇者「……」

大地の暴走の上を事も無げに渡って来る。

魔王「ク、クモノ!!!」

勇者「次元斬り」

陣真っ二つに裂かれ、魔法の効力が消える。

魔王「調子に乗るなよオオオオオッ」

魔王の両手に、魔力が集中する──

魔王「イオグランデ──」


ズオオオオオオオオオオオオオオオ──

────


魔王「少しやり過ぎたか……建物がだいぶ吹き飛んでしまったな」

魔王「また新しいのを作らせるとするか……ハハハ……ハ?」

勇者「……」

魔王「無傷だと……バ、バカな、イオ系最高位の呪文だぞ!?」

勇者の手のひらに、魔力が集まる──

魔王「(ギガデインか!? 我に魔法は効かんと言うことを学習していないようだな! )」

勇者「──ギガデイン」

魔王「バカめ! マホカンタ!!!」

勇者「マホカンタ」

魔王「へっ」

勇者は右手でギガデインを、左手でマホカンタを唱え、

自分に向かってギガデインを放った──

マホカンタで跳ね返ったギガデインは魔王の元へ。

魔王「(一体何の意味が……)」

そしてそれは、マホカンタをすり抜けて魔王に直撃した。

魔王「グオオオオオオオッ!!!! 何故、だ……何故発動しなかっ……」

勇者「……マホカンタに弾かれた魔法は返せない。そんなことも知らないのか?」

魔王「な……に…?」

勇者「そうか……俺は『こんなもの』に大切なものを盗られたんだな」

魔王「こんなもの……だと?」

魔王「この我をコンナモノダトオオオオオッ!??」

魔王「殺す殺す殺す殺す殺すううううううう!!!!!!」

魔王「来れ闇の剣……!」

魔王の手に深淵の剣が宿る。

魔王「これは勇者が生まれながらに持つ光剣と我の力を混合して作ったものでな」

魔王「その強度はあのオリハルコンをも凌ぐ」

勇者「ふぅぅ……」

勇者は、深く腰を落とした。

ドスッ──

正拳突き──

バキィッ──

魔王「闇の剣が……お、お、れ、オレ折れ……」

勇者「もう自慢は済んだか?」

魔王「お前は……なんだ!!? 本当にあの時の勇者か……?」

魔王「ありえない……! 三年か少しでこんな……」

勇者「ただ強くなるだけなら三年もあれば十分だったよ」

勇者「でも幾ら肉体が強くなっても、俺は真の勇者にはなれなかった。もう守りたいものがないからかな」

魔王「ハ、ハハハ……ならば我を殺すだけ無駄であろう?」

魔王「どうだ? この世界の半分をお前にやろう!!! 好きにするがいい!」

魔王「そして何れは表の世界も征服して……」

勇者「……」ギリッ

魔王「わ、わかった! 知ってた! お前がそういうものに興味がないことは!」

魔王「ならば我は二度と上には行かん! これでどうだ? な?」

勇者「……おせぇよ。あの時そう言ってれば、僧侶は死なずに済んだ」

魔王「僧侶……あ、ああっ!」

魔王「妾が欲しいのだな? 案ずるな、我はこの世界に顔が効く!」

魔王「好きな娘を選んで妻にするなり妾にするなりすればよい!」

魔王「なぁに、あんなガキよりもっと上等な女がこの世界にふごぉ!!?」

勇者「もう喋るな」

魔王「(な、なんだ……このもこもことした羽根のようなモノは……)」

勇者「閉じてろ」

魔王「ふごぉっ」

顎を蹴り上げられ、口の中にある異物を吐き出す機会を与えられない。

勇者「転移、始まりの村」

魔王「むごぉぉぉぉ」ビュォーン

勇者「ルーラ」ビュォーン

グングン上へと上昇して行く二人。

やがて魔王城の天井まで突き抜けたところで、勢いが止まった。
始まりの村がこの世界にないことを認識したのだろう。

落下が始まる──

魔王「無駄だ!!! 幾ら我の肉体を滅ぼそうとも、貴様には我の魂は消せぬ!!!」

魔王「また我は肉体を作り、奪い、魔王に成り代わるだろう!!!」

勇者「トベルーラ」

落下している魔王に目掛けて、更に加速しながら流星の如く落ちて行く。

勇者「なら……俺はお前が成り代わった全ての魔王を倒すまでッ!!!」

魔王「おのれえええええェェェェェェェェ勇者アアアアアァァァァァッ!!!!」

三代目勇者の体を、勇者の剣が深々と貫いた。

魔王「グォォォォオオオオオオオオッ──」

勇者「せいぜい逃げろよ。どの世界に逃げても追い掛けて、殺してやる」

魔王「……覚えていろ、勇者……貴様は必ず……殺す。僧侶と同じように、な……クケケケケ!!!」シュゥ……──

僧侶の日記 Ⅵ

ゆーしゃさまと旅をして来て、気づいたことがあります。
この世界は、凄く美しいものだと言うことに。

風が吹き抜ける丘の上から眺めた景色は、どこまでも続いている気がして。

船の上から見た海やカモメは、大きくて優雅で。

暗い洞窟の中は不安だけど、どこかわくわくして。

お城から眺めた町並みは、活気溢れてて、私まで嬉しくなって。

夜の遊びは、少し背徳感に駆られるけど楽しくて。

木々が溢れる森の中は、雨が降るとその雨音が心地いい。

熱に揺らめく砂漠は……しばらくちょっと遠慮したいです。

白銀の世界は寒いけれど、ゆーしゃさまと一緒なら暖かくて。

あなたと二人で旅したこの世界。

もっともっと続けて居たかったけど、あなたがこれを見ていると言うことは、無理だったんですね……。

でも、悲しんだり、苦しんだり、しないでください。

私達は今まで何回も何回もそれを乗り越えてここまで来たんですから。

ゆーしゃさまに言いたかったことは全て言い尽くしました!

ここに改めて書く言葉もないぐらい、ゆーしゃさまに今の自分を伝えたつもりです。

だから、一言だけ。

幸せになってください。ゆーしゃさま。


勇者「幸せ、ねぇ」

パタン──

地下の世界──

勇者「ふーんふーんふーん……っと」

勇者「あんま上手く描けないなー。まあいっか」

周りに何もない、辺り一面灰色の平地が無限に続く場所で、勇者は絵を描いていた。

勇者「ここは宿屋にするとして……こっちは道具屋かな」

「何を、してるの…?」

勇者「ん~村の見取図だよ見取図。どうせあっちには戻れないし、暇だからこっちに村の一つでも作ろうかなってさ。
特にこの辺りは何もなくて物悲しいから」

「……戻れる」

勇者「どこへ? って……リノン! 久しぶりだなおい!
ほんとにこっちにも来られるんだなー」

リノン「……あなたには感謝してもしきれない…」

勇者「三代目のことか? 気にするなよ、ついでだし」

勇者「さすがにもう魂は消えちまってたけど……肉体ぐらいは仲間のあんたが手厚く埋葬した方が三代目も浮かばれるだろ」

リノン「……彼が好きだった高い場所に埋葬して来た…」

勇者「良かったな」

リノン「うん…」

リノン「……勇者、あなたに選択を委ねたい」

勇者「選択?」

リノン「全てを失っても、未来を得るか。今まで進んだ道を嘘にしない為にも、このまま生きるかを」

勇者「どういうことだ……?」

リノン「あなたにこれから全てを話す……それを聞いた上で、決めて欲しい…」

勇者「なんかわかんねぇが……聞けっていうなら聞くぜ」

リノン「……三代目勇者は神託を受けた瞬間から、魔王を屠れる程の力があった」

リノン「でも、念には念をとまだ魔法が確立してない時に魔法が使えた私と、僧侶ルシエル。剣の腕なら勇者を越えるとまで言われていた戦士アガータが……魔王討伐の任についた勇者のお付きとなった」

リノン「でも、それは表向きで……私達の本当の目的は勇者の監視だった」

リノン「もしまた勇者が人々を裏切ったとしても勇者を止められるように」

リノン「必然的に私達の間に会話はほとんどなかった。戦闘についてやアイテムの補充、そういう旅に必要な話しかしなかった」

リノン「勇者は、孤独だった…」

リノン「あんなことがあった後だから……当然周りからは嫌悪され、恐れられ、畏怖された」

リノン「その時は私達三人も内心では勇者を恐れていたのかもしれない…」

リノン「それでも勇者は旅をやめなかった。一人で全てを抱えながらも、前に進んだ…」

リノン「そんな勇者を見ていたら……私は胸が傷んだ」

リノン「人々を守るために戦っているのに、誰にもわかってもらえない」

リノン「その苦しみを仲間に吐き出すことも出来ず、それでも魔王を目指す……ただ勇者の使命を果たすためだけに」

リノン「そんな彼を支えてあげたいと思った頃には、もう旅は終わりかけていた」

リノン「それでも、私は彼に少しづつ話しかけた…」

リノン「他愛のない話ばかり。好きな食べ物とか、好きなものとか、でも……そんな他愛のないことすら私は知らなかった…」

リノン「それでも、勇者は私に優しく教えてくれた」

リノン「高いところが好きだとか、ぶどう酒が好きだとか…」

リノン「私が勇者と頻繁に話すようになったのを見てか、他の二人も段々勇者と打ち解け合っていった」

リノン「私達は、よく笑うようになった」

リノン「随分遅くなったけど、これが仲間なんだなって……」

リノン「その頃から、私は勇者のことを好きだったのかもしれない」

リノン「そしていよいよ魔王との戦い。その時の私達は、紛れもなく勇者のパーティーだったと思う…」

リノン「ルシエルも、アガータも、勇者のことを監視の対象ではなく、ちゃんと仲間として見ていた」

リノン「勿論……私も」

リノン「だけど、そんな少しの間で作った見せかけの絆では……勇者の闇は拭えなかった…」

リノン「魔王の肉体を倒し、後は魂さえ滅せれば終わる筈だった…」

リノン「でも、魔王の魂に何かを言われた後、私達に振り返った勇者の目が……全てを物語っていた」

リノン「ずっと私達を見ていた魔王は知っていた、私達がもしもの時に勇者を殺す為に居る……偽りの仲間だと言うことを……」

リノン「きっかけはそうだったけど、今は違う……なんて、薄っぺらな言葉は彼に届かなかった」

リノン「勇者が魔王の魂と同化した後、しばらく経ったある日……私は勇者にあの場所に呼ばれた」

勇者『お願いがあるんだ』

勇者『もし、この剣を抜ける勇者が現れたら……僕を殺すように言ってくれないか?』

勇者『それと……』

リノン「勇者がいない世界を、作ってくれ……そう、言われた…」

勇者「……」

リノン「あなたにだけはわかるかもしれない。あの人の気持ちが……」

勇者「嫌われる原因があった直後と数百年後じゃ比べるだけおこがましいぜ。それに俺には僧侶が居たからな」

勇者「あいつが居なかったら俺も魔王に肉体を乗っとられてたかもしれねぇ」

リノン「…私達は悔いた。勇者を一人きりにしてしまったことを。支えになれなかったことを」

リノン「だから、もう二度とあんなことがないように、三人でこれからの勇者を助けられるように職を確立させた」

リノン「アガータは剣を、ルシエルは癒しや神への信仰心を、私は魔法を……それぞれ教え、広めた」

勇者「それがきっかけだったんだな」

リノン「魔王が通って行った穴を自分の時間を止めるのを代償に封印する禁呪を使って穴を封じた」

リノン「本当に塞いでしまえば二度と彼には会えないという気持ちがそうさせたのかもしれない……それに、私には彼との約束があったからこの魔法を使うのは都合が良かった」

リノン「そして……私は、もう二度と彼のような勇者が出ないようにと、とてつもなく愚かなことをした…」

リノン「あなたが真の勇者に目覚めなかった理由も、私のせい……だから、あなたには恨まれても仕方ない…」

勇者「なに言ってんだよ。何百年もあっちの世界を守って来て、バラバラになってた俺達を繋ぎ合わせてくれて、ユノリアとも引き合わせてくれて、そんなあんたを恨めるわけないだろ?」

勇者「それにその時そうしたのはリノンが勇者の為を思ってだろ? 数百年前の思いに俺が今更ケチつけられるかよ」

リノン「ありがとう、勇者」

リノン「私はずっと迷っていた。この事をあなた達に伝えるかどうか」

リノン「でもあの時の二人を見たら、そんなことは些細なことだろうと思って……余計なことを言うのは憚られた」

リノン「でも、勇者が魔王の魂を斬れなかったのを知って……やはり最後のピースはこれしかないと思った…」
リノン「勇者、あなたは自分のことを『勇者』って呼ばれたら、それが自分のことだってわかるよね?」

勇者「そりゃあな。今の世界に勇者は一人しかいないし」

リノン「じゃあ、『勇者』は?」

勇者「三代目のことだろ?」

リノン「『勇者』」

勇者「初代がどうかしたか?」

リノン「……私はさっきから『勇者』としか言っていないのに、あなたは正確にその勇者がどの勇者を指しているのか当ててみせた」

勇者「そんなの当たり前だろ? 何かおかしいか?」

リノン「そう、今ではそれが当たり前……私がそうなるようにしたのだから」

勇者「言っている意味がわからないが……?」

リノン「勇者、同じ職についている人達がいっぱいいるよね…?」

勇者「そりゃあな」

リノン「でも、その人達の名前は、全員一緒なの」

勇者「……は?」

リノン「魔法職についている者は魔法使い、またはそれに準じた呼び名、僧侶職も同じ」

リノン「あの世界では、同じ呼び名でも相手がそれを認識する」

リノン「名前がない世界なの…」

勇者「名前が……ない?」

リノン「おかしいと思わない?
魔法職、戦士職、僧侶職だった三人の勇者のお付きの名前がリノン、ルシエル、アガータだなんて全く職とは関係のない名前なんて」

勇者「もしかして……」

リノン「そう。元々名前とは個別にあるものだった。どの職だろうが、その名前は変わることはない」

勇者「ちょっと整理させてくれ。んーえ~……とつまりだ。昔は人の呼び名をバラバラにすることで呼ばれた時にそれが自分だとわかるようにしてた、ってことか?」

リノン「そう」

勇者「んで今は職ごとに別れた共通の呼び名だけど呼ばれればそれが自分のことだとわかる、ってことか」

リノン「そう。勇者は物分かりが良い」ヨシヨシ

勇者「まあな! じゃなくて! どうやってやったか~はこの際いいや。あんたなら何が出来ても不思議じゃないし」

勇者「しかし何でそんなめんどくさいことを? 後それが真の勇者になれない理由と何か関係あるのか?」

リノン「前者の答えは……勇者がもっとも苦しんでいたのが、自分の名前が消えることだったから」

リノン「勇者になった瞬間に彼が元々持っていた名前はなくなり、勇者としてしか見られなくなった」

リノン「自分が消えていくのがたまらなく怖かったと……言っていた」

勇者「それはまあ……わかるな。俺もそうだった」

リノン「だから私は長い時間を掛けて個別の名前をなくして行った」

リノン「職制度を作ったのは私達だったからそうするのも比較的楽だった。ルシエル達には最後まで反対されていたけれど…」

リノン「でも、そのおかげで次の勇者には仲間がたくさん出来た。職を極めた者達が自分の実力を試す為にこぞって勇者のお付きを進言する程だった」

リノン「そして勇者は、もう名前で迷うことがなくなった」

リノン「名前はもはやその人に分類されたカテゴリーを読み上げるようなモノとなっていたから。役割名、の方がわかりやすいかもしれない」

勇者「良くわからんがそれによって三代目勇者が懸念してたことが解消されたってことだろ?
良かったじゃねぇか!」

リノン「その点だけ見れば良かったと言える、けど、それが真の勇者を生み出すことを阻害している可能性がある……そしてそれはあなたを見ていて確信に変わった…」

勇者「なるほど、そこで俺が関係してくるのな」

リノン「そう、それがさっきの後者の答え」

リノン「現に三代目勇者から、あなたまでは一人もその剣を抜くことは出来なかった」

勇者「って言っても俺と三代目勇者との類似点、俺と他の勇者と違う点ってあるか?」

リノン「それが……唯一わからない。剣は抜けたのに剣と共鳴をしていない……まだ何か足りていないのかも」

勇者「でもさ、よくよく考えたら……もういいんだ。今更真の勇者だなんだって言われても」

勇者「そんな力があっても守るものがないんじゃ……」

リノン「……もしその力で、僧侶を守れるとしたら……どう?」

勇者「!!!??」

勇者「な、何言ってんだ……僧侶はもう」

リノン「あなたを、あの時に送る」

勇者「そっ、そんなこと出来るのか?!」

リノン「私の今まで世界とはズレいた時間を動かせば、その反動である程度なら過去にも送れるはず」

勇者「でも……そんなことしたらお前が」

リノン「……少しだけなら大丈夫。またすぐに時間を止めればいい」

勇者「じゃ、じゃあ今すぐにでも!!!!!!!」

リノン「でも、肉体そのままを送ることは出来ない」

勇者「つまり……?」

リノン「魂は時間の概念を受けにくいからこそそれが出来る。だから……もし戻るのなら、今ままで生きてきたあなたの肉体は死んでしまう…」

リノン「それでも、あなたは僧侶を守りたい?」

勇者「……俺の意識だけが過去の俺に飛ぶって考えでいいのか?」

リノン「そう。上手く同化出来るかは賭けになるけど……最悪どこにも戻れず魂のままさ迷うことになるかもしれない」

リノン「それでも……」

勇者「行くに……決まってんだろ!!!!!!!!!!!!!」

リノン「あなたなら、そう言うと思ってた」クスッ

勇者「あいつとまた会えるなら何だってするさ。勇者やめて魔王になれって言われもやるぐらいだぜ!」ニヤッ

リノン「フフ。でもこのままあなたが行くだけじゃ結末は何も変わらない。だからあなたは思い出さないといけない、自分の本当の名前を」

勇者「俺の本当の名前?」

リノン「ユノリアに名前をつけたのを見て、あなた達には名前本来の概念があるのに気づいた」

リノン「ずっと昔、勇者になる前……誰かに名前をつけられなかった?」

勇者「名前……名前か」

勇者「う~ん……思いだそうとするとモヤモヤするな」

リノン「……そう。でもきっと大丈夫、向こうへ行く前に思い出すはずだから」

勇者「……本当に、戻れるのか?」

リノン「魔導使いに不可能はない」

リノン「じゃあ、行くよ。目を閉じて、勇者」

リノン「……時よ、動き出せ」

カチッ──

リノン「ッッッ……っう、ぅ」

勇者「リノン?! どうかしたか!?」

リノン「目を開けては駄目。大丈夫、あなたはただ僧侶のことだけを、帰る場所だけを思い描いていて」

勇者「……わかった!」

リノン「…………勇者、本当にありがとう」

勇者「礼を言うのは俺の方だよ。このお礼はあっちで必ず返すからな!」

リノン「……楽しみにしてる」

リノン「さあ、行きなさい勇者。あなたが一番救いたかった者の所へ」

リノン「──オメガルーラ」

肉体と魂が分離し、勇者の魂は虚空へと飛び去った──

リノン「……さよなら、勇者。もう会えないのは残念だけど、彼が待ってるから……行かないと」

リノン「長い間待たせてごめんね」

リノン「今行くからね、ロト──」

──真っ暗だ

何も見えない。
俺はどこへ向かって進んでいるんだろう。

俺は……誰なんだろう。

「なんだ、迷子か?」

誰?

「うちのが世話になったから道案内をしてやろうと思えば……勇者とはこんなにも抜けているものなのだな」

いや、そんなこと言われても……本当に見覚えがないので……

魔法使い「魔法使いだ。盲目のじいさんの相方とでも言えばわかるか?」

え、あ……ああ!!!
何でこんなところに?

魔法使い「それはこっちのセリフだよ」

あれ? もしかして俺死んじゃったのか?

「いや、君の魂はまだ光輝いてる。還るべき場所へ行けば大丈夫だろう」

神父さん……。

神父「久しぶりだな勇者。君は相変わらず無茶ばかりする」

「ほんと誰に似たのかしらね」

母さんまで!!!

「ほら、女の子を余り待たせるものじゃありませんよ」

……そうだ、俺は僧侶のところへ行かなきゃ!

「あの子があなたに付けてくれた名前、ちゃんと思い出した?」

うん。

何で忘れてたんだろうな。
僧侶はいつも俺のことを呼んでくれてたのに。
勇者としての俺じゃない、俺を。

まさかあんな些細なことが真の勇者になるならないと関係してるなんて……。

────

「これから二人で色々な冒険をするために職を決めなきゃだ!」

「しょくぅ?」

「職がないと魔王を倒せないんだぞ!」

「まおうなんて倒せなくていいです……怖いもん」

「大丈夫! 俺はゆうしゃだからな! ゆうしゃは最強なんだ! 今なった!チャキーン!」

「ゆーしゃ?」

「ゆうしゃ!」

「ゆーしゃ!」

「もうそれでいいよ! 俺はゆーしゃだからな! お前はどうする?」

「可愛いのがいい!」

「ん~……じゃあそうりょとかか」

「……あんまり可愛くない」

「えぇー……」

────

「全部可愛くないっ! 可愛いのがいいもんっ」

「全職拒否かよ! わがままだなぁ。ん~~~じゃあ……そうだ!」

「じゃあ僧侶と賢者を足して更に可愛らしくして……──」

「わぁ、それならいいよ!」

「決まりだな!!!」

「行くぞ! ───!」

「はいっ! ゆーしゃさま!」

「思えばあれが俺達最初の門出だったんだなぁ」

暗闇のトンネルの先に、一つの光が見える。

魔法使い「大切な人を待たすものじゃない。早く行ってこい、勇者」
神父「君を一番待ち望んでいる人の元へ」
「誰でもない、あの子だけのゆーしゃさま。守ってあげなさい。あなたの全てをかけて」

勇者「うん。行って来るよっ!」

その光へ向かって、真っ直ぐに飛ぶ──

「рстъшсклмнх!!!!!」

勇者「なんだぁ!?」

黒い魂が勇者の後を追い掛けて、その光へと向かう。

勇者「魔王か!?」

魔王「勇者ァァァァァ貴様だけはこの手で殺すゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

勇者「執念深いこって。いいぜ、魔王! 決着つけてやるよ!!!」

勇者「最終決戦と行こうぜ!!!!!!!!」

二つの魂は、同時にその光を抜けた──









プロローグ


そして 伝説へ

────

勇者「行くなあああーーーー!!! 僧侶おおおおおおッッ!!!!!!!」

バカ野郎!!! 離れたくないならこんなところでへばってんじゃねぇぞ!!!!!

勇者「なっ、なんだ!?!?!?」

走れ!!!!! 今走らなくていつ走るんだよ!!!!!

勇者「俺だってそうしたい……!!! けど、体が少しも動かないんだ……」

チッ、世話がやけるな。

ちょっと失礼──

勇者「?」

お前はもう十分暴れただろ! オラッ! さっさと成仏しろ二代目!
仇は俺がとってやる!!!

勇者「なにやってんだ?」

よし、これで神託の証の力もフルで使えるはずだ。

勇者「お前は……一体」

俺はお前だよ。ずっと遠くから、あいつを守る為だけに来た!!!

勇者「!!!」

だから、行くぞ……!
他の誰でもない、あいつを守るためだけに!!!!!

勇者「ああ!!!」

勇者「「」」

勇者「よし、同化は上手くいったみたいだな!!!」

『イカセナイ……勇者……あなたには、絶望を』

勇者「うるせぇどけ!!! 勝手に一人でやってろ!!! 今はお前に付き合ってる場合じゃねぇんだよ!!!」

ダッ──

僧侶から光が溢れ、全てを呑み込んで──

勇者「何勝手に一人で終わらそうとしてやがんだよオオオオオオオッッッ!!!!!!!」

勇者「ソウニャアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

僧侶「!!!!!!」

僧侶「ゆーしゃさま……どうして、その名前を」

勇者「なことは関係ねぇ!!!!! 行くな!!!! 俺から離れるな!!! ここに居ろ!!!」

僧侶「……もう、何もかも遅いんです」

僧侶「魔王を倒すにはこれしかなかった……だからっ!!!!!」

勇者「どうにもならないことなんてこの世界には、いや、少なくとも俺にはねぇぇんだよっ!!!!!!!!」

勇者「僧侶を守って魔王も倒して世界も救って全てハッピーエンドだ!!!!!」

僧侶「そんな夢のような……」

勇者「ところがどっこい!!! それがなああああああああ!!!!!!!!」

勇者「真の勇者の俺には出来るんだよォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!」

僧侶「……むちゃくちゃです、ゆーしゃさま」

勇者「むちゃくちゃだっていいさ。こうしてまた会えたんだから……」

光に、包まれる──

僧侶「最後に……思い出せて……良かった」

僧侶「ゆーしゃさまが付けてくれた、私の本当の名前……」ニコッ

勇者「信じろ、ソウニャ!!! 俺達が歩んできたこの世界を!!! 守ろうとして来たこの世界を!!!」ギュッ


勇者「頼む、奇跡よ……起こってくれ!!!」


──勇者の懐にあった


命の石が、砕け散った!!!


ズオオオオオオオオオオオオオオオ──

────

勇者「ゲッホゲッホ……ソウニャ!? いるか!!?」

僧侶「……居ますよ、居られてます……ゆーしゃさま」

勇者「へっ。泣くのはまだはえーよ」


魔王「ククク、二度も喰らうものか……」

僧侶「魔王……!」

勇者「そうこねぇとな!」

魔王「あちらの世界では遅れを取ったが……今の貴様なら……」

魔王「オ、オオオオオオオ……オオオオオオアアアアアッ!!!!」

魔王の体がみるみる変貌して行く!!!

魔王「覚悟しろ勇者アアアアアアア!!!!! 貴様らの魂もろとも燃やし尽くしてくれよう!!!!!」

勇者「立てるか?」
僧侶「はいっ」

勇者「んじゃあまあ……行くとしますか!!!」
僧侶「はいっ!!! ゆーしゃさま!!!」

魔王「ウガアアアアアアアア!!!!!!」

勇者「前衛は任せろ!!!」
僧侶「後衛は私が!!!」

魔王「こざかしいわ!!!」ブォォオオッ

魔王は灼熱の息を放った!

僧侶「させない!!! バイバーハ!!!」

魔王「なにぃぃぃ!?」

フバーハを二重に張り、灼熱の息を防ぐどころか魔王へ跳ね返す!

勇者「すげぇぞ僧侶!!! お前天才か!!?」

僧侶「えへへっ もっと誉めてくださいゆーしゃさま!」

勇者「更に行くぜ!!!」

僧侶「ゆーしゃさま! 補助を!」

僧侶「スピオキルト!!!」

勇者の防御、素早さ、攻撃力が上がった!!!

勇者「みなぎってきたああああッッッ!!! オラァッ!!!」

ブォォォオオオンッ──

ズシャァァァアアッ──

魔王「ぬうおおおおッッッ」

魔王を肩口からバッサリと切り裂いた!

魔王「ハアアアアア」

魔王はめいそうをし、体力を回復した!!!

勇者「回復まですんのかよ!!!」

魔王「無駄無駄無駄アアアアアアア!!!」

勇者「ソウニャ!!!」
僧侶「はいっ!!!」

勇者と僧侶がお互いの手を合わせる、

勇者僧侶「イオラゴン!!!!!!」

勇者のベキラゴンに、僧侶のイオナズンが合わさり、魔王を爆破炎上させる!!!

魔王「こざかしい……!」

魔王の視界が晴れ、勇者達を忌々しく睨み付ける。

勇者「真の勇者に伝わりし究極魔法を使う!!! それまで援護してくれ!!!」

僧侶「はいっ!!! では私が前衛を!!!」

魔王「(ククク……僧侶が前衛など。その間にまた消し飛ばして絶望に叩き込んでくれる!!!)」

僧侶「はあああっ!!!」ブンッ

魔王「フンッ! 効か」

ザッブシュッブシャアア──

魔王「なにいいいいい!!!?」

僧侶「ふふふ……見くびりましたね魔王!」

勇者「目に見えてるものがいつも真実とは限らない……」

僧侶「そういうことだ!!!」ボワンッ
勇者「へっへ、モシャスでした~」

ボワンッ

僧侶「でした~」

魔王「貴様らああああああッッッ!!! この我をこけにしおってぇぇぇぇぇぇぇぇ」

僧侶「 そしてぇぇぇ究極魔法お待たせしました!!!!!!!!!」

僧侶「全ての魔力よ……ここへ!!!!」

僧侶「マダンテ!!!」

僧侶の魔力が暴走する!!!

魔王「バカめ!!!!! 全て跳ね返して──」

僧侶は魔王に直接は撃たず、少し斜め前にいる勇者に向かってそれを撃った!!!!!

勇者「マホカンタ」

勇者はそれを角度調整しながらマホカンタで受け流し、

勇者「全部跳ね返して── がなんだって?」

魔王「またしても……またしてもかあああああああああああああ」

ズオオオオオオオオオオオオオオオゴォォォォォォォオオオオオオオン────

プスプス……

魔王「許さん……許さんぞ……こんなことは……! 我が負けるなど……!」

勇者「さすが魔王しぶといな」
僧侶「ゆーしゃさま、とっておきで行きましょう」

勇者「¨アレ¨ か」
僧侶「¨アレ¨ですよ。ふふふっ」

勇者が、勇者の剣をくるっと回し、逆手に持つ。

勇者「いくぜぇぇぇぇソウニャ!!!!!」

僧侶「はいっ!!!」

僧侶「水よ、我らを癒す光となれ」

二人の体力、魔力が全開する

僧侶「風よ、彼の者に神速の加護を」

シュバッ──

駆ける、一直線に

僧侶「火よ、彼の者に猛き豪火を」

勇者を豪火が包み込む──

僧侶「地よ、悪しきものの枷となれ」

魔王「ぬぅぅぅん!?」

大地が、魔王をガッチリと捉える

僧侶「雷よ、彼の者の剣に宿れ!!!」

落雷が勇者の剣に当たり、紫電を放つ

勇者「来れ、光の剣!!!」

光の剣が勇者の剣を包み込む

勇者「ギガデイン──」
更に勇者の雷が、剣に宿る!!!!!

勇者「刮目せよ──」

勇者「これが……!!!!!!!!!!!」

それを、一気に魔王に振り抜いた────

勇者僧侶「勇者と僧侶の必殺技……!」

勇者僧侶「「ユーシャ・ソウニャ!!!!!!!!!!!!!!!」」

魔王「ウオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォ……」

魔王の魂すら斬り割いた一撃は、そのまま空を裂き、

西の大陸に再び光をもたらした──

────

勇者「終わったんだな……本当に、これで」
僧侶「はい。何もかも……終わりました」

勇者「ソウニャ……ソウニャっ!!!」ギュッ
僧侶「ゆーしゃさま!!!!」ギュッ


ユノリア「クルルル~♪」バサッバサッ

勇者「ユノリア!!! 来てくれたんだな!!!」

ユノリア「クルルルゥ!」

僧侶「ゆーしゃさま……帰りましょう。私達の生まれたあの村に」ニコッ

勇者「ああ……そうだな」ニッ

バサッバサッ──

勇者「あっ、いっけねぇ魔王倒したらまず各地回って報告しなきゃいけなかった!」

僧侶「吉報を待ちわびてる人達もいるでしょうから……村には最後に帰りましょうか。ではどこから行きましょう?」

勇者「せっかく帰宅ムードだったのになあ……」

ユノリア「クルクルルゥ~」

勇者「なに? 任せろって?」
僧侶「?」

ユノリア「クルルルッ」

勇者「しっかり掴まってろってさ!」
僧侶「きゃっ」

ブォォッバサッバサッ──

港──

戦士「西の船を出してくれ!!! 頼むよ!!!」

船長「そんなこと言われてもねぇ……あそこには魔王が」

魔法使い「魔王は勇者君が絶対倒すから! 大丈夫!!!」

船長「なら魔王討伐の吉報が来てから行けば……」

戦士「それじゃ!!!」
魔法使い「遅すぎるの!!!」

戦士魔法使い「「他の奴らにお宝とられたらどうすんの!!!???」」

船長「いや知らんがな」

魔法使い「もう船長さんは頭が硬いなぁ……仕方ない、ここは私のお色気という魔法で」

船長「プーン」

魔法使い「なにそのどうでもいいわ、みたいな目!? 傷ついた! こうなったら船を出すまで……」

戦士「魔法使い……あれ!!!」
魔法使い「何々? 今ちょっと忙しい……わぁ……綺麗」

中央大陸城──

騎士「周囲問題ありません!」
義勇兵「町中も問題なしですぜ!」

ロミオ「よし、一時帰宅を許可しよう! 念のために皆さんにはまだ護衛をお願いします」

騎士「はっ!」
義勇兵「あいよ!」

オカマ「やっと帰れるのね~。久しぶりに暖かいベッドで寝られるわ」
旅僧侶「まるで教会のベッドは硬いみたいな言い方だな」

騎士「ロ、ロ、ロミオ様!」

ロミオ「どうした!? なにかあったか!?」

騎士「あ、あそこをご覧ください!!!」

ロミオ「あれは……!」
ジュリエット「なんと美しい」
オカマ「あらやだ綺麗!」ギュッ
旅僧侶「ちょ、なんで抱きつくんだい?!」

壁の国──

砂漠の王「奇跡的に怪我人なし、全く俺達が来た意味なかったな」
武の王「全くだのう!!! ガッハッハ!!!」
壁の王「ふん、我が国の壁はどこぞの武器バカの国と違って鉄壁でな」

武の王「オオオオッ!!? 今武器バカ言うたのう貴様!? 喧嘩なら買うぞ壁王!!!」
砂漠の王「まあまあ」

南の王子「……! 皆さんあれを!!!」
武の王「な、なんじゃああの虹色に光るもんは!?」
壁の王「ふっ……本当にやりおったか、あやつ」
砂漠の王「大したもんだ……勇者ってやつはほんとに」

少年「お~~~~い!!! 勇者~~~!!!」ぶんぶんっ

────

『ちょっと外に出てみろ』

「な、なんじゃ? 今誰かの声が……」

『いいから早く出てみな』

「まさか……魔法使いか?」

バタンッ──

「独りでに扉が……全く老人を急かしおるわい」


「それに目が見えんこの老いぼれに何を見ろと……おお……なんと」

「見える、見えるぞ……虹色に輝く伝説の精霊に股がりし者達が」

──海沿いの村

弟「賢者お姉ちゃんお姉ちゃん!」

賢者「なんだまた鬼ごっこか? それともくるみ蹴りか? さっきやっただろう少し休ませて──」

妹「違うの! お空が変なの!」

賢者「まさかまた魔物が……!」

娘「いえ、違います。あの光はもっと……優しい」

賢者「虹色に輝く……伝説の鳥……」

賢者「そうか、そうかそうかそうかあいつらやりやがったかチクショウ!!!」ギュッ

弟「どうしたんだよ賢者の姉ちゃん!」
妹「凄く嬉しそう!」

賢者「嬉しいさ!!! また世界を旅できる……! 最初からやり直せるんだ」

賢者「こんなに嬉しいことはないさ!」

娘「ありがとう……勇者さん。僧侶さん」

勇者「いやっほおおお~~い!」

ユノリア「クルルッルッ~♪」

僧侶「目が回ります~」

虹の光をバラ撒きながら、ユノリアは世界全土を旋回した。

勇者「よ~しでかしたユノリア! これで大体伝わったろうし村に直行しても怒られないだろ!」

ユノリア「クルルゥ♪」

僧侶「もうゆーしゃさまったら。後で怒られても知りませんよーだ」

勇者「あ、ちょっと用事思い出した!!! 先帰ってて!!! ルーラ!!!」ビュォーンビュォーン

僧侶「え、ちょっ! ゆーしゃさま!?」

僧侶「せっかくの凱旋なのに一人で帰れなんて……」

僧侶「ほんとに自由って言葉が似合う人だと思わない? ユーノちゃん」クスッ

ユノリア「クルルルッ!」

始まりの村──

バサッバサッバサッ

「おおおお帰って来たぞ!!!」
「勇者と僧侶か!!!???」
「すげぇなんだこの鳥めっちゃ綺麗!」

僧侶「あぅ……一人しかいないってわかったらがっかりされそう」
ユノリア「クルルゥ……」

僧侶姉「お帰り、僧侶」

僧侶「姉上!」

勇者の父親「お帰り、僧侶ちゃん」

僧侶「ただいま戻りました! 叔父様!」

僧侶姉「あれ? 勇者は?」

僧侶「それが……その」

勇者の父親「まさか……あいつッ」
僧侶「い、いえ違うんです! ちゃんと無事に」

ビュォーンビュォーン
スタッ──

勇者「っとっとっとっ、到着!」

勇者「いよう親父! ただいまっ!」

勇者の父親「全くお前と言うやつは……心配かけやがって!」グリグリグリッ

勇者「いてぇぇっ! 死闘から帰って来た息子に一番にすることがそれかよっ!!!」

僧侶姉「ふふふ」
僧侶「みんなに心配かけた罰ですよ! ゆーしゃさま!」

「あはははは! 違いねぇ!」

「勇者になって魔王を倒してもなんも変わらんのうお前さんは」

「そうさねぇ。ほんとにこんなのが魔王を倒したのかしら」

わいわいがやがや

アガータ「やっぱりお前は大したやつだよ、ユーシャ」

僧侶「さっ、ゆーしゃさま。王様に報告しに行きましょう!」

勇者「その前に……ちょっとだけ寄り道させてくれ!」パシッ

僧侶「えっ?」

勇者「ルーラ!!!」ビュォーンビュォーン


僧侶姉「ようやくってところかしらね」

勇者の父親「全く何年待たせてんだあいつは」

アガータ「俺とあいつの馴れ初めにそっくりだな。ハッハッハ!」

勇者の父親「兄さん!? 生きてたんですか!?」

アガータ「勝手に殺すな。さて、やることもなくなったし明日からまた職探しだな」

僧侶姉「ふふっ、叔父様。我が教会は信仰心が深い方をいつでも募集してますよ?」

アガータ「この歳で僧侶は勘弁してくれッ!」

村が一望出来る蓮華畑──

僧侶「一体どうしたんですかゆーしゃさま? こんなところに連れてきたりして」

勇者「それは~……だな、うん、あの、な、ほら、えっと」

僧侶「んん? 何か隠してます?」

勇者「」ビクッ

僧侶「その手に持ってるのは……」

勇者「そ、っそ、ソウニャ!」

僧侶「はい?」

勇者「……始まりがここだったから、また始まるのもここからにしたかったんだ」

僧侶「どういう?」

勇者「ソウニャ。……俺と、結婚してくれないか?」

差し出された四角い箱の中には、光輝くダイヤモンドの指輪が入っていた。

僧侶「ゆーしゃ……さま?」

僧侶「ゆーしゃさま……」ポロポロ

勇者「なっ、なんで泣くんだよ」

僧侶「ごめんなさい……でも、嬉しくて……嬉しすぎて……それでも、涙って出るんですね」

勇者「そういう場合どうしたらいいんだ俺は? 抱き締めればいいのか? 一緒に喜べばいいのか?」

僧侶「そういう時は……」

僧侶「キスしてくださいねっ」ニコッ

勇者「はは、そう来たか」

僧侶「んむぅ……」

勇者「それで、答えは?」

僧侶「勿論お受け致します、私のゆーしゃさま」ニコッ

────

ビュォーンビュォーン

勇者「さって王様に報告しに行くか!」
僧侶「ですねっ!」

僧侶姉「式は勿論中央大陸の教会で華々しくあげるとして」
アガータ「貯金あったかな……」
勇者の父親「兄さん……」

勇者「あれはほっといてさっさと行くぞ」
僧侶「はい」


全ての旅を終えたことを王様に伝えに行こうとした、

その時だった────

グラグラグラグラ──

勇者「なっ、なんだっ!?」
僧侶「地震っ!?」

『聞こえるか、地上の者共よ』

勇者「こいつは……!」
僧侶「まさか……!」

『我の名は、大魔王、ゾーマなり!!!!!』

勇者「おいおい……」
僧侶「魔王の次は大魔王……ですか」

勇者「でもまあ俺じゃなくても……」

『長き眠りから目覚めた我を止めてみよ!!! 強き者、勇者よ!!!』

勇者「やべぇ名指し入った!」
僧侶「あちゃー回り込まれちゃいましたね」

『光の届かぬ世界で待つ!!! フハハハハハ!!!』

勇者「さて……どうしたもんか」
僧侶「そんなこと言って、本当は決まってるくせに。ゆーしゃさま」

勇者「まあ、な」

王様「さっきのはなんじゃ一体!?」

勇者「あっ、王様。ちょうど良かった」

勇者「次は魔王の上を行く大魔王が現れたみたいなんで、ちょっとまた二人で行ってきます」

僧侶「行って参ります!」

王様「なんとっ!? しかし魔王を倒した勇者なら、必ずや大魔王をも討ち滅ぼすだろうて!」

勇者「全く何人魔王いるんだよ……」
僧侶「ゆーしゃさま、大魔王ですよ大魔王! 凄い強いんでしょうか」

勇者「まっ、何が来ようと負ける気はしねぇけどな」
僧侶「ですね!」

勇者「ってわけで行ってくる! みんな!」

「おう! 大魔王にガツンとやってこい!」
「ちゃんと睡眠とるんだよ?」
「餞別じゃ、持っていけ」

僧侶「ありがとうございますっ!」

僧侶姉「結婚式はしばらくお預けかしら?」

僧侶「もう姉上ったら!」

アガータ「俺は早く孫が見たいぞユーシャ!」
勇者の父親「その前に職を探そうな兄さんは」

勇者「よしっ行こうぜ僧侶!」
僧侶「はいっ! ゆーしゃさまっ!」

村の出口へと歩く二人。

その横を小さな男の子と女の子がすり抜けて行く。

その更に後ろを、成りたての勇者と僧侶が。

勇者「へっ、負けるかよ!」

その幻影を追い越して、二人は三度……ここから冒険へと繰り出す。

おしまい

9.28に立ててるのでもう9ヶ月ぐらい経ってたんですね~半年ぐらいだと思ってました!

本当に長い間お付き合いしてくださってありがとうございます!
こうして無事完結出来たのも読んでくれた人達のおかげです!

本当はドラクエの4コマ漫画みたいなの書こうと思ってたら何故かこんな長くなって……

勇者は勇者になった瞬間しっかりしてるイメージがあったので勇者になってからも成長する話を書きたかったのでそれっぽくなって良かったなと思います

どこか矛盾点とか変なところあったら補足しますね!

次はタイムトラベルものか種族対立ものかヤンデレなやつのどれか書こうかなとか思ってます
また見かけたら読んでくれたら嬉しいです

本当に長い間ありがとうございました!

寝ます!



俺たちの戦いはこれからだ…?

終わってしまった
とても楽しかった


気になったのは城で修行してたのに最初の旅立ちで死にまくったとこかな

さて読み返すか

>>274
この二人はずっと冒険してるのがあってると思ってこうなりました!
ゾーマ編はありません!ご了承ください!

>>275
勇者になるために修行したけど勇者になってまたレベルが1に戻った!って感じです

後なるべく勇者、僧侶、賢者でしか使えない呪文しか入れませんでしたが気分で使えないのも入れてます
合体魔法とかは大体ロト外伝のやつですね

こんな朝早くに読んでもらえるなんてありがたい!

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