ぬ~べ~「現象だろうがなんだろうが夜見山北中の生徒たちは俺が守る!」 (160)

※地獄先生ぬ~べ~とAnotherのクロスになります。設定は変更されている所もありますのでご容赦ください。


オープニング

http://www.youtube.com/watch?v=vZqiIIhI1NQ


この世には目には見えない闇の住人たちがいる。

奴らはときとして牙をむき君たちを襲ってくる。

彼は・・・そんな奴らから君たちを守るため地獄の底からやってきた正義の使者―――――なのかもしれない。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403523133

1998年4月某日

久保寺「もうたくさんです。とても私にはあのクラスを持つことはできない!辞めさせてもらいます!」

校長「お、落ち着きたまえ、久保寺先生!」

久保寺「うわああああああああっ!」


教頭「弱りましたな、校長。まだ始業式から2日もたっていないのにまさか3年の担任がいなくなるとは」

校長「ただのクラスではない。君も知っているだろう?夜見山北中の3年3組はあの曰く付きのクラスなのだ。学校の立場としてはそのようなオカルトを認めるわけにはいかんし」

教頭「しかしどうされます?他の教員を割り当てようにも今さら学校内の人事を変えるわけにもいきませんし」

校長「それに3年3組はあの『災厄』の件についての引き継ぎがあるからな」

教頭「本来ならば事情を知る久保寺先生がやるべきなのですが、肝心の先生があの精神状態では・・・・・・」

校長「・・・・・・一つ当てがある。前々から噂を聞き九州から来てもらうよう交渉をしていたんだが―――」

1998年5月某日 夜見北山中3年3組

勅使河原「久保寺の奴、始業式から全然学校にこねえなあ」

綾野「それがさあ、ウチの母親から聞いたんだけど久保寺辞めたっぽいよ」

勅使河原「マジかよ!?じゃあ一年間ウチ担任無し?受験なのにどうすんだよ」

望月「一応は休職扱いみたいだけど、副担任の三神先生が代理するのかな・・・・・・」

綾野「ううん、なんか新しい先生が来るんだって」

小椋「受験よりもウチの3組はあれでしょ。今年は4月に死者が出なかったから『ない年』かもしれないけど」


風見「赤沢さん、新しい先生がくるとして『対策』の方は・・・・・・」

泉美「もちろん継続するわ。幸い死者は出てないんだし、やめる理由なんてないじゃない」

桜木「三神先生はちゃんとあのことを伝えてくれるんでしょうか?」

杉浦「クラスの決めごとは絶対よ。それは暗黙裡とはいえウチの学校が認めているんだし、そうしてもらわなきゃ困るわ」

泉美「それにしても久保寺先生には失望したわね。いくら命が惜しいからといって真っ先に逃げ出すなんて・・・・・・」

恒一(・・・・遅れて入学したから理由は分からないけど何なんだ?このクラス。担任の先生はいないし、対策係なんてよく分からないものがあるし、それに・・・・・・)チラ

鳴「・・・・・・・」

恒一(あの見崎って娘をみんな露骨に無視している。本人に話しかけても『私には近寄らない方がいい』って言われるし、クラス全体が妙にギスギスしているんだよな)

恒一(なんというか・・・・・なんて言ったらいいんだろう、この感じ)

猿田「先生がきたぞな、みんな早く席に着くぞな!」

綾野「やばっ!」ガタガタッ

コツ・・・コツ・・・コツ

???「南無大慈大悲救苦救難広大霊感・・・・・」ボワーン

勅使河原「な、なんだ、お経か!?」

小椋「ひ、火の玉!?」

???「フフフ・・・神秘と恐怖、幻想と怪奇の教室へようこそ」

ガタガタッ

???「・・・・・・・ん?」

???「あ、あれ?(ガタガタッ)ふんっ!(ガタガタガタッ)」

望月(引っかかってる・・・・・・)

???「こなくそっ!(ガタガタッ)ふんぬぬぬぬぬっ!(ガタガタガタッ)・・・・・・はっ!?」

ブラーンブラーン

???(し、しまった!火の玉がこっちに!)

ゴオオオオオッ!

???「ギャアアアアアッ!あづいいいいいいっ!」

「うわあああああああっ!!!」「キャアアアアアッ!!」

???「あ、頭が燃えるっ、だ、誰かっ、消火器!消火器をくれえっ!」

勅使河原「いきなりなんなんだ、この人!」

風見「とにかく消火器を向けるんだ!早く!」

泉美「馬鹿じゃないの・・・・・・」

恒一(本当に大丈夫なのか、このクラス)

鳴(これも現象?)

プスプスプス

「(ゴホン)え~、というわけで俺が今日から君たち3組の担任となる鵺野鳴介だ。人呼んで────」

ぬ~べ~「地獄先生ぬ~べ~だ」キリッ

「・・・・・・・・」「・・・・・・・・」「・・・・・・・・」シーン

ぬ~べ~(あ、あれ?童守小の時はここで笑いが起きたんだが)

綾野「せんせーい、質問がありまーす」

ぬ~べ~「お、おお、なんだ?」

綾野「地獄先生ってどういう意味ですかー?」

ぬ~べ~「ふふふ、よくぞ聞いてくれた。先生は日本でただ一人の霊能力のある教師。どんな悪霊相手でも君たちを命がけで守る。それが地獄先生ぬ~べ~なのだ!」

勅使河原「れ、霊能力教師?」

望月「・・・なんか怪しい宗教の勧誘でよくあるフレーズだね」

「というかただのインチキでしょ」「ぬ~べ~ってなんだ?森永ぬ~ぼ~のパクリ?」「大体なんで頭に火の玉なんかつけてんだよ」「ついに学校側もこのクラスを見放したのか」「フェアじゃないね」ザワザワ

ぬ~べ~「ま、まあ信じる信じないは人の自由だからな」ヒクヒク

有田「先生、悪霊を退治できるって本当ですか?」

ぬ~べ~「ん?」

有田「なら私のこの人形を助けてください。この人形は夜中になると髪が伸びる呪いの人形なんです」

恒一(なんでそんなモノを学校に持ってきているんだ?)

泉美(ただでさえ呪いという言葉に皆がナーバスになってるのに・・・よくもまあそんなイワクありげなものを持ってきてくれたわね)ワナワナ

ぬ~べ~「・・・いいだろう」

サッ

ぬ~べ~「この白衣観音経で喝をいれれば大抵の霊は成仏する。さあ呪いの人形よ、いくぞ!」

多々良「・・・先生、私は人形じゃありません。人形はあっちです」

ぬ~べ~「おお、そうか、こっちだったな」

勅使河原(ひでえ)

ぬ~べ~「この人形に宿る悪霊よ。我が力において退散せよ」ゴゴゴゴ

3組一同「・・・・・・・・」ゴクリ

ぬ~べ~「はあーっ!(バシイ)ほあーっ!(バシイ)とおあーっ!(バシイ)」

3組一同「・・・・・・・・・・・・」

ぬ~べ~「(ハアハア)で、できた」

3組一同「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ぬ~べ~「こ、これでもう人形が髪を伸ばすことはないだろう」

ハゲ人形「・・・・・・・」ツルピカーン

ぬ~べ~「・・・・・もう、絶対に」

有田「わ、私の人形が」バターン

多々良「ああっ、松子!しっかりして!」

恒一(本当に大丈夫なのか?この人)

泉美(最悪だわ)

鳴(絶対にウチの店には近づけないようにしよう)


ぬ~べ~「ア、アハハハ、それじゃ呪いも無事に解けたということで出欠確認をしようか。今から名前を呼ばれた人は大きな声で返事しろよー」

杉浦「泉美、どうするのよあの人」

泉美「い、いいのよ、霊能力教師だろうと無能力教師だろうとクラスの決めごとに従ってくれるなら」

風見「・・・まあ一応三神先生もいてくれるしね」

勅使河原「このクラスを受け持つならあの呪いのことも聞いているだろうしな」

ぬ~べ~「藤巻ー」ハイ「前島ー」ハイ「松井ー」ハイ

恒一(まただ。このクラス。また呪いがどうこうとかの話をしてる)

ぬ~べ~「見崎ー」

「!?」

赤沢「あ・・・あ・・・」

ぬ~べ~「んー、どうしたー、休みかあ?見崎ー」

鳴「・・・・・・」

勅使河原「お、おい・・・・・・」

ぬ~べ~「えーと、見崎の席は・・・・・なんだちゃんといるじゃないか。呼ばれたら返事をしろと言っただろ?」

桜木「そ、そんな・・・・・・」

ぬ~べ~「おお、見崎の名前は鳴っていうのかー。先生の鳴介と同じ字だな。もしかしてこっちを呼んだ方がよかったか?」

鳴「・・・・・・」

泉美「ちょ、ちょっと先生っ!」

ぬ~べ~「んー、どうしたー?」

泉美「どうしたもこうしたも──」

ガラガラッ

怜子「遅くなりました。鵺野先生」

ぬ~べ~「はっ!」

ぬ~べ~「おおおっ、あ、あなたが三神先生ですかっ!」

怜子「は?あ、はい──」

ぬ~べ~「写真で見るより何倍もお美しい!素晴らしい!まさにサキュバスのごとしだ!」

怜子「はあ、サキュバス?」

ぬ~べ~「夢の中に現れて性交を行うとされる別名夢魔ともよばれる悪魔ですよ。襲われる人の理想の異性像で現れて相手とセックスしつつその精気を全て吸い取るんです。幼少期には男性、女性どちらかを選択する必要があって──」

怜子「失礼します」ガラガラピシャッ

ぬ~べ~「あれ?」

望月(なんというセクハラ発言)

恒一(あれで褒めてるつもりだったのかな?)

休み時間

杉浦「どういうことよ!何考えてるのよ、あの0能力教師!」バンッ

風見「久保寺先生や三神先生が伝えていなかったのかな?普通に呼んでいたね、その『いないもの』のことを」

泉美「頭が痛いわ。これから一年間現象対策をしていかなければならないのにあんな担任がくるなんて・・・・・・」

桜木「どうしましょうか?誰かが伝えに行かないと・・・・・・」

泉美「とにかくあとで三神先生のところに行って確認してくるわ。全く、4月は上手くいってたのになんでこんな──」

恒一「・・・・・・なるほど、『いないもの』ね」

恒一(それで見崎はあんなことを言ってたのか)

勅使河原「悪かったな、サカキ、理由を伝えなくて。本当は対策係から言うべきことなんだが──」

泉美「・・・・恒一君」

恒一「あ、赤沢さん」

泉美「ごめんなさいね。突然事情も話さないで巻きこんじゃって。恒一君が転校する前に伝えたかったんだけど私が体調崩して休んだから」

恒一「・・・でも、あの先生は普通に呼んでたね。僕と同じで理由を知らなかったのかな?」

望月「一応、3年3組の儀式のことは前の担任から伝えられるんだけどね、以前の久保寺先生が急に休職しちゃったから」

勅使河原「全く何考えてやがんだよ、あのゲジ眉教師。自分から霊感があるなんて訳わからないことぬかすしさ」

綾野「えー、でも面白いじゃん、ぬ~べ~。あたしは好きだなー」

小椋「彩、あんたねー」

泉美「呑気なこと言わないで。下手すれば全部台無しになるかもしれないのよ。私が対策係になった以上はクラスから犠牲者を出すわけにはいかないんだから」

恒一(クラスから犠牲をなくすか・・・・・・・でも)チラリ

鳴「・・・・・・」

恒一(怜子さんがクラスの決めごとには従うようにとは言ってたけど。なんだかこう嫌な感じがするんだよな)

ぬ~べ~「えー、というわけで受験に向けて大事な1年になるわけだが、重要なのは1、2年で習ってきたことがちゃんと根付いているかどうかだ。そのためには──」

勅使河原「・・・どんなインチキ授業やるんだと思ってたけど授業自体は割と普通だな」

望月「正直、現象のことがあるから僕らは受験どころじゃないんだけど・・・・・・」

泉美「大丈夫よ、とりあえず『いないもの』対策で変化がない限り、私たちに危害が及ぶことはないんだから」

ぬ~べ~「よーし、それじゃあ三角形の合同証明の条件を確認するぞー。じゃあ────鳴、言ってみろ」

「!?」

鳴「・・・・・・」

ぬ~べ~「どうしたー?忘れちゃったか?」

鳴「・・・・・・・あの」

泉美「ちょ、ちょっと!」ガタン

ぬ~べ~「ん、どうした?赤沢。まだお前は指してないぞ」

泉美「違います!そうじゃなくて、その、先生は赴任してきたばかりで知らないかもしれませんが、私たち3組には決まりごとがあるんです。先生にもそれに従ってもらわないと──」

ぬ~べ~「・・・・それは『いないもの』対策のことか?」

泉美「!?」

風見「き、聞いているんですか?」

杉浦「どういうことよ!事情を知っているのに破るなんて!」

「おい、マジか」「先生自ら破るって無茶苦茶だろ」「せっかく上手くいってたのに」ザワザワ

ぬ~べ~「・・・うーん、まあとにかく皆いったん座れー」

杉浦「横暴だわ!何が霊能力教師よ、3組の命がかかって──」

バンッ!!!

ぬ~べ~「やかましいっ!!いいから座れっ!!!」

「(ビクッ)」

怜子(騒ぎがしてたから来てみたけど、これは・・・・・・)

ぬ~べ~「いいか、おまえらよく聞け。俺がこの3組の担任をする以上、クラスメイトを『いないもの』にするようなやり方は今後いっさい認めん!何があろうともだ!」

風見「ま、待って下さい。先生は知らないんですか?この夜見山北中3組は死に一番近いクラスと言われていて、『いないもの』対策を行わないとクラスの皆の命が──」

ぬ~べ~「その皆が助かるために一人だけ犠牲になってもらうのか?そいつに中学最後の1年間は無視されたという思い出をつくらせるのか?」

風見「そ、それはっ」

ぬ~べ~「はっきり言うぞ。理由はどうあれこれはいじめと同じだ。死にたくないから一人に押し付けて皆で助かろうなんて考える奴はたとえ生き延びても将来ロクでもない大人にしかならん。そんな生徒はこの俺が意地でも卒業させんからな」

杉浦「むちゃくちゃよ!呪いを防ぐにはこれしかないのに!」

ぬ~べ~「・・・じゃあ聞くがこれまで『いないもの』儀式で皆助かったのか?効果は100%なのか?」

杉浦「う・・・・・」

ぬ~べ~「どうだ、赤沢?」

泉美「それは・・・・・半々らしいですけど」

ぬ~べ~「お前たち、そんな不確かな対処法でこれから1年も過ごしたいか?たぶん死ぬことに怯えた最低な年になるぞ」

「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」

ぬ~べ~「中学3年のこのクラスが一緒なのは今年までだ。来年の高校生活はみんなバラバラになる。いいか、今年が過ぎればこのクラス皆で過ごすことは二度とないんだぞ?」

恒一(そうだ。ずっと感じていた嫌な感じはこれなんだ)

恒一(せっかく転校してきたのにこのギスギスした雰囲気で一年間も過ごさなければいけない。その憂鬱な気持ちが嫌悪感になってたんだ)

ぬ~べ~「これは俺が経験してきたことだが、呪いなり悪霊なりは雰囲気の悪い所ほど好むものでな。念縛霊といって人のそうした感情が悪霊を生むんだ。ましてやいる者をいない者にしたり、逆にいないのにいるように扱うようないびつなことをやると霊はますます寄ってくる。大体──」ポン

鳴「・・・・・・!」

ぬ~べ~「見崎鳴はこの通り、ちゃーんとここにいるじゃないか」

「・・・・・・」

ぬ~べ~「おかっぱ頭もちょっと中二病っぽい眼帯をしているのも俺にはちゃんと見えてる。幽霊でもなんでもない」

鳴(片手の黒手袋している人に言われたくない)

泉美「でも、でも私は皆のために・・・・・」

ぬ~べ~「赤沢、いや泉美。お前が対策係として必死なのはわかるし頑張ろうとしているのは認めるよ。皆を死なせたくなかったんだよな?」

ぬ~べ~「だけどここは先生を信用して協力してくれないか。確かにあんな醜態みせたから信用できないかもしれないが、この俺がいる限りはこの3組からは一人の死人も出さない。約束するよ」

泉美「・・・・・・」

恒一(赤沢さん・・・・・・)

鳴(・・・・・・)

怜子(・・・・・・)

キーンコーンカーンコーン

ぬ~べ~「授業終わりになっちゃったな。それじゃ次は三神先生の美術の時間だから手早く移動しろよー」

綾野「いやー、大演説だったねえ、ぬ~べ~。ちょっとグッときちゃったなあ」

中尾「おまえ馬鹿か。アイツ具体的にどうするか何も言ってないじゃねーか。それなのになんで信用できるんだよ」

望月「・・・でも今までの夜見山北中の先生はみんな見て見ぬふりだけで何もしてくれなかったけど、鵺野先生がはじめてだよね。ここまで公言したの」

勅使河原「まあ現に久保寺は逃げたしなあ」

杉浦「説得力ないわ。あの人は新参だからこの26年間どれだけ犠牲者が出てるのか分かってないのよ、そうでしょう、泉美?」

泉美「私は──」

ガララ

怜子「みんな何しているの?次の時間がはじまるから早く移動しなさい」

風見「とりあえず移動しようか、対応策はそのあとで考えるということで」

杉浦「三神先生にもこの事を話して鵺野をなんとかしてもらうしかないわ。場合によっては三神先生に担任をかわってもらって──」

恒一「・・・・・・あの、見崎?」

鳴「・・・・・・!」

風見「!?」

杉浦「ちょっ・・・・・!」

勅使河原「おいっ、サカキ!」

泉美「こ、恒一君!?」

恒一「よければ一緒に行かない?見崎はいつも違う教室に行ってるみたいだけど・・・・・・」

鳴「・・・・でも私は」

恒一「三神先生」

怜子「・・・・・何かしら?」

恒一「見崎も美術の授業に来てもらっていいですか?写生のペアになってもらいたいんですけど」

怜子「・・・・・・・」

怜子「いいでしょう」

杉浦「み、三神先生!」

怜子「見崎さん、あなたも皆と一緒に移動しなさい」

鳴「・・・・はい、分かりました」

泉美「三神先生、その『いないもの』は・・・・・」

怜子「さっき榊原君が話しかけちゃったじゃない。もうそうなったらこれ以上何をしようと意味がないわ。やるだけ無駄ならは『いないもの』対策はやらない方がいいわよ」

3組一同「・・・・・・」

1998年5月26日 夜見山北中3年3組 

恒一(結局、ぬ~べ~先生の一喝と怜子さんの配慮もあって見崎の『いないもの』は解除された。みんなまだ不安そうだけど、どことなくほっとした雰囲気にもなったみたいで──)

ぬ~べ~「むむむ、見えてきたぞー。綾野、お前の守護霊は平安時代に貴族だったお姫様だ」

綾野「やったー!あたしにぴったりじゃん」

ぬ~べ~「だが喜んでもいられないな。お前、最近部屋の片づけをちゃんとしてないそうじゃないか。整理整頓ができてなくてだらしないと守護霊が嘆いているぞ」

綾野「あ、あはは・・・」

小椋「ぬ~べ~、あたしは?」

ぬ~べ~「小椋の守護霊は・・・・・・腕が自慢の荒くれ狩人だな。意地ばかり張ってないでもうちょっと素直になった方がいいと言ってるぞ。あと言葉づかいは優しく」

小椋「何それ!?女の人ですらないじゃん!」

勅使河原「イヒヒヒヒ、おまえらしい守護霊じゃねーか」

小椋「んだとコラ!勅使河原!」

ぬ~べ~「・・・勅使河原、おまえ人のこと言えんぞ。お前の守護霊はひいひいお爺さんに当たる方だがかなり怒っておられる。あまりに勉強しなさすぎて情けないくらいだとな」

勅使河原「うげっ!?」

ぬ~べ~(・・・それから、お前の自宅の机の下から2番目の引き出しにいれてあるものは即刻処分しろ。どこで買ったか知らんがお前が読むには3年早いぞ)ギロリ

勅使河原(な、なんでそのことを!?)

ぬ~べ~(そのひいひいお爺さんが教えてくれたんだよ。このままだと見捨てられて動物あたりの守護霊と交代になるからな。改めろ)

泉美「・・・みんな、なにやってるの?」

望月「ぬ~べ~先生が霊水晶で皆の守護霊を呼び出して三者面談をやっているんだよ。ちなみに僕はドイツ画家のフリードリヒ・ゾンネンシュターンだって、光栄だなあ」

恒一「そ、そうなんだ」

恒一(ゾンネンシュターンって相当変わった人だったんだけど、知ってるのかな)

泉美「また鵺野先生の霊能力か、本当に当てになるのかしら?」

桜木「でも皆の覚えがあることを全て当ててるんですよ。ねえ風見君」

風見「そ、そうだね(僕の守護霊が叶わぬ恋をして一生過ごした書生ってどういうことなんだ!?)」

鳴「風見くん、顔が真っ青」

風見「そんなことないよ!」

ぬ~べ~「あと見てないのは恒一、泉美、鳴の三人だな。一気にやっちゃうからそこに並んでおけよー」

泉美「まったく・・・・・・」

鳴「赤沢さんの守護霊はバ・チェウかも」

泉美「あんた私がそいつを知らないと思って言ってるでしょ!」※バ・チェウ:3世紀ごろのベトナムの反乱指導者。3尺もの乳房を持ち、それが鎧に収まらなかったために肩へ回していたという。

ぬ~べ~『南無大慈大悲救苦救難広大霊感、この子らを守護する霊よ、姿を見せよ!』

ガララッ

怜子「一体なんですか!?この騒ぎは」

ぬ~べ~「うわわっ、み、三神先生」

怜子「鵺野先生、何をやってらっしゃるんです?」ジロリ

ぬ~べ~「いやー、実はですね。生徒たちの状況を把握するために守護霊を交えた三者面談をしていまして──」

怜子「ハア・・・またお得意の霊能力ですか」

ぬ~べ~「おお、そうだ。どうです、三神先生も私が特別にみてあげましょうか。ただ生徒たちと一緒もどうかと思いますので、放課後に二人で素敵なディナーをしつつその後にでも」

怜子「この娯楽の少ない夜見山市でですか?どこに連れて行って下さるんです?」ジトー

ぬ~べ~「そうですね、まずは墓場のみえるレストランでゲテモノ料理を楽しみ、次に人魂のダンスの中でロマンチックに心中した恋人同士の幽霊のお話をしながら──」

バキッ、ドコオッ

ぬ~べ~「・・・・・・」チーン

恒一「あれで口説いているつもりなのか?」

泉美「なんというか、わざとやってるようにしかみえないわね」

怜子「それはそうと桜木さんはいますか?」

桜木「あ、は、はい」

怜子「お家から先ほど電話がありました。お母さんが事故に遭われたそうなのですぐに帰る準備をしなさい」

桜木「え、ええっ!」

怜子「・・・大丈夫、命には別状ないそうです。取り乱さずに気をつけて帰りなさい」

桜木「わ、わかりました」タタタッ

恒一「赤沢さん、これって・・・・・・」

泉美「・・・現象は生徒だけでなくその家族にもふりかかる。もっとも命に別状ないなら違うかもしれないけど」

桜木(どうして!?どうして!?4月には何も起きなかったのに何でお母さんが。まさか『いないもの』を解除したから)タッタッタッ

ツルッ

桜木「あっ(お、落ちる!)」

グイッ

桜木「・・・・え?」

クルリ、ストン

「うわあ」「何どうしたんだ?」「いや3年の先輩が階段から落ちたと思ったらそのまま一回転して着地した」「まじかよ体操選手か」

桜木「え?え?でも今何かが引っ張って」

ぬ~べ~「どうしたんだ桜木。気をつけて帰れって言われたろ」

桜木「あ、ぬ~べ~先生。今さっき何かに引っ張られて・・・・・・」

ぬ~べ~「おいおい慌てるからだぞ。お母さんは大丈夫そうだから落ち着いて帰れよ」

桜木「は、はい、分かりました」

ぬ~べ~「よーし、おまえらもそろそろ帰りの準備をしろよー。あと今日の三者面談で注意を受けた連中は肝に命じておけよ。守護霊に見捨てられても先生は知らないからな」

「はーい」「やべー、早くあの雑誌なんとかしねえと」「あたしは守護霊交代してもらってもいいんだけどな」

ぬ~べ~「それから今から名前を呼ばれた人は残ってくれ。放課後手伝ってもらうことがあるから」

泉美「・・・それでなんでこの三人なの?」

鳴「知らない」

恒一「さっきの面談の続きじゃない?」

泉美「恒一君まであんなオカルト信じてるわけ?」

恒一「そうは言うけど、勅使河原たちが当たっていると言ってたし・・・・・」

鳴「私はぬ~べ~を信じる」

泉美「あんたねえ、いくら今のところ何も起こっていないからと言って油断はできないのに」

ぬ~べ~「・・・そうだな。泉美の言うとおりだ」

泉美「!?」

恒一「ぬ、ぬ~べ~先生!?」

ぬ~べ~「他の皆はもう帰ったな?」

恒一「はい」

ぬ~べ~「よし。いいか三人とも。これから話すことは俺たちだけの秘密にしてくれ。絶対に他の奴らに話すんじゃないぞ」

泉美「ちょっとどういう意味?まさか──」

ぬ~べ~「・・・ああ」

ぬ~べ~「夜見山北の災厄が今年もはじまった」

「!?」

泉美「・・・嘘」

恒一「そ、それじゃあやっぱり『いないもの』を対策をやめたのが原因で」

ぬ~べ~「・・・いや、違う。俺の言い方が悪かったな。今年の現象は4月、つまりお前たちが『いないもの』対策をやる以前からすでにはじまっているんだ」

泉美「そんな!?だって4月は誰も犠牲者が出ていなかったじゃない」

ぬ~べ~「クラスの中ではな。鳴、おまえ親戚に同い年の従姉妹がいるだろう?」

鳴「・・・はい」

ぬ~べ~「そしてその従姉妹は4月に亡くなった、そうだな?」

恒一「見崎、それ本当なの!?」

鳴「・・・うん。名前は藤岡未咲。榊原君と同じ病院に入院していたんだけど先月容体が急変して」

恒一「じゃああの時見崎と会ったのはそういうことだったのか・・・・・」

泉美「なんでそれを早く言わないのよ!」

鳴「・・・ごめんなさい。確証がなかったし私自身が『いないもの』になってたから誰にも言えなかった」

泉美「う・・・・・・でも、でもおかしいわ。恒一君もこの娘も生きているし机の数もあってる。死者がまぎれこんでいるわけないのに」

ぬ~べ~「落ち着け、今考えるべきは誰が死者かどうこうじゃない。みんなが死に引きずりこまれるのをどう防ぐかだ。いいか、お前たち3人を残したのは他の生徒にこの事が伝わって混乱が起こるのを防ぐためだ。前にもいったがクラス内でパニックが起こるのが一番呪いを引きよせてしまうからな」

恒一「でもどうするんですか?いつ誰が死ぬのか分からないのに」

ぬ~べ~「さっきの守護霊面談だよ」

恒一「え?」

ぬ~べ~「あれは単にお前たちに注意をするためにやったわけじゃない。俺の方からそれぞれの生徒の守護霊に事情を説明して皆を守ってくれるようお願いしたんだ」

恒一「そんなこと可能なんですか?」

ぬ~べ~「こちらから丁寧に呼びかければな。こういう事情だし守護霊だってみすみす死なせはしないさ。とりあえず彼らの力が及ぶ限りはお前たちを呪いから守ってくれるだろう。現にさっき桜木が転落死しかけたんだが彼女の守護霊がとっさに防いでくれたしな」

泉美「何コレ、筒?」

ぬ~べ~「今から姿を見せてやるよ。『クダよクダ 今我が縛り解き放たん その姿を現せ!』」

ヒュオオオオッ シュバッ

クダ狐「キュルルルルッ」「キューンキューン」「クルルルッ」

泉美・恒一・鳴「!?」

ぬ~べ~「イタコの飼う霊獣、クダ狐だ。それぞれ違った能力を持っていて探知機のように使うことができる」

恒一「よ、妖怪ですか?」

ぬ~べ~「まあそう言った方が理解が早いだろう」

泉美(え、何?この人ホンモノだったの?)

鳴(・・・可愛い)


ぬ~べ~「本来このクダ狐はイタコが使役する獣なんで俺が持てるのは1匹が限度なんだが、知り合いにイタコの見習い娘がいてな。彼女に理由を説明して一時的に30匹ほど貸してもらったんだが──」

回想

いずな『えー、やーよ。なんでクダ狐をそんなに貸さなきゃなんないの』

ぬ~べ~『頼む。どうしても今回必要なんだ。人助けだと思って貸してくれ』

いずな『うーん。人助けかー。まー、私も先生と知らない仲じゃないし、そこまで言うなら貸してあげてもいいけど』

ぬ~べ~『ほ、本当か!?いやー、持つべきものは友達──』

いずな『オッケー、じゃ一匹2万円ね』

ぬ~べ~『なあっ!?金とるのか!?」』

いずな『あったりまえでしょ。そもそもクダは私の商売道具よ。無料で貸せるわけないじゃん』

ぬ~べ~『(お前まだ商売していい年齢じゃないだろうが!)ぐぬぬ、せ、せめて1万円!』

いずな『1万9800円』

ぬ~べ~『1万3000円!』

いずな『1万9500円』

ぬ~べ~『1万6000円!』

いずな『1万9300円』

ぬ~べ~『い、1万8000円!』

いずな『オッケー、決まり。1万9000円ね♪』

ぬ~べ~『や、やった!・・・・・・のか?』

ぬ~べ~「・・・まあ、それはともかくこいつらを各家庭に1匹ずつ張らせて、呪いの兆候が起きたら俺に知らせるようにしておく。そしてこれからがお前たちにも協力してほしいことなんだが──」


恒一「・・・で僕らで過去に起こった夜見北の現象を調べてくるんですね」

ぬ~べ~「ああ、本当は俺一人でやるべきなんだが、クダ狐の手配と守護霊への呼びかけで手が回りそうにない。とにかくできるだけこの現象の情報を集めてきてくれ」

泉美「26年前に起こった原因なら結構有名だと思うんだけど・・・・」

ぬ~べ~「夜見山岬のことだろ。それなら俺もここに赴任する際に三神先生から聞いたさ。問題はそれ以降のことなんだ。特に最近起こった現象の事が知りたい。他の先生に聞いてみてもどうにもはっきりしないんだ」

泉美「私たちだけで大丈夫かしら?」

ぬ~べ~「お前たち3人だから頼んでいるんだ。あまりに混乱が広がりすぎると俺の力でも全部に対処できなくなるからな」

ぬ~べ~(・・・そしてもう一つお前たち3人に頼むのは他にも理由があるんだが、まあ今はいいだろう)

1998年6月3日昼休み 夜見山北中3年3組

恒一「千曳先生?あの図書室にいる?」

鳴「うん、あの人26年前の3年3組の担任だったからその事情に詳しいし、それにいろいろな資料をもっているそうだから」

泉美「理由があってできるだけ私たちのクラスと接触するのを避けているみたいだけど、もうこうなったら話してもらうしかないわね」

恒一「僕の方もウチのお爺ちゃんお祖母ちゃんに聞いてみたんだけど皆記憶があやふやではっきりしないね。三神先生もよく覚えてないらしいし」

泉美「それにしてももうすぐ昼休みが終わるのに鵺野は何してるのよ!戻ってこないじゃない」

怜子「鵺野先生なら早退したわよ」

恒一・泉美「はあ!?」

怜子「なんか急に体調が悪くなって立つこともままならないからって。全く担任としてどうなのかしらね」

泉美「あ、あいつ~~~~!!」

恒一「あ、赤沢さん、ぬ~べ~先生だっていろいろやらなきゃいけないって言ってたし(ピリリッピリリッピリリッ)ん、携帯か?」

早苗『やっほー、ホラー少年』

恒一「み、水野さん!?どうしたんですか、急に」

早苗『お言葉だなあ、君が調べてほしいって頼んできたんじゃない。藤岡未咲さんのこと』

恒一「あ、ああ、そうでしたね」

泉美「誰なの?」

恒一「僕が入院していた病院でお世話になった看護師さんだよ。ちょっと頼みごとをしていてさ」

泉美「ふーん」ジトー

鳴「・・・・・・」ジトー

恒一「な、なんだよ二人とも、その目は」

早苗『確かに4月にウチの病院で亡くなってるわね、藤岡未咲さん。それから君が言っていた見崎さんとの関係なんだけど、担当看護師さんに聞いたら従姉妹だって言ってたわよ』

恒一「そ、そうですか」

恒一(おかしい。この現象の及ぶのは3組の関係者とその2等親以内のはず。なのになんで4等親の見崎の従姉妹が亡くなるんだ?)

鳴「・・・・・・」

早苗『それでね(ザザッ)君が言ってた呪い(ザザザッ)だけど、同僚に聞いてみても(ザザザッ)』

恒一「もしもし?水野さん?聞こえてますか」

早苗『屋上から(ザザッ)エレベーターに乗ったの、もう戻らないと(・・・・・・・ブチンッ!)えっ、ああっ!!』

恒一「み。水野さん?水野さん!?どうしたんですか!?」

ガガガガガッガッ ガシャーン!!!ツーツーツー

恒一「切れた!?くっ!」ダッ

泉美「ど、どこに行くのよ、恒一君!」

同日同時刻 病院エレベーター

ゴオオオッ

早苗(なに!?なんで、どうして!?)

早苗(そういえばこのエレベーター確か修理中でドア自体開かなかったはず。なのに何で私がこれに乗っているの!?」

ゴオオオオオオオオッ

沙苗(い、嫌、死ぬ!)


ガガガガガッガッ『南無大慈大悲救苦救難広大霊感!突っ込め覇狐!』 ガシャーン!!

同日同時刻 病院

ワイワイ ザワザワ

恒一「はあっ、はあっ」

恒一「(病院の前に人だかりができてる!やっぱり何かあったんだ)あ、あのっ!」

恒一「水野さん・・・・あ、いえ、その何かあったんですか!?」

「ああ病院のエレベーターのワイヤーが切れて落下したんだよ」「修理中だったのに危ないわねえ」

恒一「そ、そんな、じゃあ中にいた人は!」

「え、ああ。女性の看護師さんが乗っていたそうだけど奇跡的に助かったそうだよ」「地面に追突寸前にドアが開いて外に投げ出されたらしいね」「そんな偶然ってあるんですねえ」「いやいやしかし大した怪我もなくてよかった」

恒一「え・・・・・・助かった?」

ポン

ぬ~べ~「・・・恒一、こんなところで何してる?」ボロッ

恒一「せ、先生!?どうしたんですか、その傷?」

ぬ~べ~「とりあえずサボりを説教したいとこなんだが、俺もあんまり変わらないからな。途中まで一緒に帰るか・・・・・・」

ぬ~べ~「一応水野のお姉さんは無事だよ」

恒一「じゃあやっぱり先生が助けてくれたんですね」

ぬ~べ~「水野家を張らせてたクダから連絡が入って、もしやと思って駆けつけたんだが・・・・・・まさかエレベーターを使っての事故とは思わなかったよ。あと一歩遅かったらたぶんヤバかっただろうな」

恒一「どうやったんですか?」

ぬ~べ~「こいつを使ったんだ」パチン

ギュオオオンッグルルルッ

恒一「で、でかい!なんですかコレ!?これもクダ狐ですか?」

ぬ~べ~「こいつは覇狐といって俺専用のクダさ。ちょっと事情があって俺のクダ狐はこれくらいの大きさに育つんだ。コイツと俺の力でエレベーターの側面からぶち破って中にいた水野のお姉さんごと運び去ったんだよ。おかげでこっちはボロボロだけどな」

恒一「僕は学校に戻りますけど、先生はどうします?」

ぬ~べ~「とりあえず三神先生には内緒にしておいてくれ。俺は着替えを取りに戻るから」

ぬ~べ~(しかし今回は何とかなったが、あらためてコイツはとんでもない呪いだ。これ以上拡大されたらいくら俺でも全部はカバーできない!)

すみません。急に電話で呼び出しがかかったので一旦ここで中座します。明日か明後日の夜に続きを再開します。

クダ狐の件ですが、夜見山北中学校への赴任が急に決まったので増やしている時間がなく仕方なくいずなに借りに行ったと解釈して下さい。対策係のはずの赤沢さんがあんまり現象のことを知らないなど結構矛盾がありますので

>>32>>34の間飛んでない?

申し訳ありません。>>32最後に下の1行が入るのが抜けていました

ぬ~べ~「あともう一つの対処法がこれだ」

再開します。書きためているので最後までいきます

1998年6月6日図書室

千曳「しかし驚いたね。今年はここまで何も起こっていないから『ない年』だと思っていたんだが・・・まさか鵺野先生が防いでいたとは」

ぬ~べ~「いえ、現象自体は防げていません。今できているのは現象による犠牲者を防いでいるだけです。千曳先生、あなたのことはここにいる鳴から聞いたんですが・・・・・・」

千曳「そのようだね、赤沢くんと見崎くんは元からここの生徒だからある程度は知っていると思うが、榊原君はもう事情は理解したのかな?」

恒一「大体は・・・でも正直信じきれない気持ちもまだ」

千曳「無理もないだろうな。しかし本当のことだ。この街で、この学校で実際に起こっている現象なんだよ」

ぬ~べ~「先生は26年前の3年3組の担任だったそうですね」

千曳「そうだよ。そこにいる榊原君のお母さんである理津子君も当時の3組の生徒だった」

千曳「君らももう知っていると思うが26年前、夜見山岬という優秀な生徒が私のクラスにいた。誰からも好かれていた人気者だったよ。だが5月のある夜火事によって彼と弟を含めた家族全員が死んでしまったんだ。突然の不幸にみんな悲しみにつつまれた。そして──」

泉美「誰ともなく『岬はここにいる』と言いだし、それが次第に広まっていった」

千曳「誰にも悪意はなかったんだよ。当時は私でさえも生徒同士の友情に感動してのったぐらいだったんだから。今となるとあさはかな考えだったと思うがね。結果的にあの行為が引き金となって死の扉が開いてしまった」

恒一「その年の修学旅行の写真に岬という生徒の姿が写り、翌年から死者がまぎれこんだ──」

千曳「そう、その翌年から3組のクラスメイトとその肉親が次々と不可解な死を遂げていった。後悔してももう後の祭りだ。正直私だって死にたくはないし怖かった。だけど責任の一端は私にある。だから教師を辞めた今もこうして司書として現象を見守っているのさ。まあここなら『いないもの』に気を使う必要もないからね。鵺野先生からすればそれは逃げにもみえるかもしれないが──」

ぬ~べ~「過去のことは責任を問いただしても仕方ありません。それよりも重要なのは今どうするかです」

千曳「そうだね。そら、これが26年前からの出席名簿だ。それぞれその年に犠牲となった生徒の名前と死者だった人の名前が記してある」

恒一(26年前に母さんの名前が、そして15年前には怜子さんの名前がある。二人とも3組の生徒だったんだ)」

千曳「この現象で厄介なことは記憶の改ざんが起こることだ。たとえば一昨年の96年、死者は浅倉麻美という生徒なんだが、この娘は実は93年の生徒だった。にもかかわらず96年当時は彼女の名前はその当時の3組の名簿に載っていたんだ。さらに誰もその事実に気づくこともなかった。すべてが判明したのは卒業式が終わり死者が消え去ってからだ」

泉美「それが記憶の改ざん・・・・・・」

千曳「そうだ、そうなるとその当時に死者が誰か特定することはお手上げになる。なにせ記憶にも記録にも残らないんだからね」

ぬ~べ~(そうか。だから泉美も恒一も他の先生方でさえも記憶をたどってみてもある年の記憶がはっきりとしないのか。そして恐らく記憶の改ざんは死者本人にも作用する)

恒一「先生、この96年は死者の数が他の年と比べて少ないんですね?」

千曳「『いないもの』対策が講じられたからだ。そのおかげで年度の前半は一人も死ななかったんだよ。ところが2学期がはじまってすぐ『いないもの』だった生徒が役割を放棄してしまったね。孤独とプレッシャーに耐えかねて自分はここにいる、いるものとして扱えと言いだして──」

鳴「それで始まってしまった」

泉美(お兄もそれで死んだんだ・・・・・・)

千曳「当時の担任は三神先生だったが随分苦労されていたよ。『いないもの』にされた生徒が精神に異常をきたしてからは何度もその子のうちに足を運んでいた。彼女なりになんとかしたかったんだろうが──お気の毒なことだ。なのにまた3組の副担任になるとは」

ぬ~べ~「・・・ということは、三神先生は以前も3組の関係者だったんですね?」

千曳「そうだ。まだ新任だったのに彼女にとっては想像以上の負担だったろうね」

千曳「結局のところ、この現象について有効だと分かっているのは一つだけ、それはクラスに『いないもの』をつくるという対策だ。成功率は半々だがね。これは呪いじゃない。悪意も何もなくただ単にそれは起こる。地震や台風と同じだ」

ぬ~べ~「・・・そうですね、確かに台風や地震の原因を断つことはできません。ですがこの災厄に関しては原因を突き止められると思います」

千曳「ほう?それでは先生は原因は何だと考えるかね?」

ぬ~べ~「そもそもこの現象は、本来この世にいない者を周りの人間が『いるもの』としてしまう歪な嘘からはじまっています。最初はクラスメイトの思い込みにすぎなかったことが次第に周りに伝染し、ついに人間を超えて周りの環境までが『いないもの』を『いるもの』とするようになってしまった」

ぬ~べ~「記憶の改ざんがいい例でしょう。おそらくここで起こっている現象というのは、人の思いを現実世界において非常に強い効果をもって実現させてしまうものだと思うんです」

ぬ~べ~「僕の経験ですが、妖怪なり霊なりというのは実は人の心が創り出す存在なんです。お化けを怖がる人ほどお化けを見てしまうとよく言われますが、あれは怖いと思う感情が霊を実体化させて引き寄せてしまうからです」

ぬ~べ~「この現象も同じですね。当たり前のようにいると思う人の心が現実においても作用し、ついには死者自体も生者と変わらない存在になる。その結果この学校が死に近い場所になってしまったのではないでしょうか?」

千曳「なるほど、確かに26年前のはじまりは『いないもの』を『いるもの』と認識してしまうことからだった。そしてその後も我々は現象のせいで『いないもの』と『いるもの』を区別できなくなっている」

ぬ~べ~「ですが、この現象は逆に利用することもできます。おそらくそれが『いないもの』対策なんです」

恒一「『いるもの』を『いないもの』とするやり方がですか?」

ぬ~べ~「ああ、あの対策は26年前の3組の生徒がやったことと逆なんだ」

ぬ~べ~「つまり本来目に見える『いるもの』を『いないもの』とする。それによって、死者にたいし自分達が生者とは異なるものであり、この世にいるべきではないとを気付かせる。その結果、死者は本来いるべき場所に戻っていき、災厄はおさまるんだろう」

泉美「でもこれまでの記録をみてもその効果は半々よ。だから先生は辞めさせたんじゃない」

ぬ~べ~「この対策が抱える問題は死者がどの人物か正確に判断していないことなんだ。毎年、確たる証拠もなしに怪しげな候補者をたてて『いないもの』とするんで、確実な効果が得られない。当たれば幸いだが、外れた場合はむしろ本来いるべきものを『いないもの』としてしまうので、余計に負の感情が増幅し結果さらに死を招くことになってしまう」

ぬ~べ~「泉美、お前たちだって最初は鳴を『いないもの』としていたけど、根拠は特になかったんだろ?」」

泉美「・・・・・・」

ぬ~べ~(・・・だが、これでわかった。『いないもの』対策は問題だらけのやり方で採用はできないが。この現象への対処法のヒントは示している。あとは──)

バタンッ!!

怜子「鵺野先生っ!鵺野先生はここに来ていますか!」

ぬ~べ~「み、三神先生!?」

千曳「慌てて急にどうしたんだね?」

怜子「高林君が!うちのクラスの高林君がグラウンドで発作を起こして──!」

ぬ~べ~「!?」

恒一「高林君が!?」

鳴「まさか、現象が・・・・・・」

ぬ~べ~「くそっ!!」ダッ

高林「ぐああああっ、く、苦しい!」

望月「高林君!高林君、しっかりして!」

ぬ~べ~「高林っ!どうした!?」

勅使河原「そ、それが急に倒れて苦しみだして──」

怜子「彼は心臓に持病をもってるんです。最近は薬の効果もあって落ち着いていると言ってたんですけど」

ぬ~べ~「(心臓発作!?まさかこんな形でも作用するのか!?)とにかく三神先生は救急車をお願いします。勅使河原、望月、おまえたちは保健室から担架をもってこいっ、急げっ!」

怜子「は、はい!」

勅使河原「わ、わかった!」

高林「ぐううううっ・・・・うう・・・・う・・・・・・・」ガクリ

ぬ~べ~「!?」

恒一「い、息がとまった!」

泉美「ど、どうするのよ、今から救急車を呼んでももう間に合わないわ!」

ぬ~べ~「くそっ!いくら俺でも心臓発作が相手じゃ除霊もなにもできない。あとやれることといったら──」

鳴「ぬ~べ~?」

ぬ~べ~(正直あの方法は広の時にやっただけだ。確実じゃないし俺自身の命も危うくなる。だが──もう迷っている暇はない!)

ぬ~べ~『南無大慈大悲救苦救難広大霊感・・・・・・』ズズズ

泉美(え!?)

恒一(な、なんだ!?先生の左手が!?」

ぬ~べ~『・・・白衣観世音、鬼の手よ、今こそその力を示せ!』

カ ッ ! !

鳴「鬼の手・・・・・」

泉美「な、何!?それ」

ぬ~べ~「今は説明している暇がない!いいか、これから俺はこの鬼の手で自分の命を強制成仏させて高林の魂を引き戻してくる」

恒一「強制成仏!?死ぬってことですか?」

ぬ~べ~「あくまで一時的にだ。だがこの術は相当なリスクを伴う。下手すれば俺自身があの世に引きずりこまれるかもしれん」

恒一「そんな!危険すぎますよ!」

ぬ~べ~「ほっといても高林が死ぬのをただ見ているだけだ!泉美、そこでおまえに頼みたいことがある」

泉美「え?」

ぬ~べ~「お前にこの白衣観音の経文を渡しておく。もし俺の左手に何らかの反応があったらすぐにこの経文を読みあげてくれ」

泉美「そ、そんなこといきなり言われても!」

ぬ~べ~「いいから聞け!白衣観音経はこの世とのつながりになる。お前がこれを読んでくれれば俺はそれを頼りに戻れるんだ!いいな、頼むぞ!」

泉美「わ、わかったわ」

ぬ~べ~「いくぞ、『南無大慈大悲救苦救難・・・白衣観音の力によりて 鵺野鳴介の魂を成仏させ給え!』」

三途の川


ぬ~べ~(高林!高林!どこだ!?)

ウロロロローン、ウオオオーン

ぬ~べ~(くそったれ、死者の数が多すぎる!早くあいつの魂が三途の川を渡る前につかまえないと!)






鳴「・・・まだ戻ってこないね」

泉美「正直この人、人間なのかしら?この左手といい・・・・」

恒一「今はぬ~べ~先生がどんな人でもいいよ。高林が戻ってくるなら──」

カアアアアアアッ!!

鳴「手が光り出した」

恒一「赤沢さんっ!」

泉美「分かってるわよ!えっと、な、南無大慈大悲救苦救難・・・・・・」

怜子「鵺野先生!救急車はあと10分で到着します。高林君の様子は──」

高林「ごほっ・・・・ごほっ・・・・・」

恒一「息が戻った!高林君っ!」

ぬ~べ~「ハアッ、ハアッ、ハアッ・・・・・・!」

泉美「先生、しっかりしてよ!」

ぬ~べ~「た、助かったぜ、泉美。よく忘れずに呼びもどしてくれたな──ガハッ!」

バターン

怜子「鵺野先生!?」

1998年6月8日 夜見山病院

早苗「ねえ、じゃあ先生あれは読みましたか?鈴木光司の『仄暗い水の底から』」

ぬ~べ~「もちろん!『リング』シリーズの方が有名な人ですけど、あれもなかなか怖くていいですよねえ。あの小説を読んでから、僕はアパートの水を飲むのが怖くなりましたよ」

早苗「私、基本はキングとかの洋風ホラーが好きなんですけど、ジャパニーズホラーは洋モノにはない独特のじめっとした怖さがありますよね~。『仄暗い水の底から』はまさにそれを描いた作品だし」

ぬ~べ~「あれは水にたいして日本人が抱く恐怖を上手く描いてますからね」

早苗「映画だとあれかなあ、結構マニアックなんだけど『ハウリング』シリーズ。古い映画なのに狼に変身するシーンが凄いんですよ」

ぬ~べ~「あー、それ僕も面白そうだと思って借りたんですけど最後まで観れなかったんですよねー。一緒に観ていた知り合いが『我々を馬鹿にしているのか!』って怒りだしてビデオデッキごと破壊しようとしたんで」

早苗「あははは、面白ーい。いや~鵺野先生の担当になってよかったわあ。ウチの弟の担任だって言うから病院に来た時はどんだけ堅物教師かと思ったけど、趣味が合うし結構イケメンだし」

ぬ~べ~「はっはっはっ、照れるなあ。僕の方こそ入院した先の看護師さんがこんな綺麗な人で嬉しいですよ」

早苗「またまたぁ、上手いこと言っちゃって。先生も学校じゃおモテになるんでしょ?」

ぬ~べ~「とんでもない。ウチの学校じゃお化けの話しかできない男としかみられてなくてぞんざいな扱いですよ」

ぬ~べ~「特に同僚の女教師がいるんですけど彼女なんて酷いのなんの。こいつが三十路近くの割に綺麗な顔しているんですが性格は鬼ババ並みにキツいわゴリラ並みの乱暴者だわで──」

怜子「・・・・・・誰が三十路で鬼ババでゴリラですって?」

ボキッ、ゴスッ、ゴキャアッ

ぬ~べ~「あ、あの三神先生。僕はこれでも入院患者でして・・・・・・もう少し労わっていただけると嬉しいんですが」ドクドク

怜子「そうですか。その割には美人の看護師さんと鼻の下をのばして楽しそうにおしゃべりされていましたね」

ぬ~べ~「あ、あははははは・・・・・・」

怜子「・・・高林くんの件で体調を崩されたから本当に心配してたのにお見舞いに来て損しましたよ」

ぬ~べ~「・・・面目ないです」

怜子「まったく、私これでも先生のことを見直していたんですよ」

怜子「最初はただのスケベ野郎と思っていましたけど、見崎さんの『いないもの』の件や高林くんの件で本当に頑張っている姿をみて、同じ教師として見習いたいなと思っていたのに・・・・・・結局ここでも美人にはいい顔をするんですね」

ぬ~べ~「だって三神先生は僕がいくら誘ってもつれないじゃないですか~」

怜子「・・・・・・(ハア)とにかく退院したら15日はあけておいてくださいね」

ぬ~べ~「へ?」

怜子「素敵なディナーに連れて行っていただけるんでしょう?ただし!墓場とか火の玉ダンスとかだったら速攻帰らせてもらいますからね?」

ぬ~べ~「ももももちろんです!確かに給料日前なのでぶっちゃけ外食とか痛いんですが、それなりの所にはお連れできるかと」

怜子「・・・・・・割りカンでいいですから」

ぬ~べ~「ははは、すみません」

怜子「ふふふ」

泉美「・・・・・・お取り込み中のところいいかしら?」

怜子「キャアッ!?」

ぬ~べ~「おわっ、おまえ達いつからそこにいた!?」

泉美「・・・・・・結構、前からかな。なかなか楽しそうな雰囲気だったから遠慮していたんですけど」

鳴「三神先生、どことなく嬉しそう」

怜子「なっ!?」

恒一「ははは、あ、三神先生。高林君はとりあえずICUから一般病棟に移ったそうです」

怜子「そ、そう。それじゃ私は高林君の御両親と今後のことを話してきますから、鵺野先生お大事に」

ぬ~べ~「あ、ああ、よろしくお願いします」

泉美「全くこっちはいろいろ心配していたのにのんきなものね、先生は」

ぬ~べ~「まあそういうなよ。お前たちのおかげでなんとか高林も助かったんだし」

恒一「先生、体の方は大丈夫なんですか?あの強制成仏って相当負担なんでしょう?」

ぬ~べ~「一時的とはいえ仮死状態になるからな。ただ今回は早めに戻ることができたんでそれほど大したことないよ」

泉美「よかったわね、じゃ、はいコレ」

ぬ~べ~「ん?なんだ、この箱?」

泉美「私の母から先生へのお見舞い。お菓子類だから夜にでも食べて──」

鳴「・・・それ赤沢さんが自分で買ったやつ」

泉美「余計なこと言うんじゃないわよ!」

恒一「素直じゃないなあ、赤沢さんは」

ぬ~べ~「ははは、嬉しいよ。ありがとな泉美」

泉美「・・・・・・それでこれからどうするの?5月が水野君のお姉さんで6月が高林君。たぶん今月はもう現象は起こらないと思うけど」

ぬ~べ~「そうだな。正直これ以上長引かせるわけにもいかない。高林の事件でクラスのみんなが不安がりはじめたからな。なんとか今月で決着をつけよう」

ぬ~べ~「・・・・・ところで恒一、この前おまえから聞いたやつなんだが、いつ俺のところに持ってこられそうだ?」

恒一「あ、はい。おばあちゃんの許可はもらったんで先生が退院する頃には連れてこれると思いますけど」

ぬ~べ~「明日までには退院するからなるべく早く頼む。それから泉美、鳴、たびたび頼んで悪いんだがお前たちもう一回俺の用事につきあってくれ」

泉美「・・・いいけど何をするの?」

ぬ~べ~「たいしたことじゃないさ。とりあえず三人とも俺が指定した日にある場所までついてきてくれ。予定日は──6月15日だ」

ぬ~べ~って、反魂の術
使えなかったっけ?

>>83
一度本編で使いましたが、結果的に物凄く後悔することになりました。彼の中であの術はアウトです

ぬ~べ~「・・・・・・あとはどう切り出すかだな」

ぬ~べ~「・・・・・・」

鳴「・・・・・・」

ぬ~べ~「うわあああっ!?で、でたな妖怪キタロウ娘っ!」

鳴「どういう意味?」

ぬ~べ~「な、なんだ、鳴か。脅かすなよ。いるならもう少し存在感をだせ」

鳴「これでも出しているつもり」ジトー

ぬ~べ~「わ、悪かったよ。それでどうした?」

鳴「うん、ぬ~べ~に話したいことがあって・・・・・・」

1998年6月15日 夜18:00 


ぬ~べ~「オエエエエッ!!」ゲロロロロロ

怜子「だから言ったじゃないですか。私につきあってまで無理して杯を重ねなくていいって」サスサス

ぬ~べ~「す、すみません。なんというか男の意地みたいなものがあって・・・・・・オロロロロッ!!」ダババババ

怜子「あーあ」



ぬ~べ~「いやあ、なかなか美味しかったですね」スッキリ

怜子「・・・まあ先生は全部出しちゃいましたけどね」

ぬ~べ~「あ、味は堪能しましたから」

怜子「はあ、それにしてもちょっと意外だったな」

ぬ~べ~「何がですか?」

怜子「・・・・・・正直鵺野先生のことだから道路下のラーメン屋かおでん屋に連れて行かれるんだろうなと思ってあんまり期待していなかったんだけど、割と普通の居酒屋さんだったから。ちゃんとしたお店も知っているんじゃない」」

ぬ~べ~「僕の方も驚きましたよ」

怜子「え?」

ぬ~べ~「三神先生はプライベートになるとかなり雰囲気が変わるんですね。気さくと言うか豪快というか、お酒の飲みっぷりも凄かったし」

怜子「まあね。本来の私の性格はこっちかな。とても恥ずかしくて恒一君以外の生徒には見せられないけど。あの子にも学校では接し方をかえるよう言い聞かせてあるし」

ぬ~べ~(・・・恒一も大変だな。毎晩いろいろ付き合わされているんだろうか)

怜子「・・・正直、仕事とプライベートを使い分けないと精神的にもたないわ。ただでさえ教職はストレスがたまる仕事だし、3組はいろいろと難しいクラスだから──」

ぬ~べ~「・・・・・・」

怜子「・・・ねえ、鵺野先生。先生はどうして教師になったの?」

ぬ~べ~「・・・そうですね。僕の場合は恩師の影響があると思います」

怜子「それって中学校のときの?」

ぬ~べ~「いえ、小学校のときの担任の先生です。美人なんですけど性格が男勝りで豪快で御飯も一杯食べて、でも生徒のことになると凄く一生懸命で優しくて──」

ぬ~べ~「そうですね、ちょうど今の三神先生みたいな人でしたよ」

怜子「私みたいなあ?それって褒め言葉のつもりかしら?」

ぬ~べ~「もちろんです。今でも忘れられない憧れの先生でした」

怜子「ふふ、まるで初恋の人みたいね」

ぬ~べ~「ある意味そうなのかもしれません。でも僕はその先生にいろいろ助けてもらって思ったんです。将来はこの人のように生徒を守る教師になりたいって」

怜子「・・・・・・生徒を守るか。確かに鵺野先生は3組の生徒のことになると本当に一生懸命よね。見崎さんのこともすぐに『いないもの』から解放してクラスに参加させて──」

怜子「私はそうはできかったな。生徒を守りたいのか自分を守りたいのか、どっちつかずになっちゃって結局何もしてあげられなかった」

ぬ~べ~「・・・・・・」

怜子「・・・先生は知ってるんでしょう?私が一昨年の3組の担任だったってこと」

ぬ~べ~「はい。図書室の千曳先生から聞きました」

怜子「一昨年の3組はね、本当にひどかった。『いないもの』対策でクラスの雰囲気がギスギスして喧嘩が絶えなくって、最後には『いないもの』役の生徒が精神的に追い詰められて発狂しちゃって・・・・・それからはもう何もかも無茶苦茶よ。対策が失敗したからどんどん犠牲者が出てしょっちゅうお葬式ばかり」

怜子「知ってます?喪服ってあんまりクリーニングしすぎると生地が弱っちゃうんですよ。だからあの年は替えの喪服を何着も買わないといけなかった」

ぬ~べ~「・・・・・・つらいですね」

怜子「教え子の葬式ほどつらいものはないわ。親御さんに御挨拶する時も棺の中の生徒と対面する時もまともに顔がみれなかった」

怜子「でも私があの年一番見るのがきつかったのは・・・・・・『いないもの』にした生徒の顔」

ぬ~べ~「途中で放棄したという生徒のことですか」

怜子「彼は『いないもの』対策の間、毎日私に訴えていたわ。『先生助けてください、認めてください、僕はここにいるんです』って。対策中は話しちゃいけないから目で訴えるのよ」

ぬ~べ~「・・・・・・」

怜子「・・・・・・今でも時々夢に出てくるくらい。彼のどうしようもなく不安で悲しげでつらそうな表情が」

怜子「私もなんとかしてあげたかった。でも『いないもの』対策をしないと他の生徒の命が危ない。だからこれは生徒のためなんだって必死に自分に言い聞かせていたの」

怜子「でも今考えると生徒の命以上に自分が助かりたかっただけなんだと思う。死にたくないから生徒を盾にして『いないもの』を正当化してたのね」

ぬ~べ~「それは違います!」

怜子「・・・・・・」

ぬ~べ~「千曳先生から聞きました。三神先生は『いないもの』の生徒が家に閉じこもってしまってからも毎日のように彼の元に通っていたと。他の先生方によした方がいいと制止されても決してやめず、どんなに夜遅くなっても毎日遠い道を通って──」

ぬ~べ~「それに見崎の『いないもの』の時も、先生はすぐに彼女を自分の授業に参加させてくれたじゃないですか」

怜子「・・・・・・・わたしは」

ぬ~べ~「生徒のことを考えなかったなんて自分を責めるための嘘ですよ。三神先生もやっぱり生徒を守りたかったんです」

怜子(そうだ、96年の『いないもの』対策が失敗に終わった時、私は固く誓ったんだ)

怜子(こんなことは二度と起こさせない。今度はどんなことがあっても生徒を守るんだって)

ぬ~べ~「僕は先生のそういうところを尊敬していますし素晴らしいと思います」

怜子「・・・・・・そっかあ、そうだよね。私たち生徒を守りたいから教師になったんだもんね」

ぬ~べ~「そうですよ、それにそんな暗い顔は三神先生らしくないです。学校の時のようにいつもカリカリしているか今のようにダラダラしている時の顔のほうが先生らしいですよ」

怜子「ありがとう、鵺野くん。なんだか話せてちょっと楽になれた」


怜子「・・・・・・・といいたいところなんだけど」ギロリ

ぬ~べ~「へ?」

怜子「わ・た・しがいつもカリカリしているかダラダラしているってどういうことかしら?(グリグリグリ)先生はそういう目でみているわけ?ええ?」グイイイイイイ

ぬ~べ~「あがががが、こめかみは!こめかみだけはやめてください!この間、先生に叩きのめされたときの傷がまだ治ってなくて──」

怜子「大体あなた偉そうなこと言ってくれたけど私より3つも年下よね、それが先輩にたいする態度かしら、どうなのかしら?」グググググ

ぬ~べ~「ギブギブギブキブ!く、首!しまってます、しまってますよ!」

怜子「ふうー、なんだかいろいろすっきりしちゃったわ。たまにはこういうストレス解消もいいわね」

ぬ~べ~「・・・・・・お、お役に立てて何よりです」フラフラ

怜子「じゃあもう一つ、迷惑ついでに送っていただける?すっかり遅くなっちゃったし」

ぬ~べ~「あ、確かにそうですね。それにもしテケテケが出たら大変ですよ!」

怜子「は?テケテケ?」

ぬ~べ~「北海道室蘭の踏み切りで跳ねられて下半身だけがなくなった女の幽霊です。亡くなった下半身のかわりに他人の足をもぎとろうとして夜道に凄いスピードで追いかけてくるんですよ。顔は童顔なんですが、かわいらしい笑顔を浮かべながら追いかけてくるのがなんとも不気味で──」

怜子「・・・鵺野先生、先生って本当にロマンチックなムードのカケラもないのね・・・・・・」

※電話のため一旦休憩します

※再開します。

1998年6月15日 夜20:00 

ぬ~べ~「・・・・・・」スタスタスタ

怜子「・・・・・・?」テクテクテク

ぬ~べ~「・・・・・・」

怜子「・・・・・あの、先生?」

ぬ~べ~「・・・・・・」

怜子「さっきからどこ行こうとしているの?こっちの道は私の家の方じゃないんだけど・・・・・・」

ぬ~べ~「・・・・・・」

怜子「・・・・・・鵺野先生?」

ぬ~べ~「・・・おまえたち、もう出てきていいぞ」

ガサガサッ

恒一「・・・・・・」

泉美「・・・・・・」

鳴「・・・・・・」

怜子「恒一君!?それにあなたたち、なんでここに!?」

恒一「怜子さん・・・・・・」

ぬ~べ~「・・・三神先生、この道に覚えがありませんか?」

怜子「え・・・・・・?」

ぬ~べ~「思い出して下さい。あなたは2学期はじめ頃、毎日のようにここを通っていたはずだ。『いないもの』対策で引きこもった生徒を見舞うために」

怜子「わたしが・・・ここを・・・・・・」

ぬ~べ~「・・・・・・」

怜子(・・・そう、そうだ。私は一昨年、いつもここを通っていた。彼が心配だったから、なんとかしてあげたかったから)

ぬ~べ~「思い出しましたか?」

怜子「・・・・・・ええ、覚えているわ。確かに私はこの道を毎日歩いていた。彼に会うために」

ぬ~べ~「そうですね。他の方もそう証言していました」

怜子「・・・・・・」

ぬ~べ~「三神先生、その後はどうされたんです?」

怜子「!?」

ぬ~べ~「彼は結局どうなりました?3組はその後どうなりました?」

ぬ~べ~「・・・・・・なによりあなたは彼らの卒業式を覚えていますか?」

怜子「わ、私はあの後(ズキン)う、ううっ(ズキン)」

怜子(なんで?どうして?その後のことが思い出せない)

ぬ~べ~「・・・・・・恒一」

恒一「え?は、はい!」

ぬ~べ~「あいつを持ってきたか?」

恒一「・・・・はい」

ぬ~べ~「出してやってくれ」

九官鳥「レーチャン!レーチャン!」

怜子「そ、その子は家の・・・・・・」

ぬ~べ~「あなたの家の九官鳥です。お婆さんから許可をいただいて連れてきてもらいました」

泉美「先生、一体どういうこと、なんなのこれは?」

ぬ~べ~「・・・・・・夜見山市の現象の特徴はな、人の記憶を変えてしまうことだ。記憶だけでなく記録もすべて変えてしまう・・・・・・ところが一つ例外がある」

九官鳥「レーチャン!ドウシテ!ドウシテ!」

ぬ~べ~「それがこの子だ『南無大慈大悲救苦救難広大霊感 この小さき魂にこめられし記憶よ 今ここにうつしだし給え』」

『お気の毒にねえ、まだお若いのに──』

『発見された時はすでに出血多量で──』

『ただでさえ生徒が亡くなっているのに今度は担任の先生が──』

『生徒のことを一番に考えてくれるいい先生だったのになあ──』

『いろいろ大変だったでしょうに、御両親があんなに悲しんで──』

三神民江『どうして?どうして?こんなことに』ウッウッウッ

三神亮平『怜子、怜子ぉ、どうしてだ、なんであんなことに』クッ

恒一の父『恒一、俺はおばあちゃんを手伝うからお前はお爺ちゃんのそばにいてやれ』

恒一『・・・・・・うん、わかった』

『怜ちゃん、怜ちゃん、なんで、どうして』

九官鳥『レーチャン!レーチャン!ドウシテ!ドウシテ!』







恒一「なに、なんなんだよこれ!?こんなの・・・・・・僕は知らない!」

鳴「榊原君・・・・・・」

恒一「おかしいよ、先生!だって僕が夜見山市にきたのは今年からだ、それより前なんて──」

泉美「・・・・・・違う」

恒一「え・・・・・・?」

泉美「恒一君、あなたは一昨年私と会ってる。私のお兄のお葬式のときに」

泉美(そうだ、はじめて恒一君に会った時、手を握った時何かおかしかった。はじめて会うのに妙に懐かしいというか・・・・・・)




1996年某月某日

泉美『うっ・・・・うっ・・・・・お兄の・・・お兄のバカアアアッ』

カンッ

??『いてっ!』

泉美『あっ、だ、大丈夫ですか!きゃあっ──』ドテッ

??『だ、大丈夫?』

泉美『・・・・・・うん』

泉美『あなた・・・・・・夜見北の人じゃないよね?』

??『うん、東京から来たんだ』

泉美『うっ・・・・・・』

??『どこか痛いの?』

泉美『違うの・・・・・大事な人が・・・死んじゃったから』

??『・・・・・そう』

恒一『じゃあ僕と同じだね』



恒一「あ・・・・・・」

恒一「そうだ、僕はあの時、赤沢さんに会った・・・・・・怜子さんのお葬式の帰りに」

泉美「・・・・・・」

怜子「そ、そんな、それじゃあ、私は──」

ぬ~べ~「はい」

ぬ~べ~「・・・・・・あなたが今年の死者です」

怜子「!?」

恒一「ぬ~べ~先生!や、やっぱりおかしいよ!だって──怜子さんはちゃんと生きているじゃないか!」

鳴「・・・違うの、榊原君」

恒一「見崎?」

鳴「私にはわかる。私の左目がそう言っているの。三神先生は──私たちと違う存在だって」

恒一「み。見崎、君まで何を言って──!」

怜子「でも、でも、鵺野先生、私は生きている、生きているわ!死んでなんか──」

ぬ~べ~「・・・・・・はじめてお会いした時、俺もそうだと思いました。あなたのあまりにも俺達と変わらない姿に、これは霊水晶の方が間違っているんだと──」

怜子「だったら!」

ぬ~べ~「でもこの子達の守護霊が教えてくれたんです。先生のことを、そして夜見山の現象がはじまったことを──」

『南無大慈大悲救苦救難広大霊感 この子らを守護する霊よ、姿を見せよ!』

榊原理津子『・・・・・・』

赤沢和馬『・・・・・・』

藤岡未咲『・・・・・・』

恒一「か、かあさん・・・・・」

泉美「お兄っ、お兄なの!?」

鳴「未咲・・・・・ずっといてくれたんだ」

怜子「・・・・・理津子姉さん・・・・・・和馬くん・・・・・・」

ぬ~べ~「あなたのお姉さんとあなたの生徒が貴方のことを教えてくれました。そして思い出させてあげてほしいと、苦しみから解放してあげてほしいと俺に頼んできたんです」

怜子「姉さんたちが・・・・・・私のことを・・・・・・?」

理津子『怜子、思い出して』

和馬『三神先生!』

怜子(・・・・・・・・)

怜子(あ・・・・・・)

怜子(・・・・そうだ、私は・・・・・・)

怜子(一昨年、いつものように、彼と会うためにここを歩いていて・・・・・・)

怜子(そしてここで・・・・・・殺された)

怜子「はは・・・・ははは・・・・・・」

恒一「れ、怜子さん」

鳴「三神先生・・・・・」

ぬ~べ~「・・・・・・」

怜子「そう、私はここで死んだ。彼に会って話したいって何度も思いながら、そのまま──」

ぬ~べ~「・・・・・・すみません。こんなやり方で思い出させてしまって」

怜子「・・・・・・」

ぬ~べ~「本当ならば知らないまま静かにあなたを成仏させてあげたかった。だけど、先生の現世への強い思いと人の心を具現化する現象の影響力が相互に作用して、あなたを生者とほとんど変わらない存在にしてしまった」

ぬ~べ~「こうなると普通の除霊では対処しようがない。だから俺は夜見山の現象を逆に利用しました」

ぬ~べ~「あなたに本当の自分を思い出させ、自分自身が『いるもの』ではなく『いないもの』なんだと気付かせる。そうすれば人の心を増幅させる現象の力も働き、先生は本来の存在、つまり除霊できる死者に戻ることできる。俺はそれに賭けたんです」

怜子「・・・・そうか、これが本当の──私なんだ」

恒一(怜子さんの姿が、だんだん希薄になって・・・・・・)

ぬ~べ~「・・・・・・いま、あなたは本来の存在に戻りました。これでやっと──除霊することができます」グッ

『南無大慈大悲救苦救難広大霊感白衣観世音 鬼の手よ、今こそその力を示せ!』

カッ

怜子「・・・・・・」

怜子「・・・・・・皮肉なものね」

怜子「私は自分が担任していたあの年のことを後悔して、二度と同じ過ちはしないと誓ったのに、それなのに・・・・・・今度はみんなに災厄をもたらす悪霊となって戻ってくるなんて──」

ぬ~べ~「三神先生、それは──!」

鳴「それは違います!!」

怜子「見崎さん・・・・・・」

鳴「三神先生は、先生は私を『いないもの』から救ってくれました。私が本当は皆と一緒にやりたかった美術の授業に参加させてくれました!」

鳴「私は・・・・・私は・・・・・本当に嬉しかったんです。ぬ~べ~が私を『いるもの』として扱ってくれて、榊原君が誘ってくれて、赤沢さんが話し相手になってくれて、三神先生が私を授業に参加させてくれて本当に嬉しかった。中学最後の1年を過ごすのがつらくて仕方なかったのに、みんなが私を救ってくれました」

鳴「だから貴方は悪霊なんかじゃない。私を守ってくれた先生です」

和馬『そうだよ!俺たちの時だって先生は凄く頑張っていたじゃないか』

怜子「和馬くん、でも私のせいであなたが・・・・・・」

和馬『先生のせいじゃないよ。俺も死んだ時は苦しかったけど三神先生は後悔があったからもっと苦しかった。誰も悪いんじゃないよ』

理津子『怜子、あなたは本当に頑張ったわ。それは恒一やここにいる人たちがみんな認めてくれてるじゃない』

怜子「理津子姉さん、私は──」

理津子『でももう休みましょう。大丈夫よ、怖くないよう私たちも一緒にいてあげるから』

和馬『俺もさ。先生、一緒に行こう。』

怜子「みんな・・・・・・」

怜子「・・・・・鵺野先生」

ぬ~べ~「はい」

怜子「ありがとうございます。おかげで決心がつきました──私はここに『いるべきもの』じゃない」

ぬ~べ~「・・・・・・」

怜子「私を元いた場所に帰して下さい。お願いします」

ぬ~べ~「・・・・・・わかりました」

恒一「怜子さん!」

泉美「み、三神先生!わたしは──!」

怜子「ありがとう、恒一君、赤沢さん。私今は怖くない。理津子姉さんも和馬くんも一緒にいてくれるんだから」

怜子「恒一君、私のお父さんとお母さんをよろしくね」

恒一「はい・・・・」

理津子『恒一、大きくなった貴方に会えて嬉しかったわ。お父さんが研究ばかりだけど、あなたがしっかり面倒をみてあげてね』

恒一「母さん・・・・・・」

和馬『泉美、悲しませて悪かったな。だけどお前ももう立ち直れよ、いつまでも意地ばかり張ってないでさ』

泉美「う、うるさい・・・(グスッ)・・・お兄なんかに言われなくても・・・・・なんとかするわ・・・・・」

未咲『鳴』

鳴「未咲・・・・・・」

未咲『3組に戻れてよかったね、もう一人じゃないよね』

鳴「うん・・・・うん・・・・・・」

恒一「見崎、その娘は──」

鳴「彼女が藤岡未咲・・・戸籍上では従姉妹だけど、私の双子の妹」

恒一(そうか、そういうわけだったのか)

未咲『鳴、これからも私はずっと鳴を守ってあげる。ずっと一緒だよ』

鳴「ありがとう・・・・・」

怜子「鵺野先生、一つお願いしてもいいかな?」

ぬ~べ~「はい」

怜子「私がこのままいなくなっても・・・・・・これからも・・・・・・3年3組の生徒たちを守ってくれますか?」

ぬ~べ~「・・・・・・約束します。絶対に守ってみせますよ、俺の恩師に誓って」

怜子「ありがとう、これで安心したわ」

怜子「鵺野先生、わたし最後にあなたみたいな先生に会えてよかった」

ぬ~べ~「俺もです、先生。あなたという立派な先輩に会ったこと忘れません──三神怜子先生」

怜子「はい」

ぬ~べ~「ありがとう、そしてお疲れさまでした」


『冥界の とびらの内に何があるや 南無阿弥陀仏の念い(おもい)があるや この女性 三神怜子の魂を運び 成仏させたまえ』

サアアアアアア

恒一(──そして怜子さんは──)

恒一(鵺野先生の鬼の手からあふれた光につつまれ、母さんたちに抱きかかえられて静かに消えていった──本当に幸せそうな笑顔を浮かべたまま)



1998年6月15日22:00 屋台

ぬ~べ~「・・・・・・で、なんで俺がお前たちにラーメンを奢らなけりゃならないんだ?」

泉美「おじさん、豚骨ラーメン硬さバリカタネギ多めで!」

恒一「こっちは味噌バターラーメン大盛り」

鳴「ニンニクラーメン特盛り、チャーシュー抜きで」

ぬ~べ~「お、ま、え、ら、なぁぁぁ!少しはこっちの財布の事情を──」

泉美「いいじゃない、人をさんざんこんな時間までこき使って挙句の果てにたくさん泣かせた代償がこれくらいなら安いものよ」

恒一「まあ僕らの守護霊のおかげで解決できたわけだしね」

ぬ~べ~「ぐっ」

泉美「大体ぬ~べ~は三神先生とさんざん飲み食いしてきたんでしょ?私たちは晩御飯も抜きで待っていたのに──」

鳴「・・・・・はじめて言った」

泉美「え?」

鳴「赤沢さん、はじめて先生のこと『ぬ~べ~』って言った」

泉美「あっ!?」

ぬ~べ~「そういやお前だけ頑なに『鵺野先生、鵺野先生』としか言ってなかったような・・・・・・そうかあ、やっと俺も泉美に認められたかあ」ニヤニヤ

泉美「う、うるさいっ!」カーッ

鳴「素直じゃない。お兄さんに言われたばかりなのに・・・・・・」

泉美「黙りなさい!おじさんっ、ついでに餃子と唐揚げも3人前追加!こうなったらとことん食いつくしてやるわ!」

ぬ~べ~「だからそれはやめろ!」

恒一「・・・ぬ~べ~」

ぬ~べ~「なんだ、恒一。ひょっとしてお前だけは自分の分を出して──」

恒一「ううん、ゴチになります」

ぬ~べ~「あーそーなのー」シラーッ

恒一「先生はいつから気付いていたの?怜子さんの正体のこと・・・・・・」

ぬ~べ~「・・・・・・・」

ぬ~べ~「・・・気付いたのははじめて会った時からだよ。ただあまりにも俺たちと姿かたちが変わらないから俺自身も分からなくなってしまって、なんとか確実な証拠はないかと思って先生の記憶を探ろうといろいろ誘ってみたりしたんだが──」

泉美「それであんなに付きまとっていたのね」

ぬ~べ~「まあな。ただいくら探ってみても、三神先生もお前たちも肝心の一昨年の記憶だけ一部ぽっかり抜け落ちてる。どうにもおかしいと思っていたら、守護霊三者面談で恒一のお母さんや泉美の従兄と会って真相を知ることができた」

ぬ~べ~「・・・・・・ただ、本当に確信できたのは鳴のおかげだ」


恒一「見崎が?」

見崎「先生が入院したあと私から言いにいったの。私の左目に三神先生は他の人とは違って死の影が写っているって」

恒一「その目ってそんな効果があったんだ」

ぬ~べ~「鳴の義眼はたぶん俺の霊水晶と同じものなんだろうな」

鳴「でもそのことを言ったらぬ~べ~に頼まれたの。『もう少し黙っていてほしい、三神先生本人から思いだしてほしいんだ』って」

ぬ~べ~「わざわざ自分から教えてくれたのに悪かったな。でもおかげでなんとか思い通りにことを運べたよ」




泉美「私思うんだけど、本当にあのやり方でよかったのかしら・・・・・・」

ぬ~べ~「・・・たぶん他にも三神先生を死者にかえす方法はあっただろうな」

ぬ~べ~「おそらく・・・・・・強制的に命を絶つことだ」

恒一・泉美・鳴「!?」

ぬ~べ~「だがそれだけは絶対にやりたくなかった。三神先生は悪霊ってわけじゃない。本人の現世への強い執着と現象の力があって知らず知らずのうちにこの世にきてしまっただけなんだ。それなのに本人が全くわけのわからないまま命を奪ってしまうなんて、あまりにも残酷すぎるだろ?」

恒一「・・・・・・そうですね」

ぬ~べ~「ただあのままじゃ俺の力でも除霊できない。だからなんとかして彼女には気づいてほしかったんだ。自分が生者ではなく死者だということを──そうすれば夜見山の現象の力も働いて、彼女を生への執着から断ち切らせ、除霊可能な本来の存在に戻ることができる。それに──」

ぬ~べ~「三神先生だってある意味被害者だよ。『いないもの』を『いるもの』とするような歪な人の心が彼女にも作用してああいう存在になってしまったんだ。だから俺はどうしても彼女を救いたかった。命を奪う以外の方法で」

泉美「歪な心?」

鳴「それって死んだ人を生きているように扱うこと?26年前の夜見山岬の時みたいに」

ぬ~べ~「ああ、そうだ。亡くなった人をああいう風に扱っては絶対にいけないんだ。あれは周りが満足しても死んだ本人にとって一番残酷な結末になる」

ぬ~べ~「今のお前たちなら分かると思うが、親しい人が亡くなるのは確かにつらいことだ。でもだからといって26年前のようなやり方をして死者の思いを残しちゃいけないんだ。そんなことをしたら彼らは本来行くべきところへ成仏できなくなり、ずっとこの世を彷徨うことになる。地縛霊のような存在になってな」

恒一・泉美・鳴「・・・・・・」

ぬ~べ~「死者にたいして俺たちがするべきなのは生きているように扱うことじゃない。忘れないことだよ。その人がどう生きてどう死んでいったのかをしっかり覚えておく。そうすれば彼らも安心して向こうに行けるようになるんだ」

ぬ~べ~(そうだ、俺にも忘れてはいけない人が多くいる)

ぬ~べ~(美奈子先生、親父、お袋、短い間だったけど妹だった杉田琴美、そして三神先生も・・・・・・)


泉美「・・・・それにしてもこれでやっと終わったのね」

ぬ~べ~「・・・何が?」

泉美「え、だから夜見山の現象が──」

ぬ~べ~「別に終わってないぞ?」

恒一・泉美・鳴「えっ!?」

ぬ~べ~「確かに今年の現象は三神先生が死者だったから終わりだ。だけどそれでここが災厄から解放されたわけじゃない・・・・・・たぶん来年もまた違う死者がくるよ」

恒一「じゃあまた起きるっていうんですか?夜見山の現象が──」

泉美「お、おかしいじゃない、どうしてよ!?」

ぬ~べ~「考えても見ろよ、26年だぞ。その間に犠牲になったたくさんの人の無念や後悔が積み重なっているんだ。そうした想いがすべて消化されない限り、夜見山の現象は続いていくだろうな」

泉美「じゃあ、来年もまた3年3組の生徒が現象の犠牲に・・・・・・」

ぬ~べ~「おいおい、何言ってるんだ。だから俺がいるんじゃないか」

泉美「え・・・・・・」

ぬ~べ~「俺は今後も夜見山北中学校3年3組の教師を続けるよ。そして毎年死者がきたら、三神先生のように自分で思い出してもらって現世とのつながりを断ち切らせ、元いた場所へ帰ってもらう。それをずっと続けていくつもりだ。そうすれば次第に26年分の想いも解消されていくだろう」

ぬ~べ~「いつまでかかるか分からないけどな。だがその日がくるまでは、俺はずっと夜見山北中学校の地獄先生ぬ~べ~だ」

恒一「そうか、ぬ~べ~先生がずっと居てくれれば安心だね」

泉美「・・・まあちょっと頼りないけどね。せめて受験指導はしっかりしてもらいたいわ」

鳴「先生の授業、楽しいけど間違いが多いもの」

ぬ~べ~「うぐっ、ど、努力します」

泉美「私、高校は東京の進学校を目指すんだからね。よろしく」

恒一「あれ、赤沢さんもなの?奇遇だね。いつの間に決めたの?」

泉美「ま、まあ、結構前からかなー」

鳴「私も榊原君と一緒の学校に行く」

泉美「便乗するんじゃないわよ、あんたは!」

ぬ~べ~「だから喧嘩すんなって、全くお前らは毎回毎回──」

サア────


『これからも3年3組の生徒たちを守ってくれますか?』


ぬ~べ~「!」


恒一「先生?」

鳴「どうかしたの、何かいた?」

ぬ~べ~「・・・・・・・いや、なんでもないさ」

ぬ~べ~(そうだな、三神先生と約束したんだ。たとえ現象だろうがなんだろうが──)

ぬ~べ~「夜見山北中の生徒たちは俺が守る!」



終わり

http://www.youtube.com/watch?v=EQDF9Wyfzac



おまけエピローグ


恒一「そういえばさ」

ぬ~べ~「なんだ?」

恒一「先生はぶっちゃけた話、怜子さんのことどう思っていたんです?」

ぬ~べ~「はあ!?」

鳴「それ私も聞きたかった」

泉美「しつこく付きまとったのは記憶を探るためと言ってたけど、それだけじゃないわよねえ?」

ぬ~べ~「い、いや、突然何を言い出すんだ」

恒一「怜子さん綺麗な人だったし──」

泉美「仕事を一緒にしてお見舞いにきてもらってデートして二人だけで食事にも行ったんでしょ?どう考えても何の感情もなかったとは思えないわね」

鳴「ぬ~べ~、本当は好きだったの?三神先生のこと」

ぬ~べ~「お、おまえらなあ、勝手なことばかりいいやがって」

泉美「だって──」

ぬ~べ~「三神先生は俺にとって尊敬する先輩教師だよ。それ以上でもそれ以下でもない、大体俺には──」

ヒュオオオオオオオオオオオッ

ぬ~べ~「」

泉美「な、なに!?雪が舞い込んできたんだけど──」

恒一「そんな馬鹿な!今はまだ6月だよ」

鳴「ニンニクラーメンが・・・・・・冷やしラーメンになっちゃった」シュン

ぬ~べ~「こ、この季節に合わない強烈な冷気は──」ガクガク

ゆきめ「ぬ~~え~~の~~せ~~ん~~せ~~い~~」ヒュゴオオオオオオオッ

ぬ~べ~「やっぱしなー・・・・・・」

ゆきめ「『急に赴任が決まったから君はゆっくり荷物をまとめてから来いよ』と言われて準備してからきてみたら・・・・・・いったいどういうことです!?さっきの話は!」

ぬ~べ~「い、いや、ゆきめ。違う、違うんだ・・・・・・」ガタガタガタ

ゆきめ「何が違うんですかっ!!」ヒュゴオオオオオッ

ぬ~べ~「だから吹雪くな!」

泉美「え、なに?誰なの?」

恒一(・・・・・・結構、綺麗な人だなぁ)ポーッ

泉美「こ・う・い・ち・君?」ドドドドド

鳴「さ・か・き・ば・ら・君?」ゴゴゴゴゴ

恒一「すみません何でもないです忘れてください」

ゆきめ「私はっ、鵺野鳴介の妻です!」ババーン

泉美「・・・・・・」

恒一「・・・・・・」

鳴「・・・・・・」


「「「えええええっ!?」」

泉美「ちょっと、ぬ~べ~、あんた結婚してたの!?」

ぬ~べ~「あ、あれ?言ってなかったか?」

ゆきめ(ピクッ)

恒一「結婚しているのに怜子さんを口説いたり食事に連れて行ったりしていたんですか?」

ぬ~べ~「ばっ、ばかっ!よせっ!」

ゆきめ(ビキビキビキ)

泉美「大体その人私たちとあんまり年が変わらないようにみえるんだけど──まさか高校生?」

ぬ~べ~「え、えーと精神年齢的にはそうなんだが、復活してからはまだ2歳くらいだったような──」

鳴「ロリコン・・・・・・」ボソッ

ぬ~べ~「おい、今何て言った」

恒一「そういえば先生、怜子さんだけじゃなくて早苗さんにもホラー映画を一緒に見に行こうって誘ってましたよね?」

ぬ~べ~「」

ゆきめ(ブチン)

ゆきめ「こぉの、うわきものぉぉぉぉっ!!」

ビュゴオオオオオオオッ!!

ぬ~べ~「ギャアアアアアアッ!!」


ほんとに終わり

http://www.youtube.com/watch?v=7e0Tgyw_A9I

ここまで読んでいただきありがとうございました。タマモ、ゆきめ、いずな、鬼の兄妹の出番がなくすみません。彼らが出てしまうと話が余計に混乱してしまうので今回はぬ~べ~一人にがんばってもらいました。

いまさらANOTHERを観終わったんですが、怜子さんがあまりにも可哀想だったのでなんとか救ってあげられる奴はいないかなあと考え、思い当たったのがこの男でした。ぬ~べ~といえば鬼の手を使った妖怪とのバトルが主軸ですが、彼の魅力は闘ってばかりじゃなく、可哀想な妖怪や霊を救ってあげるところでもあるので


現在グランドジャンプPREMIUMにて続編の地獄先生ぬ~べ~NEOが、グランドジャンプにてスピンオフの霊媒師いずなが連載中ですが、どちらもおススメです。実写ドラマの方は・・・・・・とりあえずぬ~べ~知らない人が興味をもつきっかけになればいいんじゃないかと思います。

子供の時「エロい・・・」

大人になってから「エロいwwwwww」

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