右代宮戦人「怪異なんてこの世に存在しねえ!」ヒュン!! 忍野忍「ぐふっ!!」グサッ!! (845)

右代宮戦人「これで決着だな。最強の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード」


忍野忍「か……かっ……。こんな……はずではなかった……のじゃがな……」ゲホッ


戦人「これで終わりだ。怪異なんてのは人が作り出した幻想だと俺ははっきりと言える!」

戦人「お前はよく戦ったがな……」


忍「ならば……問いに答えてみるがよい……」

忍「この怪異が……人の仕業だと言うのなら……」

忍「儂は……あの中の……誰じゃ……?」


戦人「……!!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403503603

化物語×うみねこのなく頃に

基本、うみねこ寄り。化物語を愛しているという方にはきついと思います。ここでUターンして下さい

『怪異』をうみねこ本編でいう『魔法』として考えていきます

【五時間前】


戦人「怪異なんてものは存在しねえ!」

忍「怪異は『いる』ぞ。戦人とやら」


戦人「はっ。だったら証明してみやがれ。怪異がいるってな」

忍「かかっ。儂という存在がここにいるというだけでそれが証明のはずじゃがな」

忍「儂は怪異の王、吸血鬼じゃぞ?」

忍「まあ、確かに今はちと違うがの」

忍「しかし、その力全てが失われておる訳ではない」

忍「どうじゃ? 疑うならその体で直に試してみるか、小僧?」


戦人「生憎、そいつは無理な話だな」

忍「ほう。何故じゃ?」

戦人「お前が実在しないからだ。魔女も吸血鬼も怪異も!」

戦人「全ては幻想。お前の存在を信じる人間が生み出すまやかしだ!」

戦人「この世に怪異なんてものが存在するはずないんだからな!!」


忍「かかっ。これは面白い。儂に人の身でありながら挑むというか、小僧」

忍「なら思い知らせてやろう。怪異という存在が本当に『いる』という事をな。かかっ」


戦人「いいだろう。ゲーム開始だぜ!!」

ゲーム1 『ひたぎクラブ』

【学校。階段】


戦場ヶ原ひたぎ「」トコトコ

ひたぎ「」ツルッ

ひたぎ「」ハッ!!


ひたぎ(バナナの皮……!?)


ひたぎ(落ち……!!)



ヒューン……

【踊り場】


阿良々木暦「!?」


暦(空から女の子が降ってきた……!?)


暦(とにかく受け止めないと……!)スッ……



ヒューン……


ポスッ



暦(軽い……?)

暦(まるで体重がないみたいに……)


ひたぎ「……!!」

【???】


忍「かかっ。ひたぎクラブの冒頭の場面じゃな」

忍「校舎の階段から足を踏み外した戦場ヶ原ひたぎを我が主様が受け止める場面じゃ」


忍「お前も先程見ての通り、かなりの高所からの落下。地上四階ぐらいからかの? しかし、我が主様は何事もなくそれを受け止めた」

忍「怪異である『おもし蟹』によって体重を取られていたからの。あの娘には体重というものがほとんどない」

忍「どうじゃ、戦人? 怪異が関わっているからこそ出来た事で、それ以外では不可能な事じゃろう?」

忍「つまり、怪異というのは『いる』のじゃ。かかっ」

戦人「なるほど。確かにこれは一見不可能に見えるな」

忍「不可能に見える、ではなく不可能なのじゃ」

忍「それよりもどうする? お前の大言壮語は初っぱなから詰まったぞ」

忍「かかっ。素直に怪異を信じる気になったのかの?」


戦人「はっ」

戦人「駄目だ、駄目だ、全然駄目だぜ」

戦人「ベアトリーチェやベルンカステルに散々鍛えられた俺からしてみれば、こんなミステリー(謎)はぬるま湯過ぎだな」

戦人「これからたっぷりと見せてやるぜ、俺の青き真実ってやつを!」




「戦場ヶ原ひたぎが階段から落ちたという証拠がない以上、この『出来事』が本当にあったという保証はない!」



「戦場ヶ原ひたぎと阿良々木暦が揃って嘘をついている可能性がある!!」


忍「なるほどのう……」

忍「しかし、それを証明するのは無理な話じゃな。これを見ていたのは当事者の二人だけで、他に証明する人間なぞおらぬ」

忍「儂も影の中で見ておったが、お前にとってそれは証明にならぬのじゃろ?」


戦人「当たり前だ」

戦人「幽霊や妖怪の証言が法廷で成り立つ訳がねえ」

戦人「……元からいないんだからな」ニヤリ


忍「やれやれ……」

忍「これこの通りここにおるのじゃがな」


戦人「『いる』と言えばそこに『いる』事になる。それが魔法や怪異の正体だ」

戦人「当事者二人が揃って『戦場ヶ原ひたぎは、怪異のせいで体重がなかった。故に高い場所から落ちても怪我一つせずに受け止める事が出来た』と言えば、確かにその通りになる」

戦人「実際にはそんな事はなかったとしても、他の人から見ればそれが真実として映ってしまう。少なくとも絶対的な否定は出来ない

戦人「何故なら、怪異や魔法をこれまで『絶対にない』と証明出来たやつは一人もいないからな。それが悪魔の証明ってやつだ!」


忍「かかっ。ならば仕方がないのう」

忍「こういうのはどうじゃ?」




「この赤字で書かれた言葉は、疑う余地のない絶対的な真実じゃ」



「理由も理屈も証明も必要なく、この赤字は全て真実しか語らぬ」


戦人「なっ!?」

戦人「まさか、赤の真実を使えるのか、お前!?」


忍「かかっ。そうじゃ」

忍「魔女ではないから、儂が赤の真実を使えぬとでも思うておったか?」

忍「ずいぶんと浅はかな事じゃの」


忍「その上で儂はこう言おう」




「戦場ヶ原ひたぎが階段から滑って落ちた事は一切の紛れもない真実じゃ」



「その際、阿良々木暦が戦場ヶ原ひたぎを受け止めたのも実際に起こった出来事じゃ」



「そして、戦場ヶ原ひたぎと阿良々木暦はこの時、打撲や裂傷などいかなる傷や打ち身などを負ってはおらぬ。全くの無傷じゃ」


戦人「くっ!!」


忍「どうじゃ? 何か反論の余地はあるかの?」

忍「お前が疑っておった二人の嘘という想像はこれで全て消えたがの」


戦人「確かに嘘ではなかったみたいだな……」

戦人「だがな、反撃の手はある! この程度の事は予想の範疇だからな!」


戦人「これならどうだ!!」




「戦場ヶ原ひたぎは地球の通常の重力下の元、自由落下の速度で階段から落ちたとは限らない!」



「体にロープ等を絡みつけて空中で浮遊できる様にし、落ちるフリをしてみせた可能性がある!」


忍「そんな事をすれば我が主様も流石に気付くと思うがの」

忍「そもそもあの娘ごに、その様な事をする理由など何一つない」


戦人「はっ。理由云々なんてのは後から幾らでも説明がつくんだぜ」

戦人「だから、今は理由よりも方法を優先する」

戦人「まず阿良々木暦が流石に気付くとお前は言ったが、ロープではなく細くて丈夫で透明な糸を使って、おまけに上手く相手の死角にそれを隠せば向こうからは完全に見えなくする事も十分可能なはずだ」

戦人「アイドルのコンサートとかでよくやる空中移動のアレだな」

戦人「糸自体は最後に自分で切ればいい」

戦人「十分な用意さえあれば、それも可能なはずだ」

忍「ふむ……」

忍「儂がここであっさりと赤き真実を使って否定しても良いが、それでは面白味がないかの?」


戦人「下らない事を」

戦人「そもそも初めからお前が赤の真実で『怪異はいる』と言えばそれで済む話だ」

戦人「それが出来ないから、お前はこうして無駄な時間を費やしてる訳だ。そこら辺はベアトリーチェ達と同じだな」


忍「かかっ。魔女も怪異と言えば怪異であろうに」

忍「だが、お前は時間潰しは嫌いな様じゃから、先にこれだけは伝えておいてやろうかの」


戦人「……?」




「戦場ヶ原ひたぎは地球の通常の重力下の元、自由落下の速度で階段から落ちた」



「体にはロープ等の類いなど一切つけておらず、空中で浮游したという事は一切ない」



「戦場ヶ原ひたぎは、階段から滑り落ちて阿良々木暦に受け止められるまでの時間、手足や体を使っての物の操作などは全くしなかった」



「戦場ヶ原ひたぎが階段から落ちたのは完全に偶然であり、彼女はそれに備えての用意などは一切しておらぬ」


戦人「ぐふっ!!」ドサッ


忍「やれやれ、初めからこれでは先が思いやられるのう」

忍「赤で証明した通り、戦場ヶ原ひたぎはトリックなど一切しておらぬ」

忍「この調子で果たして最後までお前の体は持つのかえ?」ニヤリ



戦人「持つに決まってるだろ……!」ハァハァ……

戦人「さあ来やがれ! 俺はこれぐらいじゃやられねえ!!」

戦人「幾らでも来てみろ!!」



忍「かかっ。お前は愉快な男じゃのう、戦人とやら」

忍「ベルンカステルではないが、この儂の退屈しのぎにはなるかもしれぬな。かかっ」

忍「さて、戦人。それでどうするのじゃ?」

忍「素直に降参して怪異の存在を認める気にはまだなっておらんのじゃろ?」


戦人「当然だ!」

戦人「この第一ゲームがいつ終わるかは知らないが、こんな冒頭で俺が負けを認める訳にはいかねえ」

戦人「これには必ず何かトリックがあるはずだ。人の手によって可能な方法が」

戦人「でないと、『怪異』なんて訳のわからないものを認めちまう事になるからな!」


忍「そう言うとは思っておったがの」

忍「ならば、どうする? この決定的な場面においてまだ反撃してみるか?」

忍「お前の青き真実とやらで」


戦人「当然だ!」

戦人「それなら言わせてもらう」

戦人「まず、戦場ヶ原ひたぎが何かをしたというのは一旦置いておく事にする」

戦人「何故なら、赤き真実のこの一文が非常に強力だからだ」




「戦場ヶ原ひたぎが階段から落ちたのは完全に偶然であり、彼女はそれに備えての用意などは一切しておらぬ」


戦人「こんなものを早々に出されたんじゃ疑う余地があまりに少ない」

戦人「となると、必然的に疑いは受け止めた方の阿良々木暦へと移る」


忍「かかっ。まあ、そうじゃろうな」


戦人「だから、俺の次の一手はこいつだ!」




「戦場ヶ原ひたぎを受け止めた時、阿良々木暦は自分の手で受け止めていない可能性がある!」



「丁度、階段の踊り場にマットなどそれに準ずるものがあり、阿良々木暦は咄嗟にそれをずらして、戦場ヶ原ひたぎを受け止めた!」


忍「なるほどの」

忍「確かに筋は通っておるな」


戦人「俺は次の一手を指したぜ。今度はそっちの番だ」


忍「そういえば、これをチェスに見立ててゲームをしておったとかラムダデルタは言っておったか」

忍「ならば儂も次の一手を指すとしよう」





「阿良々木暦は比喩的な意味でも何でもなく、確かに戦場ヶ原ひたぎの体を『両手』で受け止めた」


ズバッ!


戦人「ぐっ!!」


忍「かかっ。さぞや痛かろう。自分の放った青き真実を真っ向から折られるというのは」

忍「だが、儂の赤き真実は手加減も容赦もせぬぞ」




「阿良々木暦は戦場ヶ原ひたぎを受け止める際、道具などを持ってはいなかった」



「阿良々木暦は戦場ヶ原ひたぎを受け止める際、道具を使用しておらぬ」



「ここでいう『道具』とは、マットやトランポリンの様な巨大な物から、ボールペンや消しゴムなどといった小さな物まで、大きさや数に関わらず全て含む」



「阿良々木暦にとっても、戦場ヶ原ひたぎが階段から落ちてきたのは完全に偶然であり、それに対しての用意などは一切しておらぬ」


戦人「なっ!?」


忍「かかっ。赤き真実の強さはお前が多分一番知っておるじゃろう?」

忍「二人が二人とも偶然だった。ならば、そこに何らかの用意や準備など出来るわけもない」

忍「二人はたまたま出会い、そしてたまたま我が主様は『その』事を知った」

忍「階段から落ちてきた戦場ヶ原ひたぎを受け止める事で、彼女の体重が異常に軽い、とな」

忍「そして、この不可思議な状況を見るに、それは怪異の仕業以外有り得ないと納得せざるを得まい?」

戦人「…………」


忍「どうしたのじゃ? さっきからずっと黙っておるが」


戦人「いや、このトリックがお前のおかげでわかったからな」ニヤリ

戦人「トリックなんてものじゃない。これはむしろペテンに近いな。昔、真理亜が出したチーズの問題によく似てやがる」


忍「…………」


戦人「おいおい、どうした? 今度はお前が無口になってるぞ? 少し喋りすぎたという事を自覚したのか? 最強の吸血鬼!」

戦人「お前の余分なお喋りと、さっきの余分な赤き真実で俺はこの謎が完璧に解けたぜ!」


忍「……!」

戦人「そもそもだ」

戦人「戦場ヶ原ひたぎがどこから落ちたかを俺はまだ一言もはっきりとは聞いていなかったんだよな」

戦人「階段から、としか聞いていない」

戦人「そして、お前もそれをこれまで曖昧に全て誤魔化してきた」

戦人「確かお前は最初にこう言っただけだよな?」


『かなりの高所からの落下。地上四階ぐらいからかの?』


戦人「高さについては疑問系。そして、怪異であるお前が嘘をつく事は十分に有り得る」

戦人「それに、ここで見たものと聞いた事は、赤き真実以外、何一つ確かな証拠にはならない事を俺はベアト達との過去のゲームから知っている!」

戦人「何せ六軒島じゃ魔法合戦が当たり前の様に繰り広げられていたんだからな!!」

戦人「更に言うなら、戦場ヶ原ひたぎ、阿良々木暦の二人ともが意図的ではなく偶然だというのなら、トリックも何もあったもんじゃない。つまり、疑うべきは中でどうなっていたかではなく、その外側の世界と状況!」

戦人「真理亜のチーズの問題でもそうだった。チーズの形状は推理する者に委ねられる。赤き真実で示されてない限りは」


戦人「戦場ヶ原ひたぎは、本当に高いところから落ちたのか?」

戦人「実は、低いところから落ちたのを阿良々木暦が手で支えた(受け止めた)だけじゃないのか?」


戦人「それを今からこの青き真実で確かめる! 覚悟しやがれ!!」

戦人「最強の吸血鬼、キスショットに赤き真実で復唱を要求する!!」




「戦場ヶ原ひたぎは、地上四階、あるいはそれに近い高さの場所から落ちた!」



「ここでいう『落ちる』とは、体全部が地面から離れ、自由落下している状態の事を指す。倒れる、転ぶではなく、『落ちる』である!」



「また、阿良々木暦も、倒れたのを『支えた』のではなく、落ちてきたのを『受け止めた』である! この二つは同一の意味を持たない!!」


戦人「どうだっ! 復唱出来るものならしてみやがれ!!」


忍「かかっ」ニヤリ


戦人「!?」





「戦場ヶ原ひたぎは、地上四階、あるいはそれに近い高さの場所から落ちた」



「ここでいう『落ちる』とは、体全部が地面から離れ、自由落下している状態の事を指す。倒れる、転ぶではなく、『落ちる』じゃ」



「また、阿良々木暦も、倒れたのを『支えた』のではなく、落ちてきたのを『受け止めた』である。この二つの単語は同一の意味を持たない」


ヒュイン……!!


戦人「がふっ!!」ズサッ!!



忍「うむ。直撃じゃな」

忍「儂から言わせればのう、戦人」

忍「青き真実など、使わぬ方が良いのじゃ。外した場合、ダメージは全てお前に返ってくるのじゃからな」

忍「素直に諦めた方が良かろう? 認めた方が良かろう?」

忍「怪異は『いる』とな。かかっ」


戦人「ぐっ……! どうしてだ……!!」ヨロッ

戦人「どうなってやがる……! 一体……!!」

>>46は青き真実じゃなくてあくまで復唱要求だな
青き真実は魔法(怪異)を否定する仮説じゃないといけないから
ニンゲン説(自然説?)で説明してこそ赤字の義務が発生する

>>48

俺の思ってる浮游って体全部が地面から離れてることなんだけどこの場面は加えて「十分な時間制止していること」とかも言外に含んでるんだよね
じゃないと早速矛盾が出てしまう

>>50
失礼。脳内で訂正しておいて下さい
>>51
そうです。浮遊の定義は「空中で浮かびただよう」となるので、自由落下はこれに含まれません
あと、考察はお好きにどうぞ

忍「さてさて、戦人、どうするのじゃ?」

忍「尻尾を巻いて逃げるかの?」

忍「他に何も推理など思いついておらぬのじゃろ?」


戦人「っ……!」

戦人「逃げはしないぜ……」

戦人「だが、この謎は一旦保留する……」


忍「保留、か」

忍「まあ、良いじゃろう」

忍「が、保留するだけ時間の無駄というものじゃがな。初めから言うておるが怪異というのは『いる』」

忍「おもし蟹、迷い牛、レイニーデビル、蛇切縄、さわり猫。そして、吸血鬼」

忍「お前はこれから六種の怪異と出会う事となるのじゃ」

忍「その全てを否定する事など出来ぬ出来ぬ。かかっ」

戦人「何種類いようがそんなものは俺には関係ない事だ」

戦人「怪異や魔法なんてのは、ありはしない! それは俺が一番よく知っている!」


忍「だが、そう言われても『これから起こる事』が『真実』である以上、仕方があるまい? 儂はただ『真実』を語っておるだけじゃからな」

忍「つまり、怪異は『いる』とな。かかっ」


戦人「……お前と話してると、思わず真理亜と話してるような気になるぜ」

戦人「だがな、そんな事を言われて、はい、そうですかと信じるような人間じゃねーんだよ、俺は」

戦人「だから、俺はここで一つ提案する。これはお互いに得にも損にもなる話だが、公平さを期す為に認めてもらいたい事だ」


忍「なんじゃ?」


戦人「十の楔の異端審問官を要請する!」

忍「異端審問官じゃと……」


戦人「来い! ドラノール・A・ノックス!!」ダンッ!!

バシュンッ!!!


ドラノール「」フワッ……

ドラノール「かねてからの約束により、ここに参上致しマシタ」

ドラノール「お久しぶりデス、戦人。そして、キスショット」ペコッ


戦人「ははっ、サンキュー。来てくれて助かったぜ」ニコッ

ドラノール「礼には及ばないデス。私は今回中立の立場ですカラ」


忍「…………」

ドラノール「私の参加は認められマスネ? 最強の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード」

忍「かかっ。認めよう。何をしても儂や怪異の存在を否定する事など出来ぬからな」


ドラノール「では、赤き鍵による十の楔をこの物語に打ち付けさせてもらいマス」

ドラノール「今回、物語用に幾つかアレンジを施してはありマスが、それは全て公平を期すための処置デス。どちらかが有利となる様な事はありマセン」

ドラノール「それデハ……」スッ……




ノックス第1条
「犯人(怪異の正体)は、化物語に出てくる登場人物以外を禁ず。ただし、自然現象はこれに当てはまらない」



ノックス第2条
「探偵方法に超自然能力の使用を禁ず」



ノックス第3条
「常識から逸脱した偶然、及び、物語が夢の中の出来事(夢オチ)である事を禁ず」



ノックス第4条
「未知の薬物、及び、難解な科学装置の使用を禁ず」



ノックス第5条
「犯人(怪異の正体)となり得る人物が、未知の登場人物である事を禁ず」



ノックス第6条
「探偵方法に偶然と第六感の使用を禁ず」



ノックス第7条
「登場人物全員が犯人(怪異の正体)である事を禁ず」



ノックス第8条
「提示されない手掛かりでの解決を禁ず」



ノックス第9条
「観測者は自分の判断・解釈を主張することが許される」



ノックス第10条
「手掛かりなき他の登場人物への変装を禁ず」


ドラノール「……以上デス」

ドラノール「この十戒に少しでも抵触した場合、私の赤鍵にて全て破壊しマス」

ドラノール「お二方とも、くれぐれも注意して下サイ」ペコリ


ガートルード「更には、謹啓、慎んで申し上げる」

コーネリア「以下、二点も特別ルールと知り奉れ」




「赤き真実内における言葉の定義は、共有事項として便宜的にgoo辞書に登録されているものと全く同じとする」



「誤字脱字などによって赤き真実が覆されたり無効になる事は一切ない」





戦人「……という事だ、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード」

戦人「まずはノックス第五条! 犯人(怪異の正体)となり得る人物が未知の登場人物である事を禁ず!!」

戦人「よって俺は、予定されている全てのゲーム、その登場人物の開示を今、要求する!!」

忍「それは構わぬが……」

忍「その前に尋ねておくぞ。ドラノール、このノックス第一条のただし書きはどういう意味じゃ?」


ノックス第1条
「犯人(怪異の正体)は、化物語に出てくる登場人物以外を禁ず。ただし、自然現象はこれに当てはまらない」


ドラノール「いわゆる偶然現象の事デス」

ドラノール「白いカーテンを幽霊と見間違エタ、窓の外からノックが聞こえたが実は風で木の枝が当たっていたナド、勘違いにおける怪異の正体を認めるものデス」

ドラノール「つまり、人の犯行ではなく、偶然の現象という事も認めていマス」


戦人「幽霊の、正体見たり、枯れ尾花、か……」

戦人「極端な事を言えば、トリックなんか何もなくて、偶然や勘違いによって全部起こったって事も有り得るって訳か?」


ドラノール「そうデス。もちろん通常では余りに有り得ない程の偶然や勘違いは、ノックス第三条によって認めていまセンガ」


戦人「まあ、そこら辺は一般的なミステリーでも認めてるな。雷が『たまたま』落ちて停電になったとか、『たまたま』知人がいきなり訪ねてきたとか、そんなところか」

戦人「わかった。了解だ」


忍「怪異の儂からしてみれば、ちと気に食わん話じゃが良かろう」


忍「さて、それでは戦人からの要請に、今から赤で答えるかの」

忍「二度は言わぬから、聞き逃す事のないようにせよ」




「化物語において、出てくる登場人物は以下の九人じゃ」



「阿良々木暦、戦場ヶ原ひたぎ、羽川翼、八九寺真宵、神原駿河、千石撫子、ブラック羽川(さわり猫)、忍野メメ、忍野忍、の九人」



「じゃが、この中に一人二役、あるいは二人一役など複数役を演じている登場人物がいる可能性を儂は否定せぬ」



「また、この世に存在しない人物が混ざっている可能性も儂は否定せぬ」


戦人「なっ!」

忍「かかっ。ノックス第10条、手掛かりなき他の登場人物への変装を禁ず、じゃったかの?」

忍「かなり変則的じゃが、これで、全員に手掛かりが出来た、と解釈しても構わぬかのう? ドラノール・A・ノックス」チラッ


ドラノール「……十戒に抵触しまセン。二つの注意事項、共に有効デス」


戦人「おい、そんなっ!」

戦人「そんな無茶な話があるかよっ! これで何の手掛かりもなしでの変装を認める事になるし、いないやつが存在する可能性もある事になるんだぜ! そんな無茶が通用するかよ!」


ドラノール「デスが十戒には抵触してマセン。有効デス」


忍「かかっ。愉快じゃのう。実に面白い」

忍「ドラノールが来て不利になっているのはお前の方ではないのかの、戦人?」ニヤリ


戦人「ぐっ……!」

戦人「おい、ドラノール! 納得の出来る説明をしてくれ! 何であれが十戒に抵触しなくなるんだっ!」

ドラノール「……例えばデスが、戦人」


ドラノール「ーー例えば、殺人現場が仮面舞踏会の場だったとしても貴方は同じ事を言うのデスカ?」

戦人「!?」

ドラノール「仮面舞踏会の場では、体格と髪型、格好さえ同じにしてしまえば、一人何役でも出来るはずデス」

ドラノール「また、誰にでもそれは可能デス」

ドラノール「つまり、先の状況は、『そういう場で起こったもの』と同等の状況であるとワタシは考えマス」

ドラノール「デスので、この状況は、ノックスの十戒に抵触しまセン。手掛かりはありますカラ」


戦人「なるほどな……。状況的密室ならぬ、状況的変装可能状態って事かよ……」


ドラノール「ハイ。デスが声を発した場合は、声帯の違いから、男から女へ、女から男へ、という変装は認められまセン」

ドラノール「また、子供から大人へ、大人から子供へという、背が余りに違う場合の変装も認められまセン」


戦人「それはわかる……。だが、これがチェスで言う盤外で起こった事だってのがな……。こんなのが正当なミステリーと言えるのかよ!」


ドラノール「正当かどうかはワタシは問いませんし、また、その判断をつける気もありマセン」

ドラノール「ただ十戒に抵触しない限りは、ワタシはどちらの敵にも味方にもならないというそれだけの事デス」

戦人「……わかった。それについては認めよう」

戦人「だが、存在しない人間がいる可能性なんてのはいくらなんでも滅茶苦茶だ! それは認められないだろ!」


忍「かかっ。しかし、仕方あるまい。怪異はこの世には存在しておらぬからの」

忍「つまり、儂や真宵などは元からこの世にはおらぬ存在じゃ」

忍「しかし、お前は名前を上げろという」

忍「ならば、そういう注意事項がつくのは当然の事ではないかのう?」


戦人「だからってなあ!」


ドラノール「少し良いデスか、戦人」

戦人「!?」

ドラノール「これも同じデス。つまり、これは六軒島における右代宮金蔵の存在と同じだと私は考えマス」

ドラノール「よって登場人物として名前を挙げるのはノックスの十戒には抵触しまセン」


戦人「っ!」


忍「かかっ。そういう事じゃ、戦人。諦めよ」

戦人「ちっ……!」

戦人「つまり、初期のベアトやジイ様みたいな、不確定な存在だな。いるかいないかはっきりしないっていう」

戦人「なら、いいだろう。そっちの言い分は認める……」

忍「うむうむ」

戦人「だが、そういう事ならこれだけは赤き真実で保証してもらおうじゃないか」

忍「なにをじゃ?」

戦人「お前が言う『怪異そのものでない人間』以外が、確かにこの世に生きて存在しているという、その証明だ! ジイ様の二の舞は御免だからな!」


忍「ふむ……」

忍「これは断った方がきっとお前は不利になるのじゃろうな。儂としては断った方が良い」


忍「が……」ニヤリ

忍「儂はその様な事はせぬぞ。あの魔女どもと違って遊ぶ趣味はないからの」

忍「お前の言う通り赤き真実で保証してやろう」




「阿良々木暦、戦場ヶ原ひたぎ、羽川翼、神原駿河、千石撫子、忍野メメの六人は確かに生きており、また確かに実在もしておる」


戦人「……逆に言えば、八九寺真宵、ブラック羽川、忍野忍の三人は、初めから存在しないという可能性がある訳だな」

忍「かかっ。それはそうじゃ。儂を含めみな怪異じゃからの」

忍「『この世』にはおらぬ可能性があるのは当然であろう?」

戦人「ますますベアトみたいな存在って訳だ。いるかどうかはわからないが、登場人物ではあるという……」


忍「どう取るかはお前の勝手じゃな」

戦人「なら、言葉通り、こっちで好きな解釈をさせてもらうぜ」

忍「かかっ。好きにするとよい」

戦人「……ちっ」

忍「さてと、ではそろそろ話を進めようかの。構わぬな?」

戦人「OKだ。それじゃ第二ラウンドに行こうぜ」

戦人「次で、お前のその高慢な鼻っ柱をへし折ってやる!」


忍「かかっ。やれるものならばやってみるがよい」

忍「だが、絶対に……」

忍「無駄じゃがな」ニヤリ


戦人「……!」

忍「では、次のシーンに移るかの」

戦人「ああ、来やがれ」

【教室】


羽川翼「戦場ヶ原さん?」

翼「戦場ヶ原さんが、どうかしたの?」

暦「どうかっつうか……」

暦「まあ、なんか、気になって」

翼「ふうん」


暦「ほら、何か、戦場ヶ原ひたぎだなんて、変わった名前で面白いじゃん」

翼「……戦場ヶ原って、地名姓だよ?」

暦「あー、えっと、そうじゃなくて、僕が言っているのは、ほら、下の名前の方だから」

翼「戦場ヶ原さんの下の名前って、ひたぎ、でしょう? そんな変わってるかな……ひたぎって、確か、土木関係の用語じゃなかったっけ」

暦「お前は何でも知ってるな……」

翼「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」

【???】


戦人「あれは?」

忍「我が主様と、羽川翼という委員長じゃな」

忍「この時期は文化祭の時期だったからの。副委員長の我が主様とあの娘ごで、その計画を練っておるところじゃな」

戦人「そりゃまた健全な事で」

戦人「あー、でも文化祭と言えば朱志香もそんな話をしていたな」

戦人「なんつーか、羨ましくもあり、今となっては遠くの世界の出来事の様な気もするけどな。不思議なもんだぜ」


忍「目の毒かの?」

戦人「そんな事はねーよ」

戦人「それでこの後はどうなるんだ?」

戦人「まさかこれが怪異じゃなきゃ有り得ない事なんて言わないよな?」


忍「かかっ。面白い事を言うのう」

忍「が、まあ、確かに我が主様は最初の頃、恋愛どころか友達さえいなかった身じゃ」

忍「そう考えると、この状況は怪異と呼べなくもないかもしれぬの」

忍「頭がよく真面目で可愛いらしい巨乳なおなごから色々と世話を焼かれておる訳じゃから」

忍「モテない我が主様からしてみれば、正しく怪異現象じゃな。かかっ」


戦人「……おい」ジロッ


忍「やれやれ。そう慌てるでない」

忍「我が主様はもう少し羽川翼から戦場ヶ原ひたぎの事について色々と尋ねた後で……」

忍「それから話を途中で切り上げて教室から出て行く事となる。面白くなるのはこの後からじゃ」

【廊下】


ガラッ


ひたぎ「羽川さんと何を話していたの?」

暦「?」クルッ

ひたぎ「動かないで」ジャキッ

暦「!?」

暦(カッターを口の中に入れられた!?)


ひたぎ「ああ、違うわ。動いてもいいけれど、とても危険よ、というのが、正しかったのね」


ひたぎ「好奇心というのは全くゴキブリみたいね。人の触れられたくない秘密ばかりに、こぞって寄ってくる。鬱陶しくてたまらないわ。神経に触れるのよ、つま らない虫けらごときが」

暦「……お、おい」

ひたぎ「何よ。右側が寂しいの? だったらそう言ってくれればいいのに」ジャキッ

暦「!!」

暦(今度はホッチキスまで口の中に……!!)

戦人「無茶苦茶な女だな……。絵羽叔母さんが可愛く見えるぜ」

忍「かかっ。女というのは時と状況によって幾らでも変わる生き物じゃからな」

忍「とはいえあの娘ごが少々変わり種だというのは否定はせんが」

戦人「これも怪異の影響だってのか?」

忍「全く影響がなかったとは言えんな。が、お前に見せたいのはここからじゃ」

戦人「…………」

【廊下】


ひたぎ「気付いているんでしょう?」

ひたぎ「そう、私には重さがない」

ひたぎ「といっても、全くないというわけではないのよ。私の身長・体格だと、平均体重は四十キロ後半強というところらしいのだけれど」

ひたぎ「でも、実際の体重は、五キロ」

ひたぎ「まあ、正確を期すなら、体重計が表示する重量が五キロというだけなのだけれどーー本人としては自覚はないわ。四十キロ後半強だった頃も、私自身は、今も、何も変わらない」


暦「…………」


ひたぎ「中学校を卒業して、この高校に入る前のことよ」

ひたぎ「中学生でも高校生でもない、春休みでもない、中途半端なその時期に、私は『こう』なったの」

ひたぎ「『一匹』の『蟹』に出会って」

ひたぎ「重さを根こそぎ持っていかれたわ」


暦「…………」

ひたぎ「ああ、別に理解しなくていいのよ。これ以上かぎまわられたらすごく迷惑だから、喋っただけだから」

ひたぎ「病院の先生が言うには、原因不明ーーというより、原因なんかないんじゃないかって。他人の身体をあそこまで屈辱的にいじくり回して、その結論はお寒いわよね。元から、『それ』が『そうである』ように、『そうであった』としかいえないーーなんて」

ひたぎ「あまりに馬鹿馬鹿しいと思わない? 私ーー中学校までは、普通の、可愛い女の子だったのに」


暦「…………」


ひたぎ「同情してくれるの? お優しいのね」

ひたぎ「でも私、優しさなんて欲しくないの」

ひたぎ「私が欲しいのは沈黙と無関心だけ。持っているならくれないかしら? ニキビもない折角のほっぺた、大事にしたいでしょう?」

ひたぎ「沈黙と無関心を約束してくれるのなら、 二回頷いて頂戴、阿良々木くん。それ以外の動作は停止でさえ、敵対行為とみなして即座に攻撃に移るわ」

暦「」コクッ……コクッ……

ひたぎ「そう」

ひたぎ「ありがとう」スッ

ガジャコッ

暦「……ぎぃっ!?」ガクッ……

暦「ぐ……い、いい」

ひたぎ「悲鳴を上げないのね。立派だわ」

ひたぎ「今回はこれで勘弁してあげる。自分の甘さが嫌になるけれど、約束してくれた以上、誠意をもって応えないとね」

暦「……お、お前」

ガジャコッ

暦「」ビクッ

ひたぎ「それじゃ、阿良々木くん、明日からは、ちゃんと私のこと、無視してね。よろしくさん」クルッ

ひたぎ「」スタスタ……


暦「あ……悪魔みたいな女だ」

【???】


戦人「ひでえもんだな」

忍「人殺しよりは遥かにマシじゃと思うがの」

戦人「…………」

【廊下】


暦(……とにかく、口の中に刺さったホチキスの針を抜かないと)

暦「」スッ

ブチッ

暦「くあぁ……」


暦(……でも、大丈夫)

暦(これぐらいなら……僕は大丈夫)

【???】


忍「それでこの後、教室から出てきた委員長と会話をしてな……」

忍「我が主様が走って、階段を降りていたあのおなごに追いつくのじゃ」


戦人「ふうん……」

【踊り場】


ひたぎ「……呆れたわ」

ひたぎ「いえ、ここは素直に驚いたというべきね。あれだけのことをされておいて、すぐに反抗精神を立ち上げることができたのなんて、覚えている限りではあなたが初めてよ、阿良々木くん」

暦「初めてって……」

ひたぎ「それに、口の中の痛みって、そう簡単に回復するようなものじゃないはずなのだけれど。普通、十分はその場から動けないのに」

ひたぎ「いいわ。分かった。分かりました、阿良々木くん。『やられたらやり返す』というその態度は私の正義に反するものではありません。だから、その覚悟があるというのなら」

ひたぎ「戦争を、しましょう」ジャキッ

暦「ち……違う違う。戦争はしない」

ひたぎ「しないの? なあんだ」

ひたぎ「じゃあ、何の用よ」

暦「ひょっとしたら、なんだけれど」

暦「お前の、力になれるかもしれないと、思って」

ひたぎ「力に?」

ひたぎ「ふざけないで。安い同情は真っ平だと言ったはずよ。あなたに何ができるっていうのよ。黙って、気を払わないでいてくれたらそれでいいの」

暦「…………」

ひたぎ「優しさもーー敵対行為と看做すわよ」


暦「」グイッ


ひたぎ「ーーえ?」

ひたぎ「あなたーーそれって、どういう」

ひたぎ「嘘でしょ。口の中に傷がない……!」

【???】


戦人「……なるほど。今度は何故か無傷っていう『謎』か」

忍「正確に言うなら『傷をおったのじゃが異常な速度で回復をした怪異』じゃな」

忍「お前も聞いた事ぐらいはあるじゃろう? 吸血鬼の治癒能力じゃ」

忍「我が主様は儂と同じで老化もせぬし怪我もすぐに治る体になっておるからの」


戦人「あー、わかった、わかった。そんな設定話は後で暇な時にまとめて聞いてやるよ」

戦人「この謎を解き終えてからな」キリッ


忍「謎ではないと言うておろうに」

戦人「さて、それじゃ早速推理させてもらうぜ」

戦人「まず、今回の謎の要点はこれだ」


『傷を負わせたはずが、何故か無傷だった』


戦人「となると、本当に傷を負わせたのか? 本当に無傷だったのか? がはっきりしてなければ前提からしてお話にならないはずだ」

戦人「だから、まずは赤き真実でこの二点の復唱を要求する」




「戦場ヶ原ひたぎは、阿良々木暦の右頬の内側にホッチキスを使って確かに傷を負わせた」



「しかし、その数分後に戦場ヶ原ひたぎが確認したところ、阿良々木暦の右頬の内側には、傷及び傷あとはまるで見あたらなかった」


忍「…………」


戦人「?」

戦人「どうした? これは最低限の条件だぜ。これが復唱出来ないなら、謎として成り立たないんだからな」


忍「確かにそうじゃな」

忍「これを復唱しない限り、お前を追い詰める事は出来ぬし……」

忍「復唱出来ぬと見られて、儂の立場も弱くなるかもしれぬな」


戦人「だったらーー」

忍「じゃが、断る」ニヤリ


戦人「!?」

忍「この儂の最も好きな事は」

忍「自分の思い通りに事が進むと思っておる奴にノーと言ってやる事じゃ。かかっ」

忍「そもそもじゃ」

忍「この程度の事ぐらいでは、吸血鬼の回復能力を示す事にはならぬならぬ」

忍「吸血鬼の回復能力はこの後のゲーム、『するがモンキー』と『つばさキャット』で存分に出てくるからの、そこでぐうの音も出ないほど証明すると儂は決めておる」


忍「よって、ここでは赤き真実で復唱もせぬし、そもそもここの箇所について論じる気など更々ない」

忍「たんに物語の都合上、見せておるだけじゃ」


戦人「…………」

戦人「はっ。ものはいいようだな。そんな言い分じゃ駄目だ、駄目だ、全然駄目だぜ!」

戦人「この場面は説明ができないから、赤き真実が使えないとはっきり言ったらどうだ、キスショット!」

戦人「でなきゃ、茶番にしか見えないぜ?」


忍「…………」


戦人「阿良々木暦に確かに傷を負わせた、だが数分後には傷がなかった、というこの二つの結果が赤で証明出来ないなら、ここは何も起こらなかったのと同じだ!」

戦人「結果があって、その過程が説明出来ないからこそ『謎』は出来上がる」

戦人「今回の結果だけ見ると、『阿良々木暦は無傷だった』としかならないから、これは『謎』として失格だ! 出来損ないの怪異でしかないぜ!」


忍「む……」カチン

忍「良かろう……そこまで言うのなら、赤き真実で保証してやろう」

忍「が、保証するというだけで、儂はこの場面に関してはこれ以上何かを話す気はない」

忍「あくまでこれは前座、ほんの余興じゃからな。かかっ」




「戦場ヶ原ひたぎは、阿良々木暦の右頬の内側にホッチキスを使って確かに傷を負わせた」



「しかし、その数分後に戦場ヶ原ひたぎが確認したところ、阿良々木暦の右頬の内側には、傷及び傷あとはまるで見あたらなかった」



「この時、戦場ヶ原ひたぎは阿良々木暦の右頬の内側をしっかりと見て確認しておる」



「阿良々木暦は傷を隠す様な処置や行動を一切とっていない」


戦人「!?」

忍「ついでに補足もしておいてやったぞ」ニヤリ

忍「これで満足かの? かかっ」


戦人「……なかなかにタチが悪いな、こっちの謎も」

戦人「数分で治る傷か……」


戦人「トリック……?」

戦人「それとも俺が何か状況で見落としてる事がある……?」

戦人「もしくは言葉の屁理屈か……?」


戦人「……悪いが、少し考える時間をもらうぜ、キスショット」


忍「好きにするが良い。ただし、いくら考えて推理したところで儂はこの場面についてはこれ以上、赤き真実は使わぬぞ」

忍「こんなのは取るに足らぬ出来事じゃからな。かかっ」


戦人「……言ってくれるぜ。全く……」

戦人「まず、一旦状況を整理しておきたい」

戦人「前にワルギリアから聞いた話だと、これはシュデリンガーの猫と同じで、怪異が『いる』状況と『いない』状況とが、今、同じ場面に併存している訳だ」

戦人「だから、怪異を完全に『いない』と考えた時に、今はどういう状況か? を考えてみたいと思う」

戦人「そこでだ。これから俺が確定事項を述べていくから、もし、そこに何か間違いがあった場合、悪いがドラノール、訂正してくれないか」

ドラノール「了解デス、戦人」


戦人「」チラッ

戦人「ドラノールが中立の立場とはいえ、確認してもらうぐらいの事は構わないよな? キスショット」

忍「そこは好きにするがよい。儂はケチ臭い事は言わぬぞ」

戦人「それは有り難いな。素直に感謝しとくぜ」

忍「かかっ。素直に有り難がられておくかの」

戦人「じゃあ、一点ずつ言っていくぜ」

戦人「まず確定しているのは、戦場ヶ原ひたぎによる阿良々木暦への攻撃行動」

戦人「そしてこれにはホッチキスが使われた」

戦人「次に、阿良々木暦が無傷だったという事実……いや、待てよ。攻撃…行動……?」

ドラノール「? どうしまシタ、戦人?」

戦人「……違うよな。攻撃するつもりだったとは赤き真実で確定していない……。そうだろ?」

ドラノール「肯定・その様な事実は赤き真実で証明されていまセン」

戦人「という事は……これは攻撃じゃない可能性もあるって事か……」ボソリ

忍「む……」

戦人「となると……」


戦人「…………」


戦人「そうか、そういう事かよ……」ニヤリ

忍「……なんじゃ」


戦人「キスショット。お前はこれ以上赤き真実を使わないと言ったな。つまり、ここでは俺はどんな想像も許される」

戦人「仮にこれが演技だったとしたら? とかもな」ニヤリ

忍「……!」

戦人「お前はこのシーンの最初に言ったよな。今は文化祭の時期だと」

戦人「つまり、二人が文化祭の準備をしていたとしてもおかしくはないって事だ」

戦人「じゃあ、文化祭の準備には何がある? いや、そもそも文化祭と言ったら各クラスや部活動ではどんな出し物をする?」

戦人「バンドの演奏か? 喫茶店やお化け屋敷か? 他にも色々とあるよな?」

戦人「そう、演劇とかもだ!」ビシッ


忍「…………」

戦人「阿良々木暦が被害に遭った場所は、今回、赤き真実で示されていない」

戦人「そして、同じくその場に羽川翼がいなかったとも赤き真実で示されていない」

忍「…………」


戦人「なら、こういう推理も可能じゃないのか?」

戦人「この時、阿良々木暦、戦場ヶ原ひたぎ、羽川翼の三人は教室で居残って演劇の練習をしていた」

戦人「……とかな?」


ドラノール「戦人の推理・主張は赤き真実に抵触しまセン。有効デス」


忍「…………」

忍「……それがどうしたのじゃ。もし仮にそうだったとして、それがどう今回の怪異と繋がるというのじゃ?」


戦人「おいおい。何だ何だ、その自信の無さげな表情と声は」

戦人「いつもの不遜な様子が今のお前には一欠片もないぜ、最強の吸血鬼」ニヤリ


忍「……いいからさっさと言うがよい」

戦人「ああ、もちろんだ。もったいぶるつもりはこちらもないからな」

戦人「最初から説明するぜ」

戦人「この時、阿良々木暦、戦場ヶ原ひたぎ、羽川翼の三人は文化祭で行う演劇の練習を教室でしていた」

戦人「その劇の台本には、相手の口の中にホッチキスを突っ込んで針を刺すシーン、あるいはそれに似通ったシーンがあった」

戦人「世の中は広いから、そんなシーンを劇の中に盛り込んだ作品があっても不思議じゃない。高校生の演劇なんだから、オリジナルをやる事だってあるだろう。だからこの辺は問題ない」

戦人「で、その場面を戦場ヶ原ひたぎが演じている時に、例えば事故や不注意などがあって、戦場ヶ原ひたぎは持っていたホッチキスを誤って閉じてしまった。これも十分に有り得る事だ。不自然じゃない」

戦人「だが、劇の練習だからそのホッチキスには当然の如く針なんか入っていないよな?」

忍「ぐ…………」


戦人「……つまりだ」

戦人「何が言いたいかと言えば、この場面は完璧に見切ったって事だぜ、キスショット!」

戦人「青き真実の後、俺がお前に代わって猫箱の中を再構成してやるから、しっかり見ていろ!」




「戦場ヶ原ひたぎは針の入ってないホッチキスで阿良々木暦の右頬の内側に傷をつけた!」



「だが、その傷は目に見えてわかるほどのものではなかったので、戦場ヶ原ひたぎはそれに気が付かなかった!」


【教室】


翼「それじゃ、次のシーンいくよ」

翼「準備はいい? 阿良々木君、戦場ヶ原さん」


ひたぎ「ええ、いいわ。ホッチキスも用意してあるし、いつでもOKよ」

暦「……僕はどちらかと言えば心の準備がまだ出来ていないんだけどな」

ひたぎ「あら、正直ね、阿良々木君」

暦「まあ、それは。男の分際でこの場面を怖がるというのは確かにみっともないかもしれないけど、でも、状況が状況だから。それに人生初の事でもあるし」

ひたぎ「そうね。童貞のあなたにとっては、これだけの美人に至近距離で近寄られる事自体、初めての事でしょうからね」

暦「僕そんな話をしていたか!?」

ひたぎ「でもね、阿良々木君。それを本人に直接言う事で私に媚を売るというその作戦は全てお見通しだから諦めなさい」

暦「ちょっと待て! 僕はそんな安い男でもないし軽薄な男でもないぞ!」

ひたぎ「阿良々木君、一応言っておくけど、姑息な男というのは決して誉め言葉ではないのよ」

暦「そんなアピールをした覚えは僕にはない!!」


翼「」クスクス

翼「二人とも、何だか息ぴったりだね。今日初めて話したなんてとても思えないよ」

ひたぎ「そうね。私としてもとてもそう思えなくて、今、とても微妙な気持ちでいるわ。阿良々木君、あなたの服をカッターで切り裂いてもいいかしら?」

暦「理由がまるで理解できない!」

ひたぎ「体の方がいいと言うのね、とんだドMだわ」

暦「悪意のある勘違いだ、それは!」


翼「はいはい。漫才もお喋りもそこでおしまい。いつまで経っても終わりそうにないからね。ーーそれじゃ、シーン12いくよ」

ひたぎ「監督命令なら仕方がないわね。阿良々木君、妙な真似をしたら撃ち殺すわよ」

暦「何の銃器を隠し持ってるんですか!?」


翼「はーい。じゃあ、ひたぎさん。阿良々木君の口の中にホッチキスを入れて」

暦「嫌な予感しかしないな……」

ひたぎ「心配しなくてもその前フリはよく理解しているわ」

暦「ますます心配になったよ!」

ひたぎ「いいから口を開けなさい、阿良々木君。潰すわよ、二つとも」

暦「どの部分でも致命傷じゃないか!」

ひたぎ「それじゃ早速初めるわよ。阿良々木君、口を限界まで開けなさい」

暦「……お手柔らかに頼む。というか、前フリじゃないからな、これも」

ひたぎ「わかっているわ。それじゃーー」スッ

ガジャコッ

暦「っ……!?」


翼「え……? ちょっと、ちょっと、戦場ヶ原さん!」


ひたぎ「ごめんなさい、羽川さん。するなとあれほど言われたものだから、むしろしなくてはいけないかと思って、つい……」

翼「ついって……」ハァ……

暦「何だよ、そのバナナがあったら必ず滑って転ばなきゃいけないみたいな、若手お笑い芸人の様なノリは! それに謝るなら僕に謝れよ!」

ひたぎ「本当に申し訳ないけれど、貴方のリアクションには失望したわ」

暦「謝り方に問題がある!」

ひたぎ「そんなリアクションじゃ貴方にお笑いを語る資格はないわね。偉そうな態度もそこまでよ」

暦「いつ僕が偉そうな態度でお笑いを論評した事になったんだ! ていうか偉そうなのは明らかにお前の方だろ!」

ひたぎ「失礼ね。偉そうではなく偉いのよ」

暦「堂々と宣言された!?」


翼「あーあ、もう、ちっとも練習が進まないなあ……」

翼「二人とも、真面目にやってよ。時は金なり、っていうぐらい時間っていうのは大事なんだからね」

暦「あ、いや、僕は真面目にやってるんだが、戦場ヶ原がーー」

ひたぎ「他人のせいに出来る立場?」

暦「一体、何様なんだよ、お前は!?」

ひたぎ「戦場ヶ原様よ」

暦「言い切りやがったよ……」


翼「……戦場ヶ原さん」キラン

翼「怒るよ?」


ひたぎ「……ご、ごめんなさい。もうしないわ」ビクッ

翼「約束だからね」


翼「ーーで、阿良々木君、怪我はない? ホッチキスで挟まれたんでしょ?」

暦「ああ、うん。多少の痛みは感じない訳じゃないけれど、怪我はしてないと思う。針、入ってた訳じゃないしな」

ひたぎ「……悪かったわ。責任を取るためにも、一応見てあげるから、口を開けなさい」

暦「言っとくけど、お前は加害者であって偉そうな態度を取れる立場じゃないからな」

ひたぎ「いいから四の五の言わずに見せなさい」

暦「説得を諦めさせる勢いがある事だけは誉めておくよ……」


暦「……ほい。ほれでいいか?」アーン

ひたぎ「ええいいわ。もう閉じていいわよ」

暦「本当に見るだけかよ!?」

【???】


戦人「って事だ」

戦人「最初の階段の謎はまだ解けてないが、こっちの謎は解けたな」


戦人「この青き真実が否定されない以上、この猫箱には俺とお前の二つの真実が混じる!」

戦人「よって、怪異が『いる』という証明にはならない!」

戦人「つまりは、この盤面はお前の負け(リザイン)だ! 何か反論があるなら言ってみやがれ!!」


忍「ぐ……」

忍「……もちろん儂は反論出来る」

忍「……お前を赤き真実で完膚なきまでにめった打ちにも出来るのじゃぞ」

忍「……が、今回はそれをせぬと言ったはずじゃ」

忍「この最強の吸血鬼である儂に二言をせよと言うのか、戦人?」


戦人「はっ。言い訳にしか聞こえねーな、今更」


忍「ぐ……」

忍「かかっ。良かろう、戦人。ここは素直に何も言わないでおいてやるがの……」

忍「これ以降、儂が手加減をすると思うでないぞ?」

忍「全て赤き真実で一突きにしてやるから、それを楽しみに待っておれ」

忍「儂は主様と出会って、前よりも随分と寛容になったものじゃが……」

忍「お前に対しては、最早、慈悲はない。地面に必ず這いつくばらせてやろうぞ。かかっ」


戦人「やれるものならやってみやがれ」

戦人「どんな謎でも怪異でも最後には全部解いてやるよ! さあどんどん来やがれ!!」

忍「ならば第三の謎を見せようかの」

戦人「ああ、来い!」

忍「まずは、簡単にこの後の展開を話してゆくぞ」

忍「なにせ、順を追って全てを見せるのにはちと長いからのう」

忍「怪異以外の部分は大体省略していく」

忍「また、ついでじゃから初めて出てきた登場人物以外は、これから名字も省略していくぞ。いちいちフルネームを出すのは面倒じゃからの」


戦人「それは構わないが……」

戦人「一応、先に確認しておきたい。名字はともかくとして、その省いた場面の事だ。そこに怪異の謎を解く手掛かりがありはしないだろうな」


忍「かかっ。それは何とも奇妙な、というよりは意味のない質問じゃな、戦人」

忍「儂は怪異が『いる』と言っておるのじゃぞ。それなのに、『怪異の謎を解く手掛かり』とはおかしかろう?」

忍「儂は怪異について語るだけじゃ。儂から言わせれば、謎なんてものはそもそも初めから『ない』」


戦人「…………」

戦人「……確かにお前の立場からすればそうなるだろうな」

戦人「が、これはゲームだ。ルールってものがある!」

戦人「ノックス第8条、提示されない手掛かりでの解決を禁ず!」

戦人「逆に言えば、解決する為には手掛かりが提示されてなければならない!」

戦人「もしもこれに違反した場合、ドラノールの赤鍵がお前を殺す事になるぞ! キスショット!」


忍「かかっ。それこそ意味がわからぬの、戦人」

忍「お前のその論法が通るのなら、怪異など初めからおらぬと、ドラノールが証明しているようなものではないのか?」

戦人「っ……! それは……」

忍「じゃろう? 故に、儂は手掛かりをーーもし、その様なものがあるとしたらじゃがーーそれを提示する必要も義務もない」

忍「儂はただ、起こった真実を語るだけじゃからの。かかっ」


戦人「……相変わらず無茶苦茶言いやがるぜ」

戦人「こちらが解決する為には手掛かりが必ず必要ーーだが、向こう側には手掛かりを提示する必要がないってのは、フェアなゲームとは言えないんじゃないのか?」

戦人「このゲーム、俺にあまりに不利すぎだと思うんだがな」


忍「かかっ。しかし、仕方があるまい?」

忍「怪異がおらぬ、とお前が主張するのなら、お前はそれを証明してみせなければならぬ」

忍「かつて、ガリレオ・ガリレイは、十分な証明をしてみせたにも関わらず、教会の圧力から天動説の主張を放棄せざるを得なかった」

忍「それでも地球は回っている、と隠れて言う事しか出来なかったのじゃ」

忍「しかし、儂はその様な事はせぬぞ。もしもお前が怪異をないものとして証明出来たのなら、それを潔く認めようぞ」

忍「ーーこれは十分、フェアなゲームと言えぬかの? かかっ」


戦人「くっ……」

忍「さて、少し話がずれてしまったの」

忍「それでは、階段からの続きじゃが……」


忍「この後、我が主様はあのツンデレの娘ごを連れて、アロハの小僧のところに行く」

戦人「アロハ?」

忍「忍野メメ、という怪異の専門家じゃ。お喋りでアロハシャツを着ておるのが特徴じゃな」

戦人「その時点で、すげー胡散くせーな、そいつ……。メメとかいう名前が更に胡散くせーぜ」

忍「まあ、名前も含めてろくな第一印象は持たれんじゃろうな、と儂も我が主様も口には出さぬがそう思ってはおる」

忍「仮にそう言ったところで、あの小僧はきっと頓着せぬじゃろうがな」

戦人「つまり、マイペースなやつなんだな……。まあ、怪異の謎とは何も関係ないとは思うが……」

忍「一応、小僧は初登場じゃからの。折角じゃから、そこだけは見せようかの」

【学習塾跡、四階の教室】


忍野メメ「おお、阿良々木君、やっと来たのか」

メメ「ん?」

メメ「なんだい。阿良々木君、今日はまた違う女の子を連れているんだね。きみは会うたんびに違う女の子を連れているなあーー全く、ご同慶の至りだよ」

暦「やめろ、人をそんな安いキャラ設定にするな」

メメ「ふうん」


メメ「初めまして、お嬢さん。忍野です」

ひたぎ「初めまして、戦場ヶ原ひたぎです。阿良々木君とは、クラスメイトで、忍野さんの話を教えてもらいました」

メメ「そう」

【???】


戦人「なるほど。見るからに不審人物だな、ありゃ」

忍「否定はせぬ」

戦人「だろうな」

忍「が、腕だけは立つ小僧じゃぞ。色々と儂らとの付き合いも弁えておるからの」

戦人「ああ、そうかよ。ま、そこらの話もおいおい聞いてくよ。今は先に怪異の事だな」

忍「かかっ。浅慮とは正にお前の為にあるような言葉じゃな」

戦人「」カチン

戦人「どういう意味だよ、それは」

忍「正にその言葉の通りじゃ。が、それも後からわかるじゃろう。今はまだ気付かぬかもしれぬからの」

戦人「もったいぶった言い方をするな。はっきり言いやがれ」

忍「言わぬ。時が来て、それでもお前が気付かぬというなら言うがの。かかっ」

戦人「…………」


忍「では、話を続けるぞ」

忍「この後、我が主様とメメの間で、儂の名前の話が出て……」

忍「その後、あの娘ごがこれまでの経緯を説明する」

忍「怪異に出会った時の話じゃな」


戦人「…………」


忍「それから、怪異の事をあのアロハの小僧がぺらぺらと喋り出す訳じゃ」

【学習塾跡、四階の教室】


メメ「おもし蟹」

メメ「九州の山間あたりでの民間伝承だよ。地域によって重いし蟹、重石蟹、それにおもいし神なんてものもある。この場合、蟹と神がかかっているわけだ」

メメ「細部は色々ばらついているけど、共通しているのは、人から重みを失わせるーーってところだね」

メメ「行き遭ってしまうとーー下手な行き遭い方をしてしまうと、その人間は、存在感が希薄になる、そうだ、とも」

メメ「この場合、別に蟹じゃなくてもいい。兎だって話もあるし、それにーー忍ちゃんじゃないけれど、美しい女の人だっていう話もある」

メメ「まあ、お嬢ちゃんが行き遭ったのが蟹だっていうんなら、今回は蟹なんだろう。一般的だしね」

【???】


忍「それで、この後は、おもし蟹についての話と、料金の話があり……」

忍「身を清めて清潔な服に着替えてから、夜の零時にまたここに来てくれとの小僧の言葉から、我が主様はあの娘ごの家へと一緒に行く」

忍「我が主様はそこで少しーーいや、主様からしてみたら、かなりかも知れぬがーー美味しい思いをして、それからまた学習塾跡に戻る」

忍「戻ると、あのアロハの小僧が白装束ーー浄衣じゃな。それに身を包んで待っておる。そして、三階の教室に行って、そこでまあ、ありふれた言い方をするなら儀式じゃな。それを行った」

忍「おもし蟹は神ゆえ、この場におりてきてもらう必要がある。その為に結界の様なものをしめ囲いで作って、そこに呼ぶ必要があったのじゃ」


戦人「お前のそのオカルト話は、本当に最初の頃の真理亜の話と似たり寄ったりだよな……。奇妙な笑い声をたてないだけマシだがよ……」

忍「まず、儂は真理亜を知らぬぞ。うーうー、うーうー」ニヤリ


戦人「……のヤロウ」

戦人「……まあ、それはいい。ちなみに、この時の料金ってのはいくらだったんだ?」

忍「十万円じゃな」

戦人「……ずいぶん高いな」

忍「重さを取り戻す値段じゃ。そう考えれば安いものじゃな」

戦人「……本当に重さがなかったとしたら、な」

忍「我が主様など、五百万円じゃったぞ。吸血鬼じゃったからと言われてな。かかっ」

戦人「……五百万円、ね。……金が出てくると嫌な予感しかしねーぜ」

忍「ん? ああ、そうか。お前は確か金銭の事でのいざこざが親族との間であったかの。額はまるで違ったようじゃがな」

戦人「……意外とよく知ってるな」

忍「確か、億を軽く越えるような額ではなかったか? さて、ポンデリングが幾つ買える事やら」

戦人「ドーナツ換算されてもな……」

忍「この世の金などというのは、ドーナツを幾つ買えるかの目安みたいなものじゃ。確かに多いに越した事はないが、多すぎてもただもて余すだけじゃと思うがの」

戦人「ドーナツ基準かよ……。ドーナツ好きなのか?」

忍「大好物じゃ」キラキラ

戦人「ああ、そうなのか……。ま、後で機会があったら買ってやるよ。俺はロノウェやワルギリアと違って、紅茶やら茶菓子やらを生み出す事は出来ないからな」

忍「それは本当か?」ガタッ

戦人「機会があったらな」

忍「」ジーッ

戦人「つ、次へ行こうぜ。ほら」

【学習塾跡、三階の教室】


メメ「落ち着いた?」

ひたぎ「はい」

メメ「そう。じゃあ、質問に答えてみよう。きみは、僕の質問に、答えることにした。お嬢ちゃん、きみの名前は?」

ひたぎ「戦場ヶ原ひたぎ」

メメ「通っている学校は?」

ひたぎ「私立直江津高校」

メメ「誕生日は?」

ひたぎ「七月七日」

戦人「これは?」

忍「質問自体にほとんど意味はない。作法、手順、雰囲気作り、そんなところじゃ」

忍「この後、あの娘ごが何故おもし蟹に遭ったのか、という理由の部分が語られる訳じゃが、そこは長いので省略して飛ばすぞ」

忍「怪異ーーおもし蟹が出てくるところから、見せていく」

【学習塾跡、三階の教室】


メメ「……そう思う?」

ひたぎ「思うーー思います」

メメ「本当に、そう思う?」

ひたぎ「……思います」

メメ「だったらそれはーーお嬢ちゃん。きみの思いだ」

メメ「どんなに重かろうと、それはきみが背負わなくてはならないものだ。他人任せにしちゃあーーいけないね」

メメ「目を背けずにーー目を開けて、見てみよう」

ひたぎ「」パチッ……

ひたぎ「あ、ああああああっ!」

メメ「何かーー見えるかい?」

ひたぎ「みーー見えます。あのときと同じーーあのときと同じ、大きな蟹が、蟹がーー見える」

メメ「そうかい。僕には全く見えないがね」

メメ「阿良々木くんには、何か見えるかい?」

暦「見えーーない」

暦「何もーー見えない」

メメ「だそうだ」

メメ「本当は蟹なんて見えていないんじゃない?」

ひたぎ「い、いえ はっきりと。見えます。ーー私には」

メメ「錯覚じゃない?」

ひたぎ「錯覚じゃありません、本当です」

メメ「そう。だったらーー」

メメ「だったら言うべきことが、あるんじゃないか?」

ひたぎ「…………」


ひたぎ「!?」


ダンッ!!! ズガッ!!!!


暦(戦場ヶ原が飛んで、後ろの壁に磔に!?)

暦(壁にひびが!!)

【???】


忍「どうじゃ?」

忍「人一人が宙に浮き、一度も地に足をつける事なく、ものすごい速度で壁に叩きつけられた」

忍「そして、いつまで経っても落ちる事なく、そのまま磔状態じゃ」

忍「壁には大きなひびまで入っておる」

忍「そして、二人にはーーこの後の事を考えるとあの小僧には恐らく見えておったのじゃがーー少なくとも、我が主様には、『それ』が見えなかった」

忍「『見えない何か』によって、ひたぎの体は浮き、壁に磔状態にされ、そして壁には大きなひび……」

忍「怪異ーーおもし蟹の仕業、としか思えぬじゃろう?」

戦人「そうだな。確かにその通りだ」

戦人「もしもこれが『本当に起こった事』だったらとしたらな」

戦人「言っとくが、六軒島じゃ、人が浮いたり飛んだりするのはごくありふれた事だったぜ」

戦人「七姉妹なんか、空を飛ぶのがデフォルトだったぐらいだ」

戦人「今更、これぐらいで驚いていられるかよ」


忍「……やれやれ。つまらぬ男じゃな」


戦人「つまらなくて結構だ。それより、この続きを見させてもらおうか」

戦人「最後まで確認してから、改めてお前に問い質す事にする」


忍「好きにせよ」

【学習塾跡、三階の教室】


暦「せ、戦場ヶ原!」

メメ「全く。壁になってやれって言っただろう、阿良々木くん」

メメ「相変わらず、肝心なときに使えない男だね。それこそ壁みたいにぼっとしているだけがきみの能じゃないだろうに」

暦「目で見える速度じゃなかったんだから、仕方がないだろう!」

ひたぎ「う……う、うう」

メメ「やれやれ、せっかちな神さんだ、まだ祝詞も挙げてないっていうのに。気のいい奴だよ、本当に。何かいいことでもあったのかな」

暦「お、おい、忍野」

メメ「わかっているよ、方針変更だ。やむをえん、まあ、こんなところだろう。僕としては最初から、別にどっちでもよかったんだ」

メメ「」ツカツカ、ヒョイッ

メメ「よっこらせっと」ダンッ

暦(投げて地面に叩きつけた……!?)

メメ「」ガシッ

暦(そして、踏みつけた!?)

ひたぎ「う……」ドサッ

メメ「大丈夫かい?」


メメ「ま、蟹なんて、どんなでかかろうが、つーかでかければでかいほど、引っ繰り返せば、こんなもんだよな」

メメ「どんな生物であれ、平たい身体ってのは、縦から見たところで横から見たところで、踏みつけるためにあるんだとしか僕には考えられないぜ」

メメ「ーーといったところで、さて、どう思う? 阿良々木くん」

メメ「始めからもういっぺんやり直すって手も、あるにはあるんだけれど、手間がかかるしね。僕としては、このままぐちゃりと踏み潰してしまうのが、一番手っ取 り早いんだけど」

暦「手っ取り早いってーーぐ、ぐちゃりって、そんなリアルな音……たかだか一瞬、頭、上げただけじゃないか。あんな程度でーー」

メメ「あんな程度じゃないんだよ。あんな程度で十分というべきかな。結局、こういうのって心の持ちようの問題だからさ」

メメ「お願いできないなら、危険思想に手出すしかないんだ。鬼や猫を相手にしたときのようにね。言葉が通じないなら戦争しかないのさ。この辺はまるで政治だね」

メメ「ま、このまま潰しちゃったところで、それでも一応、お嬢ちゃんの悩みは、形の上では解決するから さ。形の上ってだけで、根っこのところは残っちゃう姑息療法で、草抜きならぬ草刈りって感じで、僕として は気の進むやり方じゃないけれど、この際それもありかなって」

暦「あ、ありかなって」

メメ「それにね、阿良々木くん」

メメ「僕は蟹がとてつもなく嫌いなんだよ。食べにくいからね」

メメ「」グッ……


ひたぎ「待って!」

ひたぎ「待ってください。忍野さん」

メメ「ーー待つって」

メメ「待つって、何をさ。お嬢ちゃん」

ひたぎ「さっきはーー驚いただけだから」

ひたぎ「ちゃんと、できますから。自分で、できるから」

メメ「ふうん」


メメ「じゃあどうぞ、やって御覧」


ひたぎ「」スッ……


暦(土下座……?)

ひたぎ「ごめんなさい」

ひたぎ「それからーーありがとうございました」

ひたぎ「でもーーもういいんです。それはーー私の気持ちで、私の思いでーー私の記憶ですから、私が、背負います。失くしちゃ、いけないものでした」

ひたぎ「お願いです。お願いします。どうか、私に、私の重みを、返してください」

ひたぎ「どうかーー私に、返してください」

メメ「」ダンッ


暦(消えた……)

暦(踏み潰したんじゃなく、消えたんだろうな……)

暦(重さを返して……)


ひたぎ「うっ……」ポロポロ……

【???】


戦人「……これで一応はハッピーエンドか?」

忍「そうなるの。この後、後日談というかオチみたいなものがあるのじゃが、そこは目撃証言が我が主様だけじゃから飛ばす」

忍「当てにならぬ、と言われる事、間違いないからの」


戦人「……それはともかくとして」

戦人「怪異も謎も置いとくとして……」

戦人「人が死なないってのはいい事だな……。こんなハッピーエンドが俺も良かったぜ」


忍「…………」

戦人「ただーー」

戦人「お前だって気付いているんだろう?」

忍「……何をじゃ?」

戦人「これは殺人事件と違って、既に解決されている出来事だって話だ」

戦人「重さがなくなって、そして重さが戻ったーーという事は、初めから何も起きなかったのと同じ事だよな?」

忍「じゃから、儂がわざわざ赤字で証明しておろう?」

忍「そうでなければ、『怪異』としての証明にならぬからの。その点は、儂もお前も立場は全く同じじゃ」

戦人「お前が前に言ってた『対等なゲーム』ってやつか」

忍「そういう捉え方でも、まあ、構わぬがな」


忍「では、早速、赤字で証明していくぞ」

忍「チェスで言えば、儂の手番という訳じゃ」

忍「まずは、怪異の謎から証明していくかの」

忍「これが成り立たなければ怪異とは呼べぬからのう」




「この時、ひたぎは壁に勢いよく叩きつけられた」



「その際、両足は地面から完全に離れており、壁に磔状態になっていた」



「この時、ひたぎの体に暦とメメは触ってはおらぬ」



「この時に、壁は確かにひび割れた。前からひび割れていたという事はない」



「また、この時、壁に暦とメメは触ってはおらぬ」



「ここでいう『この時』とは、>>135の時の事を指す」


戦人「…………」

忍「かかっ。どうじゃ? これで怪異の証明として文句はあるまい?」


戦人「はっ。駄目だ、駄目だ、全っ然、駄目だぜっ!」

戦人「こんなのは子供だましもいいとこだな。お笑い草だ!」

戦人「触れていないからどうだっていうんだ、キスショット? まさか、それで本当に壁に押し付ける事が出来ない、壁にひびを入れる事が出来ないとでも言うつもりか?」

戦人「それは違う!」ビシッ


戦人「こんなのは、『手袋をしていた』、『ハンマーを使った』、であっさりと覆る事だ」

戦人「これでひたぎの体には『直接』誰も触っていない事になるし、壁に『直接』誰も触れていない事になる! わざわざ青き真実を使うまでもない事だぜ!」

戦人「つまり、ひたぎの体を持ち上げ磔状態にしたのは暦かメメ、あるいは二人ともだ! 壁にひびを入れたのも、同じ!」

戦人「こんな単純な謎は怪異とすら呼べないぞ、キスショット!」

忍「かかっ。なるほど、そうじゃの」

忍「当然じゃな。認めるぞ、戦人」


忍「ならば、儂は赤字を新たに使うだけじゃな」




「この時、ひたぎの体に、暦とメメは『直接的』にも『間接的』にも触れておらぬ」



「この時、壁にも、暦とメメは『直接的』にも『間接的』にも触れておらぬ」



「この『間接的』とは、道具などを使った場合や、動物に命令した場合など、ありとあらゆる全ての状況を含む」



「当然の如く、ここでいう『この時』も>>135の時の事を指す」


戦人「ぐ……」

忍「早速、手詰まりかの?」


戦人「いや、まだだ! 前の時と同じで、この場に翼がいた可能性がある! それは赤き真実で否定されていない!」

戦人「だから、翼がひたぎを持ち上げて壁に押し付ければ、それで意味が通るから謎は全部解決する! 壁も翼が壊した!!」


忍「かかっ。そう言ってくると思っておったわ」

忍「じゃが、先のその一手は儂にとってかなり不快な一手じゃったからのう。そんな手を儂が許すと思うか?」ニヤリ

戦人「……!」


忍「そもそも、勝手にゲーム盤の駒を増やしたり、動かされたりしては、どんな言い訳も通ってしまう。そうじゃろう? こんなのは反則技だと思わぬか、戦人?」

忍「じゃから、そうさせぬよう、儂はここで一つのルールを付け加えておく事にしたぞ」ニヤリ




「【】内で記した場所は、全て真実である。別の場所という事は絶対にない」



「その場に描写があった人物は確かにその場におるし、その場に描写がなかった人物は間違いなくそこにおらぬ」



「これは新たに【】で場面転換されるまで継続される約束事とする。ただし【???】だけはそれに含まれぬ」



「以上の三点は、全ゲームに共通するルールとする」


戦人「って事は……」

忍「そうじゃ。前にお前が推理した、『三人で教室に残って』は否定されるしーー」

忍「今回の、『翼がこの場にいた』という推理も否定される」

忍「ひたぎの体が浮いて壁に磔にされたのは【学習塾跡、三階の教室】で、そこに翼は出てきておらぬからの」


戦人「……つまり、前のやつでいけば、【教室】にいたのは暦と翼の二人だけでーー」

戦人「【廊下】にいたのは、暦とひたぎの二人だけーー」

戦人「そして、この場所は間違っていないし、それ以外の誰かがいる事もないーー」

戦人「今回の場合は、【学習塾跡、三階の教室】にいたのは、暦、ひたぎ、メメの三人だけって事かよ……」

戦人「そして、暦、メメの二人はひたぎに触れてもいない……」

戦人「が、ひたぎは壁に勢いよく叩きつけられ、両足が地面についてない状態で磔になっていた……」

忍「そうなるのう。さて、戦人。次はどう返す?」


戦人「ぐっ……なんだよ、これは。いきなり相当厄介な謎になりやがったぜ……」

忍「だから、素直に認めれば良いのじゃ。怪異は『いる』とな。かかっ」

戦人「…………」

忍「どうじゃ、戦人? 認める気になったかの? 儂の存在を」

戦人「……いや、怪異なんている訳がない」

戦人「いい意味でも悪い意味でも、俺の考えや思いに関わらず怪異や魔法なんてのは存在しないんだ」

戦人「それを俺は認められない。認めたくても認められないんだよ。探偵役とゲームマスターの両方を経験した俺だから、尚更だ」


戦人「お前がこれを怪異だと言い張るなら……」

戦人「そこには必ず嘘やトリックが存在する。今回の場合は勘違いや思い込みもだ」

戦人「それを必ず暴いてみせるぜ! 必ずな!」


忍「無駄じゃ無駄じゃ。かかっ」

忍「そもそもじゃ、戦人」

忍「前回の謎ーー我が主様の回復能力の事は、儂の唯一の例外事項じゃぞ」

忍「あれ以上、赤き真実を使わぬと儂が宣言しておるゆえ、お前のあの様な暴論が許されておるのじゃ」

忍「演劇の練習だったという、お前のあの推理は確かに赤き真実には抵触しておらぬし、まだ一応の筋は通っておる」

忍「それに、場所は廊下に変わったとえいえ、そこで劇の練習をせぬとは限らぬからの」


忍「じゃがーー」


忍「例えば、儂がこういう赤き真実を使ったとしたらどうなる?」




>>83の時、暦の右頬の内側には、傷及び傷あとはなかった」


忍「……もちろん、一度宣言してしまった以上、儂はこれを赤き真実では言わぬがの」

忍「が、言えぬのではなく言わぬ、とだけは言っておこうかの」


戦人「……そういう事は、赤き真実を実際に使ってから言いやがれ」


忍「ふむ……。もっともな台詞じゃがな、戦人」

忍「儂がこれを赤字で言えば、お前の推理は根本から否定されるというのは理解出来るじゃろ?」ニヤリ


戦人「…………」

忍「>>91で宣言した通り、あの娘ごは我が主様の右頬の内側に確かに傷をつけておる」

忍「じゃが、その後であの娘ごが確認したところ、我が主様の右頬の内側には傷が『見当たらなかった』」


忍「これは主観の出来事じゃ。あの娘ごが傷を見落としていた可能性もその中に含まれておる」

忍「傷が微細なものであれば、しっかり見たとしても見落とす可能性はあるしーー」

忍「例えば、その場が暗闇であれば、よく見たが傷は見当たらなかったーーつまり『見えなかったから、ない』ーーでも一応通じはする」


忍「だからこそ、お前のあの暴論も通るのじゃ」


忍「しかし、儂が赤字で『傷がなかった』と言えば、それはあの娘ごの主観ではなく、『客観』じゃ」

忍「間違いなく、我が主様の右頬の内側には『傷がなかった』事になる」

忍「故に、『傷をつけた』ーーしかし、その数分後には『傷がなかった』となり、お前の推理はもはや通らぬ」

忍「それは理解しておろう?」


戦人「……してはいる。だが問題はないはずだぜ」

戦人「お前はあれ以上、赤き真実を宣言しないと言った。なら、お前が新たに赤字で否定しない限り、この推理は有効なはずだ」

忍「そうじゃな。その点は儂は二言はせぬ」

忍「儂が言いたいのはこちらの方じゃ」


忍「今回の怪異は『主観の入る余地』を儂は残さぬぞ」


忍「必ず客観的な赤き真実を使う」

忍「お前のその暴論染みた推理は徹底的に赤で排除していくという事じゃ。かかっ」ニヤリ


戦人「……ぐ」

戦人「……確かにそれは俺にとって不利になる可能性はある」

戦人「が、それ以上に、今ので少しわかった事があるぜ」ニヤリ


忍「……?」


戦人「ここまでの事を考えると、何故かお前は第二の謎ーー暦の傷の異常回復能力ーーについては頑なに赤き真実をこれ以上使おうとはしない」

戦人「一度宣言したからそれに二言はない、とかなんとか言っているが、俺から言わせればその言葉自体怪しいもんだ」

戦人「だから、ここでーー」

パチンッ!!

戦人「チェス盤をひっくり返すぜ!」


忍「……ゲーム理論というやつじゃな」

戦人「まず、優位な状況にありながら、赤き真実を使わないのは、ゲーム理論上は有り得ない」

戦人「つまり、俺がお前の立場なら、下らない事を言ってないで、とっとと赤き真実を使って黙らせる」

戦人「それをしないって事は、使えないか、使うと自分に不利になるか、の二択だ」


戦人「かつ、今回は赤き真実を使っていき、『主観』の入り込む余地を与えないと言っている」

戦人「という事は、逆に考えれば、今回の謎は『客観』ではなく『主観』だと自分に不利になる、とも考えられる。前回の謎の逆って訳だ」


戦人「つっても、それはあくまで俺の推測であって、証拠なんか何一つないし、ただ単純に、主観で誤魔化さなくても問題ないトリックを使っているともとれるがーー」

戦人「だけど、もし、そうだったとしたら、これは十分なヒントになるよな?」ニヤリ


忍「む……」

戦人「だから、まずはあえて『主観』で俺は問い質す」

戦人「客観云々を言う前に、『主観』での謎を先にはっきりさせてやろうじゃないか」


戦人「いくぜ! キスショットに赤き真実で復唱を要求する!」




「ひたぎには『おもし蟹』が本当に見えた」



「暦、メメの二人には『おもし蟹』が本当に見えなかった」


忍「ぐ…………」

忍「復唱を……拒否する」


戦人「はっ。やっぱりな。そう言うと思っていたぜ」

戦人「それなら、理由も述べてもらおうか。復唱を拒否する理由ってやつをな!」



忍「それは……あれじゃ。今回、儂は『主観の入る余地を残さぬ』と先に言ったはずじゃぞ。だからじゃ」


戦人「…………」ジロッ


忍「ぐ……」


忍「……じゃがの、戦人。お前のいた六軒島でも、『魔法が見えた』などという赤き真実は一回も使われておらなかったはずじゃ」

忍「わざわざ儂が答える必要はない。よって儂もここでは何も言わぬ。理由はそれだけじゃ」

戦人「駄目だな。それじゃあ理由としては失格だぜ、キスショット」

戦人「そもそも六軒島じゃ、赤き真実で『主観』が使われた事は一度もない」

戦人「どの赤字にも『見当たらなかった』なんて曖昧な記述は存在しなかった」

戦人「そういうのがルールとして『あり』ってんなら、こちらも主観で問い質すだけの事だ!」


忍「う……!」


戦人「キスショットに青き真実を突きつける!」




「ひたぎは、目に『見えるもの』の仕業によって、壁に勢いよく叩きつけられた」



「この『見えるもの』の定義は、今回に限り『気体以外』とする!」


忍「ぐふっ!」ズサッ!!


戦人「ようやく、まともな一撃が入ったな」


忍「……ぐ……ぬ」ゲホッ


戦人「お前はこれを赤き真実で言い返す事が出来なかった! つまり!!」

戦人「この時、暦にもメメにも怪異ーー『おもし蟹』は見えていた事になる!」

戦人「見えない、なんて言ってたのは暦の嘘だぜ!!」


忍「……っ」

忍「かかっ……。良いじゃろう。認めてやる」

忍「この時、我が主様には『おもし蟹』が見えておった」

戦人「そういう事だよな。やっと認めやがったか」


忍「じゃが……」

戦人「?」

忍「ーーそれがどうしたというのじゃ?」


戦人「……どういう事だ?」

忍「怪異があのアロハの小僧にも見えておったように、我が主様もーー」

忍「アロハの小僧が見えないと言いながらも、おもし蟹を投げ飛ばしたように、我が主様もーー」

忍「そう嘘をついただけの事じゃ。それのどこがおもし蟹がおらぬ事の証明となる?」


戦人「……確かにこれだけじゃ証明にはならないな」

戦人「だが、俺の攻撃はこれで終わった訳じゃないぜ?」

戦人「目に見えない『何か』によって壁に勢いよく叩きつけられたってんなら、もう『大風が吹いた』程度の推理しか出来なくなるが、そうじゃないんだからな」

戦人「目に見える『何か』なら、他に幾らでも考えられるぜ。お前がその『何か』を『おもし蟹』だと赤字で証明しない限りは!」

戦人「だから、次はそこから攻撃していく!」

戦人「例えばだ」

戦人「前も言った、演劇の練習だ」

戦人「流石に夜中の零時にそれをやるとは思えないが、かといって、絶対にないとは言い切れない」

戦人「で、演劇に使う大がかりな仕掛けがあって、それをメメが頼まれて作った、なんて考えも出来る」

戦人「頼まれていた物が出来上がったから、ちょっと見てみてくれないか、とかそんな風に呼ばれたら、夜中でも来る可能性はあるだろう」

戦人「それに、今回は場所が塾の教室跡だからな。大がかりな演出を試すにはぴったりの場所だぜ」


戦人「加えて言うなら、暦とメメの両方が、ひたぎの壁に磔状態に全く関わってないって言うなら、これはもう消去法で関わっているのはひたぎ本人しかいなくなるからな」

戦人「そして、ひたぎは今回、赤き真実で道具を使ってないとは言われていない。はっ。これだけで答えは出たも同然じゃねーか」


戦人「だから、俺がまた青き真実の後、この場面を再構築していくぞ」

戦人「次の俺の一手はこれだ、キスショット!」




「ひたぎはこの時、自分から転び、壁に勢いよく叩きつけられた!」



「ひたぎはこの時、自分から壁に磔になった!」



「壁にフックなどを取り付け、自分にも金具を取り付ければ、両方の足が地面から離れたまま宙に浮く事は可能だ!」



「壁にひびを入れたのもひたぎだ。これは間接的に道具を使った!」


【学習塾跡、三階の教室】


暦「わざわざすまないな、忍野。仕掛けを作ってもらってさ」

メメ「全くだよ、本当に君は毎度毎度人使いが荒いねえ。いくら僕が暇だからってこんな大工仕事までやらせるんだからさ」

ひたぎ「すみません、忍野さん。ありがとうございます」ペコリ

メメ「いや。実際のところは別に構わないんだけどね。僕は本当に暇だし、阿良々木君のたっての頼みを断るほど薄情な男じゃない。ただ、何かを言っておかないと気が済まないってだけでね」

暦「お前は本当、いい性格をしてるな、忍野……」

暦「それで、仕掛けは?」

メメ「ああ、うん。これだよ。お嬢ちゃん、この革紐に両肩を通してくれる。実際は服の下から着た方が見えなくていいんだけど、今回は観客がいないからね。普通に服の上からでいいよ」

ひたぎ「えっと……こう、ですか?」スッ……

メメ「ああ、違う違う。体全体を固定させるものだから、足から通さないと」

ひたぎ「足から……」スッ、グッ

ひたぎ「っ……?」

ひたぎ「一度上から着ててしまってるからやりにくいわね……。もう少しで出来そうなんだけど……」ググッ


暦「お、おい、戦場ヶ原。そんな不安定な状態で無理矢理着ようとしたら、バランスを崩して転ーー」


ひたぎ「たっ、とっ、あっ」ヨロヨロ


ひたぎ「きゃあ!」ガンッ!!


暦(思いっきり壁にぶつかってるよ……)

メメ「やれやれ。全く、阿良々木君。口に出すより先に手を出さないと、お嬢ちゃんが可愛そうだろ?」


ひたぎ「っ……! 屈辱だわ。こんなところをよりにもよって阿良々木君に見られるなんて一生の童貞よ」

暦「それは不覚だ! 間違いようがない間違いだぞ! そして間違いに僕に対しての悪意を感じる!」

ひたぎ「ーーで、忍野さん。体をこの壁についているフックにかかるよう、くっつければいいのね?」


メメ「うん、そうだよ。これで真横から見ない限りは、体が浮いて見えるイリュージョンの出来上がりって寸法さ」

メメ「まあ、見た目的にも内容的にも、あまりに安っぽい仕掛けではあるけど、とはいえ、高校生のしかも文化祭でやる演劇程度なら、さしずめこの程度で十分だとは思うよ。予算もそうとれないだろうしね」


ひたぎ「よっと……」ヒョイ

ひたぎ「で、金具はもう取り付けてあるから、椅子を蹴って、と……」

カタン……


ひたぎ「どうかしら、阿良々木君? 私、浮いている様に見えるかしら?」

暦「ああ、うん。浮いているーーというよりは、むしろ壁に磔になっている様にしか見えないけどーー浮いていると言えば、一応浮いている様に見えるな」

ひたぎ「……阿良々木君。それは一体どういう意味と意図で言っているのかしーー」


バキッ


ひたぎ「?」


ピキッ、ミシミシ……


ひたぎ「ちょっと……!」


メメ「おっと。まずいな。壁にひびが入った。お嬢ちゃん、もう降りた方がいい。ーー阿良々木君」

暦「ああ、わかってる。一旦下ろすぞ、戦場ヶ原」


ピキッ……ピキッ……


メメ「……やれやれ。フック二本ぶっさして、そこに軽い体重であろうお嬢ちゃんが乗っただけでまさか壁がひび割れるとはね」

メメ「残念というよりはがっかりだよねえ。まさか、このビル、ここまで老朽化が進んでいたとはさ……。試しにもなりやしない」

【???】


戦人「どうだっ!!」ビシッ!!


忍「…………」

忍「……下らぬの」ボソッ


戦人「!?」




「ひたぎは自分から壁にぶつかりに行っておらぬ。これは意図的のみならず、無意識的や、転んだ、つまずいた、などの偶発的な場合も含まれる」



「ひたぎは道具を一切使ってはおらぬ。これも、直接的、間接的、意図的、無意識的、偶発的、その全てを含む」



「ひたぎは道具を持っていなかったし、身につけてもいなかった」


戦人「がふっ!!」ズサッ!!


忍「かかっ。先程のお返しというところかの」

忍「これでお前の先程の再構築ーー猫箱の中身は全て幻想へと変わったぞ」

忍「全ての推理が外れじゃ。かかっ」


忍「ついでじゃから、戦人。とどめとして、更にこの赤字も付け加えておくとするぞ」ニヤリ

戦人「!?」




「化物語に出てくる登場人物全ては、演劇の練習など過去にも未来にも一切しておらぬ」



「化物語に演劇の練習をするシーンは一切存在せぬ」



「以上、二点は全ゲームにおいて共通する真実じゃ」


戦人「ぐあっ!!」ズサッ、ザクッ!!


忍「かかっ。情けないのう、戦人」

忍「それでもベアトリーチェやベルンカステルとしのぎを削った対戦相手かの? お話にならぬぞ」



シュタッ

ガートルード「謹啓。更には慎んで申し上げる。キスショット卿の赤き真実により、新たな特別ルールが追加されたと知り給え」

コーネリア「ノックス特別条項、第3条。以後、『演劇』という設定を出す事を禁止するなり」


ドラノール「追加・補足しマス。ミステリーにおいて、どんな状況でも通る『演劇』という設定は、禁止されるに足るものと判断しまシタ」

ドラノール「以後、設定に『演劇』を出す事を禁止としマス」



忍「だ、そうじゃ。戦人」

忍「さて、どうする? まだ何か反論があるかの?」

忍「なければ、この第一ゲーム。儂の圧勝という事で決着じゃな。かかっ」


戦人「……ぐっ!!」

戦人「くそっ……!」

戦人「悔しいが、だからといって他には何も思い浮かばねえ」

戦人「道具も使わず、自分でも他人の手によってでもなく、人一人が壁に磔になる事なんてあるのかよ!」


忍「かかっ。あるはずなどなかろう、戦人」

忍「じゃから、素直に負けを認め、怪異は『いる』と認めればーー」


??「ーーそれは」

??「ちょっと待ってもらおうかしらね」テクテク


忍「……!?」

戦人「この声ーーまさか!?」


霧江「久しぶりね、戦人君」ニコッ


戦人「やっぱり霧江さんかよ!」

霧江「ずいぶん手酷くやられたみたいね。あなたのそんな自信なさげな顔は初めて見たわ」

戦人「ああ、いや……ちょっと精神的に参っていてさ」

霧江「ふふっ。あなたはずっと一人だったものね。無理もないわ」

霧江「でも戦人君、ゲーム1のここで降参するにはまだ早いわ。チェスで言えばこれはまだ序盤戦。チェックメイトするまでには十分な時間と手番がある」

霧江「だから、戦人君は今回少し休んでなさい。たまには頭を休めるのも重要な事よ」


霧江「その代わりとして、次のゲームはーー」スッ


霧江「私が引き受けるわ」キリッ


霧江「さあ、おいでなさい。お嬢ちゃん。少しだけ大人のゲームのやり方ってものを教えてあげる」

霧江「次のゲームが終わるまで、私が相手をしてあげるわ」


忍「かかっ。口だけは威勢が良い小娘じゃな」

忍「良いじゃろう。プレイヤーの変更を認めるぞ」

忍「暇潰しとして、遊んでゆくがよい。暇潰しになればの話じゃがな」

霧江「じゃあ、早速ゲームを始める、お嬢ちゃん?」

忍「かかっ。そう焦るでない。暇潰しというのは、長くゆっくりと楽しむものじゃぞ」


忍「ーーそうじゃろう? 退屈を忌み嫌う奇跡の魔女、ベルンカステル」クルッ


フワッ……


ベルンカステル「私が来ていた事を知っていたのね……。意外と言うか流石と言うか、どちらかしら」

忍「血の匂いがするものに限れば、おるかおらぬかなど儂にはすぐわかるぞ」

ベルンカステル「魔女とはいえ、血はあるものね、私にも。まあ、元々隠れる気もなかったのだから、別に問題はないけれど」


ベルンカステル「遊んでいるのでしょう? キスショット卿。私も見させてもらうわ」


忍「かかっ。むしろ、参加していくとよいぞ。今、丁度、最初のゲームが終わって相手プレイヤーが変わったところじゃ」

忍「という事は儂も代わっても問題ないじゃろ?」

忍「儂は少しこのゲームに飽きてきておったところじゃし、それにドーナツも食べたくなってきておる」

忍「じゃから、ベルンカステル。儂の代わりに、次のゲームで遊んでいくと良いぞ。かかっ」

ベルンカステル「来たばかりでいきなり押しつけられるというのは愉快ではないけれどーー」

ベルンカステル「断る、という選択肢はどうやら私には有りそうにないわね」

ベルンカステル「あなたの表情を見る限りだと。そうなのでしょう? 最強の吸血鬼、キスショット」


忍「かかっ。その通りじゃ。では、頼んだぞ。ベルンカステル」

忍「それと、戦人。先のゲームで儂に負けたのじゃから、ドーナツを儂に奢ると良い」

戦人「は? え?」

忍「三つの謎があったから、三つ分じゃぞ。ゲームの最中にお前は儂にドーナツを買うと言ったはずじゃ」

戦人「あ、えーと……」チラッ


霧江「」ハァ

霧江「いいわ。言ってらっしゃい、戦人君。こっちの事は大丈夫よ」

戦人「いや、だけど……」

霧江「私の事が心配? それは嬉しいけれど、心配する事なんか何もないわ」

霧江「私の相手はどっちにしろ『お嬢ちゃん』みたいだしね。子供相手にむきにならないか、逆に私が心配しているぐらいよ」


ベルンカステル「ふふっ。千年以上生きた私に『お嬢ちゃん』とはずいぶんと不躾なニンゲンね」

ベルンカステル「いいわ。相手をしてあげる」

ベルンカステル「後悔するぐらいにね。ふふふふふふふっ」


霧江「それはこっちの台詞よ、『お嬢ちゃん』」ニッ




ゲーム1 『ひたぎクラブ』まとめ



以下、赤き真実および青き真実によって確定された事項


第一の謎
『ひたぎの体重』



「戦場ヶ原ひたぎが階段から滑って落ちた事は一切の紛れもない真実じゃ」

「その際、阿良々木暦が戦場ヶ原ひたぎを受け止めたのも実際に起こった出来事じゃ」

「そして、戦場ヶ原ひたぎと阿良々木暦はこの時、打撲や裂傷などいかなる傷や打ち身などを負ってはおらぬ。全くの無傷じゃ」

「戦場ヶ原ひたぎは地球の通常の重力下の元、自由落下の速度で階段から落ちた」

「体にはロープ等の類いなど一切つけておらず、空中で浮遊したという事は一切ない」

「戦場ヶ原ひたぎは、階段から滑り落ちて阿良々木暦に受け止められるまでの時間、手足や体を使っての物の操作などは全くしなかった」

「戦場ヶ原ひたぎが階段から落ちたのは完全に偶然であり、彼女はそれに備えての用意などは一切しておらぬ」

「阿良々木暦は比喩的な意味でも何でもなく、確かに戦場ヶ原ひたぎの体を『両手』で受け止めた」

「阿良々木暦は戦場ヶ原ひたぎを受け止める際、道具などを持ってはいなかった」

「阿良々木暦は戦場ヶ原ひたぎを受け止める際、道具を使用しておらぬ」

「ここでいう『道具』とは、マットやトランポリンの様な巨大な物から、ボールペンや消しゴムなどといった小さな物まで、大きさや数に関わらず全て含む」

「阿良々木暦にとっても、戦場ヶ原ひたぎが階段から落ちてきたのは完全に偶然であり、それに対しての用意などは一切しておらぬ」

「戦場ヶ原ひたぎは、地上四階、あるいはそれに近い高さの場所から落ちた」

「ここでいう『落ちる』とは、体全部が地面から離れ、自由落下している状態の事を指す。倒れる、転ぶではなく、『落ちる』じゃ」

「また、阿良々木暦も、倒れたのを『支えた』のではなく、落ちてきたのを『受け止めた』である。この二つの単語は同一の意味を持たない」

第二の謎
『暦の再生能力』



「戦場ヶ原ひたぎは、阿良々木暦の右頬の内側にホッチキスを使って確かに傷を負わせた」

「しかし、その数分後に戦場ヶ原ひたぎが確認したところ、阿良々木暦の右頬の内側には、傷及び傷あとはまるで見あたらなかった」

「この時、戦場ヶ原ひたぎは阿良々木暦の右頬の内側をしっかりと見て確認しておる」

「阿良々木暦は傷を隠す様な処置や行動を一切とっていない」

第三の謎
『おもし蟹の存在』



「この時、ひたぎは壁に勢いよく叩きつけられた」

「その際、両足は地面から完全に離れており、壁に磔状態になっていた」

「この時、ひたぎの体に暦とメメは触ってはおらぬ」

「この時に、壁は確かにひび割れた。前からひび割れていたという事はない」

「また、この時、壁に暦とメメは触ってはおらぬ」

「この時、ひたぎの体に、暦とメメは『直接的』にも『間接的』にも触れておらぬ」

「この時、壁にも、暦とメメは『直接的』にも『間接的』にも触れておらぬ」

「この『間接的』とは、道具などを使った場合や、動物に命令した場合など、ありとあらゆる全ての状況を含む」

「ひたぎは、目に『見えるもの』の仕業によって、壁に勢いよく叩きつけられた」

「この『見えるもの』の定義は、今回に限り『気体以外』とする」

「ひたぎは自分から壁にぶつかりに行っておらぬ。これは意図的のみならず、無意識的や、転んだ、つまずいた、などの偶発的な場合も含まれる」

「ひたぎは道具を一切使ってはおらぬ。これも、直接的、間接的、意図的、無意識的、偶発的、その全てを含む」

「ひたぎは道具を持っていなかったし、身につけてもいなかった」

「ここでいう『この時』とは、>>135の時の事を指す」




ゲーム2 『まよいマイマイ』



開始

ベルンカステル「それじゃ早速ゲームを始めるわよ」

霧江「いいえ、その前にはっきりさせておきたい事があるわ」


ベルンカステル「……何かしら?」


霧江「そんなに気構えないでよ。大した事じゃないわ。何をそんなに警戒しているかは知らないけど」ニッ

ベルンカステル「……それで?」

霧江「私はこのゲームをするのが初めてだから、ルールを確認しておきたいの。それだけよ」

ベルンカステル「……了解したわ」

ベルンカステル「ルールはこれまで出てたものと全く変わらないわ」

ベルンカステル「ノックスの第1条から第10条。それと特別条項の第1条から第3条まで。私もこれを順守する」

ベルンカステル「それと全ゲームに共通する事項として、>>151ね。面倒だから、これもノックスの特別条項に追加しておいてもらえる?」


ガートルード「確かに承ったなり。新条項を追加すると知り給え」

コーネリア「謹啓。慎んで申し上げる。ノックス特別条項、第四条。【】内の場所は全て正しいものとするなり」

ガートルード「更に申し上げる。【】内に描写のあった人物は全てその場におり、【】内に描写のなかった人物は全てその場にいないものとするなりや」


ドラノール「もしこれに違反した場合は私の赤鍵で打ち砕きマス」


ベルンカステル「……これで満足?」

霧江「いいえ、もう一点。青と赤の二つの真実についての説明を詳しくちょうだい。これはゲームを行う上での正当な主張よ」

ベルンカステル「……わかったわ。それにしても、やっぱり面倒な相手ね……あなた」

霧江「それは誉め言葉として受け取っておくわ」

ベルンカステル「まず、赤き真実についてよ」

ベルンカステル「これは前に説明があった通り、赤字で書かれた事は『理由も理屈も説明も必要なく、ただ真実である』というものね」

ベルンカステル「ノックスに代表される様に、ここでは赤字は絶対的な力を持っているわ。赤字で書かれたルールが、絶対順守な理由もそれね」

ベルンカステル「そして、この赤き真実はニンゲン側は使えない。使えるのは私たち魔女ーーつまり、怪異側だけよ」


霧江「……了解したわ。それで次に青き真実の方は?」


ベルンカステル「青き真実は、赤き真実と対をなすものね」

ベルンカステル「推理を行う際には大体これを使うわ。何故なら、この青き真実で書かれたものを怪異側(魔女側)は必ず受けなければならないから」

ベルンカステル「復唱要求の様に『拒否』が出来ない事が特徴ね。それがニンゲン側の最大の利点でもあるわ。受けないと自動的にその盤面は怪異側の負けになる。真実かどうかはともかくその盤面の勝敗は必ずはっきりとつくわ」

ベルンカステル「そして、この青き真実で書かれた推理が、赤き真実で否定出来ない場合、怪異側は『青鍵』で貫かれる事になる」

ベルンカステル「ただし、逆に赤き真実で否定された場合は、ニンゲン側が『赤鍵』で貫かれるわ」

ベルンカステル「いわば、青き真実は両刃の剣よ。どちらに対してもダメージを与える」

ベルンカステル「六軒島の時とは多少違うかもしれないけど、この化物語の中ではそういうルールとなっているわ」


霧江「なるほどね……」

ベルンカステル「これでもういい?」

霧江「ええ、いいわ」


霧江「その上でーー」


霧江「青き真実を早速使わせてもらうわよ」ニッ

ベルンカステル「……!?」




「全ゲームにおける怪奇現象ーーつまり謎は、『怪異の仕業』によるものとの説明の他に、『人の手によっての仕業』でも全て説明がつく」


ベルンカステル「っ……。えげつない一手を打つ女ね」

霧江「あら? どこがかしら」

霧江「私の一手の『どこが』えげつないのか説明をもらえる?」


ベルンカステル「そういうのをわかってて言ってる時点で『えげつない』のよ。例えば戦人なら、絶対に指さない一手よ、それは」


霧江「あの子は甘いのよ。優しいと言い換えても間違いじゃないわ。良い意味でも悪い意味でもね」

霧江「人間側でありながら、怪異側にも心を傾けてしまっている。無意識的にね。得体の知れないお嬢ちゃんと、何も気にせずドーナツを一緒に買いに行ってるのがその証拠よ。私なら、絶対にしないわ」

霧江「そして、その結果、非情になりきれず自分が苦しむ事になっているのだけれど、それすらも受容してしまっているのだから、その懐の大きさはむしろ立派ね。成長して器が広がれば、右代宮家の誰よりも良い当主になれるかもしれないわ」

霧江「そういうの、嫌いではないし、むしろ好感を持てるんだけど……」


霧江「地獄をくぐった事のある女に、そんな純粋で優しい気持ちを期待しないでもらいたいわね、小娘」

霧江「その気になれば背後から笑って撃てるわよ。あなたの頭に散弾銃をね」フフッ


ベルンカステル「ふっ……」

ベルンカステル「ふふふふふふふふふふふふふふっ。無限の地獄に堕ちた事もないニンゲンがずいぶんと粋がるのね、不愉快さで頭が割れそうよ」

ベルンカステル「奇跡の魔女に対するその暴言、必ず後悔させてあげるわ」ギロッ


霧江「そんな答えを私は訊いていないわよ。御託はいいからさっさと聞かせてほしいわね」

霧江「さあ、答えなさい! 私の青き真実をあなたは『拒否』出来ないんでしょう!」

霧江「ゲームがまだ始まっていない今、この青き真実をあなたが受けなかったら、自動的にこのゲーム2そのものが負けになるわよ!」


ベルンカステル「っ……!」

ベルンカステル「……いいわ。面白い。その挑戦、受けてあげる」

ベルンカステル「キスショット卿は明言しなかったけど、私が代わりに明言してあげるわ」




「化物語における全ゲームの謎は、『怪異の仕業』以外に、全て『人の仕業』でも説明がつく」



「人の仕業で説明がつかない『怪異』は存在しない」


ガキンッ!!


ベルンカステル「赤鍵とーー」

霧江「青鍵で相殺ね、今回は」


ベルンカステル「どちらも真実だから、当然そうなるわ」

ベルンカステル「というよりも、それを見越した上で青き真実を使ったでしょ、あなた」


霧江「悲鳴が嫌いなのよ。見るのも聞くのもね。特にあなたのはうるさそうだったし」


ベルンカステル「っ……!」

ベルンカステル「なら、一つだけあなたに教えてあげる。されっぱなしは好きじゃないから」

霧江「敵に塩? それとも塩と見せかけた毒かしら?」フフッ

ベルンカステル「取り方は好きにすればいいわ。だって私が教えるのは、単純に全ゲームの難易度なのだから」


霧江「難易度……」


ベルンカステル「六軒島の時とは違って、化物語には密室殺人だとか、消える死体だとか、そういった同じような謎が一つもないわ」

ベルンカステル「だから、それぞれのゲームにおいて、謎の難易度のばらつきがかなりあるのよ」

ベルンカステル「それを予め教えてあげるわ」ニヤリ


霧江「……一応聞くわ」

ベルンカステル「難易度をAからEの5段階に分けた時、各ゲームの難易度はそれぞれ次の通りよ」



ひたぎクラブ  謎の数三つ、難易度A

まよいマイマイ 謎の数三つ、難易度E

するがモンキー 謎の数三つ、難易度D

なでこスネイク 謎の数二つ、難易度B

つばさキャット 謎の数三つ、難易度C



ベルンカステル「もっともこれは私がそう感じたというだけで、絶対的なものではないけれど。あくまで目安の一つね」

霧江「ふうん……」

霧江「さっき、戦人君がやっていた『ひたぎクラブ』が一番難しいのね」

ベルンカステル「ええ、そうよ。ひたぎクラブは、第一、第二、第三の謎全部が極悪ね」

ベルンカステル「特に、第一、第二の謎は恐らく誰にも解けないわ。キスショット卿もそれがわかっているから、今はあえて決定的な赤を出さずに遊んでいるんでしょうね」


霧江「……私はそのゲームを見てないのだけど、今から見る事が出来るかしら?」

ベルンカステル「それは駄目ね。私が頼まれたのは、ゲームをキスショット卿の代わりに進める事だから。私が行えるのはゲーム2の『まよいマイマイ』であなたと戦う事だけよ」

ベルンカステル「全5ゲームの中で最も簡単なゲーム……。もしも相手がベアトだったら、五分ももたずに終わる様な、そんな入門編の様なゲームをね」

霧江「……あら。今から負けた時の言い訳?」


ベルンカステル「逆よ、逆」クスクス

霧江「?」

ベルンカステル「これでもしもあんたが負けたらもう言い逃れ出来ないって事よ。無能者の烙印をあんたの額にはっきりと刻んでやるわ。ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふっ」


霧江「っ……」

ベルンカステル「さて、それでは今度こそ始めましょうか」

ベルンカステル「ゲーム2、まよいマイマイを」


霧江「いいわ。勝負よ」

【公園】


暦(日曜日の公園に僕一人だけか……)

暦(まるで世界に僕一人しかいないみたいじゃないか)

暦(もう二度と家には帰らなくていいみたいな、そんな気にーーん?)



八九寺真宵「」トコトコ


真宵「」ジーッ……



暦(なんだ、あの小学生ぐらいの女の子。道案内の看板をじっと見てるけど……)

暦(ずいぶん大きなリュックサックを背負っているな……)



真宵「」クルッ、タタタッ



暦(行っちゃったか……)

暦(また、僕一人だ……)

【???】


霧江「……今のところ、何も不自然なところはないわね」


ベルンカステル「そうね、ないはずよ」

ベルンカステル「一見した分にはね」


ベルンカステル「それに真宵の初登場シーンだから見せているだけで、これには大した意味はないわね」

ベルンカステル「あえて意味を見い出だそうとするなら、暦が家に帰りたくないと思っている事ぐらいかしら」


霧江「名前はあの通り? 右代宮家の私が言うのもなんだけど、変わった名前ね」

ベルンカステル「ええ、そうよ。これは説明していなかったわね」

ベルンカステル「詳しくは>>61>>66を参考にして」


霧江「なるほどね……」

ベルンカステル「さて、この後はほとんど関係のないやり取りが続くから、ざっくり省略していくわよ」

ベルンカステル「まず、この後、公園にひたぎが来て暦としばらく会話をするわ」

ベルンカステル「その後、またあの子ーー真宵が公園に来るわ。そこの場面は見せるわね」


霧江「……あの真宵って子供自体、存在が未確定だからね?」


ベルンカステル「そうね。先に言っておくなら真宵は怪異だから」

ベルンカステル「今回の話はあの子に関する話で、化物語の中では一番ミステリーとして完成されている話ね」

ベルンカステル「だからこそ、という訳ではないけど、一番簡単な謎よ。それこそあっさりと解けるようなね」


霧江「いちいちハードルを上げてくれるわね、全く……」

【公園】


暦「……なあおい、戦場ヶ原。あそこに小学生がいるじゃん。リュックサックの名札の苗字、あれ、なんて読むんだ?」

ひたぎ「は?」


ひたぎ「見えないわよ、そんなの」


暦「あ……」

暦(そうだった。うっかりしていた。今の僕は、もう普通の身体じゃないんだ。視力だって強化されている)

暦(ちょっと加減を間違うとーーとんでもない距離にあるものが、はっきりと見えてしまうんだったっけ)

暦「えっと……漢数字、十中八九の『八九 』に、『寺』で、『八九寺』って並びなんだけれど……」

ひたぎ「……? まあ、それは、『はちくじ』 ね」

暦「『はちくじ』?」

ひたぎ「ええ。阿良々木くん、その程度の熟語も読めないの? そんな学力で、よく幼稚園を卒園できたわね」

暦「幼稚園くらいは目隠ししてても卒園できるわ!」

ひたぎ「それはいくらなんでも自分を高く評価し過ぎだわ」

暦「突っ込みに駄目出しが入った!?」

暦「ったく……。ああ、まあいいや。とにかく、じゃ、あれは『はちくじまよい』ってことか……。ふうん」

暦「えっと……」チラッ

ひたぎ「?」


暦(うーん。 こいつ、どう考えても、子供が好きってタイプじゃないよな……)


暦「おい、ちょっとここで待っててくれるか?」

ひたぎ「いいけれど、阿良々木くん、どこかへ行くの?」

暦「小学生に話しかけてくる」

ひたぎ「やめておきなさい。傷つくだけよ」

暦「………………」

【???】


ベルンカステル「そして、本当に傷ついて帰ってくるわ」

ベルンカステル「それも二度もね」


霧江「…………」

ベルンカステル「この後は二人の掛け合いが入るから、かなり長くなるのでまた省略よ」

ベルンカステル「先に今回のネタバレをしておくなら、真宵は『まよい牛』という怪異ね」

ベルンカステル「家に帰りたくない、と思っている人間にだけ見える怪異。そういう人間を迷わせる怪異」

ベルンカステル「メメの言葉を借りるなら幽霊に近い存在となるわ。親切に道案内をかってでると、目的地まで辿り着けなくさせ迷わせてしまう」

ベルンカステル「あの子自体も迷子と考えていいわね。そもそも幽霊自体、あの世にいけなくて迷子になっている存在とも考えられるし」

ベルンカステル「目的地までたどり着けなくて、その事を悲しんでいる。そういう怪異よ」


霧江「…………」

霧江「……それでこの後の展開は? まあ、ほとんど聞くまでもないけれど」

霧江「暦君が道案内を買って出ないと、ストーリーとして成り立たないのだから」


ベルンカステル「そうね。その通りよ」

ベルンカステル「真宵から住所を訊いた暦は、丁度その時一緒にいたひたぎに道案内を頼むわ」

ベルンカステル「ひたぎは昔、その住所の近くに住んでいたからね」

ベルンカステル「その場面は見せるわ」

【公園の入り口付近】


ひたぎ「ふむ」

ひたぎ「そこならわかるわ」


暦「そりゃ助かる」


ひたぎ「わたしが住んでいた家を、通り過ぎてちょっといったところって感じかしら」

ひたぎ「細かいところまではさすがに無理だけれど、その辺は辿り着けばフィーリングでわかるでしょう」

ひたぎ「じゃ、いきましょうか」クルッ

ひたぎ「」スタスタ


暦「……行くぞ、八九寺」

真宵「…………」

【???】


霧江「で、辿り着けなかったという訳ね」


ベルンカステル「ええ。二度も行きすぎたという事で引き返したわ。それでも辿り着けなかった」

ベルンカステル「区画整理によって道は変わってしまっていたけれど、昔の道が全部消えたという訳ではないのだから、迷うはずなんかないのにね」


霧江「それはあくまで常識から導き出された一般論でしょ? それでも迷う人は迷うわよ。怪異と呼べる程のものでもないわ」


ベルンカステル「……正論を突きつけられると弱いわね。でも、それが今回の『謎』なのだから諦めてちょうだい」

ベルンカステル「第一の謎は『何故か辿り着けない目的地』よ」

ベルンカステル「その場面がこれね」

【道路】


暦「悪いな、八九寺。ちょっと、時間かかっちまいそうだ。でも、この辺の事はわかったからーー」


真宵「いえーー」

真宵「多分、無理だと思います」


暦「え……? 多分……?」

真宵「多分という言葉がご不満でしたら、絶対」

暦「…………」

真宵「何度行っても、辿り着けないんですから」

真宵「わたしは、いつまでも、辿り着けないんです」

真宵「お母さんのところにはーー辿り着けません」


真宵「わたしはーー蝸牛の迷子ですから」


暦「……?」


ひたぎ「………………」

【???】


霧江「……ふうん。いいわ、ここまでの状況は理解したわ」


ベルンカステル「そう。理解が早くて助かるわ」

ベルンカステル「それなら早速、赤き真実を使って謎の証明をさせてもらうわよ」




「ひたぎはこの辺りの地理には詳しかったので、迷う事なく目的地に着けるはずだった」



「だけど、実際には、ひたぎは目的地に着けなかった」


霧江「……嫌になってくるぐらい、シンプルな赤き真実ね」

霧江「それは狙っての事かしら?」


ベルンカステル「さあ。あなたの想像に任せるわ」

ベルンカステル「それよりもあなたの手番よ。指しなさい」


霧江「……少し、考える時間をもらうわ。慎重にいきたいから、すぐには指さないわよ」

霧江「それに、これまで時間に対する言及がなかった以上、この勝負に制限時間はないのでしょう? なら、じっくりと考えるのは当然の事よね」


ベルンカステル「……確かに制限時間は設けてないわ。残念な事にね」

ベルンカステル「ただーーあなたこういう言葉を知っている?」

霧江「……何かしら?」

ベルンカステル「下手の考え、休むに似たり、よ。ふふふふふふっ」


霧江「……っ」

霧江「……その挑発は一旦受け流しておくわ」

霧江「子供相手にむきにならないと、戦人君にも言った事だしね」


ベルンカステル「ふふっ。意外と冷静ね。やりにくい女」


霧江「悪いけど、盤外戦まで相手をしていられないのよ」

霧江「ゆっくり考える為にも少し外の空気を吸ってくるわ。私が戻ってきてからがゲーム再開ね」スクッ

霧江「」テクテク



ベルンカステル「……おまけに勝手な女ね。本当、やりにくい」

【??? 庭園】


霧江「」フゥ……

霧江「……最初に少し挑発し過ぎたわね。私とした事が……」


霧江「……難易度Eか」


霧江「これを解けない様では私の面目丸潰れね。後で戦人君に合わせる顔がないわ」

霧江「何としてでも解かないと……」

霧江「まずはーー」

霧江「戦い方として、青き真実は極力使わない方がいいわね」

霧江「最初に伝家の宝刀を抜いておいたから、向こうも警戒してくれているはずよ。それなら、出来る限り使わない方がいいわ」

霧江「わざわざ危険な橋を渡る必要はない。向こうに赤き真実を多く使わせて、それから推理をしっかりと固めてーー」


霧江「となるとーー」

霧江「最初は状況の確認から、か……」

霧江「まず、この時、一番大事なのは、『本来なら』迷う事がなかったのか、という事ね」

霧江「今の状態だと『真宵がいたせいで』迷ったのか、それとも『真宵がいなくても』迷っていたのかが、はっきりとしていないわ」


霧江「そこを最初に確認しなければお話にならないわね……」


霧江「もしも、『真宵がいなくても』迷っていたとしたなら、それは道案内をしたひたぎに原因がある事になるしーー」

霧江「『真宵がいたせいで』迷う事になっていたとしたなら、それは真宵に原因がある事になるわ」


霧江「まずはどちらに原因があったのかを、確かめないといけない、か……」


霧江「そして、原因のあった方について、色々と調べていけばーー」

霧江「謎はいつか解けるはず……」


霧江「と、そう思いたいところね」フゥ……

霧江「今のところ、情報が少なすぎるから当てには出来ないけど……」

霧江「ああ、それと……」

霧江「これが偶然なのかそうでないのかも確認しておきたいわね……」


霧江「怪異の中に偶発的要素が含まれると言うなら、今回もその可能性は否定出来ないのだから」


霧江「偶然、辿り着けなかったっていうのはよくわかりはしないけれど、一応確かめておいても損はーー」

霧江「……偶然……?」

霧江「いえ、ちょっと待って。もしかして、これ……」ハッ!!



霧江「……そうか。そういう事ね……」

霧江「まだ確定ではないけれど、恐らくは……」


霧江「この考えで当たりの気がするわ」

霧江「……そして、私のこの考えが正しければ……真宵は関係ない事になるわね」


霧江「だとしたら、考えられるのは……」

霧江「2パターン……いえ、3パターンね……」

霧江「この三つのケースの中のどれかになるはず……」


霧江「これが違うようなら他には今のところ、思いつかないわ……。まずはこの推理を確認しておくべきね……」


霧江「……よし」

霧江「考えと方向性はまとまったわ」

霧江「部屋へ戻りましょう」クルッ

霧江「」テクテク

【???】


ガチャッ

霧江「お嬢ちゃん。待たせたわね」


ベルンカステル「それほど長い時間は待っていないわ。というよりも、帰ってきた事自体を誉めてあげる」

ベルンカステル「てっきり逃げ出すかと思っていたから」クスクス


霧江「……逃げ出しはしないわよ。それだけはないわ」フッ


ベルンカステル「ふうん……。いい表情ね。自信と警戒が混ざりあっててとても素敵よ」

ベルンカステル「その表情がどれだけ壊れるかが今から楽しみね。ふふふふっ」


霧江「……とんだ悪趣味ね。全く……」

霧江「でも、笑うのはそこまでよ。これから私の手番に移るわ」


ベルンカステル「ええ、そうして」


霧江「まずは状況を確認するわ。あなたに赤で復唱を要求する」


ベルンカステル「……青き真実ではないのね。それだと私は拒否も出来るけど、構わないの?」


霧江「ええ、いいわ。拒否なら拒否で推理がなお固まるだけだから」


ベルンカステル「…………」

ベルンカステル「いいわ。とりあえず聞くだけ聞いてあげる。何?」


霧江「私が確認したいのはたった一点だけよ。これが本当に『謎』なのか『必然』なのか、それだけ」

霧江「だから、復唱が欲しいのはこの三つね」




「仮に、翌日、『真宵がいない時に』同じ事をしたら、ひたぎは目的地に辿り着けていた」



「この時の条件は、『真宵がいない以外』は完全に同条件とする。ひたぎは昨日の記憶を全て忘れ、初めて探す時と全く変わらない状態とする」



「更にこの時の条件として、偶然や突飛な不確定要素が入る余地は一切ないものとする。仮に一万回同じ事をしたら、一万回全く同じ結果が出るものとし、一万回以上は決して行われない」


ベルンカステル「っ……!」


霧江「さて、どうするの、お嬢ちゃん? 復唱を拒否する?」ニッ


ベルンカステル「本当にえげつない女ね、あなた……。仮の命題を持ち出すなんて……」

ベルンカステル「一つの条件を除いて、全く同じ状況を作り出すなんてのは、現実じゃ絶対に有り得ないわ。それこそ机上の空論よ」


霧江「そうね。でも、私はそれを要求するわ。仮定の世界でシミュレーションした結果をね」

霧江「まさか、答えられないなんて事はないはずだし。そうでしょう?」


ベルンカステル「っ……」

ベルンカステル「……少しあなたを甘く見すぎていたみたいね。それだけは認めてあげる」

ベルンカステル「戦人の師匠だと知ってはいたけど、あなたの戦い方は完全に戦人とは別物……」

ベルンカステル「戦人の攻めが直線的なものだとしたら、あなたの攻めは立体的ーー別の角度から突いてくる。それこそ数学の証明方法に似ているわ。文章問題でも解いているつもりかしら?」


霧江「もちろん、そんなつもりはないわよ」ニッ

霧江「でも、私は理数系だから、思いついた事が『たまたま』そうなってしまう事もあるかもしれないわね」フフッ


ベルンカステル「ぬけぬけとよくも言えたものね。逆に感心するわ……」


霧江「ありがとう、『お嬢ちゃん』。でも、ゲーム理論ではこれは当たり前の事よ」

霧江「偶然を排して、条件を絶対的なものとし、その上で相手が最善の一手を打ってくると仮定して進めるわ」

霧江「変則だろうと何だろうと、これが私の戦い方よ。一番、最初に言ったでしょ?」

霧江「ーー真っ向から攻めずに多角的に同時攻撃をしていく。これが大人の戦い方ってやつよ」


ベルンカステル「……くっ!!」


霧江「で、どうするの? 復唱は拒否する?」

霧江「もっとも、拒否するしかないでしょうけどね」


霧江「私の考えが正しければ、この謎に真宵は関係ない。原因はひたぎにあるわ」

霧江「復唱に応じれば、迷わせたのは真宵という事で確定する。でも、私の考えではそれはない」

霧江「つまり、あなたはこれを赤字で復唱出来ないという事になる。もし出来るようなら、この局面は私のリザイン(敗北)でもいいわ」

霧江「さあ、どうなの? 復唱出来るの、出来ないの? どっち?」


ベルンカステル「……!!」ギリッ

ベルンカステル「……っ、復唱を……拒否するわ。理由は復唱不可能だからよ」


霧江「」フッ

霧江「でしょうね」


ベルンカステル「だけどーー」ニヤリ


霧江「……!?」

ベルンカステル「それは、あなたの推理を否定できないという意味ではないわ」

ベルンカステル「だから、別の形で赤き真実によって答えてあげる」


ベルンカステル「あなたのお粗末な推理が間違っている事を今すぐ証明してあげるわ」




「仮に、翌日、『真宵と暦がいない時に』同じ事をしたら、ひたぎは目的地に辿り着けていた」



「この時の条件は、『真宵と暦がいない以外』は完全に同条件とする。ひたぎは昨日の記憶を全て忘れ、初めて探す時と全く変わらない状態とする」



「更にこの時の条件として、偶然や不確定要素が入る余地は一切ないものとする。仮に一万回同じ事をしたら、一万回全く同じ結果が出るものとし、一万回以上は決して行われない」


霧江「…………」


ベルンカステル「どう? これであなたの『ひたぎに原因がある』という推理は外れたわ」

ベルンカステル「原因は『真宵と暦』にあるのよ。ひたぎは関係ない」

ベルンカステル「そして、どうして暦が関係あるかと言えば、彼がいなかったら、真宵とひたぎとの接触はなかったからよ」

ベルンカステル「ーー取り立てて暦に原因があるという訳でもないけれど、少しでもある以上、私は赤字でそれを復唱出来ない。そうでしょう?」


ベルンカステル「これでわかったかしら? わかったならコンソメスープにでも頭を突っ込んで、顔を洗ってから出直していらっしゃい」


霧江「」フッ


ベルンカステル「……!?」


霧江「さっきから一体何をむきになってるの、お嬢ちゃん? いつもの余裕顔はどうしたのかしら?」

霧江「悪いけど、このケースも私は予測済みよ。それにあなたの言っている事は、確かに合っているけれど完全に合っているという訳でもない」

霧江「その赤き真実ではひたぎが無関係という証明にはならないのよ。これは言葉遊びによる、ちょっとしたペテンね」


ベルンカステル「……っ!」

霧江「先に宣言してあげる」

霧江「この次の復唱要求であなたが復唱出来なかったら、この局面の私の勝ちはほぼ確定するわ」


ベルンカステル「……!?」


霧江「奇跡の魔女に復唱を要求! その内容は以下の通りよ!」




「ひたぎは目的地に向けて出発してから現在に至るまで、『真宵以外』から一切『妨害』を受けなかった」



「この時の『妨害』とは、直線的、間接的、無意識的、偶発的なものも含め、更には物理的なものから説得や脅迫などを含めた心理的なものまで、全てを指す」


ベルンカステル「……っ」


霧江「さあ、お嬢ちゃん、どう? 復唱は出来るかしら」


ベルンカステル「……少し……待ちなさい。今度はこちらが時間をもらうわ」


霧江「あら、そう。……どうやら立場が逆転してしまったようね。奇跡の魔女、ベルンカステル」

霧江「いいわ。いくらでも待ってあげるわよ。ここでゆっくりお茶でもしながらね」ニッ


ベルンカステル「っ!!!」ギリッ!!

ベルンカステル「」スクッ

ベルンカステル「」スタスタ


バタンッ!!


霧江「あら……。出ていってしまったわね」


霧江「」フゥ……


霧江「挑発しなければ赤字を使ってこないと思うから、してはいるけれど……」

霧江「こっちも神経を使うわね……。失敗した時が怖いわ……」

【??? 庭園】


ベルンカステル「悔しい……」ギリッ

ベルンカステル「あんな女にいいように言われるなんて、魔女の恥よ。よりにもよって、この奇跡の魔女である私に対して……!」

ベルンカステル「可能性が『ゼロ』でない限り、『必ず』成就させる能力を持つ私に対して……!」

ベルンカステル「いいわ……。それなら見せてあげようじゃないの」

ベルンカステル「霧江。あなたの推理は私にはもう読めている。そして、それは恐らく正解よ」


ベルンカステル「それが真実。私はあんたが要求したあの台詞を復唱出来ない」


ベルンカステル「だけどーー」


ベルンカステル「猫箱の中の真実はまだ『確定』されていないのよ」ニヤリ

ベルンカステル「それなら私は、真実を新たなものに書き換えていくだけよ」

ベルンカステル「これまで出た赤字に一切抵触しない形でね」


ベルンカステル「難易度E? 知らないわよ、そんなの。赤字で言った訳じゃなし」フフッ


ベルンカステル「難易度を今からAクラスに変えて、霧江の推理と真実を全否定してやるわ!」

??「くくくくくくっ」

??「ずいぶんと熱くなっておるようじゃな、ベルンカステル卿」

??「そなたのその様な姿を見るのは久しぶりで、懐かしくもあり、鬱陶しくもありと、複雑な気分であるぞ」



ベルンカステル「!?」

ベルンカステル「あなた……! ここにいたの!? 無限の魔女、ベアトリーチェ!!」



ベアトリーチェ「くくくくくっ。妾は謎が好きゆえな。姿を隠して、お師匠様と一緒に初めからこの場にいたぞ」

ベアトリーチェ「それにしてもなかなかに興味深いな。『怪異』というのもまた。のう、お師匠様?」


ワルギリア「そうですね。愛がなければ視えない、というのもまた、私達と共通していますし」

ワルギリア「個人的には、魔法と怪異をひとくくりにするのもどうかと思いますが、しかし、その本質はほとんど同じなのかもしれません」


ベアトリーチェ「お師匠様は、相変わらず固くてつまらぬな。昔と全く変わらぬ」

ワルギリア「あなたが昔から軽すぎるのですよ、ベアトリーチェ。大魔女らしく、気品を持つようにと何度も注意したはずですが……」

ベアトリーチェ「い、今はもうよいじゃろうが、それは。今更過ぎてどうにも……」ブスッ

ワルギリア「」フフッ


ベルンカステル「…………」

ベアトリーチェ「ところで、ベルンカステル卿」

ベルンカステル「……何よ?」

ベアトリーチェ「そなたが次に指そうとしているその一手……。やめる事を妾は勧めるぞ。それは悪手だ」ニヤリ


ベルンカステル「っ……。聞いていたのね」


ベアトリーチェ「聞いていたというよりは、聞こえていたというところだが、今はそれは良い」

ベアトリーチェ「問題なのは、それを指すと後々きつくなるという事だ」

ベアトリーチェ「そうであろう? よくよく考えてみよ。その反則ギリギリの一手はひたぎクラブの謎と被ってしまう」

ベアトリーチェ「不用意に何度も同じ謎を使うのは頂けないものだ。手掛かりや綻びが出てきてしまうからな。この妾が言うのだから、それは間違いない」

ベアトリーチェ「大人しくこの局面はリザインされる事をお勧めする。賢明なベルンカステル卿よ」


ワルギリア「……そうですね。この局面で負けても、謎はまだあります。肉を斬らせて骨を断つの如く、そちらで勝負すれば良いのです」

ワルギリア「どれか一つでも『怪異』として成立していれば、それで怪異側の勝ちになるのですから」


ベアトリーチェ「もっともーー」

ベアトリーチェ「まよいマイマイの最後、第三の謎だけは、『謎』とも呼べぬ程簡単なものであるがな。あれにはかなり笑わせてもらったぞ。くくくくくっ」


ベルンカステル「!!」ギリッ……

ベルンカステル「……いいわ。わかった。第一の謎についてはリザインするわ」

ベルンカステル「元々これは私が主催したゲームでもなければ、私が用意したゲーム盤でもないのだからね」

ベルンカステル「下手な事をして、キスショット卿のゲームを台無しにする訳にもいかないし……」

ベルンカステル「それに、ここで負けを認める事で、次に繋がるというちょっとした一手も、今、見えたわ」


ベアトリーチェ「くくっ。流石はベルンカステル卿。ラムダデルダ卿と違って物分かりがよい」


ベルンカステル「あの子は意地になる事が多いだけで、物分かりの良さで言えば私よりは上よ、とだけ言っておくわ」


ベアトリーチェ「くくくくくっ。左様か」


ベルンカステル「とにかく、私はもう戻るわ。あなたたちもこれ以上私に用はないのでしょう?」


ベアトリーチェ「酷い言われようであるな。ーーが、そう言うのならあえて引き留めはせぬが」

ワルギリア「あなたの健闘を祈っていますよ、ベルンカステル卿」


ベルンカステル「ふんっ」クルッ……

ベルンカステル「どうせなら勝利を祈っていなさい。祈ったところで無意味だという事は置いとくとしてもね」スタスタ……

【???】


ガチャッ


ベルンカステル「……今、戻ったわ」


霧江「あら、お帰りなさい。負けを認める気になったのかしら?」


ベルンカステル「っ……!」

ベルンカステル「……そうよ。この局面はリザインするわ。私の負けでいいわよ」


霧江「……」ピクッ


ベルンカステル「それでどうするの? 勝ちが決まっているというのに、あなたらあえて青き真実を使う?」

ベルンカステル「その結果、あなたの推理が間違っていたとしても、私は知らないけどね」


霧江「……なるほど。こちらに選択を預けてきたという訳ね……」

霧江「…………」

ベルンカステル「…………」


霧江(……さて、どうしたものかしらね)

霧江(今回の謎はほぼ解けているのだから、ここで勝負をするのも有効な一手か……)

霧江(高い確率で勝てるというなら、相手の機先を制する上でも、今後の戦いの為にも、いくべきかしら……)

霧江(リスクは少ない様に思えるけど……)


霧江「……いいわ、ここで今回の謎に決着をつけるわよ」

霧江「謎を解いた上で、青き真実をあなたに突きつけるわ」


ベルンカステル「…………っ」




霧江「まず、今回の謎で留意すべきは、『迷う要素がないのに迷う』というこの考え方ね」


霧江「結論から言ってしまえば」

霧江「この捉え方自体が既に間違いよ」キリッ


ベルンカステル「…………」

霧江「そもそもひたぎは迷ってなんかいない」

霧江「ここまでの流れーーいわゆる『幻想』によって、『迷った』ように相手に思わせているけれど、それはフェイクでしかないわ」


霧江「あなたが一番最初に赤き真実で突きつけた通り。考えなきゃいけないのはこの一点だけ」



「ひたぎには目的地に着く能力があったのに、目的地に着けなかった」


霧江「迷ったのではなく、着けなかったというだけ」

霧江「そして、一見、謎の様に思えるけど、実のところこれは『謎』でも何でもないわ。こんなのは現実でもよくある事よ」

霧江「この全ゲームには、偶然の要素も『怪異の正体』に含まれているわ」

霧江「それを考えた時、私は一気に謎が解けた」


ベルンカステル「…………」


霧江「例えば偶然にもーー目的地に巨大隕石が落ちたとしたら?」

霧江「この場合、目的地自体が消滅するわよね」

霧江「つまり、ひたぎは目的地に辿り着ける能力があったとしても、絶対に辿り着けない事になる」


霧江「ーーまあ、流石にこれは極端過ぎだし、こんなにも常識から外れた偶然の出来事はノックスによって認められていない。そうでしょう?」


ドラノール「肯定・ノックス第3条。常識から逸脱した偶然、及び、物語が夢の中の出来事(夢オチ)である事を禁ず、に違反しマス」


霧江「でも、そこまで酷い偶然でなければこの論法は通るという事よ。目的地自体の消滅、あるいは消失、もしくは目的地自体が初めから存在しない、という事はね」


ベルンカステル「…………」

霧江「そこまで考えたら、後は簡単だったわ」

霧江「『目的地に辿り着ける能力があったとしても、目的地に辿り着けない状況』というのは日常的に私達も体験した事があるのだから」

霧江「大雑把に言えば、それはこの三つのパターンのどれかね」


霧江「一つ目に、外的要因」

霧江「何らかの理由により途中で引き返す必要が生じ、目的地に辿り着けなかった」


霧江「二つ目に、物理的要因」

霧江「目的地に辿り着くまでの、唯一の経路が通行上めになっていて、辿り着けなかった」

霧江「目的地に辿り着くまでに、何らかの妨害を受けてそれ以上進めなくなり、辿り着けなかった」


霧江「三つ目に、さっきの目的地自体の消失」

霧江「初めから目的地がなかったら、そこには永久に辿り着けない」

霧江「この三つの推理の内、三番目のはこの赤き真実によって既に否定されているわ」



「仮に、翌日、『真宵と暦がいない時に』同じ事をしたら、ひたぎは目的地に辿り着けていた」



霧江「もしも、目的地がなかったとしたら、ひたぎは翌日も辿り着けない事になるし、暦と真宵は全く関係ない事になるから、つまり、この赤き真実が間違っているという事になってしまう」

霧江「だけど、赤き真実が間違っているという事は絶対に有り得ないから、よって三番目の推理は否定されるという事ね」


霧江「となると、考えられるのは残りの二つ」

霧江「ここから先は赤き真実がないから推測でしかないけどーー」

霧江「私が復唱を要求した、これが鍵となるはず」



「ひたぎは目的地に向けて出発してから現在に至るまで、『真宵以外』から一切『妨害』を受けなかった」



霧江「これを復唱出来ないのだとしたら、前の赤字と合わせて考えると、ひたぎは真宵と暦の両方から『妨害』を受けていた事になる」

霧江「だとしたら、考えられるのは物理的要因しかなくなるわ」

霧江「そして、もしもこれが違うというならそれ以外の外的要因が原因という事になるはずよ」



霧江「それを踏まえた上で、私はこの青き真実をあなたに突きつける!」ビシッ




「ひたぎは暦・真宵の二人から、何らかの『妨害』を受けていた為、目的地に辿り着けなかった!」



「その『妨害』に怪異は含まれない!」


ベルンカステル「うぐっ!!」ズサッ!!


霧江「……決まったわね」


ベルンカステル「ぐっ……。それなら……その『何らかの妨害』というのを……説明してみなさいよ……」ゲホッ


霧江「説明をする必要はないわ。要は、『怪異』でなくても可能だという事を青で証明出来れば、それでいいのでしょ? そういうゲームじゃなかったの?」


ベルンカステル「ふ……ふふっ……。『妨害の内容』も……『妨害の理由』もいらないなんて……ずいぶん一方的なゲームよね……これは……」ゲホッ

ベルンカステル「今更ながら……それを文字通り……痛感するとは思わなかったわ……」


霧江「……言っておくけど、それは私が決めたルールじゃないわよ」


ベルンカステル「……そうね。……でもこれだけは……覚えておきなさい」

ベルンカステル「化物語の全ての謎を解くには……内容も理由も……その両方を説明出来ないと無理よ……」

ベルンカステル「そうでないと……この『謎』は絶対に……! 絶対に……! 絶対に……解けないから……! ふふふっ……ふふふふふふふふふっ……!」


霧江「っ…………」

確かに『怪異』以外でも可能であると証明はしてるけど、『妨害の内容』や「妨害の理由』みたいな具体的な事まで確定させなきゃ『怪異』の否定にはならなくないか?
まだ『人為的』である可能性と『怪異』である可能性が混在している猫箱状態のままだし……

>>197で言ったように人の仕業でも説明付くんだから一体どのように妨害したのかがないとどうしようもないな
殆ど反芻しただけになってしまう……

ベルンカステル「それじゃ次の謎にいくわよ……!」


霧江「ええ、きなさい」

ベルンカステル「第二の謎は『真宵の存在の有無』よ」

ベルンカステル「>>61>>66で示してある通り、真宵はその『存在』が確定されていないわ」

ベルンカステル「ニンゲン側からすれば、『怪異』は存在しないという事になる。つまり、『怪異』である真宵は『元から存在しない』という事になるわよね。もしくは、『怪異』ではなく『人間』という事になるはずよ。そうでしょう?」


霧江「……そうね。『怪異』や『魔法』なんてものは、この世には存在しないわ」

霧江「もし、真宵という子が『怪異』だというなら、この世には『いない』。幽霊と同じで、人の想像力が生み出した幻想よ」

霧江「逆に『人間』だというなら、この世には『いる』。単純な理屈ね」


霧江「……で、今回の謎はそのどちらなのか? という事ね」


ベルンカステル「そう。『いる』か『いない』かーー真宵は『幻想』なのか『人間』なのかーーただそれだけの謎よ」

ベルンカステル「答えが二択なんだから、簡単よね。どちらかを言えば、50%の確率で当たるんだから」フフフッ


霧江「……そうはさせないって顔をしといて、よく言うわ……」

【公園】


『迷い牛』

『迷い牛だろ、そりゃ』


暦「牛? いや、違うって。牛じゃない、カタツムリだって」


『漢字で書きゃ、牛って入ってるでしょーが。ああ、阿良々木くんはひょっとして、カタツムリって片仮名で書いちゃってるの?』

『渦巻きの渦の、さんずいを虫偏に変えて、それで牛。蝸牛だよ』

『まあ、人を迷わせる類いの怪異ってのは数えきれないぐらいいるけれど、そのタイプで蝸牛だっていうなら、迷い牛で間違いないでしょ』


暦「…………」

【???】


霧江「……今の電話の相手は?」

ベルンカステル「ああ、あなたはひたぎクラブを見ていなかったわね。忍野メメという男よ。アロハの中年ね」

霧江「アロハ……」

ベルンカステル「そんな探る様な顔をしなくても、今回、メメは電話でしか出てこないから、あまり気にしなくてもいいわ」

ベルンカステル「単に怪異の説明という事で見せているだけよ」


霧江「…………」

ベルンカステル「それで、ここで時系列が少しさかのぼって、電話がかかってくる前の話に移動しているわ」

ベルンカステル「今回もここはざっくりと省略よ」

ベルンカステル「掛け合いばかりで無駄だし、必要がないから」


霧江「……化物語の掛け合いを無駄と言うのも、残酷なものね。もっとも六軒島での魔法を使った戦いも完全に無駄だったけれども……」


ベルンカステル「……無駄ではないわ。魔法を信じる人間にとっては、あれが真実よ。そして、その方が幸せな終わり方が出来たのだから。そうでしょう?」


霧江「」フッ

霧江「幸せかどうかをあなたに決める権利はないわ。勝手に決めないで欲しいわね」


ベルンカステル「ふふふっ。元気がいいわね。何かいい事でもあったの?」

霧江「……っ」

ベルンカステル「まあ、どうでもいい事だけどね。あんたがゲロカスみたいな幻想を信じるのも、救いようのない真実を信じるのも好きにすればいいだけの事よ」

ベルンカステル「幸せだろうが不幸せだろうが、どっちもゲロカスには変わりはないのだから。ふふふふふっ」


霧江「……!」ギリッ

霧江「」フーッ……

霧江「……それで、この後は?」


ベルンカステル「羽川翼という暦の同級生が出てくるわ。そこは必要だから見せるけど」


霧江「…………」

【公園】


翼「怖い顔になってるよー、阿良々木くん」


暦「……? 羽川」


翼「びっくりしたみたいな顔になったね。うん、まあ、そっちの方が、いいかな」

翼「どうしたの? 何やってるの? こんなとこで」

暦「ちょっと、まあ、何もする事なくて、暇潰しって言うかーー」

翼「あっはー。そうなんだ。いいね、暇潰し。することないのは、いいことだよ。自由ってことだもん。私も暇潰しかな」

暦「…………」


翼「ほら、阿良々木くんは知ってるんだよね。私、家、居づらいからさ。図書館も空いてないし、日曜日は散歩の日なのよ。健康にもいいしね」

暦「……気ィ遣いすぎだと思うけどな」

【???】


ベルンカステル「ここでの台詞を簡単に説明するなら、翼は家庭の歪みを抱えているのよ。不和ね」

ベルンカステル「だから、普段から家にいようとしないわ」

ベルンカステル「あなたも、身につまされるものがあるんじゃないの? 息子が長いこと家出をしていた訳だしね。ふふふふふっ」


霧江「……余計な話をしないでもらえる」

霧江「さっさと先に進めてちょうだい」


ベルンカステル「ふふっ。家庭の不調和は右代宮家の代名詞と言ってもいいのにね」

ベルンカステル「まあいいわ。次の場面に移るわよ」

【公園】


翼「ところで、阿良々木くん。その子、誰?」

暦「あ、えーっと、迷子の子だよ。八九寺真宵って名前」

翼「ふうん」トコトコ


翼「こんにちわ、真宵ちゃん。私、このお兄ちゃんのお友達で、羽川翼って言うんだよー」

真宵「話しかけないでください。私、あなたのことが嫌いです」

翼「あれー。嫌われるようなことしちゃったかなー。初対面の人にいきなりそういうこと言っちゃいけないよ、真宵ちゃん。うりうり」

真宵「う、うううー……」

【???】


ベルンカステル「とまあ、こんなところね。ここまではいいかしら?」


霧江「……ええ、いいわよ」


ベルンカステル「それなら、また話をざっと省略していくわ」

ベルンカステル「この後、メメのところに行っていたひたぎから暦に電話がかかってきて、メメがあらかた電話で怪異の説明をしていくわ」

ベルンカステル「そして、メメのところから戻ってきたひたぎが、今回の『怪異』について、更に詳しい説明を始めるのよ」

ベルンカステル「第二の謎ーー『真宵の存在の有無』はそこからね」

【公園】


暦「忍野から話、聞いてきたんだろ? 戦場ヶ原。早く教えてくれよ、どうすれば、こいつを目的地まで連れて行くことができるんだ?」

ひたぎ「逆だそうよ」

暦「?」

ひたぎ「阿良々木くん。私はどうやら、阿良々木くんに謝らなければいけないそうよーー忍野さんに、そう言われてしまったわ」

暦「逆? 謝らなければならないこと?」

ひたぎ「忍野さんの言葉を借りると、正しい事実が一つあったとして、それを二つの視点から観察したとき、違う結果が出たとする。そのとき、どちらの視点が正しいかを判断する方法は、本来ないーー自分の正しさを証明する方法なんて、この世にはないのだと」



『いいかい? よく聞きなよ。見えているものが真実とは限らないしーーそれとは逆に見えていないことが事実であるとも限らないんだぜ、阿良々木くん』



暦「…………」

【???】


霧江「……身につまされる話だとしたら、こちらの方ね」

霧江「見えているものが真実とは限らないしーー見えていないものが事実であるとは限らない……」


霧江「ベアトリーチェが戦人君に投げかけた謎が、正にそれだったわ。幻想と現実のせめぎあいね」


ベルンカステル「そうね。これは『あの村』での惨劇もそうだったわ」

ベルンカステル「嫌ね……。思い出したくもない、忌まわしい記憶を思い出してしまったじゃない……!」ギリッ


霧江「……?」


ベルンカステル「ーーとにかく」


ベルンカステル「怪異、魔法、祟りーー『謎』の根幹というのは全てこれよ。見えているものと、見えていないものーーそのどちらを信じるか、ね」

ベルンカステル「今回は特にそれ。見えているものと、見えていないもの。それが謎」


霧江「……?」


ベルンカステル「このすぐ後で、その意味がわかるわ」

【公園】


ひたぎ「蝸牛ーー迷い牛から解放される方法は、とても簡単なのだそうよ、阿良々木くん。言葉で説明すれば、とても簡単。忍野さんはこう言っていたわ」

ひたぎ「蝸牛についていくから迷うのであって、蝸牛から離れれば、迷いはない。だって」

暦「ついていくから迷う?」

ひたぎ「祓ったり拝んだりは必要ないということなの。取り憑いているわけでもないし、障っているわけでもないーーそう。私のときの蟹と、それは同じね」

ひたぎ「そして、更にーー蝸牛の場合、 対象となっている人間の方から、怪異の方に寄っているらしいの。しかも、無意識とか前意識とかじゃない、確固たる自分の意志でね」

ひたぎ「蝸牛に自分がついていっているだけ。自分から望んで、蝸牛の後を追っているだけ。だから迷う。だから、阿良々木くんが、蝸牛から離れればーーそれでいいというわけ」

暦「いや、僕じゃないだろ、八九寺がだよ」


暦「だいいち、それならーーおかしいじゃないか。八九寺は、別に自分から蝸牛についていっているわけじゃーーそんなこと、望んでるわけないじゃないか」


ひたぎ「だからね、逆ーーなのだそうよ」

ひたぎ「でも、それでも、言い訳はさせて頂戴。悪気があったわけではなかったし……それに、わざとでもなかったの。私はてっきり、私が間違っているんだと思っていたのよ」

暦「…………」

ひたぎ「だってそうでしょう? 二年以上もの間、私は普通じゃなかったんだもの。つい先週、ようやく普通に戻れたばかりなのだもの」

ひたぎ「何かあったらーー私の方が間違ってると思ってしまうのも、仕方がなかったのよ」

暦「……戦場ヶ原?」

ひたぎ「私のときの蟹と同じでーー迷い牛は理由のある人の前にしか現れないそうよ。だから、阿良々木くんの前に現れたというわけ」

暦「いや、だから、蝸牛が現れたのは、僕の前じゃなくて、八九寺ーー」

ひたぎ「八九寺ちゃん、よね」

暦「…………」


ひたぎ「つまりね、阿良々木くん。母の日で気まずくて、妹さんと喧嘩して、家に帰りたくない、阿良々木くん。その子ーー八九寺ちゃんのことなのだけれど」


ひたぎ「ーー私には、見えないのよ」


暦「!?」


真宵「………………」

【???】


ベルンカステル「家に帰りたくない人にしか『見えない』怪異なのよ。迷い牛は」

ベルンカステル「だから、真宵の姿は、暦と翼には見えたけど、ひたぎには見えなかった」


霧江「…………」


ベルンカステル「霧江。あなたにこの不可思議な謎が説明出来る?」


霧江「……」フッ

霧江「下らないわ。まさか、本当にこんな安っぽい謎なの?」

霧江「こんなのは、ひたぎが嘘をついていた、で済む話よね? 難易度Eとはいえ、いくらなんでもこれではお粗末過ぎよ」


霧江「だから、先に復唱を要求するわ。この三つが復唱出来ないなら、この第二の謎は論外という事よ」




「暦は、真宵が見えていた」



「翼は、真宵が見えていた」



「ひたぎは、真宵が見えなかった」


ベルンカステル「ふふっ」

ベルンカステル「そうね。その言い分、認めてあげるわ」




「暦は、真宵が見えていた」



「翼は、真宵が見えていた」



「ひたぎは、真宵が見えなかった」


霧江「……!?」


ベルンカステル「お望み通りの赤字よ。次は何を要求するの?」

ベルンカステル「それともまさか、ひたぎが嘘をついていた、なんて単純な推理しかあなたには思い浮かばなかったのかしら?」


霧江「っ……」

ベルンカステル「そもそも、今回の謎は『真宵の存在の有無』なのよ」

ベルンカステル「私は怪異がいると証明しなければならないのだから、これぐらいの事は赤き真実で復唱出来て当然よね?」

ベルンカステル「だって、そうでしょう?」クスクス



ベルンカステル「見えるのであれば、真宵は『実在する』事になるわ」

ベルンカステル「逆に、見えないのであれば、透明な人間がいる訳ないのだから、真宵は『実在しない』事になるわ」



ベルンカステル「でも、今回はその両方ともが『絶対的に正しい』のよ。完全な矛盾ね」


ベルンカステル「さあ、霧江。答えてみなさい。真宵は『いる』の? それとも『いない』の? 『幻想』なの? 『人間』なの?」

ベルンカステル「家に帰りたくない人間にしか見えない『怪異』ーー以外で、あなたに説明が出来るの?」

ベルンカステル「出来る訳ないわよね? だって、そんな事は不可能なのだから」

ベルンカステル「ふふふふふふふふふふっ」


霧江「っ…………」

今回はここまで

>>263
>>265
最終的には、方法、内容、理由、全部解き明かしていきますけど、それはまだ先の話なんで……
赤字に抵触しないで、人間に『可能』なら、とりあえず人間側の勝ちって事で今は納得しておいて下さい。その内、出てきます

霧江「……確かにこれは一見不可能に思えるわよね」

霧江「でも、論理的に考えていけば、必ず推理出来るはずなのよ」

霧江「矛盾している事なんて、現実には有りはしないのだから」


ベルンカステル「だったらーー」

ベルンカステル「証明してみせなさい、霧江。復唱要求ではなく、青き真実を使ってね」

ベルンカステル「謎は解けるはず、なんて、私が一番最初に赤字で言っている事よ。いちいち御託を抜かす前に、さっさと推理の一つでも披露して見せなさいよ」

ベルンカステル「全部、赤き真実で打ち砕いてあげるから」ニヤリ


霧江「……本当に、好き放題言ってくれるわね……」

霧江「とにかく最初は、前と同じで偶然の入る余地があるかどうかの確認からね」

霧江「偶然見えなかった、ってケースがあるかどうかからなのだけど……」


霧江「……そうね。どうかしら……」


霧江「例えば、ひたぎはその時、偶然目をつぶっていて、見えなかったとか……」


ベルンカステル「」クスクス

ベルンカステル「ふふふっ。ずいぶんと面白い事を言うのね、霧江」

ベルンカステル「あれだけ長くいたというのに、その間、ひたぎはずっと目をつぶっていたというの? 最初から最後まで? 有り得なすぎて、笑っちゃうレベルよ」

ベルンカステル「自分でもそう思わないの?」


霧江「っ……。例えばの話よ。それに、どれだけの時間、暦達が過ごしていたかは、赤き真実で証明されていないわ。だからものすごく短かった可能性もーー」


ベルンカステル「馬鹿馬鹿しい。黙りなさい」


霧江「!?」




「ひたぎは目をつぶってはいなかった」



「ひたぎ、暦、真宵の三人は、この日、最低でも二時間以上は同じ所で同じ時間を過ごした」


ベルンカステル「あまり、下らない事を言うんじゃないわ」

ベルンカステル「こんな事で、赤字を使ってる私の方が馬鹿みたいじゃないの」


ベルンカステル「二度とこんな下らない推理をされないよう、ついでにこれも宣言しておくわ」




「時間、及び、時間の経過は、化物語内で描写されたものとほぼ同一のものとする」



「これは全ゲームにおける共通事項よ」


ベルンカステル「昼だったら昼。夕方だったら夕方。夜だったら夜よ」

ベルンカステル「今回の場合でいけば、初めて真宵と会ってから、さんざん話をしていたり移動したりしていた訳だから、どれだけ少なく見積もっても、二・三時間は経過しているという事ね」


ベルンカステル「これだけ長く会話の描写をしているのに、例えば会ってから十秒足らずしか経っていないだとか、そんな無茶苦茶は通らないという事よ。覚えておきなさい」

ベルンカステル「時間と、場所は、全て信用していいわ。これは絶対的な鉄則ね」


ベルンカステル「そして、これは更にオマケよ。さっきの目をつぶってと似たようなものだから、ついでに宣言しておくわ」




「ひたぎは盲目ではない」



「暦と翼は、幻覚などを見ていない」


霧江「……うっ」


ベルンカステル「こんな裏技みたいな推理は認めないわよ」

ベルンカステル「特に『謎』の正体が『幻覚』なんて、ミステリーとしては卑怯もいいとこね。推理のしようがないじゃない、そんなの」

ベルンカステル「ああ忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい!」


霧江「!?」ビクッ!!


ベルンカステル「……本当に、あの卑怯臭い謎のせいで!」ギリッ


霧江(……何なの、この子。一体……何があったの?)

霧江(でも……幻覚?)

ベルンカステル「……」ユラリ

ベルンカステル「……とにかくそういう事よ、霧江。あなたが言う偶然の入る余地なんかありはしないわ」

ベルンカステル「他にまだ推理があるの? あるなら聞いてあげるわよ」

ベルンカステル「どうせ、無駄なんだから」


霧江「…………」

霧江「無駄かどうかは知らないけども……」

霧江「あなたの話を聞いていて、ふと思い出した事があるわ」


ベルンカステル「……思い出した事?」


霧江「そう。幻覚の話」

霧江「正確には幻覚とは少し違うのだけどね。見えないものが見える話ではなく、見えるものが見えなくなる話ーー」

霧江「消えるリンゴの話よ」


ベルンカステル「……消えるリンゴ……?」

霧江「ええ、そうよ。何でこれを今まで思い出さなかったのかってぐらい、今回の謎と似ているわね」

霧江「だから、逆にあなたに出題してあげるわ。果たして解けるかしらね?」ニッ


ベルンカステル「…………」

霧江「問題はものすごく簡単よ」

霧江「例えばここに一つのリンゴがあったとするわね」


ベルンカステル「いいわ。出してあげるわよ、それぐらい」スッ


ボンッ


霧江「便利な力ね……。魔法っていうのは」

ベルンカステル「それで、霧江。そのリンゴがどう消えるというの?」

霧江「消えるのではなく、あなたが消すのよ」


霧江「ただしーー」

霧江「触らず近寄らず、道具も魔法も一切使わずにね」


ベルンカステル「……まさか、目を閉じて、ほら消えたとか、そんな事を言い出すんじゃないわよね」


霧江「言わないわよ。そして、ついでに補足してあげるわ」

霧江「これは、とある大学の授業で実際に出た問題よ。この問題の正解は複数あるらしいのだけど、その中で最短の答えは一分以内で出たらしいわ」

霧江「さあ、どうやったら、あなたはこのリンゴを消せると思う?」

ベルンカステル「………………」

ベルンカステル「……知らないわ。わからないわよ」フイッ


霧江「それは本当かしらね? あなたには、実は答えはわかっているんじゃないの?」


ベルンカステル「…………」


霧江「まあ、いいわ。最短の正解回答はーーたった一言。こうだったわ」




「リンゴって何ですか?」


霧江「心理学的な問題よ」

霧江「リンゴの存在を知らなければ、そこに『赤くて丸い果実のようなもの』があるのは確かだけれど、あなたから見て『リンゴ』はどこにもない事になるわ」

霧江「だから、この部屋には何がありましたか、と尋ねても、あなたは『リンゴがあった』とは絶対に答えない」


霧江「つまり、このリンゴはーー」ヒョイ

霧江「心理学的に、部屋から消えるのよ。見えもしないし、存在もしない事になるわ」ポイッ


ボシュッ


霧江「綺麗に、跡形もなく、ね」ニッ


ベルンカステル「…………」

霧江「今度はこれを応用していくわよ」

霧江「例えば、一つの部屋を用意して、そこにリンゴを一つだけを置いたとする」

霧江「その部屋に、日本人とイギリス人の二人に入ってもらう」


霧江「そして、その二人にこう質問したとするわ」




「そこには『何が』ありますか?」



霧江「そうすると、彼ら二人はこう答えるでしょうね」



日本人「『リンゴ』がある」

イギリス人「『アップル』がある」



霧江「更にこう尋ねてみるわよ。そこに『リンゴ』はありますか? 見えますか?」

霧江「この時、このイギリス人が日本語を全く知らなかったらーー『リンゴ』という単語を知らなかったらーー」

霧江「二人はこう答えるでしょうね」



日本人「『リンゴ』はあるし、見える」

イギリス人「『リンゴ』はないし、見えない。あるのは『アップル』だけだ」



霧江「つまり、片方からは『見える』けど、もう片方からは『見えない』事になるのよ」

霧江「これで謎は解けたはずよ。青き真実をあなたに突きつけるわ!」




「真宵は自己紹介の時に、ひたぎにだけ偽名を名乗った。あるいは、暦から名前を告げられた時に、嘘の名前を教えられた」



「だから、暦と翼の二人からは『真宵』が見えていたけれど、ひたぎからは『真宵』という名前の人物は『見えなかった』!」


ベルンカステル「ふふふふふふふふふふっ。流石ね、やるじゃない、霧江」

ベルンカステル「感心したわ。立派なものよ」

ベルンカステル「論理的で、とてもいい推理よ。誉めてあげるわ。点数にするなら、90点をあげる」


ベルンカステル「でもーー」


ベルンカステル「大外れよ。残念だったわね!」




「真宵はひたぎに対して自己紹介をしていない」



「暦はひたぎに対して、真宵の名前を確かに『八九寺真宵』と告げた」



「ひたぎは心理学的に真宵の姿が見えなかったのではなく、物理的に見えなかった」


霧江「うぐっっ!!」ズサッ!!


ベルンカステル「ふふっ。調子に乗りすぎよ、霧江」

ベルンカステル「さあ、他の推理はあるの? 言ってみなさい」

ベルンカステル「串刺しになってるその状態で、言えるものならね。ふふふふふふふふっ」



霧江「……!」ゲホッ!!

霧江「……想像以上に、痛いのね……これ……! 死ぬほど痛いわ……」


ベルンカステル「別に死んでも構わないわよ。死んだら死んだで、いくらでも生き返らせてあげるから。ーー永遠にね。ふふふふふふふふっ」

今回はここまで

ベルンカステル「ふふっ。これで懲りたでしょう、霧江。いい加減に認めてしまいなさい」

ベルンカステル「『怪異』は『いる』とね」

ベルンカステル「これ以上は時間の無駄よ。そんな状態のあなたにはどうせ他の推理なんて思い付かないし、仮に思い付いたとしても、私が否定するわ」

ベルンカステル「絶対的な赤き真実でね」


霧江「」ゲホッ

霧江「ま、まだよ……!」

霧江「物理的に見えなかったというのなら、遠すぎて見えなかった可能性があるわ……!」

ベルンカステル「……は?」

霧江「暦と真宵は近くにいて、ひたぎだけが遠い位置にいて姿が見えなかったのよ……! 会話は電話を使って行われたんだわ……!」


ベルンカステル「…………」

ベルンカステル「困ったものね。何を言ってるのかしら。描写にある通り、三人は同じ公園にいたのよ。これは>>151で示した通り、疑いようのない真実よ」

ベルンカステル「それに、暦が電話をして会話をした相手はメメよ。ひたぎは電話で暦と会話をしていないわ」


霧江「……っ。だけど、かなり広い公園なら、端と端にいればそういう状況も有り得るわ」

霧江「それに、暦の電話の相手はメメと描写されている訳ではない。ひたぎだった可能性も否定出来ないわよ……!」


ベルンカステル「」ハァ……

ベルンカステル「つまらない推理ね。0点よ」




>>268で電話に出た相手は確かにメメよ」



「その時以外で、暦は電話を使っていないわ」



>>215>>282の時の、暦とひたぎの距離は、5メートル以内よ。それ以上、離れていないわ」



「そして、この時も暦には真宵が見えていた」


霧江「っ……!」


ベルンカステル「つまり、>>215>>282の時の、真宵と暦・真宵とひたぎの距離は、どれだけ離れていたとしても、その差は10メートル以内よ」

ベルンカステル「この距離で片方だけ見えてもう片方からは見えないという事は有り得ないわ」


霧江「なら、ひたぎは極度の近眼だったのよ……! だから、それだけの距離でもぼやけて見えなかった」

霧江「もしくは、ひたぎと真宵は、それぞれ後ろを向いていた可能性もあるわ……!」

霧江「それなら、距離に関係なく、二人はお互いの姿が見えない……! そうでしょう?」


ベルンカステル「悪あがきね。見苦しいわよ、霧江」




「ひたぎは近眼ではない」



「ひたぎと真宵は、それぞれ向かい合って正面を向いていた時が何回かあった」


霧江「うっ……!」


ベルンカステル「いい加減にしなさい、霧江。いくら推理したところで、無駄よ」

ベルンカステル「最初に言った通り、その額に無能者という烙印を押されるのよ、あんたは」

ベルンカステル「まあ、そこに土下座でもして、私が間違っていました、どうかお許しください、とでも言えば、私も考えを変えるかもしれないけどね。ふふふふふふふふっ」


霧江「っ……!!」

霧江「……そんな事は……絶対にしないわよ……!」

ベルンカステル「はあ? 今の時点であんたの負けを認めれば、寛大な心で許してやるとそう言っているのよ」

ベルンカステル「さあ、霧江。そこに這いつくばりなさい。犬の様に、御主人様に許しを請う姿で鳴きなさい。どうかお許し下さい、私が間違っていました、とね!」


霧江「……冗談はやめて。……私はそんな事は絶対にしないわよ……! ……この場面は一旦保留にして、次の謎にいくわ」

ベルンカステル「聞き分けの悪い女ね。この第二の謎が解けない以上、あんたは負けが確定しているのよ。怪異側は、どれか一つでも解けない謎があれば、それで勝利なのだから」

霧江「もちろん解いてみせるわよ……! 最終的には全部ね。ただ今回は……一時、保留にするだけよ」

ベルンカステル「それが無駄だと言っているのよ。ああ、無駄無駄。時間の無駄ね。やめてちょうだい、煩わしいわ」

ベルンカステル「第二の謎が解けないのに、第三の謎を出す意味がどこにあるの? 完全に時間の無駄じゃない」

霧江「っ…………」

霧江「……時間の無駄かどうかは……わからないわよ」

霧江「それに、第三の謎まであるというのだから、その全てを見せるのは当然でしょ」

霧江「それとも、第三の謎を見せるのは都合が悪いとでも言うの! 自信がないの!?」

霧江「どちらにしろ、第三の謎まであると先に宣言してある以上、あなたにはその謎を見せる義務があるんじゃないの!」


ベルンカステル「くっ……」

ベルンカステル「わかったわ……。仕方ないわね、第三の謎にいくわよ……」


ベルンカステル「第三の謎は『目の前で消える真宵』よ」


ベルンカステル「>>282の続きから見せていくわ」

【公園】


真宵「昔々のその昔ーーというほど昔ではありませんが、一組の夫婦が、その関係に終焉を迎えました」

真宵「かつては周囲の誰もが羨み、周囲の誰もが、幸せになると信じて疑わなかった、そんな二人ではありましたが、結局のところ、二人が婚姻関係にあった期間は十年にも満たない、短いものでした」

真宵「いい悪いの問題ではないと思います。そういう パターンだって、普通ですーーその夫婦に幼い一人娘がいたことだって普通です」

真宵「聞くに堪えないような問答があった末、その一人娘は、父親の元に引き取られることになりました」

真宵「最後は泥沼のような状態で、終焉というよりは破綻、あと一年でも同じ屋根の下で暮らしていたら、それこそ殺し合いにでも発展していたのではないかと思われるほど、行き着いてしまった夫婦」

真宵「母親は父親から、二度と一人娘とは会わないことを、誓わされました。法律は関係ありませんでした。半ば無理矢理に誓わされました」

真宵「しかし一人娘は考えましたーー本当にそれは無理矢理だったのだろうかと」

真宵「同じように父親から、二度と母親とは会わないことを誓わされた一人娘は考えましたーーあれほど好きだったはずの父親のことをあれほど嫌いになった母親は 、ひょっとすると、自分のことも嫌いになってしまったのではないかと」

真宵「そうでないなら、どうしてそんなことを誓えるのかーー半ば無理矢理というなら、残りの半分はどうだったのか」

真宵「けれど、それはまた、自分にも言えることでした。二度と会わないと、そう誓ったのは自分も同じだったのですから」

真宵「そうなのです」

真宵「母親だからといって。一人娘だからといって。 関係に永続性なんて、あるはずがないのです」

真宵「無理矢理でしょうがなんでしょうが、誓ってしまった言葉は、もう取り消せません」

真宵「父親に引き取られ。母親の苗字を捨てさせられ。けれど、そんな思いもーー風化していきます。そんな悲しみも、風化していくのです」

真宵「時間は、誰にでも、平等に、優しいから。残酷なくらいに優しいから」

真宵「時が過ぎ、一人娘は驚きました。一人娘は、自分の母親の顔が、思い出せなくなってしまいました」

真宵「いえ、思い出せなかったわけではありません。その顔ははっきりと、思い浮かべることはできます。しかしーーそれが母親の顔なのかどうか、確信が持てなくなっていたのです」

真宵「写真を見ても同じでした。父親に秘密で手元に残していた母親の写真ーーそこに写っている女性が、本当 に自分の母親なのかどうか、わからなくなってしまいました」

真宵「時間。どんな思いも、風化していきます。どんな思いも、劣化していきます」

真宵「だから一人娘は母親に会いに行くことにしました。その年の、五月、第二日曜日ーー母の日に」

真宵「髪を自分で丁寧に結って、お気に入りのリックサックに、母親が喜んでくれるだろう、そう信じたい、昔の思い出を、いっぱい詰めて」

真宵「道に迷わないよう、住所を書いたメモを、手に握り締めて」

真宵「けれど」

真宵「一人娘は、辿り着けませんでした」

真宵「母親の元には、辿り着けませんでした」

真宵「どうしてでしょう。どうしてでしょう。本当に、どうしてなんでしょう。信号は、確かに、青色だったのにーー」

【???】


ベルンカステル「その一人娘が真宵よ」

ベルンカステル「辿り着きたかったのに、辿り着けなかった幽霊ーー地縛霊ね」


霧江「……悲しい話ね」

霧江「…………」


ベルンカステル「……『本当にそう思っているの?』、霧江」


霧江「……!?」


ベルンカステル「想い人の妻がーー戦人の母親が死んで、これ幸いにとすぐにその後妻におさまったあんたがーー悲しい話? 笑わせてくれるわね」

ベルンカステル「ねえ、霧江。『悲しい話』なんて、『本当にそう思っているの?』」クスクス


霧江「っ……!!」ギリッ

ベルンカステル「怖いわね、そんな目で睨まないでもらえる」

ベルンカステル「ただの質問じゃない」クスクス


霧江「何も知らない小娘が知った風な口をきくんじゃないわよ……! 恋も、愛も、嫉妬も、怨みも、何もかも知らないお子様の分際で……!!」


ベルンカステル「ふふっ。やっぱりあんたが一番怖いわね。流石の私もここでやめとくわ」

ベルンカステル「さっさと謎が出てくる場面まで進めていく事にするわよ」


霧江「!」ギリッ

ベルンカステル「この後の展開を話すと、暦がひたぎから怪異の説明を受けていくのよ」

ベルンカステル「迷い牛は自分から近づかずに離れていけばいい、とねーー早い話、放っておけばいいのよ」

ベルンカステル「でも、それが出来ないのが暦という人間ね」

ベルンカステル「タイプはまるで違うけど、これと似たような人間を私は知っているわ。だから、私は暦の事を結構気に入っているのだけど」


霧江「余計な情報はいらないわ。早くしなさい」


ベルンカステル「……せっかちな女ね」

ベルンカステル「まあ、いいわ。詳しい話は省くけど、この後、メメからの提案によって、三人は目的地にようやく辿り着けたのよ」

ベルンカステル「その場面がこれよ」

【更地前】


暦「……戦場ヶ原、ここで間違いないのか?」

ひたぎ「ええ。間違いないわ」


暦「だってここはもうーー更地じゃないか。家も何もない……」

暦「折角辿り着いたのに、何もないなんて……」

暦「……そんなに、都合よくいかないってことなのか」


真宵「う、うあ」

真宵「う、うあ、あ、あ」タタッ

真宵「ただいまっ、帰りましたっ」スーッ


暦(……消えた……?)

暦(そうか……。きっと……成仏、出来たんだな……。良かったな、八九寺……)ニコッ

【???】


ベルンカステル「以上よ」

ベルンカステル「ここに至るまでに色々と省いたけど、この後、ひたぎと暦が付き合う事になって……」

ベルンカステル「後日談で、翌日、暦と真宵が会うわ」


霧江「……は?」


ベルンカステル「真宵は地縛霊から浮遊霊へと二階級特進したから、この後もその辺りをうろついてちょくちょく暦と会う事になったのよ」


霧江(……つまり、本当に『消えてはいない』という事……?)


ベルンカステル「…………謎は先に言った通り、『目の前で消える真宵』よ。赤き真実での証明はこれね」




「真宵は、暦の目の前で姿を消した」



「これも、心理学的な意味でなく、物理的な意味でよ」



「そして、暦はこの時、目を閉じてもいなかったし、もちろん突発的に盲目になった訳でもないわ」


ベルンカステル「以上よ」


霧江「……え?」

霧江「これで終わりなの? それ以外は本当にないの?」


ベルンカステル「……ないわ」


霧江「…………」

霧江「……それなら、赤き真実で復唱を要求をするけど……」




「この時、真宵は物陰などに隠れて姿が見えなくなった訳ではない」


ベルンカステル「っ……」


霧江「…………」


ベルンカステル「……復唱を拒否するわ。理由はないわよ」


霧江「」ハァ……

霧江「……どういう事なの、これは?」


ベルンカステル「…………」


霧江「『こんな謎でいいの?』、奇跡の魔女、ベルンカステル」


ベルンカステル「…………」フイッ

霧江「だったら、青き真実を使わせてもらうわよ」

霧江「まさか、本当にこんな単純なものでいいのかどうか疑いたくなるレベルだけどね」


霧江「逆に、罠の様に思えてならないわよ」


ベルンカステル「…………」




「『姿を消した』、には『行方をくらました』、『物陰などに隠れて見えなくなった』、という意味も含まれる」



「今回は、『暦の目の前から姿を消した』とあるから後者ーーつまり、真宵は『物陰などに隠れて見えなくなった』だけで、『消えて』なんかいない」


ベルンカステル「ぐふっ!!」ズサッ!!!


霧江「……逆に驚きよ。……何なの、これは」

霧江「こんなのが謎として通るというなら、第二の謎だってーー」

霧江「」ハッ

霧江「……そういう事ね。道理で第二の謎までで終わらせようとしていた訳よ。危うく騙されるところだったわよ。ベルンカステル!」


ベルンカステル「っっ……!!」

霧江「第二の謎も、これと全く同じだったのね」

霧江「真宵がひたぎから見えなかったのは、壁や障害物に隠れて見えなかっただけ」

霧江「場所が公園なのだから、恐らくアスレチックの中にでもいたか、あるいはトイレの中にでもいたのよ」


霧江「つまり、真宵は『いる』わ。そして、『怪異、幻想』の類いなんかでなく『実在する人間』よ!」


ベルンカステル「……っ。……待ちなさい。それだと、ひたぎだけでなく暦や翼も真宵の姿が見えなかった事になるわよ!」

ベルンカステル「それをどう説明つけるつもり!」

霧江「」フッ

霧江「下らないわね。種が割れた今となっては、そんなのいくらでも説明がつくわ」

霧江「こんな状態↓なら、何も問題ないわよ」



   真宵


壁壁壁壁壁壁壁壁壁     暦


   ひたぎ



ベルンカステル「なっ……!」


霧江「これなら、暦の位置からは真宵もひたぎも見えるけど、ひたぎからは真宵の姿が見えないわ」

霧江「そして、これまで出てきた赤字に一切抵触していない!」

ベルンカステル「こんなのは駄目よ、通らないわ!」

ベルンカステル「それなら、どうやってここから道路へと移動したというのよ。その間も、ひたぎは一度も真宵の姿を見ていないのよ!」


霧江「某ステルスゲームよろしく、段ボールの中に真宵が入って移動すればいいわ。これで、ひたぎからは真宵が見えない!」ビシッ


ベルンカステル「ーー!!」

ベルンカステル「い、いい加減にしなさいよ、霧江! そんな無茶苦茶な話が通る訳ないでしょう! あなたの言っている事は現実からかけ離れ過ぎよ!」


霧江「だったら、ひたぎが先に立って歩き出して、その後を真宵・暦がついて行けばいいのよ。ひたぎが後ろを振り向かない限り、真宵の姿は見えないわ!」


ベルンカステル「馬鹿馬鹿しい! 何て暴論を持ち出すのよ! 話が滅茶苦茶じゃない!!」

霧江「そもそも、よくよく論理的に考えれば、これは初めからわかる事だったのよ」

霧江「第一の謎における、あなたが示した赤き真実、>>238



霧江「これによって、真宵と暦が妨害したのは確定事項となったわ」

霧江「だったら、姿の見えない真宵が、どう『妨害』するのか、その手段を真っ先に考えるべきだったという事ね」

霧江「見えない真宵が、妨害する方法なんて、たった一つしかないわ!」


霧江「それは、『声』よ!」ビシッ


ベルンカステル「っ……!!」



霧江「今から、私が猫箱の中を再構築してあげるわ。見ていなさい」

【道路】


ひたぎ「……確かこの辺りね。もうすぐ着くわ」



真宵「……?」

真宵「……あの……ええとですね、阿良々木さん」


暦「どうした?」

真宵「実はかなり言い出しにくい事なのですが、ここまで来てしまえば、私、道がわかるんです。確かに見覚えがあるんです」

真宵「そこの、さっき通りすぎた道を真っ直ぐ行って、少し行った先で右に曲がると、目的地に着くはずなんです。覚えています」

暦「ああ、そうなのか。って事は、戦場ヶ原、道を間違えたのか」

暦「まあ、そうは言っても、区画整理やらでだいぶ道が変わったみたいだし、戦場ヶ原を責める訳にもいかないよな」


真宵「はい。案内してくれている、それ自体はとても感謝しているのですが、ただ……」チラッ

真宵「あの方はとても怖いので、私からだと少し言い出しにくくて……」


暦「ああ、わかった、わかった。僕の方から戦場ヶ原が道を間違えていた事を伝えるよ。っていうか、八九寺。いくら怖いからって、そんな物陰からコソコソ覗きながらついていくのをいい加減にやめた方がいいんじゃないか? まるでストーカーみたいだぞ」

真宵「仕方がないのです。怖いものは怖いのです。それとも阿良々木さんは、あの人が怖くないとでも言うのですか!」

暦「まあ、怖くないと言えば嘘になるけど、でも根は優しいやつだぞ。今もこうして道案内してくれている訳だし」


ひたぎ「というか、そんな大声で話していたら、もう完全に聞こえているものだと思わないのかしら。お二人さん」

暦「あ……」

真宵「……!」ササッ、コソコソ

【???】


霧江「ただし、この時に道を間違えたのは実はひたぎではなく真宵の方だったのよ。単なる真宵の思い違いね」

霧江「つまり、本当に道に迷っていたのは真宵の方で、ひたぎは正しかった。だけど、間違えていたと言われて、自信のなかったひたぎはそれを信じて方向転換したのよ」

霧江「これで、道を間違えた真宵は、故意ではないとはいえ、ひたぎを妨害した事になるし、それを伝えた暦も間接的にひたぎを妨害した事になるわ」


霧江「全ての辻褄は合ったわよ。奇跡の魔女、ベルンカステル!」


霧江「もし、これでもまだ反論するというのなら、先にこれを赤き真実で復唱してみせなさい!」




「暦は、真宵の声が聞こえていた」



「翼は、真宵の声が聞こえていた」



「ひたぎは、真宵の声が聞こえなかった」


ベルンカステル「ぐっ……!!」


霧江「そういう事よね。これは復唱を出来ないはずよ」

霧江「前に>>342であなたが言った通り、最大でも10メートルしか離れていなかったというなら、あれだけ会話をしているんですもの。聞こえなかったはずがないわ」

霧江「仮に内緒話ぐらいの囁き声だけで全部会話していたとしても、話の内容はともかくとして『声』ぐらいは聞こえてたはずよ」


ベルンカステル「……っ……!」


霧江「終わったわね。ずいぶん長引いたけど、この青き真実でーー」

霧江「チェックメイトよ!」




「暦、翼、ひたぎの三人には、真宵の声が聞こえていた」



「三人に三人とも声が聞こえていたなら、これはもう謎でも怪異でもない」



「つまり、真宵は『実在している人間』よ!」


ベルンカステル「っぐ!!」ザシュッ!! ズバッ!!!


霧江「終わってみれば何てことはなかったわね」フフッ

霧江「確かにこれは難易度Eよ。だって、まよいマイマイには、元から『謎』なんて一つもないんだから」

霧江「幻想描写と、あなたの話術で、ありもしない謎を作り出しているだけよ。単なる日常の風景ーーそれを赤字で謎風味に仕立てあげているだけ」


霧江「私の勝ちね、お嬢ちゃん」ニッ

ベルンカステル「ふふ……ふふふふっ……!」ゲホッ

ベルンカステル「……勝ち? 冗談じゃ……ないわ……!」


ベルンカステル「あんなのはただ単に……これまで出た赤字に抵触していないだけよ……! 真実ではないわ……!」

ベルンカステル「これだけは……断言してあげる! あんたの推理は……第三の謎以外は、全部間違いよ……!」


ベルンカステル「もっとも……キスショット卿に華をもたせる為に……今はあえて何も言わないけどね……!」

ベルンカステル「ふふ……ふふふふふふふふふふふふふふふふっ……!」

霧江「」フッ

霧江「負け惜しみもそれぐらいにしておく事ね。断言するなら、赤字で言いなさい。それ以外は全部信用ならないのだから」


霧江「それにーー」ニッ

霧江「もしこの推理が間違っていたとしても、私はまた新たな推理をしてそれを解き明かすだけよ」


霧江「さあ、消えなさい、ベルンカステル! 世界で最も残酷な魔女らしく、私の青鍵で串刺しにしてあげるわ」


霧江「これが、まよいマイマイにおける、最後の青き真実よ!」




「このゲームーーまよいマイマイの中に、『怪異』や『魔法』は存在しない!」





「このゲームーーまよいマイマイの中に、『怪異』や『魔法』は存在しない!」


ベルンカステル「ぐふっっ!!」ザクッ!!!


霧江「ゲームセットよ。お嬢ちゃん」

霧江「私の青鍵で最後のとどめ」フインッ

霧江「消えなさい。跡形もなくね!」スッ

霧江「」ズバッ!!!


ベルンカステル「……っっ!!!」グラッ


ベルンカステル「」ドサッ……



フッ……



霧江「消えたわね……。まあ、魔女だというのだから、このぐらいでは死なないのでしょうけど……」

霧江「さてと……」クルッ

霧江「戦人君が、戻ってくるまで、お茶でも飲んで待っていましょうか」パチンッ


ボンッ


霧江「……やっぱり私でも使えるのね。前にリンゴを消せれたから、ひょっとしたらと思ったんだけど……」

霧江「紅茶とケーキが『ある』と認識していればそこに『ある』し、『ない』と認識していればそこには『ない』、か……」

霧江「……コツさえ掴めば、意外と簡単なのね、魔法って」




ゲーム2 『まよいマイマイ』まとめ



以下、赤き真実および青き真実によって確定された事項


第一の謎
『何故か辿り着けない目的地』


「ひたぎはこの辺りの地理には詳しかったので、迷う事なく目的地に着けるはずだった」

「だけど、実際には、ひたぎは目的地に着けなかった」

「仮に、翌日、『真宵と暦がいない時に』同じ事をしたら、ひたぎは目的地に辿り着けていた」

「この時の条件は、『真宵と暦がいない以外』は完全に同条件とする。ひたぎは昨日の記憶を全て忘れ、初めて探す時と全く変わらない状態とする」

「更にこの時の条件として、偶然や不確定要素が入る余地は一切ないものとする。仮に一万回同じ事をしたら、一万回全く同じ結果が出るものとし、一万回以上は決して行われない」

「ひたぎは暦・真宵の二人から、何らかの『妨害』を受けていた為、目的地に辿り着けなかった」

「その『妨害』に怪異は含まれない」

第二の謎
『真宵の存在の有無』


「暦は、真宵が見えていた」

「翼は、真宵が見えていた」

「ひたぎは、真宵が見えなかった」

「ひたぎは目をつぶってはいなかった」

「ひたぎ、暦、真宵の三人は、この日、最低でも二時間以上は同じ所で同じ時間を過ごした」

「ひたぎは盲目ではない」

「暦と翼は、幻覚などを見ていない」

「真宵はひたぎに対して自己紹介をしていない」

「暦はひたぎに対して、真宵の名前を確かに『八九寺真宵』と告げた」

「ひたぎは心理学的に真宵の姿が見えなかったのではなく、物理的に見えなかった」

>>268で電話に出た相手は確かにメメよ」

「その時以外で、暦は電話を使っていないわ」

>>215>>282の時の、暦とひたぎの距離は、10メートル以内よ。それ以上、離れていないわ」

「そして、この時も暦には真宵が見えていた」

「ひたぎは近眼ではない」

「ひたぎと真宵は、それぞれ向かい合って正面を向いていた時が何回かあった」

「暦、翼、ひたぎの三人には、真宵の声が聞こえていた」

「三人に三人とも声が聞こえていたなら、これはもう謎でも怪異でもない」

「つまり、真宵は『実在している人間』よ」

第三の謎
『目の前で消える真宵』


「真宵は、暦の目の前で姿を消した」

「これも、心理学的な意味でなく、物理的な意味でよ」

「そして、暦はこの時、目を閉じてもいなかったし、もちろん突発的に盲目になった訳でもないわ」

「『姿を消した』、には『行方をくらました』、『物陰などに隠れて見えなくなった』、という意味も含まれるわ」

「今回は、『暦の目の前から姿を消した』とあるから後者ーーつまり、真宵は『物陰などに隠れて見えなくなった』だけで、『消えて』なんかいない」

今回はここまで

面白かった、乙乙
ただ「ーー」じゃなくて「――」使って欲しいなぁ、なんて

声が聞こえていたことは証明済み
更地(何も無いとは言っていない)
『怪異』という存在しないものよりストーカーみたいに移動していたほうがよっぽど自然だ

まとめで確定されたって書いてあるけど
青き真実に反論せずダメージ受けた事項についても確定とされるんだっけ?
うみねこルールに詳しくないからわからないんだが、これだと真宵が怪異じゃないって決まっちゃうことになりそうな

>>388

>>355
暦「だってここはもうーー更地じゃないか。家も何もない……」

そんな、いきなり穴に落ちていくような感じで幼女が消えてったらアララギさんなら様子みにいくのが自然じゃない?

それにひたぎなら一旦真宵に従って目的地につかなかったら、すぐ引き返して自分のフィーリングに従うと思うけど
『怪異』関係だったからこそ、ひたぎは自信を持てなかったわけだしね

>>394
実はその考え方が危険だったりする。確かに阿良々木なら、とかひたぎなら、とか原作物語シリーズのキャラクターなら確かにそういう行動をするかもしれない。

けれど、このゲームにおいて、阿良々木が本当に阿良々木と同じか、ひたぎが本当にひたぎと同じか…それすらも、愛が無ければ視えない事だから。

前にやる夫で学ぶ屁理屈推理合戦…みたいなやつで、鶴屋さんが実は男性、とかいうトリックでキョンと小泉の男性二人を犯人から省いた上で、女性には犯行不可能……みたいな事やってた。

そもそも確定された事項のとこにいろいろ書いてるって言うね

>>395

むぅ、確かに >>2 で化物語に対しては愛なくやってく的なこと言ってるからその手もありか……

>>396
赤字で復唱されない限りは(推定)確定ね

>>197 で人間の仕業でも説明がつくって保証されてるから怪異否定側の勝利条件は、いかにして相手側に『怪異』を使わずに『人為的』で説明した方が自然だと納得させられるかじゃない?
相手を納得されられるだけのしっかりとしたトリックの内容や動機などを用意しなきゃいけない分、取り敢えず『人為的』である事を説明できればいいうみねこ本編よりある意味難易度高いと思う

【??? 庭園】


ベアトリーチェ「くくくくっ。やはり霧江が勝ったか。しかも魔法を使える様になるとはな」

ワルギリア「さしずめ、執念の魔女、霧江・ベルンカステルというところでしょうか……。本人に魔女になる気があれば、の話ですが」

ベアトリーチェ「それはなかろう。霧江はそういうやつではない。絵羽や縁寿、真理亞とはまたずいぶんと違っておるからな」

ワルギリア「才能と素質はあるというのに……。惜しい事です」


ワルギリア「あなたもそう思いませんか? キスショット卿」


忍「かもしれぬの」モグモグ

忍「まあ、どうでもよいが」パクッ


戦人「無駄だぜ、ワルギリア。今のこいつには、何言ってもろくな返事がこないから。大体、これで四つ目のドーナツだぜ。どれだけ好きなんだよ」


ベアトリーチェ「くくくくくっ。そういう戦人も、それで三つ目のドーナツではないのか? あまり人の事は言えぬと思うがな」

戦人「俺のはやけ食いみたいなもんだ。ほっとけ」パクッ

ベアトリーチェ「左様か」クスクス

戦人「ちぇっ……。笑われちまったぜ、まったく……」

戦人「しかし、流石は霧江さんだな。本当に勝っちまった。それは頼もしくてありがたいんだが……」

戦人「勝っても次のゲームには参加出来ないんだよな?」


忍「そうじゃ」ハムハム

忍「毎回、同じ人間では見てる儂が飽きてしまうからの。1ゲーム毎に変えていくぞ」


忍「このドーナツを食べ終わったら、霧江も交替じゃ」モグモグ


戦人「まあ、ここからでも様子は見えるから推理自体は出来るか……。このまま負けっぱなしってのはシャクだからな」

戦人「ひたぎクラブの謎は未だに解けてないが、霧江さんのおかげでまよいマイマイの謎は解けたしな」


忍「そうか。それは良かったのう。かかっ」ニヤリ

戦人「……?」



ベアトリーチェ「…………」

ワルギリア「…………」

ベアトリーチェ「……それでキスショット卿。次のゲームの相手には誰を選ぶのだ?」

ベアトリーチェ「順当にいけば、縁寿というところだが」


忍「まあ、それは正直、誰でも良いのじゃが……」モグモグ、ゴックン

忍「ベルンカステルが負けてしまったからの。それならどうしてもと一人名乗り出てきた娘がおったからな。そやつとした」


戦人「……ベルンカステルが負けたと知って……?」


忍「そうじゃ。お前とは因縁があるそうじゃな。以前に負かしたと聞いておるぞ。かかっ」

戦人「おい、それ、まさか……!?」


忍「そうじゃ。ワルギリア、召喚を頼むぞ」

ワルギリア「ええ……。次のゲームの用意を」パチンッ

【???】


ボンッ


古戸ヱリカ「……ふふっ」

ヱリカ「ようやくこちら側の世界に私は戻って来ました!」

ヱリカ「前回の様な失態は二度と致しません! 奇跡の魔女、ベルンカステル卿の名を継ぐのはこの私、古戸ヱリカです!」

ヱリカ「このゲームに勝って、必ずやその名を私のものにしてみせます!」


ヱリカ「さあ、それでは第三のゲームの対戦相手を呼んで下さい!」

ヱリカ「私の完璧な推理で、完膚なきまでに潰してあげますから!」ビシッ

【??? 庭園】


戦人「やっぱりヱリカかよ……」

戦人「頼もしいと言えば頼もしいが、俺としては少し複雑な気分だな……」


ベアトリーチェ「くくくくっ。なるほど、あの娘か」

ベアトリーチェ「懲りもせずまた来るとはな。だが、これはある意味丁度良い」

ワルギリア「…………」


ベアトリーチェ「キスショット卿。妾は今回、傍観するだけのつもりだったが……少し気が変わったぞ」

ベアトリーチェ「あの時、戦人を助けただけで妾は満足しておったが、そういえば戦人をいたぶった礼がまだ完全には済んではいなかったのでな」

戦人「おい、ベアト、お前……!」


ベアトリーチェ「そう。第三のゲームは妾が相手となろうぞ。あの娘をもう一度叩き潰してやろうではないか」

戦人「……なっ!!」


ベアトリーチェ「戦人よ、すまぬな。だが、今回のゲーム、人間側の勝ちは諦めよ」

ベアトリーチェ「あの生意気な小娘にもう一度躾をほどこしてくる故な。くくくくくくっ」パチンッ


フッ……


戦人「おい、ベアト! って消えちまいやがった……くそっ!」

ワルギリア「仕方ありませんね……。魔女は誇り高いものですから。それに、一度決めてしまったら誰にもあの子は止められませんよ」

ワルギリア「代わり霧江をこちらに戻しておきましょう。第二ゲームは終わり、新しいゲームに変わりますから」パチンッ


ボンッ……


霧江「え? あら? ……戦人君? それに、ここは……庭園?」キョロキョロ

戦人「……ああ。……お帰り、霧江さん。訳は後で話すが……まずはありがとう。助かったぜ」

霧江「いえ、それはいいのだけど……」

戦人「にしても、よりにもよってベアトとヱリカが相手ってのはな……。厄介な事になりそうだぜ……」フゥ……

霧江「……?」


忍「かかっ。楽しそうな事になって良いではないか」

ワルギリア「どちらも暴走しなければ良いのですがね……」

【???】


ヒラヒラ……


ヱリカ「……あれは……黄金の蝶? という事は――」


ボンッ


ベアトリーチェ「くくくっ。久しいなあ、負け犬の小娘よ。前回、あれほど無様な姿を晒しておきながら、よくもまたのこのこと現れる事が出来たなあ」


ヱリカ「……これはこれは、無限にして黄金の魔女、ベアトリーチェ卿。お陰様で、しばらく御無沙汰しておりました」ペコリ

ヱリカ「あなたが今回のゲームの相手なのですね。このゲームで十分にご恩返しが出来るかと思うと嬉しくて嬉しくてたまりません。存分にいたぶらせてもらいますので宜しくお願い致します」ニヤリ


ベアトリーチェ「くくくくくっ。相変わらず口だけは達者だな。だが、こちらの世界に戻ってきたばかりで、記憶が何か混乱でもしておるのか?」

ベアトリーチェ「妾に手も足も出ずに、この世界から追い出されたというのになあ? 格付けはあの時で既に済んでおる。お前は妾に絶対に勝てぬというのに! くひひひはははははっ」


ヱリカ「……下品な笑い方ですね。気持ち悪いです。たった一度だけ、私に勝ったぐらいでいい気にならないでもらえますか」

ヱリカ「あなたの手の内は前回の時に見させてもらってます。ですので、同じ手は、探偵である私にはもう通用しません」

ヱリカ「今度こそ完璧に謎を解かせてもらいますので、今の内に首を洗っておいて下さい。綺麗にお願いしますね」ニヤリ


ベアトリーチェ「それはこちらの台詞だな。負け犬の小娘が。くくくくくくっ」




ゲーム3 『するがモンキー』



開始


【???】


ヱリカ「では、早速ですが、まずは今回の私の条件を先に確認させてもらいます」


ベアトリーチェ「……よかろう。何が聞きたい」


ヱリカ「私に、『探偵権限』があるかないかです」


ベアトリーチェ「くくくくくくっ」


ベアトリーチェ「無論、ない」

ヱリカ「ちっ……」ボソッ


ベアトリーチェ「そもそもだ。探偵権限などというものは妾から言わせれば反則技でしかないからな。好き放題、現場をいじくり回す状況など、現実的にはそうは有り得ぬ」

ヱリカ「……わかりました。不本意ですが、仕方ありませんから受け入れます。つまり、条件はこれまでのゲームと全く同じという事なんですね?」


ベアトリーチェ「――いや、そうではない」


ヱリカ「……?」

ベアトリーチェ「無限の魔女たるこの妾が参加するのだ。これまでと同条件では、あまりに差がつきすぎて、面白味など0となってしまうからな」

ベアトリーチェ「そうであろう? 大人と子供が戦っているのを見て何が楽しい? 差がありすぎるというのは、ゲームにすらなりはせぬ」


ヱリカ「…………」



ベアトリーチェ「故に、一つの特別ルールを妾は設ける事とした」


ベアトリーチェ「そなたに、化物語の世界の中に入って、状況の確認をする事を許してやろうぞ」


ヱリカ「……!?」

ベアトリーチェ「するがモンキーには、全部で三つの謎があり、それに関連した場面が同じく三つある」

ベアトリーチェ「その三つの場面において、それぞれ一回だけ、つまり計三回、時間を妾が停止してやろうぞ」

ベアトリーチェ「停止するタイミングもそなたに選ばせてやる」

ベアトリーチェ「そして、その止まった時間の中であれば、そなたは化物語の世界の中に入り、好きに動く事が出来る。それを許可しようぞ」


ヱリカ「……それ、本当なんですか? あまりに私に都合がいいように思えて、逆に胡散臭い事この上ないんですが」


ベアトリーチェ「くくくくくっ。妾は無限にして、黄金の魔女だぞ。無論、二言はない」

ベアトリーチェ「なんなら、赤字で保証してやっても良いがな」


ヱリカ「…………」

ベアトリーチェ「ただし――」

ヱリカ「」ピクッ


ベアトリーチェ「その際、登場人物に『触れる』事は禁止とする」


ヱリカ「……そう来ましたか」


ベアトリーチェ「当然であろう。前回の様に、えげつない『悪戯』をされてはかなわぬからなあ。身に覚えがないとは言わさぬぞ」


ヱリカ「っ…………」


ベアトリーチェ「故に、そなたは『人に触れる』事を一切禁止とする」

ベアトリーチェ「これは、手袋やノコギリなどの道具を用いて、間接的に『触れる』事もだ」

ベアトリーチェ「仮にこのルールを破った場合は、無条件でそなたの負けとする。良いな?」


ヱリカ「……いいでしょう。わかりました」

ヱリカ「それなら、念のため、赤字で保証をお願いします」


ベアトリーチェ「良かろう。保証してやろうぞ」




「ヱリカは各謎に関連する三つの場面において、それぞれ一回ずつだけ、計三回、時間を停止する権利が与えられる」



「停止するタイミングは、ヱリカが自由に選べる」



「止まった時間の中であれば、ヱリカは化物語の世界の中に入り、自由に動く事が出来る」



「ただし、止まった時間の中で、ヱリカが『人に触れる』事は一切禁止とする」



「これは、手袋やノコギリなどの道具を用いて、間接的に『触れる』事も含まれる」


ヱリカ「……一応、先に聞いておきますが、物に触れて調べる事は構わないのですね?」


ベアトリーチェ「構わぬぞ。許可しよう」


ヱリカ「……なるほど。人に触れない事以外は完全に自由という訳ですか……」

ヱリカ「そして、実際に私の目で見て確認が出来る――つまり、まよいマイマイの第二・第三の謎のように、『主観による見え方の違い』を使ったトリックは全部使えないという事ですね……」


ベアトリーチェ「そうなるな。くくくくくくっ。謎解きがこれまでとは違って、馬鹿みたいに簡単になるであろう? 出血大サービスであるぞ」


ヱリカ「……話がうますぎる気がしますね。……どう捉えるべきでしょうか……」

ベアトリーチェ「くくくくっ。簡単な事だ」

ベアトリーチェ「あまりにそなたに有利だからこそ――」

ベアトリーチェ「もしこれで負けた場合、妾はそなたに罰を与えるつもりでいる」


ヱリカ「!?」


ベアトリーチェ「もちろん構わぬよなあ? ヱリカ」

ベアトリーチェ「おまけに今回の謎は、難易度Dだと既にベルンカステル卿が明言している。これだけのハンデを与えておるのだから、解けぬ訳がないよなあ?」

ヱリカ「……っ」

ベアトリーチェ「どうした、どうした? 即答出来ぬのか? これまたおかしな事だな。そなたは自称『探偵』なのであろう? くくくくくくっ」

ベアトリーチェ「そのような自信の無さでは、三流の探偵もつとまらぬぞ、きひひははははははっ!」


ヱリカ「ぐっ……!!」ギリッ

ヱリカ「いいでしょう……。その条件で受けて立ちます」

ヱリカ「ただし――」

ヱリカ「私が勝った場合には、あなたの無限の魔女の称号を剥奪させてもらいます。構わないですね?」


ベアトリーチェ「くくくくくくっ。構わぬ構わぬ。どうせ解ける訳がないのだからな。きひひははははははっ!」


ヱリカ「っ……。大言壮語もそれぐらいにしておいた方が良いのではありませんか。およそ一時間後には、『元』無限の魔女となっているただのベアトリーチェさん」

ヱリカ「最後になって、許しを願われても私は絶対に許しませんから……! この屈辱は必ず晴らします! 何としても!!」ギリッ


ベアトリーチェ「そうだな。出来るものならば、やってみるがよい。出来るものならばなあ? くくくくくくっ」


ヱリカ「っ!!」ギリッ

>>386
はいな。多分、これでいいはず

>>390
うみねこルールとは違うので、詳しくは>>192を参照
ただ、青き真実は、後からルールを決めたから、ひたぎクラブだけは描写が間違ってる部分がある。ゲームには影響しないので、そこは気にしないでください
まよいマイマイ以降は、>>192のルール通り



今回はここまで

ベアトリーチェ「それでは始めるとするか。第三ゲーム、するがモンキーを」

ヱリカ「ええ。どうぞ。始めて下さい」



ベアトリーチェ「例のごとく、最初は当然省くぞ。始まりは神原駿河の登場シーンからだな」パチンッ

【道路】


タッ、タッ、タッ、タッ、タッ

タンッ!!


神原駿河「」ズサーッ


駿河「」クルッ

駿河「やあ、阿良々木先輩。奇遇だな」


暦「こんな仕組まれた奇遇がありえるか!」

駿河「」ウンウン

暦「……どうしたんだよ」

駿河「いや、阿良々木先輩の言葉を思い出していたのだ。心に深く銘記するためにな」

駿河「『こんな仕組まれた奇遇がありえるか』、か ……思いつきそうでなかなか思いつきそうにない、見事に状況に即した一言だったなあ、と。当意即妙とはこのことだ」

暦「………」


駿河「うん、そうなのだ。実は私は阿良々木先輩を追いかけてきたのだ」

暦「……だろうな。知ってたよ」

駿河「そうか、知っていたか。さすがは阿良々木先輩だ、私のような若輩がやるようなことは、全てお見通しなのだな」

駿河「決まりが悪くて面映い限りではあるが、しかし素直に、感服するばかりだぞ」ニコッ


暦「………………」

【???】


ベアトリーチェ「あれが神原駿河だ。初登場ゆえに見せる事としたが、少々、というよりはかなり変わった娘だな」


ヱリカ「そうですか。……まあ、どうでもいいです。私は推理以外は興味ないので」

ヱリカ「それより、面倒なので話を謎部分まで一気に飛ばしてしまって下さい。どうせ、実のある会話などほとんどないのでしょう」

ベアトリーチェ「さあてな。あえて『ない』とは断言せぬが……」

ヱリカ「結構です。飛ばして下さい」

ベアトリーチェ「くくっ。そうまで言うなら良かろう。謎に関連する場面まで一気にいくぞ」

ベアトリーチェ「ひたぎと勉強会をした帰り道での場面にまでな」パチンッ

【道路】


暦「」トコトコ


暦(もう、夜の八時半ぐらいか……)

暦(それにしても、この辺は本当に人通りがないな……)


暦「……?」



???「…………」



暦(雨合羽、それに長靴、ゴム手袋……?)

暦(雨も降ってないのに……?)

暦「……えっと」


???「」ダダッ!!

???「」ヒュンッ!!



バキッ!!!!!!



暦「なっ!?」サッ!!



ズガッ!!!! ガッシャーン!!!!!!



暦(僕は何とか助かったけど自転車が……!!)

暦(あいつに殴られただけで、紙屑の様に吹き飛んでったぞ!!)

???「」ダダッ

???「」ブンッ!!!


バキッ!!!!!!


暦「がぐふっ!!!」ドガッ!!!!!


暦(殴られて……! 吹き……飛ばされた……!!)


暦「!」ゴフッ!!


暦(内蔵がやられたのか……?)ゲホッ

暦(駄目だ……。立てない……!)

暦(このままだと……殺される……!!)



???「…………」ユラリ

???「…………」スタスタ


???「……!?」


???「」クルッ

???「」ダダッ!!



暦「え……ええ」

暦(逃げ……た? どうして……?)

ひたぎ「」スタスタ

ひたぎ「阿良々木くん」



暦「」ハァ……ハァ……




暦「……よお、ご無沙汰」

ひたぎ「ええ、ご無沙汰ね」

ひたぎ「忘れ物、届けに来たんだけれど」

ひたぎ「私が渡した物を、こうも堂々と忘れていくなんて、極刑ものの罪悪よ、阿良々木君」


暦「ああ……悪かったよ」

ひたぎ「謝っても許さないわ。だから精一杯なぶってやろうと思って追いかけて来たのだけれど、既に自分で自分を罰していたとは、阿良々木くん、なかなか見上げた忠誠心だわ」

暦「自分で自分を罰する趣味は僕にはねえ……」

ひたぎ「隠さなくたっていいのよ。その忠誠心に免じて半分くらいは許してあげるから」

暦「…………」

ひたぎ「冗談はともかく」

ひたぎ「車にでも轢かれたのかしら? あっちで阿良々木くんがとても大切にしていた自転車らしきものが、大破していたようだけれど」

ひたぎ「大破していたというか、電柱に突き刺さっていたというか。コンボイにでも轢かれないと、あんな事にはならないでしょう」


暦「えーっと……」

暦「……いや、僕が転んだだけだよ。前方不注意でな……」

暦「電話しながら、ペダルを漕いでいたら……電柱に、激突しちゃって……」


ひたぎ「そう……けれど、あんな丈夫そうなブロック塀をも破壊する勢いで激突して、その程度の怪我で済むなんて、阿良々木くん、とても体が柔らかいのね。感心するわ」

ひたぎ「えっと、救急車は……いらないんだっけ?」


暦「ああ……。しばらく休んでりゃ、すぐ動けるようになるさ」


ひたぎ「そう。じゃ、そんな阿良々木くんに大サービス」ヒョイ

ひたぎ「動けるようになるまで、幸せな気分でいなさいな」

暦「……!!///」ドキッ

【???】


ベアトリーチェ「以上だ」パチンッ


ヱリカ「…………」


ベアトリーチェ「くくっ。大胆なのか、繊細なのか、よくわからぬ女だな。あやつも」

ヱリカ「単に、はしたないだけです。慎みがありませんね」

ベアトリーチェ「だが、そういうのが好きな男もおるのは確かだ。ひょっとしたら、お前の元彼もそうだったのかもしれぬぞ? くくっ」

ヱリカ「なっ……!!」

ヱリカ「誰から聞いたかは知りませんが……」ギリッ

ヱリカ「関係ない話はやめてもらえませんか。私は推理をしに来たのであって、あなたと煽りあいをしに来た訳ではありませんから」キッ

ベアトリーチェ「これは失礼した。つい口が滑ってしまってなあ」


ヱリカ「」ギリッ


ベアトリーチェ「くくっ。だが、まあ、この話はもうせぬ故、そう睨むな。妾にとってもこの類いの話は、あまり面白い話ではないからな」

ベアトリーチェ「話を進めていくぞ」


ヱリカ「ええ。どうぞ」キッ

ベアトリーチェ「では……当初の約束通り、このシーンでお前に時を止める事を許可しよう。どのタイミングで止めるのだ?」


ヱリカ「…………」


ベアトリーチェ「どうした? まさか、止めなくても良いとでも言うのか?」


ヱリカ「……いえ。捜査は探偵の基本です。もちろん、時間を止めて、現場は検証させてもらいますが……」

ヱリカ「その前に、幾つか気になる点があるので先にそちらから」


ベアトリーチェ「……む」

ヱリカ「実は、私ですね」ニヤリ

ヱリカ「今まで話してなかったんですが、ここに呼ばれる前に、ある程度化物語は見ているんです。時間がなかったので見たのはアニメだけですが」


ベアトリーチェ「……ち」


ヱリカ「いわば、予習済みという訳ですね。某漫画に出てくるアルファベット一文字の探偵の様に、五つの画面を使って二倍速で全部同時に見ました。それぐらいは、私でも余裕で出来ますから」

ヱリカ「――それで、私の記憶によれば、この場面は、【道路】ではなく【踏切】、あるいは【線路の上】だったと記憶しているんですが、これは一体どういう事なんでしょう?」


ベアトリーチェ「……ああ、なるほどな。くくっ。何を言い出すかと思えばそんな事か」

ベアトリーチェ「答えは非常に簡単だ。なにせ、赤字で証明してある通り、【】内の場所は絶対的に正しいのだからな」

ベアトリーチェ「つまり、アニメ版の踏切は幻想描写だ。こちらが真実である」

ベアトリーチェ「そもそも、原作の方でも踏切などという描写は一切出てきていないからな。単に帰り道としかなっておらぬ」

ベアトリーチェ「正しいのは、原作とこちらの方だ」


ヱリカ「……なるほど。やはりそうですか。わかりました、結構です。一応、確認しただけですから」


ベアトリーチェ「くくっ。いやにあっさりと引き下がるな」


ヱリカ「当然です。あれを見て、私も疑問に思いましたから。これは不自然だなと」

ヱリカ「そもそも、人二人が線路にいるというのに、何事もなかったかのように横を電車が通り過ぎて行くのは、あまりに異常な事態です」

ヱリカ「電車は自動で走っている訳ではないので、運転士や車掌がそれに全く気付かないというのは考えにくいですし、気付けばブレーキなりなんなりをかけるはずですから」

ヱリカ「それに、夜の八時半頃なら、乗客もかなりの数が乗っているはずなので、誰も気付かないというのは現実的にはちょっと考えられません」

ヱリカ「少なくとも、翌日報道される事件ぐらいにはなるはずなんですよね、これ。なのに、あの中ではその事に一切触れていない」

ヱリカ「素直に、幻想描写と受けとるのが正しいとは思っていました」


ヱリカ「まあ、灰色の脳細胞を持つ私からすれば、この程度の推理は推理の内に入りませんが」


ベアトリーチェ「くくっ。なるほど、なるほど」

ベアトリーチェ「確かにそれぐらいの推理はしてもらわねばこちらとしても、面白みがないというもの。そこは誉めといてやろう」


ヱリカ「いえいえ、結構です。少し考えれば誰にでもわかる様な事ですから。この程度で誉められては、逆に心外というものです」

ヱリカ「それよりも、確認の続きをさせてもらっても宜しいですか?」


ベアトリーチェ「くくっ……。その言、不遜ではあるが小気味は良いな。構わぬぞ」

ヱリカ「では、この時の状況の確認がしたいので、先に赤字での復唱をお願いします」


ベアトリーチェ「妾が答えるとは限らぬが……とりあえず言ってみるが良い」


ヱリカ「では、以下の三点をお願いします」




>>435から>>438にかけて出てくる『???』は、駿河で間違いない」



「この時、『???』――つまり、駿河は道具を使わずに犯行を行った」



「この時、暦は間違いなく大怪我を負った」


ヱリカ「以上です」


ベアトリーチェ「ふふっ。なるほど」

ベアトリーチェ「ならば妾はこう答えよう」


ベアトリーチェ「三点とも復唱を拒否する。何故なら、それは復唱出来ぬからだ」


ヱリカ「……!?」

ヱリカ「……それはどういう事ですか。意味がわかりませんが……」ジロッ

ベアトリーチェ「どういう事も何も聞いたままの意味であるぞ」

ベアトリーチェ「そなたも化物語を既に見ているのであろう? ならば、今回の『怪異』が何かはわかっておるはずだ」


ヱリカ「ええ、そうですね、確かに。今回の『怪異』はレイニーデビルだと私は記憶しています」

ヱリカ「そして、それに取り憑かれたのは、駿河のはずです。それなら、さっきの三点の内、少なくとも最初の二点は復唱が出来るはずですが?」

ヱリカ「出来ないという方が、これは不自然です」


ベアトリーチェ「くくっ。本当にそう思っているようなら、ずいぶんとめでたい頭をしておるな」

ヱリカ「」カチンッ

ベアトリーチェ「ならば、きちんと説明してやろう。復唱出来ぬ理由をな」

ベアトリーチェ「まず、第一点目。>>435から>>438にかけて出てくる『???』は駿河で間違いない、との復唱要求だったが、残念な事にあれは駿河ではない」

ヱリカ「では、誰なんですか?」

ベアトリーチェ「『レイニーデビル』だ。くくっ」


ヱリカ「……まさかそんな事をドヤ顔で言われるとは、思いもしませんでした。馬鹿馬鹿しい限りです」ヤレヤレ

ヱリカ「『レイニーデビル』だろうと何だろうと、体が駿河のものである以上、あれは駿河で間違いないはずです。妙な誤魔化しはやめてもらえませんか。はっきり言って迷惑なんですが」


ベアトリーチェ「くくくくくくっ。お前こそ何を言っておる? 例え体が駿河であろうと、操っているのが『レイニーデビル』である以上、あれは『レイニーデビル』だぞ。駿河ではない」

ベアトリーチェ「例えばお前は、『あの車を運転している人は誰ですか?』と尋ねられた時に、ポルシェだのベンツだのと車種を答えるのか? 答えまい? それと同じだ」

ベアトリーチェ「つまり、『レイニーデビル』が駿河の体を動かしている時点で、あれは『レイニーデビル』だ。駿河ではない」


ヱリカ「……お得意の屁理屈という訳ですか。そういえば嘉音さんと紗音さんでもこれをやられましたね……。腹立たしい限りですが」

ヱリカ「なら、いいでしょう。そういう事にしておきます。その手は既に私の中で折り込み済みの一手ですから問題ありません。その上で――改めてこう尋ねましょう」




>>435から>>438に出てくる『???』の体は、駿河のもので間違いない」


ベアトリーチェ「ふっ。まあ、そう来るであろうな」

ベアトリーチェ「だが――」

ベアトリーチェ「これも妾は拒否する」ニヤリ


ヱリカ「またですか。いい加減にして下さい」イラッ

ヱリカ「それなら、理由を説明してもらいましょう。何故ですか?」


ベアトリーチェ「理由は特にない。軽々しく、赤字ばかりを使っても能がないからな。いわば、ゲームの駆け引きというやつだ」

ベアトリーチェ「どうしても知りたいと言うのであれば、被弾覚悟で青き真実を使うのだな。それでこそゲームだ。そうであろう?」


ヱリカ「っ……」

ヱリカ「なら、二番目のも三番目のも駆け引きだと言うんですか?」

ヱリカ「駿河が――『???』が、道具を使わず反抗を行ったと赤字で証明出来ないのが。暦が大怪我をしてないというのが」

ヱリカ「それこそおかしな話ですよね。これを証明出来なければ、今回のは『怪異』でも『謎』でも何でもないのですから」

ヱリカ「暦さんは本当は怪我なんかしていないかもしれませんし、仮に怪我をしていたとしても、ただ単に自動車事故に遭っただけなのかもしれません。そうですよね?」

ヱリカ「これは謎として失格です。いえ――そもそもゲームのルールに違反しています!」ビシッ


ベアトリーチェ「ふっ…………」

ヱリカ「何故なら、怪異側は、ゲーム盤を用意するにあたって、三つのルールを義務づけられているからです」



「一つ。人間の仕業で証明出来ない謎を用意してはならない」



「二つ。怪異の仕業だと赤字で証明してはならない」



「三つ。上記二つの条件を満たした謎を、赤き真実を使って用意しなくてはならない」



ヱリカ「これは表ではなく裏のルール――人間側に明言する必要のないルールですが、しかし、確かに存在するルールです」

ヱリカ「そうでなければ、このゲーム自体が崩壊しますから」


ヱリカ「怪異が本当にいてそれが人間には絶対に解けない謎であれば、それはもうゲームではありません。一方的な攻撃――つまり、虐殺です」

ヱリカ「お互いに勝ちの条件が存在しているからこそ、ゲームはゲームとして成り立つ。これは大前提です」

ヱリカ「更に、怪異側は幻想描写が許容されているのですから、そこに三番目のルールが加えられます。この裏ルールがないと、謎の正しい提示にはならず、同じくゲームが破綻してしまいます」

ヱリカ「なので、今回の場合は、第三の条件。ゲームの用意に不備があります」

ヱリカ「つまりこの謎は、『謎』ではなく、『詐欺』です」

ヱリカ「さっきの復唱要求を拒否するなら、ゲームが破綻したものとみなして、私はこのゲームの審議を要求します!」ビシッ


ベアトリーチェ「っ…………」

ベアトリーチェ「……くくっ」

ベアトリーチェ「くくくくくくっ。きひひはははははーはっはっ!」


ヱリカ「」ビクッ


ベアトリーチェ「審議をか。くくくくくくっ。これはまた面白い事をぺらぺらと。きひひははははっ!」


ヱリカ「な、何がおかしいんですか! これは当然の権利です!!」


ベアトリーチェ「いや、笑えるなあ、ヱリカ。くくくくくくっ。大間抜けも良いとこだ。くひひははははっ」


ヱリカ「し、失礼です!!/// 私は当然の事を要求しただけなのに!!」

ベアトリーチェ「くくくくくくっ。ならば、一つ尋ねるがなあ、ヱリカ」

ベアトリーチェ「妾がいつ、これを『謎』だと言った?」


ヱリカ「!?」


ベアトリーチェ「くくくくくくっ。下らぬなあ、一人で勘違いして一人で醜態を晒すか。くひはははははっ!」


ヱリカ「ぅっ……」

ベアトリーチェ「そもそもだ。今回の場面は元から『謎』として証明出来ぬのだ」

ベアトリーチェ「そうであろう? この時、『レイニーデビル』は雨降りの時の完全装備をしていたのだぞ」

ベアトリーチェ「つまり、描写部分で暦が見たように、『レイニーデビル』はゴム手袋をしていたのだから、『素手』で犯行を行ったとも言えぬし、『道具を使ってない』とも言えぬ」

ベアトリーチェ「更に言うなら、駿河が願い事をした、仮称『猿の手』は広義で見れば『道具』だ。前提からして『道具の使用』がどちらも成り立っているのだ」


ベアトリーチェ「故に、『駿河』と『レイニーデビル』はこの時『道具』を使っており、『素手』ではない」


ベアトリーチェ「つまり、お前が要求した『道具を使わず犯行を行った』を、妾は復唱出来なくて当然なのだ」


ヱリカ「ぐっ……」

ベアトリーチェ「また、第三の復唱要求。『暦は大怪我を負った』もそうだ」

ベアトリーチェ「異常な回復能力を持つ暦からすれば、あんなのは『大怪我』とは呼べぬ」

ベアトリーチェ「わずか10分・20分で治る怪我が『大怪我』か? そんなはずがなかろう」

ベアトリーチェ「故に、三番目の復唱要求も妾には不可能だ」


ヱリカ「なっ……! さっきの道具はともかく、それは完全に詭弁です!! そんなの私は認めません!!」


ベアトリーチェ「くくくくっ。認める認めないはそなたの決める事ではない。妾が決める事だ」

ヱリカ「っ!」

ベアトリーチェ「そもそも『大怪我』という言葉自体が非常に曖昧なものだ。そうであろう? どこからどこまでを大怪我とするかなど、その基準と呼べるものが明確に示唆されていないからな」


ヱリカ「っ……卑怯ですね……!」


ベアトリーチェ「くくっ。好きに言うと良い。だが、どれだけ言おうとも、今回の場面、妾は先の三点を絶対に復唱せぬ。これは確定事項だ」

ヱリカ「ぐっ……」

ベアトリーチェ「つまりはそういう事だ。妾は今回、この場面において『謎』を語るつもりは毛頭ない」

ベアトリーチェ「だいいち、よくよく考えてもみよ。今回、『謎』と呼べるものが一つでもあったか?」


ベアトリーチェ「雨合羽を着た何者かに暦が襲われ、その結果、自転車が大破し、暦が怪我をしたというそれだけの事であろう?」

ベアトリーチェ「そして、妾は今回の場面、道具の使用を赤字で否定出来ぬのだから、凶器として爆弾を使おうが、ライフルを使おうが、弾道ミサイルを使おうが、何でも好き放題選べるのだぞ」

ベアトリーチェ「これでは『謎』とは呼べぬよなあ? 灰色の脳細胞を持つというヱリカよ、そうであろう?」ニヤリ


ヱリカ「ぐっ……!」

ベアトリーチェ「故に、妾は今回の謎に関しては元より問題としておらぬ。それをそなたが勝手に早とちりしただけの事だ」

ヱリカ「っ……」


ベアトリーチェ「ここの場面を見せたのも、次の謎に繋がるからだ。それ以上の意味はない」


ベアトリーチェ「さて、ヱリカよ。それが理解出来たのなら、さっさと物語の世界の中に入るタイミングを決めてはくれぬか?」

ベアトリーチェ「なにしろ、無駄な事でだいぶ時間を取ったからな。くくくくくくっ」


ヱリカ「ぐっ……!」ギリッ

今回はここまで

ヱリカ「っ……」

ヱリカ「……悔しいですが、ここは我慢しておきましょう。あなたの挑発に乗れば思う壺ですから」


ベアトリーチェ「妾は挑発した覚えなどないがな。くくくくくくっ」


ヱリカ「そういった台詞も今後無視させてもらいます。覚えておいて下さい」


ベアトリーチェ「ふっ。つまらぬな。遊び相手がおらねば妾が寂しいではないか」

ヱリカ「……必要な事以外は話しかけないでもらえませんか。私、あなたの事が嫌いですから」フンッ

ベアトリーチェ「くくくくくくっ。そう来るか」

ベアトリーチェ「しかし、つれない奴だなあ、ヱリカ。折角のゲームなのだから、楽しんでやれよう」

ヱリカ「…………」


ベアトリーチェ「ふっ。無視か。ならば、仕方あるまいなあ。復唱通りとはいかぬが、幾つか赤き真実で保証してやろうぞ」

ヱリカ「……?」

ベアトリーチェ「本来、これは今、証明するものでもなかったのだが、妾からの特別サービスだ」

ベアトリーチェ「あまりにやる気をなくされても、妾がつまらぬからな」


ヱリカ(……意外に寂しがり屋なんですか、この人?)

ヱリカ(まあ、私の得になるなら、何でも結構ですが)



ベアトリーチェ「では、以下の五点を保証してやろうぞ」




>>435から>>438にかけて出てきた『???』は全て同一人物だ」



「この時、暦は確かに『怪我』を負っている」



「その怪我を負わせたのは、間違いなく>>435から>>438にかけて出てきた『???』だ」



「『???』はその際、道具を使用しておる」



「暦は、それ以外の人物からは傷を負わされてはおらぬ」


ベアトリーチェ「これで良かろう? リクエスト通りとはいかぬが、ほぼお前の要求に応えておるぞ」


ベアトリーチェ「要は、『???』が暦に傷を負わせた犯人だ。これは間違いない」


ベアトリーチェ「そして、この『???』は道具を使っておる。何を使ったかまでは明言せぬがな。それは自分で推理せよ」


ベアトリーチェ「どうだ? 満足とまではいかぬが、多少はやる気が出たであろう?」


ヱリカ「……ええ、確かに多少は。ですが、あくまで駿河さんに関しては、傷を負わせた犯人だと赤き真実は使わないんですね」


ベアトリーチェ「くくっ。左様だ。妾は楽しみは後にとっておく主義だからな。まあ、その内、使うかもしれぬが、今は使わぬ」


ヱリカ「…………」

ベアトリーチェ「ついでの余興だ。更に、もう一つサービスをしてやろう。妾はこう見えて親切なのでな。くくくっ」

ヱリカ「白々しい……」ボソッ

ベアトリーチェ「まあ、そう言うな、ヱリカ。そなたにとって得になる事を保証してやろうというのだ。聞いといても損はあるまい?」


ヱリカ「……一応、聞きます。何ですか?」


ベアトリーチェ「なに、実に簡単な事だ」




「止まった時の中で、ヱリカがじかに触れる物は全て現実に存在する物だ。幻想ではない」





「止まった時の中で、ヱリカがじかに触れる物は全て現実に存在する物だ。幻想ではない」


ベアトリーチェ「推理の参考にするが良い。更にもう少しサービスをしてやっても良いのだが――」

ベアトリーチェ「それは今の時点ではやめておこう」

ベアトリーチェ「あまり楽をさせるのも考えものであるからな。今回はこの辺で留めておくぞ」


ヱリカ「……そうですか」

ヱリカ「わかりました。有り難く利用させてもらいます」

ヱリカ「では――」

ヱリカ「いつのタイミングで時間を止めるかという事でしたよね?」


ベアトリーチェ「うむ。そうだな。これを決めてもらわねば先へと進めぬからな」


ヱリカ「それなら……」

ヱリカ「………………」

ヱリカ「ひたぎさんがその場に現れた直後で止めて下さい」


ベアトリーチェ「ふむ……。そこで良いのだな? 言っておくが、後からやり直しはきかぬぞ」


ヱリカ「ええ、構いません。むしろ、その場面以外は考えられないですから」

ヱリカ「何故なら、このゲーム全般に共通して言える事として、重要なのは、犯行の瞬間よりも『結果』の方ですから」

ヱリカ「なので、今回、最も重要な点は、『自転車がどうなっていたか』と、『ブロック塀が本当に壊れていたか』です。この二点だけです」

ヱリカ「ですから、そこのタイミングで止める事以外は考えられません。犯行直後で、三人が丁度揃うタイミングですので」


ベアトリーチェ「……む」

ヱリカ「それに、私は止まった時の中で『人に触れてはならない』という制限があります。なので、物を重要視するのは当然の事です」

ヱリカ「今回、自称『レイニーデビル』がどういう風に暦さんを傷つけたかを問題としていないなら、犯行の瞬間で止める必要は全くありません。そこで止めて下さい」


ベアトリーチェ「…………」


ヱリカ「まあ、恐らく、『レイニーデビル』の攻撃自体、幻想描写なのでしょうが。仮に自転車の大破がもし事実なら、自動車事故に遭ったと考えるのが一番自然ですし」

ヱリカ「もっとも、自転車の大破自体、赤き真実で確定されていないので、怪しげなものですけど」フッ


ベアトリーチェ「……まあ、どう思おうとそれはそなたの勝手だからな。妾はあえて口を挟まないでおこうぞ」

ベアトリーチェ「では、時間を巻き戻して、ひたぎがその場に現れた直後で停止させるぞ。その上でそなたを送り出す」


ヱリカ「戻る時はどうすればいいんですか? あなたを呼べば戻って来れるんですか?」


ベアトリーチェ「いや、妾は時間を止める為に多大な魔力を使っておる。相当な集中を要する故、呼ばれても恐らく気づかぬであろうな。そなたの声も姿も認知出来ぬはずだ」

ベアトリーチェ「だから、時間を区切らせてもらうぞ。制限時間は10分だ。その時間内に必要な事は全て調べあげよ」


ヱリカ「10分ですか……。全部調べようとすると、結構厳しいですね……」


ベアトリーチェ「それぐらいの事は受け入れよ。もっとも受け入れようと受け入れまいと、どのみち10分後には戻すがな」

ベアトリーチェ「では、送り出すぞ」パチンッ

【道路】


フッ……


ヱリカ「……ここですか」


ヱリカ「」キョロキョロ


ヱリカ「ふうん……。なるほど……」

ヱリカ「確かに、先程の景色ですね。一見、全く変わりありません……」

ヱリカ「とにかく、あまり時間もない事ですし、先に重要な物から調べていきましょう」


ヱリカ「まずは自転車からですね。向こうですか」タタッ

【道路 電柱近く】


ヱリカ「……なるほど」ジッ

ヱリカ「確かに、大破していますね。明らかに」


ヱリカ「ですが……」


ヱリカ「ひたぎさんの言葉通りではありません。電柱に突き刺さってはいませんから」

ヱリカ「電柱の真下に、スクラップ状態であるだけです」


ヱリカ「状況から推測するに、恐らく、何らかの要因によって吹き飛ばされ、電柱に思いきりぶつかったというところですか……」

ヱリカ「フレームがひんまがっていたり、タイヤが完全に外れているところから、かなりの強い衝撃を受けたのは間違いないですね。それだけは疑う余地はないです」

ヱリカ「そして――」ヒョイ


ガシャッ、ガラン


ヱリカ「私にもこの自転車は触れます。という事は、これは確かに存在しているという事です」


ヱリカ「わかりました。ここはもういいです。次へ行きましょう」タタッ

ヱリカ「今度はブロック塀ですが……」ソッ


ガラッ、ゴロッ


ヱリカ「やっぱりブロック塀も触れますね。そして、これも壊れています」


ヱリカ「こちらも先程の自転車と同じ様に、何かが当たって壊れた感じですが、ただ、粉々ではなく、中破に近いですね」

ヱリカ「広辞苑ぐらいの大きさの壊れた塊が五・六個ほど、そこらに転がっていますから」


ヱリカ「つまり、物に関しては、多少の違いはありますが、ほぼさっき見た描写と同じと考えていいでしょう」

ヱリカ「となると、問題は――」

ヱリカ「物ではなく、人の方ですか……」


ヱリカ「そちらも調べていきましょう」


ヱリカ「」タタッ

【道路 『???』のすぐ近く】


???「」


ヱリカ「……そうですね。雨合羽に長靴、ゴム手袋。格好は確かにその通りです」

ヱリカ「そして、フードの奥を見ると……」


駿河「」


ヱリカ「確かに駿河さんです。ただ――」

ヱリカ「触れない以上、これが幻想だという可能性はあります」

ヱリカ「本当は別の格好をしていたかもしれませんし、そもそも駿河さんでない可能性だってあります」

ヱリカ「なにしろ一言も喋っていないので、男か女かも判別出来ませんから。誰にでも変装が可能ですよね。格好が格好ですし」

ヱリカ「出来ないのは、明らかに背丈が違う忍さん、真宵さんぐらいなものですか……。その二人を除けば、この『???』は誰にでもなりえるという事ですね」



ヱリカ「ですが――」タタッ

【道路 暦・ひたぎのすぐ近く】


ヱリカ「この二人だけは変装が不可能ですね」


ひたぎ「」

暦「」


ヱリカ「ひょっとしたら、入れ替わりで現れたひたぎさんの変装かとも思いましたが、同一時間軸上に『???』とひたぎさんがいるという事は、その変装は有り得ません」

ヱリカ「もちろん、暦さんもです」


ヱリカ「まあ、今のところ、手掛かりが何もないので、『???』は素直に駿河さんだと仮定しておきますが……」

ヱリカ「ベアトリーチェ卿が、それを赤き真実で使わなかったというのが気にはなりますね」


ヱリカ「どちらにしろ、これは今、確定出来ないので、考えるだけ無駄と言えば無駄ですけど……」

ヱリカ「それで、暦さんはと言えば……」

ヱリカ「一見して大怪我をしていますね……」


暦「」


ヱリカ「口と頭から血が出てますし、衝撃を受けて飛ばされでもしたのか、服が破れて全身擦り傷だらけです。つまり、ほぼ描写通り」

ヱリカ「ただ、これもあまり信用出来ませんが。むしろ幻想描写の可能性の方が遥かに高いです」


ヱリカ「何しろ、この後…………」


ヱリカ「ああ、そうか……」ニヤリ

ヱリカ「そうですよね。それなら『その通りに』してしまえばいいんですよね」ニタリ

ヱリカ「どうせあの魔女の次の一手は読めてますから」

ヱリカ「先に予習をしておいた、私の勝ちです」ニヤリ


ヱリカ「この後の展開を私は知っています。この翌日、暦さんは『無傷』で駿河さんの家を訪ねるんです」

ヱリカ「その時、傷がなかった、というのが、あの魔女の謎に違いありません」

ヱリカ「ですが、そんなのは明らかに子供だましの謎です」ニヤリ

ヱリカ「例えば、ほんのかすり傷程度なら、一日で完治してしまうものですから」

ヱリカ「そして、暦さんの怪我がそうでなかったなんて保証はされていません。『怪我をしていた』とあの魔女は言っただけです」


ヱリカ「それに、するがモンキーの謎は難易度Dだとも言っていました。だとしたら、そんな下らない謎が一つぐらい入っていたとしても、少しも不思議ではありません」


ヱリカ「だったら――」


ヱリカ「そんなつまらないゲーム盤、破綻させてあげるべきですよね」ニタリ

ヱリカ「私の手で、暦さんの怪我を『描写通り』の大怪我にさせてしまえば、それで終わりです!!」ニタリ

ヱリカ「さっきの所にあったブロック塀を持ってきて……」ガシッ

ヱリカ「これを――」


ヱリカ「暦さんの足に――思いきり……!」

ヱリカ「投げつけます!!」ポイッ!!



グシャッ!!!!



ヱリカ「あははははははははっ! いい音がしましたね!」

ヱリカ「骨が折れて、足が潰れる音! 自分のコントロールの良さに惚れ惚れします!」

ヱリカ「でも、別に構いませんよねえ?」ニタリ

ヱリカ「どうせ暦さん、元から大怪我されていましたし」

ヱリカ「それに、吸血鬼なのだから、怪我の回復が早いんですよね? そういう設定なんですよね?」

ヱリカ「だったら、複雑骨折ぐらい、一日もかからずに治っちゃいますよねえ?」


ヱリカ「あははははははははっ! それなら、確実さを期すために両手両足、四ヶ所ともいっちゃいますか!」


ヱリカ「それっ!!」ポイッ!!


グシャッ!!!!


ヱリカ「もう一回!!」ポイッ!!


メキョッ!!!!


ヱリカ「ラストです!!」ポイッ!!


バキィッ!!!!

ヱリカ「」パンパンッ

ヱリカ「ふふっ。両手両足四ヶ所ともこれで完了です。重量、速度、落ちた箇所からいって、確実に骨はイッたはずです。間違いなく、何ヵ所かは複雑骨折しているでしょうね」


暦「」グチャッ……


ヱリカ「あははははははははっ。まるで昆虫の標本みたいで素敵ですよお、暦さん」



ヱリカ「これで、次の場面。あの魔女が『暦は無傷だ』と言ったが最後、このゲーム盤は確実に破綻します」

ヱリカ「だって、一日で骨折が『治る』はずありませんから」ニタリ


ヱリカ「今から楽しみです!! あははははははははっっ!!」

今回はここまで

【??? 庭園】


戦人「おいっ! またやりやがったぞ、ヱリカのやつ!」ガタッ

戦人「ゲーム盤の破綻狙いはこれで二回目じゃねえか!」ダンッ!!


霧江「少し落ち着いて、戦人君」

戦人「だがよっ! これはルール違反じゃないのか!? いや、それ以前に、こんな酷い事をさせていいのかよっ! 良くないだろ!!」


霧江「……」フゥ……

ワルギリア「…………」

霧江「戦人君の気持ちはわかるわ。確かにこれは酷い事よね」

霧江「でも――」


霧江「ルール違反ではない。そうでしょう?」


戦人「っ……!!」


霧江「そうよね? 魔女の――ワルギリアさんだったかしら? これはルール違反にはなってないわよね?」

ワルギリア「……ええ。ルール的には確かにそうですね……」

ワルギリア「古戸ヱリカは、止まった時の中で『人』に触れる事は禁止されています。道具などを使って間接的に触れる事もです」

ワルギリア「ですが――今回、彼女は『人』に触れていません」

ワルギリア「彼女は『物』を投げただけです。『人』には一切触れていません。間接的にもです」


ワルギリア「それに――ベアトリーチェは『危害を加えてはならない』と最初に言っていませんから……」


霧江「そうね。更に補足するなら、『暦は怪我をしていた』とベアトリーチェは赤字で使っているわ」

霧江「おまけに『回復能力』を暦君は持っている事になっている。それなら、暦君を殺すなり四肢を切断するなりの『回復不可能』な怪我をさせない限りは、ルール違反とはならないはずよ」

霧江「もちろん――行儀は悪いけどね」


戦人「っ…………」

戦人「だがよ……霧江さん。ルールに違反してないからって、あんなのが許されるって訳じゃないだろ!」

戦人「前回もそうだったが、あいつのやった事は悪魔の所業だ! その罪が許されるって訳じゃない!」


ワルギリア「…………」

霧江「それは……確かにそうなのだけど……」


忍「……ふむ」

戦人「キスショット! お前にも訊くぞ!」

戦人「お前はあんな行為が許されると考えるやつなか!? 人の命なんか虫けら同然のものだと思っているやつなのか!?」

戦人「答えろっ!! 最強の吸血鬼!!」ビシッ


忍「…………」

忍「……そうではない、と答えておくか」

忍「虫けらの様には思ってはおらぬ」

忍「いや――正確に言うならそれもまた違うか……」


忍「昔はその程度に思っておったが、我が主様と出会った事で考え方が変わったのだ、儂は」


戦人「暦と……会った事で?」

忍「人の命など、昔の儂からすれば、単なる食料じゃ」

忍「例えばお前がステーキを見て、牛に同情を持たぬのと同様じゃな」

忍「人など、血の詰まった皮袋と変わらぬと思っておった」

忍「吸血鬼の儂からすれば、そういうものじゃ。種族の違いというやつじゃな」

忍「そこら辺は、お前もある程度理解できよう? 捕食者と被食者の絶対的な違いというやつじゃ。むしろ、肉を食べている身でそれを理解できぬとは言わさぬがな」


戦人「…………」

忍「しかし、紆余曲折を経てこんな東洋のはずれにまで来て――」

忍「そこで、我が主様と出会い――」

忍「今や吸血鬼の絞りカスとなった我が身じゃ」


忍「その間に、言葉では語れぬ程、深く色々な事を考えたが、今更それを語る気にもならぬ」

忍「ただ少しだけ考え方を変えた、というだけじゃ。あの小僧から言わせれば、考え方が変わったのではなく、単に視点が変わっただけだと言うのであろうがな」

忍「別に、人を慈しむ訳でも、大事に思う訳でもない。じゃが、そう思う気持ちは理解できるというだけの事」

忍「それ以上は、話す気はないが、お前からの質問に対する返答としてはそれで良かろう?」


戦人「……そうか。わかった。……それなら、俺もあえて深くは訊かない」


忍「かかっ。それで良い。お前はお前でなかなか良い男じゃな。じゃが、そのせいで災難を呼ぶ男でもあろうがな。世の中とは常々そう上手くはいかぬものじゃ」

戦人「…………嫌な事を言ってくれるぜ」

戦人「とにかく、お前の考えは聞かせてもらった」

戦人「ワルギリア、お前も俺が考えている通りでいいよな? お前はベアトの味方をしているし、それに魔女にしては驚くぐらい優しい。止めてくれるなよ」


ワルギリア「……良いでしょう。私は止めません。あの子の危機でもありますから」

ワルギリア「つまり、戦人。あなたは、今からゲーム盤に乗り込んで、ベアトを救う気でいるのですね?」


戦人「もちろんだ! 俺が前にやられた時は、ベアトに助けられた! だから、今度は俺が助ける番だ!! でないと、カッコ悪いぜ、悪すぎだぜっ!!」

ワルギリア「……わかりました。お行きなさい、戦人。私が時を戻しましょう。数分ぐらいなら、私でも可能なはずです」

ワルギリア「そして、その間にヱリカを止めれば、それで今回の惨劇はなかった事になるはずですから」


戦人「すまないな、ワルギリア。助かるぜ、宜しく頼む!」

ワルギリア「ええ、それではいきますよ、戦人」

ワルギリア「あの子を助けてあげて下さい。頼みましたよ」パチンッ

霧江「それは――」

霧江「頂けないわね、ワルギリア」パチンッ



バリンッ!!!!



ワルギリア「!?」

ワルギリア「私の、時間逆行の魔法が……破られた……!?」



ワルギリア「あなた、まさか……!!」


霧江「魔女だか何だか知らないけど、これぐらいの魔法なら今の私でも使えるわ」

霧江「要は覚悟の話よ」

霧江「覚悟さえあれば――他の魔女の承認なんか不要!」

霧江「絵羽さんが、絵羽・ベアトリーチェとなったように、私もベルンカステルの名を継いで、霧江・ベルンカステルへと変わる事を今決めたわ!」


戦人「!?」


霧江「ニンゲン側に属しながら、魔法を扱う魔女――」

霧江「反逆にして、執念の魔女、霧江・ベルンカステルにね!」


ワルギリア「!!」

戦人「どういう事だよ、霧江さん! 何で俺の邪魔をするだ!」

霧江「どういう事? 当たり前の事でしょう、戦人君。だって私はニンゲン側なのよ」

霧江「ヱリカちゃんのあの行為が是が非かは置いとくとして、有効な一手である事に変わりはないわ」

霧江「私の方こそ、逆に聞きたいわね、戦人君。どうしてあなたは……」


霧江「怪異側の味方をするのかしら」キリッ


戦人「うっ……」

霧江「戦人君とベアトリーチェの間に、昔、何があったかを私は知らないわ」

霧江「だけど、それは男と女の話。その事について、深く訊くほど私は野暮ではないけれど――」

霧江「でも、私から言わせればね、戦人君」


霧江「あのベアトリーチェっていうふざけた魔女は、私達全員を殺したのよ! 今回のヱリカちゃんのした事と比べてどっちが酷い事かしら!!」キッ


戦人「っ……!!」

戦人「……ぐ」


霧江「そうでしょう、戦人君」

霧江「六軒島にいる人間を――絵羽さんを除いて全員虐殺」

霧江「留弗夫さんも、私も!」

霧江「あの魔女のせいで! 幸せと、未来と、愛する人、その全てを奪われた!」

霧江「その味方をする戦人君の方がどうかしているとしか思えないわよ!!」

霧江「あなたはニンゲン側なのよ、戦人君!! そして、被害者でもある!!」

霧江「あの魔女を八つ裂きにしたって私は足らないのに!! どうしてあなたは怪異側の味方につけるの!?」


霧江「ざけんじゃないわよ! 裏切り者がっ!!」ダンッ!!


戦人「き……霧江さん……!」

霧江「だから――」

霧江「今回のゲーム、何としてでも私は勝つわ。ヱリカがした事が善か悪かなんて関係ない」

霧江「それが有効な一手だというなら、私はそれを守るだけよ」


霧江「」パチンッ


霧江「さあさ、おいでなさい、シエスタ姉妹達」

ワルギリア「!?」



ボンッ!!



シエスタ410「お久しぶりですにぇ。シエスタ410ここに」

シエスタ45「ぜ、前回は御無礼を働きました! シエスタ45、ここに」


霧江「来たわね。御苦労様」フッ



ワルギリア「シエスタ姉妹まで召喚出来るのですか、霧江は……!」

戦人「ぐっ!」

シエスタ410「にひぃ。霧江・ベルンカステル卿。前の時のあなたへの攻撃は、絵羽・ベアトリーチェ卿の御命令だったのでどうかお許し下さいにぇ」

シエスタ45「命令に逆らうと、り、竜王様に怒られるのです。どうかお許しを」


霧江「」フッ

霧江「構わないわ。もうずいぶん前の事だしね。ただし、その分はしっかりと働いてもらうわよ」


シエスタ410「それはもう、お任せを。裸エプロンで手料理からバスケのお相手、これから地球に来るサイヤ人殺しまで何でも。にひぃ」

シエスタ45「410! 裸エプロンは流石に!///」アセアセ

シエスタ410「おおっと。それなら、膝枕して耳かきに変更で。にひぃ」


霧江「…………ずいぶんと頼もしい事ね」


ワルギリア「……二人は神龍を越える力を持っているというのですか……!?」

戦人「…………」

霧江「では、最初の命令よ」

霧江「今、行われているゲームの邪魔をする者を排除しなさい」

霧江「二人とも、ぬかるんじゃないわよ」キッ



シエスタ410「お仕事の時間だにぇ。命令、了解。にひぃ」

シエスタ45「め、命令、受理しました」


シエスタ410「射撃戦、準備」ピョコ

シエスタ45「地形データ収集、射撃用データ収集、410へリンク」スッ

シエスタ410「410、データ受領。標的を捕捉、地形誤差修正、射撃特性補正、精度点補正、完了。45へデータリンクー」

シエスタ45「45、射撃準備完了。黄金の弓に装填」スッ


シエスタ410「にひぃ。戦人卿、申し訳ないけど、これも御命令なので諦めるにぇ」

シエスタ45「今、行われているゲームの邪魔をするなら、撃ちます。す、すみません、ワルギリア卿!」


戦人「……くそっ!」

ワルギリア「……参りましたね」

今回はここまで

ちょいと、うみねこのネタバレ注意

【???】


フッ……


ヱリカ「っと……」タンッ


ベアトリーチェ「約束の10分だ。調べものは終わったか?」

ヱリカ「ええ、もちろん。なかなか実りある捜査でしたよ」ニッ

ベアトリーチェ「くくっ。それは良かったなあ。では――」

ベアトリーチェ「第一の謎を始めようぞ」


ヱリカ「どうぞ。とっとと始めちゃって下さい」ニヤリ

【??? 庭園】


戦人「くっ! まずいぜ、ワルギリア! もうヱリカが戻ってきた!」

戦人「このままだとベアトが!!」


ワルギリア「わかっています。ですが……」



シエスタ410「にひぃ。お二人とも動かない方が身のためですにぃ」

シエスタ45「じ、自重をお願いします!」

霧江「そういう事よ。このままそこにいなさい、戦人君」



戦人「ぐっ!!」

ワルギリア「……仕方ありませんね」

ワルギリア「結界障壁!」フインッ!!

戦人「ワルギリア!?」


ワルギリア「お行きなさい、戦人! ベアトを救ってあげて下さい!」


霧江「無駄よ! シエスタ姉妹!!」


シエスタ45「了解。410へ最終データ送信」

シエスタ410「410、データ受領。にひぃ」





シエスタ410「射撃!」


ビュインッ!!!

ドシュッ!!! バキィン!!!!


ワルギリア「っ!!」


戦人「おい! ワルギリア!!」


ワルギリア「私なら大丈夫です! 少しの間なら、この結界ももちます! ですから、今の内に! 戦人!!」

戦人「だがよ!!」

ワルギリア「私の事は構いません! お行きなさい!!」

戦人「っ……! すまない!! 行くぜっ!!」ダダッ!!



霧江「戦人君!!」

霧江「何をやっているの、シエスタ姉妹!! 早く戦人君を止めなさい!!」


ワルギリア「そうは……! させません……!」


ギィンッ!!!!


シエスタ410「にぃ……。しぶとい」

シエスタ45「最後の意地というやつですね……」


シエスタ45「では、データ調整。出力を最大に変更します」

シエスタ410「データ受領。――射撃!!」



ズギャッ!!!!



ワルギリア「ぐっ!! もう結界が……!」



バリンッ!!!!



ワルギリア「っ!!」ドシュッ!!! ズサッ!!!!



シエスタ45「標的に命中を確認しました。狙撃完了」

シエスタ410「更に、戦人卿への狙撃。にひぃ」





シエスタ410「射撃!!」


ドシュッ!!!

【???】


ベアトリーチェ「では、場面を移すぞ」

ベアトリーチェ「次の場面は、翌日、暦が駿河の家に 行ったところだ」


ヱリカ「やはりそこですか。予想通りです」


ベアトリーチェ「くくっ。謎の場面は限られてくるからな。予想出来て当然の事だ」

ヱリカ「そうですか。まあ、いいです。どうぞ」

【駿河の家】


駿河「何から話したものかな、阿良々木先輩」

駿河「――なにぶん私はこの通り口不調法なもので、こういう場合の手順というのはよくわからないのだが、まあ、とりあえずは」

駿河「昨夜のことを、謝らせてもらおうと思う」


暦「ああ……。やっぱり、あれは、お前だったのか」

【???】


ベアトリーチェ「――と、話が完全に途中だが、一旦ここで区切るぞ」

ヱリカ「……そうですか。全然、構いませんよ」ニヤリ


ヱリカ「それでは、お聞きします。第一の謎というのは?」

ベアトリーチェ「くくっ。そんな事は言うまでもないであろう?」

ベアトリーチェ「無論、第一の謎は、『何故か無傷な暦』だ」


ヱリカ「」フフッ

ヱリカ「では、その証明として、今から言う事を赤き真実で復唱をお願いします」

ヱリカ「これが復唱出来ないと言うなら、謎ではないのですから、当然、出来ますよね?」ニヤリ


ベアトリーチェ「構わぬぞ。何でも言うが良い。して、どのような事だ?」




「暦さんはこの時、完全に無傷だった」



「これは誰かの変装ではなく、暦さん本人です」


ベアトリーチェ「くくっ。それだけで構わぬのか?」

ベアトリーチェ「そんなもので良ければ、幾らでも保証してやるがなあ」


ヱリカ「はい、構いませんよ。まず確実に知りたいのは、暦さんが本当に無傷かという事。それと、暦さん本人であるという事です」

ヱリカ「ひょっとしたら、誰かの変装かもしれませんし、これは保証してもらわないといけませんから」

ヱリカ「ですので、まずはこれだけ、復唱をお願いします」


ベアトリーチェ「良かろう。ならば、保証しようぞ」




「暦はこの時、完全に無――」


戦人「うおああああっ!!!」



バリンッ!!!!



ヱリカ「空間が割れ……!?」

ベアトリーチェ「……戦人?」

戦人「」スタッ

戦人「はっ! ワルギリアのお陰でギリギリ間に合ったぜ!!」


ベアトリーチェ「戦人……これは一体……」


戦人「ベアト、その復唱はするなっ!」キリッ

戦人「ヱリカは止まった時の中で、暦に傷を負わせている! その復唱をすると、ロジックエラーを起こしてゲームが破綻するぞ!!」

戦人「ここの場面の謎は諦めて、別の謎に変えろ! そうしないと、お前が無限の迷宮に閉じ込められる事になるぜ!!」


ベアトリーチェ「暦に……傷を……」

ヱリカ「」チッ

戦人「そして、ヱリカ!」

戦人「お前のやった事は、人として許されない行為だ! 更にはこのゲームに対する冒涜だ!!」

戦人「よって、俺はこのゲームのやり直しを求めるぜ!!」ビシッ



ヱリカ「…………」

ヱリカ「……これはこれは戦人さん。いきなり乱入してきて、私のゲームの邪魔をするとは一体どういうつもりですか?」

戦人「とぼけるなっ! お前は止まった時の中で、暦に怪我を負わせただろう! だから、その落とし前をつけてもらおうってだけだ!!」


ヱリカ「…………」


戦人「前回のゲームとは違って、お前は化物語の世界には存在しない人間だ! つまり、ゲームに影響を与える様な行為は反則に近い!!」

戦人「よって、このゲームのやり直しを俺は要求するぜ!!」


ヱリカ「やれやれ……」フッ

ヱリカ「いい加減にしてもらえますかあ、戦人さん」ニヤリ


戦人「!?」

ヱリカ「確かに私はそれを行いました。暦さんの手足をぐちゃぐちゃに潰してやりましたとも。ですが――」


ヱリカ「それが何か問題でも?」


戦人「!?」


ヱリカ「何故なら、私はゲームのルールに何一つ違反していないんです。どうして、それがやり直しに繋がるんですか?」


戦人「っ……。確かにルール的には違反していないが、だが――」


ヱリカ「だがも何もねぇんですよぉぉ!!」ダンッ!!

ヱリカ「横から口を挟まないでもらえますかぁ、部外者風情が!!」


戦人「っ……!」

ヱリカ「例えば、サッカーで手を使ったらそれは反則ですけど、手以外なら体のどこを使っても反則にはならないんですよ!!」

ヱリカ「私が止まった時の中で、暦に危害を加えてはいけないと一言でも言われましたか!? 言われてねぇでしょうが!!」

ヱリカ「反則反則うるさいですけど、どちらかと言えば戦人さんの方が今、反則をしていますよねぇぇぇ!!!」

ヱリカ「審判でもないのに、外野が口を挟んで、おまけにゲームの邪魔をするのは、不当な行為でしょう!!」

ヱリカ「それとも、観客が芝の上に入ってゲームの妨害をする事を認めてるんですか、このゲームは!!」ビシッ


戦人「うぐっ……!!」

ボンッ

霧江「」スタッ


霧江「そういう事ね、戦人君」フッ

霧江「今、ゲームの邪魔をしているのは、ヱリカではなくあなたよ」

霧江「シエスタ姉妹からの狙撃を逃げ切ったのは誉めてあげるわ。でも――」

霧江「それ以外は、誉める場所は0よ。駄目よ、駄目よ、全然駄目よ!」

霧江「――キスショット卿」



ボンッ

忍「」スタッ


忍「……なんじゃ?」


霧江「戦人君の先の行為は、ゲームのルール違反よね」

霧江「だって、あなたは、一対一のゲームだと前に明言していたはずだもの。それに、一度ゲームが終わった私達には、次のゲームへの参加が認められてない時点で、自然とそうなってくるわ」

霧江「でも、今回の乱入はそれに違反している」

霧江「よって、この先、こういった事が起こらない様に、戦人君を全てのゲームから追放する事を要求するわ。これからは一切ゲームに関与できない様に、そういう措置をとってもらえるかしら?」


戦人「霧江さん……!?」

ヱリカ「ええ。確かにそうですね。ゲームに何度も乱入されるようでは困りますから」

ヱリカ「戦人さんの退場処分を、私からもお願いします。どこか異空間にでも閉じ込めちゃっておいて下さい」


戦人「!?」


霧江「そうね。いい提案だわ。そうしてもらえるかしら」


戦人「き、霧江さん、何で……!!」


霧江「」フッ

霧江「戦人君。これが私の覚悟であり、戦い方よ。私の邪魔をするなら、誰だって容赦はしないわ」キリッ

霧江「悪いけど、このゲームにあなたは必要ないの。いえ、むしろ邪魔ね。しばらくの間、消えていてちょうだい」


戦人「……ぐっ!」


忍「……ふむ」

忍「……なるほどの、良かろう」

忍「二人の言う事も、もっともじゃからな」


戦人「お、おい! キスショット!」


忍「すまぬの、戦人。お前の事は結構気に入っておったのじゃが、他のゲームの邪魔をするようなら、確かに不要じゃ」

忍「全ゲームが終わるまで、お前は大人しく別の空間におると良い」


戦人「ま、待てっ!! やめてくれっ!!」


ヱリカ「往生際が悪いですよお、戦人さん」ニヤリ

霧江「じゃあね。戦人君」パチンッ



フインッ……



戦人「っ!!」

ベアトリーチェ「ふっ」パチンッ


バリンッ!!!!


霧江「!?」

霧江「何をするのよ、ベアトリーチェ!!」


ベアトリーチェ「何を? 見てわからぬのか? そなたの 魔法をかきけしたのだ」

ベアトリーチェ「そして、戦人の追放処分は必要ない。この妾がそれを保証しようぞ」


ヱリカ「……何を勝手な事をほざいてるんですか? 戦人さんはゲームの邪魔をしたんですよ」

ヱリカ「そして、あなたはゲームマスターとはいえ、このゲーム全ての審判役でも主催者でもありません。そんな事を決める権利はないはずです!」


ベアトリーチェ「くくくくっ。それがあるのだなあ、ヱリカよ」ニヤリ

ヱリカ「……!?」

ベアトリーチェ「キスショット卿。つまりはこういう事であろう?」

ベアトリーチェ「戦人は、謎を変えなければロジックエラーを起こすと妾に忠告したがゆえに、今、ゲームの邪魔をしていると、そう判断されておるのだな?」

忍「……そうじゃな。まあ、そういう事になるのう」

ベアトリーチェ「ならば、妾が謎を変えなければ、それで良いのではないか? 全てが元通りに収まるのだからな」


ヱリカ「!?」

霧江「!?」

戦人「おい! 正気か!? ベアト!!」

戦人「ヱリカじゃないが、一日で骨折が治るやつなんか絶対にいない!! それは間違いないぜ!!」

戦人「そして、ヱリカは骨折以上の怪我を暦に負わせている!! それは不可能な謎だぞ!!」

戦人「言ったが最後、間違いなくロジックエラーを起こす!!」

戦人「やめろっ!! それは無理だ!! やめておけ!!」


ベアトリーチェ「くくっ。嬉しいなあ、戦人。そなたの心遣い、妾の心に響いてとても心地よいぞ」

ベアトリーチェ「だが、心配は無用だ。妾は黄金にして無限の魔女、ベアトリーチェ」

ベアトリーチェ「そして、暦は怪異の王たる吸血鬼だ」

ベアトリーチェ「ヱリカがどの様な悪戯をしようとも、妾の魔法と暦の怪異によって全て元通りにしてみせようぞ」


戦人「――だが!!」


ベアトリーチェ「まあ、妾に任せておけ、戦人」

ベアトリーチェ「不可能を可能にするのが、魔女であり、怪異なのだからなあ」

ヱリカ「あっはははははは!」

ヱリカ「出来ねぇんですよ! そんな事は絶対に!!」


ヱリカ「そりゃあ出来たら素晴らしいですよ!! 二人の絆も更に深まって万々歳!!」

ヱリカ「きゃー、素敵ー!! これが愛の結晶なのね!! ロマンチックだわー!!」


ヱリカ「あははははははっっ! 馬鹿みたいですねぇぇぇぇ!! 下らな過ぎて笑えますっ!!!」


ヱリカ「やれるもんなら、やってみせやがって下さいよぉぉぉぉぉぉ!!!」

ベアトリーチェ「」フッ

ベアトリーチェ「そなたに言われずとも、やってみせようではないか」


ベアトリーチェ「これが、怪異と魔法の力であるぞ。骨の髄まで思い知ると良かろう」パチンッ

【駿河の家】


駿河「ところで、阿良々木先輩」

暦「ん? 何だ?」

駿河「本題に入る前に、一つ聞いておきたいのだが――」

暦「……?」


駿河「阿良々木先輩には、昨日の傷はないのか?」

暦「ああ……その事か」

駿河「あまりに申し訳ない事なのだが、私は昨日の事については、あまり記憶が定かではないのだ。だが――」

駿河「ぼんやりとした記憶の中では、阿良々木先輩にずいぶんと酷い怪我を負わせた様な気がするのだ……しかし」チラッ

暦「……疑問はもっともだけど、とりあえずその事については、後で話すよ。こっちも色々と事情があったからな」

暦「ただ、まあ、僕は今、無傷だよ。かすり傷一つないし、体の中にダメージも残っていない。むしろ、何故か絶好調なぐらいで、今ならお前とバスケをしても張り合えそうな気がする程だ」

駿河「そうなのか……? それなら良いのだが……」


暦「まあ、信じる信じないは置いとくとして、とにかく今、僕の心配はいらない。そこは気にしなくていいから」

駿河「……そうか。私の尊敬するところの阿良々木先輩は、まるでゾンビの様に不死身でもあるのだな……。流石としか言いようがなくて、他にはまるで言葉にならないぞ」

暦「……僕としては、ゾンビ以外の別の言い方をして欲しかったけどな」

【???】


ベアトリーチェ「――以上だ。これは本来ないシーンだが、わざわざ追加しておいたぞ」


ヱリカ「馬鹿馬鹿しいですねぇっ!! こんなのは単なる幻想です!!」ダンッ!!

ヱリカ「これじゃあ、謎の証明なんかになってないんですよぉぉ!!」

ヱリカ「この世界で信じられるのは、唯一赤き真実のみ! それ以外は、一切信用出来ないんですからっ!!」

ヱリカ「こんな意味のない場面を作り出すよりも、とっとと赤き真実を出しやがってみて下さい!! 出したら信用してあげますから!!」

ヱリカ「出せるものならの話ですがねぇ!!」


ベアトリーチェ「くくっ。ならばリクエストに応えてやるぞ」




「暦はこの時、完全に無傷だ」



「原作とは違い、体内にも昨日のダメージは一切残っていない」



「これは誰かの変装でもなく、間違いなく暦本人である」


ヱリカ「!!?」

霧江「!!?」


ベアトリーチェ「くくくくくっ。どうした、どうした。揃って間抜けなツラを浮かべて」

ベアトリーチェ「最初から言ってるであろう? 暦は吸血鬼であり、傷の治りが常人の比ではない」

ベアトリーチェ「たかだか骨折など、一日の内に治ってしまうのだとな」

ベアトリーチェ「ついでに今回は妾の魔法を使って、体内に残るわずかなダメージまでも消しておいた。本来の化物語よりも更に完璧に無傷であるぞ」


ヱリカ「馬鹿な……! 馬鹿な……!! そんな事は!!」

ヱリカ「そんな事は絶対に、有り得ねぇんですよぉぉ!!!」


ベアトリーチェ「くくっ。有り得ぬも何も、赤で書かれた事は疑う余地なく正しい。これは絶対的なルールだ」

ベアトリーチェ「故に、この時、暦は完全に無傷であり、そして、これは誰かの変装でもない。暦本人だ。これは間違っておらぬ」


ベアトリーチェ「ついでだ。これも保証してやろうぞ」




「止まった時の中でヱリカの見たものは、全て実在している」



「実体のないものはヱリカの目には映らない」


ヱリカ「!!!」


ベアトリーチェ「つまり、ヱリカが傷を負わせたのは、暦本人で間違いない」

ベアトリーチェ「嘉音や紗音の様に、架空の、そこには実在しない幻想の中の人物ではなく、間違いなく実体を伴った本人である」


ヱリカ「こんな……! こんな事を赤き真実で言って……!!」

ヱリカ「それなら、ロジックエラーはどうなっているんですか!? キスショット卿!!」


忍「……ふむ。ならば、ゲーム盤を覗くぞ。構わぬな、ベアトリーチェ?」

ベアトリーチェ「ふふっ。お好きにされると良い」スッ

忍「」ジーッ


ヱリカ「どうなんですか!? いえ、聞くまでもなく、絶対にロジックエラーを起こしているはずなんです!!」

ヱリカ「さあ、とっとと答えやがって下さい!! キスショット卿!!」

忍「……では、宣言をするぞ」


ヱリカ「どうぞっ!! さあっ!!」

霧江「…………」


戦人「おい、ベアト……。大丈夫なのか……?」

ベアトリーチェ「くくっ。心配は無用ぞ、戦人。安心して見ているがよい」



忍「…………」コホン




「ゲームは破綻しておらぬ」



「ロジックエラーは起こしていない」





「ゲームは破綻しておらぬ」



「ロジックエラーは起こしていない」


ヱリカ「!!?」

霧江「……!?」


ベアトリーチェ「くくくくくっ。だから言ったであろうに。暦は吸血鬼ゆえ、無傷だと」


ベアトリーチェ「さあ、どうする、ヱリカ? お前が怪我を負わせたのは暦本人で、だが、翌日には完全に無傷になっているぞ」

ベアトリーチェ「そして、それは誰かの変装でもなければ、実体をもたない人間でもない。阿良々木暦本人だ」

ベアトリーチェ「答えよ。どうするのだ、ヱリカ。暦を吸血鬼だと認めて、その上で戦人に謝罪するか? さすれば妾も許してやるぞ」

ベアトリーチェ「きひははははははははっ!」



ヱリカ「……そんな訳が……! こんなはずが……!! おかしいですっ……!!!」

ヱリカ「そんな事、あるはずがないのにっっ……!!」


霧江「……どういう事なの、これは…………」



戦人「どうなってやがる…………? ベアトのやつ、一体、どんなトリックを…………?」

今回はここまで

忍「さて……」クルッ

忍「戦人、もう良かろう? 戻るぞ」

忍「これはベアトリーチェとヱリカのゲームじゃからな。介入はそこまでじゃ」


戦人「あ、ああ……。すまなかったな。邪魔して」


ベアトリーチェ「ふっ。別に妾は一向に構わぬのだがな。……しかし、まあ、仕方があるまい」

ベアトリーチェ「戦人、そなたの好意、嬉しかったぞ」フフッ

戦人「そうか。これで貸しを返せられたかな。それなら俺も嬉しいが」

ベアトリーチェ「無論だ。ありがとうな、戦人」

戦人「……ああ」ニコッ



ヱリカ「どうしてなんですか……。何でこんな事に……」ワナワナ


霧江「…………」

霧江(ベアトリーチェを出し抜いたつもりが、まさか反撃を食らうとはね……)

霧江(逆に厄介な事態になったわね、全く……)フゥ……


霧江(……それにしても、一体、どういうトリックを使ったというの、ベアトリーチェは)


霧江(骨折したのに、翌日には無傷。これはもちろん人間では有り得ない……)

霧江(そして、怪異や魔法なんてものも存在しない)

霧江(魔女である私自身が言うのもなんだけど、魔法なんてのは所詮思い込みの力。妄想をただ形に変えただけのものよ)

霧江(実際には存在しない。存在するように見えるのは、戦人君やキスショット、ベアトリーチェ、ヱリカ、そして私自身がそれを認めているからに過ぎない)

霧江(使うものと使われるもの、その両者が『ある』と認める事で初めて魔法は存在出来る。そうでなければ、魔法は絶対に存在しない)


霧江(例えるなら、魔法と手品はよく似ているわ。英語だと魔法も手品も同じで、『マジック』だしね)

霧江(それを魔法だと思う者には、確かに『魔法』だし、手品だと思う者には、『手品』なのよ。見え方と捉え方が違うだけ)


霧江(そして、私は今、この化物語――『怪異』を『手品』だと考えている)

霧江(だったら、何かしらのトリックがなければおかしいのよ。問題はそれが『何』なのか……)

霧江(…………)


霧江(…………)


霧江(もしかしたら、昨日と今日……その違いが…………)

霧江(……確か昨日は…………)


霧江(……!)ハッ


霧江(そうか……。そういう事ね、ベアトリーチェ!)

霧江(なんて単純な謎を使うのよ。おかげで完全に騙されたわ!)



戦人「……?」



忍「さて、行くぞ、二人とも」スタスタ

戦人「あ、ああ」トコトコ

霧江「…………」トコトコ

【??? 庭園】


ガチャッ


忍「」ピョン

戦人「」スタスタ

霧江「」スタスタ



シエスタ45「あ、お帰りなさいです! 霧江・ベルンカステル卿!」

シエスタ410「戦人卿を仕留め損なった事を謝罪しますにぃ。本気を出された戦人卿には攻撃が通用しませんから」


霧江「…………それは、もういいわ」


戦人「……そうだ! そういえば、ワルギリアは……!?」


シエスタ410「捕らえて魔界の牢獄に。もちろんまだ生きてますにぃ。殺せというご命令は出ていなかったので」

戦人「そうか。生きてるのか……。良かった……」

霧江「??ただし」

戦人「!」

霧江「このゲームからは彼女は離れててもらうわよ。次のゲームになったら解放するわ」

霧江「また妙な真似をされても困るからね。いわば彼女は人質としてこちらで預かるわ。……悪く思わないでね」

戦人「……っ。……わかった」

戦人「ところで、霧江さん」

霧江「……何かしら?」

戦人「ベアトのあの謎……。何かわかったのか? さっきそんな感じの顔をしていたけどよ」

霧江「ああ……見ていたのね」

戦人「ああ。何か掴んだような顔をしていたからさ」

霧江「…………」

霧江「……そうね。あの謎は解けたわ」

戦人「本当か!?」

霧江「ええ。ほぼ間違いなくね」

霧江「気付けば単純なトリックよ。いわばこれは心理的なトリックね」

戦人「心理的……?」

霧江「まず、状況を整理するわよ」

霧江「昨日の時点で、暦は怪我を負った。これは間違いない事実よ。赤字でも示されているし、ヱリカちゃん自身が怪我を負わせているのだから」

戦人「ああ、それはわかる」


霧江「で、今日の時点で暦は無傷よね。これも間違いないわ。赤き真実を使われているから動かしようがない」

霧江「そして、時間軸は化物語とほぼ変わらないのも確定。これは>>310で既に赤字で証明されているから。つまり、昨日の事は昨日。今日の事は今日よ。これは時間が止まっていても一緒ね」


戦人「ああ、だからこそ訳がわからなくなっているんだ。どうしたらこんな状況が起こるのかが。骨折以上の怪我が一日で治る訳がないからな」


霧江「そう。そこが今回のポイントよ。『骨折以上の怪我が一日で治る訳がない』というのが」

霧江「これは絶対に動かしてはならない点よ。ここを否定したら、怪異の存在を認めてしまう事になるのだから」


戦人「ああ、それもわかるんだが……」

霧江「それなら後の話は簡単よ。頭で考えるとややこしくなるだけ。図にすれば単純になるわ」

戦人「図?」

霧江「そう。こんな風にね」

「昨日」

暦が『???』に怪我を負わされる

その後、止まった時間の中で、ヱリカに手足を潰される

ひたぎと出会って会話


『この時、暦は実在していて、実体を持っている』
『暦はヱリカに手足を潰されている』



「今日」

無傷の暦が駿河家を訪れる

駿河と会話


『この時、暦は完全に無傷』
『原作と違い体内にもダメージは残っていない』
『誰かの変装でもなく、暦本人』

霧江「これを見てわかる? 昨日と今日で決定的な違いがある事が」

戦人「……いや。どういう事だ、霧江さん」


霧江「さっきも言った通り、『骨折以上の怪我が一日で治る訳がない』のよ。つまり、昨日怪我を負わせたなら、『暦は無傷のはずがない』のよね」

霧江「だからこそ、この駿河モンキーの難易度はやっぱりDなのよ。この大前提があるから、難しくなりようがない」

霧江「例えば、人体切断マジックだってそうでしょう? 身体をチェーンソーで真っ二つにされて無傷な人間なんかいないわ」

霧江「必ずそこにはトリックがある、と簡単にわかってしまう。箱に仕掛けがあるとか、布やベッドに仕掛けがあるとかね」

霧江「今回の場合もそう。『昨日、暦が大怪我を負った』と、『翌日、暦が完全に無傷』という、この二つの真実が矛盾している」

霧江「だからこそ、突き詰めて考えていくと、必ずもう一つの新たな真実にたどり着くのよ」


戦人「……もう一つの真実?」

霧江「そう。骨折以上の怪我が一日で治る訳がないのなら、もうこれは確定事項よ」

霧江「翌日、それで無傷な人間なんかいるはずがない」


霧江「つまり――」


霧江「昨日の暦と、今日の暦は、絶対に『別人』なの」

戦人「!?」

戦人「だけど、霧江さん! 暦は別人じゃないとベアトは>>554で宣言しているんだぜ。それは無理だろ」

霧江「そう。そう思わせる事こそが今回のトリックよ。図を見てもわかる通り、確かに今日の時点で暦は本人。ここは動かない」

霧江「それなら答えはたった一つしか残ってないでしょう?」


霧江「昨日の暦が『別人』なのよ」

霧江「昨日の暦は、『誰かが変装した別の暦』。それしか考えられない」


戦人「……!?」

霧江「つまり、こういう事よ」


霧江「ヱリカちゃんが怪我を負わせたのは『変装した別の誰か』で暦本人じゃない」

霧江「昨日の時点で、暦が入れ替わっていて、怪我をしたのは『偽物の暦』の方よ」

霧江「それなら、今日の時点で『本物の暦』は完全に無傷よ。ダメージなんかあるはずがないわ」


霧江「さっきの図で示すと、こうね」

本物の暦       → 暦Aとする
誰かが変装した別の暦 → 暦Bとする



「昨日」

暦Bが『???』に怪我を負わされる

その後、止まった時間の中で、ヱリカに手足を潰される

ひたぎと出会って会話


『この時、暦Bは実在していて、実体を持っている』
『暦Bはヱリカに手足を潰されている』



「今日」

無傷の暦Aが駿河家を訪れる

駿河と会話


『この時、暦Aは完全に無傷』
『原作と違い体内にもダメージは残っていない』
『誰かの変装でもなく、暦本人』

戦人「ああ、そういう事か!」


霧江「そう。入れ替わっているとしたなら後からに決まっていると思い込むのを利用した、これは心理的トリックよ」

霧江「ついでに言うなら、変装してないと赤字で使う為のやり方でもあるわね。これなら、どこにも矛盾する事なく、暦は変装してないと赤字で使えるわ」

霧江「今日の時点で、暦が変装した別人ではないと言われたら、最初の暦が別人だとはそうは思わないものだもの」

戦人「しかし、こうしてタネを明かされるとやけに簡単に見えるもんだな……。でもそれが俺には思い付かなかった……」


霧江「これは想像力というよりは、状況整理能力の方が重要だからでしょうね。そういう事は、戦人君よりも私の方が向いているわ」

霧江「想像力は戦人君の方が多分上だけど、今回のトリックには向いていなかったっていうそれだけの事よ。謎自体は独創的な発想がいる訳でもないから、それほど難しいものじゃないし」


霧江「多分、ヱリカちゃんも落ち着きさえすれば、この事に気付くとは思うけど……」チラッ

【???】


ヱリカ「そうか! そういう事ですね! 危うく騙されるところでした!!」

ヱリカ「つまり、昨日の時点で暦さんは別人です! 私が怪我をさせたのは別人の暦さんの方!!」

ヱリカ「そして、今日そこにいるのは本物の暦さんです! 間違いありません!!」


ベアトリーチェ「ほう……」

ベアトリーチェ「くくっ。ならば、昨日のあの可哀想な暦は誰だというのだ? しかも、それを見ておるのは恋人のひたぎだぞ。どんなに変装が上手かろうと、恋人が騙されるものか?」

ベアトリーチェ「いくらなんでもそれはないんじゃないのかあ、ヱリカよ? くくくくっ」


ヱリカ「」フッ

ヱリカ「ええ、そう言ってくる事ぐらい予測していましたとも。でも――」

ヱリカ「それでも、問題は一切ないんですよ!」ビシッ


ベアトリーチェ「む……」

ヱリカ「」クルッ

ヱリカ「ドラノール、来て下さい。出番です」


ドラノール「」トコトコ

ドラノール「なんデスカ、ミス・ヱリカ」


ヱリカ「化物語における変装に関する赤鍵を今から打ち込みます。派手にやっちゃって下さい」


ドラノール「わかりマシタ。了解デス」スッ




「化物語内において、変装は誰でも出来るし、誰にでもなれマス」



「この変装が化物語内で見破られる事はありまセン」



「ただし、明らかに体格の違う人物への変装は不可能デス」



「また、言葉を発している場合は、男から女へ、女から男への変装は不可能デス」


ドラノール「」ジャキッ

ドラノール「以上、変装に関する四つのルールデス」

ドラノール「これは一切、破られる事はありまセン」



ヱリカ「――と、いう事です」

ヱリカ「現実には、変装なんてすぐに見破られてしまうものですが、ミステリー内においては、何かのきっかけや手掛かりがない限りは、絶対にバレないのが条件ですから」

ヱリカ「私が読んだミステリーの中には、一年以上も女装で通して誰にもバレなかった男性もいましたぐらいですし」

ヱリカ「確かに、いくらなんでもそれは非現実的ですが、ミステリーの中ではこれがスタンダードなんです。すぐにバレる変装なんて、ミステリーじゃありません」

ヱリカ「だから――」

ヱリカ「暦さんへの変装は可能なんです!」


ヱリカ「そして、昨日の時点でひたぎさんと偽物の暦さんは会話をしているので、誰かも既に判別しています」

ヱリカ「会話をしている場合、男女間の変装は不可能ですから、これはもう消去法で忍野さんしかいません!」ビシッ


ヱリカ「変装に関する細かい事で、まだ言いたい事があると言うなら、猫箱を次の様に再構築すれば一気に全部解決します!」

『傷物語の後 化物語の前』


メメ「ところで……阿良々木くん。一つ頼みがあるんだけどいいかい?」

暦「ん? 何だ?」

メメ「僕はちょいと訳ありでね。出来れば本名を名乗りたくないんだよ」

暦「本名を?」

メメ「そう。だから、万が一の事だけど、もしも怪異絡みで僕の事を人に言う時は、別の名前を使ってくれるかい?」

メメ「僕はしばらくこの街にいるつもりだから、そんな事態もひょっとしたらあるかもしれないしね」


暦「……それは別に構わないが、僕はなんて呼べばいいんだ?」

メメ「そうだね……。まあ、これも何かの縁だ。きみと同じ名前でいいよ。忍野『メメ』でなく、忍野『暦』。そう呼ぶようにしてくれ」

暦「僕と同じ名前か……。適当すぎやしないか?」

メメ「そんな事はないさ。これなら阿良々木くんも忘れる事はないだろうっていう、僕からの気遣いだよ」

暦「…………」


メメ「それに、万が一の事だからね。そんな事態もそうそうあるとは思えないしさ」

メメ「とにかく、そういう事で頼んだよ、阿良々木くん」

暦「……ん。わかったよ。忍野暦だな。他の人の前ではそう呼ぶ事にするよ」

『ひたぎクラブ初期 学習塾跡』


メメ「なんだい、阿良々木君。今日はまた違う女の子を連れているんだね。きみは会うたんびに違う女の子を連れているんだなあ――全くご同慶の至りだよ」

暦「やめろ、人をそんな安いキャラ設定にするな」

メメ「ふうん……」


メメ「初めまして、お嬢ちゃん。忍野『暦』です」

ひたぎ「初めまして――戦場ヶ原ひたぎです」


ひたぎ「暦って……同じ名前なのね」

暦「ああ、うん。珍しい名前だとは思うけど、たまたま同じなんだ。あまり気にしないでくれ」

メメ「そういう事。それに、偶然っていうものは重なる時には重なるもんさ。そんなに珍しい事じゃないよ」

ひたぎ「……ふうん」

【???】


ヱリカ「どうですか?」

ヱリカ「最初に忍野さんが『暦』だと偽名を使う。これだけで、ひたぎさんの中では、忍野さんは『暦』へと変わるんです」


ヱリカ「前に霧江さんが例えで出していた、リンゴとアップルと同じ理屈ですね」

ヱリカ「『リンゴ』が、『リンゴ』でもあり『アップル』でもあるように、『忍野メメ』は、『メメ』でもあり『暦』でもある事になるんです」


ヱリカ「その場に、『本物の暦さんがいない』、『ひたぎさんがいる』、『忍野さんの本名を知らない人物しかいない』という三つの条件を満たした場合に限って、忍野さんは『偽物の暦』にいつでも変装する事が出来る様になります」


ヱリカ「つまり、『???』が忍野さんの本名を知らない人物であれば、この時、変装の条件は整うんです」

ヱリカ「図で示すと、こうですね」

メメ → 偽名で『暦』だとひたぎに名乗る


「昨日」

メメが『???』に怪我を負わされる(この時、『???』はメメの本名を知らない)

その後、止まった時間の中で、ヱリカに手足を潰される

ひたぎと出会って会話

この時、ひたぎはメメの名前を暦だと認識しているので、出会ったのは暦となる


『この時、メメ(偽物の暦)は実在していて、実体を持っている』
『メメはヱリカに手足を潰され、大怪我を負っている』



「今日」

暦が駿河家を訪れる

駿河と会話


『この時、暦は完全に無傷』
『原作と違い体内にもダメージは残っていない』
『誰かの変装でもなく、暦本人』

ヱリカ「そして、これは普通の変装ではなく、心理的な変装なので、誰にも見破られません。見破られる訳がありませんから」

ヱリカ「後はそれを幻想描写で補うだけです。まるで本物の暦さんがそこにいる様に」


ヱリカ「さあ、いきますよ! この青き真実で、この謎は決着です!!」ビシッ




「ひたぎクラブで、忍野さんは自分の名前を『暦』だとひたぎに名乗った」



「これにより、ひたぎさんは忍野さんの事を『暦』だと認識している」



「そして、昨日、ひたぎさんが道路で出会ったのは『忍野暦』の方で、『阿良々木暦』ではない」



「つまり、怪我をしたのは忍野さんの方で、暦さんは怪我なんか初めから負っていない!」


ベアトリーチェ「っ……!」ドスッ!!



ヱリカ「」フッ

ヱリカ「決まりましたね。声を上げなかったのは流石ですが、その肩に刺さった青鍵は抜けませんよ」

ヱリカ「さあ、赤き真実で切り返せるものなら切り返してみて下さい!」


ベアトリーチェ「……っ」

ベアトリーチェ「……ふっ」

ベアトリーチェ「くくっ……。良かろう、この盤面、妾の負けを認めようぞ。リザインする」


ヱリカ「あはははっ! ざまあないですねえ! 私の勝ちですか!! あははははははっ!」


ベアトリーチェ「」フッ

ベアトリーチェ「違うな、ヱリカよ。妾は楽しみは後に取っておく主義だという事だ」

ベアトリーチェ「くくくくっ。この後、どうなるか。今の内に安い勝ちを拾って楽しんでおくがよい」

ベアトリーチェ「後で、天国から地獄へ突き落とすのは快感だからなあ。その時のそなたの顔が楽しみであるぞ」ニヤリ


ヱリカ「……馬鹿馬鹿しい。負け犬の遠吠えです」

ヱリカ「さっきは私とした事が取り乱しましたが、もうそんな事はありません。覚悟するのは、ベアトリーチェさん」ビシッ

ヱリカ「あなたの方ですよ? ふふふっ」


ベアトリーチェ「……ふっ。良かろう、ならば第二の謎へ移ろうぞ」

今回はここまで

>>591
まさか、成実先生のことか?

うみねこノータッチだが、面白いなコレ
良ければ誰か教えて頂きたいんだが、心理的変装説の理屈って
先のシーンでひたぎが「阿良々木くん」を観測して会話してた下りは悉く幻想描写で、
「メメ(負傷)」をひたぎが「暦(負傷)」と認識さえできれば、「暦が怪我をした」って赤き真実に抵触しない
って認識でいい…のか?
例えば、「ひたぎが認識した暦」を、「メメにとっての、忍野暦としての自分」って主観に変えても成立するのかな
にわか は こんらんしている!

>>604
Yes

>>609
今回分で疑問には解答
うみねことは違う点もあると思うので、他の疑問については、多分その内本編で出します
多分

ベアトリーチェ「第二の謎は。当然『猿の手』だ」

ベアトリーチェ「人の手が、突然、猿の手に変わる訳がない。これは怪異だからこそのもの」


ベアトリーチェ「まあ、厳密に言えば猿の手ではないのだが、そなたは既に化物語を知っておる事だし、詳しい話は省こうぞ」

ベアトリーチェ「前の場面へと話を戻すぞ」

【駿河の家】


駿河「――いや、その話をするよりも先に、見ておいてもらいたいものがあるのだった」

駿河「そのために、わざわざ阿良々木先輩に、貴重なお時間を割いていただき、私の家にまでご足労願ったのだからな」


暦「見ておいてもらいたいもの?」

暦「ああ、なるほど。それが家にあったから、学校とかじゃ、話、駄目だったのか」


駿河「いや、そうじゃなく、学校では目立つというか、人目をはばかるというか……」

駿河「出来れば、他の人には見られたくなかったからな」

駿河「」スッ……


暦(……左手の……包帯?)


駿河「正直に言って、あまり人に見られたくないものなのだ。これでも私は女の子だからな」

駿河「」クルクル、パサッ……


駿河「まあ、こういう事なのだが」

暦「……!?」


暦「猿の手……みたいだ」

【???】


ベアトリーチェ「以上だ」

ベアトリーチェ「これ以上の描写は長々とするだけで不要であるからな」


ヱリカ「……そうですか。少し短い気もしますが、まあ、いいでしょう。私は元々描写なんか大して気にはしてませんし」

ヱリカ「後から幻想でどうにでも変わる描写なんて、特に当てになりませんから」


ベアトリーチェ「ふっ。その慢心が命取りにならなければ良いがな」

ベアトリーチェ「――が、これは妾がわざわざ気遣う必要もない事か。ならば、早速赤字を使っていくぞ」


ヱリカ「ええ、どうぞ。お好きなように」




「この時、暦にはそれが猿の手の様に見えた」



「この時、駿河にもそれが猿の手の様に見えた」


ベアトリーチェ「これだけだ」


ヱリカ「……はあ?」

ヱリカ「なんですか、それは。猿の手なら猿の手だと言い切ったらどうですか」

ヱリカ「〇〇の様に見えた、というだけなら、別にそれが本物でなくてもいいという事です」

ヱリカ「つまり、『猿の手に似せて作った手袋』でも十分通ります」

ヱリカ「そんなもの、映画の小道具として、通販やネットオークションで手に入るじゃないですか。ですので、これでは謎と呼べません。赤き真実のやり直しを求めます!」ビシッ


ベアトリーチェ「くくっ。確かにそうなのだがな」

ベアトリーチェ「しかし、そうもいかない事情というのがこちらにもあるのだ」


ヱリカ「事情?」

ベアトリーチェ「前にも少し触れたが、厳密にはそれは『猿の手』ではない」

ベアトリーチェ「『レイニーデビル』によって変化させられた全く別のものだ」

ベアトリーチェ「故に、妾は『それ』を『猿の手』とは、赤字では使えぬ」

ベアトリーチェ「あくまで、『猿の手の様に見えた』としか、赤字では使えぬのだ。この理屈がわかるか?」


ヱリカ「馬鹿馬鹿しいですね。屁理屈もいいとこです」

ヱリカ「それなら、もう『猿の手に似せて作られた小道具』としか私からは言えません。これでこの謎は決着です。実に面白味がありませんが」


ヱリカ「全く。なんなんでしょうかね、この謎は。拍子抜けしました。あれだけ自信満々に振る舞っておきながら」

ヱリカ「これなら、『駿河さんのスパッツの下はノーパンかそうでないか』 の謎の方がよっぽどか良かったんじゃないですか?」ヤレヤレ


ベアトリーチェ「くくっ。言ってくれるなあ、ヱリカ」

ベアトリーチェ「だが、生憎、妾はこれ以上の赤字が使えぬのは確かだ。それだけはどうしようもない」

ベアトリーチェ「あえて言うなら、今、他に使えるのはこれぐらいだな」




「この時、駿河はノーパンではない」



「下着をきちんと身に付けている」


ヱリカ「……素晴らしくどうでもいい赤字ですね」


ベアトリーチェ「そうかあ? これはこれで重要な事だぞ。駿河がスポーツ少女なのか露出狂なのかの分水嶺なのだからな」

ベアトリーチェ「この謎を知りたいと思っていた人間は多いはずだぞ」

ベアトリーチェ「故に、妾がここで断言してやろう。駿河はスポーツ少女だ。露出狂ではない」


ヱリカ「大真面目にそんな事を言われても困るんですが……」


ベアトリーチェ「くくっ。重要な事なんだがなあ。だが、まあ、良かろう」

ベアトリーチェ「この盤面も、妾はリザインするぞ。元より勝ち目のない謎だからな、これは」

ベアトリーチェ「それに、最後の謎だけで十分であるからな。くくくくっ」




ヱリカ「……あっさりしすぎてて、逆に不気味ですね」

ヱリカ「何か考えでもあるんでしょうか……?」

ベアトリーチェ「という事で、ヱリカよ」

ヱリカ「……何ですか?」

ベアトリーチェ「ここの場面、時を止めてそなたに見せる事が可能だが、さて、どうする?」

ベアトリーチェ「妾は既に負けを認めているからな。見る事にそれほど意味があるとは思えんが」


ヱリカ「それは、もちろん見ますとも」

ヱリカ「この後、何かしらの罠が張ってある可能性もありますし、それに元々私は完璧主義者ですので」

ヱリカ「止めるタイミングはここで結構です。そこの時間に移動させて下さい」

ベアトリーチェ「」フッ

ベアトリーチェ「まあ、そなたがどうしてもそう言うのなら構わぬぞ。意味があるとは思えぬが、送り届けよう」

ベアトリーチェ「ついでだ。今回は駿河の左手にのみ触る事も許可しようぞ。ただし――」


ベアトリーチェ「前回の様に、人に危害を加えたり、物を破壊する事は許さぬ。良いな?」


ヱリカ「……わかりました」


ベアトリーチェ「では、送り届けるぞ。時間は前と変わらず10分間だ」パチンッ

【駿河の家】


フインッ


ヱリカ「」スタッ


ヱリカ「さてと……」キョロキョロ



暦「」

駿河「」



ヱリカ「まず、この二人はいますね。私の目にも見えます」

ヱリカ「という事は、確実にこの場に存在しているという事です。>>556で宣言されている通り、実体があるという事ですから」

ヱリカ「そして、暦さんはもう本人で確定しています。だから、これは確かに『阿良々木暦』さんですね」


ヱリカ「……まだ駿河さんについては、一応、変装の可能性も残っていますが、ただ、ここは駿河さんの家ですし、特に変装する理由がある訳でもないので、まず本人で間違いないでしょう」

ヱリカ「となると、後は『猿の手』を確かめるだけですが……」

ヱリカ「」スッ


駿河「」


ピトッ、サワサワ


ヱリカ「触れますね……。そして、毛むくじゃらなのも確かです」

ヱリカ「人間の手でないのは、間違いなさそうですけど……」


ヱリカ「特撮映画で使うような、怪獣の手の部分だとか、そんな物の様な気も十分しますね」


ヱリカ「確か原作では、暦さんはこれに触った時、生きている、とかそんな事を言っていましたが、私にはそんな感じはまるでしませんし」

ヱリカ「まあ、止まった時の中なので、弾力とかも消えているとか言われたら、それはそれで納得せざるを得ないでしょうが……」


グニュッ、ザラッ……


ヱリカ「――そうは言っても、この感触は流石に無理がありますか」


ヱリカ「そうですね。99%、これは『偽物』です」

ヱリカ「確認する手段がないという理由から、最後の1%が埋まらないだけで、ほぼ間違いなく『猿の手に似せて作られた手袋』です。それ以外考えられません」


ヱリカ「まったく、本当につまらない謎です。呆気なさすぎですね」

ヱリカ「まあ、難易度Dならこんなものかもしれませんが」ヤレヤレ

【??? 庭園】


霧江「……ヱリカちゃん、どうやら問題無さそうね」

霧江「かなり動揺していたから少し心配だったけれど、これなら安心出来るわ。元々、頭の良い子だし」

霧江「これで、残すは第三の謎だけね」


霧江「最後の謎については、ベアトリーチェはかなり自信があるみたいだけど……」

霧江「でも、それさえ乗りきればこれでこちら側の完全勝利が決まるわ。いい調子だと思っていいんじゃないかしら」

戦人「…………」


霧江「……ずいぶんと浮かない顔ね、戦人君。ベアトリーチェが負けそうで、今、複雑な気分というところかしら?」

戦人「ああ、まあ、それもあるんだが……。だけど、それ以上に気になる事が一つあるんだ」


戦人「霧江さん。ベアトのやつ、謎を二つも落としているというのに、あまりに余裕がありすぎないか?」

霧江「……?」

霧江「言ってる事がよくわからないわね。それのどこが、問題があるっていうの?」

戦人「いや、問題はないんだ。ただ……」


戦人「俺とあいつはかなり長い事やりあったからわかるんだ」


戦人「あいつに余裕がある時は、大体ろくな事がない。まずどこかに逆転の手を隠し持っている。そんな気がしてならないんだ」


霧江「……逆転の手?」

霧江「でも、戦人君。ここからの逆転はまず不可能よ」

霧江「第一の謎は完全に解けているし、第二の謎は逆転しようがないほど、単純なものよ。これはもう、どうしようもないわ」

霧江「だから別に問題はないと思うけど……」


クスクス

「本当にそう思っているの、霧江? だったらずいぶんお気楽ね。それでも本当にベルンを倒した魔女?」


霧江「!?」

霧江「誰!? どこにいるの!?」


クスクス

「そういえば、あんたとは初対面だったっけ? まあいいわ。姿を見せてあげる」


ボンッ


ラムダデルダ「」ストッ

ラムダデルタ「久しぶりね、戦人。元気だった?」


戦人「ラムダ……!? お前も来てたのか?」

ラムダデルタ「違う違う。来てたんじゃなくて、ついさっき来たとこよ」

ラムダデルタ「ほら、前のゲームでベルンが倒されたじゃない? だから、どこのどいつがそんな事をしたのかと思って、急いで飛んできたのよ」

ラムダデルタ「そしたら、まさか霧江だったとはね。ベルンも可哀想よね。よっぽど謎が悪かったに違いないもの」

ラムダデルタ「でなきゃ、奇跡の魔女のあの子が負けるはずないし。不運中の不運を引いちゃったって感じよね。あーあ、ホント残念」

ラムダデルタ「私が今度こそ倒してあげようと思ってたのにさあ」プンッ


忍「ラムダデルタか……。相変わらずツンデレじゃのう。我が主様の付き合っておるおなごとはツンデレの系統がまるで違うようじゃが……」

忍「正統派とヤンデレ派の違いかの? ふむ……」

ラムダデルタ「あっ、お久しぶりです、キスショット卿。あんまり覚えてないけど、百年ぶりぐらいでしたっけ?」

ラムダデルタ「なんか、ちょっと見ない間にすっかり若返っちゃいましたねえ。あ、それとも今はそういうのが流行りなの?」

ラムダデルタ「なら、私もそんな感じにしようかなあ。 魔法使えば一瞬でイメチェンできるし。戦人、どう思う?」


霧江「……まあ、ツンデレは多少時代遅れの気はするけどね」

戦人「とはいえ、ラムダ。今から幼女に変わるのもどうかと思うぜ……」


ラムダデルタ「え? え??」


忍「……一応言っておくがの」

忍「儂とて、好きでこうなった訳ではないぞ、ラムダ」


ラムダデルタ「あれー……??」

戦人「とにかく、それはいいとして――」

戦人「また見学していくのか、ラムダ? お前には前の時、結構世話になったからな。それは嬉しいが」


ラムダデルタ「ああ、うん、そうそう。もちろん見学していくから」

ラムダデルタ「で、さっき、今どんな感じかなって思ってちらっとベアトのゲーム盤も覗いて来たんだけどね」

ラムダデルタ「流石よね、あの子。しっかり切り札隠し持ってるじゃない? そこらへんは相変わらず抜け目ないわよね」

ラムダデルタ「それに、今回はなかなかタチの悪いトリックを使ってるみたい。難しさというより、卑怯さが前より増してる感じ」


戦人「……卑怯さが?」

霧江「……前回の時だってよっぽど卑怯だったじゃないの」ボソッ

ラムダデルタ「ああ、ちょっと喋りすぎちゃったかな。ま、それはいいや。気にしないで。私は本当に見学していくだけだし」


ラムダデルタ「ただし――」


ラムダデルタ「霧江。ベルンを倒したあんただけは別よ。この謎をプレゼントしてあげるから」ニヤッ


ラムダデルタ「奇跡の魔女の名を継ぐっていうのなら、こんな謎ぐらい簡単に解けて当然よね。ちょっとした小手調べよ」


ラムダデルタ「するがモンキー、第一の謎。あの推理は間違っているって、絶対の魔女であるこの私が教えてあげる。この赤字でね」


霧江「……!?」




「赤き真実は『絶対に』真実よ。これは変装していようとも変わらないわ」



「だから、例えそれがどんなに完璧な変装であっても、赤き真実の中では、暦に変装したメメは『メメ』として表記されるわ。これは絶対」



「つまり、ベアトが出した>>473の赤き真実はそのままの意味よ。あの時点で、怪我をしていたのは確かに『阿良々木暦』本人だから」



「そして、忘れているようだけど、キスショット卿の出した赤字、>>151も有効よ。その場に描写のない人物は確かにそこにいないわ」


霧江「!?」
戦人「!?」


ラムダデルタ「」クスクス

ラムダデルタ「さあ、どう? それでも、この第一の謎が解ける? 霧江」


ラムダデルタ「あの時、怪我を負わされたのは阿良々木暦本人で、メメはその場にいないわよ」

ラムダデルタ「変装? 偽名? そんな的外れの推理を言われても、笑っちゃうだけよ。大間違い」アハハッ

ラムダデルタ「ベアトは今、赤字を使わずにただヱリカと遊んでいるだけなんだから。あの子の手のひらの上であんたたちニンゲン側は踊らされてるだけなのよ」

ラムダデルタ「あははははっ。おっかしい」ケタケタ


戦人「なっ……!」

霧江「……あの推理が間違っているっていうの!?」

今回はここまで

ラムダデルタ「そう。第一の謎のあんたの推理は間違いよ」

ラムダデルタ「メメは暦に変装なんかしていないし、ひたぎに偽名も名乗ってなんかいないわ」

ラムダデルタ「あの時、手足を潰されたのは暦本人で、そして翌日には無傷で駿河の家に来たのよ」

ラムダデルタ「これは六つの赤き真実がそれを証明しているわ。抜け穴なんかどこにもないわよ」


ラムダデルタ「さあ、青き真実で証明してみせなさい。手足を潰された暦が、翌日には無傷になっている方法をね!」


霧江「っ……」

戦人「なんだよ、それは……! そんなの出来るわけねーだろ!」

戦人「一体、どうなってやがる……!? どうやったら、この謎が解けるんだ……!?」


ラムダデルタ「あはははははっ。ムリムリ。怪異以外で答えなんか出せるはずないんだから」

ラムダデルタ「更にこれはオマケよ。ダメ押しってやつね」




「ヱリカが止まった時の中で暦に怪我を負わせたのは、間違いなく昨日の事よ」



「具体的に言うなら、>>438>>439の間の出来事だから」



「そして、>>310で証明してある通り、時間や日付は化物語内とほぼ同一よ。これは時を止めていても一緒。変わらないわ」



「それと、もちろん暦の手足は義手でも義足でもないわよ。生身だから」


ラムダデルタ「これで、時間軸が違う説、義手義足説も赤字で完全否定ね」

ラムダデルタ「ほら、霧江。答えてみなさいよ。ベルンならこんな謎ぐらい、簡単に解いちゃうわよ」

ラムダデルタ「世界のカケラを幾つも使って、さも当たり前の様にね」


霧江「っ……」


ラムダデルタ「あんたはそれがやりたくても出来ない。奇跡の魔女だなんて、それでよくベルンの後継者を名乗れるわね」

ラムダデルタ「今すぐ名乗るのをやめたら? 所詮、あんたごときにベルンの名は継げないわよ」

ラムダデルタ「そこの庭園で草むしりでもしている方が、あんたにはよっぽどお似合いよ。あははっ」ケタケタ


霧江「ぐっ……!!」

戦人「落ち着け、霧江さん! ラムダは挑発してるだけだ!」

戦人「落ち着いて考えれば、霧江さんなら絶対に謎は解ける! だから――」

ラムダデルタ「あはははははっ。無駄だってば、戦人」ケタケタ

ラムダデルタ「その色ボケ女にはムリよ。解けるはずないんだもん」

ラムダデルタ「昨日の暦と、今日の暦は別人以外考えられない、とかぬかしてる時点で完全にアウトよ。そこから離れない限り、この謎は解けないんだから」アハハハッ


霧江「でも……それ以外にはあり得ないのよ、この謎は!」

霧江「なのに、どうして……!? やっぱり別人じゃないというの……!?」


ラムダデルタ「だから、そうだってさっきから言ってるのに」

ラムダデルタ「頭が固すぎよ、霧江」ケタケタ


霧江「ぐっ……」










   

【1998年 高層ビルの屋上】


右代宮縁寿「結局……辿る道は同じだったのかしらね」

縁寿「六軒島の謎が解けようが解けまいが、私には意味のない事だったのかもしれない……」

縁寿「そう……。本当のところ、私は別に『真実』が欲しい訳じゃなかった……」


縁寿「欲しかったのは『時間』……」


縁寿「家族で仲良く過ごす、そんな時間……」

縁寿「お母さん、お父さん、そしてお兄ちゃんと皆で笑いあって過ごせる時間が欲しかった……」

縁寿「『真実』なんか……本当はどうだって良かったのかも……」

縁寿「どうだって…………」

「」フフッ……


縁寿「!?」

縁寿「誰!?」


「誰? ずいぶんな言い草ね。恩人に対して」

「幻想とはいえ、あなたを兄に会わせてあげて、一時だけでも心休まる時間をあげたじゃない」


縁寿「あなたは……ベルンカステル!」


ベルンカステル「」フフッ

ベルンカステル「そうよ。久しぶりね、縁寿」

ベルンカステル「その様子だと、元気にはしていなかったみたいだけど」フフッ


縁寿「……っ!」

縁寿「聞いていたのね……? さっきの事」

ベルンカステル「違うわ。聞こえてきたのよ。一人言を呟いていたものだからね」

縁寿「……魔女というのは本当に嘘つきね。信用出来なくて当然よ」

ベルンカステル「嘘ではないわよ。捉え方が違うというだけでね」フフッ


縁寿「…………」

ベルンカステル「それで、縁寿。あなたはこれから一体どうするつもりなの?」

ベルンカステル「六軒島の謎はもう終わったのよ。あれに続きはないわ」


縁寿「……わかっているわ。でも……」ボソッ

縁寿「私には……どうしても……。受け入れられない」ボソッ


ベルンカステル「そうね。別の世界のカケラだと、あんたは作家になって過去を振り切って生きていく事になる。――だけど、この世界のカケラの中のあんたは、それが出来ない」

ベルンカステル「過去にしがみついたまま。ずっと前へと進めない。ありもしない、ありえもしない、家族の温もりに一生飢えて生きていく事になるわ」


ベルンカステル「あるいは、ここから飛び降りてその幕を下ろしてみる?」

ベルンカステル「それもまた一つの物語であり、一つの終わり方よ。私は止めはしないわ」フフッ


縁寿「…………」

縁寿「……前に少しだけお兄ちゃんから」ボソッ

ベルンカステル「……?」

縁寿「少しだけお兄ちゃんから聞いた事があるわ。ベルンカステル」

縁寿「……あなたは奇跡の魔女なのよね」


ベルンカステル「そうよ。可能性が『ゼロでない限りは』必ず成就させる程度の力を持っているわ」

ベルンカステル「もっとも、あんたの真の願い。家族揃って幸せに、は無理よ。前にラムダが赤き真実で伝えた通り、六軒島の謎を解こうが解くまいが、死んだ人間は生き返らないもの」

ベルンカステル「それが現実というものよ。残酷な事にもね」


縁寿「…………」

ベルンカステル「ただし――」


縁寿「……!?」


ベルンカステル「この世界ではなく、別の世界ならそれも可能だけど」


縁寿「別の……世界……?」


ベルンカステル「そうよ。ここではない、世界のカケラでもない、完全にこことは全く違う別の世界」

ベルンカステル「そこなら、あなた達家族は揃って過ごせるでしょうね。今、戦人と霧江がそこにいる訳だし」


縁寿「お兄ちゃんと、お母さんが?」

ベルンカステル「ええ。そうよ」

ベルンカステル「二人は今、化物語の世界の中にいるから」

縁寿「化物語……?」


ベルンカステル「『魔法』の代わりに『怪異』が出てくる世界よ。もっとも、どちらも似たようなものだけど」

ベルンカステル「『いる』と思えば『いる』し、『いない』と思えば『いない』。そんな世界よ。魔法とよく似ているでしょ?」


縁寿「…………」

ベルンカステル「どう? 縁寿。そこにあなたも来ない? もし、あなたがそれを望むなら、あなた達家族をその世界で過ごせるようにしてあげるわよ」

ベルンカステル「事のついでに、留弗夫だって呼んであげるわ。あなたのお気に入りの真理亞だってね」

ベルンカステル「それに、譲治や朱志香、夏妃に楼座、秀吉や蔵臼、その他にもあの時六軒島にいた全員を呼んであげてもいいわよ」


縁寿「……!?」


ベルンカステル「ただし――」



ベルンカステル「化物語、その全ての『謎』があなたに解けたらだけど」フフフッ



縁寿「……やっぱりね」キッ

ベルンカステル「さあ、どうするの、縁寿? この世界に来る?」

ベルンカステル「来て、謎を全て解ければ、奇跡を起こしてあげるわ」

ベルンカステル「原作にはなかった、何もかもがうまくいくハッピーエンド、それを私が保証してあげるわよ」

ベルンカステル「あなた達、うみねこの人間全員にね」


縁寿「……幸せな結末……」

縁寿「…………」

縁寿「……一つだけ聞かせて」


ベルンカステル「何を?」


縁寿「もしも、謎が解けなかったら……どうなるの?」


ベルンカステル「」フッ

ベルンカステル「どうもならないわよ。何も変わらないわ」

ベルンカステル「謎が解けるまで、永久にその中にいてもらうだけよ。無限にね」

ベルンカステル「ふふふふふっ」


縁寿「……」ゾクッ

縁寿「……リスクが高ければ高いほど見返りは大きくなるという事ね」

ベルンカステル「そう。それでこそ奇跡が起こせるのよ」

ベルンカステル「それに、あなたにとってはそれほど悪い話でもないでしょう? だって、謎が解けなくても、ずっと愛しの兄と母と一緒に過ごせるのだから」

ベルンカステル「ある意味、あなたの願いは叶っているわ。断る理由の方が見つからないわね」フフッ


縁寿「…………」

縁寿「……ええ、そうね。確かにそうよ」

縁寿「断る理由の方がないわ。だって――」

縁寿「それは裏を返せば、お兄ちゃんとお母さんがそんな世界に閉じ込められているという事なのだから!」


ベルンカステル「……気がついたのね、正解よ」

ベルンカステル「そう。二人は今、そこに閉じ込められているわ。謎という名の牢獄にね」

ベルンカステル「あなたと同じで、この世界のカケラの中の戦人と霧江は、あの最後の結末を受け入れられなかったのよ」

ベルンカステル「こんな終わり方でいいはずがない! まだ終わっちゃいない! と、しつこく延々とうるさかったからね」

ベルンカステル「だから、神によって別の世界へと飛ばされたのよ。新しい謎がある世界へとね」

ベルンカステル「二人はその事をまるで覚えていやしないけど。ただ、謎を解かなきゃいけないという記憶があるだけよ」

ベルンカステル「だから今も、解かなくていい謎を解いているわ。解く意味なんかありはしないのにね。滑稽なものよ」フフフッ


縁寿「!!」キッ

縁寿「それなら尚更、行くわ。お兄ちゃんとお母さんの二人は私が助け出すから」

縁寿「さあ、連れていきなさい! 奇跡の魔女、ベルンカステル!」

縁寿「私を化物語の世界へと!!」



ベルンカステル「」フフッ

ベルンカステル「それなら条件を二つだけ出すわ」

ベルンカステル「私の事は誰にも言わない事、そしてさっきの話も誰にもしない事、それが条件よ」


縁寿「ええ、いいわ」コクッ


ベルンカステル「」フッ

ベルンカステル「さあさ、お行きなさい。エンジェ・ベアトリーチェ」

ベルンカステル「家族への愛を求めて、新たな謎へとその魂を移しなさい」


ベルンカステル「」パチンッ


フッ……




ベルンカステル「そして、最高の終わりかたを目指すといいわ」

ベルンカステル「最高の、ね……」フフフッ











   

【??? 庭園】


戦人「くそっ! ダメだ、わからねえ!!」

戦人「昨日の暦と今日の暦が同一人物だっていうなら、翌日に無傷になっているはずがないんだ! これは絶対だろ!」

戦人「それをひっくり返すトリックも全く思いつかねえ! 無理だ、こんなの!」

戦人「どうすりゃいいんだよ、この不可能な謎をよ!!」


ラムダデルタ「だったらもう降参したら? 怪異は『いる』って認めればいいだけじゃない。たったそれだけの事でしょ」

ラムダデルタ「そもそも戦人。さっきチラッと見たら、あんた、ひたぎクラブの謎も全然解けてないわよね。そうでしょ?」


戦人「うぐっ……!」


ラムダデルタ「一つでも解けない謎があれば、それだけで、私達、怪異側の勝ちなんだから。この調子であと2ゲーム続けられるっていうの?」

ラムダデルタ「今のうちに、さっさと諦めた方が良くない? もちろん、霧江もそうよ」


霧江「っ……。だけど……」

戦人「くっ……。なんだよ、これは……」

戦人「解けないのか……俺には。この化物語の謎は絶対に……」

戦人「くっ…………」



「ああ、ダメね、ダメね。全っ然、ダメよ!」


戦人「!?」
霧江「!?」



バリンッ!!



ラムダデルタ「空間破壊の魔法ですって!?」



縁寿「」ストッ

縁寿「心配して駆けつけてきたら、何よ、このザマは。お兄ちゃん!」


戦人「縁寿!?」

霧江「……縁寿? あの子が……?」

戦人「ああ、そうか! 霧江さんは確か会った事がなかったんだよな」

戦人「そうだよ、霧江さん。あいつが縁寿だ。絵羽おばさんのせいでずいぶん尖った感じに育っちまったけどな」

霧江「……縁寿なの? 本当に……?」


縁寿「ええ、そうよ。久しぶりね、お母さん。……そう言うと、なんだか変な感じだけど」

縁寿「そして、お兄ちゃん。余計な事は言わないで」ジロッ


戦人「おっと、わりい。つい嬉しくなっちまってな。まさか、お前まで来てくれるなんて、思ってなかったからよ」ニコッ


縁寿「――ずいぶんと呑気ね。そんなんだから――」

縁寿「そんなんだから、お兄ちゃんはいつまで経ってもこっちに戻ってこれなかったのよ」キッ

戦人「うっ……」


縁寿「お母さんもそう。危機感が足りないわ。こんな謎ぐらいでつまずいているなんて、ダメよ、ダメよ。全然ダメね!」

霧江「なっ…………」

縁寿「絶対の魔女、ラムダデルタ。この謎は私が二人に代わって解くわ」

縁寿「絶対な魔女のくせして嘘つきなあなたを、私の青き真実で完膚なきまでに叩きのめすから、覚悟しなさい」ビシッ


ラムダデルタ「……言ってくれるじゃない」

ラムダデルタ「解けるものなら、解いてみなさいよ。暦が無傷な理由をね!」


縁寿「」フッ

縁寿「――というよりも、実はもう解き終わってるのよ、私は」

ラムダデルタ「!?」


縁寿「予言してあげる」

縁寿「三回の青き真実でこの謎は決着よ。それであなたの出した赤き真実、その全てをお返しするから」

縁寿「その上で、ひたぎクラブ第三の謎、『おもし蟹の存在』もここで解き明かしてあげるわ」

縁寿「お遊びの時間はここで終わりよ、ラムダデルタ!」キッ


ラムダデルタ「…………!!」

今回はここまで

縁寿「まず第一に、あなたの嘘を一つ指摘するわ」

縁寿「『お母さんの推理は間違っていない』。それはあなたがついた嘘よ、ラムダデルタ」


戦人「!?」

霧江「本当に!?」


ラムダデルタ「っ…………」

縁寿「ええ、そう。あれは完全に魔女の嘘よ」

縁寿「前にお母さんが言った通り。『手足を潰されて、翌日無傷な人間なんか絶対にいない』わ。だから、別人説は間違ってなんかいないのよ。ここは疑ってはダメ」


縁寿「そもそも、別人説が間違っているというのなら、ラムダデルタは、『忍野メメは暦に変装をしていない』という赤字を使えばいいだけ。なのにこの赤字を使わなかった」

縁寿「わざわざ回りくどく、三つも四つも別の赤字で否定する理由なんか全くないのよ。これが何を意味するかはわかるわよね」


縁寿「つまり――」


縁寿「昨日の暦と、今日の暦は別人。ラムダデルタはそれをなんとか誤魔化そうとしているだけよ! 言葉巧みにね」


ラムダデルタ「……」

ラムダデルタ「なら、あんたに聞くわ、縁寿」

ラムダデルタ「>>632で証明してある通り、あの時、暦は傷を負っていたのよ。それをどう説明つけるつもりよ?」

ラムダデルタ「それに、>>151の赤字の件は? そこにメメはいないのよ。別人だっていうなら、誰が暦に代われるっていうの? 変装のルールから、暦に代われるのはメメだけよ」

ラムダデルタ「別人だってあんたが言い張るなら、まずはそれを青き真実で証明してみなさいよ!」


縁寿「…………」

縁寿「」フッ

縁寿「そんなの簡単よ。言葉のからくりさえわかれば、この謎はあっさり解けるんだから」


戦人「からくり……?」


縁寿「そう。からくり。単なる言葉遊びよ」

縁寿「特に>>151はそう。これは真実だからこそ、たちの悪いペテンとなっているの。ほとんど詐欺と言っていいぐらいにね」ジロッ


ラムダデルタ「……っ」

忍「む…………」

縁寿「よく考えてみて、お兄ちゃん。>>151のこの部分の事を」



『その場に描写があった人物は確かにその場におるし、その場に描写がなかった人物は間違いなくその場におらぬ』



戦人「……?」

霧江「……?」

戦人「どういう事だ、縁寿?」

縁寿「わからないの? つまりは、こういう事よ」


縁寿「>>151で示しているのは、『描写』があればその人物はそこにいる、という事。ただ、それだけ」

縁寿「名前通りの人物がそこにいるなんて、一言も言っていないわ」


戦人「!?」
霧江「!?」


縁寿「例え名前が違っていても、つまり変装していても、その人物はそこにいるのだから、これは合っているのよ」

縁寿「図にするとこんな感じね」

忍野メメ→偽名で『暦』だとひたぎに名乗る

この事によって、ひたぎは『阿良々木暦』と、『忍野暦』という二人の人物を認識している事になる

つまり、ひたぎから見た『暦』は、『阿良々木暦』の可能性もあるし、『忍野暦』の可能性もある


「昨日」

メメが『???』に怪我を負わされる(この時、『???』はメメの本名を知らない)

その後、止まった時間の中で、ヱリカに手足を潰される

ひたぎと出会って会話

この時、ひたぎが出会ったのは『忍野暦』の方

忍野暦は『ひたぎと会話する描写』があるので、つまり『忍野メメ』は間違いなくその場にいる
阿良々木暦は『描写がない』ので、間違いなくその場にいない

戦人「なっ!」

霧江「なにそれ……! 卑怯くさい……!!」


縁寿「そう。でも、確かに赤き真実よ。だって、間違ってなんかいないのだから」

縁寿「いわば、>>151は言葉の引っかけね。名前が変わっていても、確かに描写はあるのだから、これは正しいのよ。『忍野メメ』ではなく、『忍野暦』として描写が『ある』のだから」

縁寿「描写がある限り、その人物はそこにいる。例え、変装して名前が変わっていても、『いる』事に変わりはない」

縁寿「言ってみれば、>>151の赤き真実は、『その場に誰がいるか』じゃなくて、『その場に何人いるか』しかわからない曖昧なものなのよ」

縁寿「初めに言った通り、ペテンにかなり近いというのはこの事よ」キッ


忍「かかっ」

忍「バレてしまったか。ならば仕方がないのう」

ラムダデルタ「!!」

忍「そうじゃ。その通りじゃぞ。儂は『名前通りの人間がおる』とは赤字で言うておらんからの」

忍「変装は初めから認めておるゆえ、何も問題あるまい? そちらが勝手に勘違いしただけの事じゃからな。かかっ」

ラムダデルタ「ちょっ、ちょっとキスショット卿! そんなに簡単にバラさないで!!」アセアセ

忍「なんじゃ? まずかったか?」キョトン

ラムダデルタ「まずかったかって――もう!!」

縁寿「」フッ

縁寿「さあ、いくわよ。これが私の、第一の青き真実!」




「『暦』という描写が『ある』からといって、そこに必ず『暦本人』がいるとは限らない」



「それは『暦に変装した忍野』かもしれないし、『暦本人』かもしれない。それは名前からは判別がつかない」



「確かなのは、その場に『どちらかがいる』という事だけ。>>151の赤き真実はこの事を証明しているもの」



「よって、>>598の推理は>>151の赤き真実には抵触していない!」


ラムダデルタ「うぐっ!!」ズサッ!!


縁寿「そういう事ね。赤き真実でこれは否定が出来ないわ」

縁寿「だって間違いなく『正しい』のだから」


ラムダデルタ「くっ……!」ヨロッ

ラムダデルタ「まだよ! まだ終わってなんかいないんだから!!」

ラムダデルタ「これだけで、第一の謎の赤き真実を破ったとは言えないわよ、縁寿!」


ラムダデルタ「あの時、暦が怪我を負ったっていう>>473の赤き真実はどうなのよ!?」

ラムダデルタ「あれは『???』に負わされた傷よ! それをどう説明つけるつもり!?」

ラムダデルタ「あんたの青き真実によれば、暦はあの時その場にいなかったんでしょ? その場にいないのに、傷をつけられる訳ないわ! 矛盾しているじゃない!!」


縁寿「別に、そうでもないわよ」フッ

ラムダデルタ「!?」

縁寿「これはいわば逆トリック」

縁寿「赤き真実の中では、完璧に変装していようとも、本人として表記されるというのを利用した裏技よ」


戦人「……本人として表記されるのを利用した……?」


縁寿「そう。暦と忍野さんが入れ替わっているという事を前提に考えれば、これは解ける謎よ」


戦人「」ハッ!

戦人「そうか、そういう事かよ!! わかったぜ!」


縁寿「」フフッ

縁寿「流石ね、お兄ちゃん。それだけでわかるなんて」


戦人「ああ。裏技関係なら、逆に俺は読みやすいぜ。こういうのは六軒島でもあったからな」

霧江「……どういう事、戦人君?」

戦人「つまり、場所と時間が違うんだ」

戦人「>>473の赤き真実をもう一度よく見てみな、霧江さん。ベアトは『この時、怪我を負わされた』とは言ってないんだぜ」

戦人「『この時、怪我を負っている』としかな」

戦人「よく考えたら、これじゃあダメだよな、ダメダメだぜ。その怪我がこの時に負わされた傷だという完全な証明にはなってないんだからな」

戦人「『この時、怪我を負っている』ってだけなら、それが何時間も前に負わされた怪我だって事も十分考えられる! 傷がふさがってないだけだ!」

霧江「あ……」


戦人「そういう事だろ、縁寿」

縁寿「ええ、その通りよ」コクッ

戦人「全く日本語ってのはめんどくさい代物だぜ。『この時、怪我を負っている』と言われたら、まずその時に起こった出来事だと思っちまう」

戦人「だが、それが今の状態を表す言葉なら、その時につけられた傷だとは限らないって訳だ」

戦人「そう考えると、これで辻褄が合う。この時の暦は『???』から負わされた怪我が、まだ治りきっていなかったって状態だ」

戦人「まだ『???』は誰かわかってないが、普通に考えるとこれは駿河だろう」

戦人「そして、>>473のベアトの赤字を見返してみればわかるが、暦がその場にいたなんて証明はどこにもされていない。この推理でまず間違いないだろう」


戦人「猫箱を再構築すると、きっとこんな感じになるはずだぜ」

『道路』

タッ、タッ、タッ、タッ、タッ

タンッ!!


神原駿河「」ズサーッ

駿河「ととっ……しまった……!」グラッ

暦「!?」


ズガンッ!!



暦「っー……!」クラクラ
駿河「ぅぅっ……!」クラクラ

暦「急に何するんだ、神原!! まさかぶつかりにこられるとは思ってなかったぞ! 僕はそんなに恨まれているのか!?」

駿河「す、すまない。阿良々木先輩。私とした事が跳ぶときに目測を誤ってしまったのだ」アセアセ

駿河「途中で、慌ててそれを立て直そうとして、バランスを崩してしまってな。面目ない次第だ。私はこの事に関してはどんな責めでも受けるつもりだぞ」


暦「いや、まあ、そこまで謝らなくてもいいんだけどな……。ただ、危ないからもうこんな事はするなよ」


駿河「そうか。流石は七つの海よりも心が広いと陰で噂されている阿良々木先輩だ。――だが、本当にすまない。私で出来る事であれば、何でもする所存だが……」

暦「いや、いいよ。大した怪我もしてないし……」

駿河「だが、その腕。少し擦りむいているようだが……。ぶつかった時、靴で阿良々木先輩の鞄を思いきり引っかけてしまったからな……それが当たったのでは?」

暦「ああ、まあな……。でも、これぐらいなら一日経てば治るだろ。気にする様な事じゃないさ」

駿河「そうか。阿良々木先輩は、まるでブッダかガンジーの生まれ変わりの様な人だな! 聖人君子の様な優しさだぞ!」


暦「…………」

戦人「と、こんなところだな」

縁寿「ええ、そう。私の推理と同じね」


霧江「あ……! ひょっとして、だからベアトリーチェは――」

縁寿「そう。だから『暦が大怪我を負った』とは赤字で使えなかったのよ。『怪我をした』としか。屁理屈で誤魔化してはいたけど、これはそういう事よ」

霧江「なるほどね……」


戦人「少しややこしいから図にしてみた。推理をまとめると、こういう事だな」

メメ → 偽名で『暦』だとひたぎに名乗る


昼間、暦が駿河になんらかの道具を使って軽傷を負わされる
『駿河はその際、道具を使用している』

夜、メメが道路で駿河に怪我を負わされる。これは重傷とも軽傷とも明確に示されていない(この時、当然、駿河はメメの本名を知らない)

駿河、何も言わずに去っていく

この時点で、本物の暦は別の場所にいて、傷もまだ完治していない
『暦はこの時、確かに怪我を負っている』
『その怪我を負わせたのは駿河』
『暦は駿河以外から怪我を負わされていない』

その後、止まった時間の中で、メメがヱリカに手足を潰される

ひたぎと出会って会話

この時、ひたぎはメメの名前を『忍野暦』だと認識しているので、出会った人物の名前は『暦』となる

メメは『忍野暦』として描写があるので、その場に確かにいる。『阿良々木暦』は描写がないので、その場にはいない
『その場に描写のある人物は確かにそこにいるし、描写のない人物は間違いなくそこにはいない』

縁寿「さて」クルッ


ラムダデルタ「っ……!」


縁寿「覚悟する事ね。ラムダデルタ」

縁寿「これが私の第二の青き真実よ!」


ラムダデルタ「!!」

失礼。順番間違えた
>>696は取り消し

ついでに>>695も修正

メメ → 偽名で『暦』だとひたぎに名乗る


昼間、暦が駿河になんらかの道具を使って軽傷を負わされる

『駿河はその際、道具を使用している』



夜、メメが駿河に怪我を負わされる。これは重傷とも軽傷とも明確に示されていない
(この時、当然、駿河はメメの本名を知らない)



駿河、何も言わずに去っていく



この時点で、本物の暦は別の場所にいて、傷もまだ完治していない

『暦はこの時、確かに怪我を負っている』
『その怪我を負わせたのは駿河』
『暦は駿河以外から怪我を負わされていない』



その後、止まった時間の中で、メメがヱリカに手足を潰される



ひたぎと出会って会話



この時、ひたぎはメメの名前を『忍野暦』だと認識しているので、出会った人物の名前は『暦』となる



メメは『忍野暦』として描写があるので、その場に確かにいる
『阿良々木暦』は描写がないので、その場にはいない

『その場に描写のある人物は確かにそこにいるし、描写のない人物は間違いなくそこにはいない』



翌日、怪我が完治した阿良々木暦が駿河家に来訪。駿河と会話

『暦はこの時、完全に無傷だ』
『原作とは違い、体内にも昨日のダメージは一切残っていない』
『これは誰かの変装でもなく、間違いなく暦本人』

霧江「なんていうか……毎回の事だけど屁理屈もいいところね」

戦人「六軒島の時もそうだったからな。ギリギリのところを縫うようにして赤字を出していく。タチが悪いが、悔しい事に間違っちゃいねえ。全ての赤字は真実だ」

縁寿「むしろ、赤き真実はヒントではなく妨害よ。相手の思考を逸らす為のもの。そうやって考えた方が正しいわね」

戦人「実際、途中の赤字がややこしくさせてるからな。トリック自体は心理的変装以外、そう難しいもんじゃないってのに……」

霧江「確かにね……。こうして図にすると、なんだか呆気なく思えるわ。あれほど不可能に思えた事だったのだけど……」

戦人「そして、驚くぐらい単純なトリックだったんだな……。結局、軽傷で次の日には完治って、ただそれだけの事だからな」


縁寿「ええ、そう。難しいのは偽名の入れ替わり部分だけで、そこさえ解ければ、するがモンキーの第一の謎はごくごく単純なものよ」

縁寿「コロンブスの卵と同じ。種明かしされれば、なんだそんな事か、で終わるわ。赤字や幻想描写で色々と妨害されてはいるけど、真実自体は単純なものよ」

縁寿「さて」クルッ


ラムダデルタ「っ……!」


縁寿「覚悟する事ね。ラムダデルタ」

縁寿「これが私の第二の青き真実よ!」


ラムダデルタ「!!」




「暦は昼間に神原に怪我を負わされた」



「その怪我は夜の時点では完治していなかったけど、翌日には完全に治っているような軽傷だった」



「そして、>>473の赤き真実は暦のいた場所を指定していない。よって、暦はこの時、別の場所にいた可能性がある」



「つまり、ヱリカが怪我を負わせたのは、最初の推理通り、暦に変装した忍野で本物の暦ではない!」


ラムダデルタ「ぎっ!!」グサッ!!


縁寿「そして、このトリック――というより、ペテンはひたぎクラブの第三の謎でも使われているわ」


ラムダデルタ「!?」


縁寿「これで最後よ。この青き真実で全部決着だから」キッ




「ひたぎクラブ第三の謎。おもし蟹の時もそう。この時、本物のひたぎは別の場所にいた」



「その場にいたのは、ひたぎに変装した別の誰かよ。本物のひたぎではない」



「よって、>>188でまとめられている赤き真実は全てその通りよ。その場にいないのなら、暦や忍野が触れる訳がないから」



「つまり、この時、本物のひたぎはどこか別の場所にいて、そこで誰かに壁に押さえつけられていた」



「壁を壊したのもその誰かよ。壊れたのが学習塾跡の壁とは言われてないのだから!」



「早い話、学習塾跡での出来事は全て幻想描写! 暦、忍野、ひたぎに変装した誰か、の三人で話をしていただけ。実際にはそこで何も起こってなんかいない!」


ラムダデルタ「いぐっ!!」ズシャッ!!


縁寿「終わりね。予言通り、三回の青き真実で決着よ」

縁寿「その青き真実を外したければ、赤き真実でこう言う事ね、絶対の魔女ラムダデルタ」

縁寿「忍野は暦に変装をしていない、ひたぎに変装した事のある人物は誰もいない、と」キッ


ラムダデルタ「っ……!!」


縁寿「さあ、どうなの、ラムダデルタ。あなたは言えるの、言えないの」

縁寿「答えなさい!」


ラムダデルタ「ぐっ……!!」ギリッ

ラムダデルタ「」フフッ……

ラムダデルタ「やるじゃないの、縁寿。少しだけ見直したわ。なかなかの推理よ」


ラムダデルタ「いいわ。ここは大人しく私の負けにしといてあげる」

ラムダデルタ「ちゃっちゃと退散するわ。感謝する事ね」パチンッ


フッ……


縁寿「……最後まで負け惜しみを言うのね」

縁寿「でも、これで終わったわ。とりあえずこの、するがモンキー第一の謎は」


縁寿「私の勝ちよ。そして……」

縁寿(必ず、お兄ちゃんとお母さんをこの世界から助け出してみせる……!)

(しばらくsageでひっそりと更新。今回はここまで)

【???】


フインッ


ヱリカ「」スタッ



ベアトリーチェ「戻ってきたか、ヱリカよ。して、どうであった?」

ヱリカ「どうもこうも、やはり偽物としか思えませんでしたね。あれは『猿の手』ではなく、何かの小道具です。実際に触ってみてそう確信しました」

ベアトリーチェ「まあ、そうであろうな」フフッ

ヱリカ「…………」

ベアトリーチェ「では、この謎はもうこれでよかろう? 次の謎へと移るぞ」

ヱリカ「なんだかこうもあっさりしていると、逆に気に入りませんが……いいでしょう。あなたが自信を持っている第三の謎へとどうぞ」

ベアトリーチェ「」フッ

ベアトリーチェ「自信ではなく、確信だな。先に断言しておいてやろうぞ」スタスタ

ベアトリーチェ「そなたにこの謎は……」ズイッ

ベアトリーチェ「絶対に解けぬ。くひひひひひっ!!」


ヱリカ「っ……! き、気持ち悪いです、目の前で変な笑い声を上げないで下さい……!!」

ベアトリーチェ「くくくくっ」

ベアトリーチェ「では、始めようぞ。するがモンキー、第三の謎『不死身の暦』を!」

【学習塾跡。二階の一番奥の教室】



???「…………」



暦「……よう」



暦(……昨日の雨合羽)

暦(駿河……そして、レイニーデヴィル)

暦(昨日と同じで完全武装だな……。雨合羽に長靴、ゴム手袋……)

暦(……今からこいつは僕を殺しに来る。だから……)

暦(僕はこいつに殺されないようにしなきゃならない)

暦(そうすれば、神原の願いは叶えられず、レイニーデヴィルは消え去る)


暦(神原の為にも、僕の為にも、絶対に負けられない)

【???】


ヱリカ「ふうん……。いきなり、ですか。説明も何も抜きに」

ベアトリーチェ「くくっ。そなたは化物語のストーリーを知っているのであろう? 故に、説明は不要かと思ってな」

ヱリカ「確かに知っています。二人は神原家で会話をした後、忍野さんの所に相談に。そして、レイニーデヴィルの願いを無効にする為には、暦さん自身がレイニーデヴィルと戦って殺されないようにすればいいという結論が出た。そこの場面ですよね?」

ベアトリーチェ「左様。故に、二人は出口のない――つまり逃げ場のない密室で戦う事となる。これはその直前の時だな」

ヱリカ「……まあ、そこまではいいです。私もわかっていますから」

ヱリカ「それに、忍野さんが出てくる場面をすっ飛ばしたというのも理解できます。この時には、忍野さんは大怪我を負っていますからね。私のせいで」ニヤリ

ベアトリーチェ「…………」

ヱリカ「恐らく、本来のあなたのシナリオなら、多分、暦さんは翌日には完治しているような軽傷を負っただけで忍野さんとすりかわる必要はなかったのでしょう」

ヱリカ「だけど、私が手足を潰した事によって本当に大怪我を負ってしまった」ニヤリ

ベアトリーチェ「…………」


ヱリカ「だから、止まった時の中で、あなたは暦さんと忍野さんをすり替えた。後出しジャンケンではありますけどね。ですが、このトリックを使わざるを得なくなったんです」

ヱリカ「もっとも、そのおかげで、暦さんに変装した忍野さんは多分、今頃、病院のベッドの上。この場に登場させる事が出来なくなったんです」

ヱリカ「だから、本来は見せれたはずの、直前の忍野さんと暦さんの会話は仕方なくカット。こうして、いきなりクライマックスの場面から始めざるを得なくなった」

ヱリカ「そういう事ですよね?」ニタリ


ベアトリーチェ「…………」

ベアトリーチェ「」フッ……

ベアトリーチェ「その質問に答える必要はないな。先へ行くぞ」


ヱリカ「沈黙もまた答え、と受け取っておきます」ニヤリ

ヱリカ「では、どうぞ。さっさと話を先に」


ベアトリーチェ「…………」

【学習塾跡、二階の一番奥の教室】


???「」ダダッ

???「」ブンッ!!!


暦「うわっ……!!」ゴロゴロ

暦「くっ……!」


暦(辛うじて避けたけど、速い……!!)

???「」ダダッ!!

???「」ダガンッ!!!!


暦「ごふっ!!」ゲホッ

暦(ダメだ……速すぎて全部を避けきれない……!)


???「」ビュンッ!!

???「」ズガッ!!!!


暦「がはっ!!!」グラッ

暦(蹴り……!? まさか、神原……!)

暦(やっぱり、戦場ヶ原の事を諦めきれてないのか……!? だから、僕を殺そうと……!!)


???「」ダダッ!!

???「」バキィッ!!!!


暦「ぐああっ!!」ドサッ!!

???「」バキッ!!

???「」ドガッ!!!!

???「」ドゲシッ!!!!



暦「うぐあっ!!!」ヨロヨロ


暦(だ、駄目だ……! このままだと昨日の二の舞に……!)

暦(僕は神原に……! レイニーデヴィルに勝たなきゃいけないのに……!!)

???「憎い」

???「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」

???「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」


???「よくもよくもよくもよくもよくもよくも」ズガッ、バキッ、ドガッ!!!!

???「お前なんか嫌いだお前なんか嫌いだお前なんか嫌いだお前なんか嫌いだお前なんか嫌いだお前なんか嫌いだお前なんか――」ゲシッ、ドゴッ、ズガッ!!!!


暦「……神原、ごめん」ガフッ

暦「僕はお前なんか嫌いじゃないんだ」


???「!?」

暦「恋敵だけど」ゲホッ

暦「お前と、僕とじゃ、酷く不釣り合いかも、知れないけれど――それでもさあ」

暦「友達ぐらいにはなれないか?」



???「……■■■■■■■■!!」ズガシッ!!!!



暦「ぐあっ……!!!!」ガフッ


暦(蹴りが……僕の腹を貫通して……)

暦(腸や内臓が……ごっそりと……!)ボトッ……


暦「あ…………ぐ…………」ドサッ……

【???】


ヱリカ「……前々から思っていましたが、この場面、化物語の中ではずいぶんとえげつないシーンですよね。お腹をえぐりとられて、腸が飛び出すとか」

ヱリカ「ベルンカステル卿ならいかにも好みそうではありますが」


ベアトリーチェ「くくくっ。ついでに言うなら、エヴァ・ベアトリーチェもな。あれは妾の不肖の後継者であった」

ヱリカ「……よく言います。お腹にお菓子を詰め込むとかいう物凄く悪趣味な殺し方をしたのは、どなたでしたっけ?」

ベアトリーチェ「……む。その事はもう良いであろう。戦人に言われて、妾も演技ではなく、本当に反省をしておるのだぞ」

ヱリカ「どうですかね。……ま、私もあまり人の事は言えませんが」

ベアトリーチェ「……確かにな。首切り女め」

ヱリカ「とにかくそれはもういいです。どうせ今回も幻想描写なんでしょうし」

ヱリカ「で、このまま原作通りにいくと、戦場ヶ原さんの登場という事になるのですが、そこはカットですか?」


ベアトリーチェ「くくっ。そのような事はせぬぞ。これまでを見ればわかる通り、基本、化物語に忠実であるからな。細かい違いはあれど、話の筋は変えたりせぬ」

ベアトリーチェ「謎に関わる部分で、登場人物が出てくる場面は全て見せようぞ」

【学習塾跡、二階の一番奥の教室】


ガラッ

ひたぎ「」スタスタ


暦(戦場ヶ原……?)

暦(どうして……ここに……)


ひたぎ「……随分とはしゃいでいるわね」

ひたぎ「私抜きで楽しそうね、阿良々木君。不愉快だわ」

???「!?」ズサッ……


暦(下がって倒れた……? どうして……?)


ひたぎ「神原、久しぶり。元気そうで何よりね」

ひたぎ「」スタスタ……


???「……!」

ひたぎ「」スッ


暦(……あの神原に……ピッタリとくっついて……)


???「……戦場ヶ原先輩」グスッ

駿河「私は、戦場ヶ原先輩が、好きだ」


ひたぎ「そう。私はそれほど好きじゃないわ」

ひたぎ「それでも、そばにいてくれるかしら」

ひたぎ「いっぱい待たせて、ごめんなさいね」

駿河「」ウッ、グスッ……

【???】


ベアトリーチェ「ここまでだ」

ベアトリーチェ「長くなる故、間は多少省かせてもらったが、これで終わりだな。そなたは化物語を知っておるし、説明は不要であろう?」

ベアトリーチェ「駿河の裏の願い。嫉妬から暦を消したいという気持ち。それをレイニーデヴィルは叶えようとしていたが、表の願いであるひたぎとの関係修復。こちらも無視する訳にはいかぬ」

ベアトリーチェ「ひたぎの目の前で暦を殺してしまったら、それは絶対に不可能だからな。故に、ひたぎの登場によりレイニーデヴィルは暦には手出しが出来なくなった」

ベアトリーチェ「それは、裏の願いの不可能を示す。故に、怪異は消えた」

ベアトリーチェ「――と、そんなところだ。ここまでで何か聞きたい事はあるか、ヱリカよ?」


ヱリカ「…………」

ヱリカ「では、一つだけ」

ヱリカ「???が途中から駿河さんに変わっていましたが、これは確かなんですか?」

ヱリカ「???の他に駿河さんが出てきた、という解釈も出来なくはないですが、流れから言ってそれはまさかありえませんよね?」

ヱリカ「つまり、この場には、暦さん、ひたぎさん、???、駿河さんの四人がいた、という事ではないですよね。それだけは、はっきりさせておいて下さい」


ベアトリーチェ「くくっ。無論だ。それは後で赤字で証明してやろうぞ」

ベアトリーチェ「して、他にはあるか?」


ヱリカ「……いいえ、今のところは。とりあえず、今回の謎を聞いてからでないと、何とも言えませんし」

ヱリカ「まあ、言われなくとも大方の予想はついていますが」


ベアトリーチェ「」フッ

ベアトリーチェ「そうであろうな。恐らくそなたの予想している通りのものだ」

ベアトリーチェ「先に妾が言った通り、今回の謎は『不死身の暦だ』」

ベアトリーチェ「通常なら、腹に風穴が開き、腸や内臓が飛び出た時点で死亡しておる」

ベアトリーチェ「よくて即死を免れたとしても、あれだけ長い時間放置されていれば、まず失血死は免れぬであろうな」

ベアトリーチェ「が、そうはならなかった。何故なら暦は吸血鬼だからだ」


ヱリカ「…………」


ベアトリーチェ「くくっ。先にそなたに次の日の場面を見せてやろう。謎はここからだぞ」

【阿良々木家、前】


駿河「おはよう、阿良々木先輩」

暦「……おはようございます、神原さん」

駿河「ん。ご丁寧な挨拶、恐縮だ。阿良々木先輩はそういう礼儀礼節から、もう私などとは人間の質が違うみたいだな。怪我はもう大丈夫なのか?」

暦「ああ……今は日光がきついぐらいだけど、それも心配していたほどではないかな。体に残っているダメージも一切ないよ。で、何か用なのか?」

駿河「うん。今朝、戦場ヶ原先輩から電話があって、阿良々木先輩を迎えに行くよう言われたのだ。あ、鞄を持たせてくれ」

暦「…………」

【???】


ベアトリーチェ「以上だ」

ベアトリーチェ「そして、それを踏まえた上でこの赤き真実をそなたに贈ろうぞ」




「『???』と駿河は同一人物である」



「これはするがモンキー全ての場面において共通する」



「そして、この時、暦は完全に無傷だ」



「原作とは違い、体内にも一切ダメージは残っていない」


ヱリカ「……そうですか」

ヱリカ「それで?」


ベアトリーチェ「それで、というのは何だ? ずいぶんと不可思議な質問をするなあ、ヱリカよ」

ベアトリーチェ「暦は無傷なのだぞ。昨日、あれだけのダメージを受けたというのに」フフッ


ヱリカ「やれやれ、下らないですね」フゥ

ヱリカ「そんなもの、昨日の事が全て幻想描写だったで方がつきます。謎とは言えません」

ヱリカ「あれだけ自信がある素振りを見せてそれですか? がっかりですね」


ベアトリーチェ「くくくくっ。そう言うだろうと思っていたぞ」

ベアトリーチェ「だから、妾はもう一手指そう。これで……」

ベアトリーチェ「チェックメイトだ」ニヤリ




「昨日の時点で、暦は間違いなく傷を負っていた」



「その傷とは、何ヵ所も骨が折れ、腹からは内臓が飛び出しているというものだ」



「この傷を負ったのは、誰かの変装ではなく、確かに阿良々木暦本人である」



「そして、この傷をつけたのは駿河だ。他の人間には暦は傷をつけられていない」



「傷は学習塾跡でつけられた」



「傷をつけられてから、今に至るまで暦は治療を一切受けていない」



ヱリカ「なっ!?」


ベアトリーチェ「きひははははっ。これで終わりだな、ヱリカ」

ベアトリーチェ「そなたの名推理では、昨日、メメと暦が入れ替わっておったのだろう?」

ベアトリーチェ「だから、そなたが手足を潰したのはメメの方で、本物の暦は無傷だという事だったな」


ベアトリーチェ「だがあ……」

ベアトリーチェ「今回は無傷だったその暦も大怪我を負っておるのだぞ」ニヤリ

ベアトリーチェ「じゃあ、今度は誰が入れ替わるのだ、ヱリカよ? 翼か? 撫子か? 真宵か? ブラック羽川か?」


ベアトリーチェ「んな訳ねえよなあ? お前の頼もしい相棒が既に青鍵で楔を差しちまってるもんなあ」

ベアトリーチェ「変装出来るのは、体格が似ていて同性同士の場合だけだって」


ヱリカ「うっ……!」

ベアトリーチェ「つまり、暦に変装できるのはメメしかいない。だが、そのメメはお前が手足を潰しちまって病院の中にいるんだろ? 入れ替わるのは無理があるよなあ?」

ベアトリーチェ「なんせ、暦と入れ替わったら、この時、メメは無傷でなくてはならないんだから」

ベアトリーチェ「だが、メメは手足を潰されてから二日しか経っていないぞ? 完治する訳がねえよな? 無傷でいるのは絶対に不可能だ」


ベアトリーチェ「じゃあ、今度は誰が暦と入れ替わるのだ? 言えよ、ヱリカ。いつもの様に自信満々な間抜け面して言ってみろよ」

ベアトリーチェ「お前は妾を出し抜いたつもりだったかもしれぬが、それは逆だ。お前があんな事さえしなければ、ここで暦とメメの入れ替わりトリックが使えたのだぞ?」

ベアトリーチェ「くくくくくっ。お前は自分で自分の首を締めたのだ。何とも間抜けな事にもな。きひははははははっ!」


ヱリカ「う……ぐぅっ……!!」

(今回はここまで)

ヱリカ「確かに……暦さんに変装出来るのがメメさんしかいない以上、ここでの入れ替わりは不可能です。……それは認めましょう」

ベアトリーチェ「ほう。これはまた殊勝な物言いだな。くくくくくっ。つまりそれは敗北宣言と受け取って良いのだな?」ニヤリ

ヱリカ「ち、違います! 論理的な思考から出た結論です! 私はまだ負けてなんかいません!」

ベアトリーチェ「見苦しいなあ、ヱリカよ。ならば、お前の推理をここで今、聞かせてもらおうではないか。暦が翌日、無傷な理由をな」

ヱリカ「それは……! ……っ! こ、暦さんは実は女だったんです!」

ベアトリーチェ「…………。女……?」

ヱリカ「そうです! 暦さんが女なら、メメさんとは入れ替わりが出来ませんが、その代わりに、この場に登場していない、翼さん、撫子さん、ブラック羽川さんの三人と入れ替わる事が出来ます! この推理で間違いありません!」


ベアトリーチェ「暦が……女だと?」

ヱリカ「そうです! 最初の時は翼さんと。そして今回は恐らく撫子さんと入れ替わったんです! それなら全部の辻褄が合います!」


ベアトリーチェ「くっ……くくくくくっ」

ヱリカ「……?」


ベアトリーチェ「あひははははははっ! 暦が女か。くくくくくっ。実に面白い事を言ってくれるなあ、ヱリカよ。あひははははははっ!」ゲラゲラ

ヱリカ「な、何がおかしいんですか!// 辻褄は合っているじゃないですか!」

ベアトリーチェ「くっ……くくくくっ」

ベアトリーチェ「流石はヱリカだな。あひはははははっ! 暦が女か。本当に期待を裏切らないやつだなあ、お前は。くくくくっ」


ヱリカ「ふざけるのも、いい加減に――」

ベアトリーチェ「いい加減にするのはお前の方だ」ズイッ

ヱリカ「っ……!」

ベアトリーチェ「暦が女だと? これまでどこにそれらしき描写が出てきた?」

ベアトリーチェ「まさか、ヱリカよ。ノックスの十戒を忘れたとでも言うのか?」

ベアトリーチェ「お前の相棒だろ。ないがしろにし過ぎると、あやつもすねてしまうぞ。元から好かれていないというのになあ。それでいいのかよ、ヱリカ」


ヱリカ「べ、別に好いて欲しいと頼んだ覚えはありません!!」

ドラノール「…………」


ベアトリーチェ「くくくくっ。酷い言われようだなあ、最強の異端審問官よ。こんなのに従わねばならんとはさぞ不幸であろうに」

ドラノール「…………」

ベアトリーチェ「どうだ? 妾の元に来ぬか? 無限の魔女の名の元に厚遇を約束しようぞ」

ドラノール「結構デス。黄金の魔女、ベアトリーチェ」

ベアトリーチェ「ふっ……。まあ、そう言うとは思っていたがな。そなたは妾とは相容れぬ存在だ。それも仕方がなかろう」

ドラノール「…………」

ベアトリーチェ「だが、ドラノール・A・ノックス。自分の責務は果たしてもらうぞ」

ドラノール「……何をデスカ?」

ベアトリーチェ「決まっておろう。ノックス第6条の復唱を妾は要求する」



ドラノール「第6条……」

ドラノール「……わかりマシタ。要求とあらば答えマス」スッ




ノックス第6条
「探偵方法に偶然と第六感の使用を禁ず」


失礼。完全に勘違い
>>744から訂正

ベアトリーチェ「だが、ドラノール・A・ノックス。自分の責務は果たしてもらうぞ」

ドラノール「……何をデスカ?」

ベアトリーチェ「決まっておろう。ノックス第8条の復唱を妾は要求する」



ドラノール「第8条……」

ドラノール「……わかりマシタ。要求とあらば答えマス」スッ




ノックス第8条
「提示されない手掛かりでの解決を禁ず」



ベアトリーチェ「そういう事だ、ヱリカよ」

ベアトリーチェ「暦が女だと言うのならば、その推理の元となった根拠を示してみよ」

ベアトリーチェ「でなければそなたの主張を妾は認めぬ。例え青き真実を使われてもな。赤き真実でそれに反論する必要などない。それはドラノールによって無効扱いとなる故な」

ベアトリーチェ「単なる勘や当てずっぽうで物を言うなど片腹痛いというものだ」


ヱリカ「……なるほど。そういう事ですか……」チラッ

ドラノール「…………」チャキッ


ヱリカ「……今のままだと四面楚歌という訳ですね。私の周りには敵しかいないと」

ベアトリーチェ「元からそういう扱いではなかったか? くくっ」

ヱリカ「…………」

ヱリカ「なるほど。そういう事でしたら、根拠をお見せしましょう」

ベアトリーチェ「ほう……根拠を言えるというのか。それは面白い。聞かせてもらおうではないか」

ヱリカ「ええ、もちろんですとも」キリッ


ベアトリーチェ「…………」

ヱリカ「まず第一点」

ヱリカ「これまで出てきた赤き真実の中には、登場人物の性別を証明するものが一つもありませんでした」

ヱリカ「つまり、誰が男で誰が女かは描写の中でしか出てきていないという事です。そして、描写なら魔法を使っての幻想で片付けられます」

ヱリカ「暦さんが本当は女かもしれないという可能性は、描写によって否定は出来ません」


ベアトリーチェ「…………」

ヱリカ「第二点」

ヱリカ「まよいマイマイの一場面。初めて出会った時の暦さんと真宵さんの掛け合い」

ヱリカ「ここではベルンカステル卿によって省略されていますが、私は原作を全部見ていますので、知っています。実際に、その場面を見せる事をここで要求します」


ベアトリーチェ「……む」


ドラノール「黄金の魔女、ベアトリーチェ」

ドラノール「わかっているとは思いマスが、相手側からの推理に必要な要求は断る事が出来マセン。場面を見せる義務が生じマス」スッ


ベアトリーチェ「……よかろう。時間の無駄だとは思うがな。見せようぞ」パチンッ

【公園前】


暦「」スパンッ!!

真宵「っ……!」ゴンッ!!


真宵「な、何をするんですかっ!」クルッ

暦「ああ、やっと振り向いてくれたな。ありがたい」

真宵「後ろから叩かれたら誰でも振り向きますっ!」

暦「いや、叩いたのは悪かったよ。ただ、お前、なんか困ってるみたいだったから、力になれるかなと思ってさ」

真宵「いきなり小学生の頭を叩くような人に、なってもらうような力なんてこの世界にはありませんっ! 全くもって皆無ですっ!」

暦「いや、だから悪かったって。マジで謝るって。えっと、僕の名前は、阿良々木暦っていうんだ」

真宵「暦ですか。女の子みたいな名前ですね」

暦「…………」

真宵「女臭いですっ! 近寄らないで下さいっ!」

【???】


ヱリカ「聞いての通り、真宵さんは暦さんに対して、『女の子みたいな名前ですね』と言っています。実際、『こよみ』と聞けば、まず女の人だと連想する方がほとんどだと思います」

ヱリカ「名前からいっても、暦さんは女の人の可能性が高い! そういう事です」


ベアトリーチェ「くくっ。妾としては、無理矢理なこじつけの様な気がするがな。それだけでは十分な推理とは言えぬぞ」

ヱリカ「ええ、もちろんわかっていますとも。一番重要な点は最後に取っておくのがミステリーの基本です。つまり、次の第三点が一番の肝ですから!」ビシッ

ベアトリーチェ「…………」

ヱリカ「そもそも私、前にも少し言いましたが、化物語を見た時にいくつか違和感を覚えました」

ヱリカ「するがモンキーの踏み切りもそうですし、なでこスネイクの蛇殺しもそうです」

ヱリカ「蛇なんて実際にはそうそう見つかるものではありません。田んぼや山が多い田舎ならともかく、都会付近では滅多に見かけないはずです」

ヱリカ「餌となる蛙や鼠がいませんから。それは当たり前の事です」

ヱリカ「それを探し出すだけでも大変なのに、中学生の女の子が捕まえて神社で何匹も殺すなんて、かなりエクストラハードとしか言えません」

ヱリカ「本当にあれだけの蛇殺しをしたのか、というのにはかなりの疑問が残ります」


ベアトリーチェ「む……」

ヱリカ「ただまあ、こんなのは実際大した問題ではありませんから」

ヱリカ「空想科学読本のように、重箱の隅をつついて、五キロって意外と重いはず、そんなに軽々と受け止められるの、とか、猫耳パジャマ姿であれだけうろついて通報されないのが不思議、とか、そんな事は言うつもりは毛頭ありませんが」

ヱリカ「ですが、ひたぎクラブの1シーン――初めて暦さんがひたぎさんの家に行った場面だけは別です」ビシッ


ベアトリーチェ「…………」


ヱリカ「キスショット卿は省かれていたので、今度はその場面を見せる事を要求します。例のひたぎさんのサービスシーンです!」

ベアトリーチェ「」フッ

ベアトリーチェ「構わぬぞ。それはこちらからも願ったり叶ったりというものだからな」

ヱリカ「願ったり叶ったり……?」


ベアトリーチェ「左様。あの場面を見せなかったのは、正直キスショット卿の手落ちであるからな。本来は見せなければならないものだったはずだ」

ベアトリーチェ「つまり、妾がここで見せても、問題はないという事だ。一種の補完行為だからな」


ヱリカ「……どういう意味ですか?」


ベアトリーチェ「くくっ。少しは自分の頭で考えたらどうだあ、ヱリカよ? こちらのミスという事は、そちらにおけるヒントだという事ぐらいはわかるだろ? それを妾がぺらぺら喋るとでも本気で思うのか?」

ヱリカ「…………」

ベアトリーチェ「あの場面は、ひたぎクラブの謎を解く上での、ひいては化物語全ての謎を解く上での、重要な鍵となっているという事だ。それ以上は、妾の口からは一切言わぬ。くくっ」


ヱリカ「……鍵、ですか」


ベアトリーチェ「おっと、余計なお喋りはここまでとしておこう。では、その場面を見せるぞ」パチンッ

【ひたぎの家】


ひたぎ「シャワー、済ませたわよ」←全裸

暦「ぐあああっ!」


ひたぎ「そこをどいて頂戴。服が取り出せないわ」

暦「服を着ろ服を!」

ひたぎ「だから今から着るのよ」

暦「何で今から着るんだ!」

ひたぎ「着るなって言うの?」

暦「着てろって言ってんだ!」

ひたぎ「持って入るのを忘れていたのよ」

暦「だったらタオルで隠すとかしやがれ!」クルッ、ズササッ

ひたぎ「嫌よ、そんな貧乏くさい真似」

ひたぎ「清潔な服ねえ。白い服の方がいいと思う?」

暦「知らねえよ……」

ひたぎ「ショーツとブラは柄ものしか持っていないの」

暦「知らねえよ!」


ひたぎ「阿良々木君、まさかあなた、私のヌードを見て欲情したんじゃないでしょうね」

暦「仮にそうだったとしても僕の責任じゃない!」

ひたぎ「私に指一本でも触れて御覧なさい。舌を噛み切ってやるんだから」

暦「あーあー、身持ちの固いこったな!」

ひたぎ「あなたの舌を噛み切るのよ?」

暦「マジでおっかねえ!」

ひたぎ「……もういいわよ。こっちを向いても」

暦「そうかよ。ったく……」クルッ


ひたぎ「…………」←下着姿


暦「何が目的なんだお前は!」

ひたぎ「何よ。今日のお礼のつもりで大サービスしてあげてるんだから、ちょっとは喜びなさいよ」

暦「…………」


ひたぎ「ちょっとは喜びなさいよ!」

暦「逆ギレされた!?」

【???】


ベアトリーチェ「以上だ」

ヱリカ「…………」


ベアトリーチェ「どうした、どうしたあ、ヱリカ。さっきまでの元気はどこへ行ったのだ? まるで、この場面がどんなヒントになるのか全くわからない、みたいな顔をしているぞ? くくくっ」

ヱリカ「っ……!」

ヱリカ「……確かに、今はまだわかりませんが」

ベアトリーチェ「そうであろうな。くくくっ」


ヱリカ「っ……! ですが……今はひたぎクラブの話をしている訳ではありません。するがモンキーの話です!」

ベアトリーチェ「何を言い訳がましい事を言っている? 化物語はシリーズものだぞ。つまり、全ての謎はリンクしているという事だ。どれか一つでも解けねば、この謎は永遠に解けぬ」ニタリ

ヱリカ「ぐっ……! 戯れ言です。それが本当かどうかなんて誰にもわからないんですから!」

ベアトリーチェ「ふふっ……。まあ、それは良かろう。して、ヱリカ。この場面がどう暦が女だという話に繋がるのだ?」

ヱリカ「……そちらは簡単な事です。今からそれを説明していきます」

ヱリカ「そもそもこの場面、不自然なんです。異常なほどに」


ベアトリーチェ「ひたぎの痴女っぷりがか? あれは元々そういう女だぞ」

ベアトリーチェ「……いや、痴女と言うと少し語弊を感じるな。肌を見せる事に抵抗が少ない、といったところか……? しかし、別にそういう女がいても不思議ではあるまい?」


ヱリカ「確かにそれだけなら不自然ではないでしょうね。ですが、この後の場面で出てくるひたぎさんの過去を考えると、ものすごく不自然なんです」

ヱリカ「これは、恐らく化物語の中で最も違和感を覚える部分です。それがここです。私、ずっと疑問に思っていましたし」


ベアトリーチェ「……む」

ヱリカ「考えてみれば変な話なんです」

ヱリカ「ひたぎさんは過去に男に襲われかけて、それがトラウマのようになっています」

ヱリカ「原作で暦さんも言っていますが、この時のひたぎさんは『貞操観念が高く』『警戒心が強く』『被害妄想気味』だと」

ヱリカ「そんなひたぎさんが、多少の不死身っぷりを見せただけで、誰もいない家の中で暦さんに裸や下着姿を晒したりするんでしょうか?」

ヱリカ「常に武器を手離さないぐらいの警戒心を持っていたのに、自分から襲われやすい状況を作ると思いますか?」

ヱリカ「あまつさえ、誘ってる様な感じすらありますよね。暦さんがもしも紳士的な童貞でなかったら、その場で無理矢理襲われていたとしても全く不思議ではありません」

ヱリカ「性的な事に関してトラウマのようなものを抱えている人が、出会って一日も経ってないような相手に対してそんな真似をするとは私には到底思えないんです」


ヱリカ「つまり、この状況と、ひたぎさんの態度。前後であまりに矛盾があります」


ヱリカ「怪異を祓った後なら、恩や信頼もあるでしょうから、まだわからなくもないんですが、でも、この時はまだ怪異に憑かれたままですし。やっぱりどう考えても不自然なんです」


ベアトリーチェ「…………」

ヱリカ「ですので、私はここで赤字による復唱を要求します」

ヱリカ「この場面が本当にあった事なのか。幻想描写ではなく真実なのかを先に確かめさせてもらいます」


ヱリカ「では、復唱要求です!」ビシッ


ヱリカ「この時、ひたぎさんは本当に全裸で暦さんの前に姿を見せた!」

ヱリカ「そして、下着姿も見せた!」

ヱリカ「暦さんはそれをはっきりと見た!」


ヱリカ「以上、三点です! さあ、答えて下さい!」

ベアトリーチェ「……良かろう。復唱に応じようぞ」

ベアトリーチェ「これで良いのだろう?」




「この時、ひたぎは本当に全裸で暦の前に姿を現した」



「そして、下着姿も見せている」



「暦はそれをはっきりと見ている」


ヱリカ「わかりました……。それならもう決定ですね。疑う余地はありません」

ヱリカ「暦さんは女の子です! 同性同士なら、裸を見せる事にそこまで抵抗はありませんから!」

ヱリカ「少なくとも、異性よりは遥かにそうです!」

ヱリカ「もちろん、ひたぎさんが男だという可能性もありますが、これは名前からいって不自然です。ですので、暦さんの方が女の子!」


ヱリカ「これならするがモンキーの謎も一気に解けます! これが私の青き真実です!」ビシッ




「暦さんは男ではなく、女です!」



「なので、するがモンキーの第一の謎の時は、翼さん、撫子さん、ブラック羽川さんが入れ替わり可能です!」



「第三の謎の時も同じです。残った二人の内のどちらかが入れ替わったんです!」


ベアトリーチェ「くくくくっ……。ひははははははっ!」

ヱリカ「……!?」


ベアトリーチェ「まさか、本気でそんな事を言うとは思いもしなかったぞ。青き真実まで使うか」

ベアトリーチェ「こんな穴だらけの推理、論ずるに足らぬ。出直してくるがよいぞ」ビシッ




「化物語に出てくる登場人物は、全て原作通りの性別だ」



「つまり、男は暦とメメだけ。他は全て女である」


ヱリカ「うぐっっ!!」ズサッ!!


ベアトリーチェ「くくっ。当然の報いだ。苦し紛れの推理をひけらかすからそうなるのだ、ヱリカよ」

ベアトリーチェ「そもそもお前は変装変装などと軽々しく言っておるが、実際、変装などそう簡単に出来るものではないぞ」

ベアトリーチェ「通常の変装など、すぐに見破られるに決まっておる。あまりに現実味がない」

ベアトリーチェ「無論、心理的変装の方法は確かに認めようぞ。あれは穴がない完璧な変装だ」

ベアトリーチェ「だがあ」ニタリ

ベアトリーチェ「こうも馬鹿の一つ覚えみたいに、ずっと言われるのも不愉快だからな。ここで妾も隠しておいたとっておきの切り札を切ろうぞ」ニヤリ


ヱリカ「き……切り札……?」ヨロッ……




「化物語内において、暦は誰かに変装した事も、誰かに変装された事も一度もない」



「この変装とは、物理的な変装及び、心理的な変装の事を指す」



「つまり、変装しての入れ替わりなど、暦はしておらぬ。これは化物語の全ゲームにおいて共通する」


ヱリカ「っ!!?」


ベアトリーチェ「くくくくくくっ。という訳だ、ヱリカよ。これまで長々と無駄な推理を御苦労であったな」ニタリ

ベアトリーチェ「赤き真実で示した通り、これまでの全部の場面において、出てくる暦は全て阿良々木暦本人だ。どれだけの怪我を負わされようと、暦は翌日には完璧に無傷になっている」

ベアトリーチェ「つまり、第一の謎、第三の謎、ともにお前は全く解けてなどおらぬのだ。これまでは、お前に付き合って妾が少しばかり遊んでやっただけの事よ」

ヱリカ「っ!?」

ベアトリーチェ「どうだあ、ヱリカ? これまでコツコツと積み上げてきたものが一気に壊されるという感覚は? さぞ痛快であろう? 己の無能さがさらけ出ちまうもんなあ?」ニヤリ

ベアトリーチェ「これで間違いありませんとか抜かしといて、なんだ、そのザマは? 探偵? 灰色の脳細胞? 大間違いだろ。ネズミ色の脳細胞を持つクソの役にも立たないドブネズミが」

ヱリカ「わ、私が……。この私が……ドブネズミ……っ」


ヱリカ「なんだあ? 悔しかったら何か別の推理を言い返してみろよ。ほら、言ってみろよ。言えよ」


ヱリカ「あっ……うぁ……っ……!!」ポロッ……


ベアトリーチェ「たまんねえよなあ? そんな風に涙目になるぐらい嬉しいんだろ? 楽しい時は笑えよ、ヱリカ。大声で笑って見せろよ。くくくくっ」

ベアトリーチェ「きひはははははははっ!!」



ヱリカ「そ、そんな訳が……ねえんですよ……なのに、なんで……なんで……」ポロポロ……

【??? 庭園】


戦人「なっ!! どうなってやがるんだよ、これはっ!!?」ガタッ

霧江「変装じゃないって……そんなはずが……!!」

縁寿「これまでの推理……全部が間違いだって言うの……!?」



「あっはははははははははははっ!!! おっかしい!! なにその揃ってバカみたいな顔っ!!」ゲラゲラ



戦人「!?」

霧江「この声……! ラムダデルダ!?」

縁寿「っ……!!」

ボンッ

ラムダデルダ「そうよ。あったり前じゃない。無能な戦人、こんにちは」ニヤリ

戦人「くっ!」


ラムダデルダ「だからわざわざ最初に言ってあげたのに。そうよね、霧江? 変装に偽名なんて、的外れな推理だってさあ、私、確かに言ってあげたわよね?」ニヤリ

霧江 「っ……!」


ラムダデルダ「なのに、大間違いの事を言って、スッゴい得意顔して、超おっかしい! 縁寿とかなんてもう最高! 完璧なドヤ顔だったし」ゲラゲラ

縁寿「うっ……!」

ラムダデルダ「ああ、そうそう。アンタにはあの時のお礼をしなくっちゃね。アンタが投げた青鍵、返してあげる」ニヤリ


ヒュンッ!!


縁寿「ぅぐっっ!!」ドシュッ!!


戦人「縁寿!!」

霧江「どうして、青鍵が!! これは確かにあなたに刺さったはずじゃ……!!」


ラムダデルダ「はあ? 違う違う。あれは私の魔法を使って刺さったフリをしてただけよ。本物の青鍵は全部受け止めて隠しておいたんだから」

縁寿「な、なによそれっ!?」

ラムダデルダ「そういう訳で、縁寿。アンタが投げた三つの青き真実。それは全部間違いだから」

縁寿「!!」


ラムダデルダ「苦労したのよ、笑いをこらえて演技するの。あんた、ドヤ顔で間違いだらけの推理をするんだもん」アハハッ

ラムダデルダ「ベアトが>>773で言った通り、暦は誰かと入れ替わってなんかいないのよ。全部、本人だから」

ラムダデルダ「さあ、食らいなさい。縁寿。あんたの青き真実を! 今から全部、赤き真実でお返ししてあげる!」


縁寿「!?」




「暦が傷を負った時と場所は、>>437が最初で間違いないから。それ以前に、暦が駿河に傷をつけられた事はないわ」



「そして、>>435から>>441にかけて、阿良々木暦はずっとその場にいたわ。別の場所にいた訳じゃない」



「ヱリカが傷を負わせたのも、もちろん本物の暦よ。別人ではないわ」



「ひたぎクラブでもそう。ひたぎは入れ替わってなんかいない。あの場にいたのは戦場ヶ原ひたぎ本人だから」



「そして、ひたぎは誰かに変装した事も、変装された事も一度もないわ。これは化物語において全ゲーム共通よ」


ヒュインッ

縁寿「うっ!」ドシュッ!!


ヒュインッ

縁寿「ぐぅっっ!!」ズサッ!!



戦人「縁寿っ!! 大丈夫か!?」

霧江「大丈夫!?」



ラムダデルダ「あははははははっ! ざまあないわね、縁寿! あー、おっかしい!」ゲラゲラ

縁寿「っ……!!」ヨロッ……

ラムダデルダ「これでわかった? あんたの推理は全部完璧に間違いだから」

ラムダデルダ「絶対の魔女、ラムダデルダの名に懸けて保証してあげる」

ラムダデルダ「あんたたちにこの謎は解けないわよ」ニヤリ

ラムダデルダ「絶対に! 永遠に!」

ラムダデルダ「だって、全部、怪異の仕業なんだから!」

ラムダデルダ「あははははははっ! ムリムリ! こんなの人間の仕業の訳ないじゃない!」ゲラゲラ


縁寿「っ……ぐっ……。無理……じゃ……ないから!」

縁寿「絶対に……解いてやるわ……!」

縁寿「私には……。解かなきゃいけない……理由があるんだから……!」


ラムダデルダ「ムダよ、ムダムダ! ぜーったいに」

ラムダデルダ「あんた達には解けないから! あははははははっ!」

(今回はここまで。変わらずsageで進めてきます)

(一応、難易度Dにしてあるけど、ぶっちゃけ、この謎解ける人いるんだろうか……)

【???】


ベアトリーチェ「くくくくっ。さあて、それではラストチャンスの時間だ、ヱリカよ」

ベアトリーチェ「このするがモンキー、ずいぶんと長引いてしまったからな。いい加減、ここらで決着をつけようぞ」

ヱリカ「ぅっ……ぐっ……」グスッ、ゴシゴシ


ベアトリーチェ「最初の宣言通り、今回もお前に化物語の世界に入る事を許可する」

ベアトリーチェ「その時間は十分間で、場面はお前に好きに選ばせてやろう。だが、当然、人に触れたり危害を加えたりする事は許さぬ。これは前と同じだ」

ベアトリーチェ「せいぜい、最後のチャンスをものにするのだな、くくくくっ」


ヱリカ「っ…………」

【??? 庭園】


戦人「くそっ! もうこれで最後かよ!」

戦人「結局、何もわからないまま、進んじまったじゃねーか! これじゃひたぎクラブの二の舞になっちまう!」


ラムダデルタ「当然じゃない。ベアトはもう切り札を切っちゃったし、遊ぶ要素なんてもうないもの」

ラムダデルタ「ここで決めにくるのは当たり前よ。ヱリカの心もかなり折れてるでしょうし、負けを認めさせるには十分ね」


ラムダデルタ「そうでしょう、縁寿? あんただって大口叩いてたけど、全くの役立たずだったんだから」ニヤッ

縁寿「……っ」

【???】


ベアトリーチェ「さて……では、確かめたい場面を選ぶが良い。どこにする? どこでも好きに選ぶと良いぞ」ニタリ


ヱリカ「……っ。……それなら、学習塾跡にします。……暦さんが致命傷を負って、ひたぎさんが登場した場面で」

ヱリカ「暦さん、神原さん、ひたぎさんの三人が揃うのは、その場面しかありませんから……そこで……」


ベアトリーチェ「くくっ。本当にその場面で良いのか、ヱリカぁ? 後から変える事は出来ぬぞ」


ヱリカ「……っ。……か、構わないです。そこでいいです……」


ベアトリーチェ「」フッ

ベアトリーチェ「では、望み通りそこに送り届けようぞ。せいぜい悔いの残らぬよう、徹底的に調べあげるのだな」

ベアトリーチェ「後から言い訳されてもかなわぬしなあ、くくくっ」


ヱリカ「……ぅっ」


ベアトリーチェ「では、行くがよい。その場面へと」パチンッ

【学習塾跡】


フインッ……

ヱリカ「」スタッ


ヱリカ「」キョロキョロ……



暦「」

駿河「」

ひたぎ「」



ヱリカ「……ちょうどひたぎさんが扉を開けた場面、ですね」

ヱリカ「暦さんは……既に体に風穴が空いてますね。ひたぎさんが来たので、駿河さんが驚いて飛び退いたところ、でしょうか……」

ヱリカ「三人とも距離が少し離れているので、好都合と言えば好都合です……。これなら間違って誰かに触る事なく調べやすいはず」

ヱリカ「ただ……この暗さは計算外ですね。明かりと呼べるのが月明かりしかないので、物が見えにくいです……」

ヱリカ「八九寺さんではありませんが、しまりましたというところですね……」チッ……

ヱリカ「……そもそも」

ヱリカ「何でこんな暗い所にいたんでしょうか、この二人……」

ヱリカ「これ、そこの扉を閉めたら、本当に何も見えないぐらいの暗闇になるのでは……?」

ヱリカ「窓は……」タタタッ



ヱリカ「」ガタッ

ヱリカ「原作通りですね……。この感触からいってベニヤ板でしょうか。それが釘で打ち付けられているみたいです」

ヱリカ「他の場所は……?」タタタッ

ヱリカ「」ガタッ、ガタッ

ヱリカ「奥の方は暗くて窓の位置がよくわかりませんが、恐らく全部そうですね。しかも結構厳重に打ち付けられている感じがします……」

ヱリカ「でも、何でこんな事を……? 暗闇にする理由がどこに……?」

ヱリカ「それに、この二人、人気の全くない夜の学習塾跡で、何で落ち合ってたんでしょうか……?」

ヱリカ「原作だと、怪異絡みから忍野さんのいるここに来るのは必然なんですが……」

ヱリカ「怪異が元から存在しないとなると、どうしてここに?」

ヱリカ「しかも、完全な暗闇の中で……」


ヱリカ「……よくよく考えてみると変なんですよね、この状況……」


ヱリカ「おまけに暦さんは腹に風穴が空いてますし……」


ヱリカ「…………」

ヱリカ「……仮に、ですよ」

ヱリカ「これが全て幻想描写だったとしても、この時、暦さんは腹から内臓が出るほどの大怪我を負っていたのは事実です。これは赤字で証明されているから間違いありません」

ヱリカ「そして、その怪我を負わせたのは駿河さんです。これも赤字で証明されているからこちらも間違いありません」


ヱリカ「これ……暦さんが翌日無傷になってるから事件になってないだけで、普通に考えたら結構な傷害事件ですよね……」

ヱリカ「そして、その犯行はここで行われたという事ですから、恐らく暗闇の中で襲撃したという事になりますよね……?」

ヱリカ「だとしたら、ごく常識的に考えれば……駿河さんがここへ暦さんを呼び出した……?」

ヱリカ「ひょっとして……暗闇にしてあるのは、暦さんに不意打ちを食らわせる為に……?」

ヱリカ「呼び出す手段としては色々考えられますけど……」

ヱリカ「もし、駿河さんが暗闇の中で待ち伏せをしていたとするなら、携帯電話で呼び出したと考えるのが自然ですよね……」


ヱリカ「……そういえば、暦さん。原作だと、この時、忍野さんに鞄を渡してましたっけ……」

ヱリカ「鞄を持っているかいないかぐらいは、暦さんに触らずとも確かめられるはずです。とにかく確認してみましょう」タタタッ

暦「」


ヱリカ「何か暦さんの近くで手掛かりになりそうなものは……」

ヱリカ「壁際にいるから、明かりが届かないというのが悔やまれます。手探りで探すしかないなんて……」


ヱリカ「」ガサガサ、ゴソゴソ


カタンッ


ヱリカ「……?」

ヱリカ「今、何かに触れました。一体、何に?」

ヱリカ「」ペタペタ

ヱリカ「これは……?」

ヱリカ「何かプラスチックの塊みたいな……。持ち上がる……? 取っ手みたいな形で軽い……?」

ヱリカ「ちょっとこれ、明かりが届くところまで持っていきます! ドア近くなら、きっとわかるはずです!」タタタッ

ひたぎ「」


ヱリカ「……これ」

ヱリカ「……スタンド型の蛍光灯、ですね。電池を使うタイプの……」

ヱリカ「今は電源はOFFになっていますが、ここにこれがある以上、それまでは灯りとして使ってたんじゃないでしょうか? 多分、ひたぎさんが来たから、驚いて駿河さんが消した……」

ヱリカ「ただ、これが暦さんの近くにあったという事は……。ここは真っ暗闇じゃなかったって事に……」


ヱリカ「ちょっと電源を」カチッ


ヱリカ「……つきませんね。時間が止まってるからつかないのか……それとも元からつかないのか……」

ヱリカ「ただ、ここに置いてあった以上は、きちんとつくものと仮定した方が正しいでしょう。つまり、ここは完全な暗闇ではなかったと考えるべきです」

ヱリカ「……というか、常識的に考えればそうなんです。明かりが全く差し込まない中、そこにいるという方が不自然です」


ヱリカ「あの魔女……幻想描写でこれを隠してたんですね……」チッ

ヱリカ「という事は……ひょっとしたら、他にも隠してる事があるんじゃないでしょうか」


ヱリカ「ひたぎさん……は今来たばかりという感じですし、手ぶらですから、置いておくとして……」


ヱリカ「暦さんの鞄も、場所が暗すぎてどうにもなりませんね……。あるかないかもわからないものを、これ以上探すのは時間の無駄になる可能性が高いです」


ヱリカ「それよりは駿河さんですか。このタイミングなら、ここで暦さんと何があったのか、その手掛かりになるような物を持ってる可能性が非常に高いですから」タタタッ

駿河「」


ヱリカ「こちらはまだ少しですが明かりが差し込んでますね。好都合です」

ヱリカ「何でもいいから、手掛かりになりそうな物は……」


ヱリカ「…………」キョロキョロ……

ヱリカ「…………」ゴソゴソ……


ヱリカ「……なし、ですか。無駄足でしたね。この周囲には何も落ちてません……」チッ

駿河「」


ヱリカ「駿河さんの格好も前と同じですし……。雨合羽に長靴、ゴム手袋、これといって変わりがありません」

ヱリカ「ただ、恐らく暦さんの返り血ですか。その血がところどころについています。とはいえ、それ以外は不自然なところは……」


ヱリカ「……?」


ヱリカ「いえ、おかしくないですか、これ……。原作では、この時、確か……」

ヱリカ「そうです……! 一回目の時とは違って、確か雨合羽だけだったはずです。駿河さんはスニーカーを履いていて素手で、長靴とゴム手袋はなかったはずじゃ……!」

ヱリカ「それなら……これは一体どうして……?」

ヱリカ「……何か意味があるんでしょうか」

ヱリカ「とにかく、駿河さんには触らないよう気を付けながら、もう少し近くで確認を……」ソッ


スパッ……!


ヱリカ「っ!」

ヱリカ「何かで切った……? 手から血が……」ツーッ

ヱリカ「ですが、何もない空間で切れるはずが……」


スーッ……


ヱリカ「!?」

ヱリカ「これは、包丁!? 駿河さんの手から包丁が――!」

ヱリカ「」ハッ

ヱリカ「そうか! やられました! 幻想描写でこれも隠していたんですね!」

ヱリカ「私が触れる物は確かに実在している。だから、触れた事で幻想描写で隠してあった包丁が目に見えるように!!」

ヱリカ「こんな物を持っていたなんて、あの魔女に完全に騙されました!!」

ヱリカ「ひょっとして、まさか、こっちの手にも!」ササッ


スーッ……


ヱリカ「ノコギリが……。やっぱり」


ヱリカ「そうなんです。冷静に考えてみれば、人間が素手だけで腹に風穴を空けるなんて芸当、出来る訳がないんです!」

ヱリカ「暦さんの再生能力の謎のせいで見逃してましたが、これだって立派な謎の一つ」

ヱリカ「蹴りだけで、内臓とかが飛び出る程の怪我を負わせられる訳がありません! 道具を使わないと絶対に不可能です!」


ヱリカ「つまり、この時、駿河さんは包丁とノコギリを使って暦さんに傷を負わせた! これが真実!」


ヱリカ「それをあの魔女は、幻想描写と暦さんの再生能力の謎でそっちに注意を向けさせて、これを煙に巻いたまま終わらせようとしてたんです」

ヱリカ「まんまとしてやられました。こんな当たり前の謎を見逃してたなんて……!」ギリッ

ヱリカ「ですが、これを発見した事で大分状況が見えてきましたね」


ヱリカ「暗闇にしなくてはならない理由、学習塾跡にやざわざ来なくてはならなかった訳、雨合羽だけでなくゴム手袋や長靴も身に付けていた理由。そして何より凶器の存在」

ヱリカ「包丁やノコギリがこんな場所に偶然落ちてたなんてまず考えられません。つまり、この事からはっきりと言えるのは――」


ヱリカ「駿河さんは何らかの理由によって、暦さんを脅すか、あるいは殺そうと計画した。そこは間違いありません」

ヱリカ「……原作通りにいくなら、その理由は暦さんへの嫉妬でしょう。邪魔な暦さんが消えるように願ったんだと思います」

ヱリカ「その結果がこれですね。誰も来そうにない場所へ呼び出して、暗闇の中で待ち伏せして不意打ち」


ヱリカ「窓が塞がれてるのも、多分、駿河さんの仕業でしょう。目撃者が出ないように予めそうしたんだと思われます」

ヱリカ「その後、包丁でメッタ刺しにしたか、ノコギリで思いきり切りつけたかは知りませんが、とにかく暦さんの腹を切り裂き内臓が飛び出るほどの重傷を負わせた」

ヱリカ「それなら、雨合羽、ゴム手袋、長靴を身に付けていた理由もわかります。証拠が残らないようにそうしたんです」

ヱリカ「指紋がつかないようにゴム手袋を。返り血を浴びても平気なように、雨合羽と長靴を」


ヱリカ「そして、駿河さんがそこまで準備してこの犯行を行ったというのなら――」

ヱリカ「駿河さんはここで暦さんを殺すつもりでいた。そうとしか考えられません」

ヱリカ「ただ、その途中にひたぎさんが何故かここに入ってきた」

ヱリカ「だから、駿河さんは驚いて、慌ててライトのスイッチを切って飛び退いた……」


ヱリカ「……そこまでは推理出来ます。問題は……」

ヱリカ「翌日、暦さんが無傷な理由。それと、ひたぎさんがここへとやってきた理由」

ヱリカ「それがまだ読み解けません……」ギリッ

ヱリカ「何度も繰り返しになりますが、人間がここまでされているんです。翌日、無傷であるはずがないんです。というか、普通なら出血多量で死んでます」


ヱリカ「そして、死体が生きているように見せかけるというトリックならこれまで推理小説では何度もされてきています。そう珍しい事ではないんです」


ヱリカ「ですが、そのトリックの全てが入れ替わりと犯行時刻の錯覚なんです。特殊な状況下を除けば、実際、それ以外に方法がないんです」


ヱリカ「なのに、今回はその二つのトリックを>>734>>773の赤字で殺されてしまっています」

ヱリカ「おまけに治療を一切受けてないというのに、暦さん本人は生きていて、翌日には完璧に無傷。有り得ねえんですよ、こんな事は!」

ヱリカ「本人だと赤字で言われているので、錯覚や変装では通用しない。だからといって本人だと、無傷な理由が怪異以外では説明がつかない……」

ヱリカ「暦さんが煉獄の七姉妹やさくたろうの様に、現実に存在しない幻想描写だけの存在というならまだわかります。でも、それは始めの方で>>66の赤字によって否定されていますし……」


ヱリカ「なんなんですか、この謎は一体……!」

ヱリカ「またあの時の様に敗北するというんですか……! この私が二度も……!!」

ヱリカ「冗談じゃありません!! そんなの嫌です……!!」

ヱリカ「嫌なのに……!!」

ヱリカ「わからねえんですよ!! どうなってるんですかぁああっ、この謎はっっ!!」ガンッ!!

ヱリカ「あとちょっとで! あとちょっとで解けそうなのにぃぃぃぃっっ!!」ガンッ!! ガンッ!!

【???】


ベアトリーチェ「――時間だ」パチンッ


フインッ……


ヱリカ「っ!!」ストッ……



ベアトリーチェ「さあて、聞かせてもらおうか、ヱリカよ。するがモンキー、第三の謎。その答えをな」

ヱリカ「うっ……! ぐっ……!」

ヱリカ「っ…………」


ベアトリーチェ「?」


ヱリカ「ぅ……ぁ……」グスッ


ベアトリーチェ「くくくくくっ」

ベアトリーチェ「おいおい、どうしたあ? なに不細工な面して泣きべそかいてるんだよ。みっともないぞ、ヱリカぁ」ニタリ


ヱリカ「…………」ポロポロ……


ベアトリーチェ「ほら、だんまりじゃわかんねえだろ? さっさと答えてみせろよ」


ヱリカ「…………」ボソッ


ベアトリーチェ「あ? 聞こえねえなあ? もっとはっきり言えよ。小学生でも出来る事だろ? さあ、言えよ」


ヱリカ「……私の……敗けです」ポロポロ……


ベアトリーチェ「きひははははははははっ! だろうな! ざまあねえなあ、きひははははははははっ!」


ヱリカ「ぅっ……」ポロポロ……

【??? 庭園】


戦人「チェックメイトか……」

霧江「……そうね」

縁寿「…………」


ラムダデルタ「あははははっ! あったり前じゃない! ベアトがヱリカに負ける事なんてあるはずないもん!」


戦人「……複雑な気分だな。ヱリカの事は未だにどうにも好きにはなれないが……」

戦人「だが、今回に限っては同情するぜ。ベアトは負けた時は容赦しないからな……」

霧江「そういえば……確か最初に約束してたわね。あの子が負けた場合、罰を与えるって」

縁寿「……そんな約束してたのね」

戦人「ああ、このゲームを始める前にな。ベアトが何をするつもりかは知らねえが……」

霧江「ろくな事ではないでしょうね」

縁寿「…………」

【???】


ベアトリーチェ「くくくくくっ。それでは最初の宣言通り、負けたお前に罰を与える」

ヱリカ「ぃっ……」ビクッ


ベアトリーチェ「そう身構えるなよ、ヱリカぁ。ごくごく単純な罰だ。妾もずいぶんと丸くなったからな」

ヱリカ「な、何をするつもりなんですか……」


ベアトリーチェ「なに、お前もよく知っている罰だ。なあ、ドラノール? ここまで言えば、お前ならわかるよなあ?」

ドラノール「…………」

ベアトリーチェ「部下を借りるぞ。構わぬな?」ニタリ

ドラノール「……お好きにどうぞ。ミス・ベアトリーチェ」

ヱリカ「!?」


ベアトリーチェ「コーネリア」パチンッ


スタッ

コーネリア「謹啓。ここに参上した事を申し上げる」


ベアトリーチェ「」フッ

ベアトリーチェ「ヱリカの片足を縛れ。厳重にな」


ヱリカ「」ビクッ!!

コーネリア「」チラッ……

ドラノール「…………」コクッ


コーネリア「……謹んで承ったなり」スッ

ヱリカ「コオネぇぇリぁああアああ!! お前えぇぇえええ!!」


ガートルード「」サッ、ガシッ

ガートルード「我等も本意ではないと知り奉れ」


ヱリカ「ガートルードぉぉ!! お前もかぁぁ!! よくもぉそんな嘘をおぉぉおおぁぁ!!!」


ベアトリーチェ「くくくっ。見苦しいなあ、ヱリカ。元はと言えば、全てお前がした事だろう? 自業自得とは思わぬのか?」ニタリ


ヱリカ「!!!!」

ガートルード「謹啓。謹んで申し上げる。ヱリカ嬢の片足を固く結び終わったと知り奉れ」


ベアトリーチェ「くくくっ。今の気分はどうだ、ヱリカ? これから何をされるかは良く知っているだろう?」


ヱリカ「……ぃ、ぐっ!!」

ベアトリーチェ「そら」ドンッ!!

ヱリカ「うぅっ!!」ドサッ


ベアトリーチェ「立てよ、ヱリカ。片足で」ニタリ

ヱリカ「い、ぎっ……」グスッ

ヱリカ「」ヨロッ……


ベアトリーチェ「」ドンッ!!

ヱリカ「ぐぁっ!!」ドサッ


ベアトリーチェ「立てよ、ヱリカ。片足で」

ヱリカ「ぁ……ぅぅ……」ポロポロ……

ヱリカ「ぃ……」ヨロッ


ベアトリーチェ「」ドンッ!!

ヱリカ「いぎっ!!」ドサッ


ベアトリーチェ「立てよ、ヱリカ。片足で」

ヱリカ「ぁ……ぁ……」ポロポロ……




コーネリア「…………」

(今回はここまで。sage何故か忘れやすい……)

第一の謎 『ひたぎの体重』
ひたぎが子供だとしたらどうだろうか
小さな子供が上から落ちてきても受け止められる
これなら何の準備もなしに無傷である

第二の謎 『暦の再生能力』
これは単純に見えなかったとしか思えない。

第三の謎 『おもし蟹の存在』
この場面には「暦」「ひたぎ」「メメ」しかいないとすると
「おもし蟹」がロボット的ななにかになる
それと描写の範囲が気になる
名前だけ出すのも描写なら「忍」がいることになる

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