女「呪いの人形」(14)

男「……いきなりなんですか?」

女「いや、最近やたらと暑いだろう? 少し怖い話でもしてやろうかと思ってね」

男「なるほど。確かに最近暑いですよね。昨日は猛暑日でしたっけ」

女「ほんとそのうち猛暑日のもう一つ上ができそうな気がするよ」

男「猛暑日の上ですか。何て言うんでしょうね」

女「酷暑日なんてどうかな?」

男「なんだかすごく暑そうですね」

女「……おっと、少し話が脱線してしまったな」

男「それで、呪いの人形でしたっけ?」

女「ああ。ある所にリサイクルショップがあってな。そこに人形が置いてあったんだ」

男「どんな人形ですか?」

女「うむ。金髪碧眼のフランス人形でな。大きさは……小さめのスイカくらいだ」

男「なぜここでスイカが出るんですか?」

女「いや、ふいに食べたくなってしまって。とにかく、20センチくらいだ」

男「じゃあ今度スイカ食べましょうか。続きをどうぞ」

女「楽しみにしておこう。で、そのフランス人形は店の外から見えるように置かれていたんだ。もし君が夜にそれを見たらどう思う?」

男「やっぱり不気味ですかね。暗い中にフランス人形があるっていうのは」

女「君の言うとおり、そのあたりに住んでいる人たちはたいそう不気味がったそうだ。そして、だんだんと噂が立ち始めた」

男「どんな噂ですか?」

女「色々あってな。人間の目が使われているとか、夜になると店の中を動き回っているとか、あと夜ごとに髪の毛が伸びるとか」

男「髪が伸びるのは日本人形のような……」

女「とにかく、色々と噂が立ったんだ。その中にこれまたよくあるやつなんだが、持ち主が不幸になるというのがあったんだ」

男「定番ですね」

女「そうだな。それで、そんなフランス人形は誰も買わないわけだ」

男「買うとしたらよっぽどの物好きですかね」

女「それか、噂を知らない者だな。で、買ったのは後者だった」

男「観光客とかですか?」

女「いや、そこには観光するような所はない。買ったのは引っ越して来た新婚夫婦だ。そこの奥さん通りがけに見かけて気に入ってな。引越祝いということで買ったんだ」

男「それで、どうなったんですか?」

女「買った帰りに店のすぐ前の道路で車にはねられた」

男「……なんと」

女「幸い命に別状は無かった。あとで噂のことを知った夫婦はすぐに人形を手放したよ」

男「ところで、リサイクルショップの店員は噂のことを知らなかったんですか?」

女「そこのリサイクルショップは老人が一人で経営していてな。その人は噂のことを知らなかったんだ」

男「なるほど」

女「で、しばらくして今度はその老人が亡くなってな。人々はきっと人形の呪いだと噂したんだ。以上、どうだった?」

男「あれ? もう終わりですか。……はっきり言ってそんなに怖くなかったです」

女「そうか、残念だ。ところで、君はいつから人形は呪われていたと思う?」

男「最初から呪いの人形だったんじゃないですか?」

女「いや、分からんぞ? たとえば、新婚夫婦が事故に遭った時に呪われたと考えられないか?」

男「とすると、リサイクルショップの主人は呪いで亡くなったと考えられますね」

女「だが、その主人は老衰で亡くなったかもしれない」

男「じゃあ、呪いなんて無かったんですか?」

女「それもまた分からん。そういえば、さっきの話だがまだ続きがあったな。その人形は今もどこかのリサイクルショップで、次の持ち主を待っている。とな」

男「なんだかよくあるオチですね」

女「そうだな。で、さっきの話で持ち主が不幸になるというのがあっただろう? この不幸というのは実にあいまいだと思わないか?」

男「まあ、十円落としても不幸といえば不幸ですよね」

女「逆に、人が死んでしまうような不幸もある」

男「つまり、持ち主が不幸になるというのはだいたいの事に当てはまるということですか?」

女「ああ。だが、新婚夫婦が十円落としたって呪いだなんだとは騒がなかっただろう。事故という大きな不幸があったからこそ、呪いのせいだと考えたんだろう」

男「しかも、前の持ち主とも言えるリサイクルショップの主人も亡くなって、より呪いに対する信憑性が高まった」

女「その通り。私はな、呪いの何たらはそうやって生まれると考えているんだ。最初に噂があって、偶然大きな不幸が起きる。さらに、色々な不幸が噂に関連づけられてそれが呪いとして信じられていく」

男「じゃあ、女さんは呪いは無いと考えているんですか?」

女「それなんだが、世の中には呪いだとしか思えないようなこともあってな。結局、あるか無いかは分からない」

男「そうですか」

女「ただ、私が言いたいのは、あまり呪いだなんだと言うのもどうかということだ。病も気からと言うからな。さ、そろそろ帰ろうか」

男「そうしましょう」

女「……おや、メールだ」

男「何のメールですか?」

女「いや、私宛に荷物が届いたらしい。……勝手に開けてしまったようだな。写真が添付してある」

男「これは……フランス人形ですね」

女「…………」

終わり

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