王子姫「黒翼のハルピュイア娘……」 鏡の魔女「王子の最期」 (1000)



帝国大陸 花畑の道

魔法の馬車 移動アイテム屋 準備中



ニワトコ女 「……白い幽霊船」

ニワトコ女 「この前の黒い幽霊船じゃなくて?」


ブラウニー 「はい、つい最近新しく出たそうですよ。昨日、お客さんが言っていました」

ブラウニー 「夜、見張りの水夫が白く輝く不思議な船を見かけて、声を上げようとすると」

ブラウニー 「あっという間に消えちゃったそうです」


ニワトコ娘 「うーんむ。虹色の翼の竜に、黒に白の幽霊船……」

ニワトコ娘 「むふふふふ……! うふ、うふふふ!」

ニワトコ娘 「素敵」


野生の女 「旅に出て良かった?」


ニワトコ女 「ええ、それはもう……」


ブラウニー 「わたしは、いろんな料理のレシピを集めるため」


ニワトコ娘 「私は、いろんな物語を集めるため」


野生の女 「あたしは、いろんな我が子を見つけるため」


ブラウニー 「……野生の女さん、子供がいたんですか?」


野生の女 「ううん、迷子とかをかっさらうの」

野生の女 「戦場が近ければ、よりどりみどりよ」


ブラウニー・ニワトコ娘・野生の女 「あはははは!」


ブラウニー 「それじゃあ今日も楽しく頑張りましょう」


ニワトコ娘・野生の女 「おー!」


…………




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403362485


オリジナル系 ほのぼのファンタジー系
頭からっぽにして読める系
書き込み遅い系




読まなくても問題ない
人物とかのまとめ



貝殻の勇者軍


■王子
 帝国北東地方領主の息子。得意武器は剣、レイピア、ナイフ。
 黒花エルフに導かれて、貝殻の勇者の旅に同行する。
 妖精の領域での修行、砦の館などでの戦いを経て、黄金のえびゆで師の称号を得たが……。

■ハーピィ
 王子の世界では珍しいハルピュイアの少女。非戦闘ユニット。
 人間との違いは、黒い翼の腕だけ。王子になつき、王子の嘘をあばくとき以外は話さないはずだが……。
 好きなネグリジェの色は黒。

■幼妻エルフ(黒花エルフ、葉巻エルフなど)
 性別を捨てて他人の体をわたり歩く若いエルフ。得意武器は杖、妖精杖、小弓など。
 魔法のあつかいにたけたエルフの長老の一人で、王子を旅にいざなった無情の風。
 人間の領域がどうなろうと知ったことではないが……。

■貝殻の勇者
 勇者の力を授かった少女。得意武器はスピア、ハルバード。
 帝国の人々を救う旅の途中で魔王軍の存在を知る。今日も意気揚々と飯を食らうが……。
 好きなネグリジェの色は水色。
 
■ろうそく職人
 家畜。元は王子の城で働く根暗な少女。得意武器は杖、燭台杖、爪。
 エルフの呪いで獣の耳と尻尾を生やされて、性格も明るくなったように見えたが、その内面では……。
 回復系の火の魔法を操る。

■馬車幽霊
 呪われたフレッシュゴーレムに宿っていた魂のキメラが、王子と黒花エルフに殺害されることでうまれた。
 以後、貝殻の勇者の旅に同行する。モンスターとしてはゴーストの上位種。
 穏やかな性格で、自在に男性と女性の姿をとることができるが……。


□魔法の馬車Lv.3
 見た目は馬車、中身はお城の、魔法じかけの馬車。二頭だて。
 魔法の蹄鉄によって水の上を走ることができる。
 馬車馬として首無し馬(デュラハン)が新たに加入した。





これまでの
王子(とハーピィ)の旅



王子「黒翼のハルピュイア娘か……」 幼女商人「売り物ではない」
王子「黒翼のハルピュイア娘か……」 幼女商人「売り物ではない」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1385809502/)

北東地方北の町の奴隷市で、淫魔幼女からハーピィを引き取る。
城の隠し地下牢で勇者と会ったことをきっかけに、帝国大陸を巡る旅に身を投じる。
妖精の領域での修行でえびゆで師の力に目覚め、エルフの里に襲来した魔王軍を撃退。
皇帝の千里眼を破るために旅を再開する。



貝殻の勇者 「黒翼のハルピュイア娘……」 王子 「海老を食え、海老を」
貝殻の勇者 「黒翼のハルピュイア娘……」 王子 「海老を食え、海老を」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1392002165/)

人間の領域、帝国東の島へ。
西の港で情報収集をし、東まわりで南の港を目指す途中、人殺しの森の館に立ち寄る。
館の地下の礼拝堂で、皇帝の千里眼の一部を破壊。
南の港へ向けて旅を再開する。



>>1乙!
というか、鏡の魔女って新キャラ?



帝国南の島 南


サアアア


ろうそく職人 「せっかく鬱々とした森から出たと思ったら、こんな大雨……」

ろうそく職人 「うーん、尻尾が芯まで湿ってしまいそうです」


馬車幽霊 「まあまあ、このお茶でも飲んで心をあたためてください」


貝殻の勇者 「ありがとうございます」

貝殻の勇者 「雨のおかげで、人目につかず南の港町に入れると考えましょう」

貝殻の勇者 「思わぬ寄り道のおかげで、西回りで南の港に向かうと言っていた憲兵隊とも」

貝殻の勇者 「会うことはないでしょう」


ろうそく職人 「な、なるほど」


貝殻の勇者 「うふふ」

貝殻の勇者 「……湿った尻尾。どんな握り心地でしょうか」




馬車馬B 「バフッ……」


ハーピィ 「…………」


カラカラカラカラ


王子 「……なあ、ハーピィに運転をまかせきりで編み物をする御者台の葉巻よ」


幼妻エルフ 「なんだい、ハーピィに運転をまかせきりで剣の手入れをする御者台の王子さま」


王子 「おれは、いつまでこの骨仮面を装備していなくちゃならないのだろうか」


幼妻エルフ 「そうだな、退屈しのぎに答えるとするならば」

幼妻エルフ 「お前だっていつまでオレを葉巻と呼ぶつもりだよ」

幼妻エルフ 「あれはオレの姿のひとつであって、すべてじゃないんだぜ」

幼妻エルフ 「と言うのと同じことだ」


画像まとめありがとうございます
良い感じに胃にズンってきました

>>11
準新キャラ



王子 「何だ、嫌だったのか?」


幼妻エルフ 「別に」

幼妻エルフ 「お前のほうは、オレのにおいのついた仮面が嫌なのかい?」


王子 「大好きさ。格好良い仮面に、お前のにおいだなんて」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「大好きと思っていないのに、大好きと言いました」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ、大嫌いだ。親父の領地で毒薬を売りさばいていたお前のにおいなんて」

王子 「悪臭でしかない」


幼妻エルフ 「…………」




ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「……うん。まったく嫌というわけでもないかな」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「悪臭と思っていないのに……」


王子 「あ、そっちもか」

王子 「そうだよ。ちょっと……と、その程度と言って良いかどうかおれは知っているが、うん、良いにおいだなと思う」

王子 「きっと黒花の長老だからだな。花はだいたい良いにおいだものな」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「……おいおい」

幼妻エルフ 「何を慌てているんだ王子さま」


王子 「男の尊厳のためさ」


幼妻エルフ 「オレの前じゃ無いようなものだろ」

幼妻エルフ 「初めて会ったあの夜に宿の二階で……」


王子 「おい……ッ!」


幼妻エルフ 「けけけ。慌てた、慌てた」




幼妻エルフ 「安心しろ、王子さま。こう見えてオレは友人、身内を大事にするんだ」

幼妻エルフ 「言えない秘密を秘密として共有するのも、友人さ」


王子 (大事にするというか、わりと甘やかしている気もするが)

王子 「できれば忘れてくれよ。そんなことしなくても、友情を忘れたりはしない」


幼妻エルフ 「やだ。死ぬまでおぼえていてやる」

幼妻エルフ 「そしてときどき思い出して笑うんだ」


王子 「お前……」




ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「ハーピィ、嘘を見抜く精度が上がらなかったか」


王子 「どうかな。もともとこんなものだと思うけど」


幼妻エルフ 「……ふうん」

幼妻エルフ 「まだ種族としてのこいつを掴みきれていないから」

幼妻エルフ 「不規則に感じるだけか……」


王子 「難しい顔するなよ」

王子 「お前だって掴めない奴さ。葉巻のくせに黒花だったり、魔物だったり、ゴーレムだったり」

王子 「何者だよ、お前は」


幼妻エルフ 「お前の友人さ」


王子 「だったら、ハーピィはハーピィさ」


幼妻エルフ 「……おそろしい奴だね、お前も」




馬車幽霊 「みなさん、お茶がはいりましたよ」


王子 「馬車幽霊」

王子 (壁をすり抜けて出られると、心臓に悪いな)


幼妻エルフ 「いただこう」

幼妻エルフ 「だが、中の連中にはその一杯で切り上げて準備をするよう伝えてくれ」


馬車幽霊 「かしこまりました」

馬車幽霊 「では」


幼妻エルフ 「ああ。そろそろ町だ」




王子 「南の港町か。今度こそ船に乗れると良いな」


幼妻エルフ 「良いか、仮面は外すなよ」


王子 「分かっているよ。故郷の連中に迷惑をかけるわけにはいかないからな」


幼妻エルフ 「よし。そして、あまり目だたないように気をつけろよ」


王子 「ああ、お前もな。くれぐれも……」


幼妻エルフ 「目だたないよう……」


首無し馬 「…………」

首無し馬 「……フィン」


王子 「すごく目立つな」


幼妻エルフ 「停車だ、ハーピィ」


ハーピィ 「…………」




…………



ろうそく職人 「ありましたよ、師匠!」

ろうそく職人 「魔法の馬車の倉庫に、大きな馬頭の鉄仮面が!」


馬車幽霊 「私が町へ行くときに使っていたものですね」


王子 「重そうだな」


幼妻エルフ 「ゆっくり持ってこいよ」


ろうそく職人 「ふふふ。大丈夫ですよ師匠」

ろうそく職人 「激戦をくぐりぬけた私にとって、こんな荷物など軽いものです」


タタタタ ズルッ 

ドテ ベチャ


ろうそく職人 「ぎゃんっ」


貝殻の勇者 「ああっ、ろうそく職人さん!」





ろうそく職人 「えーん、えーん」

ろうそく職人 「泥だらけだよう、気持ち悪いよう、みじめだよう」


貝殻の勇者 「おお、よしよし。雨で足元が悪くなっているのに走るから……」


幼妻エルフ 「ああ、もう、勇者さままで泥だらけになりやがって」

幼妻エルフ 「綺麗にするのも楽じゃないんだぞ……」


サアアア


ハーピィ 「…………」


王子 「よいしょ。こんなもので良いかな」


首無し馬 「…………」


王子 (迫力あるなあ。重騎兵の馬みたいだ)


馬車幽霊 「ええ。綺麗に被せられています。首の無い馬には見えません」


王子 「いや、危なかった。首が無いのに慣れていたからなあ」

王子 「不意に外れたりしないのか、これは」


馬車幽霊 「その点は心配いりませんよ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………?」


??? 「…………」


ハーピィ 「…………」




ハーピィ 「…………」


王子 「どうしたんだい、ハーピィ」


ハーピィ 「…………」


王子 「あそこ? 何かあるのか……」


??? 「…………」

三角帽子? 「…………」


王子 「小さな……帽子か? 小人のかな。雨にぬれてへたれている」


ハーピィ 「…………」


トコトコトコ


王子 「あ、ハーピィ……」


ハーピィ 「…………」


トコトコトコ


ハーピィ 「…………」


三角帽子? 「…………」


王子 「拾ってきちゃったか……」




三角帽子? 「…………」


王子 「おや、帽子のてっぺんから何か出ている」

王子 「……双葉だ」

王子 「いや、これはどうやら帽子じゃないぞ」

王子 「なんというか、植物みたいだ。木の皮のような」


ハーピィ 「…………」


三角帽子? 「…………!」


ハーピィ 「!?」


王子 (へたれていた三角帽子がぴんと立った)

王子 「ハーピィ、それを地面におろそう。危ないものかもしれない」


ハーピィ 「…………」


ソッ


三角帽子? 「…………」


王子 「さて、何が出るやら」


三角帽子? 「…………」


モゾモゾ


王子 (帽子らしきものが持ち上がった)

王子 (下に丸っこい何かがいる)

王子 「……種か。帽子を被った、生きた種?」


三角帽子? 「…………」


ハーピィ 「…………」




三角帽子? 「……ッ! ……ッ!」


ビョン ビョン


王子 「飛び跳ねている。足は見あたらないな」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


スッ


三角帽子? 「!」

三角帽子? 「…………」


ヒョイ


王子 (ハーピィの差し出した翼に飛び乗った)

王子 「危ないと思ったら放すんだよ、ハーピィ」


ハーピィ 「…………」


三角帽子? 「…………」


ハーピィ 「…………」

三角帽子(?)を頭に乗せたハーピィ 「…………」


ハーピィ・三角帽子? 「……!」


ジャンッ


王子 「!?」

王子 「な、何だ?」

王子 (ハーピィと三角帽子がポーズをきめたら、どこからか音が聞こえた……)




ハーピィ 「…………」


王子 「似合っている、似合っているよハーピィ。似合っているけど」

王子 「大丈夫なのかい?」


ハーピィ 「…………」


王子 「……すごく嬉しそうだ。無表情だけど」


馬車幽霊 「どうしたのですか王子どの」

馬車幽霊 「おや、ハーピィさまのそれはまさか……」


王子 「知っているのか、馬車幽霊」


馬車幽霊 「いえ、まったく」


王子 「あ、そう」




馬車幽霊 「という冗談はさておき」

馬車幽霊 「それは分からないものです」


王子 「分からないか」


馬車幽霊 「分からないものです」

馬車幽霊 「南の方ではわりと一般的に知られています」

馬車幽霊 「よく夕日を眺めているところを目撃されたりしますが、理由は分かりません」


王子 「ちょっと待て」


馬車幽霊 「はい。何でしょうか」


王子 「これ、分からないものじゃないのか」


馬車幽霊 「分からないものですよ」

馬車幽霊 「帽子に見える部分は個体によって違いがありますが、何なのか分かっていません」

馬車幽霊 「生態もよく分かっていません」


王子 「けっこう分かっているじゃないか」


馬車幽霊 「いえいえ、まったく。今では解明されたのでしょうか」

馬車幽霊 「以前、私がいた場所の魔法使いたちが研究しようとしたのですが」

馬車幽霊 「あえなく失敗したようです」

馬車幽霊 「人なつっこく、無害な、どうやら使い魔か精霊の一種と見られていましたが」

馬車幽霊 「確証は得られませんでした」


王子 「ほら、分からないものじゃないじゃないか」


馬車幽霊 「分からないものですってば」


王子 「???」


ハーピィ 「???」




王子 「これがどんなものか、知っているんだろう?」


三角帽子? 「…………」


馬車幽霊 「……ああ」

馬車幽霊 「あはは、そうですね。これは分からないもの」

馬車幽霊 「分からないもの、という名のものです」


王子 「……ああ。そういうことか」

王子 「ややこしいね」


馬車幽霊 「ふふふ。しかし、名実ともに分からないものではあります」

馬車幽霊 「名についても、勝手につけたものですし」

馬車幽霊 「我々の考えうる生き物としての条件が、まったく通じない生き物であったなら」

馬車幽霊 「我々がこれを生き物と証明することすら難しいでしょう」


王子 「ふむ」


馬車幽霊 「そして、それはこの分からないものだけに言えることではないのです」

馬車幽霊 「あなたは私について、知らないこと、分からないことの方が多いのではありませんか?」

馬車幽霊 「ごく身近な人についても、すべて知っているというわけではないのではありませんか?」


ハーピィ 「…………」


王子 「……たしかに」




馬車幽霊 「ひとつでも分からないことがある場合、それは分からないものであるとするだけで」

馬車幽霊 「きっと世界の全部が、自分さえも、分からないものということになるでしょう」

馬車幽霊 「ならば」

馬車幽霊 「何かについて分かっていると言いきるのは、とても勿体無い過信のように思えませんか」


王子 「分かったつもりでも、違っていたり変わっていったりするものな」


馬車幽霊 「言葉や心といったものは、とくにそうでしょう」

馬車幽霊 「かつて、それを知っていたはずの私がつくり出したのは」

馬車幽霊 「やや複雑ながら規則的に動く、じつはまったく動きのない心でした」


王子 「重みが違うね」




馬車幽霊 「危険なのは、分かったと思うことで停滞してしまうこと」

馬車幽霊 「分かるものを守るあまり、分からないものに目を向けなくなること」


三角帽子? 「……………」


馬車幽霊 「知識をひけらかす愚者であるよりも、まだ見ぬ知識を求める愚者であれ」

馬車幽霊 「今となっては古の彼らを知ろうとした人々は、そういう戒めを込めて」

馬車幽霊 「分からないもの、という名をつけたのかもしれません」


王子 「……夢がある話だ」

王子 「もしかしたらこいつは、思い上がる知性の獣たちに対する自然からの警鐘……」


三角帽子? 「…………」


ハーピィ 「…………」


ハーピィ・三角帽子? 「……!」


ジャンッ


王子 「……ではないと思いたいな」




馬車幽霊 「というわけで、王子お坊ちゃま」


王子 「むず痒いな。何だい」


馬車幽霊 「黒花お嬢様についてですが」


王子 「あいつがどうかしたかい」


馬車幽霊 「ええ」

馬車幽霊 「あのかたについて、あなたが知っていると思っていることも」

馬車幽霊 「じつは、違っているのかもしれませんよ」


王子 「うーん。そう言われても、あいつは分からないことだらけだからなあ」


馬車幽霊 「ふふふ。たとえば」

馬車幽霊 「あなたが初めて会ったあのかたが、本当のあのかただったのでしょうか」

馬車幽霊 「先入観を取り払って今のあのかたを見れば、そんな疑問がわいてくるはずです」


王子 「今の姿……」

王子 「まさか」


馬車幽霊 「そう。もしかしたら、あのかたはおん……」


王子 「あいつ、本当は起伏のある体が良いんだな!」


馬車幽霊 「なっ……」


王子 「何だよ、エルフは起伏がない体の方が尊ばれるとか言いながら、やっぱり憧れていたのか」

王子 「憧れ……ん? 待てよ。もしかして、あいつ……」


馬車幽霊 「そ、そうです、お嬢様は……」


王子 「エルフじゃないのか……!?」


馬車幽霊 「馬鹿ですかあなたは」


ハーピィ 「…………」



…………


ジャンッ


…………

……


ジャンッ

http://i.imgur.com/1elXVhl.jpg



※名前表記変更します

三角帽子?

種帽子






カラカラカラカラ


ハーピィ 「…………」


種帽子 「…………」


王子 (ハーピィの頭や肩の上が定位置になったらしい)


幼妻エルフ 「町が見えてきたな」

幼妻エルフ 「これもちょうど仕上がった。ほれ、王子」


黒花の首巻きLv.2


王子 「……ああ」

王子 「ははは、うまくできているなあ。お前、こんなこともできたのか」


幼妻エルフ 「気休め程度だが、魔法への抵抗力が上がっている」

幼妻エルフ 「魔法はデリケートだから、魔法を使うための装備もこだわらなくちゃいけない」

幼妻エルフ 「自分にあう装備を自分でつくれたら、それが一番良いのさ」


王子 「へえ」


幼妻エルフ 「装備づくりにはまって、そっちが本業になる魔法使いもいるくらいだ」

幼妻エルフ 「お前がくれた肩掛けも、そんな魔法使いがつくったものかもな」

幼妻エルフ 「ふふふ、新しい体にもよく馴染むぞ」


王子 「……そ、そうか」




種帽子 「…………」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「ハーピィ、気をつけろよ。そんなにべたべたしたら変な霧を噴き出すかもしれない」


王子 (人見知りは相変わらずか。時間がたてば大丈夫だろう)

王子 「なあ、葉巻よ」


幼妻エルフ 「あん?」


王子 「エルフは平坦な体が好きなんだよな」


幼妻エルフ 「うん。……いきなり変なことをきいてくるじゃないか」


王子 「……お前、本当にエルフだよな」


幼妻エルフ 「…………」


王子 「葉巻?」

王子 (怒らせちまったかな。それともまさか……)


幼妻エルフ 「ははあ、なるほど」


王子 「?」


幼妻エルフ 「そんなに今のオレの姿が衝撃的だったか」

幼妻エルフ 「たしかに、人間が好みそうな下品な体にしたからな」


王子(なんでだよ)


幼妻エルフ 「何だ。オレが花か湖の女神にでも見えるか? ん?」


王子 「いや、本当はおん……」


幼妻エルフ 「……」


王子 「……ぶバンシーの音痴な陰陽師かなって」


幼妻エルフ 「腹の傷が腐って脳に達したか」





幼妻エルフ 「陰陽師って何だよ」


王子 「宮廷占術師みたいなものらしい。親父がモチを食いながら言っていた」

王子 「遠い異国には、そんな奴らがいるんだと」


幼妻エルフ 「モチか。青花の奴も好きだったな」

幼妻エルフ 「子供のころ、無理やり食わされたもんだぜ」


王子 (青花エルフか。そういえば、どこかこいつを気にかけているようだったな)


幼妻エルフ 「占い。占いね……」

幼妻エルフ 「どれ、町につくまでの少しの間、王子の今後でもちょろっと占ってみるかね」


ゴソゴソ


王子 (御者台の収納棚から、何か可愛い台が出てきた)




王子 「おいおい、本格的じゃないか。もう町に着くんだぜ」


幼妻エルフ 「ふっふっふ」


スッポン


王子 (頭の黒い花飾りをはずした)


幼妻エルフ 「さあて、近未来の王子さんは……」


ヒラ ペタ ヒラ ペタ


王子 (花びらを一枚ずつ台に並べだした)


幼妻エルフ 「ふむふむ、ほおう……ふふふ……」


王子 「やれやれ」

王子 (楽しそうだし、良いか)


ハーピィ 「…………」




ヒラ ペタ ヒラ ペ……


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「おいおい、嘘だろ……」


王子 「お、もう結果が出たのかい」


幼妻エルフ 「…………」


王子 「?」

王子 (……葉巻、顔が青ざめている。いや、新しい体はもともとそうだったな)


幼妻エルフ 「いや、まさかな。どこかで間違ったに違いない。もう一度やってみよう」


ヒョイ スッ ヒョインス


王子 (花びらを花飾りに戻していく)

王子 「おい、何だよ、気になるじゃないか……」


幼妻エルフ 「…………」


ヒラ ペタ ヒラ ペタ




ヒラ ペ……


幼妻エルフ 「…………王子」


王子 「何だい」


幼妻エルフ 「敵対者に魔女はいるか?」


王子 「いないと思う。いや、考えようによっちゃ、皇帝も魔女になるのか?」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「ちょっと分かりづらいか」

幼妻エルフ 「そうだ。最期とかいう名前の武器かアイテム、何でも良いから持っていないか」


王子 「何だそりゃ。そんなもの無いな」

王子 「それより、占いの結果を教えてくれよ」


ハーピィ 「…………」




幼妻エルフ 「そうだよな、たかが占いだ。でもこのスィレッドタイトゥール占いは悪いことはわりと当たるんだよな……」


ブツブツブツブツ


王子 (深刻な顔で呟きだした)


幼妻エルフ 「……そうだ」

幼妻エルフ 「おい、知り合いに王子と呼ばれている奴はいないか?」


王子 「それが占いと関係あるのか?」


幼妻エルフ 「ありやなしやだ」


王子 「なにやだよ……うーん。おお、そういえば」


幼妻エルフ 「いるのか?」


王子 「お、おい、何だよそんなに食いついて……」

王子 (ちょっとドキッとした。中身は葉巻のくせに)

王子 (くそう、おれは見た目に騙されるたちなのだろうか。なおさなきゃな……)




幼妻エルフ 「良いから答えて」


王子 「ああ。これから船で渡る南東地方の中心部には親父と交流のある領主どのがいるんだが」

王子 「その子供に、王子って呼ばれるのが二人いる」

王子 「黒王子と海王子といって、できれば片方とは顔をあわせたくない」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「……そうか」


王子 (笑った。町でおなじみの濁ったドブみたいな笑いかたじゃない)

王子 (なんというか、見るものに安らぎをあたえる感じだ)

王子 (警戒をしなくては。次は何をたくらんでやがる、葉巻……)




幼妻エルフ 「王子なんてのが他にもいるとはな、うふふ」

幼妻エルフ 「お前が会いたくないのはどうせあれだろ、黒王子の方だろ」

幼妻エルフ 「いったいどこの指揮者なの、お前」


王子 「何の話だよ。急に明るくなりやがって、似合いもしない」

王子 (次の余所行きの人格か? 普段なにげないときにも、まめに練習していくのだな)


幼妻エルフ 「だいたい、王子って何だよ。領主の子供だろ」

幼妻エルフ 「王子って、あははは……!」


王子 「……浮かれすぎじゃないか?」

王子 「はやく占いの結果を教えろよ」


幼妻エルフ 「良いとも。まあ、どうでも良いことさ」

幼妻エルフ 「お前のその知り合いの王子のどちらかが、魔女に関わって命を落とすかもしれない」

幼妻エルフ 「機会があれば気をつけるよう伝えてやれ」


王子 「おれのこと占うんじゃなかったのか」


幼妻エルフ 「うふふふ、あはははは……!」


ツン ツン ツン


王子 「な、何だよ、つつくなよ、くすぐったいだろ。本当に大丈夫かお前……」


ハーピィ 「…………」




ろうそく職人 「わあ、勇者さま、けぶるように降る雨の向こうに町が見えますよ!」


貝殻の勇者 「あら、本当。……結局、馬車の運転はハーピィさんたちにまかせきりでしたね」



カラカラカラ


幼妻エルフ 「このこのー」


王子 「何だよー。やめろよー」


ハーピィ 「…………!」


種帽子 「…………!」


ジャンッ



ろうそく職人 「……何やってるんですかね。すごくあやしいのですが」


馬車幽霊 「……とりあえず楽しそうなので、良いのではないでしょうか」


貝殻の勇者 「そ、そうですね」


カラカラカラカラ


…………


>>13 訂正 ごめんなさい

×南の島

○東の島





南の港町 流れもの市場 小さな酒場



ミャー ミャー

ワイワイ ザワザワ


溝鼠傭兵 「うるさいじいさんがいてね。飲むと必ず一度は」

溝鼠傭兵 「町ができたときから住んでいるのは自分の一族だけだって自慢するんだ」

溝鼠傭兵 「先日、死んじまったよ」

溝鼠傭兵 「自分が死んだら町はよそ者だらけになるから、まだまだ死ぬもんかなんて言っていたのに」

溝鼠傭兵 「あっけないもんさ」

溝鼠傭兵 「……ああ、また一緒に飲みてえなあ」


ハーピィ 「…………」


王子 (……てことは、じつはそのじいさんが生きているうちに)

王子 (町はよそ者だらけになることが決まっていたのか)


幼妻エルフ 「王子」


王子 (混血がありなら違うのかな。しかしエルフとハーフエルフは別物と考えるものらしいし、この場合も)

王子 (いやいや、種族が違うわけではないし。しかし、既存の種の分水嶺などにどれほど信憑性が……)


幼妻エルフ 「聞いてんのか、王子」


ピト


王子 「つめてっ」




王子 「いきなり頬をつつくなよ」

王子 「うわ、血……冷たいソースか」

王子 「……酸っぱいな」


幼妻エルフ 「……気を抜くなよ。こんなんじゃ敵に襲われたらいちころだぜ」


王子 「お前は敵じゃないだろうに」


幼妻エルフ 「けけけ。良いのかな、オレを信じきって」


チュパ


幼妻エルフ 「……酸っぱいな」


王子 「隙あり」


ピタ


幼妻エルフ 「っ!」


王子 「ははは。敵をうった指をなめて自滅するとは、うかつな奴め」


ハーピィ 「…………」




王子 「それで、何だい」


幼妻エルフ 「……あそこ、どう思う」


王子 「あの立ち食いしている人か。そうだな……」



フードの女A 「…………」



王子 「……使い込まれたローブにちぐはぐな鎧。傭兵のようだが」


幼妻エルフ 「帝国側の魔女かもしれない」


王子 「そうかなあ。たしかに帝国兵であることを隠しているかもしれないけど、危険な感じはしない」

王子 「お前の魔法じゃ何か分からないのかい?」


幼妻エルフ 「こっちも、とくに危険はないと出ている」


王子 (出ている?)

王子 「じゃあ、大丈夫じゃないか」


幼妻エルフ 「いや、もしかしたらオレの知らない魔法で、こちらをかく乱しているのかもしれない」


王子 「そうか……」

王子 (慎重だな。いつもより自分を過小評価しているようだ)

王子 (便利な魔法を使えるからといって、何でもできるわけじゃないのだし)

王子 (おれも頼ってばかりではいけないか)


幼妻エルフ 「しかたない……」

幼妻エルフ 「とりあえずあいつ殺しちまおう」


王子 「待て」




幼妻エルフ 「何だよ。殺しちまえば、帝国兵だろうが違おうが関係ないだろ」

幼妻エルフ 「よし。この町中の魔女を皆殺しに……」


王子 「待て待てジェノサイドエルフ」

王子 「どうしたんだよ、お前。町で悪ぶって今となってはこちらが恥ずかしくなるくらいだが格好つけていたときも」

王子 「そういう殺しはしない奴だったじゃないか」


幼妻エルフ 「しかたないんだ」

幼妻エルフ 「大丈夫さ、あんな着古したローブの魔女なんて」


王子 「本当にどうした。どこか具合が悪いのか?」


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「いや」

幼妻エルフ 「すまんね。このソースがあまりにも酸っぱくて、つい凶暴になっちまった」


王子 「……ああ」

王子 「それならしかたないな」


ハーピィ 「…………」




幼妻エルフ 「…………」


チュルチュル モグモグ


王子 (葉巻、食べている警戒をといていないな。耳が神経質にぴくぴくしている)

王子 (……本当に酸っぱいな、このソース。果実の爽やかな酸味じゃなく、何かこう、鬱陶しい感じだ)



ニワトコ娘 「れろれろ……」

ニワトコ女 「酸っぱい!」

ニワトコ女 「思わず成長しちゃうくらい酸っぱい! 頭から花が咲きそう!」


ブラウニー 「ううーん。この島の名物、恐るべし」

ブラウニー 「慣れると、この独特の酸っぱさがクセになるそうです」


野生の女 「あー……私はちょっと駄目だわ、これ……」



王子 (……おれたちのところにきた料理が失敗しているわけじゃないのか)


>>67 訂正ごめんなさい


× 王子 (葉巻、食べている警戒をといていないな。耳が神経質にぴくぴくしている)
○ 王子 (葉巻、食べている最中も警戒をといてないな。耳が神経質にぴくぴくしているからすぐ分かる)



幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「……!?」

幼妻エルフ 「エンッ!」


王子 「!」


幼妻エルフ 「えほッ……ゲホッ、ゲホッ……!」


王子 「むせて鼻にきたか」

王子 「ほら、水だ」


幼妻エルフ 「わ、悪い……」


王子 「食べるのに集中しないから。変な薬のにおいをかいだと思ったぞ」


幼妻エルフ 「……食べながら警戒しているのはいつもと一緒だ。今のはちょっとした間違いさ」

幼妻エルフ 「よくあるだろ。ちょっとした間違い」


王子 「……まあね」




王子 「だけど今日のお前はなんというか、異常ありだ」


幼妻エルフ 「異常はこっちの方だろ」


ハーピィ 「…………」


種帽子 「…………」


王子 (ハーピィが種帽子の帽子のさきを摘んで)

王子 (コップの水に沈めている……)


ハーピィ 「…………」


チャポン


種帽子 「…………」


ハーピィ 「…………?」


種帽子 「…………」


ハーピィ 「…………」


チャプン


王子 (引き上げて、また沈めた)

王子 「……は、ハーピィ?」


ハーピィ 「…………?」


種帽子 「…………」


王子 (種帽子の……中身で良いのか? ……が、コップの中で生き生きしている)

王子 (もしかして、これが種帽子の食事なのだろうか)

王子 「植物なのか?」




幼妻エルフ 「さあな。水を主食にする生き物はたくさんいるらしいからな」

幼妻エルフ 「ハーピィ、そいつを頭に乗せる前にちゃんと拭くんだぞ」


王子 (まだ耳が……)

王子 「葉巻、今日は何か心配事があるのか」


幼妻エルフ 「……別に。いつもと変わらず心配事だらけさ」

幼妻エルフ 「大食いの勇者に、何だかよく分からない弟子に、魔王に皇帝、なくなったハグちゃん人形に……」


王子 (嘘だな)

王子 「宿も明日の船もとれたんだ。今日のところは力を抜いてのんびりしようぜ」

王子 「しんどい旅だからこそ気楽にいこうと言っていたじゃないか」


幼妻エルフ 「やだ」


王子 「こうやって町でつるむのも久しぶりなんだから」


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「しっかたねえなあ、この遊び人は」


王子 「粋人と言ってくれ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「うん、そんな感じではないかな……」




カチャカチャ ザワザワ


王子 「……ふう、食った食った」

王子 「酸っぱかった。戦闘中に食べたらなんらかの効果を得られそうだ」


幼妻エルフ 「さて、腹もふくれたところで、オレたちをどこに連れて行ってくれるんだ王子さま?」


ハーピィ 「…………」


王子 「おれ?」


幼妻エルフ 「オレたちをお気楽にしてくれるのだろ?」

幼妻エルフ 「さぞ楽しいところに連れて行ってくれるんだろう」

幼妻エルフ 「楽しみだなあ、ハーピィ?」


ハーピィ 「…………」


チャプン


王子 「……さて、どうしようかな」

王子 「この町にくるのは初めてだからなあ」


幼妻エルフ 「おいおい……」

幼妻エルフ 「まあ、どこでも良いさ。お前についていくというのが、大事なところだ。このところ引きずりまわしてばかりだからな」


王子 「友達がいのある奴だね……」


幼妻エルフ 「ああ、相手に全部ゆだねるというのも良いものだ」

幼妻エルフ 「先が分からなくて、不安でわくわくするよ」

幼妻エルフ 「今日は雨の流れもの市でいろんなアイテムが安くなっているという噂のこの町で」

幼妻エルフ 「どんなところに連れて行ってもらえるんだろうなあ、うふふふ……」


王子 「……分かったよ」


ハーピィ 「…………」




流れもの市 塩通り



荒くれ傭兵A 「やいこら、冗談じゃないぞ。どうして野菜がこんなに高いんだ」


荒くれ傭兵B 「俺たちの故郷の三倍の値段だぞ」


畑案山子 「いやあ、最近このへんじゃあ、格安で売るほど野菜がなくてねえ」

畑案山子 「しかもこれは赤くてサクっとする、一番おいしいところだし」


山案山子 「どうしてもってんなら、普通の店に行くか南東地方に渡るこってす」

山案山子 「猛者の集まる武芸大会に向けて、あそこにゃあ文字通り腐るほどあるはずなもんで……」


ザアアア ワイワイ


王子 「……屋根があるのは良いけど、人が多いな」


幼妻エルフ 「南東地方で祭りがあるそうだからな」

幼妻エルフ 「すまんね、何だか催促しちゃったみたいで」


王子 「何のことだかわからないとは言わないが」

王子 「助かるよ」

王子 「おれなら、目的もなくぶらぶら歩いて時間を無駄にしちまうからな」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「……なるほど、お前は旅人に向いているのかもな」


王子 「光栄だね」




王子 「さて、どんな掘り出し物があるのやら」


幼妻エルフ 「待て、王子」


王子 「仮面ならつけているぞ」


幼妻エルフ 「当たり前だ」

幼妻エルフ 「ほれ」


キュイイ ピロリン


王子 (何かに守られている感じがする)

王子 「……魔法をかけたな」


幼妻エルフ 「念のためさ。オレやハーピィにもかけた。さあ行くぞ」


王子 「…………」

王子 「馬車でやった占いか?」


幼妻エルフ 「…………」




王子 「結果、悪かったんだな?」


幼妻エルフ 「……さてね」


王子 「隠さず言っていただけた方が、こちらとしてもありがたいのだけどな」

王子 「それに、占いなのだしそんなに神経質にならなくても……」


幼妻エルフ 「王子さま」

幼妻エルフ 「オレをお気楽にしてくれるんじゃなかったのか」


王子 「む……」


幼妻エルフ 「……何も変わっちゃいないよ、王子さま」

幼妻エルフ 「少しだけ視野がひろくなって、気づくことの増えたお前がいるだけさ」


王子 「?」


ハーピィ 「…………」




天使学者 「流れもの市にはときどき、どこから来たのかさえ分からないものもあるんだ」

天使学者 「海の底の向こうにある別世界から流れてきたと言われたりしているんだよ」

天使学者 「弟とよく話したものさ。そこにあるものは天使の国か、悪魔の国か」

天使学者 「確認するために、いつか世界の果てまで旅して、世界の秘密を全部見つけようって」


南の町娘 「……弟さん、まだ帰ってこないわね」


天使学者 「風の噂では、ときどき西の港町に現れるらしい。でも、会いにいく勇気がないんだ」

天使学者 「南東諸島の白柱遺跡で聞いた海鳴りの音が、僕たち兄弟の仲を狂わせてしまった……」


ザワザワ ペチャクチャ


幼妻エルフ 「船に積み込まれたものの、何らかの事情で行き場を失ったものがこういった港の市に流される」

幼妻エルフ 「さすがに、奴隷なんかは別のしかるべき場所にうつされるけどな」


王子 (やはり占いでは、災いがふりかかるのはどこかの王子ではなくて、おれだという結果が出たのだろう)

王子 (しかしそうだとして、どうして葉巻はそれを隠したがるんだ。不安にさせたくないとでも思ったんだろうか)

王子 (……まあ、所詮は占いだよな)


幼妻エルフ 「とうぜん品揃えは安定していないが、中には珍しいものが安値で売られていたりするんだぜ」

幼妻エルフ 「探せば面白い本も見つかるかもしれない」


ハーピィ 「…………!」


王子 「ああ、面白い本を探そうハーピィ」

王子 「さすが、物知りエルフはよく知っているな」


幼妻エルフ 「裏の世界は情報が多いのさ。嘘も含めて」




ガヤガヤ ワイワイ


ハーピィ 「…………」


王子 「お、さっそく面白そうな本を見つけたのか」

王子 「……表紙にあの宗教の印がある」


幼妻エルフ 「同じの持ってなかったか」


王子 「ああ。たしか城に来た書籍商から買ったな」

王子 「残念だけど他のを探そうか、ハーピィ?」


ハーピィ 「…………ッ」


幼妻エルフ 「なんだ、本が開かないのか?」


青い水夫 「ああ、それは開かないんだよ」

青い水夫 「いろいろ試してみたが駄目だった。岩みたいにびくともしない」


王子 「変わった商品だね」


青い水夫 「初めてかい、仮面の旦那。とりあえず何でも売るのがここさ」

青い水夫 「まあこれは魔法の本かもしれんから、そっち関係のやつに売れるかもしれんし」




王子 「へえ、魔法の本ね。見た目はあの宗教の本と変わらないけどな」

王子 「……うん、開かない。いちど濡れてくっついている感じでもない」


幼妻エルフ 「……そっち関係以外の人には売ってくれない?」


青い水夫 「いや、早い者勝ちさ。ここは平等なんだよ、海のように」


幼妻エルフ 「そりゃ良いや。おいくら?」


青い水夫 「これくらいかな」


王子 「ちょっと高めだな。開かないにしては」


青い水夫 「開いたらもっと高くなるかもしれんよ」


幼妻エルフ 「じゃあ、買う前に開くのは駄目か」


青い水夫 「そうは言っていませんぜ奥さん」

青い水夫 「まあ、うちの塩魔法使いでも開けなかった代物だが」


幼妻エルフ 「へえ」

幼妻エルフ 「よし、挑戦してみるか」




王子 「待った。開くと高くなるかもしれんのだろ?」


幼妻エルフ 「……そうなの?」


青い水夫 「……あちゃあ」

青い水夫 「いやあ、参った。鋭いなあ旦那、その通りですぜ」

青い水夫 「もし貴重なものだったら、それ相応の値段になる」

青い水夫 「開いていない値段で買うのが利口ってもんだ」

青い水夫 「賢いのを捕まて幸せもんたね、奥さん」


幼妻エルフ 「ええ、自慢の人。私って肝心なところ抜けてるから、助けてもらってばかり」

幼妻エルフ 「ね?」


王子 「君の自慢になれるとは、むず痒いけど光栄だね」


ハーピィ 「…………」


ギュ


青い水夫 「おあつい一家でうらやましいね」


王子 「ははは……」

王子 (顔の肉がかつてなく引きつっている。仮面をつけていて良かった……)


青い水夫 「で、どうするね。買うかい」


幼妻エルフ 「そうだな……」

幼妻エルフ 「……ん?」

幼妻エルフ 「開いて高くなるかもしれないってことは、反対に安くなることもあるのかな?」




青い水夫 「……あー」

青い水夫 「うん。そうだな、まあ中身がぐちゃぐちゃだったり白紙だったりしたら……いや、しかし表紙が綺麗だし……」


王子 「では、あなたがたはこの本かどうかも分からない本を開くことができない」

王子 「もしこちらがこの本を開けたとして、良いものだったら値段を上げ」

王子 「悪いものだったら値段を下げ」

王子 「そして、開かないままなら本としてはバカみたいに高い値段で売るってことかい?」

王子 「そうなら、こちらはかなり分が悪そうだ」


青い水夫 「いや。いやいや、それは違いますぜ。分が悪いのはこっちの方だ」

青い水夫 「もしかしたら、いや、かなり確信的にとんでもなく高くなるかもしれない本だが」

青い水夫 「とんでもなく高い値段より安くして売っちまおうってんだ」

青い水夫 「しかたなく」


幼妻エルフ 「心のお広いこと」




青い水夫 「だろう? これが三本マストの船を一隻買えるくらいのもんだとしたら、こっちは大損も良いところさ」

青い水夫 「それをこれっぽっちで売ろうってんだから」


王子 「しかし、実際その本を開く術はあなたがたには無いわけだろ」

王子 「開いた値段をもとに考えるのは、とらぬ何とかの皮算用ってものじゃないか?」


青い水夫 「痛いところをつくなあ。たしかにそうかもしれんがね、旦那」

青い水夫 「ものはこっちにあるんだ。いくらで売るかはこっちが決める」

青い水夫 「それで買えないってんならそれで良いし、こっちも別に買い手があんたたちじゃなくても良いんだ」


王子 「あ、くそ。まあ、そりゃそうか」

王子 (本当に良い物と思っているわけでもないだろう)

王子 (これが何であれどうでも良いが、閉じた状態でちょっと高く売れたら良いな。といったところか)




幼妻エルフ 『どうする。もうこの値で買っちまうか?』


王子 『……まあ、本当は高すぎるってわけでもないしな』

王子 『でも、そこまでして買う必要あるか。ほかのちゃんと開く本でも良いと思うけど』


幼妻エルフ 『これが魔法をかけられた本ってのは確かだ』

幼妻エルフ 『たとえば高位の魔法使いは、独自に編み出した魔法を盗まれないために』

幼妻エルフ 『自身の魔導書に魔法をかけて、何かに擬態したり開かなくしたりする』


王子 『買っておいて損はないというわけか』


幼妻エルフ 『そうだな。とんでもない呪いや魔物が封印されていることもあるが』

幼妻エルフ 『これはそんな感じがしないし』


王子 『なるほど。じゃあ買ってみるか』

王子 『おれは門外漢だから、最終的にはお前に任せるが』


幼妻エルフ 『うん』

幼妻エルフ 「よーし」

幼妻エルフ 「じゃあ、海の男の心の広さで、誰も開けなかったこの本を私が開けたときは」

幼妻エルフ 「ご褒美としてこのくらいまけてくれない?」


王子 (おいおい……)




王子 「もう良いじゃないか。この値で売ってもらおう」


幼妻エルフ 「だって……」


青い水夫 「わはは、この奥さんも何とかじゃないか。すっかり開ける気でいる」

青い水夫 「だが、海の男と言われちゃ弱い」

青い水夫 「どれどれ…………おいおい! こりゃちょっと欲張りすぎってもんですぜ!」


幼妻エルフ 「開けたらの話さ」

幼妻エルフ 「あなたたち、この本を開けないんでしょ?」

幼妻エルフ 「こういうのって、専門家に頼むとなかなかの値段になるんじゃない?」

幼妻エルフ 「それよりは安上がりだと思うけど」

幼妻エルフ 「それに、これが貴重なものだったら、もっと高い値で売れる」


青い水夫 「ふうむ。たしかに、解呪屋に頼むよりは幾分安いか……」

青い水夫 「だけど奥さん、どうしてこんな本にこだわるんで?」


幼妻エルフ 「別に何でも良いんだよ」

幼妻エルフ 「こういうのって楽しいじゃない」


王子 (楽しいか……)

王子 (こういうときのこいつの言葉は空っぽに感じる)

王子 (闇商人をやっていたときのことを知っているからかね)




青い水夫 「わはは、楽しいか。こりゃあ本当に厄介な客をつかまえちまったもんだ」

青い水夫 「分かった、まけた!」


幼妻エルフ 「本当?」


青い水夫 「おう。そのかわり、開けられなかったら値引きはなしですぜ」


幼妻エルフ 「よし!」


王子 「やれやれ……」


幼妻エルフ 「それじゃあ、えびゆで師」


王子 「はいはい、何を手伝えば良いのかな」


幼妻エルフ 「ちょっとどっか行って」


王子 「なっ」

王子 (何だ。すごくグサッてきた……)


ハーピィ 「…………」




ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「だって、失敗するとこ見られたら恥ずかしい……」

幼妻エルフ 『時間がかかるかもしれん。ハーピィとその辺をぶらついていろ』


王子 「いや、そのくらい……」


幼妻エルフ 『安心しろよ王子さま。難しい魔法じゃないから』

幼妻エルフ 『それともオレが信用できないかい?』


王子 (そういう意味で言ったわけじゃなかったが)

王子 『そりゃあ、この旅だってお前がいるからここまで来れたわけだし……』

王子 「……分かったよ。だが無理はするなよ」

王子 「なにせお前、肝心なところで抜けてるから」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「ああ」

幼妻エルフ 『あとでおぼえてろよ、こんにゃろう』


王子 『ははは……』

王子 (…………)




…………


ザワザワ


王子 (うーむ、どっか行ってか……)

王子 (なぜグサッときたんだ。似たようなやりとりはやってきただろうに)

王子 (まるで親に頼りきりの子供じゃないか)

王子 (この旅で、知らぬ間に依存心が大きくなっていたのだろうか)

王子 (いかんな。これではいざというときに剣が鈍ってしまうぞ)

王子 (……青花エルフの教えを思い出すな。あえて捨てる、か)


ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィ、心配そうにこちらを見ている)

王子 「ごめんよ、ハーピィ。一緒に歩いているのに、考え事はいけないな」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………?」


王子 「優しいね、君は……」




王子 「それにしても……」


ハーピィ 「…………」


見習い水夫 「風の加護を受けた帆の切れ端だよ。服にいかが」


掃除夫 「ドラゴンの髭くらい珍しいクジラの髭かもしれないものだよ。どんな毒水でも浄化できるかもしれないよ」


王子 「いろんなものがあるなあ」


ハーピィ 「…………!」


王子 「お……」


赤髭水夫 「やあ、いらっしゃい」


王子 「やあ、たくさん本があるなあ」


赤髭水夫 「こんなにまとまって流れるのは珍しいだろうね」

赤髭水夫 「仮面もあるよ、旦那」


王子 「いや、それは良い」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「うん。えびの仮面はあるかな」


赤髭水夫 「無いね」




赤髭水夫 「書籍商が船の上で死んじゃってね。仲間たちは海の底の死神に心臓を握りしめられたって言っている」

赤髭水夫 「本は船旅に潤いをくれるけど、ぜんぶ置いておいてもしかたないからいくつか流してるのさ」


王子 「ほう、それはご愁傷様だ」


ハーピィ 「…………」


王子 (あんなに好きな本を、手にとろうとしない。どうしたんだろうか)

王子 「……もしかして我慢しているのかい、ハーピィ。葉巻に気をつかって」


ハーピィ 「…………」


王子 「あいつは気をつかわれるのは良くても、気をつかわせるのは嫌な奴さ。我慢しなくて良いよ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


赤髭水夫 「中身は読んで良いけど、気に入ったのがあったら買っておくれよ」


※熟女注意


http://i.imgur.com/DklFgog.jpg


…………



船内 馬車置き場



馬車幽霊 「……初回限定版には、これにセクシー写真集が付属。スケールは1/1.5と1/8、通常ver.と日焼けver.の二種類を同時発売、司書長服に着せ替え可能、と」

馬車幽霊 「ふむ、ざっとこんなところですか」

馬車幽霊 「しかし、王子どのの話によればもっと若々しいはずですが、お嬢様はこれで良いとおっしゃっている」

馬車幽霊 「原型をつくる前に、もう一度お嬢様と話し合ったほうが良いようですね」

馬車幽霊 「さて、次は……」


http://i.imgur.com/3z8U4SH.jpg


馬車幽霊 「うーん、これは本人には見せられませんね」

馬車幽霊 「……と、その前に、商会名もいくつか考えておきますか」

馬車幽霊 「…………」

馬車幽霊 「メガパルスあたりで良いですか」


ガチャ


ろうそく職人 「わーい、馬車幽霊さん、一緒に船内を探検しませんかあ」


馬車幽霊 「!!」



…………





王子 (……そういえば、葉巻は北東の町にいたころ帽子をかぶっていたな)

王子 (変なかたちの)


赤髭水夫 「……まいどあり。良い雨の日を!」


王子 「主人」


赤髭水夫 「おや、仮面の旦那。良いのは見つかったかな」


王子 「それについてはまだだ。それより、おすすめの帽子なんかはないかな」

王子 「エルフ好みの」

王子 「手ごろな値段であれば買いたいんだけど」


赤髭水夫 「なんだ旦那、エルフを口説くつもりかい」

赤髭水夫 「大変だね。セイレーンなら海に引きずりこまれるのを待ってりゃ良いが」

赤髭水夫 「エルフのやつら、とびきり綺麗で高潔なものを見せなきゃ立ち止まりもしない」

赤髭水夫 「しかも、そういうのはきまって高価ときた」


王子 (高潔……?)


赤髭水夫 「しかし旦那は運が良い」

赤髭水夫 「じつは、うちにちょうどあるんだよ、エルフが好みそうな帽子が」


王子 「ほう」




赤髭水夫 「しかも、けっこう手ごろな値段さ」


王子 「ほほう」


赤髭水夫 「船に乗っていた帽子売りとの賭けで勝ってね」

赤髭水夫 「旅が出来なくなるからって泣きつかれて、金のかわりに大量の帽子で手をうったのさ」

赤髭水夫 「そんで、余ったやつを流したわけなんだけど……あんれ、どっこにあるかな……」


王子 「わざわざすまないね」

王子 (無造作に置かれた帽子の山から漁っている。高潔とは程遠い印象をうけるな)

王子 (……というか、そういうのは国にとられないのか?)


赤髭水夫 「あったあった。これだ」


湖群の帽子


王子 「……ふむ」




王子 (水面のようにゆったりと、澄んだ青や緑がたゆたっている)


赤髭水夫 「まるで湖面のように色をかえる、宝石みたいな帽子だろ」

赤髭水夫 「これならエルフもほいほい引っかかるぜ」


王子 「虫じゃあるまいに……」

王子 「うーん、珍しい帽子だ。値段は……なるほど、手ごろだ」

王子 「どうしてこんなものが余ってしまったんだ。まさか厄介な呪いでも……」


赤髭水夫 「ないない」

赤髭水夫 「たしかに綺麗な帽子だけれど、おいらたちみたいなのがこんなの被りゃあ」

赤髭水夫 「安っぽい大道芸人みたいになるのがおちだ。誰も被りたがらないだけさ」


王子 「……なるほど」


赤髭水夫 「正直、こんなもん似合う奴なんかそういないんじゃないかな」

赤髭水夫 「かたちも変だし」


王子 「たしかに、よく見るとどことなく馬鹿みたいだな」

王子 「よし、こいつをいただこう」


赤髭水夫 「どうも」




王子 (……葉巻には苦労をかけているからな)

王子 (苦労をかけているといえば、勇者どのたちにも何か買っていくか。もちろんハーピィにも。何が良いかな)


ハーピィ 「…………」


王子 「ん? ハーピィ、欲しい本は見つかったかな」

王子 「でも全部は買えないから……」


ハーピィ 「…………」


王子 「違うのか」

王子 「向こう? 向こうに何かあるのかい?」


ザワザワ ドシン


??? 「きゃあっ」

??? 「いたたた……」

白黒マンボウ 「ごめんなさい、ごめんなさい」


ワイワイ バシン


白黒マンボウ 「ひいっ」

白黒マンボウ 「ごめんなさい、ごめんなさい」


ガヤガヤ ヨタヨタ


王子 (白黒のマンボウローブを着た者が、人にぶつかりながらやってくる)

王子 「あれは、島の西にいた……」




白黒マンボウ 「……あ!」


トテトテトテ


王子 (こっちに気がついたようだ)


白黒マンボウ 「ああ、やっぱり西の港町で会った!」


バサ


白黒マンボウ 「私です、私」

クル魔エビ娘 「あのときはお世話になりま……」


ズル


クル魔エビ娘 「うわっ」


ドドドドド


花売り 「きゃっ、危ない」


セルキー狩りたち 「うわ、何だ!?」


クル魔エビ娘 「あわわわわ」


王子 (つまずいた拍子にこちらへ突っ込んでくる)


クル魔エビ娘 「ど、どいてくださあい」

クル魔エビ娘 「そこの店、どいてくださあい!」


赤髭水夫 「そ、そんな無茶な!」


クル魔エビ娘 「いやーーっ」


ドシャン バラバラ ゴロゴロゴロ




王子 (走りにくそうな服で走るから……)


クル魔エビ娘 「いたたた」


赤髭水夫 「わああ、うちの商品がめちゃくちゃに」


クル魔エビ娘 「ご、ごめんなさい、すぐに片付けます!」


王子 (また何かやらかしそうだ)

王子 「手伝おう」


ハーピィ 「…………」


クル魔エビ娘 「すみません……」


泥棒 「おれも手伝うぜ」


セルキー狩りたち 「おれもおれも」


赤髭水夫 「みなさん、すいませんね」




…………


赤髭水夫 「やれやれ、何とか片付いたぞ」

赤髭水夫 「棚も壊れてないし……あれ、何だか商品が少なくなっているような」


ハーピィ 「…………」


クル魔エビ娘 「ありがとうございます。手伝っていただいて……」


王子 「良いってことさ」

王子 「……ええと」


クル魔エビ娘 「あ、私はクル魔……じゃなくて」

クル魔エビ娘 「サイマキと申します」


王子 「サイマキ……成長したらさぞ茹でがいのありそうな素敵な名前だ」

王子 「……素敵な名前だ」


クル魔エビ娘 「あの……?」


王子 「さっき派手にこけていたけど、怪我はしていないかな」

王子 「とりあえず殻をむいて……じゃなかった」

王子 「服を脱いでみせてもらえないか」


クル魔エビ娘 「!?」





クル魔エビ娘 「え……」


王子 「おっと、まだ名乗っていなかったな」

王子 「おれは見ての通り、骨の仮面をつけて旅をする男さ。あやしいものじゃない」

王子 「さあ、服を脱いで」


クル魔エビ娘 「あ、あの……」


王子 「背わたを……いや、よく洗って塩で消毒しなくちゃ」

王子 「さあ……」


クル魔エビ娘 「ええと、は………はい」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「何やってんだ、お馬鹿」


スパンッ バシンッッッ


王子 「いてっ」




王子 「葉巻、来ていたのか」


幼妻エルフ 「来なかったらどうなっていたことやら」

幼妻エルフ 「こんな公衆の面前で子供をひんむこうなんて、何やらかそうってんだよ」


王子 「おれはえびゆで師だからな……」


幼妻エルフ 「何がえびゆで……えび?」


王子 「……お前、その帽子は」


幼妻エルフ 「話をそらすなよ……」

幼妻エルフ 「うふふ、どうだ、似合うか?」


湖群の帽子


王子 (おれが買おうとしていたのと同じ帽子だ)



カモメ飼い 「さっき、この市で盗みを働いていた旅の男が、何も無いところでいきなり両目をくりぬかれたらしい」


荒くれ者 「恐ろしいことだ。北の森に住む邪悪な妖精のいたずらだろうか」


猫髭男 「いや、盗賊ギルドの報復かもしれニャーゴ。奴ら、帝国が戦争に夢中なのを良いことに」

猫髭男 「縄張りをひろげようとしていろいろぶつかり合っているらしいからにゃ」


ザワザワ ヒソヒソ



王子 「……まさか」




幼妻エルフ 「良いだろ。お前がオレに買ってくれるはずだったんだから」

幼妻エルフ 「それをたまたまあの泥棒が盗んでくれたおかげで、タダで手に入った」

幼妻エルフ 「帽子……ふふふ。どうだハーピィ、これでオレもお前も帽子人だ」


ハーピィ 「…………」


王子 (仮面を通して見ていたんだな……)

王子 「いきさつを知っているなら店主どのに返してさしあげろよ。それをおれが買うから」


幼妻エルフ 「やだ」

幼妻エルフ 「何だよ、良い子ぶって。子供をひんむこうとしたくせに」


王子 「……そうか」

王子 「おれが買ったものより、泥棒が盗んだものを貰うほうが、お前は良いんだな」

王子 「そう思いたくはないが」


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「分かったよ。返せば良いんだろ」




クル魔エビ娘 「…………」


幼妻エルフ 「ん? 何さ、オレの顔をじろじろ見て」


クル魔エビ娘 「……え」

クル魔エビ娘 「エルフ……?」


幼妻エルフ 「うん」

幼妻エルフ 『王子、こいつはあれか、お前が西の港で会った奴か』


王子 『ああ、勇者どのと行動していたときにね。海水を真水にかえる石をくれた人だよ』


幼妻エルフ 『人ね……』

幼妻エルフ 『だが、このおどおどとしたなさけない感じ』


クル魔エビ娘 「あわわわ……ということは妖精の……」


幼妻エルフ 『……何かを思い出すんだよな』


王子 『おれもだ』




………


船内 舞台前廊下



野生の女 「この辺じゃあ、申請すりゃ自由に店を出して良いんだってさ」


ニワトコ娘 「お祭りみたいね。それにしても、舞台がある船なんて……」


ブラウニー 「よーし、お腹もふくれたところで、頑張りましょう」

ブラウニー 「まずは、魔法の馬車から荷物の運び出しです!」


野生の女・ニワトコ娘 「おー!」



ザワザワ ワイワイ



ろうそく職人 「……ふぁ。へ、へっ……」

ろうそく職人 「たぬきっ」


馬車幽霊 「おや、風邪ですか?」


ろうそく職人 「うーん、雨に濡れちゃったせいでしょうか」


貝殻の勇者 「うふふ、ろうそく職人さんたら。くしゃみで鼻が出ていますよ」

貝殻の勇者 「さあ、かんで」


ろうそく職人 「えへへ、ごめんなさい勇者さま」

ろうそく職人 「ズピーッ」



…………




クル魔エビ娘 「あ、あわわわ……」


ヘナヘナ ペタン


王子 (力なくへたりこんでしまった)

王子 「にじみでる黒さに耐えられなかったか……」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「お前とは、あとでちょっと話さなきゃならないことがたくさんありそうだな、変態仮面」

幼妻エルフ 「……ほら、立てよ」


クル魔エビ娘 「!? ひいい……」


幼妻エルフ 「なんだよ、情けない悲鳴なんか上げて」

幼妻エルフ 「……あ、ここ怪我しているじゃないか。しょうがないな、まったく」


キイイ ピロリン


王子 (人見知りの葉巻が、初対面でここまで世話を焼くとは)

王子 (やはりこいつ、手間がかかる人ほど可愛いエルフなのだな)

王子 (ふふっ、自分も手間がかかるエルフのくせに……)

王子 「……は、はくしょんっ」


幼妻エルフ 「うわっ」




ハーピィ 「…………」


クル魔エビ娘 「……ありがとうございます」


幼妻エルフ 「気をつけろよ」

幼妻エルフ 「うっかりしていると、転んでいる間に身包みはがれちまう」

幼妻エルフ 「堂々と服をはぎとろうとする仮面の変態もいるし」


王子 「こら、変態だなんておかしなこと言うんじゃない」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「変態……」


王子 「うん、たしかに変態的なところが無いとも言い切れない」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………!!」


王子 「い、いや、待ってくれハーピィ」

王子 「人は何かしら、どこか変態的なところがあるものなんだ」

王子 「君もおぼえは無いかい。人には恥ずかしくて教えられないが、人と違う特殊なところとか」


ハーピィ 「…………」


翼の腕(黒)


王子 「そこは恥じちゃ駄目だろう」




クル魔エビ娘 「あの、エルフさま」


幼妻エルフ 「何だよ」


クル魔エビ 「ひっ。い、いえ」


幼妻エルフ 「はっきりしない奴だな……」

幼妻エルフ 「なんか磯くさいし」


クル魔エビ 「そ、それは、だいたい海の上にいるから……」


王子 「そういえば、おつかいは済んだのかな」


クル魔エビ 「え、ああ、はい。ついさっき、この町についてやっと」


王子 「……ついさっき?」

王子 「けっこう前に西の港を出たはずだけど、西回りだとここまでそんなにかかるものかい?」


クル魔エビ 「い、いえ……」




クル魔エビ娘 「西の港を出て半日くらいして、荷物を忘れたことに気がついて戻って」

クル魔エビ娘 「西の港を出てすぐに、今度は朝ごはんのときに見た裏表逆に服を着ていた人がやっぱり気になって戻って」

クル魔エビ娘 「西の港を出てあと少しというところで、樽に隠れて途中で途切れていた街角の看板に書かれた文がやっぱり気になって戻って」

クル魔エビ娘 「そんなことを繰り返して、やっとこの町に着くことができました」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「…………」


クル魔エビ娘 「あの、みなさん……?」


王子・ハーピィ・幼妻エルフ 「…………」


ジリ ジリ


クル魔エビ娘 「え、ちょっと、そんなに近づいて……」


王子・ハーピィ・幼妻エルフ 「…………」


ジリ ジリ


クル魔エビ娘 「ひ、ひいい、潰される。押し殺される……!」


王子・ハーピィ・幼妻エルフ 「…………」


ダキ


クル魔エビ娘 「ころさ……え、抱き?」


王子 「…………」

王子 「おめでとう」


幼妻エルフ 「おめでとう」


ハーピィ 「…………」


クル魔エビ娘 「あ、ええと」

クル魔エビ娘 「ありがとうございます……?」




クル魔エビ娘 「その、みなさんはどういった……」


王子 「ああ、おれたちは……」

王子 (どう言ったものか)


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「……旅の仲間だよ。素敵な馬車で帝国中をのらくらと旅しているのさ」


クル魔エビ娘 「のらくら……じゃ、じゃあ妖精の領域とは違うのかしら……」


幼妻エルフ 「あん?」


クル魔エビ娘 「い、いえ、何でも……」


王子 (顔が青い。葉巻のことがそんなに怖いのか)

王子 (茹でて赤くしてあげなくては)

王子 「なあ、こうやって会ったのも何かの縁だ」

王子 「みんなで一緒に風呂に入ろう」


クル魔エビ娘 「えっ……?」


幼妻エルフ 「いけ、ハーピィ」


ハーピィ 「…………」


バシンッッ


王子 「ぐふうっ……!?」




幼妻エルフ 「風呂に入るまえにのぼせてんじゃないよ」


王子 「あ、ああ……」

王子 「すまないね、君を見ていると何故かえびゆで師の血が騒ぐんだ」


クル魔エビ娘 「!?」

クル魔エビ娘 「い、いいいい、いえ、そんな」


幼妻エルフ 「どうした、すごい汗だぞ」


クル魔エビ娘 「そそ、そ、そんなことないエビよ!?」

クル魔エビ娘 「で、では、船を待たせているのでこの辺で失礼しエビ……」


??? 「そっちに行ったぞ! 追え、町から出すな、生け捕りにしろ!」

??? 「勇者を逃すな!!」


王子・幼妻エルフ 「!!」




犬憲兵たち 「わおーん!」


セルキー狩りたち 「ふっふっふ」

セルキー狩りたち 「この臭いアザラシの皮ともおさらばか!」


バサ スルル ドサ


ロバ憲兵たち 「……ふう」

ロバ憲兵たち 「ようし、行くぞ!」


ダダダッ


王子 「憲兵……!」


幼妻エルフ 「おかしいね。気配はなかったはずだが」


王子 「勇者どのが見つかっちまったのか」


クル魔エビ娘・ハーピィ 「…………!」


クル魔エビ娘 「あ……何かごめんなさい」


ハーピィ 「…………?」


幼妻エルフ 「……さて、かく乱の魔法でもかかっているのか?」

幼妻エルフ 「とりあえず、見てみなきゃ分からんね」




…………


船内 たこ焼き屋



ろうそく職人 「あ、あふっ、熱……はふはふ」


馬車幽霊 「どうぞ、水です」


ろうそく職人 「は、はふぃ……ゴクゴク、ゴクン」

ろうそく職人 「……おいひいでふね、これ!」

ろうそく職人 「これならたこ嫌いもなおりそうです」


貝殻の勇者 「ええ。海のにおいを楽しみながら食べると、さらに美味しく感じます」


ワー ワー


馬車幽霊 「おや、船内が慌しくなってきましたね……」


犬憲兵A 「探せ! この船に勇者の仲間がいるかもしれない!」


犬憲兵たち 「わおーん!」


ドタドタドタ


ろうそく職人 「……け、憲兵!!」


馬車幽霊 「勇者さま……」


貝殻の勇者 「……しかたありません」

貝殻の勇者 「ずらかりましょう!!」




ろうそく職人 「アイアイサー!」


ドタドタドタ ズテ

ドタドタドタ


坊主頭 「あっ、ちょっとお客さん、支払いを!」


貝殻の勇者 「支払いは皇帝で!」


ダダダダダ


坊主頭 「そ、そんな無茶な!」


馬車幽霊 「ではこれを!」


ダダダダダ


魔法人形001 スライム娘(青)


坊主頭 「何だこれ」

坊主頭 「あ、おい、こんなもん貰ったって困るぞ! おーい!」

坊主頭 「おー……!!」


ポロ


坊主頭 「…………」

坊主頭 「……脱げた」


…………




南の港町 錆バケツ通り



ワー ワー


剣士 「何だってんだい、この騒ぎは」


黄服の若者 「憲兵のとりものだ。勇者が出たらしい」

黄服の若者 「お偉いさんたちは、盗賊ギルドより勇者に夢中なのさ……」


旅の傭兵A 「捕まえりゃ報奨がたんまり出るんだと」


旅の傭兵B 「ほう、そいつぁ良い。へへっ、南東の大会を利用するつもりだったが、ここらで名をあげるとするか」


ザワザワ ワイワイ


犬憲兵たち 「追え、追え、わおーん!」


ロバ憲兵たち 「うおー!」


ダダダダ


王子 「……近いか」


幼妻エルフ 「そのようだ」


クル魔エビ娘 「ひい、ひい……」

クル魔エビ娘 「みなさん、さすが陸の人。速いですね……」


王子 (この子はどうしてついてきたんだろうか)


ハーピィ 「…………」




幼妻エルフ 「……あそこだ」


王子 「む……」


ザワザワ ドヨドヨ


犬憲兵B 「追いつめたぞ、勇者とその従者!」


ロバ憲兵A 「おとなしく我らに捕まれ。でなければお前は今より体が欠けた状態で断頭台にのぼることになるぞ!」


悪魔学者 「……くその憲兵どもめ」


僧服の女 「…………」

僧服の女 「……ここまでですか」


バサ


僧服の女 「まいりましたね」

霊歌の勇者 「この町に、憲兵はいないと思っていましたが……」


王子 (貝殻の勇者どのじゃない)

王子 「……別の勇者か」


幼妻エルフ 「ひとまずは安心というところか」


王子 「おいおい……いや、そうだな」




王子 「助けに入るか?」


幼妻エルフ 「まあ、ご同業は多いにこしたことは無いが」

幼妻エルフ 「何も仕込んでいない。全滅したいなら良いさ」

幼妻エルフ 「今日はお前についていく日だ」


王子 「……くそ、様子見か」


ハーピィ 「…………」


ザワザワ ドヨドヨ


ロバ憲兵B 「さあ、武器を捨ててこちらに来い」

ロバ憲兵B 「でなければ抵抗の意思ありとする」


悪魔学者 「……ここは何とかする。あんたは逃げろ」


霊歌の勇者 「見通しの良いこの広場で、それは難しいでしょう」

霊歌の勇者 「ならば、今こそ血を吐いて戦うとき」

霊歌の勇者 「至高のかたの、旗のもとに!」




ザッ ザッ ザッ


霊歌の勇者 「…………」


犬憲兵たち 「…………っ!」


ロバ憲兵C 「気をつけろ、勇者は不思議な力を持っている。何をしてくるか分からんぞ……!」


霊歌の勇者 「…………」


シン……


王子 (貝殻の勇者どのと同い年くらいだろうか)

王子 (明け方の光のような髪の、神秘的な女性だ……)


霊歌の勇者 「…………」

霊歌の勇者 「お聞きなさい、帝国のくそどもよ……!」


憲兵たち 「…………!!」


王子 (……神秘が)




霊歌の勇者 「帝国よ。あわれなるクズどもよ」

霊歌の勇者 「あなたがたには聞こえないのですか」

霊歌の勇者 「かなたより聞こえるあのかたの嘆きが」

霊歌の勇者 「無この涙を戦火にくべて、あなたがたはどこに行こうというのか!」


憲兵たち 「…………!?」


野次馬 「な、なんだ。頭を揺さぶられるようなこの声は」


隠れ教徒 「ああ、天の声よ。あのかたは今、主の御声を……!」


王子 (貝殻の勇者どのの声とは違う、静かだが遠く響き渡る鐘のような……)


幼妻エルフ 「…………」


ザワザワ ヒソヒソ


??? 「秩序だ」




犬憲兵たち 「…………!」


??? 「我々は恐れながらも、皇帝陛下の拳である」


ザッ ザッ


霊歌の勇者 「秩序。いたずらに他国に攻め入り、世界を戦火でなめ続けんとするこの国が秩序をかたるのですか」


??? 「戦場の法もやがては忘れられる日が来よう」

??? 「数え切れぬ死と」

??? 「死と死と死と死と死の果てに」

??? 「永劫楽土は訪れよう」

??? 「皇帝陛下の御旗のもとに!」


王子 (……来たか)


??? 「ならば、それを阻む者は何者であれ排除しよう」

犬隊長 「た血風のくつわを噛むことになろうとも……!」




王子 (多血風……?)

王子 (さてはあいつ……)


犬隊長 「交わす言葉などいらぬ。武器を上げよ、人心を惑わす邪教の手先を捕えよ」

犬隊長 「わおーん!」


犬憲兵たち 「わ、わおーん!」


ロバ憲兵たち 「おう……!」


チャキ バババ


王子 (……始まるか)


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「様子見かと思っていないのに、様子見かと言いました」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「!」

王子 「……ああ。できることなら、彼女らを助けたいね」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「……こんなときに、またあれか」


幼妻エルフ 「こんなときだからこそなのか?」




憲兵たち 「…………」


ジリ ジリ


悪魔学者 「脳みそのない小魚どもが、数だけは揃えやがって」

悪魔学者 「こうなれば、我が知の餌にしてやろう」

悪魔学者 「開け、魔道の最奥……!」


フィイイ オオオ


犬憲兵C 「!!」


犬憲兵D 「地面にまがまがしい陣が……!」


犬隊長 「ええい、恐れるな。詠唱の時間稼ぎだ!」


ダダダ


犬隊長 「死ね!」

犬隊長 「わおーーん!」


悪魔学者 「…………!」


ダダダ ガキン


犬隊長 「…………!」

犬隊長 「貴様は、西の酒場の……!」


王子 「……ははは。お久しぶりだな、犬の隊長どの」

王子 (剣を受けるのは)




ハーピィ 「…………」


ギギギ 


犬隊長 「ぐるる……っ」

犬隊長 「自分が何をしているか分かっているのか、骨の仮面よ!」


王子 「ああ。おれが何をすべきか、知っている人がいるようでね」


ハーピィ 「…………」


犬隊長 「ふん、たわむれを……!」


グググ


王子 (重いな。いつかつけた傷は完全に癒えたか)

王子 「……なあ、犬の隊長どのよ。ききたいことがある」


犬隊長 「何だ。俺にものを尋ねるために、命を投げ出したのか……ッ?」


王子 「ははは、まさか」

王子 「……あんたさっき、台詞をとちったろ」


犬隊長 「……!」





王子 「たけっぷうって何だい」

王子 「本当は何て言おうとしたんだい」


犬隊長 「……な」

犬隊長 「何のことだ……」


王子 「隙ありっ」


ヒュン


犬隊長 「うおっ……」


ガキン


王子 (これを止めるか。だが勢いは殺せない。さがらざるを得まい)


ザザッ


犬隊長 「…………」


王子 「まずはおれの勝ちってところかな?」


犬隊長 「……その薄汚い品性のかけらもないごろつきのような戦いかた」

犬隊長 「北東地方北東の町での傷がうずく」

犬隊長 「奴も、仮面をつけていたな」


王子 「……へえ」

王子 (おおかたうちの伝統の戦いかただとは、とても言えない)




憲兵たち 「…………ゴクリ」


犬隊長 「お前たち、ロバ隊のかたがたも何をしておられるか……!」

犬隊長 「はやく邪教徒どもを捕まえられよ!」


ロバ憲兵たち 「! お……」


犬憲兵たち 「おう!」


憲兵たち 「うおおおお!」


ダダダダ


王子 「やらせるものかよ……!」

王子 (落ち着け、この程度の数。エルフの里での修行を思い出し、自然の声を聞いて)

王子 (……どうにかなるのか?)




犬憲兵D 「いやああ!」


ロバ憲兵D 「でえぃやっ!」


王子 「……!」


ヒュッ カキン ズバ


犬憲兵D 「きゃいんっ!?」


王子 (殺せなかったが、もはや戦えまい)

王子 (……ロバの方が練度は上か)


傭兵A 「しめた。おらあっ」


王子 「!」


ザクッ


傭兵A 「うぎゃ」


王子 (金目当てに傭兵も混ざっているのか)




傭兵たち 「勇者の首はもらったぜえ!」


犬憲兵たち 「傭兵どもに遅れをとるな!」


ロバ憲兵たち 「逃がすなあ!」


霊歌の勇者 「…………!」


王子 「くそう……!」


犬隊長 「俺から目を離すか愚かものめ!」


王子 「うわっ……」


ヒュン ガキン


犬隊長 「……とめたか!」


王子 「ははは……!」


犬隊長 「やはり、貴様は……!」


ゴゴゴゴ


王子 「うん?」

王子 (何の音だ?)




ザアアア


悪魔学者 「……散れカスどもが!」


ドドドド ズドン ドカン


犬憲兵G~J 「ぎゃんっ」


傭兵たち 「うごわっ」


王子 (……雨の中、いくつもの黒い爆発が)


ハーピィ 「……!」


ヒュオ


王子 「うわっ」

王子 (風に巻き上げられた。ハーピィも。……葉巻の魔法か?)


犬隊長 「逃げるか貴様……ぬうっ!?」


ボガン


王子 「おお、さっきまでいたところで爆発が」

王子 「あ、危なかった……。巻き込まれるところだった」


ボガン ドガン バアン


憲兵たち 「うわああ」


傭兵たち 「ひえええ」


王子 (爆発が勇者と従者の方へ集まっている)

王子 (どうやら、あの学者のような従者の魔法のようだ)




悪魔学者 「…………」

悪魔学者 「勇者!」


霊課の勇者 「いつでも」


犬隊長 「いかん、止めろ!」


悪魔学者 「手遅れだ駄犬ども……!」


ドカン


町娘 「きゃああっ!?」


青年 「いかん、もう離れよう……!」


水夫 「……あ、あれは!」


ドドドドド


王子 (一際大きな爆発のあと、勇者と従者のいた場所から何か巨大なものがせりあがってきた)


ドドド ドド 

ゴオン


霊歌の勇者・悪魔学者 「…………」


犬憲兵N 「……な、なんだあれは」


ロバ憲兵G 「巨大な……」


王子 (……舞台なのか?)


ハーピィ 「…………」





霊歌の勇者 「…………」


ツカ ツカ ツカ


王子 (突如あらわれたごてごてした悪趣味な舞台の中心に、勇者が歩み出た)


霊歌の勇者 「…………」


憲兵たち 「…………」


野次馬たち 「…………」


王子 (なんと厳かな空気だ。雨さえも鳴りをひそめているみたいだ)

王子 (みんな動きをとめて、舞台を見上げている)

王子 (何が始まる……)


霊歌の勇者 「…………」

霊歌の勇者 「…………」

霊歌の勇者 「歌います」


一同 「……!」


霊歌の勇者 「たこ焼きの歌……!」


一同 「……!?」




悪魔学者 「…………」

悪魔学者 「はいやー!」


霊歌の勇者 「ねえ、どうしてでしょう、たこ焼きはあんなに丸いのに」

霊歌の勇者 「つくるのがすごく面倒くさいのに」


悪魔学者 「はいはいー!」


霊歌の勇者 「いか焼きはいかを焼いただけなんでしょう」


ラララ ラーララー


王子 (……神秘が)




ラー ララララー ラララー


犬憲兵たち 「……お、おお」


ロバ憲兵G 「す、すごい。何を歌っているかは分からないが」

ロバ憲兵G 「いかの悲哀が伝わってくる……!」


ロバ憲兵H 「ああ。たこ焼きに比べると、いか焼きは何だか手を抜かれた感じがするやりきれない気持ちが」

ロバ憲兵H 「魂に響いてくる……!」


若い傭兵 「……うう、ぐすん。何でだろう」

若い傭兵 「この歌をきいていると、家族の顔を思い出すよ。父ちゃん、母ちゃん……」


隻眼傭兵 「ああ、ちくしょう。とうに忘れたはずの故郷の夕日が目に染みやがる」

隻眼傭兵 「……もう何年も帰ってねえなあ」


ポロ ガシャン ガラン ガイン


王子 (憲兵や傭兵たちが、涙を流しながら次々に武器を手放していく)

王子 (……この国には馬鹿しかいないのか?)


ハーピィ 「…………」




ヒュオ


幼妻エルフ 「あれがあの勇者さまの必殺技ってやつさ」

幼妻エルフ 「貝殻のとはえらい違いだな」


王子 「来たか葉巻。お前やっぱり肝心なときに……」


幼妻エルフ 「ちゃんと助けたろ」


王子 「……ああ、そうか。ありがとうよ」


幼妻エルフ 「けけけ」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「よおハーピィ。わがままの虫はおさまったかい?」


ハーピィ 「…………」


王子 「まあ、それは良いとして」


クル魔エビ娘 「ひ、ひいい、飛んでる……」


王子 「この子も連れてきちゃったか」




幼妻エルフ 「ひいひいうるさい上に、逃げる力さえなかったからな」


王子 「エルフどのは優しくていらっしゃる」


幼妻エルフ 「そんなわけあるか、こんなやつ。別に見殺しにしたって……」


クル魔エビ娘 「ヒック、グスン……もうやだよう、海に帰りたいよう」

クル魔エビ娘 「船長、せんちょおー。うあーん」


幼妻エルフ 「こんなやつ……」


ハーピィ 「…………」


ラララー ラーラー


王子 「さて、今のうちに早く地に足をつけて、我らが勇者どのたちと合流したいと思うんだけど」


幼妻エルフ 「せっかちだね」

幼妻エルフ 「お前に買ってもらった肩掛けと、ぼ、帽子を身に着けて」

幼妻エルフ 「特等席で勇者の歌をきくという楽しい時間を過ごそうと思ったのに」


王子 「いかの歌だろ」

王子 「犬の他にロバの隊長もいるはずだ。油断はできないだろう」

王子 「帽子や肩掛けと一時に命をかけるんじゃないよ」


幼妻エルフ 「……ふん。せっかく憲兵どもの目が別の勇者に行っているところを、ひょろひょろ飛び出していったくせに」

幼妻エルフ 「船の方に行きゃ会えるんじゃないの。あっちにゃコンパスもあるし」


王子 「あ、ああ……」

王子 (拗ねたのか?)




幼妻エルフ 「しかし出がらし仮面、お前は勇者が助かったつもりでいるらしいが」

幼妻エルフ 「どういうわけだい」


王子 「どうって、もう憲兵や傭兵も戦意喪失したようだし……」


犬隊長 「…………」


王子 「……あれは」

王子 (犬隊長が舞台に上がっている)

王子 (機会をうかがっているようだ。勇者も従者も気づいていないのか?)


犬隊長 「…………!」


王子 「まずい……!」


犬隊長 「死………!」


シュウウウ ボロ ボロ


犬隊長 「……おのれ、剣が!」


王子 (崩れた)




ボロ ボロロ


王子 「犬隊長だけでなく、ほかの者の武器も崩れていく」

王子 「葉巻、おまえ……」


幼妻エルフ 「時間かせぎありがとう、頼もしい白馬鹿の王子さま」


王子 「機嫌なおせよ……」


シュウウウ


犬隊長 「おのれ、猫の言っていた武器破壊か。勇者……邪教徒の技なのか!?」

犬隊長 「ええい、ならば切れ味はにぶるが……!」


悪魔学者 「…………!」


バシュウウ


犬隊長 「ぐわっ!?」


王子 (黒い煙。煙幕、毒か?)




悪魔学者 「これだけやれば十分だ。行くぞ!」


霊歌の勇者 「はい……!」


タン ダダダダダ


王子 「逃げた……」


幼妻エルフ 「ちぇ、馬鹿犬が舞台をぶちこわしやがって」「

幼妻エルフ 「じゃあオレたちも船にむかうか」

幼妻エルフ 「もちろん、この分じゃ乗り込むのは無理と考えた方が良いだろうが」


王子 「また足止めか……」

王子 「君はどうするんだい?」


クル魔エビ娘 「わ、私も港へ……」


幼妻エルフ 「じゃあ、てきとうなところに降りるぞ」


ヒュオ


クル魔エビ娘 「ひいっ」


幼妻エルフ 「…………」


フヨ フヨ フヨ


王子 (なるほど。これが葉巻の弱点か)


ハーピィ 「…………」




…………


南の港町 船着場



ザアアア


ロバ憲兵たち 「…………」


幼妻エルフ 「だからな、いか焼きといってもいろいろあってな……」


クル魔エビ娘 「ううう、ごめんなさい、イカの話はどうも……」


ハーピィ 「…………」


王子 「このあたりにも憲兵の姿があるな。馬車はまだ船の中だろうか」


幼妻エルフ 「おそらくね」


王子 (魔法の会話はしていないのか)

王子 「……む」



ロバ憲兵1 「将軍どの、どうやら、勇者の仲間はおらんようです」


ロバ憲兵2 「こちらの船にも、それらしい人物はおりませんでした」


ロバ隊長 「うん、ご苦労さん。隊長だよ」

ロバ隊長 「あとは、明日の出航……まあこの雨じゃ無理だろうけど」

ロバ隊長 「それに向けて人が乗り込んでいるこの船だけだが」

ロバ隊長 「うーむ、欲張らずに犬君たちと一緒に勇者を追いかけた方が良かったかな」

ロバ隊長 「しかし、なーんか臭うんだよなあ、この辺」


王子 (酒場で見た、あれがロバの隊長だな)




パン女騎士 「……隊ひとつあずかる者が、臭いで動かれては困りますが」


ロバ隊長 「すまないね、お客さん」

ロバ隊長 「しかし、気まぐれな空だ。気まぐれと言えば、まさか帝都警備隊の君が……」


パン女騎士 「今からでも遅くないのでは?」


ロバ隊長 「うん?」

ロバ隊長 「……ああ、いや、よそう。ぼかぁ信じてるからね、犬君を」

ロバ隊長 「彼らならきっと、勇者さんの首を持ってきてくれるんじゃないかな」


パン女騎士 「首だけで喋れるのでしたらかまいませんが。聞き出さねばならないことがありますので」


ロバ隊長 「ふうん。何を?」


パン女騎士 「…………」


ロバ隊長 「信用ないのね」


パン女騎士 「それは」


ロバ隊長 「良いさ。君が隊を隠してくれたおかげで、今回の面倒……お手柄にありつけそうなわけだし」


パン女騎士 「…………」




パン女騎士 「時間がかかっているようですね」


ロバ隊長 「大丈夫さ。信じてるからね、ぼかぁ」

ロバ隊長 「……ほら、いっぱい人やったし」


タタタタ


ロバ憲兵O 「隊長」


ロバ隊長 「お、来た来た」


ロバ憲兵O 「勇者つかまえ隊が半壊しました」


ロバ隊長 「…………」


パン女騎士 「…………」


ロバ隊長 「あちゃー……」



王子 (……さて)




ロバ隊長 「しかたない。俺たちも行こう」

ロバ隊長 「捜索隊はこれより……」


パン女騎士 「みつけ隊」


ロバ隊長 「……あー」


パン女騎士 「勇者の仲間みつけ隊」


ロバ隊長 「はいはいお姫様。……ぼくたち私たち勇者の仲間みつけ隊は」

ロバ隊長 「勇者、えー……つかまえ隊に合流。逃げた勇者を捕えるぞ」

ロバ隊長 「みんな、分かったかなー」


パン女騎士 「何をふざけてらっしゃるのですか」


ロバ隊長 「いやー、ははは……まいったね」

ロバ隊長 「ごめんなさいね、エリートさんのノリは分からないのよね。田舎者なもんで」



下半身が獣の方のパンということで、どうかひとつ。


■パン女騎士
http://i.imgur.com/uXZ1yoe.jpg

■パン(ツなんて知らない)女騎士(人間風)
http://i.imgur.com/joGcDeF.jpg





ロバ隊長 「じゃあ連絡係は、いま船にいる奴らが出てきたら一緒に本隊に合流するように」

ロバ隊長 「出発」


ロバ憲兵たち 「おう!」


パン女騎士 「……はい」


ゾロゾロ


王子 「…………」



ロバ隊長 「その頭のクロワッサンみたいなやつ、良いよね」

ロバ隊長 「クロワッサンみたいだよね」


パン女騎士 「けたぐりますよ」

パン女騎士 「角です」


ロバ隊長 「かぁっくいいなあ……」



王子 「……去っていく」

王子 「よしよし、このまま隠れていれば面倒は避けられそうだな」




幼妻エルフ 「中の奴らと合流して、魔法の馬車で船から出るぞ」

幼妻エルフ 「とんだ足止めだが、奴らがこの島から消えるまで待ったほうが良いだろう」


ハーピィ 「…………」


クル魔エビ娘 「あ……」


王子 「君はこの港に用があるんだったね」

王子 「これ以上まきこまれないよう、おれたちとは分かれた方が良いと思うけど、どうかな」


クル魔エビ娘 「あの、ですが……」


ピイィーーッ


ロバ憲兵の声 「いたぞー、劇場のある船の中だ!」

ロバ憲兵の声 「ここに勇者だー!」


王子・幼妻エルフ 「!」


クル魔エビ娘 「…………!」




ロバ憲兵の声A 「橋を落とせ、奴らを船から出すな!」


ロバ憲兵の声B 「急げ、馬車で逃げるぞ!」


ワーワー ザアアア


幼妻エルフ 「ちくしょう、あいつら見つかりやがったか」


王子 「馬車と言ったな。おれたちもすぐ合流できるよう急ごう」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「すぐに本隊も引き返してくるだろう。武器は用意しとけよ」


王子 「剣の魔法も使えるようにしておくか」


クル魔エビ娘 「勇者と妖精……」

クル魔エビ娘 「あ、あのう、私も皆さんについていってよろしいでしょうか」


王子 「なに。いや、しかし……」


幼妻エルフ 「ゆっくり迷っている時間はないぜ王子さま」

幼妻エルフ 「……ついて来れなかったら放っていく。それで良いな」


クル魔エビ娘 「は、はいっ!」




バシャ バシャ バシャ バシャ


ロバ憲兵たち 「うおおおお!」


ロバ隊長 「いやはあ、まいったねえ、今日は運が悪い」

ロバ隊長 「おれも、君も」


パン女騎士 「…………」

パン女騎士 「そのようで」

パン女騎士 「……申し訳ありません。私が余計な進言を」


ロバ隊長 「そう言ってくれる部下には、決めたのはおれだと返すように決めている」


パン女騎士 「…………」


バシャ バシャ ザアアア


ロバ憲兵の声 「車輪は駄目だ、馬の方を止め……ああっ、駄目だ、出るぞ!」

ロバ憲兵の声 「外の奴らは守りをかためろお! 勇者を乗せた馬車が船から出るぞー!」


ドドドド ゴロロロ


王子 「出てくるか」

王子 「急げ、本隊も戻ってくる!」


ハーピィ 「………」


クル魔エビ娘 「ひい、ふう」


幼妻エルフ 「ああもう、風で運ぶから乗れ!」


クル魔エビ娘 「は、はい」


王子 「……来るぞ!」


ドドドドド

ドドドドド

バコン


エッヘウーシュカA 「ブルヒイイイ!」


エッヘウーシュカB 「ヒヒィイイン!」


クル魔エビ娘 「あれが魔法の馬車……!」


王子 「………あれ?」




王子 「馬が変だぞ」


幼妻エルフ 「あの馬車をひいている馬ども」

幼妻エルフ 「西の方に多く生息するという肉食のやつらだな」

幼妻エルフ 「……馬よりもっと違うもんがあるだろ」


魔法の馬車(ブラウニーのお店)


王子 「……馬車まるごと違うじゃないか」


幼妻エルフ 「おえっ。何だよあの胸焼けしそうな、見るからに甘ったるいゴテゴテの装飾は」


王子 「もしかして、勇者違いだったか? ほかにもまだ勇者が……」



ガラガラガラガラ


ろうそく職人 「やったー! 脱出成功!」


貝殻の勇者 「危ない、舌をかみますよ!」


ガラガラガラガラ



王子 「……勇者どのたちだ」


幼妻エルフ 「何がどうなってやがる。オレたちのグリフォン丸ちゃんはどこ行っちゃったんだよ」


ハーピィ 「…………」




クル魔エビ娘 「ええと……?」


王子 「と、とりあえず合流しよう」


幼妻エルフ 「うん……」


ダダダダ



ロバ憲兵C 「待て、止まれ……うお、あぶねっ!」


ロバ憲兵D 「くそう、雨で足場が悪いのは同じはずだというのに!」


ガラガラガラガラ


ろうそく職人 「うひゃあ、憲兵たちが集まってきますよ! 蹴散らせー!」


貝殻の勇者 「町の外まで突っ切りましょう。ハイヨー!」


エッヘウーシュカ 「ヒヒィン!」


貝殻の勇者 「……ああ、黒花どのや王子どのは無事でしょうか」

貝殻の勇者 「おや?」

貝殻の勇者 「……!」

貝殻の勇者 「た、たいへんです、ろうそく職人さん!」


ろうそく職人 「どうしたのですか勇者さま!」


貝殻の勇者 「これ、うちの馬車じゃありません!」


ろうそく職人 「ええっ!?」


ガラガラガラガラ




ブラウニー 「わあーん!」

ブラウニー 「待って、待ってくださあい、甘い窓の春風号!」


ニワトコ娘 「むほふふふ!」

ニワトコ娘 「面白い、面白いわあ。私の物語が増えていくわあ!」


野生の女 「前を見て走りなよ……」

野生の女 「まさか、あたしたちの馬車を盗む奴らがいるなんてね」



ガラガラガラ

ヒュオオ


幼妻エルフ 「やいこら、お前たち」


ろうそく職人 「おかあさ、師匠!」

ろうそく職人 「ハエみたいに飛んでる……」


幼妻エルフ 「魔法で華麗に舞っているんだよ!」


王子 「脱出ご苦労様と言いたいところだけど」


貝殻の勇者 「そちらも無事で何よりです」

貝殻の勇者 「ええ、ご覧のありさまです」

貝殻の勇者 「馬車を間違えてしまいました」


ハーピィ 「…………」


王子 「さて、どうするかね」




幼妻エルフ 「今はこれで行くしかないだろ。さっさと迎撃の準備を……」


ビュン ビュン


クル魔エビ娘 「うしろから矢と斧が飛んできます!」

クル魔エビ娘 「当たっちゃう!」


幼妻エルフ 「ほいっ」


王子 「ていっ」


ビュオオ ガキン


幼妻エルフ 「フランキスカか」


王子 「気まぐれな手投げ斧というが、なかなか精度が高い」

王子 「だが打ち落としてしまえば……」


ブオン ブオン


王子 (大きいのが飛んできた……)




王子 (おれの剣で止めきれるかあやしいな)


幼妻エルフ 「そいっ」


ゴオオ


王子 「おお、風で大きな斧が止まった」

王子 「……変だな、地面に落ちずに来た方へかえっていく」


ドドドドドド


王子 「うん?」

王子 「……! 憲兵の中で、すごい勢いで駆けてくる者がいる」

王子 「ロバの隊長か……!」


ロバ隊長 「とうっ」


バシッ


王子 (飛び上がって空中で斧を掴んだ)

王子 (いかん、そのまま馬車の屋根に乗る気だ!)




ザアアア ガラガラガラ

ドサ ゴロゴロ


ロバ隊長 「おわっぷ、やれやれ……」

ロバ隊長 「うん?」


ヨジヨジ タッ


王子 「くそ、遅かったか」


ロバ隊長 「そりゃあこちらの台詞だよ仮面者。……思ったより若そうだな」

ロバ隊長 「さあ、おとなしく捕まりなさい」

ロバ隊長 「でなければこの素敵な馬車を破壊する」


王子 「それはできないし、させない」

王子 「憲兵の言うおとなしく捕まれとは」

王子 「おうおうにして、おとなしく死の丸窓を覗けということだ」


ロバ隊長 「ははは、死の丸窓を覗くか」

ロバ隊長 「たしかにギロチンも首吊りも、そうしなきゃならんね」

ロバ隊長 「悲しいことじゃないか」

ロバ隊長 「輪は平和の象徴だというのに」




ロバ隊長 「しかし、死ぬことで平和に役立つ者がいるのも事実」

ロバ隊長 「君の言葉をうけて、あえてもう一度いおう」

ロバ隊長 「おとなしく捕まりたまえ」

ロバ隊長 「平和のために」


王子 (斧をかまえた。重たそうだが、さて)

王子 「……あなたがたにとっての平和が、誰しもの平和とは限らないということだ」


ハーピィ 「…………」


ロバ隊長 「なお剣をかまえるかい。いや、もう、残念だね……」

ロバ隊長 「……仮面の骨ごと、頭蓋骨を粉砕してやろう」


王子 「…………!」

王子 (沈み込むような威圧感。引力のようなものすら感じる)

王子 (かたくなってはまずい。多くの情報を得て役立てる。自然の声を……)




ロバ隊長 「……いくぜい」


王子 (しかけてくるタイプか)


バリッ


ロバ隊長 「……うん?」


王子 (屋根の一部が、一瞬光った)

王子 「気のせいか?」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「うん、たしかにバリッと光った……」


幼妻エルフ 「魔法の印だ!」

幼妻エルフ 「くそ、はやく消さないと……!」


王子 (魔法の印?)


バリバリバリ


王子 「……な」


ロバ隊長 「まさか、パン女騎……」


ドゴォン


貝殻の勇者 「きゃあっ!?」


ろうそく職人・クル魔エビ娘 「わああっ!?」


王子 「雷だと……!」





バキバキ ドタッ ガラガラ

モクモク


ロバ憲兵E 「馬車が倒れてぶっ壊れた……」


ロバ憲兵F 「敵は死んだか? 隊長は?」


ロバ憲兵G 「気を抜くな。何が出てきても良いようかまえとけ」


ドヨドヨ


パン女騎士 「……おそらく生きています」

パン女騎士 「印をずらされたのか威力がそがれました」 


ロバ憲兵H 「そがれた……あれでかい」


ロバ憲兵I 「さすがエリートさまだぜ。雷たぁ、頭のエクレアはだてじゃないね」


パン女騎士 「クロワッサンです」

パン女騎士 「誰がクロワッサンか」


ロバ憲兵G 「気を抜くなよ」






パン女騎士 「まあ死んでもらっては困るのですが……」


モクモク パチパチ


王子 「……うーん、すごい音と衝撃だった」

王子 「大丈夫かい、ハーピィ」


ハーピィ 「…………」


王子 「無傷か。良かった」


幼妻エルフ 『ちょうど良い、煙に紛れて風で逃げるぞ』


王子 『よし……』

王子 「……む」


ボヒュ


ロバ隊長 「ぜやっ!」


王子 (ロバの隊長!)

王子 「おっと!」


ガキン ギギギ ガギン


ロバ隊長 「なかなかうまくいなすじゃないか、骨仮面の」


王子 「だったら手を抜いて死んでいただきたいものだね」




幼妻エルフ 『お、うじ』


王子 (魔法の会話がおかしい。声がざらついた風で途切れ途切れになっているみたいだ)

王子 『まずい。ロバの隊長に見つかった』

王子 『ハーピィもつれて皆で先に行ってくれ』


ロバ隊長 「あきらめたらどうかね、仮面の」

ロバ隊長 「ぐるりを我々に塞がれ、馬車を失っちまったときたら」


王子 「なあに、まだまだ……!」


ヒュオ


ハーピィ 「………!」


王子 (風だ)




ロバ隊長 「うん?」


ろうそく職人 「ゲホッ、ゲホッ……」


貝殻の勇者 「おろしてください、おろしなさい! 私も残ります!」


クル魔エビ娘 「おえっ……空酔いしそう……」


ヒュオオオ


ロバ隊長 「勇者が飛んで逃げる! 追っかけ……」


王子 「ここだ!」


ガイン


ロバ隊長 「うおっ……!」


王子 (当たった。魔法を帯びた剣で鎧をうったが、さて、効果はどうだろうか)




ロバ隊長 「軽装とはいえ鎧の上からこの衝撃」

ロバ隊長 「そうかい、魔法の武器ってわけか」


王子 (効いてはいるようだ)


ロバ隊長 「それではこちらも……!」


ブン ガシャ


王子 「……!」

王子 (大振りからの蹴り)

王子 (大きく飛び退いてしまった)


ロバ隊長 「ほれっ!」


王子 (大きな斧を投げてきた)

王子 (こちらは地に足がついていないというのに!)

王子 「ぬあっ」


ロバ隊長 「その体勢でよく避ける!」


ドドドド


王子 「……!」

王子 (両手に長柄の斧を持って突進……!)




ロバ隊長 「おう、らっ!」


ブン ブオン ガキン


王子 「……! ……ぐぅッ!」

王子 (馬鹿力め。こうも軽く振り回してるか)


ハーピィ 「…………」


ギュン ギュン


王子 「!」

王子 (後ろから、ロバの隊長の投げた斧)

王子 (戻ってきたのか!)

王子 「ええい……!」


タン スカッ


ロバ隊長 「ほう、避けたかい」

ロバ隊長 「まるで後ろも見えているようだ!」


ブオン ガキ


王子 「……ッ」

王子 (長柄の斧……思ったより長い。防ぐだけで手一杯だ)

王子 (中途半端に距離をとるとまずいか)




王子 「ならば……!」


ロバ隊長 「おっと」


ガギ


王子 (懐に飛び込んだら、斧の持ち手をかえて対応してきた)

王子 (こりゃいかん。そろそろ逃げるか)

王子 (……勇者どのが完全に逃げ切るまで、もう少しここでおさえていた方が良いかな)


ロバ隊長 「いやあ、やるね」

ロバ隊長 「仮面をつけている奴はだいたい強いということわざは本当だったんだな」


ブオン ガキン ギイン


王子 (このロバはちょっと危険な感じだ)


ギュン ギュン


王子 (斧が戻ってくる。あれも魔法のかかった武器なのだな)

王子 (……ぎりぎりまで引き付けたらどうなるんだろうか)


ビュウウ


ロバ隊長 「……ありゃ!?」

ロバ隊長 「ちょっと、どこ行くの斧くん!」


王子 (斧が勢いをなくした?)

王子 (風。葉巻か)


ヒョロヒョロ ガラン




シュウウ


ロバ憲兵たち 「追えー、勇者を追……」

ロバ憲兵たち 「て、あれ?」


ロバ憲兵J 「うおっ、武器がグズグズに腐っていくみたいに……!」


ドヨドヨ


ロバ隊長 「猫耳くんの言っていた、勇者側に武器を破壊する術があるのは本当のようだ」

ロバ隊長 「うろたえるな! 魔法に耐性のある武器に持ちかえるんだ!」


王子 「くらえ、こっそり斬!」


ゴオン


ロバ隊長 「うわ、いったい!」

ロバ隊長 「バーロッ、何すんの、指示出している途中でしょうが!」


王子 「言ってやっただけ感謝してほしい!」

王子 「ついでに死ね!」


ガイン ゴイン 


ロバ隊長 「ぐっ……! ちょ、いてっ、いててっ。待て、体勢を整え……やめ、怒るよ!」


王子 (鎧で受けるか。器用な)

王子 「怒りたくば怒れ!」

王子 「死ね!」


ガイン ゴイン


王子 (この隙に、剣の魔法が使えるうちに一気にせめる!)


ジジジ


王子 「ん?」


ボオッ


王子 (地面から炎!)

王子 「あっつい!」





ゴオオ ゴオオ ゴオオ


ロバ隊長 「ちょっと、パンくん。これやっているのパンくんだよね!?」

ろば隊長 「おれも燃え上がっている!」

ロバ隊長 「パンくん、ちょっと、パン女騎士くん! あっつい!」

ロバ隊長 「やめなさいパンくん、バナナあげるから!」


王子 「くそ、服を脱がないと……のわっ、葉巻からもらった首巻が……!」


ハーピィ 「…………!」


バサッ バサッ バサッ

……ゴオオオオ!


ハーピィ 「!?」


王子・ロバ隊長 「うわああ!」


ロバ隊長 「火力があがった! あづ、あづづづ!」


王子 (た、戦うどころじゃない!)


ハーピィ 「…………ッ」




パン女騎士 「……氷土の風よ!」


パキ ビシ バキン


ロバ隊長 「…………!」


王子 (! ロバの隊長があっという間に氷漬けに)

王子 「あつ、あっつ……!」


幼妻エルフ 「…………」


ビュオオオオ

シュウウ


王子 「つ……」

王子 「おお、火が消えた」

王子 「……雪。吹雪か」


ハーピィ 「…………」


ファサ


王子 「翼であたためてくれるのかい、ハーピィ」

王子 「ありがたいけど君も……」


ハーピィ 「…………」


王子 (? とてもすまなそうな顔をしている)




王子 「雨が降るわ雷が降るわ火が生えるわ、吹雪くわ」

王子 「忙しいな今日は……」


幼妻エルフ 「何してる。敵がばたついているうちに早く逃げるぞ」


王子 「ああ」

王子 「残っていたんだな、葉巻」


幼妻エルフ 「当たり前だろ。ハーピィは意地でもお前の傍から離れないし、お前も無茶を……」

幼妻エルフ 「うぐっ!」


王子 「! どうした、頭が痛むのか」


コツ コツ

ザアアア


パン女騎士 「…………」


王子 (獣の耳に角……)

王子 (持っているのは笛か弓か……杖なのか?)


ロバ憲兵I 「エリートどの」


パン女騎士 「かまわず勇者をどうぞ」

パン女騎士 「目の前の彼らに人を多く割いても意味はありません」




ダダダダ バシャ バシャ


ロバ隊長 「…………」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「うう……ぐうっ……」


王子 「葉巻……」

王子 (あの騎士のしわざだろうか)


パン女騎士 「……エルフは、弓と魔法にかけては厄介な種族」

パン女騎士 「しかし、大きな弱点がある……」

パン女騎士 「それは穢れを極端に嫌い、遠ざけるあまり」

パン女騎士 「性魔術にとことん弱いこと」


王子 「なにを……」


パン女騎士 「くらえ性魔術!」

パン女騎士 「友だちみんなでお泊りをするときに好きな人を言い合うことになり」

パン女騎士 「さんざんはぐらかして答えてみたら」

パン女騎士 「じつは集まった友だちの中のひとりとすでに付き合っていることが分かったときの気持ち」

パン女騎士 「の術!」


ミョンミョンミョンミョン


幼妻エルフ 「ぐわあああ!」


王子 「葉巻!」




幼妻エルフ 「うぐっ……なんて奴だ」

幼妻エルフ 「複雑な呪文詠唱を滑らかにこなしやがった……!」


王子 「あれ呪文なのか」

王子 「しっかりしろ、葉巻。お前はエルフの穢れ代表みたいなもんじゃないか!」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「う、ぐう。ちくしょう……!」


パン女騎士 「ふふふ、集中して魔法を練ることができないはずです」

パン女騎士 「次はあなたです、仮面の人」


王子 「…………!」


パン女騎士 「チャームの魔法!」


ミョンミョンミョン


王子 「……っ」

王子 (頭に霧がかかるような……)


パン女騎士 「これであなたは私のしもべ」

パン女騎士 「さあ、武器を捨ててこちらへ来なさい」


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」


パン女騎士 「…………?」

パン女騎士 「動かない……?」




パン女騎士 「何をしているのです。こちらへ……」


王子 「…………」


パン女騎士 「……おかしい」

パン女騎士 「この魔法にかかった異性は魅了され術者の言うことに従うようになるはずなのに」


王子 「それは恐ろしい魔法だ」


パン女騎士 「そんな、まだ自我が……」


ハーピィ 「……あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ」

王子 「ハーピィに比べたらくそだ」

王子 「特に胸が」


パン女騎士 「いやあああ!」


幼妻エルフ 「ぐわあああ!」




パン女騎士 「なんてことば言うと、こん女の敵! 最低仮面!」

パン女騎士 「変た……」


王子 「…………」


ダダダダ ボカッ


パン女騎士 「げぶっ……!?」

パン女騎士 「なば、歯ひゃ……!?」


王子 「詠唱するタイプの魔法使いなら」

王子 「口を潰してしまえば良いのだろうか」


パン女騎士 「うぐ、やべ……ぎゃっ」

パン女騎士 「よくぼ、女の顔を殴りまひひゃ……」


王子 「すまない、殴るだけだ。人質として、おれたちの逃走に役立ってもらわなければならないのだから」

王子 「殺し合いをぶち壊してくれるな、馬鹿者」




王子 「さて、手足と杖を折って……」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「…………」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「…………ッ」

王子 「……頭の中の霧が晴れていく」

王子 「おれはいったい何を……」


パン女騎士 「…………」


王子 「女騎士がボロボロになっている。これは……」

王子 「しめた、この人を人質にして逃げよう!」


ハーピィ 「…………」




王子 「おい、葉巻……」


パキ バリン


ロバ隊長 「……ぶはあ!」

ロバ隊長 「ああ、死ぬかと思った」


王子 「ロバの隊長!」


ロバ隊長 「そらっ」


グイ


幼妻エルフ 「あうっ」


王子 「…………!」

王子 (しまった。葉巻をとられた)




ロバ隊長 「ふっふっふ」


幼妻エルフ 「……うう。王子………っ」


王子 「……葉巻」

王子 (捕虜の才能でもあるんだろうか)


パン女騎士 「はふぇ……」


ロバ隊長 「大丈夫かい、パン女騎士くん」

ロバ隊長 「あーあー、いけないぞ骨仮面」

ロバ隊長 「女性の顔とお母さんは大切にしろと習わなかったかい」


王子 「それについては申し訳ない。どうかしていたとしか言いようがない」

王子 「葉巻をかえせ憲兵」




ロバ隊長 「どうすればかえってくるか、分かるだろう?」


王子 「…………」


パン女騎士 「……ケホッ」


王子 「……分かった、交換条件だ」

王子 「この女騎士どののもどかしい胸あてをグイッと外せば良いんだな……」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「!?」




ロバ隊長 「…………」


王子 「…………」


グ……


ハーピィ 「!!」


バコンッ


王子 「あいたっ」


パン女騎士 「へんひゃい!」


幼妻エルフ 「子供かよお前ら……」


王子 「じ、冗談だよ。相手に隙をつくるための」


ロバ隊長 「殺し合いの最中にとんでもない奴だな」

ロバ隊長 「ふざけて女性を辱めようだなんて最低だよ」


王子 「あなたも小さく頷いて見入っていただろう」




王子 「……女騎士どのをそちらに渡せば、葉巻をこちらにかえすのだな」


ロバ隊長 「……ああ」

ロバ隊長 「だが、その前に」

ロバ隊長 「きみは魔法使いのようだが、パン女騎士くんの怪我を治せるかい?」


幼妻エルフ 「…………」


ロバ隊長 「…………」


メキ


幼妻エルフ 「……っ!」


王子 「葉巻……!」

王子 「おい、こちらにも人質がいることを忘れないでいただきたい」


ロバ隊長 「彼女に手を出せば、確実にこの子の首の骨もへし折れるだろうね」


王子 「それはこちらにも言えることだ」


ロバ隊長 「その言葉は嘘じゃないだろうね。君なら後悔を覚悟でやってしまうだろう」

ロバ隊長 「つまり今この場には、人質が通用するようなろくな男はいないということだ」




王子 「……頼む、葉巻」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「おいおい、オレは別に殺されても……」

幼妻エルフ 「まあ良いさ、お前が言うなら」


ロバ隊長 「変な真似をしたら顔を潰すからな」


幼妻エルフ 「そんなの脅しにならないが、ちゃんと治してやるさ」

幼妻エルフ 「だが良いか、お前の言うことを聞くんじゃないからな」

幼妻エルフ 「あいつの言うことを聞くんだ」

幼妻エルフ 「分かったか馬の出来損ない」


ロバ隊長 「傷つくなあ」

ロバ隊長 「どうでも良いから早く治してあげておくれ」




幼妻エルフ 「そらよ、卑猥な女騎士さま」

幼妻エルフ 「よくもオレの腐った魂をけがしてくれたな」


キイイ ピロリン


パン女騎士 「…………」

パン女騎士 「……すみません、ロバ隊長」


ロバ隊長 「おお、治った。立派なもんだ」


王子 「……それでは、人質の交換を」


ロバ隊長 「……ああ、喜んで」


ハーピィ 「…………」



王子 「…………」


ロバ隊長 「……さんのーが、はい、で良いかな」


王子 「いっせーの、せ、が良いんじゃないか」


ロバ隊長 「さんのーがが良いだろう。息をあわせやすい」


王子 「いっせーのが良いよ。放り出す感じがでている」


ロバ隊長 「いやいや、さんのーがが……」


王子 「なあに、いっせーのが……」


幼妻エルフ・パン女騎士 「…………」


ドオン


一同 「!?」




ロバ隊長 「何だ、船の方から……」


幼妻エルフ 「…………!」


ドン


ロバ隊長 「うおっ」

ロバ隊長 「逃がすか、この!」


グイ


幼妻エルフ 「きゃうっ……!」

幼妻エルフ 「ええい!」


ビュオ バサ


ロバ隊長 「何だあ、いきなり髪が千切れた」


幼妻エルフ 「雄が、ベタベタともうオレにさわるな気持ち悪い!」

幼妻エルフ 「王子、そいつを離すなよ。逃げ……」


ヨロ


王子 「葉巻……!」

王子 (ふらふらじゃないか。そんなに効いたのか、この女騎士の魔法は)


幼妻エルフ 「くそ……」


ロバ隊長 「しめた。今度は逃がさんよ!」


王子 「……ええい!」


パン女騎士 「きゃあっ」


ドサッ

バシャバシャバシャバシャ


王子 「ロバ!」


ロバ隊長 「! 人質を捨ててきたか!」


ガキン




王子 「えやっ」


ガキ キン ヒュッ ガキン


ロバ隊長 「ぐうっ……!」


パン女騎士 「う、うーん……おのれ、よくもこんな!」


ロバ隊長 「!」

ロバ隊長 「パン女騎士、後ろから敵だ、左にとべ!」


王子 「えいっ」


ヒュッ


ロバ隊長 「ぬうっ……!」


ガキン


パン女騎士 「うしろ?」


ガラララララ


馬車馬B 「ヒヒィイン!」


首無し馬 「フィイイイイ!」


パン女騎士 「馬車!?」




パン女騎士 「ななな、なんでまた馬車が」

パン女騎士 「とと、止めなきゃ、ええと、魔法、こんなときの魔法」

パン女騎士 「よう考えっとよ、私はエリートやけん……」


馬車馬B 「ブルルルルッ」


首無し馬 「フヒュウウッ」


ガラガラガラガラ


ロバ隊長 「良いからとべ!」


パン女騎士 「もう駄目、きゃあっ!」


バッ ゴロゴロ




ガラガラガラガラ


馬車幽霊 「お嬢様! みなさん!」


幼妻エルフ 「……王子!」


王子 「馬車幽霊か!」

王子 「ハーピィ!」


ハーピィ 「…………!」


ロバ隊長 「行かせるものか!」


幼妻エルフ 「……!」


ビュオオ


首無し馬 「…………」


ガラン

ボオオオオ


パン女騎士・ロバ隊長 「!?」


王子 (しめた。首無し馬とその炎に敵が気をとられた!)

王子 「でいやっ」


ロバ隊長 「! うおっ……」


ガギイン




バッ ドタ バシャ


ロバ隊長 「ああ、くそ。何てこった、吹っ飛ばされるとは!」


幼妻エルフ 「けけけ、仮面の下に顔があるなんざ思い込まないことさ」


馬車幽霊 「止まらず行きます。早く馬車へ!」


幼妻エルフ 「よし……」


ヨロ ヨロ

ガバ


幼妻エルフ 「うわ」


王子 「前の体の方が軽いな……」


幼妻エルフ 「当たり前だろう失礼なやつ。飛び乗れ、今だ!」


王子 「おう」


ハーピィ 「…………!」


タンッ

ガラガラガラガラ




ロバ隊長 「くそ、また馬車に乗り込まれたか!」


パン女騎士 「また壊せば良い……!」


バチ バチ


??? 「うぬうううう!」


ヒョーイ ヒョーイ ポーイ


パン女騎士 「ん?」


ロバ隊長 「おや、馬車から誰かが何かを投げてきたぞ」

ロバ隊長 「あれは……」


パン女騎士 「ば、爆弾です!」




魔法の馬車



ドカン ボオン ボガアン


??? 「わははははー」

ブラウニー 「見ましたか、ブラウニー爆弾の威力を!」

ブラウニー 「威力はそこそこだけど、くしゃみと涙とよだれが止またなくなりますよー」

ブラウニー 「私たちの馬車を壊した報いを受けるのです!」

ブラウニー 「それそれそれー」


ポーン ポーン ヒョーン


野生の女 「……あちゃー、完全にぷっつん切れちゃってるわ」


ニワトコ娘 「怒るとこんな感じなのね」


野生の女 「だいたい怒ることなんてないんだけどね」



王子 「……何だ彼女たちは」


幼妻エルフ 「人質じゃなさそうだ」




ブラウニー 「わにゃにゃにゃにゃ! あたたたはあー!」


ヒョーイ ボガアン ポーン ドオン


馬車幽霊 「何やら、魔法の馬車を盗まれたあげく壊されたとかで」

馬車幽霊 「困っていらっしゃるようで」


幼妻エルフ 「ふうん」

幼妻エルフ 「お前、馬車の操縦はどうしたんだよ」


馬車幽霊 「それなら、ほら、ハーピィさまが」


ハーピィ 「…………」


王子 「いつの間に……」


野生の女 「しっかし、何だってコンペイ糖衣とかいう奴らは」

野生の女 「あたしたちの馬車を盗んだあげく木っ端微塵にしたんだろうね」


ニワトコ娘 「うーん……」


王子 「…………」

王子 「もしかして、勇者どのとろうそく職人のせい……」


幼妻エルフ 「よし、このまま勇者どのたちを拾っていくぞ」


馬車幽霊 「かしこまりました」

馬車幽霊 「守りをかためます」





ガラガラガラガラ


ロバ憲兵J 「うわっ!?」

ロバ憲兵J 「まだ馬車があったのか!」


ロバ憲兵K 「止めるぞ。えいっ……」

ロバ憲兵K 「だめだ! 馬車の周りに見えない壁のようなものが!」

ロバ憲兵K 「どうにか他の方法を考えろ……!」


ポーン ドカアン


ロバ憲兵L 「ぎゃあ」

ロバ憲兵L 「……は、はっくしょん! ずびずび、ニッキシッ!」



ガラガラガラガラ


ブラウニー 「わーっはっはっはっはっは」

ブラウニー 「もう止またないですよー。あたてぃの爆弾はすごいのらー!」


野生の女 「……なんで狂気にとりつかれた奴って笑うんだろうね」

野生の女 「馬鹿のひとつおぼえみたいに」


ニワトコ娘 「表現の引き出しが少ないのよ」


王子 (ふむ。このまま行けそうか……?)


ガラガラガラガラ




幼妻エルフ 「王子、馬車幽霊と一緒に前を頼む。後ろからの攻撃はオレが防ぐから……」


王子 「ああ、頼む」

王子 「……きつそうだな。魔法の傷が癒えないのか?」


幼妻エルフ 「なあに、このくらい」

幼妻エルフ 「……どうも、性魔術との相性が良くない」


王子 「種族としてしかたないのだろ」


幼妻エルフ 「……まあ、そうなのかな」


王子 「ふっ……何だか安心したよ」

王子 「全身から乱れた性生活をかもし出していたお前だが」

王子 「魂の根は、しっかりエルフなんだな……」


幼妻エルフ 「蹴り潰すぞ」




カン カン スタ


王子 「やあ、調子はどうだい」


ハーピィ 「…………」


王子 (馬車を操縦できて嬉しそうだ)


馬車幽霊 「前方の敵は、勇者さまがたを追いかけるところをこちらが奇襲するかたちになるので、やりやすいですね」

馬車幽霊 「さて、その勇者さまがたはお嬢様の風で運ばれたとのことですが」


王子 「森の中まで飛ばされていたりしないか」


馬車幽霊 「全開のお嬢様なら、それどころか手を抜いても大陸の彼方まで軽く運ぶのでしょうが」

馬車幽霊 「力のほとんどを封じていらっしゃるので、ないと考えて良いと思います」


王子 「……そうかい」

王子 「彼女たちが憲兵隊に追いつかれないうちに拾えると良いな」



ワアアア


ロバ憲兵たち 「いたぞ、追え、囲め!」


ワアアア



馬車幽霊 「……なかなか難しいようで」




ザアアア


ロバ憲兵たち 「…………」


ろうそく職人 「うう、囲まれてしまいました」

ろうそく職人 「ごめんなさい、私が転んだばかりに勇者さまの足を引っ張って……」


クル魔エビ娘 「すみません、私がこけたばかりに……」


貝殻の勇者 「良いのです。それよりも、あなたがたを危険に巻き込んだ私を恨んでください」

貝殻の勇者 「もう仲間を失うことに疲れました。きっと、あなたがたを逃がしてみせますからね……」


ろうそく職人・クル魔エビ娘 「はうん、勇者さま……!」


ザアアア



王子 「……町から出られていないじゃないか。封じすぎだろう」


馬車幽霊 「ふむ。やはりお嬢様は無意識に、魔力の消費に臆病になっていらっしゃる」

馬車幽霊 「皇帝の目潰しの一件が、よほどこたえたようです」


王子 「?」




馬車幽霊 「それでも、並の魔法使いを寄せ付けない程度に強力ですが」


王子 「……ああ」

王子 「あとは周りが頑張れってことだな」


グイ ギリリ パッ ヒュウウウ



ドスッ


ロバ憲兵M 「うがっ。後ろから、矢……!?」


ロバ憲兵N 「馬車だって!? 隊長どのたちはどうしたんだ!」


ガララララ


王子 「お、当たった。狙っていた首じゃなくて腕にだけど」

王子 「……突っ切るぞ、みんな乗れ!」


貝殻の勇者 「王子どの!」




ザアアア


ガラガラガラガラ


ロバ憲兵O 「ええい、こうなれば!」


ロバ憲兵P 「馬車が何するものよ。帝国憲兵魂を見せてやらあ!」


ロバ憲兵・犬憲兵たち 「お、おう!」


貝殻の勇者 「……くっ、散るどころか囲みを閉じにかかりましたか」


ろうそく職人 「こ、来ないでください憲兵さまがた!」

ろうそく職人 「地獄の回復の炎をお見舞いしますよ……!」


クル魔エビ娘 「か、回復って」

クル魔エビ娘 「……あ、雨がいっそう激しく。これなら……」


ガラガラガラガラ


馬車幽霊 「体を張ってでも止めるようです」

馬車幽霊 「ひき殺しますか?」


王子 「そうしたいところだけど、さすがに厚い」

王子 「速度を落として手薄なところを探し……」


バチ バチバチバチ


王子 「……これは、葉巻の言っていた魔法の印というやつか」

王子 「屋根からきて前方の地面に落ち這っていくが」


馬車幽霊 「印をとばし結ぶことで、正確に魔法を当てることができます」

馬車幽霊 「雷などの、軌道を操りづらい魔法を使うときに用いる手法です」

馬車幽霊 「……どうやら、お嬢様が敵の印をずらしているようで」


王子 「なるほど」




バチバチバチバチ


馬車幽霊 「……まずい!」


王子 (馬車幽霊が小さく何かを呟いた)

王子 「そうか!」

王子 「いかん、はやくブレーキ棒を!」


ハーピィ 「…………」


グイ


馬車馬たち 「ブルヒンッ……!」


王子 「それ」


ガコン ギキイイイ


王子 (うわ、また折れそう)


馬車幽霊 「来ます!」


バチバチバチ

バリッ バリッ


憲兵たち 「ん? あ、これはパ……!」


ピカッ ドッシャアン

ガシャン バリン バリン パリン

ゴロゴロゴロゴロ……




モクモクモクモク

バチ パチチ


ロバ憲兵たち 「う、ううーん、痺びび……」


犬憲兵たち 「ハラホレヒレハヘ……」


クル魔エビ娘 「……いきなり光と大きな音があって、なにかがたくさん割れる音がして」


ろうそく職人 「気がついたら、憲兵さまがたが毒殺される家畜のように転がっている……!」


貝殻の勇者 「いったい何が……」


カラ ガララ ガラガラガラ


ろうそく職人 「やや、煙の向こうから軽やかながら重厚な車輪の音」


王子 「はやく乗るんだ。まだ後ろから追いかけてくる!」


貝殻の勇者 「はい!」


クル魔エビ娘 「…………!」


ダダダ カン ガチャン

ガラガラガラガラ





魔法の馬車 後部ステップ



ブラウニー 「フーッ、フーッ」


野生の女 「おお、よしよし。そろそろ落ち着きな」

ヴィルデフラウ 「眠れやこんこん……」


ブラウニー 「フーッ……」

ブラウニー 「……ムニャ、ママさあん……」


ニワトコ娘 「野生の女が輝いて、あんなに猛り狂っていたブラウニーが安らかな顔に……」


ヴィルデフラウ 「ふっふっふ」

野生の女 「ヴィルデフラウは母性の妖精なのさ」


カン カン カン


ろうそく職人 「師匠! ろうそく職人ただいま戻りまし……」

ろうそく職人 「うわ、変な人たちがいる!」


野生の女・ニワトコ娘 「うわ、変なのが来た!」


幼妻エルフ 「……普通の客車をうしろにもつくった方が良さそうだ」




野生の女 「それで、捕り物のごたごたに紛れてそいつらが馬車を盗んでいったのさ」


ろうそく職人 「ほうほう」


ニワトコ娘 「さらにそのあと、憲兵の魔法であんなことに」


ろうそく職人 「ふむふむ」


野生の女 「ブラウニー、我を忘れるくらいまいってたよ」

野生の女 「あたしたちもさ」

野生の女 「あの馬車は旅立ってからの思い出がみんな詰まった……家みたいなもんだったから」


ろうそく職人 「…………」


ニワトコ娘 「これからどうしましょう……」


ろうそく職人 「…………」

ろうそく職人 「大変ですね!」


幼妻エルフ 「…………」


ガラガラガラ




カン カン カン


幼妻エルフ 「……よっ、と」


クル魔エビ娘 「ひっ……」


王子 (葉巻。御者台に来たか)


幼妻エルフ 「勇者さま」


貝殻の勇者 「黒花どの」

貝殻の勇者 「ありがとうございます。助かりました」


幼妻エルフ 「良い。あんたが死ぬと都合が悪いんでね」

幼妻エルフ 「交代だ、後ろを頼む。最悪、大技をつかっても良い」


貝殻の勇者 「それは……やむを得ませんか。分かりました」


カン カン カン




クル魔エビ娘 「…………」


幼妻エルフ 「さあて……ッ」

幼妻エルフ 「へぁ……へあっくちょいな!」


王子 「うおっ」


幼妻エルフ 「……あ」


王子 「あーあー、ははは、服が。本当に生きているのと変わらないんだな。鼻水も出るなんて」


幼妻エルフ 「鼻……デリカシーのないやつめ」


王子 「すまんね。エルフどのは不浄な話はお嫌いだったかな」

王子 「大丈夫か」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「あ、ああ。雨よけの魔法を忘れていただけだ。問題ない」


王子 「人にまもりの魔法をいくつもかけといて、そりゃないだろう」

王子 「風邪なんかひくなよ。おれよりもお前が倒れる方が痛いのだから」

王子 「ほれ、馬車幽霊からもらったタオルだ」


幼妻エルフ 「……濡れている」


王子 「すまんね、使いかけで」


幼妻エルフ 「…………」


馬車幽霊 「かえのタオルを持ってきましょうか」


幼妻エルフ 「……いや」

幼妻エルフ 「いい」

幼妻エルフ 「しかたない、今はそんな暇ない」


馬車幽霊 「…………」

馬車幽霊メイド 「あらあら、うふふ」


幼妻エルフ 「墓たてるぞ」




ハーピィ 「…………」


クル魔エビ娘 「…………」


幼妻エルフ 「……さて、どんな感じかな」


王子 「勇者どのたちやお前と女騎士どののおかげで、前方の敵は一掃できたらしい」


馬車幽霊 「出口にかたまっているだろう敵をどうにかできれば、このまま町から出られそうです」

馬車幽霊 「そこから先が問題ですが」


幼妻エルフ 「奴らが出て行くまで森に潜むとしても」

幼妻エルフ 「この島に敵がいると分かっていて、奴らが何も残していかないわけがない」


王子 「妖精の領域に渡るというのは?」


幼妻エルフ 「ふむ……」


クル魔エビ娘 「…………」


幼妻エルフ 「……さっきから何をしているんだこの白黒娘は」

幼妻エルフ 「おさげが妙な動きをしているが」


王子 「さあ……」




王子 「ところで、後ろは大丈夫なのか」

王子 「勇者どのは魔王の軍勢に攻撃的であって、兵たちを殺すどころか傷つけるのも乗り気ではないのだろ」

王子 「おれも行こうか」


幼妻エルフ 「戦うのは最悪の場合といったろ」

幼妻エルフ 「仕掛けはしておいた」


王子 「?」


ドオン


王子 「何だ、後ろから爆音が……」



ロバ憲兵D 「おわ、何だ。地面から雷が生えたぞ」


ドオン


ロバ憲兵E 「うわ、こっちにも」

ロバ憲兵E 「気をつけろ、そこら中に雷が埋まっているかもしれない!」


ロバ憲兵F 「くそう、これじゃ追えんぞ!」


ドオン



王子 「……葉巻?」


馬車幽霊 「なるほど、印を地面に隠して、敵を感知すると作用するのですね」


幼妻エルフ 「けけけ、あのスケベ女の魔法を見て試してみたが」

幼妻エルフ 「存外うまくいったものでね。仕掛けすぎちまった」


馬車幽霊 「ふむ」

馬車幽霊 「地雷、と名づけましょうか」


王子 「あの女騎士どのがかわいそうになってきたな」


幼妻エルフ 「前歯へし折るくらい殴り抜いておいて何を言う」




幼妻エルフ 「大げさに言うと戦慄したぜ。町で一緒にチンピラどもに絡まれたとき以来さ」

幼妻エルフ 「分かってはいたが、お前はいざとなったら女の顔でも喜んで潰しちまう奴なんだな」

幼妻エルフ 「さすが、オレの見込んだ王子さまだ」


王子 「待て、喜びはしない」

王子 「それに、あのときは変だったんだよ」

王子 「頭に霧がかかっているような感じがして」


幼妻エルフ 「チャームの魔法を失敗したのかな」

幼妻エルフ 「そういうことはあるのか?」


馬車幽霊 「そうですね……」


王子 (葉巻、この手の魔法は本当に弱いらしい)


馬車幽霊 「失敗しても自分に効果がかえるくらいでしょうか」

馬車幽霊 「使い手がパン族であっても、対象が冷酷、凶暴化するような効果は確認されていません」

馬車幽霊 「あくまで私たちの生きていた時代では、ですが」




幼妻エルフ 「ふむ」

幼妻エルフ 「……お前、こういう魔法は詳しいのか」


馬車幽霊 「恋愛関係にある人間の魔法使いたちなら多少は詳しくなるものなのです、お嬢様」


幼妻エルフ 「そうか」


王子 (この馬車を手に入れるために魔法商人をたぶらかしていたときは、無理していたのかな)

王子 (だとしたら、いかんな。そこそこ付き合いは長いのに、こいつを推し量れていないじゃないか)

王子 (……相手を自分の思い通りにするという点で)

王子 (あのとき魔法商人に使っていた魔法とチャームとかいう魔法は同じではないのか)


幼妻エルフ 「うすうす感づいてはいたが、人間の魔法使いは三十年間そういうのを封印するというのは迷信なのか……」


王子 (待てよ、あのとき葉巻は先生の体だった。とすると)

王子 (先生は、エルフでありながら性魔術を使いこなせたという可能性も)

王子 (うーむ、なんて素敵なんだ……じゃなくて、それなら葉巻もその知識を得ているはずだ)

王子 (……あれ、もしかして葉巻、話題にするわりにそっち方面のこと全般苦手だったりするのか?)




幼妻エルフ 「そろそろ町の出口だな……ヘッチョンッ」


王子 (だが、こいつのことだ。人の思考すら誘うように嘘や罠を混ぜてくるからな)

王子 (分からん……)


幼妻エルフ 「何だよ、こっちをじろじろ見て」

幼妻エルフ 「仮面をしていても分かるんだからな」


王子 「ああ。いや、すまんね」


幼妻エルフ 「……けけけ、濡れている女の体を見るのが好きなのかい?」


王子 「いや、はやく乾かさなきゃと思うよ」


幼妻エルフ 「お前……いや、良いや」


王子 「?」


ハーピィ 「…………」




馬車幽霊 「……あの建物を曲がると門が見えます」


幼妻エルフ 「休みなく悪いが、準備は大丈夫か」


王子 「ああ、いつでも戦えるよ。というか、休むとロバとの戦いの疲れが来そうだ」


クル魔エビ娘 「…………」

クル魔エビ娘 「……あ、あのう!」


ガタン


幼妻エルフ 「…………」


王子 「どうしたんだい、急に立ち上がって。それは良いとして……」


クル魔エビ娘 「ええと、その……私、良い逃げ道を知っているのですけど!」





馬車幽霊 「逃げ道。私も知らない道でしょうか」


王子 「本当ならぜひ教えてもらいたいな。だけどまずは座って……」


クル魔エビ娘 「逃げ道というか、少しのあいだ港の近く……いえ、島の南東の海の近くで待っていれば」

クル魔エビ娘 「私の仲間の船が来てくれます!」


馬車幽霊 「ほう……仲間の船、ですか」


王子 「この状態から隠れると言われてもな」

王子 「まあ、その話の前に……」


クル魔エビ娘 「話なんて。余裕がないんですよね!? どうか私の恩返しだと思って信じて……」


グイッ


クル魔エビ娘 「? 杖になにか手ごたえが……」

クル魔エビ娘 「!?」


幼妻エルフ 「…………」


王子 (クル魔エビ娘の持っている杖の先が、葉巻のスカートを引っ掛けてめくり上げている)

王子 (……ちょっと疲れが吹っ飛んでしまった自分がかなしい)




クル魔エビ娘 「ごめんなさい、ごめんなさい!」


幼妻エルフ 「……良いですよ、ぜんぜん気にしちゃいませんよ、オレは」

幼妻エルフ 「スカートと言わず下着の一枚や二枚めくるが良いよ」

幼妻エルフ 「余裕がないこの状況を、どうにかしてくれるってんならな」

幼妻エルフ 「船が来るというのは本当か」


クル魔エビ娘 「は、はい……!」

クル魔エビ娘 「この杖にはめている石は、仲間の船と連絡がとれるようになっていて」

クル魔エビ娘 「さっきようやく繋げることができました。それで、助けを呼んで……」


馬車幽霊 「こちらに向かっていると?」


クル魔エビ娘 「はい。すぐ近くまで来ています!」


王子 (海水を真水にかえる石と似ているが)

王子 (魔法の会話ができる道具といったところか?)


ハーピィ 「…………」




馬車幽霊 「……どういたしますか」

馬車幽霊 「本当だとしても、どこかに隠れるより門を突破して町から出た方が良いと思いますが」


幼妻エルフ 「これはどちらにも言えることだが」

幼妻エルフ 「あったばかりで素性が知れない奴へかけるべき信頼の度を、こしているだろう」


クル魔エビ娘 「う、うう……」


馬車幽霊 「せめるようで申し訳ありませんが、港以外に船をつけられそうな場所は近くに無いはずです」

馬車幽霊 「底はあらく浅かったり、普通のいかりでは滑ったり」

馬車幽霊 「離れたところでとまり、小舟でそこまで行くというのなら……」


クル魔エビ娘 「そ、それは心配ありません」

クル魔エビ娘 「私たちの船、シュタインガルネーレは魔法の船なので!」


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「……シュタインなんだって?」


王子 (どこかで聞いた気がするな)


ハーピィ 「…………」




カンカンカンカン


野生の女 「よっ、と」

野生の女 「あのさ、かっ飛ばしているとこ悪いけど、馬車の速さどうにかできないかな」

野生の女 「何かすっごい勢いで追いかけてくるロバが居んだけど」


王子 「……ロバの隊長どのか」


野生の女 「バナナの皮とか落としてみたけどきかないんだよね」

野生の女 「亀の甲羅とか大砲うちこまなきゃ止まんないよ、あれ」


王子 「東の港の亀のじいさんから引っぺがしとくべきだったか……」

王子 「しかたない、また一戦まじえるとしよう」

王子 「葉巻、馬車幽霊、シュレディンガーエックスとやらの件については決めておいてくれ」


幼妻エルフ 「シュレーデル?」


野生の女 「カエルがなんだって?」


クル魔エビ娘 「か、カエル!? ひいい……っ」


馬車幽霊 「皆さん、落ち着いて」


ハーピィ 「…………」




幼妻エルフ 「そんなに勇者さまが信用ならないかい」


王子 「彼女は、できることなら帝国の兵とも戦いたくないのだろ」


幼妻エルフ 「そのせいで魔王軍にはめられて奴隷市に売りに出されても良いくらいにはね」

幼妻エルフ 「だがあいつは、ほかでもない帝国の暴走に水をかけるためにも勇者になったのだぜ」


王子 「だとしても、本来は魔王を倒し人を救う勇者が、人を殺さなきゃならんとは不憫じゃないか」

王子 「どうやら魔王軍の影がちらつきはじめた今、露払いくらいはしてさしあげるさ」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「……世の中、腐ってやがるね」

幼妻エルフ 「白黒娘、どうやって船に乗り込む。憲兵どもも一緒なんてことになったら洒落にならんぜ」


クル魔エビ娘 「だ、大丈夫です」

クル魔エビ娘 「乗せたくない者を乗せないすべは備えています」




馬車幽霊 「いざとなれば、この馬車も水の上を走れますが……」


幼妻エルフ 「……まず門を出る。門の敵はお前に任せる。後ろのやつらもまわす」

幼妻エルフ 「その後は状況に応じてお前が決めてくれ」


馬車幽霊 「おや」


幼妻エルフ 「行くぞ、王子」


王子 「お前も来るのか。忙しいというか、信用ないね、おれも」


幼妻エルフ 「撤退戦じゃないぞ」

幼妻エルフ 「あのロバの隊を潰すつもりでかかるということだ」


王子 「…………」

王子 「吐き気がするね」


ハーピィ 「…………」




王子 「さっきも殺す気でやっていたんだけどな」


幼妻エルフ 「……敵の服をむこうとしてたくせに」


王子 「だからそれは、敵の油断を誘おうと」


幼妻エルフ 「ああ、分かっているよ。お前は必要にせまられたならば、談笑の相手を顔色ひとつ変えずに殺せる恐ろしい男さ」

幼妻エルフ 「行くぞ」


王子 「……はいはい」

王子 「じゃあハーピィ……」


ワー ワー ギャアー


王子 「……なんだ、敵の方から悲鳴が上がっている」




憑かれ犬憲兵A 「うがあああ!」


ブンッ


ロバ憲兵A 「うわっ」


ガキンッ


ロバ憲兵A 「おいおい何なんだ、どうしていきなり斬りかかってくる!?」


憑かれ犬憲兵B 「も、申し訳ありません。体が勝手に!」


ロバ憲兵B 「……将軍!」


ロバ隊長 「隊長だってば」

ロバ隊長 「何がどうなっている」


ロバ憲兵B 「勇者の歌をきいて戦意を喪失していた者たちが」

ロバ憲兵B 「突如、我々に襲いかかってきたのです」


ロバ隊長 「勇者の力ってやつかな。話の通じない相手もいるようだが」


ロバ憲兵B 「歌のせいだとしますと」

ロバ憲兵B 「歌がきいたものときかなかった者がおり」

ロバ憲兵B 「歌がきいた者たちには、意識がある者とない者がいるようです」




犬憲兵たち 「うがあああ!」


パン女騎士 「!!」


ロバ隊長 「ぬぇい!」


ガキン ドカ ドスン


犬憲兵たち 「ぎゃわんっ!!」

犬憲兵たち 「……ぐるるるる」


ロバ隊長 「すぐに起き上がるか。吹っ飛ばしたくらいじゃこたえないのね」

ロバ隊長 「さて、どう思うパンくん」


パン女騎士 「え、ええ……その呼びかた、できればやめていただけませんか」

パン女騎士 「おそらく勇者の力だと思います。私も数件、報告で聞いただけなのですが」

パン女騎士 「勇者を名乗るものはみな、デタラメな、魔法でも説明のつかない奇跡をおこすことができるようです」


ロバ隊長 「化物じゃないか」


パン女騎士 「あの宗教の者どもは、そう思っていないようで」

パン女騎士 「皇帝陛下の悪行を裁くために、彼らの言うところの至上のものより力を授かった救世主」

パン女騎士 「などと、民衆に囁いているとか」


ロバ隊長 「悪者だねえ、おれたち」




キン ガキン


犬憲兵E 「くそ、止まれ、止まれ俺の体! だ、駄目だ、意識が……」

憑かれ犬憲兵E 「ぎゃわおぉーん!」


ロバ憲兵C 「ちっくしょ、こいつも駄目になったか」

ロバ憲兵C 「隊長、やっちまって良いですか」

ロバ憲兵C 「こいつら力が強くて、こっちが守りだけってのはきつい!」


パン女騎士 「除霊術ならばあるいは。ですが、いま私がつかえる解呪の魔法は効きません」

パン女騎士 「残念ですが……」


ロバ隊長 「駄目だ。ここで無駄に戦力を削るわけにもいかん」


ロバ憲兵D 「だが、このままではあの馬車を逃してしまうぞ!」


ロバ隊長 「あの馬車にも、まだ力とやらを披露していない勇者が乗っているんだろう。このまま追うのはとてつもなく悪い予感がする」

ロバ隊長 「いまは、操られた奴らをできるだけ無傷で沈黙させることにつとめよう」

ロバ隊長 「勇者については、その力と接することができただけ良いとして今後にいかそうじゃないか」


ロバ憲兵B 「分かりました」


ロバ隊長 「……勇者が見つかって運が良いと思ったが、逆だったか」




憑かれ犬憲兵F 「も、もう止めてくれえ……!」


憑かれ犬憲兵G 「くうーん、仲間同士で戦うのは嫌だあ……!」


犬憲兵H 「が、頑張れお前たち。帝国根性を……」


ザクッ ドシュ


犬憲兵H 「ギャッ」


パン女騎士 「!」


キュイイ ヴァー ヴァー ピロリン


犬憲兵H 「ゲホッ、ゲボッ……。う、うーん……」


パン女騎士 「よかった、間に合いましたか」

パン女騎士 「回復の魔法がつかえる者は援護をお願いします!」


ワー ワー ギャー

ザアアア





魔法の馬車 屋根



ワー ワー

ガラガラガラガラ



王子 「憲兵が同士うちをしている」

王子 「歌う勇者を追っていた者たちの顔もあるな。いつの間にここまで……」


幼妻エルフ 「ふうん。ここまでが勇者の力ってことか」

幼妻エルフ 「良いね、良い具合に腐ってるね」


王子 「まるで地獄じゃないか」


幼妻エルフ 「勇者の力は調整が難しいらしくてね」

幼妻エルフ 「旅の夜に暖をとるつもりが、うっかり森ひとつまるまる燃やしちまうのさ」




幼妻エルフ 「まあ良いだろ。拍子抜けだが、余計な戦いをせずに済む」


王子 「ああ」

王子 (立て続けの戦いとなると、葉巻の不運も、人質にとられるくらいじゃすまんだろう)

王子 (敵の砦にとらわれるなんてことにもなりかねないぞ)

王子 (きついと評判の帝国の拷問は、エルフには余計につらかろう)


ハーピィ 「…………」


ヒヒーン キイイ

ガラガラガラ


幼妻エルフ 「さて、門前の道だ。前に集中するか……」


ザアアアア タタタタ

タンッ


王子 「………!」

王子 「葉巻、建物の上からくるぞ!」


幼妻エルフ 「あん?」


ヒュウウ


犬隊長 「………!」


幼妻エルフ 「!」


犬隊長 「えやあっ!」


王子 (いかん、葉巻の反応が遅れた)




ドンッ


幼妻エルフ 「うわっ!?」


ヒュウウ

ガキ ザシュ


犬隊長 「…………」


王子 「ぐうう……」

王子 (葉巻をどかせたが、攻撃を流しきれずに肩を突かれた)

王子 (おれがいつかの酒場で犬隊長にやったみたいに)

王子 「……ていっ」


ヒュン


犬隊長 「ぬうっ」


スカッ


王子 「くそう」

王子 (葉巻、大丈夫かな。御者台の方に落ちていったけど)




犬隊長 「ぜやあ!」


王子 「……!!」


ガキッ キンッ キンッ ガキッ


王子 (さっきよりも剣が重くて速い……!)

王子 (この犬も勇者の歌を耳にしていたはずだというのに、効いている様子がない)


犬隊長 「そうだ! 猫耳は骨の仮面の賊を殺したと言っていたぞ」

犬隊長 「地獄から帰ってきたか!」


ガギッ キンッ ブオンッ ヒュンッ


王子 「たとえ命が終わろうと、骨の仮面は尽きないのだよ。犬の隊長どの……!」


犬隊長 「ならばここで終わらせてやろう! 下の顔もろとも粉々に……」


ゴオオ


犬隊長 「うおっ!?」


王子 「風……葉巻、無事だったか」


ハーピィ 「…………」




ゴオオ


犬隊長 「ぐぉ、風の壁か……お、おのれ……」


王子 (吹き飛ばしだと思うけど……動かない。風に耐えているのか?)

王子 「まあ良いや、だったら斬られて死ね!」


ヒュンッ


犬隊長 「!」

犬隊長 「くそっ!」


スカッ


王子 (かわされた……)


犬隊長 「うおぉっ……ぐああ!」


王子 (よし。かわしたせいてバランスを崩した)

王子 (そのまま、同士うちをしている仲間のところまで吹っ飛んでくれ)




犬隊長 「ぬぐっ……ぐおお。く、くそ……!」


王子 (肩が痛む。傷をうつ雨粒が痛い)

王子 (犬の隊長、ほとんど吹っ飛ぶのは決まったようなもんだけど)

王子 (抵抗している間にもう一撃いれてみるか……ん?)


ヒョコッ


王子 (馬車の屋根の下から、獣の耳?)


ニュッ


ろうそく職人 「…………」


王子 (あ、ろうそく職人だ。そうか、馬車の後ろにいるんだったな)


ろうそく職人 「……えいっ」


ボオオ ピロン


王子 「おお、回復の炎」


犬隊長 「青い炎だと。後ろか……!」

犬隊長 「!?」


ろうそく職人 「ひいっ、見つかった!」


犬隊長 「わふんっ。き、貴様は……」


グラッ


犬隊長 「ぬうっ、いかん……!」

犬隊長 「うおわあああーー……!」


ヒュルルルル


王子 (やった、一気に吹っ飛んでいった)

王子 (何か知らんがろうそく職人を見て驚いたようだ)

王子 (……そりゃ驚くよな。あんなのが急に出てきたら)


ハーピィ 「…………」




ザアアア


幼妻エルフ 「よっこいしょ」

幼妻エルフ 「王、骨仮面……!」


王子 「葉巻。犬隊長は吹っ飛んだよ」

王子 「どうした、鼻血が出ている」


幼妻エルフ 「顔から落ちたんだよ」

幼妻エルフ 「それより傷を見せ……」

幼妻エルフ 「なんだ、気のせいだったのか。肩を貫かれたように見えたが」


王子 「ああ、お前が犬の隊長を倒してくれている間に、お前の弟子がやってくれたよ」

王子 「すぐ治りそうだ」


幼妻エルフ 「……へえ」


キュイイイ ピロリン


王子 「あ、もう治った。さすが師匠だな」


幼妻エルフ 「…………」


キュイ ピロリン キュイ ピロリン


王子 「お、おい……」

 



幼妻エルフ 「お前、よくもオレをあんな風に落としやがったな」

幼妻エルフ 「顔が真っ平らになると思ったぞ」


王子 「いや、すまんね」

王子 「友人が串刺しになるところは見たくなかったのでね」

王子 「という話はあとだ。はやく鼻血を止めてもうひと踏ん張りといこう」


幼妻エルフ 「いそぐこともないさ」

幼妻エルフ 「門の方も同士うち中だ」


王子 「そうか。……後ろも追いかけてこないかな」


幼妻エルフ 「あとは森に逃げるか海に逃げるか……」


タラ


王子 「……鼻血、ふいたらどうかな」


幼妻エルフ 「やだ。お前に見せつけてやる」


王子 「おいおい」


幼妻エルフ 「いやだったらお前がふくことだね」


王子 「……そういうことか」




ハーピィ 「…………」


王子 「……ひどい話じゃないか」

王子 「おれはお前を助けようと必死だったのに」

王子 「傷さえ負ったというのに、その報いがこれだなんて」

王子 「正直、やってられんぜ」


幼妻エルフ 「…………」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ、そういうわけでもない」

王子 「素直じゃない友人の冗談が素直じゃないってだけだ」

王子 「……顔面はまずかったな。普通は死ぬよな」


幼妻エルフ 「…………」


キュイイ ピロリン


王子 「……分かったから」


馬車幽霊 「お嬢様がた、おりてきてください」

馬車幽霊 「町を出ます!」


野生の女 「やっとね」


ガラガラガラガラ



ロバ憲兵たち 「うおおおお!」


憑かれ犬憲兵たち 「わあああ!」


傭兵たち 「に、逃げろおー!」


双子兄 「……わあ。すげえ、戦争だあ」


双子弟 「死人見れるかな、死人」


痩せ男 「こら、窓から顔を出すな……!」


町民たち 「…………」


ガキ カキン ギギン

ワー ワー





ガキ カキン


ロバ隊長 「うーむ、勇者の力か。恐ろしいもんだ」

ロバ隊長 「でもさ、おれたちも使えたら、頼もしい力だよな」

ロバ隊長 「何とかしてできないもんかな」

ロバ隊長 「……じつはすでに、誰かが試みていたりして」


パン女騎士 「…………」

パン女騎士 「私の知る限りですが、北東地方の領主の一人が勇者の力について調べているとか」




ロバ隊長 「そりゃ驚きだ、知らなかった」

ロバ隊長 「問題にならないのかい」


パン女騎士 「…………」


ロバ隊長 「お国の公認かい」


パン女騎士 「私も深く関わっていないので詳しく知りませんが」

パン女騎士 「現在、帝国にそういう機関があるのは事実です」


ロバ隊長 「やっぱり。あれだけの力だ、手に入れたいよなあ」


パン女騎士 「……そのことは、あまり大きな声では言わぬよう」


ロバ隊長 「皇帝陛下が勇者を怖がっていると言いふらすようなものだからかな」


パン女騎士 「よろしくお願いしますね。あなたが信用できると思ったから話したのです」


ロバ隊長 「おう、いつの間に。ありがたいね」




ロバ隊長 「でも悲しいよ」

ロバ隊長 「そんな面白そうなこと、仲間にも秘密だなんて」


パン女騎士 「…………」


ロバ隊長 「やあ、そんな風に睨まないでおくれよ」

ロバ隊長 「まるで、話したら殺すつもりみたいじゃないか」


パン女騎士 「いえ、私は……」


ロバ隊長 「すまないね。大丈夫、言うとおりにしよう。そうだ、君の言葉は陛下のお言葉だ」

ロバ隊長 「将軍がたが国をあけ、国内がなにやらざわついている今」

ロバ隊長 「我ら帝国兵、団結してことにあたろうじゃないの」


パン女騎士 「…………」


バシャ バシャ バシャ


ロバ憲兵 「隊長」


ロバ隊長 「おう」


ロバ憲兵 「勇者を乗せた馬車が町を出ました」


ロバ隊長 「はいよ。深追いはしないように」



カキ ギン キン

ザアアア




東の島 南の港町 門外



ガラガラガラ


貝殻の勇者 「何とか町から出られましたか」


ろうそく職人 「憲兵たち、追ってきませんね」


貝殻の勇者 「ろうそく職人さん、さっきはびっくりしましたよ」

貝殻の勇者 「いきなり屋根によじ登ろうとして。滑って落ちたら危ないじゃありませんか」


ろうそく職人 「ご、ごめんなさい勇者さま」


貝殻の勇者 「良い結果となったから、強くは言えませんが……」

貝殻の勇者 「おお、よしよし」


ナデナデ フカフカ


ろうそく職人 「……えへへへ」


ザアアア




ガチャ バタン カンカンカンカン


野生の女 「ひゃっほう! ちょっと見てこれ、これ!」


王子 (広い方の客室から野生の女が出てきた)


幼妻エルフ 「何だよ、騒ぐなよ。狭いんだから引っ込んでろよ。大事な考え事をしているのに」


野生の女 「幼女ひろった、幼女!」

野生の女 「馬車の中に幼女が落ちてた!」

野生の女 「あ、手がすべった」


ゴロン ゴン


幼女魔王 「…………」


王子 (御者台の裏に転がって頭をぶつけたぞ)




王子 「大切に扱ってくれよ、借り物なんだから……」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「うん。その子は痛めつけるほど喜ばしい感じだけれども」

王子 「まあ、あまり持ち出さないでほしい」


野生の女 「ええー」

野生の女 「あたしの子供にしちゃ駄目なの?」


王子 「子供?」


馬車幽霊 「野生の女、丘の女」

馬車幽霊 「女性だけしかいない種族で」

馬車幽霊 「彼女たちは人間の子供をさらい、自分の子供として育てます」

馬車幽霊 「彼女たちに育てられた子供は将来、美しく賢く、強い人物になると言われています」


王子 「ほう」




幼妻エルフ 「最後は、子供をさらわれた親をなぐさめる嘘もまじっている」

幼妻エルフ 「……やめとけ、どうせ無理だ。いくらお前たちでも、死体は育てられんだろ」


野生の女 「生きてるよ、この子」


幼妻エルフ 「ずっと起きないんだ。死んでいるのと同じさ」


幼女魔王 「…………」


王子 (先生の身も心も乗っ取ったこいつでも、この子のことは分からないのだったな)

王子 (あの淫魔の少女は、なんだってこの子をおれに渡したんだろう)




クル魔エビ娘 「……あ、あの、その子」


王子 「うん?」


クル魔エビ娘 「あの……」

クル魔エビ娘 「い、いえ、なんでもありません」


王子 「?」


クル魔エビ娘 「それより、船の準備が出来ました」

クル魔エビ娘 「乗り込むのに良い場所を見つけたそうです」

クル魔エビ娘 「ちょうど、このまま真っ直ぐ東に進んだところです」


馬車幽霊 「ふむ」


幼妻エルフ 「敵が待ち伏せていて袋叩き、なんてことには本当にならないだろうな」


クル魔エビ娘 「は、はい!」


幼妻エルフ 「……まあ良いさ」

幼妻エルフ 「もしそうだったら、目玉をズルッと引き抜いてヤスリをかけるだけだし」


王子 「お前が言うと冗談にならないな」


クル魔エビ娘 「!?」


ハーピィ 「…………」



ろうそく職人 「物語を蒐集しているのですか」


ニワトコ娘 「私たちニワトコの精は、世界の物語を風のように巡らせる一族」

ニワトコ娘 「未熟な時代には物語を集めながら旅をして」

ニワトコ娘 「やがて巡る彼方の風の音、遠くの仲間たちの物語も聞こえるようになったら」

ニワトコ娘 「窓辺の語り部となって、子供たちの夢を育てるの」


ろうそく職人 「窓辺の語り部……」


貝殻の勇者 「巡る彼方の」


ろうそく職人 「無情の、風……」


ニワトコ娘 「そんな気持ち悪い風じゃありません」




ニワトコ娘 「私は話すのは全然ダメな落ちこぼれ」

ニワトコ娘 「でも物語は好きだから、話すかわりにこうやって書いているの」

ニワトコ娘 「私たちの一族は、文字や絵で縛って形にするのは物語を殺すことになると考えているのだけど……」


ろうそく職人 「やや、なにやら不思議な鍵穴のついた本」


貝殻の勇者 「魔法のアイテムでしょうか」


ろうそく職人 「あ、鍵がなくても開きますよ」

ろうそく職人 「どれどれ……ふおお! 小さな本を読んでいるはずなのに、とてつもなく広く感じます」


貝殻の勇者 「まるで、本の中の本棚にいるような……」


ニワトコ娘 「うふふ。どこかにあるという、心と記憶でできたお城に繋がるアイテムのひとつ」

ニワトコ娘 「という噂のある呪われた日記帳よ」


ろうそく職人 「えっ、呪われ……あ、この話はお父さんから聞いたことがあります」


貝殻の勇者 「なるほど、私たちが知っているお話もあるのですね」

貝殻の勇者 「あら、同じ話も……いえ、少し内容が違いますか」

貝殻の勇者 「なんと、こちらでは魔王が改心を!」

貝殻の勇者 「馬鹿馬鹿しい……!!」




ろうそく職人 「やや、これは……?」


ニワトコ娘 「ああっ、だめ! その辺りは私がつくったものが……」


貝殻の勇者 「自分でつくることもあるのですか」


ニワトコ娘 「え、ええ。本当は勝手に物語をつくるなんていけないことなんだけど……」

ニワトコ娘 「というか、これがばれたせいで一族との繋がりを絶たれちゃったというか……」


貝殻の勇者 「なんと。はぐれ妖精といったところでしょうか」


ろうそく職人 「……むふふ、読んでも良いですか?」


ニワトコ娘 「だ、だめえ! 恥ずかしいじゃない」


ろうそく職人 「なあに、私も人間から落ちこぼれた身です」

ろうそく職人 「こんな私に読まれて、困ることなどありません」


ニワトコ娘 「あなた、人間だったんだ……」


ブラウニー 「家畜じゃなかったんだ……」


ろうそく職人 「そうなのです」

ろうそく職人 「今では黒花エルフの弟子という、名乗るのも恥ずかしい家畜以下の存在ですが」


ニワトコ娘 「大変なのね……」




ガラガラガラガラ


幼妻エルフ 「……はぇ、ふぇっ……エックチュン!」


王子 「おいおい、本当に風邪じゃないだろうな」


幼妻エルフ 「ああ。誰かがオレのことを噂してやがる」

幼妻エルフ 「悪い噂だ」


王子 「世の中、悪い噂ばかりでもないだろうに」


幼妻エルフ 「いいや、ぜったい悪い噂だ」

幼妻エルフ 「オレが良い風に噂されるなんて絶対にないんだ」


王子 「お前……」

王子 「まあ、それもそうか」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「ていっ」


ボスッ


王子 「おふっ」

王子 「何するんだ。胸に頭突きって、どういうことだよ」

王子 「お前が自分で言ったんじゃないか」


幼妻エルフ 「はんっ。女たらし気取りのがさつ人間め」


王子 「この……」

王子 「ひねくれエルフめ!」


コチョコチョ モニュモニュ


幼妻エルフ 「ひおっ!?」

幼妻エルフ 「お、おひ、おまへ! ひ、卑怯だぞあはははは!」


王子 「おれのふところに飛び込むからこうなるのだ、花のエルフよ」


コチョコチョ アハハハハ


野生の女 「大事な考え事は?」


ハーピィ 「…………」




馬車幽霊 「海のそばまで来ましたが……」


野生の女 「雨の帳に、船影いまだ現れずだあね」

野生の女 「もしかして、天国に渡る妖精の小舟みたいのが浮かんでるだけだったりして」


馬車幽霊 「まだモーガンの小舟に乗るつもりはありませんが」


クル魔エビ娘 「だ、大丈夫です。もう……」


ゴオン ゴオン


王子 「……うん?」

王子 「おい葉巻、雨音の裏に、なにやら湿った鐘の音が響いている」


幼妻エルフ 「は、はひゅ……はあ、はぁ……」

幼妻エルフ 「あへ……」


王子 「しまった、くすぐりすぎた」


ハーピィ 「…………」




ザアアアア

ゴオン ゴオーン

ザアアアア


クル魔エビ娘 「…………」

クル魔エビ娘 「! あそこです」


馬車幽霊 「身を乗り出すと危ないですよ」

馬車幽霊 「うーん、少し雨よけの結界を強くしなくてはいけませんね」

馬車幽霊 「あとは照明の魔法も……」


野生の女 「あそこって……雨でくすんだ海があるだけじゃん」

野生の女 「ねえ、きみ私の子供にならない?」


クル魔エビ娘 「えっ? は、はい……」


王子 「……何だ、指さしたあたりの空気が揺れているような」


馬車幽霊 「あれは、何もなかった海の上に……」


ゴオン ゴオン

ユラ ユラ

ゴオン


王子 (雨煙の向こうで、染み出すように大きな黒い影が現れた)

王子 (三本マストの船のようだ)


ハーピィ 「…………」




ゴオン ゴオン


ブラウニー 「忽然と現れた黒い船。もしかして……」


ニワトコ娘 「噂の黒い幽霊船! この目で見られるなんて」

ニワトコ女 「ああ、素敵……!」


ろうそく職人 「うわっ、いきなり育った!」


ニワトコ女 「ああ……」

ニワトコ娘 「私、お話が養分だから」


貝殻の勇者 「幽霊船……」


ブラウニー 「最近、東の海に黒い幽霊船が出るという噂が流れているそうなんです」

ブラウニー 「旅の途中に人から聞いたので詳しくは知らないんですけど」




貝殻の勇者 「なるほど」

貝殻の勇者 「旅……。馬車のことは残念でしたね」


ろうそく職人 「ひどいこともあるものですね」


貝殻の勇者 「ええ、まったくです。おのれ魔王軍」

貝殻の勇者 「あなたがたは、これからどうするおつもりですか?」


ブラウニー 「うーん……」


ニワトコ娘 「はい! はい! あの船に乗るならついていきたい!」


ブラウニー 「わ、私も。怖いけど面白そう」


貝殻の勇者 「歓迎しますよ」


ブラウニー 「でも、良いんでしょうか。私たちがついてきちゃって」


ろうそく職人 「なあに、良いのです」


貝殻の勇者 「ええ。馬車であれを見つけましたし。三人ふえたくらいではびくともしません」


ろうそく職人 「財布の紐を握る私の師匠黒花エルフさまも、乱暴な言葉をつかったり非道ぶったりしていますが」

ろうそく職人 「実際は人見知りで寂しがり屋のちょろいエルフなので、心配ごむようです」


ブラウニー・ニワトコ娘 「わーい」




クル魔エビ娘 「船は、特殊な草と石を編み込んだ魔法のロープの結界で、姿を消すことができるのです」


王子 「へえ、すごいものだ」

王子 「……本当に乗せてもらって良いのかい」

王子 「こう言ってはなんだけど、おれたちを助けても君たちに得は無いと思うよ」


クル魔エビ娘 「損得ではありません」


幼妻エルフ 「あへっくしょん」

幼妻エルフ 「……しかし、損得なしに動くという言葉をすんなりと信じられないのが人情だ」


王子 「お、復活したか」


幼妻エルフ 「無私の善意だとか、胡散臭いんだよ」

幼妻エルフ 「むしろ、仁義よりも金やら利益のために動いていると言ってもらったほうが」

幼妻エルフ 「信じやすいのさ。こんな時代じゃな」


クル魔エビ娘 「そ、そうなんですか」

クル魔エビ娘 「こちらの領域も……」


野生の女 「なっさけない抜け顔さらしたりするわりに、ずいぶんと偉そうに話すねこのエルフちゃん」


幼妻エルフ 「黙れ半露乳」


野生の女 「うっふん。母性の象徴と言ってよ」


王子 「まあまあ、こう見えても偉いエルフなんだ」

王子 「くすぐられるのは弱いけど」


コチョ


幼妻エルフ 「わひっ!?」

幼妻エルフ 「やめろよな……!」


王子 「すまん」

王子 (しかし、この姿の葉巻をくすぐるのは楽しいな)


ハーピィ 「…………」




幼妻エルフ 「町にいたときはこんなに悪戯してこなかったくせに」


王子 「当たり前だ」


馬車幽霊 「かなり近づきました」

馬車幽霊 「結局あの船に乗り込む。と、いうことで良いのでしょうか」


野生の女 「ねえ、ちょうど羽毛蛾の触覚を持ってるんだけど、くすぐっていい?」


幼妻エルフ 「……目から脳みそ引きずり出すぞ」

幼妻エルフ 「良いさ、乗り込もう。こちらもそれなりの準備をしておけば問題ない」


王子 「やれやれ、戦いは避けたいんだけどなあ」


クル魔エビ娘 「ほ、本当に大丈夫ですから」


馬車幽霊 「……橋が渡されましたね」

馬車幽霊 「では、このままあの黒い船に乗り込みます」


ガラガラガラガラ

ザアアア



帝国 東の海上 黒い幽霊船



ガラガラガラガラ

ギシ ギシ


ニワトコ娘 「もうすぐ乗り込むのね。幽、霊、船! 幽、霊、船!」


ブラウニー 「あはは。ニワトコ娘さんたら、また変な歌うたってる」

ブラウニー 「黒くて怖いけど、思ったよりも綺麗な船みたいですねー……」


ろうそく職人 「ひいい、橋がギシギシいってる。落ちたら荒ぶる海に真っ逆さまですよ」

ろうそく職人 「ふやけた身体を魚につつかれてあちこち破れた死体を晒すことになっちゃいますよう。うわーん!」


貝殻の勇者 「よしよし、大丈夫ですよ。海は私の力です」

貝殻の勇者 「……波のうねりに比べて、船は吸い付いたように動いていませんね」

貝殻の勇者 「なるほど、幽霊船ですか」




馬車幽霊 「ううむ。本来ならこのあたりは、船をつけることが困難な険しい場所なのに」

馬車幽霊 「やはり、ただの船ではないのか……」


ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィ、船には慣れているのだろうな)

王子 (あの商人に連れ回されていたというし……)


幼妻エルフ 「ほれ、滑り止めだ」

幼妻エルフ 「甲板は滑りやすくなっているかもしれないからな」


王子 「ああ、ありがたい」

王子 「……お前がいないと旅ができなくなっちまうんだから、あまり前に出過ぎるなよ」

王子 「捕まったら必ず助けられるという保証はないのだから」


幼妻エルフ 「はんっ。貧乏領主の息子が、エルフの花片たるオレに生意気なことを言う」

幼妻エルフ 「だいたいオレにとっちゃこんな旅、暇つぶしなんだ。どうしても救いたいものなんざ、こんな世界に一つもないね」

幼妻エルフ 「人間の領域が滅茶苦茶になったところで、結果自分たちが滅んだところで、しかたないですませちゃうのが妖精のスタンスさ」

幼妻エルフ 「帽子、これでちゃんと被れているのかな?」


王子 「ああ、そんなもんじゃないか」


幼妻エルフ 「なんだよ、ちゃんと見ろよ。お前が買ってくれたんだろ」


王子 「見てるよ。似合ってるよ。本当に何を血迷って作られたか分からない変な帽子が似合うな、お前は」


幼妻エルフ 「いやあ、ははは、そんなに褒めるなよぶっ飛ばすぞてめえ」


王子 「へっはは……!」


野生の女 「仲良いねあんたら」

野生の女 「子供うまれたらアタシにちょうだい」


王子 「ぶっ殺すぞ」


ガラガラガラガラ

ゴトン ガタン




カラララ

ヒヒン ブルルル


フードの乗組員 「…………」


王子 「甲板に誰か立っている」

王子 「それ以外に人は見当たらない……」


フードの乗組員 「大勢で出迎えたら怖がらせてしまうと思ってね」


バサ


フードの乗組員 「キャプテンの命令さ」

ク魔エビ娘 「ようこそ勇者の一行。うちの波操り師見習いが世話になったね」


王子 「……!」


馬車幽霊 「ヒト……?」


ク魔エビ娘 「船乗りだ。これで充分だろ」

ク魔エビ娘 「人間は与えられたもしくは勝ち取った自らの肩書きによって、考え方もコロッと変えてしまうものだ」

ク魔エビ娘 「じゃあ重要なのはぼくが船乗りだということで、船乗りという役職を与えられた何だろうということは」

ク魔エビ娘 「そんなに気にすることじゃない」

ク魔エビ娘 「今日日、劇中人物の名前も役職にしてしまうのだから」

美少女船乗り 「あなたたちを出迎える美少女船乗りという、あたえられた役割を忠実かつ諧謔にこなすだけさ」


馬車幽霊 「ひどい棒読みのようですが」




■ク魔エビ娘(殻つき)

http://i.imgur.com/CMpquOL.jpg



※画像は想像上のものです。
実際のク魔エビ娘はもっと幻想的です。





ク魔エビ娘 「おや、演技がばれてしまったようだ」


ろうそく職人 「誰かの歌くらいひどかったです」


王子 「落ち着け、葉巻」


幼妻エルフ 「落ち着いてるよ」


貝殻の勇者 「どうやら、招かれざる客ということなのでしょうか」


ク魔エビ娘 「とんでもない」

ク魔エビ娘 「いやあ、台詞でも用意してなきゃやっていられないんだ」

ク魔エビ娘 「こう見えて、じつはあっぷあっぷでね」

ク魔エビ娘 「緊張で胸が詰まって声が上ずりそうなのさ」





王子 「身体に力が入りすぎているのだな」

王子 「そんなときは熱湯でぐらぐらと茹でて温め……」


幼妻エルフ 「そういうときは母音だ。ほとんどの文字は母音に支えられている」

幼妻エルフ 「そこに子音という飾りが乗っているだけだ」


馬車幽霊 「お嬢様?」


幼妻エルフ 「母音を無理なく出そうとすれば、舌や唇、喉、身体から余計な力が抜け」

幼妻エルフ 「その状態で正確な音調、抑揚を心がけると、緊張からくる早口もいくらか解消できるはずだ」


ク魔エビ娘 「なるほど、参考にするよ」


幼妻エルフ 「胸が詰まって声が上ずるのは、重心を胸に上げてしまっているからだ。腹の底にやわらかく沈めて、どっしりと言葉を支えろ」


貝殻の勇者 「……経験者なのでしょうか」


ろうそく職人 「まあまあ、ああ見えて小心者ですから」




ク魔エビ娘 「ふむ」

ク魔エビ娘 「やあ、さすがは妖精の中でも最高位にあるエルフどのだ。勉強になるよ」

ク魔エビ娘 「長生きしているだけはある」


王子 「そういえば、おまえっていくつだっけ」


幼妻エルフ 「ああ、じゅ……」


馬車幽霊 「エルフに歳を尋ねるなど、魔物に紳士な王子どのらしくありませんよ」


王子 「すまん」


ク魔エビ娘 「少なくとも、ボクたちは君たちに親愛の情を向けたいと思っているし」

ク魔エビ娘 「もし君たちが悪意を向けられていると感じたならば」

ク魔エビ娘 「それはボクの緊張からくるものだ」

ク魔エビ娘 「その証拠に、ほら」


ろうそく職人 「……?」

ろうそく職人 「手のひらを上に向けて、どうしたのでしょうか」


貝殻の勇者 「手のひらを見せて誠実と友好をしめすという話を聞いたことがありますが……」


ク魔エビ娘 「分かるかい」

ク魔エビ娘 「手汗でぐっちょりさ!」


野生の女 「爽やかな笑顔で言われてもなあ」




ク魔エビ娘 「滝のような手汗で、陰謀や武器もぬるりと滑り落ちて握っていられない」

ク魔エビ娘 「おまけに臭くなるしね」

ク魔エビ娘 「さあ、隠し事のできない小心者なボクと、友好の握手をしよう!」


貝殻の勇者 「すいません。まず手を拭いていただけませんか」


ク魔エビ娘 「残念ながら、手の届く範囲の服は手汗でぐっちょりさ!」


王子 「……悪い人ではなさそうだ」


幼妻エルフ 「お前って、考えるわりに騙されるタイプだよ」

幼妻エルフ 「初めて会ったときだってよ……」


王子 「その話はするな……!!」


ク魔エビ娘 「それで、ボクのことは信じてもらえそうかな」


馬車幽霊 「……危ないところを船に迎えていただいておきながら、失礼を働き続けるわけにもいきませんか」


貝殻の勇者 「そうですね」

貝殻の勇者 「信じましょう。穏やかに」




ク魔エビ娘 「……なるほど、あなたが勇者かな。うん、助かるよ」

ク魔エビ娘 「よければ、ひかえている仲間もこの甲板に呼んでお出迎えしたいのだけど」


野生の女 「うん、いいよ!」


王子 「待て」


野生の女 「だって子供だよ。天使の贈りものだよ」

野生の女 「信じよう」

野生の女 「ぜっ」


王子 「……君は知らないだろうが」

王子 「ふんどしをしめた桃色髪の子供姿の鬼畜を、おれは知っている」


幼妻エルフ 「うわ、そんなやついるのか。お前んとこの領地って本当に腐ってんだな」


ハーピィ 「…………」


ク魔エビ娘 「良いのかい」


貝殻の勇者 「たぶん」


ク魔エビ娘 「良かった」

ク魔エビ娘 「そろそろボクも、この収拾がつかない茶番に心がくじけそうだったからね」




ク魔エビ娘 「じゃあ、ひとつ頼むよ。クル魔」


クル魔エビ娘 「は、はい、ク魔姉さん」


王子 (クルマ。偽名だったのか)


クル魔エビ娘 「…………」


キイン キイン


王子 「口元に杖を寄せると、石が光った……」


幼妻エルフ 「ふむ……」




王子 (杖にはめられている魔法の石……か。綺麗なものだ)


キイン キイン


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「ていっ」


ピキン キュイイ


王子 「……どうしてここで守りの魔法をかける」

王子 「おれに」


幼妻エルフ 「べつに」


ろうそく職人 「ずるい! 私もかけます」

ろうそく職人 「守りの地獄の炎!」


ゴオオ シュウン


王子 「……何だか、ひどく頼りない感じがする」


ろうそく職人 「どうやら、師匠の魔法が打ち消されたようです」

ろうそく職人 「失敗しました!」


王子 「なんだと」

王子 「……魔法を解くって、すごい魔法なんじゃないのか」


幼妻エルフ 「何も考えずに魔法をつかうと、予期せぬ効果を発揮することもある」


王子 「へえ。何が起こるか分からないってわけか」


幼妻エルフ 「何を呑気に言っているんだ。これのせいで、屈強な戦士が一発で死んじゃったこともあるんだぞ」


ハーピィ 「!!」


幼妻エルフ 「このお調子者、危ないことはするなって言ったのに」

幼妻エルフ 「魔女はお前だったか!」


ろうそく職人 「ひいい、ごめんなさいぃ……!」


クル魔エビ娘 「しゅ、集中できない……」





バタン


貝殻の勇者 「おや、扉が開いて、甲板に誰か出てきます」


コツ コツ コツ


ア魔エビ娘 「お呼びがかかったけど、挨拶は終わったのかしら?」

ア魔エビ娘 「何はともあれ、おかえりなさい、クル魔!」


カ魔クラエビ 「ふあーあ、待ちくたびれたぜ。頭が黄色くなるかと思った」


ミ魔セアカエビ 「いて。誰だよ、甲板に砂まくのさぼった奴!」


ヤ魔トイシエビ娘 「大丈夫かい、クル魔。途中で魔ーレラ婆の水晶が濁ったけど」


ヌ魔エビ 「ゲホッ、ゲホッ……ああ、勇者御一行だ。馬車も立派だねえ」


ゾロゾロ

ワイワイ ヤイノヤイノ


王子 「…………!!」

王子 「……ははは。何てこった」

王子 「楽園はこんなところにあったぞ、親父……!」




幼妻エルフ 「悪い子、悪い子!」


ろうそく職人 「うえーん、頬をなでる薫風のような風の鞭打ちが、私をさいなむよう」

ろうそく職人 「あ、師匠。乗組員のみなさん、なんだか私より若そうな子もけっこういます」


幼妻エルフ 「良いところに気がついた。些細な発見をこころがけ、そしてそれを忘れないようにしておけ」

幼妻エルフ 「……そりゃ何のそ振りだ骨仮面」


王子 「いや。エビの殻むきのす振りを……」


幼妻エルフ 「何でエビが出てくるんだよ。何でそんなに嬉しそうな声なんだよ」

幼妻エルフ 「オレはてっきり、幼い乗組員を見て変な性癖に目覚めたのかと思ったぜ」


王子 「買いかぶるなよ。子供は愛すが恋しない主義だ」


ハーピィ 「…………」


野生の女 「おぉう……」


ろうそく職人 「……王子さま、師匠の無情の風に毒されたんですね」


貝殻の勇者 「風邪がうつるように」


ろうそく職人 「うまい!」


王子 「失礼なことを言わないでくれ」


幼妻エルフ 「お前もだよ。オレがお前の魔女になってやろうか」


王子 「必殺技になってくれるんじゃなかったのか」




カツン カツン カツン


??? 「にぎやかな連中だ……」

??? 「おかげで、夢の淵の工房を訪ねることもできやしねえ」


王子 「…………」

王子 (少し空気がはりつめた)


カツン カツン カツ


??? 「娘よりも大事な部下が世話になったようだな。見ていたよ」

バイコルヌの男 「ならば気の良い海の男として、歓迎することとしよう」

バイコルヌの男 「ようこそ、勇者たち。ろくでなしの城、シュタインガルネーレへ」




王子 (おそらく彼が船長なのだな。偉そうだから)


馬車幽霊 「御者台から失礼いたします。お招きいただき、ありがとうございます」

馬車幽霊 「おっしゃるとおり、我々は風の黒花に導かれし貝殻の勇者一行」

馬車幽霊 「わけあって身分を隠し、旅をしています」


バイコルヌの男 「かまわん。話す高さが違うだけだ」

バイコルヌの男 「そうか、それは悪いことをした。身分を隠しているのか」

バイコルヌの男 「では、若きムッシェル夫人とでも呼ぼうか。かまわないかね」


貝殻の勇者 「はい」


バイコルヌの男 「ありがとう、フラウムッシェル」

バイコルヌの男 「おれのことは、そうさな……」

バイコルヌの男 「キャプテン」

バイコルヌの男 「キャプテン・ロブスターとでも読んでくれ」

ロブスター 「オ、マール……」


王子 「キャプテン・ロブスター。偽名とはな」

王子 「堂々としながら正体のつかめない男だ……」


幼妻エルフ 「最後あたりで、なんかむき出しな気もするけどな」




ろうそく職人 「はい、オマール船長!」


ロブスター 「ロブスターだ。よく読めフラウ……」

ロブスター 「フラウ……」

ロブスター 「何なんだ君は」


ろうそく職人 「……ふっ」

ろうそく職人 「碧い狐……とでも、お呼び下さい」


ロブスター 「そうか、分かった」

ロブスター 「なんだ、フラウダックス」


王子 (どうも違う気がするな)


ろうそく職人 「なんだかこの船、若い人が多いような気がします」


ロブスター 「ふむ。なるほど、よい質問だ」


ろうそく職人 「……むふー」


王子 「ほめて欲しそうにお前を見ているぞ、葉巻」


幼妻エルフ 「……こんな気持ちなのかな」

幼妻エルフ 「動物の飼い主って」




ロブスター 「おれたちの絆は肉親よりも薄く、家族よりも強い」

ロブスター 「これで充分だ」


王子 (孤児でも拾っているのか?)


野生の女 「うーん、良い言葉だ」

野生の女 「あたしの子供さらい語録にいれておこう」


ロブスター 「愉快な奴らだよ。よく働き、よくさぼる」

ロブスター 「こんな場所で長話もなんだろう。中に入ってくれ、馬車ごとで構わない。ク魔に船内を案内させよう」

ロブスター 「船内には他の客もいる。名前は変えても、あまり目立たないようにすることだ」


クル魔エビ娘 「あの、オマ……キャプテン……」


ロブスター 「お前はまず、魔ーレラ婆のところへ行け」

ロブスター 「元気な顔を直接見せてやれ。ずいぶんと心配していた」


クル魔エビ娘 「は、はい」





魔法の船 船内 城内町



迷いカエル 「扉を開けて船に入ったと思ったら、お城の中……」

迷いカエル 「扉があれば出入りが便利だけど、外してまえばもっと便利なのです」

迷いカエル 「何せ、向こうに何があるか分かるんだもの」


カラカラカラカラ

ヒソヒソ ワハハハ


ろうそく職人 「わあ、お城ですよ、お城」


貝殻の勇者 「うふふ、ろうそく職人さんたら目を輝かせて」


ろうそく職人 「北東地方のお城の人たち、元気かなあ」


王子 「この魔法の馬車と同じようなものなのか」


幼妻エルフ 「まあ、そんなところさ。魔力の流れ方というか、細部は違うようだが」




王子 「魔法の船。移動する城か」

王子 「やられたな」


幼妻エルフ 「ああ」

幼妻エルフ 「くそ。これで暖炉に火の悪魔を飼っていたら最悪だ」


貝殻の勇者 「まだ言いますか」


ハーピィ 「…………」


ク魔エビ娘 「この城はもともとキャプテンの所有物なんだ」


王子 「城を持っているのか。もしかして、かなり高貴なかたなのかな」


ク魔エビ娘 「ああ」

ク魔エビ娘 「かなり上の方の爵位を授かっていたんだよ」

ク魔エビ娘 「彼を海賊侯爵と呼ぶ者もいるそうだ」


ろうそく職人 「海賊……」


ク魔エビ娘 「敵の国からはそう呼ばれるべきなのだろうけどね」





幼妻エルフ 『海賊侯爵どのに心当たりはあるかい、高貴な王子さま』


王子 (魔法の会話だ)

王子 『少なくともおれは聞いたことがないけど、帝国はひろいからなあ』

王子 『おれの上流のつきあいは寂しいものだし』


幼妻エルフ 『けけけ、友達もいないのか。しかたない王子さまだな』


王子 『お前はどうなんだよ……』


ハーピィ 「…………」


ク魔エビ娘 「キャプテンは結構な変わり者でね」

ク魔エビ娘 「身寄りのない子供を引き取っては、仕事を教えながら大事に育てるんだ」

ク魔エビ娘 「ボクよりずっと幼い子たちも、この船に乗っているんだよ」

ク魔エビ娘 「……と、噂をすれば」


ドタドタドタドタ




子エビ娘たち 「ク魔姉ちゃーん!」


子エビ少年たち 「わあ、なんだなんだその馬車ー!」


ワイワイ キャーキャー


野生の女・王子 「ぃよっしゃあ!!」


幼妻エルフ 「うるさい」


ク魔エビ娘 「やあ子供たち、何の用だい」


エビ少年A 「おめーも子供じゃねーか」


エビ少女A 「一緒に遊ぼう。尻相撲やろう」


王子 「良いなあ、エビっぽいものなあ尻相撲」


野生の女 「うんうん。子供っぽいなあ尻相撲」


ハーピィ 「…………」




幼女魔王 「さてと、可憐少女ちゃんの家に戻りましょう」

幼女魔王 「うふふ。親友と二人で朝ごはんをつくるなんて、ちょっと前まで想像もできなかったわ」

幼女魔王 「しかも、親友と一緒に働いて、親友と二人でお風呂に入って、親友と一緒のベッドで寝て……」

幼女魔王 「……て」


空の桶


幼女魔王 「いけない、今のどさくさで落としちゃってたのね。汲みなおさなくちゃ」

幼女魔王 「あのくさい井戸で……」



>>319

ごめんなさい
なかったことに その2



ク魔エビ娘 「ごめんよ、お姉さんは忙しいんだ。大事なお客を案内しなくちゃならないからね」

ク魔エビ娘 「キャプテンに遊んでもらいなさい」


エビ少年A 「なんだよお、大人ぶって。小さいくせに」


エビ少女B 「えー、センチョウ、強すぎて勝負にならないよ」


ク魔エビ娘 「困ったな……」


ろうそく職人 「あのダンディな船長が尻相撲なんてするんですね……」


王子 「エビのかがみだな」


幼妻エルフ 「エビじゃないだろ、あいつ」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「あの、お、おし、尻相撲とは……何なのでしょうか」


野生の女 「ええっ、何だよ、知らないの?」




野生の女 「エビみたいに身体を丸めお尻をぶつけ合って、相手をフィールドの外へ押し出す、あつい遊びだよ」

野生の女 「私も里にいたころは、風冷めし朝から星の綺麗な夜、川で野原で」

野生の女 「イチゴ酒を片手に仲間たちとよくやったものさ」


幼妻エルフ 「……青花の奴も風呂上りによくしかけてきたな。子供だったオレに」


ろうそく職人 「うちのお城でもいつごろからか、年に一度、男女混合尻相撲スコーピオン杯をやりますよね」


王子 「いつもは城の連中の悪口雑言を笑って聞き流すこのおれも」

王子 「その祭りの開催を聞いたときは本気で謀反を考えたものさ」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「そ、そうなのですか」




カラカラカラ


ク魔エビ娘 「……ふう、エビキャンディでなんとか帰ってもらえた」

ク魔エビ娘 「すまないね、時間をくってしまった」


馬車幽霊 「子供が元気な場所は、良いところです」

馬車幽霊 「お気になさらず」


ク魔エビ娘 「キャプテンの日頃の行いのたまものさ」

ク魔エビ娘 「鼻がたかいよ」

ク魔エビ娘 「そこを左に曲がっておくれ。真っ直ぐ行けば、お客様用の居住区さ」


カラカラカラカラ


王子 「エビキャンディ……どんなものかと思ったら、ブドウのような味の飴玉だ」


ハーピィ 「…………」


王子 「美味しそうに転がしている。ハーピィは飴玉が好きなのかい」


ハーピィ 「…………」


王子 「そうか。今度から覗く店がひとつ増えたな」


ブラウニー 「うちのお店でも、飴玉をつくっていたんですよ」

ブラウニー 「小さなお菓子屋とは比べ物にならないくらいたくさんの、美味しい飴玉をね……」

ブラウニー 「魔法の馬車を盗まれた上に潰されて、なくなっちゃいましたけど……」


ろうそく職人 「うぬぬ、なんてひどい人たちがいたものでしょう。許せません」

ろうそく職人 「見つけたら私がこらしめてあげます!」


幼妻エルフ 「…………」


ボワン


ろうそく職人 「ぎゃあ!」

ろうそく職人 「尻尾が増えちゃった!」




貝殻の勇者 「まあたいへん、どうしましょう。ふかふかの尻尾がもう一本」


ニギ ニギ フカフカ


ろうそく職人 「あははは、くすぐったい」


幼妻エルフ 「下半身がデブで毛だらけの帝国女に壊された魔法の馬車をつくったのはお前か?」


ブラウニー 「いえ。お婆ちゃんのお婆ちゃんのひいお婆ちゃんのお婆ちゃんくらいの代につくられたそうです」

ブラウニー 「お店のつくりかたの魔法陣は、馬車と一緒に受け継ぎましたが……」


王子 (しっかり根にもっているな、葉巻。女々しいやつめ)


幼妻エルフ 「だったら、修理できるかもしれない。簡単にはいかないが」


ブラウニー 「ええっ!?」

ブラウニー 「馬車が戻ってくるんですか!?」




幼妻エルフ 「馬車そのものとなると時間がかかるだろうが」

幼妻エルフ 「うちの馬車の部屋のひとつとしてなら」

幼妻エルフ 「比較的早くつくることができる」


ブラウニー 「な、なんと……」


王子 「部屋を増やすのもかなり難しいと言っていなかったか」


幼妻エルフ 「ああ。増やすというより何もないところからつくることが難しい」

幼妻エルフ 「今回は、もともと存在しているが入口が潰れた状態の部屋に」

幼妻エルフ 「別の入口をあけるという作業に近いものになるだろう」


王子 「その入口をこの馬車に置くということか」


幼妻エルフ 「うん」

幼妻エルフ 「だが、そうするなら、しばらくオレたちに同行することになる」

幼妻エルフ 「言っておくがオレたちの旅は、もしかしたら死んじゃうかもしれない危険な旅だぞ」

幼妻エルフ 「剣と魔法の訓練を受けたこの骨仮面でさえ」

幼妻エルフ 「あと軽く四、五回は死にかける予定だ」


王子 「葉巻さん?」


幼妻エルフ 「さあ、どうする?」




ブラウニー 「危険な旅ですか……」


ニワトコ娘 「私はついていきたいな。幸い、あつめた物語はぜんぶ無事だし」

ニワトコ娘 「でも、どうせなら三人一緒で旅したいかな」


野生の女 「あたしも。今までだって危険なことはあったしね」

野生の女 「ところが馬車はブラウニー、あんたのもんだ」

野生の女 「だったら、一緒に行きたいあたしとしては、最後の決定はあんたにしてもらうべきだと思うね」

野生の女 「あたしはこれまで通り、勝手についていくよ」


ニワトコ娘 「うんうん」


ブラウニー 「二人共……」

ブラウニー 「それじゃあ、よろしくお願いします」


幼妻エルフ 「分かった。落ち着きしだい作業にかかろう」

幼妻エルフ 「……気持ち悪い友情を胸に死ねると良いな。三人一緒に」


王子 「またお前は黒いことを言う」


ろうそく職人 「……ぷふぉっ」


幼妻エルフ 「おい」

幼妻エルフ 「いったいオレが誰の尻拭いのために……」


ろうそく職人 「ち、違います! 尻尾がくすぐったくて」


貝殻の勇者 「ごめんなさいね」


ニギ ニギ


王子 (葉巻、思ったより気にしているようだ)




王子 (さては、あとで自分の発言が恥ずかしくなって悶絶するタイプだな)

王子 (ふふふ、なんだ葉巻よ、可愛いところもあるじゃないか)

王子 (今度めちゃくちゃからかってみよう)


ミヨヨン ミヨヨン


ハーピィ 「…………!?」


幼妻エルフ 「うわっ、何だよ王子お前、それ」


王子 「うん?」


ク魔エビ娘 「骨仮面の暗い目の奥が、ぼんやり赤く光っているね」

ク魔エビ娘 「ただの人間ではないと思っていたけど、まさか目が光るとは」

ク魔エビ娘 「おそろしい。体中の穴という穴から手汗が噴き出しそうだよ」


王子 「何だと」


幼妻エルフ 「何だよ、いつの間にそんな面白い技を身につけたんだよお前」

幼妻エルフ 「気持ち悪い。城組ってそんなのばっかりかよ」


ろうそく職人 「むふふー」


王子 「ぐっ……なんだかグサッときたぞ」

王子 「というか、お前がやったんじゃないのか」


幼妻エルフ 「違う」


馬車幽霊 「私が機能を追加しておきました」

馬車幽霊 「悪巧みをすると目が光ります」


王子 「いつの間に」

王子 「さすがは、役に立たない魔法の愛好家というところか」

王子 「しかし、おれもまだまだだな」

王子 「もっと敏感に、自然の声を聞けるようにならなくては」


幼妻エルフ 「なにを企んでたんだよ、お前……」


ハーピィ 「…………」




馬車幽霊 「ハーピィさまについて私なりに考察する過程でうまれたものです」

馬車幽霊 「名づけて……試作嘘発見魔法、ハルピュイアの耳」

馬車幽霊 「まだまだ誤作動も多く改善の余地がありますが、なかなかうまくいっているようです」


王子 「おお」

王子 「目じゃなくて、耳なのか……」


ク魔エビ娘 「よし、居住区に入った」

ク魔エビ娘 「五つ目の角を左に曲がってくれ」


ハーピィ 「…………」


馬車幽霊 「分かりました」


カラカラカラカラ


王子 「葉巻よ……もしかして馬車幽霊は、ものすごい魔法使いだったんじゃないのか?」


幼妻エルフ 「さあね。だが、魂が劣化に劣化を重ね、精神の輪郭がぼやけきった状態であれだったからな」

幼妻エルフ 「二人分だったことをのぞいても、生前はとてつもないもんだったろうさ」

幼妻エルフ 「それに」


ガサゴソ ガサゴソ

赤花エルフの肖像画


幼妻エルフ 「エルフの長老が見合いの候補にあげるほどだからな」

幼妻エルフ 「くふふふっ……」


王子 「持ってきたのかよ……」


理樹・佳奈多「「メル友?」」真人・葉留佳「「おう(うん)」」

理樹・佳奈多「「メル友?」」真人・葉留佳「「おう(うん)」」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1410004413/)

理樹(バスの事故から3ヶ月、

もう雪が降る季節だ。

僕らは悪夢のような出来事から目を覚まし、

今をこうして悠々と過ごしている)

日常系リトバスSSです!

亀更新ですがよろしくお願いします。

皆さんどうも!今回紹介するオススメのSSはこちらです!!


闇条さんとフレンダさん☆3巻再構成
闇条さんとフレンダさん☆3巻再構成 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1409244833/)

文句がありましたら上記のスレの>>1へどうぞ!!
皆さんのこと、お待ちしております!!

闇条「待ってるぜ!」

フレンダ「待ってるって訳よ!」

それではまた会いましょう!



魔法の船 城下 豪華な部屋前



ろうそく職人 「お、おおー……! なんだか、立派な扉ですよ勇者さま」


貝殻の勇者 「一等船室……で良いのでしょうか。そうですね、きっと大きな部屋なのでしょう」

貝殻の勇者 「いえ、家でしょうか。船の中に城郭都市だなんて、少し混乱してしまいますね」


ク魔エビ娘 「さて、この部屋は馬車置き場もあるけど、どうする?」

ク魔エビ娘 「もちろん共同の置き場と同じように、世話代やらいただけるなら、こちらから出向いてお世話するよ」


馬車幽霊 「では、ここに置かせていただくとしましょうか……」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………?」


ボワン


物語る悪魔 「シシシシシ……!」


ハーピィ 「!?」


王子 (いきなり小さな妖精のようなものが現れた)




物語る悪魔 「シシシシシ……!」


王子 「敵か?」


幼妻エルフ 「知らん。警戒を……」


ニワトコ娘 「あ、珍しい」

ニワトコ娘 「物語る悪魔だわ」


貝殻の勇者 「悪魔……」


王子 「知っているのかい?」


ニワトコ娘 「ええ。私たちニワトコの精と同じように、物語に関係する種族よ」

ニワトコ娘 「でも……」


物語る悪魔 「シシシシシ……!」


ポイ ポイ


王子 「紙を投げてきたぞ。……何か書かれているな」


幼妻エルフ 「おい、わけ分からないものを不用意に手にするなよ」


王子 「どれどれ」

王子 「……何て書いてあるかさっぱりわからない。汚い記号の羅列に見える」

王子 「魔法の文字かな。葉巻、悪いが読んでみてくれないか?」


幼妻エルフ 「……しかたないな」

幼妻エルフ 「どれどれ」



悪魔のメモ 『皆さんどうも!今回紹介するオススメのSSはこちらです!!』

悪魔のメモ 『第十九巻第八号 「贖事係」第十九巻第八号 「贖事係」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403032835/)』

悪魔のメモ 『文句がありましたら上記のスレの>>1へどうぞ!! 皆さんのこと、お待ちしております!!』

悪魔のメモ 『それではまた会いましょう!』



幼妻エルフ 「……なんて書いてあるかさっぱり分からない」


王子 「お前でも解読できないのか」


物語る悪魔 「シシシシシ……!」





ニワトコ娘 「見せてみて」


幼妻エルフ 「ほらよ」


王子 「解読できるのかい?」


ニワトコ娘 「たぶん、私たちくらいにしか解読できないわ」

ニワトコ娘 「えーっと、どれどれ」

ニワトコ娘 「ああ、残念、これはハズレね」


王子 「うん?」


ニワトコ娘 「物語る悪魔は、紙にした物語を無差別にばらまくの」

ニワトコ娘 「楽しいものから、今みたいにコウモリの鼻水みたいにしょっぱいものまで、たくさん」

ニワトコ娘 「困ったいたずら妖精よ」


ハーピィ 「…………」


王子 「本が好きな者にとっては、わりと良い部分もあるんじゃないか?」


ニワトコ娘 「まあ、ごくたまに失われた幻の伝説なんかもくれたりするらしいんだけど……」

ニワトコ娘 「そんなことほとんどなくて、私たちに伝わる根拠の無い噂みたいなものよ」

ニワトコ娘 「それに、この物語る悪魔は時も場所もわきまえず、必要とされなくても現れて、物語を押し付けてくるの」


王子 「ほう……」


幼妻エルフ 「はんっ」

幼妻エルフ 「世の中のほとんどの本は、知識の押しつけだろうに」


王子 「またお前はそういう……」


ニワトコ娘 「本ね……。普通は、見たくないものは見ないようににすれば、閉じればそれで済むのだけれど」

ニワトコ娘 「物語る悪魔はそれでも押し付けてくるのよ」

ニワトコ娘 「たとえば、人生を本にたとえるとするならば」

ニワトコ娘 「神出鬼没でまるで必要のない投げ込みチラシのようにね」

ニワトコ娘 「だから、悪魔と呼ばれているのよ」




ニワトコ娘 「心荒らし、沼の釣り人、と呼ばれたりもするわ」


物語る悪魔 「シシシシシ……!」


貝殻の勇者 「せいっ!」


ヒュン

ドスッ


物語る悪魔 「グゲッ……」


王子 「!」

王子 (貝殻の勇者どのが、短剣の一突きで悪魔を仕留めた)


シュウ シュウ


王子 「煙のように消えてしまった……」


貝殻の勇者 「息するだけで空気を汚す、何の役にも立たぬ生きる価値なき魔王の手先風情が……」


王子 「ただの悪魔じゃないのかな」


ニワトコ娘 「あ、悪魔って呼ばれているけど、じっさいはただの妖精よ」

ニワトコ娘 「それに……」


ボワン


物語る悪魔 「シシシシシ……!」


ろうそく職人 「また出てきた!」


ニワトコ娘 「これを殺すことはできないの」

ニワトコ娘 「よく分かっていないんだけど、自然現象に近いみたいなの」

ニワトコ娘 「心もつ生き物の嫉妬や羨望から生まれたと考えている人もいるけど……」

ニワトコ娘 「ただそこにある、空気か背景の一部としてなるべく気にせず、余計な関わりを避けるようにしてやりすごすしかないの」


貝殻の勇者 「むう……」


王子 「そういうものもいるのか。やはり、世界はひろいのだな」


ク魔エビ娘 「…………」


幼妻エルフ 「どうした、恐怖で血の気がひいたみたいに頬が白いぜ


ク魔エビ娘 「…………」

ク魔エビ娘 「……いや、なんでもないよ」


幼妻エルフ 「……けけけ」


>>334
なんという抜け目ない宣伝……!! 読みます



ガコン ガチャ


ろうそく職人 「ようし、野郎ども、お荷物をおろしますよ!」


ニワトコ娘・野生の女・ブラウニー 「アイサー!」


ポイッ


ろうそく職人 「きゃん!」

ろうそく職人 「どうして私を放り出すんですか!」


野生の女 「なんかお荷物っぽいから」


ヒョイ スタッ


王子 「さあハーピィ、お手を」


ハーピィ 「…………」


ギュッ ピョン スタッ


幼妻エルフ 「甘やかすね、王子さま」


ヒョ……

ボワン


物語る悪魔 「シシシ……!」


幼妻エルフ 「うわっ、またいきなり……!」


グラ ヒュルル ガシ


王子 「大丈夫か。あの程度でお前らしくもない」


幼妻エルフ 「……どうも」



>>338
申し訳ないこってす




>>334のあとに挿入



>>334のリンクについて


>>332内で書かれているスレッドをそのまま使うわけにいかなかったため、
SS速報VIP内の別のスレッド(スレたては>>1)にさしかえたものです。

このスレッドとは全く関係がありませんので、
小ネタとして流していただきますようお願いいたし申し候かしこ。




ク魔エビ娘 「部屋はすぐに使えるようにしてある」

ク魔エビ娘 「あと、部屋をはじめすぐそこにある広場や他の場所にも、この船の見取り図があるけど」

ク魔エビ娘 「なんなら、すぐにでもボクが船を案内するよ」


馬車幽霊 「ありがたいのですが……」

馬車幽霊 「まずは部屋でゆっくりさせていただこうと思います」


ク魔エビ娘 「そうだった、これまで大変だったんだっけね。ゆっくりすると良い」


ろうそく職人 「むふふ、しっかり休んで探検しますよう」


ブラウニー 「あ、私も」


ク魔エビ娘 「ああ、船内は自由にうろついて良いよ」

ク魔エビ娘 「施設については部屋にある見取り図で把握できると思うけれど、案内が必要になったら呼んでくれ」

ク魔エビ娘 「ちなみに、疲れをとるならお風呂がオススメさ」

ク魔エビ娘 「君たちは特別なお客だから、船員用のお風呂も使って良いよ」


貝殻の勇者 「ほう、お風呂ですか……」


ク魔エビ娘 「ああ、船員用の方は改装中だっけ」

ク魔エビ娘 「まあ、お客用と変わらないから良いかな」

ク魔エビ娘 「じゃあ、ごゆっくり」


コツ コツ コツ

ザワザワザワ




豪華な部屋



ろうそく職人 「ややっ、二階への階段を発見しましたよ!」


ブラウニー 「さっそく探検です!」


ドタドタドタ


野生の女 「子供だなあ、あいつら。ああ、最高」


貝殻の勇者 「この広さ。やはり部屋というよりも家のようですね」


馬車幽霊 「これだけの魔法の船となると、かなり高度な技術が要求されるはずですが」

馬車幽霊 「あの船長はいったい何者なのか。船員たちと合わせて、何かが引っかかる」

馬車幽霊 「深いところで異質というか……」


王子 「たしかにおかしいな。おれも、彼らを見ているとなぜか」

王子 「感じるんだ……おれの中に流れる血が……代々受け継がれてきたえびゆで師の血が、騒ぐのを……」


幼妻エルフ 「受け継がれてんのはイカレた祭り狂いの親父の血だろ」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「…………」


馬車幽霊 「ふむ、王子どのも気づいておられますか、この違和感に」

馬車幽霊 「用心は、しておいた方が良いようですね」


王子 「剣のもてなしが待っているかもしれないということか」


馬車幽霊 「実例もありますしね」


王子 「君に言われると腹が痛むね」




幼妻エルフ 「ところで、あの家畜はどこだ」


王子 「ろうそく職人のことを家畜なんて呼ぶなよ」


野生の女 「ああ、家畜ってあの子のことなんだ」


馬車幽霊 「ろうそく職人さまなら二階にあがっていきましたよ」

馬車幽霊 「おや、その本は……」


王子 (葉巻が、表紙に図形のかかれた大きな本を持っている)


馬車幽霊 「……お嬢様も、教育熱心のようで」


幼妻エルフ 「星とはいかないまでも、面魔法使い相当にはなってもらわないと」


馬車幽霊 「おやおや」

馬車幽霊 「では、私もお手伝いいたしましょうか」


王子 (星……星魔法使いだったころの馬車幽霊が、五芒星がどうとか言っていたな)




…………


カチ コチ カチ コチ


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「お茶がはいりましたよ」


ニワトコ娘 「うーん、よい香り」


王子 「ありがとう」

王子 「すまないね、勇者どのにお茶をいれさせてしまうなんて」


貝殻の勇者 「ふふふ、お気になさらず。勇者とて誰かのためにお茶はいれます」

貝殻の勇者 「黒花どのたちは上ですね」


王子 「うん。熱心に、ろうそく職人に何か教えているようだ」

王子 「ブラウニーたちの馬車の修理を手伝わせるらしい」


貝殻の勇者 「あらあら」




トン トン トン


王子 「行ってしまった」


ニワトコ娘 「あの人も勇者なのね。上品なお嬢様って感じだけれど」


王子 「いやいや、あれでなかなか……」

王子 「ほかの勇者も見たことあるのかい?」


ニワトコ娘 「二、三人くらいかな。あの町で見たのを除いて」


王子 「ふむ」


ニワトコ娘 「でたらめな言いがかりをして民に金銭を要求する悪徳憲兵や盗賊相手に戦ってたりしていたわ」

ニワトコ娘 「必殺技とか叫んでて、ちょっと恥ずかしかったけど」


王子 「……ふむ」




ニワトコ娘 「帝国の悪をうつために各地を旅している勇者が多いみたいだけれど」

ニワトコ娘 「あなたたちもそうなの?」


王子 (皇帝の目のことはまだ言わない方が良いのか?)

王子 「……そうだな」

王子 「あちらに助けを求める声があればとんで行き」

王子 「またあちらに助けを求める声があればとんで行く」

王子 「そんな旅かな」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「帝国大陸各地に隠されているらしい、皇帝の魔法のアイテムを探し秘密裏に壊しているんだ」


ニワトコ娘 「へえ」


ク魔エビ娘 「寄り道ばかりでごちゃごちゃとどうでも良い人々と関わり、まるで進まない」

ク魔エビ娘 「といった感じだけれどね」


王子 「それはおれの責任じゃないな」




ク魔エビ娘 「それともあれかな」

ク魔エビ娘 「旅の目的は実はどうでも良くて」

ク魔エビ娘 「ぐだぐだと甘ったるい不思議な旅を続けたいだけなのかな」

ク魔エビ娘 「そういう劇があったよね。珍道中、だっけ?」

ク魔エビ娘 「旅の中の日常系、というか」


ニワトコ娘 「同じ旅の中ではあるけれど、それぞれの話はほぼ独立しているのよね」


王子 「何のことやら」


ク魔エビ娘 「まあ、良いんじゃないかな」

ク魔エビ娘 「人生は舞台で、僕たちは即興劇を演じる役者にすぎないと誰かが言っていたし」

ク魔エビ娘 「つまるかつまらないか」

ク魔エビ娘 「観客がいるかいないかは別として」


王子 「……君はいつの間に来たんだい。お茶まで飲んでいる」


ク魔エビ娘 「今日はまるまる休みになっていてね。キャプテンのはからいさ」

ク魔エビ娘 「休みといっても、この船に慣れない君たちの面倒を見ろということだと思うけど」




ク魔エビ娘 「……うん。観客という言い方は適切じゃないかな」

ク魔エビ娘 「彼らもときとして舞台に上がり、そして同じように僕らもおりることがあるのだから」

ク魔エビ娘 「……君は、いつおりるのだろうね」


王子 「早くおりて、気ままな旅人になりたいのだけどね」


ク魔エビ娘 「へえ」


王子 「しばらくは無理なようだ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ええっ……!?」




王子 「そ、それはどっちかな、ハーピィ」

王子 「旅という舞台かい、人生という舞台かい?」


ハーピィ 「…………」


王子 「いや、そこまで分かるわけないか」

王子 「しかし、どうしておれにも分からないことで……」


ク魔エビ娘 「それはどうでも良いとして」

ク魔エビ娘 「王子どの」


王子 「うん、何かな」


ク魔エビ娘 「キャプテンがお呼びさ」

ク魔エビ娘 「いや、骨の仮面をして男と話がしたい、と言っていただけだけどね」

ク魔エビ娘 「そろそろ彼が休憩する時間だし、まあ、そういうことさ」


王子 「……何だろうか。おれに用といったら、えびに関することくらいだろうが」


ク魔エビ娘 「そんな馬鹿な話あるわけないだろ」

ク魔エビ娘 「尻相撲でもしたいんじゃないのかな」


王子 「そんな馬鹿な」




王子 「だいたい男なんて他にも乗っているだろう。別におれじゃなくても……」


ク魔エビ娘 「ボクと話しているときに言ったんだ」

ク魔エビ娘 「そしてボクに休みをくれた。そういうことじゃないかな」


王子 「考えすぎじゃないか?」

王子 「……ハーピィもついてくるけど、良いかな」


ハーピィ 「…………」


ク魔エビ娘 「良いと思うよ」


王子 「それじゃあ、お邪魔しようかな」


ク魔エビ娘 「案内しよう」




…………


青肌娘 「人間の領域にも、幻のアイテムというものがあるらしい」


三つ編み娘 「ドワーフの風車塚に眠る永久機関、竜の山の魔女が持つ真実の鏡、大海の柱に沈む宝玉、湖のエルフの遺跡」

三つ編み娘 「その他もろもろに……千里眼」


青肌娘 「私たちも商人のはしくれとして、手に入れるとまでいかなくても、生きている間にお目にかかりたいものだな」


ガヤガヤ ザワザワ


ク魔エビ娘 「このあたりでは、商人たちが旅の暇に店を出している」


王子 「賑わっているね」

王子 「見ない種族もいるようだ」


ク魔エビ娘 「……うちは知る人ぞ知る、商人の秘密の交流所だからね」

ク魔エビ娘 「知っている海も、ここだけじゃない」


王子 「へえ」

王子 (もしかしたら、ハーピィの仲間もいたりして)


ハーピィ 「…………」


王子 「うん。あとでいろいろ見てまわろう、ハーピィ」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ・種帽子 「…………」


ジャンッ


王子 「嬉しそうだ」




王子 「船長どのの部屋は、やはりあの天守にあるのかな」


ク魔エビ娘 「その通り。天を突くえびのヒゲさ」

ク魔エビ娘 「乗組員の居住区であり、一階はお風呂でもある」


王子 「それはそれは」


ク魔エビ娘 「こっちだ」


王子 「門へ続く道ではなさそうだが」


ク魔エビ娘 「裏道というやつさ」

ク魔エビ娘 「普通に船長室までのぼるんじゃ、時間がかかるから」


王子 「良いのかな。おれのような者に教えて」


ク魔エビ娘 「問題ないね、キャプテンロブスターは規格外だから」

ク魔エビ娘 「勇者の一行程度、なんら驚異ではないのさ」


王子 「それはそれは……」


ハーピィ 「…………」


ザッ ザッ ザッ ザッ




袋小路



ク魔エビ娘 「よし、誰もいないね」


王子 (行き止まりだ。地面に複雑な円のようなものが描かれている)


ク魔エビ娘 「その魔法陣の上に立って」


王子 「……見ず知らずの魔法陣の上に立つのか」

王子 「むかし誰かに聞いた、まぬけ騎士の冒険を思い出すな」


ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィがうずうずしている。……今にも飛び乗りそうだ)




ク魔エビ娘 「大丈夫だよ。これはお客をあの城の船長室に運ぶものさ」


王子 「へえ、移動用の魔法陣というわけか」

王子 「葉巻いらずだな」


テク テク テク


ハーピィ 「…………」


王子 (陣の一部が不自然に途切れている)

王子 「……乗ったよ」


ク魔エビ娘 「では、今から送ろう」


ガチャコ ジジジジ


王子 「……何だい、その黄金を帯びた赤い棒は。先の方がゴテゴテしているが」


ク魔エビ娘 「蒸気杖さ」


王子 「蒸気?」


ク魔エビ娘 「まあ、魔法の杖だね。ひろく使用されるものとはちょっと仕組みが違うけど」

ク魔エビ娘 「以前、貧乏なドワーフの職人から運び賃のかわりにいただいたのさ」




ク魔エビ娘 「陣を発動させるには、欠けている文字を補って完成させなきゃいけない」

ク魔エビ娘 「悪いけど、これから少し静かにしていてもらえるかな」


ジャコ チーン


王子 (杖の先の装置が展開して、数字の書かれた盤が出てきた)

王子 「分かった」


ク魔エビ娘 「さて……」

ク魔エビ娘 「0、1、2、0の……」


王子 (……確かに普通の魔法とは違うようだ)


ハーピィ 「…………」


ク魔エビ娘 「この杖のすごいところさ。最初にこの数字をつけると、魔法につかう魔力の消費を着信側が負担することになるんだ」

ク魔エビ娘 「この場合はキャプテン・ロブスターだね」

ク魔エビ娘 「これをフリー魔ダイヤル、と呼んでいる」


王子 「ふむ。よく分からんがお得な印象を受けるな」


ク魔エビ娘 「ボクみたいに魔力があんまりない者にとってはありがたいよ」


王子 「不安になってきた」


ハーピィ 「…………」




ジー ジジー ジコ ジー


王子 (数字を押して盤を回し、離すと盤は巻き戻る……を繰り返している)


ク魔エビ娘 「……あ、間違えた」

ク魔エビ娘 「うーん、手汗でビチョビチョだ。魔法をつかうのは緊張するなあ」

ク魔エビ娘 「まあ良いや」

ク魔エビ娘 「さあ、完成したよ」


王子 「ちょっと待……」


ニョロニョロニョロ


王子 「ん?」

王子 「足元から何か出てきた」


ワサワサワサワサ


フナムシたち 「ワサコンワサコン」


王子 「おおおおおおお!?」


ハーピィ 「!? …………!?」




ワサワサワサワサワサ


王子 (おびただしい数のフナムシが重なって天に伸びていく)

王子 (うぞうぞと中々おぞましい。くすぐったがりの葉巻なら見ただけで失神するかもしれないな)


ク魔エビ娘 「さあ、しっかり手を突っ込んで」


王子 「何にだ」


ク魔エビ娘 「フナムシたちさ。じゃないと登りはじめで転げおちるよ」

ク魔エビ娘 「フナムシ坂からね」


王子 「これに、つかまるだと……」


ワサワサワサワサワサワサ


ハーピィ 「…………」


ズブッ


ハーピィ 「…………」


王子 「ハーピィ、躊躇なくフナムシ坂に……」

王子 「この程度でためらってなどいられんか」

王子 「ええい、ままよ!」


ズブ


王子 (おお、指の股をたくさんの脚がワサワサと這っていく)

王子 (……なぜだろうか。淫魔の商人から譲り受けたあの子を持ってきて埋め込むべきだった、と後悔する自分がいる)




ク魔エビ娘 「よし、いくよ」


王子 「君は来ないのか」


ク魔エビ娘 「うん。そんな気持ち悪いものに手を突っ込みたくない」


王子・ハーピィ 「!?」


ク魔エビ娘 「本当はね、たくさんのタコとイカの脚でしっかり固定して目的地までニョロニョロ運ぶはずなんだけど」

ク魔エビ娘 「いやあ、失敗しちゃったよ」


王子 「よしんば成功したとして救いがなさすぎる」


ク魔エビ娘 「まあ、フナムシでも案外いけそうだから良いよね」


王子 「ちゃんと案内してくれ……」


ク魔エビ娘 「それじゃあフナムシ坂発進!」


ガチャ チーン

ゾゾゾゾゾゾ

カシャカシャカシャカシャカシャカシャ


王子 「うおお……!」

王子 (フナムシの群れが城一直線に空を走っていく。風をきる感覚は揺れもなく馬より心地よいが)

王子 「悪夢だ……」


ハーピィ 「…………」


ゾゾゾゾゾゾゾゾゾ





…………



勇者一行の客室 地獄の修行部屋



ろうそく職人 「うう、さっきから丸三角四角丸三角四角線線バツ触手丸三角四角……」

ろうそく職人 「こんなの描いてばかりでつまらないよう。腕が疲れたよう、目がしばしばするよう、肩がこったよう」


幼妻エルフ 「心配するな。エルフ特製の目が良くなる目薬を用意している」

幼妻エルフ 「たくさん考えながらありのままを書き写せ。これも魔法使いには必要な修行なんだからな」


馬車幽霊メイド 「さあ、次はこちらの立体模型の模写ですからね。ようく見て描くんですよ」


ろうそく職人 「うひゃあ、もう指がガクガクですよう……」

ろうそく職人 「……あ!!」


幼妻エルフ 「こら、修行中によそ見するんじゃない」


ろうそく職人 「大変です師匠」

ろうそく職人 「窓の外はるか上空を、王子さまとハーピィさまを乗せたフナムシの群れが天へとのぼっていく!!」


幼妻エルフ 「……いかん。詰め込みすぎて狂ったらしい」


馬車幽霊メイド 「みっちり三十日はかける面魔法の基礎知識を、この船旅の序盤で刷り込もうとしているのですからね」


幼妻エルフ 「この程度でイカれちゃうなんて軟弱な脳みそだぜ」

幼妻エルフ 「もっとましな幻覚を見ろよ。窓の外はるか上空にフナムシの群れなんてそん……」


クル


幼妻エルフ 「なんだと!?」


馬車幽霊メイド 「窓の外はるか上空を、王子どのとハーピィさまを乗せたフナムシの群れが天へとのぼっていく!!」


ろうそく職人 「やや、チャンス! 二人が気をとられている隙に脱走ですよ!」


ダヒュッ


馬車幽霊メイド 「あっ、待ちなさい!」

馬車幽霊メイド 「大変ですお嬢様、家畜が逃げ出し……」


幼妻エルフ 「……はうん」


フラ パタ


馬車幽霊メイド 「お嬢様!」

馬車幽霊メイド 「これは大変、お嬢様が倒れ……まあっ、すっごい鳥肌!」



…………



ゾワゾワゾワゾワ

ドゴォン



キャプテンロブスターの城 船長室 



ロブスター 「…………」


鉱石ラジオ 『……白い肌は私の色、桃色の髪は勇者さまの色。私たちの可愛い子、どうか幸せになりますように』

鉱石ラジオ 『ザザッ……第七大世界、星天観測所より、遠い世界のお友達へ……』


ロブスター 「ある遺跡で手に入れた、物語る石の装置だ」

ロブスター 「面白いとは思わないか。まるでこの世界にない音を拾っているかのように、毎日違う話をする。調子は安定しないが」


ガララ カラン

モクモク モクモク


ロブスター 「やはり旅は良い。朝霧のような未知をはらみ横たわる世界へ、胸にはただ希望だけを抱いて漕ぎ出した星夜の海を、私は生涯わすれないのだろう」

ロブスター 「そして、あまねく世界の未知に光がさすことを、恐れ続けるのだろう」

ロブスター 「しかし旅をやめることはできない。世界の深さを祈り、我々は歩き続ける。旅人ゆえに」

ロブスター 「そうは思わんか。骨の旅人よ」

ロブスター 「窓よりようこそ、我が城へ」

ロブスター 「オ・魔ール……」


モクモク モクモク


王子 「…………」

王子 「悪いが、それどころじゃない」


ハーピィ 「!! !?!?!? ~~~~~!!」


王子 「ハーピィの口にフナムシが入ってしまった」





ハーピィ 「!? ッッ!! ッッッ!!!」


王子 「ペーッてしなさい、ハーピィ。ペーッてしなさい!」


ハーピィ 「…………」


ゴクンッ


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「……おいおい」

王子 「嘘だろ……」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「~~~~~~~~~~!?!?!?」


バッサ バッサ ジタバタジタバタ 


王子 「オエーッだ、ハーピィ。オエーッてしなさい!」

王子 「オエーッだ、オエーッ!」


なぞの鳥 「…………」

なぞの鳥 「オエーッ!!」


王子 「!?」

王子 「うわっ、吐いたぞあの鳥」


ロブスター 「ある列島の、紛争のたえない二番目の島で手に入れた鳥だ。たくさんいた」

ロブスター 「近いうちに放そうと思う」


王子 「手に入れるなよ」




ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました……」


王子 「ああ、嘘だろとは思っていない。ハーピィはフナムシを飲み込んでしまった」

王子 「おれのことよりも、まずはハーピィだ」

王子 「キャプテンロブスター、そこの長椅子を借りても良いかい?」


ロブスター 「それは客用だ。よって好きに使ってもらってかまわん」


王子 「どうも」

王子 「さあハーピィ、横になって。心を落ち着かせて、悪い夢だと思って忘れるんだ」


ハーピィ 「…………」


ギシ


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………?」


王子 (何かを訴えている目だ)

王子 「……ちゃんと横についているから、安心しておくれ」


ハーピィ 「…………」


王子 「……おれも隣で横になるのかい?」


ハーピィ 「…………」


王子 「だけど、この椅子じゃあ二人ならべない。縦に重なるしか……」


ハーピィ 「…………」


王子 「……わかったよ」

王子 「おれも横になっても?」


ロブスター 「客用と言ったろう。好きにくつろげば良い」


王子 「では、ありがたく」


ギシ


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」

王子 (ハーピィのやわらかさと重さたるや)

王子 「ふむ。最高だね」


ロブスター 「では、本題に入るとしよう」


王子 「寝転がってお偉いさんと話すのは初めてだ」



ハーピィ 「…………」


ギュ


王子 「寝にくくはないかい。よしよし。身体の調子が変だと思ったら、我慢せずにちゃんと教えておくれよ」


ハーピィ 「…………」


ロブスター 「……自身の職に誇りをもつのは大切なことだが」

ロブスター 「往々にして、人はいきすぎるものだ」

ロブスター 「過剰な誇りは傲慢をうみ、他者を軽んじるようになる」


王子 「役職中毒の貴族や憲兵さんがたに聞かせてやりたいね」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ。ハーピィは頭の先から可愛いなあ」


ロブスター 「自身の感性や常識のみを信じるだけに留まらず、価値観を共有できない者の優位に立っていると思いたがらずにはいられない」

ロブスター 「ときには、討ち滅ぼさずにはいられない。責任を敵に求めながら」


王子 「一般の戦争に限らず、文学の戦争、芸術の戦争もそんなものなのだろ」


ロブスター 「素人連中を見下し、彼らの声に耳を閉ざし」

ロブスター 「ときには野蛮人のように攻撃さえする」

ロブスター 「吐き気を催すですます調の気品をまとい、悲劇の主役にでもなったような被害者づらで」

ロブスター 「見ているこちらが恥ずかしくなるような、五流の舞台役者のような、調子外れの大声で」




王子 「そういう物書きや画家の卵が、うちの町にもけっこういたっけなあ」

王子 「自分たちが認められないのは、世間の見る目の質が落ちたからだと言いながら、昼間から酒を飲んでいたよ」

王子 「いやあ、ははは、不平不満と薬の煙で淀んでいたね、彼らの目は。葉巻ほどじゃなかったが」


ハーピィ 「…………」


モゾモゾ ムニ ムニ


王子 「拙いけれどと言いながら自信ありげに見せてきた彼らの作品のほとんどが、誰かの物まねを少し変えて誤魔化したものだったりして本当に拙かったのが何とも」

王子 「正直に感想を言ったら豆と安酒をぶん投げられるし」

王子 「そういえば、会話文だけダラダラ書きなぐったものを小説だとか言って見せてきて」

王子 「しかも目をつぶって描いたような挿絵まで見せられたときは大変だった。長いだけで何も残らなかった」

王子 「もしもおれの生涯を綴る本が出るとして、ああいう書かれかただけはされるまいと思ったね」


ロブスター 「それは残念だったな」


王子 「?」


ハーピィと王子はどういう大勢で寝てるんだろ?

>>379

http://i.imgur.com/Ka75teF.jpg

こんな感じで……




http://i.imgur.com/KfB0OoU.jpg


王子さまは静かになりました。羽根がふわりと落ちたようでした。

ハーピィは、王子さまが眠ってしまったのだと思いました。
ですから、そばでじっと待つことにしました。退屈ではありません。
王子さまが目を覚ましたら、おはようと頭を撫でてくれるに違いないのです。

幸せな気持ちでそっと抱きしめた王子さまの胸は、
風のない夜のように静かでした。


みかん





王子 「まあ良いか。……本題とはそれだろうか、ロブスター船長」

王子 「仕事について? 乗せてもらっている間、船の仕事でももらえるのかな」


ロブスター 「ははは、察しは良いが少し違う」


王子 「うん?」


ロブスター 「……まあ、実際は話をしてみたかっただけだ」

ロブスター 「同じ職につく者としてな」


王子 「……そうかい」

王子 (おれが領主の息子だと気づいたのだろうか。だったらこの男は帝国の……)


ロブスター 「果たして、お前は自身の歩む道をどれほど見通せているのかな」

ロブスター 「……若きえびゆで師よ」


王子 「!!」




ハーピィ 「…………」


ギュ スリスリ


王子 「……あんたは」


ロブスター 「ふふ、なにを驚いている若いの」

ロブスター 「えびゆで師の称号を持つものが、お前だけだと思っていたわけでもあるまい」


王子 「…………」

王子 「そうか。何てこった」

王子 「海の男、ロブスターという偽名、フナムシ……」

王子 「くそっ、少し考えればすぐに分かることじゃないか」

王子 「この男が、えびゆで師だという事実に!」


ロブスター 「ふっ……」


ハーピィ 「…………」


>>388
訂正します、ごめんなさい。


王子 「この男が、えびゆで師だという事実に!」

王子 「この男が、えびゆで師だという事実が!」




ハーピィ 「…………」


ムニ ムニ ピト


ロブスター 「……自然の声を聞く力はまだまだのようだな」

ロブスター 「素質はあるようだが」


王子 「くっ……」


ロブスター 「なに、警戒することはない」

ロブスター 「若いえびゆで師を潰そうなどと思ってはいない」


シャサ


王子 (手袋を外した……)


ロブスター 「この手のひらに誓ってな」


王子 「!!」

王子 (何という手だ)

王子 (あの親指の殻剥きダコ……疑いようもなく熟練のえびゆで師)

王子 (いや、そんなものじゃない。いったいどれだけのエビを剥いてきたというんだ……!)


ハーピィ 「…………」


王子 「……信じよう、キャプテン・ロブスター」


ロブスター 「物分りの良いことだ」

ロブスター 「……まあ、先輩として、少し手ほどきをするくらいのつもりではあるがな」


王子 「船長じきじきにか……ありがたい」

王子 「いや、ぜひお願いしたい」

王子 「先生」


ロブスター 「よせ、おれは気ままな海の男さ」

ロブスター 「ロブ魔スター。それで良い」


王子 「分かった。よろしくお願いする、マスター・ロブ」


ロブスター 「ふっ」

ロブスター 「オ・魔ール……」


ハーピィ 「…………」




…………

 

勇者一行の客室



幼妻エルフ 「うーん、うーん……」


馬車幽霊 「お嬢さま。うなされていらっしゃる」


貝殻の勇者 「フナムシの群れを見て気絶とは、黒花どのも意外な弱点をお持ちですね」

貝殻の勇者 「あんなにくさくて美味しいのに……」


馬車幽霊 「フナムシは深海に住む死者の王の使いという言い伝えもありますが」

馬車幽霊 「清浄な種族であるエルフとして、耐えられなかったのかもしれませんね」


幼妻エルフ 「お、王子、おうじぃ……」


貝殻の勇者 「あら」


馬車幽霊 「夢の中までも……」


幼妻エルフ 「だ、だめだ、王子……そっちは行っちゃ……」

幼妻エルフ 「えびゆでの……暗黒面が……!」


馬車幽霊  「……えびゆで?」


貝殻の勇者 「それほど多面的ではないと思いますが……」



…………





キャプテンロブスターの城 船長室



ロブスター 「手ほどきと言っても、おれが直接してやれることは少ない」

ロブスター 「えびゆで師とはそういうものだ」


王子 「ああ。たしかに、おれも開眼したのは偶然のようなものだった」

王子 「おれに剣を教えてくれた人々は」

王子 「剣を教えるばかりで、えびゆでのことまでは教えてくれなかった……」


ロブスター 「ああ。えびゆでとは数多の事象から己の力で編み出すものだ」

ロブスター 「えびゆで師の模倣をしたところで、それは真のえびゆで師ではない」

ロブスター 「が、そのための土台つくりくらいならば手伝おう」


王子 「マスター・ロブ……」


ハーピィ 「…………」




王子 「教えてくれマスター・ロブ。おれは、何をすれば良い」


ロブスター 「……あつい男だな。そのようには見えなかったが」

ロブスター 「今も見えないが」


ハーピィ 「…………」


王子 「守りたいものがある。やらなきゃいけないことがある」


ロブスター 「それがお前の旅か」


王子 「勇者どのの旅だ」

王子 「勇者の旅の中での、おれの旅なのだろう」

王子 「……しがらみなんてすべて捨てて気ままな旅人になりたいと思いながら」

王子 「その機会を得ても捨てられずにいる。こんなみっともない仮面までつけて」


ロブスター 「……それで良い」

ロブスター 「お前の人生の主役を選べるのはお前だけだ」


王子 「だが、今のおれの力では心もとない。犬やロバに躓いているようでは」

王子 「きっと守ることはできないのだろう」


ロブスター 「強い力を手にした程度で、個人がすべてを守ることなどできはしない」

ロブスター 「できてはいけない」


王子 「分かっている。それでも」

王子 「思わずにはいられない」


ハーピィ 「…………」




ロブスター 「……あおいな」

ロブスター 「それも良いだろう」


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」


ロブスター 「お前にやってもらうことはこれだ」


チャキ


王子 (剣を抜いた!)

王子 「まずは腕を見るってところかな?」


ロブスター 「……ははは。寝ていろ」


ヒュン ヒュヒュヒュヒュ


王子 (剣先で宙に何かを描くように……)

王子 (軽い剣ではなさそうだが、姿勢を乱さず片手で素早く振っている)


ロブスター 「…………」


チキ


王子 (剣をおさめた)


ボオ キイイ


王子 「……これは」

王子 (マスター・ロブの剣先の軌道がぼんやりと光っている)

王子 「魔法陣」


ロブスター 「面魔法、または円魔法というのだったかな」

ロブスター 「その発展系といったところか」

ロブスター 「自然の声を聞く力を高めたら、こういうこともできる。消費する魔力をおさえてな」

ロブスター 「机や地面だけが面ではないということだ」




王子 (魔力をおさえる……。そういうこともできるのか)


キイイイイ

ズズズ


王子 「……陣から何かでてくる」


ボトッ


王子 「灰色の服? 服にしては分厚いな」


ロブスター 「目が良いな」

ロブスター 「これは魔法の着ぐるみだ」


王子 「魔法の着ぐるみ……」


ハーピィ 「…………」




ロブスター 「お前にはこの船旅の間、この着ぐるみで生活してもらう」

ロブスター 「入浴以外はな」


王子 「……それは大変だな」


ロブスター 「これを着ることで生活そのものが修行となる」

ロブスター 「日々の鍛錬の効率も上がるだろう」


王子 「なんと」


ロブスター 「さっそく着てみるが良い。服も仮面もつけたままで良い」


王子 「あ、ああ……」


カツ カツ カツ カツ

ゴソ


王子 「……重い。不思議な造形だな。何の着ぐるみだろう」


ガサゴソ ガサゴソ ガサゴソ


ハーピィ 「…………」


王子 「手は……ここじゃないのか」

王子 「こっちか」


ガサゴソ ガサゴソ


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「……!!!」


王子 「うーん、ぶかぶかだ。お、ここから外が見えるんだな」

王子 「よし、着たぞ」


ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィがおびえている)

王子 「……マスター、これは何の着ぐるみなんだい」


ロブスター 「フナムシの着ぐるみ」

ロブスター 「名づけて、フナムッシーくんだ」




…………



勇者一行の客室 二階



幼妻エルフ 「うーん、うーん……」

幼妻エルフ 「…………!」


ガバッ


幼妻エルフ 「……ここは」

幼妻エルフ 「ああ、気を失って……」


コツ キシ コツ ギシ


幼妻エルフ 「!」

幼妻エルフ 「……馬車幽霊?」


キシ ギシ ギシ ギシ


幼妻エルフ 「…………」


ギシ……

バタン


フナムッシー 「ただいまムッシー!」


幼妻エルフ 「!!?」

幼妻エルフ 「きゃ……!!」





キャプテン・ロブスターの船 城下 路地



貝殻の勇者 「さあ、捕まえましたよろうそく職人さん」


ろうそく職人 「うう、勇者さま……」


馬車幽霊 「帰ったらみっちり模写漬けですからね」


ろうそく職人 「……う」

ろうそく職人 「うわーん、いやだよう。せっかくの船旅だし、ちょっとは遊びたいんですよう!」


ジタバタ ジタバタ


貝殻の勇者 「……やはり、厳しくしすぎたのでは」


馬車幽霊 「ですが、甘やかしていてはこの旅は乗り切れないかと……」


ギャアアアアアアア


馬車幽霊・貝殻の勇者 「!!」


貝殻の勇者 「今の声は」


馬車幽霊 「しまった。お嬢さま……!」


タタタタタ


貝殻の勇者 「む?」


エビ少年A・B 「ダブルエビタックル!」


ドカン


貝殻の勇者 「きゃあっ!?」




ろうそく職人 「わあっ」


ドサッ


エビ少女A 「青狸ちゃん、こっちよ。走って!」


ろうそく職人 「……むお!」


ダダダダダ


貝殻の勇者 「ああっ。待って、ろうそく職人さ……」


エビ少年B 「おい、A!」


エビ少年A 「おう、B!」

エビ少年A 「エェェェー……!」


エビ少年B 「ビィィィー……!」


グルグル グルグル


貝殻の勇者 「きゃあ!」

貝殻の勇者 「何だというのです。私の腰に布などまいて!」


エビ少年A 「てやあ!」


ヒラリ


貝殻の勇者 「きゃあ!?」

貝殻の勇者 「何だというのです。私の腰にまいた布などめくって!」


エビ少年B 「やーい、見えた見えた」


エビ少年A 「このお姉ちゃん、やらしい白い下着をはいてるぞお!」


城下の人々 「…………!」


ザワッ


貝殻の勇者 「よ、良いのです! これは下着ではありません!」

貝殻の勇者 「……で、でも何でしょうかこの気持ち。腰に布をまかれてめくられただけなのに……」


野菜売り 「おやおや……」


仲買人 「まあまあ……」


ヒソヒソ ザワザワ


貝殻の勇者 「私ったら、どうしましょう。これでは恥ずかしくてろうそく職人さんを追えない!」



…………



勇者一行の客室 二階 



スウウ


馬車幽霊 「お嬢さま、ご無事ですか!」

馬車幽霊 「…………!!」


幼妻エルフ 「…………」


フナムッシー 「…………」


ハーピィ 「…………」


馬車幽霊 「…………お」

馬車幽霊 「おのれゴキブリの化け物!」


フナムッシー 「待て」


馬車幽霊 「お嬢さまから離れなさい。さもなくば……!」


フナムッシー 「落ち着け、よく見てくれ。おれだ」

フナムッシー 「フナムッシーだ」


馬車幽霊 「誰だ!」


フナムッシー(王子) 「そりゃそうか」





ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


馬車幽霊 「!」


フナムッシー(王子) 「ああ。おれは王子だ」


馬車幽霊 「…………?」

馬車幽霊 「……おお」

馬車幽霊 「その姿、よく見ればたしかに王子どの」


フナムッシー(王子) 「分かってもらえて良かったよ」

フナムッシー(王子) 「……姿?」


馬車幽霊 「よく似合っていますよ。王子さまらしさがよく表れています」


フナムッシー(王子) 「素直に喜べない」

フナムッシー(王子) 「それよりどうしたんだ葉巻は」

フナムッシー(王子) 「おれを見るなり、絹をさくような声を上げて倒れてしまった」

フナムッシー(王子) 「そんなに弱い奴でもないだろうに。わけが分からない」


馬車幽霊 「何があったかわけが分からないのは、あなたの方だと思いますが」


幼妻エルフ 「…………」


ハーピィ 「…………」




…………


馬車幽霊 「……あの船長どのが」


フナムッシー(王子) 「ああ、この着ぐるみ姿で仕事をすれば、何かを掴めるかもしれないらしい」

フナムシ王子 「……しかし、ははは。本当にフナムシを見て気絶したのか」

フナムシ王子 「やはりもうあの頃の葉巻はいなくなってしまったのだな」

フナムシ王子 「おれの故郷で薬を売りさばいていた事実は永劫消えないが」


馬車幽霊 「…………」


幼妻エルフ 「……うぅ」


フナムシ王子 「お」


馬車幽霊 「お嬢さま」


幼妻エルフ 「ああ、お前か」

幼妻エルフ 「ひどい夢を見たぜ。でかいフナムシに体中を……」


フナムシ王子 「よお、葉巻。ずいぶんと情けなくなったじゃないか」


幼妻エルフ 「!?」


フラッ


馬車幽霊 「お嬢さま、どうかお気をたしかに」




フナムシ王子 「やれやれ」


ガサゴソ


フナムシ王子 「ふう。ほら、おれだ、王子だよ」


幼妻エルフ 「……その顔。ああ、本当だ、王子だ」

幼妻エルフ 「まったく、驚かせやがって」


フナムシ王子 「ははは」

フナムシ王子 「これは顔じゃなくて仮面だけどな」


幼妻エルフ 「どこのゴミ捨て場で拾ってきたんだよ、その服。さっさと脱いじまえよ」


フナムシ王子 「それはできない」

フナムシ王子 「この船ではこの姿で過ごすのが、おれの修行なんだ」


幼妻エルフ 「はあ?」

幼妻エルフ 「フナムシでも食って頭がおイカれあそばせたのか、この王子さまは」


ハーピィ 「…………!」


フナムシ王子 「お前……! ハーピィの前でなんてことを言うんだよ」


幼妻エルフ・馬車幽霊 「?」





…………


フナムシ王子 「……というわけだ」


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「……はあ」

幼妻エルフ 「オレの知らないうちに何てことに」

幼妻エルフ 「とりあえず、王子」


フナムシ王子 「うん?」


幼妻エルフ 「えいっ」


スパンッ


フナムシ王子 「……何故はたく」


幼妻エルフ 「はたかずにいられるか」

幼妻エルフ 「お前があのスカした船長の部屋に行ってから今にいたる理由が」

幼妻エルフ 「聞けば聞くほど意味不明だ!」


フナムシ王子 「だから、船長は実はマスター・ロブで、ハーピィは良いにおいで……」


幼妻エルフ 「いいよまた話さなくて。気が変になってくる」

幼妻エルフ 「……すまんね、ハーピィ」

幼妻エルフ 「オレがその場にいたら、逐一つっこめていたんだろうが」


ハーピィ 「…………」




フナムシ王子 「とにかくこの姿から戻ることはできない」

フナムシ王子 「ここでは、おれはフナムシのフナムッシーなんだ」


ワサワサ


幼妻エルフ 「うえあああっ!? なんで脚がわさわさ動いているんだよ」


フナムシ王子 「魔法の着ぐるみでね」

フナムシ王子 「剣の魔法を使う要領で力を込めると、すべての脚を動かせる」

フナムシ王子 「鍛えたら自在に操れるようになるかもしれない」


馬車幽霊 「ふむ……」


幼妻エルフ 「やめろよ。さっさと止めろよ!」


フナムシ王子 「これでくすぐり合えばどうなるかな、黒花の長老どの」


幼妻エルフ 「やめろ、やめろ。いくら中身が王子とはいえ、そんな気持ち悪いのとくすぐりっこなんて」

幼妻エルフ 「気持ち悪いやつに、たくさんの脚でくすぐられるなんて……」


馬車幽霊 「お嬢さま?」


フナムシ王子 「なんで少し満更でもない顔をするんだよ」




幼妻エルフ 「……お前はそれで良いのかよ。そんな」


フナムシ王子 「なあに、着てみると思いのほか良い感じさ」

フナムシ王子 「良い感じだムッシー!」


幼妻エルフ・ハーピィ 「!?」


フナムシ王子 「本来はこういう話し方らしい」

フナムシ王子 「さすがにそれは勘弁してもらったが」

フナムシ王子 「言ってみるとなかなか気持ち良いな。はっはっは……」

フナムシ王子 「はっはっはっは……!」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「……ああ」

幼妻エルフ 「きらきらと春の木漏れ日のような笑顔を浮かべていたあの町のころの王子は」

幼妻エルフ 「もうどこにもいないんだな……」


フナムシ王子 「そんな笑顔をしたおぼえは無い」




フナムシ王子 「……バカみたいなことだってやっていかないとな」

フナムシ王子 「おれも強くならないといけない」

フナムシ王子 「そうでなきゃ、笑って旅する余裕もできない」


幼妻エルフ 「…………」


フナムシ王子 「とくにお前には旅立ちから頼りっぱなしなんだ」

フナムシ王子 「勇者どのほどとはいかなくても」

フナムシ王子 「お前が少しは後衛に専念できるくらいには、なってみるさ」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「……けっ」

幼妻エルフ 「何だってんだよ、いきなり……」


馬車幽霊 「……ふふ」


幼妻エルフ 「まあ、たしかに」

幼妻エルフ 「お前がいなきゃ、この腐った世界が少しばかりつまらなくなるからな」

幼妻エルフ 「……せいぜい頑張るが良いさ」


王子 「葉巻……」


ワサワサワサワサ


幼妻エルフ 「うわあ!?」

幼妻エルフ 「脚やめろよ!」


王子 「はっはっは……!」


ハーピィ 「…………」




王子 「あの余裕たっぷりの黒花のエルフどのが、ひねくれた物言いをする余裕もないと見える」

王子 「こんな形で弱みを握れるとは……」

フナムシ王子 「この着ぐるみも捨てたものではないな」


幼妻エルフ 「仕方ないだろ。オレだって一応エルフなんだ」

幼妻エルフ 「エルフはフナムシとかくすぐったそうなものは大の苦手なんだよ」


フナムシ王子 「そうなのか」


馬車幽霊 「私のエルフについての知識によれば、そんな事実はありませんが」


幼妻エルフ 「……あいつには絶対言うなよ」


フナムシ王子 「うん?」

フナムシ王子 「……ああ。ろうそく職人のことか」

フナムシ王子 「弟子にこんな姿は見せられないものな。お前も大変だね」


幼妻エルフ 「魔法使いの師弟関係は本来、殺伐としたものなんだよ」

幼妻エルフ 「師から盗んだ知識で師の命を奪って初めて一人前になれる流派もあるしな」


フナムシ王子 「ふうん」

フナムシ王子 「お前はどうだったんだい」


幼妻エルフ 「……聞きたいかい王子さま」


フナムシ王子 「やめておこう」


幼妻エルフ 「けけけ」




幼妻エルフ 「……仕事って、いったい何をするんだ」


馬車幽霊 「水夫の相手では」


幼妻エルフ 「だったら、ろうそく職人に見学させれば腐敗魔法の修行にもなるな」

幼妻エルフ 「でもはやく面魔法の基礎を……」


フナムシ王子 「あってないようなものさ」

フナムシ王子 「一日に少しの時間、子供たちの相手をするだけだ」


馬車幽霊 「その格好で子供たちの相手ですか」


幼妻エルフ 「最低だぜ」


フナムシ王子 「どうしてそうなる。魔法使いの思考はたまに理解に苦しむな」


幼妻エルフ 「どうしてそうなったのはお前だよ」


ハーピィ 「…………」




フナムシ王子 「そういうわけで、自由にできる時間は多い」

フナムシ王子 「何か手伝えることがあったら言ってくれ」

フナムシ王子 「今日はこれから船内を見てまわるので無理だが」


馬車幽霊 「なんと。その姿で船内をうろつくですと?」

馬車幽霊 「気はたしかなのですか王子どの」


フナムシ王子 「そんなにひどいかな、これ」


幼妻エルフ 「討伐隊が組まれる程度にはな」

幼妻エルフ 「正直、中身が我が弟子だったらためらいなく殺してたぜ」


フナムシ王子 「悲鳴をあげて気絶したくせに」


幼妻エルフ 「……っ」


フナムシ王子 「はっはっは」


幼妻エルフ 「……初めて会った日のこと言いふらしてやる」


フナムシ王子 「おれが悪かった」


ハーピィ・馬車幽霊 「?」




馬車幽霊 「ああ、そうだ。王子どの」


フナムシ王子 「何だい」


馬車幽霊 「万が一、外でろうそく職人さまを見かけたら、ここに戻るように言ってくれませんか」

馬車幽霊 「瀕死にして構いませんので」


フナムシ王子 「? ああ、分かった」


幼妻エルフ 「……いや、それはなしだ馬車幽霊」


馬車幽霊 「お嬢さま」


フナムシ王子 (こうも自然に言えるとは)

フナムシ王子 (馬車幽霊にとって、もう葉巻は完全にお嬢さまなのだな)

フナムシ王子 (無理もないか。はじめて会ったときも女の体だったから)

フナムシ王子 (最初にうけた印象にこうも縛られるとは……やれやれ、一途な幽霊さんだぜ)

フナムシ王子 「……ふっ」


ハーピィ 「…………」




幼妻エルフ 「オレも王子についていよう」

幼妻エルフ 「ハーピィだけじゃあ不安だ」


馬車幽霊 「なるほど」


フナムシ王子 「いったい何を心配しているんだ君たちは」


幼妻エルフ 「当たり前だ」

幼妻エルフ 「二足歩行のでかいフナムシが単体で町を練り歩いたら」

幼妻エルフ 「血祭り騒ぎになるだろうが」


馬車幽霊 「繁殖期のエロストロールが単体で人里におりてきたら」

馬車幽霊 「大騒ぎになるのと同じです」


フナムシ王子 「おれはモンスターあつかいなのか」


ワサワサワサワサ


馬車幽霊 「人には見えません」


幼妻エルフ 「もうお前王子として終わっているよ……」


ハーピィ 「…………」




…………


勇者一行の客室 魔法の馬車



ガチャ


ブラウニー 「えっさ、ほいさ」

ブラウニー 「あ、段差に気をつけてくださあい」


野生の女 「おうよ」

野生の女 「えっさ、ほいさ……」

野生の女 「お」


幼妻エルフ 「……何してるんだ。馬車の前に家具が散乱していたが」


ブラウニー 「割り当ててもらった部屋のお掃除をしようと思って」


野生の女 「あたしはその手伝い」


幼妻エルフ 「……家事狂いの妖精か。精の出るこった」


ブラウニー 「えへへ」




野生の女 「あんたたちも馬車を使うの?」


幼妻エルフ 「ああ、少し」


野生の女 「ふーん」


フナムシ王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


野生の女 「……なに、モンスター牧場でもやるの?」

野生の女 「さすがにこの組み合わせじゃ子供はうまれないと思うけど」


ハーピィ 「…………」


フナムシ王子 「今度ハーピィをモンスターあつかいしてみろ」

フナムシ王子 「くすぐり地獄で昇天させてやる」


ワサワサワサワサ


野生の女 「あ、王子さんか。あはは、何だそれ気持ち悪い」


王子 「はっはっは」


ブラウニー 「大丈夫ですかエルフの黒花さん。お顔が青いですよ」


幼妻エルフ 「まさか。目にムスカリの花でも張り付いてんじゃないのか」


ハーピィ 「…………」




…………


魔法の馬車 倉庫区



コツ コツ コツ


フナムシ王子 「む、廊下が狭くなった」

フナムシ王子 「この馬車はいろいろ見て回ったけど、ここは初めて来るな」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「そうだったか」


フナムシ王子 「いったいここに何の用なんだ」


幼妻エルフ 「ちょっと忘れ物をな」


フナムシ王子 「珍しい」

フナムシ王子 「……うん?」



扉A~N



フナムシ王子 (左右にたくさんの扉がある……)




フナムシ王子 「何だ、ここは」


幼妻エルフ 「ただの宝物庫さ」


フナムシ王子 「ほう、そんなものが」

フナムシ王子 「……む」


ボオ


フナムシ王子 (扉がいっせいに淡く赤色に光りだした)

フナムシ王子 「魔法のしかけか何かかな」


幼妻エルフ 「あん?」


フナムシ王子 「あの扉の光さ」


幼妻エルフ 「……? 何を言っているんだ王子さま」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「おい、本当なのか」


フナムシ王子 「ああ」


幼妻エルフ 「光っているのか、扉が」


フナムシ王子 「? 扉というかそのまわりというか」

フナムシ王子 「もやもやと赤く光っているだろう」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「…………」


フナムシ王子 (……様子がおかしい)




フナムシ王子 「光っていないのか」


幼妻エルフ 「これらの扉が魔法のしかけであるのは本当だが」

幼妻エルフ 「光って見えるようにはしていない」

幼妻エルフ 「もちろん、オレにも光って見えない」


フナムシ王子 「なに」


幼妻エルフ 「しかし」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「お前は嘘をついていないのだろ」

幼妻エルフ 「ハーピィが嘘をついていないのなら」


フナムシ王子 「……ああ。どういうことなんだろうか」


幼妻エルフ 「あとは、オレが嘘をついているかだな」


フナムシ王子 「そうだと簡単だけど」

フナムシ王子 「……おや」

フナムシ王子 「あそこの扉だけ光っていないな」


幼妻エルフ 「……どれだ」


フナムシ王子 「あれだ」


扉L


幼妻エルフ 「あの大きなやつか」


フナムシ王子 「ああ、あの大きなサイズのやつだ」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「当たりだよ、王子さま」


フナムシ王子 「?」




フナムシ王子 「当たりって、何がだ」


幼妻エルフ 「お前が言う光っていない扉が、正しい宝物庫の入口なのさ」


フナムシ王子 「なに」


幼妻エルフ 「ちぇ、ちょっと驚かせようと思ったのに」


コツ コツ コツ

ガチャ


フナムシ王子 (扉が開いた)


ゴオオオ


フナムシ王子 「!?」

フナムシ王子 (他の扉が緑の炎に包まれた)


幼妻エルフ 「まったく……」


フナムシ王子 「いや、じゅうぶん驚かせてもらっている」


ハーピィ 「…………」




フナムシ王子 「いったいどういうことだろう」

フナムシ王子 「おれの、自然の声を聞く力が強くなったのか?」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「さあね」

幼妻エルフ 「……お前かハーピィ、なにかでかい買いものの予定はあるかい」


フナムシ王子 「ふむ」

フナムシ王子 「飴と本と、おれは何か武器を探そうと思う」

フナムシ王子 「馬車幽霊の館でのこともあるし、この剣一本じゃ少し不安がある」


幼妻エルフ 「そうかい。じゃあ、ちょっと多めに出しとくか」

幼妻エルフ 「少し待っていてくれ」


フナムシ王子 「?」

フナムシ王子 (……ああ、金か。ここから出していたのか)

フナムシ王子 「悪いよ、おれだってそのくらい持っているし」


幼妻エルフ 「良いってことさ」


フナムシ王子 「いやいや、これ以上お前に無駄な借りをつくるなんて……」


コツ コツ コツ


フナムシ王子 (……宝物庫。円形の部屋に、またいくつも扉がある)

フナムシ王子 (扉の奥が本当の宝物庫か)


幼妻エルフ 「けけけ。なにをかっこつけてるんだよ、貧乏息子」


ガチャ ボオオ


フナムシ王子 (葉巻がひとつの扉を開いたら、またほかの扉が燃えた)

フナムシ王子 「いや、本当に……」


ペカー


フナムシ王子 「!?」




フナムシ王子 (宝物庫がこの世の富をすべて詰め込んだように輝いている!)

フナムシ王子 (なんだあれは。うちの城より広かろうという部屋に、たくさんの金銀財宝!)


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「よいせ」


ジャラジャラ


幼妻エルフ 「さしあたり、このくらいで良いか」

幼妻エルフ 「ふふふ。人間の町で暮らしたおかげで、金の価値も分かるようになっちまった」

幼妻エルフ 「汚れちまったもんだぜ、オレも」


ギイイ ガチャ


フナムシ王子 「…………」


幼妻エルフ 「よし、行くぞ」


フナムシ王子 「…………」


幼妻エルフ 「……王子?」


フナムシ王子 「……あ、ああ」




コツ コツ コツ


フナムシ王子 「…………」


幼妻エルフ 「……けけけ」


フナムシ王子 「!」


幼妻エルフ 「まあ、安心しろよ王子さま」


フナムシ王子 「うん?」


幼妻エルフ 「お前の四肢がうっかり爆発しても」

幼妻エルフ 「あれだ、同じ釜の飯をくったよしみだ」

幼妻エルフ 「ハーピィとお前が食うには困らないどころか、一生遊んで暮らせるくらいには面倒みてやるさ」

幼妻エルフ 「金なら腐るほどある」


フナムシ王子 「……ははははは」

フナムシ王子 「そうしたら、おれはおれとして終わってしまう気がするな」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「王子の最期というわけだ」

幼妻エルフ 「けけけけけ」


フナムシ王子 「ははは……」

フナムシ王子 「それで?」


幼妻エルフ 「あん?」


フナムシ王子 「うちの庭で売りさばいた薬の金は、あそこのどこにあるんだい」


幼妻エルフ 「……さあね」

幼妻エルフ 「なにせ、汚い金なら多いから」


ハーピィ 「…………」


…………




…………


城下 大通り



ザワザワ


赤肌娘 「この船は、あちこちの海をまわっている」

赤肌娘 「あの世もこの世もおかまいなしに、それこそ幽霊みたいに」


青肌娘 「そんな船だから、ひとくせもふたくせもある人や珍しいアイテムも集まる」

青肌娘 「けっこうな数の商人が集まれば、こんな風に市がたつこともある」

青肌娘 「今日この場にいられるのは運が良いよ」


ガヤガヤ ザワザワ


王子 「うーん、独特な熱気というか……」

王子 「明らかに人間じゃない人々の姿もあるな」

王子 「妖精の領域とこちら側が混ざっているみたいだ」


ハーピィ 「…………」


王子 「しかし、みんな自然に交流している」

王子 「ここならハーピィも、腕を隠さなくても変に注目されないかな」


幼妻エルフ 「もとから、そんなに目立っていないじゃないか」


王子 「たしかに」

王子 「こんな美しい生き物がいたら注目の的だろうに」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「親バカかよ」

幼妻エルフ 「見えているのに見えなくなる類の魔法があるが」

幼妻エルフ 「やはりそういう力が生まれながらに働いている種族なのかもな」




幼妻エルフ 「こいつを研究すれば、きっと魔法の進歩に繋がるだろうよ」


ハーピィ 「…………」


王子 「馬車幽霊がこの仮面に細工した魔法」

王子 「ハーピィの、嘘を見抜く力を参考にしたんだったか」


幼妻エルフ 「完成すれば恐ろしい魔法になるだろうよ」


王子 「ハーピィが勝手に利用されているみたいで、複雑な気分だよ」

王子 「……む、これなんてどうだろう」


黄色い果実


幼妻エルフ 「……酸っぱそうな果物だな。見たことない」

幼妻エルフ 「変なのはいらないんだよ。普通の市場でもよく手に入る物で良いだろ」


王子 「お前は相変わらず知らないものに冷たいな」


幼妻エルフ 「汚い金を稼ぐには慎重じゃなきゃいけないんだよ」




王子 「根に持つね……」

王子 「やあ、店主」


木の実売り 「はいはい」

木の実売り 「珍しいね、フナムシとエルフが一緒にいるなんて」


フナムシ王子 「はっはっは」

王子 「フナムシだけにな」

王子 「ところで、この果物は何なんだい」


木の実売り 「黄色い果実だよ。黄色いんだぜ」


王子 「そうだね。どういう果実なんだい。味とか」


木の実売り 「そりゃあ、黄色いよ」


王子 「いや……」


幼妻エルフ 「酒にしたいんだ」


木の実売り 「ああ、果実酒かい。だったら、同じ重さの砂糖と」

木の実売り 「こっちの緑の草も使うと良いよ」

木の実売り 「そのままだと、においがすっぱくなるなるからね」


幼妻エルフ 「ふうん……」

幼妻エルフ 「めんどくさいな」


王子 「名前が泣いているぞ」


幼妻エルフ 「?」




チャリン


木の実売り 「……はい、お買い上げありがとう」

木の実売り 「けっこう買ってもらっちゃったけど、持てるかい」


王子 「こっちと、こっちの腕に引っ掛けてくれ」


木の実売り 「はいはい」


ガサ カサ


王子 「……おお。ははは、すごいぞ、まったく重く感じない」


ワキワキ カサカサ 


木の実売り 「うわっ、気持ち悪い」


幼妻エルフ 「嫌な音たてんなよ」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「見ろ。ハーピィも若干戸惑っている」

幼妻エルフ 「こいつの中の王子さま像が壊れていっているのが聞こえてくるみたいだぜ」


王子 「おれの中のお前像は塵と消えたけどな」





ワイワイ コンコン キイン


王子 「しかし、何の用かと思ったら酒づくりの準備とは」


幼妻エルフ 「エルフの果実酒は絶品なんだぜ」


王子 「うん。妖精の酒は人気が高いと聞くな」


幼妻エルフ 「ふふふ、喜べ」

幼妻エルフ 「舌の貧しい哀れな王子さまに、ほかの森エルフでは真似できないオレ特製の果実酒を振舞ってやろう」


王子 「ふなむし」

王子 「残念ながらおれも酒の味くらいは分かる」

王子 「冬月なお鋭い帝国北東領が一つ。そこの酒で育まれた舌をなめないでいただこう」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「ふん。まあ良いさ」

幼妻エルフ 「たまにはあの酒場の夜に思いをはせながら、しっとりとグラスを傾けようじゃないか」


王子 「……あの日のことだけは勘弁してもらいたいんだけどな」


幼妻エルフ 「けけけ」

幼妻エルフ 「死ぬまでからかい続けてやる」


王子 「くそう」

王子 「くすぐってやる」


ワサワサワサワサ


幼妻エルフ 「うわ」

幼妻エルフ 「やめろよ! こんなところで」


王子 「ふはははは」


ハーピィ 「…………」




流れ瓶屋



コロン カラン


幼妻エルフ 「できるだけ、口がひろいやつが良い」


王子 「ふむ。……なんというか、散らかっているなあ」


瓶詰め妖精 「海や川を流れる瓶を集めて売っているだけだもの」

瓶詰め妖精 「どこから流れてきたものか分からないから」

瓶詰め妖精 「中には掘り出し物もあるかもよ」


王子 「なるほど」


幼妻エルフ 「これはいくらだ」


瓶詰め妖精 「それは……このくらいかな」


幼妻エルフ 「おいおい……! こりゃあ高すぎるだろ」


瓶詰め妖精 「ふんだ、売れなければそれで構わないんだよ」

瓶詰め妖精 「私の家が増えるだけだもん」

瓶詰め妖精 「瓶がなくちゃ困るかわいそうな人たちに売ってあげてるだけなんだから」


幼妻エルフ 「けっ、チビのくせに態度だけはでかい」

幼妻エルフ 「その瓶を棺桶にしてやろうか」

幼妻エルフ 「マムシに丸呑みさせて妖精酒にして飲んじまうんだ」

幼妻エルフ 「このフナムシの化物がな」


王子 「飲まん」

王子 「酒漬けで泥のように酔うところは見てみたいが」


ハーピィ 「…………」


王子 「……?」

王子 (ハーピィがどこかを見ている)


ハーピィ 「…………」



古書売り 「…………」



王子 「……なるほど」



ハーピィ 「…………」


飴売り 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子売り 「…………」


眼鏡売り 「…………」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


キョロ キョロ キョロ キョロ


王子 「どこから見たら良いか分からないようだ。ハーピィにとってはたまらないな、このあたりは」

王子 (今なら嘘をついてもばれないかもしれない。もちろんそんなことはしないが)

王子 「なあ、葉巻……」


幼妻エルフ 「ああ、王子、すまんね」

幼妻エルフ 「オレはこれからちょっと、このチビの妖精とじっくり話し合わなくちゃならない」

幼妻エルフ 「ハーピィと一緒にこの近くの店でも見ててくれ」


王子 「そりゃちょうど良い」


幼妻エルフ 「くれぐれも、おかしなことはしないようにな」

幼妻エルフ 「オレの目が届くところにいるんだぞ」




…………



古書店



ザワザワ ペチャクチャ


王子 「旧大陸紀行……ずいぶん古い本だ」

王子 「……遠く西に竜の雪山をのぞみ、大陸北方、宝石をとかしたような湖。西の英雄の塔を守るエルフォたちには」

王子 「親愛の証として帽子をおくるという、妖精としては珍しい風習が……」

王子 「ふむ」


ザワザワ


ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィ、やはりこの店が一番気に入ったようだ)

王子 (真剣に本を選んでいる)


ハーピィ 「…………」


王子 「どれか欲しいものはあったかい」


ハーピィ 「…………」


王子 「その二冊かな」

王子 「古代小動物図鑑に、錆色の蒸気魔法文明随想……」


ハーピィ 「…………」


フル フル


王子 「なんだ。どっちかにするって?」

王子 「そんなに遠慮しなくても、本の二冊くらい……」

王子 「けっこう高いな」


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」

王子 「……まあ」

王子 「大丈夫だよ。そのくらいの金なら持っているさ」

王子 「葉巻が」


ハーピィ 「!?」




ハーピィ 「…………」


王子 「なに、やっぱりどっちかにするって?」

王子 「ハーピィは偉いなあ。これならうちの貧乏城でもうまくやっていけただろう」


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


王子 (……すごく悩んでいる)

王子 「……うん?」


モゾ モゾ ピョン


種帽子 「…………」


王子 (ハーピィの豊かな懐から種帽子が出てきた)


ハーピィ 「…………」


種帽子 「……! ……!」


ビヨン ビヨン ビヨン


王子 「ははは、なんだ気持ち悪い動きをするな」



ハタハタハタハタ


犬耳少年 「うわっ、見て見て、でっかいシャコだよ」


狐耳少年 「違うよ、ゴキブリだよ」


狼耳少年 「……たぶん、あれはフナムシ」


狐耳少年・犬耳少年 「へえぇー!」

狐耳少年・犬耳少年 「……気持ちわりー」


ハタハタハタハタ



王子 「……はくしょんッ」

王子 「うーん、潮風で風邪をひいたか?」




種帽子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 (……種帽子が全身で、ハーピィに何か訴えかけている)


ハーピィ 「…………」


コク


王子 (ハーピィが頷いて、種帽子を片方の本の表紙に乗せた)


ハーピィ 「…………」


種帽子 「…………」


ハーピィ 「…………」


バムッ


王子 「!!」

王子 (もう片方の本を重ねて種帽子を潰した……)


ハーピィ 「…………」


王子 「は、ハーピィ……さん?」


ハーピィ 「…………」


スッ


王子 (重ねていた本を離した)


ペラ ペラ


種帽子 「…………」


王子 (……ハーピィが左手に持った方の本に種帽子がくっついている)


ハーピィ 「…………」


王子 (本を差し出してきた)

王子 「……こ、こっちを買うのかい」

王子 「しかも種帽子がついていない方……」


ハーピィ 「…………」


コクン


王子 (種帽子……。ハーピィの懐から出てきたことは不問にしよう)




チャリン 


古書売り 「……まいど」


王子 「ありがとう」


ハーピィ 「…………」


王子 (結局、二冊とも買ってしまった)

王子 「良いさ。こちらには黒花金庫がついている」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


王子 「そんな顔で見ないでおくれ」

王子 「良いかい。よくお聞き、ハーピィ」


ハーピィ 「……?」


王子 「ハーピィという清い存在に投資されることによって」

王子 「葉巻が人々を騙して手に入れた薄汚い金が清められているのだよ」

王子 「それはつまり、人間の領域でドロクソに汚れちまった葉巻の魂を清めているということだ」

王子 「おれたちの浪費……もとい、この世直しの旅で葉巻の金が使われるということは、同じだけ葉巻の心が救われるということなんだよ」

王子 「そう。この旅は、葉巻というエルフ一個の、果てしない贖罪の旅でもあるのさ……」


ハーピィ 「…………!!」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「!?」


王子 「うん。全部でまかせだ」

王子 「うはははは……!」


ハーピィ 「………ッ」


ドス


王子 「ごっ!?」

王子 「は、腹……!」





ガチャ ガチャ ガラン ガラン


幼妻エルフ 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「ケホッ……いや、ごめんよハーピィ。下衆な冗談だった」

王子 「……む、葉巻」


幼妻エルフ 「……ただいま」

幼妻エルフ 「ヒモ野郎」


王子 「おかえり。わかった、わかったから。おれが悪かったから」


幼妻エルフ 「着ぐるみに引きこもる甲斐性なしの貧乏フナムシ王子さまに」

幼妻エルフ 「外で心をドロクソに汚しながら働くオレから土産だ」


ガラガラ ガラン


王子 (葉巻が大量の空き瓶を抱えている)




幼妻エルフ 「ほれ、持てよ。オレは力がないんだ」


ガラン


王子 「ああ。悪いがここの腕に引っ掛けてくれ」

王子 「……しかし、いったいどうしたんだ、こんなに大量に」

王子 「まさか、あの瓶詰めの妖精を殺し……」


幼妻エルフ 「……だったら良かったんだけどな」


カラン


瓶詰め妖精 「はあい」


王子 「連れてきたのか」




王子 「たしか、わりと敵対的な交渉をしていたと思うんだけどな」


幼妻エルフ 「……まあ、利害の一致というやつだ」


瓶詰め妖精 「そうそう」


王子 「?」


幼妻エルフ 「そんなに気にしなさんな。瓶は手に入れたんだから」


王子 「…………」

王子 「まあ、お前がそう言うならそうしよう」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「おや、やけにすんなり信じるじゃないか」

幼妻エルフ 「オレみたいなドロクソエルフの言うことを」


王子 「あれは、あの地の領主の息子としての言葉だ」

王子 「この旅の一員としてのおれの言葉じゃ、お前は」

王子 「弟子を口汚くののしりながらもついつい甘やかし、人見知りが過ぎて初対面の者や物にキツくあたってしまう」

王子 「くすぐったがりの気のよいエルフだよ」

王子 「肝心なところで若干頼りないおれの大事な友人さ」


ワサワサワサワサ


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「何だよ気持ち悪い。そんなに素直に褒めやがって……」


王子 「ははは、照れるな照れるな」


瓶詰め妖精 「……ぜ、ぜんぜん褒めてないと思うんだけど」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「まあちょうど良い。そのあたり、少し確かめたいこともあった」


王子 「?」




除難酒場 スカボロー礁



除難師 「パセリ、セージ、ローズマリーにタイム」

除難師 「それは魔除けのまじないであり、魔除けの植物」

除難師 「旅において魔と出会うことは受難を意味する」

除難師 「ここは魔と出会わない場所。難の無い酒場。旅人にとっての憩いの場」

除難師 「ようこそ、さ迷える除難の酒場スカボロー礁へ」


ガヤガヤ キン カチャカチャ


王子 (……礁って)


幼妻エルフ 「……ふふふ、しかし謙遜しすぎだぜ、王子さま」


王子 「うん?」


幼妻エルフ 「肝心なところで頼りないなんて。お前はよくやっているよ」


王子 「…………」


瓶詰め妖精 「ああ、そう受け取ったのね」


ハーピィ 「…………」



王子 「それで、わざわざこんなところで何を確認したいっていうんだ」


幼妻エルフ 「まあ、ちょっとしたつまらないことさ」

幼妻エルフ 「ハーピィについての」


ハーピィ 「…………」


王子 「ふむ……」



ディロロロ ジャジャッ ジャッ ジャッ ジャラン


高温芸人 「ようこそお客さまがた」

高温芸人 「私はフィリーです」


低温芸人 「私はピンです」

低温芸人 「ピンな私とフリーなフィリー、何故だか二人でお送りします」


低温・高温芸人 「フィリピンスカボロー礁!」


ジャララン ジャラララ ジャ ジャラジャラララ



王子 「…………」




高温芸人 「……って、ショーだろ!」

高温芸人 「ひるがえって、私たちが千年くらいお世話になっているこの除難の酒場」

高温芸人 「とにかく難が無いということですが」


低温芸人 「はいはい、無難でございますが」


高温芸人 「実は見つけたんですよ、難を」


低温芸人 「はいはい、何でございましょう難だけに」


高温芸人 「…………」

高温芸人 「女難!」


低温芸人 「…………」


高温芸人 「って、除難だろ!」


低温芸人 「……難というか、何だかなあ?」


高温芸人 「何というか、難だけに?」


ジャラジャラ ジャランラ スッタカ ジャランラ



王子 「……こんな高くも低くもないぬるま湯のクソみたいな場所でやること難だろうか」


幼妻エルフ 「つまらないこと難だから良いだろ」


瓶詰め妖精 「瓶の蓋を閉じたいわ」

瓶詰め妖精 「ここじゃ難にも聞きたくない気分」


ハーピィ 「…………」




幼妻エルフ 「さて王子」


王子 「何だい」


ワサワサワサワサワサ


幼妻エルフ 「……その前にその気持ち悪いアシの動き、どうにかならないのか」


王子 「脳髄嗜好のお前が気弱なことだ」

王子 「言ったと思うが、この船にいる間、おれはこの服を脱ぐことはできない」


ワサワサワサワサワサ


幼妻エルフ 「アシは止められるだろ!」


王子 「ふはははは」


ワサワサワサワサ……


ク魔エビ娘 「さて」

クエビ娘 「そのことについて、ちょっと訂正があるのだけどね」


王子 「また唐突に現れたな」

王子 (しかし、どこか違和感がある……)




幼妻エルフ 「いったい何の用だよ。ここは子供の来る酒場じゃないだろ」

幼妻エルフ 「それに、オレたちは忙しいんだぜ?」


クエビ娘 「そうだろうとも。素直じゃないエルフ崩れが遠まわしにいちゃつくのは、さぞ色々と忙しいのだろうね」

クエビ娘 「正確には子供の来るところじゃないのではないけど」

クエビ娘 「その通りさ。まあ、ボクの何かが除かれている感じがするね。ま、除けられているね」

クエビ娘 「アイデンティティを失ったようで手汗がぐっちょりさ」


幼妻エルフ 「失うもなにも、それを得るためにこなすべき課題すら与えられてないような子供が何を言う」


クエビ娘 「あなたはその課題をこなせたとでも言うのかい?」

クエビ娘 「ボクの目にはあなたが一番危うく見えるけど」


王子 (先生のようなことを言う)


幼妻エルフ 「……口のへらない奴さ。オレが暇じゃなくて良かったな」


王子 「それで、本当にどうしたんだい?」

王子 「こんなところまで来て」


クエビ娘 「ああ、その気持ち悪いフナムシの着ぐるみなんだけど」

クエビ娘 「脱いでもらえるかな」


王子 「なんだと」


ハーピィ 「…………」




メリークリスマス

裸ーピィ(修正あり)
http://i.imgur.com/t9AAzs6.jpg





王子 「どういうことだ。マスター・ロブは、修行中にこの着ぐるみを脱ぐべきでないと言っていたが」


クエビ娘 「その船長のご命令なのさ」

クエビ娘 「フナムシの着ぐるみを回収して、君にこれを渡すようにってね」


カラ ガチャ


英雄の腰当て


王子 「……赤い腰当てか」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「おい、うかつに触るなよ。呪われた防具だったらどうするんだ」


クエビ娘 「その心配はいらないよ」

クエビ娘 「ボクの蒸気杖と同じ、失われた技術でつくられた装備品だが」

クエビ娘 「呪いなんてものはかけられていない」




王子 「ふむ、なんというか華奢な……しかし、なぜ腰当てなんだ」


クエビ娘 「本当は一式そろっていたらしいんだけどね」

クエビ娘 「船長が手入れをサボっていたら劣化しちゃって」


王子 「サボっちゃ駄目じゃないか」


クエビ娘 「うちの船長はそういうところがあるんだよ」

クエビ娘 「だいたい、その着ぐるみだって間違って渡したものだし」


王子 「なんだと」


クエビ娘 「君があまりにも乗り気なものだから、間違いだと言い出せなかったそうだよ」


幼妻エルフ 「乗り気だったのかよ」


王子 「いや、やれるかなと思ってね……」


ワサワサワサ


幼妻エルフ 「何をだよ。脚を動かすなよ」


王子 「はっはっは。良いぞ、だいぶ操作に慣れてきた」

王子 「この格好のままで修行するわけにはいかないだろうか」


クエビ娘 「この船に乗っている間だけは、ぜったいにやめてほしいね」


ハーピィ 「…………」




王子 「せっかくなじんできたと言うのに……」


幼妻エルフ 「さっさと脱げよ」


グイ グイ


王子 「うわっ。よせ、そんなに無理やり脱がすな……」


グイ ガサゴソ ガサゴソ

スポン


王子 「ふう、やれやれ……」

王子 「む、脱ぐと寒いな」


幼妻エルフ 「そりゃこんなもの着ていればそうだろ……」

幼妻エルフ 「うわっ、汗くさい!」

幼妻エルフ 「この着ぐるみ、王子くさい!」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「ハーピィも一緒にかいでみろ。お前、こんな奴の近くにいるんだぜ」


ハーピィ 「…………」


クン クン


ハーピィ 「!!?」


幼妻エルフ 「な、王子くさいだろ。これだから人間の雄は……」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ・ハーピィ 「…………」


クン クン クン クン


クエビ娘 「二人で着ぐるみに顔つっこんで何してんの」




王子 (他種族にとって人間の体臭はキツいのだろうか)

王子 (ハーピィは女神だし、葉巻でさえも花の香りがするし……)


クエビ娘 「あと、これも持っておくようにとさ」


キイイ ボワン

ゴト


海老骨の魔剣


王子 (反りのある幅広の剣。剣身が赤い)

王子 「……見た目よりだいぶ軽いな」


クエビ娘 「魔法を宿した剣。腰当てとともに、船長自慢の秘蔵アイテムさ」

クエビ娘 「これらはもともと女性用らしい」


王子 「なるほど」


クエビ娘 「一式揃っていなくて良かったね」

クエビ娘 「……この赤い装備一式のもとの持ち主は」

クエビ娘 「天地あまねくものの声を聞きその加護を受け、戦場で無敵を誇ったそうだ」


王子 「声……」


クエビ娘 「使いこなせるかは君しだいだが、少なくとも、それがあれば君の修行の助けにはなるそうだよ」




王子 (声か……)


幼妻エルフ 「はんっ」

幼妻エルフ 「よくあることさ。剣や鎧に大層な伝説をでっちあげるなんてこと」

幼妻エルフ 「とくに、魔法の力を付与したものなんかはな」


クエビ娘 「ハーフとはいえ猜疑心に満ちたロバ耳のエルフらしい臆病な考え方だ」

クエビ娘 「たしかに海の人々は陸の商人よりも、大げさな話を好む傾向にはあるけどね」


幼妻エルフ 「今度オレをロバ耳よばわりしてみろ」

幼妻エルフ 「胃壁ひっぺがしてやる」


王子 (修行に役立つということは、声とは自然の声のことなのだろうか)

王子 (天地あまねくものの声……まさか)

王子 「……いや、そうか」


幼妻エルフ 「王子?」


王子 「驚いたぜ。初代えびゆで師が、女性だったとはな」


幼妻エルフ 「……王子?」


ハーピィ 「…………」





■幼妻エルフ(黒花エルフ)
http://i.imgur.com/gWZJtO6.jpg

■ダーク幼妻エルフ
http://i.imgur.com/61px4Fi.jpg


画像はイメージです
実際の幼妻エルフはもっと妻です





王子 「では、このえびゆでシリーズ、ありがたく使わせてもらうよ」


クエビ娘 「うん、大事につかっておくれよ。なにせ、自慢の秘蔵アイテムだからね」


幼妻エルフ 「だったらちゃんと手入れしておけよ。腐らせてんじゃないよ」


クエビ娘 「あーあ、出た出たエルフの悪い癖」

クエビ娘 「潔癖症といか神経質というか細すぎるというか口うるさいというか、高慢ちきというか尊大というか」

クエビ娘 「そんなんだから結婚できないんだよ、エルフたちは」

クエビ娘 「何だよ汚れなき種族だとか言って、実際は腫れもの扱いで手をつけてもらえないだけじゃないか」


王子 「ほう、エルフをそう評価する人には初めて会ったな」

王子 「だが大丈夫さ。こいつはわりと汚い方のエルフだから」


幼妻エルフ 「おい」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「こら」




ハーピィ 「…………?」


幼妻エルフ 「そういうときは嘘でも良いから嘘って言えよ、ハーピィ」

幼妻エルフ 「良いか、オレは汚いんじゃない。腐っているだけだ」


王子 「ハーピィに変なことを教えないでいただけないか」

王子 「汚いというのは、悪い意味で言ったんじゃない」


幼妻エルフ 「悪い意味だろ」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「うそだろ……」


クエビ娘 「とんでもない発言にも聞こえるけどね」

クエビ娘 「さてと、ここに居ると何だかおかしな感じだし、ボクは戻らせてもらうよ」


王子 「ああ。マスター・ロブにも改めて礼を言うと伝えておいてくれ」

王子 「じゃあ、これを返そう」


 着ぐるみ『フナムシ』 (王子のみ装備可)


クエビ娘 「…………ああ、うん」




王子 「どうした、元気がない」

王子 「ませた君はフナムッシーくんが嫌いなのかな」


幼妻エルフ 「老若男女だいたい嫌いなんじゃないか」


クエビ娘 「いや、うん。いや、嫌いだけどね」

クエビ娘 「そうじゃなくてさ。これ、持ってかえるのがしんどいなと思って」


王子 「腰当てや剣みたいに、魔法でパッと手早くできないのかい」


クエビ娘 「ああ、あれね。あれは色々とタネがいるんだよ。ボクの蒸気杖は特殊だし」


王子 「ふむ。魔法で何でもできると思ってはいけないか」

王子 (しかし、葉巻なら軽くできそうな気もしてしまうな……)


クエビ娘 「……しかたない」

クエビ娘 「着ていくとしよう」


ゴソ ゴソ




ガチャガチャ ワイワイ


クエビ娘 「…………」

フナムシクエビ娘 「…………うーん」


王子 「…………」

王子 (着ぐるみの重みでうつ伏せになってしまっている)


幼妻エルフ 「……ケケケ」


ハーピィ 「…………」


王子 「…………」

王子 「大丈夫かい」


クエビ娘 「ああ、まあね」


モソモソ ワサワサ


幼妻エルフ 「うわっ」


王子 「うつ伏せだと本当に巨大なフナムシに見えるな」


クエビ娘 「カメのかめモンの方が人気が出るのも分かるだろう。うつ伏せになると特に」


王子 「ああ、かめモンは知らないが……」


クエビ娘 「さあて、這っていくとなるとどれだけ時間がかかることやら……」

クエビ娘 「じゃあ、またね。王子どのは、仕事を忘れないように頼むよ」


王子 「分かっている。夕すぎに」


クエビ娘 「ふう、やれやれ……」


ノソ ノソ ワサ ワサ


王子 「死にかけの虫のように帰っていく。あわれな……」


幼妻エルフ 「そう言うお前はあれの中にいたんだぜ」


ハーピィ 「…………」




シャンシャシャ シャンシャシャ

ボン ボン バン ボン

ジャッ ジャー プァ ボー


王子 「酒場の楽隊か」

王子 「ふむ……」


幼妻エルフ 「……フフフ」

幼妻エルフ 「おや、王子さま? 歯の浮くような言葉で褒めちぎったりしないのか」


王子 (……葉巻。会って間もないころの口調だ。しかも同じようなことを聞かれた気がする)

王子 「……おれは音楽を称賛するのに多くの言葉を使わないのさ」

王子 「音楽を音楽以外の型に流し込むのは愚か者のやることだと、賢言集にもあったしな」


幼妻エルフ 「へえ、じゃあ音楽を言葉で表したりするのは愚か者なのか」

幼妻エルフ 「あの音楽、しっとりして好きだけどな」


王子 「……まあ、少なくとも聞いた音をそのまま文字にするようなのは」

王子 「馬鹿者のやることさ」


幼妻エルフ 「馬鹿者か」


王子 「大馬鹿者かな」


シャンシャシャ シャンシャシャ

ボン ボン バン ボン

ジャッ ジャー プァ ボー


幼妻エルフ 「良い音楽だ」


王子 「ああ、良い音楽だ」


ハーピィ 「…………」




ろうそく職人(人間をやめる前)
http://imgur.com/Z2kYjyW


タコに襲われたのは
そばかす、眼鏡時代より以前ということで……



■領主の城時代からのろうそく職人


1スレ開始前

こっそり飼っていた悪戯狐が死亡
悲しさをまぎらわすため城の調理場で盗み食うようになる
そばかす、眼鏡ともになし

王子が釣ってきた巨大タコに調理場で襲われる
盗み食いをやめる

盗み食えないストレスとタコの恐怖で鬱になる
そばかすができる

仕事の合間に軽装メイドの部屋でちらっと読んだ
BでLな書物に衝撃を受ける

寝る間を惜しんで書物を読みあさる
少し元気になる
猫背になる
視力が落ちていき眼鏡をかけるように

城の照明がろうそくから魔法の火へと、蛇の生殺しのようにかわっていく
こっそり魔法の火の勉強をはじめる
失職への恐怖から鬱状態がデフォルトになる


1スレ開始

秘密の任務を受ける
かくし牢屋で貝殻の勇者と出会う
貝殻の勇者を崇拝するようになる

王子とハーピィから悪質なストーカー行為を受ける
骨仮面者(黒花エルフ)に目をつけられる
貝殻の勇者とともに城を出る

王子たちと合流
妖精の領域での恐怖体験でプッツンハジける
家畜化の呪いを中途半端に受け尻尾と耳がはえる
葉書エルフ(黒花エルフ)の弟子になる
他人に甘えることを知る
霊、炎系の魔法に目覚める

分身の魔法をおぼえそうになる
黒花エルフをナメはじめる
黒花エルフに母性を求める

現在のろうそく職人へ



>>503 ミス


■ろうそく職人(人間やめる前)
http://i.imgur.com/Z2kYjyW.jpg


■馬車幽霊(星魔法使い)
http://i.imgur.com/D4Gf6F1.jpg





シャンシャシャ ボン バン



王子 「…………」


幼妻エルフ 「……フフフ」


王子 「それで」


幼妻エルフ 「あん?」


王子 「何かあるのだろ。試したいこととやらが」


幼妻エルフ 「あの日、そんな会話あったかな」


王子 「あの日はおれが地方領主の息子として生まれた日の次に最悪な日だ」

王子 「できれば思い出したくない」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「ケケケ……つまりオレにとってお前が生まれた日の次に最高の日というわけだ」

幼妻エルフ 「果実酒ができるたびに思い出してやる」




王子 「……そうかい。ならば良いさ」

王子 「フナムシの着ぐるみから解き放たれ身軽になったこのおれが、お前に」

王子 「あの出会いの日のことを思い出すたび否応なく壮絶なくすぐったさもよみがえるよう」

王子 「その肢体にしこたま刻み込んでやる。覚悟しろ」


ワサワサワサワサ


幼妻エルフ 「!! おいおい……な、なんだよその指の動き」


王子 「フナムシの脚の動きをイメージしてみたんだ」

王子 「おれの必殺技だ」

王子 「くすぐりの」


幼妻エルフ 「やめろよ。何か見るだけでむず痒い。気持ち悪い……!」


王子 「ふはははは……世界が腐っているだと?」

王子 「甘ったれるな」

王子 「お前がこれまで見ていた世界がいかに優しさに溢れていたか」

王子 「その身で味わうが良い!」


ワサワサワサワサ


幼妻エルフ 「う、ううっ……」

幼妻エルフ 「へ、へへへ、その程度でこの黒花たるオレを止められると思うなよ」


王子 「おいおい、そう言いながら耳に元気がないぜ」

王子 「……この技をろうそく職人に教えたらどうなるかな」


幼妻エルフ 「!!」


王子 「ろうそく職人はきっとすぐに覚えるぞ、こういう何か分からない無駄な感じの技は」

王子 「なぜなら今のあの子がそうだもの」


ワサワサワサワサ


幼妻エルフ 「……わ、分かった。今回はオレが折れてやるよ」

幼妻エルフ 「もうやめろよ、それ見てるだけでゾワゾワするんだよ……!」


王子 (ここまで有効だとは。もしや、エルフはくすぐりが弱点なのか)




幼妻エルフ 「ちぇ、何だよ。たまにはしっとり飲もうと思ったら」

幼妻エルフ 「そんなんだから、女にも最終的に一生モテないんだよお前は」


王子 「最終的に一生とか言うな」

王子 「気分良く飲む前にまず、うちであんな薬を売りさばいていたことを思い出すべきだな」

王子 (葉巻以外のエルフにも試してみたいもんだ。青花エルフや先生に)

王子 (先生に)


ハーピィ 「…………」


王子 (……ハーピィの視線が痛い)


幼妻エルフ 「最近それ言うの多いんじゃないか」

幼妻エルフ 「昔は、エルフと人間の感覚は違うからと大らかだったのに」

幼妻エルフ 「お前はオレを友とか言いながら、じつは嫌いなんじゃないのか」


王子 「……いや、たしかにお前はおれの貴重な友人だよ」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「じゃあ好きなのか」


王子 「その聞き方はどうかと思うな」

王子 (くそう、馬車幽霊め。もう少し手を抜いて葉巻の体をつくるべきだ)




幼妻エルフ 「どうなんだよ、ん?」


ズイ


王子 「もう酔ったのかお前」

王子 「お前の方こそ、最近やけに女々しくなったんじゃないか」


幼妻エルフ 「…………」


王子 「…………」

王子 「……好きか嫌いかで言やあ、まあ好きだよ」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「…………あ」

幼妻エルフ 「あ、そう。ふうん」

幼妻エルフ 「じゃあ危ない薬を売りさばくオレのことが好きなのだな」


王子 「飲みすぎだ。顔が赤いぞ」




王子 「薬を売りさばいていたお前を、人としてすべて許すわけにはいかないな」


幼妻エルフ 「じゃあ、オレのことが嫌いなんだな」


王子 「なんでそうなる。いやに極端だな今日は」

王子 「……薬を売りさばくお前のことは嫌いなのだろうな」

王子 「どんなに親しい間柄でもあるだろう、そういうのは」

王子 「妹にも、まあ親しく思っているのは今やおれの方だけだが、人前でズボンの……」

王子 「こう、後ろのしわをなおす癖をやめてほしいと密かに思っているし。ぴったりしているから」

王子 「しかしだからといって、それをおれが言ってしまったらあれだろう。血の繋がりとか修復不可能になってしまうだろう」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「つまりオレのことは嫌いなんだな」

幼妻エルフ 「妹の尻しか見ていないクソ王子」


王子 「違う。妹の尻を見て欲しくない王子だ、おれは」

王子 「だからそう極端に……」

王子 (……なるほど)

王子 「ああ、お前のことなんか嫌いだね」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ」

王子 「まあ、好きだな」




ハーピィ 「…………」


王子 「何の罰なんだって話だよ。質問、別のやつで良いだろう」

王子 「好き、なんて、文字で見るだけでもけっこうこそばゆいんだよ。中途半端でそこが生々しいというか」

王子 「愛している、の方がまだ思い切りよく言いやすい」


幼妻エルフ 「王子、お前は」

幼妻エルフ 「オレのことが好き! だが、同時にある程度嫌いでもあるわけだ」

幼妻エルフ 「おおむね好きというわけだ」


王子 「なにか違和感あるな」

王子 「……まあ、そういうことになるんだろうな」


幼妻エルフ 「すべて好き! というわけではないが、好き! というとハーピィは何も言わなかった」

幼妻エルフ 「ある程度嫌いなことは確かなのに、嫌いというとハーピィは口をひらいた」


ハーピィ「…………」


王子 「お前も好きが嫌いなんじゃないか。だいたいそういうものとは対極にありそうだし」


幼妻エルフ 「好きなんじゃないか。お前がオレを好き! なくらいには」


王子 「そこそこか」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「おおむねか」


幼妻エルフ 「ケケケ……」

幼妻エルフ 「ハーピィから見たら、王子はオレのことを好き!」

幼妻エルフ 「では、王子がどのくらいオレを嫌えば」

幼妻エルフ 「ハーピィから見て、王子はオレのことを嫌いだと思うのだろうな」




王子 「どこまでが晴れで、どこからが曇りか線引きが分かりにくいということか。雨や雪は分かりやすいが」


幼妻エルフ 「いや、線引きで言うならもっと分かりにくいものだ。それこそ人それぞれに存在するような」

幼妻エルフ 「人間の心はそうなのだろ」

幼妻エルフ 「妖精と比べて、心に不純物が多いのだろ」


王子 「ふむ」


幼妻エルフ 「ハーピィの、ハルピュイアという種族にはあるんだろう」

幼妻エルフ 「人間の心のここまでが嘘で、ここからが本当だという基準のようなものが」

幼妻エルフ 「他の種族とは違ったかたちで」


ハーピィ 「…………」


王子 「ううむ……」


幼妻エルフ 「他の個体がどうかは知らんが、ハーピィはその辺かなりゆるいと言える。ガバガバだ」


王子 「ガバガバか」


幼妻エルフ 「考えてみればそうだぜ」

幼妻エルフ 「もとの主人の話を信じるならば」

幼妻エルフ 「ハルピュイアってお前のそばから離れないんだろ」


王子 「ああ。おれたちは一つと言っても過言ではない」

王子 「つまりおれが、いや、おれたちがハーピィだ」

王子 「そして王子でもある」


ハーピィ 「…………」


ジャンッ


幼妻エルフ 「そうか、話を続けるぜ」

幼妻エルフ 「頭だいじょうぶか、おまえら」


王子 「続けろよ」




幼妻エルフ 「そこからしてゆるいじゃないか」

幼妻エルフ 「お前ら、離れようと思えばわりと離れられているじゃないか」

幼妻エルフ 「ハーピィが本を選ぶときとか、馬車幽霊の館で乗馬したときとか」

幼妻エルフ 「他にもちょこちょこ離れられているじゃないか」


王子 「たしかに」

王子 「しかし、そういうときはかならず不安そうな顔になってそばに戻ってくる」

王子 「長い服の裾を軽やかに揺らし、とことこと駆けてくるハーピィを見て思うんだ」

王子 「ひとしく降り注ぐ太陽と月、そして、この世界という存在に、ありがとう……と……」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「その仮面お前の顔面でたたき割って良いか」


王子 「やるなら面前でたたき割れ」




幼妻エルフ 「そんな格好良い仮面つけてそんな言葉吐いちゃったら駄目だろ」

幼妻エルフ 「フナムシのときに言えよ、そういうの。肘でぶん殴ってやるから」


王子 「何だよ。お前なんか無情の風じゃないか」

王子 「お前がおれの必殺技になると言ったとき、ちょっと嬉しかったが」

王子 「ぱっと思いついた技の名前はなんだと思う」

王子 「無情ハリケーンだぜ」

王子 「どうしてくれるんだよ」


幼妻エルフ 「それはお前のセンスの問題だろ」


ハーピィ 「…………」




幼妻エルフ 「……まあ、それでも良い方さ」

幼妻エルフ 「うちの勇者さまは必殺技に何て名付けたと思う」

幼妻エルフ 「ザパーンドドドドーン、だぜ。音だぜ」


王子 「なんだと」


幼妻エルフ 「魔ンボウを倒した際、勇者の記録係をつとめるエルフに自信満々にそう言ったんだよ」

幼妻エルフ 「オレも記録係も、しばらくあいた口が塞がらなかったよ」


王子 「まあ、彼女らしいといえば、らしいかな……?」


幼妻エルフ 「だから実はお似合いなんだよあの勇者と従者は」

幼妻エルフ 「愚かっぷりが」


王子 「そういえば、彼女はいったいどういう生まれなんだ」

王子 「立ち居振る舞いにどこか気品とズレを感じるが」


幼妻エルフ 「さあな。青花の奴が見つけてきたそうだが」

幼妻エルフ 「どうやら裕福ではあったらしい」

幼妻エルフ 「少なくとも、槍や歌を学ぶ余裕があるくらいには」


王子 「そうなのか」

王子 「……お前のかかわることにはよく青花エルフが絡むな」


幼妻エルフ 「一応、あの腐った里ではオレの育ての親らしいからな」


王子 「ふうん」


ハーピィ 「…………」




シャンシャシャ バン ボン

ザワザワ


王子 「で、結局お前は何が言いたいんだよ」


幼妻エルフ 「たとえば灰色という言葉がないとして」

幼妻エルフ 「灰色を見せられ黒か白かで答えねばならないとしたら」

幼妻エルフ 「どう答えたらハーピィは黙っているんだろうな」


王子 「おおむね黒い灰色なら黒、おおむね白が多い灰色なら白か……」


幼妻エルフ 「じゃあ、黒と白がまったく同じだけ含まれる灰色なら」


王子 「ふむ……」


幼妻エルフ 「ハルピュイアが、嘘を正さないと黙らない種族だとして」

幼妻エルフ 「嘘を正した結果がまた同じ量の嘘となる二択から逃れられない場合」

幼妻エルフ 「どうなるのかと思ってね」


王子 「魔法使いは、面倒くさいことを考えるもんだな」


幼妻エルフ 「ハルピュイアという種族として欠陥かもしれないハーピィのゆるさが」

幼妻エルフ 「お前にとって救いであると良いね」


王子 「……さて、そろそろ仕事に向かうとしよう」


幼妻エルフ 「ケケケ」


ハーピィ 「…………」




キャプテンロブスターの城 船員浴場 脱衣所



ゴウン ゴウン


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「…………」


ワイワイ キャッキャ ガヤガヤ


エビ少女A 「わーい」


トタトタトタ


王子 「よいしょ」


スッポン


エビ少女A 「わーい、お風呂だあ」


カララ トタトタトタトタ


王子 「あんまり走ると危ないぞお」

王子 「さあ子供たち。殻もとい服を脱がすからどんどん来おい」


エビ少年たち 「わーい」


エビ少女たち 「わーい」


ろうそく職人 「わーい」


ク魔エビ娘 「わーい」


トタトタトタ

スッポン

トタトタトタ

スッポン




トタトタ スッポン

トタトタ スッポン


王子 (……似た服装の子供たち)

王子 (しかし、皆が皆、同じ着方をしているというわけでもない)

王子 (ひとりひとり、脱がし方を微妙をかえなくてはならない)

王子 (それを考えずに速さのみを追求すると、引っかかったりしてかえって無駄が出てしまう)


トタトタ スッポン


王子 (これは自然の声にもいえること)

王子 (同じ花でもそれぞれ形が違うように、風はただ風というわけではない)

王子 (経験や先入観で目をくもらせず、つねに感覚を研ぎ澄ましておかなくてはならない)

王子 (……自然の声を聞くことに慣れはじめたおれには、ありがたい教えだ)

王子 「分かってきた。分かってきたぞ……」

王子 「マスター・ロブ。あなたがこの修行を通して、おれに伝えたいことが……!」


トタトタ スッポン




王子 「……ふふ」

王子 「ふわははははは……!」

王子 「分かってきた、分かってきたぞ!」


キャッキャッ ザワザワ

トタトタ スッポン

トタトタ スッポン


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「……王子」


王子 「……おお」

王子 「ははは、どうだ。これが、お前が見学したいと言ったおれの仕事だ」


幼妻エルフ 「うん」

幼妻エルフ 「けっこうがっかりした」


王子 「はっはっはっはっはっ……!」


ハーピィ 「…………」




…………


王子 「……ふう」

王子 「ひと仕事終えると気持ちが良いな」


幼妻エルフ 「脱衣所で子供の服を脱がせるだけなんて」

幼妻エルフ 「そんな仕事も修行も聞いたことないぜ」


王子 「おれもだ」

王子 「だが、殻むきは海老茹での基本ともいえる動作」


幼妻エルフ 「むいたのは服なんだよ」


王子 「そして、万物の根幹ともいえる」

王子 「……実際にやってみて分かる」

王子 「おれはえびゆで師として、自然の声の聞き手として、確実に成長した」


幼妻エルフ 「…………」


ヒュンッ


王子 「…………」


パシッ


幼妻エルフ 「……!」


王子 「……危ない、危ない。うしろから急に殴りかかってくるなど、黒花の名がおちるぞ」

王子 「相手がおれで…………よかったな」


ハーピィ 「…………」


王子 「しかし、これがエルフの長たるもののコブシか」

王子 「フッ……。小さな………ものだな」


幼妻エルフ 「死ね」




幼妻エルフ 「なんで急にそんなに気持ち悪くなってるんだよ」

幼妻エルフ 「もう手をはなせよ」


王子 「はなしたいけど、お前がしっかり握ってるんじゃないか」

王子 「両手で」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「まあ、たしかに自然の声を聞く力は上がっているようだ」

幼妻エルフ 「おれの本気に近い不意打ちを」

幼妻エルフ 「ただかわすのではなく、コブシと感じ取って止めるとは」


王子 「ああ。おれの感覚は研ぎ澄まされ、これからも成長していくだろう」

王子 「フッ……」


幼妻エルフ 「その笑いかたやめろよ」


ギュッ


王子 「手をはなせよ」




…………




キャプテンロブスターの船 甲板



見張りエビA 「前方の海、異常なーし」

見張りエビA 「……うちは規律が緩いから、お客さんが甲板でデートをするのは良いけど」

見張りエビA 「見張りとしては、できれば物陰でこそこそするのはやめてほしいな」


見張りエビB 「後方の海、異常なーし」

見張りエビB 「武器の稽古をするもの好きも、少なくないけどね」


見張りエビA 「右側の海、異常なーし……」


キイイ ギイイ チャプン トポン

ボウ ボウ


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「てい、やあ!」


ヒュッ ブオン


王子 「……! むっ!」


ヒョイ ガキン


王子 「くはっ、勇者どのの槍さばきは今日もさえていらっしゃる……っ」

王子 「おっと」


グラ


貝殻の勇者 「ぜやあ!!」


ギュン


王子 「うわっ……!」


ガキン




貝殻の勇者 「……お見事」


スチャ


貝殻の勇者 「王子どのに攻撃を当てるのは、また一段と難しくなりましたね」


王子 「いやいや、こちらは攻撃する隙も奪えない」

王子 「……揺れる船の上での戦いは、地上のようにはいかないな」


貝殻の勇者 「そうですね。とくに王子どのは足を使いますから」

貝殻の勇者 「今はそうでもありませんが、床が濡れて滑るようになると」

貝殻の勇者 「さらに大変でしょう」


王子 「何か靴を探してみるか……」


ハーピィ 「…………」




キイ ギイイ トプン ザパ


貝殻の勇者 「船出は雨でしたが……良い天気」


王子 「ああ、満天の星だ。まわりには島のかげ一つ見えないし」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「風に吹かれて海を眺めているだけで、絵になりますね、ハーピィさんは」


王子 「だろう」

王子 「勇者どのも、海が似合ってらっしゃる」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「ありがとうございます」

貝殻の勇者 「あなたの城でそれを聞いていたら、私は違った印象を受けていたでしょうね」

貝殻の勇者 「領民たちや領主どのの冗談をまに受けて、あなたのことを見ていましたから」


王子 「ははは……」

王子 「何と言っていたのかなうちのモチ焼き親父どのは」


貝殻の勇者 「ふふっ……とても私の口からは言えません」


王子 「そ、そうか……」

王子 (言えないほどとは……)




鎧の傭兵 「…………ッ。 ………ッ!」


トカゲ斧使い 「…………!」


軽戦士 「…………ッ」


ブン ブオン ブオン


王子 「……けっこういるな。稽古熱心な人たちが」


貝殻の勇者 「南東地方でのお祭りが近いですからね」

貝殻の勇者 「その中で多額の賞金が出る武芸大会も開かれますから」

貝殻の勇者 「それに向けて頑張っているのでしょう」


王子 「そうか、もうそんな時期か」


貝殻の勇者 「騎士しか参加できないものと違って、参加は自由」

貝殻の勇者 「ふむ、多くの猛者が集まるのでしょうね」


王子 「裕福な南東の祭りか。うちの男女服装入れ替え祭や、流星尻相撲大会なんかと違って」

王子 「帝国五大祭に数えられるほど人気があるからなあ」


貝殻の勇者 「ずいぶんと開きのある比較ですが……」


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                       ∩  (\    /)

           ⊂ヽ゚д゚ )ヽ  ( ゚д゚ )ノ ))) \( ゚д゚ )/  ( ゚д゚ ) ミ
 lll ノ( ゚д゚ )ヽ lll  `ヽ  ヽ' ))  ( 二つ     |   |   γ 二つ つ
  ミ、_つ とノ彡    ノ   ノ   ノ 彡ヽ    |   |    {   (
   (_( ̄)_)      し' ⌒J   (_ノ ⌒゙J     し ⌒J    ヽ,_)ヽ,_)




王子 「どうかな、南東地方には寄る予定だし、間に合えば勇者どのも出場してみては」


貝殻の勇者 「腕を磨くのに良いかもしれませんが、あまりそういうことは気が進みません」

貝殻の勇者 「それよりも、いろいろな出店を見てまわりたいですね」


王子 (食べ物の店ばかりなのだろうな)


貝殻の勇者 「んんー……っ」

貝殻の勇者 「はあ、良い空気。さて、稽古の続きをしましょうか」


王子 「ああ。せいぜい頑張るとしよう」

王子 「……ろうそく職人も魔法の修行で悲鳴を上げていることだし」


貝殻の勇者 「黒花どのと馬車どのがつきっきりですからね」

貝殻の勇者 「さぞ大変でしょう……」


王子 「二人とも、けっこう容赦ないからな……」




貝殻の勇者 「残念でしたね」


王子 「流星尻相撲で我が男装の妹が重装美女に敗れたことがかい?」

王子 「おれ、欠席していたから見てないんだよな……」


貝殻の勇者 「それは知りませんが」

貝殻の勇者 「ここに黒花どのがいなくて、残念でしたね」


王子 「……ああ」

王子 「いたら、さっきのおれの転倒を見て笑い転げていただろうよ」


貝殻の勇者 「ふふふ……」


王子 「始めよう」


ハーピィ 「…………」




カキ ガキン キイン

カキ ガキン キイン


貝殻の勇者 「せい、はあっ……!」


王子 「……ッ、てやっ!」

王子 (剣で槍を相手にしたことはあるが、やはり勇者どのはやりにくい)

王子 (とくに攻めと守りの切りかえが速い。自然の声を聞いたところで、特に意味がない)

王子 (おれが槍に持ち替えたら、かえって余計に苦戦しそうだぞ)


キン ガキン ギイン


ハーピィ 「…………」


種帽子 「…………」


ハーピィ 「…………」


コツ コツ コツ


??? 「……やあ、いや、これは珍しい黒い翼腕のかただ」


ハーピィ 「?」


??? 「こんばんは」

三白眼 「良い、月夜でございますな」


ハーピィ 「…………」




キン ガキン


王子 (黒服の、ひょろ長い狐みたいな男がハーピィに話しかけている)

王子 (あまり無いことだ。しかも、腕は隠しているのに翼に気づいたような口ぶり)

王子 「すまない、勇者どの」


貝殻の勇者 「ええ、わかりました」


貝殻の勇者・三白眼 「休みましょう。ちょうど喉がかわいたところです」


三白眼 「やあ、失礼。どうぞご心配なく。悪いことをするつもりはありません。ただ挨拶をしただけ」

三白眼 「私はおとなしくしています」


貝殻の勇者 「…………」


三白眼 「いや、本当」


王子 (また面倒そうなのが来たか)




ハーピィ 「…………」


王子 「失礼。事情があって、彼女はあなたに挨拶を返すこともできない」


三白眼 「それは残念」

三白眼 「いろいろと話をしてみたかった」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「失礼ですが、あなたは……」


三白眼 「旅の芸人です」

三白眼 「と言っても、役者が自分の役割をド忘れしたときくらいしか出番はありませんが」


王子 「プロンプターか」

王子 (さて、このところ人質体質らしい葉巻がここにいないのは)

王子 (良いのか悪いのか)


三白眼 「先ほどは失礼、海色の髪の美女。職業病で、あるまじき無礼を」

三白眼 「お詫びに、この何かの肉を差し上げます」


貝殻の勇者 「良いかたのようですね」


王子 (よし、とにかく気は抜けないな)




三白眼 「人間で例えると、このあたりの肉です」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「なぜ人間で例えるのですか」


王子 「ハーピィの腕を指ささないでいただきたい」


三白眼 「おいしゅうございますよ」

三白眼 「人間に例えるとこのあたりの肉」


ハーピィ 「…………」


バッ


貝殻の勇者 「だからなぜ人間で例えるのですか」


王子 「腕をおろしなさい、ハーピィ」




三白眼 「人面鳥の手羽などと言ったら、気味悪くて食べたくなくなるかと思って」


貝殻の勇者 「人間の腕の方が食べたくありませんが」


王子 (ハーピィのことを知っていてわざとやったのだろうか)

王子 (だとしたら油断ならないが、何かハーピィについて新しいことが分かるかもしれない)


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「しかし、ありがとうございます」


貝殻の勇者・三白眼 「首さえ切り落としてしまえば人面鳥は最高の鳥肉と言いますから、食べるのが楽しみです」


三白眼 「なんとまあ! なかなか肝のすわった美女ですね、あなた」




三白眼 「……やあ、いや、失礼」

三白眼 「気をつけてはいるのですが」


貝殻の勇者 「……ええ、いえ、お気になさらず」


王子 (まずいぞ。大らかだが真面目すぎる勇者どのと、この男、相性が悪い。同性ならまだ良かっただろうが)

王子 「……しかし、いやあ、このような船に乗り合うとは奇妙な縁もあるものだ」


ハーピィ 「…………」


三白眼 「まったくです」

三白眼 「しかも、若いハルピュイアまで乗っているなどとは思いもしなかった」


王子 (ハルピュイアと言ったな。たしかにハーピィのことを知っているらしい)


三白眼 「良き日の出会いを祝して、食事でもご一緒したいくらいです」


王子 「ああ」


貝殻の勇者・三白眼 「夕食をすませてしまったことが悔やまれますね」


三白眼 「まったくです」


貝殻の勇者 「…………」


王子 (やはり葉巻がいた方が良かっ……たとも言えないか。あいつも性悪な妖精を気取っているし)

王子 (まったく、小さなニンフなら可愛げもあったろうに)

王子 「ははは、奇妙な特技だ」


三白眼 「しかし、私が言うのもなんですが、もう勘弁していただきたい」

三白眼 「美女どのの声を前にしては、私の声のつまらなさが浮き彫りとなってしまう」


王子 「あなたには悪いがそれは仕方のないことだ」

王子 「この、妖精たちですら一目置くであろう美しい心を持つ美女の、その声に並ぶ美しい音はなかなかあるまい」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「……そうやって町で女性を口説いていたのですね」

貝殻の勇者 「あの黒花どのが呆れ顔で話すのも頷けます」


王子 「ははは……」

王子 (葉巻がここにいればぶん殴れたのに)




貝殻の勇者 「ハーピィさん。浮気な人を見初めてしまって、大変ですね」


ハーピィ 「…………」


王子 「いや、さっきのは素直にたたえたのであって」

王子 「決してやましい気持ちで言ったわけでは……」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「あら、それは残念」


王子 「うん?」

王子 「……それは」


貝殻の勇者 「……ふふ」


三白眼・貝殻の勇者 「私もこの手の冗談くらいたしなんでおります」


王子 「台無しだ」


三白眼 「失礼」


貝殻の勇者 「クスクス……」


ハーピィ 「…………」


作者の書き込みが2ヶ月以上ないとHTML化の対象になるらしいから少しでも書いといた方がいいと思う

>>554 ありがとうございます




貝殻の勇者 「ふむ、そうですね」

貝殻の勇者 「これは……ブラウニーさんに調理を頼んでみましょうか」


王子 「馬車幽霊はろうそく職人につきっきりだものな」

王子 「まったく、魔法使いの師というものはみんなああなのかな」

王子 「あの葉巻でさえ過保護というか」

王子 「ふむ……おれも先生にちゃんと弟子入りしておけば過保護に……」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「黒花どのは、ああ見えて春の花の女王のように優しいかた」

貝殻の勇者 「私も初めてあのかたと会ったときは面食らいましたが」


王子 「……一度はっきりと言っておこうと思ったが、勇者どの」

王子 「あなたは人に優しすぎる。そして人を信じすぎる」

王子 「そのせいで、何度も危険な目にあったのだろう」




貝殻の勇者 「それは……まあ、否定はできませんが……」

貝殻の勇者 「しかし、私は勇者。勇気の使徒、強き心の体現者でありたいのです」

貝殻の勇者 「勇気。美しく、ともすればこの身すら焼き尽くすほどまばゆい理想へと歩む勇気」

貝殻の勇者 「勇気。漆黒の闇の中にあって、泣く声に迷いなく手を差し伸べる勇気」

貝殻の勇者 「弱くても良い。ただ勇気を胸に灯していれば、人は勇者であるのです」

貝殻の勇者 「人の心の有り様を、勇者と呼ぶのだと、私は思うのです」


王子 「勇者どの……」




貝殻の勇者 「裏切られるのは悲しい。騙されるのは悲しい」

貝殻の勇者 「だからといって、私は信じる勇気を失いたくない」

貝殻の勇者 「騙され、傷つこうとも、私は受け入れて前へ進みたいのです」

貝殻の勇者 「体は尽きようとも、勇者でありたいのです」


王子 「…………まいったな」

王子 「これまで何度も、あなたの気高い心を目にする機会があったのに」

王子 「おれは分かっていなかったようだ」

王子 「勇者どの、軽薄な忠告をしてしまい、申し訳ない」


貝殻の勇者 「王子どの……」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「良いのです。私のことを心配していただいてのこと」

貝殻の勇者 「ありがとうございます」


王子 (……いま、ちらっとハーピィを見なかったか)




王子 「けれど勇者どの、これだけは言っておきたい」


貝殻の勇者 「何でしょう」


王子 「葉巻はおれにとって無二の存在で、良いところも少なくはないが」

王子 「基本、掛け値なしのクズだ」


貝殻の勇者 「待ちなさい」


王子 「……ああ、海の風が邪魔をしてしまったか」

王子 「つまり、葉巻は」


三白眼・王子 「奴はどうしようもないクズだ」


貝殻の勇者 「黙りなさい馬鹿な男たち!」


ハーピィ 「…………」



三白眼 「やあ、いや、あなたひどいこと言いますね、仮面の人」


貝殻の勇者 「何なのですか、あなたと黒花どののその関係は……!」


王子 「いや、違うんだ」

王子 「あいつは良い奴だし、生まれたときから一緒じゃないのが悔やまれるくらい、おれにとって大事な奴だが」

王子 「あいつをどうにか言葉で表そうとしたら」

王子 「クズ以外に無いんだよ」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「大事な人……で、良いではないですか!」

貝殻の勇者 「はあ……。初めてです、あなたみたいな……その……」

貝殻の勇者 「あなたみたいな人は」


王子 「いや、本当にすまない」





キイ ギイイ チャプ チャプン

ボウ ボウ


貝殻の勇者 「まったく、良い夜だというのに……」


三白眼 「すいませんねえ、雰囲気を壊してしまったようで」


王子 (……勇者。勇気の者か)

王子 (騙されることを覚悟した上で、迷いなく信じたいとは)

王子 (貝殻の勇者どのの器の大きさに触れられた気がする)

王子 (狂気的にも感じたが)

王子 (その考えに至れない者にとっては、そんなものなのだろう)

王子 (……そばにいて分からないのも無理はない)

王子 (知らず知らずのうちに目をそむけていたのだろうな、おれは)

王子 (遥かに正しく清らかな者を見るのは、太陽を見るように危険なことだ)


ハーピィ 「…………」


王子 「……いや、すまないね、ハーピィ」

王子 「君を勇者や王の玉座の伴侶にはできないみたいだ」


ハーピィ 「…………?」


ギュ


王子 「……まあ、頑張ってみるさ」




三白眼 「ところで、美しい人。こんなものもあるのですが」


???キノコ(未鑑定)


王子 (キノコだ。かさは赤くて、白い斑点が……毒々しいな)


貝殻の勇者 「おや、立派なキノコ」


三白眼 「はい。立派でしょうこのキノコ」


貝殻の勇者 「ええ、とても立派ですねそのキノコ」


三白眼 「良かったら差し上げますよ」

三白眼 「この立派なキノコ」


貝殻の勇者 「まあ、その立派なキノコを?」


三白眼 「もちろん。しかし、問題があるのです」

三白眼 「食べても平気な立派なキノコか、食べたら死ぬかもしれない立派なキノコか」

三白眼 「不明なのです」


貝殻の勇者 「まあ、困った立派なキノコ……」

貝殻の勇者 「…………」

貝殻の勇者 「…………」

貝殻の勇者 「食べたら死ぬかもしれない立派なキノコを食べる勇気!」


ガバ


王子 (これは目をそむけたい勇気だな)


ハーピィ 「…………」




王子 「やめてくれ、勇者どの」

王子 「こんなところで、そんな危険を冒させるわけにはいかない」


貝殻の勇者 「食に命をかけずして何に命をかけるというのです」


王子 「あなたの価値観が、鳥肌が立つほどわけ分からない」

王子 「せめて魔王軍を倒すことに命をかけていただきたい」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「そうだ。できれば命をかける必要なく倒してほしい」


貝殻の勇者 「食と魔王軍打倒に命をかけずして、何に命をかけるというのです」


王子 「嘘であってほしい」

王子 「もしくはおれの耳が狂っちまったと思いたい」


三白眼 「食欲にとりつかれておりますな。甘いものではなく、立派なキノコでも女性は我を忘れるのですか」

三白眼 「さしずめ、肥満を恐れぬ勇気でございましょうか」


王子 「失礼だが、これが舞台ならあなたはプロンプター失格だ」


ハーピィ 「…………」




三白眼 「それでは言わせていただきますがね」

三白眼 「その立派なキノコ、食べるのはおよしなさい」

三白眼 「この甲板に、いま一番それを必要としている人がいるかもしれませんよ」


王子 (ふむ)

王子 「おお、そうだ」

王子 「勇者として、それは放ってはおけないんじゃあないかな。勇者として」


貝殻の勇者 「…………すいません」

貝殻の勇者 「恥ずかしながら、少々、我を忘れていたようです」


王子 「ははは……」

王子 (勇者どのとの付き合い方はこんな感じで良いのか……?)


ハーピィ 「…………」




三白眼 「では、そろそろ失礼しましょう」


王子 「ああ……」

王子 (あまり話を聞けなかった。後日、注意して探してみるか)

王子 (……何というか、ハーピィを連れていた淫魔の商人と同じにおいがするが)


貝殻の勇者 「肉、ありがとうございました」


三白眼 「やあ、いや、いいえ。ご丁寧にどうも」

三白眼 「……ああ、そうだ、あなた」


王子 「うん?」


三白眼 「良いですよ、さっきの言葉」

三白眼 「人を信じすぎないことです」

三白眼 「それがどんな生き物であれ、心の距離が近ければ近いほど、油断しないことです」


ハーピィ 「…………」


王子 「……それはどうも」


三白眼 「ろうそくは折れましたか?」


王子 「…………!」


三白眼 「失礼」


ギシ ギシ ギシ

キイイ バタン




貝殻の勇者 「風変わりな人でしたね」

貝殻の勇者 「この船には、いろいろな人が乗っているようです」


王子 「……あ、うん」

王子 (ろうそくのことまで知っていたとは)

王子 (詳しく話を聞いてみたいが、近づいてはならないものの気もする)

王子 (悪魔とかそういう輩は、相手の欲しがりそうな知識を小出しにして)

王子 (罠に誘い込むというし)


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「…………」


王子 (まずい。勇者どのの目が立派なキノコに釘付けだ)

王子 (……勇者どのはキノコ好きだったのか。おぼえておこう)




貝殻の勇者 「このまま……いやいや、この鳥の肉とあわせて……しかし」


王子 「勇者どの」


貝殻の勇者 「!」

貝殻の勇者 「……やっぱり生で食べようなどとは、してませんよ」


王子 (していたのか)

王子 「そのキノコをいただけないだろうか」


貝殻の勇者 「まあ、何ていやしい! この食いしんぼ!」


王子 「食べたいわけじゃない。そんなもの口に入れたくもない」

王子 「それを必要としている人を探そうと思うんだ」


貝殻の勇者 「この、カサまで立派なキノコを?」


ナデ ナデ


王子 「変な撫で方をしていないで……」


貝殻の勇者 「あの者の言うことを信じるというのですか」

貝殻の勇者 「あれは典型的な嘘つきの顔ですよ」


王子 (食べ物>勇者の生き様……か)




王子 「たしかにあの男は典型的な嘘つき、ひねくれものだが」

王子 「秘密主義のしゃべりたがりと見た」


貝殻の勇者 「ふむ」


王子 「そういった者は、求められると教えたがらないものだが」

王子 「求めているか分からない相手に何かを語るとき」

王子 「それは、自分の持っている秘密を見せびらかしたいときだ」


貝殻の勇者 「ほう」


王子 「しかし、秘密の中身を素直に教えるわけじゃない」

王子 「教えるのはあくまで、私はあなたの知らない秘密を持っていますよ、ということ」

王子 「相手がそれに食らいついてきたら、今度はもったいぶってはぐらかして楽しむ」


貝殻の勇者 「それは、嫌な人ですね」


王子 「そう、嫌な奴なんだ」

王子 「おれは嫌な奴のことは、なかなかよく分かる」

王子 「町の暗部で葉巻とかと接してきたからな」




ハーピィ 「…………」


王子 「誰も知らない場所に宝を埋めたのに」

王子 「その宝の地図をばらまく」

王子 「しかしその地図はバラバラ」

王子 「あの三白眼の男の秘密主義とは、それに近いかもしれない」


貝殻の勇者 「まあ、面倒な」


王子 「そう、面倒な奴なんだ葉巻のように」

王子 「三白眼の男の秘密主義は、他人がいて成立する面が強いように思う」

王子 「絶対的ではなく相対的な秘密主義者なのだろう」

王子 「他人と比べて秘密が多いだけ」

王子 「他人から秘密主義だと思われたいだけ」

王子 「だから秘密があることさえ知られないようにするのではなく」

王子 「秘密は守るが、その存在は、積極的に他人にちらつかせなきゃいけない」


貝殻の勇者 「それで、しゃべりたがりの秘密主義者ということですか」


王子 「そういった点で、見ようによっては、彼はじつは秘密についてそう厳格ではない」

王子 「大事な秘密の存在を教えたり、どうでも良いことを秘密めいて見せることもする」

王子 「大小に頓着なく、秘密は平等に秘密として、相対的な秘密主義の道具として利用する」

王子 「そして、彼が渡したそのキノコも……」


貝殻の勇者 「…………」


王子 「大か小か、何かしらの秘密の断片かもしれない」

王子 「だからあえて彼の言葉に乗り、そのキノコを必要としている人を探してみようと思う」

王子 「どうだろう、勇者どの」


貝殻の勇者 「…………」




貝殻の勇者 「……面白い話ですが、どうでしょうか」

貝殻の勇者 「あえて存在を明かし冗談や嘘を絡めることで、その秘密をより強固に守るということもあります」

貝殻の勇者 「このキノコにそこまで意味を見出そうとしなくても良いのでは」


王子 「そうかもしれないが、念のためだよ」

王子 「思わぬところで思わぬ収穫が……ということもあるし」

王子 「お願いだ、キノコを……」


貝殻の勇者 「いやです」


王子 「ばっさりか。あんなに話したのに」

王子 「いや、そう言わずに」


貝殻の勇者 「いやですいやです、これは私のキノコです」

貝殻の勇者 「ぜったい食べるのです」


王子 「勇者どの……」


貝殻の勇者 「……ふふ」

貝殻の勇者 「はい、どうぞ」


???キノコ(未鑑定)


王子 「……?」


貝殻の勇者 「ごめんなさい、さっきのは冗談」

貝殻の勇者 「月夜に甲板を散歩するのも気持ちよさそうです」

貝殻の勇者 「つきあいましょう」


ハーピィ 「…………」




…………


ロブスターの船 甲板



ザザー ザプ チャプ

キイ キイ

ボウ ボウ



新米冒険娘 「…………うーん」

新米冒険娘 「気持ち良い夜風……」


??? 「……そこのお嬢さん、キノコはいかが?」


新米冒険娘 「え?」

新米冒険娘 「キノコ……?」


クルリ


新米冒険娘 「!?」


??? 「……ほら」

毒々しいキノコを持った骨仮面の男(王子) 「すごく立派なキノコだよ」


新米冒険娘 「…………ほ、骨、きの……え、それ、毒……」


王子 「どうだい、ほれ」

王子 「欲しければ食え。咥えろ。むしゃぶれ」


新米冒険娘 「……き」

新米冒険娘 「きゃあああ~~!!」


ダダダダ


王子 「ああっ、待ってくれ!」

王子 「…………」

王子 「…………」

王子 「……おかしいな」


貝殻の勇者 「おかしいのはあなたです」



王子 「勇者どの」

王子 「町で身につけた女性との交渉術をいかしたつもりだが……」


貝殻の勇者 「私もその手のことには明るくありませんが」

貝殻の勇者 「その術は今後いっさい使わぬことです。忘れる心意気で」


王子 「うーん……」


貝殻の勇者 「そうですね、その仮面も人懐っこいとは言えませんし」

貝殻の勇者 「キノコ、私に任せてください」


ハーピィ 「…………」




…………


ザザー ザプ チャプ

キイ キイ

ボウ ボウ


塩商人 「……うーん、星が綺麗だなあ」


??? 「もし、そこの野郎」


塩商人 「おや、何だろう美しい声だ」


クルリ


??? 「…………」

貝殻の勇者 「…………」


塩商人 「おお、なんと美しい女性だろう。宝石の溶けた海の光を集めたみたいだ」

塩商人 「この商人に何の用でしょうか」


貝殻の勇者 「……別に、勘違いしないでくださいね」

貝殻の勇者 「別に、あなたにキノコを恵んでやろうなんて、別に、そんなこと思っていないんですからね」

貝殻の勇者 「キノコいかがですか」


塩商人 「…………」

塩商人 「えっ……?」


貝殻の勇者 「…………」

貝殻の勇者 「いかがですか」


スッ

???キノコ(未鑑定)


塩商人 「……そ、それ、毒……」


貝殻の勇者 「いかがですか」


ズイ

???キノコ(未鑑定)


塩商人 「…………す」

塩商人 「すいませんでしたあ!!」


ダダダダダ


貝殻の勇者 「ああっ! お待ちなさい!」


…………




王子 「駄目じゃないか」


貝殻の勇者 「少し、意識して謙虚にしすぎたようです」

貝殻の勇者 「困りましたね。意外と難しい」


王子 「うーん」

王子 「かと言って、葉巻に頼りたくはないな。きっと馬鹿にされる」


貝殻の勇者 「馬鹿にされるだけならまだ良いという気もしますけれどね」


貝殻の勇者・王子 「うーん……」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


バサ


王子 「……ハーピィ」


貝殻の勇者 「もしや、やるというのですか」


ハーピィ 「…………」




…………


ザザー チャプン

ボウ ボウ


エプロン娘 「…………」

エプロン娘 「……はあ」


??? 「…………」


テク テク テク


エプロン娘 「? 誰……」


クルリ


??? 「…………」

ハーピィ 「…………」


エプロン娘 「……どうしたの、お嬢ちゃん」

エプロン娘 「迷子?」


ハーピィ 「…………」


スッ

???キノコ(未鑑定)


エプロン娘 「……え、それって」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………っ」


ヒュンッ


ハーピィ は ???キノコ(未鑑定) を投げつけた!


ポコッ


エプロン娘 「あいたっ……!」



王子・貝殻の勇者 「…………!!」




ポト コロ コロ

???キノコ(未鑑定)


ハーピィ 「…………」


ヒョイ


エプロン娘 「……な、なに、いきなり」

エプロン娘 「……!!」

エプロン娘 「やっぱり、そのキノコ……!」


ハーピィ 「…………」


???キノコ(未鑑定)


エプロン娘 「間違いない……!」

エプロン娘 「探していたキノコ!」


ハーピィ 「…………」


エプロン娘 「あの、それ……今あなたが私に投げつけたあと長い袖の下にしまったキノコ」

エプロン娘 「ぜひ私に譲ってくれませんか?」

エプロン娘 「お礼はしますので……!」


ハーピィ 「…………」


コクン


エプロン娘 「まあ……!」

エプロン娘 「ありがとう! ありがとうございます!」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………っ」


ヒュンッ

ポコッ


エプロン娘 「ああん……っ!」




…………



王子 「……ハーピィ」


貝殻の勇者 「あの革エプロンのかた、どうやら当たりだったようですね」


王子 「何がどうなってああなっているのか分からない」

王子 「ハーピィが耐えられる程度に距離をとったつもりだが、離れすぎたかな」


貝殻の勇者 「ふふ……簡単なことです、王子どの」


王子 「何か分かったのかい、勇者どの」


貝殻の勇者 「あのかたはキノコを投げつけられて喜んでいます」

貝殻の勇者 「つまり、そういうことでしょう」


王子 「なるほど」


…………




ロブスターの船 甲板



王子 「……このっ、このっ、! どうだ、君の大好きなキノコだ!」


ヒュン ポコ ヒュン ポコ


エプロン娘 「ああっ、ああんっ……!」


貝殻の勇者 「ほれっ、ほれっ! ありがとうと言いなさい!」


ヒュン ポコ ヒュン ポコ


エプロン娘 「ありがとうございます! ありがとうございます……!」


ハーピィ 「…………」


王子 「はあっ……はあっ……」


貝殻の勇者 「はあっ……はあっ……」


エプロン娘 「はあっ……はあっ……」


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「…………」

貝殻の勇者 「……王子どの」


王子 「ああ」

王子 「これは何か違う気がするな」


ハーピィ 「…………」



…………


ハーピィ 「…………」


貝殻の勇者 「……調合用ですか」


エプロン娘 「はい。私、主に植物を使って傷薬や毒消しの調合などをしています」


王子 「それで、これを探していたのか」

王子 (かすかな声の人だな)


エプロン娘 「はい」

エプロン娘 「だけど、なかなか手に入らなくて」


貝殻の勇者 「まあ。それはそれは」

貝殻の勇者 「良かったですね、手に入って」


エプロン娘 「はい。ありがとうございます」

エプロン娘 「本当に珍しくて……」

エプロン娘 「この毒キノコ……」


王子・貝殻の勇者 「…………」




王子 「……あー」

王子 「やっぱり毒キノコなのか、それは」


エプロン娘 「はい」

エプロン娘 「あ……大丈夫です」

エプロン娘 「亀が食べると死ぬけれど」

エプロン娘 「人が食べると骨格レベルで巨大化するだけですから」


王子 「そんなキノコがあるとは。まるで別世界の話だ」


エプロン娘 「巨大化といっても、骨密度を始めいろいろとスッカスカになるので」

エプロン娘 「その状態で敵の攻撃を受けると、もとの身長より縮んでしまい」

エプロン娘 「最悪、死にます」

エプロン娘 「縮んだ身長も、またキノコを食べない限り一生そのままで」

エプロン娘 「最悪、死にます」


貝殻の勇者 「死はぬぐえないのですね」


王子 「しかし、たしかに危険だが大きな戦力となるかもしれない」

王子 「攻撃を受けると縮むというが、どの程度から攻撃とされるのかな」


エプロン娘 「ムラはありますが、波しぶきが当たっても縮むか死ぬそうです」


王子 「駄目だな」


貝殻の勇者 「駄目ですね」


ハーピィ 「…………」



王子 「そんな危険なキノコを、あなたはどうするつもりなんだい」


貝殻の勇者 「誰か、巨大化させて死なせたい人物がいるのですか」


エプロン娘 「そ、そんなこと……!」

エプロン娘 「このキノコは、使い方によって別の効果も得ることができるんです」


貝殻の勇者 「まあ」


王子 「そういえば、毒草も治療の薬になると葉巻が言っていたな」


エプロン娘 「はい……」

エプロン娘 「乾燥させ、適量を他の材料と混ぜることで」

エプロン娘 「強力な麻痺効果と防御力低下効果を敵に与えることができるのです」


王子 「ああ、攻撃に使うのか」


エプロン娘 「はい。武器の材料ですから……」


貝殻の勇者 「武器……魔法の武器のような、特殊な効果のある武器でしょうか」


エプロン娘 「はい。魔法の武器とはだいぶ違うけれど、効果は武器が壊れない限り」

エプロン娘 「失われることはありません」


王子 「毒を刃に塗るというわけじゃないのか」


貝殻の勇者 「そういえば、妖精より授かったこの私の槍も」

貝殻の勇者 「魔法の他に、素材である金属に特殊な薬を練り込んであると聞きました」

貝殻の勇者 「それに似たものでしょうか」




エプロン娘 「はい」


王子 「うーん、すごいな」

王子 「調合にくわえて、鍛冶もできるとは」


貝殻の勇者 「繊細なその体つきで鎚と火を操るとは、大したものですね」

貝殻の勇者 「まるでセンスの無いその革エプロンも」

貝殻の勇者 「それならば納得できます」


エプロン娘 「い、いえ、そんな鎚なんて……火は使いますけど」

エプロン娘 「材料は野菜だし……」


ハーピィ 「?」


貝殻の勇者 「?」


王子 「……野菜?」


エプロン娘 「はい」

エプロン娘 「私、野菜鍛冶師です」

野菜鍛冶娘 「駆け出しですけど」





野菜鍛冶娘 「大きなくくりでは調合師なのですが」

野菜鍛冶娘 「簡単に言うと、こう……」

野菜鍛冶娘 「ニンジンを槍にしたり、ナスを槍にしたり、キュウリを槍にしたり……」

野菜鍛冶娘 「野菜を武器にかえる職業です」


王子 「より難解になった気もするな」


貝殻の勇者 「野菜鍛冶という名前もいかがなものでしょう」


野菜鍛冶娘 「ですから、その……」

野菜鍛冶娘 「これを見てください」


ガサゴソ


薄く切った芋?


野菜鍛冶娘 「投げナイフです」


王子 「芋じゃないか」




王子 「ちょっと難易度が高いなこの人は」


貝殻の勇者 「ふふふ、私は好きですよ。こういうよく分からない類の人は」


野菜鍛冶娘 「これを……」

野菜鍛冶娘 「こう……っ」


ヒュン サクッ


王子 「!」

王子 「投げた芋が甲板に突き刺さった……」

王子 「なんという切れ味だ」


貝殻の勇者 「見てくれは最悪ですね」

貝殻の勇者 「芋を投げ捨てたようにしか見えません」


野菜鍛冶娘 「このように……野菜を武器にしています」


王子 「うーむ、世界は広いな……」




野菜鍛冶娘 「私も、はじめは食べ物を武器にするなんて気がすすみませんでした」

野菜鍛冶娘 「でも、やってみると楽しくて……」

野菜鍛冶娘 「ほら、この、先ほどいただいたキノコ。これ自体を武器にしても良いのですが」

野菜鍛冶娘 「武器に特殊な効果を付与するために使うとより効果的だったり」


王子 「ふむ」


野菜鍛冶娘 「もしかしたら、まだ発見されていない有効な組み合わせもあるかもしれない」


貝殻の勇者 「そう聞くと、薬の調合と似ているような気もしますね」


野菜鍛冶娘 「おなかがへったら食べても良し」


王子 「食べちゃ駄目だろう」


貝殻の勇者 「希薄だった説得力が霧散しましたね」


ハーピィ 「…………」




王子 「しかし、野菜鍛冶か」

王子 「本当に世の中はひろい」


貝殻の勇者 「やはり、私は寒心にたえません。食べ物を武器にするなんて」


野菜鍛冶娘 「あの……キノコ、本当にありがとうございます」

野菜鍛冶娘 「これで何の心配もなく工房に戻ることができます」


王子 「工房を持っているのか、その若さで」


野菜鍛冶娘 「はい。もとは南西地方にいたのですが」

野菜鍛冶娘 「南東地方のとある島に工房を出させてもらうことになって」


貝殻の勇者 「南西地方。魔術の都に近く、質の高い薬草がとれるところもありますね」

貝殻の勇者 「自然と魔法が溶け込む、若き調合師が住むには良いところです」


王子 (勇者どの、世間知らずな印象だが、よく知っている)

王子 (南西の出身か)




貝殻の勇者 「南東地方は、古代の遺跡が残る大小の島々からなると聞きますが」

貝殻の勇者 「そんなところで野菜をあつかうのは難しいのではありませんか」


野菜鍛冶娘 「そうですね。土地がかわると野菜の育ち方もかわります。海も近いし……」

野菜鍛冶娘 「でも、私が工房をかまえる島では、不思議といろいろな野菜が育つんですよ」


貝殻の勇者 「ほう」

貝殻の勇者 「不思議なアトリエ……」


王子 (南西諸島には古代の魔力が宿ると言われているが、その効果だろうか)


野菜鍛冶娘 「でも、種はそうもいきませんから、帝国の色々な土地をまわって」

野菜鍛冶娘 「よりよいものを探していました」

野菜鍛冶娘 「その途中でこの船に行き会えたのは、幸運でした……」


王子 「苦労しているんだなあ」


ハーピィ 「…………」




野菜鍛冶娘 「あの、できれば、みなさんに野菜料理をごちそうしたいのですが」

野菜鍛冶娘 「お礼もかねて……」


王子 「ふむ……。しかし今日はもう遅いし……」


バタン


王子 「おや」


貝殻の勇者 「甲板に誰か出てきましたね」

貝殻の勇者 「大きな音をたてて。あれは……」



幼妻エルフ 「…………」



王子 「葉巻じゃないか」


貝殻の勇者 「何十日ぶりでしょうか」


王子 「夕食ぶりだけど……」

王子 「何だろう。珍しく息をきらしている」




幼妻エルフ 「…………」


ズカ ズカ ズカ ズカ


貝殻の勇者 「こちらに来ますね」

貝殻の勇者 「どうしたのでしょうか。ろうそく職人さんのお勉強をみているはずですが」


王子 「なんか怒ってないか」

王子 「迫力あるぞ」


貝殻の勇者 「そうですね。夕食のときは機嫌良く王子どのと話していたのに」


王子 「ハーピィの服をつくろうという話で盛り上がっていたんだ」

王子 「あ、来るぞ」


ズカズカズカ


幼妻エルフ 「…………」


王子 「よう葉巻、良い月……」


幼妻エルフ 「ふんぬっ」


メゴ


王子 「げふ」

王子 (胸に頭突きされた……)





王子 「な、なぜ……」


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「仮面に手をあてて考えろ」


王子 「ふむ……」


幼妻エルフ 「本当にやるなよ」


王子 「……なあ」

王子 「この仮面ってやっぱり不思議なにおいがするんだ」

王子 「甘ったるいような、しかし新鮮な柑橘類みたいな……」


幼妻エルフ 「…………」


王子 「そういえば、馬車幽霊の館でだったかな。そこで読んだ魔術の本に」

王子 「仮面に術者の……」


幼妻エルフ 「ふんぬっ」


王子 「うわっ……」


ガシ


王子 (なんとか頭突きを防げた)

王子 (葉巻の髪……さわり心地が良いな)


幼妻エルフ 「…………ッ」


王子 「…………ッ」


グググ ググ

ググググ……


野菜鍛冶娘 「……あの。二人はいったい何を」


貝殻の勇者 「心配いりません」

貝殻の勇者 「彼女は素直じゃないので、ああやって王子どのに頭を撫でてもらっているのです」


野菜鍛冶娘 「なるほど……」




王子 「……もしかして」

王子 「また仮面を通しておれの行動を見ていたのか」


幼妻エルフ 「ケケケケ……」

幼妻エルフ 「本当に、お前は学ばないよな、王子さま……ッ」


王子 「ははは……ッ」


グググ ググ


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「甲板でキノコ片手に大暴れするわ、キノコ投げつけるわ……」

幼妻エルフ 「おまけに、ええ、友人のことを何だって……ッ?」


王子 「分かった。あやまろう……ッ」

王子 「だから頭にのぼった怒りを頭ごと引っ込めてくれないか」

王子 「今度やられたら、おれの胸が砕けてしまう」


幼妻エルフ 「肋骨こなごなに砕いて頭突っ込んで、心臓たべてやる……ッ」


王子 「おいおい……ッ」


ググググ……

ツル


幼妻エルフ 「ッ……」


王子 (葉巻が足を滑らせた……)




王子 「おっと」


ポス ガシ


幼妻エルフ 「…………」


王子 「……大丈夫か」

王子 「甲板は滑りやすいところもあるから気をつけろよ」

王子 「とくに夜なんだから」


幼妻エルフ 「……ふん」

幼妻エルフ 「こんなことで……埋め合わせできるなんて思うなよ」


王子 「ああ」

王子 (とっさに受け止めたは良いけれど、まずいんじゃないかこの体勢は)

王子 (……体がかわっても、エルフの花のような香りは変わらないな。不思議なことだ)


幼妻エルフ 「……もう良いよ。離せよ」


王子 「あ、ああ……」

王子 「……と」


幼妻エルフ 「…………」


ギュ


王子 「……おれの服から手を離していただけないか、葉巻くん」


幼妻エルフ 「何のことだよ。意味分からないこと言うな」


王子 「どうすりゃ良いんだよ……」


ハーピィ 「…………」




野菜鍛冶娘 「あの……」


幼妻エルフ 「…………」


王子 (野菜鍛冶の人を見る目つきが鋭い。人見知りは相変わらずか)


野菜鍛冶娘 「あ……」


オロ オロ


貝殻の勇者 「野菜鍛冶娘さん。こちらは、私がお世話になっているエルフの魔法使い、黒花エルフどのです」

貝殻の勇者 「黒花どの。彼女は甲板で出会った、調合師にして鍛冶師のかたです」


王子 「安心しろ、葉巻。怖い人じゃないから」


幼妻エルフ 「知っているよ。見ていたよ。お前はオレを何だと思っているんだ」


王子 「クズだが臆病なところもある、おれの大切な友だちさ」


幼妻エルフ 「……ぶっ潰してやる」


ギュ


王子 「服から手を離してくれ」


ハーピィ 「…………」



ギイ ギイ

チャプン


幼妻エルフ 「野菜鍛冶ね。聞いたことないな」


野菜鍛冶娘 「はい。あまり有名じゃないので……」


幼妻エルフ 「……お前、魔女か?」


野菜鍛冶娘 「? いいえ、魔法は得意じゃありません」

野菜鍛冶娘 「火をおこすのも一苦労で……」


幼妻エルフ 「へえ」


野菜鍛冶娘 「あ、あの……」


王子 「そんなに怖がらなくて良いよ」

王子 「このエルフは悪人だが、よい悪人だから」


貝殻の勇者 「どんな悪人ですか」




野菜鍛冶娘 「す、すいません」

野菜鍛冶娘 「キノコをいただいたお礼をしたいだけで」

野菜鍛冶娘 「あなたの旦那様にちょっかいを出そうとしたわけではないんです」


王子 「君、待ちなさい」


幼妻エルフ 「フン、どうだか……」

幼妻エルフ 「エルフの里から持ってきた野菜の種があるが、いるか」


野菜鍛冶娘 「妖精の野菜……! ぜひ!」

野菜鍛冶娘 「と……ああ、育てるための環境がありません」

野菜鍛冶娘 「残念です。妖精の土地の土さえあれば……」


幼妻エルフ 「うちの薬草園の妖精の土を分けてやろう」


野菜鍛冶娘 「まあ、それはありがたい……!」


王子 (……葉巻め、今回は警戒をとくのがえらく早いじゃないか)

王子 (こういう娘が好みなのか)


ハーピィ 「…………」




幼妻エルフ 「まだまだ未熟な土だが、そのままでも多くの野菜を育てられる」

幼妻エルフ 「オレは専門じゃないからよく分からないが、やり方次第で最高の土になる土だ」


野菜鍛冶娘 「本で妖精の土の育て方を読んだことがあります」

野菜鍛冶娘 「同じ本を持っているから、何とかなるかも……」


ペラペラ ピーチク


貝殻の勇者 「意外と話が弾んでいるようで」


王子 「あいつは町にいたころも、使っている宿で野菜を栽培していたからな」

王子 「うちの地方の野菜はまずくて食えたもんじゃないらしい」


貝殻の勇者 「ふむ。領主どののところでは、魚料理をたいへん美味しくいただきましたが……」


王子 「ははは……寝室でキャベツ畑を見たときは笑ったもんさ」

王子 「そこまでやるか、て」


貝殻の勇者 「ほほほ……」

貝殻の勇者 「寝室に入ったのですね」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「物置だったかな」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」




王子 「うん、そうだ。葉巻の使っていた宿の部屋の寝室に入った」

王子 「だが盗人としてじゃない、友……」


ハーピィ 「…………」


王子 「……とにかく、盗人みたいに勝手に入ったりしたわけじゃない」

王子 「ちゃんと、葉巻の許可ももらってのことだ」


貝殻の勇者 「……王子どの」


王子 「何だい」


貝殻の勇者 「あなたが悪人でないことは、この旅で分かっています」

貝殻の勇者 「それに、私はこういうことに明るい方ではありません」

貝殻の勇者 「なので、おせっかいかもしれませんが……」

貝殻の勇者 「結婚前の女性の部屋に軽い気持ちで入るようなことは」

貝殻の勇者 「たとえ誘われたのであっても」

貝殻の勇者 「その、ひかえるべき……かと」


王子 「…………?」

王子 「そりゃそうさ」

王子 「町で馬鹿をやっていた領主の息子だって、さすがにそんなことはしなかったよ」

王子 「いきなりどうしたんだい。おれはそんなに女にだらしなく見えるのだろうか」


貝殻の勇者 「いえ……ああ、いえ、たしかに私の頭のどこかで、第一印象を引きずっているところもありますが」

貝殻の勇者 「いえ、そういう話ではなく……」

貝殻の勇者 「……ふむ」

貝殻の勇者 「この手の話になると、いまいち噛みあいませんね」


王子 「?」


ハーピィ 「…………」




デンデロデンデロ

デデー


野菜鍛冶娘 が仲間になってしまった!



王子 「!」


貝殻の勇者 「王子どの? どうかしましたか」


王子 「……いや、何か聞こえた気がして」


貝殻の勇者 「…………」

貝殻の勇者 「水を噛む船の音が鳴るばかりですが」

貝殻の勇者 「自然の声でしょうか」


王子 「どうだろう……」


キイ キイ


幼妻エルフ 「……さっそく馬車まで案内すると言いたいところだが、用がすむまで少し待っていてくれ」


野菜鍛冶娘 「はい」

野菜鍛冶娘 「あの、よろしくお願いします、黒花エルフさん」

野菜鍛冶娘 「本当に助かります。各地の野菜に触れながら、工房もいただけるなんて……」


幼妻エルフ 「持ちつ持たれつというやつだ」

幼妻エルフ 「ああ、できたら簡単な調合もやってもらいたいんだが」


野菜鍛冶娘 「は、はい」

野菜鍛冶娘 「双葉レベルのものでしたら、レシピなしでも作ることができますけど……」


幼妻エルフ 「じゅうぶんだ」

幼妻エルフ 「うちは身分も種族も関係ない、寄せ集めのパーティーだ。かたくならず、気楽にやるが良いさ」


野菜鍛冶娘 「は、はい……! それでは……」

野菜鍛冶娘 「よろしくね、黒にゃん!」


幼妻エルフ 「ぁあ゛ッ?」


野菜鍛冶娘 「ひぃっ……!」


王子 「…………」

王子 (いつの間にか仲間が増えている)





幼妻エルフ 「良いか。人前で……しかも青い毛の半獣人みたいな奴の前で」

幼妻エルフ 「ぜったいにオレのことをそう呼ぶなよ」


野菜鍛冶娘 「は、はい! ごめ、ごめんなさい」

野菜鍛冶娘 「……花ちゃん?」


幼妻エルフ 「……馬車に着いたらまず打ち合わせだ」


貝殻の勇者 「ふふっ……それにしても」

貝殻の勇者 「王子どののこととなったら息をきらして駆けつけるとは」

貝殻の勇者 「熱心ですね、黒にゃんどのも」


幼妻エルフ 「そんなわけないだろ。ちゃんと目的は……」

幼妻エルフ 「いま何て言った?」


王子 「そうだ。いくら勇者どのでも」

王子 「そんな悪趣味な冗談は聞き捨てならない」

王子 「おれとこいつの友情は、殴り合いによって芽生えくすぐりあうことで育まれた硬派なものなんだ」

王子 「なあ、葉巻……」



貝殻の勇者 「暴力を振るったことを誇らしげに話すとは」


野菜鍛冶娘 「怖いのは見た目だけだと思ったのに」


幼妻エルフ 「あいつ、そういうところがあるんだよ」

幼妻エルフ 「なあ、ハーピィ」


ハーピィ 「…………?」


ヒソヒソ



王子 (ちくしょう。勝ち目がない)





王子 (葉巻。何か用事があって甲板に出て来たのか)

王子 (夜の風にあたりながら、月でも見るつもり……なわけないか)

王子 (葉巻でもやらなきゃ世界がクズにしか見えないと言ってのける奴だ)


ハーピィ 「…………」


王子 (……しかし、そんな奴がどうして世界を救う企みに与しているのか)

王子 (まあ、外道な葉巻エルフではなく、エルフの長老である黒花エルフがあいつの本性といったところなのだろうが……)

王子 (自分を演じることに慣れた奴だから、いまいちそれも確信が持てない)


貝殻の勇者 「目的とは?」


幼妻エルフ 「ただの定期連絡さ。面倒くさいったらないが」


貝殻の勇者 「そう言いながらも……ちゃんとなさるのですね」

貝殻の勇者 「気まぐれな風にはできないことです」


幼妻エルフ 「ひどい侮辱だ」


貝殻の勇者 「ふふ……」


王子 (などと、疑いだしたらきりが無い)

王子 (……葉巻の本性について、おれ程度が深く考えるべきではないだろう)

王子 (すべての本質を明らかにしない方が、かえって物事はうまくいくものだ)


ハーピィ 「…………」




貝殻の勇者 「……おや」


緑の鳥 「…………」


パタ パタ パタ


貝殻の勇者 「不思議な鳥が飛んでいる……」


野菜鍛冶娘 「月の光のせいかしら。光っているみたい……」


王子 「しかし、こんな海の上を一羽でとは」

王子 「なんとも寂しいものだ」


ハーピィ 「…………」


緑の鳥 「…………」


パタ パタ

スイイ


王子 (こちらにおりてくる)


幼妻エルフ 「…………」


王子 (葉巻の肩にとまった)


幼妻エルフ 「……ふんっ」

幼妻エルフ 「緑色かよ」




緑の鳥 「…………」


王子 (くちばしに、花を一輪くわえている)

王子 「地元では見たことのない花だが」


幼妻エルフ 「けけけ、領主の息子が花に詳しいとは初耳だな」

幼妻エルフ 「目の付け所は悪くない」


緑の鳥 「…………」


貝殻の勇者 「定期連絡とは、このことですか」

貝殻の勇者 「使い魔というものでしょうか」


幼妻エルフ 「魔法仕掛けではあるが」


緑の鳥 「…………」


キイイ 


緑の鳥 「…………」

手紙 「…………」


王子 「鳥が、手紙になった……」





幼妻エルフ 「……ふむ」


パサ


王子 (手紙は一枚か)

王子 (……熱心に読んでいる。月明かりの似合うエルフだな、こいつは)


貝殻の勇者 「どこからの手紙なのでしょうか」


幼妻エルフ 「この花の知るってところさ」


王子 「面白い報せは入ったか」


幼妻エルフ 「別に。エルフの里の戦いでできた大穴に入った黄花エルフ含む調査隊が」

幼妻エルフ 「音信不通になったとか」

幼妻エルフ 「帝国各地の町や村で、モンスター……おそらく魔王軍の奴らの影がちらつくようになったとか」

幼妻エルフ 「帝国将軍の一人が率いる南征部隊の一部が帰還しているとか」

幼妻エルフ 「どこぞの眼鏡のエルフがいよいよ乳牛化しているとか」

幼妻エルフ 「各地で皇帝の目らしきものを見つけたとか、壊し方の研究が進んだとか」

幼妻エルフ 「つまらないものばかりさ」


王子 「ほう」


貝殻の勇者 「魔王軍。おのれ、見つけたらただではおきません」




幼妻エルフ 「へえ、西の貴族の娘が家出をなすったそうだ」

幼妻エルフ 「西の貴族といえば、たしかあの宗教の支援者と噂されているが……」


王子 「噂とは白々しい。あの宗教のことはお前たち妖精の方が詳しいだろうに」


幼妻エルフ 「知っていると思った時点で、目は驕りで濁っていくのさ」

幼妻エルフ 「奴らがこちら側に隠し事をしていないという保証は無いんだぜ?」


ハーピィ 「…………」


野菜鍛冶娘 「実感がわきません」

野菜鍛冶娘 「魔王って、むかし話でしか聞いたことがなくて……」


貝殻の勇者 「しかし、実際に魔王軍を名乗る者たちは存在するのです」

貝殻の勇者 「神の加護を受けし我々は、絶対に魔王軍などに負けませんが」


野菜鍛冶娘 「そ、そうなんですか」

野菜鍛冶娘 「勇者……黒にゃんの頭の中だけの設定じゃなかったんだ……」




野菜鍛冶娘 「魔王はともかく、正直、帝国のごたごたにはあまり関わらないようにしたかったけれど」

野菜鍛冶娘 「……まあ、どうでも良いか。野菜鍛冶の研究ができるのだし」


幼妻エルフ 「さあ、中に戻るぞ」


王子 「もうか。少しはこの静かな海原に心を安らげても良いだろうに」


幼妻エルフ 「出来の悪い弟子がいるんでね」

幼妻エルフ 「なあに、今より少し手がかからなくなったら存分に相手してやるさ、王子さま」


王子 「ははは……」

王子 (手紙の鳥がくわえてきた花を耳に乗せた)

王子 (こういうところはエルフらしいな)


ハーピィ 「…………」




…………


数日後

ロブスターの船 本屋



ポロン ポロロン


店頭詩人 「恋を知った妖精は、その恋にすべてを捧げずにはいられない」

店頭詩人 「優しさも、わがままも、激しい嫉妬も」

店頭詩人 「自分の心の清濁すべてを受け入れてほしいと願い」

店頭詩人 「相手の心の清濁すべてを受け入れたいと願う」

店頭詩人 「しかし、他人の清濁すべてを受け止め、自分の清濁すべてを捧げられる人間など、なかなかいないもの」

店頭詩人 「妖精の心を奪い成功した人間の物語のほとんどが悲劇的な結末を迎えるのは、そういうわけだ」

店頭詩人 「……妖精からすれば、人間は恋を怠けているように見えるのだろう」

店頭詩人 「さあ、そうならないために、今日のおすすめの本はこちら」

店頭詩人 「原色妖精図鑑全集と、妖精恋愛指南-同棲から共生まで-」


ザワ ザワ


ハーピィ 「…………」


ヒョイ


原色妖精図鑑


ハーピィ 「…………」


ヒョイ


妖精恋愛指南~同棲から共生まで~


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「………?」


ヒョイ


雑魚でもモテる妖精攻略大全~レベル1のぼくが妖精の領域に行ったらなぜかモテまくっていつの間にか妖精ハーレムができていた件~


ハーピィ 「…………」





王子 「……北の英雄と、南の英雄の物語」

王子 「そしてこっちは、東の英雄と、西の英雄の物語か」

王子 「馬車幽霊の館にあったものと同じかな……」


ニワトコ娘 「その二つの物語は、もとは同じ時代の、同じ場所、同じ人物、出来事について記されていると言われているんですよ」


王子 「そうなのか」

王子 「そういえばたしかに、似ている部分もけっこうあった気がするな」

王子 「英雄の話は、自然と似かようものだと思っていたけれど……」


ニワトコ娘 「長命な賢樹に連なる私たちの種族にも、その物語の本当の姿は伝わっていません」

ニワトコ娘 「英雄の物語はそれほど古く、謎が多いんです」


王子 (賢樹……)

王子 「そんなに古いのかい」


ニワトコ娘 「はい」

ニワトコ娘 「世界が謎に満ち、人々が最も希望と恐怖を抱き、不自由にして自由であった時代……」

ニワトコ娘 「神々の光が、空と雲を飴色に照らしていた時代のことだと言われています」


王子 「ほう」

王子 (うっとりと語るなあ。物語を集めているだけあって、夢見がちなのか)

王子 「さすがは物語の蒐集者だ」




ニワトコ娘 「ややややや……そんなそんな、おだてたって花しか咲きませんよ、もう」


王子 (咲く……?)

王子 「何かこの店で、おれにおすすめの本なんかありそうかな」


ニワトコ娘 「ああ、そういうのも私たちは苦手ではありませんよ」

ニワトコ娘 「ふむ……」

ニワトコ娘 「……あ、これなんかぴったりじゃないかしら」


王子 「どれどれ……」


外典・世界の耳垢


王子 「…………」


ニワトコ娘 「オークの耳垢から、なんとあのドラゴンの耳垢まで載ってるんですよ!」

ニワトコ娘 「絵つきで!」


王子 「…………」

王子 「……おれに」

王子 「ぴったり?」




王子 「何に使うんだよ、この本は……」


トコ トコ


ハーピィ 「…………」


王子 「ハーピィ」

王子 「面白い本は見つかったかい?」


ハーピィ 「…………」


妖精恋愛指南


王子 「……恋愛の指南書?」

王子 「うわついた題名のわりに、しっかりとしたつくりの古い本だな」


ニワトコ娘 「著者は有名な魔術師ですね」

ニワトコ娘 「性魔術の」


王子 「ははは」

王子 「性魔術に耐性の低い葉巻に読ませたら、何かの足しになるかもな」


ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィが片方の腕を後ろにまわしたまま、もじもじしている)

王子 (何か迷っているみたいだ)

王子 「他にも見つけたのかな」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」






雑魚モテ(以下略)


王子 「……長い題名の本だな」




王子 「うん、二冊とも買えそうだ」


ハーピィ 「…………」


王子 「そうだ、ハーピィも自分でお金のやりとりをやってみるかい?」


ハーピィ 「…………」


王子 (無表情だが嫌そうだ)

王子 (種族として金が嫌いなのか、翼がばれるのを恐れているのか……)

王子 「分かった、一緒に買おう」


ハーピィ 「…………」


王子 「ニワトコ娘は、何か買うのかな」


ニワトコ娘 「いえ」

ニワトコ娘 「私たちは、本をお金でやりとりすることはありません」


王子 「へえ……」



??? 「……ぬふぉっ!?」



王子・ニワトコ娘 「!」


王子 (どこからか変な声が……)




??? 「ずず、ず……」

ろうそく職人 「ずるいですよ、そんなの!」


ツンデレ 「言いがかりはおよしなさい」

ツンデレ 「私は、たしかに本を売りましたわよ」



ザ ザ ザ


ニワトコ娘 「家畜……ろうそく職人さん」


王子 「どうしたんだ、大声を出して」


ろうそく職人 「ああ、良いところに!」

ろうそく職人 「聞いてください。お金を払って買った本が」

ろうそく職人 「ぜんぶその場で消えてしまったのです!」




王子 「買った本が全部消える……。そんなことあるものなのか」


ニワトコ娘 「…………」


ろうそく職人 「くぅうー、師匠のだいじなおつかいだったのに」

ろうそく職人 「そこにつけこまれて、騙されてしまうとは……!」


ツンデレ 「ですから、騙してなどいませんわ!」

ツンデレ 「私はちゃんと売りました」

ツンデレ 「売ってからあとのことなんて、知ったこっちゃありませんわ」


ろうそく職人 「ぐぬぬぬぬー」

ろうそく職人 「ではお金を返してください」

ろうそく職人 「本は買ったけど消えたことにして」

ろうそく職人 「私欲を満たすために全額使い込みます」


ツンデレ 「知りませんわ!」




ツンデレ 「とにかく、本は売ったの」

ツンデレ 「お金も返しません!」


ろうそく職人 「ううー……」

ろうそく職人 「うわーん、王子さまー!」


ムニュ


王子 「おお、よしよし、泣きなさい」


ろうそく職人 「ズビー」


王子 「こらこら、鼻をかまないでもらえるかい」

王子 「……しかし、どうにかならないかな」

王子 「理不尽な世の中とはいえ、これではあまりに……」


ツンデレ 「ですから、売ってしまった商品がどうなろうが、私は知りませんの!」


王子 「うーむ」


ツンデレ 「……まあ?」

ツンデレ 「私がそのケダモノ耳のかたに売った本の在庫がお店にあって」

ツンデレ 「それを持ってきて尋ねるというのであれば、売る前の商品についてということで何か教えてあげなくもないけれど?」


王子 「…………」

王子 「ろうそく職人。買ったのは何という本だい」


ろうそく職人 「はい」

ろうそく職人 「原色妖精図鑑の全集です」




ハーピィ 「…………」


王子 「ふむ……」

王子 (葉巻、妖精図鑑なんて欲しかったのか。エルフのくせに)

王子 (……まさか、妖精の領域の武力制圧を狙い、妖精についての理解をひろげようとしているのでは)

王子 「まあどうでも良いか。とにかく持ってこよう」


ニワトコ娘 「待ってください」


王子 「うん?」


ニワトコ娘 「思い出しました」

ニワトコ娘 「呪われた本、原色妖精図鑑について」


王子 「呪われた本?」


ろうそく職人 「師匠にぴったりですね」




王子 「呪われた、とは、どういうことだ」


ニワトコ娘 「この世の裏でさえ幻のごとく語られる魔法の本」

ニワトコ娘 「原色妖精図鑑は、その中でもっとも有名で、もっとも入手の難しいもののひとつとされています」


ろうそく職人 「なるほど、よもや新月機関の七つの秘法が漏れ伝わっていたとは……」


王子 「気にしないで」


ニワトコ娘 「賢言にはこうあります……」

ニワトコ娘 「君、真にその本に触れることを望むならば」

ニワトコ娘 「多くの学究が恐れ避ける谷を踏破せよ」

ニワトコ娘 「すなわち、まずは偽に触れよ、と」





王子 「ふむ……」


ろうそく職人 「正解するためにまず間違えろということですかね」


ニワトコ娘 「え、ええ……」

ニワトコ娘 「簡単に言うと、うん、そうかしら」


ろうそく職人 「……あれ、変なこと言いましたか、私」


ニワトコ娘 「いや、驚いちゃって」

ニワトコ娘 「ちょっと前まで新月機関なんて言っていたのに……」


王子 (ろうそく職人も本が好きというし、こういう理解力はあるのだろう)

王子 (葉巻と馬車幽霊について勉強もしているし)

王子 「つまり、ろうそく職人は偽者に触れたということかな」


ニワトコ娘 「はい」

ニワトコ娘 「ろうそく職人さんの買ったという本が、そうならば」




ニワトコ娘 「……偽に触れよ。さすれば偽はその真をあらわすとともに」

ニワトコ娘 「君より一散するだろう。本とは記憶。記憶は自然喪失するものなのだから」

ニワトコ娘 「君は旅立たねばならない」

ニワトコ娘 「狭い部屋と思考より」


ハーピィ 「…………」


王子 「ろうそく職人くん」


ろうそく職人 「一度手に入れても、すぐにばらばらになってどこかに行っちゃうので」

ろうそく職人 「引きこもって勉強ばかりしていないで、外を旅して集めろということですね」


ニワトコ娘 「え、ええ」


ろうそく職人 「引きこもって魔法の勉強ばかりしていないで」

ろうそく職人 「いっぱい外で遊んで良いのですね!」


ニワトコ娘 「違いますよね」


王子 「目が本気だ。相当きついらしいな、魔法の修行は」


ハーピィ 「…………」





ロブスターの船 城 浴場前




キャッ キャッ

ワイワイ


子エビ 「ようし、尻尾の姉ちゃんさそって甲板で遊ぼう」


子エビ娘A 「わあい」


王子 「……こらこら、ちゃんと髪をかわかしてからにしなさい」


ハーピィ 「…………」


バサ バサ バサ バサ


子エビたち 「キャッッキャッ」


王子 (ハーピィが翼で風をおこして、風呂上りの子供たちをかわかしている)

王子 「助かるよ、ハーピィ。手伝ってもらって」


ハーピィ 「…………」


バサバサバサバサ

ゴオオオ


子エビたち 「わああ!?」

子エビたち 「飛ばされるう!!」


ヒュルルル


王子 「ハーピィ」




…………


ロブスターの船 どこか



王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


ザ ザ ザ ザ


王子 (マスターロブの命令で子供たちの世話をはじめてどのくらいか)

王子 (おれは、えび茹で士としてどのくらい力をつけられたのだろうか)

王子 (最近、えびにも触れていないし)

王子 (子供の服の脱がし方ばかりが上達して、いったい何になるのだろう)


ザ ザ ザ ザ


王子 「…………うん?」


消えかけの灯り


チラ ユラ ユラ


王子 「……はて、酒場を目指していたはずだけど」

王子 「ずいぶん寂しいところに来てしまったな」





王子 「憂鬱な海の亡者のため息が、壁や天井の木に染み込んだような陰気臭さだ」


フード者 「…………」


せむし小鬼 「…………」


王子 「……歩いている者も、いつもの船とどうも様子が違う」

王子 「表情が後暗いというか、険しいというか」


ハーピィ 「…………」


王子 「ふむ……とくに目的も無いし引き返した方が良いか」


キイ ギイイ

ユラ ユラ




王子 「しかし、妙に気になるのも事実」

王子 「探索した方が良いか……念のために葉巻も呼んで……」

王子 「しかし、あいつは頼りになるくせに頼りにならないからなあ」

王子 「いらない危険を呼び込む可能性もある」


ハーピィ 「…………」


キイ キイ


??? 「失礼。道をあけていただけますかな」


王子 「あ、ああ」

王子 (いつの間にか後ろに人がいた)

王子 「申し訳ない、考え事を……」


ハーピィ 「…………」


??? 「おや」

悪魔紳士 「人間のかたでしたか」




悪魔紳士 「骨の戦鬼にしては、剣や盾でなく人間のお嬢さんを連れてらっしゃるのでおかしいとは思いましたが」

悪魔紳士 「やあ、奇特ですなあ。貪欲な勇気ある商人も、ここにはあまり近寄らないというのに」


王子 「恥ずかしながら、迷い込んでしまって」

王子 (この場所にふさわしくない、身なりのちゃんとした紳士だ)

王子 (短い口ひげまで行き届いている)


悪魔紳士 「はははは」

悪魔紳士 「そうでしょうとも」


王子 (いったいどこの貴族だろうか)


ハーピィ 「…………」




王子 「失礼ですが、あなたはここに用事が?」


悪魔紳士 「いえ」

悪魔紳士 「まあ、気晴らしですな」


王子 「気晴らし……」


悪魔紳士 「ええ、まあ」

悪魔紳士 「ふるい友人と会い損ねましてな。いやはや……」

悪魔紳士 「はるばる訪ねてみれば、これがもう、にべもしゃしゃりもというやつでして」


王子 「それはお気の毒に」

王子 「及びませんが、私も友人に苦労する気分というものは分かります」


悪魔紳士 「はははは、これはこれは」

悪魔紳士 「抱える苦労が似通うと、親近感がわくものですな」




王子 「まったく」


悪魔紳士 「失礼ですが、ご友人とは今も?」


王子 「ええ。続いています」

王子 「しかしまあ、おれをからかうことが生涯の趣味のような、本当に困った奴でして」


ハーピィ 「…………!」


悪魔紳士 「それはそれは」


王子 「気まぐれに拗ねてみせて友情を試すなんて真似、日常茶飯事ですよ」

王子 「面倒くさい奴なのです」


ハーピィ 「…………!!」


悪魔紳士 「ははは、可愛らしいではありませんか」


王子 「ご冗談を。悪事が生きがいのような、罰当たりな奴ですよ」

王子 「たしかに見た目は悪くありませんが、心はオークのだし汁みたいなもんです」


ハーピィ 「…………!!!」


悪魔紳士 「はははは、それは何より」

悪魔紳士 「……しかし、大切になさいよ」

悪魔紳士 「どのようなものであれ、友情を失うほど切ないことはありませんからな」


王子 「……ええ、肝に銘じます」


悪魔紳士 「とくに、わがままな女友だちはね」


王子 「ご冗談を」


悪魔紳士 「おや、違いましたか」

悪魔紳士 「これは失敬。勘違いしてしまいましたな。はははは」


王子 「はははは」

王子 「はははは………!!!」


ハーピィ 「…………」





悪魔紳士 「ああ、そうだ」

悪魔紳士 「こんな噂、聞きましたか」


王子 「?」


悪魔紳士 「何でも、この船に勇者が乗っているとか」


王子 「…………」

王子 「勇者」


悪魔紳士 「ええ」

悪魔紳士 「……いやあ、普通なら勇者など信じがたい話ですが」

悪魔紳士 「なんたって、風の噂さえ届かないような広い帝国中、田舎の老人たちの間でさえ噂になっている、あの勇者ですからなあ」

悪魔紳士 「各地で悪さをする魔物をこらしめたり」

悪魔紳士 「弱き民衆のためならば、憲兵隊にも皇帝陛下にも歯向かうという」


王子 「ふむ……」


悪魔紳士 「弱き者というのは強き者に不満を持ち、そういった存在を望み空想の英雄なんかをつくりだすものですが」

悪魔紳士 「本物が現れたのです。噂も、一段と早く広まるのでしょうなあ」


王子 (人だけでなくやはり妖精たちの力もあるのだろうか)




悪魔紳士 「帝国の貴族たちにとっては、神のもとの平等を訴えるあの宗教と併せて、さぞ目ざわりな存在でしょう」

悪魔紳士 「高額な賞金をかけている領地もあるとか」


王子 (うかつなことは言わない方が良いか)


ハーピィ 「…………」


悪魔紳士 「金に目がない奴らというのは、まあ尽きないものでして」

悪魔紳士 「勇者狩りの動きを見せる傭兵どもや、盗賊ギルドなんかの組織もいるとか」

悪魔紳士 「嘆かわしいことです」


王子 「まあ、世の中そんなものでしょうな」


悪魔紳士 「こんなときに悪い魔王でも出てきてごらんなさい」

悪魔紳士 「大変なことになってしまいますぞ」


王子 「ふむ……」


悪魔紳士 「この千の目が光るご時世、大きな声では言えませんがね」

悪魔紳士 「私はね、応援しているのですよ。勇者を」

悪魔紳士 「勇者の活躍を耳にすればするほど、彼らこそ、我々人間の希望ですからな」


王子 「ははは」

王子 (妖精のたくらみも、うまくいってはいるのか)





悪魔紳士 「いや、機会があれば一度目にしたいものです」

悪魔紳士 「なんと、どうやら勇者は美しい女性らしいという噂までありますから」


王子 「はっはっは、これはこれは……」


悪魔紳士 「はははは」

悪魔紳士 「……では、失礼いたします」


王子 「お元気で」


悪魔紳士 「そちらも、海と旅人の星の加護がありますよう」


コツ コツ コツ


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


王子 「いや、予期せぬ場所で予期せぬ出会いがあるものだな」


ハーピィ 「…………」





王子 「さて、部屋に戻るとしようか」

王子 「だが、その前に……」


ハーピィ 「…………」



コツ コツ コツ


??? 「…………」



王子 (……やはり、来たか)



コツ コツ コツ


??? 「…………」

ろうそく職人 「……王子さま」


王子 「…………」


ろうそく職人 「…………」


ガサッ


旅のうた その2


ろうそく職人 「その2だそうです」


王子 「うむ」


ハーピィ 「…………」



…………



サブイベント『旅のうた』

傷ついた黒花エルフの心を、
王子が歌によって癒してあげるという
心あたたまるイベント。
すべての歌が揃うと、とくに何も起こらないぞ。




魔法の馬車 ブラウニーの店



ガチャ ガチャ

カチャ カチャ


王子 「……ゴミ、捨ててきたよ」


野生の女 「おう、お疲れさん」


王子 (壊れてしまった、ブラウニーの魔法の馬車)

王子 (その中身が、葉巻の協力のおかげででおれたちの魔法の馬車内に移されたが……)


ピンクの菓子棚
おとぎ話テーブル
ふりふりカーテン


王子 「なんとも形容しがたい空間だ……」


ハーピィ 「…………」




野生の女 「いやあ、ありがたいね。あたしらの馬車が戻ってきた」

野生の女 「いろいろ散らかっちゃっているけど、あたしらの思い出がちゃんと残ってる」

野生の女 「エルフさまさまさ」


王子 「それを聞いたら、きっと葉巻は憎まれ口をたたくだろうな」


野生の女 「はっはっは」


ニワトコ娘 「……魔法の馬車って不思議」

ニワトコ娘 「あんなに壊れたのに、中身はこうして残っているなんて」

ニワトコ娘 「しかも、別の馬車の中に」


王子 「魔法とはやはり奥が深いのだな」

王子 「……うん?」


不思議な本


王子 (本が落ちている)


ハーピィ 「…………」




ブラウニー 「みなさん、お疲れさまです。お菓子ですよー」


野生の女 「ひゃっほう、待ってました」


ニワトコ娘 「お菓子作りも、ちゃんとできるのね」

ニワトコ娘 「部屋も片付いたし、すぐにでもお店を再開できそう」


ブラウニー 「えへへー」


キャッ キャッ



王子 「…………」


不思議な本


王子 「ふむ……」


パラ


不思議な本 『暮らしに役立つ魔術』

不思議な本 『性魔術ときくと、嫌なイメージを抱きがちですが、使い方を間違わなければとても便利』

不思議な本 『まずは、円滑な家族関係のための性魔術、相手を催眠……』


王子 (これは……)


ブラウニー 「……王子さま?」


王子 「おうっ!」


ビクッ


ブラウニー 「わあっ」

ブラウニー 「ど、どうしたんですか。大声を出して」


王子 「あ、ああ……」

王子 「驚いてしまって」


ブラウニー 「……ふうん?」

ブラウニー 「お菓子、つくりましたよ。あっちで休憩しませんか?」


王子 「ほう。是非いただくよ……」


ブラウニー 「はいー」


トコ トコ トコ


ハーピィ 「…………」


不思議な本


ハーピィ 「…………」



…………




魔法の馬車 御者台



カチ コチ

カチ コチ


カラン


王子 「……へえ」

王子 「なかなかよくできているじゃないか、この果実酒」

王子 「最初は独特に感じるが、すぐ舌になじむというか」


幼妻エルフ 「ふふふ、そうだろう」


王子 「これはあれか、この船で買った黄色い果実か」


幼妻エルフ 「ああ」

幼妻エルフ 「本来は70日以上漬け込むらしいんだが」


王子 「まだひと月も経っていない」

王子 「それでこんなに美味いのか」


幼妻エルフ 「道中ひろった奴らが良い仕事をしてくれたのさ」





王子 「ほう……」


??? 「とくに、私の活躍ったらないわよね」


ヒュルル


王子 「ん?」

王子 (馬車の灯りの傍から……虫かな)


??? 「お気に入りの家を」

瓶詰め妖精 「果実酒なんかのために提供してあげたんだから」


王子 「ああ、君か……」


幼妻エルフ 「…………」




瓶詰め妖精 「ねえ王子さま、私にもお酒をくださる?」


王子 「喜んで」

王子 「しかし、いれものはどうしようか……」

王子 「小皿にはまだ残っているし」


瓶詰め妖精 「ご心配なく」


ズポ

妖精の靴


瓶詰め妖精 「これに注いでちょうだい」


王子 (自分の靴を杯にするのか)

王子 「良いのかな?」


瓶詰め妖精 「あら、お酒のかおりがする靴なんて素敵じゃない」


王子 「そうかい」


ハーピィ 「…………」




瓶詰め妖精 「なんだったら、あなたの仮面でも構わないわよ?」


王子 「ははは、だったら目の穴くらいは塞がないと」


トク トク トク


幼妻エルフ 「……お前、どうしてあんなところから出てきたんだよ」


瓶詰め妖精 「あら」

瓶詰め妖精 「あそこで隠れていたら面白いものが見られると思ったからよ」


王子 「妖精らしいことだ」


幼妻エルフ 「果実酒のにおいにつられて出てくるとは、害虫みたいな奴」


瓶詰め妖精 「ごめんなさいね、お邪魔虫になるつもりは無かったのだけれど」

瓶詰め妖精 「ゴク……ゴク……ぷはぁ」

瓶詰め妖精 「みんなに内緒で、夜更けにこんなところでイチャイチャしちゃって」

瓶詰め妖精 「いけないんだあ」





王子 「はて」

王子 「おれたちは静かに酒を飲んでいただけだが」


幼妻エルフ 「そうだぞ」

幼妻エルフ 「これからの旅のことで、綿密な打ち合わせもするんだ」

幼妻エルフ 「お前と違って、お気楽道中というわけにはいかないんだよ」


王子 (この旅が失敗しようがどうでも良いと言っていなかったか)


瓶詰め妖精 「あら、そう、ふうん」

瓶詰め妖精 「えーっと、ご機嫌なエプロン姿でブラウニーちゃんに料理を教えてもらっていたのは」

瓶詰め妖精 「どこのエルフだったっかな」


幼妻エルフ 「…………」





瓶詰め妖精 「まさか、お気楽な旅をしていないこのエルフさまなわけがないし」

瓶詰め妖精 「でも、すごく似ているのよねえ」

瓶詰め妖精 「ほっぺにクリームをつけてお菓子をつくっていたあのエルフに」


幼妻エルフ 「……お前」


王子 (葉巻、ブラウニーに料理を習っていたのか。いつの間に)

王子 (……呪いのクッキーでも売るつもりかな)


瓶詰め妖精 「ねえ王子さま」

瓶詰め妖精 「このおつまみ、美味しい?」


王子 「うん?」

王子 「……ああ。肉厚のキノコが良い感じだ」

王子 「噛むと旨みが染み出てくるし、食感が面白い」


瓶詰め妖精 「へえ」


幼妻エルフ 「…………」


瓶詰め妖精 「良かったわね、お気楽じゃないエルフさま?」


幼妻エルフ 「……はあ?」


瓶詰め妖精 「とぼけちゃって」

瓶詰め妖精 「ほっぺにキノコのツボがついてるわよ」


幼妻エルフ 「……!」


ゴシ


瓶詰め妖精 「きゃはは、嘘よ。ひっかかったあ!」


幼妻エルフ 「……お前……!」


王子 「仲が良いな」


ハーピィ 「…………」




王子 (……ん)

王子 (ということは、これは葉巻がつくったのか)

王子 (前は酒のつまみなんてカビの生えた堅チーズで良いとか言っていたこともあったが)

王子 (なかなか美味いものをつくるじゃないか)

王子 (キノコというところが妖精らしいな)

王子 「ふっ……」


幼妻エルフ 「なんだよ……せっかくうまそうな果実酒ができたんだ」

幼妻エルフ 「だったら、あわせてうまいものも食べたいと思っただけさ」


王子 「ああ、気がきくね。我らがエルフさまは」

王子 「酒場いらずだな」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「…………」





瓶詰め妖精 「私もひとついただきたいわ」


幼妻エルフ 「いやしい奴」


瓶詰め妖精 「まあ、ひどい」

瓶詰め妖精 「ねえ王子さま、いじわるだと思わない?」

瓶詰め妖精 「エルフだからって他の妖精を見下しているんだわ」


王子 「基本的に、葉巻は何でも見下してかかるからな」

王子 「耳窩と胸の横あたりをくすぐってやれば、簡単におとせるが」


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「ハーピィ、仮面の王子さまはもうキノコはいらないそうだ」

幼妻エルフ 「残りはおれたちで食っちまおうぜ」


ハーピィ 「…………」


コクリ


王子 「こらこら」




王子 「いや、本当に美味いよ」

王子 「魔法だけでなく料理の才能もあるとは、感心するばかりだよ」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「………ふん」


王子 「拗ねるなよ。楽しく飲もうじゃないか」


瓶詰め妖精 「……ねえねえ王子さま。私、知っているのよ」

瓶詰め妖精 「エルフの機嫌が一目で分かる方法」


王子 「ほう」


瓶詰め妖精 「キノコを口移しで食べさせてくれたら、教えてあげても良いわ」


王子 「それは最高の酒のともだな」


幼妻エルフ 「やめろ」





幼妻エルフ 「お前、何か余計なことを吹き込んでみろ」

幼妻エルフ 「とんでもないものと一緒に瓶に詰め込んで栓したてやるからな」


瓶詰め妖精 「だったらその前に、記憶する水にあんたの恥ずかしいとこいっぱい記録して、ばらまいてやるわよ」


王子 「物騒な話は後にしよう」

王子 「同じ酒を飲んだ仲じゃないか」


ハーピィ 「…………」


果実ジュース


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「ふんっ……」


瓶詰め妖精 「また拗ねてる。本当は王子さまとだけお酒を飲みたかったからって」


幼妻エルフ 「……いい加減にしないと死ぬより辛い目にあうことになるぜ」


王子 「うん、その辺にしておくことだ」

王子 「葉巻は友人が少なくて嫉妬深いところもあるから」

王子 「そういうところを突かないでやってくれ」


幼妻エルフ 「…………」


ミギュ


王子 「痛いっ」

王子 「つねるなよ」




ハーピィ 「…………」


果実ジュース(ハーピィ用)

果実酒(王子用)


ハーピィ 「…………」


コソ コソ



王子 「……もしもまかり間違ってお前がドラゴンの体を得て、今みたいなことをしてみろ」

王子 「死ぬぞ、おれは。運が悪かったら」


幼妻エルフ 「ああ、その手があったかい」


王子 「だから拗ねるなよ」

王子 「お前みたいな友人を持てて、おれは幸せものだよ」

王子 「なあ、ハーピィ」


ハーピィ 「…………!!」


ビクッ


ハーピィ 「…………」


王子 「?」

王子 「ああ、君が持っているのはおれのグラスだよ」

王子 「間違って飲んでしまったら大変だ」


ハーピィ 「…………」


瓶詰め妖精 「人間って不思議ね」

瓶詰め妖精 「昨日までやっちゃいけなかったものが、今日からいきなりよくなったりするんですもの」




幼妻エルフ 「……けけけ」

幼妻エルフ 「何が幸せものだよ、気持ち悪い奴!」


王子 「葉巻?」

王子 (今度は葉巻の様子がおかしい。いきなり明るくなった)

王子 (酒がはいったせいかな)


幼妻エルフ 「どうせお前のことだ」

幼妻エルフ 「オレが毒入りクッキーでも作って売りさばくとか考えているんだろ」


王子 「ははは、そんなはず無いだろう」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「はっはっはっ!!」


ハーピィ 「そんなはず無いと思っていないのに……」


王子 「ああ」

王子 「暗殺用のクッキーとか売りそうだよな」

王子 「はっはっは……!!」


幼妻エルフ 「あははは、やっぱりなあお前ー!」


王子 「はっはっはっは……!」


幼妻エルフ 「あははは!」


王子 「はっはっは……」

王子 「ごめん、仮面の鼻のとこにキノコを押し込むのやめて……」


ハーピィ 「…………」




王子の<s>石</s>骨仮面

http://i.imgur.com/kRFOY5o.jpg



これは恥ずかしい



幼妻エルフ 「…………」


王子 (ああ、頬杖をついてツンとした)

王子 (これはかなり拗ねているぞ。町でつるんでいたときも、こうなることがあったっけ)

王子 「葉巻」


幼妻エルフ 「……オレはただの暗黒クッキー売りさ、領主のバカ息子どの」


王子 「餡子クッキーって……お前が売っていたのは薬だろう」


ハーピィ 「…………」


パシン


王子 「……ほら、グラスが空いているぞ」


幼妻エルフ 「お前がつくった酒じゃないくせに」


王子 「ふむ……」

王子 (今日は手ごわいな)




瓶詰め妖精 「あーあー、典型的な妖精の拗ねかたしちゃって」

瓶詰め妖精 「かーわいい」


幼妻エルフ 「……ちびばばあ」


瓶詰め妖精 「失礼ね!! まだ×××歳よ!」



王子 (さて、こうなると何かアイテムでご機嫌をとるかくすぐるしか無いが)

王子 (まったく、エルフという種族は……)


ハーピィ 「…………」


王子 (……そうだ)

王子 (駄目もとであれを試してみるか)

王子 「……葉巻」


幼妻エルフ 「あん?」


王子 「そんなに怒るな」

王子 「では、はじめに深呼吸をしてください」


幼妻エルフ 「……は?」




王子 (ブラウニーの部屋で読んだ魔術の本。それにあった簡単な催眠術を試してみよう)

王子 (解き方もちゃんとおぼえているし)

王子 (……まあ、家庭で役立つ簡単な魔術だ。まさか長老の席に座すこいつには効かないだろうが)


幼妻エルフ 「…………」


王子 「…………」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「…………」


王子 「……おい」


幼妻エルフ 「何だよ」


王子 「深呼吸しろよ」


幼妻エルフ 「やだよ」


王子 「しなきゃ先に進めないだろう」


幼妻エルフ 「良いよ」


王子 「したら怒りもスッとおさまるぞ」


幼妻エルフ 「おさまらなくて良い。怒っていたい」

幼妻エルフ 「お前を困らせたい」


王子 (こいつのこういう言葉だけは、すんなり信じられるんだよなあ)


ハーピィ 「…………」




ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「……へえ?」


王子 「?」


幼妻エルフ 「よほど自信があるとみえる」

幼妻エルフ 「オレの怒りを……まあオレは人間ごときにいちいち怒りなどしないが」

幼妻エルフ 「いまもまったく怒ってなどいないが」

幼妻エルフ 「お前はしずめられるというわけだ」


王子 「あ、うん」


ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィ……?)

王子 (おれは無意識のうちに確信しているのか)

王子 (性魔術に耐性のない葉巻に、催眠はきくと)


幼妻エルフ 「ふうん……」

幼妻エルフ 「良いさ。じゃあ、お前の言うとおりにしてやろう」

幼妻エルフ 「それでうまくいかなかったら……ふふふ、何かしてもらうことにしよう」


王子 「何か……」


幼妻エルフ 「そうだな……これからずっと」

幼妻エルフ 「ろうそく職人あたりの下着を仮面の上から被っていてもらおうか」


王子 「何だと」




幼妻エルフ 「スー、ハー……スー、ハー……」

幼妻エルフ 「ほれほれ、どうした。オレは深呼吸しているぜ?」

幼妻エルフ 「さっさと指示しろよ。お前の言うとおりにしてやるぜ?」

幼妻エルフ 「スー、ハー……次はなんだ、服でも脱がせるのか? このヘンタイ」


ヒラ ヒラ チラ


王子 「…………」

王子 (ええい、ままよ)

王子 「ああ、そうだった忘れていた」

王子 「全裸になって逆立ちしてから深呼吸するんだった」

王子 「ほら、さっさとやれよ」


幼妻エルフ 「………!!」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「その通りだ」

王子 「ああ、そうさ、嘘だ」

王子 「だがおれは言った。従えこのひねくれエルフ」


幼妻エルフ 「お前……!」




王子 「ほれ、どうした」

王子 「さっさと脱ぎなさい。見ててやるから」

王子 「そして何かにつけてからかってやる」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「このヘンタイ……!」


王子 「うるさい、どうせ失敗したら下着仮面なんだ」

王子 「だったらやりたい放題やってやる」

王子 「お前が何者だろうが関係ない」

王子 「脱げ」


幼妻エルフ 「最低だこの馬鹿!」

幼妻エルフ 「汚らわしい動物のオスなんて、みんなこんなもんなんだ!」


プチ プチ プチ


瓶詰め妖精 「と言いながら、すごい速さで上着のボタンを外してるけど」





ハーピィ 「…………」


バシンッ


王子 「がふっ……」

王子 (ぶたれた)

王子 「……ありがとう、ハーピィ」

王子 「葉巻、深呼吸を繰り返しながら目を閉じてくれ」


幼妻エルフ 「……ふんっ」

幼妻エルフ 「スー、ハー……スー、ハー……」


瓶詰め妖精 「服、はだけたままだけど」


ハーピィ 「…………」


王子 「力を抜いて、澄んだ闇の底に深く沈んでいくように」

王子 「おれの言葉だけに耳を傾けながら……」


幼妻エルフ 「……ん……」

幼妻エルフ 「スー、ハー……スー、ハー……」


王子 (目を閉じて、はだけた胸をゆっくり上下させて……何という無防備な息遣いだ)

王子 (度胸があるのか、単におれがなめられているだけか)

王子 (……前くらい、とめてやった方が良いかな)




王子 「…………」





幼妻エルフ 「……ッ」


王子 「はだけているのを直すだけだ」

王子 「呼吸を続けて。どんどん深く沈んでいって」


幼妻エルフ 「別に……スー、ハー……」

幼妻エルフ 「どうせ替えのきく体だ……スー、ハー……」


王子 (こいつにとってはそうなのだろうが、かなしいことを言う)

王子 「柄にもなく恥ずかしがっていたくせに」

王子 「おしゃべりはこのくらいだ。深く沈んで。眠たくなるくらい、底へ、底へ」


幼妻エルフ 「スー、ハー……」




スー ハー

スー ハー


幼妻エルフ 「…………」


王子 「底へ、底へ。おれの声だけが響いている」

王子 「全身の力を抜いて、あたりにゆだねて」

王子 「安らかに、ゆりかごにゆられるように」


幼妻エルフ 「……スー……ハー……」


王子 「深く、深く」

王子 「だんだん、ふわふわと気持ちよくなって」

王子 「じんわりと、あたりにとけていく」

王子 「おれの声だけが響いている……」

王子 「深く沈むほど、おれの声は気持ちの良い震えになっていく」


幼妻エルフ 「…………スー」

幼妻エルフ 「……ハー………」

幼妻エルフ 「………スー……」


王子 「…………」




…………


幼妻エルフ 「…………」


王子 「……眠たくてしかたない。しかし、おれの声に従う方が気持ち良くなれることを、お前は知っている」

王子 「少しだけ、目をあけて」


幼妻エルフ 「…………」





王子 (……目がとろんとしている)

王子 (普段の葉巻は絶対にしないような、あどけない表情だ)


幼妻エルフ 「…………」


王子 「…………」


幼妻エルフ 「…………」


王子 (はたして、これは効いているのか?)


ハーピィ 「…………」





幼妻エルフ 「…………」


王子 (こいつの場合、演技しているということもあり得る)

王子 (ふむ……)

王子 「なにも考えず、次からおれの言葉を繰り返して」


幼妻エルフ 「…………」


王子 「…………」

王子 「青花エルフは尊敬すべき人です」


幼妻エルフ 「あおはなえるふは、そんけいすべきひとです……」


王子 (効いているようだ……)

王子 「司書長エルフの姿こそ、理想的なエルフです」


幼妻エルフ 「ししょちょうえるふのすがたこそ、りそうてきなえるふです」


王子 (完璧だ)




幼妻エルフ 「…………」


王子 (ううむ、まさかここまで効くとは)


幼妻エルフ 「…………」


王子 「繰り返しは終わりだ」


幼妻エルフ 「くりかえしはおわりだ」


王子 「お前の怒りもゆっくりとひいていく」

王子 「どうして怒っていたか不思議なくらいに」

王子 「わかったら返事をして」


幼妻エルフ 「……はい」

幼妻エルフ 「…………」


王子 (ここまで簡単に引っかかると不安になるな。こんなことで、これからの旅は大丈夫なのか?)





幼妻エルフ 「…………」


瓶詰め妖精 「いやに素直になっちゃったわね」


王子 「ああ」


瓶詰め妖精 「いたずらしちゃうの?」


王子 「それは楽しそうだけど」

王子 「やめておこう」


瓶詰め妖精 「やめてしまうの? 優しいんだあ」


王子 「こいつとは友人でありたいだけさ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「うん。まあ、後が怖いというのもある」

王子 「下着をかぶるどころか、下着にされるかもしれん」


瓶詰め妖精 「……ふうん。ちょっとつまんない」


ハーピィ 「…………」


王子 (さて、元に戻すか)

王子 (こいつに確認したいことはたくさんあるが)

王子 (さすがにこのやり方は敵対的すぎるだろう)


幼妻エルフ 「…………」


王子 「……まあ、友よ。世の中そんなに腐ったもんでもないさ」


幼妻エルフ 「…………」


ハーピィ 「…………」




…………



テク テク テク


馬車幽霊 「……おっと」

馬車幽霊 「いけませんね。どうも生きていた時間が長すぎて」


フヨ フヨ フヨ


馬車幽霊 「そろそろ、ゴーストの浮遊移動にも馴れなくては」

馬車幽霊 「……さて、お嬢様はしばらく御者台から離れているようにとおっしゃっていましたが」

馬車幽霊 「執事兼メイドとして、それは無理な相談。というか、わざわざ御者台を指定するあたり……いえ……」

馬車幽霊メイド 「……まあ、おおかた王子どのと一緒にいるのでしょうけど」


フヨ フヨ フヨ


馬車幽霊メイド 「ふむ。浮遊移動はこの姿の方が楽だし速い」

馬車幽霊メイド 「……短く気のきいた名前を考えておきますか」


フヨ


馬車幽霊メイド 「……あら?」

馬車幽霊メイド 「あれは……」





幼妻エルフ 「…………」


王子 「……おっと、ボタンをかけ違えていた」


プチ ポチ


幼妻エルフ 「…………」




馬車幽霊メイド 「…………」

馬車幽霊メイド 「何たること」




パキィン ドゴ

ゴゴゴゴゴゴ キィン

ガン ガン ガン


王子 「ゲホッ、ゲホッ……」

王子 「というわけだ」

王子 「決して、裸にして変なことをしようとか、そういうわけじゃない」


馬車幽霊 「そうでしたか。申し訳ございません、私はてっきり……」


幼妻エルフ 「…………」


王子 (館の地下で戦ったとき以上に危険な戦いだった)


馬車幽霊 「しかし、催眠術ですか」


王子 「ああ。まさかここまで簡単にかかるとは」


幼妻エルフ 「…………」




馬車幽霊 「ふむ……催眠術は性魔術のひとつとして数えられることもありますが」


王子 「ものすごく耐性が低いのだな、こいつ」


幼妻エルフ 「…………」


馬車幽霊 「たしかに、それは私も憂えている点ですが」

馬車幽霊 「それだけというわけでも無いかもしれません」


王子 「?」


馬車幽霊 「催眠術にはかかりやすい人とそうでない人がいるのは確かですが」

馬車幽霊 「かける側にも、適正というものがあるといいます」


王子 「ほう」


馬車幽霊 「相手を細かく観察し、術にかけやすいかどうか見極め」

馬車幽霊 「相手のことを本人よりも把握し」

馬車幽霊 「適切な話し方などで誘導していくのですが」

馬車幽霊 「王子どのは自然の声をきく力を鍛えているようなので、観察力も鍛えられているのでしょう」


王子 「ふむ」


馬車幽霊 「また、相性というものもあります」

馬車幽霊 「王子どのの声は、お嬢様にとって心地よいものであったのかもしれませんね」




王子 「そんなものかね」


馬車幽霊 「相手の信頼を得られるなら、何でも良いのでは」

馬車幽霊 「……好きな人に振り向いてもらうために、その人の好きなことや嫌いなこと」

馬車幽霊 「いろいろな情報を集めて行動する」

馬車幽霊 「数ある催眠術の手順も、それと似たようなものなのだと思います」

馬車幽霊 「振り向くどころか、赤ん坊から親への依存の域まで高めなくてはなりませんが」

馬車幽霊 「そういうことなのでしょう」


王子 「なるほど」

王子 「おれも、葉巻の言葉なら自然と信じられる」

王子 「とくに魔法に関しては、実際目の当たりにしていいるし、完全に信頼している部分もあるな」

王子 (気をつけなくては)


馬車幽霊 「気がおけない仲であるほど、術はかけやすいならば」

馬車幽霊 「お嬢様も、王子どのに心を許しているのでしょうね」

馬車幽霊 「他の人なら、こうはならなかったでしょう」


幼妻エルフ 「…………」


王子 「おお、思わぬところで友情を感じることになるとは」


馬車幽霊 「…………」


ハーピィ 「…………」





幼妻エルフ 「…………」


王子 「……エルフだなあ」


瓶詰め妖精 「そりゃそうよ」


馬車幽霊 「ハーフエルフですが」


王子 「黙っていれば、これほど美しい生き物もいるまいに」

王子 「……と、こう言ってしまうと、馬車幽霊。この場合、あなたを賞賛していることになるのだろうか」


馬車幽霊 「ええ、そうなってしまいますね」

馬車幽霊 「私のもととなった二人がつくった、最後のフレッシュゴーレム。最後の冒涜」

馬車幽霊 「お嬢様も気に入ってくださっているようで」


王子 「ふーむ……」


馬車幽霊 「複雑な心境のようですね」




王子 「友人の姿がころころ変わっていくんだ。考えることもある」

王子 「とくに、穏やかに波にゆられる船の上なんかではね」

王子 「……馬に乗り移ったときも驚いたが、死体にまでとは」


馬車幽霊 「たしかに、死者の身体を材料にしていますが」

馬車幽霊 「私のゴーレムについては生者だと思っていただいた方が良いと思います」

馬車幽霊 「魂が入っていないというだけ」


王子 「魂がなければ、それは死んでいるのでは……?」


馬車幽霊 「ええ、ある人々には酷なことですが、真実それは生きているとは言えないのでしょう」

馬車幽霊 「それなのに生きている」

馬車幽霊 「だからこそ、私のつくるゴーレムは冒涜なのだと思います」





馬車幽霊 「もっとも、どのような行いが冒涜にあたるかは、種族……どころか個人の価値観とともに揺らぐもの」

馬車幽霊 「死者との婚姻をのぞむ人もいれば、他種族との婚姻を神への冒涜と忌み嫌う人もいる」


王子 「……ふむ」


馬車幽霊 「多くの魔法つかいの場合……」

馬車幽霊 「石造りの教会や今夜のチーズマッシュポテトと同じように、魔法も人間のつくったものだとするなら」

馬車幽霊 「ありえて良い魔法としての範囲を外れてしまえば、それは冒涜であると考えます」

馬車幽霊 「そして、門外不出としたり、封印してしまうのです」


王子 「なるほど」




馬車幽霊 「だから難しいのですよ、魔法つかいの類は」

馬車幽霊 「勉強し魔法の知識が増えたら、もっと難しい」

馬車幽霊 「それは、かつての私を見て感じていただけたかと思います」


王子 「……まあね」

王子 「こいつのおかげで、魔法は何でもありという印象だし」

王子 「夢の中でしかできないようなことができてしまうと、何が正しくて何が間違いか、こんがらがってしまう」


幼妻エルフ 「…………」


馬車幽霊 「大切なことは、それをおそれることです」

馬車幽霊 「しかし、火や水をおこすだけでなく、天候、命まで操る」

馬車幽霊 「禁断の可能性に満ちた魔法という分野に漬かって」

馬車幽霊 「いったいどれほどの魔法つかいが、人の道を見失わずにいられるでしょうか」




馬車幽霊 「ゴーレムの域をはみ出したゴーレムをつくれてしまったとき」

馬車幽霊 「魂を吹き込む術を行使できると知ったとき」

馬車幽霊 「私のもととなった二人は、おそれることができなかった」

馬車幽霊 「いえ、おそれるべきだとは分かっていました」

馬車幽霊 「しかし……」


王子 (館で、優先順位がどうだとか言っていたな)

王子 「コホンッ、コホンッ……愛ゆえに…………というやつかね」


馬車幽霊 「そうですね」


王子 「あ、そう……」

王子 (さらりと認められると拍子抜けするな)


瓶詰め妖精 「キャッ、あらあら、そういうお話なの?」

瓶詰め妖精 「とっても興味あるわ」


馬車幽霊 「そのように夢のある話ではありませんが……」




シィン

チカ チカ

ユラ ユラ


馬車幽霊 「……というわけです」


ハーピィ 「…………」


王子 (館でのことをほとんど話してしまった。短時間で)


馬車幽霊 「目先の欲に眩んで、道を踏み外した魔法つかいの成れの果ては」

馬車幽霊 「こうして、悪夢から解放してくださったお嬢様に忠誠をつくすようになったのです」


王子 「解放してくださったその他の奴は」

王子 「ついさっき殺されかけた」


瓶詰め妖精 「……はあ。死んでも愛し合う二人。愛ね。愛だわ」

瓶詰め妖精 「二階から死体をぶん投げてくる外道カップルに邪魔されなければ、どうなっていたのかしら」


王子 (どうしてこの手の娘は、物語を自分の都合の良い方に捻じ曲げて受け取るんだろうか)


馬車幽霊 「心とは、かくも弱いものです」

馬車幽霊 「魔法は、その心をむき出しにして牙をつきたて、激情にかりたてる」

馬車幽霊 「だから魔法つかいは、理性のもとに自身の正義を遂行できるように心を鍛えねばなりません」





王子 「では、ろうそく職人はどうなのかな」

王子 「理性より本能とか欲望で突っ走るように見えるんだけど」


馬車幽霊 「……まあ、もとが家畜ですし」


王子 「もとは人間だが」


瓶詰め妖精 「今は何なの?」


馬車幽霊 「理性と欲望。魔法つかいの難しさはそこにもあります」

馬車幽霊 「……そもそも魔法とは、求められて生まれるもの」

馬車幽霊 「つまり、生まれた瞬間に存在の理由があるものです」


王子 「鋏や食器と同じか」

王子 「何かを切るために鋏はつくられ、食べ物をいれるために皿はつくられ」


馬車幽霊 「そうですね」


王子 「例外は無いのかい」

王子 「誰がつくったのか分からない……何のためにあるのか分からないような」

王子 「つまり、人間とかそういったものと違う、何か大きな力が偶然生み出したような魔法が」


馬車幽霊 「私は知りません」

馬車幽霊 「何に使うか分からないという点では、かつての私が、そういうものを求めて研究していたことはあったようですが」


ポロ


王子 「ん、馬車幽霊の懐から何か落ちたぞ……」



母性巫女のフィギュア(つくりかけ)



王子 「……女性の人形?」




王子 (どこか幼さの残る母性的な黒髪の少女の人形だ。しかも裸……)

王子 「ううむ、見ていると恥ずかしくなるほど精巧だ」


馬車幽霊 「ゴーレム技術を良い方向に、かつ無駄な方向につかえないかと考え」

馬車幽霊 「結果、これに行き着きました」


王子 「かつてのあなたどころじゃ無いじゃないか……」


馬車幽霊 「名づけて、エクセレント魔法人形シリーズ∞です」


王子 「名づけちゃったのか」


馬車幽霊 「第一弾もいくつかつくってみました」


ゴソ


001 スライム娘(青)
002 バンシー娘
003 サキュバス娘
004 ミノタウロス


王子 「つくっちゃったのか」


馬車幽霊 「英雄シリーズも」


ゴソ


R000 貝殻の勇者
R001 黒花エルフ葉巻形態
R002 骨仮面の従者(仮面は取り外し不可)
R003 ろうそく職人
R003.1ろうそく職人ソバカス眼鏡(シークレット)
R004 北東領主


王子 「ものすごいやる気じゃないか」


ハーピィ 「…………」




馬車幽霊 「ちなみに、今うっかり落としたものは」

馬車幽霊 「異世界シリーズといって、まあ、つまり創作の人物ですね」


王子 「そりゃそうだ。先生以上のこんな気が狂ったような……その、ああ、胸の、女性なんて」

王子 「いるわけがない」


馬車幽霊 「だから創作ですって。こんなのが現実にいるわけありません。ははは……!」


王子 「ははは……!」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


馬車幽霊・王子 「!?」




王子 「ハーピィ?」


ハーピィ 「いるわけがないと思っていないのに、いるわけがないと言いました」


馬車幽霊 「……ご存知なのですか」


王子 「この人形の彼女を? まさか」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました……」


馬車幽霊 「ハーピィさまはこう言っていますが」


王子 (さま……)

王子 「ううむ」


馬車幽霊 「ハルピュイアはとりついた相手の嘘を告発するのでしたよね」


王子 「ああ」


馬車幽霊 「しかし、あなたは嘘をついていない」


王子 「そのつもりだ」

王子 「……だけど、こういうことはあるんだ」

王子 「おれは嘘をついていなくても、ハーピィはそれを嘘だということが」


馬車幽霊 「ふむ……」


瓶詰め妖精 「どうでも良いから、早くハーピィをどうにかしてあげなよ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」

ハーピィ 「いるわけがないと……」


瓶詰め妖精 「放ったらかしにしちゃ可哀想じゃない」


幼妻エルフ 「…………」




馬車幽霊 「ハーピィさまにはまだ不可解な部分がある?」

馬車幽霊 「ハーピィさまをあなたに引き渡したという商人が嘘をついていたとか」


王子 「かもしれないが……どんな人にでも、他人にとって不可解な部分はあるものだ」

王子 「そして、今のところ、どうやらハーピィの方がおれよりも嘘に敏感らしい」

王子 「だったら認めるしかない」


馬車幽霊 「それで心の整理はつくのですか?」


王子 「おれは本心から親父の敵のふりが出来る男だ」

王子 「このくらい、どうってことない」

王子 「それにハーピィの言葉は、おれにとっておれの意思よりも絶対なのさ」


馬車幽霊 「そんな、まさか」


王子 「……ああ、その通りだハーピィ。世の中にはとんでもない胸の女性がいる」


ハーピィ 「…………」

ハーピィ 「…………」


王子 「よし」


瓶詰め妖精 「おおー、止まった」


馬車幽霊 「……あなたの本心は」

馬車幽霊 「ハルピュイアさえ騙しているような気がしますね」


王子 「?」



馬車幽霊 「いえ、できてしまいそうな気がするというだけです」


王子 「まあ葉巻もなかなかの役者だが、おれもそうだということさ」

王子 「これについては、血筋も大きいか」

王子 「心の切りかえというか、割り切り上手なんだよ、うちの家系は」


瓶詰め妖精 「しょぼい家系なのね」


王子 「瓶ごと叩き割るぞ」


瓶詰め妖精 「だって旅の傭兵とか貴族とか、自分の先祖は山ほどある竜を殺した英雄とか、大陸をつくった大魔法つかいとか言うじゃない」

瓶詰め妖精 「割り切り上手って……」


王子 「自分を売り込むための誇張なんじゃないのか。貴族の家系図ほど由緒正しく信用ならないものは無いさ」


瓶詰め妖精 「ええー、夢が無い」


王子 「これから通る南東領の一番の領主なんて」

王子 「どうやら、海の底より深くにある死者の国の死神王と力くらべをして認められ」

王子 「その三番目の娘を妻として得た、死に勝る英雄の子孫らしいと噂されているんだぜ」

王子 「だったら、その噂の出処は南東領の領主だという噂も一緒に流れるべきなのに、そうはなっていない」




馬車幽霊 「南東領の領主に個人的な恨みでもあるのですか」


瓶詰め妖精 「というか、恨むほどの交流があるの?」


王子 「挨拶みたいなものさ。育ちが北東領なものでね」

王子 「北東領の軍と南東領の軍はたまに模擬戦をすることもあって」

王子 「まあ、勝ち負けとかそういうものじゃないが、素直に敬えない事情もある」

王子 「南東と北東の人間が一緒に酒場で飲むときの、一番の料理は互いの皮肉だと吟遊詩人も歌うくらいさ」


ハーピィ 「…………」


瓶詰め妖精 「吟遊詩人は良い情報源ね」


馬車幽霊 「そのせいか、旅の吟遊詩人がじつはある城のお抱え……という噂が流れやすく、実際その通りであったりするようです」


瓶詰め妖精 「でも、物騒な挨拶よね」


馬車幽霊 「たしかに」


王子 「ああ、ひどいときは殴り合いになる」




王子 「あれは、おれがまだ悪ガキだったころの話さ」


瓶詰め妖精 「今もわりとガキじゃない」


王子 「南東の王子……さる高貴な三人組と」


馬車幽霊 「酒場で飲んだのですか」


瓶詰め妖精 「そりゃ悪ガキだ」


王子 「違う、ただの食事だ」

王子 「まあ、挨拶が過激になりすぎて……あのときはお互い若かったな……喧嘩になったんだよ」


ハーピィ 「…………」


馬車幽霊 「一人で三人を相手どったのですか」


王子 「まあね」


瓶詰め妖精 「かーっこいい! 勝ったの?」


王子 「いや、最初から劣勢だった。半泣きだった」


瓶詰め妖精 「かっこわるい」


王子 「しかたないだろう」

王子 「一人を殴っていたら、ほかの一人がうしろから殴ってきて、あと一人は……たぶん何かしてるんだよ」

王子 「子供一人が勝てるわけがないだろう」


瓶詰め妖精 「かっこわるい」




王子 「それでもまあ、何とか頑張っていたんだよ」

王子 「そうしたら王子姫……妹がやってきた」


馬車幽霊 「三対二ですか」


瓶詰め妖精 「でも女の子じゃあねえ……」


王子 「いや、四対一になった」

王子 「向こう側についたんだよ、あいつ。こんなとこで何やってんだ恥さらしって」

王子 「おれは唖然としたね。いや、南東の三人は混乱していたが」

王子 「そこから四人でたこ殴りさ」


瓶詰め妖精 「どんな挨拶したのよ。あんた……」


王子 「でも、どうしようもない劣勢になると人は化けるものだな」

王子 「がむしゃらにやってみたら、南東の三人のうち二人は倒せてしまった」

王子 「結局妹にやられて終わったけど」


ハーピィ 「…………」


馬車幽霊 「終わってみればただの兄妹喧嘩じゃないですか」




王子 「何の話だったっけ」


馬車幽霊 「ですから、魔法人形の……」


瓶詰め妖精 「魔法は求められて生まれるって話じゃないの?」


王子 「そうだった」


馬車幽霊 「それは置いておきましょう」

馬車幽霊 「それより魔法人形です」


王子 「いや……そうなのか?」


瓶詰め妖精 「無駄とか言ってなかった?」


馬車幽霊 「ほぼ道楽ですが、上手く売れたら我々の副収入となるかもしれないのです」


王子 「売る気なのか。いや、道楽だろう」


馬車幽霊 「私はあまり存じませんが、司書長エルフどのとやらをほぼ等身大で魔法人形化する計画も」

馬車幽霊 「お嬢様や家畜……ろうそくお嬢様とともにすすめています」


王子 「冒涜度が上がっていないか」

王子 「ぜひ頑張ってほしい」

王子 「いや、何だと」


瓶詰め妖精 「忙しい骨仮面ね」


馬車幽霊 「もともと、ろうそく嬢の魔法の修行のためのものですからね。人形づくりは」


王子 「図形ばかり描かせていたと思ったら、立体か」

王子 「芸術家にでもするつもりか」


馬車幽霊 「まあ、そうですね」




馬車幽霊 「魔法つかいは知性のほか、芸術的なセンスも必要です」

馬車幽霊 「ちなみに、魔法つかいに重要なものは」

馬車幽霊 「知恵、センス、知識の順であると私は考えます」

馬車幽霊 「努力や経験でそれらを成長させるのです」

馬車幽霊 「そして、知識とセンスの順序は人によっていれかわることもある」


王子 (本当に死人なのかこの人は)

王子 「上手に使いどころを判断する知恵がなくては、知識もセンスも役に立たないということか」


馬車幽霊 「と、考えています」

馬車幽霊 「ろうそく嬢については、知識よりセンスを磨くべきだと考えました」

馬車幽霊 「もっと言えば、知恵を磨くにはそれが最適だと考えました」




馬車幽霊 「十の書物を読んで、魔法に必要なものを十だけ得ることが普通だとして」

馬車幽霊 「二十のものを得る人もいますが」

馬車幽霊 「彼女は違います。せいぜい三がよいところでしょう」


王子 「三て……」


馬車幽霊 「……多く見積もってです」

馬車幽霊 「しかし、彼女が十の模写をしたなら」


王子 「同じ量をこなした普通の人よりも、魔法つかいとして多くのものを得られるということか」


馬車幽霊 「…………」

馬車幽霊 「まあ、本を読むよりは効率が良いでしょう」

馬車幽霊 「大切なのは、人との比較ではありません」


王子 「あの子の修行は大変なようだな」


馬車幽霊 「教えがいはありますよ」




馬車幽霊 「ただ、知恵を得る機会には恵まれていると思うのですよ」


王子 「ふうん?」


馬車幽霊 「彼女は大なり小なり、よく失敗をします」


王子 「それは、まあ……」


馬車幽霊 「失敗の経験は人を慎重にさせます」

馬車幽霊 「それは失敗の経験をいかす知恵です」


王子 「そういえばあの子は、もとは慎重……というより後ろ向きだったような」


馬車幽霊 「ええ。失敗は知恵をもたらしてくれますが、自信も喪失させます」

馬車幽霊 「彼女は、何が大きくて何が小さな失敗か、判断できなかったのです」

馬車幽霊 「失敗そのものを、許されないものとして恐れていたのです」


王子 「それについては……こちらの落ち度か」





馬車幽霊 「それはしかたありません」

馬車幽霊 「何せ、もとが家畜で……」


王子 「はっきり言っておこう」

王子 「うちには人を家畜として飼う風習はない」

王子 「そしてそんな奴とも関わりはない」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「そうだった。ハーピィを連れていた商人がまさにそんな奴だった」


馬車幽霊 「彼女は失敗が多い。それは人の世では生きにくいのでしょう」

馬車幽霊 「ですが、だからといって劣っていることにはなりません」

馬車幽霊 「失敗は悪ではないのです。彼女ほど多く失敗できない人と、失敗を許せない人が多いだけなのです」




馬車幽霊 「彼女に必要なのは、失敗をゆっくりと知恵の糧にできる環境」

馬車幽霊 「安心して小さな失敗を重ねられて、同時に、大きな失敗の恐ろしさも知ることのできる環境でした」

馬車幽霊 「どうやらそれは、私が彼女を知る頃には、お嬢様がある程度整えていたようですが」


王子 「妖精の森で、つきっきりで修行をつけていたからな」

王子 「いったい何をしたのやら。こいつは……」


幼妻エルフ 「…………」


王子 (ああ、催眠がかかったままだ。静かだと思ったら)

王子 「どうでも良いし、そろそろ解いておくか……」


幼妻エルフ 「…………」


ズズズ

コテ


王子 「…………」

王子 (肩にもたれてきた)


幼妻エルフ 「……スゥ、スゥ」


王子 「……寝ている」


ハーピィ 「…………」



馬車幽霊 「想像もつかない失敗をしますからね、彼女は」


王子 「そうだな。ところで、その子の師匠が今こんな感じなんだけど」

王子 「どうしよう」


幼妻エルフ 「……スゥ、スゥ」


馬車幽霊 「朝に花の水やりに出かけ、結果、異国どころか異世界に迷い込むことさえやってしまうのですよ」


王子 (受けもせず流したか。まあ、このままで良いか)

王子 「……たしかに、想像もつかないところで想像もつかない動きをすることもある」


馬車幽霊 「もったいないでしょう。それをいかさないのは」

馬車幽霊 「花の水やりに失敗した、というひとつの経験で終わらせるのは」


王子 「そうかな」


馬車幽霊 「失敗したという事実は受け止めなくてはなりませんが」

馬車幽霊 「問題は、多くの独創的な失敗を生み出す彼女が、自分より失敗の少ない多くの人と同じように考えていることでした」

馬車幽霊 「すなわち、失敗せずに水やりを終え昼までにたくさん他のことをこなせる方が、効率が良く有意義だと」


王子 「多く失敗できる環境か……」


馬車幽霊 「彼女が人に勝っているのは、失敗の多さです」

馬車幽霊 「であれば、失敗から逃げるような価値観を崩さなければなりませんでした」


王子 「人格まで壊れていないか」


馬車幽霊 「それは元からでは?」


王子 「たぶんね」


馬車幽霊・王子 「あっははは」


ハーピィ 「…………」


瓶詰め妖精 「あんたたち……」




王子 「小さな失敗を重ねるというのは、よく分かる」

王子 「おれも青花エルフとの修行では、それこそ失敗の連続で得るものも多かったが」

王子 「あれが敵との遭遇だったら、何度死んでいたことか」


馬車幽霊 「失敗そのものを目的としてしまうことはいけませんが」

馬車幽霊 「最善を狙っての失敗を多くできることは幸せなことです」


王子 「難しい話だ。失敗しないように心がけていて失敗してしまったら、幸せに思えはしないだろう」

王子 「青花エルフのけしかける武器の雨をしのぐ修行で、武器の中にわりと屈辱的なものがあって」

王子 「ふざけたヒヨコの置き物とか、下着とか……あれにだけは打たれまいと思っていたのに打たれてしまったときは」

王子 「おれは本気で剣を捨てたくなった」


馬車幽霊 「こればかりは、頭で分かっていても簡単には実践できないものです」

馬車幽霊 「気にすることはないと頭の中で自分に言い聞かせても、なかなか心は従ってくれないなんて」

馬車幽霊 「よくあること」


王子 「あなたが言うと説得力がある」


馬車幽霊 「どうも」




馬車幽霊 「とくに、ろうそく嬢は気分に引っ張られますからね」


王子 「しかし、克服した?」


馬車幽霊 「微妙な加減を感じられるようにはなってきたと思いますよ」

馬車幽霊 「失敗をどのくらい恐れたら良いのか、失敗したらどう心と頭を働かせるのか」

馬車幽霊 「絶対にしてはいけない失敗は何なのか……」

馬車幽霊 「人間の顔や性格がそれぞれ違うように、揺れる炎のかたちが常に一定でないように」

馬車幽霊 「失敗にもまた多くの種類があり、失敗という一語で片付けられるものではないと」


王子 「……複雑な」


馬車幽霊 「言ったとおり、彼女は知識よりセンスでものを知るタイプですからね」

馬車幽霊 「その点は良かった」

馬車幽霊 「言葉にして自分で確認したり相手に伝えることはできなくても、実際は多くのことを理解し納得できている」


王子 「本能で理解している?」


馬車幽霊 「ええ。その点は家ち……」


王子 「頑固だね、おたくも」


馬車幽霊 「お嬢様のことについては、あなたもなかなかでしょう」


幼妻エルフ 「……スゥ、スゥ」


ハーピィ 「…………」




馬車幽霊 「彼女にまず必要なのは、その物事について人に教えられるほどの整理された知識ではありません」

馬車幽霊 「心の深くで、その物事を知ることです」

馬車幽霊 「いずれ、彼女がそれを自分の言葉で説明できる日が来るでしょう」

馬車幽霊 「彼女が真に理解し、知識へ昇華させる瞬間です」

馬車幽霊 「つまり彼女にとって知識とは、最後に来るものなのです」


王子 「ふむ……」


馬車幽霊 「私はそれが、魔法つかいだけではなく生き物の成長として美しいかたちのひとつだと感じます」

馬車幽霊 「本能の行動によって起こる物事に学び、そして知識を得る」

馬車幽霊 「人の歴史も長くなり、先人ののこした知識も多くなった今では」

馬車幽霊 「そうやって得る知識は原始的で野蛮、洗練されておらず、取るに足りないものかもしれません」

馬車幽霊 「しかし過去より与えられたものでなく、自身で見つけたそれは、たとえ同じであれつまらない凡百の石ころのようであれ」

馬車幽霊 「真実のものであり、自身の生きた証となるのです」


王子 (葉巻も、ろうそく職人に新しい魔法の流派をひらかせる覚悟でのぞむとか言っていたか)

王子 「師の息は合っているようだ」




王子 「では、ろうそく職人は、あれで良いのか」

王子 「最近はサボることばかり考えているようだけど」


馬車幽霊 「勤勉にこしたことはありませんが、サボるために仮病でなく魔法で我々を出し抜こうと試みることがあります」

馬車幽霊 「弟子として正常な成長です。その点は問題ありません」


王子 「そうなのか」


馬車幽霊 「お嬢様とろうそく嬢の関係は良好ですから、深刻な事態にはならないでしょう」


王子 「葉巻が弟子と良好……」


馬車幽霊 「この点はろうそく嬢の幸運であり功績でしょう」


王子 「薬を売りさばいて、町の闇で退廃をむさぼっていた葉巻が弟子と良好ね……」

王子 「笑えてくる」


馬車幽霊 「そのような関係の中で弟子が師に挑戦するのは、良い流れといえます」

馬車幽霊 「あとは、こちらに積極的に悪戯をしかけてくるようになれば良いのですが」


王子 「ふむ……」

王子 「大切に育ててくれているのだな。同じ城の者として礼を言う」

王子 「悪戯の際はあなたと葉巻だけで、くれぐれもこちらを巻き込まないでほしい」

王子 「またあの子の尻尾を切り刻むようなことはしたくない」


ハーピィ 「…………」


馬車幽霊 「お嬢様が巻き込まれる時点で無理です」


王子 「やっぱりか」


幼妻エルフ 「…………」




馬車幽霊 「魔法つかいが修業中の小さな悪戯から学べるものは多いのですよ」

馬車幽霊 「むしろ、悪戯ひとつせずに一人前となった魔法つかいほど危険なものはない」

馬車幽霊 「これは何となく分かるのではありませんか?」


王子 「幼い頃より真面目で遊びひとつしなかった貴族の息子が」

王子 「年をとって女遊びをおぼえたものだから歯止めがきかず、七十日で七代分の富を食いつぶした話があったな」


瓶詰め妖精 「その人、瓶に入っちゃうくらい小さな妖精なんかとも遊んだりしないかしら」

瓶詰め妖精 「お金のお風呂に入ってみたかったの」


王子 「難しいと思うぞ」

王子 「十代前よりもっと前からうちに伝わる話だから」




馬車幽霊 「その貴族の息子は運が良い。度を越した遊びの代償が富だけで済んだのだから」

馬車幽霊 「これが魔法つかいの場合、己の尊いものすべてを食いつぶすことになります」

馬車幽霊 「友情、愛情、命、魂、時間、死んだ後の未来を永遠に……それこそ本当に全てを」


王子 「万能に思える魔法も、恐ろしいものだ」


馬車幽霊 「万能だからこそです。そして、それこそが魔法の難しいところなのです」


瓶詰め妖精 「代償なんて、人間らしい考えかたね」

瓶詰め妖精 「ひとつ幸せになるために、ひとつ不幸にならなきゃいけないって考え」

瓶詰め妖精 「幸せになりっぱなしでいるのが、不安なのかしら」

瓶詰め妖精 「ねえ?」


ハーピィ 「…………?」



馬車幽霊 「魔法は求められて生まれる。誰に?」

馬車幽霊 「ここでは人としておきましょう」

馬車幽霊 「人の欲望から魔法はうまれる」


王子 「求められて生まれる、か」


馬車幽霊 「魔法つかいは修行をするうち、運が良ければ、欲望がかたちになる瞬間を何度も目の当たりにすることになります」


王子 「あなたの話を聞いていたら、運が良いようには聞こえない」


馬車幽霊 「それは素晴らしい」

馬車幽霊 「欲望をかたちにする力が自分にもあると知ったとき」

馬車幽霊 「……魔法つかいの、終わりのない試練が始まるのです」




馬車幽霊 「欲望をかたちにする力。魔法」

馬車幽霊 「魔法つかいは魔法を研究する。新しい魔法を発見しようとする」

馬車幽霊 「ふと……あれがこうなれば良いのに……という考えが頭をよぎる」

馬車幽霊 「普通ならば、できるはずが無いとすぐに笑ってあきらめるようなことです」

馬車幽霊 「まだものを知らない子供が考えるか、忙しい大人は考えもしないこと」


王子 「空を飛びたいとか、庭の木が枝を海まで伸ばして魚を獲ってきたら良いのに、とか?」


馬車幽霊 「ええ」

馬車幽霊 「庭の木が……魚を?」


王子 「忘れて。続けて」


馬車幽霊 「……しかし、欲望をかたちにする術を持つ魔法つかいは違う」

馬車幽霊 「待てよ、どうにかすれば出来るのではないかと考える」

馬車幽霊 「熟練の魔法つかいの場合は……必ずできるはずだと考える」

馬車幽霊 「ときには何日も眠らずに」




王子 「それは……」

王子 「正直に言うと好感が持てるな……勤勉で」


ハーピィ 「…………」


馬車幽霊 「はい。そうやって素晴らしい魔法が生み出されてきました」

馬車幽霊 「寒さ除けの火の魔法、雨乞いの儀式……性魔術が最も神聖とされていた時代など想像つきますか?」

馬車幽霊 「魔法つかいたちが人生のほとんどをかけて生み出した魔法が、多くの人を救ったことは事実です」

馬車幽霊 「しかし、多くの人を苦しめたこともまた事実」


王子 「…………」


馬車幽霊 「ある国の王は、最も人が長い時間をかけて死ぬ火の魔法を魔法つかいに作らせ、王宮に逆らう者を焼き殺しました」

馬車幽霊 「雨乞いの儀式で村を一つ壊滅させた祈祷師……性魔術を絡めて正妻を謀った貴族の第二夫人」

馬車幽霊 「……善悪どちらに根ざすかに関わらず、欲望からうまれた魔法は幸せも不幸せも運んできたのです」




王子 「……なるほど。それは難しい」


馬車幽霊 「幼く未熟な魔法つかいなら、悪戯で魔法をつかってもそこまで大きな害は無い」

馬車幽霊 「だから、たくさん学ぶことができます。魔法そのものではなく、魔法が行使されたことによってもたらされるものについて」

馬車幽霊 「成功と、失敗を……まるで宝の山にもぐるように」


王子 「欲望とうまく付き合えるように、ということかな」


馬車幽霊 「そうですね。欲望は魔法の最良の材料ですが、加減を知らなければなりません」

馬車幽霊 「剣の修行も、休みなくし続けたら体に悪いでしょう」

馬車幽霊 「常識にとらわれない独創的なセンスをもって、欲望をかたちにする魔法つかいは」

馬車幽霊 「だからこそ常識を知っておかなくてはならない。欲望を正しく働かせなくてはならない」


王子 「ろうそく職人……あの子にできるのかな」

王子 「あの幼さは確かに常識にとらわれていないが」


馬車幽霊 「本能の生き物ですからね」

馬車幽霊 「理想としては、本能のままに正しい道を歩くことです」

馬車幽霊 「義務感なく正義や人の心に寄り添える人は強いですよ」




王子 「万が一、逆の結果となったら最悪だな」

王子 「本能のままに魔法で悪行を繰り返すこいつみたいな」


幼妻エルフ 「……スゥ、スゥ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ」

王子 「こいつもエルフだ。人間の道徳で縛ってはいけないのだろう」

王子 「何度も助けられたし」


馬車幽霊 「本能のままに悪行を繰り返す魔法つかい。例がないわけではありません」

馬車幽霊 「むしろ数は多い」

馬車幽霊 「ほとんどは、繰り返す間もなく身を滅ぼすことになりましたが、中には長く生きる者もあります」

馬車幽霊 「私のもととなった二人の時代には、鏡の魔女が有名でしたね」




幼妻エルフ 「…………」


王子 (本当によく寝ている。大丈夫なんだろうか)

王子 (……柔らかそうな頬だな。指でなぞりたくなる輪郭だ。葉巻でなければなぞっていた)

王子 「鏡の魔女か。どこかで聞いた。小さな頃か……星魔法使いの館があった島だったか」


馬車幽霊 「悪名の高さは、魔法つかいとしての強大さを示すものとなります」

馬車幽霊 「普通、有名な魔法つかいは人々や同じ道を歩む者たちの支持によって名声を得ます」

馬車幽霊 「多数にとって悪となる魔法を試みるほとんどの者は、有名になる前に矯正されるかひどければ殺されます」

馬車幽霊 「彼らが生き残るための簡単な方法は目立たずにいることでしょう」

馬車幽霊 「誰の目も気にしたくないのなら、魔法つかいが束になってかかってもかなわないような力が必要です」


王子 「なるほど。そして目立たない生き方をしていたら悪名はひろまらない」

王子 「……多数にとって悪となるとは、少し引っかかる言い方だ」


馬車幽霊 「残念ながら、ときには多数派が間違っていることもあるのです




王子 「鏡の魔女についてもそうであるということは無いのかな」


馬車幽霊 「良い思考です」

馬車幽霊 「あるいはそうなのかもしれません。私も、恐ろしい噂しか知らないだけですから」

馬車幽霊 「ただ、彼女を語るものに切り離せない存在があります」

馬車幽霊 「竜と、真実です」


王子 「竜か」

王子 「うちの窓にもときどき張り付いていたよ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「うん……そうだねハーピィ。あれはヤモリさ」


馬車幽霊 「鏡の魔女は竜の炎より現れるといいます」

馬車幽霊 「そして何か禍々しいひと騒動を起こして去っていくのです」




王子 「竜か。ここからはるか西方、人の踏み入らない炎の山に巣があるというが」


馬車幽霊 「無関係ではないと人々は考えたようです」

馬車幽霊 「鏡の魔女は多くの竜とともに、英雄たちによって帝国大陸西方の山に追いやられ」

馬車幽霊 「それを最後に歴史の表舞台から退場します」


瓶詰め妖精 「ドラゴンはあまり好きじゃないのよね。とくに空を飛ぶやつは」


王子 「……真実と切り離せないとは?」


馬車幽霊 「鏡の魔女は珍しいアイテムを持っていたそうです」

馬車幽霊 「彼女が魔法でつくったのか、どこかで拾ったのかは分かりませんが」

馬車幽霊 「彼女は悪事の手口として、好んで使っていたようです」

馬車幽霊 「その名も、真実の鏡」




王子 「誠実な名前だ」


馬車幽霊 「その通りだとしたら、きっと彼女はそれを拾ったのでしょうね。そして悪用した」

馬車幽霊 「鏡の魔女は真実の鏡を使って、他者の真実を奪っていったといいます」


王子 「真実を奪う?」


馬車幽霊 「悪い呪いでオウムに変えられた王子様の物語をご存知ですか」

馬車幽霊 「それと似たようなものですが、もっとたちが悪い」

馬車幽霊 「真実の鏡は、真実であればほとんど何でも奪います」


王子 「ほとんど何でも」


馬車幽霊 「大げさに言っているのではありません」

馬車幽霊 「性格、過去、色、味、におい、何でも思いのままに奪うのです」




王子 「……奪われたら、どうなるんだろうか。王子様がオウムになるようなものなのか?」


馬車幽霊 「そうですね。まったく別のものになります」

馬車幽霊 「経験を奪われた者は、それまで全く別の経験をしてきたことになります」

馬車幽霊 「鏡に奪われたら、今の自分は失われてしまうと考えて良いでしょう」

馬車幽霊 「奪われたものによっては、完全に」


王子 「死んでしまうのと同じじゃないか」

王子 「……奪われたものはどこへ行くんだ」


馬車幽霊 「鏡のみが知っているといわれます」

馬車幽霊 「鏡の魔女の鏡から真実を奪い返した話もあるので、消えてしまうわけではないのでしょうが」

馬車幽霊 「強力な魔法つかいから奪い返さなければならないのなら」

馬車幽霊 「ほとんどの人にとって似たようなものかもしれません」


王子 「ふむ……」

王子 「恐ろしい魔女だ」


馬車幽霊 「風をうねらせて羽ばたく竜の背に立つ彼女の姿が、この大陸の空にあった時代」

馬車幽霊 「たしかに、人々が恐れる天災はひとつ多かったようです」


王子 「葉巻は風なら、彼女は火といったところか」


馬車幽霊 「鏡の魔女によって味を奪われレモン味になったイチゴのケーキを食べてしまった、イチゴ大好き夫人の話など……」

馬車幽霊 「思い出すだけでも恐ろしい」


王子 「途端に邪悪さが薄らいだ」

王子 「そいつ、葉巻の前世か何かか」


幼妻エルフ 「………スゥ、スゥ」




王子 「ろうそく職人も、一歩間違えたらそうなるかもしれないということだろうか」


馬車幽霊 「ええ。というよりも、全ての魔法使いがそうなるおそれがある」

馬車幽霊 「お嬢様でさえも」

馬車幽霊 「鏡の魔女が人間だったのか、そうでなかったのか、確定できる資料はないのです」


王子 「葉巻が……」


幼妻エルフ 「…………」


王子 「ああ、そうか。こいつ既に性悪か」

王子 「はっはは!」


ハーピィ 「…………」


馬車幽霊 「ろうそく嬢がその道に踏み入るときは、私とお嬢様で全力で屠殺します」

馬車幽霊 「狸か狐かの毛が混じった鍋の日があったら、彼女は死んだと思ってください」


王子 「まず毛の入った鍋を食べたいとは思わない」





ハッピーハロウィン

http://i.imgur.com/Cc8bLrq.jpg



…………


馬車幽霊 「こちらが、ハーピィお嬢様の魔法人形の計画書」

馬車幽霊メイド 「悪戯仕様です」


ハーピィ 「!」


王子 「おいおい、これは……本人の許可はとってあるのかな」

王子 「完成したら全部おくれ」


ハーピィ 「!」


ペシ ペシ


王子 「分かった、分かった。ごめんよハーピィ」

王子 「冗談だから、本気の部分以外……」


幼妻エルフ 「…………」


ズルル


王子 「……おっと」

王子 「本当に起きないな、こいつ」




幼妻エルフ 「………スゥ」


王子 「教えて欲しいのだが、馬車幽霊どの」


馬車幽霊メイド 「…………」


王子 「……馬車幽霊メイドどの」


馬車幽霊メイド 「何でしょうか」


王子 (厄介な個性をつけ始めた気がする)

王子 (まずいぞ。このままでは気軽に話せる相手が減ってしまう)

王子 (改めて思えば、この一行は女性ばかり……華ばかりだ)

王子 「葉巻の姿だけど、こんなにエルフだったか。耳とか」


幼妻エルフ 「………スゥ、スゥ」


馬車幽霊メイド 「いえ」

馬車幽霊メイド 「これも血の魔法によるものでしょうか」

馬車幽霊メイド 「……私はかなり意識して、お嬢様の体は人間に近づけてつくったつもりでした」




馬車幽霊メイド 「当初お嬢様については、自身がエルフであることに嫌悪感を抱いていると思っていたのですが」


王子 「ああ、おれも最初はそうだった」

王子 「そのうち、エルフどころか見るもの全部を呪っているというか」

王子 「自分を含めて何もかも、使い捨ての封切りくらいにしか思っていないと分かるわけだが」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「うん。まあ、それだけじゃ割り切れない部分もありそうだとは薄々……」

王子 「じゃなかったら、ただの敵としか見なかっただろう」





幼妻エルフ 「…………」


王子 「エルフを嫌っていると思ったら、エルフの長老だったり」

王子 「この世が腐っていると言っていたと思ったら、こんな旅なんかして」

王子 「いったい、あとどれくらい隠し事をしているのやら」


馬車幽霊メイド 「それでもお嬢様への情を失わないのですか……」


王子 「はっはっは……」

王子 「ん?」

王子 (何か、向こうの物陰に……)




テク テク テク


??? 「…………」

淫魔幼女 「…………」


テク テク テク




ハーピィ 「…………」


王子 「…………」


瓶詰め妖精 「何かしら、いまの暗い子供」

瓶詰め妖精 「行っちゃったけど、通りすがりかしら。こんな時間に出歩くなんて、悪いんだあ」


王子 「あれは……」




馬車幽霊メイド 「知り合いでしたか?」


王子 「……と、言って良いのかどうか」

王子 「彼女のおかげでハーピィと出会うことができたし、他に協力してもらったこともある」

王子 「しかし、素直に感謝してはいけない事情もあって……まあ、難しいんだよ」


ハーピィ 「…………」


馬車幽霊メイド 「……ふむ」

馬車幽霊メイド 「あなたの周り、そういうのばかりですね」


王子 「あなたがそれを言うか……」



テク テク テク


淫魔幼女 「…………」

淫魔幼女 「…………」


チラ


淫魔幼女 「…………」


テク テク テク



瓶詰め妖精 「また通り過ぎてった。逆方向に」


王子 「…………」



テク テク テク


淫魔幼女 「…………」

淫魔幼女 「…………」


チラ チラ


淫魔幼女 「…………」


テク テク テク



王子 「…………」


馬車幽霊メイド 「……呼んでいるのでは?」


王子 「……おれを?」




王子 (行ってみようか?)

王子 (しかし……やはり彼女と関わるのはためらわれる……)

王子 「ふむ……」


馬車幽霊メイド 「行かないのですか?」


王子 「いや……」

王子 「うん、行くべきだろう」


馬車幽霊メイド 「では行くのですか。お嬢様を置いて」

馬車幽霊メイド 「お嬢様が起きられたらその事実をお伝えするしかないのですが」


王子 「そこはまあ、うまくごまかしておいて……」

王子 「では少し行ってくる」


スク

グイ


王子 「うん?」


幼妻エルフ 「…………」


王子 「…………」

王子 (葉巻が眠ったまま、おれの服を握っている)




…………


ザ ザ ザ


王子 「や、やあ……」


ボロ


淫魔幼女 「…………」


王子 「よく会うことだ」

王子 「あなたもこの船に乗っていたんだな」


ハーピィ 「…………」


淫魔幼女 「……旅の商人なら、この船のことは知っている」

淫魔幼女 「あなたが乗っていることの方が意外だ。商人にでもなったのか」


王子 「ははは……」


淫魔幼女 「商人をするのなら、人と会うときに身なりは整えておいた方が良い」

淫魔幼女 「人は中身が大事だが」

淫魔幼女 「見た目に気をつかえる程度に中身の詰まった人間が好まれる」


王子 「ありがたい言葉だ」

王子 「服が乱れているはまあ、あれだ。しかたない」


淫魔幼女 「……女関係か」

淫魔幼女 「取り込み中のところ、邪魔をして申し訳ない」


王子 (謝るということは、そのつもりではあったのか)

王子 「何関係かは話すと面倒だ。とにかく、次からは声をかけていただくとありがたい」




淫魔幼女 「おぼえておこう」

淫魔幼女 「こんな夜更けにいきなり訪ねてしまった以上、身なりについてもとやかく言えないか」


王子 「……夜に女性の方から訪ねられるのは、男として喜ばしいことだ。どんな用かな」

王子 (あの桃色髪の子供のことについてだろうか。返すときが来たか……?)


ハーピィ 「…………」


淫魔幼女 「……ここの船長と親しくしていると聞いた」


王子 「おや……」

王子 (誰からだ)

王子 「まあ、奇妙な縁はあったね」


淫魔幼女 「…………」


王子 「……例えばおれが」

王子 「珍しい商品を扱う商人を知っている」

王子 「と、うまく船長の興味をひくように言ったりすれば、あなたは助かるのかな」


淫魔幼女 「…………」

淫魔幼女 「とても」




淫魔幼女 「この船には商人が多い。邪な理由で船長に取り入ろうとする者も多い」

淫魔幼女 「この船で商人は自由を与えられているが、それは船長に近づこうとしない場合だ」


王子 「遠い存在なのか」


淫魔幼女 「商人が必要とする相手は、たいてい商人を警戒する」


王子 「ふむ」

王子 「ハーピィの件で、おれはあなたに対して返しきれない借りがあるわけだが」

王子 「しかし、おれも船長とそう長いわけじゃない。気軽に機嫌を損ねられるような間柄か、微妙なんだ」

王子 「船長との友好関係は、今のおれにとってかなり重要なんだ」

王子 「それにそういう……コネなんて嫌うような人だったら、おれが紹介した時点であなたに対する心象も悪くなるだろう」


淫魔幼女 「そうか……」




淫魔幼女 「そうか……ふむ……そうか」

淫魔幼女 「そうか……」


王子 (困っているようだ)

王子 (表情が曇り気味なのは元々のようだが、こんな具合の子供を放っておくのは心が痛むな)

王子 (まさか外見通りの歳でも無いだろうし、けっこうな悪人なのだろうが……見た目は大切か)

王子 「すまないね」


淫魔幼女 「無理は承知の上だった。時間をとっていただき感謝する」


王子 「……船長に何の用だったのだろうか」


淫魔幼女 「…………」


王子 「……いや、邪な理由だったら無理だが」

王子 「いくらか、船長についての役立ちそうな情報くらいは提供できるかもしれない」

王子 「と思ってね」


ハーピィ 「…………」


淫魔幼女 「……ほう」




王子 「もっとも、情報収集は商人の得意とするところだろう」

王子 「おれの持っているものがどれほど役に立つかは分からないが」


淫魔幼女 「……ふむ」

淫魔幼女 「いや、ありがたい」

淫魔幼女 「このあたりの情報屋に知り合いもいないので」


王子 「……邪な理由ではないのかい?」


淫魔幼女 「……そうだな。命をどうこうというわけではないが」

淫魔幼女 「おれの価値観からすれば、まあ邪なのだろう」


王子 「おいおい……」


淫魔幼女 「正直なところ、あなたの協力がなくても構わないんだ」

淫魔幼女 「船長との友好的な関係も必要ない」

淫魔幼女 「過程がどうであれ、目的は果たすのだから」


ハーピィ 「…………」


王子 (ハーピィが怯えている)

王子 「……血なまぐさい過程も含むのかな」


淫魔幼女 「言ったように命をどうこうという目的は無いが」

淫魔幼女 「目的のために仕方ないのであれば、仕方がない」






淫魔幼女 「できれば平和に事を運びたいし、そのために努力も我慢もするが」

淫魔幼女 「目的は絶対だ」


王子 「……ああ、いるね」

王子 「どうでも良いところで相手のワガママに譲っておいて」

王子 「大事なところでは必ず自分のワガママを通してしまう、上手な奴というのは」


淫魔幼女 「そういう駆け引きは得意ではない」


王子 「……分かった。情報を提供しよう」

王子 「おれの協力が無いばっかりに、敵対的な交渉になってしまったなんてことがあったら」

王子 「三日は落ち込むからな」


ハーピィ 「…………」





…………



船内広場




鼻長隠者 「海の脅威といえば、セイレーンだ」

鼻長隠者 「剣も魔法も通じない。どんな力自慢の男も、彼女らの歌の前では骨抜きになり」

鼻長隠者 「恋で重たくなった心を抱いて、海の底へと落ちていく」


耳長隠者 「だからセイレーンの住まう海域は、死の国の入口と言われる」

耳長隠者 「海の底にあるという、死の国への」

耳長隠者 「……懐かしい悪人に会いたいのなら、セイレーンを探すと良いのかもしれないね」


ヒソ ヒソ


王子 「……ここで良いのかい」


淫魔幼女 「あの場で話すのはまずかろう。お互いに」


王子 「お気遣いどうも」

王子 「しかし、酒場で三人面倒見るくらいの甲斐性はあるよ」

王子 (いざとなれば葉巻に土下座だ)


淫魔幼女 「酒場はいい。いらない。酒は駄目だ、嫌だ」


王子 「そ、そうか」




…………


淫魔幼女 「……エビ?」


王子 「ああ、エビだ」

王子 「船長はエビが好きなんだ」


淫魔幼女 「食べ物として?」


王子 「食材として、かな」


淫魔幼女 「うまい料理を振舞うより、料理人としての面をつくべきか……」


王子 「船長はすごいぞ。世界に存在するほとんどのエビを茹でてきている」

王子 「おれが知る中で最高のえびゆで師だ」


淫魔幼女 「えびゆでし?」


王子 「最適なゆで時間が全くことなる六種のエビを、見事な手際で同時に茹で上げたあの技……」

王子 「おれは生涯忘れないだろう」


淫魔幼女 「…………」

淫魔幼女 「船長が収集しているものなどないか」


王子 「ああ、コルク栓を集めているみたいだったな。ワインのやつ」

王子 「まあ、そんなことよりエビだ」

王子 「エビの話しようぜ」

王子 「エビの頭にはビタミンAが……」


淫魔幼女 「…………」


ハーピィ 「…………」




しばらく後


王子 「……そして、尻尾にはビタミンBが含まれているんだ。嘘だが」

王子 「まあ、こんなところかな。どうだろう、役に立ちそうかな」


淫魔幼女 「……は?」


王子 「うん?」


淫魔幼女 「……ああ、寝ていた」

淫魔幼女 「エビか。つかえると思う。あまり耳にしなかった話だから」

淫魔幼女 「情報の仕入れ先が貴様……あなただと悟られないよう、気をつかう必要があるが」


王子 「そうか」

王子 「良かったら、えびゆで師の技をいくつか伝授しておこうか?」


淫魔幼女 「いい。いらない。駄目だ、嫌だ」


王子 「遠慮はいらないのに。旅の商人には幅広い経験が必要だろう」




淫魔幼女 は 職業「えびゆで師見習い」 を手に入れてしまった



淫魔幼女 「…………」


王子 「……ところで、あの件だけど」

王子 「エルフの里であなたから貸してもらった、あの子供の体……」


淫魔幼女 「……ああ、エルフの長老の新しい体のことか」

淫魔幼女 「役に立っているだろうか。あなたの女の」


王子 「やめてくれ」

王子 「最初は苦労していたみたいだけど、うまくやっていたよ」

王子 「傷もない……が、実は、今は別の体をつかっているんだ」


淫魔幼女 「……そうか」


王子 「さっきあなたを見たときは、あの子を引き取りにきたのかと思ったんだよ」

王子 「それで、うまい言い訳を探していた」

王子 「あなたからの依頼を達成できていないかもしれないから」


淫魔幼女 「気にしなくて良い」

淫魔幼女 「何かのきっかけにはなるだろう」


王子 「? そうか」


淫魔幼女 「……そろそろ部屋に戻る」

淫魔幼女 「邪魔をして悪かった。ありがとう」


王子 「いや……」

王子 「渡さなくて良いのかな、あの子の体は」


淫魔幼女 「また会うこともあるだろう。あなたが生きていれば」

淫魔幼女 「そのときに返してもらう」

淫魔幼女 「……ハルピュイアつきでないことを、祈っておこう」


ザ ザ ザ ザ


ハーピィ 「…………」


王子 「……恐ろしい冗談だ」



…………




魔法の馬車



ザ ザ ザ


王子 「…………」


幼妻エルフ 「…………」


王子 「……あれ?」

王子 (馬車幽霊と瓶詰め妖精がいない)

王子 (御者台には葉巻だけがどっかりと座っている)


幼妻エルフ 「……よお」


王子 「よお」

王子 「起きていたか」


幼妻エルフ 「お早いお帰りだったじゃないか」

幼妻エルフ 「ちょっと飲み疲れて眠った、友人、を置いてまで出て行ったわりに」


王子 「眠っていたのは、おれの魔法でいちころだったからだろ」


幼妻エルフ 「はあ?」


王子 「冗談だ」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「うん。おれの魔法でいちころだった」




幼妻エルフ 「……最悪の気分だぜ」

幼妻エルフ 「気持ちよく飲もうと思ったら、酔いもまわらないうちに最悪の連続だ」


王子 「お前、飲み疲れたって言ってたろ」


幼妻エルフ 「はあ?」


王子 「すまん」

王子 「まあ、機嫌なおせよ。夜はこれからだ」

王子 「サシで飲みなおそうぜ、相棒っ」


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「おう、そうだな! そうするとしよう」

幼妻エルフ 「オレは席を外させてもらう。ハーピィとサシで飲んでな」


王子 「御者台で待っていたくせに」


幼妻エルフ 「はあ?」




幼妻エルフ 「待つ? オレがお前を?」

幼妻エルフ 「いつからそんなに自分を高く評価するようになったんだ、王子さま」

幼妻エルフ 「青っ花にちょっと剣を習って鼻高々か?」

幼妻エルフ 「町でオレに優しくして、里や館などでオレを危機から守り、たまにオレに贈り物をして」

幼妻エルフ 「アホ弟子の息抜きにつきあったり、男に対して警戒心の高い勇者さまを気遣ったり」

幼妻エルフ 「船長との修行で疲れているのに馬車で雑用こなしたり」

幼妻エルフ 「……以外に、お前はいったい何をした」


王子 「以外って……」

王子 (葉巻のやつ、相当ヘソを曲げているぞ)

王子 (おれのような素人に催眠術をかけられたのが嫌だったとみえる)

王子 (そういう誇り高さはエルフゆえか)


幼妻エルフ 「…………」


王子 (そっぽを向いている。席を外すつもりは微塵もないらしい)

王子 (ここはひとつ、持ち上げておくか)

王子 「……分かった。悪かった。今夜のおれの、お前に対する仕打ちはひどかった」


幼妻エルフ 「…………」


チラ


王子 (横目でこっちを見た。話は聞いてくれるらしい)

王子 「一行の導き手やら師匠役やらしんどいこと続きの中で、やっとできたお前の自由な時間を」

王子 「不自由なものにしてしまった。」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「…………」


王子 「……そういえば下着が見えているぞお前」


ハーピィ 「!」


幼妻エルフ 「!」


王子 「さすがエルフの若き長老だ。良いセンスだな」
  

幼妻エルフ 「はあ!?」





幼妻エルフ 「馬鹿にしてんのかお前」


王子 「まさか。褒めているんだよ」

王子 「フンドシ以外にもちゃんと下着を選べるんだと感心している」

王子 「ほら、この辺なんか……」


幼妻エルフ 「近づくなよ。なに覗きにきてるんだよ……」

幼妻エルフ 「ヘンタイ」


王子 「なに歳頃の娘みたいな反応をしているんだ。だったら御者台でそんな座り方するなよ」

王子 「だいたいお前、下着どころか……」


幼妻エルフ 「…………」


ヒュン ポコ


王子 「いてっ」

王子 「コルク栓を投げてくるな」

王子 「仮面の目から入っちゃっただろ」


幼妻エルフ 「うるさい」


ハーピィ 「…………」




…………



ハーピィ 「…………」


王子 「いまは帝国の海の……どのあたりなんだろうか」


幼妻エルフ 「さあね」


王子 「日数的に、東地方の半分は越えたと思うんだけど」

王子 「南東地方の祭りの初日に間に合いそうかな」

王子 「帝国が戦争中だが、武芸大会はあるようだ。時間を潰してでも観戦する価値はあると思うんだ」


幼妻エルフ 「知らない」


王子 「……果実酒、うまいか?」


幼妻エルフ 「どうでも良いだろ。お前が作ったんじゃないし」


王子 「怒るなよ。そろそろ愚かな友人を許してみたって良いだろう」


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「気にするなよ。ゲスな薬売りのことなんか」


王子 「まあ、お前はゲスだと思うけど……」




王子 「悪かったって。うん、美味いよこの果実酒」

王子 「大っぴらに飲酒をはじめて間もないおれが言うんだから間違いない」

王子 「大げさに言って一生これしか飲めなくなるくらいだね」


幼妻エルフ 「…………」

幼妻エルフ 「一生オレにたかるつもりかよ」


王子 「難しいことじゃないだろう」

王子 「おれが老いぼれても、エルフのお前は若いままだし」


幼妻エルフ 「…………」


王子 (そういえば、ハーピィの寿命はどのくらいなんだろうか)


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「…………」


王子 (葉巻が、果実酒の瓶の首を掴んだ)

王子 「おい。やけ酒はやめ……」


幼妻エルフ 「……グラス」


王子 「うん?」


幼妻エルフ 「いつまで空けておくつもりだ」

幼妻エルフ 「妖精の酒の席ではそういうの、失礼なんだからな」


王子 「あ、ああ……。注いでくれるのか。悪いね」


幼妻エルフ 「…………」


トクトクトク


王子 (何か急に優しくなったぞ)




幼妻エルフ 「……自覚を持ってほしいものだね」

幼妻エルフ 「お前はどうしてここにいるのか」


王子 「勇者さまのおともだろ」


幼妻エルフ 「お前がつけている仮面の主を、もっと尊んでも良いんじゃないかという話さ」


王子 (エルフの長老たちはそれぞれ仮面の従者を持っていたな)

王子 「……お嬢様と呼べば良いのか」


幼妻エルフ 「気持ち悪い」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「うん。お嬢様はないな」

王子 「気持ち悪いって、けっこう傷つくぞ」


幼妻エルフ 「お前が言うと気持ちわるいんだ」

幼妻エルフ 「……一人でふらふら出歩いて危険に飛び込んで、死なれたりしちゃ困る」

幼妻エルフ 「ちゃんとオレのために死ねよ」


王子 「ためらいなく言うなよ」




王子 「お前こそ、自分の命を高く見積もりすぎじゃないかね」


ハーピィ 「あなたは嘘をつきました」


王子 「ああ。……そうだな、おれよりは価値があるんだろうよ」

王子 「おれが死ぬときは、それがお前の役に立った結果であるようには心がけるさ」


幼妻エルフ 「…………」


ハーピィ 「…………」


幼妻エルフ 「……かっ」

幼妻エルフ 「気持ち悪い」


王子 「なっ……!?」


幼妻エルフ 「真面目にこたえるなよ。冗談だろ」

幼妻エルフ 「何が……心がけるさ……だよ」

幼妻エルフ 「恥ずかしくないの?」


王子 「お前……」


幼妻エルフ 「安心しろ、ハーピィ」

幼妻エルフ 「このヘンタイが大して役にも立たず下着に見とれてくたばっても」

幼妻エルフ 「オレがちゃんと面倒見てやるからな」


ハーピィ 「…………?」


王子 (死なないように気をつけよう)





…………



キャプテンロブスターの城 訓練場



キン ガキン

ヒュン ギィン


ロブスター 「…………ッ」


王子 「…………ッ」

王子 (船長に剣の稽古をつけてもらっている)

王子 (当然だけど、子供たちの服を脱がせるのとはわけが違う)


ロブスター 「……ふむ。声を聞きながらの戦いの基礎はこなせていたが」

ロブスター 「声を聞くもの同士の戦いにもなれてきたようだ」


王子 (自然の声を聞くもの同士の戦いは長引きやすいらしい)

王子 「光栄だ、マスターロブ。会話する余裕はまだ無いが」

王子 (自然の声……もっと痛々しくない呼び方は無いのだろうか)


ロブスター 「はは……そのようだ」

ロブスター 「考え事もな」


ヒュン ボコッ


王子 「うぐぇっ……」

王子 (腹を思い切り突かれた)




ハーピィ 「……!」


王子 「ごフッ……うぐぉ……」

王子 (練習用とはいえ、重たい鉄だ。きつい……)


ロブスター 「……なかなか良くなっている」

ロブスター 「魔ーレラ婆」


美少女占い師 「……やれやれ」

魔ーレラ 「年寄りをこき使うものじゃなかろうに」

魔ーレラ 「ほれ」


ピロリン


王子 「ゲホッ、ゲホッ……」

王子 「……おお、治った。感謝する、魔ーレラ婆」


魔ーレラ 「折れた肋骨と混ざり合ったちぎれた筋肉やら」

魔ーレラ 「ぐちゃぐちゃになった内臓やらが元通りじゃ」


王子 「うん、そこまでは無かったとおもうけどね……」




魔ーレラ 「治癒を魔法に頼るくせをつけるのは良くないというのに」


ロブスター 「痛みをともなってこそ、修行だ」

ロブスター 「後遺症が残らず、それでいて二度とくらいたくないような絶妙な痛みとなるよう打ち込んでいる」


王子 「ああ、本当に一撃ももらいたくないね……」

王子 「思い通りになったことはないけど」


ロブスター 「おいおい、なってたまるか」

ロブスター 「おれとお前さんとでは磨いてきた年季が違うんだ」

ロブスター 「声を聞く精度も、剣の腕も」


魔ーレラ 「……若者に入れ込む歳でもなかろうに」


ロブスター 「歳がどうこうではない」

ロブスター 「共鳴するのだ……えびゆで師の魂が」


王子 「ああ」


魔ーレラ 「当たり前のように行っておるが」

魔ーレラ 「えびゆで師って何じゃ」


ロブスター 「……ふっ」

ロブスター「分からん者には、分からん世界さ」


王子 「ああ。声を聞く者すべてが、えびゆで師に目覚めるわけではないらしい」


ロブスター・王子 「はっはっは……」


魔ーレラ 「……つまり、馬鹿同士で気が合うわけじゃな」


ハーピィ 「…………」




魔ーレラ 「あまりこき使わんでくれよ。治癒の魔法は燃費が悪い」


ロブスター 「我らが占い師が、頼りないことを言ってくれるな」


魔ーレラ 「そう、占い師じゃよ私は」

魔ーレラ 「剣士に、飛んでいるハエを弓矢で射抜けと言っておるようなものじゃぞ」


ロブスター 「だが、専門の回復術士はなかなか見つかるものではない」


魔ーレラ 「そりゃそうじゃろう」


王子 (帝国でも、治癒の魔法をすべて修めている魔法使いはいないと聞いたことがあったか)

王子 (やはり珍しいのか)


魔ーレラ 「何が、我らが占い師か。うちの船長が、占いを素直に聞いた試しがあったかのう」

魔ーレラ 「先日も、会わぬべき相手と会いおって……」


ロブスター 「まいったな。女の小言には耳を傾けざるを得ない……」


王子 (……合わぬべき相手。あの商人のことだろうか)





王子 「……こんな珍し船の船長だ」

王子 「ぜひ会いたいという人も多いのだろうね。善人も悪人も」


ロブスター 「善悪は分からんが、おれと会うなり……」

ロブスター 「会えて嬉しい、と笑顔で言う輩は多い」


王子 「剣の腕を知ったら、気軽にそんなことは言えなくなるだろう」


ロブスター 「だから秘密にしているんだがね」


王子 「素晴らしいことだ」

王子 「会いたいと言う者には、すべて会っているのだろうか」


ロブスター 「そういうわけでもないが……」


王子 (少し歯切れが悪いか)

王子 (淫魔の商人が船長と会えたか、聞き出すのは難しいかな)