P『アイドル』 (228)











『アイドル』って、何でしょうね?』












SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403357875

―――――今日の運勢、占っちゃいます!


???「ピヨっ!」
来た!毎朝の運勢確認!これを見ないと一日が始まらないのよね!


―――――今日の乙女座は……


???「ピヨ…ピヨ…」
ドキドキ、ドキドキ


―――――運勢最高!懐かしいあの人や、あの子と再会できるかも!


???「ピヨーーー!キタコレ!!あたしにもついに春が!!」
……はっ!冷静に考えるのよ、音無小鳥!懐かしのあの人って…誰?


小鳥「何よーーー!彼氏いない歴=年齢のあたしに対するあてつけなの!?相手がいないんじゃ、たとえ一位だろうと意味ないじゃない!」

???「……小鳥さん、朝の占い見るのはいいですけど静かに見てください」


小鳥「……はい、すみませんでした」


ちょっと興奮し過ぎちゃった……失敗。


???「それにしても小鳥さんって毎朝占い見てますよね?理由か何かあるんですか?」


うーん。まぁ、確かに理由はあるけど……


小鳥「それは乙女の秘密ですよ!でも、律子さんは占い見ませんよね?何でですか?」


律子「そんな占いなんて信じてないからですよ」


なるほど、確かに律子さんは占いに頼るよりも、自分の力で運命を切り開くタイプのような気がする…


もしかして、それが勝ち組と負け組の差!?


小鳥「ピヨーーー!そうだったのね!毎朝あたしは負けてたのね!だからいつまでたっても彼氏の1人も……うぅ」


律子「小鳥さん!」


小鳥「スミマセンデシタ」


……はぁ。落ち込んでいても仕方がない!お仕事頑張ろう!








――――それでは、朝のニュースです。


――――昨年アメリカの表舞台に突如姿を現し、大ブレイクした3人組アイドルユニット“EDEN”が引退を発表しました。


――――引退の詳しい理由や、引退後の活動については……


ピッ!


さぁて、お仕事、お仕事!




――――あ、申し遅れました! あたし…いえ! 私、765プロで事務員を勤めさせてもらっている、音無小鳥と申します。


ここ、765プロはアイドル事務所ということで現在は12人の見習いアイドルがいます。


その全員が日々レッスンを積んで、デビューする日を待ち望んでいます!


それと、さっき私を叱っていた人がこの事務所の“元”アイドルにして、“現”プロデューサーの秋月律子さんです。


765プロは、見習いアイドル12名+律子さん+私+社長の計15名で成り立っています。



???「おや?音無君、おはよう」


小鳥「あ、おはようございます、社長!」


この人が社長の高木順二朗さん。


……ここだけの話ですが、少し前まで社長は高木順一朗さんという人でした。


だけど今では会長として全国各地を営業して回っているので、社長が不在という事になってしまいました。


そこで従兄の順二朗さんが代わりに社長となっている、ということです


小鳥「どうしました、社長?」


社長「うーむ……。いや、実は、今日はみんなに報告があってだな…」


小鳥「報告、ですか?」


社長「うむ。それも、かなり重要なことだ」


社長がここまで言うってことは本当に重要なんだろう。


社長「音無君、私は社長室にいるから全員揃ったら声をかけてくれたまえ」


小鳥「はい、わかりました!」


かなり重要な報告……一体なんだろう?


???「おはようございまーす!」


小鳥「あ、春香ちゃん。おはよう」


この娘は天海春香ちゃん。765プロの見習いアイドルの1人です。


春香「おはようございます、小鳥さん!」


小鳥「春香ちゃんは朝から元気ね~」


春香「はい! 元気だけが取り柄ですから!」


小鳥「うん、見ているこっちまで元気になってくるわ!」


私も少しでも見習わなくちゃ!


春香「えへへ、ありがとうございます。うれしいなぁ」


小鳥「でも春香ちゃん、1つ間違ってるわよ?」


春香「へ? 何ですか?」


小鳥「春香ちゃんの取り柄は元気だけじゃないわ! お菓子作りが上手いとか、リーダーシップがあるとか、他にもたくさん!」


春香「そ、そんな! 私なんて、大したことありませんよぉ」


小鳥「まぁ、そういう良いところって自分じゃ分からないものよ? 他人から見て初めて気づくんだから」


もちろん、良い面だけじゃなくて悪い面もだけど……ね?


春香「そうなんですか……。わかりました! 小鳥さん、ありがとうございます!」


小鳥「いえいえ、どういたしまして!」


やっぱり、春香ちゃんは笑顔が似合うわね!

……? 何か忘れているような…?


小鳥「……あっ!!」


春香「うわぁ! ど、どうしたんですか!?」


小鳥「社長から、みんなが揃ったら話があるから声をかけてくれたまえ、って言われてたんだった!」


春香「えぇ!? た、大変! 他のみんなは集まってるんですか!?」


小鳥「えぇ! 春香ちゃんで最後よ!」


春香「じゃあ私、急がないと……きゃあ!」


春香ちゃんが、まるで“どんがらがっしゃーん!”と聞こえてきそうな勢いで転んだ!

「だ、大丈夫!?」


「てへへ……また転んじゃいました」


春香ちゃんの特技みたいなものだけど、いつ見てもヒヤヒヤするわね……。


「さぁ、小鳥さん! みんな待ってますよ? 急ぎましょう!」


「あ! 待って、春香ちゃ~ん! 急ぐとまた転ぶわよ!」


「大丈夫ですよ、小鳥さ……」


どんがらがっしゃーん! !


……ほんと、大丈夫かしら?








社長「おっほん! 全員揃っているね? ……では、今日はみんなに大事な報告がある」


春香「社長! 小鳥さんも言ってましたけど、大事な報告って一体何ですか?」


社長「うむ! 実は……」

???「どうせ、大した事じゃないわよ。それとも何? ようやくこの伊織ちゃんが、アイドルデビューできるってわけ?」


???「ちょっと伊織! 今社長が話してるんだから、静かにしてよ!」


???「ま、真ちゃんも落ち着いて…」


???「そうですよ! 伊織ちゃんも話は最後まで聞きましょう!」  


――――今、社長の話をさえぎった娘は水瀬伊織ちゃん。お父さんが水瀬財閥のトップで、その娘さんである伊織ちゃんはお金持ちのお嬢様なんです!


その伊織ちゃんに対して怒ったのが、菊地真ちゃん。姿とか言動が男の子っぽいからよく間違われるけど、ほんとはとっても乙女な女の子!


真ちゃんを落ち着かせているのは萩原雪歩ちゃん。男の人が苦手だけど、それを克服しようと頑張ってる努力家さん!


最後に発言したのが高槻やよいちゃん。たくさんの兄弟がいて大変な両親を、少しでも楽させてあげようと頑張る、とっても家族思いの子!

???「それで、社長。いい加減話してくれませんか?」


社長「う、うむ、如月君。では、改めて…」


今のは如月千早ちゃん。あまり表情を変えずにいるから感情がわかりにくいけど、歌に対しての情熱は765プロの中でも1番凄い子!


社長「…実はこの度、765プロにプロデューサーが誕生するのだ!」


春香「……え?」


???「ちょ、ちょっと待つさー! 765プロには律子っていうプロデューサーがいるだろ!? なのにプロデューサーが誕生、って…うがー! 自分、わけがわからないぞ!」


???「社長、響の言うとおりです。詳しい説明を要求いたします」


方言が特徴的な娘は、我那覇響ちゃん。アイドルになるために沖縄から上京してきて、今はたくさんの動物達と住んでいる、とっても元気な子!


その次に発言したのは、四条貴音ちゃん。……実は、私達も出身地とか詳しいことはわからないんだけど……そんな不思議な魅力がある子!

社長「ふむ、実は前々から考えてはいた事なのだが、さすがに律子くん1人で12人の相手は大変だろうと思ってな。そこで、もう一人プロデューサーを雇ったというわけだ」


???「ねぇねぇ、社長! 新しいプロデューサーって男の人? それとも女の人?」


社長「男だが……それがどうかしたのかい?」


???「んっふっふ~♪ だったら、あだ名は兄ちゃんだね!」


社長に質問した子は、双海真美ちゃん。あだ名をつけた子は、双海亜美ちゃん。実はこの2人は双子で、とってもイタズラ好き! いつも律子さんや伊織ちゃんに怒られています。
でも、二人がいるだけでとっても明るくなれる凄い子達!

???「あふぅ、まだ話してたの?」


???「あらあら。美希ちゃん。ずっと寝てたの?」


今あくびをした子は星井美希ちゃん。すごい才能の持ち主らしいけど、いつも寝ているちょっと残念な子……。でもいつか、その魅力をたっぷり見せて欲しい子!


その後のおっとりした人は、三浦あずささん。彼女だけは765プロ所属アイドルの中でも成人しているので、みんなのお姉さんみたいなポジションになっている人です!


律子「こら、亜美! まだ会ってもいない人に対してあだ名とかつけるんじゃないの! それと美希? 何寝てるのかしら。今は社長が話してたんでしょ?」


美希「うぐぅ、すみませんなの律子……さん」


これが今の765プロのメンバーです!


これに、新しいプロデューサーさんも加わって16人かぁ……。賑やかになりそうね。






社長「いま連絡が来た。もうすぐそこまで来ているそうだ」


亜美「わーい! ねえ真美、どんな人だと思う?」


真美「きっと、すんごいイケメンの兄ちゃんだよ!」


小鳥「ピヨッ! イ、イケメン!?」


ほ、本当かしら?


律子「……小鳥さん? 本気にしないでくださいね?」


デ、デスヨネー


響「でも、本当にどんな人なんだ? 少しぐらい教えて欲しいぞ!」


雪歩「うぅ…、怖くない人だといいんですけど…」


うんうん、みんな気になるわよね?


社長「どんな、と言われてもだな……」


社長が少し考える動作をすると……おもむろに私の方に顔を向ける。


社長「……そういえば、音無くんはあったことがあるはずだぞ?」


小鳥「へ?」


春香「ええ!? 小鳥さん、会ったことあるんですか!?」


伊織「ちょっと小鳥! 早く言いなさいよ!」


小鳥「いや、社長……。まったく心あたりがないんですけど……」


社長「あーほら、彼だよ彼! たしか、名前は……」


ブオォォォォオン!!!


貴音「!? 何奴!」


あずさ「わわっ、貴音ちゃん……ちょっと落ち着いて?」


キキィッ!!


社長「……どうやら、来たようだね」


小鳥「このバイク音、どこかで聞いたことがあるような……」






―――ブオォォォォオン!!!


……キキィッ!!


???「―――よぉ、小鳥。おはよう」


小鳥「お、おはよう。―――君」


???「ちょっとあんた、おはようじゃないわよ! もう昼過ぎよ!」


???「おい、―――よ。知らなかったのか? この業界では挨拶はいつでも“おはよう”なんだよ!」


???「し・って・る・わ・よ! 私が言ってるのは、あんたが遅刻しているってことよ!」


???「おーおー、スマンな」


???「まったく……反省してるの!?」


小鳥「まあまあ、―――君も遅刻したのは悪いけど、―――さんも落ち着いて……」


???「「小鳥は黙ってて(ろ)!」」

小鳥「まさか、社長……新しいプロデューサーって」


社長「……うむ」



          ―――俺、絶対親父みたいなスゲープロデューサーになるからさ! その時にはジュンさんが雇ってくれよ!?


          ―――よし、いいだろう! ……では、君の名は?



ガチャ……


???「はじめまして! 新しいプロデューサって事で来ました、Pです!」


小鳥「……P君!」



          ―――P! Pってんだ!


          ―――そうか、Pか! 覚えておこう!



社長「彼、だよ」

今日はここまでです
続きは起きたら投下します

おはようございます
しばらくしたら投下しますね





P「あれ、小鳥さん? 久しぶりです!」


小鳥「P君! あんなに可愛かったのに、今ではもうすっかりイケメンになっちゃって……」


P「残念なんですか?」


小鳥「いえ、全然! むしろありがたいわ!」


P「ははは! 全然変わってないですね!」


小鳥「P君こそ!」




真「なんだろう? あれって弟の成長を喜ぶ姉、というよりは若者を狙う行き遅れ、って感じが…」


千早「真、それ以上はいけないわ」


春香「ち、千早ちゃんに同情されるって…」


やよい「でも、お2人はとっても仲良しさんなんですね?」


伊織「ええ、そうね。それも、ものすごく怪しいくらいに」


あずさ「こっちの話も聞こえてないみたいね~」





小鳥「ところでP君、みんなに挨拶しなくていいの?」


P「ん、そうですね。それじゃあ行きましょうか」



P「あー、765プロのアイドルのみんな、はじめまして! 今日からプロデューサーをさせていただくPです。よろしく!」


社長「P君は若いが、プロデューサー歴は長いからな。みんなも安心してくれたまえ」


律子「へぇ~、誰か担当してたんですか?」


P「ん? たしか、秋月律子さんだっけ?」


律子「はい、どうしてわかったんですか?」


P「いや、事前にジュンさんから資料はもらってたからね。顔と名前は一致していると思うよ?」


真美「じゃあじゃあ兄ちゃん!」


亜美「どっちが真美で!」


真美「どっちが亜美でしょうか!?」


P「最初にしゃべったのが真美、次にしゃべったのが亜美かな……?」


亜美「すごいよ兄ちゃん! 亜美と真美を一発で見抜けるなんて!」


真美「普通の人間ならまず無理だね」


貴音「なんと! プロデューサ殿は人間ではないのですか!?」


響「貴音、冗談だぞ」


P「ははは、ありがとう。記憶力には自信があるからね!」


小鳥「そういえばそうね。昔からそうだったような気がするわ」


亜美「きっとその眼鏡に細工があるんだな!?」


真美「なん……だと……?」


伊織「あー、はい、そういうのはいいから」


律子「……で、話がそれてしまいましたけど、誰かの担当をしていたんですか?」


P「ん? ……実は俺、『EDEN』の担当をしていたんだ!!」


千早「『EDEN』って、もしかしなくてもあの?」


P「あぁ、そうだが……何だ? 興味があるのか?」


千早「『EDEN』の1人に“歌姫”と呼ばれる方がいるので……」


P「あぁ、なるほどね! 如月さんは歌手志望だっけ?」


千早「はい……最終的な目標はそうですね」


律子「あーそこ、そういう話は後でにしてもらえる? 今は私の質問なんだけど」


千早「あ、ごめんなさい、律子」






律子「なるほどね……確かにトップアイドルを担当していたっていうのは、そうとう頼もしいわね」


P「あ、ゴメン、それ嘘」


律子「は、はぁ!? ふざけてるんですか!?」


P「いや、アメリカにプロデュース業を学びに行ったのは本当。でも、担当していたのは違うアイドルだよ。たぶん誰も名前を知らないと思う」


律子「こっちはまじめに話してるんですよ!? それを……!」

 
P「あーっと、ほら、アメリカンジョーク? 本場で学んできたんだよ!」


律子「な・に・を・学んでるんですか! 知りませんよそんなの!!」






P「じゃあ冗談はここまでにして、さっそくプロデューサーとしての仕事をしますか!」


律子「最初からそうしてくださいよ……」


P「ははは、悪かったって。……じゃあ、これから各自インタビュー形式で質問させてもらうから答えてくれ」


真「質問って何を聞くんですか?」


P「本人の希望する活動内容とか……とりあえず、今後のプロデュースに関係するものかな?」


社長「ふむ……そういうことなら、会議室を使いたまえ」


P「ありがとうございます! それじゃあ、最初は……」


美希「……あふぅ、まだやってたの?」


伊織「というか、あんたはまだ寝てたのね……」


春香「まぁ、美希らしいんじゃないかな?」


やよい「たしかに、ずっと目がパッチリしている美希さんは想像できないかなーって」


美希「そんなの美希じゃないの」


P「よし、ちょうどいい。まずは星井からだ」


美希「えぇー、めんどくさ……」


P「終われば好きなだけ寝ていいぞ、俺が許す!」


美希「早くするの」


律子「あんた……」





P「―――ふぅ、これで全員かな?」


小鳥「お疲れ様、P君」


P「おっ、ありがとうございます! 小鳥さん!」


小鳥「いえいえ! ……ところで、P君って視力悪かったっけ?」


P「ああ、眼鏡ですか? そうですね、最近見えなくなってきて……」


小鳥「そうなんだ……それじゃあ、私も今日は友達と約束があるからここで!」


P「はい、お疲れ様でした!」














P「―――失礼します」


社長「おや? 他のみんなは帰ったのかい?」


P「はい、今日の仕事はみな終わりました!」


社長「うむ、ご苦労だった。……ところでP君、1ついいかね?」


P「はい? 何ですか、社長」









社長「―――いつまで、“仮面”を被ってるつもりだい?」










P「やだなぁジュンさん“仮面”ってなんですか! あ、もしかしてライダーさんですか?」


社長「その高いテンション、君はそんな性格だったかね?」


P「ははは! アメリカではこれが普通ですよ!」


社長「……P君、私と君の関係はなんだ?」


P「そんなの決まってるじゃないですか! 社長とプロデューサーですよ!」


社長「それは仕事上での関係だろう?」


P「……どういう事ですか?」


社長「私は先ほど、ご苦労だったと言った。つまり、その時点で君の今日の仕事は終わっていたんだよ」


P「……」


社長「もう一度聞こう。P君、私と君の関係はなんだね?」



P「はぁ……やっぱりジュンさんにはかなわねえな」


―――――そう言って、俺はかけていた“伊達眼鏡”をとった。


P「なぁ、ジュンさん。なんで気づいたんだ?」


社長「昔、君に感じた物を感じなかったから……かな?」


P「相変わらず変なとこは鋭いな」


ジュンさんの発言に苦笑しながら、俺は今日の仕事のために軽く整えた髪を崩していく。


P「ネクタイも邪魔だな……ふぅ、やっと落ち着いた」


社長「間違っても上司の前でする姿ではないな」


P「あんたが言ったんだろう? プライベートでの俺らは“友人”だって」


社長「ははっ、そうだったそうだった」


―――かれこれ10年以上の付き合いになるが、相変わらず食えない人だな。


そもそも、プライベートでは友人でいいと言ってきたのはジュンさんだ。


10年以上前の事だったから忘れているのかと思っていたが……。



社長「で、どうだい! 我が社のアイドルたちは!」


P「一応、前にもらっていた資料と合わせて特徴はつかめた」


社長「ほう! それは頼もしいな!」


P「実際、資料だけでもある程度はわかったが……やっぱり、ただの紙と生きた人間は違うって事を再実感したよ」


社長「アイドル達と接する時には、あの“熱血モード”だったのかい?」


P「まぁ、そういうキャラでいこうと思っているからな」


ていうか、なんだよ“熱血モード”って!

P「とりあえず、今日1日で全員のことはわかった。プロデュースも何となく決まったが……」


社長「何だ、P君。心配でもあるのかね?」


P「いや、心配というか……何人か取り扱い注意人物がいるな、と思ってな」


これは資料をもらった時から何人かは目をつけていたが、実際に今日話してみて警戒しなくてはいけない奴が増えた。個人的には大きな収穫だと思う。


社長「ほう、誰だい?」


ジュンさんが興味津々、といった様子で聞いてくる。


P「いくらジュンさんでも言えないな。手の内をあまり見せたくない」


食えない人である以上、あまり手の内を見せられない。


社長「ははは! それは私も君の言う“取り扱い注意人物”、ということかな?」


まったく、だからこの人は……。

社長「ところで、なぜ君は彼女たちに嘘をついたんだい?」


P「嘘? 何の事だ?」


社長「……君が過去に担当したアイドルのことさ」


P「俺が『EDEN』の担当をしていたって事か? ……ははは! ジュンさん、本気にしてたのか!?」


社長「……“あの人”から聞いたよ」


P「!」


おいおい、どこまで俺の事を知られたんだ!?


社長「安心したまえ。君の『計画』とやらは“あの人”も知らなかったようだ」


P「……じゃあ、何で『計画』の存在は知ってるんだ? 俺は誰にも話してないはずだぜ」


社長「少し前に“あの人”と飲んだだろう。その時に、君がポロッと言ったらしいぞ」


ちくしょう……中身が知られなかったのは幸いだが、不覚だ……。


社長「とにかく! 明日からも彼女たちのプロデュース、頑張ってくれたまえよ!」


ジュンさんがそう言ってくる。確かに、うじうじ考えていてもしょうがない。


P「ああ、もちろんだ。だって……」













―――――ねえ、『アイドル』って何だろうね?


―――――教えてよ、P……。














P「全ては『計画』のため。……それだけだ」


とりあえずここまでです

なんかちょっと前にめちゃくちゃ似たようなものを読んだことある気がする

投下します

>>50の方が少し触れていたので話しますが、自分はこれと同じタイトルのSSを以前も書いていました
しかし都合が合わないなどの理由で投下できず、気付いたら過去ログに行っていました
というわけで、ここでSSを書くのは久しぶりで慣れないのですが、少しずつ更新していきたいと思います








伊織「はあ!? ちょっとあんた、どういう事よ!」


P「どういう事って言われても……そのままの意味だが?」


朝、765プロ内に伊織の絶叫が響く。まぁ煽ったのは俺なんだが。


伊織「しばらくはオーディションを受けさせる気はないってどういう事よ!!」


P「昨日から思ってたけど、伊織って元気だよな。よし、俺も負けてられないな!」


伊織「あんたは少し自重しろ!」


律子「プロデューサー、私にも理由を聞かせてくれませんか?」


亜美「そーだよ兄ちゃん! 亜美達、もっとテレビに出たいYO!」


脇から亜美が言ってくる。その脇では真美も頷いてるし。


やよい「それに、今月も仕事がなかったら来月の給食費がピンチです~!」


うぐっ、それは……。


小鳥「でもP君、私にも理由を聞かせてくれないかしら?」


P「ええ、元々話すつもりでした。……ただ」


小鳥「ただ?」


P「全員揃ってから、ね」


そう、今この事務所には全員揃ってないのである。


……全員揃うまでに、何とかして納得させられるような説明を考えないと。







P「というわけで、これから説明会を開始する!」


伊織「納得できるんでしょうね?」


P「ああ!」


そのために必死で考えたんだからな。


千早「それで、理由は何ですか?」


P「簡潔に言うと……準備期間だ!」


真「準備ですか?」


P「そうだ! お前たちには素質はある。でも、だからといって急いでオーディションを受けると基礎が足りなくて失敗する可能性がある!」


実際に準備不足で潰れたアイドルを俺は何人も知っているからな。経験の違いだ。


伊織「そんなの! 私達は今までずっとレッスンしてたわ! それもあんたがいない時からね! それでもまだ足りないって言うの!?」


響「ちょ、伊織、落ち着くさー」


貴音「しかし、水瀬伊織の言う通りです。私達の実力が足りないと?」


P「ああ、だから今日確かめさせてもらおうと思ってな。それに伊織、俺は受けさせる気はないとは言ったが、受けさせないとは言ってないぞ」


もちろん今の反論は予想できていた。ついでに彼女たちの実力がわかるならいい機会だ。


伊織「今日の結果次第ということね……」


P「そういうことだ!」


律子「社長はこれでいいんですか? もしかしたら、しばらく仕事が無くなるのかもしれませんよ?」


社長「ああ、彼が決めたことだ。プロデュースに関しては彼に任せるよ」


春香「……社長って随分信頼しているんですね、プロデューサーさんの事」


社長「付き合いは長いからねぇ」



律子「私の意見は全く聞かないんですね」


P「何だ? 律子も意見があるんだったら聞かせてくれよ!」


律子「いえ、私は彼女たちの実力とプロデューサーさんの判断を聞いてから言いますよ。ただ……」


P「心配事か?」


律子「ええ。今回新しいステージ衣装を買っちゃったからお金がないんですよ、この事務所」


P「それがどうかしたのか?」


律子「実は今までオーディションに受からなかったのは宣材のせいかと思いまして見てみたんですけど……」


そう言われて、俺は彼女からアイドルたちの宣材を受け取ったが……。


P「……ジュンさん、この宣材ってあなたが何か言いませんでした?」


社長「ほう、何でわかったんだい?」


このおっさんは誰かシバくべきだと思う。

社長「私はいいと思うんだけどねぇ?」


P「どこの宣材に猿のコスプレして撮るバカがいるんですか!」


亜美「えー、いいじゃんこれー!」


真美「ちょーイケてるってー!」


これは予定変更だな。こんなんじゃ、受かるオーディションも受からん。


P「……今日の予定は宣材の撮影だ。各自頑張ってくれ」


伊織「ええ!?」


美希「デコちゃんうるさいの。ゆっくり寝てたのに……あふぅ」


伊織「デコちゃん言うな!!」


雪歩「カメラマンさん、男の人じゃないといいなぁ……」


社長「私は良いと思うんだけねぇ、個性的で」


……ほんと、大丈夫か? この事務所。



P「ジュンさん、ホント勘弁してくれよ……」


今、アイドル達は宣材の撮り直しをしている。それはもう順調に。なぜあんな写真を撮ったのかというくらいに!


P「おかげで1日潰れたよ……」


律子「プロデューサーさ~ん! これ、似合ってますよねー!」


律子に呼ばれた先には、美しい衣装を着たあずささんがいた。


あずさ「ど、どうですかぁ?」


P「いいですね! とても似合ってますよ!!」


伊織「ちょっとあんた! 何あずさにデレデレしてんのよ!?」


あずささんを見ていると、後ろから伊織に声をかけられた。……ちょっとからかってやる。


P「おいおい伊織、いくら自分があずささんのようなナイスボディじゃないから……って……」

……俺が振り向いた先には、何と言っていいのかよくわからないような……伊織のようなものがいた。


亜美「ちょっといおりん、早いよー!」


真美「待って待ってー!」


その後ろから亜美と真美らしきものも来る。だけど、こいつらの胸元はこんなに膨らんでたか?


やよい「前が見えな……あっ!!」


そして、その後ろから来たやよいらしきものが転んだ。


P「……お前ら、ちょっとこっち来い」


この事務所の奴らには、一回まとめて説教した方がいいかもしれない。



P「なるほど、お前たちの考えはわかった!」


亜美「亜美、ちょー個性的だったでしょー!?」


真美「何でダメなの!?」


P「……お前らは個性を勘違いしてるぞ」


伊織「なっ……じゃあ、どうすればいいのよ!」


P「別に、普段のお前らでいいんじゃないか?」


伊織「はあ?」


俺としては、なぜこのような事で悩むのかがわからなかった。


P「お前達は十分個性的なんだから、余計なことをすると逆効果なんだよ」

やよい「なるほどー」


P「例えば、亜美真美。お前らは双子なんだから相手の事はよくわかっているはずだ。それを活かして撮影すればいいじゃないか」


亜美「なるほどー! そうだね!」


真美「さっそく撮影行ってくるよ!」


P「おう! 行ってこい!」


これであいつらは大丈夫だろう。


P「お前らは……」


P「さーて、今日の仕事はお終いだ! みんなおつかれ!」


「おつかれさまでしたー!」


P「さて、俺はジュンさんに説教でもしてから帰るか……」


伊織「ちょっとあんた、待ちなさいよ!」


……またこのパターンかよ。というか、スタッフの皆さんがいるのに大声出すなよ。


P「なんだ? 伊織、もうみんな帰ったぞ?」


伊織「……明日!」


P「はぁ?」


伊織「明日、目に物見せてやるから覚悟してなさいよね!!」


そう怒鳴ると伊織はズンズンと足音がなりそうな勢いで帰っていった。


……明日は相当荒れるな。覚悟しておこう。






P「というわけで、今日はお前達の実力を見せてもらうぞ!」


誰かさんのせいで1日遅れたが、今日は実力調査だ。はっきり言って、これは資料を見ただけではわからないので、俺にとっても大切な機会だ。


P「課題曲は『READY!!』だ! 一人ずつやってもらうがいいか?」


伊織「いいから、早くしなさいよね!」


P「おうおう! じゃあ伊織、お前からな!」


伊織「ふん! いいわ。このスーパーアイドル伊織ちゃんの実力を見せてあげるわ!」


そう言うと伊織はすぐ準備にかかる。……あいつ、元から1番でやるつもりだったな。そんなに俺に認めて欲しいのか?


P「それじゃあミュージック……スタート!」


伊織「はぁ、はぁ……どうよ、私の実力は!?」


曲が終わるなり、俺に評価を求めてくる。言いたいことは山ほどあるが……。


P「……評価については後で話す。次、やりたい奴はいるか?」


伊織「なっ……」


P「いないようだな。それじゃあ……」


伊織の顔が曇っていく。すぐに評価されれば、心の準備をしないうちに聞かされるわけだから心は楽だろう。

しかし時間が経つに連れ、何を言われるのかなどの想像をするとプレッシャーに襲われる。

それをプラスに捉えることが反省に繋がるわけだが、今の伊織には心の余裕が無い。もっとも、昨日の時点で俺がそうなるように色々煽ったのだが。


伊織「ぐっ……」


早くもプレッシャーが来たみたいだな。ま、せいぜい抗ってくれよ?














お前は、才能はあるが取り扱いが難しい“取り扱い注意人物”の1人なんだから。



P「さて! 今日の結果を見る限りだと、とりあえず小さな仕事ならやってもいいだろう!」


やよい「ほ、ほんとうですかー!?」


P「ああ! ……だけど、まだ本格的なデビューってわけじゃないからレッスンは多めになる。それに、俺のやりたいプロデュースもできないわけだが……」


律子「やりたいプロデュース、ですか?」


P「ああ、一応お前達のプロデュースの仕方は考えてあるがしばらくは見送る。それまではレッスンだな!」


一応、考えてあるプロデュース方は実績があるので心配はしてないが、やはり基盤は固めておくに越したことは無い。


美希「とりあえずもう帰っていいの? ミキ、今日はたくさん動いたから眠いの」


P「おっと、すまない。ではみんな解散! また明日!」



伊織「ちょっと待ちなさいよ!」


その瞬間、伊織の怒声が響く。


P「どうした伊織。ちょっと落ち着けって」


伊織「あんたの意見、まだ聞いてないわよ」


P「俺の意見?」


千早「そうですね、それは私も気になります」


俺の意見か……。というか、千早まで聞きたがってるのはまずいかな。


P「俺の評価は“後から”とは言ったが、今日とは言っていない。それに今の時点では必要ないさ。強いて言うならもっと基礎をすることだな」


伊織「なっ……ふざけんじゃないわよ! そんなの全然、評価にすらなってないじゃない!」


……やっぱり、こうなるか。


P「それは評価される実力になってから言え! まだお前じゃ実力不足だ!」

伊織「なによ……あんたに私の何がわかるっていうのよ!!」


……ちょっと強く言い過ぎたか?だけど、俺は間違ったことは言っていない。今の実力を見て、アドバイスするとしたら『基礎能力をもっと上げろ』だ。


むしろオブラートに包んでいるような気もするんだが……。


春香「ちょっと、伊織! どこ行くの!?」


そう思っている隙に、伊織が出口へと歩いていた。


伊織「帰るのよ! もう顔も見たくないわ!!」


……誰が、とは言ってないが十中八九俺だろう。


正論を言ったのに俺が悪者みたいに仕立て上げられるのはいい気がしない。


と、こんな思考の最中に伊織は出て行ったようだ。


千早「……プロデューサー、さっきの評価は私にもですか?」


P「ん? そうだな。千早の歌は比較的良いが、ダンスやビジュアルも上げていかないと上では通用しないぞ?」


千早「そうですか……ありがとうございます」


口では礼を言ってるが、本人は満足していないな。ここも悩みどころか。










さて、アイドルのみんなは事務所に帰ったが、俺とジュンさんは事務所で残った作業を片付けている。

といっても、小鳥さんも律子も帰ったから実際は俺とジュンさんの残業ということになる。


社長「あーもしもし? おお、久し振りだね!」


社長室から声が聞こえてくる。どうやら、知り合いとの電話らしいが……


社長「……は? それは本当かね!?」


急にジュンさんが慌てたような声を出した。


社長「P君」


電話を終えたジュンさんが俺の前に立って、声をかけてきた。


P「どうしたんすか?」


社長「今、水瀬くんの父親から電話があってな……」


水瀬のおじさんから? それは珍しいな。


社長「なんでも……」











社長「……水瀬くんが、行方不明だそうだ」





はい、ここまでです
続きは後ほど

こんばんは
投下しますね

ブオォォォォオン!!!


―――伊織が行方不明という報告を聞いた俺は、すぐさまバイクで伊織の捜索を始めた。

しかし、伊織はどこに行ったんだ?

家出? 誘拐? それとも……。

……とりあえず、事情がわからない以上は一度水瀬家に行ったほうがいいだろう。


P「まったく、『計画』が狂いっぱなしだな」


もっとも、アメリカでも多少は『計画』が狂う時もあったが今回は異常だ。

まだ765プロに来て3日目だというのにアイドルが1人行方不明とは、あまりにも予想してなかった展開すぎる。


P「ま、起きたことは仕方がないんだが」


とりあえずは水瀬家に向かってバイクを走らせよう。

P「じゃあ、水瀬のおじさんも伊織がどこにいるのか検討がつかないのか?」


伊織父「うむ……非常に遺憾だがそうなる」


結局、水瀬家に来ても特に得られる物は無かった。

事務所に電話があってから少し時間も経ったし、なにか情報があると思ったが……


ピリリッ♪ ピリリッ♪


P「おじさん、電話だぜ?」


伊織父「? ……伊織の携帯から!?」


おし、ビンゴ!

さて、電話の相手は伊織かな? それとも……

伊織父「もしもし! 伊織か!?」


???「もしもしぃ? 水瀬家の当主様ですかぁ~?」


伊織父「なっ……誰だ貴様は!!」


???「伊織ちゃんは誘拐しましたぁ。返して欲しかったら3時間後、〇〇倉庫に現金で10億持ってきてくださいねぇ?」


伊織父「誘拐だと……? ふざけるな!! 貴様は誰だと聞いて……」


???「もし持ってこれなかったら、伊織ちゃんがどうなるか……わかってますよねぇ?」


伊織父「待て!! ……くそっ! 切られたか!」


さて、今の電話で相手の声は聞こえなかったが、伊織は誘拐されたと見て間違いないだろう。

おそらく目当ては水瀬家の金。その交渉材料として娘の伊織が狙われた……というところかな?


P「おじさん、今の電話は?」


伊織父「ああ、実は……」


なるほど、10億ね。しかも3時間後に。

今は午後9時。3時間後となると午前0時となるが、はっきり言って金を用意するは簡単だろう。

問題は……。


伊織父「……犯人は、無事に伊織を帰すのだろうか?」


これこそが最も不安な点だ。

実際、伊織は交渉材料として誘拐されたわけだ。その交渉が終われば存在は不要となる。

金を手に入れた犯人が伊織を殺さないとも限らない。その場合は金を渡した奴も口封じとして殺されるだろうな。

伊織父「くそっ! どうすれば……!!」


おじさんもここまで考えて迷っている。当然だ。


伊織父「こうなったら、警察に頼るしか……」

P「それだけはやめてください!」


警察に連絡すればたしかに安全性は高まるだろう。だが、同時にデメリットが発生してくる。

まず、要求に従わなかったとして伊織が危険だ。

そして次に、もし助かってアイドルデビューしたとしても『誘拐されたお嬢様アイドル』というレッテルが貼られることになる。

もっとも、安全性を考えるならば警察が1番だ。しかし俺はこの1件を公にしたくない。

そうすると条件としては『警察などの公共の機関に頼らずとも、不測の事態に対処できるような人物』が俺にとっては好ましい。

そんな人物となると、俺には1人しか心当たりがない。

伊織父「では、どうすれば!」


P「……俺が行きます」


俺が出ること。これが今選べる最善の選択肢だ。


伊織父「! たしかP君、君はアメリカで軍に入ってたと聞いたが……」


P「親父から聞いたんですか? 本当ですよ、それ」


実際には訓練兵だが、俺はアメリカに行った時に「訓練の一環だ!」という親父の暴言で高校時代を訓練学校で過ごした。

そのおかげで護身術程度なら完璧に行えるので、もし不測の事態が起きても対処はできる。


伊織父「そうか……。ならば、すまない! 娘のために頼めるか?」


P「もちろん! 大事な俺の担当アイドルです! それに、親父の数少ない友達の娘さんなんですから」


伊織父「おや? 君の父親は昔からいろんな人と知り合いだった気がするが?」


P「あくまでも『知り合い』ですよ」


伊織父「ははは! そうか、済まないな!」

おじさんとの『駆け引き』も終わり、俺は時間が来るまで外で待機していた。


P「しかし、おじさんには悪い事しちゃったな……」


おじさんは不測の事態が、もしかしたらの確率で起こるつもりだと思っているだろうが、俺はその不測の事態を『確実に』起こすつもりでいる。

理由は色々あるが……


P「そうすると、久しぶりにあの人の出番か」


電話を取り出し俺は、この業界では悪い方で名前が通っている人に電話をかけた。


P「もしもし? 久しぶりです、Pですけど……」

電話もかけ終わると、俺は本格的に手持ち無沙汰になった。


P「しかし、どんな顔をして会えばいいのやら」


今日の伊織との別れ際、もう顔も見たくないと言われた奴からすれば当然の疑問である。

しかし、今回の1件が誘拐であるとわかって俺は少しホッとしている。

最後が最後だったので、もしかしたらアイドルになるのをやめて家出したのではとも思っていたから、少しは安心したのだが……


P「もっとも、余計な心配だったか?」


初日の個人での質問タイムの時、伊織はかなり家族に対する敵意をむき出しにしていたな。


P「スーパーアイドル伊織ちゃんなんだから、か」


あの時、俺は伊織を『取り扱い注意人物』の1人として警戒し始めた。

伊織は、すぐにデビューしたいという強い意志があったがそれは俺にとって危険だった。

確かに実力はそれなりにあったが、絶対にどこかで止まるぐらいの実力だった。少なくともトップは不可能だ。


……だから俺は伊織を煽って勝負をした。

俺がお前達の実力を認めたらお前達をデビューさせる。もし認めなかったらデビューはさせない。

もっとも俺は、負けるつもりは無かったし勝たせるつもりも無かった。

ある程度の実力は見せたので真ん中辺りで妥協したが、プライドの高い伊織は納得しなかっただろう。

―――勝てなかったら、負けたと同じだ。


たぶん、こう思ってるんじゃないだろうか。

俺もその考えには同意する。だが、今回はそれを利用して威勢を削ごうと思ったんだが……


P「まさか、あそこまでプライドが高いなんてな」


それが伊織なんだろう。そして、そんな伊織がアイドルを目指すのをやめるなんて考えは余計なことだったな。


伊織父「P君! 準備ができたぞ!」


P「オッケー! じゃ、行ってきます!」
 

さて、気分はお姫様を助けに行く王子様の気分だ。

残念ながら悪役は即効で退場してもらって、お姫様とゆっくり2人の時間と行きますかね。


P「待ってろよ、お姫様! たっぷり説教してやるからな!!」


レッスン場を飛び出し家へと帰る途中に、私はアイツに言った言葉を思い出していた。


―――帰るのよ! もう顔も見たくないわ!!


少し言い過ぎたかしら? でも、私はアイツの態度が気に入らなかった。


―――俺の評価は“後から”とは言ったが今日とは言っていない。それに、今の時点では必要ないさ。強いて言うならもっと基礎を固めろ


ああ、もう! 今思い返しても腹が立つ!

確かにアイツは今日、オーディションを受けさせるかの判断をするために私たちの実力を見せてもらうとは言ったけど、私達への評価を伝えるとは言っていなかった。

でも、それでも……


伊織「それくらい、教えてくれたっていいじゃない……!」


そもそもアイツ、イマイチ正体がつかめないのよ!

最初見たときは、確かに少しカッコイイかもって思ったわよ。

でもすぐに、こんな若くて実績もなさそうな奴のプロデュースでトップアイドルになれるの? とも思った。

そしたら『EDEN』のプロデューサーをやっていたって言うじゃない!



……そして、それは嘘って言った時に私はアイツを引っ叩いてやろうかとも思った。

でも、やめたわ。初対面だったし、しかもあの時質問していたのは律子だったから。

さすがに他人の会話中に食ってかかるなんて事はしないわ。


その次の日、私は散々あいつにからかわれた。

会って2日目とは思えないぐらいに散々に。

挑発された時も、わかっているのに言い返してしまう。これもアイツに遊ばれていると考えていいだろう。



宣材撮影の時、どうすればわからなくて迷走していた私にアイツはアドバイスをくれた。

正直言って、そのアドバイスがなければ私はずっと迷走していただろう。

そんな私を救ってくれた事は感謝している。



でもその事によって、私はアイツの事がまたわからなくなった。

アイツの事は『有能そうに見せているだけの無能』、『熱血キャラを目指しているバカ』って認識だったのに違うと思った。

特に前者。もしかしたら本当にコイツは有能なんじゃないか?

……だとしたら、なぜすぐに私達をオーディションに出さないのか?

オーディションを受けさせるのが面倒で、ずっと私達にレッスンを受けさせるつもりなんだと少し考えもした。



……結局、わからなかった私はアイツに宣戦布告をして帰ることにした。

やりきった。

これが、私がアイツの前で実力を見せ終えた時に感じた気持ちだった。

確かに完璧とまではいかなかった。でも、上出来だ。

すぐさまアイツの負け言が聞きたくて、それに改善点を求めるために評価を求めた。


―――……評価については後で話す。次、やりたい奴はいるか?


何を言われたのかわからなかった。

私の実力が予想外に高すぎて悔しかったから後回しにした? 
……違う、アイツの表情は全く変化していない。まるで、元からこうするつもりだったみたいに。



予想していた衝撃が来なかったからか、急に強張っていた体から力が抜けた。

そして同時に、何を言われるのか? どんな評価をされるのか? というプレッシャーに襲われた。

アイツはこんな私の様子に気が付いているだろう。でも、表情を変えない。

……まるで、私を試すかのように。

わからない。アイツの考えも、正体も、何もかも……

―――おっと、すまない。ではみんな解散! また明日!


朦朧とする意識の中、私はこんな発言を聞いた。


―――ちょっと待ちなさいよ!


―――あんたの意見、まだ聞いてないわよ


反射的に発言してしまったが、アイツの本心がわからない以上考えても仕方がない。とりあえず保留されていた評価を聞かねば……


―――俺の評価は“後から”とは言ったが今日とは言っていない。それに、今の時点では必要ないさ。強いて言うならもっと基礎をすることだな


コイツは何を言っているのだろう?私は本当にそう思ってしまった。


アイツの無茶苦茶な発言を聞いた私はカッとなって反論してしまった。

そしたら、アイツは急に怒鳴ってきた。


―――それは評価される実力になってから言え!まだお前じゃ実力不足だ!


それを聞いた瞬間、私の内側からドロドロした黒い気持ちが出てきた。


―――なによ……あんたに私の何がわかるっていうのよ!!


もう何もわからない。アイツの事も、アイドルの事も、……自分自身の事も。

だから私は飛び出した。

その場に止まっていたら、私が私で無くなりそうだから。

なにより、全く考えが読めない不気味なアイツの前から早く立ち去りたかったから。

私は飛び出して行った……












伊織「どこか、遠い場所へ行きたいわね……」


アイツが来てから、私は疲れてしまった。

考えるのもイヤだ。思い返したくもない、あんな奴。


伊織「いっそ、死んじゃった方が……」


そう考えるほど弱っていたのか、と自分自身に呆れる。

でも、生きててもいいことなんて無い。

だったら、このまま……


ここまで疲れきっていた私は当然、背後にある人の気配には気が付かなかった。

そのまま私の意識は、薬の匂いとともに消えていく……。









目を開けると、そこは一面薄暗かった。

それは時間帯のせいでもあったし、場所のせいでもあった。


???「おや? やっとお目覚めかい、伊織ちゃん」


目の前には知らない男の顔が……と思ったけど、この声どこかで聞いたことがあるような?


???「忘れちゃったのかい? 僕だよ、宣材写真を撮ったカメラマンさ」


伊織「あの時の……!」


しかし、なぜここに? いや、そもそもここは……?


カメラマン「状況が掴めないって顔だねぇ~?」


ニヤニヤとした顔をしながらカメラマンが言う。

カメラマン「ここはね、工場。使われなくなった廃工場さ! そして伊織ちゃんは身代金のために僕に誘拐されたってわけ!」


伊織「なっ……!」


正直、想像しなかったわけではない。

だけど認めたくなかった。こんな無様な私を。

 
カメラマン「約束の時間まで、あと5分を切ったよ! もう少しで助けが来るかもね!?」


伊織「アンタ、こんな事をしてただで済むと思ってるの!?」


カメラマン「いいや? でも、水瀬家はこの事を公にしたがるかな?」


伊織「ぐっ……!」


普通に考えれば誘拐事件は警察沙汰だ。しかし、上流階級ともなってくると事情が違ってくる。

警戒心のない家。手薄な警備。

そう認識されていく事は想像に難くない。


カメラマン「ほら、あと1分だ! 10億は来てくれるのかな!?」


10億。私の存在はそれと一緒なのか。

多いのか少ないのかはわからない。だけど、そういうものじゃないと思う。

人間と金が釣り合う事、それが私にとっては嫌だった。


カメラマン「初めて君を見た時にこれはいける、と思ったよ! 上手くやれば大金が手に入るってね!」


結局、家。みんな私のことを“水瀬”としか見ない。“伊織”としては見てくれない。

そんな事実を認めたくなくて、私は俯いた。



―――誰でもいいから、助けてよ。


―――私は“水瀬”じゃない、“伊織”なのよ?


―――何で誰もわかってくれないの?


―――プロデューサー、アンタならわかってくれたかもしれない。


―――掴みきれなかった奴。そんなアンタならきっと……

―――ごめんなさい。私、怖かったの。


―――アンタのせいで、私が私でなくなるみたいで。


―――でも、意地になっていたのは私だけで。


―――アンタはずっと冷静だった。


―――まだまだ私は子供だ。亜美や真美の事を言えないわね。


―――助けて。


―――助けてよ、プロデューサー。


―――今更、都合がいいなんてわかってる。


―――でも、それでも助けてほしい!


―――そしたら、私はアンタに謝りたい。


―――意地になってゴメン。反抗してしまってゴメンって。


―――だから……



……ブオォォォォオン!!!


……そんな騒音が聞こえた。

つい最近聞いたばかりの音。

もう顔も見たくないと言ってしまった、彼のバイクの音。

必死に助けを求めた、彼の……!


カメラマン「何だ? 暴走族か?」


全く見当違いなことを言うカメラマン。


次第にエンジン音は近くなっていき……



バンッ!!


P「―――――俺のアイドルに手を出した奴は誰だ!!!」


倉庫の入り口の扉をバイクで突き破り、私にとっての『白馬に乗った王子様』がやって来た。





P「どうも、誘拐犯さんはいますか?」


バイクで倉庫のドアを突き破って早々、アイツはこんな事を言い出した。

……アンタ、もう少し緊張感は無いわけ?


カメラマン「遅かったですねぇ? 1分の遅刻ですよ?」


P「おお、伊織! 無事だったか!」


カメラマンの言葉を無視してアイツがこっちに来る。

聞こえてないということはない筈だ。


P「心配したんだぞ? もう大丈夫だからな?」


伊織「……プロデューサー」


P「ん? 何だ?」


伊織「……ありがとう、助けに来てくれて……」

P「どういたしまして」


アイツは静かに笑うと、私の顔に向かって手を伸ばしてきた。


―――叩かれる!

そう思ったけど、急な出来事だったため私は動くことができなかった。

でも、しょうがない。散々ひどい事を言った罰だ、それでアイツが満足するなら受けよう。

……でも、私の予想していたような衝撃はなく、代わりにアイツの指が私の目元へと向かって行き……


伊織「あっ……」


私の目元の涙を拭ってくれた。


伊織「私……泣いて……」


P「怖かったんだろう?無理しなくていいから、もう大丈夫だからな!」


何を根拠に言ってるのだろうか、コイツは。

まだ開放されるのかもわからないのに。

でも、だけど……


伊織「……ありがとう、プロデューサー」

カメラマン「2人ともぉ、今どんな状況かわかってるぅ?」


P「何だ、いたのか」


カメラマンを前にしてアイツはそう言う。

本気で気づいてなかったの!? ……いや、挑発しているのかも?

……やっぱ、わかんないわね。


カメラマン「おやぁ? どこかで見たことがあると思ったら、765プロのプロデューサー様じゃないですか!」


P「そういうアンタは誰だっけ? 特に印象に残らないような顔してるから忘れちった」


悪びれる様子もなく言うプロデューサー。

確かに目立つような顔ではないが、少しでも記憶力が良ければ覚えているくらいの顔だ。

……そしてプロデューサーは記憶力は良いと言っていた。

アイツだけが言っていたのなら怪しいが、これは小鳥も言っていたことだ。第一、こんな事で嘘をつくメリットがない。

つまり、アイツはあのカメラマンの顔を覚えていると考えていいだろう。

……じゃあ何でアイツは忘れたふりなんてしてるのかしら?

挑発してメリットがあるとは思えない。むしろ自殺行為だ。


カメラマン「……今言ったことは忘れましょう。ところでぇ、あなたが10億を持ってきたんですかぁ?」


P「ん? ああ、そうだけど?」


カメラマン「そうですかぁ! では、早くこっちに……!」


P「よし!」


カメラマンが言い終わる前に、プロデューサーが突然声を張り上げた。


カメラマン「何ですかぁ? いきなり」


P「これだよ、これ!」


カメラマン「! ボイスレコーダー……!」

カメラマン「いったい、何のつもりですかぁ……?」


P「決まっているだろう? これを持って警察に行くんだよ」


当たり前のように言うプロデューサー。

でも、それをやったら……!


カメラマン「いいんですかぁ!? このことを警察沙汰にすればこの子の経歴には傷がつきますよ!?」


P「それでもだ」


カメラマン「アイドルだって!」


P「それでもだ」


真剣な顔をしてプロデューサーが言う。

今までで見た時がないくらいに、キャラが違うほどの表情だった。

P「悪は見逃せない。どうしても阻止したいなら力尽くで奪いとるんだな」


そうアイツが言うと、カメラマンは懐から何か銀色に光るもの……ナイフのようなものを取り出した。


カメラマン「殺してやる……! お前も、そいつも!!」


P「小さいな、刃物に頼らなくちゃ相手に向かっていけないなんて」


カメラマン「黙れ!!!」


あいつに向かってナイフを向けながら走って行く。

そして……


カメラマン「[ピーーー]!!」


アイツにナイフを振り下ろす。

でも、それを悠々と躱す。

振り下ろす、躱す、切りつける、躱す、突き刺す、躱す。

何回やってもこんな事の繰り返しが続いた。

P「悪は見逃せない。どうしても阻止したいなら力尽くで奪いとるんだな」


そうアイツが言うと、カメラマンは懐から何か銀色に光るもの……ナイフのようなものを取り出した。


カメラマン「殺してやる……!お前も、そいつも!!」


P「小さいな、刃物に頼らなくちゃ相手に向かっていけないなんて」


カメラマン「黙れ!!!」


あいつに向かってナイフを向けながら走って行く。

そして……


カメラマン「死ね!!」


アイツにナイフを振り下ろす。

でも、それを悠々と躱す。

振り下ろす、躱す、切りつける、躱す、突き刺す、躱す。

何回やってもこんな事の繰り返しが続いた。

カメラマン「いい加減……死ね!!!」


全力を振り絞った踏み込みもアイツに躱され、形で息をし始めるカメラマン。


P「だから言っただろう? そんな物に頼らず、お前自身が殴りかかってこいって」


カメラマン「クッソ……オラァ!!!」


ナイフを投げ出し、代わりに握りこぶしを作ってアイツへと向かっていく。

だけど、今までの動きから見ると当たる確率は低いだろう。

カメラマンもそうわかっているのか、どこかやけくそ気味なパンチは……


P「くっ……!」

……なぜか当たった。

カメラマン「はぁ?」


殴った本人も現実味がないのか、呆然としていた。

でも、殴られて地面に尻餅をついているアイツを見ると、再び殴りかかった。


カメラマン「何だぁ? ナイフは当たらなかったのに、パンチは当て放題だぜ!」


馬乗りの状態になって殴り続けるカメラマン。

何発も、何発も……




どれくらいの時間が経っただろうか?


カメラマン「ちっ!コイツ、気絶してやがる!」


どれほど殴ったのだろうか?記憶が朦朧として覚えていない。


カメラマン「殺してやりたいところだが……」


そう言うとカメラマンは殴るのをやめて、アイツが持っていたボイスレコーダーを手にとった。


カメラマン「全く、どこから盗られてたのか……」


カメラマンがボイスレコーダーを再生する。

さこに録音されていた音声には……



―――引っかかったな


―――ここには何も録音されちゃいないよ


カメラマン「騙された……だとぉ!?」


P「あぁ。まんまと騙されてくれたよ」


そこには、いつの間にか起き上がっていたプロデューサーがいた。

ところどころ腫れているような気がするが、大したケガは無さそうだ。


カメラマン「どういうつもりだ! 何で騙した!」


それは私にも疑問だった。

コイツは騙した上で挑発までしてきた。そうすれば、襲ってくださいと言っているようなものだ。

そして実際に殴られた。下手をしたら死ぬ危険だってあったのだ。


カメラマン「お前には殴られて何のメリットが……!」


P「気づきましたか」

カメラマン「……どこだ、どこにいる!! 出て来い!!」


P「無駄ですよ、さっきあの人には帰らせました」


そこまで来て、私もようやく理解した。


―――盗撮


アイツはわざと殴られることによって、それを盗撮させたのだ。

証拠があればより真実味が出るだろう。


カメラマン「だが、何故だ! 警察への証拠なら音声だけでも十分だ!なのに何故……!」


確かにそうだ、わざわざ写真にする理由がわからない。

ボイスレコーダーで先ほどの会話を録音し、それをカメラマンに気付かれないように後日にでも警察に送ればいい。


P「それはですね、写真でなくちゃいけなかったからですよ」


カメラマン「! ……雑誌か!」

P「ご名答。悪徳又一、知っていますよね?」


私でも知っている名前。

悪徳に捕まったら最後、もうこの業界では生きていけないというほどの存在。

そんな奴に写真を撮られたら……


P「終わりです、あなたはこの業界で死んだも同然。もう諦めてください」


そう言ってアイツはこっちに向かってくる。

その安心感からか、力が抜けてきて……


P「おっと、大丈夫か?」


倒れそうになった私を支えてくれた。

大きな手。私を支えてくれる手。

安心する顔。殴られたからか血が滲じみ、眼鏡も無くなっているけど優しい表情で見つめてくれる顔。

そんなコイツに私は……




P「とりあえず、壁に寄りかかっていてくれ」


伊織「どこか行くの?」


こんな状況であのカメラマンと2人きりにされるのは耐えられなかった。

それに、コイツが目の前からいなくなる。そのことにも耐えられそうになかった。


P「ははは! いや、こんなか弱い姫を放っておくなんて王子様失格なことできねえよ」


……なんだか今、真や真のファンの気持ちがわかった気がするわ。

からかいづらくなったわね……


P「ただ、もうそろそろ逆上してくるんじゃねえかと思ってな」

気がつくと、アイツの後ろからカメラマンが少しずつ迫ってきていた。


伊織「アンタ、後ろ……!」


P「やれやれ。それじゃあ、悪役は退場の時間かな?」


そう言うと、コイツはネクタイを外して私に手渡してきた。


P「それ、持っててくれ。ちょっとお姫様を困らせる悪者を退治してくるから」


そんな事を言うアイツの後ろ姿は最高にカッコ良くて……


カメラマン「……死ね!!!」


P「ちょっと黙ってな!」


ナイフを持った悪者を鳩尾へのパンチ一発で気絶させ帰ってくる彼は、世界で最高の王子様だった。








―――伊織の誘拐から一週間後

週刊誌には、カメラマンが俺を殴っている写真が掲載されていた。

もっとも俺の方は大したケガでもなく、悪徳さんの配慮のおかげか顔も写っていなかったので非常に助かった。

もしも顔が写っていたらこれからの営業で面倒くさそうだったからな……

なんにしてもカメラマンはもう終わりだろう。少なくともこの業界では働き手が無くなる。



……これで、今回の事件は終わるはずだったのだが……




今回の事件を経て変わった事がいくつかある。

まず1つ目。



伊織「ちょっとP!今日は私のレッスンに付き合ってくれるって言ってたじゃない!」



伊織の俺に対する呼び方。

最初の頃の「アンタ」呼びではなくなり、名前で呼ばれるようになった。



P「伊織、さすがに毎日は見てられないぞ?。せめて3日だ!3日!」


伊織「3日? もう少し増やしなさいよ!せめて5日!」


P「さすがにそれは多いだろ……わかった! 間をとって4日でどうだ!?」


伊織「ぐっ……! しょ、しょうがないわね。4日でガマンしてあげるわ」


亜美「おやおやー? いおりん、そんなに兄ちゃんと一緒にいたいの?」


真美「いおりん、いくらツンデレだからってデレるの早過ぎだよー!」



2つ目、伊織が俺に対してくっついてくるようになった。

最初の方はまだ誘拐された恐怖があるのか、と思っていたんだが……

さすがに、1週間経ってもこれだとちょっとな……

伊織「なっ、誰がツンデレよ! それに、コイツにデレるだなんて……」


真美「そうは言っても、体は正直ですな~!」


亜美「ほれほれ! お顔がリンゴみたく赤くなってるよ~?」


伊織「……アンタ達、覚悟はできてるんでしょうね?」


亜美「げげぇ! いおりんが怒った!」


真美「こんな時は、あれだね! 逃げたら負けだね!」


亜美「あれ? そうすると亜美たちは立ち向かわなくちゃいけないの?」


真美「あれ、逃げた方がいいんだっけ?」


伊織「漫才してる場合かしら?」


亜美「ひぃぃ!」


真美「と、とにかく」


亜美真美「「撤退!!」」






―――そして最後に1つ、伊織はもう1つ変わってしまったところがあったんだ。

―――さっきの2つだけだったらまだ大丈夫だった。

―――俺がここまで頭を悩ませる事もなかった。

―――だけど、この変化は見逃せない。

―――どうしても対処しなければならない


―――それはあの誘拐事件の後のアイツとの会話にあった。



伊織「ねぇ、アンタ。1つ聞きたいことがあるんだけど」


P「ん?何だ、伊織」


伊織「アンタ……今まで猫被ってたの?」


P「はぁ? どういう事だよ」



俺の中ではこの時点で警戒を強めていた。

だけどまだ大丈夫、まだ大丈夫だという声もあったが……



伊織「だって、今のアンタ……事務所の時と全然キャラが違うじゃない」



……アウト。こいつはアウトだ。


伊織の最後の変化。それは……俺の事を疑い始めた事、だ。


―――結局その後、俺はごまかすことに成功した。

伊織の方も確証があったわけでもなく、カマをかけたという感じだろう。


しかし、ここでカマをかけてくるという事はそれなりには疑われている。

しかも相手はバカではない。今は納得していても、いつ探られるかわかったものではない。


……さすがは俺が見定めた『取り扱い注意人物』だ。まさか会って3日で見抜かれそうになるなんて。

でも、それだけ俺も接しすぎていたという事か。……反省だな。



P「さて、伊織はどうしたものかね」


できるだけ俺から遠ざけたいところだが……


……しょうがない、少し予定が早いが『計画』を進めるか。

あまりに博打だが、成功率は半分はある。だったら俺はこっちに賭けるね。



……それだけ、俺は自分を知られたくない。

俺の『計画』にはたくさんの条件が揃わないと実行すらできない。

その条件の中には、まだ成人したばかりぐらいの男が出来る筈もない事もある。

だけど、俺はそれをすべてクリアしてきた。

実力だけじゃない。コネも使った、汚い手も時には使った。

もちろん失敗や計算違いも出てくる。

―――だけど、それすらも俺は超えた。


―――俺はもう、後戻りはできない。もう遅すぎる。


P「ジュンさんのところに行かないと……さすがに許可はとらないとな」


だったら、行けるところまで行ってやる。その先に何があるのか……

―――全ては、この『計画』のために。悪いな、伊織。








律子「プロデューサー、少しいいですか? ……って、何笑ってるんですか?気持ち悪いですよ」


おっと、笑ってたらしい。気をつけよう。


P「すまないな。で、どうした? 何か相談か?」


律子「ええ、こういうのはやっぱり経験豊富な人からのアドバイスがいいかなって思いまして……」


そう言った律子から、1枚の紙が手渡された。









―――そこには『竜宮小町』のリーダー、ならびにメンバー割り当てについてと書いてあった。

とりあえず一区切りです
続きは明日にでも

こんばんわ
投下しますね









―――初夏
世間一般ではそろそろ、夏到来!と言われはじめる時期で、俺で765プロに来てからは早一月となる


そんな、いい感じに馴染んできたこの時期
……ある事件がおこる…







律子「はーい、注目―!」

ホワイトボード前に立つ律子が大声で呼びかける
その呼びかけに、ざわついてた皆はホワイトボードを向き……

バン!!

律子「降郷村での夏祭りイベントでのミニライブが決まりました! 全員参加よ!」

ホワイトボードを叩いた律子は、なかなかの早口でそう言った
……けっこう噛みそうなセリフだな

それはさておき、律子の言ったことに皆は歓喜する

律子「それと、このイベントは彼がとってきた初仕事よ!」

P「皆、がんばろうぜ!!」

皆の士気を高めるためにそう言ってみる
実際に効果は上々みたいだ、とても姦しい

伊織「アンタがとってきたんだもの、手は抜けないわ」

真美「さっすが兄ちゃん! なかなかやるのぅ?」

P「はっはっは! それほどでもないぜ!」

その後もしばらくは姦しい状態が続いた



この時点では何も問題が発生していないように見えた……はずだった
しかし俺は、このイベントで先送りにしていた問題に直面することとなる……



早朝、俺達は降郷村へ向けて車を出発させようとしていた
特に問題も起きず……まあ、美希が荷物と一緒に寝ていたりしていたが、それは大した問題じゃない

そして、俺達は降郷村へと向かっていったのだった…

降郷村への道中も大した問題もなく……まあ、美希が車の中でもずっと寝ていたのは問題ではないだろう
ともかく!俺達は降郷村へたどり着いたのだが…


モオォォォ……


なんだ、このド田舎は?

美希「ここどこぉ~?」

美希よ、いまさらか? いまさら起きたのか?

伊織「ねぇ、ホントにここなの?」

P「……伊織、気持ちはわかるが場所はあってるぞ?」

とはいえ、見渡す限りの大自然。そんな中にポツンと舞台があった


ワン! ワン!

子供1「あー! 誰だこいつらー!」

子供2「テレビとかで見たことねぇーぞー!」

子供1「ホントにアイドルかよー!?」


そんな時、子供達+犬がやってきた
そして、こんな子供達は無視していこうと思っていた俺の耳に……

雪歩「うぅ、犬ぅ…」

という呟きが聞こえてきた



……そして俺の頭の中では、面倒な問題が起きた、とこの事態について考えていたのであった


―――俺が初めて雪歩の苦手なものを知ったのは、ジュンさんから貰った資料だった

そこには苦手なものとして、男性と犬という文字が記入してあり、俺はその苦手克服の優先順位を


男性>犬


としたのだったが……

P(……優先順位を間違えたか?)

いや、それはない。これから先のことを考えれば犬よりも男性の方が共演の機会も多いだろうし、重要度も上だ


P「……なあ、雪歩。お前ミニライブ中に犬がいたら、冷静に続けられる自信あるか?」

雪歩「すいません……ちょっとないですぅ……」

P「やっぱりか……」


正直、外れて欲しかった予想ではある


P(さすがにこれは予想外だな……)

だけど、こうなってしまったのは事実。これからミニライブまでのたった数時間で克服できるとは思わないが、せめてライブが出来るぐらいにはなってもらわなくては困る


雪歩「こんなダメダメな私は穴掘って……」

P「あー、雪歩! これから犬嫌いの克服訓練をするぞ!」

雪歩「え、えぇ!?」


……ホント、勘弁してくれ
















P「……さて、どうしたものかね」


他のみんなはミニライブの舞台設置の手伝いをしているんだが……


雪歩「うぅ……うぅ……」

P「……まさか、男性恐怖症も発生するとか…」

雪歩「す、すいません……」


ここまで苦手となると……何かきっかけみたいな事でもあったのだろうか?


P「なあ雪歩、ここまで男性と犬に対して苦手意識を持つのは何か理由でもあるのか?」

雪歩「い、いえ……ただ、昔ちょっと犬に襲われたことがあって…」

P「うん」

雪歩「その時はお家の人にいた男の人が助けてくれたからケガもなかったんですけど…」

P「けど?」

雪歩「その……私の家って特殊で、その時の犬が大変な目にあって…」

P「あー、なるほど」



―――雪歩の家、萩原家はある意味有名だ

どうして有名かは大きな声では言えないが……まあ、そういう事だ

なぜか親父も萩原家に知り合いはいるみたいだが……親方、というか雪歩の父親とは面識は無いようだったな

まあ、それは置いといて、理由はわかった

だったら後は対策をすればいいんだが……






仕方がない、このミニライブを失敗させないためにも、少しだけだが手札を使うか

P「雪歩」

雪歩「は、はい?」

P「お前から見て、俺って何か恐いものがあるように見えるか?」

雪歩「え? それは……」


……いきなり何を聞いてるんだと思ったが、そんなこと気にしてらんねえ


雪歩「……多分無いと思います」

P「何かそう言えるだけの理由ってある?」

雪歩「理由というか……普段のプロデューサーを見てると、とても真っ直ぐな人だしネガティブな気持ちとかも無いのかなぁ、って」


感情が欠陥してると思われてたぜ……気付かなかったわぁ……


雪歩「他にも……伊織ちゃんのことを助けた時に、とっても強かったって聞いたから…」

P「なるほどねぇ……」

雪歩「でも、私はプロデューサーみたいに強くないから……」

P「そんなことはない!」

雪歩「!」

P「俺だって弱かったさ! でも、それでも変われた! 乗り越えられたんだ!」

雪歩「……」

P「それに誰が弱いって!? 俺が担当してる765プロのアイドルには弱い奴なんて1人もいねぇ!」

雪歩「わ、私は……」

P「だから……」


そう言うと俺は、小指を立てた右手を雪歩に向けた


P「指切りだ、お前が強くなるって約束の指切り」

雪歩「……はい!」


……まあ、多少無理やりだがこれで大丈夫だろう

……大丈夫だよな?































???「……なぁ小鳥、それに―――よ」

小鳥「はい?」

???「なによ」

???「……『アイドル』とは、そんなに面白いものなのか?」

???「はぁ? どうしたのあんた、アイドルにでもなるつもり?」

???「お前らを見てるとアイドルってもんが面白そうでな、つい聞きたくなったんだ」

小鳥「実際、面白いですよ。……レッスンは大変ですけど」

???「そっかー、やっぱり面白いかー」

???「でも、あんたがアイドルってのも面白そうね、社長にでも頼んできたら?」

小鳥「―――君なら、すぐにでもトップアイドルになれそうですよね」

???「それは……否定出来ないのが悔しいわね」

???「はははっ、買いかぶり過ぎだって……それに」








???「……いくら俺でも、『アイドル』のトップになるのは簡単じゃなさそうだぜ」





―――あの後、765プロ全員参加によるミニライブは問題なく終えた

雪歩の犬嫌いは多少は改善されたようだが、まだまだ解決すべき問題は多い

さて、ミニライブも終えて俺達は何をやっているかというと……



雪歩「あのっ、プロデューサー!」


……雪歩につかまっていた


雪歩「1つ、聞きたいことがあるんですけど…」

P「ん? なんだ?」

雪歩「プロデューサーは苦手なものがあった、って言ってましたよね?」


ああ、そういや言ったな
今思えば、ちょっと言い過ぎたようにも思うし、必要だったか? あの話


雪歩「苦手なことを克服したときに……どう思いました?」

P「どう思ったか?」


P「……そうだなぁ、嬉しかったかな」

雪歩「そうですか…」

P「それに、悲しくもなった」

雪歩「……どうしてですか?」


まいったなぁ…ホント話し過ぎなんだが
この話が原因でバレたらシャレにならんぞ?


P「克服できたから無条件で嬉しくなったけど……それと同時に、今までたくさんの人にお世話になったから、迷惑かけたなぁって悲しくなった」

雪歩「……」

P「でもな、雪歩」

雪歩「はい?」

P「相手のために何かをするって、実はそんなに迷惑じゃないんだよ?」

雪歩「え?」


…それでも、俺は話し続ける


P「雪歩はさ、今までたくさんの人に迷惑かけてきたと思ってたでしょ?」

雪歩「……だって、私は今日だって迷惑かけちゃいました……プロデューサーにも」

P「俺はそう思ってないんだけどなぁ」

雪歩「う、嘘ですぅ!」

P「本当だって、迷惑だったら協力なんてしないよ」

雪歩「……」

P「だから、ね? もっと頼ってくれていいんだよ?俺もたぶん頼っちゃうから」

雪歩「プロデューサー……」


なぜならこの話は雪歩のため、765プロのため……


P「だから、初めてのお願い」

雪歩「はい?」


そして……


P「……笑って?」

雪歩「……はい!」


『計画』のためになるから、だ

ここまでが以前に投下した内容です
ただいま続きを書いているので今日は投下できませんが、少しずつ進めていきたいと思いますのでよろしくお願いします

こんにちは
もし今夜も投下できそうなら投下していきます

お待たせしました
少ないですし、まだ半分もいってないと思いますが投下していきますね













「じゃあ、本番いきまーす! 5、4、3、2……」


 その掛け声の後に、春香や響など765プロの代表4名による番宣の撮影が始まった。

 実力が不十分なうちは、あまり仕事をとらせないつもりだったが……今回のような料理番組なら歌やダンスといったことも少ないので、宣伝と共にカメラに慣れさせるという意味も込めて仕事をとってきた。


「はい、番宣オッケー!」

D「じゃあ本番始まるから、着替えてきて」


 どうやら番宣の方は無事に終わったようだ。

 次はいよいよ本番だ……これは俺が来てから初めてのテレビ撮影ということもあるから、俺も多少の緊張はしている。








D「あのさぁ~俺たちが新人に求めるのはさぁ~、こう、ガー!ッと来て、グー!っとなって、バーン!って感じなのよ」

P「はぁ……」

D「そこんとこ、ガツンと見せてよね? 765さーん!って感じでさ」


 そう言ってDさんが俺の腕を叩いてきたが、加減なしに叩いてくるから痛いのなんの。

 多少は鍛えてあるにしても、痛いものは痛い。


「ふぅ……」


とりあえず、今回は大成功を目指さなくてもいい。

 大失敗をおかしそうになったら止めに入るが、それ以外は彼女たちに任せる。


「まずは様子見、かな」







P「いいか? 加入者がそんなにいないケーブルテレビでも、テレビはテレビだ。目立たない一歩だが、これがアイドルの頂点への道につながっている……はずだ」


まぁ、これは俺としては言いたいことがあるのだが。

 たしかに地道な一歩も大事だが、こんな歩く速度では頂点など見えないままに終わってしまう。アイドルの頂点はそう簡単ではないのだから。

 だからこそ、俺はある程度の実力がついたと判断したら、どんどん仕事をとってくるつもりでいる。百聞は一見にしかずではないが、撮影の雰囲気やアイドルとしての佇まいはレッスンでは磨くことができないからな。


P「よっし! ここで一発くらい目立っておいて、765プロここにありぃ!ってみせつけてやろうじゃないか!」

春香・響・貴音「おおーっ!」

千早「……」









P「緊張しないで、肩の力抜いていけよ?」

春香「はい!」


 さすがに、本番前には一言かけた。

 あまりに何もしてないと、俺も不安になってきたからだ。


P「……? 千早、どうした?」

千早「やはり……歌はなくなったんですね」


 うん、千早は気付いたか。


P「あぁ、急に構成が変わったらしいんだ。その分、料理コーナーは伸ばしてくれるらしいから、頑張れよ?」

千早「……」

P「なんだ? 千早は料理が苦手なのか?」

千早「あまり……」


 まぁ、それもあるだろうが……本当の理由は違うだろうな。

 おそらく、歌を歌えないことが千早のテンションを下げる一番の原因なんだろう。




響「千早も、一人暮らしでそれだと大変だよなぁー?」

P「……千早って、一人暮らしなのか?」


 たしか、ジュンさんから事前に貰った資料には書いてなかった……というか、如月千早の項目だけ異常なまでに情報が少なかった。

 多少の疑問はあったが、本人と実際に会って会話してみると、まぁ情報の少ないのも納得できる人間性ではあったから気にしないでいたが……


P「ジュンさんめ、何か隠してるな」


 他人のことを言えたものではないが、それでも言う。

 万が一でも、俺の『計画』が狂うような情報が隠されていたら面倒だ。


P「こりゃ、帰ったら問い詰めるか」









とりあえずここまでです
今日は次への繋ぎみたいになりましたね

こんにちは
今夜か、明日の夜にでも投下します

すみません、今夜は無理そうなんで明日になります

こんばんは
投下しますね





カエル「さぁ~て、今週のゲストは~? この方々ー! 765プロの皆さん!!」


 さて、番組が始まった。
 とりあえず現時点で不安なのは、千早のメンタル面か。


カエル「勝負ありぃ! ガマガエルさんチームの勝利だぁ!!」


 どうやら、最初のボーナス食材をかけた勝負は響・貴音のガマガエルさんチームの勝利のようだ。
 見ると、フラッグを取って喜んでいる響とは対照的に、千早は悔しそうだ。
 そして、そんな千早を春香が励ましている。


「それにしても……いくら視聴率のためとはいえ、下品な番組だな」


 四つん這いになっているアイドルをローアングルから撮影するとは。
 しかも千早相手にするなんて、余計にストレスが溜まって面倒になる未来しか見えない。


「爆発しなければいいが……休憩の時にでもガス抜きしとくか」




 開始早々、千早のテンションが下がったが、それからしばらくは特に何事も無く進んでいった。
 しかし、番組も中盤に差し掛かろうとした時……


カエル「メニューは何かな!?」

千早「えっ? ちゃ、茶碗蒸しです」

カエル「おぉー! じゃあ、赤茶碗蒸し青茶碗蒸し黄茶碗蒸し、言ってみよ!」


 おいおい、わざわざ地雷原に飛び込むなよ。
 番組的にはどうなのか知らんが、こっちとしてはいい迷惑でしかない。


千早「はぁ……?」

カエル「ほらほら。きみ、ノリ悪いよ?」


わかってるんなら、今はそっとしておいてくれ。
こっちとしても言うことは言うから、だから今はそっとしておけ。



春香「千早ちゃん、エビはどこだったっけ!?」

千早「鍋の中じゃなかったかしら!?」

春香「あぁ、そっか!」


 そう言って、春香が鍋を開けるが……


春香「ひっ……! ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 開けた鍋の中には、タコ。
 驚いた春香は自分もろとも鍋をひっくり返した。


春香「ふぁ!?」


 そして、すかさずカメラマンはローアングルを撮りに行く。
 春香は慌てて立ち上がるが、そのまま体勢を崩してまた転んだ。


カエル「おおっとー! ナイスリアクショーン!」

春香「いたた……またやっちゃった……」


 そのままカエルが千早にコメントを求める……


千早「あの……何が面白いんですか!?」


 あぁ、千早……お前は本当に取り扱いが難しいよ。












「はい、オッケー! 一旦、休憩でーす!」


 千早がキレた後、春香がなんとか場の空気を和ませたおかげで何も起きずに済んだ。


P「……おい、千早」


 休憩に入り、千早は俺の前を通りスタジオから出て行くところだった。
 そこを呼び止める。


P「歌が歌えなくて、残念か?」

千早「……!」


 千早は、驚いた表情で俺を見る。
 バレていないとでも思っていたのだろうか? 番組が始まる前に、自分で言っていたようなものなのに。


P「いいか、千早。たしかに今日、歌の時間はあった……だけど、それは取り消されてしまったんだ。だったら、今ある仕事を全力でこなすべきじゃないのか?」

千早「そんなこと……」

P「『わかる』と『理解する』は別だ。わかっていても、お前の本心は歌を歌いたかった……そうだろ?」




千早「……」

P「今ある仕事を全力でこなして、次に繋げる。それが大切なことだ」

千早「……私には、これが歌へと繋がるとは思えません」


 そう言って、千早はスタジオから出て行った。


P「まったく、あいつは……」

D「765さーん!」


 呼ばれた方向を見ると、番組Dがこちらへ向かってきた。
 また小言かと思いながらも、俺の頭の中には千早をどうするかしかなかった。











千早「私には、歌しかありませんから」


 それが、俺の中でも特に強く印象に残っている千早の言葉だ。


P「歌しかない? そんなことはないだろう。もっと違うことに興味はないのか?」

千早「ありません。歌だけあれば、それでいいです」


 その時はアイドルを目指したきっかけ、および将来の目標を聞いた。
 すると、千早はアイドルが目標ではなく、将来的には歌手になりたいと言ったのだ。
 その事は、事前にジュンさんから貰った資料で知っていたが、その理由までは知らなかったので聞いてみた結果が『歌しかない』発言だ。














 そこで、俺は察してしまったのだ。

 あぁ、こいつは俺と同類なんだな……と。



ここまでです
次で一段落ですかね

こんばんは
日付が変わる頃に投下するかも……です





 『自分には歌しかない』
 その言葉からは、千早の歌へ対する熱意と覚悟が伝わってくる。

 もちろん、アイドル事務所に入るための面接などで『自分には歌しかありません』などと言う者はいるだろう。
 ……しかし、その中の何人が本当のことを言っているだろうか?

 それを見分けるのは簡単だ。
 日頃の言動などをチェックするのも1つだが……何より、目を見ればわかる。


 如月千早の目は、何かに執着している目だった。
 そして、それは俺も……









春香「え? 千早ちゃんですか?」

響「うーん、自分たちは見てないぞー?」


貴音「……はい? 如月千早はここへは来ませんでしたよ?」


 千早がスタジオを出てから、俺は少し話をするために千早を探していた。
 春香や響、貴音は見ていないということから人目の付かない場所にでもいるのかもしれない。


P「まったく……鏡見てるみたいで嫌になってくるな!」


 実際、俺はこれ以上に迷惑をかけちまったから人のことは言えないんだが。


P「関係ねぇ! それでも言わせてもらうわ!」
















小鳥「ねぇねぇ、P君?」

P「……なんですか?」

小鳥「もしよかったら……本当によかったらだけど、お姉さんと遊ばない?」

P「……遊ばない、です」

小鳥「うぅ、そっかぁ……」






???「はぁ……まったく、この馬鹿は。また小鳥に迷惑かけてるの?」

小鳥「そ、そんな――――さん! あたしは別に迷惑なんか……」

???「ほら、いいから小鳥に謝りなさい」

P「……小鳥お姉ちゃん、ごめんなさい」

???「なんでごめんなさいなの? 理由も言わないと伝わらないわよ」

P「……せっかく遊ぼうって誘ってくれたのに、断っちゃって」







小鳥「そ、そんなこと! P君にだって都合があるんだからしょうがないわよ!」

???「あら? これでPが小鳥の遊びを断ったのは何回目だったかしら?」

P「……10回目です」

???「さすがね、P。あなたの記憶力なら忘れるはずはないと思っていたけど……それは、何か予定があって断ったの?」

P「……違います」

???「じゃあ、なんで小鳥と遊ぶのを――――」

小鳥「――――さん! もういいでしょう!? P君がかわいそうです!!」

???「かわいそう? Pが? ……はっ、そうね。だってPは――――」

小鳥「――――いい加減にしてください!!」


















P「はぁ、本当に昔の俺は……」


 迷惑しかかけてなかったなぁ。
あの2人も、俺のせいで何度も喧嘩してた。


P「頭が上がんないな」


 ……ふと、耳を澄ますと歌声が聞こえてきた。


P「これは……千早の声?」







千早「……ふぅ」

P「さすがだな。いい歌だ」


 歌い終えた頃を見計らって、千早に声をかけた。
 すると千早は気づいていなかったのか、驚いた表情でこちらを見た。


千早「プロデューサー……聞いていたんですか」

P「あぁ……どうだ、気分は」

千早「えぇ、一曲歌ったら少しは晴れました」

P「そうか。まだ休憩時間はあるから自由にしていていいが……1つだけ」


 すると、千早は真剣な表情になって俺の言葉を聞く態勢に入った。


P「千早、お前の歌に対する情熱と覚悟は本物だ。まだ出会って1ヶ月ほどだが、それは伝わってきた」

千早「はい」

P「だが、それでは不十分だ。……自分に何が足りていないか、わかるか?」

千早「……いいえ、わからないです」

P「そっか……だよな」


 自分の欠点がわかっていれば苦労しない。
 足りないものがわからないからこそ、人は失敗するし発見もする。


P「まぁ、今すぐわかってほしいとは思ってないから答えは教えないよ。だから、ヒントをあげるから自分で考えろ」

千早「ヒント、ですか」

P「そうだ。もし答えを見つけることができたら……きっと、お前は化けるぞ」

千早「……それで、ヒントというのは?」

P「あぁ、お前に足りないもの……そのヒントは」













P「昔を思い出すこと、かな」


















P「ただいま戻りました!」

社長「おぉ、P君。今日はお疲れ様。4人ともいいかんじだったよ!」

P「はは、それはよかったです……それで、1ついいですか?」

社長「うん? なんだね」











P「――――如月千早は、何を抱えているんだ?」




社長「……本人には聞かなかったのかね?」

P「聞いたら答えてくれるか? ……俺ならNOだね」

社長「それはP君なら、の話だろ? 如月くんは違うかもしれない」

P「あいにく、俺とあいつは同族だと感じたもので」

社長「同族とは言っても、同一人物であるわけじゃない。限りなく同じであっても、それは別人だ。……つまり、それは聞かなかった理由に対しての答えとしては成り立っていないよ」

P「ちっ、やりづらいな……まぁ、他にも信頼関係とかの問題もあったさ」

社長「うむ、そうかそうか」




P「……それで? あいつの抱えているものはなんだ?」

社長「――――残念ながら、教えることはできない」

P「はぁ!?」

社長「事前に資料を渡しただろう? そこに書いてあることが、今現在で話せることだ」

P「……如月千早。幼少の頃から歌が好きで、その影響から将来は歌手を希望。今は765プロでアイドル見習いをやっている」

社長「ほう」

P「家族構成は両親と千早の3人で、家族間は冷えきっている……と。こんなもんだったか?」

社長「さすがだね、その記憶力は」

P「そんな事はどうだっていいんだ……あいつの情報がこれだけしか無いなんて、どう考えてもおかしい。ジュンさん、何か隠してるだろ?」

社長「あぁ、それが何か?」




P「……あんた、その隠していることが原因で何か起きたらどうするつもりだ?」

社長「そこはプロデューサーの腕の見せ所、ではないのかい?」

P「あくまで話す気はない、と」

社長「あぁ、そういうことだね。……ただ、やはり勘がいいね」

P「……どういうことだ?」






















社長「君と如月くんは、本当に似たもの同士だってことだよ」


ここまでです

こんにちは
今日も投下できればしていきたいと思います

すみません、思ったより話の展開が難しいので今日は投下しません
遅くても日曜日までには投下しますので、どうかよろしくお願いします

こんばんわ
今夜には投下しますね



 夏真っ盛りの今日この頃。
 765プロは、気分転換を兼ねた慰安旅行へと行っている……のだが。


P「……暑い」

小鳥「暑いですね~」


 俺と小鳥さんは、事務所で留守番していた。


P「まぁ、俺は仕事が溜まってるから残ったんですけど……小鳥さんは?」

小鳥「私もよ、P君……」


 そう言う小鳥さんは、昔と比べて若さが……いや、やめておこう。


小鳥「でも、P君は行かなくて本当によかったの? 仕事が溜まってるからって言うけど、そこまで仕事を溜め込んでるようには見えないけど」

P「さすがにあれだけの人数を抱え込んでると、手がまわらない所もあるんですよ」


 実際は、手がまわらないではなく『まわせない』なんだが……


P「とにかく、あっちは律子が上手くやってくれると思いますから。俺はちょっと出かけてきますね」

小鳥「はぁーい、気をつけてねー!」












???「……それで、Pの今後だが」

???「今後って……Pの家族は、もうあなたしかいないのよ!?」

???「あぁ、知っている。だが、わたしはPが小学校を卒業したら渡米するつもりだ。そこにPはついていかないと、そう言っている」

???「なっ……P! あんた本気なの!?」

P「……そうだよ、――――姉ちゃん」

???「だったら、Pも――――と一緒にあたしが!」

???「――――! お前1人じゃ無理だ! 実家からも勘当されたお前が、――――とPの面倒を見られるわけがない!」

???「だったら、誰がPの面倒を見てあげるのよ!」

P「……みんなが迷惑なら、俺はひとりでも大丈夫……」

???「また、あんたは……その言葉のほうが迷惑だって気づきなさい!」




???「はい、そこまでよ」

???「――――さん?」

???「――――? 今まで黙っていたが、何か案でもあるのか?」

???「えぇ、1つだけ。これしかないわね」

???「……それって?」

???「わたしが、――――とPと――――の面倒を見るわ。というか、生活のサポートね」

???「だが、それだとお前が……」

???「あら、わたしの家ってけっこうお金持ちなのよ? まぁ、水瀬のおじさま程ではないけど」

???「――――さん……ありがとうございます」

P「……ありがとう、ございます」








P「すみません、待ちましたか?」

???「そうね、5分の遅刻だわ」


 とある喫茶店。
 エアコンが壊れた765プロと違い、ここは涼しくて快適だ。


P「ちょっと道が混んでましてね、お詫びにここは俺が出しますよ」

???「別にいいわよ、気にしないで。それよりも言い訳だなんて……昔は素直な子だったのに、変わっちゃったわね」

P「ははっ、そんなに変わってないと思ってたんですが……」

???「そうかしら? 小鳥からも言われなかった?」

P「まぁ、多少は言われましたね」

???「でしょう? 高木はともかく、小鳥が言うってことはそれなりに信じておきなさい。女はそういうのに敏感だから」





P「そうですね、肝に銘じておきます」

???「と言っても、あなたには無駄だったかしら。疑り深いあなたには」

P「いいえ、たまに言われると改めて肝に銘じることができていいですよ?」

???「そう、お役に立てたようで嬉しいわ」

P「はい、本当にいつもありがとうございます……ミノリさん」










石川「それで、今日はどうしたのかしら?」

P「あぁ、ちょっと待ってくださいね……もう1人来ますから」


 すると、タイミングよく喫茶店に入ってきた1つの人影。
 その人物は、少し焦り気味でこちらへ向かってきた。


???「はぁ、はぁ……すみません、遅れました!」

P「遅いぞ、10分の遅刻だ」

石川「あら、善永じゃないの」

善永「い、石川社長!? ちょっとPさん、聞いてないんですけど!?」

P「あぁ、言ってないからな」

善永「言ってくださいよ!」




善永「……それで、Pさん? 私はなんでよばれたんですか?」

 あの後、店員に各自メニューを頼んで善永も一旦落ち着いたようだ。
 今は適当に水でも飲みつつ今日の話し合いのテーマ確認といったところか。


P「あぁ、まず……この前は勝手に悪徳さんを使って悪かったな」

善永「そういえば、そんなこともありましたねぇ。自分が殴られているところを撮ってほしいなんて、あいかわらずPさんは普通じゃありませんね」

P「その言い方は色々と誤解を招くからやめてほしいが……まぁ、とりあえずすまなかった」


 そう言って、俺は頭を下げた。
 しかし善永は呆れた顔をして俺を見ている。

善永「……まさか、それだけじゃないですよね?」

P「あぁ、もちろん」




P「……そろそろ、俺も本格的に『計画』を始める。そこで、善永とミノリさんには各方面への警戒を頼みたい」

石川「なるほどね」

善永「警戒、ですか」

P「あぁ、善永はマスコミ方面……もちろん、悪徳さんにも気をつけてくれ」

善永「悪徳さんとPさんはつながってないんですか?」

P「あの人は俺に限らず、条件さえ合えば誰とでもつながるよ。……そして、ミノリさんには業界の上の方を警戒してもらいたい」

石川「特に黒井、かしら?」

P「……えぇ。あの人とは、ちょっと面倒なことになってましてね」


 ぶっちゃけ、この2人に組まれると面倒なんだが……その可能性が高いから困るな。
 だからこその警戒。少しでも情報が早く、多く集まれば対策も色々できる。




P「そうそう。それとは別に、善永は情報規制も引き続き頼んだよ」

善永「えぇ……とは言っても、これは他の人が大体やってるから私は特にいらない気がするんだけど」

P「何から何までできるわけじゃないらしいからね、やっぱりマスコミ関係の方の手も欲しいらしい」

石川「……“あの人”、マスコミの上ともつながってた気がするんだけど?」

P「マスコミの上なんて、金と権力に目が眩んだ輩ばっかりだから信用してないらしいよ」

石川「まったく、“あの人”らしい……」













石川「……それで? 善永を帰して私だけ残したのはどういう意味かしら?」

P「善永には聞かせられないことだから」


 話が終わり、ちょうどいいタイミングでメニューが運ばれて来たので食事となった。
 食後は3人で他愛もない話をして、善永は仕事へと戻っていった。


石川「それってつまり……」

P「『計画』の中身について、だね」


 前に、ジュンさんには『計画』は誰にも教えてないと言ったが……唯一の例外がミノリさんだ。
 ミノリさんは、俺が信用している数少ない人物。
 その理由としては昔の俺や、他にも俺の大切な人を2人ほど面倒を見てくれたからだ。


P「こっちは、やっと動き出しそうな感じ。……そっちは?」

石川「まぁ、それなりかしら。こっちは人数が少ないから、そっちほどの期待はできないけどね」

P「別に人数にこだわってるわけじゃないからね。でも、どちらも大差なしか」




石川「あなた、765プロ以外にも使えるアイドルはいるでしょ? それじゃダメなの?」

P「あぁ、役割が違う上に……そもそも、それじゃ俺が認めない」

石川「めんどくさいわね」

P「あぁ、これで3度目だよ。……3度目の正直、期待してるぜ」












 その日の夜、ミノリさんと別れた俺は事務所へ帰り、しっかりと仕事を終えた。
 さて、帰ろうか……と思った時に事務所の電話が鳴った。


P「はい、もしもし765プロですが」

社長「おお、その声はP君かね! 高木だが、良い報告だよ!」

P「良い報告、ですか?」


 はて、何かあっただろうか……?


社長「君と律子くんが出したアイデア……竜宮小町が、正式に動き出せそうだ!」


 ……それが、765プロでの本格的な『計画』スタートの合図だった。


ここまでですね
今回は完全オリジナルの話になりましたが、これからもこういう話があるかもしれません

こんばんは
今週末にでも投下したいと思いますが、ちょっと体調崩し気味なので遅れるかもしれません

こんにちは
今夜にでも、少し投下しますね

すみません、体調は良くなったのですが個人的な理由で昨夜は投下できませんでした
今夜も無理そうです……絶対に今週中には投下しますので
待ってくださってる方、本当に申し訳ございません

こんにちは
だいぶ身の回りが落ち着いてきたので、今週中には投下できそうです

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