セレス「勝負ですわ、ドクターK」葉隠「未来が…視えねえ」山田「カルテ.4ですぞ!」 (1000)

★このSSはダンガンロンパとスーパードクターKのクロスSSです。
★クロスSSのため原作との設定違いが多々あります。ネタバレ注意。
★手術シーンや医療知識が時々出てきますが、正確かは保証出来ません。
★原作を知らなくてもなるべくわかるように書きます。


~あらすじ~

超高校級の才能を持つ選ばれた生徒しか入れず、卒業すれば成功を約束されるという希望ヶ峰学園。

苗木誠達15人の超高校級の生徒は、その希望ヶ峰学園に入学すると同時にモノクマという
ぬいぐるみのような物体に学園内へ監禁され、共同生活を強いられることになる。
学園を出るための方法は唯一つ。誰にもバレずに他の誰かを殺し『卒業』すること――

モノクマが残酷なルールを告げた時、その場に乱入する男がいた。世界一の頭脳と肉体を持つ男・ドクターK。
彼は臨時の校医としてこの学園に赴任していたのだ。黒幕の奇襲を生き抜いたKは囚われの生徒達を
救おうとするが、怪我の後遺症で記憶の一部を失い、そこを突いた黒幕により内通者に仕立てあげられる。

なんとか誤解は解けたものの、生徒達に警戒され思うように動けない中、第一の事件が発生した……


次々と発生する事件。止まらない負の連鎖。

生徒達の友情、成長、疑心、思惑、そして裏切り――


果たして、Kは無事生徒達を救い出せるのか?! 今ここに、神技のメスが再び閃く!!




初代スレ:苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」
苗木「…え? この人が校医?!」霧切「ドクターKよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1382255538/)

二代目スレ:桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2
桑田「俺達のせんせーは最強だ!」石丸「西城先生…またの名をドクターK!」カルテ.2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1387896354/)

前スレ:大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」
大和田「俺達は諦めねえ!」舞園「ドクターK…力を貸して下さい」不二咲「カルテ.3だよぉ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1395580805/)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403356340


☆ダンガンロンパ:言わずと知れた大人気推理アドベンチャーゲーム。

 登場人物は公式サイトをチェック!
 …でもアニメ一話がニコニコ動画で無料で見られるためそちらを見た方が早い。
 個性的で魅力的なキャラクター達なので、一話見たら大体覚えられます。


☆スーパードクターK:かつて週刊少年マガジンで1988年から十年間連載していた名作医療漫画。

 KAZUYA:スーパードクターKの主人公。本名は西城カズヤ。このSSでは32歳。2メートル近い長身と
      筋骨隆々とした肉体を持つ最強の男にして世界最高峰の医師。執刀技術は特Aランク。
      鋭い洞察力と分析力で外の状況やこの事件の真相をいち早く見抜くが、現在は大苦戦中。


 ・参考画像(KAZUYA)
http://i.imgur.com/gDxSSF0.jpg
 http://i.imgur.com/t8DhmHa.jpg


 ニコニコ静画でスーパードクターKの1話が丸々立ち読み出来ます。
 http://seiga.nicovideo.jp/book/series/13453



《自由行動について》

安価でKの行動を決定することが出来る。生徒に会えばその生徒との親密度が上がる。
また場所選択では仲間の生徒の部屋にも行くことが出来、色々と良い事が起こる。
ただし、同じ生徒の部屋に行けるのは一章につき一度のみ。


《仲間システムについて》

一定以上の親密度と特殊イベント発生により生徒がKの仲間になる。
仲間になると生徒が自分からKに会いに来たりイベントを発生させるため
貴重な自由行動を消費しなくても勝手に親密度が上がる。

またKの頼みを積極的に引き受けてくれたり、生徒の特有スキルが事件発生時に
役に立つこともある。より多くの生徒を仲間にすることがグッドエンドへの鍵である。


・現在の親密度(名前は親密度の高い順)

【凄く良い】石丸、桑田

【かなり良い】不二咲、大和田、苗木、舞園

【結構良い】霧切、朝日奈

【そこそこ良い】大神、山田、葉隠

【普通】セレス、腐川

【イマイチ】十神

     ~~~~~

【江ノ島への警戒度】かなり高い

立て乙です

スレ立て乙です

すげーなー4スレ目かよ

おそらく作者と同世代なんだがこの辺の世代はマジで頭のいい奴多いんだよな

よし、1000取ったから霧切さんの部屋に行って良い事(意味深)を起こそう


人物紹介(このSSでのネタバレ付き)


・西城 カズヤ : 超国家級の医師(KAZUYA、ドクターK)

 学園長たっての願いで希望ヶ峰学園に短期間赴任しており、この事件に巻き込まれた。
黒幕に殺されかけたものの強靭な生命力で生存するが、その負傷が原因で希望ヶ峰にいた記憶の
大半を失い、内通者の疑惑をかけられる。持ち前の正義感や唯一の大人としての責任感で
少しずつだが生徒達の信頼を得ていっており、舞園、江ノ島、石丸、不二咲を手術で救った。


・苗木 誠 : 超高校級の幸運

 頭脳・容姿・運動神経全てが平均的でとにかく平凡な高校生。希望ヶ峰学園には
超高校級の幸運と呼ばれる、いわゆる抽選枠で選ばれた。自分は平凡だと謙遜するが、
K曰く超高校級のコミュニケーション能力の持ち主で誰とでも仲良くなれる特技がある。
前向きで穏やかなのが長所で、目立った活躍は少ないがKや仲間達からの信頼は厚い。


・桑田 怜恩 : 超高校級の野球選手

 類稀な天才的運動能力の持ち主。野球選手のくせに大の野球嫌いで努力嫌い、女の子が
大好きという超高校級のチャラ男でもあった。……が、舞園に命を狙われたことを契機に
自分が周囲からどう見られていたかを知り、真剣に身の振り方を考え始める。その後、
命の恩人で何かと助けてくれるKにすっかり懐き、今はだいぶ真面目で熱い性格となった。


・舞園 さやか : 超高校級のアイドル

 国民的アイドルグループでセンターマイクを務める美少女。謙虚で誰に対しても儀正しく
非の打ち所のないアイドルだが、今の地位に辿り着くまでに凄まじい努力をしており、芸能界を
軽んじる桑田が嫌いだった。真面目すぎるが故に自分を追い詰める所があり、皮肉にも最初に
事件を起こす。その後も自分を責め続け、とうとう限界を迎えた彼女は舞園さやかという一人の
人間を封印。「脱出のための駒」としての自分を演じることにし、現在は精力的に動いている。


・石丸 清多夏 : 超高校級の風紀委員

 有名進学校出身にして全国模試不動の一位を誇る秀才。真面目だが規律にうるさく融通が効かない。
苗木を除けば唯一才能を持たない凡人である。努力で今の地位を築いたため、努力を軽視する人間を嫌う。
堅すぎる性格故に長年友人がいなかったが、大和田とは兄弟と呼び合う程の深い仲になった。
 自身と生い立ちが似ているKにシンパシーを抱き医者になることを決意したが、大和田の起こした
事件で顔と心に大きな傷を負い、また度重なる重度の心労でとうとう精神が崩壊し、廃人となった。


・大和田 紋土 : 超高校級の暴走族

 日本最大の暴走族の総長。短気ですぐ手が出るが、基本的には男らしく面倒見の良い兄貴分である。
石丸とは最初こそ仲が悪かったが、後に相手の強さをお互いに認め合い義兄弟の契りを交わした。
 実兄を事故で死なせたことを周囲に隠している己の弱さがコンプレックスであり、不二咲の内面の
強さに嫉妬して事件を起こしてしまう。後に自ら秘密を告白し弱さを克服するが、自身のせいで石丸の
顔に傷をつけたこと、第三の事件を起こす切欠となり不二咲を瀕死の状態にしたことを後悔している。


・不二咲 千尋 : 超高校級のプログラマー

 世界的な天才プログラマー。その技術は自身の擬似人格プログラム・アルターエゴを作り出す程である。
小柄で愛らしい容姿をした女性……と思いきや、実は男。男らしくないと言われるのがコンプレックスで
今までずっと女装して逃避していた。秘密暴露を切欠に強くなろうと決意したが、その精神的な強さが
大和田のコンプレックスを刺激し、殺されかける。石丸が自分を庇って怪我を負ったことに責任を感じ、
単独行動を取った結果ジェノサイダー翔に襲われ死にかけるが、友情の力でギリギリ蘇生した。


・朝日奈 葵 : 超高校級のスイマー

 次々と記録を塗り替える期待のアスリート。恵まれた容姿や体型、明るい性格でファンも多い。
食べることが好きで、特にドーナツは大好物である。あまり考えることは得意ではないが、直感は鋭い。
モノクマの内通者発言により仲間達が疑心暗鬼に陥り、空気がギスギスしていることに心を痛めていた。
結果、いつも大親友の大神といるようになるが、それを友情ではなく依存だと指摘され混乱している。


・大神さくら : 超高校級の格闘家

 女性でありながら全米総合格闘技の大会で優勝した猛者。外見は非常に厳つく冷静だが、内面は
女子高生らしい気遣いや繊細さを持っている。由緒正しい道場の跡取り娘であり、地上最強の座を求め
日々鍛錬している……が、実は内通者。モノクマに道場の人間を人質に取られており、指令が下れば
殺人を犯さなければならない立場にある。覚悟を決めているが、同時に割り切れない感情も感じている。


・セレスティア・ルーデンベルク : 超高校級のギャンブラー

 栃木県宇都宮出身、本名・安広多恵子。ゴシックロリータファッションの美少女である。徹底的に
西洋かぶれで自分は白人だと言い張っている。でも餃子好き。脅威の強運の持ち主で、破産させた相手の
数は数え切れない。いつも意味深な微笑みを浮かべ一見優雅な佇まいだが、非常な毒舌家でありキレると
暴言を吐く。穏健派の振りをしているが、実は脱出したくてたまらない。


・山田一二三 : 超高校級の同人作家

 自称・全ての始まりにして終わりなる者。コミケ一の売れっ子作家でオタク界の帝王的存在。その同人誌は
高校の文化祭で一万部売れる程である。普段は明るく気のいいヤツだが、実は臆病でプライドが高い一面もある。
殺人を図ったメンバーとは軋轢が有り、KAZUYA達と十神達のどちらの陣営にも入れず孤独感を感じている。
セレスからは召使い扱いで毎日こき使われているが、本人曰く「ご褒美」だとか。


・十神白夜 : 超高校級の御曹司

 世界を統べる一族・十神家の跡取り。頭脳・容姿・運動神経全てがパーフェクトの超高校級の完璧。
デイトレードで稼いだ四百億の個人資産を持っている。しかし、全てを見下した傲慢な態度で周囲と
何度も衝突を繰り返し、コロシアイをゲームと言い放つなど人間性にはかなり問題がある。初めて
学級裁判が起こった三度目の事件では、自ら事件を撹乱してKAZUYA達に直接攻撃を仕掛けた危険人物。


・腐川冬子 : 超高校級の文学少女

 書いた小説は軒並みヒットして賞も総ナメの超売れっ子女流作家……なのだが、家庭や過去の
人間関係に恵まれず暗い少女時代だったために、すっかり自虐的で卑屈な性格になってしまった。
周囲とは距離を取っているが十神のことが好きで、散々な扱いをされているにも関わらずいつも後を
追いかけ回している。実は二重人格であり、裏の人格は連続猟奇殺人犯「ジェノサイダー翔」。


・江ノ島盾子 : 超高校級のギャル

 大人気モデルで女子高生達のカリスマ……は本物の江ノ島盾子の方で、彼女はその双子の姉である。
本名は戦刃むくろといい、超高校級の軍人だった。天才的戦闘能力を誇るが、頭はあまり回らず全く
気が利かないため残念な姉、残姉と妹からは呼ばれている。この事件の黒幕である妹の指示で、
江ノ島の姿に変装し参加しているもう一人の内通者。ちなみに、KAZUYAからは既に看破されている。


・葉隠康比呂 : 超高校級の占い師

 どんなことも三割の確率でピタリと当ててしまう天才占い師。事情があって三ダブし、高校生にして
既に成人である。飄々として常にマイペース、KAZUYAからは掴み所がないと評されている。普段は割りと
落ち着いている方なのだが、非常に臆病ですぐパニックになる悪癖がある。
また、自分の保身を第一に考える所があり、借金返済のために友人を利用しようとする面も……


・霧切響子 : 超高校級の探偵

 学園長の娘にして、名門探偵一族霧切家の人間。初めは記憶喪失で名前以外何も思い出せなかった。
KAZUYAがたまたま霧切について知っていたため、現在は順調に記憶が回復している。いつも冷静沈着で
洞察力も鋭く、的確な指示をするためKAZUYA派の中では副リーダー兼参謀的役割を担っている。
桑田と舞園が微妙な関係のために、人数の関係で最近は桑田と組むことが多い。


・モノクマ

 コロシアイ学園生活のマスコットにして学園長。苗木達を監禁しコロシアイを強制している
黒幕である。中の人は超高校級の絶望・江ノ島盾子。人の心の弱い部分やコンプレックスを
突くのが得意で、このSSでは幾度も生徒達の心を踏みにじってきた最強のラスボス。

乙おつ
スレタイのあの人がそろそろなにかしでかしそうですねw
石丸君はどれくらいで乗り越えることができるのかなー
十神君ってばある意味原作以上に存在感ありませんかこのかませー!主人公みたいなモブー!



霧切さんは反乱の霧切フラグがあるからコミュパートで最低1回、できたら二回取りたいな


テンプレ貼り終わり。前々から>>1に今までのネタバレを載せるのはどうなんだろうと
気になっていたので、今回から形式を変えてみました。

前スレの返レスをして今日は寝ます


>>990
何故ヨダレ?!

>>994
申し訳ありませんが、二章からフラグが非常に複雑化してて一つ説明すると
今後の大きなネタバレになってしまうので説明は出来ません。ご容赦ください

>>997
シロを追い詰めるのはけして無意味ではないですよ。KAZUYA派の主要メンバーである
石丸君を潰せば派閥に大打撃を与えますから。けして個人的に嫌いだからではない……はず

撹乱したせいで発言権がなくなり、投票ミスってたらどうすんだという意味では
まさしく仰る通りと言いますか……原作でもそうなのでなんとも

十神君は自信ありすぎるというか、もうちょっと慎重になった方がいいと思うyo!

乙です!4スレ目か…これからも楽しみにしてるよ

石丸がついに崩壊したか……フラグは立ちまくってたもんな
果たしてこっから立ち直れるのかね……
本編でも思ったが、石丸は普段が熱血な分、精神崩壊した姿が余計に痛々しく見えるな
後、残姉がいち早く石丸が壊れてしまったのに気付いたあたりもなんか…こう、くるものがある……

十神は…どーすりゃいいんだこりゃ
この状況でよくそこまでヘイト稼ぎまくるなww

ジェノとはうまい飯が食えそうだ

十神はこの時点ではまだ、まさか感情優先して自身にも害がある方を選ぶ人間がいるとは思ってないからな。

乙乙!
このSSめっちゃ好きで楽しみにしてるけど鬱展開すごくてSAN値ゴリゴリ削られるわ(白目)
その鬱展開とそこからの復活、あと心情描写が魅力なんだけどね。

しかし次章
・裁判での最大の貢献者であり強力な発言権を持つけど交流が薄くてこちらに完全に心を許しているのかイマイチ判らない霧切さん
・効果あるか判らないけど放置してたらヤバそうな石丸と舞園
・石丸の件でダメージ負ってそう&石丸復活の強力なキーになりそうな大和田&ちーたん
・現状大神に依存先傾向がある&大神の抑止力になりそうな朝日奈
・十神の裏切りとオシオキで心身傷ついてる腐川
・確実に自分を守ってくれる味方が居ないので疑心暗鬼MAXで何しでかすか判らないのと利用されそう、あと占いが活用出来そうな葉隠
・引き込んで置かないと十神やセレスに利用されそうな山田

コミュパートでどこから手を付ければ良いのかどこを切り捨てれば良いのかまるで判らない…(絶望)

前スレ&2章完走乙!

そんでスレ立て乙
なんだか年が明けたような気分
今スレもよろしく



>>17
苗木と桑田が大丈夫なだけまだ……

乙です、4スレ目突入とは素晴らしい

こりゃ石丸を救うには石田化もやむなしかもな・・・
目覚めたちーたんにこれまでの経緯を一から説明するのも心苦しいな・・・絶対悲しむよあの天使

今気付いたけど、崩壊した石丸の台詞にさりげなく助けてって入ってるな…

>>17
仲間になったキャラに関しては1章と同じくアイテムゲットの番外編があると思うしその様子で判断出来るんじゃないか?
スレタイも考えて安広さんと葉隠と山田メインで良いと思う

死人は出てないけど心身ともにボロボロの人達が多いな
次の章で動くのは中立派の三名とか不安要素しかない
十神もまた事件を撹乱しそうだし

安広さんはコマになりそうなの全員仲間にしてから利害の一致的に仲間にした方が良さそう

石丸顔が傷つくわ精神的に追い詰められるわ踏んだり蹴ったりだな
これでもマシ方なのか?全然そう見えないけど…

石丸が踏んだり蹴ったりなのは本編からしてそうだから間違ってないな、うん

舞園にしろ石丸にしろ、真面目な奴は必要以上に自分を追い詰めすぎるんだよな…
二人ともどうにか救ってやりたい

>>25
大和田とちーたん生存、大和田とは和解済、K達助けてくれる仲間がいる

原作よりよっぽど恵まれてるぞ

たえちゃんはここに残る理由を作るとかがいいかもw


・・・誰かに惚れさせる?

前スレで十神の描写で眼鏡が割れている描写があったので素でやべ十神死んだwwと思ってしまったww
ネタスレの見すぎでまともな描写なのに笑ってしまった

出来たよ! 十神君と眼鏡を入れ替えるスイッチだ!

>>30
普通じゃね?

十神?ああ、メガネかけのこと?

あれ?十神ってみんなを導いてくれる頼れて動ける[ピザ]っちょじゃなかったっけ?

前スレ乙!そして新スレおめ!

死人が出てなくて嬉しいはずなのに素直に喜べない……
大和田とちーたんで石丸なんとか救えんのか…実質二人の命救ったんだからなんとかしてやってくれ
あと選択肢で変わってたっていう石丸の怪我の程度も知りたいです1先生!!

流れがひでぇwww
ヘイト稼ぐからこうなるんだよ十神www
しかしそれでこそ十神ってかんじですごいなぁ話が。まあそれでも噛ませ臭が拭えないのは、
やっぱ弱い者いじめしちゃう震えるロンリーメガネかけだからかねぇ。

俺ここの十神結構好きだけどな
まぁやらかしてることは擁護できないがなんつーか結構精神的にじわじわ追い詰められつつも自分は持っててプライド高いとことか

正直監禁しておくべきだと思うけどな
常に十神が何かやったんじゃないかと疑わなきゃならんし

ここの十神、記憶が戻って実はみんなクラスメートだったって知ったらめちゃくちゃ落ち込みそう

>>37
2だったら監禁されてるだろうな。ただ、十神に何かすればジェノが黙ってないから難しい
それに石丸の件でそれどころじゃなくなるだろうから結局無罪放免になりそう

>>39
2人抱き合わせて鎖かなんかで縛って放置すればいいじゃないか。

石丸当人が十神にそこまで悪い印象抱いてなさそうだからあんまり騒いでもね
秘密暴露で一人褒めてたくらいだし

>>28
苗木先生、出番です

今の石丸に駒園さんぶつけたら「新しい自分に生まれ変われば良いんですよ(ニコッ)」とか言って石田爆誕しそうで怖いわー
しかし石丸にばかり目が行くけど腐川も大丈夫なんかね。電流食らうってーと全身火傷状態とか?

doctor kすら完読してしまった

それにしても、まだ一回も投下来てないのに凄い伸びだな
ハニーポッターみたいに感想スレ立てても埋まりそう

いつもたくさんの応援・感想レスありがとうございます。モチベに繋がります

そしてすみません…書き溜めは結構たくさんあるのに推敲が全然出来てないから
投下出来ないというていたらく…千本ノック喰らってきます

あと自分でも忘れっぽいとは散々言っていたが、本当にここまで忘れているとは…
舞園さんの右手とKAZUYAの左手の怪我をすっかり忘れていた。危うく矛盾する所だった
というか既に一カ所微妙に矛盾しかけてる。ので、こっそり修正しておく

今後のためにカルテ書いておくか…


>>22
モノクマメダル贈呈。すっかり忘れてました…
でも番外編はキリが悪いので、しばらくは入りそうにない

今日か明日には必ず来ます。それでは

推敲の方が時間掛かるのか、珍しいタイプやね

あと、実はとあるスレでうちのスレの話題が上がっておりまして、医療描写の
一部がそれは違うよ!されてしまったのでその訂正と解説と補足説明もしなきゃなぁ…

>>46
推敲と言うか加筆修正ですかね。第一稿が30分だとすると二稿が一時間くらい、三稿四稿と…
医療シーンが入ると調べ事が多いから下手したら推敲だけで数日~一週間以上かかることもザラ

シーンが後から追加で浮かぶのも多いので、本投下までわざと少し寝かせて後から浮かんだシーンを
間に継ぎ接ぎしたりしてます。推敲前と後の違いを見たら結構ビックリするんじゃないかな
シーンや台詞まるごと後付けしてるのもかなりある。直近だとセレスのウィッグ関連と
オシオキ後のエクストリーム~以外のモノクマの台詞は全部後付け

そしてまだ出先。こりゃ明日かな…

完結まで書いてから公開するやつならそんな感じだけど、こういう形式で珍しいなーと
医療題材だからね……しょうがないね、っていうか自分だったらもっと調べることが多くなるだろうなあ
でも、勢いでいっちゃったのも見たいねww

何が嬉しいって、もう残りレス数気にしなくていいことだよね
前スレではレスが600超えた辺りからもう嫌な予感がしていて、案の定ギリギリだったし

あと、>>2のKAZUYAの参考画像は地味に毎回変えているのにお気づきだろうか
今回の一枚目はティーゲルの時と並んで三大好きなヤツの一つ。もう一つもそのうち貼る

では投下すっぞ!


―俺達は誰一人として死者を出さずにあの学級裁判を生き残った。


―俺達は勝ったのだ。





―……。


―勝ったのか?


―……勝ったはずだ。





では、一体何故こんなことになってしまったのだろう――


男は、壊れてしまった教え子の前で絶望した。






Chapter.3 世紀末医療伝説再び! 医に生きる者よ、メスを執れ!!  (非)日常編





月日が過ぎるのは早いもので、あの悪夢のような学級裁判から既に一週間が経とうとしていた。

KAZUYAは日課となった石丸のカルテを書いている。未だに正気を取り戻す気配がない石丸の、
どんな些細な変化も漏らさないようにと事細かに記録していく。ついでにその日あったことや
気付いたことなども簡単に記載していたので、半ばKAZUYAの日記のようになっていた。


「……………………」


KAZUYAは書き終わったカルテを無言で整理する。
そして、少しでも手掛かりはないかとまた最初から読み直し始めた。



― コロシアイ学園生活十五日目 石丸の部屋 AM8:54 ―


石丸は生きるのをやめた。則ち、生きるのに必要な生命活動を全てやめてしまった。
ほっといたら睡眠も食事も全く取ろうとしない。そのことに気が付いたKAZUYAは、
夜になったら薬と針麻酔を併用して無理矢理眠らせることにした。漸次的だが、
これで睡眠問題は解決する。次に問題となったのは、当然ながら食事についてだ。


桑田「お、上手く行ってる感じ?」

K「恐らく、な」

苗木「ここにお医者さんがいて本当に良かったよ」

舞園「不幸中の幸いでしたね」

石丸「…………ゴフッ」


K「ム!」

苗木「あ」


当初、KAZUYAは鼻腔から直接胃にカテーテルを通し流動食を流し込む経鼻栄養法を試みた。
石丸は自分の体に異物を入れているのにも関わらず、一切反応も抵抗もしなかった。
いけるとKAZUYAは思ったのだが、少しして石丸は胃の中の物を吐き出してしまったのである。
何度か試したが、どうやら胃に物が入ると拒否反応を示して吐いてしまうようだった。


「…………」

(不味いな……あまり何度も吐かせるのは誤嚥性肺炎の元だ。口腔や食道にも良くない。
 しかし、胃に物が入れられないとなると胃瘻(いろう)も出来んだろう……)

(どうする? 腸瘻(ちょうろう)ならいけるか? だが、長期間かかると確定しているなら
 考慮すべきかもしれんが、存外早くに戻るかもしれん。そもそも、経腸栄養が可能かも問題だ)


胃瘻:腹壁と胃に穴を開け体外から管を通し、そこから直接栄養や薬品を投与する処置のこと。
    経口摂取が不可能な患者に安定した栄養補給をすることを目的とする。

腸瘻:胃瘻の腸版。直接小腸に穴を空け専用チューブを通し、栄養を流す。胃を通さないため、
    下痢を起こしやすい。胃瘻・腸瘻共に六週間以上使用するかどうかが造成目処の一つ。


(一番の問題はどれぐらいで戻るか皆目見当がつかないことだな。鍵は不二咲だと思うが……)


流石のKAZUYAも精神の病に関しては専門外であり、まったく当たりがつけられなかった。
やむなく、今回は臨時に点滴をすることにする。だが、通常の点滴では人間の生命を
維持するのに必要な栄養素を取ることが出来ない。どうしたものかと思案していた時だった。

その時、モニターに画面が映りモノクマの放送が入る。


モノクマ『この学園では、裁判を経験するたびに新しい世界が広がります。舞園さんが最初に事件を
      起こした時みたいにね。そうでもしないとオマエラしらけ世代はすーぐしらけちゃうんだから』


桑田「シラけ世代って、オイ……」

苗木「新しい世界?」

舞園「どこかに行けるようになったということでしょうか?」


放送からさして間を置かずに、部屋に霧切がやって来た。


霧切「ドクター! 今の放送聞いたかしら?」

K「ああ。今現在行けないのは上の階のみ。つまり新しい世界とは四階のことだろうな」

桑田「マジかっ?!」

苗木「先生!」

K「石丸は俺が見ている。まずはお前達が行ってきてくれ」

苗木「はい!」

桑田「んじゃ、ちょっくら行ってくるぜ!」


そう言って四人は四階へと向かった。


K(果たして何があるのか……)


・・・


しばらくして苗木、霧切、桑田だけが部屋に戻って来た。彼等によると四階には二つの
教室と化学室、音楽室、職員室、情報処理室、学園長室があり、そのうち学園長室と
情報処理室には鍵が掛かっていて入れなかったとのことだった。


K「随分たくさん部屋があるのだな。何より学園長室……つまり奴の私室か?」

霧切「……恐らくは」

桑田「くそっ! 一番てがかりがありそうのはあそこなのに中に入れねーとか……」

K「仕方ないさ。……今は正直脱出どころではないしな。それで、情報処理室とは?」

苗木「少し変わった扉でした。なんか他の部屋と雰囲気が違うような。単なる印象だけど」

K「いや、気付いたことがあればどんどん言うべきだ。そこから何かの糸口を掴むこともある」

霧切「扉の上には玄関ホールみたいに機関銃が設置されていたわ。大事な部屋かもしれないわね」

K「フム。学園長室に情報処理室……か」

霧切「とりあえず、入れない部屋については後回しにしましょう。他の部屋については……」


残った部屋でKAZUYAが最も興味を惹かれたのは、当然と言うべきか化学室だった。


桑田「普通の学校の化学室と変わんねーと思うぜ。なんか変な薬がいっぱいおいてあった」

霧切「薬品棚の一覧表があったから持ってきました」

K「助かる。……ムゥ、これは」


薬品の一覧を見た瞬間、KAZUYAの顔が曇る。


苗木「……やっぱり、毒とかありますか?」

K「まずいな。こんなものをそのまま放置しておけば生徒に凶器を与えるようなものだ」

霧切「そう思って今は大神さんと朝日奈さん、舞園さんの三人に薬品棚を見張って貰っています」

K「手際が良くて助かる。……倉庫に、確か大工道具があったな?」

桑田「あったけど、それをどうすんだ?」

K「大和田は大工を目指しているそうだから、初仕事を頼もう。
  棚の一つに鍵をつけて、そこに危険な薬品類を全て収納する」

苗木「でも、肝心の鍵はどうするんですか?」

K「保健室で薬品の保管に使っていた南京錠があるからそれを流用する。
  どうせ保健室の薬品類は全て撤去して使っていなかったからな」


何故薬品の保管に棚の鍵だけでなく南京錠を併せて使っていたかは思い出せないが、
KAZUYAは誰かから薬品を守ろうとしていた気がする。確か女性だったような……


だが今重要なのは記憶ではなく、その鍵が役に立ちそうだということだけだ。


霧切「とりあえず、一度ドクターにも四階を見てもらう必要があるわ」

K「そのようだな。俺が戻るまで石丸を任せる」

苗木「はい」

K「霧切、すまないがもう一度俺と回ってもらっていいか? 詳しい説明が聞きたい」

霧切「わかったわ。行きましょう」


倉庫と保健室に寄って色々工作に使えそうな物を見繕うと、KAZUYAと霧切は四階に向かった。
部屋の配置や、使えそうな物を徹底的に頭に叩き込んで行く。それらの作業が終わると、
最後に化学室に向かった。中では、女生徒三人が気まずげな顔で並んで立っている。


朝日奈「あ、先生!」

K「見張りをしてくれたそうだな。助かった」

朝日奈「ううん。……だって、危険な薬がいっぱいあるって言うし……」

大神「薬品は我等ではよくわからぬ。ここは薬品のプロフェッショナルが扱うべきではないかと」


薬品は本来俺の専門ではないのだがな、とKAZUYAは内心で苦笑する。ついでに、薬品のプロという
言葉でとある大学同期の友人を思い出した。最近めっきり会ってなかったが元気にしてるかなと思う。


K「ここは俺と霧切に任せてほしい。あと、すまないが誰か不二咲の看病を少し
  変わってやってくれないか? 大和田を連れて来てほしいのだ」

朝日奈「わかった。私が交代するよ。大和田にここに来てって言えばいい?」

K「頼む」

舞園「私も行きます」

大神「我も行こう」


三人が部屋を去り、KAZUYAと霧切が薬品を危険度によって棚に振り分けて行く。
さほど待たずに大和田がやって来た。


大和田「俺に用ってなんだ?」

K「初仕事さ」


少し時間は掛かったものの、なんとか劇薬類を隔離することは成功したのだった。


大和田「ハァ……ひっでえもんだ。木の棚ならまだしも鉄の棚に力付くで穴空けて
     ムリヤリ加工したから、見た目がガタガタだぜ……」

K「とりあえずは開かなければ良いのだ。見た目は二の次でいい」

大和田「で、これで危険なモンは全部しまえたんだな?」


K「一応な。あと、劇薬というほどではないがやや危険で特に使い道のない薬品は
  俺が化学反応で中和させて処分しておくとしよう」

霧切「劇薬にばかり目が行っていたけれど……役に立ちそうな物はあるかしら?」

K「あった。非常に役立つ物がな。むしろなければ困る所だった、が……」


しかし、そう話すKAZUYAの顔はあまり明るいものではなかった。



               ◇     ◇     ◇


午後の、探索も一段落ついて少し落ち着いた時間に、KAZUYAは生徒達を一人ずつ石丸の
部屋に呼んだ。呼びかけてもらい、反応を見たかったのだ。上手くすればそれで戻るかもしれない。


K「頼んだぞ」

葉隠「おう、任せろって」


とりあえず葉隠を呼んでみた。年長だし、職業柄色々な人間と会って話してきた経験がある。
何より占い師としてのインスピレーションに期待していた。部屋に入ってすぐに、葉隠は机に向かう
石丸を見つける。その姿は、昨日見た時とは違い特におかしくない普段通りものに見えた。


葉隠「あれ? 先生、石丸っち勉強してるべ? なんだ、もう元気になったんかいな。
    俺がなんかする必要なんてなーんもなかったな。ハハハッ」

K「……違う。よく見てみろ」

葉隠「ん?」


石丸の横に回りこんで顔を見てみる。その目の焦点は、合ってなかった。手も全く動いていない。


葉隠「……えーと?」

K「石丸は長年規則正しい生活をしていたせいかな。食事も睡眠も取らないくせに、何故か
  こういった無意味な行動を時々取るんだ。……体に染み付いているのだろうな」


生きるために必要な行動を一切取らずに、勉強もどきや運動まがいの行動は時折取る。
その無機質な姿はまるでプログラムされた機械人形のように見えて、ただただ不気味だった。


K「……何でもいい。話しかけてやってくれんか?」

葉隠「お、おう……」


想像以上に重篤な状態になっていたことを知り、葉隠は半ば青ざめつつも石丸に声をかける。


葉隠「な、なあ。石丸っち? しっかりしろって」

石丸「……すまない。許してくれ」ブツブツ


葉隠が話しかけた途端、それがスイッチになったように石丸はまた止まらない独り言を始めた。


葉隠「別に怒ってないって。もっと前向きになった方が人生楽だべ? 大体石丸っちは
    ちょっとマジメすぎんだ。俺なんて、三ダブの上借金まであんだぞ!」

石丸「御免。ごめん。申し訳ない。すまない……」ブツブツ

葉隠「あのな、昔の偉い人が言ってた話なんだけど~……」


占い師だからか単に好きだからか、葉隠は意外と雑学に詳しくそれをあれやこれやと
述べたりしてみた。他にも適当に周りの状況やとにかく思いついたものを色々話してみた。
……が、何一つ目新しい反応はない。


葉隠「……ハァ~。さっきからなに言ってもこうだべ。もう帰っていいか?」

K「わざわざすまんな。もう戻ってくれて構わん」


言ってから、ふとKAZUYAは葉隠に問い掛けた。


K「待て。……石丸が治るかどうか占ってもらってもいいか?」

葉隠「あ、それならもうとっくに占ってあるべ。……本当に聞きたいんか?」

K「参考程度に、な」


葉隠は少し考えていたが、結果を教えてくれた。KAZUYAの予想通りではあったが。


葉隠「……治らんかった。で、でも! 俺の占いは三割しか当たらんしな!」

K「…………」

葉隠「えーと、その……」

K「ありがとう。戻っていいぞ」

葉隠「じゃ、じゃあまたな! 石丸っち、また来るべ!」ガチャ、バタン

K「…………」


無言で溜息をつくと、KAZUYAは次の生徒を呼びに行った。


・・・


その後も、次々と生徒を部屋に連れて話しかけさせる。


山田「石丸清多夏殿? 大丈夫ですか?」

石丸「僕は駄目だ。駄目だ。駄目だ。駄目だ……」

山田「はぁ~。まったく……めんどくさい人ですな」

江ノ島「元気出しなって! たかが一回のミスでなに落ち込んでんの!」

石丸「…………」

江ノ島「この程度のミスで落ち込むならアタシなんて……あ、ヤバ。なんか落ち込んできた」

石丸「すまない、許してくれ」

セレス「許しませんわ」

石丸「僕は駄目だ」

セレス「そうですわね」


しかし、全く改善の兆しが見えない。


セレス「慰めも世間話も言葉責めも全部やってみましたが無駄でしたわ。私もギャンブルで
     自棄を起こした方は何度も見てきましたが、ここまで酷い方は見たことがありません」

セレス「石丸君はダメになってしまったのです。いっそ、諦めた方がよろしいかもしれませんわよ?」

K「……諦められんさ。生きている限り、俺は絶対に諦めない」

セレス「そうですか……では、茨の道を歩いてくださいませ」


カチャ、パタン。

部屋に取り残されたKAZUYAは、今までに得た情報を何一つ漏らさずカルテに詳細に書いていく。


K「…………」

K(茨の道か。そうだな……それに、問題は石丸だけではない。腐川もだ)


そろそろ目が醒める頃だろうな、とKAZUYAは腐川のことを考えていた。
自分が望んで襲った訳ではないのにオシオキを受ける羽目になってしまったのだ。
その精神ダメージたるや、決して小さくはないだろう。KAZUYAは霧切を呼ぶ。


K「霧切、腐川の部屋に行ってもらっていいか? 俺の見立てではそろそろ目が醒めると
  思うのだが、俺は嫌われているし、第一女生徒の部屋に俺がいては障りがあるだろう」

K「火傷に効く軟膏を渡しておく。寝ている間に処置もしておいてくれ」

霧切「わかりました」



― 腐川の部屋 PM2:41―


全身を駆け抜ける鋭い痛みと共に腐川を目を醒ました。


「う、うう……」

(……痛い。なんなのよ、これは……!)


筋肉を針でつついているような、そんな鋭い痛みを至る所に感じる。
視界に積み上げられた本を見つけ、腐川はここが自室のベッドだと気が付いた。


「おはよう、腐川さん」

「!」


痛みと現状把握に意識を割いていたため気が付かなかったが、すぐ横に霧切がいた。
椅子に座って静かに本を読んでいる。怜悧な彼女が本を読む姿はまるで一枚の絵画のようだった。


霧切「あなたの本を読ませてもらっていたわ。恋愛小説を読むのは初めてだけど、とても面白いわね」

腐川「あんた……なんでアタシの部屋にいんのよ……痛っ!」

霧切「状況説明をしようと思って。……一応火傷はあなたが寝ている間に薬を塗っておいたわ」

腐川「火傷?! ま、まさかアイツがまたなにか……」

霧切「あなた、学級裁判でクロになってオシオキされたのよ。正確にはジェノサイダー翔だけど」

「!!」


腐川は思い出していた。そうだ。自分は学級裁判に参加していたはずなのだ。
自室にいるということは全て終わったということ。そして――予想通り犯人は自分だった。


腐川「ア、アタシじゃない……アタシがやったんじゃない!」


あの時――腐川は倒れている不二咲と石丸を見て、石丸が犯人だったら良かったのにと思った。


いや、殺した記憶はないのだ。もしかしたら本当に石丸が犯人で自分はたまたま居合わせた
だけかもしれない。状況から見てそれは限りなく0に近かったが、腐川はそれに縋った。自分が
殺したなどと思いたくなかった。だからより確実に石丸の犯行となるよう、凶器を用意したのだ。


霧切「落ち着いて。みんなわかっているわ」


学級裁判のその後や自分が知らない間に受けた地獄のようなオシオキについて、霧切は淡々と
説明してくれたが、腐川にとってもはやどうでも良いことだった。石丸がおかしくなったことも
四階が解放されたことも、あの十神のことですら今はまるで興味が持てなかった。

終わった。みんなにバレた。ただそれだけが今の彼女の思考を占めていた。


腐川(どどど、どうしよう?! アタシ、これからどうすればいいの?!)


もはや外に出ることが出来たとしても、何ら希望が持てない。十五人もいれば、一人くらいは
自分の秘密を漏らすだろうし、場合によっては口止め料を請求されて一生ユスられるかもしれない。

いや、そもそも無事に外に出れるかも怪しい。ただでさえ恐れられる存在の自分が
実際に人を襲ってしまったのだ。報復としてリンチに遭ってもおかしくなかった。

……特に大和田は、石丸を陥れたことも併せてどうしようもない程に激怒しているだろう。


腐川(こ、こ、殺される……!!)


腐川の全身から血の気が引き、カタカタと体が震え出す。

前のスレで腐川の自業自得とか言ってた人が居たけど、
無実の罪を背負った上で自分から進んで絞首台に足を運ぶのが義務だとでもいうのだろうか…


霧切「腐川さん?」

腐川「ど、どうして……どうしてアタシばっかり……好きで二重人格なんてなった訳じゃないのに……」

霧切「腐川さん、どうしたの?」


霧切は腐川の異常に気付いて声を掛けるが、逆にそれが彼女の神経を
大いに刺激して、腐川はヒステリックに叫び始めた。


腐川「ア、アタシのせいじゃない! アタシは悪くない!」

霧切「腐川さん、落ち着いて! 誰もあなたを責めてなんていないわ!」

腐川「嘘ばっかり! みんなアタシを殺す気なんでしょ?! 出て行きなさいよっ!」

霧切「腐川さん!」

腐川「出て行って! ここから出て行きなさい!!」


腐川は痛みも気にせず辺りにあるものを手当たり次第に投げ付ける。
これ以上ここで粘るのは危険だと判断した霧切は、仕方なく退散したのだった。


霧切(フゥ。厄介なことになったわね……)


KAZUYAの言ではないが、まさしく脱出所ではなくなってしまったのだった。


ここまで。

乙です
色々と問題が山積みになってきたなー


それはそうと>>1さん、は・・・早くちーたんの声を聞かせておくれ・・・禁断症状がッ・・・!

乙です、リアルタイムで追えて嬉しい!
占いは本編でも結構当たってるから怖いな
そう言えば学級裁判の秘密告白で葉隠は自分の犯罪暴露してたけどその件はKやツッコミ入れてた桑田的にいいのか?

乙です

よだれが止まりませんなぁ!

葉隠の占いって悪いことはほとんど当たってるんだよなあ……
実際、6割のハズレはみんなが良いことばっか占ってもらうからだったりして



>>73
残りの1割どこ行った

石丸は不幸が似合うな


狂って石田化したのも見ていて辛かったけど、現在の石丸も見てて辛いな
ジェノのことがバレて疑心暗鬼の腐川も何か仕出かしそうで恐い

おつー
>>66
何が言いたいか知らんが殺人の隠蔽してる時点でクロだぞ

ジェノが腐川を庇ったという考え方をしてみる

>>74
1割は普通に外れてるんじゃね?
そもそもピッタリ3割、が定説になってるけど葉隠自身が言ってる率は変わってる

>>70
正直それどころじゃないのでスルーした>葉隠君の犯罪

>>73
そなた、もしや鬱展開好きだな?今後もご期待ください

>>66>>77
今回投下分でも書いていますが、認めたくないんじゃないですかね。状況証拠的には100%自分なんだろうけど、
殺した瞬間の記憶はないし、自分が殺してる瞬間の映像を見せられた訳じゃないし。勿論、人を死なせてる訳だから
本来は警察に行くべきだとは思うけど怖いのでしょう。責任はあるけど自業自得も可哀想かな、という感じですね


カルテ作ったんで貼っときます


カルテNo.1【KAZUYA】その①

頭部に複数の挫傷あり。頭骨に若干のヒビ。右腕に一発、腹部に三発の銃痕。
弾は腹直筋及び外腹斜筋内部で止まり、術式にて全て摘出縫合済。


負傷日:コロシアイ学園生活-三日目。経過日数18日。完治。


カルテNo.2【舞園 さやか】

腹部刺創。胃中心部に貫通創。術式にて縫合止血済み。
縫合した皮膚は完全に癒着していると見られる。12日目に抜糸予定。
通常の運動程度ならば問題ないが激しい運動は創が開く可能性あり。

右手首骨折。レントゲンによる診断が出来ないため、正確な部位と程度はわからず。
触診により手根骨が粉砕骨折をしていると判断し、現在はギプスにて固定。


負傷日:コロシアイ学園生活四日目深夜(五日目)。経過日数10日。要経過観察。右手は絶対安静。


カルテNo.3【江ノ島 盾子】

右膝下4cm、左膝下6cm、左大腿部9cm、左肩5cmの切創。左肩、左大腿部は縫合処置。
左腕に槍状の鉄棒による貫通刺創。橈骨動脈が切断されていたため、吻合。


負傷日:コロシアイ学園生活十日目。経過日数5日。要経過観察。

……だが診断を拒否。抜糸だけはなんとか受けさせたい。


カルテNo.4【石丸 清多夏】その①

・左額から瞼を通り左頬に抜ける12cmの切創Ⅰ。
・切創Ⅰの左、正面から見てやや右の左頬から左顎部に抜ける8cmの切創Ⅱ。
・左頚部に7cmの切創Ⅲの計三つ。

切創Ⅲはトレーニング機材の角にぶつかったことにより外頚静脈を損傷していたので縫合。
創面が粗かったため、デブリードマンを実施の上、創面も縫合。

切創Ⅰ、Ⅱは鏡の破片で切ったものであり創面は特に問題なかったが、極度の興奮が原因か
麻酔効果の減衰が見られたため、真皮縫合は行えず通常縫合での縫合とする。

また、覚醒後暴れたため創が若干開いたが、麻酔が少ないため再縫合は実施せず。
精神面が不安で情緒不安定な面が見受けられるので、泊まりこんで監視を行うこととする。


負傷日:コロシアイ学園生活十日目深夜(十一日目)。経過日数四日。要安静。


カルテNo.5【不二咲 千尋】

縄状のものにより頚部を圧迫され窒息。発見し即座に心肺停止を確認。

胴体部に残存体温が認められたため、心肺停止からあまり時間経過しておらず蘇生の余地ありと
判断しCPRに移行。気管挿管し、バックバルブマスクにて送気しつつ開胸式心臓マッサージを施行。
CPRと同時にエピネフリン1mgを静注。以後、様子を見ながら追加で静注を行った。

午後4時。CPR開始からから2時間15分後。未だ生命兆候現れず、死亡認定。CPRを中止。

……その後、大和田のCPRにより心拍再開を確認。強心剤心注し、自発呼吸を再開した。
蘇生後は、蘇生後脳症を防ぐため低体温療法を実施。ただし、学級裁判により一時看護が
中断するため、シバリングの発生する極低温は避け34~35℃を目処に調整する。

今後は蘇生後処置に移行し、発熱や細菌による合併症に気を付ける。


負傷日:コロシアイ学園生活十四日目。経過日数1日。要絶対安静。


<ここからKAZUYAの個人的コメント>

心臓マッサージの最中に、家族や友人の呼びかけで一時的に心拍が回復することは実はよくある。
死に瀕していても、声や想いは届くのだろう。だが……俺の声ではきっと助からなかったはずだ。
もしや、記憶を失っていたとしても不二咲の脳は二人との友情や思い出を……(この後は消されている)


カルテNo.6【腐川 冬子】

全身にⅠ度の熱傷あり。電極と直接接触していた部分は浅達性と見られるⅡ度熱傷。
変色、水ぶくれも多少見られるが植皮は必要ない程度である。

アズノール軟膏を塗ってガーゼで覆った(症状が軽度だったため処置は霧切に委任)。
また、彼女の場合肉体よりも精神面に深刻な影響が懸念されるため、注意深く観察する必要がある。


負傷日:コロシアイ学園生活十四日目。経過日数1日。要経過観察。


<ここからKAZUYAのコメント>

腹立たしいが、モノクマは確かに約束には厳しいようだ。……しかし、上手い具合に手術が
不要な程度の傷に仕上げてある。こちらとしては有り難い限りだが、もっと重傷な方が奴的には
楽しめるのではないのか? オシオキの存在が犯罪抑止になることを警戒したのか、それとも……


カルテNo.7【KAZUYA】その②

左掌に折れた木刀の木片が三箇所貫通。その他複数の切創。消毒止血済。
手当をするまでにやや時間がかかってしまったので、破傷風に気をつけたい。


負傷日:コロシアイ学園生活十四日目。経過日数1日。要経過観察。


カルテNo.8【石丸】その②

深刻な精神疾患を発症。急激なストレスのせいか髪が脱色現象を起こしている。

自発的な睡眠食事を一切行わず。やむを得ず、睡眠は市井の睡眠薬を使うことにした。
ただし、薬品依存を避けるため針麻酔も並行して使用することとする。

食事は当初経鼻栄養法を試したが、肉体が拒否反応を示し嘔吐を繰り返したため中止。
今後、経腸栄養が可能かどうかを焦点に観察を続け近日中に結論を出すこととする。
しばらくは点滴による末梢静脈栄養法を実施していく。

また、会話が全く成り立たず独り言、強度の他害妄想有り。独り言の内容は謝罪、
自己否定的なものが大半を占め、時々理解不能な内容も含まれる。

< 中略 >

場合によっては抗鬱剤による薬物療法や精神療法を試みた方が良いかもしれないが、
専門外のため悪化の可能性もあり、現段階では安易に手を出すべきではないと判断する。

今後も追って経過を観察し、どんな些細なことも記録することとする。


発症日:コロシアイ学園生活十四日目。経過日数1日。要経過観察(大文字に丸を二重にして囲んでいる)。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

以上。自分のためのメモでした。

ちなみに、このカルテはノリです。再現です。KAZUYAが書いた本物のカルテは
もっと詳細でドイツ語とか専門用語の羅列で一般人は読めないものと思って下さい。

特に薬品関係は繊細ですからね。一応一般的なものを書いたけど、患者の症状や状況によって
種類も量も回数も変わるのが当たり前です。エピネフリンじゃなくてバソプレシンかもしれないし、
アズノールじゃなくてリンデロンかもしれない。雰囲気を楽しんで下さい

ちなみに昨今ではエピネフリンではなくアドレナリンというそうです。Kは昭和生まれだから、ね

乙です

>>74
当たるのとあたらないのとのハイブリッドだよきっと
怖い系ジョークでよくある
「願いをひとつかなえてやろう」→「俺を大金持ちにしてくれ!」→空から大金が落ちてきて潰されて死ぬ
みたいな願いはかなってるけどそうじゃねえよ!みたいなアレだよ

>>85
猿の手効果ってヤツか、納得

ちょっと、どうしても愚痴が言いたくなったので読者の皆様には関係ないけど書く。飛ばして下さい


モノクマ「1がさぁ、たかがSSに背伸びして医療描写とかいれてるのは、別に知識自慢とか俺KAKKEEEを
      したい訳じゃなくて、なるべく原作の空気を再現したり読者のみんなを楽しませたいからな訳よ。
      裁判全カット発言でわかるように、医療描写も当初は全カットか原作流用で済ます予定だったし」

モノクマ「でもさ、たとえ間違いがあっても手術シーンとかあった方がより物語に深く入り込めるでしょ?
      裁判も途中グダってご迷惑をおかけしたりしたけど、やっぱりダンガンロンパって感じしたし、
      ああ、ドクターKってこんな漫画なんだって思ってもらえたらファンとしても凄く嬉しい訳です」

モノクマ「ただどんなに調べても1は所詮底の浅い素人な訳でミスも当然あるし、だからわざわざ1レス使って
      ※注意※医療描写はファンタジーですって何度もいれたし、そもそも>>1にも注意書きがある訳よ」

モノクマ「勿論、間違いはなるべく真摯に受け止めるつもりだけど、ただね……物語に現実と全く同じレベルを
      要求するのはちょっと違うというか……。あと、二次創作だからなるべく原作の描写を大事にしてるけど、
      原作が間違ってたり古い作品だから現在と常識が違うとか結構あって、それを言われても正直困るとしか」


モノクマ「うん……まさかね、注意書きと本文スルーで医療描写だけ流し読みして突っ込んでくる人がいるとは
      思わなかったんだ。これからは何かを解説するたびに、前後に注意書きしなきゃならんのかなぁ……」

モノクマ「以上、くだらない愚痴でした。ごめんね、絶望的につまらない物を視界にいれて。
      お詫びとして1が死ぬまで続き書かせるから許してね。では投下」


               ◇     ◇     ◇


八方塞がりの状況ではあるが、たった一つだけ良いことがあった。

ずっと眠っていた不二咲が目を醒ましたのである。


「ぅん……」

「不二咲?!」


現在、不二咲は大和田の部屋に寝かせられていた。不二咲の部屋は奥にあるため、
石丸の部屋に常駐するKAZUYAがいざという時すぐに駆け込めるようにということと、
大和田が身の回りの面倒を見たいと言ったので、それが一番良いという話になった。


大和田「ふ、不二咲! 俺がわかるか?!」

不二咲「大和田君……どうしたのぉ? 泣いてるよ?」

大和田「バッ、バカ! ちげえよ! これはな……汗だ! 目から汗が出てんだよ!」

不二咲「そうなのぉ?」

桑田「不二咲……不二咲……!」

不二咲「桑田君……」

桑田「不二咲、すまねえ! 俺がお前を置いて部屋を出てったせいで……!」


よく見たら桑田も泣いていた。不二咲はぼんやりしていた意識が
急速に覚醒し、自分の置かれていた状況を思い出す。


不二咲(ああ、そっか。僕、確か腐川さんに……)


何だか様子のおかしい腐川に面白い物を発見したから来てほしいと連れ出されたのだった。
実際は腐川ではなくジェノサイダー翔だったのだが、直前に新発見をして不二咲は非常に
興奮しており、腐川も同じようなものだと思い込んでいた。むしろそのせいで違和感に
気付けなかったと言ってもいい。……まさしく、小さな不運が重なったのだった。


不二咲「みんな……心配かけて、ごめんねぇ……」

K「気にするな。お前が生き返ってくれて何よりだ」

不二咲「西城先生……」

K「お前の止まった心臓を動かすために、胸をメスで開いたのだが痛みはないか?
  痛むのなら、鎮痛剤を出さねばならんが……」

不二咲「大丈夫です。あの……」


部屋にいるのはKAZUYA、大和田、桑田の三人だった。何人か他のメンバーを
呼びに行ったのかもしれない。そう考えているうちに慌ただしく扉が開いた。


苗木「みんな連れて来たよ!」

山田「ち、ちーたんが目を醒ましたというのは本当ですか?!」

江ノ島「おー、良かったじゃん」

葉隠「おめっとさん。お祝いに、今日はタダで占ってやるべ!」

セレス「おめでとうございます」

朝日奈「不二咲ちゃん、もう大丈夫なの?!」

大神「不二咲!」


別に彼一人がいない訳ではない。他にも何人かいないメンバーは居る。しかし、ぞろぞろと
部屋に入って来たメンバーの顔を見ながら、不二咲は嫌な予感めいたものを感じていた。


不二咲「ありがとう、みんな。……それと、あの」

桑田「あ? なんだ?」

不二咲「石丸君はどこにいるの?」

「!!」


全員気まずげに目を逸らす。不二咲は、最初石丸がいないのは他のメンバーを呼びに
行っているからだと思った。何故ならそれはいつも彼の仕事だったから。しかし、実際に
仲間を連れて来たのは苗木で、ほぼ全員揃っているにも関わらず石丸の姿が見えない。

そもそも彼は怪我人のはずだ。KAZUYAが怪我人を走り回らせたりするだろうか。


「…………」


不二咲が目覚める前に、怪我に障ると良くないので石丸についてはしばらく秘密にすると
あらかじめ話がついていた。誰もが黙り込む中、KAZUYAが生徒達に声をかける。


K「すまない、お前達。折角見舞いに来てくれた所を悪いが、不二咲に
  状況説明をしたい。今日はもう戻ってくれないか?」

大神「ウム、そうだな。我等がいたら不二咲は気を遣うだろう」

山田「ムリして体調を崩してしまったら大変ですしな。仕方ありません」

朝日奈「そっか。明日また来てもいい?」

K「ああ」

葉隠「じゃ、また明日な!」

江ノ島「じゃあねー」

不二咲「うん! みんな、またねぇ」


無理矢理笑顔を作って不二咲は手を振る。そして扉が閉まるとすぐにKAZUYAに向き直った。

そんなつっこみあったか?


不二咲「それで、先生……石丸君は……?」

K「……石丸は今寝込んでいる」

不二咲「えっ?! 大丈夫なんですか?」

K「命に別条はないが、お前が襲われたことが相当堪えたようでな。
  実はお前が眠っている間に――我々は学級裁判を行ったのだ」

不二咲「えぇっ?!」


学級裁判という単語で思い出されるのは唯一つ――オシオキ。


不二咲「あ、あの……」

K「大丈夫だ。腐川は生きている」

不二咲「……良かった」


不二咲はホッと胸を撫で下ろした。

それからKAZUYAが、自分が倒れてから起こったことを順を追って丁寧に説明していく。
特に衝撃的だったのは、一度KAZUYAが死亡宣告したにも関わらず諦めずに呼びかけ
続けてくれた二人の友と、腐川が二重人格でその正体がジェノサイダー翔だったことだ。


不二咲「腐川さん……そういうことだったんだね。無事みたいで良かった」

桑田「お前……腐川のこと恨んでねえの?」

不二咲「恨む? どうして? 一番苦しんでいるのは腐川さんじゃないかな……」

不二咲「僕もよく知らないけど、多重人格って辛い経験をした人がなる病気なんでしょ? 前に
     周りの人と上手くいってないって言っていたし、きっと一人でずっと悩んでたんだよ」

不二咲「いくら脅されたからって、腐川さんは元々人を殺したりするような人じゃないと思うし」

大和田「…………」


不二咲の言葉に、大和田はグッと拳を握りしめる。不二咲はそう言って自分のことも
庇ってくれたのだろう。だが自分は違った。自分は人を殺してしまうような人間だったのだ。


大和田「不二咲……俺は、オメエに話さなきゃいけないことがある」

K「――席を外した方がいいか?」

大和田「いや、いてくれ。俺が謝るところ、ちゃんと見ててくれねえか?」

K「……わかった」


KAZUYAと桑田が見守る中、大和田は裁判で話したこととほぼ同じことを話した。
自身の秘密、醜い嫉妬、己の弱さ。全てを洗いざらい話して最後に土下座をした。


不二咲「大和田君……」

大和田「俺は! オメエにいくら謝ったって許されねえ人間だってのはわかってる!
     許してもらいたいワケじゃねえんだ。ただ、自分のしたことにケジメをつけてえ!」

大和田「本当にっ! すまなかった!! 一生かけて償わせてくれッ!!」

不二咲「大和田君、やめて……頭を上げて……」

K「大和田、もういいだろう」

大和田「でもよ……」

不二咲「だって、大和田君が諦めなかったお陰で僕は生きてるんでしょ?
     むしろ、僕は大和田君にお礼を言わなきゃいけないよぉ」

大和田「なに言ってやがる。そもそも俺が事件を起こさなきゃこんなことにはならなかったろうが!」

不二咲「そうかもしれないけど……でも……大和田君が話してくれたんだから僕も話さなきゃ……」

大和田「話すってなにをだ?」


不二咲「僕も、僕もね……本当はずっと、大和田君に……嫉妬してたんだ」

大和田「!」

不二咲「僕が持ってないものをみんな持ってて羨ましかった。僕が事件を
     起こさなかったのは、ただ単に僕が弱くて臆病だっただけ……」

不二咲「僕達は友達でしょ? お互いを尊敬するだけじゃなくて、嫉妬したり喧嘩することもあるよ」ニコッ

大和田「不二咲……でもよ、それはお前が今生きてるからだろ? 一歩間違えればお前は死んで……」

不二咲「――死んでいても、僕の考えは変わらないと思うよ」

大和田「…………」

不二咲「むしろ、死んだら幽霊になって大和田君が一人で苦しんでる所を
     ずっと見ることになったかもしれない。……尚更恨めなかったと思うよ」

大和田「不二咲……」


キラリと、大和田の目元が光る。だが、それが目から溢れる前に大和田は乱暴に手で拭った。


大和田「オメエは……オメエは俺なんかよりずっと男らしくてカッコいいヤツだぜ!」

不二咲「本当? 僕男らしい?」

桑田「おう! 今のお前マジでマキシマムかっけーから! 俺だったらそんな悟ったこと言えねーわ」

不二咲「ふふっ。ありがとう、桑田君」

K「優しさと臆病。力と暴力。表裏一体だな。使い時や量を間違えたらどちらも害になる。薬と同じだ」


不二咲「西城先生は優しさと強さ、両方持ってるよね!」

桑田「でも反対にすっげーきつくて厳しくてこえーところもあるぜ!」

K「フッ、お前が怒られるようなことばかりやらかしてるんじゃないのか?」

大和田「ハハッ、ちげえねえな」

不二咲「クスクス、そうかも」

桑田「んだとー!」


問題は山積みではあるが、不二咲が生きていて良かった。
そして生徒達の心の成長を、我が子のように喜ぶKAZUYAであった。



― コロシアイ学園生活十六日目 石丸の部屋 PM10:32 ―


KAZUYAは何とか石丸に正気を取り戻させようと様々なことを試みていた。
まず真っ先に行ったのは、とにかく語りかけることだった。石丸から聞いたこと、友人達のこと、
自分のこと、医学のことから全く関係ないことまで思いつくままに色々と話し続けた。

大和田や他のメンバーと交代しながら終日話しかけ続けたが、どうにも石丸の反応は
要領を得ない。話者や話題によって微妙な反応の差があるのではないかと、KAZUYAは
つぶさに観察して記録して見たが、そこには何の法則性も見出だせなかった。


「駄目だ。僕がここにいては……駄目だ。駄目なんだ……駄目だ……」

「……石丸、そんなことはないぞ」


会話がまるで成り立たないことも問題だったが、KAZUYAが最も問題視したのは
石丸の発言内容だった。ただただ謝り、自分の存在を否定し続けているのである。
石丸が自分を拒み否定するたびに、KAZUYAは優しくそれを打ち消すのだった。

――しかし、それらの言葉はまるで届いていなかったのである。


「許してくれ。許してください。許して欲しい……」

「…………」


夜時間になり、話し疲れた生徒達が部屋に帰った。石丸の呟く謝罪の言葉だけが経文のように
部屋に響いている。KAZUYAも、元々饒舌な人間ではないこともあって若干疲れていた。


(石丸は……聞いていない。いや、音として聞こえてはいるが心に届いていないのだ。
 心が傷付きすぎて、人の言葉を受け入れることが出来なくなってしまったのだろう……)


口でいくら言っても駄目ならと、KAZUYAは試しに直接的な刺激を与えてみることにした。
手始めに、手を掴んで強く握ってやる。が、KAZUYAはその瞬間ギョッとして目を見開いた。

石丸の手は冷えきっていたのだ。標準的な温度よりずっと低い。まるで、彼の心が
冷えきっているのを表しているかの如くであった。思わず強烈な憐憫の情に駆られた
KAZUYAは、雪の日に大人が子供にしてやるように息を吹きかけて温めてやる。


「頼む……俺の目をみてくれ、石丸! 石丸ッ!!」

「すまない。申し訳ない。すみませ……」


その時、独り言が止まった。


(これは……!)


確かな手応えを感じたKAZUYAは、更衣室で慰めた時と同じく父親のように肩を抱いてみた。


「俺のことがわかるか?」

「…………」

「石丸?」


どこか今までと様子の違うものを感じ、KAZUYAは石丸の顔を覗き込んで見る。


「……!」

(泣いているのか……)


石丸は音も立てずに泣いていた。あれだけけたたましかった男が静かに涙を流す様は、
色が抜け落ちてしまった髪と併せて、KAZUYAの胸を強く締め付けた。


「大丈夫だ。俺も、みんなもついているぞ」

「…………」


――それだけだった。

確かに話し掛けている時とは違う反応が見られたものの、石丸が以前の姿を取り戻すことは
なかった。KAZUYAは嘆息をついて席に戻り、今のことをカルテに追記していく。


(まあ、積もりに積もった物が爆発したのだ。一日や二日で治ると思うのは都合が良いか)

(……しかし、果たして一体いつまでかかるのだろう?)


KAZUYAの嫌な予感は三度的中する。



― コロシアイ学園生活十七日目 石丸の部屋 PM4:17 ―


そろそろ、石丸のことだけに構っている訳にはいかなくなってきた。腐川のことは、
生徒達の中で最も会話していただろう苗木に頼んでいたのだが、いくらインターホンを
鳴らしても全く反応しないらしい。何よりも不味いのは、部屋の前に置いておいた食事に
全く手をつけていないそうなのである。緊急に対策を考えねばならない課題だった。


(どうしたものか……)

>>1
君のSSは素晴らしい
しかしこのSSに足りないのは精確な医療描写や裁判描写ではなく恋愛ではないのか?
Kシリーズは一見ハードボイルドの様だがポイントポイントで恋愛描写の布石が打たれていて成り立っている
息抜きにのだめカンタービレを読む事をオヌヌメするぞ
石丸君復活にむくろちゃんとの淡い恋なんてどうだ?

え、エロい濃いでもいいんだぞ…


場合によっては、自分がモノクマと交渉して部屋を開けさせるしかない。
そして、乱暴な方法になるが力づくでも監視下において管理する以外ないだろう。

そんな風に思案していた時だった。慌ただしく部屋にやって来る者がいたのは。


朝日奈「せ、先生!」

K「朝日奈か。どうした?」

朝日奈「大変なの! ジェノサイダーが……!」

K「何?!」

朝日奈「今、食堂にいるんだけど……」


すぐに行こうと考えたKAZUYAだが、ふと朝日奈に石丸を任せて大丈夫かと疑念が湧いた。
今の石丸なら誰だろうと簡単に殺せる。朝日奈を疑いたくはなかったが、状況が状況だけに
安直な行動だけは絶対に取れない。幸い、丁度良いタイミングで再び扉が開く。


苗木「先生! 食堂にジェノサイダーが現れました! 様子もなんだか変で……」

K「わかった。すぐに戻るから“二人で”石丸のことを見ていてくれ!」

朝日奈「……う、うん!」

苗木「はい!」


KAZUYAは部屋から飛び出ると食堂に向かう。幸いすぐ側にあるため、あっという間に着いた。


ジェノ「ギャハハハハ!」

葉隠「ひぃぃぃ!」


食堂では相変わらずハイテンションなジェノサイダーを、生徒達が遠巻きに眺めている。
葉隠が腰を抜かし山田が青ざめ舞園は警戒し、大神と桑田が庇うようにその間に立っていた。

>>98
長い上に自分の欲望を押し付けてるだけで鬱陶しい


桑田「あ、せんせー!」

大神「西城殿、ジェノサイダーが……」


二人を手で制し、KAZUYAはジェノサイダーに近寄った。


K「俺に任せて欲しい。翔! こんな所で何をしているんだ?」

ジェノ「あらー? KAZUYAセンセじゃないのー。元気? なんか顔色悪いけど。ゲラゲラゲラ!」

K「……質問しているのは俺だ」

ジェノ「ちょっと、そんな怖い顔しないでよぉ! 少し部屋から出てきただけじゃなーい」

ジェノ「ここって素敵空間よねー。アタシみたいな殺人鬼が堂々と外を歩けるんだからさ!
     つっても、ここ屋内だけど。アハハハハ♪」

K「…………」

ジェノ「あら、無視?! 無視はしないでって! 今ちゃんと話すからぁ。別に誰かを
     襲いに来たワケじゃなくて単純にお腹減ったからご飯食べにきただけよん」

K「……食事?」


確かに、ジェノサイダーの前には食べ物が載った食器がいくつも置いてある。
周囲の好奇や嫌悪の目などものともせず、平然と飲み食いしていたようだった。


ジェノ「そうそう! どうもあの根暗、みんなの前でオシオキ受けたのがかなり
     ショックらしくて、飲まず食わずで部屋に閉じこもってたっぽいじゃん?」

大神「お主のせいであろう……」

山田「それに、一番の理由はあなたの存在がバレたからだと思いますが……」


二人のツッコミが同時に入るが、ジェノサイダーは聞いていない。


ジェノ「別にアイツが根暗らしく引きこもってんのは全然構わないんだけど、アタシとアイツは
     腹立たしいことに同じ体を共有してるワケだからさー。今のままだと困るワ・ケ」

K「それで食事に来たと?」

ジェノ「そゆこと。おわかり~?」


用件を言うと、ジェノサイダーはもうKAZUYAには目もくれず再び食事を再開する。


K(……防衛本能、か? 乖離性人格障害は、元々は外圧から逃れようと新たな逃避人格を
  生み出す防衛行為が原因だ。ジェノサイダーは無意識に腐川を守ろうとしている……?)


断定は出来ないが、ジェノサイダーが腐川の代わりに飲み食いしてくれるなら願ったり叶ったりだ。
少なくとも、部屋から無理矢理引きずり出してベッドに縛り付ける必要はなくなる。


K「本当に危害を加える気はないのだな?」

ジェノ「今のとこはね。そっちが突っ掛かってきたらわかんないけどさー」

K「…………」

K(こいつは不二咲を殺そうとしたし、何より人を殺すことに全く抵抗がない。
  ……はっきり言って危険人物だ。本来は拘束して監視するのが妥当だろう)


K(だが、その場合腐川はどうなる? 自分の預かり知らぬ所で起きた事件の責任を
  取らされた上、拘束されて監視までされたら果たして彼女は耐えられるだろうか?)


KAZUYAの脳裏に浮かんだのは石丸の姿だった。腐川は今酷く傷付いている。もしここで
追い詰めて彼女までおかしくなってしまったら、どうすればいいのか? 折角黒幕への
対抗手段が少しずつ集まって来たと言うのに、廃人が二人もいては脱出など不可能だ。


K「俺と約束してもらいたい。もう誰も傷付けたりしないと。もし約束が
  出来ないのなら、俺は他の生徒を守るためにお前を拘束せねばならん」

ジェノ「約束したら自由に出歩いてい~い?」

K「良い、と言いたい所だがしばらくは無理だな。本当にお前が安全か
  俺は見定める必要があるし、他の生徒達を説得する必要がある」

ジェノ「あ、そう。……ま、いいけど。どうせセンセやオーガちんに力付くで来られたら勝てないし」

K「では約束するんだな?」

ジェノ「はいはい。約束ね、約束」

K(翔は裏表のない奴だ。まだ信用出来ないが、今すぐ何かするつもりがないのは本当だろう)

K「わかった。ならば俺もお前を信じよう」

ジェノ「アハ♪ 相変わらず物分かりがいい~。センセのそーゆートコ好きよ? ま、本命は白夜様だけど!」


桑田「ちょ、せんせー! マジでコイツほっとくのかよ?!」

大神「危険では……?!」

K「食べ終わったらすぐに部屋に戻せばいい。大神もいるなら問題ないだろう。
  もしこの中で殺人を犯せばすぐにバレる訳だからな。軽率なことは出来んはずだ」

大神「しかし……」

舞園「大丈夫ですよ。先生がそう言うなら信じましょう」

大神「ウム……」

桑田「まあ、せんせーがそこまで言うなら……」


まだ納得は出来ないものの、KAZUYAに押され桑田と大神は反論を飲み込む。
しかし、例によって葉隠と山田は納得していなかった。


葉隠「じょっ冗談じゃねえ! コイツは殺人鬼だぞ?! 殺人鬼を
    野放しにすんのか?! ふん縛って見張るべきだべ!」

山田「そうですよ! コイツはちーたんを襲った、にっくき殺人鬼! 捕まえるべきです!」

ジェノ「ああ?! ウニとデブが調子乗ってんじゃねーぞ! 切り刻んだろか?!」

葉隠「わあああ! 来んな! こっち来んじゃねえ!」

山田「ひっ! やっぱり!!」

K「よせ!」


ジェノサイダーが鋏を取り出し、構えた!

>>98
カプ厨くっさ


ここまで。


>>91
ここじゃないです。たまたま外部でうちのスレの話が上がっておりまして非常に詳細なツッコミを…ね
ただ、間違えてる所は素直にごめんなさいでいいのですが、話の都合上わざとやってる時や原作リスペクトの
描写もかなり色々突っ込まれてしまって……ちょっと困ったというか

モノクマ「というか! 原作は切断した指が勝手に生えてくる漫画っすよ?! 脂肪腫が膵臓になるんすよ?!
      ブラックジャックだって体から葉っぱが生えてきたりしてましたし、現実的に考えたら腹膜破って
      大惨事ですよ! 少年漫画はどんなにリアルタッチでも基本的に全部ファンタジーなんですって!!」

>>98
一応フラグは存在するんですが、今の所ことごとく外れてますねぇ
ダンガンロンパの女の子はみんな魅力的なので、1ももっと女の子を出したいのですが

やり取り見たけど製作者総合でそう言えば良かったのに
わざわざ火種持って来られても反応に困るなあ
イラついてるのはかなり伝わった

とにかく俺は>>1を応援してるぞ

>>107
ただでさえ完全にスレ違いなのにあれ以上向こうに迷惑かける訳には…

>>108
ありがとうございます。その一言で救われます


…最近展開が鬱過ぎて少しナーバスになっているのかもしれません。
本編の感想頂けたら嬉しいです


あっちのスレのことはどうしても言いたいことあるならあっちにちょろっと書いて、そのまま知らんぷりしてた方が良かったね。
いくらモノクマといえどキャラにああいうこと言わせるぐらいなら。

ここの桑田に癒されすぎてゲーム本編やるのがつらくなるレベル
でも石丸はいいぞもっとやれってなってくるからホント罪なSSだぜ

1のスレだしどうしても愚痴りたいなら愚痴ってもいいと思うよ
でもここで感想残してってるのは俺も含めて1のSSが好きな奴らばっかりだと思うよ

乙です
ちーたんの目覚めキタ(゚∀゚)!!!
天使の目覚めで現状への癒し効果が上がってくれることを願う

腐川が風呂入らない分ジェノが入ってるようだし、食事とかに関しては問題ないのかな
十神がいれば他の男子に危害を加えることは多分しないだろうし

>>1さん、気になさらないほうがいいと思いますよ
変に気を使って>>1さんの文章が乱れるのも嫌ですし・・・
自分も応援してます、毎日毎日スレをチェックして、更新されてる時の喜びがマッハな人間がここにいますw

乙です

あっちに書けと気楽に言うが、万が一あっちのスレ炎上させたり変なのに目をつけられたら
このスレ荒らされて続きどころじゃなくなるってこと忘れてるぞ
延々愚痴られたら困るが一回愚痴って終わりならそれでいいじゃないか

ジェノ無双クルー?

完璧にレシピ通り作っても美味しくない料理より、
若干メチャクチャでも美味しい料理の方が好まれる。
SSも然り。細かい指摘は指摘として、軽めに受け止めておけばいいよ。
ここの>>1は凝り性だからちょっと心配…

最近ダンロンSSはここ以外でもわざと>>1のやる気削ぐ絶望的な書き込みが目立ってきてるから、各々希望の補給不足には十分気をつけて

>>1の文章運びの力強さが好きだ
ストーリーも魅力的だ

まあ医療描写突っ込んでくる人はちょっと人より知識があってリアルさを重視する人なんだろう。
ここのスレに書かれていない以上その人が思ったことをそこで感想として書いてるだけだろうし>>1もこことは違う場所って分かってて見に行ってるならネタとして軽く受け止めるか流すべき。。

言い方は悪いけどこのスレの感想や評価をここじゃなく他で求めるのは間違ってる。

・・・とまあ別に忠告とかしたいわけではなく楽しくSSを書いてくれればそれでいいのよ?
自分が現状面白いと思って見てるSSなんだから自信を持ってほしい(暴論)

とりあえず>>1

書き方によると思うんだよなぁ。1はかなり丁寧に応答したのに
あんな高圧的な文章しかもクッソ長文でネチネチ書かれたらそりゃあね…

しかも途中から指摘が細かくなりすぎてフィクションになに言ってんだお前って突っ込まれてたし

とりあえず、長文に長文で返していい結果になってるのを見たことがない

文章は見てないけど結局相手が妥協しなければ終わらないんなら無視の一手だね。
触らぬ塵になんとやら

読んでいて気になったから指摘ってレベルのツッコミではなかったな
でもあの指摘自体もどこかの聞きかじりの寄せ集めかもしれんし、あまり過敏にならないでもいいような

ところでかの手塚治虫の「ブラックジャック」も、医療の専門家から見たら噴飯モノらしい
なのにブラックジャックに触発されて医者になった…なんて人もいるんだぜ?
物語の一番のキモは、正しい専門的な知識をひけらかすって所じゃないんだよなぁ

ブラックジャックの場合は主に、作者もフィクションとして書いてる部分をアスペみたいな仕方して噴飯してるんだけどもね

かの手塚治虫は医者にブラックジャックの医療描写を突っ込まれた時、フィクションに何言ってんだバーカ(意訳)と返した

リアル路線狙ってるのかトンデモ路線狙ってるのかは、結局は作者にしかわからない。
どんな注意書きがあっても読んだ側の指摘は自由だと思うよ。
それを作者が見て、そっちの描写いただきと思えばお礼言っときゃいいし、いやそこトンデモですからーならそう言うか無視する自由がある。

長文失礼します。

私は、専門的知識をSSの中で学習したいんじゃなくて、別作品の魅力的なキャラクター同士が織りなす人間模様やどうやって黒幕と立ち向かっていくかという先の見えないドキドキ感が好きで拝見しています。

そして、このSSは>>1の力で更に私を魅了させている。
実際、古い(失礼)少年漫画とかどうでもいいわとか思ってたのに、気がついたらニコニコでk2含めて全巻揃えてしまったし。というかスーパードクターKとK2の間のやつどこで売ってますか誰か教えてくださいお願いします。

3行で言うと、
>>1のSS超好きです。
>>1のせいでドクターKハマりました責任とってください。


きっとその指摘してくるやつが、医療知識ある俺KAKKEEEEだったんだろうね。

ふと

TETSU「……不二咲千尋か。」

TETSU「どういう体の構造をしてるんだ!?男子高校生なのに!興味があるな!」


とかおもってそう

人格攻撃みたいなのが一番いらないんやで
そも他人の感想に対する他人の感想とか不毛すぎる

更新乙ですちーたんマジ天使!!!
石丸がんばれ超がんばれと思いつつ葉隠の占い&KAZUYAの悪い予感でフラグがビンビンだし
ジェノの方はジェノの方でいいところで続いてるし本当日々の生活の楽しみになってます

そして今回のラスト見て葉隠山田(あと安広さん)中心に自由行動狙いたいと思いました

>>1さんの負担にならない範囲でがんばってくださいすごく応援しています

乙ー

ここのSSはどちらの原作に対しても愛が感じられる作品だと思う
もっと自信を持ってもバチは当たらないのでは

>>1の無理のないペースで、書きたいようにやるのが一番いいよ

>>1愛されてるなあ

さげ忘れごめん

皆様色々なご反応ありがとうございます。他人の指摘なんか黙って流せ、あっちでやれ。ごもっともです。

というか構ってちゃんうぜえ、レス乞食乙なんて1が一番わかっています。本当は上の文章は一度
消したんです。自分の胸にしまうべきだというのはよくわかっていたのですが……筆が止まりまして

わたくしとしてもこんな中途半端な所で止まるのは非常に不本意ですし、だったらスレ汚し覚悟で
さくっと一度だけ愚痴ってまた気分を新たに再開しようと思い、批判覚悟で書き込んだ次第であります

幸い、皆様から頂いた暖かいお言葉と希望のカケラで現在は無事に心身回復し、執筆再開しております
明日か明後日には投下する予定です。騒ぎを起こし、ご迷惑とご心配をおかけしたことを深く謝罪申し上げます

>所詮SS所詮ギャグ漫画
と前置きした上での指摘だからね。向こうは煽りにきてるわけ。
つまりアンチなんだからスルーすべきなのに長文でお返ししたら思うつぼだと思うよ。
ははっマジレスワロタで済む話だから気にしなくていいと思う。

待ってる…

自分の好きな作品の謎本に憤慨しちゃうタイプか?
それとも他人の心が完璧に読めるエスパー様か

好きだから読むでなくネガティブなツッコミ入れて来る人間が出て来る位読者が増えたって事だよな。コメも多いし。
好きなSSが人気出るのはめっちゃ嬉しいんだけど反面一抹の寂しさを感じちゃうぜ…

しかし真っ白白で良いヤツな朝日奈を疑わなくちゃいけない状況が悲しい…
葉隠山田(とたえこさん)は勿論なんだけど、十神とモノクマが変なテコ入れして朝日奈鬱化なんて事になる前に親密度もうちょっと上げときたいな

朝日奈は勘がいいから自分が疑われてることに気がついてそうだよね

葉隠山田セレス朝日奈の親密度上げもだけど
仲間になったキャラにも気にかけなきゃいけないってのがあるから大変だな
霧切も1回ぐらい自由行動で選んでおかないと駒園みたいに厄介なことになりそうだし
まあ今1番気をつけなきゃいけないのは石丸だけど…


K「駄目だ!」


今にも駆け出さんとするジェノサイダーの肩を慌ててKAZUYAが掴む。
反抗されるかと警戒したが、意外にもジェノサイダーはすんなり引いた。


ジェノ「……チッ、しゃーねーな」

K「頼む。問題を起こさないでくれ。……お前達もだ! 危険だと思うなら
  尚更挑発するような真似はするんじゃない! いいな?」


KAZUYAが警告するが、葉隠と山田は怯えつつも未だジェノサイダーを睨んでいる。


葉隠「納得出来ねえ! なんで人殺しを野放しにすんだ!」

山田「そうですよ! 理不尽だー!」

K「確かに翔は殺人鬼だが腐川は違う。今回の件で腐川が部屋に篭ってしまったのは
  お前達も知っているだろう! これ以上腐川を追い詰めたくないのだ!」

山田「殺人鬼に人権なんかありませんよ!」

葉隠「そうだべ! 二重人格だかなんだか知らねえけど、結局そいつだって
    腐川っちの一部なんだろ? じゃあ同罪じゃねえか!」

ジェノ「ああ?! アタシとアイツは同じであって同じじゃねえって言ってんだろが!」

桑田「せ、せんせー……どうするよ? 確かに今回ばっかりはアイツらの言うこともわかるぜ?」

K「…………」


KAZUYAは俯いた。……そうだ。危うく不二咲は殺されそうになったのだ。しかも今回に限らず
ジェノサイダーは過去に大勢の人間を殺している。人を救う医者とは真逆の存在だ。

断じて許すべきではない……


K「……そうだな。お前達の言う通りだ」

舞園「西城先生……」

大神「西城殿……」


だが――


K「それでも……俺は腐川を助けたい!」

葉隠「ハァ? 正気かいな? オメーさん、腐川っちにはしょっちゅう嫌み言われてたじゃねえか」

K「関係ないさ。俺は腐川のことをあまり知らん。ほとんど話したこともない。
  むしろ、あの卑屈でネガティブな性格は正直扱いづらくて困るとさえ思っていた」

K「だが、これほど強烈な人格を生み出すということは過去に色々あったはずなのだ!」

山田「そんなの言い訳になるかぁ! 人殺しを庇うなんて見損ないましたよ、西城医師!」

K「俺は弱っている者、苦しんでいる者を見捨てることはどうしても出来ん!
  だから頼む! ここにいる間だけでいいから、翔を見逃してやってくれ」

葉隠「だーからってなぁ……」


山田「イヤですよ! 殺人鬼と一緒なんて!」

K「俺が頭を下げる。この通りだ!」

桑田「せんせー……」


いつまでも不毛な言い合いが続くかと思われたが、ガタンと椅子を蹴り飛ばす音で中断された。


ジェノ「あー、うっせーうっせー。お食事ーって気分じゃなくなっちゃったじゃないの!」

ジェノ「言われなくたってテメエらの汚ねーツラなんて見たくないから部屋に戻るっつーの」

K「翔?」

舞園「翔さん?」


バタバタと食堂を出て行くジェノサイダーをKAZUYA達は追い掛ける。


ジェノ「…………」

K(もしや、気を遣ってくれたのか?)

K「……すまんな」

ジェノ「べーつにー。つかセンセが謝ることじゃないっしょ。アタシのこともアイツのことも。
     アタシらが自分でやりたいと思ったことやってるだけなんだしさー」

こりゃ早急に山田と葉隠の好感度上げんとヤバイかもしれんな・・・


K「……いや、ここにいる限り俺は保護者であり責任者だ。ここであったことは俺が全責任を負う」

ジェノ「あー、なんかカズちんのそーゆー健気でイジらしいトコちょっと萌えるかも」

K「茶化すな」

ジェノ「……あ! そうそう、ちょっと待ってちょ」

「?」


ジェノサイダーはそう言い残すと部屋に入った。一体何の用かとKAZUYA達は顔を見合わせる。


ジェノ「はい、これ。KAZUYAセンセに渡しとくわ」チャリ

K「?! これは……」

大神「部屋の鍵ではないか!」

K「……良いのか?」

ジェノ「センセなら信用出来るしね。もしアタシが外に出れなくて、アイツが
     ここで死にかけたらアタシの代わりに引きずり出して助けといてくんない?」

K「言われなくとも。助かったぞ!」

ジェノ「じゃ、嫌われ者はそろそろ退散することにしまーす。バイバーイ!」


バタン!


K「……フゥ。とりあえず腐川に関しては最悪の事態だけは避けられそうだ」

舞園「それにしても、翔さん……随分と先生に好意的でしたね?」

大神「ウム。十神に関しては惚れた弱みとも取れるが、西城殿に関しては何故だろうか?」

桑田「そんなの、せんせーの人徳のおかげに決まってんじゃんか。なぁ?」

K「……さあ、どうだろうな」


この件についてKAZUYAは心当たりがあった。だが、残念ながら今は確認している余裕はない。


K「では俺は戻る。後のことは任せた」

舞園「はい。先生も、あまり無理はなさらないでください」

桑田「あ……」


去り際に、桑田が何かを言いかけた。


K「桑田?」

桑田「せんせー、その……」

K「何かあったのか? 俺に遠慮などしなくて良いぞ」

桑田「……いや、やっぱなんでもねーわ」


K「そうか。お前も無理はするなよ」

桑田「おう……」


表情の優れない桑田の背を軽く叩くと、KAZUYAはまたすぐに石丸の部屋に戻った。



               ◇     ◇     ◇


夜、二人っきりになるとKAZUYAは石丸にその日あったことを話しかけるのが日課となっていた。
KAZUYAは連日石丸の部屋に泊まり込んで、その面倒を一手に引き受けている。大和田から交代の
提案も受けたが、KAZUYAの方がより大柄で力も強いのと、何より緊急時には医者の自分がいた方が
良いからと、今まで通り不二咲の面倒を頼むと言って断った。


K「(ピクッ)……誰だ!」


KAZUYAは何者かが微かに扉を開けたのに気付き、すかさず警戒体勢を取る。


モノクマ「やあ、ボクだよ」

K「!」


相手が誰だかわかると、より警戒を高める。


モノクマ「ちょっとちょっと! なんでそんなに警戒する訳? ただ遊びに来ただけなのにさ」

K「今の石丸には何を言っても無駄だぞ。帰れ!」


モノクマ「フーン? 本当に無駄なのか試してみようか?」

K「よせ!」

モノクマ「いいじゃん。だってもう来るとこまで来てるんだよ? 先生だって本当はわかってるんでしょ?」

K「そんなことはない! 石丸は必ず元に戻る!」

モノクマ「ま、これ以上悪化なんてしないって! むしろボクの言葉が
      キッカケになって元に戻るかもよ? ボクってば優しい~!」

K「…………」


そう言われると確かにその通りなのだが、KAZUYAは石丸を庇うように立った。
しかし、モノクマは気にせず石丸の視界に入るよう回り込んだ。


モノクマ「ヤッホー! 元気? 絶望してるゥ?」

石丸「…………」

モノクマ「いつまで落ち込んでるの! 君ってば本当に迷惑な奴だね!」

石丸「…………」

モノクマ「あ、そうそう! 不二咲君が目を醒ましたのはもう知ってる?
      君がすやすや寝てたせいで大怪我して死にかけた不二咲君が起きたよ!」

石丸「…………」

モノクマ「なんとか言いなよ……。つまんないじゃん。ほら、モノクマ音頭踊ってあげるからさ!」ア、ソレ

石丸「…………」


全く反応を示さない石丸に、KAZUYAは安堵なのか落胆なのか自分でもよくわからない溜息をつく。


K「……わかっただろう。貴様が何をしても無駄だ」

モノクマ「ムッカー! こうなったら意地でも反応させてやるぞー!」

K(無駄なことを……簡単に反応するならどんなに楽か)

モノクマ「ねーねー、石丸君! 君にだけこの学園のす~っごい秘密を教えてあげるよ」

モノクマ「なんと! 物理室にあるあの巨大な装置は実は空気清浄機なんかじゃなくてタイムマシンなのだ!」

K(子供騙しな……)


言うに事欠いてそれか、とKAZUYAは冷めた目でモノクマを見るが、石丸に変化が現れた。


石丸「……タイムマシン?」

K「なっ?!」

K(馬鹿な?! 反応しただと!)

石丸「タイムマシンがあれば、僕の過ちを消せる……! 兄弟を止めて不二咲君も救える……!」

モノクマ「あ、言い忘れてたけど戻れるの一分だから」

石丸「い、一分……」


石丸が固まった。文字通り、石像にでもなってしまったかのように固まった。


K「お、おい! 石丸、しっかりしろ! おい!」

モノクマ「うっぷぷー! 一分じゃ何も出来ないよねー! キャハハハハ!」


KAZUYAはギリッと歯ぎしりをして怒鳴る。


K「出て行けッ!」

モノクマ「まあまあ。ボクはまだ先生とおしゃべりしたいんだよ」

K「俺はしたくない! さあ、出ろっ!」

モノクマ「そんなこと言っちゃってさぁ。ボクは知ってるんだよ?」


何を、とKAZUYAが聞く前にモノクマは怪しげな笑みを浮かべた。








「――この間の裁判の立役者が、実はKAZUYA先生だってこと――」


K「何のことだ?」


シラを切るKAZUYAに、モノクマはもったいぶったような足取りで近付くと囁いた。


モノクマ「先生……わざと学級裁判を起こしたでしょ?」


モノクマの機械の目が、KAZUYAの瞳を射抜く。


K「言い掛かりはやめろ……」

モノクマ「いやぁ、石丸君がこんな状態で良かったよね? 生徒に聞かれたらやばいもん!」

K「俺は知らんと言っている!」

モノクマ「じゃあボクの勝手な推測ってことでいいからさ。とりあえず黙って聞きなよ」

K「…………」

モノクマ「不二咲君が蘇生した時、先生は内心こう思ってたんでしょ。――不味いなって」

モノクマ「このままでは学級裁判が起こらなくなる。学園長であるボクがお怒りだ。
      最悪、武力で先生を排除する可能性があるし生徒も傷付くかもしれない」

モノクマ「だから、先生はわざと学級裁判が起こるように仕向けた。違う?」

K「こじつけだな」


モノクマの主張をピシャリと切り捨てたKAZUYAだが、実は図星だった。

――その通りだ。あの裁判が起こるように仕向けたのは実はKAZUYAだと言っていい。


K(本当は……不二咲は一度覚醒しかけていた。あの場で起こして犯人の名を聞くくらいは出来た)


だがKAZUYAはそれをやらなかった。それどころか、周囲に気付かれないよう
処置をしながら、こっそりと不二咲を針麻酔で眠らせたのである。


モノクマ「学級裁判が起こらないことによる不測の事態を恐れた先生は、あえて裁判を
      起こすことにした。ま、一番の目的はボクのガス抜きってトコかな?」

K(その通り。一度でも裁判が起これば黒幕も多少は満足するだろう。怪我人が増えてきた今、
  時間稼ぎが欲しかったし、生徒達が殺し合いに対して消極的になることも期待していた)


そしてKAZUYAはモノクマに交渉を持ち掛ける。勿論、オシオキを軽減する内容だ。
もしこの要求が通らなければ、死人を出す訳にはいかないので薬を使ってでも
不二咲を起こすつもりだった……が、かくしてKAZUYAの要求は受け入れられた。


K(確かに、起こさなくていい裁判を起こしたという意味では、
  俺はモノクマの言う通りあの裁判の立役者なのだろうな)

モノクマ「うぷぷ。先生もなかなかやるよね。目的のためには手段を選ばないんだから?」

モノクマ「気付いた時点で言っても良かったんだけどさぁ、このボクの目を欺いたことに敬意を
      表して、あえてみんなの前では黙っといてあげたワケよ! 感謝してよね?」

モノクマ「ま、先生の狙い通り物の見事にガス抜きされちゃったって言うかー、初めての
      オシオキやみんなの絶望顔に大興奮して忘れてたっていうのも大きいけどさ」

K「たわ言は終わりか? 貴様はどうしても俺を悪人にしたいようだな」

モノクマ「悪人だなんてとんでもない! ボクはヒーローを労いに来てあげたんだよ?」



モノクマ「ヒーローって大変だよね? 信頼すべき仲間に隠し事はしなくちゃいけないわ、嘘つき
      呼ばわりはされるわ――時には守るべき生徒すら犠牲にしなくちゃいけないんだから」

K「…………」

モノクマ「そんなに辛くて苦しくて散々悩んでるのに、未だ生徒の半分以上は理解してくれないし」

K「一人でも理解してくれる人間がいれば十分だ。……いや、誰にも
  理解されなくたっていい。俺は俺の信念に従って行動するまで!」

モノクマ「……ホント、ヒーローって損な役割だね。ボクはヒーローなんて絶対なりたくないなぁ。
      悪役の方がカッコイイし、好き放題してそれで簡単に人気出るんだから。ボクみたいに」

K「俺はヒーローなんかじゃないさ。しがない医者だ、人を治す」

モノクマ「石丸君の心は治せないみたいだけどね」

K「…………」

モノクマ「ま、今日はこのへんにしといてあげるよ。それにしてもね、ボクは驚いているんだ」

モノクマ「なかなかコロシアイが起こらない、やっと起こったと思ったら先生に妨害される。勢いで
      オシオキを軽減する約束までさせられちゃって、本来ならボクはカンカンな訳だよ」

モノクマ「なのに、ボクは今すごくすごーく楽しいんだ! 自分でも本っ当に驚き。
      人が死ぬだけが絶望じゃないんだね? ボク、絶望については知り尽くしてる
      絶望博士のつもりだったけど、勉強させられたよ。流石先生だ!」


動かない石丸の腕をポンポンと叩きながら、モノクマは子供のように無邪気に喜んでいた。


モノクマ「ねえ、先生。最初から絶望しかないのと、小さな希望を与えてそれを目の前で
      踏みにじるのってどっちが残酷かな? ボクは後者の方が残酷だと思うんだけど」

モノクマ「そういう意味じゃ、先生はみんなの味方のはずなのにまるでボクの手伝いしてるみたいだね?」


K(もう、やめろ……やめてくれ……やめろ……!)


モノクマの手前強がってはいたが、KAZUYAは心の中で悲鳴を上げていた。KAZUYAとて人間だ。
教え子のおかしくなった姿を前に何日も過ごし、何も感じないはずなどなかった。だが、それを表に
出す訳には行かない。それをしたが最後、モノクマは大喜びでKAZUYAの心を折りに来るだろう。

KAZUYAに出来る唯一のことは、モノクマから目線を逸らしただ黙って耐えることだけであった。
一分一秒でも早くこの厄災が去ることを静かに祈っていた。モノクマは口角だけ上げ、嗤う。


「先生、先生」

「先生はボクのことが嫌いだろうけど、ボクは先生のことが大好きだよ」

「どのくらい好きかって言うと、ゆっくり絶望させてから殺したいくらいにね」

「ボクね、一番期待してるんだ」

「先生の絶望した顔」

「きっと今まで見てきた中でも最高の顔だと思うんだぁ」

「諦めたっていいじゃない」

「今まで散々頑張ってきたんだから」

「もうやめちゃいなよ」

「いつまで無駄なことをすれば気が済むの」

「諦めちゃいなよ」

「楽になれるよ」

「待ってるからね」

「楽しみにしてるからね」

「だから」

「早く」








「絶望してね?」

「ぶっひゃっひゃっひゃっひゃっ、アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」


モノクマは蔑称し、哄笑し、嘲笑していた。元々モノクマは石丸を弄ぶのが目的で
ここに来た訳ではない。非力で何も出来ないKAZUYAを嘲り、馬鹿にしに来たのだ。
耳を塞いでその場にうずくまりたい気持ちを、KAZUYAはただジッと孤独に堪えていた。


「――石丸君が早く戻るようにボクもお祈りしてるよ。それじゃ、お大事に」


去り際にそう言い残すと、ようやくモノクマは部屋から消えた。


・・・


モノクマが去った後、微動だにしない石丸の前でKAZUYAは数を数えていた。

記憶を失い内通者疑惑をかけられたこと、舞園の様子がおかしいと気付いていたのに
事件を防げなかったこと、一部の生徒としか親しくなれていなかったこと――


(一体、何回だ……)


モノクマが舞園を責めた時に止められなかったこと、すぐに桑田を
他の生徒達と引き離さなかったこと、生徒達の不和を止められなかったこと――


(これだけじゃない……)


腐川の二重人格に気付かなかったこと、大和田の心の弱さに気付けなかったこと、
傷ついていた石丸と不二咲へのフォローが不十分だったこと――

葉隠は別に関西弁キャラじゃないんだがww


(まだだ! まだ他にも、たくさんあるはずだ! 俺は一体何度間違えた? 俺は一体何が出来た?)


縋るような目で、KAZUYAは石丸を見る。その何も映していない、虚ろな瞳を一心に見つめる。


「石丸……聞こえているか? 聞こえてなくてもいい。ただ聞いていてくれ」

「…………」

「お前は少しも自分を責める必要なんてないんだ。お前の過ちなんて
 俺が今まで犯してきたミスに比べれば、本当に微々たるものなんだよ」

「…………」

「本当に許しを乞わなければならないのは、俺の方なんだ……」

「…………」

「俺はヒーローなんかじゃない。普通の人間だ。人間の医者だ」

「…………」

「傷付いた教え子一人救うことが出来ない、非力で情けない医者なんだ」

「…………」

「……頼む。何でもいい。何か言ってくれ……何でもいいから頼む、石丸――石丸ッ!!」

「…………」


しかし、KAZUYAの悲痛な叫びは虚しく壁に吸い込まれて消えた。石丸は何も応えない。


「…………」

「――助けてやれなくて、すまない」


KAZUYAは許しを請うように空を仰ぐと、全てが見えなくなるよう静かに目を閉じた。


ここまで。

gj

もうみんなまとめてグバンッすりゃすっきりするのに


なんだか絶望させる某スレを思い出すような展開ですなあ

乙です
いつも更新楽しみにしてます

乙です

イレギュラーが介入するメリットとデメリットのさじ加減が絶妙だなあ

霧切さんとか桑田とかの主力メンツと交流を深めておきたいけど、山田や葉隠もほっとくとまずそうだし、腐川もどうにかしないといけないだろうし、セレスも放置しとくのは怖いし、十神は言うまでもなくアレだし。
安価の選択がマジで悩ましい。
昔の、パラメータ調整とかが本気で難しかった頃のギャルゲーとかってこんなんだったのかね。

乙です

てか桑田の反応見て桑田何か抱え込んでる問題があるのかなーと思ったら違うわ。
桑田Kの今の精神状態について知ってたからなんか言おうとしてたんだな。
Kメンバーの中で苗木と桑田くらいしかKの心のケアできないから二人との交流も大事かもしれん。

これはKの絶望落ちエンドの可能性微レ存…?

い、いやまだだ!まだ超高校級の癒し系ちーたんがいる!…はず

ジェノは記憶が残ってるからKに割と好意的なんかな

タイムマシンのところはゲームでの個人的胸糞イベントトップ3に入るんだがまさかここで出てくるとは…
モノクマ絶好調すぎてやばい
中の人はこの状況絶望的に楽しんでるんだろうな…

しかしこのギリギリな状況、嫌いじゃない
>>1

もっと……もっとだ……!
もっと感想をよこせ……ッ!!

いつも楽しく読ませてもらってます

ここの桑田とちーたんがすごい好きだ

桑田が気遣ってる図がすごい胸熱。
なんかもう全員良いキャラしてて皆助かって欲しい。切実に。

こそっと支援絵置いていきます
二次創作どころか三次創作なので苦手な方は全力でスルーして下さい。

スレタイイメージ→http://i.imgur.com/nkcWnpP.jpg
今気づいたけどひふみんの手3にしてしまった…不覚
きっとchapter3の意です。

廃人石丸→http://i.imgur.com/lCoN23P.jpg
読んでてウワアアアアアと思ったので…
焦点あってないを表現しようとしたら結構なホラーになったでござる。

イイネ!

>>155
葉隠は別に関西弁キャラじゃないけど、
~かいな?とか、~なかったんか?って言い回しなら原作でも普通にしてるぞ

>>172
ありがとうございます!元気が出ます。スレタイイメージぴったりですね
4スレ目はちょうどChapter3から始まってるので違和感ないですよ


投下


― モニタールーム PM11:59 ―


「やあやあ。こんな時間に呼び出したりしてすまないねえ」

「…………」

「ほら、今紅茶いれてあげるから遠慮しないで座って座って!」

「…………」キィ、カタン

「山田君みたいに本場英国(笑)のロイヤルミルクティーなんていれられないけど、
 ボクのいれる紅茶は美味しいと思うよ。なんてったってボクがいれるんだからね!」トポトポ


セレスは知らないようだが、ロイヤルミルクティーは日本生まれで英国には存在しない。


「勿論、毒なんて入ってないよ! ま、そんなの君が一番よくわかってるか」

「…………」

「え、それでなんで君を呼んだかって? いや、特に用事はないけど」

「ほら、たまには連絡取るべきなんじゃない。君はボクの“内通者”なんだからさ」

「――ねえ、大神さん?」

「……楽しそうだな、モノクマよ」


突然モノクマに呼び出された大神は、真夜中に黒幕と相対することになった。だが彼女に拒否権はない。
出された紅茶にミルクと砂糖を入れて、口にする。モノクマの言う通り毒など入ってはいなかった。


「楽しそう? そうかな? そうかも。うぷぷぷ」

「何かあったのか?」

「あったといえば会ったね」

「…………」


モノクマの言う良いことと言えば、彼女にとって悪いことでしかない。


(こんな時間に我を呼び出してお喋りに興じようとするとは……余程機嫌が良いのだな)


いよいよか、と大神は腹を括る。


「我に動け、と言うことだな?」

「いいや。それはまだいいよ」

「……?」


てっきりそのための呼び出しかと思ったのだが、違うらしい。


「本当はさー、バンバン裏切りや死人が出てスリル溢れる学級裁判!ってのを予定してたんだけど、
 とりあえずこの間裁判もオシオキもやったし、今のギスギスした絶望的な雰囲気も悪く無いからね」

「いや、むしろこのどうしようもない閉塞感と崖っぷち感がたまらなかったりして」

「……そうか」

(疑い合い、憎み合い、とうとう廃人まで出した今の状況を心から楽しんでいるのだな。外道め……)


モノクマの酷薄な態度に大神は憎しみを覚えたが、それでも内心安堵している自分がいた。
まだ、殺さなくていい。たとえ確定的な未来だとしても、少しでも先であって欲しい。そう願う。


「ま、今の雰囲気だとまた第二、第三て事件が続くんじゃない? そうなったら君もお役御免かな?」

「それはどうであろうな……」

「まさか、KAZUYA先生みたいにみんなを信じる!なーんて言わないよね?」

「……わからぬ」


答えられなかった。裏切り者の自分が仲間を信じるなどと言うのは、滑稽でしかないからだ。


「特に用がないなら、もう戻っても良いか?」

「まあまあ、ボクも時には学園長としてでじゃなく気楽にオシャベリしたいなーみたいな?」

「…………」


話しているうちに、大神はあることに気が付いていた。いや、そう思ったのは何も
今回が初めてではないのだが、どうも自分以外にまだ内通者がいるような気がするのだ。


「モノクマよ……16人目の高校生とは何だ?」

「ブフッ! ゲホゲホゲホッ!」


モノクマは飲んでいた紅茶を盛大に吹き出す。今までにモノクマが口を滑らせた様子では、
どうも自分達の中に謎の16人目の生徒が潜んでいて、それが内通者のようであった。

ジェノサイダーの存在が明るみになった時、大神は彼女がもう一人の内通者かと考えたが、
直感的に違うと感じた。何故なら彼女は純粋にゲームをしているようだったからだ。
内通者は言って見ればゲームマスター寄りであり、正確にはゲームの参加者ではない。


「それは言えないなぁ。何せ、ボクの切り札だからね!」

「…………」


モノクマに切り札、とまで言わせる謎の存在がまだ残っている。
そもそも自分一人でも、他のメンバーにはかなり手に余るはずだった。


(敵は手強いぞ、西城殿――)


結局夜がとっぷりと更けるまで、大神はモノクマの暇つぶしに付き合わされたのだった。



               ◇     ◇     ◇


その晩、桑田は夢を見ていた。

そこは忘れもしない、あの裁判場だ。そして今現在、追及されているのは――


『LEON……桑田君の名前だよね?』

『な……?! なに、言ってんだよ……たまたまだって……』


(な、なんで俺が……誰か、誰か助けてくれ! せんせー!)


そう思って桑田はKAZUYAの方を見るが、そこには誰もいない。
ただ、誰もいない空席がぽつんと一つあるだけだった。


(?! なんでっそんな……?!)


よく周囲を見渡してみると、いくつか以前の裁判と大きな違いがあることに気付く。
まず、不二咲がいた。そして、舞園と江ノ島の席には遺影が置かれている。


(ああ、そうだった……)


桑田は理解した。これは本来自分が迎えていた未来――結末なのだ。

KAZUYAはたまたま奇跡的に生き残っただけで、元々黒幕に消されていたはずだった。
その場合どうなっていただろうか。舞園は死んでいた。いや、自分が殺したのだ。


(俺が舞園を殺したんだった……)


手に蘇る。舞園を刺した感触や血の温もりが。

瞼に浮かぶ。青ざめた顔の彼女が崩れ落ち、動かなくなった瞬間が。

聞こえた気がする。誰かに向かって言った弱々しいごめんなさいの言葉が。


『んなもん、ただのこじつけじゃねーか!』


だが、夢の中の桑田は力一杯叫んだ。
見苦しいのはわかっていたが、それでも叫ばざるを得なかった。


『反論が……あるかって? あるよ、あるある!! あるに決まってんだろーがッ!!』


だって、認めたくなかった。自分が人殺しだなんて何かの間違いだと思いたかった。


『証拠がなけりゃ、ただのデッチ上げだ! そんなもん認めねーぞ!』


第一、認めるということは処刑されるということである。死にたくなかった。


『ぜってぇーに認めねーぞッ! アホアホアホアホアホ!!』


だが、感情のままに殺してしまった桑田の犯行などあっという間に暴かれてしまう。
そして遂にやって来た運命の投票で、とうとう自分がクロに選ばれたのだった。


『や、やめてくれッ! 待って! 待ってくれッ!!』

『イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ!!』

『ここから出せッ! 出してくれえええええ! 出せよおおおおおおおおッ!!』


ドンドンと扉を殴り開けようとするが、微動だにしない。
桑田の懇願などまるで聞かず、モノクマは容赦なくオシオキスイッチを押した。


『イヤだああああああああああああああああああああああああ!!』


どこからともなく首輪が飛んできて自分を捕縛すると、そのままどこかへ引きずっていく。

処刑場は涙が出るくらい懐かしいあのグラウンドを模したものだった。

ベルトで全身を拘束され、身じろぎ一つ出来なくなった桑田の前に現れたのは、

兵器のようにそそり立つ巨大な厳ついピッチングマシーン――


―イヤだ、イヤだ……


―ボールは人に向かって投げるものじゃない……

―誰かを傷付けるためのものじゃない……!


―誰か、誰か助けてくれよ……

―なんでもするから、謝るから、反省するから……だから!!


機械は桑田の体に照準を合わせる。

そして、そして……――



            ― 千本ノック ―



ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!



               ◇     ◇     ◇


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


絶叫しながら桑田は跳ね起きた。全身から滝のように汗をかいている。


「また、この夢かよ……」


あの裁判で壮絶にオシオキを受けるジェノサイダーを見て、モノクマから自身が
受けるはずだったオシオキを聞いて、それからだ。桑田は毎晩同じ悪夢にうなされていた。

ふと、自分が泣いていたことに気付く。


(夢で泣くとかクソダセエ……)


乱暴に手で目元を擦りながら心の中で毒づくが、それは強がりだった。
そのくらいリアリティを感じさせる夢だったのだ。

昔読んだ漫画で、パラレルワールドと言う単語を聞いたことがある。
もしあの時こうだったら、と言うIFが描かれた並行世界のことだ。


(……もし、ここにせんせーがいなかったら……俺は間違いなく夢の通りになってた……)


もしかしたら、この夢は本当は夢ではないのかもしれない。
どこか違う次元の、KAZUYAがいない世界の自分なのかもしれない。

だから何もかもあんなにリアルで、辛くて、痛くて、苦しいのかもしれない。


(俺は人殺しだ……!!)


折角少しずつ薄らいでいた舞園に対する恐怖や後悔の念が、再び込み上げてしまった。
桑田は乱暴に毛布を引っつかむと頭まで被る。いつもは、こうして固く目を閉じていれば
いつの間にか眠っているのだが、今日に限っては何故か目が冴えていた。


(眠れねえ……)


昼間、KAZUYAに相談しようかとも思ったのだが、KAZUYAの顔色がなんだか優れない気がして、
つい遠慮して言い出せなかったのだ。しばらくはそうして布団に潜り込んでいたのだが、
ふと時計を見ると時刻はもうすぐ深夜の二時になろうとしている。


迷惑だと思いながらも、桑田は寄宿舎の廊下に歩み出ていた。


「…………」

(……寝てるに決まってる)


少し躊躇って、ドアの隙間からメモを差し入れる。結局すぐに引き抜いてしまったが。
そのまま戻ろうとして――鍵の解錠される音が聞こえ、ゆっくり扉が開く。


「……こんな時間にどうした?」

「あ、いや、その……わりぃ、まさかまだ起きてるなんて思わなくて……」


気まずい顔をして口ごもる桑田をKAZUYAはまじまじと観察する。
薄暗い照明でもわかるほど、憔悴した顔をしていた。目の下にはクマが出来ている。


「眠れないのか?」

「…………」

「……実は、俺もなんだ。少し話さないか?」

「でも、石丸は……」

「今は俺の針麻酔で寝ている。普段は薬を使っているが、薬品漬けでは体に悪いからな」


結局KAZUYAに押し切られ、桑田は石丸の部屋に入った。


(…………)


その様子を、学校と寄宿舎の境の物陰に立って見ている人物がいた。


(あれは……桑田だな。それに、話していたのは西城殿か)


気配を殺して潜んでいたのは大神だった。やっとモノクマの長話から開放され戻ってきたのだ。


(見つからなくて幸いだ。もしこんな時間に出歩いている所を見られたら、
 不審がられ色々問いただされるのは避けられなかっただろうからな……)

(しかし、二人共こんな時間まで起きているとは……眠れなかったのか?)


だがよくよく考えれば、別におかしなことでもない。石丸は生徒の中でも特に、
KAZUYAと一緒にいた時間が長かったし、桑田も何度か庇ってもらっていた。
教え子や友人が廃人になって呑気に寝ていられるような人間ではないだけの話だ。


(…………)


そこに思い至ると、裏切りという十字架が心に重くのしかかって来る。
彼らが仲間のためにあれだけやっているのに、自分は一体何をしているというのか。


(いや……我は外にいる仲間を、彼等はここにいる仲間を重んじているだけの差だ)


そう心に言い聞かせる。あまり、彼等に情を抱いてはいけないのだ。
それでも消えないしこりを胸に感じながら、大神は部屋に戻っていった。


・・・


KAZUYAに言われ桑田が中に入ると、確かに石丸は眠っている。自分から睡眠を取らない分、
一度外的要因が入ると死んだように眠るのだとKAZUYAが教えてくれた。

土気色の顔ですっかり痩せこけた石丸は、病人というよりまるで死人だった。


(石丸……)


やっぱり帰ろう、と桑田は思う。


(俺よりよっぽど苦しんでるこいつやその世話してるせんせーの前で、
 夢が怖くて眠れません、なんてみっともねーこと言えるかよ……)

「こんな時間に来といてなんだけど、俺やっぱ……」

「俺の話は聞いてくれんのか?」

「え? いや、そうじゃねえけど……」

「まあ、座れ。どうせ眠れんのならいっそ起きているのも有りだ」

「…………」


KAZUYAに促され、結局座ってしまった。よく見たら、KAZUYAの顔色も桑田に負けず劣らず酷い。
まあ、当然だろう。教え子がこんな状態になってしまったのだから、と桑田はあっさり納得する。
KAZUYAもKAZUYAで、話があると言いながらもモノクマのことを話す気など更々なかった。


「それで、どうした? 何かあったんだろう?」

「…………」

「気を遣ってくれるのは有り難いが、隠されている方が俺はかえって心配だぞ?」

「……たいしたことじゃねえんだ、本当に」

「それでもいい。話してみろ。話せば楽になるかもしれんぞ」

「実は……」


・・・


「……そうか」


KAZUYAは表面上はいつも通りの顔だったが、その内心は非常に波立っていた。
モノクマの行ったオシオキがここまで生徒の心に悪影響を与えていたとは……


(桑田だけではない。舞園や大和田も心配だ。……他の生徒とて、放置は出来ん)


心配事は尽きないが、まずは今目の前にいる桑田をなんとかすべきだろう。


「とりあえず、今日はここに泊まっていけ。そこの布団を使っていいから」

「え?! でも……せんせーはどうすんだよ」


石丸の治療は長期的なものになるだろうと、KAZUYAはあらかじめ寝具一式を保健室から
持ち込んでいた。そこで寝ろと言うことだろうが、それではKAZUYAの寝る場所がない。


「俺はまだまだ仕事がある。眠くなったら適当に椅子で仮眠を取るさ」

「いいって! 話したらすっきりしたし、もう大丈夫だからさ!」


子供じゃないんだからと桑田は拒否するが、KAZUYAの顔は真剣だった。


「遠慮するな。頼れるうちは頼っておけ……大和田のようになりたくないだろう?」

「なんでそこで大和田の名前が出るんだよ……」

「大和田は誰にも頼ることが出来ず、何もかも一人で抱え込み過ぎた。――その結果があれだ」

「…………」


「確かに男なら意地を張らねばならん時もあるが、少なくとも今はまだ違うだろう?
 辛い時は辛いと言っていいし、苦しければ俺や仲間を頼ってもいいんだ」

「……でも、それじゃせんせーは頼られっぱなしじゃねえか」

「何を言っているんだ。俺も随分お前達を頼っているぞ?」

「頼りになるのは霧切とか苗木だろ。俺は運動バカだから見回りくらいしかやってねーよ……」

「この間の裁判では大活躍したじゃないか。もう忘れたのか? お前が秘密の暴露を思いつかなければ、
 俺達は十神に頼らざるを得なかった。アイツの鼻をあかせたのだ。これほど痛快なことはない」

「そう、だけどさ……」


そうだった。確かにあの件がなければジェノサイダーの存在は明らかにならず、
学級裁判はKAZUYA陣営の決定的敗北で終わっていたのだ。だが、未だ自信を持てず
黙り込んでいる桑田の肩を、KAZUYAは軽く叩いて諭すように話しかけた。


「俺はな――お前をうちのチームのエースだと思っているんだ」

「エース? 冗談だろ?」

「野球をやっていたお前ならわかるだろう。チームには様々な役割を持った人間がいる。
 例えば、俺が監督なら霧切はコーチ、苗木はキャプテン、舞園はマネージャーかな」

「野球なら、そりゃあ俺がエースだけどさ……でも……」

「エースの役割はただ強いだけではない。みんなが辛い時に、引っ張って行ったり
 試合で悪い流れになった時に、その流れを切り替えるのもエースの役目だ」

「俺……いつも怒鳴ったり暴れたり、空気悪くしてるだけだと思うけど……」


「逆に考えれば、お前がいつも感情的に動いてくれるおかげで他のみんなは冷静になれると
 思わないか? お前が汚れ役になってみんなの代わりに意見を代弁しているとも取れるしな」

「……いくらなんでも、都合よすぎじゃね?」

「いけないか?」

「前から思ってたけど……せんせーってさ、変な所で開き直るトコあるよな。ハ、ハハ」


桑田は少し笑った。つられて、KAZUYAも少しだけ笑う。


(エース……エースか)


懐かしい響きだった。すっかり非日常へと変貌してしまったこの空間で、
感覚を日常に引き戻してくれた。自分がエースなら、チームを支えなければならない。


「あと、勘違いしているようだから言っておくが、見回りは最も大事な仕事だぞ」

「俺は今ほとんど外に出られんからな。外の状況は全てお前達が持ってきた情報で
 把握しているし、お前達が俺の目となり足となってくれて本当に助かっている」

「…………」

「今日はしっかり寝て、また明日から頑張ってくれるな?」

「おう、わかった。……じゃ、おやすみ」

「おやすみ」


桑田はもう遠慮しなかった。いそいそと布団に入るとあっという間に寝息を立て始める。
KAZUYAはその様子を安心して眺めていた。死人のような石丸と穏やかな桑田の寝顔を
交互に見比べ、KAZUYAは監視カメラをギロリと睨む。


(見ているか、黒幕よ……俺は絶対に諦めてなどやらんぞ)

(守るものがいる限り、俺は負けんッ!! 絶対にッッ!!!)


― コロシアイ学園生活十八日目 石丸の部屋AM7:00 ―


『おはようございます! みなさん、朝です。今日も一日ハリキって行きましょー!』


耳障りな起床メッセージと共にKAZUYAは目を覚ます。結局、KAZUYAは固い床に直に
横になってマントを被って眠った。体中あちこち痛いが、これも生徒のためだと我慢する。


(放送は流れたが、朝食会までまだ間があるしギリギリまで寝かせてやろう)


未だ起きる気配のない桑田に気を遣って、KAZUYAはそっと立ち上がる。


「お早うございます、先生」


突然、誰かに話しかけられた。


「石丸ッ?!」


バッと顔を上げると、そこには以前と変わらぬ姿の石丸が立っていた。


「気がついたのか?! 体は、調子の悪いところはないか?!」

「ご心配なく。僕はいつも通りです!」

「本当か……?! 本当に、治ったのだな!」


KAZUYAの大声で目を覚ましたのか、桑田が目をこすりながら起き上がる。


「ふぁああ。なんだよ、せんせー。朝っぱらからでけえ声出したりして……」

「僕のことより桑田君の方が問題です! 全く、彼の生活態度には問題がある!」

「うるせーな! ……って、石丸?! お前、戻ったのかよ?!」

「桑田! みんなを呼んできてくれ!」

「わかった!」


転がるように桑田は寝間着のまま部屋を飛び出していった。


「石丸、何か食べたいものはあるか? したいことは?」

「学生の本分は勉強です!」

「……あ、ああ! そうか、そうだな! いくらでも俺が教えてやるさ」

「任せて下さい。期末試験に向けて、みんなにきちんと勉強させるつもりです」

「? 期末……試験?」

「この間の中間試験では一部のメンバーが散々でしたからね。……ですが、
 超高校級の風紀委員の名に掛けて、今度はちゃんと全員の成績を上げてみせます!」

「……石丸」

「ところで、このプリントは職員室に持っていきますか?」








「お前……一体、誰と話しているんだ?」


ここまで。

こういう流れなんかで見たような………あ、
さよならを教えて、てゲームだ


自身の精神だけがタイムスリップするとは皮肉の極みだな…

一回目の学級裁判で江ノ島が死んでる想像まで出来るってことは、パラレルどころかこれ二周目以降か……?

乙です


え?これ記憶を奪われる前(エピソード0辺り)まで逆行したってこと?
それとも現状に耐えられなくなって現実逃避してるだけ?

乙でした

うあ、こう来たかー…
記憶操作の証明に使える可能性もありかしら

おいしいです

おいしいです!!!!

乙乙。
ここのキャラは桑田筆頭に皆年相応の弱さみたいのがたまに見えて何だか良いな。超高校級と言えど青春まっさかりで思い悩む高校生なんだよなあこいつら……

しかし石田化暴走発狂来るか思ったら、モノクマ余計な事を……
記憶喪失発覚あるかもしれないけど石丸痛々し過ぎて辛いこれ……


石丸は一体どうしてしまったんだ?

ドクターkの単行本ないかな~と思ってブックオフ行ったら54巻セット売ってたんで買ってきちゃったぜ!
まだ序盤あたりしか読めてないけど、むっちゃ面白い! 時間かけてゆっくり読みたいと思います。
今んとこ高品が一番の萌えキャラw

>>1さん、応援してます。

今時旧版はほとんど見かけないから裏山
しかし、まさか一度に54冊も持って帰ったのか(驚愕)

>>201
ありがとうございます。KC版だと作者のコメントやおまけイラストとか
合間に入ってたりするのですかね?文庫版はそういうものはほとんどないので
もしそういうのがあるならKC版も集めようかな…


今週は体調崩して遅れてしまいました。すみません。投下


桑田「とりあえず、食堂にいた二人を連れてきたぜ!」

朝日奈「石丸が元に戻ったって本当?!」


扉を乱暴に開けて、桑田、朝日奈、大神の三人が部屋に飛び込んで来た。まだ朝早かったため、
この二人しかいなかったのだ。しかし、部屋に入るとすぐに様子がおかしいことに気付く。


大神「……西城殿? どうかされたのか?」

K「…………」


普段は生徒を心配させまいとなるべく表情を変えないKAZUYAが、珍しく真っ青な顔をしていた。


K「……声を、掛けてみてくれ」

朝日奈「え? ……い、石丸! 元気になったんでしょ? なんか言ってよ!」

石丸「朝日奈君! 君はいつもドーナツの食べ過ぎだ」

朝日奈「あ、本当に戻った?!」

大神「おお、石丸。元に……」

石丸「大神君からも言ってやってくれないか?」

朝日奈「え」

桑田「ハ?」

大神「ヌ!」

K「…………」


石丸が振り返った方向、そこにあったのは壁だけだった。


朝日奈「石丸……さくらちゃん、ここだよ……?」

石丸「ウム、流石大神君は良いことを言う。朝日奈君聞いたかね?」

大神「我は何も言っていないが……」

桑田「お、おい……これってどういうことだよ……」

K「石丸は、重度の意識変容で譫妄(せんもう)を引き起こしている」

朝日奈「え、センモウ?」


譫妄(せんもう):軽度の意識混濁に加え、幻覚、錯覚、不安、興奮、失見当識(時間や方向、場所等が
           わからなくなる)等が見られる状態。認知症に症状が似ている。原因は脳疾患、薬物、
           大手術の影響、アルコール中毒、心理的負荷など幅広く、症状も非常に多岐に渡る。

意識障害:通常人間の意識は清明度、広がり、質的と三つの要素があるとされ、そこに障害が起きることを言う。
      清明度の低下は意識混濁と言い傾眠、昏睡等を、広がりの低下は意識狭窄と言い催眠状態等を指す。
      意識の質に変化がある場合は意識変容と呼び、譫妄、朦朧等が起こっている状態を言う。


K「……幻覚と言えば良いか。夢を見ているのだ。もしここが平和な学園だったならと」

朝日奈「夢……」


勿論、本当は違うことをKAZUYAは知っている。恐らく、石丸が見ている夢は純粋に
彼が生み出した妄想などではなく、全て過去にあったこと。つまり記憶の残滓なのだ。

これで消された記憶がメモリごと消去されたのではなく、一時的にアクセス出来なくなっていた
だけとわかり、本来なら希望に繋がるはずなのだが……今のKAZUYAにそんな余裕はなかった。


K「…………」

桑田「な、なあ、石丸! 俺がわかるか? なあ!」

石丸「桑田君、いくら希望ヶ峰が服装に緩いと言ってもその髪と髭は度が超えている。切りたまえ!」

桑田「もう切っただろ……よく見ろよ! 今の俺を見ろって! おい!」

大神「桑田、落ち着け」


青ざめて黙っているKAZUYAの代わりに大神が桑田を止める。その後、起きだした生徒達を
部屋に呼んで代わる代わる話し掛けさせたが、石丸は一時的に何かを話してまた黙り込むか、
或いは怒鳴られて以前のように謝り出すかのどちらかだった。


・・・


石丸悪化の報が生徒のほとんどに知れ渡った後、KAZUYAは霧切に自分以外の人間をもう一人
部屋に常駐させて欲しいと伝える。今の一人体制だと緊急時に急に呼び出された時困るのと、
今後は図書室へ石丸の治療法を調べに行くなど、不在にする時間が増えると考えたからだった。

朝食会が終わって少し経った頃、早速苗木がやって来てローテーション表を見せてくれる。


(石丸を何とかしたい……譫妄まで現れるとは、場合によっては薬物治療も視野に入れねばならん。
 だが、精神系は俺の専門外だ。とにかく資料を読み込んで、出来るだけ多くの情報を集めねば)

(……いや、その前にまず舞園と大和田のフォローをするべきだな。石丸も大事だが、
 一人に集中して他の生徒の異常を見逃すということだけは絶対にあってはならん……)

(舞園は午後だ。先に大和田の話を聞こう)


「早速だが苗木。少し不二咲の様子を見に行きたいのだが……」

「わかりました。石丸君は僕が見てるので行ってらっしゃい」

「頼んだ」

「……ほら、石丸君。一緒に勉強しようよ」


いつも前向きな苗木が、珍しく暗い顔で石丸に話しかけているのを
横目で見ながらKAZUYAは大和田の部屋へ向かった。



― 大和田の部屋 AM9:12 ―


不二咲「あ、先生!」

大和田「……先公か」


大和田はゲッソリとした顔でKAZUYAを迎えた。焦点が合わず生気を感じられない瞳の石丸に
兄弟と呼ばれ笑いかけられるのは想像以上に辛い出来事だったろう。それも、不二咲には
秘密にしなければならないのだ。大和田の心中を察し、KAZUYAは深い溜息をついた。


K「不二咲、調子はどうだ?」

不二咲「まだちょっと痛いけど、薬が効いてるから大丈夫です」

K「診せてくれ」


KAZUYAは不二咲の怪我の具合を確認し、点滴を替える。


大和田「どうだ?」

K「ウム、順調だ。しかし、元々死にかけた上に胸を開いている。
  抵抗力が落ちているから、しばらくは注意するように」

K「ところで、大和田に話があるんだが」

大和田「……あ? 俺にか?」


石丸のことだと思ったのだろう。口元が大きく引きつった。


K「お前、食事と睡眠はしっかり取れているか?」

大和田「ああ、特に問題ねえけど……顔色でも悪かったか?」

K「いや、この間のお仕置きを見て精神的に来ているのではないかと思ってな」

大和田「…………」


オシオキ、と言う単語を聞いて大和田の顔が更にこわばる。


大和田「キてねえワケじゃねえ。やっぱり最初の晩は悪夢とか見たぜ」

K(やはり……)

大和田が「でも、最初だけだ。今は、いろいろ忙しいからな。兄弟も……寝込んでるし。
      とてもじゃねえが、自分のことで手一杯になんかなってらんねえよ」


意外な答えだった。以前の大和田なら、もっと苦しんでいたはずだ。


K「……強くなったな」

大和田「強くなんかなってねえ。むしろ逆だ、逆」

K「逆?」

大和田「弱くなった。すぐ弱音吐いちまうし、ビビっちまうし……情けねえったらねえ」

不二咲「そんなことないよぉ! 誰だって今の状況は辛いし怖いもん」

大和田「……で、こうしていつも不二咲に励まされる始末だ」

K「ほぅ」


しかし、言葉に反して大和田の顔は今までと比べるとどこか明るかった。


大和田「ただ、なんだろうな……すっげえ、楽になった気はするぜ」

K「楽に?」

大和田「ああ。……ほら、前はよ、俺は強くなきゃならねえ!っていつも力んでたろ? 周りに
     弱みとか見せらんねえし、男らしくとか、とにかくこうでないと!って気ィ張ってた」

大和田「でも今は、あんたや不二咲よりも俺はよええって認めちまったから、ムリする必要が
     なくなった。つれえ時はつれえって言えるし、たまにグチ吐いたり……なんかあったら
     周りに助けてもらってもいいんだって考えたら、すっげえ楽なんだ」

K「…………」

大和田「あ、でもだからって頼りっぱなしにゃならねえぞ! あくまで時々だ、時々!」

K「自分の弱さを認めるのも強さだ。――やはり、お前は強くなったのさ」

大和田「そ、そうかよ……」


少し、照れ笑いをする。が、すぐに大和田は真面目な顔になった。


大和田「他のヤツは大丈夫なのか? 桑田とか舞園とか。特に舞園はヤベエんじゃねえか?」

K「桑田は少し堪えているな。お仕置きの内容を直接聞いてしまったのが悪かったようだ。
  今はなるべく誰かと過ごさせるようにしている。舞園は次のローテーションの時に話す」

不二咲「先生……」

K「何だ?」

不二咲「僕……ただでさえなにも出来ないのに、怪我人だけど……みんなのお話聞いたり、
     励ますことくらいなら出来るから、怪我人だから遠慮しないでって伝えて欲しいの」

K「不二咲……」

不二咲「それに、石丸君が……」

K「(ギクリ)石丸が、どうした?」

不二咲「ベッドから出られないくらい酷いんでしょう? 他のみんなも、きっと心配してると
     思うから、せめて僕だけでも元気な姿を見せてみんなを励ましたいんだ」

不二咲「そ、それにほら! みんなが遊びに来てくれた方が僕も嬉しいし……」

K「わかった。伝えておこう」

不二咲「うん!」

K「じゃあ、俺はもう戻る」

大和田「先公」

K「……ああ」


大和田はKAZUYAを呼んだだけで、その後は何も言わなかった。
だがKAZUYAにはわかっていた。大和田は、石丸を頼むと目で伝えていたのだった。


               ◇     ◇     ◇


午後。決められた時間通り、部屋には舞園がやって来た。


舞園「こんにちは。先生、石丸君」

K「よく来たな」

舞園「何か変化はありましたか?」

K「いや……むしろ、何の反応も見られなくなってしまった」


元々、石丸の行動には三つのパターンがあった。一つは、一日のほとんどがこれに該当するが、
何もしないという状態である。二つ目は、過去の習慣をなぞった行為。そして三つ目が、謝罪や
自己否定の独り言である。そこに今回、新たなパターンとして過去の行動を再現するという物が
加わった。特徴としては、三つ目と四つ目は主に誰かが話しかけると発動しやすい。

だが、未だ確固たる法則のようなものは掴めず、ただひたすら観察するのみであった。
KAZUYAは今も机に向かい、カルテに追記し続けている。


舞園「そうですか……でも、諦めちゃ駄目です! 今日もたくさんおしゃべりしましょうね、石丸君?」

石丸「…………」

K「……その前に、君に一つ聞きたいことがあるのだが」

舞園「何でしょう? 他の皆さんの様子ですか?」

K「いや、君のことだ。この間、いよいよ生徒にお仕置きが執行された訳だが、何か影響はないか?」

舞園「ないですよ」

K「……?」


舞園は表情一つ変えずあっさり言い切った。


K「全くないのか?」

舞園「はい。全然へっちゃらです!」

K「……そうか。なら良いが」


いくら女心に疎いとは言え、流石のKAZUYAも違和感を覚えた。思えば、これが初めてではない。
いつも別の出来事に気を取られていて、舞園の小さな違和感を見逃してきた気がする。


K(本当に、これがあの舞園なのか……?)


何度も自分を責めて、後悔して、耐え切れずにあの日KAZUYAの胸で泣いた彼女なのだろうか。


K(わからない……だが、今の舞園が精神的に安定しているのは確かだ)


薮蛇となるかもしれない。また新たな火種となるかもしれない。


K(今は、舞園を信じるしか……)


あえてKAZUYAは追及しなかった。これ以上の重荷は、如何にKAZUYAが鋼の精神力を
持っているとはいえ、避けたい所であったからだ。一方、舞園は心の中で笑っていた。


舞園(大丈夫、私は大丈夫)クスクス


以前の自分なら、あのオシオキを見て耐えられなくなっていたはずだ。
自分は一体どんな目に遭うのか恐ろしくて恐ろしくて、眠れなくなっていただろう。


舞園(でも、私は舞園さやかじゃないから。私は脱出のための駒で舞園さやかという役だから!)


恐れるのは人としての感情があるからだ。だが自分は人間ではない。だから恐れるという
感情は存在しない。本来なら――それは本当の自分を隠す、偽りの強さだった。

しかし、偽りの強さに縋ったのは大和田と同じはずである。では何故大和田と違い、
舞園は安定しているのか。それは、人間性を捨てているかどうかの違いだ。大和田は秘密を
黙ってさえいれば問題ない、いわば守りの姿勢だった。それに対して、舞園は攻め……

弱い自分に強いと嘘をつくのではなく、弱い自分そのものを捨てて強さを得るかの違いだった。


舞園(私なんかよりも、むしろ先生の方が問題なんじゃないですか?)


朝からずっと顔色が良くならないKAZUYAを見て、舞園は危機感を抱いた。今や、この場の大黒柱は
KAZUYAである。もしKAZUYAに何かあれば、もはや脱出はおろか校内の秩序の維持すら危うくなるだろう。
表向きは普通に振る舞っているが、KAZUYAの心労が少しずつ限界に近付いているのを舞園は見抜いた。


舞園(……ここは私の出番ですかね)

舞園「西城、先生……」


視線を落とし、舞園は雰囲気をガラリと変えた。目に、涙をうっすらと浮かべる。


K「どうした……?!」


先程までケロリとしていた舞園が突然泣き始めたのに仰天し、KAZUYAは慌てて立ち上がる。


舞園「いえ……どうして私がオシオキを見てもなんともないか、わかりますか……?」

K「……わからない」

舞園「確かに、オシオキは怖いです。でも、それ以上に……生きているのが嬉しいんです」

K「……!」

舞園「私、本当はあの時死んでいたんです。もう、笑うことも、歌うことも、みんなと
    遊んだりおしゃべりすることも、何も……何も出来なくなっていたはずなんです」

舞園「生きているのが凄く、凄く嬉しい……」

K「…………」


ポロポロと、溢れる涙を拭いもせずに舞園はKAZUYAを見上げる。更に、顔を少し紅潮させ、
上目遣いになりながら舞園はKAZUYAに近付いた。我ながらなんと計算高い女だろうと内心で
呆れ自嘲しながら、通常の男には必殺となる表情と声で迫る。


舞園「全部、西城先生の……お陰なんです。私、私……」

舞園「先生のこと、本当に大好きです……!!」

K「舞園……!」


普通の男が美少女のこんな艶やかな姿を見せられたら、照れて赤面するか
目線を逸らすのがもっぱらの反応である。……が、KAZUYAは勿論普通ではない。

ガッと舞園の肩を掴むと、KAZUYAは正面から力強く舞園の目を見返す。


K「ありがとう……! 俺も、君やみんなのことが好きだぞ! 君達に会えて本当に良かった!」


その顔に照れなどは一切ない。まさしく真剣そのものである。


舞園(流石西城先生、全くブレませんね……見事なくらい予想通りな反応です。
    まあ、だからこそ信頼できるというか、安心出来るんですけど)


むしろ、こうなることがわかっていたからこそあざといくらいオーバーな演技をしたのだ。
舞園の狙い通り、あからさまな感謝と好意を示されKAZUYAは感極まっていた。


K(俺には理解者がいる。応援してくれる生徒達がいる。悪化がなんだ! 元より、すぐに
  治るようなものではないのだ。絶対に、石丸を元に戻し全員を救い出してみせる!)

舞園「元気になってくれたようで何よりです」


目論見通りに行った舞園がいたずらっぽく微笑むと、KAZUYAもようやく舞園の気持ちに気付く。


K「……心配させてしまったようだな。俺はあまり顔に出していないつもりだったが」

舞園「一人で無理しないでください。私達がついてますから。ね?」


KAZUYAの手を取り、舞園はそっと握った。


K「わかっている。君達の力も借りていくつもりだ。……しかし、ここに来てから
  俺もすっかり心配症になってしまってな。君は本当に大丈夫なんだな?」


舞園「はい。逆に、みんなのために頑張ることが今の私の支えなので、それを奪わないでください」


舞園は大丈夫だ、と思いつつもどうもKAZUYAは彼女の様子が気になって仕方がなかった。
立ち居振る舞いが完璧すぎて、どこか無理をしているように見えたのだ。


K「……わかった。君を信じよう」

舞園「ありがとうございます!」

K「……君には敵わないな」


その晴れやかな笑顔に、やはり芯の部分で女性は強いなとKAZUYAは苦笑し、舞園はほくそ笑むのだった。








「…………」

舞園「あれ?」

K「どうかしたのか?」

舞園「いえ、なんでもないです」

舞園(今、石丸君がこっちを見ていたような……気のせいですかね?)


ここまで。

お疲れ様です
どうなっちゃうんだろうこれ…

乙です

乙です

いつ駒園さんが爆発するか楽しみです

舞園は強い衝撃さえ加えなければ何とかなりそうだけど
石丸は自傷行為にはしったり暴走しそうで不安定で怖いな
腐川のリハビリもあるし解決の難しそうな問題がどんどん増えていく…

原作では次の動機は金だけど、さてどうなるのか…

これ、本当に石丸がデバガメったなら誤解しない?
不順異性交友がー!で覚醒すればいいのに。

むしろモノクマがそのシーンを自分の良いように編集してKを貶めようとか考えそう。そうなったら駒園さん超ピンチやん!

手握るぐらいふつーふつー
友達の苗木君とだってよくしてるさ!

むしろ舞園さん助ける鍵は石丸じゃねーかな

Kが全く動じてないから仮にモノクマが編集してMAD作っても
駒園さんなら上手く切り抜けられそう。むしろKみたいにみんな好きです!くらい言いそう

石丸は何に反応したんだろうね。まさか本当にデバガメ?

舞園の言った事に反応したんじゃね?
独り言の内容も自己否定ばっからしいし
皆で「石丸のお陰で~」とか「居てくれて良かった」みたいなこと言ったら反応してくれそうな気がするんだけどな…

でもそういうことは壊れる前にKが更衣室で言ってた気がする
もうそれではダメなレベルなのかもしれん

>>202
スーパードクターK全44巻とドクターK全10巻が一緒になってて、重すぎて
レジへ持っていくのと車に積み込むのは店員さんに手伝ってもらいましたw

>>203
作者コメントやおまけイラストもありますよ!
あと全身絵と共に各キャラクターのプロフィールも載ってます。

乙です
これは舞園さんと石丸、お互いが元通りになるキーパーソンになる可能性が・・・?

最近更新速度が落ちている気がする。頑張らんと


>>227
貴重な情報ありがとうございます。助かります

そして、プロフィール……だと……?!
まさか各キャラの生年月日身長体重や血液型が?!

ヤバイヤバイヤバイ、早急に集めないと矛盾ががががが
そしてもしKAZUYAの身長載っていたら教えて下さい
あんなバカでかくてさくらちゃんより小さかったらどうしよう……
そこそこ背の高い朝倉とだって身長差あるし大きいと信じたい


― 図書室 PM3:13 ―


他の生徒が石丸のことを見ていてくれるので、KAZUYAは久しぶりに外出し、図書室に来ていた。
そこはいつもなら、ここの主だとでもいうように十神が一角を占領して本を読んでいるはずだった。

今は誰もいない。寂しい図書室の中を突っ切り、KAZUYAは真っ直ぐ医療系の本棚に向かった。


「…………」


裁判が終わり石丸が壊れ、当然ながら元凶である十神を監禁すべきだと言う意見が出た。積極的に
ゲームに参加する意志を持ち、実際に他の生徒に攻撃を仕掛けた十神はあまりにも危険だった。
珍しく全会一致の意見となった訳だが、ここで問題となったのはどうやって監禁するかだ。

部屋に鍵をかけても中から開けられるので縛って拘束するしかないが、そうなると誰かが身の回りの
世話をしなければならない。全員十神の側にいるのを嫌がったが、最終的にはなんとか了承した。


(しかし、十神を捕まえに大神達が図書室に向かったが……奴はいなかった。それどころかどこにも)


この閉ざされた空間の一体どこに消えたと騒然となったが、何のこともない。自室にいたのだ。
そう、十神白夜は自ら自室に篭ってしまったのである。何故そんなことをしたのかと思ったが、
倉庫を調べた霧切の報告で合点した。倉庫からは水や保存食がごっそりとなくなっていたのである。


(抜け目のない奴だ……)


要は裁判後、自分が拘束される流れになると予期していた十神は自ら軟禁状態を作り上げたのだった。
あまりのしたたかさと狡賢さにKAZUYAも舌を巻くが、これは完全にしてやられた。部屋に篭られては
こちらからは手を出せない。逆に十神は自由に外に出ることが出来る。行動が全く読めないのだ。
しかも、腹立たしいことに十神は高度な護身術が使えるらしく、一人の時に遭遇するのは危険だった。

KAZUYA達に出来ることと言えば、せいぜい十神が活動すると思われる夜時間の外出禁止を徹底し、
昼間もなるべく単独行動を取らないようにするくらいしか、対抗策を取れないのだった。


(幸い、十神が危険人物だという認識は全員にある。不二咲の時のように、安易に
 近付いていったりはしないだろう。見かけてもすぐに逃げれば問題はない……はずだ)


しかし、それはあくまで生徒の自主判断に任せただけで、実質放置することと同じだった。


(解決しなければならん問題は山積みだというのに……)

「……棚上げしてばかりだな、俺は」ボソ


しかし助けなければならない患者がいる限り、KAZUYAは鋼の精神力を誇った。
どんなに辛くて悔しくて泣き叫びたくても、それでもKAZUYAは堪えた。

今も尚、人知れず苦しんでいる石丸や腐川を救ってやりたかった。


(前から思っていたが、この図書室は医学の専門書――それも精神疾患系の本が充実している)


医学書が多いのは、恐らく自分が用意させたものだろう。KAZUYAはこの学園の
シェルター化計画に協力していたはずだし、医学書はいくらあっても困るものではない。


(だが、健康な青少年にはあまり縁がないはずの精神疾患の本が多いのは異様だ。恐らく……)


……自分は過去にジェノサイダー翔と会っている。それも、治療目的でだ。


(だとすると、翔がやたら俺に好意的なのも説明がつく。俺が腐川の味方だと
 本能的に察し、腐川を守るために協力してくれているのだろう)


そして、これが本当ならもう一つ重要なピースに繋がる。
場合によっては今の状況を完全にひっくり返すことが出来る痛烈な一打だ。


(翔は俺を覚えている。即ち――過去の記憶を保持している可能性が非常に高い!)


多重人格者の記憶や精神構造はまだ仮説ばかりでハッキリ断言出来ることはほとんどないが、
腐川と翔が記憶を共有していないのは本人の証言で明らかだ。ならば、外力で腐川の人格の方の
記憶が消されたとしても、翔が記憶を保持する、と言ったことも有り得るのかもしれない。


(この仮説がもし真なら……強力な武器となろう。もし彼等が元々クラスメイトで、荒廃した
 外から避難するために自ら閉じこもったと理解すれば、もう殺し合いをする必要性などない!)


殺し合いの必要性がなくなれば、あの十神でさえ協力するだろう。あとは一致団結したメンバーで
内通者の偽江ノ島を締め上げ、可能ならばそのまま黒幕の所に攻め込めばいい。


(……ただ、翔一人だと証拠としてはまだ弱いな)


証拠がジェノサイダーの証言だけだと事前に口裏を合わせたと言われかねない。あと一つ、
生徒達を納得させられる客観的な証拠がいる。そして、KAZUYAはその糸口を既に掴んでいた。


(アルターエゴ……! 不二咲が作ってくれた“希望”だ)


もしあのPCの中に、一つでもKAZUYAの証言を裏付けるものがあれば、それで終わりだ。
この馬鹿げた学園生活も、疑心暗鬼も、友人同士の憎み合いも……

そうすれば、また帰ってくるはずだ。あのいつも賑やかで楽しそうだった生徒達の姿が。


(いや、今はまだ……駄目だ)


半ば確信した勝利から一転、KAZUYAの心は暗雲に覆われた。

壊れた石丸、傷心の腐川。二人を何とかせずしてあの日々が取り戻せるだろうか。
そう思って、KAZUYAは何か手掛かりはないかと熱心に本の背表紙に視線を走らせていた。

……そしてあることに気付く。ここに置かれている医療書は、難解な専門書だけではなく、
KAZUYAにはまず不要な入門書が多く存在することも。シェルター計画を進めていた時の自分も、
ゆくゆくは生徒達に医療の知識を仕込もうと考えていたのだろうか。初心者用の易しい本も
なかなか充実していて、毎日石丸がそれを手に保健室にやって来たのを思い出した。


「……!!」


一瞬、強烈な感情に囚われKAZUYAは目が回りそうになるが、すぐに踏みとどまる。


(……止そう。感傷的になるにはまだ早い)


KAZUYAは強く頭を横に振り、参考になりそうな本を見繕って図書室を後にした。


― 娯楽室 PM3:24 ―


葉隠「おりゃっ」


コン。

葉隠は手に持ったキューでボールを突く。ボールは転がり別のボールに当たるが、
穴には入らなかった。ビリヤード台の向こう側では山田がニヤリと笑う。


山田「フフッ、外しましたな」

葉隠「あっちゃー。こりゃ山田っちの勝ちか?」

山田「では、行きますぞ!」


山田は格好をつけてキューを構えると、ボールを突く。

コン! コン、コロコロコロ……カタン。


山田「イエスッ!」

葉隠「フゥゥ~! 山田っち意外と上手いなぁ」パチパチ

山田「運動は苦手ですが手先は器用なので。体を動かさないものはそこそこ出来るのですぞ」フンス!

葉隠「ほえー。なるほどな。でも、山田っちってそんなに運動苦手だったか?」


意外や意外、山田はその大きく膨らんだ体型に反し人並み程度には動ける男だった。
過酷すぎて死人が出かねないことから夏の戦場とも称されるコミケで、軽やかに売り場を
飛び回り目当ての本を仕入れたりしていたので、身軽さとスタミナには自信がある。


山田「一応動けるデブを自称しているので、デブの中では上位ランカーの自信がありますが、
    なにせここにいる運動系のメンバーは常識を超えていますからねぇ」

葉隠「まあ、確かにそうだな。桑田っちとか練習なしであれとか存在が嫌味だべ」


ガッハッハッと葉隠は笑うが、ふと仲間の顔を思い浮かべながら考えてみた。


葉隠(……あれ? もしかして、俺って下から数えた方が早い?)


男子の中で、確実に勝てそうなのが小柄な苗木と不二咲くらいしかいない。悲しいことに、
身長では葉隠の方が大きいにも関わらず桑田、石丸、山田には勝てそうになかった。

かと言って、女子も大神とジェノサイダーにはまず勝てないだろうし、運動系の朝日奈も
手強そうだ。霧切は護身術の心得があると小耳に挟んだ気がするし、江ノ島はなんか
女子にしては大柄でガッチリしている。舞園は容赦なく刺してきそうな雰囲気がある。


葉隠(…………)

山田「葉隠康比呂殿、どうされました? あなたの番ですよ」

葉隠「(……ま、いっか)おう、今やるべ」


帰ろうかなと一瞬思ったが、娯楽の誘惑には勝てず葉隠は再び山田と勝負を始めた。

娯楽室には現在三人の人間がいる。葉隠、山田、そして……


セレス「…………」


セレスは不機嫌そうに、山田にいれさせたロイヤルミルクティーを一口飲んだ。
先程から一言も話さないセレスに気を遣って、葉隠が話しかける。


葉隠「いやー、しかし仲の良い山田っちはともかく俺まで誘ってくれるなんてどういう風の
    吹き回しってヤツだべ? ずっと部屋に篭りっきりはキツイから助かったけどな」

セレス「……何となくですわ。あと、別に山田君と仲良くなどないです」

山田「…………」シュン


セレスにギロリと睨まれ、山田は竦み上がった。嫌な雰囲気を感じ取り、葉隠は話を終わらせる。


葉隠「そ、そうだ! ビリヤードも飽きたし、次はダーツやるべ!」

山田「……負けませんよ!」


落ち込んでいた山田だが、葉隠に誘われるとすぐに気を取り直してダーツ台に行く。
そんな二人をチラリと見て、セレスは本日何度目かの溜息をついた。


セレス(まさかこの二人に頼らざるを得ないなんて、我ながらなんと情けないのでしょう)


そう、娯楽室に山田と葉隠を誘ったのは他でもないセレスであった。勿論、天地が
ひっくり返っても一緒に遊びたいなどという理由ではない。そこには逼迫した事情があった。


セレス(……全く十神君には手を患わせられますわ)


十神を警戒していなかった訳ではない。元々危険人物だとわかってはいた。だが、まさか
犯人でもないのに白昼堂々殺人現場の撹乱をするなどと、一体誰が予想出来ようか。


セレス(今までは、石丸君が筆頭となって何人か腕の立つ方々が校舎の巡回をしておりました。
     わたくしの計画にとっては邪魔でしたが、逆にわたくしの身を守る物でもありました)


今や石丸が廃人となり、KAZUYAと大和田はそれぞれ病人にかかりっきりである。
せいぜい桑田が空いている時間に警邏するくらいだが、明らかに頻度が少ない。

大神も時折見回りの協力をしているが、セレスは大神を信用していなかった。
最も、セレスは大神のみならず女子全員を信用していないのだが。KAZUYAの警戒心が
女心がわからない故のものに対し、セレスはその真逆……女心がよくわかる故の警戒だった。


セレス(わたくしの、女の勘とでもいうべきでしょうか。十神君を除けば、あとは女性陣しか
     脅威はない気がします。……カッとなっての突発的犯行を除けば、ですけれど)


所詮、男は単純なのだ。どんなにポーカーフェイスを形作っても、どんなに表面を
取り繕っても、女の直感や観察力には敵わない。だからこそ厄介と言える時も勿論あるが。

とりあえず、ずっと狭い部屋に閉じこもりっきりなのはもう飽きた。ホームである娯楽室で
のんびり羽根を伸ばしたいが、万が一十神と遭遇すれば確実に自分は殺されるだろう。
そんな時、逃げるための策としてセレスが用意した駒が山田と葉隠だった。


セレス(……まあ、葉隠君には元より全く期待していませんわ。
     間違いなくわたくしを置いてさっさと逃げるでしょうから)


葉隠は単なる時間稼ぎである。葉隠と逆の方向に逃げるか、最悪足を引っ掛けて転ばせる囮だ。
そして、山田はああ見えて意外と紳士というか、女の自分を置いて先に逃げるような真似は
しないだろう。なので、葉隠を囮にしても逃げ切れない時は山田を十神にぶつけ、セレスは
一人まんまと逃げ切るという作戦である。


セレス(我ながら完璧な作戦ですわ。なんと狡賢い悪女なのでしょう)うっとり


西洋の城の豪奢な一室で、チェスの駒を弄ぶ妄想をしながらセレスは悦に浸る。


セレス(問題は……)チラ

葉隠「今度は俺の勝ちだな!」

山田「たまたまですよ。もう一回!」

葉隠「よっし、次はなんか賭けるべ」

山田「ぐぬぬ、調子に乗ると後悔しますぞ!」


ワハハハハ!


セレス(……うるさいですわね)イラッ


だが、今は仕方ない。KAZUYA達が石丸を諦めて外に出てこない限り、
十神の脅威は続くのだ。セレスは次に直近の障害である十神について考えてみた。


セレス(思っていたよりもずっと恐ろしい方でしたのね……)


あの裁判後、生徒達は部屋に閉じこもった十神とインターホン越しにちょっとした会話をした。
当然、お前のせいで石丸が廃人になったという怨み節も言われたのだが、十神はただ笑った。

その時の様子を思い出す。


ダンダンダンダン!! ガッガッ、ドガッ!!


大和田『出てこい!! 十神ッ! 十神ィィィッ!!』


鬼のような形相で大和田は十神の部屋の扉を殴り、蹴飛ばしていた。拳が傷つくことも厭わない。
防音のため、その音は内部には聞こえないだろうが扉が震動しているのは目に見えるはずだ。


桑田『クソッ! このビビリ! ヒキョーモン!! 出てこいよッ!』

苗木『二人共、落ち着いて!』

大和田『これが落ち着いていられるかぁ?! 許さねえ! 引きずり出してブッ殺してやる!!』

朝日奈『ど、どうしよう?! 止めるべきなの? でも……』

葉隠『ヤ、ヤバイべ! いよいよ死人が出るべ!』

セレス『少しは落ち着きなさいな。十神君もこうなるとわかっていたから部屋に篭ったのです』

大神『……最悪の場合、我が止めに入ろう』

霧切『十神君、どうせ聞いているんでしょ? 話がしたいのだけど』

江ノ島『あんたのせいで石丸がおかしくなっちゃったんだよ!』


その時、今までずっと沈黙を貫いていた十神がインターホン越しに発言した。


十神『……石丸がおかしくなっただと?』


大和田『そうだよ! テメエのせいで兄弟の頭がおかしくなっちまった!
     会話もまともにできやしねえ! 責任とりやがれクソがあああああ!!』

十神『クッ……ハハハハハハハハハハッ!』

桑田『テメエ、どこまで人をおちょくってやがる?!』

十神『おちょくる? 敗者の末路だろう? 奴は弱かった。だから精神が耐えられなかった。
    それだけの話だ。人のせいにするなど貴様等も大概だな。ハハハハハハッ!』

大和田『この野郎おおおおおおおおおおお!!』


ダンダンダンダンッ!! ダンダンダンダンダンダンッッ!!


セレス『…………』


その後の大和田の荒れようはとにかく酷かった。巻き添えを恐れて、生徒達が部屋に避難するほどだった。
……だが、セレスにはわかったのである。扉の向こうの十神は、目が笑っていないということを。

石丸のことは確かに嫌いであったようだが、あの男にとってここにいる人間は所詮ゲームの
登場人物程度の重みしかなく、死のうが廃人になろうが結局はどうでもいい存在だ。だから
廃人になろうが笑うほど喜ぶはずがなく、ただ大和田達を煽るためだけに意図的に笑っていたのだ。


セレス(あの方にとって、このコロシアイは本当にゲームなのです)


セレスとて命こそ懸けないが人生がかかるような大金を賭けて大勝負をすることは何度もあった。
だが、彼女は十神程割り切れないし今の状況をゲームなどと生易しく考えられない。

――この差は、どこにあるか。有り体に言えば覚悟だ。

ギャンブルに努力が全くいらないということはないし、セレスとて高度な駆け引き、洞察力、
知識等それなりに磨いてきたつもりである。だがビギナーズラックと言う言葉からわかるように、
ギャンブルで明暗を分けるのは結局の所運であり、セレスはその運を持っていた。


セレス(生まれながらに勝利をプログラムされたわたくし。生まれながらに巨大財閥の
     御曹司である十神君。似たもの同士だと思っていたのですが……違うようですわね)


当然だ。十神は優れた資質や才覚を持っていたが、同じように優秀な才能と遺伝子を持つ
実の兄姉達と幼いながらに全てを賭けて戦ってきたのだから。多少の負けはあっても最後は
運で勝ってきたセレスと、全てを失うリスクを背負い綱渡りのような勝負をしてきた十神では
勝負に対する考え方も覚悟も格段に違う。この時のセレスには知る由もないことだが。


セレス(……関わらないのがベストなのでしょうね。それをわたくしが選べるかが問題ですが)


セレスは十神の事情を知らない。知らないからこそ恐ろしい。彼女も毒舌でドSを自称しているし、
嫌いな人間ならきっと容赦なく追い詰められるだろう。だが十神のように無感情で、ただ淡々と
決められたノルマをこなすが如く人を陥れ廃人に出来る人間は底が知れなかった。

大胆不敵などと生易しい物ではない。――神をも恐れぬ傲岸不遜だ。


セレス(ライバルくらいに考えていたのに、完全に甘く見ていましたわね。あの十神一族の
     御曹司だということを考えれば、むしろそれが当然なのでしょうが)

セレス(今までは西城先生や霧切さんの対応を最重要に置いていましたが、十神君に切り替えなくては)


また慣れない殺人計画を一から練り直さねばならないのかと、セレスは悩ましげに溜息を吐いた。


・・・


その溜息を、山田との不仲から来るものだと勘違いした葉隠がセレスに声をかける。


葉隠「な、なあ。もう一人呼んで麻雀でもやらねえか? セレスっちもずっと一人じゃアレだろ?」

セレス「結構ですわ」

葉隠「そっか……」

山田「…………」


チラリと山田を見るとまた落ち込んでいる。今度は葉隠が溜息を吐く番だった。

職業柄人を見る術に長けているのは何もセレスだけではない。客商売をしている葉隠も同様だった。
特に同類だからか、占いにまで頼るような物欲が強い人間には鼻が利く。全員に大なり小なり疑心を
抱いている葉隠だが、要注意のセレスがやや注意な山田を引き連れ部屋に来た時は腰を抜かした。

最初は怯えて誘いを断ったのだが、セレスでは葉隠を殺すのは難しいことと、このコロシアイに
共犯は有り得ないと説明され、いい加減外に出たかった葉隠は気分転換に遊びに出たのだ。

……が、最初は楽しく遊んでいたのだが、どうにも様子がおかしい。


葉隠『なんか、セレスっちがいつも以上に冷てえ気がすんだが、なんかあったべ?』

山田『実は……』


山田に聞いてみた所、セレスは山田が裁判で無実の自分を犯人扱いしたことをどうやら未だに
根に持っているらしいとのことだった。山田になんとか仲を取り持って欲しいと頼まれたので
安易に引き受けてしまったが、セレスの頑なな態度に葉隠は早くも後悔し始めていた。


葉隠(全く、なに考えてんだかねぇ……)


セレスは葉隠を取るに足らない男だと考えており、葉隠自身自分の頭が
良いとは少しも思っていなかったが、豊富な人生経験のお陰か変な所で頭が回った。


葉隠(山田っちは女子にどうこうするタイプじゃないし、なんだかんだセレスっちに
    あんだけ尽くしてるべ。冷たくするメリットなんてないだろーに)


むしろセレスにとっては数少ない味方なのだから、もっと大事にした方がいいのではと思う。


葉隠(そもそも、なんで俺を誘ったんだろうな。先生達が石丸っちや不二咲っちの
    面倒で忙しいってのはわかるけどよ、江ノ島っちとかいつも暇そうだし)

葉隠(……朝日奈っちなんて最近いつも寂しそうだから、誘えば大喜びで来そうだけどな)


自分で言うのもなんだが、メンバーの中でも特に胡散臭い葉隠を誘う理由が思い付かなかった。


(もしかすっと……!)


瞬間、葉隠は閃く。


(うちの女子達って、本当はすっごい仲悪いんじゃねえか?!)


これが、肝心な所でいつも抜けている葉隠の限界であった。しかし、葉隠は気付いていないが
女性陣がそれぞれ目に見えない派閥を作り、お互いに牽制しあっているのは事実なのである。

結果だけ見れば満更間違っていないのは占い師故の勘の良さなのか。それは神のみぞ知る所である。








山田「さあ葉隠殿、早くセレス殿を説得してくだされ!」

葉隠「いや、ムリだべ。これ以上は有料だ」

山田「そんな殺生な……」

葉隠「現実はタダでなんでも出来るほど甘くねえんだ!」

山田「ヒ、ヒドス……」(´・ω・`)ショボーン


ここまで。



好転しそうで好転しない…

乙です

乙です

十神引きこもっちまったか、このチャプターでの好感度上げは無理っぽいな
セレス達は3人の考えが三者三様で全く噛み合ってないのに和むw

>>228
>>201の者ですが、生年月日、身長、体重、血液型、全部載ってますよ! ただKAZUYAのプロフィールはないですね・・・
高品や軍曹、磨毛や真田といったメインキャラや1話限りのキャラのプロフィールですらあるのに、TETSUや朝倉のもないという・・・
ただ、序盤に度々登場しているバレーの大谷の身長は197cm、漫画見る限りKと大谷はほぼ同じ背丈に見えるので、大体この位の身長なのではないでしょうか

>>247
ありがとうございます!自分の中では弐大君と同じ198cmで設定していたのでまあセーフかな
真田はあるんですね。すごい興味深い。TETSUはともかく何故朝倉がないのか…謎だ

さて、どこで全巻買えるか調べるか…
というか、出版社としては古本で買われるよりネット販売とかで
買われた方が良い訳で、ちゃんと裏表紙や背表紙とか見開きの作者コメントとか
全部収録してくれてたらケチらずにデータでまとめ買いするのになぁ

あれ、ニコニコ静画のにもプロフのってましたよ。(やっぱりKはいなかったけど)

>>249
電子書籍だと表紙、中表紙と中身はあるのですが
単行本を開いてすぐ右にある作者コメと裏表紙は確かないはずなんですよ
全部取り扱っている所を知っている方がいたら教えて下さい

十神www
あんだけ場を荒らしといて自分はちゃっかり逃げるとかw

十神がかませじゃない……だと……?

このスレの十神は割りと一貫して強キャラ扱い
でも小ネタやエピ0ではかませオーラ出してたし、後半で壮絶にかませ化することを期待

そういや原作でもセレスさんの時は割りと有能だったよな、十神クン

まだ?


お待たせしました。投下します

今日は久しぶりに安価があります。
最後の方なので一時間後くらいに来て頂ければ

「OK!」ズドン!


― 石丸の部屋 PM4:26 ―


霧切「……と言う訳です」

K「どうなるかはわからないが、今はどんな些細なことでも試してみる価値はあるな」


現在石丸の部屋には苗木、桑田、舞園、霧切、大和田とKAZUYAに協力的で五体満足な
生徒が全員集結していた。不二咲は見舞いに来た朝日奈、大神、山田に任せてある。
ローテーションで空いたメンバーと霧切で協議を重ね、その結果をKAZUYAに伝えていたのだ。


大和田「で、でも本当に大丈夫なのか? 俺達が目を離した隙に不二咲みたいなことになったら……」

霧切「問題ないわ。そのための監視よ。もし急に駆け出したりしても、寄宿舎は二階に行けない。
    学校エリアは二階まで一方通行だから、廊下に二人程配置すればそこで捕まえられるわ」


作戦はある一つの疑問から始まった。今までは必ず石丸の側に誰かがいたが、もし長時間一人にしたら
どんな反応をするかという話になったのだ。……正直、放置して正気に戻るとは到底思えなかったが、
今はどんな些細な情報でもほしいと、思い切って反応を見ることにしたのだ。


K(それに……今以上に症状が悪化することはなかろう。今は藁でも縋るしかない)


霧切「初期配置は、ドクターと私がシャワールームに隠れる。桑田君は寄宿舎奥の廊下、
    大和田君はランドリーに待機。苗木君と舞園さんが学校エリア入り口辺りで待機」

霧切「推測では学校エリアの方に向かうと思われるわ。石丸君が近付いて来たら、苗木君達は一定の
    距離を保ちながら先行して頂戴。桑田君が一番遠いけれど、足が速いから大丈夫よね?」

桑田「任せろよ! ここ最近はいざって時のためにちゃんと走り込んでたからな。
    ずっと寝込んでた石丸なんかに負けるかってんだ!」


霧切「では、異論はないかしら?」


顎に手を当てて考えていたKAZUYAが、口を開いた。


K「……配置を、変更してもいいか?」

大和田「どこを変えんだ?」

K「霧切と舞園をスイッチする」

霧切・舞園「!」

桑田「なんで? 観察力で言えば霧切を近くに置いた方がいいんじゃねーの?」

K「ああ、霧切の観察眼や洞察力は俺も一目置いている。ただ、舞園の対人観察能力も俺は買っているんだ」

苗木「確かに舞園さんの勘の良さは凄いよね。僕なんてしょっちゅう考えてること読まれちゃうし」

K「舞園は表情や細かな仕草、人間心理、そういうのを見抜く能力が非常に高い。どうだ?」

霧切「私は構わないわ。正直、細かい人間心理の観察にはそこまで自信がなかったし、
    私も舞園さんの方が向いていると思います」

K「舞園は?」

舞園「私は……ご期待に添えるかどうかはわかりませんが、やってみます」

K「よし。では各自配置について待機していてくれ」


・・・


石丸「…………」パチッ

石丸「…………」ムクリ

舞園「起きたみたいですよ」

K「ああ」


石丸の部屋のシャワールームの扉を少しだけ開け、そこから手鏡を使って二人は中の様子を伺っていた。


石丸「…………」キョロキョロ

K「何かを探している……?」

舞園「先生のことじゃないですか?」


それはいつもKAZUYAが見てきた反応とは違った。もしかしたら、突破口になるのではと緊張が走る。


石丸「…………」

舞園「部屋の中を行ったり来たりしてますね」

K「そうだな」


小声で話しながら、二人は注意深く石丸の様子を見守っていた。


石丸「…………ない……」


カチャ。


舞園「あ」

K「馬鹿な。部屋を出ただと……?!」


KAZUYAの記憶の中では、石丸は部屋の中をフラフラすることはよくあるものの外にはけして出ようと
しなかったのだ。気分転換に外の空気を吸わせるは無理にしても、せめて広い空間に行けば多少は
気も紛れるのではないかとなんとかKAZUYAは外に出させようとしたが、石丸は頑として動かなかった。


K(……外へ出てどこへ行く?)


真っ先に思い浮かんだのは彼にとって思い出深い場所、保健室やサウナだった。そこならいい。
だが次に浮かんだのは教室だった。石丸にとってはトラウマしかない場所だが……


K(本当に悪化しないだろうか……)

K「追うぞ」

舞園「はい!」


二人は扉を少しだけ開け、石丸の背中を探す。霧切の予想通り、石丸はまずホールに向かった。
振り返る様子はないので、思い切って廊下に出てみる。そこで桑田が合流した。


桑田「どこに向かってんだ?」

K「……わからん」


しかし、予想外のことが起こった。石丸はKAZUYAの予想とは違い、食堂に入ったのだ。
食堂は行き止まりなので、他のメンバーも全員やって来る。


大和田「兄弟……なにしに食堂なんか……」

桑田「ハラが減ったからなにか食いにきたんじゃねえの? あいつ点滴しかしてねえし」

苗木「いや、それはないんじゃないかな……」

霧切「そのくらい図太ければいいのだけど」

舞園「……何か話していませんか?」

石丸「…………」ブツブツ

K「何をやっている……?」

石丸「……ハッハッハッ!」

苗木「わ、笑った……?!」

霧切「きっと、また幻覚を見ているのね」

大和田「……兄弟」


ひとしきり石丸は見えない相手と会話をしていたようだが、ふと唐突に黙り込んだ。


K「何だ?」

苗木「なんか、様子が変ですね」

石丸「……うして…………のだ……」


石丸は何かを独白しているようだった。しかし、声が小さいためよく聞き取れない。


――その時だった。


石丸「あ、あああ……あああああ! わああああああああああああああああああ!!」


石丸は唐突に頭を抱えて泣き叫び始めたのだった。そして、机に思い切り頭を叩きつけ始める。


K「発作か?! いかん!」

大和田「兄弟!」


KAZUYAが駆け寄り後ろから抱きつくように押さえ込み、大和田と桑田がそれぞれ腕を掴む。


石丸「ああああああああ! うわああああああああああ!!」

大和田「落ち着いてくれ、兄弟!」

桑田「しっかりしろよ、バカ!」

石丸「うがああああああああああああああああ!」

霧切「落ち着いて、石丸君! 私達の声を聞いて頂戴!」

K(クッ! 錯乱している! どうすれば石丸を落ち着かせられる……?!)


その時、KAZUYAの脳裏にある光景が閃いた。


K「……そうだ、手だ! 手を握れ!」

大和田「手?! こうか?!」

舞園「石丸君! ……大丈夫、大丈夫ですよ。みんなここにいます」

苗木「そうだよ。怖がらないで、落ち着いて」


KAZUYAに言われた通り大和田と舞園がそれぞれ手を握り、全員で宥めるように
優しく語りかける。それで、やっと少しだけ落ち着いたのだった。

だが酷く何かに怯えているようで、未だ涙は止まらずガクガクと震えている。
引きずるようにして部屋に戻したが、今もベッドの上で頭を抱えてうずくまっていた。


K「悪化させてしまった……」

苗木「し、仕方ないですよ! だって、今はとにかく思いついたことを試すしかないし」

霧切「それに一つわかったこともあるわ」

桑田「なにがわかったんだ?!」

霧切「今の石丸君を一人にすると大変なことになると言うことよ」

大和田「そんなのわかったうちに入るか! 兄弟の状態は悪化しちまったんだぞ?!」

舞園「落ち着いてください、大和田君」

K「そうだ。悪化の可能性があると言うのは事前に話して、それでもやるとみんなで決めただろう?」


未だ震える石丸の背中をさすってやりながらKAZUYAが宥める。苗木と舞園もそれぞれ肩を
さすったり手を握ったりして励まし、それに呼応するように石丸はフゥフゥと荒い息を吐いていた。
頭に巻かれた包帯には赤い血が滲んでいる。その痛々しい姿を見つめ、大和田は冷静になった。


大和田「……わりい。そうだったな。ついカッとなっちまった。すまねえ、霧切」

霧切「気にしてないわ。私も言い方が悪かったし。それに、人がいないのが駄目なら逆に人が
    たくさんいるのは良いことかもしれない。ローテーション制は正解かもしれないわね」

K「今まで通り、諦めずに何度も語りかけることが俺も肝要だと考えている」

苗木「うん、絶対に諦めちゃ駄目だ! 石丸君はまだ生きてここにいるんだから!」

舞園「希望を捨てずに頑張りましょう!」

「おう!」  「ああ!」  「そうね」



― コロシアイ学園生活十九日目 石丸の部屋PM0:20 ―


KAZUYAはローテーションメンバーである霧切と二人で精神疾患系統の専門書を読み漁っていた。
霧切が本を読み終えパタンと閉じると、KAZUYAも顔を上げる。


K「何か、関係のありそうなものは見つけられたか?」

霧切「いいえ」


霧切は暗い表情で首を横に振ると、また別の本を手に取る。
そうやっているとインターホンが鳴って、扉が開いた。


舞園「こんにちは~」

苗木「お疲れ様です」


鼻をつく強烈で香ばしい香りと共に、舞園と苗木が入ってきた。


霧切「あら、この匂いはもしかして……」

K「良い匂いだが、なんだそれは?」

舞園「えへへ~。料理本を見ていたらおいしそうだったから作ってみました。と言っても、
    私はまだ右手を怪我しているので苗木君に手伝ってもらいましたけど。ラザニアです!」

K「らざにあ?」


幼少のみぎりから質素で和風な生活をしてきたKAZUYAは、時折患者や関係者から美食を
振る舞われることはあるものの、根本的にあまり外食をしないので洋食の種類には疎かった。


苗木「えっ?! 先生、ラザニア知らないんですか?」

舞園「そんな……じゃあ今覚えてください。ラザニアとは平たい板状のパスタのことで、それを使った
    料理のことも指します。イタリアの代表的な家庭料理の一つであり、グラタンのマカロニを
    ラザニアにして間にミートソースを挟んだ感じでしょうか。グラタンは流石に知ってますよね?」

K「え? ああ……うん」

霧切「…………」クス


やたら押してくる舞園にKAZUYAは若干引きながら頷く。霧切が珍しく少し笑っていた。


苗木「舞園さん、ラザニアが好きなんだって」

舞園「凄く美味しく出来たから、今日はご機嫌なんですよ~!」


そう言って、舞園は盆に載せたそれを見せてくれる。確かにとても良く出来ていた。
程よく焼けたチーズの匂いと肉汁、そしてトマトの酸味が鼻腔をくすぐる。しかし、KAZUYA達の
昼食にしては何故か一皿しかない。と思っていたら、舞園は石丸の前に盆を持って行った。


K「なんだ。俺達の昼飯じゃないのか?」

舞園「残念! 今回は石丸君のために特別に作ったんです!」


ズイッと舞園は石丸の鼻頭にラザニアを突き出す。


舞園「ほーら、石丸君! ラザニア作ってみました! ラザニアって食べたことありますか?
    とっても美味しいんですよ~。今日は石丸君のために私が腕によりをかけて作ったんです」

苗木「石丸君! アイドルの舞園さんが直々に手料理を振る舞ってくれるなんて、
    こんな機会滅多にないよ! 羨ましいなぁ! ほら、ほら!」

石丸「…………」

舞園「熱々を召し上がれ! チーズが冷めちゃいますよ!」

苗木「わ、わー! すごい良い匂いだ! ヨダレが出てきちゃうなー! 僕もお腹が減ってきたよ!」


二人が何をしに来たか察し、KAZUYAと霧切は黙って石丸の様子を観察する。


石丸「…………すまない」


チラリと視線が動いたような気がしなくもないが、結局いつもと違う反応はしなかった。


舞園「駄目ですか……」

苗木「うーん。石丸君は何も食べていないし、食欲は人間の三大欲求の一つだって聞いたから、
    そこを刺激してみれば何か反応があるんじゃないかと思ったんだけどなぁ……」

K「二人で考えたのか?」

舞園「はい。案を出したのは苗木君です」

苗木「すみません。専門知識とかないし、僕なんかの案じゃ力不足だったな……」

K「そんなことないさ。なかなか良いアプローチだと思ったぞ」


確かに成果は出なかったが、いつもと違うアプローチは病気の治療に不可欠だ。そういう意味では、
ここには個性溢れる生徒達が大勢いるから、自分一人で臨むよりはよっぽど心強かった。


苗木「ありがとうございます。そうですね。諦めたら駄目だ! また別の手を考えよう」

舞園「はい! ……あ、でもこれどうしましょう。もう一つ持って来るので
    お二人で食べてもらっても良いですか? 私達はもう食べたので」

霧切「喜んで頂くわ」

K「有り難く頂戴しよう」


実は、ラザニアから発せられる強烈な匂いのせいで二人ともかなり食欲が湧いていたのだった。


苗木がもう一つラザニアと、ついでに自分達用の茶も持ってきて四人で話し込む。


苗木「何かいい手はないかなぁ」


色々と今後の方向性などを議論するが結論は出ない。ポツリとKAZUYAが漏らす。


K「とにかく、みんなで地道に話しかけて刺激を与えていくしかないと思うのだが……
  如何せんメンバーが固定されてしまっているのがな」

「…………」


最初は他の生徒達も積極的に石丸を訪ねて来てくれたのだが、最近はさっぱりだった。
未だ音沙汰ない十神を恐れて無駄な外出を控えているのもあるだろうが、一番の原因は
間違いなく石丸の奇行だろう。KAZUYAは石丸が過去の夢を見ているのだろうと推測出来たが、
生徒達にとっては意味のわからない不気味な独り言や行動にしか見えない。


K(正直、今ここにいるメンバーでさえ半分は義理で来ているようなものだ。俺だって意味の
  わからない行動をされたら戸惑うし……親しい間柄でなければ疎遠になるかもしれない)


そういう意味では苗木の前向きさやバイタリティは本当に助かった。苗木は何度へこたれても
時間が経てば必ず立ち直ったし、常に仲間を鼓舞してきた。KAZUYA自身励まされたこともある。
舞園がこんなに元気で頼りになったのも、きっと苗木の影響なのではないかと思った。


苗木「僕からも、みんなにお見舞いに来てくれるように頼んでみます!」

K「……頼む」


               ◇     ◇     ◇


ピンポーン。ピンポーン……

また苗木は腐川の部屋のインターホンを鳴らしていた。


苗木「腐川さん……」


いくら鳴らしても反応はない。それでもなんとなく立ち去りがたくて、しばらく立ったまま
扉を凝視していた。よく見たら、ネームプレートに描かれたドット絵の腐川も目を逸らしている。
今後彼女と目を合わせて話す機会があるのかと、苗木は不安に思った。


(本当は、寂しいはずなんだ……)


けして仲良くしていた訳ではないし、特段話していた訳でもない。少し話をしただけだ。
それでも、その少しの会話の中から苗木は腐川の孤独を垣間見たのだった。


(先生に頼まれたからじゃない。僕自身気になってるんだ。腐川さんとは、ちゃんと話さないと駄目だ)

「よーっす、苗木じゃん」

「あ、江ノ島さん」


声を掛けられ振り向くと、そこには江ノ島がいた。


(……マズイ。確か霧切さんによれば江ノ島さんは内通者の疑いがあるんじゃなかった?)


慎重な霧切は遠回しな言い回しをしたが、逆に霧切がそう言うということは
何らかの根拠があるということだ。警戒せねばならないだろう。


(よりによって僕は今一人だ。襲われたら一たまりもないぞ……)

「そんな所でなにしてんの? ……あー、腐川か」

「うん、ちょっとね」

「気になんの?」

「そりゃあ、気になるよ。あんなことになっちゃったけど、腐川さんは悪くないんだし……」


苗木が何気なくそう言った時、江ノ島の視線が急に鋭くなったのを感じた。


「悪くないってなんで言えんの?」

「え?」

「だって、二重人格とか言ってるけど裏人格がジェノサイダー翔だって知ってたんでしょ?
 しかもそれをずっと黙ってたんだよ? もっと早くに事件が起こってもおかしくなかったじゃん」

「そうだけど……言えなかったんじゃないかな。だって、腐川さんは
 いつも一人だったし、家族ですら信頼出来ないみたいな感じだったし……」


腐川が家族のことを語った時の、暗い表情を苗木は思い出す。


「きっと言わなきゃとは思ってたはずなんだ。でも、勇気が出なかっただけなんだよ。
 それって悪いことかな? 弱さって、誰にでもあるものだと思うんだけど」

「……そうかもね。苗木は優しいんだ」


「江ノ島さんにはないの? そういう弱さ」

「え、アタシィ?」


聞いてからまずかったかと苗木は焦る。こういう突っ込んだことはいきなり聞くものじゃないだろう。


「あ、ゴメン! いきなりこんなこと聞いて失礼だったね」

「別にそんなこと……」

「僕、行く所があるから! じゃあ!」


そう言うと、苗木は去って行ってしまった。


(話……聞いてもらいたかったのにな)





― 苗木行動 ―

えー、久々の苗木行動でございます。仲間も選べます。
ちなみに、とあるキャラの絶望度が結構ヤバイ感じになってますので要注意。
相談する時は安価下を使いましょう。

まず一人目(十神、腐川、江ノ島、石丸以外)>>275

ksk

絶望度?

とりあえず大和田かな

葉隠


では、二人目>>280

朝日奈

>>274
隠しパラメータのようなものです。高いと精神に問題が起こりやすくなります

ちなみにヒントですが、絶望度が高いキャラは発言や行動に影響が出ます


ラスト>>283

舞園

セレス

葉隠

絶望度というなら、霧切さんなんか結構溜まってたりするんかしら
小説読むとトップクラスに耐性ありそうではあるけど

大和田、朝日奈、セレスですね。了解しました

今日はここまでです。いつまでも鬱々グダグダしてしまってすみません
もう何回か投下したらまた大きめのイベントが来ると思いますので、
どうか気長にお付き合いくだされば幸いです

あと、ダンガンSSを読んでる人なら多分気付かれたと思いますが、舞園さんのラザニア好きは
ダベミ先生へのオマージュです。1がダンガンSSにハマった切欠は偶然ネットサーフィンで
先生の作品を読んだことなので。今やってる大泉洋クロスとろんぱっちも面白いのでオススメ

それでは。

乙です


残姉ちゃんの方がよかったかなと今更後悔

江ノ島は除外されてる。
セレスとか十神の次ぐらいに絶望度は低そうだけど、まぁ狙い撃ちにしなくてもそれはそれでどうなるかだな。

山田が少し気になるかな。セレスと揉めてるみたいだし
葉隠はビビってる割にはまだ余裕ある気がする。会話の内容的に

全員生存ルートが見えない

今更だけどKの身長って195だよ
さくらちゃんいくらだったかな?

>>292
どこに載ってた?doctor.K?

さくらちゃんは192か193だからギリギリだったな…

さくらちゃんだって普通に成長してるんだよ!

絶望度と言うと、自分のせいでちーたん殺しかけ&石丸負傷・その流れで事件発生、ちーたん危うく死にかけ・石丸廃人化&腐川も負傷・裁判で一度もBREAK無し・オシオキの実態披露・脱出の糸口も見つからず、憤りを十神にぶつける事も出来ずちーたんに相談する事も出来ず…でどう見ても大和田がトップ独走してそうとは思うのだが…
どっかで他キャラのフラグ見逃してるかもしれないから怖いな

ゾノさんはやばいのか放置して平気なのか判断に困る

>>292
本当ですか?結構危ない感じでしたね。出典も教えて頂けると助かります

>>296
一応駒園さんは覚醒イベント扱いなので、基本的には大丈夫です。
……あくまで基本的には、ですが


質問ですが、もしかして最近地の文多すぎて読みづらいとかないでしょうか?
もしくは単純に話が進まなくてつまらない、とか内容が鬱すぎて読むのが苦痛とか

最近○○の出番が少ないから増やして、とかでもいいので要望などは気軽に書いてください
ちなみに、現状はけして明るくありませんがBADエンド確定してる訳ではないです
まだまだ挽回することは不可能ではないので、絶望しないで読んで頂けたら

次の投下は……多分明後日くらい

むしろこれ、ベストな選択どれだったのか差し支えない範囲で知りたいわww

そしてその場合どうなってたかも

かずや選びたい

待ってる…

まだ先の話になるけど、trueとgoodとbadendをエンディング後見たいです。

なんの不満もない、すごく面白いです
毎回毎回更新を楽しみにしてます

桑田かわいいよ桑田

毎回毎回とても読みやすいし楽しいですよ!
要望お願い出来るならセットでもバラバラでもタイトルコールの3人が見たいです

ふと思ったが
十神って部屋から出さなくても
部屋のドアの前にバリケードみたいなもの置いたりして
ドアを開けれなくしたりとかすればいいんじゃ?

>>298
多分この章が終わったら良い方向か悪い方向に突き抜けてキリも良くなるので
解説できるかもしれません。というか、石丸くんの怪我の解説もすっかり忘れてた…

>>301
書きますよー

>>302>>304
ありがとう…感想や面白いというレスをもらえるだけで1はやる気がMAXに

>>305
書き忘れていましたが、実はそういうやりとりはありました
が、当のKAZUYAが反対したんですね。万が一急に体調不良起こしたりした時に
すぐ外に出て助けを求められずに死んだりしたら困るといって。散々迷惑かけられたけど、
やっぱり生徒の体調を第一に考えてしまう所が医者であるKAZUYAの甘さなんですね


今セレっさん編書いてる所。多分夜には来れそう。では

また書こうとしたこと忘れてしまった…


>>304
1としてもタイトルコールの三人はもっと出したいんですよね。セレスさんは要所要所で出てくるし
結構存在感が強いからいいけど葉隠山田コンビは本当に出番が…全員均等に出して活躍もさせたいのですが
ストーリー上どうしてもKAZUYA派と敵対派閥である十神君あたりの出番が強いのが悩みどころ

1の分析としては朝日奈葉隠山田江ノ島あたりは恐らく出番が少ないから今後テコ入れをしていく予定
苗木君も主人公の割に影が薄いなーと思ってたら偶然にも前回と今回は苗木回になりましたね。頑張れ主人公

今のところBADEND一直線のような気が…
まあKAZUYA先生ならなんとかしてくれる!


とりあえず慌てて江ノ島から離れた苗木だったが、
本当は行く当てなどなかったので緊急避難的に脱衣所に飛び込んだ。


「お、苗木か」

「あ、大和田君」


脱衣所には大和田がいた。ちょうど入る所だったらしく、上着を脱いでいる最中である。


「(……危ない。女子でなくて良かった)あれ? 不二咲君は?」

「ああ。もう大分傷も塞がってきて部屋の中程度なら動いていいって言われたし、いくら仲が
 良くても四六時中一緒じゃ気をつかうだろ? だから時々お互いの時間を作ることにしてんだ」

「もちろん、鍵はしっかりかけさせてるし俺か先公以外の人間が来ても絶対開けるなって言ってある」

「そうなんだ」

(確かに、不二咲君が入院してる間はほとんどずっと大和田君がついてたし、そろそろ
 お互いの時間が欲しくなるよね。……特に、大和田君は石丸君の件もあるし)


不二咲はまだ石丸のことを知らない。何も知らない不二咲に対し嘘をつき続けるのは、
不器用な大和田にとってはさぞかし苦行だろう。当の不二咲が苦しげな大和田の表情を察し、
大和田の前で極力石丸の話を出さなかったから今まで保っていたとも言える。


「で、オメエはなんの用でここに来たんだ? 脱がねえってことは風呂以外の用なんだろ?」

「あ、実はね……」


大和田は部屋に引きこもっていた時の情報を知らないので、その件の説明も併せてすることにした。


「……そうか。女子の何人かが怪しいのか」

「うん。今回の事件で腐川さんも内通者じゃなかったみたいだから、更に狭まるね」

「つーと……セレス、江ノ島、大神、朝日奈か。下手したら全員内通者ってことかよ?」

「あ、でも大神さんと朝日奈さんの両方はないだろうって先生が言ってたよ。だから、人数が最大の
 場合はセレスさん、江ノ島さん、大神さん。もしくは大神さんの代わりに朝日奈さんになるのかな」

「セレスはほぼ確定でいいだろ。あの女、前から胡散臭い感じがしてたんだ。江ノ島は……
 まあ要注意ってとこか? 霧切が頭の回るヤツってのは裁判で散々見せつけられたからな」


大和田は霧切とそこまで会話をしたことがなかったが、今までの行動や言動から
彼女が只者ではない、ということは既に薄々感じ取っていた。


「ハハ……霧切さんが内通者でなくて良かったよ」

「そういや、なんで霧切は内通者じゃねえってわかってるんだ?」

「元々KAZUYA先生の知り合いで身元がしっかりしてるかららしいよ」

「成程な。それにしても……残りは大神と朝日奈か。あいつらが内通者だったら、キツイな……」

「……うん」


あのいつも明るくて元気な朝日奈が内通者だったら、こちらの精神的ダメージが大きい。
大神も何かと味方をしてくれるし、何より戦力的に敵だと考えるだけで血の気が引く。


「セレスと江ノ島……いや、もっと欲を言えばセレス一人ならいいんだが」

「……そうだね」


しかし、口ではそう言ったがお互い江ノ島に対する疑惑は浅くなかった。特に大和田の表情は鋭い。


(……言われてみりゃ江ノ島のヤツはちょっと怪しいんだよな。こんな状況だってのに、
 他のヤツらとつるんでるところをほとんど見たことがねえ。十神やセレスみたいに一人が
 好きってタイプにゃ見えねえのによ。かと言って葉隠みたいにビビってるワケでもねえし)

「大和田君はこれからお風呂?」

「ああ、最近部屋にこもりっきりだったからな。久しぶりにサウナに入りてえと思ったし……」


そこまで言って、ふと大和田は何かを考えた。


「あー、そうだ……なあ、苗木。一緒にサウナ入らねえか?」

「え?! えーっと、僕は……」

「大丈夫だ。ムリはさせねえよ。すぐに出ても構わねえからさ」

「そう? じゃあ、少しだけなら付き合うけど」


大和田とサウナに入る、ということは苗木にとって非常に覚悟のいる行為であったが、
何だか大和田の表情が優れない気がしたので、苗木も付き合ってやることにした。


「…………」

「うう、やっぱり暑いなぁ。こんな所に長時間いられるなんて、流石大和田君だよね」

「……俺だけじゃねえ。兄弟や先公もだ」

「あっ、ごめん……」

「バカ。変に気ィつかうんじゃねえよ。俺達ゃ仲間だろーが」


石丸の存在を思い出させたことを苗木は謝ったが、大和田は苗木のそんな気遣いを逆に一蹴した。


「うん、そうだね」

「……つっても、一人でここに来るといろいろ思い出しちまいそうだからオメエを誘ったんだけどな」

「大和田君……」

「…………」


あの裁判で己の弱さを乗り越えた大和田だったが、仲間のこと――それもこと石丸に
関してはまた別の問題だった。ガシガシと頭を乱暴に掻くと、肩を落として大きな溜息をつく。


「ハァ……ダメだなぁ、俺は……」

「駄目じゃないよ。よく頑張ってるよ。昔の君だったら、今頃きっとヤケになってたんじゃないかな」

「そうだな。……今だって、オメエになにがわかるっつって殴りかかってただろうよ」

「……シャレにならないんだけど」


喧嘩を仲裁しようとして何度か殴られかけた身としては、縮こまる思いだ。KAZUYAや石丸が
止めてくれなかったら、自分は何回巻き添えで殴られていたのだろう。そう考えると、
確かに大きな失敗も犯してしまったが、自分達を何度も助けてくれたのもまた石丸だった。


(石丸君……)


サウナで感傷的になるのは何も大和田だけではない。苗木も、特に医療実習関連で
石丸とは一緒にいることが多かったので、他の生徒よりも色々思う所があった。

そうやって男二人は過去に思いを巡らせながらサウナの熱気に身を委ねていたが、そんな時だった。

――大和田が突然妙なことを言い出したのは。


「ところで苗木よぉ、聞きたいことがあるんだが……」

「何?」

「いや……なんか、変なんだよなぁ。ここに来ると暑くて苦しいはずなのに、カーッと頭が
 熱くなる反面どっか体の芯の部分は冷えるって言うか、なんかを思い出しそうな気がしてよ」

「思い出す?」

「ああ。なんなんだろうな、この消化不良みたいな気持ち悪さは。オメエはこういうことってあるか?」

「うーん。ちょっと僕にはわからないかな」


そうだよなぁ、と呟きながら大和田は不思議そうに首を捻る。


「なにか、すっげぇ大事なことを忘れてる気がして――時々ゾッとすんだ」


そう漏らすと、この暑さにもかかわらず大和田はブルリと大きく震えた。


「大事なこと……」


言われてみて、苗木も何か凄く大切なことを忘れているような気がしてきた。まるで、自分の
人生の一部分がそのまま消されてしまったような……。もしKAZUYAがこの場にいたら、きっと
寂しげな顔をするのだろう。……? 寂しげな顔? 何故先生が寂しげな顔をするんだ?

……と、取り留めもなく苗木の頭の中に違和感や疑問が浮かんで来たが、
あまり深く考えると同じように気分が悪くなりそうなので、無理矢理考えるのをやめた。


「……もしかして、何かいいアイディアが閃きかけてるってことじゃない?」

「そうだといいんだけどな」

「きっとそうだよ」


その後、二人は久しぶりに他愛のない会話をした。苗木がバイクのパーツ名を間違えても
大和田は笑って許してくれたりして、本当に丸くなったなぁとしみじみ思ったりもした。


「じゃあ、ちょっとクラクラしてきたから僕はそろそろ出るね」

「おう、なんかムリさせちまったみてえで悪いな」

「そんなことないよ。大和田君と久しぶりにゆっくり話せて楽しかったよ」

「……俺もだ。また話そうな!」


大和田はあの二つ目の事件以来、初めて心から笑っていた。
苗木もその顔を見て安心し、その場を後にしたのだった。


・・・


(あぁ~……大和田君には平気だって言ったけどフラフラする。食堂で何か飲もう)

「……あ、苗木だ」

「朝日奈さん」


食堂では、朝日奈が一人で山盛りのドーナツを食べていた。


「大丈夫? なんか顔真っ赤だよ?」

「ハハ……大和田君と一緒にちょっとサウナに入ってて。朝日奈さんはまたドーナツ?」

「うん」

「相変わらず凄い量だね」

「そうでもないよ」


「大神さんは?」

「多分、体育館で武術の鍛練だと思う」

「そう……(多分、思う……か)」

(朝日奈さん、最近一人でいることが多いな。モノクマに言われたこと気にしてるのかな?)


朝日奈は元々プールや体育館で体を動かしていることが多かったため、苗木の行動範囲とは
あまりかぶらなかった。しかし、最近は手持ち無沙汰に学園内や寄宿舎にポツンといることが多い。

それも、一人でだ。大神と一緒にいる時も勿論あるが、
少なくとも前ほど楽しそうにしている姿は見られなくなった。


(僕的には朝日奈さんは内通者じゃないって信じたいんだよなぁ。それに、
 もし内通者じゃないならあんまり孤立化させておくのはまずいんじゃ……)

「苗木」

「なに?」

「良かったら、一緒に食べない? ……その、イヤでなければ」


そう問い掛ける朝日奈の表情には、かつての明るさなど微塵も感じられなかった。
直感的に、苗木は非常に不味いものを感じ取り、同席することにする。


(うわ……朝日奈さん、精神的にかなり参ってるよ……)

「僕で良ければいくらでも付き合うよ」

「ありがとう」

「…………」

「…………」


(き、気まずい! そういえば最近はずっと石丸君や腐川さんや不二咲君のことに手一杯で、
 他の人達とコミュニケーションを取ってなかった。朝食会もその話ばっかりだったし)


苗木はどちらかと言うと、あまりグループに囚われず誰とでも仲良く出来るタイプの人間である。
特に、モノクマのせいで生徒達が仲違いを起こしてからは、尚更別け隔てなく接するようにしていた。

が、最近はどうしても解決しなければならない問題がいくつかあったため、仲間内で
相談することが多くなってしまっていた。内通者問題が影を落としていたということもある。
もっと直接的な言い方をすると、内通者候補の人間を無意識に避けてしまっていたのだ。


「……石丸の調子はどう?」


苗木の気まずさを悟ったのか、或いは朝日奈も同じように
気まずいと思っていたのか、先に口を開いたのは朝日奈だった。


「え? えっと、前ほど独り言は言わなくなったけどまだ時々幻覚を見るみたい」

「……そう」

「朝日奈さんにもお見舞い来て欲しいな!」

「うん……ごめんね。あんまり行けてなくて……」

「あ、その、責めてる訳じゃないんだ。行きづらいっていうのは僕もよくわかるし」

「ううん、気にしないで。私もね、行かなきゃとは思ってるんだ……」

「……やっぱり、怖い?」

「うん……」


暫しの沈黙を挟み、朝日奈は話し出した。


「私の中のあいつってさ、いつもうるさいくらい元気で色々と周りを仕切ってて。
 一見頼りになるかと思えば、とんでもなくズレてたり突然変なこと言いだしたり……」

「ハハ、そんな所あるよね」

「でも、基本的には責任感があって仲間思いのリーダーって感じで……そんなヤツが、
 まさかあんな風になっちゃうなんて……正直私もまだ受け入れられないというか」

「うん、わかるよ……」

「ううん。苗木には、多分わからないと思うよ」

「えっ」


予想外の言葉に苗木は戸惑う。だが、朝日奈の言葉に悪意や敵意のような感情は
感じられなかった。そのまま朝日奈は淡々と続ける。


「KAZUYA先生も苗木も強いよね。先生は仲良くしてた桑田に殺されかかったのに、それをずっと
 黙っててしかも庇ってあげた。苗木は舞園ちゃんに利用されても、すぐ許してあげたし」

「…………」

「私はなんで……あの時庇ってあげなかったんだろう。十神の言うことなんて無視すれば良かったのに」

「朝日奈さん、それは違……」

「違わないよ!! 確かに石丸のやったことはみんなを危険にしたかもしれないけど、
 わざとじゃないんだし、そもそも精神的にかなり疲れてるみたいだった……」


苗木の言葉を遮ると、溜めていたものを吐き出すかのように朝日奈は叫んだ。
次の瞬間にはまた元のように視線と声を落としていたが、その言葉は切々としていた。


「思えば、いつもみんなのためにってどこかムリしてる感じだったし。
 多分……裁判が始まった時には、もうどこかおかしくなってたんだと思う」

「せめて、あの時みんなで庇ってあげてたらここまで酷いことにはならなかったかもしれないのに」

「…………」

「大人の先生はともかく石丸は私達と同じ高校生なんだから、リーダーだからって
 あれもこれも任せ過ぎちゃダメだったんだよ! もっと色々協力してあげてたら……」

「朝日奈さん!」


苗木の苦しそうな呼び声で、朝日奈は我に返った。


「あ、ごめん……グチばっかり言っちゃって……」

「ううん。愚痴ならいくらでも言っていいんだ。僕は平気だから。……でも、
 もしあの時こうしていればって後悔しても、それは何にもならないよ」

「…………」

「大丈夫。石丸君は少し疲れて休んでるだけ。みんなで話しかければきっと良くなる」

「そうだね……」

「まだ気持ちの整理がつかないなら今は無理しなくていいから。落ち着いた頃においでよ。ね?」

「……うん」

(苗木は、強いな……)


石丸の見舞いには行けなくなった朝日奈だが、不二咲の見舞いには何度も行っていた。
だが、不二咲はいつも石丸は大丈夫だろうか。早く元気になって石丸に会いたいとそればかり
言うので、すっかり朝日奈は気が滅入って最近は不二咲への見舞いすら行けなくなっていた。


(私も、本当はもっとみんなのことを手伝わなきゃいけないのに……)


折角大神と離れて自由な時間がたくさん出来たのだから、他の生徒と一緒になって
積極的に病人の介護をすべきだと考えてはいたが、いざやろうと思っても出来ないのだ。
そんな自分の弱さを直視し、朝日奈は度々自己嫌悪に陥っていた。

……石丸が元気だったら、そんな彼女に大丈夫かと声をかけてくれただろう。鈍い男ではあったが、
落ち込んでいる人間に気が付かない程ではなかった。何より彼は内通者の存在など信じていなかった。
それが必ずしも良い結果を生み出すとは限らなかったが、彼女に対しては良い方向に作用しただろう。


「今はまだムリだけど、絶対行くから……先生にもそう伝えておいてもらえる?」

「うん、わかった。……でも、あんまりムリはしないでね?」

「……ありがとう」


そして、空いた皿を片付け朝日奈は食堂から去って行った。
一人その場に取り残された苗木は、朝日奈との会話を脳内で反芻する。


(……朝日奈さんは、内通者じゃないんじゃないかな。あんな表情が演技で作れるものだろうか)

(先生じゃないけど、女心って難しいなぁ……)


・・・


そうやって苗木があれこれ考えていると、食堂にある人物がやって来た。


「おや、苗木誠殿。お一人ですか? 珍しい」

「あ。山田君」


そこには盆にティーセットを載せた山田がいた。


「またセレスさんにお茶を淹れてるの?」

「はい。そうです……あ、そうだ! 苗木殿に、折り入ってお願いしたいことがあるのですが」

「?」


― 娯楽室 PM3:51 ―


苗木が山田と共に娯楽室に入ると、まず真っ先に目に入ったのは中央に陣取るセレスの姿であった。
次に、セレスから鬱陶しそうに睨まれているがそれに全く気付いていない葉隠の頭が目に入る。


セレス「あら、苗木君ではありませんか」

葉隠「お、苗木っちも遊びに来たんかー?」

苗木「やあ、セレスさんに葉隠君」

セレス「娯楽室に苗木君が来るなんて、珍しいこともありますわね」

苗木「まあ、たまにはね」

山田「な、苗木誠殿がどうしても来たいと言ったので、連れてきてしまったのですが……」

セレス「一緒にポーカーでもやりますか?」ニコリ

苗木「う、うん。そうさせてもらおうかな」

山田「…………」


山田に一瞥すらくれないセレスの態度に苗木は聞いていた以上に深刻なものを感じ、
とりあえずセレスの向かいの席に座った。羨ましそうに見つめる山田の視線が刺さって痛い。


葉隠「お、ポーカーすんのか? なら俺も……」

山田「葉隠康比呂殿! 僕はあなたにダーツの一騎打ちを挑みます! ささ、こっちへ……」

葉隠「え、ちょ、引っ張らないでくれって! おいおい!」


山田は無理矢理葉隠を引っ張ると、苗木に熱苦しくアイコンタクトを送る。
苗木はそんな山田に曖昧に頷き返すと、セレスへ向き直った。


苗木(山田君にセレスさんとの仲を取り持ってくれって頼まれたけど……どうしたものかな)


セレスと山田が揉めているのは朝食会の時の態度などでも明らかだったが、果たしてセレスと
以前のように仲良くなるのが山田にとってプラスなのかマイナスなのか苗木には判断つかなかった。

何故ならセレスは内通者かもしれないのだ。もしかしたら、これを機に彼女と距離を取る方が
山田にとっては結果的に良いのかもしれない。だが、万が一濡れ衣だったらと思うと……


セレス「苗木君、どうかされましたか?」

苗木「あ、ううん! 何でもないよ!」


セレスに話しかけられ、苗木は考えを中断した。なるようになるしかない、と腹を括る。


セレス「うるさいのがあちらへと行きましたし、早速勝負と行きましょうか。何を賭けますか?」

苗木「え?! 何か賭けるの?!」

セレス「当たり前です。わたくしは超高校級のギャンブラーですのよ?
     ノーレートでの勝負など認めません」

苗木「でも、先生はノーレートで勝負したって聞いたけど……」

セレス「流石に教員相手に賭博は認められませんからね」

苗木「そんな、相手によって変える程度の矜持 セレス「お黙りなさい」

苗木「……はい」


セレスに押し切られ、苗木は山田の代わりにロイヤルミルクティーを淹れる権利や
半日パシリ券など適当な物を賭けて勝負をすることになってしまった。


セレス(フフッ、鴨が葱を背負って来るとはこのことですわね)


最悪だ、と内心呟く苗木に対してセレスは上機嫌だった。そう。元々庶民の苗木に対して
セレスは賭ける物など期待していない。そもそもここで金銭を賭けても使う場所がないのだから。


セレス(苗木君……一度は殺害対象として諦めていましたが、こうして一人でわたくしの所に
     ノコノコ現れるとは、思っていたより警戒心は薄そうですわね)

セレス(まあ、苗木君は見たままの性格でしょうがよく観察する絶好のチャンスですわ。
     ここでパシリの約束をさせておけば、後々役に立つ可能性もありますし)

苗木(セレスさん、笑顔が怖いよ。絶対何か悪だくみしてるよ……)汗


ポーカーフェイスは完璧のはずなのに、既にセレスの考えは苗木に読まれていた。


セレス「では、勝負です」

苗木「うん……(勝てる気がしない……)」


そして一時間後。


苗木「あ、ああ……」

セレス「まさかこれほど弱いとは思いませんでしたわ。本来なら一文無しで身売り確定ですわね」

苗木「う、セレスさん……それはちょっと……」

セレス「どうです? わたくしの執事となって一生わたくしに尽くすというのは?
     大サービスと言いますか、むしろこの上ない最上級の名誉だと思いますが」

苗木「いや、えっと、それは……困るというか……」

苗木「あの、今はやらなくちゃいけない仕事とか当番とかあるから……勘弁してください」

セレス「…………」

苗木(どうしよう……この顔は何か無茶を言ってくる顔だ。
    いや、今の時点でも十分無茶なこと言ってると思うけど……)

セレス「いいでしょう」

苗木「……は?」


予想外の言葉に苗木は耳を疑う。セレスは特に変わった素振りも見せず紅茶を口に運んだ。


セレス「今日の所は半日パシリ券三枚で勘弁して差し上げると言ったのです」

苗木「ほ、本当?!」

セレス(フフ……ここで恩を売っておけば、苗木君はわたくしに感謝して今後も色々
     尽くしてくれるはず。……そうなれば、殺害のチャンスも自然とやってきますわ)


表面はニコニコと笑いながらも、セレスは未だに殺しの算段をしていたのだった。


セレス「ええ。ただし、その代わりといってはなんですが時々ここに顔を出してくださる?
     いい加減あの二人の声を聞くのは飽き飽きしていましたので」


チラリとセレスが視線をやった方を苗木も見やる。


山田「葉隠殿! ババ抜きに占いを使うなど卑怯ですぞ!」

葉隠「うるせえ! 世の中勝った方が正義なんだべ! どんな手を使っても勝てばいいんだ!」

山田「あんまりです!」

葉隠「とにかく、この水晶ドクロは頂いていくべ! 実は前からずっと狙ってたんだ」

山田「ああー、折角ガチャガチャで出した僕のコレクションがー!!」


ワイワイギャーギャー。


苗木「……………………」

セレス「わたくしの言いたいこと、わかって頂けました?」

苗木「……うん」


セレス「苗木君は素直でよろしいですわね。もう少しでCランクに昇格出来ますわ」

苗木「Cランク?」

セレス「わたくし、周囲の人間をランクごとに分けるクセがありますの」

苗木(悪趣味なクセだな……)

セレス「平均はDランク。わたくしがなんの興味も抱かないレベルですわ。この学園の大半の方は
     ここに該当します。そして、最低はF。存在も許せないレベルですわね」

苗木「ちなみに、あそこの二人は……?」

セレス「限りなくFに近いEでしょうか。本来Fの人間は機関に頼んで暗殺してもらうのですが、
     あの二人に限ってはここに監禁されていてかえって幸運でしたわね」

苗木(え、冗談だよね? ……冗談であってほしい)


苗木はセレスの言葉の真偽がわからずただただ混乱する。でっち上げだと言い切れればいいが、
この学園に通うような人間だと実際に出来る気がするから困りモノである。


セレス「ちなみに、AはおろかBランクでさえ世界中探してもどこにも存在しません。
     つまり、現段階ではCが最高ランクとなりますわね。頑張ってくださいまし」

苗木「あ、うん(何を頑張ればいいんだろう……)」

セレス「更に」


そこで会話は終わらずに、テレフォンショッピングのようにセレスは畳み掛けた。


セレス「Cランクとなれば、わたくしの下僕である“ナイト”になることも可能です」

苗木「へえ……」

セレス「苗木君なら良いナイトになれると思うのです。オススメしますわ」

苗木「はぁ。……あの、普通の友達じゃ駄目なのかな?」

セレス「わたくしのナイトでは不服と?」


苗木「いや、そういう訳じゃないけど……」

セレス「……舞園さんのナイトは喜んでやっているみたいですが」

苗木「なんでそこで舞園さんの名前が出るのさ?!」カァァ


舞園の名前を出され思わず苗木は赤面する。その反応を見てセレスはあからさまに顔をしかめた。


セレス「……チッ」

苗木「舌打ちはやめてよ……」


・・・


苗木(ハア、何とか身売りは避けられたけど散々な結果だった。結局セレスさんが内通者なのか
    そうでないかはわからなかったけど、油断が出来ない相手だっていうのはよくわかったよ)

山田「なーえーぎーまーこーとーどーのー!!」

苗木「あ、山田君。どうしたの?」

山田「セレス殿の反応はどうでした? 僕のことは許していただけましたか?!」

苗木「あ……ごめん。勝負でいっぱいっぱいになってて、すっかり忘れてたよ……」

山田「ななな、なんとォッ?!」ガーン!

苗木「あ、えーと……ごめんね?」

山田「ぬおぉ。やはり、拙者はもう二度と許してもらえないのか……(´;ω;`)シクシク」

苗木「本当にごめん。次はちゃんと話しておくから……」

山田「頼みましたぞ……」


山田の恨めしげな目線から逃げるように、苗木は寄宿舎に戻った。


ここまで。アップダウンの激しい回になってしまった


>>308
安価を、安価の力を信じなさい……

乙です

乙です
安全地帯がないよ…

最初の頃、KAZUYAがみんなと前から知り合いだったって言ってるのを、みんな聞いてるよね。
信頼関係がある今でたらめだったとも思わないだろうし、そこから糸口掴むやつが出てきてもおかしくなさそうだな。

あの件は結局勘違いで終わっちゃったからなぁ。Kは頭にダメージ受けてたから尚更そう思われただろうし
そもそも仲間になったキャラは無条件にKのこと信じるから、問題はやっぱり十神の気がする

あと、毎回毎回[ピーーー]気満々過ぎるセレス

朝日奈の絶望度ヤバかったみたいだな。選ばなかったらどうなっていたのか…
あと、大和田と苗木は少し思い出しかけてんのかね?

てか十神頭は悪くないんだしKAZUYAが疑ってる過去の情報と現在の状況を照らし合わせれば外がどうなってるかくらい予想できると思うんだけどなあ…

大和田と石丸を一緒にサウナに入れれば何とかなるんじゃね?

十神もセレスも今やってることが黒幕の掌で踊ってると同義って気づけばいいんだけど
こいつら協調性ないからなぁ

つーか苗木くんまたピンチか?

十神は勝つこと、セレスは野望に囚われてるからね
考えを改めないと近い将来破滅する。セレスは実際破滅したけど

大和田は遠心分離機の記憶でも残ってんのかな?
大神は動くとしたら次だし、この選択がベターだと信じたい
霧切も心配なんだけどね


               ◇     ◇     ◇


苗木は娯楽室から寄宿舎に戻ると、もう一度腐川の部屋に寄った。相変わらず反応が
得られなかったので、そのままローテーション通り石丸の部屋へと向かう。


「こんにちは」

「ああ。今日は、何かあったか?」


苗木はいつものようにその日あったことをKAZUYAに話し、KAZUYAは黙って聞いている。


(朝日奈か……難しいな。俺としても、内通者でないなら是非引き込みたい所ではあるが……)


KAZUYAとしては、毎朝朝食会の前に集まって仲良くしていたメンバーは信じたい。
あの楽しかった時間が嘘ではなかったと信じたい。信じたいが、自分の判断ミスで散々生徒を
傷つけることになってしまった手前、どうしても今一歩の所で煮え切ることが出来なかった。


「腐川はどうだった?」

「相変わらず、出てきてくれませんでした」

「そうか……」

「腐川さん、大丈夫かな……」

「ムゥ、翔がこの間食事を摂ってくれたがまた丸一日空いてしまった。
 中で倒れられていたりしたら心配だ。いよいよ鍵を使うしかないな」

「石丸君は僕が見ているので、行ってあげてください」

「わかった。頼む」


― 腐川の部屋 PM5:04 ―


KAZUYAは預かった鍵を使い腐川の部屋に侵入した。……ただでさえ密閉されているのに、
空気が澱んでいる。それに、女性の部屋にこんな感想を持つのはどうかと思うが、少し臭った。


「腐川」


腐川はベッドに力無く横たわっていたが、KAZUYAの声を聞き仰天して跳ね起きる。


「な、な、なんであんたがここにっ……?!」

「翔が、俺に鍵をくれた。君にもしものことがあれば助けてほしいと」

「ハァ?! アイツが?!」

「心配していたようだぞ」

「ば、馬鹿らしい! アイツは殺人鬼よ。アタシの身になにかあったら自分が困るからでしょ!」

「本当にそれだけだろうか?」

「……なによ」

「いや、とにかく外に出ないか? みんな心配している」

「嫌よ! 心配? そりゃ監禁されてるうえメンバーに殺人鬼がいれば殺されないか心配よね」

「そうではない! 君の心配だ。ハッキリ言おう。確かにメンバーの中には翔を
 怖がっている者もいる。だが純粋に君のことを心配しているメンバーもいるのだ」

「嘘よ! アタシは不二咲を殺そうとしたのよ?! 人殺しじゃない!!」

「不二咲は怒ってなどいない。それに、他の誰がなんと言おうと俺は君を救いたいのだ!」


KAZUYAがそう叫ぶと、腐川は少し俯いた。


「……まるで、小説の主人公がヒロインに言うような台詞ね」

「作り話と言いたいのか? だが、病院で様々なドラマや人間模様を見てきた
 俺だからわかる。現実は時に物語を凌駕するぞ。俺の気持ちに嘘はない」

「ふん、救うってどうやって? 霧切から聞いたわよ。石丸がおかしくなったそうじゃない」

「…………!」


KAZUYAは、自分の顔が引きつったのを他人事のように感じていた。


「あいつ、あんたに憧れて医者になるとか言い出してしょっちゅう保健室に通ってたわよね。
 そんな大事な教え子すら救えないあんたが、一体どうやってアタシを救う訳?」

「…………」


何も言い返せない。ここで言葉を失うのは説得力に欠けるとわかっているのに。
だが、それだけKAZUYAの心の中で石丸のことは大きく占めていたのだ。

KAZUYAが今まで生徒には見せたことのないような哀しげな顔をしたことに、逆に腐川が動揺した。


「ほ、ほら! 今だってアタシみたいなうざい根暗、どうなってもいいって考えたでしょ!」

「わかってんのよ、アタシには全部! アタシみたいな憎たらしい人間が
 誰かから愛される訳ないってことくらい……! はっきり言えば良いじゃない!」

「それは違うぞ! 俺は……」

「出てって! 話はもう済んだでしょ! 出ていきなさいよ!」


「落ち着いてくれ! とりあえず食事だけでも摂って欲しい! このままでは死んでしまうぞ」

「望むところよ!」


KAZUYAは暴れる腐川の両腕を掴むが、一度起こったヒステリーは止まりそうにない。


(クッ、やむを得んか)

「すまん、腐川」


仕方なく、KAZUYAは持ち込んでいた胡椒を腐川に振り掛けた。


「ふぇ、ぶぇっくしょぉん!」


女子高生としては少々どうかと思う盛大なクシャミと共に、腐川は一変する。


「どーもー、意外と家庭的な殺人鬼でーす。アレ? KAZUYAセンセじゃないのー?」

「…………」

「どしたん? なんか泣きそうな顔してるけど。だいじょぶー?」

「……いや、大丈夫だ。それより、また腐川の代わりに食事を摂ってくれないか?」

「あー、あのバカまーだ絶賛ハンガーストライキ中ってワケ? どんだけ根暗なんだっつーの」

「俺が悪いのだ。腐川の説得に失敗した」

「別にセンセは悪くないっしょ。あいつのメンタルが豆腐なだけだし。そーやって、なんでも
 かんでも自分のせいにしてると病気になっちまうぜ。これが本当の医者の不養生。なんちって!」

「……騒ぎになるとまずいから、俺が同行する」


・・・


幸い、食堂にジェノサイダーを目の仇にする者はなく、ただ大神と朝日奈は無言でその場を離れた。
ガツガツと元気良く食事を楽しむジェノサイダーに、KAZUYAはふと問い掛ける。


「翔よ、一つ聞きたいことがあるのだが」

「なーに?」

「俺のことをどう思っている?」


ジェノサイダーはブフォッ!と盛大に吹き出してむせた。


「ちょ、ちょっとちょっといきなりなにぃ?! まさか愛の告白?! 悪いけど、
 アタシにはもう白夜様って人がいるから愛人くらいならまあ考えてあげても……」

「違う」

「ですよねー。カズちんがそんな大胆なこと出来るワケないもんねー。ゲラゲラゲラ!」

「純粋に俺のことをどう思っているのか聞いてみたかったんだ。好きか、嫌いか」

「そりゃ好きに決まってんじゃーん。ぶっちゃけ一時期命狙ってたことあるし」

「……どうしてだ?」

「どーして、って萌える男を殺すのがアタシのアイデンティティだし、それをどーしてと言われても」

「いや、そうではなくどうして俺のことが好きなんだ?」

「えぇー? 言わせちゃう? それ乙女に言わせちゃう?!」

「俺は真剣に聞いてるんだ……」


「今日のセンセ、ノリわるー。そりゃいくら殺人鬼だからって節操なく殺るワケじゃなくて
 アタシは美学を持った真っ当な殺人鬼だからね。敵か味方かくらいは認識出来るわよ」

「俺は味方だから好きなのか?」

「ま、そういうこと。……マジメな話をすっとセンセはアタシのこと理解してくれるし」

「理解?」


すると、珍しくジェノサイダーは神妙な顔をして箸を置き頬杖をついた。


「根暗がここに来てから、アタシは治療っつー目的でいろんなヤツに会わせられたワケ。
 脳科学者、心理学者、カウンセラーに神経学者とか。現役の超高校級もOBも問わずね。
 それこそ、センセと同じ超国家級クラスのお偉方とも何人か会ってきたわよ」

(……やはり、ジェノサイダーは過去の記憶があるのか!)


それに対してはKAZUYAの想像通りでありさして驚きはしなかったものの、
ジェノサイダーがその後にした話は少なからず驚く羽目になった。


「でもさ、治療って目的よりもなんか実験目的みたいな空気をアタシは感じちゃってさぁ。
 センセは病院で人間の表と裏を散々見てるから知ってんだろーけど、どんな聖人だって
 裏側があんだっつーの! 一歩間違えばみんな反動でアタシみたいになるんだっつの!」

「それなのにアタシをまるで頭おかしいサイコ野郎みたいな目で見てよぉ。人を実験動物みたいに
 扱いやがって。明らかに治療と関係ない実験も散々やらされたしさぁ! 多重人格の人間の
 人権は無視かっての! あー思い出したらイライラしてきた。殺っときゃ良かったぜ!」

「それは酷いな……」

(誇張でないならば、希望ヶ峰の関係者が人体実験紛いのことをしていたということか? しかも、
 話を聞く限りではどうも学園側の公認でやっていたように思えるが。一体何の目的で……)


KAZUYAは不審に思ったものの、ジェノサイダーの言葉に意識を戻した。


「でさ! どうも根暗の方も同じこと考えてたっぽくて、それでセンセに相談に行ったんじゃーん」

「そうだったのか……すまん。実は、俺は頭部の怪我が原因で記憶の一部がないんだ」

「えぇ?! KAZUYAセンセったら忘れちゃったのーん? アタシとのあのあっつーい日々をさぁ!」

「……すまない」

「ま、いいけど。とにかくセンセは他のヤツらと違って、マジメにアタシらの話を
 ちゃんと聞いてくれたし、専門外にも関わらず治療しようといろいろしてくれたワケ」

「だが、結局治せなかったんだろう?」

「ぶっちゃけなんの役にも立ちませんでしたー!」イェーイ!

「…………」

「あ、まーまー。そんな落ち込まないでって。治されたらアタシ消えちゃうしー、まあそこは
 失敗してくれて良かった的な? それに実験とか抜きで殺人鬼と話したがる物好きなんて
 センセくらいだから、アタシはセンセとのおしゃべり、そんなに嫌いじゃなかったわよ?」

「……そうか。しかし、腐川は俺のことを一体どう思っていたのだろうな」

「さあ? ま、根暗も多分同じじゃないの?」

「腐川も?」

「だって、センセのこと信用してなかったら自分から何度も行かないっしょ」

「…………」


「翔、最後にもう一つ聞きたいことがあるのだが」

「なに?」

「腐川は今、俺に……いやここにいる全員に心を閉ざしてしまっている。
 教えて欲しい。一体どうしたら俺は腐川を救えるんだ?」

「別にセンセを嫌ってるワケじゃないと思うけどねぇ」

「腐川が俺を嫌っていないだと? ……まさか」

「乙女心ってのは複雑怪奇! 単なる気まぐれでわがまま言ってるかと思えば、例の女の子の日で
 機嫌悪かったり恋の駆け引きだったりツンデレのツンモードだったりとイロイロあるワケ!」

「はぁ……」

「特にアイツは根性ねじくれてるというか捻くれてるからさぁ。本当は構ってちゃんのくせに
 それを素直に言えないワケよ。むしろ逆のこと言って後で後悔したり……あーメンドくせ」

「記憶を共有していなくてもわかるのか?」

「アタシ達記憶も人格も全くの別人だけど体と心は共有してるからね。アイツの考えくらいお見通しよ」

(……やはり、腐川と翔は一見真逆の存在だが根本的には繋がっているのだな)

「では、俺はどうすればいい?」

「鈍いねー、センセ。嫌われてないなら後はうざいくらいしつこくアタックするだけでしょーが」

「……それでいいのか?」

「むしろそれ待ってんの。自分からは動かないで王子様に助けてほしいタイプだし。あー暗え暗え」

「助けて欲しい、か」

(腐川は、俺を待っていてくれるだろうか……)


腐川と繋がっているジェノサイダーが言うならそうなのかもしれない、と少しだけ勇気づけられた。


「ありがとう。諦めずくどいくらい声を掛けてみよう」

「ガンバガンバ。まーったくアイツもあんまりウジウジしてるとカズちんに見放されるっての。
 ってそりゃないか。カズちんって実は相当頑固でしつこい性格してるもんね!」

「ああ。俺は絶対に見捨てたりなどしない」


腐川も石丸も他の生徒達もだ、と心の中で何度目かの決意をすると
ふとKAZUYAは思い付いたことがあった。


「そうだ、翔。石丸のことは腐川から何か聞いているか?」

「あん? きよたんがどーかしたの?」

「……そうか。会ってやってくれないだろうか?」


・・・


ジェノ「イエーイ! 呼ばれて飛び出て邪邪邪ジャーン!! ジェノサイダー翔どぇーす!!」

苗木「な、ジェノサイダー?!」

桑田「おわっ、テメエなにしにきたんだよ?!」

舞園「ジェノサイダーさん……」

霧切「舞園さん、下がって」


突然部屋に現れたジェノサイダーに生徒達は狼狽して警戒する。


K「いや、大丈夫だ。俺が連れてきたんだ」

桑田「ハア?! なんで?!」

K「……今は少しでも刺激が欲しい」

ジェノ「イヤン、刺激だなんて~♪ 男と女が密室であんな所やこんな所を触りっこしたりぃ?!」

K・苗木・舞園・霧切「…………」

桑田「前から思ってたけどよ……お前下ネタキャラなワケ?」

ジェノ「なに今更なこと言ってんの。つーかレオちゃんだってそうじゃん」

桑田「俺はキャラチェンしたんだよ! そもそも、いくら前の俺でも女子の前じゃ言ってねーし!」

K「まあ待て。……ほら石丸、風紀が乱れてるぞ。お前の出番じゃないのか?」

石丸「……すみません」

ジェノ「ほらほらぁ、きよたんが止めないならここの男どもと不純異性交遊しちゃうよーん?」

石丸「…………」

ジェノ「あちゃあ。ホントにぶっ壊れたんだ……。まあ、でもこの顔も萌えるっちゃ萌える」


ジェノサイダーが鋏を取り出して構えると、生徒達が動く前に石丸が反応した。


石丸「ジェノサイダー君! 教室でハサミを振り回すのは危険だから
    やめたまえと僕はいつも言ってるだろう! しまいたまえ!」

ジェノ「ここ教室じゃねーし。なに言ってんの? きよたんウケる。ゲラゲラゲラ!」

石丸「元気なのは結構だが、周りに迷惑をかけてはいけないぞ!」

ジェノ「はいはい。メンゴメンゴ」

石丸「ちゃんと反省しているのかね?」


その後も延々続く二人の会話を残りのメンバーは何とも言えない表情で見ていたが、
KAZUYAだけは違うことを考えていた。


K(過去の石丸も翔の存在を知っていたのだろうか。現在の記憶と過去の記憶が混ざっているだけか?
  それに、いつもなら一言話して終わりなのに今回は随分長いな。会話の流れも非常に自然だ)

K(もしや、記憶を取り戻しかけている? 記憶が完全に戻れば元にも戻るか?
  ……断言は出来ないが、可能性の一つとして覚えておく必要はあるな)

ジェノ「ギャハハハハ!」

石丸「ハッハッハッ!」

苗木「……石丸君、笑ってるね」

桑田「あいつのせいで、おかしくなったも同然なのによ……」

霧切「でも、いつもと違う刺激は回復に繋がるかもしれないわ」

苗木「うん、そうだよ。僕もそう思う」

桑田「わかってるけどさぁ、なんかシャクだぜ」

舞園「…………」


そうして、一同はしばらく石丸とジェノサイダーの奇妙な会話を見守っていた。


ジェノ「じゃ、久しぶりに楽しくオシャベリしたしアタシはそろそろ帰るわ!」

K「良かったらまた来てくれないか?」

ジェノ「ラジャー! その調子で根暗の方もなんとか頼むわ。じゃーね」


ジェノサイダーを部屋に送り届けると、扉を睨みながらKAZUYAは心の中で呟く。


K(……また来る。それまで我慢していてくれ)



               ◇     ◇     ◇


「…………」


腐川はいつもの部屋の中で意識を取り戻した。既にKAZUYAはいない。シャワーを浴びて着替えた形跡が
あったので、ジェノサイダーがシャワーを浴び、湯冷めしてクシャミしたといった所だろうか。


(お腹、空いてない……)


KAZUYAが無理矢理ジェノサイダーに交代させて食事を摂らせたのだと理解出来た。
その後、自分には何も言わずに去って行ってしまったのか。


「あ、当たり前よね……あんなこと言ったんだから……」


―大事な教え子すら救えないあんたが、一体どうやってアタシを救う訳?


絶対に言ってはいけない言葉だった。いつも極めて冷静なKAZUYAが血相を変えていた。
腐川は石丸の現状を直接見てはいないが、おかしくなったとは聞いている。
どのくらいおかしいのかはわからないが、会話が成り立たないレベルらしい。
何よりKAZUYAのあの顔を見れば、かなりの重症だと言うことはわかる。


(やっちゃった。また馬鹿なこと言っちゃった……どうしてアタシはいつもこうなのよ!)


いくら自棄になっているとはいえ、腐川とて死にたい訳ではない。実は、食べようとはしたのだ。
ただ、ストレスで食欲が全くないし、無理に食べようとすると吐いてしまうのである。

腐川は幼い頃から自分を助けてくれる存在を夢想していた。その憧れを書いたのが彼女の小説だ。
彼女がKAZUYAに反発したのは、持ち前の卑屈さもあるが一番の理由は嫉妬だった。何故、舞園や
桑田や大和田は罪を犯す前に止めてもらえたのだろう。何故、あれ程の騒ぎを起こしたのに
庇ってもらえるのだろう。自分の手は血まみれなのに、庇ってくれる人などいないのに。


(い、いいのよ……どうせアタシなんて終わりなんだから……!)


逆恨みなのも言い掛かりなのもわかっていた。だが、助けてもらえる彼等が羨ましかったのだ。
それで必要以上に噛み付いてきてしまった。一人死ぬか死なないかで大騒ぎする輩なのだから、
もう何人も死なせた罪深い自分など、救ってもらえる訳がないと勝手に思い込んでいた。

――だが、果たしてKAZUYAはやって来た。腐川の元にも救いの手を差し延べて。


(何もかも、遅すぎたのよ……あれだけ派手に引っ掻き回しておいて、今更どの面下げて
 助けてなんて言える訳? アイツもアイツを慕ってる奴にも散々悪口言ったのに……)

(第一、ア、アタシは不二咲をヤっちゃったのよ?! 許してもらえる訳ないじゃない! 
 義務感から手を差し延べてるだけに決まってるわ。これでアタシが死んだら後味が悪いから!)


そうして、どんどん思考が自虐的な方向に進んで行く。あり余る想像力を誇る作家の
彼女には、物事をシンプルに考えるという本来簡単な作業が逆に難しくなっていたのだった。


(ふ、ふん……愚かな女に罰が当たったのよ……ただそれだけのことじゃない……)

「小説でも定番の展開よね。ただ、それだけの話……」

「う……ううっ……うえぇ……」


これはまだ腐川が小学生だった頃の話だ。彼女が渾身の想いを込めて書いたラブレターを、掲示板に
晒されるという事件があった。ショックを受けた腐川の前に、ある先生がやって来て言った言葉がある。


『素晴らしい、とても心を打つ手紙だったよ。君には文章の才能がある。物語を書いてみなさい』


この言葉がキッカケとなり、腐川は大作家への道を歩んだのだ。そして、外見はちっとも
似てないはずなのに、KAZUYAはどこかその先生に似ている気がした。思えば、恩師とも
呼べる存在なのに、卒業してから一度も会っていない。今、どこで何をしているのだろう。

そんなことを考えながら、誰もいない部屋で一人……腐川は泣いた。



ここまで。

何人か言及されていましたが、ジェノは記憶を消されていないのでKAZUYAに対する好感度が
リセットされていません。また、腐川を助けたい発言で好感度が大幅に上がったためかなり好意的

これ、苗木強化して超高校級の希望になれればKAZUYA陣営に死角なくなるんじゃないか、とふと思った。

今更>>292だけど身長は野球の話と20巻より前半あたりに何回か書いてあった

乙です

腐川がなんか切ないな

>>351
ありがとうございます。まさか本編に出てきているとは…探してきます
思えば、作中で黒マントって台詞があるのに1スレ目でマントの色は
赤とかとんでもない大嘘言っちゃってたし、作品愛がまだまだ足りませんね

さーて、自分用の身長対比表作ってたけどどうすっかなぁ…あれだ。ダンガンキャラの
身長は靴込み説があるから、KAZUYAはブーツの底込みということにしようそうしよう

乙です

ヤクザの人たちとかアメリカ大統領の援護はないかな……

ドクターK全巻
いまならebookで30%オフだからおすすめ

誰もいない。絵を落とすなら今のうち

やっと…四スレ目にしてやっと髪切った桑田のイメージが出来たので投下

トレードマークであるアゴヒゲとロン毛とアクセ類もろもろを全部取っ払ってしまったので、
描いた本人でさえ服を着せて色を塗らないと誰かわからないレベルですが……


桑田
http://i.imgur.com/tp96VYJ.jpg
桑田とKAZUYA
http://i.imgur.com/iKDZtO8.jpg


なるべく顔はゲームに似せようとしたつもりだけど画力が足りないので別 人 注 意

……というか桑田は恐らくダンガンロンパで一番描くのムズイ。シャツの模様は省略してます。

それよりKAZUYAがなんか笑えるww

なるほど…

下手でゴメンネ

ちなみにKAZUYAはドクターKで一番難しいキャラだと思う。何が大変って
コマ毎に毎回髪型が微妙に違うからこれ!っていうキメがない。デッサン力の高い
真船先生ならではだと思う。1はリアルで20回くらい練習したけど未だに上手く描けない

……真船先生、画力を分けてください。真剣に


― モニタールーム AM0:13 ―


そこにはよく似た顔をした二人の少女が、内緒話をするように額を寄せ合っていた。


「盾子ちゃん」

「何よ」

「楽しい?」

「楽しい楽しい! 見りゃわかんでしょーが!」

「うん、そうだね。すごく楽しそう」

「お姉ちゃんも楽しみなよ。今サイッコーに笑える展開でしょ!」

「そうだね」

「そうそう! 今日のアレ、お姉ちゃんにも見せてあげるわ。クッソ笑ったから」

「…………」


そう言って映像を見せてくれたが、何をしているのか正直わからなかった。ただ、KAZUYA達が
何かを試しそして失敗したのだろうと言うことだけはわかり、妹に合わせて適当に笑った。


「馬鹿だよねー。いくらやっても無駄なのにさ。あいつはもう完全に絶望してるのに」

「そうだね」


いつもは戦刃のことなど軽くあしらって時には追い返してしまうのに、江ノ島は上機嫌なのか
姉に向かって楽しそうに色々と話す。戦刃もそれに対し相槌を打って一緒に笑った。

ただ、いつもの戦刃なら妹の嬉しそうな顔を見ればそれで満足出来るのだが、
今日に限っては珍しく気が乗らなかった。なので、適当に話を切り上げて退室する。


(なんだろう……なんか、気が重いな……)


帰り道、薄暗い廊下を歩きながら戦刃は考えていた。


(ここ最近みんなの間に絶望的な雰囲気が蔓延してるから、私にもうつっちゃったのかも……)


同志である『超高校級の絶望』と呼ばれる集団からは、戦刃は江ノ島と並び絶望シスターズと
一緒くたにまとめられることが多いが、実は戦刃自身は特に絶望には固執していない。

むしろ、妹に目をつけられた哀れな犠牲者には同情すらしている。だが、そんな彼女が妹の暴走を
止めることは絶対にない。何故なら盲目的に妹に従うことこそが愛だと彼女は考えているからである。

――そう、言うなれば戦刃むくろは超高校級の絶望(的に残念な姉)だった。


「……!」


寄宿舎の廊下を歩いていると、突然扉が開く。


(まずい! 隠れる所がない!)


仕方がないので、そのまま突っ立って出てきた相手の顔を見た。


「……こんな時間に出歩いている奴がいるとはな」


扉から現れたのは、渦中の人間の一人である十神白夜その人だった。


「なによ、夜時間は外出禁止とでも言うつもり? あんたが一番破ってると思うんだけど」

「そんなつまらんルールについてどうこう言うつもりはない。それで、何をしていた?」

「……ちょっと、ランドリーに忘れ物を取りに行ってただけ」

「ほう」

(――嘘だな)


十神は即座に偽の江ノ島の嘘を見抜いた。


(葉隠なら水晶玉、山田ならリュックの中身など考えられるが、この女は普段から
 小物を持ち歩くタイプではない。ランドリーに忘れるとしたら服だけだ)


しかし、江ノ島は何も持っていない。そもそも、深夜の誰もいない時間に出歩いて、
危険人物である十神に遭遇したらどうするのか。助けが来る可能性は絶望的である。
余程のものでない限り、次の日の朝に取りに行くのが普通のはずだ。


(この女……前々から少し怪しいと思っていた。内通者か?)

「で、そういうあんたはどこ行くワケ? また図書室?」

「答える必要はない」

「……あっそ」


江ノ島を無視しようとして、ふと十神は止まった。


「そういえば、ここ最近何か動きはあったか?」

「なんにも。石丸は相変わらずおかしくなったままだし、腐川は部屋に閉じこもってるよ」

「フン。予想通り過ぎて少しつまらんな」

「あんたは呑気でいいよね。……今も自由に部屋から出られるのは誰のお陰だと思ってるの?」


江ノ島は思い出していた。十神が自由に部屋から出られないよう、
せめて扉の前にバリケードを作るべきだと言われた時のKAZUYAの言葉を。


山田『十神白夜殿は危険です! 拘束できないなら、せめて扉の前にバリケードを作るのはどうです?』

朝日奈『そうだよ! それがいいよ! 十神のヤツ、いつも勝手な行動ばかり取ってさ!』

葉隠『そうすりゃあ、もう十神っちに怯えることもないべ!』

K『……それは駄目だ』

桑田『え?! なんでだよ、せんせー!』

大神『西城殿、何故にそのようなことを? 我もあやつの行動は制限した方が良いと思いますが……』

K『俺だってそうしたいが、万が一十神が急病にかかり外に出られず大事となっては不味い』

大和田『ハアァ?! あんなヤツ別にどうなってもいいだろうが! 俺の手でブチ殺したいくらいだ!』

K『そういう訳にもいかん。俺は医者だ。あんなヤツでも、死なせたくない』

山田『納得できませんぞ!!』

K『あいつは頭が回る。殺人が起きれば真っ先に疑われる状況で、無茶な行動を取ったりはしない』

セレス『ですが、それは先生の希望的観測ではありませんの?』

K『否定は出来ん。だが……お願いだ。みんな、頼む』

大和田『なんで……なんであんなクソ野郎のためにあんたがそこまでするんだよ、先公……!』

霧切『……これからは、なるべく単独行動は取らないようにしましょう。そうすれば問題ないはずよ』

江ノ島『…………』


はっきり言って、江ノ島はKAZUYAのことがあまり好きではなかった。彼女は学園生活での
記憶を消されてはいないが、元々他の生徒達ほどKAZUYAと仲良くしていなかったし、妹から
既にこの計画について聞かされていたため、教員は全て殺害対象としか見ていなかった。

近いうちに殺す相手のことなどどうでも良かったのである。しかも、KAZUYAは自分の
完璧な奇襲を生き抜いた男だ。軍人としてのプライドにも少々傷が付いていた。


(……でも、西城先生って本当に良い人なんだよね。自分がかわいがってる生徒だけ
 じゃなくて、腐川さんや十神君のことも本気で助けようって考えてるみたいだし)


初めは最愛の妹の宿敵としてKAZUYAに厳しく当たり、自身の命を助けられた時ですら
ろくに感謝もしていなかった江ノ島だが、その後のKAZUYAの行動や発言を間近で見続け、
少しずつKAZUYAに対する印象が変わってきていた。感化されたと言ってもいい。


「みんなあんたを閉じ込めろって言ってたのに、西城が反対したんだよ。中で何かあった時、
 外に出られないのはマズイからって。西城のヤツ、あんたなんかのために頭まで下げたよ」


糾弾するような目と声の江ノ島に対し、十神は鼻で笑って返した。


「それがどうかしたのか? くだらんな。だから奴は甘いのだ」

「……アタシ、あんたみたいなヤツ嫌い」


そう言い残し、江ノ島は十神の横を通って部屋に戻った。


(反対側から回り込めると言うのに、わざわざ俺の横を通るとはな。余程腕に自信があるらしい)


だが、十神は特に追いかけたりはしなかった。いくら護身には自信があるとは言え、素手で人を
殺すのはどう考えても悪手である。どんな反撃を喰らうかわかったものではないし、トリックも
使わず江ノ島を殺せば十中八九犯人は自分になるだろう。ゲームを楽しんでいる身としては、
そんな呆気ない終わり方で満足出来る訳がない。運が良かったなと吐き捨てて十神も去った。


パタン。

ドアを閉め、戦刃はホッと胸を撫で下ろしていた。


(危なかった。十神君は頭がいいから正体がバレるかと思ったよ。上手くごまかせて良かった)


そして、裁判時や今の冷たい目つきを思い出す。


(十神君……入学当初こそ少し冷たかったけど、あそこまでじゃなかったのにな……)


いつも不機嫌そうな顔で嫌みや厳しいことばかり言っていたが、クラスで問題が起こった時は
率先してリーダーシップを発揮し、あの個性的なメンバーを見事にまとめてみせた。石丸のことも
口で言うほど嫌っている訳ではなく、彼が妙なことを言う度に十神が横で修正していたものだった。


(――みんな、変わってしまった)


良い方向に変わった桑田という例外もいるが、精神が崩壊した石丸、引きこもった腐川、
距離が出来た大神と朝日奈、ギスギスしているセレスと山田など多くの物が失われてしまった。

……それが寂しいという感覚なのだと普通の人間は知っているが、戦場育ちの戦刃はわからなかった。
ただぽっかりと心に大きな穴が空いた気がして、その穴を埋めるためにますます妹に心酔するのだった。

だからお姉ちゃんは残念なんだよ、という妹の言葉の真意もわからずに――



― コロシアイ学園生活二十一日目 大和田の部屋 AM8:22 ―


その日、誰もが緊張していた。KAZUYAが不二咲の外出許可を出すことになっていたからだ。


「わあ、もう外に出てもいいのぉ?」

「ああ」

「運動は駄目だけど、お風呂ならいいんだよね? 僕男友達と一緒にお風呂に入るのが夢だったんだぁ」

「そりゃあ良かったな」

「それに、早く石丸君に会いたい! 僕もお見舞いに行っていいんですよね?」

「不二咲……そのことについて話さなければならないことがある」

「え……?」


KAZUYAは至極真剣な顔をしていた。それだけで、何かあったのだと不二咲が悟ってしまうほどに。


・・・


タッタッタッ!


不二咲は走った。と言っても、隣の部屋だから、大した距離ではないのだが。
その短くて長い距離を、小さな体を弾ませながら全力で走った。


タッタッタッ、ガチャッ!


「石丸君!」


そして、病み上がりにも関わらず不二咲は石丸の部屋に駆け込んだのだった。


「不二咲君!」

「不二咲!」


部屋にいた苗木達四人を素通りして、不二咲は石丸の側に走り寄る。KAZUYAと大和田も入ってきた。


「ねえ、石丸君! 僕だよ。わかる? ねぇ!」

「……不二咲君?」


石丸が、僅かに顔を上げて不二咲を見た。


「そうだよぉ。僕、元気になったんだよ!」

「兄弟! 不二咲が来てくれたぜ! だからオメェもいい加減元気になれや!」

「…………すまない」


だが、石丸は例によっていつものように謝るばかりだった。


「謝らないで! 石丸君のおかげで僕は今も生きてるんだよ?」

「申し訳ない。僕のせいで、君をあんな恐ろしい目に遭わせてしまって……」

「違うよぉ! 石丸君は何も悪くなんてない! 何も悪いことなんてしてないよぉ!」

「違うんだ。僕は誤ったんだ。罪を犯してしまった」

「自分が犯人だって誤解したこと? どうしてそれがいけないの? あんな状況で勘違いしても
 仕方がないよぉ! みんなもきっと許してくれるから! 僕も一緒に謝るから! ね?」

「許してくれ……許してくれ、不二咲君。何も出来ない愚かな僕を、どうか……」


石丸は、またはらはらと涙を零した。聞いていた以上の状態に、不二咲は困惑を隠せない。


「僕、怒ってなんかいないよぉ……」

「しっかりしろよ、兄弟! 俺達を見てくれ! 兄弟ッ! 石丸ッ!!」


二人がいくら縋って叫んでも、それ以上の進展はなかった。

――最後の希望が、ここに潰えてしまったのだ。


(俺達は、心のどこかで期待していた。いや、高をくくっていたと言っていい)


石丸がおかしくなった直接の原因は、不二咲が死にかけたあの事件だ。だから、
不二咲が元気になった姿を見せればそれで治るのではないかと誰もが考えていた。


(……だが、見立てが甘かった。石丸がおかしくなった最初のキッカケはもっと前。
 大和田が不二咲に襲い掛かったあの事件だ。あの時既に石丸は己の非力さを恨み、
 心にヒビが入っていた。石丸は、あれからずっと絶望していたのだ……)


もっと早く気がついていればと後悔してももう遅い。
取り返しのつかない所まで来てしまったのだった。

悲しげに泣き叫ぶ不二咲の声を聞きながら、KAZUYAもまた深く絶望した。


――しかしただ悲しんでいるだけの余裕は彼等にはなく、この日を境に大きな転換を迫られることとなる。






Chapter.3 世紀末医療伝説再び! 医に生きる者よ、メスを執れ!!  (非)日常編

まだなんかあるのか…そろそろKのライフが0になるんじゃ


― モノクマ劇場 ―


モノクマ「久しぶりのモノクマ劇場~! ヤッホー。元気してるゥ?」

モノクマ「早速だけど、この章(編)が終わる時にはキリが良くなっていると言ったな。すまん! ありゃ嘘だ!」

モノクマ「というか、もうグダグダだよね。KAZUYA先生達がいくら頑張っても状況は一向に改善しないし、
      変わらない、何もない日常という絶望を描いたつもりだったんだけど……流石にやりすぎだろうと」

モノクマ「本編投下しても感想やツッコミがほとんどついてないあたりから、グダグダなのは
      1もなんとなく察していました。やっぱりこのSSはボクがいないとダメだね!」

モノクマ「そういう訳で、物語が全く動かなかった停滞期は終わり! 次編ではいよいよ大きな
      イベントやトラブルがまたやって来ます。まさかあの人があんなことするなんてね!うぷぷ」

モノクマ「でも……あれれ? なんとかなりそうな目処が立った腐川さんはともかく、
      もうどうしようもない石丸君はどうするのかな?」

モノクマ「見捨てて対黒幕に専念しちゃうのかな? それも絶望的な選択でいいよね!」

モノクマ「まあ、なんにしろボク的には美味しい展開になりそうだよ。ぶひゃひゃひゃひゃひゃっ!」

モノクマ「それでは、また次編もお楽しみに! バイバーイ!!」


ここまで。

無駄に長くグダグダしてしまった日常編にお付き合い頂きありがとうございました。
ここまで読むのをやめずについてきてくれた皆様のためにも、次編も気合の入れた
展開を書いていくことをお約束します。でも、とりあえず次回投下分はまだ平和……かな

あと、鬱はいい加減疲れたという皆様には短編ギャグSSを用意しましたのでそちらも
良かったら口直しにどうぞ。「苗木 マッチョ」で板検索すれば出るはず。本編は終了済み。


>>372
苗木行動の正解と言うか、もし桑田君と舞園さんが覚醒イベントを起こしていなかったら
実は一番マズイのはKAZUYAでした。普通の人が絶望度80くらいで発狂か絶望堕ちするところを、
KAZUYAはキャパシティが大きいので200くらい耐えられます。でも、モノクマと十神君の
執拗な集中攻撃、石丸君崩壊、腐川さんのことなどで心労が溜まりすぎていて180くらいに
なってました。桑田イベントでマイナス20、舞園さん渾身の演技というファインプレーが
マイナス50あったために、現在は100ちょっとくらいに戻っています

それでも一般人は十分おかしくなっているレベルですけどね……

あ、― 完 ― ていれてなかった。この終わり方じゃ意味不明すぎるだろ。馬鹿だ……



Chapter.3 世紀末医療伝説再び! 医に生きる者よ、メスを執れ!!  (非)日常編 ― 完 ―


乙です


強い人って耐久力ある分壊れると元に戻らんのよね…

あっ……これ残念過ぎて内通者の容疑晴れるっていう

しかし、やっぱ自由行動で選ばれないと着実に悪い方に行くんやねー
ピンポイントは良くないかもね
もしくは苗木覚醒したら原作並みに全員に希望弾撃ってくれるのかな?

残姉のデレ来ましたわ!

>>378
事件関係者は押さえつつ、上手く回していかないとダメなのかも
とりあえず朝日奈とさくらちゃんは早めに味方にしないと四章で悲惨なことになりそう
あ、でも腐川も放置したらまずいな

乙です
石丸・・・復活したちーたんをまた泣かせおって・・・
お前が復活するだけでどれだけ場の雰囲気が絶望から解放されるか・・・早く戻ってこい!

>>360
似たような顔つきのキャラがたくさん出てくるのに、混同しないのは流石ですよね
真船先生の画力の高さを思い知らされます

前スレ80レスぐらい書いてた俺も、シリアスになっていくとまあ、この感想やツッコミは色々終わってから……って思うことがあったりするんだ。
その代わりあっちには結構書いたから! な!

つーかふと思って数えてみたが俺書き込みすぎワロタ

感想はどんなものでも本当に本当に有り難いです。
例えば、今回で言うと>>364の後半から>>366はなんと全部後付けなのですよ。

>>305でバリケードを作ればいいのでは?というツッコミがあり→あー、書き忘れてた。どっかに
挿入しとかないと→(江ノ島編を推敲しながら)ちょうどここに十神君出てくるし入れてもいいんじゃね?
→K一人が反対してもみんな納得しないに違いない。また頭下げて頼みこむんだろうな→それを見たら
残姉もちょっとは見直してくれるんじゃないかな?ついでに昔言われた恩知らずのフォローもいれときたい

って感じで、結構皆様の感想も本編に反映されているのです。つまり本来なら十神君と残姉が
遭遇してメンチ切って終わりという味気ないシーンにデレが加わった訳で、>>305さんGJ


>>381
不二咲「えへへ。たくさん感想くれてありがとう! 381さんは優しいんだねぇ。
     シリアスだからって、遠慮なんてしなくていいよぉ。いつもありがとう」ニコッ

>>1先生のすごいところは、ダンロンキャラとkのイメージを保ったまま原作以上の絶望を生み出せること
そのくせギャグやらせると苗木マッチョスレのようなカオスギャグをかける マジすごい

何故不二咲
そんな好きなキャラじゃな……ゲフンゲフン

>>384
天使が微笑んでくれたんだから喜んどけよクソが、羨ましい

平気で好きなキャラじゃない、とか言う奴の気がしれないわ
1の好意を無にすんな

384の家にマッチョスレのちーたんが向かって行ったぞ

そういうのなんだよなあ……

割とどうでもいい事だけど桑田の顎ピアス取ったら油断すると飲み物とか飛び出そう
逆に洗顔の時とか石鹸が穴から口に入りそうだなと思った

そんなガバガバじゃないだろw
知り合いがピアスしてない時も透明なキーパーみたいなのしてないと
あっと言う間に塞がるって言ってた

>>201だが、やっと全巻読破したぞおおおおお
スゴク面白かった、買って良かった!しかし、後半で急に学園モノが始まった時は「何かのテコ入れだったのかな?」て思ったw
これはK2も読まないとあかんな...
加奈高編読んだ後にこのSS読み返すと、校医としてのKの姿に全く違和感を感じなくなったw
あらためてドクターKに出会わせてくれた>>1さんには感謝です

>>384
そういうのは思っても書き込むなボケ、胸糞悪くなる

やっぱりSSLって糞だわ

まあ、ちーたんは天使だし原作にも熱狂的なファンがいるし、怒る人がいるのも仕方ないね

ふと、好感度が悪いキャラも大事だけど【かなり良い】キャラを【凄く良い】に上げるのも一つの手なのかな、と思った
あーでも、これまでのチャプターで仲間になったキャラ達は》3に書いてあるイベント発生で勝手に上がる事もあるのか…悩む

そもそも親密度トップのはずの石丸が現状ではあれだしな
桑田や舞園のことを考えると、単純な親密度じゃなく発生するイベントが大事な気がする

kAZUYA危ないところだったんだな
良かった良かった
でも妹様じゃないけどKAZUYAが絶望したらどんな言動するのかちょっと興味あります(絶望)

桑田や舞園さんのおかげでKは踏みとどまれたらしいけど
逆に言うとこの2人に今後何かあったらKも一気に崩壊するんじゃ…

バットエンド一直線じゃないですかやだー!

>>385
不二咲「(モジモジ)あの、僕なんかで良ければ……いつも読んでくれてありがとう」ニコッ

>>391
読破おめでとうございます。約一ヶ月かかっている時点で54巻分の重みが伝わりますねw


さて本編ですが、あるとんでもないミスに気が付き大幅に時系列を入れ替えてしまったので
次の投下には事件が起こるはずだったのですが……まあ、仕方ない。投下します






Chapter.3 世紀末医療伝説再び! 医に生きる者よ、メスを執れ!!  医療編





最後の希望であった不二咲の呼びかけすら何ら効果を出さないという絶望的な
状況だったが、ただ時間を無為に浪費する訳にもいかず、霧切が切り出した。


霧切「……それで、今後はどうするの? ドクターなら、私が言わなくてもわかっているでしょうけど」

K「ああ、俺もずっと考えていたが……今後は重点を石丸の治療から脱出へと移す」

大和田「まさか、兄弟を見捨てんのか?!」

K「違う。知っての通り、俺は外科医だ。人体を切ったり繋げたりするのは得意だが、精神系の
  病の患者は今までほとんど診たことがない。患者の心のケアくらいならよくやっていたが、
  石丸の状態はそんなものとはまるで訳が違う。……正直な話、専門外なのだ」

K「外に出てきちんとした専門医に診せた方が良いに決まっているだろう?」

大和田「……まあ、そりゃあそうだな」


ここから先は言うか言うまいか迷ったが、まだ大和田が納得しきれていないようなのでKAZUYAは続けた。


K「ここでするかわからない回復を期待するより外の刺激を試したい。――家族に会わせるとかな」

苗木・桑田・舞園「……!」

大和田「家族……」

不二咲「……そうだよねぇ。会いたいに決まってるよねぇ」


あまりこの話はしたくなかった。家族の話題を出せば、他の生徒達とて思い出してしまうに
違いなかったからだ。案の定、全員が暗い顔になってしまったが彼等は何も言わなかった。
優しい子達だな、とKAZUYAは内心で彼等に感謝すると同時に申し訳無さを感じていた。


大和田「わかったぜ。俺も兄弟を家族に会わせてやりてえ。多分、それが今の俺に
     出来る償いだと思うしな。でもそのためにはどうすりゃいいんだ?」

K「実は、まだ形にはなっていないが俺には考えがあるのだ」

桑田「マジかよ! すげーじゃん!」

苗木「本当ですか?!」

K「だが、そのためにはまず生徒全体で結束する必要がある。今の状況では動くに動けん」

舞園「そうですよね。何とか和解出来たらいいんですけど」


そこに霧切が小声で加える。


霧切「……とりあえず、内通者ではないと思われる葉隠君と山田君の確保が最優先事項かしら」

苗木「今までみたいに各自がバラバラに動いてると厳しいかもね」

大和田「つっても、兄弟と不二咲をほっとくワケにはいかねえしなあ」

不二咲「僕は大丈夫だよ。鍵をかけて部屋に閉じこもっていればいいだけだし」

K「もう石丸について隠す必要はないのだ。俺の所にいればいい」

桑田「つーか、今それで思いついたことがあんだけど」

K「何だ?」

桑田「保健室で二人いっぺんに面倒見りゃあ、せんせー以外の手は空くよな? ベッドも三つあるし」

大和田「ハァ? なに言ってんだ、オメェ。個室以外で寝るのは校則違反だろが」

桑田「でも、保健室はせんせーの個室だろ?」

舞園「桑田君、言いたいことはわかりますけどそれは……」


全員が呆れた顔で見るが、桑田の目は至って真剣だった。


桑田「だって、校則に書いてねーじゃん」

K「校則?」

桑田「もしさぁ、保健室が個室じゃないのにせんせーだけ特別扱いするって言うなら、
    そーゆー風に校則に書かねえとダメじゃね? 校則違反になるじゃん。でも実際は
    なにも書いてねえんだから、実質保健室がせんせーの個室扱いってことじゃねえの?」

「!」


お互いに顔を見合わせる。完全に盲点だった。あの霧切ですら驚いた顔をしていた。
何より、この意見を出したのが桑田だと言うのが一番の衝撃だった。


K「お、お前……よく気が付いたな……」

桑田「あのさぁ、俺だってここ最近はちゃんとマジメに頭使ってるんすけど……」

K「そうだな。すまん」

霧切「今すぐモノクマを呼び出して確認するわ」

モノクマ「その必要はありません!」


話を聞いていたモノクマが堂々と扉を開けて中に入ってきた。


モノクマ「あー気付かれちゃったかー。気付かれちゃいましたかー」

K「つまり、桑田の言った通り保健室は俺の個室扱いで良いと言うことだな?」

モノクマ「校則に追加し忘れたボクのミスだからね。仕方ない。ま、怪我人の面倒でここ最近は
      生徒達まで部屋に篭りっきりで可哀相だったし、そのくらいはいいでしょう」

モノクマ「どうせ脱出なんて出来ないんだし、無駄な努力をして絶望するのもまた一興、みたいな?」

桑田「うるせーバーカ!」

モノクマ「そもそもさぁ、脱出以前に君達は団結すら出来ないってわからない?」


ニヤニヤ笑いながら話すモノクマに、KAZUYAはまたかと身構える。


不二咲「ど、どうしてぇ?」

モノクマ「だって、ただでさえ先生の派閥は殺人犯が三人もいたのに、今回新たに連続猟奇殺人鬼と
      狂人が加わったんだよ? 既に他の生徒達から避けられまくっているじゃない。壊れて
      おかしくなった石丸君に恐れをなして、とうとうお見舞いもなくなっちゃったし」

「…………」

モノクマ「この状態で結束……だなんて、うっぷぷ。鼻からスパゲティを食べる方がまだ簡単だね!」

モノクマ「つーか、オマエラどんだけカオスなの。先生がわざと犯罪者集めてんじゃないかってくらい
      問題児ばっかり。あ、もしかして先生も裏で色々やってたクチ? 類は友を呼ぶみたいな?」

桑田「ふざけんな!」

大和田「コロがされてえみたいだな!」

K「よせ、お前達」


KAZUYAは桑田と大和田の肩を掴むと代わりに前に出た。


K「俺の生徒に問題児などいない!! みんな自慢の生徒達だ!」

モノクマ「ふーん……十神君も?」

K「そうだ」

「えっ」


生徒達はギョッとした顔をするが、KAZUYAは淀みなく断言した。


そう、KAZUYAは思い出していたのだ。色々あって苗木のクラスの生徒達と親しくなったKAZUYAは、
十神とも何度か会っていた。一緒に食事をしたこともある。プライドが高く素直でないのは
今と変わらないが、その時の十神は今より遥かに丸く周りからも信頼されていた。


K(記憶を取り戻せば……いや、仮に戻らなくても平和にさえなればまたああなるはずなのだ)

K「俺の悪口ならいくらでも言わせてやる。だが生徒達の悪口は許さん! 出て行け!」

モノクマ「はいはい。わかったよ、もう。じゃあね」


今は分が悪いと判断したのか、珍しくモノクマは素直に去った。


大和田「先公……たとえあんたが許したとしても、俺はあの野郎を……」

K「俺もな、別に十神がやったことを許した訳ではないぞ。ただ、ここは異常空間だ。
  お前達が過ちを犯したように、あいつも一時的におかしくなっているだけだろう」

K「今すぐ許せとは言わん。……だが、人を憎んで得る物などないということは忘れるな」

苗木「そうだよ。ここに来る前からああいうことをしてたならともかく、
    本当は……多分違うよね。十神君も生き残るのに必死なだけなんだ」

大和田「苗木……」

桑田「っかぁー、流石せんせーにマイフレンド苗木だぜ。俺はぜってぇそんな風に考えらんねー」

霧切「別に無理に許してあげる必要はないのではないかしら。私だって
    散々彼に煮え湯を飲まされて、正直に言えばいい加減頭に来ているわ」

桑田「お、いつもクールで鉄仮面な霧切ちゃんが珍しく怒ってるー?」

霧切「……ちゃん付けはやめて頂戴


舞園「じゃあ、ここから出たらみんなで十神君に報復ドッキリでも仕掛けましょうか?」

不二咲「クス、いいねぇ!」

桑田「寝起きドッキリしてやろうぜ。で、部屋にジェノサイダーぶっこむ!」

大和田「もちろんビデオに録るよな。で、あいつのマヌケ面を全員の前で公開してやるんだ!」

K「フフ、面白そうだな! 普段はそういうことはやらないんだが、俺も一枚噛ませてもらうか」


談笑していると、舞園はあることに気付く。


石丸「…………」

舞園(また、石丸君がこっちを見てる……もしかして、本当は私達の会話が聞こえてるんでしょうか?)


その後、一同は拠点を保健室に移すことにした。石丸が外に出てくれるかが
唯一の不安だったが、不二咲が手を引くとすんなり外に出た。


K「よし。とりあえず、これで石丸と不二咲を一度に看れる。お前達は少し休んでくれ」

大和田「休んでなんかいられねえよ!」

舞園「じゃあ、今後のことをみんなで話し合いましょうか」

霧切「そうね……では今後どうやって葉隠君と山田君をこちらに引き込むかを考えましょう」

桑田「あちゃー。厳しいなぁ、それ」

苗木「でも、時間をかけさえすればきっとなんとかなるよ」

不二咲「ぼ、僕も完全に治ったら手伝うからねぇ」

大和田「おしっ、じゃあ食堂で作戦会議するぞオメーら!」


               ◇     ◇     ◇


(…………)


珍しく、朝日奈葵は自室に閉じこもっていた。


(今日はお昼までずっと一緒だったから、次は夜ご飯……)


モノクマから大神に依存していると指摘された朝日奈は、以前より大神と距離を
取るようにしていた。そのため、一緒にいるのは一日の半分までと決めている。


(これでいいんだよ……悔しいけどモノクマの言う通り、確かに最近はずっと一緒だったし、
 さくらちゃんだって普通の女の子なんだから……頼られっぱなしはツライはず)

(私が我慢しなきゃ……)


しかし、一人は寂しい。水泳はチームスポーツではないが、常に対戦相手がいる。
ここにも対戦相手足り得る相手はいるはずだが……相手をしてもらえないならいないも同然だ。


(泳ごう。水泳は、結局は自分との戦いなんだから。きっと、今は試練の時なんだ)


そしていつものように朝日奈は水着を手に廊下を歩いていた。

ガヤガヤガヤ……


(なんだろう? なにかあったのかな?)


最近は十神のせいですっかり学園から生徒の影が消え、たまに見かけても石丸の件があるからか、
学校という場所に似つかわしくないくらい静かであった。こんなに賑やかなのは久しぶりだ。


苗木「あ、朝日奈さん」

朝日奈「みんな……どうしたの、集まって?」

大和田「……見舞いの帰りだ。兄弟と不二咲を保健室に移したからな」

朝日奈「そうなんだ」

朝日奈(お、大和田……)


無意識に、体が強張るのを朝日奈は感じた。大和田が恐ろしかった。

十神と石丸の件については、言っていることの正否は別にして十神のやり過ぎだと思っていた。
そもそも、朝日奈は何かにつけて周囲に悪意を振り撒き揉め事を起こす十神が大嫌いだった。
だから、大和田が十神に怒ったこと自体は妥当だと考えている。しかし……


大和田(ビビられてるみてえだな……まあ、当たり前か。あんな所見られちゃな……)


朝日奈は人より少し元気で運動が好きなだけの、普通の女子高生だ。そんな彼女にとって、人間の
本気の殺意は少々刺激が強すぎた。目を血走らせ、周りに目もくれず怒鳴り続ける大和田の姿が
瞼に焼き付いている。しかも、朝日奈が怯えている理由はそれだけではない。


朝日奈(十神の件は仕方ないにしても、大和田は過去に不二咲ちゃんを襲ってるし……)


大和田が何故そんな蛮行を働いたかは裁判で全て明らかになったが、頭では理解出来ても心では
理解出来なかった。何故なら、彼女はそれだけのプレッシャーも狂気も感じたことがなかったからだ。
想像力が足りない訳ではない。ただ、彼女は今まで普通に平和に生きてきただけなのだ。


霧切「朝日奈さんはこれからプールに行くのね」

朝日奈「う、うん」

桑田「…………」チラ

朝日奈(桑田……)

舞園「……風邪ひかないでくださいね」

朝日奈「ありがとう」

朝日奈(舞園ちゃん……)


行ってしまう――。

今自分が何も言わなければ、彼等とはもう和解出来ない気がする。
アスリートである朝日奈の鋭い直感が、そう彼女に告げていた。


朝日奈(ダ、ダメだよ……歩み寄らなきゃ……怖いけど、苗木だって霧切ちゃんだって
     普通に接してるんだし。私だけなにもしなかったら、そんなの仲間じゃない……)

朝日奈「あ、あのさ……私にも出来ることがあったらなんでも言ってよ! 手伝うから、さ」

舞園「ありがとうございます」


いつもと変わりない笑顔で応じる舞園以外のメンバーは、複雑な顔をしていた。


桑田(つっても、朝日奈はもしかしたら内通者かもしれねえしなぁ)

大和田(兄弟と不二咲をこれ以上危険な目にあわせるワケにはいかねえ……)

霧切(朝日奈さんは限りなくシロに近いとは思うけど、まだ確定した訳じゃない)


苗木「えっと、それじゃあ……」

霧切「今度、石丸君達のお見舞いに来てくれるかしら? 大神さんも一緒に」


苗木の言葉を遮って、霧切が素早く間に割って入る。更に舞園が追撃を掛けた。


舞園「出来れば、他の皆さんにも声をかけて頂けると嬉しいです」

朝日奈「あ、そ、そうだよね! なんか、セレスちゃん達最近あんまり見かけないもんね」


そう答えながらも、朝日奈は自分と彼等の間に大きな溝があるのを感じていた。


朝日奈(私一人じゃ、来てほしくないのかな……?)

苗木「じゃあ、朝日奈さん。頑張ってね」

朝日奈「うん、バイバイ……」

桑田「~でさー。聞いてくれよ」

大和田「あん? またその話かよ」

苗木「まあまあ」


ガヤガヤガヤ……


朝日奈「…………」


ポツン。


朝日奈「……あ、早くプールに行こう」


しばらくその場に立ち尽くしていた朝日奈だが、自分が元々泳ぎに行くつもりだったことを
思い出し、二階の水練場へと向かった。女子更衣室に入ると、意外な先客に出会う。


江ノ島「よーっす。朝日奈じゃん」

朝日奈「江ノ島ちゃん?」


江ノ島は更衣室の中のランニングマシーンでひたすら走っていた。


江ノ島(あっちゃー。マズイところに会っちゃったなぁ。最近はあんまり
     こっちに来てないみたいだったから、使い放題だと思ったのに)

朝日奈「珍しいね。あんまり運動やらないんじゃなかったっけ?」

江ノ島「まあ、流石に毎日部屋でゴロゴロするのもなんだし、たまには鍛えよっかなーみたいな?」

朝日奈「モデルだし、体型も維持しなくちゃいけないもんね」

江ノ島「そーそー! そんな感じ」

朝日奈「……良かったら一緒にやらない?」

江ノ島「えっと……」

江ノ島(散々プールの誘いは断ってきたし、ここで断るのも変な感じだよね)

江ノ島「もう結構やっててそろそろアガるから、それまでならいいよ」

朝日奈「ありがとう」


断られなかったことにホッとして、朝日奈も江ノ島の横のマシーンに乗る。

――そこでギョッとした。


朝日奈(江ノ島ちゃん……もう一時間以上走ってる……)


しかも尋常でない速さだ。プロのマラソンランナー並の速度と距離を走っていた。


朝日奈(モデルって実は大変な仕事だっていうしね。きっと普通の体力じゃダメなんだ)


そう無理矢理納得するが、流石の朝日奈もこれには違和感を覚えずにはいられなかった。
しばらく二人で他愛のないオシャベリをしていたが、いつしかその内容は愚痴になっていく。


朝日奈「だいたいさぁ、もっと私のことを頼ってくれてもいいと思うんだよね。なんかいっつも
     同じメンバーで固まってる気がするし。江ノ島ちゃんもそう思わない?」

江ノ島「思う思う! アタシらのことなんだと思ってるっつーの!」

朝日奈「やっぱり? そうだよね!」


久しぶりに大神以外の人間と、それも愚痴を思い切り吐き出して朝日奈はすっかり
気分が良くなっていたが、逆に江ノ島は相槌を打ちながら色々と考えていた。


江ノ島(朝日奈さんは先生達に不満があるみたい。……この間は十神君についあんなこと
     言っちゃったけど、私は内通者なんだからここは分断させるようにしないと)

江ノ島「つーかさ、アイツちょっとおかしくね?」

朝日奈「アイツって……KAZUYA先生のこと?」


江ノ島「同じヤツばっかりかまってさ、生徒のこと贔屓しすぎっしょ? 先生としてどうなの?
     治療って名目だけど、ホントは気に入ってる生徒の部屋に入り浸ってるだけじゃん」

朝日奈「え? そう……?」

朝日奈(みんなほっといたらマズイくらい重傷なのは間違いないんじゃないかな……)


他の生徒の見舞いによく行っていた朝日奈は、甲斐甲斐しく生徒の世話をするKAZUYAを思い出していた。


江ノ島「アタシ達のことなんてホントはなんとも思ってないんだって!
     慕ってくれるヤツ等さえ良ければ、他はどうでもいいんだよ」

江ノ島「アイツは結局外面がいいだけ! 人格者ぶってる偽善者なんだよ!!」

朝日奈「……それは、違うよ」


思わず朝日奈は反論していた。


江ノ島「なにが違うっていうのさ!」

朝日奈「だって……先生は腐川ちゃんのことを助けようとしてたよ。あんなにケンカしてたのに。
     十神のヤツだって、万が一なにかあったら困るって言って結局閉じ込めなかったし」


朝日奈はKAZUYAがジェノサイダーを庇った瞬間を見ていないが、大神から事細かにその時の話を
聞いていた。そして、大神がいたく感心していたのも覚えている。親友である大神がKAZUYAを
高く評価しているのならば、そこには根拠があるはずだ。朝日奈は大神の言葉を信頼していた。


江ノ島「そんなの……単に医者だから、死人が出たらマズイってだけでしょ」



朝日奈「でも、それだけなら江ノ島ちゃんのこと庇ったりするかな。だって、一歩間違えたら先生は
     串刺しになってたんだよ? どうでもいいと思ってる相手に、そこまで出来るかな?」

江ノ島「そ、それは……」


思わず言い淀む江ノ島に、朝日奈は不自然さを感じていた。


朝日奈「もしかして、江ノ島ちゃんって……KAZUYA先生のこと嫌い、なのかな?」

江ノ島「…………」


そもそも、これ自体かなり妙な話だ。江ノ島はKAZUYAの手によって命を救われている。言わば
KAZUYAは命の恩人のはずである。その相手のことを、何故ここまで悪く言えるのだろう?


江ノ島「疲れた……アタシ、今日はもう帰るわ」

朝日奈「あ、江ノ島ちゃん……」

江ノ島「じゃあね」


スタスタスタ、パタン。


朝日奈「…………」


マシーンを止め、朝日奈は誰もいなくなった女子更衣室の中にポツンと立つ。


朝日奈(おかしいな……私、そんなに変なこと言ったのかな?)


変なのは江ノ島だったはずだ。だが、彼女は朝日奈の言葉に機嫌を悪くして去って行ってしまった。
思えば先程だって、協力を申し出たはずなのに軽くあしらわれて誤魔化されてしまった。

いつだってそうだ。自分が一体何をしたというのだ。朝日奈は心の中で呟いていた。


―私、なんでいつも一人なんだろう?



ここまで。

えー、世間ではそろそろお盆ですね。1も、平日のこんな時間に投下していることで
おわかりでしょうが、お盆休みを頂きたく思います。というか、もうすぐ出なくちゃいけなくて
慌てて投下したからミスがちょいちょい……

次の投下は、恐らく来週の木曜か金曜頃だと思います。ネットは繋がりませんが
携帯は繋がるので、疑問質問雑談はいつでもお受け致します。

それでは皆様、ハバナイスホリデイ!

乙です

乙です。

追いついた!乙です!

たぶん大丈夫・桑田、大和田、苗木、霧切、不二咲、ジェノ
不安・朝比奈、大神、、山田、葉隠
ヤバい・十神、セレス、戦刃、腐川、舞園、石丸
今現在こんな感じか?ちなみに左はましで右にいくほどヤバくなる

乙です
>>398
ありがとう不二咲君、俺なんかにはもったいない微笑みだ

K一派はとりあえず再び結束できたようだな
しかし今度は朝日奈さんの精神がまずいことになりそうな・・・前の選択肢で選んでおいてよかった、と思いたい

残姉ちゃんを上手く残念に作用させれば仲間増やせるんじゃね!?



朝日奈ちゃん最優先かな?
とりあえず好感度高いようだけど不安が大きそうだし
次に葉隠と山田あたりか


ただいまー、我が家と自スレ


>>417
いらっしゃいませー。ゆっくりしていってね!


― コロシアイ学園生活二十一日目 脱衣所 PM2:45 ―


気分を一新するために、KAZUYAは石丸と不二咲を連れて風呂に入ることにした。


「石丸君、お風呂だよ」

「男ならサウナだ!」


石丸にとっても印象深い場所だからか、そう叫ぶと自分から脱ぎ始める。


「石丸君、今は普通に見えるのに……」

「いや、違う。よく見ていろ」


石丸は基本的に自分のことは自分でやろうとする。……が、途中で止まったり予想外のことが
起きると対応出来ずに妙な行動を取るのである。今も、制服の上着を脱いで畳んだまでは
良かったが、下に着ていたワイシャツのボタンを二つ目まで外して止まってしまった。

その姿は、さながら電池の切れた人形のようである。


「ほら、石丸。手が止まってるぞ」

「…………」


そしてそうなった時は、すかさず横にいるKAZUYAが声を掛けたり直接手で補助をしてやった。
今も声を掛けられて、石丸は無言のまま再び動き出す。そうやって、今まで何とか生活してきたのだ。
不二咲はそんな石丸の変わり果てた姿を見つめながら、目に涙を溜め呟いた。


「石丸君……本当に壊れちゃったんだねぇ……」

やべっ、もう帰ってきた!


「……大丈夫だ。不二咲と話した時はいつもより少し会話が成立していた。
 時間は多少かかるかもしれないが、諦めなければきっといつか戻るはずだ」

「うん、僕も頑張る!」

「…………」


素直に頷き元気を取り戻す不二咲を見て、KAZUYAの胸はチクリと傷んだ。


・・・


カポーン。


「嬉しいなぁ。僕、昔から男同士でお風呂に入ってみたくて」

「良かったじゃないか」

(ぬ、脱いだ所初めて見たけど……西城先生、すっごい筋肉してる……カッコイイ)ドキドキ

「先生。僕が先生の背中を流してあげるねぇ!」

「ム、本当か? ……フフ、嬉しいな」

(昔石田教諭が生徒達から背中を流してもらっていたが、こんな気持ちなんだな……)


短い間だが、同僚として何度か世話になった加奈高のベテラン教師・石田を思い出す。


(わっ、わっ、硬い! ボディビルダーみたいだよ! 僕もいつかこんな風になりたいなぁ……)


ゴシゴシゴシ。


「…………フゥ」


不二咲の恐ろしい考えを聞いたら全力で止めるだろうが、流石のKAZUYAもエスパーではないので
余計なことは考えずにリラックスする。久しぶりに生徒との一時を楽しめていた。

ち、ちーたんのは、はだか…ッ


ふぅ


(不二咲がいてくれて良かった。やはり、不二咲は人を元気づける何かがあるな)

(……だが、俺にとってはそれだけではない。死なないでくれて本当に良かった)


感慨深くなっているKAZUYAの背中を流すと、不二咲の目にまた静止している石丸が映った。


「あ、そうだぁ。石丸君の背中も流してあげるね!」

「良かったじゃないか。友人に背中を流してもらうなんて生まれて初めてじゃないか?」

「ほら、座ってぇ!」グイグイ

「…………」


ゴシゴシゴシ。


「ふふっ、背中を流してあげるような男友達が出来るなんて夢みたい」

「…………」

「僕が今こうしていられるのも、石丸君のおかげなんだよ!」

「…………」

「どう? 気持ちいいかなぁ?」


石丸は何も答えない。だが、反応は確かにあった。


「…………っ」ぽろぽろ

「泣いているな……」

「えぇっ?! どうかしたの? 大丈夫?」

「……いや、続けてやれ。良い刺激になっているのだ」

「う、うん」

(心が壊れた、と言っても存在自体が消えてなくなった訳ではない。反応があるということは
 少なからず効果があるはずだ。観察し続ければいつかは突破口を見つけられるはず……)

(……そう思わないと、やっていられん)


二人で色々と石丸に話しかけながら風呂に入っていたが、ふと石丸の目に入ったものがあった。


「…………」ザバッ

「あれ? もう出ちゃうの?」

「いや、もしや……」

「…………」

「サウナを見てる……。入りたいのかな?」

「俺が見ていれば事故も起こらんだろうし、試しに少しいれてみるか」ザバッ

「あ、僕も」


サウナの扉を開けて石丸を中に入れてやる。……そこにいたのは、


「……よお。来たか、兄弟」

「大和田……!」


中には腕を組み、険しい顔をした大和田がいた。


「お、大和田君。いつからいたの?」

「さっきからずっとだ」

「……おい、お前無理をしていないだろうな?」


そういえば山田謹製の男子使用中のプレートが出ていたが、浴場に誰もいないので
KAZUYA達は単なる仕舞い忘れだと思っていた。しかし、サウナの中に大和田がいたのだ。


「大丈夫だ。何度もあんたの世話になるのはみっともねえからな。
 適度に休憩入れてるし、ちゃんと水分もとってる」

「なら良いが」

「兄弟……兄弟……」


一方、石丸は何かを思い出しているのかうわごとのように呟いていた。


「おら、石丸! 俺と勝負しろ!」

「勝負? おい、こんな状態の石丸とか?」

「俺は頭使うのは苦手だがよ……サウナに篭ってずっと考えてたんだ」

「……サ、サウナで考え事をするのは危ないと思うよ?」


冷静に不二咲が指摘するが、大和田は気にせず続ける。


「でなぁ、思ったんだよ。サウナに長時間いれば、そのうち
 極限状態になってもう余計なこと考えなくて済むんじゃねえかって」

「考えなくて済むと言うより、考えられなくなるという表現が正しいと思うが……」

「兄弟はおかしくなった。だから……逆に今の状態を一回ぶっ壊した方がいいと思うんだ」

「大体言いたいことはわかった。つまりショック療法と言うことだな?」

「ああ。俺と勝負すれば、あの頃の熱い気持ちを思い出してくれんじゃねえかって期待してる」


大和田の目は極めて真剣だった。記憶はなくとも大和田が石丸と一緒にいた時間は
長いのだから、自分よりずっと相手のことを知っているだろうとKAZUYAは思う。


「……そうだな。やってみよう。悪化の兆しが見えたら俺がドクターストップをかければいい」

「へへっ、頼むぜ」


・・・


不二咲を長時間サウナにいれるのは酷なので、適度に外に出してKAZUYAは石丸を見続けた。


「……君が根性なしだと僕が証明してやる」

「やってみろよ、もやし野郎」

「僕が勝ったらちゃんと学校には制服を着て登校したまえ!」

「……いいぜ。出来るもんならな」

「…………」


いつかの時のように、二人は自然に勝負を始めていた。
だが、会話の内容がKAZUYAの知っているものと微妙に違う。


(石丸の発言に俺は一切出てこない。それに、時折学校について言及している。
 ……恐らく、この二人は二年前にも同じように勝負をしていたのだろう)


なるべく過去を再現するために、KAZUYAと不二咲はただ黙って二人のやり取りを聞いていた。


「石丸君、本当におかしいのかな? 普通に話しているように見えるけど……」

「今はまだ過去を再現しているだけだ。再現の向こう……この先が一番重要だな」


やがて、また以前のように二人はお互いの身の上話を始めていく。


「……君のような人間がこの学園にいたとはな。僕は、この学園にいるのは
 才能にあぐらをかく苦労知らずの天才ばかり……つまり、みんな敵だと思っていた」

(兄弟……オメエはまだそんなこと言ってんのか? 夢の中でもオメエは一人なのか?)


――だが、ここで大和田は間違えてしまった。


「俺が天才? バカ言うな。兄貴のおこぼれもらって、いつも兄貴の影に怯えてただけだ!」

「大和田君……?」

「聞いてくれ、兄弟。俺はな……本当はよええ人間なんだ。いつも見せてる強さも男らしさも、
 本当は俺自身のものじゃねえ。ただ兄貴のマネしてるだけの、作り物で嘘っぱちのものだったんだ」

「何を……何を言っている? 君は、一体……?」

「でも、兄弟なら俺の弱さを受け入れてくれるって俺は思ってる。なにせ、オメーはつええ男だからな!」

「……違う……いや、違わない……? うう……」


ここでの正しい台詞は『敵ばっかり? バカ言うな。少なくとも俺はもうお前の味方だぜ』だ。
そして、二人は今と同じように義兄弟の契りを結んだのだが、今の大和田は知らない。

自分が間違えてしまったことすらわからない。

記憶の中の大和田と現在の精神的に強く成長した大和田との齟齬に、石丸は混乱し始めていた。


「……僕は才能にあぐらをかいている天才という人間だけが
 楽をする訳ではない、本当に努力する者が報われる国を作るんだ」


―でも、努力する天才は?


「僕は……僕は……」


―凡人は結局天才には敵わないって、僕は知っていたはずじゃないか。


「おい……どうした、兄弟?」

「僕は、出来なかった……所詮凡人の僕には、何も成し遂げることなど出来ない……」

「石丸……」


―そうだ……ここに僕は要らないんだ。


「戻りたい……でも……」




























「………………戻れない……」


「石丸……?」

(これは、石丸の本音か? もしや、重要な手掛かりなのでは……)

「……っ!」

「ム!」

「兄弟!」

「石丸君!」


サウナから飛び出した石丸をすぐにKAZUYAが捕まえる。幸い、いつかのように
暴れたりはしなかったものの、また無反応な状態に戻ってしまった。


「兄弟……」

「残念だったね。……でも、今までで一番反応は良かったんじゃないかなぁ?」

「お、おう。そうだな。俺は諦めねえぞ!」

「その意気だよ!」

「…………」


しかし、医者であるKAZUYAにはわかった。今が石丸を元に戻す最大の好機であったことを。

……そして、その好機をみすみす逃してしまったことも。


(大丈夫だ。忘れているだけで二年も一緒にいたのだ。きっとまた機会はある……)


そう強く自分に言い聞かせるが、KAZUYAの暗澹たる思いは消えないのだった。


               ◇     ◇     ◇


K(……残念ながら、ここで直すのは恐らく無理だろう。とにかく、大きく環境を変えなくては)


化学室のおかげでいくつか不足していた薬品の補充が出来た。中身がすり変わっている可能性が
あったので、毒に耐性のあるKAZUYAが思い切って自分の体でテストしてみたが、幸いにもそのような
ことはなかった。暮らそうと思えば数ヶ月は持ちそうだが、生徒達の精神が耐えられないだろう。


K(霧切にも言われたが、方針転換をする……今までは生徒の心のケアを第一に考えてきたが、
  これからは脱出が最優先だ。とにかく腐川をなんとかして、他の生徒達も結束させる)

K(石丸を、切り捨てる訳ではない。俺は他の生徒達も守らねばならんのだ……)


苦渋の決断だった。生徒を守る義務があるKAZUYAに、選択肢などない。
……だが、どうしても石丸を見捨てたという感情がKAZUYAの心から離れてくれないのだった。

そんなことを考えながら、KAZUYAは石丸の抜糸をしてやろうと包帯に手を掛ける。


K「お前達は見ない方がいいと思うぞ」

大和田「いや、見る。……俺がやったことだしな」

不二咲「僕も……石丸君は僕を庇って怪我したんだし……」

苗木「たとえどんなに酷い傷でも、それで石丸君のことを見捨てたりなんてしません」

舞園「仲間ですから、ね」

K「……そうか」


包帯を外し、KAZUYAは石丸の顔と首から抜糸をした。


K(ああ、やはりスティッチマークが酷い……)


スティッチマーク:縫合の際、糸が皮膚を圧迫しその部分が壊死して出来る黒い線。傷口自体より
           スティッチマークが目立つことも多いため、昨今ではいかに皮膚を圧迫せず
           傷を癒着させるかが重視されており、浅い傷なら縫わずにテープで済ます事もある。

石丸の顔面には、KAZUYAの予想通りムカデ状の大きな傷痕が二つ出来てしまっていた。


「…………」


生徒達が息を呑んでいるのがわかる。KAZUYAは消毒すると、改めて顔と首に丁寧に包帯を巻いた。


K「もう一つ、俺にはやらねばならんことがある。少し待っていてくれ」

桑田「なんだよ。やることって」

K「生きる上で必要なことだ」


KAZUYAはそう生徒達に言って部屋を出た。化学室に立ち寄り必要な物を調達すると厨房に向かう。


「…………」


無言でいつものように支度をする。この学園の化学室には、多量の薬品が置いてあった。
つまり、KAZUYAなら市販品に頼らずそれらを調剤して直接点滴を作ることが出来た。

だが今回作るのは、いつもの点滴とは少しばかり成分比率が異なっている。


(二週間以内ならたとえ絶食状態であっても、通常の点滴で問題ない。だが……頼みの綱であった
 不二咲の呼びかけやサウナでのやりとりも効かなかった。長期治療を視野に入れねばならんだろう)


石丸は精神が崩壊する前から、既にほとんど食事を摂っていなかった。それ故、現在の栄養状態を鑑みて
KAZUYAはとうとう通常の点滴(末梢静脈栄養法)から中心静脈栄養法に踏み切ることにしたのだ。

末梢静脈栄養法:所謂、手首などから行う普通の点滴のこと。これだけでは生命維持に必要な
          栄養補給が出来ないので、使用期間の目安は凡そ十日~二週間以内である。

中心静脈栄養法:完全静脈栄養法(TPN:Total Parenteral Nutrition )とも言う。
          体の中心部に近い太い静脈から高濃度の輸液を直接点滴する方法。
          絶食状態でも全ての栄養素を補給でき、長期間生存を可能とする。

高カロリー輸液:中心静脈栄養法で使われる高濃度の輸液。通常の点滴と違い高濃度の成分で構成され、
          これだけで必要栄養が全て摂取出来るが、成分が濃いため末梢血管から点滴すると、
          末端の毛細血管が炎症を起こしてしまう。そのため、太い静脈からしか点滴出来ない。

KAZUYAは細菌が入らないように細心の注意をしながら、成分を調合していく。


(当座はこれでしのぐ……が、これは本来健康な若者にすべき行為ではない。
 何とか、食事だけでも訓練して摂れるようにしないとな……)


日頃は既成品の輸液を使っていたため多少調剤に手間取るが、無事に用意すると保健室に戻った。
石丸の上着を脱がせ丹念に消毒し、右の鎖骨下静脈からカテーテルを通し点滴していく。

中心静脈栄養法で特に気をつけなければならないのは、衛生面だ。常に体外にカテーテルが出るので、
細菌などが血管に入り敗血症にならないようにしなければいけない。道具の消毒法などは事前に
教えていたが、流石に何度も経験して慣れていたからか生徒達もテキパキと手伝ってくれた。


K「女性にはあまり見せたくない光景だが……」

霧切「心配はご無用よ」

舞園「こうやって先生の元で修行していたら、私達看護婦さんになれるかもしれませんね」

桑田「オメーら、よく平気で見れんな……」

大和田「……意外と女子の方が平気なのか?」

苗木「う……」

不二咲「痛そう……」


生徒達は痛々しげに点滴の様子を見ている。

――その時、KAZUYAの脳裏にチラリとある映像が浮かんだ。


(……まただ)


最近、部屋に篭って考えごとをすることが多いからか、KAZUYAは少しずつ記憶が
戻り始めていた。だが、そのどれもが楽しい学園生活でのものだったのだ。


(前は、一刻も早く記憶を取り戻したいと思っていたのにな……)


記憶の中の彼等は、いつも笑顔で輝いていた。学生らしい若さと生命力に満ち溢れていた。
ここにいる青白い顔をし、瞳から生気が失われている生徒達ととても同一人物には思えなかった。

けれど、抗いようのない絶望的な日々を……彼等はもがきながらも懸命に生きていたのだ。

――そして停滞した日々を打ち破るかのように、その事件は起こった。


ここまで。今回は修正の嵐で投下に非常に手間取りましたね
あと直前で気付いて苦渋の言い訳を入れましたが、本来なら期間ギリギリまでTPNには
踏み切らないと思うので、>>434から25日目になっていると脳内補完して下さい


>>424
何をしてたんですか? 先生怒らないので正直に言いなさい

乙です

乙です
ちーたんの胸の傷は抜糸とかはもう済んだのかな?

ついに4番目の事件が起こるのか…医療編だから覚悟はしてたが、やっぱり緊張するな

ええっ? KAZUYA先生のような体になりたい、そんなちーたんの願いが叶った世界線があるんだって!?(ステマ)

Kは傷をなくす術式を知っているから大丈夫だろ

縫合し直すには麻酔が足りないんだよな
Kは針麻酔使えるけど、やっぱり顔面は危険なんじゃない?

なんだか石丸復活失敗って、自由行動の選択で失敗した感がひしひしと

誰かが石丸は落雁メンタルだって言ってたけどまさにその通りだな
豆腐よりは壊れにくいけど一度壊れたら木っ端微塵になって取り返しがつかなくなると言うか

>>444
悪化するばっかで回復の兆しが全然見えてこないし手遅れな気もするよな
交流回数もダントツで折角特殊イベントまで起きたと言うのに…
やっぱり回数よりタイミングか

苗木を覚醒させてケツに希望弾ぶち込もう(提案)

>>445
その点、トッポってすごいよな。最後までチョコたっぷりだもん
何回折れてもチョコの味が楽しめる

>>440
1のイメージでは通常の切創は大体一週間前後、開腹や開胸は大きさにもよるけど一、二週間(若い方が早い)
くらいではないかなと思うので、もうちょっとですね。本編で書き忘れたけど、舞園さんは既に抜糸済み。
昨今は昔ほどぎゅうぎゅう縫わないから、抜糸までの期間が長くて痕が酷いことに…なんてあまりないと思うし、
傷の治りが最優先なのでしっかり癒着させてから抜糸すると思います

ちなみに、石丸君の顔の傷の抜糸は遅すぎました。顔なら出来るだけスティッチマークを残さないために
一週間以内に抜糸することが多いそうです(太い糸で乱暴に縫ったのでそれでも痕は残るけど)。
再うpの際には修正すると思います。三章はちょっと全体的に時系列管理が甘かったな…これがスランプか


>>443
針麻酔で腎臓と全身の皮膚同時移植? あーあー、聞こえない聞こえない
マジレスすると、原作でもその辺は黒歴史扱いで麻酔なくて困る話があるからセーフ

短時間ならまだしも、顔面を針麻酔のみで長時間縫うのは危ないんだよ!きっと!


>>447
舞園「苗木君てトッポみたいですよね」

苗木「?!(褒められてるの?! それともけなされてる? どっち?!)」

>>444-445

モノクマ「諦めんなよ諦めんなよ、オマエラ! どうしてそこでやめるんだ、そこで! もっと熱くなれよッ!!」

ウサミ「はわわわわ。モノクマがおかしくなったでちゅ。それは置いといて…
     皆さん、諦めてまちゅか?! 諦めモードでちゅか?!」

ウサミ「でも! 諦めるのはまだ早いでちゅ! あんまりネタバレはしたくないでちゅが、
     まだベストエンドに行く方法はギリギリ残っていまちゅ。諦めてはいけまちぇん!」

ウサミ「とりあえず、以前あった重要選択肢の大和田君を信じるかどうか。あれは信じるで正解でちた!」

モノクマ「あそこで無理に聞き出すと、自分からみんなの前で告白するという一世一代のイベントが
      なくなってしまうからね。終盤までいつまでもうじうじする羽目になってたよ」

ウサミ「奇しくも、大和田君が成長してしまったせいで今回石丸君は復活出来なかったとも言えまちゅが、
     それは必ずしも悪いことではありまちぇん。大和田君の成長はきっと意味があるはずでちゅ!」

ウサミ「一進一退でちゅが、少しずつ復活のための手がかりは集まっているはずでちゅよ!」

モノクマ「ま、いくらピースが揃ってもそれを並べる人間がいなきゃ意味ないけどねー。うぷぷ」

ウサミ「モノクマ、また余計なことを! 許さないでちゅよー!」

モノクマ「ま、せいぜい頑張りなさいよと」






七海「希望を捨ててしまったら、諦めて読むのをやめてしまったら、物語はそこで終了してしまう……と思うよ?」

七海「だって、これはみんなで作るSSだから……」

七海「最後まで……一緒に頑張ろうね?」

読むのは辞めへんで
グダグダ言ってはいるけど石丸が復活して苗木や桑田みたいに活躍するのを実は期待してる
失敗した時は…その…コンティニューで…(震え声)

今から失敗した時の事を言ってどうする!!

ピース並べはフラグ拾いつつある舞園と場から逃げたメンツに任せるしかないか
自分で蒔いた種は自分で処理できるかな?

>>449
みんなで叶える物語?(難聴)

>>453
君ちょっと黙ろうか

希望を求めなければ絶望に襲われることもないんだし……

石丸崩壊期間長くて確かに心折れそう
でも石丸が戻ってくれば最高に熱い展開になるはず……ってこれ主人公ポジションだよな普通


始まります。


>>457
1の心も折れそう。でも頑張る。大好きな彼等がハッピーに終わるまでやめられん!


何もない――特に問題も起こらないが、何の収穫もない日々を彼等は過ごしていた。

挽回に励む大和田を筆頭に何とか葉隠や山田にコンタクトを取ろうと試みたものの、
苗木以外の人間が近付けば彼等は露骨に警戒し、逃げてしまった。むしろ、これが切欠となり
部屋に引きこもることが増えたと言っていい。会うことが出来なければ話すことも出来ない。

KAZUYAは何とか腐川と再度コンタクトを取ろうとしたが、現れるのはいつもジェノサイダーであった。
どうも、最近はジェノサイダーが現れている時間が多いらしい。無理矢理戻して話すことも考えたが、
あまりショックを与えたくなかったので精神が落ち着くまで待つことにし、石丸の見舞いに来てもらった。

そして当の石丸の精神は相変わらず崩壊したままであり、全く回復の兆しは見えない……


― コロシアイ学園生活二十五日目 朝日奈の部屋 PM2:11 ―


(今日は、どうやって一日潰そうかな……)


大分前から、朝日奈は日々の生活に閉塞感を感じていた。この学園には極端に娯楽が少ない。
一人でなければ色々時間を潰す手段もあるのだが、一人だとせいぜい読書か運動くらいしかない。
朝日奈は読書をするタイプではないし、運動もみんなでわいわいとするのが好きだった。


(泳ぐの……あんなに好きだったのに……)


今や大好きな水泳の時間すら以前の半分以下になってしまった。やりたいと思わなくなって
しまったのだ。好きなことが出来なくなる、というのは鬱病の代表的な初期症状である。

つまり、この時の朝日奈は軽度の鬱状態に陥っていた。


「ドーナツ食べよ……ドーナツ食べればきっと元気が出る……」


そう呟いて部屋を出る。廊下は閑散としていて、静かだった。
監禁されているから狭いと錯覚しているだけで、本来この建物は高校生15人で使うには広すぎた。
誰もいない廊下を孤独な朝日奈が夢遊病患者のようにフラフラと歩いて行く。


「リングドーナツ、ツイストドーナツ、あんドーナツ、ジェリードーナツ、
 マラサダ、サーターアンダギー、チュロス、フレンチクルーラー……」


ドーナツの種類を呪文のようにブツブツ唱えながら、朝日奈は食堂に入る。

そこには思いがけない先客がいた。現在、朝日奈が最も会いたくない人物の一人がいたのだ。


「あ、妖怪チチデカ魔人じゃーん」

「ジェノサイダー……!」


食堂にはまたいつぞやのように飲み食いしているジェノサイダー翔がいた。


「あんた一人? 珍しいわねぇ。オーガちんの金魚のフンのイメージあったけど」

「金魚のフン?! それってどういう意味!」

「そのまんまの意味だけど。いつもバカみたいに引っ付いてるって意味」

「最近は……引っ付いてないもん」

「あっそ」


しかし、それだけ話すとまたジェノサイダーは食事に戻る。あれだけ色々あったのに
平然としているその姿に、朝日奈は無性に腹が立つのを感じていた。


「あんた……なんでここにいるのよ……」

「はぁ? 腹が空いたからに決まってんでしょーが。食堂はメシ食う場所なんだし」

「そうじゃない! あんたのせいで腐川ちゃんは部屋に閉じこもっちゃったし、
 石丸は……石丸はおかしくなったのに! なんで人殺しのあんたは平気なのよ!!」

「そりゃ殺人鬼ですから。人が一人二人死んだくらいでやられるような豆腐メンタルじゃねえんだよ」

「……あんたがいなければ、不二咲ちゃんが死にかけることもなかった……!
 なんでみんながツライ思いしてるのに、あんただけ……あんたなんかが……!!」


朝日奈はジェノサイダーを睨みながら強く拳を握りしめるが、ジェノサイダーは意に介さない。


「あーあ、やーねー。女のヒステリーって」

「なに?! 私の言ってることがおかしいって言うの?!」

「別に。アタシがちーたんヤったのもそれできよたんと根暗がダウンしたのも事実だし。
 ……でもさ、テメェが本当にムカついてんのはそこじゃねえんだろ?」

「なによ……?! 私は別に……」

「ぶっちゃけ、自分がなんの役にも立ってないのにイラだって八つ当たりしてんだろっつってんの」

「?! 私は、そんなつもりじゃ……」

「じゃあなんでテメェはこんなところに一人でいるワケ? 他のメンバーは
 仲良しこよしで一緒に今の状況なんとかしようと頑張ってるみたいじゃん?」

「そ、それは……」


残酷な言葉だった。朝日奈だって何度か歩み寄りを試みたのである。
しかし、モノクマが蒔いた内通者という不和の芽により、彼女の善意は拒まれてしまった。

ジェノサイダーはそんな事情を知らない。知っていても、恐らく斟酌しないであろうが。


「私は手伝おうとしてるもん! でも、先生達がいつもいいっていうから……大体先生が……」

「そのへんはよく知らないけどさぁ、そもそも、一番ツライのってセンセっしょ? センセはきよたんと
 仲良かったからねぇ。いつも余裕ぶったクールな顔してたのに、最近は真っ青な顔してること多いし」

「でもセンセはアタシを責めるとか不毛なことはしないで、ひたすら黒幕や
 自分を責めて前向きにきよたん達の治療にかけずり回ってるワケじゃん?」

「…………」

「――で、テメェは今までなにしてきたワケ?」


殺人鬼の瞳が、獲物を捉えたかのように小さくすぼまる。


「私、は……」


協力しようとは思っているが、今の自分でも出来る事――即ち、石丸の見舞いすら
最近は行っていなかったことを指摘された気がして、大きく心臓が跳ねた。


「どうせなにもしないでただ見てるだけか、被害者ぶって泣いてるだけなんだろーが?
 だったらまだアタシの方が役に立ってんじゃーん。アタシは落ち込んだセンセを
 慰めてあげたし? 根暗の件でも相談乗ってあげたりしたしねー」

「はっ?! えっ?!!」


予想外過ぎるジェノサイダーの言葉に、朝日奈は言葉を失う。KAZUYAの相談に乗った?


「なーに? まさかカズちんはスーパーマンだからほっといても平気だとでも? 確かに
 凡人よりは遥かにタフだけどさぁ、あー見えて意外と思い詰めるタイプなのよん?」

「な、なんであんたなんかが……」


―先生を語るのよ……


「えー? だってアタシはKAZUYAセンセと仲良しだしぃ。カズちんだって役に立たない
 あんたよりは、人殺しでも役に立つアタシの方が好きなんじゃないのぉー?」

「なんで……なんで……」


―なんであんたが私より信頼されてるの?


―私は……


―私は……!





―ひとりぼっちなのに!!


「…………」


青ざめた顔でブルブルと震える朝日奈にジェノサイダーは容赦なくとどめを刺す。


「悔しいならこんなところでうじうじしてないでテメーもなんかやりゃいいじゃん。
 それとも、愚痴ばっか言って自分からはろくに動かない根暗の仲間になる?」

「い、言われなくても……やるわよ……! やってやる!!」


ダッ!

そう叫ぶと、朝日奈は勢い良く食堂から飛び出してどこかに行ってしまった。


「あー、やっとうるさいのがあっち行ったっと」


発破をかけたのか単に追い出したかったのかはわからないが、
一人になったジェノサイダーは再び黙々と食事に取り掛かるのであった。



               ◇     ◇     ◇


その少し前、KAZUYAは静寂極まりない寂しい図書室で医学書を読み漁っていた。


(鬱病、統合失調症……石丸の症状に一番近いのは統合失調症だろうか。だが、重度の鬱病の
 症状にも部分的に当て嵌まるし、そもそも統合失調症自体現代でも定義が非常に難しい病だ)

(被害妄想より他害妄想が強く、幻覚や幻聴があるがそれらは過去の記憶が元になっている。
 今の段階では、統合失調症の中の数ある症状に一部該当する物がある……としか言えんだろう)


肉体の病でも症状が多岐に渡り確定しにくいものはいくらでもある。だが、検査をすれば
どこが病巣なのか、大まかな当たりくらいはつけられる。それに対し、精神の病気は複雑多岐だ。
症状も一人一人違うし、複数の病気が絡み合うように入り組んでいることも少なくない。
薬や手術をすれば治るという決定打もなく、判断も治療も非常に難しかった。


(精神の病は単に心の病気で終わるものではなく、脳に異常をきたしている場合も多い。薬物療法を
 試してみるか? ……だが、いくら専門書を読み漁ったからと言って外科の俺に出来るだろうか?)


向精神薬などKAZUYAは元々持ち歩いていなかったし、保健室にも置いてはいなかったはずだが、
いつの間にかそれらの薬が置かれていた。どうせそんな物を使っても無駄だというモノクマのいつもの
嫌がらせだろう。或いは外科のKAZUYAが気軽に薬を出せないことによるジレンマを誘っているのか。


(リスペリドン、クエチアピン、ペロスピロン、オランザピン、アリピプラゾール……
 駄目だ。どれをどの程度出すべきか全く見当が付かないし、何より副作用を無視出来ん)


向精神薬は直接脳に影響を出すほど効果が強いが、その分副作用も非常に大きい。
確実に何らかの効果がある、と確信を持てなければ出せるものではなかった。

薬の処方は教科書で得た知識も勿論重要だが、実際に患者を見て投与してきた経験が物を言う。


(やはり、外に出て専門医に一度見せるべきだ。外科の知り合い程多くはないが、
 一応何人か精神系の医者の知り合いもいるし、クエイドにも専門家が大勢いる)

(外の様子が気になるが、流石に医者が死滅しているレベルではないだろう)

(……そう思いたい)


手に持っていた本を閉じ、KAZUYAは本棚を改めて眺めた。自然と、全日本医学大全に目が行く。
以前加奈高にいた時、KAZUYAがとある生徒にあげた思い出の本だ。基本中の基本だからか、
何故かここの図書室には二冊あったので、今回もそのうちの一冊を石丸にあげたのだった。


(石丸……)


今まで我慢に我慢を重ねてきたのに、とうとう込み上げてきた思いをこらえることが出来なかった。
思えば、KAZUYAは石丸のことをわかったつもりでいて結局何もわかっていなかったのだ。


初めて会った時、KAZUYAは石丸をしっかりした青年だと思った。勿論、その感想はすぐに
間違いだと訂正したのだが、基本的に石丸を芯の強い男だと思っていたのは変わらなかった。

それ自体はけして間違いではない。石丸は非常に意志の固い男であり、仲間や己の信念のためなら
どれほど自分を犠牲にしても厭わない強さがあった。だが、その強さは一方的なものだったのだ。


(例えるなら刀だ。正面や縦からの衝撃には極めて強い力を持つ。……だがその反面、横からの
 攻撃には滅法弱い。物の性質としては普通のことだが、人間の精神としてははっきり言って歪だ)


――今ならわかる。何故石丸の精神はそんなに不自然な形をしていたのか。

KAZUYAは石丸を青年として扱っていた。それがそもそもの間違いだったのだ。
石丸は少年だった。この学園にいるどの生徒よりも、白く真っ直ぐで未熟な幼い少年だった。

元々本人が真面目な性格でお堅い家柄だというのもあるだろうが、身内のことで世間に
負い目を感じて生きていたこと、それ故に日本の一般的な高校生から遥かに掛け離れた生活を
長年してきたことが加わり、あの潔癖過ぎる性格が形成されたのだろう。


(俺は、外見や発言の立派さに惑わされていた。あいつは知識として知っているだけで本当に汚い物を
 見たことがないし、現実の厳しさには到底耐えられない。何も知らなかったのだ、何も……)


思えば、こんな状況でも普段と同じ生活を貫いたのも、強さからではなく不器用さからだった。
発言の端々に年齢不相応な無邪気さがあった。今までに気付ける要素は十分あったのだ。


(大人として、俺が教えなければならなかった。俺が教えるべきなのは、学問ではなく
 人間の弱さや汚さだったのだ。もっと早く、そのことに気が付いていれば……)


善人でも悪事を働くことがある。家族が嘘をつくこともある。時には友人が友人を騙したり
傷つけることもあると知っていれば、石丸はあんなにも深いショックを受けただろうか。

精神が未熟な子供達が監禁され殺し合いを要求されて、何も起こらないはずがない。
絆を築き、協力すればいつか脱出出来るなどと安易に夢見事を言うべきではなかった。

悔しいが、その点では常に現実を突きつける十神の発言は正しかったのだ。


(思えば、俺が生徒達と過ごしたのは僅か数週間だ。そんな短期間で、人間の本質などわかる筈がない)

(……俺は、自惚れていたのかもしれない。数え切れない人間に会って、様々なケースを
 見てきたから対人観察には自信を持っていたつもりだった。だがそれは結局の所、幾つかの
 パターンを作って無意識にそれに当て嵌めていただけだ)

(だから、そのパターンから外れた人間の考えや行動がわからない――真田もそうだったではないか)


真田武志――! KAZUYAを最も苦しめた、今は亡き宿敵の名だ。

KAZUYAの前に幾度も立ちはだかり、悪魔の頭脳を持って大勢の人間を苦しめた男である。
一度目はKAZUYAを、そして二度目はKAZUYAの仲間達までもを傷つけた。その悪逆非道の数々に
寛大なKAZUYAもとうとう激怒して一度は真田を殺そうと試みたが、結局殺し切れなかった。

だが、情けを掛けられたにも関わらず、真田は再び罪を犯したのである。
真田の心が堕ち切っていたことを、あの時のKAZUYAは見抜けなかったのだ。

その結果傷ついた人々は、間接的にKAZUYAが傷つけたと言ってもいいのではないだろうか。


「……ッ!」


KAZUYAはまたいつぞやのように目眩を覚え、とうとう踏ん張りが効かずに本棚へと倒れ込む。
頭に浮かぶのは過ぎ去りし日々だった。石丸のハツラツとした声が耳に蘇る。


『西城先生! ここがよくわからないのですが!』

『ああ、これはだな……』

『ありがとうございます! 先生の説明はいつもとてもわかりやすいです!』ニコッ


・・・


『俺が実際に遭遇したケースでは――だったな』

『凄いなぁ。先生は本当にたくさんの人を助けているのですね!』

『俺は別に大したことなんてしていないさ』

『そんなことありません! きっと今でも大勢の人が先生に感謝していますよ! 僕も含めて!!』


・・・


『……西城先生』

『どうした? お前にしては珍しく元気がないな』

『僕みたいな何の才能もない不器用な凡人でも、先生のような立派な医者になれるでしょうか?』

『なれるさ。お前くらい努力家な奴ならきっとどんな夢でも叶えられる』

『本当ですか? 尊敬する西城先生がそう言ってくれるなら、僕も無心に信じることが出来る!』

『また明日も頑張ります!』

『フ、あまり根を詰めすぎるなよ』



・・・


『先生!』

『先生』

『先生……』




…………。




…………。




嗚呼――!!


KAZUYAは本棚に手をついたまま、呻いた。

あのいつも明るく笑顔が輝いていた青年は――もういない。





(母さん、親父、そして――――カスミ)


(……俺が本当に守りたかった人達は、いつだって守れなかった)




―俺が此処にいる意味は何だ?! 俺は何のために生き残ったんだ?!




―俺は一体何をするためにここにいるんだ!!










―教えてくれ。誰か、誰か……



               ◇     ◇     ◇


失意の中図書室を後にしたKAZUYAが階段を降りていると、微かに何かが割れる音が聞こえた。


(何だ……?!)


胸騒ぎがする。KAZUYAは階段を飛び降りた。

保健室の方が何やら騒がしい。


――悲鳴が聞こえる。


「……にしやがんだテメェ!!」

「はなしなさいよ!!」

「やめてえええええええええええええ!!」


持っていた本を投げ捨ててKAZUYAは保健室に飛び込んだ。


「どうしたっ?!」


そこでKAZUYAが見た光景は――































朝日奈葵が馬乗りになって、石丸清多夏の首を絞めている姿だった。

!?


ここまで。

乙です
しかしスレタイでドクターKと勝負する気満々のセレスが全く動きを見せないなwwww



首絞めプレイとは中々にレベルが高いなあ(白目)
死者はまだ出てないけど原作より絶望的なような

なんでこんなことになってしまったんや…

乙です

KAZUYAのキャラクター造形がいいなぁ。
生徒たちの先頭に立って教え導く強靱な大人なんだけど、決して無敵ではなく悩んでるし苦しんでるし、弱点も失敗もある。
なんというか、ちょっと前にモノクマがKAZUYAのことを気に入ってると言ってたのも分かる気がするわ。

場合によってはさくらちゃんが余計に気負うことになるだろ

たぶんメンタルKよりさくらちゃんの方が強そうだしな

それはどうだろう。さくらちゃんも生きて和解を選ぶより自らの死を選んでしまったからな
Kはおかしくなった石丸と一週間以上ずっと同じ部屋にいて面倒見続けてんだぞ

そりゃ鬱っぽくもなる

>>475
先に朝日奈大神コンビを持ってくれば良かったかなと絶賛後悔中
でも、まだ500レスあるしセレスさん的には既に勝負始まってるようなもんだし(震え声)

>>479
キャラクターはお借りしているだけなので、つまり真船先生のキャラ造形が素晴らしいですね
ドクターKは濃厚な人間ドラマが売りですから。特に、スーパードクターK時代は病になったりも
するけど基本的にヒーローであり、でも時々苦い過去の失敗談なんかが入っていたりして
それが凄く印象に残ります(SS本編でも触れているエピソード達ですね)

また、改題したDoctorKではダンガンロンパのように敵がKの内面を攻めてくるので、Kの人間的な
弱さや苦悩なども強いリアリティを持って描かれ、まさしく真に迫ってくるものがあります

ドクターKシリーズ電子書籍等で好評販売中(ダイレクトマーケティング)!!

しかしなんで朝日奈はこんな事を…
一番のお荷物になってしまった石丸を始末して「役に立とう」としてるのか?
それとも単純に「先生やみんなに構ってもらえて羨ましい」からか?
原作でもそうだったが、朝日奈って斜め上の思い込みで行動するからなぁ…

単純に命の危機が起きれば元に戻らざるを得ないとか考えてるんじゃないのかな?

せっかく持ってきたお見舞いのドーナツを食べないからキレたのかもしれん

カスミが一番恋愛的な意味でKに近付いたキャラかね

つか日常編にK自由行動安価がでないレベルまでぼこぼこになったってことは、もう俺たちに手の施しようがないんじゃ…

食堂パニックの時の『両雄、未だ相雌伏す』って表現がめちゃめちゃ気に入ってる。
>>1の言い回しが好きなので応援してます。
だからお願いだからハッピーエンドに…(震え声)

つか日常編にK自由行動安価がでないレベルまでぼこぼこになったってことは、もう俺たちに手の施しようがないんじゃ…

食堂パニックの時の『両雄、未だ相雌伏す』って表現がめちゃめちゃ気に入ってる。
>>1の言い回しが好きなので応援してます。
だからお願いだからハッピーエンドに…(震え声)

朝日奈「い、言われなくても……[ピーーー]わよ……! 殺ってやる!!」

朝日奈「こんなもん(ドーナツ)必要ねえ…ぶっ殺してやる!」

朝日奈「残念だったなぁ、トリックだよ」ムキムキッ

朝比奈「牛乳と共に食べる事で更に倍! ドーピングコンソメドーナツだ」ムキムキッ

その1から見てますがかなり面白いです。桑田が本当にいいキャラしてる!!

マチョ日奈が大量発生している……だと……?!


>>486
実は正解


>>487
というか、もしカスミが元カノでないとKは他に女っ気ゼロなのであの歳で女性経験なしということに…
なので是非元カノであってもらいたい。あと、根拠というほどでもないですが、山荘で七瀬先生に
迫られた時にお前は俺のことどのぐらい知ってるんだ、みたいな言い方して拒否ってましたよね。

あれはやはりカスミの存在を引きずってるからじゃないですかね。だって七瀬先生、同じ外科医で
過去に一緒に悪い奴と戦ってて覚悟も出来てるし、嫁にするには最高条件じゃないですか。
会ったこともない婚約者といきなり結婚しちゃうカズオキパパだったら余裕で結婚してますよ


>>488
2スレ目の十神君とセレスさんの辺りですね。そんな短い言い回しを覚えてもらっているとは嬉しい
自分も今2スレ目を読み返しているのですが……ウーン。あの辺りはボンバーマン並みの爆発率でしたねww

しかも、まだ石丸君が健在だった頃だから読んでいるとなかなか苦しいものがある…


               ◇     ◇     ◇


……時刻を少し遡る。

何の脈絡もなくやって来た、それはまるで天災だった。バン!と保健室の扉が乱暴に開かれ
鬼のような形相で飛び込んできた朝日奈を、大和田と不二咲は呆気にとられた顔で見る。


「朝日奈さん?」

「お、おいどうした?」


不穏な物を感じた二人が話し掛けるが、朝日奈は相手にせず真っ直ぐ石丸の元に向かう。


「石丸」

「…………」

「ほら、ドーナツ持ってきたよ。食べれば元気になるよ」


しかし、石丸は何も反応を見せない。朝日奈は脇机に皿を置いて石丸に詰め寄る。


「…………」

「どうしてなにも言ってくれないの? 私のこと嫌いなの?」

「朝日奈君……すまない」


朝日奈の言葉に呼応するかのように、石丸はまた謝った。
いつも通りの反応だ。だが、対する朝日奈はいつも通りではなかった。


「なんで謝るの……? ねえ……」

「朝日奈さん?」

「ねえ、ねえ――ねえっ! いい加減にしてよっ! もううんざりなんだよっ!!」

「おい! オメエどうした?!」


ベッドに座ったまま俯いている石丸に朝日奈は叫ぶ。


「なにやってんだ! 怒鳴って治るならとっくのとうに治ってる! やめろ!」

「どうして?! どうして治らないの?! 私のこと見てよ! ちゃんと私の話を聞いてっ!!」

「すまない。許してくれ、すまない……」


何を言っても変わらず謝り続ける男に、朝日奈はますますヒステリックに叫んだ。
遂には、肩を掴んで無理矢理こちらを向かせる。その気迫に石丸は怯え小さな悲鳴を上げた。


「なんでよ?! もうイヤなんだよっ!! みんながこれだけやってるのになんで戻らないの?!!」

「おい、朝日奈……!」

「わかったよ……あんたが、あんたがそういう態度をとるならこっちにだって考えがあるんだから……」

「あ、朝日奈さん? あの、少し落ち着い……」

「あんたがどうしても戻る気がないっていうなら――こうしてやるッ!!!」


朝日奈は一瞬で石丸を押し倒すと、両手でその首を締め上げ始める。突然の奇行に
大和田と不二咲は仰天して硬直してしまうが、先に動いたのは大和田だった。


「なにしやがんだ、テメエッ!! やめろ!!」


大和田が朝日奈に組み付き、その衝撃で皿が床に落ちて割れる。
だが朝日奈も死ぬ気で掴んでいるのか、簡単には引き剥がせなかった。


「はなしなさいよ! こうでもしなきゃ、コイツは目を覚まさないんだから!!」

「バカ野郎! 殺す気か?!!」

「うるさいっ! そのくらいしないともう手遅れなんだよ、邪魔しないで!」

「だからってなあ!」

「ぅ……うぅ……」

「ほら、ほら、悔しかったら私を殺してみなさいよっ! 石丸ゥゥッ!!!」ギリギリギリ

「……っが……っっ……」

「テメエ、正気じゃねえええええええええ!!」

「朝日奈さん、やめてええええええええええええ!!」

(助けて! 西城先生!!)


不二咲は口元に手を当て、叫ぶ。そして無駄を承知で朝日奈にしがみついた。
その直後、祈りが通じたかのように扉からKAZUYAが飛び込んでくる。


「ッ――何をしているんだッ?!!」


あまりの驚愕に思わず声が変に裏返りかけるが、そんなことは気にしていられない。


「せ、先生ェー!! 朝日奈さんがっ!」

「私が戻してやるの! 苦しいでしょ? ツライでしょ? だったら怒りなさいよ!
 やり返しなさいよ!! 私を殺してみなさいよオオオオオオオッ!!!」

「すま……ない……朝、日奈く……!」

「やめるんだっ!」


KAZUYAは大和田と不二咲に加勢して朝日奈をなんとか引き剥がした。


「ゲホッ! ……ゲホッゴホッ!」

「石丸君、大丈夫?!」

「しっかりしろ、兄弟! もう大丈夫だぞ!」

「はなしてっ! はなしてよ! はなしてぇっ!!」

「落ち着け! 落ち着くんだ、朝日奈!」

「もううんざりなの、こんな生活! 石丸がいつまでも戻らないから私達まで!!」

「こんなやり方では逆効果だ!!」

「うるさいっ! いい加減に戻りなさいよ! もう今の空気はイヤなんだよ! あんたのせいでしょ?!」

「テメエ! そんな理由で兄弟に暴力振るったのかッ?!」

この朝日奈はアスカが憑依してる気がする


ここ最近はだいぶ丸くなったが、大和田は元々非常に短気で手が早い男である。普段は絶対
女子に暴力など振るう男ではないが、おかしくなった義兄弟に理不尽な暴力を振るった彼女に
平手打ちをしようと大きく手を振り上げる。朝日奈は咄嗟に強く目をつぶった。


「やめろ、大和田!!」


KAZUYAは大和田の手が当たらないよう、朝日奈を連れて大きく後ろに下がる。


「不二咲! 大和田を連れて部屋に!」

「待てよ! テメエ一人でそのアマを止めるのはムリだ!」


その時、タイミング良く来客がやって来た。桑田と霧切だ。


「お、おいおい! なんかスゲー声が聞こえてきたけど……って朝日奈?!」

「ドクター!」

「俺は大丈夫だ! 朝日奈は俺が説得するから、お前達は大和田を連れて行ってくれ!」

「えっと……」

「わかったわ! 桑田君、早く!」

「お、おう!」

「俺は冷静だ! 兄弟を置いて行けるか!」

「大和田君、行こう。ね?」


三人がかりで大和田を引きずり、保健室から連れて行く。


「朝日奈……」

「…………!」バッ


朝日奈は少し落ち着いたのか暴れるのはやめたが、乱暴に腕を振り払ってKAZUYAを睨む。


「見ろ、石丸を」

「…………」

「うっ、ううっ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


石丸は頭を抱えうずくまり、涙を流しながらガクガクと震えている。
その姿はさながら、親に虐待されて怯える子供のようだ。


「石丸……」

「さっきのやり方では逆効果だ」

「どうして……なんで謝るの! いきなり襲い掛かって、私が悪いのに!!」

「……もう石丸には、やり返す気力もないんだよ」

「…………」

「君の石丸を救いたいという気持ちは有り難いが、もう少し時間をかけて一緒に……」


そのまま、KAZUYAは朝日奈を諭そうと肩に触れようとするが――弾かれた。


「……?!」

「うそだよ……」

「嘘? 一体何が嘘なんだ?」

「本当は一緒になんて……思ってないくせに……」

「朝日奈……?」

「先生の、先生の――」



「――大うそつきィっ!!」



朝日奈から放たれた予想外の言葉に、KAZUYAは動揺する。


「嘘……つき……?」

(俺が?)


呆然とするKAZUYAに突き付けられた言葉は、ナイフのようにその胸を抉った。


「だっていつもそうじゃん! なにか頼み事をする時は苗木、桑田、大和田に
 舞園ちゃんと霧切ちゃんばっかり! 私だけいつも仲間はずれっ!」

「それは……」

「前はそんなことなかった! 舞園ちゃんが入院してる時は私にもいろいろ頼んでくれた!」

「……!!」


「先生、本当は疑ってるんでしょ私のこと?! だから前より距離が遠いんだ!!」

「朝日奈……」


この時、KAZUYAは始めて自分が大きな過ちを犯していたことに気付いた。


(……違う。朝日奈は内通者ではない)


そう。やはり朝日奈葵は内通者ではなかったのである。

こんな行動を起こせば、KAZUYAは騙せても大和田や不二咲の心証が悪くなるという理屈もあるが、
理屈などもはや関係ない。朝日奈の魂からの叫びが、KAZUYAの心を強く深く揺さぶったのだ。


「先生だけじゃないよっ! みんな、みんな私のことを疑ってる!! どうして? 私がなにかしたの?」

「私のことを信じてくれるのはさくらちゃんだけ……でも、だからって
 さくらちゃんにばっかり甘えていたら、さくらちゃんの負担になっちゃう……」

「…………」

「私はずっとみんなと協力してたし、一緒にいたいのに……こんな生活もうイヤだよっ! イヤだっ!!」

「家に帰りたい! 思い切り外を走りたい! ドーナツ屋にも行きたいし、友達にも会いたい!!」

「朝日奈……」

「……パパやママに会いたい……」


そう言って泣き出す朝日奈に、KAZUYAは再び大きな衝撃を受けた。


(色々な思いを、ずっと一人で我慢していたのだな……)

「すまなかった……」


思わず、謝罪の言葉が口をついて出る。

確かに朝日奈の言う通りだ。自分は彼女を疑っていたし、KAZUYAがそういう姿勢を
取ったせいでKAZUYAを信じる者達も同じようにしていた。だが、朝日奈は本当はずっと
そのことに気付いていたし、KAZUYAの優柔不断さが彼女を傷付けてしまっていたのだ。


「うそつきっ! どうせ口だけのくせに! 私のこと信じてくれない先生なんて……キライだよ!!」

「そうだな……俺も自分のことが大嫌いだ……」

「うわああああああああああああああああああああ!!」


朝日奈はこの学園では小柄な方にも関わらず、自分より二周り以上は大きいKAZUYAに殴りかかる。
KAZUYAはその拳を止めず、避けもしないでただ甘んじて受け入れた。アスリートだからか、
女子高生とは思えない力で思いきり胸板を殴られる。そのまま、何度も殴られ続けた。


「わああああああああああああああああああああ!」


だが、余程鬱憤が深いのか朝日奈のヒステリーはそれだけでは止まらない。机の上の物を
思い切り投げ付けられたり、爪で引っ掻かれたりした。けれども、KAZUYAは一切抵抗しない。


(俺が不用意に疑ってしまったばっかりに、この少女の心を傷付けてしまった。……俺のせいだ。
 疑心暗鬼になってはいけないと生徒に言いながら、その実俺自身が最も疑心暗鬼に陥っていた)

(こんなことで俺の過ちが許されるとは思えないが……君の怒りは全てこの身で受け止めよう)


KAZUYAは静かに目を閉じ、ただされるがままに一つまた一つと傷を負っていった。


すみません。少し短いしキリも悪いのですが、今日はここまで

本当はもうちょっと行きたかったけど、明日も仕事だしかといって
金土は投下出来ないので慌てて落としました。おやすみなさい

健在て! 健在て!

正直、女ってだけで朝日奈をここまで疑うなら、霧切さんをシロ認定する理由が弱いよね。

……いろいろぶちまけそうになったのですこし離れるわ
冷却してくる



こっちのケアを先にすべきだったか…

…あんまり朝日奈さんを責めないであげて下さいね
そもそもこのイベントは本来起こる必須確定イベントではありませんから

ひとえに自由行動での選択しなさが裏目に出てしまったのです。以前TETSU先生がヒントで
朝日奈に会っておいた方が良いと言っていましたが、あれは裏を返すと会わないと
マズイという意味でもありました。朝日奈は元々二章終了時点までに仲間に出来るキャラなので
自由行動でガン無視したことにより不満が溜まり朝日奈葵の憂鬱イベントが発生したのです

基本的に仲間にしにくいキャラより、仲間にしやすいキャラを怒らせた方が難易度跳ね上がります


>>507
ただ学園長の娘、というだけでしたらもっと疑っていました。霧切家の特殊な成り立ち、
実際に霧切が解決した事件。そういう物を学園長から聞いていて、あとは裏世界の
仲間から情報を仕入れて裏取りをしていたのですね。それがなければめっさ疑ってたでしょう

乙です

乙です
朝日奈さんは本編では4章がメインだから…と後回しにしてたのが裏目に出てしまったな…

朝日奈ってキレるとこんな口調になるのか……

>>510
割とメタ視点だけど、K的には脅されて裏切ってるって可能性がすっぽり抜けてるのね
女心がわからないなら特に霧切が裏切り者だったら超絶無理ゲー化しそう

多少は八方美人しといた方が良かったのね

朝日奈はあんま魅力あるキャラじゃないから自由行動選択する気起きなかったわ…
四章でやったことも大迷惑だしさくらちゃんが天使すぎるせいで何とも…

>>506
?石丸君が怪我したのは二スレ目中盤だから、そこまでは健在ですよ?


>>513
口調はちょっと自信ない

次回辺りで触れますが人質の可能性は勿論考えてます。そうでなければさくらちゃんは疑いの対象になりません
意外かもしれませんが、Kが女子で最も理解出来たのはさくらちゃんなんですね。拳を合わせたので

こういう言い方はちょっとアレですが、Kは霧切さん個人を信用しているのではなく、霧切一族を
信用しています。同じ千年以上続く名家であり、歴史の表には出ない存在ですから、どこか通じ合うものが
あるのでしょう。仮に身内を人質に取られても使命を取るだろう、という確信がKの中にはあります


>>514
先生ですからね。心配な子を優先するのは当然ですが、他の子もちゃんと見なくちゃダメなんですよ
特にこのSSでは将棋崩しのように、落としやすい子をどんどん落としていくのが鉄則

ちょっと長いですが、1なりの解釈を書かせて下さい

>>515
彼女が四章でやったことは簡単に許されることではありませんが、極限まで精神が追い詰められていたのでは
ないかなと思います。朝日奈さんは明るくてノー天気なイメージ強いけど、本当はとても弱い子なんです。
というか、1の解釈では朝日奈さんが普通の感性で他のメンバーがメンタル鋼過ぎだと思います

最初の事件は、正直みんな覚悟してたと思うんです。まだ打ち解けてなかったし、あんなDVD見せられちゃね
それに対し、二番目の事件は大分みんな打ち解けて動機も一部の地雷除けば大したことないし、油断してたと
思います。そんな中、天使が死んで犯人は一番仲が良かった大和田君で、背景にはあんな悲しいスレ違いがあって
オシオキグロいし…見てるだけでうへぁ('A`)…と。もし1があの場にいたら仮に二人と全く仲が良くなくても
しばらく寝込みますよ!なのに、翌日の朝食会は朝日奈以外みんな来てて割と普通に会話してて、超高校級って
凄い…そう思いました。(山田君なんてちーたん好きだったから寝込んでも良かったんじゃないですかね)

三つ目の事件もまさか金で動くまいと思ってたら二人も死んで、しかも動機はくだらないし山田君は
セレスさんと仲が良かったのに利用されて切り捨てられて…八人も死にましたからね。そんな限界状況の中、
最後の砦のさくらちゃんが追い詰められ殺されたと思った時、彼女の中の何かが切れたのではないでしょうか。


…余談ですが、石丸君は責任感が強すぎましたね。リーダーだし言い出しっぺの自分が朝食会を休む訳には
いかないと思ったのでしょうが、しばらく寝込んで誰にも会わなければ良かった。そうすれば、次の事件に
巻き込まれなかったしさくらちゃんの覚悟や苗木君の希望弾で蘇った可能性もあったのに…と思います。…悲しいね

そーいや最初の頃
1が苗木桑田石丸朝日奈は序盤に仲間にするのがオススメみたいな事言ってたな
朝日奈が大きく影響するのは4章だから後回しでいいだろと言う考えが甘かったか
石丸は気にかけ過ぎて逆効果だったと言うことかな?
攻略は浅く広くがいいみたいだね

ゲーム4章の朝日奈の行動は、さくらちゃんが唯一の親友ってなってたからの行動じゃないかな
まぁ、通信簿はあんまり手をつけてないのが正史としてね
さくらちゃんが強すぎたからああなったように、朝日奈は友達想いすぎてああなった


>>516
いや、なんか健在だったって言うと→今は健在じゃない→故人、みたいなイメージになってしまって……

でも石丸は特殊ルート入ったし、今でも復活して活躍してくれるのを信じてる

>>515
>朝日奈はあんま魅力あるキャラじゃないから自由行動選択する気起きなかったわ…

えー朝日奈可愛いじゃん
女子キャラの中では1番好きなんだが

>>521
握手

>>521
握手

>>521
握手

そして>>1
朝日奈と石丸が男女好きなキャラトップの俺には悪夢のような展開だ……たまらん、クセになる絶望感だ
>>1のダンロンキャラ愛が伝わってくるこのSS何度も読み返してしまう……いつもありがとう、そしてこれからも期待してる!

朝日奈はもう仲間になれないのかな…

KAZUYAが強いリーダーシップを発揮した「人気教師」になったことで、「KAZUYAに信頼されていない生徒は外れ者」みたいな空気ができちゃったんだろうな。
現実の学校社会でもまま起きることらしいけど。
敵対する意思を固めている十神とセレス、内通者なさくらちゃんはともかく、朝比奈や山田にはしんどかろう。葉隠はよく分からんが、どう考えてるのかね。

しかしそうすると、朝比奈のヒステリーを黙って受け入れたものまずかったのではあるまいか。
KAZUYA本人は多少気が済むかもしれなけど、冷静になったあと朝比奈はますます気に病むだろうし、桑田たちだって気にするだろうし。
やっぱり、医師としてはともかく、教師としては完璧ってわけでもないっぽいね、Kも。

Kも人間だからどうしても扱いに差は出るだろうしK自身も石丸の件や内通者やモノクマ十神の件で結構精神的に参ってる状態だからなあ
朝日奈は元々人なつこい子だし本来なら桑田や舞園みたいにKの助けになってくれた立場だと思うんだよな
今回の爆発で手遅れじゃなければいいんだけどな…

ここで朝日奈の怒りが爆発したけどもしここでセレスも動くとすると、本編的に山田も動き、そしてこの状況だと精神的に追い詰められてると思う葉隠も動く…
朝日奈、葉隠、セレス、山田…4章入るまでに手を付けて仲間にしておきたいけどだれを優先するべきなんだよ……

まぁとりあえず葉隠は放置しても害無さそうだし、まず朝日奈をフォローしてセレスに近づくか....
セレスを引き込んでおけば山田は無害だろうし。

石丸は....これどうすりゃあ良いんだ....

セレスには近づいた方が危ないだろうね

セレスは近づこうが近づかなかろうが三章ボスだから三章で悪い方向に働くのは決定してるようなもんだし
今は朝日奈・石丸のケアに回った方が良いのでは

石丸には悪いが現状は何しても無駄な気がする
これ以上石丸に気をかけてもKや他のメンバーの方が参っちゃうと思うんだ

確かに今は1の大きな問題より10の小さな問題に気を配った方がいいな

今の状態はかなり良くないとの事だからそろそろ死者出て来そう

>>532
同感
石丸はケアに回っても回復しない回らなかったら悪化するのどう足掻いても絶望な感じしかしないなあ
流石に足引っ張りすぎだからぼちぼち見限ったほうがいい気もする

でも>>449で1が言ってることを見るに、むしろ今石丸に大詰めかけないと石丸一生回復しない気がする

死人の出ないダンガンロンパSSは糞

それとも誰も死人を出さずに納得できるハッピーエンドを書ける自信があんの?

こういう時って放っておいた方がいいんだろうか
でも目を離した隙に自殺してそうで怖い

死人こそ出ていないが人格崩壊が二人、顔面にバカでかい傷が残ってるの一人、
一度完全に死んで胸に手を突っ込まれてたり、生徒のほとんどが部屋に引きこもりがちで、
その他手術数回と鬱状態の人間続出とある意味原作より絶望的状況だけどな

朝比奈の鬱憤よか読者の鬱憤の方がゲージヤバめにみえるんだが

某二次創作をリアルタイムで読んでた人はこんな気持ちだったのかなあ…
鬱憤を溜めれば溜める程見事に晴らした時の爽快感はよくなるはずさ

(晴らせるとは言っていない)

(選択肢によっては)鬱憤を晴らせる(かもしれない)

はやくKに希望弾(グバンパンチ)うたせなきゃ…

>>526
KAZUYAは医者としては超一流かもしれませんが、教師としては教育実習生レベルですからね
そりゃ教師歴18年のベテラン石田先生には勝てません


……ところで、前回慌てて投下したから推敲が足りなくて、読み直したら
なんか朝日奈さんが自己中ヒス女っぽく見えるので一部差し替えます


>>498のラスト四行

>「もううんざりなの、こんな生活! 石丸がいつまでも戻らないから私達まで!!」

>「こんなやり方では逆効果だ!!」

>「うるさいよっ!」


>KAZUYAが何とか宥めようとするが、朝日奈は聞く耳を持たない。


>「いい加減に戻ってよ! あんた言ってたじゃん! 自分に出来ることをし続けるって!!
> なのに、なんでこんな風になってるのっ?! 早く元気になってよ! 前みたいに笑ってよ!!」

>「朝日奈!!」

>「もう今の空気はイヤなんだよ! あんた風紀委員でしょ?! なんとかしてよっ!!!」

>「テメエ! そんな理由で兄弟に暴力振るったのかッ?!」


以上。


・・・


「ハァ……ハァ……う、うう……ひっく……」


流石に何十分もそうやって暴れ続けて疲れたのか、朝日奈は手を止めて泣き始めた。


「…………」

「なんで……なんでなにもしないの……? ひっく……」

「……全部、君の言う通りだからだ」

「…………」

「俺は確かに君を疑っていた。何の根拠もなく、あれだけ友好的に接してくれた君の想いを裏切った」

「――責められて然るべきだ」


朝日奈はもう口だけとは言わなかった。ただ、ぽつりと寂しげにこう漏らした。


「あの朝の時間は……楽しかった時間は、先生の中ではなんの意味もなかったの……?」


一瞬返答に窮したが、KAZUYAはゆっくりと首を横に振る。


「それは違う」

「俺も、二つ目の動機が配られる前のあの時間が好きだったよ。始めは大人として
 校医として、君達に対し線引きをしていたがここで何日も寝食を共にしていく内に……」

「いつの間にかそれがなくなってしまった。――距離が近くなってしまったんだ」

「…………」


刺激の少ないこの環境で生徒達は人生経験豊富なKAZUYAに対し、朝のニュース代わりに色々な
話をねだったものだった。逆にKAZUYAが彼等に対し、日常や前の学校での生活を聞いたこともある。

夜勤が当たり前のKAZUYAにとって誰かと朝食を摂ることは実は頻繁にあることだったが、
言ってみればそれらは仕事の延長線上にあった。仕事仲間と仕事の会話をする仕事上の食事であり、
最初はここでもそれを貫くつもりであったが、いつしかそれは違ったものとなってきてしまった。


『ねえねえ先生! また外国の話聞かせてよー!』

『いや、僕は病院の話がいいぞ!』

『昨日話してくれた、裏の世界の続きも気になるなぁ』

『我は強敵と戦った話が聞きたい』


KAZUYAは額に手を置き、目を閉じてあの楽しかった朝の光景を思い出す。


「俺が父子家庭なのは昔言ったな? 親父はいつも仕事で家を空けがちだった。……いや、
 たとえ家にいても医学のこと以外俺はほとんど親父と話せなかったんだ。親父は俺にとって、
 父親というよりも偉大な師であり超えるべき壁のような存在だった」

「……だから、家にいても俺はいつも一人の気がしていた」


KAZUYAは、自分が何を言っているのか段々分からなくなってきていた。学生時代に父に抱いていた
コンプレックスによく似た複雑な感情は、今まで誰にも話したことがなかったはずだ。

けれども―― 一度吐き出された思いは、言葉は止まらない。


「長期間誰かと寝食を共にし、他愛のない会話をしたり遊びに付き合ったりするのは俺にとって
 初めての経験だった。もし俺に兄弟がいたら、こういう生活が出来たのだろうなと思った」

「そんな風に考えていたら、いつしか俺は単なる校医としてではなく俺個人として、
 歳の離れた弟妹達と暮らしているような……そんな錯覚すら覚え始めていたんだ」

「…………」


既にKAZUYAの精神は限界まで疲れ果てていたのだろう。額に手をやったまま、
虚ろな目で滔々と語るKAZUYAの姿を、朝日奈はただ黙って見ていた。


「この状況下で大人がこんな発言をするのは不謹慎かもしれないが――それくらい、楽しかった」

「先生……」

「だからこそ……だからこそ、俺は今無性に自分が許せん!」


KAZUYAの額は、先程朝日奈が投げ付けた鋏によって既に血が流れていた。
そこに、追い撃ちをかけるように固い拳をぶつける。

ゴスッ!という鈍い音と共に傷が広がり、額からは血が噴き出た。


「! なにを……!」

「俺は馬鹿だった……生徒を守る守ると口では言いながら、結局傷付けてばかり……」


KAZUYAは再び自分を殴った。


「君が仲間を裏切ったりする人間じゃないなんて、見ればわかるはずだ!
 俺の目は一体どれだけ曇っていた! 何故信じられなかった?!」


殴った。


「俺は一体何度繰り返せばいい……?! 何度過ちを繰り返せば気が済むんだッ!!」


殴った。殴った。殴った。

自分が許せなかった。自分が嫌いだった。自分を傷つけたかった。
誰かに罰を与えて貰いたかった。変わらない現実が嫌だった。
生徒を守りたかった。でも守れなかった。その事実が苦しかった。

もう何もかも否定して、拒んで、許さないで、絶望して――


「やめてっ!!!」


少女は絶叫する。


「俺は、俺は……こんな自分に腹が立って仕方がない!!」

「やめて! やめてよ! もうやめてぇ……!!」


長身のKAZUYAの腕を掴めなかったからか、いつの間にか朝日奈がKAZUYAの体にしがみついていた。
その体から暖かさと柔らかさを感じると同時に、彼女が酷く震えていることに気が付く。


「朝日奈……」


KAZUYAは手を止め、血まみれの顔で彼女を見下ろした。朝日奈はKAZUYAに
縋り付きながら、しゃくりをあげて泣いている。何度も何度も謝りながら……


「ごめんなさい……ごめんなさい……」

「……どうして君が謝る? 気付かなかった俺が悪いんだ」

「そんなことないよ……」


俯きながら、朝日奈はKAZUYAの服をギュッと掴む。


「だって……だって、私も気付いてなかった。先生も、本当はずっと悩んでたんだね……」

「…………」

「そうだよね……大人で先生だからってなんでも出来るワケじゃないし、わからないことだって
 たくさんあるはずだもん……事件を起こさないために、仕方なくみんなを疑ってたんでしょ?」

「……そんなもの言い訳にならん」

「それだけじゃないよ。先生は、私達が怖がらないようにいつもムリして平気なフリをしてた。
 事件が起こったり石丸がこんなことになって、先生が一番責任感じてるはずなのに……」

「そんなことは……」

「なのに、自分のことばっかり言って石丸や先生に八つ当たりして……ごめんなさい、ごめんなさい」

「…………」


KAZUYAは朝日奈を抱きしめ、頭をそっと撫でる。


(そうだ。この子は、いつだって真っ直ぐで素直な子だった。……俺は一体何を疑っていたのだ)

「先生……私のせいで怪我……」

「ああ、大丈夫だ。これくらい掠り傷だよ」


KAZUYAがそう言って笑うと、朝日奈も少しだけ笑った。久しぶりに彼女の笑った顔を見た気がする。


「あ、石丸は……」

「静かだな」


放置していた石丸のことが気になったので近寄って背中をさすったが、
不思議なことに既に泣き止んでだいぶ落ち着きを取り戻していた。


「…………」

「石丸、ごめんね。石丸は関係ないのに、私ヒドイことしちゃった……」

「朝日奈君……」

「先生、私が石丸にしてあげられることってなにかあるかな? なんでもいいから」

「そうだな。……ああ、そうだ。良かったら、手を握ってやってくれないか」

「手? そんなことでいいの?」

「ああ。今この男に最も必要なのは、人の温もりだと俺は思う」

「人の温もり、か。……そう言えば、手が冷たいね。石丸、私があっためてあげるよ」ギュッ


石丸はいつになく穏やかな表情で、微かに目を細める。


「……温かい」


呟くが、声が小さくて二人には聞こえていなかった。


「朝日奈、最近は何をしていたんだ? 聞かせてくれないか?」

「うん。相変わらずだよ。ドーナツ食べて、走って、泳いで……ああでも、
 最近はそんなに泳いでないかな。……一緒に泳いでくれる人もいないし」

「俺で良ければ、今度また一緒に泳ごうか」

「本当っ?!」

「ああ。また前みたいにみんなで競争しよう」


その後、KAZUYAは酷いことになっていた額の出血を止血しながらゆっくり朝日奈と会話をする。
朝日奈は嬉しそうに近況報告や最近感じたことを話し、KAZUYAは穏やかに相槌を打った。


「先生……ありがとう。私の話を聞いてくれて」

「なんなら、これから毎日話に来てくれてもいいんだぞ?」

「うん! そうするねっ!」

「フフ」

「……先生ってさ。前から思ってたんだけど」

「ん?」


朝日奈は満面の笑みで言い放つ。


「――お父さんみたいだよね!」

「お、お父さんか……」


「うん! 大きいし、いつも落ち着いてて安心出来るし、大きいし!」

「……君の中の父親のイメージはよくわかった」

(俺的に君達は歳の離れた弟妹のイメージなのだが……)ウーム


KAZUYAの渋い表情を察したのか、朝日奈はおずおずと言い直した。


「あ、KAZUYA先生って本当は若いんだっけ。……お兄さんの方がいい?」

「いや、父親だと思って甘えてくれて構わんぞ」

(……もしかして、他の生徒達にもそう思われているのだろうか)


他の生徒達、特に舞園あたりの自分への接し方に何だか心あたりがある。
KAZUYAは同年代の中では特に父性の強い男であるし、小学生くらいなら我が子と思えなくもないが、


(流石の俺も、高校生の子を持つ親の境地にはまだ達していないな……)


そうこっそりぼやいたのであった。


「さて、大和田達を呼んで来ないとな」

「あ、私が……」

「いや、俺が呼んでこよう。君はここで石丸を見ていてくれ」

「……いいの? 石丸と二人っきりにして」

「もう疑うのはやめだ。俺は君を信じる!」

「ありがとう!」


朝日奈はパァッと顔を輝かせたが――すぐに表情を暗くする。


「ねえ、先生……先生はさ、やっぱりさくらちゃんのことも疑ってる?」

「…………」


何と言うべきか悩んだが、嘘を言ってもきっと見抜かれるだろうと思った。
KAZUYAは、朝日奈の目を見つめながらはっきりと頷く。


「そうだ。疑っている」

「さくらちゃんは、仲間を裏切るような子じゃないよ!」

「わかっているさ。……だが、優しく真面目だからこそ内通者の可能性があるのだ」

「どうして?!」

「例えば、彼女は道場の娘だろう? 門下生を人質に取られていたりすれば或いは……」

「あ……」


KAZUYAは大神と拳を合わせた時のことを思い出す。冴え渡るような鋭い技や身のこなしのはずなのに、
どことなくキレが足りない気がした。彼女は何か人に言えない思いを抱えている。そう感じたのだ。


「……時々な、何かに悩んでいるように見えることがあるのだ。俺でさえ
 そう感じるのだから、大神と親しい君なら何か思うことがあるんじゃないか?」

「それは……」


朝日奈は目を逸らす。どうやら思い当たることがあるらしい。


「でも、でも……それでも私はさくらちゃんを信じたいの……ムリ言ってるっていうのは
 わかるけど、先生達にもさくらちゃんのことを信じてほしい。ダメかな……?」

「……わかった」


予想外の答えだった。言っておいてなんだが、慎重派のKAZUYAが
ここで頷くとは朝日奈も思っていなかったのである。


「いいの?! だって……」

「俺はこの場の保護者であり責任者として生徒達全員の命を背負っている。
 だから安易な行動は取れないし迂闊なことは言えない。それはわかるな?」

「うん」コクリ

「だが、疑うのはやめだとさっき言ったはずだ。大神は進んで人を裏切るタイプではない。もし仮に
 本当に内通していたとしても、俺達が信じてやればいつか自分から告白してくれるかもしれん」

「勿論、内通しているということ自体が俺の勘違いなら言うことはないがな」

「KAZUYA先生……」

「これからは、二人にも俺の手伝いを頼んでいいかな?」

「うんっ!!!」

「では、俺が呼んで来る。ここで待っていてくれ」


・・・


大和田達はどこにいるのだろうかと思って探していたら、何故か苗木の部屋に集まっていた。
この中で一番力が強い大和田を抑えるには、全員で行くしかないと思ったのだろう。

現れた満身創痍のKAZUYAの姿を見て、一同は言葉を失う。当然だろう。止血はしたものの、
額には包帯を巻き、シャツには所々血が付いている。顔や首筋、腕など露出している箇所は
至る所に引っかき傷や痣が出来、傷は痛々しくミミズ腫れになっていた。


不二咲「先生!」

大和田「おい、兄弟と朝日奈はどうしたっ?!」


K「落ち着け。朝日奈とは話をつけた。今は彼女に石丸を見てもらっている」

大和田「ハァアッ?! もしまたあの女がトチ狂ったらどうするつもりだ!!」


詰め寄る大和田に、KAZUYAは一枚の紙を突きつけた。勿論、監視カメラには映らないようにだ。


『朝日奈は内通者ではなかった』


大和田「!!」


他の生徒も近寄って来て、メモの内容を見ると一様に顔をしかめる。


K「石丸の件で、俺達はこの所ずっと彼女を放置していた。いや、彼女を部外者扱いして
  避けていたとすら言っていい。……それで、随分寂しい思いをさせてしまったようだ」

桑田・舞園・大和田・霧切「…………」


無実の人間をずっと疑って避けてきた。その結果引き起こされた事件だと彼等も理解する。


不二咲「そっか……朝日奈さん、辛かったんだね……」

K「ああ。溜まりに溜まった感情が何かの拍子に爆発してしまったようなのだ。
  だから、あくまで一時的に感情的になっただけで朝日奈個人には石丸を
  傷つけようなどという意図はないし、今は冷静になって反省もしている」

K「彼女をどうか許してやって欲しい」


大和田「…………」

苗木「勿論です! むしろ、謝らなきゃいけないのはこっちの方だしね」

桑田「それはいいんだけどよぉ……」

K「あまり自分を責めるなよ? 石丸の安全を守るためとはいえ、いつも同じメンバーにばかり
  頼って任せきりにしていたのは俺だ。お前達はただそれを踏襲していただけに過ぎん」

桑田「うーん」

霧切「…………」

苗木「まあまあ、逆に考えようよ。これからは朝日奈さんにも色々頼めるんだよ! 違う?」

舞園「そうです! これで私達の負担も減りますし、良いことずくめじゃないですか!」

霧切「……過去の失敗を引きずっていても仕方がないわ。私達は他にやるべきことがあるのだから」

桑田「そ、そうだな! 良かったじゃん。へっ」

K「大和田、朝日奈を許してやってくれないか?」

大和田「…………」

不二咲「大和田君……」

大和田「……わかってるよ。それより兄弟のことが心配だ!」


大和田のことが気にはなったが、もう暴れることはないだろうと判断し、
KAZUYAは生徒達を保健室に連れて行った。


ここまで。


おいなんか保健室帰ったら事件起きてそうな引きじゃねーか!
Kの緊張も決壊して朝日奈に気持ち晒したことで、朝日奈とも良い感じに腹をわって理解しあうことができた…と信じたい

さて、朝日奈とのわだかまりが解けたところで、次のエピソードあたり霧切さん危ないんでね?
前々から警告されてたし、最初にちょろっと話した記憶しかないんだよね。
てか、一部に偏りすぎてコミュ不足なキャラ多すぎる…
今回のこと考えると、ちょっとやばくね?

乙です

朝日奈「計 画 通 り」

とかこういうキャラだったらなんという演技力。

むしろ保健室に戻ったら二人が死んで…
い、いやそれはないよな!

…ないよな?

>>558
霧切ヤバそうだな。朝日奈みたいなストレートな切れ方しないだろうし
K一派でも中心にいるから反逆されたらダメージ大きそう

内通者と裏切者が原作と違ったら面白そうだなぁ

なんかここのネタで内川コピペが作れそうな展開

朝日奈とは和解できてもまたなにが起こるか分からんから
交流の時は選んでおいた方がよくない?

朝日奈、石丸、霧切、十神あたり一回ずつは選びたい

朝日奈と話したからさくらちゃんとも話したいな

スレタイの
>葉隠「未来が…視えねえ」
この一言に尽きるな
未来っつーか希望が見えん


磨毛「やあ諸君、ご無沙汰してるね。みんな大好き磨毛保則だよ。元気にしてたかい?」ニタァ

モノクマ「またコイツと組む日が来るとは……」ハァ

磨毛「取り急ぎ今回はお祝いに来たんだ。そう、『ゲームオーバー回避』のね」


― 磨毛保則の解説コーナー(朝日奈葵の憂鬱編) ―


磨毛「読者諸君が危惧していたように、今回のイベントはかなり重要なものだったんだよ。具体的に言うと、
    もし今回で朝日奈君と和解出来なかった場合……もうグッドエンドには行けなくなっていたね」

磨毛「その場合、とっととBADにしてコンティニューを勧めていたよ。そうならなくて1も正直ホッとしている。
    命拾いしたのは、過去にプールイベントでボーナスがあったろう? あれと直近の苗木行動だね」

磨毛「その二つがあったからぎりぎり和解出来た感じだよ。朝日奈君は元々KAZUYA君とそこそこ
    相性が良く親密度も高かったからこそ、放っておいたことに不満が募ってしまったようだ」

モノクマ「アレだよ。パワポケでさ、彼女にしたはいいけどその後放置プレイかますと呪いのアイテムを
      送ってきたりするでしょ? あんな感じ。いやー、女って怖いわー(棒)」

磨毛「逆に言えば、あまり親しくない生徒は現段階ではそこまで気にしなくていいってことになるね。
    ちなみに>>3の親密度表で書き忘れたけど、十神君は現在【イマイチ】から【最悪】になっていて、
    三章の自由行動では選択することが出来ない。だから今回は安心して切り捨ててくれたまえ」

磨毛「あと>>34君。リクエストがあったのに応じるのが遅くなってしまって申し訳ない。1の頭は鳥並のようだ。
    香田の新薬の実験台にしておくから今回は勘弁してくれないかね。次の解説の時に説明するつもりだよ」

磨毛「1も色々忙しくてね。どこかキリの良い所で番外編を挟まないといけないし、エピ0も書き溜めが
    終了したから機会を見て投下したいと考えている。しばらくは少し慌ただしくなりそうだ」

モノクマ「つーか今気づいたけど、このスレもう十ヶ月もやってたんだね……もうすぐ一周年か。そっちに驚きだよ」

磨毛「最後に、ジェノサイダー君を加えた最新の親密度表を貼って今回は締めとしよう! それでは次の解説で……」

モノクマ「またお会いしましょう~! バイナラ!」


・現在の親密度(名前は親密度の高い順)

【凄く良い】石丸、桑田

【かなり良い】不二咲、大和田、苗木、舞園、朝日奈

【結構良い】ジェノサイダー、霧切

【そこそこ良い】大神、山田、葉隠

【普通】腐川、セレス

【最悪】十神

     ~~~~~

【江ノ島への警戒度】かなり高い


しかし上位五人は相変わらず男か…流石というかなんというか…

解説乙です

お忙しい中乙です。

和解できなかったBADも少し気になりますなぁ(小声

乙です!

BADいかなくて良かった。
朝日奈のオシオキは酷いから…(公式の設定だと
十神のはむしろ見てみたい。

解説乙
十神を大人しくさせるために交流しときたいって思ってたんだけど無理だったか…四章ボス化は免れられないな
セレスも三章ボスだから交流意味なさげだし
やっぱ安価の優先は朝日奈石丸になる

石丸って安価で選べたっけ?

三回だっけ?
山田と葉隠を選びたいけどなぁ、明らかにセレスに利用される要員だし

1乙乙!割とギリギリだったんだな…安価先慎重に選ばないといつBADに転んでもおかしくない状況だ…

しかし朝日奈が加わった事で山田葉隠も誘い易くなっただろうけど、ここら辺で一度さくらちゃんも選んでおきたい気がする
朝日奈が避けてたからぼっち気味だし、二人の仲復縁させといた方が朝日奈の精神にも良さそう
Kも「俺達が信じてやればいつか自分から告白してくれるかもしれん」言ってたし気になる

仲間にしやすい人から徐々にと言う方針なら安価は朝日奈葉隠山田がいいかな…
セレスと十神は最後側でいいだろ
仲間安価はまだ1回も選んでない霧切を選びたい

時間が足りない気がする

葉隠はまだ大丈夫じゃない?山田ほど不満がある訳じゃないっぽいし
そもそも仲間にしようがしなかろうが、呼び出されたらほいほい行く。それが葉隠

前にヒントで事件関係者は押さえとけって言ってたからセレス山田は入れないとヤバいんじゃないかな

葉隠は仲間にしてもKが疑われる展開とかになったらすぐに心変わりしそうだからな
朝日奈山田よりは優先度低い

放置しすぎても何しでかすかわからないから危ない気がする
さくらちゃんの時みたいに殴られたりしそう

仮に仲間にしても葉隠なら殴る。絶対殴る
通信簿MAXで友達の内臓売ろうとした男は伊達じゃない
下手したら仲間にしたせいでトラブル持ってくる予感すらある

なんでや!3章前半の葉隠はいい奴だっただろ!!
それ以外は……まあフォロー不可能だが

でも、今回の朝日奈の件を考えると霧切放置も怖いな……
十神はもうどうすりゃいいのかさっぱり
と言うかフォロー必要な人が多くて圧倒的に時間が足りない

プールでコンマ00出せて良かったわ

みんな希望弾うったあとの覚醒葉隠のことも思い出してあげてください

あああああ。腹立たしいってのはこういうことを言うんですね
よくよく考えたら番外編入れるとしたら今しかないじゃんと思って
急いで書き下ろして推敲してさあ投下だ!と思ったら…ルーターが逝きました

…まあ、投下中でなかったのは不幸中の幸いか。一応明日新しいルーターを
買って来る予定ですが、投下なかったらまだネット繋がってないんだと思って下さい。トホホ

ご愁傷様
待ってます


番外編


ローテーションで霧切と二人っきりになった時、KAZUYAは霧切の手の火傷を診ることにした。


「もし嫌なら、無理に見せなくとも良いが」

「医師に見せたくないと言う程、私は子供じゃないわ」


女子達曰く、風呂の時にも外さなかった鉄壁の手袋をスルリと外す。
KAZUYAの想像していた通り、それは確かに酷い火傷だった。


「……どうかしら?」

「フム。確かに酷いな。一度の手術では完全に綺麗には出来ないだろう」

「そうですか……」

「だが、手術を重ねれば人に見せられる程度には出来る。手なら針麻酔でも
 問題ないし、君が良ければ今すぐにでもここで手術するが?」

「植皮をするんですよね? 植皮に使う皮膚はどこから取るのですか?」

「そうだな。植皮は大きく分けると分層植皮と全層植皮に別れるのだが……」


分層植皮:表皮と真皮の一部のみを植皮する。薄いので生着しやすく、全身のどこからでも
      採取可能だが、収縮が強く生着後に引き攣れたりする。また、採取部は面状の傷が残る。

全層植皮:表皮と真皮全てを含んでいるので厚い。分層植皮より生着しづらいが、生着後は通常の
      皮膚の触感に近く整容性も高い。但し、分厚く採取するので採取部は縫合する必要がある。


「君の場合は痕が深いから全層植皮でなければ駄目だ。分層は全身のどこからでも
 調達出来るが、全層は主に鼠径(そけい)部、鎖骨部等から採取する」

「幸い大きさはさほどでもないし、衣服に隠れあまり人から見えない鼠径部を勧めるが……ん?」

「…………」


霧切は下を向いて黙っていた。心なしか顔が少し赤い。流石にいくら女心に鈍い
KAZUYAとはいえ、医師として必要最低限のデリカシーは持っていたのでその理由を悟る。

鼠径部:そけい部。脚の付け根のやや上で、股関節や下腹部の下付近のことである。


「……そうだな。見知らぬ医師ならともかく、知り合いの男に晒すのは躊躇われるか。
 なら、腕の良い女医を知っているから脱出後に俺から彼女に頼んでも……」

「いえ、火傷の痕は手術をしてもすぐに綺麗になるものではないはず。
 なら一日でも早く手術した方が良いに決まっています」

「では、いいんだな?」

「……はい」


石丸を一人にするのは心配なので、眠っている間に監視カメラのないシャワールームで手術を
行うことにした。きっちり道具が並べられ、いかにもオペを行うという雰囲気で霧切も少し緊張する。


「……今回はちゃんと術着を着られるんですね」

「今までは緊急事態ばかりだったから着の身着のままで手術をすることが多かったが、
 本来は術着を着、衛生管理も徹底して行うのが手術の鉄則だからな」


そう、KAZUYAはコロシアイ学園生活五度目の手術にして初めて術着に袖を通したのだった。
いつも似たような服ばかり着てるKAZUYAが術着を着ている姿が珍しいのか、やけにジロジロ見られる。


(範囲はさほど広くないのが幸いだ。患者は妙齢の女性。なるべく傷を残さないようにしなくては)


本来、皮膚を採取するとどうしても傷が残ってしまうものだが、珍しく時間に余裕があったので
KAZUYAは神の手と称される実力を久しぶりに発揮し、細い縫合糸で丁寧に縫い上げていく。


(……石丸も、顔面でなければ。せめてもっと小さい傷なら、針麻酔で出来なくもないのだが)


針麻酔は直接神経に働きかけて麻酔をかけるので、あまり長時間の手術には向かない。また、万が一
途中で麻酔の効果が薄れた時のことを考えると、顔面や腹腔の手術には危険なので使えなかった。


「一週間程で生着し血が通い始める。それまではしっかり固定していてくれ。抜糸は十日後くらいだ」

「……はい」


霧切はじっとガーゼと包帯でグルグル巻きの両手を見つめていた。
KAZUYAは気付かなかったが、その時の霧切は珍しく冷静でなかったようだ。

何故なら、いくら包帯が邪魔だったとはいえあんなに肌身離さず付けていた
愛用の手袋を、部屋に忘れたまま帰って行ってしまったのだから。


(ム、霧切の奴手袋を忘れていったな。後で返しておこう)


そう思ったが、結局返し忘れるKAZUYAなのであった。


思い出アイテム【霧切の手袋】を手に入れた。KAZUYAの洞察力が上がった。


               ◇     ◇     ◇


無事、不二咲と共に石丸を連れて保健室に帰ってきたKAZUYAは二人を連れ、風呂に入ろうと
脱衣所にやって来る。その時、何かを思い出した不二咲は声を上げてKAZUYAの手を引っ張った。


「そ、そうだ! 忘れてたぁ! 先生、先生! 大変なんです!!」

「どうした? そんなに慌てて……」

「アルターエゴです!」

「! まさか、何か見つかったのか?!」


不二咲の興奮した表情から何か新情報を手に入れたのは明白だった。
KAZUYAはすぐにアルターエゴを開かせる。


「アルターエゴ!」

『あ、ご主人タマ! すぐに来るって言ってたのに、こんなに長期間ほっとくなんて酷いよぉ!』

「ご、ごめんねぇ」

「大変な出来事があったんだ。本当に大変な……」

『何があったの? あ、後ろにまた知らない人がいるよぉ!
 もしかして、その人が石丸君かなぁ? 髪が白いけど』

「そうだよ。……石丸君、これはアルターエゴって言うんだよ!
 ほら、見て見て! 僕が作ったんだぁ。お話してみてよ!」

「ム、アルターエゴ君か」


アルターエゴを見せれば二人いる不二咲に驚いて戻るかもしれないと思ったのだろう。
だが、石丸はジェノサイダー同様アルターエゴも知っていたようで、一言反応しただけだった。


「ほ、ほらアルターエゴ。何か話し掛けてあげて!」

『こんにちは、石丸君!』

「…………」

『どうしたのぉ? 聞こえてないのかな?』

「やはり駄目か。とりあえず、まずは今までにあったことをアルターエゴに説明しよう」

『そういえば、大変なことがあったんだよね? 一体何があったの?』

「実はな……」


KAZUYAは丁寧に順を追って説明していく。アルターエゴは、まるで人間のように
表情をくるくると変えながら、KAZUYAの説明に一つ一つ驚いていた。


『そんなことが……ご主人タマ、生きてて良かった』

「……うん。先生や大和田君、それに石丸君のおかげだよ」

『僕からもお礼を言うね。ありがとう』

「それで、何を見つけたんだ?」

「あ、そうだった」


不二咲はあの事件の日、こっそりアルターエゴに会いに行っていたことを話す。だから突然
単独行動を取ったのだなとKAZUYAは得心した。そして、不二咲は見つけた資料を見せる。


『あの後、更にいくつかファイルを開けたんだ! このフォルダはこれで全部だと思う』

「本当?! やったぁ。先生なら、きっと何が書いてあるか読めると思うんだけど」

「見せてくれ。――これは?!」


確かに読めた。語学が堪能で、実験レポートを読み慣れているKAZUYAはすぐにその内容を把握した。


(だが、これは……そんな馬鹿な……!)


しかし、読めるからその全てを理解出来るとは限らなかった。

何故ならここに書かれていた実験内容とは……


(これは生徒に対して行った実験レポートだ……! 実名こそ書かれていないが、
 サンプル名や身体的特徴からほぼ間違いない。そして……何と言うことだ)

(……やはり、この学園は普通の学校などではなかった!)


それは生徒達に内容を伏せて行われた、非公式の実験であった。具体的に実験の内容を説明すれば
生徒に拒否されるからだろう。生徒達にはただ身体データを取るだけ、或いは才能についての
研究と称し、研究者達は通常なら投与を禁止されているような薬品を彼等に与えていたのだ。


(特に桑田は酷いな……もう引退を表明しているから、ドーピング検査に引っ掛からないと
 考えたのだろう。まさか、飲み物に混ぜて麻薬を投与していたとは……!)


微量だったのと、本人が気付いていないので依存症状を起こしていないのが幸いだった。
見たくないのにKAZUYAは画面から目を離せず上から順に手早く読んでいく。


(これは……石丸だな。それに十神、大神、大和田か? まだまだある……こんな酷いことが……)


はらわたが煮え返るのを感じた。レポートには、節操なく投与された薬品とその影響等が細かく
記録されている。他にも、睡眠薬や催眠術で眠らせている間に電気を流したり特殊な装置にかけて
その記録を取っていたりした。何より許せなかったのは、そのレポートでの生徒の書かれ方だ。
被験者ではなく、サンプルの一つとして扱われていた。つまり実験用のラットと変わらないのだ。


(むごい……よくも健康な若者にこれだけ危険な薬品を投与してくれたものだ……)


ワナワナと手が震える。薬品の名前とその効果が詳しくわかるからこそ、震えが止まらなかった。

カムクラ制作の為の実験か…?


――ここで、再び失われていた記憶が蘇る。そういえば、この学園の生徒達はやけに体調を崩して
保健室に通っていたのだ。本人達がトレーニングが厳しいから、超高校級の重いプレッシャー故だと
説明していたから鵜呑みにしていたが、その背景には間違いなくこの実験が影響していたはずだ。


(しかし、一体何のためにこんな恐ろしい実験を? 才能を伸ばす、人間の限界を超えるという
 目標ならTETSUに近いものがあるが、明らかにそれ以外の目的と思われる実験も多い)


KAZUYAは好敵手であるTETSUのことを思い出す。KAZUYAと同等の知識と技術を持つ優秀な医師であり、
全人類のレベルを上げる研究をしていた。その技術を全て自分に使い、自分こそ地上最強の
人間になる!と豪語していただけあって多少危険な実験もしていたが、被験者を意図的に危険に
晒すような真似だけはしなかった。対する希望ヶ峰の実験は、内容が危険過ぎる。


(上手い具合に大会等は影響が出ないようにしているが、一歩間違えれば生徒の体が壊れるぞ。
 すぐにおかしくならなくとも、将来的に異常をきたす可能性は十分ある)

(これではまるで才能を伸ばすというより、才能そのものを研究対象にしているような……)


いくら考えても答えは出なかったが、KAZUYAの思考は明無邪気な声に遮られた。


「ねえねえ先生! 何が書いてあるのぉ?」

「……!」

『役に立ったかなぁ?』

「これは、かつて希望ヶ峰学園で行われていた実験のレポートだ」

「実験レポート?」

「ああ。恐らく、このパソコンの持ち主が実験の関係者だったのだろう。残念ながら脱出には……」

「……そっかぁ」

「そう気を落とすな。きっと他にまだ有用なデータが入っているはずだ」

「はい。それで、そのデータはどうしますか?」

「――削除しよう」


「『えっ?』」


不二咲とアルターエゴは驚いた顔をするが、KAZUYAは既に決意していた。


(こんなもの、生徒達には到底見せられん……)


生徒達はその名の通り、この学園を『希望の園』だと信じてやって来たはずだった。
多少苦しい実験であっても、それが自分やひいては世界のためになると思ってずっと我慢していたのだ。

その思いを裏切られ、逆に利用されたと知ったらどう感じるだろうか。


「……これは非常に有用なデータだが、万が一黒幕の手に渡ったら悪用される可能性がある。危険だ」

『じゃあ削除する?』

「ああ」


放置しても大半の生徒はまともに読むことすら出来ないだろうが、KAZUYAが危惧したのは十神や霧切だ。
彼等は頭が良いし、語学にも精通していそうである。特に十神はほぼ確実に読めるだろうと推測した。

……本来なら石丸もかなり危ないのだが、そういう意味ではこのタイミングで戻らなくて良かったと思う。


『本当にいいんだね? じゃあ……』

「待って! 価値のある実験ならただ消しちゃうのは勿体ないよ。えーっと……
 僕のUSBメモリに保存して、先生が持っていればいいんじゃないかなぁ?」


ゴソゴソとポケットからメモリを取り出し、不二咲はノートパソコンに挿す。


「……わかった。そうしてくれ」


本当は思い出すのも不愉快だから一刻も早く消し去りたいというのが本心だったが、ここで
拒否すれば不二咲が怪訝に感じると思い、仕方なくKAZUYAはそのメモリを受け取った。


(しかし、皮肉なものだ……)


このデータは生徒達が希望ヶ峰学園に通っていたという確かな物的証拠だ。KAZUYAと
ジェノサイダーの記憶にこのデータを合わせれば、生徒達を信じさせることも不可能ではない。

……にも関わらず、その貴重な証拠を闇に葬らなければならない。
その星回りの悪さに、今度ばかりはKAZUYAも苦笑いを隠せなかった。


思い出アイテム【不二咲のUSBメモリ】を手に入れた。KAZUYAの知能が上がった。

また、【希望ヶ峰学園の謎(Ⅰ)】を手に入れた。



               ◇     ◇     ◇


折角外出出来るようになったのだから、KAZUYAは石丸に気分転換をさせたいと思った。
そこで、唐突に走り出したりしないよう石丸を車椅子に乗せ、不二咲と一緒に校内を巡る。

なるべく広い空間に行きたかったので体育館に行ってみると、大神が鍛練に励んでいた。
一人かと声をかけたら、最近は朝日奈と別行動を取っていることが多いと答えた。お互いの時間も
必要だろうと言っていたが、その顔はどこか寂しげに見える。大神と別れ、食堂へとやって来た。


「どこに行くんですか?」

「いやなに、中庭でも見せようかと思ってな……」


監禁されている彼等にとって唯一の自然は中庭であった。そこから草木を見ることが出来た。

……しかし、中庭に出る出入口は塞がれているので見ることは出来ても直接触れることは出来ない。
すぐ側にあるのに手に入らないのはまるで砂漠の蜃気楼のようであって、かえって辛いことだった。


(せめて空が見えればなァ)


一度上の方がどうなっているか覗き込んだことがある。日が全く射さずいつも薄暗いことから予想は
出来ていたが、中庭には屋根がついていた。結局中庭に出れても空を見ることは出来ないのだ。


「見て、石丸君。緑が綺麗だねぇ」

「…………」


不二咲が石丸の手を握りながら絶え間無く話し掛ける。石丸は無反応だったり、時々独り言を呟いていた。


「さあ、戻ろう」


保健室に戻ると、大和田に加え苗木と舞園がいた。二人を彼等に託し、KAZUYAは石丸の部屋に向かう。
しばらく部屋の主は戻らないだろうから、簡単に整理をしておこうと思ったのだ。


「これは……」


掃除をしていたら、引き出しの中から血の付いた腕章が出てきた。あの夜は慌ただしかったから、
急いで適当に仕舞ったのだろう。石丸は予備の腕章をいくつか持っていて今もそれを付けているし、
血が付いて大分時間が経っているから、洗っても完全に綺麗にはならないに違いない。

――だが、それでも。


(アイツは超高校級の風紀委員として希望ヶ峰に選ばれたことを誇りに思っていた。既に地位や成功を
 手にしている他の生徒と違い、自分の活動を――長年の努力を認められて誰よりも嬉しかったはずだ)

(この腕章には、そんなアイツの魂が篭っている。捨てられる訳がない――)


KAZUYAは腕章を持ち帰って汚れを洗い落とすと、それを丁寧に仕舞い込んだのだった。


思い出アイテム【血のついた石丸の腕章】を手に入れた。KAZUYAの忍耐力が上がった。

また、【風紀委員の魂】を手に入れた。


               ◇     ◇     ◇


保健室に移ってからは、生徒達も自然と保健室に集まることが多くなった。保健室は個室より広く、
座る場所も多いからだろう。ついでに冷蔵庫や手洗い場もあり、すぐ横にトイレもあるので
ちょっとした休憩所代わりにはなる。少しばかり賑やかさを取り戻したはずなのだが、一向に
良くならない石丸に少しずつ大和田が焦りを募らせているのをKAZUYAは見て取った。


K「…………」

大和田「…………」イライラ

K「……大和田」

大和田「あんだよ」

K「少し休んでこい」

大和田「……大丈夫だ」

K「今はみんないる。たまにはゆっくり休め」

霧切「ドクターの言う通りね。顔に疲れが出てるわよ?」

桑田「あんま心配かけさせんなって」

大和田「……チッ、わかったよ」


のっそりと立ち上がり、大和田は出て行く。


K「アイツはすぐ無理をしようとするタイプだからな。少しは休んでくれるといいんだが」

舞園「でも無理をしようとするのは先生も同じですよね?」

苗木「ついでに先生も休んで来たらどうですか? 石丸君は僕達が見てるので」

K「しかし……」

不二咲「僕達じゃ、頼りにならないかなぁ……」

K「そんなことはない。……そうだな。では、少し休ませてもらおうか」


桑田「たまにはさ、なんにも考えないで昼寝とかした方がいんじゃね? なんなら俺の部屋貸そーか?」

K「お前の部屋は汚いから落ちつかん」

桑田「ちぇー」

K「……気持ちだけ受け取るよ」フッ


KAZUYAも保健室を出るが、しかしいざ休もうと思ってもどこに行けばいいのか思いつかなかった。
そのままなんの気なしにフラリと体育館に向かう。特に理由はない。ただ、近かったからだ。


「……なんだ。先公じゃねえか」

「大和田」


体育館には、あの時のように大和田が一人立っていた。以前と違うのは、
殺気の代わりに虚無感のようなものが漂っていることだった。


「どうしたんだよ?」

「なに、俺も追い出されてしまってな」


苦笑して近付く。てっきり大和田の性格から皮肉の一つでも言うかと思ったが、
逆にKAZUYAが来たことでどこか安心しているようだった。


「なあ、少し話さないか?」

「……おう」


手で観客席を促し、並んで座る。しかし、話そうと言ったはいいが特に何を話すか
決めていなかったため、二人して黙り込む。先に口火を切ったのは大和田だった。


「そういえばよ」

「何だ?」

「……左手の怪我は、もう治ったのか?」

「ああ。まだ少し痕があるが、内部はもう塞がっている」


よく見えるように左手をかざす。


「あの時は……すまなかった。ちゃんと謝らなきゃいけねえって思ってたのに、ズルズルしちまって……」

「仕方ないさ。あの後色々あったからな」


そうだ。あの日だけで一体どれだけの事件が起こったのだろうか。

あの日を境に多くのものが失われてしまった。……だが、嘆いていても仕方ない。
苗木曰く、諦めたら駄目だそうだ。今だけ、苗木の前向きさを少し借りたい。


「俺は謝罪の言葉より礼の言葉の方がいいな」

「えっ」


一瞬、大和田は驚いてその後はあーだのんーだのと唸っていたが、
最終的には頭をボリボリと掻きながら、照れくさそうに小声で礼を言う。


「あー、その……ありがとよ。助けてくれて」

「素直でよろしい」フフ


しかし、意外にも大和田の言葉にはまだ続きがあった。


「あの時だけじゃねえ。動機で動揺してる俺を心配してわざわざ様子見に来てくれたし、
 兄弟に怪我させて引きこもった俺の所にも何度も足運んで来てくれた」

「なによりあの状況だってのに関わらず、あんたは俺を信じて秘密を聞かないでくれたな……」

「…………」

「いや……思えば、最初っからだったか。怪我してるくせに率先して見回りしたり
 授業おっ始めたり、サウナの時もいたしよ。だから、その……なんつーか」


大和田が何を言わんとしているかをKAZUYAは察したが、あえてその言葉を遮った。


「その先はまだ言わなくていい。石丸が治るか、無事に脱出出来たら言ってくれ」


自分に再確認するように、KAZUYAは呟く。


「――俺はまだ、ここでは何も成し遂げていないんだ」

「成し遂げてないって……手術で何人も助けたじゃねえか」

「それは事件を防げなかった責任を取っただけに過ぎん。言わば尻拭いだ」

「そうかよ……」


それ以上無理に続けなかったが、大和田はふと何かを思い出して頭を上げた。


「なあ、あの木刀どうした? 捨てちまったか?」

「あの後はバタバタしていたし、しばらく保健室は留守にしていたからな。まだあると思うが」

「あるなら俺にくれねえか?」

「元々お前の物だからそれは構わんが……折れているのに、一体何に使うつもりだ?」

「いや、あの時のことを忘れないようにしてえって思ってな……」


その後、大和田は木刀を引き取りに来た。折れたままでは危ないので、無理矢理くっつけて
上からテープでグルグル巻きにする。包帯みたいだな、と思わず二人で笑った。

そして、何故か大和田は代わりの木刀を持ってきた。貰うだけでは悪いから、と言うことらしい。


「貰うも何もお前のだが」

「いいんだよ。感謝の印みてえなもんだ。それに、万が一誰かが
 保健室に攻めて来たりしたら、得物がねえと困るだろ」

「(武器は腐る程あるが……)わかった。受け取っておくよ」


思い出アイテム【大和田の木刀】を手に入れた。KAZUYAの男気が上がった。


ここまで。ルーター買ったのにねぇ、繋がらないってどゆこと…

聞く所によると今日は石丸君の誕生日だそうで、おめでとう。丁度この話を落とすなんて
タイミング的にピッタリだと思ったので絶対に今日中に投下したいと頑張った結果…
うん、ルーターは諦めて直接本線に繋いだよ。ルーター問題は明日以降何とかしよう…


シャーペン落書き
http://i.imgur.com/HPDVDOz.jpg

今回は模写とか抜きのガチ絵でラフと呼ぶのもおこがましい走り書きですが、
それでも良いという人は見てやって下さい。中庭は暗いイメージなので、あえて画質は悪いまま


>>570
BADはね、書いてもいいんだけど一部今後の展開(誰がどう動くとか)のネタバレが
入るから書くとしたら何でもいいからエンディング見てからオマケで解放、て感じかな

>>574
自由行動は全四回ですね。動機前に三回、動機後に一回


乙です

乙でした。>>1のネット環境が良くなることを祈ってる


今回上昇したステータスは本編に何か関係あるのかね

ステータスは、最初は原作再現というか生徒と絆を深めた証でスキルの代わりのものって感じで
ゲームっぽさと言いますか一種のオマケ要素でした。でも今は微妙に本編にも影響してますね

例えば今回の朝日奈のとか男子更衣室のとか、事件そのものは防げなくともタイミング良く
KAZUYAが現れるのは単なる主人公補正ではなく幸運値が上昇してるからであったり、仲間化した生徒から
やたらめったら慕われているのは魅力が上昇しているからでしょう。特に終盤ではステータスが
どれだけ上がっているかが鍵ですね。言い換えれば何人生徒を仲間に出来るかが鍵なのですが

この番外編は全部番外?
なんかちーたんの保健室に?って部分が前回から繋ぎっているようないないようなでよくわからんくなった


それにしても、武器は腐るほどある、にクソワロタ
平和だった頃にガチャしまくって大量に武器あったよなぁ...(遠い目)

番外編の時系列はこんな感じ。不二咲編だけは内容的にかなり重要だから
本編にいれても良かったんだけど、他との兼ね合いであえて番外編に回しました

霧切編→食堂にジェノ来襲後、ローテーション制始まって最初の時
不二咲編→>>423の前にこのやりとりをしていた。重要な内容だけどテンポを重視して番外編に
石丸&大和田編→不二咲編から朝日奈襲来までのどこか。別々の日の可能性も


そうそう、話は変わりますが今回植皮について書いたので余談を一つ
皮膚移植は最終的には自分か一卵性の双子の皮膚でないと駄目らしいですよ。全身に大火傷を負った時は、
体外に体液が流出するのを防いだり感染予防のために一時的に身内や人工真皮を当てたりするらしいですが、
定着せず四週間で抜け落ちてしまうそうです。臓器移植は型が合えば大丈夫なのに不思議ですね

…だから、ブラックジャック先生の顔の色が違うのは友達から皮膚をもらったからというのは実は
フィクションだそうです。手塚先生が植皮について知らない筈ないので、物語に多少の嘘は必要って事ですね

全層植皮は分層より確かに整容性には優れているそうですが、それでも生着しづらかったり皮膚の色の
問題とかあるので、現実なら完璧に元通りにするのは正直厳しいんじゃないかな…と思いますが、縫合術に
関してはKは世界一ですし、多少の色の違いは化粧でごまかせるし…細かいことを気にしちゃダメです

大丈夫やで

1は執筆段階からこんなに行を空けて書いてるの?それとも、投下の時に空行を入れるの?

執筆段階から空けています。昔は普通の小説形式も書いてたから空行なしで書けなくもないけど、
やっぱり横書きは適度に空行あった方が間違いなく読みやすいですし確認もしやすいですしね

特に推敲は一度原稿が完成型になってから加えたり削ったりする訳ですから。地の文が
三行以上ある時は一度空行挟んだ方がいいかなとかも事前に空行いれてないと比較出来ないし
唯一、三行以上空ける大改行のみ投下時に前後のバランス見ていれてます

回答ありがとう
俺も一応SS書くから、他の作者さんはどうなのか気になってた

1のルーター問題が早く解決することを祈ってます

ルーターはね、どうも不良品つかまされた気がするんだ。ランプ点灯しないとか絶対おかしいし
あとちょっと頭痛が痛いならぬ酷いので、次の投下はまた週末になっちゃうかもしれません。ごめんね


余った時間でちょっと質問したいのですが、皆さんの学校の保健室には水道ってありました?
うちの高校には確かありました。職場の医務室にもあるので勝手にあるものだと思っていたけど、それが
一般的なのかどうか知りたい。ちなみにうちの高校も保健室って人気で一部の生徒がよく溜まってました


>>612
お役に立てて何より。おしゃべり好きなので、何か聞きたいことがあったら気軽にどうぞ

廊下出てすぐとかに水道あれば中には無いかも知らんが、近くにはあるだろうね
ちなみに、ゲームやアニメのダンガンロンパでは無いかも?
それらしい物を見た覚えがないし、山田が輸血パック被った後にメガネをメガネ拭きで拭いて、それを捨ててるから

保健室に水道ありましたよ。
汚い話ですが重い風邪をひいてしまい、保健室で休ませてもらいました。その時に吐き気に耐えられずに保健室のシンクでリバースしたので良く覚えています。

ええ、汚い話ですいません。

うちの高校にもあったよ

ところでこんな事言ったら>>1を困らせちゃうかもしれないが、KAZUYAが精神医学・臨床心理学の造詣が浅いというのはどうなんだろう?
K2では一人(カズト)がEMDRを用いる場面があったりする
確かにKAZUYAシリーズでは精神・心理臨床場面は無いのだが、薬理も含めて凄い腕の持ち主なのでは?
Kの一族ですぜ?

>>617
TETU「2010年にKがいるからパラレルワールドも知れないぜ?」(意味深)

質問にご協力頂きありがとうございます。良かった。うちだけじゃなかった。やっぱり水道はいるんだな

>>614
ゲームにないのは知っているんですが、確か原作ではスクロールの関係で部屋は半分しか
見れないですよね?視界に入らない後ろにあると思っていて下さい。そもそも更衣室にも
鏡なんてないですし、部屋の内部は結構1の学校イメージや妄想捏造が入っています

>>617
経験が浅いだけで知識が浅い訳ではないです。むしろ普通のお医者さんは専門外のことはほとんど
わからないと思うのでKは詳しい方です。書いていないだけで裏で色々試していますが効かないんですね
EMDRや催眠療法を試そうにも会話が成立しないし目の焦点が合わないので指を追ってくれず出来ません

今の石丸君の症状は意思の疎通が出来ない上に幻覚まであるので精神病でも最上位の症状だと思います
そんな患者は見たことないし、知識として知っているからってろくな診察経験もないのに重篤な
副作用をもたらすかもしれない薬を風邪薬みたいにほいほい出せない。こんな感じではないでしょうか

あれだけ知識のあるKも初めての内臓摘出手術は失敗してるし(雨宮の話)やはり経験が大事なんでしょう

精神科はどんな権威も相性があるし、しかも石丸が疑われている統合失調症は治ることは基本的にない
正常に近い状態(=寛解)にすることは出来るが、一生薬のお世話になる
ソースは医者じゃなく同病の親持ち調べだから誤りもあるかも
なんか石丸ゲームより病的だなーと前から思ってたけど、もし考えが合ってたらリアリティあるし悲しい

ルーターですが、1の見立て通りやはり不良品でした。
新しいのに交換したらすぐに繋がったでござる。ご心配おかけしました

空いた時間を利用して、今回は色々頑張った。投下


― 寄宿舎廊下 PM4:17 ―


KAZUYAが生徒達を引き連れ、寄宿舎の中を歩いている時のことだ。


ドガッシャアアアアアン!!


(何だ……?)


学園エリアの方で何か物音が聞こえた気がした。


(気のせいだろう……朝日奈とは確かに和解出来たはずだし……まさか……)


そう思い込もうとした。だが、


「……なあ、なにか今聞こえなかったか?」

「私も聞こえました。物が壊れるような音が……」


音楽をやっているため耳が良い桑田と舞園の言葉で、それが気のせいではなかったと確定する。


「まさかあの女! また暴れてるんじゃ……?!」

「そんなことは……!」

(馬鹿な! そんなことあるはずが……!)


否定しながらも彼等は走る。だが、すぐにKAZUYAの考えは合っていることがわかった。

それが良いことかどうかは別問題だが。


「だ、誰か……! 誰か来て! 誰かーっ!!」

「この声は!」

「朝日奈さんだ!」


学園エリアに入り、廊下を曲がるとすぐ視界に朝日奈が映る。
保健室の横の壁にもたれながら、真っ青な顔で助けを呼ぶ朝日奈の姿が一同の目に映った。


「せ、先生!! 石丸が……」

「兄弟ィィッ!!」


保健室の扉を壊さんばかりの勢いで大和田が中に飛び込む。KAZUYAもすぐさま後に続いた。

……中は荒れていた。少し前に朝日奈と一緒に片付けたばかりというのに、机の上は再度散乱し
椅子はひっくり返っていた。床には蛍光灯の破片が散らばり、その中央に石丸はいた。



               ◇     ◇     ◇


KAZUYAが生徒達を呼びに行っている間、朝日奈は石丸と並んで座り熱心に話しかけていた。
自分を信頼してくれたKAZUYAに応えたかったのと、迷惑を掛けた石丸への謝罪のつもりもある。

ガチャ。


「あ、おかえ……」


そんな時だ。束の間の平和を破る第三者が登場したのは――


「…………」

「だ……だれっ?!!」


彼女が仰天したのも仕方あるまい。前触れなく現れたその人間は不気味な覆面で顔を覆い
白いコートを羽織った、まさしく不審者としか呼べない人間だったのだから。

しかも不審者が何も言わずナイフをかざしたのを見て、彼女のパニックは頂点を迎える。


「っ?! えっ、ぇえっ?!」

(だれっ?! 十神?! でも……!)


相手が何者かなど今はどうでも良い問題だ。

このままでは殺される。それだけ理解すれば今の彼女には十分だった。


(逃げなきゃ! ……でも!)


石丸を置いて一人で逃げる訳にはいかない。以前の状態ならまだしも、
今の石丸は無抵抗だ。放っておけばいとも簡単に殺されてしまう。


(ダメ! 石丸を置いて逃げられない! なにか……!)


朝日奈は急いで部屋を見渡すと、壁に立てかけられていた木刀に気が付き掴んで構えた。


「で、出ていって……さもないと、こっちも本気で……」


ナイフと木刀なら木刀に圧倒的なリーチが存在する。武道をやったことはないものの、
運動神経なら彼女も自信があるし、先に攻撃すれば優位に立てるはず……と思った瞬間だった。


タンッ、ガッ! パァン!


「ッ?!」


カランカラン……

何が起こったのか、すぐには理解が追いつかなかった。空っぽになった両手を見て初めて、不審者が
木刀を柄頭から蹴り上げたのだと気付く。すっぽ抜けた木刀は蛍光灯に当たって硝子を砕き、その
破片がパラパラと目の前を舞い落ちていく様子が、今の彼女にはやけにスローに見える。

――この不審者には勝てない。本能でそれを理解してしまった。


「あ……」


後ずさろうとして足がもつれ、尻餅をつく。逃げなければいけないと分かっているのに動けない。
蛇に睨まれた蛙とはまさしくこのような状態なのだと朝日奈は身を持って知った。

何かないかと辺りを忙しなく見回しているうちに、突っ立ったまま動かない石丸が目に入る。
と同時に、彼女は侵入者の目的に気付いた。……気付いても彼女にとっては何の意味もないのだが。


(……狙いは私なんだ)


ただ人を殺すのが目的なら、不審者にも全く反応を見せない石丸を襲えばいい。だが、あえて
石丸を無視し抵抗の意思を見せた彼女を襲うということは、初めから自分が狙いなのだろう。


(逃げて!)

「…………っ!」


彼女は叫ばなければならなかった。無駄だと分かっていても石丸に逃走を勧めるべきだし、
或いは悲鳴を上げて助けを呼ばなければならなかった。しかし声は思うように出て来ず、
ただパクパクと陸に揚げられた魚のように口を動かすばかりである。


「…………」


彼女が石丸に助けを求めていると思ったのだろう。不審者はあからさまに石丸の方を振り向いてから
再度朝日奈に向き直る。声は聞こえなかったが、マスクの下でニタニタと笑っているのがわかった。


『無駄無駄。誰も助けてなんかくれないよ?』


そんな幻聴すら聞こえてくる。


「や、やだ……殺さないで……お願いだから……」


緊張で渇ききった喉から、何とかしゃがれて掠れた声を搾り出す。


「いや……だれか……助けて……」

(さくらちゃん! 先生! だれかっ!!)


せせら笑うように不審者はナイフを振り上げると、突き下ろす。


「!!」


覚悟を決めた朝日奈は目と歯を強く食いしばった。
……しかし、来るはずの痛みはいつまでも襲って来ない。

恐る恐る目を開けて見上げると、そこにいたのは――


「ッ?!!」


http://i.imgur.com/LvFIpEZ.jpg



――――――――――――――――――――――――――――――


男は暗闇の中にいた。

誰もいない空間に一人でただぼんやりと立っていた。
ふと、遠くの方から何かが割れる音が聞こえた。次いで、悲鳴も……

石丸清多夏は視界に映るそれを見る。

侵入者が朝日奈葵を襲う様を、観客席から舞台を見上げるようにただぼんやりと眺めていた。
身近に起こっている出来事のはずなのに、彼には全てが他人事みたいに感じられる。

何故なら夢と現実が入り混じったこの空間で、何が本当の出来事で何が自分の
生み出した妄想なのか、彼にはもはやその区別がつかなくなっていたからだ。


(――また夢か。いや、)


時折目前に現れる夢は、いつか彼が夢見ていたような楽しい出来事ばかりを見せて、愚かで罪深い
自分を苦しめるための罰だと思っていた。その罰を甘んじて受けることが彼なりの償いだった。

だが残酷な現実とのギャップに苦しみながらも、どこかその夢を楽しみ懐かしんでいる自分もいた。


(もう終わりなのだな……)


とうとう夢に現実が侵食してきたのだと彼は思った。

夢でも現実でもコロシアイを要求され、仲間を傷付けられ――そして結局自分は何も出来ないのだ。


「――――!」


朝日奈がこちらを見ている。助けを求めているのだろうか。

……いや、違う。


彼女はかつての自分のように、とても仲間思いだった。優しい少女だった。
人一倍運動神経の優れた彼女のことだ。自分だけなら逃げることも出来たのに、
仲間を見捨てて一人だけ逃げるなどということが出来なかったのだろう。


『逃げて!』


彼女の声が、石丸には確かに聞こえていた。


(やはり、僕は何も出来ない……)


―…げるのか。


(僕はここにいてはいけないんだ……)


―逃げるのか。


(どうか、無力な僕を許してくれ……)


―逃げるのか?


(……すまない)


―逃げるのか!


「誇りを忘れたのか?」

「……!!」


そこに立っていたのは、自分によく似た他人だった。

いつもクラスの中心にいて、友達がたくさんいて、楽しそうで、
自信に満ち溢れた――夢の中で自分が演じていた理想の虚像だった。


(誇りなんて最初からない……持てるような人間じゃないだろう、僕は)

「超高校級の風紀委員として選ばれた時の気持ちはどうした」

(ぬか喜びだった。勘違いしていたんだ。努力をすれば何でも叶うと、子供のように思い込んでいた)

「自分が嫌いか?」


以前、KAZUYAにされた問いと同じことを問われる。


(嫌いだ……嫌いだとも……)

「ああ! そうだ! 大嫌いだよ! 僕は誰かに好かれる資格なんてない無価値な人間なんだ!!」

「だから使命を、責任を投げ捨てるのか?」

「…………」

「僕も今の君は嫌いだ。でも、みんなはどうだろうか」

「君に何がわかると言うんだ……僕の欲しいもの全てを持った、所詮妄想に過ぎない君に!!」

「――僕は君だよ」


そう言って、自分と同じ顔をした虚像は穏やかに笑った。
果たして、自分はあんな穏やかに笑えたことが今までにあっただろうか。


「消えてくれ……消えてくれ! 消えろっ!」


居たたまれない気持ちになった石丸は思わず叫んだ。

胸の奥が、ズキズキと痛い。


「仮に、世界中の人間に嫌われているのなら……」



消える代わりに、もう一度虚像は彼に向かって微笑みかける。


「せめて自分くらいは自分を好きでいさせて欲しいんだ」

「…………」


気が付いたら、虚像はいなくなっていた。

目の前ではサスペンスドラマのような惨劇が今まさに繰り広げられようとしている。


(……これが夢なのか現実なのか僕にはわからない)


侵入者は鈍く光るナイフを振り上げて、その切っ先を動けない少女に向ける。


(でも、たとえ夢でも、僕の妄想だったとしても……僕のすべきことは決まっている)

「――――んだ」

(僕は風紀委員だ!!)

「……?!」


彼は利き手で侵入者の右腕を掴む。腕越しに相手の動揺が感じられた。


―僕は、風紀を守る。


http://i.imgur.com/1nksGuR.jpg


――――――――――――――――――――――――――――――



「い、し……」

「……………………」


石丸が、無言のまま侵入者の腕を掴んでいた。

予期せぬ妨害に相手も動揺したのか、一瞬の隙が生まれる。その隙を逃さず
石丸は即座に足払いをかけて体勢を崩すと、そのまま背負い込んで机に叩きつけた。


「カハッ!」


侵入者は少しの間痛みにのたうつが、状況を不利と見たのか予想外の攻撃に
怯んだのか、何とか起き上がるとナイフを拾い一目散に外へ走り去って行った。

その様子を朝日奈はポカンと眺めていたがすぐに正気を取り戻し、助けを呼ぼうと廊下に這い出て
扉を支えに立ち上がる。既に寄宿舎の方からは、こちらに向かう複数の足音が聞こえてきていた。


・・・


「きょ、兄弟! おい、石丸! 大丈夫か?!」

「…………」


石丸は部屋が荒れていることなど特に気にしないように、ただ立ち尽くして床を見ていた。
相変わらず返事はないし虚ろな目なのは変わらないが、逆にそれで安心してしまうのが皮肉である。


「石丸! ……良かった。怪我はしていないようだな。何があったんだ!」


石丸の無事を確認すると、KAZUYAは朝日奈に向き直った。朝日奈は苗木の肩を借りながら叫ぶ。


朝日奈「ふ、不審者が……いきなりナイフで……!!」

K「不審者だとッ?!」


全く予期してない言葉であった。


桑田「不審者ってどんなヤツだよ!」

朝日奈「それが顔に変なマスクかぶってて……白いコートをはおってたよ」

大和田「おいまさか、十神じゃねえのか?」


大和田の言葉で一同に緊張が走るが、朝日奈は息を整えて冷静にそれを否定する。


朝日奈「ううん……多分、十神じゃないと思う……」

大和田「なんでだよ?! アイツが一番怪しいだろうが!」

朝日奈「スラッとしてたから、私も最初十神だと思ったんだけど……十神にしては背が低かったと思う」

霧切「詳しく特徴を教えてくれないかしら?」

朝日奈「特徴……それがね、ナイフに目がいっちゃってあんまりしっかり見てないの。
     身長は石丸と同じくらいか少し低かったから、体型的には桑田が一番近いかも……」

桑田「ハア?! 俺?! でも俺はずっとこいつらと一緒にいたんだぜ?」

朝日奈「わかってるよ! あんたは大和田達と一緒にいるはずだから犯人じゃないってことくらい!」

K「……つまり我々の知らない人物。文字通り不審者という訳だな?」

朝日奈「うん……」


苗木「部屋が荒れているのは、朝日奈さんが撃退したから?」

朝日奈「ち、違うよ! そう! 石丸が私を助けてくれたの!!」

不二咲「えぇっ?!」

K「何ッ?!」

大和田「どういうことだ!」


突然の不審者にも驚いたが、絶体絶命の朝日奈を救ったのが石丸だったと聞いて更に驚いた。

彼女は起こったことを順に説明していく。石丸が鮮やかに不審者を撃退したくだりで、
感極まった不二咲が石丸の手を握ってわんわんと泣き出した。


大和田「兄弟……オメェ……」

不二咲「壊れてなんか、なかったんだねぇ……おかしくなっても、
     やっぱり石丸君は風紀委員なんだよ……」

朝日奈「うん……ありがとう、石丸……本当にありがとう……」ボロボロ

「…………」


誰もが感傷的な空気になっていた中、一人霧切は冷静だった。


霧切「ねえ……感動的な空気に水を差すようで悪いんだけど」

舞園「何か気になることでもあったんですか?」

霧切「ここに不審者がいたという、物的証拠ってあるかしら?」


侵入者のナイフから逃れた朝日奈に、今度は言葉のナイフが突きつけられた。


ここまで。トーンはデジタルトーンスタジオ様の無料素材を使わせて頂きました


今回はね……自分で言うのもなんだけど、ホント頑張ったんじゃないかなと
腕章書き忘れたことに気付いて急遽付け足し、マスク塗ってないことに気付いて慌てて塗り、
しかも貼ったトーンが縮小すると何故かキラキラしちゃって全部やり直しとか……ね
慣れないことはするもんじゃない

三人も描いたし、疲れた……多分明日は腱鞘炎。いつのまにかこんな時間だ。では

いろいろ乙

マウスで描いてるのか……?


石丸の今後に一筋の光明が見えたか…?
絵フツーに上手い どうやって書いてるか教えて欲しい

おはようございます。

>>637>>638
1はアナログ人間なので、普通にシャーペンで描いてます。いつもは面倒だからそれを写メで撮って
画像調整してるのですが、主線が薄くなったりムラが出来て綺麗じゃないんですよね。なので前回と今回は
きちんとペン入れをし、スキャナーを使いました。全然違うでしょう?塗りや修正はPCでやってます

一応ペンタブは持ってるんだけどね……PCがロースペだからか単に相性が悪いのか、反応が遅すぎて
とてもじゃないけど絵とか描けないですね。消しゴムや色塗り専用ツールと化している…

なんでもいいけど今回の三人は描きやすかったなぁ。桑田一人描く時間で石丸君三人は行けるw

乙です

乙です
イラスト見る限り、石田化したってことでいいんだろうか
そして朝日奈がまた疑われる流れに…まだ波乱は続きそう

大和田死んでないから石田にはならないんじゃない?
髪の色なら廃人化した時に白くなったはず


(((((((( ;゚Д゚))))))))



どえらい情報を聞いてしまった。ヤバイな…

詳細は投下後に。


朝日奈「えっ?」

霧切「不審者を見たのは朝日奈さんと石丸君だけ。でも石丸君は証言出来る状態じゃない」

朝日奈「えっ? えっ?」


唐突な霧切の発言の真意を読み取れず、朝日奈はただ困惑する。
だが、朝日奈以外の人間には彼女が何を言わんとしているかわかった。


苗木「もしかして、霧切さん……」

舞園「朝日奈さんを疑っているんですか?」

朝日奈「え?!」


不審者がいたという証拠がない。即ち、今回の一件が朝日奈による自作自演を
疑われているのだとやっと朝日奈当人も気付き、青ざめる。


朝日奈「私ウソなんてついてないよ!」

霧切「嘘だと断定してる訳じゃないわ。ただ可能性をあげているだけよ」

大和田「そういやあ、オメエが騒ぎ起こしてちょうど俺と先公がいない時に
     正体不明の不審者が襲ってくるなんざ、ちっとタイミングが良すぎるな……」

桑田「おーいおい……ウソだろ?」

霧切「私だって疑いたくはないけど、可能性がある以上安易に信じるよりはマシなはずよ」

不二咲「朝日奈さん……」

苗木・舞園・桑田・大和田「…………」

朝日奈「ね、ねえ石丸! いたよね? 本当に不審者、ここにいたよね?」

石丸「…………」

朝日奈「証言してよ! あんたが言ってくれたら、それで証明できるんだから……
     さっき、かっこ良く背負投げで私を助けてくれたじゃん! ねえ?!」

華佗のことかな?


石丸「……すまない」


しかし、石丸は一言呟いただけで何も答えない。
疑惑の視線が飛び交う中、朝日奈は居心地悪く両肘を手で押さえる。


朝日奈(ど、どうしよう……せっかく信じてもらえたのに、これじゃあまた元通りに……)

朝日奈(もう一人はイヤだよ……)


視線はいつの間にか、KAZUYAの元へと向かっていた。
目を閉じて考え事をしているため、表情では何を考えているか窺えない。

……信じてくれるだろうか。あれだけ慎重で生徒の安全を再優先にする男が。


K「…………」

朝日奈「違うよ! 確かに証拠はないけど、でも本当に……!」

「信じるぞ」

朝日奈「!」


朝日奈は声の主を見る。そこには、優しい眼差しをしたKAZUYAの姿があった。


K「俺は朝日奈を信じる」

朝日奈「先生……」

K「大丈夫だ。もう散々疑ってきたんだ。君が嘘をついていないことはわかる。大体、
  こんな騒ぎを起こした所で自分に疑いの目が行くだけだ。メリットがないだろう」

桑田「そ、そうだよな! 朝日奈はそーいうことするタマじゃねえって」

舞園「嘘をつくにしても、石丸君に助けてもらったなんて言わないと思います」

不二咲「うん。僕は朝日奈さんを助けた石丸君を信じるよ!」

大和田「……まあ、そうか。この状態の兄弟が自主的に動いたなんて、俺も信じらんねえからな……」

霧切「…………」


未だ霧切の目線は鋭いが、とりあえず疑いが晴れたことに朝日奈は心底安堵する。


朝日奈「…………」ホッ

K「……ちなみに一つ聞いてもいいか?」

朝日奈「え、なに?」

K「不審者が女だった可能性はないか? 底の高い靴を履けば、ある程度は身長も誤魔化せるだろう?」

桑田・霧切「……!」

朝日奈「ごめん。さっきも言ったけど、頭が真っ白になっちゃって……」

K「……そうか」

朝日奈「あ、でもね! 私、ナイフに気を取られてずっとあいつの手を見てたんだけど、
     男の人にしてはちょっと華奢だったかも……断言は出来ないけど……」

K「ありがとう、それで十分だ」

K(まさか、江ノ島が動いたのか? ないとは言い切れん……)

苗木「桑田君、どうかしたの?」

桑田「……なんでもねえよ」

霧切「…………」


不審者の正体に当たりをつけた桑田は目つきが険しくなり、霧切は顎に手を当て考え始める。


舞園「男か女かもわからない、顔を隠した謎の不審者だなんて……何だか不気味ですね」

苗木「何者なんだろう? それに、どこから入ってきてどこに逃げたんだ?」

桑田「……あれ? つーか、まだそいつどこかに隠れてるんじゃね?!」

大和田「そうだ! 俺達とすれ違わなかったってことは
     まだ校舎にいるってことだろう?! 今すぐふん縛って……」

K「待て! 内通者にしろ黒幕の刺客にしろ、向こうの息がかかっているのは
  ほぼ間違いない。既に俺達の手が届かない所に逃げたと考えるべきだ」


K「しかも、朝日奈によるとかなりの手練れと見ていい。ここで戦力を分散すると、
  下手したら各個撃破されかねん……。まずは守りを固め、それから捜索するべきだ」

大和田「……それもそうだな。俺達がいなくなった時にまたここが襲われたらたまらねえ」

苗木「セレスさん達、大丈夫かな? 娯楽室にいることが多いから……」

不二咲「十神君を怖がってるから、不用意に出かけたりはしていないはずだけど……」

K「では念の為に俺が見てこよう。……さっきの攻撃で怪我でもしていてくれれば良いのだが」

桑田「ちょっと待てよ! 一人で行くのか? 俺も一緒に……」

K「いや、俺だけで十分だ。お前達は絶対にここを動くんじゃない。いいな?」

桑田「…………」


KAZUYAの顔は微かに強張っていた。もし不審者の正体が江ノ島なら、戦えばただで済むまい。


大和田「……おい、本当に大丈夫か?」

K「俺には経験がある。もし危険だと判断したら深追いせずすぐに退避するから心配するな。
  逆に、お前達がついてくると足手まといになる可能性がある。ここは俺に任せて欲しい」

K(ただでさえ俺は黒幕に目を付けられているからな。……連れて行ってはかえって危ない)

大和田「そこまで言うならわかった。ここは俺達に任せろ」

舞園「気を付けてくださいね……」


KAZUYAは頷くと、万が一負傷者がいた時のために医療カバンを手に取り駆けていった。


・・・


KAZUYAがいなくなった保健室では、それぞれが武器を構えたり廊下の様子を伺いながら
警戒を続けていた。そんな中、朝日奈は大和田におずおずと近付く。


朝日奈「大和田……」

大和田「…………」

朝日奈「あのさ……さっきは、ごめんね。私……」

大和田「…………」


KAZUYAから絶対朝日奈を責めないよう彼等は事前に強く言われていたが、
それでも大和田から放たれるピリピリした空気はその場の人間全員を緊張させた。


朝日奈「本当に、ごめん……八つ当たりなんかして……」

大和田「……俺はいい。兄弟には……ちゃんと謝ったのか?」

朝日奈「うん。いくら頭に血がのぼってたからって……ひどいことしちゃったから……」

大和田「…………」


ジロリ!と大和田は一度だけ強く朝日奈を睨んだが、その後は大きく息を吐いて肩の力を抜く。


大和田「じゃあ、いい。俺から言うことはなんにもねえ。……確かに、俺達もオメーを疑ってたしな」

舞園「ごめんなさい、朝日奈さん。辛かったですよね……」

不二咲「朝日奈さん、ごめんねぇ」

苗木「僕達が、もっと気を遣ってたら……」

朝日奈「い、いいの! もう済んだ話だし。わかってさえもらえれば。むしろ私こそごめんなさい!
     モノクマの言うことなんか鵜呑みして、みんなをまるで犯罪者みたいな目で見て……」

桑田「しゃあねーよ。実際、俺達犯罪者予備軍みたいなもんだし」

大和田「ああ。終わったことにしろなんて都合のいいことを言える立場じゃねえな」

舞園「無理をすればどこかにひずみが出ます。怖い、信じられないなら今は
    そう思っていた方がいいです。大丈夫です。そのうち自然と慣れますから!」

朝日奈「……本当に、ごめん」

朝日奈(私も強くなりたいな……)


・・・


五分後、KAZUYAは無傷で戻ってきた。幸いなことに、他の生徒達は全員寄宿舎にいたのだ。


K「とにかく、対策を練らねばならんな……まずは周知か。校内全てを捜索するには人手が足りん」

朝日奈「そうだ、さくらちゃん! さくらちゃんを呼ぼう!」

桑田「大神か……」


チラリと桑田はKAZUYAの顔を見る。だが、KAZUYAの決断は早かった。


K「確かに、戦力的に大神がいれば非常に心強い。急いで呼んできてくれ」

朝日奈「わかった。呼んでくる!」

舞園「いくら学園側に逃げたと言ってもまだ一人は危険です。私も行きます」

苗木「女子二人じゃ危ないし、僕も行くよ」

桑田「じゃあ、俺も行く。怪我人に苗木だけじゃ心配だしな」

K「頼んだぞ」

朝日奈「行ってくる!」


四人は寄宿舎に向かって行った。そして、KAZUYAは険しい顔の霧切と向き直る。


霧切「……ドクター。確かに朝日奈さんは内通者ではなかったかもしれない。でも大神さんは……」

K「信じよう」

霧切「……! 正気かしら?」

K「ああ。朝日奈の件は明らかに俺の優柔不断な態度が招いてしまったものだ。
  よく見ればわかることだったのにな……今までの行動を見ていても、大神は
  無闇に他人を傷付ける人間ではない。君達の目から見てもそう見えるはずだ」

霧切「私も、そうは思うけど……」

大和田「上手く行きゃ一気に二人引き込めるワケか。特に大神の戦力は
     バカにならねえし、なんとか引き込みてえところだが……」

不二咲「……信じてくれないかなぁ。僕も大神さんが仲間になってくれたら嬉しいし……」

霧切「でも、戦力が大きい分リスクも大きくなるわ……どうなっても、私は知らないわよ?」

K「それでいいんだ。俺が間違えたら、そうやって君が修正してくれ。
  俺は君の慎重な姿勢が間違っているとは思わない」

霧切「そうやって何でもかんでも一人で背負って……ズルいのね」

K「大人だからな。泥をかぶるのは俺一人でいい」

大和田「おい、ふざけんなよ。なんでもかんでもテメエ一人で背負いやがって。こちとら
     いつまでもガキじゃねえんだ。テメエがそうするなら俺だって信じてやるよ」

不二咲「僕も、一緒に背負うよ! 少しでも、先生の負担が軽くなるように」

K「ありがとう」


K(――これで九人。翔を入れれば十人か)

K(とうとう、俺が最初に目標とした三分の二を達成出来たことになる……)


KAZUYAは苗木と二人で話した時のことを思い出していた。苗木に協力を頼んだ日。
あれから既に半月が過ぎようとしていた。ここに辿り着くまで、短いようで長かった。


K「あと僅かだ。その残りのメンバーが難敵揃いなのだが」

霧切「そうね……」

大和田(山田に葉隠か……先公は詳しく話さなかったが、脱出のための策は
     もうあるらしい。あの二人さえ落とせればこっちのもんなんだがなぁ)

大和田(……一刻も早く、兄弟を家族のところに帰してやりてぇ)

大和田「なあ兄弟。あともう少し、もう少しなんだ。だから、もうちっとだけ辛抱してくれや」


そう言って、大和田が石丸の肩に手を置いた時だった。


石丸「………………わかった」

大和田「ッ?!」


驚愕の余り、思わず声が出そうになる。


大和田「せん……」


バターン!

大和田がKAZUYAに話しかけようとしたその時、大神が朝日奈達と共に保健室に駆け込んで来た。
恐らく、朝日奈が全てを正直に話したのだろう。大神は血相を変え珍しく狼狽していた。


大神「西城殿!」

K「大神か」

大神「……石丸は、無事ですか?!」


大神は石丸の状態を確認し、次にKAZUYAを見る。


K「ああ。最初は恐慌状態だったが、今は普段くらいには落ち着いている」

大神「左様ですか。他のメンバーもあらかた揃っているようだな……」


室内にいる面子の顔を確認すると、大神は勢い良く頭を下げた。


大神「こんなことを言える立場ではないことは重々承知している。
    だが、朝日奈のしたことをどうか許してやってくれぬか!」

朝日奈「さくらちゃん……」

大神「朝日奈は最近疲れていた。いや! 全ては朝日奈と距離を取って寂しがらせた我のせいだ!」

苗木「落ち着いてよ、大神さん。僕達は怒ってなんていないから」

大神「しかし……危うく石丸に大怪我を負わせてしまう所だったのだ。
    少なくとも大和田、お主は許してはいないだろう?」

大和田「朝日奈から聞いてねえのか? 俺は許すって言ったはずだぜ」

大神「…………」

大和田「チッ、信用ならねえか。俺は短気が原因で事件を起こしてるしな」

大神「いや、すまぬ。そうだな。お主はもうかつてのお主とは違う」


そして、大神は元々険しかった表情を更に険しくしてKAZUYAに詰め寄る。


大神「……して、不審者とのことですが」

K「まずは全員に不審者のことを伝え、一箇所に固める。その後、校舎を捜索しよう」

K「不審者は相当の熟練者と見ていい。つまり、俺と君が中心となって捜索を行う。いいな?」

大神「我は構いませぬが……」

大神(どうした? 十中八九不審者は黒幕の手の者。最悪、不審者と我の挟み撃ちになると
    思わないのか? 西城殿はかなりの慎重派だ。気付いていないはずはないと思うが……)

K「女生徒にこんなことを頼むのは気が引けるが、戦力的に今は君が一番頼りになる」

K(もしかすると、黒幕の真の狙いは俺をおびき出すことかもしれん。大神は実は内通者で、
  これは自分の首を絞めることになるかもしれない。だが、俺は朝日奈の言葉を信じる……!)

大神「…………」

K「…………」


しばし、無言で見つめ合う。腹の探り合いではない。KAZUYAは己の決意を示し、
大神はその決意に動揺を感じていたのだった。先に目を逸らしたのは大神だ。


大神「了解した。……どんなことでも言って頂きたい」

K「頼むぞ」


・・・


KAZUYA達は十神を除く生徒達の部屋を順に回って行くことにした。
と言っても腐川は反応がないので、最初は江ノ島になるが……


K(もし不審者が江ノ島なら、部屋にはいないはずだ)


ピンポーン。


江ノ島「はーい。……なんの用? しかもこんな大勢で……なんかあったの?」

K(……いたな。まあ、隠し通路が存在する可能性もなくはないが)

K「実は、保健室に不審者が現れ朝日奈が襲われたのだ」

江ノ島「ハァ?! 不審者?! どういうこと?!」


大まかに状況を説明する。その最中の江ノ島の表情を見て、KAZUYAはあっさりシロだと判断した。


K(……違うな。江ノ島はあまり演技力が高くないし、予想外のことが起こるとすぐ顔に出る。
  突然の不審者の登場に本当に驚いているようだ。この様子では何も知らないと判断していい)

江ノ島「ア、アタシなにも知らないから! ずっと部屋でモデルガンの手入れしてたし!」

K「モデルガン?」

江ノ島「あ……ガ、ガチャガチャで出たヤツだよ! なんか、カッコ良かったから気に入って……
     それだけだし! 別に集めてたりしてないし! あとはほら、メイクの研究したり?とか」

K「……大変だな、色々と」

江ノ島「モデルは忙しいの!」

苗木(江ノ島さん、モデルガンとか好きなんだ。ちょっと意外)

桑田(苦しすぎだろ、言い訳……)


その後、残りの生徒に声を掛けて保健室に集めた。防衛は大和田と桑田に任せ、KAZUYAと大神の二人で
学園を捜索する。しかし、KAZUYAの予想通り既に安全な場所に逃げたのか、それは徒労に終わった。


K「すまない。取り逃がしたようだ……」

苗木「仕方ないですよ。黒幕が手を貸しているなら上の階に逃げたのかもしれないし」

葉隠「全く……ただでさえ十神っちとかいるのに、不審者とか勘弁して欲しいべ!」

山田「本当に十神白夜殿ではないのですか?」

セレス「朝日奈さんは気が動転していたのでしょう? 見間違えた可能性は?」

朝日奈「う……すぐに転んじゃって下から見上げてたし、その可能性は否定出来ないけど……」

江ノ島「十神じゃないの? そもそもソイツ、朝日奈しか見てないんでしょ? 本当にいたの?」

朝日奈「いたのは間違いないよ! 危うく殺されるところだったんだから!!」

セレス「では、なかなかコロシアイをしないわたくし達に業を煮やしたモノクマさんが、
     外から危険人物を招き入れた、ということでよろしいのでしょうか?」

モノクマ「よろしくない! ボクはそんなことしていない!」

苗木「モノクマ!」

K「ほう、やっとお出ましか」


一同が扉に目をやると、のしのしとモノクマが中に入ってくる。


モノクマ「ボクは外部から不審者なんて入れてないよ! 今この学園の中にいるのは、
      最初からここにいた君達希望ヶ峰の生徒達と、イレギュラーのKAZUYA先生だけ!」

舞園「では、モノクマさんの扱いはどうなるんですか?」


舞園の問いにモノクマは露骨にギクリとした表情をする。


モノクマ「ボクは、ほら……学園長だからさ。例外だよ!」

山田「でも中の人がこの学園のどこかにいるはずですぞ!」

モノクマ「中の人なんていません! 中の人なんていません!」

葉隠「大事なことだから二回言ったんだべか?」

モノクマ「君達夢がなさすぎるよ! あの世界一有名なネズミにも中の人がいるとか言うつもり?」

山田「その話はストーップ!!! 夢の国の機関に消されてしまいますぞ!」

セレス「……話が脱線してますわ」


セレスが呆れながら溜息を付く。


K「わかった。その話はやめよう。……それで、もう一度確認するがこの学園の中に存在する
  “人間”は最初からいたメンバーのみで、俺を除けば全員この学園の生徒という訳だな?」

モノクマ「そういうことになるね」

桑田「本当かよ? まーた俺達を疑わせる罠じゃねえの?」

モノクマ「今のは誓って嘘じゃありません!」

大和田「じゃあ、俺達の中の誰かが不審者ってことになるのか?!」

不二咲「そんなぁ……」

山田「僕は違いますよ!」

大神「安心せよ……お主なら体型でわかる」

モノクマ「十神君じゃないの? 彼ならやりそうじゃない、こういうこと」

江ノ島「やっぱ十神だって! 一番怪しいし!」

セレス「そうですわねぇ。散々危険な行動を取っていらっしゃいますし」

霧切「その場合、身につけていたというマスクやナイフはどこで手に入れたのかしら?」

モノクマ「モノモノマシーンじゃない? 基本的にはオモチャや日用品が多いけど、
      あの中には危険なものも多少入っているし。先生はよく知ってるでしょ?」

K「……そうだな」

不二咲「でも、僕達がずっと見てたのにどうやって寄宿舎に戻ったのかな?」

モノクマ「実際はずっと見てた訳じゃないでしょ。移動してたりしたじゃない。
      この学園は隠れる場所も多いから、一人二人じゃ捜索し切れないし」

山田「ぬおおっ! 十神殿め! 一体どれだけ僕らに迷惑をかけたら気が済むのか!」

葉隠「やっぱ……引きずり出してふん縛った方がいいんじゃねえか……?」

桑田「でもよ、逆上して暴れるかもしれないぜ?」

大和田「ナイフ持って暴れられたら、ちょっと厄介だな……」

大神「その場合、我が止める。朝日奈を襲った借りを返さねばならんしな」

K「いや、俺から十神に話そう。凶器を持っているなら取り上げる。それでいいか?」


結局、不審者の正体は十神ということで決着が付いた。その場はKAZUYAが収め、
今まで通りしばらくは単独行動や不用意な外出を控えるよう指示した。


K(十神ではない――)


その場は余計な混乱を招かないために黙っていたが、KAZUYAは不審者の正体が見えてきていた。


K(モノクマはこの学園の内部には俺と希望ヶ峰の生徒しかいないと言った。
  ……それは、たとえ黒幕側の人間と言えど例外ではないのだろう)

K(モノクマを操作している人間、即ち監視者は本物の江ノ島盾子である可能性が極めて高い。
  この場合、江ノ島は希望ヶ峰の生徒なのだから先の発言にも矛盾しない)

K(だが……一つ気になることがある。希望ヶ峰の生徒しかいない――つまり、
  少なくともこの学園に潜んでいる実行犯は全員学生ということになるのか?)

K(朝日奈を襲った不審者の正体はそのうちの誰かか。もしかしたら、江ノ島本人かもしれんな)


不審者の正体は掴めた。しかし、KAZUYAの思考は止まらない。


K(人員の足りなさ、少数精鋭……確かにこれらの情報とも一致するが、一体何故こんなことを?
  以前アルターエゴから手に入れた情報と照らし合わせても、この学園は色々とおかしい――)

K(黒幕の目的は純然たる俺達の『絶望』で言わば愉快犯に近い。黒幕は狂った人間なのだ。
  しかし、それは学園によっておかしくなったのか、或いは元々おかしかったのか……)

K(そしてその中心人物が、自分と似た思考の人間をかき集めてこんな馬鹿げた計画を実行した……)

K(……考えれば考える程、気分の悪くなる話だ)



               ◇     ◇     ◇


「あーあ、失敗しちゃったよ」


学園の中を隅々まで監視する多数のモニターの前で、マスクを外した本物の江ノ島盾子は呟く。


(ちぇー、ぶっ壊れてるはずの石丸がまさか反撃してくるなんて。ツイてないなぁ、イテテ)


骨折などはしていないものの、思い切り叩きつけられたため全身の至る所に打ち身が出来ている。
しかし、痛みすら江ノ島にとっては心地の良い絶望の一種なのであった。


(良い案だと思ったんだけどなぁ。あそこで朝日奈を殺して石丸にナイフを持たせれば、
 犯人は石丸になる。精神が崩壊したままオシオキなんてサイッコーに絶望的だったのにさ!)

(仮に失敗しても、アタシのことは朝日奈しか目撃してない。朝日奈はちょっと前に
 問題起こしたばっかりだし、みんなに構ってもらうために自作自演したってことになれば
 一気に信用を失う。一人が嫌な人間がますます孤立するなんて絶望的じゃなぁい?!)

(……って思ったのにさ。まさか朝日奈の発言を鵜呑みにするなんてね。
 霧切はちゃんと疑ってくれたのに。ちょっと甘すぎじゃないの、先生?)


そうぶつくさ言うものの、江ノ島は今の状況を楽しんでいた。


(もしかしたらアタシが介入したのがバレちゃうかもしれない。このハラハラ感がたまんないわ!)

(マンネリしたら内通者動かすのもありだしね。どっちに転んでも絶望的ィ! アハハ♪)


しかし幸いにもと言って良いのか、マンネリにはならなかった。



― コロシアイ学園生活二十七日目 セレスの部屋の前 AM10:02 ―


妙な雰囲気で廊下に佇む男女三人。どんな縁だか、最近はよく行動を共にしている三人組である。


セレス「……それでわたくしですか」

葉隠「頼むべ、セレスっち!」

山田「僕からもお願いします、セレス殿!」

セレス「殿方が二人も集まって恥を知りなさいな」

セレス「……ですが、良いでしょう。わたくしも最近は暇を持て余していたのです。
     大和田君が一体何をしようというのか、確かめに行きましょうか」


手に持っていたメモをヒラリと振ると、セレスは優雅に歩き出した。


ここまで。


投下前に書いた非常にヤバイことの内容ですが、なんと絶対絶望少女には1メンバーの
身内の方が登場されるらしいですね。絶望少女は完全なスピンオフで腐川を除けば1の生き残り組が
ラストにちょろっと出るくらいかなと1は思っていたので、完全に想定外でした

そして何がマズイって……今後の展開に甚大な矛盾が発生することですよ。もう既にいくつか矛盾してます。
とりあえず、あの超重要なエピソード投下前に知って本当に良かった……もしあそこで矛盾かましてたら
滑稽なんてレベルじゃなかった。セーフセーフ。

最近は元々投下速度ちょっと遅れ目でしたが、絶望少女入手してクリアするまで投下できないエピが
今後予定されているので、本編の安定投下のためしばらくは週一くらいのペースになると思います。

ご迷惑をおかけしますが、ご理解ください。…空いた時間に挿絵でも描いてます。では!


>>645
Kの祖先が華佗ってことですかね

乙です
セレスが持っていたメモとは一体…

絶望少女俺も楽しみです
親族登場が確定してるのは現時点で苗木、朝日奈、葉隠、不二咲、石丸かな
まだ身内確定したわけではないけど…

乙です

なんかだんだん主張が激しくなって来たね。


すみません。自分でも最近はちょっと喋り過ぎかなと思ってました。しばらく自重します


ただその前に、最後に皆様にお願いしておきます。
親族云々は公式サイトやゲーム雑誌で既に公表されているから書きましたが、
ネタバレはなるべくしない方向で行きましょう。学生さんとかだと、すぐに買えなくて
クリスマスやお正月までお預け、なんて方も普通にいらっしゃるでしょうしね
SS本編でも、家族構成とか固有名詞以外はなるべく触れない方針にしていこうと思います

ご協力よろしくお願いします。次の投下は20日夜9時予定です。

了解

乙です
楽しみにしてます


彼女が持っているメモと同じ物を葉隠と山田も持っている。その文面は皆同じだ。


『話がある。10時に食堂に集まってほしい。このメモは全員に出したから、一人で来るのが
 こええなら、他のヤツに声をかけていっしょにくればいい。ぜってぇに来てくれ。 大和田』


そして葉隠と山田は部屋が隣だったこともあり、廊下でばったり出くわしたのである。
二人で行けばいいのだが、お互いを信用していないからか二人だけではどうしても不安で、
最近よく話すセレスも誘おうという流れとなったのだった。


山田(三人いればまあなんとかなるでしょう)

葉隠(いざとなったら足の遅そうな山田っちとセレスっちを囮にして逃げれば平気だべ!)


そして、三人は食堂へとやって来る。食堂には苗木、朝日奈、大神の三人がいた。


苗木「あ、セレスさんに山田君と葉隠君。久しぶり」

セレス「久しぶりというのも妙な話ですわね。わたくし達は監禁されておりますのに」

苗木「ハ、ハハ。そうだね。でもほら、あんまり会わないから」

朝日奈「十神のせいだよ! おかげで私達、最近すっかり離れ離れになっちゃった……!」

大神「して、大和田の話とは何であろうな。もしや、それについてやもしれぬ」

桑田「オッス」

舞園「こんにちは」

葉隠「よ、よう! なんか久しぶりだべ? 元気か? ハハハ」タラリ

山田「…………」フイッ


話していると続々と生徒がやって来る。しかし、桑田と舞園に対しては露骨に態度が違った。

名前欄変じゃね?


江ノ島「チーッス! おひさー!」

山田「お久しぶりです、江ノ島盾子殿」

江ノ島「山田ー、何日ぶりだっけあんた? ていうか、こんだけ集まるのいつ以来?」

山田「最近朝食会にも顔を出していなかったですしね。バラバラになら、時々会うんですけど」

霧切「私が最後かしら?」

葉隠「霧切っちー! なんか久しぶりだべ?」

霧切「そうね。あなた達部屋にこもりっぱなしだったから。まとめて会うのは五日ぶりくらいかしら?」

葉隠「手厳しいべ。いつどこで十神っちと遭遇するかわからねえ以上、
    身を守るには引きこもんのが一番なんだって」

セレス「そういう霧切さんはどうやって過ごしていたのですか?」

霧切「読書かしら。この学園には立派な図書室があるから。あとはいつもどおり探索ね」

セレス「まあ、まだ諦めていませんのね。この学園は適応すればなかなか良い環境ですわよ?」

霧切「いくら設備が整っていても、十神君一人に怯えて外出も自由に
    ままならないのなら、良い環境とは呼べないと思うけど?」

セレス「うふふ……」

霧切「…………」


そのまま二人は無言で視線を交わす。牽制の意が込められているのは誰の目にも明らかだった。


葉隠「お、女の戦いだべ。こえーなぁ……」

大和田「全員そろったか?」


食堂の入り口からは、大和田が不二咲と共にやって来る。
中を見渡し、十神、腐川を除いたメンバーが全員揃ったことを確認した。


江ノ島「わざわざこんなもので呼び出して、なんの用よ?」


今現在この場でKAZUYAに与していない生徒は四人。
けれども、その四人の考えはまさしく四者四様だった。


江ノ島(全員を集めるってことは一致団結を図るとか、決起集会を始めるのかもしれない。
     朝日奈さんの時は失敗しちゃったし、今度こそ上手く分断しないと。
     盾子ちゃん、見ててね! お姉ちゃん、がんばるから!)

セレス(新しい情報は今の所ありませんし、大和田君が発起人ということは十中八九
     石丸君のことでしょうね。場を見定めてどう動くかを決めましょうか)

山田(早く帰りたいな……ここ危険人物だらけだし。大体、大和田紋土殿の
    呼び出しなんてろくでもない内容に決まってる。帰りたい……)

葉隠(なーにするんかなー。ま、なにが来ようと安全な方につけばいいべ。
    人数も多いし、なんとかなるだろ。うん)

大和田「頼みがあるんだ。オメエら……俺に力を貸してほしい」

苗木「えーと、どういうことかな?」

大和田「またオメエら全員に兄弟の見舞いに来て欲しいんだ。頼む!」

大和田(あの時、確かに石丸は俺の顔を……目を見て『わかった』って言った! 今までは
     こっちを向いてたって俺のことなんかちっとも見ちゃいなかったのにだ!)

大和田(朝日奈のショック療法が効いたのか、今までの成果が出ただけなのかはわからねえ。
     もしかしたら不審者に襲われたのが良かったのか? ……いや、そんなこたどうでもいい。
     間違いなく石丸は回復してきてるんだ! 今ここで畳み掛けるべきだ!)


深く深く、大和田は頭を下げる。


葉隠「見舞いかぁ……別に構わねえけど、正直あの姿の石丸っちを見るのは辛いものがあるべ」

山田「そもそも、僕達は散々見舞いに行きましたよ。あれ以上効果があるとは到底思えませんが」

セレス「冷たい言い方かもしれませんが、治る見込みがないのならいくらお見舞いをしても
     意味が無い……つまり、わたくし達にとって無駄な時間ですわ」

桑田「ムダってなんだよ、ムダって!」

苗木「落ち着いて、桑田君!」


霧切「確かに、私達に出来ることは全てしてきたわ。あの状態の石丸君に
    会いたくないという気持ちもよくわかるし、何か根拠はあるのかしら?」


霧切に冷静に指摘され、大和田の表情は曇った。そうだ。何の根拠もない。
もしかしたらただ焦って早とちりしているだけなのかもしれない。


大和田「根拠は、俺の勘だ……」


大和田は正直にそう答え、食堂は嫌な沈黙に包まれる。


「…………」

大和田「でも、今はチャンスな気がすんだよ! 頼む! 黙って協力してくれねえか?!」

セレス「そうですわねぇ」

朝日奈「協力しようよ! 部屋に行ってちょっとお話するだけだよ?」

大神「ウム。その程度で良ければいくらでも協力しよう」

苗木「僕も。大したことは出来ないけど……」

大和田「オメエら……」

大和田(よし! 山田も葉隠も基本的に周りの奴らに流されるタイプだ。朝日奈達が協力するって
     言ってほとんどのメンバーがそこに賛同すりゃ、少なくともこの二人は協力するだろ)


口々に生徒が協力を宣言しようとしたその時だった。


――場に嵐を巻き起こす闖入者が現れたのは。


「あっれー? みんな集まってなにやってんのー? 集会? パーティー??」

大和田「オ、オメエは……」

葉隠「ジェ、ジェノサイダーだべええええええ!」

山田「なああああ?!」

ジェノ「イエース! 呼ばれて飛び出てジェノサイダー! ジェノサイダー翔でーす!!」


鋏を両手に決めポーズを取るジェノサイダーの姿に、場が凍り付く。


ジェノ「で、なにしてたん?」


静まり返る中、その場を代表するように一切動じていない舞園が説明する。


舞園「大和田君からみなさんに、石丸君のお見舞いに来てくれるようお願いしてたんですよ」

ジェノ「ふーん。ハイハーイ! 今のきよたんはなかなか萌えるからアタシも行ってあげても
     いいわよー。手厚ーく看病してやろうじゃないの。アタシ殺人鬼だけど。ゲラゲラゲラ!」

舞園「助かります! よろしくお願いしますね」

桑田「おいおい、石丸殺すんじゃねーぞ?」

ジェノ「わかってるってーの!」

「…………」

大和田(正直コイツに頼むのはシャクだ。ものすげえシャクだが……テンションだけは
     ムダに高えからな。コイツが来た時は兄弟もいつもより元気な気もするし)


少しの間大和田は逡巡するが、石丸のためだと無理矢理に割り切った。


大和田(先公はとにかく刺激を与えた方がいいって言ってた。まあ刺激にはなるだろ)

舞園「大和田君?」

大和田「(ハッ)あ……お、おう。なら、頼むぜ」

不二咲「……あの、よろしくね?」


ジェノサイダーに怯えて大和田の影に隠れていた不二咲が、少し顔を出す。
石丸の見舞いに来てもらった際、KAZUYA達は気を遣って不二咲とは会わせなかったのだ。

つまり、これが事件後初の遭遇となる。


ジェノ「あ、ちーたんじゃん! 元気ィ? つってもアタシがヤッたんだっけ? ギャハハハハ!」


その無神経な発言に最もカチンときたのは、元々不二咲に好意を寄せていた山田であった。


山田「き、貴様ァ! ちーたんを殺害しようとしたくせに
    その態度はなんだあああ!! 土下座して謝れぃ!」

ジェノ「ハア? イヤだし。だってアタシ殺人鬼じゃーん。殺人鬼が人殺してなにが
     悪いってワケ? アタシに文句たれるならまずあの変なクマに文句言えっつーの」

桑田「お、おいジェノサイダー!」

大和田「テメエ……」

江ノ島「コイツ、全然反省してないよ!」

大神「クッ、やはり殺人鬼は殺人鬼か……」

朝日奈「ジェノサイダー……!」

苗木「み、みんな落ち着いて! 冷静に話し合おうよ!」

桑田(おいおい……なんか雲行きが怪しくなってきたんじゃねーか……?)

舞園「…………」

山田「謝れ!」

ジェノ「イヤでーす」

大和田「この野郎……!」ビキビキ

不二咲「あのさ、僕は別に怒ってないから……ね?」

桑田「バカ、大和田! おめーが怒ってどうすんだよ。とりあえず落ち着けって!」

舞園「翔さんは今は敵意がありませんから大丈夫です!」

葉隠「な、なに言ってんだべ! 大丈夫なワケあるか! 連続殺人鬼だぞ?!
    今だってちっとも反省してねえじゃねえか!」

セレス「……というか皆さん、随分自然にジェノサイダーさんとお話されるのですね?」

桑田「そ、それは……」

山田「やっぱり、人殺しは人殺しか……仲間意識でもあるんじゃないですか?」

「……!」


江ノ島「なんであんた達ジェノサイダーの肩なんか持つのよ!」

葉隠「ま、まさかおめえら全員手を組んで俺を殺す気じゃねえのか?!」

山田「コイツがいる限り話し合いなんてしたくねえ! 僕は帰らせてもらう!」

不二咲「あ、ま、待って……やめて……!」

ジェノ「ふざけんなっ! 萌えねえ男子のくせに! ナメた口きくとタダじゃおかねーぞ!」

大神「よさぬか! 暴れるのなら我が相手になるぞ!」

朝日奈「えっと……ケンカはやめた方がいいよ!」

霧切「あなた達、少し落ち着きなさい!」

セレス「あら、これは当然の反応ではありませんか?
     本物の殺人鬼がわたくし達の前にいるのですよ?」


前に出ようとした霧切の前に、セレスが立ち塞がる。


霧切「……!」

苗木「ど、どうしよう……」

苗木(僕や霧切さんは建前上は中立の立場だからジェノサイダーを庇えない。かと言って桑田君達が
    庇えばみんなは怒るだろうし、一緒に糾弾したら今度はジェノサイダーが納得しない)


同じことを考えていたのか、舞園が視線を迷わせながら呟くのが聞こえた。


舞園「私達は、一体どうすれば……」

霧切「今は一旦場を解散させて落ち着かせるしかないわ。中立の大神さんあたりに働きかけて……」


その時、食堂に一つの怒号が響いた。



「オメエらッ! 俺の話を聞いてくれッッ!!」


叫んだのは大和田だ。

そして、勢い良く両膝と額を床につけ――土下座をした。


不二咲「お、大和田君……!」

大和田「はじめからこうしておきゃあ良かった……いや、俺は最初からそのつもりだった」

江ノ島「ハア? なに、いきなり土下座したりして?」

大和田「オメエらが問題起こした俺達のことを怒ってるのはわかってる。許してくれなんて
     本来言える立場じゃねえ。でも! でも今だけは! オメエらの力を借りたいんだ!!」

大和田「ジェノサイダーについちゃあ、俺だってこええし許してねえよ。でも、兄弟のためならと
     思って頼んだんだ。だからオメエらも頼む! どうか、今だけは水に流して協力してくれ!!」

大和田「頼む! 頼む頼む頼む頼むッ!!!」

苗木「大和田君……」

大和田「許してくれるって言うなら俺はなんでもする!」


そう言うと大和田は――懐から包丁を取り出した。


葉隠「ぬあっ?! 凶器を取り出したべ?!」

大神「何をするつもりだ!」

そういえばジェノがいるなら残姉の顔で妹じゃないとバレるんじゃね?
原作は合わなかったから良かったけど


大和田「なんでもいいぜ。コイツを使って気が済むまで俺を刺してもいい。切腹しろって
     言われたら俺はやる。学級裁判があるから死んで責任を取ることは出来ねえが、
     それ以外だったら俺はなんだってやってやる……!」


大和田はガクガクと震えながらもしっかりと包丁を掴み、額からは滝のような脂汗を流す。


朝日奈「あんた……本気なの?!」

大和田「本気だ! 俺はバカだから、他に方法が思い付かなかったんだよッ!
     俺は、なにがあってもアイツを元に戻してやらなきゃならねえんだ!!」

大和田「自分で手を汚しちまった俺とは違って、アイツのは完全に事故なんだ!
     俺が不二咲を襲ってアイツに怪我させなきゃ起こんなかった事故なんだよ!」

大和田「それでなにがいい?! なにがお望みだ! どんなことでもやってやろうじゃねえか!」

桑田「お、おい! やめろ! おめーだけの問題じゃねえだろ!
    だいたい騒ぎ起こしたっていうなら俺だって……」

舞園「いいえ。一番悪いのは私です。殺人計画を立てて二人の人間を利用し、コロシアイの
    口火を切った私に一番責任があります。大和田君が切腹するというなら、私もやります」

大和田「ハアア? お前はもう腹刺されただろうが!」

苗木「だ、駄目だ! 舞園さん!」


スタスタと大和田に近付いていく舞園を慌てて苗木が止めた。


不二咲「二人共やめて!」

ジェノ「え? なになに? 自殺願望? じゃあアタシが二人まとめて切り刻んであげよっか??」

朝日奈「あんたはひっこんでて!」

大神「お前の決意はわかったから包丁を下ろせ、大和田!」

舞園「そうです、私に貸してください!」

桑田「バカ! 女にんなことさせられるか! おめーがやるっつーんなら、その……俺だって!」


霧切「馬鹿なことを言ってないで、三人共冷静になりなさい!」

大和田「じゃあどうしろっつーんだ?!」

セレス「したいなら勝手にすればよろしいんじゃないですか? それで本当に禍根を
     断ち切れるのなら、結構ではございませんか。わたくし達は特に困りませんし」


大和田達にとっては文字通り決死の行動であるが、安全圏にいる人間の反応は実に様々であった。


葉隠「腹を刺すなんて馬鹿げたことはやめるべ! せっかくの内臓がもったいな……いやいや、
    とにかく刺すなら手足にしろって! 傷付けるくらいなら俺によこせっての!」

江ノ島(もっと煽らないと!)

江ノ島「そんなことで許されるなんて思わないでよね!」

大神「馬鹿なことはよせ! 万が一死ねば再び学級裁判が起こるのだぞ!」

朝日奈「そうだよ、やめて! そんなことしても石丸は喜ばないよ!!」

ジェノ「いーじゃん。やるって言ってんだからやらせてあげればいーじゃん」

苗木「みんな、話を……!」


もはや収拾が付かなくなるかと思われたその時、予想外の人間が一石を投じたのだった。


「あーあ」


その人物とは――










山田「なんか、冷めちゃった」


――まさかの、山田である。


ここまで。次回、山田吼える!


>>674
ジェノサイダーさんは意外と空気が読めます
江ノ島のこと知ってるはずなのに、わざとあんた誰?とか聞いたりしてるので
残姉のことは何らかのイベントだと勝手に思い込んでいます

キャラ崩壊してきたな
これが絶望……ッ!

乙です

何かおかしな所があったら解説入れたりさりげなく直すので遠慮せず指摘重点

25日以降しばらく来れないと思うので、その前に最後にもう一回だけ来ることにしました
今週は祝日あるので、時間はまだわからないけど23日の夜に投下の予定です。
あと大きなイベント二つくらいしたらいよいよ自由行動来ます。それでは…

乙です
これはヤバイ…十神に見られたら絶対笑われる光景だ
はてさて山田がどんな事を言うか

葉隠、本音が漏れてるぞ!

それにしても絶妙なタイミングでジェノがかき回してくるよなぁ

山田:ツマラナイ・・・


山田の一言が混乱の場を鎮めるなど、一体誰が予想出来ただろうか。


山田「この茶番劇、いつまで続くんですか?」

大和田「ハッ?! 茶番だ……?!」

山田「ええ、そうです。もっとハッキリ言いましょうか? お涙頂戴はもううんざりなんですよ」

「…………」


予想外の人間の予想外過ぎる発言によって、その場は一瞬で静まり返る。
そして、今まで脇に追いやられていた不満を晴らすかのように、山田の猛反撃が始まった。


山田「え、だってなにこのビックリするほど安っぽい展開。どうしていきなり包丁とか
    取り出してるんですか? 僕らの中の誰かにやれって言われたんですか?
    それとも単に紋土必死だなwって言われたい? 同情してほしいんですか?」

大和田「それは……」

山田「いきなり好きなだけ刺せとか意味わかんないし日本語でおk。犯罪者じゃあるまいし常識的に
    考えてやるわけないでしょう? こちとらあなた方みたいなDQN思考じゃないんですよ?」

山田「正直ドン引きなんですけど。というかぶっちゃけ突然の急展開に萎えるしかありえないwww」

大和田「…………」


山田は凄まじい速さの弁舌でまくしたて時に煽りもいれていく。普段の社交的でコミカルな姿と
あまりにもかけ離れたその冷徹な表情に、一同は何も言えずただポカンと眺めていた。
元々口下手な所もある大和田に至っては完全に勢いに飲まれ、反論もせず目を白黒させている。

……しかし、突然の変貌に見えた山田の豹変だが、彼等は山田と深く付き合っていなかったから
知らなかっただけなのだ。実は山田の中に、根深く深い闇が潜んでいるということを。

追撃の手は緩むどころかますます勢いを増して、その場はまさしく山田の独壇場と化す。


山田「マジレスしてやりますけど、自分に酔ってるだけなんじゃないですか? 親友のために
    命懸ける自分カッコイイ!的な。そんなあなたに自己陶酔乙!の言葉を送りましょう」

大和田「そういうワケじゃ……」


山田「もしこれが漫画で、涙ながらの説得によりみんな改心して一致団結し、無事
    問題も解決しました。めでたしめでたし……だったら読者をバカにしてますよ。
    僕だったらそんなクッソつまらない作品は破り捨てますね」

山田「確かに反省は口でなく態度で示せって言葉はありますよ? でもここであなたが怪我して何か
    メリットあるんですか? 現時点で、十神白夜殿やジェノサイダーと言う脅威に対抗出来る
    人間は西城医師、大神殿とあなたくらいしかいないのに戦力減らしてどうすんです?」

山田「所詮暴走族に頭の良さなんて最初から期待してませんけどいくらなんでもヒドすぎますね。
    バカなの? 死ぬの? あ、死にはしないけど切腹する覚悟はあるんでしたっけ」

大和田「…………」

山田「自分かわいそうで読者を釣れると思ってるなら大したスイーツ脳(笑)ですよ。
    はいはいワロスワロスみたいな。そういうのは携帯小説でお腹いっぱいなんで」

山田「あなたのええかっこしいのために汚れ役任されるこっちの身にもなれって
    言ってんですよ。どうです? 図星刺されて顔真っ赤ってとこですか?」


そこで山田は一息ついて大和田の顔を見るが、その顔は赤いというより目に見えて青かった。


桑田「いくらなんでも言い過ぎだろ! 大和田だって、別にそんなつもりじゃ……」


見るに見かねて桑田が間に入るが、その行為がまた山田の神経を大いに刺激した。


山田「ハァ、あなた達っていつもそうですよね。アニメや漫画の敵キャラにありがちなタイプ」

大和田「……ハ? 敵キャラ?」

山田「散々問題起こしたくせに一度改心して主人公の味方になると、まるで過去の悪行は
    なかったかのように主人公と一緒にヒーロー面して、ハバを効かせ始める」

山田「それで今回みたいに過去のことが出てきて都合が悪くなると、
    あの時は仕方なかったんだ!とか被害者ぶって涙を誘って解決する。
    僕の大嫌いな三流バトル漫画でよくある展開の一つですよ」

桑田「……なにが言いてえ」

山田「ヒーローの仲間だから自分達もヒーローだなんて思い違いも甚だしいってことです! 確かに
    西城カズヤ医師は立派な方ですよ。それは僕も認めます。あの人は本物のヒーローでしょう」


山田「でもあなた達がやったことはなんですか? 問題起こしてみんなに迷惑かけたくせに、
    西城医師が許したからと言ってあたかも最初からヒーロー側だったような顔をし、
    仲間にならない僕等を悪役扱いしている! 違いますか?!」

「!!」

山田「――僕達は、あなた達と違ってなにも問題を起こしていないのにね?」


誰かがゴクリと唾を呑んだ。それはある意味では的を射ている言葉だったからだ。山田が一体
何にこれほどまでの深い不満を溜めていたのか察し、その場は桑田も引かざるを得なかった。


葉隠「おい、山田っち……」

大和田「ち、違う……俺達は……!」

山田「違うっていうなら今の行動はどうです? 包丁持って決死の覚悟で謝罪して、仲間達が
    美しい庇い合い(笑)を始めて、どう考えても糾弾する僕達が悪役じゃないですか!」

山田「友情とか仲間の絆とか、そういう大義名分を盾に相手が責められない状況を作って
    許しを請うなんて、そんなのもはや脅しと変わらないです。――卑怯だっ!!!」

「…………」


誰も何も言えなかった。大和田が落とした包丁の乾いた音だけが、広い食堂に響いた。


大和田「脅し、てたのか? 俺は……? 卑怯? そんな、そんなつもりなんかじゃ……」

不二咲「お、大和田君……」

山田「少なくとも今の時点では許したくなんてないです。あなた達の存在が不愉快ですから」

不二咲「そんな……」

山田「帰ってくれませんか? ……いや、僕が帰りますか」ガタリ

桑田「お、おい! 山田、待てって。おい!」

葉隠「山田っち、流石にちょっと言い過ぎじゃ……」

葉隠(お、おいおい……ここで無意味に騒ぎを起こしてK先生怒らせるのはまずくねえか?
    十神っちの件も解決してねえし、そもそもまだここに殺人鬼がいるんだぞ……?)


流石に年の功か、一足早く冷静さを取り戻した葉隠が状況の不味さに気付く。
しかし、ここぞとばかりに江ノ島が割って入り分断工作を行う。


江ノ島「山田の言う通りだよ! いつもいつもアタシ達を仲間ハズレにして
     コソコソしちゃってさ! いったい何様のつもり?」

セレス「一方的に汚れ役を任せられるのはこちらとしても良い気はしませんわね?」

苗木「ま、待ってよみんな。彼らだって、恐らくそんなつもりは……」

舞園「ごめんなさい……山田君達のことを信頼してない訳じゃないんです。結果的にとはいえ、
    悪者扱いしたり不愉快な思いをさせてしまうなんて……本当にごめんなさい……」

朝日奈「で、でも! 私達だって大和田達のことを怖がって避けてたところもあるし、先生や
     同じ立場の人しか拠り所がなかったというか……お互いさまのところもあるんじゃ……」

不二咲「お、お願い……どうかみんなのことを許してあげて……悪気があった訳じゃないんだ。
     ただ、一生懸命過ぎて周りが見えてなかっただけなんだよ! どうか、お願い……」

山田「不二咲千尋殿……ちーたんがそこまで言うなら……」


山田とて今までの不満が爆発しただけでけして鬼ではない。涙目の不二咲に罪悪感を
覚えた山田が折れようとした時だった。空気の読めない殺人鬼が再び大きく場をかき乱す。


ジェノ「ギャーハッハッハッ! ゲラゲラゲラゲラ!!」バンバンバン!

山田「な、なにがおかしいんです!」

ジェノ「いやぁ、萌えねえ男子はほんと発言も萌えねえわ。つーかダッセーのなんのって」

山田「なにををっ?!」

ジェノ「はっきり言ったらどーお? 『犯罪者は犯罪者らしく仲間同士で部屋の隅に
     固まって埃でも食ってろ。うぜーから前に出てくんな!』ってさぁ!」

山田「僕は、別にそこまでは……」

ジェノ「お、ひふみん日和った? そうだよねー。逃げる所も隠れる所もないんだから、
     不満があるならいつでも直接言いにくりゃいいのに、自分が優位な状況じゃなきゃ
     言えねー臆病もんだものねー。ゲラゲラゲラ!」

苗木「やめろ、ジェノサイダー!」


苗木が制止しようとするがジェノサイダーは止まらない。元より止められるはずがなかった。
何故なら彼女は超高校級の殺人鬼であり、この学園で誰よりも自由な存在だからだ。


ジェノ「卑怯だろうがなんだろうが使える手を使ってなにが悪いんだって話。しかも、
     卑怯な手を使わないとマズイほどそいつらは追い込まれてるんでしょ?」

ジェノ「それなのに上から弱い立場のヤツをいびってんだから、結局今のテメエは立派な悪役だろーが」

山田「ち、違う!」

ジェノ「そもそもさぁ、ヒーロー? 悪役ゥ? 正義だの悪の美学だの、そんなの語っていいのは
     白夜様とかKAZUYAセンセとか、格好良くて見映えのする男だけなんだよぉ!」

山田「グッ……!」


ジェノサイダーにとっては、それはいつもの軽口か特に意味のない煽りのつもりだったに違いない。


ジェノ「雑魚敵にすらなれないモブ以下のデブサイクは後ろにすっこんでろ!」

山田「な、な、な……!!」


――だがその言葉は、山田の奥深くにしまい込まれていたコンプレックスであり
   最大の地雷を鮮やかに、そして見るも無惨に踏み砕いたのだった……


山田「ふざけんじゃねえ……」


まだ山田が同人を始める前の頃、山田は人より少し絵が上手いだけの平凡な少年だった。
いや、はっきり言って平凡以下だった。勉強は並から並の下の間、運動はぶっちぎりで学年ビリ、
その上我慢が苦手で自分に甘かったため、子供の時からずっと肥満体型であった。

そんな山田が自分に自信を持てなくとも何ら不思議ではない。


山田「ふざけんじゃねえぞ……!」


山田は現実を忘れさせてくれる漫画やアニメが好きだった。それも、説教臭くて泥臭いストーリーは
嫌いで、ごくごく平凡な主人公がある日突然非日常に連れていかれ活躍するような話を特に好んでいた。
そういう話でないと感情移入出来ないのだ。……しかし、少年漫画の主人公に憧れていない訳ではない。

格好良くて頼りになって人望があって優秀でモテモテで――山田だって本当はヒーローになりたかった。


山田「人殺しの分際でヒーローを語るんじゃねえッ!!」


……でも、自分はなれないとわかっているからその気持ちを押し込めていたのだ。

同人界で高い評価をされとうとう希望ヶ峰学園にまでスカウトされた時、山田は才能を認められたと
狂喜した。だが、かえって山田のコンプレックスは大きくなるばかりだったのだ。如何に超高校級と
いえど、結局同人はごく一部の人間にしか認められていない。オタクという言葉が市民権を得て
既に久しいが、まだまだ世間の中でその地位は低いし当分それは変わらないだろう。


ジェノ「ああん? モブが本当のこと言われて怒っちゃったぁ?」プゲラ


山田がKAZUYAの派閥に入らなかったのは建前上は前科組を信用出来なかったからだが、
本音は違う。彼等と一緒にいれば嫌でも自分と彼等を比較してしまうからだ。

桑田、石丸、大和田はみんな山田より背が高く顔立ちも良くて腕も立つ。それだけでも負い目があるのに
山田はコロシアイ学園生活に必要な頭脳や腕っ節を持っていない。平凡な高校生代表の苗木すら、意外と
頭の回転が早く高いコミュニケーション能力を活かして周囲の補佐を行っているのに、山田の才能は
ここでは輝かない。KAZUYAの派閥に入れば昔のように、山田は凡人以下の存在に戻ってしまうのだ。

そしてその事実は、山田が最も目を背けたい真実に他ならないのである。


山田「貴様だけは絶っっっ対に許さねえええええええええええええええええッッ!!!」


時々感情的になったりはするものの、やはり普段の温厚で丁寧な姿の方が印象強いのか、
鬼のような顔で激昂し叫ぶ山田の姿に生徒達も動揺を隠せなかった。


朝日奈「えっ、山田?!」

苗木「山田君?!」

山田「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


――全ての始まりにして終わりなる者。山田は日頃からそう自称していた。

現実はどうであれ、山田は心の中では常に崇高な戦士のつもりだった。如何に相手が恐ろしい
殺人鬼といえど、ここまで矜持を馬鹿にされて黙ってはいられない。山田は怒りを勇気へと変える!


山田(おお、プリンセスぶー子よ! 誇り高き戦士に力を与え給え!!)


全身全霊の力を込めて、山田は踏み込む。


大神「やらせん!」

山田「?!」


……しかし哀しいかな。

山田の覚悟も、怒りも、乳母車に乗る前から闘争の中にいた真の戦士には全く敵わなかった。山田の
体格とパワーを鑑み、ただ羽交い締めにするだけでは勢いを殺せないと見て取った大神は、山田が
動いた瞬間当て身を食らわせ態勢を崩す。そのまま組み敷くようにのしかかり、腕の関節を極めた。

超高校級の格闘家の称号に相応しい、鮮やかな早業であった。


山田「いだだだだっ! いたいいたいっ!!」

大神「暴れるな、山田! 我も乱暴はしたくない!」


一方ジェノサイダーに向かったのは大和田だが、相手が女でしかも
凶器を持っているため迂闊には近付けず、間に割り込むように立ち塞がる。


ジェノ「どいて、もんちゃん! そいつ殺せない!」

大和田「殺らせるわきゃねえだろ、クソがっ!」

桑田「おい、ジェノサイダー! せんせーが味方してくれるからってあんま調子にのんじゃねーぞ!」

ジェノ「センセは関係ないね! アタシはアタシのやりたいように殺るだけ。なんなら
     レオちゃん殺ったげよーか? 最近殺ってなくてストレス溜まってんだよねぇ!」

桑田「コイツ……!」


鋏を向けて近付くジェノサイダーに、桑田は大和田が落とした包丁を拾って構えながら距離を取る。


不二咲「?! や、やめてぇ!」

葉隠「ヒィィィッ!」

朝日奈「危ないよ! みんな少し落ち着きなって!」


江ノ島「そうやってまたいい子ぶるんだ?」

朝日奈「わ、私いい子ぶってなんか……!」

江ノ島「こんな所に閉じ込められて、こっちはいい加減ストレス溜まってんのよ!」

苗木「江ノ島さん! みんなも! 僕の話を……」

モノクマ「いいじゃん、いいじゃん! みんな、殺っちゃえー!」

苗木「な、モノクマ?! 何を……」

モノクマ「大変だ! 桑田君とジェノサイダーさんが殺し合ってる!
      みんなも武器を持って戦わないと! ほら!」

葉隠「おおー! ナイスだべ!」


モノクマからナイフを渡された葉隠はそれを持って後退する。


舞園「葉隠君! そんなものを持ってはいけません!」

霧切「危ないわ! 今すぐ捨てなさい!」

葉隠「う、うるせえ! 自分の身は自分で守るんだ!」ブンブンブン!

舞園「キャッ! やめてください!」

大神「葉隠!」

大神(クッ! 葉隠を止めたいが山田から手を離す訳にはいかぬ……)

セレス「これは……避難した方が良さそうですわね……」


流石のセレスも冷や汗を流しながら入り口の方へジリジリと向かっていく。


大和田「俺が止める! 桑田はそいつを止めてろ!」

桑田「おい! 危ねーぞ!」

ジェノ「あれー? ウニ頭が発狂しちった?」

不二咲「大和田君、行っちゃ駄目!」

霧切「苗木君! ドクターを呼んで来るのよ!」

苗木「! わかった!」


文字通り転がりかけながら苗木が食堂を飛び出す。


大和田「おい、葉隠! ソイツをこっちに渡しな……」

葉隠「じょ、冗談じゃねえ。これは大事な武器だべ……」

大和田「んなもん持ってたらかえって危ねえっつってんだよ!」

葉隠「近寄んじゃねえ!」

不二咲「あ……あ……」


この騒ぎに、不二咲はコロシアイ学園生活十日目……二つ目の動機が配られた時を思い出していた。
あの時、不二咲は何も出来なかった。それは自分が弱いからだと思い、だから強くなろうとしたのだ。

……しかし、どうだろう。

秘密を打ち明け、以前より強くなったはずなのにまた自分は役に立てなかった。
結局、強くなったように思い込んでいただけで、自分はちっとも強くなってはいなかった。


不二咲(やっぱり……僕じゃ駄目なのかな……)


大和田は責任を取るために男らしく切腹すらも厭わなかった。舞園も既に覚悟を決めているのか、
冷静に代わりを名乗り出たし、桑田は震えながらもそれに続いた。彼等はとても勇敢だった。

―○が○○ば、○んな○○○を○め○○れる○な。


不二咲(……思えば、僕はいつも守ってもらうばっかりで僕が犠牲になったことはなかったね)


不二咲は考えてはいけないことを考え始めていた。このバラバラになった仲間達の心を
元のように再び一つにするには、何らかの大きなキッカケが必要なのではないか。
そして、それを手っ取り早く実現させるには……誰かが犠牲となることではないかと。

―僕が○○ば、みんな○○のをやめ○○れるかな。


大和田「ほら、早く渡せ!」

葉隠「く、来んな!」

不二咲「大和田君!」

霧切「近付いては駄目よ! 刺激してしまうわ!」

大和田「なにもしねえから早く置け! な?」

朝日奈「葉隠!」

大神「葉隠……!」

セレス「馬鹿なことはおよしなさい!」

モノクマ「殺られる前に殺っちまえー!」

葉隠「う、うう……!」













―僕が死ねば、みんな争うのをやめてくれるかな。












「……うっ!」










大きな呻き声を一つ上げると、そのまま不二咲千尋は床に倒れ込んだのだった。


ここまで。


Next Time is ・・・ undecided.

See You again, This Thread!

Thank You!

乙です

なんだこの展開ヒェ~ッ

うん

乙です
またちーたんが命を削るのかああああああ
再び胃がキリキリするおw


またちーたんが…
Kェ!早く来てくれー!!

次の投稿は絶女クリア後ですかな?

山田、葉隠ェ、そしてちーたんと今回も盛りだくさんの回だったな…(白目)

セレスの勝負とはなんだったのか

「(どちらが何もできないか)勝負ですわ、ドクターK」

山田の言うことももっともだけど善悪二分論とコンプレックスと向き合い戦おうとしない姿勢はいただけない。

山田はそういう奴なんだよ仕方ない
それよりこのSS読むとジェノサイダーがどんどん嫌いになってくな…十神は良い悪役って感じだけどジェノサイダーは嫌悪感しか感じない
そこらへんも>>1の思惑通りなんだろうけど

自分はジェノサイダーの意外と周りが見えててでも敢えて空気読まないで好きなようにしてる感が好きだよ
そういうキャラだと思って読んでるから>>1のキャラの使い方は上手いなーと思った
なにはともあれ乙、次も楽しみにしてる

みんな煽っていくスタイルだから仕方ない

というか、朝日奈も言ってるようにどっちもどっちって側面があるのに
なんか大和田達が一方的に悪いって感じになったからジェノサイダーが口挟んだんじゃない?
口は悪すぎるけど、言ってることは一理あるわけだし

うん、やっぱりこいつら高校生なんだよなあ
スレてない部分がしっかりある

>>704
本編でもモノクマが金をチラつかせるまでは中立を貫いてたからなぁ

また不二咲が被害者かよ?
いっそのこと不二咲を黒幕にすれば?

何故そうなる?

でも不二咲や石丸辺りがピンポイントでズタズタにされてる感はあるよね

つまりはワンパターンなんだよ
わざわざ同じパターンの悲劇を繰り返されてもお寒いだけさ

強い人間と弱い人間が同じ割合で被害受けたらおかしいだろ
そもそも精神攻撃なら大和田だって今回含め結構攻撃されてるし
この間はKや朝日奈だっておかしくなってたじゃん

苗木の安定感は異常

苗木が何げに一番の化け物なんだよなあ……


舞園と桑田をイーブンとすると、原作でも完全な被害者って不二咲と石丸、あと大神(これは加害者であるとも言えるか?)だからね。
それに準ずるとしたらまあこうなる。

舞園の時にKに注意された以外、個人では、
特に注意されるアクションしてないからね。
苗木は。

苗木君の精神力と適応力は異常

>>701
その予定です。1の3Dアクションの腕は可もなく不可もなくと言った所なので
何日かかるかはちょっとわかりませんが、頑張ってクリアします

>>703
何で勝負をするとは言っていない。つまりこの後ポーカー対決でもやれば無問題
うん…こういうツッコミ来そうだからこのスレタイかなり悩んだんや

>>705>>708
そうですね。生徒間に差をつけたり善人悪人の区別は余りしたくないのでどんなに暴言吐いたり迷惑かけても、
こういう背景や不満があったから…みたいな感じでなるべくフォローをいれるようにしていますが、ジェノに
限ってはそういうのあんまりないですからね。むしろ殺人鬼だし本人も汚れ役上等!くらいの勢い

ただ、自由気ままを体現したようなジェノですが、一応彼女なりの価値観やら行動理念はありまして
今回で言うと、間違った謝罪にせよ体を張っている大和田君に安全圏の人間が上からゴチャゴチャ
説教かますという構図が、日頃命のやり取りをしているジェノの美学に引っ掛かった形です
基本的に自分から動かないウジウジした人間が嫌いなんですね。その代表格が腐川さんだったり

>>712
一応その二人ばかり被害に遭うのは理由があります。石丸君は何せあの性格なので潰し甲斐がある!と黒幕から
集中砲火を受けたのと十神君と相性が悪く目の敵にされた、という不運がありました。不二咲君に関しては、
何せ蚊も殺せない優しい性格なので人の厄を引き受けるというか、無意識に自分が被害に遭うようにしている感じです

苗木は舞園が駒化して安定したってのが一番大きい気がする
もし舞園が病んでたら苗木も一緒に病んでたと思う

まあ駒園さんだから変に迫ってくることも無いからな。
それを考えるとエンディングまで駒園さんでいてくれたら非常に楽

暇だったのでコラを作ってみた。
元絵は角川版コミカライズダンガンロンパより

http://i.imgur.com/JJqoWST.jpg


…絶対絶望少女もVITAダンガンモデルも人気なようで何よりです(涙)

逆に言うと、駒園さん状態をいかに解消するかが苗木の真価となるのか。あとは霧切さん関連。
なんか修羅場くさいなぁ。

まあジェノの言うことも尤もだけど、山田の不満も分かるのよね。弱者という立場を利用した脅迫は非常に性質が悪い。しかも大和田はそれに無自覚だったわけだし、腹が立つのも理解できる。
ジェノの言い分に従ってそれを糺そうとするなら、上から責めるのではなく、しかし屈せず、相手の心情を理解した上でその非を指摘する、とかじゃなくちゃいかんのだろうか?
現実世界のいい大人でも、それができる人間なんて滅多にいないよなぁ。

Vita TV買えばええんちゃう(ボソッ

>>722
多分だけど、山田があそこまで大和田に噛みついたのはただカチンと来たからだけじゃなくて
大和田達K一派に対する嫉妬もあるよね。現に葉隠達はそこまで怒ってなかったし
ジェノはそれを見抜いたから馬鹿にして笑い飛ばしたんじゃないかなーという気もする

ジェノは以外と慧眼の持ち主だからなあ

まあ言葉選んでないのはいただけないがな。欲望に忠実ともいうか。

でもジェノは機嫌が悪いと十神にすら暴言吐くような奴だしなぁ
仕方ない。気を使って優しく言うなんてジェノのキャラじゃないし

相手の心情を考えながら優しく諭すのはKの役割じゃないかね

ああああ、来ないなぁ…こりゃガチで来月かい
なんか至る所に面白いとか絶望的とか書いてあるのに自分だけお預けとかマジ絶望的ィ…


悔しいから空いた時間でダンガンロンパ風ドットキャラのKAZUYA作ってみた

原寸大
http://i.imgur.com/VzAgrqd.png
拡大版
http://i.imgur.com/R7Z3Q4G.png
スクールモードアイコン
http://i.imgur.com/LyigcJG.png
スクールモードアイコン(拡大版)
http://i.imgur.com/0Y7rR0D.png

透過処理してあるので、悪用しないなら持ち帰って
ご自由に加工なりなんなりして遊んで頂いて結構です

それにしてもドット打つのって楽しいなぁ。いっそドクターK側のキャラも全部揃えてしまおうか…

これは凄い…

あれ…ブラウザでは見れるけど、携帯からだとモノクロの方が見えないな
真っ黒になってしまう。どうしてだろ。カラーは見れるのでカラー版も作っておくか

カラー版
http://i.imgur.com/1SKN64M.png
カラー版拡大
http://i.imgur.com/wzLUaKm.png


ついでに前髪とかちょっとおかしかったのでさりげなく修正。これで完全版…のはず

.pngで背景透過だとスマホとかからは背景が黒で表示される

素晴らしい、KAZUYAのオシオキシーンで使えますね…えっ
絶女、なんとかクリアしました
難易度を一番簡単なのにしてぶっ続けでプレイすればアクションが苦手でも2日程度でクリアできると思います
空いた時間で番外編とかも読みたいな…チラッ

>>728
すごーい

スクールモードwithドクターKとかあったら面白そうだね
何か素材が直ぐに集まりそうwww

来たあああああああああああ。やっと来た!! 一体どんだけ待ったことか!

ダンガンモデル良い!すっごく良い!買って良かった。というか、最近のゲーム機って凄いですね
1はドクターK好きとか言ってる時点で年代がバレてるだろうけど、こういうハイクオリティ?
機能がいっぱいあるゲーム機って初めてなので、まず操作説明用のゲームで30分使ってしまった
映像も凄い綺麗で音声もクリアだしカメラやマイクまであるとか…科学の進歩舐めてました…

絶望少女についてはストーリーのネタバレはしないと宣言したのでそれ以外の感想を。
最近のゲームって本当に凄い。アニメーションがたくさん入っててボイスもたくさんあるんですね
これだけでもうお得な感じ。名もないモブに声がついててたくさん喋るんだから凄い豪勢
至る所で無印のBGMをアレンジしたBGMが流れるので、それだけでファンは感動出来るのでは

…しかし難しい。今はノーマルモードだけど、イージーに変えようか思案中。次の投下は日曜かな?


>>731
背景付きをうpしました。ついでに再再修正し、カラーもグラデーションを意識してバージョンアップ

http://i.imgur.com/PeVLVRp.png

背景を消したい場合は、画像にアルファチャンネルを設定して特定の色域を選択、或いは
ファジー選択の機能を使って背景だけ消せばおk。…いや、誰が使うんだと思うけど一応ね

初め敵が超怖くて角曲がるだけでもドキドキしてたけど、気がついたら慣れて突撃していた不思議。
クリア頑張ってくださいねー

頑張って…

続・絶対絶望少女のあからさまな宣伝

…正直舐めてたね、うん。絶対絶望少女凄く面白いです。どのくらい面白いかって言うと、
イージーモードで一気にクリアするのが勿体無くてこまるモードでちまちま進めながらやりこみアイテムを
探してしまうほど面白いです。なんとまだチャプター3。書き手としてはジェノモードで一気に突っ込んで
(ジェノはダメージ無効なので)ストーリーだけ先に見るのが正しいんだろうけどついつい遊んでしまう

背景が凄く綺麗ですね。最近のゲームはみんなそうだって言われるとそうなんだけど、至る所にモノクマの
落書きがあったりして非常に芸が細かいです。イカれたカラーリングも健在で、収集アイテムの説明文も
クセがあっていい感じ。本を拾うといちいち腐川さんとこまるちゃんがリアクションしてくれるのも楽しいですね
操作性も、最初は難しかったけど慣れたらそんなでもない。むしろ動かしやすいと思います
そんな訳だから、まだ買っていないそこの君!思い切って買っちゃいましょう。


閑話休題。日曜に投下するって言っちゃったのでまだクリアしてないけど今日は投下します


大声で争っていた全員が、思わず黙りこんでそちらを見た。
不二咲は吐き気が酷いのか、勢い良く胃の中のものを吐いていく。


不二咲「お、おえぇぇ……ゴボッゴホッ、ゲホッ!」

葉隠「え? はへ……?」

大和田「ふ、不二咲……不二咲ィィィィィィ!!」

霧切「不二咲君?!」

山田「ふ、不二咲殿ォォ?!」

ジェノ「あら、大変! ちーたんがゲロったわ! ゲロって倒れちゃったわ!」

セレス「一体、何が起こったんですの……?」


すぐに逃げられるよう食堂の入口から様子を見ていたセレスも、驚いて警戒しながらやって来る。


朝日奈「し、死なないで!」

大神「皆、争いはやめよ!! 不二咲を運ぶぞ!」

霧切「葉隠君、もう喧嘩は終わったのだからそれは置いて行きなさい」

葉隠「え、あ……おう」


不二咲を連れ慌てて食堂を出ていく生徒達に、流石の葉隠も冷静になって
ナイフを机に置いた。一人食堂に取り残されたモノクマは大袈裟に溜め息をつく。


モノクマ「ちぇっ。これからいよいよ血みどろフィーバーでアドレナリン大放出確実な
      超劇的クライマックスってところだったのに、邪魔が入るなぁ」

モノクマ「……ま、いいか。パーティーは終わっちゃったけど、今度は別の修羅場が始まるだろうし」

モノクマ「自分のいない所でこんな騒ぎが起こって、KAZUYA先生もさぞかしカンカンだろうね!
      うぷぷ。……さてさて、ではボクはまた高見の見物に戻りますか、と」

いや……まあ、個人的には手放しでおすすめはちょっと出来ないかなーと
ああいうゲームあんまりしない人で、操作も苦に感じないなら合うかもぐらい
アクションゲームとしてはイマイチ、ファンゲームとしては上々


               ◇     ◇     ◇


慌ただしくなった保健室に、KAZUYAの怒鳴るような指示が響いた。


K「点滴用意! ぶどう糖液だ!」

苗木「はい!」

K「まだ吐くようなら背中をさすって手伝ってやれ。気管につまらせないよう注意しろ!」

大和田「わかった!」

K「脱水症状になったらまずい! 水分を用意!」

桑田「俺、自販機からスポーツドリンクと水取ってくる!」

K「あとは、脱水で体温が低下するからなるべく温めろ」

舞園「はい!」

霧切「……念のために湯たんぽも用意するわね」

朝日奈「私は……?!」

K「手を握ってひたすら呼びかけろ! 早急に意識を回復させないと危険だ……!」

朝日奈「う、うん! 不二咲ちゃん、しっかり! そうだ、石丸もこっち来て!」

石丸「不二咲君……」

朝日奈「ほら、一緒に手を握って! 呼びかけよう!」グイッ、ガシッ!

石丸「不二咲君不二咲君不二咲君……」

朝日奈「そうそう! その調子だよっ!」


朝日奈は反対側の手を石丸に握らせる。対処が早かったからか二人の呼びかけが効いたのか、少しずつ
不二咲は落ち着いてきた。テキパキと処置をしながらも、KAZUYAは不二咲の状態を観察する。


K(口内から林檎の腐ったような臭いがする。この症状は……)

K「大神、不二咲が倒れた時の状況を詳しく頼む」

大神「突然吐いたのだ……少し前まではどこもおかしくなかったのだが」

K「何か前兆のようなものはあったか? 変なものを食べたとか、最初から具合が悪そうだったとか」


大神「いや、そんなものは全くなかった。唐突に倒れて吐き始めたのだ」

K「では、倒れた前後の状況を詳しく聞きたい。何かあったはずだ!」

大和田「それは……俺がわりいんだ……また、早まっちまった……」

K「…………」


大和田の真っ青な顔を見ながら、KAZUYAは胸の中がチリチリと焦げるのを感じていた。


・・・


保健室の前の廊下には、生徒達が集まって中の様子を伺っている。バン!と扉が
開かれ、まずは険しい顔をしたKAZUYAが現れた。後ろからは項垂れた他の生徒達が続く。
朝日奈だけは不二咲の体調が急変した時のために中に残ってもらった。

またジェノサイダーは途中で腐川に戻り、慌てて部屋に逃げ帰ったためもうここにはいない。


山田「不二咲千尋殿は?!」

K「何とか峠は超え、今は小康状態を保っている」

山田「よ、良かっ……」


だが安堵する間もなく、KAZUYAは畳み掛けた。


K「これは一体どういうことだ……?」

「…………」

K「これは一体どういうことなのかと聞いている!!」


腹の底から振り絞られたKAZUYAの怒鳴り声に、生徒達は身を竦めながら俯くしかなかった。


K「……お前達に不二咲の病名を教えてやろう」

大和田「病気?! 不二咲は病気なのか?!」


動揺する大和田を冷たく見据えながらKAZUYAは続けた。


K「検査が出来ないから断言は出来ないが、諸々の症状から俺は自家中毒と診断した」

桑田「自家、なんだって? 中毒?」

K「自家中毒、正式名称アセトン血性嘔吐症だ」


自家中毒:過労、精神的緊張、感染などにより誘引される嘔吐症。人間は脂肪を分解することにより
      エネルギーを作るが、その際ケトン体(アセトン)が血中に発生する。それらが血中に
      溜まり過ぎるとなる病気で症状は主に嘔吐、倦怠感・腹痛・吐き気・食欲不振・頭痛等。


K「本来は主に二歳から十歳くらいの小児がかかる病気だ。稀に大人がなる場合もあるがな」

葉隠「なんだってまたそんな変な病気になったんだべ。しかも突然……」

K「この病気の原因を教えてやろうか。この病気の起こる原因はな――ストレスだ」

「えっ」

K「過剰なストレスに晒され心身のバランスが崩れ自律神経に異常をきたすと、
  この病気になる。だから……子供に多い病気なのだ」

K「不二咲はただでさえ体が小さく病弱なのに、ついこの間殺されかけたばかりなのだぞ?
  そんな時に過剰なストレスを与えたらどうなるか……素人にはわからないのか?」

「…………」


責めるようなKAZUYAの視線が、生徒達に突き刺さった。


K「大和田……俺はみんなに頼み込むだけだと、そう聞いていたぞ……
  何故俺に何も相談せず馬鹿なことをした……」

大和田「すまねえ……」

K「大和田だけではない。桑田、舞園。お前達は自分の置かれている立ち位置を忘れたのか?
  あれだけ周りを刺激するようなことはするなと、俺は何度も過去に言ってきたはずだ」

K「更に言うと桑田。何故すぐに大和田をその場から連れ出さなかった?
  そのまま放っておいたら大事になるとは思わなかったのか?」

桑田・舞園「…………」


K「お前達も……ただ必死になって頼み込んでいただけなのに、何故それで争いに発展する……?」

山田・葉隠「…………」

K「他の者も、何故早く止めなかった? 今まで俺達は散々仲間割れをして状況を悪化させて
  きたはずだ。争いに発展したら無理にでも解散させるべきだと、いい加減わかるだろう?」

苗木・霧切・大神「…………」

K「俺はな……俺なりに少しずつ黒幕に対抗しようと情報を集め脱出の策を練っていたんだ。
  勿論それが可能かどうかはまだわからん。無駄な行為に終わるかもしれない……」

K「だが可能にしろ不可能にしろ、今の状況ではとてもじゃないが手を取り合うことなど出来んッ!!」

K「何故お前達は一つになれない?! 何故いつまでも小さなことで争い合うんだッ?!!」


ドゴォッッ!!


「!!」


こらえきれなくなってKAZUYAは生徒達に背を向けると、怒りのまま思い切り壁を殴る。
コンクリートにも関わらず壁には大きくヒビが入り、KAZUYAの拳の皮も裂けて血が付着した。


K「もし仮に不二咲が死んだら、その場合犯人は誰になるんだ……? この学園にいる
  人間全員の連帯責任と言うことになるな。……ならば、全員仲良く処刑されるか?」

「…………」


その言葉に誰も答えられないまま、KAZUYAは振り返った。その顔は単に青いとか暗いとか、
鬼気迫る等という言葉では表せない。一言でそれを表現しなければならないのならば、そう――








――絶望。


KAZUYAは感情のままに絶叫した。


K「俺はそれでも全く構わないぞッッ!!!」


シィンッ――


「…………」


かつて、この学園で共同生活が始まってからここまでKAZUYAが生徒達に怒りを見せたことはなかった。
せいぜい最初の事件の際に一喝しただけだった。しかし今はどうだろう。裁判の時、十神に対して
向けた怒りとは比べ物にならない程の強い強い怒りと、そして――哀しみがそこにはあった。


K「…………。……いや、すまない。少し頭に血が上ってしまったようだ」

桑田「せんせー、本当にごめ……」


KAZUYAが頭を振って謝るとすかさず桑田が謝ろうとする。だが、何かがいつもと違っていた。


K「お前達は悪くないさ。――全部俺が悪いのだからな」

「!!」


そう呟く男の顔は暗く、目は濁っている。男が最も怒っているのは、自分自身に対してだった。


苗木「そんなこと……」

K「超高校級だろうが何だろうが、所詮はお前達は高校生だ。つまり大人でありながら
  お前達をまとめられない、お前達から信頼されない無能な俺が全て悪いんだ!」

桑田「せ、せんせー……?」

K「……元より俺の本業は医者だ。教師ではない。ましてやお前達の担任の先生でも何でもない!」

大和田「え……おい……?!」

やべえよ…やべえよ…


K「赤の他人の俺にどうやってお前達をまとめられる? 骨の髄から
  医者の俺に、教師の真似事などハナから無理だったのだ!」

舞園「そ、そんな……」

K「先生ごっこはもう終わりだ! もう俺は元通りただの医者に戻る。怪我人や病人が出れば
  今まで通り治療はする。だが……今後俺がお前達に何かを指示することはないと思ってくれ!」

霧切「ドクター、それは……!!」


カチャ。

いつも冷静な霧切すら真っ青な顔で何かを言い募ろうとした時、保健室の扉が開いた。中から出てきたのは、
足元の覚束ない石丸だった。その顔はいつもより輪をかけて青く、酷く何かに怯えているように見える。


葉隠「い、石丸っち?」

大神「石丸? 何故……」

石丸「すみません、申し訳ありません、許してください……」


よろよろと歩きながら、石丸はいつものようにブツブツと謝罪の言葉を繰り返す。


セレス「……どうやら、いつもの発作のようですわね」

K「!」


だが、いつもとは決定的に違った。石丸は震える手でKAZUYAのマントを掴んだのだ。
そして子供が本を朗読するように、たどたどしく何かを言い始める。


K「……石丸?」

石丸「今回の件、は……風、紀委員、でありながら……みんな、を止められなかった、
    僕に……全、責任が……ご迷、惑をおかけして……本当、に申し訳、ありま……」

K「ッ!! そ、の、言葉は……?!」

おお…!?

何が絶望のきっかけになるかはまったくわからないよな…逆もまたしかり


山田「喋った?!」

セレス「元に戻ったのですか?」

霧切「……いいえ。目の焦点が合ってないわ」

桑田「なんだよ……期待しちまったじゃねえか……」

K「……ッ…………!」


だが、落胆する生徒達に反しKAZUYAの心は大きく震えその瞳は激しく揺れ動いていた。
石丸の言った言葉は、以前にも聞いたことがあったのだ。KAZUYAが取り戻した記憶の中でも
最も思い出深いと言える、生徒達との出会いの記憶。……その中での言葉だった。

あの時はまだ平和で、まさかこんな事件に巻き込まれるとは露ほども思っていなくて……


K「……帰ってくれ」

「……!」

K「さっきも言ったが、解散だ。……もう帰れ」


絞り出すようにKAZUYAはそう言い残すと、石丸を伴い保健室の中に入ろうとする。
扉を開けたら目の前には、涙を浮かべた朝日奈が蒼白な顔で立っていた。


朝日奈「せ、先生……」

K「すまない。聞いていたのだろう? ……君も帰ってくれ」

朝日奈「でも、でも……」


一言発するたびに、朝日奈の大きな瞳から涙が零れる。


K「一人にしてくれないか?」

朝日奈「…………」


KAZUYAに気圧され朝日奈は保健室から出ざるを得なかった。誰ともなく寄宿舎に向かい、
次から次へとその後を追う。誰もが俯き、朝日奈の上げるしゃくり声だけが廊下に響いていた。


朝日奈「ひくっ、へぐっ……!」


そのうち、とうとう朝日奈がしゃがみこみ大きな声を上げて泣き始める。


朝日奈「せっかく、仲直りできたのに! ……また一緒に遊んでくれるって約束したのに!!」

朝日奈「うわあああああああああん!! わああああああああああああああああ!!」

大神「朝日奈! しっかりせよ……」

舞園「朝日奈さん……」

山田「…………」

山田(どうしよう……今までの憂さ晴らしというかちょっとした仕返しのつもりだっただけなのに、
    つい頭に血がのぼって言いたい放題言ったら、まさかこんなことになるなんて……)

山田(謝った方がいいかな……でもあんだけ煽っといてこのタイミングで謝るのもちょっと……
    大体、元はと言えば向こうがこっちを仲間外れみたいにするのがそもそも悪いんだし)

山田(そ、そうだ。僕のせいじゃない……僕のせいじゃないぞ……僕は悪くないもん……)カタカタカタ…


何人かが朝日奈を励まそうとするが、慰める言葉が出ない。ともすれば涙すら出そうになる。


桑田(俺だって……泣きてえよ……)

大和田「すまねえ、朝日奈……全部、俺の責任だ……」

大神「よせ、大和田。責任の所在など論じても今は何の意味もない……」

セレス「あの場はみんな混乱していましたし、誰が悪いというのはありませんわ。
     強いて言えばここにいる全員にそれぞれ責任があるのです」


起こしてしまった事態の深刻さに生徒達は震えおののく。


大和田(いや、やっぱり俺のせいだ……包丁を掴んだ時、確かに俺の中にはここまですりゃあ許して
     もらえるだろっていう、甘え? 期待? ……そうだ、打算。打算みてえのがあった……)

大和田(……それをこいつらに見透かされたんだ。そりゃあ気分良くねえよな。
     自分達を汚れ役にされてよ……当然の結果だろーが……クソッ、クソッ!)


歯を食いしばりながら己を責める大和田を横から見ながら、桑田も悔恨に沈んでいた。


桑田(大和田のヤツ、めっちゃ自分を責めてんな。……でもちげーよ。本当は俺のせいなんだって)


桑田(今までだって散々ケンカしてきたし、あの時大和田を連れ出すべきだってのは流石の
    俺もわかってた。でも、やらなかった。俺には大和田の気持ちがよくわかってたから……)

桑田(ちょっとくらい痛くても苦しくても、もういい加減ラクになりてえ、終わらせてえって気持ちは
    俺にもあった……だから、これで終わりになるならと思って俺は連れ出さなかったんだ……)


拳を強く握りしめる。同じように、苗木達も思考の渦に飲み込まれていた。


苗木(ああ……先生の言う通りだ。大和田君達は冷静じゃなかったんだから、あの場は僕が
    何とかしなきゃいけなかったのに……つい、思ってしまったんだ。彼等の熱い気持ちが
    みんなに届くんじゃないかって。だから、黙って様子を見てた)

苗木(僕は建前は中立でも本音は大和田君達寄りだから、山田君達の不快な気持ちに
    気付けなかった。僕がもっと気を回していれば、こんなことにはならなかったのに……)

舞園(わからない……何がいけなかったの? 私は完璧に立ち回っているはずだったのに……
    私の演技が足りなかった? 何かを見逃していた? わからない。ワカラナイ……)

霧切(……見誤ったわね。いくらでも早く手を打てたはずなのに、私は出遅れてしまった。
    友情のために、己を投げうつ彼等の姿に心を打たれてしまったせいで……)

霧切(あれだけ他人に深入りしてはいけないとこの手に誓ったはずなのに……
    一体何をしているの、響子。同じ過ちは二度も犯せない。線引きを、しっかりしないと……)

苗木「もう、駄目なのかな……」


声の主は苗木だった。常に持ち前の前向きさで陰から仲間達を支えてきた
苗木が弱音を吐いたのは、全ての終わりを象徴するかのようであった。


霧切「苗木君……」

苗木「だって、どんなに辛い時も苦しい時も黙って僕達を助けて、守ってくれた先生に
    僕達はあそこまで言わせちゃったんだよ? これからどんな顔して会えばいいのさ……」


彼等の脳裏には、生徒を守るためいつも必死な顔で叫んできたKAZUYAの顔が自然と浮かんでいた。


『俺が絶対にお前達を外に出してやる!』

『次の機会などない! 俺が防いで見せる!』

『俺は弱っている者、苦しんでいる者を見捨てることはどうしても出来ん! だから頼む!』

『お前達なら必ず真実に辿り着けると信じている』


空を仰いで、桑田が呟いた。


桑田「せんせーのあんな顔、初めて見たな……」

舞園「……そうですね。私達、絶対に超えちゃいけない一線を……とうとう超えてしまったんです」

江ノ島「仕方ないじゃん。だって……仕方ないよ」

セレス「…………」フゥ

葉隠「…………」

大和田「俺は、本当にどうしようもねえバカだな……兄弟、不二咲に続いて……
     先公までなくしちまうなんてよ……うぅ」

朝日奈「うええええええええええん……ひぐっ、えっく……また、前みたいに仲良くしたいよぉ……!」

大神「朝日奈……」

霧切「……過ぎたことを悔やんでも仕方ないわ。ドクターと喧嘩しようが嫌われようが明日は来るのよ」


唇を噛み、叱咤するように霧切が言うが返事はない。とうとう大和田も堪え切れず泣いた。
連鎖するように他の生徒達の目にも涙が浮かび、あちらこちらから嗚咽が漏れる。

泣きながら彼等は行進した。その光景は、まさしく黒幕が望んでいた“絶望”そのままだと知らずに。


         [ 次 回 予 告 ]

   とうとう絶望に染まり切ってしまった希望ヶ峰学園。

 彼等の戦いはここで終わってしまうのか。もう救いはないのか。

     ――その時、まさか過ぎる人物が立ち上がる。

    その小さな行動は、現状を打開する鍵となるのか?


           請う、ご期待!!

まさか過ぎる人物だと……まさか過ぎるってことは残姉!?

まさかの十神

乙です

TETSU


まさかのジェノか?

まさかここでタイトル回収か?

葉隠の心情が描写されてないのが伏線だな
きっと次回大活躍するに違いないべ!

乙。
とうとう来たかーKAZUYA絶望堕ち。ストーリー上いつかは来ると思ってた展開だけど、それでもやっぱりきっついなぁ。
まあこの展開が一度はないと、生徒たちは最後までKAZUYAの庇護下で動いてただけ、ということになり兼ねんしな。
まさか過ぎる人物……本命:十神で対抗:石丸、て感じかね。

自家中毒あったね
カメラ少年がかかって死にかけたやつ

霧切と舞園の態度がなんかなあ・・・

まあ霧切はいいとして駒園さんは言いかえれば感情がある演技をしているって状態だから騒動自体を冷静に見極めることくらいはできたはずだが…

タエちゃんはこんな中でさらに騒動を起こすのか?山田的には今の感情的にどうなんだろう

今の舞園に山田の複雑な感情やコンプレックスは理解出来ないんじゃないか?
だからこそお涙頂戴劇に乗ってしまったんだろうし

駒園を演じているのはあくまで舞園だしなあ
舞園自身の感情を全部排除して駒を演じることじたいに無理があったんかもね

書き忘れたけど、今度こそクリアするまで投下しない予定。週末までには何とかしたい
ちなみに今日電車で隣に座った人が絶女やっててしかも凄い上手かった。niceshot連発ってマジかよ…


>>739
まあシリーズ物なので、キャラストーリー世界観演出諸々込みの評価になるのは仕方ない
アクション初心者向けで難易度は割と低めだし、ダンガン全く知らないゴリゴリのFPSゲーマーに
やらせたら簡単すぎ、イベント長すぎ、キャラのテンション高すぎなんて意見も出るやもしれませんね

むしろここまで敵意丸出しにスレタイで宣言してるセレスがついに動いてもっとひどくなる、とかはないよな…

苗木が絶望しそうなの見て良心の呵責に苛まれた残姉が!

「小さな行動」ってのが重要だな
ジェノみたいにヒャッハーできるキャラじゃなく、それで心理描写がされてない人物だから…
本命戦刃、対抗石丸、大穴セレス、まさかの葉隠、腐川(表)
この五人の誰かだろうなあ

10代~20代の男、もしくは女だろうな

作者が戻るまでこれでも聴いてて

【weekend Hips】①A Time for Us~永遠の愛/サラ・オレイン【生歌&バイオリン】 Full HD
https://www.youtube.com/watch?v=myRlY4BUKQ4&feature=youtu.be

Sarah Alainn A Time For Us What is A Youth Romeo and Juliet Rehearsal

https://www.youtube.com/watch?v=1k7htFCE0Vc&feature=youtu.be

サラ・オレイン アカペラシリーズ

Sarah ?lainn - You Raise Me Up【Rehearsals】|サラ・オレイン(アカペラ)
https://www.youtube.com/watch?v=JAevBgl9wyo

Sarah Alainn - The Last Rose of Summer|サラ・オレイン - アカペラ
https://www.youtube.com/watch?v=nNxQthgckwg

サラ・オレイン - The Final Time Traveler (アカペラ) | Sarah ?lainn
https://www.youtube.com/watch?v=YWwFHH48Tws

サラ・オレイン 仕分けカラオケシリーズ

関ジャニ仕分け∞ 無敗のMajが敗れる。vsサラ・オレイン
http://www.dailymotion.com/video/x24gqq3_関ジャニ仕分け-無敗のmajが敗れる-vsサラ-オレイン_shortfilms

【仕分け】『Let It Go』イティナ・メンセル/サラ・オレイン【97 992点】 【高画質】 Full HD
https://www.youtube.com/watch?v=W65LsyJ-Am0&feature=youtu.be

【仕分け】④ビリーヴシェネル/サラ・オレイン【98038点】 HD
https://www.youtube.com/watch?v=Eowxn_xyu1s

【仕分け】試練①聖母たちのララバイ岩崎宏美/島田歌穂vsサラ・オレイン HD
https://www.youtube.com/watch?v=2CLaR5ns4Ts&feature=youtu.be

【仕分け】試練②糸中島みゆき/石井雅登vsサラ・オレイン HD
https://www.youtube.com/watch?v=Tm5pfL-4k6M&feature=youtu.be

【仕分け】試練③I Dreamed A Dream/濱田めぐみvsサラ・オレイン HD
https://www.youtube.com/watch?v=soPWjV99j1I&feature=youtu.be

【仕分け9 20】②To Love You Moreセリーヌ・ディオン/サラ・オレイン Full HD
https://www.youtube.com/watch?v=SzTBlFKcA0c&list=UUI9xih8AGShnyrltOAq98-g

【仕分け9 20】④果てなく続くストーリーMISIA/サラ・オレイン Full HD
https://www.youtube.com/watch?v=Svz_Q1s9vr0&list=UUI9xih8AGShnyrltOAq98-g

G2Us 10月3日(日)  恵比寿 art cafe Friends 1
https://www.youtube.com/watch?v=2YVSnAwGpSk

G2Us 10月3日(日)  恵比寿 art cafe Friends 4
https://www.youtube.com/watch?v=9k7P344A0JI

G2Us 10月3日(日)  恵比寿 art cafe Friends 6
https://www.youtube.com/watch?v=Emoug_e_OE8

サラ・オレイン

オーストラリア国歌・日本国歌 独唱

http://www.youtube.com/watch?v=74uIkuPe4TU

Always with you ~ふれあうだけで~

http://www.youtube.com/watch?v=Ns-zddyZu6o

ニュー・シネマ・パラダイス

http://www.youtube.com/watch?v=IRgleE9WlnA

やっとクリアしたー!ジェノ使わない縛りでそこそこゲームオーバーになりつつ
プレイ合計約30時間、最終レベルはちょうど77。アイテム収集率8割ってところかな

シナリオはエグいね…うん、エグい…まだプレイしてないって人は覚悟して臨んだ方がいいと思います
確実に絶望出来ること請け合いですから。…というかこれ本当にceroDでいいのか。


それでは投下の前に今後の方針を少しばかり…

・絶対絶望少女の核心、ストーリー、その他ネタバレは今まで通り極力しない方向で行きます。
・ただし、78期生の家族構成や職業など本筋に関わらない情報は多少出します。
・話の流れで必要があれば塔和や腐川さんの著作等の固有名詞が出るかもしれません。
・また、一部台詞を参考にすることもあるかもしれません。

つまり、あからさまなネタバレはないけど微バレはあるよと。以上をご理解の上続きをお楽しみ下さい。


…あ、そうそう。そう言えば全く触れてなかったけどジェノがスッゴイ格好良かった
思った通り現状把握能力が凄まじく高いですね、彼女。頭の回転も早いし。そして口も悪いw

それでは投下再開!


「ひっく……ひっく……」

「ぐす……ぐす……」

「うう……」

江ノ島(本当……勘弁してほしいな、こういう空気……)ズキン

セレス(下手をすれば皆さんこれを機に引きこもってしまいそうな勢いですね……ただでさえ
     各人の行動が読めず計画作りに難航しているというのに、これではますます脱出が
     難しくなりそうです……わたくしは一体いつになったら出られるのでしょうか?)

セレス(それに……こう情けなくグスグスと泣かれると、殺る気も削がれるというものです)


嗚咽やしゃくりをあげながら、一団は寄宿舎のホールを通り抜け赤い照明の廊下へやって来る。


霧切「とりあえず、解散しましょう。今日はもう、みんな休んだ方がいいわ……」


霧切が彼女らしからぬ暗い表情で告げると、一同はバラバラと解散し始めた。


朝日奈「さくらちゃん……今日は久しぶりに泊まってもいい?」

大神「ウム。朝日奈よ、少し休め……」

舞園「大和田君……一人で大丈夫ですか?」

大和田「……逆だ。今は一人になりてえんだ。しばらく、そっとしといてくれ……」

桑田「俺も……」

舞園「苗木君は……?」

苗木「僕も……今日は一人がいいや。ごめん」

舞園「いえ……」

山田「……僕もそうしよ」

山田(もうなにもしたくない……こんな時はふて寝しながら妄想するしかない……)

葉隠「…………」


先程から葉隠は一言も発せず考え込んでいた。

葉隠康比呂と言う男は、よく飄々として掴み所のない人間だと言われる。もっとハッキリ明言すると、
他人と必要以上に関わらず周りがどうであろうと自分さえ良ければそれでいいと思っている節があった。
現に、金のために人を騙すことも日常茶飯事であり、その生き様は典型的エゴイストと言える。


(でも、この展開は流石にちょっとな……)


軽犯罪はするが殺人や放火はしないと心に決めている等、一応超えてはいけない一線は決めてあるし、
何よりこの男は自分に非常に甘い。恐ろしいことに葉隠は自分を良心的な人間だと信じて疑わなかった。
そんな男なので、自分より何歳も年下の少年少女達が泣いている様を見て多少胸が傷んでいたのである。


(どうすればいい? 俺は一体どうすればいんだべ……?)


廊下を歩きながら葉隠は占った。困った時は必ず占いに頼ってきた。過去に何度も
葉隠の窮地を救ってきた彼の占いだが……しかし、今回はその限りではなかった。


(なんでだべ?! なんでなにも視えねえ?!)


頭に浮かぶのは終わりのない暗闇。

まるで底なし沼の中でもがいているような、そんな息苦しささえ感じる。


(未来が、視えねえ……それも全く。当たるか外れるかは別として、こんなことは初めてだ……)


タラリと、冷や汗が背中を伝った。そして、あることに気が付く。


(俺は、俺自身のヤバイことはハッキリ占うことはできねえ。つまり、この状態を
 放置したら俺自身もかなりマズイことになるってことじゃねえか……?)


今までは単に同情心からだったが、次第に葉隠は現状を把握して血の気が引いていった。


(ヤバイ! 絶対に今の状況をほっとくのはヤバイ! でも、一体どうすりゃいいんだべ?!)


混乱している間にも彼等は寄宿舎に到着し、そのまま解散するという流れになってしまった。


葉隠「あ、えーっと……?!」

葉隠(おい、本当にここで解散しちまっていいのか? お、俺は……)


占い師故の鋭いインスピレーションが葉隠に告げる。もし今解散してしまったら、
彼等は二度と一つになれないと。ただただ絶望的な時間をこの学園で過ごすだけになると。

だが葉隠に良い案などない。去って行く仲間の背中を見ながら迷い、口ごもるが……


葉隠「その……ちょっと待つべ!」


――叫んだ。

葉隠の唐突な大声に、動き始めていた生徒達はピタリと止まる。


江ノ島「なによ? アタシ達もう疲れてんだけど」

葉隠「えっと、だな……」

葉隠(なにを言やぁいい?! 考えろ、考えろ俺!)


普段あまり使わない頭をフル回転させて、何とか足止めしようと葉隠は口を動かした。


葉隠「その……もう一回だけ話し合わねえか?」

山田「……なにを話すっていうんです?」

葉隠「いや、自分でもよくわからねえけど、とにかくもう一度話し合った方がいい気がするんだべ!」


てっきり難色を示されるかと思った。が、


セレス「……奇遇ですわね。実はわたくしも同じことを考えていました」

大神「そうだな。このままなあなあにするのは良くない」

霧切「さっきと違ってもう引っ掻き回す人間もいないものね」

「…………」


他のメンバーからも特に反論が上がらなかったので、一同は再度食堂に集まる。
ついでに床が色々と酷い状態になっていたので、みんなで掃除をした。


大神「用意する物がある。すまないが霧切よ、手伝ってくれぬか?」

霧切「わかったわ」

朝日奈「あ、私も……」

大神「大丈夫だ。お主はそこで休んでいるといい。疲れているだろうからな」

朝日奈「……ありがとう」


大神が霧切を伴って厨房に行き、残りのメンバーはそれぞれ席につく。初めて食堂で
会議をした時石丸が立っていた場所に、今は代理と言わんばかりに葉隠が突っ立っていた。


桑田「なんで突然みんなで話そうとか言い出したんだよ」

葉隠「そりゃまあ、俺は一応この中じゃ年長だしな。たまにはまとめ役をするのもいいかと思って」

桑田「…………」


成長した桑田はもう昔のように軽口を叩かなくなっていたが、その目も表情も如実に
『お前いつもパニクってばっかで全然年長っぽくないし役に立ってねーじゃん』と言っていた。


葉隠「そんな目で見ないでほしいべ……」


葉隠自身同じように思っていたのか、思わず引きつった笑いで返す。


大神「待たせたな」

苗木「あ、飲み物持ってきてくれたんだ。ありがとう」

大神「よく冷えたプロテインコーヒーだ。プロテインは筋肉のイメージが強いだろうが、
    タンパク質だから実際は頭の栄養にもなり、コーヒーは体を冷やす作用がある。
    これを飲めば、お主達も少しは冷静に話し合えるはずだ」

葉隠「お、おー! 流石オーガだべ!」

セレス「普段はロイヤルミルクティーしか頂きませんが、折角ですから頂きますわ」


全員がコーヒーを飲んで一息ついた所で、改めて葉隠は切り出した。


葉隠「ええっと、集まってくれて感謝するべ。ほら、みんな顔が怖いぞ。
    もっとコーヒーでも飲んでリラックスをだな……」

大和田「御託はいい。単刀直入に言ってくれ」


普段とは違った殺伐さを漂わせる大和田に葉隠が尻込みすると、大神が援護するように口を開く。


大神「背伸びしなくとも良い。ありのまま、思ったことを言えばいいのだ」

葉隠「じゃあ、言わせてもらうか。その、だな……さっきの騒動を横から見てた感想だべ」

葉隠「俺もすぐパニックになる所があるからあんまし人のことは言えねえけどよ、
    ちょっと頭に血が上り過ぎだ。あんなんじゃ話し合いなんてできるワケがねえ」

セレス「そうですわね。皆さん、お互いに言いたいことを言うだけでしたもの。
     あんなものは話し合いと呼べませんわ」

霧切「もう頭も冷えたでしょうし、改めて言いたいことがあるんじゃないかしら?」

大和田「……そうだな。じゃあ、俺から言わせてもらうか」

セレス「俺のせいだ、はやめてくださいね。もう聞き飽きましたので」

大和田「わかった……じゃあ、改めて山田達に謝らせてくれ」

山田「えっ」

大和田「さっきは、その……本当に悪かった。俺は自分のことでいっぱいいっぱいで
     お前らの気持ちをちっとも考えてなかった。本当に、すまねえ」

舞園「私も改めて謝ります。本当にごめんなさい」

桑田「その……悪かったよ。俺も大和田も頭わりいからさ。悪気があったワケじゃねえんだって……」

山田「あ、いえ……こちらこそつい頭に血が上ってしまって言い過ぎました。すみません」

山田(……良かった。謝れて。ここで言えなかったら多分もう言う機会もなかっただろうし)ホッ

葉隠「江ノ島っちは? 山田っち並に怒ってたろ?」

江ノ島「えっ?! アタシは……」

江ノ島(……もう和解ムードっぽいし、ここで意地を張ったり煽るのは逆効果だよね?)


誰かに――恐らくここにいない妹に心の中で言い訳をして江ノ島は答えた。


江ノ島「謝るならもういいよ。いつまでもグダグダ言うのはアタシのキャラじゃないっしょ」

セレス「では皆さん、これで仲直りしたということでよろしいでしょうか?」


全員無言で頷く。


葉隠「さて、こっからどうするかねぇ……」

大神「西城殿の怒りを解くのが最優先事項であろうな」

朝日奈「先生……」グスッ、グスッ

葉隠「あああ、なんもいい考えが浮かばねえ! やっぱり俺にリーダーは向いてないべ……」

大神「リーダー、か。もしこの場に石丸の奴がいたらどのように動いていたか……」

苗木「……もしここに石丸君がいたら、率先して先生に謝りに行くんじゃないかなぁ」


大神が何となしに呟き、苗木が答えると他の仲間も一様にその姿が目に浮かんだ。


桑田「いや、あいつだったら間違いなく『僕がこの場にいながらこんなことになるなんて
    風紀委員失格だ! 僕を殴ってくれ!』とか言ってガチ泣きしてるぜ?」

大和田「違えねえ。で、次の日になったらいつの間にか腹くくっちまって『僕が全責任を
     取る! 君達はそこで待っていたまえ!』とか言って突っ込んでくな」

舞園「クス、きっとそうしますね」

朝日奈「わかるわかる! もうちょっと時間を置いた方がーとかみんなが
     必死に止めてる中、話を聞かずに一人で突っ走ってっちゃうの!」

山田「そこから石丸清多夏殿のストーキング伝説が始まるのですね。
    許してくれるまでひたすら後をついていって謝り続ける」

江ノ島「あー、あるある。めっちゃやってるわそれ!」

霧切「流石のドクターも困惑するでしょうね」フッ

セレス「とうとうあの西城先生も根負けして折れる姿が目に見えるようですわ」

葉隠「ハッハッハッ! 違いないべ!」


ひとしきり笑った後、再び沈黙が訪れた。


口火を切ったのは朝日奈だ。


朝日奈「やっぱり……あいつがいないとダメなんだよ。普段ちょっと空気読めないし
     抜けてる所もあるけど、でも! だからこそこういう時は頼りになるというか……」

桑田「……そうだなぁ。やっぱあいつリーダーだわ。せんせーもリーダーなんだけどさ、
    せんせーは大人だからちょっと立場が違うっつーか、俺達の中に代表がいるよな」

霧切「野球でも、大人の監督と生徒側のキャプテンと二人いるものね」

大和田「ったりめーだ! あいつは必要な人間なんだよ! ……なのに、自分は役に立たないとか
     必要ないとかバカな思い込みしちまいやがって……あの大バカ野郎が」

山田「そういえば、大和田紋土殿の見立てでは石丸清多夏殿は少し回復してきたとのことですが……」

大和田「ああ! 俺が兄弟にもう少しだけ辛抱してくれって言ったら、一言だけど
     ちゃんと俺の目を見てしゃべったんだ。『わかった』ってな」


大和田のもたらした新情報に一気に場がどよめいた。


桑田「マジかよ! 今初めて聞いたぞ?!」

葉隠「じゃ、じゃあ大和田っちが言ってた通りみんなで見舞いでもすりゃもしかして……!」


その時、意を決したように舞園が割って入る。


舞園「あの……」

苗木「どうしたの、舞園さん?」

舞園「実は、私も前から気になっていたことがあって。まだ確信は持てていないんですが、
    もしかしたら……これが石丸君回復の鍵になるかもしれないです」

朝日奈「なになに?!」

霧切「話して頂戴」

舞園「はい。……何人かの方はご存知でしょうが、以前私達は先生と一緒にある実験を行ったんです」

セレス「実験、ですか?」

霧切「石丸君をもし一人にしたらどういう行動を取るか、の実験ね?」

桑田「そういやあったな、そんなこと」

大和田「結果は兄弟が錯乱して暴れただけだったけどな……」


舞園「あの時、石丸君は錯乱する前にこの食堂にやって来て何かを話していたんです。
    もしかしたら、そこにヒントがあるんじゃないでしょうか」

山田「石丸殿がここに来たんですか? なにをしに?」

苗木「それがよくわからないんだ。どうして馴染み深いサウナやトラウマのある
    教室じゃなく突然食堂に来たのか。それも重要なのかもしれないね」

大神「その時お主達はどうしていた?」

舞園「あまり近付き過ぎると石丸君に感付かれると思って、入り口のあたりから
    覗いていたんです。もし先生が許してくれるのならもう一度あの時と同じ状況に
    したいのですが、その前にどうすれば気付かれずに近付けるか考えないと……」

朝日奈「うーん。机の下に隠れるんじゃダメ?」

江ノ島「バレバレだよ……」

大和田「食堂は見通しがいいからな。隠れられるところなんてねえ」


その時考えごとをしていた山田が唐突に叫んだ。


山田「ティンときた! 閃きましたぞ!」ピーン!

苗木「何か良い案が受かんだの?」

山田「フフフ、この山田一二三の灰色の脳細胞にかかればこのくらい容易いこと……」

大和田「前置きはいいから早く言え!」

山田「その名もオペレーション・S! ある伝説的傭兵が潜入捜査の際に使う手法を利用するのです!」

江ノ島「伝説的傭兵?」


そこで山田が自信満々に作戦内容を話し出す。しかし、反応は良くない。


桑田「……おめーに期待した俺がバカだったわ」

山田「な、なんですとぉっ?! あんまりです!」

江ノ島「山田ー、あんた傭兵バカにしてない?」ヒクヒク

ダンボールか


セレス「まあ皆さん、所詮山田君ですから」

山田「もうやめて! 拙者のライフポイントはゼロよ!」

霧切「みんな、待って。案外有効かもしれないわよ?」

朝日奈「えー、どこがー?」

霧切「今の石丸君は正常な状態じゃないもの。明らかに不審な物が置いてあっても、
    それが動いたり音を立てたりさえしなければ気付かない可能性は高いわ」

大和田「じゃあ、試してみるか?」

苗木「やってみようよ! あの時とは違う。色々情報が増えてきて、みんなの気持ちも
    一つになってるし、今なら何らかの手がかりは掴めるはずだよ!」

桑田「そうだな。なんでも諦めないでやってみることが大事だもんな」

葉隠「そうと決まれば早速K先生の所に突撃だべ!」

朝日奈「……先生、許してくれるかな?」

大神「大丈夫だ。みんなの気持ちはきっと伝わる。もしまた朝日奈を泣かせるようなら我が容赦せぬ」

朝日奈「そうだよね! 先生は私を信じてくれたんだから、今度は私が信じる番! よーし、突撃ー!」

桑田「行くぜー!」

大和田「おう!」

山田「お待ちくだされ~!」

セレス「元気のよろしいこと。……全く、さっきまでの空気はどこへやら」


ある者は慌ただしく、またある者はマイペースに食堂を出て行く。一方葉隠はというと、
慣れないまとめ役が終わりホッとしたのか一息ついて机に寄りかかっていた。


葉隠「そんじゃ、俺も行きますかっと……」

大神「葉隠」


食堂を出ると、大神が一人残って葉隠を待っていた。


葉隠「あん?」

大神「お主に、礼を言わせてくれぬか」

葉隠「えっ、なんだべ突然?!」

大神「いや、もしお主がこの場を設けなければ我らはずっといがみ合ったままのはずだった。
    話し合いの機会を――あやつらがお互い冷静になり和解する場を設けてくれて、感謝する」

葉隠「い、いやいやいや! 俺はなんもしてねえって! 謝れたのはあいつらが
    素直だからであって……オーガのナイスアシストの方がよっぽど光ってたべ!」

大神「機会を作るということが大事なのだ。その点ではお主の功績が一番大きい」

葉隠「い、いやぁ、その…それにしてもやっぱ十代ってなんだかんだ素直だよなー。
    俺みたいにひねくれてないというか。ははっ!」


ごまかすように笑いながら、ふと葉隠は大神を内通者扱いして避けていたのを思い出した。


葉隠(あの時はすまねえことしちまったなぁ。思えば、オーガはいつも混乱してる時に
    みんなを宥める側に回ってるし、とにかく冷静で凄い頼りになるべ)

葉隠(先生とオーガだけは内通者じゃねえな! この二人だけは信じられるべ!)

大神「では行こう。皆を待たせては悪いからな」

葉隠「おう」ハハハ


葉隠の肩をポン、と大神が触れた瞬間だ。
この日、この時、このタイミングでそれが来たのは果たして運命の悪戯だったのだろうか。

葉隠の脳内に、雷光のように鋭いインスピレーションが突き刺さった。





















 【 ― ― 大神さくらは内通者である ― ― 】




















ここまで。シーユー。



相変わらずいいところで


このタイミングで三割が…

乙です

結局自分のことしか考えてないのに妙にカッコよかったな葉隠

乙です
葉隠GJ、これからの展開にwktkがとまらんぜよ

自分のことしか考えてないからいい意味でも悪い意味でも行動が分かりやすいところが葉隠のいいところ

S:性欲をもて余す

葉隠はなんだかんだ自分のことしか考えないマイペース野郎だからな
まあその分仲間になってもいい意味でも悪い意味でも「みんなのため」という凝り固まった思想に一歩引いた目線から物をいいそう

基本的には足引っ張る要員だけど時たまピンポイントで
クリティカル出して役に立つこともあるっていうのが葉隠だしな

誰か勇次郎×ダンロン書いてくれねえかな
内通者勇次郎(本物のオーガ)が妹様を手の平で転がして、さくらちゃんを指一本で転がして、白夜さんの完全モブ化が…
あくびの止まらない超絶高校級の刃牙にセレスが惚れ・残姉が惚れ・朝日奈が惚れ、舞園ちゃんさえも…
石丸はしつこく刃牙に弟子入りを志願し、唯一ちいたんと刃牙は仲良し
苗木は舞園欲しさに刃牙に決闘を挑むが…
腐川とジェノは勇次郎を見た瞬間二重人格が治り、ビビりまくって引きこもる白夜さんより果敢に刃牙に挑もうとする苗木に惚れる
大和田・桑田・葉隠はいつも体育館で野球、たまに勇次郎と刃牙が参加して結局みんな範馬親衛隊になる
一番嬉しいのは山田で、最高の同人を書き上げるが、勇次郎にとんでもないダイエットと筋トレをされ、顔の骨格を変えてもらいイケメソになる
山田は永遠の忠誠を勇次郎に誓う
妹様は勇次郎の女になり子を産まされ、白夜さんの財産は勇次郎に奪われる
ちーたんはそのプログラマーとしての才能と性格の良さで範馬家と仲良しになり、勇次郎やストライダムのIT面の右腕となり、刃牙シリーズ強者みんなと仲良しになり、つるむようになる。
特に独歩と渋川に可愛がられ、空手と合気を融合した新しい護身術を開発する。
千春が一時期ガチでちーたんに惚れてしまうが、結局は一番の仲良しになり、2人でツーリングする関係が生涯続く。
全てを失った白夜さんは、徳川の爺さんに一喝され、地下格闘場の最下層で頑張るが、元々頭もいいので徳川家の親衛隊長になり、後に徳川家を継ぐ。
ちなみにさくらちゃんは最終的に刃牙シリーズの強豪の一角に入り、なんとあのピクルと互角の闘いを演じ、ピクルと愛し合い子をもうける。
霧切は、勇次郎から一目置かれ、徳川やオリバからその才能を買われ、ミスアンチェインとして活躍し、最後は刃牙と結婚する。
石丸は刃牙キャラ全てのバックアップで日本史上最年少総理大臣となる
残姉はガイアと結婚し、朝日奈は克己と結婚し、セレスは烈と結婚し、舞園ちゃんはジャックと結婚する。
腐川と苗木はおしどり夫婦として語り継がれていく。
ちなみに霧切に刃牙をとられたモブ元彼女は、後に白夜さんと結婚する。
勇次郎と妹様の子は、範馬史上最強となり、父・勇次郎、叔父・刃牙とジャックを全て打ち破ることとなる。
元々相手になるものがいなくて絶望している父勇次郎と絶望で世界を破綻させかけた母親との血でその絶望度はひどく、後に苗木と腐川の娘が彼を救うのだが、救われるまでに世界が妹様の時よりひどい状態になってしまっていたという。

ああ勇次郎と妹様の子は刃牙とジャックとは歳の離れた兄弟だったわ


まさか葉隠のスレタイが回収されるとは

葉隠の占いは、悪いことはだいたい当たる



……。


…………。


………………。


……………………は?


葉隠「は?」

葉隠(なんだべ? 今のインスピレーション……)

大神「どうかしたか?」

葉隠「……あ、いや、なんでもねえ」

葉隠(ハァ……自分で言うのもなんだけど、ほんっと俺のインスピレーションて
    当たんねえなぁ……今のもどうせ七割の方だろ。オーガが内通者とかないべ~)


その強烈なインスピレーションを、葉隠はあっさり外れだと断定する。

……よもやそれが当たっていようとは、葉隠は夢にも思っていなかったのだった。


               ◇     ◇     ◇



生徒達を追い出した後、KAZUYAは心を病んだ生徒と肉体を病んだ生徒に挟まれ一人孤独に
苦悩していた。部屋には不二咲を呼び続ける石丸の声だけが低く反響している。


「俺はどうすればいい……一体どうすれば良かったんだ……?」


今までの事件は全てKAZUYAが見ていない場所で起こっていた。だが、何も手を打てなかった
最初の事件と違い、二つ目も三つ目もKAZUYAが十全に手を回していながら起こった事件であった。
これ以上事件を防ぐには、KAZUYAが生徒達を一切信用せず、常に目を光らせ監視しなければ
ならないのだろうか。だが、そんなことは不可能だ。それに、生徒を必要以上に疑いたくない。


(……事件だけではない。俺がいながら生徒達の争いを止められなかったことなど、今まで何度となく
  あったではないか。先程の争いとて、きっと俺がその場にいても止められなかったはずだ……)

さすが葉隠だ
期待を裏切らない


「ん……」

「不二咲?! 気が付いたのか?!」

「先生……」


幸いにも、不二咲の昏睡状態は長くは続かなかった。目を醒ました不二咲の手をKAZUYAは強く握る。


「良かった……お前が無事で……本当に……」

「…………」

(僕、死ねなかったんだ……でも、先生の顔を見たら……その方が良かったのかな……)

「先生……泣いてるの……?」

「俺は泣いてなど……」

「みんなはどこ……?」

「……!!」


しばしの沈黙を挟み、KAZUYAは不二咲に伝えた。


「俺が追い出してしまった……」

「……先生?」


その言葉の意味がわからなかったのだろう。不二咲は首を傾げ澄んだ瞳でKAZUYAを見つめた。
懺悔するように、KAZUYAは不二咲につい先程の状況を説明したが、不二咲は信じられないようだった。


「駄目だな、俺は……自分に余裕がないからと、生徒達を突き放してしまった……
 保護者を気取りながら、俺は一体何をやっているんだ……最低の大人だよ……」


KAZUYAの目に先程の絶望した生徒達の顔が浮かんでいた。縋りつく手を振り払ってしまったのだ。
泣きそうな顔をした彼等の顔がKAZUYAの網膜に、海馬に焼き付いて離れない……!


「そんな……駄目なんかじゃないよ!」

「いや、俺は本当に駄目な奴だ……少しは親父に追い付けたかと思っていたが、
 結局は手術の腕前だけで医師としての覚悟はその足元にも及ばない」

ここからしばらく葉隠編か?


「お父さん……先生のお父さんとお母さんて、今は……」

「お袋は優秀な医師だったが、俺が幼い時に事故で死んだ。……俺を助けるためにな。そして親父も
 俺が高校生の時に原子力研究所で事故に遭い、俺や他の人々を守るため自ら犠牲になった」

「あ、そんなことが……ごめんなさい」

「気にするな。……だが、そうやって生かされてきたのに一族の使命を忘れてしまうとは……」

「使命?」

「ああ。親父は俺に医者としての生き様を教えてくれたんだ。親父の遺言でもある」


―― 医者は人の命を救うためのみに存在する!! ――


「これこそ一族に代々課せられた使命。……親父は立派だった。最期まで使命を忘れなかった」

「俺も、そうやって生きねばならんのだ」

「…………」


余りにも重すぎるその言葉に、不二咲はその場では何も言えなかった。


「俺はな、医師として常に周囲と一線を引かなければならないのに、お前達の先生役を
 しているのが楽しくて……いつしかその線引きが曖昧になってしまったんだ」

「そしてお前達の理想の先生で在ろうとして、俺は自分が医者であることを忘れていた。
 教師じゃないなんて所詮は言い訳に過ぎん。己の分を忘れて余計なことをしようとしたから、
 結局どっちつかずになり、生徒の心をいたずらに傷付けてしまったのだ」

「だから、みんなにはもうお前達の先生はやめると……元通りただの医者に戻ると告げた」

「そんな! 嫌だよぉ……」

「……仕方ないんだ。俺には無理だったんだ……骨の髄から医者である俺には……」

「そんなことないよ! だって、だって僕も……みんなも! 先生のことが大好きだもん!
 いつも強くて、頼りになって、優しくて……お兄さんみたいな、お父さんみたいな……
 そんな先生は本当に尊敬出来る先生なんだよ! 先生が先生じゃなくなっちゃうなんて……」

「そんなの嫌だぁ……!!」

「不二咲……」


大きな瞳を真っ赤に染めて、不二咲はボロボロと大粒の涙を零す。
だが、KAZUYAの思考は既に医者の物へと回帰し始めていた。


(……自家中毒の患者にストレスを与えてはならない)

「わかった。ありがとう、不二咲。今のは少し弱音を吐いただけなんだ。俺は俺のままだよ」

「先生……」


だが不二咲は泣き止まなかった。不二咲はこの学園の誰よりも優しく、そして敏感だった。
口先だけでは不二咲を納得出来ないとKAZUYAが迷った時、盛大に保健室の扉が開かれる。

バーン!


「何だ?!」


驚くKAZUYAの前に生徒達が次々と集まってきた。


大和田「不二咲! 目ェさましたのか!」

不二咲「大和田、くん……」グスグス

大和田「どうした?! なんで泣いて……」

「不二咲千尋どのぉぉぉおおおおおおおおお!!」


大和田の言葉を遮り、小山を思わせる巨体がスライディング土下座もとい勢い良く土下座をした。


大和田「や、山田?!」

桑田「え? なにやってんの、山田?!」

不二咲「山田君……?」


困惑する周囲を放置して山田は不二咲に縋り、その小さい手をギュッと掴む。


山田「う……グスッ。先程は申し訳ありませんでした! つい感情任せに暴言を吐いてしまって、
    心優しい不二咲殿がこれほどまでに胸を痛めていると僕はちっとも気が付かず……」

山田「そんな僕に、大和田紋土殿達を責める資格なんてない。……本当に、許してくだされ!」

不二咲「山田君……」

K「お前達……これは一体……」


KAZUYAが困惑しながら生徒達を見ると、意を決したように生徒も口を開く。


朝日奈「わ、私達ね! 反省して、仲直りしたの!」

桑田「せんせー……心配かけて本当にごめんっ!」

苗木「僕達、いつも先生に甘えていた気がします。さっきの喧嘩は僕達で止められるものでした」

葉隠「ま、そういうワケだべ! いわゆる雨降って地固まるってヤツだ! わっはっはっ!」

大神「どうか我らのことを許して欲しい」

K「……展開が急過ぎて付いていけんのだが」

大和田「先公、聞いてくれ」

K「…………」

大和田「俺はもう勝手なことはしない。自分の体を粗末に扱ったりもしない。俺はバカだから
     なにをすれば償えるのか、まだわからねえけど……でも、それだけは約束する」

K「本当だな?」

大和田「ああ。あと、舞園が兄弟を治すための手がかりを見つけたみたいなんだ!」

舞園「手がかりという程のものではありません。でも……」

霧切「やってみる価値はあるのではないかしら?」

セレス「先生は先程医者に戻られるとおっしゃいましたが、
     ならば患者の治療には勿論協力してくださいますわね?」

K「当たり前だ! 石丸が元に戻ってくれるなら、俺は何だってしてやるさ!」

山田「ではでは、僕の方からオペレーション・S(スネーク)について説明致しましょう!
    作戦立案担当並びに指揮官・山田一二三プレゼンツの作戦を……」

江ノ島「あんま調子にのるなっての!」

山田「アヒーン!」


・・・


作戦は実にシンプルなものだ。前回同様石丸を一人にして行動を見る。そして、向かうと
思われる食堂にあらかじめ段ボールを置いておき、その中に舞園が待機するというものだった。


K「……懸念事項が三つある」

苗木「何ですか?」


K「まず一つ目、石丸が必ず食堂に向かうかわからない」

霧切「その場合は予備の段ボールを使って後ろからつければいいわ」

不二咲「僕がやる! 僕なら体が小さいから、きっと気付かれないはず……ゲホッゲホッ」

苗木「不二咲君はまだ病み上がりだから僕がやるよ。僕も小さいから小回りが効くし」

朝日奈「振り切られたら私に任せて! 足には自信あるから!」

K「懸念事項その二だが……本当に気付かれないか?」


KAZUYAは疑わしげな目で段ボールを見つめる。


セレス「そればかりは賭けですわね。ですが、勝算は悪くない賭けだと思いますわ」

葉隠「超高校級のギャンブラーがここまで言うんだ。多分大丈夫だべ!」

K「多分では困るのだが」


フゥ、と溜息をついてKAZUYAは最後の懸念事項を伝えた。


K「そして最後だが、今回の実験で石丸の状態が悪化したらどうする?」

江ノ島「悪化もなにも、これ以上どう悪化するっての?」

セレス「もう来る所までとっくの昔に来ていますしねえ」

桑田「四の五の言わずに試してみよーぜ!」

苗木「今度こそ……今度こそきっと上手く行きます!」

大和田「俺は兄弟を信じる!」

大神「西城殿……」

朝日奈「やろうよ! 『乗り越えることのただ1つの方法、それはあきらめずに
     頑張り抜くことだ』ってダン・オブライエンも言ってるし!」


フゥ、と一回溜息をついてKAZUYAは頷いた。


K「……そうだな。よし、許可する」

桑田「ッシ! やるぜ!」

大和田「おう!!」

山田「頑張りましょう!」


僅かな希望に縋り表情を輝かせる生徒達に反し、KAZUYAの心は至極平静だった。
期待しては裏切られる。その連続だったため、安易に信じる気になれなかったのだ。

今のKAZUYAはけして絶望してはいなかったが、希望を持つことも出来なくなっていた。


(上手く行ったら儲け物。そのくらいの心持ちでいよう……)


生徒達には言わなかったが、今のKAZUYAの最大の懸念事項は失敗して
石丸の状態が悪化し……それをきっかけにまた生徒達が争わないかであった。


・・・


江ノ島「準備オーケーだって」

K「よし、配置につくぞ!」


前回と全く同じ場所と手順だが、違うのはシャワールームに潜んでいるのはKAZUYA、霧切、大和田だった。


大和田「そろそろか? そろそろだよな?」

霧切「大和田君、少しは落ち着いて頂戴。あなたのリーゼントが私の首筋に当たっているわ」

大和田「う、すまねえ」

K「シッ! 目を醒ましたぞ……」


前回の行動をなぞるように、石丸は全く同じ行動をした。部屋に誰もいないことに気付くと、
誰かを探しに行くようにフラフラと廊下に出て、学園側に行くかと思うと食堂へ入って行った。
そして以前と同じように、舞園以外の生徒達は食堂の入り口に集まって様子を伺う。


セレス「特にアクシデントもなく、スムーズに行きましたわね」

K「ああ、あとは舞園次第だ」

舞園「…………」


食堂の中央に不自然に置かれた段ボール。その中にかつて超高校級のアイドルと呼ばれた舞園がいた。

……はっきり言って、かなりシュールである。


舞園(来ました。もし私の考えがあっているのなら……)


空けておいた穴から外の様子を伺い、気付かれないようにジリジリと這って行く。
そして、舞園は石丸の言葉をハッキリと聞いた。


「ハハハ! また君はそんなことを言って! 冗談が上手いな!」


それは在りし日の思い出だった。


「兄弟、聞いたかね?!」

「フム、成程。為になるな」


石丸は幻の人間と楽しげに会話している。しかし、途中からそれがピタリと止んだ。


朝日奈「黙っちゃったよ?」

K「……これからだ」


一同に緊張が走る。


「まただ……また……そんな顔をしないでくれ……」

(石丸君……?)

「……嫌だ。僕のせいで……怒らないで、泣かないで……そんな顔をしないでくれっ!」

「どうしてみんな僕の前からいなくなる?! ……いや、本当はわかっているんだ。
 みんなは僕のことを怒っている。……許してくれるはずなどない」

「僕は無価値な人間なんだ。ここに存在してはいけないんだ。でも……」

(……!!)

「嫌だ……僕を置いて行かないでくれっ! もう一人にしないでくれっ!!」

「どうすれば、許されるんだっ?! 一体、僕はッ?!!」

「いかんっ!」


再び暴れ始めた石丸をKAZUYAと大和田が捕まえ、何とか以前と同じように宥める。


石丸「フゥー! フゥー!」

K「何かわかったか、舞園? ……俺はこれを何度もやりたくないぞ?」

舞園「十分です。石丸君がおかしくなった原因がわかりました。原因がわかれば対処も出来るはずです」

大和田「本当かっ?!」


舞園「ただ原因はわかりましたが、実際にどうやって治すかは皆さんで相談して案を出していきましょう」

朝日奈「そうだね! 三人寄ればもんじゃの知恵、だっけ?」

苗木「文殊、だよ」

朝日奈「ア、ハハ、まあまあ。監督入れて十三人ならラクロスのチームだって出来るよ!」

桑田「……確か、それ女子ラクロスの人数じゃなかったか?」


ラクロスは男女で一チームの人数が違う競技であり、男子は十人、女子は十二人である。


朝日奈「気にしない気にしない!」

大神「だが、人数が多ければ発想が豊富になるのは間違いない。この作戦とて山田が考えたのだからな」

山田「えっへん! 次も活躍してみせますぞ!」

大和田「その意気だぜ!」


そして、彼等は検討に検討を重ね会議を続けた。


霧切「チャンスは一回ね」

K「ああ。これで無理ならもう何をしても無駄だろう」

苗木「……あのさ、提案があるんだけど」

K「何だ?」

苗木「その、みんなは嫌がるかもしれない。……特に山田君は」

山田「僕ですか?」

苗木「ジェノサイダーにも協力してもらうってのは駄目かな? 彼女の勢いと
    テンションはきっとこの作戦の手助けになると思うんだけど……」

「……!」


苗木がジェノサイダーの名前を出した途端、空気が凍る。


江ノ島「え、いやムリっしょ。ムリムリ」

葉隠「そうさなぁ。ジェノサイダーはなぁ」

山田「…………」


苗木「……だよね。ゴメン。聞いてみただけなんだ」

K「…………」

K(話を聞く限り、翔は大和田達を庇った……のだと思う。単に山田の言葉が厳し過ぎて
  カチンと来ただけかもしれないが。桑田に刃を向けたのは馴れ合い過ぎると俺達に
  迷惑がかかるからで恐らく本気ではなかったはずだ。……が、如何せんやり方が悪い)


KAZUYAは端的にジェノサイダーと山田のやり取りを聞いただけだが、
それでも不味いと感じるには十分だった。


K(確かに山田も言い過ぎだったが、翔の言い方は話にならん。今後、和解は厳しいだろう……)

K(……そもそも俺の解釈も好意的過ぎるかもしれない。アイツは自分の本能のまま、気ままに
  生きている所があるからな。一応彼女なりの信念やポリシーもあるようではあるが……)


そんなことを渋い顔で考えていたKAZUYAだが、山田が俯いたまま何かを呟いたので思考を中断した。


山田「不二咲千尋殿は……」

不二咲「えっ?」

山田「不二咲殿は、本当にジェノサイダーのことを恨んでいないのですか?」

不二咲「…………」


今度は不二咲が俯く。


不二咲「……凄く、怖かったよ」

「…………」


不二咲「死ぬってことが現実になって目の前に現れた時、僕は怖くて涙が止まらなかった……」

舞園「……わかります。怖いですよね」


同じくこの中で最も強く死を感じた舞園が同調し、不二咲はコクリと頷く。


不二咲「今でも、怖い……凄く怖い……でもね、憎いかって言われると……わからないんだ」

不二咲「僕も人間だから、あんな酷いことをしたジェノサイダーに腹が立ったと言うか、
     ちょっとくらい恨みかけたことはあるよ。でもその時、腐川さんの顔が浮かんで……」


『アタシは……自分が友達だと思ってた人間から裏切られたことなんて、何回もあるわよ』

『アタシは全部知ってんのよっ!!!』


いつもおどおどしていた腐川が、机を叩いて立ち上がった姿を思い出す。


不二咲「……恨めなかったんだぁ。僕は腐川さんが今までどんな辛い想いや悲しい想いをしてきたのか
     何も知らないし、そもそもあれだけ単独行動しないようにって約束を破ったのも僕だし……」

不二咲「だから、もしジェノサイダーがここではもう殺人をしないって誓ってくれるなら……
     僕はもう何も言わない。協力してくれるんなら、僕だって助かるんだし」

山田「そうですか……」

「…………」


二人とも黙り込み、話が終わったと判断したKAZUYAが口を開く。が、


K「それで、実行のタイミングだが……」

山田「あの……」

K「どうかしたのか?」

山田「……協力、頼んでみましょうか」

苗木「え?!」

山田「もちろん、またあんな暴言吐いたり暴れたりしたら今度はもう許しませんよ。
    でも……被害者の不二咲殿がここまで言ってるんだし、一度くらいなら……」

苗木「山田君……!」

桑田「山田……」

大和田「ありがとよ、山田……」


口ごもりながら山田が話す姿を見て、KAZUYAも微かに笑みを浮かべた。


K「わかった。もう一度俺から話しておく」

K(やっぱり……未熟な所もまだまだあるが、みんな根は素直だな。俺がこの子達を護ってみせる)

K(たとえ、命に換えても――)


――そして入念な打ち合わせや準備を経て、いよいよ決行の時が来たのだ。


出掛けるので、一旦ここまで。

次回は大増量投下スペシャルになってしまうので、夜にもう少しだけ投下に来ると思います。

俺……このSSが終わったら、絶対絶望少女の再構成SS書くんだ……


>>803
すみません。まだなんです。でももう少ししたらめっちゃスポット当たりますよ!

一旦乙です
みんなの成長が実感できて凄くほっこりした
夜も楽しみにしてます

絶女のSSが終わったら、次の舞台はジャバウォック諸島ですね(ゲス顔)

一旦乙です

乙です。
葉隠の的中率3割ってのは、ある意味葉隠自身にとっての逃げ道でもあるんだろうな。
ふと、葉隠って実は学園生活中に、絶望的事件やらコロシアイ学園生活やらのことを予知したことがあったんじゃないだろうか、と思った。
でも、本当だったらシャレにならないから「ありえねーべ」で流した、みたいな。


― コロシアイ学園生活三十日目 保健室 AM11:00 ―


最初の係である苗木、舞園、朝日奈、山田、そしてジェノサイダーが部屋にやって来る。


「…………」

「…………」


目配せだけ交わすと、KAZUYAは不二咲を車椅子に乗せて部屋から出た。


舞園「……だったんです!」

朝日奈「え、それ本当~?!」

苗木「凄いな~!」

山田「ワッハッハッハッ!」

ジェノ「マジ笑えるし! ゲラゲラゲラ!!」


彼等は他愛ないおしゃべりを延々と行い、そのたびに不自然なくらい大声で楽しそうに笑った。


石丸「…………」

朝日奈「でね、その時さくらちゃんが……」

山田「なんと!」

ジェノ「ウケる~! ゲラゲラゲラ!」


しばらくそうやっているが、石丸には何ら変化はなかった。


山田(うーん。なんの反応もない……失敗ですかね)

苗木(駄目、なのかな。やっぱり……)

舞園(いいえ! 石丸君はこっちを見ています。不安そうな顔を見せてはいけません。もうちょっとです!)


この作戦の前、舞園はメンバーにあることを何度も念押ししていた。
それは、作り笑いでいいからとにかく大袈裟に笑うことだった。


朝日奈(今の石丸には普通の接し方じゃ伝わらない。……とにかくオーバーアクションで
     いくことが大事、だったよね。わかってる。私は舞園ちゃんを信じるよ!)


弱気になる山田と苗木を舞園がそっと小声で励まし、朝日奈がそれに応える。


苗木「そういえばね! 僕の妹は『こまる』って名前なんだ。
    二人合わせるとまことにこまる……なんちゃって」

ジェノ「なにそれ?! ギャーハハハハハッ!!!」バンバンバン!

朝日奈「おもしろーい! あははは!」

山田「こまるちゃん……萌えキャラのような名前ですな。デュフフフ!」

舞園「クスクス、かわいらしい名前ですね」

苗木「そうでしょ? ハハハ(妹の名前で笑われるというのもちょっとアレだけど……)!」


とにかく思い付く限りの面白い話をして、この学園に来てから
ここまで笑ったことはないというくらい彼等は笑った。笑い続けた。


山田「ハイハーイ! 僕の特技、腹芸を見せる時が来たようですな!」

朝日奈「ちょっと山田やめてよー!」

ジェノ「キャー♪ セクハラだわ! ナチュラルにセクハラをかましてきましたわ!」

山田「ガーン、そんなつもりは!」


石丸に変化はない。


舞園「芸と言えば、芸人さんの知り合いも何人かいるんですけど、この間舞台裏で……」

苗木「え、それ本当?!」

ジェノ「芸能界って怖いトコロねーん! ゲラゲラゲラ!」


石丸に変化はない。


朝日奈「それでさー、水泳部あるあるなんだけど……」

山田「うわー、夢が崩れましたな」

舞園「女の子同士だと案外そんなものですよ?」

苗木「そうなのっ?!」

ジェノ「まこちんたら純情なんだからー。ここでアタシのスペシャルな話~!!」


ワーワーキャーキャー!

石丸に変化は、


「……しそうだな」

「えっ?!」


誰もがギョッとして振り向いた。石丸は確かにこちらを見ている。しっかりと目の焦点を合わせて。


               ◇     ◇     ◇



彼は自分の外で起こっている出来事をぼんやりと把握していた。霞みがかかったような、
どこか遠くで起こっているかのような錯覚はあるが、彼等の声自体は届いていた。


(……どうしたんだ?)


彼は遠くの方で突然始まった喧騒を、最初は他人事のように静かに眺めていた。
そこには彼が久しく見れなかった、夢ではない現実の笑顔が溢れ返っていた。


(……賑やかだ)


彼は、彼のせいで誰も笑わなくなった灰色の世界で生きていた。そこに再び
鮮やかな色が戻ってきたようで、胸の奥が仄かに暖かくなったのを感じたのだ。


「……楽しそうだな」


――ついに、石丸は外の世界に自ら働き掛けた。


本当に短くて申し訳ないけど、今日はここまで。

次回、いよいよ決戦です。生徒達が考えた作戦とは果たして何なのか。
無事石丸君を元に戻すことが出来るのか、或いはまたまた失敗してしまうのか。

長くて投下に時間がかかりそうなので、一応木曜の夜を予定しています。
が、今週体調悪くて三日間連続で寝オチしてたくらいだからもし来なかったら週末



あまり無理はせんでね

乙です


無理せずにな

マコトニコマル


― モノクマ劇場 ―


モノクマ「ヤッホー。いつもメタな発言ばっかりしてる僕だけど、
      たまにはちゃんとこのコーナーもやるよ」

モノクマ「人間って不思議だよね。必要だとか不必要だとか、そんな小さなことにこだわって」

モノクマ「余程の天才か偉人か或いは狂人でもない限り、どうせどこかの誰かと大して差のない
      コピー・アンド・ペーストな人生なのに、いつも他人に必要とされたがってる」

モノクマ「そうすることで自分は特別だって思いたいのかな? 信じ込んで夢を見たい?」

モノクマ「――そんなことしたって、残酷な現実は変わらないのにね」

モノクマ「さて、次回は自分の存在を履き違えて分不相応な望みを持ってしまった青年、
      ……いや、精神年齢なら少年かな? その結末が描かれるよ」

モノクマ「必要以上の優しさは毒にしかならない。時にはビシッと現実を突きつけてあげた方が
      本人のためになる。こんな簡単なことなのに、意外とわからない人が多いんだよね」

モノクマ「希望を持つのは絶望の始まり。自分にも他人にも期待なんてしないのが一番!」

モノクマ「でも……おやおや? 中にはそのことをわかっている人もいるようだね?」

モノクマ「ま、ボクには関係ないけど」

精神年齢…少年……?
どういうこと?

前にKが石丸のことを少年のような心の持ち主みたいな言い方してたから
それを皮肉ったんじゃないかな?

乙ー


うわああああああああああ。なんか嫌な予感がして初代スレを開いてみたら、
今日がこのスレ連載開始一周年だったああああああああああ!

一周年にはなんか記念に企画したりスペシャルなイラストでも用意しようと思ったのにぃぃ…


…何もしないのは悔しいから、再録する時のために用意しておいたロゴ晒す
http://i.imgur.com/Kkwt7mf.png

あー、やっちまった本当に…


…それにしても早一周年かぁ。最初から読んでくれた貴方も、途中から入ってくれた貴方も
いつも読んだり感想書いたりしてくれてありがとうございます! これからもよろしく願います!!


>>826-827
モノクマ「ボクはクマだから日本語力がなくたって謝らないよ? むしろ喋ってるのがサービスだし」

モノクマ「……まあ、でもそんな感じに思ってもらって結構クマー」


正直誰も論破してないされてないからダンガンドクターとかダンガンオペ?ww
いや、コトダマも使われてないからもうこれわかんねぇな

>>830
とりあえず前スレ含め読んでから書き込もうか

一応前スレで裁判してるし(震え声)

まあマジレスするとタイトルはスーパーダンガンロンパ2のもじりかと
文字の配置や大きさも一緒だし。あと一周年おめ

乙です
一周年おめでとうございます!
これからも楽しく閲覧させていただきます

折角スーパーが被ってるなら、スーパードクターロンパ、か?

ダクタァロンパァ…

>>835
どっかで似たようなの聞いたぞそれwwwwww

当初の予定ではシンプルにドクターロンパKでした。でも、この板の住人なら
このタイトルですぐにダンガンロンパが浮かぶだろうけど、再録は外部の予定なので
誰が見てもすぐにダンガンロンパだとわかってもらえるようダンロンはそのまま残す方向に

そして、次のタイトルはまんま合体させたスーパードクターダンガンロンパKだったけど
長すぎたのでスーパーを削りデザインはスーダンをイメージした感じにしてみました

・・・

遅れましたがいよいよ投下です。推定20レスくらい
今回の話も出来れば一気に読んだ方が楽しめるんじゃないかなーと思うので、
今から二時間後くらいにまた来て頂ければ。それでは投下します


(チャンスだ!)


全員が同じことを考え、無言で目配せをする。


「どうして、そんなに……笑っている?」

舞園「あはははは、決まっているじゃないですか!」


不気味な程満面の笑顔で舞園が笑う。


舞園「今日はパーティーなんですよ! うふふふふ!」

朝日奈「うん! そうだよ! パーティーパーティー!!」

山田「いやぁ、楽しみですな! ワッハッハッハッハッ!」

ジェノ「フィーバーしてやるぜーい! ヒャッハー!」

(パー……ティー……)

苗木「石丸君も勿論来てくれるよね?!」

「僕も……?」

舞園「勿論です! むしろ、石丸君が来てくれないと困ります!」

朝日奈「ほら、行こう! 今すぐ行こう!」


朝日奈が石丸の手を掴んで立たせる。苗木と山田も囲むように立ち、舞園だけ
さりげなく部屋から抜け出て食堂へと駆けた。飛び込んで来た舞園にKAZUYAが声をかける。


K「舞園!」

舞園「上手く行きました! 第一段階クリアです!」

大和田「本当か?! 本当にうまくいったのか?!」

セレス「確認は後でも出来ます。舞園さんは急いで準備を!」

舞園「はい!」

葉隠「よーし、スタンバイだべ!」

K「総員、配置につけ!」


慌ただしく配置に着くと明かりを消し、緊張の面持ちでその時が来るのを待つ。


・・・


朝日奈「ほら、石丸。あんたが開けて」

「…………」

朝日奈「早く!」


朝日奈に背中を押され、石丸は躊躇いながらも食堂の扉を開けた。中は薄暗かったが……

パパパパーン!!


「?!」

「退院おめでとう!!!」


たくさんのクラッカーの音と共にパッと明かりが点く。


「こ、れは……」

苗木「石丸君、今日の主役は石丸君なんだよ!」


石丸は無言で視線を上に上げる。食堂の中央には大きな横断幕が掲げられ、
そこには全員の似顔絵と共に大きな文字で『石丸清多夏退院記念パーティー』とあった。
隅の方に画・山田、題字・葉隠と書かれている。


(山田君と葉隠君が、あれを……)

桑田「いやー、マジで意外だよな! 最初はせんせーに書いてもらうはずだったんだけどさぁ、
    葉隠が『字には自信あるべ!』とか言うもんでやらせたらリアルに上手くてよ」

葉隠「いやー、それほどでもあるべ。でも山田っちのイラストあってじゃねえか?」

山田「心を込めて描かせて頂きました! 力作ですぞ!」

江ノ島「西城の眉間のシワとか細かいよね」

山田「笑ってと言ってもあんな顔になるんだから僕のせいじゃないですよ?!」

「…………」


呆然としている石丸の肩を掴んだのは大和田だ。


大和田「兄弟!」

「……兄、弟」


大和田「これ食ってくれ。食うっつーか飲むだけどよ。俺は料理は苦手だが、西城や大神と相談してさ、
     消化にいいスープを作ってみたんだ。ここ最近なにも食ってないだろ? なあ、頼む!」

石丸(兄弟が……これを……)


渡された椀を見つめる。男が料理なんて、と意地を張ってあまり手伝わなかった大和田が作ったのか。


不二咲「美味しいよ? とっても美味しい。あのさ、僕も今胃が悪くて……一緒に食べようよ!」

「不二、咲君……」

K「…………」


KAZUYAは思い出す。


大和田『俺も料理班に入れてくれ!』

大和田『俺が作ったもんなら兄弟だって食ってくれるかもしれないだろ?!』

大和田『不二咲の具合悪くしたのも俺だしな……。なんでもいいから、詫びをしてえんだ!』

大和田『それに……俺、思い出したんだよ。物を作るやり方なら、誰も傷つけねえって――』


石丸は椀を顔に近付けた。そして……実に二週間ぶりに食べ物を口に含んだのだった。


(……美味しい)

大和田「うめえか?! 吐かないってことはうめえんだろ?! ……そうか、そうか!!」


スープの味を噛み締めるように口を動かす石丸の肩に腕を回して大和田は笑った。
その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


苗木「見て! ショーが始まるよ!」

ジェノ「ヒャッハー! 盛り上がって来たわああああ!」

(ショー……?)

不二咲「石丸君のために今日だけ開かれるスペシャルライブなんだよ!」

K「よく見ていろ。こんな豪華なライブはきっと一生に一度だろうからな」

山田「スペシャルゲストもいますしね!」

(ライブ……ゲスト……)


石丸の右側に大和田、左側には車椅子に座った不二咲がそれぞれ肩と手を掴む。
すぐ後ろにはKAZUYAが見守るように立っていた。


霧切「……始まるわよ」


再び照明が落とされる。と、食堂の後ろに配置されたテーブルの上に葉隠と山田が乗り、
倉庫のガラクタでKAZUYAと不二咲が作った簡易スポットライトを掲げ舞台を照らす。

その瞬間厨房から走り出し、食堂の大テーブルで作られた即席ステージに向かうのは舞園だ。
いつの間にか華やかなステージ衣装に着替えた舞園を、大神がさっと抱きかかえステージに乗せる。

そして、もう一人客席側から舞台に飛び乗る。その人物とは、


桑田「オーッス! 今日は一日限りのスペシャルユニット『レオン&さやか』の
    ライブに来てくれてありがとな! 盛り上がって行こうぜー!」


桑田がマイクで呼びかけると、観客側も一気に盛り上がる。

ワーワー! 格好いいぞー! 舞園ちゃんかわいいー! ヒューヒュー! フゥー!


舞園「石丸君の退院をお祝いして、心を込めて歌います。曲は『ネガイゴトアンサンブル』」


【ネガイゴトアンサンブル】
http://www.youtube.com/watch?v=ngSeERhmPLw

すると、食堂に静かなイントロが流れ始めた。音楽室にあったコンポをKAZUYAが運んでおいたのだ。
恐らくモノクマが嫌がらせのつもりで置いたのだろうが、舞園のCDが全て揃っていたのは幸いだった。

そこに、桑田の生ギターが入る。アレンジして少し複雑なコードになっているが、桑田は華麗に
弾きこなしてみせた。よく見たら指には絆創膏が巻かれている。あの集中力もなく努力嫌いだった男が、
指がボロボロになるほど練習したのだと石丸は少し驚いていた。……だが、本当の驚きはこれからだ。


舞園「きっと Shooting Love Shooting Heart もっと 高く高く ~♪」


右手は完治していないものの、腹部の傷はすっかり塞がりKAZUYAからもお墨付きの出た舞園は、
なかなか激しい振り付けのダンスを踊りながらもその音程は一切崩れなかった。流石超高校級の
アイドルと言うべき見事なパフォーマンスである。ちなみに、動きが激しいのでテーブルが
ひっくり返らないよう、テーブルの脚は片側を大神、もう片側は苗木と江ノ島が押さえている。

舞園がAメロの前半を歌い上げ後半に入った。瞬間――



桑田・舞園「夜空の星たちに打ち明ける願いは 大人になるにつれて小さく小さくなってくのかな♪」


桑田がギターを弾きながら舞園の声に自分の声を重ねた。見事なハーモニーが奏でられる。
二人は歌いながら笑い、楽しげに手を叩いたり顔を近付けてパフォーマンスをしていた。


「……!」


石丸は無意識に驚喜している自分に気付く。桑田はKAZUYAに頼まれたから何とか負の感情を
抑えていただけで、舞園に対する怒りや恐怖は完全には消え去っていないはずであった。
それが今、手を取り合って二人は歌っている。それに、桑田の歌は想像以上に上手かった。

歌か、手を取り合う二人に感動したのか自分でも判然としないが、ツーと石丸の頬を一筋の涙が流れる。


K(二人共……よく頑張ったな)


その様子を見て、KAZUYAは満足げに何度も頷いた。

KAZUYAだけが知っている。桑田がこっそり舞園に頭を下げ、密かに音楽室でボイストレーニングを
受けていたことを。この三日間の大半を、デュエットやダンスの練習に費やしていたことを。


桑田「きっと Shooting Love Shooting Heart 見上げた空にプリズム ~♪」


桑田は元々声は悪くないのだ。きちんと練習さえすればそれなりのレベルにはなる。……が、
短期間の練習で舞園と同じステージに立つのは、石丸の命運が掛かっていることもあり並大抵の
覚悟では出来ないだろう。しかし、意外なことにこの提案をしてきたのは桑田からであった。



『俺、思うんだけどさぁ。ただのカラオケじゃダメだと思うんだよな』

『いや、舞園のパフォーマンスにケチつけてるワケじゃなくて……』

『今回の作戦はさ、“みんな”で協力するってのがミソなんだろ?』

『なら、ビミョーな感じだった俺と舞園が仲良く共同ステージとかしたら
  ……インパクトあんじゃね?みたいな感じなんだけどさ』


舞園「ずっと Shooting Love Shooting Heart 待ち焦がれてた未来へ ~♪」

桑田・舞園「もっと 高く高く 飛んでゆきたい Twinkle Twinkle Little Star ~♪」


二番のAメロは桑田がメロディーを歌い、舞園がバックコーラスを担当する。


『桑田君は頑張っていると思いますよ』

『結構細かく指導させてもらってるんですけど、何も言わずについてきてくれますし、とても熱心です』

『……え? 私は無理なんてしていないですよ? 顔色が悪いのは、
 久しぶりに運動して少し貧血になっているだけだと思います』

『当日は最高のパフォーマンスを見せますね。本番を楽しみにしていてください!』


そして盛り上がりも最高潮の中、ピッタリと息の合った二人が最後のサビを歌い上げる。

――曲が終わった。石丸は、無意識に拍手をしていた。


「あ……」








「まだ終わりませんわよ!」


「?!」


舞園と桑田がステージの端の方に下がる。絶対聞いたことはないはずなのに何だか聞き覚えのあるような
懐かしいイントロが流れ始めた。そして、黒を基調とした派手なドレスを纏った女王もとい――

セレスティア・ルーデンベルクが舞台に降臨する。ちなみに帽子に付けているバラと羽飾りは自作だ。


石丸(まさか……)


【 D A N G A N R O N P A 】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm19130714

キャーキャー! セレス殿ー! セレスちゃんステキー!

大歓声を受けセレスは上機嫌のようだった。華麗に手を振り、くわえていたバラの造花を
観客席に投げる。石丸がそのバラを受け止めたのを見て、セレスはマイクを取った。


セレス「今日は特別に……本当に特っ別にあなたのために一曲歌って差し上げますわ」

セレス「……わたくしが誰かのために歌うなど世界で初めてです。光栄に思うことですわね」

石丸「えっ」


驚愕などという言葉では生温い。一瞬呼吸をするのを忘れる程の衝撃だ。

セレスと言えば、適応をモットーにする穏健派ではあるものの、とにかくマイペースで協調性がなく
面倒くさがり屋である。あからさまに場を掻き回すことはしないが、鋭い皮肉をよく言われたものだ。

そのセレスが自分のために舞台に立って……しかも、歌う?


K(フッ、流石に驚いているようだな。ショック療法としては上々だ)

苗木(わかるよ。僕達が一番驚いてるもん……)


苗木は会議が始まったばかりのことを思い出した。


舞園『石丸君は、全部自分が悪いと思い込んでいるんです。みんなが喧嘩をしているのも
    怒ったり悲しい顔をするのも、全部自分が悪い。自分はここにいてはいけないと……』

朝日奈『どうすればいいのかな……』

霧切『難しいわね……』

苗木『……逆のことをすればいいんじゃないかな』

桑田『逆? 逆ってなんだよ?』

苗木『自分のせいで今の状況になってるって思い込んでるんでしょ? じゃあ今の状況を
    ぶち壊せばいいんだ! 具体的には、みんなで仲良くするのはどうかな?』



山田『そんな単純な問題ですかねぇ』

舞園『いえ、有効だと思います。……観察していて気付いたのですが、石丸君は笑顔に反応するんです』

大和田『笑顔? じゃあ、ジェノサイダーが来た時やけに調子良さそうなのは……!』

舞園『はい。彼女がいつも元気に笑っているからだと思います。逆に、誰かが
    怒ったり悲しんでいる顔を見ると、不安になったり怯えるんです』

K『あの時保健室から出てきたのは、俺の怒鳴り声に反応したからか……』

葉隠『仲良くかぁ。じゃあ、みんなで盛大に見舞いでもすればいいんか?』

不二咲『お見舞いパーティー……とかどうかな』

朝日奈『それ、いいね! みんなでぱーっとパーティーしない?!』

セレス『何をテーマにするのですか? 親睦会? それとも監禁一ヶ月記念ですか?』

K『素直に石丸の退院記念ということでいいんじゃないか? 
  ……これを機に本当に退院してもらわないとこちらも困る』

舞園『いいですね。私も退院した時、皆さんがパーティーを開いてくれて凄く嬉しかったですし』

大神『料理は任せてくれ。豪勢に作らせてもらおう』


方針が決定し、担当を割り振っていたのだが。


苗木『えーっと、セレスさんも協力してくれるんだよね?』

セレス『勿論ですわ。と言っても……』

苗木『料理は朝日奈さん、大神さん、霧切さんに大和田君と四人もいるし』

葉隠『電気系統は先生に不二咲っち。あと俺が補助だな』

桑田『俺と舞園は舞台担当で?』

山田『飾りは僕と苗木誠殿と、江ノ島盾子殿、葉隠康比呂殿で十分ですし……』

大和田『力仕事は先公、俺、大神だ。そもそもセレスにゃムリだしな』

セレス『……わたくし、やることないのではありませんこと?!』

江ノ島『折り紙で輪飾り作れば? アタシにだってできるんだから、あんただってできるでしょ?』

セレス『そんな地味な仕事ではつまらないですわ』

苗木『う、うーん(普段は面倒くさがりなのに、こういう時に余ると怒るんだからタチが悪いな……)』



霧切『何か舞台で披露するのはどうかしら?』

苗木『あ、じゃあ僕と一緒に手品でもやる? 図書室で調べて練習すれば……』

セレス『わたくしに前座を務めろと? わたくし、やるからには主役でないとやる気が出ませんの』

苗木『えーっと……』

セレス『そうですわね。わたくし、実は歌にはちょっとばかり自信があるのですが……』チラ

舞園『?』

セレス『やるからにはトリを務めたいですわ』

桑田『ハァ? ワガママ言ってんじゃねーよ、お前!』

大和田『オメエなぁ、トリはアイドルの舞園に決まってるだろ?』

舞園『私は構いませんよ』

苗木『え?! 本当にいいの?』

舞園『それでセレスさんのやる気が出るならお安いものです。順番なんてどうでも
    いいじゃないですか。折角ですからバックコーラスもやらせてください』

セレス『まあ……』

大神(何と……舞園のアイドルに対する情熱はよく知っている。まさかここまで言うとは……)

霧切『舞園さんは大人ね?』

セレス『……わたくしに嫌みは通じませんことよ。ご安心を。やるからには
     このセレスティア・ルーデンベルク、本気を出させてもらいますわ』


……そして、本気を出した結果がこれである。

衣装や帽子は元々モノモノマシーンで過去に引き当てたものだが、細かい装飾やステージを
飾るバラの数々は全て自作である。また、何をどう交渉したのかわからないが、モノクマから
お目当てのCDをもぎ取り、自分専用のマイクスタンドもどこからか用意した。


『ふふ、わたくしが器用で意外ですか?』

『昔はお金がなかったので、必要な小物はこうしてよく自作していたのですよ』

『何せ、今回はわたくしが主役ですからね。手を抜く訳には参りませんわ!』

『……ああ、勿論主賓は石丸君ですわよ? 我々仕掛人側の主役ということですわ。うふふ』


KAZUYAはリハーサルや演出まで事細かに指示をするセレスを思い出していた。


K(目立ちたがりなんだな……一人だけ頑張りのベクトルが違うが、まあ今の石丸にはわからんだろう)

セレス「わたくしの歌に酔いしれなさい」

山田「セレスさまあああああああああ!」

セレス「時の扉よ、開け わたくしの道を照らせ ~♪」


実際、超高校級のアイドルを前に自信があると豪語するだけあって、セレスの歌は確かに上手かった。
ダンスや人を引き付ける総合パフォーマンスでは当然舞園の方が圧倒的に上だが、純粋な歌唱力だけなら
けしてセレスが劣っているということはない。これには誰もが驚かされた。


セレス「きらきらきら煌めく ドレスは幾万のダイヤ ~♪」

桑田(……リハーサルの時も思ったけど、こいつマジで上手いのな。っくぅ~、なんか腹立つぜ!)

舞園(セレスさん、綺麗な声だからきっと歌も上手いと思ってました。私の見立て通りです)

セレス(ああ、下々の者の賞賛の眼差しが眩しいですわ……悪くありませんわね)

セレス(ですが――恐らくこれが皆さんと開く最期のパーティーになるのでしょう)


ひらひらと優雅に手を振り微笑を浮かべながらも、セレスは内心では全く笑っていなかった。
そう、計算高いセレスがただで協力する訳がなかったのだ!


セレス(わたくし、一旦場をフラットにすることにしましたの)


彼女は自分に殺人計画を立てる才能がないことを自覚している。そのうえ生徒達は引きこもりがちで
行動が読めない。つまり、一言で言えば手詰まりだ。だから、この場はもう終わらせることにしたのだ。

ギャンブラーに最も必要な資質は勿論運であるが、ただゲームが強ければ一流というものではない。
場の流れを読む能力こそギャンブルで求められるものである。流れが自分にないと判断した時に、
思い切って仕切り直しをしたり潔く手仕舞い出来るかが勝敗を分けると言っても過言ではないのだ。


セレス(十神君と腐川さんはよくわかりませんが、少なくとも石丸君さえ元に戻れば今ここにいるメンバーは
     また以前のような生活に戻るはず。そうすれば、過去に考えた計画を流用出来ますわ)

セレス(それに、少しずつ形になってきたのです。場を戻して、あともう一押しさえあれば……)


――宿願成就せん!!


セレス(ですから、その時が来たら改めて勝負ですわ。ねえ、皆さん……)


セレス「微笑む唇静かにふさいで 魔法の中であなたを虜にする歌 ~♪」

不二咲「セレスさーん!」

葉隠「いいぞー!」

朝日奈「Fu-Fu! イェイイェーイ!!」


ブラボー! パチパチパチパチパチパチパチパチ!!

渾身の力を込めてセレスはラストを飾る。スポットライトが消え、
余韻を楽しむように少しの間場が暗くなり……そして再び照明がついた。

今までの盛り上がりが嘘であったかのように場は静寂となる。


石丸「…………」

K「石丸……」

不二咲「石丸君……」

大和田「……なあ、兄弟。すごかったろ? 魂……ふるえちまったろ……?」

石丸「どう……して……」


石丸は喋った。

虚空ではなく、はっきりと仲間達を見渡しながら。


石丸「ここまで……してくれるんだ……?」

「!」

石丸「僕は……いつも……みんなの、足を引っ張っていたのに……」

山田「お互い様ってことじゃないですかね?」


テーブルから降りてきた山田が言う。


山田「……僕らだって、みんなに迷惑かけてるし。別にあなただけが問題起こしてるわけじゃないですよ」


『どうです? この似顔絵。最高の出来でしょう?』

『まだみんなの仲が良かった頃を思い出しながら描いたんです』

『……僕にも出来ることがあって良かった。本当は、僕もずっと悩んでたんですよ』

『僕ってなんの役に立ってないなって。石丸清多夏殿もこれを見て元気になってもらえたら……』


石丸「山田君……」

葉隠「そうだべ。もうちょっと気楽になってもいいんじゃねえか?」


『いやー、疲れる疲れる。まとめ役がこんなに疲れるなんてなぁ』

『思えば、いつも先生や石丸っちがまとめ役を引き受けてくれるから、それに甘えてた所があったべ』

『俺も一応この中じゃ年長だし、たまにはがんばらねえとな。はははっ』

『……と言っても、ずっとやるのは大変だから石丸っちにさっさと戻ってきてほしいべ!』


葉隠「責任感があるのはいいことだけどよ、石丸っちはちょっとそれが強すぎだべ」

霧切「そうね。もう少し周りの人間に頼ってもいいんじゃない? 
    私が言っても説得力がないかもしれないけれど……」


『またみんなと距離を取っているように見えるかしら?』

『……仕方ないわ。だって、そうでもしないと中立を保てなくなるもの』

『彼等は強いわ。確かに、何度も迷ったり争ったり間違えたりもしてきたけれど……』

『最終的には、立ち上がる強さを持っている。――だから、距離を取らないと呑み込まれてしまう』


霧切「――仲間を信頼するって、そういうことじゃないかしら?」

石丸「仲間……信頼……」



大神「一人では重い荷も、仲間と背負えば軽くなろう?」


『……今回の件でわかったことがある』

『我は、朝日奈の……仲間達の泣く姿はもう見たくないのだ』

『仲間が泣いているのに自分が何も出来ぬのは……辛い。本当に辛い』

『我にとって、仲間は……』


大神「我等を頼れ。みんなもそれを望んでいる」

朝日奈「そうだよ! 私達は今まであんたに頼りっぱなしだったし、これからはちゃんと手伝うからさ!」


『絶対成功させる! 絶っ対に! 成功っ! させるっ!!』

『……もうイヤだもん。おかしくなったアイツを見るのも、みんなとケンカするのも』

『アイツが元に戻れば、きっとみんなまた前みたいになれるはず!』

『そうなったら……先生も、また笑ってくれるよね?』


朝日奈「戻ってきてよ……お願いだから」

江ノ島「あんたも頑固だよね。みんながこんだけやってるんだから、いい加減戻れっての!」


『アタシは……あんまり役に立てないと思うけどね』

『あ、いや、その! やる気はあるよ? あるけど、結果が出るとは限らないというか……』

『ああいうウジウジしたヤツ苦手だし……そりゃ、戻ったら嬉しいけどね』

『…………』


苗木「これでわかったと思うんだ。みんな君のことが好きだし必要としてる」


苗木が一歩踏み出して石丸の前に歩み出た。


『……僕と違ってちゃんと超高校級の実力を持つ石丸君にこんなことを言うのは
 おかしいかもしれないけど、ちょっとだけ僕は石丸君の気持ちがわかる気がするんです』

『僕達は他のみんなと違って才能がない。特に石丸君は天才にコンプレックスがあるみたいだから、
 余計に頑張ろう、足を引っ張らないようにしようってプレッシャーがあったんじゃないかな』

『僕だって正直大したことは出来てないけど……でも、みんなを影から支えることくらいは出来る』

『僕が頑張る姿を見て、石丸君がまた自信を取り戻してくれたらいいな、なんて……』


苗木「君が自分を必要ないなんて思い込む必要も、自分を嫌う必要もないんだ!」

石丸「僕は……」

大和田「あ?! なんだ?!」

石丸「ここにいてもいいのだろうか……?」

不二咲「石丸君……」


石丸の手を、不二咲が一層強く握る。


不二咲「ここにいてもいいんだよ……むしろ、いなきゃ駄目なんだ……!!」


『先生、実はね……僕、倒れていた時の記憶があるんだ。夢を見ていたんだけど……』

『もし、こんな事件に巻き込まれずみんなと普通の学生生活を送れていたら……っていう内容なんだ』

『それでね、最初はただの夢だったんだけど、途中から大和田君と石丸君が泣き出したの……』

『多分現実の声が反映されたからだと思うんだけど……石丸君はこう言ってたはずなんだ』

『一緒に遊んだり、時にふざけあったり……そういう友達らしいことをしたいって』


不二咲「僕達、まだ友達らしいことを何もしてない! 折角、生きてるんだから、だから……!」

石丸「不二咲君……」


K「……石丸、もういいだろう?」

石丸「でも……僕は……」

K(なかなかしぶといな……もう半分以上落ちているはずだが)


KAZUYAが何か言おうとした時だった。


「いい加減うっとうしいんだよ、このウジウジ石頭がぁぁああああああああっ!!」


いつの間にか舞台から降りていたセレスが中指を突き立てて怒鳴る。


石丸「セレス君……」

セレス「他の方々がはっきり言わないようですからわたくしが言ってやりますわ! よろしいですか?!
     世の中の人間の99、9%は周囲から必要だなんて別に思われていないのです!!」

セレス「わたくしは他人をランク付けする習慣がありますが、最高でC。それもほんの一握りで、
     ほとんどの人間は生きようが死のうが感心すら持たないDランク止まりですわ」

「…………」


嫌な習慣だな、と全員が半目になっているがセレスは止まらない。


セレス「当然あなたもD、むしろ散々迷惑をかけられましたからEやFでもよろしいくらいです」

石丸「そうだな……」

セレス「わたくしだけでなく他の人間も恐らくそう思っているでしょうね」

大和田「ハァ?! オメエ、なにを……」

K「静かに!」


思わず反論しようとした大和田をKAZUYAは止める。


セレス「そもそも人間とは、ごくごく親しい身内以外の他人は基本どうでも良いと思っているのです。
     いちいちこの人間は必要だとか不必要だなんて考えていませんわ。自分は周囲から必要と
     されていないからいらない、と言う考え自体が自意識過剰な思い上がりなのです!」

セレス「なんならわたくしがあなたに不必要だから死ねと言えばあなた死にますか?
     死なないでしょう? あまりに理不尽過ぎますもの」

石丸「だが……僕は危うくみんなを死なせることに……」

セレス「その点につきましてはご安心を。まとめ役というストッパーがいないからか、あなたがいない間にも
     散々トラブルは起こりましたし、むしろ危うく一触即発になる所でしたわ。あなたがいることで
     起こるリスクより、あなたがいないことで起こるリスクの方が皆さんは高いと考えています」

石丸「…………」

セレス「そもそもあなたと親しい大和田君達はともかく、わたくしを始めとした別にあなたと親しくも
     何でもない、むしろ嫌いだとすら思っている人間があなたを必要と感じてここまでしている――」

セレス「この意味がわからないのなら、いくらあなたが超高校級の馬鹿とは言え死んだ方がよろしいですわね」


厳しいな、と思わずKAZUYAは苦笑するが……厳しいだけの効果はあったようだ。


石丸「そうか……ああ、そうだな……」


石丸は滝のように涙を流しながら何度も何度も深く頷く。


大和田「兄弟……」

石丸「僕は、本当に何もわかっていない大馬鹿者だったようだ……他人に必要とされないなんて当たり前。
    それでも……ここにはこんなにたくさん、僕を必要としてくれる人がいる……」

石丸「これがどんなに有り難い、恵まれていることか……僕は目が醒めた。醒めたぞ、みんな……!」

大和田「兄弟……!」

不二咲「石丸君……!」

石丸「みんな、ありがとう! 僕はもう迷わない!」

石丸「不出来で至らない所がたくさんある僕だが……またリーダーをやっていいのだな?」

葉隠「むしろ石丸っちしかいないべ」

山田「そうですよ!」

江ノ島「ホント、頼むわよ」



大和田「兄弟! この、バカ野郎……心配かけさせやがって……!!」ボロボロ

不二咲「良かった……良かったよぉ、本当に……!!」ボロボロ

朝日奈「バカ……! もうおかしくなったりしないでよね!」ボロボロ

桑田「まったくだぜ! 次におかしくなっても、もう助けてやんねーからな!」グス

舞園「良かったです……」

苗木「……うん、本当に良かった」

霧切「そうね」

大神「ウム……」


生徒達が石丸の周りに集まり、KAZUYAは自然と後ろの方に下がる。


(……俺の出る幕はなかったようだな)


生徒達は自分達の力だけで石丸を元に戻した。そこにKAZUYAの力は全く介入していない。
そんな生徒達の成長に、KAZUYAは嬉しいような寂しいような……やっぱり喜びながら目を細める。


「先生! 西城先生!!」


石丸が振り返ってKAZUYAを呼んだ。KAZUYAは笑みを浮かべながら一言だけ声を掛ける。


「石丸」

「はい!」

「――おかえり」

「!!」


何故だろう。その言葉に石丸は一瞬動揺したようだった。だが、次にはもう破顔している。


「……石丸清多夏、ただいま戻りました!」


軍人でもないのに何故か敬礼をして、石丸は答えた。

泣きながら笑っていた――。


ここまで! 治ったッ! 第三章完!!

乙です

乙!



しかし本当の戦いはこれからなんだね

泣いた
でもここでまだ終わらないんだろ?とびくびくしている

乙です!
ほぼ1スレ使ったが、ついに石丸を救えたな…!
でもチャプター3は展開的にもこれからなんだよな…
楽しみにしてます!

おめでとう、清多夏君おめでとう! パチパチパチ!

>>841のサムネが……ww

みんなの脳内にはちゃんと桑田君の声も聞こえていたと信じてる

長かった。まさか石丸君の鬱だけで1スレ丸々潰れるとは思わなかった
この後もう一山越えたら医療編は終了です。その後は久しぶりに自由行動入ります
インターバルとして日常編を入れるので実に3スレぶりの明るい雰囲気を楽しんで下さい

…ほんと、石丸君が元気かそうでないかは大きいわ。ガラッと空気変えてくれるよ、彼

>>861
サムネ見たらビックリしたww

ちなみに本当は木曜日に投下予定だったのですが、つべのセレスさんが何故か
消えていたので慌てて探していたら遅くなってしまった。ニコでゴメン

いい青春だ


ジェノ「あり? 気付いたらきよたん復活してた感じ? なんか知らんけどおめっとさ~ん!」モッシャモッシャ

葉隠「オメエ、ブレねえな……」

舞園「まあ翔さんは自由人ですから」

セレス「これでやっと一つ問題が片付きましたわね」

石丸「申し訳ない。これまでの分も合わせて働かせてもらおう」

山田「頼みますよ。十神白夜殿のこともありますし……」

苗木「あ、山田君!」

朝日奈「十神のことはまずいって!」

石丸「十神君がどうかしたのかね? ……そういえば見かけないな」

「…………」


一瞬で沈黙となり、KAZUYAが代表で説明する。


K「実はな……」


十神の状況を聞くと、石丸は途端に険しい顔つきとなった。


石丸「……僕は十神君に会わなければならない」

桑田「つっても、会ってどうすんだ? まさかお礼参りでもするワケじゃねーだろ?」

石丸「いや、お礼参りだ!」

大和田「マジか?! ……そうか。とうとう兄弟もあの野郎に一発かます気になったか!」

石丸「行くぞ!」

大和田「おう!」


ダダダダダダダダダダッ!


大神「西城殿、止めなくて良いのですか?」

K「まあ石丸ならやり過ぎんだろう。一発くらいならいいんじゃないか?」

苗木「KAZUYA先生にここまで言われるって……流石十神君だよね……」

朝日奈「十神ならいいよ! 一発くらい!」ブー!

舞園「朝日奈さん、だいぶ嫌ってるみたいですね」

霧切「仕方ないわ。彼はそれだけのことをしてきたもの……」


そういう霧切の目も少しばかり据わっている。


ジェノ「ま、一発くらいならいっか。きよたんに殴られて青筋浮かべる白夜様も萌えそうだし」ゲラゲラ

山田「そこに萌えを見出すとは……やはり、腐女子は強い……!」


・・・


ピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポーン! ピンポーン!!

ガチャガチャガチャ!


「十神君! 早くここを開けたまえ!」


念のためにKAZUYA達も十神の部屋に向かう。余程積もりに積もった物があるのか、
石丸は絶え間無くインターホンを連打しドアノブをガチャガチャと動かす。

本来なら赤い顔をしているのだろうが、血が足りないのか生気がなく青ざめているため少し怖い。


『…………騒がしいぞ。誰だ?』

「僕だ! 石丸だ!」

『何、石丸だと……?!』


最初は心底億劫そうだった十神だが、相手が石丸と知るや声だけでわかるほど明確に動揺していた。


『貴様……とうとう頭がおかしくなったと聞いたが?』

「そうだ。おかしくなっていた。全ては僕の弱さのせいでだ。……だが! 僕は戻ってきたぞ!」

「君が無意味だと切り捨てた、友情の力でだッ!!」

『…………』

「どうした? 君もいつまでもこそこそ引きこもっていないで、早く出てきたまえ!
 それとも、超高校級の御曹司ともあろう者が怖くて外に出られないのか!」

「帝王を名乗るくせに庶民を恐れて部屋に引きこもるとは余りにも情けない!」


カチャリ。

石丸の挑発が終わるか終わらないかのタイミングで、十神は出てきた。


「…………」


お世辞にも顔色が良いとは言えなかった。むしろ、健康なはずなのにどこか病人然とした雰囲気を
漂わせている。恐らく、昼間はほとんど外に出ることは叶わず部屋に篭りっきりで、かつ食事も
毎日同じような保存食ばかり摂っていたため、計り知れないストレスがあったのだろう。

お互いに頬が少しこけた、青白い不健康そうな男が無言で睨み合う。


「何の用だ」

「君にお礼参りをするために来たのだ」


一瞬たりとも目を逸らさず石丸が宣言すると、十神はいつものように鼻で笑った。


「フッ、何を言いに来たかと思えばお礼参りだと? 自分の不甲斐なさを
 棚にあげて暴力に走るとは、超高校級の風紀委員が聞いて呆れ……」

「十神君――――ありがとうっ!!!」

「呆れ…………ハ?」


十神にしては珍しく目を丸くし、間の抜けた声を出す。


「ハァ……??」


……意味がわからない。

だが周囲の人間達はもっと混乱したようで、ワンテンポ遅れて騒ぎ出す。


「ハアアアアアアアッ?!!」

「ええええええええええええええええ?!!」

「石丸君?!」

「お、おい、石丸……お前、本当はまだ治ってないんじゃないのか……?」


しまいにはKAZUYAすら石丸がまだ狂っているのではないかと疑念を持つ。
だが、その心配を石丸は明確に否定した。


「いいえ。僕は頭がおかしい訳ではなく、真剣にお礼を言っているのです!」

「なんでだよ、兄弟?! なんでこんなヤツに礼なんて……!!」

「そうだぜ! むしろ謝らせるべきだろ!」

「……みんな、聞いてくれ。まず始めに、僕は十神君の思想にも理念にも全く賛同出来ない。
 こんな状況だと言うのはわかるが、やはり人間として最低限の倫理から外れるべきではないと思う」

「…………」


宥めるように話してから、石丸は視線を再び十神に戻す。


「だが、その点を除けば君は常に現実的であり正論を言ってきたな。僕がおかしくなったのは
 誰のせいでもない。僕が勝手に自分の独りよがりな友情や責任に呑まれ押し潰されただけだ」

「みんなは本当に優しくて……何度も僕を支えてくれたしお陰で元に戻ることも出来た。だが、
 もし彼がいなかったらそもそも僕は現実の厳しさを知ることもなかったように思う」


「十神君のお陰で、僕は自分が如何に独善的で世間知らずな甘ったれだったかを
 知ることが出来た。……そして、弱さに気付いたからこそ強くもなれた」

「もう二度と僕は押し潰されたりしない。――だから改めて礼を言わせてくれ。ありがとう、十神君!!」


そして、90度腰を曲げて石丸は深々と礼をする。


「…………」


頭の回転には自信のある十神だったが、流石にこの展開には理解が追い付かず
彼を大いに悩ませることになった。必死に考え、やっと一つの結論に達する。

ああ――この男は馬鹿なのだと。


(馬鹿も馬鹿。頭に超が三つは余裕でつく、純粋培養かつ真正の馬鹿なのだ)


ならば自分はどう対応するのが正解か。答えは一つ、いつものように鼻で笑い飛ばせばいい。

……十神は己の生い立ちに誇りを持っていた。だから、頭の固い石丸以上に頑なで強情だった。


「前からわかっていたが……貴様、馬鹿だろう?」

「ああ! 大馬鹿だぞっ!!」

「クククク……」

「ハハハハ……」

「「ハッハッハッハッハッハッ! ウワッハッハッハッハッハッハッハッ!!」」

「…………」


睨み合いながらも大声で笑う二人を周囲はポカンと眺めていた。

この2人、いいな


ジェノ「あ、白夜様が! あのクールな白夜様が笑っていらっしゃるわ! 殺る気に火がついちゃう!」

桑田「やめろっての!」

大和田「まあ、兄弟が許すってんなら……俺はもうなにも言わないぜ?
     ……でも、やっぱり殴りてえなぁ。ドチクショウ……」

苗木「ま、まあまあ。ハハ」

不二咲「やっぱり、石丸君は石丸君だね!」ニコッ

山田「ハッピーエンドってことでいいんですかね?」

葉隠「いいんじゃねえか? ワハハハハ!」

K(……あとは腐川だな)

霧切(正確にはまだ問題が全て片付いた訳じゃない。……でも、今それを言うのは野暮でしょうね)


生徒達が賑わう中、KAZUYAと霧切は冷静に先を考えていたが今だけはこの空気を楽しむことにした。


石丸「十神君、君はずっと部屋に篭っていてろくな食事を摂っていないのではないかね?
    食堂に来たまえ。みんなが僕のためにパーティーを開いてくれたのだ。御馳走もあるぞ!」

十神「フン。別に興味ないが、どうしてもと言うなら行ってやってもいい」

桑田「じゃあ来るなよ……」

苗木「まあまあ」

石丸「あと、友情の力は確かに存在したぞ! 十神君にもいつか必ず認めてもらう!」

十神「馬鹿馬鹿しい」

大和田「やっぱり一発いれるかぁ?」ビキビキ

大神「その辺にしておけ」

舞園「じゃあパーティーを再開しましょう。折角だから私まだまだ歌います!」

朝日奈「あ、いいね! 聞きたい聞きたい!」

セレス「ではわたくしも……」

江ノ島「なにちゃっかり混じってんの、アンタ」


ワイワイガヤガヤザワザワ!


K「フ」


こうして、再び生徒が全員集合し学園に活気が戻って来た。

――実に二十日ぶりとなる。


ちょっと短いけどキリもいいのでここまで。

乙です

何気に苗木君と一緒にテーブル支えてた残姉めっちゃうれしかっただろうなあ……
苗木君はステージの成功を一心に考えてるけど、その横で好きな男の子と一緒に何かをするのがうれしくてそれで頭がいっぱいの残姉
なんか文化祭の裏方みたいな感じで甘酸っぱいなあ

ということをストーリーに全然関係ないのに思ってしまった。
1乙でござる

乙です
「貴様」をNGワードに設定してたから途中抜けててビビった

石丸と十神が笑い合うシーンはいいね
某盲剣の人みたく何が可笑しい!と叫ぶかと思ったけどそうならなくてなにより

>>874
貴様とか氏ねとか普段はあまり使わないけどSSだと結構出てくるから
NGワードは本当に使わない単語をオススメ。差別用語とか下品な言葉とか

>>875
十神「何が可笑しいッ!!」

吹いたw

>>876
あるスレのキチガイがよく使ってるから設定したんだ
正直不便

>>877
oh…そうであったか。大変だが頑張れ

復活出来て本当に良かったよ石丸…
今までの選択が失敗して再起不能になってたら目も当てられなかったよ
怪我のパターンは色々あるって言ってたから多岐に渡るバッド√用意されてんじゃ無かろうかと内心ビクビクしてたよ

乙ですよかった本当によかった
山田葉隠セレスのスレタイ組が石丸復活に大きな役割してたのが嬉しいな
セレス様は今後コロシアイの方でも活躍するんだろうけどww

そう言えば>>1は絶望少女クリアしたって言ってたけどオマケもコンプリートした?

次のスレタイはどうするのだろう…

順当にいけば朝日奈・大神か?セレス十神が次スレでボスキャラとして君臨するならセレススレタイ続投もありだと思ふ

当初の予定では順当に朝日奈大神コンビでしたが、このまま黒幕が黙っている訳ないので
次スレもまた一波乱あるでしょう。石丸君が復活したので武者修業編も再開するし、
帳尻合わせのため次スレは絶望シスターズかそれ+アルエゴの予定です。もし案があったらどうぞ


>>875
実はちょっと入れようか悩んだとは言えない……ただ和やかな空気がぶち壊れるので自重した

>>879
1も鬼ではないから余程のことがない限りは多少救済を入れます。ただ、当然ながら
ベストは逃すので、下手したら失明してノーマルエンドとかだったかもしれないですね

石丸君のファン的には十分BADかもしれませんが…

>>880
元々スレタイトリオはセレスさん以外は影が薄めだったので今回活躍を作ってあげられて良かった
…まあ、本番は次スレなんですけど

おまけはやり込み要素のファイルはまだで、小説は読みました。のんびり二周目中です

かなり今更ですが、こんなことやってたんですね。真船先生おめでとうございます!
神奈川県のHP開くと真船先生の絵が流れてくるのが凄い感動…これでKAZUYAだったらなぁ…
この調子でメディアミックスもしてくれないだろうか。…あとコミックス書店に置いてほしい

http://www.pref.kanagawa.jp/prs/p830358.html
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/chiji/p833215.html

神奈川県に住んでる人は是非見に行ってみよう!
(と言ってもどこにあるかはわからない。多分病院か役所あたりかな?)

おめでとう…


― 保健室 PM2:13 ―


生徒達はまた以前のようにパーティーで騒いだりゲームをして遊んでいる。途中まではKAZUYAも
同席していたが、彼は折を見て部屋から抜け出すと一人保健室でカルテを書いていた。


(上記により、石丸の意識・会話能力は共に標準レベルに回復。今後、感染等に注意をしていくが……)

(――本日をもって退院扱いとする)


もはや長くなり過ぎて日記のようになったカルテの束を最後にパラパラと見返すと、
感慨深くKAZUYAはそれを棚に仕舞った。出来ればもう開きたくないものだ。

コンコン。


「ん?」


ノックの音の後に扉が開き、石丸が部屋に入って来た。


「失礼します。……やはりここにいらっしゃいましたか」

「ああ。騒がしいのは苦手でな。俺の歳になると学生のノリについていくのは少しキツい」


そう言ってKAZUYAは苦笑してみせるが、勿論本気ではない。


「お前こそ抜け出して良かったのか? 今日の主役はお前だろう?」

「西城先生にお礼が言いたいと言ったら、みんな快く送り出してくれました」

「そうか。丁度、お前の体に埋め込んだカテーテルを取りたいと思っていたんだ。もう必要ないからな」


上着を脱がすと丁寧に消毒し、慣れた手つきで処置を行う。その無骨な手を石丸はジッと見つめていた。


「西城先生には……言葉で言い表せない程お世話になりました」

「……いや、俺は何もしていないさ。俺は今回のアイディアにノータッチだったからな。
 みんなで意見を出し、何度も入念に議論を交わす姿を黙って見守っただけだ」

「お前を元に戻したいと言うみんなの気持ちが、奇跡を起こしたのだろう」


KAZUYAは淡々と話す。今回に限っては本当に何もしていなかった。医師である自分の手で
治すことが出来なかったのは残念に思うが、これで良かったとすらKAZUYAは思っていた。


「……嘘です。僕にはちゃんと伝わっていました」

「何がだ?」

「僕の手を掴んで、抱きしめて……そうやって先生はずっと励まし続けてくれたではありませんか」

「…………」

「あの頃の記憶はぼんやりとしか覚えていませんが、ですが……先生の温かさはハッキリ覚えています」

「……そうか」


そっと目を伏せる。自分の行為が無駄ではなかったと、想いが届いたというその言葉が
何よりも嬉しい言葉なのだ。患者の喜びこそが医師であるKAZUYAの喜びだった。


「僕は嬉しかった。今まで、あんな風に誰かに支えてもらったことがなかったから……」

「いや、それ以上はいい。本当にいいんだ。お前が元気になってくれただけで俺は満足なんだよ」

「はい」

「友人達が待っているだろう? 早く戻ってやれ」

「でも、先生も一緒でないと……」

「…………」


石丸は確かに元に戻った。もう幻覚を見たりしないし意志の疎通もきちんと出来る。

――しかし、KAZUYAは気付いていた。石丸が前とは変わってしまったことに。


(以前の石丸なら、無理矢理俺のことも一緒に連れて行こうとしたはずだ)


先程十神と相対していた時は興奮していたのか、或いはみんなの前で無理をしていたのか
そこまで大きな変化はなかったが、時間が経って落ち着いてきた今ハッキリと違いがわかる。

前ほど言葉に力がなく、勢いがない。思慮深く発言をするようになり、すぐに興奮しなくなった。
落ち着いた雰囲気で、どこか伏し目がちであり、実年齢よりもやや大人びて見える。


(……一言で言えば大人になったのだ)


誰よりも純粋な少年の心を持っていた男が、過酷過ぎる状況に置かれ精神的に大きく成長した。

それだけのことだ。……それだけのはずだ。


元に戻ったということは単に自分の行いを受け入れただけではなく、大和田の罪も……いや、
このコロシアイで起こった全ての出来事を許容できるようになったということに他ならない。


(しかし、何故だろう。俺は……石丸の成長を素直に喜べない)


成長とは、本来ならこれほど前向きで明るい言葉はないというくらいプラスの言葉だ。
人は大人になるにつれ失っていくものがあるが、その代わりそれ以上に大きなものを手に入れる。
それが本来の意味の成長なのだが……


(人間は歳と共に変わっていく生き物だ。変わること、成長すること自体は
 けして悪いことではない。……だが、石丸の変わり方は何か違う気がする)


得た物より失ってしまった物の方が大きいような、そんな感想をKAZUYAに抱かせたのだ。


「先生……?」


険しい表情で黙り込むKAZUYAを心配して石丸が覗き込んでくる。


(違うだろう、石丸……お前はそんな不安そうな顔で相手の顔色を窺うような、
 そういう真似はしなかった。前はそんなおどおどした目付きじゃなかった)

(もっと自分に自信があった。力強かった。後先考えず、周りを疑わず、自分が一度正しいと
 思ったらそこに向かって一心不乱に駆けていくような――お前はそんな男だったはずだ)


違和感だけが加速していく。ある意味、このような場に置かれた高校生としては普通になったのだ。
別に放っといても問題あるまい。見たところ前より多少空気も読めるようになったし、
きっと以前よりもより深く周りと馴染めるはずだ……。そう思おうとしていたが。


―先生、助けて……


声が聞こえた。KAZUYAは思い出してしまった。


―私、死にたくないよ……


もはやKAZUYAにとって忘れられないトラウマとも言えるあの記憶が鮮烈に蘇る。


クリスマスイブの夜だった。

寒空の下、冷たい川にかかる橋の上に靴を脱いだ彼女は立っていた。

http://i.imgur.com/ykAc4l2.jpg


――少女の名は阿佐田貴江。

外見以外特筆すべき点は一切ない、極めて平凡な普通の女子高生である。


『溺死体がどういう具合になるか知っているかね?』

『!!』

『水ぶくれとガスによって体中がブヨブヨに膨らむんだ。
 女性にはあまり勧められない死に方だと俺は思うがね』


少女は華の高校生と呼ぶには酷く膨れ上がった体で、お世辞にも美しいとは言えなかった。
告白した相手が陰で自分を笑い者にしていた現場を目撃してしまい、自殺を考えたのだ。


『必死になってダイエットしたわ! ……でもダメだった。私を好きになってくれる人なんて一人も
 いなかったし、これからもいやしないわ! どうせ私なんか死んだって誰も気にとめないわよ!』

(太っているのはほとんど胴体と顔だけ……手足は普通だ。これは……)


KAZUYAは少女が中心性肥満と呼ばれる、ホルモン異常による肥満だと見抜いた。
そして手術を行い、元々真面目で努力家だった彼女はみるみる美しくなっていき……

――その一年後、彼女は死んだ。



『腹部を刃物で刺されたようです。男女関係のもつれのようですな』

『この娘が? そんな馬鹿な!!』


再会は警察病院の一室であった。傷は深く、失血も多かったためもはや時間の問題だった。


『何故、こんなことに……』

『あの男に……会ったから……』


かつて自分を傷つけた男が、彼女だと気付かず言い寄ってきたのである。その時、彼女は
ちょっとした復讐心に駆られた。けんもほろろにフッてやり、恥をかかせてやったのである。

……しかしその代償は余りにも大きかった。


(俺は迂闊にも、彼女の心が傷付いていたのを見逃した……医者はただ肉体を癒せばいい訳ではない)


黙ったまま俯いているKAZUYAの顔を、どこか自信のなさ気な石丸が心配そうに覗く。


「あの、先生……急に黙り込んで、どうかされたんですか……?」

『先生……私、綺麗になったでしょ……』


KAZUYAの記憶の中の彼女と今の石丸――瞳の奥に存在するほの暗い暗闇が、ぼんやりと重なった。

会話が出来れば、意識があればいいのではない。KAZUYAが取り戻したかったのは、
時間を見つけては保健室に来て力強く夢を語り、いつも屈託なく笑っていたあの姿だ。


(俺に出来るか? ……いや、出来る出来ないの問題ではない。やるんだ!)

(医師として、病んでいる者を放置することは出来ない! ……それに)


この先は考えないようにした。


「……石丸。俺はこれからお前の心にメスを入れる」

「心に、メス……?」


「お前がおかしくなったことの根本に、お前の天才に対するコンプレックスがあるだろう?」

「!! それは……!」

「それを取り除かない限り、きっとまた今回と同じようなことが起きるぞ」

「…………」


KAZUYAの指摘に石丸は俯き、ぽつりと呟いた。


「僕は、負い目を感じていたのでしょうか」

「…………」

「天才を憎み努力こそ至高と言いながら、その反面いくら努力しても追い付けない自分に僕は負い目を……」

「それがそもそもおかしな話だ。お前は本当は天才が憎いんじゃない」

「――祖父が憎いのだろう?」

「!!」


それは、サウナで石丸の話を聞いた時からKAZUYAがずっと感じていたことだった。
以前の石丸だったら顔を真っ赤にして反論してきそうなかなりデリケートな話題であったが、
石丸は力無く項垂れ手で額を押さえると、最終的には肯定した。


「わからない。いや……そうなのかも、しれません」

「僕は弱いから、家族を不幸にした祖父を直接憎むことが出来ず……その代わり、
 世の天才達に祖父の罪をなすりつけていた。彼等だって、本当は陰で悩んだり
 努力していたりするのに……ずっと見て見ぬ振りをしてきた」

「そうだな。それは他人の過ちを認められないお前の弱さであり……責められない優しさでもあった。
 でも、今なら全部受け入れてやれるんじゃないか? 大和田の罪を認められたお前なら」

「……………………」


目を閉じ眉間に深い皺を寄せ、石丸は沈黙した。長い長い葛藤だった。
それでも、何とか自分の中で整理をつけることが出来たらしく、最後は素直に頷いた。


「そうですね……今なら、祖父とだってちゃんと向き合えるかもしれない……」

「……今更、かもしれませんが」


石丸はもう祖父を責めることも許すことも出来ない。何故なら祖父は死んでしまったからだ。
それが心残りではあったが、自分の気持ちを認められて少しは楽になったようであった。


「ありがとうございます、先生。僕の天才に対する憎しみを解いてくれて……」


これで終わりでも良かったのだが、KAZUYAは一つだけどうしても納得出来ないことがあった。


「……俺に言わせれば、この世に完全な無才の人間や不必要な人間なんて一人もいないがな」

「先生、気持ちはわかりますが気休めは止して下さい。現に……」

「例えば気遣いの天才、笑顔の天才、ムードメーカーの天才とか……そういう才能の持ち主がいたとして、
 彼等が希望ヶ峰にスカウトされるかと言ったらされないだろう。実績がないし世間の評価もないからな」

「…………」

「結局は金になるか、世間の評価があるかないかだ。だが、そういった人達が要らないかと
 言えばそんなことはないだろう? 偉大な成功者は、大体口をそろえてこう言う……」

「『自分が成功出来たのは自分だけの力ではない。支えてくれた周りの人間のお陰である』と」

「…………」

「本人が気付いてないだけなんだ。どんな人間だって必ず何かの才能を持っている。
 そして、周囲の人間に何らかの影響を与えたり逆に与えられたりしているんだ」

「……まあ、中には桑田達のように本当に才能だけで突っ走っている真の天才もいるが、
 大半の人間は周囲の人間の支えあってこその成功だと俺は思うぞ? 現に俺は今も
 苗木に助けられている。ここの個性的なメンバーを円滑に回す潤滑油的存在――」

「――あいつは“気遣いの天才”だよ、全く」


ククク、と喉を鳴らしてKAZUYAは笑う。逆に石丸は呆然とした様子で呟いていた。


「みんな……気付いていないだけで才能を持っている……不必要な人間なんていない……」

「お前だってちゃんと持っているだろう? ――お前は“努力の天才”じゃないか」

「努力の、天才……」


「大したものだ。あんなに不器用なのに、時間をかけて何でも吸収していくのだからな」


ポン、とKAZUYAは石丸の肩に手を置く。


「俺は過去に希望ヶ峰とはまさしく真逆の、所謂落ちこぼれと呼ばれる子供が通う高校の
 校医をやっていたんだがな。……彼等が希望ヶ峰の生徒に劣っているとは少しも思わんっ!」

「みんな何かしらの素晴らしい長所を持っていた。俺から見たら、どちらも素直で可愛い生徒さ」


そう言って笑いかけるKAZUYAに対し、石丸は鼻声になりながら答えた。


「西城先生は……先生はきっと、人を励ます天才なんでしょうね……」

「フフ、それは俺にとって超国家級の医師よりも嬉しい称号だ」

「……染み、渡りました。先生の言葉……僕の魂に……!」


石丸の目に活力が戻る。赤い瞳が、以前のように煌々と燃え上がる。


「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした! 風紀委員でありながら、何度も何度も先生の
 お手を煩わせ……本来は僕が前面に立ってみんなを纏めるべきなのに、恥ずかしい限りです!」

「もう二度と、このような過ちは犯せない。今まで以上に働いて汚名をそそがなければなりません!」


石丸はまた以前のような勢いを取り戻し、食ってかからんばかりにKAZUYAに迫る。


「ハハ、頑張ってくれ」

(そうだ。これが本来のお前の姿だ!)


「うおおおおおおおお! 燃えてきたぞおおおおおおおおおおお!!」

(まあ……正直な話、俺が出しゃばらなくても今のあいつらなら自分達の力だけで石丸の
 コンプレックスを取り除くことも出来ると思うが、今回俺は何もしていないからな)

(何か一つくらいしてやりたいじゃないか。……これがいわゆる親心というものなのかな)


朝日奈や不二咲に父親扱いされ、KAZUYA自身もだんだん満更でなくなってきてしまった。
結婚はまだ考えたくないが、子供は欲しいかもしれないなどと呑気に考える。


(その前に脱出の手立てを考えねばならんのだが)

「先生! また以前のように色々教えてください! 先生から学ぶべきことはたくさんあります!!」

「そう力まなくても良いんだぞ?」

「いいえっ! 僕は風紀委員ですからっ! やらなければいけないんです!」

(……ん?)

「まず何をすべきでしょうか? ……っと、ああ! 僕はもう二週間以上も勉強をサボっている!
 急いで勉強しなければ! それに課題も! 引きこもっている腐川君も放置すべきではないし……」

「何と言うことだっ! やるべきことが山積みだぞっ!!」

(……これは)


この時、やっとKAZUYAは気付いたのだ。石丸の心にはもう一つ病巣があるということに。

しかしそこに手を出すかは非常に悩んだ。天才に対するコンプレックスが除去すべき癌ならば、
これは言ってしまえば良性腫瘍だろう。場所と大きさによって取らなければならなかったり
逆に無理して取ったことにより傷を付ける可能性もある。心の病は目に見えない。


(もしかしたら、今度こそ触れるのは地雷かもしれんな……だが、俺は……俺は……)


ここまで。

今回の挿絵は結構気に入ってる

乙です


原作でもあのエピソードは印象的だったから拾ってくれて嬉しい

乙です
この話なぁ…なんともやるせないエピソードだったな


美人に生まれ変わっても幸せになれないっていうあの話が出てくるとは…
そして石丸にはまだ爆弾があるのか…

あの話が出たか…

次の投下(恐らく週末)で医療編は終了予定なので、スレに余裕があって良かった

次スレですが、スレタイは絶望姉妹にすると言ったな。ありゃ嘘だ。スレタイ考えてたら
どう考えても絶望姉妹はラストだろと思い直し代わりに十神腐川を前倒しすることに


1,十神「十神の名にかけて!」腐川「救ってみせなさいよ…ドクターK」ジェノ「カルテ.5よん」
2,十神「十神の名にかけて!」ジェノ「負けんじゃねえぞ、ドクターK!」腐川「…カルテ.5よ」
3,十神「俺は負けん!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5よん」


投票ヨロ


モノクマ「あ、そうそう。話は変わるけどボクねえ、先日噂のダンガンロンパ the Stageを鑑賞してきました!」

モノクマ「ボクってこの手のイベント初めてでね。正直お客の9割は女性なんじゃないかとビビりながら
      行ったのですが、意外にも結構たくさん男性もいましたね。割合的に言うと女6:男4くらい」

ウサミ「カップルで来てる人も結構いまちたし、愛されてまちゅねえダンガンロンパ。らーぶらーぶでちゅ」

モノクマ「で、肝心の内容ですが……ネタバレは出来ないけどクッソ面白いから。ホント。ホント、マジで!」

ウサミ「公式HPでDVD・BDを【11月10日】までに予約すると……何と!
     【小高和剛監修・上演台本の縮小版】がついてきまちゅ! 今だけでちゅ!」

モノクマ「買え、オマエラ!」

ウサミ「ストレート過ぎじゃないでちゅか?! スパチュンの回し者かと思われるでちゅよ!」

モノクマ「ギクッ。べ、別にダンガンロンパ3が見たいから言ってる訳じゃないよ! ただ再演するなら
      もう一回観に行く程度には出来が良かったというか…ぶっちゃけ1が一番驚いてたり…」

1

乙です 3

ダイレクトマーケティング乙
3

乙乙
1

自分も舞台楽しんできた
特別傍聴席だったから鑑賞後に特典で貰った台本見たけどアドリブ凄く多かったよ
円盤買うなら是非台本付をおすすめしたい

乙です
舞台版はBD予約しました、早く観たい
今のところ十神に良いところがないから、3がしっくりくるかなあ

1
絶望シスターズ最後に回すなら次は朝日奈達かと思ったけど違うんだな

3かな、今のとこ十神は「十神の名にかけて!」って感じじゃないし

ジェノ「笑顔が素敵な…」十神「ドクターK!どういう事だ説明しろ!」腐川「か、カルテ.5よ…」

1でお願いします

これが終わったら絶望少女か。あの腐った大人どものせいで壊れた希望の戦士にに人の良いとこ・悪きところを見続けても
腐らないでかっこいい大人でありつづけるKAZUYAが見せつけてほしいな。

有力情報ありがとうございます
舞台は時間が無くて行けなかったから円盤買おうと思ってた
脚本か……めっちゃ見たい

あ、3でお願いします


モノクマ「拮抗してる…だと。まだスレに余裕があるしもうちょい待つか。待ちついでに
     宣伝のみならず、舞台のネタバレなし感想も書いちまうぜ、ヒャッハー!」

ウサミ「誰得でちゅか……というか、無駄話する暇があるなら早く続きを投下するでちゅ!」

モノクマ「しょーがないでしょ! 挿絵がまだ終わってないんだよ! 絵は家じゃなきゃ描けないし!」

ウサミ「申し訳ありまちぇんが三次元とか興味ねーよって人は飛ばしてくだちゃい」

モノクマ「っつーかね、ぶっちゃけると全く期待してなかった! 舞台化? え、嘘でしょ?
      しかも葉隠兼演出がノンスタの人とかないわー。マジないわーと思ってた」

ウサミ「失礼すぎでちゅ! じゃあなんでチケット取ったんでちゅか?!」

モノクマ「そこはほら…ボクって勉強熱心なクマだからさ。万が一舞台で新設定出たらどうしようって。
      他にも、SSに使えるかなとか。でさぁ、公式サイトでちょっとずつキャラが公開されて…
      あれ、もしかして面白いんじゃね?って気になってきて、当日……実際めちゃくちゃ
      面白かった訳だよ! 石田明さん、馬鹿にしてすんませんでしたっ(土下座)!」

ウサミ「嬉しい誤算でちたね。役者さんは各キャラにピタッとハマってまちたし。特に1が良かったと思ったのは、
     江ノ島さん、山田君、セレスさん、葉隠君、石丸君でちゅかね。他のみんなも勿論良かったでちゅよ!」

モノクマ「…正直ね、細かい粗は勿論あるよ? アニメでさえ尺足りないって言われてたのに三時間だもん。
      カットした設定を箇条書きにしたらこれカットしたの?!って声はかなり上がると思う。しかも劇場が
      古くて予算もないのか舞台美術はないも同然。爆発は音だけ、オシオキも…うん。ボクもぬいぐるみだし」

ウサミ「時間の関係上やっつけな死に方をした生徒もいまちた…。でも! その代わりそういうキャラは出番を
     増やしたり、削った設定をフォローする台詞やアレンジを入れてバランスを取っているのでちゅ!」


モノクマ「ちゃんと全キャラに見せ場が用意してあったのが良かったね。表のMVPが江ノ島さんなら裏のMVPは
      まさかの山田君! 一番笑いを取ってた。石丸君も色々と凄かったね。…あれで良かったとボクは思う」

モノクマ「あとね、何なの? 絶女といい舞台といい、今は桑田君の株を上げようキャンペーン中なの? 本当ね、
      もう凄い好きになった! マジでいい奴だよ彼は。かと言って舞園さんへのフォローもしっかり入ってるし」

モノクマ「え? 舞台見たくなっちゃった? 見たくなっちゃった?」

ウサミ「そんなあなたにD・V・D! 参考にゲネプロの動画も貼っておきまちゅからよろしくでちゅー!」

ゲネプロ(公開リハーサルみたいなもの)
http://www.youtube.com/watch?v=-Rg35Hfzmsg


>>906
モノクマ「ボクも台本付きがいいと思うね。ボクが見た時は特に問題なかったけど、回によっては
      台詞長すぎてちょっと噛んじゃう子もいたと聞いたし。時間がないから全体的に早口気味」

ウサミ「そんな中、最大の台詞量を誇りながら全く噛まず滑舌も良かった苗木君に拍手! 流石主人公でちゅ!」

モノクマ「あとアドリブと言えば、山田君のギャグは日替わりで変わると聞いて驚いた。舞台スレに
      一部内容が書いてあったね。映画のDVDの特典でよくNG集とかオマケ特集とかあるから
      あんな感じでアドリブ集も入れてくれればいいんだけどなぁ。この思いよ、関係者に届け!」

>>908
このスレでは引きこもってましたが、十神君はコンスタントに出番があって存在感もありますからね
次スレでもきっと活躍してくれると思います(敵役的な意味で)

>>910
ネタ出しありがとうございます! もう先着三票入ったやつにしようかな……


乙です



「……お前、さっきから何々『すべき』ばっかりだな」








「え?」


石丸は何故KAZUYAが不機嫌そうな顔をしているのかわからず戸惑った。


「それは本当にお前の意志なのか? それともそれが周囲から求められた役割だからか?」

「先生が、何を……仰っているのかわかりません」

「意識的か無意識かは知らんが、お前はいつも周りの期待通りに動いていないか? 親が望むから
 勉強する、教師が望むから優等生でいる。規則を破れば周りに迷惑をかけるから破るべきではない」


目上であり教員のKAZUYAには比較的従順な石丸だが、流石に黙っていられず反論する。


「……それの何がいけないのですか? 先生は知っているでしょう? 僕の家庭の事情を。
 僕の両親はとても苦労しているのです。僕は家族に迷惑などかけられないのですよ!」

「それ自体は非常に立派な考えだと思うが、少し無理をし過ぎていないか? 周りの期待通りに
 動かなければと言うプレッシャーも、今回のことに大きく関わっているのだろう?」

「そうですけれど……もう、僕は足を引っ張ったりは……!!」

「聞いてくれ、石丸。俺が何故こんなことを言うかわかるか?」


KAZUYAは静かに見下ろした。その眼差しは非常に穏やかだったがどこか影を帯びていた。
有無を言わせぬその姿に、石丸も落ち着いて質問を返す。


「……何故ですか?」

「俺はな。お前に――俺のような人間になって欲しくないんだ」

「何故ですっ?! 先生はとても素晴らしい方ではありませんか!!」

「ドクターKとして見れば、確かにそうだろうな……」


KAZUYAは寂しそうに笑った。
その顔に、石丸は今まで見ていた人間とは別の男の顔を垣間見たのだった。


「え……?」


「よく聞いてくれ。俺にはな……プライベートと言うものがないんだ。仕事仲間と飲みに
 行くくらいはするが、結局いつも近況報告や仕事の話ばかりになってしまう」

「何故なら俺には趣味がない。遊びにも行かない。時間が空けば、全て治療か研究か
 トレーニングに割いている。ついでに言うと、医学部より前の友人は一人しかいない」

「今お前の目の前にいる男は“ドクターK”と言う医者であり“KAZUYA”と言う個人ではないんだ」

「…………」

「何故こんなことになったと思う? 前にポロの話をしただろう。……あれから俺は一切親父に
 逆らえなくなった。周囲の期待通り、医者になることだけを考え機械のように勉強した」

「親父が事故で死んでからはその遺志を継ぐことしか考えられなくなった」

「その結果が今の俺だ――」


いつも暖かく優しいKAZUYAがこの時ばかりは機械のように見えた。KAZUYAの刺すような視線に
耐えられなくなったのか、もしくはその姿がどこか痛々しかったからか、石丸はつと目を逸らす。


「後悔……しているんですか?」

「少しだけな。俺はもう医師としての生き方以外は想像も出来ないんだ。
 普通の人間としては……空っぽなんだよ。お前にはそんな生き方をして欲しくはない」


KAZUYAは医師ではなく、純粋に一人の人間として言葉をぶつけていた。


「学生のうちだけだぞ? 仲間と馬鹿を出来るのは。大人になって社会に出たらそうはいかん」

「もっと好きなことをしていいし、我が儘を言ってもいいんだ。少しくらい周りに迷惑をかけてもいい」

「でも、僕は……」


「今のままだとお前は確実に俺と同じ道を辿る。だから言っているんだ」

「……今まで、たくさん我慢をしてきたじゃないか。もういいんだ」

「でも……」

「優等生なんてやめろ。お前が今本当にやりたいことは何だ!!」

「僕の本当にやりたいこと……」

「何でもいい。言ってみろ」

「…………」

「…………」

「…………です」


呟く。


「みんなと…………もっとたくさん、遊びたい……です」


まるで教師に追及されて悪いことを白状するかのように、その顔は苦しげだった。


「他には?」

「え?」

「まさか一つだけじゃないだろう? 折角だ。全部言え」

「え、そう言われても……ここで出来ることには限りが……」

「いいから全部言えっ!」クワッ!

「は、はい!」


KAZUYAに押され、石丸は指を折りながら思い浮かんだことをとにかく無造作に挙げていく。


「えっと、兄弟のバイクに乗せてもらいたいです。不二咲君も一緒に三人で遊びに行きたい」

「それから?」

「友達の家に遊びに行ってみたいし……あと、さっきのライブで思い出したんですが、
 一度はカラオケをしてみたいです。僕は寄り道を禁じてたから行けなかったけど、
 あれだけみんなが好きなゲームセンターも本当は少しだけ興味があったし……」

「それから?」

「遊園地とか、映画館とか行ったことがないから行ってみたい。友達とキャンプがしたい。
 春はお花見をして、夏は海で泳いで、秋は紅葉狩り、冬はスキーに行って……それから」


最初は遠慮がちだったのに、いざ言い始めてみると詮の開いた蛇口のように止まらなくなった。
自分はこんなにも内心に不満を溜めていたのかと、当の石丸本人が一番驚いていた。

逆にKAZUYAはさもありなんという顔をして見つめている。


(超高校級の肩書も、優等生でいることも確かに立派なことかもしれない。……だが、普通でいいんだ。
 俺はお前に普通の人間として普通の、当たり前の幸せを手にしてもらいたいんだ)

(――俺が手に出来なかった分も併せて、な)

「今まで我慢して言えなかったこともたくさんあるんじゃないのか?
 ついでに言っておけ。俺が全部受け止めてやる!!」


……勢いに任せKAZUYAがそう言った時だった。

石丸は紅い瞳をギラリと光らせ、跳ねるように顔を上げた。


「言えなかったこと? 本当はもっと両親と過ごしたかったことですか??
 授業参観に来て欲しかったこと? 僕の誕生日に家にいて欲しかったこと??」

「石丸……」


――瞳に狂気が宿る。

あっ……


「帰った時家に一人なのは嫌だったこと? 他のクラスメイトみたいに家族で出かけたかったこと??
 一緒にお風呂に入ったりキャッチボールをしたり勉強を見てもらったりしたかったこと??」

「お父さんもお母さんもいつも仕事で学校の行事にもろくに来られなくて、
 でも二人共疲れてるから本当は学校の話もしたいのに言えなくて、それで僕は……!」

「…………」


一気に話しすぎて息が切れたので、一度止まって荒い呼吸を繰り返す。そしてとうとう、
感極まった石丸は叫んだ。いつの間にかその目からはとめどない涙が溢れ出していた。


「……そうですよ。我慢していました。僕はずっと我慢していたんです! ずっとずっと、ずっとッ!!」

「どうして僕達ばっかり我慢しなくちゃいけないんですか?! どうしてうちばっかり
 嫌な目に遭うんですか?? 一体僕や両親が何をしたって言うんですっ?!」

「そうだな……」

「何で誰も助けてくれないんですかッ?! どうして僕はいつも一人なんですかッ?!」

「……ああ」

「本当は凄く辛かったし苦しかった! でも誰にも言えなくて、それで……!!」

「わかった……わかった」


KAZUYAは自分にしがみついてわんわんと泣き始める石丸の肩を抱き、そっと頭を撫でてやる。
同じようにヒステリーを起こした朝日奈を思い出し、やはり深入りして良かったと感じていた。


(石丸は人一倍忍耐力のある男だ。だから、文字通り本当に壊れる限界まで我慢していたのだろう)


そのまま壊れないでくれて良かった。助けられて良かった。
顔はいつも通りだが、KAZUYAは心から安堵してホゥと息をつく。

一方、石丸の中にも変化があった。


(誰かに抱きしめられたり頭を撫でられたりするのは、一体いつ振りなんだろうか……)


遥か昔、物心ついた時にはもうそんなことはなかった気がする。
石丸は興奮しろくに回らない頭で、ぼんやりと彼の半生を思い返していた。


――――――――――――――――――――――――――――――


――僕の祖父は政治家だった。

それ故我が家は、周囲の普通の家とはかなり違う特殊な家庭だったのだ。

 まず一つ目だが、政治家というのは本人は当然のこと、実はその家族も非常に大変なのだ。
父は祖父に恥じないよう人並以上に働いた。母も祖父を支えるため、支援者に挨拶回りをしたり
町内会の活動に参加したりと、家を留守にすることが多かった。家には入れ替わり立ち替わり
祖父の関係者がやって来たが、幼い僕が邪魔をする訳にはいかず、いつも一人で遊んでいた。
……恐らく、みんなから僕は手のかからない子だと思われていた筈だ。

 そしてもう一つ、粗相をして祖父に迷惑をかけてはならぬと、とにかく我が家は躾に厳しかった。
三つ子の魂百までと言うが、僕が規律や規則に非常にうるさいのは専らこれに由来する。
毎日疲れて帰ってくる両親に迷惑をかけたくなくて、僕は一度言われたことは完璧にこなした。
 そんな優等生な僕を、祖父はとても気に入って可愛がった。……と言っても、祖父には
天才故の孤高さというか一種の気難しさのようなものがあって、膝に乗せたり頭を撫でたり
一緒に遊ぶなど、そういう普通の祖父母がするような行為は一切しなかった訳だが。

 いつも僕は和室に正座し祖父の話を聞いていた。或いは、囲碁や将棋を教わったりしていた。
才能がなかったからか単に祖父が強かったからか、何で勝負をしてもついぞ勝てたことはない。
両親に甘えられなくて多少は寂しい思いをしていたが、それでも僕は満足していたのだ。

全てが変わってしまったのは僕が小学生の時――

 祖父が汚職をして失脚した。当時のマスコミは今以上に酷くて、親類縁者ならたとえ子供だろうと
しつこく付け回した。学校にまでマスコミが押しかけ、クラスメイトはみんな僕の元から離れていった。

……そして、いじめが始まる。机に落書きをされたり陰口を叩かれた。時々物がなくなった。
でも、僕以上に大変な両親に心配をかけられなくて、僕は誰にも何も言わずただ一人でジッと耐えた。


 何より不味かったのは、焦った祖父が巻き返しを図ろうとよく知りもしない事業に手を出したことだ。
いくら祖父が天才肌といえど、基礎を全く知らずに応用が出来る訳がない。大学に行かずまともに
働いたこともない祖父に事業など到底出来るはずもなく、当然失敗。我が家には重い借金がのしかかった。
 その借金を返すため、父は今まで以上に働きほとんど家にいなくなった。母もパートを掛け持ちし、
元々専業主婦だったとは思えないくらいに働いた。家にはまだ祖父がいたが、あんなに社交的で
出ずっぱりだったにも関わらず、書斎に引きこもって出てこなくなってしまった。


ただいまと言ってもおかえりと言ってもらえない。家にいても学校にいても僕は一人ぼっちだった。


 以前は多忙の中でも何とか家族の時間を作ったりもしていたが、その余裕すらなくなってしまった。
家族がバラバラになってしまったのだ。こんな状況が嫌だった。元凶である祖父を憎みたかった。

 ……でも、あんなに溌剌としていた祖父が老いぼれて人間嫌いになり、世間を醜く怨んでいる姿が
どこか哀れで、僕はどうしても祖父を憎みきれなかった。代わりに祖父を狂わせた才能を憎むようになった。
才能なんてものがあっても中途半端に成功するだけで、結局最後は本人も周りも辛い思いをするのだ。

 努力で身につけた力は自分を裏切らない。努力し、苦労し、他人の辛さをわかる人間こそが
上に立てる、そんな世界を誰かが作るべきなんだ! 誰もやらないなら僕がやってみせる!!

 周りは祖父の雪辱戦などと言ったが、僕は僕の信念のために政治家を目指した。幸い、時間は腐る程ある。
同い年の子供が家族と過ごしたり友達と遊んでいる時間全てを費やして、僕はただひたすら勉強した。
 政治家は体が資本だ。いじめにも負けないよう、武道を始めた。風紀を正すのが政治家に繋がる気がして、
中学一年生の時からずっと風紀委員を務め、生徒会のメンバーにもなった。だが、外のことに熱中して
家のことを疎かにする訳にはいかない。仕事で家を空ける両親のために、家事も出来る限り手伝った。
みんなには言えなかったが、不器用な上に男の僕が料理を出来るのは実はこういう事情があったのだ。

家族からも教師からも僕の評判は良かった。家の外でも中でも、僕は非の打ち所のない完璧な優等生だった。


そして……


とうとう僕は長年の努力を認められ、政府公認の特別な学校『希望ヶ峰学園』に入学を認められたのだ!


嬉しかった。何の才能もない僕が、選ばれた天才達と肩を並べられる日が来るなんて。
努力の力で彼等を追い越す日も遠くない。そう、歓喜の涙を流したものだ……。




―でも。




―違うんだ。


―僕が本当に欲しかったのはそれじゃないんだ。




嬉しくなかった訳じゃない。あの時の気持ちは本当だ。
両親の涙ぐむ姿を見て、僕は喜びにうち震えていた。

この日のためにずっと頑張ってきたんだと思った。
諦めないで努力をし続けて、良かったと心から本当に……





―でも、けれども、だけど。








僕は、





本当は、


















普通の生活がしたかったんだ。




家には家族がいて、学校には友達がいて、遅くまで遊んで時々家族で遠出して……

そんな普通の生活がしたかった。


でも、言える訳がない。子供の僕でさえこんなに辛かったの だ。
両親は大人だから、もっと辛い思いを数え切れないほどしてきただろう。
そしてその思いを、息子にはけして悟られないよう生きてきたのだ。

だからこの思いは絶対に言えない。

死ぬまで僕の胸にしまっておくんだ。


―そう思っていたのに。


―鋼より堅い決意のはずだったのに……


気付けば僕は西城先生の胸にしがみついて泣き叫んでいた。今まで、己の情けなさや不甲斐なさを
恥じて泣いたことは数あれど、子供のように我が儘を言って泣いたことはかつて一度としてなかった。

今から思い返すと、高校生にもなって子供のように泣きじゃくるなどみっともないことこの上ない。
しかも僕は、あれがしたいこれがしたいと小さい子供のように駄々をこね、たくさん我が儘を言ったのだ。

……生まれて初めて誰かに我が儘を言った気がする。

けれども、先生は少しも困ったそぶりを見せないばかりか、今度一緒に行こう、
みんなと遊ぼうと一つずつ約束をしてくれた。中には家に帰りたい、もうこんな場所は
嫌だといった無茶な内容もあったが、絶対に俺が出してやると先生は力強く宣言してくれた。

そうして、僕が落ち着くまで先生はじっと付き合ってくれたのだ。


――――――――――――――――――――――――――――――


「わああああああああああああああ! さいじょおぜんぜぇぇえ! うううう、グスッ、ヒグッ!」

「少しは落ち着いたか?」ハナヲカメ


人心地ついたと見ると、KAZUYAは石丸にちり紙を渡してやる。

ズルズル、チーン!


「ヒック、エグッ、あうぅ……」

「落ち着いて、深呼吸しろ」

「スーハー、スーハー……あ、あの、先生……僕、何だかその……大変お見苦しい所を……」

「子供はそんなこと気にしなくてよろしい。それより……これですっきりしたか?」

「――はいっ!!」


いつの間にか白くなっていた髪が元の黒髪に戻っていた。
何より、石丸の怨念がそのまま渦を巻いていたかのような狂気が瞳から消えている。


「じゃあ、さっさとみんなの所に戻って好きなだけ遊んで来い。……俺も用事が片付いたら行く」

「わかりました! 待っています!!」


一度去りかけ、バッと振り返ると石丸は改めて頭を下げる。


「あの、本当にありがとうございましたッ!!」ニカッ!


そのまま、また以前のように勢い良く扉を開けて元気に去って行く。


(……そうだ。それでいいんだ)


KAZUYAは穏やかな顔で笑うと、再び扉に向き直る。


「……次はお前の番だな。大和田」

「よ、よう……」


声をかけると、気まずそうな顔をした大和田がノソノソと保健室へ入ってきた。


「全部聞いてたんだろう?」

「?! なんでそれを……」

「ドアの窓にお前の髪の影が映っていた」

「……ああ、そうか。べ、別に盗み聞きしてたワケじゃねえぞ! 用があってここに
 来たら、兄弟とあんたのデカイ声が聞こえてきて、入るに入れなくてだ……」

「いや、いいんだ。話す手間が省けたからな」

「……なんだよ。今度は俺に説教でもするのか?」

「いや、逆だ。謝ると言う訳ではないが、少し話がしたかった」

「話?」

「前に体育館で偉そうなことを言ったが、本当は俺はお前にあんなことを言える資格はないんだ」

「……どういうことだよ」

「お前を見てると昔の俺を思い出すと言っただろ? 俺もな、ずっとコンプレックスを持っていたんだ」

「…………」

「俺の場合は親父だった。強くて優秀で職人気質の、如何にもな頑固親父だったよ。
 成長して医学の知識が増えれば増える程、俺にとって親父は強大な壁になった」

「その上、俺の一族は色々と特殊でな。周囲からの期待もあってとにかく
 プレッシャーが凄かったんだ。だから学生の時はお前以上に鬱屈して捻くれてたよ」

「親父の締め付けがきつかったのは小学生までだったが、中学に上がってからも俺はいつも周りと距離を
 取っていた。俺は彼等とは違うんだという思いが強かった。……今から思えば勿体ないことをしたな」

「……どうやって、乗り越えたんだ?」


大和田がKAZUYAの瞳を見上げる。


「確か、親父さんは死んじまったんだろ? ……死んじまったら、もう乗り越えられねえじゃねえか」

「……乗り越えられなかった。ただ、自分の中で整理せざるを得なかったんだ」

「整理?」


KAZUYAは大和田に事故の詳細を語って聞かせた。

放射線治療の可能性を探るため、父・一堡(かずおき)は友人であり帝都大教授の柳川慎一郎と
KAZUYAを連れ、原子力研究所に赴いていた。その際、想定以上の地震が発生し建物が部分的に損壊、
放射能が漏れ出すと言う事態になった。シェルターに避難した一同だが、扉に瓦礫が引っ掛かって
閉まらず、一堡はそれを除去するため死を覚悟で一人外に残った。

怪我人が多数いたが、頼りの父親はいない。父は自分達を生かすために自ら死地に立った。
その苛烈過ぎる経験が、KAZUYAを医者として覚醒させその使命を自覚させることになったのである。


「たくさん後悔したし悩んだよ。俺がもっと強ければ親父を助けられたのにとか、
 親父が救えなかった人々を俺が救わなければならない。俺にそれが出来るのかとか」

「……重ぇな」

「ああ、重かった。でも背負うしかないんだ。俺にそれ以外の生き方なんてない。だから、
 人を救うことを俺の生きる目的とし、親父の死もその中に組み込んで無理矢理整理したんだ」

「……本当にすげえな、あんたは。俺には、到底出来ねえ生き方だ……」

「いや……俺の場合は親父が俺に道を示してくれたからというのもある。もしお前のように
 自分のコンプレックスのせいで親父を死なせてしまったら、俺は道を間違えたかもしれない」

「ポロのことで懲りてなかったら、俺ももっと反抗的だったと思うしな」

「…………」

「だから、お前の気持ちがわかると言ったんだ。学生なんてわからないことだらけで
 迷うことも悩むこともたくさんある。お前は何もおかしくないし弱くもない。気負うな」

「……おう」


それで会話は終わりのつもりだったが、大和田は突っ立ったまま何かを考えていた。


「そろそろ俺も戻るとするかな」

「……なあ」

「ん?」

「頼みがあんだけどよ」

「何だ?」

「桑田じゃねえが……俺の髪も切ってくれねえか?」

「……俺は病院の人間かもしれんが美容院の人間ではないぞ?」

「頼むよ。あんたに切って欲しいんだ」

「まあ、どうしてもと言うなら構わんがいいのか? その髪にはこだわりがあるんだろう?」

「……いいんだ。どうせ大人になって働きだしたら切らなきゃなんねえしな。一種の断髪式だ!」

「わかった。そこまで言うなら引き受けよう。……失敗しても恨むなよ」

「そ、そういうこと言われっと不安になんだろ?! あんまバッサリはいかないでくれ!」

「……わかった、わかった。善処する」

「じゃあ、頼むぜ。センセイ!」ニッ!

「!」


その時、KAZUYAの目にかつてあった光景が浮かぶ。


『オス、KAZUYAセンセイ! これから飯っすか?』

『良かったら、僕達と一緒に食べませんか?』

『西城先生のお話、もっとききたいなぁ』


「…………」フッ

(大人になったら、か。――そう遠くないだろうな)


・・・


桑田「せんせー、おせーよ……おあっ?!」

朝日奈「KAZUYA先生、おそーい! あ、えっ?! 大和田?!」

山田「なんと! 桑田怜恩殿に続き大和田紋土殿までイメチェン?!」

江ノ島「うわっ、リーゼント以外の大和田初めて見た! けっこーイケルじゃん!」

ジェノ「ヤッバい。キタわぁ! でもでもアタシには白夜様がいるし~。あーん、どうしよ?!」

石丸「ウム! 男前になったではないか、兄弟!」

不二咲「格好いいよ、大和田君!」

大和田「へへっ、改めてよろしくな。オメエら!」

葉隠「うし、全員揃ったことだしもっかい最初からだべ!」

セレス「あなた、負けが込んでるからどさくさに紛れてなかったことにするつもりではありませんか?」

苗木「細かいなぁ。今日は凄く良い日なんだから、いいじゃない」ハハ

舞園「そうですよ。見逃してあげましょう」

十神「冗談ではない。負けは負けだ。そこで容赦するから貴様等は愚民なのだ」

大神「……お主は相変わらずキツイな」

霧切「構わないわ。十神君が優しくなったら天変地異が起こるもの」

石丸「よし! 兄弟と先生も含めてもう一回だ!」

K「俺はゲームは苦手だからお手柔らかにな」


ハハハハハハ! ワイワイキャーキャー!


              ◇     ◇     ◇


誰もが笑っている団欒のさ中、一人黒幕は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「つまんね」

「つまんねつまんねつまんね!」

「あああああっ! つまんねっ!!!」

「え? 何なの? あんな安っぽい感動劇で元に戻っちゃうの? 何それ、茶番? ふざけてんの?」

「っつーか治るなよ! 空気読めよ! だからおめーはKYなんだよっ! このKY多夏!!」

「西城の奴もさ、今回何一つ役立ってなかったくせに何最後の手柄だけちゃっかり
 取ってんの? 一仕事したような顔つきしちゃってさ。いちいちドヤ顔うぜえんだよ!」


ひとしきり愚痴をこぼし、やけ酒ならぬやけ菓子を煽りながらやっと黒幕は落ち着く。


「……ま、いっか。動機はまだあるし、次の動機は確実に動く奴いるもんねーだ。
 こっちにはまだ内通者って切り札も残ってるし。状況は全然変わってないじゃん」

「それに、あれよ。あんま同じような展開ばっかり続けると視聴率にも響いちゃうし?
 ここらでちょっとした息抜き入れてもいいかもね。要はコマーシャル的存在な訳です」

「そう! そうなのよ! これは次に訪れる絶望的展開の前の前菜でありインターバルって訳!」

「アイツ風に言うなら……希望が大きければ大きい程、その後に
 訪れる絶望はより大きく深いものになる、って所かしらね」




「うぷぷ。うぷぷ。うぷぷぷぷぷぷ! キャッハッハッハッハッハッハッハッ!!」


― 学園の外 とある廃ビルの一室 ――


古ぼけたソファーの上に、長い黒髪の男が座ってテレビを見ている。


『アハハハハ!』

『ワハハハハ!』


「…………」

「あれ、珍しいね? 君がテレビを見てるなんて」


後ろから声を掛けられるが男は振り返らない。後ろから誰かが近付いていることも
それが誰なのかも何を言うのかすら、その男にはわかっていたからだ。


「いくら僕でも、ただ座っているだけで頭に情報が流れ込んでくる訳ではありませんから」

「なら、わざわざ自分で見なくたって手っ取り早く誰かに結果だけ聞けばいいのに」

「人づてに情報を聞くのは不確かですからね。その情報がどの程度正確かは話者の
 記憶力や情報処理能力に依存しますし、余計な解釈がつくこともあります」

「ふーん。一切余分な要素のない生の映像を見たいんだ」


すると、後ろに立っている白髪の男はわざとらしい声を上げる。


「あれ? でも、先が予測出来るドラマはツマラナイって前に言ってなかったっけ?」


男が何と答えるかわかっていて悪戯っぽく問い掛けていると気付いていたが、意地にならずに素直に答えた。


「……予測が外れました」

「どんな風に?」


「いかにドクターKと言えど、石丸清多夏の心の病は治せなかったはずです」

「何でそう断言出来るのかな? 確かに君の中には希望ヶ峰が集めた才能の全てが
 詰まっているはずだけど、その中に超国家級の医師や精神科医はなかったはずだよね」


試すような口ぶりで問いかけるが、黒髪の男は淡々と返事をする。


「馬鹿にしないで下さい。確かにその二つはありませんが、超高校級の保健委員、神経学者、
 カウンセラー、そして超国家級の脳科学者、心理学者の才能は持っています」

「それらを組み合わせれば、あまりにも簡単に導き出される結論です」

「でも結果は違った訳だ」


白髪の男は尚も挑発的な声色で話すが、男は逆に驚嘆の念すら感じさせる声で同意した。


「ええ。これには流石の僕も予想外、と言わざるを得ません」

「それで、珍しく興味を持ってテレビにかじりついているんだね」

「そういうことになりますね」

「これからどうなると思う?」

「まだ、何とも。……思えば、最初に江ノ島盾子の想定していなかった異分子が
 入り込んだ時点で、この計画は全く見当違いの方角に舵を切ったのかも知れません」

「だとすると、もしかしたら彼女にも僕にも予測のつかない終わり方をする可能性がある」

「もし、そうなるのなら……」




「――江ノ島盾子の考えたこの計画、オモシロイかもしれない」

http://i.imgur.com/GPjQDMk.jpg





Chapter.3 世紀末医療伝説再び! 医に生きる者よ、メスを執れ!!  医療編  ― 完 ―



ここまで。おやすみ。

乙です



「8歳と9歳と10歳と!12歳と13歳のときも僕はずっと、待っていた!!」
ってセリフが脳内再生された

乙!

さすがKだ
一切薬を使わず石丸を治しちまった…

>>939
ジョナサン・・・

散々鬱展開をしたから疑われているのだろうか。えー、石丸君の地雷は正真正銘今回ので最後です
大和田君も合わせ、もう精神崩壊したりおかしくなったりはしません。おめでとう!


そして、スレタイ再投票。

先着三票入った奴にします。一部ちょっと変えました。十神あんま活躍してないやん、
むしろ足引っ張ってるやんという意見も最もだったので、より敵対的、攻撃的な感じにしてみた。
4はちょっとキツすぎるかもしれないので、2くらいのバランスがいいかもなぁ

1,十神「十神の名にかけて!」腐川「救ってみせなさいよ…ドクターK」ジェノ「カルテ.5よん」
2,十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5よん」
3,ジェノ「笑顔が素敵な…」十神「ドクターK!どういう事だ説明しろ!」腐川「カ、カルテ.5…」
4,十神「ドクターK…所詮貴様も愚民だ!」腐川「あんたには救えない…」ジェノ「カルテ.5ォ!」

乙です
では、次スレで役に立ってくれることを願って、1で

いやー、次スレもまだ三章で十神改心は四章終了あたりだから
下手したら7スレ目くらいになるんじゃないか?

というわけで2


ageるか…

まだ入ってなかったか
3で

2

4で

1

2で

石丸退院おめでとう!
1はキャラの背景とか原作から色々考えててくれて好きだ。すごく面白い

スレタイは2で

3か2かなあ


立てました。更にちょっとマイナーチェンジ


十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」
十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416054791/)


このスレは恒例通りおまけとか番外編でちまちま埋めていきます。


>>952
ありがとうございます。石丸君のモノローグ長すぎてダレたかな…とかビビってました
身内(恐らく父親)が警察官なので石丸家の苦労は計り知れなかったと思います

あと、文章だけだと伝わらなかったかもしれないのでここで補足しますが、どこかで読んだ説
(石丸の身内の目はぐるぐる目ではない普通の目をしている。ぐるぐる目は江ノ島や狛枝でわかるように
狂気の象徴なので、石丸のあの目は実は後天的)がとても興味深くて面白かったのでこのSSでも
その説を採用し、今回のエピソード以後は石丸君も普通の目になっています。


新スレ乙です


  番外編  ― 宴の裏側で ―


ジェノ「ギャーハハハハ! そんでさ……ん?」

葉隠「お? どうした?」

ジェノ「ふぇ、ふぇ……やばっ」

山田「あー、これってもしや……」

ジェノ「ぶえっくしょおおおおおん!」

葉隠「うわ、きたねえ!」

山田「キャー! 拙者の顔に直撃しましたぞ! だ、誰かティッシュを持っていませんか?!」

大神「……不運だったな」つ【ティッシュ】

K「いつも思っているが、女生徒にその盛大なくしゃみはどうかと思うが……」

十神「無駄だ。そいつは女を捨てている」

朝日奈「ちょっと、そういう言い方はないでしょ! 確かにお風呂は入った方がいいと思うけど」

十神「散々追い掛け回された挙句、目の前で気持ちの悪い妄想を言われる俺の身にもなれ!」

腐川「あ、あれ……」

大神「腐川よ、久しぶりだな」

山田「……とりあえず僕は謝ってほしいんですけど、今日は特別に見逃してあげますよ」

腐川(え、え、なに?! なんなのこの状況はっ?!)

葉隠「おーし! 腐川っちも一緒にゲームすんべ?」

K「おい腐川、少し話を……!」

腐川「ひ、ひぃぃぃぃっ!!」


ダダダダダダダ!


K「あ、待て!」


走り去る腐川を追って、KAZUYAも飛び出す。


葉隠「あっちゃあ、ダメだったか」

朝日奈「腐川ちゃん……まだ気にしてるんだね」

不二咲「あれ、何かあったの?」

石丸「先生がジェノサイダー君を追いかけて行ったようだが」

大和田「ありゃあ、腐川の方じゃなかったか?」

十神「フン、放っておけ。まったく、奴のお人好しも大概だな」

セレス「お医者さんというものはみんなああいうものなのではないですか?」

江ノ島「他は知らないけど、少なくともあいつは……初めて会った時からずっとああだし」


・・・


バタン!


「ゼェ、ハァ、ゼェ、ハァ……」


腐川は扉を背にしながら荒い呼吸を整える。


(なに、なんなのよ……)

「パーティー? してたわけ?」

(ア、アタシ抜きで楽しく……そうよね。アタシなんていても楽しくないし……)


だが、そこで腐川はある事実に気付く。


(あれ? アタシ抜きならなんでアタシはあの場にいたのよ? ……!!)

(まさか、アタシじゃなくてジェノサイダーが参加してた――?)

(なんで……なんでアタシは受け入れられないのに殺人鬼が仲良くしてるのよ!
  馬鹿なの? あいつはアンタ達の仲間を殺しかけたのよ?! 人殺しよ?!)

(危険でも今が楽しければいいわけ? なに? あいつら全員刹那主義なの?!)

「ふ、ふふ……うふふふふふ……そう。そういうことって訳なのね……」


ヤケになりながら腐川は自嘲気味に笑い出した。
背後ではうるさいくらいにインターホンが鳴っている。


(根暗でうざいアタシより、たとえ殺人鬼でも明るくて楽しいあいつの方がいいって訳?
  そういうことなのね?! ああ、アタシの存在理由ってなによ、なんなのよ……)

(……このミジメな気持ちを小説にぶつけたら今までの中でも最高傑作が生まれそうだわ)


しかし、そうは言ってもちっとも書く気にならなかった。


(ジェノサイダーの方が人気なら、アタシなんて、アタシなんてぇ……)

「う、ううぅうううぅぅ……!」


ダラダラと涙だけではなく鼻水やヨダレを垂らして腐川は嘆いていたが。

ダンダンダンダンッ!


「(ビクッ!)な、なに?!」


個室の扉は防音のはずだ。つまり、少し強めに叩いたくらいではびくともしない。
少しどころではない衝撃が扉を振動させ、その揺れを腐川の体にも伝えていた。


(ヒッ! まさか西城のやつ、扉を破る気なんじゃ?!)


シーン。

幸い、音はすぐに止まり扉の振動もなくなった。


「なんだったのよ……ん?」


扉から離れてまじまじと見ると、下の隙間から一枚のメモが入れられているのに気付く。

スッ、ペラリ。


『廃人も同然となっていた石丸が無事元に戻った。今日はそれを祝う退院パーティーだ。
 もう君が責任を感じる必要はない。みんな君のことも待っている。安心して出てきなさい。西城』

「…………」


力強くそれでいて丁寧な文字で書かれたそのメモを、腐川はいつまでもじっと見つめていた。


               ◇     ◇     ◇



ガヤガヤ。ザワザワ。


舞園(お菓子が減ってきましたね。補充しましょうか)


スッと立ち上がると舞園は倉庫に向かう。


舞園(確かあの箱のはず……)


少し上の方に置かれているダンボールを取ろうとするが、彼女はまだ右手が使えない。
左手を伸ばして、少しずつ箱を手前に引き出して行く。


舞園(あと少し……)

「ムリすんなよ」

舞園「……え?」


振り向くと、桑田が立っていた。驚く舞園のすぐ横に立つと、軽々と箱を引き出す。


桑田「よっと。俺が持ってくわ」

舞園「ありがとうございます」

桑田「…………」

舞園「……?」


少しの間、妙な沈黙が流れるが桑田が口火を切った。


桑田「……お前さあ、あんまムリすんなよ?」

舞園「私は無理なんてしてないですよ?」

桑田「それがムリなんだって。お前マジで気付いてねーの?
    ……俺と二人っきりの時、いっつも顔が少しひきつってるぜ?」

舞園「?! そんなこと……」

桑田「あるんだって。ライブの練習もハードだったけどさぁ、ぶっちゃけ
    お前のそういう顔見続ける方がずっとハードだったんだからな?」

舞園「……ごめんなさい」


俯く舞園を見て、桑田は乱暴に頭を掻いてもごもごと話し出す。


桑田「別に責めるつもりで言ったんじゃねーって。その、な?」

桑田「…………」


舞園「……何ですか?」

桑田「俺、ずっと見てたから。――お前がこれまでやってきたこと」

舞園「…………!」


その瞬間、舞園の中に何とも言えない感情が溢れかかった。


桑田「俺はせんせーや苗木みたいにデキた人間じゃねーから、許すとか仲間だとか
    そんなカッケーことは言えないけど……お前のやってきたことは認めてっから」

桑田「そんだけ言いたかった。じゃな」


そのまま桑田は箱を持って倉庫から飛び出して行く。


舞園「駄目……まだ、駄目です……」

舞園(忘れてはいけない。私は駒、脱出のための駒……まだ、舞園さやかに戻ってはいけない……)


そう自身に何度も言い聞かせながらも、しばらく舞園は額から流れる汗を止めることが出来なかった。


               ◇     ◇     ◇


苗木「霧切さん!」

霧切「あら、苗木君?」


霧切は図書室で新聞を読んでいた。


苗木「こんなところにいたんだ。探したよ」


霧切「そう、わざわざ呼びに来てくれたの。ご苦労様」

苗木「うん。折角のパーティーだしみんなで過ごしたいしね。何を読んでいるの?」

霧切「十神君が復帰したら図書室でゆっくり出来なくなりそうだし、
    最後に少し調べ事をしようと思ったのよ」

苗木「書庫にあった未来の日付の新聞だね。……何でこんなものがあるんだろう?」

霧切「私達を混乱させるために黒幕が用意したか、或いは……」

苗木「実は僕達、ちょっとだけ未来に来てる……なんてね」

霧切「案外、そうかもしれないわね」


苗木は冗談のつもりで言ったのだが、意外にも霧切は真面目だった。


苗木「あれ? 笑わないんだ」

霧切「私はSFはあまり詳しくないけど、未来に行くのは過去に行くよりもずっと
    簡単らしいわよ? 例えば、何らかの薬や装置を使ってある程度の期間
    眠らせておけば、その人にとっては未来に来たも同然よね?」

苗木「あー、確かにそうなるね」

霧切「……このように、実際に肉体が別の時間軸に行ったりしなくても、人の意識や
    感覚を狂わせることによって簡単に時間の移動は出来るのかもしれない」

苗木「霧切さんは黒幕が僕達の体に何かしたと思ってるんだ?」

霧切「例え話よ。それより、私を呼びに来たのでしょう?」

苗木「あ、そうだった。そろそろ朝日奈さん特製ドーナツケーキを切るみたいだよ」

霧切「それは楽しみね。じゃあ、戻りましょうか」


最後にチラリと意味ありげに視線を送ると、霧切は新聞を元の場所に戻した。


               ◇     ◇     ◇


モノクマ「…………」チラッチラッ

江ノ島(あ、モノクマだ。なにしてるんだろう? ……もしかして、食べたいのかな)

モノクマ(くっそー。こっちはいつもインスタントで済ましてるのにメシテロしやがってぇぇ!)

江ノ島「……あのさ。食べる?」

モノクマ「! おい、馬鹿……!」

セレス「あら、江ノ島さん何をしているのですか?」

江ノ島「あ、え、ええと……!」

十神「モノクマと話していたのか?」

江ノ島「こ、こいつが物欲しげな目でこっちを見てるから! その、ちょっと……!」

不二咲「モノクマも食べる?」

大和田「……は?! お、おい不二咲……!」

モノクマ「え、ええ?! 何を言っているんだい、キミ達? ボクは別に欲しくなんか……」

石丸「ほら、少しだけだが持って行きたまえ」

十神「!! 何をしているのだ、貴様は……?!」

石丸「敵に塩を送るということわざもあるではないか。なに、今日だけだ」

大和田「兄弟……」

十神「……馬鹿な奴め」

セレス「お人好しですこと」

モノクマ「本当、馬鹿だよキミ達。……言っておくけど、これで借りとか思わないでよ」

大和田「チッ、こいつらはそんなケチくさい考え方なんてしねえよ」

モノクマ「あっそ」


江ノ島「えーっと、良かったじゃん! あはは」

モノクマ(オメーはもう黙れ)


モノクマがそそくさと去ると、入り口で腕を組んで立っていたKAZUYAとすれ違う。


K「……少し時間をくれ」


誰にも聞こえないように、KAZUYAはボソリと呟いた。


モノクマ「…………」

K(順を追って動機のレベルが上がっている。ならば、三度目の次こそ恐らくは本命……)

K「俺が必ず防いで見せる。その方がゲームとしてやりがいがあるだろう?」

モノクマ「本当に先生は口が上手いよね。感心しちゃう」

モノクマ「――ま、考えといてあげるよ」


・・・


「うぷぷ。あー、情けねえなぁ」

「こっちが未だに優位だって言うのに、勝負に負けたこの感じ。なかなか悪くないけどね」

「敵に情けをかけてもらって食べるケーキは絶望的でおいしー!」


希望に満ち溢れた宴の裏側では、息を潜めた絶望が次の出番を今か今かと待ち詫びていた。




→Chapter.3 非日常編に続く


ここまで。

桑田舞園の和解と、ほとんど出番のなかった腐川さんのフォローがしたかった
他にもこのキャラの出番少ないから出して!という意見があれば是非

乙です。
けっこう満遍なくキャラの出番があって、凄く楽しめています
では…おそらく、この先のチャプターでは出番があまりなさそうな不二咲君の話を是非ともお願いします


このスレの桑田と石丸ほんと好き

乙です

乙です
今の桑田君だったら舞園さんの違和感に気づいてくれるんじゃないかと思ってたので、とりあえず良かった
…まだ安心は出来なさそうだが

腐川さんが合流できるのを心待ちにしてる

むしろ苗木君もうちょい強化(出番増や)したら桑田と二人(+K)で舞園戻せそうだな
原作主人公ゆえ、出番減らされてる感がある

舞園さんは駒園モードが何気にパワーアップ扱いなので、
あんまり早いタイミングで戻すとそれはそれで弊害が出ちゃうんですけどね


>>966
ちーたんはアルエゴ関係で次スレもまだまだ出番ありますよー

>>970
むしろ苗木君は主人公ということで増やしてるつもりなんですけどね……
今回の番外編も、元々は桑田舞園腐川メインだったのですが、原作主人公とヒロインの
影が薄いなと二人を足し、更に影の薄い残姉を加えて出来たものなので

次スレでは医療関係でもうちょっと前に出てくると思います


磨毛「大分お待たせしてしまったね、>>34君。申し訳ない。スレも終わりに近付いたのでいよいよ解説しよう」

モノクマ「ぶっちゃけ1も結構忘れてたからね。まとめるのに苦労してたみたいだよ」


  ― 磨毛保則の解説コーナー chapter.2の解答(石丸の死亡判定)編 ―


磨毛「まず最初に、石丸君は生存するかしないかの判定が非常に厳しかった。仮に生存しても何らかの
    障害を負うことになっていたしね。以前チラリと言ったけど、実は今の状態が最も程度が軽いんだ」

磨毛「解説の前に、このSSのルールを説明しておこう。このSSはいくつか原作にない独自の設定があるが、
    きちんとスレに情報が出るまではその設定は存在しないというルールを設けている」

磨毛「例えば、二章二回目の自由行動で石丸君は武道を嗜んでるという設定が出るけど、この設定がないと
    彼の反射神経に大きな差が出てしまい、大和田君の攻撃をいなせずダンベルが直撃することになる」

モノクマ「よく竹刀持ってるイラストあるけど、左利き説と同じで公式から明言されてる訳じゃないしね。
      もし石丸君と仲良くしてなかったら下手すると運動音痴設定すら付きかねなかったよ」

磨毛「運動会でビリだったからね。まあ、女子が混ざっている以上単なる徒競走じゃないだろうけど」

モノクマ「更に、今回の事件は大和田君の精神状態も重要になるよ。精神の乱れ具合によって攻撃力が
      ダイレクトに変わってくるからさ。つまり、大和田君の攻撃力と石丸君の防御力の兼ね合いな訳」

磨毛「一章がパーフェクトクリアだったから、不二咲君は一度でも会えばKAZUYA君に秘密を言ってくれる。
    驚くかもしれないが、事件関係者にも関わらず不二咲君は今回の死亡判定に関わって来ないのさ」

磨毛「勿論、だからと言って不二咲君と会うのが無駄ということはない。会った数だけアルターエゴの
    性能が上がるからね。現在はレベル4。原作はレベル3のつもりだから原作より高いね」

磨毛「では具体的な内容を言っておこうか。不二咲君がKAZUYA君に秘密を告白した前提で、以下の通り」


顔+首           → 石丸に武道経験者設定あり、大和田と三回以上会う(うち一度は動機後)。
顔+首+左目失明      → 石丸に武道経験者設定あり、動機後に大和田と話していない(三回会っている)。
顔+首+左目失明+左腕麻痺 → 石丸に武道経験者設定なし、動機後に大和田と話していない(三回会っている)。
顔+首+左目失明+昏睡状態 → 石丸に武道経験者設定なし、大和田と二回までしか会っていない。
死亡  →  その他
無傷  →  ???

モノクマ「エクストリィィィム! かなり厳しいね! ボク的には医者という新たな夢を見つけながら
      片目が失明した挙げ句利き腕麻痺って展開がかなり絶望的で良かったんじゃないかと思うけど」

磨毛「BADENDまっしぐらだねぇ。当然だけど失明した時点でベストエンドには行けなくなっていたよ。
    また、もし一章がパーフェクトでなかった場合は不二咲君とも三回以上話さなければならない」

磨毛「……ちなみに、もし不二咲君がKAZUYA君に秘密を打ち明けなかった場合、不二咲君死亡は
   【確定事項】だ。原作と同じ展開になったらもう未来を変えようがないからね」

磨毛「少し長くなってしまったけど、ま、今回はこんな所かな。真面目に安価を取れば何とかなると思うよ?
    1君だって、今の感じなら多分大丈夫だろうと思ったからこんなに判定を厳しくしたんだし」

モノクマ「最後にオマケを。次スレのアンケートで、ドクターK側の画像はあった方が助かるって
      意見あったよね? よくよく考えりゃ当たり前だよ! 読者の8割はドクターK知らないに
      決まってるんだからさ! って訳で、今更だけど磨毛先生のご尊顔を公開~!」

磨毛「ついでにTETSU君の顔もね。それでは、またいつか会える日まで」

モノクマ「今後もこのSSをヨロシク。バイビ~!」


「TETSU」(いつもヒントくれる前髪の長い人)
http://i.imgur.com/DkCyIMf.jpg

「磨毛 保則」(当SSの解説担当)
http://i.imgur.com/w0gQc1K.jpg


乙!
条件超シビアだったんだな…
安価もほぼ最善手を続けないときつそうだね

乙です

ヒエッ


無傷の場合もあったんだ…
でも手術はあった方がいいって言ってたし
今の状態がベストなんだろうな
にしても本当に危なかった

ぶっちゃけ二章が一番判定厳しいと思うから、三章以降はそこまで気を張らなくていいと思います
タイミングさえ外さなければだけど。色々とイベント用意しているので、色々な人や場所に行ってもらいたいなと
特定の人に集中し過ぎて他がおざなりになるとそれこそ朝日奈さんの悲劇再びなんてことになりかねないし

大体三回が基準なのかな。セレスや十神は中ボスだからもっと必要かもしれないけど
とりあえず、現時点では霧切腐川が最重要か

乙です
磨毛、綺麗な顔してるなぁ…下半身露出してる変人なんだよなぁ…w

まだ?

>>980
磨毛先生は変人だけど、女の人の前で脱がない良心は持っていますw

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

さて、平和になったし久しぶりに小ネタやるで。本編はもうちょっとかかるで


― オマケ劇場 24 ~ ウナギの思い出はタレの味 ~ ―


石丸が復活した日の夕方。


モノクマ「はいはいはーい! 無事に石丸君が復活したということでおめでとさん!」

苗木「モノクマ! 何しに来たんだ!」

K「……!」サッ!


KAZUYAは咄嗟に前に出ると、生徒達を庇うように立つ。


モノクマ「そんな警戒しないでよ~。ボクだっていい加減退屈してきた所だしぃ、
      快気祝いでもと思ってね。ってな訳で、ジャジャーン!」

山田「おおー! これは!」

葉隠「ウナギかぁ。気が利くべ」

霧切「……何を企んでいるの?」

モノクマ「別に。ボクはただみんなを喜ばせたかっただけだよ」

石丸「ううう、鰻だと?! 一年で土用の丑の日しか食べることが許されないあの鰻か?!」

大和田「……いや、気が向いたらいつ食べたっていいだろ」

石丸「いつも一切れを家族三人で分け合い、タレのついたご飯を味わっていたあの鰻がこんなに?!」

「…………」

桑田(え、なにこいつ……もしかして家めっちゃ貧乏なの? うちなんて
    俺がスポーツマンだから精つけろってしょっちゅう食べさせられてたのに)

セレス(貧乏くさいとは前から思っていましたが、まさか本物だとは思いませんでしたわ……)


石丸「ありがとう、モノクマ! ああ、嬉しいなぁ! 本当に嬉しい!」ダラダラ

大和田「おいおい兄弟、ヨダレ出てるぞ?」ハハハ

K「あ、でも……」

霧切「ドクター?」

朝日奈「たまにはいいとこあるじゃん、モノクマ!」

モノクマ「まあ……」








モノクマ「石丸君は病み上がりだから食べられないんだけどね!!」

モノクマ「匂いだけ楽しめよ!!」


  ま  さ  に  外  道  ! ! ! ! !


石丸「う、うわああああああああああああああああ?!」

山田「これはツライ……」

江ノ島(さすが盾子ちゃん! 嫌がらせにかけては世界一だね!)

不二咲「ぼ、僕も胃が悪いから食べないよ。だから元気出してぇ」

苗木「冷凍すれば三日くらい平気のはずだよ! ね?」

大和田「俺の分わけてやる! だから泣くんじゃねえ」

K「ここから出たら俺が好きなだけ食わせてやるから……」

葉隠「ジップロックの先制攻撃だべ!」

石丸「みんな……」グスグス

十神「フン、貧乏人め」

K「十神!」


大神「十神、傷に塩を塗るような真似は……」

十神「その程度のものすら手に入らんとは憐れだな。……閉じ込められてなければ
    この俺が二度と食べたくないと思うくらいには食わせてやったものを」

「 え っ ? ! 」

K(十神が慰めている、だと?! 明日は天変地異か……?!)

舞園(何か恐ろしいことの前触れなのでは……)

石丸「と、十神君……君という人は……」うるうる

十神「勘違いするなよ。貴様にとっては高い買い物でも俺にとってははした金だと言うことだ」

石丸「君は……君は本当は優しいのだな! うおおおおおん!」ブワッ

十神「だから勘違いするなと言っている!」

十神(まさか……この日本に鰻程度も満足に食べられない人間がいるとは……)ガーン


……実は、何不自由のない御曹司の十神にとって石丸の貧乏エピソードは余りにもショッキングなのであった。



― オマケ劇場 25 ~ What is 同人誌? ~ ―


時系列は初期。


K(そういえば、山田とちゃんと話したことがなかったな。監督者がそれではいかん)

K「山田、何をしているんだ?」

山田「おお、西城カズヤ殿。拙者は今同人誌の原稿を描いているのですよ」

K「お前は超高校級の同人作家だったな。……しかし、普通の漫画のように見えるが」

山田「チッチッチィ! 西城殿、それは大間違いと言うものですぞ! まず同人活動というと、
    アマチュアが自費で出版する物だと言うのはお分かりでしょうか?」

K「古くは有名な作家や歌人も仲間と共に同人誌を作っていたからな」

山田「その通りです。ですが、昨今では同人と言えば主にオリジナルではなく二次創作が主流です」

K「二次創作?」


山田「わかりやすく言うと、元ネタがあってそこから個々人がネタを考えるのですな。
    西城殿にもわかるようにネタを出すと……吾輩は猫であるって小説があるでしょう?」

K「夏目漱石だな」

山田「あの物語の世界観と登場人物をそのまま流用して、作者以外の人間が
    勝手に後日談を作ったり、サイドエピソードを作るのです」

K「成程。例えば原作ではあれは猫目線の物語だったが、飼い主目線で別の物語を書いたりする訳だ」

山田「そうです。ではここで具体例を出しましょうか。僕だったら飼い主は
    冴えないオッサンなんかではなく女主人に変更しますね」

K「? 登場人物の設定を変えてもいいのか? 物語の根幹だと思うが」

山田「そこが二次創作の自由度なんですよ! 一つのオリジナルから無限の可能性! わかりますか?!」

K「フム、作家の腕次第でどうとでも料理出来るということか。面白いな」

山田「その通ーり! 如何に原作の空気を壊さず大胆なアレンジや解釈を加えていくかが勝負なのです!」

K「では、超高校級の同人作家のお手並み拝見と行くか。お前だったらどうアプローチしてみる?」

山田「グフフ……そうですねぇ。猫は♀にして更に人間に変身するのです!
    これで最後の鬱エンドも回避出来て一石二鳥ですな!」

K「……え?」

K(それはもはや原型を留めていないのでは……)

山田「もちろん、猫耳としっぽは残したままです! それで若い女主人と
    三人の娘達とイチャらせまくるほのぼの日常物にするかなぁ」

K「…………(捏造だ……)」

山田「ちなみに西城殿は猫が化ける時ご都合で服を着せる派ですか、それともやっぱり服はナシ派?」

K「」

・・・

K(少しも話についていけなかった。というか、ついて行きたくなかった……)


こうしてKAZUYAは、同人誌とは元ネタの一部を拝借して目茶苦茶に改変することだと認識したのだった。


最後にスキル表

[ 霧切 響子 ]

通常スキル

・集中力
・記憶力
・護身術
・冷静沈着
・知識
・論破

特殊スキル

・探偵の洞察力
・探偵の分析力
・超高校級の推理力
・死神の足音:危険を察知することが出来る(ただ記憶が足りないので本来より若干弱い)。

〈 m e m o 〉

 KAZUYAに次ぐ強キャラであり、推理・分析に限れば全メンバー中屈指を誇る。
運動面のスキルもしっかり持っており、バランスの良さでは他の生徒の追随を許さない。
唯一の欠点が冷静すぎて感情をあまり表現できないことであり、それが他の生徒達との
間に溝を作っている。そのため、相性の良い生徒が少ないのが難点である。


[ 大和田 紋土(改) ]

通常スキル

・筋力
・男気
・度胸
・カリスマ
・器用
・集中力

特殊スキル

・フルスロットル:頭に血が上った時の攻撃力1,2倍。
・男の根性:男の意地を見せなければならない場合に耐久力1,5倍。
・男の約束:男の約束のためなら一時的に全性能を上げられる。

スペシャルスキル

・クレイジーダイアモンド:大和田に指揮を任せた時、仲間の能力が大幅に強化される。

〈 m e m o 〉

 頭脳面の強化はないが、最大の問題であった短気がなくなりよく考えて行動できるようになった。
通常スキルに器用と集中力が加わり、どんな頼み事をしても大抵のことはこなしてくれる頼もしさがある。
 性格に落ち着きと余裕が生まれリーダーとしての才覚が出てきたため、桑田と同じく頭脳面を補佐する
生徒と組ませれば、KAZUYAの代わりに前線に立たせて指揮を取らせることも可能なポテンシャルを持つ。

乙です


[ 真・石丸 清多夏 ]

通常スキル

・集中力
・観察力
・発言力
・カリスマ
・護身術
・応急処置

特殊スキル

・鬼気迫る努力
・凄まじい気迫
・鋼の忍耐力
・全国一位の頭脳
・超高校級の不器用×

スペシャルスキル

・精神の解放:体に入りすぎていた余分な力がなくなった結果、能力の基礎値が大幅に上昇。

〈 m e m o 〉

 石丸が長年に渡り縛られていた狂気や強迫観念から解放され、思考に柔軟さが出てきた状態。
相変わらず空気は読めないが、他人に対してあまり厳しくなくなったためバッドスキルとしての
KYは消えている。不器用なのは変わらないが、応急処置が新たにスキルに加わり使えるようになった。
以前より自然体になれたため、全体の能力値が大幅に上がっていることにも注目。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


以上で、このスレでの投下はお終いです。ご清覧頂きありがとうございました。

感想・意見・リクエスト何でもござれ。何か書くと1のモチベがアップ。1000は可能な限り叶える。



それでは束の間の平穏を満喫している5スレ目でまたお会いいたしましょう!
次の投下は多分火曜日です。それでは!


十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」
十神「愚民が…!」腐川「医者なら救ってみなさいよ、ドクターK!」ジェノ「カルテ.5ォ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416054791/)


乙!
今のところ頭脳系は霧切さん頼みかな?
石丸がどうなるかだね

確か苗木とちーたんは頭脳特化キャラのはず
石丸は身体能力も高いし頭も悪くないから精神がもうちょい成長すれば有望株

苗木は連繋特化じゃないか

拗ねる霧切が少し可愛いと思ってしまった。疲れてるのかな?


霧切「私を可愛いと思うことがどうして疲れていることになるのかしら? じっくり説明して頂戴」

霧切「確かに、私は舞園さんや朝日奈さんのようにわかりやすい可愛らしさはないかもしれない。
    そもそも私は可愛さを売りになんてしていないし、可愛いと思ってもらいたい訳じゃないの」

霧切「ただ、私だけでなく全員をもう少し見てもらいたいと言うか……別に、寂しい訳じゃないわ。
    ドクターの本業は医師かもしれないけど、少なくともここでは教師兼監督者なのだからきちんと
    一人一人に目を配っていて貰いたいだけよ。ここまで言えばわかるわね?」





霧切「……本当にそれだけよ?」

うめ

うめ

うめ

うめ

うめ

うめ

霧切さんの片思い

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年07月03日 (木) 01:17:18   ID: Yor2yBM-

ちょっと構ってちゃんでレスこじきくらいじゃないと、安価なんて無理じゃね?
そこは開き直るくらいでいいと思うんだがなぁ。
感想でやる気アップとか、どう考えてもマイナスよりプラスの方が大きいし。
>>1がどう思ってるかは知らんが、楽しく読ませてもらってる俺としちゃ、改悪されたら困る要素なんだけどなー。

2 :  SS好きの774さん   2014年07月03日 (木) 01:18:48   ID: Yor2yBM-

まぁアレだ。
批判厨はモノクマの手先だと思ってくれ。
突然の打ちきりによって、我々読者が絶望するのを楽しみにしているのでござろう。

3 :  SS好きの774さん   2014年07月06日 (日) 12:15:58   ID: 1AA8iFGf

いらいらしてるのは分かるけどモノクマに喋らすのやめてほしかった

4 :  SS好きの774さん   2014年08月02日 (土) 12:32:10   ID: xpTS-Rcg

 舞園さん・・・苗木を失ったり、霧切さんに取られたら、完全に精神が崩壊し、廃人になりそうで怖いな。ただでさえ、駒園さん状態で、危険なのに、これ以上に精神崩壊したら、Kも絶望堕ちするな・・・

5 :  SS好きの774さん   2014年09月19日 (金) 08:56:24   ID: 4lNykMKe

※3
むしろ、モノクマの語りだけにすればもっとよかったかもな。
そんなキャラだろ、モノクマって。

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