【咲-Saki-】小走やえ「いっけなーい遅刻遅刻!」 (45)

~晩成高校通学路~

――タッタッタッタッ。

やえ「深夜まで牌譜研究してたのがまずかった! 部長が朝練に遅刻とかマジやばごぶふぁっ!?」ドサッ!

通行人「おい! 大変だ! 変な髪型の女の子が鹿に跳ねられたぞ!」

通行人「晩成の生徒だ! 誰か、救急車を!」

――ピーポーピーポー。


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~病室~

やえ「……知らない天井だ……」

岡橋初瀬「小走先輩! 目が醒めたんですね!」

やえ「岡橋……一体何が」

初瀬「先輩は通学路で鹿とぶつかって、ここに運び込まれてからも、丸一日寝たままだったんですよ?!」

やえ「そ、そうだったか。片ドリルでなければ即死だった」

初瀬「命に別状は無いけど、目が醒めても念の為、何日か様子を見た方が良いってお医者さんが」

やえ「そうか。……なぁ岡橋」

初瀬「はい?」

やえ「晩成は負けたか?」

初瀬「えっ?」

やえ「県予選で晩成は負けたか?」

初瀬「……はい……阿知賀に」

やえ「そうか、それは夢じゃなかったか」

初瀬「……で、でも、まだ個人戦が」

やえ「有難う岡橋。心配かけたね。皆に大丈夫だって……それと、上田に部長代理を頼むと伝えてくれ」

初瀬「小走先輩……」

~翌日 晩成高校麻雀部室~

巽由華「部長がそんな事を?」

初瀬「はい……」

由華「そうよね……皆の前では明るく振る舞ってたけど、部長達にとっては最後のインハイ。簡単に切り替えられるはずない」

初瀬「……」

由華「まして今年の晩成は、ここ10年でも最強の面子と言われてた。ベスト8も夢じゃないって」

初瀬「はい……」

由華「部長……」

それから数日後、やえは無事退院

~放課後の部室~

やえ「上田、まだ残ってたのか」

上田良子「よう、やえ。もう良いのか? 災難だったな」

やえ「ん、その卓は……十年前の敗戦以来、壊れてそれきりっていう因縁の……」

良子「あぁ、これな。お前に千羽鶴を折るのにテーブルが足りなかったんで、引っ張り出したんだよ」

やえ「え、縁起悪い卓で鶴を折るなよ。……そりゃそうと、私が居ない間の代理ありがとね」

良子「なぁに、県予選も終わった後だしどうって事無いさ」

やえ「終わった後か……」

良子「ん?」

やえ「あの時、私が阿知賀の子達をニワカと侮らずに、可能な限り情報を集めてたら……」

良子「どうした、やえ」

やえ「いや、何でも無い。鍵は私が返して置くから、先に帰っていいよ」

良子「そうか、じゃまた明日な」


やえ「……私が……私のせいで……」

――ポチッ。カラカラカラ。

やえ「えっ? この卓、壊れてたはずじゃ……それにこのサイコロ、逆に回って――」

初瀬「――走先輩、あのっ!」

やえ「……え、えっ?」

初瀬「今、同じ中学で麻雀やってた子が阿知賀で手に豆を……それに、あの10年前のエース赤土晴絵が!」

やえ「……(ここは、まさかあの夜の……!?)」

~吉野駅 コンビニ前~

初瀬「せ、先輩っ!?」ゆさゆさ

やえ「……岡橋、県予選まで後どれくらいだ?」

初瀬「え? あと一週間ですけど……」

やえ「ふふっ……そうか……」

初瀬「先輩……?」

やえ「ま、心配しなさんな……ニワカは相手にならんよ!」

ほう

小走先輩ってさりげなく結構人気あるよね

ふんふむ

そして県予選当日

~試合会場~

高鴨穏乃「え……いきなり初戦の相手が、晩成高校!? なんで……」


初瀬「先輩! 頑張って下さい!」

やえ「……(岡橋、それに皆、前回は済まなかったね。今度はガッカリさせないよ)」

~第一試合 先鋒戦~

アナウンサー「県予選一回戦、スタートです!」

松実玄「(ドラが7つ……ツモれば24000点の手……)」タンッ

やえ「ロン……1000点」

玄「は、はい……(えっ? この人、なんで多面待ちを捨てて嵌張待ちに?)」

MOB「開始早々随分しょっぱい手であがるなぁ、それでも去年の奈良王者かよ」

やえ「ふふっ……なぁに、験担ぎ……景気づけって奴さ」

玄「(気のせい……?)」


そして第二局

玄「(気を取り直して……今度はタンヤオにドラが5つ……)」タッ

やえ「ロン……5200点」

玄「はい……えっ?!(またドラ筋の両面を嫌って辺張待ち? この人……まさか……私の事を知ってる?!)」

やえ「(悪いね、松実妹。アンタのドラ爆は強力無比。だが、弱点も大きい。それは全国の舞台でも証明済みだ)」

強化前玄ちゃんならなおさらキツいか

~6日前 レギュラーミーティング~

やえ「皆……良く聞いて欲しい。県予選は、決勝までのどこかで必ず、阿知賀と当たる事になる」

良子「え? 阿知賀? 阿知賀って、10年前にうちを倒したけど、その後は麻雀部なかったんじゃ」

やえ「いや、今年から復活してる。それも、全国レベルの打ち手を5人揃えてきてる」

由華「そんな話、初耳です!」

やえ「監督は阿知賀のレジェンド、赤土晴絵」

丸瀬紀子「あの赤土晴絵!?」

やえ「しかも奴らは、うちへの対策を万全に練ってきてるだろう。このままじゃ……勝つのは極めて難しい」

木村日菜「小走さん、もう大会直前です! そんな事言われたって……」

やえ「大丈夫。その対策に対する対策がある。もし皆が信じて、私の言うとおりやってくれりゃ、逆に阿知賀を手玉に取れる」

一同「「……」」

良子「……解った、じゃあもし阿知賀と当たったら、やえの言う通りにしよう」

由華・日菜「はい!」

紀子「これでもし阿知賀があっさり敗退してたら笑うぞ?」

やえ「皆、有難う。必ず全国に行こう!」

一同「「おおーっ!!」」

アナ「先鋒戦終了ー! 大方の予想通り、晩成が他校を大きくリード! 阿知賀がこれを追いかけます! 他の二校も今後の奮闘が期待されます」

やえ「お疲れ様」

玄「お、お疲れ様でした……」

MOB「「おつかれっしたー……」」


~観客席~

初瀬「二位の阿知賀に30000点近い差を付けた! さすが小走先輩!」


~晩成控え室~

良子「全くやえらしくない打ち筋だったが、確かに何か見えてるみたいな、妙な和了があったな……」

紀子「いよいよ信じるしかないって事かねぇ……さて、私の出番だ」

~次鋒戦~

紀子「(やえの奴、大仏さんが夢枕にでも立ったのか? まぁいいさ、勝てるなら神だろうが仏だろうが頼らせて貰おうじゃないの!)」

松実宥「(玄ちゃん、お姉ちゃんが仇を討つからね。……温かい牌……来て)」

紀子「ツモ。300,500」

宥「(この人もなんだか変な手……冷たい牌ばかり……。玄ちゃんの時と言い、晩成は私達の事を知ってるの……?)」

紀子「(嘘か真か……やえが言う通り、赤い牌がこの厚着女に集まるなら……)」




~数日前~

やえ「松実姉には、極端に赤い牌が集まる傾向がある……いや、傾向と言うよりも……そう言う(イカ)サマをしてるんじゃないかと思う程に集まる」

紀子「んなバカな……」

やえ「そう思うだろうが、事実だ。役も当然赤い牌を活かした役になる可能性が非常に高い。特に中を絡めた萬子の混一、それ以外にも赤ドラを絡めて……」

紀子「……それが事実だっていうなら、計算はしやすくなるが……牌譜でも研究したってのか?」

やえ「ふっ……ちょっとした、鹿の贈り物って所さ」

紀子「なんだそりゃ? けどまぁ、アンタがそこまで言うなら……頭に入れておくよ」

やえ「頼んだよ」

アナ「次鋒戦終了ー! トップは依然として晩成! これに阿知賀が続きます!」

紀子「お疲れさん(結局終わってみりゃ、やえの言ったとおりか……)」

MOB「「お、おつかれさん……」」

宥「お疲れ様……」


~客席~

初瀬「丸瀬先輩ナイスキープです! ツモや他家の振り込みで多少迫られたけど、まだ25000点差もある!」


~晩成控え室~

良子「ここまでは、概ねやえの言う通りの展開だな」

やえ「牌効率の計算に長けた丸瀬のことだ、前提条件さえ解っていれば堅くやってくれると信じてたさ」

~阿知賀控え室~

晴絵「(どうして……対外試合も一切しなかったのに、まるで2人の打ち筋が読まれてる?! 中学から大会に出てた憧はともかく、松実姉妹のデータなんて有るはずが……)」

新子憧「まだまだこれからでしょ! あたしが逆転……出来なくても点差を縮めてくるから!」

穏乃「逆転なんてケチなこと言わずに、飛ばしちゃえ! がんばれ憧ーっ!」

憧「あはは……じゃ、行ってくるね」

晴絵「(しかも晩成の選手は、これまでのどんなデータとも全く違う打ち方をしている……こんな偶然、あり得る訳が無い!)」

晴ちゃんが起死回生の一歩となるか

~中堅戦~

憧「(その為には、出来るだけ大物手か直撃で差を詰めないと)」

日菜「ポン! それもポン! ……ロン、1000点」

憧「(っ……とは言っても、あっちは流すだけで勝利に近づくんだからキッツいわ。他校は絞りも何もあったもんじゃないし……)」

MOB「ポン!」

MOB「チー!」

憧「(って、えぇーっ!? 他校まで、早和了の流れに乗せられつつある……奈良の1回戦で打ち手に高いレベルを求めるのは酷だろうけどさ、もう勘弁してよー)」



~大会数日前~

やえ「新子は良い打ち手だ。牌効率も完璧に計算出来るし、それに裏打ちされた喰い仕掛けは極めて鋭い」

日菜「なんか自信なくなりそうな情報ですね」

やえ「木村は新子への直撃だけを避けて、小場を創り出せ。安手なら他家に差し込んで構わない」

日菜「他の二校を……乗せろって言うんですか?」

やえ「そうだ。所詮他校は記念参加のお遊び麻雀部。トップが狙えないのが明らかになれば、大局観を無くして目先の和了を拾いに行くはずだ」

日菜「なるほど……解りました、やってみますよ」

絶対王者晩成が居るなら確かに他の学校はそうなるか

アナ「中堅戦終了ー! 逃げる晩成、追う阿知賀! 下位二校は苦しい点差になりつつあります!」

日菜「お疲れ様(他の二校が、上手い具合に阿知賀の足を引っ張ってくれましたね)」

憧「おつかれさまぁ……」

MOB「「お、おつか……」」




~観客席~

初瀬「憧……本当に腕を上げたんだな。でも、まだ20000点近い点差がある!」


~晩成控え室~

やえ「よし、良いぞ木村」

紀子「それにしても、どうして阿知賀はこんな打ち手を5人も集められたんだ? 晩成のレギュラークラスじゃねぇか」

良子「なぁに、こっちだって伊達に晩成の看板は背負ってねぇ! 3年の意地を見せてやるぜ」


~阿知賀控え室~

晴絵「っ……(憧で詰め寄れなかったのは、正直言って痛い……)」

鷺森灼「……(晴ちゃん、諦めないで……きっと連れていくから)」

~副将戦~

灼「リーチ」

MOB「うへ……もうリーチかよ」タッ

良子「ポン」

MOB「(……安牌ないっつーのに回すなよ)」タッ

良子「ロン。2000」

MOB「そっちかよ!?」

灼「……(こっちの待ちを知ってるみたいな回し打ち……晴ちゃんの言う通りだ。だったら……!)リーチ」

良子「……」タッ

MOB「(いくら晩成と同卓だからって……4位だけは恥ずかしい、4位だけはやめて……)」タッ

灼「……ロン。8000」

MOB「ひえっ!? 九萬単騎?!」

良子「(やえの言う通り、筒子の多面待ちに取らなくなったか。だが……)」

MOB「……」タッ

良子「ロン、1000点(それもこっちにとっちゃ想定済み。どう足掻こうが、あたいからの直撃だけは有り得ないぜ! まして……)」

MOB「」

灼「(っ……余り晩成以外からあがりすぎると、大将戦を待たずに飛び終了の危険が……リーチやツモも多様は出来な……)」

~数日前~

良子「へぇ、待ちがボウリングのピンねぇ……そんなオカルトあり得るか?」

やえ「信じたくは無いが……間違いない」

良子「晩成麻雀部内ボウリング大会において、不動のチャンピオンであるあたしが対局する事になったのも、何かの巡り合わせかねぇ」

やえ「チャンピオンかっこハイスコア130か」

良子「お前は100点超えてから言えよ!」

やえ「ただ……常に筒子の多面待ちとは限らない。上田がその癖を把握していると知れば、それを崩した直撃狙いに来るのは間違いない」

良子「んー……つまり、序盤は筒子待ちを知ってる様に見せて和了を阻止しつつ、後半は引っかけの直撃狙いを誘って逃げ切る?」

やえ「そうだ、折角の多面待ちを崩すんだから、上田さえ振り込まなければ、その策も裏目でしかない」

良子「なんだかなぁ……まるで未来を見てきたような言いぐさだな」

やえ「ふふっ……私には見えてるんだよ。晩成が全国の決勝卓に駒を進めるビジョンがね」

良子「へーへー、そりゃ頼もしい事で」

アナ「副将戦終了ー! 晩成、阿知賀、一騎打ちの様相を呈して参りました! 他の二校はかなり大きな手か、連荘が必須の苦しい状況です!」

良子「おつかれさーん(しかしこのボウラーやるなぁ。危ない危ない)」

MOB「「乙……」」

灼「お疲れさま……」



~観客席~

初瀬「大将戦を残して点差は15000……巽先輩!」


~晩成控え室~

日菜「ふー……これが1回戦とか信じたくないですね」

紀子「後は大将戦を残すのみ……頼むぜ、巽」

由華「任せて下さい……」チラッ

やえ「……」コクッ

これは熱い

これはいいにわか

~阿知賀控え室~

憧「満貫直撃で捲れる点差だよ! 穏!」

穏乃「おう、任せといてよ!」

玄「穏ちゃん、頑張って!」

宥「頑張って……」ぶるぶる

灼「任せたよ……阿知賀の大将」

晴絵「しっかりね!(点差は確かに大きくない……こう言う状況での穏乃は、普段以上の力を出せる子だ。……でも、なんだろうこの胸騒ぎは)」



~大将戦~

アナ「新星の如く現れた新生阿知賀女子、王者晩成を捉える事が出来るのか!? 下位二校は飛びを警戒しながらの苦しい戦いで何を残せるか! 大将戦スタートです!」

穏乃「(状況も配牌もヤバイ……でも、諦めるわけないッ!)」ボッ!

由華「(この子の目、完全に私を捲る気で居る。その意気や良し……私も全力で相手してあげたい所だけど)」スゥ……

MOB「(くそぉ、初戦から晩成と当たる時点でくじ運なさすぎなんだよ、うちの部長! 麻雀部でくじ運悪いとか、マジありえね!)」

MOB「(こんな点棒でどうしろっていうのよ、もー! 箱割れだけは絶対恥ずかしすぎるし!)」

MOB「「(飛ばすならあっちにして!)」」

~大会数日前~

やえ「巽」

由華「はい」

やえ「阿知賀戦、こちらがリードしていた場合だが……」

由華「はい、全力で逃げ切ります」

やえ「……逃げ切るのは逃げ切るんだが、巽の能力は封印だ」

由華「え? 阿知賀の大将、1年生ですけど、大将に置くからにはかなりの実力者なのでは?」

やえ「あぁ、あの子は底が見えない。対局者が高き山となって立ちふさがる程、あの子は覚醒する」

由華「……? では、どうすれば……」

やえ「巽……」ずいっ

由華「こ、小走先輩?!」ビビクン

やえ「(ヒソヒソ)」

由華「……んんっ……(く、くすぐったいです先輩)」

やえ「……難しいけど、巽なら……いや、巽にしか出来ない事だ」

由華「で、でも先輩……もし、そんな打ち方で失敗したら」

やえ「責任は私が取る。……と言っても、アンタの事だ。実際に打ったのは自分ですとか何とか言うんだろうね?」

由華「……」

やえ「二人で決めよう。二人ともが納得したなら、その戦法で行こう。失敗したら、その時は……その時さ」

由華「……わ、解りました。やってみます……今の私があるのは小走先輩のお陰。どんな結果になろうと……先輩と一緒なら悔いはありません!」

やえ「巽……有難う!」ぎゅっ

由華「ふえっ!?」カァァ//

由華「……(な、何を思い出してるの、こんな大事な時に)」タッ

MOB「ろ、ロン! 1500点」

由華「……は、はい」ジャラッ

穏乃「(なんだろう……随分甘い放銃だな……これなら追いつけるかも。えっと点差が今ので……)」



~阿知賀控え室~

晴絵「(晩成が穏の事も研究し尽くしているとしたら……一体何を狙う……まさか……?!)」

憧「穏……いけるいける! 相手は晩成唯一の二年生だし、今みたいなミスも有り得る!」

晴絵「(……確かにこれだけの舞台、まして部の命運を握る大将戦の闘牌。プレッシャーは想像を絶する。けれど、今年の晩成に限って、そんなミスを犯す?)」

~決勝卓~
MOB「テンパイ」

MOB「ノーテン」

由華「ノーテンです」

穏乃「テンパイ!(よーし、ジワジワ近づいて来たー! これなら直撃さえ奪えれば捲れる。そうでなくても、えっと……ツモ和了だと……)」

MOB「……(この親で8連荘くらいすれば追いつけるかなー、なんて……はは……)」タッ

由華「ロン、2000」

MOB「あ、はい……」

穏乃「(もー、せっかく縮まってきてるのに、邪魔しないでよ! えっと、今のでー……でもまだ、4飜以上で直撃させるか、ツモで跳ねれば……)」



~阿知賀控え室~

晴絵「……ダメだ穏、自分の麻雀を打つんだ! その点差はまやかしだ!」

憧「え?」



~晩成控え室~

良子「なんか心臓に悪いぜ……」

紀子「なんだか、由華らしくないなぁ」

日菜「小走さん、一体どんな指示を出したんです?」

やえ「(今回の戦い、もっとも警戒しなきゃいけないのは高鴨だ。私が大将になって戦う事も考えた。けど……それじゃ意味がない。アンタの手で晩成の勝ちを決めるんだ、巽!)」

~卓~

穏乃「(届く……! もうあと少しで、きっちり逆転出来る……!)」

由華「ロン、8000です」

MOB「げえーっ!? ダマかよー……ついてねー」

MOB「今更ついてるもついてねーもあるかよ……」

穏乃「(……えっ!? この人……さっきから届きそうになって手を伸ばす度、すり抜けて行ってしまう……まるで……)」



~阿知賀控え室~

晴絵「(まるで逃げ水……届きそうな位置に幻影をちらつかせて、実際には決して触れさせない……)」

憧「穏……」

晴絵「(負けた……この子達のせいじゃない。完全に作戦負け……ダークホースとして奇襲したつもりが、逆に……こんな事って……)」



~大将戦終了~

アナ「大将戦終了ー! 阿知賀猛追も及ばず、晩成高校が破竹の10連覇に向けて、激闘の第一試合を制しましたーっ!」

由華「有難うございました」

穏乃「……追いつけなかった……」

MOB「何かキラキラしてるぞ……流れ星かなぁ? いや、流星はもっとバァーって動くもんな……」

MOB「海、行くか? それも悪くねぇ。早い夏だっ」

~決勝 大将戦~

由華「ツモ。4000オールでラストです」

MOB「」

MOB「」

MOB「」

アナ「試合終了ー! 晩成高校、横綱相撲で10年連続のインターハイ出場を決めましたぁーっ! まさに向かう所敵なぁーしっ!」



~晩成控え室~

一同「「おっしゃー! やったー!」」

やえ「(阿知賀、許してくれとは言わない。壮行試合や、本戦の応援がこんな形で……)」

初瀬「やったー!! 皆さん! 小走先輩! やりましたね!」

やえ「あぁ、岡橋」

初瀬「実は私あの時、ちょっと不安だったんです。憧達があんなに必死になって、しかも阿知賀のレジェンドがコーチについてるなんて」

やえ「……」

初瀬「でも小走先輩の仰る通りでした! やっぱり小走先輩は私の憧れです! ヒーローです! 王者はニワカ仕込みになんか負けませんよね!」

やえ「……っ」

初瀬「先輩?」

やえ「ごめん、ちょっと外す」

良子「あれ、やえの奴どこ行ったんだ?」

初瀬「あ、さっき、ちょっとって言って走って行かれましたけど」

由華「表彰式とかインタビューもあるのに……もし間に合わなかったら、上田先輩お願いしますね」

良子「ええーっ!? いや無理無理! 絶対無理!」

紀子「そうかー、良子がやらないならあたしがやろうかなー」

日菜「いえ、ここは私が」

良子「そ、そんなに言うなら副部長のあたいがやるけどさ」

一同「「どうぞどうぞ」」

良子「どうぞどうぞじゃねぇよ!」



~阿知賀控え室前~

玄「ごめんなさい……私のせいで、ごめんなさい」

宥「私も、何も出来なかった……」

憧・穏乃「……」

灼「晴ちゃん……ごめん」

晴絵「謝らないで。皆のせいじゃない。良い夢を見せてくれて有難うね……」

一同「「うわぁぁーん!」」

~その近くの物陰~

やえ「……違う、こんな……勝ち方……」ダッ



~晩成高校 職員室~

晩成教師「おぉ、小走じゃないか。中継見てたよ。おめでとう! って、もう帰ってきたのか? まだ表彰式とか……」

やえ「すみません、部室の鍵をお願いします」

教師「え? あぁ……はいよ」



~部室 因縁卓前~

やえ「こんな勝ち方じゃ、例えインハイでどこまで行ってもダメなんだ……晩成はいつだって王者でなければ!」
 ――ポチッ。カラカラカラ……。
やえ「飛べよぉぉーっ!!」

~部室 因縁卓前~

やえ「……えっ、何も? 起こらない? ……も、もう戻れないのか?」

良子「いやー、参った参った」

やえ「上田! 県予選まであと……」

良子「へ? 予選? 何言ってんだ、本戦だろ」

やえ「そ、そうか。やっぱり飛べなかったのか……」

良子「?」

やえ「(なんだろう、この安堵感は。飛べないんだから仕方ない……このまま全国に行くしかない。そう言えるからか?)」

良子「団体戦の分もさ、個人戦で雪辱しようぜ」

やえ「え、個人戦?」

良子「おう、阿知賀の連中が個人戦にエントリーしてなくて、正直助かったよな。ハハハ! そんじゃ、あたいはもう行くぜ。やえも、また鹿に跳ねられない様に早く帰れよ?」
 ――ガチャ、バタン

やえ「……なんだ、ちゃんと戻れてたのか……はぁっ……」

因縁卓「……」

やえ「……」

因縁卓「本当に良いのかい?」

やえ「えっ?」

因縁卓「もう一度賽を振れば、晩成が勝利した世界線に戻れるんだぜ? そしてインハイに出られる。ベスト8……いや、優勝だって狙える」

やえ「……」

因縁卓「ここは名門晩成が初戦で敗退を喫した世界線。そんな所に戻って来たってしょうがないだろぉ?」

やえ「……」

因縁卓「王者に敗北は似合わない。だよなぁ」




日菜「小走さんが仰るなら」

紀子「しゃーねーな」

良子「やえの言う通りにしてみっか」

初瀬「小走先輩は、私の憧れです! ヒーローです!」

由華「先輩と一緒なら悔いはありません!」




やえ「(皆……!? 私達の……晩成の……王者の……あるべき姿は……)」

因縁卓「さぁどうするんだい、王者晩成の部長さん?」

やえ「悩むまでもない……! 私は、私が信じた道を進めばいい! ……そうだよね、皆」

~インターハイ会場~

アナ「今年も安定した強さで県予選を突破した奈良の絶対王者、晩成高校! 今、その先鋒が席に着いて役者が揃いましたぁっ!」

やえ「……(そうさ……これで良い。これで良かったんだ)」




~……の実況席~

アナ「晩成高校は何を隠そう、小走プロが20年前に卒業した母校です! 後輩にエールをどうぞ!」

やえ「10年前だよ!? 小鍛治プロの昔のネタだろそれ! 第一、解説としてエールはまずいよね?!」

アナ「四の五の言わず、びしっとどうぞ!」

やえ「え、えと……晩成に限らず……常に胸を張って、堂々と戦って欲しい。この舞台に居る貴女達は、全国の少年少女雀士の代表であり、憧れなんだから」

アナ「はい、小走プロらしく、オチの無い真面目な回答有難うございました!」

やえ「オチ必要だったの?! じゃ言うよ! 私が出場した時は、張るほど胸無かったですけどね! なんちゃって、あはは!」

アナ「さぁ、尺調整が終わった所で賽の目が決し、いよいよ戦いの幕が切って落とされます!」

やえ「」

アナ「1回戦、先鋒戦スタートですっ!!」



やえ「(……頑張りなよ、王者達っ!)」




~おわり~

以上でおしまいです。
初投稿なのに色々ごった煮の実験的作品でしたが、読んで下さった方、書き込み下さった方、本当に有難うございました!


>>6
>>8
あざます!

>>7
作中で一番好きなキャラです!

>>12
描写外では地味に奮闘していますが、かなりしんどいですのだ。

>>18
さすがのレジェンドも未来人相手はきつかったです。

>>20
部員が足りず、よその部から助っ人を呼んでエントリーしてる様な学校もあるレベルです。
それくらい、奈良の強い雀士は皆晩成に行ってしまうのです。

>>25
有難うございます!
動画なんかでも小走先輩ネタはコミカルが多いので、今回は格好良くageるのが目標でした。

>>26
にわかじゃないよ!? にわかは相手にならない先輩だよ!?



ではまた、どこかの卓で!

アラフォーは茨城県出身だが

あとこいつらで準決抜けれるとは思えん


これはいいにわか先輩

スレタイからまさかこんなSSになるとは思わなかった…ニワカは私だったようだな

乙ー
やえ先輩への愛が感じられて良かったです

上手くまとめたな乙乙


なかなかいいにわか先輩だった

>>39
げ、原作で見せて無い特殊能力がきっとあるから。(震え声)

>>40
にわかじゃ(以下略)

>>41
鹿にぶつかって時を超える先輩を書きたいと思ったらこうなってました。
私も予想外です。

>>42
有難うございます!
ラブドリル!

>>43
有難うございます!

>>44
だからにわかじゃ(以下略)


では、html化申請して参ります!
晩成の戦いはまだ始まったばかりだ!

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