店主「ようこそ、闇色の巣窟<ディエ・フーレ>へ――」(37)

店主「君が此処に来るは、既に知っていたよ。歓迎しよう」


男「……なんだコイツ」

メイド「我が大いなる店主<マスター>です。お見知りおきを――」

男「その、店主ってのが言うに、俺がココに来るのを知っていたらしいな」

メイド「きっとそれは、夢色の宝珠<フトゥレサイト・フィースハイト>の事ですね」


男「夢色の宝珠<フトゥレサイト・フィースハイト>……? 何を言ってr」

店主「未来を見せる珠、それは夢幻の闇色に――美しいだろう?」

以下は私が私に課した縛り<フォーシュリフェン>です。ここに記しておきます。

・七行ノ規約<フォーシュフライフェン・ジッフェン>……自らを七行へと縛るる束縛
・括弧ノ統一(フェスト・ベグリフ・アインガンス)……"人物「内容」<br>"への束縛
・溜書ノ禁止(ブリフ・ニハト・ブラハウフト)……賢者の系譜を妬みし愚者の魂
・惰眠ノ制約(イェーデ・デルイェンス)……堕天使との契約を永久破棄させる条約

以上の3つです。では書いていきますね。

男「俺は昔から好奇心旺盛な人間だった」

男「路地を見つけては入り込んでいた子供時代を過ごしたこともある」


男「だが、雀百まで踊り忘れず、かな。と思わせる事態に遭遇した」

男「いつも通りの退社後に、何の変哲も無い裏路地だ」

男「もちろん俺は入っていったが、その中で一際興味を引く店があった」


??「――気づいたようですね。この店は、賢者には見えないのですよ」

男「おいおい嘘こけ……って、俺は、どこから話しかけられたんだ?」

女の声「気づく由もありません。あなたの前にある店の中ですから」

女の声「でも、貴方のその瞳が澄んでいることくらいは分かります」

女の声「見たところ、連れの女は居ないようですね……丁度いい」


女の声「貴方に、この店へと入る権利を与えました」

女の声「少し寂しいですが、このまま帰る権利も与えましょう」


男「……いや、たぶん入るけど……何のお店なんだ?」

女の声「ほんの喫茶店<ダス・カフィ>ですよ」

男「その……ダス・カフィってのは何を扱ってるんだ?」


女の声「っ!?  ……こほん。これは失礼いたしました」

女の声「いわゆる、キッサテンのことです」

男「いや、明らかにおかしい言葉が聞こえたよ俺!?」


女の声「それは、きっと言葉の"あや"です」

女の声「契約者は、示された一定の言語域を使用するものなのです」

男「そ、そうなのか……業界用語みたいなヤツなんだな、きっと」

ちょっと異世界との契約により、出かけねばなりません。
こちらからは現世界の魔術――電子技術<オパラティヴン・アイングリフ>を。
向こうからは闇の術式を、それぞれ提供しあいます。
今、両世界は実に協力関係にあるのですよ。

ちょっくら行ってたてまつります。

最初は3つだった
→計画変更で4つへ
→慣性の法則により3つと表記
→実は5つだったことが判明 ←New!

スキマ時間に何個かだけ上げてくよー
あと酉つけとく

女の声「さぁ、どうぞ」

男「では、遠慮なく…… ……わぁお」


男「一見してただ乱雑に置いてあるだけに見える、このグッズっ!」

男「だがその実は一定の法則によって築き上げられた――」

男「所謂・不確定性の原理を最大限利用した巧妙な配置ッ!!!」

男「しかも、全てがオカルトちっくなグッズばかりだ……!」


男「ここの店主、デキる……ッ!!!」

女「混沌なる清純<コスモス・ディス・カオス>ですよ……男さん」

男「なっ、何故俺の名前を――」

女「雰囲気に呑まれるのは悪くないですが、程ほどに、ですよ」


男「そ、そうか……なるほど、とりあえず落ち着いたよ」

メイド「ならばテストをしましょう。私は何に見えますか?」


男「いや、メイドだろ」

メイド「……なるほど、やはり所詮は人間ですか――」

契約を再開しに行き奉ってくる

男「……そう、俺は人間だ」

メイド「ですが、私や貴方は選ばれし人間<アウスケヴェルテ・パズーン>です」

男「確かにな。ところで、ここはキッサテンなんだろ?」

メイド「ええ」

男「何か頼まないとマズいんじゃないか?」


メイド「……すみません。店主<マスター>が居ないとお出しできないのです」


男「――オマエの酷い版がいるのか?」

メイド「いいえ……店主は、それは素晴らしいお方です」

男「えっと……あなたとの関係は?」


メイド「私の雇い主であり、唯一の理解者――です」

メイド「あと私、メイドって言います。よろしくです」

男「まぁ、ここの雰囲気は好きだ……また来るよ」


メイド「今度は、店主の居るときにお願いします」

メイド「……日々悪と戦っていて、不定休ですが――」

男「何日か後まで、俺はその店まで通うことになる」

男「その際にメイドに色々聞いた」

男「……半分は、まだ見ぬ店主<マスター>の自慢話だったが」

男「だが、あの店の雰囲気はなぜか嫌いになれなかった」


男「そして俺は、会社を辞めた」

男「別に自分から辞めたわけじゃない。単に短期契約だったのだ」


男「これは契約が終わった後の、最初の日曜日の話である」

男「……普段の日曜日は遅くまで寝てるからな」

男「陽の光の眩しきを、まるで思い出したようである」


男「……あの店、行くかな」

男「そうだ、今日こそ店の名前を聞いておこう」


男「早朝ゆゑか、メイドの玄関コールが無い」

男「そしてふと横を見た俺は、遂に見てしまったのだ」

男「本物の、魔道術式らしきものを」

メイド「……っっ」

男「……あの、メイド……さん……?」

メイド「………」

男「普段は笑顔を振りまいていたメイドが、今日は真剣だ」


男「話しかけないでおこう」

メイド「……あっ、男さん。今日はお早いのですね」


男「ここ数日はそうだろう。仕事は俺を見捨てたんだ」

メイド「……確かにそうでしたね…ははは……」


メイド「――見て、ましたか?」

男「一応、な。桃色の――魔道術式<オペラティヴ・ワーファルレン・デア・マージェ>か?」

メイド「……私の話、ちゃんと聞いていたんですね。意外です」

男「一応、な……高次の人間のみ発現可能とかなんとか」


メイド「私の術式は――"恋愛の術式<リーベフォル>"ですから」

メイド「いつか、活かせればいいな……とぞ思ひけり」

男「……今日は、店主が来る予定があるのか?」

メイド「男さんには、先見の能<フトゥレサイト>があるかもしれませんね」

メイド「今日、かの地に来ると思われます」


男「本当に不定休だったんだ……」

メイド「私は人間を騙したりしません」


メイド「本当の賢者<サルベイ>か、本当の愚者<アイン・ナル>か――」

メイド「人間を騙すのなんて、そのうちのどっちかです」

男「……だが、待てど店主は来なかった」

男「そして、明くる日も、明くる日も来なかった」

男「日曜日だけは来る希望があるらしいが、やはり来なかった」


男「そして、俺の中でひとつの疑問が生じてしまった」


男「彼女の店主<マスター>は、本当に実在するのか?」

男「という、至極単純なものだ」

男「俺にそう思わせた理由のひとつは、日曜朝の術式だ」

男「あれは練習といっていたが、本当は何のためなのだろうか?」

男「彼女は『まだ少しだけ完成していないのです』と言っていたものの――」

男「俺には少なくとも、アレは完成しているかのように見えた」


男「なぜなら、俺がこうやって彼女に気を病んでいるから。であろう」


男「もちろん彼女は美しいまでの店主一筋愛である」

男「これはいわゆる、三角関係<ダイエクスベティェォング>であるのだ」

男「彼女の瞳に、俺は映っていない。俺に投影してもいない」

男「何も出されていないから、お金も落としていっていない」

男「見るに、俺以外の客もいないようだ」

男「だから……」


男「……店主を、見つけにいくしかないんだ――!!」


男「だが、その希望は薄い」

男「とりあえず今日も、彼女に会いに行こう」

男「――もう何年も会ってないって!?」

メイド「はい、実は、そうです……」


男「もし会えたら、気づけるのか?」

メイド「あっ、当たり前ですっ!! 絆をナメないで下さい!!」


男「なるほど……分かった。今日はありがとう」

メイド「あれ。今日はもうお帰りですか?」

男「……まぁな」

メイドの声『店主<マスター>! やりました!』

メイドの声『……今日も、任務を全うできたのか。よろしい』

メイドの声『あっ、ありがとうございます……っ!!』


男「……盗み聞きしてみたはいいものの」

男「幸せそうで何よりだった……はぁ、もう帰ろうかな」


メイドの声『そうですマスター、今日も男さんに会いましたよ』

男「っ!」

メイドの声『いつものように凛々しくて、どこか掴めなくって』

メイドの声『観察眼が凄くって、それで……いつも傍にいてくれる』

メイドの声『そう、マスターの、よう、な……人で……っ!』

メイドの声『………マスターの、ような……っ!』


メイドの声『マスターが居ないと、私、もう……もうっ……うえええええん……っ』

男「……俺は、何も出来ないのか……っ!?」


メイドの声『帰ってきてください、マスター……っ……』

男「……俺は、話すべきなんだろうか?」

男「店主はたぶん、事故でもう居ない、って」

男「それとも、気づかないフリをして、このまま――」


メイドの声『……今、行きますよ。マスター……待っててくださいね』

メイドの声『……ッ!!』


男「メイドっ!! 早まるな!!!」

メイド「!!??」

男「……遅かったか――」

メイド「……んぅ……?」

男「見えてしまったんだよ、メイドの未来が……くそおぉおおおっ!!」

男「俺のバカ! どうして、どうして何も出来なかったんだっ!!」


メイド「……気にすることは、ありませ、ん………」

男「血だらけじゃねーか……どう気にするなってんだよ」


メイド「やはり、優しい人なんですね……店主<マスター>は――」

男「違っ――」


男「……いや、あっている。それでいいんだ、メイドよ」

メイド「ふふふっ……」

メイド「……」

メイド「…………」


男「!!!!」

男「……夢、か」

男「日曜日……だな。もう昼だが」

男「いやー、悪夢だなんて本当に久しぶりだ」

男「メイドがナイフで自殺? そんなわけあるか」


男「……そんなわけ、ない、って言い切れるのか?」

男「……」

男「………俺は、どうすべきなんだろうか」


男「でも、その結論は、得られた気がするな」

男「俺が店主を演じてやればいい。ただそれだけだ」

男「もし俺に先見の能<フトゥレサイト>があったなら――」

男「メイドは、今日の夕方には死んでしまうんだ」


男「それくらいなら、自信を持って救えるさ……っ!」


男「さて、店主の格好ってどんなだ?」

男「……魔道士のローブ、とかなんだろうなきっと」

男「さっさと調達して、メイドを助けるんだッ!!!」

男「裏路地前」


男「そう。確か最初は夜だったな」

男「今は夕方だ。ローブ探しにかなり手間取ったからな」

男「……懐かしいな。最初に来たときも、ここを通ったっけ」

男「その後は、最適ルートを見つけちゃって、通らなかったけど」


男「よし、行こう。メイドが待ってる」

男「……これで、いいんだよな」

店主「君が此処に来るは、既に知っていたよ。歓迎しよう」


男「……なんだコイツ」

メイド「我が大いなる店主<マスター>です。お見知りおきを――」

男「その、店主ってのが言うに、俺がココに来るのを知っていたらしいな」

メイド「きっとそれは、夢色の宝珠<フトゥレサイト・フィースハイト>の事ですね」


男「夢色の宝珠<フトゥレサイト・フィースハイト>……? 何を言ってr」

店主「未来を見せる珠、それは夢幻の闇色に――美しいだろう?」

男「……俺には何も見えませんけど」

メイド「私もです」

店主「見える。今日は"男"以外に、客人が来ることはない」


男「あなた、本当に店主さん?」

店主「……如何にも、そうだ」


男「まじかよ……」

男「……マジかよおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!」

男「……」


男「皆さん、未来を見てしまったことはありますか?」

男「それは偶然です。絶対に偶然です」

男「客が来るときは、あんな店にも来るんです」

男「それと、正夢なんてのはきっと存在しません」

男「それでは、よい週末を。おやすみなさい<グーテ・ナハト>――」


店主「ようこそ、闇色の巣窟<ディエ・フーレ>へ――」 END

これにて完結です。
本当はもっと色々やりたかったんですけどねぇ……
でもこれから、悪魔との交渉<ディスカッション>があるのですよ。
急がねばなりません。彼らは重要な取引先ですので――

それではそれでは。

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