志保「見つめて、ください」 (213)

アイドルマスターミリオンライブ!のSSです

指摘や感想など頂ければとても嬉しいです
のんびり行きます

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1402909644

社長室で、その人はこう言った。


P「君の担当となったPです、よろしく」


私のプロデューサーだ、と。
にわかには信じ難かった。

志保「…あなたが、プロデューサーさんですか?」

P「え?えーっと、そうだけど…」


プロデューサーというのは、芸能界で仕事を取ってきたりするのだから、もっと目に見えて頼りがいのあるものだと思っていた。
なのに、この人は…。

志保「何だか頼りない感じ……」

P「えっ」


しまった。
思わず声に出ていた。

仮にもプロデューサーだ、一応これからお世話になるのだ。

けど……。


P「そ、それはともかく!プロデューサーとして精一杯頑張っていくから、これからよろしくな!」

志保「そんなに張り切らなくてもいいですよ。私は、自分の力でトップアイドルになるつもりなので」

P「い、いや、それだと俺がいる意味が」

志保「迷惑をかけることはないと思いますけど、よろしくお願いします」

P「え、あ、はい。よろしく…ってそうじゃなくて」

志保「あ、忘れてました」

P「何?」

志保「北沢志保、14歳です」

P「今更過ぎるわっ」

志保「……」


この人、14歳に振り回されていて大丈夫なんだろうか。

P「はぁ…大変な毎日になりそうだな…」


こうして、私とプロデューサーさんの慌ただしい日々が始まった。


P「北沢さん、このオーディションなんだけど、北沢さんの苦手なダンスが重要視される傾向にあって」

志保「対策は考えてありますから大丈夫です」

P「そ、そうですか」


P「北沢さん、この前のレッスンで、トレーナーさんに言われてた」

志保「課題は分かっています。自主練もしてますから、プロデューサーさんは口出ししないでください」

P「は、はい…すみません…」


P「北沢さん、今度の収録のディレクターさんは特に厳しい人だから」

志保「以前お仕事させて頂いたことがあるので、分かってます」

P「あ、そうなんだ、じゃあ心配要らないね」

志保「……」

P「北沢さん、来週のスケジュールについて少し」

志保「プロデューサーさん」

P「うん?」

志保「その……北沢さん、って呼ぶの、やめてもらっていいですか。あと、微妙な敬語も」


ようやく言えた。
ずっと気になって仕方がなかったのだ。

P「えーっと…何か気に食わないかな?」

志保「気に食わない…というか、落ち着きません」

P「なんだそれ…」


困ったな、という風に頭をぽりぽり掻くプロデューサーさん。
年上の、自分の上司にあたる人物にさん付けや敬語を使われたい人は少ないだろう。
私は背中に悪寒が走る。

志保「ともかく、苗字にさん付けだけはやめてください」

P「わ、分かった、そう言うなら。えーと、じゃあ、志保」

志保「はい」

P「…志保」

志保「はい」


別に、二回も呼ばないでも…。
律儀に返事をする私も私だが。

あ、ごめんなさい>>12はなかったことに

志保「ともかく、苗字にさん付けだけはやめてください」

P「わ、分かった、そう言うなら。えーと、じゃあ、志保」

志保「はい」

P「…志保」

志保「はい」


別に、二回も呼ばないでも…。
律儀に返事をする私も私だが。


P「志保」

志保「あの」

P「し」

志保「うるさいです」

P「すみませんでした」

今日はここまで
次は多分一週間以内には…



支援だよ
北沢志保(14) Vi
http://i.imgur.com/sFdL4aX.jpg
http://i.imgur.com/iinWIGe.jpg

ちょっとだけ投下します

P「あれ、確かにここに…」


プロデューサーさんが辺りを見渡している。
探し物だろうか。


P「北……志保、ここに置いといたコーヒー、知らないか?緑のマグカップの」

志保「コーヒー?緑?…あぁ、それならさっき、矢吹さんと環が飲んでましたよ」

P「可奈と環?あいつら、コーヒー飲めるのか」

志保「苦い、って言ってシロップと牛乳を足してました」


その時の二人のリアクションは忘れられない。

矢吹さんは、口にコーヒーを含んだ瞬間、眉を寄せながら机にもたれかかって悶絶していたわね。
環は矢吹さんよりも少ない量を飲んだみたいだけど、それでも口をへの字に曲げて泣きそうで…。
そこまで苦いものだったかしら?

P「まあ、飲めないよな。というか志保、見てたんなら止めてくれよ」

志保「プロデューサーさんのものだとは思わなかったので」

P「次見てたら、俺のだって言ってくれ。はぁ…あいつらには今度言っとかないとな」

志保「……」

P「…俺、なんか悪いことしたか?」

志保「えっ?」

P「いや、睨み付けられたから…」


意識しないうちに、プロデューサーさんを見つめていたらしい。
それを睨み付けるだなんて、失礼な。

志保「睨み付けたつもりは、ありませんけど」

P「獲物を狙う鷹みたいな目だったぞ」

志保「はぁ?……目付き、そこまで悪くないと思うんですが…やっぱり、怖いでしょうか」

P「…気にしてたりする?」


言おうかどうか、数瞬迷って。


志保「…シアターの小さい娘たちに怯えられて。恵美さんやまつりさんにも、少し言われました」


睨んでいるつもりじゃないのに。
でも…私に責任がある訳じゃないけど、小さい子を怯えさせてしまうのは、罪悪感がある。

P「俺も最初会った時はビビったなあ。何だコイツ、って」

志保「…目付きが悪くてすみませんね」

P「だが、人間、見た目で判断するのは良くないからな。ことプロデュースにおいては、本質を見てやらないといけない」


…案外、真面目に考えてるんだ。
いつもヘマをしてはどたばた走り回ったり、書類を大慌てで撒き散らしているプロデューサーさんと同一人物だなんて。

ちょっと、イタズラしてみたい。

からかうような調子で、プロデューサーさんに聞いてみる。


志保「私の本質、分かりました?」

P「いや、まだまだ…。でも、第一印象とは全然違う娘だな、っていうのは、分かるぞ」

志保「……ふぅん」

P「興味無いなら聞くなよ…すまん、俺は外回りがあるから、もう行くよ」

志保「あ、はい」


慌ただしく準備をして出ていくプロデューサーさん。

…まさか、真剣に答えられるとは思わなかった。
私のことなんて、何も見ていないと思ってたのに。


志保「……」

短いですが今日はここまで
予定は未定

>>19
太腿prpr鎖骨hshs支援あざます志保はかわいいなぁ!!

ちょろっと投下します

P「あーくそ、どこに行ったんだ…」


プロデューサーさんが、机の上に詰んである紙の束を一枚一枚捲っている。
あの漁り方は…鍵、じゃないわね。
十中八九、資料が見つからないのだろう。
今に私に声をかけてくるに違いない。


P「うーん……あっ、志保、資料知らないか?表に『夏休み計画表』って書いてあるやつ」


ほら。

志保「私は見てませんよ」

P「そうか。アレがないと、この夏何も出来ないんだよな…見つけたら言ってくれ」

志保「分かりました。…ところで、夏休み計画表…って何ですか?随分子供っぽい名前ですけど…」

P「今夏のプロデュース計画をまとめた書類だ。何もかもがそれに書いてある」

志保「まずいじゃないですか」

P「うん」


その割に、そんな素振りを全然見せないのね。
焦りが顔に出ないタイプなのかしら。
どうでもいいけれど。

志保「頑張ってくださいね」

P「手伝ってくれないんだな」

志保「資料を整理していないプロデューサーさんが悪いです」


それに。


P「自業自得か……ん?お、あった!」


いつもすぐに見つかるんだから、わざわざ私が探さなくてもいいでしょう?


志保「良かったですね」

P「おう、水着の仕事もあるから期待しててくれ!」

志保「はぁ!?」

本日分ここまで
書き溜め尽きたんで本当に次未定です

少しだけ

P「志保、仕事取ってきたぞ!」


満面の笑みのプロデューサーさん。
嫌な予感しかしない。


志保「……何のお仕事ですか?」

P「『夏を乗り切れ!お化け屋敷で肝まで」

志保「お断りします」


はぁ…やっぱり。
プロデューサーさんがやたら笑顔で仕事を持ってくる時は、こういう内容であることが多い。
前に水着の仕事を持ってこられた時もそうだった。
…もちろん断ったけれど。

P「先方には了承入れちゃったんだけど」

志保「知りません。千鶴さん辺りにでも回してください」

P「…トップアイドルになりたいんじゃなかったのか?」

志保「そのお仕事はトップアイドルに関係ないじゃないですか」

P「トップアイドルたるもの、バラエティもホラー系も軽くこなさないと」

志保「何ですか、その意味不明な理論」


演技や歌に特化しているのは、武器になるし、表現の幅を広げられていいと思う。
けど、バラエティやホラーもこなせるって、流石にアイドルの域を越えてるんじゃ…。

P「……怖いんだろ?」

志保「ち、違いますよ!?こっ、こ、怖くなんかありませんから!」


プロデューサーさんがにやにやした顔でこちらを見る。
対する私は、傍から見ても明らかに余裕がない。


P「おい、後ろに誰かいるぞ」

志保「きゃあああああ!?」


頭の片隅では誰もいるはずがないと分かっていながらも、悲鳴を上げ振り向いてしまう。
当然、誰もいない。

プロデューサーさんに向き直り、精一杯の恨みを込めて睨む。
怯む様子は全くなく、むしろ、私の睨み顔を見てより一層にやにやしている。


P「怖いんだな」

志保「怖くなんかありませんかりゃっ!」

P「噛んだ?」

志保「噛んでませんっ!」

P「へぇ…」

志保「うぅ……」


この恨み、いつか晴らしてやる…。

時間が空いたうえ短くて申し訳ありません
次も未定です

ちょっとだけ…

トレーナー「1、2、1、2!」


トレーナーさんの声に合わせてステップを踏む。
右、右、左、ターン…。


トレーナー「ストップ!志保ちゃん、やっぱりターンが出来てない。腕を回すんじゃなくて、腰から回る」

志保「はいっ」


厳しい声が飛ぶ。


トレーナー「腰を意識して、もう一回。さんはい、1、2、1、2…」

志保「…っ」

P「……」

志保「はぁっ…はあ…」

トレーナー「ん、大丈夫?」

志保「だ…だい、じょう…ぶ、です」

トレーナー「どう見たって大丈夫じゃないでしょう…今日はここまでにしておきましょうか」

志保「ま、まだやれます!」


俯き気味だった顔を反射的にがばっと上げ、少し声を張る。
トレーナーさんは呆れた顔でふうっ、と溜息を吐き。


トレーナー「さっきまでロクに喋れないほど荒い息をしてたのはどこの誰ですか」

志保「う…」

トレーナー「レッスンで体を壊しちゃ、元も子もないんだから。それと、自主練も程々にね」

志保「…分かりました」


渋々折れる。

トレーナーさんは満足気に笑い、少し伸びをして私に向く。


トレーナー「素直でよろしい。それじゃ、お疲れさまでした」


そう言いながらてきぱき荷物を片付け、プロデューサーさんに頭を軽く下げてからレッスン室を出て行く。
その背中を見送ったあと、プロデューサーさんがこちらに近づいてきた。


P「お疲れさん。どうだ?」


いきなりどうだ、と言われても…。
疲れていたこともあり、少しぶっきらぼうに答える。


志保「見ていた通りです」

P「あー、いや。前言ってた改善点、良くなったか?」

志保「…前よりは、良くなりました。けど、まだ完璧とまでは」

P「それは良かった」

志保「……は?」


私は出来ていないと言ったのに、この人は何と言った?
「良かった」……ですって?

志保「どういう、ことですか?未完成で良いわけ、ないじゃないですか」


プロデューサーに詰め寄り尋ねる。


P「それはもちろんそうだ。けど、すぐに完璧にならなくたって良いだろう?少しずつでいいんだ」

志保「…はあ」

P「全く前進していなわけじゃない。それは『良かった』だ」

志保「そう…ですか」

P「あれ、俺良い事言ったつもりなんだけど」

志保「そうですね。その言葉さえなければ少しは見直しました」

P「え゛っ」


けれど…。
ちょっとだけ、気が楽になったから。


志保「…ありがとう、ございます」

今日はここまで
中々投下できないうえ短いのばっかりですみませんほんとすみません

いつも支援レスありがとうございますだよ~(●;▽;●)
ゆっくり書きながら行きます

P「終わっ、たー…」


手にしているドラマの台本から目を離し、プロデューサーさんの方を見遣る。


P「くぁ…眠い…」


あくびをしながら、椅子にもたれかかっている。
身体を後ろに仰け反らせているけれど、首が痛くなったりはしないのだろうか。

志保「コーヒー、要りますか?」

P「頼む。…あ、ブラックで」


給湯室に行き、目当てのものを手に取る。
…ブラックって言っていたから、これだけで良いわね。

デスクへ戻り、プロデューサーさんに給湯室から持ってきた物を渡す。


志保「はい、どうぞ」

P「……志保」

志保「はい」


プロデューサーさんが眉を寄せ、私を見る。
口元は笑っているけれど、心なしか引きつっているようにも見える。

P「これ、何?」

志保「コーヒーですけど」

P「コーヒー『豆』じゃねえか!」


給湯室から持ってきたのは、インスタントコーヒー。
の、瓶。


志保「コーヒーです」

P「コーヒーはコーヒーでも飲めないコーヒーだろ!」

志保「頑張れば飲めますよ、きっと」

P「頑張るとかそういう問題じゃないだろ…」

頭を抱えているプロデューサーさんは放っておいて、台本読みに戻りましょう。
そう思い、ソファへ足を向けたところで、はたと足を止める。


志保「……」


…プロデューサーさんと話して、喉が渇いたわね。
そ、そう、あくまで、私の喉が渇いたから。

デスクへ引き返し、突っ伏しているプロデューサーさんの手からコーヒーの瓶をもぎ取る。
あっ、という声が聞こえた気がするけど、気のせいだろう。

足下の棚から共用のマグカップを二つ取り出し、インスタントコーヒーとお湯を注ぐ。
豆から挽いたものには敵わないけれど、やはりコーヒーの香りは落ち着く。


志保「ミルクとシロップはどこだったかしら…」


冷蔵庫を覗いてみる。
ミルクは見つかったものの、シロップがない。

困った。
最悪、シロップさえあれば大丈夫なのだが、そのシロップがなければコーヒーが飲めない。

志保「前にここを使った時は…流しの横の籠に入れてあったわよね」


腕を組みつつちらっ、と記憶していた場所を見る。
籠はない。

誰かが移動させた、ということだろう。
誰が?どこに?


志保「……探した方が早そうね」


悩むのをやめ探し始めると、案の定すぐに、先ほどマグカップを出した棚で籠を見つけた。
時間を無駄に使わなくて済んだ。

書いてる途中でインスタントだからシロップじゃなくていいじゃんと気付いた
「シロップ」となっている部分は「砂糖」で脳内変換お願いします

一つのマグカップにだけミルクと砂糖を入れ、給湯室を出る。

白が砂糖入り、赤がブラック。
口の中で繰り返しながらデスクの方へ向かう。


志保「プロデューサーさん」

P「ん?」


突っ伏していた姿勢からむくりと起き上がり、私を見るプロデューサーさん。

志保「入れすぎちゃったので、どうぞ」


そう言いながら、プロデューサーさんのデスクに赤のマグカップを置く。


P「お、おお!ありがとな、志保!」


予想以上に嬉しそうな反応で、さっきいじわるをしたことに少し罪悪感が募る。


志保「い、いえ、別に…。分量を間違えただけですから」

P「いやいや、それでも有難いよ。いただきます。……はあ、落ち着く」


コーヒーを入れただけで、ここまで喜ばれるのは予想外だった。
…これくらいなら、いつでもしてあげるのに。

本日分ここまで
あと>>49も訂正
× P「全く前進していなわけじゃない。それは『良かった』だ」
○ P「全く前進してないわけじゃない。それは『良かった』だ」
疲れてる頭で書くもんじゃないですね…

ネタが思い付かないのと私用で少し忙しいため、次は16日以降になると思います

本日投下する予定だったのですが、書き溜めしてた分全部飛びました
なるべく今月中には投下できるよう頑張ります

書きながらゆっくり

P「あ、志保」

志保「はい?」


レッスン場へ向かおうとしたところで、呼び止められる。
余裕を持っているから少しは大丈夫だけれど、本音を言えばなるべく早くレッスンを開始したい。


志保「時間を無駄にしたくないので、手短にお願いします」

P「はは…手厳しいな、志保は」


へらっと困ったように笑いながら、手を首へ。
プロデューサーさんのクセ。

それから、ちょっとだけ目を伏せて真剣な顔をつくる。
これも、プロデューサーさんのクセ。

P「『アイドル学園天国』の撮影、上手く行ってるそうじゃないか。監督さんに褒めて頂いたぞ」

志保「え、あ、あの監督に?本当ですか!?」

P「本当だ。……どうした、そんなに目を輝かせて」

志保「はっ」


…気付かないうちに、少々取り乱していたようだ。
慌てて取り繕う。

志保「な、何でもないです。…監督、手が男性らしくて素敵だなって、ちょっと思っただけですから」

P「ふーん」


あまり、興味がなさそう。

志保「…そういえば」

P「ん?」


プロデューサーさんでも気づくように、わざとじろじろ見ながら言う。
筋肉が全く付いてなさそうな、服を着たうえから見ても分かる体型。


志保「プロデューサーさんってホント、ひょろひょろですよね」

P「余計なお世話だ」


顔をしかめながら返される。
気にしてるのかしら。

志保「プロデューサーさんも、もう少し社長みたいな渋さがあれば…」

P「ん?…あぁ、そりゃ無理な話だ、あと20年くらい待ってくれ」


自分では聞こえないように言ったつもりだけど、プロデューサーさんにはばっちり聞こえていたらしい。
どう返すべきだろう。
出来るだけ、こちらの動揺を悟られないように、表情も作って。


志保「端から期待してませんけどね」

P「わざわざ言わんでいい」


ふふ、と笑って返す。

志保「そろそろ時間なので。それじゃ」

P「ごめんな、今日は付いて行けなくて」

志保「いえ、大丈夫ですから」


きいっ、と音を立てて事務所のドアを開く。
このドア、修理する予定はあるのかしら。

事務所を出てドアを閉めるまで、プロデューサーさんはずっと私を見ていた気がした。

休憩。10時までに来なかったら寝落ちしたものと思ってください

案の定寝てた。お昼食べたらぼちぼち書きながらやります

夏が終わった。


私が芸能界に飛び込んで最初の夏。
振り返ってみれば、とても密度の高い時間だった。

夏休みということもあって、普段なら出来ないような経験をたくさんさせてもらえたし、仕事で様々な人と出会うこともできた。
事務所の何人かと一緒に仕事することもあって、少し話すようになったりもした。
…同い年の子たちは、未だに苦手だけれど。

プロデューサーさんとも、少しは信頼関係を築けた…と、思う。
本人には言わないけど。…夏休み特番で、さんざん無茶振りされたから。

でもそのおかげなのか、この夏で私はそこそこ有名になっていた。
常に週2本は仕事があるくらいには。


志保「……さて」

ハンガーラックから秋用のコートを外し、さっと羽織る。
前は閉めないように言われていたっけ。

軽く羽織ったそのままで、着替え用の簡易テントから出る。


志保「…さむっ」


テントから出た瞬間、風がひゅうぅと私を煽る。
秋が深まってきたころに出す雑誌の撮影だから、今は暑くもなく、寒くもなくと言った気候だ。
けれど、そろそろ夏気分を覚ませと言うかのように吹く風が、体の表面をぞぞぞと這っていく。

改めて自分の着ている服を見る。

煤竹色と、深緋のチェックシャツ。
鶸色茶のコート。
黒を基調に、僅かに灰色がかったジーンズ。

一言でいうと、大人っぽい。


今日は私だけで大丈夫です、とプロデューサーさんを置いてきたのを少し悔やむ。
ちょっと、見て欲しかったな、なんて。

ごめんなさい眠気に勝てません寝ます
次は8/1か9th大阪後のどっちかになるかと

あー、なんかすごいことになってますねぇ
なおこのスレはPSLもLTHも反映させる気はありませぬ

間を空けてしまいすみません
事情により少々立て込んでいました
一週間以内くらいに投下できればと思っています

おかしいな…一週間以内って言ったはずなのに…
確実に明日投下します

まず訂正。>>83の「煤竹色」→「柳煤竹色」
では>>83の続き

「北沢さーん!撮影始めまーす!」

志保「はいっ!」


ぼんやりしていたところに声を掛けられたせいか、大声で返してしまった。
別に、悪いわけじゃないけど。

屋外の撮影のためか、周囲にまばらではあるが人が集まっている。
少し緊張するが、カメラだけを意識すればそこまででもない。


志保「ふー…」


息を吐き、思考を空にする。

求められている人物像に近い、私の知っている人物像を纏うのが私の演じ方だ。
私が衣装として着ているこの服を、普段着として着こなしていそうな女性をイメージして…。


「あー、志保ちゃん。もうちょっと…こう…さらーっとして。クール!って感じじゃなくて、Cool...って感じ。…そう、それ!」


…たまに、人物像のチョイスを失敗するけれど。


「はい、オッケーです!」

志保「お疲れさまでした」

「うん、良かったよー。お疲れさん、着替えていいよ」

志保「はい、ありがとうございます」

志保「ふぅ…」


ひといき。
スタッフの誰も入って来ない着替え用テントの中は、臨時ではあるが私だけのスペースだ。

……。
ちょっとなら、いいよね。

姿見に体を向ける。

口角を僅かに上げた私の姿。
近寄り難い雰囲気が衣装を変えただけで消え、こんなにも親しみやすそうになるなんて。
いつもみたいに、仏頂面じゃないのも影響していると思うけど。


志保「……けっこう、可愛い、かも」


言葉がぽつりと漏れた。

夏が…終わった……ごめんなさいごめんなさい本日分ここまでです
本当にすんません次も未定です







今日か明日投下します

書きつつゆっくり

一枚だけ、写真を撮ろうかとカバンに手を伸ばして……やめた。
プロデューサーさんはどうせ写真チェックをするし、私の写真を見せられても迷惑なだけだ。
それに自分の姿を保存する意義は感じないし、ファン向けのブログとかもやっていない。


志保「…?」


いま私は、写真を撮ったらまずプロデューサーさんに見せようと考えた?
まさか。


志保「……着替えましょう」

「着替え終わった?」

志保「あ、はい」


テントを出たすぐ傍のスタッフに声をかけられる。
…現場指揮のかただったかしら。


「今日はあのプロデューサーさん、来てないんだよね。っとじゃあ、このまま帰って頂いて大丈夫です」

志保「あ、はい、ありがとうございます。お疲れさまでした」


プロデューサーさんが居る時はいろいろと回らないといけないから、今日はラッキーだった。

さて、どう帰ろうか。
行きに使った地下鉄か、この後は予定もないし歩いてもいいかもしれない。


P「お、いたいた、おーい志保ー」


…さて!


P「待ちなさい」


腕を掴まれ前につんのめる。
ぐ、と腕を引いて抵抗しつつ、体を正面へ持って行く。

志保「…何ですか?」

P「そんな怖い顔するなよ…いや、丁度終わったみたいだし、一緒に散歩でもどうかと思って」


言いつつ、手を離し若干距離を取るプロデューサーさん。
同時に私も半歩下がり、会話するには少し遠目の距離。


志保「すみません、夕飯の買い物があるので」

P「あー…そうか、家事は志保がやってるんだったな。なら、仕方ないか。気を付けてな」

志保「いえ。…では、また」

P「おう」


嘘をついたことに、少し、罪悪感を覚えた。

一旦ここまで
日付変わったすぐあとくらいにちょこっと本編と関係ない話をする予定ですが多分寝落ちします

(劇マスの志保に殺られてたということにしておきたい)
本編と関係ない話今日やります。2レスしかないのと志保は出ないので期待しないでください

P「あ、千鶴さん。ちょっと良いですか」

千鶴「あら、プロデューサー。珍しいですわね、志保が一緒じゃないなんて」

P「いつも志保と居る訳じゃないですよ」

千鶴「それもそうですわね。それで、用件は何ですの?」

P「受けて頂きたい仕事がありまして。志保にと貰った話なんですが、志保が『私にはムリです。どうぞ千鶴さんに』と」

千鶴「志保のお願いならば受けない理由はありませんわ!」

P「ありがとうございます!お世話になっている先方で、無下にするわけにもいかなくて…助かりました」

千鶴「ふふ、これくらいお安い御用ですわよ。どんな内容なんですの?」

P「『夏を乗り切れ!お化け屋敷で肝まで冷え冷え~』です」

千鶴「…………はい?」

>キャアアアアアアアアアア!!!!!!

スタッフ「千鶴さん、楽しんでますねー」

P「ええ、志保に断れらた時はどうなるかと思いましたが…これはこれで」

>ち、近づかないでくださいましいいいいいいい!!!

スタッフ「本当に良い表情するなぁ…」

P「ただ怖がってるだけじゃなくて、本気で楽しんでるんですよね…それが、彼女が視聴者に愛される理由になる」

スタッフ「俺らスタッフも千鶴さんに楽しませてもらってます。…あ、出てこられました」

千鶴「」

スタッフ「二階堂さん、コメント、コメント!」

千鶴「はっ。わ、わたくしとしたことが、あまりの素晴らしさに声も出ませんでしたわ!
  親類の手づく…所有している遊園地と比べても段違いの恐怖を味わうことが出来ましたし、今度はプライベートで誰かを誘って訪れたいですわね」

スタッフ「…はい、OKです!お疲れさまでしたー!」

千鶴「皆さまもお疲れさまでした」

P「あの、千鶴さん…すみませんでした」

千鶴「あら?わたくしは自分に相応しいとこの仕事を受けたんですのよ?謝られる義理はありませんわ」

P「本当にありがとうございます、今度カフェ巡りに付き合いますよ」

千鶴「ふふ、その申し出は有難く受け取っておきますわね」

いつ完結するんだろうなぁ…今日はここまで。
予定は未定。

スランプスワンプ
漸く書けるようになったので明日投下しま

P「志保ー、ちょっと良いかー?」


デスクの方から、プロデューサーさんの声。
読みかけの、掘り出し物市で見つけた絵本を鞄にしまいデスクへ向かう。
プロデューサーさんは椅子に座ったままで、つまり私が見下ろす形になる…ちょっと、新鮮。


志保「何ですか?今、忙しいんですけど」

P「ソファで休憩してたクセに…。いや、ほら、『アイドル学園天国』の監督さん、覚えてるだろ?」

志保「あぁ、あの」


素敵な、と続けかけて制止。
不自然な止め方ではなかったはず。
…恥ずかしいとか、そういうわけではないけれど、プロデューサーさんにつっつかれるから。

P「志保の演技をとても気に入ってくださったらしくて、続編…だったかな、『作るから出てくれ』と」

志保「え」

P「ははは、流石に志保に出て欲しいから作ったわけではないだろうがな」

志保「…分かってますよ」


プロデューサーさんの顔が苦笑いが混じったにへら顔から、少し真面目な顔に変わる。
釣られ、私も緊張した面持ちになった。


P「前回のようにパッと見で目立つ役ではないが、今回の主役を引き立たせるために重要な役柄だそうだ」


唾を飲み込む。

引き立て役。
主役を殺さず、かといって全く印象を残さないのであれば、意味がない。
加減が難しい役どころだ。


志保「……」


無言になる。
それをどう取ったか、目線の高さが違う関係からいつもとは違う角度で顔を覗き込まれる。


P「不安か?」

志保「…いえ、そういう訳では」


ううん、むしろ…。

志保「重要なところで、私の演技が求められていることが嬉しいです。どう演じようか、今から楽しみで」

P「……そうか」



今、何かは分からないけれど…違和感を感じたような。
……気のせいね。

風邪ってやだね、手元が安定しなくなる
志保に看病されたい
次もみて胃だけど2週間は空かないあlまーて

2週間空かないと言ったなあれは
明日投下します

志保「はーっ…」


白息が、宙に消える。
早朝なら、吐息が白く染まる季節になってきたのね。


「あ!」


目的地である公園の入口から、弾むような声。
緑色のジャージに山吹色のマフラーで首を覆った…、ユニークな格好で、こちらに手を振っているのは。

「しっほちゃーん!おはよー!」

志保「おはよう、可奈。…そこまで大きな声を出さなくても、聞こえるわよ」

可奈「えへへー」

志保「…褒めてないから」


呆れつつ、返す。
口から漏れるたび天に昇ってゆく息を見つめながら、練習メニューを頭の中で反復。


志保「寒いし、早速始めましょうか」

可奈「も、もう始めるのー…?」

志保「レッスンに付き合って欲しい、って言ってきたのは誰だったかしら?」

可奈「そうです私でーす…よろしくお願いします!志保ちゃん!」


…本当にくるくる表情が変わるわね。

公演の真ん中、距離を置いて向かい合う。
いつも通りに歌うように言い、目を閉じて耳に神経を集中させる。


志保「ストップ。どれも半音ずつ上がってる。もう一回」

志保「ちょっと待って、そこは慈しむように…意味?…えーっと……大切に、する?」

志保「可奈、鳩を見ても何にもならないわよ…」

志保「だからといってオウムを見つめても、音程が取れるようにはならないんじゃ…」

志保「声量があればいいってものじゃないわ。抑えるところはきちんと抑えて」

可奈「もうムリ~!」


そう言って両手を上げ、ベンチに倒れ込む可奈。
ちらりと設置してある時計を見遣る。


志保「…2時間」


こういうときは、時間が経つのが早い。


志保「別に、焦る必要は無いんだし、今日はこれで終わりにしましょうか」

可奈「うんうんそうしよう~単子葉~♪」

志保「飲み物、何か買ってこようかしら?」

可奈「スポドリで!」

近くの自販機で買ってきたスポーツドリンクを渡し、二人でベンチに並ぶ。
私の手には、柑橘系の水。
液体が喉を通り、微かな果実の香りが鼻を抜けて行く。美味しい。


可奈「おいしーっ!」


くはーっ!と言いながら、首を左右にぶんぶん振り回している。
…目、回らないのかしら。


可奈「そういえばさ、志保ちゃん」

志保「何?」

可奈「最近、いっぱいオーディションに受かってるんだっけ?おめでとー!」

志保「え、あぁ、ありがとう」


確かに、ここのところは殆ど落ちていない気がする。
以前なら有り得ないわね。

可奈「最初の頃は誰も受からなくて…ずーっと暇だったなぁ」

志保「…そういえば、そうね」


まだプロデューサーさんが居なかった頃の話。
そんなに時間は過ぎていない筈なのに、どこか懐かしい。

……そうか。
オーディションに受かるようになったのは、プロデューサーさんが来てからなのね。

ぼんやりそんなことを考えていると、可奈が少し眉を寄せ心配そうな目をこちらに向けていた。


可奈「…志保ちゃん?」

志保「今度は、私にダンスを教えて貰えると嬉しいんだけど」


安心させるように、微笑みながら言う。
途端、可奈の表情がぱぁっと星のように輝く。


可奈「もっちろん!楽しみにしてるね!」

本日分ここまで、次は年内

ちょっとアレでアレなんで年内無理かもしれないので、とりあえず、皆さまよいクリスマスを

それとついでに、読点が多いとか目に障るとか読み辛い等ありましたら教えてください

仕事とレッスンの合間、つかの間の事務所での休憩。
プロデューサーさんが書類を捲る音が聞こえる。
たまに、メモに筆を走らせる気配も。

いつもの事務所。
いつもの日常風景。

だった、はずなのに。

コト、とペンが置かれる音に釣られ、目を遣る。
遠くを見ているようで、何も見ていないような表情のプロデューサーさん。

不意に立ち上がり、右手を首に、左手を腰にやりながらこちらに歩いてくる。
自分の言葉に、あまり自信がないときの仕草…なんだけど。


P「……あー…志保」

志保「はい?」


少し、変。
プロデューサーさんは頼りないけど、いつでも言葉は真っ直ぐで、そこは信用していた。
けれど、ここまで歯切れが悪いのは初めてだ。

志保「どうしたんですか。…何か言い辛い仕事でも?」

P「いや…その、だな」


隠し事をされているようで、イラっとくる。
目を細め、無言で先を要求する。

渋々といった様子で、プロデューサーさんが口を開く。


P「…志保の担当を外れることになる」


……時期の早いエイプリルフール、という雰囲気でもなさそうね。
事実なのだろう。

努めて冷静に返す。


志保「事務所、辞めるんですか」

P「いや、そうじゃない。担当するのが志保でなく、他のアイドルになる。それだけだ」


それだけ、だなんて。


P「…志保、」

小鳥「ただいま戻り…あれ?プロデューサーさん、志保ちゃん、お仕事大丈夫ですか?」

志保「え?」

P「仕事?」


音無さんの発した言葉に、私とプロデューサーさんの声が綺麗に繋がる。
実に見事だった。

…そうじゃなくて。

揃って、手帳を確認。
念の為にホワイトボードも…確認したのは、私だけのようだけど。
ともかく、25分後に現場に着いていなければならない仕事がある。

急がないと……、目の端で、影がこちらに近づいたような気がした、瞬間。


P「志保、走れっ!」

志保「きゃっ!?」


プロデューサーさんに手を引っ張られ、思わず悲鳴を上げる。
反射的に振りほどこうとするも、予想以上に強く握られていて、付いて行くしかない。


小鳥「い、いってらっしゃい!」


安心感を与える声を背後に聞きながら、事務所の階段を駆け下りる。

走りながらではあるけれど、私はこの忙しない時間に幸せを感じていた。
先程のプロデューサーさんの言葉が、頭の片隅に追いやられたことに気付かずに。

本日分ここまで、それと今年はこれで最後です
メリークリスマス、志保。皆さまよいお年を。

ちょっとだけのんびり書きながらー

志保「……」


扉を隔てた事務所内部から、がさがさと物色する音が聞こえている。
まさか泥棒ではないだろうと思うけれど、やはり、扉を開けることを躊躇う。


志保「…大丈夫、音無さんも居るハズだから」


言い聞かせるように呟き、ドアノブに手を掛け。

目に飛び込んできたのは、紺色のシュシュで結ばれたサイドテール。
…良かった、不審者が居たらどうしようかと思っていた。


志保「な、奈緒さん?」

奈緒「志保?居ったんかー、おはようさん」

志保「おはようございます…あの、何かガサゴソ聞こえていたように思うんですけど」

奈緒「うぇっ!?…な、何でもないから、気にせんでええで!あんま、音立てへんようにするさかい」


…隠し事の匂いがする。

先程の音は、おそらく、何処かに隠した物を探していたのだろう。
奈緒さんが隠しそうな物で、且つ事務所に置いておけるような。

志保「お菓子ですか?」

奈緒「なんで知っとるん!?」

志保「あ、やっぱり」

奈緒「カマ掛けられたーっ!」


ふふっ。奈緒さんって、面白いな。
うずくまって呻く奈緒さんを横目で見ながら、給湯室を指す。


志保「誰がやったのかは分かりませんけど、お菓子類、まとめて給湯室に置いてありましたよ」

奈緒「ホンマ!?ちょっと見てくるわ」

見送り、一息吐く。

…今日のスケジュールはどうだったかしら。
首だけでホワイトボードを見遣る。
ええと…プロデューサーさんと車で移動して、ぬいぐるみメーカーのCMを撮って…。
あ、私、顔がにやけてる。引き締めないと。


奈緒「志保ぉ~……」

志保「ひゃっ!」


声に驚いて振り返ると、他人に見せられないような顔をした奈緒さん。
土気色をしていたら、完全に幽霊ね…。


奈緒「置いとったクッキー、食べられてしもーとった…」

志保「そうですか」

奈緒「クッキー食べられてしもたんも悲しいけど、志保の反応が薄いのも悲しいわ…」

志保「そうですか」


あ、完全に沈んだ。
やっぱり面白いな、奈緒さん。

志保「…じゃあ、私、そろそろ収録なので」

奈緒「あれ?寄っただけなん?」


いつの間に復活して…。
というか、そう言った奈緒さんの顔から、捨て犬のような表情が垣間見えるような。


志保「ええ、スケジュールを再確認したかっただけですから」

奈緒「そっか。そや、志保」


心配そうな視線が、こちらに向けられる。

奈緒「確か、今日やろ?」

志保「はい?」


何が?


奈緒「いや、プロデューサーさんが…なんやらっていう」

志保「………っあ!?」


あれ忘れとったんー珍しいなー、といった奈緒さんの言葉が、頭に留める暇もなく流れて行く。
なんで…なんでこんな大事なこと、忘れてたんだろう。

QK

休憩とはいったい
再開

志保「…すみません、行ってきます」

奈緒「へ?あ、いってらっしゃい」


体当たりするかのように扉を開け、階段を一段飛ばしで降りていく。
どうせプロデューサーさんのことだ、朝一の仕事でもあるし、予定より早く来ているだろう。
…どうか、少しでも長く。

案の定、というか。


P「お、早いな、おはよう」

志保「プロデューサーさんの方こそ。おはようございます、もう向かいますか?」


と言いながら、助手席のドアを開ける私。


P「そうだな、まだ時間はあるけど」


と言いながら、運転席に座るプロデューサーさん。
こんなやり取りも、随分と回数を重ねたものだ。

志保「……」

P「……」


元から、移動中にはあまり喋らないけれど。
ただの“静か”ではない、僅かな居心地の悪さ。
赤信号に引っかかったところで、プロデューサーさんが口を開く。


P「…覚えてると思うけど、今日が、志保のプロデューサーとして最後の日になる」


忘れてたなんて言えないわね。


P「周りの環境は…既に幾らか変わってると思うが」

志保「プロデューサーさん」

P「んー?」


信号が、青になる。
人々は足を止め、私とプロデューサーが乗った車は、ゆっくりと動き出す。


志保「私一人で、充分ですから」

プロデューサーさんは口を開きかけて、思い直したように、首に手を遣る。
…ずっと変わりませんね、それ。


志保「何してるんですか、片手ハンドルはダメですよ。危ないじゃないですか」

P「おっと、すまん」


特別なことなんて、無くたっていい。
別に、何も。
変わりやしないのだから。

変わりはしないけれど…それでも、出来るだけ長く、この時間を。

日付変わってるけど今日分ここまで。気力があればまた本日投下します

志保誕まであと何日だったかなあ(白目)

とうあk

曇った窓に、指での落書きが散見されるようになった頃。

あれから変わった事と云えば、スケジュール管理と交通手段くらいなものだった。
仕事を取ってくるのがプロデューサーさんだというのは、一緒だし。

ああ、でも…。


「このみ、アタシのカーディガン見なかった?」

「恵美ちゃんの?…どこかに丸めてあるんじゃない?」

「杏奈、さっき……お盆の横で、見たよ」

「ほ?」


事務所に、人が常に居るようになったのは、大きな変化かもしれない。

ココアで身体を温めながら、ぼんやりと床を見つめる。


百合子「横、いい?」

志保「あ、すみません」


本を片手に、百合子さんがこちらにやってきた。
私と同じく…あちらが騒がしいから、だろう。
カップを持ち、少し横にずれて、場所を作る。


百合子「ごめんね。あっちだと、ちょっと…」

志保「…賑やかになりましたね」

百合子「うん。初めの頃からは、全然想像出来ないよね!」

志保「……あの、プロデューサーさんは、また?」


渋い顔をしながら、無言で頷く百合子さん。
二人揃って、溜息を吐く。

私のプロデュースをしていたころは、どうやら専属という形になっていたらしくて。
最近、全体のプロデュースに力を入れるようになり、スカウトも始めたようだ。

おかげですっかり、事務所は騒がしく……楽しく、なっている。
のだけれど、どこか寂しくもあって。


百合子「プロデューサーさんが私達も見てくれるって知ったときは、なんだか新鮮で、嬉しくて…」


プロデューサーがいるというのは、やはりモチベーションに大きく関わってくるのだろうか。
百合子さんの話す様子を見ていると、そう思わざるを得ない。

百合子「志保と一緒に行動してたときは、羨ましかったな…」


漏らされた一言から感じ取れる感情に、思わず、どきりとする。
…百合子さん、生の情念が凄まじくて、とても演劇向きだと思う。


志保「……今はすれ違うことすらありませんけどね」


ちょっと、ムキになった。かも。
分厚いハードカバーの向こうで、百合子さんにも苦笑された気がする。

プロデューサーさんと、二人で歩んではいけなくなったけれど。
他のアイドルたちにプロデューサーが必要ならば、これで、良かったのかもしれない。

取り敢えず此処迄、また本日中に投下します

再開

誰も居ない事務所。空の青みが差し込んでいる。

ゆったりと身体を捻ると、ポケットからちゃりちゃりと金属の擦れる音。
手を突っ込み、ヒヨコのキーホルダー吐きの鍵を掌で弄ぶ。
小鳥さん、「鍵はポストに入れてくれればいいから」だなんて。


志保「…人気アイドルが所属している事務所なんですから、もっとセキュリティに気をつけなきゃ駄目じゃないですか」

こうしていると、人間がいないだけで随分と空間の広さは違うと感じる。


志保「ソファには誰かが座っていて、給湯室の辺りを誰かが出入りしていて、ホワイトボードの前で誰かが頭を悩ませていて…」


場所を順に見遣りながら、その姿を思い描く。
連られ、一人一人と交わした会話が脳裏に蘇ってくる。


志保「皆、大切な人になっちゃったのかもね…なんて」


失いたくない、大切な。

そこで何故だか、プロデューサーさんの顔が思い出された。
不思議と、体は社長室へ向かっていて。

おうふ。すみませんちょっと中断、日付変わりそうやべえ

志保「まあ、空いてるはずないでしょうけど」


内心、そうであってくれと願いながらドアノブに手を掛け、少し力を入れる。
がちゃ。
…………えー。


志保「……社長も不用心ですね」


誰に言っているのだろう。
というか、こんなにセキュリティが甘くて良いのだろうか。
事務所全体の方針だったりするのかしら…?

大きめなデスクと椅子、ブラインドから僅かに漏れる外の光。
社長室に入るのは、あの日…プロデューサーさんに初めて会った日以来になる。
自然と、その日のことも思い出して。


志保「…初めてプロデューサーさんに会ったとき、私、何て言ったんだっけ」


何だか頼りない感じ、だったかな。
ふふ、実際そうだったけど。


志保「……そうだったけど」


何かを言うときの、真剣な眼差し。
ふざけることはあったけれど、いつだって私を気遣った言葉選び。
それに…アイドルとしての私を信じている、あの表情。

ことあるごとに「頼りない」なんて言ってましたけど、あれで結構、信頼してたんですよ?

掌をじいっと見つめる。
走れ、とプロデューサーさんに手を掴まれて…。


志保「手、暖かかったな…それにやっぱり、男の人らしかったし」


どれだけ時間が経っても、忘れられそうにないぬくもり。

今まで二人組で歩いてきた私たちは、別々に進んで行くと決心した。
それなのに、私だけはあの時間に停まったままで。


志保「ううん、他の子にとっても、プロデューサーさんがいることは良いことだから」


言い聞かせる。
そう、プロデューサーさんが全体をプロデュースすることは、正しいんだから。
これが皆のためであり…きっと、私のためでもあるんだから。

そう思った時、心にもやっとしたものが現れた。
…もやっ?何故?


志保「……私」


プロデューサーさんを、失いたくないんだ。
気付いた瞬間、いつもなら…原因がはっきりした時はすっきりするのに、今日は何故か消えない。
それどころか、もやもやの雲はどんどん増えていき、遂には。

志保「……あ」


涙が頬を伝う。

あの時つないだ手の温もりも大きさも、私を見つめる瞳も、何もかもが忘れられなくて。
どれだけ我儘を言っても、にへらと笑って許してくれたプロデューサーさんの傍に居たくて。


志保「…プロデューサーさん」


たった一度だけでもいいから。
もう一度…私を。私だけを。


志保「見つめて……ください…」

終わり

誤字訂正、HTML依頼…などは後日に回させてください
とりあえず、>>119>>120は本編に直接関係ないので、他サイト等に転載しないで頂けると有難いです

志保、誕生日おめでとう、大好き

訂正。

>>157及び>>167
×扉
○ドア

>>181
×キーホルダー吐き
○キーホルダー付き

一応コレ後日譚作ってありますが、投下した方がよろしいでしょうか

HTML化の依頼取り消しました
続き部分の修正がまだ残っているのと私事で少し忙しいので今週末くらいになるかと

途中でこれ救いにはならなさそうだなって気付きました
予定は明々後日

書きながらー

間違えた
ついいつものクセで

“後日”譚と言ったな、あれは嘘だ
>>188の続き

私の声だけが聞こえる静かな事務所で、入口の方から鍵穴を弄る音。
誰だろう。
とにかく、社長室に居るのを見つけられるのは宜しくない。

目をごしごしと擦り、音を立てないよう給湯室に隠れる。
…環たちの“探検”と変わりないわね。


「あれ?鍵、閉まっ…てない」


ドアが開く音、そして、プロデューサーさんの声。

ああもう、なんで寄りによってプロデューサーさんなの。
今日だけは、泣いた顔は見られたくない。
どうか見つかりませんよう…。


P「お、志保じゃないか。どうしたんだ、こんな時間に」


……前に亜利沙さんが言っていた、フラグ、ってやつなのかしら。

P「ん?鍵は?」

志保「…忘れ物をしたので。鍵は、小鳥さんに借りました」


さり気なく、窓から漏れる光を背にするよう、移動する。
対してプロデューサーさんは頭を抱えている。


P「音無さんか…芸能プロダクションの事務員がそれでいいのか…?いや身内…」

志保「社長室も開いてましたし、ホントに戸締りには気を付けてくださいね」

P「え?社長室?」

志保「あ」

頭の芯がひゅうっとなる。
えーと、なんとか矛盾のないように仕立てないと…。


志保「その、窓が開いてたので、念のために全部屋を確認してて…」

P「ああ、そういうことか。今度から注意しとくよ。ありがとうな、志保」

志保「…いえ」


気まずい空気が漂う。
互いに、その場を動かないままで。

耐え切れず、口を開く。


志保「…あの、プロデューサーさんは、何で?」

P「あ、あぁ、俺は外回りの帰りで…スカウトで所属アイドルも増えたから、その色々も」


持ち上げられた手には鞄。
そういえば、今後はユニットを作って活動していく、とか言ってたような。


P「あいつらは、まだまだ荒削りだからな…俺がきちんと見てやらないといけなくて」


心臓が一段大きく鼓動を打つ。

P「一人にしておくと、絶対何かやらかすし」


なんで。


P「かといって、事務所全員をまとめて見ることも出来ないし」


そう言うあなたの顔は。


P「志保のプロデュースをしていた頃が、懐かしいよ」


笑ってるんですか。

志保「…あ」


足がよろめく。
次の瞬間には、私はプロデューサーさんに抱きかかえられていて。


P「大丈夫か!?…志保、目元が腫れてるけど、何か」

志保「何でもありませんっ!」

P「おわっ」


突き飛ばし、あるだけの力を振り絞って走る。
これ以上、プロデューサーさんと一緒にいたくなくて。

事務所から離れた、時計もない小さな公園。


志保「…これ、ポストに入れ忘れちゃったな」


ヒヨコの瞳が私を見つめる。
…あなたじゃなくって。

志保「…プロデューサーさん、楽しそうだったし」


あんな顔、見たことない。
私がパートナーでなくてもいい、って言われたようでもあって。


志保「……私は…プロデューサーさんが居なければ、何も出来ないの?」


まさか、そんなこと。
だって…。


志保「…私は一人でも、大丈夫なんでしょう?」

以上。胃が痛い。
本編は先日分までですので、今日分は他サイト等に転載しないで頂けると有難いです


>>206訂正。
×
>志保「…いえ」
>
>
>気まずい空気が漂う。
>互いに、その場を動かないままで。


>志保「…いえ」
>
>P「……」
>
>志保「……」
>
>
>気まずい空気が漂う。
>互いに、その場を動かないままで。


最後にこれだけ
志保は一人で大丈夫な娘なんかじゃないです

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