藤原肇「夜空に輝く、六等星」 (37)

モバマスSSです。地の文あり。

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体重をかけて、ぐいと土を押し込みます。


そうして伸びた土を持ち直し、折り重ねるようにしてまた、押して引き伸ばして。


何度か繰り返して、力を込めながら少しずつ形を丸くしていきます。


「おお……慣れた手つきですね」


おじい……いえ。


祖父にずっと教えてもらっていましたから。


「陶芸はいつから始められたんですか?」


そうですね、と私は手を止めずに考えてみます。


けれども、どこまで記憶を遡っても答えは答えは見つかりませんでした。


「……ずっと小さな頃からですね。もしかしたら、物心ついた時からかもしれません」


少しだけ困ったように言うと、そうですか、とスタッフさんは笑い返してくれました。


「どおりでお上手な訳で……」


カメラマンさんが、私の隣で土を捏ねる彼へとカメラを向けました。


「……どうして私まで、陶芸を……っ!」


「こうやって、伸ばしたら手前に返すんです。そのままだと土が均一になりませんからね」


私がお手本を見せると、彼も力を込めて土に体重をかけます。


「そう、そのまま……お上手ですよ、――さん」


少しずつ土が押し伸ばされて、左右へと伸びてゆきます。


「そうしたら今度は縦に持って、中心を奥に押しこむように……」


段々と手慣れてゆく、彼の手付き。


負けていられないなと感じて、いっそう力を込めました。


「そろそろ頃合いですね。――さんはいかがでしょうか」


土を受け取って軽く捏ねてみます。


「……どうですか、肇先生」


「ええ、大丈夫そうです。よくできました」


冗談めかして笑うと、スタッフのみなさんも笑って。


「流石は肇ちゃんのプロデューサーさんですね」


「土を捏ねるなんて……幼稚園か、小学校の頃以来ですよ」


昔の私より、ずっとお上手ですよ。


「昔って……いつの昔なんだ」


「幼稚園の頃の私よりは、お上手です」


あんまり褒められてる気がしないな、と苦笑いをされてしまいました。


――――――――――――――――――――


5月も半ば過ぎ、少しずつ気温が上がってゆくのを感じる頃。


彼から連絡を貰い、授業を終えて校門の前で迎えを待っていました。


先に帰路へつく友人達に手を振りながら、しばらくして。


見慣れた、そして乗り慣れた事務所の公用車が敷地の近くに止まりました。



「……すまないな。待たせたか」


私も今来たところですよ、とシートベルトを締めました。


何かあったんですか、と聞くと、彼は悩んだような素振りを見せて、


「そうだな……悪い話では、ない。……いい話だ」


一体どんなお話なのかな。


楽しみに待っていましたが、彼は事務所に着いたらな、としか教えてくれませんでした。


「岡山での仕事が来ている……陶芸や自然体験のリポートだ」



驚きのあまりに、私は口をぱくぱくとさせていました。


それを見て彼もつられて驚いたけれど、さらに話を進めます。


ですが、彼の話はちっとも頭には入ってきませんでした。


「……肇、聞いてるか?」


「え……っと、はい。聞いてます」


咄嗟の嘘は彼には筒抜けだったようで、もう一度教えてくれました。


「日程は6月の第二金曜日から日曜まで……13日から15日までだな。場所は岡山の……」


そこは、昔両親に連れて行ってもらったこともあるアウトドアレジャー施設でした。


大きなキャンプ場に釣りの出来る渓流に、ずっと大はしゃぎだったなぁ。


「ちなみに新しく出来た陶芸体験が……ロケのメインらしい」


リポーターとして私が適任だと思われたらしく、お話が来たのだとか。


「あまり向こうでゆっくりする時間はないかもしれないが……どうする?」


もちろん答えは、とびきりの笑顔で返します。


「私で良ければ……是非、やってみたいです!」


わかった、と告げる彼の顔にも、少し笑みがこぼれていたのがわかりました。


そうして、当日。


午前中まで授業を受けてから、新幹線に乗って岡山へ。


夕方前には岡山に着くそうです。


「今日はスタッフへの挨拶だけだ……終わったら、どうする?」


おじいちゃんに会いに行きますか、と聞いてみます。


彼がぎょっとしたのを見て、すぐに冗談ですと笑いました。


「……肇。心臓に悪いぞ」


でも、おじいちゃんは貴方のことがきっと好きですよ。


「いや……有り難いんだがな。どうも緊張するんだ」


確かに、おじいちゃんは厳しい人ですからね。


そういう訳じゃないんだがな、と彼は曖昧に答えました。


――――――――――――――――――――


少しずつ丸くなるように捏ねながら、次の工程へ。


「左手を上に添えて……そう、それから右手の親指を左手の親指にくっつけるように置いて……」


「……こうか」


横からずっと見ていたインストラクターのおじさんが、ほうと頷きます。


「流石は肇ちゃんだね。藤原さんそっくりだ」


「いえ、おじさんや祖父にはまだ及びませんよ」


おじさんはおじいちゃんの昔のお弟子さんで、私が小さい頃は家によく遊びに来ていました。


今は自分の工房を持ちながら、こうして施設のボランティアとして陶芸を教えているのだとか。


「――さん、こうやって回すように押しこむんです」


「……こうか」


ぎこちなく土を回す彼を見て、おじさんがスタッフさんに話しかけます。


「ははは、分かったでしょう。肇ちゃんの凄さが」


……カメラが止まったあとで、彼が納得行かないとぼやいていたのは内緒です。


――――――――――――――――――――


おじさんのアドバイスもあって、彼もようやく次の工程へ。


「次はろくろを使います。まず中心に土を置いて……」


手を濡らして、ろくろを回しつつ両手を土に添えます。


手で挟むようにして土を持ち上げると、彼やスタッフさん達から感嘆の声が上がりました。


今度は片手で土を支えながら、下に押し込んで。


これを何度か繰り返して、なめらかな円錐形を作ります。


「では、――さんもどうぞ」


ろくろを回して土に触れた瞬間に、彼の土がぐにゃりと形を変えてしまいました。


「小指の付け根あたりで土に触れるようにするんです。こんな風に」


彼に席を譲ってもらって、土に手を入れます。


すっと形が整ってゆくのを見てか、おお、と唸る声が聞こえました。


手慣れたもので大丈夫ですよ、とスタッフさんがゴーサインを出したので、二人で湯呑みを作ることにしました。


「まずはろくろを回しながら……頂点を指で少し平らにします」


そうして、指で軽く土を挟んで土の上部に原型を作ります。


円錐の頂点にゆっくり親指を入れ、少しずつ湯呑みの形へと作り替えて。


土を持ち上げるように上へとずらして徐々に厚みを削ると、少しずつ形が見えてきました。


今度は土に右手を突っ込んで、内側から外側から、形を整えて……



「んっ……ふふ、いい調子です」


久しぶりにいい感触だったなぁ、と一旦手を止めます。


集中しすぎて気付かなかった額の汗を拭うと、土が少しだけ頬に付いてしまいました。


それを拭おうとして、ふと気付きます。


「あ……えっと、――さん。調子は……いかがですか?」


久しぶりの陶芸につい、熱中しすぎてしまっていたことに。


彼もスタッフさんもじっと私を見ていたらしく、皆さん手が止まっていました。


「……ああ、この通りだ」


先程からほとんど動いていない土を一目見て、また苦笑い。


「そ、その……ごめんなさい。つい夢中になってしまって」


大丈夫、いい画が撮れてますよ、とスタッフさん。


「えっと……じゃあ、――さん。まず手を濡らして形を作っていきましょう」


私にもできるんですから、と言うと。


「俺は肇とは違うんだがな……」


とは言いつつも、しっかりと土の形を整えていきます。


俺には先生が付いているからな、なんて。


彼は土をぐにゃりと潰すことなく、ゆっくりと湯呑みを作り上げました。


軽く手直しを加えて、土の山から湯呑みを切り離します。


彼の湯呑み。少し不格好ですが味のある形だなぁ、と思いました。


なんて、本人には言えませんけれど。


「この後は一度乾燥させます。一時間ほどかかりますね」


スタッフさん達はそれを聞いて、何かを話し始めます。


「では一旦撮影は中断します。いい時間ですし、お昼休憩にしましょう」




お弁当を食べて外に出ると、6月の強い日差しが私達を照りつけます。


つい数日前まではずっと雨だったことなんて、信じられないほどの快晴でした。


「気持ちいいくらいに、晴れたな」


「――さんって、晴れ男ですか」


肇といると晴れるんだよ、なんて。


それって私が晴れ女ですよね、と笑うと、そうだなと彼は返します。


まだまだ撮影までには時間があったので、二人でお散歩に出てみます。


昔来た時と変わらない、自然に囲まれた公園が見えてきました。


「昔はよく、ここで遊んだんですよ」


近くにあったベンチに腰掛けて、遊具で遊んでいる子供達を眺めてみます。


昔の私も、あんな感じだったのかな。


もう少し大人しかったかもしれません。



「……あのっ、もしかして藤原肇ちゃん、ですかっ?」


のんびりと陽にあたっていたところでした。


呼ばれて振り返ると、私と同じくらいにすらっと背が伸びた女の子。


きらきらとした目をこちらに向けています。


「ええ、そうですが……」


私が頷くと、彼女はわあ、と一層笑顔を見せてくれました。


「ほ、本当だったんだっ……えっと、今日肇ちゃんがここに来るって聞いて、会いに来ちゃいましたっ」


彼女は鞄を開けると、一冊のノートを見せてくれました。


新聞や雑誌の切り抜きで少し厚くなったノート。


試しに数枚めくってみると。


「えっ……もしかして、私の記事かな?」


どのページにも、私の写真やインタビューが載っていました。


……ちょっと、恥ずかしいですね。えへへ。


これには彼も驚いて、すごいなと呟きます。


「はいっ!私、肇ちゃんのファンなんですっ!同じ岡山生まれで、かわいくて、あこがれで……」


言ってから気付いて、


「あっ、ごめんなさい……年下なのにちゃん付けなんて、失礼ですよねっ」


「ううん、大丈夫だよ」


同い年くらいに見えた、とは内緒にしておいたほうがいいのかな。


「あっ、私、乙倉悠貴って言いますっ!」


中学1年生と聞いてびっくり。


ぱっと見た限りでは、私よりも少し身長が高そうです。


「ジュニアモデルをやってて……マネージャーさんから肇ちゃんが来てるって聞いたんですっ」


……もしかして私、岡山では有名人なのでしょうか。


自分ではよく分かりませんが、これも私がアイドルだから、かもしれませんね。


「それで今日ここでロケをしてるって……あっ、私お邪魔でしたかっ?」


「ううん、今は休憩時間だから大丈夫だよ」


サインをもらってもいいですかっ、とペンを渡されて、どうしようかと悩みます。


そういえば、サインなんて考えたことがなかったなぁ。


ふと困って彼を見ると、


「……肇らしく書けばいい。ただそれだけのことさ」


そうですね、と普段通りを心がけて、キャップを取りました。


――――


もうじき休憩時間も終わる頃だったので、お仕事に戻ることに。


「えへへっ……ありがとうございましたっ、肇ちゃんっ!」


よければ見学していくといい、と彼は伝えたけれど。


「いえっ、お仕事の邪魔になっちゃうかもしれませんからっ……頑張ってくださいねっ!」


「そうか……ああ、もしアイドルに興味があったら……連絡するといい」


肇と話したいなと思った時も電話していいぞ、なんて。


事務員さん達に怒られますよ、と伝えても、笑って流されてしまいました。


少し悩んで、悠貴ちゃんは名刺を受け取りました。


悠貴ちゃんは元気よく手を振って、私達を見送ってくれました。




「ファンが応援してくれている……か。肇も、成長したな」


「ふふ……そうですね」


あまり実感はないけれど、少しずつ前に進めているのかな。


「肇……いい笑顔になったな」


そう言われて、自分でも嬉しさを抑えられていないことにようやく気付いたのでした。



「ところで、――さん」


悠貴ちゃん、プロデュースするんですか。


「さあ……な。だが、彼女ならいいアイドルになれるだろう」


「……まあ、俺は誰かさん一人で手一杯けどな」


そうですか、と笑って、それきりでした。


……また、悠貴ちゃんに会えるかな。会えるといいな。


そんなことを思いながら、一歩ずつ隣に寄ってみます。


「……肇、妬いているのか」


「いいえ……そんなことありませんよ」


嘘が下手だな、と思ったけれど。


彼がそれに気付いたのかは、分かりませんでした。


――――――――――――――――――――


戻ってみると、二つの湯呑みは調度良く乾いていました。


「ろくろとへらを使って、高台を削り出します」


ここで形を崩してしまうと取り返しがつかないので、彼の湯呑みと二つ分。


ろくろに乗せて丁寧に、少しずつ削ってゆきます。


時間はかかりましたが、二つともしっかり削りだすことができました。



細かな手直しを加えて、湯呑みの形が出来上がりました。


「これで仕上げは終わりです。あとはしっかり乾燥させるんですが……」


その事はスタッフさん達もご存知のようでした。


ここからは一、二週間ほど乾燥させて、それから素焼きをして、と続きます。


けれど、私の滞在時間は明日まで。


乾燥が終わるまでは、待っていられません。


「では、陶芸の撮影は終わりです。この後の工程は……」


おじさんに残りの作業をお願いして、陶芸のロケは終了。


ちゃんと完成させたかったけれど、その為に何度も岡山に帰るわけにも行きません。


「ははは、おじさんに任せてくれ。ちゃんと完成させるからな」


藤原さんにはお世話になったからな、と笑って引き受けてくれました。


「ありがとうございます、おじさん」


忙しいはずなのに引き受けてくれて、頭が上がりません。



「それでは次の撮影ですが……」


スタッフさんの一人が持ってきたのは、竹の延べ竿。


施設の事務所から、借りてきたものだとか。


「ふふ……いいですね。――さんもご一緒に、どうですか」


またか、と彼が頭を掻いたのが、何だか面白おかしく見えました。


――――――――――――――――――――


「これで撮影は全部終わりです。肇ちゃん、お疲れ様でした」


スタッフさんにもお礼と感謝を伝えて、解散。


「……なんとか、終わりましたね」


そうだな、と彼は返しました。


長い一日が終わったと思うと、どっと疲れが押し寄せてきたかのようでした。


「さあ……帰るか。明日は一日……空いているからな」


本当は明日も撮影だったのですが、今日で全部撮影が終わってしまったそうです。


一日空いた明日のためにも、今日はゆっくり休もう。


「ええ、そうしましょう」


疲れた顔を見せないように、にっこりと。


笑って、二人で歩き出しました。



――――


昨日から泊まっていた旅館へと帰ります。


本当はずっと、家に泊まっていけとお父さんやおじいちゃんが言っていたのですが……。


「仕事上の付き合いだからな……本当に申し訳ない」


「いえ、お父さんにもおじいちゃんにも、納得して貰えましたし」


ただ、岡山にいるうちには顔を出してくれ、と何度も言っていました。


「……明日帰るまでは、時間があるしな」


数ヶ月前にも会ってますけどね、と笑います。


それでも、お父さんやおじいちゃんが彼に会いたがっているのは、きっと。


「……ふふ」


「どうした?」


笑って、ごまかすことにします。


お仕事にあたって、社長さんが直々に取ってくれた宿。


社長さんのご友人が経営する小さな温泉宿で、この三日間は私達以外にお客さんはいないのだとか。


偶然だったのかもしれませんが、アイドルである私にとっては都合が良かったのかもしれません。


「……もしかしたら、見つかって騒ぎになってしまうかもしれないからな」


確かに私は、アイドルなのですから。



夕食を取りながら、二人で今日のことを振り返って。


それからのんびりと、温泉につかることにしました。


「ふふ……星がきれいです」


昼間あれだけ晴れていた空は、今となってはくっきりと星空を映していて。


あんな風に……私も輝いているのかな。


ぼんやりと見つめる星空。


なんとなく、今まで私が歩いてきた道が見えるかのようでした。


――――


「あの、――さん……少々、お時間よろしいですか」


夜も更けて、もうすぐ今日が終わる頃。


気付けば私は、彼の部屋のドアをノックしていました。


「……どうした、一体」


「いえ……もう少しだけ、お話したいな、なんて」


だめでしたか。


彼は困ったように考えていたけれど、


「……そうか。ほら」


周りを見渡して、そういえば二人しかいなかったことを思い出して。


恥ずかしさを笑ってごまかしながら、彼の部屋へと入ります。


お互いに、窓際のチェアに座って。


明かりの消えた部屋からは、綺麗な夜空が色とりどりの光を放っています。


「……ねぇ、――さん」


私はあんな風に、輝けているのでしょうか。


星の光は、誰かに届いているのでしょうか。


分かりきった答えを、彼に求めます。


私の思いを、確信に変えるために。



「……今日、肇のファンの子に出会ったろ。ええと……そう。悠貴ちゃんだ」


彼女があんな風に笑っていた、それだけで十分だろう。


「誰かを笑顔に出来るんだ……十分、肇は輝いているよ」


「そう……ですね」


もっと、自信を持ってもいいんだよ。


彼の言葉がまた少しずつ、私をただの女の子から、アイドルへと変えてゆく。


「……私には、大きな太陽がいてくれますからね」


私を輝かせる、他の誰でもない光。


あなたがいるから、私は。



「……そんな、大層なものじゃないさ」


彼はなんだか寂しそうに、笑いました。


でも、と飛び出しかけた言葉を、飲み込みます。


「太陽がそんなに近くにいたら……いくら照らしても、周りの星は見えないからな」


太陽みたいに自分から輝くのは、肇なんだよ。


自分から光を放って、誰かをまた照らすんだ。


彼の言葉が、一筋の流れ星のように。


私の頭の中を突き抜けてゆくような気がしました。


「だから……俺は、六等星くらいで十分だよ」


「……六等星、ですか」


人の目で、ぎりぎり見えるか見えないかの光。


それでも、その光に何度照らされて、勇気付けられてきたことでしょうか。


「……そうですね。――さんは六等星です」


夜空に輝く、六等星。


それはきっと、地球から見た明るさなのかもしれません。


「でも……知っていますか?夜空を彩る星のほとんどは、自分から輝いている星なんですよ」


私から見たあなたは誰よりも輝いていて。


私を、私の道を、照らしてくれているのですから。



あなただって……誰かを、私を照らす光なんですよ。



「……肇」


分かっていますよ、と呟きます。


なんだか恥ずかしいので、目は合わせずに、星空を見つめて。


「私は、アイドルですから」



……でも、今だけは。


私も、ただの女の子に戻っても、いいのかな。


「……そうだな」


彼がそっと、こちらに向かうのが分かりました。


真っ暗な部屋に、星明かりだけが差し込んで。


「今だけは……肇は、ただの藤原肇でいい」


ぽんと、彼が頭に手を乗せたのでした。


……明日は、15日ですからね。


「そうだな」


おじいちゃんやお父さん、お母さんも……あなたが来るのを、待ってますよ。


おじいちゃん、あなたが来るって知って嬉しそうでしたし。


「……そうなのか」


……明日は何の日か、ちゃんと分かってますよね。


「もちろん」


じゃあ……。



「今、私は何が欲しいか……分かりますか?」


少しだけ早いかもしれない、誕生日プレゼント。


意地悪く笑って……私はゆっくりと、目を閉じます。




「……誕生日おめでとう、肇」



夜空に輝く星達だけが、私達を見つめて。



「ふふ……ありがとうございます、――さん」



少し頬を赤く染めた彼の顔を、照らしたのでした。




以上で終わりです。
肇ちゃん誕生日おめでとう!

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