ライナー「進撃の人類」(79)

その日、巨人は思い出した。

ヤツらに支配されていた恐怖を……

鳥籠の中に囚われていた屈辱を……


※ネタバレ前提なので注意

"いってらっしゃい ライナー"

――ライナー

「ライナー!!」

「……ん?」

アニ「起きな」

アニ「もう帰らないと日が暮れる」

ライナー「……?……あれ?」

ライナー「アニ……お前……髪が伸びてないか……?」

アニ「そんなに寝ぼけるまで熟睡してたのかい?」

ライナー「いや……なにかすごく長い夢を見ていた気がするんだが……」

ライナー「何だったか……クソッ、思い出せねぇ……」

アニ「ライナー?あんた……どうして泣いているんだい?」

ライナー「誰にも言うなよ、俺が泣いてたなんて……」

アニ「頼まれても言わない」

髭巨人「よぉ二人とも。今帰りか」

ライナー「髭のおっさん!酒くせぇぞ!」

髭巨人「あ?ああ、これは酒じゃあない、俺らが動く燃料だ」

ライナー「そんなんでいざって時に戦えるのかよ!」

アニ「ライナー、やめときな」

ライナー「いや、言ってやる!もしやつらが壁の中に入り込んできた時に戦えんのか!?あんたら兵士だろ!?」

髭巨人「っ……そうでかい声をだすな、頭に響くだろ」

ライナー「……ちくしょう!いくぞ、アニ!」

アニ「髭さん、また」

髭巨人「あ、ああ……」

ライナー「……クソッ」

アニ「……なぁ、ライナー」

ライナー「何だ?」

アニ「あんた、本当に調査兵団に入るつもり?」

ライナー「いきなりなんだ……もちろん、そのつもりだ。止めるなよ」

アニ「別に止めるつもりはないけどね」

ライナー「お前は憲兵団に行くんだろう。大丈夫か?所属を選べるのは成績上位10人だけって聞いたぞ」

アニ「あんたに心配されるとはね。あんたこそ訓練で脱落しないようにしなよ」

ライナー「はっ、お前に心配されるとはな」

アニ「そういうわけじゃないけどね」

ライナー「ただいま、お使い終わったよ」

アニ「こんにちは」

母鎧「おかえりライナー、アニもありがとうね」

ライナー「あれ親父、これから診療か?」

父鎧「ああ、2つ上の街にな」

アニ「ライナーが調査団に入りたいそうです」

母鎧「え!?」

ライナー「アニ!?お前いきなり何を!?」

父鎧「本当かライナー!?」

ライナー「……ああ、そのつもりだ」

母鎧「偉いわライナー!」

父鎧「それでこそ私たちの息子だ!帰ってきたら秘密にしていた地下室を見せてやろう!!」

ライナー「親父……おふくろ……」

アニ「じゃあ私は帰ります」

母鎧「気をつけて帰ってね!ライナー、送ってきなさい!」

2m級「おらおらー」

3m級「バカでかい図体しやがってよー」

ベルトルト「や、やめてよ!」

2m級「悔しかったらやり返してみろよー」

3m級「母ちゃんが言ってたぞー、お前が暴れるせいですぐに街が壊れるってよー」

ベルトルト「だ、だってそれは、君たちが……」

2m級「何だよー、口ごたえすんのか―」

3m級「やってみろよー、慰謝料と損害賠償たんまり請求してやるからよー」

ライナー「お前ら!」

2m級「やべぇ、ライナーだ!」

3m級「タックルされる前に逃げるぞ!」

アニ「どこに逃げるって?」

2m級「」

3m級「」

ライナー「大丈夫かベルトルト」

ベルトルト「うん、ありがとう二人とも……アニ、相変わらずすごい足技だね」

アニ「どうも」

ライナー「ベルトルトはやさしいところがあるからな。もっとやり返していいと思うぞ」

アニ「それで街が半壊してもライナーが直せるならいいけどね」

ライナー「それは……その、だな」

ベルトルト「ありがとうライナー、でもいいんだ。僕がこの大きさなのは生まれつきだし……」

ライナー「……昔に読んだ本、覚えてるか?」

ベルトルト「もちろん、忘れるわけないよ」

アニ「またその話?」

ライナー「うるさいな、いいだろう」

ベルトルト「ライナーはあの本大好きだったもんね。空を自由に飛べる竹とんぼ……」

アニ「どこでも好きなところへいけるドア……」

ライナー「それに自在に大きさを変えられる懐中電灯!壁の外のどこかにきっとあるはずだ!!」

アニ「まるで夢物語だけど」

ライナー「そういうお前だって海が見てみたいって言ってただろ?」

アニ「……まぁね」

ライナー「まかせろ、俺が調査兵団になってきっと見つけてきてやる!」

アニ「期待せずに待ってるよ」

ライナー「お前なぁ……」

ベルトルト「あはは……あれ?」

ライナー「どうした?」

ベルトルト「そんな……まさか……」

アニ「ベルトルト?」

ベルトルト「あ、あそこ!壁の上!!何かいる!!!!」

その日、巨人は思い出した。

ヤツらに支配されていた恐怖を……

鳥籠の中に囚われていた屈辱を……


『周知の通り今から107年前』

『我々以外の巨人は皆……人類に食いつくされた』


『その後、我々の先祖は人類の越えられない強固な壁を築くことによって』

『人類の存在しない安全な領域を確保することに成功したが……』

『それも5年前までの話』

『諸君らの中にはその場に居合わせた者も少なくないだろう』

『5年前再び惨劇は起きた』

ライナー「え?」

アニ「よく見えない」

ベルトルト「人類だ!!人類が入ってきたんだ!!!!」

アニ「ちょっと!」

ライナー「お前が叫ぶと何を言っているのか聞こえん!!!」

ベルトルト「ご、ごめん!」

アニ「で、なに?」

ライナー「なにが見えたんだ?」

ベルトルト「人類だよ!人類が入ってきてる!それも一人や二人じゃなくて大量に!!」

ライナー「何だと!?」

アニ「あー、確かに何か小さいのがわらわらと……」

ベルトルト「こうしてちゃいられない、二人とも!早く逃げるんだ!!」

ライナー「お、おう……一旦家に戻っておふくろを呼んでくる!」

アニ「私は父さんを!」

ベルトルト「急いで!!」

ライナー「おふくろ!」

母鎧「ライナー!タックルで玄関の戸を壊すのやめてって言ってるでしょ!!」

ライナー「す、すまん……それどころじゃない!人類だ!人類が入ってきた!!」

母鎧「え!?じゃあ、さっき聞こえたフーバーさんちの息子さんの叫び声はそれだったのね」

ライナー「急いで逃げよう!」

母鎧「わかったわ!緊急用の荷物を持ってきてちょうだい!!」

ライナー「ああ!」

そして俺とおふくろは逃げ出した。

道中でアニとお義父さんと合流し、俺とおふくろはタックルで、

アニとお義父さんはその脚力を生かしたダッシュで逃げた。

悲鳴と怒号の中、すでに人類に喰われている巨人たちを横目に走った。

髭巨人のおっさんも、2m級も、3m級も、みんな、みんな人類に喰われていた。

みんなが喰われているおかげで、俺たちは逃げ切ることができたんだろう。

その後、街の端の水路で避難船に乗り込み、俺達は街を脱出した。

ベルトルトは自分で走った。


第一部 完

第二部は誰かに任せた

猿の巨人「はい、あなた」

ライナー「ハッ!」

猿の巨人「出身地とお名前をどうぞ?」

ライナー「シガンシナ区出身!ライナー・ブラウンです!!」

猿の巨人「クソみたいな名前ですね、親御さんが付けたのですか?」

ライナー「祖父が付けてくれました!」

猿の巨人「ブラウン、あなたはここへ何しにきましたか?」

ライナー「人類を駆逐して、外の世界を調べるためです!!」

猿の巨人「そうですか、あなたには人類のエサになってもらいましょう」

猿の巨人「次は……」

ベルトルト「……」

猿の巨人「……あなた、どうして座っているのですか?」

ベルトルト「ハッ!シガンシナ区出身!ベルトルト・フーバーです!!」

猿の巨人「いえ、今はそれはいいです、聞いていません。どうして座っているのですか?」

ベルトルト「自分は背が高いので教官の声がよく聞こえるようにと!」

猿の巨人「そうですか……しかし私はあなたとの意思疎通など求めていません」

ベルトルト「ハッ」

猿の巨人「では、あなた」

小柄巨人「ハッ!」

猿の巨人「出身地とお名前は?」

小柄巨人「ウォール・ローゼ南区ラガコ村出身!マミー・スプリンガーです!」

猿の巨人「スプリンガー訓練兵、あなたの延髄は前側にあるのですか?」

小柄巨人「オアエリッ!?」

猿の巨人「最初に説明したはずです、この敬礼は『延髄を公に捧げる』、そういう意味があるのだと」

小柄巨人「」

笑顔巨人「おい、見ろよ。小柄巨人のやつまだ走らされてるぜ」

怒顔巨人「自業自得だろ」

ライナー「なぁ、それよりあっちは……?」

笑顔巨人「ん?ああ、開拓地に戻されるやつらだな。来て早々適性なしって見限られたやつらだ」

怒顔巨人「どうせクビになるなら早い方がいいだろうからな。むしろ幸せものかもしれねぇ」

ライナー「……戦士じゃなかったってことか」

笑顔巨人「それよりあんた、さっきシガンシナ区出身だって言ってたか?」

ライナー「ああ。それが?」

怒顔巨人「てことはあの日も見たのか!?人類を!?」

ライナー「あ、ああ。見た」

笑顔巨人「やっぱり!詳しく聞かせてくれよ!」

ライナー「……だから何度も言ってるだろう。確かに見たって」

泣顔巨人「本当かよ!?」

喜顔巨人「大きさはどれくらいなんだ!?」

ライナー「まちまちだったからな……小さい奴は俺の指ぐらいだったか」

泣顔巨人「おれは膝ぐらいまではあるって聞いたぞ!?」

喜顔巨人「そりゃお前は小さいほうだからだろ。じゃあ、顔は?どんな表情してた?」

ライナー「それは……」

 ライナーはシガンシナ区からの脱出の途中で見た髭巨人のことを思い出した。

髭巨人は相変わらずの赤ら顔で人類の一人に向かって行き、その頭上から足を踏み下ろした。

大きな音とともに砂埃が舞い上がり足元を隠す。手応えがあったのだろう。髭巨人は勝ち誇った表情を浮かべる。

しかし、その表情は見る見る間に恐怖に支配されていく。やがて砂埃が晴れると、

そこにはまるで髭巨人の足の甲から生えたかのように直立する人類の姿があった。

全身は血や肉に染まり、口には足の骨をくわえている。

よく見ると人類は髭巨人の足の甲の上に立っているのではなく、そこにぽっかりとあいた肉の穴に立っていた。

髭巨人が悲鳴をあげる。人類はくわえていた骨をプッと吐き捨てると、血に濡れた口元を嬉しそうに歪めた。

ライナー「……」

真顔巨人「……みんな今日はこれぐらいにしておこう。思い出したくないこともあるだろうし。」

泣顔巨人「す、すまねぇ。いろいろ思い出させちまって」

ライナー「……ちがう」

泣顔巨人「え?」

ライナー「人類なんてのはな、大したことはない。俺たちが兵士としてきちんと技術を磨けばあんなのは敵じゃない」

ライナー「俺は戦士だ。開拓地で体はなまっちまったが、やっと訓練ができる」

ライナー「俺は力をつけて調査兵団に入り、やつらを一人残らず倒す。そして外の世界へ……」

ライナー「よう、ちゃんと飯食ったか」

ベルトルト「ライナー。大丈夫だよ、アニが一緒にいてくれたし」

ライナー「ふぅん……しかし災難だったな。お前が入れる兵舎が存在しないなんて」

ベルトルト「兵団始まって以来の大きさらしいからね……しょうがないけど、僕もできればみんなと一緒に食べたいな」

ライナー「まかせろ、俺も何人か外で一緒に飯を食うように誘ってやるさ」

ベルトルト「ありがとう!でもご飯よりも寝るところがないのがつらいよ……完成するまであと3日はかかるらしいんだ」

ライナー「……雨がふらないといいな。アニは?」

ベルトルト「アニは……」

マミー「パァァァァン!」

アニ「叫ばないで」

マミー「す、すみません、つい……」

アニ「ったく、さっさとよくかんで食べな」

マミー「は、はい!いただきます!」

アニ「あせり過ぎ。そんなにあわてて詰め込むもんじゃないよ」

マミー「ゴッ、ゴフッ!ゲホッゲホッ!」

アニ「もう、ほら水」

マミー「……ぷはっ!あ、ありがとうございます!」

アニ「感謝するなら今度こそよくかんで食べな」

マミー「はい!……あのー?」

アニ「なんだい?」

マミー「あなたが神ですか?」

アニ「……ただの気まぐれだよ」

猿の巨人「それでは今日はさっそく立体機動の訓練を行います」

猿の巨人「この姿勢制御ができなければ兵団では人類の餌になってもらうこともできません。開拓地戻っていただくことになります」

笑顔巨人「よっ」

怒顔巨人「おとと……」

泣顔巨人「ふぅ……」

真顔巨人「はっ」

ライナー「これは……なかなか……」

アニ「……」

ベルトルト(練習装置を自分で作れって……何日かかるんだろ……)

猿の巨人「ふむ、今年はできる訓練生が多いようですね……ん?」

黒髪巨人「」

猿の巨人「あなた……何をやっているのですか?」

黒髪巨人「え?な、なんだこれ……」

猿の巨人「何をやっているのかと聞いているのです、エレン・イェーガー訓練生。早く上体を起こしなさい」

エレン「え、え?いや……これどうすりゃ……」

笑顔巨人(あいつ……)

怒顔巨人(おわったな……)

泣顔巨人(あーあ……)

真顔巨人(……)

マミー(お昼ごはんなんだろ)

ライナー(どうやったらああなるんだ?)

アニ(逆にすごい)

ベルトルト(僕も早く参加したいな……)

エレン「」

餓鬼巨人「おい、お前。エレン・イェーガーだったか?」

エレン「」

餓鬼巨人「おい、聞こえてんだろ」

エレン「え?あ、ああ……」

餓鬼巨人「お前無様だな」

エレン「……は?てめぇ、もう一度言ってみろ!」

餓鬼巨人「無様だっつったんだよ。せっかく開拓地から出てきたのに入り口でつまづいてよ」

エレン「……しょうがないだろ!できないものは!!」

餓鬼巨人「しょうがない、ね。で、あきらめるのか?」

エレン「んなわけねーだろ!……俺はなんとしても、ここを卒業しなきゃいけねぇんだ!」

餓鬼巨人「そのためなら何でもするか?」

エレン「ああ!なんだってやってやるさ!!だからなんだよ!?」

餓鬼巨人「……よし、手伝ってやる」

エレン「は?」

餓鬼巨人「手伝ってやるって言ってんだ。ほら、引っ張るぞ」

エレン「ちょ、ちょっと待――痛ぇ!」

餓鬼巨人「やっぱりこのままじゃだめか。お前向いてないんじゃねぇの?」

エレン「ち、ちくしょう……お前何考えてんだ……」

餓鬼巨人「冗談だ。戻すぞ」

エレン「うぅ……」

餓鬼巨人「じゃあ、まず整備項目から全部確認してみるか」

エレン「最初っからそうしてくれよ……なぁ、一つ聞いていいか?」

餓鬼巨人「なんだ?コツなんて聞かれてもわからんぞ。簡単すぎて」

エレン「うるせぇ!そうじゃなくて、名前だ!名前、まだ聞いてない」

餓鬼巨人「……ユミル」

エレン「ユミルか……よろしく頼む」

ユミル「明日までの付き合いかもしれねーがな」

ユミル「……まったくうまくいかなかったな」

エレン「」

ユミル「お前、あきらめて帰ったほうがいいんじゃないのか?あれで大道芸でもやればうけるぞ」

エレン「」

ユミル「ダメだなこりゃ……あ、あんた。ちょっといいか」

ライナー「ん?」

ユミル「あんた今日の姿勢制御上手かったな。よかったらこいつに指導してやってくれないか?」

エレン「た、頼む!」

ユミル「できるようになるなら水汲みでも掃除でもなんでもやるそうだ」

エレン「!?……あ、ああ!何だってする!だから頼む!!」

ライナー「すまんが……ぶら下がるのにコツがいるとは思えん。期待するような助言はできそうにないな」

エレン「そうか……」

ユミル「やっぱりそうだよな。悪いね、時間とらせて」

ライナー「いや、かまわん。お前、エレン・イェーガーだったか?どうしても開拓地に戻りたくないんだな」

エレン「……ああ。俺はどうしてもここで兵士にならなくちゃいけないんだ」

ユミル「意志だけあってもな」

エレン「俺は絶対に兵士になって故郷に帰る。絶対に、何としても」

ライナー「そうか……俺にもあるぜ、曲げられないものが、な」

ユミル「……あんた人類を見たんだろ?」

ライナー「ああ」

ユミル「ここの大半のやつとは違ってあんたは人類の恐怖を目の当たりにしてるはずだ。それでも戦えるのか?」

ライナー「……もちろんだ。俺は必ず人類を駆逐して、壁の外の世界を冒険する。必ず」

エレン「……」

ユミル「なるほど、外の世界ね。まぁせいぜいがんばるがいいさ」

ライナー「お前は?ええと……」

ユミル「ユミルだ。こいつのご主人様だ」

エレン「は!?」

ライナー「そうか……なかなか愉快な関係なんだな」

エレン「ちょ、待て!そんなのいつのまに!?」

ユミル「さっきからだ。何でもするって言っただろ?」

エレン「こいつの言ってることはうそだぞ!信じるなよ!」

ライナー「わかってるわかってる。さて、姿勢制御だが……」

エレン「俺にできることなら、それこそ水汲みでもなんでもやる。だから力をかしてくれ!頼む!」

ライナー「そうだな……水汲みも掃除もいい。それより俺の友達と仲良くなってやってくれ」

エレン「友達?」

ライナー「ああ。他のやつらとなかなか話す機会がないみたいでな……紹介する、外に出るぞ」

エレン「外へ?」

ユミル「まさか……あのデカブツか?」

ライナー「そうだ、名前はベルトルト・フーバー。ああ見えて気が小さくてな――」

猿の巨人「これより姿勢制御の再試験を行います。落ちた方は即刻開拓地へ向かっていただきますよ」

猿の巨人「昨日合格を判断された方々には退屈かもしれませんが、待つのも兵の仕事ですので。では、エレン・イェーガー、前へ」

エレン「ハッ!」

猿の巨人「覚悟はできましたか?」

エレン「……ハッ!」

猿の巨人「では、上げなさい」

ライナー「……」

アニ「……」

ベルトルト「……」

ユミル「……」

マミー「……」

エレン「!!」

猿の巨人「……よろしい、上出来です」

エレン(やった!!)

猿の巨人「しかし、ベルトが昨日配布したものと異なっているようですが、どういうことですか?」

エレン「そ、それは……」

ライナー「……彼が現在使っているものは自分のものであります!」

猿の巨人「ブラウン訓練兵?……続けなさい」

ライナー「ハッ!」

ライナー「自分は昨夜イェーガー訓練兵の練習に付き添い、何度も整備項目の確認を行いました」

ライナー「しかし何度試みてもイェーガー訓練兵は姿勢制御を失敗しました」

ライナー「そこでベルトを交換してみたところ、イェーガー訓練兵が姿勢制御を成功させたため、本日そのまま試験にのぞむよう助言しました」

猿の巨人「なるほど……イェーガー訓練兵のベルトはありますか?」

ライナー「ハッ、こちらです」

猿の巨人「かしてみなさい……ふむ、壊れていますね。ここが壊れるとは……初めて見ました。整備項目に追加が必要なようです」

エレン「そ、それじゃあ……?」

猿の巨人「問題ありません。合格です。以後も励みなさい」

エレン「!!」

猿の巨人「しかし勝手な行動があったのも事実です。イェーガー訓練兵とブラウン訓練兵は訓練場を10週してきなさい」

エレナー「「ハッ!」」

眼鏡教官「――というわけだ。このように、人類によって我々巨人は壁の内側で生きることとなった」

ライナー「……」

眼鏡巨人「人類の生態はまだまだ謎に包まれているが、その行動原理の一つは我々巨人を喰らうことである」

アニ「……」

眼鏡巨人「彼らがなにゆえ我々を喰らうのかはまだ解明されていない。が、排泄物が確認されており、捕食による栄養摂取の可能性が示唆されている」

マミー「……zzz」

眼鏡巨人「さて、人類は我々に比べて非常に小さな身体でありながら、恐ろしく強固な身体と敏捷性、そして力を持ち合わせている」

エレン「……」

眼鏡教官「加えて人類は驚異的な回復力を持っている。我々の攻撃はほぼすべて意味を成さない」

泣顔巨人「教官!それでは……それでは人類は不死身ですか!?」

眼鏡教官「不死身ではない。人類を倒す方法は一つ、心臓を狙う。そのために君たち訓練兵はこの箸型ブレードと立体機動装置を使いこなさなければならない」

喜顔巨人「はし……」

眼鏡教官「人類と遭遇した際に一番気をつけなければならないのは接触だ。人類は我々の身体に接触するとそこからも捕食を開始する」

怒顔巨人「……」

眼鏡教官「よってこの立体機動の能力を生かした一撃離脱の戦法が基本となる。立体機動によって間合いを一瞬でつめ、そして」

笑顔巨人「……」

眼鏡教官「片手の箸型ブレードで人類をつまみ、動きを止め、もう片手のブレードの先端で心臓を突く」

ライナー(髭のおっさん……酔ってたから……)

眼鏡教官「これにより人類に再生する時間を与えず倒すことができる」

ベルトルト(窓からじゃやっぱりよく聞こえない……後でアニに教えてもらおう……)

ライナー「はっ!」

エレン「そうはいかねぇ!」

ライナー「なっ!ぐぅっ!!」

エレン「悪いな、俺の勝ちだ」

ライナー「つぅ……もう少し手加減してくれてもかまわないんだぞ」

エレン「ついつい力が入っちまって……すまねぇ」

ライナー「お前は何にでも熱心なところがあるからな。見てみろ」

エレン「ん?」

ライナー「この格闘訓練を熱心にやってるやつなんてほんの一握りだ。ほとんどのやつは流してる」

エレン「ああ、ほとんどのやつは憲兵団目指してるからな。そしてこの格闘訓練は評価の割合が低いときてる」

ライナー「気づいてたのか?」

エレン「ユミルが教えてくれた」

ライナー「ああ……なるほど」

エレン「そんなあからさまに残念な顔するなよ、傷ついちゃうだろ」

ライナー「すまんすまん」

エレン「だが、周りのやつなんて関係ない。俺は俺が兵士になるために全力をつくすだけだ。それに……」

ライナー「それに?」

エレン「俺たちは兵士だろ。この訓練で身につける技術は人類相手じゃ使いものにならないだろうが、ならず者を制することぐらいはできる」

ライナー「ああ、そうだな」

エレン「訓練を受けた兵士として、相手が人類でなくても対処する力ぐらいは身につけておくべきだ……と俺は思う」

ライナー「驚いたな……お前にそこまで責任感があるとは」

エレン「言っておくが、これはユミルに言われたわけじゃねーぞ」

ライナー「わかってる。あいつはそんなこというタマじゃあない……ん?」

エレン「どうした?」

ライナー「エレン。せっかくだ、もっと高い技術を学ぶ気はないか?」

エレン「そりゃ望むところだけど……」

ライナー「よし。アニ!」

アニ「……なんだい?」

エレン(こ、怖ぇ……)

ライナー「また教官にバレないようにうまくサボってたな」

アニ「別にかまわないだろ。まじめにやってんのはあんたらみたいな真面目なバカか、本物のバカぐらいさ」

エレン(けっこう口悪いんだな……)

ライナー「しかし俺たちは兵士だ。兵士として身に付けるべき能力は身につけ、いざという時には責任のある行動ができなければならない」

アニ「だから?」

ライナー「だから兵士としての責任、戦士としての心構えを俺が指導してやろう、とエレンが言っている」

エレン「は!?」

アニ「へぇ、あんたなかなか言うじゃないか」

エレン「いや、お前に比べれば全然……って違う、そもそも俺はそんなこと――」

ライナー「じゃあまずエレンが暴漢役だな。ほら、短剣だ」

エレン「お、おう。ってだから!」

アニ「こないならこっちからいくよ!」

エレン「」

アニ「ふん」

ライナー「久々にお前の足技を見たが……ますますキレが上がったんじゃないのか。エレンが一回転したぞ」

アニ「さて、じゃあ次はあんたの番だね」

ライナー「え?い、いや俺は――」

エレン「やれよライナー」

ライナー「エレン!?」

エレン「兵士として責任、教えてやるんだろう?」

ライナー「……ああ、兵士にはやらなければならない時がある」

ライナー「今がその時だ!」

ライナー「」

アニ「ったく……」

エレン「しかしすごいな、あんたの足技。あのライナーがあんなふうに飛ぶなんて……」

アニ「あんたじゃない」

エレン「え?」

アニ「アニ。私の名前」

エレン「あ、ああ!俺はエレンだ。よろしくな!」

アニ「……エレン、あんたこいつに一杯食わされたんだろ?」

エレン「気づいてたのか!ライナーがもっと高い技術を学びたくないかって言い出してさ……まぁそれはウソじゃなかったけどな」

アニ「え?」

エレン「アニの足技は確かにすごい技術だ!驚かされたぜ」

アニ「……どうも」

エレン「誰かに教わったのか?」

アニ「……お父さんが」

エレン「親父さんがこの技術の体現者なのか!すげぇな!!」

アニ「……その、よかったら教えてやってもいいけど?」

エレン「え?今日はもういいよ、痛いし」

アニ「……」

エレン「……」

アニ「遠慮することないって」

そして月日は流れ、解散式の次の日、壁上での鉄条網および有刺鉄線の整備。


怒顔巨人「あー、頭痛ぇ」

笑顔巨人「いくら解散式の夜だからって飲み過ぎなんだよお前は」

怒顔巨人「それにしたって解散式の次の日まで鉄条網の整備なんてさせなくてもよ……」

ライナー「ぼやくな。これのおかげで今のところは人類が壁内に入るのを防げていると言われてるんだ」

怒顔巨人「本当にこれのおかげなのかねぇ……」

笑顔巨人「……なぁライナー、本当に調査兵団に行くのか?」

ライナー「ああ」

怒顔巨人「せっかく10位内の成績だったのに」

ライナー「調査兵団に入り巨人を駆逐して、外の世界を探検するのが俺の夢だからな」

泣顔巨人「そういえば入団の頃からずっと言っていたな」

ライナー「お前らは?やっぱり駐屯兵団に?」

笑顔巨人「実は……調査兵団に入ろうと思ってる」

怒顔巨人「俺もだ」

ライナー「本気か!?」

泣顔巨人「俺もだぜ!」

ライナー「どうして……」


笑顔巨人「その……お前やベルトルトが語る外の世界を見てみたくなってな!」

怒顔巨人「あまりに楽しそうに何度も何度も話すもんだからよ」

泣顔巨人「その夢に賭けてみたくなったんだ」

ライナー「お前ら……」

マミー「私もです!」

ライナー「マミーもか!?」

マミー「人類を倒して、土地を取り返すんです!それでいっぱいお肉を育てます!!」

笑顔巨人「お肉って……せめて家畜っていえよ」

ライナー(……俺は仲間に恵まれた……今なら何だってできそうな気さえする)

ライナー(俺はこの仲間たちと、必ず人類を倒す!!)

ライナー(巨人の反撃はここからだ!)

黒髪人類「……」

ライナー「……」

ライナー「じ、人類が出現したぞ!!」

笑顔巨人「いつの間に壁上に!?」

怒顔巨人「しかもこちら側から鉄条網に穴を!!」

泣顔巨人「まずい!?これじゃ人類が中に」

マミー「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

黒髪人類「……」

笑顔巨人「こ、こっちを見た!」

ライナー「落ち着け!!」

怒顔巨人「!?」

ライナー「マミー!お前はすぐにみんなに知らせるんだ!」

マミー「わ、分かりました!」

ライナー「俺たちはなんとしても、ここでこいつを叩くぞ!」

笑顔巨人「わ、わかった!」

怒顔巨人「ちくしょう!やってやる!」

泣顔巨人「うおおおおお!」

黒髪人類「……」

ライナー(速攻だ!こいつが動く前に、一撃で決める!!)

ライナー「うぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

黒髪人類「ゥォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

ライナー「!?」

笑顔巨人「なんだ!?」

怒顔巨人「あ、熱!!これは!?」

泣顔巨人「蒸気だと!?」

黒髪人類「ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

ライナー(クソッ!届けぇ!!!)

笑顔巨人「な!?」

怒顔巨人「……消えた!?」

泣顔巨人「ライナー!大丈夫か!?」

ライナー「あ、ああ……大丈夫だ……しかしやつを逃してしまった……」

笑顔巨人「い、いや!俺達なんか足がすくんで動けなかったのに、やっぱりライナーはすげぇよ!」

怒顔巨人「ああ、さすがだ!!」

ライナー「……そんなことより!急いで鉄条網をふさ……」

泣顔巨人「」

彼らは鉄条網の方向を向き、絶句した。つい先程までは鉄条網越しに青い空が広がっていた。

しかし今は大きな黒い塊が広がりその向こう側を見ることはできない。

その大きな塊はまるで巣の中のスズメバチの群れのように蠢いており、先ほど鉄条網にあけられた穴から内側へと侵食している。

侵食の先でその塊は、すでに物言わなくなった仲間を飲み込んでいた。その正体は数えきれないほどの人類の群れ。

ついさっきまで意思を交わしていた仲間が人類に貪り喰われる光景を目の当たりにした彼らには、悲鳴をあげることしかできなかった

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!???」

間もなく彼らも、最初に犠牲になった仲間と同じ運命をたどった


アニ「……」

アニ「……ライナー?」

ベルトルト「どうしたのアニ?」

アニ「いや……あいつの声が聞こえた気がして」

ベルトルト「そう?僕は聞こえなかったよ?」

アニ「うん……空耳みたいだね」

ベルトルト「それはそうと、その新しい髪型いいね」

アニ「……ありがとう。けっこう思い切って切ったんだけど」

ベルトルト「すごく似合ってるよ。ライナーもすごく似合ってて可愛いって言ってた」

アニ「ああ、昨夜、言われた」

ベルトルト「そうだったんだ!すごく似合ってるもんね!……いよいよだね」

アニ「……うん、3人であの街に帰ろう」

アニ(そして、夢見た外の世界を――)

―――――

―――



『あきらめますか?』 ピッ

rァ  はい 
   いいえ

『あきらめますか?』

   はい
rァ  いいえ     ピッ



rァ  “いいえ”     ピコーン

―――――

―――



"いってらっしゃい ライナー"

――ライナー

「ライナー!!」

「……ん?」

アニ「起きな」

アニ「もう帰らないと日が暮れる」

ライナー「……?……あれ?」

ライナー「アニ……お前……髪が伸びてないか……?」

アニ「そんなに寝ぼけるまで熟睡してたのかい?」

ライナー「いや……なにかすごく長い夢を見ていた気がするんだが……」

ライナー「何だったか……クソッ、思い出せねぇ……」

アニ「ライナー?あんた……どうして泣いているんだい?」

ライナー「え……?」


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ





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