魔王「ミス・ペンドラゴン」(104)

銀の髪、深緑の瞳、ペンドラゴン、ペンドラゴン

魔法使い「だめ、見当たらない」

勇者「魔王が見当たらない?」

勇者「屋根裏も地下室も?」

魔法使い「探したわよ、玉座の下も、秘密の研究室も」

魔法使い「どこにもいないわ、もぬけの殻ね」

勇者「わあっ」

魔法使い「何が可笑しいの?」

勇者「泣いてるんだよ!」

魔法使い「なんで泣くの、魔王がいないならそれで平和でいいじゃない」

勇者「よくないよ!」

勇者「だって魔王がいないなんて困るじゃないか!」

勇者「魔王を倒して腕一本でも持ち帰らないと!」

勇者「僕は王様から褒美をもらってぬくぬくと過ごしたいんだよ!」

勇者「僕のうちは貧乏なんだ、兄弟もたくさんいる」

勇者「手ぶらで帰ったって家にいれちゃくれないよー!」

?「あなたが……勇者ですか?」

勇者「わっ!」

魔法使い「あら、あなたはどちら様?」

側近「……わたし、魔王様の側近です」

勇者「なんだって!?」

勇者「よし、魔法使い!こいつだけでもとりあえず倒そう!」

側近「わたしを倒したら魔王様の居場所はわからないままですよ」

勇者「ぐっ……そ、そうなのか」

側近「ま、ま、そうおあせりにならずに」

側近「別にあなた方に魔王様がどこにいるか、教えて差し上げても構いません」

側近「ただ……ひとつ頼みたいことがあるんですよ」

側近「それが終わったら、煮るなり焼くなり好きにしてください」

勇者「た、頼み……?」

勇者「ここは……」

側近「人間の城からも、われわれの城からも離れた場所にある辺境の村です」

側近「そら、来ましたよ」

勇者「あの足どりかろやかな青年が……?」

側近「そう、お話した青年です」

側近「あ……ほら」

魔法使い「あちらが……?」

側近「件の女性です」

魔法使い「なんだか親しそうに話しているけど……」

側近「そうそれが頼みたいことなのです」

魔法使い「あの2人の仲を取りもてと?」


側近「いいえ」

側近「逆です」



側近「あの女性と青年の仲を、粉々にぶち壊してやって欲しいのです」

勇者「僕が旅芸人」

魔法使い「私が踊り子……」

側近「そしてわたしが旅の楽師です」

魔法使い「みんな、化けられるものね、誰も勇者一行と魔族だなんて気づかないわね」

側近「彼女は女手一つで宿を経営しています」

側近「青年さんはそこに滞在しています、私たちも泊まりましょう」

側近「そして機会を伺い……」

魔法使い「仲違いをさせるってことね」

楽師「2人部屋ひとつ、1人部屋ひとつ」

女将「旅の芸団さんですか?」

楽師「ええ、こんなご時世ですが、だからこそ皆様に笑顔を、と思いまして」

踊り子「まったく逆のことしようとしてるのにね」

旅芸人「しゃあしゃあと、さすが魔族」

踊り子「女将さんはここをお一人で?」

女将「ええ、こんなときでしょう、でもお客もあまりないし、なんとかやってるのよ」

楽師「そうですか、それは素晴らしいですね」

楽師「それでは……」

楽師「ととと、何でしょう」

踊り子「あなたが一人部屋なの?」

踊り子「ここはあなたと勇者が2人部屋でしょう」

楽師「失礼な、わたしはこれでも女ですよ」

楽師「殿方とふたりきりなんて、何があるやら……」

楽師「お二人はずっと一緒に旅をされていたんでしょう?」

楽師「問題ないのでは?それではごきげんよう」

旅芸人「あいつめ……」

翌朝

青年「あれ、あなた方は昨日から泊まられているのですか?」

青年「こんにちは、青年と申します」

青年「縁あってこちらに長期滞在しています」

旅芸人「あ、はは、旅芸人といいます、こっちは仲間の踊り子」

青年「いやー、お綺麗ですね!まあ私には女将さんがいちばん……いえ、失礼ごほん」

青年「お先に朝食を頂いていますね!ごきげんよう!」

旅芸人「颯爽と行ってしまった……」

楽師「おはようございます」

旅芸人「ああ、おはよう、いま青年さんと挨拶したところだよ」

楽師「そうですか、では朝食を頂きましょうか」


踊り子「それで、青年の後を付けてるわけだけど」

楽師「彼は毎朝、森で花を摘んで女将さんにプレゼントしています」

楽師「まずはその場所を突き止め、根絶やしにしようかと」

旅芸人「血も涙もないね」

楽師「魔族ですから」

踊り子「あの、いいかしら」

楽師「どうぞ?」

踊り子「彼、とてもいい顔して花を集めているけど、さすがに心が痛むわ」

踊り子「そもそもなぜこんな依頼をしたの?」

楽師「すみません、お答えできません」

楽師「ただ、これさえ済めば魔王様をあなた方の眼前に引きずり出すことをお約束します」

楽師「あらかた集め終わりましたね」

楽師「では……踊り子さん、こそおりと火の玉を花束に」

踊り子「あんた鬼ね……」

踊り子「じゃあよそ見しているうちに……えい」


青年「ふんふーん」

青年「ん?は?な、なんだ?!なぜ燃えているんだ!」

青年「うわああ、どうしたら!」

踊り子「心が痛むわ」

楽師「素晴らしい技量です、スナイパーになれますよ」

旅芸人「魔王倒したらそういう道もいいんじゃないか?」

踊り子「馬鹿言ってないでもとの方も燃やすわよ」

旅芸人「なんだかんだ言って楽しそうだ……



青年『ぬおおおおっ!!!!!』


旅芸人・踊り子「「 は? 」」

青年「な、なんとか凍らせてはみたが……」

青年「これは半分駄目になってしまったか……」

青年「はっいかんいかん」

青年「つい魔法を使ってしまったな、角も出ている」

青年「こんな失敗はこれきりにせねば」


青年「あー、あー、うん、うん」

青年「さっ、ミス・ペンドラゴンに会いに行こう!」

旅芸人「……」

踊り子「……」

楽師「……」

旅芸人「お、お前~!」

楽師「ま、ま、落ち着いて落ち着いて」

旅芸人「あいつが! 魔王じゃないか!」

楽師「そうです、だから問題なんですよ」

旅芸人「そんなの!ここであいつを倒せば万事解決じゃないか!」

楽師「ダメですよ、あの人は腐っても魔王ですよ?」

楽師「魔王様とあなたが戦えばここら一帯は火の海です」

楽師「村人を巻き込むのは本意ではないでしょう?」

楽師「それにね、できるだけ無傷で帰ってもらいたいんです」

楽師「それで継承の儀を強引にして、魔王の力を移してしまえばそれで終わりです」

楽師「あっちの残りカスの魔王様は煮るなり焼くなりどうぞご自由に」

踊り子「それって別の魔王が生まれるだけじゃないの?」

楽師「いいえ、次代の魔王様が育つのはまた数百年かかります」

楽師「それまで待つのはいささか骨が折れますが……」

楽師「あなた方はその頃にはどうせ生きちゃいない、未来の人間に託しちゃどうです」

楽師「われわれはそれまで大人しくしてますよ、お約束します」

楽師「それで手を打ちませんか、ね」

だが断る

>>18 どうも 今回は提案を受け入れた様子です


女将「あら、それではこの村にくる前は王都にいらしたの」

楽師「ええ、まあ」

女将「ね、よかったら一曲弾いてくださらない?」

女将「今晩の夕食はサービスするわ」

楽師「そうですか?それならば……」

旅芸人「おい、大丈夫なのか?」

楽師「なに、昔取った杵柄やら、ですよ」

楽師「それでは……」

楽師は穏やかな調べを奏で始めた!

青年「おお、素晴らしいですね、不思議と懐かしく感じます」

旅芸人(そりゃあそうだろうね)

青年「私の故郷にも似た音楽があります」

青年「らーらーらーららー」

女将「あら、あらあら」

女将「まあ、青年さん、とっても御上手なのね」

女将「それに楽師さんの演奏にもとても馴染むみたい、素敵だわ」

女将「こんなに素敵なら、そうだわ、村の音楽祭に出てみるのはいかが?」

女将「村外からも参加する方が多いのよ」

女将「それだけがこの村の自慢なんだけどね」

青年「お、おおっ、ペンドラゴンさん、任せてください!」

青年「ねっ、あなた方、よろしくお願いしますよ!」

青年「いやー、楽しみだなあ、うん!」

踊り子「つい了解してしまったけど……」

楽師「いえいえ、これはこれでいい機会ですよ」

楽師「うまいこと盛り上げていって最後に赤っ恥をかかせれば」

楽師「もう諦めて城に戻ってくるでしょう」

踊り子「あんたってまるで悪魔ね」

楽師「なにぶん魔族ですから」



青年「らーらーらー」

青年「ふうっ、いい感じですねえ」

青年「それに森で歌うのも清々しい!」

踊り子「どうしよう、予想外に芸達者だわ」

楽師「なにせ小さな頃からわたしがありとあらゆることお教えしましたから」

踊り子「小さな頃っていつよ」

楽師「さあ、もう何百年前でしょうかね」

楽師「先代様に仰せつかりまして、それはもう大変でした」

踊り子「はあ、そりゃ上手いわけね」

青年「らーらー」

踊り子「旅芸人、水を取りに行ってから帰って来ないわね」

宿屋

旅芸人「女将さん、水を頂けますか」

旅芸人「少し休憩を入れたくて」

女将「あら、おかえりなさい」

女将「あ、そうだわ、でしたらこれもお持ちになってくださる?」

女将「村でよく食べるお菓子なのよ、甘いものも一緒にどうぞ」

旅芸人「ありがとうございます、おお、旨そう」

女将「みなさんはもうずっと一緒に旅をされているの?」

旅芸人「あー、ええっと、そうですね僕と踊り子は長いこと一緒でした」

旅芸人「楽師は……まあ最近ですね」

女将「まだお若そうなのに旅をされて身を立てて……立派だわ」

女将「わたしなんか村からあまり外に出たことがなくて」

旅芸人「いえいえ、女将さんもまだお若いのに立派に宿を切盛りされていて……」

女将「いやだわ、もうそんなに若くないのよ」

女将「あら、旅芸人さん、腕に怪我されてるの?」

旅芸人「あ、いやいや、もう随分古い傷なんで」

旅芸人「近頃の外は危ないんでね、やっぱり」

女将「そう、ならいいのだけど」

女将「ごめんなさいね、なにか勝手に盛り上がって音楽祭に出てもらうことになって」

旅芸人「ああ、いえいえ、僕ら見てもらってなんぼなんで」

女将「ふふ、ありがとう」

女将「そうだ、何か好きなもの教えてくださる?美味しいもの作るわ」

旅芸人「え、本当ですか、そうだなあ、じゃあミートパイなんか」

女将「あら、じゃあ楽しみにしてて、お腹いっぱい作るわね」


旅芸人「あ……、ありがとうございます……」

女将「あら、どうかしたかしら?」

旅芸人「いや、うち貧乏で兄弟もたくさんいたからあんまり食えなくて……」

旅芸人「なんか、嬉しいですこういうの」

女将「ふふ、楽しみにしていて」

踊り子「あら、おかえり旅芸人」

旅芸人「ああ、これ水と甘いもの、女将さんから」

青年「うわあ、女将さんからですか、嬉しいなあ」

楽師「じゃあ休憩にしましょうか」

踊り子「どうしたの、旅芸人、なんだかいつにもましてぽやっとしてるけど」

旅芸人「へ?いや、なんでも、ないけど」

踊り子「そう?さ、休憩しましょ」

旅芸人「……ペンドラゴンさんかあ」



青年「うわあ、ミートパイですか!」

青年「うん、美味しい!やっぱり女将さんの手料理は最高だなあ」

旅芸人「うん、旨い!こんな旨いもの初めて食べた!」

青年・旅芸人「女将さん、最高です!」

女将「あらあら、そんなに急いで食べなくても」

女将「まだ他にもつくってありますからね、いかが?」

青年・旅芸人「ええ、それはもう、是非!」

踊り子「……どう思う?」

楽師「どう思うもなにも、でしょう」

楽師「困りますね、お互い」

踊り子「ええ、まったくだわ」

楽師「とりあえず旅芸人さんの魅せ場もつくりますかね」

踊り子「お願いするわ」

旅芸人「えっ、僕の出番もつくってくれるのかい?」

旅芸人「やった!ありがとう!」

旅芸人「これでいいとこ見せられる……!」


踊り子「あいつ、自分が何の為にここにいるのか、綺麗さっぱり忘れてるわね」

楽師「なんちゃらは盲目とはよく言ったものです」

青年「ああ、銀色の髪、深緑の瞳、ミス・ペンドラゴン……」

青年「らー」

楽師「青年さん」

青年「あれ、楽師さんこんな遅い時間にどうされたんですか」

楽師「いえ、なんだか眠れないもので」

青年「ははあ、楽師さんでも緊張されるんでしょうか、明日ですものね音楽祭」

青年「意外ですね、楽師さんはひと際落ち着いておられて、そういう事とは無縁そうなのに」

楽師「そうですか? わたしだって、人並みですよ」

楽師「緊張だってするし、怒ったり、嫉妬だってします」

青年「? はは、そうですか、これは失礼しました」

楽師「ときに……青年さんは、女将さんになにやら恋…されているようで」

青年「!? やだなあ、そんな突然に何を言い出すんですか」

青年「……まあ、楽師さんに隠し事は難しそうですね」

楽師「女将さんのどういうところに惹かれたんですか?」

青年「ええ? うむ、いや、その、あれ……」

青年「いえね、わたしの生まれはここからずっと離れた場所にあるんですが」

青年「そこでの生活では得られなかった……穏やかさというか、優しさというか…」

青年「いや、聞く人が聞けば、お前は何を言ってるんだと言われかねないんですが」

楽師「穏やかさ、優しさ、ですか」

青年「はは、とりとめない言い方しかできませんが」

青年「女将さんはこんな僕でも褒めてくれるんですよ」

青年「今回だってそうです、歌が上手だなんて初めて言われましたよ」

青年「本当に嬉しかった」

楽師「……」

青年「いえね、郷里にそりゃあもう厳しい教育係がいましてね」

青年「やれ自覚が足りないだの、やれ意思が弱すぎるだの」

楽師「厳しい教育係……」

青年「まあここにいる時点で……まったくその通りなんですけどね」

楽師「……なにか?」

青年「いえ! さ、夜風も冷たくなってきましたし、戻りましょう」

青年「明日はよろしくお願いします」

音楽会当日

女将「さあさ、頑張ってきてくださいね」

旅芸人「ええそりゃあもう!」

青年「いや、期待していてください、優勝をかっさらってきます!」



「さあ!年に一度のお祭りだよ!」

青年「ああ、なんだか上手そうな方々が沢山おられますねえ……」

旅芸人「ほんとですね……これは大変そうだ」

楽師「ここで優勝したら女将さんさぞ喜ぶでしょうね…」

青年「……頑張りましょう! 旅芸人さん!」

旅芸人「ええそうでしょうとも! 青年さん!」

踊り子「わかりやすいやつら」

旅芸人「さあ次が我々の出番ですが…」

青年「ああ緊張する」

踊り子「ほら、隅で震えてないで、前の演奏者でも聞きましょう」

青年「ええ、やだなああんまり上手だったら自身なくしますよ……」

旅芸人「う ま い」

青年「何ですかあれ!あんなの一般市民の技量を越えてますよ!」

青年「いえ、楽師さんの腕前も素晴らしいですが……それにしても」

踊り子「そうねえ、楽師……?」

楽師「まあ問題ないでしょう、そりゃあ腕に覚えのある方々が集まってくるのですから」

踊り子「まあ音頭は楽師に任せる……わね?」

楽師「ええ、任せておいてください」

楽師「あなた方は自分の持ち場所で、存分に腕前を披露してください」

踊り子「相当緊張してるわね」

楽師「……青年さん、旅芸人さん、ほらあそこ」

女将 ひらひら

楽師「女将さんにいいところ見せるんでしょう?」

青年・旅芸人「へら」

青年「頑張りましょう! 旅芸人さん!」

旅芸人「ええそうでしょうとも! 青年さん!」

踊り子「あんた、これだけ発破かけたら、後で相当落ち込むわよ」

楽師「でしょうね」

踊り子「まあどう進めるか知らないけど、とにかくやるだけやるわ」

楽師「ええ、お願いします、踊り子さん」

「さあ、お次はこれまた村外からの参加者!」

「旅の楽団だ!それではどうぞ!」


……シャン……シャン

「おお、なんだ音が……鳴っているのか?」

「いや、しかし踊り子さんの舞がなんとも素晴らしい……」

「静かな中で踊り子のアクセサリーの鈴の音だけが……」

ダン! ダン! ダッダッダ!

「うって変わって、今度は旅芸人の踊りか」

「これは、なんだか愉快な気分になるな」

「どこからか手拍子が聞こえてきた」

「足踏みも……しかし楽師さんのリュートの音もはっきりと聞こえる」

旅芸人(うわ……凄いな、なんだか会場全体で音楽を奏でているみたいだ)

旅芸人(なんか、王都での祭りを思い出すな)

旅芸人(ああ、そうだ、あのみんなの為に魔王を倒そうと思ったんだったな……)

旅芸人(……これが終わったら俺は魔王を倒して王都に帰るんだろうか)

旅芸人(この青年をか……?)

旅芸人(……まあわかんねえな! とりあえずこの場を楽しむか!)

ダン! ダン!

シャラ シャラ

青年(凄いな……これは……)

青年(魔族にはこういった大衆音楽は存在しないからな)

青年(群衆とは…、人間とは何故群れるのかと考えていたが)

青年(共に暮らす……とは案外よいものなのかもしれぬ)

青年「(共に……か、人間と魔族、はるかに違う生を過ごす者達が共に暮らすことは……)

青年(魔王として、なにか私にできることは……)

青年(と……そろそろ出番だな)

青年「らー」

青年「らーらーららー」

「おお、なんか聞いたことない感じの歌だな」

「なんだか少し寂しい気持ちになる歌ね」

「けれどどこか気品を感じる歌だわ」

青年「らー……」

旅芸人「二位かあ、こんなもんかな」

青年「ああ、あと一歩及ばず!」


女将「あらあら、素晴らしかったわ皆さん!」

女将「練習の時とはまた違っていて!それに一番の声援だったわ!」

青年・旅芸人「いやあ」

青年「そりゃあもうペンドラゴンさん!あなたの為に歌いましたとも!」

旅芸人「ええ、ええ僕も!あなただけを見ながら踊りましたよ!」

踊り子「ねえ」

楽師「はい?」

踊り子「よかったの? 赤っ恥、かかせられなかったけど」

楽師「拍手喝采、頂いちゃいましたね」

楽師「まあ、あの場でしらけさせるのは、野暮ってもんでしょう」

踊り子「魔族でもそういう気持ちになるの?」

楽師「魔族にだって、心動かされる時はありますよ」

楽師「むしろ……普通に感情くらい湧きますよ」

楽師「何百年と生きていればそれこそ、色々と……」

踊り子「……そう、ま、次の手を考えないとね」

楽師「……いえ、おそらくそれには及ばず……」

「おうい、おうい」

女将「あら?」

騎士「帰ったよ、お前」

騎士「どうやら音楽祭には間に合わなかったみたいだ」

女将「どうしたの、急に、便りもなしに」

騎士「戦争が終わったんだよ、それがなんとも不思議な話なんだ」

騎士「魔王がいなくなってしまったんだ、それに、勇者も」

騎士「魔王城ももぬけの殻で、魔族いっぴき見当たらないらしいんだ」

騎士「だからね、王がもう戦争をする意味はないと」

騎士「それでしばらく暇をもらったんだよ」

女将「あら! そうなの、じゃあしばらくは一緒に暮らせるのね」

騎士「そうだよ、お前、心配をかけたね」

踊り子「あ、あのー、ペンドラゴンさん?」

踊り子「そちらの方は?」

女将「あら、いやだわ」

女将「この人、私の主人ですの」

青年「な、なんですって?」

女将「戦争が始まってから、ずっとお城の騎士団に勤めていましたのよ」

女将「あなた、こちらは旅芸人さんと青年さん、踊り子さんに、楽師さんとってもいい方達よ」

女将「うちの宿に滞在されていて、音楽祭に出られたの」

女将「それはすばらしい音楽だったわ」

騎士「どうも、はじめまして、騎士と申します」

旅芸人「は、はは……はじめまして」

騎士「はっは!いやいや、私も是非聞きたかった!」

騎士「私が留守の間、妻によくして頂いていたようで、本当にありがとう」

騎士「今晩はわたしも腕をふるってごちそうしますよ!」

騎士「音楽祭はもう少し続きますからね、もう少し楽しんで来られるといい」

騎士「私たちは先に戻ってますよ」

青年「お、おかまいなく……」

騎士「さ、行こうか」

女将「ええ、あなた」

女将「そう、とっても楽しい方々なのよ」

女将「それにね、旅芸人さんと踊り子さん、とってもお似合いだと思うの」

女将「楽師さんはどうも青年さんが好きみたいなの、素敵だわ」

女将「どうかしら、結婚してこの村に住んでくれないかしらね」

女将「やだ、こんなこと気にするなんて、年かしらね」

「あら、ミセス・ペンドラゴン、ごきげんよう」

女将「あら、ごきげんよう、奥様」


ぽつーん

青年「な……んな……」

楽師「……おや」

旅芸人「そんな……」

踊り子「……あら」

勇者・魔王「「 そんな馬鹿なあっ!」」

楽師「ふう、こんな茶番もこれまでですかね」

楽師「ここまで付き合って頂いて感謝しますよ」

踊り子「あんた……もしかして、最初から」

踊り子「ほんと、魔族ね」

楽師「そうですね、まったく」

楽師「側近というのも難儀なお役目です」


勇者「はー、なんだか王都では勝手に行方不明扱いにされているし」

勇者「あの雰囲気じゃあ出て行けそうにないな」

勇者「これからどうしよ」


勇者「あの魔王と側近、約束を守るかな」

勇者「継承の儀、結局やらずに魔王続投なんだろ?」

魔法使い「守るでしょ、それは、必ず」


勇者「どうしてそう思うんだ?」

魔法使い「だって、あの側近にとって、魔王を連れ戻すことが目的じゃあなかったんだから」

勇者「はあ? じゃあなんであんなことをさせたんだ?」


魔法使い「建前でもいいから、魔王って役目をもたない魔王を連れ帰りたかったのよ」

魔法使い「あんたと戦わずに済む魔王をね」


魔法使い「結局あの時に、うまいこと約束させられちゃったってことよ

魔法使い「まあこっちとしても休戦は有り難いし、約束しちゃったんだから、未来の勇者に託すしかないのよ」

勇者「???」

勇者「まあ、そうだな、約束は守らなきゃな!」

魔法使い「……まあこっちの性格も織り込み済みだったのかもね」


魔法使い「そういえばあなた、またあの村に行っていたでしょう」

勇者「へ? いやー、なんだか居心地が良くてさ」

勇者「結局家に戻っても居場所はないし、あの村に住むのも悪くないかなあって」

魔法使い「はあ、……その時は私にもちゃんと伝えてね」

勇者「へ? まあ、わかったよ」

魔法使い「また会わなきゃいいけど」

勇者「うん?誰に?」

魔法使い「人間のふりした誰かさん達によ」


魔王「はあー」

魔王「いつのまにか戦争が終わっていたなんて」

魔王「いや、すまなかった! 側近!」


魔王「勇者と協定を結んだそうじゃないか」

魔王「私がいない状況ではやむなしといった所か」

魔王「しかし実は私もな、しばらくはそうすべきじゃないかと思う様になったんだ」


魔王「人間はどんどんと変わる」

魔王「いつか支配というやり方ではない方法も見つかるかもしれないとな」

魔王「これからも頼むぞ、側近」


側近「……はあ、そうですね」

魔王「むぐ、だからすまなかった!この通りだ!」

側近「ええ、末永くよろしくお願いしますよ、魔王様」

側近「何ですか?」

側近「魔王様が帰って来た今、もう一度人間を攻めようって?」

側近「馬鹿いっちゃいけません、魔族としてのプライドはないんですか」

側近「われわれの軍も疲弊しきっていますし」

側近「気長に期を待つ事にしましょう」

「はっ、出過ぎた意見、失礼いたしました!」


側近「ふう」

側近「それにね、これで十分ですよ、わたしは」

側近「ちょっと魔王様が痛い目を見て、帰って来て頂ければそれだけでよかったんです」

側近「まあ、そうですね、少しばかり個人的な行動だったかもしれませんね」

側近「国を預かるものとして、反省しなければ」


側近「だってまあ、悔しいじゃないですか」

側近「数百年も仕えてきたお方が、たかだか数十年ばかしの人間に首ったけなんて」

側近「それだけです」


側近「約束は約束、少し大人しくしていませんとね」

側近「これでもう少しだけ、魔王様と一緒にいることができますかね」

側近「ふふ」

一旦区切りで、少し続きます



盗賊「はあ、はあ、こんな所に町が……」

盗賊「しばらくこの町に身を隠すか……ちっ」



店主「ほう、これは値打ち物だね、これでどうだい」

盗賊「ああ、いいぜ、それで頼む」

盗賊「話しついでにいい宿を教えてくれないか」

店主「そうだなあ、裏手にある宿なんかどうかな」

店主「ここいらじゃ一番の老舗だ、味もいいし値段も悪くない」

盗賊「ありがとな、また頼む」

女将「いらっしゃいませ」

盗賊「しばらく、頼む」

少女「あら、いらっしゃいませ!」

少女「お兄さん、この見ない顔ね?旅人さん?」

盗賊「……ああ、そんなところだ」

盗賊(うるさいガキだ……)


少女「そうね、お母さん、私がお部屋までご案内していいかしら?」

女将「あら、そうね、少し今手が離せなくて」

女将「すみませんが、よろしいですか?」

盗賊「……まあいいさ」

女将「少女、失礼のないようにね」

少女「へえ、それじゃ王都の方から来たの」

盗賊「ああ、そうだ」

少女「お兄さんみたいなお客さんはあんまりいないから珍しい」

少女「大抵、商人とか楽師さんとかが多いのよ」

少女「ひと昔前に多かった冒険者って時代じゃないものね」

盗賊「そうだな……」

盗賊「まあ今は魔物より、人の方が怖いもんだ」

盗賊「この宿は昔からあるのか?」

少女「ええ、この町が村だった時からね」

盗賊「この宿は飯が美味いな……」

盗賊「半世紀も続いてるって話しだったか」

盗賊「来た時は気づかなかったが……飾ってあるあの絵は」

盗賊「肖像画?」

盗賊「創業者か何かだろうか」

盗賊「美人だな」

数日後


少女「ね、お兄さん」

盗賊「……なんだ?」

少女「今日はお暇?」

盗賊「暇と言えば、まあそうだが……」

少女「じゃあ広場に出てみない?案内するわ」

盗賊「なんだか今日はいやに騒がしいな……なにかの祭りの準備か?」

少女「そ、明日から年に一度のお祭りがあるの、その準備をしているのよ」

少女「昔は小さな音楽祭だったらしいんだけどね」

少女「村が大きくなるにつれて、出店や出し物なんかが増えて来たみたい」

少女「お兄さん、明日も時間は空いている?」

少女「ね、暇でしょ? どうせ暇なら明日一緒に見て回らない?」

盗賊(随分、はっきりと物を言うやつだな……)


盗賊「ふん、まあいいぜ、どうせ暇だしな」

少女「決まりね、じゃあ待ち合わせにしましょ」

盗賊「待ち合わせ? どうせ宿から行くなら別に……」

少女「ちょっとその前に用事があるのよ」

少女「じゃあ広場の噴水前で待ち合わせ、よろしくね」

盗賊「待ち合わせ場所はここでいい筈だが……」

盗賊「遅いな」


少女「あー、お兄さん!ごめんね!」

盗賊「なんだ……、どうした、その……」

少女「顔でしょ? 驚いた? 綺麗でしょう、お化粧したの!」

少女「わたしも今夜の音楽会に出るの、これはその練習」

少女「さっきまでその準備をしてたのよ」


少女「どう?」

盗賊「ふん……マセガキ」

少女「あー、何それ!」

少女「まあいいわ! さっ、行きましょう!」

盗賊「どこへ行くんだ?」

少女「市場よ!それはもう楽しい場所なんだから」


市場

盗賊「……今日はどうもおかしな格好をしたやつが多い気がするんだが」

少女「今日は特別な日だからね」

少女「少しだけ周りを気にせず本当の自分を出していい日……、まあみんな仮装しておちゃらけてるわ」

少女「ほら、行きましょう、せっかくなんだから仮装しなきゃ!」

盗賊「おいおい……」

盗賊「なんだこりゃ、すっかりおとぎ話の魔族みたいじゃないか」

少女「いいじゃない、お祭りなんだから」

少女「ほらほら、尻尾よ、面白いでしょう」

盗賊「何が面白いんだ、これ……」

少女「必要なのよ、こういう息抜きも」


「おーや嬢ちゃん!可愛いね!」

「そこの兄ちゃんも!ほら特別だ、これ持っていきな!」

盗賊「これは、美味い……」

少女「でしょう?でしょう?」

盗賊「悪くない」

少女「あはは、よかった!」


女将「あら、あなた……と、お兄さん」

少女「あ、お母さん! ほら、お兄さんも仮装したのよ!なかなかでしょ?」

女将「あらあら……、ごめんなさいね」

盗賊「いや……まあ、悪くない、ので」

女将「あ、これいかが? 今日はうちも屋台を出しているのよ」

盗賊「ミートパイ……?」

女将「そう、うちに伝わる秘伝のレシピなの」

盗賊「これも美味いな」

女将「ふふ、ありがとう」


少女「あ、ほら結婚式よ」

少女「今日みたいな日には、いくつかの組で結婚式をするのよ」

少女「素敵ね、うらやましい」

盗賊「ふん、まだそんな年頃じゃないだろう」

盗賊「マセガキ」

少女「いいじゃない、それにすぐに大人になるわ」

少女「お兄さんがもらってくれてもいいのよ?」

盗賊「……何を言ってやがる」


盗賊「なんだかもの凄い食わされた」

少女「あはは、ちょっと多かったね!」


盗賊「音楽会は夜からなのか?」

少女「そう!でも、夕方からちょっと準備をしなきゃいけないの」

少女「だから、それまでお兄さんは宿屋に戻るか、その辺で楽しんでてくれる?」

盗賊「……ああ、わかった」


盗賊「とは言ったものの……どうするか」

盗賊「ん? あいつは……」


盗賊「おい」

「な、なんだ!?」

盗賊「お前……、こそ泥か」

「ああ、なんだ盗賊か……、久しぶりだな」


「なんだよ、お前もこの町にいたのか」

「今日はいい日だぜ、祭りだってよ」

「仕事のしがいがあるってもんだ」

盗賊「……まあ、俺に何か言えるってもんじゃないが」

盗賊「捕まらねえようにしておけよ」

「なんだおい、随分優しいこったな」

「わかってるって、じゃあな」

盗賊「そろそろ始まる頃か」

盗賊「どうするかな……」

盗賊「まあ関係ねえか、宿に戻って寝るか」



少女「あ!お兄さん!」

少女「ほらやっぱり! そうだと思ったわ」

少女「待ってて正解だった、せっかくなんだから音楽会見に来てよー」

盗賊「なんだ……?お前、少女か……?」

盗賊「随分……化けるもんだな、大人びて見える……?」

盗賊(どこかで見た気が……)


盗賊(ああ、広間に飾ってある肖像画……)

盗賊(銀色の髪……、深緑の瞳……)


少女「? ああその肖像画?」

少女「……綺麗でしょう?」


少女「わたしの、ひいお婆ちゃん、ミセス・ペンドラゴン」


少女「この髪と、瞳の色はひいお婆ちゃん譲りね」

少女「お母さんと、おじいさんは似てないんだけど、私はよく似ているらしいの」

少女「ひいお婆ちゃん目当てで宿に来る人もいたのよ」

少女「銀色の髪、深緑の瞳、ミス・ペンドラゴン、ミス・ペンドラゴン……♬」

少女「おかしいでしょう? 誰かのつくった歌まであるのよ」

少女「ちなみにひいお爺さんは王都で騎士団長をしていたのよ」

少女「さ、始まっちゃうわ。行きましょ!」

シャン……シャン……シャン!

盗賊(不思議な音楽だ)

盗賊(聞き飽きた大衆音楽とも違う)

盗賊(それにどこか……悲しい)

盗賊(品とかそういうもんは、よくわからんが)

盗賊(観客も一緒になって音楽を奏でている)

盗賊(天涯孤独の身で……掃き溜めのような場所で生き抜いて)

盗賊(たったひとりで盗賊をやってきたが)

盗賊(誰かと一緒にいるってのも……いいもんかもしれないな)

らーららー

シャン……シャン……シャン!!!


少女「お兄さん!」

盗賊「おう」

少女「どうだった?」

盗賊「悪くはなかったな、なんだ化粧は落としたのか」

少女「あれ?残念?綺麗だったでしょ?」

盗賊「まあ……少しはな」

少女「そうでしょ?そうでしょ?どうかなあ、少しは惚れた?」

盗賊「ふん、そんな訳ないだろう、マセガキ……いや」

盗賊「まあ……ミス・ペンドラゴン……か」

少女「あれ、名前? ちゃんと呼んでくれたの?」

盗賊「うるせーな、これっきりだ」

少女「あれー、もう1回呼んで?」

盗賊「もう呼ばねえよ、ガキ」

盗賊「俺は先に戻ってるからな」

少女「うん、うん、まあいいか!じゃあ、後でね!」

「へっへ……」

「裏通りは人気も少ない……」

「仕事がしやすいぜ……」

「お? あの家は灯りが付いているが……」

「どれどれ……」

「なんだ、人がいるのか」

「いやしかし……」

「!?」

「なんだ!?尻尾? 耳?」

「ば、化け物……」


「はあ、はあ、」

「あっちの家もこっちの家も……」

「どうなってやがんだ……まるでおとぎ話の魔族じゃねえか……」


少女「あら?」

「ひっ!?」

「な、なんだガキかよ……」

「へへ、嬢ちゃん、こんな暗がりを一人で歩いちゃ……?」


「う、うわああ」

「なんだなんだ、この町は」

「化け物の町だあ!」

「もうこんな町二度とくるもんかあ!」


少女「? 走っていっちゃった」

少女「なんだったんだろ? 化け物?」


少女「あ、いけない、仮装は解いたけど……」

少女「尻尾とか角とか出っぱなしだった」

少女「お祭りはもうおしまいだから、ちゃんと魔法で隠さなきゃね」

少女「でも化け物なんて、失礼ね」

少女「そりゃあ、この町の人は少しばかり変わった人が多いけど」

少女「ちゃんと本当の姿を出すのは年に一度のお祭りの日って決めてるのに」

少女「それにいまの時代、そんなに珍しいものじゃないでしょうに」

少女「さ、帰ろー」

銀色の髪、深緑の瞳、ミス・ペンドラゴン、ミス・ペンドラゴン……♬

いつかあなたにまた会いに参りましょう……

わたしとあなたのあわいは遠く……

それでもいつか 一緒に生きてみたいと……♬


側近「あれ、どこ行くんですか?」

側近「魔王様」

魔王「なんだ、側近か……」

魔王「いや、しばらくあの町に行ってないなあと思ってな」

側近「ああ、あの宿屋の娘を見にいくんですか?」

魔王「い、いや、そのなんだ、そのう……」

魔王「いや、もう諦めているぞ? だけどなんとも似ていてな……」

側近「はあ、仕方ないですね」

側近「でもちゃんと人間の姿に化けていってくださいよ」

側近「随分まじってきたとはいえ、それが約束ですから」

側近「ああ、行くのであれば将軍にこの書類を届けてやってください」

側近「それとお土産に奥様から、あのミートパイを焼いてもらってきてください」

側近「美味しいんですよ、あれ」


   魔王「ミス・ペンドラゴン」 おしまい

なんとか終わらせることができました、ありがとうございました。

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