勇者「働きたくありません!」(185)

勇者「私が勇者だなんて、何かの間違いなんです!私なんて、ただの
しがない村娘aですから!」

勇者「だから、魔王討伐の旅になんて行きません!お城にも行きません!」

勇者「ついでに言うと、部屋からも出たくないです!というか布団から出たくないです!惰眠を貪らせて下さい!」

母「ゆ、勇者ちゃん、それはお母さん何回も聞いたわ…だけどせめて、お城に行って王様に旅のお許しだけでも…」

勇者「嫌です!むしろお城に行くのが嫌なんです!あんなに人が多いところは二度と御免です!王様に拝謁とか無理です!あぁ!他人が怖い!」

母「あらあら、どうしましょう…」

賢者「チェストォ!!」バサッ

勇者「きゃあっ!」

母「あら、いらっしゃい賢者君」

賢者「お邪魔してますお母さん」

勇者「なにをしやがりますかこの馬鹿賢者!私の布団を返せ!そして速やかにこの部屋から去ね!」

賢者「そうはいかねぇよ!勇者、今日こそは魔王討伐の旅にでてもらうぞ。いや、この俺が引っ張ってでも連れてく」

勇者「うへぇ…わ、悪いですけど私、今日はちょっと風邪っぽくてですね…ゴホッゴホッ!」

賢者「その言い訳は聞き飽きた。つーか風邪気味の奴が、あんなに叫べる馬鹿。ほれ、分かったら行くぞ」グイッ

勇者「いーやーでーすー!放しなさいー!助けてお母さーん!」ジタバタ

母「勇者ちゃん…頑張るのよ!」

勇者「そんな!?」

賢者「観念するんだな」ズルズル

勇者「あーうー!私の怠惰な生活がー!」

勇者「って、待ってください!私、
よく考えればまだパジャマです!ただでさえお城になんて行きたくないのに、その上パジャマでなんて嫌です!恥ずかしくて死ねます!」

賢者「…」ズルズル

勇者「あーうー…あ、あの、聞いてます?ねぇ賢者?賢者さん?パジャマで王様に拝謁なんて失礼ですよ?だから一回家に戻ってですね…」

賢者「勇者を連れてきました」

門番「おぉ、王様がお待ちかねですぞ」

賢者「…」ズルズル

勇者「いやっ、ちょっ、待っ、マジですか!?やだ!やです!ホントにやです!やあぁ!」ジタバタ

賢者「そう言われて俺は、お前を何回も逃した。だが今日こそはそうは行かないぞ。俺も心を鬼にする」

拝謁の間

王様「よくぞきた勇者よ!ワシはこの日が来ることを、をどれだけ待ちわびたことか…!」

大臣「ほぼ丸一年待ちました」

賢者「面目次第もありません…」

勇者「…」コソコソ

王様「おほんっ!しかしこれで勇者もやっと、魔王討伐への決心ついたということじゃな!っと、勇者よ、なにを隠れておるのじゃ?」

勇者「!」ビクッ

賢者「はぁ…お前なぁ、勇者のお前が前に出なくてどうする馬鹿っ」グイッ

勇者「!!」イヤイヤ

賢者「申し訳ありません。勇者はまだ緊張しいるようで」

王様「ふむ、無理もない…本当は女の身のそなたに、魔王討伐などを頼むのは忍びないが…しかし魔王を打ち破れるのは、勇者であるそなたのみなのじゃ…分かってくれるな」

勇者「あ…ぅ…」

賢者「承知しております。では王様、一刻も早く旅に出て、遅れた分を取り戻したいので、旅のお許しを」

王様「うむ、無論許可しよう!勇者よ、吉報を待っておるぞ!」

勇者「あうあう…」ビクビク

賢者「では失礼いたしました。行くぞ、コミュ障勇者」ズルズル

勇者「うー…誰がコミュ障ですかぁっ!」ボソッ

城外

勇者「鬼っ!悪魔っ!」

賢者「賢者だよ」

勇者「あんなっ!あんなお城やら往来やらの、大勢の人がいるところをパジャマで…うあー!めちゃくちゃ見られてました!絶対変な人って思われました!もうお国に帰れない!」

賢者「安心しろ。お前が変なのは元から、国中の人間が知ってるよ」

勇者「それに結局パジャマのままですし…まさか本気で、このままの姿で旅をしろと?それは私に死ねってことですか?ねぇ?」

賢者「ごちゃごちゃうるさいな…似合ってるからいいだろ」ボソッ

勇者「うるさいとはなんですかっ!まったく、旅立ちがパジャマ姿の勇者なんて、前代未聞ですよ…」

草原

勇者「なんで私が…お家に帰りたい…」ブツブツ

賢者「…はぁ、ここまで来れば、流石のお前ももう逃げれまい。ほれ、降りろ。後は自分で歩け」ポイッ

勇者「きゃん!な、なにをしますか!?ここまで無理やり連れてきたんです、責任もって最後まで私をおぶりなさい!」

賢者「やだよ」

勇者「なっ!くぅ…!この私に、あんな恥をかかせたり労働を強いたり…あなたは魔王ですかっ!」

賢者「だから賢者だよ」

勇者「おのれ魔王許すマジ!覚悟!てりゃあ!」ポスポスッ

賢者「いてっ!いてぇよ!お前っ、どっからその枕をだした!?」

勇者「問答無用です!」ポスポスッ

賢者「くっ!このっ!調子に乗るなニート勇者!」

勇者「ふーはっはっはっ!私の盾の前には、賢者の杖攻撃なんて効きませんよ!」バサッ

賢者「布団!?マジでどっからだした!」

勇者「秘密です!あとついでに言いますと、不本意ながらもうニートではありません!」


勇者
武器:枕
盾:布団
兜:ナイトキャップ
鎧:パジャマ

勇者「ふふんっ!やはり賢者の非力な腕力では、私の布団の前に手も足もでませんね!それっ、枕攻撃です!」ポスポスッ

賢者「この馬鹿っ…いい加減にしねぇと、火炎呪文唱えるぞ!その布団、
消し炭にしてやろうかっ!」ボウッ

勇者「やめてください死んでしまいます!」ペコッ

賢者「お前にとってその布団は、そんなに重要か……」

勇者「枕の次に重要です」

賢者「度合いがよく分かんねぇよ」

賢者「っておい…こんな馬鹿なことやってる場合じゃないぞ」

勇者「なんですか?」

賢者「敵だ」

スライム「ピキーッ」

勇者「うわっ、ホントです…賢者、頼みますよ」

賢者「おい、なに俺の背中に隠れてんだ」

勇者「いやほら私、女の子ですし…ここは男の賢者が、私をかばって戦うべきかと」

賢者「職業的に、どう考えてもお前が前衛だろ!俺賢者だぞ!?魔法職なんだよ!」

勇者「で、ですが…」

スライム「ピキーッ!」

勇者「ひぃっ…!」

賢者「まさかとは思うが…お前、魔物にまで人見知りしてるのか?」

勇者「ま、まままっさかぁ!流石の私も魔物には…」

スライム「ピキッ!」

勇者「うあうあー…」

賢者「はぁ、呆れた…スライムでこれじゃあ、コイツを倒したら、一旦国に戻って他に仲間を加えるか」

勇者「!? 嫌です!他人と旅をするなんて、絶対に嫌です!あぁ!ハブられる!」

賢者「ハブられる?」

勇者「賢者はいいでしょうね!あなたは人当たりがいいから、その仲間ともすぐに打ち解けるでしょうよ!でも私は無理です!」

賢者「あぁ、だろうな。スライムにも人見知りしてくらいだし」

勇者「そしてそのうち、賢者と後の仲間でグループができて、私は空気です!あぁ、いづらいったりゃありません!」

賢者「なんだよそれ……時間をかければ、少しくらい仲良くなれるとか思わんのか…」

勇者「無理ですね!私は性格が、いっぴきおおかみですから!」

賢者「コミュ障の間違いだろ」

勇者「だから誰がコミュ障ですかっ!」

賢者「ごほんっ…とにかく!それが嫌なら、勇者らしくその枕で、前衛で戦え」

勇者「うらー!」ポスポスッ

スライム「ピキーッ!?」

賢者「決心はえーな!」

勇者「倒しました」

賢者「どんだけ仲間が増えるのが嫌なんだよ…」

勇者「他人と旅なんて生き地獄です」

勇者「うーあー…賢者ー、歩き疲れましたー…おぶってくださいー」

賢者「断る。目的の村までもう少しだ。頑張れ」

勇者「うー、なんでこんなめに…はっ!良いこと思いつきました!」

賢者「…いやな予感しかしないが…なんだ?」

勇者「ふふんっ!私が敵に、ワザとやられて死ぬじゃないですか!」

賢者「その時点ですでに破綻してるが…それで?」

勇者「死んだら棺桶に入るでしょう?そしたら賢者が、私を運んでくれますよね」

賢者「…」

勇者「だから、私が目覚めたらあら不思議!いつの間にか、次の町の教会にいるではないですか!これなら私、歩かなくても済みますよね!」

賢者「安心しろ。お前が死んだら、
間髪いれずに復活呪文を唱えてやるから」

勇者「そんなっ!そんなのありがた迷惑です!作戦は呪文使うなです!」

賢者「じゃあ捨ててく」

勇者「ひどいっ!」



勇者「やっとつきましたー」

賢者「お前がちんたら歩くから、隣村に着くだけだけでも1日かかったぞ…」

勇者「いいじゃないですか。そもそも私が、こうして旅に出てるだけでも十分な成果なんですから」

賢者「なんでそんなに偉そうなんだよ…このパジャマ勇者が」

勇者「…はっ!」

賢者「お前…忘れてたのか…?」

勇者「え、えぇ…基本私、一日中パジャマですから、あまりにも自然なのでつい…って、こうしちゃいられません!人目に付かないうちに宿に!」グイッ

賢者「別にお前は、パジャマじゃなくても人目に付くだろうよ…」

勇者「誰が変人ですかっ!」

賢者「そう言う意味じゃねぇよ」

勇者「? まぁ、そんなのどうでもいいです。早く行きますよ!」グイグイ

賢者「はぁ…」

宿屋

宿主「いらっしゃい。お2人様ですか?」

勇者「ぁ…あぅ…」コソッ

賢者「俺は時々、お前は二重人格なんじゃないかって思うよ…えぇ、2人です」

勇者「うぅ…」

宿主「えぇと…では2部屋でよろしいですか?」

賢者「えぇ、それで…」

勇者「1部屋でいいですっ!」

宿主・賢者「!?」ビクッ

勇者「うー…///」コソコソ

宿主「えっ?あ、あぁ!ほっほっ、失礼いたしました。では2人部屋にご案内いたします」

賢者「あっ、ちょっ!」

宿主「では、御用があればお呼びください」

パタンッ

勇者「はー!緊張しました!ですがこれでやっと解放されます!」

賢者「おいっ!これはどういうつもりだ!?」

勇者「うわっ…!なんですかいきなり怒鳴って…」

賢者「なんで俺とお前が同じ部屋なんだよっ!」

勇者「なんでって…決まってるじゃないですか」

賢者「はぁ?」

勇者「だって、仮に私が一人部屋になってみてください。夕食が食べれないくなります」

賢者「いや、なんでだよ?」

勇者「賢者が運ばれてきた夕食を受け取らなくて、一体誰が夕食を受け取るんですか?私は嫌です、無理です。運ばれてきても、居留守を決め込みます。対応するくらいなら、余裕で一食抜きます」

賢者「いやいや…いくらなんでもそれくらいは…」

勇者「無理です。無理なものは、無理です。そして出来ることなら私は、お腹一杯になってお布団にはいりたいです。となると、賢者と同じ部屋になるしかないのです。分かりましたか?」

賢者「無茶苦茶な理由だが…まぁ、分かったよ…でも、俺と一緒で本当にいいんだな?」

勇者「? なにがです?」

賢者「だから…男の俺と一緒の部屋でも、嫌じゃないんだなって事だよ!」

勇者「構いませんよ?」

賢者「即答かよ…」

勇者「別に賢者が、私なんかをどうこうするとは思えませんし…でしょう?」

賢者「…」

勇者「えっ?まさか私、狙われてます!?」

賢者「っ!だ、誰がお前みたいな対人恐怖症勇者をっ!」プイッ

勇者「ですよねー!って、誰が対人恐怖症ですかっ!ランクアップさせないでくださいっ!」

賢者「ふんっ…」

勇者「はふー、なかなかに美味しい夕食でしたね」

賢者「そうだな」

勇者「あとはお風呂ですね」

賢者「あぁ、お前が先でいいぞ」

勇者「はい?なに言ってるんですか?一緒に入るのに、先も後もないでしょう」

賢者「…はっ!?」

勇者「なに驚いてるんです?賢者が私の髪を洗わなくて、いったい誰が洗うんですか?」

賢者「自分で洗えよ!」

勇者「えっ?嫌ですよ面倒くさい…こんな長い髪」

賢者「お前…まさかとは思うが、その歳でまだおばさんに髪を?」

勇者「そうですがなにか?」

賢者「幼児かお前はっ!」

勇者「失礼な!箱入り娘と言ってください!」

賢者「ひきこもりの間違いだろ!」

勇者「残念!もうひきこもってませんっ!」

賢者「威張んな馬鹿!いいか、俺は風呂なんて一緒にはいらんし、ましてやお前の髪なんて洗ってもやらんぞ」

勇者「そんなぁ…」

賢者「はぁ…そんなに面倒くさけりゃ、短くすりゃいいだろ」

勇者「それは嫌です」

賢者「? こだわりでもあんのか?」

勇者「いえそう言う訳ではなくてですね…だって髪を切るとなると、美容院に行かなくてはならないじゃないですかっ!私には無理です!怖いです!」

賢者「あー…なるほど」

勇者「あの空間は恐ろしいのです…」

勇者「結局、1人でお風呂にはいるはめに…」

賢者「それが当然なんだよ」

勇者「まったく…今日は色々あって疲れました…寝ます」ドサッ

賢者「だろうな」

勇者「ふわぁ…柔らかな布団です…zzz」

賢者「はやっ!もう寝たぞこいつ…つーか、無防備すぎやしねぇか」

勇者「zzz…」

賢者「信頼されてるからか、そもそも意識されてないのか…はぁ」

勇者「むにゃ…」ニヘラ

賢者「っ!///」

勇者「むにゃむにゃ…」

賢者「いかんな、早く慣れないと…」



賢者「おーい、起きろ勇者。朝食がきたぞ」

勇者「むにゃ…後5分…」

賢者「…分かった。五分待ってやろう。俺は先に食べてるぞ」

勇者「どうぞ、どうぞ…」

賢者「…」


5分後

賢者「5分経ったぞ。起きろ勇者」

勇者「にゅぅ…もう後5分…」

賢者「…5分だけだぞ」

勇者「ふぁーい…」

賢者「…」

さらに五分後

賢者「5分経ったぞ馬鹿」

勇者「んー…だから5分…」

賢者「はぁ…これが最後だぞ」

勇者「ふぁぁ…」

賢者「…」


みたび5分後

賢者「おらっ!起きろ寝坊助勇者!」

勇者「うあー…うるさいです…後5時間…」

賢者「…」ブチッ

勇者「むにゃむにゃ…」

賢者「分かった、分かったよ。そんなに寝たけりゃ、5時間でもなんでも好きなだ寝てればいい。ただし俺は、一足先に村をでて、川の向こうの町に行ってるからな。起きたら1人で追ってこい。あと、ここのチェックアウトは任せたぞ。じゃあな」スタスタ


ガチャ…パタンッ

勇者「…」

勇者「はぁっ!」ガバッ

勇者「ま、待ってください!チェックアウト!?嫌です無理です不可能ですっ!私がそんな、ハイレヴェルなコミュニケーションを取れるわけがありませんっ!だからお願いですから待ってください賢者!起きました!起きましたから、私を1人にしないでくださいっ!」

ガチャ…

勇者「賢者ー…?」キョロキョロ

勇者「うあうあー…ど、どうしましょう…本当に賢者は、私を置いていって…」

客「~~~」スタスタ

勇者「ひぃっ…!」バタンッ

勇者「あ、危なかったです…危うく他人に遭遇を…」

勇者「あーうー…しかしこれはもう、いよいよ私も覚悟を決めるしかないのでしょうか…」

賢者「覚悟って…まさかチェックアウトのか?」

勇者「いえ、人生のシャットダウンの…んん?」

賢者「それくらいで死ぬな、重度の対人恐怖症勇者」

勇者「それくらいとはなんですかっ!私にとっては、どちらも死を意味するのです!」

賢者「なんでだよ…」

勇者「と言いますか賢者!なんで部屋の中にいるんですかっ!?私、確かに賢者が、部屋を出て行く音を聞きましたよ!?」

賢者「フェイクだよ。そうすりゃお前が飛び起きると思ってな。まぁ、見事に効果てきめんだな」

勇者「なぁっ!謀りましたね!」

賢者「いつまでも起きないお前が悪い。ほれ、準備が出来てるならもう行くぞ」

勇者「うー…一生の不覚です!しかし、次はこうはいきませんよ!もう騙されません!」

賢者「言っておくが…これから朝に三回以上ゴネてみろ?次こそは本当においてくぞ」

勇者「やめてください死んでしまいます!了解しましたっ!」

勇者「そう言えば賢者」

賢者「なんだ?」

勇者「なにやら、目の下にクマが出来てますけど…よく寝れなかったのですか?」

賢者「えっ!?ま、マジか…?」

勇者「えぇ、うっすらとですがたしかに」ジーッ

賢者「そ、そうか…いや、ちょっと寝苦しくてな…」

勇者「? なんだか歯切れが悪いですね…って、まさか賢者、あなた…」ジトーッ

賢者「っ!」

賢者(や、やばい…!まさか勇者の寝顔をみてたら、ほとんど寝れなかったってのがバレた…!?)

勇者「賢者…ふふんっ!あなた枕が変わって、満足に寝れなかったんですねっ!」

賢者「へっ…?」

勇者「分かります!分かりますよ賢者!私もこの、武器兼任のmy枕がなくては、心地良い眠りを享受できなかったことでしょう!」

賢者「…あぁ」

賢者(はぁ、コイツが気付く訳がないか…焦った俺が馬鹿だった)

勇者「あ、あれ、違いましたか…?」

賢者「いや、そうだよ。俺もお前みたいに、家から枕を持ってくりゃよかったって思うよ」

勇者「! ふふんっ!そうでしょうそうでしょう!そしてそれを、私に素直に言うのが恥ずかしかったと!だから歯切れが悪かったと!」

賢者「うん、それはない」

勇者「あれっ?」

草原

勇者「確か、川の向こうの町に行くと行ってましたね?」

賢者「あぁ、近場でそこそこ大きな町だからな。魔王に関する情報が、なにか得られるかもしれん」

勇者「情報収集は任せます」

賢者「大丈夫だ。はなからお前には期待してない」

勇者「…それはそれで、なんだか腹が立ちますね」

賢者「じゃあなんだ、お前が情報収集をやれるって言うのか?」

勇者「そんなの、無理に決まってるじゃないですか」

賢者「なら、余計な腹を立てるな」

勇者「はいっ!」

賢者「無駄にいい返事だなおい」

川岸

ザワザワ

勇者「最悪です。なんですかこの人の多さは…?」

賢者「ふむ、なにやら揉めてるようだが…何かあったのか?」

勇者「賢者、探ってきてください。私は離れて魔物と戦っています。そうすれば、1人になっても絡まれないと思いますので」スタスタ

賢者「はいはい」

ザワザワ

賢者「すみません。これは何の騒ぎですかね?」

旅人「ん?あぁ、なんでも突然の川止めらしくてな。しばらく渡し船が出ないらしいぞ」

賢者「川止め?こんな季節はずれにですか?」

旅人「役人が言うには、川下の方にデカい魔物が現れたらしくてな…そいつが川をせき止めて、川の水位が上がってきてるんだとさ」

賢者「魔物ですか…」

旅人「まぁ正直、そう言われても見た目には、普段の水位と変わって見えんからな…だから商人どもが、船を出せって騒いでるのさ」

賢者「なるほど…ありがとうございます」

旅人「いやいや」

勇者「うらー!」ポスポスッ

ウルフ「ガフッ!?」

勇者「ふー…はぁ、お家に帰って、惰眠を貪りたいです」

賢者「それが魔物を倒した後のセリフなのはどうなんだ?」

勇者「私は自分に正直に生きてますので。それで、どうでしたか?」

賢者「あぁ、目的地を変更だ。川沿いを、川下に向かって下るぞ」

勇者「はい?町には行かないのですか?と言いますか、私の質問に答えなさい」

賢者「歩きながら説明する。ここに長居をすると、注目を浴びるぞ?お前の頑張りで、ここらの魔物も減ったみたいだからな」

ザワッ……

勇者「! は、早く行きましょう!」グイグイ

賢者「そういや…お前、魔物にはだいぶ慣れたよな。1人で戦ってた位だし」

勇者「えっ?あぁ、そうですね。あれです、魔物は私に話しかけてこないので、案外平気でした」

賢者「実にお前らしい理由だな」

勇者「そんな事より、もう結構あの群集からも離れましたし、そろそろ事情を説明してくださいよ」

賢者「ん?あぁ、そうだな。実は…」

勇者「…なるほど。あの人だかりは、川止めによるものでしたか」

賢者「あぁ」

勇者「で、それなんで私達は、川下に向かってるんですか?」

賢者「はっ?いや、何でって決まってるだろ。その原因の魔物を倒すためだよ」

勇者「えー、やですよ面倒くさい…そんなのちょっと待てば、町の討伐隊が倒すでしょうに…なにも私達がやらなくても」

賢者「勇者にあるまじき発言だな」

勇者「ですから、討伐隊がその魔物を倒すまで、私達は一旦お国に帰って、英気を養いつつ待ちましょうよ。うん、それがいいです」

賢者「はぁ…」

勇者「~♪」

賢者「おい、怠け者勇者。お前、本当にそれでいいのか?」

勇者「誰が怠け者ですかっ!って、何がです?」

賢者「いいかよく考えてみろ。川をせき止めるほどの魔物だ。それほどの大きさか、それだけのことを出来る力を持った魔物だろうな」

勇者「でしょうね」

賢者「どちらにしても、今まで戦ってきた雑魚とは違って、知能もそれなりだろう」

勇者「えぇ」

賢者「…もしかしたら、ソイツが魔王に関する情報を、何か知ってるかも知れないぞ?」

勇者「!」

賢者「いやいやそれどころか…魔王の居城まで知ってるかもな?」

勇者「!!」

賢者「まぁ所詮、これは俺の推測に過ぎんが…仮に討伐隊がその魔物を倒しちまったら、それを聞き出す前にさっさと始末するだろうな」

勇者「たしかに…」

賢者「いいか勇者?この旅は、魔王さえ滅ぼせば終わるんだ。だから、
お前が早く国に帰って、元のダメ人間生活に戻りたいってなら、少しでも魔王の情報が得られそうな可能性があれば、絶対にそれを逃さないことだ」

勇者「なんと!」ゴクリッ

賢者「しかも仮にここで、運良く魔王に関する核心的な情報が得られてみろ?後はもう、魔王を倒すだけだ」

賢者(あり得ないだろうけど)

勇者「!! さぁ、行きましょう賢者!私の怠惰な生活…もとい!世界の平和に向けて!」グイグイ

賢者「お前が単純で助かるよ」

勇者「賢者…もう湖への河口ですけど、それらしい魔物が一向にいませんよ?」

賢者「おかしいな…そろそろ現れてもいい頃だろうに」

勇者「まさか、ガセネタだったんじゃ…」

賢者「いや、それはないと思うが…」

ザッバアアアァァァン!

大ナマズ「グオオオォォォッ!!」

勇者「…これは一旦引き返して、もっと確実な情報を得るべきですね。まったく、賢者には困ったものです!」クルッ

賢者「目を逸らすな馬鹿」グイッ

勇者「あうっ」

大ナマズ「グオオオォォォ…」

勇者「むっ、無理です無理です無理です無理ですっ!賢者っ!まず、あんなに大きな魔物に、一体全体どうやって私はこの枕で戦えと言うのですかっ!?」

賢者「大丈夫だ。お前のその枕ならやれるって。第一並みの枕なら、とっくに壊れてボロボロになってるよ」

勇者「だとしても嫌ですよ!だってあの魔物、滅茶苦茶ヌメヌメしてそうじゃないですか!あんなのに触れたら、一瞬で枕が使い物にならなくなりますっ!」

賢者「しかし、もう逃げるって選択肢はなさそうだぞ?」

勇者「えっ?」

大ナマズ「グボオオオォォォ!」ブンッ

勇者「きゃあっ!な、なにしやがりますか危ないないですねっ!」ポスポス

大ナマズ「グオッ!?」

賢者「おぉ、効いてる効いてる。やっぱすげーなその枕」

勇者「うー、つい勢いで反撃を…えぇい、こうなりゃヤケです!このままお前を倒してやりますよ!賢者、あなたも感心してないで戦いなさい!」

賢者「おうっ」

大ナマズ「グォ…」

勇者「賢者…後はトドメを刺すだけなのですが…」

賢者「あぁ」

勇者「コイツ、どう考えても、私達と意志疎通を出来るほどの、知能を持ち合わせているとは思えないのですが」

賢者「無いだろうな」

勇者「…」

賢者「…」

勇者「また謀りましたねっ!」ポスッ

大ナマズ「っ!?」

賢者「誰も確実なんて言ってねーよ」

勇者「あーうー!結局無駄足じゃないですかもう!」

賢者「これも経験の一つだと思え」

勇者「はぁ、枕も布団も…と言いますか全身ヌメヌメですし…気持ち悪いですっ!」

賢者「…」

勇者「なんですか黙って見て…あぁっ!そ、そんなにヌメヌメな私がみっともないですかっ!?良いですね、後衛の賢者はヌメヌメ被害がなくて!」

賢者「はっ?あっ、いやっ、そんなこと思ってねーよ…ヌメヌメくらい、洗えば済む話すだろ」

勇者「うー!責任もって賢者が洗って下さいね!」

賢者「まぁ、枕とか、装備品なら洗ってやらんこともない」

勇者「私も洗いなさい!」

賢者「洗うか馬鹿っ!」



勇者「着きました…うぅ、賢者がモタモタしてるから、ヌメヌメが乾いて更に気持ち悪さが…」

賢者「しょうがないだろ。あの魔物を倒しても、すぐに川が渡れる訳じゃないんだ。これでも急いで説得したぞ」

勇者「言い訳はいいですっ!もう、早く宿に行きますよ!」

賢者「はいはい」

「ん?おぉ!もし、そこのお方!」

勇者「ひゃいっ!?」ビクッ

賢者「?」

「そのお姿、やはり間違いない!あなた方が、あの大ナマズを倒して下さった勇者様ですな!」ズイッ

勇者「えぅ…ぁ…け、賢者ぁ…」コソッ

賢者「はぁ…一々俺の後ろに隠れるなよ」

勇者「うぅ…好きで隠れてる訳じゃないですっ…!」ボソボソ

「あ、あの?」

賢者「あぁ、すみませんね。まぁ一応、その勇者一行ですが…あなたは?」

町長「申し遅れました、私はこの町の町長です。あなた方にお礼をしたいと、こうして待っていた次第で」

賢者「はぁ…」

町長「いやぁ、あの大ナマズは、気紛れに川をせき止めては洪水を引き起こすものですからね…我々もほとほと困り果てていたのですよ。しかし、あなた方のお陰でその心配もなくなりました。ですから是非とも、私の拙宅においでいただき、お持て成しを致したいと」

賢者「って言ってるが…どうする?」

勇者「!」ブンブンッ

賢者「だよなぁ」



勇者「い、いいいい嫌です!そ、そんなのに行ったりしたら、私はどれだけあの人に絡まれることかっ!あぁ!考えただけも恐ろしいっ!きっぱり断って下さいっ!」

賢者「でもなぁ…この町長について行けば、宿代が浮くぞ。言っておくが、宿代も馬鹿にならないんだぞ?」

勇者「いくらですか!?それくらい、私が魔物を倒して稼ぎますっ!だからお願いですから断って下さい!」

賢者「そこまでするのか…」

勇者「うぅ…しかし、賢者がどうしても行きたいというのであれば、賢者1人で行ってもいいですよ…私は、1人で宿に泊まりますので…」

賢者「なんでだよ…お前が行かないのに俺が行ってどうする」

賢者「はぁ…あぁ、たびたびすみませんね町長」

町長「いえいえ、それで来ていただけますな?」

賢者「あー、いえ、お気持ちは有り難いのですが…生憎と勇者は、そう言ったことが嫌いでして」

町長「と、言いますと?」

賢者「えぇと…まぁ、そもそもが勇者は、己の目的の為に魔物を倒しているのであって、その結果からそう言ったお礼などを受け取るのを良しとしないのですよ」

町長「おぉ、流石は勇者様…なんと欲が無く、そして高潔な理念をお持ちですな」

賢者(…そんな大層な奴じゃないけどな)

勇者「あうあう…」コソコソ

賢者「そう言うことですので、どうか我々の事はお構いなく」

町長「そうですか…では、何か私でも力になれそうなことがあれば、我が家にお尋ね下さい。聞けば直ぐに分かると思いますので」

賢者「分かりました」

町長「では、失礼いたしました」

勇者「はぁ~、やっと行きました…って、今度こそ宿に行きますよ!早くお風呂に入りたいっ!」グイグイ

賢者「調子のいい奴だな…」

勇者「ふー、さっぱりしました」

賢者「そりゃ良かったな」ゴォォ

勇者「…大変そうですねぇ」

賢者「誰のためにやってると思ってる。俺は、乾燥機代わりになるために風魔法を覚えたんじゃないぞ…大変だと思うならお前も手伝え」

勇者「嫌です。あっ、どうせならついでに、私の髪も乾かしてください!」

賢者「威力上げて切り刻むぞ」

勇者「はっ!それなら、美容院に行かなくても髪が短く…賢者!是非ともーーー」

賢者「血まみれになっても良いって言うならやってやろう」

勇者「遠慮します!」

賢者「こんなもんか…あー疲れた」

勇者「ご苦労様です。そして時に賢者、実はお願いがあるのですが」

賢者「この上俺になにを強いるか」

勇者「あっ、いえ、今ではなくてですね…その、明日なんですが、出来れば町をでる前にですね、私と買い物に付き合っていただきたいなと」

賢者「買い物…?まさかお前の口から、買い物がしたいなんて出るとは…明日は槍が降るか」

勇者「むぅ、茶化さないでください。これでも、勇気を出して言ってるんですから」ムスッ

賢者「あぁ、悪い悪い。それは全然構わんぞ。俺もそろそろ、持ってきた薬草とかがきれそうだったから、明日にでも買い出しに行くつもりだったしな」

勇者「それはちょうど良いです」

賢者「因みに、お前は何を買うつもりなんだ?」

勇者「決まってるじゃないですか。私の装備品ですよ、装備品!」

賢者「なんだ…パジャマ勇者は嫌なのか?」

勇者「最初から嫌って言ってますけどっ!?」

勇者「国からは、着替える間もなく無理やりパジャマで連れ出され…隣村では、武器屋も防具屋もないので結局パジャマのまま…あぁ!なんと集まる周りの視線!恥ずかしいったらありません!しかし!やっとそれからも解放されますっ!」

賢者「えぇと…おめでとう?」

勇者「諸悪の根元に言われても嬉しくないです!」

賢者「諸悪の根元って…大元は自業自得だろ。お前が逃げなきゃ着替えくらいさせたよ」

武器屋

店主「いらっしゃい」

勇者「うぅ…け、賢者、私に合いそうな武器を、代わりに見繕ってください…あっ、出来れば剣がいいです」ボソボソ

賢者「分かってるよ。すみませんが、剣を見せていただきたいのですが」

店主「おう、剣だな。色々あるが…どんなのがいい?」

賢者「取り敢えず、オーソドックスなのを」

店主「じゃあ…この銅剣なんかはどうだ?」

賢者「どうも。ほれ勇者」

勇者「は、はい…」

賢者「…どうだ?」

勇者「えぇと……なんだかしっくりきません」ブンブンッ

賢者「どれどれ…んんっ!?」

勇者
str:117→21

賢者「お、おい…お前、とんでもなく攻撃力が下がってるぞ…?」

勇者「はい?そんな馬鹿な事は…うわぁ、えげつないほど」

賢者「剣より枕を装備した方が強いって…お前は一体どうなってるんだ」

勇者「こっちが聞きたいです」

店主「どうだい?」

賢者「あぁ、すみません…これはお返しします」

店主「気に入らなかったのかい?」

賢者「えぇまぁ…えっと、次はこの店で、一番いい剣を見せてもらえませんかね」

店主「一番?うーむ…だとしたらこれだな」

賢者(うわっ…いかにも高そうなのが出てきた…)

店主「これはプラチナで出来ててな。見た目もさることながら、切れ味も抜群だ。ドラゴンだって切り裂くぞ」

賢者「…勇者」

勇者「美しい剣ですねぇ…」

賢者「…で、どうだ?」

勇者「むむむ…やっぱりしっくりきませんね。まぁ、さっきよりはマシですけど」ブンブンッ

賢者「…」

勇者
str:21→44

賢者「出るぞ」

勇者「えぇっ!?私の武器は!?」

賢者「馬鹿かお前!何でも金払ってまで、お前の能力を大幅に下げなきゃならんのだ!」

勇者「で、ですけどっ!」

賢者「いいか、ただでさえお前のその性格に合わせての2人旅で、戦力がギリギリなんだ!我慢しろ!」

勇者「し、しかし…」

賢者「しかしもかかしもない!諦めて防具屋に行くぞ」

勇者「あーうー…賢者のケチ」

賢者「よーし、そうかそうか…そんなに酒場に行きたいか」

勇者「今回は武器は我慢しましょう!いざ防具屋です!」グイグイ

防具屋

勇者
def:143→34

勇者「…」

賢者「…」

勇者「嫌な予感はしてました」

賢者「…あぁ」

勇者「…またですか!どうなってるんですかっ!?甲冑フル装備ですよ私っ!」

賢者「金属で出来てる鎧より、防御の優れたパジャマか…凄いな、どこで買ったんだ」

勇者「えぇ?たしか…お母さんが、行商人から一式買ったと言ってたような…可愛くて一目惚れだったとか」

賢者「そのうさぎ柄にか」

勇者「えぇ、うさちゃんです。お気に入りですよ?」

賢者「お気に入りなら仕方ない…帰ろう」

勇者「待ってください!お気に入りだからこそ、もう汚したくないのですっ!」

賢者「えぇい、諦めろ!さっきも言っただろ!金払ってまでお前を弱くなんて出来ん!」

勇者「なんですか!じゃあ賢者はこれからも私に、昼間から往来をパジャマ来て歩く変な女として、好奇の視線を浴び続けろと言うのですかっ!」

賢者「仕方ないだろ…これ以上喚くなら、酒場に行くぞ」

勇者「なぁっ!?ぐぬぬ…毎度毎度私の弱点を…はっ!」

賢者「…またロクでもないことを思い付いたのか?」

勇者「ロクでもないこととはなんですか!私はいつだって真剣ですっ!賢者、せめてコレを買ってください」バサッ

賢者「あー…ローブ?」

勇者「はい。これならパジャマの上からでも羽織れます!だから戦力ダウンにもなりませんし、なによりフードまで被ればほら!パジャマはおろか、私かどうかも分からなく!」

賢者「あぁ、はたかりゃ見りゃ、立派な怪しい不審者だよ」

勇者「どんとこいです!そのほうが、他人に絡まれにくそうですし」

賢者「お前がそれでいいならいいが…すみません、このローブをいただきたい」

防具屋「あいよー」

勇者「♪」クルクル

勇者「~♪」

賢者「…お前、これ以上ないくらい嬉しそうだな」

勇者「えぇ!だってこれで、ようやく周りの視線を気にせず歩けますからね!」

賢者「そうか。でもな、もう町も出たんだし、流石にフードは外したらどうだ?」

勇者「えっ?むむぅ…外した方がいいですかね?」

賢者「……あぁ、不審者と歩いてる気がして落ち着かん」

勇者「ひどいっ!」

賢者「はぁ?さっきは、そう思われても構わないみたいに言ってたような気がするが?」

勇者「それは『他人』に、です!賢者にそう風に思われるのは不愉快ですっ!分かりましたよ!外しますよ!まったく失礼な…」パサッ

賢者「あっ、いや…すまん」

勇者「はい?なに謝ってるんです?」

賢者「いや、何って…お前を傷つけたみたいだから」

勇者「いえ、傷ついていませんよ?」

賢者「はぁっ?いやお前、今不愉快だって」

勇者「えぇ、確かに不愉快でしたが…別に私、これぐらいで傷ついたりしませんよ?賢者に酷いことを言われるのは慣れてますし」

賢者「なっ…」

勇者「んー…しかし、賢者が私に謝るなんて…明日は魔王が降りますかね!」ニヤニヤ

賢者「降ってたまるか馬鹿っ!ったく、気にして損した」

勇者「ふっふっふ~」

賢者「笑うなこのコミュ障不審者!」

勇者「せめて勇者はいれてくださいっ!」

勇者「そう言えば、私達はどこに向かっているのですか?」

賢者「今更かよ…東の国だよ」

勇者「ほほう、海外旅行ですね!」

賢者「随分と楽しそうな響きだな」

勇者「東の国と言えば、山に囲まれた国で山の幸が美味しいと…って、山っ!?」

賢者「あぁ、山だよ」

勇者「…ま、まさか、登山…ですか?」

賢者「おう」

勇者「嫌ですっ!なんで私が、山登りなんて非生産的行為をしなければならないのですかっ!」

賢者「お前が勇者だからだよ」

勇者「好きで勇者になんてなったわけじゃありませんのに!それに山の麓までも、ここからじゃ1日では着きませんよ!?その間のご飯は!?お風呂は!?夜は!?一体どうするんですか!?」

賢者「安心しろ。食料は十分買い溜めてある。そして風呂は川か湖で、夜は野宿だ」

勇者「あーうー…えぇと」

賢者「勇者、お前が言いそうな駄々は大体予想してある。だから答えは用意してあるから、考えても無駄だぞ」

勇者「うー…じゃ、じゃあ一回、町に戻って馬でも買いません?」

賢者「どこにそんな金がある」

勇者「…賢者のポケットマネー」

賢者「んなものねぇよ。諦めろ」

勇者「あうー…心底嫌ですっ!」

勇者「うなー!」ポスポスッ

魔鳥「ギャーッ!?」

賢者「ふー…そろそろ日も暮れるな。今日はここらで休むか」

勇者「えー…こんな何もないところでですか?」

賢者「どこ行っても一緒だよ」

勇者「うー、お家に…いえせめて、教会とかでもいいので屋根と壁があるところに行きたいです…」

賢者「まぁ、同感ではある…が、無い物ねだりはよせ」

勇者「はぁ…」

賢者「じゃあ俺は、焚き火に使う薪を集めてくる。後、料理はお前に任せるから。材料は俺の持ち物に入ってる」

勇者「はー…って、えぇっ!?私が料理するんですかっ!?そんなの嫌ですよ面倒くさい!」

賢者「あー?勇者、言っておくが俺は、全く料理は出来んぞ」

勇者「嘘おっしゃいっ!基本、あなたなんでも出来るじゃないですか!料理くらい余裕でしょうに!」

賢者「料理は学ばなかったんだよ」

勇者「何故ですかっ!」

賢者「はぁ、いいか勇者…お前、料理はできるだろ?と言うか、むしろ上手いくらいだろ?」

勇者「えぇ?ま、まぁ、上手いかどうかはともかく、お母さんに『流石に料理くらい出来ないと、誰にも嫁に貰ってもらえなくなるわ』と言われ、一通りは教え込まれましたけど…」

賢者「つまりそう言う事だ」

勇者「なるほ…いやいや、意味が分かりませんよ!」

賢者「はぁ…兎に角!どの道、俺が料理をできない以上、お前がやるしかないんだよ。持ち物見て、何を作るか考えておけよ」

勇者「ぐぬぬ…って、それならそうと私に事前に言って、一緒に食材の買い出しに連れて行ってくれればいいじゃないですかっ!一体いつ行ってたんですか!?」

賢者「食材に関しては、情報収集のついでに昨日の夜のうちに買いに行った。お前を連れて行くと、即席の保存食ばっか買えってうるさそうだからな」

勇者「…最近思うんですけど、賢者は私の心が読めるのですか?」

賢者「いや、お前の考えては単純だから、想像が容易なだけだ」

勇者「うー…私って、そんなに単純でしょうか…?」

勇者「よっと…はい、出来ましたよ」コトッ

賢者「おぉ…」

勇者「なんですかそのリアクションは」

賢者「いや、なんか普通に旨そうな料理が出てきたから…」

勇者「自分で作らせておいて失礼ですね」

賢者「悪い悪い…で、食べて良いか?」

勇者「まったく…どうぞ」

賢者「じゃあ…いただくぞ」

勇者「召し上がれ。そして私もいただきます」

賢者「むっ…おぉ、旨い…!」

勇者「はむはむ…それは良かったです」

賢者「いやぁ、おばさんから話は聞いてたんだが…お前、料理は珍しくちゃんと教わってたんだな。俺は、最低限に食べられるモノが出てくれば上々と思ってたのに…」

勇者「本っ当に失礼ですねっ!」

勇者「ほわぁ…この湖、水面がキラキラ輝いてます!」

勇者「これなら入っても、キレイになれこそすれ、汚れることはないですね」

勇者「…って、既に裸になってからでアレですけど、誰もいませんよね?」キョロキョロ

勇者「……うん、人の気配も魔物の気配もしませんね」

勇者「しかし、本当に綺麗な湖ですねぇ…」

勇者「折角ですし…飛び込んで見ちゃったりして」

勇者「…」

勇者「…とーう!」ピョン

賢者「…」

賢者「…旨かったなぁ」

フニャアアアアァァァァ!!!

賢者「うわっ!な、なんだ?今の勇者の声か…?」

賢者「って!まさかアイツに、何かあったのかっ!?」バッ

ツ、ツメタイデス!ナンデスカツメタサハッ!!

賢者「あー…大丈夫そうだな。一人で何してんだあの馬鹿」スッ

勇者「うぅ…ちべたかったです」プルプル

賢者「お前…この季節の湖に、まさか浸かったのか?」

勇者「え、えぇ…余りも綺麗な湖だったもので、つい飛び込んでしまって…」プルプル

賢者「底無しのアホだなお前」

勇者「アホじゃないです…私の中の、自然を愛でる衝動が溢れ出してですね…」プルプル

賢者「なんだよそれ…はぁ…ほれ、焚き火の火力強めるから暖まれ」ボウッ

勇者「あーうー…」プルプル

勇者「では、お休みなさい賢者」

賢者「…地面に布団一式の光景は、なかなかにシュールだな」

勇者「快適だから問題ありません」

賢者「まぁ…だろうな」

勇者「そう言えば、賢者はどう寝るつもりなのですか?」

賢者「ん?俺はこのまま、地べたに寝るつもりだ」

勇者「えぇー…寒い上に、寝心地最悪じゃないですか?」

賢者「これぐらい平気だ」

勇者「本当ですか…?まぁ、賢者がそう言うなら、そうなんでしょうかね。では今度こそ、お休みなさい」

賢者「あぁ」

賢者「…」モゾッ

勇者「…」

賢者「…」モゾモゾ

勇者「…」

賢者「…へっくし!」

勇者「やっぱり寒いのでは?焚き火の火も弱まってきましたし…」

賢者「だ、だから寒くなんてねぇよ…」プルプル

勇者「いえ、なんだか微かに震えてません?寒いんですよね?」

賢者「武者震いだ馬鹿…」

勇者「寝る前に、一体何にうち振るえるというのですか?んー…あっ、賢者。どうぞ」

賢者「あー?な、なんだよ?」

勇者「なにって、寒いなら私の布団に入れてあげますよ」

賢者「はっ!?な、ななっ!誰が入るか馬鹿っ!!」

勇者「まぁまぁ、遠慮せずにどうぞ。と言いますか、こう布団をめくりあげていると、折角の温もりが失われるので、早く入りなさい」

賢者「だから入らねぇって!」

勇者「むぅ、意地張らないで入りなさい」

賢者「入らん!絶対に入らんぞ!」

勇者「なっ…!この私が、せっかく親切でここまで言っているというのに…こうなったら意地でも入れてやります!」ガバッ

賢者「こんな無駄な所で、お前が滅多にはらん意地なんてはるなっ!俺のことはいいから早く寝ろっ!」ガバッ

勇者「はーいーりーなーさーいーっ!」グググッ

賢者「しーつーけーえーよーっ!」グググッ

勇者・賢者「ぐぬぬぅ…!」グググッ

勇者「ふっふっふっ、非力な賢者が私に敵う道理はないのです」

賢者「おのれ…元ニートのお前のどこにそんな力が…」

勇者「腐っても勇者ですから!」

賢者「自分で言ってて悲しくないのか」

勇者「しかし、布団から出てしまったので布団も体も冷えてしまいました…もっとくっつきなさい賢者」モゾモゾ

賢者「なっ、こらっ!離れろ馬鹿っ!」

勇者「おー、中々にぬくいです。では、三度目の正直でお休みなさい賢者」

賢者「お、おいっ、寝るなっ!」

勇者「すぅ…すぅ…」

賢者「…」

勇者「むにゅぅ…」

賢者「…」

勇者「むにゃむにゃ…」

賢者(温かいけど…寝れねぇよ……)

勇者「はー、やっと山の麓です…ここまで3日もかかりました」

賢者「あぁ…」

賢者(3日もロクに寝れんかった…城下に着いたら寝袋を買おう)

勇者「そしてここから山登り…憂鬱です」

賢者「あぁ…」

勇者「おぶってください」

賢者「あぁ…」

勇者「ダメですよねぇ…って、あれっ!?い、いいんですか!?」

賢者「あー…あぁ?」

勇者「ではでは、遠慮なく失礼して…えいっ」

賢者「ぬおっ!?な、何しやがるこの馬鹿!のしかかるなっ!」

勇者「きゃんっ!?ひ、酷いです!賢者が良いって言いましたのに!」

賢者「言っとらんわ!」

山林

勇者「はぁ…なんでったって東の国の王は、こんな山に囲まれた地に国なんて作ったのですか…」

賢者「他国に攻められにくいようにだろうよ…山が自然の要塞になる。現にこうして二人で行くのにも一苦労だ…軍隊ならなおさらだろう」

勇者「いえ、きっとこれは、私に対する嫌がらせですっ!」

賢者「ねーよ」

勇者「そしてもう疲れました!一休みしましょう!」

賢者「本当に疲れてる人間は、そんな叫べねぇよ。というか、そういって数分前に休んだばかりだろ!ほら、シャキシャキ歩け」

勇者「嫌です!私はもう、足が痛くてここから一歩たりとも動けません!」

賢者「そうか。じゃあ達者でな」スタスタ

勇者「待ってください!おいてかないでくださいっ!」ダッ

勇者「あの、賢者…」

賢者「なんだ…」

勇者「念のために聞きますけど…これって、道あってます?」

賢者「…」

勇者「完っ全に、周りの景色が樹海なんですけど…まさか迷ってなんて…いませんよね?」

賢者「…否定はしない」

勇者「してくださいよっ!ってか、やっぱりですか!私たち迷子なんですかっ!」

賢者「す、すまん…ボーッとしてたら、いつの間にか道を逸れてた…」

勇者「なにこんな時にボーッとなんてしてんですかっ!このアホ賢者っ!」

賢者「寝不足で…と言うか、道をそれた時点でお前も指摘しろよ!おかしいって分かってたんだろ!?」

勇者「思ってたましたけど、てっきり私の知らない近道かと思ったんですよっ!」

賢者「こんな目印も何もない近道あるかっ!」

勇者「初めて来たのに、そんなの知りませんよ!」

勇者「どうするんですか…太陽も見えませんから、時間も方角もわかりませんよ…」

賢者「大体、山は下りきった筈だから…誰か歩いてねぇか?」

勇者「…早くこの樹海を抜けるためには、是非ともいて欲しいところですが、一方では他人とは絶対に接したくないという気持ちが…そんな、ジキルとハイドのような心境の私がいます」

賢者「知るか」

勇者「はっ!いっそ、賢者の火炎呪文で全てを焼き払ってしまえば?」

賢者「樹海から出れても、国につく前に兵士に捕まって牢屋行きだな」

勇者「牢屋…何もしなくても、3度のご飯が出てくる環境…ですか」ゴクリ

賢者「……牢屋は1人部屋とは限らんぞ」

勇者「燃やすのは却下ですね」

勇者「しかし、ではどうしましょうか…言っておきますけど、食料はもうほとんど残ってませんよ」

賢者「あぁ、持ち物の軽さでそれは分かる」

勇者「あーうー…こんな薄暗くてジメジメした所で、餓死なんてするのは御免です…どうせ死ぬなら、お腹いっぱいになって暖かい布団のなかで安らかにがいいです」

賢者「幸せそうな死に方だな」

勇者「あっ、葬式とかはやらなくていいですよ。私のことは、賢者とお母さんでだけでひっそりと埋葬してください」

賢者「お前はいつまでおばさんに生きてもらうつもりだっ!?」

勇者「えっ?あっ、あー…それもそうですねぇ…じゃあ賢者だけでもおーけーです」

賢者「俺はお前が死ぬまで、そして死んでもお前の面倒を見続けなきゃならんのか…」

勇者「孤独死は嫌です!白骨化も嫌です!」

賢者「お前は死ぬまでそのコミュ障を直さん気かっ!」

勇者「コミュ障ではありませんが無論ですっ!」

賢者「高らかに宣言すんなっ!」

賢者「って、こんないつもの如く、お前と馬鹿な言い争いをしてる場合じゃない」

勇者「馬鹿な言い争いとは心外な。私は至って真剣です」

賢者「はいはい…じゃあ真剣に、ここを抜ける方法を考え」

「助けてーーーーっ!」

賢者・勇者「!」

賢者「今の、聞こえたよな?」

勇者「え、えぇ、女性の声で助けてと…」

賢者「えぇと、こっちからだな!行くぞ勇者!」

勇者「えぇっ!い、行くんですか…?」

賢者「当たり前だろ!それに助けりゃ、俺たちも助かるかもしれないだろがっ!」

勇者「おぉ!それは言えてますね。ではフードを被ってと…」

賢者「急げ馬鹿っ!」グイッ

勇者「うわわっ!」

娘「は、離せー!」ジタバタ

人攫い「ったく、暴れんな小娘が」

娘「うぅ、誰かー!誰か助けてよぉ!」

人攫い「へっ、いくら叫んだって、こんな樹海の奥深くにゃあ誰も助けに気やしねぇよ」

賢者「ところがどっこい、その助けがここにいるんだな」

娘「!」

人攫い「あん?なんだてめぇら…」

勇者「た、大変です賢者…!」ボソボソ

賢者「なんだ?」

勇者「アレ、どう見ても魔物ではなく人間っぽいです!私はどうすればいいのでしょうかっ!?」

賢者「どうすればって…いつもどうり倒せば良いだけだろ」

勇者「し、しかしですね…」

人攫い「あぁん?」

勇者「ひぃっ!は、話しかけられはしないでしょうか…?」

賢者「はぁ?何の心配してんだよ…だったらアレだ、話かられる前に倒しちまえば良いだろ」

勇者「話しかけられる前に…ですか?」

賢者「あぁ、相手がお前に話し掛ける間もなく速攻で倒す。それで、なにか聞き出したいことがあれば、倒した後に俺が聞き出す。これなら、あとはフードかぶって目を合わせなきゃ何とかなるだろ」

勇者「なるほど…電光石火の電撃戦と言うことですねっ!名案ですっ!」

賢者「微妙に違う気もするが…まぁ、なんでもいいよ」

勇者「ではいざ!」

人攫い「あん?やっ」

勇者「!」キランッ

人攫い「とはn」

勇者「うなーっ!」ポスポスッ

人攫い「うぎゃっ!?」

勇者「ていっ!ていっ!ていっ!話させませんっ!」ポスポスッ

人攫い「ぐはっ!」

賢者「…」ボウッ

人攫い「あちっちっ!」

勇者「てりゃーっ!」ポスッ!

人攫い「ぐ、ぐほっ…!」

勇者「ふーっ…やりました」

賢者「毎度の事ながら、お前のその他人と接しないための強さには感服するよ」

勇者「いえいえー」

娘「あの!」

勇者「うひゃあっ!?」ビクッ

賢者「お前な…分かってはいるが、流石にこんな少女にビビるなよ…」

勇者「うぅ…そう言われましても…」

娘「あのっ!助けてくれてありがとうございますっ!」

賢者「あぁ、いえ、偶々あなたの助けが聞こえましてね」

娘「こんな樹海の奥深くまで連れてこられて、もうダメかと思っていましたけど…本当に助かりました!」

賢者「いえいえ…それで、一体なにが起こったんです?」

娘「人攫いです…最近、私たちの国では子供の誘拐が多発していまして…」
勇者「それは今噂のアレですか…各地で子供を誘拐しては、その子供を奴隷国家や奴隷商に高値で売り飛ばすというあの…」

賢者「あぁ、多分そうだろうな…ってか、そんなのよく知ってたな」

勇者「お母さんから聞きましたので。あなたも注意しなさいと言われました。まぁ、その時の私は、まったく外に出る気がなかったので聞き流してましたが」

賢者「おい…しかし俺も噂には聞いていたが、まさかもう隣国まで被害が伸びてたのか…」

娘「えっと…あ、あのっ!助けてもらっておいて申し訳ないのですが、実はお願いがあるんです!」ズイッ

勇者「ひゃいっ!あぅ…な、なぜっ、わざわざ、わ、私に詰め寄る、のですかぁ…!?」ビクビクッ

娘「えっ?だって、私を助けて下さったのはあなた様ですし…だから、お願いするのはあなた様にかと思いまして」

賢者「確かに、積極的に敵を倒したのは勇者だな。うん、そのままそいつにお願いするといいよ。俺はそいつの決定に従うから」

勇者「うえぇっ!?ちょっ、賢者っ!?」

賢者「いい機会だ、子供にくらい慣れろ」

娘「え、えっと、よろしいですか?」

賢者「えぇ、どうぞどうぞ。コイツちょっと…いえ、大分恥ずかしがり屋でしてね。ほれ、シャキっとしろ勇者様」

勇者「あぅ…」グイー

賢者「おい、フードを引っ張りすぎだ馬鹿。もう裾が上がってるぞ」

娘「お願いとは他でもありません…実は数日前に、私の親友もこの人攫いに攫われてしまっているのです。ですから、その親友も助けてはいただけないでしょうか!」ズイッ

勇者「ぁ…ぅ…ち、近いです…え、えぇと、その、数日前って、も、もう売られて…しまっているのでは…?」

娘「いえ、噂ではこの人攫い達は、ある程度の人数を揃えてから売ると聞きます。ですから、私が攫われたということはまだ…!」

勇者「し、しかし…居場所も…わかりません、し…」

賢者「それは俺が、コイツから聞き出してやろう」

人攫い「」

娘「どうか、お願いしますっ!」ズズズイッ

勇者「うあうあー!わ、分かりました!分かりましたから、それ以上私に顔を近づけないでくださいーっ!気まずいんですよぉっ!」

娘「?」

賢者「まぁ…よく頑張ったほうだな」

賢者「…」スタスタ

娘「…」トテトテ

勇者「…賢者」

賢者「なんだ?」

勇者「ちゃんと、方角は合ってるんでしょうね?」

賢者「あぁ、大丈夫だよ。このまま真っ直ぐ進めば、奴らの今のねぐららしい」

勇者「それならいいのですが…本当でしょうね!?」ズイッ

賢者「あ、あぁ、嘘じゃねぇよ…」

勇者「ホントのホントですね!?」

賢者「しつけぇよ!俺がこんな事で嘘ついてどうすんだよ!?」

勇者「だって、そもそもこんな状況に置かれたのは賢者のせいです!だから信用ならないのです!」

賢者「はぁ、それは悪かったっての…もうボーッとなんてせんから安心しろ」

勇者「絶対!絶対ですよ!これは勇者命令ですっ!」

賢者「はいはい…」

勇者「分かればよろしいです」

賢者「…」

娘「…」ジーッ

勇者「!」ハッ

賢者「?」

勇者「賢者!今のは、いわゆるフリと言うモノではないですよ!ですから、あえて迷ったりしないでくださいねっ!」

賢者「分かっとるわ!」

娘「あの…お二人はとても仲がいいのですね」

勇者「!」スタスタスタスタ

賢者「はい?今のやり取りでそう見えますかね?そして先を行くのはいいが、離れすぎるなよ対人恐怖症勇者」

娘「えぇ、なんて言いますか、気の置けない間柄に見えます。あっ、もしかしてご夫婦でしたか?」

賢者「ぶふっ!?」

娘「あ、あれ、違いましたか…?」

賢者「こ、コイツと俺がふ、夫婦っ!?ち、違いますよっ!おい!お前も黙っとらんで何か…」

勇者「…」スタスタ

賢者「歩を止めんか馬鹿!」グイッ

勇者「きゅう!?な、なんですか?」

賢者「お前なぁ、少しくらいはこっちにも意識をおいておけよ…」

勇者「あぁ、すみません。私は今、この大いなる大自然に思いを馳せていたものでまったく」

賢者「人はそれを、現実逃避と言うんだぞ」

勇者「…知ってますか?友達の友達…それはただの他人なのです」

賢者「何の話だよ…」

娘「ご夫婦じゃないのでしたら、恋人とかですか?」

勇者「うえぇ?そ、それは、私と賢者がって…こと、ですか?」ヒキッ

娘「はい」

賢者「…」

勇者「な、ないですないです…!あり、得ないです」

賢者「!」グッサァ

勇者「だ、だって、この人…こう見えて、元遊び人ですから…だから、ちんちくりんで孤立主義の私なんて…確実に、眼中にないですよ……あっ、で、ですから、あなたもそれ以上、私に近づかないでくださいねっ…!」ビクビク

娘「えっ?」

勇者「わ、私は、単独行動主義ですので…」

賢者「…はぁぁ」

人攫いa「ーーー」

人攫いb「ーーー」

勇者「どうやら、今度は間違っていなかったようですね」

賢者「まだ疑ってやがったのか」

娘「攫われた人は、あの小屋の中にいるのでしょうか…?」

賢者「恐らくは…で、勇者、どうする?助けるとは言ったが、なかなかに相手は多そうだ。その上、攫われた人を人質代わりにされたりしたら、出だしが出来なくなる…これでお前どう攻める?」

勇者「それはもう、風林火山の如き電撃戦で一瞬のうちに殲滅です。因みに今は林の境地です」

賢者「今回はツッコムが、そのどちらの理念も軍隊に用いるもので、少人数に当てはめるものではないぞ」

勇者「大丈夫です。私は、1人で王国軍10個師団に匹敵する戦力を有している…気がします!」

賢者「つい一週間ほど前まで引きこもりだったお前の、一体どこからその自信が出てくるんだよ…」

勇者「じゃあ賢者にはもっと言い考えがあるのですか?」

賢者「むっ…いや、うぅむ…」

勇者「無いのに文句ばかり言わないでくださいよっ!私は早くこの状況から解放されたいのす!久しぶりに屋根のある所で寝たいのです!」

賢者「言うほど経ってはないだろ…まぁ、お前の言うようにするしかないか」

娘「えっと、では私はどうすれば?」

賢者「あぁ、危ないですから、あなたはここで隠れていてください」

娘「は、はい…あの、何もできなくて申し訳ないですが、よろしくお願いします」ペコッ

賢者「えぇ、引き受けたからには必ず。だよな勇者様?」

勇者「…まぁ、不本意ながら…では行きますよ?」

賢者「あぁ」

勇者「手短に済ませます…うらーっ!!」

人攫いa・b「!?」ビクッ

賢者「うぉい!風林火山はどこいった!?」

勇者「ていっ!ていっ!どこにいってません!これは火の境地ですっ!侵略すること火の如しーっ!」ポスポス

賢者「いやいや!せめて外の見張りは静かに倒せば…!」

人攫いc「なんだ騒がしい…っ!?」

勇者「もう遅いですね」ポスポス

賢者「お前のせいだ馬鹿っ!」

人攫いc・d・e・f「」ボロボロ

娘「す、凄い……」

賢者「あー、くそ、お前のせいで無駄な体力と魔力を消費した…」

勇者「それはただ、賢者が戦下手なだけでは?」

賢者「だぁからお前のせいだつってんだろ!お前が馬鹿みたいに突貫しやがるから、俺も全力で広域魔法を使う羽目になったんだよ!」

勇者「ガンガンいこうぜ?」

賢者「筋肉馬鹿かお前はっ!」

勇者「失礼なっ!私の筋肉はモチモチのフニフニですよっ!触りますかっ!」バサッ

賢者「誰が触るかっ!そう言う意味じゃねぇよっ!」

娘「…」ツンツン

勇者「ひゃうっ!?い、いきなり、触らないでっ、くださいよぉ…!」ビックゥ

娘「えっ、あっ、す、すみません…触ってもいいのかと思って…」

勇者「うぅ…駄目、ですよぉっ…!」ビクビク

賢者「なんでだよ、お前が触るかって聞いたんだろうが。自業自得だ」

勇者「もうやです…お家に帰りたいです」

頭領「おいお前達、何して…なっ!一体どうなってやがるんだっ!?」

賢者「おぉ?まだいたいのか」

娘「あっ!手配書の!」

賢者「ってことは、コイツが諸悪の根元か」

頭領「くそっ!よくもやってくれやがったな!」

娘「それはこっちのセリフです!みんなを返して!」

賢者「んじゃあ勇者、もう一仕事だぞ。これが片付きゃ今度こそ…あれ、勇者?おい、どこ行った勇者?おかしいな、この状況でアレが俺の横か後ろにいないなんて…」

娘「け、賢者様、あれ…」

賢者「はい…?っ!?」

頭領「へっ!この女の命が惜しけりゃ、大人しくしてるんだなっ!」

勇者「た、たすっ…たすけて、ください、賢者っ…!」ガクガクブルブル

賢者「おぉい!?お前なにしてんだよ!?なんでお前が捕まってんだよっ!?」

勇者「だ、だって…この人が…い、いきなり、話っ、かけてきまして…け、賢者が、対応…してくれないからっ、何も、できなくてっ…!」ガクガクブルブル

賢者「だからって、仮にも勇者が人質になるなよ…」

勇者「お、囮捜査っ、です…!」ガクガクブルブル

賢者「あぁ、そんな今更な見栄をはる余裕があるなら大丈夫だな」

勇者「だ、大丈夫じゃない…ですから、たすけてくださいっ…!」ガクガクブルブル

頭領「おい!ゴチャゴチャうるせぇぞ!この女がどうなってもいいのかっ!」グイッ

勇者「ひうっ…!こっ、これ以上、密着っ、させないでくださいよぉ…!」ガクガクブルブル

賢者「いや、非常に困るが…」

頭領「だったら黙って大人し
しくがれ!ちっ、この落とし前どうつけさせてやろうか…」グイーッ

勇者「うぅ、顔に息がぁ…!」ガクガクブルブル

賢者「あー…お前、そろそろソイツに触るのをやめた方がいいと思うぞ?その様子じゃ逃げもしないだろうし、せめてゆるめた方が身のためだと…」

頭領「あぁ?んなのに引っかかる訳ねぇだろ!誰が離すか」グイッ

勇者「」ガクガクブルブル

賢者「いや、そうじゃなくてだなぁ…あまりやりすぎるとソイツ、もうストレスでキレるぞ?」

頭領「はぁ?なに言って……」グイーッ

勇者「!」プツン

バチバチィッ!!

頭領「うぎゃああああぁぁぁ!!??」ビリビリ

賢者「あーあ…だから言ったのに。アイツ、極度に他人に触れられてると、キレて魔法が暴発して放電するんだよ…アレ、生きてるだろうか」

娘「青白くて綺麗ですね」

賢者「うん、君の関心する所はそこなのかい?」

勇者「ふーっ!ふーっ!」ハァハァ

賢者「おー、大丈夫か?接触嫌悪症勇者」

勇者「大丈夫じゃないと言ってますっ!あぁもう!本当に苦痛でした!いっそ舌を噛み切ってやろうかと本気で考えましたっ!」

賢者「まぁまぁ、万事解決したんだ。よしとしろ」

勇者「まったく!パーソナルスペースを弁えない輩は一番嫌いですっ!」

賢者「…お前のソレは大分広そうだな」

勇者「そうでもないでしょ?最低でも、4㎞くらいですから」

賢者「ほう、お前にしちゃ普通の…いや、キロ!?」

娘「娘b!」ダキッ

娘「娘!」ダキッ

勇者「うんうん、仲良きことは美しきかな…です」

賢者「それをお前が言うか」

勇者「…言う権利くらいはあると思います」

賢者「にしても結構な人数だなおい。中に一杯にぎゅうぎゅうだぞこれ」

勇者「え、えぇ…ぅ…」

賢者「よくもまぁ、こんなに攫ったもんだ…まぁ、助けられて良かったな」

勇者「うっ…け、賢者…あの正直私、もう人酔いで吐きそうです…うぷっ、助けて…」

賢者「はっ?お、おい、本当に吐いたりするなよ?勇者として、そして女として」

勇者「勇者だとか魔王だとか、女だとか男だとか…そんなのは関係ないと、思います…うえぇ…」

賢者「状況が状況なら素晴らしいセリフだな。あぁほれ、外に出ればいいだろ馬鹿!」グイッ

勇者「うあー…」ズルズル

賢者「どうだ勇者、調子は戻ったか?」

勇者「ほぅ…えぇまぁ、やっと気分もよくなってきましたよ。さぁ、では日も暮れそうですし、そろそろ城下へ行くとしましょうか。ジメジメなのはもううんざりです」

賢者「あー…そのことなんだが勇者。一つ残念なお知らせがある」

勇者「はい?残念なお知らせですか?」

賢者「あぁ…実はだな、お前がここで一人で休んでる間、俺は中の全員に帰り道を聞いてみたんだよ」

勇者「ほう、流石はすけこましですね。仕事が早いです」

賢者「誰がすけこましだ!ったく、それでだな…どうも全員、帰り道が分からないそうだ」

勇者「…えっ?」

賢者「みんな攫われた時は、目隠しやら袋に入れられるとかで、視界を奪われてたそうでな…現在地が不明らしい」

勇者「と…と言いますと…つまり、私達の今の状況は…?」

賢者「あー…とどのつまりは、俺達は相も変わらず迷子って事だな。しかも、人数は増えたし樹海の奥に入り込んでるしで、状況はむしろ悪化したな、うん」

勇者「うんじゃないですようんじゃっ!それじゃあ話が違うじゃないですかっ!私は、この状況から解放されると言うから無駄に働きましたのに!!」

賢者「うぅむ、アテが外れた…すまん」

勇者「謝って済めば憲兵はいらないのですっ!」

賢者「ま、まぁ、そう怒鳴るな。そこでお前に、もう一つお知らせがあるんだ」

勇者「ふしゃー!なんですか!」

賢者「それはだな…おーい!」

勇者「?」

娘「あっ、もういいのですか?」

賢者「えぇ、もう帰れますから、出て来ていいですよ」

勇者「えっ?」

ゾロゾロザワザワ

勇者「け、賢者…これは…?と言いますか帰れるって…」

賢者「よーし勇者。もう一つのお知らせは、今からこの人たちにもみくちゃにされたくなかったら、お前が城下まで案内しろ」

勇者「はいっ?いや、そんな、そもそも私は普通の道でも行ったこともありませんのに、そんなの無理に決まって…」

賢者「ちなみに全員に、お前の勇者としての活躍を吹き込んでおいたぞ」

勇者「えっ?えっ?いやいや、私そんな、吹き込めるほどのことしてないですけど…」

一同「…」ジーッ

勇者「うわぁ…凄い目が輝いてます…そしてそんなに私を見つめないでください!居た堪れなくて思わず死んでしまいします!」

賢者「じゃあ、後は任せたぞ勇者」

勇者「うぅ、そんな無茶な…」

一同「…」ジーッ

勇者「ぅ…うわあああん!後で覚えておいてくださいよ賢者っ!そして間違っていても責任は取れませんからねーっ!」ダダダッ

賢者「そっちか」

東の国・城下町

賢者「うん、無事に着いてよかったな」

勇者「つーん」プイッ

賢者「いやいや、俺の考えに狂いはなかったようで安心だ。流石は筋金入りの対人恐怖症だな」

勇者「つーん」プイッ

賢者「よ、よーし、んじゃあさっさと宿を取って、ゆっくり休むとするか!今日は奮発して、高そうな宿でも良いぞ!」

勇者「つーん」プイッ

賢者「…」

勇者「つーん」プイッ

賢者「…おい、いい加減機嫌を直してくれ。俺が悪かったよ…だから『お礼お礼』って言うの誘いを全部、俺がやっとのことで断ってやったんだろうが…アレを断るのはそうとう大変なんだぞ?」

勇者「ふんっ!それは当然の仕事ですっ!まったく、賢者はいつもいつも私の弱点を弄んで!」

賢者「いや、別に弄んでは…まぁ、楽しいのは否定しないが」

勇者「このドs!鬼畜!悪鬼羅刹!」

賢者「こんな往来で人聞きの悪い事を叫ぶなっ!」

勇者「自業自得です!ふんっ、まぁしかし、私はそんな賢者とは違い、とても慈悲深い博愛主義勇者ですからね…あそこで手を打ちましょう」

賢者「引っ掛かりはあるが、なんだ…料理屋か?」

勇者「えぇ、なんでもそこは、この国の特産の山の幸を存分に活かした料理を出して、国内でも一二を争う料理屋だとか」

賢者「ほぅ…だけど、そんな事よくお前が知ってたな」

勇者「私の数少ない楽しみの一つは、美味しいものを食べることですから。時々手に入る新聞で知って、食べみたいなぁと」

賢者「なるほど、そういやそうだったか…まぁ、良いよ。なんだかんだの道中で、金はそれなりに貯まってるからな」

勇者「! では早速いき―――」

「おぉ!やっと見つけましたぞ勇者様!」

勇者「ひぅっ…け、賢者、私、とてつもなく嫌な予感が…と言いますか、デジャヴな気が…」

賢者「あー…」

衛兵「勇者様!どうかお城の方までお出でください。国王陛下が是非とも勇者様に、直に今回の件に関してお礼を申し上げたいと仰せなのです」

勇者「や、やっぱりぃ…賢者、こ、断ってください…お城は一番苦手なんですよぉ…!」

賢者「馬鹿、国王の呼び出しだぞ…お前の我がままに慣れてるうちの国の王様ならいざ知らず、一国の王の誘いをそう簡単に断れるわけないだろ」

勇者「で、ですが…」

賢者「アレだ、きっとお城ならとびきりのご馳走が食べれるだろうよ。良かったじゃないか」

勇者「全然よくないですっ!」

衛兵「ささっ、陛下がお待ちですぞ!」

勇者「うあうあー!」

衛兵「では陛下をお呼びいたしますので、少々お待ちを」

勇者「…」ビクビク

賢者「まだ誰もいないんだからビクビクするな」

勇者「だ、だって…これからの事を思うともう…」ビクビク

賢者「はぁ…」

勇者「…」ビクビク

勇者「…あっ」

賢者「…今度は何を思いつきやがった」

勇者「あ、あれじゃないですかね…どのみち王様と受け答えをするのは賢者なんですし」

賢者「あぁ」

勇者「もういっそのこと、賢者が勇者ってことでどうですか?」

賢者「…はっ?」

勇者「だって一々、私の言葉をあなたが代弁するという体よりも、そちらの方がスムーズに話が進みますし、何より王の心象も良いと思うのですが」

賢者「ふむ…確かに、お前にしては珍しく利点のある駄々だな」

勇者「駄々じゃないです!まったく…ですからここは、服装も賢者の方が勇者っぽい事ですし、あなたが勇者と言うことで行きましょうよ」

賢者「うぅむ…だがなぁ…」

衛兵「お待たせいたしました。国王陛下の御成りです」

勇者「!」ササッ

賢者「あっ、おい!せめて横にはいろ!」

給仕「では、こちらのお部屋でお休みください。御用の際は、私が外で控えておりますので何なりとお申し付けくださいませ」

賢者「あっ、はい」

給仕「ではごゆっくり」パタンッ

賢者「あ゛ー…疲れた」

勇者「ふふん、これで少しは私の苦労が分かりましたか?」

賢者「あぁ…めちゃくちゃ絡まれたな」

勇者「だから私は王宮も王室も嫌いなんです。怒涛の勢いで、もの珍しそうになんでも聞いてくるんですもん…デリカシーが欠けてるんですあの人たちは」

賢者「ホントにな…食事中ずっと、間髪入れずに誰かしらに話しかけられ続けたたぞ…なんだあの連係プレイ」

勇者「まぁ、そのおかげで、私は美味しい料理をじっくり味わえましたけどね!」

賢者「俺はおかげで空腹だよ…なんか余ってる食べ物ないか…?」

勇者「おにぎりならありますよ。具は昨日の夜の山菜を煮たものです」

賢者「くれ!」

勇者「はいはい、どうそー」

賢者「はぁ…やっと腹がふくれた」

勇者「良かったですねぇ」

賢者「しかし、城にまで入っておにぎりを食う羽目になるとは…」

勇者「美味しくなかったですか?」

賢者「いや、美味かったけどもな…」

勇者「それなら良かったです。さて、では私はベッドに横になりますかね」スタスタ

賢者「ん?風呂には入らないのか?」

勇者「入るに決まってますよ?ですが入るのは、皆が寝静まった真夜中に入ります。お風呂で他人になんかあうのはごめんです」

賢者「あぁ、ここは大浴場だからか…よくもまぁ考えてるな」

勇者「褒めてもおにぎりしか出てきませんよ?」

賢者「もういら…」グゥゥ

勇者「…どうぞ?」つおにぎり

賢者「ぐっ…も、貰おうか」

勇者「…」ゴロゴロ

賢者「…ふぅ、今度こそ腹もふくれた」

勇者「そうですか。では、賢者も食休みに横になるといいですよ。このベッド、凄くフカフカですから」ゴロゴロ

賢者「まぁ、そりゃあお城のベッドだしな。どれ……おぉ、これは…予想以上のフカフカ感だな」

勇者「でしょう?いやぁ、こんなフッカフカのベッドに横になっているとあれですね…」ゴロ...

賢者「なんだ?」

勇者「…お家に帰りたくなります」グテー

賢者「なんでだよ」

賢者「いやマジで…なんでそうなるんだよ?普通、もうここに住みたいとか思う所なんじゃないか?」

勇者「嫌ですよこんな居心地の悪い所」

賢者「お前な…こんな豪勢な料理を食べられて、その上こんな良いベッドで寝られる環境が居心地悪いって……お前にとっての居心地いい所ってなんだ」

勇者「他人の全くいない環境です」

賢者「だったら樹海に戻ってしまえこの我がまま勇者」

勇者「むむぅ…」

賢者「本気で悩むな馬鹿…そんなに嫌か」

勇者「だって、その扉のすぐ外に他人がいるんですよ?そんなの、いつ入って来やしないかと気が気じゃないじゃないですか」

賢者「呼ばない限り入ってこないから安心しろこの被害妄想勇者」

深夜

賢者「…」zzz

ゴォォ…ゴゴォ…!

賢者「ん…?」zzz

ゴォォ…ゴゴォ…!

賢者「んん…なんだ…?この音…」ムクリ

勇者「さぁ?先程からずっと聞こえてますよ」

賢者「ずっと…?って、うおぉ!?吃驚したぁ!お前、なんでんなところで突っ立ってるんだよ!」

勇者「はい?何でって、ちょうど今お風呂から帰ってきたところでしたから、こうして髪を乾かしていただけですよ?」ワシャワシャ

賢者「今上がったってお前…一体今何時だよ」

ゴォォ…グゴォォ…!

勇者「えぇと、結構前に日付はまたぎましたし…多分3時くらいじゃないですかね」

賢者「どんだけ用意周到なんだよ…」

勇者「お風呂はゆっくり一人で入りたいので」

賢者「お前のそれは風呂に限ったことじゃないだろ」

グゴォォ…グゴオォ…!

勇者「まぁ、そうなんですけどねー」

グゴオォォ…!

賢者「…」

勇者「…」

グゴオオォォ…!

賢者「なぁ、この音…なんか近づいてきてないか?」

勇者「私は何も聞こえませーん。知りませーん。あぁ、髪は長いと洗うのも乾かすのも大変で嫌になりますねー」

賢者「現実を見ろ。さっきずっと聞こえてるって言ってだろ」

勇者「知らないったら知りません!だってこれ嫌な予感しかしませんもんっ!絶対面倒事に巻き込まれる感じじゃないですかっ!はいはい、無視無視!私のモットーは、やらなくていい事ならやらない。やらなくてはならないこともやらない。なんですからっ!」

賢者「結局なんもやってねーじゃねぇか!」

勇者「そうですよ!だから私はもう寝たいんですよぉ!夜更かしはお肌に悪いんですよぉ!」

賢者「自業自得だろ!安心しろ、お前の肌は一日寝ない位じゃどうともならん。だからちょっと、外に様子を見に…」

グゴオオオォォォ! ドッゴオオオオォォォォン!

勇者「…」

賢者「…」

ガタッ…パラ…

ドラゴン「グフゥ…」バサッバサッ

勇者「…」

賢者「…」

勇者「…知ってますか賢者」

賢者「な、なにをだ…?」

勇者「ドラゴンって…竜田揚げにすると美味しいんですよ」

ドラゴン「!」ピクッ

賢者「何故それを今言った!?」

勇者「私としては、南蛮漬けにしていただくのがオススメです」

賢者「だから何でそんなことを今言うんだよ!?知らねぇよ!」

勇者「場の雰囲気を和やかにしようとしてるのが分かりませんかっ!?」

賢者「ならねーよ馬鹿!そしてなったとしても和んでどうすんだっ!」

ドラゴン「グゴオオオォォォ!」バッサバッサ

勇者「ほらー!怒っちゃったないですかー!」

賢者「多分お前のせいだよ!」

ドラゴン「グフゥッ!」ドーン

勇者「あーあ…そんなでっかい体で入ってきて…部屋が滅茶苦茶ですよ……修理費とか請求されませんよねこれ?」

賢者「言ってる場合か!」

ドラゴン「グゴオオオォォォ!」ゴオオオオォォォォ!

勇者「っ!賢者!」グイッ!バサッ!

賢者「おぉう!?」

ゴオオオオォォォォ!!

勇者「ほっ…ギリギリセーフです…しかしなんともまぁ、激しい炎だことで。完全に殺りに来てますねこれ」

賢者「お、おう…ってかおい、その炎をお前は今、なにで防いでんだ…?」

勇者「なにって私の盾…my布団に決まってますよ」

賢者「やっぱりか!お前のはそのパジャマもそうだが、一体全体どうなってんだ!?」

勇者「やっぱり羽毛布団だからじゃないですかねぇ」

賢者「いや、そういう次元の問題じゃないだろ」

ゴオオオオォォォォ!!

勇者「…と言いますか、このドラゴン…一体どこから何をしにここに来たんでしょうね?」

賢者「はぁ?知るかんなもん。ってかお前はよくこの状況で、そんな冷静でいられるな」

勇者「私に話しかけてこない限りは、別に火を吹かれようが何されようが平気です」

賢者「お前は肝が据わってんだか据わってないんだか、判断に苦しむな」

勇者「アレですかね…見た所、向こうは単騎そうでしたし、ピンポイントでここを攻撃してるあたり…もしかして狙いは私でしょうか?」

賢者「かもな…まぁ、それないし姫君とかを攫いにきたとか…」

勇者「どちらにしても面倒です…ふぅむ、しかしおかしいですねぇ…仮に私が狙いだとして、私そんな目立つ活躍なんてなにもしてませんけど…」

賢者「いや、目立つ活躍って言うよりも…お前が普段からやってる、出会う魔物の全部が全部を、瞬殺で殲滅してることが原因だと思うぞ…多分、人間の間よりもよっぽど、魔物の間での方が有名だと思うぞお前」

勇者「えっ…いや、それをやるように教えたのは賢者じゃないですか。『殺られる(話しかけられる)前に殺れ』って」

賢者「なんでお前の中では、話しかけられるのと殺されるのがイコールなんだ」

勇者「?」キョトン

賢者「なんでそんな心底不思議そうな顔をする!?」

勇者「いえいえ、ちょっとした冗談じゃないですよ。さて、なんやかんや賢者と話している間に、やっと炎の勢いが落ちてきましたね。そろそろバテますよ」

賢者「結局本気なんじゃねぇかよ…で、どう倒すつもりだ?ドラゴンを相手するなんて初めてだぞ」

勇者「そうですね…とりあえず炎が止まったら、盾からパッと出て、ドラゴンをガッとやって、シュッと切って、カラッと揚げましょう」

賢者「竜田揚げから離れろ!」

勇者「その間に賢者は、ここにある調味料で南蛮ソースとタルタルソースを」

賢者「作らねーよ!」

ドラゴン「グフゥ…」

勇者「炎が止みました!今です!」バッ

賢者「あっ!おいこらっ!この馬鹿、無策で…!」

勇者「適当に後方支援頼みますよ!後、また炎を吐かれると面倒なので、あなたはもっと奥に離れて隠れながら支援してくださいね!」

賢者「なんでこんな時だけ無駄にアクティブなんだよお前はっ!!」

勇者「ここで打ち損じて後で探しに行く…そんなのだけは御免ですーっ!」ポスポスッ

ドラゴン「グオオオォォォ!!」ブンッ

賢者「…なるほど」

勇者「ふっ!ほっ!やぁ!」ポスポスッ

ドラゴン「グフゥッ!」ゴウンッ

勇者「きゃあっ!危ないですね!そんないかにも堅そうな尻尾でたたきつけられたら痛いじゃないですかっ!」

賢者「…」

賢者(…アイツ、普段もこれくらい俊敏に動いてキリッとしてりゃ完璧なんだけどなぁ)ゴォ

ドラゴン「グオオォォ!ガフゥッ!」ブンブンッ

勇者「あぁもう!もう少しリーチが長くなりませんかねこの枕!」

賢者(まぁ、怠け癖は元々の性格だから仕方ないとして…そろそろ難しいかもだが、あの重度の対人恐怖症も克服したほうがアイツの為だよなぁ)ヒュンッ

勇者「そして汗だくです!折角お風呂に入ったのに最悪ですっ!」ポスポスッ

賢者(う、うーむ…)バチッ

ドラゴン「グフゥ…」

勇者「はーっ、はーっ、しぶといですね…」

賢者「…」ポワポワー

勇者「あっ、回復どうもです。ふぅ…私の安眠を返せーっ!」ポスポスッ

ドラゴン「グフゥッ!?」

賢者「もっと緊張感持って戦えよっ!俺の感慨を返せ!」

勇者「えぇっ!?」

ドラゴン「グオオォォ!」ブンッ

勇者「しまっ…!がっ!!」

賢者「ゆ、勇者っ!!大丈夫かっ!!」ダッ

勇者「けほっ…真芯をとらえたクリーンヒット、ライナー性の打球です…」

賢者「何を言っとるんだお前は…って、血が…!すまん俺のせいで…緊張感がなかったのは俺の方だった…すぐ回復を」ポワポワー

勇者「いえ、私の不注意ですし、これくらいじゃ私は、死にませんし死ねませんからお気になさらず…それは賢者がよくご存じでしょう」スッ

賢者「し、しかしだな…」

勇者「それにしてもタフな相手ですねぇ…そこそこ攻撃したのにまだ余裕そうです。流石ドラゴン、面倒くさい事この上ない」

賢者「まぁ、回復は任せろ。魔力はまだあり余ってる」

勇者「はぁ…夜が明けちゃいます…許すまじ!!」

ドラゴン「グオオォォ!!」ゴオオォォ

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