千種「母と女の狭間で」【R-18】 (24)


「契約内容についての説明は以上です、何かご質問などあれば」
「いえ、大丈夫です……千早の事、よろしくお願いします」

 年に一度の千早のアイドル契約更新日。
 まだ未成年である千早の契約の為には、親である私の同意が不可欠だった。
 まだ、関係が完全に修復されたわけでは無い、修復できるかも分からないが、私は親として、あの子の為になると信じて、アイドルをやらせている。
 能面の様だった千早の表情は、今では物凄く生き生きとしたものになっていた。
 ならば、あの子の為にも、このまま続けさせることが、最良なのだろう。

「最近、千早の調子も上がってきて、今度は海外レコーディングの話も来ているんですよ」

 芸能事情にうとい私には、それがどの程度凄い事なのかはよくわからない。
 プロデューサーさんの表情を見る限り、凄い事なのだろう。
 目を輝かせながら話す姿に、私は思わず、今は無き息子の姿を重ね合せていた。


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「如月さん?」『おかあさん!』

 思わず、過去と現在が混線して、意識が飛んでいた。
 不思議そうな顔で私の顔を覗き込んでいるプロデューサーさんに、気まずい物を感じた私は顔を俯けた。

「お身体の具合でも?少し、お疲れですか?待っててください、お茶でもお出しします。気が利かなくてすいません」

 断ろうと思ったが、それよりも前に、彼は給湯室に行ってしまった。
 しばらくすると、慣れない手つきでお盆を持ったプロデューサーさんが、私の前に湯呑みを置く。
 一口すすると、少し渋みのあるお茶が私の喉を下ってゆく。

「…すいません、少し煮出し過ぎました」

 不器用なんですね、プロデューサーさん。
 そう言うと、彼は照れ臭そうに笑っていた。
 その笑顔も、亡くなった息子を思い起こさせた。

「いえ、大丈夫ですから…あの、千早の事、これからもよろしくおねがいします」
「あ、如月さん!」

 これで、私の用事は終わる筈だった。
 でも、この後プロデューサーさんが私に言った言葉は、私が予想していた物とは全く異なる者でした。

「そういえば、如月さん、今日この後お暇ですか?」

 どういう事だろう。
 いや、そこまで初心ではないが、何故私なんかを食事に誘おうと考えるのか。
 でも、最近は1人で食事をとっていることがほとんどで、偶には食事に付き合ってくれる人が居るのも良いだろう。
 そう考えた私は、彼の行きつけの小料理屋へと連れられて行った。


「それじゃあ、乾杯」
「乾杯」

ぎこちなくグラスを打ち合わせると、少しずつは口調も砕けてくる。
千早の活動状況から、普段の生活まで。彼は、事細かに、熱を帯びた口調で私に話してくれた。私や、夫よりも、余程彼女を見てくれている、と感じた。

「流石は、プロデューサーさんですね…私より、彼女の親の資格があるかもしれません」

 ポツリ、と言ったその言葉が、私の心の箍を、緩めた。

「…すみません、こんな事、他人にお話しすることではないのですけれど…」

  私が話している間、彼は黙って私の話を聞いていた。

「関係ない方に、お話しするような内容ではありませんでしたね」
「関係無いなんてこと、ありません」

 
  少し強い口調で、彼は続けた。

「千早は、俺の大事な担当アイドルです。その母親であるあなたも、俺には無関係じゃないんです」
「私が…?」
「千早が、心に傷を負っているのは知っています、お母さんと千早の間に溝があることも。だけど、俺には何もできないんです…情けないんです…少しでも、あいつの力になりたいんです」
 
 悔しそうな彼に、私はかける言葉を探そうと必死でした。
 今まで、私や千早の事で、これほど熱心になってくれた人は居ませんでした。

「…プロデューサーさん、あなたが気に病むことではありません、これは親である私と、千早の問題なんです…」
「お母さん…」
「…千種、で良いです」

 何を言っているんだろう。
 でも、お母さん、と呼ばれることに違和感があったのは確かだし、如月と呼ばれても、今井と呼ばれても違和感しか感じない今は、この方が良かった。

「千種さん…オレでよければ、いつでも相談に乗ります」
「ええ…ありがとう」

 熱心で、素直。淡白だった夫と比べると、正反対な彼の性格は新鮮に感じた。
 他愛もない話をしながら、飲み、食べる。
 普段なら日常の一作業でしかない食事が、これほど楽しいと感じたのも、久しぶりの感覚でした。
 彼は、私の乾ききった心に、この一日だけでするりと入り込んできた。
 その後も、静かに盛り上がりつつ、彼との食事は続いた。



「…っ」
「大丈夫ですか?」
「いえ…少し羽目を外しすぎました」

 今回の食事は、予想外の事が幾つかあった。
 一つは大人しそうな彼が、思った以上に情熱的にプロデュースを行っている事。
 私以上に、千早の事を気に掛けていた事は予想していたけれど、彼の情熱は、普段は表に出にくい物なのかもしれない。
 そしてもう一つは、彼が思っていたよりもお酒に弱いと言う事だった。
 ふらつく彼をそのまま帰す事も出来た筈だ。でも私はそれをしなかった…ある種の母性本能だったのかもしれない。
 偶然、私の家は彼の家よりもここから近い。タクシーを拾った私は、自分の家に彼を連れていく事にした。



 普段は1人で入ってくる玄関も、今日はもう一人いる。
 ふらつく足取りでも、何とか靴を脱いだプロデューサーを、リビングのソファに横たわらせると、私もスーツを脱ぎ捨て、ブラウスのボタンを1つ外す。
 何をやっているんだろうか。
 私は自分のしていることの意味を考えながら、ため息を吐いた。
 考えてみれば、彼とは一回り以上歳が違う。
 そんな男性を、自分の部屋に連れ込んでいる。
 私はその事実を改めて認識していた。
 日課になっている優の位牌に手を合わせると、私はこの後の事を考えた。
 彼には、一日泊まってもらうしかないのだろうか。
 端正な顔立ちの割に、お酒でつぶれてしまう辺りは、まだ若いゆえの物なのかもしれない。
 酔いも少し落ち着いたのか、今は眠っている。
 その彼の表情に、優の面影を重ね、私は彼の頭を撫でてやる。
 擽ったそうに身じろぎした彼を微笑ましく思いながら、私はふと、自分の女の部分がまだかれて居ない事に気付いた。
 
「…何を考えてるのかしらね、私は」

 呑みすぎからの頭痛に、顔をしかめているプロデューサーさん。
 私は冷蔵庫からペットボトルの水を取り出すと、プロデューサーさんに手渡す。

「…ところで、プロデューサーさん、今日は1人で帰れますか?」
「…今、何時ですか?」

 時計を見せると、彼は発条仕掛けのように立ち上がった。

「しまった、ここからだと終電…っ…」

 急に立ち上がってみたものの、酔いが醒め切っていないのか、ふらついている。

「今から駅に向かっても、間に合わないんじゃありませんか?」
「弱ったな…千種さん、すいません…その辺のゴミ捨て場にでも放っておいてもらえば良かったのに」
「そんな事、出来る筈が無いじゃないですか……明日は、お仕事ですか?」
「いえ、非番の日です…」
「…だったら」

 何を言っているのだろう。
 私の口から付いて出た言葉に、プロデューサーさんは逡巡したものの、最終的には頷いた。


「…私、何を考えているのかしら」

 夫と離婚して、千早が家を出た後は、元々のマンションを引き払って今の家に移り住んだ。
 1DKの部屋は、独り身の私には広すぎる程とはいえ、誰かが止まりに来るなど考えもしなかった。
 とりあえず、ソファに寝れるように準備だけ進めながら、私は1人呟いていた。
 彼がシャワーを浴び終えて、こちらへ来る。

「すいません…先に借りちゃって」

 顔をしかめている辺り、まだ酔っているのかもしれない。

「それじゃあ、用意はしておいたので…」
「ご面倒掛けます…」

 いつもの様に、箪笥から下着と寝巻を取り出そうとして、急にプロデューサーさんの視線が気になった。
 下着をタオルの中に丸め込んで、私はシャワーを浴びに行く。


(私、意識してるのかしら)

 シャワーを浴びて、着替える時にふと、何時もの寝巻と下着が急に恥ずかしく思えた。
 馬鹿な事を考えていると我ながら思う。
 
(馬鹿げているわね…)

 下手をすれば親子程も年が離れている私に対して、プロデューサーさんがどういう感情を抱くはずもないではないか。
 でも、心のどこかでは、何かしらの期待をしている。
 自分にそう言う下心のような物がまだ残っていた事に驚きつつも、呼吸を整えて浴室を出ようとしたその時だった。

「なっ…!」
「…!」

 もう寝たと思い込んでいたプロデューサーさんが、突然浴室へ入ってきた。
 悲鳴を上げる間も無く、風呂場の壁に押さえつけられる。

「な、何の積りで…っむ…っ!」

 突然唇をふさがれ、息もできない。
 ようやく唇を離された時には、私は息も絶え絶えになっていた。
 止めずに流しっぱなしのシャワーで、プロデューサーさんもずぶ濡れになっているが、それも構わず、私の事を壁に押し付けたままだ。

「は…はぁ…っ…な、何の積りですか!」

 私の目線を受けても、プロデューサーさんは何も言わずに、私の事を見下ろしている。

「してないんでしょう…千種さん?」

 いっそ無邪気とでも言った方がいいような笑顔で、プロデューサーさんはそう言った。

「そ、それは」
「ガマンしてたんですか?」

 畳みかけるようなプロデューサーさんの質問に、私は答えを詰まらせてしまう。

「旦那さんと別れてから、してないんでしょう?」
「…」

 浴室の中に、シャワーが流れる音だけが響く。
 プロデューサーさんの表情は、私の答えをもう予測しているかのような笑みだ。
 私の答えは、既に決められていたようだ。
 力なく頷いた私の事を、彼はきつく抱きしめて、浴室から私を連れ出した。


 肉と肉がぶつかり合う、湿った音が部屋の中に響く。
 もう何年と自分でも触れていない場所を、旦那……元、旦那……でも無い男に好きにされている。
 浅く突き入れては、深く挿し入れて、また戻す。
 小刻みに動かされるたびに、私の忘れていた女の部分が疼きだす。

「…ぁっ……っ!」
「千種さん、声も出ませんか?」

 声の出し方も忘れる程、私は突かれ続けていた。
 どれくらいの時間が経ったのだろうと霞む視界で時計を見ると、まだこれが始まってから3分と経っていなかった。
 内臓ごと突き上げるような彼の激しい腰使い。
 その度に、私の脳内はスパークした様に真っ白になっていく。

「千種さん、痩せていると思いましたけど…意外に柔らかい。膣内も程よく締って…っ!」
「い、言わないで下さ…っ!?あああああああっ!?」
「ここですか?ほら?ここが良いんでしょう?」

 奥の方を掻き混ぜるような、ゆっくりとした動きに、私は堪らず悲鳴を上げた。
 
「ふふっ、意外に感じやすいんですね……ほら、ここも」

 彼の手が、私の秘所の小さな肉の芽を摘まむ。
 それとタイミングを合わせた様に、膣内の肉棒が奥の奥を擦り上げるように動く。

「はっ…ああっ…うううっ…!」
「ふふっ、堪らないですか?流石は母娘、感じる所は同じですね」

 その言葉を聞いた瞬間、私は一瞬血の気が引いた。
 母娘…?
 しかし、その言葉の真相を確かめる余裕も私には与えられなかった。
 彼の肉棒が、その先端だけを私の膣内に残したところまで引き抜かれると、子宮ごと持っていかれるかのような錯覚を…錯覚では無いのかもしれないが。
 
「くっ…出しますよ、千種さん」
「だ、出すって……だめっ、膣内は…!あっ」

 膣奥に叩き付けられる熱い感触に、私は打ち震えていた。
 もう、数年以上感じていない感触が、私の思考を更に鈍らせる。
 そして、私の膣内で、彼のモノはなえることなく、更にその硬度を増していく。


「そ、そんな……」
「この位で終わると……思って、無いですよ、ねっ!」

 お互いずぶ濡れのまま、激しく腰を打ちつけていると、不意にプロデューサーさんが私を抱えあげて、戸棚の方へ連れて行く。

「優君。君のお母さん…君の目の前で、こんなになってるよ、見えるかい?」
「い、いやぁっ!止めて下さい!」
「君の出てきたところに、俺のが入ってる…ほら」

 丁度、M字開脚のまま抱き抱えられているので、私には身動きする事も出来ません。彼はその体勢のまま、私を犯す。
 さっきよりも深く突き刺さる感覚に身悶えしながらも、私は声を止めることもできない。
 息子の遺影の目の前で、醜態をさらす。
 そんな暴力的な屈辱を感じているのに、私はまた別の感覚を覚えずにはいられなかった。
 そして、振り向けば、息子の面影を持つ男の顔。
 私の頭の中では、それが上手く処理できなかった。
 もう、何が何か分からない。
 彼に犯されているのか、いや、そもそも私は自分でこの状況を望んだのではなかったか?
 だとしたら……私は、母親として……
 朦朧とする意識の中、最後に感じたのは、身体の奥深くに流れ込む、熱い感触だった。
 そのまま、意識を失うのと、虚ろに目覚めるのを繰り返しながら、彼の精を受け続けた。



 空が白んだ頃、意識を取り戻した私はいつの間にかベッドで眠っていた。
 私の隣には、生まれたままの姿をした彼が静かに寝息を立てていた。
 その表情は、昨日の夜の様な笑みでは無く、安らかなものだった。
 全てが、夢だったのか。
 そう信じたい母親としての一面と共に、昨晩までの、獣のような時間を忘れたくないという女の部分がせめぎ合い、胸を締め付ける。
 立ち上がろうと身を起こすと、ごぽり、と音を立てて彼の流し込んだものがベッドのシーツを汚す。
 こんなにしてくれて、どうするつもりなんだろうか……
 でも、私は彼の笑顔を……あの、私のすべてを見通したかのような笑顔を、忘れることは出来そうになかった。


  これは、些細な、ほんの些細な始まりに過ぎなかったとは、この時は私は知る由も無かった。




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