兄「前略、うちの義妹について」(123)


兄「昨今の日本では、義理の妹がなにかと持て囃されている傾向がある」

兄「学園モノの定番中の定番ともいう、『義妹』」

兄「…可愛く甘えてくる義妹、クールで実際はデレデレな義妹、他の女の子と少しでも話すと嫉妬する義妹…」

兄「ぶっちゃけると、俺もそうした世間様の意見にかなりの部分で同意するし、そちらの道の造詣も、人並み以上にあるつもりだと思う」


兄「しかしながらその点、うちの義妹はやや面白みに欠ける」


兄「顔はそこそこ、身長はまずまず。どちらかといえば地味な印象」

兄「化粧っけもなく、浮いた話も聞かない」

兄「成績が優秀なことが取り柄で、なんか、最近になって生徒会のメンバーにも選ばれたらしいが、くじ引きで決まった雑務担当だとかで、内申点以外にあまり意味が無い」

兄「…………」

兄「…内申点、…ないしんてん、…無い進て…」


兄「」ゲフンゲフン

兄「…いやいや、話を戻そう///」

兄「古人曰く、幼き頃の充実した一日は、成長した後の怠惰な千日にも勝るとされる」

兄「ま、現在進行形で、灰色を通り越して、無色透明の学園生活を送っている兄としては、まあ…、義妹には同じ轍を踏んで欲しくない…」


兄「そんなわけで、知恵を借りたいと思ってる」


……………………


友「……話が長い」

幼馴染「……このシスコン」

兄「そう言うな。お前らが悩みがあるなら話せって言ったんだろ?」

友「モスで380円。ま、相談料としちゃ妥当と言えば妥当か」

幼馴染「やれやれ…、珍しく何かを深刻そうに悩んでいるかと思えば、義妹ちゃんのことかー。そんなの男のあんたが何かやれることあるの? お義姉さんに頼めば良いじゃない」

友「え? お前、お義姉さんいたの?!」

兄「…いた。けど今はいない」


幼馴染「? 義姉さん、何かあった?」

兄「…否、最近親父と結婚して、今じゃ義母になってて。…つい先日、お目出度だとかで、生まれ故郷で産みたいとか義姉さんがゴネて、夫婦ともどもミネソタに越していきやがった」

幼馴染「あー、相変わらず自由なお人だね」

友「んじゃ、今お前の家って?」

兄「…義妹と二人暮らし。気楽と表現すりゃ聞こえは良いけど、実際、家事とか慣れてなくてわりかし大変だ」

幼馴染「そーねー、ゴミ出しとかの分別とか、普段やらないことするのって気分的にも、案外負担になったりするもんねー」


兄「やけに所帯染みてんな。おばさん臭ぇよ」

幼馴染「はっはっはっ、いっぺん料理屋でバイトしてみー。…私の家の店ならバイト料安くしとくよー」ギロリ

兄「はっはっはっ、安くすんのかー。…この野郎」チッ

友「あーあー、じゃれるなじゃれるな。他のお客さん達の視線が痛いぞー」


兄「………………」
幼馴染「………………」


友「…ともかくお前の依頼ってのは、義妹ちゃんに『楽しい学校生活』を送って欲しいってことで良いのか?」

兄「おー、恥ずかしいけどな。…ちょっと色々あった子だからさ、義兄としちゃ、ちょいと考えてしまうわけでさ」

友「? 色々?」

幼馴染「…こら友、踏み込みすぎ」

兄「幼馴染、大丈夫。どーせ狭いご町内、調べ無くてもすぐに分かるこった」


幼馴染「…………」

兄「何年か前、この近辺の町で押し込み強盗が流行ったろ?」

友「? ああ、小学校の低学年の時だったか? 犯人が宅配便に化けて、とか言う…」

兄「おう、それそれ。あいつらを逮捕させるまで、この町内でも何件も被害が出ててさ。…義妹はその被害者関係」

幼馴染「…………」

友「…え?」

兄「まあ、お前もこの町に越して来たばかりだから知らないだろうけど、多分、口さがない連中に聞けば、懇切丁寧にいらんことまで教えてくれるぞ?」

友「否、別に聞かないけどよ…」


幼馴染「…………」

兄「…しかも犯人グループってのは海外の人間だとかで、当時はかなり揉めたらしい」

友「あ、この町は外国人に厳しいってのは…」

兄「おう、その事件の影響が今も尾を引いてる。…いらん方のグローバル化だな」

幼馴染「…ねえ兄、お義姉さん達がミネソタに行ったのってこの町の雰囲気が原因なの?」

兄「あー…、ないない。あの金髪ボインの猫かぶり淑女様は本当に気まぐれ。打算があったとしても国籍関係だと思う。一度も文句…、いや、八百屋と魚屋のおっさんにエロい視線をどうとか…」ブツブツ

幼馴染「そっか、そうなんだ」ホッ


友「…………」

兄「? どうした、友?」

友「否、少し重い話題で驚いただけだ。…話してくれてありがとな」フゥ

兄「ん、すまんな。…嫌だったら引いてくれて構わんけど、」チラッ

幼馴染「?? どしたの? 私の顔に何かついてる??」

友「//////」

兄「…いーや、特に何も。ちょいと可愛い店員さんがお前の後ろを通っただけだ」


幼馴染「ふーん、そりゃ好う御座いました。メアド交換してくる?」

兄「しない。純情な男心を弄びそうな小悪魔系の奴はあくまでも観賞用。実践にはやや難易度が高すぎる」

幼馴染「そっか、ヘタレだもんねー」

兄「否定はせんが、そろそろ出よう。眼が遇っちまった」

幼馴染「ヘッタレー、あ☆それ! ヘッタッレー!!」


兄「…はいはい、んじゃお開きだお開き。今日はどーもありがとよー」


…………………
……………


義妹「………………」

義姉『おーい、どした?』

義妹「…ううん、兄さんが遅いなあと思って」

義姉『ん? そっちって今何時くらい?』

義妹「ええと、もうすぐ夕方のチャイムが鳴るくらいです。姉さんの方は真夜中じゃありませんか?」

義姉『んふふ、こっちは真夜中も真夜中。午前一時をちょっと過ぎたかも。…悪いね、時差ボケが思った以上に抜けなくて、眠気が来るでの暇つぶしに付き合って貰ってて』

義妹「ええと、気にしないで下さい。私もちょうど宿題をしていただけですから」


義姉『そっかそっか、相変わらず妹は良い子だなぁ』

義妹「お義父さんは元気ですか?」

義姉『うん、高所恐怖症のパイロットと、アフロ頭の神父と一緒になって今も飲んでボーリングを、…って、うわお?!』

義妹「? どうかしましたか?」

義姉『んーーとね…、今、ドアの前をでっかい恐竜が通ったような??』

義妹「???」

義姉『あー、ジュマンジジュマンジ。…あ、ザスーラだっけ?』


義妹「? 何の話ですか?? 宇宙飛行士が出てこないなら、ジュマンジで合っていると思います」

義姉「…うん、サンクス。ってか妹って、あの映画見てたんだ?」

義妹「はい。以前、洋画特集の番組でやっていたのを、兄さんと一緒に借りに行って。わりと面白かったので、同じ日に続編も…」

義姉『あはは、お姉ちゃんは映画館で見たよ。…人生初の映画! 日本語吹き替え版で微妙だったけどね!!』

義妹「ふふっ、そうですね」

義姉『…おーし、そろそろ寝るぞー。長々とありがとねー!』

義妹「はい、楽しんできて下さい。お土産、楽しみに待ってます」クスクス

義姉「うーい、期待してろー。じゃあのww」

ガチャッ


義妹「……ん、兄さん本当に遅いですね」


…………………
……………


兄「ただいまー」

ガラガラ…


義妹「………」スースー

兄「む、義妹の奴また台所で寝てんのか。…ほれ起きろ、風邪引くぞー」ユサユサ

義妹「……あ、兄さんおかえり、です?」


兄「おう、おはようさん。…悪い、少し遅くなったな。すぐに夕飯作るけど、腹減ってるならこれでも摘んでてくれ」

義妹「…ん、モスラバーガー。mountain ocean sun of love aisa…、今日一日モスラ気分…」

兄「ああでも、その前に顔洗ってこい。頬にソファーの痕がついてるぞー」

義妹「んー、もう少しだけ…」ムニャムニャ

兄「全く…、いつも言ってるだろ? 寝るなら自分の部屋で寝ろ。ほれ、これから飯作りで少し五月蝿くするし」

義妹「…zzz」


兄「こら、言ってる傍から寝るな。ほら起きろ起きろ。疲れが取れんぞ」ユサユサ

義妹「…んー、ん?」

兄「…………」

義妹「…え? 兄さん?! え?え?ええと? 帰ってたんですか?!!」

兄「ん、おはよう。本格的におはよう」

義妹「//////」



兄「飯を作るけど、何かリクエストあるか?」

義妹「……////」フルフル

兄「ん! そいじゃ御影町風シンプルオムライスに決定だ。先刻、幼馴染にレシピとトマトソースを貰ってきたんだ」

義妹「ミカゲチョウ? ええと、アキユキ・ノサカ?」

兄「お、正解。そうか、御影町は小説『火垂るの墓』の舞台でも有名だったな…。あそこの公会堂で出してるオムライスの味を真似て、新しく幼馴染の店でもオムライスの試作品を作ったらしくて、味見して欲しんだとさ」

義妹「…そうですか」


兄「あ、お前、今、露骨に期待していないだろ?」

義妹「いえ、幼馴染さんの料理の腕前は知っています。期待していないのは、妙に凝って最後に大失敗する、いつもの兄さんの技量だけです」

兄「…ぐぬぬ」

義妹「……ですから、今晩のご飯は私が作りますよ?」チラッ

兄「いーや、俺の沽券に関わる。お前はほら、あー…、そうだ宿題でもしてろ。なんかテーブルの上に広げてるみたいだし」

義妹スペック
・アラサー
・×2
・職業、家事手伝い
・統合失調症
・メンヘラ
・ワキガ
・歯槽膿漏
・蓄膿症
・イボ痔
・更年期障害
・鬱病
・リストカット
・デブ
・アトピー
・ニキビ
・息が臭い
・水虫
・クラミジア
・糖尿病
・痛風
・b型肝炎
・ネトウヨ
・アムウェイ会員
・一族郎党創価学会信者

義理でも父と娘、母と息子はどう頑張っても結婚できないぞ
戸籍抜いても


>>22

や、『そっち』系の話ではないっす。
それから住吉とか尼崎関係、右も左も関係ないっすな。

…それよりカシコギ以降の恋愛偏重を何とかして欲しい。


>>23

ご質問感謝。

確かに、日本では養父との結婚は不可能。
ですので『ミネソタ』です。なんか州法で可能だったとかで…。
まあ、曖昧知識ですので間違っていたら、
『良く似た非現実世界』ってことでご容赦をば…。


義妹「…………」

兄「それに、俺もいつまでもこの家にいるとは限らん。自炊の練習は必要不可欠なわけで、悪いけど、料理下手の俺につきあってくれ」

義妹「…なら、仕方ないですね」ハァ

兄「よしよし。あ、五月蝿いようだったら自分の部屋でやっててくれ。その方が集中できるだろ?」

義妹「否、宿題はもう終わっています。けれど、私も晩ご飯がかかってますので、ここで兄さんの監視をしていても良いですか?」

兄「…ああ、別に構わんが、結構信用ないんだなー、俺」


義妹「……えーと、そんなこと無いですよ?」


……………


兄「さて、まず下ごしらえを」

義妹「」ジー

兄「…剥いた玉葱を微塵切りにして、ついでに、かしわも気持ち小さめに切る」トントントン

義妹「」ジー

兄「…切った野菜と肉はフライパンにうつして、中火で軽く炒めつつ、塩と胡椒を適量忘れずに…」ジュージュー

義妹「」ジー

兄「…火が通ったら、ケチャップと砂糖、それから醤油と野菜ジュースを加え、馴染んだら炊き立てご飯を入れて、全体に広げるように…」ジャッジャッ


義妹「…………」

兄「? 俺、どっかで手順を間違えたか??」

義妹「…いいえ、存外普通だったので驚いているだけです。兄さんは普通に手際が良いですし、普通に美味しそうな匂いがしています」

兄「だろ? 俺だってやる時はやるんだぜ??」フフン

義妹「…私としてはつまらないです。もっと無謀な挑戦をしない兄さんは、兄さんじゃありません」

兄「はっはっはっ、お前は兄を軽んじ過ぎたな。いくら親父が《宝探し屋》だからって、息子の俺まで冒険者だとは限らんぞ?」

義妹「はあ、そうですか…」


兄「ええと、卵を割り、特製ソースとさらっと混ぜ合わせ、サラダ油敷きの別の熱したフライパンに流し込み…」

義妹「…揺り動かしつつ、菜ばしで調整しながら拡げたら、上半分が半熟の状態でチキンライスを乗せて、こう、トントントンと…」

兄「あいよ。トン、トン、トン…。あ、悪いんだけどそろそろ…」

義妹「はい、お皿を準備しときますね」

兄「ん、こういう時、台所がカウンター越しに行き来できる構造だと便利だな。ほい、熱いから気を付けろよ」

義妹「はいはい」


兄「おし、栄えある第一号完成。…あとは後掛けソースをレンジで温めてあるから、先に座って食っててくれ」

義妹「つまり、毒見役ですね?」

兄「嫌な言い方すんな。まあ、あながち間違いじゃないけどさ」

義妹「…ふふっ、嘘ですよ」クスクス

兄「…………」

義姉「冗談ですよ、冗談。怒らないで下さい。ほら、とっても美味しそうです。私の兄さんは料理上手です」

兄「へいへい、そーかよ。っと、メールか?」

ねぇ、>>1って前に速報でなんか書いた?
ちょっとした好奇心。



《メールが届きました》
《h.a.n.tを起動します》>>>welcome to h.a.n.t


義妹「…あ、義姉さんからですね。『書類審査は成功。国籍変更』」

兄「え? 向こうって夜更けだろ? なんだってこんな時間に??」

義姉「」カチカチ

《メールが届きました》

義妹「…『蛇の道は蛇』だそうです。詳しく聞いてみましょうか?」

兄「うんにゃ、怖いからそのままでいい。…あ、『おめでとう』とでも送っといてくれ」

義妹「はい、分かりました。…送信です」クスクス


>>>good luck !


♪op~♪

【1st.discovery『謎の転校生』】


キーンコーンカーンコーン

若い女教師「みんな、静かに。」

生徒一同「…………」

若い女教師「今日から、みんなと一緒にこの学園で過ごすことになった―――、」

女「転校生の女デス」ペコリ

若い女教師「女さんは、今まで海外で生活していて、先日、日本に戻ってきたばかりなの。早く、日本に慣れて欲しいというご両親の希望で、寮制の本校に転校してきました。」


生徒一同「……」

若い女教師「…寮生活では、わからない事が多いと思いますが、みんな、仲良くしてあげて下さいね。」

女「アノ、その、ミナサンよろしくお願いしマス///」

若い女教師「ふふっ、一回照れちゃうとあがっちゃって、それ以上の自己紹介って難しいわね。女さんへの質問は休み時間になっちゃうかしら」

女「//////」

若い女教師「ええと…、女さんの席は…」



友「ハイッハイッ!」


若い女教師「なァに? 友君」

友「俺の隣があいてま~す!」

兄「…いやいや待て待て。俺がいるだろ。絶賛俺座ってるだろ??」

友「 見 え ま せ ん !!」

兄「…………」

若い女教師「うーん、そうね。先生、積極的なのは感心だと思いますが、あまり積極的過ぎるのはどうかと思います。」


女「…あの、センセイ」

若い女教師「? はい、何ですか?」

女「この学年に、ワタシとオナジ国のヒトがいると聞きました。出来ればワタシ、その人のチカクが良いです…」

若い女教師「? ええっと、同じ国??」

幼馴染「先生~、兄君のことだと思いま~す」

若い女教師「! …うん、なるほど。そうね、この間の席替えで丁度、兄君の隣が空いていたわね。」


幼馴染「…ほら、兄君。ぼさっとしてないで、女さんの席を運んでくるの手伝ってよ」

兄「へーい」シブシブ

若い女教師「それじゃ、女さん。兄君の隣の席に。…何かわからないことがあったら、兄君、教えてあげてね。」

兄「良いですけど、俺、寮生じゃないですよ? 寮生は寮生同士でつるんだ方が…」


若い女教師「」ニコリ


兄「…了解です、サー」


若い女教師「それじゃ、あの二人が帰ってきたら出席を取りましょう。」


>>32

男「休日で一日空くと、何かやる気が無くなる」
男「休日で一日空くと、何かやる気が無くなる」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1369498054/l50)


……………………


キーンコーンカーンコーン…キーンコーン…カーンコーン…


男子a「…は~、やっと昼休みかよ~」

女子b「耐え切った! あたしは物理の《睡眠呪文(ラリホーマ)》に耐え切った!!」


女「……」キョロキョロ


幼馴染「女さん!!」

女「!」ビクッ

幼馴染「あはは、驚かないでいいよ。私、幼馴染。よろしく!」

女「…え、エエト、コンゴトモヨロシク??」



幼馴染「んと、女さんは兄君をお探しなのかな? …転校して初日に、もう気になっちゃったとか??」ニヤニヤ

女「…イ、イエ。でも、『兄君』は探しています。ms.幼馴染、兄君がドコにいるのかシッテいますか?」

幼馴染「うん、知ってるよ。で、多分、もうすぐ女さんの目的の人を連れてきてくれると思う」

女「???」

ガラッ

兄「ういっす、女―、連れてきたぞー」

幼馴染「ういっす、兄君お疲れ。褒美にラッシーでもどーぞ」

兄「うい、サンキュー」

義妹「…ううう、一体全体どうしたんですか?」ハァハァ

幼馴染「あはは、義妹ちゃんこんにちは。ごめんね、急がせちゃって。義妹ちゃんもラッシーいる?」


義妹「…はい、ごちそうに。それより幼馴染さん、最大の危機ってなんですか?」

幼馴染「? 兄君?」

兄「…あー、その」ハハハ

友「お前なあ、どうせ義妹ちゃんを拉致るのに適当な言い訳をしたんだろ?」

兄「あ、友、いたの?」

友「居るし! 席、お前の隣だし!! 女さんの二つ隣だし!!!」

幼馴染「ま、いっか。…いつものメンバーも揃ったことだし、ここで立ち話もなんだから、どっか座れる場所に行こうよ」

女「???」


幼馴染「うん、女さんも着いてきて。とっときの穴場を教えてあげるよー♪」


校舎裏――――――昼休み


《別階層に移動しました》


兄「……別階層ってか、いつもの裏庭コースだろ?」

友「んー、多分なー」

女「what 's uraniwa course ? 『ho-kago taiikukan』??」

義妹「…女さん、それは確かに転校生関係の恒例イベントかも知れませんが、今回は『そんなの』じゃないですよ」クスクス


幼馴染「……よしよし、皆、靴を履き替えたね。それじゃこっちこっち」

女「???」

兄「……心配するな。別に取って食うわけじゃない。ほら、歩け歩け」

友「な、さっさと行こうぜ? 教職員連中に見つかったら、またどやされんぞ」

幼馴染「へっへっへっ、安心めされい。……こんなこともあろうかと!」


>ババーン!!<


兄「……カツ丼1、親子丼3、オリジナルカレー定食4。おお、やるじゃん」

幼馴染「だろじゃろ? 買収済み買収済み。裏門の鍵も預かってきたよ」ケラケラ


女「……??」

義妹「ふふっ、幼馴染さんの御実家は、この学校の近くで学生向けの大衆食堂を経営されているんです」

女「タイシュウ、ショクドウ?」

兄「……いやいや、そのアクセントじゃ『体臭食道』。なんだって昼飯時に、好き好んで胃酸の匂いを嗅ぎたがる?? …大衆食堂、あーなんだっけ?」

義妹「eating placeです兄さん、we go to eating place .」

女「ok. thanks…ms.???」

義妹「あ、そういえば、まだ自己紹介をしていませんでしたね。私は義妹と申しまして、女さんの一つ下の学年で、えーと兄さんの…」

女「……girl friend ?」

義妹「…no, sister .///」


女「?」ジロジロ

友「あはは、やっぱりな。…そんなに二人を見比べたって似てない似てない。シスターはシスターでも、義理の妹…、んーと義妹ちゃん、『義理の妹』ってなんて言えば良いんだ?」

義妹「『sister-in-raw』が正解だったと思いますよ?」

友「……ふーん、『法律下の兄妹関係』ってのか、何か味気ないな」

義妹「明文化を好む文化圏の言葉ですから、どうにも仕方ないです。私は日本語の奥ゆかしさが気に入ってますけどね」


幼馴染「おお、優等生発言いただきました!」

兄「……茶化すな、こいつは元・アメリカ国籍。もう一人、俺の義理の姉、…否、今は俺の義理の母親なんがだな。そいつとこいつを、俺の父親が引き取ったんだ」

女「……フクザツなゴカンケイ、デスネ?」

兄「まーな、でもまあ、仲良くしてやってくれ。目に入れても痛くない『妹』だ」

女「……the catcher in the eye」ポソリ

義妹「ふふっ、holden caulfeildと兄さんが似てるとは言い難いですよ?」クスクス

女「」ニコッ


幼馴染「おお、何かよく分からないけれど、和をもって貴しとなす。…裏門の鍵よ、オープンセサミ!!」


喫茶『銀杏と茶碗蒸し』――――――昼休み


店主「スワガトヘー! 魅惑のカレー桃源きょ…、じゃなかった。喫茶『銀杏と茶碗蒸し』へヨウコソゥ!!」


幼馴染「…ただいまー、お父さんいる?」

店主「なんだァ、お嬢かァ。…父馴染さんなら、ちょっと前に駅前のガソリンスタンドまでデリバリーに出てたけど、もうすぐ帰ってくると思うよ?」

幼馴染「あー、そう…。じゃあ、お母さんにこれ渡しといて。うちの学校の先生達からの注文表、『大至急届けてくれ』って」

店主「アイヨー」



母馴染「……なんだい、新しいお客さんかい?」

幼馴染「あ、お母さん、ただいまー。厨房借りていい? 友達に、お昼をご馳走しようと思ってさ」

母馴染「いーや、この混み具合を見りゃ分かるだろ? 使うんなら、うちの台所を使いな。材料は適当に見繕ってやるからさ」

幼馴染「うん、ありがとー」

母馴染「ははは…、ところで、お友達ってのは?」

幼馴染「あ、うん。皆、入ってきていいよー」



兄&義妹「こんにちは、母馴染さんお久しぶりです」

義妹「…は、はじめますて。お、おお、おおお邪魔します///」

女「……」ペコリ


母馴染「ああ、なんだい。兄君と義妹ちゃんじゃないか、お久しぶり。元気にしてたかい?」

兄「ええ、おかげさまで。ボチボチと」

母馴染「そうかいそうかい、あんたんとこには、いつも驚かされるからねぇ。親父さんと義姉さんのことなんて、なんかもう、こう、グッと来たね…!」

兄「あはは…、母馴染さん、昨日のオムライス美味しかったですよ。是非是非、新メニューに加えるべきです」

母馴染「本当かい? 義妹ちゃんはどうだった??」

義妹「はい、とっても美味しかったです。トマトの酸味と卵の甘みが絡まって、こう、ふんわりしとやかで…」

>>51訂正


兄&義妹「こんにちは、母馴染さんお久しぶりです」

友「…は、はじめますて。お、おお、おおお邪魔します///」

女「……」ペコリ


母馴染「ああ、なんだい。兄君と義妹ちゃんじゃないか、お久しぶり。元気にしてたかい?」

兄「ええ、おかげさまで。ボチボチと」

母馴染「そうかいそうかい、あんたんとこには、いつも驚かされるからねぇ。親父さんと義姉さんのことなんて、なんかもう、こう、グッと来たね…!」

兄「あはは…、母馴染さん、昨日のオムライス美味しかったですよ。是非是非、新メニューに加えるべきです」

母馴染「本当かい? 義妹ちゃんはどうだった??」

義妹「はい、とっても美味しかったです。トマトの酸味と卵の甘みが絡まって、こう、ふんわりしとやかで…」


兄「…………」

義妹「…確かに、人種や民族によって、5つの基本味の感じ方は異なります」

母馴染「おうともさ、…基本味だけじゃなく、食文化ってのは、馴染んできた『家庭の味』でそれぞれ随分異なって、やたらと甘かったり、やたらと辛かったり、なんか酸っぱかったりするもんさ」

義妹「……」

母馴染「っと、悪いね義妹ちゃん。私としたことが、つい熱くなっちまった」

義妹「いえ、大丈夫ですよ? …今の私にとっては、兄さん達が『家族』です」ニッコリ


幼馴染「…………」

>>53訂正


母馴染「おお、それならバッチリだ。義妹ちゃんのお墨付きなら、私も安心してこの店で出せるよ」

兄「……えーと、俺の発言力は考慮なし?」

母馴染「…ばっか、日本人の私が作った料理を日本人のあんたが食べて、美味しいと思うのは当たり前だろ? 問題は、違う国の人間にも、うちの店の味が通用するかどうかだ」

兄「…………」

義妹「…確かに、人種や民族によって、5つの基本味の感じ方は異なります」

母馴染「おうともさ、…基本味だけじゃなく、食文化ってのは、馴染んできた『家庭の味』でそれぞれ随分異なって、やたらと甘かったり、やたらと辛かったり、なんか酸っぱかったりするもんさ」

義妹「……」

母馴染「っと、悪いね義妹ちゃん。私としたことが、つい熱くなっちまった」

義妹「いえ、大丈夫ですよ? …今の私にとっては、兄さん達が『家族』です」ニッコリ


幼馴染「…………」


兄「…んと、そういえば母馴染さん、このお店、内装を変えたんですね。雰囲気が凄く変わって驚きましたよー」

母馴染「あ、ああ。…そうそう、思い切ってモダン風に変えてみたんだ。いつまでも昔ながらの大衆食堂じゃちょいと手狭になってねー」

幼馴染「…あはは、新しく店主さんも雇って、経営形態も、私達家族がオーナーってことになってるんだよー」

義妹「え、えと、そ、そうなんですかー」


………………


友「……あー、失敗したなー」


兄「ん?」

友「先刻、微妙に盛り下がってた時あったろ? 俺らが自己紹介する、絶好の機会だったの、今気がついた」

義妹「あう、そうでしたね。女さんもごめんなさい。私達のせいで」

女「…イイエ、キにシナイデクダサイ。ワタシは、あまりクチがウマクナイ。きっと、ゴメイワクをかけていたでショウ」

幼馴染「ん、過ぎたこと過ぎたこと。…それに、お父さん居なかったし、お母さんも忙しそうだったし。…とりあえず顔見せ出来ただけでも、まずは満足ということにしよう!」



兄「……そうだな、人生前向きが一番だ。ほい、レシピ通り、焼き日本蕎麦あがったぞ」


幼馴染「ありがと。女さん、これ茶蕎麦で作ると『瓦そば』って言うんだよ?」

女「カワラソバ?」

友「…山口県の名物、俺の故郷の郷土料理。it”s カントリーフード、…であってるか?」

義妹「ええ、通じると思います。以前、翻訳サイトそのままに、『local culinary specialities』と言ったのを、姉さんに『堅苦しい』と笑われてしまいました」

友「うし!!」

幼馴染「日本の風習だよ、引越し蕎麦。細く長く、今後ともよろしくってね!!」

兄「本当は、引っ越してきた側が配るもんだけど、…ま、いいや。幼馴染、適当に蕎麦を皿の上に乗せてくから、飾りつけ頼む」


幼馴染「はいよー、料理をしてくれた兄君には、錦糸卵を大目に進呈しようか?」

兄「いやいや、俺の分はいいから…。主賓の女さんのに多くしとけ」


女「ヒッコシソバ…、…move…neighborhood ?」

義妹「はい、その通りです。『そばに引っ越しました』、といった日本語の意味合いも含まれています」クスクス

女「……///」ニコッ

友「おーい、ほうじ茶入ったぞー」

幼馴染「おし、義妹ちゃん、飲み物回していってー」


義妹「はい、分かりました。皆さん、熱いので気をつけて下さい」

女「ho-ji tea ?」

義妹「あ、これは焙じ茶と言いまして、茶葉を蒸しながら炒ったものです。紅茶ではなく、兄さん、これは日本のオリジナルですか?」

兄「多分そうじゃないか? 友、箸配れ、箸」

友「おう、任せとけ。女さんも割り箸? フォークの方が良いのか??」

女「……ダイジョブです。chopsticks、しっかりムコウでトレーニングしました。ニマメ、アズキ、なんでもコイです」

幼馴染「おお! やるね!!」


義妹「はい、皆さん料理、行き届きましたね。早く兄さんも席についてクダサイ」

兄「あいよっ、って義妹、お前、女さんの言葉遣いが感染ってんぞ?」

義妹「……あう///」

友「ほら、幼馴染、いっちょ音頭取ってくれ!景気良くいこうぜ!!」

幼馴染「まかしときっ! それじゃ皆、湯呑みを持って


「……いくよ!!!」


一同「「「「 welcome to japan !!! コンゴトモヨロシクッ!!!!!!」」」」


……………………
…………

下駄箱――――――放課後


友「お、今から帰りか?」

兄「ああ、違う違う。ちょいと、これから図書館にでも寄ろうかと思ってる」

友「? え、文学青年気取り? むしろお前って本を読む人間なのか?? イメージと違うというか、何か意外だな」

兄「…………」ニヤニヤ

友「否、そうじゃないな。何かあったな?」


兄「ぐへへ、見晒せ崇め奉れ」

友「なになに…、『拝啓、兄様。お話があります。よろしければ今晩19時に、校舎裏に来てくだしあ。お話したいことがあります…』???」

兄「…ああ、今時珍しい。もとい絶滅危惧種。昨今、環境省やiucnから保護対象に指定されている『ラヴレター』って奴だろう…」

友「……文体は微妙だが、この丸っこい特有の文字と可愛らしい便箋は、間違いなく女の子が関係している???」

兄「……我が世の春が来た!! グッバイどどめ色の青春!!!」

友「えー、あれだろ? 悪戯や罰ゲームの類?? …そうじゃなきゃ、なんだって、こんなシスコンの権化みたいな人間に、わざわざ言い寄ろうとする女の子が存在するだろうか?」

兄「反語にしようと、この手紙は反故にはしないぞ?」ケケケ


友「…えー、世の中おかしいって。もっと良い男がいるって、ほら、俺とか、俺とか、俺だとか」

兄「……悪いな。童貞と厨二病は拗らせるなって、日頃、親父と義姉さんから、口を酸っぱく躾けられているんだ。さらば童貞の日々!!」

友「…………」

兄「ああ今の俺なら! 脳内で生キャラメルが余裕でダースは作れる!! サンクス、手紙の女の子!!!」

友「」カチカチ

兄「あ、おい。何処にメール送ってんだ?」

友「…何処って、幼馴染と義妹ちゃん。こんな面白…、げふんごほん、勇敢なる親友の果敢なる出征を見守る会を結成しようとだな」

兄「はん、どーせ変な期待してんだろ?」

友「…まっさっかー。マッカーサー、マッカな空を見ただろうかー。実は『ごめん、下駄箱を間違えてました。あんたに興味ありませんー』、とか期待してたりしないぞ?」


兄「言ってろ、後悔させちゃらい」

ピロリーン♪
ピロリーン♪

友「お、返信早いな」

兄「二人、どんな反応だ?」

友「…『善戦期待してる。by幼馴染』『そうですか。by義妹』。ありゃ、思ったより味気ない??」

兄「くそっあいつら、失敗前提で話してやがる! 告った側、俺じゃないのに!!」

友「ぐはは、御愁傷さまってな」


ピロリーン♪

兄「お、メールがもう一件?」

友「おお、せっかくだし、女さんにも送っといた。昼、お前が飯作ってる間に、皆してアドレス交換をしてだな……」

兄「はあ!? 聞いてないぞ!!」

友「へっ、そりゃ人徳ってもんだ。…初々しく、日本の赤外線機能を使う女さんの姿…、ありゃ眼福モノだったぜ?」

兄「…ぐぬぬ。女さんは?」

友「『goog luck. god bless you !』。頑張れって、女さん真面目だー」


兄「…えー子や。女さん、エエ子や…」ホロリ

友「泣くなし。…ま、冗談はこれぐらいにして。その手紙の子、可愛いと良いな?」

兄「だなー。だろー、あひゃひゃひゃ!」

友「」ウゼェ


兄「んじゃ、また明日なー」


……………………
…………

校舎裏――――――夜


友「…………」
幼馴染「…………」
義妹「…………」

友「……んで、当然の様に、出歯亀として俺らが居ちゃうわけだが?」

幼馴染「当たり前じゃん。私も手紙の女の子見てみたいし、新しいご近所になるかも知れないし。純粋に女の子として興味もあるもん」


友「ん、義妹ちゃんも来てたのか」

義妹「」コクン

友「…よしよし、俺は良い友人達に恵まれたようだ」

幼馴染「あ、義妹ちゃん、今日の夕食当番じゃなかったっけ?」

義妹「申し訳ありませんが、兄さんには、今日は生徒会の仕事で遅くなると……」

幼馴染「……悪だー。やるね、義妹ちゃん。帰りにうちの店に寄って、お惣菜替わりに何品か持ってって良いよ」

義妹「ええ、ありがとうございます」


友「しっ、そろそろ時間だ。…兄の様子は? 奴はもう来ているのか?」

義妹「あ、時間通りに来たようですね」

幼馴染「兄君、手足の左右が同じ側…、あれってなんば歩きだっけ?」

義妹「……兄さん、幼馴染さんしか、異性の知り合いっていませんから、基本的に女性に免疫がないんです」

友「よし、件の女の子も来たようだ。もう少し近づこうぜ」


幼馴染「……え? あれって???」


………………


兄「―――女さん、か?」

女「…」

兄「ええと、この手紙の出し主ってもしかして……」

女「」スッ

兄「ん? 握手?? お、おう、さすが外国の女性、積極的だな」

女「…………」

兄「……あ、柔らかい」

女「……」

兄「あの、女さん? そろそろ何か喋って頂けませんか? この沈黙と申しますか、無言の圧力と申しますか、静寂が耳に痛くなってます」

女「――――貰った!」


………………


友「? 兄の奴、握手を始め…」

義妹「否、違います!! 握手ではありません! 小手捻りです!!」

友「さ、さらに……?」

幼馴染「あ、あれは!? 相手を斜め前方に崩し十分に引き付けて自分の腰に乗せ、一方で足で相手を払い上げて投げ飛ばす…………」

幼馴染「払い腰ぃぃぃっ!!」


友「決まったーーーーっ!!」


………………


女「……」

兄「……おいおいおい、何ですか何なんですか? 最近の告白ってのは、いきなり相手を投げ倒して腕ひしぎ十字を決める行為でしたっけ?? イージーラブ!イージーカム!イージーゴー!!ずっと未来は現実的ですねっ!?」

女「…黙れ、殺すぞ?」

兄「すいませんね! うちの家系は、先祖代々、ネタをはさまないと死んじゃう病なんでね!!」

女「……」ギチギチギチ

兄「ノー! ロープ! ギブギブ、ロープ!!」


女「……よし、貴様は黙って私の質問に答えろ。分かっているとは思うが、沈黙は敵対行動と判断させて貰うぞ?」

兄「あー、了解了解! 平々凡々、日々安穏と過ごす日本のいち男子高校生が、米国海兵隊直伝の軍隊格闘術に適うわけないし! 沖縄からわざわざご苦労さん!!」

女「む? 何故、私が海兵隊出身だと? やはり、さすがは日本屈指の《宝探し屋》。息子の目も育てていたか……」

兄「嘘ッ!マジ?! 適当に言ったら、なんとやら?!」

女「……」ギチギチギチ

兄「ノー! ロープ! ギブミー、ロープ!! 女さんの日本語が御上手なのと、昼間の言動から違和感を覚えていたので、適当な当て推量を申し上げましたっ! からかってすいませんでしたっ!!!」


女「…ほう、違和感だと? 今後の為、参考までに聞かせて貰おうか」

兄「……」

女「? どうした? 早くしろ」

兄「あー、はいはい。簡単に言えば、『てにおは』の話っす。外国の人が日本語を学ぶ際に、最初の壁となるのは、主に2つ。『3つの異なった文字』と『助詞』の問題です」

女「……む、続けろ」

兄「前者は文字関連なのでさっくり割愛しますが、後者は言語文化。女さんは俺らの会話を聞いて、時々内容の確認をするなど、新人外国人にありがちそうな行為に気を配っていました」


女「ふふん、それがどうした?」

兄「…しかし、ぶっちゃけると、日本語は比較的難解なくせに曖昧な言語で、例えば、俺が話すテケトーな口調と、義妹の話す丁寧な口語は違いますし、友や幼馴染の話す言葉も、その会話文の構造が全く異なっています」

女「そうだ、日本語の妙だな」

兄「…つまり、複雑な三者三様の会話を、女さんはその場で理解して処理する語学能力を有していて、箸を使うことも出来るわけで…」

女「? それがなんだ? 普通の日本好きもそれくらいするだろう?」

兄「……でも『くだしあ』はねーよ、狙いすぎ」プッ

女「…」ギチギチギチ

兄「…あ、痛いです。とっても痛いです。『…お前はモシンナガンの白い悪魔か?』とか思って、本当にすいませんでした!!」


………………


幼馴染「……ね、あれって喧嘩だよね? そろそろ止めに入ったほうが良いのかな?」

友「否、おおかた、兄の奴が失礼なことを言ったんだろ? …で、女さんが怒って、特異の特異格闘技で伸しちまった、と」

幼馴染「私サビオあるけど……、打ち身用のテーピングは無いなぁ。この時間だと部活の人も帰ってるだろうけど、何時まで保健室って開いてたっけ?」

友「さび…、何??」

幼馴染「えっと、あー、あははー、うん絆創膏。バンドエード!」

義妹「……友さん、幼馴染さん」

友「お、義妹ちゃん、どうした?」


義妹「…いえ、そのまま頭の向きを変えず目だけでお互いを見て下さい。そして、その際に、絶対声を漏らさないで頂けますか?」

幼馴染「?」
友「?」

幼馴染&友「…………!!」

義妹「……確認したら、私の方にも視線を…。私の額にも同じものが?」

幼馴染「……ん、あはは、お揃いお揃い。赤い光点がフラフラしてる」

友「これ、レーザーサイトだったか? 映画でよくあるよな……、狙撃班が強盗を説得する時とか、戦争モノなら突入前の緊迫を煽るようなシーンとか…」

義妹「…………」

幼馴染「…うう、よもや自分が狙われる立場になるとは」


友「……義妹ちゃん、兄の戦闘スペックはどうなんだ? 親父さんが凄腕の冒険者って聞いてたんだが?」

義妹「いいえ……、残念ながら、兄さんと私は、《精神感応金属》製のa.m.スーツや高周波ブレードを扱ったり、奥の手でライカンスロープに変身したりするような特技を持ち合わせていません」

友「あくまでも、普通の高校生ってことか……」

義妹「…勿論、多少の戦闘訓練の心得はありますが、基本性能は一般の方とほぼ互角。ですので、兄さんが狙撃銃という『反則』を持ち出す相手に並ぶためには、大きく求められるものがあります」

幼馴染「……チャンスを最大限に引き寄せるための、天運」


義妹「―――勝てるかどうかは、兄さん次第です……」


……………



女「―――要約すれば、『習得困難な助詞を完璧に習得していた』ため、貴様の不信感を買ったわけか…。なるほど、道理だな」

兄「そっす、そーゆーわけっす……、だから、いい加減力を緩めて頂けませんか? 抵抗なんてしませんって」

ピロリピロリピロリ…♪

女「む、監視班か、―――何があった?」

兄「……おお、衛星電話、久しぶりに見た。やっぱしカーキ色の衛星電話を見ると、『the・軍隊』って気がするよなぁ。米軍装備の第一印象って、シンプル・イズ・ベストだし」

女「――ふむ、協力に感謝する。引き続き周囲の監視任務を」

兄「あ、わりと短い……。定時連絡のお時間っすか?」


女「……虚言を弄すな。はっきり言って耳障りだ」

兄「…………」

女「今、潜伏中の仲間から、貴様が用意していた伏兵を発見したとの報告があった。…無駄な足掻きは諦めろ」

兄「? 伏兵?」

女「……とぼけるな、義妹とか言ったか? その他に貴様の身内が2名。…狡猾な用意周到さだけは褒めてやる。だが、相手が些か悪かったな。我々を舐め過ぎだ」

兄「???」

女「さあ、茶番は終わりだ。……貴様が知る限りの《魔術師》関連の情報を出せ、これは『お願い』ではなく、命令だ」

兄「……は?《魔術師》??」


女「…はやくしろ。捕獲対象、《魔術師》。…我が祖国における最重要人物に名を連ね、貴様の父親とも親交があった人物だ」

兄「あ、親父関係?」

女「…先日、《魔術師》が突如我が祖国から姿を消し、数日前から、この小さな町の監視カメラに映っているとの報告が『コーアン』とかいう諜報員から入っている。隠し立ては出来んぞ?」

兄「…コーアン、…コウアン、……ああ、『公安』か」

女「当初、我が祖国は穏便に事件を終息させる方針で、内密に話を進めていたが、調査中、貴様の父親と《魔術師》との関係に至り……」

兄「『…両者の間に密約があったのか? …事件の背後に何らかの組織が関わったのではないか?』とか、そんな疑心から容易に手を出すことが出来ず、結果として、軍上層部はこの町に女さんを送り込むことを決めた、と」

女「その通り。……さっさと奴の居場所を吐け」ギチギチギチ


兄「おおふ、腕が抜ける、bb戦士並みに抜けそう! 人間の間接はポリットキャップ製じゃねぇ! ……でも何で親父が関わって来るんですかね?! たまたま偶然そいつがこの町に観光旅行に来た、なんて線もあるだろ?!」

女「む、聞いていないのか?」

兄「……知らんな、って力を強めないで頂けますか!?」

女「貴様の父親は、我が祖国で国籍変更の要請を行い、政治的圧力を用いて無理やり認めさせたのだが、その際に、後ろ盾となったのが……」

兄「ああ、その《魔術師》って人物か」

女「とぼける気か? それとも、やはり指を二三本折ってからの方が、貴様の口も軽くなるか?」

兄「んな上級者じゃねえし! ……親父は仕事を家に持ち帰らない人! 生憎さっぱり、とんと分からん、皆目見当もつかねえ!!」


女「……狙撃班、発砲を許可する」

兄「おい!」

女「目標は、後方の茂みの中の誰でもいい。……ああ、狙いは何処でも良い。頭部に当たって失明しようと、腹部に当たって骨折しようと知ったことか」

兄「おいっ!」

女「? なんだ? 貴様の様な人種には、他人の痛みの方が効果があるのだろう? 心配せずともゴム弾を使用する。……安心しろ、我々は貴様に『優しい』のだからな」

兄「…………」

女「どうした? 我々の説得に応じ、素直に情報を話す気になったか?」


兄「…ああ、降参だ降参」

女「ならば、説明を。《魔術師》は何処にいて、何を目論んでいる?」

兄「……からかったのは悪かったけどな? 先刻から言っている通り、俺と義妹は完全な部外者で、本当に何も知らされていない」

女「……狙撃班!」

兄「嘘じゃねえ!……俺の学ランのポケットの中に携帯が入ってる! 取り出して見てみろ!!」

女「……ふむ、登録件数は全部5件。家族3件に、友人の名前が2件。…随分と侘しい内容だな?」

兄「一番上が、親父との直通の連絡先。アドレス件数に関しては放っといてくれ。女さんが思うほど、日本の男子高校生が青春を謳歌しているとは限らないんだよ……」


女「……罠かもしれん。これは預からせて貰うぞ?」

兄「好きにしてくれ。……だが、義妹に少しでも手を出せてみろ? 俺は協力も譲歩もせんし、どんな手段を用いてでもお前を殺してやらぁ」

女「……その目つき、まず勇敢なことだ。……まあ、良いだろう。狙撃班、状況は終了。発砲許可は撤回する。その場で待機を」

兄「…ったく、おちおち落ち着いて、豊かなおっぱいの感触と年上の匂いを楽しむことも出来ませんってか?」

女「? 何か言ったか?」

兄「いーえ別に、……女さんが年上だとか思っただけです」

女「? 米軍の志願は18歳以上。年齢に関して言えば、私が歳上なのは当然だが?」


兄「はいはい、そーですね! 初等教育三ヶ月ゴクローサンでした、女一等兵殿!!」


………………………
………………


校舎 屋上――――――深夜


?「……やれやれ、やっと引き上げてくれたか」

?「…………」

?「…ま、一時はどうなるかと思ったけど、どうやら尻尾を掴まれずに済んだようだ。結果オーライというか、旧友には迷惑を掛けてしまったようだが、保護生活とは名ばかり、軍隊式の軟禁生活は飽き厭きだ」

?「さあ、やっと長い長いプロローグの終わり。喜劇と悲劇、僕の僕による僕のための活躍譚と始まり」

?「せっかく開けた新天地、僕の名前は……、」

?「……うーん、エドワード・ケリーは古過ぎる。サンジェルマンも使い古し感が半端無い。…フライング・ダッチマン? ……んーん、マレヒト・マレヒト??」

?「ああもう、通例通り《魔術師》で良いや、めんどくさいし……」


魔術師「…ははっ、『おもしろきこともなき世におもしろく』! この三千世界の鴉を殺し、良い世界を築き上げて見せようじゃないか!!」

―――to be continued !!


♪~ed~♪


………………………
………………………


《h.a.n.tの情報が更新されました》


【あ行】

・兄(あに)…………………主人公、高校2年生。
・義妹(いもうと)…………主ヒロイン、高校1年生。
・幼馴染(おさななじみ)…準ヒロイン、町内会長の一人娘。
・女(おんな)……………準ヒロイン、米軍海兵隊。

【た行】

・友(とも)…………………兄の友人。
・《宝探し屋(トレジャーハンター)》……《秘宝》の探索者。


………………………
………………………


>>次のエピソードに進む。


(アバンタイトル)


校庭――――――朝


兄「……はい、おはようございます」

兄「…あの後、自宅まで兄妹ともども帰れただけでも充分に儲けモノ。あんな、他国の軍隊と渡り合って、今現在も尚、五体満足なのが不思議なくらいだけどさ……」

兄「……あー、朝一の体育ってなんでこんなに欝なんだろ? それに、隣のクラスとの合同とかいっても、女子とは完全別個。……色気もへったくれも無いイカ臭い野郎どもと汗を流してもなー」

兄「ははっ、友のヤツ今日に限ってショックで学校を休むとか言ってたけど、いやいや、本当に休みたいのは俺や義妹の方だっての」


体育教師「おーーし、お前らーーーー!! 二人組みを作れーーーーー!!!」


兄「oh,son of a bitch……」


………………………
♪~op~(約1分39秒)♪
………………………


【2nd.discovery『蜃気楼の少年』】

(校舎内 教室――――――午前)

―1―


…キーンコーンカーンコーン…


幼馴染「あ、おっはよー」

兄「ああ、おはよーさん。朝っぱらから元気だな」

幼馴染「あれ? なんか朝からテンション高い? おかしなものでも食べた?」

兄「馬鹿、食わねーよ。…これでも俺は、性格以上に意地汚くならんように、ひっそりと頑張る影の努力家タイプを自負しているんだが?」

幼馴染「……へー、そーなんだー(棒」


女「……む、『モラルは防弾チョッキにも勝る』だと? 貴様、よもや社会主義者か?」

兄「おいこら…、その原典が分かる高校生、日本だとほぼ間違いなくゼロだからな? 冷戦とか知らない世代だかな?」

女「ふふん、貴様は分かるではないか。革命家」

兄「……現代日本においては、どんな革命家でも、武力に頼った時点で内乱罪が確定。革命家を名乗るなら、最低でも終身刑を覚悟しろよ?」

女「なんだ、昨晩の皮肉のつもりか?」

兄「いーや別に。…ってか、口調を直さないんですか? 昨日の『初心な留学生』を演じなくても?」

女「……ああ、不必要だ。『あれ』は貴様を油断させることが目的であって、貴様が私の正体を知った以上、偽装を続けるメリットがない」


兄「おい、幼馴染?」

幼馴染「……あはは、クラスの皆も多少驚いてたけどね? 自衛隊の人に日本語を習ったということで落ち着いていたよ」

女「ふむ、全ての障碍はクリアした」

幼馴染「ま、言葉の壁が無くなって、女さんと気軽にお喋り出来るのは私達にとっても、ええと…、願ったり適ったりだっけ?」

兄「…ああ、意味は伝わってくるからok。現代文赤点のお前なら、少し前までなら『踏んだり蹴ったり』とか言ってたのにな?」

幼馴染「……ううう、否定出来んのがツライわー」


女「む、そうだ、貴様から没収した携帯電話を返さねば…。世話になった」

兄「あ、どーも。……繋がりました?」

女「ああ、繋がった。繋がった時、繋がっていた」

兄「? 女さん、日本語間違えてないか??」

女「否…、電話が繋がったとき、ちょうど貴様の父親と貴様の母親が、こう…、ベッドの上でギシギシアンアン……」

兄「……止めろ! それ、絶対後で気まずくなるヤツだろっ!?」


女「……などではなく、上層部が既に貴様の父親とのコンタクトを取っていた。ゆえに、『貴様の携帯が』繋がった時、『上層部で』繋がっていた」

幼馴染「あ、女さんって、意外と冗談も言えるんだ」

女「ジョークも海兵隊のたしなみ…。私を甘く見るなよ?」

兄「……ジョークはジョークでも、ハートマン路線は頼むから勘弁してくれ。ベトナム戦争は米軍の敗北で終結しただろ?」

女「……ぬ、負けてはいない。あの時は、あれ以上の余計な犠牲を出さないよう、戦略上の理由からサイゴンを引き揚げただけだ。我が海兵隊の敗北ではない!!」

兄「うん、それを敗北って言うんだ。よく覚えとけ」


幼馴染「あはは、まあまあ、……それより、兄君は本当、何で朝から調子がいいのさ? 女さんの影響?」

兄「うんにゃ、今日の朝イチが体育だったろ?」

幼馴染「おー、ついに熱血路線に鞍替えしたの? …義妹ちゃん大喜びだね」

兄「…今日の男子の課題はテニス。そして、ボレー練習のために好きな人とバディを組めとのお達しがあった……」

幼馴染「ん? バディって、兄君、今日友君お休みじゃなかったっけ?」

兄「その通り…、友人の少ない俺のような人間にとって、あの種の命令は完全に苦行でしかない。……体育教師マジ許すマジ」


幼馴染「ちょっと、血の涙を流さないで……。床が汚れちゃうでしょ?」

兄「お前な……? もう少し労わりの気持ちを持った方がいいぞ? そうすりゃ馬鹿な男の一人か二人は簡単に引っかかってくれるだろ?」

幼馴染「…余計なお世話だっつーの。ほら、続き続き」

兄「…ったく、そんでいつも通り、それとなくボールを転がし続け、校舎裏で『の』の字を書いててやろうという俺に、思いがけず救いの神が現れた……」

幼馴染「おお、天網恢恢そうろう漏らさず」

兄「……いやいや、早漏は漏れるだろ? 正しくは、『天網恢恢、疎にして漏らさず』。しかも、それ悪人に対する天の目って意味だからな?」


女「つまり、幼馴染は貴様の存在自体が罪だと?」

兄「あほか…! 俺でも生存権くらい認められとるわ! 憲法25条できっちり定められとるわ! ミミズだってオケラだって、アメンボだって、皆みんな精一杯生きとるからな!!」

女「……否しかし、日本国憲法は、基本的に人間にしか認められていないだろう?」

兄「いやいやいや、俺、人だから! 近々、両親が国籍変える予定だから、日本人かは微妙だけど、ホモ=サピエンスなのは確定してるからな!?」

幼馴染「……兄君、残念だけど、厳密に言えば『ヒト』と『人間』は違うんだよ? ヒト科ヒト属ヒトは、学んで学習して、やっとこさ『人間』に……」

兄「いきなり哲学的な問答を始めるな、気分悪いわ!!」


幼馴染「……だって兄君の話、つまんないだもん。単に、『一緒に組んでくれた心優しい人がいた』ってことでしょ?」

兄「察せよ…、俺にとっては衝撃的だったんだぞ? …ゼロがイチに、無から有を生み出す苦労、お前は知らないだろ?」

幼馴染「うん、知らない。知らないし知りたくもない。私、クリエーターより批評家を目指してますから」オホホホホ

兄「…………」

幼馴染「…で、兄君に付き合ってくれた奇特な人って誰? かっこ良かった?」

兄「おう、それなんだけど、そいつがまたドン臭くてって、あれ……??」


女「? どうした? 話を続けろ」

兄「あのさ……、うん、それなんだけどな?」

幼馴染&女「?」

兄「……すまん、相方の顔が出てこない。あれ? あいつ、どんな体格だっけ? どんな声だったっけ? どんな雰囲気だっけ?」

幼馴染「え……。ちょっと止めてよ、その歳で健忘症?」

兄「なあ、幼馴染……」


兄「――――…俺、一体、『誰』とテニスをしてたんだ??」


―2―


幼馴染「…というわけなのよ。おかしいと思わない?」

義妹「はあ、なるほど…」

幼馴染「結局、その後の休み時間もその男の子を探すとかで、友達いないのにわざわざ無理して隣のクラスに行っちゃうしさ」

義妹「あの、家族の私としては、兄さんにご友人が出来るのは喜ぶべき事態なのですが……?」

幼馴染「……ううん、義妹ちゃん。古馴染みの私としては少し寂しいと言うか、とてもつまらないと言うか、とにかく…、複雑な気持ちで一杯なのです」

義妹「ええと、とどのつまり、私達一年生の教室まで愚痴りに来られたのですか?」

幼馴染「えー、なんだよー。文句あんのかよー」

義妹「いいえ、文句はありませんが…」


幼馴染「……ま、本音を言えば愚痴が95割。…残りの5割は、うちの妹分が普段どんな暮らしをしているのかって気になったからだよ。兄君の依頼もあったし」

義妹「? 兄さんの依頼?」

幼馴染「あー、んー、何でもないよー。義妹ちゃん学校に慣れた?」

義妹「はい、皆さん、それ程気に留めないようで…。一応、何人かお話を出来る方もいますし、なんとか上手くやっているのではないでしょうか?」

幼馴染「うーん、微妙な回答だ。私の期待したのとちょっと違う…」

義妹「? 幼馴染さんの期待ですか?」

幼馴染「……そうそう、こう、新入生っぽく、『初めて出会った男子に胸がときめきました』とか、『あの先輩かっけー』とか、そんな色々恋々した物語!!」

義妹「? 姉さん、結婚しましたよ?」

幼馴染「否、あの人は別格! てか別次元! なしなし!…あの人基準で物事を考えると、きっと世の中が退廃的になるからノーカン!!」


義妹「…となると、今の私の手元にある恋愛要素はこの本くらいでしょうか?」

幼馴染「本? あー、義妹ちゃん、いかにも文学少女って感じだもんね。長く伸びた金色の髪の毛に、スッと優雅に椅子に腰掛けて、文庫本を片手でペラペラと……。うん、絵になる絵になる」

義妹「あ、いかにもな文学少女ですね。…そのイメージなら、今の私に足りないのは、メガネと執事。それに紅茶とスコーンでしょうか?」

幼馴染「いやいや、義妹ちゃんは、古き良き時代の東海岸の女の子って感じだし…、充分そのままで良いと思うよ。……んーで、何の本? 面白い?」

義妹「r・aハインラインの『夏への扉』です。まだ読みかけですが…」

幼馴染「…………」

義妹「? どうかされましたか?」


幼馴染「……あのさ、その本、絶対義姉さんの推薦図書でしょ?」

義妹「はい、一昨日の夜に映画談義になった際、姉さんから『お勧めの一冊だ』と紹介された書籍です。一応、古典sfの名作だと聞いていますよ?」

幼馴染「うん、間違っちゃいない。……間違っちゃいないんだけど、義姉さんがお勧めすると、完全に違った意味合いが含まれてるんじゃないかと疑いたくなる…」

義妹「???」

幼馴染「……それから、バブル期にとっかえひっかえ遊びまくり、今現在、独身に悩んでいる女性達にもまた、『別の意味で』お勧めしたい一冊でもあるわね」

義妹「仰られる意味は分かりかねますが、面白そうだということは分かりました。…あ、そろそろ時間ですね」


幼馴染「うーし、んじゃまた、お昼休みに…。場所が決まったらメール送るよー」


(校舎内 家庭科室――――――昼休み)

―1―


…キーンコーンカーンコーン…

兄「―――レンジでチーン。全く、文明の利器様々だな」

義妹「あ、女さんも温めますか?」

女「…否、必要ない。私の昼食はサンドイッチ、冷たいままで食することを主としている」

幼馴染「……でも具材、明らかに物々しいでしょ?」

女「む、そうだろうか? ……肉を肉を挟んだだけで、このシンプルな昼食に何も不自然さは存在しないはずだと思うが……?」

幼馴染「…はい、全国の女子に対する宣戦布告頂きました。ふんっ、女さんなんか除隊後に首をなくして、更年期には高脂血症で悩むがいいやい!」


女「? 幼馴染、何故むくれるのだ?」

義妹「……あの、女さん、日本の女の子は自分の体重1kgに命をかける生き物なんです。幼馴染さんは女さんの海兵隊基準の『お弁当』に驚いているのだと…」

女「ああ、なるほど。日本の10代20代の女性達に骨粗鬆傾向が見られる原因、この国独特の社会現象、ダイエットとやらか。…やはり日本人は真面目だな」

幼馴染「……がるるるるっ!」

兄「こら、吠えるな。……幼馴染、お前だって一日4500kcal分の運動をすれば良いだけだろ?」


幼馴染「……きゃいんっ! 無理だいやいやいっ!!」


ガラガラガラ…


友「……ちーっす、友でーす。…寝込みを襲われましたー」

兄「? 友、お前今日休むって―――」

友「……ああ、それが、いきなり自宅まで十数台の黒塗りのベンツが来訪、その後、『やあ、アンダーソン君』と言い放つ胡散臭さ満点のスキンヘッドのブラック・スーツに簀巻きにされ、一切の発言を許されない状態で連行され……」

兄「……おい、女さん?」

女「ふむ、恨むなら貴様の学友の軟弱な精神を恨め。…我々とて暇ではない。なるべく二度手間は避けろとの命令だ」

兄「『二度手間』って。……おい、俺達をここに集めた理由、まさか昨日の海兵隊がらみか?」

女「ああ、その通り。…本日この会合は、現在の《魔術師》関係の説明責任の遂行と、貴様達に対する協力要請を行うために、我々海兵隊が学校側に働きかけ、校長からこの一室を貸しきりにして設けられたものだ」


幼馴染「? えっ、懇親会じゃないの??」

女「……違う。そんな呑気な用件ではない。この昼食会は、非常に真面目かつ非常に高度な政治的の席だ」

兄「そう、女さんが素手で肉を摘み、もしゃもしゃ食いながらでなければな?」

義妹「はい、ペーパータオルです。お手拭にいかがですか?」

女「む、感謝する。兄、貴様には過ぎたイモウトだな」

兄「はいはい、そいつはどーも。その言葉は言われ慣れてるから、今じゃすっかり俺の耳には十匹単位のタコが住み着いてらい」

義妹「ほら、兄さんもむくれてないで…。唐揚げ、もう一つ要りませんか?」

兄「……くそう、くやしいことに出来た妹だ。代わりに俺のおかずも一品持ってけ」


義妹「それならミニトマトを1つ。私のお弁当箱には入りませんでしたから。…兄さんはトマトお好きですか?」

兄「いい、全部持ってけ。いらん遠慮をするな」

幼馴染「あのさ、それで、《魔術師》ってどんな人なの? マジシャンというだけに、凄腕の手品師なのかな? ナポレオンzooとか我田天候とかさ」

女「…む? コルシカのボナパルトがどうした?」

兄「あー、いんや、違う。俺の親父が関わってるから、恐らく一般認識に当て嵌まらないタイプの《魔術師》だと思うぞ?」

義妹「そう、なのですか?」

女「……ああ、組織末端の私に開示された情報だけでも、通常の感性からすれば、常識を逸脱しすぎて一笑に期すだろう内容だ」


兄「おい、……『一笑に』って、そんなヤバイ相手なのか?」



―2―


女「――さて、それではブリーフィングを始めよう…」

女「今回の捕獲対象、《魔術師》」

女「……実際のところ、《魔術師》の本名は不明、正確な出自も明かされていない。ただ、本人の弁に拠れば、彼が活動を始めた年代は、少なくともラムセスとムワタリが戦争をしていた時代まで遡るという」

女「……」

女「む、貴様らがそう胡散臭そうに眉をひそめる必要は無い。正直、私自身この報告書を見た時には思わずチョコ・バーを壁に投げつけている」

女「だが、紛れもない事実として、彼はこの約3000年間の歴史を見聞きし、時に身なりや名前を換えながら、時折、自分の気に入った権力者達に近づいていった事実に誤りは無い」

女「うむ、そうだな」

女「……彼を、通常の『生きている』、『死んでいる』の概念論で定義するのは不可能だ。『アレ』を普通の人間と呼ぶには少々障りがある」


女「―――『不老不死』、という言葉がある」

女「我々の祖国では、《魔術師》を一種の生体cpとして捉え、二次大戦以降、彼の持つ豊富な知識を保護し続けていた」

女「彼の行動原理は至って単純明快」

女「『より良い世界』と、『人々にとって楽しい世界』を作ること」

女「そのために、彼は主に『錬金術』と呼ばれる、未分離な科学的な手段を用いていたと、報告書には記述されていた」

女「……ああ、俗に失敗科学の代名詞とも呼ばれる錬金術だが、実際のところ、愚昧な貴族どもが卑金属を貴金属に変えようと、あの手この手を尽くした時代の夢物語ではない」

女「かの有名なアイザック・ニュートンをはじめ、ラボアジエ、クリストフらを筆頭に、当時の有名大学の教授達のほとんどが錬金術師に属し、現代科学の基礎を成し遂げた『錬金術師』達の功績は意外に大きなものだ」


女「基本的に、裏方好きの彼が歴史の表舞台に初めて出たのは、18世紀の仏、『サンジェルマン』と名乗った時代だと言われている」

女「彼は、複数のラテン語源言語だけでなく、中国、インドなどの言葉も使って当時の仏王ルイ15世に取り入ると、側近の政治顧問として重用され、数々の業績を為し遂げている」

女「…………」

女「……そう、ダイヤの傷を治しただけではない。公式娼舘『鹿の園』も彼の考案なのだと、彼自身は語っている」

女「―――当時、王家繁栄を望むルイ15世は、《魔術師》に依頼し、王の愛妾ポンパドゥール夫人が中心となって、貴族、市井を問わず若い娘達を鹿の園に集め、日夜、王家の子作りが行ったのだそうだ」

女「『王家の繁栄=子孫繁栄』。実に前時代的で、非常に分かり易い公式だ」


女「…この時、《魔術師》自身が行ったのは、鹿の園創設の際、嫌がる女性の説得や反対派の貴族を黙らせるために、僅か一晩で『説得』を行ったこと」

女「おい貴様。……貴様はたった一晩の間に、何人の女をくどき、ものにし、犯すことが出来る。何人の不平不満をぶちまける貴族共の口を縫いつけ、磔け、力づくで意見を変えさせられる?」

女「非常に奇妙で奇抜。それこそ、『奇跡』と呼ぶより他無い」

女「彼がどの様な手段を用いたかは不明だが、彼はその興味の赴くまま、ともかくも無秩序に『より良い世界』を作ろうとした」

女「…後に、《魔術師》自身、当時を振り返って『淫奔な王に飽きた』と述懐している通り、歴史上、サンジェルマン伯爵は1784年2月27日、彼が人々の前から姿を消し、その足跡は途絶える」

女「彼が何故この町にやってきたのか、彼がこの町で何をしたいのか……、はっきり言って、そんな些細な事象は、我々としてはどうでもいい」


女「―――我々は、《魔術師》の『奇跡』を阻止するため、この町を護りに来たのだ」



―3―


四人「…………」

兄「―――さて、あの野郎、好き勝手に言い残して帰りやがったけど、…ぶっちゃけどうすべきだろな?」

友「……どう、って言われてもだな? 俺ら一般市民は、女さんら米軍関係とは無縁過ぎて、そもそも住む世界が違うって言うか、なんつーか、唐突さに全然頭が回ってこねぇ」

幼馴染「……あー、要するに、『よく分かんないのがこの町に来てます』、『何をしでかすかが分かりません』、『とりあえず拘束しようかと思ってます』ってことだよね?」

義妹「はい、恐らく」

兄「ん、見事なほどに米軍式の三段活用だな。もうカウボーイ政権じゃないんだろ?」

友「ああ、米国初の黒人大統領が国民総保険を国内に取り入れるとかで、富裕層を相手に色々頑張ってるって、今朝のニュースでも言ってたと思うが?」

幼馴染「……うーん、でも、巻き込まれた側としては、そのまま放置しますってのもね?」


兄「義妹、お前はどうだ?」

義妹「? ええと、兄さんの方が荒事に慣れていませんか?」

兄「否、慣れ不慣れの問題じゃなくて、この中で一番お前が常識人だろ? 常識人の目から見て、先刻の女さんの話を聞いてどう思った?」

友「……お前な、俺らだってお前に比べれば常識人だって」

幼馴染「むぅ、そうだそうだー。性格が基本360°ひん曲がってる兄君に比べれば、私達だって常識人だい」

兄「360°って……、おい、俺、そんなに常識人だっけ?」

義妹「違いますよ…。幼馴染さんはフクロウの首を例えに出してるんです。フクロウがくるりと首を1回転しても、決して元の位置ではないですから」

兄「??」

幼馴染「ほほう、さすが義妹ちゃん。後でポンホールカメラを進呈しようではないか」

義妹「……そのカメラ、心臓に穴が開きませんよね?」

幼馴染「うん、開かない開かない。《魔術師》の話を聞いて、最近近所の古本屋で見つけた小説を思い出しちゃったい」


兄「? ま、いいや、義妹どうなんだ?」

義妹「ええと、…私見で申し訳ありませんが、私としては、女さんの全てを鵜呑みにするのは難しいと思っています」

幼馴染「あ、私も私も。女さんだけど、私たちに嘘ついてるか、隠し事してるか、どっちにしろ怪しんだ方が良いよー」

兄「それ、お前の勘だろ?」

幼馴染「ううん。うちの町内会だって小さいけど政治の場だって。 …町内会長の娘として、地元の有力者ともお話する機会があるんだけど、何となく、奥歯に物が挟まっているというかさ?」

義妹「……、恐らく、女さんの説明に具体性が無かったことが原因でしょう」

友「ああ確かに、《魔術師》が過去にやらかした出来事については時間を割いていたけど、他の物事はおざなりだったよな」


幼馴染「『奇跡』とか大層なこと言ってたけど、《魔術師》の扱いも狂犬病犬と一緒だったし、私たちじゃなく、完全に保健所の仕事だよね?」

兄「…なら、こっちに危害が及ぶようなら本気を出そうか。 俺達は怪しい人物を見かけたら報告するだけで良さそうだったし」

友「おう、典型的な日本人思考。事なかれ主義、万々歳」

兄「……おい、せめて君子危うきに近寄らずとかにしとけ。否定はせんが、人聞き悪いだろ?」

幼馴染「あ、午後イチの授業って何だっけ?」

兄「女教師の現代文。昨日で井伏鱒二が終わったし今日から宮沢賢治。課題は出てなかったから安心しろ」

友「……げっ、俺、教科書とか全部家だよ。今から戻るのだるいなぁ」

 
幼馴染「ん、いーよいーよ、私の見せたげる。せっかく席が隣になったんだし、仲良くしようよ」

友「ほ、本当か///」

幼馴染「……そのかわり授業中に寝てても絶対起こさないでね。試合近くて、部活の追い込みが忙しくてさ」アフアフ

兄「よし、幼馴染に倣って、俺も午後の座学は全部寝よう…」


義妹「こほん、…兄さん?」


兄「…とするのは、学生の本分に反するから真面目に受けますかね。…とほほ、先生熱心だし、美人だし……」

…キーンコーンカーンコーン…


友「お、予鈴だ」



(校舎内 教室――――――放課後)
………………………
………………………
―1―


友「うい、おつかれさん」

兄「…おう、おつかれ。友、今日はこれから部活か?」

友「ああ、対抗戦近いからな。幼馴染は、hrが始まる前に校庭一直線。ソフトボール部の助っ人だとさ」

兄「ははっ、あいつらしい」

友「兄も、部活動で青春を謳歌しないか?」

兄「……否、しない。二年生で新入部員なんて、入るほうも入られるほうも拷問だろ?」

友「うおう、まあ、否定し難い意見だな」

兄「今時、完全年功序列制度なんて流行らん。調和第一、桑田真澄を見習えと言いたい」


友「ん、成果第一とか、実力第一じゃないのか?」

兄「ああ、下手に成果第一なんかにしちまうと、頭の足りない人間は、本当に実力のある人間の足を引っ張り始める。ほら実際、靴に画鋲を入れたりするだろ?」

友「……あー、古典的な嫌がらせだな」

兄「友、友は前の学校でも水泳部だっけか?」

友「ん、おう、去年の試合を通じて知り合いを作ってたからな。お陰さまで、上意下達の組織社会にも馴染んでるぞ」

兄「水泳は個人種目だから、そんなに陰険でもないか?」

友「まあ、個人種目かつタイムという絶対基準があるからな。礼儀さえ弁えとけば、速ければそれなりのポジションにつける」


兄「うむ…、ご苦労さん」

友「こらこら、なんで上から目線なんだよ?」

兄「否、俺とは属する世界の異なる法律だからな。だから、これは上からの目線じゃ無くて、遠くから俯瞰してるだけ。とりあえず聞き流しとけ」

友「? なら聞き流しとく」

兄「あ、おい、女さんは何処に行ったか分かるか?」

友「……そう言えば、授業、途中退室してたぞ」

兄「そうだったか? 気付かなかったな、いつ出てった?」

友「…ああ、6講目の半ば。お前寝てただろ、女さんが気分が悪いとかで立ち去ったのを、グースカと背中で見送ってたし」

兄「それ、義妹に言うなよ?」

友「言わんよ。言っても詮無かろうな。そいじゃまた明日」

兄「んじゃな、頑張れよー」


兄「―――俺も帰ろうか、ってあいつ???」

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