菫「やっ、やめ……やめてくれ……」(412)


どうしてこうなったのか。

弘世菫は脳をフル稼働させて考えていた

いつものように朝を迎え、

いつものように登校し、いつものように授業を行い、

いつものように授業を終え、いつものように部活をした

いつもと変わらない、平凡な日常だった

なのに、

菫はその日常からかけ離れたところにいた

いや、場所こそ日常だったが、

いま自分の身に迫っているものは、

どう考えても非日常にほかならない。悪夢のようなものだった


菫「はぁっはぁっはぁっ……」

全力でその悪夢から逃げ出し、

乱れた呼吸を一生懸命に整える

肺が痛いし、呼吸するために鉄っぽい変な味がするものを、

口から吐き出しそうになる

辛い、苦しい。だが、

だが、動けなくなれば……終わる

菫「なんなんだ、なんだ。どこなんだここは!」

いつものように下校していたはずなのに、

下校途中から記憶がない。気づけば知らない建物の中。

建物を出ても、知らない場所。

彼女は――誘拐されていた


そして、今一番彼女を苦しめているのは、

追いかけてくる男だった

目を覚ますと、自分を襲おうとしているところだったのだ

全力で蹴り飛ばし、慌てて逃げてきた

縛られていなかったことだけが救いだった

だが、変わりに彼女は何も身に纏っていない

菫「くそっ……」

そんなあられもない姿で走り回るなど、

普通はしたくないししない。

しかし、そんな恥辱を気にしていたら、

間違いなく捕まる。そのことが何よりも恐ろしかった

菫「っう!?」

だが、裸足の足は徐々にダメージを蓄積し、

やがて。彼女は転んでしまった

足の裏は黒く汚れ、

その黒色に混じって赤が流れ出していた

菫「くそっ、くそっ……」

立とうとすると、

コンクリートの地面の出っ張りが傷を突き、

耐え難い激痛が走って、走ることはままらない

「無駄なことするなって、言いましたよね?」

男の声がすぐ後ろから聞こえる

そう気づいたときにはもう遅かった

腕を掴まれ、縛られた

足も縛られた

菫「なんなんだ……なんで……」

ハンカチが口に当てられ、眠気が襲ってきた

いやだ。やめてくれ。と、

抵抗することは……できなかった


目を覚まして、自分はまだ何もされていないことに安堵し、

逆に、これから自分はされることすべてを記憶しなければいけない

そんな恐怖に襲われた

菫「っ……お前は、お前は誰なんだ」

「誰って……そうですね。教えられません」

菫「私に恨みでもあるのか? なぜこんなことをする……」

できる限り長く、長く、時間を使う

誰かが自分がこんな目にあっていることに気づいてくれるように

「はははっ、貴女は恨まれるような記憶がありますか?」

馬鹿にした笑い、苛立った感情を抑えて、

次の質問へと移った


かちゃかちゃと何かを準備している男に対して、

延々と言葉を投げかけ、

男は男で、っかりと質問に答えてくれた

だが唯一、なぜ菫を襲うのかだけは答えなかった

やがて男の手が止まり、

菫はビクッと体を震わせた

「弘世さんに恨みはないんっすけどね、
  運がなかったと思って諦めてください」

自分ですら洗うときくらいにしか触れない恥部に、

その男は何の躊躇もなく触れた


菫「や、やめろ……触るな!」

縛られているせいで物理的な抵抗はできず、

怒鳴ることしかできない

だが、それは男を興奮させる要素でしかなかった

「そんなこと言われても止めませんよ」

菫「ふ、ふざけ――っ!?」

ピトッと冷たい何かが恥部に触れ、

言葉が止まる

「ローションっすよ。無害なんで安心してください」


化粧品とかでよく聞くローションという名前

だが、そんなところに使うようなものは、

菫には聞き覚えも見覚えもない

「弘世さん強情ですし、無理矢理でも良いんですけどね」

無理矢理?

無理やり何をするんだ。怒鳴ろうとしたが、

男はそれを予見したのか、

それとも予めの予定通りなのか、

ギャグボールを菫にかませた

「とりあえず、そんな濃くないみたいですけど、
  これ剃らせて貰いますね。そのほうが恥ずかしいだろうし」


菫「っ~~!?」

ジョリジョリという音が聴覚を責め、

恥部の感覚が、さらに菫の精神を追い詰めていた

菫(なんで、なんで……嫌だ、嫌だ!)

普段は白糸台麻雀部部長として、

強く心を保っていても、結局は年頃の女の子で、

こんな屈辱が耐えられるわけはなく、

頬を涙が伝った

「剃り終わりましたよ。ほら」

まじまじと見つめるものでもないそこを、

男は鏡を使って菫に見せた

少し毛が生えていたそこは、

完全に剃られてツルツルになってしまっており、

それが更に菫を追い込んでいた

ss速報が復活するまでの暇つぶし

咲の二次創作です

中断


全裸で縛られ、

羞恥心に染め上がった顔。

瞳から流れる涙が線を描き、

ギャグボールのせいで閉じれない口からは、

だらしなくよだれが垂れ流れており、

普段の弘世菫の威厳も面影もない、

屈辱的な姿になっていた

菫(やめろ、やめろ……やめろぉ!)

次に行われるえげつない行為が想像できず、

それが怖くて体が震える

「……ん~」

男は菫を見つめそろそろ良いか。と小さく頷き、

男が本来持ち得るモノよりも、

遥かに巨大なイチモツを模したモノを、

菫に見せつけた


菫「っ!?」

菫(なにを、なにを、なにをっ……)

それに似たものを、

彼女だけでなく誰もが保険の教科書で見たことがある

だが、それは絵であり、

立体的なそれは初めて見る

それをどのようにするのかも、

やんわりとしか知らない

「これを、ここに挿れるんですよ」

怯える彼女に対して、

男はわざと恥部をツンツンと刺激して伝えた


菫「ぅ~っ!? うぅ゛ぅ゛ぅ~!!」

察してしまった、解ってしまった

汚い悲鳴を上げ、菫は首を激しく振った

「初めてなんですか? ですよね、綺麗に閉じてますし」

男はそう言って小さく笑い、

見せつけながらその巨大なディルドを近づけていく

菫(っや、いや……いやっ……)

果てしない恐怖が菫を襲い、

果てしない屈辱が精神を蹂躙する

やがて恐怖に耐え切れなくなり、

恥部の辺りからほんの少し黄色く、

ほんのりアンモニアの臭いが香る液体が吹き出した


「っ!?」

菫「ふっくっぅ……」

ギュッと目を瞑り、

恥辱と屈辱と恐怖に耐える

しばらくして小水が止まり、

目を開けた菫の瞳に映ったのは、

信じたくないようなものだった

「……………」

濡れた服を気にせず、

男は菫の屈辱的な姿をカメラに収めていたのだ

男の手が伸び、

菫は再び恐怖に怯えて瞳を閉じた

だが、彼はただギャグボールを外しただけだった

菫「……っぇ?」

「良いもの撮れましたし、今日は勘弁してあげますよ」

男はそう言いつつ、カメラを菫に見せた

自分のありえないほどの痴態が撮されたそれを、

彼は握っている

絶対に通報してやる。そんな睨みを向けると、

男は笑った

「これが全世界に見られたいなら、そうしてもいいんじゃないですか?」

菫「っ……」

男は菫の携帯内のアドレスを全てコピーすると、

菫に投げ返した

「また今度、お呼びしますね」

そう言い残し、男は姿を消した

菫「ぅ、くっぅぅぅあぁぁぁぁぁぁっ!!」

場に残された惨めな自分が悲しくて、

菫は大声で泣いてしまった

菫が家に帰宅できたのは翌朝だった。

親を適当な言い訳で退けて、

ベッドに倒れこみ、膝を抱えこむ

菫「どうして、なんで、なんで私がこんな目に……」

恥辱に唇を噛み締めていると、

携帯が鳴り響いた


菫「メール……?」

あの屈辱の間に溜まったメール。

それよりも一番上にある、匿名のメール

それを開くと、一瞬であの男からだと解った

『昨日というよりは今日ですね。
  楽しかったです。ちゃんと学校に行きましょうか』

もうすでに学校は始まっており、

あの男は自分が欠席していることを知っている

その恐怖に体が大きく震えた

『来なければ……ね?』

そこでメールは終わっていた

菫「………………」

いつもは行くのを楽しみしていた学校

だが、今はただただ……怖いだけだった


教室に行くと、

全員が驚いた表情で菫を見つめ、

菫「少し、具合が悪くてな……」

菫がそう言うと、安堵の表情を浮かべ、

照「菫、本当に平気?」

菫の親友である、宮永照が近づいてきた

菫「大丈夫だ、しんp――ひぅっ!?」

突然膣内が震え、

情けない悲鳴を上げてしまった


照「菫!?」

菫「へ、平気……だ」

手を貸そうとした照を払い除け、

自分の席へと座る

菫(これを……耐えきるだと……?)

それが男からの指示だった

下駄箱に入っていたうずらの卵ほどの小さなボール

それを膣内に入れて授業を乗り切れ。という指示

それくらいなら平気だと、

指示された通り、同封されていた液体をそれに塗り、

恥部にも塗りつけて中へと入れたのだ

それがまさか振動するなど、予想だにしていなかった


授業中も不規則的に弱い振動、強い振動が襲い、

その度に体が震え、不思議な感覚に悶え、

現在は四時間目が終わって昼食の時間

菫「はぁっはぁっはぁっ……」

図らずとも淫靡な声が漏れてしまい、

周りの生徒は心配そうに菫を見つめているだけ。

最初こそ手を貸そうとする者もいたが、

菫本人に拒絶されて見ているしかできずにいた


菫が手助けを拒んでいるのは、菫自身限界にきているからだ

誰かに不意に触られたりなんかしたら、

それだけで不思議な感覚が爆発し大変なことになる。

そう直感で理解して、だから菫は避けていた

なぜ経験も浅い菫がそんな状態になったかというと、

膣内に小さなボールを入れるときに使った液体が原因だった

それはやや強めの媚薬であり、

遅行性だったため最初は気づくことがなかったが、

ここに来て全身にそれが回ってきたのだ


だが。

それを知らない一人の少女が、

机にうつぶせになっている菫の体に触れてしまった

その瞬間、電流でも走ったかのように菫の体がビクンッと跳ね上がった

菫「ひっ、ぁっあぁぁぁっ」

初めての感覚に声が抑えられず、

恥部から少量の液体が吹き出し、菫は気を失ってしまった

照「す、菫!? どうしたの? 菫!!」

ピクピクと痙攣する菫に、

照は何もできず。ただ慌てていた


菫「っ……ぅ?」

見えるのは天井

体には白い毛布がかかっており、

すぐに保健室のベッドだと解った

菫(そうか……気を失ったのか)

幸か不幸か着衣には触れられていないようで、

自分の恥ずかしいものもバレてはいない

そのことに小さく安堵してしまうのは慣れてきているからだろうか。


菫が股に触れると、

ぐじゅっという音とともに、

昼間よりは少し弱い感覚が襲ってきて、

思わず声を上げそうになり、

ギュッと口を結んだ

菫(なん、なんだ……?)

何か良く解らない不思議な感覚。

だが、それが気持ちの良いものだというのは、

体と本能がなんとなく理解してしまい、

だからか……手が勝手、恥部を弄り始めてしまった


菫「ふっ、くっぁ……ぁはっ……」

水々しくいやらしい音が保健室に響く、

幸い誰もおらず。

菫がそんな行為に及んでいるなど誰一人知る由もない

菫(き、気持ち……いいっ……のにっ)

一番最初の強烈な感覚が頭から離れず、

それを求めて何度も何度も弄る

不慣れな手つきで弄っている事もあるが、

一番は媚薬の効果が切れてしまっていること

そのせいで快感は通常の自慰よりも弱く、

気持ちが良くても満足できず、

徐々に苛立ちさえ起こり始めていた


菫「なんでっ、なんでだっ……」

何度いじっても並以下の快感しか得られず、

それを予見してか、菫の携帯が震え、

菫は心なしかあの男からであることを期待し、

携帯を開いた

『今日は白糸公園に来てくれ』

菫「っ!」

メールが来た

そのことを喜ぶ自分に唖然とし、

絶望して、でも体が快楽を求めているという事実は隠せない。

その堕ちた体を、ぎゅっと抱きしめた


とりあえずここまでだな

明日もss速報が治ってなければ来る

id変動激しいんで一応酉付け

照「菫、平気?」

メールから暫くしてhr終了の鐘が鳴り、

それとほぼ同時に照が訊ねてきた

菫「あぁ、問題ない……済まないな。みっともない姿を晒してしまって」

照「ううん、良い。菫が無事なら……それで」

心配そうに言葉をつなぐ親友に菫は本当のことは言えなかった

自分が昨日誘拐され、

とんでもない痴態をカメラに収められてしまったこと

男の指示に逆らえないこと。

自分の膣内に異物が混入していること。

これからもまた、その男と会わなければいけない事。

そして……自分の体が快楽を求めていること

菫「……今日は、部活には出られない」

照「うん、気をつけて」

心配してくれる親友に、菫は何一つ、教えることはできなかった


そして菫は公園にやってきていた

男と会うために。

怒りと、憎しみと、期待を抱きながら、

菫は男が来るのを待ち、やがて――

菫「っぐ!?」

膣内が激しく振動し、

菫は思わず膝をついた

夕方ということもあり、

誰もいないことが救いだろうか、

菫はあの時ほどではないが、

びしょびしょになった下着を更に湿らせてしまい、

吸いきれなくなった下着は、

地面にそれを滴らせ跡を作っており、

傍から見たらそれはもう……おもらししている様なものだった


「うわ……」

菫「っ、ち、ちが――ぁ」

後ろから声が聞こえ、

否定しようと後ろを向くと、

自分が会おうとしている男であり、

現状を知る人物だったからか、

それとも、純粋に男に会えたことに。か、

菫は小さく安堵のため息をついてしまった

「気持ちよかったっすか? 飛んじゃうほど」

菫「な、なんだったんだあれは……」

極めて冷静に尋ねる。

膣内の震えは止まっており、なんとか感情を覆い隠せていた

「男で言うところの射精ですね、まさかオナニーすら未経験とは……」

驚いた様子で男は菫を見下していた

菫「オナ……ニー? なんだそれは」

「なんだって……保健室でしてたじゃないですか」

菫「なっなにっ!?」

あの部屋には誰もいなかったはずだ

そう思い、嘘であることは明白だったが、

明白であるがゆえに、答えてしまった

菫「保健室には誰もいなかったはずだ!」

「いませんでしたよ?
 いやぁ、いないからってそんなところ弄っちゃうなんてねえ」

菫「っ~~~~!!」

恥辱に染まる

見られていなかったのに見られてしまっていた

そんな最悪な状況に、彼女の体はほんのり火照っていた

そのことに気づき、菫は唖然とし、男はにやっと笑みを浮かべた

「変態ですね、弘世さんは」

プライドの高い菫の心を、その言葉は強く踏みつけた


菫「っ……」

そんな菫お構いなしに、

男は腕を強引に引き、立ち上がらせた

「さて、とりあえず移動しましょうか」

そう言い、男はなにかのスイッチを入れ、

その瞬間、また強い振動が菫を襲った

菫「ひっぃっ……ぁぁあっ」

崩れそうになるが、無理に立たされて腰がガクガクと震え、

足も今にも折れてしまいそうに震えていた

「しっかり歩いてくださいよ」

菫「と、とめっ、とめっろぉ!」

だらしなく緩み始めた表情で睨んでも、

男にはなんの意味もなく、結局その状態で場所を変えさせられた


菫「はぁっはぁっ……あっあぁぁぁ……」

男が指定したマンションの一室

表札には名前がなかったが、

この男の借りているものであることは間違いない

「だらしないな、真面目であることが裏目に出たって感じですね」

菫は床に倒れこみ、ピクピクと痙攣していた

菫「ぅ、ぅるさぃ……」

声も枯れ、起き上がる気力もわかない

そんな菫の服を、男は勝手に脱がせ始めた


菫「にゃ、にぉっ」

「はははっ、喋れてないですよ」

快楽に緩みきった顔では、

まともに声も発せず、変な言葉しか喋れないし、

射精と同じと言われたものを何度もさせられて体に力も入らない

抵抗は一切できず、

菫は濡れた下着一枚の姿にさせられてしまった

「うわぁ……濡れすぎ、本当に変態淫乱ですよこれ」

菫「…………」

もしかしたらそうなのかもしれない。

そう思ってしまう自分が、認めてしまう自分がいることに、

菫は動揺し、何も返せなかった


「ねぇ、変態さん」

菫「……………」

答えてたまるものかと口を結ぶ。

それは心が折れていない証拠であり、

それは男を楽しませるものでもあった

「弘世さん」

菫「……なんだ」

「オナニーしてください。今、ここで。俺に見せてください」

ありえない言葉だった

ふざけるなと怒鳴ろうと思った

見られた状態でそんなことできるはずがないと

だが、体は正直に……

菫「ぁ……」

見られながらするという屈辱的な行為に反応して、

期待してしまっていて、また。下着を湿らせた


「ほら、早く。早くしないとあの動画が――」

菫「解った! わかった……すればいいのだろう!」

やや怒り気味に怒鳴る

強要されているから仕方がないという理由をつけることで、

自分の行為を正常なものとしようとしていた。なのに、

男は笑う。嘲笑う

「させてくださいって言わないと。私の惨めなオナニー見てくださいって」

菫「な゛っふ、ふざけっ――」

「いいんですか?」

その一言が、プライドの奮起も何もかもを挫き、

踏みつけ、蹂躙してくる

早くも涙がこぼれ落ち、だが。従うしかなかった

菫「ゎ、わた、私の……み、惨めなオナニーを、見て、ください……」

屈辱に頬が染まる。だが……

その酷く心身を削るそれに、菫は少しずつ快感を覚え始めていた


不慣れな手つきで股間を弄り、

一生懸命に快感を得ようと努力をする

だが、射精みたいな感覚は一向に訪れてはくれなかった

それを見かねてか、男はため息をついて言い放った

「下手すぎです。手伝ってあげましょうか?」

菫「……え?」

驚きと、期待が詰まった声。

すぐに口を抑えるがもう遅い

「へぇ……手伝って欲しいんですか……」

菫「そ、そんな……こと」

強く否定できない。

それこそが証明となり、菫自身にもそれを認めさせようとしてくる

だが、認めない。あくまで心までおられるつもりはないのだ


それからまた数十分

ずっといじり続けてきたがまだ一度も達することができず、

疲れた手が、ついに恥部から離れてしまった

中途半端に快感を与えるだけ、

あともう少しが得られない

そんなもどかしさに答えてくれるのは――

「手伝いましょうか?」

自分を蹂躙し、屈辱と恥辱で自分を壊そうとしてくるこの男のみ。

菫は迷い始めていた

委ねればあの時みたいな感覚が得られる。

だが、そうしたら心までもが持って行かれてしまう、そんな恐怖

答えを出せない菫に対し、男は恥部に触れることで催促した


また後でだな

朝から何書いてんだか……


菫「ひぁっ……!!?」

不意に訪れた刺激に堪らず声をあげてしまう。

予測出来る自分で与える刺激には、

恐怖心からか、勝手にセーブがかかる

だが、予測不可能な他人からの刺激には、

セーブなんてかかりはしない

「ほら、やっぱり変態だ」

罵倒を気にする余裕はない

あと少しであの感覚が訪れる

その事に期待して胸が高鳴る……が、

不意に刺激が止み、空しさだけが訪れた


菫「ぁぇ……ぁあっ」

情けない声が洩れ、男の嘲笑が耳に響く

菫(なんで、なんでなんでなんで!)

男を睨む。だが、

それは今までとは違う怒りから来るものだった

男もそれに気づいたのか、再び触れた

菫「あっぁぁっ」

淫靡な声が洩れるどころか、溢れだす

だがそんなことを気にする余裕はなく、

ただただ快感を求めていた

菫(もうすぐ、もうすぐっ!)

期待する。願う。希望する。

その先を、快感の先にある快楽を……

けれど、男はまた直前でその手を止めた


菫(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで……)

思う心が爆発し、

心の声は現実として具現した

菫「なんで、なんで止めるんだ!」

「して欲しい。と?」

微笑が聴覚を蹂躙し、視界さえも埋め尽くした

菫「っ…………」

菫は気づいて、絶望に沈んでいく

心までもが最早片翼であることに、

それはもう、耐えきれないということに。

「お願いしたら、してあげますよ」

菫「っ、ば、馬鹿にするな!」

まだ堕ちない。その意志を強く、強く燃やした。

煽られているということに気づけずに……

菫「はぁっはぁっ……あぁぁぁぁっ」

あれからどれだけの時間が過ぎただろうか?

現実的にはまだほんの2時間程度だが、

菫は半日以上に感じていた

菫(頭がおかしくなりそうだ……体が壊れそうだ……)

もう嫌だ、もう耐えられないと、

体と心が悲鳴をあげる

菫(イキたい……イキたいイキたいイキたいイキたいイキたい……)

男の催促を待つ

それがあればまだ仕方がないと思えるから。

だが、そう考える時点ですでに、

心もまた堕ちているのだ。それに気づいているのに、

菫のプライドが認めることを阻害する

「もう一息か」

男は疲れてきたのか、辛そうに小さく呟いた


速報復活前に終わらせたいな

ちょくちょく投下する予定


菫(もうだめだ、もう無理……もう嫌だ……)

堪えることが嫌になる

受け入れるしかない。本能が、体が、心がそれを求める

菫「……たぃ」

か細く、消え入りそうな声で望む

だが、それでは男には届かない

何百回目かの寸止めに意識がまた一歩その世界に引っ張られる

菫「ぉねぎゃい、ぃま……す」

声はもう完全にふやけ、

言葉にならず、意味もそう簡単には受け取れない、

奇怪なものに成り代わっていた

残った力を言葉を紡ぐことだけに、

それだけのために絞り出す


菫「――お願い、します!」

久しぶりの大声に、

男も、菫自身もビクッと体を震わせた

男は笑わず、

菫の精神を崩壊一歩手前にまでした、

その張本人であるはずなのに、哀れみの表情で彼女を見つめた

「……なにを?」

あまりにも優しい問。

神父に対して懺悔を行うように、

菫の心は穏やかに、ただその願いを告げた

菫「お願いします……イカせて、ください……」

神に願うように願う。それを聞いているのが、

悪魔であるということを、忘れてしまっているがために

そして男はまた。黙って恥部へと触れた


手加減のない、激しい刺激、感覚が、

菫の体を襲い、精神を襲い、心を蹂躙した

菫「ひぃっああぁぁっいっ」

もはや叫びのような声を上げ、よがり狂う

拒絶から受けへと転換した今、

彼女を守るものは何もない

菫(くるっくるっくるっ!!)

あの待ち焦がれた快感が――

菫「―――ぇ?」

来ることはなかった

またあとで


脳は状況が飲み込めず、

体は快感を溜め込んで……

不一致な状態に脳が悲鳴を上げ、

菫「っ―――くぅぅぅ!?」

菫もまた、悲鳴を上げる。声にならない悲鳴

どうして、なんで、

プライドを捨て、意志を捨て、

屈辱に身を沈めてもなお、なぜこの男は私を辱めるのかと。

菫には理解できず、

ただ抜けていく、否、快楽への階段から落ちていく、

そんな寒気に体を震わせた

「何をどう勘違いしたかは知らないですけど」

男は子をあやすような優しい口調で、

衝撃的な言葉を口にした

「お願いしたらイカせてあげるとは一言も言っていませんよ?」

菫「なっ……なっ……ぁぁぁあああ……」

男は言った。お願いしたら、してあげると。

確かに、イカせてくれるとは言っていない

菫の瞳から涙が溢れ出す、

もはや自分は、この男の手の上から逃れられない、

ただの人形でしかないと解ってしまった

菫「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ―――!!」

絶叫が轟く。

建物を揺らす自身のような騒音。

だが、揺らしたのは菫の心

粉々に粉砕したのは……菫の精神だった


「……終わった。かな」

菫「ぁっ……ぅぅ……」

完全に飛んでしまい、

漏れる言葉はことではなく、声でもない

「せめてもの。お土産だ」

反応すら乏しいそれに、

男は触れてまた激しく刺激を与えるが、

反応は全くない。だが、確実に会館は溜まっていってるようだった

「お疲れ様、良いよ。イって」

菫が心待ちにしていた言葉。

それを聞いた何かは、激しく……液体を吹き出した


またあとで


翌朝、男が目を覚ますと、

ひとりの少女がとなりで眠っていた

自分が傷つけ、蹂躙し、破壊した少女

己が目的のためとは言え、男自身も、

やや精神的に参っていた

菫「……ぁ」

少女――菫が目を覚ます

少し怯えた表情をしたが、

やがて、戸惑い、優しく笑みを浮かべた

菫「――おはよう」

記憶を良いように改変した、

新しい弘世菫。それはもう、人間というよりも人形かもしれない


「おはよう、菫」

菫「昨日はすまなかったな。寝てしまって」

申し訳なさそうにそう言われ、

男の心がじわりと痛む

昨日あんなことをしたのに、

菫にはその記憶がない

あるにはあるが、なかったものとして封印され、

男という畏怖の対象は、

何らかの親しい関係に置かれているのだろう、

そうでなければ誘拐された、拉致された。

それらの記憶は改変できないのだ


菫「学校行かないとな……時間はあるし朝食は私が作ろう」

「すまん、助かる」

昨日の今日でこんな会話をすることになるとは、

男でさえ予想はしていなかった

壊すことだけを考えていたからだ

菫「えーっと……」

不意に、菫が困った表情で男を視線で追い、

音化はそれに気づいて振り向いた

「なんだ?」

菫「いや、それが……名前が思い出せないんだ」

男はまだ自分の名前を教えていないのだから当たり前だ

少し躊躇して、小さく頷く

京太郎「須賀……須賀、京太郎だよ。忘れんなって」

ここまでまた今度


京太郎「あのさ、菫」

菫「なんだ? 悪いが毎日泊まるのは無理だぞ」

そう言われ、

京太郎は自分達の関係が恋人同士であることに気づいた

親兄弟はまずあり得ない。

そしてただの友達止まりの異性の家に一人で泊まるか?

答えは否だ

京太郎「いや、そうじゃないんだ」

京太郎の計画は次のステージへと上がった


京太郎「えっと……あの金髪の後輩。誰だっけ?」

菫「淡か? あいつがどうかしたのか?」

京太郎「ちょっと呼び出してくれないか?家に」

次は白糸台1年大星淡を壊すつもりらしい

普通なら何故? と疑問を抱くものだが、

京太郎の人形であることを認めた菫は、

菫「わかった、帰りに連れてくるよ」

なんの疑いもなく……承諾してしまった


菫「淡、少し付き合え」

それは放課後の部活終了とともに帰ろうとした、

淡の足を止めた

淡「でも、今日はテルーと・・・」

菫「淡」

名前を呼んだだけで、その場にいた全員が動きを止め、

名前を呼ばれた本人はごくりと生唾をのんだ

菫「……それなら後でで良いぞ」

少し間を開けて言った言葉は特になんの警戒も必要がないことだ

だが、空いた間が危険だった

京太郎から誘導を託された際、

数百に及ぶプランを教えられ、

もしも用事がある場合。と言うのもあり、

それこそがもっとも危険なものだった。

菫は即座に京太郎へと連絡し、計画の変更を伝えた

文字化けと誤字が多いな

またあとで


京太郎と菫は、プランの通りに動いた

菫は照と淡を尾行し、

2人が別れるのをただひたすら待ち、

京太郎は、

人に見つからないように茂みに隠れ、

淡の帰る道に待ち伏せていた

やがて、

淡「それじゃぁね~」

照「うん、また」

仲が良い2人の食べ歩き

いつものように食べ歩いて、いつものように別れた

そのいつもの影に、非日常が身を潜めていることを知らずに


淡「ふっふっふ~ふっふっふ~ふふふのふ~♪」

楽しそうに、陽気な鼻歌を歌いながら、

淡はいつものように近道の公園へと入っていく

もしもそこに入らなければ、

まだ明日を光ある目で見れたかもしれないのに

そんなことは知らないから。

だから、淡は何の躊躇もなく公園へと入ってしまった

淡(今日も楽しかったな~明日は――)

「淡」

淡「え?」


突然後ろから声をかけられ、驚いて振り向く

そして、ドンッという衝撃とともに、

淡の体がグラっと揺れた

淡(えっ、なに……?)

よく分からず、混乱した頭ははてなマークを浮かべたまま、

背中が地面にぶつかった痛みを全身に伝えた

淡「っ、なにす――」

怒鳴ろうと痛みに堪えて、半身を起こそうとすると、

黒い、黒い影が、

淡に覆いかぶさり、声をあげようとした淡の口を塞いだ

そうしなくても、

おそらく淡は何も言えなくなっていただろう

菫「静かにしていろ」

淡(っ……なんで?)

自分を押し倒し、

自分を押さえ込み、

自分の口を塞いでいるのが、

自分の

憧れである部長、弘世菫だったからだ


そして、その後ろから見知らぬ男が自分を見下ろしている

そのことが何よりも怖く、言葉を失わせた

淡(誰? なに? なんなの? どうなってるのこれ!)

元々、

あまり複雑なことは理解できない彼女にとって、

現状はすでに理解の範疇を超え、

混乱は度を増すばかりだった

やがて、男の顔が近づいてくる

怯えながらも睨むと、男は笑った


「今のうちにそうしておくといいよ」

馬鹿にしたようなセリフ

それに対して怒鳴ろうとすると、

不意に股下から全身に風が入り込み、

淡「ひゃぁっ!?」

小さく悲鳴を上げてしまった

そして気づいた

抑えていた部長は何をしているんだろう? と、

目で探すと、

自分が今朝タンスの中から選び取った下着を握っていた

淡「え……?」

履いているはずの下着を、なぜ彼女が持っているのか?

答えは単純に、脱がされたからだ

淡「な、なんで……? なんで!?」

掴みかかろうとして、

男に押さえ込まれた淡は再び背中をうち、

けほっけほっと咳をした

その口を、男の口が奪った

重なり、舐められ、吸われる

淡「っ!? ぅ゛~――っ!!!」

口は口で塞がれ、

叫び声も上げられない

男による蹂躙を堪えることしかできなかった


即興のせいで展開が変わったので、

プロトタイプとして投下

中断


まだ夕方ではあるが、

公園は薄暗く人気も少ない

そんな場所に少女の嗚咽が混ざり、解け出していく

淡「っくっ……うぅ……」

沢山の酸素が欲しいのに、

体が口での呼吸を拒絶し、鼻での呼吸を強いられる

菫「……で、この後は?」

淡「っ!?」

菫の言葉に反応し、ビクッと震えた

「……そうですね」

その反応をみて、京太郎は小さく笑った


淡「も、もう止めてよ! 私なにもしてないのに!」

悪いことはしてない。

それは自他共に解っているし、

彼もまたそんなことは承知している

だが。だからといってそれがやむ訳じゃない

「悪いことしてなくても、悲劇に直面するもんなんだよ」

菫「……淡」

聞き慣れた、でも聞いたことないだれかの声が淡の耳をうつ

淡「どうして……なんで……」

菫「さぁな……私も知らない」

菫はそう答えると、淡と唇を重ね合わせた


昨日はいつも通りだった

いつも通りだった?

昨日の部活には部長がいなかった

そんな些細な違いがあった

今日はどうだった?

今日は部長がいた。でも、

何か違和感を感じた

淡「……………」

気づいてなかっただけで、

自分の回りは壊れていたのだ


中断

sageでいくからage厳禁


何となく考え付くのは、

自分が気づけなかったのが悪いということ

そんなことはない。

判るはずもない。

昨日の平凡が今日もあるとは限らないのだから。

それを察知出来る人間など普通はいない

淡「……っは」

菫「ふ……」

2人の唇を水の糸が繋ぎ、

次第に細く、そして切れた

淡「ひ、弘世……先輩」

掠れ声で呟き、その後の言葉を探す

何て言えば良いか判らない。

だから聞きたいことを聞く

淡「私にこうするのは、弘世先輩の意思ですか?」

軽蔑の意味を込めて他人行儀で訪ねると、菫は小さく笑った

菫「彼が望むなら、私はなんでもするよ」

その瞳に光はなく、淡は男を睨むように見つめた

淡「何したんですか……?」

怒りを込め、しかしながら冷静に問う

「色々と」

曖昧な答えだった。

それが苛立たせる為なのか、

それとも本当に色々と部長に何かしたのか。

後者ではない事を願いつつ、返した

淡「色々ってなんですか?」

時間稼ぎのつもりだった。

菫「知りたいなら教えてやる」

しかし、稼ぐことなど出来なかった


不意に手を捕まれ、思わず抵抗してしまう

淡「やめっ……止めてよ!」

菫「……なにもしない。ここではな」

菫はそう言うと、無理矢理立たせた

菫「行くぞ、淡」

淡「やだ」

菫「拒否権はない。行くぞ」

掴む力を強くされ、顔をしかめるが

菫はお構い無しに引いた

淡「わ、判った! 行く、行くから放して!」

観念してそう言うと、すぐに解放してくれた


淡「……先輩はもう、私が知らない人なんですね」

菫「淡がそう思うならそうなんだろうな……」

そう言って見つめてきた菫は、

どこか寂しそうで、申し訳なさそうだった

「行くぞ」

菫「ああ」

淡「ちょ、ちょっと待ってよ!」

素直についていく流れなど無視して、

淡は2人を止めた

淡「下着返してよ! このままなんて無理!」

菫「そのくらい気にするな」

淡「え……?」


唖然とすることすら出来ない。

目の前にある認めがたい光景に対し、

淡はただ呆然としていた

菫は恥ずかしがる様子もなくスカートをたくしあげ、

本来は布が覆っているであろう恥部を露出させたのだ

菫「な?」

淡「ぇ、ぁ……ぇ?」

辛うじて言葉を発する口とは対照的に、

淡の瞳は怒り憎しみ、怨みを込めて男を睨み付けていた

淡(常識だとか、犯罪だとか。そんなのはちっぽけなものなんだ)

少女の心に宿ったその思いは力強く淡の背中を押した


その一瞬だけは人間ではなかった

助走でもしたかのように大きく踏み出し、

目の前にいた菫を越えてその先にいた男を押し倒した

淡(殴るなんて私の力じゃ無駄。だから)

数瞬にも満たない思考を追い出し、

男の頭を両手で掴み、

少しだけ持ち上げてそのまま地面へと叩きつけた

「ぐっ!?」

淡「死ね、死んじゃえ! 悪魔!」

怒鳴りながら、何度も繰り返す

これなら殺れると思ったのにーー

菫「止めろ!」

バシッとほほに痛みが走り、

私は逆らえず横に倒れ込んだ

ここまで。向こうは静かになったら

>>116訂正

私は逆らえず横に倒れ込んだ→淡は逆らえず横に倒れ込んだ

菫「大丈夫か?」

「平気、少しクラクラするけど……大丈夫」

敵であるはずの男を助け、淡の事を菫は睨んだ

菫「なんであんなことした」

淡「スミレの為だよ! 厳しくて、口煩くて、
  生真面目だけど優しいスミレに戻って欲しいから!」

淡「だから、だから……」

菫「……無駄なことするな、私はお前が知っている弘世菫じゃない」

言われなくても判っていた。それでも諦めたくなかった

これ以上知っている世界が壊れるのが怖かった

淡「っ……うぅ……うわぁぁぁぁぁん」

思わず。柄にもなく。脇目も降らず淡は大声で叫んだ

いや、嘆いた

なにも出来ない自分が憎く、悔しく、情けなくて

菫「……行くぞ」

淡はそれに抵抗することもできず、連れていかれた


淡「……ここ、どこ?」

菫「彼の家だ」

男が玄関を開け、

菫に引っ張られて中へと入る

もはや抵抗するつもりなどなかった

菫がどんな目に合ったか知るためでもあるが、

自分がなにも出来なかったという現実から逃げるためでもあった

淡「……なにするんですか?」

「知りたいんだろ 何があったか」

一室の扉の前で菫を待たせ、

男と淡のみが部屋へと入った


部屋的には、なんの変哲もない仏間だっただろうが、

淡の視界に映ったのは、

テレビと、そこに繋がるビデオカメラ

そして、一人の少女が笑顔で写っている写真が飾られた仏壇だった

淡「……………」

写真の少女は知り合いではない。

しかしその面影のある、まるで姉妹のような少女なら、

淡は知っていた

だが、あえてそれは聞かず菫に行った行為を追求した

淡「なに、したんですか?」

淡の問いには答えず、男はテレビをつけた


『っ……』

ビデオに映っているのが菫であると認識するのに、

数秒かかった

全裸で縛られ、恥部のあたりから小水を吹き出させ、

屈辱に顔をしかめつつ目を閉じているそれがすみれであると。

目は認識したが脳も心も否定したせいだ

飛ばし飛ばしでも1時間かかった菫の受けた屈辱を目の当たりにして、

淡「っ!」

ピリッと唇に痛みが走ってようやく、

自分が下唇を噛み千切りそうになっていたことに気づいた

「……どうかしましたか?」

それにたいして男は平然と訪ねてきた


淡(判ってる、解ってるとも)

淡(この人が心無い悪魔であることなんて)

だがそれでも、殺意を覚えずにはいられなかった

淡「今ここで殺して良いですか?」

「俺は死にませんよ」

女だからと馬鹿にしているわけではない

しかし、そうであってもなくても、

淡の沸点を超えた怒りを抑えることはできない以上、

それは至極当然の出来事だった


近くに道具はない。

いや、そんなのはどうでもいい

淡は躊躇することなく男に飛びかかった。が

「同じこと繰り返しちゃダメじゃないですか」

男はひょいっと淡の軌道からそれると、

勢いの死んでいない淡の腹部に蹴りを入れた

淡「あがっ……ぁは……ぃっ……」

飛びかかった勢い+男の蹴りはかなりの痛みを伴ったが、

淡は小さく呻くと倒れはせず男を睨んだ

淡「痛くない! 全然!」

淡(すみれの方がもっと苦しくて、もっと痛かったはずだもん!)

「…………」

男は黙って淡を見ると、

ポケットに手を入れ何かを取ろうとした。

それを隙と見て、淡は飛びかかりはせずに男へと駆け寄った


しかし、ビリリッと全身に電気が走り

淡はその場に倒れこんだ

「スタンガンですよ」

男のくせに武器を使うなんて卑怯だ

そう言おうとしたが、

口は動かせない、それどころか体も動かない

倒れ込んだ下腹部から生暖かくみずっぽい感触が伝わり、

その刺激臭が鼻をついた

淡「う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛……」

屈辱と恥辱に唸りながら、

淡は闇に引き込まれ、気を失った

ここまで


淡「……?」

始めは寒いなと思い、次に冷たいと思い。

淡「っ!?」

そして自分が裸で縛られ、

床に倒れ込んでいることに気付いた

菫「お目覚めか、淡」

淡「………弘世先輩」

もう名前を呼ぶことはないと言う決別でるかのように、

淡はそう言いつつ菫を睨んだ

淡「お前はスミレじゃない! 近づいてこないで!」

知っている菫は男によって壊され、

もういなくなってしまったのだ

菫「……あぁ、そうだな。私は何かであって弘世菫じゃない」

少し悲しそうにそういうと、

菫は棒状の何かを淡の口許に押し当てた


淡「や、やめぇ゙ぶ」

淡が怯えて拒絶しようとした隙を逃さず、

菫は棒状の何かを淡の口内に侵入させ、激しく喉を突いた

淡「ぅぶぁ゙……あ゙ゔぅ」

呼吸さえ満足にできず、苦しくなってきたのか、

淡は目尻に涙をためて菫を睨んだ

菫「……しっかり舐めないと痛いぞ」

怒られるのかと思ったが、

淡のその考えはすぐに消されてしまった

菫「これがお前の初めての相手なんだから」

淡「ひぃ゙っ」

悲鳴をあげようとしたが、

それさえも棒状のそれに許してはもらえない。


淡ももう高校1年の思春期であり、

性格から解る通り人一倍好奇心旺盛であるがために、

菫の言葉の意味を理解できてしまった

淡「ゃ、やだよ……それだけはやだよぉ……」

好きな異性はいないが、

いつかはそんな相手が欲しいと思っているし、

その人に捧げたいと思うまで自分は経験しないつもりだったのに

こんな最悪のシチュエーションで、

ただの無機物が初めての相手になるなど、

淡でなくとも泣き叫びたくなるものだが。

淡はそうなってしまうのだ。いや、させられるのだ


自分の口から抜かれたそれが、

自分の唾で艶やかに光さまが恐ろしく、

淡は思わず目を瞑った。

淡「やだ……お願いします。お願いだからぁ……」

泣きながら懇願するその惨めな姿を見ても、

菫は躊躇する素振りさえ見せなかったが、

同情のような柔らかい瞳で見つめ、呟いた

菫「安心しろ。すぐに嫌じゃなくなる」

それはまさしく、自分ではなくなると言うことに他ならなかった。


淡「やっ……やだやだやだぁ!」

菫「大人しくしてろ。余計痛いぞ」

菫は淡の足を押さえ、ぐいっと股を開いて固定した

まだ中学生の抜けきっていない毛のない恥部が晒され、

淡の顔が恥辱に染まり屈辱に歪んだ

菫「……私とお揃いだな。淡」

淡「スミレの真似しないで!」

恐怖心があるにも関わらず、

淡は自分の大事な、大好きな憧れの部長が穢れることを拒んだ

菫「……さて、同性相手は初めてだが」

菫は淡が気絶している間に学んだ知識をフル活用するべく、

脳内の電波を光速で動かし、始まりを見つけた

菫「んっ……」

淡「ひっ……」

菫は手始めに淡の恥部をペロッと舐めた

中断


菫「しょっぱいな……しかも酸味が強い。ちゃんと拭いてるか?」

淡「っ……さっき漏らしちゃったから……」

菫から視線をずらし、床をにらむように見つめる。

菫「そうか、なら綺麗にしないとな」

その言葉はわずかな希望の言葉だった

お風呂に入れてくれるかもしれない

そうすれば時間が稼げるから

あわよくば拘束が解いて貰えるかもしれないから

しかし期待や想像を裏切り、菫は淡の体を再び舐めた

淡「ひぅっ……」

菫「私が綺麗にしてやるからな」

そう言いながらも、菫はまた淡の恥部を舐めた


淡「き、汚いよ。弘世先輩」

菫「知ってる。だから綺麗にする」

恥部が菫の唾液で濡れ、太股も濡らされ、

淡の下半身は行為を行うに相応しいものとなっていた

菫「淡……」

淡「んっんんっ!?」

甘くない酸味のある痛いキスに思わず顔をしかめると

不意に恥部の辺りから痛くとも強い快感が襲い、

体がビクッと跳ねてしまった

論点(キリッ

冗談はともかく「同性相手は初めて」ってのは
同性と性行為が初めてってことだろ?
京太郎とは一方的にであれ性行為をしているし
壊された影響で記憶改編が起きてるから
その一方的になものを正しい行いに改編してる可能性もある

つまり別におかしいとは思わん


菫「ふふっ気持ち良かったのか?」

キスを止め、淡から顔だけを少し離すと、

菫は意地悪そうに笑った

淡「き、気持ちよくなんかっ!」

菫「ほぅ……ならこれはなんだ?」

菫の左手が視界にうつり、

淫らな水音を響かせた

淡「それは……」

菫「お前のここから出てきたんだが……」

淡「ぁっゃ……」

再び菫は恥部に触れると、嫌味な笑みを浮かべた


淡「んぁっ!? んんっ!」

菫「我慢するな、鳴いても良いんだぞ?」

淡「っ……………」

言い返したくても言い返せない

気持ちが良かった。体が反応するのを止められない

菫「ふふっ……まるで人形遊びだな」

菫が指で入り口を、その裏を、

そして陰核をなぞる度に強い快感が襲うからだ

それは相手が大事で、大切で、憧れで大好きな弘世菫だから

違うと言い張っても、現実は違う存在であってはくれないのだ


淡(なんかふわふわする……)

荒い呼吸で空気を吸っては吐き、

自分の熱を下げようとするが、下がらない。下がらせて貰えない

空気がエネルギーのように体を活性化させる

菫の手が、声が、呼吸がそれを促進させる

淡「はぁ……はぁ……す、みれぇ……」

紅潮した表情にはもはや抵抗の色はない

それを見た菫は嬉しそうに笑った

菫「ああ、一緒になろう」

菫が持っていたものは前後共に男性の陰茎を模したものだった


淡が前を、菫が後ろをくわえて舐め回す

いつの間にか乾いていたそれは再び涎にまみれ、

菫が先に自分の恥部へと押し当て……そして挿入した

菫「ふ……ぅぐ………」

淡「え………?」

あまりの苦しそうな表情に、

淡は驚き、恥部から流れた鮮血で言葉を失った

菫「経験はないぞ……口ではしたがな……」

淡「え、だって……そんな……」

菫「本当はさっき彼とするつもりだった……でも」

菫はそこで言葉を切ると、汗の浮かぶ表情を笑顔にかえた

菫「お前だけなんて……可哀想だろ?」

淡「なんで、なんで……」


菫「なんでだろうな……もう忘れた」

定位置まで差し込むと、菫は淡の恥部へと先端をあてがった

どんな感情の涙なのか、

淡はそれを流しながらも微笑み、挿入の痛みを待った。

しかし挿入前に拘束が解かれ、唖然と菫を見つめた

菫「拘束してるとやりずらい……逃げても良いぞ」

少し前なら逃げたかもしれない。

でも今は逃げるつもりなかった。

淡「すみれ……良いよ、拒否なんてしないよ……逃げるなんて……出来ないよ」

体は自由でも、心はしっかりと拘束されてしまったから。


菫「解った」

菫が答え、応えるようにミリ単位が淡の膣へと侵入していく

淡「っ…………」

怖い。どうしようもなく怖い。

けれどもう逃げられない

淡「ひっ………」

初めてゆえの激しい異物感が腹の中から襲い、

それは徐々に奥へと入っていく

そしてそれはやがて小さな障害を突き破った

淡「ぃっぎっ!?」

菫「大丈夫だ、任せろ」

痛みにもがきかけた淡を抱きしめ、菫は微笑んだ

ここまで


淡「痛いっ痛い痛い痛いよぉっ!」

菫「そうだな……痛いな」

菫は宥めるような優しい声でそう囁くと、

侵入を止め、淡の痛みが引くのを待った

淡も菫も初めてだったが、

今年高校生になったばかりの淡と

高校生になって3年の菫とでは体の成長度合いが違う

そのせいか、淡は菫よりも痛みが強かった

淡「ぅうっ……変だよ。何か変なのが体にぃっ」

菫「じきに慣れる、落ち着け」

淡「うぅぅ………」

菫の言う通り次第に痛みが薄れ、

淡はもがいたり悲鳴をあげるのを止めた


菫「続けるぞ」

淡「……ぅん」

怖いのか、淡は震え声で答えると

菫の手を握り、それに対して菫も握り返した

淡「すみれ……優しくしてね?」

菫「ああ、判ってる」

二人の恥部が触れあうような距離

そこまで入れてから、淡から菫にキスをした

淡「んふふ」

菫「ふふっ」

淫らで淫靡でいやらしい音が響く中で、

穢らわしいはずの2人の少女は

なぜか綺麗で、穢れないものに見えた


互いに互いを受け入れる

その物的証拠とでも言うのか、

淡の上にいる菫から垂れた涎を、

淡は口で受け取り、飲み込む

淡「上だから、菫に任せるよ」

菫「責任重いな」

菫が苦笑すると合わせて淡も笑った

淡「何を今さら。私、もうお嫁にいけないんだよ?」

菫「……すまん。京太郎が何とかするらしい。私も、お前も」

淡「えー私、すみれは良いけどあの人はイヤだよ」

菫「……もう、引き返せないよ」


その言葉にどんな意味が含まれていたのかは

淡には解らなかったし、知るよしもなかった

菫「さぁ、力を抜け……淡」

淡「……うん」

互いに緊張し、

やがて菫の恥部が淡から離れ、

同時に棒状の何かーディルドーが戻っていく

淡「ふぁっ……変だよっ動いてるっ」

菫「だな……気持ちよくなんかないな」

苦笑し、菫淡の陰核をなぞった

淡「ひゃうっ!?」

菫「異物感があるけどやってれば感じると思う」

淡「そこを触るのと関係ないよね!?」

淡は少し怒りぎみに言うと、菫の陰核を引っ張った


菫「痛いっ……それは…ぁあっ!」

痛みと快感が同時に襲う。

男によって教え込まれた快感が体を巡りめぐって刺激し

菫がビクッと跳ね、

衝撃で淡の中のディルドが淡の子宮の入口をつついた

淡「ひいぃっ!?」

それでは収まらず、

外にはみ出ていた部分が淡の陰核を僅かに押して刺激したのだ

菫「淡っ!」

淡「っぅあぁんっ」

それを始まりとして、

菫は何度も何度も自分と淡の恥部がぶつかるように突き続けた


菫「ははっ淡、気持ち良いか?」

淡「はっぁぅっぁあっ!?」

淡がビクッと揺れ、恥部から液体が溢れだし、

打ち付けられて高い音を響かせる

淡「す、すみれぇ……んぅっ」

菫「んにゅ……」

深い深いキスをしながらも下半身は止まらない

菫「ふぁっ……っぅうっ!」

菫も絶頂に至り、今度は淡が下から突き上げた

淡「攻守、反対っ」

菫「こ、交代だっぁあっ!?」

訂正しようとした菫を突き上げ、淡は嫌味な笑みを浮かべた


淡「私、嫌だっ、たのに……今は嬉しいっ」

菫「んっんっんぅっ……」

菫が答えず聞いているかも判らないが

淡は笑顔で続けた

淡「私、菫が好きだよっ同性とか友情とか関係なくっ」

淡は少し力を込めて突き上げると、

菫を逆に下になる体勢に移した

菫「ぁ淡……」

淡「好きだよ、大好き……かっこよくて、
   真面目で。でも可愛くて……強い菫が好き!」

菫「……そ、ぅぁあっ!」

淡「ふあぁぁっ!」

答えを聞くわけでもなく。

しかしそれが答えであるかのように

2人同時に絶頂を迎えた


ここまで


淡「はぁ……はぁ……」

菫「はぁ……はぁ……」

肩で呼吸しながら、2人は抱き合うようにして動きを止めた

挿入したまま2人は完全に密着して、

艶っぽい息を吐きながら見つめ合っていた

淡「ちょっと動いたらまた感じちゃうかも……」

菫「……私もだ」

淡「どうやって抜く? もういっそこのままでいる?」

淡は自分の言葉に苦笑し、首をふって拒否した

淡「そんなのあれだよね……動くよ?」

菫「まぁぁぁぁああああッ!?」

淡「ひゃぁぁぁあああっ!?」

淡が動き、2人を激しい快感が襲う

そして堪えれず、浮かせた腰はまた落ちて恥部が密着し、

その反動で再び膣内を抉られ果てる……抜け出せない快楽の罠だった


淡「ぁ……ぅあ……」

菫「ば、馬鹿……」

呼吸は一気に乱れ、荒々しいものになってしまった

抜こうと動けば果ててしまう。

そして動かした分が戻り、そしてまた果てる

このままでいる訳にはいかないが、

このままでいるしかない

淡「どうしよう……菫」

菫「淡……ごめんな……」

菫の突然の謝罪に首をかしげると、

部屋のドアが開いた


「離れないんですか?」

淡「抜けないこと知ってるくせに!」

男の顔を見ただけで酔いが覚めてしまったかのように、

緩んだ表情を固くし、鋭く睨んだ

「俺が知ってるのは動けなくなるかなってくらいですよ」

菫「京太郎……このあとは?」

淡「……………」

自分が心と体を許し拘束された相手が、

完全に心も体も憎い男に囚われていると言う最悪の状況だった


「このあとは別に放してあげて良いですよ?」

淡「え……?」

ここまでしておいて自由の身?

そんな馬鹿げたことがあるわけがない。と、

淡は揺るがず強い瞳で男を睨み続けていたが、

彼はただ無表情で見返していた

菫「本当に良いのか?」

「はい、別に問題ないかと」

なんの根拠があるのかそう言うと男は部屋を出ていった

淡(本当に自由……?)

嬉しいのかなんなのか、不自然に体が熱い気がした


菫「……? 淡?」

菫は不自然な淡の動悸に顔をしかめ、

淡を見つめた

菫「どうした、淡。変だぞ」

淡「ぅ、うん……変だよね、解ってる……体がおかしいよ……」

真っ赤に紅潮しながら、

とろんとした表情をしているそれはまさに……

菫「……そうか、そうだったのか」

途中から感度が上がったような気がしていたし、

淡は不自然に舞い上がっていた気がする

それもこれもすべて……

菫「媚薬が染み込んでたのか……だから」

だからもう……手遅れなのだ

だから自由にしていいと……


淡「すみれ、すみれぇ……私、わたし……」

菫「……淡」

菫は経験者であるがゆえに効果は薄い

だからまだ理性が利くが、

淡はもう限界が近いのだろう

乱れた呼吸を菫に当てながら、

お預け中の仔犬のように菫を見つめていた

菫「……良いよ。私も一緒に壊れてやる」

菫は淡を救いのを諦め、

共に壊れることを選んだのだ

淡「優しくするからね、すみれ……んっ」

菫「っは……ふふっこい、淡」

キスをし、そして淡は腰を動かした


菫「ふぁっあっあっんんっ!」

淡「あはっはぁっあぁぁんっ!」

2人は激しく乱れ淫らに腰を付き合わせ、

ただの獣のように性行為に耽っていた

淡「好き! 好きだよ大好きだよっ!」

互いの体の接触による破裂音のような音と、

水っぽい音が部屋に響き、

それをかき消すように2人の媚声が響く

菫「あっあぁっ淡っ淡ぃぃぃぃっ!」

淡「またイった? 菫敏感だぁああんっ!」

2人は果ててもなお腰を付き合わせ続けた

そうすることが使命であるかのように。


淡「止まんない、止められないよぉっすみれぇ!」

菫「止めなくていい、止まらなくていいっ!」

次第に薄れた菫の理性も消え、

疲れはてて眠るまで止めるつもりはないらしい

淡「あっあんんっキス、しよっ全部繋がろっ!」

菫「淡っ淡っ淡っ淡ぃぃぃっんんっふぁぁっ」

抱き合いながら唇を触れ合わせ、舌を絡める

涎が混ざり合い体が密着し、でも腰の動きは止まらず、

もう自分が誰でどんな人で、

どんな夢や希望があったかも判らなくなっていた

菫「イく……イクぞっ淡ぃっ!」

淡「うんっうんイクイこうっ一緒にぃっ」

淡菫「「ふぁぁぁぁああああッ!!!」」

ただただ目の前の女の体を、快楽を……求め貪るだけだった

ここまで


「……弘世菫よりも簡単でよかった」

京太郎は菫たちの隣の部屋にいた

菫たちの媚声をbgmのように家に響かせる中、

静かに、冷酷に天井を見つめた

「……なぁ照。大切な後輩を壊して奪ったぞ
  大切で大事な親友も壊して奪った」

ぎゅっと拳を握り机を殴り付けると、

皹が入ったような鋭い音が響いた

「それでも平然としてられるのか!?」

壊してやる殺してやる……

そう呪いながら目を閉じた

ストーリーを構築する。

宮永照をどう追い詰め、どう傷つけ、どう苦しめ、

どう悲しませ、どう嘆かせ、どう破壊するかを考える


「……せっかく2人を手に入れたんだ。使わない手はないな」

菫たちがいる方の壁を見つめ、薄く笑う

「2人に傷つけて貰おう、苦しめて貰おう。嘆かせて貰おう」

2人が壊れようと苦しもうと、

嘆こうと傷つきもう動かなくなるとしても

「俺には関係ない」

どうやら2人は沈黙したらしい

大きく息をつくと無駄に響いた

「……明日だな」

部屋にあるモニターの録画を止め、dvdに写す

菫の首輪はより強固に、淡には首輪がついた

「もう逃げられない」


淡「っ……ぅえっ!?」

菫「ん……ぅ……なぁっ!?」

気がつけば翌朝だったが、2人が驚いたのはそれじゃない

2人は全裸で抱き合い、

ディルドを膣へと挿入したままだったからだ

菫「淡、動けるか……」

淡「う、うん……いっ!?」

菫「ぐっ……ぁ……」

抜こうと動いた2人を激痛が襲い、

苦痛に顔を歪めた

淡「だ、ダメ……痛い」

菫「だなぁ……くそっ」

一晩挿入状態だったせいで、

その状態で乾いてしまったらしく、

擦れてしまうのだ


「そのままで寝るからですよ」

不意に響いた嫌な声

しかし、それは唯一自分達を救える存在で、

求めるしかなかった

淡「抜けなくなっちゃった……」

「だから? 好きなんでしょう? 止めたくないんでしょう?」

菫「京太郎、お前まさか……」

菫が顔だけを京太郎に向けると、

無表情ではあったものの、いや無表情だからこそ恐怖を感じた

「ばっちり無駄に高画質ですよ。いくらで売ります?」

菫「止めろ! 私は良い、好きにしろ……だが淡は!」

「……あ、そうか。失敗だった? いやこれはこれで」

淡「なに? なんのこと?」

淡が訊ねると、京太郎はdvdを見せた


「弘世さんは壊したはずなんですよ。貴女に見せた通り」

なのに、大切で大好きな後輩と混ぜ合わせたがために、

京太郎よりも後輩を優先するようになっていた

「……媚薬のせいで俺以外でも良い、大星さんならもっと良いってやつですか」

京太郎はにこっと笑うと淡を見つめた

獲物を狙い定める狩人のように

淡「……な、なんですか?」

「今日もちゃんと学校いきましょうか」

拍子抜けな言葉に首をかしげると、

京太郎はオムツのように開いた革を取り出した

「パンツの代わりにこれ着けてくださいね?」

菫「なんだそれは……」

「貞操帯。貴女達は自由にトイレもしちゃダメってことです」

京太郎の不適な笑みに、思わず体が震えた


淡「そんなのっ」

「拒否権はありません」

淡「ふざけーー」

「拒否権はありません」

京太郎の無機質で不気味な声が響く

流石に淡も口答えを止めるしかなく、

黙り混むと同時に菫が口を開いた

菫「淡、あんまり言うな……もう私達は終わりだ」

淡「菫……」

昨日の壊れたままの菫を思いだし、

瞳の中の光が陰っていく

菫「全世界、そしてみんなに私達の痴態が晒されるだけだ」

淡をみる菫の瞳には光も元気もなかった

菫「私達はただの人形。ただの……道具でしかないんだから」

それを聞き、淡の瞳から光が消え一筋の涙がこぼれ落ちた


「さて、それを抜きたいんですよね?」

淡「……はい」

逆らえない絶対的な恐怖に言葉が震える

自分は人形だと言い聞かせ、心を閉じ込め、

ただ命令のままに頷く

「この薬を飲めば解決です」

菫「1錠しかない……」

「2人で汚ならしく、穢らわしく舐め合えば良いじゃないですか」

京太郎は菫の口に薬を入れ、背中を向けた

「昨日みたいに」

2人の初めてであり神秘的で美しく、

綺麗で穢れなどないかったはずの行為を、

京太郎は一蹴し、穢らわしいと言った

だが2人は否定するわけでもなく、黙って唇を重ねた


菫「んっふ……ふぁっんん……」

淡「んぅっふぅ……ぁんんっ」

京太郎は2人の淫らな姿に目もくれず、ただ待った

菫「んっ!?」

淡「んぁっ!?」

同時に体を震わせ、

恥部に刺さったディルドを濡らしていく

菫「はぁっはぁ……」

淡「はぁ……はぁ……」

ふやけ、紅潮した表情で見つめ合う

京太郎が飲ませたのは媚薬であり、

2人が快感を得れば徐々に滑り抜けるという事だ


菫「……したい、したらダメか?」

淡「させてください、お願いします……」

願う必要もないのに、2人は懇願する

人形だと、道具だと言い聞かせてしまったがために、

2人は自分達で行動を決めるということが出来なくなっていた

「ダメに決まってるじゃないですか」

非情に、冷酷に答える

2人は少し躊躇したが体を離し、ディルドを抜いた

菫「……はぁっはぁっ」

淡「これどうつければ良い……?」

「俺が教えますよ。覚えてくださいよ?」

京太郎の指示通り貞操帯をつけると、

2人は制服を着込んだ


菫「学校に行けば良いんだよな?」

淡「多分そうだと思う」

「学校ではいつも通りで良いです」

京太郎の言葉に2人が頷いたが、

京太郎は「でも」と言葉を続けた

京太郎「宮永照は無視してください。
    しつこい場合は怒鳴っても手を出しても良いです」

いつもなら絶対に拒絶した。

そんなことあり得ないと怒鳴った

だが、今の2人は傀儡

黙って頷くと鞄を手に取った

淡菫「行ってきます」

そして元気よく、

されど本当の元気も光も希望もなにもない声で言うと、

家を出ていった

ここまで


照「ねぇ、菫」

菫「……何でもない」

菫と淡は遅刻してしまった

もっとも、家を出た時点で一限目はすでに始まっていたのだが

そしてそれが気になった照が訊ねただけだが、

菫は一瞥もせずに会話を拒絶した

照「菫……?」

それは照から見れば異常

クラスメイトから見ても異常に他ならない

仲の良い2人が険悪なのだから……

とはいえ、クラスメイトは喧嘩でもしたと思うだろう

しかし、当人だけはその異常を喧嘩とはできない


なにか悪いことをした? いいやしていない

昨日は部活にきていないし、

菫がいない分、より真面目に取り組んでいた

ならばなぜ菫は怒っている?

なぜ拒絶をする?

照「すみーー」

菫「何でもないと言っているだろう!?」

照「っ……ご、ごめん……」

なんでどうして……と、

理解に苦しみ、親友に拒絶され胸が痛む

だが、照にはどうすることもできず、

菫から離れた


そして昼休み

照は拒絶を覚悟しつつも菫を誘うことにした

照「菫、あの……」

菫「そこに立たれると邪魔だ」

照「あ、ごめん……」

菫の席横から離れると、

菫は照になにも言わず教室の外へと出てしまった

照「菫……」

ただ呆然と立ち尽くし、でも希望は捨てずに携帯を手に取る

照「淡なら聞いてるかも知れない……」


淡は照にいつもくっついているような存在で、

呼ばずとも来るほどなのだ

呼べば来るだろうと屋上で待つと送り、

返信を待たずに向かった

照(先に来てたりするかもしれない……)

照(……教えてくれたら少しは許してあげよう)

照(抱きつくまでかな……許せるのは)

無表情の内にそんなことを考えながら屋上の扉を開けた

しかし、姿はない

照「流石に先には来ないよね……」

小さく息をはくと、心を落ち着けた


始業の鐘が鳴る

体育の生徒達がグラウンドでわいわいと騒いでいる

だが、そんな騒音さえ照には聞こえなかった

そして来なかった。淡が。

いつも必要以上に接触してくる淡が

照「……な、んで?」

無表情ではいられない、冷静ではいられない

柄にもなく慌てふためき、頭を抱える

照「そ、そうだ……昨日しつこいって怒ったから……」

照(怒られたあとの呼び出しなんて普通来ない)

照(冷静にならないと……)

昨日はごめん。と始め、菫について話したいだけ。

もう怒ってない、部活前に屋上で。そうメールして携帯を閉じた

照「とりあえず……授業」

照は大きな希望と芽生えたわずかな絶望を胸に教室へと向かった


ここまで


その小さな絶望が大きくなったのはやはり放課後だった

hrが終わってすぐ菫に駆け寄るが、

菫「………………」

彼女は気にせず席を立ち、横を抜けていった

照「すみーーれ……」

伸ばした手は何に触れることもなく、

重力に従って下へと落ちた

照「……菫、私は頼れない?」

消え入りそうな声とは裏腹に力強く拳を握ると、

照「頑張ろう……照」

自分を励まして足早に屋上へと向かった


だが、非情にも現実は癒しを与えはしない

屋上に行っても淡は居らず、一時間待っても来てくれず

部活にいくと、平然と参加していた

淡「ローンッ!」

照(いつもの淡だよね……?)

菫のことと連絡無視もあり、

照は少し躊躇しながら淡の肩に手を伸ばした……が。

淡はそれを弾くように席を立つと、

照を見つめた。いや、睨んだ

照「……淡、怒ってーー」

淡「……あ、すみれーっ」

そして目の前に誰もいないかのように無視すると、

菫の元へと駆け寄っていく

照はそれを目で追うことしかできず、

そうしてしまったことを後悔した


菫「止めろ、引っ付くな」

淡「えーっ」

菫「えーじゃない」

楽しそうに話しているじゃないか

菫も、淡も……

まるで自分だけ世界から省かれたような

そんな感じがした照は、

近くにいた後輩の渋谷尭深を捕まえた

照「尭深!」

尭深「は、はい……?」

反応した答えてくれた

その安心感に思わず抱き締めてしまった


尭深「あ、あの……宮永先輩?」

照「私のこと判る……? 聞こえてるし見えてるよね……?」

尭深「は、はい……はっきりと」

それを聞いてから、

照は尭深から離れると、ほっと胸を撫で下ろした

尭深「どうかしたんですか?」

照「………………」

言うかどうか迷い、照は首を横に振った

照「少し疲れてるだけ……早退する」

照はそれだけ言うとそそくさと部室を後にした

怖かった、苦しかった、悲しかった

今にも泣きそうだった

照は逃げるように全力で走り去った


大親友であるはずの照が苦しんで駆けて行ったにも拘らず、

2人はわれ関せずと話題にさえ出さなかった

菫「……トイレいきたいな」

淡「うん……ご主人様にお願いしてみようよ」

貞操帯の鍵は京太郎が持っているため、

自分達でははずせないし外そうとも思わなかったが、

トイレに行きたいという願望はこぼれ落ちた

菫「そうだな……電話してくる」

菫は部室を出ると携帯から京太郎に電話をかけた


『……どうかしました?』

菫「私から呼び出して申し訳ない……私達にトイレにいく許可がーー」

『言いませんでしたっけ?』

優しい声が急激に刺と冷気を持ったものへと代わり、

体を震わせた

菫「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」

『トイレの自由はないって言いましたよね?』

菫「言った、言いました……ごめんなさいごめんなさいっごめんなさいっ」

ただひたすら謝る菫の耳にため息が響く

『宮永照はどうでした?』

京太郎の質問に怯えつつも、

菫は照が逃げるまでをすべて話した


『渋谷尭深ですか……これ以上増えるのは面倒なんだけど』

菫「……………」

菫は黙って京太郎の判断、命令を待つ

やがて京太郎の指示が決まったのか、

コロコロとペンの転がる音が聞こえた

『渋谷尭深を潰してください』

菫「え……?」

聞こえなかったのか、

心が一度だけの反抗をしたのか、菫は聞き返した

『貴女達が渋谷尭深を宮永照の周りから消すんですよ。
  その他も同様に親しくするつもりなら排除してください』

最悪の指示だった


排除? 消す?

大切な部員を? 大事な後輩を? 仲間を?

拒絶したいという僅かに生まれた心を、

自分の痴態が強く押さえつけ、

大切で大事で大好きな淡という人質の重さが潰してしまう

菫「……わかった」

『お願いしますね』

京太郎はそう言って電話を切り、

電子音を鳴らす携帯を握り締めた菫は、

大きく息を吸い、部室へと戻った

ここまで


もしも菫が正常であったなら、

消す、排除と言った言葉を歪曲し、

近づかせないだけとか言う判断も出来たのだろうが、

異常であるがゆえに、追い詰められた状態であるがゆえに、

思考は至極単純な間違った方へと進んでしまう

菫(殺さないと……でも、どうやって?)

自分の思考の終着を京太郎の命令とし、

菫は一切その行いに疑問は持てなかった

菫「……淡、指示だ」

淡「なに?」

菫は淡に渋谷尭深を殺せと指示が来たと伝え、

淡は少し驚きつつも拒絶もなにもせず、

ただ人形のように頷いた


部活が終わったあとの帰り道、

淡「……簡単だと思う」

どうやって殺すかを話し合おうとした矢先、

淡ははっきりと告げた

菫「簡単だと……?」

淡「うん。簡単だよ。渋谷先輩だけがすることがあるじゃないですか」

菫「それは……いや、確かにそうだな」

尭深はいつもお茶を飲んでいるし、

それは自分で茶葉からやっているものだ

菫「そこに毒を混ぜると……そういうことか?」

淡「そう。呼び出したりして証拠を残すよりも安全かつ確実性の高いものだと思う」

菫「……そうか、見つかるのも避けたいからな」

自分達が行おうとしていることが犯罪だという認識はある

しかし、それをやらないという選択肢はなかった


菫「だが待て、毒はどうする?」

淡「新しく揃えると、大抵ばれるから有るものでやるしかないよ」

淡は微笑んだが、それには優しさも暖かさもなく、

冷笑のようだった

菫「今あるもの……塩素洗剤や酸性洗剤の誤飲は?」

淡「運が良ければ死ぬと思う。でもそれじゃ殺そうとしたとしか思えない」

淡は読書が好きというわけではないがドラマなどは良く見ていたため、

どういう行いが犯人を追い詰める証拠になるかというのは

ある程度知っていた

淡「あくまでも殺しではなく事故自殺にするべき」

しかし自殺するような兆候は見られない

つまり、事故死を装うしかないのだ


菫「なるほどな……ついでにーー」

淡「犯罪についでは求めちゃダメだよ。その油断が計画に穴を開ける」

菫「すまん……んっ」

謝ろうとした菫にキスをし、言葉を止めた

淡「ふはっ……良いよ。たまには頼っても」

小さく笑い、菫も乗せられて笑う

菫「……頼むな、淡」

淡「うん、頑張ろう」

それは美しい友情、絆のようではあったが、

穢らわしくどす黒い残酷なものだった


淡菫「「ただいま帰りました」」

2人は躊躇することなく、

まるでそこが昔から我が家であるように京太郎の家へと戻った

淡「ご主人様、命令遂行のために探し物の許可をください」

「………どうぞ。確実に成功させてください」

菫「……は、はい」

淡「ありがとうございます」

淡はお礼を述べるや否やすぐに探し物に移ったが、

菫は黙ってその場に土下座した

「何してるんです?」

菫「勝手を言ったから……」

頭を床に押し付けながら京太郎の言葉を待つ

数秒の沈黙が数分間、数時間にも感じ、

菫の額を冷や汗が伝う


「別にいいですよ」

それは一瞬の安堵を生み出したが、

菫は変わらず頭を下げたまま再び謝罪した

菫「本当に申し訳ありませんでした……」

「だから良いですって」

2度目の許しを聞いて初めて菫は頭をあげた

京太郎は笑っていた。しかしながら、

それを笑みと言うことは多分出来ない

菫「ぁ……あっ………」

ガチガチと歯をならし体を震わせ、

菫は京太郎を見つめた、見つめさせられた

「貴女への罰は全部大星さんが受けますから」

菫「な……や、それは……それだけはっ!」

菫の必死さも届かず、京太郎は首を横に振った


「大切で大事で大好きな大星さんが傷つくのが嫌なら頑張ってくださいね?」

京太郎はそう言い残して自分の部屋へと消え、

残された菫は頭に反響する、

淡が身代わりになるという言葉に絶望し、涙をこぼした

淡「菫、何してるんですか……?」

菫が着いてきていないことに気づき、

淡が戻り、菫は力強く淡を抱き締めた

淡「菫……?」

菫「私頑張るから……頑張るから、絶対に頑張るから!」

淡「うん、頑張ろう、私も頑張るよ」

自分の身を待ち受ける地獄を知らない淡は、

優しく微笑んだ


ここまで


菫「風邪薬を飲ませる……?」

淡「うん。薬って飲むと眠くなりやすいでしょ?」

確かに風邪薬に限らず、薬には睡眠薬に劣るとはいえ、

微量な催眠効果がある。とはいえきつくてもうとうとする程度だ

菫「それだけだと意味がないと思うが……」

淡「ううん。意味あるんだよね……うちの階段は多いでしょ?」

菫「……落とすのか?」

淡「落ちて貰うんだよ。風邪薬なら誰でも飲むから怪しくない。足を滑らせてーー」

淡は言う代わりに机を叩いた

菫「成功するのか?」

淡「すると思うよ。ううん、させる。絶対にね」

風邪薬を粉末にして茶葉か何かに混ぜれば、

それだけで飲ますことが確実となる

簡単すぎることだった


そんな簡単すぎることで人の命が奪われるかもしれない

奪えてしまうかもしれない

その恐怖ではなく、京太郎への恐怖に怯えながら、

計画をたて、準備した

菫「やらなきゃやられる……」

淡「……だから失敗は出来ないよ」

身震いし、2人はため息をついた

菫淡(トイレ行きたい……)

口には出さなかったが、

2人はすでに限界が近づいていた

それを救うかのように、

リビングに来た京太郎は鍵を持ってきていた

「菫さんのトイレは許可しましょう」

しかし、現実も京太郎も非常かつ非情で冷酷だった

「それで、トイレ役は大星さんがしてください」

ここまで


菫「え……?」

淡「……えっと、その、どういうことですか?」

流石に理解できず、2人とも呆然と京太郎を見つめ、

次の言葉を待った

「大星さんが便器ってことですよ」

菫「なに言って……そんなことできるわけ……」

「勿論、するもしないも自由ですよ。
 大星さんは菫さんのせいで許可されませんし、菫さんのせいでその役割なんですから」

京太郎はそんな汚らわしい趣向はないが、

菫を心身共に追い詰めるにはいいタイミングだった


我慢できずにしてしまえば淡を自ら汚し、

その役割を自分のせいで請け負うことになったとなれば、

ボロボロになるし、

仮にしなくても、淡の我慢が切れて漏らすことになり、

恥辱と屈辱と汚物にまみれさせることになる

それもまた菫のせい。菫には逃げ場などなかった

淡「判りました……菫、良いよ」

淡は躊躇せず跪くと、菫を促した

菫「バカ言うな! そんなこと、そんなこと!」

淡「我慢は体に毒だよー、菫」

菫「くそっふざけるな……嫌だ!」

絶対に折れない言い争い

互いを思うがゆえの優しい争いでさえ、

京太郎に利用されていた


淡「菫!」

菫「嫌だ! 絶対に嫌だ!」

淡「体壊しちゃうかもしれないんだよ!?」

菫「私の体なんて知ったことか! お前こそ!」

淡「私だって良い! 菫のためならなんだって良いよ!」

十数分言い争い、やがて京太郎が手を叩いた

「いい加減決めて貰えます?」

するしないの選択は許可したが、

曖昧であることは許可していない。

どちらかが苦しまなければいけないのだ

菫「しない」

淡「ダメだよ、して!」


「では、しないって言うことで」

淡「待ってーー」

「待ちませんよ、菫さんが決めたので」

京太郎が決定を下し、鍵をしまう

淡「……菫のバカ」

頼ってくれなかった悔しさ辛さ悲しさ

自分を思うがゆえにしなかったという自己嫌悪

それらに苛まれ、淡は菫のために僅かにはみ出した心をぎゅっと握り締め、

傷つけ扉の奥に押し込んだ

淡(ただの道具になればきっと……)

間違った願いを込めて……


だが、それは淡だけじゃなかった

菫(私が忠実じゃないから余計なことを考えた)

菫(私は京太郎の家来、僕、下僕、人形なんだ)

菫もまた自分を追い込んでいたのだ

「大星さん、料理お願いします。夕飯にしましょう」

淡「……はい。かしこまりました」

人形になれ、人形であれと淡は言い聞かせ、

命令通りに行動した

菫(……淡?)

淡の雰囲気がおかしいことに気づいたものの、

菫はなにもできず、なにも言えなかった


ここまで


淡「口に合いましたか?」

「平気ですよ。不味くなければ良いですし」

凄く美味しいとは言えないが、普通というには美味しかった

京太郎は心の中では素直に感心しつつ、

表面は絶対的な支配者を演じた

(…………………)

心に影響を与えたがために、

京太郎は欲望を止めずに告げた

「大星さん、あとで部屋に来てください」

淡「かしこまりました」

完全に人形だった

求めたことに疑問を持たず、ただ了承する

京太郎の操り人形に相違無かった


菫はなにも言えず、なにも出来ない

自分の余計な行いで淡に被害が及ぶのが怖かったし、

自分がなにか申し立てることで淡への仕打ちの激化が嫌だった

淡と菫の互いのための変化は逆に守る術を失わせているだけだと、

2人は気付かないし、

それは京太郎が狙った事だとも解らなかった

菫「淡、明日の用意はしておくぞ」

淡「はい、お願いします」

今までのような明るいやり取りは、

もう2度と見ることが出来ないのかもしれない


そして夜、

淡は命令通り京太郎の部屋に向かった

することは大体解っているが、

それを拒絶する術はない

それがどんなに嫌なことでも。

「大星さん、何で呼ばれたか解ります?」

部屋に入ってすぐの質問

淡は躊躇せずに平然と無機質な声で答えた

淡「ご奉仕すれば良いんですよね」

人形になるように仕込みはしたが、

そんな汚らわしい生きたラブドールにした覚えはない

だからなのか、京太郎は顔をしかめて淡に近寄ると、

力一杯頬を叩いた


破裂音のような音が響く

淡は理解できないはずだが、

悲鳴もあげずに京太郎を見つめ直した

「……何で殴ったか解ります?」

淡「私が悪いことをしたからです」

「っ………」

もう一度力一杯叩くと、

淡は体勢を崩して床に倒れ込んだが、

すぐに立ち上がってなにもなかったように戻った

似ていた。似すぎていた

料理が上手いところも、何でも自分が悪いと背負い込むところ

それがどうしようもなく苛つかせ、

京太郎は淡をベッドに押し倒した

それでも彼女は動じない

人形のように、相手に動かされるのを待っていた


「ご奉仕してくれるんですよね?」

淡「はい」

「どんなことでも? 妊娠することでも?」

淡「ご主人様がそれを望むのなら」

ただの人形だった。京太郎の目の前にいるのは、

大星淡ではなく、ただの人形

自慰行為に用いる人形でしかなかった

「脱いでください、全部。貞操帯は外してあげます」

淡「かしこまりました」

淡はてきぱきと服を脱いでたたみ、

京太郎に貞操帯を外して貰うと、一糸纏わぬ姿でベッドに倒れ込んだ


淡「……何をしたらいいですか?」

「なにかできるんですか?」

淡「ごめんなさい、教えてください」

淡は従順だ。どれだけめちゃくちゃにしようと、

すでに滅茶苦茶であるがゆえに被害はないのかもしれない

だが、菫はどうだろうか?

未だ全ての行動は淡を守るためだ

(……ぶっ壊してやる。守れないんだよ、なにも!)

自分の行為で誰かを守れるという驕りが

京太郎はどうにも気にくわなかった

だからこそ自分に、そして淡に媚薬を使った

菫の大切なものを滅茶苦茶にするために、

菫の思いも何もかもを壊すためにーー


「大星さん、正直に答えてください」

淡「何をですか?」

答えがどうであろうと、

もう今となっては止められない

ならなぜ聞いたのだろうか?

京太郎自身、それに答えることはできない

「俺とするのは嫌ですか?」

淡「……とても嫌だよ。嫌だけど……なんかもう、どうでも良いんだ」

淡はそう言ってぎこちなく笑う

まるで笑みを忘れてしまったかのように。

「……そうですか」

それに対して無感情に呟き、淡と唇を重ねた

ここまで


淡「ぁふ……」

「……渋谷尭深を消せますか?」

つぅっと糸が伸び、

その僅かなつながりはぷつっと切れた

淡「勿論です、ご主人様」

火照った赤い表情ながらも、

その瞳は、その中の感情は

無機質な人形のように無感情だった

人を殺すという非人道的な行いにたいしてなにも感じない

少女が感じるのは、ただ一つ快楽だけ

男は前戯の必要もなく潤った淡の恥部に自身の陰茎を宛がった


その気付くこともできないような刹那程の時間、

淡は顔をしかめ、男はしっかりとその思いの内を悟った

しかしだからといって……いや、だからこそ

男は有無を言わせずその陰茎で少女の身体を貫いた

傷つけるために、嘆かせるために

大雑把な破壊を完全なものとするために

淡「っ……」

一晩中ディルドを納めていた膣はその形を記憶し、

陰茎の侵入を容易く受け入れ、

その形を、温かさを、凶悪さを飲み込み、

それらをひっくるめて快楽として淡の麻薬まみれの脳を揺さぶった


「嫌ですよね、本当は俺なんて殺したいくらい憎いんですから」

男は嘲笑に顔を歪め、

淡の嫌悪感ちらつく表情を見つめた

淡の閉じ込めた思いが爆発しかけ、

したら菫が危険だと無理に押さえ込み、

涙が溢れて頬を伝い流れていった

それは男の問いの答えに他ならず、

それこそ男の求めた回答だった

「本当はどうでも良くなんかないんですよね」

だからこそ、この行為に意味が生まれるのだ


男の言葉が淡の心の扉を打ち破り、

本当の思いを引っ張り出してしまった

淡「……だ。やだよ……」

涙ながらに求む淡に答えるように、

京太郎は深く抉るように腰を打ち付けると、

淫らでいやらしい音が淡の精神を揺らし、

身体を揺らし、快感を迸らさせた

淡「ぁ、あ……やだ、嫌なのに……」

快楽を覚え、媚薬を与えられ、一日中お預けされ、

止めのように増された媚薬のせいで

意思に反して淡の体は反応してしまう

中断


淡「やだ……気持ち悪い!」

ひんやりとして無機質なディルドと違い、

男の生きたそれは熱く、そして予期せぬ方へと蠢く

淡「助けて、助けてぇ……」

涙ながらに訴える

憎悪の強力な力を嘆きが押さえ込む

払えない、退かせない

自分の心が段々と快楽の泉に沈んでいくのがわかる

淡「あふぁ……ひっ……」

徐々に淡の声は許しを乞わず、

媚声に支配されていった


淡「ふ……ぅぁ、あはっ」

偽らず、隠しもしない

愛しい先輩との行いを我慢する必要がどこにある

大好きな菫との情事に屈辱も恥辱もあるはずがない

「……簡単すぎる」

淡「菫、もっと……もっと滅茶苦茶に、ぐちゃぐちゃにしてっ」

「壊れるぞ」

男は呟く。意味のない言葉を

壊すつもりなのだ

例え許可がなくても。淡が嫌だと泣き叫んでも

心も体もこわすつもりなのだ

淡「良いよ。良いよ……もう、良いよ……」

それは大星淡の心の言葉だった


淡は笑いながら涙を流す

今まで作り上げた自分というものを、

涙と共に流していく

淡「あっぅ、あっんんっふぅぅ……あっ!」

男は食いちぎるとでもいうように、

淡の小振りな乳房の頂を噛む

「……言われなくても壊す」

壊してやるよ。

言葉にしなかったそれの代わりに、

男は淡の恥部に侵入するそれを激しく動かした


行為に溺れながら、淡は奇声に近い媚声をあげ

男はまるで機械のように無表情だった

今の淡を見れば壊れているのは一目瞭然で、

もう行為の必要はないのかもしれなかった

しかし、男は行為をやめずに淡を責め、

淡はそれを嬉々として受けていた

普通の世界には戻れなくされた淡と

普通の世界には戻らないと決めた男

両者の行為は終わるまで続くのだ


淡「ひっぃっあはっもっとっもっとぉ!」

狂ったような笑みを浮かべ、

口元を涎で濡らしながら、

淡は行為を、激しさを、様々なものを求めていた

「……大星淡」

男は小さく呟き、自分の図鑑からその情報を引き出し

狂わされた哀れな犬にも満たない肉人形を見つめた

もっとも、男にはモノが壊れて哀れむような心はなく、

ただその様を見下し、穢らわしいと思いながら

自分にはそんなやつがお似合いなのだと嘲笑し、

男もまた狂った笑みを浮かべながら人形に腰を打ち付けた


その永遠とも言える地獄のような行いも、

いつしか激しさを増し、終わりが近づいていく

処女ではないためか、赤混じりの液体ではなく

僅かに白濁したものと無色透明に近い液体が少しの粘り気を

全力で駆使し淫らでいやらしく汚らわしい音を轟かせながら

その音と音の間隔を狭めていき、その激しさを表していた

淡「すみれっすみれっ……」

淡はもう目の前の人間すら認識していない。と

男はわざと淡の呼んだ名を借りようとしたが

それは少女の言葉でかき消えた

淡「助けてよぉ……すみれぇ……」

しかしそれもむなしく、無情にも淡のすべては白く塗り潰され、

白に埋め尽くされてしまった


菫「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
  ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
  ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
  ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
  ごめんなさい……」

菫はただただ呟いていた

お経のように、あるいは呪文のように

助けにいきたかった。助けてあげたかった

しかし、自分の罰が全て淡に向かうと言われてはどうしようもなかったのだ

その恐怖が思考能力を退化させ、

邪魔をしなければ多少は優しくされるだろうと誤らせてしまった

その結果、家に響く声はだんだんと壊れていき、

最終的には崩壊してしまった


それが自分のせいだと菫は思い込み、

救えなかったことを淡に詫び続けていた……そう

菫もまた壊れてしまったのだ

己の不甲斐なさに、

最後の大切な存在までも破壊され、失ってしまったことを後悔し

自責の念に包まれ、冒され……崩壊した

一夜にして弘世菫も大星淡もその存在を破壊され、

ただの穢れたモノへと堕ちてしまったのである


中断


菫「………………」

淡「………………」

2人の少女は朝食さえも口に入れず、

ただ黙って席に座っていた

壊れた? いいや違う

壊したのだ、

少女達を無表情に眺めるこの男が、

この須賀京太郎という男が

自分勝手な復讐のために、

宮永照という少女と知り合いであるというだけで

心も、体も……蹂躙し、凌辱し、破壊した


「やることは解ってますよね?」

淡「はい」

菫「はい」

従順な僕のように菫と淡は答えると、

光のない瞳、口だけの笑みを浮かべた

もう理性も感情もなにもない

そこにあるのは命令に忠実な人形

そしてそれは京太郎という存在だった少年も同じ

自分の内にあるどす黒い存在の囁きを聞き入れてしまったために

彼女達への同情も何もなく、

自分自身のことにさえ興味はなく

ただただ宮永照を貶め、屈服させ、

それでもまだ終わらせず、絶望させ、後悔させ、

嘆きの中で全てを崩壊させることにしか興味はない


もう止まらない、止まることはできない

もしかしたら戻れたかもしれないというのに、

その機会は失われ、あとはもう終わるしかない

救いようのない悪魔な存在に青年は堕ち、

その両手に捕らわれた少女達も堕ちた

菫「淡、時間だ。行くぞ」

淡「うん、解ってるよ。行ってきます……ご主人様」

菫「行ってきます」

朝の微笑ましいはずの光景は

地獄の門が開いたことを、一瞬限り忘れさせてくれるだけだった


いつも通りの日常だっただろう

弘世菫がいて、宮永照がいて、

渋谷尭深がいて、亦野誠子がいて、大星淡がいて……

でも普通じゃなかった

他人から見たらまるで人がかわってしまったように

菫と淡は照と険悪になってしまっているのだ

仲が良い。良すぎたかもしれないというほどの3人が全く話をしない

尭深も誠子も不安で仕方なく、

そのせいか、尭深はいつもよりもハイペースでお茶を飲んでしまい、

しかしそれこそ菫と淡が狙ったことだった


2人は計画した通りお茶の葉に睡眠効果を持たせ、

尭深があたかも事故死したかのように見せかける

かつての仲間を殺すことに躊躇はない

しかし自分達が殺したとばれることは得策ではないとし、

そのせいでこんな地味かつ不確かなものになるしかなく……

けれど上手く行った。行ってしまった

でも、喜ぶことはない。それで当然なのだから

出来なければ役立たずだから

尭深「私……お手洗いに行ってきます」

そして彼女は席を立ち、それに少し遅れて照も出ていった


照「待って、尭深」

尭深「どうかしたんですか……?」

少し前にも照は聞かれ、なんでもないと答えた

でも……なんでもなくない

それは今日のことで解ってしまっただろう

だから頼りたかった

照は一人で悩むしかなくて、

でも限界があるから。と、尭深に相談することに決めた

照「助けて……ほしい」

上手く説明できない照の精一杯の救難信号

尭深は少しも迷うことなく照に微笑むと頷いた

尭深「私で力になれるのでしたら」

中断


そして照は、自分に解るだけのことを話した

菫が少し前からおかしかったこと

携帯を取ったらかなり怒られたこと

淡に嫌われるようなことはしていないこと

最後に別れたときはいつもの淡だったことを……

尭深「それが本当なら不自然です……」

照「そう、あまりにも不自然だから困ってる」


尭深「……私から聞いてみても良いですか?」

照「え?」

尭深「宮永先輩が万が一にも無自覚に何かしていたら、
    何をしたのかを聞くのは逆効果だと思いますから」

尭深は親身になって話を聞いた上に、

すぐにでも行動しようとしてくれている

その事が嬉しくて、

照は尭深のことを思わず抱き締めていた

照「ありがとう、ありがとう尭深……」

尭深「いえ、そん……ふゎぁっ……す、すみません」

尭深は眠そうな欠伸をするとすぐに謝り、照から離れた


照「疲れているなら無理しないで」

尭深「はい。ありがとうございます……あの、私はお手洗いにいくので……」

照「ごめん、引き留めて」

気にしないでください。と言い残し、

尭深はお手洗いへと向かっていき、

その姿は照の視界から消えていく

照(帰りに喫茶店にでも誘おう)

救われるかもしれないと思った

なんとかなるかもしれないと思った

照は尭深の去っていった方向に背を向け、

少しだけ嬉しそうに歩いていく

そしてそれを祝福するかのように、

バンッと、大きな音がその階に響いた

ここまで


首の骨の骨折、頭蓋骨の陥没

渋谷尭深は即死だったらしい

照にそう伝わってきたのはもうまもなく夜になるという時間だった

音に驚いた階下の生徒が尭深を発見し、

その悲鳴で照が気づき、

尭深の無惨な姿に嫌な吐き気を覚えながら通報した

照はもうなにがなんだか解らなくなっていた

照の現実は菫と淡によって少しずつ壊され、

頼ろうと寄りかかった瞬間に尭深が消え

それはその流れに引かれて倒れ……そして砕け散った


警察からの電話

尭深が即死だったという言葉は、

まるで冷房からの冷たい風のように照の全身を這いずり回り、

思考力も何もかもを奪ってしまう

照「……嘘ですよね?」

照は沈黙の後にそう呟いた

警察からの言葉はない

照「嘘、嘘……嘘、だよね……尭深……」

それに答える少女はいない

解っているはずだ。しかし心がそれを否定している

見れば解った、見なくても解ったかもしれない

でも照は見てしまったのだ。焼き付けてしまったのだ

その目に、その脳に、その記憶に、その……現実を


なにかが壊れた音がした

照の日常という名の現実が砕け

悪夢のような現実が広がり、

その中でただ一人残された照は、

その場にへたり込み、垂らした手が受話器を床に叩きつけ、

ガンッと音がした

照「ぁ……あっ……」

あのとき聞こえた音

別れてすぐ聞こえた音

照「ぅああああぁぁあぁぁぁああっ!!」

照は堪らず叫び、その声は街に轟いた


もしも一緒に行っていれば、救えたかもしれない

いや、確実に救えたはずだ

ぽたぽたと床が濡れていく

かきむしり、振り回した髪は醜く乱れ

その表情は見るに耐えないもので……

照「ぅ……うう……」

「……では、後日にまた」

警察は電話を切り、代わりに部屋の扉が開いた

照母「……照」

照の母親だった

真っ暗な部屋に廊下からの柔らかな光を携え、

母親はその姿を見下ろすしかなく

照「………………」

照はただただ……涙をこぼし、嘆くしかなかった


理由もなく親友に避けられ、

理由もなく後輩に嫌われ、

相談に乗ってくれそうだった後輩は、

相談した直後に事故死した

照「……事故死?」

その言葉が妙に引っ掛かった

照「私の回りだけ……」

正常な思考能力はない

正常な精神も、心さえも患って

照「……誰? 誰が……やったの?」

照は壊れかけていた……


一方で、すでに壊れてしまっている2人は、

滞りなく作戦を終えることができた。と、

喜ぶわけでもなく男に報告していた

淡「でも平気なのかな?」

菫「なにがだ?」


淡「壊れちゃわないかな、照」

菫「それは私達が心配することでもないだろう」

仲間が、友人が。

一人死んでしまったというのに、

壊れているがゆえに気にする素振りもなく

菫「私達はただ従えば良い」

淡「それもそうだね。ご主人様は?」

菫「部屋に戻っていると思うが」


淡「そっか」

菫「ああ」

普通に見せかけた壊れた会話

感情があるような声はすぐにどこかへと消えていく

淡「……次は亦野先輩かな?」

菫「さぁな。指示を待っていれば良い」

会話のなくなった部屋で、

時計だけが音を刻み続けていた


翌朝学校は休校になったものの、

全校生徒が体育館に集められた

校長、担任、顧問それぞれが様々なことについて話し、

麻雀部部長である菫もまたその話をさせられることとなった

菫(尭深について……か)

以前なら話すことはたくさんあったし

悲しさで言葉が選べなくなったりもしていただろう

菫(話すことなんて……)

でも今はなんとも思わないし、

話すようなこともなかった


ここで黙っていても、

ショックのあまり言葉を失った。と、思ってくれる

菫はそう考えて黙っていようとしたが、

照の鋭い瞳がそれを許さなかった

まるでお前が殺したんじゃないかと言うような瞳

菫「っ…………」


中断


菫(……照は私を疑っているのか?)

壊れたとはいえ元は人間であり、

本能的にそういったものには敏感である

悪いことをしたと表では思っていなくても

心のどこかにある罪悪感は過敏に反応し慌てさせるのだ

それは菫も例外ではなく

破裂しそうな勢いの鼓動を手で抑え、

深く息を吸った

菫「尭深は……渋谷尭深は大切な仲間でした」

部長であるために緊張することは多々あり、

菫は普段の通りにそれを乗り越えた


菫「チームの一員として、後輩として、友人として、尭深は……」

体育館に菫の声が響き渡っていく

その声ははっきりしていて

いつもの菫のようで、でも変わっていて

菫「尭深は大切なやつだった……っ」

菫(くそっ……なんだ、なんなんだ……)

言葉を紡いでいく内に、

自然と涙がこぼれていった

それは菫が完全な悪になりきれていない証明だった

中断


その姿を舞台下で見ていた淡は

それが演技ではないことに気づいていた

淡(泣く演技……じゃない?)

だが、淡は菫のようになることはなく、

淡(……菫、駄目だよ。そんなんじゃ)

淡の冷たい視線が菫を見つめ、

口だけは三日月のようにつり上がっていく

淡(お仕置きが必要かなぁ……ご主人様に言わないと)

淡は男によって直接破壊され、

一方で菫は無力な自分に嘆いて壊れた

その僅かな差が、2人を分け隔てているのだ


集会の後下校

しかし、菫は帰ることはなく、

部室の卓に一人でついていた

菫(尭深……私は……)

自分が取り返しのつかないことをしたと菫は理解している

だが、男に逆らうことができない体なのも理解しているのだ

反抗しても、しなくてもどっちも辛く、

僅かな光を浴びる心は少しずつ黒く染められていってしまう


そんな状態の菫を追い詰めるために、

彼女は部室の扉を開くと、菫に歩み寄った

気づかれないように慎重に行動し

頭を悩ませる菫の背後に立つ

淡(悩まなくてよくしてあげるから)

侵入者である淡は心にそう呟き、

無防備な菫の背中を強く押し、床へと押し倒した


菫「あ、淡!?」

淡「そうだよ。淡だよ? 何でこうしてるか解る?」

淡は愉しそうにそう訊ねながら、

菫の両手を頭上に押さえ込み、頬をなぞった

その行為に対して菫はビクッと震え

答えを出すことができずにいた

淡「ほら、言わないと大変なことになるかも」

言いつつ菫の服をはだけさせ、腹部に直接指を這わせた


菫「淡、やめろ……今はそんな気分じゃない」

菫の出した精一杯の声に対して、

淡は一瞬だけ目を見開き、

悲しそうな雰囲気を醸し出しながら背けた

淡「気分じゃない? ただの下僕、奴隷の癖に?」

菫「っ……淡……」

淡「駄目だよ菫。勘違いしたら」

淡の手はあくまで優しく菫の体を這いずり回り、なで回す

その妙にイヤらしい手つきが菫と淡両者を火照らせていく

淡「私も菫も人間じゃぁない。悩むことも悲しむことも必要ない」


菫「それは……」

淡「菫はまだ綺麗だから勘違いしちゃうのかな?」

会話しながらも行為は先へと進んでいき、

菫「そんっひっ……やめっ……んっ」

否定しようとした菫の胸を、淡の滑った舌が這うように舐め、

小さな悲鳴が上がった

淡「菫もご主人様とすれば良いと思う。そうすればね……」

淡の言葉が消え、菫の視界には淡の顔が映り……

菫の言葉さえも失わせていく

淡「私はもう戻れないから菫を引き留めるし、壊そうとする」

でも。と、淡は続けた

淡「菫はまだ平気かもしれない。先輩の死を悲しめるくらいにはね」

ここまで


菫「淡、お前……」

再び合わせた淡の瞳は菫が思った以上に辛そうだった

淡「私を蹴り飛ばして逃げても良いよ。あれなら殺したって良い」

淡はそれを笑顔で言うのだ

崩壊した精神から絞り出される無感情な

それでいて菫を気遣う矛盾した言葉

淡「どうする? 菫。ここで逃げなきゃ……本当にダメになるかも」

淡の催促

淡は望んでいるもかもしれない。菫だけでも無事でいてほしいと

しかし菫は逃げず、それどころか淡の唇に自分のそれを重ねた

菫「お前を捨てたら私になにが残ると思う?」

いつもは活気づく麻雀部にとって大切な部室

その空間に、諦め混じりの自嘲の言葉がむなしく響いていく……


菫「んっふぁ…………」

淡「はぁっはぁっ……んんっふ……」

淫らな音が鳴り響く

菫と淡のキスは ぴちゃぴちゃと、水遊びのような音を鳴らす

馬乗りになっている淡の開いた口から滴り、

糸のように伸びる唾液が菫の口内へと流れ込んでいく

淡「美味しい?」

菫「飲んでみるか? いや、飲め」

菫の問答無用な舌が淡の口腔を侵し、

自分のそれと淡のそれとを絡めさせ、無理矢理に飲ませた


淡「も、もぅ……菫強引なんだから……」

菫「はぁっはぁ……はぁ……んっ淡」

菫の体が先を求め、しかし淡は首を振った

淡「いきすぎると止められないから。場所考えて・・っ
!?」

けれど、菫はその中途半端な行為では満足できず、

本能すら凌駕してしまったであろう性欲に押し負け、

馬乗りになっている淡を横に倒すと、

今度は菫が上になった

淡「これ以上はばれちゃうよ……菫」

菫「そんなこと……いや、どうでもよくはないな」

菫の僅かに残る思考能力でもそれは解る

しかし、やはり正常ではなく

菫は自分の恥部に淡の頭を、淡の恥部に自分の頭を向けた


淡「菫……前言撤回。菫も壊れてるよ」

菫「知ってる」

菫はそう答え、淡の恥部を覆う邪魔な布をどかし、

味見でもするように優しく舐めた

淡「っ……んぁっ一回、だけ……だよ?」

菫「ああ……それ以上はなんとか抑えるよ」

互いの恥部。その敏感な場所を二人は舐め合い、

火照った体をさらに熱くさせ、達しようと刺激していく

部室には女の子特有の匂いが充満していた


淫らな音が響く

荒々しい乱れた呼吸が響く

淡「んっあっ……駄目、もうやえひゃい!」

菫「もう少しだけだから」

結局一度だけで終わりはしない

淡が責めを止めたのに対し、菫は続けたのだ

菫「淡っ淡っ淡っ!」

淡「すみ、れぇ……」

淡の責めがなく物足りない恥部を淡に擦り付けながら、
 
菫は達し淡もまた達し……淫らな音が止み、

乱れた呼吸だけがそこに残っていた


淡「す、みれの……馬鹿」

菫「すまない……どうかしてるんだ私は」

寂しそうに答えた菫を淡は優しく抱き締め、

耳たぶをそっと唇で挟んだ

淡「どうかしてるのは私もだよ……先輩の死をなんとも思えないんだから」

菫「………………」

壊れた2人、壊された2人

2人は見つめ合い、でも先ほどのように行為には及ばない

菫「さっさと全て終わらせよう」

淡「そうだね。私達のためにも、ご主人様のためにも」


その少女たちを壊した男によって、

復讐の対象となっている照もまた体育館での集会の後、

帰らずに校内に残っていた

照「尭深……」

あの惨劇が起きた階段には、拭き取られてはいるものの、

まだうっすらと血の赤い色が残っている

照「ごめんなさい……尭深……」

昨夜あんなにも泣き続けたにもかかわらず、

照は再び嗚咽をこぼす

一緒に行っていれば救えた

こんな事にはならなかったのに……と


照(尭深……)

自分の回りが壊れていく

壊されていく

親友である菫も、後輩である淡も、相談を持ちかけた尭深も

その三人には全て照の大切な人という関係があり、

男が狙ったのはそれを失わせること

尭深だけは照を立ち直らせる可能性故の排除だったが……

照「……私が貴女を殺してしまった」

頼ろうとしたから、あのあと付いて行かなかったから

照は深く頭を下げ、ごめんと呟いたーー時だった

「なるほど……事故死に見せかけて君が殺したのか」

嫌な言葉が……背後から響いた

ここまで


照「え……?」

「どうも、警察の者です」

振り向き、照の視界に入ったスーツの男は、

そう言うと警察手帳を照に見せた

照「……どうして、学校に?」

「昨日の渋谷尭深さんの件でキミに話があったんだけど……署で聞こうか」

一瞬で視線が厳しいものに変わり、

照は思わず身構えた

もちろん、照が何かをしたわけではない

それでもこの警察が偶然にも聞いてしまった

照自身の殺してしまったという言葉が自首になってしまうのだ


照「わ、私はなにも……」

「でも、キミは確かに言ったよね? 貴女を殺してしまったって」

照「っ………」

睨むような視線の男を、照は冷めた目で見つめた

警察はなんて無能なのか。と

しかし、ここで抵抗すれば疑いはさらに深くなる

その歯がゆさが照には苛立たしく、憎たらしく、

噛み締めた奥歯が痛む

「来て貰えるかな?」

照「……はい」


淡「次はどうするんだろう?」

菫「尭深は……尭深は余計なことをしようとしたからだ」

けれど、それは菫が報告したせいもある

その罪悪感がないわけではなく、

しかし、淡をおいてどこかへ行くことも

自分だけがその罪を償うわけにも行かない

だからこそ菫はそれが間違いだとしても、

最後まで完全な悪に徹し、最悪な末路に至ることに決めたのだ

菫「とりあえず聞けば――っと」

重なりそうだった車を先に出すと、淡は不思議そうに車を見つめた

淡「真っ黒な車だねぇ……」

菫「そうだな」


菫「私たちには無理だな」

真っ黒なのに、太陽のせいで光っている

そんな姿が、菫には皮肉に思えてしまう

体も心も穢れてしまっているのだ

どんな光でも、もう普通の輝きを持つことはない

淡「……菫」

菫「ごめんな、淡。助けられなくて」

淡「ううん気にしなくて良いよ。もう、どうでも良いから」

その一言が重くのしかかって菫は小さく呻き、

淡の手を握った

菫「行こう」

淡「うんっ」


もしもまたなにかが淡襲うなら、

今度こそ守ろう。絶対に守る。と、

菫はその崩れかけた心をきつく縛り上げ、決心した

菫「夕飯、一緒に作るか?」

淡「良いのかな? そんな勝手なこと」

菫「一応聞いてからな」

儚い偽りの日常風景

家に帰ればそれは崩れ去る

だってその家は家ではないのだから。

それでも菫は、淡は、その家に向かって歩いていった

それ以外、2人に帰れる場所はないから……


その一方、普通は見ることもないであろう部屋に照は来ていた

警察署の取調室。照が読んだ本のいくつかにもそれは出てくるし、

それが正しければ……と

菫は不自然に大きい窓のようなガラス面を見つめた

照(あそこから見てる人もいるのかもしれない……)

「楽にしていて良いわよ」

やがて人が入ってきたが、相手はどうやら捕まえた男ではなく、

同僚であろう女性だった

照「さっきの人は?」

「女の子だし、女相手の方が良いでしょ?」

取り調べにはあまり関係ない気がしたが、

照は何も言わずに黙って頷いた


「とりあえず、本来聞こうと思っていた事から聞いて良いかしら?」

照「聞こうと思っていたこと?」

「ええ。渋谷尭深さんが亡くなった時だけれど……貴女も居たわよね?」

確かに、発見した生徒の悲鳴で慌てて駆けつけ、

その惨劇を見て電話をしたし、その場から動けず警察に助けられた

けれど、警察が聞きたいのはそれではない

「渋谷尭深さんが死ぬ前にお手洗いに行くと部室を出たと聞いているの」

ああ、そういうことか。と照は机をにらみ、

警察の言葉が終わるのを待つつもりだった

「その時に、少し遅れて貴女だけが出たって話も聞いて……」

しかし、我慢しきれずに言葉が飛び出す

照「私が尭深を突き落としたって疑っているんですか?」


回りくどい言い方をしようとした警察に対し、

照は単刀直入に訊ねた

「そ、そういうわけでは――」

照の冷めた瞳が女性を射抜き、

口ごもらざるを得なかった

照「それを聞かないわけがない。もし他殺なら私が一番怪しいのは事実だから」

そのはっきりとした言葉に、女性は小さく呼吸を整えると、

真剣な声で返した

「もしかしたら。というだけなの。証拠とかがあるわけではないし
 上の人たちは事件性は極めて低いってこれを事故で片付けるつもりみたいだから」

事件性が低い。事故で片付ける

その言葉が照の心を強く揺らし、

照はバンッと力強く机を叩いた


「落ち着いて」

照はすみません。と一言謝罪して話に戻った

照「事件性が低い? 事故で片付ける? ……本気なんですか?」

「そうね。他の生徒の証言から、寝不足による事故になると思うわ」

照「寝不足……」

確かに眠そうにしていたし、

それはありえなくもない……ありえなくないのだ

照は他殺であると疑っているが、

その証拠がどこにもなく、

まだ確証のないことを適当にいうことはあまり得策ではない


「そういうこと。だから……貴女と話す意味も正直に言えばないのよ」

照「っ……それはつまり私が犯人ではない場合、尭深は事故死っていうことになるということですか?」

照の問いに対して、女性は頷くことはなく、

少し考えてから答えた

「もしくは、貴女が不審な人を見た。という証言がなければね」

どうしようもないのだろう。

女性の警官は、照の様子を悲しそうな瞳で見ているし、

照はそれに気づいている

照「貴女はどう思っているんですか?」

「私も事件性は低いって思ってるわ。第一発見者の女の子は口論とかを聞いてはいないらしいし……」

そして少し言い辛そうに続けた

「渋谷尭深さんの遺体の服とかも特別乱れたりしてはいなかったから」


言いたいことをまとめるとつまりこうだ

渋谷尭深は事件性が極めて低く、事故死でほぼ間違いない

理由としては、

当人が寝不足であったこと、口論を聞いていないこと

抵抗したような様子が見て取れないことから、

寝不足であったために体制を崩し、そのまま階段から落ちて――ということだ

照(確かにおかしくない……でも……)

「貴女は何か言いたそうね。彼も貴女が尭深さんを殺してしまったって聞いたらしいのだけど」

照「それは……」

ここに来てようやく、照がここに連れてこられた理由に移った


「貴女の様子を見ても貴女が犯人っていう線はないと思ってるから安心して良いわ」

女性はそう言うと、少し考えて続けた

「貴女が天才的な女優でもない限りね」

和ませるためのセリフだったのかもしれないが、

照は一瞥し、世界を差し置いて自分の思考の世界に入り込んだ

照(菫達の様子がおかしいのは偶然だったり)

照(私が知らないうちに何かをしたせいで)

照(第3者の存在なんてなかったら?)

わからなくなってしまう。自分の考えが、

自分の疑いが。

存在しないかもしれない何者かを疑ってしまっているのではないか。と


「どう? なにか思い当たる点はあるかしら? 渋谷さんから相談を受けてたとか」

むしろ相談をしていた立場だ

照は何も言えず、何もできず、ただ黙って天井を見上げるしかなかった

そのまま無駄に時間は過ぎていき、

やがて女性が照の頭を優しく撫でた

照「………?」

「急に聞かれたって答えようもないわよね」

そう言うと女性は名刺のような紙を取り出し、照に差し出した

「もし何かあったら私に連絡してね」

「……はい」

照はそれを受け取ると小さく答えた

「あ、待って」

しかし女性は呼び止めると、照の今にも崩れそうな体を支えた

「送っていくわ。突き合わせちゃったしね」

その厚意を受け、照は女性とともに家へと帰っていった


いろんな人の世界が壊れた一日

白糸台の麻雀部からは活気が消えるだろう

自分の周りが崩れていく宮永照もまたその精神を冒され、

変化してしまうだろう

弘世菫もまた自分を完全なる悪としてまた変化するだろう

そんな中でもう壊れ切った2人の男女と菫は、

また次へとシフトしていく

「次、ですか?」

淡「はい、どうしたらいいんですか?」


(次……か)

男もそれを考えていないわけではない。

照を追い詰めるという目的

それは順調に進み、照に対しかなりの痛手を負わせているだろう

だが、これで終わらせるつもりはない

(この人たちを使って……完全に破壊する)

少女たちにとっての大切な存在だとしても、

それに成り代わっているだけの男にとってはただの道具なのだ

菫や淡がどうなるとしても関係がない

「あと一人残っているじゃないですか。貴女達のチームには」


菫「亦野は私たちにとって無害なのに?」

「無害有害なんて関係ないですよ。宮永照の関係者なら――誰でもね」

男の歪んだ笑みが2人へと向けられ、

あまりにも不可解なその雰囲気に、

菫は思わず後ずさったが、淡だけはそれに対し、

壊れた笑顔を返して頷いた

淡「了解しました、ご主人様」

菫(淡……お前がやるというなら)

菫「了解しました。淡今度もうまくいくとは限らないから慎重に行くぞ」

淡「うん、解ってるよ」


(菫さんは俺よりも大星さん優先か)

(先に大星さんを壊しておいて正解だったか)

淡が完全に男に取り込まれてしまっているせいで、

菫は男に逆らうことはできないのだ

菫に対して淡は何よりも重い足枷になっているということ

「そうだ。ついでに宮永照を精神的に追い詰めてあげてください」

菫「方法は?」

「お任せします」

淡「了解しました」

照を破壊するための動きはさらに酷いものへとシフトし、

それは確実に、照を追い詰めていくものだった


ここまで


翌日、菫と照の教室は、

朝の喧騒とはまた違う騒がしさに溢れかえり、

騒ぎを聞き付けた他クラスの生徒までもが廊下に集まり、

その大元を確かめようとしていた

菫「…………」

照「…………」

照の机に刻まれた文字

それは麻雀部にとっては最悪な言葉で

照にとってはかなり酷い言葉だった

それは

【人殺し】

この一言。しかしこのたった一言が、

机の表面上を埋めつくし、照の頭の中に誰かの声が響く

人殺し、何で殺したの?

何で死ななくちゃいけなかったの?

私は悪いことしていないのに……と

照「ち、違う……」

否定しても声は責め続け、

いつしかそれは形を持った


(尭深「相談に乗ろうとしただけなのに」)

照「私は……」

(尭深「助けようとしただけなのに」)

照「やめ……止めて!」

菫(……照)

錯乱し、頭を抑えながら違う、私じゃないと呟き続け、

やがて、照は先生によって保健室へと連れていかれてしまった

菫(尭深について責めろ……か……)

それは淡の決めた作戦だった


淡曰く、

自分の目の前で死んだようなものなのだから、

そこを責めてあげれば簡単だよ。らしく、

菫はそれを実行し、照は実際に苦しんで錯乱した

精神的にかなり辛いのは見て解る

しかし、菫にはそれを止めたりすることはできないのだ

菫(全て崩壊するんだ。私も、お前も……虎姫も)

菫は照の机を見つめながら、

その瞳はどこか別の世界に向いているようだった


昼休みになっても照が戻ってくることはなく、

菫は照の鞄を手に、保健室へと向かった

接触するなという命令はなく、

ただ照を追い詰められるならなんでも良いと言われている

それがどんなに残酷なことで、

それによって菫達にどんな被害があろうとも……

菫(淡……私に任せろ。全て)

保健室の扉に手をかけ、菫は目を閉じた

菫(私が全部終わらせてやるから)


菫「照、いるか?」

照「っ……すみ、れ……?」

弱々しい声だった

照はベッドに横になり、

虚ろな瞳で菫を見つめていた

菫「……お前じゃないんだろ?」

本当の犯人だからこそはっきりと、そして優しく訊ねた

いや、断言した

しかし照は首を振ると、俯き気味に答えた

照「私が殺したようなものだから……」

助けられる位置にいながら、助けられなかったのだ

照の気持ちを解らないほど、菫も、馬鹿ではないし壊れてもいない

ここまで


菫「そんなのは結果だろう?」

照「結果がそうなんだ! 結果が、結果が人殺しだって私に言う!」

普段の照からは想像もつかない大声で照は叫んだ

狂ったような瞳で菫を睨み、

握り締めた白い布団の皺が細かく広がっていく

照「私の周りがおかしくなっていく! 菫も淡もそして尭深が消えた……」

菫「っ………」

照「 菫、私菫になにかした? それとも、菫は誰かにそうしろって言われてるの?」

照の真実を問う言葉に、

菫は答えを見つけ出せず、黙っているしかなかった


照「黙らないで、答えて菫……お願いっ」

照の縋るような手が菫に伸び、

しかしそれは届かずに落ちていく

菫「照……」

照「お願い……菫に何かあったのが私のせいなら私が責任取るから、
   なんでも……するから。お願い菫。誰かがいるの?」

菫と淡が尭深を殺し、菫と淡を壊したのは京太郎だ

誰かがいるの? という問いに答えるならば、

それは須賀京太郎という男になる

しかし菫は少し考えた後に首を振り、口を開いた

菫「誰もいないさ。私は少し不安定だっただけだ。家の事情でな」

久しぶりの笑顔で、照に対して優しく告げた


男の存在は教えられないわけではない、

けれど、教えれば面倒なことになるかもしれないのだ。

だが、菫が言わなかったのはそんな理由なんかではなかった

菫「すまん、心配かけて、怖がらせて。もう平気だぞ。照」

菫はそう言いながら照を抱きしめた

照「菫……信じて平気だよね?」

菫「ああ」

照は菫を頼るだろう。

菫のことを信じ、大切に思い、これからを生きることになるだろう

菫は照を自分に依存させることが目的なのだ


菫「今日は保健室で休んでろ」

照「駄目、私も行く」

照はがっちりと菫の腕を掴んで離さず、

菫が認めるまで動かさせないつもりらしい

菫「照、お前な……」

照「お願い……目を離したら死にそうで怖いから」

そんなことは今のところありえない

だが、照は本気でそう思っているらしく、

微かに震えているようだった

さすがの菫もため息をつき、

照の嬢業復帰を認め、一緒に教室へと戻った


そして放課後、やはり照は菫と一緒に帰ると言い出した

照「菫」

菫「帰りまで一緒じゃなくても良いだろ?」

照「駄目、下校が一番危ない」

菫(……あれだけでここまでなるか)

他人だった京太郎と菫とは違い、

親友である照と菫の依存の速さと深さは相当のものだった

菫(淡には先に帰ってもらうか?)

照「お願い、お願い、菫」

菫「……………」

>>346   嬢業→授業


別に断れなくはないし、非常に徹して突き飛ばしたりもできる

けれど菫はあくまで物理的に手を出すつもりはないらしい

菫「ちょっと待っててくれ、電話するから」

照「解った……でも、遠くには」

菫「解ってる」

菫はそう返して照から離れ、

教室からは出ることなく男に電話をかけた


『なんですか?』

菫「今日は淡を先に返しても良いか?」

『……何するつもりですか?』

男の問い。

それをごまかしたら淡が被害を被るために、

菫は声を抑えてその理由を答えた

『貴女って人は……まぁ、好きにしてください』

菫「ああ、そうさせて貰う」

そして電話を切り、淡に先に帰るようにメールを送った菫は、

いつかの日常のように照と2人で帰宅することにした


ここまで


菫は自分のしようとしていることが、

どれだけ酷いことかは理解しているし、

それを経験すらしているのだ

なのにも関わらず照に対して行う

そして、これが菫の最難な仕事だった

菫(……私が勝手に消えれば照は慌てて探しに来るだろう)

照「どうかな? 菫。明日からも……」

菫「え?」

照「聞いてなかったの? も、もしかして嫌だった?」

菫は考えに集中してしまっていただけだが、

照はそれが自分を嫌いなのかもしれないと思ったのか、

恐る恐る菫の表情を伺っていた


菫「いや、少し考え事をな。悪いがもう一度話してくれ」

照「あ、明日からも一緒に登下校……」

照のおどおどとした態度が、

菫に対して言葉にし難い物悲しさを与えていた

もう戻れないのだと、本当にすべてが失われていくのだと。

そしてその最終段階を今、自分の手で準備しているのだ

菫「ああ、別に良いぞ」

菫の回答はそれで決まっていた

照「よ、よかった……ありがとう、菫」

菫「気にするな、照。私たちの仲だろ?」

菫自身も気にしていないのだ

自分のしようとしていること完遂した結果、

照がどれだけ傷つき、嘆き、壊れゆくのかも……気にしていないのだ


その一方で、淡と男は雰囲気薄暗いリビングでだんまりと存在していた

淡(菫は一体何しようとしてるの?)

淡(ご主人様は迷惑にはならないだろうって言ってたけど……)

昨日の部室での会話

菫はわずかばかり裏切る可能性があると淡は思っていた

もちろん、淡を置いてはいけないという言葉は本心だと信じているし、

それが本心なら裏切ることはないと思っている

それでも、自分には何も教えてくれないということが不安だった

淡(亦野先輩を殺す件についても話さないといけないのに……)

黙り込む淡と男だったが、暫くして男が口を開いた


「弘世さんは照に付き合ってますよ」

淡「え?」

男は菫のしようとしていることは避け、

今何をしているかを簡潔に伝えた

そこには別に良心とかはなく、

ただ、菫から淡に邪魔されないようにしてくれ。と言われたのだ

主従関係ではあるがやり方は菫達に任せているために、

菫の願いを聞いた。というだけだ。

淡「いいんですか? それで」

「弘世さんは裏切りませんよ。貴女という枷がいますからね」

嫌味や皮肉にも思えるその言葉は、

淡には褒め言葉に聞こえたのか、

嬉しそうに笑うと、小さく頷いた


そして夕方になってようやく、

照に付き合っていた菫が戻ってきた

菫「すまない、遅くなった」

淡「ううん、別に良いよ。照の方は?」

菫「問題はない。上手く行ってる」

平然とそう報告出来ている自分が、

菫はなんだか嫌で、それでもそれを変えることができない

そうなってしまっているから。

菫は淡の頭を撫でると、

自分がしようとしていることは告げず、ただ要望だけを言い放った

菫「亦野の件は私に任せてくれ。後は照のことも」

しかし、淡はそれに対して首を振った

淡「自分ひとりで全部やるなんてダメだよ。私だってご主人様のために何かしたいもん」


淡のそれは染まりきった回答だった

菫は少し顔をしかめ、淡から少しだけ視線を逸らし、

菫もまた首を振った

菫「照は私たちが誰かに操られているんじゃないかって考えてるみたいなんだ」

それは照が疑っていた。という過去形なだけで、

別に嘘を言っているわけではない

菫「なんとかその疑いを晴らそうと思ってな」

淡「宮永先輩のことはちょっとアレだけど良いとして……亦野先輩は?」

菫「それなんだが、亦野を利用して照を一気に絶望させようと思ってるんだ
   他言して計画に支障が出るとアレだし、終わったらちゃんと教えるから我慢してくれ」


菫の計画は淡には教えたくないものだった

最初から最後までをひとりでやり遂げなければいけない

それでなければ意味がないのだ

菫「お前からしたら手柄総取りで憎いかもしれないが、これが最初で最後だから」

菫のその必死にも思える申し出に対して、

淡は否認しきれず、小さく頷いた

淡「この1回だけだからね、菫」

淡の諦め混じりの言葉

菫は少し笑うと、「ありがとう」と答えた


淡との話のあと、

菫は男に呼び出されていた

「まさか貴女があんな作戦をするとはね」

菫「……ダメか?」

「いえ、そんなことはないですよ」

菫「ならなんで呼んだんだ?」

口調だけは強く、

しかし体は男を求めて疼き始めていた

「しばらくお預けでしたし、してあげようと思ったんですけどね」

男の嫌味な言葉に対して、菫は内心も体も喜んでしまっていることが

腹立たしく、しかしそれさえも男の計算のうちだと解っていて

自分が自由でありながら不自由であることを再認識させられたのだ

「弘世さんが何をしようと自由ですよ。それで弘世さんが消えるとしてもね」

菫「そんなことは知っているさ、お前にとって私たちなんて消耗品でしかないだろ?」


「良く解ってるじゃないですか」

菫「淡がお前に入れ込んでなかったら殺してるぞ」

菫の精一杯の反抗的言葉だったが、

男は嘲笑のように笑うと、菫を見つめた

「それが前提で言ってますからね。当然ですよ」

反抗したい、それどころか殺したいほどに憎くい

だが、大事な存在である淡にとっての大事な存在であるがために、

菫はそれらの負の感情を押さえ込み、屈服するしかないのである

菫「頼みがある」

「俺に頼めるほどのことをしてくれるんですか?」

菫「宮永照を完全に破壊してみせる。それでどうだ?」


男=京太郎の目的、

ただの目的どころか、生きている理由と言えるかもしれないそれを、

菫はしてみせる。とはっきり言ったのだ

「……それが出来たなら考えますよ」

男の真剣な眼差しを受け、

しかし菫は怖気付くことなく頼み事を告げた

菫「全てが終わったら淡を大事にしてやってくれないか?」

「……はい?」

菫「あいつにはもうお前しかないんだよ。だから、全てが終わったからと消えるのは止めろ」

菫「それが私の申し出だ」

菫の絶対に引かないという強い意志は、

それを訊ねていない京太郎にも伝わっており、

だからこそ、男はしばらく何も言えなかった


「俺の人生を彼女と共にしろってことですか?」

菫「そういうことだ。私たちの人生をめちゃくちゃにした分、淡を幸せにしろ」

菫の申し出は、後輩思いで、友人思いで、

かなり優しいものだったかもしれない。

しかし、不自然な点があった

「貴女はどうするんです?」

そう、菫自身についてが何もないのだ

淡は身も心も全て京太郎に縛られているのと同じように、

菫自身も体だけとは言え、京太郎でなければいけないはずなのだ

菫「私自身について頼む分を、淡の幸せにくれてやりたいんだ」

ひと呼吸おき、菫はその理由を告げた

菫「私はお前から淡を救えなかった。だから偽りでも良い、あいつの幸せに貢献したいんだ」


男に対して、同情を誘うような言動はまったくもって無意味だ

しかし今回の言葉は男自身の罪、責任を突き出し、

それを拒否するようなことを許さないようなものだった

「……なるほど、自己犠牲ですか」

同情はしない、賞賛をすることもない

だが、それでも菫が照を目的通りにしてくれるのなら。と

「貴女が成功したら……叶えても良いかもしれません」

そう答えた

菫「ああ、成功させるさ。必ずな」


そしてしばらくは平和な日常が続いていただろう

麻雀部は尭深がいなくなったという悲しみや寂しさを残しながらも、

少しずつ部員が戻ってきたし、

淡は一方的ではあるものの京太郎に対して尽くし、

菫に任せるということでその牙を隠していたし、

菫もまた作戦を実行するまでは隠し、

照に対して優しく、甘く接し、

その依存性を極限まで高めていた

その仲の良さは2人は恋人ではないか。

という女子高ならではの噂が流れるほどだった


しかしその一方で、

照と少しだけ親しくなった女性警官は思わぬ情報を手に入れていた

その発端は、照からの連絡が来ないな。という一言

彼女は結婚願望はないが子供は大好きな人で、

不謹慎ながらも、仲良くなれるかもしれないということに期待していた

しかしながら連絡など一切なく、寂しさからついて出た一言

それを聞いた新人の警官が言ったのだ

「照って、あの宮永照ですか?」

「え?」

唐突な問いに振り向き、女性は答えではなく問いを返した

「あの子のこと知ってるの?」

少し考えて、彼は答えた

「実は俺、宮永さんと生まれ故郷一緒なんですよ」


「知ったときはかなり驚いたんですよね。麻雀は元々趣味だったんですけど、
  高校麻雀で滅茶苦茶強い奴がいるって。それが宮永さんだったんですよ」

照は雑誌に取り上げられるほどに有名で、

新人警官はそんな存在と同郷だというのが自慢なのだろう、

女性が聞くよりも先に次々と照について話して聞かせたのだ

そして出てきたのが、とある少女の死亡事故

「かなり凄い火事で女の子2人が一人死亡、一人重症だったらしいんですよね」

「それがあの子に関係あるの?」

女性の問いに頷くと、彼は少し声を小さくして答えた

「その死亡した子が宮永さんの親戚で、重症だったのが妹さんらしいですよ」

「……あの子、そんな経験してたのね」

「それだけじゃないっすよ」

「新人クン、タメ口とはいい度胸ね」

「す、すみません」

休憩のついでに新人を自販機に走らせ、女性は大きくため息をついた


知らなかったとは言え、

親戚が一人亡くなり、妹までも亡くしそうだった照に対して、

部活仲間を殺したかどうかを取り調べしてしまったのだ

女性はそのことを悔やみつつ、携帯を開いた

「そりゃ……連絡しないわなぁ」

残念そうにつぶやき、

「か、買ってきました!」

無駄に走ってきた新人のお尻を八つ当たりで蹴飛ばした

「いっ」

「お疲れ様。お釣りは上げるわ」

「ど、どうも……」


余計な話になる前に、

女性は缶コーヒーを一口飲むと、

新人を前の椅子に座らせ、話を続けさせた

「それで、何かあったの?」

「これは俺も聞いた話なんですけどね。妹さん自殺しちゃったらしいんですよ」

女性は自分の耳を疑い、

数分固まった後に頬をつねって回復した

「そ、それは本当なの?」

それが事実なら、

親戚だけでなく妹を失った少女に対して、

人殺しかどうかを訊ねたようなものなのだ

「らしいですよ。俺の向こうの知り合いからの情報ですから」

「終わった……私と照ちゃんの関係があぁ」

女性は呻くように声を漏らすと、

もう絶対に連絡が来ることはないんだ。と、嘆いていた


そんな些細な不幸に嘆いていた女性のところに、

思わぬ一報が届いた

「白糸台高校校内にて殺傷事件発生したと通報があった! いくぞ!」

「白糸……照ちゃん!?」

いくつもの不幸な事件を過去に持つ照が女性は心配だった

親戚を、妹を、親友を

そこまで来たらもう耐え切れず壊れてしまっているんじゃないか。

そんな考えの次に浮かぶのは照が言おうとして言えなかったこと

今はそれがなんとなくわかる。

いや、あの時もわかっていたはずなのだ


(照ちゃんはあれを他殺だって考えてたはず)

そしてもしも、精神が不安定になったままだとしたら……

女性の嫌な予感が脳裏をよぎり、

それを振り払うためにも、女性は全速力で車を飛ばし、

単独で白糸台高校へと向かっていった

そいてこの事件こそ、菫の計画の一部であり、

照を壊すための最低最悪のものだった

女性が新人と話をするよりも数時間前に遡り、

照と菫、それ以外の生徒が登校を終えたあと、

昼休みまでは普段と何も変わらないものだった


昼休み、菫は用事があるからと照を教室に残し、

一人で部室に来ていた

もちろん麻雀をするためなどではなく、

部長として仕事をしに来たわけでもない

弘世菫として、ただの女として、

壊れた人間として、ただの人形としてのすべてを終わらせるための、

準備のひとつを終えようとしているのだ

菫に少し遅れてノックが部屋に響き、その被害者が入ってきた

亦野「あ、部長お疲れ様です」

菫「わざわざ悪いな、呼び出して」

亦野「いえ、暇でしたし」


亦野「それで、相談ってなんですか?」

菫が亦野を呼び出すために使ったのは、

相談があるというありふれたものだった

それでいて個人的に、しかも秘密裏に呼び出せるそれは、

周りにバレにくいという大きな利点がある

菫「それなんだが、今の照のことを知ってるか?」

亦野「それはもう……部長との熱愛もですけど、麻雀に関しては素人以下ですし」

菫「ああ、そうなんだよな」

照は精神的ダメージからなのか、

不思議な能力みたいなものを失っただけでなく、

麻雀そのものの実力さえも落としてしまっていた

菫「だからもう一度ショック療法を与えようかと思ってるんだ」

明らかにおかしい言葉

亦野もそれに気がつき、慌てて菫を見つめた


亦野「しょ、正気ですか!? そんなこと出来るわけありませんよ!」

その言葉に対し、菫は口だけで笑って答えた

菫「実行するのは私だ。お前は横にでもなってれば良い」

亦野「そんなわけに行きません! たとえ部長でもそれだけはさせませんよ」

亦野はそう答えると、

扉を背にして菫の前に立ちふさがった

だが、気づけていなかった

止められるとわかっているはずなのに、

なぜ相談をしてきたのかを。

そのショック療法というものの正体に。

菫「亦野はいいやつだと思う。尭深もお前のこと信頼してただろうな」

亦野「急になんですか? 煽ててもどきませんよ?」

退く必要などなく、どかせる必要もなかった

それは計算してのことなのかもしれない

内開きの扉が不意に開き、亦野の体を菫の方に押し出したのだ


亦野「っ!?」

当然体のバランスは崩れ、

菫の動きを防ぐような余裕などなかった

菫「さようならだ、亦野」

ギラリと輝くそれは、どこからどう見ても人に向けるものではなく

亦野はそれを見てようやく理解した

亦野「私を殺――」

最後まで言い終える前に、菫は亦野の心臓を包丁で一突きし、

容赦なくその傷を抉り……悲鳴をあげる時間もあげずに絶命させた

そして、不幸にも扉を開けてしまった少女は、

その光景を見てしまった

包丁を抜き、開いた隙間から噴水のように飛び出した赤い液体を、

その白い制服全体に受け、手はもちろん、髪や顔までも赤く染め上げた少女

信頼し、依存し、自分の中で絶対化されていた弘世菫という親友を

照「ぁ……ぅ、嘘、すみ、れ……?」


菫「ああ、私だよ」

照「な、にが……あったの? 事故、事故だよね?」

照は全てを見てしまった

それでも菫ではないと言ってしまうのは、

すでに崩壊しているということの表れなのかもしれない

だが菫は容赦なく首を振り、包丁を見せた

菫「いいや私だよ。照。私が今、ここで、照の目の前で殺したんだ」

不気味な笑みを浮かべる親友の言葉。

照は目を見開き、ガタガタと震えながらも、

頭を抑えて半狂乱に振り回した

照「嘘、嘘、嘘、嘘、嘘……嘘だ! 菫は、菫はこんなことしない!」

あくまで認められないという照に対し、

菫はさも面倒そうにため息をつき、

亦野の体を照の目の前まで運んで持ち上げると、

再び包丁を突き刺し、そして引き抜いた


そして飛び散っていく血は照の顔にまでその痕を残し、

限界をとうに超えていた照は、

叫ぶことすらできず、

糸の切れた人形のようにその場にへたりこんでしまった

菫「これが現実なんだよ。照」

照「ぁ、う……うあ……」

崩壊していく照を前にして、菫は

一通の封筒を照の懐に押し込み、儚げな表情で告げた

菫「それじゃぁな、照」

そして菫は血濡れたまま部室から出ると、

その騒がしい喧騒をものともせずに屋上へと向かった


菫(あと少し……まだ終わりじゃない)

菫は屋上についたあと、

先生たちが牽制する中でただ待っていた

自分がこうすることを選んだ理由、その相手を

ざわざわと騒々しい中から、その少女は出てきてくれた

淡「菫、どういうこと?」

任せろとはいったが、こんな結果になるとは伝えていないのだ

淡の少し苛立った様子は当然で、それは裏切られたようにしか見えない

菫「どうもこうもない。尭深を殺し、亦野を殺した。ただそれだけのことだ」

淡「ふざけないで!」

淡の怒声が響き、喧騒が止み、風までもがそのなりを潜めた


2人の間では共犯者同士での裏切りだが、

周り、世間体から見ればそれは裏切った先輩と裏切られた後輩にしか見えず、

それこそが菫の目的だった

照は自分の中の絶対的なものに裏切られたせいで崩壊し、

それによって男による復讐計画も幕を閉じることになるだろう

しかし、そのままでは人生を壊された菫達には何も残らない

だからこそ、菫は淡を大事にするよう男に頼み、

淡を裏切られた悲劇のヒロインのような立ち位置にすることで

その負担を少しでも軽くしてあげようというのが狙いだった

そしてそれによって自分がどうなろうとどうでも良いのだ

淡「さいってーだよ、最低だよ菫!」

菫「なんとでも言えば良い……私だって人間なんだ。常に優しく甘いだけじゃないんだよ!」


菫「お前のことだって私は殺してやりたいんだよ!」

淡「っ……」

その気迫に押し負け、

取り押さえようとしていた教員も、威勢の良かった淡も、

少しだけ後ずさってしまった

菫「せっかく見逃してやろうとしたのに……なんだ。そんなに死にたいのか?」

菫の言葉は本気だった

だがそれは淡に向けつつも、

その奥にいる男に向けてのもので、

本心では淡には幸せになって欲しいと思っていて、

だからこそ、こんな悪魔は消えるべきだと

自分の計画を最終段階に持ってきたのだ


本当はずっと一緒にいたかった

本当ならこんな壊れていなくて、

ただなにも知らず、

麻雀に精を出すだけの普通の人生だったのかもしれない

だけどそれは儚くも崩れ去り、

こんな悪い物語、人生になってしまった

菫(ごめんな、淡)

寄りかかった後ろにある柵がガシャっとなり、

菫の体が少しだけ外に傾いた

淡「菫、ふざけないでよ? そんなこと絶対にーー」

菫「お前の許しは要らないな」

そう言い残し、

菫は柵を乗り越えて空へと身を投げ出した


菫(落ちるってこんな感じなのか……)

菫(いや、飛んでるっていうのか?)

このあとすぐに死ぬという恐怖は、

不思議なほどに空っぽだった

視界に見える屋上はだんだんと遠くなっていき、

金髪の髪が太陽によって輝いているのが菫の視界に映り、

菫はこの悲劇が始まって初めて今までのような心からの笑顔を浮かべた

菫(ほら、お前はまだ……綺麗じゃないか)

その輝きに手を伸ばした菫は、

次の瞬間には白糸台高校の校庭に散らばって行き、

その存在を終わらせたのだった


淡「す、菫……なんで……」

屋上に残された淡には驚きしかなかった。

淡にとって京太郎が大黒柱であったのは事実だ

だが、一緒にいた菫もまた大事な存在であることには変わりなかった

だからこそ、裏切り、前からいなくなるかもしれないと疑った時に、

淡はどんな手を使ってでも止めようとしていた。なのに、

菫は消えた。死んでしまった

淡(あーそういえば、最初で最後って言ってたっけ)

自嘲気味で、それでいて自虐的な声が頭に響き、

淡は思わず笑ってしまっていた

淡「あ、あは、あはは、あははははははははっ!!」

その姿には誰も近づくこともできない

それはまるで……化け物みたいだったから


そして女性警官のもとに連絡が行き、

警察や救急車などが白糸台高校へと向かっていったのだ

「自殺した……?」

「ええ、2人の女子生徒を殺したと自供して……」

事の顛末を見てしまった教員から話を聞き、

女性は慌てて照の居場所を聞き出し、

その場所へと向かった

照「……………」

「まだここにいたのね……」

亦野が殺された部室に、

照は未だ変わらない姿で置物のように存在していた

「もうすぐ救急車が来るから。病院に行きましょ?」


女性の言葉が聞こえているのかいないのか、

照はうんともすんとも言わずに黙り込み、

体の一部分も動かしたりしない

完全に糸が切れてしまった人形のように。

「……辛かったわよね」

話を聞いただけでも解るし、

女性は弘世菫という少女を警察官でありながら憎んでしまっていた

親友を殺し、その傷心に漬け込んで関係を強くし、

かなり良くなってきたところで裏切った上に自殺したのだから

「ごめんね……照ちゃん……助けてあげられなくて」


あの時話を聞いていれば、もっとしっかり捜査していれば、

こうなることを防げたのかもしれない

そんな後悔が女性の首を絞め上げ、呻き声を上げさせる

この最悪の一日から数日

菫は部室にいたのだから犯人ではないはずだ。

という話も出ていたものの、照に渡されていた菫からの遺書にその方法が記されていたため、

その計画の死に方が尭深の死に方とほぼ完全に一致していたため、

菫が犯人であることは間違いないとなった。

しかし尭深の遺体は既に火葬され、司法解剖もできないことから、

尭深の死亡は公には事故のままとなってしまっている

そして……照、淡、京太郎は――


淡も照もともに精神病院へと入院させられているし、

京太郎は菫との約束通り淡の見舞いに通っている

個室であるため、京太郎が照と偶然出会う可能性はないが、

京太郎自身、何もなくなった照に興味はないらしく、

照の病室の前を通ることはあっても素通りしているようだ。

……全てが終わった。

京太郎の復讐は、菫という道具により完遂されて終わった

しかし、全てが終わったとしても、何かが始まってしまうのだ


淡「あははっまた来てくれたの~?」

「まぁ、約束ですからね」

まるで子供のようにはしゃぎながら、

淡は京太郎に抱きついた

医者曰く、淡は何も覚えていないらしい

弘世菫に関するすべての記憶が消え、

それにより残ったのは中学までの記憶と、

唯一無事だった京太郎都の記憶

淡「ねーねー、あと誰かいたような気がするんだぁ」

「いませんよ、俺と大星さんだけです」

淡「うっそだぁ~思い出せないけどいたような気がするもん」

「じゃぁ、いたのかもしれませんね」

京太郎の少し沈んだ声に対して、

淡は満面の笑みで頷いた


淡「えへへ~京太郎と私は恋人だよね~」

「そうですね」

淡「じゃぁさじゃぁさっちゅーしようよちゅー」

無邪気な子供のように、

淡は目を閉じてむーっと京太郎に近づけていく

京太郎はまるで常人の対応のようにそれを手で防ぎ、

ため息をついた

「ダメですよ、こんな場所じゃ」

淡「えーっ2人きりだもんへーきだよぉ」

「ダメと言ったらダメなんですよ」

淡「へーきって言ったらへーきなんだからぁ!」

駄々をこねる子供とその恋人か、兄のようにも見える2人

けれど、片方は都合よく改変されてしまっているかもしれないが、

そんなまともで、常識的な関係ではないのだ


淡「噛み付いちゃうぞぉ」

「もう噛み付いてるじゃないですか」

既に噛まれた左腕をさすりながら、

京太郎はその死んだ瞳で淡を見つめた

淡を幸せにして欲しい。と菫に頼まれたのだ。

だからこそ、京太郎はこの狂った少女を無下にはできない

「大星さん、ひとつ良いですか?」

淡「なぁに~?」

「今、幸せですか?」

淡「もちろんだよ~きょうたろーが会いに来てくれるからっ」

京太郎が会いに来てくれる。しかし、両親は会いに来てはくれない

それは自分たちの社会的な面子を守るためであり、

要約すれば、淡もまた……その存在を否定されたのだ


しかし、淡にはそんなことはどうでも良かった

両親よりも大切な相手が会いに来てくれるから。

京太郎は淡の回答を聞き、その頭に手を乗せた

「じゃぁ、もうひとつ聞いて良いですか?」

淡「だぁめ~一つって言ったも~ん」

「じゃぁ答えなくていいですよ、質問だけします。俺と一緒に来ますか?」

淡「うん!」

がしっと腕をつかみ、淡は京太郎の問いに答えた

「ひとつだけなんですよね? というわけで放してください」

淡「やだ! 一緒に行く!」

そのわがままさは微笑ましく、

しかし、京太郎には笑ったりするような感情はなくて……

「それじゃ、退院しましょうか」

無表情にそう言うと、淡の手を引いて受付へと向かっていった


無邪気な子供へと変わってしまった淡とは真逆に、

照は感情も、言葉も、何もかもを失くし、

本当の意味での人形、生きた植物人間の状態に陥っていた

照「………………」

「おはよー照ちゃん」

そんな照に会いに来たのは、女性警官だった

「色々と忙しくてさ……ごめんね、初めてで」

そんな言葉に対しても、照は言葉を返すことはなく、

女性は小さく息をつくと、

来客用の椅子に腰掛けた


「今回のことは本当にごめん……どうすれば良いかも解らないよ」

犯人が照の親友だったという事実が、

犯人を捕まえられていれば良かったのにという言葉も禁止する

そもそもあの時こうしていればなどという言葉ほど、

無意味で、被害者にとっては最悪な言葉なのだ

(もっとも、照ちゃんになんかしらの言葉が通じるとは思えないけど……)

女性がそう思ってしまうほどに、

照の状態は良くないものだった


「ねぇ、照ちゃん」

照「………………」

声をかけても、体を揺らしても全く反応はなく、

起きているにも関わらず食事をとったりもしないため、

それらの管理のために管がたくさん体に付けられている

「貴女の載ってる雑誌とか色々読んだわ。
 ihの映像だってわざわざ同僚に頼んで見せてもらった……」

そこにいるすべての宮永照は、

目の前の宮永照とは違うのだ。

もう、その宮永照は殺されてしまったのだ

「照ちゃん……せめて、せめてなんか喋って欲しいわ」

救うことができなかった少女に対し、

女性は深く深く頭を下げ、しかし……照からの言葉も動きもない


「ごめん、ごめんね……」

次第に、締め付けられてきた胸が限界に来たせいか、

女性はポロポロと涙をこぼし、

照の動かない体を抱きしめた

それでも照は驚く素振りすらなく、

それがさらに女性の心を痛めつけていく

親戚を、妹を、親友を、そして全てを失ってしまったのだ

「私は、貴女に何かしてあげられないのかな……」


犯人がいたら絶対に捕まえてやるということができる。

けれど、それさえもできないのだ

女性はあまりにも無力すぎて、それが悔しくて。

握り締めた拳は血が出そうなほど赤くなっていた

そして女性は照の顔を正面から見つめ、その頬を撫でた

「私、もう二度と貴女のような人を作らないから」

照「……………」

反応はやはりない

「親戚、親友。貴女はさらに妹まで失ってしまったわ……
  だから、私は誓うわ。親戚も親友も妹も、ううん、人っ子一人死なせないんだから!」

胸を張って宣言し、

女性は仕事があるからまた今度ね。と、病室をあとにしていく

照「……妹?」

だからこそ彼女はまた……後悔することになる


照「妹……」

照はうわごとのように呟く

照の妹といえば、宮永咲だ

京太郎が復讐をすると決める切っ掛け

照「……失った?」

徐々に石化した思考が戻っていく

失ったということはつまり、死んでしまったということだ

照「………ぁ、ぅ……嘘」

照は慌てて動こうとしたせいか、

管に体を引かれてベッドから起き上がることなく落ちてしまった

照「ま……って……」

照はその話が詳しく聞きたくて、

数日動かさず衰えたを無理矢理に動かして女性を追っていく


エレベーターで向かおうとしたものの、

それは下の方まで行っているため戻ってくる様子はなく

照は諦めて階段を使うことにした

照(咲が死んだ……? 私がもたもたしていたから……?)

照と咲は喧嘩していたのだ。

それは決して些細なものとは言えないようなもので、

しかし、仲直りできないものではなかったはずなのだ

それでも仲違いした日から数年も仲直りできずにいたのには、

照自身に原因があった

照は子供だった。咲も子供だった

もしも照が大人で、または咲が大人で、

もしくは2人とも大人だったらこんな結末にはならなかっただろう

咲が子供だったが故に非力で、どうしようもなく、

世界は残酷に、非情に、咲を苦しめた

照が子供だったが故に感情的で、抑えきれず、

今までのつながりを全て断ち切ってしまった。

言うなれば偶然、悲劇。

だが子供だったが故に、そう簡単には割り切れなかったのだ


けれど、解っていたはずなのだ。

いや、わかっていたからこそ、

照は咲を責めてしまったのだ

本当は咲は何も悪くはなかった

あの子が自分の不注意で起こし、

そのままにいなくなってしまっただけのこと

でも、認めたくなかったのだ。自分の罪を

本当はあの場に自分がいなければいけなかったという罪を


咲一人では少女を助けることなんてできるはずはなかった

小学生の女の子が車椅子の少女を救うなどできるはずがないのだから

でももしも、中学生の少女もいたならば。

誰も犠牲にならなくて済んだかもしれない

照(……私は)

でも、その罪を認めたくなくて、

咲を責めてしまったのだ


あの事件のあとから咲を無視するようになったし、

何かしようとすれば邪魔と言ってどかしていたし、

咲が中学に入る頃には向こうの高校に行きたくもないのに、

麻雀が強くなりたいからという理由で東京に出ていき、咲から離れ、孤独にした

そのあとも、家族構成について聞かれた際に、

咲をいないものとして切り捨ててしまった

子供だったのだ、子供過ぎたのだ

何もわからない無知な子供だったのだ

【咲「ごめんなさい、ごめんなさい……お姉ちゃん、ごめんなさい……」】

いないはずの咲の声が頭に響き、

その瞬間、照は階段を踏み外してしまった


誰もいない階段だったはずなのに、

照はその瞬間確かにそこに人影を、

既に消えた自分の妹の姿を目にしていた

照「知らなくて……ごめん」

照は知らなかったのだ。咲が死んでしまったことを……

それは母親によってされた情報規制。

母親だって悪気があったわけではない

親戚を失い、

自分のせいで咲が自殺したという事実から守るためだったのだ


虚影に対して照はその手を伸ばし、

その影はそれに答えて手を伸ばしてきた

もちろん届くわけもない

だがその影はいつの間にか宮永咲の姿を借り、照を呼んだのだ

咲「お姉ちゃんっ」

照「咲――」

ひどく鈍い音がした

雨でもないのに、床を赤い液体が流れていく

音に驚いた患者が少女を見つけたとき、

既に少女は息絶えていた……しかし、

苦しくて、痛くて、辛い死に方をしたはずの少女は、

何かを掴んでいるように手を曲げ、

嬉しそうに……微笑んでいた


ここまで……ですね。
向こうとは全く違う結末になりましたが、これで終わりです

こっちは恐らくバッドエンド以外ないですが、

ハッピーエンドと思う人はいるのでしょうか

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