クロロホルム・ブラックホール(29)
○プロローグ○
ある所に仲がよい二人の男がいた。
一人は大変礼儀正しく、性格も律儀で真面目な男でした。
もう一方は粗暴で下品な男で性格もひん曲がっておりました。
性格も生き方も全然違う二人ですが、何故か親友と呼んで差し支えない程の間柄でした。
そんな二人の関係にも変化が訪れます。
真面目な男が中世的な美しい妻を手に入れたのです。
妻は元々、下品な男の幼なじみであり真面目な男と知り合ったのも下品な男に紹介され徐々に中を深めていったのでした。
これに逆恨みした下品な男は鬼ような姿になり妻を襲いはらわた引きずり出し喰いました。
真面目な男は嘆き悲しみ、鬼に変貌してしまった親友の首をはねました
妻の亡骸と親友の首を抱えた男は
「神よ、何うえ我々を見捨てたもうた」
と呟き、短剣で自らの首を突き刺し自決しました。
研究所
「ねぇ~調子どう?上手く行ってる?」
「勿論、抜かりなく研究は進んでおります」
「そう~じゃ研究成果をみせて」
「どうぞ、こちらに」
「へぇ~これが被験者?」
被験者「……」
「二日前にクスリを注入して最初はトリップしていたんだですが徐々に」
「体温低下したかと思えば首を上下に揺らしながら、血の尿を垂れ流しながらひたすら棒立ちの状態で三日目になります」
「ホントね~ズボンが赤く滲んでいるわ。つーかなんで、首輪付けてんの?」
「一応、身の安……」
被験者「あぎゃあああああああ!!」
「っ?!」
突如として被験者の身体に黒い血管が浮かびあがり雄叫びを上げながら身体を横回転させ、引きちぎった。
被験者「ガルルル……」
「随分と気ハツラツねぇ~」
被験者は眼から黒い液体を垂れ流しながら、不敵な笑みを浮かべる長い黒髪の美女を睨みつけた。
美女「どうしたの?かかってこないの?」
被験者「うがぁあああああ!!」
獣の唸り声をあげ、猛突進する被験者に向け懐からメガスター(ニッケルメッキ)を取り出し躊躇なく額を撃ち抜いた。
後頭部から鮮血と脳の破片が飛び散り床に飛散した。
「……」
白衣を着た初老の男は美女と倒れている被験者を交互に見ながら唾をのどを鳴らしながら呑み込んだ
美女「ねぇ」
白衣を着た男「あっひゃい?!」
美女「声うらがえっているわよ………まぁそれよりもコレのサンプルってあるの?」
白衣の男「勿論……ありますがワクチンが……」
美女「いいの!いいの!ワクチンなんか別に要らないからサンプルだけ貰えれば問題ないわ」
白衣の男「わ……わかりました」
美女「所でこのウィルスの名は?」
白衣の男「え~と確か」
「クロロホルム・ブラックホールって名前です」
美女「悪くないわね~じゃあとっと研究室に案内して頂戴」
白衣の男「わかりました……」
「ちょっとごめんなさ~い……通してねぇ~ハイハイごめんねぇ~」
人混みの中を赤いヒールを履いた長い黒髪の美女が小走りで中島の元に向かっていた。
中島弘「ヒャッホー……おごぉっ?!」
美女は中島に鋭い喉突きを繰り出し蹴り倒すと右脚を引きずりながら人混みの中を小走りで連れて行った。
事務所
中島「」
美女「起きんしゃい」
中島「うぉごぼっ?!」
気絶している中島の鳩尾に美女はかかと落としを振り下ろした。
腹を抱えて悶絶する中島はフラフラな状態で立ち上がり、美女の近づいてドスの効いた声で喋りかけた。
中島「おい!テメェいきなり……」
美女「誰に向かって口聞いてんの?」
中島「あっ……」
美女の正体に気づいた中島はすぐさま腰の低い声で頭を下げた。
中島「富江さん~どうもスイマセン~気付かなくて」
富江「前置きはさておいて……蒔いて欲しいブツといなくなってほしいヤツがいるの」
中島「珍しいですね~殺しの依頼するなんて」
富江「こっちにも色々事情があるのよ」ポイ
富江は中島に茶色の小包を投げ渡した。
中島「で……誰を消すんですか?」
富江「あなたがよく知って相手よ」ポイ
中島「よく知ってる相手?」パシッ
中島はくしゃくしゃに丸められた2つの書類を開いた。
中島「へへへへ~こりゃあなんて都合が良いんだ~」
書類には顔写真と名前が書いてあった。
それを見た中島はよだれ垂らしながら、目を充血させながらニヤリとした。
富江「ハゲの方は別にメインじゃないから好きなタイミングで殺って良いけど」
「男女の方はブツを蒔いたら三日以内に始末してね。足がつくから」
中島「わかりました~ヒヒヒヒヒ~待ってろよぉ~カズマァア~」
中島は書類に貼られていた褐色肌の中世的な10代の若者の顔をひたすら舌で舐めまわした。
富江「じゃあ、ブツは倉庫に入れておくから蒔いといてねぇ~」
富江が事務所から出ると中島は小包からライターを取り出し高笑いしながら書類に火をつけた。
中島「磯野ぉ~!!お前の皮は必ずキレイに剥いでやるよぉ~!あひゃひゃひゃひゃ!!!」
懐から取り出したゴールド・スティールブレード13MBIXを高らかに上に上げながら書類が灰になるまで高笑いし続けた。
アメリカ・南部の町
「トム……トム!起きなさい!!遅刻するわよ!!」
トム「うっ……今何時?」
「8時よ」
トム「やべぇっ?!」
アメリカ南部の小さな町の住む典型的なアメリカボーイのトム・クランシーは18歳の青春真っ只中である。
トムの母親「気をつけて行くのよ~」
トム「おう!!」
トムは父親が居らず、母親と二人で慎ましく生活していた。
キレジ高校
ジリリリリ
教師「ここ、テストに出るから予習しておくように……以上」
トム「ふぁ?しんど……便所便所と……」
トムは偏差値が町で上から数えて三番目の高校に通っていた。
但し、トムは下から数えて6番目という微妙な偏差値だった。
トム「ふぅ?」ジョロロロロ
「よぉ!シケた面してどうした?」
トム「バードルビー?!テメェいきなり耳元で大声だすな!尿が手にかかったぞ!!」
バードルビー「おぉ、わりぃ?ヤク代4割引きしとくからカンベンしてくれよな」
トム「ったく……」
トムに声をかけて来たのは、『薬剤師バードルビー』の異名を持つドイツ系アメリカ人のアンドルフ・バードルビーだった。
バードルビーはトムの親友であると同時に高校内で麻薬を売りさばく密売人でもあった。
バードルビー「新しいヤクを誰よりも先にキメても良いからよぉ~機嫌を直してくれって」
トム「新しいヤク?」
バードルビーはニヤニヤしながらトムに小汚い黒い袋を手渡した。
トムは黒い袋に手を入れ、紫色のカプセル錠の粒を取り出し険しい顔でそれを眺めた。
トム「なんだか……危なそうだなコレ」
バードルビー「大丈夫だ!これは100%安全なヤクだ!!」
トム「副作用は?」
バードルビー「体温低下のみ!!バットトリップはおこさねぇから心配すんなって!」
トム「ふん……」
トムは少し考えると無造作に自分のズボンにカプセル錠を突っ込んだ。
トム「後で使うから後ほどメールで感想を伝えるわ」
バードルビー「オーライ!!ソイツで波に乗ってこい!!」
トム「はいはい」
トムは紫色のカプセル錠を持ったまま食堂に向かった。
食堂
ザワザワ
トム「ふぅ~ホントに大丈夫なのかこれは」
テーブルに紫色のカプセル錠を転がしながらトムは迷っていた。
「ハイ!!元気?」
トム「ん……うぉっ?!」
悩んでいるトムの元に金髪ロングのロシア系のアメリカ人の少女が声を掛けてきた。
トム「や、やぁ~ステイシーど、ど、どうしたんだい?」
ステイシー「ちょっと暇だからあなたに声をかけたの。所で何をしているの?」
トムはガチガチに緊張していた。
何故ならステイシーは、高校のマドンナ的存在でありトムのような普通の学生には手が届かないからである。
だが、彼女には秘密があった。
ステイシー「ねぇ……指先で転がしてるそれは何なの?」
トム「これは……」
キレジ高校で唯一、下から数えて一番にいるのは彼女であった。
要するにアホの子である。
トム「親友が試しに渡されたビタミン剤なんだ」
ステイシー「へぇ~」
トムは彼女の前で麻薬と言うことは出来ず、ビタミン剤と偽った。
ステイシーはまじまじとテーブルに置かれた紫色のカプセル錠を見つめた。
トムは冷や汗を大量にかきながら口吃った声で喋りかけた。
トム「い、い、いつもキミは……」
ステイシー「ランニングしてるけど」
トム「そうなんだ……」
ステイシーはトムの眼を見つめてこう言った。
ステイシー「それ、貰ってもいい?」
トム「………」
トムは一瞬にして固まった。
ビタミン剤と言った手前、断ると怪しまれるだが
もし彼女にこれを渡したらヤク中に危険性もあった。
トムはステイシーの顔を仰視して決断した。
トム「わかった……あげるよ」
ステイシー「ありがとう」ニコッ
トムは顔を赤らめながら紫色のカプセル錠を満面の笑みの彼女に手渡した。
ステイシーはカプセル錠を躊躇なく飲み込んでトムに手を振りながら食堂を出た。
トムは罪悪感を感じつつも手を振り返して見送った。
バードルビー「おい!やるじゃねぇか!!あのステイシーをモノするなんてスミに置けないぜ!!コノ!コノ!」
背後から声をかけてきたバードルビーを無視してトムは足早と食堂を後にした。
バードルビー「連れねぇな~」
学生1「あの……」
バードルビー「はい!何にしましょ!!」
学生1「chlc3blackを一つ」スッ
バードルビー「グッドラック~」
バードルビーは学生から3ドル札を貰うと紫色のカプセル錠を渡した。
トムの家
ガチャッ
トム「ただいま……あれ?」
授業が終え帰宅したトムは違和感を覚えた。
誰かいる。
母親が自分よりも早く仕事終えて戻ってきたのか………いや違う。
いつもなら残業するからかなり遅くになるはず……じゃあ一体この気配なんだ。
トム「‥…」
トムは足音立てずに台所に向かいフライパン握った。
そのまま姿勢を低くして居間の方に脚を進めた。
居間の方に眼をやるとガラス片散らばり何か黒いシミのようなものまでが、あちらこちらにこびりついていた。
グチャ……チャ……グチャ……
耳を澄ますとソファー近くから何か口を鳴らしながら食べている音が聞こえた。
トムはつい声を出してしまった。
トム「母さん?」
「……ガ」
ソファーの後ろから聞こえていた音の主
音の主が揺れながら徐々に姿を現していった。
トム「す、ステイシー?」
ステイシー「ぐりゅるるるる……」
ソファーの後ろから現れたのは全身から黒い血管浮かび上がらせ、頭と眼から黒い液体を流しているステイシーだった。
トム「ステイシー……」
ステイシー「うがぁああああああ!!」
ドン!!
ステイシーがトムに襲いかかろうとした瞬間、頭部が爆発しそのまま後ろにいきよいよく倒れた。
「ターゲットを始末した」
背後から男の声が聞こえた同時にトムも前方に倒れ込んでしまった。
「どうします?」
「ガソリンを蒔き家を燃やせ。他も同様に」
「了解」
ガスマスクをつけ白い防護服を着た異様な集団に、その先頭には鼠色の上下スーツを着た茶髪のアジア系の二十代後半の若者が腕を組みながら指揮をしていた。
トムは立ち上がろうとしたが、白い防護服を身に着けた男に押さえ込まれ出来なかった。
ホワイト・ガスマスクマン「副社長コイツどうします?」
副社長「押さえてろ」
副社長と呼ばれたアジア人は右腰に付けたヒップホルスターからSTI2011エッジを取り出し、躊躇なくトムの頭を撃ち抜いた。
副社長「さぁ……とっと済ませよう」
スポーツ刈りの少年の名は竹田。
卓球部部長でかなりの実力を有している。
矢吹ジョー似のリーゼントをした少年は、井沢ひろみ。
殆ど感情を示さないものの、妙に大人びた性格で意外な事に何故か卓球がやけに上手く竹田と同レベルである。
その為に竹田とはかなり信頼されている。
井沢ひろみ「ほらよ」
竹田「おっと」
井沢のスマッシュを竹田は難なく打ち返し、井沢も竹田のスマッシュを的確に拾い打ち返す。
竹田は身体から出る汗を拭いながらやっているのに対して井沢は、汗一つもかかずに真顔で竹田が打つ球を返していた。
ガラガラ
『ピボポピボポ……』ウィーンウィーン
「井沢ー!!」
井沢「どうした?」
「車と事故起こして、パンダ一号の様子がおかしくなったー!」
井沢「わかったから取りあえずパンダ一号を中に入れろ」
部室に来るや否や何か喚きながら入ってきた七三分けの少年の名は前野。
卓球部員であるもののあまりやらずに、変態かつ自己中心的な性格が原因で幾多の問題の元凶だったりするトラブルメーカー。
「前野君ー!パンダ一号の右足部分から煙がー!!」
前野「何ぃいいい!?」
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