ライチュウ「オイラもそろそろ人生のパートナーがほしいな」(63)

ゲンガー「なんだよ急に」

ライチュウ「最近思うんだよね。オイラ、このままでいいのかなって。兄弟もいないし親もいない。余生を1匹で過ごすことを考えたらやっぱ寂しいじゃない?」

ゲンガー「孤独死ほど寂しいものはないって言うしな」

ライチュウ「でしょ? だからオイラもそろそろ本気で人生のパートナーを見つけなきゃって思うんだよね」

ゲンガー「ふーん。のんきなお前でもそういうこと考えたりするんだな」

ライチュウ「失礼だなぁ。自分で言うのもなんだけど、オイラ、こう見えて結構デリケートなんだよ」

ゲンガー「その性格が災いして今までメスと話したことすらないんだっけか」

ライチュウ「痛いところ突いてくるね。そういうキミはどうなのさ」

ゲンガー「おれ? ゴースのころにちょこっとな」

ライチュウ「そうじゃなくて、キミは考えてるの? 今後の人生のこと」

ゲンガー「んな堅苦しいこと考えたくもねぇよ。おれは当分独り身でいいや。いずれは冥界に帰る時がくるだろうし」

ライチュウ「気楽でいいなぁ。これだからオバケは……」

ゲンガー「これだからオバケはなんだよ」

ライチュウ「ううん、言ってみたかっただけ。そろそろ帰らなきゃ。ゲンガー、また明日ね」

ゲンガー「将来のことを真剣に考えるのは悪いことじゃねぇけどあまり深く考えこむなよ。躍起になったら自分の身が滅びるだけだぜ」

ライチュウ「忠告ありがとう。ねぇ、ゲンガー。もし生涯オイラにパートナーが見つからなかったらその時はよろしくね」

ゲンガー「どういう意味だ?」

ライチュウ「ゲンガー、オイラのお婿さんになってね。オイラ、がんばって去勢するから」

ゲンガー「はぁっ? なにバカなこと言ってんだ。だいたいおれにそっち系の趣味はない」

ライチュウ「冗談なのに本気にするなんてキミらしいね。なんなら今からでも同棲する?」

ゲンガー「毎晩悪夢にうなされてもいいならな」

ライチュウ「それはやだなぁ。それにゲンガーっていびきうるさそうだしやっぱいいや」

ゲンガー「自分から言い出しといてなんだそれ」

ライチュウ「あはっ。じゃあねー」

ゲンガー「やれやれ……」

ライチュウ(あー楽しかった。ゲンガーといると退屈しないや)

*「あ、あの、すみません。ちょっといいですか?」

ライチュウ「?」

*「いきなりごめんなさい。あの……」

ライチュウ「キミ、だれ? 見かけない顔だね」

*「はじめまして。ブースターといいます」

ライチュウ「ブースター? あっ、知ってるよ。イーブイが進化したポケモンでしょ?」

ブースター「ええ、まあ。悪いんですけどこのあたりで水を飲める場所を教えてもらえませんか?」

ライチュウ「んーっ、この辺にはないかなぁ。ここからちょっと離れたところの川まで行かないとダメだよ」

ブースター「そうですか……」

ライチュウ「キミ、ひょっとして迷子?」

ブースター「い、いえ! ちがいます! その、えっと……仲間とはぐれてしまいまいまして……。探してる途中なんですが歩いてるうちにノドがかわいてしまって……」

ライチュウ「ほのおタイプでもノドかわいたりするんだね。……って生き物なんだから当たり前か」

ブースター「は、はい」

ライチュウ(この子、よく見たらかわいいな。毛並みもきれいだし。女の子かな?)

ブースター「初対面のあなたにこんなことお願いするのは心苦しいんですが、もし差し障りなければその川まで案内してもらえませんか? いかんせん方向音痴なもので……」

ライチュウ「もちろんいいよ。水がほしいと知った以上、ほっとけないもんね」

ブースター「ありがとうございます。ではお願いします」

ライチュウ「うん。こっち」

ライチュウ(今日はラッキーな日だなぁ。こんな短い間だけでも女の子と一緒にいられるなんて。黙って歩くのもあれだし、なんか話した方がいいかな)

ライチュウ「ねぇ」

ブースター「は、はい。なんでしょうか?」

ライチュウ「そんなに畏まらなくてもいいよ。気さくにいこうよ気さくに。ねっ?」

ブースター「は、はい。それで、なんですか?」

ライチュウ「仲間とはぐれたって言ってたけどどの辺ではぐれたの?」

ブースター「えっ? そ、そうですね、確か……この森に入ってすぐだったと思います」

ライチュウ「そうなの? でもこの森ってそんなに入り組んでないからはぐれることなんてまずないと思うんだけどなぁ」

ブースター「……」

ライチュウ「あっ、方向音痴って言ってたね。それじゃ仕方ないか」

ブースター「はい。すみません……」

ライチュウ「どうして謝るの? あぁ、別にバカにしてるわけじゃないよ。ごめんごめん」

ブースター「いえ……」

ライチュウ「ちなみに仲間は男の子? 女の子?」

ブースター「男の子……ですけど……」

ライチュウ(なーんだ。ボーイフレンド持ちかぁ。じゃなくて……)「ひどいなあ。こんな広い森で女の子を1匹にしておくなんて」

ブースター「えっ……?」

ライチュウ「だってそうでしょ? オイラだったら絶対に女の子を不安にさせるようなことはしないけどなぁ。ましてやキミみたいなかわいい子を置いてけぼりになんてできないよ」

ブースター「あ、あの……」

ライチュウ「そうだ。もしその仲間と再会できたらオイラからガツンと言ってあげようか?」

ブースター「いえいえ! いいです。方向音痴なわ、わたしが悪いんですから」

ライチュウ「そう? でもそれならキミからちゃんと言っといた方がいいよ」

ブースター「はい。お気遣いありがとうございます」

ライチュウ「どういたしまして。あっ、着いたよ」

ブースター「ありがとうございます。では、ちょっと失礼しますね」ゴクッゴクッゴクッ

ライチュウ(相当ノドがかわいてたみたい)

ブースター「はあーっ、生き返りました」

ライチュウ「よかったね」

ブースター「本当に感謝します。えっと……」

ライチュウ「ライチュウだよ」

ブースター「あっ、はい。ありがとうございます、ライチュウさん」

ライチュウ「面とむかってライチュウさんなんて言われると照れちゃうな。えへへっ」

ブースター「このお礼は後日必ずしますね。ではわたしはこれで……」

ライチュウ「仲間を探しにいくの?」

ブースター「ええ。これ以上ここにいてもあなたに迷惑をかけるだけですので」

ライチュウ「まって!」

ブースター「?」

ライチュウ「せっかく出会ったのにもうお別れなんてさみしいじゃない。もうちょっとだけ一緒にいようよ。仲間ならあとで探せばいいじゃんか」

ブースター「でも迷惑じゃ……」

ライチュウ「全然迷惑なんかじゃないよ。むしろ行ってほしくない」

ブースター「えっ?」

ライチュウ「別に変な意味じゃないよ。ただもうちょっとキミと一緒にいたいって純粋に思っただけ。帰ってもどうせヒマだし」

ブースター「ですが……」

ライチュウ「お願い、ブースターちゃん」

ブースター「や、やめてください」

ライチュウ「やっぱダメか。そうだよね……」

ブースター「あっ、いえ、そうではなくてその呼び方はやめてくださいって意味です。わたしのことは呼び捨てにしてくれて構いませんから。
      ライチュウさんさえよければもう少しだけここにいます。でも……ほんとに迷惑じゃないですか?」

ライチュウ「もちろん。さっきも言ったじゃない。あそこの切り株に座って話でもしようよ」

ブースター「わかりました」

ライチュウ(やっぱり今日はついてるな、オイラ。そうだ! あとでゲンガーに自慢しに行こうっと)

ブースター「あの……」

ライチュウ「んっ?」

ブースター「1匹で生きていくにはどうすればいいんでしょうか?」

ライチュウ「どういう意味?」

ブースター「特に深い意味はないんですけど……なんとなく知っておきたいなと思いまして」

ライチュウ「1匹で生きてくには、か。オイラも今まさにそのことで悩んでる最中なんだよねぇ。1匹でこの先ずっと生きてくことなんてできるのかなぁ。
      やっぱさ、ポケモンであれニンゲンであれパートナーって必要だと思うの。キミもそう思わない?」

ブースター「え、ええ。そうですね」

ライチュウ「あっ、ごめん。出会ったばかりのキミにこんなこと話してもしょうがないよね」

ブースター「いえ……」

ライチュウ「それで、なんだっけ、キミがした質問。えーと……そうそう、『1匹で生きてくにはどうすればいいか』だったね。
      キミはそんな心配しなくても大丈夫なんじゃない?
      独り者のオイラとちがってきっとたくさん仲間がいるだろうし、悩む必要なんてないと思うな」

ブースター「……そうですよね。変なこと聞いてごめんなさい」

ライチュウ「謝ることないじゃない。オイラ、別に卑屈になってるわけじゃないよ。そこんとこ誤解しないでね」

ブースター「は、はい。それより、見つかるといいですね」

ライチュウ「えっ?」

ブースター「パートナー、見つかるといいですね」

ライチュウ「うん」

ブースター「ライチュウさんならきっとステキなパートナーを見つけられる。わたしはそう思います」

ライチュウ「ほんと? お世辞でもうれしいよ。えへへっ」

ブースター「お世辞じゃないです。わたしのような見ず知らずのポケモンにも優しくしてくれるんですから」

ライチュウ「キミにそう言ってもらえると自信がつくよ。ありがと」

ブースター「ええ。ではわた、わたし……そろそろ行きます」

ライチュウ「そっか。残念だけどいつまでも引きとめるわけにもいかないもんね」

ブースター「はい。ですが今日のお礼は必ずします。またこの森を訪れたらあなたのところに行きますから覚えててください」

ライチュウ「お礼なんて別にって言いたいとこだけど、また会いにきてくれるってんなら話は別だね。ぜひお礼をしにきてほしいな」

ブースター「ええ」

ライチュウ「一応、森の出口を教えとくよ。ここから南にまっすぐ進んだら広い道に出るから、あとは道なりに進めば外に出られるからね」

ブースター「わかりました。ライチュウさん、親切にしていただいてありがとうございました」

ライチュウ「そんなに畏まらなくていいってば。早く仲間に会えるといいね」

ブースター「……」

ライチュウ「ブースター? どうかした?」

ブースター「いえ、なにも。では、さようなら」

ライチュウ「気をつけてねー」

ライチュウ「行っちゃった。さっき一瞬暗い顔したように見えたけど気のせいかな。あっ、そんなことよりゲンガーんとこに行かなくちゃ」



ライチュウ「――でね、『また会いにくるから覚えてて』だって。だからオイラ、今日のことは絶対忘れないって決意したんだ」

ゲンガー「ふーん、よかったじゃん」

ライチュウ「オイラさぁ、さっきまでの出来事は夢なんじゃないかっていまだに思うよ。あぁ、早くお礼しにこないかなぁ、あの子」

ゲンガー「まあ気長に待つことだな。仲間と連んでるんじゃ単独行動は難しいだろうし」

ライチュウ「だよねぇ。でもさ、たったちょっとの間だけでも女の子と一緒にいられたからすっごくうれしいよ。まだ胸がドキドキしてる」

ゲンガー「それで?」

ライチュウ「んっ?」

ゲンガー「お前はそれを言うためにわざわざここにきたってわけ?」

ライチュウ「うん、そうだよ。うらやましい?」

ゲンガー「はぁっ……。あのなぁ、うれしくなる気持ちはわかるけどそういうのはもっと進展してからにしろよ。いちいち自慢話を聞かされるおれの身にもなってくれ」

ライチュウ「ごめん。でも女の子と話したの初めてだったからキミには真っ先に知らせたくて。……そんなに迷惑だった?」

ゲンガー「いや、別に迷惑だとは思っちゃいねぇけどよ。それで、だいたいどの辺に住んでるとか、そこんとこは聞いてないのか?」

ライチュウ「うん。がっつきすぎたら気持ち悪がられるかなと思ってね」

ゲンガー「ほんと純情だよな、お前」

ライチュウ「そう? また会うって約束したから気持ち的に満足してたのかもね」

ゲンガー「かもねってお前、他人事みたいに言うなよ。自分のことだろ」

ライチュウ「なんかいまだに実感わかなくてさ。キミも体験したらわかると思うよ。今のオイラの気持ち」

ゲンガー「胸がドキドキしてメシもノドを通らないって感じか?」

ライチュウ「そうそう、そんな感じ。オイラ、今日は寝れないかもね」

ゲンガー「そりゃ重症だ。添い寝してやろうか?」

ライチュウ「んーっ、気持ちはうれしいけど万が一あの子に見られたら誤解されるから遠慮しとくよ」

ゲンガー「……マジメに答えんなよ。冗談だよ冗談」

ライチュウ「どうかなぁ? 案外本気だったりして」

ゲンガー「んなわけねーだろ。そんなことより住み処に戻らなくていいのか? もうすぐ日が暮れるぞ」

ライチュウ「あっ、ほんとだ。帰らなきゃ」

続きはまた後日に。

ゲンガー「暗くなって道がわからない!なんてことにならないように走って帰った方がいいかもな」

ライチュウ「うん、そうする。話聞いてくれてありがとね」

ゲンガー「おう。もし迷子になったら戻ってこいよ」

ライチュウ「ありがとー。じゃあねー」ダッダッダッ

ライチュウ「――はぁっ、はぁっ。でんこうせっかのおかげで思ったより早く帰れそうだけど少し疲れたなぁ。ノドもかわいたし……」

ライチュウ(住み処までまだ結構距離があるし……仕方ない、川に寄って帰ろう)トコトコトコ

ライチュウ(……あれっ? あそこにいるのはひょっとして……)

ライチュウ「ねぇ」

ブースター「!」ビクッ

ライチュウ「あっ、やっぱり。見覚えある姿だと思ったらキミだったんだね。昼間会ったライチュウだよ。覚えてる?」

ブースター「ラ、ライチュウさん。どうしたんですか?」

ライチュウ「それはこっちのセリフだよ。どうしたの? 森を出たんじゃなかったの? 仲間とは再会できなかったの?」

ブースター「……」

ライチュウ「あっ、わかった。仲間がまだ森にいるから探しに戻ってきたんだね」

ブースター「……いえ、ちがいます」

ライチュウ「ちがうの? じゃあ一体――」

ライチュウ(もしかして……)

ライチュウ「……ひょっとして、道に迷って出られなかったとか?」

ブースター「それもあるんですけど……」チラッ

ライチュウ「どうかしたの?」

ブースター「……ごめんなさい、ライチュウさん。わたし、あなたにうそをついてました」

ライチュウ「えっ?」

ブースター「仲間とはぐれたって言いましたよね。あれは、その……うそなんです。わたし、ほんとは仲間なんていないんです……」

ライチュウ「仲間なんていない……? どういうこと? 意味がわからないよ」

ブースター「すみません。本当にすみません……」

ライチュウ「ブースター、平謝りされたって納得できないよ。ちゃんと話してよ。仲間とはぐれたのがうそだったのならどうして昼間この森にいたの?」

ブースター「それは……」

ライチュウ「ごめん、これじゃまるで詰問してるみたいだね。ゆっくりでいいから話してほしいな。なにかわけがあるみたいだし」

ブースター「はい……。わたしが昼間この森にいたのは……」

ライチュウ「……」ゴクリ

ブースター「捨てられたからです。ニンゲンに」

ライチュウ「捨てられた? キミが? ニンゲンに?」

ブースター「……はい。わたし、元々はニンゲンのポケモンだったんです」

ライチュウ「ニンゲンのポケモン……」

ブースター「でも優秀なほのおタイプを手に入れたとたん、ニンゲンは突如わたしをお払い箱にしたあげく、この森に捨てていきました」

ライチュウ「ひどいニンゲンだね……」

ブースター「所詮わたしは……ただの戦闘道具でしかなかったんです。ニンゲンも初めからそのつもりでわたしを捕まえたんだと思います」

ライチュウ(あっ……)

ライチュウ「昼間、『1匹で生きていくにはどうすればいい?』って聞いてきたのは『野生として生きていくにはどうすればいい?』ってニュアンスだったの?」

ブースター「はい……」

ライチュウ(オイラ、確かあのとき……自分のことばっかでこの子の質問は受け流したんだっけ。ブースターは真剣に相談してたのにオイラったら……)

ライチュウ「で、でもさ、それならどうしてそう言わなかったの? なんでわざわざ仲間がいるなんてうそをついたの?」

ブースター「……こわかったんです」

ライチュウ「こわかった?」

ブースター「わたしが元ニンゲンのポケモンだと知ったとたん、あなたが嫌悪感を抱いたらどうしよう……汚い物を見るような目でわたしを睨んだらどうしよう……。
      そう思うと……どうしても言い出せませんでした……」

ライチュウ「オイラはそんな顔しないよ。まあでも確かに、野生ポケモンの大半はニンゲンに飼われてるポケモンのことを毛嫌いしてるからそう思うのも無理ないかもね」

ブースター「はい……。ですからライチュウさんに『迷子?』って聞かれた時、とっさに仲間がいるってうそをついてしまいました。
      あれだけ親切にしていただいたのに恩を仇でかえすようなことをして、本当にすみませんでした……」

ライチュウ「いいよ、別に。誰だって言いたくても言えないことってあるし。
      それにオイラはたとえキミが元ニンゲンのポケモンでも軽蔑なんて断じてしないよ。
      キミだって好きで捨てられたんじゃないんだし。
      だからそんなにしょげなくてもいいんじゃないかな」

ブースター「ありがとうございます……」

ライチュウ「ねぇ、ブースター。1つだけ聞いていい?」

ブースター「は、はい。なんですか?」

ライチュウ「どうして正直に話そうと思ったの?」

ブースター「あなたにどうしても謝りたかったからです。あなたに正直に話してほんとのことを知ってもらいたかったんです」

ライチュウ「なるほどね。でもよく言う気になったね。オイラがキミの立場だったらたぶんずっと言えなかったと思うな」

ブースター「……優しく接してくれたあなたにうそをついたという罪悪感に苛まれながら、この先ずっと生きていくことなんでできません。
      ですから、あなたに謝罪するまではこの森を出るわけにいきませんでした」

ライチュウ「そっか。キミなりにいろいろ悩んでたんだね」

ブースター「はい……。ライチュウさん、うそをついて本当にすみませんでした……」

ライチュウ「いいってば。ちゃんと話してくれただけでも十分だよ。ありがとう」ニコッ

ブースター「では……さようなら」

ライチュウ「どこへ行くの?」

ブースター「決まってるじゃないですか。森を出ていくんです」

ライチュウ「どうして?」

ブースター「あなたに事実を伝えることができたからです。もうこれ以上ここにいても仕方ないですし……」

ライチュウ「こういう言い方はアレだけど、キミは野生になったんだから自由の身なんだよ。せっかくなんだからここに住めばいいじゃない。一応オイラという知り合いがいるんだし」

ブースター「ライチュウさんってほんとに優しい方なんですね。ありがとうございます」

ライチュウ「それじゃあ――」

ブースター「……ですが、わたし、やっぱりこの森にはいられません。あなたを騙したわたしにこの森にいる資格なんてありませんから……」

ライチュウ「この森は別にオイラの所有物じゃないよ。ここにいるみんなの森だよ。だいたいどこかへ住むのに資格なんているの?」

ブースター「……」

ライチュウ「それに、森を出てどうするの? 行くあてあるの? この先1匹でちゃんと生きていけるの?」

ブースター「それは……」

ライチュウ(言っちゃっていいのかな。……ええい、言っちゃえ)

ライチュウ「もしよかったら、オイラんとこにこない?」

ブースター「えっ!?」

ライチュウ「いや、そりゃその日出会ったばかりの異性にいきなりこんなこと言われたら戸惑うだろうけどさ、慣れない場所に1匹でいるよりかは安心できると思うよ」

ブースター「いえ、でも、さすがにそれは……」

ライチュウ「なにもしないって。約束するよ。オイラが夜這いなんてするような顔に見える?」

ブースター「そういうわけではないんですけど……」

ライチュウ「遠慮しなくていいよ。誰にも迷惑かからないし」

ブースター「で、ですが……」

ライチュウ(別に下心なんてないけど、あまりしつこいと警戒されるかな)

ライチュウ「まあ急にこんなこと言われたら誰だって猜疑心を抱くよね。オイラがいたんじゃキミも決断しにくいだろうからいったん帰るよ。
      あとでまたくるから。それじゃ」ニコッ トコトコトコ

ブースター「まってください!」

ブースターは大きな声でライチュウを呼びとめた。

ブースター「ほんとにその……いいんですか?」

ライチュウ「なにが?」

ブースター「わたし、この森にいてもいいんですか?」

ライチュウ「それはオイラが決めることじゃなくてキミが決めることだよ。残りたいって思うなら残ればいいと思う。
      まあ個人的な意見を言わせてもらうと、キミがこの森に住むってんならオイラは大歓迎だよ」

ブースター「ライチュウさん……」

ライチュウ「オイラんとこ、くる?」

ブースターはしばらくの間悩んでいたが、やがて決心したのか、ゆっくりとうなずいた。

ブースター「……ありがとうございます。ライチュウさん、今夜はよろしくお願いします」

ライチュウ「もうっ、畏まらなくていいったら」

ブースター「は、はい。すみません……」

ライチュウ「まあそういうところもかわいいんだけど……」

ブースター「えっ?」

ライチュウ「なんでもない。じゃあ帰ろっか。ついてきなよ」

ブースター「は、はい」

とりあえずここまでです。

―帰り道―
ライチュウ「今夜は月が出てないから真っ暗だね。ブースター、ちゃんとついてきてる?」

ブースター「は、はい。大丈夫です」

ライチュウ「そういえばキミ、ほのおタイプだったよね。シッポから炎出せたりする? 道照らしてよ」

ブースター「す、すみません。シッポからはちょっと……」

ライチュウ「あっ、そっか。よくよく考えてみたらそんなふさふさなシッポから炎出たらシッポが毛皮ごと焼けちゃうよね。
      じゃあ口から……って言いたいとこだけど、それじゃ端から見れば人魂が森を漂ってる風に見えちゃうか」

ブースター「オバケとか幽霊とか、そういう話は苦手です……」

ライチュウ「オバケが嫌いなんだ」

ブースター「一度ゴーストポケモンに催眠術で眠らされたあげく悪夢を見せられてしまって以降、ゴーストタイプがすごくこわくなってしまいまして……」

ライチュウ「そっか。後天性のオバケ恐怖症なんだね」

ブースター「はい……」

ライチュウ(明日ゲンガーに紹介しようと思ってたけど大丈夫かな。ゲンガー目つき悪いからなぁ)

ライチュウ「それはそうと、昼間はごめんね」

ブースター「なんのことですか?」

ライチュウ「ほら、キミが一匹で生きてくにはって相談した時、オイラったら自分のことばかり話しちゃってたでしょ?
      事情を知らなかったからとはいえ無神経だったよ。ごめんね」

ブースター「いえ……」

ライチュウ「でももう大丈夫だよ。おわびと言っちゃなんだけど、野生として生きる術を教えてあげるから」

ブースター「なにからなにまで本当にありがとうございます……」

ライチュウ「いえいえ。あっ、オイラんちここだよ」

ブースター「洞穴……ですか?」

ライチュウ「うん。そんなに広くないけどそれなりに落ちつくと思うよ。さっ、入って入って」

ブースター「失礼します」

ライチュウ「どう?」

ブースター「は、はい。いいところですね」

ライチュウ「でしょ? さてと、とりあえず今後のことは明日話すことにして、今日はもう休もっか。キミも色々あって疲れてるだろうし」

ブースター「……」

ライチュウ「どうかした?」

ブースター「わたし、この先どうすればいいんでしょうか……」

ライチュウ「だからそれは明日考えようよ。今日はもう寝ようよ。ねっ?」

ブースター「そう……ですね」

ライチュウ「じゃあおやすみ。ゆっくり休んでね」トコトコトコ

ブースター「どこに行くんですか?」

ライチュウ「どこも行かないよ。たまには夜空の下で寝るのもいいかなって思っただけ」

ブースター「ライチュウさん、ひょっとして……」

ライチュウ「まあ仮にもオイラたちはオスとメスなんだし、キミだってオイラが横にいたらおちおち寝れないでしょ?」

ブースター「す、すみません。それならぼ、わたしが外で……」

ライチュウ「いいからいいから。キミは中、オイラは外。ほんとに遠慮しなくていいって」

ブースター「ですが……」

ライチュウ「好意は素直にあまえるものだよ」

ブースター「……わかりました。ではお言葉にあまえてここで休ませてもらいますね」

ライチュウ「うん」

ブースター「あの……1つだけ聞いてもいいですか?」

ライチュウ「いいよ。なに?」

ブースター「どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?」

ライチュウ「別に理由なんてどうでもいいじゃない。誰だって優しくされたらうれしいでしょ?」

ブースター「そうですけど……なぜ見ず知らずのわたしにそうまでして尽くしてくれるんですか?」

ライチュウ「なんでだろうね。実のところ、自分でもよくわからないんだ。強いて言うならキミが昔のオイラと同じだからかな」

ブースター「同じ?」

ライチュウ「そう、同じ。だからほっとけないのかもしれないね」

ライチュウ「さっ、今日のところは寝よ寝よ。おやすみ」

ブースター「はい。おやすみなさい。ライチュウさん」

ライチュウ「ゆっくり休んでね」

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