ゆみ「君の残り香を付いて歩く」 (14)

※舞台設定は4月あたまくらいです。

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ゆみ「暖かくなってきたな」

モモ「春っすねえ」

ゆみ「ああ」

モモ「私、春がいちばん好きっす」

ゆみ「……ふふっ」

モモ「似合わないっすか」

ゆみ「ああ、いや……すまない。そうじゃないんだ」

モモ「いいっすよ」

ゆみ「そう拗ねるな。丁度、私も考えていたんだよ」

モモ「?」

ゆみ「モモには春が、似合うな——と」

モモ「先輩……」

ゆみ「なあ、モモ」

モモ「はい。なんすか、先輩?」

ゆみ「思いつきですまないが、今日は少し遠出しよう。構わないか?」

モモ「いいっすよ、でも今日は駅前に行くんじゃなかったっすか」

ゆみ「ああ、買い物はまた今度な。駅に着いたら、そこから電車に乗ろう。あれは下り線で……4駅ほどだったか」

モモ「なにがあるんすか?」

ゆみ「ふふ。それは——着いてからのお楽しみ、ということでどうだ」

〜〜〜〜電車内〜〜〜〜

モモ「降りる駅って、ふだんあんまり使わないとこっすよね」

ゆみ「そうだな。快速や急行は停車しないし、駅舎は無人……利用するのは地元の人間くらいだろう」

モモ「そんなところ、行ったことあるんすか」

ゆみ「ああ。考え事をしていたら、つい乗り過ごしてしまったことがあってな。その駅で降りて、折り返しを待とうとしたことがあるんだ」

モモ「先輩でもそんなことあるんすね」

ゆみ「うっかりしていたんだよ。それで、仕方なく電車を降りたはいいが、さっきも言ったとおりその駅には普通列車しか停車しない。次の電車が来るまでだいぶ時間があったんだ」

ゆみ「前にも言ったことがあるだろう。覚えているか、モモ?」

モモ「なんすか?」

ゆみ「私はどうも、知らない土地にいると落ち着かないんだ」

モモ「あ、合同合宿のとき言ってたっすね。じゃあ、電車を待つ間って——」

ゆみ「ああ。改札を出て辺りを散策したんだよ。あまり遠くまでは行けなかったが、それでも——期せずしてよさそうな場所を見つけることができた」

モモ「今から行くっていうところっすね」

ゆみ「そうだ。少しばかり盛りは過ぎてしまったろうか……だがまだ間に合うだろう」

ゆみ「何があるのか、訊かないのか?」

モモ「内緒にしたのは先輩じゃないすか」

ゆみ「それはそうだが」

モモ「そんなにワガママにみえるっすか、私」

ゆみ「いや、そんなことは……あ、いや。やはり……我儘かな」

モモ「あ、ひどいっす」

ゆみ「そうか?」

モモ「そうっすよ。もう」

ゆみ「嬉しいものだけどな」

モモ「?」

ゆみ「好きな相手の言う我儘だ。言ってくれるのも、きいてやれるのも、嬉しいさ」

モモ「……」

ゆみ「……」

モモ「……ずるいっす」

ゆみ「ひどい言われようだ」

モモ「訊かれるのは嬉しいんすよね」

ゆみ「そうだな」

モモ「じゃあ訊きますけど」

ゆみ「うん」

モモ「行った先にはなにがあるんすか?」

ゆみ「さてな」

モモ「え゙」

ゆみ「内緒だといっただろう」

モモ「もう、先輩!」

〜〜〜〜駅〜〜〜〜

ゆみ「この駅だ。降りるぞ、モモ」

モモ「ここっすか」

ゆみ「私が言うのもおかしいかもしれないが……どうだ、何もないだろう」

モモ「そっすね、言っちゃえば田舎っす……」

ゆみ「こんなところに何が、って顔だな」

モモ「む、先輩なんか楽しんでるっす?」

ゆみ「どうだかな。ふふ」

モモ「もー、笑ってるの隠そうともしないで」

モモ「さっきから。いじわるする先輩はあんまり好きじゃないっす」

ゆみ「悪かったよ。ほら、こっちだ」

モモ「ぷいっす」

ゆみ「おい、モモ」

モモ「つーんっす」

ゆみ「はあ。仕方ないな」

ぐい

モモ「!」

ゆみ「いつもなら人前ではしないが……ここならいいだろう。ほら。行こう、モモ」

モモ「……て、手つないだくらいで機嫌直ると思ったら大間違いっすからね!」

ゆみ「——ほらモモ、ここだ」

モモ「……わあ!先輩、これ、ここにあるのぜんぶ、梅の木っすか?」

ゆみ「ああ、そのようだ」

モモ「いーっぱい、あるっすね、先輩!」

ゆみ「ふふ、すぐに機嫌が直ったな」

モモ「好きなんす、梅」

ゆみ「そうだろうと思ったよ」

モモ「えっ?」

ゆみ「なんとなく、なんだがな。モモには梅の香が似合うと思っていた。以前ここに来たとき、真っ先に浮かんだのは君の顔だったよ、モモ」

モモ「先輩……」

ゆみ「モモ、梅は好きか?」

モモ「はい、好きっす。花のなかでは、いちばん」

ゆみ「そうか。なら連れてきてよかった。二人で一緒に見られて、本当に」

モモ「私も……加治木先輩に連れてきてもらえて、ほんとによかったっす。ありがとうざいます、先輩」

ゆみ「だが……やはり少し来るのが遅かったか。もう散り始めてしまっているな」

モモ「むう、先輩、そんなこと気にしてるんすか?」

ゆみ「それは……そうだろう、満開の時期に来るのが一番——」


モモ「——また来ればいいじゃないすか。また、二人で」


ゆみ「……それもそうだ」

モモ「ほらほら先輩、あっちのほうにも行ってみましょうよ」

ゆみ「そうだな」

モモ「はやく、はやくっ」

ゆみ「そう急かすな。ここから先は、まだ私も行ったことがないんだ。だから、」

モモ「?」

ゆみ「一緒に行こう。手を繋いで」



おわり

短いですが以上で。
麻雀負けてのお題でした。まだ寒い時期に受けたお題を、おおまかなコンセプトだけ決めてつらつらあーでもないこーでもないしていたらいつの間にか梅の季節なんかとっくに過ぎ去り>>1で言い訳を…

あと梅並木?みたいなやつの写真でもあればなーと思ったのですが近所にそんなんなかった

それではまた

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