御坂「そういうことだったわけね」 (352)

とある科学の超電磁砲のssです。

時系列は妹達終了あたり(フェブリ?ジャーニー?知らない子ですね)。
まあ、使い古されたネタというわけです。
禁書目録もそのあたりまで知っていれば大丈夫のはず。

魔術サイドはあまり登場しません。登場しても2,3人ぐらいかな?

シリアスなストーリーを目指しています。
エロとかギャグとかは多分ないので、それでもいいという方はどうぞ。

まあ、スレ主のクソみたいな妄想に付き合っていただけると幸いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1401113858

御坂「それでさ、いつも初春さんが顔を真っ赤にして佐天さんに言うのよ」

学園都市第7学区にある「木の葉通り」。
別名ケンカ通りとも呼ばれるこの通りで、常盤台の超電磁砲「御坂美琴」はクレープを頬張りながら、他愛もない話をしていた。

御坂「キャー、何てことするですか! 佐天さん、てね」

思い出すだけでもおかしいのか、笑いをこらえながら話をする。

学園都市のレベル5第三位である彼女は、学園都市の広告塔の役割も担っている。
常盤台の高級そうな制服を身にまとい、シャンパンゴールドのショートカットにヘアピンを留めた端正な顔立ちは、彼女の小さな物事にこだわらないさっぱりとした性格を表していた。

その話を聞いている相手は、御坂とそっくりな少女だった。
御坂同じ常盤台の制服を着ており、髪型から顔立ち、身長から体重まで全く違いがない。
唯一違うのは、前髪の上にかけている大きな軍用ゴーグル。

御坂のDNAマップからつくられたクローンの一人、御坂妹こと「ミサカ10032号」である。

御坂妹「その話のどこがおもしろいのですか? と、ミサカは落胆しながら質問します」

御坂「えー。だって、初春さんていつも佐天さんにスカートめくられるのよ。それなのに、何も対策しないんだから」

御坂妹「それは、ただ単に友達とのスキンシップを楽しんでいるということでは? と、ミサカは冷静に突っ込んでみます」

御坂「そういうことよ。いやよいやよって言っていても、やってくれないと寂しいんじゃないかな? なんてね」

夏休みも終わりかけの8月末、熱い夏は過ぎ去ろうとしているが、まだ厳しい残暑が残る。

2人は4人掛けの白い丸テーブルに座っている。
御坂の手元には一つ2000円もするクレープがあり、御坂妹の手元にはこれもまたお高い紅茶のティーカップが置かれていた。

ちなみに全て御坂のおごりである。

御坂「まあ、そんな二人がまたかわいいんだけどね」

御坂妹「……つまりお姉さまはそういう趣味ですか? と、ミサカは内心ドン引きしながら答えます」

御坂「ちょ、そういう趣味ってどういうことよ!? 違うわよ」

御坂妹「おや、何のことでしょう。ミサカは単にお姉さまがゲコ太目当てにクレープを買うほどのお子様趣味のことを言ったのです。と、ミサカはニヤニヤしながら付け加えます」

御坂「!!! この!」

御坂妹「それをまさか百合なんて意味とったのではないですよね? と、ミサカは念のために確認をとります」

御坂「そ、そんなわけ、ないわよ」

御坂妹「そうですか。と、ミサカは図星だなと思いながら相槌を打ちます」

御坂「なっ……」

御坂妹「全く、このような姉を持ってしまうとは……、このミサカ、一生の不覚です。と、ミサカはため息をつきつつ、頭を抱えます」

御坂「ムキー!!!」

顔を真っ赤にしている御坂と、それを見ても無表情の御坂妹。
ただし、御坂妹は御坂をからかって内心ニヤけていたりする。

姉をいいようにからかう妹と、それをうまい具合に楽しむ姉。
周囲から見るとそういうふうに感じるだろう。

しかし、この二人を取り巻く過去はそんなものではない。

御坂が学園都市に来たばかりのころに提供したDNAマップ。
筋ジストロフィーの研究のために使われると思っていたのが、まさか自分のクローンのために使われるなんて、当時小学生の御坂に分かるはずもなかった。

そのクローンが目の前にいる御坂妹だ。

だが、レベル5のクローンを作ることは叶わず、この「量産能力者(レディオノイズ)計画」は中止に追い込まれた。

だが、それを一方通行(アクセラレータ)を絶体能力者(レベル6)にするための道具として再び生み出されることとなった。
「絶対能力進化(レベル6シフト)計画」で生み出されたクローンは20000体。

そのうち10031体が実際に使われ、虐殺された。
御坂妹はけがを負いながらも、御坂ともう一人の人物に助け出された一人である。

それが、つい一週間ほど前の話だ。

御坂妹「それではお姉さま、そろそろお開きにしましょう。と、ミサカは提案します」

御坂「え、もう? ってこんな時間か」

だいぶ話し込んでいたらしい。気がつけばもう完全下校時刻が近づいていた。

御坂妹「ミサカもこの後調整がありますので。と、ミサカは帰りを急かした理由を述べます」

御坂「そうなの? こんな時間から大変ねえ」

御坂妹「先生も忙しいのでしょう。とミサカは返します」

2人は席を立つと、歩き出す。
御坂は御坂妹を送ることにする。

御坂妹は今第7学区の病院で生活をしている。
と言っても、ほとんど下宿といったものだ。

御坂のクローン「妹達(シスターズ)」。
彼女たちはクローンである上に、成長を促進する薬剤を投薬されているため寿命が短い。

そのため、寿命を延ばすための治療を受けている。

また、彼女たちは軍用クローンであるため、表沙汰になるのは非常にまずい。
国際的に禁止されているクローン人間を作ったとなれば、学園都市に対する非難は計り知れない。
まして、そのクローンは1万人近くいるのだ。

だから、学園都市は次の方法をとった。

およそ1万人いる妹達を世界各地にある学園都市の協力組織に少人数ずつ振り分け、そこで治療と調整を行う。
こうすることで、学園都市にいる妹達は数人となり、治療も分担できクローンと疑われることも少なくなる。

御坂妹は学園都市に残った妹達の一人だ。
学園都市最高の名医「冥土返し(ヘブンキャンセラー)」いる病院で治療を受け、病院の手伝いもしている。

御坂妹「今日はどうもありがとうございました。と、ミサカは精一杯のお礼を述べます」

御坂妹は御坂の隣で礼を言う。

御坂「いいのよ、お礼なんて」

御坂は歩きながら、返事を返す。

御坂「私はお姉ちゃんよ。姉が妹の面倒を見るのは当然のことじゃない」

御坂妹「……」

御坂「アンタは素直に私に甘えてきたらいいのよ。甘えられなくちゃ、姉としての立場がないわ」

御坂妹「……ミサカは、本当にこれでいいのでしょうか。と、ミサカは不安を口にしてみます」

御坂「え?」

御坂妹「ミサカは何もわかりません。学習装置(テスタメント)で手に入れた知識はありますが、この世界にはミサカの知らないことがたくさんあります」

御坂「……」

御坂妹「本来死ぬはずだったミサカがこうして生きていられるのは、お姉さまと上条さんのおかげです。とても感謝していますが、この大きな世界で生きるのは不安です。と、ミサカは心にある悩みを言ってみます」

御坂「……じゃあさ、今度二人で旅行にでも行こうか?」

御坂妹「?」

御坂は御坂妹の方へ顔を向ける。

御坂「知らないんならさ、自分から知ろうとすればいい。旅行はそれにうってつけよ。いろんな土地で、さまざまな人に出会い、たくさんのことを知るのよ。冬休みになったらさ、どこか行こうよ」

御坂妹「……」

御坂「それに、私だって知らない事ばかりだし。知らないことを不安に思わなくてもいいんだよ」

御坂妹「お姉さまがそうおっしゃるなら、行きましょう。と、ミサカはそう簡単に外に出られるのかと疑いながら答えます」

御坂「うっ、まあ、それは……」

御坂妹「でも、とても楽しみです。と、ミサカは期待感を胸に秘めます」

期待感ただ漏れだよ、と心の中で突っ込みつつ、御坂は心に重いものを感じる。

自分が生み出してしまった存在。
本来なら生まれるはずのなかった妹。

自分の不注意から始まったのだ。

だから、御坂はいつも責任を感じる。

最初は嫌だった。
自分と同じ顔を持ち、自分と同じ遺伝子を持つ妹達が好きになれなかった。

でも、一方通行の実験をきっかけに変わった。
クローンである彼女たちを、妹として、何よりも人間として接することに決めた。

だから、御坂は妹達の面倒を死ぬまで見るつもりだ。

妹達が遊びたいと言えば一緒に遊び、何かを教えてほしいと言えば教え、相談に乗ってほしいと言えばきっちり話を聞く。

それこそが、姉としての役割。

御坂妹「さて、ようやくつきました。と、ミサカは暗くなり始めている空を見ながら呟きます」

いつの間にか、冥土返しのいる病院の目の前にいた。

御坂「じゃあ、調整がんばって。あんまり無理しちゃだめよ」

御坂妹「今日はありがとうございました、お姉さま。と、ミサカは感謝の気持ちを伝えます」

御坂「いいのよ。何かあったら、いつでも私の所に来なさい。何でも協力するから」

御坂はろくにない胸を張る。

御坂妹「今度はミサカの番です。と、ミサカは気合を入れます」

御坂「おっ、いいねえ。妹におごられるのは」

御坂妹「いやいや、それはねえよ。と、ミサカは真に受けたお姉さまに突っ込みを入れます」

御坂「違うんかい!」

御坂はその場でズッコケそうになるのをこらえ、御坂妹の顔を見る。

御坂「またね、バイバイ!」

御坂妹「さようなら、お姉さま。と、ミサカは別れの挨拶を口にします」

そして、御坂妹は病院内へ消えていった。

御坂「さてと、私も帰りますか、ってやば! もうこんな時間!」

御坂は時計を見るなり、走り出す。
門限を過ぎると、あの寮を取り仕切る寮監に手荒い制裁を受けることになる。

何しろ、素手で高位能力者の生徒を次々に締め上げるほどである。
想像するのもいやになる。

門限まで残り10分。寮監にこってり絞られるのかどうかは、自分の足に掛かっていた。

>>14

どうだろう。
今のところカップリングはそんなにないかな
一方通行はまあ、優しくないんじゃね

同時刻

学園都市第7学区の高速道路を、一台のスポーツカーが走っている。

快晴の青空よりもさらに濃い水色をした、学園都市製のそこそこ高級なものだ。
その気になれば時速300キロは出せる。

そんな代物を運転するのはスーツ姿の女性だった。

肩まで伸びたダークブラウンの髪に、ジト目の下にできた隈。
だるそうな表情を前へ向ける彼女は「木山春生」だ。

黒いスーツに身を包んだ木山は、見事な運転テクニックで運転の難しいスポーツカーを乗りこなす。

木山「体の具合はどうだ?」

前方に視線を向けたまま、木山は助手席に声をかける。
2人乗りのスポーツカーの隣に座るのは、中学生くらいの女の子だ。

初春や佐天の通う柵川中学の制服を着た、黄色っぽいカチューシャが特徴的な「枝先万里」である。

枝先「もう平気だよ。お医者さんももう心配ないって言ってたし」

丸い目をくりくりさせながら、枝先は答える。
2人は今、柵川中学が帰る途中である。

始業式はまだなのだが、柵川中学へ編入する枝先が先に校舎を見ておきたいと思ったのだ。
朝から夕方まできっちり見学した後、木山に迎えに来てもらったというところだ。

木山「そうか」

木山はほっとした口調で答える。

木山と枝先は先生と生徒の関係だった。
けれど、木原幻生による仕組まれた実験で、枝先は昏睡状態に陥った。
その後木山は教員をやめ、枝先や他の教え子たちを救うために奔走することになる。

その結果、幻想御手(レベルアッパー)事件が引き起こされることとなった。
最終的に御坂たちを巻き込み、乱雑解放(ポルターガイスト)事件を経て、枝先たちを目覚めさせることができた。

今は研究をしながら、その子たちの保護者を務めている。
何しろ枝先たちには、親がいない。

なぜなら、学園都市に最初の編入金だけ払い、子供を置いてそのまま蒸発する「置き去り(チャイルドエラー)」だからだ。

いわば捨て子である彼女たちは、都合のよいモルモットの扱いを受けている。
それゆえに、木原幻生の実験に駆り出されることになったのだが。

始めに枝先たちの担任となった時も、特に何も感じなかった。
仕事のため、研究のためと割り切っていた。

だが、枝先たちの無邪気な仕草や態度に触れているうちに、情が芽生えた。
枝先たちを愛おしく思った。

自分では力不足になるかもしれないが、それでも親のいない枝先たちに、大切なものを教えてくれた枝先たちのために何かしてやりたいと思った。
ゆえに、できないながらも親代わりをしている。

枝先「ところで木山先生。木山先生は柵川中学に来ないの?」

木山「えっ?」

枝先「先生にもう一度勉強を教えてもらいたいなあ。ねえ、学校に来てよ!」

枝先の幼さの残る言葉に、木山は答える。

木山「そうだな。余裕があればだな」

枝先「えー、そんな約束じゃ嫌だよ。絶対来るって約束してよ!」

木山「おいおい、もう中学生なんだから。小学生みたいなこと言うな」

ムッとした表情を見せる枝先に、木山は内心苦笑する。

本当に、子供は嫌いだ。
そんな事を思うものの、心の中に嫌な感じはしない。
むしろ、この母性をくすぐられる感触を楽しみたいと思う。

そうこうしているうちに、スポーツカーは高速を降りる。
一般道に入ると、完全下校時刻が近づいているからなのだろう、帰りを急ぐ学生たちの姿が目につく。

枝先「そういえば先生、今日変な夢見たんだよ」

木山「変な夢?」

また他愛もない話なのだろうと、木山は思う。

枝先「うーんとね、街を歩いていたら突然地震が起きたの。それで転んじゃって、起きたら真っ暗で何も見えないの」

木山「ふーん、それは怖かったな」

枝先「それだけじゃないんだよ。真っ暗な道を歩いていたら、突然空が青白く光って何も見えなくなっちゃったの」

木山「そうか」

枝先「そうなの。怖くて泣いていたら目が覚めて、本当にびっくりした」

そんな話を聞いているうちに、スポーツカーはやっと目的地に到着する。
枝先の寮である。

木山「ほら、着いたぞ」

枝先「うん。先生、ありがとう」

枝先は鞄を手に取り、車を降りる。

枝先「送ってくれてありがとう。今度先生のところに遊びに行くね」

木山「ああ、いつでもいいぞ」

枝先は木山に手をふると、寮の方へ歩き出す。
枝先がエントランスに消えるのを確認してから、木山はスポーツカーを走らせる。

明るい青空が次第に赤みがかってくるのを感じながら、木山は研究が残っていることを思い出す。

木山の専門は大脳生理学。
能力を使っている能力者の大脳が、どのようなはたらきをしているのかを研究しているところだ。

もう幻想御手のような研究はしないつもりだ。
二度と手を出したくはない。

そろそろ実験レポートを上司に提出しないといけないな、と考えているうちに、木山の研究所に到着する。

駐車場に車を停めると、運転席を降りる。
駐車場に他の車はなく、木山一人のようだ。

今日は一人で徹夜か、と木山はぼんやり考える。

???「動かないでください」

突然背後から声をかけられると同時に、背中に堅いものを押し付けられる。
その冷たさに、木山は嫌な予感を感じる。

???「私の言う通りにしてください」

木山「誰だ、君は?」

???「じっとしててください。言うことを聞かないのなら、撃ちます」

その言葉で、木山は背中に銃を当てられていることを知る。

木山「な、何が目的なんだ?」

震える声で木山は尋ねる。

???「あなたなら分かるはずですよ」

木山「……幻想御手か?」

???「ああ、それもありますね。けれど、もう一つあります」

感情のこもらない無機質な声が、木山の耳に入る。
振り向けないので、相手の姿を見ることができない。

木山は手を後ろに回される。
そのままガチャリと、手錠をかけられる。

これで抵抗することはできなくなった。

???「さあ、研究所に入りましょう」

木山「なんだと? ここには何もないが」

???「なるべく早く終わらせたいのです。妙なまねはしないでくださいね」

銃を背中に押し当てられ、進めと急かされる。

木山は歯噛みしながらも、相手の言うことに従うしかない。

そして、正面入り口に立った木山はパスコードを言い、相手がそれを打ち込む。
その時に初めて相手の姿を見る。

木山「な……、どうして? どうして君が?」

???「あとでゆっくり聞かせてあげますから。それまで待っていてください」

入り口のドアが開かれる。
絶句した木山を引き連れた犯人は、そのまま真っ暗な研究所の中に入っていった。

二日後 ジャッチメント第177支部

学園都市230万人のうち、8割は学生が占めている。
5人に4人は学生というこの街では、学生の自主性が特に求められている。
ゆえに、学生の学校外での活動が盛んだ。

例えば学生が会社を経営していたり、合同の研究チームを結成し研究に励んでいたり、などである。

だが、一方で落ちこぼれも当然出てくることになる。

能力開発を受けても能力が発現しなかった者。
能力が発現したものの、教育についていけなかった者。
能力を持つことで驕り高ぶった者。

その他にもさまざまな者が、挫折や苦悩を克服できずに闇の世界へと落ちていく。

そして、そういう者たちの集まり「スキルアウト」が学園都市の至る所に現れることとなった。
日夜学校にも行かず、半ば犯罪まがいのことを行う。

そんな彼らを、学園都市がだまってみているわけがない。
学園都市の治安維持を目的として、学生主体の治安維持組織「警備員(ジャッチメント)」と教職員主体の治安維持組織「風紀委員(アンチスキル)」が結成された。

そのジャッチメントの一支部が第177支部である。

固法「はあ、今日も平和ね」

第177支部のジャッチメント「固法美偉」は呟く。
この支部一番の古株である固法は、実質リーダーの役割を担うことが多い。
固法の能力はレベル3の「透視能力(クレアボイアンス)」。相手を透視し隠し持つ武器や危険物を探すことができる。
ちなみに、結構な爆乳である。

初春「そうですねえ、本当に何もないですねえ」

デスクトップのパソコン画面を眺めながら、初春飾利は固法に同意する。
頭に乗せた花飾りが特徴の初春は、能力はレベル1でありながらパソコンを扱う能力はピカイチであり、本人の知らないところでは「守護神(ゴールキーパー)」と呼ばれていたりする。

白井「全く、2人とも緊張感がないのではありません?」

ティーカップに口をつけながら、「白井黒子」は呆れたように言う。
長いツインテールが特徴の彼女は、レベル4の「空間移動(テレポート)」。いわば、自分自身や触れたものを、瞬間移動させることができる。
この能力を使って白井は現場で動き回っている。
ちなみに御坂のことになると態度が豹変する。

白井「こういう時こそ気を引き締めていなくてはならないですの」

初春「別にたるんでるわけじゃないですよ。ただ平和でいいなって言っただけじゃないですか」

白井「確かにそうですわ。でも、そういう気のゆるみが大きなミスにつながるんですの。ちゃんと集中して取り組むべきですの」

固法「白井さんの言うとおりね。気を付けるわ」

そういうと、固法は牛乳パックに口をつける。
「ムサシノ牛乳」と書かれた500mlの牛乳を一気に飲むと、くーっと息を吐く。
白井はそれを見ていたが視線の先にあったのは、固法の爆乳。

喉を鳴らすたびにプルプル動くそれに、釘付けとなっていた。

白井「はあ、わたくしも固法先輩みたいな立派なものを持ちたいものですわね」

初春「固法先輩、秘訣か何かあるんですか?」

年頃の女の子ならだれもが気にするその大きさに、2人はある種の憧れ?を持っている。
何か秘密があるなら聞いておきたいのが普通だ

固法「うーん、別に何もしていないけど」

ところが、固法の返事に2人は驚きを通り越して殺意すらわく。
白井は白井でいろいろ試しているし(それは御坂を手に入れる?ためなのだが)、初春は初春で固法の大好きなムサシノ牛乳を何本も飲んでたりする。

固法「まあ、こういうのは個人差があるものだから、気にする必要はないんじゃない?」

白井、初春「そういうわけにはいかないんですの(のです)!」

固法「ちょ、どうしたのよ。2人とも?」

白井「固法先輩はそういう立派なものがあるから、そんなことが言えるんですの。わたくしがどれほどの努力をしてるか……」

初春「そうですよ。うらやましいです」

固法「けど、大きい方がいいってわけではないのよ。いつも苦労してるし」

白井「うっ、固法先輩が言うと……」

初春「嫌味にしか聞こえません……」

固法「ちょっと! そんなつもりじゃないって」

後輩2人がどよんとした雰囲気になったところで、突然入り口のドアが開く。

佐天「こんにちは、お邪魔しま……、ってあれ? なんで初春そんなに暗いの?」

白井と初春の様子を見て、佐天涙子は目を白黒させる。
初春のクラスメートであり親友である。
ちなみにレベル0であり一時期それがコンプレックスであった。
それゆえ、幻想御手事件に巻き込まれたこともある。

初春「さ、佐天さーん、聞いてくださいよ。固法先輩が……」

佐天「え! 固法先輩、何かしたんですか?」

固法「ち、違うのよ、佐天さん! 誤解だって」

こうして、第177支部はますます混乱に拍車がかかっていく。

初春を宥めながら双方の言い分を聞き、佐天は率直に言う。

佐天「でも固法先輩の胸、私も気になりますよ」

固法「そんなこと言われたって。困っちゃうわ」

佐天「うわー、その反応はちょっとまずいんじゃないですかー?」

固法「えっ、佐天さんまで!」

完全に後輩たちからの信用を無くした固法は、今にも泣きそうな顔になる。
一方で、佐天の顔には小悪魔的な笑みが浮かぶ。
完全にからかうときの顔だ。

固法「もういいでしょ、この話は。さあ、仕事仕事!」

自分が不利となった雰囲気を振り払うかのように手をパンパンと叩くと、固法は自分の席へ戻って書類と格闘し始める。
後輩2人はそんな先輩にジト目を向けるものの、すぐに自分の仕事に取り掛かる。

ジャッチメントではない佐天はそんな作業を眺めながら、ぼんやりとしている。

その時、支部のドアがコンコンとノックされる。

固法が返事をするとドアが開き、来客が来る。

黄泉川「失礼するじゃん」

固法「あっ、黄泉川先生、どうしたんですか?」

支部にいた全員が黄泉川の登場に驚く。
とある高校の体育教師にしてアンチスキルの黄泉川は、ここの4人とは面識があり、何度かいい意味で世話になっている。
事件解決に一枚噛んでいたという感じだったのだが。

ということは、今度も何か厄介ごとがあったのではないかと4人は訝る。

黄泉川「白井と初春と……おお、佐天もいるのか。ちょっと聞きたいことがあるじゃん」

名指しされた3人は顔を見合わせる。
何もやましいことはしていない。

黄泉川「お前ら、木山春生は知ってるじゃん?」

予想だにしない名前に、3人は驚く。
知ってるも何も、忘れるわけがない。
白井は幻想御手で捜査をし、初春は木山に半ば拉致された形となり、佐天は幻想御手の被害を受けた。
そのあとでは木山の目的と思いを知り、枝先を目覚めさせるために協力した。

白井「木山春生がどうかしたんですの?」

黄泉川「二日前から行方不明だ」

黄泉川から飛び出した思いがけない言葉に、3人は言葉を失う。

初春「ど、どういうことですか?」

黄泉川「二日前、教え子を寮まで送った後から連絡がつかないと、勤めている研究所から通報が来たじゃん。まだ捜査は始まったばかりだが、何の手がかりもないじゃん」

佐天「そんな、まさか誘拐とか!?」

黄泉川「それも可能性の一つじゃん。そこで、最近の木山春生について何か知っていることはないか?」

黄泉川はポケットから手帳とペンを取り出す。

黄泉川「何でもいいじゃん。いつ会ったとか、話をしたとか」

白井「……最近は会っていないですの。あの事件以来、特に話してないですし」

白井と同じである初春と佐天も頷く。

黄泉川「そうか。他にも木山についての話とかは聞かなかったじゃん? 悩みがあったとか、変な人に追われてるとか。噂話でもいいじゃん」

黄泉川の質問にも、3人とも顔を見合わせるだけだ。
3人とも最後に会ったのは、あのテレスティーナの事件以来だし噂すら聞かない。

しかし、ここで初春が何か思い出す。

初春「万里ちゃんはどうなんですか? 木山先生が担任だったしいろいろ知ってるんじゃ……」

黄泉川「さっき行ってきたじゃん。でも、ちょっとショックだったみたいでな。あまり聞けなかったじゃん」

枝先の様子が頭に浮かんだのか、黄泉川の声に気の毒そうな感情が混じる。

黄泉川「固法は何か知らないじゃん?」

固法「うーん、私もわかりません」

黄泉川「そうか」

これ以上は何も得られないと判断したのか、ポケットに手帳とペンをしまう。

黄泉川「何か分かったことがあったら、私に連絡するじゃん。それと分かっていると思うが、この事は誰にも話さないでくれよな。協力感謝するじゃん」

そして黄泉川はもう一度礼を言うと、支部から出て行く。

残された4人を重苦しい雰囲気が包む。

佐天「まさか、こんなことって」

初春「木山先生が……」

まだ頭の整理がついていない佐天と初春に対して、白井はまだ冷静だった。

白井「何かに巻き込まれたのですわね」

そして、白井は立ち上がる。

初春「白井さん?」

白井「ちょっとパトロールに行ってきますの」

白井は右腕につけている緑色の腕章を整えると、外に出て行く。
その顔は、さっきの胸の件とは大違いだった。

その後ろ姿を、3人は見送った。

同時刻 

御坂はとある公園にいる。

学校が終わると、御坂の能力を研究している研究所に行くことが時々ある。
学園都市の超能力者第3位ということもあって、研究者たちにはたまらないのだろう。
御坂としては、自分の時間をとられるので行きたくないのだが、常盤台の顔としての役割もあり行っている。
その帰りには、コンビニで立ち読みをしたり、ゲーセンに行ってちょっとゲームをしたりするのだが、今日はこの公園に寄った。

まあ、いつも通りの日課だ。

喉が渇いた御坂は自販機でジュースを買おうとする。

夏の暑い日差しに顔をしかめながら向かうと、すでに一人先客がいる。

???「うう、不幸だ……」

がっくりうな垂れているツンツン頭の高校生は、御坂の知り合いであり、恩人でもあった。
御坂はその少年「上条当麻」に声をかける。

御坂「あんた、こんなところで何やってんのよ?」

上条「ん? ああ、ビリビリか?」

その子ども扱いするような言葉に、御坂は額から火花を散らせる。

御坂「あ・た・し・に・は、御坂御坂っていう名前があるのよ! いい加減覚えろ!」

子ども扱いされた悔しさと恥ずかしさをそのまま上条に飛ばす。
上条は地雷を踏んで引きつった顔をしながらも「右手」を構える。

そして、人を一撃でノックアウトできる電流が、右手に触れて消える。

上条「悪い悪い。もうその言い方に慣れちまって」

御坂「ったく、で、何してるのよ?」

御坂はまだ若干へそを曲げながらも尋ねる。
まあ、だいたい察しはつくのだが。

上条「……飲まれた」

御坂「ん?」

上条「飲まれた」

予想通りの回答に、御坂は怪しい笑みを浮かべる。

御坂「御坂さん聞こえないなあ、なんて?」

上条「この自販機に金飲まれたんだよ!」

上条は恥ずかしさをこらえ嘆く。

御坂「あんたまた飲まれたの?」

上条「ちょっとジュース買いたかっただけなのに」

御坂「で、今度はいくら飲まれたのよ?」

上条「……1000円」

御坂「ブフッ! 1000円!」

御坂は腹を抱えて笑う。

御坂「せ、1000円て、本当に? 普通のまれないでしょ? みんな普通に使うのに、なんであんただけそんなに飲まれんのよ」

上条「ああ、3日分の食費が……不幸だ」

御坂「しかも同じ自販機に。あんたなんか恨まれることでもしたの?」

上条「してねえよ」

御坂「まあいいわ。私が取り返してあげる」

そう言うと御坂は屈伸を始める。

上条「おい、御坂。まさかあれをやるのか?」

御坂「ん? 決まってるでしょ。この自販機、中のばねが緩いから」

上条は慌てて止める。
御坂の必殺技「チェイサー」を。

上条「やめろ、御坂。チェイサーだけは絶対やめろ!」

御坂「何でよ。あんたのために、この御坂様直々に1000円取り返そうとしてあげてるのに」

上条「その1000円と引き換えに学校生活を失うから止めるんだ」

御坂「平気平気。ジャッチメントが来たってどうせ厳重注意よ」

上条「いやいや、その時点でおわりだよ。って、なんでもう足上げてんですか御坂さん!?」

ようはソバットを食らわせて、金の分のジュースをとるのだ。
この前は警報が鳴りだして、逃げ回る羽目になった。
その悪夢を思い出した上条は身震いする。

上条「ストーップ! 御坂!」

上条は御坂のチェイサー(ソバット)を止めようと、とっさに両手を出す。
両手でつかんだのは、ちょうど繰り出されようとしている、引き締まった右足だった。

御坂「わわ、ちょ、ちょっと! なにすんのよ!」

上条「1000円と学校生活どっちかをとるなら、俺は学校生活をとる!」

御坂「訳分かんないこと言ってないで、離しなさいよ!」

御坂は顔を真っ赤にしながら、上条の手を振りほどこうともがく。
ちなみに、スカートの下の白い短パンは丸見えだ。

上条「じゃあ、やめるか?」

御坂「やめる! やめるからさっさと手を……て、きゃあ!」

次の瞬間、静かな公園内に重い音が響き渡る。

静まり返った公園で先に我に返ったのは上条だった。
だが、上条は一瞬状況が分からなかった。

なぜ自分は倒れているのか?
なぜ御坂は目を潤ませているのか?

そして何より、どうして自分は御坂に覆いかぶさっているのか?

御坂「!!!」

上条「あ、あのー、御坂さん? これはですねー、その」

御坂「い、い……」

上条「わ、わかった! すぐにどくから…」

御坂「いやあああああああああああああああああああああ!!!」

静かな公園に、悲鳴と同時に耳をつんざく雷鳴がとどろいた。

一時間後 ファミリーレストラン「Joseph’s」

上条「申し訳ありませんでした!」

上条は未だむくれている御坂に土下座している。

御坂の最大級の電撃を食らって上条は黒こげになった。
そのまま再起不能となった上条は御坂からさまざまな制裁を受けることとなった。

しばらくして再起動した上条はひたすら御坂に謝り続け、なけなしの金でお詫びすることにし、近くのファミレスに来ている。

食べ物で釣るように見えるが、今の上条にはこれしかできない。
御坂も御坂でさすがに電撃はやり過ぎたと思ったのか、ふてくされながらも了承した。

そして今、窓際のテーブル席で向かい合っているところだ。

上条「言い訳なんだけど、本当に偶然なんだって。誤解しないでほしい」

御坂「でも、いきなり足掴むのはないわ。私女の子なのよ」

上条「承知しております」

御坂「女の子の足に勝手に触るなんて、変態だわ」

上条「そんな!」

御坂「そのせいでバランス崩して……、あ、あんな……」

さっきの事故?を思い出した御坂は、一人顔を赤くして茹で上がる。

上条「それは御坂のせいじゃ」

御坂「何か言った?」

上条「いえ、何でもございません」

御坂「でもまあ、私もやり過ぎちゃったからね。このくらいにしといてあげるわ」

上条「ははー、ありがたきお言葉」

御坂「……そろそろしゃべり方戻さないと、もう一発食らわすわよ」

御坂のドスの利いた声を聞き、上条は頭を上げると自分の席に座る。

上条「てか、御坂も悪いと思うぞ」

御坂「へ?」

上条「いくら金をのまれたといって、回し蹴り入れてジュースをとるのはいけないと思うぞ」

御坂「い、いいじゃない! まだ半分も取り返せてないわよ!」

上条「……お前その言い方だと、いつもやってるみたいだな」

御坂「ふぇ? し、してないわよ!」

上条「冗談だって」

図星だった。

その時、ウェイトレスがお盆を手にやってくる。
お盆の上には御坂が頼んだパフェと、上条が頼んだコーヒーが置かれている。

ごゆっくりどうぞ、と言ったウェイトレスの顔が若干引きつっていたのは気のせいだろう。

御坂「来た来た。これ前から食べたかったのよね」

上条「さっきのお詫びだ。遠慮せず食べろよ。」

まるで西洋の山奥にあるお城のようなパフェを、御坂はしばらく眺める。
ひとしきり眺めて、写メやら何やらをとる。
そして、小さな子供のように目を輝かせた御坂は生クリームを掬って口に運ぶ。
口に入れた次の瞬間には、うっとりした表情を浮かべていた。

無類のパフェ好きである初春のおすすめだったパフェだ。
舌触りがよくしつこくない甘さの生クリームと、その上にきれいに添えられたイチゴやサクランボの酸味がいいアクセントとなっている。

あまり甘党ではない上条は、コーヒーを一口すする。
ちなみに、さらに1週間分の食費が飛んだ上条の顔はどよんとしていたが。

御坂「おいしい。さすが初春さんのおすすめなだけあるわ」

上条「そうか、よかったな」

御坂「なによ、その興味なさそうな反応は」

上条「いや、興味ないわけではないけど、パフェなんて全然食べないからな」

御坂「そうか。やっぱり男子はあまり食べないわよね」

いつもより強いコーヒーの苦みを感じながら、上条は御坂の話を聞く。

上条「御坂はよく食べてそうだよな」

御坂「そんなことないわよ。私はパフェよりもクレープとかが好きだし」

上条「へー、意外だな。スウィーツなら何でも好きそうなのにな」

御坂「そんなステレオタイプみたいな言い方しないでよ」

上条「悪い。自分で作ったりもするのか?」

御坂「まあ、学校でも習うからね。自分で作ることもあるし」

上条「すげえな。友達と食べ比べとかしてそうだな」

御坂「な、何その言い方? 私が大食い女みたいじゃない」

上条「いやいや、それは考えすぎだろ」

その時、2人のもとに近づく人影があった。
おでこに軍用ゴーグルをつけた、御坂妹だ。

御坂妹「これはお姉さまと上条さんじゃないですか。と、ミサカは声を掛けます」

上条「おお、御坂妹じゃねえか。久しぶりだな」

御坂妹「はい、お久しぶりです。お姉さまと何をしているのですか? と、ミサカは素朴な疑問を聞きます」

御坂妹は御坂をチラ見してから尋ねる。

上条「さっきいろいろあってな、御坂にパフェをおごっているところなんだよ」

御坂妹「そうですか、うちの姉がいつも迷惑をかけて申し訳ありません。と、ミサカは心から謝罪します」

御坂「ちょっと! 迷惑なんかかけてないわよ!」

御坂妹「いやいや、自分の方が金を持ってるくせに人におごらせる方がタチ悪いわ。と、ミサカはお姉さまに突っ込みます」

御坂「そ、それはそうだけど、今回はコイツが悪いのよ!」

上条「コイツって……」

御坂妹「全く、おごってもらう人にどういう口の利き方をしているのですか。と、ミサカはやれやれとため息をつきます」

上条「いいんだよ、今回は本当に俺が悪いんだから」

御坂妹「常盤台のお嬢様はこれだから……。と、ミサカはジト目でお姉さまを見ます」

御坂「アンタら、こっちが黙っていたら言いたい放題言いやがって」

御坂妹「そんなに上条さんと仲良くなりたいのなら、もっと素直になればよいのに。と、ミサカはポツリと呟きます」

御坂「はあ!?」

ふてくされる御坂を見て、御坂妹はとんでもない爆弾を投げつける。

御坂「だ、誰がこんな奴と!」

上条「どうせ俺はこんな奴だよ」

御坂「い、いや、そうじゃなくて」

上条「じゃあどういうことだよ?」

御坂「そ、その……。なんというか、その……」

御坂妹「はあ、わが姉ながら恥ずかしいものです。と、ミサカはお姉さまのツンデレっぷりにため息をつきます」

御坂「!!!」

すっかり茹で上がった御坂と、ぽかんとしている上条。
その2人を見て、御坂妹はほくそ笑む。

御坂妹「まあ、これからどうなるかはお姉さま次第ですから。と、ミサカはちょっとしたアドバイスを送ります」

御坂「う、うるさい!」

御坂妹「それではミサカは行くところがあるので失礼します。と、ミサカはぺこりと頭を下げます」

上条「お、おう。またな、御坂妹」

御坂妹「あ、あと公園での出来事は上条さんは悪くないです。と、ミサカは付け足しておきます」

上条「お、おう。ありがとな」

御坂妹は踵を返すと、そのまま店を出て行く。

あとに残されたのは、真っ赤になった顔を下に向けている御坂とあたふたしている上条だった。

上条「み、御坂さん?」

御坂「な、何よ」

上条「さっきの妹のやつは、冗談だからな。気にしなくていいぞ」

御坂「わ。分かってるわよ!」

本当に? と首をかしげたくなるほどの返事だ。
恥ずかしさをごまかすためか、御坂は目の前のパフェに手を伸ばす。

その時、耳に残る乾いた音が、店内に響いた。
いや、聞こえたのは外からだ。

御坂は窓の外へ目を向ける。
そこには、人が倒れていた。
常盤台の制服を着た、頭に軍用ゴーグルを身につけた御坂妹が。

御坂「えっ?」

意味が分からなかった。
さっきまで姉をからかっていた御坂妹が、どうして倒れているのか。
どうして赤い鮮血を流しているのか?

上条「御坂妹!」

気がつけば上条は駆け出している。
それを見て、御坂も我に返る。
2人は店の外に出て、御坂妹に駆け寄る。

上条「御坂妹! 大丈夫か!」

御坂「しっかりして! お願い!」

御坂は御坂妹を抱きかかえる。
肩口から、赤い鮮血がじわじわと流れ出る。
ここで初めて、御坂妹が撃たれたのだと悟る。

御坂はハンカチを取り出し、傷口を抑える。

御坂妹「うっ!」

御坂「痛いけど我慢して! 叫んでいいから!」

意識がある。そのことだけでも御坂の心に安堵が生まれる。

上条は携帯で連絡を取っているようだ。
救急車を呼んでいる。

痛みで苦しむ御坂妹を介抱しながら、御坂は考える。

御坂(いったい誰が、こんなことを!)

同時に辺りを見回す。
撃たれた時、御坂妹以外に人はいなかった。
ということは、狙撃された可能性が高い。
だが、周りのビルやマンションを見ても怪しい人影は見当たらない。
すでに逃げられたのか。

御坂が歯噛みしていると、遠くから救急車の音が聞こえてきた。

数時間後
第7学区 とある病院

御坂は手術室の前で座っている。
「手術中」という赤いランプが点灯している。

あの後、到着した救急車に付き添いとして乗り込んだ。
苦しむ御坂妹を励まし、救急隊員の処置を手伝った。
上条は救急隊と同時に駆けつけたアンチスキルに事情を話すため、現場に残った。

そして今、手術の成功を祈って待っているのだ。
静寂が支配する廊下で御坂は考える。

御坂(どうしてあの子は撃たれたの?)

あの忌々しい実験は終わった。
御坂妹はもう自由になったはずだ。
今更命を狙われる理由など、

御坂(ないはずなのに……、どうして?)

その時、「手術中」のランプが消える。
御坂は立ち上がり、ドアが開くのを待つ。

やがて、ドアが開きストレッチャーが出てきた。
ストレッチャーに乗せられた御坂妹はまだ麻酔が効いているのか、眠ったままだ。
撃たれた右肩には包帯が巻かれている。

ストレッチャーに駆け寄ろうとするも、看護師に制止されたためそのまま見送る。

冥土返し「手術は大成功だよ」

いつの間にか、御坂の隣に立っている名医「冥土返し(ヘブンキャンセラー)」は御坂に言った。
学園都市最高の名医と呼ばれ、瀕死の重傷である患者を幾度となく救ってきた実績を持つためその通り名がついた。

御坂も世話になったこともある。

冥土返し「肩に残っていた弾はちゃんと摘出したよ。他には異常はなかった。血管も神経も傷ついてなかったし、骨も折れていなかった。あとは傷口がふさがれば大丈夫だよ」

御坂「どれぐらいで治りますか?」

冥土返し「だいたい2,3日で傷口は塞がるよ。あとは彼女のリハビリ次第だね」

御坂「よかった。先生、ありがとうございます」

御坂は頭をさげる。

御坂「けど、どうしてあの子は狙われたの?」

御坂は無意識のうちに口に出していた。

冥土返し「ああ、そういえばさっきこんな紙が届いていたね」

冥土返しは白衣の内側に手を入れ一枚の紙を取り出す。
手渡された紙を御坂は読む。

御坂「ミサカ10032号の手術を中止せよ。従わない場合は病院を襲撃する……。何よこれ? 脅迫!?」

冥土返し「君も知ってのとおり、彼女は一方通行の実験の当事者だった」

冥土返しは目を伏せて言う。

冥土返し「筆舌尽くしがたい凄惨な実験だったが、裏では何百という企業が何十億という金を動かしていた。知っていたかい?」

御坂「……」

冥土返し「金だけじゃない。一方通行がレベル6になったらどうなるのかを楽しみにしていた連中もいた。研究目的でも、軍事目的でもね。どんな些細な結果でさえも、彼らにとっては蜜より甘い御馳走だったんだよ」

御坂「でも、私とアイツがそれをつぶした」

冥土返し「そうだ。潰してくれて本当によかった。ただ、それで大損害を被った連中もいるというわけだ。それぐらい話せば、あとは分かるね」

御坂「……」

冥土返し「妹達に恨みを持つ者もいるというわけだ。また、その実験に関わっていたことを隠したい連中もいる。そういう連中からしたら、妹達は消えてほしい存在だ」

御坂「そんな理由で? ふざけないでよ!」

御坂は拳を握りしめる。

御坂「自分たちの都合で、あの子たちの命をどうこうしようとしてるってわけ? 冗談じゃないわ! せっかく実験が終わったのに……」

御坂は冥土返しに感情をぶつける。

御坂「あの子たちはもう自由になったのよ! あの子たちには、あの子たちの人生がある。それなのに、勝手な逆恨みでまたあの子たちの人生が振り回されるってことなの!」

冥土返しは黙って聞いている。
御坂もわかっている。
冥土返しにする話じゃない、冥土返しにぶつける話ではないことを。

でも、自分の中に渦巻く感情が抑えきれない。
怒り、恨み、心配、不安……。色々な感情がない交ぜになり、自分ではコントロールできない。

御坂「すいません、勝手なことを」

冥土返し「構わないよ」

冥土返しは一言言った。

冥土返し「僕は患者のことはちゃんと見るタイプの医者でね、彼女も例外ではないよ」

御坂「……」

冥土返し「僕が治療をするうえで大切にしていることの一つだ。僕は患者の願いを叶えるためなら、なんだってする。患者のためになるならね」

御坂「……」

冥土返し「彼女らは僕が面倒みると約束しよう。神に誓ってもいい。神がいればの話だけどね」

御坂「ありがとうございます」

冥土返し「さあ、今日はもう遅いから早く帰りなさい。門限があるんじゃないのかい?」

御坂「いえ、あの子が心配ですから、残ります。残らせてください」

冥土返し「そうか。まあ、君ならそう言うと思っていたよ」

冥土返しは御坂妹の病室を教える。

冥土返し「この病院は完全看護だけど、今晩だけ特別だ。明日以降はダメだよ。いいね?」

御坂「はい、ありがとうございます」

御坂は再び頭を下げる。

冥土返し「では、僕は仕事があるからね。これで失礼する。お大事に」

冥土返しは立ち去り、廊下の角を曲がる。

御坂も教えられた病室へ向かう。
病室へ向かいながら、御坂は決意を固める。

御坂(守る。あの子たちを、守る)

御坂の目は強く前を向いている。

御坂(誰が敵になっても、パパやママが認めてくれなくても、私はあの子たちを守る。もう誰も死なせない!)

その思いは未だ強く握りしめられている拳が物語っていた。

翌日
第7学区 アンチスキル第73支部

黄泉川は自分のデスクに座り、深く溜息を吐く
目の前にあるデスクトップに映し出されているのは、自分が担当している事件の資料だ。
これから予定されている会議に備えて読み込んでいる。

ただ、黄泉川はこういう作業が苦手だ。
こうして机でじっと座っているよりも、実際に現場へ出向く方が性に合っている。
本業の教師で体育を担当しているのもそれが理由だ。

パソコンのデスクトップと真剣ににらめっこしていると、同僚の「鉄装綴里(てっそうつづり)」がコーヒーを差し入れてくれた。

鉄装「黄泉川先生、どうぞ」

黄泉川「ああ、ありがとう」

鉄装「しかし、最近多くないですか? 研究者の誘拐とか脅迫とか」

黄泉川「そうだな。人の研究成果を奪い取ろうとする連中が多いじゃん」

鉄装は黄泉川のデスクトップを覗き見る。

鉄装「これは木山先生の事件ですか?」

黄泉川「そうだ。今日採取物の分析が出てな、この後会議じゃん」

鉄装「それで、結果はどうなんですか?」

鉄装は気軽な口調で聞く。
だが、対照的に黄泉川の表情は暗いものになる。

黄泉川「鉄装、お前の意見を聞きたい」

鉄装「へ?」

黄泉川「捜査資料を担当以外に見せるのはダメなのは承知じゃん。けれど、私には信じられないじゃん」

鉄装は木山の事件を捜査していないので、本当は見てはならない。
だが、黄泉川の疲れたような、判断しかねているような話し方に息をのむ。

現場ではパートナーとなることも多い二人だ。
プライベートでもよく付き合っている。

大丈夫。
ルールを少し破るぐらい。

そんな気持ちで鉄装は頷く。

黄泉川「すまない、ちょっとこれを見てくれ」

ITが進化した学園都市にしては珍しく、紙でまとめられた資料が鉄装に差し出される。
パラパラと紙をめくり、ざっと資料に目を通す。

黄泉川「このページじゃん。鉄装、どう思う?」

そのページは木山の研究所から採取されたさまざまなサンプルだった。
木山が失踪する前に聞いた情報では、ここで研究する予定だったそうだ。
だから、アンチスキルの捜索が行われ、いろいろなものが採取された。

毛髪、指紋、掌紋、靴型……。

そのデータが示していたのは……。

鉄装「!? ほ、本当ですか?」

黄泉川「ああ、全て正しいとするとだ」

黄泉川はまるっきり信じていないような口調で言う。

だが、ここは科学の街だ。
科学捜査ならどこよりも確実な捜査ができる。

やはり結果を信じるしかない。

鉄装「でも、そんな。うそでしょ?」

黄泉川「嘘であってほしいがな。それをこれからの会議で決めるじゃん」

その会議はあと10分で始まる予定だ。
黄泉川は時計をにらむと、重い腰を上げる。

黄泉川「ちょっと行ってくるじゃん」

黄泉川は重く息を吐くと、会議室へと向かった。

夕方 学園の園 常盤台中学学生寮 208号室

学園都市の学生は、日本全国から来ている。
ある者は超能力を開花させたいと願い、またある者は親に強制されてここに来たというものもいて、さまざまだ。
当然、親元を離れ、幼い時から能力開発に明け暮れている者も多い。

そんな事もあって、学園都市のは寮やアパートといったものが非常に多い。

能力至上主義の風潮がある学園都市では、優秀な学校であるほど設備がよくなっていく傾向が強いため、寮を見るだけで学校のランクが分かるのだ。

その中でも飛び切りの寮が集まってる場所がある。

西洋の赤いレンガ造りを模した建物が立ち並び、道路は馬車が似合いそうな、レンガが敷き詰められているものである。
常盤台をはじめとした名門学校の女子寮。
それがこの学園の園である。

その中の常盤台中学の寮に御坂の部屋はある。

御坂「はあー、今日は散々だったわ」

御坂は自分のベットに腰かけていた。
2人で一つの部屋を使用するので、ベッドがもう一つ置かれている。
ちなみに、御坂のルームメイトは白井である。

御坂「そりゃあ、私が悪いのかもしれないのかもしれないけど、アイツも関係あるんだし」

先ほどの出来事を思い出しながら、ぶつぶつと呟く。
今日はさっきまで、朝にようやく目覚めた御坂妹を看病していた。

看護師を呼んだり、欲しいものを買ってきたりといったことだ。
ただ、包帯の交換時に上条が現れたのは慌てた。
当然御坂妹は上半身裸である。

それをガン見してしまった上条の末路は言うまでもない。

2人そろって電撃を放ったことで看護師に怒られたのは、ごくごく自然な流れだろう。
ついでに上条がその看護師から睨まれていたのは気のせいだと信じたい。

御坂「けど、あの子も本人の目の前であんなこと言わなくても」

御坂の頭に、あのいつも無表情の御坂妹の顔が浮かぶ。
御坂妹はいつものように御坂をからかったのだ。
当然真っ赤になった御坂とポカンとしている上条という、昨日と同じ状況になったのだが。

御坂「私だって、まだそんなつもりじゃないんだし」

だから、御坂は少しむくれていたりする。
同時に、からかえるほど元気になった御坂妹に少し安心していたりするのだが。

その時、部屋のドアがガチャリと開く。
御坂が視線をそこにやると、誰もいなかった。

ぞわっとした悪寒が背中を駆け巡った瞬間、突然背後から抱きしめられる。

白井「おーねーえーさーまー!帰っていらっしゃったんですのね!」

御坂「ちょ、黒子! いきなり抱き着くのはやめなさいよ!」

部屋に入ってくるなり、テレポートで背後に回り込んだ白井はそのまま御坂を抱きしめる。

白井「ああ、一日振りのお姉さま成分ですわー! 黒子は、黒子はこのために今日一日頑張ってきましたのよ!」

御坂「こら、匂いをかぐな! 離れろ!」

御坂の背中をかぐ黒子と、振りほどこうとする御坂。
まあ、いつものことである。

白井「そんな事おっしゃって。この黒子とのスキンシップを楽しんでいらっしゃるんじゃありませんの?」

御坂「お前だけだ! いい加減にしなさいよ!」

白井「まあまあ、お姉さま。その、夕食前に、この黒子めと一緒に愛のキスを」

御坂は言って聞かない黒子に迷わず電撃を落とす。
いつもの流れである。
まあ、言って聞いたためしもないが。

御坂「そうやってすぐ人に抱き付くのやめなさいよ」

白井「ご心配には及ばないですの。私はお姉さまにしかいたしませんですの」

御坂「私が嫌だから今すぐやめろ!」

白井「そんな殺生な! 大切なお姉さま成分の補給ですのに、生きていけませんですの」

そんな事を言うもんだから、もう一つ電撃が落ちる。

御坂「で、今日は何してたのよ。ジャッチメント?」

名前の通り真っ黒こげになったツインテールの後輩を見降ろしながら御坂は尋ねる。

白井「そうですの。は、お姉さま。ちょっとお話が」

御坂「まだ懲りないのかしらねえ? 今度はレールガンでもぶち込もうかしら?」

白井「違うんですの。真面目な話ですの」

ベッドで突っ伏していた白井は飛び起きる。

白井「木山先生が行方不明ですの」

御坂「え、本当なの?」

白井「さっき支部に黄泉川先生が来ていろいろ聞かれましたの。事件に巻き込まれたようですわ」

御坂は驚いた。
御坂と木山は幻想御手で密接なかかわりがある。

白井は黄泉川から聞いた話を御坂に伝える。
あらかた話を聞き終えた後で、御坂は言う。

御坂「私も最近会ってないから、あまり分からないわ。でも妙じゃない?」

白井「何がですの?」

御坂「言っちゃ悪いけど、木山先生はいわば前科持ちの研究者よ。そんな研究者に重大な研究を任せるとは思えないの」

白井「私も気になりまして、さっき研究所に行ってみましたの。木山先生は大脳に関係した研究をしていたようですわ」

御坂「アンタ、忍び込んだんじゃないわよね?」

白井「……そんなわけありませんの」

御坂「声が裏返ってるわよ。まったく、危ないことして。それで、どうだったの?」

白井「アンチスキルが全部持って行ったのでしょう、何もありませんでしたの。ただ」

白井はここで一つ間を挟む。

白井「これが落ちていましたの」

白井はポケットから袋を取り出す。
袋の中には、紫色の破片のようなものが入っている。

御坂「これは?」

白井「わかりませんの。床の上に落ちていましたの」

爪の先ほどもない小さな破片を見つめる2人。
近くでも目を凝らさないと分からないほどの、破片。
しかし、2人にはそれが何なのかわからない。

その時、部屋のドアがノックされる。

???「御坂、白井、いるか?」

その声に2人はドキッとする。
言うまでもなく、寮監の声である。

2人は、特に御坂は寮監が何の用でここに来たのかうすうす感じ取る。

この寮にはさまざまな規則がある。
起床時間や消灯時間などいろいろあるが、その中で寮内での能力の使用は禁止というものがある。

先ほど白井の悪ふざけに2発ほど電撃をぶち込んだことが、2人の脳裏をよぎる。

寮監「御坂、白井」

白井「どうしますの?」

御坂「あれくらいで怒られたらたまったもんじゃないわよ。でも、開けないと逆にね」

白井「怪しまれますわよね。仕方ないですわ」

小声での密談を終えた2人はドアへ顔を向ける。

寮監「入るぞ」

白井「はいはい。今開けますの」

白井がドアを開ける。
そこに立っていたのは寮監だけではなかった。

それは2人ともよく知る人物だった。

御坂「黄泉川先生に鉄装先生。どうしたんですか?」

黄泉川「おう、御坂。ちょっと聞きたいことがあるじゃん」

黄泉川と鉄装の2人が寮監の横に立っている。
予想外の来客に、御坂と白井は驚くがすぐに事情を理解する。
木山の事件で何か聞きに来たのだろう。

黄泉川「木山春生が失踪したことは知ってるか?」

御坂「知ってます。さっき黒子から聞きました」

黄泉川「ったく、白井! あまりペラペラしゃべらないじゃん」

白井「申し訳ありません」

黄泉川「まあ、いいじゃん。それどころじゃないじゃん」

御坂・白井「?」

黄泉川は御坂の方へ顔を向ける。
とても悲しそうな、裏切られたような視線を飛ばす。





黄泉川「御坂美琴、木山春生失踪のことで逮捕する」





御坂「……へ?」





黄泉川の口から出た言葉はあまりも突飛なものだった。


>>95訂正します。すいません。




黄泉川「御坂美琴、木山春生誘拐の容疑で逮捕する」




御坂「……へ?」




黄泉川の口から出た言葉はあまりにも突飛なものだった。

どうも>>1です。いつもありがとうございます。

コメントがあったので修正しておきます。すいません。
ジャッチメント→ジャッジメント
学園の園の内部寮→外部寮

浅学なので間違ってたら指摘してください。

コメントはモチベ―ジョンアップにつながるので、書いてもらえるとうれしいです。
それでは今日の分投下します。

御坂「た、逮捕?」

黄泉川「そうだ。お前はこの事件の重要参考人だ。詰所まで来てもらおう」

黄泉川の言っていることが分からない。
逮捕、重要参考人?
自分が何をしたというのだろうか?

白井「ちょっと待ってくださいですの! お姉さまがそんなことするわけ……」

黄泉川「白井は黙ってるじゃん。私だって信じたくない」

寮監「御坂、どういうことなんだ?」

御坂はただただ困惑するばかりだ。
御坂の記憶にそんなものはない。
する理由もない。

木山に対して悪い感情はない。
ましてや、テレスティーナの事件では協力したくらいなのだ。

御坂「し、知りません。何かの間違いですよ」

黄泉川「そうか。しらを切るのか」

御坂「そうじゃないです。やってません」

御坂は反論する。
すると、黄泉川は鞄から書類を出す。

そこに書いてあるのはDNA鑑定の結果だ。

黄泉川「これは木山の研究所で採取した毛髪の鑑定結果じゃん。結果は御坂、お前の可能性が99%じゃん」

御坂「そんな! 木山先生の研究所なんて行ったことありません!」

鉄装「証拠はほかにもあるの。落ちてた服の繊維、靴の足跡、残された指紋や掌紋、これらがあなたのものと一致したわ」

御坂「な、なんで?」

黄泉川「一応逮捕状もあるぞ、ほら確認するじゃん?」

鉄装が一枚の紙を広げる。
そこには逮捕状の文字と、自分のフルネームがきっちりと書かれている。

黄泉川「これだけ証拠があっても言い訳するじゃん?」

御坂「や、やってません。ぬ、濡れぎぬよ!」

黄泉川「詳しいことは詰所で聞こう。連行する」

いつの間にか鉄装が御坂の背後に回っている。
逃走を恐れているのだろうか。

黄泉川は手錠を取り出す。
能力者の能力を封じ込める特殊な手錠だ。

御坂は確信する。
はめられた。誰かが、私に罪を擦り付けようとしている。

さっき白井から聞いた犯行予想時刻は、ちょうど御坂妹と遊んでいた。
できるわけがない。

それを言ってもよかったのだが、言えない。
御坂妹は学園都市のトップシークレットだ。情報が漏れると大変なことになる。
それに信じてもらえるとは言い切れない。

このままでは無関係の自分が罪を擦り付けられることになる。

ならば取る手段は2つだ。
一つは大人しく連行される。
アンチスキルの詰所で無実を主張するのだ。

だが、これだけ証拠があると覆すのは難しいだろう。

すると、取るべき手段はもう一つだ。

御坂は白井へ目を向ける。
未だ信じられないという目を向ける白井に、御坂はアイコンタクトを送る。

白井は何かを悟ったのか、声を出そうと口を開ける。

御坂「ごめん!」

黄泉川が手錠をかけようとした瞬間、御坂の体が突然後ろに「飛んだ」。
木造のように見えるこの寮も、鉄筋コンクリート製だ。
鉄筋が入っているなら、御坂が得意な磁力が使える。

磁力を使った緊急回避。

鉄装ごと後ろに飛ぶと、そのまま後ろの窓ガラスを突き破る。
鉄装は気を失って床に転がっている

部屋があるのは二階だ。
突き破った体はそのまま空中へ放り出される。

御坂は受け身の体勢をとり、衝撃に備える。

御坂「うっ……」

落ちた場所は芝生の上だ。
背中思いっきり強打し、痛みが走るが休んではいられない。

黄泉川「御坂! 逃げるな!」

白井「お姉さま!」

寮監「やめろ! 御坂!」

窓際にいる黄泉川は銃を構える。
動けば撃たれるのだろう。

だが、動かなければ詰みになる。
だから、御坂はすぐに立ち上がり走る。

軽く乾いた銃声が響き、御坂のすぐそばで弾丸が突き刺さる。
それでも、御坂は芝生を駆ける。

躓きそうになりよろめくが、すぐに体勢を立て直し走る。
レンガ造りの塀をよじ登り、その上に立つ。

黄泉川「逃げたぞ! A班は包囲を厳重に。B班は捜索と追跡、見つけ次第身柄を確保しろ!」

その黄泉川の怒号が聞こえたころには、御坂の目の前にアンチスキルの包囲網があった。
対能力者用に装備を固めたアンチスキルが、銃器を構えて御坂を睨んでいる。

御坂は迷わず塀から飛び降りながら、ポケットからコインを出すとピン、と親指ではねる。
バリケード代わりに整列して並んでいるアンチスキルの車両。

その中の一つ、スピーカーが取り付けられている車両に狙いを向ける。
「キャパシティーダウン」。能力者が聞くと、能力が使えなくなる音波を発する装置だ。

御坂「逃げてください!」

警告すると同時にコインが右手の親指に触れ、御坂の伝家の宝刀が炸裂する。

「超電磁砲(レールガン)」。御坂美琴と言えばまず思い浮かべるものだ。

音速の3倍というスピードで繰り出されるコインはすさまじい威力を持つ。
そのオレンジ色の弾丸が、スピーカーのど真ん中にぶち込まれる。

次の瞬間、火花を上げるとともに大きな爆発が起こる。
爆風と轟音、爆発の炎がアンチスキルを襲う。

爆風をもろに受ける者、轟音で耳をやられた者、閃光に近い炎を見て目をやられた者。
たった一発の超電磁砲で、包囲網はパニック状態に陥りもはや体をなしていなかった。

その隙をついて、御坂は包囲網を突っ切る。
負傷して転がる者を飛び越え、こちらに気付いて銃を向ける者には蹴りを入れて黙らせる。

アンチスキルA「キャパシティダウン破損! 負傷者多数! 大至急応援を!」

アンチスキルB「目標ロスト! 繰り返す、目標ロスト!」

アンチスキルC「捜せ! まだ近くにいるはずだ」

混乱の中、すでに御坂は包囲網を突破していた。
中学生とは思えない脚力を披露しながら、すでに数百メートルも離れている。

その時、御坂の右側から蹴りが飛び込んでくる。
右脇腹にヒットし、体勢を崩した御坂はレンガ舗装の道路を転がる。

白井「お願いします。お姉さま」

声のした方を御坂が見やると、白井が立っていた。
テレポートをして追いかけてきたのだろう。

白井「もうやめてくださいまし。アンチスキルでわけを話してください」

御坂「行かないわ。私は無実よ」

白井「私だって承知しておりますの。でも、私にはお姉さまを止めなければなりませんの」

白井は自分の両太ももに触れると、指の間に鉄の金属矢が現れる。

白井「私はよくわかっております。お姉さまがそんなことはしていないと。でも、私にはジャッジメントとしての務めがありますの。さっきの戦闘でどれだけの被害が出たと思いますの?」

御坂「……」

白井「お姉さまを見逃したいのはやまやまですの。しかし、この街を、ここの人々を傷つけるのであれば、例えお姉さまであれど、私は一歩も引きませんの!」

御坂「くっ!」

御坂は嫌だった。
逃走を決心した時から、こうなることを恐れていた。
正義感の強い白井のことだから、必ず御坂のことを追いかけてくるはずだ。

だから、アイコンタクトをしたのだ。
追いかけてくるな、私のことは放っておいてと。
でも、やはり白井を止められなかった。

確かに白井の言う通りなのかもしれない。
望みがなくても、きちんとアンチスキルに事情を話すべきだ。
けれど、それでは自分が納得しないのだ。
だから、例え後輩を、パートナーを敵に回してでも、自分の納得のいくように進む。

白井「お姉さまがこれ以上傷つけるというのなら、この黒子がこの手で捕まえますの!」

御坂「私も、自分の無実を証明するためなら、例え黒子でも容赦しないわよ!」

2人の意思は堅い。
交渉は決裂だ。

御坂「黒子―!」

白井「お姉さまー!」

大通りから外れた路地裏で、二つの影が交錯した。

決着はすぐに着いた。
もともとレベル5とレベル4の違いがある時点で、勝敗は目に見えていた。

気を失っている後輩を抱きながら、御坂は決意を固める。

御坂(何としてでも、この事件の真犯人を突き止めてみせる!)

そして、後輩の顔を見る。
自分を敬愛してくれる大切な後輩であり、パートナー。
トラブルメーカーであり、御坂に対する変態行為は数えきれないほどあるが、正義感の強さと持ち前の度胸に、御坂は感心している。

御坂は白井を信頼している。
だからこそ、敵になるのは嫌だった。

もうまともに会えるのは、これが最後かもしれない。
だから、このまま立ち去る前に後輩の顔を目に焼き付けておくのだ。

御坂「よし、行くか!」

胸にこみ上げる熱いものをこらえ、壁際に白井の体を持たれかけさせると御坂は動き出す。
アンチスキルの捜索はまだまだ続いている。

御坂の、たった一人の戦いは始まったばかりだ。

木山春生は暗闇の中で目を覚ます。

拉致されてもう何日たったのだろうか。時間の感覚もなくなってきた。

自由はあまりない。
手足を拘束されて過ごし、やることがあるときは外される。
犯人側のやることをやれば、すぐに拘束を付けられる。

食事やトイレの時も同様だ。
ただ、着替えやシャワーといったものはやらせてくれるため、多少は木山のことを考えてくれているのかもしれない。

拉致されてすぐはいろいろなことをやらされて、あまり拘束されることはなかったが、もうあらかた終わったのだろう。

木山が拉致された理由も分かってきた。
木山の研究を利用したかったようだ。
だが、まだまだ未知の部分が多く危険だと木山は考えていた。

そのことを告げたのだが、犯人側は聞く耳を持たなかった。
その研究も納得いくまで仕上げられたようだ。

すると、用済みとなったのか、こうして拘束される時間が多くなった。

もう抵抗する気も起きない。
相手の人数もわからないし、研究畑を歩いてきた自分には格闘なんてものには無縁だ。
無理をして相手に歯向かえば、返り討ちに合う。
そうなれば、何をされるかわかったものではない。

ならば、このまま大人しく言うことを聞いていれば自分の身は保証される。
今のところは。

それがいつまでかは分からないが、もし命の危険が迫った時にはそれまでだと考えよう。
そう考えることで、少しは自分の精神を安定させている。

無為に過ごす時間も増えることで、周りの様子も分かってきたようだ。
どうやら、自分以外にも拉致されている者がいるらしい。
そちらもそちらで何かをやらされているようだ。

だが、こちらはこちらで精いっぱいだ。
助ける余裕もない。

木山(いつまで続くのだろう……)

自分の傍に立つ見張りの気配を感じ取りながら、ぼんやりと考えていた。

翌日 ジャッジメント第177支部

翌日から学園都市の様相は一変した。
アンチスキルが御坂美琴を誘拐の容疑で指名手配したのだ。

突然の発表に冗談に思う者もいたが、学園の園であれだけ派手な大捕物をしたことが伝わると、とたんに信じるようになった。

御坂は学園都市の広告塔である。
それだけの知名度を持つ者が容疑者でかつ逃亡していると知ったら、学園都市はおろか世界中が注目するのは、火を見るよりも明らかである。

今や学園都市中のあらゆる道路に検問所が設けられ、御坂の情報を探し回っているところだ。
アンチスキル、ジャッジメントともに臨時の勤務態勢が敷かれ、街に出て大規模な捜索が行われている。
また、一部のスキルアウトらによる「御坂狩り」も行われているらしい。

殺人事件の容疑者ならともかく、誘拐事件の容疑者にしては大げさ過ぎるほどだ。
また、一部では噂に尾ひれがつき、御坂が人を殺したという根も葉もない噂も流れている。

真実を知ってるのは、御坂逮捕に動いたアンチスキルと寮監。

そして今、第177支部に詰めている白井だけである。
昨日の夜の騒ぎは箝口令が敷かれている。

路地裏で気がついた白井には、いつも通りの生活をするように指示された。
いつものように起き、いつものように学校へ行き、いつものようにジャッジメントを務め、いつものように寝る。

だが、御坂がいない生活は白井にとって「日常」ではない。
朝起きるといつもそこにいるはずの御坂がいないことが、白井の心に深く突き刺さる。

白井には確信がある。
お姉さまは無実である、という確信だ。

例え天地がひっくり返っても、御坂は誘拐などというバカなことはしない。
それが、敬愛する先輩とともにいた白井の答えだった。

だから、自分で調べることにした。

なぜ、御坂が犯人とされてしまったのか?
誰が、いったい何の目的でこんなことをしたのか?
そして木山春生の行方は?

それが分かれば、アンチスキルの誤解も晴れ御坂も戻ってくる。

そう思っているのだが、

白井「うーん。難しいですわね」

白井はパソコンの前で頭を抱えている。
木山の事件は完全にアンチスキルの管轄であり、ジャッジメントの出る幕はない。

それゆえ、研究所にあった証拠や手がかりはアンチスキルがほとんど持っている。
よって白井にできることもあまりない。

白井「手掛かりがこれだけとは。頼りないものですわね」

白井は袋を手にする。
白井が実際に拾った、紫色の破片だ。
折れたシャーペンの芯ほどの破片が、照明の光でキラキラ輝く。

白井「せめてアンチスキルの情報が覗ければ……」

その時、ドアが開き初春が入ってくる。
パトロールを終えて戻ってきたのだ。

初春「ただいま。って、白井さんだけですか?」

白井「固法先輩はさっきパトロールに出ましたの。わたくしだけですわ」

初春「そうですか」

初春は冷蔵庫からお茶を取り出し口に含む。

白井「初春、ちょっと協力してほしいんですの」

初春「なんですか?」

初春はコップから口を離し、白井の方を見る。

白井「アンチスキルのネットワークをハッキングしてほしいですの」

白井の目は初春の口元をとらえる。
白井が頼んだことは、まぎれもなく犯罪だ。
御坂の逃亡を手助けしているように思われても仕方がない。

初春はネットワーク関連の技術では誰にも負けない腕を持つ。
「守護神」というコードネームがつけられるほどだ。

初春ならアンチスキルの情報ぐらい軽くハッキングできるだろう。

問題は初春が首を縦に振るかどうかだ。

初春「いいですよ」

白井の緊張とは裏腹に、初春はあっさりと返事を返す。
白井は拍子抜けする。

初春「ほらほら、何突っ立ってるんですか白井さん。席変わってくださいよ」

白井「本当によろしいんですの?」

初春「いいです。それで、何調べるんですか?」

椅子に座った初春はキーボードを自分の打てる間合いに調節する。

白井「えっと、木山春生の誘拐事件ですの」

白井の言葉を聞くやいなや、初春はキーボードを叩き始める。
デスクトップにはさまざまなウィンドウが出現と消滅を繰り返し、キーボードからはカタカタと小気味よい音が響く。

白井「初春はどうなんですの?」

初春「何がですか?」

白井は聞きたかったことを口にする。

白井「お姉さまは本当に誘拐なんてしたと思ってますの?」

初春「思ってないですよ」

即答だった。

初春「この初春飾利、人を見る目だけはあると自負してますから。御坂さんはそんなことをするわけない。白井さんもそう思っているんでしょ?」

白井「当たり前ですの」

初春「私もそうです。そうでなければ、白井さんの手伝いなんかしませんよ」

話をしている間も初春のタイピングは止まらない。

初春「それに白井さんも心配ですからね」

白井「え?」

初春「白井さんは一人でどんどん突っ走っちゃいますからね。まして御坂さんのことになると尚更です。こういう時は私や他の人をどんどん頼ってください」

白井「……」

初春「一人で何でもしようとすると、白井さんまで倒れちゃいます。周りには心配する人がいるんだから、そんなに抱え込まないでください」

甘ったるい声に乗ってくる言葉は、信じられないほど重みがある。
その一つ一つが白井の心に積み重なる。
しかし、無意識のうちに心が軽くなるのも感じる。

一人じゃなかった。
御坂を信じる者は、白井以外にもいる。

それだけで十分だった。

白井「ありがとう」

初春「どういたしまして。あとでパフェおごってくださいよ」

白井「……私の気持ちを返してほしいですの」

初春「うーん、josephの期間限定パフェがいいな」

白井「はいはい、分かりましたわ」

少し初春のタイピング速度が速くなる。

自分の財布の中身を思い出しながらも、白井はもう一つ考える。

白井(お姉さまは、今何をしているのでしょうか?)

激しく切り替わる画面を見ながら、白井は敬愛する先輩を案じた。

その御坂は物陰に潜んでいる。

あの後、一晩中走り回った御坂はアンチスキルの追跡を振り切った。
第7学区のとある廃ビルに逃げ込み、そこで身を潜めている。

ただ、いろいろ問題が生じている。

自分の無実を晴らそうと息巻いて飛び出したはいいものの、何の計画もなかった。
資金もなければ食ベ物も、着替えや武器も当然ない。
手がかりもなければ、頼れる人もいない。

すでに自分が指名手配されていることは知っているため、うかつに動くこともできない。
八方塞がりの状況である。

御坂「そろそろ動くか」

いつまでも隠れていては埒が明かない。
時間は8時を回り、夜が訪れている。
昼間よりも人通りの少なくなる夜は、行動しやすくなる。

だから、夜になるのを待っていた。

御坂は階段を降り、入口へ向かう。
ドアの後ろへ隠れ、外の様子をうかがう。

幸い誰もいないようなので、通りに出る。

完全下校時刻を過ぎているため、「一般の」学生はいない。
一番恐れなければならないのは、スキルアウトだ。

何せスキルアウトは昼も夜も関係ない。
「御坂狩り」なるものも行われていることも知っている。

レベル5である以上、彼らが数十人束になってかかろうとも、御坂は負けはしないだろう。
問題はその騒ぎが大きくなることだ。

仮にアンチスキルに通報されると厄介だ。
御坂が指名手配されている以上、アンチスキルも特別態勢で巡回や検問を行っているはずだ。
見つかれば逃走する羽目になる。

御坂は通りを慎重に歩き、目的の物を見つける。

公衆電話。

もちろん電話するのではない。
御坂は自分の持つ携帯端末を取り出すと、公衆電話のアダプターに接続する。
そして前髪から軽く放電すると、携帯端末の画面に情報が映し出される。

ハッキングをしているのだ。

狙いはアンチスキル。木山春生の捜査資料である。
アンチスキルのサイトには厳重なセキュリティーが掛けられている。
初春でさえ手こずるような代物なのだが、電子の申し子たる御坂は次々と突破していく。

0と1で構成された、2進法の海を御坂は泳ぐ。
そして、ついに全てのセキュリティーを突破する。

さまざまな捜査資料を管理しているデータベースから、木山春生誘拐事件のデータを探す。
そのデータは簡単に見つかった。

真新しいそのデータは今も情報が更新されているようだ。
それほど、アンチスキルが全力を挙げているということだろう。

御坂は情報を携帯端末に映し出す。

発生時刻、発生場所、通報時刻、遺留品……。
一つ一つの情報をくまなく見ていく。
その中には、黄泉川が証拠として突き付けてきたDNA鑑定もあった。

犯人のものと思われる毛髪。
そのDNAと御坂のDNAとの一致率は99%。
指紋や掌紋のデータもあるが、それも非常に高い確率で一致しているものとされた。

そのデータに、御坂は愕然とする。

はめられたに違いない。
御坂妹と同じように、御坂にも恨みを持つ者がいるのかもしれない。
だが、思い当たる節はない。
もしかしたら、御坂を快く思っていない、見ず知らずの者の犯行なのか。

さまざまな逡巡が頭を駆け巡る中、御坂はとある想像が浮かぶ。

もしかしたら、犯人は……。

その時、御坂は気配を感じ取る。

御坂は自らが発する電磁波を利用している。
一つは電磁バリア。
EMPと呼ばれるもので、ちょっと軽い物であれば簡単に弾くこともできる。
もう一つがレーダーだ。

原理は実際のレーダーと変わらない。
飛ばした電磁波の跳ね返り具合によって、周りの状況を把握する。

そのレーダーが、人をとらえたのだ。
数は2人。大した人数ではない。

だが、逃亡の身である御坂にとっては見つかれば厄介だ。

御坂は公衆電話を離れ、歩き出す。
2人組とは反対の方向へ行き、距離をとる。

見つかるのは避けなければならない。

しかし、別の2人組がレーダーに反応する。
御坂は進む向きを変える。
ところがその先にも2人組の反応が。

御坂(まさか、ばれてる!?)

方向を変える先々で、人が、それも揃って2人組がこうもいるのはおかしい。
つまりは御坂がいることがばれている。

御坂(振り切らないと!)

だが、進めば進むほどどんどん袋小路に迷い込んでいる気がする。

その予感はすぐに的中する。

気がつけば行き止まりだった。
逃げられない。

御坂(くっ! 行き止まりか)

御坂は戻ろうとするも、続々と人が集まるのが分かる。

御坂(どうすれば……)

レーダーには数人の反応。
進むにも行き止まり。

その時、御坂の目にあるものが止まる。
そして、御坂にある考えが浮かんだ。

アンチスキルA「おい、いないぞ!」

アンチスキルB「なんだって? 行き止まりだぞ」

わずか2分後に集まった数名のアンチスキルは首をかしげる。
彼らの手にあるのは、特定の電磁波を観測する装置。
ガイガーカウンターの電磁波バージョンといったものだ。

今設定されているのは、御坂の電磁波だ。
電磁使い(エレクトロマスター)はありふれた能力であるが面白い特徴がある。

一人一人で電磁波の周期や波長が違うのだ。
まるで左手の静脈や指紋のように、同じ電磁波を持つ人は2人といない。
一人のエレクトロマスターに一つの電磁波というわけだ。
当然、御坂のデータは記録されているため、今回の捜索に使われたわけだ。

アンチスキルC「壊れてるんじゃないのか、これ?」

アンチスキルD「そんなわけないだろう。ちゃんと動いてる」

アンチスキルE「じゃあ、どこへ行ったんだ?」

アンチスキルが集まるすぐそば。
金属製のゴミ箱の下に巧妙に隠されたマンホールの下で、御坂は息を潜めている

マンホールの悪臭に耐えながら、アンチスキルが立ち去るのを待つ。
地下なら、地面で電磁波が遮断されアンチスキルの目をごまかせるはずと考えたのだ
見つかっても簡単に開かないように、鋳鉄製のマンホールは磁力で固定してある。

御坂(早く、どっか行ってよ!)

しかし、御坂にできるのはこれだけだ。
アンチスキルを襲うのは気が引ける。
勝算は十分にあるのだが、昨日の白井の言葉が頭をよぎる。

もう御坂はこの街を、人を傷つけないと決めたのだ。

アンチスキルの会話を聞きながら、御坂は声を潜めて耐えるしかなかった。

その夜、とある小さな少女がフラフラと歩いていた。
日付をまたいだ時間帯に、覚束ない足取りで歩くその少女は、はっきり言って不自然だった。

そもそもこんな深夜に小学校低学年くらいの少女が歩いているわけがない。
しかも、まともな衣服を身につけてもいない。毛布をかぶっただけであり、裸足である。
体のあちらこちらには、青黒い痣が目立つ。

保護者から虐待を受けていると、たいていの人は思うだろう。
しかし、本当は違う。
なぜなら、この少女に親はいないからだ。
親も、祖父母も、兄弟も。

少女は少し風が吹いただけで小さな体を強張らせ、室外機か何かが軋む音でもビクっと体を震わせる。
そして、足音が聞こえるとすぐに物陰に身を隠す。

何かを探しているよう激しく鳴る足音は、辺りに響き渡る。
少女は口を抑え声を出さぬようにし、ギュッと目をつぶって恐怖に耐える。

捜しているのは自分のことだ。
捕まったら終わりだ。

今にも恐怖に負けそうな心を支えているのは、まだ会ったこともない姉だ。

会わなければ。
言わなければ。
伝えなければ。

そして、逃げてもらわなければ。

薄汚れた路地裏で震える子ウサギは、そのために小屋から逃げ出してきたのだから。
だから、何とかして、逃げなければ。

だが、捜索の手は着々と伸びている。
見つかるのが先か、逃げ切るのが先か、それともか弱い心が折れるのが先か。

見つかる恐怖に震える夜は、まだ明けそうにない。

翌日
夕方 とある高校

上条はこれからの予定を思い出し、うんざりしていた。
夏休みが明け、新学期が始まって間もない。
夏休みの感覚が抜けない中で受ける授業はなかなか退屈だ。

今ちょうど帰りのホームルームは終わり、クラスメートたちは部活なりバイトなりで教室を後にしていく。

青ピ「へい、かみやん。今日ゲーゼン行かへんで?」

若干胡散臭い関西弁をしゃべる「青髪ピアス」が声を掛けてくる。

上条「悪いな。これから補習なんだよ」

青ピ「そうなんかいな。残念やな、最近面白いゲームが入ったいうから、一緒にやろう思っとったのに。もったいないな」

上条「こっちはそれどころじゃないんだよな。また今度行こうぜ」

青ピ「せやな。それはそうと、かみやんは羨ましいやっちゃなあ」

上条「何が?」

青ピ「あの小萌先生の補習を受けるとか、最高やないか!」

青ピの発言に上条は呆れる。

誰が好き好んで補習なんか受けるかと、上条は思う。

持ち前の不幸スキルは日常生活でも十分発揮される。
テストの日に目覚まし時計がぶっ壊れて遅刻したとか、テストの時に限ってシャーペンの芯を切らすとか、何時間もかけた宿題にコーヒーをこぼして台無しにするとか……。
他にもいろんな不幸? が重なり、上条の成績は悪いでは済まされないレベルに達している。

テストの点数どころか出席日数も危うくなっている。
このままでは高校生なのに留年という危機が迫ってくる(まだ2学期なのに)。

でもそこは担任の小萌先生が助けてくれようとしている。

落ちこぼれを一人も出さないことで知られる小萌先生は、上条を何とか進級させようと特別に補習や課題を行っているのだ。
ただ、それすら危ない状況だったりするのだ。

青ピ「かみやん、小萌先生と会いたいから補習受けるんやろ?」

上条「いや、それはお前だろ?」

青ピ「隠さんでもいいんやで、僕とかみやんの仲やないか」

上条「いや隠してないからな! 俺の高校生活が懸かってるから受けるんだ!」

ちなみに青ピは小萌先生の熱狂的な信者?である。
案外厳しい小萌先生の補習が嬉しいと言うのは彼くらいのものだろう。

青ピ「ああ、僕も小萌先生の補習受けたいわあ」

上条「俺と代わるか?」

青ピ「いや、それはかみやんに悪いわ。僕の分まで楽しんでくれや。それじゃまた明日な、かみやん!」

そして青ピは教室を出て行く。

さっきまで騒がしかった教室も、気づけば上条一人だ。
あとは小萌先生が来るのを待つだけだ。

上条「今日は特売に行けない。豚肉欲しかったなあ」

上条は行きつけのスーパーに並べられているであろう激安の豚肉を思い浮かべる。
だが、補習が終わるころにはとっくに売り切れだろうと予想する。
そして、この一週間は肉なしのもやし生活だなあと諦める。

上条「ああ、インデックスが怖い……」

家でお留守番している同居人のシスターを思い浮かべる。
上条さんちの家計を圧迫している元凶である。
学生の身である上条がこの大食いシスターを養うには荷が重い。

上条「うう、あの1000円があれば……」

公園で飲み込まれた諭吉さんは帰ってこない。
それが、今の食生活に影を落とす。

上条「ま、まあいいや。帰ってから考えよう」

牙をむき出しにした、飢えたシスターを想像すると身震いする。
その想像を振り払い、上条は鞄から教科書をだそうとするが、

上条「教科書がない……。はあ……」

今日も不幸体質が働いたようだ。

小萌先生に貸してもらうかと考えていると、教室のドアが開く。

現れたのは、ピンク色の髪を持つ小学生くらいの身長しかない小萌先生、ではなかった。

土御門「すまんな、かみやん。ちょっと時間もらうぜ」

上条「土御門?」

上条の親友である「土御門元春」だった。
青ピ、上条とは「クラスの三バカ(デルタフォース)」を結成するくらいに仲がいい。
そのあだ名のように、クラスでは成績は良くなく能力もレベル0だ。
しかし、これは表向きの顔だ。

裏では、名の知れた魔術師だ。
陰陽師としての実力は右に出る者はいない。
世界三大宗教の一つ、イギリス清教に属する一方、学園都市の一生徒であるなどさまざまな顔を持つ「多重スパイ」だ。
敵対する魔術サイドと科学サイドをつなぐ役割を果たしている。

裏の顔を知っているのはごくわずかだ。
上条も御使落し(エンゼルフォール)の事件で初めて知ったばかりだ。

上条「どうしたんだ? これから補習なんだけど?」

土御門「相変わらずだにゃー、かみやんは。って、ふざけてる暇はない」

上条「?」

土御門「レールガンのことはもう知ってるな?」

上条「ああ、あれだけ騒がれるとな」

知ってるも何も、昨日からその話題で持ち切りだった。
御坂指名手配の影響で、学園都市の雰囲気が物々しくなってるのも感じる。

土御門「かみやんのことだから、どうせ信じてないんだろ?」

上条「まあな」

上条当麻は知っている。
御坂美琴という人物の人となりを。

妹達の事件に関わった時も、御坂は自分の命を投げ出してまで妹を救おうとした。
御坂妹が狙撃された時も、必死になって彼女を介抱していた。

そんな御坂が、自分のことより人のことを大事にできる彼女が、こんな大事を起こすはずはない。

上条「でも、本当なのか? 御坂があんなことするとは思えないんだけど」

土御門「さすがかみやん。わかってるにゃー」

上条「やっぱり違うのか?」

土御門「そうぜよ。ただこの件はちょっとややこしいにゃー」

土御門は上条に視線を向ける。
よく似合っているサングラスの奥で、鋭い視線が上条へ向けられる。

土御門「ちょっと頼みごとがあるぜよ」

土御門はさっきのチャラチャラした口調とは打って変わって、真剣な口調で言う。
こんな時はだいたい大変なことになると、上条は感覚で分かる。

上条は土御門の言葉を待つ。
そして、土御門の頼み事はだいたい上条の予想通りだった。

その頼みに、上条は迷うことなく首を縦に振った。

上条「任せてくれ」

土御門の説明を聞く前に、躊躇うこともなく、言い切った。

御坂美琴は追われていた。

すでに夜を迎えた路地裏は暗い闇に包まれている。
所々にある街灯だけが、狭い範囲ながらもアスファルトの地面を照らし出すだけだ。

御坂は逃げ惑うネズミとなった。
理由は簡単、スキルアウトに見つかったからだ。
いつもなら電撃なりなんなりで追い払えるのだが、そんなことをすると目立ってしまう。

だから、走って振り切ろうとしているのだが、

御坂「しつこいわね!」

背後には2、3人のスキルアウト。
御坂との距離を詰めてきている。

夜の帳が降りた暗闇の中、御坂は懸命に走る。
スキルアウトを振り切るため、路地を複雑に曲がる。
右、右、左、まっすぐ、右、左……。

それでも、なかなか振り切ることができない。

やはり彼らもこの辺りの地理を熟知しているのだろうか。先回りされていたりしてすぐに出くわす。

そして、追手の数が増えているのも感じる。
このままじゃジリ貧だ。

そんな事を考えながら角を曲がると、目の前に別のスキルアウトが現れる。

スキルアウトA「見つけた!」

御坂「しまった!」

慌てて引き返そうとするも、足が滑ってしまう。
支えを失った体はそのまま倒れる。

御坂「うっ!」

スキルアウトA「捕まえた!」

絶好のチャンスにスキルアウトは御坂の両手を縛ろうとする。

御坂「触るな!」

汚らしい手の感触に御坂は電撃を落とす。
直撃を食らったスキルアウト気絶して倒れこむ。

御坂「はあ、はあ……」

ゆっくりと体を起こした御坂はそのまま座り込む。
もう2日も何も食べていない。
着替えてもないし、逃げ回り続けている御坂の体はもう限界に近い。

「おい、なんか音がしたぞ!」

「光も見えた!」

「こっちだ!」

だが、さっきの電撃で周囲の喧騒が大きくなっている。

御坂は息を整える暇もなく立ち上がり走り出す。

もはや真犯人を探すとかの話ではない。
今は御坂の命がかかっている。

スキルアウトに捕まれば何をされるかわかったものではない。

フラフラになりながらも、その場から立ち去る。
だが、

スキルアウトB「いたぞ!」

無情にも鬼ごっこは再開される。

数人のグループが一斉にこちらに走ってくる。
御坂は引き返すものの、スタミナも切れた状態では満足に走れない。
スキルアウトとの距離がどんどん詰まってくる。

御坂「仕方ない!」

御坂は逃走をあきらめ、スキルアウトの方に振り向く。

御坂「さあ、かかってきなさい! 容赦しないわよ」

最初のスキルアウトが手に持った鉄パイプで殴りかかってくる。
だが、鉄パイプが突如空中で停止する。

そのまま、スキルアウトの後頭部に直撃し、スキルアウトは倒れる。

スキルアウトC「うらあ!」

その奥からやってきたスキルアウトは拳を握っていた。
御坂は電撃を浴びせかける。

スキルアウトC「残念だな」

御坂「!?」

ところが、電撃は全く効いていなかった。

スキルアウトはそのまま右ストレートを繰り出す。
御坂の鼻先をかすめた右手は空を切る。

スキルアウトC「お前の電撃対策なんざ、とっくにやってんだよ」

右足の蹴りを御坂はすんでの所で躱す。

スキルアウトC「この服はよ、電流を地面へ流すんだ。特別仕様なんだぜ?」

スキルアウトが繰り出す蹴りや拳を、御坂は避け続ける。

スキルアウトC「電撃が使えなきゃ、お前もただの女だなあ!」

スキルアウトは余裕の表情で右フックを繰り出す。

だが、御坂は今度は避けずに受け止める。
驚いた顔を見せるスキルアウトには目もくれず、そのまま掴んだ右手をあらぬ方向へひねる。

スキルアウトC「痛い痛い痛い痛い!」

そのまま腹に一発蹴りを入れ、さらに首筋に手刀を入れる。
そして、スキルアウトの意識を奪う。

御坂「常盤台をなめるな」

見事な護身術で相手をのした後も警戒を怠らない。

だが、御坂は油断していた。
次の瞬間、御坂は首元に強い力を感じる。

何者かに喉元を掴まれているかのような感覚だ。

御坂「うっ! がはっ!」

呼吸ができず、もがく御坂。
手を喉元に持っていくが、締め付けているものはない。

スキルアウトD「レベル3の念動力(テレキネシス)だ。どうだ?」

背後からやってきたのは、別のスキルアウト。
仲間が闘ってるうちに、回り込んでいたのだろうか。

スキルアウトD「やっぱりレベル5と言っても弱いなあ。レベル3に負けるんじゃあな」

御坂「くっ!」

スキルアウトD「レベル5でも生身の人間だからな。急所をとらえれば勝てるってわけだ」

他のスキルアウトも何人か集まってくる。
御坂はキッと彼らを睨み付ける。

スキルアウトD「さあ、コイツをアンチスキルに突き出すぞ」

スキルアウトE「それか俺の言いなりになるってのもいいなあ」

スキルアウトF「誰がお前にやるかよ。俺がもらう」

スキルアウト達の戯言を聞きながら、御坂はなおももがく。

しかし、現実はそんなに甘くはない。
すでに体力は限界だ。

御坂を助けてくれる仲間もいない。

御坂(もう、駄目かも……)

そんな考えが頭をよぎる。
意識が、視界が徐々にフェードアウトしてくる。

その時だった。

???「邪魔だァ、お前ら」

突然割り込んできたその声は、御坂には聞き覚えのある声だった。

スキルアウトD「誰だ?」

???「何ンで名乗ンなきゃいけねェんだよ、雑魚が」

スキルアウトD「てめえ、ケンカ売ってんのか?」

スキルアウト達が闖入者を取り囲む。
だが、当の闖入者、白髪の少年は意に返さない。

???「人の通り道をふさいでンじゃねェよ。早くどけ」

スキルアウトE「そうはいかねえな。この場を見られちまったことだし、お前も生きて帰れねえよ」

???「知らねェな。テメエらのやったことなんか」

スキルアウトF「てめえ! ふざけんじゃねえぞ!」

スキルアウトが拳を振りかぶる。

ケンカ慣れした彼が狙うのは、もちろん白髪の少年の顎だ。
だが、白髪の少年は避けるどころか拳を見つめている。

拳がそのまま少年の顎に吸い込まれる。

そして、鈍い音と沈黙を切り裂く悲鳴が上がった。
拳を叩きこんだ、スキルアウトの方から。

スキルアウトF「ああああ! 腕が!」

スキルアウトD「おい! どうした!」

明らかに折れている腕を見て、他のスキルアウトは震えあがる。

スキルアウトE「くそ! よくも」

もう一人のスキルアウトは手から炎を放つ。
竜のようにうねる炎は少年の体を包み込むはずだった。

だが、少年の体に触れた炎はそのまま跳ね返される。
その炎は少年ではなく、スキルアウトを包み込む。

スキルアウトE「があああ!」

スキルアウトD「コイツ! まさか!」

最後の一人は火だるまになり転げ回る仲間を見て戦慄を覚える。

スキルアウトD「た、助けて……。俺が悪かった……」

???「あァ? 今更命乞いか?」

スキルアウト「た、頼む…、い、命だけは……」

???「オマエのクソみたい命なンざ、こっちから願い下げだァ。消えろ!」

スキルアウトD「ヒイ!」

スキルアウトは仲間を見捨てて逃げ去る。

あとに残ったのは解放された御坂と白髪の少年だった。

御坂「な……、何しに……」

だが、御坂は尻餅をついたまま右手にコインを握り、少年へ向けている。
本来なら命の恩人ともいえる彼に、感謝の気持ちを返すのが当然だ。

しかし、御坂が向けているのは憎悪、そして怯え。
なぜなら、御坂の目の前にいるのは、

つい数日前まで、御坂を苦しめ、妹達を虐殺した「白い悪魔」であったからだ。

御坂「何しに来たのよ、一方通行(アクセラレータ)!」

御坂は震える声を出しながら、窮地を救ってくれたアクセラレータにレールガンの照準を合わせていた。

夜遅くすいません、>>1です。

ちょっと補足しておきます。
一方通行は打ち止めと会っていません(これ重要)。

以上です。

こんにちは、1です。
いつもありがとうございます。

荒れているようですね。ちょっと予想はしていたんですが、ここまでとは思いませんでした。
1の認識不足です。申し訳ありません。

あまり荒れると他の人の迷惑になるので、少し注意をしておきます。

カップリングの議論はできるだけ控えてください。
世の中にはいろんな人がいるので好みのカップリングもさまざまです。
1はまあオールOKなのであまりなんですが、他の人とカップリングが違うからと批判するのはやめてください。
煽りや中傷もしないようにしてください。

ネットなのでいろんな人が見ています。
最低限マナーは守るようにお願いします。

まあ、1の文才がないのがそもそもの原因です。申し訳ありません。

一応今日の分は投下します。
ですが、あまり熱くならないようにお願いします。

それでは投下します。

一方通行「あァ、お前だったのか? 常盤台のお嬢様が、こンなところで何してンだよ」

学園都市に7人しかいないレベル5。
そのトップに君臨する第1位「一方通行(アクセラレータ)」は御坂に視線を向ける。

御坂「…知ってるでしょ? 理由ぐらい」

一方通行「あァ? 知るか」

一方通行は首を振る。

一方通行「しっかしあの程度の雑魚に襲われるとか、オマエそれでもレベル5かァ?」

御坂「…ふざけないで! あれだけ騒いでるんだから知ってるはずよ!」

一方通行「だから知らねェよ」

一方通行の返答に御坂は電撃を放つ。
空間を突き破るように進む電撃は、コンマ数秒もかからずに一方通行に命中する。
だが、一方通行に触れた瞬間、電撃は明後日の方向へ弾かれる。

一方通行「オイ、気を付けろ。次は当てるぞ」

御坂はキッと一方通行を睨む。
あの忌々しい事件の被験者にして、妹達虐殺の実行者だ。

御坂は思い出す。
御坂が最初に出会った9982号が殺された瞬間を。
その時の彼の顔を。
狂気に満ちた笑顔を。

それから、我を失った自分の攻撃が全く通用しなかったことを。
初めて「人を殺そう」と思って放った電撃が、砂鉄の剣が、そしてレールガンでさえも全く歯が立たなかった。

御坂「な、なんで……、アンタなんかに……」

御坂の心に湧き出す、激しい憎悪、嫌悪。
妹達の仇という殺意。

そして、その憎き相手に助けられたという屈辱感、敗北感。
妹の命を1万回以上奪ったその手で助けられたという事実。

それが御坂の心に深く突き刺さる。

御坂「なんでアンタなんかに助けられたのよ!」

御坂の目から熱いものが零れ落ちる。

御坂「どうして? どうして私を助けたのよ? 私を見捨てて、素通りすればよかったじゃない! それなのにどうして……」

レールガンを構える右手がぶるぶると震える。
絶対に通じるはずのない切り札を、通じないと分かっていても見せ続ける。
そうでもしなければ、自分の中の何かが壊れてしまいそうだからだ。

一方通行「ハァ、おめでたい奴だな」

そんな御坂に対する一方通行の返答は、ため息だった。

一方通行「オマエ、なンか勘違いしてるぞ」

一方通行は呆れたように言う。

一方通行「オレはオマエを助けたつもりも、助けようと思ったこともない」

御坂「えっ?」

一方通行「オレはあの連中がウザかったから潰しただけだ。こっちはさっさと帰りたいってのに、道のど真ん中で暴れやがるから腹が立っただけだ。それをなンだァ? オマエはこのオレに助けられたと思ってるわけかァ?」

御坂「……」

一方通行「笑わせんじゃねェ。たまたま襲われてたのがオマエだったって話だろうが。自分に都合のいいように解釈してンじゃねェよ」

チャリン、とコインが落ちる音が路地裏に響き渡る。
御坂の頬を伝うのは大粒の涙。
同時に、御坂のすすり泣く声が響く。

もう限界だった。
たった2日で御坂の精神はことごとくすり切れていた

生まれて初めて、人から追いかけられるということを経験した。
孤独というものを体験した。
周りに助けてくれる人がいないというのが、これほど辛いものだとは思いもしなかった。

だから、例え憎き相手だとしても、助けてもらえたと錯覚するほどだった。
その錯覚だけでも御坂は安堵するものを感じていたのかもしれない。

感情をうまく制御できない自分に、御坂は困惑する。
しかし、いくら困惑したところですぐに感情が安定するわけでもない。

自分が憎む相手の前でボロボロと泣く自分が不甲斐なく、悔しく、恥ずかしくもある。

みっともない自分の姿を見られるのが屈辱的だった。

そんな御坂の姿を見ながら、一方通行は口を開く。

一方通行「ったく、ガキみたいに泣きやがって。いや、ガキか」

一方通行は御坂に近づく。

一方通行「テメエはそこでメソメソ泣いてろ。じゃあな」

そのまま御坂の横を通り過ぎようとする。

御坂「……ねえ」

一方通行「あァ?」

すれ違いざまに聞こえた涙声に一方通行は足を止める。

御坂「アンタなの? 妹を襲ったのは?」

一方通行「ハァ?」

一方通行は視線を御坂に向ける。
一方通行は御坂が初めに考えた犯人の一人だ。
絶対能力進化計画を潰されて、学園都市最初の絶対能力者(レベル6)の夢は潰えた。
ならば、実験を潰した御坂やその関係者である御坂妹が恨まれても仕方がない。

一方通行にも動機が十分にある。

御坂「アンタなの? ねえ、答えてよ!」

一方通行「そいつはオレじゃねェな。襲ってねェ」

だが、一方通行の口から出たのは否定だった。

御坂「……本当に?」

御坂は真っ赤な目を一方通行に向ける。

一方通行「あの実験は正直思い出したくもねェンだわ。オマエとも関わりたくねェ。当然妹達もな。それなのに、どうしてオレがテメエらを襲うんだァ?」

御坂「私は……実験を終わらせた。だから……」

一方通行「オレはあんな実験飽き飽きしてたンだよ。むしろ実験が終わってせいせいしてるンだぜ」

一方通行は口角を吊り上げる。
その口調と吊り上がった笑顔に、御坂は思わず電撃を放つ。

許せない。
許せない。

私の妹達は一方通行にとっては何の興味もなく殺されたのか?
こんな奴のために殺されなければならなかったのか?

その怒りが、憎しみが、電撃を撃たずにはいられなかったのだ。

だが、電撃は宣言通りに自分のもとに返ってきた。

御坂「うぐっ!」

一方通行「懲りねェな。オマエじゃオレに勝てねェ」

自らの電撃に苦しむ御坂から視線を外すと、一方通行は歩き始める。

御坂「私は、アンタを許さないから……」

一方通行「あァン?」

御坂「例え世界中の人間がアンタを許したとしても、私は一生アンタを許さないから……。それだけは、覚えておいて……」

一方通行「へいへい、じゃあな」

面倒くさそうに手を振ると、御坂を置いて立ち去ろうとする。

???「お姉さま……」

その時だった。
一方通行の足音だけが響く路地に、幼い声が響き渡った。

2人が声のした方へ振り返ると、そこに立っていたのは少女だった。
年齢が二桁に乗るかどうかも怪しいほどの、幼い少女だ。
だが、どう見ても普通の格好ではない。

裸足で毛布を羽織り、ところどころ見える肌には青黒い痣のようなものが見える。
そして、アホ毛がぴょこぴょこと動くシャンパンゴールドの頭。

その姿と顔立ちを捉えた御坂は思わず呟く。
少女の姿は、まるで、

御坂「私……?」

幼いころの自分とそっくりだった。





打ち止め「やっと見つけた、ってミサカは…ミサ、カ……は……」




その時、ボロボロだったその少女は安堵の表情を見せながら気を失う。

重い音が響いた後、再び静寂が、路地裏を支配した。

こんにちは、1です。

レスを読んでみて、自分がいろいろ勘違いしていました。
>>188でマナーがうんぬんよりも、もう一度カップリングとかの確認をしておくべきでしたね。

話の論点を把握せず、とんちんかんなことを説教臭く言ってしまいました。すいません。

ですので、ここで一度確認しておきます。
>>15で書いた通り、カップリングはなしです。
カップリングっぽく見える場面があるかもしれませんが、ないと思っててください。
どこまでがカップリングかの線引きにもよりますが。

あと、一方通行には優しくはないつもりです。
ネタバレになるのであまり言いたくはないんですが、このssで一方通行が報われることはあまりないでしょう。

そんなところです。

確かに一方通行の登場の仕方がカップリングっぽくなっていました。
ですが、電磁通行ではないので(汗)。
言い訳になりますが、こんな感じです。

いろいろ至らないところがある1ですが、このssを楽しんでもらえると幸いです。
これからもよろしくお願いします。

そんなわけで今日の分投下します。

同時刻
ジャッジメント第177支部

初春「よし!」

パソコンの画面に映し出されるウィンドウを見て、初春は思わず声を上げる。
白井に頼まれてアンチスキルのハッキングを続けていた。

初春の手をもってしても、なかなかファイアーウォールが破れない。
かれこれ2日かけているが、未だ内部まで辿り着けていなかった。

常にファイアーウォールの構造が変わるため、なかなか突破することが難しいのだ。
だが、初春の手腕と努力によってついに突破できそうな感じである。

初春「あとは、これで……」

初春は最後となるだろうコマンドを打ち込む。
そして、エンターキーを叩く。

次の瞬間に映し出されたのは、アンチスキルのホームページだった。

初春「やったー! 白井さん、成功しましたよ!」

初春は隣にいる白井に声を掛ける。
しかし、初春の目に映ったのは、机に突っ伏して眠る先輩の姿だった。

初春「もう、白井さん。見せてあげませんからね」

起こすのも忍びないと思った初春はホームページ内を探索する。
調べるのは、2つ。

木山春生誘拐事件の資料と御坂美琴の捜索情報だ。

どちらが先だろうかと初春は考える。

そして、木山春生の事件の資料を見ることに決めた。
白井が調べたかったのは木山の事件だったからだ。

捜査資料はすぐに見つかった。
やはり、大々的に捜査をしているだけのことはあり膨大な量の情報が集まっている。

初春はそれを一つ一つ見ていく。
しかし、最初の通報からつい数分前の情報まで集められていることもあって、なかなか進まない。

初春「とりあえず、最初の捜索の情報でも見ますか」

数ある捜査ファイルの中から、一番最初の捜索のファイルを開ける。
この中には、木山春生誘拐の手掛かりとなるものがあるはずだ。

白井「とりあえず、遺留品のファイルを見てくださいまし」

いつの間にか起きていた白井が初春に指示を出す。

初春「白井さん、門限は大丈夫なんですか?」

白井「寮監にはきっちり外泊届を出しておりますの。寮監もジャッジメントの仕事だと言ったら納得してくれましたわ」

初春が一つ目のファイルを開ける。
そこにあったのは、押収された木山の研究データだった。

白井「研究データですわね。いろいろありますけれど」

初春「何がなんだかよくわからないですね」

白井「木山先生は大脳の研究をしていたそうですの。特に能力者が能力を使用するときに、脳がどのような働きをしているのか、ということを調べていたらしいですわ」

初春「詳しいですね」

白井「今日同じ研究所の人に聞いてきましたの」

初春が次々とファイルを開けていく。

白井「うん?」

初春「どうしましたか?」

白井「おかしいですの」

初春の動きが止まる。

白井「研究データが途中で止まっていると思いません?」

初春は研究データを確認する。
行われた最新の実験の資料を確認すると日付が2週間ほど前だ。

白井「研究所の人の話では、誘拐の2日前にも実験は行われたらしいんですの」

初春「記録する前に誘拐されたんじゃ?」

白井「貴重な研究データですのよ? すぐにまとめないと無くなってしまいますわ」

初春「ということは」

白井「実験データは奪われたとみて間違いないですわね」

犯人の狙いは実験データだったのか?
でもそれならば、わざわざ木山を誘拐する必要はないはずだ。

もしかして、木山がいなければできない事が何かあるのだろうか?
そう思いながら、2人は次のファイルを見ていく。

次のファイルには、犯人のものと思われる遺留品が集められていた。
指紋や髪の毛など、採取され照合が御坂と一致したものばかりだ。
服の繊維や靴の型も、常盤台中学で使われているものだ。

白井「うーん、これだけ証拠が揃っていると、無罪を主張するのは難しいですわね」

初春「そうですね。それにしても、どうしてこんなにも御坂さんのものばかり揃ってるんでしょうか?」

白井「?」

初春「考えてもみてくださいよ。一度も行ったこともない人の痕跡があるっておかしいじゃないですか」

白井「確かに、お姉さまは研究所に行ったことはないですの」

初春「でもこれだけ痕跡があるのは変じゃないですか?」

初春の指摘はもっともだ。

初春は妙に証拠があると言いたいのだろう。
御坂を犯人に仕立て上げるために、犯人だと誘導するために。

白井「アンチスキルもバカじゃないですの。たぶん他の決定的な証拠があるはずですの」

初春「探しましょう」

そして、初春は次のファイルを開く。

もしかしたら、徒労に終わるかもしれない。
そんな不安が頭をよぎるが、今は気にしてもしょうがないと2人は割り切る。

2人の前には、膨大な資料が待ち構えている。

2人はようやくスタートラインを切ったばかりだ。

第7学区 とある路地

御坂は確信していた。
この幼女も「妹達」であると。

自分の幼いころと寸分たがわぬ姿をしながら、御坂のことを「お姉さま」と呼んだのだ。

これで他人の空似だったらなら、偶然にもほどがある。

御坂は打ち止めの傍に近よる。
生々しい痣や傷を見てみるが幸い命にかかわるような物には見えない。

ただ気絶しているだけだ。
しかし、病院で診てもらう必要はあるだろう。

御坂「病院に連れて行かないと……」

背中に毛布を被った少女を背負う。
気を失っている少女は赤ん坊のように眠っている。

一方通行「オイ、オマエ正気なのか?」

呟きが聞こえたのか、後ろから一方通行が尋ねてくる。

御坂「何が?」

一方通行「オマエ、指名手配されてンだろ? 病院なンか行ったら、アンチスキル呼ばれるぞ?」

やはり知っていたのか、と思いながら御坂は唇をかむ。

一方通行の言うことは当然だ。
深夜とはいえ、人が集まっている病院へ向かうのは避けたい。

しかし、御坂にはこの少女を見捨てることができなかった。

御坂の心を痛めたのは、その姿だった。

下着一枚身につけず、毛布だけを身に纏った姿。
年端もいかない身体に刻まれている傷や痣。

見ていても痛々しくなるそれは、誰かに襲われたのだろう。

まさかとは思うが、御坂が指名手配されたがために、スキルアウトのような連中に襲われたのだろうか。
御坂の身内と間違われて。

そんな考えが頭に浮かび、御坂は歯噛みする。

御坂「私のせいだから……」

一方通行「あァ?」

御坂「私のせいで狙われたのよ、この子たちは。私のせいで苦しんでいる。それなのに、見捨てて自分可愛さに逃げるわけにはいかない。私にはその責任があるんだから」



御坂の背負う責任。
それは、さっき助けを求めてきた打ち止めに対する責任。

打ち止めは御坂を探していた。
身なりや状況を考えると、助けを求めにきたのだろう。

そう考えれば、もうメソメソ泣いているわけにはいかなかった。
今、しっかり前を見据える御坂の目は、さっき一方通行に見せた目ではない。

守るべきものを持った目だ。

もう弱音は吐かない。
この子のことも、自分のことも、しっかり守って見せる。
そして、自分の無実を晴らして見せる。

そんな決意を、御坂は心に秘める。

御坂の一度折れた心は、打ち止めの登場によって見事に再生したのかもしれない。

一方通行「責任ねェ……」

御坂「あんたは見捨てられるの?」

一方通行「オレか? あァ、見捨てるぜェ。せっかく逃げてるってェのに、こんなガキのせいで捕まったら元も子もねえもンなァ」

御坂「……あんたねえ!」

一方通行「だいたいよォ、中学生一人の力でどうこう出来るって考えるのが甘いンだよォ。甘すぎて反吐が出るぜ」

御坂「くっ」

やはりこの男は許せないと御坂は思う。

一方通行「でも、妙だとは思うぜ」

御坂「はっ?」

一方通行「もうオレの実験は終わった。当然クローンも用済みになったから、処分されるはずだったンだろ? でも現実は残りの1万人近いクローンは生きている。誰も処分されてねェってことだ」

御坂「……」

一方通行「オレにとっちゃァ、どうでもいいことだ。でも、わざわざ用済みになった奴らを憂さ晴らしに襲うのかってことだ。まあ、本当に私怨なら別だがなァ。ぶっちゃけ、憂さ晴らしのために金や労力を使う組織があンのかねェ?」

御坂「……何が言いたいのよ?」

一方通行「いやァ、ただ単に思ったことを言ったまでだ。テメエの好きにしろ」

その時、御坂は背中にもぞもぞとした感触を感じる。
少女が、気がついたのだ。

打ち止め「……あれ、ここはどこ? ってミサカはミサカは目をこすってみたり」

御坂「気がついた!」

御坂は安堵する。

御坂「大丈夫? どっか痛いところはない?」

打ち止め「あれ? お姉さまなの? ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

御坂は打ち止めが妹達であると改めて確信する。
御坂妹と似て、語尾に「ミサカ」の単語が入っていることからも、容易に推測できる。

御坂「あなた名前は?」

打ち止め「ミサカは打ち止め(ラストオーダー)、シリアルナンバーは20001号ってミサカはミサカは自己紹介し……」

その時、少女、打ち止めの表情が曇る。

打ち止め「お姉さま、早く逃げて! ってミサカはミサカは叫んでみる」

御坂「えっ?」

御坂は思わず打ち止めの顔を見る。

御坂「ど、どうしたのよ?」

打ち止め「あの子が来るの。ってミサカはミサカは震えてみる」

御坂は周りを見渡してみるが、飽き飽きした態度の一方通行しかいない。
もともと暗闇なので視界は効かないが、人の気配は感じない。
御坂のレーダーにも反応がない。

御坂「大丈夫よ。誰もいないわ」

打ち止め「違うの。狙われてるのはお姉さまなの! ってミサカはミサカは伝えてみたり」

その時だった。
前方から足音が聞こえたのだ。

コツ、コツ、コツ……。

ヒールがアスファルトを叩く音が近づいてくる。
打ち止めは震えているが、御坂はその足音の方向を向く。
御坂はその場から動こうとしない。

打ち止め「ダメ! 逃げてお姉さま! ってミサカは……」

打ち止めの必死の願いは御坂に聞こえていなかった。
御坂は逃げるつもりはない。

今、近づいてきている奴が御坂を、妹達を罠に嵌めた奴だと直感していた。

御坂妹を狙撃した。
御坂に濡れ衣を着せた。
打ち止めをひどい暴行を加えた。

そんな奴にしっぽ巻いて逃げる、なんていう考えはなかった。

御坂の頭に激しい怒りが渦巻く。

御坂「あんたね、さあ、早く来なさい!」

まるでスポットライトのように照らされた電灯の下で、御坂は叫ぶ。
暗闇から聞こえる足音は徐々に大きくなっていく。

やがて暗がりの中に、相手のシルエットが徐々に浮かび始める。

同時刻
ジャッジメント第177支部

白井と初春はファイルを開いていた。
いくつ開いたのかもわからないくらいだが、それでも二人の集中は途絶えていなかった。

その中で、2人はあるファイルを見つける。
そこに入っていたのは、

初春「監視カメラの映像ですね」

2人は確信する。
このデータは当然映像である。

文書でまとめられたものも多い中、映像のデータというのは貴重だろう。
このデータが何かアンチスキルの決定打となったのだろうか。

2人は顔を見合わせる。
そして、2人とも頷き、初春はそれを開いた。

それは正面玄関の監視カメラだった。
その監視カメラの映像を2人で見ている。

初春「確か、木山先生は研究所で足取りが分からなくなっているから……」

白井「ここで誘拐された可能性が高い、つまり……」

初春「犯人が映っている可能性は十分ある」

2人は食い入るように画面を見つめる。

白井「そろそろ犯行時刻ですわね」

画面右下の録画時刻を見て、緊張のあまり息をのむ。

2人しかいない支部は静かだ。
だが、その静けさの中に何か不気味なものを感じる。

初春「来ました!」

2人の意識が画面に集中する。
玄関から外の方へ向けられているカメラはついに犯人の姿を捉える。

脅されているのか、怯えた表情を浮かべている木山春生。
その後ろで、銃を突き付けていたのは……。






白井「お姉さま!」





初春「御坂さん!」






「頭に大きなゴーグルをつけた」御坂の姿だった。






第7学区 とある通り

御坂妹「お久しぶりです、お姉さま」

御坂「えっ?」

暗闇に浮かび上がったシルエットは御坂妹に姿を変えた。
その意外な答えに御坂は拍子抜けする。

御坂「……あんた、こんな時間に何をしてんのよ?」

御坂妹「ちょっと人を探していまして」

御坂「こんな時間まで?」

御坂は違和感を感じ取る。

姿はいつも通りである。
常盤台の制服に、頭につけた軍用ゴーグル。

だが御坂妹の、あの特徴的な語尾がない。
それに加えて、御坂妹の雰囲気が何か違う。

いつもの、どこか抜けているような雰囲気ではない。

御坂「み、右手は大丈夫なの?」

御坂妹「もう完治しました。ちゃんと動きます」

御坂「そう」

御坂妹「それよりも昨日から探しているのですよ。さすがに疲れました。」

御坂「そ、そう」

御坂妹「でも無事見つかりました。お姉さまのおかげです」

御坂「えっ?」

御坂妹は御坂のやや後ろの方に視線を移す。

御坂妹「さあ、帰りましょう。打ち止め」

とたんに、御坂の背中で打ち止めが震えだす。

御坂妹「お姉さま、打ち止めをこちらに渡してください」

御坂の制服を握りしめる手が強くなる。
それは打ち止めの強い意思だった。

御坂「いやよ!」

きっぱりと言い放つ。

御坂妹「しょうがないですね」

すると、御坂妹の額からスパークが出始める。
次の瞬間、空間を切り裂く電撃が御坂に向かってくる。

御坂「えっ?」

突然の出来事に御坂は動くことができない。
そして、青い電撃はそのまま御坂の体に食らいつく。

御坂「があっ!」

御坂は体を電流に貫かれる。
それも手ぬるいものではない。
ふざけた黒子に見舞うような、優しい物とは違う。

人を傷つけることが目的の、悪意のある物だった。

しかし、御坂はなんとか耐え抜く。

御坂「打ち止めちゃん! 大丈夫!?」

打ち止め「う、うん……」

片膝をつくだけで持ちこたえ、御坂妹を睨む。

御坂「あんた……、何すんのよ!?」

だが、御坂妹は御坂の問いに答えない。

御坂妹「なぜ渡してくれないですか? お姉さま」

御坂「この子が嫌がっているからよ。あんたの仕業ね!」

御坂妹「そうです」

御坂妹は事務的に答える。

御坂は確信する。
全ての黒幕は御坂妹だったのだと。

木山春生が誘拐されたことも、御坂妹が襲撃を受けたことも、御坂が指名手配されたことも。
全て彼女が仕組んでいたのだと、悟った。

一方通行「オイ、超電磁砲。下がってろ」

ここで、口を閉ざしていた一方通行が初めて口を開く。
一方通行の顔には、なぜか期待の表情が浮かんでいる。

一方津工は御坂の後ろから御坂妹の方へ近づく。

一方通行「お前はこのガキを連れてどっか行け。コイツは俺がやる」

御坂「あんたは引っ込んでて! そもそもこれは私たちの……」

一方通行「黙れェ!」

一方通行は御坂に怒声を浴びせる。

一方通行「オマエまだわかンねェのか? オマエそれでもレベル5かよ」

一方通行は呆れたように続ける。
しかし、声には若干興奮が混じっている。

一方通行「コイツ、たぶンレベル5だぞ」

御坂「な、あんた何言って…」

一方通行「ああそうだよな、妹達のレベルはせいぜい3ぐらいまでだったよなァ。でも今目の前にいる奴はレベル3なンて、そんなちゃちなもんじゃねェ」

確かに食らった電撃は、自分が操るものと同等のものだった。
しかし、御坂には意味が分からない。
なぜ、御坂妹がレベル5なのか。

御坂はそんな疑問を含む目で御坂妹を見る。
御坂妹は気味の悪い笑みを浮かべている。
ニヤニヤと笑うその表情が、御坂を震え上がらせる。

一方通行「どんな裏技を使ったかは知らねェが、オマエが敵う相手じゃねェ。逃げろ」

一方通行は御坂の前に立つ。

御坂「だ、だけど逃げるわけには……」

一方通行「いい加減にしろ!」

さっきよりも凄みのある怒声が、御坂の身を竦ませる。

一方通行「オマエ、その背中のガキに助けてほしいって言われたンじゃねェのか? コイツがどんな思いでこのクローンから逃げ回って、オマエのとこまで来たと思ってやがる!」

御坂「!?」

一方通行「このガキにとっちゃァ、オマエしかいないンだよ。オマエだけが頼りなンだ! だから、このガキを守ってやれ! それはオマエにしかできねェことだろうがよォ!」

一方通行はさらに一歩、御坂妹に近づく。
それは御坂の盾になるようにも見える。

一方通行「オレはオレしかできないことをやる。オマエはオマエにしかできないことをやれ」

御坂は口をかみしめる。

打ち止め「お姉さま、この人なら大丈夫だよ。て、ミサカはミサカは一方通行に期待してみる」

おんぶしている打ち止めの顔は見れない。
しかし、打ち止めの表情は手に取るようにわかる。
不安そうな声が打ち止めの気持ちを表している。

本当なら御坂妹は自分が何とかしなくてはいけない。
しかし、打ち止めは御坂を頼ってきた。助けを求めてきた。
この非力で弱い打ち止めを見捨てるわけにはいかない。

御坂は苦渋の選択をする。

そして、一方通行に背を向ける。

御坂「これが罪滅ぼしになるとか思わないでね」

一方通行「あァ」

御坂「私はこの子のために動く。あんたのためじゃない。私はアンタを一生許すつもりもない。むしろ死んで欲しいくらいよ。でも、これだけは言わせて」

御坂はいったん間を置く。

御坂「……妹を、頼んだわよ」

そして、お互い振り返らないまま別れる。

御坂はもと来た道を引き返し、暗闇の中へ消える。

一方通行は御坂妹に意識を集中する。

御坂妹「やれやれ、結局あなたですか」

御坂妹は呆れたように言う。

御坂妹「いやー、なんですか今のやり取り? お姉さまの彼氏か何かですか?」

一方通行「ちげェよ。クソガキが」

一方通行はため息をつく。

一方通行「ったく。純粋に勝負したいってェのに、邪魔されるのは御免だからな。これっぽちも思ってねェことをつらつら言っただけだァ」

御坂妹「……お姉さま。かわいそうに」

御坂妹は少しがっかりした表情をする。

御坂妹「しかし、あなたが邪魔してくるとは思いませんでしたよ。てっきり無関心を貫くのかと」

一方通行「テメエの都合なンか知るかよ」

御坂妹「うわー。女性に嫌われるタイプだわー」

感情のこもってない砕けた言葉が、不気味な雰囲気を漂わせる。

一方通行「最近、雑魚が突っかかってきて面白くなかったンだわ。でも、今のテメェならいい勝負ができそうだぜェ」

御坂妹「そうですか。では、さっそく始めましょう。ヒーロー気取りの殺人鬼さん」

一方通行「テメエ、今すぐその減らず口を黙らせてやらァ」

一方通行はにやりと笑う。
威圧感を隠し持つそれを見ても、御坂妹は何も動じない。

御坂妹「私の邪魔をする人は誰であっても容赦しませんけどね。まあ、」

御坂妹は再びにやりと笑う。

御坂妹「あなたに負ける気はさらさらありませんけどね、とミサカは余裕を見せます」

一方通行「なめてんじゃねえぞ、三下がァ!」

街灯の光に照らされた路地裏で、戦闘の火ぶたが切られた。

美琴って基本同系統(電気系)の攻撃効かないんじゃないっけ?

あと御坂妹のキャラと口調に違和感しかない
理由があったとしても美琴に容易く攻撃することはないだろ
美琴もやたら弱々しいし一方も美化されてるし、明確じゃないにしてもキャラsage的な描写に感じられる書き方も多い
ストーリーの稚拙さ文章力云々というよりそっちの方が気になる

美琴って基本同系統(電気系)の攻撃効かないんじゃないっけ?

あと御坂妹のキャラと口調に違和感しかない
理由があったとしても美琴に容易く攻撃することはないだろ
美琴もやたら弱々しいし一方も美化されてるし、明確じゃないにしてもキャラsage的な描写に感じられる書き方も多い
ストーリーの稚拙さ文章力云々というよりそっちの方が気になる

同時刻
第7学区 アンチスキル73支部

日付が変わりそうな頃だというのに、支部には多くの隊員がいた。
御坂の指名手配で特別態勢が取られているため、家には帰らずに次の任務に備えてここに残るものも多いからだ。

仮眠をとったり、腹ごしらえをしたり、教員としての仕事をしたりと、それぞれだ。

しかし、静寂だった支部にサイレンの音が響き渡る。
鳴り響いたサイレンが、各隊員のスイッチを一気にONへ入れなおす。

このサイレンは緊急出動が要請される際になるものだ。
厳戒態勢の中でこのサイレンが鳴り響いた意味はほぼ一つしかない。

御坂の居所が分かった。

そのことを理解した隊員が次々と準備に取り掛かる。

出動準備が整っていく中、眠い目を擦りながら黄泉川は軽い仮眠から目覚める。

鉄装「黄泉川先生! 御坂さんです」

鉄装が上ずった声で呼びに来る。

黄泉川「現れたか。どこだ?」

鉄装「木の葉通りのあたりです」

黄泉川「うちの管轄か。案外近くに隠れていたな」

黄泉川は椅子に掛けていた上着を羽織る。

黄泉川「よし、出動じゃん! 御坂美琴を絶対確保するじゃんよ!」

部屋にいる隊員が返事をする。

それから黄泉川は鉄装に視線を向ける。

黄泉川「鉄装、お前は残れ」

鉄装「大丈夫です。行かせてください」

黄泉川「ダメじゃん。お前まだ傷が痛むじゃんよ」

黄泉川は断固とした口調で言う。

鉄装の制服の下には、テーピングや包帯が巻かれている箇所がいくつかある。
御坂の逃走の際に、怪我を負ったのだ。

鉄装「私が油断していたばかりに取り逃がしてしまったんです。行かしてください!」

黄泉川「ダメじゃん」

鉄装「どうしてもですか?」

黄泉川「ああ、お前には別の役割があるじゃん」

鉄装「え?」

鉄装は目を丸くする。
現場に行けない自分に、何かできることがあるのだろうか。

黄泉川「お前はここに残って、情報収集にあたってくれ」

黄泉川は上官としての口調で言う。
それでも、鉄装は納得できない。

再度頼もうと口を開こうとして、鉄装は固まる。
黄泉川の目が、鉄装を見つめている。

それは鉄装を頼る目だった。
黄泉川は、負傷している自分が足手まといになるから、支部に残すのではない。
鉄装にしかできないことだからこそ、支部に残すのだ。

鉄装「わかりました。任せてください」

その意図を理解した鉄装は納得して返事をする。

黄泉川「頼むじゃん」

そして、黄泉川は部屋を出る。

残った鉄装は役割を果たすため、自分のデスクへ戻った。

第7学区 ジャッジメント第177支部

白井「初春、バックアップをお願いしますの」

初春「任せてください」

白井は右腕にジャッジメントの腕章をつける。

ハッキングしていたアンチスキルのネットワークから、御坂が現れたのを2人は把握していた。
アンチスキルが御坂確保に動くことを知り、こちらはこちらで動くことにした。

本来ならばアンチスキルが動いた以上、ジャッジメントに出る幕はない。
実際出動要請は来ていない。

動くのは完全に2人の独断であった。

だが、2人には動かなければならない理由がある。

さっきの監視カメラの映像が、2人の記憶に刻み付けられていた。
御坂が犯人であるという、確実な証拠。

改ざんされた痕跡がないということは、この映像は事実なのだろう。

さらに、2人は御坂のアリバイを知らない。
あとは動機さえあれば、十分に御坂にも犯行が可能である。

そのことを知った瞬間、2人に衝撃が走った。

御坂が犯人だった。
裏切られた。
信じていた自分たちが、何と滑稽な事か。

しかし、同時に疑問も浮かんでくる。

肝心の動機である。

2人には理由が全く思い浮かばない。
協力さえしたこともあったのに、木山を誘拐する理由が浮かばない。

だから、直接本人に聞きに行くしかない。
アンチスキルに見つかる前に、捕まる前に、聞き出しておきたいのだ。

初春「現在、御坂さんは木の葉通りに向かっています」

白井「わかりましたの」

だが、同時に煮え切らない思いもある。
やはり、御坂が誘拐なんてするわけがないと、もう一人の自分がささやく。
しかし、客観的な証拠がある以上、受け止めなければいけない。

白井(行きますわよ、お姉さま!)

もやもやした思いを抱えたまま、白井は御坂の追跡に向かった。

どうも、1です。

いつもありがとうございます。

早速ですが、リアルが忙しくなったのと、皆さんのレスを見て少し修正をしています。(まあ修正してもひどいだろうけど)
なので、これから1週間ぐらい更新できないです。(余裕ができればします)
修正中のため、今日も更新できない感じです。

今更ですが、ここで注意事項を。
もうお分かりですが、キャラ崩壊やキャラ下げ、独自設定が出てくると思います。
書いているうちにそうなったんだろうと思います。1の注意不足です。すいません。

正直1のメンタルはボロボロですが、前にエタったリベンジもかねているし書いていきます。
物語としては6割ぐらい書いたのかな?

厳しいレスとかも肝をつぶしながら読むので、いろいろレスしてくれるとうれしいです。
1のエネルギーになるので、よろしくお願いします。

これからもどうかよろしくお願いします。



さて、御坂妹はどうなるのかな?

お久しぶりです。1です。

いろいろ余裕ができたので更新します。

応援してくれるとうれしいです。

それでは投下します。

第7学区 木の葉通り付近、路地裏

いつからだろうか。
一方通行は御坂妹に立ち向かいながら、そんな疑問を覚えていた。

始めは、小学校にも入学していないほどの年だったと思う。
家族もなく一人ぼっちで、体が細く力もなかった一方通行はいじめの格好の標的だった。

いじめっ子に見つかり、殴られ蹴られる日々。
周りの友達は標的になるのを恐れて見て見ぬふり。
万引きなどの犯罪まがいのことをやらされることもあった。

だが、あの日は違った。
いつものように、自分を殴ったいじめっ子の手が、見るも無残に折れたのだ。

動揺を隠せない他のいじめっ子が一斉に襲い掛かってきたが、同じ結果となった。

自らの能力を認識したのはその時だ。
ベクトル変換。触れたもののベクトルを操る能力。
その時の彼の喜びは、まさにこれ以上ないものだった。

これでいじめられなくても済む。
友達とも堂々と遊べる。

だが、彼を取り巻く現実はそう甘くはなかった。

一方通行を恐れた友達はどんどん離れていった。
怪我をさせたとして、いじめっ子の保護者達からは恨まれた。

結局、彼の孤独が深まっただけだった。

だが、希少価値が高く、汎用性のある能力に学園都市中の研究者たちが注目した。
そんなわけで、彼はあらゆる研究のモルモットとして、さまざまな研究施設を転々することとなる。

それらの施設で経験したことがますます彼の心理に深く影響を与えた。
置き去り(チャイルドエラー)を使った、人権無視の人体実験。

失敗することは当たり前の、無茶な計画に利用された彼らは悲惨な目にあった。
命を落とすことが、まだマシな部類に入るほどの。

実験の失敗で一生苦痛を味わうことになることの方が、彼らにとって何倍も辛いことだ。
そんな境遇にある彼らが研究員の玩具にされていくのを、一方通行は冷めた目で見ていた。

彼にとって、絶対能力進化計画もその一つだった。

レベル3程度のクローンを2万人殺害するという、狂気じみた実験。
それによって、一方通行自身が前人未到の絶対能力者(レベル6)に辿り着く。
今までの実験とは全く違うとすぐに感じた。

自分が前人未到の境地に立つ。

そうなったら、と一方通行は考える。

自分に立てつくものがいなくなる。
自分を利用する人間もいなくなる。

こんなクソつまらない日常も変わる。

レベル6になることができれば……。

面白いと思った。

主任研究員はこう言い放った。

君が戦うのはただのたんぱく質の塊だと。
そこに命も何も宿っていない。
ただの物体だと。

最初の個体、ミサカ00001号を殺した時の感触が今も鮮明に残っている。
半ば事故のようなものだったが、一方通行には罪悪感といったものは持っていなかった。

自分が相手にしているのは物体であり、精巧に作られた人形であり、たんぱく質の塊であると。
自分はそれを壊しているだけだと。

始めはやる気があった。
だが実験が進むにつれて、一方通行自身にとって無味乾燥なものになった。
一言でいうと退屈だった。
指定された時間、場所で、格下ともいえないぐらい弱いクローンを殺す作業を、延々と続ける。
面倒くさいことだ。

最初に感じた興味もやる気も何もなかった。

だから、上条や御坂の介入で実験が終わった時も別段何も思わなかった。
退屈な、鬱陶しいことから解放されると。

また、退屈な実験が終わっただけの話だった。

実験が終わった今も、その感情は変わらない。
彼にとって、妹達の存在は別にどうだっていい。
御坂や妹達に謝るつもりも、贖罪をするつもりもない。

しかし、今は彼の心の中に何か引っかかるものがあった。

あの夜以来に見た御坂妹は、あの夜とは全くの別人のようだった。
何か違うものを感じたのは、気のせいではないはずだ。
襲われている御坂を見た時も、ボロボロになった打ち止めを見た時も、心の中に感じるものは全くなかったはずなのに。

それは、一方通行が全く感じたことのない感覚だった。

御坂妹と戦えば、何かが得られるかもしれない。
今までの自分を超えることができるかもしれない何かが。

研究者から与えられてやる退屈なものではない。
自らの意思で行う、心が躍るようなものだ。
そんな昂揚感、期待感が一方通行の感情を支配していた。

だから、御坂妹の相手を買って出た。
構う必要もないのに、御坂を逃がした。
いや、適当にカッコいいことを言って追っ払った。

純粋に、戦いを楽しむために。

御坂妹の前に立っている理由は、その感じたことのなかった感覚を楽しむため。

一方通行「オイ、かかって来いよ」

御坂妹「いやいや、それでは面白くないのであなたからどうぞ、とミサカは挑発します」

一方通行は軽く舌打ちする。

一方通行「ンじゃ、こっちから行くぞォ!」

一方通行は足のベクトルを操作して、一気に跳ぶ。
御坂妹との距離を一気に詰めると、そのまま右手を振りかぶる。

一方通行「オラァ!」

しかし、御坂妹は難なく避ける。
顔を狙った拳を、顔を動かすだけで避ける。

御坂妹「全く、女子の顔を狙うとは。傷でも残ったらどうするんですか、とミサカは華麗に拳を避けます」

一方通行「ハッ、クローンの分際で女子アピールしてンじゃねェよ」

一方通行は拳や蹴りを繰り出し続ける。

一方通行の反射は常に働いているため、触れることさえできれば御坂妹にダメージを与えられる。

触れればいい。

だが、それができない。
どこに蹴りを入れようが、どのタイミングで拳を入れようが、御坂妹はするりと避けてしまう。

御坂妹「あなたの反射は織り込み済みです」

御坂妹は涼しい顔で躱し続ける。

御坂妹「それにあなたの攻撃パターンは読めてます。蹴りのタイミングやパンチを繰り出すパターンの組み合わせも。何せ1万回以上の戦闘データがありますからね、とミサカはドヤ顔で述べます」

一方通行「ほゥ? それならこれはどうだァ?」

一方通行は地面を思いっきり踏みつける。
アスファルトが蜘蛛の巣のようにひび割れる。

すると、ひび割れた破片が御坂妹に向けて飛び始めた。
一つ一つが槍の矛先のように尖り、無数の弾丸となって御坂妹を襲う。

御坂妹「なっ……」

たまらず御坂妹は後ろへ「飛ぶ」。
カタパルトで打ち出された戦闘機のように、破片を回避しようと一方通行と間合いをとる。
だが、全てよけきれるわけではなく、太ももや腕には赤い筋ができている。

一方通行「確かに反射は触った物しかできねェ。でもなァ、別に肉弾戦しかできねえってわけじゃねえぞ?」

御坂妹「くっ……」

一方通行「ちゃンと顔は避けてやったンだぜ」

御坂妹「……ありがとうございます、とミサカは嫌みったらしく吐き捨てます」

だが、御坂妹の顔に焦りはない。

そして、額から電撃を放つ。

姉に勝るとも劣らないそれは、正確に一方通行に向かう。

だが、あっけなく明後日の方向に弾かれる。

御坂妹「やはり、無理ですか」

一方通行「確かに強くなってンなァ。でもなァ、まだまだ足ンねエぞ!!!」

一方通行がそれを言い終えたころには、既に御坂妹の目の前に迫っていた。

御坂妹「まずっ……」

御坂妹はスピードについていけず、一方通行の右フックを脇腹にくらう。
そのまま数メートルぶっ飛ばされる。

御坂妹「ぐはっ!」

御坂妹は壁にぶつかって止まる。
壁に生じた蜘蛛の巣状のひび割れが、衝撃の強さを物語る。

一方通行「オラオラ! 立てよォ」

御坂妹は座り込んだまま腕を振るう。

すると腕の動きに合わせて、周りのものが浮かび上がる。
鉄のゴミ箱、鉄くず、空き缶、配管……
そして、大小さまざまなものが一方通行めがけて殺到する。

だが、結果は同じだった。
殺到したすべてのものは、ことごとくすべて反射される。

一方通行「どうした? まさかこれで終わりか?」

すると、御坂妹はもう一つあるものを投げた。
一方通行は意に返すこともなく反射を行う。

それは消火器だった。
どこかに飲食店があるのだろうか、そこから拝借してきたのだろう。
一方通行に触れる直前、金属製のピンが抜かれる。

中身の白い消火剤が辺りにまき散らされる。

一方通行「け。粉塵か? 呼吸器にも反射は働くンだぜェ」

しかし、視界は白い消火剤に覆われている。
その白い煙幕を破って、再び電撃が襲う。

だが、一方通行は平然とした顔ではじき返す。

一方通行「目くらまししたって無駄だ」

一方通行の反射を貫くことなく弾かれたそれは、そのまま御坂妹のもとへ帰ってくるが、不思議と手ごたえはなかった。

一方通行「ン?」

ようやく消火剤が晴れると、そこに御坂妹の姿はなかった。

一方通行「あァ? かくれンぼですかァ?」

一方通行は辺りを見渡すが、御坂妹の姿は見えない。

一方通行「いいね、いいね! 最高だねェ!」

一方通行はとりあえず前へ進む。
ゆっくりと、周囲を警戒しながら進む。

御坂妹の気配はない。
所々に積み上げられているゴミやビールケースの裏を覗いてみるが、見当たらない。

一方通行「オマエ、さっき言ったよな。オレなんかに負ける気なんかねェってなあ」

捜すだけじゃ退屈なのか、一方通行は隠れている御坂妹に言う。
しかし、一方通行の言葉は暗闇に消えていく。

一方通行「でもなあ、オレの反射を破れねェンじゃァ、オレには勝てねェ。そこらへンちゃンと分かってンのかァ?」

暗闇に閉ざされた路地裏に、一方通行の足音が響く。
だが、出てくる様子もない。

一方通行「ハァ、チッ!」

一方通行は落胆する。
さっきの昂揚感とは裏腹に、戦闘は一方通行ペース。
実験の時と何ら変わらず、一方通行の戦意はだだ下がりだ。

一方通行「もっと楽しませてくれよ。クローンさンよ」

声にイライラが混じり始める。

一方通行「いい加減そろそろ出てきたらどうだ? あァ?」

その時だった。
パチンと、頭の中で何かが走った感触を覚える。
瞬間、一方通行の頭に激痛が走った。
頭を何者かに掴まれ、二つに割られそうな痛み。

一方通行「があああ!」

さっきまでとは一変して、一方通行は痛みで何もできず地面に倒れる。

御坂妹「やれやれ、慢心ですね。と、ミサカは転げ回る一方通行を観察します」

どこからともなく現れた御坂妹は、冷めた視線を向ける。

御坂妹「確かに、あなたの反射を破る術はありません。接近戦では勝てません」

御坂妹は一方通行に近づく。

御坂妹「しかし、体の内部からでは反射できませんからね。と、ミサカは自らのアイデアを披露します」

簡単な話だ。
外からの攻撃が無理なら、内部から攻撃すればよい。

御坂妹「どうしてお姉さまが第3位なのか分かりますか?」

御坂妹はのたうち回る一方通行に語り掛ける。

御坂妹「お姉さまの能力は応用がよく効くからですよ。そのクローンであるミサカも同じです。まあ、脳をいじられた今のあなたには分からないでしょうが。と、ミサカは答えを言います」

御坂妹がやったことは単純なことだ。
一方通行の脳内の電流を少しいじった。

神経系には電気信号が飛び交っている。
命令伝達には欠かせないものだ。
電撃使いである御坂妹にとって、ましてやレベルが上がった今となってはそれをいじるのは造作もない事だ。

御坂妹「なぜ能力を反射できなかったのかと、疑問に思うかもしれませんが」

御坂妹は言葉を区切る。

御坂妹「ミサカはある空間内の電子の動きを制御できます。空間を座標で分け細かく区切り、そこに流れる電子や磁場を直接コントロールすることができます」

御坂妹「でも、その制御も反射されてしまうんじゃないかと思うかもしれませんが、能力の行使座標をあなたの体内にすれば何も問題はありません」

つまり、御坂妹を原点として、一方通行の「体外」から能力を使うと反射されてしまう。
だが、一方通行の「体内」に原点を置き、そこから能力を使うと問題ない、と御坂妹は考えた。

一方通行の脳を「外部から」狂わせたわけじゃない。
「内側から」狂わせたということだ。

御坂妹「少々タイミングを測るのに苦労しましたが。と、ミサカは一言付け加えます」

一方通行の動きは鈍くなり、やがて体がひくひく痙攣するようになった。

御坂妹「全く、学園都市第1位も大したことないですね。と、ミサカは率直な感想を述べます」

御坂妹はピクピクしている一方通行に蹴りを入れる。
一方通行に入れた蹴りは反射されることはなく、一方通行は蹴り飛ばされる。

御坂妹「ほらほら、あなた自慢の反射はどうしたんですか? とミサカはもう虫の息の一方通行に聞きます」

静まり返った路地裏に、御坂妹のローファーの音が響く。

御坂妹「さあ、これからはミサカのターンです」

コツコツという小気味よい音が途絶える。

御坂妹「あなたにはいろいろ恨み辛みがありますからね。じっくり楽しむとしましょう。と、ミサカは期待をあらわにします」

ほとんど物言わぬ塊となった一方通行を見下ろし、御坂妹は気味の悪い笑みを浮かべた。

第7学区 木の葉通り

昼間とは打って変わり、誰もいなくなった木の葉通り。

街灯が照らす歩道を、御坂は打ち止めを抱えて走る。

打ち止め「10032号はミサカネットワークを操っているの」

御坂の背中で打ち止めが真実を話す。

打ち止め「妹達が放つ電磁波や脳波を使って全ての妹達とリンクするネットワーク。それがミサカネットワーク。妹達の記憶や思考を共有し、ネットワーク自体を巨大な大脳やスーパーコンピュータとして機能させることもできる。ミサカはその司令塔だったの。て、ミサカはミサカは説明してみる」

御坂「その役割をあの子に奪われたの?」

打ち止め「そうなの。ミサカから奪った後、ミサカネットワークで自分の演算の補助させているの。だから、能力も大幅にレベルアップしている。て、ミサカはミサカは考察してみたり」

打ち止めはいったん話を区切る。

打ち止め「木山先生をさらったのは、幻想御手を奪うため。幻想御手を使ってミサカネットワークの演算能力を上げるため。10032号は今、お姉さまかそれ以上の演算能力を持ってるの」

御坂「待って! 木山先生が誘拐された時間は、私と一緒にいたわよ?」

打ち止め「さらったのは19090号なの」

御坂は打ち止めの答えに息をのむ。

打ち止め「19090号は他の妹達よりも感受性が豊かなの。それで、10032号に共感して誘拐の実行犯になった。て、ミサカはミサカはお姉さまの質問に答えてみる」

強くなっている理由もわかった。
御坂妹は今やあの御坂妹ではない。

実験から助けられた時の、2人で一緒にクレープを食べた時の彼女ではない。
もはや別の人間と化している。

そして、今の彼女は何をするかわからない。
おそらく、周りの人が傷つこうがなんだろうが気にも留めないだろう。

だから、御坂は考える。

止めないといけない。
これ以上、周りの人々に危害が及ぶ前に。

だが、今は背負っている打ち止めの方が大切だ。
早く打ち止めを安全な場所に連れて行かなければ。

御坂「とにかく、逃げるしかないわね」

とはいっても、御坂には頼る場所がない。
だが、一つだけ行かなければならない場所がある。

冥土返しのいる病院だ。

打ち止めの怪我は命にかかわるものじゃないが、診てもらう必要はある。
妹達のことも知っている彼なら、打ち止めのことも任せられる。

冥土返しに診てもらっている間、自分は御坂妹を……。

だが、御坂の思考は突如破られる。

白井「お姉さま!」

目の前に突然現れたのは、大切な後輩であった。

御坂「黒子……!」

10メートル先に立つ白井は、仕事の顔をしていた。
その瞬間、御坂は白井が自分を逮捕しにきたのだと悟る。
黒子の右腕にはジャッジメントの腕章がきちっとつけられている。

白井「お姉さま、教えてくださいまし。どうして木山先生を……」

白井の目が打ち止めに向けられる。

白井「その子は?」

御坂「妹よ」

御坂は即答する。

白井「妹? お姉さまは一人っ子じゃ……」

御坂「今話している時間はないわ」

御坂は白井との会話を終わらそうとする。

白井「待ってください、お姉さま! 聞きたいことがありますの!」

白井が必死に問いかける。

白井「本当に木山先生を……」

御坂「してないわ!」

白井は御坂の目を見つめる。

白井「私は見ましたの。お姉さまが木山先生の研究所で銃を突き付けているのを。木山先生を連れ去るのを」

御坂「違うわ! 私じゃない!」

白井「……本当に?」

白井は御坂の目から視線を離さない。
御坂は白井が逡巡しているのを感じる。

おそらく白井は見たのだろう。
御坂妹が犯行を働く様子を。
妹達のことを知らない以上、それを御坂と思うのも仕方ない。

だからこそ迷っているのだ。
御坂を信じるべきか否かを。

打ち止め「本当だよ。ってミサカはミサカは事実を言ってみたり」

その時、背中から打ち止めが割り込んでくる。

打ち止め「木山博士を誘拐したのは、19090号なの。ってミサカはミサカは犯人を言ってみたり」

白井「19090号? いったい何を……」

その時、御坂をまぶしい光が照らす。
あまりの光の強さに思わず手で目元を隠す。

黄泉川「御坂美琴! お前は包囲されている! 大人しく投降しろ!」

スピーカーを通して、黄泉川の声が木の葉通りに響き渡る。

御坂「くっ!」

黄泉川「御坂! 動くな!」

アンチスキルが包囲網を固める。
車輌で道路は塞がれ、車両を盾にアンチスキルが包囲の体勢を整えている。

2日前に学生寮を包囲した時よりも、さらに厳重である。

御坂(どうする、どうする?)

白井「お姉さま!」

黄泉川「御坂!」

御坂は動けない。
どうすればよいのか、全く分からない。

御坂は混乱した思考を落ち着いて整理する。

投降すれば逮捕、御坂妹を止められず、打ち止めもどうなるかわからない。
突破すれば、再び逃亡生活。弱っている打ち止めを引き連れてだ。
だが、御坂妹を止めることはできる。

御坂(もう一回、逃げるしかない!)

御坂は打ち止めをしっかり背負いなおす。
疲れ切った身体に鞭を打ち、包囲を突破しようと足に力を込める。

その時、気味の悪い悪寒が御坂の背中を貫く。
その感触に射抜かれ、御坂は冷や汗を流す。

御坂妹「見つけましたよ、お姉さま」

背後から聞こえてくる御坂妹の声。
恐る恐る振り返ると、そこには血にまみれた御坂妹が立っていた。

周囲がざわついているような気がするが、御坂はそれどころじゃない。

学園都市最強の、一方通行が戦った。
それなのに、御坂妹が目の前にいるという事実。
それが意味するものを、御坂は理解できなかった。
いや、理解したくなかった。

御坂「あ、一方通行は?」

御坂妹「ああ、これのことですか?」

御坂妹は手に持っていたものを前に放り投げる。
それは、白い右腕だった。

御坂「ひっ!……」

御坂はこみ上げる吐き気をこらえる。
人差し指が自分の方を指さしているように見え、おぞましい感じを覚える。

御坂妹「実験の憂さ晴らしをしていたんですよ。今頃虫の息で転がってるんじゃないですかね。と、ミサカは路地裏に放置してきた一方通行を思い浮かべながら答えます」

御坂「な……」

御坂妹「最高でした。と、ミサカは正直に感想を述べます」

あの一方通行が負けた。
御坂が手も足も出なかった憎き相手を、ボコボコにした。

御坂妹「さあ、お姉さまはどうするのですか? と、ミサカは再び問いかけます」

御坂の答えは決まっている。
打ち止めは渡さない。御坂妹も自分が何とかする。
しかし、御坂の心を不安が支配する。

勝てない。勝てるはずがない。

御坂の手が震えるのは、足が震えるのは、逃亡の疲れのせいだけじゃないだろう。

しかし、御坂は覚悟を決める。
もう御坂妹を止められるのは自分しかいない。
一方通行を破ったほどの相手だとしても、勝てないかもしれないけれど、やらなければならない。
打ち止めという、守るべき存在もいる。

それは学園都市第3位としての役割から来るのではない。

姉として。
全ての元凶として。
何よりも、一人の人間として。

御坂妹の前に立ち向かうことを、決意する。

御坂「覚悟はいい?」

御坂妹「お、今度はお姉さまの番ですか。とミサカは白々しく言います」

御坂「そうよ。あんたは私が止める」

御坂妹の目が負の感情を抱く。

御坂「これ以上あんたを放っておくわけにはいかないわ。木山先生に、研究所の人に、アンチスキルに、ジャッジメントに……。いろんな人に迷惑をかけて、学園都市を巻き込んだことを怒んないといけないのよ!」

御坂妹「……そうですか。では、下準備をしましょう」

怒りを押し殺した目で御坂妹は右手を挙げる。
御坂は嫌な予感を覚える。

御坂「みんな! 逃げ……」

慌てて叫ぶものの、御坂妹から強力な電撃が放たれる。
狙いはアンチスキルの包囲網だ。

目にも止まらぬ速さで進む電撃が包囲網に達した瞬間、包囲網全体が青白い膜で覆われる。
膜の中は、さながら地獄だった。

強力な電撃でアンチスキルはのたうち回り、車両は壊れ、時にはショートで爆発する。
感電する者、やけどする者、目や耳をやられる者。
御坂に備えて、電撃使い用の対策をしていたが、御坂妹の電撃はそれを楽々と上回った。

膜が張っていたのはほんの一瞬。
だが、その一瞬でアンチスキルは行動不能となった。

膜が晴れた後に残っていたのは、黒こげになった車両やバリケードの残骸と、重傷を負っているアンチスキルであった。

御坂妹「さて、ギャラリーはいなくなりました。横槍を入れられたくはありませんからね。と、ミサカはお姉さまに意識を戻します」

御坂「あんた……! なんてことを!」

御坂妹「お説教ですか? と、ミサカはお姉さまを呆れた目で見ます」

御坂は御坂妹を睨み付ける。
しかし、目を閉じて怒りを押し殺し、打ち止めに声を掛ける。

御坂「打ち止めちゃん、あそこのツインテールのお姉ちゃんを起こしてきて」

打ち止め「え?」

御坂「起きてるんでしょ? 黒子」

御坂は背後で倒れている白井に呼びかける。
すると白井はむくりと起き上がる。

白井「お見通しでしたか?」

御坂「離れていたしね、大丈夫と思ったのよ。それよりも」

御坂は振り向かないまま答える。

御坂「この子を、お願い」

白井「……」

御坂「この子をゲコ太先生の病院に連れてって。それに、この子は木山先生の居場所を知ってるわ。木山先生を、頼んだわよ」

白井「でも」

御坂「これがすんだら、全て話すから。この子のことも、あの子のことも。本当は私がこの子を守らないといけない。でも黒子だからこの子を託すの。お願い!」

白井「……わかりましたの」

その時、御坂の背中から打ち止めの感触が消える。
白井の背中にテレポートされている。

おそらく激しい戦いになる。
打ち止めがここにいては危険だ。

打ち止めを傷つけるわけにはいかない。

打ち止め「お姉さま……」

御坂「大丈夫。お姉ちゃんに任せておきなさい」

打ち止め「……10032号を助けて。って、ミサカはミサカは精一杯お願いしてみる」

御坂「うん。約束する」

そして、2人の気配が消える。

残ったのは姉と妹だ。

御坂妹「さあ、待ち望んだ勝負です。と、ミサカは期待に胸を膨らませます」

御坂妹は嬉々とした感じで言う。
戦闘を待ち望む戦士のような口調だ。

御坂「打ち止めちゃんのところには行かせないわ! ここであんたを止める!」

御坂妹「いや、もう打ち止めのことはどうでもいいです。とミサカは本当の目的がお姉さまであると暗に示唆します」

御坂「……私?」

御坂妹「私はお姉さまが嫌いです。と、ミサカは胸に湧き上がる憎悪を堪えます」

御坂妹の顔が、険しくなる。
親の仇でも見るような目で、御坂を射抜く。

御坂妹「さて、日ごろの恨みを晴らさせてもらいましょう!」

次の瞬間、矢のような電撃が御坂妹から放たれた。

第7学区 木の葉通り

白井は打ち止めを背負い飛び回っていた。

日付はすっかり変わっているが、夜はまだまだ続く。
月明かりが照らす光と街灯が照らす光の中を、テレポートを駆使して進む。

打ち止め「木山博士は病院にいるの。て、ミサカはミサカは場所を教えてみたり」

白井「ありがとうですの」

テレポートを繰り返しながら、白井は考える。
もちろんお姉さまのことだ。

御坂の前に現れた、御坂そっくりの少女。
双子といえばそれまでだが、妙に納得できない。

その時、白井はにわかに思い出す。

白井(そういえば、お姉さまのクローンがどうたらという噂がありましたの)

一時期はやった学園都市第3位のクローンについての噂。
白井ははなから信じていなかったのだが。

白井(まさか、あのそっくりさんも、この子も?)

自分の中にもやもやが燻ぶる。
御坂に聞きたいことは山ほどある。

しかし、今は御坂に頼まれたことがある。

木山春生の捜索。
そして、打ち止めの保護。

その時、後ろから稲光と雷鳴がとどろく。
切れかけの蛍光灯のように夜空が瞬く。

御坂と御坂妹の戦いが始まったのだ。

白井(お姉さま、どうかご無事で!)

そして、白井は目的地にたどり着く。

打ち止めから告げられた場所は意外な場所だった。
そこは冥土返しの勤める病院。
学園都市最高の医療設備が整えられていると言っても過言ではない。
御坂が連れて行こうとしていた場所が、ちょうど目的の場所だった。

白井「初春、中の様子は分かりますの?」

取り付けたマイクに話しかける。

初春『病院内の監視カメラをハッキングしました。大丈夫です』

白井「了解」

初春『それと、ジャッジメントに応援を頼みました』

白井は驚く。

白井「応援? ジャッジメントは壊滅ですのよ。応援なんて……」

その時、白井の後ろから声がかかる。

鉄装「いた。白井さん!」

白井「鉄装先生!」

完全装備の鉄装が白井と合流する。

白井「鉄装先生! さっきのは大丈夫だったのですか?」

鉄装「私は支部で待機中だったから、電撃は受けてないわ」

鉄装の顔には熱いものがある。
黄泉川の部隊が行動不能になり、鉄装だけが動ける状態だ。
打ち止めの情報が正しければ、木山を保護することができる。

鉄装は思う。
もしかしたら、黄泉川はこれを予期していたのかもしれない。
返り討ちに合う可能性を。

だから、万が一の事態に備えて鉄装を現場に連れて行かなかったのかもしれない。

鉄装「初春さんから聞いてるわ。ここに木山先生がいるのね?」

白井「はい。この子が教えてくれましたの」

白井は打ち止めを地面に降ろす。

鉄装「この子が……」

白井「この病院に閉じ込められていたんですの。そこに木山先生も一緒に……」

打ち止めは白井の言葉に合わせるようにかぶりを振る。

鉄装は怪訝な目をしたものの、すぐに仕事の目に戻る。
打ち止めの姿を見て疑問に思ったのだろう。
しかし、うまく割り切ったようだ。

鉄装「さあ、いきましょう」

白井「はい。初春、頼みましたわよ」

初春『任せてください』

冥土返しの病院前に佇む3人。
静まり返った病院が、異様な違和感を醸し出す。

その入り口たる正面玄関に、3人は足を踏み入れる。

深夜であるためか、正面ロビーは非常灯以外は消されている。
暗闇のロビーに緑色の光が混じって、少し不気味な感じがする。

初春『ロビー周辺には誰もいません。大丈夫です』

白井と鉄装のイヤホンから初春の声が響く。

ロビーは普通である。
患者や来院者のための長椅子がずらりと並べられ、受付は夜のためかシャッターが下ろされている。

別段変わった様子はない。

打ち止め「地下室があるの」

打ち止めが小さな声で切り出す。

打ち止め「入院患者や一般職員は知らないの。妹達と先生だけが知ってる秘密のものみたい。て、ミサカはミサカは自分の記憶を頼りに言ってみたり」

白井「で、その地下室はどこにありますの?」

打ち止め「こっちだよ。て、ミサカはミサカは指さしてみる」

指さした方の廊下へ3人は動く。
3人の足音が廊下に響く。

初春『廊下も誰もいませんね。大丈夫です』

鉄装を先頭に白井と打ち止めが並んで進む。
廊下には非常灯が少なく、ロビーよりもさらに薄暗くなる。

各科の診察室が立ち並んでいる区画らしい。
内科、小児科、耳鼻科など、総合病院らしくさまざまな診療科がある。

打ち止め「この先は左だよ」

3人は左へ曲がる。
曲がっても廊下の構造は変わらない。

白い石膏ボードのような天井に木の手すりがついた白い壁。
クリームがかったリノリウムの床。
無機質な廊下だ。

その時、3人とは別の足音が響く。
その足音が3人の歩みを止める。

白井「初春、状況は?」

初春『白井さんたち以外誰もいません』

3人に緊張が走る。
初春の防犯カメラには「足音」の人物が映っていない。
つまり、映像が改変されている。

言い換えれば、バレている。

打ち止め「ここには他の妹達がいるの。きっと巡回しているの。て、ミサカはミサカは推測してみる」

白井「どうします?」

鉄装「進むしかないわ」

3人は再び進み始める。
後ろから足音が迫ってくるが、後戻りはしない。

そもそもここには一般患者もいる。
向こうも手荒な真似はしてこないはずだ。

いざとなればアンチスキルだと堂々と言えばよい。

打ち止め「ここの角を曲がれば……」

3人は角を曲がる。
そして、3人は歩みを止める。

冥土返し「やあ、僕の城に何か用かな?」

そこに白衣を着た学園都市の名医が立っていたからだ。

鉄装「アンチスキルです。ここに木山春生がいるという情報がありまして、夜分遅くにすいませんが、上がらせてもらっているところです」

冥土返し「そうですか」

冥土返しはつぶやく。

冥土返し「ということは、あの子がもう戦っているんだね」

冥土返しは踝を返す。

冥土返し「木山先生はこっちだよ」

冥土返しの後ろをついていく3人。
気がつけば、後ろから近づいてくる足音が消えている。

冥土返し「信じてもらえないかもしれないが、私はあの子の味方ではない」

冥土返しが前を向いたまま話す。

冥土返し「私は10032号に脅されてね。従わなければ患者に危害を加えると。それからは病院に缶詰さ。病院内を動くのは構わないが、外出も外部との連絡もできなかった」

冥土返しの言葉に、3人は驚く。

鉄装「そんな! どうして教えて下さらなかったのですか?」

冥土返し「監視されていたからね。それに、もしアンチスキルへの通報がばれたら、患者がどうなるかわからない。仕方がなかったんだ」

冥土返しは足を止める。

「備品倉庫」と書かれたドアが目の前にある。

冥土返し「他の妹達が来ない。ちょっとまずいな」

鉄装「どういうことですか?」

冥土返し「君たちのようなものが来たら、真っ先に巡回中の妹達が来て追い返すはずなんだが、それがない。おそらく10032号への演算が大き過ぎて、それどころではないんだろう」

白井「つまり?」

冥土返し「このままだと妹達の体に悪影響が出る。早く止めないといけない」

冥土返しは深刻な声で答える。

冥土返しは鍵を取り出し、ドアを開ける。
カチャリ、と軽い音が響き、ドアノブをひねる。

4人は部屋の中に入る。
電気が消され、非常灯の灯りのみが照らす薄暗い部屋。
数段の階段があり、半地下といった感じの部屋だ。

冥土返しは段ボールや備品の置かれた部屋を進む。
その先にはもう一つドアがある。

今度は別の鍵を取り出し、差し込む。
開いたドアの向こうにいたのは、

白井「木山先生!」

木山が壁にもたれて座っていた。

鉄装「大丈夫ですか? お怪我は?」

木山「全く問題はない。それほどひどい扱いにはされなかったからな」

木山は拘束されてはなく、服に汚れが目立つ以外は何も問題はなさそうだ。

木山「それよりもだ、先生。あの子を診てほしい」

木山が視線を向けた先には、常盤台中学の制服を着た少女が倒れていた。

木山「突然倒れたんだ。ただ意識を失っているだけだと思うんだが」

冥土返し「そのようだね。他に問題はなさそうだ」

冥土返しは近くのベッドに妹達の寝かせる。

木山「おそらく幻想御手の副作用だろう。それにあの子が演算処理で負担をかけているのもあるな」

冥土返し「僕も同じ意見だね。ただ、問題は……」

木山「あの子が“あれ”を使った場合だな」

木山と冥土返しを重苦しい雰囲気が包み込む。

白井「“あれ”とはなんですの?」

白井が恐る恐る聞いてみる。

木山「私が作った体晶だ」

白井「体晶?」

きょとんする白井とは対照的に、木山の顔は曇っていた。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年11月28日 (金) 01:31:51   ID: RrWq_w9N

これも失踪か

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