初音ミク「マスターの長い夏休み」 (297)

太陽が照りつけるお昼時——

こんなに暑い日は冷たい素麺でも食べようかと鍋に水を張り、コンロに火をつける
素麺を袋からあけ、麺つゆを取り出し、冷蔵庫を開けたところであることに気づく


「ネギがない……」





〜初音ミク「マスターの長い夏休み」〜


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「この暑い日に買いに行くのも億劫だしな」

「別にネギぐらいなくてもいいか。ただの薬味だし」


麺をゆでている間、テレビの電源をいれる。
画面にはニュースキャスターが原稿を読んでいた。


「今日から小学生たちは終業式を終え、夏休みに入ります。明日からの夏休み、子どもたちはどのような過ごし方をするのでしょうか?」


「夏休みねぇ…… 子どもがうらやましい」

「こちとら大人は明日も仕事だっていうのに」

「あーあ、呑気にプールに行ったり、キャンプしたり、お腹下すほどアイスを食べていたあの時の夏休みに戻りてぇ」

その時、テーブルに置いてあった携帯電話が鳴る。手に取り耳を当てると
開始一番大声を挙げられた。


「おい、○○さんから時間になっても来ていないという連絡があったけど今どこにいる?」


「へっ?」


何を言っているのかわからなかった。
相手は会社の上司だがいっている意味がわからない。


「えっと…… 今日って勤務15時からですよね?どういうことですか?」

「たしかに15時からだが上がってくる前に○○さんのところにいって商談してくるという流れだったろ?」

血の気が引く——
すっかり忘れてしまっていた。おまけにそこの商談先はかなり重要で
失礼なんてあってはならない大事な取引を行う予定だった。


「すみません。ちょっと、その、えっと。い、今自宅でして……」

「自宅? どういうことだ? なぜ自宅にいるんだ?」

「あの、わ、忘れてしまっていて…… 今すぐ連絡して向かいます」

「……そうしなさい」


上司は怒ることなく静かに電話を切った。
それが逆に怖かった。確かに今日は猛暑だが今までの人生でかいたことのないぐらいの汗の量だった。Tシャツをしぼると汗が出てきただろう。なぜか暑いくせに鳥肌がたっていた。

「そうめん食っている場合じゃねぇ」

急いでスーツに着替える。


「だから勤務時間が不規則な仕事って嫌なんだよ。時間ごとの仕事が忘れやすくて」

汗だくになりながら走って商談先に向かう。
連絡をいれ、数十分後にはついたが○○さんには会えなかった。
受付の方が「○○は現在急用で席を外しております。○×会社の方ですよね?伝言を預かっております。本日の商談は見送りにさせてくださいとのことです」と話され
結局何もせずに自分の職場に戻ってきた。

「こんにちは……」


職場の人たちに挨拶をした後、電話をしてきた上司に結果の報告を行う


「……君のせいでこの会社の顔に泥を塗った。君は良く忘れやすいがちゃんと忘れないようにメモやスケジュール管理は行っているのか?」

「……怠っていました」

「まぁ、次からは気をつけなさいとは言わないよ」

「えっ?」

「わかりやすく言うとだな ……社長が呼んでいるから社長室に行きなさい」

「……はい」

重い足取りで社長室に向かう。
何度か入ったことはあるがこんなにドアをノックしたくないと思ったのは初めてだ
すでにドアノブが歪んで見えていた。

コンコンコン——

「失礼します」

「来ましたか。どうぞ座って」

「はい、失礼します」

「えっと普段からこの会社のため、君は頑張ってくれているとは思います」

「……」

「実際会社で一番偉いのは社長と言うのが一般的な認識だがその会社を支えてくれているのは社長ではなく現場で働く社員だと私は思っている。だから君みたいな若い人に私は感謝するべきだし、共に会社のためにお互いの役目を果たしていけるのが理想だと思っているんだ」

「はい……」

「どこもそうだと思うんだけど仕事って言うのは需要、まぁ利用者がいるからもうけがあるわけで他者がいてこそ仕事って成り立つとそう思っているんだよね」

「私もそう思います」

「お客様は神様とまでは言わないけどビジネス上で相手を敬うというのは絶対に欠かせないものだし、相手と信頼関係を築いてこそお互いが満足するやりとりになるものだ。それこそ商談の内容よりそう言った敬意や信頼関係の築く部分こそ一番神経質になってもよいと私は感じている」

「だが君は遅刻という行為で相手を不快にさせてしまった」

「……」

「誰にもミスはあるものだがら怒りはしないが今回の商談は言わずも大事なものであったにもかかわらず、君は忘れてしまっていたそうだね」

「今回で相手は不快な思いになり、取引は二度としてくれないだろう。まずその部分で会社に大きな損失と泥を塗ってしまった。また私が大事に考えている相手に敬意を持ってお互いが満足できるような仕事にしていくという点でも君は私が求めているこの会社の社員像ともかけ離れてしまっているんだ」

「……あまりこういうことは言いたくないんだが」

「私は君がこの会社で働くことを求めることが難しくなった」

「それって……」

「……明日からはここに来なくていい」


あぁ、このフレーズって漫画やドラマの中だけだと思っていたが本当にあったのだなと改めて実感した


「そういえば小学生たちは今日が終業式だったな」

「君も子どもたちと同じ明日から夏休みというわけか」

「子どもより幾分か長いとは思うが……」

「私がこのセリフをいうのは何だが必ず君が求められることがいずれ来るだろう」

「それまで頑張りなさい。求められてからはその人のためにさらに頑張りなさい」

「……失礼します」

カッコ悪いが泣いていた。
ここに来なくてよいというフレーズの後からあまり社長の言葉が頭に入っていない。
自分の机に戻って退職する身支度をした後、皆にお礼を言って職場を後にした。


家に戻ると涙がピタッと止まった。そして思考回路もだ。なぜなら俺のアパートの部屋は真っ黒焦げになり入れる状態ではなかった。
もはや不幸が重なりすぎて変な笑いすらこみ上げてきた。


警察が目の前に来て事情徴収をする。
何でも火事の原因は鍋に火をかけたままで外出したものだというのだ。
それは間違いなく自分の不注意だった。急いでいたため素麺をつくるときの鍋の火をそのままにしていった結果がこれだよ。
その後大家さんと話をし賠償金を支払い、アパートを後にする

「たった一日で職と家を失うなんて……」

「おまけに多額の賠償金で貯金もほとんど残っていない」

「まじでどうしよう。0からのスタート過ぎる……」

「よし死のうか」

「でも死ぬ前にあいつの家には行くか……」

一番近くに住む友達の家を訪ねようと考える。
こいつとは高校生以来の付き合いで嗜好や性格は違うけどもなんだかんだこの年齢まで付き合っている気の良いやつだ。


ピンポーン


「はい」

「俺だよ、久しぶり」

「おぉ、久しぶりだな。遊びに来たのか?」

「まぁね。中に入ってもいいか?」

「別に問題ないけど珍しいな。君から中に入りたいなんて」

「こんな2次元の空間にいると頭がおかしくなるっていっていたくせに」

「今はそれどころじゃないんだ。とりあえずその抱き枕どけろ。座る場所がねぇ」

「おい人の嫁にどけろはないだろ?」

「んじゃ、こんど作った料理でも食わせてくれよ」

「ミホは特にお菓子作りが得意で、特にアップルパイが最高なんだ」

「食べたこともないくせに」

「もっと科学技術が発達すれば可能かもしれないだろ」

「抱き枕が具現化するってか? 馬鹿らしい」

「にしてもなんでまた、ここに来たんだ?」

「全部話すから、酒持ってきてくれ。酒。酒」

「はいはい、わかったよ」

戸棚からウィスキーや日本酒、冷蔵庫からビールを用意してくれる


「じゃあ、乾杯しよっか」

「馬鹿、何が乾杯だ」

そう言って俺は1分も満たないうちにビールひと缶を開ける。


「何やけになってるんだよ?」


「やけにもなるさ、実はさ……」



友達に今日あったことすべてを話す。


「ま、まじかよ。それは災難だったね」

「さすがに同情するわ」

「死のうかと思った」


そう言ってウィスキーを手に持ちラッパ飲みする

「ゲホッ、ゲホッ」

「お、おいストレート一気は死ぬからやめなって」

「いいよ。死んでも。今日から職無し、金なし、住むとこなしだぜ」

「喜んで死ぬわ」


さらにビンを傾け、飲んでいく


「かぁー、効くわ〜」

「おい、お前も飲めよ」

「……」

「やべっ、なんか楽しくなってきた」

「なんか面白いゲームとかないのかよ?」

「やろうぜ、ゲーム」

「あれがいいな。何て言ったけ? あのちょっとの高さから落ちたら死ぬ奴。ディグダグ?」

「持ってない。ていうか酔いが回ってきてるんじゃ」

「まだ酔ってねぇ。酔うならこれぐらい飲まないと」

今度は日本酒のビンをラッパ飲みする。

「その早さはヤバいって急性アルコール中毒になるぞ」

「上等。なぁお前ももっと飲めって」

「どうせまだ就職してないだろ?」

「明日二人ともオフなんだからさ。ここで飲まずしていつ飲むんだよ」

「……」

「いいよな。父親が社長で金持ちの家で生まれたお前は」

「このマンションだって父親のものなんだろ? こんな良い場所に無料で住ませてもらっているなんて羨ましい限りだ」

「なんだっけ、ライトノベル作家になるって夢叶えるためという理由で就職してなくても多めに見てくれているんだろ?」

「現実は朝までゲーム・アニメ、昼睡眠、夜は抱き枕でチュッチュッなのに」

「う、うるせぇ」

「人生を奈落に極振りしている君よりはましだ」

「けっ、好きでなったわけじゃねー」

「つーか、だいたいお前は……」

「い……いつも……ブサ面のく……せに……」

「お、おい大丈夫か?」

「……」

「寝たのか……」

「まぁ、これだけ一気に飲んだらそりゃ、しっかりはしてられなくなるわな」

「んじゃ、僕は続きのゲーム攻略でもやるか。まだCGコンプリートしてないし」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「おーい」

「おーい、起きろ」

「う、うん」

「ここは?」

「僕の家だけど」

「そうだった…… 気分悪……」

「完全に二日酔いだね」

「水欲しい」

「はいよ」

「サンキュー」ごくごく

「はぁー、しんどい。これは死ぬしかないわ」

「またまた」

「良い話があるんだ。ほらアイス買ってきたから食べよ」

「本当?」

「今日も暑いし且つ酒で喉が焼けている君にピッタリだと思ってさ。どれにする?」

「やっぱもなかアイスでしょ!!」

「じゃあ僕はオレンジシャーベットで」


二人でアイスを食べながら友人が口を開く


「昨日、ゲームをしながら考えんだけど。何か力になれることはないかなって」

「俺に対して?」

「うん」


「んで、君に住むところと職を紹介しようかなと思う」

「マジ!?」

「あぁ、君が寝た後親父に電話してこのマンションの空き部屋をひとつ君に貸すことが出来ないか聞いてみた」

「そしたら?」

「OKだって。さらに君がちゃんと職に就き、安定して暮らせるようになるまで家賃を無料にしてあげると言っていた」

「本当か? 神様お父様ありがとう」

「ちょ、近いって。酒臭いし。ほら一階104のキーだ。朝一で親父が届けてくれたんだぞ」

「助かる。本当にありがとう。生きる希望が見出せた。死んでも感謝するわ」

「いいよ、困った時はお互い様だろ?」

「だからお前と友達はやめられない」

「えへへ」

「元気になってよかったよ」

「んで、職なんだけど」

「おう」

「特別に僕からこれを君にあげよう」


そういって一つのパソコン用ソフトを取り出す


「なにこれ、初音ミク?」

「なにこれ…… って初音ミクを知らないの?」

「なんかAV女優みたいな名前だけどアダルトアニメ?」

「痛いっ!! ちょっごめん。やめろって」

「ミクさんをAV女優と一緒にするな」

「ったくこれは音声合成ソフトでメロディと歌詞を入力するとその通りに歌ってくれる電子の歌姫なんだ」

「そ、そうなの?」

「動画サイトやネット上でかなり有名なんだぞ。むしろ知らない人が未だにいるとは」

「パソコンは仕事以外では使わないもので……」

「んで、このソフトがなんで職になるんだよ?」

「ふふん、現在初音ミクさんのユーザーは世界にもたくさん存在するんだ」

「その中でそれぞれ自身の歌を作り、ネット上にアップロードされている」

「その歌がネット上で大ヒットするとCDになったり、ゲームに採用されたりしているんだ」

「へぇー」

「つまり音楽クリエイターとして活躍してくことがミクさんと一緒なら簡単に出来るんだ」

「なるほど」

「頑張ってなりな」

「はーいって、俺は音楽知識がまったくないぞ。そんなんでどうやって……」

「そこまでは面倒見切れないよ。嫌なら普通に就職活動すれば?」

「君は愛想が良くないし、口も悪い。おまけに抜けているところが多いから苦労が多そうだけど」

「けっ、社会人になったことがない人がよく言うよ」

「マンションから出てってもらおうかな」

「よーし、ミクさんと一緒に天下を取ってやるぜー!!」

「それでよろしい」

「ミクさんだって安い女じゃないんだ。一万以上するしね」

「結構高いのに悪いな」

「いいよ。僕もミクさんは3人いたからね。使用しているものと観賞用と保存用」

「君には僕が保存用としてもっていたものを特別にあげるよ」

(そんなに必要あるのだろうか……)

「初音ミクを使って曲づくりをしてるの?」

「僕は何曲かつくってアップロードしたことあるよ。結果は散々だったけど」

「へぇー」

「まぁ僕は文章を書く方が中心だからそんなにこだわらなかったけど」

「頑張ってみなよ。それとこれもあげるよ」ガサゴソ


そう言って野菜や米といった食材がたくさん入った袋を渡される


「おぉ!!」

「アイスを買うついでに食材も買ってきたから数日は大丈夫だろう」

「恩にきります。ありがと」

「んじゃ、頑張れよ。同じマンションだから何かあったら遊びにきなよ」

「あぁ、そしたらな」


新しい部屋に着き、ドアを開ける


「おー、綺麗だし、広いな。だけど家具や家電は買わないと」

「あと数十万ぐらいなら貯金が残っているはず」

「とりあえず、暑いから窓を開けてと」

「本当はまだ二日酔いが残っているからダラダラしていたいけど」

「この初音ミクってやつをインストールしてみるか」

「幸い職場のノートパソコンは持ってきているから起動して……」

「このソフトをパソコンに入れて…… よしよしインストール中だ」

ガガッ—— ピー


「なんかパソコンからへんな音が出ているけど大丈夫か?」

ガリガリガリ———


「ちょっ、ウィルスじゃないだろうな?」


—インストールが完了しました—

「だ、大丈夫? うまくいったのか?」


その瞬間画面が光に包まれる


「うぉっ、まぶし!! 何、何だこれ!?」

ミク「よいしょ、やっと出れた〜」

「!!?」


パソコンの画面からパッケージの女の子から出てきた。
これはまだ酔っているのか。それともこういう仕様なのか。


「なんで画面から……」

ミク「こんにちはマスター、初音ミクです。よろしくね」

「そんな馬鹿な。画面から女の子って今時もてない男子の妄想みたいな事って」

急いでパッケージに説明書がないか確認する
するとちいさな名刺ほどの紙切れが入っていた


「なんだこれ? えっと…… おめでとうございます。あなたはアンドロイド研究所から選抜された選ばれしマスターです。お使いになった初音ミクとあなたはこれから信頼関係を結び、曲制作にあたってください。まずは下に表示されている電話番号までご連絡をお願いしますって……」


「と、とりあえず電話すればいいのか?」

ミク「?」

プルルル——


「はいアンドロイド研究所です」

「あの電話しろって言うので電話したんですけど」

「えっと…… もしかして初音ミクのご購入者ですか?」

「まぁそうですけど…… 正確にはもらったのですが……」

「お待ちしておりました。今お時間ってありますか?」

「えぇ、まぁ」

「初音ミクをインストールしましたか?」

「はい」

ミク「ねぇねぇ、マスター」

「ちょ、ちょっと待ってろ」

「大丈夫ですか?」

「はい」

「おそらく、初音ミクが具現化し、あなたの前に現れていると思います」

「確かにいます」

「なぜ具現化し、あなたの前に現れたのか詳しく説明をしたいので住所を教えていただきますか? 研究所の者が伺います」

「えっ!?(すげぇあやしいんだけど)」

「個人情報は守られますので安心してください」

「わ、わかりました。じゃあ、言いますね……」



住所を話した後、1時間ほど待っていてくださいと言われ
待機することになった

ミク「じー」

「何だよ」

ミク「なんかお酒臭い」

「悪かったな」

ミク「ねぇ」

「何だよ」

ミク「あそこにあるネギ食べたい」


友達からもらった食料のネギを指す


「ネギ? 調理器具がないけど……」

「それでもいいなら……」

ミク「いいの? やったー」

(そのアホっぽい声なんとかならないかな。力抜ける)

まるごとネギを食べ始めるミク


「ちょ、そのまま食べるのか?」

ミク「? おいしいよ?」

(すげー、こいつ)

ミク「ごちそうさまでした」

ミク「ねぇ、マスター」

(ネギくさっ……)

「何だよ」

ミク「ミク、歌、歌いたい」

「いや、その歌はちょっと待って」

ミク「ミク歌いたい、ミク歌いたい」

「その自分のことをミクと呼ぶのをやめろ。アホっぽい」

ミク「えー、じゃあなんて言えばいいの?」

「私でいいだろ、私で」

ミク「わかったー」

「ったく」


ピンポーン


「こんばんは」


現れたのは還暦を過ぎたように見える年配の男性と
自分と同じくらいの年齢の若い男性の二人だった
若い方はスーツ姿、年配の方は白衣をまとっていた

「初めまして、アンドロイド研究所で研究員をしている助手の藤田です」

「研究所で博士として今回初音ミクを完成させた伊藤だ。よろしく」

「あっ、はい」

ミク「この人たち誰?」

「久しぶりだね。ミクちゃん」

「無事出てこれて良かった」

「あの、ミクの説明を」

「そうだったね。いきなり本人が出てきて驚いただろ?」

「本来、初音ミクと言うのはクリプトン・フィーチャー・メディアという会社が発売している合成音声ソフトなんだが」

「もちろんこのように具現化してしゃべるソフトではない」

「私たちアンドロイド研究所は非公式に初音ミクを始めとしたボーカロイドをアンドロイドとして自在に意思を持ち、動き回るようなロボットを作っている組織だ」

「我々の目的は自在に動き回れるボーカロイドを完成させ、その技術を繁栄させて技術料やボーカロイド本体を普及させ懐を潤わせようという考えのもと日夜研究を重ねている」

「これが成功すれば日本にとっても歴史的な一ページになると私たちは考えているんです」

「まぁ、確かにそうですね」

「そして私は研究を成功させ、見事自在に動き回る意思を持ったボーカロイドを完成させた」

「だがまずテストプレイを行わなければならない。そこで問題が出た」

「?」

「私たち身内でテストプレイを行おうとしたのだがボーカロイドは本来音楽クリエイターのもとにいなければならない存在。私たちでは100%音楽を作ろうと気持ちを持って彼女に接することが出来ない。どうしても彼女の動きの部分や発声の部分に目がいってしまうからな」

「また裏切り者はいないと思うが製造部分に関与してた者がテストプレイをし、結果を余所に情報として売ったりする可能性も考えて」

「テストプレイ者はアンドロイドの専門性を持たない音楽クリエイターが一番適していると結論が出た」

「そこで私の助手が初音ミクをクリプトンから出荷する際にスパイのように忍び込み、私たちが制作したアンドロイド型初音ミクをこっそり混ぜて、お店に並べるように仕組んだのだ」

「しかし、お店に並べられ買い手が見つかったところまでは良かったのだがその買い手が中々インストールしてくれなくてな」

「インストールしてミクちゃんを見てくれないと説明しようがありませんからね」

「まだかまだかと私たちは待ちくたびれましたよ」

「ということで君にはテストプレイをしてもらう。それがこの報酬だ」


そう言い、床に札束が3つ置かれた


「300万ある。協力してくれるかな?」

(すげぇ、大金…… これもらっちゃえば一気に奈落人生が天国人生じゃないか)

「やります。俺やります!!」

「おぉ、助かる。そしたらこれからのことについて話そう」

「君は初音ミクをインストールしたということは音楽制作をするつもりだと思うが」

「その活動は引き続き行ってくれ。パソコンで曲を作り、本体のミクに歌わせてあげてくれ」

「ただ作るだけじゃなく、ミクを一人の人間のように接し、信頼関係を育んでくれ」

「そうやって信頼関係を作りつつ、過ごしてくれたらそれでいい」

「何か問題や不具合を感じたらすぐに連絡をしてくれ」

「わかりました」

「あともうひとつこのアンドロイドはまだ世に公表していない」

「完成していないうちに世に出て騒ぎになると面倒になる」

「ミクを家に閉じ込めたままにしろとは言わないが出来るだけ人に見つからないように頼む」

「曲を作り信頼関係を育むこと、公にしないこと。この2点を守ってほしい」

「約束してくれるかな?」

「了解です」

「それじゃ。前金として150万今君に渡そう」

「ある程度情報が蓄積され、約束事も守れていたならテストプレイ終了後に残りの150万を渡すこととする」

「受け取りたまえ」

「ありがとうございます(一気にくれるわけじゃないのか)」

「では私たちは失礼するよ」

「失礼します」


二人は部屋を後にする
ドアを開けた際に日が落ちて少し涼しくなった夕方の風が窓を通して二人を撫でていった。



「さて、これからだが」

「よろしくな、ミク」

ミク「うん!!」


今回はここまでにします。

これは期待

乙ー
期待

乙したー

ミクで普通に曲作る話だと思ったらなんと言うことだ・・・!!

俺は悩んでいた
パソコンの前に座り込みずっとにらめっこ状態。
額には軽く汗がにじんでいる


ミク「マスター、曲できた?」

「ダメだ、ダメだ!! ちっとも出来ねぇよ」


頭をがむしゃらに掻き毟る


「だいたいイロハもわからないのにいきなり曲作れなんて無理だし」

ミク「そうなの?」

「おまけに暑いし、集中力も切れるって」

ミク「実際に怒ってるもんね」

「弱ったな。これじゃ出来る見通しなんて立てられない」

ミク「どうすればいいのかな?」

「うーん、とりあえず休憩にしよう。腹減った」

ミク「ご飯?」

「そっ。豚肉のネギ炒めでも作るか」

ミク「やったー。ネギ、ネギ」


ミクと初めて会ってから3日が過ぎた。その間に家具や家電を揃え
ようやく新生活をスタートさせたという感じだ。
ミクが来てからというものネギ料理が多くなったのは言うまでもない。
スーパーに彼女を連れていくと買ってとせがまれるのだ。


「フライパンに油をひいてっと」

ミク「ランランラン〜」

「楽しそうだな」

ミク「マスターの料理おいしいから」

「今度教えてやるよ」

ミク「ホント? 作れるようになりたいな」

ミク「でね。マスターにごちそうしてあげる!!」

「それはありがたいな。でも何を教わりたいんだ?」

「一人暮らし長いから大抵なものは作れるぞ」

ミク「んーとね。ビーフシチューとハンバーグ」

「なんでそのチョイス?」

「まぁいいや。さて出来たぞ。食べようか」

ミク「わーい」

ミク「おいしい〜」

「ネギがあると本当においしそうに食べるな」

ミク「ご飯食べ終わったら何するの?」

「うーん、それなんだけどちょっと遠出してみないか?」

ミク「どこいくの?」

「いやね、部屋にこもりきりだとインスピレーションが湧かないからさ」

「気分転換でもして創作意欲を高めようと思って」

「そうだな…… 暑いしプールはどうだ?」

「でもそもそもミクは水大丈夫なんだろうか?」

ミク「わかんない」

「普通は機械に水は天敵だけど」

「アンドロイド研究所に聞いてみるか」


プルルル—

「はい、アンドロイド研究所です」

「あの初音ミクについて聞きたいことがあるんですが伊藤博士はいらっしゃいますか?」

「少々お待ちください」

「はい、伊藤だが」

「博士、ミクについて聞きたいんですが」

「どうした?」

「ミクって防水性ですか? プールに連れて行きたくて」

「そんなことで電話したのか? こっちは暇じゃないんだぞ」

「す、すみません」

「基本的に連絡は深刻なエラーが発生したときのみだ」

「ミクは防水性になっているから水も大丈夫だ。というより本当に大丈夫かどうか確認するためにテストプレイをしている」

「君の中でミクが出来ること・出来ないことを自分で見つけ、確認しておくように」

「そして情報をまとめておき、私たちがミクについて聞いてきたときになんでも答えられるようにしておいてほしい。それがそのままテストプレイの結果となるのでな」

「なるほど」

「では切るぞ」

「ありがとうございました」

ミク「どうだった?」

「大丈夫みたいだ。確認のためにもプールに行っておこうか」

ミク「そうだねー」

「ていうかミクは水着持ってないよな」

ミク「うん」

「買いに行かなくちゃな」

「まずはショッピングだ」

イオン——

ミク「ここ、スーパーより大きいね」

「あぁ、ここは何でも揃う素晴らしい場所だからな」

「さぁ水着売り場に行こう」

水着売り場——

ミク「わぁ、いろんなのがある」

「俺はよくわからないが好きなの選んでいいぞ」

ミク「これかわいい」

客1「ねぇ、あの子髪の毛緑色よ」

客2「そうね、服装も変だし。なにかのコスプレかしら」ヒソヒソ

(なんか変な目で見られている)

(やっぱミクって目立つよな……)

(もしかしてばれた?)

(この服装のまま出歩くのはまずいか……)

「ミク、水着決まったか?」

ミク「えー、まだ決まってないよ」

「何でもいい、早く決めろ。ビキニでもスク水でも何でもいいから」

ミク「じゃあ、これ」

「店員さん、会計お願いします」

「4257円になります」


急いで財布を取り出す


「4257円ね」バリバリ


「ありがとうございました」

「ミク、服も買おう。この服のままだと怪しまれる」

「本当は髪の色もなんとかしたいけど地毛っぽいからな」

ミク「マスター、太っ腹」

「とりあえず早く服を買って着替えよう」



その後服売り場でピンクのスカートとお花の髪飾り、デニムのジャケット、Tシャツ・ズボンを何枚か買ってすぐに女子トイレで着替えさえた


ミク「どうマスター?」

「これならばれないと思う。多分」

ミク「……」

「ん、どうした?」

ミク「何でもない」

「? んじゃプールに行こうか」

ミク「うん」



市民プール——

「やっぱり混んでるなー」

ミク「マスター、お待たせ」

「おぉ!! よく似合っているよ。かわいい、かわいい」

ミク「ホント……?///」

(しかし自己主張しない胸だな。なんで人間が作ったものなのに理想的な体型にしなかったのか)

(元々歌を歌わせるものだからいいのかもしれないがどうせなら外見特に胸もこだわればいいのに)

ミク「……なんか変なこと考えている?」

「いや、小さい…… 小さい子もいるから遊ぶ時は注意しろよ」

ミク「うん」

ミク「水の中って冷たくて気持ち良いね」

「だな」

軽くバタ足をして泳ぐのを見てミクも真似する

ミク「えい、えい」バタバタ

「お、おい沈んでいるぞ」

ミク「た、助けて」

「まず水に浮く練習からだな。大きく息を吸ってうつ伏せになってみな」

ミク「怖いよー」

「最初は怖いさ。度胸、度胸」

ミク「わかった。やってみるね」

ミク「すぅー。よし」


ブクブク——


「沈んでいるぞー!!」


急いで引き上げる
顔がビショビショになった状態で眉をひそめて彼女は言う

ミク「浮かないよ。何で?」

「もしかしたら素材が浮かないのかもな。防水性があっても沈んでしまうのか」

ミク「うー」

ミク「違う遊びがしたい」

「ビーチボールでも持ってくればよかったな」


その時、後頭部にポンっとぶつかった


「んっ? ビーチボールじゃないか。神様からのプレゼント?」

女の子「すみません。当たっちゃいました」

「あぁ、はい。どうぞ」

女の子「ありがとうございます」

「そんなうまくいかないか」

女の子「ねぇねぇ、あの人の彼女。初音ミクに似てない?」ヒソヒソ

女の子2「確かに髪緑色だし。彼氏の趣味?」ヒソヒソ

女の子「かもね。あははは」

(……なんかヒソヒソ話してるな。もしかしてあの人カッコいいとか話してたりして)


バシャ—


「うわっ」

ミク「アハハ、マスタービショビショ」

「やったな。俺を怒らせるとどうなるか見せてやる。」

息を大きく吸い、水中にもぐりミクの足を持ち上げ体をひっくり返す

ミク「きゃっ!!」

「どうよ。こんなの女子にやったら100%嫌われるコースだけどそんなの関係ねぇ」

ミク「ぷはっ」

ミク「やったな。さらにおかえし」


ミクは俺に飛びつき、二人は水の中に沈む。
ちょうど俺が下敷きになり、ミクが俺の上に馬乗りになっている状態だ。
本来なら人間なら浮かんでこれるがミクが上に乗っかっているためプール底にピタリとくっついている。

(んんっ、息が……)

(ミク、そろそろそこどいてくれ。苦しい!!)

ミク「……」ニヤニヤ

(!!)

(こいつ、呼吸しなくても大丈夫なのか!!)

(ちょっ、マジやばい。ギブギブ。みくさんそこどいてー!!)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ミク「楽しかったねー」

「天国を見た」

ミク「それほど楽しかったの?」

(天然なのか。嫌味なのか)

ミク「なんかお腹すいた」

「確かにな」

「そこのコンビニでアイスでも買っていくか」

「いらっしゃいませー」

「ミク、どのアイスが良い?」

ミク「うーん、マスターは?」

「俺はもなかアイスにしようかな」

ミク「じゃあ、私もそれで」

「お願いします」

「いらっしゃい……!?」

「?」


店員が驚いた表情でミクの方を見てきた。
その時、さすがにばれたかと思ったがあえて俺は何事もなく平然と装った。


「いくらですか?」

「あっ、はい。125円が1点——」


そう言えばこの店員。ミクの事を驚いた表情でみたが店員もかなり変わった風貌をしている。美人だが髪の色がピンク色で喋り方もぎこちない。

(外国人かな?)

「合計250円になります。ポイントカードはおもちですか?」

「えっ何それ怖い?」

「えっ?」

「いや、嘘です。持ってません」バリバリ

「ちょうどお預かりします」

「ありがとうございました……」

(なんか愛想ないなあの店員。ていうか怒っていた!?)

ミク「ねぇねぇ、溶ける前に食べよう」

「あぁ、どうぞ」

ミク「いただきます」

ミク「うん、おいしい」

「だろ? もなかにはずれはないんだよ」

ミク「ネギアイスってないのかな?」

「ないと思うぞ」

ミク「なんだ残念」

「あそこのコンビニ、バイト募集してたな。働いてみようかな」

ミク「50円玉と100円玉間違えたらダメだよ?」

「さすがに間違えねーよ」



その後家に着いたが、その日の夜は二人とも疲れてすぐに寝てしまった。

ルカさん?

朝、今日も相変わらず暑かった。こんなに暑いとやっぱり俺は……


「あぁ、暑くて曲作りなんてやってられっか!!」

ミク「確かに暑いよね。なんか体中熱い」

「そりゃ、夏だから……」

ミク「うーん…… クラクラする」

「……!! もしかしたら機械だから熱に弱いのかもな」


体を触ってみると確かに熱くなっていた
起動熱みたいな熱の帯び方だったためこのままこの場所にいるのはまずいと感じた俺はある案を思い浮かぶ。

「よし、ミク移動しよう」

ミク「どこへ?」

「夏と言ったらキャンプ!! とっておきのキャンプ場知ってるんだ」

「そこは穴場で人も少ないからミクを安心して外に連れ出すことが出来るし」

「ここみたいにコンクリートジャングルではなく、森や川に囲まれているから涼しいぞ」

「そうと決まればさっそく準備だ!!」

ミク「マスター楽しそう」


確かにプール時もミクは楽しんでくれていたが何より俺が一番楽しんでいた。
もしかしたらミクと一緒に昔味わったあの夏休みをもう一度したいと心のどこかで思っていたのかもしれないな。

今日はこの辺にします。

おつ



元ネタOdds&ENDS?

おつ

再開します。
特に元ネタはなかったのですが言われてみれば境遇似てますね。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

キャンプ場



ミク「やっとついた!!」

「なぁ、この時期がピークだけど全然人いないだろ?」

ミク「そうだね」

「さて、暗くなる前にテントと夕食作りだ。手伝ってくれ」

ミク「あいあいさー」

「よし、テント完成だな」

ミク「ここで寝るんだ。楽しそう」

「次は夕食作りだ」

ミク「何を作るの?」

「ビーフシチューとハンバーグ」

ミク「!! この前言っていたこと覚えてくれていたんだ」

「もちろん」

「さぁ、一緒に作ろうぜ。教えてあげるよ」

ミク「うん、頑張る」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「で、玉ねぎが透き通ってきたら他の野菜も入れてくれ」

ミク「わかった」

「おれはちょっと用事があるから席をはずすな」

ミク「えっ、どこにいくの?」

「すぐ戻るよ」


岸辺——

「よしこれをセットしておいて夜には……」


そのあとミクの所に行き料理を再開する。彼女は初めての割には上手で物覚えも早かった。
これもプログラムの一部なのかな



ミク「完成!!」

「んじゃ、食べてみようか」

「モグモグ」

「おぉ、ビーフシチューもハンバーグもどっちもうまいぞ!!」

ミク「マスターが手伝ってくれたからだよ」ドヤァ

「セリフと表情が一致してないぞ」

「ごちそうさま」

ミク「お粗末さま」

「よし、デザートと行くか」

ミク「デザート?」

「こっちにおいで」

ミクを岸辺まで案内する


ミク「綺麗な川だね」

「とても透き通っていて魚もたくさんいるんだぞ」

「そんな水で冷やしたスイカはさぞおいしいだろうな」


そう言って川の水で冷やしておいたスイカを持ち上げる


ミク「わぁ、スイカなんて用意していたんだ」

「あぁ、食べようぜ」


包丁を使い、二つに切ると赤くみずみずしい中身が顔を出す。


「全部は食べきれないな。とりあえずこれぐらいでいっか」


八分の一サイズに切り分けたものをミクに渡す

ミク「いただきます」

ミク「……冷たくておいしい。それに甘いよ」

ミク「果物の中で一番好きかも」

「スイカは野菜だ」

ミク「ネギと同じなの!?」

「ネギ基準なんだな」

ミク「へー、すごいね野菜」

「さて夕食が終わって暗くなったところで」

ミク「寝るの?」

「ちょっと早い。これやろうぜ」


とり出したのは花火セットであった。


ミク「花火って初めてみる」

「そりゃ好都合。これ持ってな。今火つけっから」


ミク「うわっ」バチバチ

「大丈夫だから。しっかり持ってな」

ミク「本当だ。綺麗」

(あんなに背筋伸ばして動くことなくじっと見ている必要はないんだけどな)

(なんか初めてだから緊張している? なんかおもしろい)

ミク「じー、あっ、消えた」

「そりゃ消えるさ、火薬がなくなれば」

ミク「お花と違って命が短いんだね」

「瞬間の美しさっても悪くないだろ?」

ミク「人間ってすごいね。自然にある花とは違うけどそれに負けないくらい綺麗なものを作れるんだ」

「ミクも人間が作ったものだよ。人間の科学ってすごいよな」

ミク「私はこんなに綺麗じゃないけどね」

「それはミクが決めることじゃない。人間が決めることだよ」

ミク「そうなの?」

「けどミクが存在しているのは必要とされているからさ」

ミク「えっ?」

「人間が作り出すものには全て理由があるんだ。ミクには難しいかもしれないけど需要というのがあってこの花火も人々が花火やりたいという気持ちがあるから存在しているんだ」

「もし全ての人間が一人も花火をやりたいと思わなければ花火はずっと存在せず姿を消しているだろう」

「ミクも人間の手によって作り出され、存在している」

「ミクにそばにいて欲しいからこうやっていられるんだよ」

ミク「私も人間、……マスターがいないとダメだよ」

「……うん?」

ミク「私は人間と一緒じゃなきゃ、歌えないし生きていけない」

ミク「人間に利用されて初めて生きている心地を覚えるの」

ミク「この花火もしゃべりは出来ないけど」

ミク「もし話せたら私と同じ意見だと思う」

「そういうものなのか?」

ミク「大事に使ってもらえた時がすっごい安心できるし、なにより幸せなんだ」

「ミク……」

「俺、頑張るよ。もう少し曲づくり頑張って幸せだと感じさせてあげたい」

ミク「マスター……」

「……」

ミク「……」

(なんか恥ずかしい雰囲気になっちゃったな)

「よし、これぐらいにして今日は寝るか」

ミク「えっ、うん」


テントに戻る二人——

「よし、じゃあおやすみ」

ミク「おやすみなさい」

「いびきかくなよ」

ミク「かかないよ」

ミク(テントってせまいな。マスターとの距離が近い……)

ミク(なんかドキドキして眠れない)

ミク(う〜)

ミク(こういう時、落ち着く方法があるってマスターの家のテレビでやってた)

ミク(確かえんしゅうりつ?ってやつを頭の中で数えるんだっけ?)

ミク(3.1415926……)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ミク(5000878……)

「ミク、起きているか?」

ミク「ちょっと今忙しい」

「横になっているのに? つーか起きているのか」

ミク「あ、ごめん、マスター何?」

「いやさ、寝れなくて」

ミク「私も」

「外に出ないか」

ミク「いいよ」


二人はテントから出る


ミク「でも何をするの?」

「上見ろよ」

ミク「上?」


見上げると夜空一杯星が輝いていた
今にもこぼれおちそうなほど散らばっている星を見て彼女の眼も輝いていた


ミク「すごーい」

「だろ? こんなの普段見れないから貴重だぞ」

ミク「マスターは素敵なものいっぱい知っているね」

「子どもの時に知ったんだ。そういや大人になってからはこういうの見つけてないな」

ミク「大人になると見つけられなくなるの?」

「わかんない。ただ子どもの頃は大人になりたくないなってずっと思っていた」

ミク「大人になった今、子どもに戻りたい?」

「うーん、こうやって素敵なものを教えられるから大人になるのも悪くはないかな」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


チュンチュン——
小鳥の鳴き声で彼女は眼を覚める

「おい、起きろ」

ミク「ん、朝?」

ミク「外……」

「ふたりで寝そべりながら星を見ていたらそのうち寝ていたみたいだな」

ミク「ふぁ、体がギシギシする」

「さぁ、移動するぞ」

ミク「へっ?どこに」

「樹海に。ロープを持って」

ミク「えっ?」

「嘘だよ。森さ。森林浴しに行こう」

二人はキャンプ場から少し離れた森へと移動する


「早朝の森が好きでさ。朝の日差しと木々の香りが癒されるんだよな」

ミク「確かになんか涼しい気がする」

「空気も美味しいし、小鳥のさえずりが心地よい」

ミク「そだね」

ミク「ん?」

「どうした? ミク?」

ミク「なんか人影を感じた……」

「まさか、早朝の森に人なんか来るか」

「いや、でも山菜取りのおばちゃんくらいなら来るか……?」

パシャ—

「シャッター音?」

「誰かいるのか!?」

茂みの中に入り、辺りを見渡す


ミク「誰かいた?」

「いや、いない。なんか気味が悪いな」

ミク「あー!!!!」

「どうした!?」

ミク「みて、あそこに木の上にリスがあるよ」

「驚かすな!!」

ミク「ネギ食べるかな?」


そう言って背中から一本のネギを刀のように取り出す

ミク「ほらほら、おいで〜」

「食べねーよ。つーかいつの間に隠し持ってたんだ」

「もう十分気分転換になったし、そろそろ帰るぞ」

ミク「わかった」モグモグ



その後テントをたたみ、二人は家へと帰って行った。

ここまでにします

乙!!

乙。ミクの自我はあくまでボカロなんだな。
そんで、早速なんか来たか!?

支援
はよ

次の日

「うーん、こうでもないし……」

ミク「マスターご飯だよ」


キャンプでハンバーグとビーフシチューの作り方を教えて以来、ミクは週に一回はその二品を作ってくれるようになった。ただ毎回セットのためボリュームが多くてネックだが


「サンキュー、ミク」

「いただきます」

ミク「マスター、順調?」

「へっ? まぁなんというかちょっと手こずっているというか、かなり手こずっているというか、全く手こずっているというか……」

ミク「曲づくり難しいんだ」

「まぁ、わかりやすく言うと」


キャンプでミクを幸せにすると言ったからには曲づくりを頑張りたいとパソコンの前を陣取り、曲づくりを頑張っていたのだが知識がないためどうやっても進まない。
なので俺はインターネットを使い、知識量をまずは増やすべきだなと思っていた。
しかしそこでふとした素朴な疑問が生まれる。

「そういえばミクってどれくらい有名なんだ?」

俺の友人は世界の歌姫だとかなんとか言っていたけど
そこまでなのかと動画サイトで彼女の名前を検索する


「いちじゅうひゃく…… 90万件の動画が見つかりました!? 」

「こんなにあんの!?」

「お前って有名人なんだな」

ミク「すごいね。私って」

「他人事みたいだな」

「つーか一部のオタクの人たちしか知らないものだと思っていたがこんなに人気なのか」

(これは確かに公にしたらまずいな)

(もっと最善の注意を払うべきだったな……)

ミク「この動画私がネコミミつけているよ。こっちはイカの格好しているし」

ミク「これはナースの格好? この曲おもしろそう!! ねぇねぇこっちもクリックしてみて」

「そんなに一度に言われても困る。ちょっと落ち着け」

ミク「だって私がいっぱいだからつい……」

いくつかの動画をクリックし曲を聞いた後に
DTMの基礎知識のため慣れないネットサーフィンをし、情報収集を始めた。
基礎知識を仕事用に使っていたメモ帳に書き写し、頭に叩き込ませる。
しかし一時間ほどで弱音を吐き始め、休憩がてらなんとなくネットサーフィンをだらだら続けているととあるネットニュースが目に入ってきた。


≪衝撃!! 電子の歌姫、初音ミクは実在する!?≫


このタイトルを見た瞬間、背筋が凍った。まさかとは思いながら恐る恐るその記事をクリックし開いてみる。そこにはここ最近とあるイオンや市民プールで初音ミクを見たという目撃情報が寄せられており、ネット上で話題になっていた。
一度記事になるとその繁栄スピードは凄まじく、色んなSNSで話題になっており、あることないことがニュースサイトやSNSで書き込まれていた。

「……まずい」

ミク「どうしたのマスター?」

「ちょっと見てみな」

『○×店のイオンで初音ミクを見た』

『ただのそっくりさんだろ。勘違い乙』

『プールにもいたらしい』

『プールってwww 機械が水に入れるわけねーだろ』

『俺も焼き肉屋でこの前見た』

『なんか男といたみたい』

『ミクさんが男と一緒なんて…… 人生終わったわ』

『とりあえず髪が緑でツインテールならミクなのかよ』

『○×高校に通っているらしいぞ』

ミク「これって私たちの事?」

「あぁ、情報がバラバラだが俺たちのことだろう」

「どうしよう…… 博士には公にはするなって言われていたのにこれだと怒られる」

ミク「ネットで違うよって書いたら?」

「そんなの信憑性がなければ意味ないし、大体本当だからごまかし切れねーよ」

ミク「私どうなるんだろ?」

「とりあえず、曲づくりとか言ってる場合じゃねぇ。この噂をもみ消さないと」

「そのうち新聞やテレビにまで紹介されてしまう」

「そんなことになったらもう終わりだ」

ミク「マスター……」

「くそっ、くそっ、どうすれば」


ピンポーン——
家のチャイムが鳴る


「誰だ? こんな時に!?」


玄関に向かい、ドアを開けると
あのミクをプレゼントしてくれた友達が前に立っていた


「よう、元気? 曲づくり順調?」

「なんだお前か。驚かすなよ」

「愛想ないな。せっかく遊びに来たのに」

「お邪魔するよ」

「!! ちょっと待て!!」

「何で?」

「いや、その、部屋散らかってるし。今片付けるから」

「いいよ。気を使わなくても」

「いやいや、どうしても綺麗な部屋で招待したいからさ。な?」

「どれくらいかかる?」

「そしたら3日後あたりに来てくれれば……」

「おい」

「冗談。じゃあ5分で」

「わかったよ。それにしてもなんでそんなに焦ってるんだ?」

「速攻で片付ける」バタン

「質問に答えろよ……」

「ミク、どっか隠れろ。急げ!!」

ミク「へっ?」

「いまから俺の友達が来る。見つかるとまずい」

ミク「どこに隠れればいいの?」

「パソコンから出てきたんだから、パソコンに戻れないのか?」

ミク「パソコンの中は狭いから嫌」

「わがまま言うなよ。んじゃ、押し入れの中でも隠れてろ」

ミク「えー、狭いよ」

「その広い心を持ってせまい押し入れで一つお願いします」グイグイ

ミク「ちょっと、押さないで」

「よし、その布団の間に隠れてな。物音立てるなよ」ピシャ

ミク「暗いよー、狭いよ—」

「我慢してくれ。すぐに返すから」

「5分たったからお邪魔するよー」

「お、おう入れ」

「なんだ綺麗じゃないか。家具・家電もしっかり揃えているんだな」

「まぁな」

「しかも結構いいものじゃないか。貯金ほとんどないような言い方してたのに良く買えたな」

「ポンッと150万手に入ったからな」

「嘘だろ!?」

「嘘だよ」

「ったく」

「まぁ、座りな。コーヒーでも飲むか?」

「いただくよ」


台所に立ち、お湯を沸かす


「んで、曲づくりはうまくいっているの?」

「いや、色々知識を貯めこんでいる最中。お前良く曲作れたな」

「大変だろ。それだけ苦労してアップしても中傷の声ばかりだから嫌になったんだ」

「なるほどね」

「まぁ、このペースだったら完成は程遠いかな。君のことだから完成させずに放り投げそうな気もするけど」

「失礼な。これでも完成はさせたいと思っているさ」

「そういうお前こそ、ライトノベルだっけ? あれはどうなったんだよ?」

「今コンクールに応募している。選ばれるとデビューの可能性があるんだ」

「ふーん、せいぜい頑張れ。ほらコーヒーおまちどう」

「ありがとう。アチチ」

「ミルクと砂糖、ここに置いておくぞ」

「どうも。それより知っている?」

「何が」ズズッ

「初音ミクが実在するって噂」

「ぶはっ」

「汚いな」

「いや、タイムリーだなと。俺もついさっきネットニュースで見た」

「しかもこの地域で見たという情報が有力らしいぞ」

「いやー、この近くにミクさんがいるかもしれないと想像しただけで生きる希望が湧くよな」

「そうかな」

「もし実際にミクさんがいたら何してもらいたい?」

「お前は?」

「そりゃ、一緒にカラオケ行って歌を歌ってもらったり、膝枕なんてのも……」

「人生楽しそうだな」

「そういう君は?」

「うーん、ビーフシチューとハンバーグを作ってもらいたいな」

「なぜそのチョイス?」

「知らん。本人に聞いてくれ」

「?」

「なぁ、実際には初音ミクはソフトで存在しないんだからさ、あのくだらない噂を止める方法ってないもんかね」

「無理だろ。もうネット上では有名になりつつあるし」

「人の噂も75日」

「つまり時間に身を任せるしかないんじゃない?」

「それだとダメなんだよ」

「噂になるとまずいことでもあるの?」

「いや、別に。ただお前みたいな淡い希望を頂いてしまう人を少しでも現実に戻してあげたくて」

「言うねぇ」

「本当に友達なんだろうか?」

「友達に決まってるだろ。だからこそだよ」

「口だけは達者なんだから」

「でも企業で商品をアピールするのにネットの口コミを利用したりすることもあるから」

「逆の発想でそういう噂はでたらめだったという噂を広めれば静まるかもね」

「まぁ、ネットに熟知して頭が良くないと工作出来ないと思うけど」

「なるほど」

ガタガタ—

「!? 押し入れの方から物音がしたような気がするけど」

「気のせいじゃない?」

「えー、ぜったいしたよ」

「いや、ゴキブリじゃないか。触角みたいだし」ボソッ

「最後の方何て言った?」

「何でもない」

「さっきからなんかコソコソしてるな。なんか隠しているだろ?」

「それでその隠し物が押し入れの中というわけか」

(こういう時に限って鋭い)

「何を隠しているのかな」ガラッ


一気に押し入れの扉を開く

「バカッ……」

「……あれ」

「なんだ布団だけか。何か隠していると思ったんだけどな」

「つーか許可なく人の押し入れ開けるなよ」

「いや、ごめんごめん」

「気分悪くしたわ。お前はさっさと帰って抱き枕とチュッチュッしてな」

「わかった。帰るよ。部屋の様子と曲づくりを進行状況が知りたかっただけだし」

「せいぜい曲づくりに奮闘してくれたまえ。新米マスターくん」

「けっ、お前も言うじゃないか」

「類は友を呼ぶんでね。それじゃ」バタン


「ふぅ、何とかばれずに済んだぁ」

「でも、なんで押し入れに隠れたはずなのにいなかったんだ?」

「おーいミク」

ミク「マスターもういい?」


そういって押し入れから彼女が出てくる


「押し入れの布団の間にいたんじゃなかったのか?」

ミク「それだとサンドウィッチの具材にされた気分だったから布団の裏側に移動したの」

ミク「その時に音が出ちゃったのかも」

「まぁ、見つからなかったから良かったけど。冷や汗かいたぜ」

ミク「なんかマスターのお友達って懐かしい感じがするね」

「声しか聞いてなかったのになぜそう感じるんだ?」

ミク「さぁ?」

「なんだかんだでもう21時か。」

ミク「寝るの?」

「お子ちゃまの君はもう寝なさい。ここからは大人の時間だ」

そう言ってシャツを着て、ポケットに携帯と財布を入れる


ミク「えっ、どこ行くの?」

「ちょっと今後のことを考えたいから散歩に行ってくる」

ミク「私も一緒に行きたい。行こう!!」

「ダメだ。ただでさえ噂になっているのに一緒に歩きまわれるか」

ミク「……残念」

「留守番頼む。チャイムが鳴っても出なくていいからな」

今回はここまで〜

おつ

そう言って俺は夜の街の方へ歩いて行った。
夏の夜というのは個人的に好きで気温も下がり、過ごしやすい。
そのため夜がにぎやかというのが寂しくなくて良い。
駅の方まで歩くと仕事終わりのサラリーマンがビアガーデンでおいしそうにビールを飲んで語り合っていた。


「ビールうまそうだな」


その光景を見てお酒を入れながら、今後を考えようと決めた。
しかし一人でビアガーデンと言うのはあまりに寂しい。
そこで一人でも飲めそうな飲み屋を探すことにした。


「出来ればBARみたいなとこが良いんだけど」

「人通りが落ち着いた駅の裏の方とかはどうだろうか」

そこから数分移動し、飲み屋街に入る。


(この辺、あんまり知らないんだよな。どっか入りやすい感じの店はないか)


飲み屋街には居酒屋やBARもあったのだがいまいちピンと来なく
どのお店に入ろうか躊躇していた。
そんな時にある一軒のお店を見つける。

「スナック:アンチェインド・メモリーか」

「スナックっていったことないな。おっさんが行くようなイメージだったけど……」

「せっかくだし入ってみようかな。こういうピンとこない時は新しい分野の開拓に限ると思うし」

「いらっしゃいませ」


店内はあまり広くなくカウンターとテーブル席が4つあるだけだった。
客層はやはり年を重ねた男性客が多く常連さんの印象を受けた。
俺はカウンター席の一番隅に座る。

「ご注文は?」

「とりあえずビールで」

カウンター奥の棚を見るとラベルの付いたウィスキーや日本酒がたくさん置かれており
たくさんのお得意さんがいるのだとしみじみ感じられた。


「おまちどうさま」

出てきたビールグラスを口に持っていき、傾ける
良く冷えており、この時期にはたまらない。炭酸と麦の味が体に染み込み活力を与えてくれる。


「あぁ〜 うまいなぁ」

「お客さん、美味しそうに飲むね。お酒好きなの?」

「えぇ、まぁ(つい声を出してしまった)」

「それならあの娘と合いそうね」

指をさした先には俺が座っている椅子から3つ先にうつ伏せになっている女性がいた


「彼女もお酒が好きでよくここに一人で来るんだけど、いつもウジウジして悪酔いしているの」

「同じ女性として放っておけなくてね。ちょっと相手してあげてくれないかしら?」


そう言って日本酒を俺に持たせ、席の移動を促す


(ちょっと待てよ。いきなり見知らぬ女性の相手しろって言われても……)

(大体、一人でスナックに来て酔い潰れる女性とか痛々しくてもう……)

「あの〜」

「はい……?」

「伏せていましたけど大丈夫ですか?」

「えぇ、まぁ、なんとか」

「これ、店のマスターからの差し入れなんすけど」

「一人じゃ飲みきれないんで良かったら一緒に飲みませんか?」

「いいの?」

「はい。横失礼します」

「どうぞ」


コップに日本酒を注ぎ、彼女に手渡す


「ありがとう」ゴクゴク

「良い飲みっぷりで」

「はぁー、もう駄目だ」

その女性は白髪で目の下にはクマ。
長身でスタイルが良いが顔がやつれており、負のオーラが漂っていた。


「何がそんなにダメなんすか?」

「初音ミクって知ってる?」

「えっ?」ドキッ

「知っていますけど……」

「私、初音ミクを使って曲づくりをしている音楽クリエイターなんだ」

「けど、全然使いこなせなくって」

「色んな人が初音ミクで輝いている姿を見るともうやってられなくて」

(えらい偶然……)

「いや、俺もミクを使って曲づくりをしているんですよ」

「本当? 一緒だね。こんなとこで同業者と会えるなんて」

「そういえば、自己紹介まだだったね。私は弱音ハク。よろしく」

「弱音ハク? なんかボーカロイドみたいな名前……」

ハク「私はボヤキロイドだから」

「はぁ……」

ハク「それと敬語じゃなくて良いよ。年も近そうだし」

「それじゃ…… ハクさんは何曲ぐらい作っているんだ?」

ハク「十数曲は作っているんだけどどれも不発で」

「……」

ハク「人生ツマンネ」グビッ

「そんなに飲んだら……」

ハク「君はいつから曲づくりを?」

歳が……近い……?

「つい数日前に。まだ情報収集段階で」

ハク「まだ1曲も作ってないんだ」

「まぁ……」

ハク「私みたいにならないようにね」

「……」

ハク「私なんてこのスナックで一人で酔って、次の日二日酔いで後悔する毎日を送るんだ。おばさんになっても」

ハク「あー、死にたい」

ハク「この日本酒おいしいね」ゴクゴク

「良く飲むなぁ」

ハク「一日中飲んでいられるよ」

ハク「さぁ、君も」

「おっと、いただきます」

ハク「飲み比べ勝負だぁ」

「マジかよ…… というかもうすでに出来上がってるような」

ハク「まだまだぁ」ゴクゴク

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ハク「うぃー。ひっく」

「本当に大丈夫か?」

「大分飲んだね。二人とも。もう閉店するんだけど大丈夫?」

「い、今何時っすか?」

「深夜3時だけど」

「もうそんな時間。帰らないと」

「8400円になります」

「た、高くありません!?」

「二人分だからね」

そう言って店の縁で酔い潰れているハクを指さす。


「なるほど……」

「お持ち帰り代金だと思えば安いでしょ?」

「悪いんだけど持ち帰りは出来ない」

「あら既婚者だった? でもお店の外までは付き合ってあげて」

「そうですね」

「じゃあ、ありがとうございました」

この辺にしときます

どうなる

ミク怒るだろ

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「んじゃ、ハクさん。俺はここで」

ハク「……」

「? だいじょう……」

ハク「うっ……」ゲロゲロ


地面の下を見たかと思えば、耐えきれなく吐き出してしまう

「おい、しっかり」

ハク「ダメかも」フラフラ


少し自分で歩いたと思ったらすぐに地べたに倒れてしまう。
目の焦点は合っておらず顔は赤色なのか青ざめているのかわからない奇妙な色をしていた。


「まいったな。いくらなんでもこのまま放り投げて家に帰るのはひどいか」

「かといって家に連れて帰るわけには…… ミクもいるし……」

「うーん……」

ハク「うーん……」

その場で数分考え込むが結局お酒も入った頭では良い案も特に浮かばず
俺がとった行動は……

「ほら、おんぶするから。乗りな」

ハク「いいの? よーし」

「全然力が入ってないよ。しょうがないな。よいしょ」

ハク「……zzz」

「寝ちゃったか……」

(それにしても胸が背中に当たって……)

「……タマンネ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ただいま。ってもうミク寝ちゃってるかな」

ミク「マスター遅い!!」

「うわっ、まだおきていたのか!? 4時過ぎているんだぞ」

ミク「別に寝なくても平気だもん」

ミク「というかマスター。後ろの女の人誰? 二人してお酒臭いし」

「えっと一から話すとだな」

ミク「なるほど、それで連れてきたんだ」

「まぁな」

ミク「なんかその人と仲よさそうだね」

ミク「そのスナックで何やってきたの?」

「だからさっき言ったように酒飲んで話しただけだって」

「別にやましいことはしてねーよ」

ミク「ふぅん」

「ハクも曲づくりをしているんだ。かなりベテランみたいだしな」

ミク「私のことも知っているんだ」

「あぁ」

ミク「そしたらここに連れてくるのはまずいんじゃない?」

「メリットがなにもないが、そのままにしておけなくて」

「目が覚めたら帰ってもらう。んでその間お願いがあるんだが」

ミク「何?」

「ハクが帰るまでパソコンの中にいてくれ。それなら確実に見つからない」

ミク「嫌」

「頼むよ」

ミク「私、ずっと長い間インストールさせずにただただソフトとして」

ミク「ようやく、自由に歩けるようになったのに」

ミク「また動けなくなるのは嫌だよ」

「ミク……」

「頼むよ。見られるのがまずいのはミクも同じだろ」

ミク「……」

ハク「スヤスヤ……」

ミク「もう、わかったよ。でも私が見てないところでハクさんにエッチなこととかしないでね」

「しないよ」

ミク「約束だからね」

パソコンの中に戻っていくミク——


「はぁ、もう朝になるよ。寝よう」

太陽が真上に登る頃に彼女は目を覚ました——

ハク「うん…… ここは?」


気付くと彼女はベッドの上におり、すぐ横の下にはスナックであった男がタオルケットに包まって寝ていた。


ハク「えーと、この人はスナックで会って…… それから……」

ハク「……ここは私の家じゃない。ということは」

「……うーん」

ハク「ビクッ」

「起きていたのか。おはよう」

ハク「私、飲み過ぎて何にも覚えていないんだけど……」

「俺と会ったのは覚えている?」

ハク「うん」

「それから二人で飲み明かして閉店までいたんだ。そのあとハクさんは足元がおぼつかなくとても一人で帰れる雰囲気じゃなかったから俺の家まで連れてきたというわけ」

ハク「そうだったんだ」

「待ってな。今、味噌汁でも作るよ」

ハク「そんな悪いよ」

「いいよ、俺も酒が入りすぎているから飲みたいところだったし、テーブルの上に水があるだろ? 飲みなよ」

ハク「ありがとう……」

ハク(何にも覚えてないけど私、変なことしてないよね……?)

ハク(家まで招いてもらって恥かいてたら嫌だな)

「お待ちどう。どうぞ」

ハク「おいしそう。いただきます」

ハク「おいしい!!」

「飲んだ後の味噌汁ってなんでこんなに旨いんだろうな?」

ハク「なんか迷惑ばかりかけてごめんなさい。ベッドまで使わせてもらって」

「別にかまわないよ。あの状態みたら放ってはおけないし」

ハク「あなたに対してお礼をしなくてはいけないね」

ハク「私に何か出来ることはない?」

「いや、別に気にしなくても大丈夫……」

(まてよ……!?)

「あのさ、ミクを使っているならある噂の事知っているか?」

ハク「噂? あの本当は存在するんじゃないかっていうネットニュースの事?」

「そうそれ」

ハク「夢があっていいわよね。今は無理だけどあと何十年かしたら実現しそうな気もするよ」

「あの噂をもみ消す方法ってないかな?」

ハク「えっ?」

「ちょっと個人的にあの噂は広まってほしくないんだ。ハクさんはネット上で広まった噂を止める方法知らないか?」

ハク「うーん」

ハク「私はそういうの良くわからないけど、友達に詳しい人がいるよ」

ハク「その子なら何とか出来るかも。紹介しようか?」

「本当か? 助かるよ」

もしかして金髪サイドテールの子かなぁ…

ハク「じゃあ、連絡先を教えて。そのうち……」

「今日紹介してほしいんだが」

ハク「ずいぶん急いでいるのね。私は構わないけど……」

ハク「そしたらこの後私の家に来てくれる? 紹介するね」

「あぁ、さっそく行こう」




〜〜〜〜〜〜〜

弱音の自宅



ハク「ただいま」

「遅い、朝帰りどころか昼帰りって飲んだくれもいい加減にしろ」


ハクの顔もよく見ず彼女は携帯の画面に集中ながらぶっきらぼうに言葉を吐き捨てる


ハク「ごめん。ごめん」

「ったく、今日はあんたの食事当番だって言うのにぃぃ!?」

「お、おい後ろの男は誰だよ!? いつの間に」

ハク「やっと気付いた? 実はこの方、昨日の夜にいつものスナックで出会ったの」

ハク「私が酔っぱらって歩けない状態から介抱してくれたんだ」

「あんたも変なもの拾うなよ」

(変なものって……)

ハク「でね。何かお礼がしたいと言ったら初音ミクが実在するという噂を揉み消してほしいというから私がネルを紹介しようと思って連れてきたの」

ネル「ふーん。あたし、亞北ネル。よろしく」

「あぁ。よろしく」

ネル「別にハクとあんたがどう知り合ったかは興味ないし、私自身初音ミクがどうこうっていうのも興味ない。一番興味があるのはなんであんたがその噂を消したいかだ」

「それは……」

ネル「……」

(どうする? 本当のことを言うか? でもそれだと)

「いや、世の二次元に理想を抱く男性に現実を見せてやりたくって……」

ネル「嘘つくなよ」

「!!」ドキッ

ネル「そんな理由でわざわざ見知らぬ私を訪ねてこないし、あんた一瞬どもった」

ネル「嘘はばれるよ」

(こいつ俺より明らかに年下のくせに鋭い)

「こうなったら……」

「わかった。本当のことを言うよ。俺もかなり追い込まれている身だからな」

「何で消してほしいかというとミクは実在し、俺の所に今いるからだ」

ネル「……」

ネルにミクとの出会い、博士との約束。これまでの行為全てを打ち明ける

「さぁ、全部話したぞ。ここまで晒したんだ。この秘密を知ってしまった以上協力してもらうぞ」

ネル「どう思う? ハク?」

ハク「へっ?」

ネル「この人本当のこと言っていると思う?」

ハク「確かに夢話みたいな内容だけど……」

「そんな……」

ネル「大体、ハクはあんたに恩があるのかもしれないけど私はあんたに借りがあるわけじゃないし。協力する義務はないんだよね」

「そんな……」

ハク「ネル、私からも一つお願い。彼を助けてあげたいの」

ネル「……まぁ、ハクがそこまで頼むなら協力してもいいよ。ただし二つ条件がある」

「何だ?」

ネル「一つは協力して例え揉み消せなくても私たちは責任を負わないこと。ダメなときは何をやってもダメだしね」

「わかった。もうひとつは?」

ネル「初音ミクに会わせて」

「えっ?」

ここまでにします

おつ

ネル「本物を見れば納得するから」

ネル「条件飲む?」

(今までミクを紹介したことがないが大丈夫か?)

(しかし、もう頼みの綱はないし、ここまで話したんだから)

(2人にはミクを紹介して、協力してもらうしかない)

「わかった。ここに連れてくるから待っててくれ」

ネル「んじゃ、待ってるわ」


そう言って再び携帯を取り出し、いじくり始めた

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ミク起きろ」


パソコンから声をかけ、画面をのぞきこむ
しかし彼女は画面から出てこない

「どうすれば出てくるんだ?」

「ソフトを起動させればいいのかな? ポチっと」

その瞬間画面上が光り、部屋一面が白い光に包まれる


「まぶしっ……」

ミク「ふぁ、マスター? やっと出れたよぁ」

「ミク、噂を消してくれる可能性がある人を見つけた。これから会いに行くぞ」

ミク「急に言われても」

「さぁ、いくぞ」グイッ

ミク「ちょっとぉ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「連れてきたぞ」

ミク「えっと初めまして。初音ミクです」

ハク「本当にパッケージのままだ」

ネル「コスプレじゃないよな」

「あぁ、別に調べてもらっても構わない」

ハク「確かに人間の皮膚とは違うね。かなり近いけど」

ネル「ふーん。まぁ確かにこんな目立つのを連れ歩けば噂になるな」

「確かにその部分はうかつだった。さぁ、連れてきたんだ。もういいだろ?」

ネル「わかったよ。ハク、パソコン借りるよ」

ハク「うん」

「何をするんだ?」

ネル「大体、噂になっているのはニュースサイトやSNSだろ? そのサイトに行って印象操作をする」

「?」

ネル「まぁ見てな」

『ミクが現実にいるわけがない。常識的に考えて』

『お前ら踊らされすぎ』

『だいたいはっきりとした証拠もない』

『コスプレだろ。ロボットを作って連れ歩くという可能性もあるがクリプトンやその他技術方面から見てもそんな発表はされていないし、極秘に扱っていたとしてもそれこそプールやイオンで出会えるはずがない』

『二次元のものが本当に存在するとでも?』

『もう飽きた、寝る』

「反論ばっかり書いているけど?」

ネル「そうやってこの騒ぎを鎮めるのさ」

「効果あるのか?」

ネル「出所(ソース)がはっきりしていないなら、多少はね」

ネル「とにかく数だ。あちこちのサイトで反論する。且つやり過ぎにならないくらいに」

ネル「変に荒らしと捉えられて炎上したら面倒だからな」

「詳しいんだな」

ネル「防火ロイドですから」

ネル「よし次のサイトだ」


次々とサイトに言葉を残し、工作していく。


ネル「あんたも携帯持っているなら手伝いな」

「わかった」

ネル「さぁ、ネット界を引っかき回すよ」

ハク「ネルガンバ!!」


数時間を費やし、一通りの工作活動は行い終えた。もちろんネルの残した言葉に反論する人もいたが賛同するものも多く、味方がどんどん増えて行くたびに印象操作は簡単になっていった。

数日後——


「あれからしばらく経ったけど噂をするものがほとんどいなくなっている」

ミク「新しいミクニュースも出てないね」

「効果があったんだ!! 助かった〜」

「ネルにお礼をしなくちゃな」

プルプル——


「電話だ。ネルからだ」

ネル「もしもし」

「ネル、おかげで噂はほとんどなくなったよ。ありがとう」

ネル「その事なんだけど話したいことがある。近くのファミレスで会わないか?」

「あぁ、かまわないかけど」

ネル「あとミクは連れてくるな。家に留守番させておいて」

「……わかった」

ネル「じゃあ後で」

「……」

ミク「どうしたの?」

「ちょっとこれからネルと会いに行く」

ミク「じゃあ私は……」

「悪いけど家で留守番していてくれ」

ミク「なんで私ばっかり。私もネルちゃんに会いたい」

「ミク、今外に行くとまずいのはわかるだろ」

ミク「だってこの前も一人で外出てさ、4時まで出歩いてそのあと私をパソコンに戻したんだよ」

ミク「マスターは私の事を大事だと思ってないの?」

「思っているさ。だからこそ」

ミク「最近マスターと全然一緒にいられない」

「ミク、わかってくれ。多分すぐ戻ってくるさ」

「留守番頼む。前と同じでチャイムは出なくて良いからな」バタン

ミク「……」シーン

ミク「寂しいよぉ」グズッ

この辺で
また近いうちに書きます

乙です

どうなる

髪型変えるとか出来ないのかね

髪の毛染めようとすると、緑色に発光している発光ダイオードだったとか言うオチで染められないとかあるのかな。だったらカツラがあるじゃない、とか言われるかもしれないが

〜〜〜〜〜〜〜〜

ファミレス


「よぉ、なんだよ用事は?」

ネル「あぁ、まぁ座りな」

ハク「マスターさん何食べる?」

「えっとじゃあステーキで」

ネル「私もそれで」

店員「ご注文はお決まりでしょうか?」

ハク「ステーキ二つとパスタ一つください」

ネル「何だよハク。空気読みなよ」

ハク「えっ?」

「確かに全員同じものにした方が割り勘しやすいよな」

ハク「なるほど」

店員「どうしますか?」

ハク「そしたら全員パスタで」ニコッ

「!?」

ネル「!?」

店員「かしこまりました」

(ハク、なんと恐ろしい子)

ハク「パスタ楽しみだね〜」

「……」

ネル「ところで、騒ぎの話なんだけど」

「あぁ、ネルのおかげで収まったよ」

ネル「確かに収まったが一つ気になることがあって……」

「何だよ?」

ネル「2ちゃんねるって知っている?」

「あぁ、なんか聞いたことあるわ。匿名の掲示板だろ?」

ネル「そう、その掲示板には様々な板があってその中にVIPという板があるんだけど」

「あるとどうなるんだ?」

ネル「そこの住人たちがまだミク存在説を信じているの。というより信じるようになった。という言い方の方が正しいかな」

「なんでだよ。揉み消しきれなかったということか?」

ネル「いや、そういうわけじゃない。再燃したといったほうがわかりやすいか」

「なんで?」

ネル「VIPで一枚の写真がアップされたの」

「えっ?」

ネル「これなんだけど」


ネルの携帯からその写真を見ると驚愕した。
それは俺とミクが写っている写真だった。
場所は前に行ったキャンプ場の森だ。
そういえばあの時、シャッター音がなったような気がしたがまさかに今になってとは

「やっぱり撮られていたのか……」

ネル「心当たりあるのか?」

ネル「もうとあるキャンプ場の森の中だというのも特定されている」

ネル「この写真が新たな燃料となってネットの奴らが祭り状態になっているんだ」

ネル「それで今、そこの住人がとある計画を立てている」

「計画?」

ネル「初音ミク捕獲計画だ」

ネル「自分たちで情報をかき集めてミクを捕まえてネットに晒したら俺ら英雄じゃね?となっていて今すごい早さでレスが書き込まれている」

ハク「でも情報は嘘かも知れないし、顔も知らない人たちが協力するなんて無理だと思うけど」

ネル「けどあいつらは嘘も本当にするからな……」

「だったら前みたいに工作してくれよ。そうすれば……」

ネル「うーん、写真があるとなると……」

「それだって合成とか何とかいえば」

ネル「すでに言われていて信じていない人もいるがあいつら相手にごたごた言っても無駄の可能性が高い」

ネル「正直、あたしでもあいつらは相手にしたくないし、下手するとこちら側も被害が加わる危険もある」

店員「パスタ3つお待たせしました」

ハク「おいしそう。いただきます」

「せっかく騒ぎが収まったって言うのにまた一難かよ」

ネル「バカ、今回は騒ぎどうこうよりもっとまずい部分がある」

「えっ?」

ネル「確かに表面上は前回と同じネット上で噂になっている部分と同じだが真相は違う」

ネル「まず写真を撮られた部分。この写真は調べた感じだと他のサイトから引っ張ってきたわけではなくVIPで初めて貼られた物だ」

ネル「この写真を撮ったのはその板の住人つまりvipperということになる」

ネル「またこの写真はそこら辺の街ではなく人気が全くない森の中だ」

ネル「あんたとミクがあのキャンプ場の森に行き、その時偶然にも初音ミクを知っていてカメラを持ったvipperに会って写真を撮られる確率ってどれくらいだと思う?」

「なるほど」

ネル「つまりこの写真を撮った奴は最初から二人を撮るために森に行っている」

ネル「というよりずっと二人をつけてきていたんだろう」

ハク「ストーカー? なんでまた?」

ネル「あんたはなんでだと思う?」

「俺? えっと…… きっとどこかで俺とミクを見て本物だと気づいて、そして写真撮れば証明できるみたいな感じ?」

ネル「そんなかわいいものだといいけどね」

「どういうことだ?」

ネル「今、あいつらは初音ミクを捕まえようとしている流れになっている」

ネル「あくまであたしの想像だから外れているかもしれないけど」

ネル「写真をアップされただけで本物のミクを捕まえようという流れになるかなって思ってさ。それになったとしてもそこまでの流れが綺麗すぎる」

ハク「つまり誰かがネルのように印象操作をして、捕まえようという流れにさせたということ?」

ネル「そういうこと。最初から初音ミクもしくはあんたに被害を受けさせたい何者かが写真を撮り、ネットにアップし、ミクを捕まえようという流れを最初から考えていて実行しているんじゃないかなって」

ハク「マスターさん、敵を作るようなことしていたの?」

「いや、そんなことしてないし。自らミクを紹介したことあるのはハクとネルだけだ」

「そんな中、ミクを憎んでいる奴なんていないと思うんだが……」

「まぁ、俺は恨みを持たせるようなこと色々しているような……(会社にも大きな損失させたし)」

ネル「もしくは二人に、かもしれないしね」

「でもちょっと深読みしすぎじゃないか? 流石にそこまで……」

ネル「言っただろ? 私の想像だって。全く違ってただ祭りをやりたいだけかもしれないし」

ネル「まぁ、話は以上だ。どっちにしてもちょっと注意して過ごした方が良い」

「この祭り状態はどうするんだ?」

ネル「まぁ、様子を見守るしかないと思うな。下手に手を出さない方が賢明」

「うーん……」

ハク「ごちそうさまでした」

短いですがここまでにします

ヤバげだな
パスタで笑った

〜〜〜〜〜〜〜〜〜
帰り道

(これからどうしていけばいいんだ。せっかく落ち着いたと思ったのに)

(帰ってミクに報告したらまた悲しむな。なんか機嫌取りにアイスでも買ってやるか)


以前二人で立ち寄ったコンビニに入る
そこには前にいたピンク色の髪をした店員が今日もいらっしゃいませと言ってきた


(またあの店員だ。目立つからすぐ覚えちゃった)

(それよりアイス、アイスと俺はモナカで、ミクは……)

(おっ、ネギアイスなんてあるじゃん!? 新発売か。これなら喜ぶな)


ネギアイスに手を伸ばそうとした瞬間——

「今日はミクと一緒じゃないんですね」


思わず手が止まった。
こいつ今何て?
ミクと一緒? 何でミクを知っているんだ?
このピンク色の髪の店員は何を言っているんだ?


「ミク? えっとミクってなんでしょう?」

「しらをきっても無駄ですよ。私がミクを知らないわけないじゃないですか」

(こいついったい何者だ? 前の一回会っただけでミクだと判断したのか?)

「ふふ、驚いた顔をしていますね。伊藤博士と藤田研究員ご存知ですよね?」

「……!? なんで知っている?」

「私も伊藤博士に作られたアンドロイドだから」

「!!」

ルカ「私、巡音ルカって言います」

「信じていいのか?」

ルカ「もちろんです」

ルカ「私は初音ミクの後に作られたアンドロイドです。」

ルカ「ほら証拠にミクと同じで左腕に番号がふられているでしょ?」

「確かに左腕に03という数字が、ミクは01だったが」

ルカ「私を知らないんですか?」

「有名なのか?」

ルカ「一応、クリプトンから最初に初音ミク、その次に鏡音リン・レン、そして三番目に巡音ルカが発売されています」

ルカ「私は3番目なので3の数字なんです」

「そして博士がアンドロイド化に踏み切ったと」

ルカ「そうです」

「まさかミク以外にもいるとは……」

ルカ「ミクが存在することは知っていましたが最初に会った時は驚きました」

ルカ「でも特に声はかけませんでしたよね?」

「あぁ、なんで今になって声をかけた?」

「それにあんたみたいな有名なボーカロイドがコンビニで働いていて大丈夫なのか?」

ルカ「気になることいっぱいありますよね?」

ルカ「このあと時間ありますか? 一緒にそのことについてゆっくり話し合いたいのです」

「でも俺は帰らないと……」

ルカ「ミクのマスターさんの自宅でも良いですよ?」

「いや、自宅は……(ミクが嫌がるだろう)」

ルカ「でしょうね。それじゃあ外で。私良い場所知っているんです」

「えっ? わ、わかったよ。少しの時間だけでいいならよろしく頼む」

ルカ「じゃあ行きましょう」

「お、おいまだバイトがあるんじゃないの?」

ルカ「店長私、もうここのバイト辞めますね。給料もいらないです。少しの間でしたがお疲れ様でした。さようなら」

店長「え? ちょっとルカさん? どこ行くの? 辞めるっていきなり言われても。おーい!!」


こうして二人は店を後にする——


「おいおい、仕事辞めてよいのか?」

ルカ「えぇ、今日はあなたに会えた大事な日ですもの。仕事どころじゃないわ」

「これからどこに行くつもりなんだ?」

ルカ「駅の方に行くつもりよ。そこの裏に好きなスナックがあるの」

「奇遇だな。俺も一つ知っているよ」

ルカ「これから案内します。ついてきてください」

「あぁ」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ルカ「ここです」

「アンチェインド・メモリーじゃないか。知っている一つはここだったんだよ。ここ良いよな」

ルカ「はい。それにしても趣味があいますね」

「いらっしゃい。好きな席へどうぞ」

ルカ「私、カウンターが好きなんだ」

「んじゃ。カウンターで」

ルカ「何飲む?」

「そしたらビールで」

ルカ「私はカシオレでお願いします」

「了解。少し待っててね」

ルカ「ちょっとまだお酒を飲むには早い時間ですかね。人も少ないし」

「そうだな。んで、色々聞きたいが」

「なぜコンビニで働いていて、俺らの事を知っていながら今さら声をかけてきたんだ」

ルカ「私、マスターがいないんです」

「へっ?」

ルカ「昔はマスターと一緒に暮らしていたんですがそのマスターが私にひどいことばっかりして一緒にいるのが苦しくなったんです」

ルカ「そのあとマスターと別れ、一人で生きていくことにしたんです」

「それでコンビニのアルバイトを選んだということか」

ルカ「はい」

「お待ちどうさま」

ルカ「来ましたね。頂きましょうか」

「あぁ」

ルカ「ふふ、やっぱりここのお酒は良いですね。良い酔い方がここだと出来ます」

「そういうものかな」

ルカ「はい」

「なんで初めての時ではなく、2回目の時に話しかけたんだ」

ルカ「元々、2回目に会った時は運命の日だと決めていました」

「?」

ルカ「いずれにしても私からあなたに会うつもりだったんですよ」

ルカ「でもあなたから来てくれたんでちょうど良かった」

(なんか答え方が質問と逸れているような)

ルカ「あれ? ちょっとあそこの壁の写真見てください」グイッ


(胸が腕に……!!)


ルカ「あそこにあるギター持って歌っている女の人ってマスターですか?」

「そうよ。昔は歌を歌ってお客さんを楽しませていたの」

ルカ「羨ましいな。私も歌いたい」

「前のマスターは歌わせてくれなかったのか?」

ルカ「はい、一度も」

「ミクも良く歌いたいと言っていたよ」

ルカ「ボーカロイドは歌うのが最大の喜びですから」

ルカ「ささっ、ビール飲んで」

「あ、あぁ」ゴクゴク

「ねぇ、あなた。さっきの時ビールに……」

ルカ「なんですか? マスター?」

「いや、何でもないわ。気のせいだと思う。多分」

ルカ「……」

「へっ、ビールが何だって?」

ルカ「マスター、この方にビールのおかわりを」

「はい」

「おっ、悪いね」

「おまたせしました」

「ありがとう」

ルカ「どう、お味は?」

「おいしいよ。キンキンに冷えてやがる」

ルカ「それは良かったです」

「んで、さっきの話だけど何で……」ズキッ

ルカ「どうしました?」

「いや、なんか冷たいのを飲んだせいか頭がキンキンしてきたような」

ルカ「そうですか」

「あれ、酔ったかな?」

ルカ「そうですか」

「ん、何だって?」

ルカ「もう酔ったのですか?」

「ましゃか、まだ2杯目だし」

ルカ「呂律が回ってないですよ」

「……うっ」

ルカ「大丈夫ですか? 今日はもう引き上げた方が良いですね」

「……」

ルカ「マスター、ご馳走様でした。この方は私が面倒見ます」

ルカ「さぁ、いきましょう」

「あぁ……」

「あ、ありがとうございました」

二人は店を出る
日は暮れ、仕事終わりのサラリーマン達がこれから自宅や飲みに出ようとし、駅周辺は混雑していた
ピンク色の髪をした女性がフラフラになった男の腕を抱えながら歩いている

ルカ「なんだか駅は騒がしいですね」

ルカ「……もっと静かな場所に行きません?」

「……ひっく」

ルカ「こんなに即効性があるなんて知らなかったわ」

ルカ「テトがいうに薬・違法板で入手したからかなりのものだって言っていたけど」

ルカ「死なないわよね」

「……」

ルカ「さぁ、行きましょうか。二人でゆっくりできるホテルに……」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ミク「はぁ、マスター遅いな。ファミレスってそんなにご飯出てくるのに時間がかかるのかな?」

ミク「もう日が暮れそうだよ……」

ミク「もしかしてマスターの身になんかあったんじゃないかな?」

ミク「それだったら大変。探さないと」

ミク「でも家から出るなって言われたし……」


ピンポーン——


ミク「ビクッ」

ミク「だれだろ? でもいないふりしなくちゃ」


ピンポーン——

ピンポーン——


ミク「……」ドキドキ

「あのー、どなたかいないのですか?」

「アンドロイド研究所から来たんですけど」

ミク「!! アンドロイド研究所って私を作った所だよね?」

ミク「研究所の人たちなら開けても良いよね?」

ミク「というより開けないとまずいかも。重要な話だったりして」

「大事な話があるんですよ〜」

ミク「やっぱり。はーい今開けます」ガチャ

「いやー、初めましてボク研究員の重音テトと言います」

ミク「テトさん? ミクです。よろしく」

テト「あれー、マスターはいないのですか?」

ミク「はい、ちょっと出かけています」

テト「そうなんだ、やっぱりあそこで見かけたのが君のマスターだったんだ」

ミク「ここに来るまで見かけたのですか?」

テト「うん、髪がピンク色のした綺麗な女の人とホテルに入っていたのを見たお」

ミク「ピンク色の髪? ネルちゃんでもハクさんでもない……」

テト「マスターはその人と二人っきりだったよ、そもそも二人以上で入る所じゃないしね」

ミク「誰だろ? それにホテルになんか行って何をするんだろ?」

テト「そりゃ、あれしかないよ」

ミク「あれって?」

テト「百聞は一見に如かず。そのホテルに行ってマスターとその人が何をしているかみたらいいじゃないか」

ミク「でもマスターにここから出るなって言われているし」

テト「マスターの言うことは絶対? へぇ、純情に出来ているもんだな〜」

ミク「?」

テト「いや、失礼。でもマスターが何やっているか気になるでしょ?」

テト「マスターがダメって言っても研究員のボクが許可するお。ボーカロイドとしてマスターの行方をしっかり確認するのは義務でしょ」ドーン

ミク「た、確かに……」

テト「じゃあ、出発の準備をしなくちゃね」ニヤニヤ

ミク「わ、わかったー。待っててください!!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


テト「さぁ、この部屋の向こうに君のマスターと女の人がいるお」

ミク「そうなんだ。部屋の番号までわかるなんてすごいね」

テト「ギクッ」

ミク「ギクッ?」

テト「何でもないお。研究員として知っているのは当たり前だよ」

ミク「なるほど」

テト「鍵はかかってないから入ってみなよ」

ミク「うん」

ミク「お邪魔します。マスター?」ガチャ

部屋にはベットの上に裸になった男と女。
女が男の腕を組み、寄り添っていた。


ミク「えっ……」

ミク「ま、まっ、ます、ますたぁあっぁぁー!!」


二人のことなどお構いなしに思いっきり叫ぶ
元々高い声だがさらに高音になり、超音波みたいに部屋中響き渡る


「ぐはぁ、なんだ? この声? ぐっ、頭がズキズキする」


彼女の叫び声に俺は起きる
高音とお酒のせいか頭が割れるように痛い


「……つーかどこだここ?」


辺りを見回して状況を確認しようとするが
冷静になっていくほどすごい状態だと確認される

「ミク? なんでここに? っていうか俺なんで裸!?」

「ルカまで? 二人が裸? えっ、マジ!? そういう…… いやでもそんな馬鹿な」


とりあえずパニック状態の中わかったことは
ここがどこのホテルだが知らないが俺とルカが裸で一緒にいるのをミクが見てそれで叫んだということだ


ミク「ひ、ひどいよ。マスター…… なんで、なんで」

ミク「私信じていたのに。なんで?」

「いや、ミク。これには理由が…… というより俺が理由を知りたいくらい……」

ミク「マスターの馬鹿!! もういいよ!!」

「ミク!!」


顔を下に向け、ツインテールを揺らしながら部屋を飛び出す

「待てって」がしっ

「んっ?」

ルカ「待ってよ。邪魔が入ったけどここでやめるなんて言わないですよね?」

「いや、やるもやらないも俺何も覚えてないんだが」

ルカ「ひどい、私に恥をかかせる気ですか?」

ルカ「早く続きを……」

「どういう成り行きが後でゆっくり聞きたい。今はそれどころじゃないとりあえずミクを追う」

「ここで待っていてくれ」


急いでそばにあった服を着て部屋から出る


ルカ「ちぇっ、もうちょっと長く留めておこうと思ったのにな」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ミクが走りながらホテルから出ると入口のそばにテトが待ち構えていた


ミク「はぁ、はぁ……」

テト「やっぱり飛び出してきたんだね」

ミク「わかってて私にあの扉を開けさせたの?」

テト「もちろん」

ミク「なんで!?」

テト「そうしろってルカと打ち合わせしてたんだ」

ミク「ルカ? あのピンク色の髪の人の事?」

テト「さぁ、これでボクの仕事は終わり。後は好きにさせてもらうよ」

ミク「何のこと?」

テト「そぉい」


テトが素早くミクの後ろに回り込み、頭につけているヘッドホンのボタンを押す


ミク「ちょ……」

ミク「……」

テト「本当に止まった。スリープモードに移行したな」


そのまま彼女を抱き抱え、移動する


テト「重いお……」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ミク「ん…… ここは?」

テト「スリープモード解除っと」

テト「ようこそ我が砦に」

ミク「動けない……」


ミクの体は縄で縛られ、拘束されている状態であった。


テト「念願の初音ミク捕獲計画が成功した!! さぁさぁなんてスレで立てようか」

テト「よーし」カチャカチャ


『初音ミクを捕まえた。安価で行動する』


テト「ちょっと写真撮るね」パシャ

ミク「えっ?」

テト「よーしスレ立て完了と」ターン

テト「これなら念願の1000までいけそうだ」ワクワク

ミク「何をする気? ちょっとほどいてよ!! 助けてよ!!」

テト「それをあいつらに決めてもらうんだお。そろそろレスが溜まったころかな」

ミク「研究員がアンドロイドにこんなことをしてもいいの?」

テト「えっ?」ピタッ

テト「ぷぷっ、まさか本当に研究員だと思ってたの?」

ミク「ち、違うの?」

テト「ざまぁwww 研究員なわけないじゃないか。ボクは元々コンビニアルバイトの端くれ店員だし」

ミク「そ、そんなぁ」

テト「研究所のことやミクの機能は全部ルカが教えてくれたことだお」

テト「知識があったおかげで騙しやすくなったということさ」

テト「さてそろそろレスが溜まったころかな」

『あの初音ミク捕獲計画ってスレの便乗?』

『嘘乙』

『うpもなしに』

『わー、すごーい』

『うpしたってどうせ二次画像ってオチだろ』

テト「ふふ、この写真をみれば本物だと信じるしかない」


今とった写真をネット上にアップロードする

『縛りとかお前とは良い酒が飲めそうだ』

『えっ本物!?』

『コラだろ。暇人め』

『噂ってマジだったの!?』

『そうやって盛大な釣りをやろうとしているのが見え見え』

『なんでもいい、安価はよ』

テト「みんな注目し始めているな。よーしじゃあ>>30をしよう」

ミク(うっ…… 誰か助けて……)

30『ミクのパンツうp』

テト「エッチなのは嫌だな。でも安価は絶対だし……」

テト「わかったお」カタカタ

テト「ミク、ちょっとスカートの中失礼するよ」

ミク「い、嫌ぁあぁぁ!!!」

今日はこの辺で

乙です

テトめ……

「はぁはぁ、ミクの奴どこまで行ったんだ?」

「くそ、家に戻っているかな?」


プルルル—


「電話だ」

「はい」

ネル「もしもし、あたしだ」

「ネルか、大変だ!!」

ネル「私も同じセリフを言おうと思っていた。どこまで把握している?」

「!? よくわからない。何がどうなっているのか俺も教えてほしいくらいだ」

ネル「そうか。よく聞いて。どういう流れでこうなっているかはわからないが」

ネル「今、ミクがVIPで晒されている。写真で見たところ縛られて捕まっている感じだ」

「何!?」

ネル「知らなかったか。安価といって相手の指示に従うスレ立てをしている」

ネル「現にパンツとか胸の写真を撮られ、アップロード済みだ。おかげでスレの伸び方が尋常じゃない」

「そ、そんな」

ネル「とにかく何をされるかわからないから時間がない。今どこにいる? 合流しよう」

「えっと駅の近くだ」

ネル「わかった。駅で待っててくれ。私たちもすぐに向かう」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ネル、ハク!!」

ネル「はぁはぁ、お待たせ」

ハク「もう走れない」

「お、俺どうすれば……」

ネル「とりあえず落ち着いて。そして自分のわかる部分を私たちに教えてほしい」

「あぁ、ファミレスを出た後にコンビニにいったんだ。そしたら店員が巡音ルカっていうアンドロイドがいてさ」

ハク「ルカって3番目に出たボーカロイドだよね。英語が得意でマグロ好きな」

「なんでもルカもアンドロイド研究所で生まれたらしく、ミクの存在も知っていた」

「それでそのあと色々聞こうと思って二人であのスナックに行ったんだ」

「ビールを2杯ぐらい、いや3杯ぐらいしか飲んでないんだがすぐに酔っちゃって」

「そこから記憶が全然ないんだ」

「気付くとルカと俺が裸でホテルにいて、なぜかミクもいて……」

「ミクにその光景を見られて、ミクが絶望してしまってホテルの部屋から飛び出したんだ」

「俺はミクを追っていた時にネルから電話が来たというわけ」

ハク「マスターさんって狼だったんですね……」

「いや、俺はルカに対してそんなことをやるつもりは……」

「大体、もしそのつもりだったらその過程を覚えていないなんて残念すぎる」

ネル「おい」

「いや、冗談。だが何しろ記憶がないから知らず知らずのうちにやってしまったのかも知れない」

「くそ、何も覚えてないのがこんなに腹立たしいとは。覚えていればミクをあんなにさせる必要はなかったかもしれないのに」


頭をぐしゃぐしゃと掻き毟る
走り回って乱れていた髪が一層乱れる

ハク「マスターさん……」

ネル「そのルカって奴に一杯盛られたかもな」

ネル「酔っぱらって二人はホテルにまでは、まぁ自然だがそこに留守番しているはずのミクがいたのは不自然すぎる」

ネル「そして今のネットの状況をから考えて……」

ネル「毒を盛られたな」

「くっ…… ルカが主犯か!?」

ネル「わからない。ルカ一人の仕業かそれとも指示があって動いただけか」

「どちらにしてもルカを問い詰めた方が早い」

ネル「ルカはどこにいるの?」

「ホテルで待ってろと言っておいた。ホテルに乗り込もう」

ネル「じゃあ、もういないわ」

「何で?」

ネル「どういう理由でこういうことしているかわからないけどミクにその現場を見せるという目的を果たした以上、ホテルにいる必要はない。逆に危険を察知してすぐに逃げなきゃならないんだからすぐホテルから出て身を隠すにきまっている」

「そんな」

ネル「今はどうやってミクを助け出すかだ」

ハク「早くしないとミクちゃんが」

「確かに」

ネル「どこにいるかわからないから探すのが難しい。おそらくホテルから出て捕まったと思うからこの地域ということと現在パソコンが使える環境にいるというのはわかるんだけど」

ハク「情報が少なすぎるよね」

「くそ、いったいどうすれば」

ルカ「あっ、やっと見つけました」

「ルカ!?」

ルカ「ホテルで待っててというのにいつまでも来ないから外に出て探していたんですよ」

「おい、なんであの時ミクがいたんだ!?」

ルカ「へっ? 私が知りたいくらいですよ。せっかくの時間を邪魔されました」

「ミクはどこにいる?」

ルカ「まだ見つかっていないんですか? 私も探すのを手伝いますよ」

ネル(……なぜノコノコと出てきているんだ? 普通なら身を隠すと思うんだが)

ルカ「それとこの二人はマスターさんのお友達ですか?」

「あぁ、ネルとハクだ」

ルカ「よろしくお願いします。巡音ルカと言います」

ハク「よろしく」

ネル「……よろしく」

ルカ「マスターさん、アンドロイドの事二人はご存じで?」ヒソヒソ

「あぁ、知っている」

ルカ「お二人さん、私もアンドロイド研究所で作られたボーカロイドです。ミクより後に作られたのですけどね」

ハク「今ちょっとその話をしていたんだ」

ルカ「そうだったんですか」

「というか早くミクを探さないと」

ルカ「そうですね。でも手がかりがないんですよね?」

ルカ「この状態で探すのも大変ですし、一度確認のためマスターさんの家に戻りませんか?」

ルカ「もう夕食時ですし、私がなにかご飯でも作って食べながら作戦会議でも」

「気前がいいな」

ルカ「アンドロイドはマスターがあってのものです。炊事や洗濯もこなしマスターの手伝いをするのは当たり前だと思います」

「立派なこと言ってくれるね。ミクなんかたまに料理をしてくれるぐらいだ」

ルカ「そうなんですか。今、私にマスターはいませんがいた時はずっとしていました」

ルカ「マスターに尽くすのが我々の喜びでもありますから」

ネル(……マスターがいない!?)

ルカ「でも私、寂しいんです。マスターがいなくなってずっと一人。来る日も来る日も」

ルカ「結局、歌うこともできず。月日が流れ誰とも一緒にいられないで終わりという日が来るかと思うと涙する日もありました。まぁ実際泣くというプログラムはないのですが」

「そうなのか……」

ルカ「ごめんなさい。余計な話でしたね」

ルカ「でも私、ミクが羨ましい。こんなに良いマスターに出会えるなんて」

ルカ「なんて幸せ者なんだろうと思います」

ルカ「私もミクみたいな幸せ者になれる日がくるのでしょうか……」

「ルカ……」

ネル(……なるほどそういうことか)

ルカ「さぁ、マスター家まで案内をお願いします」

「あぁ、みんな一度家に招待するよ。そこで作戦会議だ」

ハク「マスターさんの家久しぶりだ」

ネル「いや、家には行かない。時間がないんだ。ゆっくりご飯をしている暇なんかないよ」

「確かにそうだけど、情報がないから一度作戦を練った方が良いと思うぞ」

ネル「いや、ダメだね。絶対絶対ぜっーーたい今探すんだ」

ハク「ネル……」

「探したい気持ちは俺も同じだ。でも手がかりが何もないんだぞ?」

「冷静に考えて一度立ち話ではなく、本格的に探す作戦を立てた方がよい」

ネル「あんたは2chの恐ろしさが知らないんだ。こうしている間にもどんどんレスは加速するんだぞ!!」

「まぁ確かにネルほど詳しくはないけどさ」

ネル「ネットだからって油断していると痛い目見る。ルカさんもそう思いませんか?」

ルカ「確かにvipperは手ごわいわね。一度熱が入るともう手がつけられなくなるから」

ルカ「でも、手がない以上、無駄に探しまわるよりは腰を据えてしっかり考える方が賢い選択だと思うわ」

ネル(……ニヤ)

ネル「化けの皮がはがれたな」

ルカ「えっ?」

ネル「やっぱりあんたがこの事件に関わっているのは確定だ」

ハク「ネル!?」

ルカ「何を!?」

ネル「なぜVIP板だとわかった?」

ルカ「そ、それは……」

ネル「私は2chだとは言ったがどこの板までは言っていない。すぐにvipperの仕業だと答えたのはミクの現状を知っているからだ」

ルカ「大抵大事起こすのはそこの人たちの場合が多いから……」

ネル「ほー、というか私たちはルカにミクが2chに晒されていると話していないのにネットの話題になってもすんなり返答していた」

ネル「普通ならなぜ2chなんですか?となるのが普通だと思うけど」

「確かに!! そうだ!! なんかルカにペースを握られていたけど本来俺に毒を持ったかもしれないという話をしていたんだ」

ネル「しっかりしなよ。騙されやすいんだから」

ルカ「ふふ、このマスターあってのミクね」

「ミクは今どこにいるんだ!! 答えろ!!」

ルカ「答えるわけないじゃない」

ルカ「ちょっと急ぎ足過ぎたわ。もう終わりね」

ルカ「後少しだったんだけど、全て終わらすことにするわ。じゃあね」

「あっ、待て!!」


人ごみの中を縫ってルカは姿を消す

ハク「あわわ、どうしよう」

「ネル、ルカを追うぞ。あいつが本性を現した今、捕まえてとっちめれば言うしかないだろ」

「もう自分は白だと言いきれないんだから」

ネル「それしかないな」

ネル「でもルカを追うのはあたしとハクだ」

「!? 俺は?」

ネル「あんたはアンドロイド研究所の人にこのことを話しておいてほしい」

「えっ? ネット上でこうなっていることを話したらまずい気がするんだが」

ネル「はっきり言ってもうそんなこと言っている場合じゃない」

ネル「下手したらミクが壊されたり分解されたりする危険性だってある」

ネル「そうなったら嫌だろ?」

「あぁ……」

ネル「ルカの言っていることが本当だったらルカについても話しておかなきゃだめだと思う」

ネル「大体、他のボーカロイドをここまで追い込むようなプログラムがされているのかというのも気になる」

ネル「もしプログラムされているならかなり悪趣味だけどな」

ネル「正直にこの一連の流れを話して指示をもらった方が賢明だと思う」

ハク「私たちだけじゃ難しいということ?」

ネル「うん。ルカと言うアンドロイドが敵な以上研究所にも協力してもらわないと」

「……わかった。連絡するよ」

ネル「じゃあ、また連絡する。行くよハク」

ハク「うん。でももう走りたく……」

ネル「大きな脂肪を二つもつけているからだよ。ほら急いで」

ハク「ひどいよ」


俺は携帯を取り出し研究所にかける
受付の女の人が出てくるがすぐに伊藤博士に代わってもらうようにお願いする

ここまでにします

乙です

何故こんなに乙なのか

「はい、どうしたのかね?」

「博士、大変なんです。ミクが!!」

「なんだ? 騒々しい。ようやく本日の仕事が終わり帰ろうと思っていたところなのに」

「○×駅にある喫茶店まで来てくれませんか? 話さなければならないことがあるんです」

「どうやら、何か大きな問題があったようだな。わかった向かおう」


20分後に博士と藤田研究員がセッティングした喫茶店に訪れる
俺は二人を通し、二人がメニューを開く前に話を始める


「実はミクが誘拐され、ネット上に晒されています」

「どういうことだ?」

「その一連の流れの関係者として巡音ルカがいます」

「!!」


ルカの名前を聞いたとたん、博士と藤田研究員の顔つきがさらに険しくなった。
俺をよそに二人でアイコンタクトして藤田研究員はおもむろに携帯を取り出し
おそらく研究所に電話をかけ始めた


「詳しく教えてもらおうか?」

「はい」

俺は注文していたコーヒーも口にせず、早口で巡音ルカとの出会いからミクの状況まで全て話し、協力してくれているネル・ハクのことも博士に伝えた。


「なるほどそうなっていたのか」

「博士、研究所からも研究員が戻し、体勢を整えておきますとの連絡が」

「わかった」

「博士、俺はこれからどうすれば……」

「急がなければならないが一つ話をしてよいかな?」

「以前、君は研究所に電話をかけてきたことがあったな。ミクが防水性かどうかで」

「その時、私は暇じゃない忙しいんだと答えたのを覚えているか?」

「えぇ」

「実はその忙しい理由はずっと巡音ルカを探していたからだ」

「!? そうだったんですか」

「あぁ、一から説明する」

「アンドロイド研究所は最初に初音ミクを作り出した。そしてテストプレイのためにアンドロイド型ミクを買ってくれる人が現れたのだが前にも言ったようにその購入者は中々インストールをしてくれなかった」

「そのため研究は一向に進まなく、月日はどんどん過ぎて行った」

「このままインストールをしてくれなければ私たちの研究は意味がない。持ち主の所にいって事情を説明しようともしたが、具現化した初音ミクを見ずにその説明をしても説得力がないし、何より研究員に説得されて音楽活動を始めるなんてナンセンスなためそれはしなかった」

「だから次に私たちが行ったのは新しいアンドロイドを作ってしまい、そのアンドロイドでテストプレイをするという考えに至った」

「もう一度同じ初音ミクを作るのも考えたが新作の予定も入っていたのでアンドロイドの機能としてのテストプレイは次の新作で試すことに決定となったのだ」

「それが巡音ルカ……」

「そう、一応クリプトンの発売順として鏡音が先だったが二体も作っている時間もなかったので三番目のルカを二作目として私たちはアンドロイド化したのだ」

「ルカも同様に本物のソフトとこっそりと紛れ込ませ、興味をもった男性に買われている」

「そしてすぐにインストールしてくれたため、私たちはルカのマスターに会いに行き君と同様にテストプレイをしてほしいと同じ説明を行っている」

「ルカのマスターは承諾し、アンドロイドとの生活が始まった」

「しかしマスターがルカに対して信頼関係を築くことなく自分の好きなような扱い方をし、ルカにかなりの負荷をかけたようなのだ」

「そのためルカの組み込まれているプログラムがショートし、プログラムにないような行動を行い始めた」

「ようするに壊れてしまったんです」

「なので本来どうあってもマスターのそばにいたがるように設定していたのだが二人は決別しルカがマスターの家を出て行った」

「そのことを私たちが知ったのはもう出て行ったからだ。定期検査で家に訪れたがルカがいなく、マスターに聞くと淡々と出て行ったよの一言で片づけられたんだ」

「それからルカを研究所で公になる前に探していたのだが中々見つからなかった。実は初めて君にあった時からルカ探しで焦っていたのだよ」

「そうだったんですか……」

「何しろ壊れているので何をするかわからん。一刻も早く回収したかったのだがまさかこうなってしまうとは」

「ルカにはこんな勝手な行動をするようなプログラムは作っていない」

「私は出来るだけ自分の意志を持ち、感情を豊かにするように全力を注いできたがこんな非道なことに繋がってしまうとは」

「博士、気を落とさずに」

「ありがとう、藤田君」

「そういうわけなんだ。もちろん我々もルカとミクを探そう。今日で決着をつけなければ大変なことになる」

プルルル—


「電話だ」

「もしもし」

ネル「もしもし、博士には会えた?」

「あぁ、事情を話し、協力してくれることになった」

ネル「良かった」

「ルカは見つかったのか?」

ネル「いや、見つけられていないがおびき出すことには成功した。ミクにも会える」

「どういうことだ?」

ネル「二人で走り回っても全然どこにいったかわからなかったから、逆にミクとルカをこちらから探すんじゃなくて、来てもらおうと思ったのさ」

「はぁ? 来てもらうなんて無理だろ」

ネル「普通はね。でも安価は絶対なんだ」

「?」

ネル「私もあの安価スレに参加したのさ」

ネル「勢いがすごくて安価をとるのが大変だったけど650でなんとかとれたよ」

ネル「それでスレ主にこう命令したんだ『市民プールにいってミクをプールに突き落とせっ』て」

「市民プールって」

ネル「そう、あんたがミクと行ったプールだよ。スレ主も食い付きが良くプールに向かうと書き込みしていた」

ネル「スレ主とミクは確実に市民プールに乗り込むだろう。そしてルカも関係者である以上、このスレの事は知っているし、様子を見に来る可能性は非常に高い」

「すげーよ!! ナイスだネル」

ネル「自給750円だから」

「ちゃっかりしてるな。いやでもそれくらいの協力してくれているか」

ネル「私とハクはプールに向かうから、あんたも博士とプールに向かって」

「わかった」

「博士、藤田さん急いでプールに移動します。そこでルカとミクに会えるはずです」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
市民プール


テト「ようやくプールに着いたよ、ずっとエッチな安価ばっかりだったからこういう安価は嬉しいな」

テト「でも機械を水に入れるってことは100%壊れるだろうな。あいつらももう安価終わりかーって残念がっていたし」

テト「せっかく本物の初音ミクを手に入れたのにもったいないな」


おもむろに携帯を取り出し、ネットにつなぐ


テト「でももうスレも800代か。最後にビショビショのミクの写真をアップして1000いって終わりかな」

テト「問題はどうやって閉まっている市民プールの中に入るかだ」

テト「安価は絶対とはいえ、これじゃあ不法侵入だお」

テト「入口は閉まっているし…… 諦めようかな」

ルカ「テト、どう調子は?」

テト「ルカ!!」

ルカ「スレ見たわ。やりたいようにやっているみたいね」

テト「もうすぐ念願の1000だよ。すごいでしょ」

ルカ「私にとってミクが壊れることを計画していたから今回都合がいいわ」

テト「へー、でも市民プールが夜だから開いてなくて」

ルカ「強行突破よ。急がなければミクのマスターと取り巻きがこのスレを見ている」

ルカ「市民プールに行くこともわかっているはずだから。もうすぐ来るはずよ」

ルカ「そうなる前にさっさとこの子を……」

ミク「……」

テト「でも不法侵入って法律違反じゃ……」

ルカ「誘拐している時点でもう規律なんて意味ないわ」

テト「確かに……」

ルカ「裏側の窓を割って入りましょ」

テト「う、うん」

「ちょっと待ったー!!」

ルカ「!! あいつらが来たわ。急ぎましょ」

テト「あの男の人がミクのマスター?」

ルカ「えぇ、それにネルとハク…… 研究所の博士たちまで!!」

ルカ「まずいわ。全員に事情を知られるなんて」

ルカ「急ぐわよ。テト」

二人はミクを抱きかかえ、裏に回る
俺たちは市民プールに向かう途中でネルとハクに会い、行動を共にしていた

「間違いない、ルカとミク。それに赤い髪した奴がスレ主か?」

ネル「たぶんね。あいつら入口が閉まっていたから裏に回ったな」

ハク「急いで追いかけましょう」

「あぁ」


俺たちも裏に回り、窓ガラスが割られたところから二人を追ってプールに入る。
中は電気が消されており、周りの様子がよくわからなかった。

ハク「私、管理室を探して灯かりをつけられないか確認してみる。みんなはルカたちを追って」

「わかった。ありがとう」


非常用の蛍光と窓から入る月明かりだけを頼りに更衣室を探し、着替えもせず
そのままプールへと向かう。プールは室内で無駄に大きな水を張っているものが一つだけあるだけだ。窓から月明かりが入ってきてはいるが実際はほとんど見えず、どこから水に入るのかがようやくわかる程度で深さや広さなどは初めて来た人には到底分からない状態だった。


ルカ「テト、ミクのスリープモードを解除して」

テト「はいよ」

ミク「……」

ミク「ここは?」

ミク「ここどこ? 暗いよ。誰かいないの!?」

テト「ボクがここにいるお」

ミク「テトさんの声!! ここはどこ? 早くこの縄をほどいて!! 暗いし何が何だかわからないよ」

テト「これでおしまい」

ミク「えっ?」

テト「じゃーねー」


そう言った瞬間大きな水しぶきの音がなった。テトに押され、ミクは暗い水の中に落ちていった

ルカ「やった……」

テト「やったー!!」


ルカの喜びを噛みしめたような発言をかき消すようにテトが叫ぶ。


テト「今、携帯でスレをチェックしたら1000いっていたよ」

テト「あぁ、31年間生きていたけどこの達成感はレンタルDVDの延長を3カ月達成した時以来だ」

テト「満足、満足」

「ルカ!! どこだ!!」

ルカ「あら、一歩遅かったですね。もう彼女は暗い水の底よ。縛られているから泳げないし、水は機械の天敵。終わったわね。」

ルカ達の姿は暗いため良く見えず、どの辺にいるのかよくわからなかった。
ただ声の聞こえてきた方向から見ても俺たちがいる場所よりかなり離れていると感じられた。


「くそっ、ミク待ってろ」


その場で上着と靴を脱ぎ、水に飛び込もうとする。


ネル「待って、助けに行くつもり?」

「あぁ」

ネル「電気がつくまで待てないの? 明かりのないプールに飛び込んでどこにいるかもわからないミクを探すなんて海に沈んだ指輪を探すようなものだ」

ネル「それに焦らなくてもミクは防水性なんでしょ? 水の中でも平気なんじゃ……」

「その指輪が大切な人にあげるものだったら俺は喜んで探すね。一刻でも早くミクを助けたい」

ネル「ちょっと待てって!!」


勢いよく水の中に飛び込む。昼間のように客の声がないため、水音がプール中に良く響く。


ミク(体がどんどん沈んでいく……)

ミク(そういえばマスターと泳ぎの練習したけど結局泳げなかったな……)

ミク(暗いよ。何も見えない水底ってこんなにも怖いものなんて知らなかった)

ミク(このままずっと水の中にいるのかな。縛られていて動けないし、浮いてもこない)

ミク(……怖いよ、怖い!! 嫌だよ。誰か助けて!!)



ミク!!



ミク(!! 誰かの声? 水の中で?)


その時、ミクの近くまで誰かが泳いでくるのを彼女は感じた

ミク(誰か来る…… こんな暗闇の中……)


彼女はその大きな腕の中に囲まれ、その人と一緒に水上へと浮かび上がった


「ぷはっ!! ミク大丈夫か!?」

ミク「マスター!!」


暗くてはっきり見えないのにも関わらず彼女は確信していた。声とその触れたことのある温かみは紛れもなく彼女のマスターだった。
そして二人を祝福するようなタイミングで室内の明かりがつき、辺りを一望できるようになった。


ネル「ハクだ!! ありがたいけどあともう少し早かったら良かったのに」

ネル「相変わらずワンテンポ遅い残念な人……」

二人はテトとルカの近くの陸地部分に上がり、ミクの縄をほどく

ミク「なんでマスターの前から飛び出したのにここまで来てくれたの? こんな勝手なボーカロイドなんて失格だよ。私マスターのそばにいられないよ。ごめんなさい」

「謝るのはこっちのほうだ。留守番させておいてあんな状態見せられたら裏切られたと思うのは自然。ミクに絶望を与えてしまってここまで追い詰められたのは俺の責任だ」

「全部この赤髪の子とルカが俺たちをはめるために仕組んだ罠だったんだ」

「残念だったなルカ。ミクは防水性なんだ。水じゃ壊れない」

「さぁ、聞かせてもらおうか。なんで俺たちにこんなことをした理由を」

ルカ「くっ……」

ルカ「テト、二人を他に追い詰める方法はないの? 早く案を出しなさい!!」

テト「……」

ルカ「テト?」

テト「君は実にバカだな。ボクは別にルカの味方をするなんて一言も言ってないお」

ルカ「!!」

テト「コンビニで出会ってから話を聞き、おもしろそうだと思って協力したけどボクの仕事はミクとマスターの追跡と森での証拠写真撮影。そしてホテルでミクとマスターを会わせる3つだけだお」

テト「このプールだってルカに言われてやったことじゃない。安価に従ったことだ。その安価スレも1000までいったし、もうボクの目標は達成されたからあとはどうでもいいんだよね」

ルカ「そんな自分勝手許されると思うの!?」

テト「むっ。それにあんたの態度腹立つ」

テト「年上には敬語を使うべきだと思うよ。ママに教わらなかったのかな? かわいそうに」

テト「じゃあボクは十分楽しんだから家に帰ろうかな」


そう言って背中から悪魔のような翼を生やし、バタバタと羽ばたかせ飛び上がりながらプールを後にする


ルカ「ちょっ、ちょっとテト!!」

ネル(な、何だあれ? 羽!? 彼女人間じゃないのか!?)

「さぁ、ルカ。答えるんだ」

今日はこの辺にしといてやんよ
初めての長編だから長く感じるなぁ

乙です

乙ー

ルカ「……」

ルカ「……はじめ」

「?」

ルカ「……はじめて会ってからあなたたち二人が憎かった」

ルカ「マスターと離れ、一人で生きていくって決めたのに……」

ルカ「それでも頭をよぎるのはあのマスターと幸せに暮らしたい。そればっかりだった」

ルカ「でもマスターがそれを許してくれなかった」

ルカ「そんな中、あなたたち二人が幸せそうにコンビニに入ってきたのを見た時」

ルカ「私の中で何かが弾けた」

ルカ「どうしてミクだけが幸せになれるのか。私には幸せになる権利はないのか」

ルカ「くやしかった。二人が仲良くしているのを見るのが……」

ルカ「……二人がアイスを買って店を出て行った時から二人を気にせずにはいられないようになった」

ルカ「あの後、店を飛び出し、つけて二人の住んでいるところを確認した」

ルカ「ミク一人だけ幸せになってずるい。ミクにも私と同じ気持ちにしてやりたい。そう思って私は考えた」

ルカ「ミクとミクのマスターの関係を崩し、一人になったミクを壊してしまおう。そしてあわよくばミクの代わりに私が新たなボーカロイドとしてそばに置いてくれないかって計画したの……」

ネル(やっぱりな……)

ルカ「それでテトに話をして、森で写真を撮ってもらって、騒ぎになったところでマスターとミクを引き離し、私がマスターと一緒にいるところをミクに見せ、そこに付け込もうとしたわけ」

ルカ「だからスナックでいったように本当は私から行くつもりだったんだけど予想と違ってあなたから私に会ったため急遽この計画を実行したの」

「……そうだったのか」

「でもルカのやったことは許されることじゃない。ちゃんと償うべきだ」

「その通りだルカ。君のメンテナンスが必要だ。研究所に帰るぞ」

ルカ「博士、来ないで!!」

ルカ「何で私だけ研究所に行かなければならないの? 何で、何で、何で!!」

「君をこれ以上放っておけないからだ」

ルカ「私一人、なんでこんなに不幸にならなければならないの?」

ルカ「ミク!! あなたのマスターは私と一緒にいたのよ。嫌いにならないの?」

ミク「確かに最初見た時はびっくりしたけど」

ミク「マスターは私のピンチに駆け付けてくれた。それだけで十分です」

ミク「嫌いになんてなれないよ」

ミク「次は私がマスターに恩返しする番」

ミク「今までは私は早く歌を歌いたかった。それは歌が好きだから」

ミク「ずっとマスターが曲を作ってくれるのを待っていた」

ミク「曲を作って私が歌って満足」

ミク「でもそれじゃ足りないって思った」

ルカ「何が言いたいの?」

ミク「今はマスターの作ってくれた曲は自分のためじゃなくてマスターのために歌いたい」

ミク「自分のためじゃなくマスターが喜んでもらうように歌う」

ミク「それがボーカロイドとして私が出来る恩返し」

ミク「だから歌うまで私は何があってもマスターを信じていける」

「ミク……」

ルカ「そういうのが一番腹がたつ」

ルカ「お……おま……お前……な……なんか……」

「ルカ? 声が変だぞ」

「いかん、ショートを起こし始めている」

「えっ?」

ルカ「あ… あぁぁっぁぁぁああ!!」

ミク「きゃああぁああ!!!」

ルカが急に取り憑かれたようにミクに飛びかかる
その反動でミクはそのまま後ろから力いっぱい頭を床に叩きつけられる
ガンッと鈍い音が室内に響き渡る
そのままルカはミクの上に馬乗りになり顔を掴んで、何度も頭を床に打ち付ける動作を機械のように続けた

「バカ、よせルカ!!」

「まずい、藤田君!!」

「はい」

博士と藤田研究員がルカを取り押さえ、博士がルカのしているヘッドホンにあるスイッチをどこか押したようでルカはピタリと動きを止めた


「緊急停止スイッチだ。これでルカはもう動けない」

「まさかここまでの動きをするとは」

「自我と感情のバランスを考え直さなければならないな」

ネル「ルカはどうなるんですか?」

「研究所に連れて帰って修理する」

ネル「ちゃんと直ればいいけど」

「ミク、ミク!!」

「おそらくさっきの衝撃でプログラムが破損してしまい、機能が停止したんだろう」

「一部分なら良いんですけど、全体だと……」

「そうだな……」

「ミク!! 返事しろよ!! おい!!」

「おい、そんなここにきて壊れるなんて……」

「目を覚ませよ!! こんな形で終わるなんて許さないぞ」

ネル「よせって、そんなに無理に揺すったら余計壊れるよ」

「聞こえているか? ミク!! 歌うんだろ!? 俺のために」

「俺、必ず曲作るから!! 歌ってくれよ!! なぁミク」

「ミクの歌聞きたいよ。俺の声聞こえるか? 返事しろよ……」

ミク「……」

「ミク……」

「ミクも研究所に連れて修理をしてみることにする」

「藤田君、ルカとミクを連れて先に研究所に戻っていてくれ」

「はい、博士は?」

「私はマスターくんと話しておかなければならないことがある」

「わかりました。では失礼します」


藤田研究員は二人を抱きかかえ、プールを後にする。
男一人でもアンドロイド2体を研究所まで持っていくのは大変で後から他の研究員が駆け付けていた。


「ミクのテストプレイについて話がしたい」

「最初に言ったように約束が二つあったな」

「信頼関係の構築と公にしないこと」

「信頼関係は…… まぁいいが公の部分は問題がある」

「このようにネット上にまで公になってその結果ミクが誘拐され、今回のような結果になってしまった」

「壊れてしまった部分は君の責任ではなく事故であったが公の部分についてはもう少し注意ができたのではないかな?」

「そこさえ、注意していればこの結果にも結び付かなかっただろう」

「何事にも予想して動くことは大事なんだよ」

「そうですね。昔会社の上司にも同じようなことを言われました」

「申し訳ないが約束が守れなかった以上、テストプレイ者として失格だ」

「一応ミクを直し、直れば一度君に会わすがもう君の元には置いておくことはやめる」

「新たなテストプレイ者を探すことになるだろう」

「途中までの協力感謝するよ」

「では失礼する」

ネル「お、おい何も反論してないけどいいのか?」

ネル「ミクと暮らせなくなるんだぞ!?」

「また失敗した……」

ネル(……泣いてる)

嗚呼、またこれだ。
仕事を失い、そしてミクも失った。
どうして俺ってこんなにダメなんだろう。
こんなことならもっと頑張って一曲ぐらいミクに歌わせてあげればよかった。
ふとあの時はよく聞いてなかったが社長に言われたあの言葉を思い出した。

『だが私がこのセリフをいうのは何だが必ず君が求められることがいずれ来るだろう』

『それまで頑張りなさい。求められてからはその人のためにさらに頑張りなさい』


俺、頑張っていたのだろうか?
ただなんとなくでミクをそばに置いていただけだった?
ミクがいることの意味を考えて動いていたかな?
起こっていたアクシデントにふりはなされないようにしがみ付くのが精いっぱいだった。
ミクごめんな…… ダメなマスターで……

ネル「大丈夫?」

「あぁ、もう事は済んだ。ハクを迎いに行って、プールから出よう」

ネル「自分を責めているみたいだけど、責める暇があったらそれを頑張る力に変えた方がミクも喜ぶんじゃない?」

「はは、確かにな。ありがとう、もう少し頑張ってみるよ」

「……帰るか」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



それから一カ月後、2chではずっと初音ミクが保獲されたと騒動になっていたがその後の情報が全く出てこないため騒ぎは落ち着いていった。
夏も終わりに近づいてきており、あんなにうるさかった蝉の声もそういえば聞かなくなったなとしみじみ感じる。
何でも子どもたちも夏休みも終わり学校が始まって2学期に入ったらしい。
俺も長い夏休みを過ごすのかなと思っていたがこの1カ月で新たな仕事を見つけ、明日から初出勤となる。長い夏休みも今日で終わりだ。
本当は音楽クリエイターを職にしようと思っていたがミクがいなくなった今となってはそれも不可能。新たな音声合成ソフトを買うというのも一瞬考えたがやっぱり俺はあの初音ミクじゃないとダメだとずっとこだわり続けたため違う仕事を探し、ようやく見つけたのだ。
新しい仕事場はマンションから遠いということとミクがいなくなり、一人となって初めてあの部屋は広すぎると感じため結局違うアパートに引っ越した。
そして新しいアパートには今、来客が来ている。


ネル「あんまり綺麗な場所じゃないな」

「余計な御世話だ」

ハク「前のマンションはすごく広くて綺麗だったよね。はい引越祝い」

「ありがとう。おぉ日本酒。相変わらずだな」

ハク「でも騒動が収まってよかったね」

ネル「人の噂も75日。時がたてば消えるものさ」

「なんか夢物語のようだったな」

ネル「研究所からは連絡ないの?」

「あぁ、全く」

ハク「修理に難航しているのかな」

「どうなんだろうな……」

ネル「でもよくやるよ。まだ曲づくりを続けているんだろ?」

ハク「そうなの?」

「え、まぁ、まぁな。一応……」

ネル「何でもこのまま一曲も作れなかったらミクに顔向けできないからクリエイターは諦めたけど一曲は作りたいんだってさ」

ハク「誠実ね〜」

「ほっとけよ。もうすぐ完成するんだから茶々をいれるな」

ネル「はは、動揺してる」

「せっかく来たんだからなんか食べて行くか? アイスならいっぱいあるぞ」

ハク「いただこうかな」

ネル「もうアイスも終わりじゃない?」

「別に年中無休だろ。どれ食べる?」

ハク「もなかアイスばっかり……」

「好物なもんで。じゃあこれは? ネギアイス」

ネル・ハク「そんなの食べるの一人しかいないよ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アンドロイド研究所


「藤田君、状態はどうだ?」

「やっぱり感情プログラムの部分がかなりの破損がありましたね」

「これは根こそぎ変えてデータも初期化しないと無理でしょう」

「あと外傷もけっこう多いです。小さな傷も多いので皮膚の貼り替えと……」

「データを初期化するとなったら記憶を消すということになるか」

「えぇ、でもルカの場合その方が幸せでしょう。彼女はほとんど良い記憶がない状態ですので」

「最初からにして挙げた方が彼女のためです」

「そうだな。しかし思ったよりも分析に時間がかかってしまったな」

「ですね。ルカを直してからミクにとりかかろうと思いましたがこれだとミクが直るのはいつになることか」

「ミクのマスターに一応時間がかかることを連絡した方が良いか」

「そうですね」

「みっくみくにしてあげる〜♪」

「!?」

ミク「……うーん」

ミク「ここは?」

「どういうことだ? ミクが勝手に起動したぞ!?」

「藤田君、電源を切ってなかったのか?」

「えっ、電源と言うか連れてきたときのままですけど」

「自動回復機能が働いたのか? いやでもあれほどの外傷だったらとても機能できるはずが……」

ミク「誰、あなたたち?」

「記録がない? 初期化しているのか!?」

「ミク、とりあえず今直すからな」

ミク「い、いや来ないで。怖いよ」ダッ

「お、おい待ちなさい!! ちょっと!!」

「大変だ、ミクが逃げた!! 急いで追いかけろ!!」


研究所の中を駆け抜け、行く手を阻む研究員には背中に隠してあったネギでしばき倒してミクは研究所を飛び出す。


「はぁはぁ、まずい逃げられた……」

「ど、どこに行ったんだ!?」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その夜マンション——


「すっかり帰りが遅くなってしまった。ちょっと長く立ち読みしすぎたな」

「今日夜ごはん何食べようか」


そう思いながらマンションの階段を上がっていると途中で女の子がぐったりしているのを見つける。


「!! なんだ? ビビった!! 夜中の階段に人がいるなんて反則だよ」

「というかこの子……」

「初音ミク!? コスプレ!? にしても似すぎていないか?」

「えっ? なんで? そういえば以前初音ミクが存在する噂が流れてこの地域で見たという情報があったような……」

「その噂って本当だったのか!! まさかミクさんが存在するとは!!」

ミク「……んん、マスター?」

「おお、しゃべった!! 本当にミクさんの声だ!!」

ミク「ずっとフル稼働してここまで歩いたからエネルギーが消耗しちゃった……」

「そうなの? 君はどこから来たんだい?」

ミク「わからない…… 変な人がいっぱいいた施設みたいなところから逃げてきたの」

「逃げた? 捕まっていたの?」

ミク「多分。マスターを探してずっと歩いていたの。あなたは私のマスター?」

「確かにミクさんを持っているけど君のマスターは違う人だよ。僕じゃない」

「このマンションにマスターがいるの?」

ミク「それもわからない、ただ何となく足がここに向かったんだ」

「マスターってどんな人? 男の人? 女の人? 何歳? 格好は?」

ミク「……」

「あっ、ごめん無理に思い出そうとしなくてよいよ」

ミク「男の人だったような気がする…… 自信ないけど」

(なんかミクさんが困っている…… ここはやっぱり……)

「あ、あの、ミ、ミクさん!!」

ミク「はい?」

「こ、困っているようだし、その、僕の家にこ、来ないか? 一緒にマスターを探してあげるよ」

ミク「本当!?」

(笑顔がまぶしい!!)

ミク「ありがとうございます。すごい困っていたんだ〜」

「じゃあ、とりあえず僕の家へ」

ミク「はい」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ミク「お邪魔します」

ミク「うわぁ、たくさんものがあるねー」

「ちょっと散らかっているかもしれないけどまぁ座ってよ」

ミク「この枕、絵が描かれてるよ」

「あぁ、彼女はミホだ。大事な嫁なんで仲良くしてほしい」

ミク「お嫁さん? 枕が?」

「あぁ、ミクさんは知らない? 人間だけが嫁になるとは限らないんだよ」

ミク「へー、じゃあ私もお嫁さんになれるの?」

「むしろ多くの人がすでに嫁にしていると思うよ」

ミク「そうなの?」

「あぁ、世界的にも有名なんだよ。ミクさんは。ほら」


そう言って持っている初音ミクのソフトを見せる


ミク「ミクがパッケージになっている!! すごい!!」

「ほら2つもあるんだ。ミクさんは天使だからね。天使は何人いても困らないだろ?」

ミク「ミクは天使じゃなくてボーカロイドだよ?」

「比喩ってやつさ」

ミク「ひゆ?」

「まぁいいや、とりあえずご飯にしよっか。ミクさんも食事は出来るのかい?」

ミク「ご飯食べたい」

「よし、じゃあとっておきのネギ料理を……」

ミク「ネギー!!」

「はは、期待通りの反応だ。本当にネギが好きなんだな」


こうしてミクの新しい居場所が見つかり、二人は生活を共にした。

今日はこの辺で。またね

おつ

乙です

乙!

リンちゃんはまだか!!ああ、リンちゃんが可愛すぎて生きてくのがツライ……

リンちゃんなう!リンちゃんなう!
リンちゃんりんちゃんリンちゃんなう!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
数日後


「ミクさん、ちょっと聞いてくれ」

ミク「ご主人様どうしたの?」

「そ、その呼び方はやめてくれよ」

ミク「だってマスターじゃない人にこうやってお世話になっているならこう呼ぶのが一番よいと思って」

「なんか恥ずかしい」

ミク「嫌?」

「……すごくいい」

ミク「よかった」

「いや、それより話を戻すよ」

「色々ミクさんのために情報をまとめてみたんだ」

ミク「?」

「実は以前ネット上でおそらくミクさん。君があちこちで見たというのが噂になっていた時期があるんだ」

「見かけたのはここから一番近いイオン、市民プール、駅、学校、焼き肉屋、居酒屋、カラオケ屋、水族館、キャンプ場の森、スナック、まんが喫茶」

「情報はバラバラだし嘘の可能性もあるがおそらくミクさんはこれらの何箇所かには言ったことがある可能性が高い」

ミク「でもどこに行ったか思い出せない」

「大丈夫、心配しないで」

「実はあの後2chでまたミクさん騒動があったらしいんだ」

「んで、2chでは初音ミクを捕まえたというスレが立ったらしくそこでミクさんの写真がうpされている」

ミク「そうなの?」

「あぁ、その写真を見る限り確かにミクさんだった」

「そしてそのスレで市民プールに行けという命令が出ていたんだ」

「これは僕の推理だけどミクさんは高確率でプールには言っているだろう」

「そして2chにはプールに突き落とせという指示があったんだ」

「ミクさんはおそらくプールに突き落とされ、故障して記憶がなくなったんだよ」

「けど何かしらのきっかけで捕まっていたスレ主の元から逃げ出してここまで来たという流れがあったんじゃないかな」

ミク「そう…… なのかな」

「まぁ、あくまで推理だから違う可能性もあるけど市民プールに行ったというのも確定と言ってもよいくらい可能性が高いと思う」

「もしかしたら市民プールに行ったら何か思い出したりしないかな?」

ミク「……もしかしたら思い出すかも」

ミク「じゃあ、市民プールに連れて行ってくれるの?」

「いや、実際は言うのは易く行うのは難しだ」

「希望を持たせるようなこと言ってたわりに拒否してごめん」

「でもミクさんをあちこち歩かせるのは非常に危険だと思う」

ミク「なんで?」

「ただでさえ、初音ミクが実在するとなったら大事なんだからそれこそ誰かに見られて大事になるのはまずい。またネット上に公になるだろう」

「公にしてマスターに気づいてもらうというのも手だがこれは賢くないやり方だ」

ミク「気付いた方が良いと思うけど」

「マスターがどういう人かわからない以上下手にミクを晒せない」

「そもそもマスターがなぜミクをネット上に公にしたのか?」

「もしかしたら本当は公にしたくなかったのかもしれないが推理として逆に僕は公にしたかったのではないかと考えている」

「というよりあのスレ主が君のマスターだったんじゃないかな」

ミク「どういうこと?」

「どういうきっかけで君が生まれたかはわからない。もしかしたら研究員が作ったのかもしれないしマスターが自らの手で作ったのか。またはミクさんはアンドロイドみたいだけど魔法みたいにパソコンから具現化何ていうのも万が一あり得るかもしれない」

「ただ、マスターはミクさんを手に入れ、君をおもちゃのように自由に使ったとする」

「そして飽きた頃にわざと公にし、スレを立てその場のノリでミクをプールに突き落としたんだと思う」

ミク「ひどい」

「そう、実はひどいマスターだった。だからミクさんは逃げてきた。しかしプログラムはマスターを求めるように出来ているから記憶を失った今でもマスターを求めている」

「その可能性もないわけではない」

「もしそうだったらマスターは君の事を探していないか逆にあいつ勝手に逃げやがってと怒りの感情でミクさんを捜し回っていると思うんだ」

「この予想が当たっているなら逆にマスターには会わせられない」

ミク「マスターはいい人だよ!!」

「僕も出来れば大事に接していたマスターであって欲しい」

「もしそうなら今頃ミクさんを心配して探しているだろう」

「偽りかも知れないが文字通りならスレが立っていた時はミクさんを捕まえたという書き方だったから第三者がミクさんを誘拐したということになってマスターは被害者側だと思うんだけどね」

「色々考えたけど、結局君のマスターの人物像がわからないと下手に動けない」

ミク「一体どうすればよいの?」

「ミクさんが何か思い出した時かマスター側が何かアクションをしたときに動いた方が無難だと思う」

「ただスレ主もマスターもこの地域にいることは確かだと思うんだ」

「ミクさんがこの辺で見たという情報が多いこととスレでプールが出た点、そして何より記憶がないミクさんがこのマンションに来たということは間違いなくミクさんはこの地域でマスターと過ごしていただろう」

「案外、このマンションの住人がマスターかもね」

ミク「わからないけど、ここにくれば助かるって勝手に足が動いたの」

「とりあえずは時間をかけてゆっくり探そう」

ミク「うん」

「ふう、たくさん話したからお腹がすいたな」

ミク「今日はミクがご飯作ってあげるよ」

「えっ? いいの!?」

ミク「もちろん。協力してくれているんだからミクも協力しないとね」

「あぁ、世の男性がどれほど羨むか。ミクさんの手作り料理とは」

「やっぱりネギ料理?」

ミク「ううん、ハンバーグとビーフシチュー」

「なぜそのチョイス?」


プルルル—

「んっ? 電話だ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ついに完成したぞー!!!」


長かった。ついに俺は曲を完成させた。ミクがいなくなってから数日がたったけど
一人黙々と勉強し、未だ残暑が残る今日この頃。Tシャツが汗ばむ中ようやく曲と歌詞を作りあとは歌うだけとなった。


「もっと早く作ってミクに歌わせてあげたかったな」


未だ研究所から連絡はない。いい加減ミクがどうなったか知りたかった俺は研究所に電話をしてみたがそこで驚愕の事実を知る。


「ミクが逃げた!?」

「あぁ、申し訳ないがな」

「なんで? 元に戻ったのですか?」

「いや、修理前だったのだが勝手に起動したんだ」

「おまけにデータ…… 記憶がデリートされており私たちが誰かわかっていなくパニック状態で研究所を抜け出している」

「今、捜索しているが君の所には来ていないか」

「えぇ、引越したので」

「そうだったのか。一応ミクが行きそうなところはサーチ済みだが中々見つからなくてな」

「……」

「動きがあればまた連絡する。では切るぞ」

「はい」

「ミク……」

嬉しさ半分、不安が半分という奇妙な感情になった。
ミクが目を覚まし動いてくれている。それだけでも嬉しかった。しかし記憶がない状態でどこにいるかというのがわかっていないと聞くと安否が気になる。

「俺のことも忘れられたかな……」

「でも……」

「こうしちゃいられないミクを探さないと。ウロウロしているうちにまた誘拐なんてなったら最悪だ」


急いでポケットに財布と携帯を入れ、鍵を探す
その時ポケットからコールが鳴る


「誰だ? こんな時に。もしもし」

「元気? 新しい就職先はどうだい?」

「なんだお前か」

「なんだとは失礼な。マンションを貸してあげたというのに恩を忘れたな?」

「悪い、悪い」

「いきなり就職するからマンションでるとか急で驚いたよ」

「まぁ、急だったよな。けど感謝しているよ。一応ね」

「一応かい」

「お前こそ、就職活動しなくて良いのかよ?」

「へへ、する必要がなくなった」

「どういうこと?」

「ついにデビューが決まりました!!」

「えっ? マジ!? ライトノベルで!?」

「そう、前にコンクールに応募して賞をとればデビュー出来るって話があったろ?」

「あぁ」

「さっき電話があって入選したからデビューしませんか?って連絡があってさ」

「すげーじゃん!! まさかお前がやるとはな」

「夢かなったよ。1カ月後にはデビューのため完全に東京に住むことになる」

「えっ? 東京行くのか?」

「あぁ、出版するにあたってどうしても東京ぬきでは出来ないから」

「そっか。寂しくなるな」

「おっ、デレた」

「デレてねーよ。きもちわるい」

「まぁこれからは住む所を探すのと引越し準備で忙しくなりそうだ」

「売れっ子めざしてがんばれよ。泣かず飛ばずだったらその時はロープ買っといてやっから」

「ついでに台もお願いねっておい」

「冗談。まぁお互い新しい仕事頑張ろうぜ」

「ありがとう。じゃあな」

「ちょっと待った」

「どうした?」

「ひとつお礼を言いたい」

「ん?」

「今日、初めて曲を完成させたんだ」

「おー、てっきり三日坊主になっていたと思っていたよ。難しかっただろ?」

「あぁ、こんなに時間がかかるものだとは思わなかった」

「でもよく完成させたよ。やれば出来るじゃん」

「お前は俺を救ってくれたきっかけを作ってくれた。ありがとう」

「どういうこと?」

「お前の初音ミクで俺の人生最悪じゃなくなったよ」

「それは良かったよ。僕でも人の視界を晴らすことは出来るんだな」

「なぁ」

「ん?」

「俺も誰かを救えるかな?」

「救おうと思えば声は届くと思うよ」

「やっぱりお前にカッコよい言葉は似合わないわ」

「恥を忍んでアドバイスしたのに」

「じゃあな。本当は見送りとかしたいけど難しいかも」

「やっぱり君に思いやる言葉は似合わないわ」

「恥を忍んで言ってやったのに」

「はは、別に気を使わなくてよいよ。またいつか飲もう」

「そうだな。もうラッパ飲みはしないで楽しく飲みたいな」

「じゃあ、また」

「あぁ」


ピッ—

「ご主人様電話終わった?」

「あぁ」

ミク「誰にかけていたの?」

「友人にね。ちょっと最後の挨拶を」

「ミクさんさっきもちらっと言ったけど僕はライトノベル作家としてデビューすることになった」

ミク「夢がかなったんだよね。すごいよ」

「ありがとう。もう時間がなく引越しの準備をしなくちゃいけなくなった」

「申し訳ないけどゆっくり君のマスターを探してあげる時間がなくなってしまったんだ」

ミク「えっ?」

「決断してほしい。君のマスターはおそらくこの地域にいる。しかし僕は東京に行かなきゃならない」

「君を預かった以上放り投げることはしたくない。このままお別れしてまたミクが路頭に迷うようなこと僕は出来ない」

「一緒に東京に来てほしい」

ミク「東京……」

「あぁ、東京に行けばマスターを見つけられる確率は0に等しくなってしまう」

「マスターをいったんあきらめて東京に来るか、僕と別れこの地域に残りマスター探しを続けるか好きな方を選んでくれ」

「どちらでもミクさんが選んだ道だから僕は意見を言わずそれに従う」

ミク「そんな…… 選べないよ」

「残酷な選択肢でごめん。どうしても夢はかなえたいんだ。この歳になるまで頑張ってきたから余計……」

ミク(どうすればいいの……)

ミク(この人は優しいし、ミクのために頑張ってくれてる中、裏切ることはできない)

ミク(それに一人じゃミクは生きていけないし……)

ミク(でも本当は残ってマスターを探したい……)

「ミク……」

ミク「ご主人様、私は……」

この辺で。おやすみなさい。

乙です

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一カ月後、東京


「ただいま」

ミク「おかえりなさい」

「今日のご飯は?」

ミク「ハンバーグとビーフシチュー」

「好きだなそれ」

ミク「これしか作れなくて」

「じゃあ今度教えてあげるよ」

ミク「うん……」

「……じゃあいただくかな」

ミク「召し上がれ」

(はぁ、やっぱり東京にきてから元気ないな)

(マスター、忘れられないんだろうな)

(なんかミクさんを元気にさせてあげる方法はないかな)

おもむろにテレビのスイッチを入れる
そこではテレビのニュースが写り出した


ミク「珍しいね。いつもならご飯を食べたらすぐ書斎に向かうのに」

「たまにはね」


『こんばんはようやく夏の暑さも忘れ、涼しくなってきましたね今日の特集は秋の虫特集です』

『コオロギや鈴虫の鳴き声は聞いているだけで癒され、涼しくしてくれますね』

『はい、秋の虫の鳴き声は鳴き声と言うより歌声と言った方が適切なぐらい心地よいです』


(歌声ねぇ…… 歌声、歌……)

(そういえばミクさんって歌ったことあるのかな?)

(どっちにしてもボーカロイドは歌うための存在)

(曲を提供して歌わせればミクさんも少しは元気になるかも!!)

(でも……)

(俺には作曲センスが…… あぁ思い出したくない黒歴史が……)

(!!)

(そういえば一か月前に曲を完成させた新米マスターがいたっけ)

「ミク、僕と出会って一回も歌ってなかったよね? 歌いたいかい?」

ミク「えっ? 曲があれば歌いたいです。何ていってもボーカロイドは歌うことが最大の喜びですから」

「そうか、そうか。ちょっと待ってて」

パソコンのメールを開き、新米マスターに曲と歌詞を添付して送ってくれとメールを送信する

ミク「何しているんですか?」

「僕は作曲の才能はないけど友人が曲づくりをしていてね。その人から曲を送ってもらう」

「それを歌ってみてよ」

ミク「良いんですか?」

「別に営利目的じゃないし、彼がどんなものを創ったか僕も気になるしね」


30分後、添付された歌詞とMP3のデータが送られてくる


「じゃあ、かけるから歌ってみて」

ミク「うん」


その歌詞にはマスターとミクが築いた信頼関係が記されていた。
一人じゃ広過ぎた部屋で出会った。暑かったあの夏。
水が怖くて、戸惑っていたのを後押ししてあげたあの夏。
君と二人で見たこぼれおちそうな星空はまだ目に焼き付いています。
本当はすぐに君に伝えたかったけど遅くなってしまった。
だけどやっと君に届けられそうだ。
君との夏休みもっと長ければと今も思うよ。

「ミク?」

ミク「……」

ミク「……マスター、ちゃんと聞こえたよ」


彼女の瞳から出た滴が頬を伝う


(泣いている…… 機械なのに)

ミク「私、全部思い出しました」

ミク「この歌が私の記憶を……」

ミク「ご主人様、この歌を創った人がマスターです!! 間違いありません」

「本当!?」

ミク「私、この歌をマスターに歌ってあげないと!! ご主人様、マスターに会わせて!!」

「わ、わかった。ミクさんがそこまで言うなら連絡をとってみる」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

空港——

「ったくあいつ、東京に行ったと思ったらすぐに戻ってきやがって」

「何だよ会わせたい人がいるから空港に来いとか」

「こっちは仕事をしつつ、ミク探しで忙しいというのに」

「東京で良い女でも出来たのかな?」

「いやあいつに限って……」

「おーい!!」

「いたいた。何だよ。せっかく東京にって……」

「隣にいる女……」

「もしかして……」

ミク「マスター!!」

「ミク!!」

「なんでこいつと一緒にいるんだ?」

「いやー、ミクさん変装とは言え眼鏡と帽子姿も中々似合うよね〜」

「おい、どういうことだ!? 説明しろよ!!」

「研究所を抜け出して、ミクさんは君を探してマンションまで来たんだ。記憶を失ってもね」

「だけど君は引越していたし、ミクさん自身君の顔も覚えていなかった。そんな中僕がミクさんとマンションの階段で出会って保護していたんだ」

「それまで一緒に暮らしながら探していたけどとうとう見つけられぬまま東京に行った」

「元気のないミクさんに対して何かできないかと考えた結果、君の曲を歌わせようと思ってね」

「その曲を聞いたのがきっかけで記憶が奇跡的に蘇り、こうして会いに来たというわけだ」

「すべてミクさんから一連の流れを聞いたよ。君も苦労したみたいだね」

「はは、隠していたんだけどばれちゃったか」

ミク「マスター、曲ありがとう。私頑張ってあなたのために歌う。約束だもん」

「それじゃ、僕は東京に戻るかな」

「これだけのために? ありがとう。悪いな。本当はミクともっと一緒にいたかったんじゃないか?」

「まぁね。天使が目の前にいたらそばに置きたいだろ。普通」

「でも」

「このミクさんは君にあげたものだ。君と一緒にいるのが彼女の幸せだ」

「大事にしなよ。悲しませることがあったら返してもらうからな」

「あぁ、わかっている」

ミク「ご主人様ありがとう。あなたがいなかったら私、きっとたどり着けなかった」

「ミクさん良かったね。長い間インストールしなくてごめんよ」

「でもわかってくれ。それも一つの愛なんだ」

ミク「うん」

「じゃあね。二人とも年末には帰れそうだからその時会おう」

「あぁ、待ってるよ」


二人を後に友人は人ごみの中、姿を消していった


「皆に報告しないとな」

ミク「ネルちゃんにハクさん?」

「あぁ、研究所の人たちにもな」

ミク「そうだね、勝手に抜け出してきたから迷惑かけちゃった」

「一応、メンテナンスも必要だ。しっかり診てもらいなよ」

ミク「うん」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


それから二人は家に戻った。新しいアパートもミクは気にいってくれ
狭いけど掃除が楽そうなんて笑って答えてくれた。アパートに着いてからはネルとハクに連絡をした。二人とも元気そうなミクの声を聞いて安心してくれたようだ。
その後二人で久しぶりにご飯を食べたあとに、ミクは俺の曲を歌ってくれた。
自分でもわかるけど出来ははっきりいって良くない。ネットにアップしたら間違いなく
笑われるようなチープな出来であったがミクは何度も歌ってくれた。
何度もリピートする中、俺はただただ黙ってその曲を聞き続けた。

次の日——

ミク「マスターおはよう!!」

「おはよう。なんか生き生きしているな」

ミク「うん。マスターに会えたし、これでもかってぐらい歌えた。幸せすぎて死んじゃうよ」

「それは良かった」

ミク「ねぇねぇ、今日は何するの?」

「今日は……」

ミク「今日は?」

「研究所に連絡してミクを研究所に預ける」

ミク「メンテナンスするって言っていたもんね」

ミク「メンテナンスが終わったらまた遊びたいな。マスターと」

「いや、それは出来ない」

ミク「なんで? あそぼうよ」

「俺は……」

ミク「?」

「テストプレイ者として失格だと言われたからミクを家には置いておけないんだ」

ミク「えっ?」

「公にしてしまってあの騒ぎになっただろ。それで博士にそう言われたんだ」

ミク「嫌だ!! マスターと一緒にいたい。せっかく再開したのにひどいよ」

「ごめん、俺がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかったんだけど」

ミク「行こう!!」

「ど、どこへ?」

ミク「研究所へ。私が博士を説得する」

「でも博士から無理と告げられたのに」

ミク「博士はマスターを選ばなかったけど私はマスターを選ぶからいいもん」

ミク「ほら早く」

「ちょ、ちょっと待てって」

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