亜美「私は!」真美「アイドル!」 (15)


「ねえねえ亜美、亜美ってば」
「…んー…」

 真美が寝ぼけた目で、ぼんやりと亜美の事を見ている。
 時計はそろそろ7時半、何時もよりもちょっと早い。
 でも、亜美は知ってるんだ。
 昨日、お父さんがコソコソと、東丘ハンズで某国大統領の仮面を買ってきてたのを。
 
「最近、あんまり来ないなーと思って油断してると思ったら大間違いだかんね…」
「あー、お父さん?」
「うん、そろそろ来るんじゃないかなーって」

 耳を澄ませば、ドアの外でゴソゴソ音が聞こえてくる。
 
「ほら、来た来た…ねえ、真美、あれどこにしまったっけ?」
「え?ああ、あれ?確かこの辺り」

 外に居るお父さんに気付かれない様に、真美もコソコソと動く。
 真美が引っ張り出してきたマスクをかぶる。
 そして、部屋のクローゼットに2人して隠れる。
 扉の隙間からこっそりのぞいてみると、お父さんがマスクをかぶって亜美と真美のベッドに向かう。

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 『イエースウィーキャー…あれ?』

 思いっきり布団を持ち上げてから、お父さんは目を白黒させてる。
 してやったり!

 「行くよ、真美」
 「うんっ!」

 亜美と真美が居ないのを不思議そうにしているお父さんに、ちょっとした仕返しだ。
 クローゼットから勢いをつけて飛び出して!

 「「トラストミ――――――――――――!」」 
 「なっ!?」

 急に飛び出してきた亜美と真美に驚いて腰抜かしちゃった。

「んっふっふ~、パパが真美達に悪戯で勝とうなんて、10年早いんだYO!」
「まだまだ詰めが甘いのぅ、父上殿」

 腰に手を当てて高笑いしたら、お父さん、マジで悔しがっちゃった。

「く~や~し~い~っ!くっ、覚えておけ!」
「三下悪役の捨て台詞だよーそれー」




『あなた!何朝っぱらから遊んでるんです!今日は高橋さんのオペでしょう!』
『あー、そうだったそうだった』
『早く朝食済ませちゃってください』

 着替えを済ませて、顔を洗っていくとお母さんにお父さんが怒られてた。
 いつもの事だけど、仲がいいよねぇ。

「お母さーん、おっはー」
「よーございまーす」
「ちゃんと挨拶はする!」
「「おはようございます、お母さん」」
「宜しい」

 …うう、鬼軍曹。
 そんな事を頭の中で考えてるだけで、お母さんはこっちをちらりと見てくる。
 目をそらしてテーブルに着くと、朝ご飯が並べられる。

「さあいっぱい、たべよおーよ、はやおーきでっきたご褒美♪」

 亜美が歌いだすと、その後に続いて真美と、お父さんまで歌い出した。

「ほら皆で食べようよ♪」
「お昼まで、持つよう♪」

 丁度腕コーラスが終わると、お母さんが机について、また一喝!

「早起きでもないしご褒美も出ない!早く食べなさい!」
「「「はーい」」」

 何かこう、誰かに似てるんだよね、誰だろう。
 朝ご飯を食べ終わると、亜美達は仕事に行くお父さんの車に便乗して、事務所に向かった。



「あら亜美ちゃん、真美ちゃん、おはよう」
「おっはよー、ぴよちゃーん」
「あれ?真美達だけ?」
「ええ、皆今日は収録が多くて、殆どの子が直帰になるんじゃないかしら」

 ちょっと前なら、レッスンまでの待ち時間事務所で潰してる皆で賑やかだったのに、今はなんだか寂しい。
 でも、それだけ皆売れてきたってことだから、まあ、しょうがないのかな。

「亜美ちゃんは、12時から伊織ちゃんとあずささんと一緒に、テレビ番組の収録ね、真美ちゃんはあと15分くらいでプロデューサーさんが戻ってくるから、そしたらCDのスチール作成に行ってもらう事になるわ」
「アイアイサー!」

 とりあえる、まだまだ時間もあるから、真美と一緒にソファでゲームを始める。
 最近進んでないなー。
 多分、2人でやる時間が減ってるからなんだろうな。

「兄ちゃん来るまで、あとどのくらい?」
「10分くらい?」
「んじゃ、1クエくらいいける?」
「よゆーっしょ」

 カチャカチャとボタンを押しまくって、中ボスを狩った頃、丁度にーちゃんが事務所に走り込んできた。
 
「遅くなってすまん!真美、もう行けるか?」
「うあ?もう行くの」
「すまん、予定が大分押してるんだ」
「りょーかーい」

 真美とにーちゃんが慌てた様子で事務所から出ていくと、また事務所の中は静かになった。


「ねえ、亜美ちゃん」
「なにー、ピヨちゃん」
「亜美ちゃんは、真美ちゃんとすっごく仲良しよね」
「うん」
「…寂しく、無い?」
「え?」

 ピヨちゃんの姿は、衝立の向こう側だから見えないけど、聞こえてくる声は何だか心配そうだった。

「…大丈夫だよ。亜美、うれしいんだ」
「えっ?」
「真美が、どんどん人気が出て、テレビとかラジオとかで一人で頑張ってるのを見ると、真美も頑張らなきゃなぁって思えるんだ」
「…そう、亜美ちゃんらしいわね」
「それに、亜美だってアイドルの先輩として、真美に負けてらんないからね!」

 ピヨちゃんとそんな話をしていると、律ちゃんが出勤してきた。

「そろそろ行くわよ、亜美」
「あいさー」


 兄ちゃんが運転する車で、真美は収録先のスタジオに向かう。
 今日はそのまま、ラジオの収録と雑誌の取材も終わらせてから事務所に帰るから、たぶん亜美はもう帰っちゃってるんだろうな。

「真美、最近どうだ。仕事は」
「うん、楽しいよ」
「そうか…思えば、少し前まで、真美は事務所で留守番、亜美だけ仕事に出かけていたんだな」
「そうだねぇ、兄ちゃんも色々てんやわんやだったよね」
「…そうだなぁ。ダブルブッキングとか、色々やってたな」
「今は、すっかりエリートプロデューサーみたいになっちゃったね」
「そんな、まだまだだよ」

 兄ちゃんは運転中だから、亜美の方は向けない。
 だから真美は、ここぞとばかりに兄ちゃんの横顔を見つめてみる。

「兄ちゃんや、ピヨちゃんや律ちゃん、皆のお蔭で、真美もこうやって、アイドル、頑張って来れてるんだからね」
「……真美が、諦めずに頑張ったからだよ」

 兄ちゃんは、少し照れくさそうに笑ってるけど、兄ちゃんの言う事も、結構その、何か真美も恥ずかしくなる。
 でも、ちょっと嬉しいかな。
 兄ちゃんが、真美の事をほめてくれたのは。

「ありがと、兄ちゃん…真美ね、ホントはちょっと、悔しかったんだ。真美の方が一応、お姉さんなんだけどさ。でもアイドルとしては亜美の方が先に行っちゃって…悔しい、って言うよりも、怖かったのかもしれない…亜美が、どこか遠くに行っちゃうんじゃないかって」

 兄ちゃんは、真美が話している間、黙って前を見ていた。

「でも、兄ちゃん達のおかげで、真美もまた、亜美の隣に立ってるんだよ。それって、当たり前みたいで、結構凄い事だと思うんだ。双子のアイドルって」

 たくさんのファンの兄ちゃん、姉ちゃん達から応援されて、真美は亜美とステージに立つことができる。
 それが真美にはものすごく凄いことに感じる。

「だから、ね。まだまだ頑張っちゃうからね」
 


「…」
「どうしたのよ、亜美。珍しいじゃない、何か考えこんじゃって」

 今日は竜宮小町で出演する歌番組の収録だった。
 思ったよりも早く収録が終わっちゃったんだけど、律ちゃんは打合せがあるから、それが終わるまで亜美達はここで休憩中。
 そんな時に、ふと、亜美はずっと気になっていた事を考えてみた。何で、真美が髪を伸ばしたのか。
 今まで全然気にならなかったのに、一旦気になりだすとずっと頭にひっかかってて何か気持ち悪い。

「あっ、いおりん今のひどいじゃん!亜美が普段考え込んでないみたいに聞こえるよー!」
「で、何考えてたのよ」
「…真美、さ。髪を伸ばしてるじゃんか。亜美と一緒じゃ」
「そうね、見分けがつきやすくって助かるけど」

 冗談めかして言ういおりんに、亜美は思わずムッとする。

「うあうあー!なんか酷くないそれ!」
「あらあら、大きな声を出して、どうしたの?」

 あずさおねーちゃんが、いつもののんびりとした声で亜美の頭を撫でてくる。

「なんで真美が髪を伸ばしてるのか、気になったんですって」
「そうねえ、そういえば、昔は二人とも同じだったのよね?」
「うん」
「そうねえ…」

 あずさおねーちゃんは、亜美のサイドテールをじーっと見つめているんだけど、それはそれで、なんだかくすぐったい。

「…」
「あずさ、何か分かったの?」
「ね、ねえあずさおねーちゃん」
「亜美ちゃんの髪、つやつやしてて綺麗ねえ」
「違うでしょあずさ!」
「あら」

 なんかもう、あずさおねーちゃん見てたらモヤモヤもどっかに行っちゃった気がする。

「んー、でも、真美ちゃんは、亜美ちゃんと一緒だから嫌になって、髪型を変えたんじゃないと思うわ」
「…そうかなぁ」
「…今更何悩んでんのよ」
「んー、何か急に思い出しちゃったんだよ」
「…あんた達って、案外そう言うとこは鈍いのね」
「えっ?」

 いおりんはちょっと不思議そうな顔をしてた。
 でも、亜美にはそれが何でなのかはよくわからない。

「あんた達、髪伸ばした伸ばさない程度でどうこうなる仲なの?」

 いおりんの一言で、亜美はそれまでのモヤモヤが吹っ飛んだように思った。
 そう言われてみれば、そうかもしれない。

「それに、アンタは双海亜美、でしょ。だったら真美が髪を伸ばしたって別に関係ないじゃない」
「そっか…そうだよね」

 そんなこんなで律ちゃんが来たので、亜美達は事務所に戻った。


 「真美、お疲れさん」
 「兄ちゃんもおつかれちゃーん。今日のお仕事、どうだった?」
 「うん、真美らしさが良く出てたよ。完璧だ」
 「そっか」
 「…ねえ、兄ちゃん、真美らしさ、って何?」
 「えっ?」

 ふと、気になった事を口に出してみると、兄ちゃんは思った以上に困っていた。
 確かに亜美と真美は双子だし、パッと見ではほとんど見分けが付けられなかった。
 だから、亜美と真美は自分の事を「亜美」と「真美」って言うし、髪型も変えてみたり。
 最近は、真美はロングにして見たけど、それは亜美と真美の見分けがつきやすいようにするだけじゃなくて、亜美と真美っていう2人の人間が居るから、おんなじじゃなくても良い気がしたから。
 
「らしさ、っていうのは難しい問題だな。多分、真美の中にも「双海真美」っていう人間はこういう人間だっていうのがあって、俺の中にも、プロデューサーから見た「双海真美」って言う人間のイメージがあるし、たぶん亜美にも「双海真美」っていうのはこういう人間だっていうのがあると思うんだ」
「真美の中の「双海真美」…」
「うん、だから、心配する事は無いと思うんだ」

 兄ちゃんの言う事は、何となくわかった。
 必ず真美も亜美と同じようにする必要はないって事を、どこかで思ったのかもしれない。
 
「…ありがと、兄ちゃん」
「えっ?」
「真美、何かすっきりしたよ」
「そうか、それは良かった…でも、だからって亜美との事、あんまり考え過ぎる必要はないんだ。2人は、とっても仲の良い兄妹なんだからな」



「ただいまー」

 お仕事が終わって、事務所に帰ってみると、もう竜宮小町の3人が帰ってきてた。
 
「亜美―おつかれちゃーん」
「あっ、真美真美!待ってたよー!」

 亜美がソファから飛び上がって、真美に飛びついてくる。
 思わずまじまじとその顔を見てみる。
 真美と同じ顔、声。
 でも、やっぱり亜美は亜美だった。

「…どしたの?」
「…何でも無い!」
「おっ、帰るのか、2人とも。俺が送っていこうか?」

 せっかくの兄ちゃんのお誘いだけど、今日は何となく、2人で帰りたいな。
 そんなふうに思ってたら、先に亜美が口を開いた。

「んー、今日は何となく、2人で帰りたい気分」
「…そうか、じゃあ気を付けて帰れよ」
「ラジャー!」

 もしかして、亜美は真美の考えてる事が分かったのかな…
 まさかね。

「んじゃ、皆、お先にー」
「明日もよろしくねーいおりーん、あずさおねーちゃーん」



 事務所を出て、2人で歩く道。
 最近は帰る時間もバラバラだったし、久しぶりだ。
 2人で、何でも無い事ばっかり話しながら、同じように歩いて帰る。
 そんな時間が、何だかすっごく幸せに感じた。
 
「どしたの?真美」
「ううん、何でも無い。亜美こそ、どしたのさ、ニヤニヤしちゃって」
「べっつにー」
「あっ、何か隠してるんでしょ!」
「何にもないよー」
「嘘だーっ!真美にはぜーんぶ、お見通しだからね!」
「えへへっ、なーいしょー!ほら真美!駅まで競争!ヨーイドーンっ!」
「あっ、待ってよ亜美!亜美ったら―!」

 いつまでも、こんな風に2人でふざけ合ったりできたらいいなぁ。
 でも、亜美も真美も変わっていく。
 いつかは2人とも、別々の方に走っていくのかな。
 今はまだ、先にデビューしてた亜美を追いかけてるけど、でも、真美もそのうち、別の方に…でも、今は良いんだ、何時もみたいに、2人で一緒の方向へ、走っていけばいいんだ。

「真美も負けないからね!」


『真美も負けないからね!』

 ダッシュで追いかけてくる真美をチラッと振り返りながら、少しだけ走るスピードを緩める。
 何かこう、色々思い出しちゃうな。
 亜美が先にアイドルとして売れ出してから、真美は必至で亜美「」の後ろを走ってきた、何かそんな感じがする。
 でも、今は2人で並んで、ステージに立ってる。
 段々真美が近づいてくる毎に、そんな感じがして来た。
 
「でも…まだまだ追い抜かせないよ!」
 
 ゆるめたスピードをまた少し早める。
 まだまだ落ち着いてなんかいられないよね。
 だって、亜美も真美も、トップアイドル、目指してるんだもん。 


 


 


お粗末様でした。亜美、真美、お誕生日おめでとう!(遅

姉妹いつまでも仲良くしてほしいですね。

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