キョン「――よかったな、長門」 (44)

古泉「昨夜、涼宮さんの機嫌を損ねるようなことをしましたか?」

キョン「おい、顔を見るなりそれか? 随分とご挨拶だな」

古泉「……昨夜、ここ最近では考えられないほど強大な神人が現れました」

   「最近は涼宮さんの精神状態も随分と安定をしていましたので、油断をしていました」

   「処理するのに大変な時間を取られました。束の間の平和を謳歌し過ぎていたのかもしれません」

キョン「……その原因が俺だと? まるで八つ当たりのような物言いだな」

古泉「気分を害されたようでしたらお詫びしますが、誓って他意はありません」

   「我々としては原因を突き止めておかねば安心できません。何か思い当たる節はありませんか?」

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キョン「残念ながらな、俺の頭の中にピンとくるものはないぞ。悪い夢でも見てたんじゃないか?」

古泉「涼宮さんが夢を見た結果、神人が出現することはままあります。が、昨日のそれは度を越しています」

   「対人的な要因があったと考えるのが自然です」

キョン「それで俺を尋問しているのか……。言い寄られたところで何も出てこないのが残念だな」

    「お前も知ってるように団活も帰宅途中もハルヒの機嫌が悪かったようには見なかっただろ?」

古泉「……ええ」

キョン「途中で女子連中が寄るところがあると言って別れたが、あれ以降何かがあったんじゃないか?」

    「どうせお前は会話の内容も把握してるんだろ?」

古泉「いえ、流石に機関といえども、ガールズトークの内容までは調査しません」

   「人の道に反するのではないか、という森さんの意見です」

キョン「超能力者が人の道を語るとは何とも不思議な話だな」

古泉「笑い事ではありませんよ。原因を突き止め、涼宮さんの心の安寧を取り戻さねばなりません」

キョン「出来ることにはもちろん協力するが、今回は俺じゃないと思うぞ」

古泉「では一体誰が――」

ハルヒ「――キョン! いるんでしょ! ちょっと来なさい!」

古泉「やはりあなたなんじゃないですか……? ドア越しにも怒声とわかりますよ」

キョン「そんなはずはないんだが……」

キョン「なんだ?」

ハルヒ「……あんた有希の誕生日知ってる?」

キョン「いや、知らないな」

    (前にもふと思ったことはあったが、あいつの設定ではどうなっているんだろうな?)

ハルヒ「昨日ね、有希と話してたらたまたま誕生日の話になったのよ」

    「有希にいつか訊いたら知らないっていうのよ? 信じられる? 自分の誕生日よ?」

キョン「ま、まあ、そういうこともあるだろう……? たまたま忘れただけかもしれない」

ハルヒ「たまたま忘れるってどういう状況なのよ! このアホ!」

    「あまり下世話な詮索はいけないけどね、きっと嫌なことがあったのよ……」

キョン(そういえば長門が生まれた原因はこいつにあるんだよな……)

ハルヒ「だからね! 有希の誕生日を再設定することにしたから!」

キョン「は……?」

ハルヒ「我がSOS団の団員のことは、団長が責任を持って面倒をみるのが常識でしょう」

キョン「またとってつけたような理由付けだな。まあいいんじゃないか?」

ハルヒ「……」

キョン「おい、どうした?」

ハルヒ「……昨日、有希と別れたあと考えたのよ。あたしは初めて自分の愚かさを呪ったわ」

    「知らなかったとはいえ、変なことを訊いて結果的に有希の心を踏みにじったかもしれないわ」

    「このあたしともあろう者が……。情けなくて、申し訳なくて有希に心から詫びたいわ」

    「自己責任とはいえ、おかげさまで昨日はちっとも寝られなかったわよ!」

キョン(ハルヒにもこういうところがあるんだな……)

ハルヒ「何ニヤニヤしてんのよ! あんたには指令を与えるわ」

    「まず、有希の好きなもの、欲しいものをリサーチしてきなさい」

    「次に、誕生日についてどう思っているのか訊きだしてきなさい。ただし、自然によ」

キョン「そんなもんお前が訊けばいいじゃないか。きっと長門ならなんでも答えてくれるぞ」

ハルヒ「……悔しいけど有希はあんたの方が話しやすいんじゃないかと思うのよ」   

キョン「で、肝心の誕生日はいつにするんだ?」

ハルヒ「もう決めてあるに決まってるでしょ! さっさと行ってきなさい!」

キョン「――というわけでな、原因はやっぱり俺じゃなかった」

古泉「これはあなたにお詫びをせねばなりませんね。大変申し訳ありませんでした」

   「しかし、それにしても面白いことになってきましたね」

キョン「どこが面白いんだ? 長門が自分の誕生日を知らないと言ったんだぞ」

    「あいつは自分がどういう立場なのかわかってないんじゃないのか?」

古泉「涼宮さんは長門さんが宇宙人などということを信じるはずがありません」

   「あなたが直接話しても信じなかったんですよ? そこは心配の必要がありません」

キョン「それもそうだな……。まったく、どういう思考をしてんだあいつは」

古泉「さて、今回の涼宮さんの企てが我々に悪い影響を与えるとは思えません。存分に乗ろうじゃありませんか」

キョン「まあ長門がどういう顔をするのかは確かに興味があるところだが……」

古泉「久しぶりに無責任に計画に賛同できると思うと高揚するものがありますね」

   「……ただ、この件は長門さんには秘密、ということにしておいた方がいいと思いますよ」

キョン「長門に秘密もクソもないだろう。おそらく俺たちが今会話していることすら筒抜けだろう」

古泉「涼宮さんが内密に進めようとしているのですよ? 我々はそこも暗黙の了解で乗らねば粋とは言えませんよ」

キョン「お前はいつから江戸っ子になったんだ」

古泉「誕生日がいつになるにしろ、各自プレゼントくらいは選んでおいた方がいいでしょうね」

キョン「プレゼントか……。あいつに欲しいものなんてあるのか?」

キョン「よう、長門」

長門「……」

キョン「お前、昨日ハルヒに自分の誕生日がわからないって言ったらしいな」

長門「……言った」

キョン「適当でも何でも言っておいた方がよかったんじゃないか? ハルヒが在らぬ妄想で勝手に心を痛めてたぞ」

長門「私は概念としては遥か彼方から存在している。このインターフェースが誕生したのは三年ほど前」

キョン「ハルヒにはそうは答えられないもんな……。わからない、が最適解だったかもしれん」

長門「……」

キョン「で、知ってるだろうけど、ハルヒがお前の誕生日を決めてくれるそうだ」

    「ハルヒが嬉しそうに企みを開始してるから、面倒でも乗ってやってくれないか?」

長門「わかった」

キョン「いい機会だから、俺もお前に何かやろうと思うんだが、何か欲しいものはあるか?」

長門「特にない」

キョン「そう言うと思ったよ。まあ多分まだ時間はあるだろうから考えといてくれよ」

長門「……」

キョン「あとな、ハルヒが誕生日についてどう思うかってさ」

長門「……特別な日」

キョン「それだけ聞ければ十分だ」

キョン「朝比奈さんって誕生日いつなんですか?」

みくる「禁則事項です」

キョン「誕生日もダメなんですか? 昨日、ハルヒに訊かれたりしませんでした?」

みくる「過去の時間平面における……。きっ、禁則事項に則って答えました」

キョン「何でもあるもんなんですねえ。みくる、で語呂合わせでもするんですか?」

みくる「キョンくん、何か用事があったんじゃ……」

キョン「ああ、そうなんですよ。長門の誕生日をハルヒが勝手に設定するようなんです」

    「で、押し付ける気はありませんが、各々、長門に誕生日プレゼントを用意した方がいいかと」

みくる「それは楽しそうですね! 何を買おうかなあ」

キョン「もちろん、このことは長門には内密ということでお願いしますね」

    「おそらくハルヒからも話があると思いますが……」

ハルヒ「わざわざ有希の目を盗んで集まってもらったのは他でもないわ!」

    「SOS団主催で、有希の誕生日会を盛大にやります」

    「有希の過去に何があったかは詮索しないわ。あたしたちには関係ないもの」

    「ただし、一緒に過ごしている今は別よ。団員である有希が楽しくない思いをしてるなんて嫌だわ」

    「みんなにやってもらいたいことがいくつかあるので、これからそれを説明します」

キョン(随分とノリノリだなおい)

ハルヒ「まず、プレゼントね。これがないと始まらないと言っても過言ではないわ」

    「各自で有希が欲しがりそうなもの、有希にぴったりなものをチョイスしておくように」

    「キョン、有希が欲しそうなものは訊いてこれたの?」

キョン「……それが特になさそうだった」

ハルヒ「あんた本当に使えないわねえ……。まあいいわ。各々で有希に似合いそうなものを選びなさい」

キョン(長門が物欲を見せたことなんてなかっただろうが。いや、夏祭りでお面を買ってたか……)

ハルヒ「プレゼントは本日より三日以内に買って部室に持ってくるように。くれぐれも有希にばれないようにするのよ!」

キョン「ちょっと待て、いくらなんでも急すぎる! 俺は財布の中身が心許ないんだ!」

ハルヒ「あんたね、他でもない有希の誕生日なのよ? どうにか工面してきなさい」

キョン(めちゃくちゃだ。……そういえば古泉や朝比奈さんはどこから金を得ているんだ?)

古泉「僕は異論ありません。可能な限り迅速に用意しましょう」

みくる「あたしは早速今日お店を回ってみたいと思います」

ハルヒ「これはある意味で時間との勝負だからね! 早く集まれば早く実行できるかもしれないのよ」

    「言うまでもないけどキョン、遅れたら罰金よ、罰金」

キョン「仕方ない、親に無心でもするか……」

キョン「朝比奈さんは何を買う予定なんですか」

みくる「あたしはもう決まりましたよ」

キョン「後学のために教えてくれませんか?」

みくる「ダメですよ。こういうものは秘密にしておかないと面白くないじゃないですか」

キョン「それもそうですよね……。俺は情けないことに何を買えばいいのかさっぱりわからないんです」

    「長門の場合、何を買っても大きな反応は期待できないし、それでも受け取りそうじゃないですか」

みくる「……考えすぎじゃないですか? プレゼントは相手のことを想って買うものですよ」

    「言ってみれば身勝手な想いをぶつけても許されるということなんだと思います」

キョン「はあ……」

みくる「長門さんのことを考えつつも、自分があげたいものをあげればいいんですよ」

キョン「随分簡単に言ってくれますが、俺にはさっぱりで……」

みくる「あんまり考えすぎるとどつぼにはまりますよ」

キョン「……もうはまっているのかもしれません」

古泉「僕ですか? 朝比奈さんに一日遅れましたが、昨日手に入れてきましたよ」

キョン「何を買ったんだ?」

古泉「それは教えられません。涼宮さんからも釘を刺されているんですよ」

キョン「何だと?」

古泉「あなたがきっとプレゼント選びに苦戦して助けを求めてくると。そのときは突き放すように、と」

   「あなたの力になって差し上げたいのは山々ですが、涼宮さんの命令ならば仕方ありません」

キョン「くそ! 妙なことを吹き込みやがって! ちなみにハルヒはどうなんだ?」

古泉「涼宮さんは我々に話をした時点で買ってあったそうですよ」

キョン「あのやろう……。これはまったくもってフェアじゃないぞ」

古泉「これは妙なことをおっしゃいますね。涼宮さんの前にあってフェアさを求めるなど滑稽と同義ですよ」

   「絶対的機動力を持つクイーンと対峙しても、ポーンは前に進むしかないんですよ」

キョン「……プロモーションのチャンスは?」

古泉「恐らく生涯ないでしょうねえ。我々は愚直なままの、いちポーンに過ぎませんよ」

キョン「ひとつ教えろ。プレゼント選びのポイントは何だ?」

古泉「相手をどう思っているのか、ということにもよりますね。例えば――」

   「感謝をしているならば、感謝の気持ちというものがプレゼントになります」

   「迷惑をかけたことを詫びたいなら、お詫びの品になります」

   「自分の秘めたる想いを伝えたいのであれば、花と愛の告白ということになります」

   「あなたは長門さんにどういう思いを抱いておいでですか?」

キョン「もういい、お前に訊いたのが間違いだった」

古泉「急かすつもりはありませんが、早めに決めた方がいいと思いますよ」

   「三日を待たずして涼宮さんが何を言い出すかわかりませんから」

キョン「そんなことはわかってる」

キョン(一体、長門に何をあげればいいんだ……)

    (長門には常日頃から散々世話になっていることは間違いない)

    (不本意ながらも古泉の言い分を加味すると、感謝の気持ちとお詫びを兼ねたものになる)

    (あいつが喜びそうなものって何だ?)

    (朝比奈さんは自分があげたいものをあげればいいといっていたな)

    (俺が今欲しいもの……? いや、それは違うな)

    (普通に考えれば本だ。長門はいつも読書をしている。が、俺は本については明るくない)

    (知ったかぶってシェイクスピアでもやるか? いや、長門もあの手の言い回しが嫌いかもしれん……)

    (待てよ、長門は宇宙人だ。恐らく普通とは感覚が違うだろうと思われる)

    (ということは、長門が絶対に買わないものがある……?)

ハルヒ「あんた、例のものはどうしたの?」

キョン「絶賛検討中だ。頭痛に悩まされるほどにな」

ハルヒ「あんた私が言ったこと忘れたの? 今日がタイムリミットなのよ!」

キョン「今日中に準備して、明日に間に合えばいいだろう? どうかそういうことにしてくれ」

ハルヒ「……まあいいわ。今日はあんたの団活は免除してあげるから、授業が終わったらさっさと探してらっしゃい」

    「わかってるでしょうけどね、ちゃんと有希のことを考えたものにするのよ」

    「金額じゃなくて誠意のあるものにしなさい。変なものにしたらぶっ飛ばすわよ!」

キョン「安心しろ、元より金額については無理が出来ない。ハートで勝負するつもりだ」

みくる「あれ、今日はキョンくんいないんですか?」

ハルヒ「頭が痛いんだって。駅前の商店街にいい医者がいるって行ったら、取る物も取り敢えず向かったわ」

みくる「……そうなんですか」

古泉(随分と苦戦しているようですね。これは何が出てくるのか楽しみですね)

ハルヒ「そういえば有希、あんた嫌いな数字とかある?」

長門「特にない」

ハルヒ「嫌いな曜日は?」

長門「特にない」

ハルヒ「なるほど、助かったわ!」

みくる「……?」

キョン(さて、商店街へ着いたはいいが、どこから見るべきか……)

    (まずはここだ。よし、これでいいだろう。色は……)

    (朝比奈さんはきっとピンクや赤系の明るい色を選択するだろう)

    (長門に似合う色は……。これだな。よし次だ)

    (ここにあるか……。よし、あった・。これをつければ親近感が沸くはずだ)

    (……アイロンは押入れにあったよな)

    (問題はこれらをどうやって学校まで持って行くかだな)

    (かなり目立つんじゃないだろうか……。まあ仕方ない。長門のためだ)

キョン「持ってきたぞ!」

ハルヒ「どれどれ……。何これ?」

キョン「何の変哲もない座り心地のよさそうな座布団に、国民的三分ヒーローのワッペンをつけたものだ」

ハルヒ「あんたどういう趣味してんのよ! これは有希への誕生日プレゼントなのよ!」

キョン「人の好みはそれぞれだ。熱い思いをアイロンにこめて貼り付けた。きっと気に入ってくれると信じてる」

ハルヒ「何で色が青なのよ。有希は女の子よ」

キョン「長門に似合う色を選んだつもりだ。俺の中の長門は青がよく似合うと思っている」

ハルヒ「……まあ真剣に選んだみたいだからいいわ。有希が来る前にちゃんと包装しておくのよ」

キョン「わかっている」

キョン「……おい、一体いつになったら誕生日会をするんだ? あんなにプレゼントを急かしたのに」

ハルヒ「まだ一日しか経ってないじゃない。そのくらいでぶつくさ言うな!」

キョン「お前は誕生日がもう決まってるって言ってたじゃないか」

ハルヒ「だからあたしは待ってるのよ! ちょうどいいタイミングが来るのをね」

キョン「どういうことだ?」

ハルヒ「平団員は団長の崇高な考えに異を唱えないで黙ってなさい。今日かもしれないんだから」

キョン「……?」

ハルヒ「放課後を楽しみにしてなさい」

キョン「古泉」

古泉「おや、奇遇ですね」

キョン「またハルヒが何かしでかそうとしてるぞ」

古泉「特に不穏な動きはしていないようですよ。何かサプライズを計画しているだけでしょう」

キョン「本当にそれならいいがな……」

古泉「おや、随分と曇ってきましたね。今日は晴れの予定でしたが雨になるんでしょうか」

キョン「たまには天気をへそを曲げることもあるだろ。おっと、放課後にまた」

古泉「ええ、部室でお会いしましょう」

ハルヒ「キョン、今日やるわよ」

キョン「何を?」

ハルヒ「有希の誕生日会に決まってるでしょ! 昼休みに古泉くんと部室を飾りつけしてきてちょうだい」

キョン「どうやって? そんな準備してないぞ」

ハルヒ「部室の隅に必要なものは揃ってるわ。有希は私が連れ出しておくから迅速に取り掛かるのよ」

キョン「何で今日なんだ?」

ハルヒ「あんたって本当にダメね。いい? 派手に飾り付けるのよ!」

キョン「古泉、さっき放課後にと言ったばかりだが、急用が入った。昼休みに部室の飾り付けを手伝ってくれ」

古泉「わかりました。しかしどうして急に?」

キョン「わからん。ただきっと俺たちは従うしかないんだろうな」

古泉「随分と物分りがよくなりましたね。二人ならさほど時間もかからずに出来るでしょう」

   「……待ってください。昼休みは部室に長門さんがいるのでは?」

キョン「ハルヒが連れ出してくれるそうだ」

古泉「抜かりはないと」

キョン「ああ、飯を済ませたら部室へ集合だ」

キョン「ハルヒはこういうときは用意がいいな」

古泉「今回はあなたがプレゼント選びに苦戦していたので、ご自身で準備したのでしょう」

キョン「ところでお前はプレゼント何にしたんだ?」

古泉「相手が長門さんですからね。無難ではありますが、本にしましたよ」

キョン「真剣に選んだんだろうな?」

古泉「僕の知り合いに頼んでウェルズ1895年の作品、『タイムマシン』の初版本を手配しました」

   「長門さんにとっては大した価値はないかもしれませんが、コレクターズアイテムとしてどうかと思いましてね」

キョン「それ、高いんじゃないのか? というより洋書だよな、それ」

古泉「価値は僕にはわかりません。もちろん洋書ですが、長門さんにはあまり関係のないことですから」

   「我々では想像もつかないような先端科学が結晶が、百年以上前のアナログの化身を手に取るわけです」

   「非常に興味深い画になりそうではありませんか」

キョン「……お前はやっぱり悪趣味だな」

古泉「ちっぽけな我々も思考して生きているということを憶えておいて欲しいんですよ」

   「といっても人類の過去の威光を使って見栄を張ったつもりでいるだけですけどね」

   「長門さんにとっても19世紀に想像されたタイムマシンは興味深いことでしょう」

キョン「……雨、降りそうで降らないな」

キョン「……長門、何をしている?」

長門「目隠しをして座っているように指示された」

キョン「ハルヒにだよな」

長門「そう」

キョン「いつ連れてこられたんだ?」

長門「二分十四秒前」

みくる「うわ、長門さんどうしたんですか?」

古泉「おや、これは……」

ハルヒ「みんな揃ってるわね。いい? 私の合図があるまで絶対に有希の目隠しを取っちゃだめよ!」

キョン「いつまであのままにしておくんだ?」

ハルヒ「わかんない。でももう少しだと思うのよ」

キョン「長門、すまんな。もう少しだけ付き合ってくれるか」

長門「いい」

ハルヒ「よし! いいわよ! 有希の目隠しを取ってあげて!」

    「さあ、有希! 外を見てごらんなさい!」

キョン「……おい! なんで雪が降ってるんだ? まだ雪が降るほど寒くはないぞ?」

ハルヒ「あたしは次に雪が降った日を有希の誕生日にするって決めてたのよ!」

   「やっぱり誕生日は特別な日にしなきゃいけないもの!」

   「今日あたりじゃないかと思ったんだけどばっちりだったわね」

   「――というわけで、有希、誕生日おめでとう!」

長門「……」

ハルヒ「有希は誕生日がわからないって言ってたから、今日を新しい有希の誕生日にするわ!」

    「ちょっと強引だったけど許してちょうだい。さ、みんなプレゼントを渡してあげなさい」

古泉「長門さん、おめでとうございます」

みくる「おめでとうございます」

古泉「僕からはウェルズの本を……」

みくる「あたしは本を読むときに使ってくれればと思って、ピンクのひざ掛けにしました」

キョン「長門、誕生日おめでとう。これは俺からの気持ちだ。開けてみてくれ」

    「読書時に臀部に負担を――」

ハルヒ「キョンからのプレゼントなんてあとでいいわよ。あたしのを先に見てちょうだい」

ハルヒ「有希にぴったりの青い傘にしたわ。今日の帰りは雪だから早速使えて丁度いいわね!」

    「どう? 綺麗な色合いでしょ?」

キョン「何だお前も青をチョイスしたんじゃないか。人のことを散々非難しておいて」

ハルヒ「あんたの趣味は度を越してひどいわ。有希、キョンのを開けて感想を聞かせて」

長門「……ユニーク」

ハルヒ「そっ、それは気に入ったってことじゃないわよね? 変身ヒーローのワッペンがついてるのよ?」

長門「……気に入った」

ハルヒ「……みくるちゃん、お茶淹れてちょうだい」

キョン「長門、強引だったが誕生日会はどうだ? 悪くはないだろう」

    「初めてのことで戸惑ってるかもしれないけどな、全部ハルヒがお前のためにやりたがったんだ」

長門「……礼を言う必要がある」

キョン「自分の言葉でみんなにちゃんと伝えてこい。俺には気遣わなくていいからな」

長門「……そうする」

キョン「訊くまでもないけどな、雪降ったのハルヒのせいだろ?」

長門「……私が着席してから丁度十分後に雪が降り出した」

   「涼宮ハルヒは漠然と雪が降ることを望んだが、明確な願望ではなかった」

キョン「どういうことだ?」

長門「自然界の法則に則って、ごく自然に雪が降った。……たまたま今日雪が降った、ということ」

キョン「俺にはいつもとの違いがよくわからんのだが……」

長門「願望による強制的な降雪ではなく、涼宮ハルヒの思考をきっかけに雲が呼応した」

キョン「……天の粋な計らいってことか」

長門「そう」

キョン「考えられないほどの大雪だということを除けば、たまにはハルヒの能力も悪くはないか」

長門「……」

キョン「これ帰り大変なことになるぞ……」

ハルヒ「有希、ちゃんと食べてるの? まだまだたくさんあるのよ!」

長門「……食べている」

ハルヒ「みくるちゃん! 有希のとこへじゃんじゃん持ってきて!」

みくる「はあい」

キョン「あーあー、人の誕生日で一番嬉しそうに笑ってらあ」

古泉「いいじゃないですか。長門さんも心なしか嬉しそうに見えますよ」

   「おや、長門さんが僕のプレゼントを早速読んでくれていますね」

キョン「そんなこと言ったら、随分と前から朝比奈さんのひざ掛けと俺のクッションを使用している」

古泉「ふっ、プレゼントは気持ちですよ。気持ち。」

キョン「――よかったな、長門」

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