ホワイトアルバム2 『世界中に向かって叫びたい』(かずさ) (63)


White Album 2

『世界中に向かって叫びたい』



作:黒猫



codaかずさT
かずさが雪菜と話し合い、手を差し出そうとしたシーン後。


1 かずさ マンション






マンションを見上げると部屋の明かりはついていない。

自分の部屋は見向きもせず春希の部屋のチャイムを鳴らすが

予想通り春希はいない。

鍵を開け、電気もつけず中に入る。

月明かりと街灯の明かりのおかげでうっすらと

部屋の中を見渡せるが、足元は危うい。



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かずさ「っつ・・・。」



ローテーブルに脛をぶつけ、痛みが走る。

しかし、痛みを無視して、いないと分かっているはずの春希を探す。

探すと言っても、バス・トイレくらいしか他に探す場所もなく、

1分もかからなかった。



結わいていた髪をほどき、そのままベッドにダイブし、枕に顔をうずめる。

わずかに残った春希の匂いをかぎとれるが、満足できそうもない。



かずさ「春希。・・・・早く帰ってきてくれよ。

    あたしを温めてよ。」



枕を抱え、しばらくゴロゴロしていたが、



かずさ「・・・・・うぐ!」



ベッドから落ち、涙で視界がかすむ。

壁にかかった時計を見ても、帰ってきてから10分も経っていないことに気が付き

さらに涙があふれてくる。




這いつくばって鞄を手に取り、携帯を取り出す。

慣れてた手つきで、この携帯の利用目的の9割を占める電話番号の短縮番号を押す。



5回、6回・・・・。

いつもなら、気にもしないコール回数。

でも、今日ばかりは長く感じられた。



春希「もしもし?」

かずさ「・・・春希。」



心を温めてくれるあいつの声を数時間ぶりに聞けた。

たった数時間しかたってないのに、何年も聞いていないようにさえ思えてくる。



春希「もう帰ったのか?」

かずさ「・・・・・・。」



なにかよそよそさを感じる春希の対応に不安を覚える。

もしかして、もしかしないよな?

でも、雪菜が、・・・春希にあの後電話して会う可能性も・・・・・。



春希「もしもし?」

かずさ「・・・・・・・。」

春希「何かあったのか? 今すぐ戻るから。」



春希の声に焦りが混じる。



かずさ「いや、こっちは大丈夫。もしかして、まだ職場?」

春希「今、職場の先輩が送別会してくれているんだ。」



申し訳なさそうに春希が答える。

雪菜ではないようで、安心してしまう。





かずさ「そっか。ゆっくりしてこいよ。」



心にも思ってない言葉が形になる。

今すぐ抱きしめてほしいのに。

携帯を握る手に力が入る。



春希「ありがとう、かず・・・・。」



同僚の耳を気にして、名前が途切れてしまうことに、身勝手な怒りを覚える。

あたしは、ばれたっていいのに。

ううん。

大声であたしが春希の彼女だって叫びたいのに。


かずさ「一応聞いておくんだけどさ。もしものときのためにさ。」

春希「なんだよ、あらたまって。」

かずさ「春希どこにいるんだ? ほら、飲んでるみたいだし、もしもの為に。」



声が震えそうになるのを、必死に抑える。

春希の様子をうかがおうと、耳に携帯を力づよく押し当ててしまう。



春希「えっと。御宿駅新南口から、ドーナツ屋通って、陸橋渡ってすぐのビルだよ。」



かずさが分かるように、目印になるものを指示してくる。

酒で酔っている口調だけど、春希らしい対応に心がおぼる。



かずさ「わるかったな。楽しんでるところに電話して。」

春希「いいよ。」

かずさ「おやすみ。」

春希「おやすみ。」



春希が通話を切るのを確認してから、かずさは携帯を下した。











2 春希 バー






松岡「それでは、北原の新しい門出を祝して!」

鈴木「かんぱーい。」



今日何度目になるかわからない乾杯が行われる。

鈴木さんは、松岡さんの音頭にあわせて楽しそうにグラスを掲げる。



木崎「乾杯。」



木崎さんは、さすが大人といった雰囲気だが、小さくグラスを掲げるところは

最後まで付き合う気配を感じ取れる。



春希「ははっ。・・・ありがとうございます。」



俺も何度目になるかわからない感謝の言葉を伝える。

何度だって伝えたかった。

一万回ありがとうっていっても、俺の感謝の気持ちを伝えられるとは思えない。

それだけ、今日集まってくれたことに感謝していた。



鈴木「いつまでたっても、かたいよなぁ。今日くらい無礼講で。」

春希「十分打ち解けていますよ。ほんと、自分にはもったいないくらい。」

鈴木「ほ~ら、そういうところが堅いんだって。」




数年かけて築き上げた信頼を、たった数日で崩壊させた俺を、

まだ仲間だと思ってくれている。

すでに決壊している涙腺から、涙があふれてくる。



松岡「また北原を泣かせやがって。」

鈴木「しかたないでしょ。今日の北原君の涙腺ゆるゆるなんだもん。」



松岡さんの追及に、自分の責任はないと訴える鈴木さん。

こんな光景も、もう見ることはなくなるんだな。



浜田「ほら、今日は飲んどけ。」



まだ半分以上も入っているグラスに、ビールを注ぐ。



春希「はい。」



当たり前のように受け取っていた優しさが、心にしみる。



鈴木「それにしても、最後まで北原君のプライベートって謎だったよね。」

松岡「ほんと、こいつ付き合い悪かったよな。」

春希「大学のほうも忙しかったですし。」

松岡「大学なんて、適当にやっても就職できるって。

   ほら、ここに見本がいるでしょ。」

鈴木「あまり、見習いたくない見本ね。」


松岡さんの自虐ネタと、それを煽る鈴木さんを見てるのが、

こんなにも心地いいんだって、今頃になって気がつくなんて、馬鹿だよな。

騒がしい二人を眺めていると、ふいに背中から覚えがある柔らかさと

香りが押しつけられた。



かずさ「春希。」



さらに、俺が愛する声が重なる。

首に抱きつき、ほほを合わせてくるかずさに視線だけ向けて、

その存在を確認する。

間違えるはずもなく、かずさだった。



春希「ど、・・・・ど・ど・ど、・・・どうして?」



俺と同じように松田さんたちも、思いがけない人物の登場になにもできないでいる。



かずさ「どうしてって? それは・・・・。」



かずさが俺の目を覗き込む。

すでにかずさの右腕が俺の胸に回され、抱きしめられている。

それだけではあきたらず、テーブルにあった俺の左手にかずさの左手が重なり、

指をからめてくる。



かずさ「会いたかったから?」

春希「なんで疑問形?」

かずさ「じゃあ・・・・・、う~んと、本当のこと言ってもいいのか?」



かずさの目から怪しい光がさす。



春希「それは、なしでお願いします。」



本気で何を言ってくるかわからない。

いや、わかっている。

だけど、こんな場所で、何を言い出すか想像したくなかった。

過激すぎるから。




かずさ「じゃあ、罰として、このままでいさせろ。」



当然の権利だとばかりに、俺を抱きしめる腕の力が強くなる。



春希「それって、罰じゃないだろ?」



むしろ、俺が望んでること。



かずさ「そっか。」

春希「そうだよ。」

かずさ「喉乾いたな。走ってきてやったんだ。

    それ飲ませろ。」



かずさが俺のビールに視線だけ送って、要求してくる。



春希「かまわないよ。」

かずさ「・・・・・・・・・・・。」



不機嫌そうな顔が俺に押し付けられる。



春希「飲んでいいって。」

かずさ「あたしは、手が、つ・か・え・な~い。」

春希「手って?」



たしかにかずさの手は、俺を抱きしてるためと、手を握るために使用中。



かずさ「使えないなぁ。」



甘い声が、俺を誘惑してくる。



春希「俺に飲ませろと?」

かずさ「ぶぶ~。」

春希「どうしたらいいんだよ。」




面白いいたずらを見つけたかのような目をして、俺を陥落してくる。

すでに陥落しかかってるけど。



かずさ「半分正解で、半分不正解。」

春希「もしかして・・・・?」

かずさ「口移しで。」



やはり俺はかずさに陥落されてしまっている。

右手でグラスを取ろうと手を伸ばす。


鈴木「ストーーーーープッ!」



バー中に響く声が俺を正気に戻してくれる。



鈴木「なにやってるの? というか、冬馬かずさよね?

   なんで、ここにいるの?」



松岡「北原、説明しろよ。って、なんなんだよ。

   もしかして、付き合ってるのか?」



バーにいた人全員が疑問に思っていることを、代表者のごとく質問攻めしてくる。




鈴木「ほら、私たちがわかるように説明しなさい。」

松岡「そうだ。こんなうらやましい・・・、いや、大スクープ隠しやがって。」



可動範囲がかずさによって制限されている首を回し、店内を見渡す。

正面切ってこちらをのぞいてくる客はいなかったが、

耳だけはこっちに集中していることだけは理解できた。

木崎さんは、何も言えないでいるが、俺への追及は鈴木さんと松岡さんに

任せたといった感じである。



そして、かずさは。



かずさ「ほら、説明しろ。」



楽しそうに、俺にしがみついたまま甘えてくる。

頬から伝わる外気で冷やされたかずさの頬が心地いい。



かずさ「その前に、喉乾いたんだけど?」

春希「少しは場を考えてくれよ。」



かずさになにがあったか、俺には分からない。

でも、俺を求めてくれていることだけはわかった。

だったら、こんな騒ぎの処理くらい、これからも、何度だって処理すればいい。




春希「もういいよ。で、どうしたんだよ?」

かずさ「ちょっと、世界中に向かって叫びたくなっただけだ。」

春希「それは奇遇だな。俺もちょうど叫びたくなってたんだ。」

かずさ「似たもの夫婦だな。」



なにかをふっきったかずさの笑顔がまぶしかった。




追伸

朝まで皆にかずさについて聞かれ、翌日の夕刊一面を飾ったことは余談である。







後編は、時間ができたらアップしていく予定です。



『世界中に向かって叫びたい・後編』






作:黒猫








3 春希 バー





時計を見ると、もうすぐ始発電車も動き出す頃だ。

かずさは、俺の隣に席を用意してもらい、俺の手をにぎったまま鈴木さんに

開桜社での俺について聞いている。

最初は警戒していたかずさも、鈴木さんの人懐っこよさに警戒心をとき、

だいぶ打ち解けた様子であった。

松岡さんは、まあ・・・・、俺より下の存在と認識されてしてしまったようだ。

木崎さんについては、木崎さんの方が恐縮してしまって、あまり話せてはないけど、

うまくいってると思う。




俺が必要以上に警戒してしまったのかもしれない。

俺がもっと柔軟に対応できていれば、かずさを追い詰める必要もなかったと思え、

胸が苦しくなる。



鈴木「でね、その麻理さんっていうのが、北原君の上司だったんだけどさ。

   ああ、そっか。麻理さんが、冬馬さんの記事を書けって、

   北原君を任命したんだよ。」



どうやら、ここにはいないNYの麻理さんにまで話題が及んでいるみたいだった。

鈴木さんの声をBGMにして、かずさを眺めながらグラスを口につける。



しかし、急に握られていた手に力が込められ、現実に引き戻された。
  



 
春希「痛いって。」



かずさをみると、目が据わっている。

さっきまで、あんなにニコニコしていたはずなのに、どうして?



不機嫌になった原因がわからず、その原因になりそうな一番の要因に視線を向けると

鈴木さんは手を合わせて、全然反省していない謝罪を送ってくる。

さっきまで麻理さんについて話してたから、麻理さん関連だと思うけど・・・。



春希「かずさ。どうしたんだ?」

かずさ「・・・・・・。」



かずさは、何も答えず顔を背けるだけだった。


しかし、テーブルの下で握られている手の握力は弱められはしたものの、

はなされないところをみると、どうにか改善の余地は残されているらしい。



春希「ちゃんと言ってくれないとわからないだろ?」



なるべく刺激しないように尋ねる。



かずさ「春希は、麻理さんって人と、とっても仲がいいみたいだな。」



やはり麻理さん関連だった。

何をかずさに吹き込んだかわからないけど、相当でかい爆弾を仕込まれたらしい。

身内であるはずの鈴木さんに。




春希「バイト時代に世話になった直属の上司だよ。」

かずさ「それは知ってる。」

春希「それだけだって。」

かずさ「公私にわたって世話になってたらしいな。」



握られていた手に鋭い刺激が走る。

かずさの指が立てられ、爪がゆっくり食い込んでくる。

改善の余地はないかもしれない。

せめて、執行猶予だけは勝ちとらねば。



春希「別にやましいことなんて、一つもない。」


被告人としては、無実を訴えたいところだが、かずさ裁判官に対しては

心証を悪くする行為にしかみえない。

だけど、無実なのだから、他に言える言葉もなく・・・・。



かずさ「それだけか?」



冷酷な裁判官は、死刑を選択したいらしい。



春希「鈴木さん。何を吹き込んだんです?」

鈴木「吹き込んだなんて。あった事実をそのまま教えただけだって。」



俺が裁判官だったら絶対に証拠採用しないだろう証人が心外だという顔をみせる。

傍聴席の松岡さんからの野次は、この際無視して、目の前の裁判官に意識を

集中させる。外野が何を言ったって構わない。

この裁判官さえどうにかすれば・・・・・、



かずさ「春希が、麻理さんにとても世話になったのは事実だろ?」

春希「それは事実だけど。」

鈴木「プライベートでもね。」

春希「そこ! 口を挟まない!」



証人の容赦ない証言が、俺の立場を回復させてくれそうにない。





かずさ「じゃあさ。プライベートで話一つもしたことはないのか?」

春希「あるけど・・・。」

かずさ「プライベートで会ったことは?」

春希「プライベートっていうか、食事に行ったり、飲みに行ったりとかは。」

かずさ「ふぅ~ん。それって、公私にわたってっていうんじゃないか?」



いまや立場が逆転してしまっていた。

いつもは俺の方が理詰めで話しているのに、今はかずさの方が理詰めで俺を追い詰める。


春希「でも、仕事のあとに食事に行くことってあるだろ?」

松岡「俺が誘っても、いつも断るくせに。」

春希「だから、松岡さんは黙っててください。お願いしますから。」



まじでお願いします。

このままだと、本当に死刑宣告されてしまう。



鈴木「だったらさ、麻理さんに電話してみようよ。」



自分の顔が青ざめていくのがわかる。

かずさの手を握る手に力が入らない。

でも、かずさの温もりを感じているってことは、

かずさが俺の手をはなしていないことの裏返し。

もし、この手が離される事態になったら。

それだけは、考えたくなかった。



ちゃっかりとかずさから携帯を借りて国際電話をかける鈴木さん。

このあとどうなるかわからない事態だから、さすがに自分の携帯を使おうなんて

考えてはいないようだ。

俺もどうなるかわからないのに、国際電話に自分の携帯を使おうなんてしたくない。

いや、それで許されるんなら、喜んで携帯を差し出したいが。



鈴木さんが、自分の携帯から麻理さんのアドレスを呼び出し、

番号を確認しながらダイヤルする。



春希「今仕事中だから、迷惑じゃ・・・。」

鈴木「大丈夫だって。麻理さんが仕事していないときなんてないんだから。」



それはそうなんだけど。

麻理さんも忙しければ、電話を断るはずだ。



呼び出し音が鳴り、2コール目で麻理さんが出る。

携帯から懐かしい声が漏れて聞こえる。

と、顔がわずかに緩んでしまったのか、残酷な裁判官は強く手を握りつける。

かずさの顔を見ようとしたが、こちらを見てはくれなかった。



鈴木「麻理さん? 開桜社の鈴木です。お久しぶりです。」

麻理「なんだ。鈴木か。知らない番号だったから。」

鈴木「すみません。この携帯借りものなので。」

麻理「借り物の携帯で、国際電話かけてくるなんて。」




苦笑いをする麻理さんの顔が浮かんでくる。



鈴木「その辺は、大丈夫ですって。了解取ってますんで。

   他のみんなもいるんですよ。」

松岡「お久しぶりです。」

木崎「元気にしていますか? 木崎です。」

鈴木さんが、携帯をスピーカー対応にして、皆の中心におく。

麻理「私は元気にやってるよ。木崎も元気にしてるか?

   それと、その声は松岡だな。」

松岡「そうで~す。」

麻理「相変わらずだな。」




麻理さんも、久しぶりのメンツの声が聞けて、声が弾んでいる。



鈴木「今日は、スペシャルゲストがいるんですよ。」

麻理「どうせ、北原なんだろ?」

鈴木「よくわかりましたね。」

麻理「お前のすることだからな。」

春希「お久しぶりです。」

麻理「お前の噂は、ちょくちょく聞いているぞ。」

春希「どんな噂か怖いですね。」



麻理さんの笑い声が、スピーカーから広がる。

鈴木さんは、私の言う通りでしょっていう顔を見せているが、

いまだかずさの顔は見れていなかった。

かずさが俺の手を握る力が弱まっていく。

しかし、顔を見せてくれないかずさを安心させるために

俺の方から力を込めると、かずさもそれに応じて、いくばくか力を入れる。



鈴木「麻理さ~ん。今日はもう一人スペシャルゲストがいるんですよ。」

麻理「この流れからいうと、浜田じゃないか?」

鈴木「違いますよ。浜田さんは、今日のスポンサーだけど、来ていません。」

麻理「それじゃあ、佐和子とか?」



麻理さんが正解を導くことなんて、できやしない。

3年前、少し話題にはなったけど、そこからかずさを想い浮かべることなんて不可能だ。



鈴木「麻理さんも名前だけは知ってますよ。

   しかも、もうすぐ「北原夫人」になるかたです。」

麻理「そいつは・・・・。」



麻理さんの声が弱くなっていく。



鈴木「正解は、冬馬かずささんでーす。」




能天気な声がバーに響く。

今すぐ立ち去りたい。欠席裁判でもかまわなかった。

でも、かずさだけは、連れ帰るけど。



麻理「冬馬・・・、かずさ。」



麻理の小さなつぶやきを、携帯のマイクが拾う。



かずさ「冬馬です。」



お互い落ち着いた口調で挨拶をはじめる。



麻理「初めまして、風岡麻理です。」

かずさ「初めまして。」

麻理「ご結婚おめでとうございます。で、いいのかな。」

かずさ「いや、まだ結婚したわけじゃ。」

麻理「そうなんだ。でも、いずれはって感じ・・・なんでしょ?」

かずさ「そう・・・・だと思う。」



探り探りの会話を聞いていると、胃が痛くなってくる。

外野のギャラリーといえば、好奇心丸出しで聞き洩らさないように、

耳を携帯に近付けている。




麻理「そっか。」

かずさ「はい。」



かずさは、どう思ってるんだろうか?

麻理さんから話を聞きたかったんだろうか?

それとも、俺の所有権を確認したいだけだったか・・・。



それっきり麻理さんから話しかけることもなく、沈黙が続く。

鈴木さんでさえ、話に割り込む勇気がなく、傍聴人になりさがっている。



春希「麻理さん。」

麻理「ひゃい・・・・。なんだ・・・、北原。」




裏返った返事が聞こえてくる。やはり麻理さんも緊張している。



春希「今度、かずさと二人で、NYに挨拶に行きます。

   麻理さんに、かずさを紹介したいんです。

   きっと麻理さんなら、かずさと仲良くなれると思いますよ。」

麻理「そうか。楽しみにしてるよ。・・・・・待ってる。」

春希「はい。」

かずさ「・・・・・。」



やっと俺の方を見てくれたかずさの顔は、涙が目からあふれそうだったけど、

俺のことを信頼してくれて、全てを捧げてくれる、あの笑顔をしていた。



麻理「本当に結婚するんだな。」

春希「はい。かずさと結婚します。」

麻理「おめでとう。」

春希「ありがとうございます。」

麻理「・・・・・・・・・・・。」

春希「麻理さん?」



今度の沈黙は、爆弾発言によって、締めくくられた。




麻理「北原! 

   ずっと好きだった。

   それだけだ。

   NYで待ってるからな。

   絶対、絶対、来るんだぞ。」




そう言い残して、通話終了ボタンを押したようだった。

もうスピーカーからは、なにも聞こえてない。




隣のかずさを見るまでもなく、判決は想像できる。

だって、死刑判決しかありえないから。

証人や傍聴人を見る気力なんてない。

手に食い込むかずさの爪の痛みだけが、これが現実なんだって教えてくれた。



かずさ「なあ、春希。大丈夫だよな。」



俺とかずさを今までつないでいた手がほどかれる。

ついに見放されてしまった手を見つめると、いくつもの爪の跡だけが刻まれていた。

もう、かずさを感じる手段は、その傷跡のみ。

おそるおそるかずさの顔を確かめる。



春希「かずさ?」



かずさは、最初から怒ってなんかいなかった。

ただ、俺に見捨てられるんじゃないかって、おびえていただけ。

だって、こんなにも震え、まっすぐな瞳で俺を見つめている。

俺は、かずさを安心させるための言葉をかけて、抱きしめるだけでよかったんだ。

そんな単純なことを忘れるなんて。



かずさの頬に手をあて、指で涙をぬぐってやる。

恥ずかしそうに嫌がるかずさを無視して、両手でかずさの顔を包み込むようにして

俺に引き寄せる。



かずさ「なんだよ。」

春希「かわいいなって。」

かずさ「ふざけるな。」



ぐずった声さえも、愛らしく思えてしまう。



春希「ほら。」



かずさの手をとり、俺の腰にまわさせる。

もう片方の手もって引き寄せようとしたが、かずさは自分から俺に抱きついてきてくれた。

しばらく俺の首に頭をこすりつけてくるのを、くすぐったくも、うれしくも感じられた。



かずさ「・・・・ばか。」



数分、いや、20分は俺を堪能して満足したかずさは、腰にまわしていた手をほどき、

今度は俺の腕にからませ、身を寄せてくる。

かずさの臭いを俺に刷り込ませるように、しっかりと。



春希「俺には、かずさしかいないんだからな。」



もうわかりきった決定事項を再確認させる。



かずさ「わかってるけど、心配なんだよ。」

春希「ごめんな。」

かずさ「いいよ。

    あたしが不安になったときは、

    いつも側にいてくれるんだろ?」

春希「ずっと一緒だ。」



かずさの側を離れられないのは、俺の方。

不安に思ってしまうのも、俺。

俺たちは、似た者同士だから、永遠に離れられない。

かずさが不安だっていうんなら、何度でも不安をぬぐってあげればいい。

それと同じ数だけ俺もかずさに救われるんだから。



横を見ると、鈴木さんたちは既に帰ったあとだった。

書き置きのみ残して、さよならも言わずに。





北原君へ



私たちは先に帰ります。

支払いは、北原君もちっていうことで。

浜田さんから預かった軍資金は、

今度、婚約パーティーをやる為にとっておくね。



お幸せに。

それと、麻理さんへのフォローしっかりしておくように。






ほんとうに「書き置きのみ」しか置いていかなかった。

支払いをしなければ、今度の飲み会で使わなければならない。

さよならを言わなければ、もう一度さよならを伝えに行かなければならない。



鈴木さんたちらしい心遣いに、今日何度目になるか分からない感謝の言葉を

聞こえるはずもない人たちに向かって囁いた。






追伸



アメリカの翌日の朝刊・芸能面の片隅に、冬馬かずさ婚約の記事が小さく掲載される。

ネットでは、お祭り騒ぎだったみたいだが、見ないことにした。









あとがき




また現実逃避してしまった!

cc編、書いても書いても終わらないorz

というわけで、かずさスレを見ている人たちは知っていると思いますが

リクエストシチュエーションに応えての作品です。

もう臨界点突破の原作・前後関係無視のぶっ飛び作品のできあがりです。

前篇は、スレを見てから1時間くらいで書きあげたなんでもあり作品ですw
春希やかずさは、本能のままに暴走しまくり。

ここまで何も考えないで書いたのは、久しぶりで爽快でした。

ccつらいです。書くのは楽しいんですが、胃薬ください。



この作品に関しては、

突っ込みどころ満載の内容になっていますが、ご勘弁ください。

続編は、また息抜きしたくなったら書くかもしれません。

期待はしないでくださると助かります。



まずはcc完成させたいです・・・・・。




黒猫 with かずさ派








黒猫--アップ情報

WHITE ALBUM2


『ホワイトアルバム 2 かずさN手を離さないバージョン』長編
(かずさNのIFもの。かずさ・春希)

『心はいつもあなたのそばに』長編
(かずさNのIFもの。かずさ・曜子・春希)

『ただいま合宿中』短編
(かずさ編・雪菜編)

『麻理さんと北原』短編
(麻理ルート。麻理・春希)

『世界中に向かって叫びたい』短編
(かずさT。かずさ・春希・麻理)





やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。


『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない』短編
(由比ヶ浜誕生日プレゼント後あたり。雪乃・八幡)




次回予告なんですが、

冬馬かずさ誕生日記念作品をアップする予定です。

タイトルは

ホワイトアルバム2 『誕生日プレゼント~夢想』(冬馬かずさ誕生日記念)

の予定です。

内容は、夢想を題材にしたお話です。

では、またの機会も、お会いできることを願っています。

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