深い海の底で【艦これSS】 (41)

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【ポート・ワイン 紅き眼の姫】

港湾棲姫「クルナ…ト……イッテイル…ノニ……!」

提督「嗚呼……」

大和「提督! 敵の砲撃が来ます! CICへお下がりください!」

提督(なんと……美しい……)

提督(まるで……あれは……)

ドオオオッ!!!!!!!

大和「ちょ、直撃……! くぅ……! 大和型の装甲は、この程度では……!」

武蔵「提督よ、早急に指示を! ……提督!」

大和「む、むさし……」

武蔵「どうした、大和!」

大和「て、提督が……海に……」

武蔵「なんだと!?」

長門「! 敵艦隊接近! 速やかにこの海域から離脱するぞ!」

大和「で、でも提督が! 探さなくちゃ……!」

長門「提督抜きでは深海棲艦とは渡り合えん! 今は戦闘回避が最優先だ!」

大和「う、うう……!」

加賀「大丈夫よ」

大和「加賀……?」

加賀「あの人は、大丈夫だから……」

瑞鶴「そ、そうよ! 提督さんは海に落ちたくらいで死なないわ!」

翔鶴「ここは長門さんの言うとおりにしましょう。提督もそう指示するはずです」

大和「わ、わかったわ……」

大和「くっ……艦隊、大和に続いて! 最大戦速で、この海域から離脱します!」

一同「了解!!」

大和(提督……絶対、探しに来ますから……)

大和(どうか、ご無事で……!)


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【深海へ】

提督(泳ぐのは……得意な筈……だったんだがな……)

提督(手足に力が入らん……)

提督(水温の所為か……解らないが……)

提督(ここまで、か……)

提督(すまない、大和……皆……)

提督(あとは……よろしく頼む……)

提督(嗚呼……あの深海棲艦……美しかった…な……)

提督(……)

提督(今、そっちに行くからな……赤城……)

提督(……)











(……イマ、タスケルカラ……)

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【大和と武蔵】

長門「……どうやら撒いたようだな」

加賀「そうね……」

武蔵「しかし、油断は出来ん……球磨、多摩、夕雲、巻雲、対潜警戒最大で頼むぞ」

夕雲「りょうかい、任せて。球磨さん、巻雲さん、頑張りましょうね」

巻雲「が、頑張ります……」

球磨「球磨にかかれば、ちょろいもんだクマ……」

多摩「合点承知にゃ……」

夕雲(皆、元気ないわね……無理もないわ……)

瑞鶴「大和さん……元気出して? 提督さんは、きっと大丈夫だから……」

大和「え、ええ……」

翔鶴「……」

翔鶴「あの、武蔵さん」

武蔵「どうした? ……ひょっとすると、大和のことか」

翔鶴「は、はい……私たちの言葉では、届かないみたいなので……お願いします」

武蔵「そうか……わかった。姉が心配をかけて、済まないな」

翔鶴「いえ……私も、同じ気持ちですから」

武蔵「……そうだな。無論、私も同じだ

武蔵「瑞鶴、少し外してくれるか?」

瑞鶴「武蔵さん……はい、わかりました」

武蔵「すまないな、礼を言うぞ」

瑞鶴「いえ、そんな……あとはよろしくお願いします」

武蔵「ああ、任せておけ」

大和「武蔵……?」

武蔵「大和よ」

大和「な、なにかしら?」

武蔵「私の言葉は、お前に届いているか?」

大和「……ええ、届いているわ」

武蔵「ならばいい。では、連合艦隊総旗艦殿へ……」

武蔵「副旗艦として、一言言わせてもらおう」

大和「……はい、なんでしょうか。連合艦隊副旗艦、武蔵」

武蔵「貴艦の振る舞いは、旗艦として相応しくない」

武蔵「改められないようであれば、私にそこ(総旗艦)を譲れ」

大和「っ……!」

武蔵「こほん……では、お前の妹として、一言言うぞ」

大和「へっ……?」

武蔵「お前は、自分を責めすぎだ」

大和「それは……だって……提督は私に乗っていたんだからっ!!」

武蔵「……確かにそれは、動かせない事実だ。だがな、提督に非が無い訳でもあるまい」

武蔵「CICに閉じこもっていれば、海に放り出されることもなかっただろう」

大和「そう、だけど……」

武蔵「だろう? 奴にも非はある。背負い込みすぎるのは、お前の悪い癖だぞ」

大和「……でも」

武蔵「相変わらず、頑固な姉だ。変わらんな、大和は」

大和「な、なによもう……」

武蔵「万が一、お前の所為だと言われたら……そうだな……」

武蔵「その時は、胸の一つでも揉ませてやればいい」

大和「むっ……胸!?」

武蔵「奴なら、それで許してくれるぞ。坊やだからな、ははは!」

大和「ううう~……」

武蔵「どうする、大和よ」

大和「かっ…考えておくわ……」

武蔵「ふふ……そればかり考えすぎないようにな。艦隊行動に支障が出るぞ?」

大和「そ、そんなに考えないわよ! 武蔵のバカ!」

武蔵「はははは! ではよろしく頼むぞ、総旗艦殿」

大和「もう! なんだったのよ……」

大和(でも……少し元気が出たかも)

大和(提督なら、生きてる……きっと)

大和「武蔵、ありがと……」


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【此処は、深海鎮守府】

提督「うっ……」

提督(生きているのか……俺は……)

提督(何か……やわらかいものに包まれているような……)

「ン? コイツ、メヲサマシタヨウダゾ」

「!? ア……アトハ、マカセル……!」

提督「痛っ……!」

提督(い、いきなり硬い場所に落とされた……?)

「オイ、ドコヘイク!? マッタク、アイツハ……マァ、シカタナイカ……」

提督(薄暗い……けれど、見えなくはない……!?)

提督「せ、戦艦ル級!!?」

戦艦ル級「イ、イキナリウルサイゾ、ニンゲン……」

提督「す、すまない……じゃなくて! なぜお前たちがここにいる!?」

戦艦ル級「ナゼッテ……アタリマエダ……ココハ、ワタシタチノバショダカラナ」

提督「こ、ここは……どこだ……?」

戦艦ル級「ソウダナ……オマエタチノコトバデイエバ……『チンジュフ』」

提督「鎮守府……!?」

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【ラバウルへの知らせ】

大淀「……そうですか……わかりました。では……その地点で合流しましょう。私も、すぐに向かいます。ええ、お願いします」

大淀(きっと……ご無事ですよね、提督なら)

大淀(もし、万が一の時は……いえ、余計ですね)

大淀(……とにかく、一刻も早くポートワイン沖へ)

大淀(鎮守府は、伊勢さん達に)

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【敵意を持たない敵】

提督「ここが鎮守府だって……!?」

戦艦ル級「ソウダ。ココガ、ワタシタチノカエルバショダ」

提督「鎮守府という言葉を、なぜ知っている?」

戦艦ル級「ソレハ、カンタンナコトダ。キイタカラダ、『カンムス』カラナ」

提督「聞いたって……まさか、拷問したのか!? そうだろう!?」

戦艦ル級「ソンナコト……オマエニハ、ワタシタチガ、ソンナコトヲスルヨウニミエル……ノダナ」

提督「い、いや、その……違うのか? まさか世間話の中で聞いたってんじゃないだろう……」

戦艦ル級「ソンナトコロダ」

提督「馬鹿な……深海棲艦と世間話をする艦娘なんて……」

戦艦ル級「ソンナニ、シンジラレナイカ?」

提督「あ、当たり前だろう……敵同士だぞ、俺達は」

戦艦ル級「オマエタチカラミレバ……ソウナノダロウナ……デモ」

提督「ん?」

戦艦ル級「イマ、コウシテ、ハナシヲシテイル。ブリョクデナク、コトバヲカワシテイル」

提督「……ああ」

提督「そう言われれば、そうなんだが……」

戦艦ル級「ソウダロウ。……トコロデ、コウイウコトバヲ、シッテイルカ?」

提督「なんだよ」

戦艦ル級「『ヒャクブンハ、イッケンニシカズ』」

提督「……当たり前だ、常識だよ、常識。……それで、俺に何かを一見させようってか?」

戦艦ル級「ソウダ」

戦艦ル級「モシカシタラ、オマエノカンムスモ、イルカモシレナイシナ」

提督「……?」

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【伊勢型のおるすばん】

伊勢「私たちがしっかりしないとね、日向」

日向「まあ、そうなるな……」

伊勢「それにしても、提督も、大淀も不在なんて、初めてよね……」

日向「……なあ、伊勢」

伊勢「何さ?」

日向「昨日の事なんだがな……提督が言ったんだ」

日向「『この戦いが終わったら、ぶっ倒れるまで飲み明かそう! 航空戦艦の時代、万歳!』とな」

伊勢(時代を捏造するのは、どうなのさ日向)

日向「ゆえに、いつになく気分が高揚していたのだがな……」

伊勢「そうなんだ……って、それ盛大なフラグじゃない!」

日向「そうだ……あいつは本当に阿呆だ。余計な事ばかりする」

伊勢「本当ね……」

日向「しかし……それでも私達の提督だ。代わりなど、居ない」

伊勢「……そうね、たった一人の提督だもの」

日向「ここで待つのはじれったいが……ここを守るのも、大事な役目だ」

日向「あいつの……皆の帰りを、信じて待とう」

伊勢(探しに行きたかったのね、貴女も……)

伊勢「待ちましょう、きっと大丈夫よ……」

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【死んだはずのキミ】

提督「どういうことだ、これは……」

提督(艦娘が、こんなに大勢……いや、ウチの艦娘ではないが……)

提督(各所で囁かれる例の噂……深海棲艦の正体は、艦娘だという)

提督(俺が聞いた話では、海に沈んだ艦娘が、深海棲艦になるということだったが)

提督(あれは所詮、噂に過ぎなかったのか)

提督(それとも、これから改造手術でも受ける、なんとことも……)

提督(わからん……深海棲艦と艦娘とは、やはり別の存在なのか……?)

戦艦ル級「ドウダ、オマエノカンムスハ、ミツカッタカ?」

提督「いや、見当たらないが……どういうことだ、説明してくれ」

戦艦ル級「ドウイウコトモナニモ……ココニイルカンムスタチハ、ミンナ、オマエノヨウナモノダゾ」

提督「俺のようなって……海に落ちて……君に助けられたということか?」

戦艦ル級「オマエヲタスケタノハ、ワタシデハナイガ……マア、ソウイウコトダ」

提督「……信じられん」

戦艦ル級「ソウイワレテモナ……ドウシタモノカ」

提督(深海棲艦が、艦娘を保護するなど……信じられん……)

提督(それならば、何故我々に敵対する?)

提督(敵対したうえで、何故我々を救う?)

提督(わからない……)

提督(しかし、あの娘はタウイタウイへ出向いたときに見たような気もする……)

提督(あっちの娘は、横須賀との合同演習で見かけたかもしれん……)

提督(……まさか、本当に……?)

戦艦ル級「オイ、キイテイルノカ?」

提督「あ、ああすまない、考え事をしていた……なんだ?」

戦艦ル級「オマエノチンジュフハ、ドコダ、トキイタノダガ……」

提督「俺は……ラバウル基地だ」

戦艦ル級「ラバウルカ……チョットマッテロ」

提督「なんだったんだ一体……」

提督(待てよ、反射的に答えてしまったが……)

提督(指揮官不在だと分かれば、攻め易くなる……かもしれない)

提督(不味いな……俺はなんて軽率なミスを……)

提督(生身で勝てる相手じゃないだろうが……)

提督(情報が知れ渡る前にどうにかして奴を……!)

「提督!!」

提督「……あ……ああっ……!」

赤城「お久しぶりです……ちゃんとご飯食べてますか?」

提督「あかぎ!!!!!!!」

赤城「きゃっ! て、提督……もう……」

提督「ほ、本当に、赤城だよな? 俺の赤城だよな!?」

赤城「……はい、あなたの赤城、ですよ」

提督「お前は馬鹿だ……本当に……」

赤城「……そうかも、しれませんね」

提督「生きてて良かった……会えて良がっだ……うぐ……」

赤城「提督……」

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【提督捜索隊】 バリ島沖~ポートワイン沖

金剛「HEY! 大淀サン、ポート・ワインはまだですカー!?」

大淀「あと少しです、頑張りましょう」

霧島「姉様、何十回聞いたら気が済むんですか」

金剛「うー、霧島うるさいネー……」

大淀「いいんですよ、霧島さん」

比叡「私も、お姉様の気持ち、分かります……」

霧島「それは、そうですけど……」

榛名「榛名も、大丈夫とは、言えないです……」

舞風「こういう空気苦手なんだけどなー……」

不知火「あら、それなら来なければいいのに」

舞風「そういう訳にもいかないじゃん、ね?」

不知火「司令を助けたい人だけくればいいと思うわ」

陽炎「それだと、みんな来る羽目になるわね」

黒潮「なんだかんだで、みんな心配やろな~」

雪風「しれぇ……絶対、大丈夫……ですよね……?」

陽炎「ちょっと、あんたが弱気でどうすんのよ!」

初風「ねえ、そんなにピリピリしないでよ、陽炎ちゃん」

陽炎「べ、別にピリピリなんてしてないわよ、もう」

浜風「なんだか、まとまり無いわね……」

秋雲「そっかなー? いつもこんなもんでしょ」

浜風「それもそうね……それにしても、妙ね」

秋雲「そだねー、敵がさっぱりいないねえ」

浜風「この海域は、もう制圧したということ?」

秋雲「バリ島沖はそうだけどさ、もうそろそろポート・ワインじゃん?」

秋雲「ポート・ワインで、交戦した直後に提督消失したらしいから……」

秋雲「この海域の制海権はウチらには無いじゃん?」

浜風「そうね……敵艦が多数居ても、おかしくないはずなのに」

秋雲「ま、居ない方が楽でいいけどねー」

秋雲「ソナーにも感ないしねえ……んー、イラスト描きたーい!」

浜風「こんな時に何を言ってるの……」

霧島「む、電探に感あり! 方位1-2-0、距離22000、艦影多数!」

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【赤城と提督】

赤城「大変でしたね……沖ノ島は」

提督「お前を失うほどにな……」

赤城「でも、皆を守るためでしたから……仕方ありませんよ」

赤城「それに……もう昔の事ですから。忘れちゃいました」

提督「そんな訳ないだろう」

赤城「……納得してもらえませんか」

提督「当たり前だろう!!」

赤城「そう、ですよね……」

赤城「あなたは、そういう人でしたね……」

赤城(今も、ちっともお変わりない……)

赤城「とりあえず、場所を変えましょう。ここでは人目につきます」

提督「あ、ああ……そうだな……取り乱してすまなかった」

赤城「いえ……」

赤城「提督が先んじてくれて、助かりました。ふふ……」

提督「からかうんじゃない……」

提督(人の気も知らないで……)

提督(しかし……確かに、ずいぶん昔のことのようだ……)

提督(忌まわしき……沖ノ島海戦……)

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【夕刻、沖ノ島(回想)】

提督「榛名、こちらの被害状況は?」

榛名「はい! 陸奥さん山城さん、ともに左舷に被弾し、中破!」

榛名「北上さんが、至近弾により軽微損傷とのことです!」

提督「榛名、お前は大丈夫なのか!?」

榛名「はい! 榛名は大丈夫です!」

提督「よし、ならば進撃できるな……待て、赤城、蒼龍の両空母はどうした?」

榛名「それが……通信が繋がらなくて……」

提督「なんだと!?」

提督(通信連絡系統をやられたか……)

「ガガ……て……とく……」

提督「赤城か!? 蒼龍か!?」

蒼龍「やっと繋がった、もう! 提督、赤城さんが!!」

提督「どうした!?」

蒼龍「敵艦載機の爆撃により、大破炎上してます!」

提督「なんだと!?」

提督「……わかった、これより撤退命令を出す。赤城にも伝えてくれ」

蒼龍「提督、それが……」

提督「なんだ、どうしたんだ?」

蒼龍「赤城さんからの発光信号で……『シンゲキセヨ』と……」

提督「!?」

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【金剛の想い】 ポート・ワイン沖

榛名「提督は……見つかったのですか?」

長門「残念ながら、見ての通りだ」

榛名「……うう……」

武蔵「すまない、では足りぬかもしれないが……」

武蔵「私たちは、失ってはいけない者を失ってしまった」

比叡「ま、まだ生きてる可能性もあります!」

武蔵「そうだな……だが、今この場には居ない。これが現実だ」

武蔵「しかも事が起こったのは、お前たちが居ぬ間だ」

武蔵「副旗艦として、皆を代表して詫びよう。責任は私が取る」

瑞鶴「武蔵さん……」

金剛「HEY! ちょっと待ったデース!」

霧島「ね、姉様……」

金剛「それは武蔵さんの役目ではないネ!」

武蔵「……ほう」

金剛「旗艦の大和サン、貴女の役目デショ!?」

大和「っ……」

比叡(ひえええ……お姉様、相変わらず大和さんにはお厳しい……)

武蔵「大和一人の責任ではない、それは分かっているだろう、金剛」

金剛「NO! 提督が本当に大事なら! 戦闘中に甲板に出させる訳ないネ!」

金剛「私だったら、ふんじばってでも、CICに置いておくヨー!」

大和(返す言葉が無い……わね……)

金剛「それでも駄目だったら……そうネ」

金剛「その時は、一緒に行くしかないネ……」

金剛「それを出来なかったことが、なにより悔しいネ……」

大和「……ごめんなさい」

大和「本当に……ごめんなさい……う…うう……」

大和「私が……旗艦じゃ……なければ…………」

金剛「そうネ、私もそう思いマース……」

金剛「でも、今更遅いネ……だから」

金剛「今は、提督を見つけることを考えまショ!」

金剛「きっと、提督も助けを待っているはずデース!」

金剛「あの人が、そんな簡単に、くたばるはずないネ!」

金剛「大和サン、今度は大丈夫ですネ?」

大和「はいっ……!」

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【夕刻、沖ノ島(回想)】

提督「馬鹿を言うな! みすみす赤城を沈めに行くようなものじゃないか!」

提督「そんな真似ができる訳ないだろう!」

蒼龍「わ、私に言われても……あ、赤城さんからまた!」

提督「なに!?」

蒼龍「えっと……『ワレ テキシュリョクカンタイ ヲ ホソク コウキ ホカニ アラズ』……です」

提督(確かに……長期に渡る戦いで、精神的にも物理的にも疲弊している)

提督(このままでは、いたずらに資源を消費するかもしれん)

提督(しかし……)

提督「一人として轟沈させる訳にはいかん! 赤城に撤退命令を!」

蒼龍「りょ、了解です!」

提督(自分の命より、皆のことを考える……自己犠牲の精神は美しいが)

提督(お前あっての『皆』だと、気づいているのか)

提督(それとも……承知の上で進もうというのか、赤城よ……)

蒼龍「提督……赤城さんから……」

蒼龍「『ワレ シンゲキ ス』って……」

提督「っ……そうか」

提督(赤城……それほどの覚悟だというのか……)

提督(何故、お前はそこまで……)

提督「……蒼龍、もう一度、赤城へ信号を」

蒼龍「は、はいっ」

提督「『カナラズ イキテ キカンセヨ』」

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【会いたかった、君に】

赤城「ここなら……」

提督「ああ、大丈夫だろう」

赤城「思う存分、お話を……」

提督「ああ……」

赤城「提督は、元気でしたか」

提督「……淋しかったよ」

赤城「そう、ですか」

提督「たった一人で生きてるようだったよ」

提督「艦娘たちは、そばに居てくれたのにな……」

提督「……どうした、そんな顔して」

赤城「いえ……そういうお気持ちを口にしない方だと思っていましたから」

赤城「表情に出てしまって……すみません」

提督「いや……自分でも驚いたよ」

提督「感傷に浸る性分でもないんだがな」

提督「それだけ大きかったんだな……俺にとっては……」

赤城「……先ほどのことですが」

提督「なんだ」

赤城「『俺の赤城』と、おっしゃいました」

提督「……」

赤城「言葉の通りに受け取っても、構いませんか」

提督「……所有物、と取らないでくれ」

赤城「わかってます……私は、あなたの赤城ですよ」

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【行動派綾波】

敷波「あやなみ~!! って、ここは最初に探したか……」

綾波「どうしました? 敷波ちゃん」

敷波「あ、あれ? いたのかよ……さっきは部屋に居なかったのに」

綾波「えっと、さっきはお花を摘んでました……」

敷波「え、こんな時にかよ……ってそんなのどうでもいいよ!」

綾波「あのですね、お花を摘むっていうのは、お手洗いに……」

敷波「大変だよ綾波!!」

綾波「び、びっくりしたぁ……」

敷波「ちょっと耳貸して! ほら、早く!」

綾波「う、うん……」

敷波「えっとね……司令官がね……」

綾波「司令官が?」

敷波「う、海に落ちたって……」

綾波「ええっ!?」

敷波「!? み、耳が……声でかいよ綾波~……」

綾波「ご、ごめんなさい! びっくりしちゃって……」

敷波「ポートなんとかってとこに出撃したじゃん。そこで落っこちちゃったんだってさ」

綾波「落ちちゃって……助かったんですよね?」

敷波「それがさ、まだなんだって……」

綾波「ええええっ!?」

敷波「っ……だから、声大きいって……」

綾波「早く探さないと、命にかかわります!」

敷波「だからさ、さっき大淀さん達が出てったよ。雪風とかも一緒にさ」

綾波「私たちも行きましょう!」

敷波「ええっ? 今から行くのかよ……私たち、航路もわからないのに……しかも二人だけって」

綾波「漣ちゃんたちにも来てもらいます! 航路は……羅針盤の妖精さんにお任せしましょう」

敷波「それ一番やばいやつじゃんか~……」

綾波「手分けして、漣ちゃんたちを探しましょう。見つけたら、正面玄関に集合と伝えてください」

敷波「うん……でも、全員来るかなぁ? 曙とか、来ないんじゃないの?」

綾波「そんなこと言う子は、お姉ちゃん許しません」

敷波「ひいっ!?」

綾波「それでは、お願いしますね!」

敷波「あ、ちょっと! ……なんだよも~、綾波のやつ……」

敷波(……探そ。綾波怖いから)

敷波(べ、別に司令官が心配な訳じゃないし、うん……)

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【潜水艦隊 提督消失地点】

伊168「提督が海へ落ちてから、かなり時間が経ってるわ」

伊168「限界まで深度を下げて、注意深く探しましょ」

伊58「わかったでち……みんな、絶対てーとくを見つけるでち!」

伊8「そうね……」

伊58「はっちゃん、元気ないね。どーしたの?」

伊8「……私たちが見つけたとしても、素直に喜べないですね」

伊58「えー? てーとだって、きっと待ってるよぉ」

伊168「ゴーヤ、司令官は私たちと違って、長時間潜航できないわ」

伊58「そーだったの!? てーとく、死んじゃってる……?」

伊19「さ、流石にここまでおバカだとは思わなかったのね」

伊8「できれば、水上艦のみなさんに、見つけてほしいですけど……」

伊168「私たちは私たちで、全力で探しましょう」

伊19「5人の力を合わせれば、なんとかなるのね!」

伊8「4人しか、いませんけど……」

伊58「あっ、しおいがいないでち!」

伊168「あの子……まあ、いいわ。何かあったら、連絡すること。いいわね?」

伊19「了解なの!」

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【戦艦ル級のお願い】

提督「ありがとう……本当に、ありがとう……」

戦艦ル級「……アマリ、サワルナ……ハズカシイ……」
提督「す、すまない」
戦艦ル級「ワタシハ、オマエヲタスケタワケデハ……ソチラノ、カノジョヲ、タスケタダケダ」

戦艦ル級「ソレモ、ズイブン、ムカシノハナシダ」

提督「それでも、感謝しているよ」

戦艦ル級「フ、フン……リチギナヤツダ」

戦艦ル級「ソノ……ミカエリヲ、モトメルワケデハナイノダガ……」

提督「なんだ?」

戦艦ル級「ヒトツ、オマエニ、タノミタイコトガアル」

提督「頼み……」

赤城「提督……」

戦艦ル級「ソウ、ケイカイスルナ……」

戦艦ル級「ナニモ、ブッソウナタノミナド、シナイカラ」

提督「……可能な範囲でならば、構わんが」

戦艦ル級「オソラク……オマエニシカ、デキナイコトダ」

提督「何故だ?」

戦艦ル級「……サキホドモイッタガ、オマエヲ、タスケタノハ、ワタシデハナイ」

提督「『コウワンセイキ』と言ったか」

戦艦ル級「ソウダ。ワタシノ、タノミハ……アイツヲ……」

戦艦ル級「アイツノ、トラウマヲ……ナオシテヤッテホシイ」


提督「トラウマ?」

戦艦ル級「……ジツハ、アイツガ、『テイトク』ヲタスケタノハ、ハジメテデハナイ」

提督「! もしかして、その人もここに居るのか!?」

戦艦ル級「イヤ……ナクナッタ」

提督「そう、か……」

戦艦ル級「コウワンセイキノ、メノマエデナ……」

提督「……どういうことだ」

戦艦ル級「ウミニオチタカレヲ、コウワンセイキガ、タスケタノダ……チョウド、オマエノヨウニナ」

戦艦ル級「ソノ『テイトク』ヲ、アイツハミズカラ、カイホウシタ」

戦艦ル級「カレハ、シバラクシテ、メヲサマシタ」

戦艦ル級「ダガ……カレハフタタビ、ネムルコトニナッタ……」

戦艦ル級「ミズカラノテデ、ナ……」

提督「そんなことが……」

戦艦ル級「ワタシハ、ゲンバヲチョクセツミタワケデハナイガ」

戦艦ル級「カレノフクブニハ、ハモノガササッテイタヨ」

提督「その方は、立派な提督だったのだろうな……」

提督「敵……とされる者達に、捕えられたと思うや、躊躇わずに自害するとは……」

提督「そう考えると、俺は提督失格かもしれないな」

赤城「……でも、彼は正しい選択をしたのでしょうか」

提督「あるべき提督の姿としては……そうかもしれん」

戦艦ル級「ソレハチガウ!」

提督「……」

戦艦ル級「ト、オモイタイ……」

戦艦ル級「スクナクトモ、ワタシハ、ウレシクオモッテイル」

戦艦ル級「オマエガ、カレトオナジテツヲ、フマナカッタコトヲ」

提督「……そうか」

戦艦ル級「ソシテ、コウワンセイキモ、オナジキモチダロウ」

提督「……待て、その子は俺の無事を知らない筈では」

戦艦ル級「ソウダ……ダカラ、オマエニ、ツタエテホシイ」

提督「……え」

戦艦ル級「オマエノクチカラ……タスケテクレテ、アリガトウ、ト」


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【綾波型、抜錨!】

綾波「全員揃いましたね」

綾波「では、これよりポートワイン沖に向けて出撃します」

綾波「目的はもちろん、提督を発見、救出することです」

綾波「実は、すでに大淀さんを旗艦とする先遣隊が向かっています」

綾波「私たちは、鎮守府で待機するべきなのですけど……」

敷波「司令官が海に落ちたなんて聞いて、落ち着いてられないよね」

綾波「そういうことなので、よろしくお願いしますっ」

曙「ちょっと、質問していいかしら」

綾波「はい、なんでしょうか」

曙「あんたの装備、何それ。初めて見るわ」

潮「わ、私もちょっと思いました。かっこいいですよね」

綾波「これは、えっと」

朧「それより、早く行きましょ。時間が惜しいわ」

綾波「そうですね。行きましょう」

綾波「曙ちゃん、後で説明しますね」

曙「いいわよ別に。少し気になっただけだから」

曙「それより急ぎましょ。早くクソ提督に喝!入れなきゃ」

綾波「はいっ」

綾波「綾波、水雷戦隊、出撃します!」

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書き溜め投下終了

この後の流れ(仮)は「港湾棲姫ノ隠レンボ」→「捜索難航」→「彼女の告白」→「しおいと提督(回想)」→「綾波参上!」→「伊勢・日向の憂鬱(ラバウル基地)」→「伊401の追撃」→「ボトルメール魚雷」→「ソ級帰還セリ」→「提督の伝言」→「深海棲艦交流録・提督不在の鎮守府日記」→「深海との別れ」→「懐かしきラバウル」→「満身創痍の戦艦棲姫」→「その名はレ級」のつもりです

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