首藤 涼「5月23日」 (20)

涼「……ぅ」
 「ふァ……」モゾ

涼(朝か)

涼「おい、香子ちゃんや……っと」

涼(いない……もう、起きているのか)

涼「ん……」

涼(今日は、5月23日か)

涼「……」

涼「ふっ……」

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涼「ペンと便箋はどこじゃったかな」ガサガサ

涼「……お、あったあった」

涼「さて」

サラサラッ

涼「……」

涼「……ん」

涼「よし」


月やあらぬ
春や昔の
春ならぬ
わが身ひとつは
もとの身にして


涼「んー……」

涼(こうして、綴ってはみたが)

涼「……ふふっ」

涼(全く、滑稽なものじゃな)

涼(まだ、あの時の想いを引きずっておるとは)

涼(もう、大分経っているというのに)

涼(……)クシャッ

涼「……あ」
 「そろそろ、教室に行く時間じゃのう」

涼(それにしても、香子ちゃんや)

涼(ワシに何も言わず、先に行ってしまうとは)

涼(珍しいこともあるのう)

涼(……ふふ、どのような形でも)

涼(先に行かれるということは、寂しいものじゃ)

――――――――――教室

涼「~♪」

涼「おっ」

香子「!」

涼「香子ちゃん、おはよう」
 「今日は早いお目覚めだったようじゃの」

香子「……あぁ」フイッ

涼(お?)

涼「どうした、香子ちゃ」

香子「……」スッ

涼(おお……?)

涼(露骨に避けられておる)

涼(なんじゃ……昨日、悪いことでもしたかのう)

涼「んむ」ガタッ

涼「……んっ?」カサ

涼「これは……」
 (手紙か)

涼(差出人の名は……ない)

涼(予告票……なわけはあるまい)カサッ

涼「……!」


晴「首藤さん、おはよう!」

涼「っ」ガサ
 「……おはよう、晴ちゃんよ」

晴「……? どうしたの?」

涼「い、いや、なんでもないぞ」

晴「ふーん?」

晴「あ、そういえば! 首藤さん知ってる?」

涼「ん、何をじゃ?」

晴「今日、5月23日って――」


*―――――*―――――*

――――――――――屋上

香子「……」

香子「はぁ……」

「こんなところにおったか、香子ちゃん」

香子「っ」
  「……首藤」

涼「ふふ、探したぞ」
 「ちょっと、香子ちゃんに聞きたいことがあってな」

香子「……」タタッ

涼「おっと、逃がさない」ギュッ

香子「……っ」
  「は、離してくれ」

涼「一応こんななりでも、身体を動かすのは得意なんじゃ」
 「ワシから逃げようったって、そうは問屋がおろさんよ」

涼「なあ、香子ちゃん」
 「この手紙を書いたのは、香子ちゃんじゃろう?」

香子「……」
  「なぜ、そう思う?」

涼「なぜも何も」
 「字面で香子ちゃんのものだとすぐわかる」

涼「それに、今日の香子ちゃんの態度」
 「書いたのはわたしです、って言っているようなもんじゃ」

涼「そもそも、こんな風な手紙を送るのは」
 「あの中では香子ちゃんくらいじゃろうからな」

香子「う……」

涼「どうじゃ、ワシの考えは間違っているか?」

香子「いや、間違っていない」
  「……書いたのは、わたしだ」

浅茅生の
小野の篠原
しのぶれど
あまりてなどか
人の恋しき

涼「……」

涼「今日は、5月23日じゃな」

香子「……そうだな」

涼「今日である必要があったのか?」

香子「……まぁ」

涼「ということは」
 「これは、そういうことだと、捉えてよいのかの?」

香子「……」
  「……あぁ」

涼「ふふ、そうか」
 「……ふふふっ」クスクス

香子「――!」
  「ど、どうして笑うんだ!」

香子「せ、せっかく、人が……勇気を出して」
  「……書いたというのに」

涼「あぁ、すまんすまん……」

涼「いや、面白くて笑ったわけではないよ」

涼「ちょっと……懐かしい気持ちになっただけじゃ」

香子「は……?」

涼「まぁ、そんなことはよい」
 「……それよりもじゃ」

涼「ワシからの、返事、聞きたいか?」

香子「……い、いや……」
  「いい……」

涼「えっ」

香子「……わ、わたしは自分の気持ちを伝えられただけで十分だから」

涼「……まさか」
 「返事を聞くのが怖いのか?」

香子「!」
  「そ、そんなことは! 涼「じゃあ!」

香子「っ」

涼「返事を聞いておくれ、香子ちゃん」
 「そうでないと、ワシが満足せんよ」

香子「……う」

涼「……」

香子「……ひ、一思いに


「君がため
惜しからざりし
命さへ
長くもがなと
思ひけるかな」


香子「えっ――んっ!」チュ

涼「……フフ」

香子「――! ――!」ワナワナ

涼「知っておるか、香子ちゃんや」
 「今日は、日本で初めて、キスシーンのある映画が流れた日じゃよ」

香子「ふ――」
  「風紀っ! 風紀をっ! 首藤!」

涼「こんなクラスに、風紀も何もないじゃろうに」
 「あははっ」

香子「~~~~!」

涼「なんじゃ、香子ちゃんはウブじゃの~」ニヤニヤ

香子「うわあああああ!!」

涼(……香子ちゃんや)

涼(あの歌)

涼(ワシにとって、思い入れのある歌なんだよ)

涼(ワシが愛していたあのお方も)

涼(同じように、送ってくれたものなんじゃ)



涼(なんだか……久しぶりに、また恋をしてみたくなったよ)


涼(こうして、時代が移り変わっていくのも、悪くない)

涼(……のう、香子ちゃん)

短いけどおわりです。
5月23日は恋文の日、キスの日でした。
涼ちゃんは大正ロマンが似合いそうだったので恋文の中身は和歌にしました。
今後もしばらくはSSでリドりたいです。

さよなら~。

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