愛「お世話になりました」石川「おつかれさま」 (48)

・876SSです
・愛ちゃん最初のオーディション落ちた後です
・愛ちゃんのオフについて捏造ありです

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愛「あんなに頑張ったのに……」

石川「愛、この負けをバネに成長なさい」

石川(これでこの子も諦めて、日高舞の名前を使ってくれる……)

愛「やっぱりあたし、ダメなんだぁぁぁぁーーーー!」ダッ

石川「え? ちょ、待ちなさい! 愛!」





絵理「……今、愛ちゃんが凄いスピードで出ていった……」

涼「あの、何かあったんですか?」

石川「……」

まなみ「え、えっと……じ、実はね」

石川「待って、まなみ。私から話すわ」

まなみ「……はい。お願いします」


石川「新人オーディション、愛は落ちたわ」

涼「そんな……あんなに頑張ってたのに」

石川「頑張った人全員が報われるわけじゃないわ。愛だけが頑張ったわけじゃない……明暗を分けたのはその努力と、運よ。どうしようもないわ」

絵理「それで、愛ちゃんはショックを受けて……」

石川「……実は、私と愛は一つの約束をしていたの。今回のオーディションについてね」

涼「……それって、愛ちゃんが耐えられないものだったんですか?」

石川「……ええ、そうだったみたいね。愛が落ちたら、ある事を公表してもらうつもりだったの」

絵理「あること?」

石川「……きっと、愛は戻ってこないわ。だから、この話もこれでおしまい」


―――
――


翌日 日高家

愛「」ポケー

愛「やっぱり、ちゃんと挨拶とか、しないとダメだよね……」

 トンッ トンッ トンッ

愛「おはよー……」

舞「おはよー。朝御飯はもう少し待ってね」

愛「うん……」

舞「どうしたの? アイドルやめたこと、納得いったんじゃないの? それともまだ眠いだけ?」

愛「違うよ。昨日、事務所のみんなに何も言わないで、泣いて飛び出しちゃったから……ちゃんと挨拶したり、後始末したりしなきゃって」

舞「そうね……。何も言わないのはスッキリしないわよね。学校終わったら寄って来る? それとも私が行ってこよっか? 親の仕事にしてもいいのよ?」

愛「ううん! あたしが行く。自分で行きたいの……最後ぐらい、自分で」

舞「……分かったわ。しっかりやってらっしゃい」

愛「うん」


学校


愛「」ポケー

教師「えー、それじゃあ……日高、72ページを訳してみて」

愛「」ポケー

教師「……日高」

隣の席「日高さん、日高さん!」

愛「え? あ、はい」ハッ

教師「……仕事疲れは、学業の言い訳にはならないので気をつけなさい。72ページを訳して」

愛「はい、すみませんでした! えーと……」


愛(……アイドル、無理だって分かったのに。ママも色々やって、自分に合うものを見つければいいって言ってくれたのに)

愛「はぁ~……」グデン

友「愛、大丈夫? 音量低いよ? 具合悪いの? 保健室行く?」

愛「大丈夫だよー……」

友「……アイドルも大変だろうけど、身体労わって――」

愛「やめたの」

友「え?」

愛「アイドル、やめたの」


友「……いやいや、え? 愛、あんなになりたがってて、なったじゃん」

愛「……ダメだった。やってみたけど、無理だった」

友「え、ええっ?」

愛「……オーディションで負けたら、ママのことをバラして活動する約束だったの」

友「……嫌だったわけだ」

愛「ママの名前出してまでできないよ……あたしには、無理だったの」


友「そっか……ま、まあ、なんだ。これから楽しい事いろいろあるよ」

愛「そうだね……だから、何か新しいこと見つけるつもり」

友「そっかそっか!」

愛「そうなんだー」

友「じゃ、じゃあ、頑張れよ」




愛「」グデン

今日はここで区切り


放課後


愛(なんだかみんな優しかったなぁ……気を遣ってもらっちゃった)

友「……愛、今日これからどーすんの? ちょっと遊ぶ?」

愛「ごめん、これから事務所に挨拶に行くから」

友「そっか。じゃあ、先帰るね」

愛「うん、また明日ー」


愛(明日から、何しよっかなぁ……)

愛「はぁ……」


 テクテク テクテク

愛(どう切り出したらいいんだろう……? やっぱり、最初は昨日の事謝らなきゃだよね)


「やっぱさー、日高舞の曲って今聞いてもいいなー」

「古くない? 今はちーちゃんとかさー」

「亜美派は私だけか」

「いや、でも舞は時代をだね――」


愛(……ママは今でも話題になるんだなぁ。あたしがママの名前を出したら、そこから先は全部、あたしじゃなくてママの活動の延長になっただろうなぁ……)


「水谷絵理とかどう? 最近出てきたんだけど」

「秋月涼の同期だよね? 知ってる」

「あの二人これから売れてくと思うよ」


愛「」ピタリ


「いい感じだもんなぁ」

「持ってるっしょ、あの二人は」


愛「……」


「876プロってあんまり聞かないけど、これから伸びてくるかな」

「二人次第じゃない?」


愛「……」スタスタ


愛(絵理さんも涼さんも、オーディションは乗り越えたんだよね……)

愛(あたしだけ……)

愛「……あっ、今日ViDaVo!の発売日だった」トテトテ





店員「いらっしゃいませー」

愛(今月の表紙は……春香さんだ)

『どんなに転んでも、何度だって起き上がって、前に進むんです』


愛(……春香さん、春香さんが言ってくれたこと、今でも覚えてます。だけど……)

愛「……これ買います」

店員「ありがとうございます」


 トテトテ トテトテ

愛「」ペラリ

『最初は色んな事に躓いたりしました。だけど、そのたびに765プロの仲間やプロデューサーが支えてくれて、私も頑張らなきゃって、立ち上がれました』

愛(あたしも、支えられた)ペラリ

『これからアイドルを目指す人たちに、ですか? そうですね……』

愛(絵理さんとCDを作ったり、涼さんと買い出しに行ったり……)

『きっと、つらい事や苦しい事もあると思います。失敗も、一度や二度じゃないかもしれません』

愛(まなみさんとレッスンしたり、社長と約束したり……)

『だけど、涙を拭って、前へ進んでみてください。アイドルが好きなら、きっと――』

愛(……もう、戻れないんだ。あたし、立ち上がるのをやめちゃったから)

愛「……ごめんなさい、春香さん」


愛「……今度、春香さんに会ったらなんて言えばいいのかな? やっぱり、ごめんなさい、でいいのかな?」

愛「だけど、そこまで深い関わりがあるわけじゃないし……」

愛「うぅ……」トテトテ

愛「……」トテトテ

愛「考えてみれば」トテトテ

愛「アイドルやめたんだから、もう直接会う機会なんてほとんどないんだよね」


愛(とにかく、また会った時まで落ち込んでたら、それこそダメな気がする)

愛「そうだよ、新しいこと、何か見つければいいんだ!」

愛「アイドルは無理だって分かったんだし、今日から新しいあたし! そう決めたんだ!」

愛「頑張らなきゃ! おー!」

愛「……」

愛「」ペラリ


『アイドルが好きなら、きっと――』

愛「……!」バサッ

愛「……」パタン

愛「……はぁ~」トテトテ


876プロ 事務所


愛「失礼しまーす……」

涼「あっ、愛ちゃん!」

愛「涼さん、おはようございます」

涼「……あの、愛ちゃん」

愛「涼さん!」

涼「……」

愛「あたし……アイドル、やめました! 色々、お世話になりました!」ペコリ

涼「……どうしても?」

愛「もう、無理って分かっちゃいましたから」


涼「愛ちゃん……愛ちゃんの決めることだから、私は何も言えないよ」

愛「……はい!」

涼「ただ、無理、してない? 後悔、してない? それだけ聞かせて」

愛「……大丈夫です! あたし、まだまだやれることもやりたいことも沢山ですから! 涼さんよりちょっぴり若いし、そのちょっぴりをゆーこー活用です!」

涼「愛ちゃん……」

愛「だから、えっと! その! ……無理も後悔もしてませんから、大丈夫ですよ」シュン

涼「……」

愛「涼さん、これからも応援してますから、頑張ってくださいね! ほらほら、仕事急ぎましょー!」

涼「……そう、だね。分かったよ」


涼「……」テクテク

愛「……」

涼「……」テクテク スッ

愛「……ぅ」ジワリ

涼「……愛ちゃん、僕は愛ちゃんとアイドルやれて、楽しかったんだよ?」

愛「……ありがとうございます」

涼「……行ってきます」ガチャリ


愛「……涼さん、涼さん」

愛「とっても可愛くて、どこか頼りになって」

愛「アイドルらしいっていうのかなー……」

愛「……きっと、涼さんなら、このまま頑張ってアイドル続けられる」

愛「涼さんなら……」


 ガチャリ


愛「わわっ!? りょ、涼さ――」

絵理「あっ――」

愛「――絵理、さん」

絵理「……」

愛「……あの、絵理さん!」

絵理「!?」ビクッ

愛「あっ……あの、その……あたし、アイドル……やめました!」

絵理「……愛、ちゃん。どうして?」

愛「その、やっぱり、無理だったみたいです。だから、アイドルは終わり――」

絵理「そうじゃない……」カツカツ

愛「え――?」

絵理「どうして? どうして愛ちゃんが無理だなんて言っちゃうの?」カツカツ

愛「絵理さん? あの、絵理さ――」


 カベドンッッ!


愛「ひゃっ!?」

絵理「愛ちゃん……あんなに、あんなにアイドルが好きだって……凄いって思って……」


愛「絵理さん、手、どけてください……」

絵理「どけたら、愛ちゃんが行っちゃう」

愛「仕事の時間になりますよ?」

絵理「何があったかは分からない……。だけど、愛ちゃんがここで諦めるなんて……」グッ

愛「絵理さん!」

絵理「私は絶対に嫌! 愛ちゃんがアイドルを諦めるなんて嫌!」ポロポロ

愛「だって、無理だったんです! あたしは涼さんや絵理さんみたいに可愛くないし凄くもない!」

絵理「そんなことない……それに、愛ちゃんは誰より、アイドルが好きで……」

愛「叶わない夢を見てつらいのはもう嫌なんです!」



絵理「叶わないなんて……」

愛「もうあたし、アイドル、できません。叶わないんです。社長と約束したけど、守っちゃったら、もうあたしじゃなくなっちゃう……」

絵理「……」

愛「絵理さん、あたし、ダメになるわけじゃないんです。新しい事、きっと見つけて、楽しくやっていきます。だから……」

絵理「それでも」

愛「絵理さん」

絵理「それでも私……アイドル日高愛が、いい……。行ってきます」カツカツ


 ガタンッ!


愛「……」

愛「絵理さん……」

愛「なんだか正反対な、絵理さん」

愛「ちょっとふわっとしてて、やっぱり正反対な絵理さん」

愛「……きっと大丈夫。絵理さんも、きっと大丈夫」


 ガチャリ


石川「……愛」

愛「社長……」

石川「……来てもらえるとは思わなかったわ」

愛「あの……」

石川「あとでこちらから挨拶に行くつもりだったの」

愛「き、昨日はごめんなさい! 突然飛び出したりしちゃって……」

石川「それはいいわよ。他に、何か言うことがあるからここに来たんじゃないの?」


愛「……社長、本当、ありがとうございました」

石川「……」

愛「あたし、ちょっとの間でしたけど、アイドルやれて楽しかったです」

石川「楽しかった、か」

愛「はい。踊ったり、歌ったり……街に出て、営業したり、レッスンしたり。楽しかったです」

石川「そうね。あなたはとてもいきいきしていたわ」

愛「……だけど、やっぱり無理だって分かりました」

石川「……戻る気は、ないのね」

愛「社長は、もう許してくれませんよね?」

石川「ええ。うちは苦しい事務所だし、使えるものは使いたいもの。戻って来るなら、約束通り日高舞の娘として売り出すわ」

愛「それは、嫌なんです」

石川「分かっているわ。……私だって、愛と同じ立場だったらそう思うでしょうね」

愛「……」

石川「……そうね、もうやめましょう。言っても何も変わらないもの」



石川「この広いアイドル界で、夢を抱いて、だけど力及ばず飛べなくなる。何度も見てきたわ」

愛「……」

石川「親が偉大過ぎることも、レッスンが足りないことも、運がないことも、全ては同じことよ。だから、あなたが特別だなんて言ってあげない」

愛「……よくあること、ですか?」

石川「ええ、よくあることよ。誰もがトップアイドルの道を歩む権利を持っているけれど、その道を進み続けられるのはほんの一握り」

愛「あたし、そこから落ちたんですね……」

石川「別の道に移る準備をしただけよ。あなたの人生はこれからだもの」

愛「はい。それは、分かってます。今も、ちゃんと新しい何かを見つけようって思ってます」

石川「ええ、頑張って。応援しているわ」

愛「……ありがとう、ございます」


石川「それと、ね」ギュッ

愛「……?」

愛(社長の手って、冷たいんだ)

石川「あなたが短い間でも、頑張って、光に照らされて立っていた事を私は忘れないわ」

愛「社長……?」

石川「あなたはダメなんかじゃない。それだけは覚えていて」

愛「……社長がそう言ってくれるのは嬉しいです。だけど、あたし、もう……アイドルは無理って分かっちゃったんです」

石川「愛――」

愛「自分から諦めちゃったんです。無理だって、今でも思ってる」

石川「……」

愛「あたし、アイドルだった自分を忘れたりしちゃうんでしょうか? とってもつらくて……いつか、そうなっちゃうんでしょうか?」

愛(春香さんの言葉も――)


石川「そうなる人もいる。さっきも言ったけど、あなたはこれからよ。これから、時間をかけて決めていけばいいわ」

愛「時間……」

石川「ええ、ゆっくりでいいの」

愛「……ママは、別にって言ってました。アイドルやめたの、笑わないし、呆れも怒りもしない。あたしが元気でいてくれればって」

石川「えっ!?」

愛「なんで驚くんです?」

石川「い、いえ、なんでもないわ……」

石川(ひ、日高舞がそんな普通の母親をやっているだなんて)

愛「あたし、もう少しゆっくり考えてみます。これからの自分」

石川「……それでも、ここに戻る、なんて選択肢はないのね」

愛「はい」



愛「お世話になりました」

石川「おつかれさま、日高さん」


―――
――


愛「……」

愛(876プロの事務所をこうして見上げるのも、今日が本当に最後)

愛(……いたのに、あたし)

愛(……さよなら、876プロ)

愛「事務所にもお世話になりました」ペコリ


日高家


愛「ただいまー」

舞「おかえりー」

愛「876プロに挨拶してきたよー。えっと、色々渡されて、ママにも書いてもらいたいものがあるんだって。後で郵送してって」

舞「じゃあ、そこに置いておいてくれる?」

愛「はーい」

舞「愛」

愛「なぁに?」

舞「納得いった?」

愛「……うん」


―――
――

「ただいま。愛はどうだった?」
「ちゃんと事務所に話をしてきたわよ」
「そうか……。いいのか? お前も、顔を出しに行くんじゃなかったのか?」
「そりゃあ、改めて挨拶はするつもりだけど……もう少しだけ、愛を見ていてあげたいの」


愛「……」

愛(眠れない……パパ帰って来たし、おかえりを言ってこようかな?)

愛(……)

愛(この位置からだと、絵理さんと最初に作ったCDがどうしても見えちゃう……)


それから、しばらく経って――


『二人とも最初に会った時よりグーッと歌もダンスも上手になってて、私も頑張らなきゃって思っちゃうなー』
『春香さんには、まだ遠い?』
『私たちももっともっと頑張らなきゃですよ』


愛「……」

友「愛ー、早く遊び行こー。こっちー」

愛「あっ、うん!」


 タッタッタ……ピタッ

愛「……」フリムキ


『それじゃあ、お二人に歌ってもらいます! HELLO!!』


愛「……」

友「……愛、行こ?」

愛「うん……」

 スタスタ……


愛(あたしは、あそこに、行けなかった)

愛(だけど、まだあたしが終わったわけじゃない)

愛(別の道で、楽しめて、元気になれて……そんなこれからが、きっとある……)


おわり

終わりです

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