KNZNHMR (19)

キャラ崩壊注意

いつでもいいけど、3週目かな



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「暑いね」



   もしも猫がこの場にいたら、質量保存の法則をこれでもかと無視して体を伸ばしきっているに違いない。
   そんな茹だるような昼下がりの熱気の中で、ベッドの上で肩を並べる私の友人が気だるさを語尾に含ませ宙を仰いだ。


「うん、今日は真夏日になったって、さっきコンビニで流れてました」


   一方の私は先程からにらめっこしていた指示器につい今しがた敗北し終え、答えた時にはそれを後ろ手に放り投げていた。
   着地した先の掛け布団の上から聞こえた、ポスっという気の抜けた勝利宣言が暑さから来る苛立ちに拍車をかける。

   今年も例年の如く、度々異常気象じみた寒暖があったものの、最近は気候も落ち着き払い過ごし易いが続いていた為に
   今日の気温が殊更突出したものに感じられる。はっきり言って異常だ。

   だいたい、暦の上では初夏の前にはまだこなすべき紫陽花が最も輝くイベントがあるというのに皇大御神のこの猛り狂ったやる気は何だというのだ。
   
   無神論者である私だが、トイレに篭れば敬虔な信徒になるくらいに現代日本人である私は、こんなとき同じように祈るのだ。
   岩戸に篭れとは言わない。神無月にはまだ幾分か有るが、彼女にはさっさと留守神にまかせて今すぐ出雲に出立して頂きたい所存であると。

   とまぁ、関係各所から抗議の電話が鳴り止まないこと請け合いの、
   文字通りの意味で天に唾するが如き妄言を以って、このまま責任を擦り付けられればいいのだが、
   不幸なことに原因の一端は私にもあるのだ。

   数ヶ月前に家賃と交通の便だけ見て借りた、所謂テンプレートな六畳一間の安アパートである我が家。
   そに備え付けられた冷房装置の年式など推して知るべしといったところなのだろうが
   効きが悪いのならまだしも、既に定年退職を迎えていというのは流石に想定外であり、
   試運転をすべきだったと今更になって激しく後悔をした。

   さらに、全開にした窓の外で昨日まで吹いていた冷風は、現在絶賛ストライキ中ときたもんだ。


「ごめんなさい」

「んー、でもこういうの一足早い夏っぽくて。好きかも」


   汗で湿り軽く巻いた毛先がアクセントになった可愛らしい笑顔に見え隠れした彼女の友達思いのその配慮には、
   折角の休日に遊びに来てくれたというのに誠、恐縮至極に存じる次第である。

   このままではいかんと、煉獄ともすれば半ば拷問部屋と化したこの空間から逃れるために、
   図々しくも今から彼女のお宅にお邪魔できないかと、非常識を承知で意を決して提案すべきなのだろうかと
   そんな風に頭を巡らせていると、彼女のフォローが思考に割り込んできた。


「気にしないでよ。それにね、たぶんうちに行っても似たようなもんだから」


   彼女の言葉の続きをかいつまむと、どうやら少し前、春先特有の寒暖差激しかった折に、
   軽い気持ちでほぼ毎日冷暖房を使用していたのが月末の請求書を見た彼女の母親の、誤用であるところの琴線、もとい逆鱗に触れ
   無期の禁止令が発令されてしまったらしい。

 
 

 
 
「きっとママ、二人とも若いんだからこれくらいなんてことないだろって、ダメっていうよ」



   主観で大変申し訳ないのだが、欲望よりも秩序を重んじそうなあの男勝りな母上様ならば、
   たとえ来客同伴であったとしてもやたら通る爽やかな声で、彼女のした声真似の通りに言いかねない。


「ふふっ、もう何回か家来て、ママとお話してるもんね」


   彼女に言わせると詢子さんはああ見えて、寝起きの悪さや酔っ払って帰ってきたときなど、
   結構だらしないとこがあるらしい。

   
「だから、今度は私の番。一度来てみたかったんだよね、ほむらちゃんのお家」


   そう言って彼女は、コンマ五秒も掛からず全貌を把握可能な特筆すべきものが一切存在しない我が家を見回した。


「ん、と……」


   彼女が唸ってコメントに窮するのも無理は無い。
   年頃の女子らしくない殺風景な部屋だと自分でも自覚している。

   言い訳をさせて貰えるならば、長年培って来た孤独な入院生活の賜物といったところであろうか。

   なまじ割かし重い病であったために個室を割り与えられて、他人の眼から隔絶され
   友と言えば偶々院長の蔵書にあったSFの短編集やマジカルでファンタジーなどの空想物の書籍だ。
   次々に読破して、他は無いのかとせがむものだから、大仰な机と椅子の後ろで威光を放っていた医学書などの堅苦しいラインナップが
   徐々に私好みのものに入れ替わって行き、退院する遥か以前に私専用のミニ図書室にしてしまったのも今となってはいい思い出だ。

   っと、話が逸れかけたので修正しよう。ようするに何が言いたいかのというとだ、まともに学校などに通ったことの無い私には
   友達など当然いるはずも無く、したがってひたすら孤独であり、かわいらしさとは対極の無機質な白い空間においてある程度不自由なく過ごしてしまった為に
   所謂少女らしさとは無縁で必要とも思うことに乏しい、そんな性格になってしまったのだ。

   いや、正確には『この瞬間までそういった性格だった』と言った方が正しいだろうか。

   部屋に呼ぶ前は何てこと無かったのに、いざ、同年代の子に見られるとなると本棚は心を写す鏡というわけではないが、
   このさもしい部屋が私自身の貧相な人間関係と精神を体現しているのだと捕らえられているような気がして
   その事実を見透かされるような感覚に、堪らなく恥ずかしくなってしまったのだ。

   ああ、彼女は今、暗鈍とした部屋に何を思い、そして視界の外でどんな表情をしているのだろうか。

   そんな辛うじて肺の中に留めた自意識過剰で独り相撲な悶絶を見かねたのか、彼女は「そうだ」とエクスクラメーション付きの言葉を発して
   ある提案を申し入れてきた。


「わたし、お人形いっぱい持っているでしょう?」


   七人の小人に見守られる姫よろしく、ベッドの脇にレーダーチャートで表すとかわいらしさ数値だけを最外郭に打って、あとの雑多な項目を中心点に置き去りにしたような
   そんな小動物を模したフェルトの人形がいくつも並んでいたのを思い返す。

 
 


 
 
「うん、それそれ。ほむらちゃんがかわいいって手に取ったあの子、ほむらちゃんにあげるよ」


「え!? いいの?」


   過大な表現を採れば、彼女の一部を譲り受けるという予期せぬ僥倖となったその言葉はもちろん嬉しいが、
   しかし、あの黒猫のぬいぐるみは彼女の月間お気に入りランキングのトップランカーであり、
   近々執り行われるタイトル戦を控える身だと聞いていたのだが……


「いいのいいの。その方が、ね」


   おっと、並みのキャラなら今の言葉の最後を聞き逃してしまうところだろう。
   しかし、様々な本を読破し、セオリーを理解しているわたしを舐めないでほしい。
   ここは追求すべきであう。そうだろう?
   任せたまえ、その為に先程本好きの設定をダラダラと述べておいたのだ。


「あ、あn」

「でも、ひとつだけ条件があります」
   

   諸君、残念なお知らせだ。彼女もまたアマチュアではなくプロフェッショナルだったようだ。
   人差し指を顔の横に立て、ふみっとウインクしたその仕草は視線誘導効果を意図しない面で最大限に作用し
   わが軍はその犯罪級の可愛さに全面降伏を以って、今件を不問とする不平等条約にサインする運びと相成ってしまった。

   仕方がない。して、その条件とは?


「その子ね、とってもやきもち焼きで寂しがり屋さんなの」


   ほほう、それは性根を叩き直してやらなければなるまい。それでこうして親元を離れ修行させるという訳なのか。
   きっとそのままでは独り立ち出来ずに誰かに縋り、その影を追って足を引きずりながら生きるような、
   そんな碌でもない大人に育つこと請け合いだ。

   ……ん? 彼女が心なしか膨れっ面になっているような……。おかしいな、アイマスクうをして地雷原を渡った覚えは無いのだが。


「そうじゃなくて。ほむらちゃんには別なお人形をお部屋に置いてほしいの」

「そして、一番気に入った子を隣に並べてあげてほしいなって」


   ああ、なんてことだ鹿目女史。
   カンダタに一縷の希望を垂らした釈迦の如くあなたの心は慈悲深い。


「えー、普通だって」


   この照れを隠し切れない謙遜の仕方の奥ゆかしさたるや。
   良き顔に善き心、天はここに二物を与えたもうた。


「何ていうか、ほむらちゃんは一々大げさ過ぎるよぅ」

 
 

あ、平和なのは2週目だったか

今回はここまで、次回は未定で
落ちたらそれまで

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