亜美「未来の地図」 (18)

夜も更けてきて、時計の針がてっぺんを回る頃…。それは大学のレポートを作成している最中のことだった。

携帯の着信が鳴る。相手は双海真美。私の姉だ。

打鍵する手を止め、携帯を手に取り応答すると、彼女は元気な声でこう言った。


「亜美!お誕生日おめでとう!!」

5月22日。それは私たちの誕生日。『たち』というのは、少なくとも私の知っている人物で私の他にもう一人誕生日を迎える人物が居るからだ。

それは他でもない、双海真美。私の姉だ。

私たちはこの世に同時に生を受けた。

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「2分早いよ…」

「まあいいっしょ!」

大雑把な性格は昔から変わっていないようだ。双子というのは数奇なもので、かくいう私もだいぶ大雑把な性格だった。

しかし、私がアイドルをやっていた頃、私の担当をしていた秋月律子の影響により、その性格は矯正された…

はずだったのだが、今では別の意味で大雑把になってしまった。さっぱりと、きっぱりとした性格。俗に言う「サバサバした性格」という感じだ。

「それで、何?」

「だからぁ~、お誕生日おめでとうって!」

「もうちょっと待ちなよ。あと1分半くらい」

大学に進学してからは、それぞれ別の道に進んだため離れて暮らしているが、こうして真美と話すのも随分久しぶりな気がする。

毎日電話はしていたが、こうしたふざけた会話ではなく、大学や進路の話ばかりだったからとても懐かしく感じた。

「じゅう~、きゅう~、は~ち…」

「いい歳して何やってんのさ…」

「いいじゃんか!ご~、よ~ん」

こうなれば仕方ない。元々私も日付が変わったら真美に「おめでとう」のメッセージを送るつもりだったし…。

「に~、い~ち!」

「「お誕生日おめでとう!」」

「おめでとう、亜美」

「おめでとう、真美」

おめでとう、おめでとう。このやり取りだけで2分くらいは使っただろうか。私たちは、お互いに「おめでとう」を何度も言い合った。

「いや~、これで真美たちも二十歳だね」

「そうだね。全然実感ないや」

実感がないというのも当たり前のことだった。ついこの間まで自由奔放ないたずらっ子だったのだから。

「今夜お酒でも飲みに行かない?」

タガが外れた瞬間にその提案とは、さすが現役の自由奔放ないたずらっ子だ。

「考えておく。お昼までには返事するから。それよりブーブーうるさい」

「ごめん、みんなからメールいっぱい来るんだよ…」

「みんな」というのはもちろん765プロ所属のアイドル。真美の同僚で私の元同僚のことだろう。

「私のとこには一通も来ないよ」

「だってみんな亜美のメアド知らないっしょ…」

そうだ。アイドルを辞めた後にアドレスを変えたんだったっけ。それにもうただの一般人だから、アイドルからメールが来るなどというのは考えてみればありえない話だ。

「みんな、亜美にも伝えてねって」

「そっか。ありがとう」

「…もう切ってもいいかな?レポート仕上げなきゃいけなくてさ」

この場を切り抜けたくなって、咄嗟に理由を作り逃れようとする。しかし嘘は言っていない。

「分かった。いいよ。頑張ってね」

「うん。返事はしておくからね」

「はーい。じゃーねー!」

電話が切れた。7分。それしか喋れなかった…。もっと話すことはたくさんあっただろうに。

携帯を置くと再び着信音が鳴る。今度はメールだった。送信者は真美。




言い忘れてた。おやすみ。



「おやすみ」と、返信をし、レポートの作成を再開した。

寝過ごした…。
時計を見るとすでに午前11時を回っていた。レポートは完成していたが、数えきれない量の小文字のgを消してから完成ということにしよう。

幸い今日は午後からの授業だけを受ければよかったので、慌てる必要はない。

携帯を開くと真美からのメール。あの誘いの件についてだった。




行くよ。お店とか時間は真美が決めておいて。

と返信する。

午後7時。言われた通りの場所に来てみると、見覚えのある人物が数名。

右から、我那覇響、天海春香、三浦あずさ、秋月律子、水瀬伊織、そして双海真美。

「何…?何でいんの…?」

「まあそう言わないでよ!私たちと一緒に飲もう!」

「そうだぞ!人は多い方が楽しいさー!」

「でもひびきん酒癖悪そうだよね」

「うぎゃー!言わないでくれー!」

そんな光景に懐かしさを感じる。

ひびきんとはるるんからはプレゼントにいろいろもらった。お手製のクッキーやケーキ。毛糸で編んだ手袋ももらったが今の季節はいらないので大切にとっておいて時期が来たら使わせてもらうことにしよう。

あずさお姉ちゃんとりっちゃんといおりんとは竜宮小町の思い出話。
竜宮小町はデュオになっても…というかむしろそうなってからの方が売れてるのは気のせいだろうか。


お酒も進んで、だんだんヒートアップしてきたところで、その場から逃げるように外に出た。


「ふう…気持ちいいなぁ」

「そうだね~」

先客がいた。真美だ。

「お酒って初めて飲んだけど、こんなに気持ちいいんだね~」

「お酒の話じゃないよ。風が気持ちいいなって話」

「あ、そっか~」

口では納得したようなことを言ってるが、ほころんだ表情ではなんの説得力もなく、この瞬間だけ姉に対して少しだけ腹が立った。

「ところでどうだった?真美からのプレゼントは」

「あれでプレゼントのつもり?」

真美はこの時間をプレゼントしたつもりだろう。思い出に華を咲かせるこの時間は確かに素晴らしいものだった。

「まあ、よかったよ。ありがとう」

「亜美からもプレゼントをもらわないことには帰せませんな~」

「そう来るとは思ってたよ」

プレゼントは用意しなかったわけではない。

「今日は亜美のためにみんな呼んできてくれてありがとね」

真美の目を見ると真美が笑っている。何がおかしかったのだろうか。

「亜美ったら、戻ってるよ」

「ほっといて」

「好きだよ」

ビュウっと強い風が吹き抜け、声をかき消した。

どっちの言葉かは分からなかった。

「好きだよ」

何度も何度も言い合った。どっちの言葉かは分からない。

言葉は足りないかもしれなかった。しかしそれで十分だった。

世界中の言葉を集めてもこの気持ちは伝わり切らない。しかしほんの些細な気持ちを伝えるのに言葉なんて必要ない。

「真美、これ…」

「これって…?スケジュール帳?」

「未来の地図だよ」

「なんか書いてあるけど…」

「それはね、亜美と会う日!」

「ええぇ!?そんな、真美だってお仕事あるんだからこっちに合わせるの難しいと思うよ!?」

「兄ちゃんに頼めばなんとかしてくれるっしょ!」

「たぶん……ね?亜美もいたずらっ子なのは変わんないね」

「亜美、もう一個聞いていいかな?」

「何?」

「どうしてアイドル辞めたの?」

「真美が…」

「真美が…?」

「真美が…真美が………なんでもない!」

「えー!?そこまで言っておいてそれはずるいっしょー!」

「知らないもんねー!」




悩みながら描いてく未来の地図に、二人で色づけしていこう!
産まれてきてくれてありがとう!これからもよろしくね!


終わり

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