希「風紀を取り締まるのも会長の仕事やで」 (58)

これはμ'sが結成される半年ほど前のお話。



絵里「えっ……でもそれは風紀委員の仕事でしょ?」

希「会長はすべての役職の上にある職やろ? せやから会長はなんでもできなくちゃいけないと思うんよ」

絵里「じゃあ副会長はどうなのよ。 会長の1段階下だけどそれなりに偉いはずよ?」

希「……」

希「副会長は各委員会の委員長と同じくらいの地位やね」

絵里「何よ今の間は」

希「とりあえずエリちには風紀委員長もお手上げの問題児を取り締まって欲しいんよ。 というか委員長に泣きながら頼まれた」

絵里「な、泣きながらって……。 そこまでひどい子なら私にも相手できるかわからないわよ?」

希「うーん……まぁとりあえずその子のところに行ってみよっか。 でないとなんとも言えないし」

絵里「ええ。 それにしてもまさかこの学校にそんな問題のある子がいるとは思わなかったわ……。 いきなり暴力振るうような子じゃなければいいけど……」


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教室編


ー1年X組ー

「ちょっと見てよこのボイン! 本当に私と同い年なのこの子は!?」

「はわわぁ……! テレビでよく見る口十姉妹と同じくらいかも……!」

「くっ……羨ましいです……。 ここまでとは言わずとも、せめて私のは穂乃果たちくらいには成長してほしい……」


絵里「あの子たち?」

希「そうみたいやね。 休み時間に雑誌を机に広げて叫んでる子がいて、何度注意しても聞き入れてもらえないって」

絵里(雑誌……ボイン……口十姉妹……成長……。 あっ、えっちな本?)

絵里「それなら私に頼むより先生に頼んだ方がいいんじゃない? 生徒指導の先生呼んできましょうか?」

希「……」

希「……エリち。 前の生徒指導の先生が急に転勤になったの覚えとる?」

絵里「えっ? ええ、もちろん。 つい3週間前の話じゃない。 それがどうかしたの?」

希「実はな、あの急な転勤には裏があるって話なんよ」

絵里「裏……?」

希「うん。 おそらく風紀委員長もその先生に相談に行ったと思う。 そして実際にその先生が指導してるところもウチは見た」

絵里「? なにが言いたいの?」

希「これも知っとると思うけど、1年生の中に理事長の娘さんがいるって話」

絵里「ええ。 お母さんと同じく個性的な髪型を……って」



「私もあと1年でこのくらいになったらいいなぁ」



絵里「……まさか」

希「……そう、あの子や。 話によると、どうやら母親は娘を溺愛しとるらしいんよ」

絵里「じゃあ前の生徒指導の先生は……」

希「……うん、そういうことやね。 あくまで噂やけど」

絵里「そ、それじゃあ下手したら私まで消されるんじゃ……」

希「さすがに生徒を権限で退学させることはできないんやない? 風紀委員長がまだ在学してるのがその証拠や」

絵里「そ、そうかしら……。 でも怖いわ……。 こんなの暴力より数段タチが悪いわよ」



「まーた高坂さんたちあんなの読んでるの?」

「思春期なのはわかるけど、学校でそういうのはやめてほしいよね」


希「どうやら他の子たちも困っとるみたい」

絵里「……生徒会長として困ってる生徒を見過ごすわけにはいかないわよね。 うん、エリチカがんばる!」

希「そのいきやでー! ほな、行ってらー!」


スタスタ

絵里「……えー、こほん」

穂乃果「ん?」


絵里「ち、ちょ、ちょっと、あ、あ、あなたたち? が、学校で、そ、そういうのはよくにゃいと思うわよ……?」ガクブル


希(あ……あかん)

穂乃果「……ねぇ、この人だれ?」コソコソ

ことり「えっと、確か新しい生徒会長の人じゃないかな?」コソコソ

海未「この金髪は間違いありませんね」コソコソ

穂乃果「ふーん……」チラッ

絵里「ひぃ……!」ビクッ

ことり「ねぇねぇ、なんだかこの人ずいぶん怯えてない? どうしたのかな」

絵里「い、いえ……そ、そんなことはにゃ、ないですよ……?」ダラダラ

ことり「すごい汗……。 えっと、ハンカチ使いますか?」スッ

絵里「……!?」

ー絵里viー

ことり「今からその指の爪全部剥いてっからよぉ、その後これで拭けや。 いいな?」

ー・ー



絵里「ひぃぃぃいい! お、お願いですから痛いことだけは勘弁してください……。 どうかこの通り……」ドゲザ

ことり「あっ……」

海未「どうしたんでしょうか会長。 演説の時はもっと堂々としていましたのに……」

穂乃果「あれじゃない? 普段からのギャップに萌えを見出しているとか」

海未「そんなわけないでしょう……。 あの、会長。 頭を上げてください。 その……みんなも見ていますから……」

絵里「……っ!?」

ー絵里viー

海未「チッ、ここじゃ人目につくな。 おい、立てよコラ。 でないとそのきたねぇ色した頭カチ割るぞ」

ー・ー



絵里「ごめんなさいごめんなさいこの髪は祖母からの遺伝なんです親の髪は黒いのになぜか私が金で妹は銀が入っちゃいましてほんとなんでなんでしょうねあはは困っちゃいますよねー……」スリスリ

穂乃果「ゴマ摺ってる……。 実際にやってる人初めて見た」

海未「立ち上がってくれたはいいのですが、会話が噛み合ってない気がします……」

ことり「会長になったばかりだし、慣れない仕事が多くて疲れが溜まってるんじゃないかな?」

穂乃果「疲れか……。 それじゃあこんなものしかないけど……」ゴソゴソ

絵里「……?」

穂乃果「はい、ほむまん! まだ試作なんだけど、評判が良かったら実際に売ることにしてるんだ!」

海未「まさか今までカバンに放置していたのですか……? 秋とは言えまだ暑いのに」

穂乃果「あっ……」

ことり「でもおいしいよ?」モグモグ

穂乃果「本当!? よかったぁ!」

海未「ちょっ、ことり! お腹を壊したらどうするんですか!」

穂乃果「大丈夫だって。 海未ちゃんったら心配性なんだからー」

絵里「……」

穂乃果「まだあるから会長もどうぞ! 甘いもの食べたら疲れも吹き飛ぶと思いますよ♪」ニコッ

ー絵里viー

穂乃果「見ろよこのまんじゅう、めっちゃ白いよなぁ? これと今からお前の血の色に染まるもう一つの饅頭、二つ合わせて紅白饅頭だ。 両方とも喉に捻じ込んでやるからよーく味わえよな♪」ニコッ

ー・ー



絵里「……」

穂乃果「会長?」

海未「ほら、やっぱり抵抗があるのですよ。 無理して食べなくてもいいですからね?」

ことり「えー? そんなのもったいないよぉ」ヒョイ

絵里「……」


絵里「やだぁ……! もう怖いのやだよぉぉぉぉおお!!!」ダダダダダダダダダ


穂乃果「あ、かいちょ……」


ガララァ、バタンッ!!

海未「行ってしまいましたね」

穂乃果「うん……。 そんなに嫌だったのかなぁ……。 一晩寝ずに考えたのにな……」グスッ

穂乃果「うぅ……こんなにおいしいのに……」モグモグスン

海未「……」

パクッ

穂乃果「あっ……」

モグモグ、ゴクン

海未「……。 うん、おいしいですよ」

穂乃果「でもお腹壊すって……」

海未「あなたが頑張って作ったおまんじゅうなんでしょ? それならなにも言わずに食べてあげるのが友だちと言うものです」

穂乃果「海未ちゃん……!」

ことり「そのわりに口に入れるまで随分時間かかってたけどねー」パクッ

海未「それは……ってことり! あなたひとりでいくつ食べてるんですか!」

ことり「これで5個目かなー?」モグモグ

海未「5個目って……もう全然残ってない……! 穂乃果! あと残り2個は私がもらっていいですか!?」

穂乃果「えっ? う、うん。 いいけど」

ことり「えーずるいよー! 2個あるんだからひとつちょうだい!」

海未「まだ私はひとつしか食べてないんですが!?」

穂乃果「やめて! ほむまんのために争わないで!」

・・・

穂乃果「そう言えば会長ってなにしに来たんだっけ?」

海未「あ、そういえば……」

ことり「確かこの雑誌を読むのはダメだって言いに来たんじゃなかった?」ドン

穂乃果「でもあっちの子たちは普通になかよしとかちゃおとか百合姫読んでるよ?」

海未「少年誌がいけなかったのでしょうか……」

ことり「ごめんね……、ことりが毎週ヤンマガ持って来てるから2人も巻き込まれちゃって……」

穂乃果「いいや、気にしなくていいよ! 私も読みたかったし!」

海未「ええ。 なのであなただけ怒られては逆に不公平です」

ことり「穂乃果ちゃん、海未ちゃん……。 ……ありがとう!」


「どうしてあんな男だらけで暑苦しい少年誌なるものを読みたくなるのかわからないわ」

「そうよね。 GLこそが至高、しかも綺麗。 汚いのは他所でどうぞ」

「そんな私が唯一三次元で認められるのが……」チラッ


穂乃果「ねぇ海未ちゃん、あの子たちに見られてるよ?」

海未「うっ、だから私は女の子同士には興味がないと何度も言ってますのに……」

ー生徒会室ー

希「エリち、大丈夫? 昼からずっと顔色悪いけど」

絵里「大丈夫、心配しないで……。 そうよ。 この学校を守るのが生徒会長としての責務じゃない。 逃げちゃダメ……。 これから長い道のりになろうとも必ずあの子たちを取りしまってみせなきゃ……!」

希「まぁその意気やでエリち! ウチも陰ながら応援しとるからな」

絵里「できればあなたにも前線で戦ってほしいのだけど」

希「いや、それは……。 ほ、ほら、あれや。 RPGでも長期戦するなら戦士だけのパーティよりも戦士と魔術師のバランスのとれたパーティの方が安定やん? ウチは弱ったエリちを慰める係りということで」

絵里「弱る前提なのね……。 はぁ……」


翌朝 ー2年Y組ー

風紀「私が風紀委員長です」

絵里「ちょっと聞きたいことがあるのだけど、いい?」

風紀「? はい、答えられる範囲でなら」

絵里「ありがとう。 そのね、2年生に問題児がいるって言ってたじゃない? そのことなんだけど……」

風紀「……! ……っ」ジワッ

絵里「ええっ!? ちょ、どうしたの!?」

風紀「うぅ……うぅぅ……。 私は認めない、認めないんだから……!」

絵里「えっと、どうかしたの?」

風紀「学校で雑誌を読むこと……! そんなの風紀に違反しています! 本当ならば処分されるべきなんです!」

絵里「雑誌……?」


『見てよこのボイン!』


絵里「……ああ、私もそう思うわ。 少なくとも学校で読むものじゃないわよね」

絵里(高校生にグラビア雑誌はまだ早いわ)

風紀「ですよね!? 会長もそう思いますよね!? ほら、私はやっぱり間違ってないのよ!」

絵里「そうね。 学校で読むには刺激が強すぎと思うわ」

風紀「刺激? あぁ、バトルシーンのことですか」

絵里(バトルシーン?)

風紀「中にはあまりにも激しい闘いであるがゆえに血が出る描写もありますし……」

絵里(激しくて……血が出る……!?)

風紀「今まで一緒にいた仲間がみんな逝ってしまうシーンも……」

絵里(仲間がみんな……いく……!?)

絵里「ちょ、ちょっと……」

風紀「はい?」

絵里「あの……あの子たちが読んでるものって(R15的な意味で)健全なものなのよね?」

風紀「まぁ一応…………あ、でも別冊の方はかなりエグい(グロい)表現も入ってるみたいです」

風紀(流行りの進撃の○○も載ってるし)

絵里「エ、エグい(R18的な意味で)……!?」


『パシィィィン!! おい、もっといい声出してみろよ! おらぁぁ!! ムチが大好きなんだろぉ!?』

『ぐっ、こ、こんなの好きなわけ……ない!』

『はははそうか。 では今度は次はこっちの口から答えを聞いてみようか』

『あっ、そこは……!』



絵里「……っ!」ポンッ

風紀「うわぁ!? か、会長!? 顔が真っ赤ですよ!?」

絵里「あ、あの子たち学校になんてもの持って来て……! 校則でもちゃんと取り締まってあったはずよ!? それを伝えれば……」

風紀「それは……できないんです」

絵里「どうして!?」

風紀「……変えられてしまったんです。 理事長に、校則を」

絵里「……え?」

風紀「『雑誌は生徒の柔軟な発想を促すものであるから』とそれらしい理由をつけられて……。 本当は娘が可愛いだけなのに……」

絵里「そ……そんなもので柔軟な発想力が身につくわけないでしょう!? 理事長はなにを考えて……」

風紀「……え?」

絵里「え……?」

風紀「いえ、そうでしょうか。 私は理事長の言うことも一理あると思いますよ。 ……私はただ学校でそういうものを読まれるのが嫌なだけで……」

絵里「他人にバレなければいい。 そういうこと……?」

風紀「他人の意欲を削ぐようなことがなければ」

「委員長……。 ……はぁ、どうやら私たちは別々の考えを持ってるようね。 あなたならきっと味方をしてくれると思ってけど」

風紀「ま、待ってください。 会長は家でそういったものを読んだりしないんですか?」

絵里「ば、ばか!! 読むわけないじゃないそんなの!」

風紀「そうなんですか……。 それじゃあわかり合うことは難しいかもしれないですね……」

絵里「そのようね。 ……いろいろ教えてくれてありがとう。 それじゃあ私は行くわ」

風紀「はい。 私じゃ力になれないかもしれませんが、一時は同じ意見を持ちあった仲ですし、何かあったら頼ってくれたら嬉しいです」

絵里「……ええ」

風紀「……あっ、そうだ」

絵里「なに?」

風紀「会長も少しでも読んでみれば面白さがわかるかもしれませんよ」

絵里「だから私は……」

風紀「私の家に20冊くらいあるので1冊くらい貸しましょうか」

絵里「……は!? 20冊も!?」

風紀「最近またハマっちゃって……。 でも私の友達は100冊も持ってる子もいるんです」

絵里「ひ、ひゃ、ひゃく……も……」

風紀「すごいですよね」

絵里「もう……この学校は終わりよ……。 はは……はははは……」

風紀「あ、会長……」

絵里「……はははははははははははは」


ー昼休みー

ガラガラ

絵里「」ゲッソリ

希「エリちどうしたん? 昨日以上にやつれてるみたいやけど」

絵里「こんな学校……廃校になってしまえばいいのよ……」

希「縁起でもないこと言うもんやないって。 実際にそんな噂流れてることくらい知っとるやろ?」

絵里「……ええ。 でもこんな学校に未来なんてないわ。 CEROの人たちが来たらきっとべそかいて帰るくらい乱れに乱れてるわ……」

希「CERO? なんのことか知らんけどウチはそこまでヒドイとは思わんけどなぁ」

絵里「あなたは直に惨状を見たことがないからそんなこと言えるのよ。 事件は生徒会室でなく現場で起こってるんだから」

希「ふうん。 まぁ今はそんなこと忘れてお昼ご飯食べよう? ウチお腹空きすぎて4時限目から全然頭回ってなくて」

絵里「そうね……。 お昼くらい嫌なことは忘れたいし、ね」

希「エリちもこの様子じゃ生徒会長になって幸先のいいスタートを切れた、とは言えないみたいやね」

絵里「でも生徒会長になったからこそ私は、今までこんなひどく汚れた空気を吸って生活していたことに気づけたわ。 ……だからこそ私がその空気を入れ替えるためにがんばらなくちゃ」

希「さすがエリち。 やる気を出した時はいつにも増して頼もしいわ」

絵里「なによそれ。 いつもは頼りないってこと?」

希「言葉の綾やでー♪」

絵里「……もう」

とりあえず終わりです
続きは今書いてます

それではさようなら

図書室編


絵里「もう12月かぁ。 早いものね」

希「ウチらが生徒会役員になって2ヶ月経とうとしとるんやなぁ」

絵里「でも最近になってやっと仕事に慣れてきたって感じかしら。 学校の子たちにも顔を覚えてもらって挨拶してもらえるようになったし」

希「そりゃそんな目立つ頭してれば誰の印象にも残るって」

絵里「ひとのこと言えるかしら?」

希「ウチやって話そうと思えば標準語しゃべれるんよ?」

絵里「ほんとに?」

希「まぁこのしゃべり方が場にそぐわない時くらいしか標準語も使わんけどね」

絵里「希の標準語か……」


希『絵里ちゃん。 次のお仕事なにするの?』

絵里『そうね、やらなきゃいけない仕事もないし今日はもう帰りましょうか』

希『えぇー』

絵里『どうしたの?』

希『私はまだ絵里ちゃんと一緒にいたいのになぁ……。 そっかぁ、絵里ちゃん帰っちゃうんだぁ……』

絵里『あら、希ったらさみしんぼなのね』

希『だって……私絵里ちゃんのこと……』


希「エリち?」

絵里「ほぇっ!?」ガタッ

希「ひっ!? ど、どないしたん!?」

絵里「い、いえ……なんでもないのよ……」

希「急に真剣な顔つきになったから何かあったのかと思うたわ……」

絵里「ごめんなさい。 本当になんでもないのよ」

絵里(わ、私ったら希でなんてこと考えて……! どうして標準語になった瞬間この子が私のこと好きになるみたいになってるのよ……)チラッ

希「?」

絵里(……はぁ。 変な妄想しちゃってごめんね、希)

希「気にせんといて♪」

絵里「ありがとう。 …………えっ?」

希「まぁ、その……ウチは別にエリちとならやぶさかでもないんやで……?」

絵里「そ、そうじゃなくて……! ……もしかして今までのこと口に出てた?」

希「うん」

絵里「……!」カァァァ

希「でも嬉しいわぁ。 そんな妄想するってことはウチと少しはそんなふうになりたいと思うてるってことやろ?」

絵里「ば、ばか言わないで。 妄想よ妄想。 全部」

希「」ショボン

絵里「……あ、いや、その……」

希「すー、はー……」

絵里「ん」

希「こほん、こほん。 ……絵里ちゃん」

絵里「!?」

希「絵里ちゃん……私ね……? ずっと前から絵里ちゃんのことが……」

ガシッ

希「わっ!」

絵里「……き、今日は図書室で勉強してから帰るわ。 希は先に帰ってても構わないから」

希「あっ、エリち……」

絵里「それじゃあまた明日!! パカー!」

ガラガラッ!

ダダダダダッ……

希「あ、エリち……」

希「……」

希「……ふふ、かわいっ。 あんなに顔真っ赤にしちゃって」



……スタ、スタ

絵里(な、なんなのよ……なんなのよ……なんなのよぉ……!! あんな希、可愛すぎて反則なんだから……!)



ー図書室ー


ガラガラ

絵里「……」

絵里(あんまり人はいないみたいね。 見たところ奥の机に……1年生かしら?が3人いるだけみたい)

絵里(近くに行ったら気まずいしちょっと離れた場所に座りましょっと)


シーン


絵里(やっぱり放課後の図書室はいいわね。 静かで勉強が捗るわ)

ズー、スピー

絵里(……誰かいびきかいてるけどそれほど気になるものでもないし)

絵里(でもあと1ヶ月もしたら受験を控えた3年生が屯う巣窟になっちゃうのよね……。 この緩やかな空気が好きなのに、なんだかもったいないわ)

グガー、ゴー

絵里「……」

『ちょっと穂乃果ちゃん、起きて。 そんな大きないびきかいちゃったらさっき入って来た人の迷惑になっちゃうよ』

『ふぇー。 おまんじゅー』

『……って、ちょっ! 図鑑によだれ垂れてますって! 穂乃果!』

『焼肉ー。 おーしー』

『図書委員にも怒られちゃうよー! 起きてー!』


絵里「……んー、ごほん」


『ほ、ほらみなさい! あなたのいびきがうるさいから!』

『海未ちゃー?』

『な、なんです?』

『ちゅーしてー』

『は、は、はいっ!?』

『だ、だめだよ! 女の子同士でそんなこと……!』

『んーっ』

『ほ、穂乃果! 寝ぼけてないでちゃんとして……あ、なんて力……! このままじゃ……』

『いっただっきまーふ』

『きゃー! 髪を食べないでください!』

『おかーさーん。 今日のラーメンの味薄いよー』

『ラーメンじゃないよ穂乃果ちゃん! それは海未ちゃんの髪の毛だよー!』

『そんな引っ張ったら抜けちゃいますって! 禿げちゃいますー!』

『ぐごー』

絵里「」イラッ

絵里(前言撤回。 やっぱり図書室は静寂が一番、いっさいの雑音もいらないわ。 注意して来なくちゃ)

海未「……はぁ、やっと離してくれました……。 少しだけ毟られてしまいましたけど……」

ことり「ご愁傷様……」

絵里「ちょっとあなたたち」

海未「……え?」

絵里「あなたたち3人よ。 さっきからおしゃべりの声量が少々気になってしまって」

ことり「あ、ご、ごめんなさい……。 気をつけます」

海未「すいません。 少しばかりパニックになってしまっていまして……。 以後気をつけます」

絵里(あら、思ったより物分りのいい子たちね)

絵里「わかってくれたのならいいの。 それじゃあね」スタスタ

穂乃果「……んー」

ことり「あっ、穂乃果ちゃんおはよ」

穂乃果「おはよっ、ことりちゃん……」


絵里(……………………えっ、ことり?)ピタッ

ことり「会長さん? どうかしました?」

絵里「い、いえ。 なんでもないわ」

海未「まったく、穂乃果のせいで怒られてしまったではありませんか」

穂乃果「んー……? なにがー……?」

海未「あなたは眠ってて知らなかったかもしれませんが、あなたのいびきと寝相が悪いせいでただ勉強していただけの私たちまで怒られるハメに……」

穂乃果「……」ジーッ

絵里「?」

海未「穂乃果? 聞いてます?」

穂乃果「…………スイートポテト」

ことり「え?」

ガタッ

絵里「え、な、なに……?」

穂乃果「おいしそぅ……。 今日のおやつ」ジュルルル

ダキッ

絵里「ひっ、な、なんなのよ! あっ、本当にすごい力! 離しなさい!」

穂乃果「いっただっきまーふ」

チュッ

絵里「……っ!?!!!?」

穂乃果「んっ、んんっ、はむっ……んっんっ」

絵里「んーー!! んんーー!!」

絵里(ど、どうなってるのよ!? なんで私、知らない後輩にキスなんかされて……っ)

海未「あー……、ごめんなさい会長」

絵里「……んん、んっ!?」

ことり「穂乃果ちゃん、寝起きはすごくキス魔になっちゃうんです」

絵里(そ、そういうことは先に言ってーー!!)


穂乃果「ぽてとー、ぽてとー。 んちゅっ、ちゅぱ」

絵里「んぐっ、んんぅんー!!」

絵里(も、もぉ! いつまで続くのよこれ……! 突き飛ばしてしまえば簡単だけどそうしたらかわいそうだし……、かと言って半端な力じゃ全然動かないし……)

穂乃果「おいしー、甘々だぁ」

絵里(それになんだか…………可愛いわね、この子。 ……ん? 私今なに考えて……)

海未「いい加減にしなさい」ビシッ

穂乃果「あびっ!!」

絵里「ぷはっ! はぁ、はぁ……」

穂乃果「あ、あれ? 私何して……」

絵里「……」

穂乃果「……えっと、……どちら様?」

絵里「……私、たった今あなたにファーストキスを奪われた音ノ木坂学院生徒会長の絢瀬絵里と申します」

穂乃果「あっ、会長さん? ご、ごめんなさい……私ったらまたやっちゃったんですね……」

ことり「これで6人目だね。 多分キスしてた時間は歴代最長じゃないかな? 海未ちゃんはビックリしてビンタしちゃったから2秒で終わっちゃったし、私の場合は途中で穂乃果ちゃんの目が覚めちゃったし」

海未「それに初めての相手に舌を入れたのは初めてじゃないですか? 私の時もことりのときもソフトキスでしたし」

穂乃果「あ、あの……本当にごめんなさい……。 寝起きってどうしても自分をコントロールできなくて……」シュン

絵里「……。 いえ……、大丈夫よ。 私は会長だけど、一生徒の不祥事の一つや二つくらいなら目をつむってあげるくらいの寛容さも持ち合わせてるつもりだから」

穂乃果「そ、そうですか! ありがとうございます……! えへへ、キスしちゃった相手が会長さんでよかったぁ……」ニコッ

穂乃果(海未ちゃんのときは殴り飛ばされた後にゲシゲシされたし、ことりちゃんのときは目が覚めても離してくれなかったし)


海未「それでは私たちはこれで。 穂乃果、ことり、帰りますよ」

ことり「はーい。 あっ、この後ことりのおうち来る? ちょうどクッキー作れる材料もあるし」

穂乃果「行く行くー! 絶対行く!」

海未「お菓子もいいですけど勉強もしないとダメですよ。 と言っても恐竜検定の勉強ばかりしてては数学と英語の成績が上がったりするわけでもないですけどね」

穂乃果「なにをー! 大好きな恐竜の勉強をしてなにが悪いのさ! 学校の勉強なんかよりよっぽど将来に役立つんだから!」

海未「あなたは将来何になろうとしているのですか……」

ワイワイガヤガヤ

ピシャン……

絵里「……」

絵里「……高坂さん、いえ……穂乃果さんの唇、柔らかかったな。 女の子同士でこういうことはナイって思ってたけど、……あんまり悪くは無いかも」


ガラガラ

希「エリちー、まだ残っとる? 先に帰っていいって言われたけどきっと生徒会室で待ってれば戻って来かると思って待ってたのに一向に帰って来ないんやもん。 だから迎えに来ちゃった♪」

絵里「……」

希「そういえば今さっきここから例の三人組が出てくの見えたけどまた泣かされんかった? 大丈夫?」

絵里「……」

希「エリちー? あっ、もしかしてまださっきのこと怒ってるん? そのことならちゃんと謝るから許し……」

絵里「…………だめよ」

希「そんなケチんぼなこと言わんと許してーな?」

絵里「……だめ、だめだめだめだめ!! 女の子同士なんてやっぱりどう考えても不健全よ! こんなの許されざることだわ!」

希「やっ、そ、そこまで言わんくても……ほんのおちゃめのつもりやったのに……」

絵里「やっぱりあの問題児3人にはしっかりと指導しなきゃ……! 高坂さん、あなたは私のこと覚えてなかったけど私は先月味あわされたあの屈辱を一時足りとも忘れたことはないんだから! ま、まぁ顔はうろ覚えだってたけど……」

希「えっ?」

絵里「たとえ1対3だとしても私は諦めない! あの3人を更生させた暁には、それを弾みに私がこの学校の淀んだ風紀を全て取り締まる! 理事長の権力にも負けない、そんな無敵な会長を目指し、ゆくゆくはこの音ノ木坂学院を支配してやるわ! あーっはっはつはっはっはっらっしょー!!」

希「あ、あの……エリち? なんか目指す場所変わっとらん?」

絵里「なによ、生徒会長が学校の支配者であるべきだと言ったのはあなたでしょ?」

希「そこまで言った覚えないんやけど……」

絵里「だからそんな私がたかが1年生ごときに怯えて過ごさなくちゃいけないなんて間違ってるのよ。 今に見てなさい、あなたたちが好き勝手できる日もあとわずかなんだから!」

希「どんくらい?」

絵里「明日……、いえ、一週間後……いや、1ヶ月以内には! 絶対に!」

希「今回もダメみたいやね」


図書「絢瀬さん、図書室ではお静かにお願いします」

絵里「あっ、ごめんなさい……」

希「……」

続きはきっと書きます
遅くなってすいませんでした

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年03月31日 (火) 13:11:46   ID: ZPVrttIx

かしこくないチカww

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